「リードα 物理基礎・物理 改訂版」徹底解説!【第27章】基本例題~基本問題464

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基本例題

基本例題90 抵抗で消費される電力

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 設問(2)の別解: 積分を用いて平均電力を計算する解法
      • 模範解答が三角関数の性質(周期関数の平均)から求めるのに対し、別解では平均値の数学的な定義である積分計算から直接導出します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 数学的厳密性の体験: 「周期的な関数の平均値は積分によって定義される」という数学的な背景を具体的に体験することで、物理法則のより深い理解につながります。
    • 計算能力の向上: 数学IIIで学習する三角関数の積分計算を実践する良い機会となり、物理と数学の連携を強化できます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「交流回路における消費電力」です。特に抵抗のみの回路における電圧、電流、電力の関係を正しく理解し、時間変化を数式とグラフで表現できるかが問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 抵抗におけるオームの法則: 交流回路であっても、各瞬間においてオームの法則 \(V=IR\) が成り立つことを理解していること。
  2. 瞬時電力の計算: 電力 \(P\) が電圧 \(V\) と電流 \(I\) の積 \(P=IV\) で与えられることを知っていること。
  3. 三角関数の性質とグラフ: \(\sin \omega t\) と \(\sin^2 \omega t\) のグラフの形状、周期、振幅の違いを理解していること。特に \(\sin^2 \omega t\) が常に0以上であること、周期が \(\sin \omega t\) の半分になることを把握していることが重要です。
  4. 平均電力と実効値: 時間的に変動する電力の平均値の計算方法と、その平均電力を表すための便利な量である「実効値」の定義と関係を理解していること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、まずオームの法則を用いて電流 \(I\) の式を求めます。次に、電力の公式 \(P=IV\) を用いて電力 \(P\) の式を導出します。グラフは、各式の三角関数の特徴を捉えて描きます。
  2. (2)では、(1)で求めた電力 \(P\) の式を、三角関数の倍角の公式を用いて変形し、時間平均を計算しやすくします。周期的に変動する部分の平均が0になることを利用して、平均電力 \(\overline{P}\) を求めます。
  3. (3)では、電圧と電流の実効値の定義式 \(V_e = V_0/\sqrt{2}\), \(I_e = I_0/\sqrt{2}\) を用い、(2)で求めた平均電力 \(\overline{P}\) の式を実効値で書き換えます。

問(1)

思考の道筋とポイント
抵抗に交流電圧を加えたときの電流と消費電力を求める問題です。交流回路といっても、ある瞬間、瞬間に注目すれば直流回路と同じ法則が適用できます。まず、オームの法則を使って電流の式を求め、次に電力の公式 \(P=IV\) を使って電力の式を求めます。グラフを描く際は、電圧 \(V\)、電流 \(I\)、電力 \(P\) の位相関係と、値が正になるか負になるかに注意します。
この設問における重要なポイント

  • 抵抗回路では、電圧と電流の位相は等しい(山と谷のタイミングが一致する)。
  • 電力 \(P=IV\) は、\(V\) と \(I\) が同符号(どちらも正か、どちらも負)なので、常に \(P \ge 0\) となる。
  • \(P\) の式に含まれる \(\sin^2 \omega t\) の周期は、元の \(\sin \omega t\) の周期の半分になる。

具体的な解説と立式
抵抗値 \(R\) の抵抗に、時刻 \(t\) において電圧 \(V = V_0 \sin \omega t\) がかかっています。この瞬間、回路を流れる電流 \(I\) は、オームの法則 \(V=IR\) より求めることができます。
$$ I = \frac{V}{R} \quad \cdots ① $$
また、この瞬間に抵抗で消費される電力 \(P\) は、電力の公式 \(P=IV\) で与えられます。
$$ P = IV \quad \cdots ② $$
グラフについては、\(V\) が正弦波(sinカーブ)であることから、①式の \(I\) も同じ形の正弦波になります。②式の \(P\) は \(I\) と \(V\) の積なので、それぞれのグラフの値を掛け合わせることで形状を考えます。

使用した物理公式

  • オームの法則: \(V=IR\)
  • 消費電力: \(P=IV\)
計算過程

まず、電流 \(I\) の式を求めます。①式に \(V = V_0 \sin \omega t\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
I &= \frac{V_0 \sin \omega t}{R} \\[2.0ex]
&= \frac{V_0}{R} \sin \omega t
\end{aligned}
$$
次に、電力 \(P\) の式を求めます。②式に求めた \(I\) の式と \(V\) の式を代入します。
$$
\begin{aligned}
P &= \left( \frac{V_0}{R} \sin \omega t \right) (V_0 \sin \omega t) \\[2.0ex]
&= \frac{V_0^2}{R} \sin^2 \omega t
\end{aligned}
$$
グラフの作成:

  • 電流 \(I\): \(I = \displaystyle\frac{V_0}{R} \sin \omega t\) なので、電圧 \(V\) と同じタイミングで振動する正弦波です。振幅(最大値)は \(I_0 = \displaystyle\frac{V_0}{R}\) となります。
  • 電力 \(P\): \(P = \displaystyle\frac{V_0^2}{R} \sin^2 \omega t\) なので、\(\sin \omega t\) の2乗に比例します。\(\sin \omega t\) が正でも負でも、2乗すると必ず0以上になります。したがって、\(P\) のグラフは常に横軸(\(P=0\))より上にあります。また、\(\sin \omega t\) が \(0\) になる点で \(P\) も \(0\) になり、\(\sin \omega t\) が \(\pm 1\) となる点で \(P\) は最大値 \(\displaystyle\frac{V_0^2}{R}\) をとります。その結果、\(V\) や \(I\) の周期の半分の周期で振動するグラフになります。
この設問の平易な説明

(1)は、交流電源に抵抗をつないだときの「電流」と「消費電力」の様子を調べる問題です。

  • 電流:電圧がかかれば電流が流れる、という単純な話です。オームの法則「\(I = V/R\)」は交流でもそのまま使えます。電圧が波のように変化する(\(V = V_0 \sin \omega t\))ので、電流も同じ形の波(\(I = \displaystyle\frac{V_0}{R} \sin \omega t\))になります。電圧と電流の波の山と谷はぴったり揃います。
  • 電力:電力は「電圧 × 電流」で計算します。電圧と電流の式を掛け合わせるだけです。グラフを描くときは、電圧と電流の値を各点で掛け算してみます。電圧も電流もプラスのときは電力もプラス。電圧も電流もマイナスのときも、マイナス×マイナスで電力はプラスになります。その結果、電力のグラフは常にプラス側(横軸より上)で、元の波の2倍の速さで振動する形になります。
結論と吟味

電流は \(I = \displaystyle\frac{V_0}{R} \sin \omega t\)、電力は \(P = \displaystyle\frac{V_0^2}{R} \sin^2 \omega t\) と表されます。グラフは、\(I\) が \(V\) と同位相の正弦波、\(P\) が周期が半分で常に0以上の値をとる波形となり、物理的な性質を正しく反映しています。

解答 (1)
電流: \(I = \displaystyle\frac{V_0}{R} \sin \omega t\)
電力: \(P = \displaystyle\frac{V_0^2}{R} \sin^2 \omega t\)
グラフ: (模範解答の図を参照)

問(2)

思考の道筋とポイント
(1)で求めた瞬時電力 \(P\) は時間とともに変動するため、その「平均値」を求めます。\(P\) の式には \(\sin^2 \omega t\) が含まれており、このままでは平均を考えにくいです。そこで、三角関数の倍角の公式 \(\cos 2\theta = 1 – 2\sin^2 \theta\) を変形した、いわゆる半角の公式 \(\sin^2 \theta = \frac{1-\cos 2\theta}{2}\) を利用して、次数を下げて考えやすくするのが定石です。
この設問における重要なポイント

  • \(\sin^2 \omega t\) や \(\cos^2 \omega t\) の平均を考えるときは、倍角の公式で次数を下げる。
  • \(\sin(ax)\) や \(\cos(ax)\) のような周期関数を、1周期(またはその整数倍)にわたって平均すると0になる。
  • 平均電力は、変動する電力グラフを「ならした」ときの高さに相当する。

具体的な解説と立式
(1)で求めた瞬時電力 \(P\) の式は以下の通りです。
$$ P = \frac{V_0^2}{R} \sin^2 \omega t \quad \cdots ③ $$
この式の時間平均 \(\overline{P}\) を求めます。このままでは考えにくいので、三角関数の倍角の公式 \(\cos 2\theta = 1 – 2\sin^2 \theta\) を \(\sin^2 \theta\) について解いた式、
$$ \sin^2 \theta = \frac{1 – \cos 2\theta}{2} $$
を利用します。ここで \(\theta = \omega t\) と考え、③式に代入します。

使用した物理公式

  • (1)で求めた瞬時電力の式
  • 三角関数の倍角の公式(半角の公式): \(\sin^2 \theta = \displaystyle\frac{1 – \cos 2\theta}{2}\)
計算過程

③式に \(\sin^2 \omega t = \displaystyle\frac{1 – \cos 2\omega t}{2}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
P &= \frac{V_0^2}{R} \cdot \frac{1 – \cos 2\omega t}{2} \\[2.0ex]
&= \frac{V_0^2}{2R} (1 – \cos 2\omega t) \\[2.0ex]
&= \frac{V_0^2}{2R} – \frac{V_0^2}{2R} \cos 2\omega t
\end{aligned}
$$
この式の時間平均 \(\overline{P}\) を考えます。右辺第1項の \(\displaystyle\frac{V_0^2}{2R}\) は定数なので、平均をとっても値は変わりません。第2項の \(\cos 2\omega t\) は周期的に \(+1\) から \(-1\) まで変動する関数です。1周期にわたって平均すると、正の部分と負の部分が打ち消し合うため、その平均値は \(0\) になります。
したがって、
$$
\begin{aligned}
\overline{P} &= \overline{\left( \frac{V_0^2}{2R} – \frac{V_0^2}{2R} \cos 2\omega t \right)} \\[2.0ex]
&= \frac{V_0^2}{2R} – \frac{V_0^2}{2R} \overline{\cos 2\omega t} \\[2.0ex]
&= \frac{V_0^2}{2R} – \frac{V_0^2}{2R} \times 0 \\[2.0ex]
&= \frac{V_0^2}{2R}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

(1)で求めた電力は、波のように大きくなったり小さくなったりを繰り返します。この問題は、その電力の「平均」を求めるものです。電力のグラフを見ると、\(\displaystyle\frac{V_0^2}{R}\) を最大値として、0との間を振動しています。ちょうど真ん中の高さが平均値になりそうだと予想できます。
これを計算で確かめるために、数学の道具(三角関数の公式)を使います。\(P = \displaystyle\frac{V_0^2}{R} \sin^2 \omega t\) という式を、公式を使って \(P = \displaystyle\frac{V_0^2}{2R} – \frac{V_0^2}{2R} \cos 2\omega t\) という形に変形します。この式の後半部分 \(\cos 2\omega t\) はプラスとマイナスの間を振動する波なので、平均するとゼロになります。すると、平均値として残るのは前半部分の \(\displaystyle\frac{V_0^2}{2R}\) だけです。これは、電力の波の振動中心が \(\displaystyle\frac{V_0^2}{2R}\) であることを示しており、グラフの見た目とも一致します。

結論と吟味

1周期にわたる平均電力は \(\overline{P} = \displaystyle\frac{V_0^2}{2R}\) となります。これは瞬時電力の最大値 \(\displaystyle\frac{V_0^2}{R}\) のちょうど半分であり、グラフからも妥当な結果であることがわかります。

解答 (2) \(\overline{P} = \displaystyle\frac{V_0^2}{2R}\)
別解: 積分を用いて平均電力を計算する解法

思考の道筋とポイント
関数の平均値は、数学的にはその関数を1周期にわたって積分し、周期で割ることで定義されます。この定義に則って、瞬時電力 \(P(t)\) の平均値 \(\overline{P}\) を直接計算します。数学IIIの積分計算を用いますが、平均という概念の根源に立ち返るアプローチです。
この設問における重要なポイント

  • 平均値の定義: 周期 \(T\) の関数 \(f(t)\) の平均値 \(\overline{f}\) は \(\overline{f} = \displaystyle\frac{1}{T} \int_0^T f(t) dt\) で与えられる。
  • 交流の周期 \(T\) と角周波数 \(\omega\) の関係は \(T = \displaystyle\frac{2\pi}{\omega}\)。
  • \(\sin^2 \omega t\) の積分には、主たる解法と同様に倍角の公式(半角の公式)を用いる。

具体的な解説と立式
平均電力 \(\overline{P}\) は、瞬時電力 \(P(t) = \displaystyle\frac{V_0^2}{R} \sin^2 \omega t\) を1周期 \(T = \displaystyle\frac{2\pi}{\omega}\) にわたって積分し、周期 \(T\) で割ることで求められます。
$$ \overline{P} = \frac{1}{T} \int_0^T P(t) dt $$
ここに \(P(t)\) の式を代入します。
$$ \overline{P} = \frac{1}{T} \int_0^T \left( \frac{V_0^2}{R} \sin^2 \omega t \right) dt $$
定数項は積分の外に出すことができます。
$$ \overline{P} = \frac{V_0^2}{RT} \int_0^T \sin^2 \omega t \, dt $$
この積分を計算するために、\(\sin^2 \omega t = \displaystyle\frac{1 – \cos 2\omega t}{2}\) を用います。

使用した物理公式

  • 平均値の積分による定義
  • 瞬時電力の式: \(P(t) = \displaystyle\frac{V_0^2}{R} \sin^2 \omega t\)
  • 三角関数の倍角の公式(半角の公式)
計算過程

$$
\begin{aligned}
\int_0^T \sin^2 \omega t \, dt &= \int_0^T \frac{1 – \cos 2\omega t}{2} dt \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2} \left[ t – \frac{1}{2\omega} \sin 2\omega t \right]_0^T \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2} \left\{ \left( T – \frac{1}{2\omega} \sin 2\omega T \right) – \left( 0 – \frac{1}{2\omega} \sin 0 \right) \right\}
\end{aligned}
$$
ここで、\(T = \displaystyle\frac{2\pi}{\omega}\) なので、\(2\omega T = 2\omega \cdot \displaystyle\frac{2\pi}{\omega} = 4\pi\) です。
\(\sin 4\pi = 0\) であり、また \(\sin 0 = 0\) なので、
$$
\begin{aligned}
\int_0^T \sin^2 \omega t \, dt &= \frac{1}{2} \{ (T – 0) – (0 – 0) \} \\[2.0ex]
&= \frac{T}{2}
\end{aligned}
$$
この結果を \(\overline{P}\) の式に戻します。
$$
\begin{aligned}
\overline{P} &= \frac{V_0^2}{RT} \cdot \frac{T}{2} \\[2.0ex]
&= \frac{V_0^2}{2R}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

「平均」を求めるための、より本格的な数学の方法が「積分」です。電力のグラフの、ある時間(1周期分)の面積を計算し、その時間を横の長さで割って「ならした高さ」を出す、というイメージです。
瞬時電力の式 \(P(t) = \displaystyle\frac{V_0^2}{R} \sin^2 \omega t\) を積分するという計算は少し複雑ですが、手順通りに進めると、面積が \(\displaystyle\frac{V_0^2}{R} \times \frac{T}{2}\) となります。これを周期 \(T\) で割ると、やはり \(\displaystyle\frac{V_0^2}{2R}\) という答えが出てきます。主たる解法は「波の振動の中心は真ん中だ」という直感的な方法でしたが、こちらは面積計算で厳密に証明する方法と言えます。

結論と吟味

積分計算という数学的に厳密な手法を用いても、主たる解法と同じ \(\overline{P} = \displaystyle\frac{V_0^2}{2R}\) という結果が得られました。これにより、三角関数の性質を用いた解法の正しさが裏付けられます。

解答 (2) \(\overline{P} = \displaystyle\frac{V_0^2}{2R}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
(2)で求めた平均電力 \(\overline{P}\) を、交流の大きさを表す別の指標である「実効値」\(V_e, I_e\) を用いて表す問題です。実効値は、その交流が直流と同じ仕事(電力消費)をするときの直流電圧・電流の値として定義されており、平均電力と密接な関係があります。電圧と電流の最大値(振幅)\(V_0, I_0\) と実効値 \(V_e, I_e\) の関係式を正しく使い、(2)の答えを式変形することが目標です。
この設問における重要なポイント

  • 正弦波交流における実効値の定義: \((\text{実効値}) = \displaystyle\frac{(\text{最大値})}{\sqrt{2}}\)。
  • 電圧の実効値: \(V_e = \displaystyle\frac{V_0}{\sqrt{2}}\)。
  • 電流の実効値: \(I_e = \displaystyle\frac{I_0}{\sqrt{2}}\)。ここで \(I_0\) は電流の最大値(振幅)。

具体的な解説と立式
(2)で求めた平均電力は次の通りです。
$$ \overline{P} = \frac{V_0^2}{2R} \quad \cdots ④ $$
一方、電圧と電流の実効値は、それぞれの最大値 \(V_0\) と \(I_0\) を用いて以下のように定義されます。
$$ V_e = \frac{V_0}{\sqrt{2}} \quad \cdots ⑤ $$
$$ I_e = \frac{I_0}{\sqrt{2}} \quad \cdots ⑥ $$
(1)より、電流の最大値は \(I_0 = \displaystyle\frac{V_0}{R}\) なので、⑥式は次のように書けます。
$$ I_e = \frac{V_0/R}{\sqrt{2}} = \frac{V_0}{\sqrt{2}R} \quad \cdots ⑦ $$
目標は、④式を⑤式と⑦式を使って \(V_e\) と \(I_e\) だけで表すことです。

使用した物理公式

  • (2)で求めた平均電力の式
  • 実効値の定義式
計算過程

④式の \(\overline{P} = \displaystyle\frac{V_0^2}{2R}\) を変形していきます。分母の \(2\) を \((\sqrt{2})^2\) と見て、式を分割します。
$$
\begin{aligned}
\overline{P} &= \frac{V_0^2}{2R} \\[2.0ex]
&= \frac{V_0 \cdot V_0}{(\sqrt{2} \cdot \sqrt{2}) R} \\[2.0ex]
&= \left( \frac{V_0}{\sqrt{2}} \right) \cdot \left( \frac{V_0}{\sqrt{2}R} \right)
\end{aligned}
$$
ここで、⑤式より \(\displaystyle\frac{V_0}{\sqrt{2}} = V_e\)、⑦式より \(\displaystyle\frac{V_0}{\sqrt{2}R} = I_e\) なので、これらを代入します。
$$ \overline{P} = V_e I_e $$

この設問の平易な説明

交流は常に値が変動しているので「この交流の大きさは?」と聞かれると答えにくいです。そこで「もし同じ量の熱を発生させる直流があったとしたら、その電圧・電流はいくつか?」という考え方で大きさを表したのが「実効値」です。
(2)で計算した平均の電力 \(\overline{P} = \displaystyle\frac{V_0^2}{2R}\) は、いわば交流がする仕事の平均的なペースです。この式をうまく変形して、実効値の定義 \(V_e = V_0/\sqrt{2}\) と \(I_e = I_0/\sqrt{2}\) が使える形にしてみよう、というのがこの問題です。
計算してみると、驚くほどきれいな形 \(\overline{P} = V_e I_e\) になります。これは直流電力の式 \(P=VI\) と全く同じ形です。つまり、交流の平均電力を計算したければ、直流の電力計算と同じように、それぞれの実効値を掛け合わせればよい、という非常に便利な関係になっているのです。

結論と吟味

平均電力は \(\overline{P} = V_e I_e\) と表せます。この式は直流における電力の式 \(P=VI\) と同じ形をしており、実効値が「交流を直流とみなして扱えるように導入された量」であることを端的に示しています。家庭用のコンセントが「交流100V」というのは、この実効値が \(100 \, \text{V}\) であることを意味しています。

解答 (3) \(\overline{P} = V_e I_e\)

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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 交流電力の時間変化と平均値:
    • 核心: この問題の根幹は、抵抗を流れる交流電圧・電流が時間と共に正弦波状に変化し、それによって消費される電力も時間的に変動するという現象を理解することです。特に、瞬間の電力(瞬時電力)と、ある時間区間でならした電力(平均電力)を区別し、両者を正しく計算できることが重要です。
    • 理解のポイント:
      • 瞬時電力: \(P(t) = V(t)I(t)\) であり、抵抗回路では \(V\) と \(I\) が同位相なため、\(P(t) = \displaystyle\frac{V_0^2}{R}\sin^2 \omega t\) となり、常に \(0\) 以上の値をとります。これは、抵抗が常にエネルギーを消費(熱を発生)し、エネルギーを電源に返すことがないことを意味します。
      • 平均電力: 瞬時電力のグラフ(\(\sin^2\)カーブ)は、最大値の半分の高さを中心に振動します。この中心の高さが平均電力 \(\overline{P}\) であり、\(\overline{P} = \displaystyle\frac{1}{2} P_{\text{最大}} = \frac{V_0^2}{2R}\) となります。この「\(\sin^2\) の平均は \(\displaystyle\frac{1}{2}\)」という感覚は、交流回路の計算で頻繁に使う重要なツールです。
  • 実効値の物理的意味:
    • 核心: 「実効値とは、交流がする仕事(平均電力)と同じ仕事をする直流の電圧・電流の値である」という物理的な意味を理解することが、この問題のもう一つの核心です。
    • 理解のポイント:
      • 定義: 正弦波交流では \(V_e = \displaystyle\frac{V_0}{\sqrt{2}}\), \(I_e = \displaystyle\frac{I_0}{\sqrt{2}}\) と定義されます。
      • 意義: このように定義された実効値 \(V_e, I_e\) を使うと、交流の平均電力が \(\overline{P} = V_e I_e\) という、直流の電力公式と全く同じ形で書けます。これにより、複雑な時間変化を考えなくても、あたかも直流回路のように平均的な電力消費を議論できるようになります。家庭用コンセントの「100V」が実効値を指すのはこのためです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • コイルやコンデンサーを含む交流回路: コイルやコンデンサーでは電圧と電流の間に位相差が生じます。そのため、瞬時電力 \(P(t)=V(t)I(t)\) は負になる時間帯(電力の返還)が現れます。平均電力を計算すると、純粋なコイルやコンデンサーでは \(0\) になり、エネルギーを消費しないことがわかります。この「位相差」を考慮した電力計算が応用問題の基本です。
    • RLC直列回路の電力: 抵抗、コイル、コンデンサーが混在する回路では、エネルギーを消費するのは抵抗だけです。したがって、回路全体の平均消費電力は、抵抗にかかる電圧と抵抗を流れる電流の実効値を使って \(\overline{P} = V_{R,e} I_e = I_e^2 R\) のように計算できます。
    • 非正弦波交流: 問題で与えられる電圧が、例えばのこぎり波や矩形波の場合でも、平均電力の考え方は同じです。別解で示したように、瞬時電力を1周期にわたって積分し、周期で割るという数学的な定義に従えば、どんな波形であっても平均電力を求めることができます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 回路素子の確認: 回路に何(抵抗、コイル、コンデンサー)が含まれているかを確認します。抵抗のみなら電圧と電流は同位相。コイルやコンデンサーがあれば位相差を考慮する必要があります。
    2. 求められているのは「瞬時値」か「平均値」か: 問題が「時刻 \(t\) における電力」を問うているのか、「1周期にわたる平均の電力」を問うているのかを明確に区別します。
    3. 三角関数の変形: \(\sin^2 \theta\) や \(\cos^2 \theta\)、あるいは \(\sin\theta \cos\theta\) のような積の形が電力の式に出てきたら、機械的に「倍角の公式や和積の公式で変形して平均を計算しやすくする」という手順を思い出します。
    4. 最大値と実効値の使い分け: 式の見た目は最大値(\(V_0, I_0\))の方がシンプルですが、平均電力を扱う上では実効値(\(V_e, I_e\))の方が便利です。問題の要求に応じて両者を自在に変換(\(V_0 = \sqrt{2}V_e\))できるように準備しておきます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 電圧と電力のグラフの混同:
    • 誤解: 電圧 \(V\) のグラフが正負に振動するため、電力 \(P\) のグラフも同様に正負に振動すると勘違いしてしまう。
    • 対策: 抵抗における電力は \(P = I^2 R = \displaystyle\frac{V^2}{R}\) とも書けます。電流 \(I\) や電圧 \(V\) が負の値をとっても、その2乗は必ず正になります。したがって、抵抗での消費電力は常に \(0\) 以上であることを徹底して理解しましょう。「抵抗はエネルギーを熱として放出する一方通行の素子」とイメージすることも有効です。
  • 平均電力の計算ミス:
    • 誤解: 平均電力 \(\overline{P}\) を、瞬時電力の最大値 \(P_{\text{最大}}\) と同じだと考えてしまう、あるいは単純に \(P_{\text{最大}}/2\) を公式として丸暗記し、なぜそうなるかを理解していない。
    • 対策: (2)の主たる解法のように、必ず倍角の公式 \(\sin^2 \omega t = \displaystyle\frac{1-\cos 2\omega t}{2}\) を用いた式変形を一度は自分で行い、「定数項の \(\displaystyle\frac{1}{2}\) が平均値として残り、振動項(\(\cos 2\omega t\))の平均が \(0\) になる」という理屈をしっかり理解することが重要です。この理屈さえわかっていれば、公式を忘れても自力で導出できます。
  • 実効値と最大値の混同:
    • 誤解: 平均電力を \(\overline{P} = V_0 I_0\) のように、最大値を使って直流と同じ式で計算してしまう。
    • 対策: 「直流と同じ形の電力計算ができるのは実効値」と強く意識付けします。\(\overline{P} = V_e I_e\) という式の形を覚え、実効値と最大値の関係 \(V_e = V_0/\sqrt{2}\) をセットで記憶しましょう。平均電力は最大値で表すと \(\overline{P} = \displaystyle\frac{V_0 I_0}{2}\) となり、\(\displaystyle\frac{1}{2}\) が付くことを対比させて覚えるのも効果的です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 倍角の公式(半角の公式)の利用:
    • 選定理由: (2)で平均電力を求める際に、\(\sin^2 \omega t\) という「変動する関数の2乗」の平均を直接求めるのは困難です。そこで、この式を「定数」と「変動する1次の三角関数」の和(または差)に分解するために、倍角の公式が選ばれます。この公式は、三角関数の次数を下げ、平均計算を容易にするための唯一かつ最適な数学的ツールです。
    • 適用根拠: \(P(t) = \displaystyle\frac{V_0^2}{2R} – \frac{V_0^2}{2R} \cos 2\omega t\) と変形することで、電力は「一定の値 \(\displaystyle\frac{V_0^2}{2R}\)」の周りを「振幅 \(\displaystyle\frac{V_0^2}{2R}\) で振動する成分」が加わったもの、と物理的に解釈できます。周期的な振動成分の平均は \(0\) になるため、全体の平均は一定の値の部分だけが残る、という論理が成り立ちます。
  • 実効値の導入:
    • 選定理由: (3)では、(2)で求めた平均電力 \(\overline{P} = \displaystyle\frac{V_0^2}{2R}\) を、より物理的に意味のある、あるいは実用上便利な形で表現し直すことが目的です。最大値 \(V_0\) は瞬間のピーク値を表しますが、エネルギー消費の観点からは平均的な能力が重要です。そこで、この平均電力と単純な積の形で結びつく「実効値」という量が選ばれます。
    • 適用根拠: \(\overline{P} = V_e I_e\) という関係が成り立つように実効値を定義した、と考えるのが論理的な順序です。つまり、\(\displaystyle\frac{V_0^2}{2R} = (\frac{V_0}{\sqrt{2}})(\frac{I_0}{\sqrt{2}})\) という計算結果から、\(V_e = \displaystyle\frac{V_0}{\sqrt{2}}\), \(I_e = \displaystyle\frac{I_0}{\sqrt{2}}\) と定義すれば、直流と同じ美しい関係式が成立する、という発見に基づいています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • グラフを併用する習慣: (1)のように数式を求めたら、必ずそのグラフの概形を頭に描く、あるいは実際に描いてみる習慣をつけましょう。\(I\) が \(V\) と同位相であること、\(P\) が常に \(0\) 以上で周期が半分になることなどを視覚的に確認することで、式の意味の理解が深まり、符号ミスなどを防げます。
  • 三角関数の公式の確実な習得: 交流回路は三角関数を多用します。特に、倍角の公式(半角の公式)\(\sin^2\theta = \displaystyle\frac{1-\cos 2\theta}{2}\), \(\cos^2\theta = \displaystyle\frac{1+\cos 2\theta}{2}\) は、平均電力の計算で必須です。これらの公式はいつでも素早く正確に使えるように、繰り返し練習しておきましょう。
  • 意味を考えた式変形: (3)の計算 \(\overline{P} = \displaystyle\frac{V_0^2}{2R} = (\frac{V_0}{\sqrt{2}})(\frac{V_0}{\sqrt{2}R})\) は、単なる数学的な変形ではありません。「\(V_e\) と \(I_e\) という部品を作り出す」という明確な目的意識を持って変形しています。このように、物理的な意味を考えながら式を操作することで、計算の見通しが良くなり、ミスが減ります。特に、分母の \(2\) を \(\sqrt{2} \times \sqrt{2}\) と分解する発想は、実効値の定義に結びつけるための重要なステップです。

基本例題91 交流のグラフ

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 設問(3)の別解: 電圧と電流の微分・積分関係から位相を導く解法
      • 模範解答が「コンデンサーでは電流の位相が電圧よりπ/2進む」という結果(公式)を知識として用いるのに対し、別解ではコンデンサーの基本式 \(Q=CV\) と電流の定義 \(I=dQ/dt\) から、なぜ位相が進むのかを数式を用いて導出します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: コンデンサーを流れる電流が「蓄えられる電荷の時間的な変化率」であるという物理的本質と、その結果として電圧と電流の間に位相差が生まれるという根本的な理由を理解できます。
    • 暗記からの脱却: 「なぜコンデンサーでは電流の位相が進むのか」という理由を自ら導出する経験を通じて、公式の丸暗記から脱却し、より確かな知識として定着させることができます。
    • 数学的思考の訓練: 微分を用いて物理現象を記述し、その結果を解釈する訓練となり、物理と数学の連携を強化できます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、思考の出発点が異なるだけで、最終的に描かれるグラフは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「コイルとコンデンサーの交流回路における振る舞い」です。与えられた電圧・電流のグラフから情報を正確に読み取り、リアクタンスや自己インダクタンスといった物理量を計算し、素子の違いによる位相の変化を理解することが求められます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. グラフからの情報読み取り: 交流電圧・電流のグラフから、最大値(振幅)、周期、そして両者の位相差を正確に読み取る能力。
  2. リアクタンスの概念: コイルやコンデンサーが持つ、交流に対する「抵抗」のような働き(リアクタンス)を理解し、電圧と電流の最大値(または実効値)の比で計算できること。
  3. リアクタンスの公式: コイルのリアクタンスが \(X_L = \omega L\)、コンデンサーのリアクタンスが \(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\) で与えられることを知っていること。
  4. コイルとコンデンサーの位相差: コイルでは電流の位相が電圧より \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 遅れ、コンデンサーでは電流の位相が電圧より \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 進むという、正反対の性質を理解していること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、図1と図2から電圧と電流の最大値を読み取り、オームの法則に似た関係式 \(X_L = V_0 / I_0\) を用いてコイルのリアクタンスを計算します。
  2. (2)では、グラフから周期を読み取って角周波数 \(\omega\) を計算し、(1)で求めたリアクタンスと公式 \(X_L = \omega L\) を用いて、自己インダクタンス \(L\) を求めます。
  3. (3)では、コイルとコンデンサーの位相差の性質の違い(遅れるか、進むか)に着目し、与えられた電圧のグラフ(図1)に対して、位相が \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 進んだ電流のグラフを描きます。

問(1)

思考の道筋とポイント
コイルのリアクタンス \(X_L\) を求める問題です。リアクタンスは、交流回路における「見かけの抵抗」のようなもので、直流回路のオームの法則 \(R=V/I\) と同様に、電圧と電流の比で求めることができます。交流では電圧・電流が常に変動していますが、その最大値の比(または実効値の比)をとることでリアクタンスが計算できます。
この設問における重要なポイント

  • リアクタンスは、電圧と電流の大きさの比で定義される: \(X_L = \displaystyle\frac{V_0}{I_0} = \frac{V_e}{I_e}\)。
  • グラフから最大値 \(V_0\) と \(I_0\) を正確に読み取る。

具体的な解説と立式
交流回路におけるコイルのリアクタンス \(X_L\) は、コイルにかかる電圧の最大値 \(V_0\) と、コイルを流れる電流の最大値 \(I_0\) の比として与えられます。これは、直流回路におけるオームの法則に相当する関係式です。
$$ X_L = \frac{V_0}{I_0} $$
問題の図1(電圧のグラフ)と図2(電流のグラフ)から、それぞれの最大値を読み取ります。

使用した物理公式

  • リアクタンスと電圧・電流の関係: \(X_L = \displaystyle\frac{V_0}{I_0}\)
計算過程

図1より、電圧の最大値(振幅)は \(V_0 = 100 \, \text{V}\) です。

図2より、電流の最大値(振幅)は \(I_0 = 0.20 \, \text{A}\) です。

これらを立式した関係に代入します。
$$
\begin{aligned}
X_L &= \frac{100}{0.20} \\[2.0ex]
&= 500 \\[2.0ex]
&= 5.0 \times 10^2 \, \Omega
\end{aligned}
$$
有効数字は、問題のグラフの数値(\(100\), \(0.20\))から2桁または3桁と考えられますが、解答の形式に合わせて \(5.0 \times 10^2\) と2桁で表記します。

この設問の平易な説明

リアクタンスとは、交流にとっての「流れにくさ」を表す量です。直流での抵抗と同じように、「電圧 ÷ 電流」で計算できます。交流では電圧も電流も波のように変化しますが、それぞれの波のてっぺんの値(最大値)を使って計算します。
グラフを見ると、電圧の波のてっぺんは \(100 \, \text{V}\)、電流の波のてっぺんは \(0.20 \, \text{A}\) です。したがって、流れにくさ \(X_L\) は \(100 \div 0.20 = 500 \, \Omega\) となります。

結論と吟味

コイルのリアクタンスは \(5.0 \times 10^2 \, \Omega\) と求められました。グラフから値を正確に読み取り、基本的な公式に当てはめることで計算できる、基本的な問題です。

解答 (1) \(5.0 \times 10^2 \, \Omega\)

問(2)

思考の道筋とポイント
コイルの自己インダクタンス \(L\) を求める問題です。(1)で求めたリアクタンス \(X_L\) は、コイル固有の性質である自己インダクタンス \(L\) と、交流の周波数 \(f\)(または角周波数 \(\omega\))によって決まります。その関係式 \(X_L = \omega L\) を利用して \(L\) を逆算します。角周波数 \(\omega\) は、グラフから周期 \(T\) を読み取ることで求められます。
この設問における重要なポイント

  • コイルのリアクタンスの公式: \(X_L = \omega L\)。
  • 角周波数と周期の関係: \(\omega = 2\pi f = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\)。
  • グラフから周期 \(T\) を正確に読み取る。

具体的な解説と立式
コイルのリアクタンス \(X_L\) は、自己インダクタンス \(L\) と角周波数 \(\omega\) を用いて次のように表されます。
$$ X_L = \omega L \quad \cdots ① $$
角周波数 \(\omega\) は、グラフから読み取れる周期 \(T\) を用いて計算できます。
$$ \omega = \frac{2\pi}{T} \quad \cdots ② $$
①式を \(L\) について解き、②式の関係を用いることで、\(L\) を求めることができます。

使用した物理公式

  • コイルのリアクタンス: \(X_L = \omega L\)
  • 角周波数と周期の関係: \(\omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\)
計算過程

まず、図1または図2から、波が1回振動するのにかかる時間である周期 \(T\) を読み取ります。グラフより \(T = 0.50 \, \text{s}\) です。

次に、この周期 \(T\) から周波数 \(f\) と角周波数 \(\omega\) を求めます。
$$ f = \frac{1}{T} = \frac{1}{0.50} = 2.0 \, \text{Hz} $$
$$ \omega = 2\pi f = 2\pi \times 2.0 = 4.0\pi \, \text{rad/s} $$
①式を \(L\) について解くと \(L = \displaystyle\frac{X_L}{\omega}\) となります。この式に(1)で求めた \(X_L = 5.0 \times 10^2 \, \Omega\) と、計算した \(\omega\) を代入します。円周率 \(\pi\) には \(3.14\) を用います。
$$
\begin{aligned}
L &= \frac{X_L}{\omega} = \frac{X_L}{2\pi f} \\[2.0ex]
&= \frac{5.0 \times 10^2}{2 \times 3.14 \times 2.0} \\[2.0ex]
&= \frac{500}{12.56} \\[2.0ex]
&\approx 39.80… \, \text{H}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めて、\(L \approx 40 \, \text{H}\) となります。

この設問の平易な説明

コイルの「流れにくさ(リアクタンス \(X_L\))」は、2つの要因で決まります。一つはコイル自体の性能(自己インダクタンス \(L\))、もう一つは交流の振動の速さ(周波数 \(f\))です。式で書くと \(X_L = 2\pi f L\) となります。
この問題では、(1)で流れにくさ \(X_L\) を求めました。グラフから振動の速さ \(f\) もわかります(1周期が0.5秒なので、1秒間に2回振動する、つまり \(f=2.0 \, \text{Hz}\))。すでに分かっている2つの値を使って、コイルの性能 \(L\) を逆算する、という手順です。

結論と吟味

自己インダクタンスは \(L \approx 40 \, \text{H}\) と求められました。リアクタンスの公式と、グラフから読み取れる物理量を組み合わせることで、コイルの基本的な特性を明らかにすることができます。

解答 (2) \(40 \, \text{H}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
コイルの代わりにコンデンサーを接続した場合の電流のグラフを描く問題です。交流回路において、コイルとコンデンサーは電圧と電流の位相関係において正反対の性質を示します。この性質の違いを理解しているかが問われます。
この設問における重要なポイント

  • コイルの場合: 電流の位相は、電圧の位相より \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) (90度) 遅れる。
  • コンデンサーの場合: 電流の位相は、電圧の位相より \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) (90度) 進む。
  • グラフ上での位相のずれ: 位相が \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) ずれるとは、グラフが時間軸に沿って \(\displaystyle\frac{1}{4}\) 周期分だけ左右にずれることに相当する。

具体的な解説と立式
まず、基準となる電圧 \(V\) と、コイルに流れた電流 \(I_{\text{コイル}}\) の位相関係を図1と図2から確認します。

  • 電圧 \(V\) (図1): \(t=0\) で \(V=0\) となり、その後増加するので、正弦波 (\(\sin\)) 型です。数式で表すと \(V(t) = V_0 \sin(\omega t)\)。
  • 電流 \(I_{\text{コイル}}\) (図2): \(t=0\) で最小値 \(I=-I_0\) となり、その後増加するので、負の余弦波 (\(-\cos\)) 型です。数式で表すと \(I(t) = -I_0 \cos(\omega t)\)。

三角関数の公式 \(\sin(\theta – \displaystyle\frac{\pi}{2}) = -\cos\theta\) より、この電流は \(I(t) = I_0 \sin(\omega t – \displaystyle\frac{\pi}{2})\) と書け、電圧 \(V(t)\) に対して位相が \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 遅れていることが確認できます。これはコイルの物理的性質と一致します。

コンデンサーの場合、電流の位相は電圧に対して \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 進みます。したがって、電圧 \(V(t) = V_0 \sin(\omega t)\) に対して、位相が \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 進んだ電流 \(I(t) = I_0 \sin(\omega t + \displaystyle\frac{\pi}{2})\) を考えます。

三角関数の公式 \(\sin(\theta + \displaystyle\frac{\pi}{2}) = \cos\theta\) より、コンデンサーの電流は \(I(t) = I_0 \cos(\omega t)\) となり、正の余弦波 (\(\cos\)) 型のグラフを描くことになります。

問題の条件より、電流の最大値はコイルの場合と同じ \(0.20 \, \text{A}\) です。

使用した物理公式

  • コイルにおける位相差: 電流は電圧より \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 遅れる。
  • コンデンサーにおける位相差: 電流は電圧より \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 進む。
計算過程

作図の手順は以下の通りです。

  1. 基準となる電圧のグラフ(図1、sin波)を確認します。
  2. コンデンサーの電流は、この電圧のグラフより位相が \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\)(\(1/4\) 周期、つまり \(0.50 \, \text{s} \div 4 = 0.125 \, \text{s}\))進みます。
  3. つまり、電圧が \(t=0.125 \, \text{s}\) でとる状態(最大)を、電流は \(t=0\) でとります。電圧が \(t=0.25 \, \text{s}\) でとる状態(ゼロ)を、電流は \(t=0.125 \, \text{s}\) でとります。これを繰り返します。
  4. したがって、電流のグラフは \(t=0\) で最大値 \(0.20 \, \text{A}\)、\(t=0.125\) で \(0\)、\(t=0.25\) で最小値 \(-0.20 \, \text{A}\)、\(t=0.375\) で \(0\)、\(t=0.50\) で最大値 \(0.20 \, \text{A}\) となる、余弦波 (\(\cos\)) を描きます。
この設問の平易な説明

コイルとコンデンサーは、電流のタイミングに関して正反対の性格をしています。

  • コイル君: のんびり屋。電圧の波が来ても、少し遅れて電流の波がついてきます(位相が\(\pi/2\)遅れる)。図1の電圧(sin波)と図2の電流(-cos波)は、まさにこの関係になっています。
  • コンデンサー君: せっかち。電圧の波が来るより先に、電流の波がやってきます(位相が\(\pi/2\)進む)。

この問題では、のんびり屋のコイル君をせっかちなコンデンサー君に交換します。電圧の波(図1)に対して、電流の波が \(1/4\) 周期分だけ早く始まるようなグラフを描けば正解です。波の高さ(最大値)はコイルの時と同じ \(0.20 \, \text{A}\) のままです。

結論と吟味

コンデンサーを流れる電流のグラフは、電圧のグラフに対して位相が \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 進んだ余弦波となります。コイルとコンデンサーの対称的な性質を理解していれば、容易に作図できます。

解答 (3) (模範解答の図aの実線グラフ)
別解: 電圧と電流の微分・積分関係から位相を導く解法

思考の道筋とポイント
「コンデンサーでは電流の位相が進む」という結果を暗記に頼るのではなく、コンデンサーの基本法則から数学的に導出し、グラフの形を決定するアプローチです。コンデンサーに蓄えられる電荷 \(Q\) と電圧 \(V\) の関係 \(Q=CV\)、および電流 \(I\) が電荷の時間変化率であること \(I = \displaystyle\frac{dQ}{dt}\) を用います。

この設問における重要なポイント

  • コンデンサーの基本式: \(Q=CV\)。
  • 電流の定義: \(I = \displaystyle\frac{dQ}{dt}\)。
  • 三角関数の微分: \((\sin \omega t)’ = \omega \cos \omega t\)。

具体的な解説と立式
まず、図1の電圧のグラフを数式で表します。最大値 \(V_0 = 100 \, \text{V}\)、周期 \(T=0.50 \, \text{s}\) の正弦波なので、角周波数 \(\omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T} = \frac{2\pi}{0.50} = 4\pi \, \text{rad/s}\) を用いて、
$$ V(t) = V_0 \sin(\omega t) = 100 \sin(4\pi t) $$
と表せます。

コンデンサーに蓄えられる電荷 \(Q(t)\) は、静電容量を \(C\) として、
$$ Q(t) = C V(t) = C \cdot 100 \sin(4\pi t) $$
コンデンサーを流れる電流 \(I(t)\) は、この電荷 \(Q(t)\) を時間 \(t\) で微分することで得られます。
$$ I(t) = \frac{dQ}{dt} $$

使用した物理公式

  • コンデンサーの電荷: \(Q=CV\)
  • 電流の定義: \(I = \displaystyle\frac{dQ}{dt}\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
I(t) &= \frac{d}{dt} \left( 100 C \sin(4\pi t) \right) \\[2.0ex]
&= 100 C \cdot \frac{d}{dt} (\sin(4\pi t)) \\[2.0ex]
&= 100 C \cdot (\cos(4\pi t) \cdot 4\pi) \\[2.0ex]
&= 400\pi C \cos(4\pi t)
\end{aligned}
$$
この結果から、電流 \(I(t)\) は \(\cos(4\pi t)\) に比例することがわかります。電圧 \(V(t)\) が \(\sin(4\pi t)\) に比例していたのに対し、電流は \(\cos\) 型の関数となりました。三角関数の性質から \(\cos \theta = \sin(\theta + \displaystyle\frac{\pi}{2})\) なので、電流の位相は電圧の位相より \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 進んでいることが数学的に示されました。

したがって、描くべきグラフは、最大値が \(I_0 = 400\pi C\) の余弦波 (\(\cos\)) となります。問題の条件で、この最大値が \(0.20 \, \text{A}\) なので、振幅 \(0.20 \, \text{A}\) の余弦波を描けばよいことになります。これは主たる解法で得た結論と一致します。

この設問の平易な説明

コンデンサーに流れる電流の正体は、コンデンサーに「充電」されたり「放電」されたりする電気の粒(電荷)の流れです。その流れの勢い(電流)は、「電荷がどれだけ速いペースで増えたり減ったりしているか」で決まります。
電圧がsinカーブで変化すると、蓄えられる電荷もsinカーブで変化します。数学では、sinカーブの変化のペース(グラフの傾き)を計算すると、それはcosカーブになることが知られています。つまり、「電圧がsin → 溜まる電荷がsin → 電荷の変化ペース(電流)がcos」という流れで、電流がcosカーブになることが理屈でわかるのです。cosカーブはsinカーブより90度(1/4周期)早く始まるので、「電流の位相が進む」ということになります。

結論と吟味

コンデンサーの基本法則から出発し、微分を用いることで、電流の位相が電圧より \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 進むことを導出できました。これにより、単なる知識としてではなく、物理法則に基づいた必然的な結果として位相差を理解することができます。最終的に描かれるグラフは主たる解法と完全に一致します。

解答 (3) (模範解答の図aの実線グラフ)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • リアクタンスと位相差:
    • 核心: この問題の根幹は、コイルとコンデンサーが交流回路において示す2つの重要な特徴、すなわち「リアクタンス(交流への抵抗)」と「電圧・電流間の位相差」を理解することです。
    • 理解のポイント:
      • リアクタンス: コイルやコンデンサーは、直流は通したり通さなかったりしますが、交流に対しては周波数に応じた「流れにくさ」を示します。これがリアクタンスです。大きさはオームの法則と同様に \(V/I\) で計算できます。
      • 位相差:
        • コイル: 電流を維持しようとする性質(自己誘導)のため、電圧の変化に対して電流の変化が遅れます。具体的には、電流の位相は電圧より \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) (90°) 遅れます。
        • コンデンサー: まず電荷を蓄えようとする性質のため、電圧が確立される前にまず電流が流れます。結果として、電流の位相は電圧より \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) (90°) 進みます。
  • 公式の背景にある物理:
    • 核心: \(X_L = \omega L\) や \(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\) といった公式、そして上記の位相差が、なぜそうなるのかを物理的に理解することが重要です。
    • 理解のポイント:
      • コイル (\(X_L = \omega L\)): 交流の周波数が高い(\(\omega\) が大きい)ほど、電流の変化が激しくなり、コイルはそれに逆らおうと大きな誘導起電力を生じます。そのため、電流は流れにくくなります(\(X_L\) が大きい)。
      • コンデンサー (\(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\)): 周波数が高い(\(\omega\) が大きい)ほど、コンデンサーは充電と放電を素早く繰り返すため、電荷が溜まる暇がなく、あたかも電流がスムーズに流れているように見えます(\(X_C\) が小さい)。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • RLC直列回路: 抵抗・コイル・コンデンサーを直列につないだ回路です。回路全体の「流れにくさ」であるインピーダンス \(Z = \sqrt{R^2 + (X_L – X_C)^2}\) を計算し、回路全体の電流や位相差を求める問題に応用されます。
    • 共振回路: RLC回路において、コイルのリアクタンス \(X_L\) とコンデンサーのリアクタンス \(X_C\) が等しくなる特定の周波数(共振周波数)で、インピーダンスが最小(\(Z=R\))となり、電流が最大になります。ラジオのチューニングなどに応用される重要な現象です。
    • フェーザ図(ベクトル図): 電圧や電流を回転するベクトルで表現し、位相差を角度で表す「フェーザ図」を用いると、RLC回路の合成インピーダンスや全体の位相差を視覚的に、かつ容易に計算できます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. グラフの徹底分析: まずグラフから読み取れる情報をすべて洗い出します。最大値 \(V_0, I_0\)、周期 \(T\)、そしてゼロになる点やピークになる点の時刻から、電圧と電流の位相差を読み取ります。
    2. 素子の特定: 読み取った位相差から、その回路素子が何であるかを特定します。「電流が電圧より遅れている → コイル」「電流が電圧より進んでいる → コンデンサー」「位相差がない → 抵抗」という対応関係は必須知識です。
    3. 周波数への変換: グラフから周期 \(T\) を読み取ったら、すぐに周波数 \(f=1/T\) や角周波数 \(\omega=2\pi/T\) を計算しておく癖をつけると、後の計算がスムーズになります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • コイルとコンデンサーの性質の混同:
    • 誤解: 電流が進むのがコイルかコンデンサーか、リアクタンスの式が \(\omega L\) か \(1/\omega C\) かを混同してしまう。
    • 対策: 語呂合わせやイメージで覚えるのが有効です。「コイルは(電流が)遅れる」「コンデンサーは(電流が)進む」と何度も唱えて覚えましょう。リアクタンスの式は、物理的背景(周波数が高いとコイルは流れにくく、コンデンサーは流れやすい)とセットで理解すると忘れにくくなります。
  • 周期と角周波数の変換ミス:
    • 誤解: \(\omega = 2\pi T\) や \(\omega = f/2\pi\) のように、\(2\pi\) の位置を間違える。
    • 対策: 言葉の意味から定義を思い出すようにします。「角周波数 \(\omega\)」は「1秒あたりに何ラジアン位相が進むか」です。1周期 \(T\) 秒で \(2\pi\) ラジアン進むので、1秒あたりでは \(\displaystyle\frac{2\pi}{T}\) ラジアン進む、と導けば間違いません。
  • 位相差の「進み」「遅れ」の誤解:
    • 誤解: グラフが時間軸の正の方向にずれているのを「進み」と勘違いするなど、グラフの見た目と位相の進み・遅れの関係を誤解する。
    • 対策: 「位相が進む」とは「ピークがより早い時刻に来る」こと、つまりグラフが時間軸の「負の方向(左)」にずれることだと正しく理解します。基準となる波(例:電圧のsin波)を描き、それに対してピークが早いか遅いかを判断する癖をつけましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • リアクタンスの式 (\(X_L = V_0/I_0\)):
    • 選定理由: (1)では、コイルの交流における流れにくさ(リアクタンス)という物理量を、測定可能な量(電圧、電流)から定義・計算するためにこの式が選ばれます。これは直流の抵抗をオームの法則で定義するのと全く同じ発想です。
    • 適用根拠: 交流回路においても、各素子にかかる電圧の大きさと流れる電流の大きさの間には、周波数に依存する比例関係が成り立っています。その比例定数をリアクタンスと定義することで、直流回路と同じように議論を進めることが可能になります。
  • リアクタンスと自己インダクタンスの関係式 (\(X_L = \omega L\)):
    • 選定理由: (2)では、(1)で求めた現象的な量(リアクタンス)を、コイル固有の物理的性質(自己インダクタンス)と結びつけるためにこの公式が選ばれます。
    • 適用根拠: この公式は、コイルに流れる電流が変化するときに生じる自己誘導起電力 \(V = L \displaystyle\frac{dI}{dt}\) という電磁誘導の法則に基づいています。(※厳密には \(V\)と\(I\)の間に微分関係があるため位相が\(\pi/2\)ずれます。電流を \(I = I_0 \sin \omega t\) とおいて微分すると、電圧の振幅が \(LI_0\omega\) に比例することが導かれ、\(V_0/I_0 = \omega L\) という関係が確立されます。)
  • 位相差の法則:
    • 選定理由: (3)では、素子をコイルからコンデンサーに変えたときの変化を予測するために、コンデンサーの位相差の法則が選ばれます。これは、コイルとの対比によってコンデンサーの性質を問う、典型的な問題設定です。
    • 適用根拠: (3)の別解で示した通り、コンデンサーの電流が \(I = \displaystyle\frac{d(CV)}{dt}\) で与えられるという基本法則から、数学的に導かれる必然的な結果です。電圧が \(\sin\) ならば、その微分である電流は \(\cos\) となり、\(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) の位相の進みが生じます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • グラフからの丁寧な情報抽出: 計算を始める前に、グラフから読み取れる値をすべて書き出すことを習慣にしましょう。「\(V_0 = 100 \, \text{V}\), \(I_0 = 0.20 \, \text{A}\), \(T = 0.50 \, \text{s}\)」のようにリストアップすることで、ケアレスミスを防ぎ、思考を整理できます。
  • 単位を意識した立式: 例えば(2)で \(L\) を求める際、\(L = X_L / \omega\) という式の単位を考えると、\([\text{H}] = [\Omega] / [\text{rad/s}]\) となります。単位が合うかを確認する癖をつけると、公式の覚え間違い(例えば \(L = X_L \cdot \omega\) と間違えるなど)に気づきやすくなります。
  • 有効数字の確認: 計算の最後に、答えの有効数字が適切かを確認します。この問題では、グラフの目盛りが「100」「0.50」「0.20」など有効数字2桁または3桁で与えられているため、答えもそれに合わせるのが適切です。解答では \(5.0 \times 10^2\) や \(40\) となっており、有効数字2桁で統一されています。

基本例題92 交流回路

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「LC並列共振回路の基本特性」です。コイルとコンデンサーを並列に接続した回路で、電源の周波数を変化させたときの各素子の振る舞いや、回路全体の特徴について、基本的な知識が問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. リアクタンスの周波数依存性: コイルのリアクタンス \(X_L\) とコンデンサーのリアクタンス \(X_C\) が、周波数 \(f\) に対してどのように変化するかを理解していること。
  2. 並列回路における電圧と電流の位相: 並列接続では各素子にかかる電圧が共通であること、そしてその共通の電圧に対してコイルを流れる電流とコンデンサーを流れる電流の位相がどうなるかを理解していること。
  3. 並列共振の条件: コイルとコンデンサーのリアクタンスが等しくなる「共振」という現象と、そのときの回路の振る舞いを理解していること。
  4. キルヒホッフの法則の適用: 電源から流れ出す電流が、各分岐に流れる電流の和として(向きを考慮して)計算されることを理解していること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (ア), (イ)では、リアクタンスの公式 \(X_L = 2\pi fL\) と \(X_C = \displaystyle\frac{1}{2\pi fC}\) から、周波数 \(f\) との関係(比例か反比例か)を判断します。
  2. (ウ), (エ)では、並列回路の性質(電圧が共通)を基に、コイルとコンデンサーの電流の位相差を考え、共振状態での全電流を求めます。
  3. (オ), (カ)では、共振の条件式 \(X_L = X_C\) を立てて、共振周波数 \(f_0\) の式を導出し、その名称を答えます。

問(ア)

思考の道筋とポイント
コイルのリアクタンス \(X_L\) が、交流の周波数 \(f\) に対してどのように変化するかを問う問題です。コイルのリアクタンスの公式を思い出し、\(X_L\) と \(f\) の関係を調べます。
この設問における重要なポイント

  • コイルのリアクタンスの公式は \(X_L = \omega L = 2\pi fL\)。
  • この式から、\(X_L\) は \(f\) の1乗に比例することがわかる。

具体的な解説と立式
コイルのリアクタンス \(X_L\) は、角周波数 \(\omega\) と自己インダクタンス \(L\) を用いて次のように表されます。
$$ X_L = \omega L $$
角周波数 \(\omega\) と周波数 \(f\) の間には \(\omega = 2\pi f\) の関係があるので、これを代入します。
$$ X_L = 2\pi f L $$
この式において、\(2\pi\) と \(L\) は定数なので、リアクタンス \(X_L\) は周波数 \(f\) に比例します。

使用した物理公式

  • コイルのリアクタンス: \(X_L = \omega L = 2\pi fL\)
計算過程

上記立式より、\(X_L\) は \(f\) に比例する関係にあることがわかります。

この設問の平易な説明

コイルは「電流の変化が嫌い」という性質を持っています。交流の周波数 \(f\) が高いほど、電流の向きがめまぐるしく変わるため、コイルはより強く反発して電流を妨げようとします。したがって、コイルの「流れにくさ」であるリアクタンス \(X_L\) は、周波数 \(f\) が高くなるほど大きく(比例して大きく)なります。

結論と吟味

コイルのリアクタンスは周波数 \(f\) に比例します。

解答 (ア) 比例

問(イ)

思考の道筋とポイント
コンデンサーのリアクタンス \(X_C\) が、交流の周波数 \(f\) に対してどのように変化するかを問う問題です。コンデンサーのリアクタンスの公式を思い出し、\(X_C\) と \(f\) の関係を調べます。
この設問における重要なポイント

  • コンデンサーのリアクタンスの公式は \(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C} = \frac{1}{2\pi fC}\)。
  • この式から、\(X_C\) は \(f\) に反比例することがわかる。

具体的な解説と立式
コンデンサーのリアクタンス \(X_C\) は、角周波数 \(\omega\) と電気容量 \(C\) を用いて次のように表されます。
$$ X_C = \frac{1}{\omega C} $$
角周波数 \(\omega\) と周波数 \(f\) の間には \(\omega = 2\pi f\) の関係があるので、これを代入します。
$$ X_C = \frac{1}{2\pi f C} $$
この式において、\(2\pi\) と \(C\) は定数なので、リアクタンス \(X_C\) は周波数 \(f\) に反比例します。

使用した物理公式

  • コンデンサーのリアクタンス: \(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C} = \frac{1}{2\pi fC}\)
計算過程

上記立式より、\(X_C\) は \(f\) に反比例する関係にあることがわかります。

この設問の平易な説明

コンデンサーは「電気を溜める箱」のようなものです。周波数 \(f\) が低い(ゆっくりな交流)と、箱に電気がしっかり溜まってしまい、それ以上電流が流れにくくなります。逆に周波数 \(f\) が高い(せわしない交流)と、箱に電気が溜まる前に次々と向きが変わり、まるで電流がスムーズに通り抜けているかのように見えます。したがって、コンデンサーの「流れにくさ」であるリアクタンス \(X_C\) は、周波数 \(f\) が高くなるほど小さく(反比例して小さく)なります。

結論と吟味

コンデンサーのリアクタンスは周波数 \(f\) に反比例します。

解答 (イ) 反比例

問(ウ)

思考の道筋とポイント
コイルを流れる電流 \(I_L\) とコンデンサーを流れる電流 \(I_C\) の位相差を問う問題です。並列回路では、コイルとコンデンサーにかかる電圧 \(V\) が共通であることを利用します。この共通の電圧を基準として、それぞれの電流の位相がどうなるかを考えます。
この設問における重要なポイント

  • 並列回路では、各素子にかかる電圧は等しい。
  • コイルの電流は、電圧より位相が \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 遅れる。
  • コンデンサーの電流は、電圧より位相が \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 進む。

具体的な解説と立式
コイルとコンデンサーは並列に接続されているため、両者にかかる電圧 \(V\) は常に等しくなります。この電圧を基準に考えます。

  • コンデンサーを流れる電流 \(I_C\) の位相は、電圧 \(V\) より \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 進みます。
  • コイルを流れる電流 \(I_L\) の位相は、電圧 \(V\) より \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 遅れます。

したがって、\(I_C\) と \(I_L\) の位相差は、進んでいる側と遅れている側の差なので、
$$ (\text{位相差}) = \left( +\frac{\pi}{2} \right) – \left( -\frac{\pi}{2} \right) = \pi $$
となります。位相が \(\pi\) (180°) 異なるということは、二つの電流が互いに正反対の向きに流れることを意味します。

使用した物理公式

  • コイルの位相差: 電流は電圧に対し \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 遅れる。
  • コンデンサーの位相差: 電流は電圧に対し \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 進む。
計算過程

上記立式より、位相差は \(\pi\) となります。

この設問の平易な説明

電圧を基準(0度)とします。コンデンサーの電流はせっかちなので90度早く(+90度)、コイルの電流はのんびり屋なので90度遅れて(-90度)流れます。この「せっかち君」と「のんびり屋君」のタイミングのずれは、\(90 – (-90) = 180\) 度になります。180度のずれは、一方が山の時に他方が谷になる、という完全に正反対の関係です。

結論と吟味

コイルの電流とコンデンサーの電流の位相差は \(\pi\) (180°) です。

解答 (ウ) \(\pi\) (あるいは 180°)

問(エ)

思考の道筋とポイント
リアクタンスが等しくなる周波数 \(f_0\) において、電源を流れる電流 \(I\) がどうなるかを問う問題です。キルヒホッフの第一法則(電流則)を使い、向きを考慮して電流を足し合わせます。
この設問における重要なポイント

  • 電源を流れる電流 \(I\) は、各分岐の電流の和 \(I = I_L + I_C\) で与えられる(ベクトル和)。
  • 周波数 \(f_0\) では、リアクタンスが等しい (\(X_L = X_C\))。
  • 電圧が共通なので、電流の振幅(大きさ)も等しくなる (\(I_{0L} = I_{0C}\))。

具体的な解説と立式
電源から流れ出す電流 \(I\) は、キルヒホッフの第一法則より、コイルに流れる電流 \(I_L\) とコンデンサーに流れる電流 \(I_C\) の和になります。ただし、交流では位相(向き)を考慮する必要があるため、ベクトル的な和(瞬時値の和)となります。
$$ I = I_L + I_C $$
問題の条件である周波数 \(f_0\) では、両者のリアクタンスが等しくなります。
$$ X_L = X_C $$
並列回路なので電圧 \(V\) は共通です。したがって、各電流の振幅(大きさ)は、
$$ I_{0L} = \frac{V_0}{X_L}, \quad I_{0C} = \frac{V_0}{X_C} $$
となり、\(X_L = X_C\) であることから、\(I_{0L} = I_{0C}\) となります。つまり、電流の大きさは等しくなります。

(ウ)で見たように、\(I_L\) と \(I_C\) は位相が \(\pi\) 異なり、常に互いに逆向きです。

大きさが等しく、向きが正反対の2つの電流を足し合わせるため、その和は常に0になります。
$$ I = I_L + I_C = 0 $$

使用した物理公式

  • キルヒホッフの第一法則: \(I = I_L + I_C\)
  • リアクタンスと電流振幅の関係: \(I_0 = V_0 / X\)
計算過程

上記解説の通り、\(I_L\) と \(I_C\) は大きさが等しく向きが逆なので、その和は0となります。

この設問の平易な説明

共振周波数という特別な周波数では、コイルの流れにくさとコンデンサーの流れにくさが偶然にもピッタリ同じになります。このとき、コイルに流れる電流とコンデンサーに流れる電流は、大きさが同じになります。
(ウ)で見たように、この二つの電流は常に正反対の向きに流れようとします。つまり、コンデンサーが「右に1A流せ!」と言う瞬間に、コイルは「左に1A流せ!」と言っているような状態です。この二つの要求を同時に満たすため、電流は電源から供給されるのではなく、コンデンサーとコイルの間をぐるぐると振動的に流れるだけになります。その結果、電源から見ると、回路全体には全く電流が流れていないように見えます。よって、合計の電流は0になります。

結論と吟味

並列共振時、電源を流れる電流は0になります。これは、コイルとコンデンサーの間でエネルギーのやり取りが完結し、外部からのエネルギー供給が不要になるためです。

解答 (エ) 0

問(オ)

思考の道筋とポイント
共振周波数 \(f_0\) を表す式を導出する問題です。共振の条件である「リアクタンスが等しくなる」という関係式を立て、それを \(f_0\) について解きます。
この設問における重要なポイント

  • 共振の条件: \(X_L = X_C\)。
  • 各リアクタンスを周波数 \(f_0\) で表す: \(X_L = 2\pi f_0 L\), \(X_C = \displaystyle\frac{1}{2\pi f_0 C}\)。

具体的な解説と立式
共振周波数 \(f_0\) では、コイルのリアクタンス \(X_L\) とコンデンサーのリアクタンス \(X_C\) が等しくなります。
$$ X_L = X_C $$
それぞれのリアクタンスを \(f_0\), \(L\), \(C\) を用いて表すと、
$$ 2\pi f_0 L = \frac{1}{2\pi f_0 C} $$
この式を \(f_0\) について解きます。

使用した物理公式

  • 共振条件: \(X_L = X_C\)
計算過程

立式した \(2\pi f_0 L = \displaystyle\frac{1}{2\pi f_0 C}\) を変形します。

両辺に \(2\pi f_0 C\) を掛けて、分母を払います。
$$ (2\pi f_0 L) \cdot (2\pi f_0 C) = 1 $$
$$ (2\pi f_0)^2 LC = 1 $$
\(LC\) で両辺を割ります。
$$ (2\pi f_0)^2 = \frac{1}{LC} $$
両辺の正の平方根をとります。
$$ 2\pi f_0 = \sqrt{\frac{1}{LC}} = \frac{1}{\sqrt{LC}} $$
最後に両辺を \(2\pi\) で割って \(f_0\) を求めます。
$$ f_0 = \frac{1}{2\pi\sqrt{LC}} $$

この設問の平易な説明

(ア)で見たように、周波数を上げるとコイルの流れにくさ(\(X_L\))は上がり、(イ)で見たようにコンデンサーの流れにくさ(\(X_C\))は下がります。ということは、どこかに両者の流れにくさがちょうど同じになる周波数があるはずです。その特別な周波数が共振周波数 \(f_0\) です。
「\(X_L = X_C\)」という等式を立て、それぞれの公式を代入して、\(f_0\) イコールの形になるように式を変形すると、答えの式が得られます。

結論と吟味

共振周波数は \(f_0 = \displaystyle\frac{1}{2\pi\sqrt{LC}}\) と表されます。この式は、コイルの \(L\) とコンデンサーの \(C\) の値だけで決まる、回路固有の重要な値です。

解答 (オ) \(\displaystyle\frac{1}{2\pi\sqrt{LC}}\)

問(カ)

思考の道筋とポイント
周波数 \(f_0\) の名称を答える問題です。これは知識を問う問題です。
この設問における重要なポイント

  • コイルとコンデンサーのリアクタンスが等しくなる周波数を「共振周波数」と呼ぶ。

具体的な解説と立式
コイルとコンデンサーを含む回路において、両者のリアクタンスが等しくなり、回路が特徴的な振る舞い(直列なら電流最大、並列なら電流最小)を示す現象を「共振」と呼びます。そのときの周波数を「共振周波数」または「固有周波数」と呼びます。

使用した物理公式

  • (なし、用語の定義)
計算過程

(なし)

この設問の平易な説明

ブランコを、そのブランコが最も揺れやすいタイミングで押すと、少しの力で大きく揺れます。このように、外部からの振動と物体固有の振動数が一致して、振幅が非常に大きくなる現象を「共振(共鳴)」と呼びます。
電気回路でも同じようなことが起こり、この \(f_0\) という周波数は、回路にとって最も「相性の良い」特別な周波数です。そのため、この周波数を「共振周波数」と呼びます。

結論と吟味

この周波数は共振周波数と呼ばれます。

解答 (カ) 共振

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • リアクタンスの周波数依存性:
    • 核心: コイルとコンデンサーの交流に対する「流れにくさ」(リアクタンス)が、周波数によって正反対の振る舞いをすることが、この問題全体の根幹をなす物理法則です。
    • 理解のポイント:
      • コイル (\(X_L = 2\pi fL\)): 周波数 \(f\) が高いほど、電流の変化が激しくなり、コイルは変化を妨げようとするため流れにくくなる(リアクタンスは \(f\) に比例)。
      • コンデンサー (\(X_C = \displaystyle\frac{1}{2\pi fC}\)): 周波数 \(f\) が高いほど、充電・放電が素早く切り替わり、電荷が溜まる暇がないため、かえって電流が流れやすくなる(リアクタンスは \(f\) に反比例)。
      • この正反対の性質があるからこそ、両者のリアクタンスが等しくなる「共振」という特別な状態が生まれます。
  • 並列回路における位相関係と電流の合成:
    • 核心: 並列回路では「電圧が共通」であることを基準に、各素子を流れる電流の位相を考え、それらをベクトル的に(向きを考慮して)足し合わせる、という考え方が重要です。
    • 理解のポイント:
      • 共通の電圧 \(V\) に対し、コンデンサーの電流 \(I_C\) は \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 進み、コイルの電流 \(I_L\) は \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 遅れます。
      • その結果、\(I_C\) と \(I_L\) は常に互いに逆向き(位相差 \(\pi\))になります。
      • 共振時には、この逆向きの電流の大きさが等しくなるため、互いに打ち消し合い、電源から見た電流は \(0\) になります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • RLC直列回路の共振: 直列回路では、共振時に \(X_L\) と \(X_C\) の効果が打ち消し合い、回路全体のインピーダンスが最小(\(Z=R\))になります。その結果、電源電圧が一定なら電流が最大になります。並列共振(電流最小)とは正反対の現象が起こることを対比して理解することが重要です。
    • フィルタ回路: コイルは高周波を通しにくく、コンデンサーは低周波を通しにくい性質を利用して、特定の周波数帯の信号だけを取り出したり、遮断したりする「フィルタ回路」に応用されます。例えば、LC並列回路は共振周波数でインピーダンスが無限大(電流が0)になるため、その周波数の信号を遮断するフィルタとして機能します。
    • アンテナ回路: ラジオやテレビのアンテナ回路は、特定の放送局の周波数(電波)に共振するようにLCの値を調整しています。これにより、目的の周波数の信号だけを強力に受信することができます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 接続方法の確認: まず回路が「直列」か「並列」かを確認します。直列なら「電流が共通」、並列なら「電圧が共通」という、考える上での大前提が決まります。
    2. 共振のキーワードを探す: 問題文に「リアクタンスが等しくなる」「電流が最大(または最小)になる」「インピーダンスが最小(または最大)になる」といった記述があれば、それは共振に関する問題であると判断します。
    3. リアクタンスの大小関係を考える: 共振周波数 \(f_0\) より周波数が高いか低いかで、\(X_L\) と \(X_C\) のどちらが大きいかが決まります。これにより、回路全体がコイル的(電流が遅れる)に振る舞うか、コンデンサー的(電流が進む)に振る舞うかを判断できます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 直列共振と並列共振の混同:
    • 誤解: 直列共振でも並列共振でも、共振時には電流が最大になると勘違いしてしまう。
    • 対策: 現象を正しくイメージすることが重要です。
      • 直列: コイルとコンデンサーが互いの邪魔(リアクタンス)を打ち消し合うので、回路全体として「最も流れやすい」状態になり、電流は最大になります。
      • 並列: コイルとコンデンサーが互いに電流を融通し合う(振動電流)ため、電源から新たに電流を供給してもらう必要がなくなり、電源から見た電流は最小(理想的には0)になります。
  • 電圧と電流の基準の混同:
    • 誤解: 並列回路なのに「電流が共通」と考えて、各素子の電圧の位相差を考えてしまう。
    • 対策: 「直列は電流共通、並列は電圧共通」という基本ルールを徹底します。回路図を見たら、まずこのルールを書き出すくらいの意識を持つことが有効です。
  • 共振周波数の式の覚え間違い:
    • 誤解: \(f_0 = \displaystyle\frac{1}{2\pi} \sqrt{\frac{L}{C}}\) や \(f_0 = \displaystyle\frac{\sqrt{LC}}{2\pi}\) のように、ルートや分数の位置を間違える。
    • 対策: 導出過程を一度は必ず自分で追いましょう。「\(X_L = X_C\)」から「\(2\pi f_0 L = \displaystyle\frac{1}{2\pi f_0 C}\)」という出発点を覚えておけば、あとは簡単な式変形で導出できるため、丸暗記よりも確実です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 共振条件 (\(X_L = X_C\)):
    • 選定理由: この問題では、コイルとコンデンサーという正反対の性質を持つ素子が、ある周波数で「対等」になる特別な状態を議論しています。その「対等」を数式で表現するのが \(X_L = X_C\) という条件式です。これが共振現象を解析するための出発点となります。
    • 適用根拠: 周波数を上げていくと、\(X_L\) は単調に増加し、\(X_C\) は単調に減少します。連続的に変化する2つの関数の値が、どこか1点で必ず交わる(等しくなる)ことは数学的に明らかです。この交点が物理的に特別な意味を持つ「共振点」となります。
  • キルヒホッフの法則 (\(I = I_L + I_C\)):
    • 選定理由: (エ)では、回路全体を流れる電流を求める必要があります。これは、各部分に流れる電流が合流・分岐する点での関係性を表す法則であり、キルヒホッフの第一法則(電流則)が直接的に適用されます。
    • 適用根拠: 電荷保存則に基づいています。ある一点に流れ込む電荷の量と、そこから流れ出す電荷の量は等しくなければなりません。これを単位時間あたりの電荷の流れ、すなわち電流について述べたものがキルヒホッフの第一法則です。交流回路では、電流の向き(位相)も考慮してベクトル的に和をとる必要があります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 関係性の言語化: (ア)や(イ)のように比例・反比例を問われたら、まず \(X_L = 2\pi f L\) のように数式を書き出し、それを見て「\(X_L\) は \(f\) の1乗に比例する」「\(X_C\) は \(f\) の-1乗に比例、つまり反比例する」と言語化する癖をつけましょう。数式と日本語の対応付けが理解を深め、ミスを防ぎます。
  • 単位の次元解析: 共振周波数の公式 \(f_0 = \displaystyle\frac{1}{2\pi\sqrt{LC}}\) の単位を確認してみましょう。自己インダクタンス \(L\) の単位 \([\text{H}]\) は \([\text{V} \cdot \text{s/A}]\)、電気容量 \(C\) の単位 \([\text{F}]\) は \([\text{A} \cdot \text{s/V}]\) と等価です。したがって、\(\sqrt{LC}\) の単位は \(\sqrt{[\text{V} \cdot \text{s/A}] \cdot [\text{A} \cdot \text{s/V}]} = \sqrt{[\text{s}^2]} = [\text{s}]\) となり、時間の次元を持ちます。よって、\(1/\sqrt{LC}\) は時間逆数の次元、つまり周波数の次元 \([\text{Hz}]\) と一致します。このように単位を追うことで、式の形が正しいかどうかの検算ができます。
  • 段階的な式変形: (オ)の共振周波数の導出のように、複数のステップが必要な計算では、焦らず一行ずつ丁寧に式変形を行いましょう。「両辺に○○を掛ける」「両辺を△△で割る」「両辺の平方根をとる」など、操作を明確に意識しながら進めることで、計算ミスを大幅に減らすことができます。

基本例題93 電磁波

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 設問(1)の別解: 単振動との類推を用いる解法
      • 模範解答がエネルギー保存則から直接立式するのに対し、別解ではLC電気振動が力学における単振動と数学的に全く同じ構造を持つこと(アナロジー)を利用して、電流の最大値を導出します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 電気振動という目に見えない現象を、ばね振り子という具体的なイメージに置き換えて理解することができます。電荷が「位置」、電流が「速度」、コンデンサーが「ばね」、コイルが「おもり」に対応することを知ることで、物理現象の普遍性への理解が深まります。
    • 思考の柔軟性向上: 一見異なる分野(力学と電磁気学)の現象が、同じ数学的法則に支配されていることを体験することで、物理法則をより抽象的かつ横断的に捉える視点が養われます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「LC回路における電気振動と電磁波の放射」です。充電されたコンデンサーとコイルで構成される閉回路において、エネルギーがどのように移り変わり、どのような周期で振動し、そしてどのような電磁波を放射するのか、という一連の流れを理解しているかが問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. LC回路におけるエネルギー保存則: 回路内の抵抗が無視できる場合、コンデンサーの静電エネルギーとコイルの磁気エネルギーの和は一定に保たれること。
  2. 静電エネルギーと磁気エネルギーの公式: コンデンサーのエネルギーが \(\displaystyle\frac{1}{2}CV^2\)、コイルのエネルギーが \(\displaystyle\frac{1}{2}LI^2\) で与えられることを知っていること。
  3. 電気振動の周期: LC回路が振動する周期(固有周期)が \(T=2\pi\sqrt{LC}\) で与えられることを理解していること。
  4. 電磁波の基本式: 電磁波の速さ \(c\)、周波数 \(f\)、波長 \(\lambda\) の間に \(\lambda = c/f = cT\) の関係が成り立つことを知っていること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、LC回路のエネルギー保存則を利用します。コンデンサーのエネルギーが最大の状態(電流が0)と、コイルのエネルギーが最大の状態(コンデンサーの電圧が0)を考え、両者のエネルギーが等しいとおいて、電流の最大値を求めます。
  2. (2)では、まずLC回路の電気振動の周期 \(T\) を公式から計算します。電気振動の周波数と、それによって放射される電磁波の周波数は等しいので、波の基本式 \(\lambda = cT\) を用いて波長を計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
振動回路を流れる電流の最大値 \(I_0\) を求める問題です。この回路にはエネルギーを消費する抵抗が含まれていないため、回路全体のエネルギーは保存されます。コンデンサーに蓄えられた静電エネルギーと、コイルに蓄えられる磁気エネルギーが、互いに移り変わる(振動する)と考えます。エネルギーが最大となる瞬間に注目し、エネルギー保存則を立式します。
この設問における重要なポイント

  • LC回路では、電気的エネルギーと磁気的エネルギーの和が保存される。
  • コンデンサーのエネルギーが最大(\(\displaystyle\frac{1}{2}CV^2\))のとき、電流は0でコイルのエネルギーは0。
  • コイルのエネルギーが最大(\(\displaystyle\frac{1}{2}LI_0^2\))のとき、コンデンサーの電荷は0で静電エネルギーは0。
  • エネルギー保存則より、この2つの最大値は等しい。

具体的な解説と立式
スイッチS1を開き、S2を閉じた直後、コンデンサーには電圧 \(V\) で充電された電荷が蓄えられており、その静電エネルギーは最大値をとります。このとき、まだ電流は流れていないのでコイルのエネルギーは0です。
$$ E_{\text{コンデンサー最大}} = \frac{1}{2}CV^2 $$
その後、コンデンサーが放電を始め、電流が流れます。電流が最大値 \(I_0\) に達した瞬間、コンデンサーの電荷は0になり、静電エネルギーは0になります。このとき、回路の全エネルギーはコイルの磁気エネルギーとして蓄えられています。
$$ E_{\text{コイル最大}} = \frac{1}{2}LI_0^2 $$
LC回路ではエネルギーが保存されるため、これらの最大エネルギーは等しくなります。
$$ \frac{1}{2}CV^2 = \frac{1}{2}LI_0^2 $$

使用した物理公式

  • 静電エネルギー: \(U_C = \displaystyle\frac{1}{2}CV^2\)
  • 磁気エネルギー: \(U_L = \displaystyle\frac{1}{2}LI^2\)
  • エネルギー保存則
計算過程

立式した \(\displaystyle\frac{1}{2}CV^2 = \frac{1}{2}LI_0^2\) を \(I_0\) について解きます。

両辺の \(\displaystyle\frac{1}{2}\) を消去します。
$$ CV^2 = LI_0^2 $$
両辺を \(L\) で割ります。
$$ I_0^2 = \frac{C}{L}V^2 $$
両辺の正の平方根をとって \(I_0\) を求めます。
$$ I_0 = \sqrt{\frac{C}{L}V^2} = \sqrt{\frac{C}{L}}V $$

この設問の平易な説明

この回路は、電気エネルギーと磁気エネルギーの「キャッチボール」に例えられます。

  1. 最初、コンデンサーは電気エネルギーでパンパンに満たされています(ボールを持っている状態)。
  2. スイッチを入れると、コンデンサーはそのエネルギーを放出して電流を流し始め、コイルに磁気エネルギーとしてパスします。
  3. 電流が最大になったとき、コイルは全てのエネルギーを受け取り、磁気エネルギーが最大になります(相手がボールを受け取った状態)。

エネルギー保存則とは、このキャッチボールの途中でボール(エネルギー)がなくならない、ということです。つまり、「コンデンサーが持っていた最大のエネルギー」と「コイルが受け取った最大のエネルギー」は等しくなります。この等式を立てて計算すると、電流の最大値が求まります。

結論と吟味

電流の最大値は \(I_0 = \sqrt{\displaystyle\frac{C}{L}}V\) と表せます。電気容量 \(C\) が大きいほど、また自己インダクタンス \(L\) が小さいほど、大きな電流が流れるという、物理的に妥当な結果です。

解答 (1) \(I_0 = \sqrt{\displaystyle\frac{C}{L}}V\)
別解: 単振動との類推を用いる解法

思考の道筋とポイント
LC回路の電気振動は、力学における「ばね振り子」の単振動と数学的に全く同じ形をしています。この対応関係を利用して、単振動でよく知られた関係式から電流の最大値を導きます。

この設問における重要なポイント

  • LC回路と単振動の物理量の対応関係を理解する。
    • 電荷 \(Q\) \(\leftrightarrow\) 変位 \(x\)
    • 電流 \(I\) \(\leftrightarrow\) 速度 \(v\)
    • 自己インダクタンス \(L\) \(\leftrightarrow\) 質量 \(m\)
    • \(1/C\) \(\leftrightarrow\) ばね定数 \(k\)
  • 単振動における最大速度の関係式 \(v_0 = \omega x_0\) を利用する。

具体的な解説と立式
単振動において、角振動数 \(\omega\)、振幅 \(x_0\)、最大速度 \(v_0\) の間には、
$$ v_0 = \omega x_0 $$
という関係が成り立ちます。

LC回路と単振動の対応関係を用いると、これは次のように書き換えられます。

  • 最大速度 \(v_0\) \(\rightarrow\) 最大電流 \(I_0\)
  • 振幅 \(x_0\) \(\rightarrow\) 最大電荷 \(Q_0\)
  • 角振動数 \(\omega\) \(\rightarrow\) 電気振動の角振動数 \(\omega = \displaystyle\frac{1}{\sqrt{LC}}\)

したがって、LC回路では次の関係式が成り立ちます。
$$ I_0 = \omega Q_0 $$
ここで、コンデンサーに蓄えられる最大の電荷 \(Q_0\) は、最初の充電電圧が \(V\) なので、\(Q_0 = CV\) です。

使用した物理公式

  • 単振動における最大速度と振幅の関係: \(v_0 = \omega x_0\)
  • LC回路の角振動数: \(\omega = \displaystyle\frac{1}{\sqrt{LC}}\)
  • コンデンサーの電荷: \(Q_0 = CV\)
計算過程

立式した \(I_0 = \omega Q_0\) に、\(\omega = \displaystyle\frac{1}{\sqrt{LC}}\) と \(Q_0 = CV\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
I_0 &= \left( \frac{1}{\sqrt{LC}} \right) \cdot (CV) \\[2.0ex]
&= \frac{CV}{\sqrt{LC}} \\[2.0ex]
&= \frac{\sqrt{C^2}V}{\sqrt{LC}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{\frac{C^2}{LC}} V \\[2.0ex]
&= \sqrt{\frac{C}{L}} V
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

電気の振動は、おもりがばねで振動するのとそっくりです。

  • コンデンサーに電荷が溜まっている状態は、ばねが最も伸び縮みした状態。
  • コイルに電流が流れている状態は、おもりが動いている状態。

ばねの振動では、「最大速度 = 角振動数 × 最大の伸び」という関係があります。これを電気の振動に翻訳すると、「最大電流 = 角振動数 × 最大の電荷」となります。この関係式を使って計算しても、エネルギー保存則を使った主たる解法と全く同じ答えが得られます。

結論と吟味

単振動との類推という、異なる視点から出発しても、主たる解法と全く同じ \(I_0 = \sqrt{\displaystyle\frac{C}{L}}V\) という結果が得られました。これは、LC回路の現象が物理的に単振動と等価であることを示しており、理解を深める上で非常に有益なアプローチです。

解答 (1) \(I_0 = \sqrt{\displaystyle\frac{C}{L}}V\)

問(2)

思考の道筋とポイント
電気振動によって放射される電磁波の波長 \(\lambda\) を求める問題です。電気振動の周波数と、それによって発生する電磁波の周波数は等しくなります。したがって、まずLC回路の振動の周期 \(T\) を求め、それと光速 \(c\) から波長 \(\lambda\) を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 電気振動の周期の公式は \(T=2\pi\sqrt{LC}\)。
  • 波の基本式は \(\lambda = cT\)。
  • 単位の換算を正確に行うこと(特に pF: ピコファラド)。\(1 \, \text{pF} = 10^{-12} \, \text{F}\)。

具体的な解説と立式
LC回路の電気振動の周期 \(T\) は、自己インダクタンス \(L\) と電気容量 \(C\) を用いて次のように与えられます。
$$ T = 2\pi\sqrt{LC} \quad \cdots ① $$
この電気振動によって放射される電磁波は、同じ周期(および周波数)を持ちます。電磁波の速さは光の速さ \(c\) に等しいので、波長 \(\lambda\) は波の基本式を用いて計算できます。
$$ \lambda = cT \quad \cdots ② $$
①式で \(T\) を計算し、その結果を②式に代入して \(\lambda\) を求めます。

使用した物理公式

  • LC回路の周期: \(T=2\pi\sqrt{LC}\)
  • 波の基本式: \(\lambda = cT\)
計算過程

与えられた数値を代入して、まず周期 \(T\) を計算します。

\(L = 1.0 \times 10^{-3} \, \text{H}\)

\(C = 10 \, \text{pF} = 10 \times 10^{-12} \, \text{F}\)
$$
\begin{aligned}
T &= 2\pi\sqrt{LC} \\[2.0ex]
&= 2\pi\sqrt{(1.0 \times 10^{-3}) \times (10 \times 10^{-12})} \\[2.0ex]
&= 2\pi\sqrt{10 \times 10^{-15}} \\[2.0ex]
&= 2\pi\sqrt{1.0 \times 10^{-14}} \\[2.0ex]
&= 2\pi \times 10^{-7} \, \text{s}
\end{aligned}
$$
次に、この周期 \(T\) と光の速さ \(c = 3.0 \times 10^8 \, \text{m/s}\) を用いて、波長 \(\lambda\) を計算します。円周率 \(\pi\) には \(3.14\) を用います。
$$
\begin{aligned}
\lambda &= cT \\[2.0ex]
&= (3.0 \times 10^8) \times (2\pi \times 10^{-7}) \\[2.0ex]
&= 6.0\pi \times 10^1 \\[2.0ex]
&= 60\pi \\[2.0ex]
&\approx 60 \times 3.14 = 188.4 \, \text{m}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めて、\(\lambda \approx 1.9 \times 10^2 \, \text{m}\) となります。

この設問の平易な説明

この電気回路は、決まったテンポ(周期 \(T\))で振動します。このテンポは、コイルの \(L\) とコンデンサーの \(C\) の値で決まります。まず、公式を使ってこのテンポを計算します。
次に、この電気の振動は、周りに電磁波という波を発生させます。この電磁波は光の速さ \(c\) で進みます。波長というのは、波が1回振動する(1テンポ分)間に進む距離のことです。したがって、「速さ × 1回の振動にかかる時間」で波長が計算できます。

結論と吟味

放射される電磁波の波長は約 \(1.9 \times 10^2 \, \text{m}\) と求められました。これは中波ラジオの放送で使われる波長に近い値です。計算過程での単位換算(pF)と、指数計算を正確に行うことが重要です。

解答 (2) \(1.9 \times 10^2 \, \text{m}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • LC回路におけるエネルギー保存則:
    • 核心: この問題の根幹は、抵抗のないLC回路では、コンデンサーに蓄えられる「静電エネルギー」(電気のエネルギー)と、コイルに蓄えられる「磁気エネルギー」(磁気のエネルギー)の合計が、常に一定に保たれるというエネルギー保存則を理解することです。
    • 理解のポイント:
      • この回路は、静電エネルギーと磁気エネルギーが互いに形を変えながら移り変わる、エネルギーの「キャッチボール」のようなものです。
      • コンデンサーのエネルギーが最大になるときは電流がゼロで、コイルのエネルギーが最大になるときはコンデンサーの電圧がゼロになります。
      • エネルギー保存則により、「コンデンサーの最大エネルギー」と「コイルの最大エネルギー」は等しくなります。この関係式 \(\displaystyle\frac{1}{2}CV^2 = \frac{1}{2}LI_0^2\) が、(1)を解くための鍵となります。
  • 電気振動と電磁波の発生:
    • 核心: LC回路で起こる周期的なエネルギーの移り変わり(電気振動)が、その周りに電磁波を放射する源になる、という関係を理解することがもう一つの核心です。
    • 理解のポイント:
      • 電気振動の周期は、コイルとコンデンサーの性質(\(L\)と\(C\)の値)だけで決まる「固有の周期」であり、\(T=2\pi\sqrt{LC}\) で計算されます。
      • 回路から放射される電磁波の周波数(または周期)は、元の電気振動の周波数(または周期)と全く同じになります。
      • この関係と、波の基本式 \(\lambda = cT\) を使うことで、電気回路の性質から放射される電磁波の波長を計算することができます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 減衰振動: 実際の回路には抵抗が存在するため、エネルギーは熱として少しずつ失われ、振動は次第に弱まっていきます(減衰振動)。この場合、エネルギー保存則は成り立ちませんが、振動周期の式は近似的に使うことができます。
    • 強制振動と共振: LC回路に外部から交流電源を接続すると、電源の周波数で強制的に振動させられます。このとき、電源の周波数が回路の固有周波数 \(f_0 = \displaystyle\frac{1}{2\pi\sqrt{LC}}\) に一致すると「共振」が起こり、非常に大きな電流が流れます。これは、特定の周波数の電波を受信するラジオの仕組みの基本です。
    • 単振動との比較問題: (1)の別解で示したように、LC回路の電気振動は、力学における「ばね振り子」の単振動と数学的に全く同じ構造をしています。この対応関係を利用して、一方の知識からもう一方の現象を解き明かす問題が出題されることがあります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 回路の構成要素を確認する: 回路に何(コイル、コンデンサー、抵抗、電源)が含まれているかを確認します。LCのみの閉回路であれば、エネルギー保存則と電気振動をまず考えます。
    2. エネルギーの状態を整理する: 問題文の操作(スイッチの開閉など)によって、どの瞬間にどのエネルギーが最大になるかを整理します。「充電完了時 → 静電エネルギー最大」「電流最大時 → 磁気エネルギー最大」という対応を明確にします。
    3. 求められている量を確認する: 電流の「最大値」を問われているのか、ある「瞬間の値」を問われているのかを区別します。最大値を問われた場合は、エネルギー保存則が有効な手段です。
    4. 電気振動と電磁波の連携を意識する: 「電磁波の波長や周波数を求めよ」とあれば、その源である「電気振動の周期や周波数」をまず計算する必要があると判断します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • エネルギーの公式の混同:
    • 誤解: コンデンサーのエネルギーを \(\displaystyle\frac{1}{2}LI^2\)、コイルのエネルギーを \(\displaystyle\frac{1}{2}CV^2\) のように、取り違えて覚えてしまう。
    • 対策: 各素子の主役となる物理量と結びつけて覚えましょう。コンデンサーは電圧 \(V\) で電荷を蓄えるので \(V\) が主役 (\(\displaystyle\frac{1}{2}CV^2\))。コイルは電流 \(I\) が流れることで磁場を作るので \(I\) が主役 (\(\displaystyle\frac{1}{2}LI^2\))。このように関連付けると間違いにくくなります。
  • 周期の公式の覚え間違い:
    • 誤解: \(T = 2\pi\sqrt{L/C}\) や \(T = \displaystyle\frac{\sqrt{LC}}{2\pi}\) のように、公式の形を間違える。
    • 対策: (1)の別解で示した単振動との対応関係を思い出すのが有効です。単振動の周期は \(T=2\pi\sqrt{m/k}\) でした。これに \(m \leftrightarrow L\), \(k \leftrightarrow 1/C\) を当てはめると、\(T=2\pi\sqrt{L/(1/C)} = 2\pi\sqrt{LC}\) となり、正しい公式を導出できます。
  • 単位の換算ミス:
    • 誤解: (2)の計算で、\(10 \, \text{pF}\) を \(10 \times 10^{-9} \, \text{F}\) (ナノファラド) や \(10 \times 10^{-6} \, \text{F}\) (マイクロファラド) などと間違えてしまう。
    • 対策: 補助単位の接頭辞は正確に記憶することが不可欠です。「p(ピコ)= \(10^{-12}\)」「n(ナノ)= \(10^{-9}\)」「\(\mu\)(マイクロ)= \(10^{-6}\)」「m(ミリ)= \(10^{-3}\)」はセットで確実に覚えましょう。計算前に、与えられた数値をすべてSI基本単位(m, kg, s, A など)に直してから計算を始める癖をつけるのが最も安全です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • エネルギー保存則 (\(\displaystyle\frac{1}{2}CV^2 = \frac{1}{2}LI_0^2\)):
    • 選定理由: (1)では、回路の状態が変化する前後での関係性を問うています。特に、抵抗がなくエネルギーの損失がない系では、エネルギー保存則が最も強力で普遍的な法則となります。時間変化を追うことなく、最もエネルギーが偏った2つの状態を比較するだけで答えが得られるため、非常に効率的な解法です。
    • 適用根拠: 回路に抵抗が含まれておらず、外部とのエネルギーのやり取りもない(電源が切り離されている)ため、回路全体のエネルギーの総量は時間によらず一定でなければなりません。これが、この法則を適用できる物理的な根拠です。
  • 電気振動の周期の公式 (\(T=2\pi\sqrt{LC}\)):
    • 選定理由: (2)では、振動現象の「時間的な尺度」である周期を求める必要があります。この周期は、回路の構成要素である \(L\) と \(C\) のみによって決まるため、この公式が直接的に選ばれます。
    • 適用根拠: この公式は、LC回路の電圧・電流に関する微分方程式を解くことによって数学的に導かれます。その方程式が、力学における単振動の方程式と全く同じ形をしているため、周期の式も単振動の周期の式と似た形になります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • エネルギーの最大状態を明確にする: 計算を始める前に、「コンデンサーのエネルギー最大:\(E_C = \displaystyle\frac{1}{2}CV^2\), \(I=0\)」「コイルのエネルギー最大:\(E_L = \displaystyle\frac{1}{2}LI_0^2\), \(Q=0\)」のように、条件を書き出して整理しましょう。これにより、どのエネルギーとどのエネルギーを等しいとおくべきかが明確になります。
  • 指数計算の丁寧な処理: (2)のように、\(10\) のべき乗が多く登場する計算では、まず指数部分だけを先に計算するのが安全です。例えば、\(\sqrt{10^{-3} \times 10 \times 10^{-12}} = \sqrt{10^{-3} \times 10^1 \times 10^{-12}} = \sqrt{10^{-3+1-12}} = \sqrt{10^{-14}} = 10^{-7}\) のように、指数法則を使って段階的に計算するとミスが減ります。
  • ルートの中の整理: \(\sqrt{10 \times 10^{-15}}\) のような形が出てきたとき、ルートの外に出せるように \(10\) のべき乗を偶数に調整する工夫が有効です。この場合は \(\sqrt{1.0 \times 10^{-14}}\) と変形することで、平方根の計算が容易になります。この一手間が計算の正確性を大きく向上させます。
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基本問題

462 交流の実効値

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「抵抗回路における交流の基本計算」です。交流電源に抵抗だけを接続した最も単純な回路について、周波数、実効値、最大値といった基本的な物理量の関係を正しく理解し、計算できるかが問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 抵抗回路の特性: 抵抗のみの回路では、電流の周波数は電源電圧の周波数と等しく、また電流と電圧の位相は一致(同位相)します。
  2. オームの法則の適用: 交流回路においても、抵抗 \(R\)、電圧 \(V\)、電流 \(I\) の間にはオームの法則が成り立ちます。このとき、電圧と電流は実効値同士、または最大値同士で計算する必要があります。
  3. 実効値と最大値の関係: 正弦波交流において、実効値と最大値の間には \((\text{実効値}) = \displaystyle\frac{(\text{最大値})}{\sqrt{2}}\) という関係が成り立ちます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、抵抗回路の基本的な性質から、電流の周波数が電源の周波数と等しいことを述べます。
  2. (2)では、オームの法則 \(V=IR\) を実効値で適用し、電流の実効値 \(I_e\) を計算します。
  3. (3)では、実効値と最大値の関係式を使い、(2)で求めた実効値 \(I_e\) から電流の最大値 \(I_0\) を計算します。

問(1)

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