「リードα 物理基礎・物理 改訂版」徹底解説!【第26章】基本例題~基本問題449

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基本例題

基本例題87 コイルに生じる誘導起電力

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 別解: ファラデーの法則の符号を厳密に適用し、B-tグラフの傾きから直接電位を求める解法
      • 模範解答が起電力の「大きさ」と「向き」を別々に求めるのに対し、別解ではB-tグラフの傾き \(\displaystyle\frac{dB}{dt}\) を用いて、電位 \(V\) の正負を含めて一度の計算で導出します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理法則の深化: ファラデーの法則におけるマイナス符号の物理的意味(レンツの法則)と、座標系の取り方との関係を深く理解できます。
    • 解法の効率化: グラフの傾きを計算するだけで機械的に答えが求まるため、計算がシンプルになり、ミスを減らせる可能性があります。
    • 思考の柔軟性向上: 向きを直感(レンツの法則)で判断する方法と、数式で形式的に処理する方法の両方を学ぶことで、問題解決能力が高まります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られるグラフは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「ファラデーの電磁誘導の法則の応用」です。時間的に変化する磁場の中に置かれたコイルに、どのようにして起電力が生じるのか、その大きさと向きを正しく計算できるかが問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. ファラデーの電磁誘導の法則: コイルを貫く磁束 \(\Phi\) が時間変化すると、その変化を妨げる向きに誘導起電力 \(V\) が生じるという法則 (\(V = -N \displaystyle\frac{\Delta \Phi}{\Delta t}\)) を理解していること。
  2. 磁束の計算: 磁束 \(\Phi\) が、磁束密度 \(B\) とコイルの断面積 \(S\) の積で表されること (\(\Phi = BS\)) を知っていること。
  3. レンツの法則: 誘導起電力(誘導電流)の向きが、「磁束の変化を妨げる向き」であることを理解し、右ねじの法則と組み合わせて具体的な電流の向きや電位の高低を判断できること。
  4. グラフの読み取り: B-tグラフの傾きが磁束密度の時間変化率 \(\displaystyle\frac{\Delta B}{\Delta t}\) を表し、傾きが0の区間では起電力が生じないことを理解していること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. B-tグラフを \(t=0 \sim 1 \, \text{s}\), \(1 \sim 4 \, \text{s}\), \(4 \sim 6 \, \text{s}\), \(6 \sim 10 \, \text{s}\) の4つの区間に分ける。
  2. 磁束密度が一定の区間(グラフの傾きが0)では、誘導起電力は \(0 \, \text{V}\) であることを確認する。
  3. 磁束密度が変化している区間(グラフの傾きが0でない)について、ファラデーの電磁誘導の法則を用いて誘導起電力の「大きさ」を計算する。
  4. 同じ区間について、レンツの法則を用いて誘導電流の向きを判断し、それによって点bの電位が点aに対して高い(正)か低い(負)かを決定する。
  5. 以上の結果をまとめて、V-tグラフを作成する。

思考の道筋とポイント
この問題は、B-tグラフから各時間区間における磁束の変化率を読み取り、ファラデーの電磁誘導の法則を適用して誘導起電力を求める問題です。計算は「大きさ」と「向き」の2段階で行うのが確実です。まず法則の式から起電力の大きさを計算し、次にレンツの法則で電位の正負を判断します。
この設問における重要なポイント

  • ファラデーの電磁誘導の法則: \(|V| = N \left| \displaystyle\frac{\Delta \Phi}{\Delta t} \right| = NS \left| \displaystyle\frac{\Delta B}{\Delta t} \right|\)。
  • \(\displaystyle\frac{\Delta B}{\Delta t}\) はB-tグラフの傾き。
  • レンツの法則: 磁束の変化を「妨げる」向きに誘導電流が流れる。
    • 下向き(正)の磁束が増加 \(\rightarrow\) 上向きの磁束を作るように電流が流れる。
    • 下向き(正)の磁束が減少 \(\rightarrow\) 下向きの磁束を維持するように電流が流れる。
  • 電位の判断: コイルを電池と見なす。誘導電流がbからaへ流れるなら、bがプラス極で電位は正。aからbへ流れるなら、bがマイナス極で電位は負。

具体的な解説と立式
誘導起電力の大きさ \(|V|\) は、ファラデーの電磁誘導の法則より、コイルの巻数 \(N\)、断面積 \(S\)、磁束密度の時間変化率 \(\displaystyle\frac{\Delta B}{\Delta t}\) を用いて次のように表されます。
$$ |V| = N \left| \frac{\Delta \Phi}{\Delta t} \right| $$
ここで、磁束 \(\Phi = BS\) であり、断面積 \(S\) は一定なので、\(\Delta \Phi = S \Delta B\) となります。したがって、
$$ |V| = NS \left| \frac{\Delta B}{\Delta t} \right| \quad \cdots ① $$
この式を用いて、各時間区間での起電力の大きさを計算します。

次に、起電力の向き(電位の正負)をレンツの法則で判断します。

  • \(t=1 \sim 4 \, \text{s}\) の区間:
    図2より、下向き(正)の磁束密度 \(B\) が増加しています。レンツの法則によれば、コイルは「下向きの磁束の増加を妨げる」ために、「上向き」の磁場を作るような誘導電流を流します。右ねじの法則を適用すると、上向きの磁場を作るには、コイルを上から見て反時計回りに電流が流れる必要があります。これは、コイルの下端aから上端bへ向かう電流です。
    もしa-b間に抵抗を接続すれば、電流は b \(\rightarrow\) (抵抗) \(\rightarrow\) a の向きに流れます。これは、コイルがb点をプラス極、a点をマイナス極とする電池のように振る舞うことを意味します。したがって、aを基準としたbの電位 \(V\) は正となります。
  • \(t=6 \sim 10 \, \text{s}\) の区間:
    図2より、下向き(正)の磁束密度 \(B\) が減少し、さらに上向き(負)に増加しています。全体として、下向きの磁束が急激に減少していると解釈できます。レンツの法則によれば、コイルは「下向きの磁束の減少を妨げる」ために、「下向き」の磁場を維持するような誘導電流を流します。右ねじの法則を適用すると、下向きの磁場を作るには、コイルを上から見て時計回りに電流が流れる必要があります。これは、コイルの上端bから下端aへ向かう電流です。
    もしa-b間に抵抗を接続すれば、電流は a \(\rightarrow\) (抵抗) \(\rightarrow\) b の向きに流れます。これは、コイルがa点をプラス極、b点をマイナス極とする電池のように振る舞うことを意味します。したがって、aを基準としたbの電位 \(V\) は負となります。

使用した物理公式

  • ファラデーの電磁誘導の法則: \(V = -N \displaystyle\frac{\Delta \Phi}{\Delta t}\)
  • 磁束: \(\Phi = BS\)
  • レンツの法則
  • 右ねじの法則
計算過程

与えられた値は \(N=50\)、\(S=0.02 \, \text{m}^2\) です。

  • \(t=0 \sim 1 \, \text{s}\) と \(t=4 \sim 6 \, \text{s}\) の区間:
    B-tグラフの傾きが \(0\) なので、\(\displaystyle\frac{\Delta B}{\Delta t} = 0\)。
    $$ V = 0 \, \text{V} $$
  • \(t=1 \sim 4 \, \text{s}\) の区間:
    B-tグラフから、\(\Delta t = 4 – 1 = 3 \, \text{s}\)、\(\Delta B = 0.4 – 0.1 = 0.3 \, \text{Wb/m}^2\)。
    $$
    \begin{aligned}
    |V| &= NS \left| \frac{\Delta B}{\Delta t} \right| \\[2.0ex]
    &= 50 \times 0.02 \times \left| \frac{0.3}{3} \right| \\[2.0ex]
    &= 1 \times 0.1 \\[2.0ex]
    &= 0.1 \, \text{V}
    \end{aligned}
    $$
    立式の考察より、この区間の電位は正なので、\(V = +0.1 \, \text{V}\)。
  • \(t=6 \sim 10 \, \text{s}\) の区間:
    B-tグラフから、\(\Delta t = 10 – 6 = 4 \, \text{s}\)、\(\Delta B = (-0.4) – 0.4 = -0.8 \, \text{Wb/m}^2\)。
    $$
    \begin{aligned}
    |V| &= NS \left| \frac{\Delta B}{\Delta t} \right| \\[2.0ex]
    &= 50 \times 0.02 \times \left| \frac{-0.8}{4} \right| \\[2.0ex]
    &= 1 \times |-0.2| \\[2.0ex]
    &= 0.2 \, \text{V}
    \end{aligned}
    $$
    立式の考察より、この区間の電位は負なので、\(V = -0.2 \, \text{V}\)。
この設問の平易な説明

コイルは「変化が嫌い」という性質を持っています。コイルを貫く磁力の強さ(磁束)が変化すると、コイルは「元の状態に戻そう!」と頑張って電気を発生させます。これが誘導起電力です。
1. \(1 \sim 4\) 秒: グラフを見ると、下向きの磁力がどんどん強くなっています。コイルは「強くなるな!」と、逆向き、つまり上向きの磁力を作ろうとします。その結果、b点の電位がa点より高くなります(プラスの電圧)。電圧の大きさは、磁力の変化の激しさ(グラフの傾き)で決まります。
2. \(6 \sim 10\) 秒: 今度は下向きの磁力が急激に弱まり、ついには逆(上向き)になってしまいます。コイルは「弱まるな!下向きを保て!」と、下向きの磁力を自分で作ろうとします。その結果、今度はa点の電位がb点より高くなり、b点の電位はマイナスになります。変化が \(1 \sim 4\) 秒の時より激しい(グラフの傾きが急)なので、電圧の大きさもより大きくなります。
3. 変化がないとき: \(0 \sim 1\) 秒や \(4 \sim 6\) 秒のように磁力が一定のときは、コイルは「変化なし、異常なし」と判断し、電気を発生させません。なので電圧は0です。
これらの結果をグラフに描けば完成です。

結論と吟味

各時間区間におけるbの電位 \(V\) は以下のようになります。

  • \(t=0 \sim 1 \, \text{s}\): \(V=0 \, \text{V}\)
  • \(t=1 \sim 4 \, \text{s}\): \(V=+0.1 \, \text{V}\)
  • \(t=4 \sim 6 \, \text{s}\): \(V=0 \, \text{V}\)
  • \(t=6 \sim 10 \, \text{s}\): \(V=-0.2 \, \text{V}\)

これらの値を時間軸に沿ってプロットすることで、求めるV-tグラフが得られます。結果は、磁束の変化率(B-tグラフの傾き)に比例した起電力が生じるという物理法則と整合しています。傾きが正の区間では正の電位、傾きが負で急な区間では負で大きな電位となっており、妥当な結果です。

解答 解答のグラフは模範解答の通り。\(t=0 \sim 1 \, \text{s}\) で \(V=0\)、\(t=1 \sim 4 \, \text{s}\) で \(V=0.1 \, \text{V}\)、\(t=4 \sim 6 \, \text{s}\) で \(V=0\)、\(t=6 \sim 10 \, \text{s}\) で \(V=-0.2 \, \text{V}\) となる階段状のグラフ。

別解: ファラデーの法則の符号を厳密に適用し、B-tグラフの傾きから直接電位を求める解法

思考の道筋とポイント
ファラデーの電磁誘導の法則 \(V = -N \displaystyle\frac{d\Phi}{dt}\) のマイナス符号の意味を厳密に適用し、計算だけで電位の正負まで決定するアプローチです。レンツの法則を直感的に使う代わりに、座標系(向きの定義)を定めて数式処理で解き切ります。B-tグラフの傾き \(\displaystyle\frac{dB}{dt}\) を計算し、定義した式に代入するだけで、電位 \(V\) が直接求まります。
この設問における重要なポイント

  • 向きの定義の徹底:
    • 磁束密度の正の向き: 図1の下向き。
    • コイルの面積ベクトルの向き: 磁束密度の正の向きに合わせ、下向きに定義する。
    • 起電力の正の向き: 右ねじの法則に従い、面積ベクトルの向き(下向き)に進む右ねじを回す向き、つまりコイルを上から見て時計回り(a→bの向き)を正とする。
  • 使用する法則:
    • 求めたい電位 \(V = V_b – V_a\) は、上記の定義の下で \(V = NS \displaystyle\frac{dB}{dt}\) と表される。(導出は「具体的な解説と立式」で詳述)
  • 計算: B-tグラフの傾き \(\displaystyle\frac{dB}{dt}\) の正負をそのまま計算に用いる。

具体的な解説と立式
ファラデーの電磁誘導の法則は、ループ(回路)を貫く磁束の変化と、そのループに生じる起電力の関係を示します。
$$ V_{\text{loop}} = -N \frac{d\Phi}{dt} \quad \cdots ② $$
ここで、各量の向きを以下のように厳密に定義します。

  1. 磁束 \(\Phi\): 図1で磁束密度 \(\vec{B}\) の正の向きが下向きとされているので、コイルの面積ベクトル \(\vec{S}\) も下向きを正とします。すると、磁束は \(\Phi = BS\) とスカラーで表せます。
  2. ループの起電力 \(V_{\text{loop}}\): 起電力の正の向きは、面積ベクトルの向き(下向き)に対し右ねじの関係になるようにとります。つまり、コイルを上から見て時計回りの向きが、起電力の正の向きとなります。

この定義の下で、②式を考えます。

  • \(V_{\text{loop}} > 0\) の場合: 正の向き(時計回り)に電流を流そうとする起電力が生じます。これはコイルの上端bから下端aへ向かう向きであり、a点が高電位、b点が低電位となります。よって、求めたい電位 \(V = V_b – V_a\) は負になります。\(V = -V_{\text{loop}}\)。
  • \(V_{\text{loop}} < 0\) の場合: 負の向き(反時計回り)に電流を流そうとする起電力が生じます。これはコイルの下端aから上端bへ向かう向きであり、b点が高電位、a点が低電位となります。よって、求めたい電位 \(V = V_b – V_a\) は正になります。\(V = -V_{\text{loop}}\)。

どちらの場合も \(V = V_b – V_a = -V_{\text{loop}}\) という関係が成り立ちます。
この関係を②式に代入すると、
$$ V = -V_{\text{loop}} = – \left( -N \frac{d\Phi}{dt} \right) = N \frac{d\Phi}{dt} $$
\(\Phi = BS\) なので、最終的に用いるべき式は次のようになります。
$$ V = NS \frac{dB}{dt} \quad \cdots ③ $$
この式を使えば、B-tグラフの傾き \(\displaystyle\frac{dB}{dt}\) を計算するだけで、電位 \(V\) の符号まで含めて一挙に求めることができます。

使用した物理公式

  • ファラデーの電磁誘導の法則(符号を厳密に適用): \(V_{\text{loop}} = -N \displaystyle\frac{d\Phi}{dt}\)
  • 磁束: \(\Phi = BS\)
計算過程

与えられた値は \(N=50\)、\(S=0.02 \, \text{m}^2\) です。式③ \(V = NS \displaystyle\frac{dB}{dt}\) を用いて計算します。

  • \(t=0 \sim 1 \, \text{s}\) と \(t=4 \sim 6 \, \text{s}\) の区間:
    B-tグラフの傾き \(\displaystyle\frac{dB}{dt} = 0\)。
    $$ V = NS \times 0 = 0 \, \text{V} $$
  • \(t=1 \sim 4 \, \text{s}\) の区間:
    B-tグラフの傾きは、
    $$ \frac{dB}{dt} = \frac{0.4 – 0.1}{4 – 1} = \frac{0.3}{3} = +0.1 \, \text{Wb/(m}^2\text{s)} $$
    これを式③に代入します。
    $$
    \begin{aligned}
    V &= NS \frac{dB}{dt} \\[2.0ex]
    &= 50 \times 0.02 \times (+0.1) \\[2.0ex]
    &= 1 \times 0.1 \\[2.0ex]
    &= +0.1 \, \text{V}
    \end{aligned}
    $$
  • \(t=6 \sim 10 \, \text{s}\) の区間:
    B-tグラフの傾きは、
    $$ \frac{dB}{dt} = \frac{(-0.4) – 0.4}{10 – 6} = \frac{-0.8}{4} = -0.2 \, \text{Wb/(m}^2\text{s)} $$
    これを式③に代入します。
    $$
    \begin{aligned}
    V &= NS \frac{dB}{dt} \\[2.0ex]
    &= 50 \times 0.02 \times (-0.2) \\[2.0ex]
    &= 1 \times (-0.2) \\[2.0ex]
    &= -0.2 \, \text{V}
    \end{aligned}
    $$
この設問の平易な説明

物理法則をうまく使うと、面倒な「向き」の判断を、数式の計算だけで済ませることができます。まず、「下向き」を磁力のプラスの向き、「時計回り」を電気のプラスの向き、とルールを決めます。このルールのもとでファラデーの法則を書き直すと、「b点の電位 \(V\) は、\(N \times S \times (\text{B-tグラフの傾き})\) で計算できる」という便利な式が出来上がります。
あとは、グラフの傾きを計算してこの式に入れるだけです。

  • \(1 \sim 4\) 秒: 傾きはプラスなので、電位もプラス。
  • \(6 \sim 10\) 秒: 傾きはマイナスなので、電位もマイナス。

このように、機械的な計算だけで、主たる解法でレンツの法則を使って一生懸命考えたのと同じ答えが、符号まで含めて一発で出てきます。

結論と吟味

主たる解法と全く同じ結果が得られました。

  • \(t=0 \sim 1 \, \text{s}\): \(V=0 \, \text{V}\)
  • \(t=1 \sim 4 \, \text{s}\): \(V=+0.1 \, \text{V}\)
  • \(t=4 \sim 6 \, \text{s}\): \(V=0 \, \text{V}\)
  • \(t=6 \sim 10 \, \text{s}\): \(V=-0.2 \, \text{V}\)

この別解は、最初に座標系と向きをきちんと定義すれば、あとは機械的な計算で答えが導けるという利点があります。ファラデーの法則のマイナス符号が、物理現象の向きをどのように規定しているかを理解する上で、非常に教育的なアプローチです。

解答 解答のグラフは模範解答の通り。\(t=0 \sim 1 \, \text{s}\) で \(V=0\)、\(t=1 \sim 4 \, \text{s}\) で \(V=0.1 \, \text{V}\)、\(t=4 \sim 6 \, \text{s}\) で \(V=0\)、\(t=6 \sim 10 \, \text{s}\) で \(V=-0.2 \, \text{V}\) となる階段状のグラフ。

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • ファラデーの電磁誘導の法則:
    • 核心: この問題の根幹は、コイルを貫く磁束 \(\Phi\) が時間的に変化すると、その変化に比例した大きさの誘導起電力 \(V\) が生じるという「ファラデーの電磁誘導の法則」 (\(V = -N \displaystyle\frac{d\Phi}{dt}\)) です。
    • 理解のポイント:
      • 法則の二つの側面: この法則は「大きさ」と「向き」という二つの重要な情報を含んでいます。
        • 大きさ: 誘導起電力の大きさ \(|V|\) は、磁束の時間変化の「速さ」(\(\left| \displaystyle\frac{d\Phi}{dt} \right|\))に比例します。B-tグラフが与えられたこの問題では、磁束の変化率はグラフの「傾きの絶対値」に比例します。傾きが急なほど、大きな起電力が生じます。
        • 向き(レンツの法則): 法則の式に含まれるマイナス符号 `(-)` は、「磁束の変化を妨げる向き」に起電力が生じることを示しています。これがレンツの法則の数学的な表現です。
  • 磁束と磁束密度の関係:
    • 核心: 磁束 \(\Phi\) は、その場の磁束密度 \(B\) とコイルの断面積 \(S\) の積 (\(\Phi = BS\)) で計算されます。
    • 理解のポイント:
      • この問題のように磁場(磁束密度 \(B\))だけが時間変化する場合、ファラデーの法則は \(V = -N \displaystyle\frac{d(BS)}{dt} = -NS \displaystyle\frac{dB}{dt}\) と書き換えられます。これにより、B-tグラフの傾き \(\displaystyle\frac{dB}{dt}\) から直接、誘導起電力を計算することが可能になります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • コイルが運動する問題: 磁場は一様でも、コイルが磁場領域に出入りしたり、磁場内で回転したりする問題。この場合、磁束の変化は面積の変化 (\(\Delta S\)) や、磁場とコイル面のなす角度の変化 (\(\Delta \cos\theta\)) によって引き起こされます。本質は同じで、\(\displaystyle\frac{\Delta \Phi}{\Delta t}\) を正しく計算することが鍵となります。
    • 自己誘導・相互誘導の問題: コイルに流れる電流自身が磁場を作り、その電流が変化することで自分自身(自己誘導)や隣のコイル(相互誘導)に起電力を生む現象。これも電磁誘導の一種であり、電流の変化率 \(\displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t}\) が起電力を決定します。
    • V-tグラフからB-tグラフを推測する問題: 本問とは逆の思考を問う問題。与えられたV-tグラフから、起電力の大きさを使ってB-tグラフの「傾き」を、起電力の符号を使って傾きの「正負」を判断し、元のB-tグラフを復元します。時間で積分する考え方が必要になります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 磁束変化の原因を特定する: まず、磁束 \(\Phi = BS\cos\theta\) の構成要素である磁束密度 \(B\)、面積 \(S\)、角度 \(\theta\) のうち、どれが時間変化しているのかを問題文や図から正確に読み取ります。この問題では \(B\) が変化していました。
    2. グラフの「傾き」に注目する: B-tグラフが与えられた場合、物理的に最も重要な情報は「傾き」(\(\displaystyle\frac{\Delta B}{\Delta t}\)) です。傾きが \(0\) の区間(水平な部分)は起電力 \(0\)、傾きが一定の区間(直線の部分)は一定の起電力、と機械的に対応させることができます。
    3. 向きの基準(座標系)を確認する: 問題文で「どちら向きを正とするか」という定義が与えられているかを確認します。この定義が、最終的に求める電位 \(V\) の正負を判断するための絶対的な基準となります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • レンツの法則の適用ミス:
    • 誤解: 「誘導電流は、元の磁束と常に逆向きの磁場を作る」と単純に記憶してしまう。
    • 対策: 正確には「磁束の変化を妨げる向き」と覚えることが極めて重要です。
      • 磁束が増加している時 \(\rightarrow\) その増加を打ち消すため、元の磁束と逆向きの磁場を作ります。
      • 磁束が減少している時 \(\rightarrow\) その減少を補うため、元の磁束と同じ向きの磁場を作ります。
  • 電位の正負の判断ミス:
    • 誤解: 誘導電流の流れる向きと、電位の高低の関係を混同してしまう。
    • 対策: 誘導起電力が生じているコイルを「電池」に置き換えて考える習慣をつけましょう。コイル内部をa点からb点へ向かって誘導電流が流れる場合、電流を送り出す側のb点がプラス極(高電位)、a点がマイナス極(低電位)となります。
  • ファラデーの法則のマイナス符号の軽視:
    • 誤解: 起電力の大きさだけを \(|V| = N|\frac{d\Phi}{dt}|\) で計算し、向きはレンツの法則で別途考えれば良いので、式のマイナス符号は重要ではないと考えてしまう。
    • 対策: 別解で示したように、このマイナス符号はレンツの法則そのものを内包する重要な記号です。向きの定義(座標系)をしっかり行えば、マイナス符号まで含めて計算することで、向きの判断を自動化できることを理解しましょう。大きさだけを求める場合でも、マイナスは「妨げる向き」という物理的な意味を持つことを常に意識することが大切です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • ファラデーの法則の選択:
    • 選定理由: 問題文が「磁束密度を変化させる」ことで「コイルに起電力が生じる」という状況を記述しています。これは電磁誘導現象そのものであり、この現象を記述する最も基本的な法則であるファラデーの法則 (\(V = -N \displaystyle\frac{d\Phi}{dt}\)) を選択するのは物理的に必然です。
    • 適用根拠: この法則は、マクスウェル方程式から導かれる電磁気学の根幹をなす法則の一つであり、本問のような状況に普遍的に適用できます。
  • 「大きさと向きの分離」という解法戦略(主たる解法):
    • 選定理由: ファラデーの法則のマイナス符号を厳密に扱うには、面積ベクトルや起電力の正の向きの定義を正確に行う必要があり、慣れないうちは混乱を招きやすいです。そこで、計算が比較的簡単な「大きさ」(\(|V| = N|\frac{d\Phi}{dt}|\))を先に数式で求め、物理的直感に訴える「向き」(レンツの法則と右ねじの法則)を後からじっくり考える、という手順に分けることで、思考の負担を減らし、ミスを少なくすることができます。これは、物理教育においてよく用いられる有効な解法戦略です。
  • 「符号を含めた一括計算」という解法戦略(別解):
    • 選定理由: 物理法則をより形式的・数学的に扱いたい場合や、レンツの法則の直感的な判断に自信がない場合に特に有効です。最初に座標系の定義さえ間違えなければ、あとは機械的な計算で答えにたどり着けるため、検算にも使え、確実性が高まります。
    • 適用根拠: 物理法則は本来、座標系や向きの定義を定めれば、一つの数学的な式として現象を一意に記述するはずです。このアプローチは、その物理法則の数学的な構造をより忠実に利用する方法と言えます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • グラフの傾き計算の徹底: B-tグラフの傾き \(\displaystyle\frac{\Delta B}{\Delta t}\) を計算する際は、時間と磁束密度の2点の座標を明確に書き出し、「\(\displaystyle\frac{B_2 – B_1}{t_2 – t_1}\)」の形を遵守しましょう。特に、\(t=6 \sim 10 \, \text{s}\) の区間では、\(\Delta B = (\text{後の値}) – (\text{前の値}) = (-0.4) – 0.4 = -0.8\) となり、符号を間違えやすいので注意が必要です。
  • 単位系の確認を儀式化する: 計算を始める前に、問題で与えられている数値の単位がすべてSI基本単位系(この問題では \(\text{m}\), \(\text{s}\), \(\text{Wb/m}^2\), \(\text{V}\))に揃っているかを確認する癖をつけましょう。もし断面積が \(\text{cm}^2\) などで与えられていたら、計算前に \(\text{m}^2\) に変換する一手間を惜しまないことが重要です。
  • 区間ごとの思考整理: この問題のように計算が複数の時間区間にわたる場合、答案や計算用紙を区間ごとに明確に分けて記述することが有効です。
    • 「\(t=1 \sim 4 \, \text{s}\) の区間」
      • 傾きの計算: …
      • 起電力の大きさの計算: …
      • 向きの判断(電位の正負): …
      • 結論: \(V = …\)

    このように思考を構造化することで、自分自身の考えが整理され、見直しや検算の際も、どこを確認すればよいかが一目瞭然になります。

  • 最終成果物の丁寧な作成: すべての区間の計算が終わったら、時間区間と電位\(V\)の値をまとめた簡単な表を作ってからグラフを描き始めると、うっかりミスを防げます。グラフの縦軸と横軸の目盛りを問題の指示通りに正しく設定し、計算結果を正確にプロットしましょう。

基本例題88 ローレンツ力と誘導起電力

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「ローレンツ力による誘導起電力の導出」です。磁場中を運動する導体棒になぜ電位差(誘導起電力)が生じるのか、その物理的な仕組みを、導体中の電子というミクロな視点から解き明かしていく問題です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. ローレンツ力: 磁場中を運動する荷電粒子が受ける力 (\(f=qvB\))。その向きはフレミングの左手の法則で決まることを理解していること。
  2. フレミングの左手の法則と負電荷: フレミングの左手の法則は「正の電荷」が受ける力の向きを示すため、電子のような負の電荷の場合は、法則で決まる向きと「逆向き」に力を受けることを理解していること。
  3. 電場から受ける力: 電場 \(E\) の中に置かれた荷電粒子が受ける力 (\(F=qE\))。
  4. 力のつりあい: 複数の力が物体に働いても物体が静止(または等速直線運動)しているとき、それらの力はつりあっている(合力が0である)こと。
  5. 一様な電場と電位差: 一様な電場 \(E\) の中で、電場の向きに沿って距離 \(d\) だけ離れた2点間の電位差は \(V=Ed\) で与えられること。

基本的なアプローチは、問題文の空欄を埋めていくことで、自然と以下の思考プロセスをたどるように設計されています。

  1. 導体棒と一緒に運動する電子が、磁場からローレンツ力を受ける。
  2. ローレンツ力によって電子が棒の一端に偏り、棒の両端に電荷の偏り(帯電)が生じる。
  3. この帯電によって棒の内部に電場が発生し、電子は電場からローレンツ力とは逆向きの力を受ける。
  4. 電子の移動が止まった状態(定常状態)では、ローレンツ力と電場からの力がつりあう。
  5. この力のつりあいの関係から電場の大きさを求め、最終的に棒の両端の電位差を導出する。

問(1)

思考の道筋とポイント
導体棒と一緒に速さ \(v\) で運動している電子が、磁束密度 \(B\) の磁場から受けるローレンツ力の大きさを求める問題です。ローレンツ力の公式 \(f=qvB\) を正しく適用できるかが問われます。
この設問における重要なポイント

  • ローレンツ力の公式: \(f=qvB\)。
  • \(q\) は荷電粒子の電気量の「大きさ」。電子の電気量の大きさは \(e\)。
  • \(v\) は荷電粒子の速さ。
  • \(B\) は磁束密度の大きさ。
  • この問題では、速度ベクトルと磁場ベクトルは垂直なので、\(\sin\theta\) の項は \(\sin 90^\circ = 1\) となり、考慮不要。

具体的な解説と立式
ローレンツ力の大きさを \(f\) とすると、公式は \(f=qvB\) です。
問題の電子について、電気量の大きさは \(q=e\)、速さは \(v\)、磁束密度の大きさは \(B\) です。これらを公式に代入します。
$$ f = evB $$

使用した物理公式

  • ローレンツ力の大きさ: \(f=qvB\)
計算過程

立式した \(f = evB\) がそのまま答えとなります。これ以上の計算は不要です。

この設問の平易な説明

磁石の力が働いている空間(磁場)を、電気が横切ると、その電気は特別な力を受けます。これを「ローレンツ力」と呼びます。力の大きさは、シンプルに「電気の量 \(\times\) 速さ \(\times\) 磁場の強さ」で計算できます。今回は電子(電気の量 \(e\))が速さ \(v\) で、強さ \(B\) の磁場を動いているので、力の大きさは \(evB\) となります。

結論と吟味

電子1個が受けるローレンツ力の大きさは \(evB\) と表せます。これは公式に当てはめただけの基本的な設問であり、妥当な結果です。

解答 (1) \(evB\)

問(2)

思考の道筋とポイント
ローレンツ力によって電子がどちらの向きに移動するかを判断し、その結果、棒のどちらの端が正に帯電するかを答える問題です。フレミングの左手の法則を正しく使いこなし、特に「電子は負の電荷である」という点に注意することが鍵となります。
この設問における重要なポイント

  • フレミングの左手の法則は「正の電荷」が受ける力の向きを決定する。
  • 電子(負の電荷)が受ける力の向きは、フレミングの左手の法則で求めた向きと「逆」になる。
  • 電子が移動した側は負に帯電し、電子が去って不足した側は正に帯電する。

具体的な解説と立式
フレミングの左手の法則を用いて、まず「正の電荷」が受ける力の向きを考えます。

  1. 電流の向き(中指): 導体棒の運動方向、つまり右向きに合わせます。
  2. 磁場の向き(人差し指): 鉛直上向きに合わせます。
  3. 力の向き(親指): このとき、親指は N \(\rightarrow\) M の向きを指します。

これは、もし正の電荷があった場合に受ける力の向きです。電子は負の電荷なので、実際に受けるローレンツ力の向きはこれと逆、つまり M \(\rightarrow\) N の向きとなります。
この力を受けて、電子はN側に移動し、N端に過剰に集まります。その結果、N端は負に帯電します。
逆に、電子が去って不足したM端は、陽イオンが取り残される形となり、正に帯電します。

使用した物理公式

  • フレミングの左手の法則
計算過程

この設問は向きを判断するものであり、計算過程はありません。

この設問の平易な説明

電子がどちらに動くかは、おなじみの「フレミングの左手の法則」でわかります。「電・磁・力」と指を合わせると、力の向きはNからMの向きだとわかります。しかし、ここで注意!フレミングの法則は「プラス電気」用のルールです。電子は「マイナス電気」なので、いつもあまのじゃく。法則で示された向きとは「逆」の、MからNの向きに動きます。
その結果、電子はN側に集まるので、N側がマイナスになります。逆に、電子がいなくなってしまったM側がプラスになる、というわけです。

結論と吟味

電子はN側に移動するため、正に帯電するのはM側です。したがって、選択肢は(ア)となります。

解答 (2) (ア)

問(3)

思考の道筋とポイント
(2)の結果、棒の中に生じた電場 \(E\) によって、電子が受ける力の大きさを求める問題です。電場中の荷電粒子が受ける力の公式 \(F=qE\) を適用します。
この設問における重要なポイント

  • 電場から受ける力の公式: \(F=qE\)。
  • \(q\) は荷電粒子の電気量の「大きさ」。電子の場合は \(e\)。
  • \(E\) は電場の強さ。

具体的な解説と立式
電場から受ける力の大きさを \(F_{\text{電}}\) とすると、公式は \(F_{\text{電}}=qE\) です。
電子の電気量の大きさは \(q=e\)、電場の強さは \(E\) なので、これらを公式に代入します。
$$ F_{\text{電}} = eE $$

使用した物理公式

  • 電場から受ける力: \(F=qE\)
計算過程

立式した \(F_{\text{電}} = eE\) がそのまま答えとなります。

この設問の平易な説明

棒の両端にプラスとマイナスが分かれると、棒の中に「電場」というものができます。電場は、中にある電気(この場合は電子)に対して力を及ぼします。その力の大きさは、シンプルに「電気の量 \(\times\) 電場の強さ」で計算できます。したがって、力の大きさは \(eE\) となります。

結論と吟味

電場によって電子が受ける力の大きさは \(eE\) と表せます。これも公式通りの基本的な設問です。

解答 (3) \(eE\)

問(4)

思考の道筋とポイント
電子の移動が止まった、つまり力がつり合った状態を考えます。電子に働く「ローレンツ力」と「電場からの力」がつりあうという式を立て、そこから電場 \(E\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 力のつりあい: 電子の移動が止まる \(\Leftrightarrow\) 電子に働く合力が0。
  • ローレンツ力の向きは M \(\rightarrow\) N。
  • 電場は正のM側から負のN側へ向かう(M \(\rightarrow\) N の向き)。電子は負電荷なので、電場から受ける力は電場と逆向き(N \(\rightarrow\) M の向き)。
  • この2つの力の大きさが等しくなる。

具体的な解説と立式
電子の移動が止まったとき、電子に働く2つの力は大きさが等しく、向きが逆になっています。

  • ローレンツ力((1)で求めた): \(f = evB\) (向きは M \(\rightarrow\) N)
  • 電場からの力((3)で求めた): \(F_{\text{電}} = eE\) (向きは N \(\rightarrow\) M)

力のつりあいの式は、これらの大きさが等しいとおくことで立てられます。
$$ eE = evB $$

使用した物理公式

  • 力のつりあいの条件
計算過程

上記で立式した \(eE = evB\) の両辺を \(e\) で割ることで、\(E\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
eE &= evB \\[2.0ex]
E &= vB
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

電子は最初、ローレンツ力によってN側にぐいぐい押されます。しかし、電子がN側に偏るにつれて、M側からN側へ向かう電場がだんだん強くなり、電子をM側へ引き戻そうとする力(電場からの力)も大きくなります。
やがて、N側へ「押す力(ローレンツ力)」と、M側へ「引き戻す力(電場からの力)」がちょうど同じ大きさになります。このとき、電子はどちらにも動けなくなり、移動がストップします。この「力がつりあった」状態の式を解くと、電場の強さ \(E\) が \(vB\) であることがわかります。

結論と吟味

力のつり合いから、棒内の電場の強さは \(E=vB\) となります。導体棒の速度と磁場の強さだけで決まるという、物理的に興味深い結果です。

解答 (4) \(vB\)

問(5)

思考の道筋とポイント
(4)で求めた一様な電場 \(E\) を用いて、長さ \(l\) の導体棒の両端 M と N の間に生じる電位差 \(V\) を求めます。一様な電場と電位差の関係式 \(V=Ed\) を使います。
この設問における重要なポイント

  • 一様な電場と電位差の関係式: \(V=Ed\)。
  • \(E\) は電場の強さ。ここでは(4)で求めた \(vB\)。
  • \(d\) は電場の向きに沿った距離。ここでは棒の長さ \(l\)。

具体的な解説と立式
一様な電場 \(E\) がかかっている空間で、距離 \(l\) だけ離れた2点間の電位差 \(V\) は、次の式で与えられます。
$$ V = El $$
この式に、(4)で求めた \(E=vB\) を代入します。

使用した物理公式

  • 一様な電場と電位差の関係: \(V=Ed\)
計算過程

\(V = El\) に \(E=vB\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
V &= El \\[2.0ex]
&= (vB)l \\[2.0ex]
&= vBl
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

棒の中に強さ \(E\) の一様な電場ができていることがわかりました。電位差(いわゆる電圧)は、「電場の強さ \(\times\) 距離」で計算できます。今、電場の強さは \(E=vB\) で、距離は棒の長さ \(l\) なので、両端の電位差は \(V = (vB) \times l = vBl\) となります。これは、発電機が電圧を生み出す原理の基本です。

結論と吟味

棒の両端に生じる電位差は \(V=vBl\) となります。これは、導体棒に生じる誘導起電力の公式として知られているものであり、ミクロな電子の運動から、マクロな物理現象である誘導起電力の公式を導出できたことになります。非常に妥当な結果です。

別解: ファラデーの電磁誘導の法則を用いる解法

思考の道筋とポイント
この設問で求めている電位差は、マクロな視点で見れば「誘導起電力」そのものです。そこで、ファラデーの電磁誘導の法則 \(V = \left| \displaystyle\frac{\Delta \Phi}{\Delta t} \right|\) を用いて、直接電位差を計算するアプローチです。
この設問における重要なポイント

  • ファラデーの電磁誘導の法則: \(V = \left| \displaystyle\frac{\Delta \Phi}{\Delta t} \right|\)。
  • 磁束の変化 \(\Delta \Phi\) は、導体棒が動くことで変化する「面積」 \(\Delta S\) によって生じる。
  • 時間 \(\Delta t\) の間に導体棒が動く距離は \(v\Delta t\)。このとき増加する面積は \(\Delta S = l \times (v\Delta t)\)。

具体的な解説と立式
導体棒MNが、仮想的なコの字型のレールの上を動いていると考えます。導体棒が時間 \(\Delta t\) の間に速さ \(v\) で動くと、回路が囲む面積は \(\Delta S = l \cdot v\Delta t\) だけ増加します。
この面積増加による磁束の変化量 \(\Delta \Phi\) は、
$$ \Delta \Phi = B \Delta S = B (lv\Delta t) $$
ファラデーの電磁誘導の法則によれば、誘導起電力(電位差) \(V\) の大きさは、単位時間あたりの磁束の変化量に等しいので、
$$ V = \left| \frac{\Delta \Phi}{\Delta t} \right| $$

使用した物理公式

  • ファラデーの電磁誘導の法則: \(V = \left| \displaystyle\frac{\Delta \Phi}{\Delta t} \right|\)
  • 磁束: \(\Phi = BS\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
V &= \left| \frac{\Delta \Phi}{\Delta t} \right| \\[2.0ex]
&= \left| \frac{B(lv\Delta t)}{\Delta t} \right| \\[2.0ex]
&= vBl
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

この問題には、全く別の考え方があります。導体棒が動くことで「磁場を横切る面積」が時間とともに増えていきます。ファラデーの法則という物理法則によれば、この「面積が増える速さ」に比例して電圧が発生します。
時間 \(\Delta t\) で増える面積は、長方形の面積として「縦 \(\times\) 横 \( = l \times v\Delta t\)」です。これを時間 \(\Delta t\) で割って「面積が増える速さ(\(lv\))」を求め、磁場の強さ \(B\) を掛けると、電圧 \(V=vBl\) が計算できます。ミクロな電子の力のつり合いから考えても、マクロな面積変化から考えても、同じ答えになるのが物理の面白いところです。

結論と吟味

主たる解法(ローレンツ力に基づくミクロな視点)と全く同じ \(V=vBl\) という結果が得られました。これは、ローレンツ力による起電力の説明と、ファラデーの法則による起電力の説明が、同じ現象を異なる側面から見たものであり、本質的に等価であることを示しています。

解答 (5) \(vBl\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • ローレンツ力と電磁誘導のミクロな関係:
    • 核心: この問題の根幹は、「磁場中を運動する導体内の電子がローレンツ力を受けること」が、マクロな現象である「誘導起電力(電位差)」の根本的な原因である、という物理的なストーリーを理解することです。
    • 理解のポイント:
      • 第1段階(力の発生): 導体棒が動くと、中の自由電子も一緒に動く。この運動する電子が磁場からローレンツ力 \(f=evB\) を受ける。
      • 第2段階(電荷の偏り): ローレンツ力によって電子が棒の一端に偏り、逆側は電子不足で正に帯電する。
      • 第3段階(電場の発生): この電荷の偏りによって、棒の内部に電場 \(E\) が生じる。
      • 第4段階(力のつりあい): 電場は電子にローレンツ力とは逆向きの力 \(F=eE\) を及ぼす。やがて両方の力がつりあう (\(eE=evB\)) と、電子の移動が止まり、定常状態となる。
      • 第5段階(電位差の確定): このつりあいの状態から電場 \(E=vB\) が決まり、電位差 \(V=El=vBl\) が生じる。この一連の流れが、誘導起電力の本質です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • ホール効果: 磁場中の導体に電流を流したとき、電流の向きと磁場の向きの両方に垂直な方向に電位差が生じる現象。これも、電流を担う荷電粒子(電子やホール)がローレンツ力を受けることで説明され、本問と全く同じ思考プロセスで解くことができます。
    • 円盤発電機(ファラデーの円盤): 磁場中で導体円盤を回転させると、中心と周縁の間に起電力が生じる問題。円盤の各部分が速度 \(v\) で運動していると考え、ローレンツ力による起電力の式を適用し、半径方向に積分することで全体の起電力を求めます。
    • MHD発電(電磁流体力学発電): イオン化した気体(プラズマ)を磁場中で高速で流し、ローレンツ力によって正負のイオンを分離して電力を取り出す方式。これも本質は同じです。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 主役の荷電粒子を特定する: 問題で動いている荷電粒子が何か(電子か、正孔か、イオンか)を確認します。特にその電荷の「正負」は、力の向きを決定する上で最も重要です。
    2. 力の向きを正確に作図する: フレミングの左手の法則を使って、ローレンツ力の向きを慎重に判断し、図に矢印で書き込みます。荷電粒子が負の場合は、法則で出た向きと「逆」にすることを絶対に忘れないようにします。
    3. 力のつりあいを考える: 「定常状態になった」「電子の移動が止まった」などの記述があれば、それは「力のつりあい」を意味するキーワードです。ローレンツ力と、それによって生じた電場からの力がつりあう式を立てることが、問題解決の中心となります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • フレミングの左手の法則の向きの間違い:
    • 誤解: 電子の運動方向をそのまま「電流の向き」としてフレミングの左手の法則に適用してしまう。
    • 対策: 法則の「電流の向き」は、あくまで「正の電荷の移動方向」です。電子が右に動いている場合、電流は「左向き」と考える必要があります。しかし、この考え方は混乱を招きやすいので、「①まず正電荷だとして力の向きを求め、②電子なのでその逆向き、と2段階で考える」方法を徹底するのが最も安全です。
  • ローレンツ力と電場からの力の混同:
    • 誤解: 磁場 \(B\) と電場 \(E\) の両方があるとき、どちらがどの力を及ぼすのかが曖昧になる。
    • 対策: 「磁場 \(B\) は、動いている電荷に力を及ぼす(ローレンツ力)」「電場 \(E\) は、そこに存在する電荷に力を及ぼす」と、力の発生条件を明確に区別して覚えましょう。
  • 電位差の式の選択ミス:
    • 誤解: 電位差を求める際に、\(V=vBl\) という公式を丸暗記しているだけで、なぜそうなるのかを理解していない。
    • 対策: この問題のように、公式の導出過程そのものが問われることも多いです。必ず「力のつりあい \(eE=evB\) から \(E=vB\) を導き、電位差の定義 \(V=El\) に代入して \(V=vBl\) を得る」という論理の流れを自分で説明できるようにしておくことが重要です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • ローレンツ力の公式 \(f=qvB\):
    • 選定理由: (1)では、磁場中を運動する電子が受ける力を問われています。この状況を記述する基本法則がローレンツ力の公式であるため、これを選択します。
    • 適用根拠: これは実験的に確立された電磁気学の基本法則です。
  • 力のつりあいの式 \(eE=evB\):
    • 選定理由: (4)では、「電子の移動は止まり」という記述があります。これは物理学において「力がつりあっている状態」を意味します。電子に働く力はローレンツ力と電場からの力の2つなので、これらの大きさが等しいという式を立てます。
    • 適用根拠: ニュートンの運動法則によれば、物体(電子)の加速度が0のとき、物体に働く合力は0になります。電子の移動が止まる(速度が0になるのではなく、棒に沿った方向の速度が0になる)のは、合力が0になった状態です。
  • 電位差の公式 \(V=El\):
    • 選定理由: (5)では、一様な電場 \(E\) が存在する区間(長さ \(l\))の電位差を求めます。この関係を直接結びつけるのが \(V=Ed\) の公式です。
    • 適用根拠: 電位とは、単位電荷あたりの位置エネルギーであり、電場とは単位電荷が受ける力です。力に距離を掛けると仕事(エネルギーの変化)になる関係から、この公式は導かれます。力のつり合いから電場 \(E\) が一様であることが保証されているため、このシンプルな公式を適用できます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 段階的な思考の徹底: この問題は、(1)から(5)へと論理が積み重なっていく構成です。前の設問の答えを次の設問で使うため、一つ一つの設問を焦らず確実に解き進めることが重要です。もし途中で分からなくなっても、解答を見て次の設問に進むことで、全体の論理の流れを掴むことができます。
  • 記号の定義を明確にする: \(e\), \(v\), \(B\), \(E\), \(l\) など多くの記号が登場します。計算用紙の隅にでも、それぞれの記号が何を表しているのか(例: \(e\)は電気素量、\(v\)は棒の速さ)をメモしておくと、混乱を防げます。
  • 力の向きの作図: フレミングの左手の法則を使う際は、必ず自分の手で形を作って確認しましょう。さらに、問題の図に力の向き(ローレンツ力と電場からの力)を矢印で書き込むことで、視覚的に力のつり合いを理解でき、ミスを減らせます。
  • 公式の導出を反復練習する: \(V=vBl\) という公式は非常に重要ですが、丸暗記に頼るのは危険です。この問題のように、ローレンツ力から出発してこの公式を導出するプロセスを、何も見ずに自分で再現できるようになるまで練習することが、応用力を高める最良の訓練になります。

基本例題89 磁場を横切る金属棒に生じる誘導起電力

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 設問(4)の別解: 運動方程式から終端速度を導出する解法
      • 模範解答が「力が0になる」という平衡条件から直接解くのに対し、別解では運動方程式を立て、加速度が0になる条件として終端速度を導出します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 速さが一定になるという現象を、力と加速度の関係(運動の法則)から根本的に理解できます。
    • 思考の連続性: (3)で力を求めた流れから、自然に運動方程式へと思考をつなげることができます。
    • 応用力向上: 加速中の運動など、より複雑な問題にも対応できる思考の基礎が身につきます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「電磁誘導と力学の融合」です。導体棒が磁場中を運動することで生じる誘導起電力と、その結果流れる電流が磁場から受ける力、そしてその力による導体棒の運動という、電磁気学と力学が密接に絡み合った現象を総合的に理解することが求められます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 誘導起電力: 磁場を横切る導体棒に生じる誘導起電力の公式 \(V=vBl\) を正しく使えること。また、レンツの法則や右ねじの法則を用いてその向きを判断できること。
  2. キルヒホッフの法則(回路方程式): 電池、抵抗、そして誘導起電力を一つの回路とみなし、電圧の関係を正しく立式できること。
  3. ローレンツ力(電磁力): 電流が磁場から受ける力の公式 \(F=IBl\) を正しく使えること。また、フレミングの左手の法則を用いてその向きを判断できること。
  4. 運動方程式: 導体棒が受ける力と、その結果生じる運動(加速度)の関係を運動方程式 \(ma=F\) で記述できること。特に、速さが一定になる「終端速度」の条件(力がつりあう、または合力が0)を理解していること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. [A]では、まず(1)で誘導起電力を求め、(2)でそれを電池とみなして回路に流れる電流を計算します。
  2. (3)では、(2)で求めた電流が磁場から受ける力を計算します。
  3. (4)では、(3)で求めた力が0になる条件(つりあいの条件)から、最終的な速さを求めます。
  4. [B]の(5)では、回路構成が変わっただけで、(1)や(2)と同様の考え方で回路方程式を立てて電流を求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
金属棒が磁場を横切って運動するとき、棒の中の自由電子がローレンツ力を受けることで電荷の偏りが生じ、起電力が生まれます。これが誘導起電力です。その大きさは、棒の速さ \(v\)、磁束密度 \(B\)、棒の長さ \(l\) に比例します。公式 \(V=vBl\) を適用する問題です。
この設問における重要なポイント

  • 導体が磁束を横切る速さ \(v\)、磁束密度 \(B\)、導体の長さ \(l\) が互いに直交する場合、誘導起電力の大きさは \(V=vBl\) となる。
  • 誘導起電力の向きは、レンツの法則(誘導電流が磁束の変化を妨げる向きに生じる)または、ローレンツ力(正電荷が受ける力の向き)で判断する。

具体的な解説と立式
金属棒が速さ \(v\) で \(x\) 軸の正の向きに運動すると、棒は単位時間あたり \(v \times l\) の面積を掃きます。これにより、回路を貫く磁束が時間的に変化し、電磁誘導の法則(ファラデーの電磁誘導の法則)に従って誘導起電力が発生します。
導体棒の速さ \(v\)、磁束密度 \(B\)、導体の長さ \(l\) が互いに垂直であるため、誘導起電力の大きさ \(V\) は公式を用いて次のように表せます。
$$ V = vBl $$

使用した物理公式

  • 導体棒に生じる誘導起電力: \(V = vBl\)
計算過程

これ以上の計算は不要です。

この設問の平易な説明

金属棒を磁石の前で動かすと、電気が起きる現象です。この電気を起こす力(起電力)の大きさは、棒の「速さ \(v\)」、磁場の「強さ \(B\)」、棒の「長さ \(l\)」の3つを掛け合わせるだけで計算できます。今回は、これらの値をそのまま使って \(V=vBl\) となります。

結論と吟味

金属棒に生じる誘導起電力の大きさは \(V=vBl\) [V] です。この結果は、速く動かすほど、強い磁場であるほど、また長い棒であるほど大きな起電力が生じることを示しており、物理的な直感と一致します。

解答 (1) \(vBl\)

問(2)

思考の道筋とポイント
設問(1)で求めた誘導起電力 \(V\) は、金属棒自身が一種の「電池」になったと考えることができます。この「誘導起電力という電池」と、外部に接続された「起電力 \(E\) の電池」が、金属棒の抵抗 \(R\) に接続された回路を考えます。キルヒホッフの第二法則(電圧則)を用いて、回路に流れる電流 \(I\) を求めます。向きの判断が重要です。
この設問における重要なポイント

  • 誘導起電力の向きを正しく判断すること。レンツの法則より、誘導電流は「\(x\) 軸正方向への運動によって増加する、紙面表向きの磁束」を打ち消すために、「紙面裏向きの磁束」を作る向きに流れます。右ねじの法則を適用すると、電流は a → b の向き、すなわち \(y\) 軸の負の向きに流れようとします。
  • したがって、誘導起電力 \(V\) は、b側が高電位、a側が低電位となります。これは電池 \(E\) の向き(a側が高電位)とは逆向きです。
  • 回路全体でキルヒホッフの第二法則(電圧則)を適用する。

具体的な解説と立式
まず、誘導起電力 \(V\) の向きを考えます。金属棒が \(x\) 軸正の向きに動くと、回路 ab-レール を貫く上向き(\(z\) 軸正の向き)の磁束が増加します。レンツの法則によれば、誘導電流はこの磁束の増加を妨げる向き、すなわち下向き(\(z\) 軸負の向き)の磁場を作るように流れます。右ねじの法則を適用すると、電流は時計回り、つまり金属棒中を a から b の向き(\(y\) 軸負の向き)に流れようとします。
これは、誘導起電力 \(V\) が、端子 b を正極、端子 a を負極とする電池のように振る舞うことを意味します。
一方、電源の起電力 \(E\) は、端子 a が正極、端子 b が負極です。
したがって、回路には起電力 \(E\) と、それとは逆向きの起電力 \(V\) が存在することになります。金属棒の抵抗は \(R\) なので、キルヒホッフの第二法則を適用すると、
$$ E – V = RI $$
ここで、問題文から金属棒は動き「始めた」とあり、速さ \(v\) で動いている状況を考えるため、\(E > V\) であることが前提となります。これにより電流は電池 \(E\) の向き、すなわち b から a の向き(\(y\) 軸正の向き)に流れます。

使用した物理公式

  • キルヒホッフの第二法則(電圧則): \(\text{(起電力の和)} = \text{(電圧降下の和)}\)
  • (1)の結果: \(V = vBl\)
計算過程

立式した \(E – V = RI\) に、(1)の結果 \(V=vBl\) を代入します。
$$ E – vBl = RI $$
この式を \(I\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
I &= \frac{E – vBl}{R}
\end{aligned}
$$
電流の向きは、\(E > V\) であることから、電池 \(E\) が電流を流す向き、すなわち b → a の向き(\(y\) 軸の正の向き)となります。

この設問の平易な説明

回路には2つの「電池」があると考えます。一つは外部から接続した起電力 \(E\) の電池、もう一つは金属棒が動くことで生じる起電力 \(V\) の「内蔵電池」です。この2つの電池は互いに逆向きに接続されています。綱引きのようなもので、力の強い方(電圧の高い方)が勝ちます。ここでは \(E\) の方が強いので、回路全体の電圧は \(E-V\) となります。オームの法則「電流=電圧÷抵抗」を使って、電流 \(I\) は \((E-V)\) を抵抗 \(R\) で割った値になります。\(V\) に(1)の答えを代入すればOKです。電流の向きは、勝った方の電池 \(E\) が流そうとする向きになります。

結論と吟味

電流の大きさ \(I\) は \(\displaystyle\frac{E – vBl}{R}\) [A]、向きは \(y\) 軸の正の向きです。この式は、棒の速さ \(v\) が大きくなるほど逆向きの誘導起電力 \(V\) が増え、流れる電流 \(I\) が小さくなることを示しており、物理的に妥当です。

解答 (2) 大きさ: \(\displaystyle\frac{E – vBl}{R}\), 向き: \(y\) 軸の正の向き

問(3)

思考の道筋とポイント
電流が流れている導体(金属棒)は、磁場から力を受けます。この力の大きさは、電流 \(I\)、磁束密度 \(B\)、導体の長さ \(l\) で決まります。公式 \(F=IBl\) を使い、(2)で求めた電流 \(I\) を代入して力を計算します。力の向きはフレミングの左手の法則で判断します。
この設問における重要なポイント

  • 電流が磁場から受ける力の公式は \(F=IBl\)。
  • 力の向きはフレミングの左手の法則で判断する。電流の向き(中指)が \(y\) 軸正の向き、磁場の向き(人差し指)が \(z\) 軸正の向きなので、力の向き(親指)は \(x\) 軸正の向きとなる。

具体的な解説と立式
(2)で求めたように、金属棒には \(y\) 軸正の向きに大きさ \(I\) の電流が流れています。この電流が、\(z\) 軸正の向きの磁場 \(B\) から受ける力の大きさ \(F\) は、公式を用いて次のように表せます。
$$ F = IBl $$
この力 \(F\) が金属棒を \(x\) 軸正の向きに動かす原動力となります。

使用した物理公式

  • 電流が磁場から受ける力: \(F = IBl\)
  • (2)の結果: \(I = \displaystyle\frac{E – vBl}{R}\)
計算過程

立式した \(F = IBl\) に、(2)で求めた \(I\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
F &= \left( \frac{E – vBl}{R} \right) Bl
\end{aligned}
$$
これ以上の整理は不要です。

この設問の平易な説明

磁石の中で電線を流すと、電線は力を受けます。これがモーターの原理です。(2)で計算した電流 \(I\) が流れる金属棒も、磁場から力を受けます。その力の大きさは「電流 \(I\)」「磁場の強さ \(B\)」「棒の長さ \(l\)」の掛け算 \(F=IBl\) で計算できます。(2)で求めた \(I\) の式を代入すれば答えが出ます。フレミングの左手の法則を使うと、この力は棒を前に進める力だとわかります。

結論と吟味

金属棒に加わる力の大きさ \(F\) は \(\displaystyle\frac{(E – vBl)Bl}{R}\) [N] です。この力は棒を加速させる向きに働きます。速さ \(v\) が増加すると電流 \(I\) が減少し、それに伴って加速力 \(F\) も減少することがわかります。

解答 (3) \(\displaystyle\frac{(E – vBl)Bl}{R}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
「十分長い時間が経過し、金属棒の速さは一定になった」という記述が鍵です。速さが一定ということは、加速度が \(0\) であることを意味します。ニュートンの運動の法則によれば、加速度が \(0\) ということは、物体に働く合力が \(0\) であるということです。
(3)で求めた力 \(F\) は金属棒を加速させる力ですが、速さ \(v\) が増すにつれてこの力は小さくなっていきます。やがて力が \(0\) になると、それ以上加速しなくなり、速さが一定になります。この条件 \(F=0\) から終端速度 \(v_0\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 「速さが一定」 \(\rightarrow\) 「加速度 \(a=0\)」 \(\rightarrow\) 「合力が \(0\)」。
  • 金属棒を加速させる力 \(F\) が \(0\) になるとき、速さは一定になる。
  • \(F=0\) となるのは、\(I=0\) となるときであり、それは誘導起電力 \(V\) が電池の起電力 \(E\) と等しくなるとき (\(E=V\)) である。

具体的な解説と立式
金属棒の速さが一定の \(v_0\) になったとき、加速度は \(0\) です。これは、金属棒に働く合力が \(0\) になったことを意味します。
(3)で求めた、金属棒を加速させる電磁力 \(F = \displaystyle\frac{(E – vBl)Bl}{R}\) が \(0\) になる条件を考えます。
速さが \(v_0\) のとき、力は \(F_0 = \displaystyle\frac{(E – v_0Bl)Bl}{R}\) となります。
この力が \(0\) になるので、
$$ \frac{(E – v_0Bl)Bl}{R} = 0 $$
この式が成り立つためには、分子が \(0\) である必要があります。
$$ E – v_0Bl = 0 $$

使用した物理公式

  • 力のつりあい(合力が0)の条件
  • (3)で導出した力の式
計算過程

立式した \(E – v_0Bl = 0\) を \(v_0\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
v_0Bl &= E \\[2.0ex]
v_0 &= \frac{E}{Bl}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

最初は電池のパワーが勝って金属棒は加速していきます。しかし、スピードが上がるにつれて、(2)で見たように逆向きの「内蔵電池」(誘導起電力)が強力になり、流れる電流がだんだん弱くなります。電流が弱くなると、(3)で見た加速力も弱くなります。
最終的に、スピードが \(v_0\) に達したとき、誘導起電力が電池の電圧 \(E\) と完全に同じ大きさになります。すると、回路には全く電流が流れなくなり (\(I=0\))、加速力も \(0\) になります。力が働かなくなったので、それ以上加速することなく、その速さ \(v_0\) のまま等速で進み続ける、というわけです。この \(E=V\) (\(E=v_0Bl\)) という条件から \(v_0\) を計算します。

結論と吟味

金属棒の終端速度 \(v_0\) は \(\displaystyle\frac{E}{Bl}\) [m/s] です。この速度のとき、誘導起電力 \(V=v_0Bl\) は電池の起電力 \(E\) に等しくなり、回路に電流が流れなくなるため、金属棒に働く電磁力は \(0\) となります。力が働かないため、慣性の法則により等速直線運動を続ける、という物理的に整合性のとれた結果です。

解答 (4) \(\displaystyle\frac{E}{Bl}\)
別解: 運動方程式から終端速度を導出する解法

思考の道筋とポイント
金属棒の運動を、力学の基本法則である運動方程式 \(ma=F\) から直接考えるアプローチです。金属棒が受ける力は(3)で求めた電磁力 \(F\) です。この力は棒の運動方向(\(x\)軸正)に働きます。運動方程式を立て、速さが一定になる条件(加速度 \(a=0\))を適用して終端速度 \(v_0\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 金属棒の運動方程式を立てる。質量を \(m\)、加速度を \(a\) とする。
  • 金属棒に働く力は、(3)で求めた電磁力 \(F\) である。
  • 運動の向き(\(x\)軸正)を正として運動方程式を立てる。
  • 速さが一定になる条件は、加速度 \(a=0\) である。

具体的な解説と立式
金属棒の質量を \(m\)、加速度を \(a\) とします。金属棒は \(x\) 軸の正の向きに運動しており、この向きを正とすると、運動方程式は \(ma = (\text{合力})\) と書けます。
金属棒に働く力は、(3)で求めた電磁力 \(F\) のみです。この力は \(x\) 軸正の向きに働くので、運動方程式は以下のようになります。
$$ ma = F $$
(3)の結果を代入すると、
$$ ma = \frac{(E – vBl)Bl}{R} $$
「速さが一定になった」とき、加速度 \(a=0\) です。このときの速さを \(v_0\) とすると、運動方程式は、
$$ m \times 0 = \frac{(E – v_0Bl)Bl}{R} $$
よって、
$$ \frac{(E – v_0Bl)Bl}{R} = 0 $$
この式が成り立つためには、分子が \(0\) である必要があります。
$$ E – v_0Bl = 0 $$

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(ma = F\)
  • (3)で導出した力の式
計算過程

立式した \(E – v_0Bl = 0\) を \(v_0\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
v_0Bl &= E \\[2.0ex]
v_0 &= \frac{E}{Bl}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

金属棒の運動を、力学のルール「運動方程式 \(ma=F\)」で考えてみます。金属棒を前に進める力 \(F\) は、(3)で計算した電磁力です。この力は、棒のスピード \(v\) が上がるとだんだん小さくなっていきます。
「速さが一定になる」というのは、「加速が止まる(\(a=0\))」ということです。運動方程式によれば、\(a=0\) になるのは、力 \(F\) が \(0\) になったときです。そこで、\(F=0\) となるような速さ \(v_0\) を求めればよい、ということになります。これは主たる解法と同じ結論に至りますが、運動の法則から直接考えている点が異なります。

結論と吟味

主たる解法と全く同じ \(\displaystyle\frac{E}{Bl}\) という結果が得られました。運動方程式という力学の根本法則から出発することで、なぜ速さが一定になるのか(加速させる力が0になるから)をより明確に理解することができます。

解答 (4) \(\displaystyle\frac{E}{Bl}\)

問(5)

思考の道筋とポイント
状況が[B]に変わりました。今度は電池の代わりに抵抗 \(r\) が接続されています。金属棒は外部から力を加えられて、速さ \(v\) で運動しています。このとき、金属棒には(1)と同様に誘導起電力 \(V=vBl\) が生じます。この誘導起電力が電源となり、金属棒の抵抗 \(R\) と外部の抵抗 \(r\) からなる閉回路に電流を流します。キルヒホッフの第二法則(またはオームの法則)を適用して電流を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 電源は金属棒に生じる誘導起電力 \(V=vBl\) のみ。
  • 回路の全抵抗は、金属棒の抵抗 \(R\) と外部抵抗 \(r\) の直列接続なので、\(R+r\)。
  • キルヒホッフの第二法則(電圧則)を適用する。
  • 電流の向きは、誘導起電力の向き(レンツの法則)によって決まる。

具体的な解説と立式
金属棒が速さ \(v\) で運動することで、(1)と同様に大きさ \(V=vBl\) の誘導起電力が生じます。
この誘導起電力の向きは、(2)の考察と同じで、b側が高電位、a側が低電位となります。
この誘導起電力を電源とみなし、回路を考えます。回路は、金属棒の抵抗 \(R\) と外部の抵抗 \(r\) が直列に接続されたものとみなせます。したがって、回路全体の合成抵抗は \(R+r\) です。
キルヒホッフの第二法則をこの閉回路に適用すると、
$$ V = I'(R+r) $$
誘導起電力 \(V\) が、回路全体の電圧降下 \(I'(R+r)\) に等しい。

使用した物理公式

  • 導体棒に生じる誘導起電力: \(V = vBl\)
  • キルヒホッフの第二法則(オームの法則): \(V = I R_{\text{全}}\)
計算過程

立式した \(V = I'(R+r)\) に、\(V=vBl\) を代入します。
$$ vBl = I'(R+r) $$
この式を \(I’\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
I’ &= \frac{vBl}{R+r}
\end{aligned}
$$
電流の向きは、誘導起電力の向きに従います。誘導起電力はb側が高電位なので、電流はbからaの向きに流れようとします。つまり、金属棒の中を a → b の向き(\(y\) 軸の負の向き)に流れます。

この設問の平易な説明

今度は電池がなく、代わりに抵抗 \(r\) がつながっています。金属棒を外部から無理やり動かすと、棒自体が「起電力 \(V=vBl\) の電池」になります。この自家製電池が、自分自身の抵抗 \(R\) と、外につながれた抵抗 \(r\) の両方に電流を流します。回路全体の抵抗は \(R+r\) なので、オームの法則「電流=電圧÷抵抗」から、電流 \(I’\) は \(V\) を \((R+r)\) で割った値になります。電流の向きは、この自家製電池が流そうとする向き(a→b)になります。

結論と吟味

電流の大きさ \(I’\) は \(\displaystyle\frac{vBl}{R+r}\) [A]、向きは \(y\) 軸の負の向きです。外部抵抗 \(r\) が大きいほど、また棒の抵抗 \(R\) が大きいほど、流れる電流は小さくなるという、直感に合う妥当な結果です。

解答 (5) 大きさ: \(\displaystyle\frac{vBl}{R+r}\), 向き: \(y\) 軸の負の向き

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 電磁誘導と力学の連成:
    • 核心: この問題の根幹は、「運動 \(\rightarrow\) 電磁誘導 \(\rightarrow\) 電流 \(\rightarrow\) 電磁力 \(\rightarrow\) 運動の変化」という一連の因果関係を理解することにあります。これらは独立した現象ではなく、相互に影響を及ぼし合う一連のプロセスです。
    • 理解のポイント:
      • 原因(力学): 導体棒が磁場中を運動する(またはさせられる)。
      • 結果1(電磁気学): 誘導起電力 \(V=vBl\) が発生する。
      • 結果2(電気回路): 回路に電流 \(I\) が流れる。(\(I = (E-V)/R\) など)
      • 結果3(電磁気学): 電流が磁場から力 \(F=IBl\) を受ける。
      • フィードバック(力学): その力が棒の運動に影響を与え、加速度を生じさせたり(\(ma=F\))、つりあったりする。この一連の流れを正確に追えるかが問われます。
  • エネルギー変換の視点:
    • 核心: この現象は、エネルギーが様々な形に変換される過程として捉えることができます。
    • 理解のポイント:
      • [A]の場合: 電池の化学エネルギーが、金属棒の運動エネルギーと、抵抗で消費されるジュール熱に変換されています。終端速度に達した状態 (\(v=v_0\)) では、誘導起電力と電池の起電力が等しくなるため (\(V=E\))、電流は流れず (\(I=0\))、ジュール熱の発生は止まります。このとき、電池はもはや仕事をしていません。
      • [B]の場合: 外部から加えた仕事(力学的エネルギー)が、誘導起電力を通じて電気エネルギーに変換され、最終的に抵抗 \(R\) と \(r\) でジュール熱として消費されます。これは発電機の基本原理です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 鉛直面内の運動: レールが鉛直に置かれ、導体棒が重力で落下する問題。この場合、棒を動かす力は重力 \(mg\) で、それに対して電磁力がブレーキとして働きます。終端速度は、重力と電磁力がつりあう条件から求められます。
    • コンデンサーを含む回路: 抵抗の代わりにコンデンサーが接続されている問題。導体棒を動かすと、コンデンサーが充電されます。電流は充電中のみ流れ、充電が完了すると流れなくなります。電流は \(I = \displaystyle\frac{dQ}{dt}\) で与えられ、微分方程式を扱うことになります。
    • コイルを含む回路: 抵抗の代わりにコイルが接続されている問題。電流が変化すると、コイルに自己誘導起電力 \(L\displaystyle\frac{dI}{dt}\) が発生し、これが回路方程式に加わります。これも微分方程式の問題に発展します。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 力の図示と向きの確認: まず、導体棒に働く可能性のある全ての力(電磁力、重力、外力など)を図示します。特に電磁力と誘導起電力の向きは、レンツの法則やフレミングの法則を用いて慎重に決定します。向きを間違えると、その後の計算が全て無意味になります。
    2. 回路の特定: 導体棒(誘導起電力という名の電池)と、外部の素子(電池、抵抗、コンデンサーなど)がどのようにつながっているのか、回路図を明確にイメージします。直列か並列か、電源は何かを把握します。
    3. 運動状態の把握: 問題文が「動き始めた瞬間」「速さ\(v\)で運動中」「一定の速さになった」のどの状態を問うているかを確認します。「一定の速さ」なら力のつりあい(合力=0)、「運動中」なら運動方程式 \(ma=F\) を基本方針とします。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 誘導起電力と電池の起電力の向きの混同:
    • 誤解: 回路内の全ての起電力を同じ向きに足してしまう。
    • 対策: 誘導起電力は「運動による磁束の変化を妨げる向き」に生じることを徹底します。これは多くの場合、運動を駆動する電池の起電力とは逆向きになります。(2)のように、回路図にそれぞれの「電池」の向き(+−)を明確に書き込んでから、キルヒホッフの法則を適用する癖をつけましょう。
  • 力の向きの判断ミス:
    • 誤解: フレミングの左手の法則を適用する際、電流の向きを間違える。
    • 対策: 力の向きは、(2)で正しく求めた電流の向きに基づいて判断します。思考の連鎖が重要です。例えば(2)で電流が \(y\) 軸正の向きと求まったなら、フレミングの左手の中指は \(y\) 軸正の向きに合わせます。自己流の判断はせず、法則に忠実に従います。
  • 終端速度の条件の誤解:
    • 誤解: 終端速度を、力が最大になるときや、エネルギーが最大になるときなどと勘違いする。
    • 対策: 「速度が一定 \(\iff\) 加速度が \(0\) \(\iff\) 合力が \(0\)」という力学の基本原則を常に思い出すようにします。この問題[A]では、棒に働く力は電磁力のみなので、「電磁力が \(0\) になる」が終端速度の条件となります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • キルヒホッフの法則の適用:
    • 選定理由: (2)や(5)では、回路内に複数の起電力(電池と誘導起電力)や抵抗が存在します。このように複数の素子を含む閉回路における電流と電圧の関係を記述するための最も普遍的な法則がキルヒホッフの法則です。
    • 適用根拠: 導体棒に生じる誘導起電力は、一種の理想的な電池とみなすことができます。したがって、通常の直流回路と全く同じように、電圧則(第二法則)「回路一周の電位の変化の和は0」を適用することが物理的に正当化されます。
  • 運動方程式と力のつりあい:
    • 選定理由: (4)では「速さが一定になった」という運動状態の変化が問われています。物体の運動状態(静止、等速、加速)と力の関係を記述する法則は、ニュートンの運動方程式 \(ma=F\) です。
    • 適用根拠: 「速さが一定」という条件は、運動方程式において加速度 \(a=0\) を意味します。これにより、運動方程式は \(0=F_{\text{合力}}\) という「力のつりあいの式」に帰着します。模範解答のように最初から「力のつりあい」で考えても、別解のように運動方程式から出発しても、同じ結論に至るのはこのためです。より根本的な法則は運動方程式であると意識しておくと、応用が効きます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 文字式のまま計算を進める: この問題のように多くの物理量が記号で与えられている場合、途中で数値を代入すると見通しが悪くなります。最後まで文字式のまま計算し、最終的な式を物理的に吟味する(例えば、\(R\) が大きいと \(I\) は小さくなるか?など)ことで、間違いに気づきやすくなります。
  • 向きを符号で管理する: \(x, y, z\) 軸が設定されている場合、各ベクトル量(速度、電流、力)の向きを「\(+y\) 向き」「\(-x\) 向き」のように言葉で書く代わりに、成分表示を意識するとミスが減ります。例えば、電流 \(I\) が \(y\) 軸正の向きなら、ベクトルとして \(\vec{I} = (0, I, 0)\) と考え、力 \(\vec{F} = \vec{I} \times \vec{B} \cdot l\) の計算に役立てるなど、符号で向きを管理する意識を持つと、複雑な設定でも混乱しにくくなります。
  • 単位の確認: 最終的に得られた答えの単位が、求められている物理量の単位と一致するかを確認する習慣をつけましょう。例えば(4)で速度 \(v_0\) を求めた結果が \(\displaystyle\frac{E}{Bl}\) となりましたが、単位は \([\text{V}] / ([\text{T}] \cdot [\text{m}]) = ([\text{kg} \cdot \text{m}^2 \cdot \text{s}^{-3} \cdot \text{A}^{-1}]) / ([\text{kg} \cdot \text{s}^{-2} \cdot \text{A}^{-1}] \cdot [\text{m}]) = [\text{m/s}]\) となり、確かに速度の単位になっています。このような検算は有効なエラーチェック手段です。
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基本問題

446 コイルに生じる誘導起電力

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「コイルを貫く磁束の変化による電磁誘導」です。時間的に変化する磁場の中に置かれたコイルに、どれくらいの大きさで、どちら向きの起電力(電圧)が生じるかを問う、電磁誘導の基本法則を理解しているかを確認する問題です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. レンツの法則: 誘導電流が流れる「向き」を決定するための法則です。「磁束の変化を妨げる向き」という原理を正しく理解しているかが問われます。
  2. 右ねじの法則: 電流の向きと、その電流が作る磁場の向きを対応させるための法則です。レンツの法則とセットで使います。
  3. ファラデーの電磁誘導の法則: 誘導起電力の「大きさ」を計算するための公式 \(|V| = N |\frac{\Delta \Phi}{\Delta t}|\) を正しく使えるかが問われます。
  4. オームの法則: 発生した誘導起電力によって回路に流れる電流を計算するための、電気回路の基本法則 \(I=V/R\) です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、まずレンツの法則を用いてコイルに流れる誘導電流の向きを特定します。次に、その電流の向きから、コイルを一つの電池とみなしたときにどちらの端子が高電位(正極)になるかを判断します。
  2. (2)では、ファラデーの電磁誘導の法則の公式に、問題文で与えられたコイルの巻数、断面積、そして磁束密度の時間変化率を代入して、誘導起電力の大きさを計算します。
  3. (3)では、(2)で求めた起電力を電圧源と考え、回路全体を単純な直流回路とみなしてオームの法則を適用し、電流の大きさを求めます。

問(1)

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