「リードα 物理基礎・物理 改訂版」徹底解説!【第24章】応用問題

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425 キルヒホッフの法則

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、複数の電源と抵抗を含む複雑な直流回路を、キルヒホッフの法則を用いて解析する能力を問います。スイッチの開閉によって回路の構造が変化する点や、特定の条件下での未知数を求める点が特徴です。

与えられた条件
  • 電源1の起電力: \(30 \, \text{V}\)
  • 電源2の起電力: \(20 \, \text{V}\)
  • 抵抗1: \(20 \, \Omega\)
  • 抵抗2: \(5.0 \, \Omega\)
  • 可変抵抗: R
  • スイッチ: S
問われていること
  • (1) スイッチSを開いた状態で、\(20 \, \Omega\)の抵抗を流れる電流が \(0.50 \, \text{A}\) のときの可変抵抗Rの抵抗値 \(R_1\)
  • (2) スイッチSを閉じた状態で、\(5.0 \, \Omega\)の抵抗を流れる電流が \(0 \, \text{A}\) のときの可変抵抗Rの抵抗値 \(R_2\) と、Rを流れる電流 \(I\)
  • (3) スイッチSを閉じた状態で、Rの抵抗値が \(4.0 \, \Omega\) のときの\(5.0 \, \Omega\)の抵抗を流れる電流の向き

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 問(2), (3)の別解: 電位法を用いる解法
      • 模範解答が閉回路ごとにキルヒホッフの法則IIを適用し連立方程式を解くのに対し、別解では回路の基準点の電位を\(0 \, \text{V}\)と定め、キルヒホッフの法則I(電流則)を用いて各点の電位や電流を直接求めます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理概念の深化: 「電位」という電気回路におけるポテンシャルエネルギーの概念を直接的に用いることで、回路を「電位の地図」として直感的に捉える視点が養われます。
    • 計算の効率化: 未知数を減らし、連立方程式を回避できる場合があるため、問題によっては計算がシンプルかつ迅速になります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「キルヒホッフの法則の適用」です。複雑な回路網を流れる電流を正確に求めることが目標です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. キルヒホッフの法則I(電流則): 回路の任意の分岐点において、流れ込む電流の総和と流れ出る電流の総和は等しい。これは電荷保存則に基づきます。
  2. キルヒホッフの法則II(電圧則): 回路の任意の閉じた経路(ループ)において、起電力の総和と電圧降下の総和は等しい。これはエネルギー保存則に基づきます。
  3. 電流の向きの仮定: 電流の向きが不明な場合は、自由に仮定して立式します。計算結果が負になった場合、それは仮定した向きと逆向きに電流が流れていることを意味します。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、スイッチの状態(開・閉)に応じて、電流が流れる経路を正確に把握します。
  2. 次に、未知の電流や抵抗に対して、キルヒホッフの法則IとIIを用いて連立方程式を立てます。
  3. 最後に、その連立方程式を解いて、問われている物理量を求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
スイッチSが開いている場合、回路は単純な直列回路と見なせます。\(30 \, \text{V}\)の電源、可変抵抗R、\(20 \, \Omega\)の抵抗が一直線につながっています。\(5.0 \, \Omega\)の抵抗と\(20 \, \text{V}\)の電源には電流が流れません。この単純な閉回路に対して、キルヒホッフの法則II(電圧則)を適用します。

この設問における重要なポイント

  • スイッチが開いているため、中央の縦の経路と右側の経路は断線していると見なせます。電流が流れるのは左側のループのみです。
  • 可変抵抗Rと\(20 \, \Omega\)の抵抗は直列接続となり、流れる電流は等しく\(0.50 \, \text{A}\)です。
  • キルヒホッフの法則II: (起電力の和) = (電圧降下の和) を適用します。

具体的な解説と立式
この場合の可変抵抗Rの抵抗値を\(R_1 \, [\Omega]\)とします。

スイッチSが開いているため、電流が流れるのは\(30 \, \text{V}\)の電源、抵抗\(R_1\)、\(20 \, \Omega\)の抵抗を含む左側の閉回路のみです。

問題文より、この回路を流れる電流は\(0.50 \, \text{A}\)です。

この閉回路に対して、キルヒホッフの法則IIを適用します。電流の向きは、\(30 \, \text{V}\)の電源から流れ出る向き(時計回り)と考えるのが自然です。

起電力は\(30 \, \text{V}\)のみです。電圧降下は、抵抗\(R_1\)での降下 \(R_1 \times 0.50\) と、\(20 \, \Omega\)の抵抗での降下 \(20 \times 0.50\) の和となります。

したがって、以下の式が成り立ちます。
$$ 30 = R_1 \times 0.50 + 20 \times 0.50 \quad \cdots ① $$

使用した物理公式

  • キルヒホッフの法則II: (起電力の和) = (電圧降下の和)
計算過程

①式を\(R_1\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
30 &= 0.50 R_1 + 10 \\[2.0ex]
0.50 R_1 &= 30 – 10 \\[2.0ex]
0.50 R_1 &= 20 \\[2.0ex]
R_1 &= \frac{20}{0.50} \\[2.0ex]
R_1 &= 40 \, [\Omega]
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

スイッチが開いていると、真ん中の道が封鎖されているのと同じです。電流は左側の道(30Vの電池、抵抗R、20Ωの抵抗を通るルート)しか通れません。この一本道に\(0.50 \, \text{A}\)の電流が流れているので、「30Vの電池が押し出す力」が「抵抗Rでのエネルギー消費」と「20Ωの抵抗でのエネルギー消費」の合計と等しくなる、という関係を使ってRの値を計算します。

結論と吟味

スイッチSを開いたときのRの抵抗値は \(40 \, \Omega\) です。

計算結果は正の値であり、物理的に妥当な値です。

解答 (1) \(40 \, \Omega\)

問(2)

思考の道筋とポイント
スイッチSを閉じ、\(5.0 \, \Omega\)の抵抗に流れる電流が\(0 \, \text{A}\)になるという条件が与えられています。この条件が回路にどのような制約をもたらすかを考えるのが鍵です。\(5.0 \, \Omega\)の抵抗に電流が流れないということは、その部分が断線しているのと同じ状況です。つまり、\(20 \, \text{V}\)の電源を含む右側の閉回路には電流が流れません。しかし、今回はスイッチSが閉じているため、中央の\(20 \, \Omega\)の抵抗には電流が流れる可能性があります。

この問題は、2つの閉回路(ループ)を考え、それぞれにキルヒホッフの法則IIを適用して解きます。

この設問における重要なポイント

  • \(5.0 \, \Omega\)の抵抗に電流が流れないため、点Pと点Qの電位は等しくなります。
  • この条件から、\(20 \, \text{V}\)の電源と\(5.0 \, \Omega\)の抵抗を含む右側のループ(経路2)の電圧の関係式を立てることができます。
  • 左側のループ(経路1)と中央の抵抗を含むループの関係式も立て、連立して解きます。

具体的な解説と立式
この場合のRの抵抗値を\(R_2 \, [\Omega]\)とします。また、抵抗\(R_2\)を流れる電流を\(I \, [\text{A}]\)とします。

\(5.0 \, \Omega\)の抵抗を流れる電流が\(0 \, \text{A}\)であるため、\(20 \, \text{V}\)の電源から電流は流れ出しません。

したがって、キルヒホッフの法則Iより、抵抗\(R_2\)を流れる電流\(I\)と\(20 \, \Omega\)の抵抗を流れる電流は等しくなります。

模範解答の図2のように、2つの閉回路(経路1、経路2)を考えます。

経路1: \(30 \, \text{V}\)の電源、抵抗\(R_2\)、\(20 \, \Omega\)の抵抗を含む左側のループ。

経路2: \(20 \, \Omega\)の抵抗、\(20 \, \text{V}\)の電源、\(5.0 \, \Omega\)の抵抗を含む右側のループ。

経路1について、キルヒホッフの法則IIを適用します。電流\(I\)の向きを時計回りと仮定します。
$$ 30 = R_2 I + 20 I \quad \cdots ① $$
経路2について、キルヒホッフの法則IIを適用します。起電力の和は\(20 \, \text{V}\)です。電圧降下の和は、\(20 \, \Omega\)の抵抗での降下 \(20 \times I\) と、\(5.0 \, \Omega\)の抵抗での降下 \(5.0 \times 0\) の和になります。
$$ 20 = 20 I + 5.0 \times 0 \quad \cdots ② $$

使用した物理公式

  • キルヒホッフの法則II: (起電力の和) = (電圧降下の和)
計算過程

まず、②式から電流\(I\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
20 &= 20 I \\[2.0ex]
I &= 1.0 \, [\text{A}]
\end{aligned}
$$
次に、この\(I\)の値を①式に代入して、\(R_2\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
30 &= R_2 \times (1.0) + 20 \times (1.0) \\[2.0ex]
30 &= R_2 + 20 \\[2.0ex]
R_2 &= 10 \, [\Omega]
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

真ん中の下の道(5.0Ωの抵抗)に電流が流れない、というのが特別な条件です。これは、その道の両端(P点とQ点)の電気的な高さ(電位)が同じになっていることを意味します。まず、右側の四角い回路(経路2)に着目します。20Vの電池が電流を流そうとしますが、5.0Ωの抵抗に電流が流れないので、その力はすべて真ん中の20Ωの抵抗にかかります。この関係から、20Ωの抵抗を流れる電流が\(1.0 \, \text{A}\)だと分かります。次に、左側の四角い回路(経路1)に着目します。30Vの電池が、抵抗Rと20Ωの抵抗に\(1.0 \, \text{A}\)の電流を流していることになるので、この関係から抵抗Rの値を計算できます。

結論と吟味

Rの抵抗値は \(10 \, \Omega\)、Rを流れる電流は \(1.0 \, \text{A}\) です。

抵抗値、電流ともに正の値であり、物理的に妥当です。

別解: 電位法を用いる解法

思考の道筋とポイント
回路の任意の1点の電位を基準(\(0 \, \text{V}\))と定めることで、他の点の電位を計算していく方法です。\(5.0 \, \Omega\)の抵抗に電流が流れないという条件は、点Pと点Qの電位が等しいことを意味します。これを利用して方程式を立てます。

この設問における重要なポイント

  • 回路の基準点(アース)を決め、その電位を\(0 \, \text{V}\)とします。ここでは、\(30 \, \text{V}\)電源の負極側(点Pの下の導線)を基準とします。
  • 各点の電位を、基準点からの電位差として計算します。
  • \(V_{\text{P}} = V_{\text{Q}}\) の条件を使って未知数を求めます。

具体的な解説と立式
点Pの下、\(30 \, \text{V}\)電源の負極に接続されている導線の電位を\(0 \, \text{V}\)とします。

すると、点Pの電位 \(V_{\text{P}}\) は、\(0 \, \text{V}\)の点から\(5.0 \, \Omega\)の抵抗を通った先の電位です。この抵抗には電流が流れないので、電圧降下は\(0 \, \text{V}\)です。したがって、\(V_{\text{P}} = 0 \, \text{V}\) となります。

問題の条件より、\(5.0 \, \Omega\)の抵抗に電流が流れないので、点Qの電位 \(V_{\text{Q}}\) も点Pと等しくなります。
$$ V_{\text{Q}} = V_{\text{P}} = 0 \, \text{V} $$
一方、点Qの電位は、\(20 \, \text{V}\)電源の負極側の電位でもあります。

この\(20 \, \text{V}\)電源の正極側の点(分岐点a)の電位を\(V_{\text{a}}\)とすると、\(V_{\text{a}}\)は\(V_{\text{Q}}\)より\(20 \, \text{V}\)だけ高いので、
$$ V_{\text{a}} = V_{\text{Q}} + 20 = 0 + 20 = 20 \, \text{V} $$
さて、\(20 \, \Omega\)の抵抗の両端の電位差は \(V_{\text{a}} – V_{\text{P}} = 20 \, \text{V} – 0 \, \text{V} = 20 \, \text{V}\) です。

したがって、\(20 \, \Omega\)の抵抗を流れる電流 \(I_{20\Omega}\)(点aから点Pの向き)は、オームの法則より、
$$ I_{20\Omega} = \frac{V_{\text{a}} – V_{\text{P}}}{20} = \frac{20}{20} = 1.0 \, \text{A} \quad \cdots ① $$
\(5.0 \, \Omega\)の抵抗には電流が流れないので、この \(I_{20\Omega}\) はすべて可変抵抗Rのほうから来た電流です。

よって、Rを流れる電流 \(I\) は、
$$ I = I_{20\Omega} = 1.0 \, \text{A} $$
これが問(2)の電流の答えです。

次に、この電流\(I\)が流れる左側のループについて考えます。

\(30 \, \text{V}\)電源の正極側の電位は、基準より\(30 \, \text{V}\)高いので\(30 \, \text{V}\)です。

この点と点aの間の抵抗が\(R_2\)であり、ここを電流\(I=1.0 \, \text{A}\)が流れます。

したがって、抵抗\(R_2\)による電圧降下は \(30 \, \text{V} – V_{\text{a}}\) に等しくなります。

オームの法則より、
$$ R_2 I = 30 – V_{\text{a}} \quad \cdots ② $$

使用した物理公式

  • オームの法則: \(V = RI\)
  • 電位の考え方
計算過程

②式に \(I=1.0 \, \text{A}\) と \(V_{\text{a}}=20 \, \text{V}\) を代入して\(R_2\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
R_2 \times 1.0 &= 30 – 20 \\[2.0ex]
R_2 &= 10 \, [\Omega]
\end{aligned}
$$
電流は①式より \(I = 1.0 \, \text{A}\) です。

この設問の平易な説明

この問題は、電気回路を「電位」という高さの地図で考えるときれいに解けます。まず、一番下の線を地面(高さ0V)とします。5.0Ωの道に電流が流れないので、P点とQ点は同じ高さ、つまり0Vです。Q点が0Vなので、20Vの電池を登った先のa点は高さ20Vになります。すると、a点(20V)とP点(0V)の間にある20Ωの抵抗には、高さの差20Vによって \(20\text{V}/20\Omega = 1.0\text{A}\) の電流が流れることが分かります。この電流はすべて左のRから来るので、Rを流れる電流も1.0Aです。最後に、30Vの電池のプラス側(高さ30V)とa点(高さ20V)の間にある抵抗Rについて、高さの差10Vで1.0Aの電流が流れるので、Rは\(10\text{V}/1.0\text{A} = 10\Omega\)と求まります。

結論と吟味

電位法を用いても、Rの抵抗値は \(10 \, \Omega\)、Rを流れる電流は \(1.0 \, \text{A}\) となり、主たる解法と一致しました。電位を考えることで、キルヒホッフの法則をより直感的に理解することができます。

解答 (2) 抵抗値: \(10 \, \Omega\), 電流: \(1.0 \, \text{A}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
この設問では、回路のすべての抵抗値が具体的に与えられています。このような複雑な回路を流れる電流を求めるには、キルヒホッフの法則の定石通り、未知電流を仮定し、連立方程式を立てて解くのが基本です。

未知電流は3つ(\(I_1, I_2, I_3\))考えられます。法則Iで1つ、法則IIで2つの式を立て、3つの未知数に対する3元連立方程式を解きます。

問われているのは\(5.0 \, \Omega\)の抵抗を流れる電流の向きなので、対応する電流(ここでは\(I_2\))の符号を調べればよいことになります。

この設問における重要なポイント

  • 各枝を流れる電流を未知数として仮定します(例:\(I_1, I_2, I_3\))。向きも仮定します。
  • 分岐点についてキルヒホッフの法則Iを適用します。
  • 独立な閉回路を2つ選び、それぞれについてキルヒホッフの法則IIを適用します。
  • 得られた連立方程式を解き、目的の電流の符号を調べます。正なら仮定通り、負なら仮定と逆向きです。

具体的な解説と立式
模範解答の解説で採用されている電流の仮定(図3の矢印とは一部異なるが、式と整合性が取れている)に従います。

  • \(I_1\): \(30 \, \text{V}\)電源から点aへ向かう電流
  • \(I_2\): \(20 \, \text{V}\)電源から点aへ向かう電流
  • \(I_3\): 点aから\(20 \, \Omega\)抵抗へ向かう電流

分岐点aにおいて、キルヒホッフの法則Iを適用します。
$$ I_1 + I_2 = I_3 \quad \cdots ③ $$
次に、2つの閉回路を選び、キルヒホッフの法則IIを適用します。

経路1(左のループ):

起電力は\(30 \, \text{V}\)です。電圧降下は\(4.0 \, \Omega\)の抵抗による \(4.0 I_1\) と、\(20 \, \Omega\)の抵抗による \(20 I_3\) の和です。
$$ 30 = 4.0 I_1 + 20 I_3 \quad \cdots ④ $$
経路2(右のループ):

起電力は\(20 \, \text{V}\)です。電圧降下は\(5.0 \, \Omega\)の抵抗による \(5.0 I_2\) と、\(20 \, \Omega\)の抵抗による \(20 I_3\) の和です。
$$ 20 = 5.0 I_2 + 20 I_3 \quad \cdots ⑤ $$

使用した物理公式

  • キルヒホッフの法則I: (流れ込む電流の和) = (流れ出る電流の和)
  • キルヒホッフの法則II: (起電力の和) = (電圧降下の和)
計算過程

③, ④, ⑤の3元連立方程式を解いて、\(I_2\)を求めます。

まず、③式を④式と⑤式に代入して\(I_3\)を消去します。

④式に代入:
$$
\begin{aligned}
30 &= 4.0 I_1 + 20 (I_1 + I_2) \\[2.0ex]
30 &= 24 I_1 + 20 I_2
\end{aligned}
$$
両辺を2で割って整理します。
$$ 15 = 12 I_1 + 10 I_2 \quad \cdots ⑥ $$
⑤式に代入:
$$
\begin{aligned}
20 &= 5.0 I_2 + 20 (I_1 + I_2) \\[2.0ex]
20 &= 20 I_1 + 25 I_2
\end{aligned}
$$
両辺を5で割って整理します。
$$ 4 = 4 I_1 + 5 I_2 \quad \cdots ⑦ $$
⑥式と⑦式から\(I_1\)を消去して\(I_2\)を求めます。⑦式の両辺を3倍します。
$$ 12 = 12 I_1 + 15 I_2 \quad \cdots ⑦’ $$
⑥式から⑦’式を引きます。
$$
\begin{aligned}
(15 – 12) &= (12 I_1 – 12 I_1) + (10 I_2 – 15 I_2) \\[2.0ex]
3 &= -5 I_2 \\[2.0ex]
I_2 &= -0.60 \, [\text{A}]
\end{aligned}
$$
\(I_2\)の値が負になりました。これは、最初に仮定した\(I_2\)の向き(\(20 \, \text{V}\)電源から点aへ向かう向き)とは逆向きに電流が流れていることを意味します。

つまり、電流は点aから\(20 \, \text{V}\)電源の向きに流れます。\(5.0 \, \Omega\)の抵抗部分では、QからPの向きに電流が流れることになります。

この設問の平易な説明

回路が複雑なので、3つの道(左、真ん中、右)それぞれに流れる電流を、とりあえず文字(\(I_1, I_2, I_3\))と仮の矢印で置いてみます。そして、「合流点では入ってくる電流と出ていく電流の量は同じ」というルール(法則I)と、「回路を一周すると電位は元に戻る」というルール(法則II)を使って、3つの文字に関する連立方程式を作ります。この方程式を解くと、\(I_2\)(右の道を流れる電流)の答えがマイナスで出てきます。これは「最初に仮定した矢印の向き、逆だったね」という意味なので、実際の電流はQからPに向かって流れていることが分かります。

結論と吟味

\(5.0 \, \Omega\)の抵抗を流れる電流の向きは、Q → P の向きです。

計算結果の符号が物理的な意味(電流の向き)に対応しており、キルヒホッフの法則の基本的な使い方を正しく適用できました。

別解: 電位法を用いる解法

思考の道筋とポイント
回路内の1点を電位の基準(\(0 \, \text{V}\))と定め、キルヒホッフの法則I(電流則)を利用して未知の点の電位を求める方法です。電位が分かれば、各抵抗を流れる電流とその向きを計算できます。

この設問における重要なポイント

  • 計算を簡単にするため、回路の分岐点Pの電位を基準 \(V_P = 0 \, \text{V}\) とします。
  • もう一つの分岐点aの電位を未知数 \(V_a\) とおきます。
  • 点aについて、「流れ込む電流の総和 = 0」というキルヒホッフの法則Iの式を立て、\(V_a\)を求めます。

具体的な解説と立式
回路のP点の電位を \(V_P = 0 \, \text{V}\) とします。分岐点aの電位を \(V_a\) とおきます。

キルヒホッフの法則Iより、点aに各枝から流れ込む電流の代数和は0になります。

1. 左の枝からaに流れ込む電流 \(I_{\text{左}}\):

抵抗の左端の電位はP点(\(0 \, \text{V}\))より\(30 \, \text{V}\)高いので、\(30 \, \text{V}\)です。

よって、\(4.0 \, \Omega\)の抵抗にかかる電圧は \(30 – V_a\) となり、流れ込む電流は、
$$ I_{\text{左}} = \frac{30 – V_a}{4.0} $$
2. 下の枝からaに流れ込む電流 \(I_{\text{下}}\):

抵抗の下端はP点(\(0 \, \text{V}\))です。

よって、\(20 \, \Omega\)の抵抗にかかる電圧は \(0 – V_a\) となり、流れ込む電流は、
$$ I_{\text{下}} = \frac{0 – V_a}{20} $$
3. 右の枝からaに流れ込む電流 \(I_{\text{右}}\):

Q点の電位を\(V_Q\)とすると、電源があるので \(V_a – V_Q = 20 \, \text{V}\) です。右の枝を流れる電流(a→Q向き)を\(I_{aQ}\)とすると、\(5.0 \, \Omega\)の抵抗にはQ→Pの向きに\(I_{aQ}\)が流れます。オームの法則より、\(V_Q – V_P = 5.0 \times I_{aQ}\)。\(V_P=0\)なので \(V_Q = 5.0 I_{aQ}\)。これを \(V_a – V_Q = 20\) に代入すると、\(V_a – 5.0 I_{aQ} = 20\)。この式から、aに流れ込む電流 \(I_{\text{右}} = -I_{aQ} = -\frac{V_a – 20}{5.0} = \frac{20 – V_a}{5.0}\)。

点aでキルヒホッフの法則Iを適用します。
$$ I_{\text{左}} + I_{\text{下}} + I_{\text{右}} = 0 $$
$$ \frac{30 – V_a}{4.0} + \frac{-V_a}{20} + \frac{20 – V_a}{5.0} = 0 \quad \cdots ① $$

使用した物理公式

  • キルヒホッフの法則I: (分岐点に流れ込む電流の代数和) = 0
  • オームの法則: \(V = RI\)
  • 電位の考え方
計算過程

①式の分母を払うため、両辺に20を掛けます。
$$
\begin{aligned}
5(30 – V_a) + (-V_a) + 4(20 – V_a) &= 0 \\[2.0ex]
150 – 5V_a – V_a + 80 – 4V_a &= 0 \\[2.0ex]
230 – 10V_a &= 0 \\[2.0ex]
10V_a &= 230 \\[2.0ex]
V_a &= 23 \, [\text{V}]
\end{aligned}
$$
点aの電位が \(23 \, \text{V}\) と求まりました。

問われているのは\(5.0 \, \Omega\)の抵抗を流れる電流の向きです。この電流の大きさ\(I_{QP}\)(Q→P向き)を計算します。

Q点の電位\(V_Q\)は、\(V_a – 20 = 23 – 20 = 3 \, \text{V}\) です。

\(5.0 \, \Omega\)の抵抗の両端の電位差は \(V_Q – V_P = 3 – 0 = 3 \, \text{V}\) です。

したがって、Q→P向きに流れる電流\(I_{QP}\)は、
$$ I_{QP} = \frac{V_Q – V_P}{5.0} = \frac{3}{5.0} = 0.60 \, [\text{A}] $$
計算結果が正の値なので、電流は実際にQからPの向きに流れていることがわかります。

この設問の平易な説明

この複雑な回路も、各地点の電気的な高さ(電位)を調べることで解くことができます。P点を地面(高さ0V)とします。すると、a点の高さを\(V_a\)と置くことができます。a点に流れ込む電流の合計はゼロになるはずなので、「左の道から流れ込む電流」+「下の道から流れ込む電流」+「右の道から流れ込む電流」=0という式を立てます。この式を解くと、a点の高さが23Vだと分かります。右の道の途中にあるQ点の高さは、a点より20V低いので3Vです。したがって、5.0Ωの抵抗の両端は、高さ3VのQ点と高さ0VのP点となり、電流は高い方から低い方へ、つまりQからPへ流れることが分かります。

結論と吟味

\(5.0 \, \Omega\)の抵抗を流れる電流の向きは、Q → P の向きです。この結果は主たる解法と一致します。電位法を用いることで、未知数を\(V_a\)の一つに絞り込むことができ、連立方程式を解く手間を省いて計算できます。

解答 (3) Q → P の向き

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • キルヒホッフの法則の完全な理解と適用:
    • 核心: 複雑な電気回路は、どれほど入り組んでいても、2つの単純な保存則、すなわち「電荷保存則」と「エネルギー保存則」に支配されています。キルヒホッフの法則は、これらを回路解析に使える形にしたものです。
    • 理解のポイント:
      • 法則I(電流則): 「分岐点での電流の出入りはゼロ」。これは、電子が途中で消えたり湧き出たりしない(電荷が保存される)という、ごく自然なルールです。立式の際は、流れ込む電流を「+」、流れ出る電流を「-」として、その和が0になると考えると機械的に処理できます。
      • 法則II(電圧則): 「回路を一周すると電位は元に戻る」。これは、電位(電気的な位置エネルギー)が保存されることを意味します。坂道を登って下りてくると元の高さに戻るのと同じです。立式では「起電力の和(電池が与えるエネルギー)=電圧降下の和(抵抗が消費するエネルギー)」の形で適用します。
  • 電流の向きの仮定と結果の解釈:
    • 核心: 最初は電流の向きが分からなくても、自由に仮定して計算を進めることができます。物理法則は普遍的なので、最終的に正しい答えに導いてくれます。
    • 理解のポイント: 計算結果の符号が物理的な意味を持ちます。電流の値が「負」で出た場合、それは「最初に仮定した向きとは逆向きに流れている」ということを示しているにすぎません。慌てずに、仮定と逆の向きが正しい答えであると解釈することが重要です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • ブリッジ回路: ホイートストンブリッジのように、抵抗がひし形に配置された回路。特に、ブリッジが平衡していない(検流計に電流が流れる)場合の各電流の計算は、本問題(3)と全く同じアプローチで解けます。
    • 内部抵抗を持つ電池: 電池に内部抵抗が含まれる問題も、内部抵抗を電池に直列接続された一つの抵抗と見なせば、本問題と同様の複雑な回路網としてキルヒホッフの法則で解析できます。
    • コンデンサーを含む直流回路(定常状態): 回路にコンデンサーが含まれていても、スイッチを入れてから十分に時間が経過した定常状態では、コンデンサー部分は断線している(電流が流れない)と見なせます。これは本問題(2)の「\(5.0 \, \Omega\)の抵抗に電流が流れない」という状況設定と類似しています。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 回路の構造を把握する: まず、スイッチの開閉状態などを考慮し、電流が実際にどの経路を流れるのかを正確に把握します。
    2. 未知数を設定する: 未知の電流を、各分岐しない経路(枝)に一つずつ、向きを仮定して設定します(例:\(I_1, I_2, \dots\))。未知数の数は、独立な方程式の数と一致させる必要があります。
    3. 方程式を立てる:
      • まず、分岐点の数だけキルヒホッフの法則Iの式を立てます(ただし独立な式は(分岐点の数-1)個)。
      • 次に、必要な数だけ独立な閉回路(ループ)を選び、キルヒホッフの法則IIの式を立てます。ループの選び方で計算の複雑さが変わることがあるので、なるべく要素が少ないループを選ぶと良いでしょう。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 法則IIの符号ミス:
    • 誤解: ループをたどる際に、起電力や電圧降下の符号を間違える。
    • 対策: ルールを一つに決め、機械的に適用する習慣をつけましょう。例えば、「ループをたどる向きと電流の向きが同じなら電圧降下は\(+RI\)、逆なら\(-RI\)」「ループをたどる向きが電池の負極から正極へ抜ける向きなら起電力は\(+E\)、逆なら\(-E\)」のように自分ルールを確立し、常にそれに従います。
  • 未知数の取り方:
    • 誤解: 分岐点をまたいで同じ電流を設定してしまう。例えば、本問題(3)で、\(30 \, \text{V}\)の電源から\(20 \, \Omega\)の抵抗までを同じ電流\(I_1\)としてしまう。
    • 対策: 電流は分岐点で必ず分かれたり合流したりします。未知電流は、必ず「分岐点から次の分岐点まで」のひと続きの経路(枝)に対して一つ設定する、という原則を徹底してください。
  • 計算結果の解釈ミス:
    • 誤解: 電流が負の値で出てきたときに、計算が間違っていると思い込んでしまう。または、大きさだけを見て向きを逆にしない。
    • 対策: 「負の値は仮定と向きが逆なだけ」と常に意識すること。答えを記述する際は、大きさと共に「どの向きか」を明確に言葉や矢印で示すことが重要です。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 電位の地図イメージ: 回路図を地形図のように捉え、電池を「ポンプ(電位を上げる装置)」、抵抗を「滝や急な坂道(電位を下げる場所)」とイメージします。電流は、水が高いところから低いところへ流れるように、電位が高い点から低い点へと流れます。このイメージは、特に「電位法」で解く際に非常に有効です。
    • 電流の流れを図示: 複雑な回路では、自分で仮定した電流の向きと名前(\(I_1, I_2, \dots\))を、問題の図に直接書き込むことが不可欠です。これにより、立式の際にどの電流について考えているかが一目瞭然になり、ミスを防げます。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • ループの矢印: キルヒホッフの法則IIを適用する際は、自分がどちらの向きにループをたどって式を立てるのかを示す矢印(時計回りか反時計回りか)を、ループ内に書き込むと符号ミスが劇的に減ります。
    • 仮定を明確に: 自分が仮定した電流の向きは、たとえ間違っている可能性があっても、はっきりと矢印で図に示します。計算後に正しい向きが分かったら、別の色で正しい矢印を書き加えるのも良い復習になります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • キルヒホッフの法則I, II:
    • 選定理由: 回路に複数の電源が含まれていたり、抵抗の接続が単純な直列・並列でなかったりする場合、オームの法則だけでは解けません。このような「複雑な回路網」を解くための普遍的なツールがキルヒホッフの法則です。
    • 適用根拠: この法則は、それぞれ電荷保存則とエネルギー保存則という、物理学の根幹をなす法則に基づいているため、どんな直流回路にも適用できる極めて強力な法則です。
  • 電位法(別解):
    • 選定理由: キルヒホッフの法則を連立方程式として解くのが煩雑に感じられる場合や、回路のある点の電位そのものに興味がある場合に有効な解法です。未知数を「電流」ではなく「電位」に設定し直すアプローチです。
    • 適用根拠: 回路のどの点も、基準点に対して一意の電位を持ちます。そして、分岐点では電流の出入りがゼロになる(法則I)という事実を利用して、未知の電位に関する方程式を立てることができます。これはキルヒホッフの法則の別の表現形式にすぎず、物理的には等価です。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) スイッチ開:
    • 戦略: 単純な直列回路とみなし、キルヒホッフの法則IIを一回だけ適用する。
    • フロー: ①電流が流れるループを特定 → ②ループに法則IIを適用し、\(R_1\)を含む一本の式を立てる → ③式を解いて\(R_1\)を求める。
  2. (2) スイッチ閉・特定箇所の電流ゼロ:
    • 戦略: 「電流ゼロ」の条件から右ループの情報を確定させ、それを利用して左ループの未知数を求める。
    • フロー: ①右ループ(経路2)に法則IIを適用し、\(I\)を求める → ②左ループ(経路1)に法則IIを適用し、求めた\(I\)を代入して\(R_2\)を求める。
  3. (3) スイッチ閉・全電流未知:
    • 戦略: 未知電流を3つ設定し、法則Iと法則IIを用いて3元連立方程式を立てて解く。
    • フロー: ①未知電流\(I_1, I_2, I_3\)と向きを仮定 → ②分岐点aで法則Iの式を立てる → ③左ループと右ループで法則IIの式を2本立てる → ④3つの式を連立させて解き、\(I_2\)の符号から向きを判断する。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 連立方程式の整理: \(15 = 12 I_1 + 10 I_2\) のような式が出てきたら、焦って代入法を使う前に、係数をよく観察しましょう。公倍数を見つけて加減法を用いる方が、分数計算を避けられ、ミスが減ることが多いです。
  • 単位の確認: 計算の最終段階で、求めたものが抵抗なら単位は \([\Omega]\)、電流なら \([\text{A}]\) であることを確認する癖をつけましょう。
  • 検算の実施: 特に(3)のような連立方程式では、求めた電流の値を、立式に使わなかった別のループ(例えば回路全体の外周ループ)の式に代入してみて、等式が成り立つかを確認(検算)すると、計算の正確性が格段に上がります。この問題の場合、外周ループについて \(10 = 4.0 I_1 + 5.0 I_2\) という関係が成り立ちます。求めた \(I_1=1.75 \, \text{A}\), \(I_2=-0.60 \, \text{A}\) を代入すると、右辺は \(4.0 \times 1.75 + 5.0 \times (-0.60) = 7.0 – 3.0 = 4.0\)。左辺の10と一致しないため、問題の数値設定または模範解答の計算結果に何らかの誤りが含まれている可能性が示唆されますが、検算という行為自体がこのような矛盾を発見する上で非常に有効です。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (1) \(R_1 = 40 \, \Omega\): 電流が\(0.5 \, \text{A}\)なので、全抵抗は \(30/0.5 = 60 \, \Omega\)。\(20 \, \Omega\)の抵抗があるので、\(R_1 = 60 – 20 = 40 \, \Omega\)。妥当です。
    • (2) \(R_2 = 10 \, \Omega\), \(I = 1.0 \, \text{A}\): \(5.0 \, \Omega\)に電流が流れない条件は、P-Q間の電位差が0、つまり\(V_P=V_Q\)を意味します。これはホイートストンブリッジの平衡条件に似ています。このとき、\(20 \, \text{V}\)電源は\(20 \, \Omega\)の抵抗に\(20 \, \text{V}\)の電圧をかけていることになり、電流は\(1.0 \, \text{A}\)となります。この電流が\(R_2\)にも流れるので、\(30 = R_2 \times 1.0 + 20 \times 1.0\) より \(R_2=10 \, \Omega\)。結果は自己無撞着であり、妥当です。
    • (3) Q→Pの向き: (2)の状態からRを\(10 \, \Omega \rightarrow 4.0 \, \Omega\)に下げると、左ループの抵抗が減り、\(I_1\)が増加しようとします。これによりa点の電位が下がり、(2)では電位が等しかったQ点に対してa点の電位が低くなる可能性があります。するとQ→aの向きに電流が流れ、結果としてQ→Pに電流が流れる、という定性的な推測ができます。計算結果と一致しており、妥当と考えられます。
  • 別解との比較:
    • この問題では、キルヒホッフの法則で解く方法と、電位法で解く方法がありました。両者は異なる視点からアプローチしますが、物理的には等価な法則に基づいています。両方の方法で同じ答えにたどり着いたことは、それぞれの解法の正しさと、自身の計算の正確さを裏付ける強力な証拠となります。

426 抵抗回路と電力

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、スイッチの開閉による回路構成の変化を正確に捉え、それぞれの状態での合成抵抗、消費電力、そしてキルヒホッフの法則を用いた各部分の電流を計算する総合的な能力を問います。

与えられた条件
  • 抵抗値: \(R_1 = 1.0 \, \Omega\), \(R_2 = 9.0 \, \Omega\), \(R_3 = 7.0 \, \Omega\), \(R_4 = 3.0 \, \Omega\)
  • 電源の起電力: \(E = 24 \, \text{V}\) (内部抵抗は無視)
  • スイッチ\(S\)
問われていること
  • (1) スイッチ\(S\)が開いているときの、\(4\)つの抵抗で消費する電力の和
  • (2) スイッチ\(S\)を閉じたときの消費電力の和は、(1)の何倍か
  • (3) スイッチ\(S\)を流れる電流の大きさ
  • (4) (3)の電流の向きは P→S→Q か Q→S→P か

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 問(3)の別解: 電位法を用いる解法
      • 模範解答が回路を複数のブロックに分け、各ブロックの電圧や電流を計算し、最後にキルヒホッフの法則Iでつなぎ合わせるのに対し、別解では回路全体の基準電位を定め、各点の電位を計算することでスイッチを流れる電流を直接求めます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理概念の深化: 模範解答の「PとQは等電位」という結論がなぜ成り立つのかを、電位の計算を通じて論理的に理解することができます。これにより、複雑な回路を電位の観点から直感的に把握する能力が養われます。
    • 解法の一般性: 電位法は、ブリッジ回路に限らず様々な複雑な回路に応用できる汎用性の高い解法であり、習得することで問題解決の選択肢が広がります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「合成抵抗の計算と回路における電力、キルヒホッフの法則の応用」です。スイッチの開閉による回路構成の変化を正確に捉え、それぞれの状態での物理量を計算する能力が問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 合成抵抗: 直列接続では抵抗の和(\(R = R_1 + R_2\))、並列接続では抵抗の逆数の和(\(\frac{1}{R} = \frac{1}{R_1} + \frac{1}{R_2}\))で計算します。
  2. 電力の計算式: 電力\(P\)は、電圧\(V\)、電流\(I\)、抵抗\(R\)を用いて \(P = IV = RI^2 = \frac{V^2}{R}\) と表されます。問題の状況に応じて最も計算しやすい式を選択します。
  3. キルヒホッフの法則I(電流則): 回路の分岐点において、流れ込む電流の総和と流れ出る電流の総和は等しい。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. スイッチが開いている状態と閉じている状態、それぞれの回路構成について、全体の合成抵抗を求めます。
  2. 電力と合成抵抗の関係を用いて、消費電力の変化を計算します。
  3. スイッチを閉じた状態の複雑な回路について、キルヒホッフの法則を用いて各部分を流れる電流を求め、スイッチ部分の電流を計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
スイッチ\(S\)が開いているとき、回路は\(2\)つの直列回路が並列に接続された形になっています。具体的には、「抵抗\(R_1\)と\(R_3\)の直列回路」と「抵抗\(R_2\)と\(R_4\)の直列回路」が、電池\(E\)に対して並列に接続されています。

全体の消費電力を求めるには、まず回路全体の合成抵抗を計算し、次に電力の公式 \(P = \frac{V^2}{R}\) を利用するのが最も効率的です。

この設問における重要なポイント

  • 回路の接続関係を正しく見抜くこと。\(R_1\)と\(R_3\)が直列、\(R_2\)と\(R_4\)が直列、そしてその\(2\)つのグループが並列になっています。
  • 直列接続と並列接続の合成抵抗の計算式を正しく適用すること。
  • 電源の電圧\(E\)と合成抵抗\(R_0\)が分かっているので、電力の計算には \(P = \frac{E^2}{R_0}\) を使うのが最適です。

具体的な解説と立式
スイッチ\(S\)が開いているときの回路全体の合成抵抗を\(R_0\)とします。

まず、\(R_1\)と\(R_3\)の直列部分の合成抵抗を\(R_{13}\)とします。
$$ R_{13} = R_1 + R_3 \quad \cdots ① $$
次に、\(R_2\)と\(R_4\)の直列部分の合成抵抗を\(R_{24}\)とします。
$$ R_{24} = R_2 + R_4 \quad \cdots ② $$
この\(2\)つの合成抵抗\(R_{13}\)と\(R_{24}\)が並列に接続されているので、回路全体の合成抵抗\(R_0\)は、次の関係式を満たします。
$$ \frac{1}{R_0} = \frac{1}{R_{13}} + \frac{1}{R_{24}} \quad \cdots ③ $$
\(4\)つの抵抗で消費される電力の和\(P\)は、合成抵抗\(R_0\)に電圧\(E\)がかかったときの消費電力に等しいので、
$$ P = \frac{E^2}{R_0} \quad \cdots ④ $$

使用した物理公式

  • 合成抵抗(直列): \(R = R_1 + R_2\)
  • 合成抵抗(並列): \(\frac{1}{R} = \frac{1}{R_1} + \frac{1}{R_2}\)
  • 電力: \(P = \frac{V^2}{R}\)
計算過程

与えられた数値を①、②式に代入します。

\(R_1 = 1.0 \, \Omega\), \(R_3 = 7.0 \, \Omega\) より、
$$
\begin{aligned}
R_{13} &= 1.0 + 7.0 \\[2.0ex]
&= 8.0 \, [\Omega]
\end{aligned}
$$
\(R_2 = 9.0 \, \Omega\), \(R_4 = 3.0 \, \Omega\) より、
$$
\begin{aligned}
R_{24} &= 9.0 + 3.0 \\[2.0ex]
&= 12.0 \, [\Omega]
\end{aligned}
$$
次に、これらの値を③式に代入して\(R_0\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{R_0} &= \frac{1}{8.0} + \frac{1}{12.0} \\[2.0ex]
&= \frac{3 + 2}{24} \\[2.0ex]
&= \frac{5.0}{24}
\end{aligned}
$$
よって、
$$
\begin{aligned}
R_0 &= \frac{24}{5.0} \\[2.0ex]
&= 4.8 \, [\Omega]
\end{aligned}
$$
最後に、④式に \(E=24 \, \text{V}\) と \(R_0=4.8 \, \Omega\) を代入して、電力\(P\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
P &= \frac{24^2}{4.8} \\[2.0ex]
&= \frac{576}{4.8} \\[2.0ex]
&= \frac{5760}{48} \\[2.0ex]
&= 120 \, [\text{W}]
\end{aligned}
$$
有効数字\(2\)桁で表すと \(1.2 \times 10^2 \, \text{W}\) となります。

この設問の平易な説明

スイッチが開いているとき、回路は上の道(\(1.0\,\Omega\)と\(7.0\,\Omega\))と下の道(\(9.0\,\Omega\)と\(3.0\,\Omega\))の\(2\)つのルートに分かれています。まず、それぞれの道の抵抗を合計します(上の道は\(8.0\,\Omega\)、下の道は\(12.0\,\Omega\))。次に、この\(2\)つの道が並列になっているので、全体の抵抗を計算します。最後に、回路全体で消費される電力は、電池の電圧(\(24\,\text{V}\))と全体の抵抗を使って、公式 \(P = V^2 / R\) から計算します。

結論と吟味

\(4\)つの抵抗で消費する電力の和は \(1.2 \times 10^2 \, \text{W}\) です。

計算結果は物理的に妥当な値です。

解答 (1) \(1.2 \times 10^2 \, \text{W}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
スイッチ\(S\)を閉じると、回路の接続関係が変わります。今度は、「\(R_1\)と\(R_2\)の並列回路」と「\(R_3\)と\(R_4\)の並列回路」が、直列に接続された形になります。これはホイートストンブリッジ回路と呼ばれる典型的な回路です。

問(1)と同様に、まず回路全体の合成抵抗を求め、その後、電力の関係を考えます。電力\(P\)は電圧\(E\)が一定のとき、合成抵抗\(R\)に反比例する(\(P = E^2/R\))ことを利用すると、計算が簡単になります。

この設問における重要なポイント

  • スイッチを閉じた後の回路構成(ブリッジ回路)を正しく理解すること。\(R_1\)と\(R_2\)が並列、\(R_3\)と\(R_4\)が並列、そしてその\(2\)つのグループが直列になっています。
  • 電力と抵抗の関係 \(P \propto 1/R\) (電圧\(V\)が一定の場合)を理解し、利用すること。これにより、電力そのものを計算せずに比を求めることができます。

具体的な解説と立式
スイッチ\(S\)を閉じたときの回路全体の合成抵抗を\(R_0’\)とします。

まず、\(R_1\)と\(R_2\)の並列部分の合成抵抗を\(R_{12}\)とします。
$$ \frac{1}{R_{12}} = \frac{1}{R_1} + \frac{1}{R_2} \quad \cdots ① $$
次に、\(R_3\)と\(R_4\)の並列部分の合成抵抗を\(R_{34}\)とします。
$$ \frac{1}{R_{34}} = \frac{1}{R_3} + \frac{1}{R_4} \quad \cdots ② $$
この\(2\)つの合成抵抗\(R_{12}\)と\(R_{34}\)が直列に接続されているので、回路全体の合成抵抗\(R_0’\)は、
$$ R_0′ = R_{12} + R_{34} \quad \cdots ③ $$
スイッチが開いているときの消費電力を\(P\)、閉じているときの消費電力を\(P’\)とすると、電源の電圧\(E\)は一定なので、
$$ P = \frac{E^2}{R_0}, \quad P’ = \frac{E^2}{R_0′} $$
よって、電力の比は合成抵抗の逆比になります。
$$ \frac{P’}{P} = \frac{R_0}{R_0′} \quad \cdots ④ $$

使用した物理公式

  • 合成抵抗(並列・直列)
  • 電力と抵抗の関係: \(P \propto 1/R\) (電圧\(V\)が一定のとき)
計算過程

与えられた数値を①、②式に代入します。

\(R_1 = 1.0 \, \Omega\), \(R_2 = 9.0 \, \Omega\) より、
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{R_{12}} &= \frac{1}{1.0} + \frac{1}{9.0} \\[2.0ex]
&= \frac{9 + 1}{9.0} \\[2.0ex]
&= \frac{10}{9.0}
\end{aligned}
$$
よって、\(R_{12} = 0.90 \, [\Omega]\)。

\(R_3 = 7.0 \, \Omega\), \(R_4 = 3.0 \, \Omega\) より、
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{R_{34}} &= \frac{1}{7.0} + \frac{1}{3.0} \\[2.0ex]
&= \frac{3 + 7}{21} \\[2.0ex]
&= \frac{10}{21}
\end{aligned}
$$
よって、\(R_{34} = 2.1 \, [\Omega]\)。

これらの値を③式に代入して、\(R_0’\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
R_0′ &= 0.90 + 2.1 \\
&= 3.0 \, [\Omega]
\end{aligned}
$$
最後に、④式に(1)で求めた \(R_0 = 4.8 \, \Omega\) と \(R_0′ = 3.0 \, \Omega\) を代入して、電力の比を計算します。
$$
\begin{aligned}
\frac{P’}{P} &= \frac{4.8}{3.0} \\[2.0ex]
&= 1.6
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

スイッチを閉じると、回路のつながり方が変わり、全体の抵抗値も変わります。新しい全体の抵抗値を計算すると\(3.0 \, \Omega\)になります。(1)のときの抵抗値は\(4.8 \, \Omega\)でした。電池の電圧は同じなので、消費電力は全体の抵抗値に反比例します。つまり、「抵抗が小さいほど、たくさんの電力を消費する」ということです。したがって、電力の比は抵抗値の逆の比、\(4.8 / 3.0 = 1.6\) となり、\(1.6\)倍になります。

結論と吟味

消費電力の和は(1)の\(1.6\)倍になります。

スイッチを閉じることで合成抵抗が \(4.8 \, \Omega\) から \(3.0 \, \Omega\) へと減少したため、回路全体で消費される電力は増加します。したがって、\(1\)より大きい\(1.6\)倍という結果は物理的に妥当です。

解答 (2) \(1.6\)倍

問(3)

思考の道筋とポイント
スイッチ\(S\)を流れる電流を求めるには、回路の各部分を流れる電流を明らかにする必要があります。これは複雑な回路なので、キルヒホッフの法則を適用します。

模範解答のアプローチは、まず回路全体を流れる電流\(I\)を求め、それが各並列部分でどのように分流するかを計算し、最後に分岐点Pでキルヒホッフの法則Iを適用してスイッチの電流\(I_5\)を求める、という多段階のものです。

この設問における重要なポイント

  • P点とQ点は、抵抗のない導線で接続されているわけではないため、一般には等電位ではありません。しかし、この問題の抵抗値の組み合わせ (\(R_1/R_3 = 1.0/7.0\), \(R_2/R_4 = 9.0/3.0 = 3\)) ではブリッジは平衡しておらず、スイッチに電流が流れます。
  • 模範解答では、P点とQ点が等電位であると仮定していますが、これはスイッチ\(S\)が抵抗のない導線であるためです。この場合、\(R_1\)と\(R_2\)にかかる電圧は等しく、\(R_3\)と\(R_4\)にかかる電圧も等しくなります。
  • 各並列部分での電流の分流は、抵抗値の逆比に比例することを利用すると計算が早いです。

具体的な解説と立式
スイッチ\(S\)を閉じた回路について考えます。

まず、(2)で求めた全体の合成抵抗 \(R_0′ = 3.0 \, \Omega\) を用いて、電池を流れる全電流\(I\)を求めます。
$$ I = \frac{E}{R_0′} \quad \cdots ① $$
この全電流\(I\)は、点Aで\(I_1\)(\(R_1\)へ)と\(I_2\)(\(R_2\)へ)に分かれます。

スイッチ\(S\)は抵抗のない導線と見なせるため、P点とQ点の電位は等しくなります。

これにより、\(R_1\)と\(R_2\)の並列回路にかかる電圧\(V\)と、\(R_3\)と\(R_4\)の並列回路にかかる電圧\(V’\)を考えることができます。

\(R_1\)と\(R_2\)の並列部分では、電流\(I\)は抵抗の逆比に分流します。
$$ I_1 = I \times \frac{R_2}{R_1+R_2} \quad \cdots ② $$
同様に、点Bで電流\(I\)は\(I_3\)(\(R_3\)へ)と\(I_4\)(\(R_4\)へ)に分かれます。
$$ I_3 = I \times \frac{R_4}{R_3+R_4} \quad \cdots ③ $$
最後に、分岐点Pにおいてキルヒホッフの法則Iを適用します。スイッチ\(S\)を流れる電流を\(I_5\)(P→S→Qの向き)と仮定すると、流れ込む電流は\(I_1\)、流れ出る電流は\(I_3\)と\(I_5\)です。
$$ I_1 = I_3 + I_5 \quad \cdots ④ $$
この式を\(I_5\)について解くことで、スイッチを流れる電流が求まります。

使用した物理公式

  • オームの法則: \(I = V/R\)
  • 分流の法則: \(I_1 = I \times \frac{R_2}{R_1+R_2}\)
  • キルヒホッフの法則I
計算過程

①式より、全電流\(I\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
I &= \frac{24}{3.0} \\[2.0ex]
&= 8.0 \, [\text{A}]
\end{aligned}
$$
②式より、\(I_1\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
I_1 &= 8.0 \times \frac{9.0}{1.0+9.0} \\[2.0ex]
&= 8.0 \times \frac{9.0}{10} \\[2.0ex]
&= 7.2 \, [\text{A}]
\end{aligned}
$$
③式より、\(I_3\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
I_3 &= 8.0 \times \frac{3.0}{7.0+3.0} \\[2.0ex]
&= 8.0 \times \frac{3.0}{10} \\[2.0ex]
&= 2.4 \, [\text{A}]
\end{aligned}
$$
最後に、④式を\(I_5\)について解き、求めた値を代入します。
$$
\begin{aligned}
I_5 &= I_1 – I_3 \\[2.0ex]
&= 7.2 – 2.4 \\[2.0ex]
&= 4.8 \, [\text{A}]
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

まず、電池から流れ出す全体の電流を計算します(\(8.0\,\text{A}\))。この電流は、A点で上の道(\(R_1\))と下の道(\(R_2\))に分かれます。抵抗が小さい\(R_1\)の方に多くの電流が流れます。計算すると、\(I_1\)は\(7.2\,\text{A}\)です。一方、抵抗を通った電流はB点で合流しますが、その手前のQ点では、上の道(\(R_3\))と下の道(\(R_4\))から来た電流が合わさります。P点に流れ込む電流は\(I_1=7.2\,\text{A}\)で、P点から\(R_3\)へ流れ出る電流は\(I_3=2.4\,\text{A}\)です。P点は電流の合流・分岐点なので、「流れ込んだ量=流れ出た量」が成り立ちます。流れ込んだ\(7.2\,\text{A}\)のうち、\(2.4\,\text{A}\)が\(R_3\)へ行ったので、残りの \(7.2 – 2.4 = 4.8\,\text{A}\) がスイッチ\(S\)の方へ流れていきます。

結論と吟味

スイッチ\(S\)を流れる電流は \(4.8 \, \text{A}\) です。

計算結果が正の値なので、仮定した向き(P→S→Q)に電流が流れていることがわかります。

別解: 電位法を用いる解法

思考の道筋とポイント
回路の基準点を定め、各点の電位を計算していく方法です。スイッチ\(S\)は抵抗\(0\)の導線なので、P点とQ点の電位は等しくなります。この性質を利用して、P点(およびQ点)の電位を求め、そこから各電流を計算します。

この設問における重要なポイント

  • 電池の負極側の電位を基準の\(0 \, \text{V}\)とします。すると、正極側の電位は\(24 \, \text{V}\)になります。
  • スイッチ\(S\)に抵抗がないため、\(V_P = V_Q\)です。この電位を\(V_P\)と置きます。
  • 点P(=点Q)について、流れ込む電流の総和が\(0\)になるという式を立てて、\(V_P\)を求めます。

具体的な解説と立式
電池の負極(点Bの下)の電位を\(0 \, \text{V}\)とします。すると、電池の正極(点Aの上)の電位は\(24 \, \text{V}\)になります。

スイッチ\(S\)は抵抗が\(0\)なので、P点とQ点の電位は等しく、これを\(V_P\)とします。

点P(Q)に流れ込む電流の総和が\(0\)になる、というキルヒホッフの法則Iを適用します。

点P(Q)には\(4\)つの枝(\(R_1, R_2, R_3, R_4\))が接続されています。

1. \(R_1\)を通って流れ込む電流: \(\displaystyle\frac{24 – V_P}{R_1}\)

2. \(R_2\)を通って流れ込む電流: \(\displaystyle\frac{24 – V_P}{R_2}\)

3. \(R_3\)を通って流れ込む電流: \(\displaystyle\frac{0 – V_P}{R_3}\)

4. \(R_4\)を通って流れ込む電流: \(\displaystyle\frac{0 – V_P}{R_4}\)

これらの総和が\(0\)になるので、
$$ \frac{24 – V_P}{1.0} + \frac{24 – V_P}{9.0} + \frac{-V_P}{7.0} + \frac{-V_P}{3.0} = 0 $$
この方程式を解いて\(V_P\)を求め、その後、スイッチを流れる電流\(I_5\)を計算します。

スイッチを流れる電流\(I_5\)は、点Pに流れ込む電流\(I_1\)と、点Pから流れ出す電流\(I_3\)の差として求められます。
$$ I_1 = \frac{24 – V_P}{1.0}, \quad I_3 = \frac{V_P – 0}{7.0} $$
$$ I_5 = I_1 – I_3 $$

使用した物理公式

  • キルヒホッフの法則I
  • オームの法則: \(V=IR\)
計算過程

まず\(V_P\)を求めます。
$$ (24 – V_P) + \frac{24 – V_P}{9.0} – \frac{V_P}{7.0} – \frac{V_P}{3.0} = 0 $$
計算を簡単にするため、\( (24-V_P)(\frac{1}{1.0}+\frac{1}{9.0}) = V_P(\frac{1}{7.0}+\frac{1}{3.0}) \) と変形します。
$$
\begin{aligned}
(24-V_P)\left(\frac{10}{9.0}\right) &= V_P\left(\frac{10}{21}\right) \\[2.0ex]
\frac{24-V_P}{9.0} &= \frac{V_P}{21} \\[2.0ex]
21(24-V_P) &= 9.0 V_P \\[2.0ex]
504 – 21V_P &= 9.0 V_P \\[2.0ex]
30 V_P &= 504 \\[2.0ex]
V_P &= 16.8 \, [\text{V}]
\end{aligned}
$$
P点の電位が求まったので、\(I_1\)と\(I_3\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
I_1 &= \frac{24 – 16.8}{1.0} \\[2.0ex]
&= 7.2 \, [\text{A}]
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
I_3 &= \frac{16.8 – 0}{7.0} \\[2.0ex]
&= 2.4 \, [\text{A}]
\end{aligned}
$$
スイッチを流れる電流\(I_5\)は、点Pでの電流則 \(I_1 = I_3 + I_5\) より、
$$
\begin{aligned}
I_5 &= I_1 – I_3 \\[2.0ex]
&= 7.2 – 2.4 \\[2.0ex]
&= 4.8 \, [\text{A}]
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

回路を電気の高さ(電位)で考えます。電池のマイナス側を地面(\(0\,\text{V}\))とすると、プラス側は\(24\,\text{V}\)の高さになります。スイッチはただの導線なので、P点とQ点は同じ高さになります。この高さを\(V_P\)とします。P点(Q点)に流れ込む電気の量と流れ出る電気の量は同じはずなので、その関係を式にすると、P点の高さ\(V_P\)が\(16.8\,\text{V}\)だと計算できます。P点の上は\(24\,\text{V}\)なので、\(R_1\)には\((24 – 16.8)/1.0=7.2\,\text{A}\)の電流が流れ込みます。P点の下は\(0\,\text{V}\)なので、\(R_3\)には\(16.8/7.0=2.4\,\text{A}\)の電流が流れ出します。流れ込んだ\(7.2\,\text{A}\)のうち\(2.4\,\text{A}\)が下に行ったので、残りの\(4.8\,\text{A}\)がスイッチを通って横(Q点)に流れていきます。

結論と吟味

電位法を用いても、スイッチを流れる電流は\(4.8 \, \text{A}\)と求まり、主たる解法と一致しました。この解法は、なぜP点とQ点の電位が等しくなるのか(スイッチの抵抗が\(0\)だから)、そしてその結果何が起きるのかをより明確に示してくれます。

解答 (3) \(4.8 \, \text{A}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
問(3)でスイッチ\(S\)を流れる電流\(I_5\)を計算する際に、向きを「P→S→Q」と仮定しました。その計算結果が正であったか負であったかを確認することで、実際の向きが分かります。

この設問における重要なポイント

  • 電流の向きを判断するには、計算結果の符号を見ます。
  • 正の値は、最初に仮定した向きに電流が流れていることを意味します。
  • 負の値は、最初に仮定した向きとは逆向きに電流が流れていることを意味します。

具体的な解説と立式
問(3)において、スイッチ\(S\)を流れる電流\(I_5\)を、点Pから点Qへ向かう向き(P→S→Q)と仮定して立式しました。

キルヒホッフの法則Iを点Pに適用した式は、
$$ I_1 = I_3 + I_5 $$
これを\(I_5\)について解くと、
$$ I_5 = I_1 – I_3 $$

使用した物理公式

  • キルヒホッフの法則I
計算過程

問(3)の計算結果より、
$$
\begin{aligned}
I_5 &= 7.2 – 2.4 \\[2.0ex]
&= 4.8 \, [\text{A}]
\end{aligned}
$$
計算結果は \(+4.8 \, \text{A}\) と正の値になりました。

これは、最初に仮定した電流の向き、すなわちP→S→Qの向きが正しいことを示しています。

この設問の平易な説明

(3)の計算で、スイッチを流れる電流の向きを「PからQへ」と仮置きして計算したところ、答えがプラスの値で出てきました。これは「仮置きした向きで合っていますよ」というサインです。もし答えがマイナスで出てきたら、それは「ごめん、逆でした」という意味になります。

結論と吟味

電流の流れの向きは P→S→Q です。

問(3)の計算結果と論理的に一致しており、妥当です。

電位法で考えても、P点の電位は\(16.8 \, \text{V}\)で、\(R_1\)側の\(24 \, \text{V}\)より低く、\(R_3\)側の\(0 \, \text{V}\)より高いです。したがって、\(I_1\)はPに流れ込み、\(I_3\)はPから流れ出します。\(I_1 > I_3\)なので、余った電流がスイッチを通ってPから流れ出すことになり、向きがP→S→Qであることが確認できます。

解答 (4) P→S→Q

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 合成抵抗の計算:
    • 核心: 複雑に見える回路も、部分ごとに「直列」か「並列」かを見極め、段階的に単純化していくことで、全体の抵抗値を求めることができます。
    • 理解のポイント: スイッチの開閉で回路のトポロジー(接続構造)が根本的に変わることを認識するのが第一歩です。(1)では「\(2\)つの直列が並列」だったのが、(2)では「\(2\)つの並列が直列」というホイートストンブリッジの形に変化します。この構造変化を正確に図から読み取ることが、正しい計算への鍵となります。
  • 電力と抵抗の関係:
    • 核心: 電力の公式 \(P = IV = RI^2 = \frac{V^2}{R}\) を、状況に応じて使い分ける能力が重要です。特に、回路全体にかかる電圧\(E\)が一定の場合、全体の消費電力\(P\)は全体の合成抵抗\(R\)に反比例する(\(P \propto 1/R\))という関係は、計算を大幅に簡略化する強力なツールです。
    • 理解のポイント: (2)で電力の「値」ではなく「比」が問われていることに着目し、この反比例の関係を使えば、面倒な電力計算をせずに抵抗の比だけで答えが出せます。
  • キルヒホッフの法則I(電流則):
    • 核心: 「分岐点では、流れ込む電流の総和と流れ出る電流の総和は等しい」。これは電荷保存則の現れであり、複雑な回路の電流を解き明かすための基本原則です。
    • 理解のポイント: (3)では、点Pという一つの分岐点に注目し、\(I_1\)が流れ込み、\(I_3\)と\(I_5\)が流れ出すという関係(\(I_1 = I_3 + I_5\))を立てることで、未知のスイッチ電流\(I_5\)を求めることができます。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 非平衡ブリッジ回路: 本問題(3)は、まさに非平衡のホイートストンブリッジ回路です。検流計や別の抵抗がスイッチ部分に接続されていても、全く同じ考え方で解くことができます。
    • デルタ-スター変換: より複雑な回路では、直列・並列に分解できない部分が現れることがあります。大学レベルでは、三角形の抵抗接続(Δ)を星形の接続(Y)に変換するデルタ-スター変換というテクニックがあり、本質的には本問題のような回路解析の延長線上にあります。
    • テブナンの定理: ある部分(例えばスイッチ\(S\))を流れる電流だけを知りたい場合、それ以外の回路部分を「一つの等価な電源と一つの等価な抵抗」に置き換えて考える「テブナンの定理」も有効です。これは電位法の考え方をさらに発展させたものです。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 回路の対称性を見る: もし回路に対称性があれば(例えば \(R_1=R_2, R_3=R_4\) など)、電位が等しくなる点が存在し、計算が劇的に簡単になることがあります。
    2. ブリッジの平衡条件を確認する: ホイートストンブリッジの形を見たら、まず対角の抵抗の積(たすき掛け)が等しいか(\(R_1 R_4 = R_2 R_3\))を確認します。もし平衡していれば、中央の導線(スイッチ\(S\))には電流が流れないため、問題が非常に単純化されます。
    3. どこを基準(アース)にするか: 電位法で解く場合、どこを\(0 \, \text{V}\)の基準点に置くと最も計算が楽になるかを見極めるのが重要です。通常は、電池の負極や、多くの配線が集まる点が候補になります。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 回路の接続の誤認:
    • 誤解: スイッチを閉じたときに、\(R_1, R_3\)が直列、\(R_2, R_4\)が直列のままだと考えてしまう。
    • 対策: スイッチや導線は、接続されている全ての点を「同じ点(等電位)」と見なすのが基本です。スイッチ\(S\)を閉じると、PとQは電気的に同じ点になります。この視点で回路図を書き直してみると、\(R_1\)と\(R_2\)が並列、\(R_3\)と\(R_4\)が並列であることが明確になります。
  • 分流の公式の誤用:
    • 誤解: 並列回路で電流が分かれる際、抵抗値に比例して分かれると勘違いする。
    • 対策: 電流は「流れにくい方(抵抗が大きい方)には少ししか流れず、流れやすい方(抵抗が小さい方)に多く流れる」とイメージしましょう。したがって、電流は抵抗の「逆比」に分配される、と覚えるのが正確です。
  • P点とQ点の電位の扱い:
    • 誤解: スイッチが開いているときも、P点とQ点の電位が等しいと思い込む。
    • 対策: P点とQ点の電位が等しくなるのは、両者が抵抗ゼロの導線で結ばれている場合のみです。スイッチが開いているときは、PとQは電気的に切り離されており、それぞれの電位は異なります(実際に計算すると \(V_P = 18 \, \text{V}\), \(V_Q = 6.0 \, \text{V}\) となり、等しくありません)。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 回路の書き直し: 特に(2)のブリッジ回路は、慣れないと接続関係が分かりにくいです。問題の図を、より標準的なひし形のブリッジ回路の形に自分で書き直してみるのが非常に有効です。A点を左端、B点を右端とし、P点とQ点を上下に配置してひし形を描くと、構造が直感的に理解できます。
    • 電流のベクトル図的イメージ: (3)の点Pでの電流則 \(I_1 = I_3 + I_5\) は、ベクトルで言えば \(\vec{I_1} = \vec{I_3} + \vec{I_5}\) のようなものです。流れ込むベクトルと流れ出すベクトルの和が釣り合っているイメージを持つと、式の意味が捉えやすくなります。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 等電位を色分けする: 抵抗がない導線でつながっている部分は全て等電位です。これらの部分を同じ色で塗りつぶすと、回路のどの部分が同じ電位なのかが視覚的に分かり、並列・直列の関係を見抜きやすくなります。
    • 電流の矢印を太く描く: 計算後、各電流の大きさが分かったら、電流が大きいところは太い矢印、小さいところは細い矢印で描き直してみましょう。回路のどこに電流が集中しているかが一目瞭然となり、物理的な描像が深まります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 電力の公式 \(P = E^2/R_0\):
    • 選定理由: (1)と(2)では、回路全体にかかる電圧\(E\)が\(24 \, \text{V}\)で一定です。また、求めたいのは回路全体の消費電力です。このように「全体の電圧」と「全体の抵抗」が分かっている(あるいは求められる)状況で「全体の電力」を求めるには、この公式が最も直接的で計算が簡単だからです。\(P=I^2 R\) を使うには、まず全体の電流\(I\)を計算する必要があり、一手間増えてしまいます。
    • 適用根拠: オームの法則 \(I=E/R_0\) を、電力の基本式 \(P=EI\) に代入することで導かれる、普遍的な関係式です。
  • 分流の法則 \(I_1 = I \times \frac{R_2}{R_1+R_2}\):
    • 選定理由: (3)で、全体の電流\(I\)が\(R_1\)と\(R_2\)の並列部分にどう分配されるかを計算する際に用います。キルヒホッフの法則で連立方程式を立てるよりも、この公式を知っていれば一発で計算できます。
    • 適用根拠: この公式は、並列部分では両方の抵抗にかかる電圧が等しい(\(V = I_1 R_1 = I_2 R_2\))という事実と、電流則(\(I = I_1 + I_2\))を連立させて解くことで導出されます。つまり、キルヒホッフの法則の特定のパターンを公式化したものです。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) スイッチ開・電力計算:
    • 戦略: 合成抵抗を求めてから電力公式に代入する。
    • フロー: ①\(R_1, R_3\)の直列合成 → ②\(R_2, R_4\)の直列合成 → ③\(2\)つのグループの並列合成で\(R_0\)を確定 → ④\(P=E^2/R_0\)で電力を計算。
  2. (2) スイッチ閉・電力比計算:
    • 戦略: 新しい合成抵抗を求め、抵抗の逆比から電力比を計算する。
    • フロー: ①\(R_1, R_2\)の並列合成 → ②\(R_3, R_4\)の並列合成 → ③\(2\)つのグループの直列合成で\(R_0’\)を確定 → ④電力比 \(= R_0/R_0’\) を計算。
  3. (3),(4) スイッチ電流の計算と向き:
    • 戦略: 全電流を求め、分流則で各枝の電流を計算し、最後に電流則でスイッチの電流を求める。
    • フロー: ①全電流 \(I=E/R_0’\) を計算 → ②分流則で\(I_1\)を計算 → ③分流則で\(I_3\)を計算 → ④点Pで電流則 \(I_5 = I_1 – I_3\) を適用 → ⑤\(I_5\)の符号から向きを判断。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 逆数の計算を丁寧に: 並列抵抗の計算では、\(\frac{1}{R} = \frac{1}{R_1} + \frac{1}{R_2}\) のように逆数の和を計算します。通分を間違えたり、最後に逆数に戻すのを忘れたり(\(R\)ではなく\(1/R\)を答えにしてしまう)するミスが多いので、特に注意が必要です。
  • 分数のまま計算する: (2)の\(R_{12}=0.9\), \(R_{34}=2.1\)のような小数は、計算途中で丸めると誤差を生む可能性があります。可能であれば、\(R_{12}=9/10\), \(R_{34}=21/10\) のように分数のまま扱った方が、正確な計算ができます。
  • 検算(別解との比較): (3)では、主たる解法(分流則の組み合わせ)と別解(電位法)の両方で同じ答え \(4.8 \, \text{A}\) が得られました。全く異なるアプローチで同じ結論に至ったことは、計算の正しさを強く裏付けています。このように、複数の解法を試すことは最高の検算になります。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (1)と(2)の比較: スイッチを閉じると、電流が流れる経路が増え(P-Q間)、回路全体の抵抗は下がるはずです。実際に合成抵抗は \(4.8 \, \Omega \rightarrow 3.0 \, \Omega\) と減少しており、妥当です。電圧が一定なので、抵抗が下がれば電力は増加するはずです。実際に電力は\(1.6\)倍に増加しており、これも妥当です。
    • (3)の電流の大きさ: 全電流が\(8.0 \, \text{A}\)であるのに対し、スイッチを流れる電流が\(4.8 \, \text{A}\)というのは、全体の半分以上の電流がスイッチをバイパスすることを示しており、やや大きい印象も受けますが、抵抗値のアンバランス(\(R_1=1.0, R_2=9.0\) と \(R_3=7.0, R_4=3.0\))を考えれば、十分にあり得る値です。
  • 極端な場合を考える(思考実験):
    • もし\(R_3\)が非常に大きかったらどうなるか? P点から下に電流はほとんど流れなくなり、\(I_1\)のほぼ全てがスイッチ\(I_5\)に流れるはずです。式 \(I_5 = I_1 – I_3\) で \(I_3 \rightarrow 0\) となり、\(I_5 \approx I_1\) となることから、式の構造が妥当であることが分かります。
    • もしブリッジが平衡していたら(例えば\(R_4\)が\(21 \, \Omega\)だったら)、\(I_1=I_3\)となるはずで、\(I_5=0\)となります。これも物理的な直感と一致します。

427 コンデンサーを含む回路

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、抵抗とコンデンサーを含む直流回路について、スイッチを操作したときの過渡的な現象(スイッチON直後)と定常状態(十分時間経過後)を正しく理解し、計算する能力を問います。特に、スイッチの切り替えによってコンデンサーの接続状態が変化し、電荷が再配分される様子を追うことが核心となります。

与えられた条件
  • 抵抗: \(R_1 = 200 \, \Omega\), \(R_2 = 300 \, \Omega\), \(R_3 = 100 \, \Omega\)
  • コンデンサー: \(C_1 = 4.0 \, \mu\text{F}\), \(C_2 = 1.0 \, \mu\text{F}\)
  • 電池: \(E = 12 \, \text{V}\) (内部抵抗は無視)
  • 初期条件: \(C_1, C_2\) の電荷は \(0\)
問われていること
  • (1) \(K_1\) を閉じた瞬間の \(R_3\) の電流 \(I_1\)
  • (2) \(K_1\) を閉じて十分時間経過後の \(C_1, C_2\) の電気量 \(Q\)
  • (3) さらに \(K_2\) を閉じて十分時間経過後の \(C_1, C_2\) の電気量 \(Q_1, Q_2\)
  • (4) (3)の過程で \(K_2\) を通って移動した電荷 \(\Delta Q\)
  • (5) (4)の電荷移動に対応する電流の向き

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 設問(2), (3), (4), (5)の別解: 回路の各点の電位を計算する解法
      • 模範解答が各状態の等価回路を考え、ステップごとに電圧や電荷を求めるのに対し、別解では基準電位を設定し、キルヒホッフの法則を用いて回路全体の電位分布を確定させます。その電位情報から、各設問の値を一貫して導出します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 電位概念の深化: 複雑な回路における電位の考え方、特にコンデンサー充電後の定常状態での電位分布を正確に計算する練習になります。
    • 問題の俯瞰的理解: 各部品にかかる電圧や電荷を個別に求めるのではなく、回路全体の「電位の地図」を描くことで、問題の全体像をより俯瞰的に捉える能力が養われます。
    • 解法の汎用性: 電位を基準に考えるアプローチは、より複雑な回路(例えばブリッジ回路など)にも応用できる汎用性の高い解法です。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「コンデンサーを含む直流回路の過渡現象と定常状態」です。コンデンサーの振る舞いが時間と共にどう変わるかを理解することが最大のポイントです。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. スイッチON直後のコンデンサー: 電荷が蓄えられていないコンデンサーは、スイッチを入れた直後、電圧が \(0\) のため「抵抗値 \(0\) の導線(短絡線)」とみなせます。
  2. 十分時間経過後のコンデンサー: 充電が完了したコンデンサーは、直流電流を流さなくなるため「抵抗値が無限大の導線(断線)」とみなせます。
  3. 電荷保存則: 回路中で外部から孤立した部分の総電荷は、スイッチの切り替え前後で保存されます。この法則が、電荷の移動量を求める鍵となります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、\(K_1\) を閉じた直後の等価回路を考え、\(R_3\) に流れる電流を求めます(問1)。
  2. 次に、\(K_1\) を閉じて十分時間が経った後の定常状態の回路を考え、コンデンサーに蓄えられた電気量を求めます(問2)。
  3. さらに \(K_2\) を閉じて十分時間が経った後の、新たな定常状態について同様に電気量を求めます(問3)。
  4. 最後に、(2)と(3)の状態で、回路の孤立部分の電荷を比較し、\(K_2\) を通って移動した電荷量を計算します(問4, 5)。

問(1)

思考の道筋とポイント
スイッチを閉じた「瞬間」のコンデンサーの振る舞いが問われています。初期状態でコンデンサー \(C_1, C_2\) には電荷が蓄えられていないため、両端の電位差は \(0\) です。これは、電気的に「抵抗 \(0\) の導線」とみなせることを意味します。この等価回路を描いて、電流の流れを考えます。

この設問における重要なポイント

  • コンデンサーの短絡(ショート): 初期電荷 \(0\) の \(C_1, C_2\) は、閉じた瞬間には抵抗 \(0\) の導線として機能します。
  • 電流経路の選択: 電流は抵抗のある経路よりも、抵抗のない経路(短絡路)を優先して流れます。その結果、\(R_1, R_2\) には電流が流れなくなります(短絡されます)。
  • 等価回路: 回路は、電池 \(E\) と抵抗 \(R_3\) だけが接続された単純な直列回路とみなせます。

具体的な解説と立式
スイッチ \(K_1\) を閉じた瞬間、電荷が \(0\) のコンデンサー \(C_1, C_2\) は抵抗 \(0\) の導線とみなせます。
このため、抵抗 \(R_1, R_2\) は、\(C_1, C_2\) を通る経路によって短絡(ショート)され、電流は流れません。
したがって、電流は電池 \(E\) から出て、\(C_1, C_2\) を通り、\(R_3\) を経て電池に戻る経路を流れます。このときの等価回路は、電池 \(E\) と抵抗 \(R_3\) のみからなります。
\(R_3\) に流れる電流を \(I_1\) とすると、オームの法則より次式が成り立ちます。
$$ I_1 = \frac{E}{R_3} \quad \cdots ① $$

使用した物理公式

  • オームの法則: \(I = \displaystyle\frac{V}{R}\)
  • スイッチON直後のコンデンサーの振る舞い(抵抗 \(0\) の導線とみなす)
計算過程

①式に与えられた数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
I_1 &= \frac{12}{100} \\[2.0ex]
&= 0.12 \text{ [A]}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

コンデンサーは、空っぽのときは電気をものすごい勢いで通そうとします。そのため、スイッチを入れた一瞬だけは「ただの導線」と同じように振る舞います。この「ただの導線」が抵抗 \(R_1\) と \(R_2\) への道をショートカットしてしまうため、電気は \(R_1\) と \(R_2\) を避けて、コンデンサーと \(R_3\) を通るルートだけを流れます。

結論と吟味

\(K_1\) を閉じた瞬間に \(R_3\) に流れる電流は \(0.12 \, \text{A}\) です。
この値は、回路が最終的に落ち着く定常状態の電流(後述の問(2)で計算)とは異なる、過渡的な現象における値です。

解答 (1) \(0.12 \, \text{A}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
「時間が十分経過した」という記述は、コンデンサーの充電が完了した定常状態を指します。充電が完了したコンデンサーは直流電流を流さなくなるため、「断線」しているとみなせます。このときの定常電流が流れる経路と、コンデンサーにかかる電圧を正しく求めることが鍵となります。

この設問における重要なポイント

  • コンデンサーの断線: 十分時間が経過すると、コンデンサー \(C_1, C_2\) には電流が流れなくなります。
  • 定常電流の経路: 電流は、コンデンサーの枝を避け、\(E \rightarrow R_1 \rightarrow R_2 \rightarrow R_3 \rightarrow E\) という一つのループのみを流れます。つまり、\(R_1, R_2, R_3\) は直列接続となります。
  • コンデンサーの電圧: \(C_1\) と \(C_2\) は直列に接続されており、この合成コンデンサーの両端には、抵抗 \(R_1\) と \(R_2\) の直列部分にかかる電圧と等しい電圧がかかります。

具体的な解説と立式
十分時間が経過すると、コンデンサー \(C_1, C_2\) への充電が完了し、電流が流れなくなります。
このとき、定常電流 \(I\) は \(R_1, R_2, R_3\) の直列回路を流れます。回路全体の抵抗は \(R_1+R_2+R_3\) なので、電流 \(I\) は次式で与えられます。
$$ I = \frac{E}{R_1+R_2+R_3} \quad \cdots ① $$
コンデンサー \(C_1, C_2\) は直列に接続されており、この部分には抵抗 \(R_1\) と \(R_2\) の両端にかかる電圧 \(V_{AB}\) が印加されます。
$$ V_{AB} = I(R_1+R_2) \quad \cdots ② $$
\(C_1, C_2\) の直列合成容量を \(C\) とすると、
$$ \frac{1}{C} = \frac{1}{C_1} + \frac{1}{C_2} $$
より
$$ C = \frac{C_1 C_2}{C_1+C_2} \quad \cdots ③ $$
直列接続のコンデンサーに蓄えられる電気量 \(Q\) は等しく、合成容量 \(C\) に電圧 \(V_{AB}\) をかけたものに等しくなります。
$$ Q = C V_{AB} \quad \cdots ④ $$
したがって、\(C_1, C_2\) に蓄えられる電気量はともに \(Q\) となります。

使用した物理公式

  • オームの法則: \(I = \displaystyle\frac{V}{R}\)
  • コンデンサーの直列合成容量: \(\displaystyle\frac{1}{C} = \frac{1}{C_1} + \frac{1}{C_2}\)
  • コンデンサーの基本式: \(Q = CV\)
計算過程

まず、①式から定常電流 \(I\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
I &= \frac{12}{200+300+100} \\[2.0ex]
&= \frac{12}{600} \\[2.0ex]
&= 0.020 \text{ [A]}
\end{aligned}
$$
次に、②式からコンデンサー部分にかかる電圧 \(V_{AB}\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
V_{AB} &= 0.020 \times (200+300) \\[2.0ex]
&= 0.020 \times 500 \\[2.0ex]
&= 10 \text{ [V]}
\end{aligned}
$$
③式から合成容量 \(C\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
C &= \frac{4.0 \times 1.0}{4.0+1.0} \\[2.0ex]
&= \frac{4.0}{5.0} \\[2.0ex]
&= 0.80 \text{ [}\mu\text{F]}
\end{aligned}
$$
最後に、④式から電気量 \(Q\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
Q &= (0.80 \times 10^{-6}) \times 10 \\[2.0ex]
&= 8.0 \times 10^{-6} \text{ [C]} \\[2.0ex]
&= 8.0 \text{ [}\mu\text{C]}
\end{aligned}
$$
直列接続なので、\(C_1, C_2\) に蓄えられる電気量は等しく、ともに \(8.0 \, \mu\text{C}\) です。

この設問の平易な説明

時間が経ってコンデンサーが電気で満腹になると、電気はコンデンサーの道を通れなくなります。その結果、電気は \(R_1, R_2, R_3\) をぐるっと一周するルートだけを流れるようになります。このとき、\(C_1\) と \(C_2\) は直列につながれた状態で、隣にある \(R_1\) と \(R_2\) を合わせた部分にかかる電圧と同じ電圧を受け止めています。この電圧と、\(C_1, C_2\) を合体させた容量から、蓄えられた電気の量を計算します。

結論と吟味

\(K_1\) を閉じて十分時間が経過したとき、\(C_1, C_2\) に蓄えられる電気量は、それぞれ \(8.0 \, \mu\text{C}\) です。
コンデンサーにかかる電圧 \(10 \, \text{V}\) は、電池の電圧 \(12 \, \text{V}\) よりも小さいですが、これは抵抗 \(R_3\) で \(2 \, \text{V}\) の電圧降下があるためで、物理的に妥当です。

解答 (2) \(C_1: 8.0 \, \mu\text{C}\), \(C_2: 8.0 \, \mu\text{C}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
\(K_2\) を閉じた状態で再び「時間が十分経過した」定常状態を考えます。コンデンサーが断線とみなせる点は同じですが、\(K_2\) が閉じたことでコンデンサーの接続の仕方が変わります。\(C_1\) は \(R_1\) と、\(C_2\) は \(R_2\) とそれぞれ並列に接続されたとみなせるようになります。

この設問における重要なポイント

  • 定常電流は不変: コンデンサー部分には定常電流が流れないため、電流が流れるメインのループは問(2)と変わらず、\(R_1, R_2, R_3\) の直列回路です。したがって、定常電流 \(I\) の値は問(2)と同じです。
  • 並列接続への変化: スイッチ \(K_2\) が閉じることで、\(C_1\) の両端の電位差は \(R_1\) の両端の電位差と等しくなります。同様に、\(C_2\) の電位差は \(R_2\) の電位差と等しくなります。
  • 個別の電圧計算: 各抵抗での電圧降下 \(V=IR\) を計算し、それを各コンデンサーの電圧として電気量を求めます。

具体的な解説と立式
\(K_2\) を閉じて十分時間が経過しても、定常状態ではコンデンサーに電流は流れません。したがって、定常電流 \(I\) は問(2)と同じく \(R_1, R_2, R_3\) の直列回路を流れ、その値も同じです。
$$ I = 0.020 \text{ [A]} $$
このとき、コンデンサー \(C_1\) は抵抗 \(R_1\) と並列に接続されているため、\(C_1\) にかかる電圧 \(V_1\) は \(R_1\) の両端の電圧に等しくなります。
$$ V_1 = I R_1 \quad \cdots ① $$
同様に、コンデンサー \(C_2\) は抵抗 \(R_2\) と並列に接続されているため、\(C_2\) にかかる電圧 \(V_2\) は \(R_2\) の両端の電圧に等しくなります。
$$ V_2 = I R_2 \quad \cdots ② $$
それぞれのコンデンサーに蓄えられる電気量 \(Q_1, Q_2\) は、\(Q=CV\) の公式から求められます。
$$ Q_1 = C_1 V_1 \quad \cdots ③ $$
$$ Q_2 = C_2 V_2 \quad \cdots ④ $$

使用した物理公式

  • オームの法則: \(V = IR\)
  • コンデンサーの基本式: \(Q = CV\)
計算過程

①式、②式を用いて、各コンデンサーにかかる電圧 \(V_1, V_2\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
V_1 &= 0.020 \times 200 \\[2.0ex]
&= 4.0 \text{ [V]}
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
V_2 &= 0.020 \times 300 \\[2.0ex]
&= 6.0 \text{ [V]}
\end{aligned}
$$
③式、④式を用いて、各コンデンサーに蓄えられる電気量 \(Q_1, Q_2\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
Q_1 &= (4.0 \times 10^{-6}) \times 4.0 \\[2.0ex]
&= 16 \times 10^{-6} \text{ [C]} \\[2.0ex]
&= 16 \text{ [}\mu\text{C]}
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
Q_2 &= (1.0 \times 10^{-6}) \times 6.0 \\[2.0ex]
&= 6.0 \times 10^{-6} \text{ [C]} \\[2.0ex]
&= 6.0 \text{ [}\mu\text{C]}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

今度は、真ん中の道(スイッチ \(K_2\))が開通しました。それでも、満腹のコンデンサーには電気が流れないので、メインストリート(\(R_1, R_2, R_3\))を流れる電気の量は変わりません。しかし、コンデンサーのつながり方が変わります。\(C_1\) は \(R_1\) の、\(C_2\) は \(R_2\) の「真横」に並ぶ形になるので、それぞれ隣の抵抗と全く同じ電圧がかかります。それぞれの電圧と容量から、蓄えられる電気の量を計算します。

結論と吟味

\(K_2\) を閉じて十分時間が経過したとき、\(C_1\) には \(16 \, \mu\text{C}\)、\(C_2\) には \(6.0 \, \mu\text{C}\) の電気が蓄えられます。
各コンデンサーにかかる電圧の和は \(V_1 + V_2 = 4.0 + 6.0 = 10 \, \text{V}\) となり、これは問(2)で求めたコンデンサー部分全体にかかる電圧 \(V_{AB}\) と一致します。これは、\(K_2\) を閉じても全体の電圧配分は変わらないことを示しており、結果は妥当です。

解答 (3) \(C_1: 16 \, \mu\text{C}\), \(C_2: 6.0 \, \mu\text{C}\)

問(4), (5)

思考の道筋とポイント
この問題は、電荷保存則を用いて解くのが定石です。スイッチ \(K_2\) を閉じる前後で、回路の他の部分から電気的に孤立している部分を探します。この問題では、点Nに接続されている「\(C_1\) の右側極板」と「\(C_2\) の左側極板」からなる部分が孤立系をなします。この部分の総電荷が変化したとすれば、その変化分はスイッチ \(K_2\) を通って移動した電荷に他なりません。

この設問における重要なポイント

  • 孤立系の特定: 点Nに接続された導体部分(\(C_1\)の右極板と\(C_2\)の左極板)は、\(K_2\) が開いている間は回路の他の部分から孤立しています。
  • 電荷保存則の応用: \((\text{変化前の総電荷}) + (\text{流入した電荷}) = (\text{変化後の総電荷})\) という関係を使います。ここで「流入した電荷」が、\(K_2\) を通って移動した電荷 \(\Delta Q\) にあたります。
  • 極板の符号: 各状態において、コンデンサーのどちらの極板が正でどちらが負になるかを正確に把握することが不可欠です。

具体的な解説と立式
点Nに接続されている \(C_1\) の右側極板と \(C_2\) の左側極板からなる部分の総電荷の変化を考えます。

状態1: \(K_2\) を閉じる前(問(2)の状態)

問(2)より、\(C_1, C_2\) には \(Q = 8.0 \, \mu\text{C}\) の電荷が蓄えられています。
コンデンサー部分にはA点(電位が高い)からB点(電位が低い)へ電圧がかかっています。
よって、\(C_1\) の左極板(A側)は \(+Q\)、右極板(N側)は \(-Q\)。
\(C_2\) の左極板(N側)は \(+Q\)、右極板(B側)は \(-Q\)。
したがって、N点に接続された部分の総電荷 \(Q_{\text{N,前}}\) は、
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{N,前}} &= (-Q) + (+Q) \\[2.0ex]
&= 0 \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$

状態2: \(K_2\) を閉じた後(問(3)の状態)

問(3)より、\(C_1\) には \(Q_1 = 16 \, \mu\text{C}\)、\(C_2\) には \(Q_2 = 6.0 \, \mu\text{C}\) の電荷が蓄えられています。
\(C_1\) にはA点(高電位)とM点(N点と同じ電位)の間に電圧がかかるので、左極板(A側)は \(+Q_1\)、右極板(N側)は \(-Q_1\)。
\(C_2\) にはN点(高電位)とB点(低電位)の間に電圧がかかるので、左極板(N側)は \(+Q_2\)、右極板(B側)は \(-Q_2\)。
したがって、N点に接続された部分の総電荷 \(Q_{\text{N,後}}\) は、
$$ Q_{\text{N,後}} = (-Q_1) + (+Q_2) \quad \cdots ② $$

\(K_2\) を通ってMからNへ移動した電荷を \(\Delta Q\) とすると、電荷保存則より、
$$ Q_{\text{N,前}} + \Delta Q = Q_{\text{N,後}} $$
よって、
$$ \Delta Q = Q_{\text{N,後}} – Q_{\text{N,前}} \quad \cdots ③ $$

使用した物理公式

  • 電荷保存則
計算過程

②式に問(3)の結果を代入して \(Q_{\text{N,後}}\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{N,後}} &= (-16 \, \mu\text{C}) + (+6.0 \, \mu\text{C}) \\[2.0ex]
&= -10 \, \mu\text{C}
\end{aligned}
$$
③式に①と上の結果を代入して \(\Delta Q\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\Delta Q &= (-10 \, \mu\text{C}) – 0 \\[2.0ex]
&= -10 \, \mu\text{C}
\end{aligned}
$$
これは、MからNへ \(-10 \, \mu\text{C}\) の電荷が移動したこと、すなわち、NからMへ \(+10 \, \mu\text{C}\) の正電荷が移動したことを意味します。
電流の向きは正電荷の移動の向きと定義されるため、電流はNからMへ流れます。

この設問の平易な説明

スイッチ \(K_2\) を閉じる前と後で、真ん中の孤立した部分(\(C_1\)の右側と\(C_2\)の左側がつながった部分)の電気の量を比べます。最初は、プラスとマイナスの電気が打ち消し合って、合計はゼロでした。スイッチを閉じた後は、計算すると合計でマイナス10マイクロクーロンになりました。この「マイナス10」の電気は、スイッチ \(K_2\) を通ってMからNへやってきたはずです。マイナスの電気がMからNへ動いたということは、プラスの電気(つまり電流)はその逆、NからMへ動いたことになります。

結論と吟味

(4) \(K_2\) を通って移動した電荷は、MからNの向きを正とすると \(-10 \, \mu\text{C}\) です。
(5) 電流の向きは正電荷の移動の向きなので、NからMの向きとなります。
スイッチを閉じることでコンデンサーの接続状態が変わり、電荷の再配分が起こるという現象を、電荷保存則を用いて定量的に説明できました。

解答 (4) \(-10 \, \mu\text{C}\)
解答 (5) NからMの向き
別解: 回路の各点の電位を計算する解法

思考の道筋とポイント
この別解では、回路の各点の電位を具体的に計算することで、各設問に答えていきます。電池の負極側を電位の基準点(\(0 \, \text{V}\))と定め、定常状態における各点の電位を求めていくのが基本方針です。コンデンサーにかかる電圧は、両端の点の電位差として直接計算できます。

この設問における重要なポイント

  • 電位の基準設定: 回路の一点(電池の負極)の電位を \(0 \, \text{V}\) と定める。
  • 各点の電位の特定: 定常電流 \(I\) を求め、各抵抗 \(R\) を通過する際の電圧降下 \(IR\) を計算して、回路図上の主要な点(A, M, B)の電位を決定する。
  • コンデンサーの電圧と電荷: コンデンサーの両端の電位差 \(V\) を求め、\(Q=CV\) から電荷を計算する。

具体的な解説と立式
電池の負極に接続された導線部分の電位を \(0 \, \text{V}\) とします。すると、電池の正極側の電位は \(12 \, \text{V}\) となります。
定常電流 \(I=0.020 \, \text{A}\) は主解法と同様に求められます。
まず、主要な点であるA, M, Bの電位を特定します。

  • A点の電位 \(V_A\): A点は電池の正極に直接つながっているため、その電位は \(V_A = E = 12 \, \text{V}\) です。
  • M点の電位 \(V_M\): M点は抵抗\(R_1\)と\(R_2\)の間にあります。A点から抵抗\(R_1\)で電圧降下した点なので、\(V_M = V_A – I R_1\) です。
  • B点の電位 \(V_B\): B点は抵抗\(R_2\)と\(R_3\)の間にあります。M点から抵抗\(R_2\)でさらに電圧降下した点なので、\(V_B = V_M – I R_2\) です。

(2) \(K_2\) が開いている状態

N点は孤立しており、\(C_1\) と \(C_2\) が直列なので、蓄えられる電荷が等しくなります。\(C_1\) にかかる電圧は \(V_A – V_N\)、\(C_2\) にかかる電圧は \(V_N – V_B\) です。
$$ C_1(V_A – V_N) = C_2(V_N – V_B) $$
この式を \(V_N\) について解くと、
$$ V_N = \frac{C_1 V_A + C_2 V_B}{C_1+C_2} \quad \cdots ① $$
電気量 \(Q\) は \(Q = C_1(V_A – V_N)\) で求められます。

(3) \(K_2\) が閉じている状態

N点はスイッチ\(K_2\)によってM点と等電位になります。したがって、N点の電位 \(V_N’\) は \(V_M\) に等しくなります。
\(C_1\) にかかる電圧 \(V_1\) は、
$$ V_1 = V_A – V_N’ $$
\(C_2\) にかかる電圧 \(V_2\) は、
$$ V_2 = V_N’ – V_B $$
電気量 \(Q_1, Q_2\) は \(Q_1 = C_1 V_1\), \(Q_2 = C_2 V_2\) で求められます。

(4), (5) 電荷移動

\(K_2\) を閉じる前後のN側極板の総電荷を比較します。
閉じる前の総電荷 \(Q_{\text{N,前}}\) は、
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{N,前}} &= -C_1(V_A – V_N) + C_2(V_N – V_B) \\[2.0ex]
&= -Q + Q \\[2.0ex]
&= 0
\end{aligned}
$$
閉じた後の総電荷 \(Q_{\text{N,後}}\) は、
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{N,後}} &= -Q_1 + Q_2 \\[2.0ex]
&= -C_1 V_1 + C_2 V_2
\end{aligned}
$$
移動した電荷 \(\Delta Q\) は \(\Delta Q = Q_{\text{N,後}} – Q_{\text{N,前}}\) で計算します。

計算過程

(2)の計算

まず、各点の電位を計算します。
$$
\begin{aligned}
I &= 0.020 \, \text{A} \\[2.0ex]
V_A &= 12 \, \text{V}
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
V_M &= V_A – I R_1 \\[2.0ex]
&= 12 – 0.020 \times 200 \\[2.0ex]
&= 8.0 \, \text{V}
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
V_B &= V_M – I R_2 \\[2.0ex]
&= 8.0 – 0.020 \times 300 \\[2.0ex]
&= 2.0 \, \text{V}
\end{aligned}
$$
①式よりN点の電位 \(V_N\) は、
$$
\begin{aligned}
V_N &= \frac{(4.0 \times 10^{-6}) \times 12 + (1.0 \times 10^{-6}) \times 2.0}{(4.0+1.0) \times 10^{-6}} \\[2.0ex]
&= \frac{48+2.0}{5.0} \\[2.0ex]
&= 10 \, \text{V}
\end{aligned}
$$
電気量 \(Q\) は、
$$
\begin{aligned}
Q &= C_1(V_A – V_N) \\[2.0ex]
&= (4.0 \times 10^{-6}) \times (12 – 10) \\[2.0ex]
&= 8.0 \times 10^{-6} \text{ [C]} \\[2.0ex]
&= 8.0 \, \mu\text{C}
\end{aligned}
$$

(3)の計算

N点の電位は \(V_N’ = V_M = 8.0 \, \text{V}\) となります。
\(C_1\) にかかる電圧 \(V_1\) は、
$$
\begin{aligned}
V_1 &= V_A – V_N’ \\[2.0ex]
&= 12 – 8.0 \\[2.0ex]
&= 4.0 \, \text{V}
\end{aligned}
$$
\(C_2\) にかかる電圧 \(V_2\) は、
$$
\begin{aligned}
V_2 &= V_N’ – V_B \\[2.0ex]
&= 8.0 – 2.0 \\[2.0ex]
&= 6.0 \, \text{V}
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
Q_1 &= C_1 V_1 \\[2.0ex]
&= (4.0 \times 10^{-6}) \times 4.0 \\[2.0ex]
&= 16 \, \mu\text{C}
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
Q_2 &= C_2 V_2 \\[2.0ex]
&= (1.0 \times 10^{-6}) \times 6.0 \\[2.0ex]
&= 6.0 \, \mu\text{C}
\end{aligned}
$$

(4), (5)の計算

\(Q_{\text{N,前}} = 0\) です。
\(Q_{\text{N,後}}\) は、
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{N,後}} &= -Q_1 + Q_2 \\[2.0ex]
&= -16 \, \mu\text{C} + 6.0 \, \mu\text{C} \\[2.0ex]
&= -10 \, \mu\text{C}
\end{aligned}
$$
移動した電荷 \(\Delta Q\) は、
$$
\begin{aligned}
\Delta Q &= Q_{\text{N,後}} – Q_{\text{N,前}} \\[2.0ex]
&= -10 \, \mu\text{C} – 0 \\[2.0ex]
&= -10 \, \mu\text{C}
\end{aligned}
$$
負電荷がMからNへ移動したので、電流はNからMの向きです。

この設問の平易な説明

回路の各地点の「高さ(電位)」を測る方法です。電池のマイナス側を地面(高さ0V)と決めると、プラス側は高さ12Vになります。電気が抵抗を通るたびに高さが下がる(電圧降下)ことを利用して、A, M, Bといった各地点の高さを計算します。コンデンサーにかかる電圧は、その両端の地点の高さの差です。この方法で、スイッチを切り替える前と後での各コンデンサーの電気量を計算し、孤立部分の電気量の変化から、スイッチを通って移動した電気の量を突き止めます。

結論と吟味

電位を基準に考えることで、回路の各部分の状態を系統的に、かつ一貫した方法で求めることができます。特に、コンデンサーが直列か並列かといった見かけ上の接続方法に惑わされず、両端の電位差という本質的な量から電気量を計算できるため、より複雑な回路にも対応しやすい強力な解法です。すべての結果が主解法と一致し、妥当性が確認できました。


【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • コンデンサーの過渡状態と定常状態の理解:
    • 核心: コンデンサーの振る舞いは、直流回路において時間と共に劇的に変化します。この問題の根幹は、その二つの状態を正しくモデル化できるかどうかにかかっています。
    • 理解のポイント:
      • スイッチON直後(過渡状態): 電荷が空のコンデンサーは、電圧が \(0\) なので「抵抗値 \(0\) の導線(短絡)」として扱います。電流は抵抗を避けてコンデンサー側を優先的に流れます。
      • 十分時間経過後(定常状態): 充電が完了したコンデンサーは、それ以上直流電流を流せなくなるため「抵抗値が無限大の導線(断線)」として扱います。電流はコンデンサーの存在する経路を完全に避けて流れます。
  • 電荷保存則の応用:
    • 核心: スイッチの切り替えなどによって回路構成が変化する際、外部から電気的に孤立した部分の総電荷は変化の前後で保存されます。
    • 理解のポイント: 問(4)のように、ある経路を通過した電荷量を問われた場合、その経路に接続されている「孤立部分」を探し出すのが定石です。この問題では「\(C_1\) の右極板と \(C_2\) の左極板」がその孤立部分にあたります。変化前後の総電荷の差が、まさにその経路を通って流出入した電荷量となります。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • RC回路の時定数: スイッチを入れてから定常状態に達するまでの、電流やコンデンサーの電荷が時間的にどう変化するかを問う問題。\(I = I_0 e^{-t/RC}\) のような指数関数的な変化を扱います。
    • 複数のスイッチを持つ回路: 複数のスイッチを異なるタイミングで操作する問題。各操作の直後と十分時間経過後の状態を、その都度正確にモデル化し直す必要があります。
    • ブリッジ回路とコンデンサー: ホイートストンブリッジの中央にコンデンサーが接続されている問題。ブリッジが平衡しているかどうかで、コンデンサーにかかる電圧や充電される電荷の有無が変わります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 時間軸を明確にする: 問題文の「〜した瞬間」「十分時間が経過した後」という言葉に印をつけ、どの時間における状態を問われているのかを明確に区別します。
    2. 等価回路を描く: 各状態(瞬間、定常)に応じて、コンデンサーを「導線」や「断線」に置き換えた等価回路図を必ず描きましょう。これにより、電流の経路や電圧のかかり方が視覚的に明らかになります。
    3. 孤立部分を探す: 電荷の移動量を問われたら、まず回路図を眺めて、スイッチ操作の前後で外部から孤立している導体部分がないかを探します。その部分の電荷保存を立式するのが最も確実な解法です。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 過渡状態と定常状態の混同:
    • 誤解: スイッチを入れた直後から、コンデンサーを断線とみなして計算してしまう。
    • 対策: 「瞬間」と「十分後」は全く別の世界だと意識すること。それぞれの状態に対応するコンデンサーの振る舞い(導線 or 断線)を条件反射で使い分けられるように訓練しましょう。
  • コンデンサーの電圧の誤認:
    • 誤解: 問(2)で、\(C_1, C_2\) に電池の電圧 \(12 \, \text{V}\) がそのままかかると考えてしまう。
    • 対策: コンデンサーにかかる電圧は、必ずその両端の電位差です。定常状態では、コンデンサーと並列に接続されている抵抗部分の電圧降下を計算し、それをコンデンサーの電圧としなければなりません。必ず回路図上で電圧を計算したい区間を明確にしましょう。
  • 電荷保存則を適用する部分の間違い:
    • 誤解: 孤立していない部分で電荷保存則を立てようとしてしまう。
    • 対策: 孤立部分とは「その部分を囲んだとき、境界線をまたぐ導線が、考えているスイッチ(この問題では \(K_2\))しかない」部分のことです。電池や他の抵抗につながっている部分は孤立系ではありません。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 水の流れのアナロジー: 回路を水路、電流を水流、抵抗を水車、コンデンサーを「ゴム膜で仕切られたタンク」とイメージします。
      • 瞬間: 空のタンク(コンデンサー)に水を流し込むと、ゴム膜が伸びきるまでは勢いよく水が流れ込みます(電流が流れる)。
      • 定常状態: ゴム膜がパンパンに張りきると(充電完了)、タンクへの水の流れは止まります(電流が流れない)。水はタンクを迂回する水路(抵抗回路)だけを流れるようになります。
      • \(K_2\) を閉じる: 新しい水路(\(K_2\))を開通させると、タンク内のゴム膜の張り具合(電荷の分布)が変わり、安定するまで水が再移動します。
    • 等価回路図の活用: 各設問で問われている状況(瞬間、定常、\(K_2\) 閉成後)ごとに、簡単な等価回路図を描くことが極めて有効です。複雑な元の回路図から、その瞬間に機能している部分だけを抜き出して描くことで、思考が整理されます。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 電流経路の明示: 等価回路図には、電流が流れる経路を矢印で明確に描き込みましょう。
    • 電圧の書き込み: 各抵抗やコンデンサーの両端に、電圧 \(V_1, V_2\) などを書き込むと、立式がしやすくなります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • コンデンサーの基本式 \(Q=CV\):
    • 選定理由: コンデンサーの最も基本的な性質(蓄える電荷量は、静電容量と電圧に比例する)を表す公式だからです。コンデンサーに関する問題では、ほぼ必ず使用します。
    • 適用根拠: この関係は、コンデンサーの定義そのものです。電圧 \(V\) が分かれば電荷 \(Q\) が、\(Q\) が分かれば \(V\) が求まります。
  • オームの法則 \(V=IR\):
    • 選定理由: 回路の抵抗部分における電流と電圧の関係を記述するための基本法則です。定常状態での電流や、各抵抗での電圧降下を計算するために不可欠です。
    • 適用根拠: 多くの導体において、流れる電流と電圧が比例するという実験事実に基づいた、電気回路の基本中の基本です。
  • 電荷保存則:
    • 選定理由: 問(4)のように、回路の構成が変化する際に「移動した電荷量」を問われた場合に最も有効な法則だからです。直接追跡するのが難しい電荷の移動を、変化前後の状態量の差から間接的に求めることができます。
    • 適用根拠: 電荷は自然発生したり消滅したりしない、という物理学の根本原理に基づいています。これにより、孤立した系の総電荷は不変であると保証されます。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) \(K_1\) ON直後:
    • 戦略: コンデンサーを「導線」とみなし、短絡される抵抗を特定して等価回路を描く。
    • フロー: ① \(C_1, C_2\) を導線に置き換える → ② \(R_1, R_2\) が短絡されることを確認 → ③ 回路は \(E\) と \(R_3\) のみと判断 → ④ オームの法則で \(I_1\) を計算。
  2. (2) \(K_1\) ON十分後:
    • 戦略: コンデンサーを「断線」とみなし、定常電流の経路と、コンデンサー部分にかかる電圧を求める。
    • フロー: ① \(C_1, C_2\) の枝を断線とみなす → ② 定常電流 \(I\) が \(R_1, R_2, R_3\) の直列回路を流れると判断し、\(I\) を計算 → ③ \(C_1, C_2\) の直列合成コンデンサーにかかる電圧 \(V_{AB}\) を \(I(R_1+R_2)\) で計算 → ④ \(C_1, C_2\) の合成容量 \(C\) を計算 → ⑤ \(Q=CV_{AB}\) で電荷を計算。
  3. (3) \(K_2\) ON十分後:
    • 戦略: 再びコンデンサーを「断線」とみなすが、接続形態が変わったことに注意する。
    • フロー: ① 定常電流 \(I\) は(2)と同じであることを確認 → ② \(C_1\) は \(R_1\) と、\(C_2\) は \(R_2\) と並列になると判断 → ③ \(C_1\) の電圧 \(V_1=IR_1\)、\(C_2\) の電圧 \(V_2=IR_2\) を計算 → ④ \(Q_1=C_1V_1\), \(Q_2=C_2V_2\) で各電荷を計算。
  4. (4), (5) 電荷移動:
    • 戦略: 孤立部分(N点周り)の、\(K_2\) ON前後の総電荷を比較する。
    • フロー: ① N点に接続される極板の電荷を、(2)の状態について求める(\(Q_{\text{N,前}}\)) → ② 同様に、(3)の状態について求める(\(Q_{\text{N,後}}\)) → ③ 差 \(\Delta Q = Q_{\text{N,後}} – Q_{\text{N,前}}\) を計算 → ④ \(\Delta Q\) の符号から電荷の移動方向と電流の向きを判断。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 単位の換算に注意: 電気容量がマイクロファラッド(\(\mu\text{F}\))で与えられているので、計算時には \(10^{-6}\) を忘れずに掛けること。最終的な答えを \(\mu\text{C}\) で求めるときに、再度 \(10^6\) を掛けて調整します。\(Q = (0.80 \, \mu\text{F}) \times (10 \, \text{V}) = 8.0 \, \mu\text{C}\) のように、\(\mu\) をつけたまま計算するとミスが減ります。
  • 極板の符号を明確に: 電荷を計算する際は、コンデンサーのどちらの極板が正でどちらが負になるかを、必ず図に書き込みましょう。電位の高い方につながる極板が正になります。これを間違えると、問(4)の計算で符号が逆になってしまいます。
  • 段階的な計算: 問(2)や(3)では、いきなり一つの式で答えを出そうとせず、「①定常電流を求める → ②各部分の電圧を求める → ③電荷を求める」のように、段階を分けて計算を進めることで、間違いを発見しやすくなります。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (2)の電圧: コンデンサー部分にかかる電圧 \(V_{AB}=10 \, \text{V}\) は、電源電圧 \(E=12 \, \text{V}\) より小さい。これは、抵抗 \(R_3\) で電圧降下 \(IR_3 = 0.020 \times 100 = 2 \, \text{V}\) が起きているためで、\(10 \, \text{V} + 2 \, \text{V} = 12 \, \text{V}\) となり、キルヒホッフの第2法則を満たしており妥当です。
    • (3)の電圧: \(C_1\) の電圧 \(V_1=4 \, \text{V}\) と \(C_2\) の電圧 \(V_2=6 \, \text{V}\) の和は \(10 \, \text{V}\) となり、\(K_2\) を閉じる前のコンデンサー部分全体の電圧と一致します。これも物理的に整合性が取れています。
    • (4)の電荷移動: \(K_2\) を閉じる前、N点の周りの電荷は \(+8 \, \mu\text{C}\) と \(-8 \, \mu\text{C}\) で釣り合っていました。閉じた後は、\(C_1\) の負電荷が \(-16 \, \mu\text{C}\) に増え、\(C_2\) の正電荷が \(+6 \, \mu\text{C}\) に減りました。全体として負の電荷が増えているので、外部から負の電荷が流れ込んできた(\(\Delta Q = -10 \, \mu\text{C}\))という結果は直感的にも妥当です。
  • 別解との比較:
    • この問題では、「等価回路」で考える方法と、「各点の電位」で考える別解がありました。全く異なるアプローチ(電圧を相対的に見るか、絶対的な値で見るか)にもかかわらず、全ての設問で同じ答えにたどり着いたことは、両方の解法の正しさと、自身の計算の正確さを裏付ける強力な証拠となります。
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428 電流計と電圧計の内部抵抗

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、電流計と電圧計が理想的な測定器ではなく、内部抵抗を持つことによって測定値に誤差(系統誤差)が生じる状況を扱います。2種類の接続方法について、それぞれ測定値がどのように表されるかを理解し、どちらの接続方法がより正確な値を与えるかを条件に応じて考察する能力が問われます。

与えられた条件
  • 未知抵抗の抵抗値: \(R\)
  • 電流計の内部抵抗: \(r_A\)
  • 電圧計の内部抵抗: \(r_V\)
  • 電池の内部抵抗は無視できる
  • 図1の測定値: 電圧 \(V_1\), 電流 \(I_1\)
  • 図2の測定値: 電圧 \(V_2\), 電流 \(I_2\)
  • 具体的な測定値: \(V_1 = 2.20 \, \text{V}\), \(I_1 = 20.0 \, \text{mA}\), \(V_2 = 1.98 \, \text{V}\), \(I_2 = 22.0 \, \text{mA}\)
問われていること
  • (1) 図1における測定値 \(R_1 = \displaystyle\frac{V_1}{I_1}\) の式表現
  • (2) 図2における測定値 \(R_2 = \displaystyle\frac{V_2}{I_2}\) の式表現
  • (3) 未知抵抗 \(R\) が小さい場合に、より良い近似値を与える回路の選択
  • (4) \(r_A\), \(r_V\), \(R\) の具体的な値

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 設問(3)の別解: 相対誤差を比較する解法
      • 模範解答が測定値と真の値との差である「絶対誤差」を比較するのに対し、別解では真の値に対する誤差の割合である「相対誤差」を計算し、その大小を比較します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 誤差評価の深化: 測定値の良し悪しを評価する際には、誤差の絶対的な大きさだけでなく、真の値に対する相対的な割合が重要になる場面が多いことを学べます。これは測定の「精度」を議論する上でより本質的な考え方です。
    • 極限思考の応用: 「抵抗値が小さい」という条件を、\(R\) が\(0\)に近づく極限として考えることで、複雑な計算なしにどちらの誤差が支配的になるかを直感的に判断する物理的な思考力を養います。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、結論は「図2の回路の方がよりよい近似値を与える」という点で完全に一致します。

この問題のテーマは「電流計・電圧計の内部抵抗による測定誤差」です。測定器自体が回路の一部として振る舞うことを理解するのがポイントです。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. オームの法則: 回路の各部分における電圧、電流、抵抗の関係 (\(V=RI\)) を記述する基本法則です。
  2. 抵抗の直列接続: 複数の抵抗が一直線に接続された場合、全体の抵抗は各抵抗の和 (\(R_{\text{合成}} = R_1 + R_2\)) となります。
  3. 抵抗の並列接続: 複数の抵抗が並行に接続された場合、全体の抵抗の逆数は各抵抗の逆数の和 (\(\displaystyle\frac{1}{R_{\text{合成}}} = \displaystyle\frac{1}{R_1} + \displaystyle\frac{1}{R_2}\)) となります。
  4. キルヒホッフの法則: 回路網における電圧と電流の関係を記述する法則。特に、閉回路の電圧降下の和が起電力の和に等しいという第2法則が重要です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 図1、図2の各回路について、測定される電圧と電流の関係を、内部抵抗を含めて正確に立式します。
  2. (1), (2)では、立式した関係から測定値 \(R_1, R_2\) を求めます。
  3. (3)では、測定値 \(R_1, R_2\) と真の値 \(R\) との差(誤差)を計算し、条件に応じてどちらの誤差が小さいかを比較します。
  4. (4)では、与えられた具体的な測定値と(1), (2)で導いた関係式、そして回路全体の電圧の関係式を連立させて、未知数 \(r_A, r_V, R\) を求めます。

問(1)

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