「リードα 物理基礎・物理 改訂版」徹底解説!【第24章】基本例題~基本問題414

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基本例題

基本例題78 電流計の分流器, 電圧計の倍率器

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「電流計・電圧計の測定範囲の拡大(分流器と倍率器)」です。手持ちの測定器の能力を超える大きな電流や電圧を、どのように工夫して測定するかを問う問題であり、電気回路の基本法則を実践的に応用する力が試されます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. キルヒホッフの第1法則(電流則):回路の分岐点において、流入する電流の和と流出する電流の和は等しい。
  2. キルヒホッフの第2法則(電圧則):回路の任意の閉ループにおいて、電位差(電圧降下)の代数和は0になる。特に、並列に接続された各部分の電圧は等しくなります。
  3. オームの法則:抵抗 \(R\) にかかる電圧 \(V\) と流れる電流 \(I\) の間には、\(V=IR\) の関係が成り立ちます。
  4. 直列接続と並列接続の性質:電流を分けるには並列接続、電圧を分担するには直列接続を用います。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、電流計の測定範囲を広げるために、余分な電流をバイパスさせる「分流器」を考えます。電流を分けるので「並列」に抵抗を接続し、「電圧が等しい」という関係から抵抗値を求めます。
  2. (2)では、電圧計の測定範囲を広げるために、余分な電圧を負担させる「倍率器」を考えます。電圧を分担するので「直列」に抵抗を接続し、「電流が等しい」という関係から抵抗値を求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
最大 \(30\,\text{mA}\) までしか測定できない電流計で \(300\,\text{mA}\) という大きな電流を測定するためには、電流計本体に流れる電流を \(30\,\text{mA}\) に抑え、残りの電流を別の経路に逃がしてあげる必要があります。この「別の経路」となる抵抗が「分流器」です。電流の通り道を分けるためには、電流計に対して抵抗を「並列」に接続します。そして、並列に接続された部分では両端にかかる電圧が等しくなる、という物理法則を利用して立式します。
この設問における重要なポイント

  • 電流計の測定範囲を広げるには、分流器を「並列」に接続する。
  • 測定したい全体の電流 \(I_{\text{全体}}\) のうち、電流計には最大目盛り \(I_{\text{A}}\) が流れ、残りの \(I_{\text{分流器}} = I_{\text{全体}} – I_{\text{A}}\) が分流器に流れる。
  • 並列接続なので、電流計にかかる電圧と分流器にかかる電圧は等しい。(\(V_{\text{電流計}} = V_{\text{分流器}}\))
  • 計算時には単位の換算(mAをAに)に注意する。

具体的な解説と立式
測定したい最大電流は \(300\,\text{mA}\)、電流計の最大目盛りは \(30\,\text{mA}\) です。
電流計に流すことができる電流の上限が \(30\,\text{mA}\) なので、残りの電流を分流器となる抵抗 \(R\) に流す必要があります。キルヒホッフの第1法則(電流則)より、抵抗 \(R\) に流すべき電流 \(I_R\) は、
$$ I_R = 300\,\text{mA} – 30\,\text{mA} = 270\,\text{mA} $$
となります。
このように電流を分岐させるためには、抵抗 \(R\) を電流計に「並列」に接続します。したがって、(ア)は「並」となります。

次に、抵抗 \(R\) の値を求めます。並列に接続された電流計と抵抗 \(R\) の両端の電圧は等しくなります。電流計の内部抵抗を \(r_A = 9.0\,\Omega\)、電流計に流れる電流を \(I_A = 30\,\text{mA}\) とすると、オームの法則 \(V=IR\) を用いて以下の関係式が立てられます。

(\(\text{抵抗Rにかかる電圧}\)) = (\(\text{電流計にかかる電圧}\))
$$ R \times I_R = r_A \times I_A $$
数値を代入する準備をします。

\(I_R = 270\,\text{mA} = 270 \times 10^{-3}\,\text{A}\)

\(r_A = 9.0\,\Omega\)

\(I_A = 30\,\text{mA} = 30 \times 10^{-3}\,\text{A}\)

したがって、立てるべき式は以下のようになります。
$$ R \times (270 \times 10^{-3}) = 9.0 \times (30 \times 10^{-3}) $$

使用した物理公式

  • キルヒホッフの第1法則(電流則)
  • オームの法則 \(V=IR\)
  • 並列回路の性質(各部分の電圧が等しい)
計算過程

上記で立式した方程式を \(R\) について解きます。
$$ R \times (270 \times 10^{-3}) = 9.0 \times (30 \times 10^{-3}) $$
両辺にある \(10^{-3}\) を消去すると、式は簡単になります。
$$ R \times 270 = 9.0 \times 30 $$
この式を \(R\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
R &= \frac{9.0 \times 30}{270} \\[2.0ex]
&= \frac{9.0}{9} \\[2.0ex]
&= 1.0
\end{aligned}
$$
したがって、接続する抵抗の値は \(1.0\,\Omega\) となります。

この設問の平易な説明

最大 \(30\,\text{mA}\) しか通れない細い道(電流計)に、\(300\,\text{mA}\) という大量の交通量(電流)を流したい、という状況です。道がパンクしないように、横に新しい道(分流器)を作って、交通を分散させる必要があります。これが「並列接続」です。
このとき、元の道には限界の \(30\,\text{mA}\) を流し、残りの \(270\,\text{mA}\) は新しい道に流します。電気の世界のルールでは、並列に接続した道の「通りにくさ(抵抗)」と「交通量(電流)」を掛け算した値(これが電圧にあたります)は、どちらの道でも同じになります。このルールを使って、ちょうど \(270\,\text{mA}\) が流れるような新しい道の「通りにくさ(抵抗値)」を計算するのです。

結論と吟味

電流計と並列に \(1.0\,\Omega\) の抵抗(分流器)を接続すればよい。
電流計の内部抵抗が \(9.0\,\Omega\) であるのに対し、分流器の抵抗は \(1.0\,\Omega\) となりました。抵抗が小さい方により多くの電流が流れるため、\(30\,\text{mA}\) に対して \(270\,\text{mA}\) という9倍の電流を流す分流器の抵抗が、電流計の内部抵抗の \(1/9\) である \(1.0\,\Omega\) となったのは、物理的に非常に妥当な結果です。

解答 (ア)(イ) 1.0

問(2)

思考の道筋とポイント
最大 \(5.0\,\text{V}\) までしか測定できない電圧計で \(30\,\text{V}\) という大きな電圧を測定するためには、電圧計本体にかかる電圧を \(5.0\,\text{V}\) に抑え、残りの電圧を別の抵抗に負担してもらう必要があります。この「肩代わり」をしてくれる抵抗が「倍率器」です。電圧を分担(分圧)させるためには、電圧計に対して抵抗を「直列」に接続します。そして、直列に接続された部分では流れる電流がどこでも等しくなる、という物理法則を利用して立式します。
この設問における重要なポイント

  • 電圧計の測定範囲を広げるには、倍率器を「直列」に接続する。
  • 測定したい全体の電圧 \(V_{\text{全体}}\) のうち、電圧計には最大目盛り \(V_{\text{V}}\) がかかり、残りの \(V_{\text{倍率器}} = V_{\text{全体}} – V_{\text{V}}\) が倍率器にかかる。
  • 直列接続なので、電圧計を流れる電流と倍率器を流れる電流は等しい。(\(I_{\text{電圧計}} = I_{\text{倍率器}}\))
  • 計算時には単位の換算(kΩをΩに)に注意するか、単位系を揃えて計算する。

具体的な解説と立式
測定したい最大電圧は \(30\,\text{V}\)、電圧計の最大目盛りは \(5.0\,\text{V}\) です。
電圧計にかかることができる電圧の上限が \(5.0\,\text{V}\) なので、残りの電圧を倍率器となる抵抗 \(R’\) に負担させる必要があります。キルヒホッフの第2法則(電圧則)より、抵抗 \(R’\) にかかるべき電圧 \(V_{R’}\) は、
$$ V_{R’} = 30\,\text{V} – 5.0\,\text{V} = 25\,\text{V} $$
となります。
このように電圧を分圧するためには、抵抗 \(R’\) を電圧計に「直列」に接続します。したがって、(ウ)は「直」となります。

次に、抵抗 \(R’\) の値を求めます。直列に接続された電圧計と抵抗 \(R’\) には、同じ大きさの電流 \(I\) が流れます。電圧計の内部抵抗を \(r_V = 3.0\,\text{k}\Omega\)、電圧計にかかる電圧を \(V_V = 5.0\,\text{V}\) とすると、オームの法則 \(I=V/R\) を用いて以下の関係式が立てられます。

(\(\text{電圧計を流れる電流}\)) = (\(\text{抵抗R’を流れる電流}\))
$$ \frac{V_V}{r_V} = \frac{V_{R’}}{R’} $$
この式では、抵抗の単位を kΩ、電圧の単位を V に揃えて計算を進めます。

\(V_V = 5.0\,\text{V}\)

\(r_V = 3.0\,\text{k}\Omega\)

\(V_{R’} = 25\,\text{V}\)

したがって、立てるべき式は以下のようになります。
$$ \frac{5.0}{3.0} = \frac{25}{R’} $$

使用した物理公式

  • キルヒホッフの第2法則(電圧則)
  • オームの法則 \(I=V/R\)
  • 直列回路の性質(各部分の電流が等しい)
計算過程

上記で立式した方程式を \(R’\) について解きます。
$$ \frac{5.0}{3.0} = \frac{25}{R’} $$
この式を \(R’\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
5.0 \times R’ &= 25 \times 3.0 \\[2.0ex]
R’ &= \frac{25 \times 3.0}{5.0} \\[2.0ex]
R’ &= 5.0 \times 3.0 \\[2.0ex]
R’ &= 15
\end{aligned}
$$
単位は kΩ で計算したので、抵抗値は \(15\,\text{k}\Omega\) となります。

この設問の平易な説明

最大 \(5.0\,\text{V}\) しか測れない電圧計で、\(30\,\text{V}\) という大きな電圧を測りたい状況です。これは、一人(電圧計)では支えきれない重い荷物を、仲間(倍率器)と協力して縦一列に並んで支えるようなものです。これが「直列接続」です。
このとき、先頭の電圧計が \(5.0\,\text{V}\) 分の電圧を負担し、残りの \(25\,\text{V}\) は後ろにいる仲間(倍率器)が負担します。電気の世界のルールでは、直列に接続した部品には、すべて同じ量の電流が流れます。この「電流が等しい」というルールを使って、ちょうど \(25\,\text{V}\) を負担してくれるような仲間の「抵抗の大きさ」を計算するのです。

結論と吟味

電圧計と直列に \(15\,\text{k}\Omega\) の抵抗(倍率器)を接続すればよい。
電圧計(内部抵抗 \(3.0\,\text{k}\Omega\))と倍率器(抵抗 \(R’\))は直列に接続されており、かかる電圧の比は抵抗値の比に等しくなります。電圧の比は \(V_V : V_{R’} = 5.0 : 25 = 1 : 5\) です。したがって、抵抗値の比も \(r_V : R’ = 1 : 5\) となるはずです。\(r_V = 3.0\,\text{k}\Omega\) なので、\(R’ = 3.0 \times 5 = 15\,\text{k}\Omega\) となり、計算結果と一致します。これは物理的に妥当な結果です。

解答 (ウ)(エ) 15

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 測定器の役割と限界の理解:
    • 核心: この問題の根幹は、「電流計は電流を測るために回路に直列に割り込ませるもの」「電圧計は電位差を測るために回路に並列にまたがせるもの」という大原則と、それぞれの測定器が持つ「最大目盛り」という限界を理解することにあります。
    • 理解のポイント:
      • 電流計: 理想的な電流計は内部抵抗が \(0\,\Omega\) ですが、現実には内部抵抗 \(r_A\) を持ちます。最大目盛り \(I_A\) を超える電流を流すと壊れてしまいます。
      • 電圧計: 理想的な電圧計は内部抵抗が無限大ですが、現実には有限の(しかし非常に大きい)内部抵抗 \(r_V\) を持ちます。最大目盛り \(V_V\) を超える電圧をかけると壊れてしまいます。
  • 分流器と倍率器の基本原理:
    • 核心: 測定器の限界を超える電流や電圧を測定するための「分流器」と「倍率器」の接続方法と、その際の回路法則の適用が核心です。
    • 理解のポイント:
      • 分流器(電流計用): 大きな電流を測定したい場合、電流計に流れる電流を最大目盛りに抑え、余った電流をバイパスさせる必要があります。電流を「分ける」ので、抵抗(分流器)を並列に接続します。このとき、並列部分の電圧が等しいという法則を使って計算します。
      • 倍率器(電圧計用): 大きな電圧を測定したい場合、電圧計にかかる電圧を最大目盛りに抑え、余った電圧を他の抵抗に負担させる必要があります。電圧を「分担」するので、抵抗(倍率器)を直列に接続します。このとき、直列部分の電流が等しいという法則を使って計算します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 「N倍の測定範囲」問題: 「電流計の測定範囲をN倍にするには?」「電圧計の測定範囲をN倍にするには?」という形式の問題です。
      • 電流計の場合: 全体電流 \(NI_A\) のうち、\(I_A\) が電流計に、\((N-1)I_A\) が分流器に流れます。電圧が等しいので \(r_A I_A = R (N-1)I_A\)。よって分流器の抵抗は \(R = \displaystyle\frac{r_A}{N-1}\) となります。
      • 電圧計の場合: 全体電圧 \(NV_V\) のうち、\(V_V\) が電圧計に、\((N-1)V_V\) が倍率器にかかります。電流が等しいので \(\displaystyle\frac{V_V}{r_V} = \displaystyle\frac{(N-1)V_V}{R’}\)。よって倍率器の抵抗は \(R’ = (N-1)r_V\) となります。この公式を覚えておくと検算や即答に役立ちます。
    • テスターの内部構造: 複数の抵抗をスイッチで切り替えることで、一台で様々な範囲の電流・電圧・抵抗を測定できる「テスター」の回路設計問題も、この問題の応用です。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 何を測定したいのか?: 電流か、電圧か。まずこれを明確にします。
    2. どう接続するか?: 電流なら「並列接続(分流)」、電圧なら「直列接続(分圧)」と、接続方法を即座に判断します。
    3. どの物理法則を使うか?: 並列なら「電圧が等しい」、直列なら「電流が等しい」という、それぞれの接続方法に対応するキーとなる法則を選択します。
    4. 単位の統一: mAとA、kΩとΩが混在している場合がほとんどです。計算前に単位をSI基本単位(A, V, Ω)に揃えるか、あるいは(問(2)のように)kΩとVで計算を進めるなど、単位系を意識して計算戦略を立てます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 分流器と倍率器の接続方法の混同:
    • 誤解: 電流計に直列に抵抗をつないだり、電圧計に並列につないだりしてしまう。
    • 対策: 「電流を分ける→並列」「電圧を分ける→直列」と、言葉の意味と接続方法をセットで記憶しましょう。「分流」という漢字が「流れを分ける」ことを示唆しているので、並列接続を連想しやすくなります。「倍率」は電圧を分圧して測定範囲を広げるイメージから、直列接続を連想すると良いでしょう。
  • 電流と電圧の関係式の選択ミス:
    • 誤解: 並列接続なのに「電流が等しい」としたり、直列接続なのに「電圧が等しい」としてしまう。
    • 対策: 回路図を必ず描く癖をつけましょう。
      • 並列回路では、分岐点で電流が分かれるのが一目瞭然なので、「電流は異なる(和が一定)」「電圧は共通」と視覚的に理解できます。
      • 直列回路では、電流の通り道が一本道であることから「電流は共通」「電圧は各抵抗で分担される」と視覚的に理解できます。
  • 単位換算のミス:
    • 誤解: \(30\,\text{mA}\) を \(30\,\text{A}\) として計算したり、\(3.0\,\text{k}\Omega\) を \(3.0\,\Omega\) として計算してしまう。
    • 対策: プレフィックス(接頭辞)の意味を正確に覚えることが基本です。「m(ミリ)」は \(10^{-3}\)、「k(キロ)」は \(10^3\) です。計算を始める前に、問題文中の数値をすべてSI基本単位(A, V, Ω)に書き直す一手間を惜しまないことが、確実な対策になります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 分流器(並列接続)における電圧等価の法則:
    • 選定理由: (1)では、未知数である分流器の抵抗 \(R\) を求める必要がありました。既知の量は電流計の内部抵抗 \(r_A\) と、各々に流れる電流 \(I_A, I_R\) です。これらの量(\(R, I, r\))を一つの式で結びつけることができるのがオームの法則 \(V=IR\) です。そして、並列接続という条件が「電圧が等しい」という関係性を提供してくれるため、\(V_R = V_A \rightarrow R I_R = r_A I_A\) という方程式を立てることが、未知数を求めるための最も直接的なルートとなります。
    • 適用根拠: キルヒホッフの第2法則(電圧則)が物理的な根拠です。電流計を通るループと分流器を通るループを考えると、どちらの経路も同じ2点間を結んでいるため、その電位差は等しくなければなりません。
  • 倍率器(直列接続)における電流等価の法則:
    • 選定理由: (2)では、未知数である倍率器の抵抗 \(R’\) を求める必要がありました。既知の量は電圧計の内部抵抗 \(r_V\) と、各々にかかる電圧 \(V_V, V_{R’}\) です。これらの量(\(R, V, r\))を結びつけるには、やはりオームの法則 \(I=V/R\) が有効です。そして、直列接続という条件が「電流が等しい」という関係性を提供してくれるため、\(I_V = I_{R’} \rightarrow \displaystyle\frac{V_V}{r_V} = \displaystyle\frac{V_{R’}}{R’}\) という方程式を立てることが、未知数を求めるための最も合理的な方法です。
    • 適用根拠: キルヒホッフの第1法則(電流則)が物理的な根拠です。直列回路では電流の分岐・合流がないため、回路のどの点をとっても流れる電流は同じでなければなりません。これは電荷の保存則に基づいています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 単位を揃える儀式: 計算を始める前に、問題文に出てくる数値をすべてSI基本単位(A, V, Ω)に変換して書き出すことを習慣にしましょう。例えば、\(30\,\text{mA} \rightarrow 30 \times 10^{-3}\,\text{A}\)、\(3.0\,\text{k}\Omega \rightarrow 3.0 \times 10^3\,\Omega\) のように、機械的に変換する一手間がケアレスミスを防ぎます。
  • 比の関係を活用する:
    • (1)の分流器では、電圧が等しい (\(V=IR\)) ので、電流と抵抗は反比例の関係 (\(I \propto 1/R\)) にあります。電流の比が \(I_A : I_R = 30 : 270 = 1 : 9\) なので、抵抗の比は \(r_A : R = 9 : 1\) となります。\(r_A = 9.0\,\Omega\) なので、\(R = 1.0\,\Omega\) と暗算レベルで検算できます。
    • (2)の倍率器では、電流が等しい (\(I=V/R\)) ので、電圧と抵抗は比例の関係 (\(V \propto R\)) にあります。電圧の比が \(V_V : V_{R’} = 5.0 : 25 = 1 : 5\) なので、抵抗の比も \(r_V : R’ = 1 : 5\) となります。\(r_V = 3.0\,\text{k}\Omega\) なので、\(R’ = 3.0 \times 5 = 15\,\text{k}\Omega\) と、こちらも簡単に検算できます。
  • 方程式の整理: (2)の計算 \(\displaystyle\frac{5.0}{3.0} = \displaystyle\frac{25}{R’}\) のような分数の式では、いきなり割り算をせず、まず両辺に分母を掛けて \(5.0 \times R’ = 25 \times 3.0\) のように整数の形に直してから、最後に割り算を実行すると計算ミスが減ります。

基本例題79 キルヒホッフの法則

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されているキルヒホッフの法則II(ループ則)を機械的に適用する解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 設問(1), (2)の別解: 電位法を用いる解法
      • 模範解答が閉回路(ループ)を一周する際の電圧の関係式を立てるのに対し、別解では回路上の2点間の電位差が経路によらない、という「電位」の考え方から直接、関係式を導出します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: ループを機械的にたどるだけでなく、「電位」という物理的な実体に着目することで、キルヒホッフの法則が成り立つ理由をより深く理解できます。
    • 解法の柔軟性向上: 回路問題に対して、ループ則だけでなく電位法という別の視点を持つことで、複雑な問題でも状況に応じて最適なアプローチを選択できるようになります。
    • 検算能力の向上: 異なるアプローチで同じ式を導出する経験は、立式のミスを発見するための強力な検算ツールとなります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、導出される関係式は完全に一致し、最終的な答えも変わりません。

この問題のテーマは「キルヒホッフの法則を用いた直流回路の解析」です。複数の電源を含む複雑な回路において、各部分を流れる電流を求めるための基本的な手法を扱います。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. キルヒホッフの第一法則(電流則): 回路の任意の分岐点において、流入する電流の総和と流出する電流の総和は等しい。これは電荷の保存則に基づいています。
  2. キルヒホッフの第二法則(電圧則): 回路内の任意の閉じたループを一周するとき、起電力の総和と電圧降下の総和は等しい。これはエネルギーの保存則に基づいています。
  3. オームの法則: 抵抗 \(R\) に電流 \(I\) が流れるとき、その両端に生じる電圧降下は \(V=RI\) で与えられます。
  4. 連立方程式の処理能力: 未知の電流を複数設定し、それらを含む複数の式を立てて解く数学的な力が必要です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、問題文で指定された電流 \(I, I’\) を用い、まず点Pにおける電流則から \(R_1\) を流れる電流を求めます。次に、左側の閉回路について電圧則を適用し、関係式を立てます。
  2. (2)では、同様に右側の閉回路について電圧則を適用し、もう一つの関係式を立てます。
  3. (3)では、(1)と(2)で得られた2つの連立方程式を解き、未知数 \(I’\) を消去して \(I\) を \(x\) の関数として表します。

問(1)

思考の道筋とポイント
キルヒホッフの法則を用いて回路に関する式を立てる基本問題です。まず、回路の分岐点である点Pに着目し、キルヒホッフの第一法則(電流則)を適用して、抵抗 \(R_1\) を流れる電流を \(I\) と \(I’\) で表します。次に、指定された閉回路 \(E_1 R_3 R_1 E_1\) について、第二法則(電圧則)を適用します。電圧則を適用する際は、ループをたどる向きを自分で決め、起電力と電圧降下の符号をルールに従って正確に判断することが重要です。
この設問における重要なポイント

  • 電流則の適用: 点Pに流入する電流は \(I\) と \(I’\) なので、点Pから流出する \(R_1\) を流れる電流は \(I+I’\) となる。
  • 電圧則の適用: 「起電力の和 = 電圧降下の和」という関係式を立てる。
  • 符号のルール:
    • ループをたどる向きと起電力の向き(負極→正極)が同じなら起電力は正。
    • ループをたどる向きと電流の向きが同じなら電圧降下は正。

具体的な解説と立式
まず、点Pにおいてキルヒホッフの第一法則(電流則)を適用します。
問題文の定義より、抵抗 \(R_2\) から電流 \(I’\) が、抵抗 \(R_3\) から電流 \(I\) が点Pに流入します。したがって、点Pから抵抗 \(R_1\) へ流出する電流は、これらの和である \(I+I’\) となります。(注:解説図では\(I+I’\)の矢印の向きが逆になっていますが、法則に従いPから左へ流れると考えます)

次に、閉回路 \(E_1 \rightarrow Q \rightarrow R_3 \rightarrow P \rightarrow R_1 \rightarrow E_1\) を反時計回りにたどり、キルヒホッフの第二法則(電圧則)「起電力の和 = 電圧降下の和」を適用します。

  • 起電力の和: ループ内にある電源は \(E_1\) のみです。ループをたどる向きは \(E_1\) の起電力の向き(負極から正極)と一致するため、起電力の和は \(+E_1\) です。
  • 電圧降下の和:
    • 抵抗 \(R_3\): ループはQからPへたどります。これは電流 \(I\) の向きと一致するため、電圧降下は \(+R_3 I\) です。
    • 抵抗 \(R_1\): ループはPから \(E_1\) の負極へたどります。これは電流 \(I+I’\) の向きと一致するため、電圧降下は \(+R_1(I+I’)\) です。

以上のことから、以下の関係式が成り立ちます。
$$ E_1 = R_3 I + R_1(I+I’) $$

使用した物理公式

  • キルヒホッフの第一法則(電流則): \(\sum I_{\text{流入}} = \sum I_{\text{流出}}\)
  • キルヒホッフの第二法則(電圧則): \(\sum E = \sum RI\)
計算過程

上記で立式した \(E_1 = R_3 I + R_1(I+I’)\) に、問題文で与えられた値を代入します。
\(E_1 = 12.0\) [V], \(R_1 = 3.0\) [Ω], \(R_3 = x\) [Ω] なので、
$$
\begin{aligned}
12.0 &= xI + 3.0(I+I’) \\[2.0ex]
&= xI + 3.0I + 3.0I’ \\[2.0ex]
&= (3.0+x)I + 3.0I’
\end{aligned}
$$
これが求める関係式です。

この設問の平易な説明

電池 \(E_1\) が回路に供給する「高さ12.0Vのエネルギー」が、2つの抵抗 \(R_1\) と \(R_3\) でどのように消費されるかを考える問題です。
まず、合流地点Pでは、\(R_2\) からの電流 \(I’\) と \(R_3\) からの電流 \(I\) が合わさって、\(R_1\) には \(I+I’\) という太い川のように電流が流れます。
次に、電池 \(E_1\) が作った12.0Vの「電圧の坂」は、抵抗 \(R_3\) の坂と抵抗 \(R_1\) の坂の合計の高さと等しくなります。それぞれの坂の高さ(電圧降下)は「抵抗値 × 電流」で計算できるので、\(12.0 = (R_3\text{での電圧}) + (R_1\text{での電圧})\) という式を立てます。

結論と吟味

得られた関係式 \(12.0 = (3.0+x)I + 3.0I’\) は、未知数 \(I\) と \(I’\) を含む一次方程式です。回路には未知の電流が2つあるため、この時点では解を一つに決めることはできません。次の設問で別の関係式を立て、連立方程式を解く必要があります。

解答 (1) \(12.0 = (3.0+x)I + 3.0I’\)
別解: 電位法を用いる解法

思考の道筋とポイント
キルヒホッフの法則IIの物理的本質である「電位」に着目する解法です。回路上の任意の点の電位は一意に定まるため、ある点の電位を基準(例えば0V)と定めることで、他の点の電位を計算できます。ここでは、電源 \(E_1\) の正極側を基準(0V)とし、点Pの電位を2つの異なる経路で表現し、それらを等しいとおくことで関係式を導きます。
この設問における重要なポイント

  • 回路内に基準点(アース、電位0V)を設定する。
  • 電流が抵抗 \(R\) を \(I\) の向きに通過すると、電位は \(RI\) だけ降下する。
  • 2点間の電位差は、計算する経路によらず一定である。

具体的な解説と立式
電源 \(E_1\) の正極に接続されている導線(点Qを含む)の電位を基準の \(0\)V とします。
すると、電源 \(E_1\) は12.0Vの起電力を持つため、その負極に接続されている導線の電位は \(-12.0\)V となります。

この設定のもとで、点Pの電位 \(V_P\) を2つの経路で考えます。

  • 経路1 (Q経由):
    点Q(電位0V)から抵抗 \(R_3\) を経由して点Pに至る経路を考えます。電流 \(I\) がQからPの向きに流れているため、点Pの電位は点Qよりも \(R_3 I\) だけ低くなります。
    $$
    \begin{aligned}
    V_P &= V_Q – R_3 I \\[2.0ex]
    &= 0 – xI \\[2.0ex]
    &= -xI \quad \cdots ①
    \end{aligned}
    $$
  • 経路2 (\(R_1\)経由):
    電位\(-12.0\)Vの導線から抵抗 \(R_1\) を経由して点Pに至る経路を考えます。電流 \(I+I’\) がPから\(R_1\)の向きに流れているため、点Pは\(R_1\)の先(電位-12.0Vの導線)よりも \(R_1(I+I’)\) だけ電位が高くなります。
    $$
    \begin{aligned}
    V_P &= -12.0 + R_1(I+I’) \\[2.0ex]
    &= -12.0 + 3.0(I+I’) \quad \cdots ②
    \end{aligned}
    $$

①と②はどちらも点Pの電位 \(V_P\) を表しているので、等しいとおくことができます。
$$ -xI = -12.0 + 3.0(I+I’) $$

使用した物理公式

  • 電位と電圧降下の関係: \(V_{\text{下流}} = V_{\text{上流}} – RI\)
  • オームの法則: \(V=RI\)
計算過程

上記で立式した \(-xI = -12.0 + 3.0(I+I’)\) を整理します。
$$
\begin{aligned}
12.0 &= xI + 3.0(I+I’) \\[2.0ex]
&= xI + 3.0I + 3.0I’ \\[2.0ex]
&= (3.0+x)I + 3.0I’
\end{aligned}
$$
これは主たる解法で得られた式と完全に一致します。

この設問の平易な説明

回路を一種の地形図のように考えます。電池 \(E_1\) の下の導線を標高0mの地面と決めます。すると、電池 \(E_1\) のせいで、上の導線は標高-12.0mの谷底になります。
今、知りたいのはP地点の標高です。
ルート1:標高0mの地面Qから、\(R_3\) という坂を電流 \(I\) の川の流れに沿って下るとP地点に着きます。このときの標高は \(0 – xI\) です。
ルート2:標高-12.0mの谷底から、\(R_1\) という坂を電流 \(I+I’\) の川の流れと逆行して登るとP地点に着きます。このときの標高は \(-12.0 + 3.0(I+I’)\) です。
どちらのルートで計算してもP地点の標高は同じはずなので、これらをイコールで結びます。

結論と吟味

ループ則を用いた主たる解法と全く同じ関係式が得られました。電位という物理量を明確に意識することで、式の意味がより直感的に理解でき、立式のミスを防ぎやすくなります。

解答 (1) \(12.0 = (3.0+x)I + 3.0I’\)

問(2)

思考の道筋とポイント
(1)と同様に、キルヒホッフの第二法則(電圧則)を適用します。今回は、電源 \(E_2\) を含む右側の閉回路 \(P \rightarrow R_2 \rightarrow E_2 \rightarrow Q \rightarrow R_3 \rightarrow P\) に着目します。このループには2つの抵抗と1つの電源が含まれています。ループをたどる向き(例えば時計回り)を決め、各素子を通過する際の起電力と電圧降下の符号を、(1)と同じルールに従って慎重に決定することが重要です。特に、電流や起電力の向きがループをたどる向きと逆になる場合の符号の扱いに注意が必要です。
この設問における重要なポイント

  • 着目する閉回路を正しく選ぶ。
  • ループをたどる向きと、各素子の電流・起電力の向きを比較し、符号を正確に判断する。
  • (1)で設定した電流 \(I, I’\) の定義を一貫して使用する。

具体的な解説と立式
閉回路 \(P \rightarrow R_2 \rightarrow E_2 \rightarrow Q \rightarrow R_3 \rightarrow P\) を時計回りにたどり、キルヒホッフの第二法則「起電力の和 = 電圧降下の和」を適用します。

  • 起電力の和: ループ内にある電源は \(E_2\) のみです。ループは \(E_2\) を正極から負極の向きにたどります。これは起電力の向きと逆なので、起電力の和は \(-E_2\) です。
  • 電圧降下の和:
    • 抵抗 \(R_2\): ループはPから右へたどります。これは電流 \(I’\) の向き(左向き)と逆なので、電圧降下は \(-R_2 I’\) です。
    • 抵抗 \(R_3\): ループはQからPへたどります。これは電流 \(I\) の向き(左向き)と一致するため、電圧降下は \(+R_3 I\) です。

以上のことから、以下の関係式が成り立ちます。
$$ -E_2 = -R_2 I’ + R_3 I $$

使用した物理公式

  • キルヒホッフの第二法則(電圧則): \(\sum E = \sum RI\)
計算過程

上記で立式した \(-E_2 = -R_2 I’ + R_3 I\) の両辺に \(-1\) を掛けて整理します。
$$ E_2 = R_2 I’ – R_3 I $$
この式に、問題文で与えられた値を代入します。
\(E_2 = 6.0\) [V], \(R_2 = 6.0\) [Ω], \(R_3 = x\) [Ω] なので、
$$ 6.0 = 6.0I’ – xI $$
これが求める関係式です。

この設問の平易な説明

今度は、回路の右側にある小さなループで電圧の「つじつま合わせ」をします。このループを時計回りに一周旅行すると、出発点に戻るので、全体の電位(標高)の変化はゼロになるはずです。
P地点から出発します。
1. \(R_2\) を右へ:電流と逆行するので、坂を上る。電位は \(6.0 \times I’\) 上がる。
2. \(E_2\) を上から下へ:電池のプラスからマイナスへ行くので、崖を飛び降りるイメージ。電位は \(6.0\)V 下がる。
3. \(R_3\) を左へ:電流と同じ向きなので、坂を下る。電位は \(x \times I\) 下がる。
この「上がる、下がる、下がる」をすべて合計すると、元の高さに戻るのでゼロになります。これを式にすると、求める関係式が得られます。

結論と吟味

(1)で得られた式とは独立な、もう一つの関係式 \(6.0 = 6.0I’ – xI\) が得られました。これで未知数 \(I, I’\) の数と式の数が同じになったため、(3)で連立方程式を解くことができます。

解答 (2) \(6.0 = 6.0I’ – xI\)
別解: 電位法を用いる解法

思考の道筋とポイント
(1)の別解と同様に、電位の考え方を用います。2点間の電位差は経路によらず一定である、という原理を利用します。ここでは、回路の分岐点である点Pと点Qの間の電位差 \(V_P – V_Q\) を、2つの異なる経路で計算し、それらが等しいとおくことで関係式を導きます。
この設問における重要なポイント

  • 電位差を計算する2つの経路を明確にする(経路1: \(R_3\) 経由、経路2: \(R_2, E_2\) 経由)。
  • 各素子を通過する際の電位の変化(上昇か下降か)を正しく判断する。

具体的な解説と立式
点Pと点Qの電位差 \(V_P – V_Q\) を考えます。

  • 経路1(Q→P):
    抵抗 \(R_3\) を経由する経路です。電流 \(I\) がQからPの向き(左向き)に流れているため、電流の向きに沿って進むと電位は降下します。
    $$ V_P – V_Q = -R_3 I \quad \cdots ① $$
  • 経路2(Q→\(E_2\)→\(R_2\)→P):
    電源 \(E_2\) と抵抗 \(R_2\) を経由する経路を考えます。Qから出発してPへ向かう電位の変化を追います。Qから\(E_2\)の正極、負極を通り、\(R_2\)を通ってPに至ります。

    1. Qから電源 \(E_2\) を負極から正極へ渡ると考えます。電位は \(E_2\) だけ上昇します。
    2. 次に抵抗 \(R_2\) を右から左へ渡ります。これは電流 \(I’\) の向きと一致するため、電位は \(R_2 I’\) だけ降下します。

    したがって、QからPへのトータルの電位変化は \(+E_2 – R_2 I’\) となります。
    $$ V_P – V_Q = E_2 – R_2 I’ \quad \cdots ② $$

①と②はどちらも同じ電位差 \(V_P – V_Q\) を表しているので、右辺同士を等しいとおくことができます。
$$ -R_3 I = E_2 – R_2 I’ $$

使用した物理公式

  • 電位と電圧降下の関係: \(V_{\text{下流}} = V_{\text{上流}} – RI\)
  • 電位と起電力の関係: \(V_{\text{正極}} = V_{\text{負極}} + E\)
計算過程

上記で立式した \(-R_3 I = E_2 – R_2 I’\) を整理します。
$$ E_2 = R_2 I’ – R_3 I $$
この式に、与えられた値を代入します。
\(E_2 = 6.0\) [V], \(R_2 = 6.0\) [Ω], \(R_3 = x\) [Ω] なので、
$$ 6.0 = 6.0I’ – xI $$
これは主たる解法で得られた式と完全に一致します。

この設問の平易な説明

P地点とQ地点の「標高差」を、2つの異なるルートで測るのと同じです。

  • ルート1(近道): Q地点から \(R_3\) という坂道を電流 \(I\) に沿って下ってP地点に行く。標高差は \(-xI\) です(下るのでマイナス)。
  • ルート2(遠回り): Q地点からまず \(E_2\) というエレベーターで \(6.0\)V 上がり、そこから \(R_2\) という坂道を電流 \(I’\) に沿って下ってP地点に行く。標高差は \(+6.0 – 6.0I’\) です。

どちらのルートで行ってもP地点とQ地点の標高差は変わらないはずなので、この2つをイコールで結びます。

結論と吟味

ループ則を用いた主たる解法と全く同じ関係式が得られました。この方法は、回路の各部分の電位を具体的にイメージしながら立式できるため、物理的な理解を助ける良いアプローチです。

解答 (2) \(6.0 = 6.0I’ – xI\)

問(3)

思考の道筋とポイント
(1)と(2)で導出した2つの未知数 \(I, I’\) を含む連立一次方程式を解き、\(I\) を \(x\) の関数として表す問題です。数学的な計算が中心となります。目標は \(I\) を求めることなので、\(I’\) を消去する方針で式を変形します。加減法、代入法のどちらでも解けますが、ここでは係数を揃えやすい加減法を用いるのが効率的です。
この設問における重要なポイント

  • 解くべき連立方程式を明確に書き出す。
  • 消去したい変数(今回は \(I’\))の係数を揃える。
  • 加減法を正確に実行し、計算ミスに注意する。

具体的な解説と立式
(1), (2)で得られた2つの関係式を再掲します。
$$ 12.0 = (3.0+x)I + 3.0I’ \quad \cdots ① $$
$$ 6.0 = 6.0I’ – xI \quad \cdots ② $$
未知数 \(I’\) を消去するために、①式の両辺を2倍して \(I’\) の係数を \(6.0\) に揃えます。
$$ 2 \times ①: \quad 24.0 = 2(3.0+x)I + 6.0I’ \quad \cdots ①’ $$
これで \(I’\) の係数が②式と等しくなったので、①’式から②式を引きます。
$$ (①’) – (②) $$

使用した物理公式

  • (この設問では物理公式は使用せず、数学的な計算のみ)
計算過程

上記の方針に従って計算を実行します。
$$
\begin{aligned}
24.0 – 6.0 &= (2(3.0+x)I + 6.0I’) – (6.0I’ – xI) \\[2.0ex]
18.0 &= (6.0+2x)I + 6.0I’ – 6.0I’ + xI \\[2.0ex]
18.0 &= (6.0+2x+x)I \\[2.0ex]
18.0 &= (6.0+3x)I
\end{aligned}
$$
この式を \(I\) について解きます。
$$ I = \frac{18.0}{6.0+3x} $$
分母と分子を共通因数である \(3.0\) で割って、式を簡単にします。
$$
\begin{aligned}
I &= \frac{18.0 \div 3.0}{(6.0+3x) \div 3.0} \\[2.0ex]
&= \frac{6.0}{2.0+x}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

(1)と(2)で、分からない文字が2つ(\(I\) と \(I’\))入った式を2本手に入れました。これは、数学で習った連立方程式そのものです。
私たちの目的は \(I\) の正体を知ることなので、邪魔な \(I’\) を消すことにします。
式①を2倍すると、\(I’\) のお供の数字が式②と同じ「6.0」になります。この状態で上の式から下の式を引き算すると、\(6.0I’ – 6.0I’\) となって \(I’\) がきれいに消えてくれます。
残った式を「\(I=\dots\)」の形に整理すれば、答えにたどり着きます。

結論と吟味

抵抗 \(R_3\) を流れる電流 \(I\) は、\(I = \displaystyle\frac{6.0}{x+2.0}\) [A] と表せました。この結果は物理的に妥当か吟味します。\(x\) は可変抵抗 \(R_3\) の抵抗値なので、\(x \ge 0\) です。

  • もし \(x\) が非常に大きい(\(x \rightarrow \infty\))なら、分母が無限大に近づくので \(I \rightarrow 0\) となります。これは、\(R_3\) の抵抗が大きすぎると電流が流れにくくなるという直感と一致します。
  • もし \(x=0\)(\(R_3\) がただの導線)なら、\(I = \frac{6.0}{2.0} = 3.0\) [A] となります。

このように、得られた結果は物理的に妥当な振る舞いを示しています。

解答 (3) \(I = \displaystyle\frac{6.0}{x+2.0}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • キルヒホッフの法則(第一法則・第二法則):
    • 核心: この問題の根幹は、複数の電源を含む複雑な回路を解析するための普遍的なルールであるキルヒホッフの法則を、いかに正確に適用できるかという点にあります。
    • 理解のポイント:
      • 第一法則(電流則): 「分岐点に流入する電流の和は、流出する電流の和に等しい」という法則です。これは「電荷が途中で消えたり増えたりしない」という電荷量保存則の現れです。本問では点Pにおける電流の関係を導くのに使います。
      • 第二法則(電圧則): 「任意の閉回路(ループ)を一周すると、起電力の和と電圧降下の和は等しい」という法則です。これは「ループを一周して出発点に戻れば、電気的な高さ(電位)も元に戻る」というエネルギー保存則の現れです。この法則を用いて未知数の数だけ方程式を立てることが、問題解決の鍵となります。
  • 電位の概念(別解の核心):
    • 核心: キルヒホッフの第二法則を、より根源的な「電位」の概念から理解することです。回路の任意の点の電位は、基準点を定めれば一意に決まります。
    • 理解のポイント:
      • 「ループを一周すると電位が元に戻る(電位差が0)」というのが電圧則の本質です。
      • 別解で用いた「2点間の電位差は、計算する経路によらず一定である」という考え方は、ループを意識せずとも関係式を立てられる強力なアプローチであり、電圧則の物理的意味を深く理解することに繋がります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • ホイートストンブリッジ: 検流計に電流が流れるか否かを問う問題。検流計を含むループで電圧則を立てるか、あるいはブリッジの両端の点の電位をそれぞれ計算し、比較することで解くことができます。
    • コンデンサーを含む直流回路: 十分に時間が経過した定常状態では、コンデンサー部分は断線と見なせます(電流が流れない)。その状態でキルヒホッフの法則を適用して回路の各電流を求め、それを使ってコンデンサーの両端の電位差(=蓄えられる電圧)を計算する問題に応用できます。
    • 内部抵抗を持つ電池: 電池を「理想的な電源と、それと直列につながった小さな抵抗」の組み合わせだと考えます。電圧則を適用する際に、この内部抵抗による電圧降下 \(rI\) も忘れずに式に含めることがポイントです。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 未知数の設定: まず、未知の電流を文字で置きます。電流則(第一法則)を活用すれば、最小限の未知数(本問では \(I\) と \(I’\) の2つ)で回路の全ての電流を表すことができます。
    2. 方程式の計画: 未知数がN個あれば、独立した方程式がN本必要です。電圧則(第二法則)を異なるループに適用して、必要な数だけ方程式を立てる計画を立てます。
    3. ループの選択: 電圧則を適用するループは、なるべく素子の数が少ない単純なものを選ぶと、立式や計算が楽になります。回路内の全ての素子が、少なくとも1つのループに含まれるように選びましょう。
    4. 電位法の活用: 回路が複雑でループを追うのが難しい場合や、特定の2点間の電位差を求めたい場合は、回路のどこか1点を基準(アース、電位0V)に設定し、各点の電位を計算していく「電位法」が非常に有効です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 電圧則における符号のミス:
    • 誤解: 起電力は常にプラス、抵抗での電圧降下は常にマイナス、と機械的に符号を決めてしまう。
    • 対策: 符号は「ループをたどる向き」と「電流や起電力の向き」の相対的な関係で決まる、という原則を徹底します。
      • ルールを儀式化: 式を立てる前に「ループの向き:時計回り」などと紙に書き出し、各素子を通過する際に「向きは同じ→プラス」「向きは逆→マイナス」と一つ一つ指差し確認する癖をつけましょう。
      • 電位のイメージ: 「坂を上るか、下るか」で考えます。電流と同じ向きに抵抗を渡る→坂を下る(電位降下)。電池の負極から正極へ渡る→坂を上る(電位上昇)。このイメージを持つと、符号ミスが激減します。
  • 最初に仮定した電流の向き:
    • 誤解: 最初に仮定した電流の向きがもし間違っていたら、計算全体が間違いになるのではないかと不安になる。
    • 対策: 電流の向きは、最初にどちら向きに仮定しても全く問題ありません。計算を進めて、もし電流の値がマイナス(例: \(I = -2.0\) A)になったら、それは「最初に仮定した向きとは逆向きに、2.0Aの電流が流れている」ことを意味するだけです。値の大きさは正しいので、慌てずに結果を解釈しましょう。
  • 連立方程式の計算ミス:
    • 誤解: 物理法則の立式さえできれば、あとはただの計算だと油断してしまう。
    • 対策: キルヒホッフの法則の問題は、立式後の連立方程式の計算が本番です。立式した式に番号を振り、加減法や代入法などの方針を明確にしてから、途中式を省略せずに丁寧に計算を進めることが重要です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • キルヒホッフの法則の選択:
    • 選定理由: 回路に電源が複数あったり、抵抗の接続が単純な直列・並列でなかったりする場合、中学校で習うオームの法則だけでは解くことができません。このような「複雑な回路」を解析するための、より普遍的で強力なツールがキルヒホッフの法則です。
    • 適用根拠: 第一法則は電荷量保存則、第二法則はエネルギー保存則という、物理学の根幹をなす法則に基づいています。したがって、どんなに複雑な直流回路であっても、これらの法則は必ず成り立ちます。この普遍性こそが、この法則を安心して適用できる根拠です。
  • 電位法の選択(別解):
    • 選定理由: ループ則が「電位差の和がゼロ」という間接的な見方なのに対し、電位法は「各点の電位そのもの」という直接的な物理量に着目します。回路の特定の点の電位や、2点間の電位差を求めたい場合に、より直感的でミスが少ないアプローチとなり得ます。
    • 適用根拠: 静電場が保存力であるため、電位は経路によらず場所だけで決まる物理量です。この性質により、どの経路で計算しても同じ点の電位は同じ値になるため、複数の経路で計算した電位を等しいとおくことで方程式を立てるという操作が正当化されます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 立式の整理整頓: (1), (2)で立てた式は、すぐに \(( … )I + ( … )I’ = (\text{定数})\) のように、変数を左辺に、定数を右辺にまとめて整理する癖をつけましょう。こうすることで、連立方程式として全体像が見やすくなり、計算方針を立てやすくなります。
  • 単位の省略と意識: 計算途中では、\(V\)や\(Ω\)などの単位は書かずに数値だけの計算に集中すると、式がスッキリしてミスが減ります。ただし、自分が今何の物理量を計算しているのかは常に意識し、最終的な答えには必ず適切な単位を付けましょう。
  • 約分を意識する: (3)の最後のように、\(I = \displaystyle\frac{18.0}{6.0+3x}\) という形になったら、すぐに約分できないか確認する習慣をつけましょう。分母・分子の共通因数(この場合は3.0)を見つけることで、式が簡潔になり、その後の検算もしやすくなります。
  • 物理的な吟味による検算: (3)の結論で示したように、得られた結果の文字(今回は \(x\))に極端な値(\(x=0\) や \(x \rightarrow \infty\))を代入してみて、結果が物理的な直感に合うかを確かめるのは非常に有効な検算方法です。「抵抗を無限大にしたら電流が0に近づく」といった妥当な振る舞いが確認できれば、計算が合っている可能性は高いと言えます。

基本例題80 電池から供給される電力

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている相加・相乗平均の関係を利用する解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 設問(5)の別解1: 微分法を用いる解法
      • 模範解答が代数的な式変形と相加・相乗平均の関係から最大値を求めるのに対し、別解1では可変抵抗器での消費電力 \(P_1\) を抵抗値 \(R\) の関数とみなし、微分法を用いて最大値を求めます。
    • 設問(5)の別解2: 判別式を用いる解法
      • 別解2では、消費電力 \(P_1\) の式を抵抗値 \(R\) に関する2次方程式とみなし、\(R\) が実数解を持つための条件(判別式 \(D \ge 0\))から \(P_1\) が取りうる値の範囲を絞り込み、最大値を求めます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 数学的アプローチの多様性: 物理の問題を解決するために、相加・相乗平均、微分法、判別式という異なる数学的ツールを適用する経験は、思考の引き出しを増やし、応用力を高めます。
    • 解法の一般性: 特に微分法は、関数の最大・最小を求める最も強力で一般的な手法であり、より複雑な関数に対しても適用できる汎用性の高いスキルを習得できます。
    • 論理的思考の深化: 判別式法は、「物理量(抵抗値)が存在する条件」から別の物理量(電力)の範囲を導くという、エレガントで高度な論理展開を学ぶ良い機会となります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程は異なりますが、最終的に得られる最大値とそのときの抵抗値は完全に一致します。

この問題のテーマは「内部抵抗を持つ電源から供給される電力と、その最大値問題」です。電池が作る電力のすべてが外部の抵抗で使われるわけではなく、電池内部でも一部が消費されることを理解し、外部で消費される電力が最大になる条件を導出することが目標です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. キルヒホッフの第二法則(電圧則): 内部抵抗を含む単純な閉回路において、起電力は、外部抵抗での電圧降下と内部抵抗での電圧降下の和に等しい(\(E = RI + rI\))。
  2. オームの法則: 抵抗の両端の電圧、抵抗値、電流の関係(\(V=RI\))を正しく適用できること。
  3. 電力の公式: 消費電力を計算する複数の公式(\(P=IV, P=I^2R, P=\displaystyle\frac{V^2}{R}\))を状況に応じて使い分けられること。
  4. 関数の最大・最小問題: ある変数の関数として表された物理量(今回は電力\(P_1\))の最大値を求める数学的な手法(相加・相乗平均、微分法など)を理解していること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、キルヒホッフの第二法則を用いて回路に流れる電流 \(I\) を求めます。
  2. (2)では、オームの法則を用いて可変抵抗器にかかる電圧 \(V\) を求めます。
  3. (3), (4)では、電力の公式を適切に選択し、それぞれ全消費電力 \(P_0\) と可変抵抗器での消費電力 \(P_1\) を式で表します。
  4. (5)では、(4)で得られた \(P_1\) の式を、変数が \(R\) のみの関数とみて、その最大値を数学的な手法で求めます。
  5. (6)では、(3)と(4)の結果の差を計算し、その物理的な意味をエネルギー保存の観点から解釈します。

問(1)

思考の道筋とポイント
内部抵抗 \(r\) を持つ電源に外部抵抗 \(R\) を接続した、最も基本的な直流回路です。キルヒホッフの第二法則(電圧則)を適用して、回路に流れる電流 \(I\) を求めます。電源の起電力 \(E\) が、外部抵抗 \(R\) での電圧降下と内部抵抗 \(r\) での電圧降下の合計に等しい、という関係を立式します。
この設問における重要なポイント

  • 内部抵抗 \(r\) は、電源と直列に接続された抵抗として扱う。
  • 閉回路全体で「起電力の和 = 電圧降下の和」を適用する。

具体的な解説と立式
回路全体(閉回路)にキルヒホッフの第二法則を適用します。電流は時計回りに流れます。この向きにループをたどると、

  • 起電力の和: 電源 \(E\) を負極から正極へ通過するので、\(+E\)。
  • 電圧降下の和: 外部抵抗 \(R\) と内部抵抗 \(r\) をどちらも電流 \(I\) と同じ向きに通過するので、電圧降下はそれぞれ \(RI\) と \(rI\)。合計は \(RI+rI\)。

したがって、以下の関係式が成り立ちます。
$$ E = RI + rI $$

使用した物理公式

  • キルヒホッフの第二法則(電圧則): 起電力の和 = 電圧降下の和
計算過程

上記で立式した \(E = RI + rI\) を \(I\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
E &= (R+r)I \\[2.0ex]
I &= \frac{E}{R+r}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

電池が持つ \(E\) というエネルギーは、回路を一周する間にすべて使い切られます。このエネルギーは、外側の抵抗 \(R\) を通過するときと、電池の中にある内部抵抗 \(r\) を通過するとき、の2箇所で消費されます。したがって、「電池のエネルギー \(E\) = \(R\)での消費分 + \(r\)での消費分」という関係が成り立ちます。これを数式で表して \(I\) について解けばOKです。

結論と吟味

電流 \(I\) は \(\displaystyle\frac{E}{R+r}\) と表せます。これは、回路全体の抵抗が \(R+r\) であるとみなしたときのオームの法則の形をしており、物理的に妥当な結果です。

解答 (1) \(\displaystyle\frac{E}{R+r}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
可変抵抗器 \(R\) にかかる電圧 \(V\) を求める問題です。抵抗 \(R\) の部分にオームの法則を適用します。抵抗値は \(R\)、そこを流れる電流は(1)で求めた \(I\) なので、これらをオームの法則の式に代入します。
この設問における重要なポイント

  • 回路の一部分だけに着目し、オームの法則 \(V=RI\) を適用する。
  • (1)で求めた電流 \(I\) の結果を利用する。

具体的な解説と立式
可変抵抗器 \(R\) の部分にオームの法則を適用します。
$$ V = RI $$
この式に、(1)で求めた \(I = \displaystyle\frac{E}{R+r}\) を代入します。

使用した物理公式

  • オームの法則: \(V=RI\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
V &= R \times I \\[2.0ex]
&= R \left( \frac{E}{R+r} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{R}{R+r}E
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

可変抵抗器 \(R\) にかかる電圧、つまり \(R\) の両端の「標高差」を知りたい問題です。標高差は「抵抗値 × そこを流れる電流」で計算できます。(1)で電流の大きさがわかっているので、それを抵抗値 \(R\) に掛けるだけで答えが出ます。

結論と吟味

電圧 \(V\) は \(\displaystyle\frac{R}{R+r}E\) と表せます。この電圧は「端子電圧」とも呼ばれ、電池の起電力 \(E\) よりも \(Ir\) だけ小さくなっています(\(V = E – Ir\))。これは、起電力の一部が内部抵抗で消費されてしまうため、電池の端子から取り出せる電圧は \(E\) より小さくなることを示しており、妥当な結果です。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{R}{R+r}E\)

問(3)

思考の道筋とポイント
「全回路で消費される電力」\(P_0\) を求めます。これは、電源が回路全体に供給する電力に等しく、電池の「仕事率」と考えることができます。電力の公式 \(P=IV\) を、回路全体、すなわち電源に着目して適用します。電源が供給する電流は \(I\)、電源の起電力(電圧)は \(E\) です。
この設問における重要なポイント

  • 「全回路で消費される電力」は「電源が供給する電力」と等しい。
  • 電源が供給する電力は \(P_0 = IE\) で計算される。

具体的な解説と立式
電源が供給する電力 \(P_0\) は、電力の公式 \(P=IV\) より、電流 \(I\) と起電力 \(E\) の積で与えられます。
$$ P_0 = IE $$
この式に、(1)で求めた \(I = \displaystyle\frac{E}{R+r}\) を代入します。

使用した物理公式

  • 電力の公式: \(P=IV\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
P_0 &= I E \\[2.0ex]
&= \left( \frac{E}{R+r} \right) E \\[2.0ex]
&= \frac{E^2}{R+r}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

電池が1秒あたりに生み出すエネルギーの総量(仕事率)を求める問題です。これは「電流 × 電圧」で計算できます。今、回路全体を考えているので、電流は(1)で求めた \(I\)、電圧は電池そのものの能力である起電力 \(E\) を使います。

結論と吟味

全消費電力 \(P_0\) は \(\displaystyle\frac{E^2}{R+r}\) と表せます。この電力は、外部抵抗 \(R\) と内部抵抗 \(r\) の両方で消費される熱エネルギーの合計に等しくなります。

解答 (3) \(\displaystyle\frac{E^2}{R+r}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
可変抵抗器 \(R\) だけで消費される電力 \(P_1\) を求めます。抵抗で消費される電力を求めるには、\(P=IV\), \(P=I^2R\), \(P=\displaystyle\frac{V^2}{R}\) の3つの公式があります。今回は、(1)で電流 \(I\) を求めているので、\(P_1 = I^2R\) を使うのが最も計算が簡単です。
この設問における重要なポイント

  • 抵抗での消費電力の公式 \(P=I^2R\) を選択する。
  • (1)で求めた電流 \(I\) の結果を利用する。

具体的な解説と立式
可変抵抗器 \(R\) での消費電力 \(P_1\) は、電力の公式 \(P=I^2R\) を用いて計算します。
$$ P_1 = I^2 R $$
この式に、(1)で求めた \(I = \displaystyle\frac{E}{R+r}\) を代入します。

使用した物理公式

  • 電力の公式: \(P=I^2R\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
P_1 &= I^2 R \\[2.0ex]
&= \left( \frac{E}{R+r} \right)^2 R \\[2.0ex]
&= \frac{E^2 R}{(R+r)^2}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

外側の抵抗 \(R\) だけで消費されるエネルギー(1秒あたり)を求める問題です。抵抗で消費される電力は「電流の2乗 × 抵抗値」で計算するのが便利です。(1)で求めた電流 \(I\) を2乗して、抵抗値 \(R\) を掛ければOKです。

結論と吟味

可変抵抗器での消費電力 \(P_1\) は \(\displaystyle\frac{E^2 R}{(R+r)^2}\) と表せます。この式は、次の設問(5)で最大値を求めるための出発点となります。

解答 (4) \(\displaystyle\frac{E^2 R}{(R+r)^2}\)

問(5)

思考の道筋とポイント
(4)で求めた \(P_1\) を、可変抵抗の抵抗値 \(R\) の関数とみて、その最大値を求める問題です。\(P_1\) の式は \(R\) の分数関数になっており、このままでは最大値を求めにくいです。そこで、式を変形して考えやすくします。模範解答では、分母分子を \(R\) で割り、分母に \(R\) を集めることで、相加・相乗平均の関係が利用できる形に変形しています。
この設問における重要なポイント

  • \(P_1\) が最大になるのは、式の分母が最小になるときである、と考える。
  • 分母の式を、相加・相乗平均の関係が適用できる形に変形する。
  • 相加・相乗平均の関係: \(a>0, b>0\) のとき \(a+b \ge 2\sqrt{ab}\)。等号成立は \(a=b\) のとき。

具体的な解説と立式
(4)で求めた \(P_1\) の式を変形します。
$$ P_1 = \frac{E^2 R}{(R+r)^2} $$
この式の分母分子を \(R\) で割ります。(\(R>0\) なので問題ありません)
$$ P_1 = \frac{E^2}{\frac{(R+r)^2}{R}} $$
分母を変形します。
$$
\begin{aligned}
\frac{(R+r)^2}{R} &= \frac{R^2 + 2Rr + r^2}{R} \\[2.0ex]
&= R + 2r + \frac{r^2}{R} \\[2.0ex]
&= \left( R + \frac{r^2}{R} \right) + 2r
\end{aligned}
$$
よって、\(P_1\) は以下のように表せます。
$$ P_1 = \frac{E^2}{\left( R + \frac{r^2}{R} \right) + 2r} $$
\(E\) と \(r\) は定数なので、\(P_1\) が最大になるのは、分母の \(\left( R + \frac{r^2}{R} \right) + 2r\) が最小になるとき、すなわち \(R + \frac{r^2}{R}\) が最小になるときです。

ここで、\(R>0, \frac{r^2}{R}>0\) なので、相加・相乗平均の関係を用いることができます。
$$ R + \frac{r^2}{R} \ge 2\sqrt{R \cdot \frac{r^2}{R}} $$
右辺を計算すると、
$$
\begin{aligned}
2\sqrt{R \cdot \frac{r^2}{R}} &= 2\sqrt{r^2} \\[2.0ex]
&= 2r
\end{aligned}
$$
よって、\(R + \frac{r^2}{R} \ge 2r\) となります。
等号が成立するのは、\(R = \frac{r^2}{R}\)、すなわち \(R^2 = r^2\)、\(R>0, r>0\) より \(R=r\) のときです。

使用した物理公式

  • (4)の結果
  • 相加・相乗平均の関係
計算過程

\(R + \frac{r^2}{R}\) の最小値は \(2r\) であり、それは \(R=r\) のときに実現します。
このときの \(P_1\) の最大値は、
$$
\begin{aligned}
P_{1, \text{最大}} &= \frac{E^2}{(\text{分母の最小値})} \\[2.0ex]
&= \frac{E^2}{(2r) + 2r} \\[2.0ex]
&= \frac{E^2}{4r}
\end{aligned}
$$
したがって、\(R=r\) のときに最大値 \(\displaystyle\frac{E^2}{4r}\) をとります。

この設問の平易な説明

外側の抵抗 \(R\) で消費される電力が、いつ一番大きくなるか?という問題です。\(R\) が小さすぎると電流はたくさん流れますが、抵抗自体が小さいので電力は小さくなります。逆に \(R\) が大きすぎると、電流が流れにくくなってしまい、やはり電力は小さくなります。ちょうど良いバランスの点があるはずです。
この「ちょうど良いバランス」を探すために、数学のテクニック「相加・相乗平均」を使います。式をうまく変形すると、分母が一番小さくなるとき、つまり \(R\) と \(r\) が等しくなるときに、電力が最大になることがわかります。

結論と吟味

可変抵抗器での消費電力は、外部抵抗 \(R\) と内部抵抗 \(r\) の値が等しくなったとき (\(R=r\)) に最大となることがわかりました。これは「インピーダンスマッチング」として知られる非常に重要な結果です。電池から最大の電力を取り出したい場合、接続する機器の抵抗値を電池の内部抵抗値に合わせればよい、ということを示しています。

解答 (5) \(P_1\) の最大値: \(\displaystyle\frac{E^2}{4r}\), そのときのR: \(R=r\)
別解1: 微分法を用いる解法

思考の道筋とポイント
\(P_1\) を \(R\) の関数 \(P_1(R)\) とみなし、数IIIで学習する微分法を用いて最大値を求めます。関数の増減を調べるには、導関数 \(P_1′(R)\) の符号を調べればよいため、\(P_1′(R)=0\) となる \(R\) の値を求め、増減表を作成します。
この設問における重要なポイント

  • \(P_1\) を \(R\) の関数として微分する。
  • 商の微分公式 \(\left(\displaystyle\frac{f}{g}\right)’ = \displaystyle\frac{f’g – fg’}{g^2}\) を用いる。
  • \(P_1′(R)=0\) となる \(R\) を見つけ、増減表を作成して最大値であることを確認する。

具体的な解説と立式
\(P_1(R) = \displaystyle\frac{E^2 R}{(R+r)^2}\) を \(R\) で微分します。\(E^2\) は定数なので、前に出しておきます。
$$ P_1′(R) = E^2 \frac{d}{dR} \left( \frac{R}{(R+r)^2} \right) $$
商の微分公式を適用します。
$$
\begin{aligned}
P_1′(R) &= E^2 \frac{(R)'(R+r)^2 – R((R+r)^2)’}{((R+r)^2)^2} \\[2.0ex]
&= E^2 \frac{1 \cdot (R+r)^2 – R \cdot 2(R+r) \cdot (R+r)’}{(R+r)^4} \\[2.0ex]
&= E^2 \frac{(R+r)^2 – 2R(R+r)}{(R+r)^4}
\end{aligned}
$$
分子の共通因数 \((R+r)\) で約分します。
$$
\begin{aligned}
P_1′(R) &= E^2 \frac{(R+r) – 2R}{(R+r)^3} \\[2.0ex]
&= E^2 \frac{r-R}{(R+r)^3}
\end{aligned}
$$
\(P_1′(R)=0\) となるのは、分子が0になるときなので、\(r-R=0\)、すなわち \(R=r\) のときです。
計算過程
\(R=r\) の前後で \(P_1′(R)\) の符号を調べ、増減表を作成します。(\(R>0, r>0\))

\(R\)(0)\(r\)
\(P_1′(R)\)+0
\(P_1(R)\)最大

増減表より、\(P_1(R)\) は \(R=r\) で最大値をとることがわかります。
最大値を求めるために、\(P_1(R)\) の式に \(R=r\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
P_{1, \text{最大}} &= \frac{E^2 r}{(r+r)^2} \\[2.0ex]
&= \frac{E^2 r}{(2r)^2} \\[2.0ex]
&= \frac{E^2 r}{4r^2} \\[2.0ex]
&= \frac{E^2}{4r}
\end{aligned}
$$
結論と吟味
微分法を用いても、主たる解法と全く同じく、\(R=r\) のときに最大値 \(\displaystyle\frac{E^2}{4r}\) をとるという結果が得られました。微分は関数の増減を調べるための万能なツールであり、物理現象の解析に非常に有効です。

解答 (5) \(P_1\) の最大値: \(\displaystyle\frac{E^2}{4r}\), そのときのR: \(R=r\)
別解2: 判別式を用いる解法

思考の道筋とポイント
\(P_1\) の式を、\(R\) についての2次方程式とみなせるように変形します。物理的に、抵抗値 \(R\) は実数として存在しなければなりません。したがって、この \(R\) の2次方程式が実数解を持つ条件、すなわち判別式 \(D \ge 0\) を利用して、\(P_1\) が取りうる値の範囲を求め、その最大値を導きます。
この設問における重要なポイント

  • \(P_1\) の式を \(R\) の2次方程式の形に変形する。
  • \(R\) は実数なので、2次方程式は実数解を持つ。
  • 判別式 \(D \ge 0\) の条件から、\(P_1\) の不等式を導き、最大値を求める。

具体的な解説と立式
(4)の式 \(P_1 = \displaystyle\frac{E^2 R}{(R+r)^2}\) を変形し、\(R\) について整理します。
$$ P_1 (R+r)^2 = E^2 R $$
$$ P_1 (R^2 + 2Rr + r^2) = E^2 R $$
$$ P_1 R^2 + 2P_1 r R + P_1 r^2 – E^2 R = 0 $$
$$ P_1 R^2 + (2P_1 r – E^2) R + P_1 r^2 = 0 $$
これは \(R\) に関する2次方程式です。\(R\) は実数なので、この方程式は実数解を持たなければなりません。よって、判別式 \(D\) は \(D \ge 0\) を満たす必要があります。
$$ D = (2P_1 r – E^2)^2 – 4 \cdot P_1 \cdot (P_1 r^2) \ge 0 $$
計算過程
判別式の不等式を解いて \(P_1\) の範囲を求めます。
$$
\begin{aligned}
(2P_1 r – E^2)^2 – 4P_1^2 r^2 &\ge 0 \\[2.0ex]
(4P_1^2 r^2 – 4P_1 r E^2 + E^4) – 4P_1^2 r^2 &\ge 0 \\[2.0ex]
E^4 – 4P_1 r E^2 &\ge 0 \\[2.0ex]
E^2 (E^2 – 4P_1 r) &\ge 0
\end{aligned}
$$
\(E^2 > 0\) なので、両辺を \(E^2\) で割っても不等号の向きは変わりません。
$$
\begin{aligned}
E^2 – 4P_1 r &\ge 0 \\[2.0ex]
E^2 &\ge 4P_1 r \\[2.0ex]
P_1 &\le \frac{E^2}{4r}
\end{aligned}
$$
この不等式は、\(P_1\) がとりうる値の上限が \(\displaystyle\frac{E^2}{4r}\) であることを示しています。したがって、\(P_1\) の最大値は \(\displaystyle\frac{E^2}{4r}\) です。

最大値をとるとき、判別式は \(D=0\) となり、2次方程式は重解をもちます。そのときの \(R\) の値は、
$$ R = -\frac{2P_1 r – E^2}{2P_1} $$
この式に、最大値 \(P_1 = \displaystyle\frac{E^2}{4r}\) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
R &= -\frac{2\left(\frac{E^2}{4r}\right)r – E^2}{2\left(\frac{E^2}{4r}\right)} \\[2.0ex]
&= -\frac{\frac{E^2}{2} – E^2}{\frac{E^2}{2r}} \\[2.0ex]
&= -\frac{-\frac{E^2}{2}}{\frac{E^2}{2r}} \\[2.0ex]
&= \left(\frac{E^2}{2}\right) \left(\frac{2r}{E^2}\right) \\[2.0ex]
&= r
\end{aligned}
$$
結論と吟味
判別式を用いるという高度な数学的手法によっても、\(R=r\) のときに最大値 \(\displaystyle\frac{E^2}{4r}\) をとるという、他の解法と一致する結果が得られました。物理量の存在条件から別の物理量の範囲を求めるこのアプローチは、非常に強力です。

解答 (5) \(P_1\) の最大値: \(\displaystyle\frac{E^2}{4r}\), そのときのR: \(R=r\)

問(6)

思考の道筋とポイント
\(P_0 – P_1\) が何を意味するかを問う問題です。\(P_0\) は「電源が供給する全電力」、\(P_1\) は「外部抵抗で消費される電力」です。エネルギー保存則の観点から、これらの差は「回路の残りの部分で消費される電力」を意味するはずです。回路の残りの部分は内部抵抗 \(r\) しかないため、この差は内部抵抗で消費される電力(ジュール熱)であると推測できます。これを数式で確認します。
この設問における重要なポイント

  • \(P_0\) と \(P_1\) の物理的な意味を理解する。
  • エネルギー保存則を念頭に置く。
  • キルヒホッフの法則の式をエネルギー(電力)の観点で変形する。

具体的な解説と立式
(1)で立てたキルヒホッフの第二法則の式から出発します。
$$ E = RI + rI $$
この式は電圧(単位電荷あたりのエネルギー)に関する関係式です。両辺に電流 \(I\) を掛けると、電力(単位時間あたりのエネルギー、仕事率)に関する関係式になります。
$$ IE = (RI)I + (rI)I $$
$$ IE = I^2 R + I^2 r $$
ここで、各項が何を表しているかを確認します。

  • \(IE\): (3)で求めた通り、電源が供給する全電力 \(P_0\)。
  • \(I^2 R\): (4)で求めた通り、外部抵抗 \(R\) で消費される電力 \(P_1\)。
  • \(I^2 r\): 内部抵抗 \(r\) で消費される電力。

したがって、上の式は以下のように書き換えられます。
$$ P_0 = P_1 + I^2 r $$
この式を移項すると、
$$ P_0 – P_1 = I^2 r $$

使用した物理公式

  • キルヒホッフの第二法則: \(E = RI + rI\)
  • 電力の公式: \(P=IV, P=I^2R\)
計算過程

上記の立式で計算は完了しています。\(P_0 – P_1\) は \(I^2 r\) に等しく、これは内部抵抗 \(r\) で消費される電力を表します。

この設問の平易な説明

電池が作った全エネルギー \(P_0\) のうち、外側の抵抗 \(R\) が使った分が \(P_1\) です。では、残りの \(P_0 – P_1\) はどこへ行ったのでしょうか?エネルギーは消えないので、回路のどこかで使われているはずです。回路には \(R\) の他に、電池の中の内部抵抗 \(r\) しかありません。したがって、この差額分は、内部抵抗 \(r\) が熱として消費した電力ということになります。

結論と吟味

\(P_0 – P_1\) は、内部抵抗 \(r\) で消費される電力を意味します。これは、電池が仕事をすると、電池自身も少し熱くなる現象に対応しており、エネルギー保存則から考えても妥当な結論です。15字以内でまとめます。

解答 (6) 内部抵抗rで消費される電力。

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • エネルギー保存則の電力表現:
    • 核心: この問題の根幹は、電池が作るエネルギー(電力)が、回路のどこでどのように消費されるかを理解することにあります。キルヒホッフの第二法則 \(E = RI + rI\) は電圧の関係式ですが、両辺に電流 \(I\) を掛けることで得られる \(IE = I^2R + I^2r\) という電力の関係式こそが、この問題の核心です。
    • 理解のポイント:
      • \(P_0 = IE\) (供給): 電源が1秒あたりに生み出す全エネルギー。
      • \(P_1 = I^2R\) (外部消費): 外部の抵抗(負荷)で熱や光、仕事などに変換される有効なエネルギー。
      • \(P_r = I^2r\) (内部消費): 電池の内部抵抗で熱として失われる、いわば「ロス」のエネルギー。
      • 保存則: 「供給された全電力 \(P_0\)」は、「外部での消費電力 \(P_1\)」と「内部での消費電力 \(P_r\)」の和に等しい (\(P_0 = P_1 + P_r\))。このエネルギー収支を常に意識することが重要です。
  • 最大電力供給の条件:
    • 核心: 「外部抵抗で消費される電力 \(P_1\) が最大になるのは、外部抵抗と内部抵抗が等しいとき (\(R=r\)) である」という結論。これは「インピーダンスマッチング」と呼ばれる、電気・電子工学における非常に重要な概念の基礎です。
    • 理解のポイント:
      • \(R\) が小さすぎると、大電流が流れるが抵抗が小さいため \(P_1=I^2R\) は小さい。
      • \(R\) が大きすぎると、抵抗は大きいが電流が小さくなるため \(P_1=I^2R\) は小さい。
      • このトレードオフの最適点が \(R=r\) にある、という物理的イメージを持つことが大切です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 効率を問う問題: 電池の「効率 \(\eta\)」は、供給した全電力のうち、外部で有効に使われた電力の割合で定義されます。\(\eta = \displaystyle\frac{P_1}{P_0} = \displaystyle\frac{I^2R}{IE} = \displaystyle\frac{IR}{E}\)。これに \(I=\displaystyle\frac{E}{R+r}\) を代入すると \(\eta = \displaystyle\frac{R}{R+r}\) となります。最大の電力を取り出す条件 (\(R=r\)) では、効率は \(\eta = \displaystyle\frac{r}{r+r} = 0.5\)、つまり50%にしかならない、という興味深い事実を問う問題に応用できます。
    • グラフ問題: 横軸に外部抵抗 \(R\)、縦軸に消費電力 \(P_1\) や電流 \(I\) をとったグラフの概形を描かせる、あるいは読み取らせる問題。\(P_1\) が \(R=r\) で最大値をとる山形のグラフになることを理解しているかが問われます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 何を最大化したいか?: 問題が「外部での消費電力」を最大にしたいのか、それとも「効率」を最大にしたいのかを正確に読み取ります。両者の答えは異なります(効率が最大になるのは \(R \rightarrow \infty\) のとき)。
    2. 変数は何か?: この問題では外部抵抗 \(R\) が変数でした。問題によっては起電力 \(E\) や内部抵抗 \(r\) が変わる場合もあります。どの物理量が変数で、どれが定数かを明確に区別することが第一歩です。
    3. 最大値問題の数学的ツール選択:
      • 相加・相乗平均: 式が「\(x + \frac{a}{x}\)」の形に変形できそうな場合に有効。最も計算が楽なことが多い。
      • 微分法: 最も汎用性が高く、どんな関数にも適用できる最終手段。計算は少し煩雑になることがある。
      • 判別式: 式が変数の2次方程式の形に整理できる場合に使えるエレガントな解法。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 起電力と端子電圧の混同:
    • 誤解: 電池から取り出せる電圧は常に起電力 \(E\) であると勘違いし、\(P_1 = \displaystyle\frac{E^2}{R}\) のように計算してしまう。
    • 対策: 電流が流れているとき、電池の端子間の電圧(端子電圧 \(V\))は、内部抵抗での電圧降下 \(Ir\) の分だけ起電力 \(E\) より必ず小さくなる (\(V = E-Ir\)) ことを常に意識します。\(E\) は電池の能力の最大値、\(V\) は実際に外部で使える電圧、と区別しましょう。
  • 最大電力と最大電流の混同:
    • 誤解: 電力を最大にするには、とにかく電流を最大にすればよいと考えてしまう。
    • 対策: 電流 \(I\) が最大になるのは、(1)の式からわかるように外部抵抗がゼロ (\(R=0\)) のときです(短絡・ショート)。しかし、このとき外部での消費電力は \(P_1 = I^2 \times 0 = 0\) となり、最大ではありません。電力は電流と抵抗の両方に依存することを理解し、安易な結論に飛びつかないようにしましょう。
  • 相加・相乗平均の適用条件の無視:
    • 誤解: どんな場合でも \(a+b \ge 2\sqrt{ab}\) が使えると思い込んでいる。
    • 対策: 相加・相乗平均の関係が使えるのは、対象となる項が両方とも正である(\(a>0, b>0\))場合に限られます。本問では \(R>0\) なので適用できましたが、この条件を確認する癖をつけましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 電力の公式の使い分け:
    • 選定理由: 電力には \(P=IV\), \(P=I^2R\), \(P=\displaystyle\frac{V^2}{R}\) の3つの形があります。どれを使っても同じ結果になりますが、計算のしやすさが異なります。
    • 適用根拠:
      • (3)で \(P_0\) を求める際、電源の起電力 \(E\) と電流 \(I\) が分かっていたので \(P_0=IE\) を選択するのが最も直接的でした。
      • (4)で \(P_1\) を求める際、回路に流れる電流 \(I\) が共通で、抵抗値が \(R\) であることから \(P_1=I^2R\) を選択するのが最も計算が簡単でした。もし(2)で求めた電圧 \(V\) を使うと \(P_1 = \displaystyle\frac{V^2}{R}\) となり、計算が少し複雑になります。このように、「どの物理量が分かっていて、どの物理量を求めたいか」に応じて最適な公式を選択する思考が重要です。
  • 相加・相乗平均の選択:
    • 選定理由: (5)で \(P_1\) の最大値を求める際に、この手法が選ばれました。その理由は、\(P_1\) の式を逆数にしたり、分母分子を \(R\) で割ったりすることで、分母に「\(R + \frac{r^2}{R}\)」という「変数+定数/変数」の形を作り出せることを見抜いたからです。この形は相加・相乗平均を適用する典型的なパターンです。
    • 適用根拠: このパターンを見抜ければ、微分などの複雑な計算を回避し、最小値とその条件を素早く求めることができます。最大・最小問題に遭遇したら、まずこの形に変形できないかを試すのは、有効な戦略です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 分数関数の変形戦略: (5)のような分数関数の最大・最小問題では、「変数を分母か分子のどちらか一方に集める」のが定石です。
    1. \(P_1 = \displaystyle\frac{E^2 R}{(R+r)^2}\) のように分母と分子両方に変数 \(R\) があると扱いにくい。
    2. 分母分子を \(R\) で割り、\(P_1 = \displaystyle\frac{E^2}{R+2r+r^2/R}\) のように変数を分母に集める。
    3. こうすることで、「\(P_1\) が最大 ⇔ 分母が最小」という、より単純な問題に置き換えることができます。
  • 文字定数の明確化: 計算中は \(E\) や \(r\) もただの文字に見えますが、これらは定数(固定された値)であり、変数は \(R\) だけである、ということを常に意識しましょう。微分する際も、\(E\) や \(r\) は数字の2や3と同じように扱うことで、計算ミスを防げます。
  • 平方完成の応用: (5)の分母の変形は、平方完成の考え方にも似ています。
    \(R + \displaystyle\frac{r^2}{R} = (\sqrt{R})^2 + \left(\displaystyle\frac{r}{\sqrt{R}}\right)^2 = \left(\sqrt{R} – \displaystyle\frac{r}{\sqrt{R}}\right)^2 + 2\sqrt{R}\cdot\displaystyle\frac{r}{\sqrt{R}} = \left(\sqrt{R} – \displaystyle\frac{r}{\sqrt{R}}\right)^2 + 2r\)。
    \((\text{実数})^2 \ge 0\) なので、この式の最小値は \(2r\) であり、それは \(\sqrt{R} – \displaystyle\frac{r}{\sqrt{R}} = 0\)、つまり \(R=r\) のときに実現します。この変形は相加・相乗平均の証明そのものであり、理解を深めるのに役立ちます。

基本例題81 ホイートストンブリッジ

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 設問(2)の別解: 電圧の比(分圧)を用いる解法
      • 模範解答が、まず各枝路の電流を計算し、次にオームの法則 \(V=RI\) を用いて各点の電位を求めるのに対し、別解では電流を直接計算せず、直列抵抗の「電圧の比は抵抗の比に等しい」という分圧の考え方を用いて、より直接的に各点の電位を求めます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 思考の効率化: 電流の計算を省略できるため、特に電位や電位差のみを問う問題において、より少ないステップで迅速に答えにたどり着くことができます。
    • 物理的イメージの強化: 回路の枝路全体にかかる電圧が、各抵抗の大きさに応じて「分配」されるという物理的なイメージが明確になり、回路に対する直感的な理解が深まります。
    • 検算への応用: 主たる解法で計算した結果を、分圧の考え方で素早く検算することができ、計算ミスの発見に役立ちます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「ホイートストンブリッジの動作原理と電位の計算」です。未知の抵抗値を精密に測定するのに用いられるホイートストンブリッジについて、平衡条件を正しく理解しているか、また、回路の各点の電位を正確に計算できるかが問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. ホイートストンブリッジの平衡条件: ブリッジの中央にある検流計に電流が流れない(平衡状態)とき、対角にある抵抗の積が等しくなる(\(R_1 R_x = R_2 R_3\))。これは、検流計の両端の点の電位が等しいことと同義です。
  2. 電位の概念と基準点(アース): 回路の電位は、基準点(アース、0V)からの電気的な高さで表されます。ある点の電位は、基準点からその点まで、どのような経路をたどって計算しても同じ値になります。
  3. オームの法則と電圧降下: 電流 \(I\) が抵抗 \(R\) を流れるとき、電流の向きに沿って電位は \(RI\) だけ降下(低く)します。
  4. 直列抵抗の分圧: 直列に接続された抵抗にかかる電圧は、それぞれの抵抗値の比に比例して分配されます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、検流計に電流が流れないという「平衡条件」から、抵抗値の間に成り立つ関係式を立てて、未知の抵抗値 \(R_x\) を求めます。
  2. (2)では、スイッチSが開いているため、回路は「\(R_1\)と\(R_3\)の直列回路」と「\(R_2\)と\(R_x\)の直列回路」という2つの独立した枝路に分かれていると見なせます。
  3. (a), (b)ともに、まずそれぞれの枝路に流れる電流を計算し、オームの法則を用いて点Aと点Bの電位をそれぞれ求め、その差(点Bに対する点Aの電位)を計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
「検流計Gの針が振れない」という条件は、ホイートストンブリッジが「平衡状態」にあることを意味します。これは、点Aと点Bの電位が等しい(\(V_A = V_B\))ということです。このとき、対角にある抵抗の積が等しくなる、という有名な公式 \(R_1 R_x = R_2 R_3\) が成り立ちます。この公式に既知の抵抗値を代入して \(R_x\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 「Gの針が振れない」 \(\Leftrightarrow\) 「点Aと点Bの電位が等しい」 \(\Leftrightarrow\) 「ブリッジが平衡している」。
  • 平衡条件の公式: \(R_1 R_x = R_2 R_3\)。

具体的な解説と立式
ホイートストンブリッジが平衡状態にあるため、平衡条件の公式を適用します。
$$ R_1 R_x = R_2 R_3 $$
この式を、求めたい \(R_x\) について解きます。
$$ R_x = \frac{R_2 R_3}{R_1} $$

使用した物理公式

  • ホイートストンブリッジの平衡条件: \(R_1 R_x = R_2 R_3\)
計算過程

上記で立式した式に、問題文で与えられた値を代入します。
\(R_1 = 2\) [kΩ], \(R_2 = 4\) [kΩ], \(R_3 = 4\) [kΩ] なので、
$$
\begin{aligned}
R_x &= \frac{4 \times 4}{2} \\[2.0ex]
&= \frac{16}{2} \\[2.0ex]
&= 8 \, [\text{kΩ}]
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

ホイートストンブリッジには、「たすき掛けした抵抗の値の積が等しくなるとき、真ん中の橋(検流計)には電流が流れない」という便利な性質があります。つまり、「\(R_1 \times R_x = R_2 \times R_3\)」が成り立つときに、検流計の針はピタッと止まります。この公式にわかっている数値を当てはめて、残りの \(R_x\) を計算するだけです。

結論と吟味

未知の抵抗値 \(R_x\) は 8 kΩ であると求まりました。ホイートストンブリッジは、このように既知の抵抗値とのバランスをとることで、未知の抵抗値を精密に測定するために利用されます。

解答 (1) 8 kΩ

問(2)(a)

思考の道筋とポイント
スイッチSが開いているため、回路は2つの独立した枝路に分かれます。

  • 上の枝路: \(R_1\) と \(R_3\) の直列回路
  • 下の枝路: \(R_2\) と \(R_x\) の直列回路

「点Bに対する点Aの電位」とは、電位差 \(V_{AB} = V_A – V_B\) のことです。これを求めるために、まず基準点(アース)に対する点Aの電位 \(V_A\) と点Bの電位 \(V_B\) をそれぞれ計算します。
図から、点Dがアース(接地)されているため、点Dの電位は0Vです。また、電池の負極も点Dに接続されているため、電池の正極側、すなわち点Cの電位は3Vとなります。
この設問における重要なポイント

  • アースされている点Dの電位を基準(0V)とする。
  • 点Aの電位は、点Dから抵抗 \(R_3\) を経由して求める。
  • 点Bの電位は、点Dから抵抗 \(R_x\) を経由して求める。
  • 各枝路に流れる電流を、オームの法則を用いて計算する。

具体的な解説と立式
1. 各枝路の電流を求める

  • 上の枝路 (C→A→D):
    合成抵抗は \(R_1 + R_3 = 2 + 4 = 6\) kΩ。この枝路にかかる電圧は \(V_{CD} = V_C – V_D = 3 – 0 = 3\) V。
    したがって、流れる電流 \(I_1\) は、
    $$ I_1 = \frac{V_{CD}}{R_1+R_3} $$
  • 下の枝路 (C→B→D):
    \(R_x = 2\) kΩ なので、合成抵抗は \(R_2 + R_x = 4 + 2 = 6\) kΩ。この枝路にも電圧 3V がかかる。
    したがって、流れる電流 \(I_2\) は、
    $$ I_2 = \frac{V_{CD}}{R_2+R_x} $$

2. 点Aと点Bの電位を求める

  • 点Aの電位 \(V_A\):
    点Aの電位は、基準点D(0V)から見て、抵抗 \(R_3\) の分だけ電位が高い場所です。電流 \(I_1\) がAからDの向きに流れているので、Aの方がDより電位が高くなります。その電位差はオームの法則より \(R_3 I_1\) です。
    $$ V_A = V_D + R_3 I_1 $$
  • 点Bの電位 \(V_B\):
    同様に、点Bの電位は、基準点D(0V)から見て、抵抗 \(R_x\) の分だけ電位が高い場所です。
    $$ V_B = V_D + R_x I_2 $$

3. 点Bに対する点Aの電位を求める
$$ V = V_A – V_B $$

使用した物理公式

  • オームの法則: \(I = V/R\), \(V=RI\)
計算過程

1. 電流の計算
$$
\begin{aligned}
I_1 &= \frac{3}{(2+4) \times 10^3} \\[2.0ex]
&= \frac{3}{6 \times 10^3} \\[2.0ex]
&= 0.5 \times 10^{-3} \, \text{A}
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
I_2 &= \frac{3}{(4+2) \times 10^3} \\[2.0ex]
&= \frac{3}{6 \times 10^3} \\[2.0ex]
&= 0.5 \times 10^{-3} \, \text{A}
\end{aligned}
$$
2. 電位の計算
$$
\begin{aligned}
V_A &= 0 + (4 \times 10^3) \times (0.5 \times 10^{-3}) \\[2.0ex]
&= 2 \, \text{V}
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
V_B &= 0 + (2 \times 10^3) \times (0.5 \times 10^{-3}) \\[2.0ex]
&= 1 \, \text{V}
\end{aligned}
$$
3. 電位差の計算
$$
\begin{aligned}
V &= V_A – V_B \\[2.0ex]
&= 2 – 1 \\[2.0ex]
&= 1 \, \text{V}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

スイッチが開いているので、回路は単に2本の道(上の道と下の道)に分かれています。地面Dを標高0mとすると、スタート地点Cは電池のおかげで標高3mになります。

  • A地点の標高: 上の道(C→A→D)を考えます。C(3m)とD(0m)の標高差3mを、2kΩと4kΩの抵抗で分け合います。A地点は、D地点から4kΩの抵抗を登った場所なので、その標高を計算します。
  • B地点の標高: 下の道(C→B→D)を考えます。同様に、C(3m)とD(0m)の標高差3mを、4kΩと2kΩの抵抗で分け合います。B地点は、D地点から2kΩの抵抗を登った場所なので、その標高を計算します。

最後に、A地点の標高からB地点の標高を引き算すれば、Bに対するAの高さ(電位)がわかります。

結論と吟味

点Bに対する点Aの電位は 1V となりました。これは点Aが点Bよりも1Vだけ電位が高いことを意味します。もしこの状態でスイッチSを閉じれば、電位の高いAから低いBへ向かって電流が流れることになります。

解答 (2)(a) 1 V
別解: 電圧の比(分圧)を用いる解法

思考の道筋とポイント
電流を介さずに、分圧の公式を用いて直接 \(V_A\) と \(V_B\) を求めます。直列接続された抵抗では、全体の電圧は抵抗値の比に比例して分配されます。C点とD点の電位差は3Vなので、この3Vが各枝路の抵抗にどう分配されるかを考えます。
この設問における重要なポイント

  • 分圧の公式: 直列抵抗 \(R_a, R_b\) に電圧 \(V_{total}\) がかかるとき、\(R_a\) にかかる電圧は \(V_a = V_{total} \times \displaystyle\frac{R_a}{R_a+R_b}\)。
  • 電位の計算: \(V_A\) は抵抗 \(R_3\) の両端の電圧に等しい。\(V_B\) は抵抗 \(R_x\) の両端の電圧に等しい。(基準点Dが0Vのため)

具体的な解説と立式
C点とD点の間の電位差は \(V_{CD} = 3\)V です。

  • 点Aの電位 \(V_A\):
    上の枝路では、3Vの電圧が \(R_1\) と \(R_3\) に分圧されます。点Aの電位は、抵抗 \(R_3\) にかかる電圧 \(V_3\) に等しいです。
    $$ V_A = V_3 = V_{CD} \times \frac{R_3}{R_1+R_3} $$
  • 点Bの電位 \(V_B\):
    下の枝路では、3Vの電圧が \(R_2\) と \(R_x\) に分圧されます。点Bの電位は、抵抗 \(R_x\) にかかる電圧 \(V_x\) に等しいです。
    $$ V_B = V_x = V_{CD} \times \frac{R_x}{R_2+R_x} $$

計算過程
与えられた値を代入して \(V_A\) と \(V_B\) を計算します。単位がすべてkΩで共通なので、比の計算ではkを省略できます。
$$
\begin{aligned}
V_A &= 3 \times \frac{4}{2+4} \\[2.0ex]
&= 3 \times \frac{4}{6} \\[2.0ex]
&= 2 \, \text{V}
\end{aligned}
$$
\(R_x = 2\) kΩ なので、
$$
\begin{aligned}
V_B &= 3 \times \frac{2}{4+2} \\[2.0ex]
&= 3 \times \frac{2}{6} \\[2.0ex]
&= 1 \, \text{V}
\end{aligned}
$$
よって、点Bに対する点Aの電位は、
$$
\begin{aligned}
V &= V_A – V_B \\[2.0ex]
&= 2 – 1 \\[2.0ex]
&= 1 \, \text{V}
\end{aligned}
$$
結論と吟味
主たる解法と全く同じ結果が得られました。分圧の考え方を使うと、電流を計算する手間が省け、より直接的に電位を求めることができます。特に、抵抗値の比が簡単な整数になる場合に有効な方法です。

解答 (2)(a) 1 V

問(2)(b)

思考の道筋とポイント
「抵抗が断線した」という状況は、その部分の抵抗値が無限大 (\(R_x \rightarrow \infty\)) になったと解釈できます。このとき、下の枝路 (C→B→D) には電流が流れなくなります (\(I_2 = 0\))。
点Aの電位 \(V_A\) は(a)と条件が変わらないので同じ値です。
点Bの電位 \(V_B\) は、電流が流れなくなったことで状況が変化します。電流が0なので、抵抗 \(R_2\) での電圧降下は \(R_2 I_2 = 0\) となります。
この設問における重要なポイント

  • 「断線」 \(\Leftrightarrow\) 抵抗値が無限大 \(\Leftrightarrow\) その枝路の電流が0。
  • 電流が0のとき、抵抗による電圧降下は0になる。
  • 電圧降下が0ということは、その抵抗の両端の電位は等しい。

具体的な解説と立式

  • 点Aの電位 \(V_A\):
    上の枝路の状況は(a)から変わらないため、\(V_A = 2\) V のままです。
  • 点Bの電位 \(V_B\):
    \(R_x\) が断線したため、下の枝路を流れる電流 \(I_2\) は0になります。
    $$ I_2 = 0 $$
    このとき、抵抗 \(R_2\) での電圧降下は \(R_2 I_2 = 0\) V です。
    電圧降下が0ということは、点Cと点Bの電位は等しくなります。点Cの電位は電池の正極の電位なので 3V です。
    $$ V_B = V_C = 3 \, \text{V} $$
  • 点Bに対する点Aの電位 \(V’\):
    $$ V’ = V_A – V_B $$

使用した物理公式

  • オームの法則: \(V=RI\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
V’ &= V_A – V_B \\[2.0ex]
&= 2 – 3 \\[2.0ex]
&= -1 \, \text{V}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

下の道の \(R_x\) の部分で橋が落ちてしまい、道が途切れた(断線した)状況です。

  • A地点の標高: 上の道は無事なので、(a)と同じで標高2mです。
  • B地点の標高: 下の道は電流が全く流れなくなります。電流が流れないということは、抵抗 \(R_2\) はただの平坦な道と同じになり、坂(電圧降下)がなくなります。したがって、B地点の標高は、スタート地点Cと同じ標高3mになります。

最後に、A地点の標高(2m)からB地点の標高(3m)を引き算すると、-1Vとなります。

結論と吟味

点Bに対する点Aの電位は -1V となりました。これは点Aが点Bよりも1Vだけ電位が低いことを意味します。断線によって下の枝路の電位分布が大きく変化した結果、(a)とは電位の大小関係が逆転しました。

解答 (2)(b) -1 V

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 電位の概念と基準点:
    • 核心: この問題の根幹は、回路の各点の「電位(電気的な高さ)」を正確に計算できるか、という点に尽きます。特に、アース(接地)記号がある場合、その点を電位の基準点(0V)と定めることが、問題を解く上での絶対的な出発点となります。
    • 理解のポイント:
      • 基準点の設定: アースがあればそこが0V。なければ、電池の負極など、自分で基準点を決めると考えやすくなります。
      • 電位の計算: ある点の電位は、基準点からその点まで、回路の経路に沿って電位の変化(上昇・下降)を足し算していくことで求められます。
      • 電位差: 「点Bに対する点Aの電位」と問われたら、それは電位差 \(V_{AB} = V_A – V_B\) を計算することを意味します。どちらからどちらを引くのかを間違えないように注意が必要です。
  • ホイートストンブリッジの平衡条件:
    • 核心: (1)で用いた「検流計に電流が流れない \(\Leftrightarrow\) \(V_A = V_B\) \(\Leftrightarrow\) \(R_1 R_x = R_2 R_3\)」という一連の同値関係は、ホイートストンブリッジを扱う上での最重要知識です。
    • 理解のポイント:
      • この条件が成り立つのは、C点からD点への電圧降下が、上の枝路(C→A→D)と下の枝路(C→B→D)で、A点とB点において全く同じ割合で生じているからです。つまり、\(R_1\)と\(R_2\)の抵抗比、\(R_3\)と\(R_x\)の抵抗比が等しい(\(\frac{R_1}{R_2} = \frac{R_3}{R_x}\))ことが本質です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • メートルブリッジ: ホイートストンブリッジの原理を、一様な抵抗線を使って実現した装置です。抵抗線の長さが抵抗値に比例することを利用して、抵抗線のどの位置で平衡がとれるかを問う問題に応用できます。
    • コンデンサーを含むブリッジ回路: 抵抗の代わりにコンデンサーを配置したブリッジ回路。直流定常状態ではコンデンサーに電流は流れませんが、各点の電位は抵抗の場合と同様に計算できます。これにより、各コンデンサーにかかる電圧や蓄えられる電気量を求める問題に応用できます。
    • 不平衡なブリッジ回路: (2)のように平衡していないブリッジで、検流計に流れる電流の向きや大きさを問う問題。A点とB点の電位を計算し、電位の高い方から低い方へ電流が流れる、と考えます。電流の大きさを求めるには、キルヒホッフの法則を用いて連立方程式を解く必要があります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. アースを探す: まず回路図全体を見て、アース記号がないかを確認します。アースがあれば、そこが電位0Vの絶対的な基準です。
    2. 電源の向きと電位の確定: アースと電源の位置関係から、回路の主要な点の電位を確定させます。本問では「D点が0V」→「C点が3V」と確定できました。
    3. 回路の構造分析: スイッチが開いているか閉じているかで、回路の構造が大きく変わります。(2)のようにスイッチが開いていれば、2つの独立した直列回路と見なせます。
    4. 分圧の利用を検討: (2)の別解のように、直列回路の電位を求める際には、電流を計算せずに分圧の考え方が使えないか検討します。計算を大幅に簡略化できる可能性があります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 電位と電圧(電位差)の混同:
    • 誤解: 「電圧」と「電位」を同じものだと思ってしまう。
    • 対策: 「電位」は基準点からの「高さ」そのものを表すスカラー量(例: A地点の標高は2m)です。一方、「電圧」または「電位差」は2点間の「高さの差」(例: AとBの標高差は1m)を表します。この区別を明確に意識することが重要です。
  • 単位「kΩ」の扱い:
    • 誤解: 計算の途中で \(k\)(キロ、\(10^3\))を忘れてしまい、2Ωや4Ωとして計算してしまう。
    • 対策:
      • 比で考える: (1)の平衡条件や(2)の分圧の計算では、抵抗の「比」が重要なので、すべての抵抗が同じkΩ単位であれば、kを無視して「2, 4, 8」のような比で計算しても結果は同じになります。
      • 電流計算では必須: (2)の主たる解法のように、オームの法則で具体的な電流値[A]を計算する場合は、必ず \(2 \times 10^3\) ΩのようにSI単位に直して計算する必要があります。
  • 「断線」の解釈ミス:
    • 誤解: 「断線」を「抵抗値が0(ショート)」と勘違いしてしまう。
    • 対策: 「断線」は電流が流れる道が完全に途切れることなので、「抵抗値が無限大 (\(R \rightarrow \infty\))」と正しく解釈します。その結果、その枝路には電流が流れなくなります (\(I=0\))。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 平衡条件の公式 \(R_1 R_x = R_2 R_3\):
    • 選定理由: (1)では「検流計に電流が流れない」という、ホイートストンブリッジの最も特徴的な状況が与えられました。この状況に特化した、最も強力で簡単な公式が平衡条件の式です。
    • 適用根拠: この公式は、より基本的な法則である「\(V_A = V_B\)」から導出されます。\(V_A = V_C – R_1 I_1\), \(V_B = V_C – R_2 I_2\) などと電位を計算し、それらを等しいとおいて整理することで、この公式を導くことができます。つまり、この公式はキルヒホッフの法則やオームの法則を、ブリッジ回路の平衡時に使いやすくまとめたものと言えます。
  • 分圧の公式(別解):
    • 選定理由: (2)では、回路が単純な2つの直列回路に分離していました。直列回路において、全体の電圧が各抵抗にどのように分配されるかを知りたい場合、分圧の公式は最も直接的で効率的なアプローチです。
    • 適用根拠: 分圧の公式はオームの法則から簡単に導出できます。直列回路では電流 \(I\) が一定なので、各抵抗にかかる電圧は \(V_1=R_1 I, V_2=R_2 I\) となり、電圧の比は抵抗の比 (\(V_1:V_2 = R_1:R_2\)) に等しくなります。この基本的な性質を利用しているため、安心して適用できます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 図への書き込み: 問題を解き始める前に、図に情報を書き込むことを習慣にしましょう。
    1. アースに「0V」と書き込む。
    2. 電源の正極側に「+3V」など、確定した電位を書き込む。
    3. 計算で求めた各点の電位(\(V_A=2V, V_B=1V\)など)も、その都度書き込んでいく。

    こうすることで、回路全体の電位分布が視覚的に把握でき、思考が整理されてミスが減ります。

  • 単位を揃えてから計算: kΩ, mΩ, MΩ など、異なるオーダーの抵抗が混在する問題では、計算を始める前にすべての抵抗値をΩ単位に統一する(例: \(2 \times 10^3\) Ω)のが最も安全です。
  • 電位差の符号確認: 「Bに対するAの電位」を求めた後、結果の符号が物理的な状況と合っているか確認します。例えば(a)で結果が「+1V」と出たら、「これはAがBより1V高いという意味だな」と解釈します。もしスイッチを閉じたらA→Bに電流が流れるはずだ、というように、次の展開を予測することで、計算ミスに気づきやすくなります。

基本例題82 電流 – 電圧特性曲線

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「非線形素子を含む回路のグラフを用いた解析」です。通常の抵抗(オームの法則に従う線形素子)とは異なり、電圧と電流が比例しない「非線形素子」である電球を含む回路の動作点を、グラフを用いて求める手法を扱います。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. キルヒホッフの第二法則(電圧則): 回路全体で、電源の起電力と各素子での電圧降下の関係を正しく立式できること。
  2. グラフの読解能力: 与えられた電流-電圧特性のグラフが、電球という部品の性質を表していることを理解すること。
  3. 連立方程式のグラフによる解法: 2つの関係式(1つはグラフ、もう1つは方程式)を同時に満たす解は、グラフとその方程式が表す直線の交点として求められることを理解していること。
  4. 電力の公式: 消費電力を計算する公式(\(P=IV, P=I^2R\))を正しく使い分けられること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、電球と抵抗が直列につながった回路全体にキルヒホッフの第二法則を適用し、電球にかかる電圧 \(V\) と回路に流れる電流 \(I\) の関係式を導きます。
  2. (2)では、(1)で導いた関係式(直線の方程式)を、問題で与えられた電球の特性グラフに重ねて描き、曲線と直線の交点の座標を読み取ることで、実際に回路で実現する \(V\) と \(I\) の値を求めます。
  3. (3)では、(2)で求めた \(V\) と \(I\) の値を用いて、電力の公式から電球と抵抗の消費電力をそれぞれ計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
電球と20Ωの抵抗が直列に接続された回路全体に、キルヒホッフの第二法則(電圧則)を適用します。電源の起電力(6.0V)が、電球にかかる電圧 \(V\) と、20Ωの抵抗にかかる電圧の和に等しい、という関係を立式します。20Ωの抵抗にかかる電圧は、オームの法則から \(20I\) と表せます。
この設問における重要なポイント

  • 回路は電球と抵抗の単純な直列回路である。
  • キルヒホッフの第二法則: 「起電力 = 電圧降下の和」。
  • 20Ωの抵抗での電圧降下はオームの法則 \(V=RI\) で計算する。

具体的な解説と立式
回路全体にキルヒホッフの第二法則を適用します。
電源の起電力は 6.0V です。
回路の電圧降下は、電球での電圧降下 \(V\) と、20Ωの抵抗での電圧降下の合計です。
20Ωの抵抗を流れる電流は、直列回路なので回路全体を流れる電流 \(I\) に等しく、その両端の電圧はオームの法則より \(20I\) となります。
したがって、「起電力 = 電圧降下の和」より、以下の関係式が成り立ちます。
$$ 6.0 = V + 20I $$

使用した物理公式

  • キルヒホッフの第二法則(電圧則)
  • オームの法則: \(V=RI\)
計算過程

この設問では、関係式を立てるだけで計算は不要です。この式は、後でグラフに描く直線の方程式となります。

この設問の平易な説明

電池が供給する6.0Vという「高さ」は、回路の2つの部品、電球と抵抗で分け合って消費されます。電球が消費する高さが \(V\)、抵抗が消費する高さが \(20 \times I\) なので、この2つを足し合わせると、元の高さである6.0Vになる、という単純な足し算の式を立てます。

結論と吟味

得られた関係式 \(6.0 = V + 20I\) は、電球にかかる電圧 \(V\) と電流 \(I\) が満たさなければならない、回路全体から決まる制約条件を表しています。

解答 (1) \(6.0 = V + 20I\)

問(2)

思考の道筋とポイント
この問題の核心部分です。回路を流れる電流 \(I\) と電球にかかる電圧 \(V\) は、以下の2つの条件を同時に満たす必要があります。

  1. 電球の特性: \(V\) と \(I\) の関係は、与えられたグラフ(曲線)の上の点でなければならない。
  2. 回路の制約: \(V\) と \(I\) の関係は、(1)で求めた方程式 \(6.0 = V + 20I\) を満たさなければならない。

この2つを同時に満たす点、すなわち「動作点」は、グラフ上で曲線と直線が交わる点です。(1)で求めた式をグラフに描き加え、交点の座標を読み取ります。直線を描くには、切片(\(V\)軸との交点と\(I\)軸との交点)を求めると簡単です。
この設問における重要なポイント

  • 回路の動作点は、素子の特性(グラフ)と回路の制約(方程式)の交点である。
  • 直線 \(6.0 = V + 20I\) をグラフに描く。
    • \(I=0\) のとき \(V=6.0\)V (V切片)。
    • \(V=0\) のとき \(I = 6.0/20 = 0.30\)A (I切片)。
  • グラフの交点の座標を正確に読み取る。

具体的な解説と立式
(1)で求めた関係式 \(6.0 = V + 20I\) を、グラフの縦軸である \(I\) について解くと、
$$
\begin{aligned}
I &= -\frac{1}{20}V + \frac{6.0}{20} \\[2.0ex]
&= -0.05V + 0.30
\end{aligned}
$$
これは、縦軸切片が 0.30A、横軸切片が 6.0V の直線を表します。
この直線を、問題で与えられた電球の特性曲線グラフに描き加えます。

使用した物理公式

  • (1)で求めた関係式
計算過程

グラフを描き、曲線と直線の交点を読み取ります。
模範解答の図bに示されているように、直線と曲線は明らかに1点で交わります。
その交点の座標は、

  • 横軸(電圧): \(V = 2.0\) V
  • 縦軸(電流): \(I = 0.20\) A

です。これが、この回路で実際に実現する電圧と電流の値です。

この設問の平易な説明

電球は「気分屋」で、かかる電圧によって抵抗値が変わるため、単純な計算では答えが出ません。そこで、グラフを使います。
まず、電球の「気分」を表したのが、問題に与えられているグニャっとした曲線です。電球は、この曲線上のどこかの状態でしか動作できません。
一方、(1)で立てた式は、この回路全体が電球に課している「ルール」を表す直線です。
電球は「自分の気分」と「回路のルール」の両方を同時に満たさなければなりません。したがって、その動作点は、グラフ上で「曲線」と「直線」が交わる一点に決まります。その交差点の座標を読み取れば、それが答えです。

結論と吟味

グラフの交点を読み取ることで、電球にかかる電圧は \(V=2.0\)V、回路に流れる電流は \(I=0.20\)A であることがわかりました。この方法は、オームの法則が使えない非線形素子を含む回路を解析するための非常に強力な手法です。

解答 (2) \(V = 2.0\) V, \(I = 0.20\) A

問(3)

思考の道筋とポイント
(2)で求めた電圧 \(V\) と電流 \(I\) の値を用いて、電球と抵抗で消費される電力をそれぞれ計算します。電力の公式 \(P=IV\) や \(P=I^2R\) を適切に使い分けます。

  • 電球の消費電力 \(P_1\): 電球にかかる電圧 \(V\) と流れる電流 \(I\) が両方わかっているので、\(P_1 = IV\) を使うのが最も簡単です。
  • 抵抗の消費電力 \(P_2\): 抵抗値が 20Ω とわかっており、流れる電流も \(I\) なので、\(P_2 = I^2R\) を使うのが確実です。

この設問における重要なポイント

  • (2)で求めた \(V\) と \(I\) の値を正確に使う。
  • 電球と抵抗、それぞれについて適切な電力の公式を選択する。

具体的な解説と立式

  • 電球の消費電力 \(P_1\):
    電力の公式 \(P=IV\) を用います。
    $$ P_1 = I V $$
  • 抵抗の消費電力 \(P_2\):
    電力の公式 \(P=I^2R\) を用います。抵抗値は \(R=20\)Ω です。
    $$ P_2 = I^2 R $$

使用した物理公式

  • 電力の公式: \(P=IV\), \(P=I^2R\)
計算過程

(2)で求めた \(V=2.0\)V, \(I=0.20\)A を代入します。

  • 電球の消費電力 \(P_1\):
    $$
    \begin{aligned}
    P_1 &= 0.20 \times 2.0 \\[2.0ex]
    &= 0.40 \, \text{W}
    \end{aligned}
    $$
  • 抵抗の消費電力 \(P_2\):
    $$
    \begin{aligned}
    P_2 &= (0.20)^2 \times 20 \\[2.0ex]
    &= 0.04 \times 20 \\[2.0ex]
    &= 0.80 \, \text{W}
    \end{aligned}
    $$
この設問の平易な説明

(2)で電圧と電流がわかったので、あとはそれぞれの部品が消費する電力を計算するだけです。電力は「電圧 × 電流」あるいは「電流の2乗 × 抵抗値」で計算できます。
電球については、電圧も電流もわかっているので \(P_1 = 2.0 \times 0.20\) で計算します。
抵抗については、抵抗値が20Ωとわかっているので \(P_2 = (0.20)^2 \times 20\) で計算するのが簡単です。

結論と吟味

電球での消費電力は \(P_1 = 0.40\)W、抵抗での消費電力は \(P_2 = 0.80\)W と求まりました。
ここで検算をしてみましょう。回路全体で消費される電力は \(P_1 + P_2 = 0.40 + 0.80 = 1.20\)W です。
一方、電源が供給する電力は \(P_0 = I E = 0.20 \times 6.0 = 1.20\)W です。
両者が一致したことから、計算結果は妥当であると確認できます。

解答 (3) \(P_1 = 0.40\) W, \(P_2 = 0.80\) W

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • グラフを用いた連立方程式の解法:
    • 核心: この問題の根幹は、性質が異なる2つの要素(電球と回路)が共存するときの動作点(実際に実現する電圧と電流)は、それぞれの関係式を表すグラフの交点として求められる、という解法の考え方そのものです。
    • 理解のポイント:
      • 電球の特性(非線形): 電球にかかる電圧\(V\)と流れる電流\(I\)の関係は、物理法則(オームの法則など)だけでは式にできず、実験結果である特性曲線(グラフ)によってのみ与えられます。これは電球の「個性」や「仕様」です。
      • 回路の制約(線形): 一方、キルヒホッフの法則から導かれる \(6.0 = V + 20I\) という式は、電球がどのような部品であれ、この回路に接続されている以上必ず満たさなければならない「外部からの制約」です。この関係は直線(ロードライン)で表せます。
      • 交点の物理的意味: 回路が実際に動作する状態は、電球の「個性」と回路の「制約」を同時に満たす唯一の状態です。したがって、グラフ上の交点がその動作点を一意に決定します。
  • エネルギー保存則(キルヒホッフの第二法則):
    • 核心: (1)で立てた \(6.0 = V + 20I\) という式は、キルヒホッフの第二法則の現れです。これは「電源が供給するエネルギーは、回路の各部品で消費されるエネルギーの和に等しい」という、より根源的なエネルギー保存則に基づいています。
    • 理解のポイント: この式は、電球の特性とは独立に、回路の構成(電源6.0V、抵抗20Ω)だけで決まる普遍的な関係式です。この法則の理解が、グラフを描くための直線の方程式を導く出発点となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • ダイオードを含む回路: ダイオードも、電流が特定の方向にしか流れず、電圧と電流の関係が非線形である代表的な素子です。ダイオードの電流-電圧特性グラフと、回路から導かれる直線との交点を求める問題は、本問と全く同じ考え方で解くことができます。
    • トランジスタの動作点: トランジスタの増幅回路など、より複雑な回路でも、トランジスタの特性曲線群と、回路の制約が作る直線(負荷線)との交点から、回路の動作点(バイアス点)を決定します。本問は、その最も基本的な考え方を学ぶ問題と言えます。
    • モーター(電動機)を含む回路: モーターも、回転数によって逆起電力が変化するため、単純な抵抗としては扱えません。モーターの特性と回路の制約から動作点を求めるような問題にも、このグラフ的解法のアプローチは応用可能です。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 非線形素子の特定: 問題文や図に、オームの法則に従わない素子(電球、ダイオードなど)や、その特性を示すグラフがないかを確認します。これらがあれば、グラフ的解法を使う可能性が高いと判断します。
    2. 回路方程式の立式: 非線形素子を「電圧\(V\)、電流\(I\)のブラックボックス」と見なして、回路の他の部分についてキルヒホッフの法則を適用し、\(V\)と\(I\)の関係式(直線の方程式)を立てます。
    3. グラフへのプロット: 立てた直線の方程式を、与えられた特性グラフに重ねて描きます。直線を描く際は、\(V\)軸切片(\(I=0\)の点)と\(I\)軸切片(\(V=0\)の点)の2点を求め、それらを結ぶのが最も簡単で確実です。
    4. 交点の読解: 曲線と直線の交点の座標を、グラフの目盛りから慎重に読み取ります。これが回路の動作点となります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 電球を通常の抵抗と見なすミス:
    • 誤解: 電球の抵抗値を、グラフのある一点から \(R=V/I\) で計算し、その値を固定の抵抗値として回路計算を進めてしまう。
    • 対策: 電球の抵抗は電圧によって変化する(非線形である)ことを常に念頭に置きます。グラフが曲線であること自体が、「抵抗値は一定ではない」というメッセージです。特定の状況(動作点)が定まるまでは、抵抗値を一つの数値として扱うことはできません。
  • グラフの軸の混同:
    • 誤解: 縦軸が電圧、横軸が電流であると勘違いして、直線の式をプロットしてしまう。
    • 対策: グラフを扱う際は、まず「縦軸は何(単位は何か)」「横軸は何(単位は何か)」を指差し確認する癖をつけましょう。本問では縦軸が電流[A]、横軸が電圧[V]です。
  • 直線の描き間違い:
    • 誤解: \(6.0 = V + 20I\) の式から、切片の計算を間違える。例えば、\(I\)切片を6.0/20ではなく、6.0としてしまう。
    • 対策: 直線を描くための2点を求めるときは、必ず代入計算を丁寧に行います。「\(I=0\)のとき、\(6.0=V\)。よってV切片は(6.0, 0)」「\(V=0\)のとき、\(6.0=20I\), \(I=0.30\)。よってI切片は(0, 0.30)」のように、座標の形でメモすると間違いが減ります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • キルヒホッフの法則の選択:
    • 選定理由: (1)で\(V\)と\(I\)の関係式を立てるために、この法則が選ばれました。電球の性質が未知であっても、回路の他の部分(電源と抵抗)の関係はキルヒホッフの法則という普遍的な法則に従います。この法則を用いることで、電球の特性とは独立した、回路全体が課す制約条件を導き出すことができます。
    • 適用根拠: エネルギー保存則は、回路にどのような素子が含まれていても必ず成り立ちます。したがって、非線形素子を含む回路であっても、キルヒホッフの第二法則を適用することは完全に正当化されます。
  • 電力の公式 \(P=IV\) と \(P=I^2R\) の使い分け:
    • 選定理由: (3)で電球の電力\(P_1\)を求めるには\(P=IV\)が、抵抗の電力\(P_2\)を求めるには\(P=I^2R\)が適していました。
    • 適用根拠:
      • 電球\(P_1\): 電球の抵抗値は動作点によって変わるため、安易に\(R\)を使うのは危険です。一方、動作点の電圧\(V\)と電流\(I\)はグラフから直接読み取れる最も確実な値なので、これらを使う \(P_1=IV\) が最も適切です。
      • 抵抗\(P_2\): 抵抗は抵抗値\(R=20\)Ωが不変であると保証されています。回路に流れる電流\(I\)も分かっているので、\(P_2=I^2R\) を使うのが最も直接的で計算ミスが少ない方法です。もちろん \(V_2 = 20I = 20 \times 0.20 = 4.0\)V を計算してから \(P_2=IV_2 = 0.20 \times 4.0 = 0.80\)W と計算することも可能ですが、一手間増えます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • グラフの目盛りを丁寧に読む: グラフから値を読み取る問題では、これが最も重要なスキルです。
    • 最小目盛りの確認: 1目盛りがいくつを表しているのかを最初に確認します。本問では電圧軸も電流軸も、大きな目盛りの間に5つの区切りがあるので、1目盛りがそれぞれ0.2V、0.02Aであることがわかります。
    • 定規の活用: フリーハンドで交点から軸に垂線を下ろすのではなく、定規などを当てて正確に目盛りを読むように心がけましょう。
  • 単位の確認: 電力[W]を計算する際、電圧[V]と電流[A]の単位が基本単位になっていることを確認します。もし電流が[mA]で与えられていたら、必ず[A]に直してから(\(10^{-3}\)を掛けてから)計算します。
  • エネルギー保存則による検算: (3)の結論で示したように、各部品の消費電力の和が、電源の供給電力と一致するかどうかを確認するのは、非常に有効な検算方法です。
    • \(P_1 + P_2 = 0.40 + 0.80 = 1.20\) W
    • \(P_0 = IE = 0.20 \times 6.0 = 1.20\) W

    これらが一致すれば、(2)で読み取った値や(3)の計算が正しい可能性が非常に高いと判断できます。

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基本問題

410 オームの法則と抵抗率

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「自由電子の運動モデルに基づくオームの法則と抵抗率の導出」です。電流の正体である自由電子のミクロな運動に着目し、それがマクロな物理法則であるオームの法則や、物質の性質である抵抗率にどのようにつながるのかを、数式を通して理解することを目的としています。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 電流の定義: 電流とは、ある断面を単位時間あたりに通過する電気量のことである。この定義から、電子の速さ\(v\)、数密度\(n\)、電気素量\(e\)、断面積\(S\)を用いて電流\(I\)を表す公式 \(I=envS\) を導けること。
  2. 電場と静電気力: 電圧\(V\)がかけられた長さ\(l\)の導体には、\(E=\frac{V}{l}\)の一様な電場が生じる。電荷\(-e\)の電子は、この電場から\(F=eE\)の大きさの静電気力を受ける。
  3. 力のつりあい: 導体中の電子は、電場からの力と、陽イオンからの抵抗力を受け、やがてそれらがつりあって一定の速さ(終端速度)で運動すると考えるモデルを理解すること。
  4. オームの法則と抵抗率: マクロなオームの法則 \(V=RI\) と、抵抗と抵抗率の関係式 \(R=\rho\frac{l}{S}\) を理解していること。
  5. ジュール熱の微視的解釈: ジュール熱は、電場が自由電子にした仕事の総和である、というエネルギーの観点からの理解。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、電流の定義に基づき、1秒間に断面を通過する電子の数とその総電気量を計算して、電流\(I\)の式を導きます。
  2. (2)では、まず導体内の電場の大きさを求め、次に電子にはたらく静電気力と抵抗力のつりあいの式を立てて電子の速さ\(v\)を求め、最後に(1)の結果と組み合わせて電流\(I\)を\(V\)の関数として表します。
  3. (3)では、(2)で得られた\(I\)と\(V\)の関係式を、オームの法則\(V=RI\)の形に整理して抵抗\(R\)を求め、さらに抵抗率の公式\(R=\rho\frac{l}{S}\)と比較して抵抗率\(\rho\)を求めます。
  4. (4)では、抵抗率と温度の関係に関する公式を思い出します。
  5. (5)では、まずマクロな公式としてジュール熱の式を考え、次にそれをミクロな視点(電場が1個の電子にする仕事×電子の総数)から導出します。

問(1)

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