基本例題
基本例題68 帯電した小球のつりあい
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 設問(1)の別解: 力を水平・鉛直成分に分解する解法
- 模範解答が力のベクトル図から直接、辺の比(三角比)を用いて関係式を導くのに対し、別解では張力を水平成分と鉛直成分に分解し、それぞれの方向における力のつりあいの式を立てて連立させる、より基本的なアプローチを取ります。
- 設問(1)の別解: 力を水平・鉛直成分に分解する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 力のつりあいを「ベクトル和がゼロ」という観点(主たる解法)と、「各成分の和がゼロ」という観点(別解)の両方から捉えることで、その等価性を体感し、理解を深めることができます。
- 思考の柔軟性向上: 力学の問題を解く上で最も汎用的な手法である「成分分解」を改めて確認することで、より複雑な設定の問題にも対応できる応用力が養われます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「静電気力と重力がはたらく荷電粒子のつりあい」です。静止している物体にはたらく複数の力を正しく分析し、力のつりあいの条件を適用できるかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力のつりあい: 静止している物体にはたらく力のベクトル和はゼロになります。これをベクトル図で考えたり、成分に分解して考えたりする技術が重要です。
- クーロンの法則: 2つの点電荷間にはたらく静電気力の大きさを、電荷の大きさと距離から計算するための基本法則です。
- 幾何学的な関係: 問題で与えられた図形(角度や長さ)から、力の向きや物体間の距離を正しく読み取り、計算に利用する能力が求められます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、小球Aにはたらく3つの力(重力、静電気力、張力)を図示し、それらがつりあっているという条件を用いて、静電気力の大きさを求めます。
- (2)では、まず問題の図形から小球AとBの間の距離を計算します。次に、(1)で求めた静電気力の大きさをクーロンの法則の式に代入し、未知数である電気量\(q\)を算出します。
問(1)
思考の道筋とポイント
小球Aは空中で静止しているため、小球Aにはたらくすべての力はつりあっています。はたらく力は、鉛直下向きの「重力 \(mg\)」、小球Bからの反発による水平右向きの「静電気力 \(F\)」、そして糸に沿った斜め上向きの「張力 \(T\)」の3つです。これらの3力がつりあうという条件を数式で表現することが目標です。問題の図の対称性から、糸と鉛直線がなす角が\(45^\circ\)であることを見抜くのが最初のステップです。
この設問における重要なポイント
- 3つの力がつりあうとき、それらのベクトルを矢印でつなぐと、出発点に戻ってくる閉じた三角形を描くことができます。
- または、各力を水平・鉛直などの直交する2方向に分解し、それぞれの方向で力の和がゼロになる、という式を立てることもできます。
- 模範解答で採用されているのは、力のベクトルが作る三角形の辺の比が、力の向きがなす角度の三角関数(特にタンジェント)に対応することを利用する、スマートな解法です。
具体的な解説と立式
小球Aには、重力 \(mg\)、静電気力 \(F\)、張力 \(T\) の3つの力がはたらいて静止しています。
問題の図は左右対称なので、2本の糸は鉛直線を軸として等しい角度で開きます。したがって、それぞれの糸が鉛直線となす角 \(\theta\) は、
$$ \theta = \frac{90^\circ}{2} = 45^\circ $$
となります。
小球Aにはたらく3つの力はつりあっているので、これらの力のベクトルを描くと、図のように閉じた直角三角形を形成します。水平方向の力 \(F\) と鉛直方向の力 \(mg\) のベクトル和が、張力 \(T\) と大きさが等しく逆向きになるためです。
この力のベクトル三角形において、辺の長さの比は三角関数で表すことができます。
$$ \frac{F}{mg} = \tan 45^\circ $$
使用した物理公式
- 力のつりあい条件
- 三角関数の定義
上記で立式した関係式と、\(\tan 45^\circ = 1\) であることを用いて \(F\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
F &= mg \tan 45^\circ \\[2.0ex]
&= mg \times 1 \\[2.0ex]
&= 0.50 \times 10 \\[2.0ex]
&= 5.0
\end{aligned}
$$
小球Aは、真下に引っ張る「重力」、真横に押される「静電気力」、そして斜め上に引っ張る「糸の張力」という3つの力が絶妙なバランスを取っているため、空中でピタッと止まっています。この力のバランスを図に描いてみると、糸の角度がちょうど\(45^\circ\)であることから、非常に特別な状態であることがわかります。具体的には、「横向きに押す力(静電気力)」と「下向きに引く力(重力)」の大きさが、全く同じになっているのです。したがって、求めたい静電気力 \(F\) の大きさは、重力の大きさ \(mg\) を計算するだけで求めることができます。
静電気力の大きさ \(F\) は \(5.0 \, \text{N}\) となります。これは小球にはたらく重力 \(mg = 0.50 \times 10 = 5.0 \, \text{N}\) と等しく、糸の角度が\(45^\circ\)という条件から導かれる物理的に妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
力のつりあいの問題を解く、より機械的で汎用性の高いアプローチです。斜めを向いている力(この場合は張力 \(T\))を、水平(x軸)方向と鉛直(y軸)方向に分解します。物体が静止していることから、「水平方向の力の合計がゼロ」かつ「鉛直方向の力の合計がゼロ」という2つの条件式を立てます。この連立方程式を解くことで、未知の力 \(F\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 座標軸(水平・鉛直)を設定し、すべての力をその成分に分解する。
- 水平方向のつりあいの式と、鉛直方向のつりあいの式を、それぞれ独立に立てる。
- 未知数が \(F\) と \(T\) の2つ、式が2本なので、連立方程式として解くことができる。
具体的な解説と立式
小球Aにはたらく張力 \(T\) を、水平成分と鉛直成分に分解します。糸と鉛直線のなす角は \(45^\circ\) なので、水平方向(左向き)の成分は \(T\sin 45^\circ\)、鉛直方向(上向き)の成分は \(T\cos 45^\circ\) となります。
小球Aは静止しているので、各方向の力のつりあいの式は以下のようになります。
水平方向:
$$ F – T\sin 45^\circ = 0 \quad \cdots ① $$
鉛直方向:
$$ T\cos 45^\circ – mg = 0 \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 力のつりあい条件(成分表示)
まず、②式を変形して張力 \(T\) を \(mg\) で表します。
$$
\begin{aligned}
T\cos 45^\circ &= mg \\[2.0ex]
T &= \frac{mg}{\cos 45^\circ}
\end{aligned}
$$
次に、この \(T\) の式を①式に代入して \(F\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
F &= T\sin 45^\circ \\[2.0ex]
&= \left( \frac{mg}{\cos 45^\circ} \right) \sin 45^\circ \\[2.0ex]
&= mg \frac{\sin 45^\circ}{\cos 45^\circ} \\[2.0ex]
&= mg \tan 45^\circ
\end{aligned}
$$
ここで \(\tan 45^\circ = 1\) なので、\(F = mg\) となります。
数値を代入すると、
$$
\begin{aligned}
F &= 0.50 \times 10 \\[2.0ex]
&= 5.0
\end{aligned}
$$
斜め上向きに引っ張っている「糸の張力」を、仮想的に「真上に引っ張る力」と「左に引っ張る力」の2つに分解して考えます。小球がその場で止まっているということは、まず「右向きの静電気力」と分解された「左向きの張力」がちょうど打ち消し合っています。それと同時に、「上向きの張力」と「下向きの重力」もぴったり打ち消し合っているはずです。この2つの「打ち消し合いの式」を立てて計算を進めると、やはり静電気力は重力と同じ大きさだということがわかります。
静電気力の大きさは \(5.0 \, \text{N}\) となり、主たる解法と完全に一致する結果が得られました。力のつりあいを解くための異なる正当なアプローチが、同じ結論を導くことを確認できます。
問(2)
思考の道筋とポイント
設問(1)で求めた静電気力 \(F\) は、小球AとBがそれぞれ持つ電荷によって生じる反発力です。この静電気力と電荷の関係を表すのが「クーロンの法則」です。公式 \(F = k \displaystyle\frac{q_1 q_2}{r^2}\) を使うために、まずは小球AとBの間の距離 \(r\) を求める必要があります。距離 \(r\) は、問題で与えられた糸の長さと角度の情報から、幾何学的に計算することができます。
この設問における重要なポイント
- クーロンの法則 \(F = k \displaystyle\frac{q_1 q_2}{r^2}\) の公式を正しく理解し、適用できること。
- 問題の図が、2辺の長さが \(0.30 \, \text{m}\) でその間の角が \(90^\circ\) の直角二等辺三角形をなしていることを見抜き、斜辺の長さとして小球間距離 \(r\) を計算できること。
- 小球AとBは「等量の」電荷を持つとされているので、\(q_1 = q_2 = q\) として式を立てること。
具体的な解説と立式
まず、つりあいの状態にある小球AとBの間の距離 \(r\) を求めます。
2本の糸と、小球A, Bを結ぶ線分は、長さ \(0.30 \, \text{m}\) の2辺とその間の角が \(90^\circ\) の直角二等辺三角形を形成します。距離 \(r\) は、この三角形の斜辺の長さに相当します。三平方の定理を用いると、
$$
\begin{aligned}
r^2 &= (0.30)^2 + (0.30)^2 \\[2.0ex]
&= 2 \times (0.30)^2
\end{aligned}
$$
よって、距離 \(r\) は次のようになります。
$$ r = 0.30\sqrt{2} \, [\text{m}] $$
次に、この距離 \(r\) と(1)で求めた静電気力 \(F\) を用いて、クーロンの法則を適用します。小球AとBはそれぞれ等しい正電荷 \(q\) を持っているので、\(q_1 = q_2 = q\) とおけます。
$$
\begin{aligned}
F &= k \frac{q \cdot q}{r^2} \\[2.0ex]
&= k \frac{q^2}{r^2}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 三平方の定理
- クーロンの法則: \(F = k \displaystyle\frac{q_1 q_2}{r^2}\)
クーロンの法則の式を \(q^2\) について解きます。
$$ q^2 = \frac{F r^2}{k} $$
この式に、\(F = 5.0 \, \text{N}\)、\(k = 9.0 \times 10^9 \, \text{N}\cdot\text{m}^2/\text{C}^2\)、そして \(r^2 = 2 \times (0.30)^2 = 0.18 \, \text{m}^2\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
q^2 &= \frac{5.0 \times (0.30\sqrt{2})^2}{9.0 \times 10^9} \\[2.0ex]
&= \frac{5.0 \times 0.18}{9.0 \times 10^9} \\[2.0ex]
&= \frac{0.90}{9.0 \times 10^9} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{10 \times 10^9} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{10^{10}} \\[2.0ex]
&= 1.0 \times 10^{-10}
\end{aligned}
$$
問題文より \(q\) は正の電荷なので、\(q^2\) の正の平方根をとります。
$$
\begin{aligned}
q &= \sqrt{1.0 \times 10^{-10}} \\[2.0ex]
&= 1.0 \times 10^{-5}
\end{aligned}
$$
(1)で、小球同士が \(5.0 \, \text{N}\) の力で押し合っていることがわかりました。この力の原因は、それぞれの小球が持っている「電気の量(電荷)」です。物理学には、電気の量と距離から力の大きさを計算する「クーロンの法則」という便利な公式があります。今回は逆に、力の大きさと距離がわかっているので、この公式を使って原因となった電気の量を逆算します。まず図形から小球の間の距離を計算し、それらの値を公式に当てはめれば、小球Aが持つ電気の量 \(q\) を求めることができます。
小球Aのもつ電気量は \(1.0 \times 10^{-5} \, \text{C}\) となります。問題で与えられている数値の有効数字は2桁(例: 0.50 kg, 9.0×10⁹)なので、解答も有効数字2桁で \(1.0 \times 10^{-5}\) と表現するのが適切です。計算結果は物理的に妥当な値です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 力学と電磁気学の融合:
- 核心: この問題は、物体が静止するための力学的な条件である「力のつりあい」と、電荷間に働く力を記述する電磁気学の法則である「クーロンの法則」という、2つの異なる分野の法則を組み合わせて解く点に本質があります。
- 理解のポイント:
- 力学の視点(つりあい): 小球が静止しているという事実から、小球にはたらく全ての力(重力、静電気力、張力)のベクトル和がゼロであることを意味します。この条件を数式に落とし込むことが、問題を解く第一歩です。
- 電磁気学の視点(クーロン力): 小球間にはたらく静電気力の大きさは、それぞれの電気量と距離によって決まります。力のつりあいから求めた静電気力の大きさを、クーロンの法則に当てはめることで、未知の電気量を明らかにすることができます。
- 力のつりあいの2つのアプローチ:
- 核心: 「力のつりあい」という一つの物理現象を、2つの異なる数学的アプローチで表現できることを理解することが重要です。
- 理解のポイント:
- ベクトル図(三角比)法: 3つの力がつりあう場合、力のベクトルを繋ぐと閉じた三角形になります。この図形の辺の比(力の大きさの比)と角度の関係(三角比)を利用する解法です。図形的な関係が明快な場合に非常に強力でスピーディーです。
- 成分分解法: 任意の直交座標軸(例:水平・鉛直)を設定し、すべての力をその成分に分解します。「各方向の力の成分の和がゼロ」という連立方程式を立てて解く方法です。より機械的で汎用性が高く、力が4つ以上の場合や角度が複雑な場合でも確実に対応できる基本戦術です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 角度を求める問題: 逆に電気量や質量が与えられ、つりあったときの糸の角度 \(\theta\) を問う問題。この場合も力のつりあいの式を立て、\(\tan\theta\) などの三角比を未知数として求めます。
- 一様な電場中の問題: 糸で吊るした荷電粒子が一様な電場 \(E\) 中で静止する問題。この場合、静電気力は \(F=qE\) となりますが、「力のつりあい」を考えるという問題の構造は全く同じです。
- 浮力が加わる問題: 液体中で荷電粒子がつりあう状況。この場合は、重力、静電気力、張力に加えて「浮力」も考慮に入れる必要があります。力の種類が一つ増えるだけで、つりあいの考え方はそのまま使えます。
- 初見の問題での着眼点:
- 着目物体を決める: まず、どの物体について力のつりあいを考えるのかを明確にします(この問題では小球A)。
- 力を全列挙し、図示する: 着目物体にはたらく力を「もれなく、だぶりなく」探し出し、フリーボディダイアグラム(力を矢印で示した図)を描きます。接触力(張力、垂直抗力など)と遠隔力(重力、静電気力など)に分けて考えると見落としが減ります。
- 幾何学的情報を読み取る: 問題の図や設定から、角度や距離に関する情報を正確に読み取ります。特に「対称性」は強力なヒントになります(例:\(90^\circ\)が半分ずつに分かれて\(45^\circ\)になる)。
- つりあいの解法を選択する: はたらく力が3つで図形が単純なら「ベクトル図(三角比)法」を検討し、それ以外の場合は基本に忠実に「成分分解法」を用いる、という戦略的な判断ができるとスムーズです。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- クーロンの法則における距離 \(r\) の誤り:
- 誤解: 糸の長さ \(L=0.30 \, \text{m}\) を、クーロンの法則の距離 \(r\) としてそのまま代入してしまう。
- 対策: クーロンの法則の \(r\) は「2つの電荷間の直線距離」であると定義を正確に覚えることが重要です。必ず問題の図をよく見て、幾何学的な計算(この場合は三平方の定理)によって正しい距離を求める、というステップを忘れないようにしましょう。
- 力の成分分解での \(\sin\) と \(\cos\) の混同:
- 誤解: 角度が与えられると、水平成分は常に \(\cos\)、鉛直成分は常に \(\sin\) のように機械的に覚えてしまい、間違える。
- 対策: 角度 \(\theta\) が水平線となす角か、鉛直線となす角かで \(\sin\) と \(\cos\) の使い方は変わります。分解したい力のベクトルを斜辺とする直角三角形を毎回図に描き、「\(\theta\) を挟む辺が \(\cos\theta\)」「\(\theta\) の向かい側の辺が \(\sin\theta\)」と、定義に立ち返って確認する癖をつけましょう。
- 作用・反作用の混同:
- 誤解: 小球Aにはたらく力を考えるべきところで、AがBに及ぼす力など、他の物体にはたらく力を描いてしまう。
- 対策: 「主語」を明確にする意識が大切です。「(着目物体である)小球Aが」「(他の物体から)受ける力」だけをリストアップし、図示する、という原則を徹底します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のつりあい条件の選択:
- 選定理由: 問題文に「つり下げると…(静止した)」という記述があるため、これは静力学の問題であり、「力のつりあい」の法則を適用することが最も直接的な解法となります。
- 適用根拠: ニュートンの運動の第一法則(慣性の法則)によれば、静止している物体にはたらく力の合力はゼロです。この普遍的な法則が、今回の問題設定における物理的な根拠となります。三角比を用いる方法も、成分分解を用いる方法も、この「合力がゼロ」というベクトル方程式を異なる数学的手法で解いているに過ぎません。
- クーロンの法則の選択:
- 選定理由: (2)では、(1)で求めた「静電気力 \(F\)」と、求めたい未知数である「電気量 \(q\)」を関係づける必要があります。この2つの物理量を結びつける法則は、高校物理の範囲ではクーロンの法則以外にありません。
- 適用根拠: クーロンの法則は、点とみなせる荷電粒子間に働く力を記述する基本法則です。問題の小球は、その間の距離に比べて十分に小さいとみなせるため、「点電荷」として扱うことができ、クーロンの法則を適用することが物理的に正当化されます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式のまま計算を進める: (1)の別解のように、いきなり \(mg = 0.50 \times 10 = 5.0\) と計算するのではなく、まずは \(F = mg \tan 45^\circ\) のように、文字式の関係を導き出すことを推奨します。これにより、物理的な関係性(この場合は \(F\) と \(mg\) が等しいこと)が一目でわかり、検算が容易になります。計算の最終段階で初めて数値を代入することで、途中の計算ミスや丸め誤差のリスクを減らせます。
- 平方根と指数の計算を分離する: (2)で \(q^2 = 1.0 \times 10^{-10}\) を計算した後、\(q\) を求める際には、\(\sqrt{1.0 \times 10^{-10}}\) を「係数部分の平方根 \(\sqrt{1.0}\)」と「指数部分の平方根 \(\sqrt{10^{-10}}\)」に分けて考えます。指数部分の平方根は、指数を \(1/2\) 倍することに等しい(\((10^{-10})^{1/2} = 10^{-5}\))ので、このように分離して計算すると、複雑な指数の計算ミスを防げます。
- 単位による検算: 式を立てた後、その両辺の単位が一致しているかを確認する習慣をつけましょう。例えば、(2)で \(q^2 = \displaystyle\frac{F r^2}{k}\) という式を立てたとき、右辺の単位は \([\text{N}] \cdot [\text{m}]^2 / ([\text{N}\cdot\text{m}^2/\text{C}^2]) = [\text{C}^2]\) となり、左辺の \(q^2\) の単位と一致します。この簡単なチェックで、式の立て間違いを効果的に防ぐことができます。
基本例題69 クーロンの法則・電場の強さ
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 設問(2)の別解: 電場ベクトルを成分分解して合成する解法
- 模範解答が、2つの電場ベクトルの合成を、図形の対称性を利用して行うのに対し、別解では各電場ベクトルをx成分とy成分に分解し、成分ごとに足し合わせるという、より機械的で汎用性の高いアプローチを取ります。
- 設問(2)の別解: 電場ベクトルを成分分解して合成する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 思考の柔軟性向上: ベクトルを成分で扱う方法は、図形の対称性が利用できない、より複雑な電荷配置の問題にも対応できる非常に強力な基本戦術です。この経験は応用力を高めます。
- 物理的本質の深化: 「電場の重ね合わせの原理」が、結局は「各成分の和を計算すること」と等価であることを具体的に体験でき、理解が深まります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「点電荷が作る電場と重ね合わせの原理」です。クーロンの法則から発展した「電場」という概念を理解し、複数の電荷が存在する場合に、それらが作る電場をベクトルとして正しく合成できるかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- クーロンの法則: 2つの点電荷間にはたらく静電気力の大きさを計算する基本法則です。
- 電場の定義: 電荷が周囲の空間に作る「場」であり、その点に\(+1 \, \text{C}\)の試験電荷を置いたときにはたらく静電気力として定義されます。大きさは \(E = k \displaystyle\frac{|q|}{r^2}\) で、向きは正電荷なら遠ざかる向き、負電荷なら近づく向きです。
- 電場の重ね合わせの原理: ある点における電場は、それぞれの電荷が単独でその点に作る電場の「ベクトル和」で与えられます。単なる大きさの足し算ではない点に注意が必要です。
- 幾何学的な計算: 電荷から対象点までの距離や、ベクトルのなす角度を、図形(三平方の定理や三角比)から正しく求める能力が不可欠です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、クーロンの法則の公式に、2つの電荷の大きさとその間の距離を直接代入して、静電気力の大きさを計算します。
- (2)では、まず点Aの電荷が点Cに作る電場 \(\vec{E}_A\) と、点Bの電荷が点Cに作る電場 \(\vec{E}_B\) の大きさと向きをそれぞれ求めます。次に、重ね合わせの原理に従って、この2つのベクトルを合成(ベクトル和 \(\vec{E}_C = \vec{E}_A + \vec{E}_B\))し、最終的な電場の強さと向きを決定します。
問(1)
思考の道筋とポイント
2つの点電荷、\(+q\)と\(-q\)の間にはたらく静電気力の大きさを求める問題です。これはクーロンの法則を直接適用する基本的な設問です。力の大きさは、電荷の大きさの積に比例し、距離の2乗に反比例します。
この設問における重要なポイント
- クーロンの法則の公式 \(F = k \displaystyle\frac{|q_1 q_2|}{r^2}\) を正しく覚えていること。
- 問題文から、電荷が \(q_1 = +q\)、\(q_2 = -q\) であり、距離が \(r = 2a\) であることを正確に読み取ること。
- 距離の2乗を計算する際に、\((2a)^2 = 4a^2\) と正しく展開すること。
具体的な解説と立式
クーロンの法則によれば、2つの点電荷 \(q_1\), \(q_2\) が距離 \(r\) だけ離れているとき、それらの間にはたらく静電気力の大きさ \(F\) は次式で与えられます。
$$ F = k \frac{|q_1 q_2|}{r^2} $$
この問題では、\(q_1 = +q\)、\(q_2 = -q\)、距離 \(r = 2a\) なので、これらを代入します。
$$ F = k \frac{|(+q)(-q)|}{(2a)^2} $$
使用した物理公式
- クーロンの法則: \(F = k \displaystyle\frac{|q_1 q_2|}{r^2}\)
上記で立式した式を計算します。
$$
\begin{aligned}
F &= k \frac{|-q^2|}{(2a)^2} \\[2.0ex]
&= k \frac{q^2}{4a^2}
\end{aligned}
$$
この力は、異符号の電荷間にはたらくため、引力となります。
この問題は、電気を帯びた2つの粒(小球AとB)が、お互いにどれくらいの力で引き合っているかを計算するものです。物理学には「クーロンの法則」という、電気の量と距離から力の大きさを計算するための専用の公式があります。この公式に、問題で与えられた電気の量(\(q\))と距離(\(2a\))をそのまま当てはめるだけで、答えを求めることができます。
2つの小球間にはたらく静電気力の大きさは \(k \displaystyle\frac{q^2}{4a^2}\) となります。これはクーロンの法則を正しく適用した結果であり、物理的に妥当です。
問(2)
思考の道筋とポイント
点Cにおける電場を求める問題です。電場はベクトル量なので、大きさと向きの両方を考える必要があります。重ね合わせの原理により、点Cの電場 \(\vec{E}_C\) は、点Aの電荷が作る電場 \(\vec{E}_A\) と点Bの電荷が作る電場 \(\vec{E}_B\) のベクトル和 (\(\vec{E}_C = \vec{E}_A + \vec{E}_B\)) として求められます。
手順としては、
- AからC、BからCまでの距離を求める。
- \(\vec{E}_A\) と \(\vec{E}_B\) の大きさと向きをそれぞれ求める。
- 2つのベクトルを合成して \(\vec{E}_C\) の大きさと向きを求める。
という流れになります。
この設問における重要なポイント
- 電場の重ね合わせの原理は「ベクトル和」であることを理解している。
- 正電荷は自身から遠ざかる向き、負電荷は自身に近づく向きに電場を作ることを理解している。
- 図形の対称性に着目し、ベクトルの合成を効率的に行う。
具体的な解説と立式
まず、点A, Bから点Cまでの距離を求めます。点Cは線分ABの垂直二等分線上にあるので、\(\triangle \text{OAC}\)(OはABの中点)は直角三角形です。三平方の定理より、距離ACは、
$$
\begin{aligned}
\text{AC} &= \sqrt{\text{OA}^2 + \text{OC}^2} \\[2.0ex]
&= \sqrt{a^2 + a^2} \\[2.0ex]
&= \sqrt{2}a
\end{aligned}
$$
同様に、距離BCも \(\text{BC} = \sqrt{2}a\) となります。
次に、点Aの電荷 \(+q\) が点Cに作る電場 \(\vec{E}_A\) と、点Bの電荷 \(-q\) が点Cに作る電場 \(\vec{E}_B\) の大きさを求めます。
$$
\begin{aligned}
|\vec{E}_A| &= k \frac{q}{(\text{AC})^2} \\[2.0ex]
&= k \frac{q}{(\sqrt{2}a)^2} \\[2.0ex]
&= k \frac{q}{2a^2}
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
|\vec{E}_B| &= k \frac{|-q|}{(\text{BC})^2} \\[2.0ex]
&= k \frac{q}{(\sqrt{2}a)^2} \\[2.0ex]
&= k \frac{q}{2a^2}
\end{aligned}
$$
よって、\(|\vec{E}_A| = |\vec{E}_B|\) です。
\(\vec{E}_A\) の向きはAからCへ向かう向き、\(\vec{E}_B\) の向きはCからBへ向かう向きです。
これらのベクトルを合成します。図からわかるように、\(\triangle \text{OAC}\) と \(\triangle \text{OBC}\) が合同な直角二等辺三角形であるため、\(\vec{E}_A\) と \(\vec{E}_B\) がx軸の正の向きとなす角は、ともに \(45^\circ\) となります。
合成電場 \(\vec{E}_C\) のy成分(x軸に垂直な成分)は、\(\vec{E}_A\) と \(\vec{E}_B\) のy成分が逆向きで同じ大きさのため打ち消し合います。x成分(x軸に平行な成分)は同じ向きなので足し合わされます。
$$ E_C = |\vec{E}_A| \cos 45^\circ + |\vec{E}_B| \cos 45^\circ $$
\(|\vec{E}_A| = |\vec{E}_B|\) なので、
$$ E_C = 2 |\vec{E}_A| \cos 45^\circ $$
使用した物理公式
- 電場の定義: \(E = k \displaystyle\frac{|q|}{r^2}\)
- 電場の重ね合わせの原理
- 三平方の定理、三角比
上記で立式した \(E_C = 2 |\vec{E}_A| \cos 45^\circ\) に、\(|\vec{E}_A| = k \displaystyle\frac{q}{2a^2}\) と \(\cos 45^\circ = \displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
E_C &= 2 \left( k \frac{q}{2a^2} \right) \times \frac{1}{\sqrt{2}} \\[2.0ex]
&= \frac{kq}{a^2} \times \frac{1}{\sqrt{2}} \\[2.0ex]
&= \frac{\sqrt{2}kq}{2a^2}
\end{aligned}
$$
向きは、y成分が打ち消し合った結果、x軸の正の向きとなります。
点Cに、もし\(+1\,\text{C}\)のプラスの電気を持つ粒を置いたら、どちら向きにどれくらいの力を受けるか、を考えるのがこの問題です。
まず、Aにあるプラスの電気からは、右斜め上に押されます(\(\vec{E}_A\))。次に、Bにあるマイナスの電気からは、右斜め下に引っ張られます(\(\vec{E}_B\))。
この「押される力」と「引っ張られる力」を合成するとどうなるでしょう?図形の形がきれいな対称形なので、上下方向の力はちょうど打ち消し合ってゼロになります。一方で、右向きの力は両方とも同じ向きなので、合わさって強くなります。この残った右向きの力の大きさを計算するのがゴールです。
点Cでの電場の強さは \(\displaystyle\frac{\sqrt{2}kq}{2a^2}\) で、向きはx軸の正の向きとなります。対称的な配置の電荷が作る電場を考える典型的な問題であり、ベクトル合成の結果として特定の成分が消えるという点は物理的に妥当です。
思考の道筋とポイント
主たる解法が図形の対称性を利用してベクトルを合成したのに対し、この別解では、より機械的に計算を進めるアプローチを取ります。各電荷が作る電場ベクトル \(\vec{E}_A\) と \(\vec{E}_B\) を、それぞれx成分とy成分に分解し、成分ごとに足し合わせることで合成電場 \(\vec{E}_C\) を求めます。この方法は、どんな配置の電荷に対しても適用できる汎用性の高い手法です。
この設問における重要なポイント
- 座標系を明確に設定する(例:ABの中点を原点Oとする)。
- 各電場ベクトルの大きさと向きから、そのx成分とy成分を三角比を用いて正しく計算する。
- x成分同士、y成分同士をそれぞれ足し合わせて、合成ベクトルの成分を求める。
- 最終的に、合成ベクトルの成分から、その大きさと向きを求める。
具体的な解説と立式
線分ABの中点を原点O(0, 0)とする座標系を考えます。このとき、A(-a, 0), B(a, 0), C(0, a)となります。
電場 \(\vec{E}_A\) と \(\vec{E}_B\) の大きさは、主たる解法と同様に \(|\vec{E}_A| = |\vec{E}_B| = k \displaystyle\frac{q}{2a^2}\) です。
また、\(\vec{E}_A\) と \(\vec{E}_B\) がx軸の正の向きとなす角は、それぞれ \(45^\circ\), \(-45^\circ\) です。
\(\vec{E}_A\) の成分を求めます。
x成分: \(E_{A,x} = |\vec{E}_A| \cos 45^\circ\)
y成分: \(E_{A,y} = |\vec{E}_A| \sin 45^\circ\)
\(\vec{E}_B\) の成分を求めます。
x成分: \(E_{B,x} = |\vec{E}_B| \cos(-45^\circ) = |\vec{E}_B| \cos 45^\circ\)
y成分: \(E_{B,y} = |\vec{E}_B| \sin(-45^\circ) = -|\vec{E}_B| \sin 45^\circ\)
合成電場 \(\vec{E}_C\) の各成分は、これらの和となります。
x成分: \(E_{C,x} = E_{A,x} + E_{B,x}\)
y成分: \(E_{C,y} = E_{A,y} + E_{B,y}\)
使用した物理公式
- 電場の定義: \(E = k \displaystyle\frac{|q|}{r^2}\)
- ベクトルの成分分解と合成
各成分を具体的に計算します。
$$
\begin{aligned}
E_{C,x} &= E_{A,x} + E_{B,x} \\[2.0ex]
&= |\vec{E}_A| \cos 45^\circ + |\vec{E}_B| \cos 45^\circ \\[2.0ex]
&= 2 |\vec{E}_A| \cos 45^\circ \\[2.0ex]
&= 2 \left( k \frac{q}{2a^2} \right) \times \frac{1}{\sqrt{2}} \\[2.0ex]
&= \frac{\sqrt{2}kq}{2a^2}
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
E_{C,y} &= E_{A,y} + E_{B,y} \\[2.0ex]
&= |\vec{E}_A| \sin 45^\circ – |\vec{E}_B| \sin 45^\circ \\[2.0ex]
&= 0
\end{aligned}
$$
(なぜなら \(|\vec{E}_A| = |\vec{E}_B|\))
したがって、合成電場 \(\vec{E}_C\) はx成分のみを持ち、その大きさは \(E_C = E_{C,x} = \displaystyle\frac{\sqrt{2}kq}{2a^2}\) となります。向きはx軸の正の向きです。
主たる解法とは少し違う考え方をしてみましょう。Aが作る「右斜め上向き」の電場と、Bが作る「右斜め下向き」の電場を、それぞれ「横方向(x)の部品」と「縦方向(y)の部品」に分解します。
Aが作る電場:(右向きの部品) + (上向きの部品)
Bが作る電場:(右向きの部品) + (下向きの部品)
これらを全部足し合わせると、Aの「上向きの部品」とBの「下向きの部品」は大きさが同じで向きが真逆なので、きれいに打ち消し合います。残るのは、AとBが作った2つの「右向きの部品」だけです。この2つを足し合わせたものが、最終的な電場の強さと向きになります。
電場の強さは \(\displaystyle\frac{\sqrt{2}kq}{2a^2}\)、向きはx軸の正の向きとなり、主たる解法と完全に一致しました。この成分分解によるアプローチは、図形的なひらめきに頼らず、手順通りに計算を進めることで答えにたどり着けるため、非常に汎用性が高い方法です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 電場の重ね合わせの原理:
- 核心: この問題の根幹は、「複数の電荷が存在するとき、ある点での電場は、各電荷が単独でその点に作る電場を、ベクトルとして足し合わせたものになる」という「重ね合わせの原理」を理解し、適用することです。
- 理解のポイント:
- 電場はベクトル: 電場には大きさと向きがあります。したがって、足し算は単純なスカラーの和ではなく、ベクトルの和(平行四辺形の法則や成分ごとの和)で行う必要があります。
- 個別に考えて合成する: 複雑な状況でも、まずは「電荷AがCに作る電場は?」「電荷BがCに作る電場は?」と一つずつ個別に考え、最後にそれらを合成するという思考プロセスが重要です。
- 電場の定義と性質:
- 核心: 「電場とは、\(+1 \, \text{C}\)の試験電荷を置いたときに受ける静電気力である」という定義を正確に理解していることが、向きを正しく判断する上で不可欠です。
- 理解のポイント:
- 力の向き: 正電荷(\(+q\))が作る電場は、\(+1 \, \text{C}\)が反発される向き(電荷から遠ざかる向き)です。負電荷(\(-q\))が作る電場は、\(+1 \, \text{C}\)が引きつけられる向き(電荷に近づく向き)です。このルールを機械的に適用できるようにすることが大切です。
- 力の大きさ: 電場の大きさは \(E = k \displaystyle\frac{|q|}{r^2}\) で計算されます。クーロンの法則 \(F = k \displaystyle\frac{|q_1 q_2|}{r^2}\) と形が似ていますが、電荷が一つである点が異なります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 電気双極子が作る電場: 本問のように、大きさが等しく符号が逆の2つの電荷(電気双極子)が作る電場を問う問題は頻出です。軸上や垂直二等分線上など、異なる点での電場を計算させられることがあります。
- 正三角形や正方形の頂点の電荷: 正三角形や正方形の頂点に電荷を配置し、中心や他の頂点での電場を求める問題。この場合も、各電荷が作る電場を個別に求め、ベクトル合成するという基本方針は同じです。図形の対称性を見抜くことが、計算を簡略化する鍵となります。
- 電位を求める問題: 同じ電荷配置で、点Cでの「電位」を問う問題。電位はスカラー量なので、向きを考える必要がなく、各電荷が作る電位 \(V = k \displaystyle\frac{q}{r}\) を単純に足し合わせるだけで済みます。電場(ベクトル)と電位(スカラー)の扱いの違いを明確に区別することが重要です。
- 初見の問題での着眼点:
- 座標と幾何学の確認: まず、各電荷の位置と、電場を求めたい点の位置関係を正確に把握します。三平方の定理や三角比を用いて、必要な距離や角度を計算する準備をします。
- 各電場ベクトルの図示: 各電荷が、対象点にどのような向きの電場を作るかを、矢印で正確に図示します。この段階で向きを間違えると、以降の計算がすべて無駄になります。
- 対称性の有無を判断: 図示されたベクトルを見て、対称性がないかを確認します。もし対称性があれば、特定の成分が打ち消し合う可能性が高く、計算が大幅に楽になります(模範解答のアプローチ)。
- 計算方法の選択: 対称性が見つかれば、それを利用したベクトル合成が効率的です。対称性がない、または複雑で分かりにくい場合は、機械的に成分分解して計算する別解のアプローチが確実です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- ベクトル和とスカラー和の混同:
- 誤解: 電場の強さを求めるときに、各電場の大きさ \(|\vec{E}_A|\) と \(|\vec{E}_B|\) を単純に足してしまう。
- 対策: 「電場はベクトル量である」ということを常に意識し、「重ね合わせ=ベクトル和」と肝に銘じましょう。必ずベクトルを図示し、向きを考慮した合成(平行四辺形を描くか、成分に分解する)を行う癖をつけます。
- 距離 \(r\) の2乗忘れ・間違い:
- 誤解: 電場の公式 \(E = k \displaystyle\frac{|q|}{r^2}\) で、距離 \(r\) を2乗し忘れる、または(1)の距離 \(2a\) を使ってしまう。
- 対策: (2)で考えるべき距離は「各電荷から点Cまでの距離」(\(\sqrt{2}a\))です。公式を適用する際は、必ず「どの電荷」と「どの点」の間の話なのかを明確にし、その都度正しい距離を確認するステップを踏むことが重要です。また、\(( \sqrt{2}a )^2 = 2a^2\) のような平方の計算を慎重に行いましょう。
- 電場の向きの間違い:
- 誤解: 正電荷と負電荷が作る電場の向きを混同する。
- 対策: 「点Cにプラスの試験電荷を置いたらどうなる?」と毎回自問自答するのが最も確実な対策です。Aの\(+q\)からは反発して離れる向き、Bの\(-q\)には引き寄せられて近づく向き、という物理現象をイメージすることで、向きの間違いを防げます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- クーロンの法則 (1):
- 選定理由: 設問が「2つの小球間にはたらく静電気力の大きさ」を直接問うているため、これを定義するクーロンの法則を選択するのは自明です。
- 適用根拠: 問題文で「小球の半径はaに比べて非常に小さい」とあり、小球を「点電荷」として扱えることが保証されています。これにより、点電荷間の力を記述するクーロンの法則を正確に適用できます。
- 電場の重ね合わせの原理 (2):
- 選定理由: 複数の電荷源(AとB)が存在する空間のある一点(C)での電場を求める、という状況設定そのものが、この原理の適用を要求しています。
- 適用根拠: 電磁気学において、電場(や磁場)は重ね合わせの原理が成り立つ線形な系です。これは、一つの電荷が作る電場は、他の電荷の存在によって影響を受けない(歪められない)という実験事実に基づいています。したがって、各電荷が作る電場を独立に計算し、それらを後からベクトル的に足し合わせるという操作が物理的に正当化されます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式の整理を優先する: (2)の計算で、\(|\vec{E}_A| = k \displaystyle\frac{q}{2a^2}\) をすぐに具体的な数値のように扱わず、まずは \(|\vec{E}_A|\) という記号のまま \(E_C = 2 |\vec{E}_A| \cos 45^\circ\) という関係式を導きましょう。最後に具体的な式を代入することで、見通しが良くなり、計算ミスが減ります。
- 三角比の値を正確に覚える: \(45^\circ\) や \(30^\circ\), \(60^\circ\) といった頻出の角度に対する \(\sin, \cos, \tan\) の値は、瞬時に正確に引き出せるようにしておく必要があります。特に \(\cos 45^\circ = \displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}} = \displaystyle\frac{\sqrt{2}}{2}\) のように、有理化された形も覚えておくと計算がスムーズになる場合があります。
- ベクトル図を丁寧に描く: (2)のようなベクトルの合成問題では、フリーハンドでも良いので、ベクトルの向きや角度、大きさの大小関係をできるだけ正確に反映した図を描くことが非常に有効です。図を描くことで、y成分が打ち消し合うことや、合成ベクトルの向きがx軸方向になることなどが視覚的に理解でき、計算ミスや方針の間違いを未然に防ぐことができます。
基本例題70 一様な電場内での陽イオンの運動
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 設問(2)の別解: グラフから直接電位を読み取る解法
- 模範解答が(1)で求めた電場の強さEを用いて \(V_{AB} = Ed’\) と計算するのに対し、別解では問題のV-xグラフから点Aと点Bの電位を直接読み取り、その差を計算します。
- 設問(4)の別解: 運動方程式と等加速度直線運動の公式を用いる解法
- 模範解答が「エネルギーと仕事の関係」を用いて運動エネルギーを求めるのに対し、別解ではまず(3)で求めた力Fからイオンの加速度を計算し、次に等加速度直線運動の公式 \(v^2 – v_0^2 = 2ax\) を用いて終端速度を求め、最後に運動エネルギーの定義式 \(K = \frac{1}{2}mv^2\) に代入するという、力学の基本に忠実なアプローチを取ります。
- 設問(2)の別解: グラフから直接電位を読み取る解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: (2)の別解は、電位差の定義そのものに立ち返るアプローチであり、グラフから物理量を読み取る能力を養います。(4)の別解は、電磁気的な現象(イオンの加速)を、力学の言葉(運動方程式)で記述し直す経験となり、分野横断的な理解を深めます。「電場がした仕事」が「運動エネルギーの変化」に等しいという関係が、運動方程式から自然に導かれることを体感できます。
- 思考の柔軟性向上: 一つの問題をエネルギーの視点と力の視点の両方から解くことで、問題に応じてより効率的な解法を選択する能力が身につきます。
- 結果への影響
- (2)の別解は、主たる解法と完全に一致する答えを導きます。(4)の別解は、質量が与えられていないため最終的な数値は出せませんが、エネルギーと仕事の関係式と等価な式を導出する過程を示します。
この問題のテーマは「一様な電場と電位、および荷電粒子の運動」です。V-xグラフから電場と電位の情報を読み取り、それらの関係式を正しく利用して、電場中に置かれた荷電粒子にはたらく力やエネルギーの変化を計算できるかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 一様な電場と電位の関係: V-xグラフの傾きが電場の強さ \(E\) に対応すること(より正確には \(E = – \frac{\Delta V}{\Delta x}\))、また、電位差 \(V\) と距離 \(d\) の間に \(V=Ed\) の関係が成り立つことを理解していること。
- 電場の向き: 電場は電位の高い方から低い方へ向かう、という基本的な性質を理解していること。
- 電場中の荷電粒子にはたらく力: 電荷 \(q\) の粒子が電場 \(E\) から受ける力は \(F=qE\) で与えられること。
- 仕事とエネルギーの関係: 電場が電荷 \(q\) にする仕事は \(W=qV\)(\(V\)は電位差)で与えられ、この仕事が荷電粒子の運動エネルギーの変化に等しいこと(エネルギー保存則)。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、V-xグラフの傾きから一様な電場の強さを計算し、電位が減少する向きから電場の向きを判断します。
- (2)では、(1)で求めた電場の強さとAB間の距離から、公式 \(V=Ed\) を用いて電位差を求めます。
- (3)では、(1)で求めた電場の強さ \(E\) と与えられた電気量 \(q\) を用いて、公式 \(F=qE\) から力の大きさを計算します。
- (4)では、(2)で求めた電位差 \(V_{AB}\) を用いて、電場がイオンにした仕事 \(W=qV_{AB}\) を計算し、これが運動エネルギーの増加分に等しいことから、点Bでの運動エネルギーを求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
一様な電場中では、電場の強さ \(E\)、電位差 \(V\)、距離 \(d\) の間に \(V=Ed\) という関係があります。問題のV-xグラフは直線であり、これは電場が一様であることを示しています。このグラフ全体を使って、電場の強さ \(E\) を求めることができます。また、電場の向きは「電位が高い方から低い方へ」という原則から判断します。
この設問における重要なポイント
- V-xグラフが直線であることから、電場が「一様」であると読み取ること。
- 一様な電場における公式 \(E = \frac{V}{d}\) を適用できること。
- グラフの全体(\(x=0\) から \(x=0.060\) まで)を利用して、電位差 \(V=30 \, \text{V}\) と距離 \(d=0.060 \, \text{m}\) を読み取ること。
- 電場の向きは、電位が減少する向き(x軸の正の向き)であると判断すること。
具体的な解説と立式
V-xグラフは傾きが一定の直線なので、電場は一様です。したがって、点Aでも点Bでも電場の強さと向きは同じです。
$$ E_A = E_B = E $$
一様な電場と電位の関係式 \(V=Ed\) を \(E\) について解くと、
$$ E = \frac{V}{d} $$
グラフから、距離 \(d = 0.060 \, \text{m}\) の区間で、電位差は \(V = 30 – 0 = 30 \, \text{V}\) です。これらの値を式に代入します。
次に、電場の向きを考えます。グラフから、x座標が大きくなるにつれて電位 \(V\) が減少していることがわかります。電場は電位の高い方から低い方へ向かうので、電場の向きはx軸の正の向きとなります。
使用した物理公式
- 一様な電場と電位の関係: \(V=Ed\)
上記で立てた式に数値を代入して、電場の強さ \(E\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
E &= \frac{30}{0.060} \\[2.0ex]
&= \frac{3000}{6} \\[2.0ex]
&= 500 \\[2.0ex]
&= 5.0 \times 10^2 \, [\text{V/m}]
\end{aligned}
$$
このグラフは、場所(x座標)とその場所の「電気的な高さ(電位)」の関係を表しています。坂道のように、右に行くほど高さが低くなっていますね。物理の世界では、この「坂の傾き」が「電場の強さ」に対応します。グラフ全体を見ると、\(0.060 \, \text{m}\) 進む間に高さが \(30 \, \text{V}\) 下がっているので、その傾き(電場の強さ)を計算します。また、坂を転がるボールのように、電気も高さが高い方から低い方へ流れるような力が働きます。この力の向きが「電場の向き」なので、グラフが下がっているx軸の正の向きが電場の向きになります。
点Aと点Bにおける電場の強さはともに \(5.0 \times 10^2 \, \text{V/m}\) で、向きはx軸の正の向きです。V-xグラフの傾きの絶対値が電場の強さに対応し、傾きが負であることから電場がx軸正の向きであることがわかり、物理的に妥当な結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
AB間の電位差 \(V_{AB}\) を求めます。電場は一様なので、(1)で求めた電場の強さ \(E\) と、AB間の距離 \(d’\) を用いて、公式 \(V=Ed\) から計算するのが模範解答のアプローチです。
この設問における重要なポイント
- 一様な電場における公式 \(V=Ed\) を適用できること。
- AB間の距離 \(d’\) を正しく計算すること (\(d’ = 0.040 – 0.020 = 0.020 \, \text{m}\))。
具体的な解説と立式
(1)より、電場は一様で、その強さは \(E = 5.0 \times 10^2 \, \text{V/m}\) です。
AB間の距離 \(d’\) は、
$$ d’ = 0.040 – 0.020 = 0.020 \, \text{m} $$
一様な電場と電位差の関係式 \(V=Ed\) を用いて、AB間の電位差 \(V_{AB}\) を求めます。
$$ V_{AB} = E d’ $$
使用した物理公式
- 一様な電場と電位の関係: \(V=Ed\)
$$
\begin{aligned}
V_{AB} &= (5.0 \times 10^2) \times 0.020 \\[2.0ex]
&= 500 \times 0.020 \\[2.0ex]
&= 10 \, [\text{V}]
\end{aligned}
$$
A地点とB地点の「電気的な高さ」の差を求める問題です。(1)で、この場所が傾き500の坂道であることがわかっているので、「高さの差」は「坂の傾き × 水平距離」で計算できます。AとBの間の距離は \(0.020 \, \text{m}\) なので、これに傾き500を掛けて、高さの差が10Vとわかります。
AB間の電位差は \(10 \, \text{V}\) となります。
思考の道筋とポイント
模範解答が電場 \(E\) を経由して計算したのに対し、この別解では、V-xグラフから直接、点Aと点Bの電位を読み取り、その差を計算します。これは電位差の定義に最も忠実なアプローチです。
この設問における重要なポイント
- 電位差 \(V_{AB}\) は、点Aの電位 \(V_A\) と点Bの電位 \(V_B\) の差 \(|V_A – V_B|\) であると理解すること。
- V-xグラフが直線(一次関数)であるため、比例計算によって任意の点の電位を求めることができること。
具体的な解説と立式
V-xグラフは、点(0, 30)と点(0.060, 0)を通る直線です。この直線の式は、傾きが \(\frac{0-30}{0.060-0} = -500\) なので、\(V(x) = -500x + 30\) と表せます。
この式を用いて、点A(\(x=0.020\))と点B(\(x=0.040\))の電位をそれぞれ求めます。
点Aの電位 \(V_A\):
$$ V_A = V(0.020) $$
点Bの電位 \(V_B\):
$$ V_B = V(0.040) $$
求める電位差 \(V_{AB}\) は、これらの差の絶対値です。
$$ V_{AB} = |V_A – V_B| $$
使用した物理公式
- グラフの読み取り(一次関数)
点Aと点Bの電位を計算します。
$$
\begin{aligned}
V_A &= -500 \times 0.020 + 30 \\[2.0ex]
&= -10 + 30 \\[2.0ex]
&= 20 \, [\text{V}]
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
V_B &= -500 \times 0.040 + 30 \\[2.0ex]
&= -20 + 30 \\[2.0ex]
&= 10 \, [\text{V}]
\end{aligned}
$$
したがって、電位差 \(V_{AB}\) は、
$$
\begin{aligned}
V_{AB} &= |V_A – V_B| \\[2.0ex]
&= |20 – 10| \\[2.0ex]
&= 10 \, [\text{V}]
\end{aligned}
$$
A地点とB地点の「電気的な高さ」の差を求める問題です。グラフをよく見ると、この坂道は一次関数(直線)なので、A地点の高さは20V、B地点の高さは10Vであることが直接計算できます。したがって、その高さの差は \(20 – 10 = 10 \, \text{V}\) となります。
AB間の電位差は \(10 \, \text{V}\) となり、主たる解法と完全に一致します。グラフから直接情報を読み取るこの方法は、問題の本質をより直接的に捉えることができます。
問(3)
思考の道筋とポイント
電場 \(E\) の中に置かれた電気量 \(q\) の荷電粒子が受ける力の大きさを求める問題です。これは基本公式 \(F=qE\) を適用するだけです。
この設問における重要なポイント
- 公式 \(F=qE\) を正しく覚えていること。
- (1)で求めた電場の強さ \(E\) と、問題文で与えられた電気量 \(q\) の値を代入すること。
具体的な解説と立式
電気量 \(q\) のイオンが、強さ \(E\) の電場から受ける力の大きさ \(F\) は、次式で与えられます。
$$ F = qE $$
この式に、\(q = 3.2 \times 10^{-19} \, \text{C}\) と、(1)で求めた \(E = 5.0 \times 10^2 \, \text{V/m}\) を代入します。
使用した物理公式
- 電場から受ける力: \(F=qE\)
$$
\begin{aligned}
F &= (3.2 \times 10^{-19}) \times (5.0 \times 10^2) \\[2.0ex]
&= (3.2 \times 5.0) \times (10^{-19} \times 10^2) \\[2.0ex]
&= 16 \times 10^{-17} \\[2.0ex]
&= 1.6 \times 10^{-16} \, [\text{N}]
\end{aligned}
$$
電気を帯びたイオンを電場(電気の坂道)に置くと、力を受けて動き出します。その力の大きさは、イオンが持つ電気の量 \(q\) と、電場の強さ(坂の傾き) \(E\) の掛け算で計算できる、という簡単な公式 \(F=qE\) があります。これに数値を当てはめるだけで答えが出ます。
イオンが電場から受ける力の大きさは \(1.6 \times 10^{-16} \, \text{N}\) となります。基本公式を正しく適用した結果であり、妥当です。
問(4)
思考の道筋とポイント
点Aで静止していたイオンが、電場から力を受けて加速し、点Bに達したときの運動エネルギーを求める問題です。これは「仕事とエネルギーの関係」から解くのが最も効率的です。電場がイオンにした仕事が、そのままイオンの運動エネルギーの増加分となります。
この設問における重要なポイント
- 「(電場がした仕事)=(運動エネルギーの変化)」というエネルギー保存則を理解していること。
- 電場が電荷 \(q\) にする仕事は、電位差 \(V\) を用いて \(W=qV\) と表せることを知っていること。
- (2)で求めたAB間の電位差 \(V_{AB}\) を用いること。
具体的な解説と立式
エネルギーと仕事の関係より、イオンの運動エネルギーの変化は、電場がイオンにした仕事に等しくなります。
$$ \Delta K = W $$
イオンは点Aで静止していたので、初めの運動エネルギーはゼロです。点Bでの運動エネルギーを \(K\) とすると、運動エネルギーの変化は \(\Delta K = K – 0 = K\) となります。
一方、電場が電気量 \(q\) のイオンを、電位差 \(V_{AB}\) のあるA点からB点まで運ぶときにする仕事 \(W\) は、
$$ W = qV_{AB} $$
したがって、次の関係式が成り立ちます。
$$ K = qV_{AB} $$
使用した物理公式
- 仕事と運動エネルギーの関係: \(\Delta K = W\)
- 電場がする仕事: \(W=qV\)
上記で立式した \(K = qV_{AB}\) に、\(q = 3.2 \times 10^{-19} \, \text{C}\) と、(2)で求めた \(V_{AB} = 10 \, \text{V}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
K &= (3.2 \times 10^{-19}) \times 10 \\[2.0ex]
&= 3.2 \times 10^{-18} \, [\text{J}]
\end{aligned}
$$
イオンは、A地点からB地点まで、電気の坂道を下ることでスピードアップします。このとき、どれくらい運動エネルギーが増えるかというと、それは「坂道がイオンにしてあげた仕事」の分だけ増えます。電気の坂道がする仕事は、「イオンの電気量 \(q\)」と「下った坂の高さの差(電位差) \(V_{AB}\)」の掛け算で簡単に計算できます。初めの運動エネルギーはゼロだったので、この仕事の量がそのままゴール地点Bでの運動エネルギーになります。
イオンが点Bに達したときの運動エネルギーは \(3.2 \times 10^{-18} \, \text{J}\) となります。エネルギーの観点から問題を解くことで、途中の力や加速度を計算することなく、直接的に答えを導くことができました。
思考の道筋とポイント
エネルギーではなく、力学の基本に立ち返って解くアプローチです。
- イオンにはたらく力 \(F\) は(3)で求まっています。この力は一定なので、イオンは等加速度直線運動をします。
- 運動方程式 \(F=ma\) を用いて、イオンの加速度 \(a\) を求めます。
- 等加速度直線運動の公式 \(v^2 – v_0^2 = 2ax\) を用いて、点Bに達したときの速さ \(v\) を求めます。
- 最後に、運動エネルギーの定義式 \(K = \frac{1}{2}mv^2\) に代入して \(K\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 電場中の荷電粒子の運動が、力学の法則(運動方程式、等加速度直線運動)で記述できることを理解している。
- 各法則を段階的に適用し、最終的な答えに結びつける論理的な思考力。
具体的な解説と立式
イオンの質量を \(m\) とします。
(3)で求めた一定の力 \(F = qE\) を受けるので、イオンの加速度 \(a\) は運動方程式 \(F=ma\) より、
$$ a = \frac{F}{m} = \frac{qE}{m} $$
イオンは点Aで静止していたので初速度 \(v_0 = 0\) です。点Aから点Bまでの距離は \(d’ = 0.020 \, \text{m}\) です。点Bに達したときの速さを \(v\) とすると、等加速度直線運動の公式 \(v^2 – v_0^2 = 2ad’\) より、
$$ v^2 – 0^2 = 2 a d’ $$
よって、点Bでの運動エネルギー \(K\) は、
$$ K = \frac{1}{2}mv^2 $$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(F=ma\)
- 等加速度直線運動の公式: \(v^2 – v_0^2 = 2ax\)
- 運動エネルギーの定義: \(K = \frac{1}{2}mv^2\)
まず、\(v^2\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
v^2 &= 2ad’ \\[2.0ex]
&= 2 \left( \frac{qE}{m} \right) d’
\end{aligned}
$$
これを運動エネルギーの式に代入します。
$$
\begin{aligned}
K &= \frac{1}{2}m v^2 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}m \left( 2 \frac{qE}{m} d’ \right) \\[2.0ex]
&= qEd’
\end{aligned}
$$
ここで、\(V_{AB} = Ed’\) なので、
$$ K = qV_{AB} $$
これは主たる解法の出発点となった式と全く同じです。したがって、これ以降の計算は主たる解法と同じになり、
$$
\begin{aligned}
K &= (3.2 \times 10^{-19}) \times 10 \\[2.0ex]
&= 3.2 \times 10^{-18} \, [\text{J}]
\end{aligned}
$$
となります。
別の考え方をしてみましょう。まず、(3)で求めた力 \(F\) を使って、イオンの「加速度(スピードの増え方)」を計算します(\(a=F/m\))。次に、物理の公式を使って、「この加速度で \(0.020 \, \text{m}\) 進んだら、速さはどれくらいになるか」を計算します。最後に、その速さから運動エネルギー(\(K = \frac{1}{2}mv^2\))を計算します。この手順で計算を進めると、途中で質量 \(m\) がきれいに消去され、結局は主たる解法と同じ「\(K = qV_{AB}\)」という式にたどり着きます。
力学の基本法則を段階的に適用することで、主たる解法である「仕事とエネルギーの関係」と同じ結論 \(K = qV_{AB}\) を導くことができました。これは、エネルギー保存則がニュートンの運動方程式から導かれる、より根源的な法則であることを示しています。異なる物理的視点から同じ結果が得られることは、物理法則の一貫性を示しており、理解を深める上で非常に有益です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 一様な電場における物理量の関係性:
- 核心: この問題は、一様な電場という特殊な状況において、電場\(E\)、電位\(V\)、距離\(d\)、力\(F\)、仕事\(W\)、エネルギー\(K\)といった複数の物理量が、シンプルな関係式で相互に結びついていることを体系的に理解しているかを問うています。
- 理解のポイント:
- グラフと電場: V-xグラフが直線であることは、電場が「一様」であることを意味します。そして、その傾きの絶対値が電場の強さ \(E\) を与えます (\(E = |\frac{\Delta V}{\Delta x}|\))。
- 電場と電位: 一様な電場 \(E\) と、電場の向きに沿った距離 \(d\) の間の電位差 \(V\) は、\(V=Ed\) という最も基本的な関係で結ばれます。
- 電場と力: 電荷 \(q\) が電場 \(E\) から受ける力は \(F=qE\) です。電場が一定なので、この力も一定です。
- 電位差と仕事(エネルギー): 電荷 \(q\) が電位差 \(V\) のある区間を移動するときに電場がする仕事は \(W=qV\) であり、これが運動エネルギーの変化 \(\Delta K\) に等しくなります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- V-xグラフが折れ線グラフの問題: 複数の領域で電場の強さが異なる問題。各直線部分について傾きを計算し、領域ごとの電場の強さを求めます。
- 等電位線が描かれている問題: 地図の等高線のように、等電位線が描かれた図から電場を読み取る問題。電場は等電位線に垂直で、電位の高い方から低い方へ向かいます。電場の強さは、等電位線の間隔が狭いほど強くなります (\(E \approx \frac{\Delta V}{\Delta d}\))。
- 斜方投射との融合問題: 一様な電場(例:鉛直下向き)の中で、荷電粒子を斜めに打ち出す問題。これは、重力下での放物運動と全く同じように解くことができます。水平方向は等速直線運動、鉛直方向は等加速度直線運動として扱います。
- 初見の問題での着眼点:
- グラフの形をまず見る: V-xグラフが与えられたら、まず直線か曲線かを確認します。直線なら「一様な電場」、曲線なら「場所によって強さが変わる電場」です。
- 傾きと向きを判断する: グラフの傾きから電場の強さを、電位が下がる方向から電場の向きを判断します。これは電場に関する最も基本的な情報です。
- エネルギーで解くか、力で解くか判断する: 荷電粒子の運動について問われた場合、「速さ」や「運動エネルギー」を直接問われたら、仕事とエネルギーの関係 (\(K=qV\)) を使うのが最も速く、計算も楽です。一方、「時間」や「加速度」が関わる問題であれば、力学的なアプローチ(\(F=qE\), 運動方程式)が必要になります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 電位と電位差の混同:
- 誤解: 点Aの電位 \(V_A\) と、AB間の電位差 \(V_{AB}\) を混同してしまう。
- 対策: 「電位」はある一点の「電気的な高さ」であり、基準点(この問題では \(x=0.060\))を0Vとして決まります。「電位差」は2点間の「高さの差」です。\(W=qV\) や \(V=Ed\) の \(V\) は「電位差」であると、定義を明確に区別して覚えましょう。
- V-xグラフの傾きの符号と電場の向き:
- 誤解: 傾きが負だから電場は負の向き、と短絡的に考えてしまう。
- 対策: 電場の向きの定義は「電位が高い方から低い方へ」です。V-xグラフの傾きと電場の関係は、正確には \(E = -\frac{dV}{dx}\) です。つまり、傾きが負(右肩下がり)であることは、電場 \(E\) が正の向きであることを意味します。この関係をしっかり理解するか、「電位が下がる向きが電場の向き」という原則に毎回立ち返るようにしましょう。
- 仕事の計算での符号ミス:
- 誤解: 正電荷と負電荷の運動で、仕事の符号を間違える。
- 対策: 電場がする仕事は、電荷が電場の向きに動いた(電位が下がった)場合に正となります。陽イオン(正電荷)が電位の低い方へ動けば、電場は正の仕事をし、運動エネルギーは増加します。もし電子(負電荷)が同じように動いた場合、電場から逆向きの力を受けるので、電場は負の仕事をし、運動エネルギーは減少します(外部から別の力が必要)。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(E = V/d\) の選択 (1):
- 選定理由: V-xグラフから「一様な電場」であることが読み取れ、そのグラフから電位差 \(V\) と距離 \(d\) が直接読み取れるため、電場の強さ \(E\) を求めるにはこの公式が最も直接的です。
- 適用根拠: この公式は、一様な電場 \(E\) を距離 \(d\) にわたって積分すると電位差 \(V\) になる (\(V = \int_0^d E \, dx = Ed\)) という、電場と電位の定義から導かれる関係です。グラフの傾きが一定であるという条件が、この公式の適用を正当化します。
- \(F=qE\) の選択 (3):
- 選定理由: 「電場から受ける力」を問われており、電荷 \(q\) と電場 \(E\) が分かっているため、これらを結びつける定義式である \(F=qE\) を選択します。
- 適用根拠: 電場 \(E\) の定義そのものが「その場所に\(+1\,\text{C}\)の電荷を置いたときに受ける力」であるため、電荷 \(q\) の物体を置けば、その \(q\) 倍の力を受けるというのは定義から直結する論理です。
- \(K=qV_{AB}\) の選択 (4):
- 選定理由: 初速度がゼロで、最終的な「運動エネルギー」を求める問題です。途中の過程(時間や加速度)は不要なので、始点と終点の状態量(電位差)だけで結果が決まるエネルギー保存則(仕事とエネルギーの関係)を用いるのが最も効率的です。
- 適用根拠: この関係式は、力学の仕事とエネルギーの関係 \(\Delta K = W\) と、電場がする仕事の定義 \(W=qV\) を組み合わせたものです。保存力である静電気力のみが仕事をする場合、その仕事は位置エネルギーの変化(\(\Delta U = -W\)、ここで \(U=qV\))に等しく、力学的エネルギー保存則 (\(\Delta K + \Delta U = 0\)) と等価な内容を表しています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位の換算を意識する: この問題では単位は[m], [V]で与えられていますが、もし[cm]などで与えられた場合は、計算前に必ずSI基本単位系([m], [kg], [s], [A]など)に変換する癖をつけましょう。
- 指数の計算を丁寧に行う: (3)や(4)のように、\(10\)のべき乗(指数)を含む計算では、係数部分と指数部分を分けて計算するのが安全です。例: \((3.2 \times 10^{-19}) \times (5.0 \times 10^2) = (3.2 \times 5.0) \times (10^{-19} \times 10^2)\)。指数部分は足し算 (\(-19+2=-17\)) になることを落ち着いて確認します。
- グラフの数値を正確に読み取る: グラフの軸の単位(V, m)と目盛りをしっかり確認します。特に、\(0.020\) のような小数点の位置や、\(3.2 \times 10^{-19}\) のような指数の部分を書き間違えないように、問題文と自分のノートを注意深く見比べることが重要です。
基本例題71 電場のする仕事
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「等電位線と電場のする仕事」です。地図の等高線のように描かれた等電位線を正しく読み取り、電場(静電気力)が荷電粒子にする仕事を計算する能力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 電場がする仕事の公式: 電荷 \(q\) が電位差 \(V\) のある2点間を移動するとき、電場がする仕事 \(W\) は \(W=qV\) で与えられます。
- 電位差の定義: 仕事の公式における電位差 \(V\) は、始点の電位を \(V_{\text{始}}\)、終点の電位を \(V_{\text{終}}\) とすると、\(V = V_{\text{始}} – V_{\text{終}}\) で計算されます。
- 静電気力の保存性: 電場による力(静電気力)は保存力です。そのため、電場がする仕事は移動経路によらず、始点と終点の電位差のみで決まります。
- 等電位線の性質:
- 等電位線上の点は、すべて同じ電位(電気的な高さ)です。
- したがって、等電位線上を移動する際に電場がする仕事はゼロです。
- 電場は、等電位線に対して常に垂直な向きにはたらきます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、図に示された等電位線の情報を元に、各点A, B, C, D, Eの電位を特定します。
- A→B, B→C, C→D, D→E の各区間について、始点と終点の電位差 \(V = V_{\text{始}} – V_{\text{終}}\) を計算します。
- 各区間の電位差を、仕事の公式 \(W=qV\) に代入して、電場がする仕事をそれぞれ算出します。
各区間での仕事
思考の道筋とポイント
この問題は、A→B、B→C、C→D、D→Eの4つの区間における仕事をそれぞれ求めるものです。すべての計算の基本となるのは、仕事の公式 \(W=qV\) です。まずは、各区間の始点と終点の電位差 \(V\) を、図の等電位線から正確に読み取ることが最初のステップとなります。
この設問における重要なポイント
- 電位の基準設定: 下の極板が正(+)に帯電しているため、高電位側となります。等電位線は10V間隔で示されているので、各線が示す電位の値を特定します。
- 電位差の計算: 仕事の公式 \(W = q(V_{\text{始}} – V_{\text{終}})\) に従って、各区間の始点と終点の電位の差を計算します。電位が下がる(高電位→低電位)移動では仕事は正、電位が上がる(低電位→高電位)移動では仕事は負になります。
- 等電位線上の移動: B→Cのように、同じ等電位線上を移動する場合、始点と終点の電位が等しいため電位差はゼロとなり、仕事もゼロになります。
具体的な解説と立式
電場がする仕事 \(W\) は、電荷 \(q\) と、移動の始点と終点の電位差 \(V = V_{\text{始}} – V_{\text{終}}\) を用いて、次のように表されます。
$$ W = qV = q(V_{\text{始}} – V_{\text{終}}) $$
まず、図から各区間の電位差を読み取ります。下の極板が高電位、上の極板が低電位です。等電位線は10V間隔なので、隣り合う等電位線を1本横切るごとに電位が10V変化します。
- 区間 A→B: 点Aから点Bへは、電位が低くなる方向に等電位線を3本横切っています。したがって、電位差は、
$$ V_{AB} = V_A – V_B = 3 \times 10 = 30 \, [\text{V}] $$ - 区間 B→C: 点Bと点Cは同じ等電位線上にあります。したがって、電位差はゼロです。
$$ V_{BC} = V_B – V_C = 0 \, [\text{V}] $$ - 区間 C→D: 点Cから点Dへは、電位が低くなる方向に等電位線を4本横切っています。
$$ V_{CD} = V_C – V_D = 4 \times 10 = 40 \, [\text{V}] $$ - 区間 D→E: 点Dから点Eへは、電位が高くなる方向に等電位線を1本横切っています。
$$ V_{DE} = V_D – V_E = -1 \times 10 = -10 \, [\text{V}] $$
これらの電位差を、電荷 \(q = +3.2 \times 10^{-15} \, \text{C}\) とともに仕事の公式に代入します。
使用した物理公式
- 電場がする仕事: \(W = qV = q(V_{\text{始}} – V_{\text{終}})\)
各区間の仕事を計算します。
A→Bの仕事 \(W_{AB}\):
$$
\begin{aligned}
W_{AB} &= q V_{AB} \\[2.0ex]
&= (3.2 \times 10^{-15}) \times 30 \\[2.0ex]
&= 96 \times 10^{-15} \\[2.0ex]
&= 9.6 \times 10^{-14} \, [\text{J}]
\end{aligned}
$$
B→Cの仕事 \(W_{BC}\):
$$
\begin{aligned}
W_{BC} &= q V_{BC} \\[2.0ex]
&= (3.2 \times 10^{-15}) \times 0 \\[2.0ex]
&= 0 \, [\text{J}]
\end{aligned}
$$
C→Dの仕事 \(W_{CD}\):
$$
\begin{aligned}
W_{CD} &= q V_{CD} \\[2.0ex]
&= (3.2 \times 10^{-15}) \times 40 \\[2.0ex]
&= 128 \times 10^{-15} \\[2.0ex]
&= 1.28 \times 10^{-13} \, [\text{J}]
\end{aligned}
$$
有効数字を2桁に丸めると、\(1.3 \times 10^{-13} \, \text{J}\) となります。
D→Eの仕事 \(W_{DE}\):
$$
\begin{aligned}
W_{DE} &= q V_{DE} \\[2.0ex]
&= (3.2 \times 10^{-15}) \times (-10) \\[2.0ex]
&= -32 \times 10^{-15} \\[2.0ex]
&= -3.2 \times 10^{-14} \, [\text{J}]
\end{aligned}
$$
この図を、電気的な高さを示した「等高線地図」だと考えてみましょう。下のプラスの板がある方が高地で、上に行くほど低地になっています。等高線は1本あたり10mの高さの違いを表します。
電場がする仕事は、「運ぶ荷物(電荷)の重さ × 下った高さ」で計算できます。
- A→B: 荷物を運んだら、等高線を3本下りました。つまり30m下ったので、仕事はプラスです。
- B→C: 同じ高さの等高線上を移動したので、高さは変わらず、仕事はゼロです。
- C→D: 等高線を4本下りました。40m下ったので、仕事はプラスです。
- D→E: 今度は等高線を1本登りました。10m登ったので、坂に逆らった分、仕事はマイナスになります。
各区間で電場がする仕事は以下の通りです。
- \(W_{AB} = 9.6 \times 10^{-14} \, \text{J}\)
- \(W_{BC} = 0 \, \text{J}\)
- \(W_{CD} \approx 1.3 \times 10^{-13} \, \text{J}\)
- \(W_{DE} = -3.2 \times 10^{-14} \, \text{J}\)
これらの結果は、等電位線の図を正しく読み取り、仕事の公式を適用することで得られます。特に、仕事の符号が電位の変化(上がるか下がるか)によって決まる点が重要です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 静電気力による仕事と電位:
- 核心: この問題の根幹は、「静電気力がする仕事は、移動経路によらず、始点と終点の電位差だけで決まる」という、静電気力が保存力であることの最も重要な性質を理解しているかどうかにあります。
- 理解のポイント:
- 公式 \(W=qV\): この公式が全てを支配しています。仕事\(W\)を計算するために必要なのは、運ぶ電荷\(q\)と、始点と終点の電位差\(V\)の2つだけです。途中でどれだけ曲がりくねった経路を通っても、仕事の値は変わりません。
- 電位差の定義: 公式の\(V\)は、より正確には \(V = V_{\text{始}} – V_{\text{終}}\) です。電位が下がる(\(V_{\text{始}} > V_{\text{終}}\))移動では、電場は正の仕事をします。逆に電位が上がる(\(V_{\text{始}} < V_{\text{終}}\))移動では、電場は負の仕事をします。
- 等電位線の解釈:
- 核心: 地図の等高線と同じように、等電位線の図から「電気的な高さ(電位)」の情報を正確に読み取る能力が不可欠です。
- 理解のポイント:
- 等電位線上の仕事: 同じ等電位線上(同じ高さ)を移動する場合、電位差はゼロなので、電場がする仕事もゼロです(\(W_{BC}=0\))。
- 等電位線を横切る仕事: 等電位線を横切ることは、坂を上り下りすることに相当します。何本の線を横切ったかを数えることで、始点と終点の電位差を簡単に求めることができます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 点電荷が作る電場の問題: 点電荷が作る等電位線は同心円状になります。この場合でも、ある点から別の点へ電荷を運ぶ仕事は、始点と終点がどの等電位線上にあるかだけで決まります。
- 力学的エネルギー保存則との融合問題: 「点Aで初速\(v_0\)で打ち出した荷電粒子が点Eに達したときの速さは?」といった問題。この場合は、エネルギー保存則「(はじめの運動エネルギー) + (はじめの位置エネルギー) = (おわりの運動エネルギー) + (おわりの位置エネルギー)」を立てます。ここで、電気的な位置エネルギーは \(U=qV\) で与えられ、電場がした仕事は \(W = -\Delta U = -(U_{\text{終}} – U_{\text{始}})\) の関係にあります。
- 電場の強さを問う問題: 等電位線の図から、特定の点の電場の強さと向きを問う問題。電場は等電位線に垂直で、電位が下がる向きです。強さは、等電位線の間隔が狭いほど強くなります (\(E \approx \frac{\Delta V}{\Delta d}\))。
- 初見の問題での着眼点:
- 電位の基準と間隔の確認: まず、どこが基準(高電位側か低電位側か)で、等電位線が何ボルト間隔で引かれているかを確認します。これが全ての計算の基礎となります。
- 始点と終点の電位を特定: 各移動区間について、始点の電位と終点の電位がそれぞれいくらになるかを、等電位線を数えて特定します。
- 仕事の符号を予測する: 電位が下がる(坂を下る)移動か、上がる(坂を登る)移動かを確認し、仕事の符号が正になるか負になるかをあらかじめ予測しておくと、計算ミスを防げます。
- 公式 \(W=q(V_{\text{始}} – V_{\text{終}})\) に代入: 最後に、電荷\(q\)と計算した電位差を公式に代入します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 電位差の符号の間違い:
- 誤解: 仕事の公式 \(W=qV\) の \(V\) を、常に正の値として計算してしまう、または \(V_{\text{終}} – V_{\text{始}}\) と勘違いしてしまう。
- 対策: 仕事の公式は \(W = q(V_{\text{始}} – V_{\text{終}})\) と、始点と終点を明確にした形で覚えるのが最も安全です。そして、電位が下がる移動(例:A→B)では \(V_{\text{始}} > V_{\text{終}}\) なので \(V_{\text{始}} – V_{\text{終}}\) は正、電位が上がる移動(例:D→E)では \(V_{\text{始}} < V_{\text{終}}\) なので \(V_{\text{始}} – V_{\text{終}}\) は負になる、という関係をしっかり理解しましょう。
- 等電位線の本数の数え間違い:
- 誤解: 点Aから点Bへの移動で、Bの線を含めて4本と数えてしまうなど、横切った線の数を間違える。
- 対策: 「始点の線」と「終点の線」の間の線の数を数えるか、あるいは各線の電位に具体的な数値を割り振ってしまうのが確実です。例えば、点BとCを基準の0Vとすると、Aは+30V、Dは-40V、Eは-50Vの線上にある、と見なせます。(あくまで相対的な電位差が重要です)
- 電荷qの符号の見落とし:
- 誤解: もし問題の電荷が負電荷(電子など)だった場合に、正電荷と同じように計算してしまう。
- 対策: 仕事の計算では、必ず電荷 \(q\) の符号を含めて計算します。もし \(q\) が負であれば、電位が下がる移動(電場が正の仕事をする方向)でも、トータルの仕事 \(W=qV\) は負になります。これは、負電荷は電場から坂を登る向きに力を受けるためです。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(W=qV\) の選択:
- 選定理由: 問題が「電場による力がする仕事」を問うており、図には「等電位線」という電位に関する情報が与えられています。電荷\(q\)、仕事\(W\)、電位\(V\)という3つの量を結びつける最も直接的な法則が \(W=qV\) であるため、これを選択します。
- 適用根拠: この公式は、電気的な位置エネルギー \(U=qV\) の定義から導かれます。保存力である静電気力がする仕事は、位置エネルギーの減少分に等しい、すなわち \(W = -\Delta U = -(U_{\text{終}} – U_{\text{始}}) = -(qV_{\text{終}} – qV_{\text{始}}) = q(V_{\text{始}} – V_{\text{終}})\) となります。静電気力が保存力であるという事実が、この公式が経路によらず成立する根拠となっています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 各点に電位を書き込む: 計算を始める前に、図の各点A, B, C, D, Eがどの電位の線上にあるかを特定し、具体的な数値を書き込んでしまうと間違いが減ります。例えば、点BとCを基準の0Vとすると、Aは+30V、Dは-40V、Eは-50Vの線上にある、と見なせます。(あくまで相対的な電位差が重要です)
- 符号のダブルチェック: 計算結果が出たら、仕事の符号が物理的に妥当かを確認します。正電荷が電位の下がる方へ移動したなら仕事は正、電位の上がる方へ移動したなら仕事は負になるはずです。この簡単なチェックで、電位差の引き算の順番ミスなどを発見できます。
- 有効数字の扱いに注意: 模範解答の \(W_{CD}\) のように、計算結果を問題の有効数字(この場合は2桁)に合わせて丸める必要があります。\(128 \times 10^{-15}\) を \(1.3 \times 10^{-13}\) と正しく表記できるように、科学記数法と有効数字のルールを再確認しておきましょう。
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基本問題
356 静電気
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「摩擦帯電と静電気力」です。異なる物質をこすり合わせたときに生じる帯電の仕組みと、帯電した物体間にはたらく力の種類(引力・斥力)についての基本的な理解が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 摩擦帯電: 異なる2つの物体をこすり合わせると、一方の物体からもう一方の物体へ電子が移動し、両方の物体が帯電する現象。
- 電荷の正体:
- 物体が正に帯電するとは、電子が不足した状態のこと。
- 物体が負に帯電するとは、電子が過剰になった状態のこと。
- 摩擦帯電で移動するのは、常に負の電荷を持つ「電子」である。
- 電気量保存の法則: 摩擦帯電の前後で、2つの物体が持つ電気量の総和は変化しない。一方が \(-q\) の電気量を得れば、もう一方は \(+q\) の電気量を持つことになる。
- 静電気力:
- 同種の電荷(正と正、負と負)の間には、互いに退け合う力(斥力)がはたらく。
- 異種の電荷(正と負)の間には、互いに引き合う力(引力)がはたらく。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)と(2)では、「アクリル棒が正に帯電した」という事実から、電子がどちらからどちらへ移動したのか、その結果として絹布がどちらに帯電したのかを論理的に導きます。
- (3)では、(1)の結果と、新たに与えられる「アクリル棒と塩化ビニル棒の間に引力がはたらいた」という情報から、塩化ビニル棒、そしてそれをこすった毛皮の帯電の種類を特定します。最後に、絹布と毛皮の電荷の種類から、両者にはたらく力を判断します。