問題の確認
dynamics#23各設問の思考プロセス
この問題は、L字型に折り曲げられた物体の「重心」の位置を求める問題です。このような複数の部分から構成される物体の重心は、物体を単純な部分に分割し、それぞれの重心を「重み」をつけて平均することで求めることができます。
この問題を解く上で中心となる物理法則は「重心の公式」です。
- 複雑な形状の物体も、複数の単純な形状(この場合は2本の直線)の部分に分けて考えます。
- 全体の重心は、各部分の重心の位置を、それぞれの部分の質量で重みづけした平均の位置になります。
- 特に、この針金は「一様」にできているため、その質量は長さに比例します。したがって、重心を計算する際に、質量の代わりに長さそのものを「重み」として使うことができます。
この問題を解くための手順は以下の通りです。
- 座標系の設定: 計算を簡単にするため、まず座標系を設定します。折り曲げ点Cを原点(0, 0)に置き、辺CBをx軸上、辺ACをy軸上に配置するのが最も便利です。
- 各部分の重心と「重み」の特定: L字型の針金を、「辺CB」と「辺AC」の2つに分割します。
- それぞれの辺の重心は、その辺の「中点」になります。
- それぞれの辺の「重み」は、その「長さ」になります。
- 全体の重心の計算: 2つの部分の重心の座標と長さ(重み)を使って、全体の重心のx座標とy座標をそれぞれ計算します。
この手順で、幾何学的に重心の位置を特定していきます。
各設問の具体的な解説と解答
L字型針金の重心の位置
問われている内容の明確化
L字型に折り曲げられた針金の重心の位置を、辺ACおよび辺CBからの距離で求めます。
具体的な解説と立式
1. 座標系と各部分の情報整理
まず、以下のように座標系を設定します。
- 原点: 折り曲げ点 C(0, 0)
- x軸: 辺CBの方向
- y軸: 辺ACの方向
この座標系の上で、2つの部分(辺CBと辺AC)の情報を整理します。針金は一様なので、質量の代わりに長さを「重み」として使います。
- 部分1 (辺CB):
- 長さ \(l_1 = 60 \, \text{cm}\)
- 重心の位置: 辺CBの中点なので、\((x_1, y_1) = (30, 0)\)
- 部分2 (辺AC):
- 長さ \(l_2 = 40 \, \text{cm}\)
- 重心の位置: 辺ACの中点なので、\((x_2, y_2) = (0, 20)\)
2. 全体の重心の公式
全体の重心の座標を \((x_G, y_G)\) とすると、公式は以下のようになります。質量の代わりに長さを用いて、
$$x_G = \frac{l_1 x_1 + l_2 x_2}{l_1 + l_2} \quad \cdots ①$$
$$y_G = \frac{l_1 y_1 + l_2 y_2}{l_1 + l_2} \quad \cdots ②$$
と立式できます。
$$x_G = \frac{m_1 x_1 + m_2 x_2 + \dots}{m_1 + m_2 + \dots}, \quad y_G = \frac{m_1 y_1 + m_2 y_2 + \dots}{m_1 + m_2 + \dots}$$
(一様な棒状の物体では、質量の代わりに長さを用いることができる)
計算過程
重心のx座標 \(x_G\) の計算
式①に、整理した値を代入します。
$$
\begin{aligned}
x_G &= \frac{l_1 x_1 + l_2 x_2}{l_1 + l_2} \\[2.0ex]&= \frac{60 \times 30 + 40 \times 0}{60 + 40} \\[2.0ex]&= \frac{1800 + 0}{100} \\[2.0ex]&= 18 \, \text{cm}
\end{aligned}
$$
重心のy座標 \(y_G\) の計算
式②に、整理した値を代入します。
$$
\begin{aligned}
y_G &= \frac{l_1 y_1 + l_2 y_2}{l_1 + l_2} \\[2.0ex]&= \frac{60 \times 0 + 40 \times 20}{60 + 40} \\[2.0ex]&= \frac{0 + 800}{100} \\[2.0ex]&= 8 \, \text{cm}
\end{aligned}
$$
したがって、重心の位置は座標 \((18, 8)\) となります。
計算方法の平易な説明
- まず、L字の角を原点(0,0)に置きます。長い方の辺(60cm)をx軸、短い方の辺(40cm)をy軸とします。
- 長い辺の重心は、その真ん中の(30, 0)です。短い辺の重心は、その真ん中の(0, 20)です。
- 全体の重心は、これらの重心の「重みつき平均」になります。「重み」には、質量の代わりに長さを使えます。
- x座標の計算:
各辺の「長さ × 重心のx座標」を足し合わせ、それを全体の長さ(100cm)で割ります。
$$
\begin{aligned}
x_G &= \frac{60 \times 30 + 40 \times 0}{100} \\[2.0ex]&= \frac{1800}{100} \\[2.0ex]&= 18 \, \text{cm}
\end{aligned}
$$ - y座標の計算:
各辺の「長さ × 重心のy座標」を足し合わせ、それを全体の長さ(100cm)で割ります。
$$
\begin{aligned}
y_G &= \frac{60 \times 0 + 40 \times 20}{100} \\[2.0ex]&= \frac{800}{100} \\[2.0ex]&= 8 \, \text{cm}
\end{aligned}
$$
結論と吟味
計算結果から、重心の位置は \((x_G, y_G) = (18 \, \text{cm}, 8 \, \text{cm})\) です。
これは、「辺CB(x軸)からの距離が 8 cm」「辺AC(y軸)からの距離が 18 cm」であることを意味します。
長い辺(60cm)の方が短い辺(40cm)より重いので、重心は長い辺側に引き寄せられるはずです。計算結果を見ると、重心はy座標が8cm、x座標が18cmの位置にあり、確かに長い辺(CB)に近い位置にあることがわかります。これは物理的に妥当な結果です。
辺ACからの距離が18cm, 辺CBからの距離が8cmの位置
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問題全体を通して理解しておくべき重要な物理概念や法則
- 重心: 物体の質量の中心であり、その物体にはたらく重力の合力の作用点。
- 合成重心: 複数の部分からなる物体全体の重心は、各部分の重心位置を、その質量で重みづけして平均(加重平均)することで求められる。
- 質量と幾何学的量の比例関係: 物体が「一様」である場合、質量は長さ(1次元)、面積(2次元)、体積(3次元)に比例する。この性質を利用すると、重心計算の際に質量の代わりに長さや面積の比を用いることができ、計算が簡略化される。
類似の問題を解く上でのヒントや注意点
- 座標系の設定が最重要: 重心計算の問題では、計算が最も簡単になるように座標系を自分で設定することが成功の鍵です。物体の角や端、対称軸などを原点や座標軸に合わせるのが定石です。
- 物体を単純な形に分割する: どんな複雑な形でも、複数の長方形、三角形、円などの「重心が分かりやすい形」に分割して考えるのが基本です。
- 各部分の重心を正確に求める: 分割した各部分の重心が、設定した座標系でどの座標になるかを正確に把握することが重要です。特に、原点から離れた部分の重心座標の計算には注意が必要です。
よくある誤解や間違いやすいポイント
- 質量の代わりに長さを使えることを見落とす: 針金の線密度(単位長さあたりの質量)をわざわざ文字で置いて計算を始めてしまい、式が複雑になることがあります。一様な物体であれば、質量の比は長さ(や面積)の比に等しいので、最初から長さ(や面積)を重みとして使う方が効率的です。
- 座標の取り違え: x座標とy座標の計算で、代入する値を間違えるケアレスミス。例えば、\(x_G\) の計算に \(y_1, y_2\) の値を使ってしまうなど。表などを作って整理すると防ぎやすくなります。
- 単純な平均と勘違いする: 全体の重心を、各部分の重心座標の単純な平均(例: \(x_G = (x_1+x_2)/2\))と考えてしまうのは間違いです。必ず質量(またはそれに比例する量)で重みづけした加重平均を計算する必要があります。
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