問題の確認
wave#10各設問の思考プロセス
この問題は、波の干渉によって生じる「干渉縞」の模様を読み解き、条件が変化した際の模様を予測する問題です。見た目は複雑ですが、基本となる「干渉の条件式」を正しく適用することができれば、論理的に答えを導くことができます。
この問題を解く上で中心となる物理法則は「波の干渉条件」です。
- 経路差: 観測点までの2つの波源A, Bからの距離の差 (\(\Delta L = |AP – BP|\))。
- 位相: 波源の振動のタイミング(同位相か逆位相か)。
これらの組み合わせで、強め合う点(腹)や弱め合う点(節)の位置が決まります。
波源が同位相の場合
- 腹線(強め合い): \(\Delta L = m\lambda \quad (m=0, 1, 2, \dots)\)
- 節線(弱め合い): \(\Delta L = (m + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda \quad (m=0, 1, 2, \dots)\)
波源が逆位相の場合(条件が逆転!)
- 腹線(強め合い): \(\Delta L = (m + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda\)
- 節線(弱め合い): \(\Delta L = m\lambda\)
また、干渉縞が波源A, Bの間に現れるためには、その線の経路差が波源間の距離よりも小さい(\(\Delta L < d\))必要があります。
この問題を解くための手順は以下の通りです。
- (1) 図の線の正体を特定する:
問題文(同位相、節線)と干渉条件式を照らし合わせ、図の線が \(m\) のどの値に対応するかを特定します。Pが乗っている線から、その経路差を求めます。 - (2) dの範囲を絞り込む:
図に「描かれている線」と「描かれていない線」に着目します。「描かれている一番外側の線が存在する条件 (\(\Delta L_{\text{外}} < d\))」と「そのさらに外側に描かれていない線が存在しない条件 (\(d \le \Delta L_{\text{次}}\))」から、\(d\) の範囲を不等式で表現します。 - (3) 条件を入れ替えて予測する:
「逆位相の節線」は「同位相の腹線」と同じ条件であることを利用します。(2)で求めた \(d\) の範囲で、「同位相の腹線の条件 (\(\Delta L = m\lambda\))」を満たす線が何本存在するかを数え上げ、対応する図を選択します。
各設問の具体的な解説と解答
(1) 図に示した節線上の点をPとすると、\(|AP-BP|\) はいくらか。
問われている内容の明確化
図に描かれている節線上の点Pにおける、波源A, Bからの経路差 \(|AP-BP|\) を求めます。
具体的な解説と立式
この状況では、波源は同位相であり、図の線は節線(弱めあう線)です。同位相の波源から出る波が弱めあう条件は、経路差 \(\Delta L = |AP-BP|\) が波長の半整数倍となることです。
$$\Delta L = (m + \frac{1}{2})\lambda \quad (m = 0, 1, 2, \dots) \quad \cdots ①$$
図には、中央線を挟んで左右に2ペアの節線が描かれています。中央から数えて、
- 1番目(内側)の節線ペア: \(m=0\) に対応し、経路差は \(\Delta L = \frac{1}{2}\lambda\)
- 2番目(外側)の節線ペア: \(m=1\) に対応し、経路差は \(\Delta L = \frac{3}{2}\lambda\)
図中の点Pは、この2番目(外側)の節線上にあります。したがって、点Pでの経路差は \(m=1\) の場合にあたります。
$$|AP-BP| = (1 + \frac{1}{2})\lambda$$
$$\Delta L = (m + \frac{1}{2})\lambda \quad (m = 0, 1, 2, \dots)$$
計算過程
立式のセクションで特定した通り、点Pは \(m=1\) の節線上にあります。したがって、経路差は、
$$|AP-BP| = (1 + \frac{1}{2})\lambda = \frac{3}{2}\lambda$$
となります。
この設問における重要なポイント
- 図に描かれた線が何番目の節線(または腹線)なのかを正しく数えること。中央から順に \(m=0, 1, 2, \dots\) と対応させる。
\(\displaystyle\frac{3}{2}\lambda\)
(2) 距離 dと波長\(\lambda\)の比はどのような範囲になるか。
問われている内容の明確化
図に示された干渉模様が生成されるために、波源間距離 \(d\) と波長 \(\lambda\) が満たすべき条件を、比 \(\displaystyle\frac{d}{\lambda}\) の範囲として求めます。
具体的な解説と立式
干渉の線(腹線や節線)が波源A, Bの間に存在するための条件は、その線の経路差 \(\Delta L\) が波源間距離 \(d\) よりも小さいことです (\(\Delta L < d\))。
図には、\(m=1\) に対応する節線(経路差 \(\frac{3}{2}\lambda\))が描かれています。これが存在するということは、
$$\frac{3}{2}\lambda < d \quad \cdots ②$$
が成り立っている必要があります。
一方、図には \(m=2\) に対応する節線(経路差 \((2+\frac{1}{2})\lambda = \frac{5}{2}\lambda\))は描かれていません。これは、この線が波源間には形成されないことを意味します。したがって、
$$d \le \frac{5}{2}\lambda \quad \cdots ③$$
が成り立っていると考えられます。式②と式③を組み合わせることで、\(d\) と \(\lambda\) が満たすべき条件の範囲が定まります。
計算過程
式②と式③をまとめると、
$$\frac{3}{2}\lambda < d \le \frac{5}{2}\lambda$$となります。この不等式の各辺を \(\lambda\) (\(\lambda>0\)) で割ると、求める比の範囲が得られます。
$$\frac{3}{2} < \frac{d}{\lambda} \le \frac{5}{2}$$
小数で表すと、
$$1.5 < \frac{d}{\lambda} \le 2.5$$
この設問における重要なポイント
- 干渉縞が波源間に存在する必要条件が \(\Delta L < d\) であることを理解しているか。
- 図に「描かれている一番外側の線が存在する条件」と「描かれていない次の線が存在しない条件」から範囲を絞り込むこと。
\(\displaystyle\frac{3}{2} < \frac{d}{\lambda} \le \frac{5}{2}\) (または \(1.5 < \displaystyle\frac{d}{\lambda} \le 2.5\) )
(3) 逆位相の場合の節線の模様
問われている内容の明確化
波源の振動を同位相から逆位相に変えた場合、節線の模様が選択肢①~⑥のどれになるかを答えます。
具体的な解説と立式
波源を逆位相にすると、強め合いと弱め合いの条件が入れ替わります。
この問題で問われている「逆位相での節線」の条件は、
$$\Delta L = m\lambda \quad (m = 0, 1, 2, \dots)$$
となります。これは、元の(同位相での)腹線の条件と全く同じです。
したがって、この設問は「(1), (2)の状況において、腹線はどのような模様を描いていたか?」という問いに読み替えることができます。
同位相での腹線が波源A, Bの間に存在するための条件は、\(\Delta L = m\lambda < d\) です。
(2)で求めた \(d\) の範囲、すなわち \(\frac{3}{2}\lambda < d \le \frac{5}{2}\lambda\) を使って、この条件を満たす整数 \(m\) がいくつあるかを調べます。
- \(m=0\) の場合: \(\Delta L = 0\)。\(d>0\) なので、この線(ABの垂直二等分線)は必ず存在します。
- \(m=1\) の場合: \(\Delta L = 1\lambda\)。この線が存在する条件は \(1\lambda < d\)。(2)の範囲は \(d > 1.5\lambda\) なので、この条件は常に満たされます。よって、\(m=1\) の腹線(左右一対の双曲線)は必ず存在します。
- \(m=2\) の場合: \(\Delta L = 2\lambda\)。この線が存在する条件は \(2\lambda < d\)。しかし、(2)の範囲は \(d\) が \(2\lambda\) より大きいことを保証していません(例えば \(d=1.8\lambda\) の場合、この線は存在しません)。
以上の考察から、(2)で定まった条件の範囲内で確実に存在すると言えるのは、\(m=0\) の腹線(中央の直線)と \(m=1\) の腹線(左右一対の双曲線)だけです。
この模様は「中央の直線1本」と「その両脇の双曲線1ペア」で構成されます。
計算過程
- 逆位相での節線の条件が、同位相での腹線の条件 (\(\Delta L = m\lambda\)) と同じであることを確認します。
- (2)で求めた \(d\) の範囲 (\(1.5 < d/\lambda \le 2.5\)) を用いて、条件 \(m\lambda < d\) (すなわち \(m < d/\lambda\)) を満たす整数 \(m\) を見つけます。
- \(m=0\): \(0 < d/\lambda\) なので、必ず存在する。→ 中央に直線が1本。
- \(m=1\): \(1 < d/\lambda\)。\(d/\lambda > 1.5\) なので、必ず存在する。→ 双曲線が1ペア。
- \(m=2\): \(2 < d/\lambda\)。これは \(d/\lambda\) の値によっては満たされない(例: \(d/\lambda = 1.8\))。したがって、存在は保証されない。
- 存在が保証される線は、\(m=0\) と \(m=1\) のみです。
- この模様(中央の直線1本+双曲線1ペア)は、選択肢④と一致します。
この設問における重要なポイント
- 逆位相の節線は、同位相の腹線と同じ条件で作られるという「条件の入れ替わり」を理解すること。
- (2)で求めた範囲を使って、その範囲内のすべてのdで成り立つ模様(確実に存在する線)を選ぶという論理的判断をすること。
④
▼別の問題もチャレンジ▼
問題全体を通して理解しておくべき重要な物理概念や法則
- 波の干渉と重ね合わせの原理: 複数の波が重なるとき、各点の変位は個々の波の変位の和になる。
- 干渉条件: 経路差と波源の位相関係で、強め合い(腹)と弱め合い(節)が決まる。同位相と逆位相で条件が逆転することを正確に覚える必要がある。
- 干渉縞の形状: 経路差が一定の点の集まりは、2つの波源を焦点とする双曲線を描く。特に、経路差が0の点は、波源間を結ぶ線分の垂直二等分線となる。
- 干渉縞の存在条件: ある特定の干渉縞(経路差 \(\Delta L\))が2つの波源の間に存在するためには、\(\Delta L < d\)(波源間距離)でなければならない。
類似の問題を解く上でのヒントや注意点
- 条件の整理: まず「同位相か逆位相か」「問われているのは腹線か節線か」を明確にマーキングすると良い。
- 図と式の対応: 干渉の条件式 \(\Delta L = m\lambda\) や \(\Delta L = (m+1/2)\lambda\) の整数 \(m\) が、実際の干渉縞の中央からの順番(0番目、1番目、…)とどう対応するかを常に意識する。
- 不等式で考える: 干渉縞の「数」や「範囲」を問う問題では、\(\Delta L < d\) という不等式を立てて、条件を満たす整数 \(m\) の個数を数えるのが定石。
よくある誤解や間違いやすいポイント
- 同位相と逆位相の条件の混同: 最も頻繁に起こるミス。どちらか一方(通常は同位相)を基準に覚え、「逆位相なら条件が逆」と整理するのが効果的。
- m=0の扱い: 強め合いの条件 \(\Delta L = m\lambda\) では \(m=0\) が中央の最も強い直線状の腹線に対応する。一方、弱め合いの条件 \(\Delta L = (m+1/2)\lambda\) では \(m=0\) が中央に最も近い双曲線状の節線に対応する。\(m\) の始まりと線の形状を混同しないように注意。
- 腹線と節線の混同: 問題がどちらの線を尋ねているのかを最後まで注意深く読む必要がある。(3)では「節線」の模様が問われている。
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