物理の演習中、問題を読んだ瞬間に手が止まる。「どこから始めればいい?」「何を書けばいい?」──その感覚を解決するために、このシートは作られた。
このページは、君が今手に持っている2枚のシートの正しい使い方を解説するページだ。手順と記入例を順番に読めば、次の演習から迷わず使えるようになる。
📋 このページで分かること
このシートの目的 ── 「暗記物理」から「考える物理」へ
多くの生徒が物理を「公式を当てはめるゲーム」だと思っている。問題を見て → 使えそうな公式を探して → 数値を代入して → 計算する。でも、これで正解できるのは「見たことのある問題」だけだ。
初見の問題で手が止まる理由は、「考えるべき順番」を知らないからだ。公式が頭に入っていても、「どの順番で何を書けばいいか」が分からないと、脳はフリーズする。これは意志が弱いのでも、頭が悪いのでもない。順番を教わっていないだけだ。
🩺 ドクター・メソッドとは
物理で詰まる生徒の思考パターンを診断し、順番を根本から直す指導法だ。
この2枚のシートは、その中核にある「考える手順」を紙に凝縮したツールだ。演習の度に使うことで、「正しい思考の順番」が自然と身につく。
研究によると、このシートが土台にしている手順を継続して使った生徒は、問題解決率が平均25%向上し、最後まで考え続ける粘り強さが30%増加したという報告がある。
シートの全体像 ── 2枚のシートの役割
手元にある2枚のシートはそれぞれ役割が違う。
💡 基本の使い方:演習のたびに診断シートを手元に置き、詰まったら確認する。ワークシートは1問ごとに書き込んでいく。
診断シートの使い方 ── 3つのブロック
① 30秒の5つの問い(最重要ブロック)
診断シートの中央・最も広いエリアが「30秒の5つの問い」だ。問題を見て手が止まったとき、計算より先にこれを書く。
🚨 手が止まったら、まずこの5つを書く(30秒)
力を矢印で描く / 回路図 / 波の形 / エネルギーの流れ…その分野の「見える化」ならなんでも
\(m\), \(v\), \(q\), \(E\), \(B\), \(T\), \(\lambda\), \(\omega\)… 記号と単位もセットで
物体 / 電荷 / 電流 / 場(電場・磁場)/ 波 / 気体 / 粒子…主役を見落とすと必ず詰む
「運動方程式を使う。なぜなら力がかかって加速しているから」──必ず”なぜなら”まで言う
「先週やった○○の問題と同じパターンっぽい」──似た例題が思い浮かべば、解法の半分は手に入る
この5つを書いてから計算を始める。5つ書く前に式を立てるのは禁止。これが最大のルールだ。
② 4タイプ診断 ── 自分のフリーズパターンを知る
診断シートの左下に「4タイプ診断」がある。詰まる原因は人によって違う。自分のパターンを知ることで、どの「問い」を重点的に使えばいいかが分かる。
「電場って、どっちが+でどっちが−の向きに動くんだっけ?」という場面でよく詰まる人。
→ 問い1を5分かけてでもやる。まず描くことを最優先に。
「概念は分かるんだけど、式を立てる段階で止まる」という人。
→ 問い2で既知量・未知量を書き出してから、式に移行する。
「あ、摩擦ありだったのか…」「初速ゼロって書いてあったのに…」という人。
→ 問い4で法則を宣言する前に、問題文の条件を再確認する。
「計算してるうちに、最終的に何を出したかったのか忘れた」という人。
→ 問い5で似た例題の「解法の流れ」を最初に確認してから始める。
複数あてはまっても構わない。まずは「いちばんよく起こるパターン」を1つ選んで、そのパターンに対応する「問い」を特に丁寧にやることから始めよう。
③ 5段階フロー ── 物理ができる人が頭の中でやっている順番
診断シートの右下に「5段階フロー」がある。「物理が得意な人が自然にやっている思考の順番」を見える化したものだ。
「計算」は④だ。①②③を飛ばして④から始めようとするのが、ほとんどの「詰まり」の原因だ。このフローは、5つの問い(問い1〜5)と完全に対応している。問い1・2=①、問い3・4=②、問い5=②の感覚で使うとよい。
ワークシートの使い方 ── STEP 1〜8
ワークシートは、問題を解くたびに書き込む作業用紙だ。コピーして1問ごとに1枚使う。診断シートの5つの問いで「何を考えるか」を確認したら、ワークシートのSTEP 1〜8に実際に書き込んでいく。
ワークシート表面 ── STEP 1〜5:立式の準備フェーズ
計算を始める前に、このSTEP 1〜5をすべて書く。STEP 5を書き終えるまで、式を立ててはいけない。これが最大のルールだ。
STEP 1 · 図を描く
問題の状況を絵や図で描く。矢印・記号・方向をすべて書き込む。
例:斜面の角度・力の向き・速さの方向を矢印で図示する
STEP 2 · 既知量・未知量を整理する
「わかっていること」と「求めること」を左右に分けて書く。
例:既知 \(m = 2.0\,\text{kg}\), \(\theta = 30^\circ\), \(\mu = 0.20\), \(L = 4.0\,\text{m}\) / 求める \(v = ?\)
STEP 3 · 主役を書き出す
この問題に登場する「物理的な主役(対象)」をすべて書く。
例:① 物体(斜面を滑り落ちる) ② 重力 ③ 動摩擦力 ── 主役を見落とすと式が立てられない
STEP 4 · 公式・法則を「言葉で」宣言する
使う法則を「○○の法則を使う。なぜなら〜だから」の形で書く。
例:「仕事とエネルギーの定理を使う。なぜなら、力学的エネルギーに摩擦力による仕事が加わるから」
STEP 5 · 似た例題を思い出す
授業や教科書で見た「似た問題」を書く。解法の流れが半分手に入る。
例:「斜面を滑り落ちる物体の問題(教科書 p.65 例題3)と同じパターン」
ワークシート裏面 ── STEP 6〜8 + 詰まりログ:計算・検証フェーズ
STEP 5まで書いてから、ここに進む。STEP 4で宣言した法則を実際の式にして、計算し、答えを疑う。
STEP 6 · 数式に変換する
STEP 4で宣言した法則を、STEP 2の記号を使って式にする。
例:仕事とエネルギーの定理を記号で展開する
STEP 7 · 計算する
途中の式をすべて残す。消さない。間違いを後で追える状態で計算する。
例:数値を代入 → 計算 → \(v = \sqrt{25.6} \approx 5.1\,\text{m}/\text{s}\)
STEP 8 · 答えを疑う
答えを出した後、3点を確認する。
詰まりログ
どのSTEPで止まったか・何が原因だったかを一言メモする。これを続けると、自分の「詰まりやすい場所」が見えてくる。
例:「止まったSTEP番号:4 何で止まった?:エネルギー保存か運動方程式か迷った → 次回はSTEP 4の時点で”なぜこの法則か”まで言語化してから進む」
記入例で理解する ── 斜面問題(\(v \approx 5.1\,\text{m}/\text{s}\))
シートのページ4〜6には記入例が載っている。ここでは、その記入例を使って実際の流れを解説する。
【問題例】
質量 \(m = 2.0\,\text{kg}\) の物体を、傾き \(\theta = 30^\circ\) の摩擦のある斜面に静かに置いたところ、物体が滑り出した。動摩擦係数 \(\mu = 0.20\)、重力加速度 \(g = 9.8\,\text{m}/\text{s}^2\) とする。距離 \(L = 4.0\,\text{m}\) 滑り落ちたとき、物体の速さ \(v\) を求めよ。
診断シートの記入例(ページ4)── 演習前の確認
30秒の5つの問いの記入例
→ 斜面 \(\theta = 30^\circ\)、物体、重力(鉛直下)、垂直抗力(斜面に垂直)、動摩擦力(斜面上向き)を矢印で描く
→ 既知:\(m = 2.0\,\text{kg}\), \(\theta = 30^\circ\), \(\mu = 0.20\), \(g = 9.8\,\text{m}/\text{s}^2\), \(L = 4.0\,\text{m}\) 求める:\(v = ?\)
→ ① 物体(位置と速さが変化) ② 重力(\(\sin 30^\circ\) 成分が物体を加速) ③ 動摩擦力(運動を妨げる向き)
→「仕事とエネルギーの定理を使う。なぜなら、力学的エネルギーの変化が摩擦力による仕事に等しいから」
→「斜面を滑り落ちる物体の問題(教科書 p.65 例題3)と同じパターン」
ワークシート表面の記入例(ページ5)── STEP 1〜5
斜面 \(\theta = 30^\circ\)、物体に重力(斜面方向成分 \(mg\sin 30^\circ\) 下向き)・垂直抗力(斜面に垂直)・動摩擦力(斜面上向き)を矢印で記入
既知:\(m = 2.0\,\text{kg}\), \(\theta = 30^\circ\), \(\mu = 0.20\), \(g = 9.8\,\text{m}/\text{s}^2\), \(L = 4.0\,\text{m}\) / 求める:\(v\)
① 物体(位置と速さが変化) ② 重力(\(mg\sin 30^\circ\) が物体を加速) ③ 動摩擦力(運動を妨げる向き)
「仕事とエネルギーの定理を使う。垂直抗力は仕事をしないので、重力の仕事 + 摩擦力の仕事 = 運動エネルギーの変化」
「斜面を滑り落ちる物体の問題(教科書 p.65 例題3)と同じパターン」
ワークシート裏面の記入例(ページ6)── STEP 6〜8
仕事とエネルギーの定理を記号で書くと:
$$\begin{aligned}
mgL\sin\theta – \mu mgL\cos\theta &= \displaystyle\frac{1}{2}mv^2
\end{aligned}$$
途中式を全部残しながら計算する:
$$\begin{aligned}
2.0 \times 9.8 \times 4.0 \times 0.5 – 0.20 \times 2.0 \times 9.8 \times 4.0 \times \displaystyle\frac{\sqrt{3}}{2} &= \displaystyle\frac{1}{2} \times 2.0 \times v^2 \\[2.0ex]
39.2 – 13.6 &= v^2 \\[2.0ex]
v^2 &= 25.6 \\[2.0ex]
v &= \sqrt{25.6} \\[2.0ex]
v &\approx 5.1\,\text{m}/\text{s}
\end{aligned}$$
STEP 8(3点確認)
毎回の演習での使い方
診断シートを手元に置く。今日は「タイプAの克服を意識する」など、1つ目標を決めてもよい。
ワークシート1枚(コピー)を取り出す。問題名・単元を書く。
診断シートの「30秒の5つの問い」を確認する。問い1から順番に書く。
ワークシート表面にSTEP 1→2→3→4→5の順で書く。すべて書いてからSTEP 6(数式)へ進む。
STEP 8の3点確認をして終わり。どこで詰まったか詰まりログに1行書く。
💡 最初はゆっくりでいい
最初にこの手順を踏むと、「時間がかかって損」と感じるかもしれない。でも5回使えば、STEP 1〜5が3分でできるようになる。10回使えば、頭の中で自動的にこの順番で考えるようになっている。
焦らなくていい。「まず図を描く」を1つ守るだけでも、今日の演習の質は変わる。ゴミみたいな図で構わない。描くことが大事だ。
© まこと先生のドクター・メソッド ── 暗記物理を診断し、思考のくせを根本から直す
PREMIUM
この問題の「なぜそう解くのか」も
全て言語化されています。
問題集の解答が省略する思考プロセスを、現役講師が1人で書き続けています。650問超の「なぜ」を、1週間無料で読めます。
