問題の確認
dynamics#20各設問の思考プロセス
この問題は、形状や密度が均一でない物体の「重さ」と「重心」という2つの未知数を、物理法則を使って特定する静力学の典型問題です。未知数が2つあるため、独立した2つの式を立てて連立方程式を解く必要があります。
この問題を解く上で中心となる物理法則は「力のモーメントのつり合い」です。
- 力のモーメント(トルク)とは、ある点のまわりに物体を回転させようとする能力のことで、「力 × 支点からの距離」で計算されます。
- 物体が回転せずに静止しているとき、任意の点のまわりで「時計回りのモーメントの和」と「反時計回りのモーメントの和」が等しくなります。
この問題では、「端Aを持ち上げる」「端Bを持ち上げる」という2つの異なる状況が与えられており、それぞれについてモーメントのつり合いを考えることで、2つの式を立てることができます。
- 状況1:端Aを持ち上げる場合
このとき、丸太はまだ床についている端Bを「支点」として回転し始めます。このB点を支点としてモーメントのつり合いの式を立てます。 - 状況2:端Bを持ち上げる場合
同様に、このときは端Aが「支点」となります。このA点を支点として、もう一つのモーメントのつり合いの式を立てます。 - 連立方程式を解く
上記で立てた2つの式を連立させて、未知数である「重さ\(W\)」と「重心の位置\(x\)」を求めます。
戦略的に支点を選ぶことで、計算を大幅に簡略化できる点がポイントです。
各設問の具体的な解説と解答
丸太の重さと重心の位置
問われている内容の明確化
丸太の重さ \(W\) と、端Aからの重心の位置 \(x\) を、与えられた \(L, F_A, F_B\) を用いて表します。
具体的な解説と立式
まず、未知数として丸太の重さを \(W\)、端Aから重心までの距離を \(x\) と置きます。重心は、丸太全体の重さ \(W\) が1点にかかっていると見なせる点です。
ケース1: 端Aを持ち上げる場合
このとき、丸太は端Bを支点として持ち上がります。したがって、B点のまわりの力のモーメントのつり合いを考えます。
- 力 \(F_A\) によるモーメント(反時計回り): \(F_A \times L\)
- 重力 \(W\) によるモーメント(時計回り): \(W \times (L-x)\)
「反時計回りのモーメント = 時計回りのモーメント」のつり合いの式は、
$$F_A L = W(L-x) \quad \cdots ①$$
となります。
ケース2: 端Bを持ち上げる場合
このとき、丸太は端Aを支点として持ち上がります。したがって、A点のまわりの力のモーメントのつり合いを考えます。
- 力 \(F_B\) によるモーメント(反時計回り): \(F_B \times L\)
- 重力 \(W\) によるモーメント(時計回り): \(W \times x\)
つり合いの式は、
$$F_B L = Wx \quad \cdots ②$$
となります。
$$\text{(時計回りのモーメントの和)} = \text{(反時計回りのモーメントの和)}$$
計算過程
式①と式②の連立方程式を解いて、未知数 \(W\) と \(x\) を求めます。
ステップ1: 重さ \(W\) を求める
まず、式①を展開します。
$$F_A L = WL – Wx$$
この式と、式② \(F_B L = Wx\) を辺々足し合わせます。
$$
\begin{aligned}
F_A L + F_B L &= (WL – Wx) + (Wx) \\[2.0ex](F_A + F_B)L &= WL
\end{aligned}
$$
両辺に \(L\) が共通しているので、\(L \neq 0\) より \(L\) で割ることができます。
$$W = F_A + F_B$$
ステップ2: 重心の位置 \(x\) を求める
次に、上で求めた \(W = F_A + F_B\) を、より簡単な式②に代入します。
$$
\begin{aligned}
F_B L &= Wx \\[2.0ex]F_B L &= (F_A + F_B)x
\end{aligned}
$$
この式を \(x\) について解きます。
$$x = \frac{F_B L}{F_A + F_B}$$
計算方法の平易な説明
- この問題は「てこの原理」と同じです。まず、丸太の重さを\(W\)、重心の位置を端Aから測って\(x\)とします。
- Aを持ち上げる時: Bが支点になります。「\(F_A \times L\) = \(W \times (L-x)\)」という式ができます。
- Bを持ち上げる時: Aが支点になります。「\(F_B \times L\) = \(W \times x\)」という式ができます。
- この2つの式を足し合わせると、重さ \(W\) が \(F_A + F_B\) であることがわかります。
- 次に、この \(W\) を使って2番目の式を解くと、重心の位置 \(x\) も計算できます。
結論と吟味
丸太の重さは \(F_A + F_B\)、重心の位置は端Aから \(\displaystyle\frac{F_B L}{F_A + F_B}\) の点です。
重さについては、直感的に両端を持ち上げる力の合計が全体の重さになるというのは納得しやすい結果です。重心の位置については、もし \(F_A = F_B\) (丸太が均一)ならば、\(x = \frac{F_A L}{F_A + F_A} = \frac{F_A L}{2F_A} = \frac{L}{2}\) となり、重心がちょうど真ん中に来ることも確認できます。もし端Bが重く(\(F_B\) が大きい)、端Aが軽い(\(F_A\) が小さい)ならば、重心の位置 \(x\) は \(L/2\) より大きい値となり、重心が重いB側に寄っていることが式の上でも示され、物理的に妥当な結果と言えます。
重さ: \(F_A + F_B\)
重心の位置: 端Aから \(\displaystyle\frac{F_B L}{F_A + F_B}\) の距離
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問題全体を通して理解しておくべき重要な物理概念や法則
- 力のモーメント(トルク): 物体を回転させる能力。力のモーメントのつり合いは、力のつり合いと並んで、静力学における最も重要な原理の一つ。
- 重心: 物体の各部分にはたらく重力の合力点。剛体の運動を考えるとき、その物体の全ての質量が重心に集まっているかのように扱うことができる。
- 静的平衡(静力学的つり合い): 物体が静止し続けるための条件。並進運動しない(力のつり合い: \(\sum \vec{F} = 0\))かつ、回転運動しない(モーメントのつり合い: \(\sum \vec{\tau} = 0\))こと。
類似の問題を解く上でのヒントや注意点
- 支点の選び方: 力のモーメントのつり合いは、どの点を支点に選んでも成り立ちます。しかし、未知の力がはたらいている点(この問題では持ち上げていない方の端)を支点に選ぶと、その力のモーメントがゼロになり、計算から消去できるため、式が非常にシンプルになります。
- うでの長さの定義: モーメントを計算する際の「うでの長さ」は、支点から力の作用線に下ろした垂線の長さです。力が斜めにはたらく場合は注意が必要ですが、この問題では力は鉛直、棒は水平なので、支点からの水平距離がそのままうでの長さになります。
- 変数を正しく設定する: 重心までの距離を \(x\) と置いたとき、反対の端からの距離が \(L-x\) となることを間違えないように、図を描いて確認することが重要です。
よくある誤解や間違いやすいポイント
- 力のつり合いだけで解こうとする: \(F_A = W\) のように、持ち上げる力がそのまま重さと等しいと考えてしまうのは間違いです。実際には、支点からも上向きの力(垂直抗力)がはたらいており、力のつり合いは \(F_A + (\text{支点の抗力}) = W\) となります。未知の抗力が入ってくるため、力のつり合いだけでは解けません。
- 重心の位置を常に中心と仮定する: 問題文に「均一な」という記述がない限り、物体の重心が幾何学的な中心にあるとは限りません。この問題のように、両端を持ち上げる力が違う場合は、明らかに重心が偏っています。
- モーメントの計算ミス: 「力 × 距離」の組み合わせを間違えたり、時計回りと反時計回りの判断を誤ったりするミスに注意しましょう。
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