「センサー総合物理 3rd Edition」徹底解説!【Chapter 8】Step1 & 例題

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Step1

① 運動量

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「運動量の定義と計算」です。運動量という物理量の基本的な概念と、その計算方法を問う問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 運動量の定義: 物体の質量 \(m\) と速度 \(\vec{v}\) の積で表されるベクトル量 (\(\vec{p} = m\vec{v}\))。
  2. 運動量の大きさ: 運動量の大きさは、質量と速さの積で計算される (\(p = mv\))。
  3. 単位の確認: 質量は \(\text{kg}\)、速さは \(\text{m/s}\) を用いるため、運動量の単位は \(\text{kg}\cdot\text{m/s}\) となる。
  4. 有効数字: 計算結果は、与えられた数値の有効数字の桁数に合わせる。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 運動量の定義式 \(p = mv\) を確認する。
  2. 問題文で与えられたボールの質量 \(m\) と速さ \(v\) の値を代入する。
  3. 計算を実行し、有効数字を考慮して解答を求める。

思考の道筋とポイント
運動量とは、物体の「運動の勢い」を表す物理量です。同じ速さでも、質量が大きい物体ほど止めるのが難しいことから、質量と速さの両方に比例する量として定義されています。この問題では、運動量の定義式 \(\vec{p} = m\vec{v}\) に従って、与えられた数値を代入するだけで計算できます。運動量はベクトル量ですが、ここではその「大きさ」を問われているため、向きを考える必要はありません。

この設問における重要なポイント

  • 運動量の公式: 運動量の大きさ \(p\) は、質量 \(m\) と速さ \(v\) の積で求められます。
    $$ p = mv $$
  • 単位: 物理量の計算では単位を正しく扱うことが重要です。この問題では、質量が \(\text{kg}\)、速さが \(\text{m/s}\) で与えられているため、そのまま計算すれば運動量の単位は \(\text{kg}\cdot\text{m/s}\) となります。
  • 有効数字: 質量 \(0.10\,\text{kg}\) は有効数字2桁、速さ \(20\,\text{m/s}\) も有効数字2桁です。したがって、計算結果も有効数字2桁で表す必要があります。

具体的な解説と立式
ボールの質量を \(m\)、速さを \(v\) とします。

問題文より、
$$ m = 0.10 \, \text{[kg]} $$
$$ v = 20 \, \text{[m/s]} $$
です。

ボールの運動量の大きさ \(p\) は、定義により次の式で与えられます。
$$ p = mv $$

使用した物理公式

  • 運動量の大きさ: \(p = mv\)
計算過程

「具体的な解説と立式」で立てた式に、与えられた数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
p &= 0.10 \times 20 \\[2.0ex]&= 2.0
\end{aligned}
$$
質量 \(0.10\,\text{kg}\)(有効数字2桁)と速さ \(20\,\text{m/s}\)(有効数字2桁)の積なので、計算結果も有効数字2桁で \(2.0\) とします。単位は \(\text{kg}\cdot\text{m/s}\) です。

計算方法の平易な説明

「運動量」は、その物体の「運動の勢い」を示す量で、「質量(重さ)」と「速さ」を単純に掛け算することで求められます。

例えば、軽いボールでものすごく速く投げれば止めるのは大変ですし、重い鉄球がゆっくり転がってきても止めるのは大変です。この「止めにくさ」の指標が運動量だとイメージすると分かりやすいです。

この問題では、質量 \(0.10\,\text{kg}\) と速さ \(20\,\text{m/s}\) が与えられているので、この2つを掛け算するだけです。

\(0.10 \times 20 = 2.0\)

したがって、運動量の大きさは \(2.0\,\text{kg}\cdot\text{m/s}\) となります。

解答 \(2.0\,\text{kg}\cdot\text{m/s}\)

② 力積

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「力積の定義と計算」です。力積という物理量の基本的な概念と、その計算方法を問う、運動量の学習における導入的な問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 力積の定義: 物体に加えられた力 \(\vec{F}\) と、その力が作用した時間 \(\Delta t\) の積で表されるベクトル量 (\(\vec{I} = \vec{F}\Delta t\))。
  2. 力積の大きさ: 力積の大きさは、力の大きさと時間の積で計算される (\(I = F\Delta t\))。
  3. 単位の確認: 力は \(\text{N}\)、時間は \(\text{s}\) を用いるため、力積の単位は \(\text{N}\cdot\text{s}\) となる。
  4. 有効数字: 計算結果は、与えられた数値の有効数字の桁数に合わせる。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 力積の定義式 \(I = F\Delta t\) を確認する。
  2. 問題文で与えられた力の大きさ \(F\) と時間 \(\Delta t\) の値を代入する。
  3. 計算を実行し、有効数字を考慮して解答を求める。

思考の道筋とポイント
力積とは、物体に力が加わったときの「衝撃の大きさ」を表す物理量です。力が大きいほど、また力が加わる時間が長いほど、力積は大きくなります。この問題は、力積の定義式 \(I = F\Delta t\) に与えられた数値を代入するだけで計算できる、非常に基本的な問題です。力積も運動量と同様にベクトル量ですが、ここではその「大きさ」を問われているため、向きを考える必要はありません。

この設問における重要なポイント

  • 力積の公式: 力積の大きさ \(I\) は、物体に加えた力の大きさ \(F\) と、力が作用した時間 \(\Delta t\) の積で求められます。
    $$ I = F \Delta t $$
  • 単位: 力の単位 \(\text{N}\) と時間の単位 \(\text{s}\) から、力積の単位は \(\text{N}\cdot\text{s}\) となります。
  • 有効数字: 力 \(5.0\,\text{N}\)(有効数字2桁)、時間 \(0.40\,\text{s}\)(有効数字2桁)なので、計算結果も有効数字2桁で答える必要があります。
  • 運動量との関係: 力積は、物体の運動量の変化量に等しいという非常に重要な関係 (\(\vec{I} = \Delta \vec{p}\)) があります。この問題では使いませんが、力積を学ぶ上で必ず押さえておくべき最重要ポイントです。

具体的な解説と立式
ボールに加えた力の大きさを \(F\)、力を加えた時間を \(\Delta t\) とします。

問題文より、
$$ F = 5.0 \, \text{[N]} $$
$$ \Delta t = 0.40 \, \text{[s]} $$
です。

ボールが受けた力積の大きさを \(I\) とすると、定義により次の式で与えられます。
$$ I = F \Delta t $$

使用した物理公式

  • 力積の大きさ: \(I = F \Delta t\)
計算過程

「具体的な解説と立式」で立てた式に、与えられた数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
I &= 5.0 \times 0.40 \\[2.0ex]&= 2.0
\end{aligned}
$$
力 \(5.0\,\text{N}\)(有効数字2桁)と時間 \(0.40\,\text{s}\)(有効数字2桁)の積なので、計算結果も有効数字2桁で \(2.0\) とします。単位は \(\text{N}\cdot\text{s}\) です。

計算方法の平易な説明

「力積」とは、物体に与えた「衝撃の大きさ」を示す量で、「どれくらいの強さの力」を「どれくらいの時間」加えたかの掛け算で求められます。

例えば、バットでボールを打つとき、ただ強く打つ(力を大きくする)だけでなく、ボールとバットが接触している時間を長くする(時間を長くする)ように振ると、ボールはより遠くに飛んでいきます。この「力の強さ × 時間」が力積のイメージです。

この問題では、力 \(5.0\,\text{N}\) と時間 \(0.40\,\text{s}\) が与えられているので、この2つを掛け算するだけです。

\(5.0 \times 0.40 = 2.0\)

したがって、力積の大きさは \(2.0\,\text{N}\cdot\text{s}\) となります。

解答 \(2.0\,\text{N}\cdot\text{s}\)

③ 運動量の変化と力積

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「運動量の変化と力積の関係」です。物体に加えられた力積が、その物体の運動量をどれだけ変化させるかを理解し、計算することが目的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 運動量と力積の関係: 「物体が受けた力積」は「物体の運動量の変化」に等しい。(\(\vec{I} = \Delta \vec{p}\))
  2. 力積の計算: 力積 \(I\) は、力の大きさ \(F\) と作用時間 \(\Delta t\) の積で求められる。(\(I = F\Delta t\))
  3. 運動量の計算: 運動量 \(p\) は、質量 \(m\) と速さ \(v\) の積で求められる。(\(p = mv\))
  4. 運動量の変化: 運動量の変化 \(\Delta p\) は、「後の運動量」から「前の運動量」を引いて求められる。(\(\Delta p = p_{\text{後}} – p_{\text{前}}\))

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、ボールが受けた力積の大きさを \(I = F\Delta t\) で計算する。
  2. 「力積 = 運動量の変化」の関係式を立てる。ボールは最初静止しているので、初めの運動量は0である。
  3. 上記の関係から、力を加えた後のボールの運動量を求める。これが1つ目の答えとなる。
  4. 求めた運動量を \(p=mv\) の関係式に当てはめ、ボールの速さ \(v\) を計算する。これが2つ目の答えとなる。

思考の道筋とポイント
この問題の核心は、「力積は運動量の変化に等しい」という物理学の重要な原理を適用することです。物体に力が加わると、その力積の分だけ運動量が変化します。
まず、ボールが受けた力積を計算します。次に、この力積が運動量の変化量と等しいことを利用します。ボールは最初「静止していた」ので、初めの運動量は0です。したがって、計算した力積が、そのまま「力を加えた後の運動量」そのものになります。
運動量が分かれば、それは「質量 × 速さ」なので、ボールの質量で割ることで、力を加えた後の速さを求めることができます。

この設問における重要なポイント

  • 運動量と力積の関係式: \(m\vec{v}_{\text{後}} – m\vec{v}_{\text{前}} = \vec{F}\Delta t\) (後の運動量 – 前の運動量 = 力積)という関係式を正しく理解し、使うことが全てです。
  • 初状態の運動量: 問題文の「静止していた」というキーワードを見逃さないことが重要です。これにより、初めの速度 \(v_{\text{前}} = 0\) であり、したがって初めの運動量も \(0\) であることがわかります。
  • 2段階の計算: この問題は2つの問いから成り立っています。まず「後の運動量」を求め、次にその結果を使って「後の速さ」を求めるという、2段階のプロセスを明確に意識して解き進めます。

具体的な解説と立式
ボールの質量を \(m\)、初めの速度を \(v_{\text{前}}\)、力を加えた後の速度を \(v_{\text{後}}\) とします。

加えられた力の大きさを \(F\)、力が作用した時間を \(\Delta t\) とします。

問題文から、以下の値が与えられています。

  • \(m = 0.10\,\text{kg}\)
  • \(v_{\text{前}} = 0\,\text{m/s}\) (静止していたため)
  • \(F = 20\,\text{N}\)
  • \(\Delta t = 0.20\,\text{s}\)

運動量と力積の関係式は、
$$ m v_{\text{後}} – m v_{\text{前}} = F \Delta t $$
です。

この式を使って、まず後の運動量 \(p_{\text{後}} = m v_{\text{後}}\) を求めます。

次に、求めた後の運動量 \(p_{\text{後}}\) を使って、後の速さ \(v_{\text{後}}\) を求めます。
$$ v_{\text{後}} = \frac{p_{\text{後}}}{m} $$

使用した物理公式

  • 運動量と力積の関係: \(m v_{\text{後}} – m v_{\text{前}} = F \Delta t\)
  • 運動量の定義: \(p = mv\)
  • 力積の定義: \(I = F \Delta t\)
計算過程

1. 後の運動量の計算

運動量と力積の関係式に値を代入します。
$$
\begin{aligned}
m v_{\text{後}} – m \times 0 &= 20 \times 0.20 \\[2.0ex]m v_{\text{後}} &= 4.0
\end{aligned}
$$
したがって、ボールの運動量の大きさは \(4.0\,\text{kg}\cdot\text{m/s}\) となります。

2. 後の速さの計算

上で求めた運動量の大きさ \(m v_{\text{後}} = 4.0\) と、質量 \(m = 0.10\,\text{kg}\) を用いて、後の速さ \(v_{\text{後}}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
0.10 \times v_{\text{後}} &= 4.0 \\[2.0ex]v_{\text{後}} &= \frac{4.0}{0.10} \\[2.0ex]&= 40 \, \text{[m/s]}
\end{aligned}
$$
したがって、ボールの速さは \(40\,\text{m/s}\) となります。

計算方法の平易な説明

ステップ1: 衝撃の大きさ(力積)を計算する

まず、ボールが受けた「衝撃の大きさ(力積)」を計算します。これは「力 × 時間」で求められるので、

衝撃の大きさ = \(20\,\text{N} \times 0.20\,\text{s} = 4.0\,\text{N}\cdot\text{s}\)

となります。

ステップ2: 運動量を計算する

物理学の法則に「力積 = 運動量の変化」というものがあります。

ボールは最初止まっていたので、運動量は \(0\) でした。そこに \(4.0\) の衝撃(力積)が加わったので、運動量は \(0\) から \(4.0\) だけ増えます。

したがって、力を加えた後の運動量は \(4.0\,\text{kg}\cdot\text{m/s}\) です。これが1つ目の答えです。

ステップ3: 速さを計算する

運動量は「質量 × 速さ」で計算できます。

今、運動量が \(4.0\) で、ボールの質量が \(0.10\,\text{kg}\) なので、速さは割り算で求められます。

速さ = \(4.0 \div 0.10 = 40\,\text{m/s}\)

これが2つ目の答えです。

解答 運動量の大きさ:\(4.0\,\text{kg}\cdot\text{m/s}\)、速さ:\(40\,\text{m/s}\)

④ 運動量の変化と力積

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「運動量の変化と力積の関係」です。物体の運動量の変化を計算し、それを用いて物体に加えられた力の大きさを求める、一連のプロセスを理解する問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 運動量の変化の定義: 運動量の変化 \(\Delta \vec{p}\) は、「後の運動量」から「前の運動量」を引くことで求められる。(\(\Delta \vec{p} = \vec{p}_{\text{後}} – \vec{p}_{\text{前}}\))
  2. 運動量の定義: 運動量 \(\vec{p}\) は、質量 \(m\) と速度 \(\vec{v}\) の積である。(\(\vec{p} = m\vec{v}\))
  3. 運動量と力積の関係: 物体の運動量の変化は、その物体が受けた力積 \(\vec{I}\) に等しい。(\(\Delta \vec{p} = \vec{I}\))
  4. 力積の定義: 力積 \(\vec{I}\) は、力 \(\vec{F}\) とその作用時間 \(\Delta t\) の積である。(\(\vec{I} = \vec{F}\Delta t\))

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、問題で与えられた質量、力の前後の速さを用いて、台車の運動量の変化を計算する。
  2. 次に、「運動量の変化は力積に等しい」という関係式 (\(\Delta p = F\Delta t\)) を用いる。
  3. 計算した運動量の変化と、与えられた作用時間をこの式に代入し、力の大きさを逆算する。

思考の道筋とポイント
この問題は2つの問いで構成されています。まず「運動量の変化」を求め、次にその結果を利用して「加えた力の大きさ」を求めます。
最初の問いである「運動量の変化」は、その定義通り「後の運動量」から「前の運動量」を引くことで計算できます。運動量は「質量 × 速さ」で求められるので、前後の速さと質量が分かっていれば簡単に計算できます。
次の問いである「力の大きさ」は、「運動量と力積の関係」を使います。先ほど計算した「運動量の変化」が、台車に加えられた「力積(力 × 時間)」と等しくなる、という法則を利用して、力の大きさを求めます。

この設問における重要なポイント

  • 運動量と力積の関係式: この問題の中心となる関係式は \(m v_{\text{後}} – m v_{\text{前}} = F \Delta t\) です。左辺が「運動量の変化」、右辺が「力積」を表しています。
  • 運動の向き: 問題文に「速度と同じ向きに」力が加えられたとあるため、速度と力の向きはすべて同じです。したがって、ベクトルを意識せず、大きさだけのスカラー計算として扱うことができます。
  • 計算の順序: 問題の問いの順番通りに、「運動量の変化」を先に計算し、その結果を次の「力の大きさ」の計算に利用するという流れを意識することが重要です。

具体的な解説と立式
台車の質量を \(m\)、力を加える前の速さを \(v_{\text{前}}\)、後の速さを \(v_{\text{後}}\) とします。

加えられた力の大きさを \(F\)、力が作用した時間を \(\Delta t\) とします。

問題文から、以下の値が与えられています。

  • \(m = 2.0\,\text{kg}\)
  • \(v_{\text{前}} = 3.0\,\text{m/s}\)
  • \(v_{\text{後}} = 4.0\,\text{m/s}\)
  • \(\Delta t = 0.40\,\text{s}\)

1. 運動量の変化 \(\Delta p\) の立式

運動量の変化 \(\Delta p\) は、後の運動量 \(p_{\text{後}} = m v_{\text{後}}\) から、前の運動量 \(p_{\text{前}} = m v_{\text{前}}\) を引くことで求められます。
$$ \Delta p = m v_{\text{後}} – m v_{\text{前}} $$

2. 力の大きさ \(F\) の立式

運動量と力積の関係式より、運動量の変化 \(\Delta p\) は力積 \(F \Delta t\) に等しくなります。
$$ \Delta p = F \Delta t $$
この式を \(F\) について解くと、
$$ F = \frac{\Delta p}{\Delta t} $$
となります。

使用した物理公式

  • 運動量の変化: \(\Delta p = m v_{\text{後}} – m v_{\text{前}}\)
  • 運動量と力積の関係: \(\Delta p = F \Delta t\)
計算過程

1. 運動量の変化 \(\Delta p\) の計算
$$
\begin{aligned}
\Delta p &= m v_{\text{後}} – m v_{\text{前}} \\[2.0ex]&= 2.0 \times 4.0 – 2.0 \times 3.0 \\[2.0ex]&= 8.0 – 6.0 \\[2.0ex]&= 2.0 \, \text{[kg}\cdot\text{m/s]}
\end{aligned}
$$
したがって、台車の運動量の変化は \(2.0\,\text{kg}\cdot\text{m/s}\) です。

2. 力の大きさ \(F\) の計算

運動量と力積の関係式 \(\Delta p = F \Delta t\) に、上で求めた \(\Delta p = 2.0\) と、与えられた \(\Delta t = 0.40\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
2.0 &= F \times 0.40 \\[2.0ex]F &= \frac{2.0}{0.40} \\[2.0ex]&= 5.0 \, \text{[N]}
\end{aligned}
$$
したがって、台車に加えた力の大きさは \(5.0\,\text{N}\) です。

計算方法の平易な説明

この問題は2つのステップで考えます。

ステップ1: 「運動の勢い」がどれだけ増えたか計算する

まず、台車の「運動の勢い(運動量)」がどれだけ増えたかを計算します。

  • 力を加える前の勢い: \(2.0\,\text{kg} \times 3.0\,\text{m/s} = 6.0\)
  • 力を加えた後の勢い: \(2.0\,\text{kg} \times 4.0\,\text{m/s} = 8.0\)

したがって、増えた勢いの量(運動量の変化)は、\(8.0 – 6.0 = 2.0\,\text{kg}\cdot\text{m/s}\) です。これが1つ目の答えです。

ステップ2: 勢いを増やすために加えた「力」を計算する

次に、この「勢いの変化」を引き起こした力の大きさを求めます。

物理の法則に「運動量の変化 = 力 × 時間」というものがあります。

ステップ1で計算した運動量の変化 \(2.0\) と、力が加わった時間 \(0.40\,\text{s}\) をこの式に入れると、

\(2.0 = \text{力} \times 0.40\)

となります。これを解くと、力 = \(2.0 \div 0.40 = 5.0\,\text{N}\) となります。これが2つ目の答えです。

解答 運動量の変化:\(2.0\,\text{kg}\cdot\text{m/s}\)、力の大きさ:\(5.0\,\text{N}\)

⑤ 運動量保存の法則

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「運動量保存の法則」です。特に、2つの物体が衝突して一体となる「完全非弾性衝突」の状況を扱います。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 運動量保存の法則: 複数の物体が衝突や分裂をするとき、それらの物体に外力が働かない(または無視できる)場合、系の運動量の総和は衝突(分裂)の前後で一定に保たれる。
  2. 運動量の定義: 運動量 \(p\) は、質量 \(m\) と速度 \(v\) の積で計算される (\(p = mv\))。
  3. 完全非弾性衝突(合体): 衝突した物体が一体となって運動する衝突のこと。衝突後の質量は物体の質量の和になり、速度は共通になる。
  4. 系の設定: 衝突に関わる物体(この場合は台車AとB)全体を一つの「系」として捉える。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、衝突前の各物体の運動量を計算し、その和を求める。これが1つ目の問いの答えとなる。
  2. 次に、運動量保存の法則を立式する。「衝突前の運動量の和」=「衝突後の運動量の和」。
  3. 衝突後の物体は一体化(合体)していることに注意して、衝突後の運動量を「合体後の質量 × 合体後の速さ」として表す。
  4. 立てた式を解いて、衝突後の速さを求める。これが2つ目の問いの答えとなる。

思考の道筋とポイント
衝突や分裂の問題に遭遇したら、まず「運動量保存の法則」が適用できるかを考えます。この問題では、台車AとBが衝突する際に互いに及ぼしあう力(内力)は働きますが、系全体として外部から水平方向の力は働かない(無視できる)ため、運動量保存の法則が成り立ちます。
問題文の「一体となって進んだ」という記述は、この衝突が「完全非弾性衝突」であることを示しています。この場合、衝突後の2つの台車は同じ速度で動くため、1つの物体として扱うことができます。
運動量保存の法則を適用するには、「衝突前」と「衝突後」の2つの状態について、それぞれ運動量の総和を計算し、それらが等しいとおくことで方程式を立てます。

この設問における重要なポイント

  • 運動量保存の法則の式: 2つの物体(質量 \(m_A, m_B\)、衝突前の速度 \(v_A, v_B\)、衝突後の速度 \(v_A’, v_B’\))について、一般的に \(m_A v_A + m_B v_B = m_A v_A’ + m_B v_B’\) が成り立ちます。
  • 合体する場合の式: 衝突後に一体となって共通の速度 \(V\) で動く場合、運動量保存の法則は次のように簡略化できます。
    $$ m_A v_A + m_B v_B = (m_A + m_B)V $$
  • 静止している物体の運動量: 「静止していた」台車Bの衝突前の速度は \(0\) なので、その運動量も \(0\) となります。計算から除外するのではなく、\(0\) として式に含めることで、計算ミスを防ぎやすくなります。

具体的な解説と立式
台車Aの質量を \(m_A\)、台車Bの質量を \(m_B\) とします。

衝突前の台車Aの速さを \(v_A\)、台車Bの速さを \(v_B\) とします。

衝突後に一体となった台車の速さを \(V\) とします。

問題文から、以下の値が与えられています。

  • \(m_A = 3.0\,\text{kg}\)
  • \(m_B = 2.0\,\text{kg}\)
  • \(v_A = 4.0\,\text{m/s}\)
  • \(v_B = 0\,\text{m/s}\) (静止していたため)

1. 衝突前の運動量の和 \(P_{\text{前}}\) の立式

衝突前の系全体の運動量の和 \(P_{\text{前}}\) は、各台車の運動量の和で表されます。
$$ P_{\text{前}} = m_A v_A + m_B v_B $$

2. 衝突後の速さ \(V\) の立式

運動量保存の法則より、「衝突前の運動量の和」と「衝突後の運動量の和」は等しくなります。

衝突後の台車は一体となっているため、質量は \(m_A + m_B\)、速さは \(V\) となります。

したがって、衝突後の運動量の和 \(P_{\text{後}}\) は、
$$ P_{\text{後}} = (m_A + m_B)V $$
運動量保存の法則 \(P_{\text{前}} = P_{\text{後}}\) より、
$$ m_A v_A + m_B v_B = (m_A + m_B)V $$

使用した物理公式

  • 運動量の定義: \(p = mv\)
  • 運動量保存の法則(合体する場合): \(m_A v_A + m_B v_B = (m_A + m_B)V\)
計算過程

1. 衝突前の運動量の和 \(P_{\text{前}}\) の計算
$$
\begin{aligned}
P_{\text{前}} &= m_A v_A + m_B v_B \\[2.0ex]&= 3.0 \times 4.0 + 2.0 \times 0 \\[2.0ex]&= 12 + 0 \\[2.0ex]&= 12 \, \text{[kg}\cdot\text{m/s]}
\end{aligned}
$$
したがって、衝突前のAとBの運動量の和の大きさは \(12\,\text{kg}\cdot\text{m/s}\) です。

2. 衝突後の速さ \(V\) の計算

運動量保存の法則の式に、上で求めた \(P_{\text{前}} = 12\) と、与えられた質量を代入します。
$$
\begin{aligned}
12 &= (3.0 + 2.0) \times V \\[2.0ex]12 &= 5.0 \times V \\[2.0ex]V &= \frac{12}{5.0} \\[2.0ex]&= 2.4 \, \text{[m/s]}
\end{aligned}
$$
したがって、衝突後一体となった台車の速さは \(2.4\,\text{m/s}\) です。

計算方法の平易な説明

1つ目の問い:衝突前の「運動の勢い」の合計は?

  • 台車Aの勢い: \((\text{質量}) 3.0\,\text{kg} \times (\text{速さ}) 4.0\,\text{m/s} = 12\)
  • 台車Bの勢い: 止まっているので \(0\)
  • 2つの勢いの合計は、\(12 + 0 = 12\,\text{kg}\cdot\text{m/s}\) です。

2つ目の問い:衝突後の速さは?

物理には「運動量保存の法則」という大事なルールがあり、「衝突前の勢いの合計」と「衝突後の勢いの合計」は必ず同じになります。

  • 衝突前の勢いの合計は、上で計算した通り \(12\) です。
  • 衝突後は、2つの台車がガッチャンコと合体したので、1つの大きな台車になったと考えます。その質量は \(3.0\,\text{kg} + 2.0\,\text{kg} = 5.0\,\text{kg}\) です。
  • 衝突後の勢いの合計は、\((\text{合体後の質量}) 5.0\,\text{kg} \times (\text{合体後の速さ}) V\) となります。
  • 「衝突前の勢いの合計」=「衝突後の勢いの合計」なので、\(12 = 5.0 \times V\)という式が成り立ちます。
  • これを解くと、\(V = 12 \div 5.0 = 2.4\,\text{m/s}\) となります。
解答 運動量の和の大きさ:\(12\,\text{kg}\cdot\text{m/s}\)、一体となった台車の速さ:\(2.4\,\text{m/s}\)

⑥ 一直線上での衝突

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「一直線上での2物体の衝突と運動量保存の法則」です。衝突前後の速度の関係を、運動量保存の法則を用いて解き明かす典型的な問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 運動量保存の法則: 2物体が衝突する際、外力が働かなければ、衝突前後の系の運動量の総和は等しい。
  2. 運動量の定義: 運動量は「質量 × 速度」で計算されるベクトル量である。
  3. 1次元運動の扱い: 一直線上の運動では、向きを正負の符号で表すことで、ベクトル計算をスカラーの代数計算として扱うことができる。
  4. 未知数の設定: 求める物理量(この場合は衝突後の物体Bの速度)を未知数として式を立てる。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 衝突に関わる2物体(AとB)を一つの系として考える。
  2. x軸の正の向きを速度の正の向きと定める。
  3. 運動量保存の法則「(衝突前の運動量の和) = (衝突後の運動量の和)」を立式する。
  4. 与えられた質量と速度の値を式に代入し、未知数である衝突後のBの速度を求める。
  5. 計算結果の符号から、Bの運動の向きを判断する。

思考の道筋とポイント
2つの物体が衝突する問題では、まず「運動量保存の法則」が使えるかどうかを検討します。この問題では、物体AとBが互いに力を及ぼし合いますが、AとBを合わせた系全体には水平方向の外力が働かないため、運動量保存の法則が適用できます。
法則の式を立て、「衝突前の運動量の総和」と「衝突後の運動量の総和」をそれぞれ計算し、それらを等しいとおくことで方程式を作ります。この問題の特筆すべき点は「質量が等しい」という条件です。これにより、運動量保存の法則の式が大幅に簡略化され、計算が容易になります。

この設問における重要なポイント

  • 運動量保存の法則の一般式: 2物体A, Bの衝突において、次の式が基本となります。
    $$ m_A v_A + m_B v_B = m_A v_A’ + m_B v_B’ $$
    ここで、\(v\) は衝突前の速度、\(v’\) は衝突後の速度を表します。
  • 質量の簡略化: この問題では \(m_A = m_B = m\) と質量が等しいため、運動量保存の法則の式の両辺を \(m\) で割ることができます。
    $$ v_A + v_B = v_A’ + v_B’ $$
    これは、質量が等しい2物体の衝突では「速度の和」が保存されることを意味しており、計算を非常に簡単にします。
  • 向きと符号: x軸の正の向きを正と決め、すべての速度を符号付きの数値として扱います。計算結果の符号が正であればx軸の正の向き、負であれば負の向きを意味します。

具体的な解説と立式
物体A, Bの質量をともに \(m\) とします。

衝突前のA, Bの速度をそれぞれ \(v_A\), \(v_B\)、衝突後の速度をそれぞれ \(v_A’\), \(v_B’\) とします。

x軸の正の向きを速度の正の向きとすると、問題文から以下の値が与えられています。

  • \(v_A = +4.0\,\text{m/s}\)
  • \(v_B = +2.0\,\text{m/s}\)
  • \(v_A’ = +2.5\,\text{m/s}\)
  • \(v_B’\) が求める未知数です。

運動量保存の法則より、
$$ m_A v_A + m_B v_B = m_A v_A’ + m_B v_B’ $$
が成り立ちます。

ここで、\(m_A = m_B = m\) なので、
$$ m v_A + m v_B = m v_A’ + m v_B’ $$
と立式できます。

使用した物理公式

  • 運動量保存の法則: \(m_A v_A + m_B v_B = m_A v_A’ + m_B v_B’\)
  • 運動量の定義: \(p = mv\)
計算過程

運動量保存の法則の式に、与えられた値を代入します。
$$
\begin{aligned}
m \times 4.0 + m \times 2.0 &= m \times 2.5 + m \times v_B’
\end{aligned}
$$
この式の両辺は共通の質量 \(m\) で割ることができます。
$$
\begin{aligned}
4.0 + 2.0 &= 2.5 + v_B’ \\[2.0ex]6.0 &= 2.5 + v_B’ \\[2.0ex]v_B’ &= 6.0 – 2.5 \\[2.0ex]v_B’ &= 3.5 \, \text{[m/s]}
\end{aligned}
$$
計算結果の符号が正なので、物体Bは衝突後にx軸の正の向きに速さ \(3.5\,\text{m/s}\) で進んだことがわかります。

計算方法の平易な説明

この問題は「運動の勢い(運動量)の合計は、ぶつかる前後で変わらない」というルールを使って解きます。

さらに、この問題には特別な条件「2つの物体の質量が同じ」があります。この場合、計算はもっと簡単になり、「2つの物体の速さの合計が、ぶつかる前後で変わらない」と考えることができます。

  • ぶつかる前の速さの合計:Aの速さ \(4.0\,\text{m/s}\) + Bの速さ \(2.0\,\text{m/s}\) = \(6.0\,\text{m/s}\)
  • ぶつかった後の速さの合計:Aの速さ \(2.5\,\text{m/s}\) + Bの速さ(未知数)

この2つの合計が等しくなるはずなので、

\(6.0 = 2.5 + (\text{Bの後の速さ})\)

という式が成り立ちます。

これを解くと、Bの後の速さは \(6.0 – 2.5 = 3.5\,\text{m/s}\) となります。

計算結果がプラスなので、向きはもともとと同じ「x軸の正の向き」です。

解答 x軸の正の向きに\(3.5\,\text{m/s}\)

⑦ 平面上での衝突

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「平面衝突における運動量保存の法則」です。2次元の衝突を、互いに直交する2つの方向(x軸、y軸)に分解し、それぞれの方向で運動量保存則を適用することがポイントです。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 運動量保存の法則: 外力が働かない系では、衝突の前後で運動量の総和がベクトル的に保存される。
  2. 運動の分解: 平面上の運動量保存は、x成分とy成分のそれぞれについて独立に成り立つ。
  3. ベクトルとしての運動量: 運動量はベクトル量であり、各成分の和を考える必要がある。
  4. 質量の等しい物体の衝突: 質量が等しい場合、運動量保存の式が簡略化され、速度の関係が分かりやすくなる。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 衝突前後の各物体の速度を、x成分とy成分に分けて整理する。
  2. x軸方向について、運動量保存の法則を立式する。
  3. y軸方向について、運動量保存の法則を立式する。
  4. 立てた2つの式をそれぞれ解き、衝突後の物体Aと物体Bの速さを求める。

思考の道筋とポイント
平面上での衝突は、一見複雑に見えますが、運動をx方向とy方向に分解してしまえば、それぞれが独立した1次元の衝突問題として扱えます。つまり、「x方向の運動量保存」と「y方向の運動量保存」という2つの式を立てることができるのが最大のポイントです。
この問題では、衝突前はAがx方向、Bがy方向に運動し、衝突後は逆にAがy方向、Bがx方向に運動するという、非常に特殊な状況が設定されています。これにより、各方向の運動量保存の式が非常にシンプルになります。
さらに、「質量が同じ」という条件があるため、運動量保存の式から質量mを消去でき、計算が大幅に簡略化されます。

この設問における重要なポイント

  • 運動量保存の法則(成分表示): 運動量はベクトルなので、その保存則は成分ごとに成り立ちます。
    • x方向: \(m_A v_{Ax} + m_B v_{Bx} = m_A v_{Ax}’ + m_B v_{Bx}’\)
    • y方向: \(m_A v_{Ay} + m_B v_{By} = m_A v_{Ay}’ + m_B v_{By}’\)
  • 速度成分の整理: 問題文の情報を整理し、衝突前後の各物体の速度のx成分とy成分を明確にすることが重要です。
    • 衝突前: Aはx成分のみ、Bはy成分のみ。
    • 衝突後: Aはy成分のみ、Bはx成分のみ。
  • 質量が等しいことの利用: \(m_A = m_B = m\) とおくと、運動量保存の式から \(m\) を消去できます。これは、質量が等しい2物体の衝突では、運動量の交換が速度の交換として直接的に現れることを意味します。

具体的な解説と立式
物体A, Bの質量をともに \(m\) とします。

衝突前のA, Bの速度をそれぞれ \(\vec{v}_A\), \(\vec{v}_B\)、衝突後の速度をそれぞれ \(\vec{v}_A’\), \(\vec{v}_B’\) とします。

求める衝突後のA, Bの速さをそれぞれ \(v_A’\), \(v_B’\) とします。

問題文の条件から、各速度ベクトルを成分で表すと以下のようになります。

  • 衝突前:
    • \(\vec{v}_A = (2.0, 0)\)
    • \(\vec{v}_B = (0, 3.0)\)
  • 衝突後:
    • \(\vec{v}_A’ = (0, v_A’)\)
    • \(\vec{v}_B’ = (v_B’, 0)\)

運動量保存の法則をx軸方向とy軸方向のそれぞれについて立式します。

1. x軸方向の運動量保存則
$$ m v_{Ax} + m v_{Bx} = m v_{Ax}’ + m v_{Bx}’ $$
2. y軸方向の運動量保存則
$$ m v_{Ay} + m v_{By} = m v_{Ay}’ + m v_{By}’ $$

使用した物理公式

  • 運動量保存の法則(成分ごと):
    • x方向: \(m_A v_{Ax} + m_B v_{Bx} = m_A v_{Ax}’ + m_B v_{Bx}’\)
    • y方向: \(m_A v_{Ay} + m_B v_{By} = m_A v_{Ay}’ + m_B v_{By}’\)
計算過程

1. x軸方向の計算

x軸方向の運動量保存の式に、各速度のx成分を代入します。
$$
\begin{aligned}
m \times 2.0 + m \times 0 &= m \times 0 + m \times v_B’
\end{aligned}
$$
両辺を \(m\) で割ると、
$$
\begin{aligned}
2.0 + 0 &= 0 + v_B’ \\[2.0ex]v_B’ &= 2.0 \, \text{[m/s]}
\end{aligned}
$$
よって、衝突後の物体Bの速さは \(2.0\,\text{m/s}\) となります。

2. y軸方向の計算

y軸方向の運動量保存の式に、各速度のy成分を代入します。
$$
\begin{aligned}
m \times 0 + m \times 3.0 &= m \times v_A’ + m \times 0
\end{aligned}
$$
両辺を \(m\) で割ると、
$$
\begin{aligned}
0 + 3.0 &= v_A’ + 0 \\[2.0ex]v_A’ &= 3.0 \, \text{[m/s]}
\end{aligned}
$$
よって、衝突後の物体Aの速さは \(3.0\,\text{m/s}\) となります。

計算方法の平易な説明

この問題は、ビリヤードの玉が直角にぶつかるような状況をイメージすると分かりやすいです。運動の様子を「横方向(x方向)」と「縦方向(y方向)」に分けて考えます。

横方向(x方向)の運動の勢いに注目:

  • ぶつかる前、横方向に勢いを持っていたのはAだけです(速さ \(2.0\))。
  • ぶつかった後、横方向に勢いを持つのはBだけになります。
  • 「運動の勢いの合計は変わらない」というルール(運動量保存則)があるので、BはAが持っていた横方向の勢いをそのまま引き継ぎます。質量が同じなので、速さも同じになり、Bの速さは \(2.0\,\text{m/s}\) となります。

縦方向(y方向)の運動の勢いに注目:

  • ぶつかる前、縦方向に勢いを持っていたのはBだけです(速さ \(3.0\))。
  • ぶつかった後、縦方向に勢いを持つのはAだけになります。
  • 同じように、AはBが持っていた縦方向の勢いをそのまま引き継ぎます。質量が同じなので、Aの速さは \(3.0\,\text{m/s}\) となります。

結果として、まるでAとBが互いの進行方向の運動をごっそり交換したかのような動きになります。

解答 Aの速さ:\(3.0\,\text{m/s}\)、Bの速さ:\(2.0\,\text{m/s}\)

⑧ 反発係数

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「反発係数(はねかえり係数)」です。物体が壁に衝突した際の、衝突前後の速度の関係から反発係数を求める、基本的な問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 反発係数の定義: 衝突前後における、衝突点での相対速度の比を表す。衝突によって運動エネルギーがどれだけ失われるかの指標となる。
  2. 反発係数の公式: 2物体(A, B)の衝突では \(e = -\displaystyle\frac{v_A’ – v_B’}{v_A – v_B}\)。壁との衝突では、壁の速度を0とみなし \(e = -\displaystyle\frac{v’}{v}\) となる。
  3. 速度の符号: 一直線上の運動を扱うため、向きを正負の符号で区別することが非常に重要。
  4. 速さと速度の区別: 問題文で与えられるのは「速さ」(大きさ)だが、公式に代入するのは向きを含んだ「速度」である。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. ボールが壁に向かう方向を正の向きと定める。
  2. 衝突前のボールの速度と、衝突後のボールの速度を、向きを考慮して符号付きで表す。
  3. 壁との衝突における反発係数の公式 \(e = -\displaystyle\frac{v’}{v}\) に、符号を付けた速度を代入する。
  4. 計算を実行して反発係数を求める。

思考の道筋とポイント
反発係数 \(e\) は、衝突の「はねかえり具合」を示す数値です。\(e=1\) のときが最もよくはねかえる「弾性衝突」、\(e=0\) のときが全くはねかえらない「完全非弾性衝突」に対応します。
この問題を解く上で最も重要なのは、反発係数の公式 \(e = -\displaystyle\frac{v’}{v}\) を正しく使うことです。この式の中の \(v\) と \(v’\) は、単なる速さではなく、向きの情報を含んだ「速度」です。したがって、どちらか一方の向きを正と決めたら、もう一方は負の符号を付けて計算する必要があります。この符号の扱いで計算結果が変わってしまうため、注意が必要です。

この設問における重要なポイント

  • 公式のマイナス記号の意味: 公式 \(e = -\displaystyle\frac{v’}{v}\) に含まれるマイナス記号は、衝突によって速度の向きが逆転すること(\(v\) と \(v’\) の符号が逆になること)を考慮して、反発係数 \(e\) が常に正の値(または0)になるように付けられています。
  • 座標軸の設定: 最初に「どちら向きを正とするか」を自分で決めることが大切です。例えば、壁に向かう向きを正とすれば、はね返る向きは負となります。
  • 速さの比: 反発係数は、結果的に「衝突後の速さ」を「衝突前の速さ」で割った値に等しくなります。(\(e = \displaystyle\frac{|v’|}{|v|}\))。公式の符号の扱いに自信がない場合は、速さの比を計算すると覚えておくのも一つの手です。

具体的な解説と立式
ボールの衝突前の速度を \(v\)、衝突後の速度を \(v’\) とします。

壁に向かって進む向きを正の向きと定めます。

すると、問題文の条件は次のように表せます。

  • 衝突前の速度: \(v = +10\,\text{m/s}\)
  • 衝突後の速度: \(v’ = -8.0\,\text{m/s}\) (向きが逆なのでマイナス符号を付ける)

ボールと壁の間の反発係数を \(e\) とすると、壁との衝突における反発係数の公式は次のように表されます。
$$ e = -\frac{v’}{v} $$
この式に、上で設定した速度の値を代入します。

使用した物理公式

  • 反発係数(壁との衝突): \(e = -\displaystyle\frac{v’}{v}\)
計算過程

「具体的な解説と立式」で立てた式に、値を代入して計算します。
$$
\begin{aligned}
e &= -\frac{-8.0}{10} \\[2.0ex]&= 0.80
\end{aligned}
$$
したがって、反発係数は \(0.80\) となります。反発係数は単位を持たない無次元量です。

計算方法の平易な説明

「反発係数」とは、簡単に言うと「はね返った後の速さが、ぶつかる前の速さの何倍になったか」という割合のことです。

  • ぶつかる前の速さ: \(10\,\text{m/s}\)
  • はね返った後の速さ: \(8.0\,\text{m/s}\)

したがって、その割合は単純な割り算で計算できます。
$$ \text{割合} = \frac{\text{はね返った後の速さ}}{\text{ぶつかる前の速さ}} = \frac{8.0}{10} = 0.80 $$
これが反発係数です。

物理の公式 \(e = -\displaystyle\frac{v’}{v}\) は、速度の向き(プラス・マイナス)まで考えて作られているため少し複雑に見えますが、やっていることはこの「速さの比」の計算と同じです。

解答 \(0.80\)

⑨ 反発係数

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「2物体間の衝突における反発係数の計算」です。衝突前後の各物体の速度がすべて分かっている状況で、反発係数の定義式に当てはめて値を求める問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 反発係数の定義: 衝突前後における、2物体間の相対速度の比を表す。
  2. 反発係数の公式: 2物体A, Bの衝突において、反発係数 \(e\) は \(e = -\displaystyle\frac{v_A’ – v_B’}{v_A – v_B}\) で与えられる。ここで \(v, v’\) はそれぞれ衝突前後の速度である。
  3. 相対速度: 相手から見た自分の速度のこと。\(v_A – v_B\) はBから見たAの相対速度を表す。
  4. 速度の符号: 一直線上の運動では、向きを正負の符号で区別して扱う。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. x軸の正の向きを速度の正の向きと定める。
  2. 問題文で与えられた衝突前後の各物体の速度を、符号を付けて整理する。
  3. 反発係数の公式に、これらの速度の値を正確に代入する。
  4. 計算を実行して反発係数を求める。

思考の道筋とポイント
反発係数 \(e\) は、2物体が衝突した際に「どれくらいの勢いで遠ざかるか」を「どれくらいの勢いで近づいてきたか」で割った値、と解釈できます。この問題では、衝突前後の4つの速度がすべて与えられているため、反発係数の公式に値を代入するだけで答えが求まります。
公式 \(e = -\displaystyle\frac{v_A’ – v_B’}{v_A – v_B}\) の分母 \(v_A – v_B\) は「衝突前の相対速度」、分子 \(v_A’ – v_B’\) は「衝突後の相対速度」を表しています。公式のマイナス符号は、衝突によって相対速度の向きが逆になることを反映し、\(e\) が常に正の値になるように調整する役割があります。

この設問における重要なポイント

  • 公式への代入: どの速度を公式のどの部分に代入するかを間違えないことが重要です。添字(A, B)とプライム(’)の有無(衝突前か後か)を正確に対応させましょう。
  • 向きと符号: この問題では、衝突前後のすべての速度が「x軸の正の向き」であるため、すべての速度を正の値として扱うことができます。もし逆向きに進む物体があれば、その速度には負の符号を付けて計算する必要があります。
  • 相対速度の解釈:
    • 衝突前: AがBを追い越すので、AはBに近づいていきます。その速さは \(v_A – v_B\)。
    • 衝突後: Bの方がAより速くなるので、BはAから遠ざかっていきます。その速さは \(v_B’ – v_A’\)。
    • 反発係数は \(e = \displaystyle\frac{\text{遠ざかる速さ}}{\text{近づく速さ}} = \displaystyle\frac{v_B’ – v_A’}{v_A – v_B}\) とも表せます。これは公式を変形したもので、意味を理解する上で役立ちます。

具体的な解説と立式
物体A, Bの衝突前の速度をそれぞれ \(v_A, v_B\)、衝突後の速度をそれぞれ \(v_A’, v_B’\) とします。

x軸の正の向きを速度の正の向きと定めると、問題文から以下の値が与えられています。

  • \(v_A = +7.0\,\text{m/s}\)
  • \(v_B = +3.0\,\text{m/s}\)
  • \(v_A’ = +4.0\,\text{m/s}\)
  • \(v_B’ = +6.0\,\text{m/s}\)

AとBの間の反発係数を \(e\) とすると、公式は次のように表されます。
$$ e = -\frac{v_A’ – v_B’}{v_A – v_B} $$
この式に、上記の値を代入します。

使用した物理公式

  • 反発係数: \(e = -\displaystyle\frac{v_A’ – v_B’}{v_A – v_B}\)
計算過程

「具体的な解説と立式」で立てた式に、値を代入して計算します。
$$
\begin{aligned}
e &= -\frac{4.0 – 6.0}{7.0 – 3.0} \\[2.0ex]&= -\frac{-2.0}{4.0} \\[2.0ex]&= \frac{2.0}{4.0} \\[2.0ex]&= 0.50
\end{aligned}
$$
したがって、反発係数は \(0.50\) となります。

計算方法の平易な説明

反発係数は、「衝突後に2物体が遠ざかる速さ」が「衝突前に2物体が近づく速さ」の何倍になっているか、という割合です。

  • ステップ1: 近づく速さを計算する衝突前、Aは秒速 \(7.0\,\text{m}\) でBを追いかけ、Bは秒速 \(3.0\,\text{m}\) で逃げています。AがBに追いつく速さは、速度の差である \(7.0 – 3.0 = 4.0\,\text{m/s}\) です。
  • ステップ2: 遠ざかる速さを計算する衝突後、今度はBが秒速 \(6.0\,\text{m}\) で進み、Aは秒速 \(4.0\,\text{m}\) で追いかけます。Bの方が速いので、2つの物体は離れていきます。その速さは、速度の差である \(6.0 – 4.0 = 2.0\,\text{m/s}\) です。
  • ステップ3: 割合(反発係数)を計算する反発係数は「遠ざかる速さ ÷ 近づく速さ」なので、\(2.0 \div 4.0 = 0.50\)となります。
解答 \(0.50\)

例題

例題25 運動量と力積

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「運動量と力積の関係」および「運動方程式の基本的な適用」です。物体が力を受けて運動状態を変化させる様子を、物理の基本法則を用いて記述する問題です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 加速度の定義: 加速度は、単位時間あたりの速度の変化量として定義されます。\(a = \displaystyle\frac{\Delta v}{\Delta t}\)
  2. 運動方程式: 物体の質量(\(m\))、加速度(\(a\))、物体に働く合力(\(F\))の関係を示すニュートンの第二法則です。(\(ma = F\))
  3. 力積と運動量の関係: 物体が受けた力積は、その物体の運動量の変化に等しいという、運動方程式から導かれる重要な関係です。
  4. 力積と運動量の定義: 力積は力と作用時間の積 (\(F \Delta t\))、運動量は質量と速度の積 (\(mv\)) で定義されます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、加速度の定義式に、問題文で与えられた変化前後の速度と経過時間を代入して、加速度を文字式で表現します。
  2. (2)では、運動の基本法則である運動方程式 \(ma=F\) に、(1)で求めた加速度の式を代入します。
  3. (3)では、(2)で立てた運動方程式を変形することで、「力積と運動量の関係」を導き、力積を力\(F\)を使わずに表現します。

問(1)

思考の道筋とポイント
力を加えられている間の小物体の「加速度」を、運動の変化(初速度、終速度、時間)から求める問題です。加速度の定義を正しく理解し、与えられた文字を使って式で表現することが求められます。速度がベクトル量であることを意識し、「変化後の量 – 変化前の量」で変化量を計算するのが基本です。
この設問における重要なポイント

  • 加速度 \(a\) は、速度 \(v\) の時間変化率で定義される: \(a = \displaystyle\frac{\text{速度の変化量}}{\text{かかった時間}}\)。
  • 速度の変化量 \(\Delta v\) は、変化後の速度 \(v’\) から変化前の速度 \(v\) を引いたもの、すなわち \(\Delta v = v’ – v\) である。
  • 問題で指定された文字(\(v, v’, \Delta t\))のみを用いて式を立てる。

具体的な解説と立式
問題文に従い、右向きを正の向きとします。

小物体の運動は以下の通りです。

  • 力の作用前の速度: \(+v\)
  • 力の作用後の速度: \(+v’\)
  • 速度の変化にかかった時間: \(\Delta t\)

加速度 \(a\) は、単位時間あたりの速度の変化量として定義されます。速度の変化量 \(\Delta v\) は、変化後の速度から変化前の速度を引くことで求められます。
$$ \Delta v = v’ – v $$
したがって、加速度 \(a\) は、この速度の変化量 \(\Delta v\) をかかった時間 \(\Delta t\) で割ることで求められます。
$$ a = \frac{\Delta v}{\Delta t} = \frac{v’ – v}{\Delta t} $$

使用した物理公式

  • 加速度の定義: \(a = \displaystyle\frac{\Delta v}{\Delta t} = \frac{v_{\text{後}} – v_{\text{前}}}{\Delta t}\)
計算過程

この設問は、加速度の定義式を問題の状況に合わせて記述するものであり、具体的な数値計算は伴いません。上記「具体的な解説と立式」で導出した式がそのまま解答となります。

計算方法の平易な説明

「加速度」とは、「1秒あたりにどれだけ速さが変わったか」を表す量です。まず、速さがどれだけ変化したかを計算します。これは「後の速さ」から「前の速さ」を引けばよいので、\(v’ – v\) となります。この速度変化が \(\Delta t\) 秒という時間で起きたので、1秒あたりの変化量を求めるには、変化の総量をかかった時間で割ります。したがって、加速度は \((v’ – v) \div \Delta t\) と計算できます。

結論と吟味

小物体の加速度の大きさは \(\displaystyle\frac{v’ – v}{\Delta t}\) です。問題の状況では、右向きに力を加えて速さが増加している(\(v’ > v\))ため、加速度は正の値となり、設定した正の向き(右向き)と一致します。これは物理的に妥当な結果です。

解答 (1) \(\displaystyle\frac{v’ – v}{\Delta t}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
小物体の運動方程式を立てる問題です。運動方程式は、物体の運動(加速度)とそれに作用する力とを結びつける、力学の根幹をなす法則です。どの物体に、どの向きに、どんな力が働いているかを正確に把握し、\(ma=F\) の形に当てはめることが重要です。
この設問における重要なポイント

  • 運動方程式は \(ma = F\) と表される。
  • \(m\) は物体の質量、\(a\) は物体の加速度、\(F\) は物体に働く合力(力の合計)である。
  • (1)で求めた加速度 \(a\) の表現を、運動方程式に代入する。

具体的な解説と立式
質量 \(m\) の小物体に働く力は、右向き(正の向き)に大きさ \(F\) の力のみです(なめらかな水平面なので摩擦力は考えません)。この力によって、小物体には(1)で求めた加速度 \(a\) が生じます。

ニュートンの運動方程式 \(ma=F\) に、それぞれの量を当てはめます。

  • 質量: \(m\)
  • 加速度: \(a = \displaystyle\frac{v’ – v}{\Delta t}\)
  • 力: \(F\) (右向きなので正)

これらを代入して、運動方程式を立てます。
$$ m \left( \frac{v’ – v}{\Delta t} \right) = F $$

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(ma = F\)
計算過程

(1)で求めた加速度の式 \(a = \displaystyle\frac{v’ – v}{\Delta t}\) を、運動方程式 \(ma=F\) の左辺の \(a\) に代入する操作を行います。
$$
\begin{aligned}
m \cdot a &= F \\[2.0ex]m \left( \frac{v’ – v}{\Delta t} \right) &= F
\end{aligned}
$$
これが求める運動方程式です。

計算方法の平易な説明

物理のとても大事なルールに「運動方程式 \(ma=F\)」があります。これは「物体の質量(\(m\)) × 加速度(\(a\)) = 物体に加わった力(\(F\))」という意味です。(1)で、加速度 \(a\) は \(\displaystyle\frac{v’ – v}{\Delta t}\) であることがわかっています。この \(a\) の表現を、運動方程式の \(a\) の部分にそのまま「代入」するだけで、この問題の運動方程式が完成します。

結論と吟味

小物体の運動方程式は \(m \displaystyle\frac{v’ – v}{\Delta t} = F\) となります。この式は、質量 \(m\) の物体が力 \(F\) を受けた結果、加速度 \(\displaystyle\frac{v’ – v}{\Delta t}\) で運動するという因果関係を正しく表しています。

解答 (2) \(m \displaystyle\frac{v’ – v}{\Delta t} = F\)

問(3)

思考の道筋とポイント
小物体が受けた「力積」の大きさを、力 \(F\) を用いずに表す問題です。力積の定義 (\(F \Delta t\)) と、それが運動量の変化 (\(mv’ – mv\)) に等しいという「力積と運動量の関係」を理解しているかが問われます。この関係は、(2)で立てた運動方程式を変形することで導出できます。
この設問における重要なポイント

  • 力積の大きさは、定義により \(F \Delta t\) である。
  • 運動量の大きさは、定義により \(mv\) である。
  • 運動方程式を変形すると、力積と運動量の変化が等しいという関係式 \(F \Delta t = mv’ – mv\) が得られる。
  • 「\(F\) を用いずに」という条件から、運動量の変化の形で答える必要がある。

具体的な解説と立式
(2)で立てた運動方程式から出発します。
$$ m \frac{v’ – v}{\Delta t} = F $$
この式の両辺に、力が作用した時間 \(\Delta t\) を掛けます。
$$ m (v’ – v) = F \Delta t $$
この式の右辺 \(F \Delta t\) は、力積の定義そのものです。左辺の \(m(v’ – v)\) は、\(mv’ – mv\) と書き換えられ、これは「変化後の運動量」から「変化前の運動量」を引いた「運動量の変化」を表しています。

したがって、力積 \(F \Delta t\) は、運動量の変化 \(m(v’ – v)\) に等しくなります。

問題では力積の大きさを \(F\) を用いずに表すことが求められているため、運動量の変化の式である \(m(v’ – v)\) が答えとなります。

使用した物理公式

  • 力積と運動量の関係: \(F \Delta t = \Delta p = p_{\text{後}} – p_{\text{前}} = mv’ – mv\)
計算過程

(2)で求めた運動方程式 \(m \displaystyle\frac{v’ – v}{\Delta t} = F\) を変形します。

両辺に \(\Delta t\) を掛けることで、力積 \(F \Delta t\) を式の片側にまとめます。
$$
\begin{aligned}
m \frac{v’ – v}{\Delta t} \times \Delta t &= F \times \Delta t \\[2.0ex]m(v’ – v) &= F \Delta t
\end{aligned}
$$
力積の大きさは \(F \Delta t\) であり、この式から \(F \Delta t\) は \(m(v’ – v)\) に等しいことがわかります。

よって、\(F\) を用いずに表した力積の大きさは \(m(v’ – v)\) となります。

計算方法の平易な説明

「力積」とは、物体が受けた衝撃の大きさのことで、本来は「力 \(F\) × 時間 \(\Delta t\)」で計算します。しかし、今回は \(F\) を使ってはいけないというルールです。そこで、(2)で作った式 \(m \displaystyle\frac{v’ – v}{\Delta t} = F\) を使います。この式の両辺に \(\Delta t\) を掛けてみると、\(m(v’ – v) = F \times \Delta t\) となります。この式の右側がまさに力積なので、左側の \(m(v’ – v)\) も力積と同じ大きさだとわかります。これが \(F\) を使わない力積の表現になります。

結論と吟味

小物体が受けた力積の大きさは \(m(v’ – v)\) です。この結果は「力積は運動量の変化量に等しい」という物理学の重要な原理そのものを示しています。\(mv\) が運動量を表すことを知っていれば、力積 = (後の運動量 \(mv’\)) – (前の運動量 \(mv\)) となり、結果が物理的に正しいことを確認できます。

解答 (3) \(m(v’ – v)\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 運動方程式と力積・運動量の関係:
    • 核心: この問題は、ニュートンの運動方程式 \(ma=F\) が全ての出発点であることを示しています。そして、この運動方程式を変形することで、物理学におけるもう一つの極めて重要な関係式「力積(\(F\Delta t\)) = 運動量の変化(\(m\Delta v\))」が導出できることを理解することが核心です。
    • 理解のポイント:
      • 運動方程式は「原因(力)と結果(加速度)の関係」を表す。
      • 力積と運動量の関係は「原因(力積)と結果(運動量の変化)の関係」を表す。これらは同じ物理現象を異なる視点から見たものであり、数学的に等価です。問題に応じて使い分ける能力が重要になります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 衝突・分裂問題: 2物体が衝突したり、1つの物体が分裂したりする問題では、系全体に外力が働かない場合、「運動量保存則」が成り立ちます。これは、2物体間で及ぼしあう力(内力)による力積の和が0になるため、系全体の運動量の変化が0になるという考え方です。
    • 撃力(げきりょく)の問題: 野球のバッティングやハンマーで釘を打つ場合など、非常に短い時間に非常に大きな力が作用する状況。この場合、力の大きさ \(F\) や作用時間 \(\Delta t\) を個別に測定するのは困難ですが、その積である「力積」は運動量の変化から求めることができます。
    • ロケットの推進: ロケットが燃料を噴射して加速する問題。これは「ロケット本体」と「噴射した燃料」の2体系で運動量保存則を適用する典型例です。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 注目する物体(系)は何かを明確にする。1物体か、2物体以上の系か。
    2. 運動の時間的変化を追う。「変化前」と「変化後」の状態をそれぞれ図示し、速度や質量などの物理量を整理する。
    3. 作用する力を全て書き出す。特に、運動方向の力に注目する。外力か内力かを区別する。
    4. 「運動方程式を立てるべきか」「力積と運動量の関係(または運動量保存則)を使うべきか」を判断する。力の大きさが一定で加速度を問うなら運動方程式、衝突や分裂のように力の詳細が不明な場合は力積と運動量の関係が有効です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 運動量と運動エネルギーの混同:
    • 誤解: 運動量(\(mv\))と運動エネルギー(\(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\))はどちらも運動の状態を表す量ですが、全くの別物です。力積は運動量の変化に等しく、仕事は運動エネルギーの変化に等しい、という対応関係を混同してしまう。
    • 対策: 「力積 \(\rightarrow\) 運動量」「仕事 \(\rightarrow\) 運動エネルギー」というペアを正確に覚える。運動量はベクトル(向きを持つ)、運動エネルギーはスカラー(向きを持たない)であるという根本的な違いも意識する。
  • 符号のミス:
    • 誤解: 速度、力、加速度、運動量はすべてベクトル量であり、向きを持ちます。正の向きを最初に設定したにもかかわらず、計算途中で逆向きの速度や力を正の値として代入してしまう。
    • 対策: 問題を解き始める前に、必ず座標軸(正の向き)を図に書き込む。図に描かれた矢印の向きと、設定した正の向きが一致していれば正、逆向きなら負の値を代入することを徹底する。
  • 力積と力の混同:
    • 誤解: 力積(\(F\Delta t\))を力(\(F\))そのものと勘違いし、単位を間違えたり、運動量の変化を力と等しいとしてしまう。
    • 対策: 力積は「力と時間の積」であり、単位も[N·s]であることを常に意識する。力積は「衝撃の大きさ」というイメージ、力は「その瞬間に加わっている作用の強さ」というイメージで区別する。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 加速度の定義式 (\(a = \displaystyle\frac{\Delta v}{\Delta t}\)):
    • 選定理由: (1)では、運動の変化(速度の変化と時間)が与えられており、その結果生じる「加速度」を問われています。これは加速度の定義そのものを問う設問であり、この式以外に選択肢はありません。
    • 適用根拠: 加速度は速度の時間微分であり、一定の加速度の運動では、有限の時間 \(\Delta t\) での平均の加速度が瞬間の加速度と一致するため、この定義式が直接適用できます。
  • 運動方程式 (\(ma=F\)):
    • 選定理由: (2)では、運動の原因である「力」と、運動の結果である「加速度」の関係を式で表すことが求められています。この因果関係を記述する法則が運動方程式です。
    • 適用根拠: 設問(1)で加速度 \(a\) が求まり、質量 \(m\) と力 \(F\) が与えられているため、\(m, a, F\) の3つの物理量を結びつけるこの式が適切となります。
  • 力積と運動量の関係 (\(F\Delta t = m\Delta v\)):
    • 選定理由: (3)では、「力積」を「力\(F\)を用いずに」表現することが求められています。これは、力積を別の物理量で表現し直す必要があることを示唆しています。運動方程式を変形することで得られるこの関係式が、まさにその要求に応えるものです。
    • 適用根拠: (2)で立てた運動方程式は、力、質量、速度変化、時間をすべて含んだ関係式です。この式を \(F\Delta t\) について解くことで、力積を他の量(運動量の変化)で表現できます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 文字式の変形: (3)の \(m \displaystyle\frac{v’ – v}{\Delta t} = F\) から \(m(v’ – v) = F \Delta t\) への変形は単純ですが、焦るとミスをします。分数をなくすために「両辺に何を掛けるか」を明確に意識し、実行する。
  • 単位の確認: 最終的な答えの単位が物理的に正しいかを確認する癖をつける。例えば(3)で求めた \(m(v’ – v)\) の単位は [kg]·[m/s] となり、これは力積の単位 [N·s] (\(=\) [kg·m/s²]·[s] \(=\) [kg·m/s]) と一致します。この確認で、立式が正しい可能性が高いと判断できます。
  • 定義の正確な記憶: 「速度の変化」は常に「後 – 前」(\(v’ – v\)) であることを徹底する。これを \(v – v’\) と逆にすると、符号が反転して全く意味が変わってしまいます。定義は一字一句正確に覚えることが、計算ミスの根本的な防止策になります。

例題26 運動量と力積

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「力積と運動量の関係」です。特に、運動が一直線上で起こる場合と、平面上で起こる場合の両方で、ベクトル量である運動量と力積を正しく扱えるかが問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 力積と運動量の変化の関係: 物体が受けた力積は、その物体の運動量の変化に等しい (\(\vec{I} = \Delta \vec{p}\))。これはベクトルについての関係式です。
  2. 運動量の定義: 運動量は質量と速度の積で定義されるベクトル量である (\(\vec{p} = m\vec{v}\))。
  3. ベクトルの計算: 運動が一直線上ではない場合、運動量の変化はベクトルの引き算で求める必要があります。ベクトルの作図や成分分解といった数学的な手法が重要になります。
  4. 力積と平均の力の関係: 力積は、物体に働いた平均の力と、力が働いた時間の積に等しい (\(\vec{I} = \vec{F}_{\text{平均}} \Delta t\))。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、運動が一直線上(東西方向)で起こるため、東向きを正として運動量の変化を計算し、力積を求めます。
  2. (2)では、(1)で求めた力積と、力が作用した時間を用いて、力積と平均の力の関係式から平均の力を計算します。
  3. (3)では、運動が平面上で起こるため、運動量の変化をベクトルとして扱います。打つ前と打った後の運動量ベクトルを図示し、その差をベクトル作図によって求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
ボールが受けた力積を求める問題です。力積は「運動量の変化」に等しいという、基本的な関係を利用します。この問題では、運動が一直線上(西向きから東向きへ)で起こるため、向きを正負の符号で表現することが重要です。
この設問における重要なポイント

  • 力積は運動量の変化に等しい: \(I = \Delta p = p_{\text{後}} – p_{\text{前}}\)。
  • 運動量はベクトル量であり、一直線上の運動では向きを正負で区別する。
  • 後の運動量と前の運動量を、符号に注意して正しく計算する。

具体的な解説と立式
運動が東西の一直線上で起こっているため、東向きを正の向きとします。

  • 打つ前の速度 \(v\): 西向きに \(40 \, \text{m/s}\) なので、\(v = -40 \, \text{m/s}\)。
  • 打った後の速度 \(v’\): 東向きに \(40 \, \text{m/s}\) なので、\(v’ = +40 \, \text{m/s}\)。
  • ボールの質量 \(m\): \(0.20 \, \text{kg}\)。

ボールが受けた力積 \(I\) は、運動量の変化 \(\Delta p\) に等しくなります。
$$ \Delta p = p_{\text{後}} – p_{\text{前}} $$
ここで、後の運動量 \(p_{\text{後}} = mv’\)、前の運動量 \(p_{\text{前}} = mv\) です。

したがって、力積 \(I\) は次のように立式できます。
$$ I = mv’ – mv $$

使用した物理公式

  • 力積と運動量の変化の関係: \(I = \Delta p = mv’ – mv\)
計算過程

立式した式に、それぞれの値を代入して力積 \(I\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
I &= m v’ – m v \\[2.0ex]&= 0.20 \times (+40) – 0.20 \times (-40) \\[2.0ex]&= 8.0 – (-8.0) \\[2.0ex]&= 8.0 + 8.0 \\[2.0ex]&= 16 \, [\text{N} \cdot \text{s}]\end{aligned}
$$
計算結果が正の値なので、力積の向きは設定した正の向き、すなわち東向きです。

計算方法の平易な説明

「力積」は「運動量の変化」のことです。運動量は「質量×速度」で、向きも重要です。東向きをプラスと決めると、打つ前の西向きの運動量はマイナス、打った後の東向きの運動量はプラスになります。運動量の変化は「後の運動量 – 前の運動量」で計算します。マイナスの値を引くことになるので、結果的に足し算となり、運動量の変化は大きくなります。

結論と吟味

ボールが受けた力積の大きさは \(16 \, \text{N} \cdot \text{s}\) で、向きは東向きです。速さは同じでも向きが正反対に変わるため、運動量は大きく変化します。その変化分が力積となるため、大きな値になるのは妥当です。

解答 (1) 大きさ: \(16 \, \text{N} \cdot \text{s}\), 向き: 東向き

問(2)

思考の道筋とポイント
(1)の状況で、ボールに働いた「平均の力」を求める問題です。力積、平均の力、作用時間の間には単純な関係式があり、それを利用します。
この設問における重要なポイント

  • 力積、平均の力、時間の関係: \(I = F_{\text{平均}} \Delta t\)。
  • 力の向きは、力積の向きと同じである。
  • (1)で求めた力積の値を使用する。

具体的な解説と立式
力積 \(I\) は、ボールに働いた平均の力 \(F_{\text{平均}}\) と、力が働いていた時間 \(\Delta t\) の積で表されます。
$$ I = F_{\text{平均}} \Delta t $$
この式を \(F_{\text{平均}}\) について解くと、次のようになります。
$$ F_{\text{平均}} = \frac{I}{\Delta t} $$
(1)より力積 \(I = 16 \, \text{N} \cdot \text{s}\)、問題文より時間 \(\Delta t = 0.10 \, \text{s}\) です。

使用した物理公式

  • 力積と平均の力の関係: \(I = F_{\text{平均}} \Delta t\)
計算過程

立式した式に、値を代入して平均の力 \(F_{\text{平均}}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
F_{\text{平均}} &= \frac{16}{0.10} \\[2.0ex]&= 160 \, [\text{N}]\end{aligned}
$$
有効数字を考慮し、\(1.6 \times 10^2 \, \text{N}\) と表します。力の向きは力積の向きと同じなので、東向きです。

計算方法の平易な説明

力積は「平均の力 × 時間」で計算できます。今回は力積と時間がわかっているので、逆に割り算をすれば平均の力が求まります。\(16\) という力積を \(0.10\) 秒という短い時間で生み出すには、大きな力が必要になることがわかります。

結論と吟味

ボールに働いた平均の力の大きさは \(1.6 \times 10^2 \, \text{N}\) で、向きは東向きです。野球のインパクトのように、ごく短時間に速度を大きく変化させるには、非常に大きな力が必要となることを示しており、物理的に妥当な大きさです。

解答 (2) 大きさ: \(1.6 \times 10^2 \, \text{N}\), 向き: 東向き

問(3)

思考の道筋とポイント
ボールが斜め方向に打ち返された場合の力積を求める問題です。運動が平面上で起こるため、運動量をベクトルとして扱い、その変化(引き算)を正しく計算する必要があります。ベクトルの引き算は、作図によって幾何学的に解くか、成分に分解して計算します。
この設問における重要なポイント

  • 運動量と力積はベクトル量である: \(\vec{I} = \Delta \vec{p} = \vec{p’} – \vec{p}\)。
  • ベクトルの引き算 \(\vec{p’} – \vec{p}\) は、\(\vec{p’} + (-\vec{p})\) というベクトルの足し算として考えることができる。
  • 打つ前と後の運動量のベクトルの大きさと向きを正確に把握し、ベクトル図を描いて考える。

具体的な解説と立式
まず、打つ前と後の運動量の大きさを計算します。速さはどちらも \(40 \, \text{m/s}\) なので、運動量の大きさは等しくなります。
$$
\begin{aligned}
|\vec{p}| &= m|\vec{v}| \\[2.0ex]&= 0.20 \times 40 \\[2.0ex]&= 8.0 \, [\text{kg} \cdot \text{m/s}]\end{aligned}
$$
よって、\(|\vec{p’}| = 8.0 \, [\text{kg} \cdot \text{m/s}]\) でもあります。

次に、運動量の変化 \(\Delta \vec{p} = \vec{p’} – \vec{p}\) をベクトル図で考えます。

  • 打つ前の運動量 \(\vec{p}\): 西向き、大きさ \(8.0\)。
  • 打った後の運動量 \(\vec{p’}\): 問題の図と方位から、東向きから南へ \(60^\circ\) の向き、大きさ \(8.0\)。

力積 \(\vec{I}\) は \(\vec{p’} – \vec{p}\) です。これは、\(\vec{p} + \vec{I} = \vec{p’}\) と変形できます。この関係をベクトル図で描くと、\(\vec{p}\) の終点と \(\vec{p’}\) の終点を結ぶベクトルが \(\vec{I}\) となります(始点を揃えた場合)。

このとき、\(\vec{p}\) と \(\vec{p’}\) のなす角は、西向きと東から南へ \(60^\circ\) の向きなので、\(180^\circ – 60^\circ = 120^\circ\) となります。
したがって、3つのベクトル \(\vec{p}\), \(\vec{p’}\), \(\vec{I}\) は、\(|\vec{p}| = |\vec{p’}| = 8.0\) である二等辺三角形を構成します。力積の大きさ \(|\vec{I}|\) は、この二等辺三角形の底辺の長さに相当します。

頂角が \(120^\circ\) の二等辺三角形の底辺の長さは、頂点から底辺に垂線を下ろすことで、2つの合同な直角三角形に分割して求めることができます。この直角三角形は、角度が \(30^\circ, 60^\circ, 90^\circ\) となります。
底辺の半分の長さは \(|\vec{p}| \cos 30^\circ\) となるので、全体の長さ \(|\vec{I}|\) はその2倍となります。
$$ |\vec{I}| = 2 \times |\vec{p}| \cos 30^\circ $$

使用した物理公式

  • 力積と運動量の変化の関係(ベクトル): \(\vec{I} = \vec{p’} – \vec{p}\)
  • 三角比の知識
計算過程

まず、運動量の大きさ \(p\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
p &= 0.20 \times 40 \\[2.0ex]&= 8.0 \, [\text{kg} \cdot \text{m/s}]\end{aligned}
$$
次に、ベクトル図の幾何学的関係から力積の大きさ \(|\vec{I}|\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
|\vec{I}| &= 2 \times p \times \cos 30^\circ \\[2.0ex]&= 2 \times 8.0 \times \frac{\sqrt{3}}{2} \\[2.0ex]&= 8.0 \sqrt{3}
\end{aligned}
$$
ここで、\(\sqrt{3} \approx 1.73\) として計算します。
$$
\begin{aligned}
|\vec{I}| &\approx 8.0 \times 1.73 \\[2.0ex]&= 13.84
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えるため、四捨五入して \(14 \, \text{N} \cdot \text{s}\) となります。

力積の向きは、\(\vec{I} = \vec{p’} + (-\vec{p})\) で考えます。\((-\vec{p})\) は東向きのベクトルです。東向きのベクトルと、東から南へ \(60^\circ\) の向きのベクトル(どちらも大きさ \(8.0\))を合成すると、その向きは対称性から角を二等分する方向、すなわち東向きから南へ \(30^\circ\) の向きになります。

計算方法の平易な説明

ボールが斜めに飛んでいく場合、運動量の変化は「ベクトルの引き算」で考える必要があります。打つ前と後の運動量を矢印で描き、その差を求める作図をします。今回は打つ前と後の速さが同じなので、運動量の矢印の長さも同じです。この2つの矢印からできる図形(二等辺三角形)の性質を利用すると、力積(衝撃)の大きさと向きを計算できます。

結論と吟味

ボールが受けた力積の大きさは \(14 \, \text{N} \cdot \text{s}\)、向きは東向きから \(30^\circ\) 南向きです。直感的に、西から来たボールを南東方向に打ち返すには、東向きと南向きの両方の成分を持つ力積が必要であり、結果は妥当であると考えられます。

解答 (3) 大きさ: \(14 \, \text{N} \cdot \text{s}\), 向き: 東向きから30°南向き

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 力積と運動量の関係(ベクトルとしての理解):
    • 核心: この問題の最も重要なポイントは、「力積は運動量の変化に等しい」という関係 (\(\vec{I} = \Delta \vec{p}\)) を、単なるスカラーの式ではなく、向きを持つベクトルの関係式として完全に理解し、適用できることです。
    • 理解のポイント:
      • (1)の一直線上の運動: ベクトルの向きを正負の符号で表現し、代数的に計算します。
      • (3)の平面上の運動: ベクトルの引き算 (\(\Delta \vec{p} = \vec{p’} – \vec{p}\)) を、ベクトル図(作図)や成分分解を用いて幾何学的に、あるいは解析的に処理する必要があります。特に、ベクトルの引き算は「逆ベクトルの足し算」(\(\vec{p’} + (-\vec{p})\)) と捉えると、作図しやすくなります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 壁との斜め衝突: ボールが壁に斜めに衝突して跳ね返る問題。壁に平行な方向の運動量成分は変化せず、垂直な方向の運動量成分のみが変化する(完全弾性衝突の場合)と考えることで、力積を容易に計算できます。
    • 運動量保存則との組み合わせ: 2物体が斜めに衝突する問題。系全体に外力が働かなければ、衝突の前後で系の全運動量はベクトル的に保存されます。(\(\vec{p}_{A} + \vec{p}_{B} = \vec{p’}_{A} + \vec{p’}_{B}\))。このベクトル式を、x成分とy成分に分解して2本の連立方程式として解くのが定石です。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 座標軸の設定: まず、問題を解くための基準となる座標軸(例:東向きをx軸正、北向きをy軸正)を設定します。
    2. 運動の次元を把握: 運動が一直線上(1次元)か、平面上(2次元)かを確認します。1次元なら正負の符号で、2次元ならベクトル図や成分分解で対処します。
    3. 「前」と「後」のベクトルを図示: 衝突前後の速度ベクトル(または運動量ベクトル)を、設定した座標軸に合わせて図に描き込みます。大きさ、角度を正確に記入することが重要です。
    4. 求めるものは何かを明確化: 「力積」を問われているのか、「力」を問われているのかを区別します。力積なら運動量の変化を、力なら力積を時間で割る、という流れを意識します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • ベクトルの引き算のミス:
    • 誤解: (3)で運動量の変化 \(\vec{p’} – \vec{p}\) を計算する際に、単純に大きさの差 \(|\vec{p’}| – |\vec{p}|\) を計算してしまう(この問題では0になってしまう)。あるいは、ベクトルの足し算 \(\vec{p’} + \vec{p}\) を計算してしまう。
    • 対策: \(\Delta \vec{p} = \vec{p’} – \vec{p}\) を \(\vec{p} + \Delta \vec{p} = \vec{p’}\) と変形し、「最初のベクトル \(\vec{p}\) に、どのベクトル \(\Delta \vec{p}\) を足せば、後のベクトル \(\vec{p’}\) になるか?」と考える癖をつける。始点を揃えてベクトルを描き、前のベクトルの先端から後のベクトルの先端へ向かう矢印が「変化分」であると視覚的に理解する。
  • 角度の取り違え:
    • 誤解: (3)のベクトル図で、どの角度が \(30^\circ\) で、どの角度が \(60^\circ\) なのかを混同し、計算に使う三角比 (\(\sin, \cos\)) を間違える。
    • 対策: 問題文の図と方位をよく確認し、ベクトル図に角度を書き込む際には、平行線の錯角や同位角、対頂角などの幾何学的な関係を慎重に利用する。特に、\(-\vec{p}\)(東向き)と \(\vec{p’}\)(東から南へ60°)のなす角が \(60^\circ\) であることを正確に把握することが鍵となる。
  • 有効数字の処理ミス:
    • 誤解: 計算途中で四捨五入してしまい、最終的な答えに誤差が生じる。あるいは、最終的な答えの有効数字の桁数を間違える。
    • 対策: 計算はできるだけ文字式や \(\sqrt{}\) を使ったまま進め、最後の最後に数値を代入して計算する。問題文で与えられた数値(\(0.20\text{kg}, 40\text{m/s}, 0.10\text{s}\))の有効数字が2桁であることから、最終的な答えも原則として2桁に揃えることを意識する。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 力積と運動量の関係 (\(\vec{I} = \Delta \vec{p}\)):
    • 選定理由: (1)と(3)は、どちらも「力積」を求める問題です。物体の運動状態の変化(速度の変化)が分かっている状況で力積を求める場合、その定義である「運動量の変化」を計算するのが最も直接的です。
    • 適用根拠: この関係式は運動方程式を時間で積分したものであり、力の詳細(時間変化など)が不明でも、運動の前後を比較するだけで力積という「衝撃の総量」を求めることができる強力なツールです。
  • 力積と平均の力の関係 (\(I = F_{\text{平均}}\Delta t\)):
    • 選定理由: (2)では「平均の力」が問われています。力積 \(I\) と作用時間 \(\Delta t\) が既知であるため、この関係式を使えば平均の力 \(F_{\text{平均}}\) を直接求めることができます。
    • 適用根拠: この式は力積の定義そのものです。平均の力とは、時間的に変動する力を、同じ力積を与えるような一定の力で代表させたものです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 符号の徹底: (1)のように一直線上の運動では、最初に決めた正の向きに従って、すべてのベクトル量(速度、力積)に符号(+, -)を付けることを徹底する。特に「後の量 – 前の量」の計算で、負の値を引く際の符号ミスに注意する。
  • 作図の活用: (3)のような平面の運動では、フリーハンドでも良いので必ずベクトル図を描く。ベクトルの向きと大きさを視覚化することで、計算の方針が立ちやすくなり、角度の誤認などのケアレスミスを防げる。
  • 三角比の確認: \(30^\circ, 45^\circ, 60^\circ\) の三角比 (\(\sin, \cos, \tan\)) の値は瞬時に出てくるように習熟しておく。特に、(3)の二等辺三角形を2つの直角三角形に分割するアプローチは頻出パターンなので、確実に身につける。
  • 近似計算のタイミング: \(\sqrt{3} \approx 1.73\) のような近似計算は、計算の最終段階で行う。途中で丸めると誤差が累積する可能性がある。\(8.0\sqrt{3}\) までは正確な値として扱い、最後に \(8.0 \times 1.73\) を計算する。

例題27 一直線上での衝突

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「一直線上での2物体の衝突」です。衝突現象を扱う問題の典型例であり、2つの重要な物理法則を用いて解きます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 運動量保存の法則: 2物体が衝突する際、外力が働かなければ、衝突の前後で系全体の運動量の和は保存されます。
  2. 反発係数(はねかえり係数)の式: 衝突によってどれだけ速さが失われるか(あるいは保たれるか)を示す指標で、衝突前後の相対速度の比で定義されます。
  3. 連立方程式: 運動量保存則と反発係数の式から、衝突後の2つの未知の速度に関する2つの式が得られるため、これらを連立させて解きます。
  4. ベクトル量の符号による表現: 一直線上の運動なので、一方の向きを正と定め、逆向きの速度は負の符号をつけて扱います。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、一直線上のどちらかの向きを正と定めます。
  2. 次に、「運動量保存の法則」を用いて、衝突前後の運動量の関係を立式します。
  3. 続いて、「反発係数の式」を用いて、衝突前後の速度の関係を立式します。
  4. 最後に、得られた2つの式を連立方程式として解き、衝突後の各物体の速度を求めます。

思考の道筋とポイント
2物体の衝突後の速度という2つの未知数を求める問題です。未知数が2つあるため、それらを求めるには独立した方程式が2本必要になります。衝突問題において、その2本の方程式は「運動量保存の法則」と「反発係数の式」から得られるのが定石です。それぞれの法則を正しく立式し、連立方程式を正確に解くことが求められます。特に、速度はベクトル量であるため、最初に定めた正の向きに対する符号の扱いに注意することが重要です。
この設問における重要なポイント

  • 運動量保存の法則: \(m_A v_A + m_B v_B = m_A v_A’ + m_B v_B’\)
  • 反発係数の式: \(e = -\displaystyle\frac{v_A’ – v_B’}{v_A – v_B}\)
  • 符号のルール: 最初に正の向きを決め、その向きの速度は正、逆向きの速度は負の値として式に代入する。

具体的な解説と立式
衝突前の物体Aの進む向きを正の向きとします。

衝突前の各物体の速度は以下のようになります。

  • 物体Aの速度: \(v_A = +10 \, \text{m/s}\)
  • 物体Bの速度: \(v_B = -5.0 \, \text{m/s}\)

衝突後の物体A, Bの速度をそれぞれ \(v_A’\), \(v_B’\) と置きます。

まず、運動量保存の法則を適用します。
$$ m_A v_A + m_B v_B = m_A v_A’ + m_B v_B’ \quad \cdots ① $$

次に、反発係数の式を適用します。
$$ e = -\frac{v_A’ – v_B’}{v_A – v_B} \quad \cdots ② $$

これらの式に、問題文で与えられた質量 \(m_A = 2.0 \, \text{kg}\), \(m_B = 3.0 \, \text{kg}\)、反発係数 \(e = 0.50\) と、上で定義した速度の値を代入することで、\(v_A’\) と \(v_B’\) に関する2つの式を導きます。

使用した物理公式

  • 運動量保存の法則: \(m_A v_A + m_B v_B = m_A v_A’ + m_B v_B’\)
  • 反発係数の式: \(e = -\displaystyle\frac{v_A’ – v_B’}{v_A – v_B}\)
計算過程

運動量保存の法則の式①に数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
2.0 \times 10 + 3.0 \times (-5.0) &= 2.0 v_A’ + 3.0 v_B’ \\[2.0ex]20 – 15 &= 2.0 v_A’ + 3.0 v_B’ \\[2.0ex]5.0 &= 2.0 v_A’ + 3.0 v_B’ \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
次に、反発係数の式②に数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
0.50 &= -\frac{v_A’ – v_B’}{10 – (-5.0)} \\[2.0ex]0.50 &= -\frac{v_A’ – v_B’}{15}
\end{aligned}
$$
この式の両辺に15を掛けて整理します。
$$
\begin{aligned}
0.50 \times 15 &= -(v_A’ – v_B’) \\[2.0ex]7.5 &= -v_A’ + v_B’ \quad \cdots ④
\end{aligned}
$$
これで、\(v_A’\) と \(v_B’\) に関する連立方程式③と④が得られました。これを解きます。

式④を2倍して、式③に加えることで \(v_A’\) を消去します。

式④ \(\times 2\):
$$ -2.0 v_A’ + 2.0 v_B’ = 15 \quad \cdots ④’ $$
式③ + 式④’:
$$
\begin{aligned}
(2.0 v_A’ + 3.0 v_B’) + (-2.0 v_A’ + 2.0 v_B’) &= 5.0 + 15 \\[2.0ex]5.0 v_B’ &= 20 \\[2.0ex]v_B’ &= 4.0 \, [\text{m/s}]\end{aligned}
$$
得られた \(v_B’ = 4.0\) を式④に代入して \(v_A’\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
-v_A’ + 4.0 &= 7.5 \\[2.0ex]-v_A’ &= 7.5 – 4.0 \\[2.0ex]-v_A’ &= 3.5 \\[2.0ex]v_A’ &= -3.5 \, [\text{m/s}]\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

衝突の問題は、「運動量の合計は変わらない」というルール(運動量保存則)と、「衝突前後の近づく速さと遠ざかる速さの比は一定」というルール(反発係数の式)の2つを使って解くのが定番です。この2つのルールから、衝突後の速さ \(v_A’\) と \(v_B’\) を使った式を2本作ります。あとは、数学で習った連立方程式を解けば、それぞれの速さが求まります。このとき、最初に「右向きをプラス」のように向きのルールを決めて、逆向きの速さにはマイナスをつけて計算するのが大切なポイントです。

結論と吟味

衝突後の速度は、物体Aが \(v_A’ = -3.5 \, \text{m/s}\)、物体Bが \(v_B’ = 4.0 \, \text{m/s}\) となります。

  • 物体A: 計算結果が負なので、最初に定めた正の向き(衝突前のAの向き)とは逆向きに、速さ \(3.5 \, \text{m/s}\) で進む。
  • 物体B: 計算結果が正なので、最初に定めた正の向き(衝突前のAの向き)と同じ向きに、速さ \(4.0 \, \text{m/s}\) で進む。

これは、両物体とも衝突によって進行方向が逆になったことを意味しており、物理的に十分ありえる結果です。

解答 物体A: 衝突前と逆向きに \(3.5 \, \text{m/s}\), 物体B: 衝突前と逆向きに \(4.0 \, \text{m/s}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 衝突現象における2大法則の適用:
    • 核心: 2物体の衝突問題を解くための最も基本的な思考フレームワークを理解することです。それは、未知数が衝突後の2物体の速度(\(v_A’, v_B’\))の2つであるため、独立した2つの法則、「運動量保存の法則」と「反発係数の式」を連立させて解く、という定石です。
    • 理解のポイント:
      • 運動量保存則: 衝突の際に2物体が及ぼしあう力(内力)は作用・反作用の関係にあり、系全体で見ると運動量の合計は変化しない、という物理的背景を理解する。
      • 反発係数の式: 衝突によるエネルギーの損失度合いを表現する便利な指標であり、衝突後の相対的な運動状態を記述する。\(e=1\)ならエネルギーが保存される弾性衝突、\(0 \le e < 1\)ならエネルギーが失われる非弾性衝突となる。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 完全弾性衝突 (\(e=1\)): 反発係数の式が単純になり、計算が少し楽になる。特に、質量が等しい2物体が完全弾性衝突すると、速度が交換されるという興味深い性質がある。
    • 完全非弾性衝突(合体, \(e=0\)): 衝突後に2物体が一体となって運動する。この場合、衝突後の速度は \(v_A’ = v_B’\) となり、未知数が1つになるため、運動量保存則だけで解くことができる。反発係数の式は不要になる。
    • 分裂問題: 静止している物体が2つ以上に分裂する場合。これは衝突の逆の過程と見なせる。分裂前の運動量が0なので、分裂後の各物体の運動量のベクトル和も0になる、という運動量保存則を適用する。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 座標軸(正の向き)の設定: まず、一直線上のどちらの向きを正とするかを明確に決める。これにより、各物体の速度の符号が決まる。
    2. 衝突前後の状態を整理: 衝突前の各物体の質量と速度(符号付き)、衝突後の未知の速度を文字で置く。
    3. 2つの法則を機械的に立式: まずは何も考えずに「運動量保存則」と「反発係数の式」を文字式のまま書き下す。
    4. 数値を慎重に代入: 書き下した2つの式に、問題の数値を符号に注意しながら代入し、連立方程式を完成させる。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 反発係数の式の符号ミス:
    • 誤解: 反発係数の式 \(e = -\displaystyle\frac{v_A’ – v_B’}{v_A – v_B}\) の右辺のマイナス符号を忘れてしまう。
    • 対策: この式は「衝突後の相対速度(\(v_A’ – v_B’\))は、衝突前の相対速度(\(v_A – v_B\))の \(-e\) 倍になる」と覚える。衝突すれば通常は向きが逆になるので、マイナス符号が付くと覚えるのが効果的。また、分母と分子で物体の順番(A-B)を揃えることも重要。
  • 速度の符号の代入ミス:
    • 誤解: 最初に正の向きを決めたにもかかわらず、逆向きの速度(この問題では \(v_B = -5.0\))を正の値のまま代入してしまう。
    • 対策: 立式する前に、問題の図の横に自分で軸を描き、\(v_A = +10\), \(v_B = -5.0\) のように、使う値を符号付きでメモしておく。代入時にそのメモを見るようにすれば、ミスを減らせる。
  • 連立方程式の計算ミス:
    • 誤解: 2元1次連立方程式の加減法や代入法での単純な計算ミス。特に、係数が小数だったり、負の符号が多かったりするとミスが起きやすい。
    • 対策: 式を整理する際は、③や④のように番号を振り、どの式をどう変形したかを明確に記述する。計算過程を丁寧に書き、検算する習慣をつける。例えば、求まった \(v_A’\) と \(v_B’\) を元の式③と④の両方に代入し、両方が成り立つかを確認する。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 運動量保存の法則:
    • 選定理由: 衝突現象では、2物体が互いに力を及ぼしあうが、その力(内力)は作用・反作用の法則に従う。2物体を一つの「系」として考えると、内力による力積は互いに打ち消し合うため、外部から力が加わらなければ、系の全運動量は保存される。これは衝突問題を扱う上で最も基本的な法則の一つ。
    • 適用根拠: 問題は2物体の衝突であり、床からの摩擦や空気抵抗などの外力は無視できる状況。したがって、運動量保存則が適用できる。
  • 反発係数の式:
    • 選定理由: 運動量保存則だけでは、未知数2つ(\(v_A’, v_B’\))に対して式が1本しかなく、解が定まらない。衝突の「跳ね返り具合」を規定するもう一つの関係式が必要であり、それが反発係数の式。
    • 適用根拠: 問題文で反発係数 \(e\) の値が具体的に与えられているため、この式を使うことが前提となっている。この式は、衝突前後の相対速度の関係を定義するもので、運動量保存則とは独立した関係式であるため、連立方程式のもう一本として有効。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 式の整理整頓: 連立方程式を解く際、小数を含む式は両辺を10倍するなどして整数係数に直すと計算しやすくなる場合がある。例えば、式④ \( -v_A’ + v_B’ = 7.5 \) は、両辺を2倍して \( -2v_A’ + 2v_B’ = 15 \) とすると、後の計算が楽になることがある。
  • 加減法の工夫: この問題の解答のように、片方の式を定数倍して足し引きする加減法が有効。どの文字を消去するかを決め、その文字の係数の絶対値がそろうように定数倍する。
  • 代入法の活用: 式④を \(v_B’ = v_A’ + 7.5\) のように変形し、これを式③に代入して解く方法もある。どちらが楽かは式によるが、両方の方法に習熟しておくことが望ましい。
  • 最終確認: 求まった解(\(v_A’ = -3.5, v_B’ = 4.0\))の物理的な意味を考える。「Aは逆向きに、Bも逆向き(結果的にAの初期方向)に跳ね返った」という結果が、直感的に不自然でないかを確認する。

例題28 分裂

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「平面上での分裂と運動量保存の法則」です。一直線上ではなく、平面上で物体が分裂する際の運動量の扱方が問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 運動量保存の法則(ベクトル): 物体が分裂する際、爆発の力は内力であるため、分裂の前後で系全体の運動量のベクトル和は保存されます。(\(\vec{p}_{\text{前}} = \vec{p}_{\text{後}}\))
  2. ベクトルの成分分解: 平面上のベクトル量を扱う基本的な手法です。運動量を互いに直交する2つの方向(x成分、y成分)に分解し、各方向で運動量保存則を適用します。
  3. 三角比: 速度ベクトルや運動量ベクトルを成分分解する際に、\(\sin\theta\) や \(\cos\theta\) を用います。
  4. 連立方程式: x成分とy成分から得られる2つの式を連立させて、2つの未知数(分裂後の各物体の速さ)を解きます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 東向きをx軸、北向きをy軸など、直交する座標軸を設定します。
  2. 分裂前の運動量をx成分、y成分に分解します。
  3. 分裂後の各物体の運動量を、未知の速さ(\(v_B, v_C\))と三角比を用いてx成分、y成分に分解します。
  4. x方向、y方向それぞれで「分裂前の運動量 = 分裂後の運動量の和」という運動量保存の式を立てます。
  5. 得られた2本の連立方程式を解いて、\(v_B\) と \(v_C\) を求めます。

思考の道筋とポイント
物体Aが分裂してBとCになる、平面上の運動量保存の問題です。求める未知数は分裂後の速さ \(v_B\) と \(v_C\) の2つです。したがって、独立した方程式が2本必要となります。平面運動では、運動量保存という1つのベクトル方程式を、互いに直交する2つの成分(x方向とy方向)に分解することで、2本のスカラー方程式を得るのが最も標準的で確実な解法です。
この設問における重要なポイント

  • 運動量保存則はベクトルについての法則であり、平面運動ではx成分とy成分に分けて考える。
  • x方向の運動量保存: \(p_{\text{前x}} = p_{\text{後x}}\)
  • y方向の運動量保存: \(p_{\text{前y}} = p_{\text{後y}}\)
  • 各物体の運動量成分を、三角比を用いて正しく表現する。特に、座標軸の負の向きになる成分の符号に注意する。

具体的な解説と立式
東向きをx軸の正方向、北向きをy軸の正方向とします。

分裂前の物体Aの運動量は、x方向のみに成分を持ちます。

  • 分裂前のx方向の運動量: \(p_{Ax} = m_A v_A = 8.0 \times 12 = 96 \, [\text{kg} \cdot \text{m/s}]\)
  • 分裂前のy方向の運動量: \(p_{Ay} = 0\)

分裂後の物体B, Cの運動量を、速さ \(v_B, v_C\) を用いて成分分解します。

  • 物体Bの運動量成分:
    • x方向: \(p_{Bx} = m_B v_B \cos 60^\circ = 3.0 v_B \times \displaystyle\frac{1}{2}\)
    • y方向: \(p_{By} = m_B v_B \sin 60^\circ = 3.0 v_B \times \displaystyle\frac{\sqrt{3}}{2}\)
  • 物体Cの運動量成分:
    • x方向: \(p_{Cx} = m_C v_C \cos 30^\circ = 5.0 v_C \times \displaystyle\frac{\sqrt{3}}{2}\)
    • y方向: \(p_{Cy} = -m_C v_C \sin 30^\circ = -5.0 v_C \times \displaystyle\frac{1}{2}\) (南向きなのでy成分は負)

運動量保存の法則をx方向、y方向それぞれで立式します。

  • x方向の運動量保存則:
    $$ 96 = 3.0 v_B \times \frac{1}{2} + 5.0 v_C \times \frac{\sqrt{3}}{2} \quad \cdots ① $$
  • y方向の運動量保存則:
    $$ 0 = 3.0 v_B \times \frac{\sqrt{3}}{2} – 5.0 v_C \times \frac{1}{2} \quad \cdots ② $$

使用した物理公式

  • 運動量保存の法則(成分表示):
    • x方向の運動量保存: \(p_{\text{前x}} = p_{\text{後x}}\)
    • y方向の運動量保存: \(p_{\text{前y}} = p_{\text{後y}}\)
計算過程

まず、式②を整理して \(v_B\) と \(v_C\) の関係を求めます。
$$
\begin{aligned}
3.0 v_B \times \frac{\sqrt{3}}{2} &= 5.0 v_C \times \frac{1}{2} \\[2.0ex]3.0 \sqrt{3} v_B &= 5.0 v_C \\[2.0ex]v_C &= \frac{3.0\sqrt{3}}{5.0} v_B \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
次に、式①の両辺を2倍して整理します。
$$
192 = 3.0 v_B + 5.0 \sqrt{3} v_C \quad \cdots ④
$$
式④に式③を代入して \(v_B\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
192 &= 3.0 v_B + 5.0 \sqrt{3} \left( \frac{3.0\sqrt{3}}{5.0} v_B \right) \\[2.0ex]192 &= 3.0 v_B + 3.0 \times (\sqrt{3})^2 v_B \\[2.0ex]192 &= 3.0 v_B + 9.0 v_B \\[2.0ex]192 &= 12.0 v_B \\[2.0ex]v_B &= \frac{192}{12.0} \\[2.0ex]v_B &= 16 \, [\text{m/s}]\end{aligned}
$$
得られた \(v_B = 16\) を式③に代入して \(v_C\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
v_C &= \frac{3.0\sqrt{3}}{5.0} \times 16 \\[2.0ex]&= \frac{48\sqrt{3}}{5.0} \\[2.0ex]&= 9.6\sqrt{3}
\end{aligned}
$$
\(\sqrt{3} \approx 1.73\) として計算します。
$$
\begin{aligned}
v_C &\approx 9.6 \times 1.73 \\[2.0ex]&= 16.608 \\[2.0ex]&\approx 17 \, [\text{m/s}]\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えます。

計算方法の平易な説明

斜めに飛び散るような2次元の運動は、一見複雑ですが、「横方向(x軸)」と「縦方向(y軸)」に分けて考えるとシンプルになります。分裂の前後で、「横方向の運動量の合計」と「縦方向の運動量の合計」はそれぞれ変化しません。この2つのルールから式を2本作ることができます。未知数が分裂後の速さ2つなので、この2本の式を連立方程式として解けば、答えが求まります。

結論と吟味

分裂後の速さは、Bが \(16 \, \text{m/s}\)、Cが \(17 \, \text{m/s}\) となります。分裂前の物体Aよりも分裂後のB, Cの速さが大きくなることは、火薬の爆発による化学エネルギーが運動エネルギーに変換されたことを考えれば物理的に妥当です。

解答 Bの速さ: \(16 \, \text{m/s}\), Cの速さ: \(17 \, \text{m/s}\)
別解: ベクトル図による解法

思考の道筋とポイント
運動量保存の法則 \(\vec{p}_A = \vec{p}_B + \vec{p}_C\) を、ベクトルを矢印で表した図で考える方法です。特に、この問題のように分裂後の2つの物体の進行方向がなす角が \(60^\circ + 30^\circ = 90^\circ\) となる場合、ベクトル図がきれいな直角三角形を描き、三角比を用いることで計算が簡単になることがあります。
この設問における重要なポイント

  • 運動量保存則をベクトル図で表現する: \(\vec{p}_A = \vec{p}_B + \vec{p}_C\)
  • ベクトル図が描く図形の幾何学的な性質(特に角度)に着目する。
  • 三角比を用いて、ベクトルの大きさ(運動量の大きさ)の関係を導き出す。

具体的な解説と立式
運動量保存の法則 \(\vec{p}_A = \vec{p}_B + \vec{p}_C\) をベクトル図で考えます。

  • \(\vec{p}_A\): 東向きのベクトル
  • \(\vec{p}_B\): 東向きから北へ60°のベクトル
  • \(\vec{p}_C\): 東向きから南へ30°のベクトル

この3つのベクトルは、図に示すように、\(\vec{p}_A\) を斜辺とし、\(\vec{p}_B\) と \(\vec{p}_C\) の方向のベクトルを他の2辺とする直角三角形を構成します。

この直角三角形において、各辺の長さ(運動量の大きさ)の間には三角比の関係が成り立ちます。

  • 物体Bの運動量:
    $$ |\vec{p}_B| = |\vec{p}_A| \cos 60^\circ $$
  • 物体Cの運動量:
    $$ |\vec{p}_C| = |\vec{p}_A| \sin 60^\circ \quad (\text{または } |\vec{p}_A| \cos 30^\circ) $$

使用した物理公式

  • 運動量保存の法則(ベクトル): \(\vec{p}_A = \vec{p}_B + \vec{p}_C\)
  • 三角比
計算過程

まず、分裂前の運動量の大きさ \(p_A\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
p_A &= m_A v_A \\[2.0ex]&= 8.0 \times 12 \\[2.0ex]&= 96 \, [\text{kg} \cdot \text{m/s}]\end{aligned}
$$
物体Bの速さ \(v_B\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
m_B v_B &= p_A \cos 60^\circ \\[2.0ex]3.0 v_B &= 96 \times \frac{1}{2} \\[2.0ex]3.0 v_B &= 48 \\[2.0ex]v_B &= 16 \, [\text{m/s}]\end{aligned}
$$
物体Cの速さ \(v_C\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
m_C v_C &= p_A \cos 30^\circ \\[2.0ex]5.0 v_C &= 96 \times \frac{\sqrt{3}}{2} \\[2.0ex]5.0 v_C &= 48\sqrt{3} \\[2.0ex]v_C &= 9.6\sqrt{3}
\end{aligned}
$$
\(\sqrt{3} \approx 1.73\) として計算します。
$$
\begin{aligned}
v_C &\approx 9.6 \times 1.73 \\[2.0ex]&= 16.608 \\[2.0ex]&\approx 17 \, [\text{m/s}]\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

運動量のベクトル(矢印)をルール(\(\vec{p}_A = \vec{p}_B + \vec{p}_C\))に従ってつなげると、今回は偶然きれいな直角三角形が出来上がります。直角三角形であれば、中学校で習った三角比(\(\sin, \cos\))を使って、分からない辺の長さ(運動量の大きさ)を簡単に計算することができます。

結論と吟味

ベクトル図を用いた解法でも、成分分解による解法と全く同じ結果(Bが \(16 \, \text{m/s}\)、Cが \(17 \, \text{m/s}\))が得られました。この解法は、図形的な関係がすぐに分かる場合に非常に強力ですが、角度が特殊でない一般の分裂問題では、成分分解で解く方が確実です。


【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 平面運動における運動量保存則の適用:
    • 核心: 運動量保存の法則が、向きを持つベクトルについての法則であることを深く理解することです。物体が分裂や衝突を平面上で行う場合、運動量保存のベクトル式 (\(\vec{p}_{\text{前}} = \vec{p}_{\text{後}}\)) を、互いに直交する2つの成分(x成分、y成分)に分解して、2本の独立したスカラー方程式として扱うのが、この種の問題を解く上での最も重要かつ普遍的なアプローチです。
    • 理解のポイント:
      • なぜ成分分解するのか: ベクトルを直接扱うのは難しいが、成分に分解すれば、それぞれの方向で単純な足し算・引き算として扱えるようになるため。
      • 内力の役割: 分裂を引き起こす爆発の力は、物体内部で互いに及ぼしあう「内力」です。内力は作用・反作用の関係にあるため、系全体として見れば運動量を変化させません。これが運動量保存則が成り立つ根拠です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 斜め衝突: 2物体が斜めに衝突する問題。衝突前後の4つの速度ベクトルが登場し複雑に見えるが、これもx成分とy成分に分解し、「x方向の運動量保存」と「y方向の運動量保存」の2式を立てることで対処できる。(反発係数も絡むとさらに式が増える)
    • 合体問題: 2つの物体が衝突して一体となる問題の2次元版。これも分裂の逆過程であり、運動量保存則を成分分解して適用する。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 座標軸の設定: まず、計算が最も楽になるように座標軸を設定します。分裂前や分裂後の物体のうち、1つの運動方向をx軸に合わせるのが定石です。この問題では、分裂前のAの進行方向(東向き)をx軸に取ると、分裂前のy方向の運動量が0になり、計算が簡略化されます。
    2. ベクトル図の概略を描く: 分裂前後の運動量ベクトルを矢印で描き、関係性 (\(\vec{p}_A = \vec{p}_B + \vec{p}_C\)) を視覚的に把握します。このとき、角度が \(90^\circ\) のような特殊な関係になっていないかを確認します。
    3. 解法の選択:
      • 特殊な角度(例: \(90^\circ\))の場合: 別解で示したような、ベクトル図の幾何学的性質(三角比)を利用する解法が速くて有効な場合がある。
      • 一般の角度の場合: どんな角度でも確実に対応できる「成分分解による連立方程式」のアプローチを選択する。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 成分分解の符号ミス:
    • 誤解: (主解法で) 物体Cのy成分を計算する際、南向きであることを見落とし、正の値として式を立ててしまう。(\(0 = … + 5.0 v_C \times \frac{1}{2}\) のように)
    • 対策: 座標軸を設定したら、各ベクトルの成分が軸の正の向きか負の向きかを一つ一つ確認する癖をつける。図に「x+」「y+」と矢印を書き込み、それと逆向きの成分には必ずマイナスをつけることを徹底する。
  • 三角比の取り違え (\(\sin\) と \(\cos\)):
    • 誤解: x成分を求めるべきところで \(\sin\) を使ったり、y成分で \(\cos\) を使ったりする。
    • 対策: 角度 \(\theta\) が「x軸となす角」として与えられている場合、x成分は \(\cos\theta\)、y成分は \(\sin\theta\) と機械的に覚えるのではなく、「角度を挟む辺がコサイン(cos)」と覚える。ベクトル図を描き、どの辺がどの三角比に対応するかを視覚的に確認する。
  • ベクトル図の誤解(別解):
    • 誤解: \(\vec{p}_A = \vec{p}_B + \vec{p}_C\) の関係を、単純に長さの足し算 \(|\vec{p}_A| = |\vec{p}_B| + |\vec{p}_C|\) だと勘違いする。
    • 対策: ベクトル和は「矢印のつぎたし」であることを常に意識する。\(\vec{p}_B\) の矢印の終点に \(\vec{p}_C\) の矢印の始点をつなげた結果が、\(\vec{p}_A\) の矢印と一致する、という作図ルールを徹底する。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 運動量保存の法則(成分分解):
    • 選定理由: 求める未知数が \(v_B, v_C\) の2つであるため、独立した2本の方程式が必要です。運動量保存という1つのベクトル則を、直交する2つの成分(x, y)に分解することで、この要求を満たす2本のスカラー方程式が得られます。これは平面ベクトルを扱う際の最も基本的かつ強力な手法です。
    • 適用根拠: 爆発は内力によるものであり、なめらかな水平面上での運動なので外力は働かない(あるいは無視できる)ため、運動量保存則がx, y各成分で独立に成立します。
  • ベクトル図と三角比(別解):
    • 選定理由: 分裂後の2つの運動量ベクトルのなす角が \(90^\circ\) という特殊な状況であることに着目した場合、この幾何学的な性質を利用すると、連立方程式を解くよりも計算が簡潔になる可能性があります。
    • 適用根拠: 運動量保存のベクトル式 \(\vec{p}_A = \vec{p}_B + \vec{p}_C\) が成り立つとき、3つのベクトルは三角形を構成します。その三角形がたまたま直角三角形であったため、ピタゴラスの定理や三角比といった幾何学のツールが直接適用できるのです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 式の整理: 連立方程式を解く前に、各方程式をできるだけ簡単な形に整理する。例えば、主解法の式①、②は、まず両辺を2倍して分数をなくしてから計算を進めると、ミスが減ります。
  • 代入の確実性: 一方の式から \(v_C = (\text{…}) v_B\) のような関係式を導き、もう一方の式に代入する際、代入先の \(v_C\) に正しく式全体を代入する。特に、係数や符号を忘れないように注意する。
  • 平方根の計算: \(\sqrt{3}\) を含む計算は、最後まで文字のように扱って式を整理し、最終的な数値を出す段階で初めて \(1.73\) などの近似値を代入する。
  • 有効数字: 問題文で与えられている数値(8.0kg, 12m/s など)が2桁なので、最終的な答えも有効数字2桁に丸めることを忘れない。\(16.608 \rightarrow 17\) のような処理を最後に行う。

例題29 平面上での衝突

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「平面上での衝突と運動量保存則」です。2つの物体が直交する方向から進んできて衝突するという、平面衝突の基本的な問題です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 運動量保存の法則(ベクトル): 衝突の前後で、系全体の運動量のベクトル和は保存されます。
  2. ベクトルの成分分解: 運動量というベクトル量を、互いに直交するx成分とy成分に分解して考えます。
  3. 各成分における運動量保存: x方向の運動量の和と、y方向の運動量の和は、それぞれ独立に保存されます。
  4. 三平方の定理と三角比: 速度のx成分とy成分から、速度ベクトルの大きさ(速さ)と向き(角度)を求める際に使用します。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 問題で与えられているxy座標系をそのまま利用します。
  2. 衝突前後の各物体の運動量を、x成分とy成分に分解して整理します。
  3. 「x方向の運動量の和は保存される」「y方向の運動量の和は保存される」という2つの法則をそれぞれ立式します。
  4. これら2つの式から、衝突後の物体Bの速度のx成分とy成分を求めます。
  5. 最後に、三平方の定理を用いて速さの大きさを、成分の比から\(\tan\theta\)の値を計算します。

思考の道筋とポイント
2物体が平面上で衝突する問題です。求めるものは、衝突後の物体Bの速度の大きさと向きです。これを求めるためには、まず衝突後の物体Bの速度のx成分とy成分という2つの未知数を特定する必要があります。未知数が2つなので、独立した方程式が2本必要です。平面上の運動量保存則をx方向とy方向に分けて適用することで、この2本の方程式を得るのが定石です。
この設問における重要なポイント

  • 運動量保存則はベクトルについての法則であり、平面運動ではx成分とy成分に分けて考える。
  • x方向の運動量保存: \(m_A v_{Ax} + m_B v_{Bx} = m_A v’_{Ax} + m_B v’_{Bx}\)
  • y方向の運動量保存: \(m_A v_{Ay} + m_B v_{By} = m_A v’_{Ay} + m_B v’_{By}\)
  • 速度の成分 \(v_x, v_y\) から、速さ \(v\) と角度 \(\theta\) を求める関係: \(v = \sqrt{v_x^2 + v_y^2}\), \(\tan\theta = \displaystyle\frac{v_y}{v_x}\)

具体的な解説と立式
衝突後の物体Bの速度を \(\vec{v’}_B\) とし、そのx成分を \(v’_{Bx}\), y成分を \(v’_{By}\) とおきます。

衝突前後の各物体の速度の成分は以下の通りです。

  • 衝突前A: \(v_{Ax} = 3.0\), \(v_{Ay} = 0\)
  • 衝突前B: \(v_{Bx} = 0\), \(v_{By} = 5.0\)
  • 衝突後A: \(v’_{Ax} = 0\), \(v’_{Ay} = 6.0\)
  • 衝突後B: \(v’_{Bx}\), \(v’_{By}\) (未知数)

x方向とy方向それぞれについて、運動量保存の法則を立てます。

  • x方向の運動量保存則:
    $$ m_A v_{Ax} + m_B v_{Bx} = m_A v’_{Ax} + m_B v’_{Bx} $$
    $$ 2.0 \times 3.0 + 4.0 \times 0 = 2.0 \times 0 + 4.0 v’_{Bx} \quad \cdots ① $$
  • y方向の運動量保存則:
    $$ m_A v_{Ay} + m_B v_{By} = m_A v’_{Ay} + m_B v’_{By} $$
    $$ 2.0 \times 0 + 4.0 \times 5.0 = 2.0 \times 6.0 + 4.0 v’_{By} \quad \cdots ② $$

これらの連立方程式を解くことで、\(v’_{Bx}\) と \(v’_{By}\) を求めます。

使用した物理公式

  • 運動量保存の法則(成分表示)
  • 三平方の定理: \(v = \sqrt{v_x^2 + v_y^2}\)
  • 正接の定義: \(\tan\theta = \displaystyle\frac{v_y}{v_x}\)
計算過程

まず、式①を解いて \(v’_{Bx}\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
6.0 &= 4.0 v’_{Bx} \\[2.0ex]v’_{Bx} &= \frac{6.0}{4.0} \\[2.0ex]v’_{Bx} &= 1.5 \, [\text{m/s}]\end{aligned}
$$
次に、式②を解いて \(v’_{By}\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
20 &= 12 + 4.0 v’_{By} \\[2.0ex]4.0 v’_{By} &= 20 – 12 \\[2.0ex]4.0 v’_{By} &= 8.0 \\[2.0ex]v’_{By} &= 2.0 \, [\text{m/s}]\end{aligned}
$$
衝突後の物体Bの速度成分が求まったので、速さの大きさ \(v’_B\) を三平方の定理で計算します。
$$
\begin{aligned}
v’_B &= \sqrt{(v’_{Bx})^2 + (v’_{By})^2} \\[2.0ex]&= \sqrt{1.5^2 + 2.0^2} \\[2.0ex]&= \sqrt{2.25 + 4.0} \\[2.0ex]&= \sqrt{6.25} \\[2.0ex]&= 2.5 \, [\text{m/s}]\end{aligned}
$$
最後に、\(\vec{v’}_B\) がx軸となす角 \(\theta\) の \(\tan\theta\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
\tan\theta &= \frac{v’_{By}}{v’_{Bx}} \\[2.0ex]&= \frac{2.0}{1.5} \\[2.0ex]&= \frac{4}{3} \\[2.0ex]&\approx 1.333…
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えるため、\(1.3\) となります。

計算方法の平易な説明

平面上の衝突は、一見複雑ですが、「x方向(横方向)」と「y方向(縦方向)」に完全に分けて考えるのがコツです。衝突の前後で、「x方向の運動量の合計」と「y方向の運動量の合計」は、それぞれ変化しません。この2つのルールを使って、衝突後の物体Bの「x方向の速さ」と「y方向の速さ」を別々に計算します。最後に、この2つの方向の速さが分かれば、三平方の定理(ピタゴラスの定理)を使って全体の速さを、分数の計算で進む角度(のタンジェント)を求めることができます。

結論と吟味

衝突後の物体Bの速さの大きさは \(2.5 \, \text{m/s}\)、x軸となす角 \(\theta\) に対する \(\tan\theta\) の値は \(1.3\) です。

衝突前の運動量の合計は、x方向が \(2.0 \times 3.0 = 6.0\)、y方向が \(4.0 \times 5.0 = 20\) です。

衝突後の運動量の合計は、x方向が \(4.0 \times 1.5 = 6.0\)、y方向が \(2.0 \times 6.0 + 4.0 \times 2.0 = 12 + 8.0 = 20\) となり、x, y両方向で運動量が保存されていることが確認でき、計算は妥当であると言えます。

解答 \(v_B = 2.5 \, \text{m/s}\), \(\tan\theta = 1.3\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 運動量保存則の成分分解による適用:
    • 核心: この問題は、前問(例題10)と同様に、平面上の運動量保存則を扱う問題です。核心は、ベクトルである運動量の保存を、互いに直交する2つの軸(x軸、y軸)の成分に分解し、「x方向の運動量の総和」と「y方向の運動量の総和」がそれぞれ独立に保存される、という考え方を適用することです。
    • 理解のポイント:
      • なぜ成分分解が有効か: 衝突によって物体が互いに及ぼしあう力は複雑な向きを向きますが、その力をx成分とy成分に分解すると、x方向の力はx方向の運動量のみを、y方向の力はy方向の運動量のみを変化させます。系全体で見れば、これらの力(内力)による力積は各成分で打ち消しあうため、各成分で運動量保存則が成り立ちます。
      • 情報の整理: 衝突前後の4つの状態(A前、B前、A後、B後)について、それぞれの運動量をx, y成分に分けて表にすると、情報の整理がしやすくなります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 反発係数が関わる平面衝突: この問題に加えて反発係数eが与えられた場合、衝突面に垂直な方向の相対速度に対して反発係数の式を適用します。運動量保存則の2式と合わせて、より多くの未知数を求めることができます。
    • 重心の運動: 衝突や分裂が起こっても、外力が働かなければ系の重心は等速直線運動を続けます。この「重心速度不変の法則」は、運動量保存則と等価な法則であり、別の視点から問題を解く際に役立つことがあります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 座標軸の確認: 問題でxy座標が与えられているので、それをそのまま利用します。与えられていない場合は、衝突前の物体の進行方向の1つをx軸に合わせるなど、計算が簡単になるように自分で設定します。
    2. 運動量成分のリストアップ: 衝突前後の全物体の運動量について、x成分とy成分を書き出します。このとき、動いていない成分は0、軸と逆向きの成分は負の値になることに注意します。
    3. 2本の式を立てる: 「x方向の運動量保存」と「y方向の運動量保存」の2つの式を、リストアップした成分を使って機械的に立てます。
    4. 最終的な要求を確認: 問題が求めているのは「速度の成分」か、それとも「速さ(大きさ)」と「向き(角度)」なのかを最後に確認します。成分を求めた後、三平方の定理や三角比を使って最終的な答えの形に変換するのを忘れないようにします。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 運動量と速度の混同:
    • 誤解: 運動量保存の式を立てる際に、質量mを掛け忘れて速度の式を立ててしまう。(例: \(3.0 = v’_{Bx}\) のように)
    • 対策: 運動量保存則は「運動量 \(p=mv\)」の保存則であると常に意識する。式を立てる際に、各項が「質量×速度」の形になっているかを指差し確認する。
  • 成分の計算ミス:
    • 誤解: 衝突前の運動量を計算する際、物体Aの運動量をy成分に、物体Bの運動量をx成分に誤って計上してしまう。
    • 対策: 衝突前の状態を図に描き、Aはx軸上、Bはy軸上を動いていることを視覚的に確認する。Aのy成分は0、Bのx成分は0であることを明確にしてから立式する。
  • 三平方の定理の計算ミス:
    • 誤解: \(v’_B = \sqrt{1.5^2 + 2.0^2}\) の計算で、\(1.5^2 = 2.25\) のような小数の二乗の計算を間違える。あるいは、\(\sqrt{6.25}\) から \(2.5\) を導き出せない。
    • 対策: 小数の計算は慎重に行う。\(1.5 = 3/2\), \(2.0 = 4/2\) のように分数に直すと、\(v’_B = \sqrt{(3/2)^2 + (4/2)^2} = \sqrt{9/4 + 16/4} = \sqrt{25/4} = 5/2 = 2.5\) のように、暗算しやすい場合もある。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 運動量保存の法則(成分分解):
    • 選定理由: 求める未知数が、衝突後の物体Bの速度のx成分 \(v’_{Bx}\) とy成分 \(v’_{By}\) の2つです。この2つの未知数を決定するために、独立した2本の方程式が必要となります。平面上の衝突という状況で、この条件を満たす最も基本的な法則が、運動量保存則をx成分とy成分に分解して適用する方法です。
    • 適用根拠: なめらかな水平面上での衝突であり、外力(摩擦など)は働かないため、運動量保存則が成立します。ベクトル量である運動量は、どの直交座標系を選んでも、その各成分について保存則が独立して成り立ちます。
  • 三平方の定理と正接の定義:
    • 選定理由: 問題は最終的に、速度の「大きさ(速さ)」と「向き(\(\tan\theta\))」を求めています。計算過程で得られるのは速度の「x成分」と「y成分」です。ベクトルの成分からその大きさと向きを求めるための数学的ツールが、三平方の定理と三角比(正接)の定義です。
    • 適用根拠: 速度のx成分とy成分は、速度ベクトルを2辺とする直角三角形の残りの2辺に相当します。したがって、これらの幾何学的な関係式が直接適用できます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 式の単純化: y方向の運動量保存の式 \(4.0 \times 5.0 = 2.0 \times 6.0 + 4.0 v’_{By}\) は、計算を進める前に全体を2で割るなどして \(10 = 6.0 + 2.0 v’_{By}\) のように係数を小さくすると、計算ミスを減らせる場合があります。
  • 単位の省略と明記: 計算途中では単位を省略して数字の計算に集中し、最終的な答えにのみ正しい単位 [m/s] を明記する。
  • 分数の活用: \(1.5 = 3/2\) のように、小数を分数に直して計算すると、通分などで見通しが良くなることがあります。特に、\(\tan\theta = 2.0/1.5 = (4/2)/(3/2) = 4/3\) のように、比を簡単にする際に有効です。
  • 図の活用: 解答に示されているような運動量のベクトル図を自分で描いてみる。衝突前の運動量ベクトル(x方向とy方向)の和が、衝突後の運動量ベクトル(Aのy方向とBの未知の方向)の和と等しくなることを図で確認すると、立式の意味がより深く理解でき、ミス防止につながります。

例題30 なめらかな面との斜め衝突

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「なめらかな面との斜め衝突」です。斜めに衝突する物体の運動を、面に平行な方向と垂直な方向に分解して考える、典型的な問題です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 速度の成分分解: 速度ベクトルを、面に平行な成分と垂直な成分という、互いに直交する2つの成分に分解します。
  2. 面に平行な方向の運動: 面が「なめらか」であるため、面に平行な方向には力が働きません。したがって、この方向の速度成分は衝突の前後で変化しません。
  3. 面に垂直な方向の運動: 面から垂直抗力(撃力)を受けるため、この方向の速度成分は変化します。この変化の様子を記述するのが反発係数です。
  4. 反発係数の定義: 面に垂直な方向において、「衝突後の遠ざかる速さ」と「衝突前の近づく速さ」の比で定義されます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 衝突前の速度 \(v\) と衝突後の速度 \(v’\) を、それぞれ面に平行な成分と垂直な成分に分解します。
  2. 面に平行な方向について、「速度成分が保存される」という式を立てます。
  3. 面に垂直な方向について、「反発係数の定義式」を立てます。
  4. 得られた2つの式から、未知数である \(v\) と \(v’\) を消去し、反発係数 \(e\) を角度 \(\theta_1, \theta_2\) を用いて表します。

思考の道筋とポイント
ボールがなめらかな面に斜めに衝突する問題です。このような問題では、運動を「面に平行な方向」と「面に垂直な方向」に分解して考えるのが定石です。なぜなら、それぞれの方向で適用される物理法則が異なるからです。平行方向は「何も起こらない(速度が変わらない)」、垂直方向は「跳ね返りが起こる(反発係数の式が使える)」と、別々に考えることで問題を単純化できます。最終的に反発係数 \(e\) を角度だけで表すことが目標なので、2つの方向から立てた式を連立させ、速さ \(v, v’\) を消去する方針で計算を進めます。
この設問における重要なポイント

  • なめらかな面との衝突では、面に平行な速度成分は保存される。
  • 反発係数は、面に垂直な方向の速度成分だけで定義される。
  • 速度の成分分解を、三角比を用いて正しく行う。

具体的な解説と立式
衝突前のボールの速さを \(v\)、衝突後の速さを \(v’\) とします。

速度ベクトルを、面に平行な方向(x方向とする)と、面に垂直な方向(y方向とする)に分解します。

衝突前の速度成分は、

  • 平行成分: \(v_x = v \cos\theta_1\)
  • 垂直成分: \(v_y = v \sin\theta_1\)

衝突後の速度成分は、

  • 平行成分: \(v’_x = v’ \cos\theta_2\)
  • 垂直成分: \(v’_y = v’ \sin\theta_2\)

次に、各方向で成り立つ法則を立式します。

  • 面に平行な方向:面はなめらかなので、この方向には力が働きません。したがって、速度成分は保存されます。
    $$ v \cos\theta_1 = v’ \cos\theta_2 \quad \cdots ① $$
  • 面に垂直な方向:反発係数 \(e\) の定義を適用します。壁は静止しているので、相対速度はボールの速度そのものです。
    $$ e = \frac{\text{衝突後の遠ざかる速さ}}{\text{衝突前の近づく速さ}} = \frac{v’_y}{v_y} $$
    したがって、
    $$ e = \frac{v’ \sin\theta_2}{v \sin\theta_1} \quad \cdots ② $$

使用した物理公式

  • 速度の成分分解
  • 反発係数の定義: \(e = \displaystyle\frac{|v’_{\text{垂直}}|}{|v_{\text{垂直}}|}\)
計算過程

式①と式②から、未知数である \(v\) と \(v’\) を消去して \(e\) を求めます。

まず、式①を変形して、速さの比 \(\displaystyle\frac{v’}{v}\) を求めます。
$$ \frac{v’}{v} = \frac{\cos\theta_1}{\cos\theta_2} \quad \cdots ③ $$
次に、式②を変形します。
$$ e = \frac{v’}{v} \cdot \frac{\sin\theta_2}{\sin\theta_1} \quad \cdots ④ $$
式④に式③を代入します。
$$
\begin{aligned}
e &= \left( \frac{\cos\theta_1}{\cos\theta_2} \right) \cdot \frac{\sin\theta_2}{\sin\theta_1} \\[2.0ex]&= \frac{\sin\theta_2}{\cos\theta_2} \cdot \frac{\cos\theta_1}{\sin\theta_1} \\[2.0ex]&= \frac{\sin\theta_2 / \cos\theta_2}{\sin\theta_1 / \cos\theta_1}
\end{aligned}
$$
ここで、\(\tan\theta = \displaystyle\frac{\sin\theta}{\cos\theta}\) の関係を用いると、
$$ e = \frac{\tan\theta_2}{\tan\theta_1} $$

計算方法の平易な説明

斜めにぶつかる運動は、ボールの動きを「面に沿って滑る動き」と「面に垂直にぶつかる動き」の2つに分けて考えます。

1. 面はツルツルなので、「滑る動き」の速さは衝突しても全く変わりません。

2. 「ぶつかる動き」は、壁に当たって跳ね返るので速さが変わります。このときの「跳ね返り後の速さ ÷ 跳ね返り前の速さ」が反発係数 \(e\) です。

この2つのルールを数式にして、うまく組み合わせる(割り算などをする)と、衝突前後の速さ \(v, v’\) がきれいに消去できて、角度だけで表される答えが出てきます。

結論と吟味

ボールと面との間の反発係数は \(e = \displaystyle\frac{\tan\theta_2}{\tan\theta_1}\) となります。

この結果は、衝突前後の角度 \(\theta_1, \theta_2\) を測定するだけで、その面の反発係数が求められることを示しています。例えば、もし完全弾性衝突(\(e=1\))であれば、\(\tan\theta_1 = \tan\theta_2\) となり、\(\theta_1 = \theta_2\) が成り立ちます。これは光の反射における「入射角=反射角」の法則と同じ形であり、物理的に妥当な結果です。

解答 \(\displaystyle\frac{\tan\theta_2}{\tan\theta_1}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 斜め衝突における運動の分解:
    • 核心: 斜めに衝突する物体の運動を、衝突面に「平行な方向」と「垂直な方向」という、物理的に意味の異なる2つの方向に分解して考えることです。この分解によって、複雑な斜め衝突の問題を、単純な1次元の運動の組み合わせとして扱うことができます。
    • 理解のポイント:
      • なぜこの2方向に分解するのか: 衝突の際に働く力(垂直抗力)が、面に垂直な方向にしか作用しないためです。力が働く方向と働かない方向で、適用すべき物理法則が明確に分かれるため、この分解が極めて有効になります。
      • 平行方向: 力が働かない \(\rightarrow\) 運動量(速度)が保存される。
      • 垂直方向: 力が働く \(\rightarrow\) 運動量(速度)が変化する。その変化の仕方は反発係数で記述される。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 粗い面との斜め衝突: 面が「粗い」場合、面に平行な方向にも動摩擦力が働きます。これにより、平行方向の速度成分も減少します。この場合、動摩擦力が働いたことによる力積を考慮して、平行方向の運動量の変化を計算する必要があります。
    • 放物運動と壁の衝突: ボールを斜めに投げ上げ、それが壁に衝突して跳ね返るような問題。この場合、衝突の瞬間は本問と同様に考え、衝突以外の空中での運動は重力による放物運動として考えます。これら2つの運動モデルを組み合わせて解くことになります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 座標軸の設定: 衝突面に平行な方向をx軸、垂直な方向をy軸と設定するのが定石です。これにより、速度の成分分解が容易になります。
    2. 面の性質を確認: 問題文の「なめらかな」というキーワードに注目します。これにより、平行方向の速度保存が使えることが確定します。「粗い」とあれば、動摩擦力を考慮する必要があります。
    3. 2方向の法則を立式: 「平行方向の速度保存の式」と「垂直方向の反発係数の式」を、それぞれ機械的に書き下します。
    4. 求めるものを確認し、式を整理: 問題が何を求めているか(この場合は反発係数e)を確認し、そのゴールに向かって立式した2つの式を連立させ、不要な変数(この場合は \(v, v’\))を消去します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 反発係数の式を全速度で立ててしまう:
    • 誤解: 反発係数の式を、分解する前の速さ \(v, v’\) を使って \(e = v’/v\) のように間違って立ててしまう。
    • 対策: 反発係数は、あくまで「衝突面に垂直な方向の速度成分」の比であることを徹底的に覚える。図を描いて、どの成分が \(v\sin\theta_1\) で、どの成分が \(v’\sin\theta_2\) なのかを明確に対応させる。
  • 角度の取り違え:
    • 誤解: 問題で与えられる角度が、面となす角(この問題の\(\theta\))なのか、面の法線(垂直線)となす角なのかを混同する。もし法線とのなす角 \(\phi\) が与えられた場合、平行成分は \(\sin\phi\)、垂直成分は \(\cos\phi\) となり、三角比の使い方が逆になる。
    • 対策: 必ず図を描き、与えられた角度がどこを指すのかを確認する。「角度を挟む辺がコサイン」という原則に従って、その都度、成分分解の三角比を判断する。
  • 式の変形ミス:
    • 誤解: \(v \cos\theta_1 = v’ \cos\theta_2\) から \(\displaystyle\frac{v’}{v}\) を作る際に、\(\displaystyle\frac{\cos\theta_2}{\cos\theta_1}\) のように分母と分子を逆にしてしまう。
    • 対策: 移項や割り算は、一行一行丁寧に行う。自信がなければ、例えば \(A=Bx\) を \(x=A/B\) に変形するような簡単な例で、自分の変形が正しいかを確認する。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 平行方向の速度保存 (\(v_x = v’_x\)):
    • 選定理由: 面が「なめらか」であるため、平行方向には力が作用しません。運動の第二法則 (\(ma=F\)) から、力が0なら加速度も0、つまり速度は変化しません。これは運動量保存則 (\(m v_x = m v’_x\)) と同義です。
    • 適用根拠: 「なめらか」というキーワードが、この法則を適用する直接的な根拠となります。
  • 垂直方向の反発係数 (\(e = v’_y / v_y\)):
    • 選定理由: 垂直方向には面からの力(垂直抗力)が働き、速度が変化します。この「跳ね返り」という現象をモデル化するために導入された物理量が反発係数です。
    • 適用根拠: 衝突現象、特に跳ね返りの度合いを扱う問題では、反発係数の定義式を用いるのが標準的なアプローチです。この式は、衝突によるエネルギー損失を考慮した、垂直方向の運動を記述するための関係式です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 文字式のまま計算を進める: この問題のように、最終的に角度だけで表される答えを求める場合、具体的な数値は一切登場しません。文字式の変形と整理が計算の全てです。焦らず、一行ずつ丁寧に変形を進めることが重要です。
  • 分数の整理: 最終的な答えの形が \(\displaystyle\frac{\tan\theta_2}{\tan\theta_1}\) となる過程を意識する。\(\tan\theta = \sin\theta / \cos\theta\) の関係を使うため、式の整理段階で \(\sin\theta_2\) と \(\cos\theta_2\)、\(\sin\theta_1\) と \(\cos\theta_1\) がそれぞれペアになるように項をまとめると、見通しが良くなります。
  • 物理的意味の吟味: 最終的に得られた式 \(e = \tan\theta_2 / \tan\theta_1\) を吟味する。もし \(e=0\)(完全非弾性衝突)なら、\(\tan\theta_2=0\) となり \(\theta_2=0\)。これは、跳ね返らずに面に沿って滑っていく状況に対応し、物理的に正しいです。もし \(e=1\)(完全弾性衝突)なら \(\theta_1=\theta_2\) となり、これも物理的に妥当な結果です。このように、極端な場合を代入して結果を吟味することで、式の妥当性を確認できます。
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