「センサー総合物理 3rd Edition」徹底解説!【Chapter 4】Step3

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46 つながれたばねの弾性力

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、ばねの弾性力と伸びの関係(フックの法則)を基本に、ばねの直列接続と並列接続における力のつり合いと全体の伸びを考察する問題です。物理の基本法則を正しく理解し、グラフから情報を読み取って応用する力が試されます。
この問題の核心は、まずグラフからばね1本あたりのばね定数を求め、次に「直列接続」と「並列接続」で力の伝わり方や分担のされ方がどう違うかを理解し、それぞれの状況で力のつり合いの式を立てることです。

与えられた条件
  • ばねの弾性力\(F\)と伸び\(x\)の関係を示すグラフ
  • ばねは2つ用意されている
  • つり下げる物体の重さ: \(W = 3.0 \text{ N}\)
  • 接続方法: (ア) 直列接続, (イ) 並列接続
問われていること
  • (1) (ア), (イ)のそれぞれの場合で、物体が自然の長さの位置から下がる距離(全体の伸び)。
  • (2) (ア), (イ)のそれぞれの場合で、全体を1つのばねとみなした場合の合成ばね定数。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「ばねの直列接続と並列接続」です。同じばねでも、つなぎ方によって全体の硬さ(ばね定数)や伸び方が変わることを理解することが重要です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. グラフの読み取り: 与えられた\(F-x\)グラフから、ばね定数\(k\)を正しく求めること。
  2. フックの法則: 弾性力の大きさがばねの伸びに比例するという関係式 \(F=kx\) を用います。
  3. 力のつり合い: 物体が静止している状態では、重力と弾性力の合力がゼロになることを利用します。
  4. ばねの接続の特性:
    • 直列接続: 各ばねに働く力の大きさは等しい。全体の伸びは各ばねの伸びの和になる。
    • 並列接続: 各ばねの伸びは等しい。全体の力は各ばねの弾性力の和になる。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、与えられたグラフから、ばね1本あたりのばね定数\(k\)を計算します。これはすべての設問の基礎となります。
  2. (1)では、(ア)直列、(イ)並列のそれぞれの力の関係を考え、力のつり合いの式を立てて、全体の伸びを計算します。
  3. (2)では、(1)で求めた「全体の力(おもりの重さ)」と「全体の伸び」を用いて、フックの法則から合成ばね定数を計算します。

まず、すべての計算の基礎となる、ばね1本あたりのばね定数\(k\)をグラフから求めます。
グラフは原点を通る直線であり、フックの法則 \(F=kx\) が成り立っていることがわかります。グラフから読み取りやすい点として、例えば伸び \(x = 0.40 \text{ m}\) のとき、弾性力 \(F = 6.0 \text{ N}\) となっています。
$$ k = \displaystyle\frac{F}{x} = \displaystyle\frac{6.0}{0.40} = 15 \text{ [N/m]} $$
このばね定数 \(k=15 \text{ N/m}\) を用いて、各設問を解いていきます。

問(1) (ア) 直列接続

思考の道筋とポイント
ばねを直列につないだ場合、物体を支える力はどのように各ばねに伝わるかを考えます。下のばねは直接物体を支え、上のばねはその下のばねを支えています。軽いばねを考えているため、各ばねにはたらく力の大きさは等しく、物体の重さである \(3.0 \text{ N}\) になります。全体の伸びは、2本のばねそれぞれの伸びの合計となります。
この設問における重要なポイント

  • 力のつり合い: 物体には、下向きに重力 \(3.0 \text{ N}\)、上向きに下のばねの弾性力がはたらき、つり合っています。
  • 直列接続の力の特性: 上のばねと下のばねには、同じ大きさの力がはたらきます。
  • 全体の伸びの計算: 全体の伸び \(X_{\text{ア}}\) は、上のばねの伸び \(x_{\text{上}}\) と下のばねの伸び \(x_{\text{下}}\) の和 (\(X_{\text{ア}} = x_{\text{上}} + x_{\text{下}}\)) で求められます。

具体的な解説と立式
物体にはたらく力のつり合いより、下のばねにはたらく弾性力の大きさ \(F_{\text{下}}\) は、物体の重さに等しくなります。
$$ F_{\text{下}} = 3.0 \text{ [N]} $$
また、下のばねは上のばねによって支えられているため、作用・反作用の法則から、上のばねが下のばねを引く力も \(3.0 \text{ N}\) です。したがって、上のばねにはたらく弾性力 \(F_{\text{上}}\) も同じ大きさになります。
$$ F_{\text{上}} = 3.0 \text{ [N]} $$
2本のばねは同じものなので、それぞれの伸びも等しくなります。1本のばねの伸びを \(x_1\) とすると、フックの法則より、
$$ 3.0 = k x_1 \quad \cdots ① $$
全体の伸び \(X_{\text{ア}}\) は、2本のばねの伸びの和なので、
$$ X_{\text{ア}} = x_1 + x_1 = 2x_1 \quad \cdots ② $$

使用した物理公式

  • 力のつり合い
  • フックの法則: \(F=kx\)
計算過程

まず、式①を用いて1本のばねの伸び \(x_1\) を計算します。ばね定数 \(k=15 \text{ N/m}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
3.0 &= 15 \times x_1 \\[2.0ex]
x_1 &= \displaystyle\frac{3.0}{15} \\[2.0ex]
&= 0.20 \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
次に、式②を用いて全体の伸び \(X_{\text{ア}}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
X_{\text{ア}} &= 2 \times x_1 \\[2.0ex]
&= 2 \times 0.20 \\[2.0ex]
&= 0.40 \text{ [m]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

ばねを縦に2本つなぐと、おもりの重さ(\(3.0 \text{ N}\))が、上のばねにも下のばねにも、そのままかかります。まず1本のばねがどれだけ伸びるかを計算し(\(0.20 \text{ m}\))、それが2本分なので、全体の伸びは2倍の \(0.40 \text{ m}\) になります。

結論と吟味

(ア)の場合、物体は \(0.40 \text{ m}\) 下がります。
1本のばねに \(3.0 \text{ N}\) の力を加えたときの伸びが \(0.20 \text{ m}\) であり、直列接続ではそれが2本分なので、合計の伸びが \(0.40 \text{ m}\) となるのは物理的に妥当です。

解答 (1)(ア) \(0.40 \text{ m}\)

問(1) (イ) 並列接続

思考の道筋とポイント
ばねを並列につないだ場合、2本のばねが協力して1つの物体を支えます。したがって、物体の重さ \(3.0 \text{ N}\) は、2本のばねに分担されます。同じばねなので、力は均等に半分ずつ分担されると考えられます。2本のばねの伸びは同じになります。
この設問における重要なポイント

  • 力のつり合い: 物体には、下向きに重力 \(3.0 \text{ N}\)、上向きに2本のばねの弾性力の合計がはたらき、つり合っています。
  • 並列接続の力の特性: 2本のばねにかかる力の合計が、物体の重さと等しくなります。同じばねなので、1本あたりにかかる力は重さの半分になります。
  • 全体の伸びの計算: 2本のばねは同じだけ伸びるので、全体の伸びは1本のばねの伸びに等しくなります。

具体的な解説と立式
2本のばねが物体を支えるので、それぞれのばねにはたらく弾性力を \(F_1\), \(F_2\) とすると、力のつり合いの式は以下のようになります。
$$ F_1 + F_2 = 3.0 \text{ [N]} $$
2本は同じばねで、伸びも等しいため、\(F_1 = F_2\) です。したがって、1本のばねにはたらく力 \(F_1\) は、
$$ 2F_1 = 3.0 \quad \rightarrow \quad F_1 = 1.5 \text{ [N]} $$
このときのばねの伸びが、全体の伸び \(X_{\text{イ}}\) となります。フックの法則より、
$$ F_1 = k X_{\text{イ}} \quad \cdots ③ $$

使用した物理公式

  • 力のつり合い
  • フックの法則: \(F=kx\)
計算過程

式③に \(F_1 = 1.5 \text{ N}\) と \(k=15 \text{ N/m}\) を代入して、全体の伸び \(X_{\text{イ}}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
1.5 &= 15 \times X_{\text{イ}} \\[2.0ex]
X_{\text{イ}} &= \displaystyle\frac{1.5}{15} \\[2.0ex]
&= 0.10 \text{ [m]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

ばねを横に2本並べると、おもりの重さ(\(3.0 \text{ N}\))を2本で分担して支えるので、1本あたりの負担は半分の \(1.5 \text{ N}\) になります。そのため、ばね1本の伸びも半分になり、全体の伸びは \(0.10 \text{ m}\) となります。

結論と吟味

(イ)の場合、物体は \(0.10 \text{ m}\) 下がります。
直列接続の(ア)では1本あたり \(3.0 \text{ N}\) の力がかかったのに対し、並列接続の(イ)では \(1.5 \text{ N}\) と半分の力しかかかりません。したがって、伸びも(ア)の1本分(\(0.20 \text{ m}\))の半分である \(0.10 \text{ m}\) となり、結果は妥当です。

解答 (1)(イ) \(0.10 \text{ m}\)

問(2) (ア) 直列接続

思考の道筋とポイント
合成ばね定数とは、ばね全体を「1本の仮想的なばね」とみなしたときのばね定数のことです。フックの法則 \(F = k_{\text{合成}} x_{\text{全体}}\) に、全体にかかる力(物体の重さ)と、(1)で求めた全体の伸びを代入して求めます。
この設問における重要なポイント

  • 合成ばね定数の定義: 全体にかかる力 \(F_{\text{全体}}\) と全体の伸び \(X_{\text{全体}}\) の比で定義されます (\(k_{\text{合成}} = F_{\text{全体}} / X_{\text{全体}}\))。
  • 全体にかかる力: 物体の重さ \(3.0 \text{ N}\) です。
  • 全体の伸び: (1)(ア)で求めた \(0.40 \text{ m}\) を用います。

具体的な解説と立式
(ア)の直列接続における合成ばね定数を \(k’_{\text{ア}}\) とします。
全体を1つのばねとみなすと、このばねに \(F_{\text{全体}} = 3.0 \text{ N}\) の力を加えたとき、全体の伸びが \(X_{\text{ア}} = 0.40 \text{ m}\) となった、と考えることができます。
したがって、フックの法則は次のように立てられます。
$$ F_{\text{全体}} = k’_{\text{ア}} X_{\text{ア}} \quad \cdots ④ $$

使用した物理公式

  • フックの法則(合成ばね): \(F=kx\)
計算過程

式④に \(F_{\text{全体}} = 3.0 \text{ N}\) と \(X_{\text{ア}} = 0.40 \text{ m}\) を代入して、\(k’_{\text{ア}}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
3.0 &= k’_{\text{ア}} \times 0.40 \\[2.0ex]
k’_{\text{ア}} &= \displaystyle\frac{3.0}{0.40} \\[2.0ex]
&= 7.5 \text{ [N/m]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

(1)で、全体の伸びが \(0.40 \text{ m}\) になることがわかりました。このばねの集まりを「ブラックボックス」として扱い、「\(3.0 \text{ N}\) の力で引っ張ったら \(0.40 \text{ m}\) 伸びる1本のばね」だと考えます。このブラックボックスばねのばね定数を、フックの法則を使って計算します。

結論と吟味

(ア)の合成ばね定数は \(7.5 \text{ N/m}\) です。
元のばね定数 \(15 \text{ N/m}\) の半分になりました。直列に接続すると、同じ力でも伸びが大きくなる(柔らかくなる)ため、ばね定数が小さくなるのは妥当な結果です。

別解: 合成ばね定数の公式を用いる解法

思考の道筋とポイント
ばねの直列接続における合成ばね定数の公式を直接用いて計算します。同じばね定数\(k\)のばねを2本直列に接続した場合の合成ばね定数\(k’_{\text{ア}}\)は、公式で求めることができます。
この設問における重要なポイント

  • 直列接続の合成ばね定数の公式: \(\displaystyle\frac{1}{k_{\text{合成}}} = \displaystyle\frac{1}{k_1} + \displaystyle\frac{1}{k_2}\) を用います。

具体的な解説と立式
ばね定数\(k\)のばね2本を直列に接続したときの合成ばね定数\(k’_{\text{ア}}\)は、次の公式で与えられます。
$$ \displaystyle\frac{1}{k’_{\text{ア}}} = \displaystyle\frac{1}{k} + \displaystyle\frac{1}{k} = \displaystyle\frac{2}{k} \quad \cdots ⑤ $$

使用した物理公式

  • 直列接続における合成ばね定数の公式
計算過程

式⑤を \(k’_{\text{ア}}\) について解き、\(k=15 \text{ N/m}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
k’_{\text{ア}} &= \displaystyle\frac{k}{2} \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{15}{2} \\[2.0ex]
&= 7.5 \text{ [N/m]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

ばねを直列につなぐと、合成ばね定数は元のばね定数の半分になる、という公式を知っていれば、元のばね定数 \(15 \text{ N/m}\) を2で割るだけで答えが求まります。

結論と吟味

公式を用いても、\(7.5 \text{ N/m}\) という同じ結果が得られました。公式を覚えておくことで、より迅速に計算することができます。

解答 (2)(ア) \(7.5 \text{ N/m}\)

問(2) (イ) 並列接続

思考の道筋とポイント
(ア)と同様に、全体を1つのばねとみなし、フックの法則 \(F = k_{\text{合成}} x_{\text{全体}}\) を用いて合成ばね定数を求めます。全体にかかる力は \(3.0 \text{ N}\)、全体の伸びは(1)(イ)で求めた値を使います。
この設問における重要なポイント

  • 合成ばね定数の定義: \(k_{\text{合成}} = F_{\text{全体}} / X_{\text{全体}}\)
  • 全体にかかる力: 物体の重さ \(3.0 \text{ N}\) です。
  • 全体の伸び: (1)(イ)で求めた \(0.10 \text{ m}\) を用います。

具体的な解説と立式
(イ)の並列接続における合成ばね定数を \(k”_{\text{イ}}\) とします。
全体を1つのばねとみなすと、このばねに \(F_{\text{全体}} = 3.0 \text{ N}\) の力を加えたとき、全体の伸びが \(X_{\text{イ}} = 0.10 \text{ m}\) となった、と考えることができます。
したがって、フックの法則は次のように立てられます。
$$ F_{\text{全体}} = k”_{\text{イ}} X_{\text{イ}} \quad \cdots ⑥ $$

使用した物理公式

  • フックの法則(合成ばね): \(F=kx\)
計算過程

式⑥に \(F_{\text{全体}} = 3.0 \text{ N}\) と \(X_{\text{イ}} = 0.10 \text{ m}\) を代入して、\(k”_{\text{イ}}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
3.0 &= k”_{\text{イ}} \times 0.10 \\[2.0ex]
k”_{\text{イ}} &= \displaystyle\frac{3.0}{0.10} \\[2.0ex]
&= 30 \text{ [N/m]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

(ア)の時と同じように考えます。(1)で全体の伸びが \(0.10 \text{ m}\) とわかっているので、「\(3.0 \text{ N}\) の力で引っ張ったら \(0.10 \text{ m}\) 伸びる1本のばね」のばね定数を計算します。

結論と吟味

(イ)の合成ばね定数は \(30 \text{ N/m}\) です。
元のばね定数 \(15 \text{ N/m}\) の2倍になりました。並列に接続すると、同じだけ伸ばすのにより大きな力が必要になる(硬くなる)ため、ばね定数が大きくなるのは妥当な結果です。

別解: 合成ばね定数の公式を用いる解法

思考の道筋とポイント
ばねの並列接続における合成ばね定数の公式を直接用いて計算します。同じばね定数\(k\)のばねを2本並列に接続した場合の合成ばね定数\(k”_{\text{イ}}\)は、公式で求めることができます。
この設問における重要なポイント

  • 並列接続の合成ばね定数の公式: \(k_{\text{合成}} = k_1 + k_2\) を用います。

具体的な解説と立式
ばね定数\(k\)のばね2本を並列に接続したときの合成ばね定数\(k”_{\text{イ}}\)は、次の公式で与えられます。
$$ k”_{\text{イ}} = k + k = 2k \quad \cdots ⑦ $$

使用した物理公式

  • 並列接続における合成ばね定数の公式
計算過程

式⑦に \(k=15 \text{ N/m}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
k”_{\text{イ}} &= 2 \times 15 \\[2.0ex]
&= 30 \text{ [N/m]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

ばねを並列につなぐと、合成ばね定数は元のばね定数の2倍になる、という公式を知っていれば、元のばね定数 \(15 \text{ N/m}\) を2倍するだけで答えが求まります。

結論と吟味

公式を用いても、\(30 \text{ N/m}\) という同じ結果が得られました。直列接続の場合と同様に、公式を理解していると素早く解くことができます。

解答 (2)(イ) \(30 \text{ N/m}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • フックの法則と力のつり合い:
    • 核心: この問題の全ての設問は、「ばねの弾性力 \(F\) は伸び \(x\) に比例する (\(F=kx\))」というフックの法則と、「物体が静止しているとき、物体にはたらく力の合力はゼロである」という力のつり合いの法則、この2つの組み合わせで解くことができます。
    • 理解のポイント: まずグラフからばね定数\(k\)を求めることが出発点です。その後、直列・並列それぞれの状況で、物体にはたらく重力と、ばね(群)が及ぼす弾性力がどのようにつり合っているかを正しく立式することが最も重要です。
  • ばねの接続方法による特性の違い:
    • 核心: ばねの接続方法によって、個々のばねへの力の配分と伸びの現れ方が根本的に異なります。
      1. 直列接続: 各ばねに「同じ力」がかかる。全体の伸びは「各ばねの伸びの和」になる。結果として、全体は柔らかくなる(合成ばね定数は小さくなる)。
      2. 並列接続: 各ばねに「同じ伸び」が生じる。全体の力は「各ばねの力の和」になる。結果として、全体は硬くなる(合成ばね定数は大きくなる)。
    • 理解のポイント: この特性を物理的に理解していれば、力のつり合いの式を立てる際に間違いがなくなります。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 異なるばね定数のばねの接続: ばね定数\(k_1\), \(k_2\)の異なるばねを直列・並列に接続する問題。力のつり合いや伸びの関係は同じですが、計算が少し複雑になります。
    • 水平方向のばね接続: 床の上に置かれた物体を、左右からばねで引くような問題。これも力のつり合いで考え方は同じです。
    • 斜面上のばね: 斜面上の物体をばねで支える問題。重力を斜面に平行な成分と垂直な成分に分解する必要がありますが、力のつり合いを考える点は共通しています。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. まずはばね定数を求める: 問題文やグラフから、ばね定数\(k\)が与えられているか、求められるかを確認します。これが全ての計算の基礎になります。
    2. 力の図示を徹底する: 物体やばねの連結点にはたらく力を、ベクトル矢印ですべて描き出します。特に、重力、弾性力、張力などを漏れなく図示することが重要です。
    3. 接続方法を特定する: ばねが「直列」なのか「並列」なのかを明確に判断します。それによって、力の配分や伸びの計算方法が決まります。
    4. つり合いの式を立てる: 着目する物体や点について、力のつり合いの式を立てます。複数の物体がある場合は、それぞれについて式を立てることもあります。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 直列接続での力の誤解:
    • 誤解: 直列接続で、上のばねには「物体の重さ+下のばねの重さ」、下のばねには「物体の重さ」がかかると考えてしまう。
    • 対策: 問題文に「軽いばね」とある場合、ばね自体の重さは無視します。このとき、直列に連なる糸やばねのどの部分にも、同じ大きさの張力(弾性力)がはたらくと理解しましょう。一本のロープのどの部分を測っても張力が同じであることと同じです。
  • 並列接続での力の誤解:
    • 誤解: 並列接続でも、1本のばねに物体の重さ全体(\(3.0 \text{ N}\))がかかると勘違いしてしまう。
    • 対策: 2本のばねが「協力して」物体を支えているイメージを持ちましょう。力のつり合いの式 \(F_{\text{弾性力の合計}} = W_{\text{重力}}\) を必ず立てる習慣をつけ、\(F_1 + F_2 = 3.0\) のように、力が分担されることを数式で確認します。
  • 合成ばね定数の公式の混同:
    • 誤解: 直列接続と並列接続の合成ばね定数の公式を逆に覚えてしまう。直列は \(k=k_1+k_2\)、並列は \(\frac{1}{k} = \frac{1}{k_1} + \frac{1}{k_2}\) と間違えるミスが非常に多いです。
    • 対策: 「直列につなぐと柔らかくなる(\(k\)は小さくなる)」「並列につなぐと硬くなる(\(k\)は大きくなる)」という物理的なイメージと公式を結びつけましょう。和の逆数をとる直列の公式は値が小さくなり、単純な和をとる並列の公式は値が大きくなる、と覚えれば混同を防げます。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 力のつり合いの図: 物体を中心に、下向きに重力の矢印、上向きに弾性力の矢印を描きます。並列の場合は、上向きの矢印を2本描き、その合計が重力の矢印とつり合うことを視覚的に理解します。
    • 直列接続のイメージ: 「鎖」をイメージすると分かりやすいです。鎖の一番下の輪にはおもりの重さがかかり、その上の輪は下の輪を支え、さらにその上の輪は…と、結局どの輪にも同じ重さが伝わっていきます。
    • 並列接続のイメージ: 「2人で荷物を持つ」イメージです。1つの重い荷物を2人で持てば、1人あたりの負担は軽くなります。ばねも同様に、力を分担し合います。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 伸びを明確に描く: 自然長の状態と、おもりを吊るして伸びた状態の2つの図を並べて描くと、どの部分が「伸び」なのかが明確になります。
    • 力の矢印の長さを意識する: つり合っている力は、同じ長さの矢印で描くように心がけると、力の関係性が直感的に理解しやすくなります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • フックの法則 (\(F=kx\)):
    • 選定理由: 問題が「ばね」を扱っており、その「弾性力」と「伸び」の関係を記述する必要があるため。グラフが原点を通る直線であることからも、この法則の適用が妥当であると判断できます。
    • 適用根拠: 弾性限界内でのばねの最も基本的な性質を表す法則です。
  • 力のつり合いの式 (\(\sum F = 0\)):
    • 選定理由: 物体が「つり下げた」結果、「静止している」状態を解析するため。静止、すなわち加速度がゼロの状態では、力の合力がゼロになるという物理法則を適用します。
    • 適用根拠: ニュートンの運動法則の基本であり、静力学の問題を解く際の普遍的な原理です。
  • 合成ばね定数の公式:
    • 選定理由: (2)で「全体を1つのばねとみなした場合」の性質を問われているため。複数のばねを1つの等価なばねに置き換えて考える際に、この公式が直接的な解法を与えてくれます。
    • 適用根拠: この公式は、フックの法則と力のつり合いの法則から導出されるものです。例えば直列の場合、全体の伸び \(X = x_1+x_2 = \frac{F}{k_1} + \frac{F}{k_2} = F(\frac{1}{k_1}+\frac{1}{k_2})\) と、合成ばねの定義 \(X = \frac{F}{k_{\text{合成}}}\) を比較することで、\(\frac{1}{k_{\text{合成}}} = \frac{1}{k_1}+\frac{1}{k_2}\) が導かれます。公式は、この導出過程をショートカットするためのツールです。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 準備段階: グラフからばね定数\(k\)を計算する (\(k=15 \text{ N/m}\))。
  2. (1) 全体の伸びの計算:
    • (ア) 直列: ①各ばねにかかる力は \(3.0 \text{ N}\) と判断 → ②フックの法則で1本の伸び \(x_1\) を計算 (\(3.0 = 15x_1\)) → ③全体の伸びは \(2x_1\) で計算。
    • (イ) 並列: ①各ばねにかかる力は \(3.0/2 = 1.5 \text{ N}\) と判断 → ②フックの法則で1本の伸び(=全体の伸び) \(X_{\text{イ}}\) を計算 (\(1.5 = 15X_{\text{イ}}\))。
  3. (2) 合成ばね定数の計算:
    • 戦略A (定義から): ①全体にかかる力 \(F_{\text{全体}}=3.0 \text{ N}\) と、(1)で求めた全体の伸び \(X_{\text{全体}}\) を確認 → ②フックの法則 \(F_{\text{全体}} = k_{\text{合成}} X_{\text{全体}}\) に代入して \(k_{\text{合成}}\) を計算。
    • 戦略B (公式から): ①接続方法(直列/並列)を確認 → ②対応する合成ばね定数の公式を選択 → ③元のばね定数\(k\)を代入して計算。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 単位を必ず書く: 計算の各段階で単位([N], [m], [N/m])を意識することで、物理的な意味を見失いにくくなります。例えば、ばね定数を求める際に \(N \div m\) を行うことを確認すれば、割り算の順序を間違えにくくなります。
  • 小数点の計算を慎重に: この問題では \(3.0/15 = 0.2\), \(1.5/15 = 0.1\), \(3.0/0.40 = 7.5\) のように小数点の計算が頻出します。暗算に頼らず、筆算や分数の形 (\(3.0/0.40 = 30/4 = 15/2 = 7.5\)) に直すなど、確実な方法で計算しましょう。
  • 公式の導出を一度は経験する: 合成ばね定数の公式を丸暗記するだけでなく、一度自分で導出してみることをお勧めします。なぜ直列では逆数の和、並列では単純な和になるのかを理解することで、公式を忘れにくくなり、混同することもなくなります。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • 伸びの比較: 直列(ア)の伸び \(0.40 \text{ m}\) は、並列(イ)の伸び \(0.10 \text{ m}\) より大きい。直列の方が柔らかく、よく伸びるはずなので、この大小関係は妥当です。
    • ばね定数の比較: 直列(ア)の合成ばね定数 \(7.5 \text{ N/m}\) は、元のばね定数 \(15 \text{ N/m}\) より小さく、並列(イ)の合成ばね定数 \(30 \text{ N/m}\) は大きい。直列は柔らかく(\(k\)小)、並列は硬くなる(\(k\)大)という物理的直感と完全に一致しており、結果は妥当です。
  • 別解との比較:
    • (2)の合成ばね定数は、(1)の結果を使った定義からの計算と、公式を用いた計算の2通りの方法で求められました。両者で全く同じ答えが得られたことは、(1)の計算の正しさと、公式の適用の正しさを同時に裏付ける強力な証拠となります。

47 斜面上でのつり合い

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、なめらかな斜面上に置かれた物体に、重力、垂直抗力、そして水平方向の外力の3つの力がはたらき、静止している状態(力のつり合い)を分析する問題です。力を適切な方向に分解し、つり合いの式を立てる能力が問われます。
この問題の核心は、物体にはたらく3つの力を、どの方向の座標軸に沿って分解するかを適切に選択することです。模範解答のように「斜面に平行・垂直な方向」に分解する方法と、「水平・鉛直方向」に分解する方法の2通りがあり、どちらでも解くことができます。

与えられた条件
  • 斜面の傾斜角: \(30^\circ\)
  • 斜面はなめらか(摩擦力はゼロ)
  • 物体の重さ: \(W = 6.0 \text{ N}\)
  • 物体に加える力: 水平方向
  • 状態: 物体は静止している
問われていること
  • (1) 物体に加えた水平方向の力の大きさ \(F\)。
  • (2) 物体が斜面から受ける力の大きさ(垂直抗力) \(N\)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「3力のつり合い」です。物体が静止しているため、どの方向においても力の合力はゼロになります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 力の図示: 物体にはたらく「重力」「垂直抗力」「水平方向の力」の3つを正確に図示します。
  2. 力の分解: 3つの力を、解析しやすい座標軸(①斜面に平行・垂直、または②水平・鉛直)に沿って分解します。
  3. 力のつり合い: 各座標軸の方向について、力の成分の和がゼロになるというつり合いの式を立てます。
  4. 三角比の利用: 力を分解する際に、角度の関係から三角比(\(\sin\), \(\cos\), \(\tan\))を正しく用います。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、物体にはたらく3つの力をすべて図示します。
  2. 次に、座標軸を設定し、各力をその座標軸の成分に分解します。
  3. 最後に、各軸方向の力のつり合いの式を連立させて、未知数である \(F\) と \(N\) を求めます。

問(1), (2)

思考の道筋とポイント
この問題は、(1)で水平方向の力\(F\)を、(2)で垂直抗力\(N\)を求める形式ですが、結局は2つの未知数(\(F\), \(N\))を含む連立方程式を解くことになります。力の分解方法によって、計算のしやすさが変わることがあります。ここでは、模範解答で採用されている「斜面に平行・垂直な方向」に分解する方法と、別解として「水平・鉛直方向」に分解する方法の2通りで解説します。

解法1: 斜面に平行・垂直な方向に力を分解する(模範解答の考え方)

思考の道筋とポイント
斜面に平行な方向と、斜面に垂直な方向の2つの軸を設定します。この方法の利点は、垂直抗力\(N\)が初めから軸の方向を向いているため、分解する必要がないことです。重力\(W\)と水平な力\(F\)の2つを、この斜めの座標軸に沿って分解します。
この設問における重要なポイント

  • 座標軸の設定: 斜面に沿って上向きを\(x\)軸、斜面に垂直で上向きを\(y\)軸とします。
  • 力の分解:
    • 重力\(W\): 斜面平行下向き成分 \(W \sin 30^\circ\)、斜面垂直下向き成分 \(W \cos 30^\circ\)
    • 水平な力\(F\): 斜面平行上向き成分 \(F \cos 30^\circ\)、斜面垂直下向き成分 \(F \sin 30^\circ\)
    • 垂直抗力\(N\): 分解不要(\(y\)軸の正の向き)
  • 力のつり合いの立式:
    • 斜面平行方向(\(x\)軸): \(F \cos 30^\circ – W \sin 30^\circ = 0\)
    • 斜面垂直方向(\(y\)軸): \(N – W \cos 30^\circ – F \sin 30^\circ = 0\)

具体的な解説と立式
物体にはたらく力は、鉛直下向きの重力 \(W=6.0 \text{ N}\)、斜面から垂直に受ける垂直抗力 \(N\)、そして水平方向に加えられた力 \(F\) の3つです。
これらの力を、斜面に平行な方向と垂直な方向に分解します。

  • 斜面に平行な方向の力のつり合い:水平な力\(F\)の斜面平行成分(斜面を押し上げる向き)は \(F \cos 30^\circ\)。重力\(W\)の斜面平行成分(斜面を滑り落ちる向き)は \(W \sin 30^\circ\)。これらがつり合っているので、
    $$ F \cos 30^\circ – W \sin 30^\circ = 0 \quad \cdots ① $$
  • 斜面に垂直な方向の力のつり合い:垂直抗力\(N\)は、斜面から離れる向きにはたらきます。重力\(W\)の斜面垂直成分(斜面を押し付ける向き)は \(W \cos 30^\circ\)。水平な力\(F\)の斜面垂直成分(これも斜面を押し付ける向き)は \(F \sin 30^\circ\)。これらがつり合っているので、
    $$ N – W \cos 30^\circ – F \sin 30^\circ = 0 \quad \cdots ② $$

使用した物理公式

  • 力のつり合い
計算過程

(1) 水平方向の力 \(F\) の計算

式①を \(F\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
F \cos 30^\circ &= W \sin 30^\circ \\[2.0ex]
F &= W \displaystyle\frac{\sin 30^\circ}{\cos 30^\circ} \\[2.0ex]
&= W \tan 30^\circ
\end{aligned}
$$
与えられた値 \(W=6.0 \text{ N}\) と \(\tan 30^\circ = \displaystyle\frac{1}{\sqrt{3}}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
F &= 6.0 \times \displaystyle\frac{1}{\sqrt{3}} \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{6.0}{\sqrt{3}} \\[2.0ex]
&= 2.0\sqrt{3}
\end{aligned}
$$
\(\sqrt{3} \approx 1.73\) として計算し、有効数字2桁で答えます。
$$
\begin{aligned}
F &\approx 2.0 \times 1.73 \\[2.0ex]
&= 3.46 \\[2.0ex]
&\approx 3.5 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
(2) 垂直抗力 \(N\) の計算

式②を \(N\) について解きます。
$$ N = W \cos 30^\circ + F \sin 30^\circ $$
この式に \(W=6.0 \text{ N}\) と、(1)で求めた \(F = 2.0\sqrt{3} \text{ N}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
N &= 6.0 \times \displaystyle\frac{\sqrt{3}}{2} + (2.0\sqrt{3}) \times \displaystyle\frac{1}{2} \\[2.0ex]
&= 3.0\sqrt{3} + 1.0\sqrt{3} \\[2.0ex]
&= 4.0\sqrt{3}
\end{aligned}
$$
\(\sqrt{3} \approx 1.73\) として計算し、有効数字2桁で答えます。
$$
\begin{aligned}
N &\approx 4.0 \times 1.73 \\[2.0ex]
&= 6.92 \\[2.0ex]
&\approx 6.9 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

(1) 物体が斜面を滑り落ちようとする力(重力の分力)と、水平に押すことで斜面を駆け上がらせようとする力(水平な力の分力)が、ちょうどつり合っていると考えます。この関係から、水平な力\(F\)の大きさを計算します。

(2) 斜面が物体を支える力(垂直抗力)は、物体が斜面を垂直に押す力の合計とつり合っています。物体が斜面を押す力は、重力によるものと、水平な力によるものの2種類があり、その合計を計算することで垂直抗力\(N\)を求めます。

結論と吟味

(1) 水平方向の力の大きさは \(3.5 \text{ N}\) です。

(2) 垂直抗力の大きさは \(6.9 \text{ N}\) です。

重力 \(6.0 \text{ N}\) よりも大きな垂直抗力がはたらいています。これは、水平方向の力\(F\)も斜面を押し付ける成分を持つため、垂直抗力が重力の成分だけでなく\(F\)の成分も支えなければならないからです。物理的に妥当な結果です。

別解: 水平・鉛直方向に力を分解する

思考の道筋とポイント
水平方向と鉛直方向の2つの軸を設定します。この方法の利点は、重力\(W\)と水平な力\(F\)が初めから軸の方向を向いているため、分解する必要がないことです。斜めを向いている垂直抗力\(N\)のみを、水平・鉛直方向に分解します。
この設問における重要なポイント

  • 座標軸の設定: 水平右向きを\(x\)軸、鉛直上向きを\(y\)軸とします。
  • 力の分解:
    • 垂直抗力\(N\): 水平左向き成分 \(N \sin 30^\circ\)、鉛直上向き成分 \(N \cos 30^\circ\)
    • 水平な力\(F\): 分解不要(\(x\)軸の正の向き)
    • 重力\(W\): 分解不要(\(y\)軸の負の向き)
  • 力のつり合いの立式:
    • 水平方向(\(x\)軸): \(F – N \sin 30^\circ = 0\)
    • 鉛直方向(\(y\)軸): \(N \cos 30^\circ – W = 0\)

具体的な解説と立式
物体にはたらく3つの力を、水平方向と鉛直方向に分解します。

  • 鉛直方向の力のつり合い:垂直抗力\(N\)の鉛直成分(上向き)は \(N \cos 30^\circ\)。重力\(W\)は下向きにはたらきます。これらがつり合っているので、
    $$ N \cos 30^\circ – W = 0 \quad \cdots ③ $$
  • 水平方向の力のつり合い:加えた力\(F\)は右向きにはたらきます。垂直抗力\(N\)の水平成分(左向き)は \(N \sin 30^\circ\)。これらがつり合っているので、
    $$ F – N \sin 30^\circ = 0 \quad \cdots ④ $$

この解法では、まず鉛直方向のつり合いから\(N\)が求まり、その結果を使って水平方向のつり合いから\(F\)が求まる、という流れになります。設問の順番とは逆になりますが、物理的には全く問題ありません。

使用した物理公式

  • 力のつり合い
計算過程

(2) 垂直抗力 \(N\) の計算

まず式③を \(N\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
N \cos 30^\circ &= W \\[2.0ex]
N &= \displaystyle\frac{W}{\cos 30^\circ}
\end{aligned}
$$
与えられた値 \(W=6.0 \text{ N}\) と \(\cos 30^\circ = \displaystyle\frac{\sqrt{3}}{2}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
N &= \displaystyle\frac{6.0}{\sqrt{3}/2} \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{12.0}{\sqrt{3}} \\[2.0ex]
&= 4.0\sqrt{3}
\end{aligned}
$$
\(\sqrt{3} \approx 1.73\) として計算し、有効数字2桁で答えます。
$$
\begin{aligned}
N &\approx 4.0 \times 1.73 \\[2.0ex]
&= 6.92 \\[2.0ex]
&\approx 6.9 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
(1) 水平方向の力 \(F\) の計算

次に式④を \(F\) について解きます。
$$ F = N \sin 30^\circ $$
この式に、上で求めた \(N = 4.0\sqrt{3} \text{ N}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
F &= (4.0\sqrt{3}) \times \displaystyle\frac{1}{2} \\[2.0ex]
&= 2.0\sqrt{3}
\end{aligned}
$$
\(\sqrt{3} \approx 1.73\) として計算し、有効数字2桁で答えます。
$$
\begin{aligned}
F &\approx 2.0 \times 1.73 \\[2.0ex]
&= 3.46 \\[2.0ex]
&\approx 3.5 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

(2) まず、地球が物体を下に引く力(重力)と、斜面が物体を斜め上に押し返す力(垂直抗力)の「上向きの分力」が、ちょうどつり合っていると考えます。この関係から、垂直抗力\(N\)の大きさを計算します。

(1) 次に、外から水平に押す力と、斜面が押し返す力(垂直抗力)の「水平方向の分力」が、ちょうどつり合っていると考えます。(2)で求めた垂直抗力の値を使って、水平な力\(F\)の大きさを計算します。

結論と吟味

(1) 水平方向の力の大きさは \(3.5 \text{ N}\) です。

(2) 垂直抗力の大きさは \(6.9 \text{ N}\) です。

解法1(斜面に平行・垂直に分解)と全く同じ結果が得られました。この問題の場合、鉛直方向のつり合いの式に未知数が\(N\)しか含まれないため、こちらの別解の方が計算の見通しが良いかもしれません。どちらの解法もマスターしておくことが重要です。

解答 (1) \(3.5 \text{ N}\)
解答 (2) \(6.9 \text{ N}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 力のつり合いと力の分解:
    • 核心: 物体が静止しているため、どの方向についても力の合力はゼロになります(力のつり合い)。この問題を解く鍵は、物体にはたらく3つの力(重力、垂直抗力、水平力)を、互いに直交する2つの軸に沿って「分解」し、それぞれの軸方向で「つり合いの式」を立てることです。
    • 理解のポイント: どの力を、どの方向に分解するかが重要です。この問題では2つのアプローチが考えられます。
      1. 斜面に平行・垂直な軸に分解する:垂直抗力\(N\)の分解が不要になる。
      2. 水平・鉛直な軸に分解する:重力\(W\)と水平力\(F\)の分解が不要になる。

      どちらの方法でも同じ答えにたどり着きますが、計算のしやすさが異なります。両方の方法を理解することが、応用力を高める上で不可欠です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 摩擦のある斜面でのつり合い: この問題に「静止摩擦力」が加わります。摩擦力は斜面に平行な方向にはたらくため、「斜面に平行・垂直な軸」で分解する方が、摩擦力を分解せずに済むため、通常は計算が楽になります。
    • 斜面上の物体を糸で引く問題: 水平な力の代わりに、糸の張力がはたらきます。糸が斜面と平行な場合もあれば、ある角度を持っている場合もあり、その都度、力を正しく分解する必要があります。
    • 3つの力のつり合い(ラミの定理): 3つの力\(F_1, F_2, F_3\)がつり合っているとき、それぞれの力の大きさと、他の2つの力がなす角の\(\sin\)との間には \(\frac{F_1}{\sin\theta_1} = \frac{F_2}{\sin\theta_2} = \frac{F_3}{\sin\theta_3}\) という関係(ラミの定理)が成り立ちます。これを使うと、力を分解せずに解くことも可能です(高校範囲外だが強力な検算ツール)。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 力の図示を最優先: まず、物体にはたらく力をすべて(重力、垂直抗力、張力、摩擦力など)漏れなく図示します。これが全ての始まりです。
    2. 座標軸の選択: どの方向に座標軸を設定すれば、分解する力の数が最も少なくなるか、あるいは計算が最も簡単になるかを考えます。斜面の問題では「斜面に平行・垂直」か「水平・鉛直」の二択が基本です。
    3. 角度の特定: 力を分解する際に必要となる角度を、図形の錯角や同位角の関係から正確に特定します。ここを間違えると、以降の計算がすべて無駄になります。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 力の分解における角度の間違い:
    • 誤解: 重力や水平力を斜面に平行・垂直に分解する際、\(\sin\)と\(\cos\)を取り違える。例えば、重力の斜面平行成分を \(W\cos\theta\)、垂直成分を \(W\sin\theta\) と誤ってしまう。
    • 対策: 必ず大きな図を描き、角度の関係を明確にしましょう。「斜面の角度\(\theta\)が、鉛直線と斜面に垂直な線のなす角に等しい」という幾何学的な関係をしっかり理解し、分解後の三角形で辺と角度の関係を確認する習慣をつけましょう。
  • 垂直抗力と重力のつり合いに関する誤解:
    • 誤解: 斜面上でも、垂直抗力\(N\)の大きさが重力の大きさ\(W\)やその成分\(W\cos\theta\)と等しいと安易に考えてしまう。
    • 対策: 垂直抗力は「つり合いの結果として決まる力」であり、常に他の力の斜面垂直成分との合計とつり合います。この問題のように、重力以外の力(水平力\(F\))も斜面を押す成分を持つ場合、\(N\)は単純に\(W\cos\theta\)とはなりません。必ず、斜面に垂直な方向の力のつり合いの式を立ててから\(N\)を求めるようにしましょう。
  • 分解した力と元の力を二重に数える:
    • 誤解: 例えば、重力\(W\)を\(W\sin\theta\)と\(W\cos\theta\)に分解した後、力のつり合いの式に\(W\)そのものも入れてしまう。
    • 対策: 分解した後の成分(点線で描くと良い)は、元の力(実線)の「代理」です。力のつり合いを考えるときは、分解後の成分を使うなら元の力は無視し、元の力を使うなら成分は無視する、というルールを徹底しましょう。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 力のベクトル図(力の三角形): 物体にはたらく3つの力、重力\(\vec{W}\)、水平力\(\vec{F}\)、垂直抗力\(\vec{N}\)はつり合っているので、ベクトル的に足し合わせるとゼロになります (\(\vec{W} + \vec{F} + \vec{N} = \vec{0}\))。これは、3つのベクトルを矢印の向きに沿ってつなぐと、閉じた三角形ができることを意味します。この「力の三角形」を描くと、辺の長さの比から三角比を用いて、力を分解せずに\(F\)と\(N\)を求めることができます。これは別解(水平・鉛直分解)と考え方が本質的に同じです。
    • 座標軸の回転イメージ: 「斜面に平行・垂直に分解する」というのは、普段使っている水平・鉛直の座標軸を、斜面の角度だけ「ぐいっ」と回転させたものだとイメージします。そうすると、どの力がどのくらい傾いて見えるかが直感的に捉えやすくなります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 力のつり合いの式 (\(\sum F_x = 0\), \(\sum F_y = 0\)):
    • 選定理由: 問題文に「静止させた」とあるため。物体が静止している(加速度がゼロ)という物理的状況を数式で表現するための、最も直接的で基本的な法則です。
    • 適用根拠: ニュートンの運動法則の基本原理(慣性の法則、運動の第二法則で\(a=0\)とした場合)であり、静力学の問題を解く上での大前提となります。
  • 三角比 (\(\sin\theta, \cos\theta, \tan\theta\)):
    • 選定理由: 力を、直交する座標軸の成分に分解するために必要だから。ベクトルを成分に分ける操作は、本質的に直角三角形の辺の長さを求めることに等しく、そのために三角比という数学的ツールを用います。
    • 適用根拠: 図形における辺と角度の関係を数式で表現する、数学的なツールです。物理法則そのものではありませんが、物理法則を適用するための計算に不可欠です。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  • 解法1(斜面に平行・垂直に分解)
    1. 戦略: 垂直抗力\(N\)を分解せずに済むように、斜面に平行・垂直な軸を設定する。
    2. フロー: ①物体にはたらく3力を図示 → ②重力\(W\)と水平力\(F\)を斜面に平行・垂直な成分に分解 → ③斜面平行方向のつり合い式を立て、\(F\)を求める → ④斜面垂直方向のつり合い式を立て、③で求めた\(F\)を使って\(N\)を求める。
  • 解法2(水平・鉛直に分解)
    1. 戦略: 重力\(W\)と水平力\(F\)を分解せずに済むように、水平・鉛直な軸を設定する。
    2. フロー: ①物体にはたらく3力を図示 → ②垂直抗力\(N\)を水平・鉛直成分に分解 → ③鉛直方向のつり合い式を立て、\(N\)を求める → ④水平方向のつり合い式を立て、③で求めた\(N\)を使って\(F\)を求める。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 文字式のまま計算を進める: (2)の計算で、解法1のように\(F\)の数値を代入すると計算が複雑になることがあります。\(F = W \tan 30^\circ\) のように文字式のまま代入すると、式が簡単になる場合があります。\(N = W \cos 30^\circ + (W \tan 30^\circ) \sin 30^\circ = W(\cos 30^\circ + \frac{\sin^2 30^\circ}{\cos 30^\circ}) = W \frac{\cos^2 30^\circ + \sin^2 30^\circ}{\cos 30^\circ} = \frac{W}{\cos 30^\circ}\)。これは別解で得られた式と一致し、計算ミスが減るだけでなく、解法間の関係性も見えてきます。
  • 三角関数の値の正確性: \(\sin 30^\circ = 1/2\), \(\cos 30^\circ = \sqrt{3}/2\), \(\tan 30^\circ = 1/\sqrt{3}\) を正確に使いこなすことが必須です。
  • 有理化のタイミング: 計算の途中で分母に\(\sqrt{3}\)が出てきても、すぐに有理化せず、最後まで計算を進めると約分などで消えることがあります。有理化は最後の手段と考えましょう。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • \(N > W\cos 30^\circ\): もし水平力\(F\)がなければ、垂直抗力は \(N = W\cos 30^\circ \approx 6.0 \times 0.866 = 5.2 \text{ N}\) となるはずです。計算結果の \(N \approx 6.9 \text{ N}\) はこれより大きく、水平力\(F\)が斜面を余分に押している効果が正しく反映されていると判断でき、妥当です。
    • 極端な場合を考える: もし斜面の角度が\(0^\circ\)(水平)なら、滑り落ちる力はゼロなので\(F=0\)、\(N=W=6.0\text{ N}\)となるはずです。もし角度が\(90^\circ\)(鉛直な壁)なら、物体を支えるには無限大の水平力が必要になり、物理的に不可能になります。計算結果がこれらの極端なケースの間に収まっているかを確認するのも有効です。
  • 別解との比較:
    • 「斜面に平行・垂直な分解」と「水平・鉛直な分解」という、全く異なる2つのアプローチで計算した結果、\(F\)と\(N\)の値が完全に一致しました。これは、計算の正しさと物理的理解の確かさを裏付ける非常に強力な証拠となります。
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48 3力のつり合い

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