Step 2
41 力のつり合い
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「複数の物体が連なった系の力のつり合い」です。複数の物体が糸やばねで繋がれている場合、どの物体に着目して力のつり合いを考えるかがポイントになります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 着目物体の設定: 複数の物体がある場合、1つ1つの物体にはたらく力を個別に考えることが基本です。どの物体について力のつり合いの式を立てるか、適切に選ぶ必要があります。
- 力のつり合い: 物体が静止しているとき、その物体にはたらく力の合力はゼロになります。鉛直方向の問題では、上向きの力の和と下向きの力の和が等しくなります。
- 張力の性質: 軽くて伸びない糸の場合、糸のどの部分でも張力の大きさは同じで、糸の両端の物体を引きます。
- フックの法則: ばねの弾性力の大きさ \(F\) は、ばねの自然長からの伸び \(x\) に比例します (\(F=kx\))。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、まず一番下のおもりBに着目します。おもりBにはたらく力は単純なので、ここから力のつり合いを考えることで、糸の張力を求めます。
- (2)では、次におもりAに着目します。(1)で求めた張力も考慮に入れて、おもりAの力のつり合いを考え、ばねの弾性力を計算します。
- 最後に、求めた弾性力の大きさと問題で与えられたばね定数をフックの法則に適用し、ばねの伸びを算出します。
問(1)
思考の道筋とポイント
複数の物体が繋がった問題では、はたらく力が最も単純な物体から考えるのが定石です。この問題では、一番下のおもりBがそれに該当します。おもりBにはたらく力は、自身の重力と、それを支える糸の張力のみです。物体は静止しているので、これらの力がつり合っていると考えます。
この設問における重要なポイント
- 複数の物体が連なっている場合、末端の物体から考えるのがセオリー。
- 「静止」というキーワードから、力のつり合いの式を立てる。
- おもりBにはたらく力を正確に特定する(重力と張力)。
具体的な解説と立式
おもりBに着目します。
おもりBには、鉛直下向きに重力(大きさ \(3.0 \text{ N}\))と、鉛直上向きに糸の張力(大きさを \(T\) とする)がはたらいています。
おもりBは静止しているので、これらの力はつり合っています。鉛直上向きを正とすると、力のつり合いの式は以下のようになります。
$$ T – 3.0 = 0 $$
使用した物理公式
- 力のつり合いの条件: 上向きの力の和 = 下向きの力の和
立式したつり合いの式を \(T\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
T – 3.0 &= 0 \\[2.0ex]T &= 3.0 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
おもりBが宙に浮いて静止しているのは、糸が上に引っ張る力(張力)と、地球が下に引っ張る力(重力)がちょうど釣り合っているからです。おもりBの重さは \(3.0 \text{ N}\) なので、糸がそれを支えるために引く力も同じく \(3.0 \text{ N}\) となります。
AB間の糸の張力の大きさは \(3.0 \text{ N}\) です。この張力は、おもりBの重さのみを支えているため、その大きさがBの重力に等しくなるのは物理的に妥当です。
問(2)
思考の道筋とポイント
ばねの伸びを求めるには、フックの法則 \(F=kx\) を使います。そのためには、まずばねの弾性力 \(F\) の大きさを知る必要があります。ばねはおもりAに直接つながっているので、おもりAにはたらく力のつり合いを考えることで、弾性力 \(F\) を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- おもりAにはたらく力をすべて洗い出すこと(ばねの弾性力、A自身の重力、糸の張力)。
- おもりAを引く糸の張力は、(1)で求めた値と同じである。
- ばねの弾性力は、その下にあるすべての物体の重さの合計を支えている。
- フックの法則 \(F=kx\) を正しく適用する。
具体的な解説と立式
おもりAに着目します。
おもりAには、鉛直上向きにばねの弾性力(大きさを \(F\) とする)、鉛直下向きに自身の重力(大きさ \(2.0 \text{ N}\))、そして鉛直下向きに糸がおもりAを引く張力(大きさ \(T\))がはたらいています。
おもりAは静止しているので、これらの力はつり合っています。鉛直上向きを正とすると、力のつり合いの式は以下のようになります。
$$ F – T – 2.0 = 0 \quad \cdots ① $$
(1)で求めた \(T = 3.0 \text{ N}\) をこの式に代入することで、弾性力 \(F\) を求めることができます。
次に、ばねの自然長からの伸びを \(x\) とすると、フックの法則より弾性力 \(F\) は次のように表せます。
$$ F = kx \quad \cdots ② $$
問題文より、ばね定数 \(k = 25 \text{ N/m}\) です。①で求めた \(F\) の値を②に代入して、\(x\) を計算します。
使用した物理公式
- 力のつり合いの条件
- フックの法則: \(F = kx\)
まず、式①から弾性力 \(F\) を求めます。(1)より \(T=3.0 \text{ N}\) なので、
$$
\begin{aligned}
F – 3.0 – 2.0 &= 0 \\[2.0ex]F &= 5.0 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
次に、この \(F\) の値をフックの法則の式②に代入して、伸び \(x\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
5.0 &= 25x \\[2.0ex]x &= \frac{5.0}{25} \\[2.0ex]&= 0.20 \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
ばねがどれだけ伸びているかを知るには、ばねがどれくらいの力で引っ張られているかを知る必要があります。ばねは、その下につながっているおもりAとおもりBの両方を支えています。Aの重さが \(2.0 \text{ N}\)、Bの重さが \(3.0 \text{ N}\) なので、ばねは合計で \(2.0 + 3.0 = 5.0 \text{ N}\) の力で下に引っ張られています。
ばねの伸びは、この力(弾性力)をばねの硬さ(ばね定数)で割ることで計算できます。したがって、伸びは \(5.0 \text{ N} \div 25 \text{ N/m} = 0.20 \text{ m}\) となります。
ばねの自然長からの伸びは \(0.20 \text{ m}\) です。ばねは、その下にある物体全体の重さ(\(2.0 \text{ N} + 3.0 \text{ N} = 5.0 \text{ N}\))を支えるため、弾性力は \(5.0 \text{ N}\) となります。この力とばね定数から計算した伸びの値は妥当です。
思考の道筋とポイント
(2)でばねの弾性力を求める際に、おもりAとおもりBを一つの「かたまり」として考える方法もあります。この方法では、物体間にはたらく内力(この場合は糸の張力)を考えなくて済むため、立式がよりシンプルになります。
この設問における重要なポイント
- 複数の連結された物体を一体とみなすと、物体間にはたらく内力(張力など)は計算上無視できる。
- 一体とみなした物体の全体の重さを考える必要がある。
具体的な解説と立式
おもりAとおもりBを一体の物体とみなします。この一体の物体の重さは \(2.0 \text{ N} + 3.0 \text{ N} = 5.0 \text{ N}\) です。
この一体の物体にはたらく力は、鉛直上向きにばねの弾性力 \(F\) と、鉛直下向きに全体の重力 \(5.0 \text{ N}\) のみです。
全体が静止しているので、力のつり合いの式は以下のようになります。
$$ F – (2.0 + 3.0) = 0 $$
使用した物理公式
- 力のつり合いの条件
上記のつり合いの式から弾性力 \(F\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
F – 5.0 &= 0 \\[2.0ex]F &= 5.0 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
この結果は、おもりAに個別に着目した場合と全く同じです。この後のフックの法則を用いた伸びの計算(\(x = F/k = 5.0/25 = 0.20 \text{ m}\))は、メインの解法と同じです。
ばねの立場から見ると、下にはAとBという2つの荷物がぶら下がっているだけです。荷物の重さの合計は \(2.0 \text{ N} + 3.0 \text{ N} = 5.0 \text{ N}\) です。したがって、ばねは \(5.0 \text{ N}\) の力で引っ張られていることになります。
弾性力は \(5.0 \text{ N}\) となり、おもりAに個別に着目した場合と同じ結果が得られました。複数の物体を一体とみなす考え方は、特に系全体にかかる力を求めたい場合に非常に有効です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 連結された物体系における力のつり合い:
- 核心: 複数の物体が繋がって静止している系を扱う問題。核心は、系を構成する「個々の物体」に着目して力のつり合いを考えるか、あるいは系「全体を一体」とみなして考えるか、という2つの視点を使い分ける能力です。
- 理解のポイント:
- 個別に考える視点: 1つ1つの物体にはたらく力を図示し、それぞれについて力のつり合いの式を立てる方法。物体間にはたらく内力(この問題では糸の張力)を求めたい場合に必須のアプローチです。
- 一体とみなす視点: 連結された物体全体を1つのかたまりと見なす方法。このとき、物体間にはたらく内力(張力など)はかたまりの内部で完結するため、考えなくてよくなります。系全体に作用する外力(この問題ではばねの弾性力と全体の重力)の関係を知りたい場合に非常に有効です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 水平面上で連結された物体: 床の上に置かれた複数の物体を、糸でつないだり、直接接触させて押したり引いたりする問題。考え方は同じで、個別に考えるか、一体とみなすかを使い分けます。
- 滑車を介した問題: 滑車を挟んで2つの物体が糸でつながれている場合。それぞれの物体について力のつり合い(または運動方程式)を立てて解きます。
- エレベーター内の物体: 加速・減速するエレベーターの中で物体が吊るされている場合。これは力のつり合いではなく、運動方程式を考える問題へと発展します。
- 初見の問題での着眼点:
- どこから解き始めるか?: 複数の物体が連なっている場合、はたらく力が最も少ない「末端」の物体から考えるのが鉄則です。この問題では、一番下のおもりBから考えると、すぐに糸の張力が求まります。
- 何を求めたいか?: 求めたい量が「内力」(物体間の力、例:張力)か「外力」(系全体にかかる力、例:ばねの力)かを見極めます。内力を求めるには個別に考える必要がありますが、外力だけなら一体とみなす方が速い場合があります。
- 一体化できるかの判断: 複数の物体が同じ運動状態(この場合は静止)にあるとき、それらを一体とみなすことができます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- ばねの弾性力の計算ミス:
- 誤解: (2)でばねの弾性力を求めるときに、すぐ上にあるおもりAの重さ(\(2.0 \text{ N}\))だけを考えてしまう。
- 対策: ばねが「何を支えているか」を常に自問する癖をつけること。このばねは、その下にある物体「すべて」、つまりおもりAとおもりBの両方を支えています。したがって、ばねの弾性力は、AとBの重さの合計(\(2.0 \text{ N} + 3.0 \text{ N}\))とつり合います。
- 張力の向きの誤解:
- 誤解: おもりAにはたらく張力を、おもりBを支えているからという理由で上向きだと勘違いする。
- 対策: 張力は常に「糸が物体を引く」方向にはたらきます。おもりAにとって、糸は下側に接続されているので、張力はAを「下向き」に引きます。逆におもりBにとっては、糸は上側にあるので、張力はBを「上向き」に引きます。
- 着目物体の混同:
- 誤解: おもりAのつり合いを考えている式に、おもりBの重力を直接書き込んでしまう。
- 対策: 必ず「着目物体にはたらく力だけ」を考える原則を徹底する。おもりAに直接はたらくのは「Aの重力」「ばねの弾性力」「糸の張力」の3つです。Bの重力は、糸の張力という形で間接的におもりAに影響を与えています。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のつり合いの式:
- 選定理由: 問題文に「つるした」とあり、図からも系全体が静止していることがわかります。物理学において、静止している物体の加速度はゼロです。ニュートンの運動方程式 \(ma = F_{\text{合力}}\) に \(a=0\) を代入すると、合力 \(F_{\text{合力}}\) は \(0\) となります。これが力のつり合いの条件であり、この問題で使うべき中心的な法則です。
- 適用根拠: この法則を、(1)ではおもりBという単一の物体に、(2)ではおもりAという単一の物体、あるいはAとBを一体とみなした系に適用します。それぞれの着目対象について、はたらく力をすべてリストアップし、力のベクトル和がゼロになるように立式します。
- フックの法則 (\(F = kx\)):
- 選定理由: (2)で「ばねの伸び」を求めるように指示されています。ばねの「弾性力」と「伸び(縮み)」、そして「ばね定数」という3つの量を関係づける法則はフックの法則以外にありません。
- 適用根拠: まず力のつり合いの式を用いて、ばねにはたらく弾性力 \(F\) の大きさを特定します。次に、その \(F\) の値と問題文で与えられたばね定数 \(k\) をフックの法則に代入することで、未知数である伸び \(x\) を算出します。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位の確認: ばね定数が \(25 \text{ N/m}\) とメートル基準で与えられています。力の単位もニュートン[N]なので、計算して得られる伸び \(x\) の単位はメートル[m]になります。もし問題がセンチメートル[cm]で答えを要求していたら、最後に単位換算を忘れないように注意が必要です。
- 段階的な計算の徹底: この問題は、(1)で張力 \(T\) を求め、(2)でその \(T\) を使って弾性力 \(F\) を求め、最後に \(F\) を使って伸び \(x\) を求める、という連鎖的な構造になっています。前のステップの計算結果が次のステップの入力になるため、各段階での計算を慎重に行うことが重要です。
- 別解による検算: (2)の弾性力 \(F\) を求める際に、「おもりAに個別で着目する方法」と「AとBを一体とみなす方法」の2通りで計算し、結果が一致するかを確認する習慣をつけると非常に強力です。\(F = T + 2.0 = 3.0 + 2.0 = 5.0 \text{ N}\) と、\(F = W_A + W_B = 2.0 + 3.0 = 5.0 \text{ N}\) が一致することを確認できれば、計算ミスや考え方の間違いをほぼ確実に防げます。
42 3力のつり合い
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「3つの力が1点でつり合う状況の解析」です。複数の力が1点にはたらいて静止している場合、それらの力はつり合っていると考え、数式で表現します。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力のつり合い: 物体(この場合はばねばかりの接合点)が静止しているため、そこにはたらく力の合力はゼロになります。
- 座標軸の設定: 力を成分に分けて考えるために、互いに直交する座標軸を設定します。計算が最も簡単になるように軸を選ぶことが重要で、この問題では水平・鉛直方向を軸に取るのが基本です。
- 力の分解: 座標軸に対して斜めを向いている力は、座標軸に沿った2つの成分(x成分、y成分)に分解します。三角関数(\(\sin\), \(\cos\))を正しく用いる必要があります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 水平右向きをx軸、鉛直上向きをy軸と設定します。
- 3つの力のうち、斜めを向いているばねBの力 \(F_B\) をx成分とy成分に分解します。
- 「x方向の力の和=0」「y方向の力の和=0」という2つの力のつり合いの式を立てます。
- 立てた連立方程式を解いて、未知の力 \(F_B\) と \(F_C\) の大きさを求めます。
思考の道筋とポイント
3つのばねばかりが接続された点が静止しているため、この点にはたらく3つの張力がつり合っています。未知の力が2つ(ばねBとCの張力)あるため、2つの独立した方程式を立てる必要があります。これは、力を直交する2つの方向(水平と鉛直)に分解し、それぞれの方向で力のつり合いの式を立てることで解決できます。
この問題で最も重要なのは、力を分解するための座標軸を適切に設定し、斜め向きの力(ばねBの力)が軸となす角度を正確に求めることです。
この設問における重要なポイント
- 力のつり合いの条件:水平方向の力の和が0、かつ、鉛直方向の力の和が0。
- 座標軸の設定:ばねAとCがそれぞれ鉛直、水平方向を向いているため、水平方向をx軸、鉛直方向をy軸とすると計算がしやすい。
- 角度の特定:図に与えられた角度の情報から、力Bが座標軸となす角度を正確に導き出す。
具体的な解説と立式
ばねばかりA, B, Cが引く力の大きさを、それぞれ \(F_A, F_B, F_C\) とします。問題文より、\(F_A = 3.0 \text{ N}\) です。
水平右向きをx軸の正方向、鉛直上向きをy軸の正方向とします。
各力は、ばねばかりの接続点に以下のようにはたらきます。
- 力 \(F_A\): y軸の正方向。大きさ \(3.0 \text{ N}\)。
- 力 \(F_C\): x軸の正方向。大きさは未知。
- 力 \(F_B\): 斜め左下方向。大きさは未知。
次に、力 \(F_B\) がx軸、y軸となす角を求めます。
図より、力 \(F_A\)(y軸正方向)と力 \(F_B\) のなす角は \(120^\circ\) です。したがって、力 \(F_B\) とy軸負方向とのなす角は \(180^\circ – 120^\circ = 60^\circ\) となります。
y軸とx軸は直交しているので、力 \(F_B\) がx軸負方向となす角は \(90^\circ – 60^\circ = 30^\circ\) です。
これを用いて、力 \(F_B\) をx成分とy成分に分解します。
- x成分: \(-F_B \cos 30^\circ\)
- y成分: \(-F_B \sin 30^\circ\)
接続点にはたらく力のつり合いを考えます。
y軸方向(鉛直方向)の力のつり合い:
$$ F_A – F_B \sin 30^\circ = 0 $$
$$ 3.0 – F_B \sin 30^\circ = 0 \quad \cdots ① $$
x軸方向(水平方向)の力のつり合い:
$$ F_C – F_B \cos 30^\circ = 0 \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 力のつり合いの条件: x方向の力の和 = 0, y方向の力の和 = 0
- 力の分解
まず、式①から \(F_B\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
3.0 – F_B \sin 30^\circ &= 0 \\[2.0ex]3.0 &= F_B \times \frac{1}{2} \\[2.0ex]F_B &= 3.0 \times 2 \\[2.0ex]&= 6.0 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
次に、求めた \(F_B = 6.0 \text{ N}\) を式②に代入して \(F_C\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
F_C – F_B \cos 30^\circ &= 0 \\[2.0ex]F_C &= F_B \cos 30^\circ \\[2.0ex]&= 6.0 \times \frac{\sqrt{3}}{2} \\[2.0ex]&= 3.0\sqrt{3}
\end{aligned}
$$
ここで、\(\sqrt{3} \approx 1.73\) を代入して計算します。
$$
\begin{aligned}
F_C &\approx 3.0 \times 1.73 \\[2.0ex]&= 5.19
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めて、\(F_C \approx 5.2 \text{ [N]}\) となります。
3つの力が引っ張り合って動かないので、力のバランスが取れています。このバランスを「縦方向」と「横方向」に分けて考えます。
- 縦のバランス: ばねAが上に引く力(\(3.0 \text{ N}\))と、ばねBが斜め下に引く力のうち「下向きの成分」が等しくなっています。この関係から、ばねBが引く力 \(F_B\) の大きさがわかります。
- 横のバランス: ばねCが右に引く力(\(F_C\))と、ばねBが斜め下に引く力のうち「左向きの成分」が等しくなっています。上で求めた \(F_B\) を使うと、ばねCが引く力 \(F_C\) の大きさが計算できます。
ばねばかりBの目盛りは \(6.0 \text{ N}\)、ばねばかりCの目盛りは約 \(5.2 \text{ N}\) です。計算過程で角度の特定、力の分解、つり合いの式の立式が正しく行われていることを確認します。
思考の道筋とポイント
3つの力が1点でつり合っている場合、それぞれの力の大きさと、その力が向かい合う角(他の2つの力がなす角)のサインの値の比は等しくなる、という「ラミの定理」を利用して解くこともできます。この定理を知っていると、力を分解する手間が省けます。
この設問における重要なポイント
- ラミの定理: \(\displaystyle\frac{F_A}{\sin\theta_A} = \frac{F_B}{\sin\theta_B} = \frac{F_C}{\sin\theta_C}\) が成り立つ。ここで \(\theta_A\) は力Bと力Cのなす角。
- 3つの力の間の角度をすべて正確に求める必要がある。
具体的な解説と立式
まず、3つの力が互いになす角を求めます。
- 力Aと力Cのなす角: \(90^\circ\)
- 力Aと力Bのなす角: \(120^\circ\)
- 力Bと力Cのなす角: \(360^\circ – 90^\circ – 120^\circ = 150^\circ\)
ラミの定理を適用します。
$$ \frac{F_A}{\sin 150^\circ} = \frac{F_B}{\sin 90^\circ} = \frac{F_C}{\sin 120^\circ} $$
使用した物理公式
- ラミの定理
\(F_A = 3.0 \text{ N}\) と、\(\sin 150^\circ = 1/2\), \(\sin 90^\circ = 1\), \(\sin 120^\circ = \sqrt{3}/2\) を代入します。
まず \(F_B\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\frac{3.0}{1/2} &= \frac{F_B}{1} \\[2.0ex]F_B &= 6.0 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
次に \(F_C\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\frac{3.0}{1/2} &= \frac{F_C}{\sqrt{3}/2} \\[2.0ex]6.0 &= \frac{F_C}{\sqrt{3}/2} \\[2.0ex]F_C &= 6.0 \times \frac{\sqrt{3}}{2} \\[2.0ex]&= 3.0\sqrt{3} \approx 5.2 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
メインの解法と全く同じ結果が得られました。ラミの定理は、3力のつり合いの問題において非常に強力な検算ツールとなります。
思考の道筋とポイント
3つの力がつり合っている状態は、「2つの力の合力が、残りの1つの力とつり合っている」と考えることができます。ここでは、力Aと力Cの合力が、力Bとつり合っている(大きさが同じで向きが真逆)ことを利用します。
この設問における重要なポイント
- 力のつり合いのベクトル表現: \(\vec{F_A} + \vec{F_B} + \vec{F_C} = \vec{0}\)
- 式の変形: \(\vec{F_A} + \vec{F_C} = -\vec{F_B}\)
- 直交する2力の合成には三平方の定理が使える。
具体的な解説と立式
力Aと力Cは直交しているため、この2つの力の合力 \(\vec{F}_{AC}\) を考えます。
合力の大きさ \(F_{AC}\) は、三平方の定理より、
$$ F_{AC} = \sqrt{F_A^2 + F_C^2} $$
この合力 \(\vec{F}_{AC}\) が力 \(\vec{F_B}\) とつり合っているので、大きさが等しくなります。
$$ F_B = \sqrt{F_A^2 + F_C^2} \quad \cdots ③ $$
また、合力 \(\vec{F}_{AC}\) の向きは、力 \(\vec{F_B}\) の向きと真逆です。力 \(\vec{F_B}\) は水平線と \(30^\circ\) の角をなすので、合力 \(\vec{F}_{AC}\) も水平線と \(30^\circ\) の角をなします。ベクトル図を描くと、
$$ \tan 30^\circ = \frac{F_A}{F_C} \quad \cdots ④ $$
が成り立ちます。
使用した物理公式
- 力の合成(三平方の定理)
- 三角関数の定義
まず、式④を使って \(F_C\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\tan 30^\circ &= \frac{3.0}{F_C} \\[2.0ex]\frac{1}{\sqrt{3}} &= \frac{3.0}{F_C} \\[2.0ex]F_C &= 3.0\sqrt{3} \approx 5.2 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
次に、求めた \(F_C\) の値を式③に代入して \(F_B\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
F_B &= \sqrt{3.0^2 + (3.0\sqrt{3})^2} \\[2.0ex]&= \sqrt{9.0 + 27} \\[2.0ex]&= \sqrt{36} \\[2.0ex]&= 6.0 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
この方法でも、メインの解法と全く同じ結果が得られました。力の合成という物理的に重要な概念を用いて問題を解くことができます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 力のつり合いと成分分解:
- 核心: 1点にはたらく複数の力がつり合っている(合力がゼロ)という状況を、数式で処理する能力が核心です。そのためには、力を互いに直交する2つの成分に分解し、「各方向の力の和がゼロになる」という条件式を立てるのが最も基本的かつ汎用的なアプローチです。
- 理解のポイント:
- なぜ分解するのか?: 力はベクトル量であり、向きが異なると単純な足し算・引き算ができません。そこで、全ての力を共通の「ものさし」(座標軸)に沿った成分に分解することで、各方向ごとにスカラー(ただの数値)として扱うことができ、簡単な代数計算に持ち込めます。
- 座標軸の選び方: 計算を楽にするために、できるだけ多くの力が座標軸と重なるように軸を設定するのがセオリーです。この問題では、力Aと力Cが直交しているため、これらをそのままy軸、x軸とすることで、分解する力が力Bの一つだけで済み、計算が非常に楽になります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 天井から2本の糸で物体を吊るす問題: 物体にはたらく重力と、2本の糸の張力の3つがつり合う問題。本問と全く同じ構造です。
- 壁と床に立てかけた棒のつり合い: 棒にはたらく重力、床からの垂直抗力と摩擦力、壁からの垂直抗力など、複数の力がつり合う問題。力のつり合いだけでなく、力のモーメントのつり合いも考える必要がありますが、力の成分分解という点では共通しています。
- 静電気力のつり合い: 2つの固定された点電荷の間に、もう1つの点電荷を糸で吊るす問題。重力、張力、そして2つのクーロン力がつり合う状況を考えます。
- 初見の問題での着眼点:
- 着目点を決める: まず、どの点(または物体)の力のつり合いを考えるのかを明確にします。この問題では「3つのばねばかりの接続点」です。
- 力の図示: 着目点にはたらく力をすべて矢印で描き出します。力の向きと、分かっている角度を正確に記入します。
- 座標軸の設定: 最も計算が楽になるように座標軸を設定します。迷ったら水平・鉛直で問題ありません。
- 角度の計算: 各力が座標軸となす角を、図形的な知識(錯角、同位角、三角形の内角の和など)を使って慎重に求めます。ここが一番の間違いやすいポイントです。
- 立式と計算: 各力を成分分解し、x方向、y方向それぞれのつり合いの式を立てて連立方程式を解きます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 力の分解における角度の間違い:
- 誤解: 力Bがx軸となす角を、図に示された \(120^\circ\) や \(90^\circ\) から安易に判断して間違える。例えば、\(120^\circ – 90^\circ = 30^\circ\) をy軸との角度と勘違いするなど。
- 対策: 必ず大きな図を描き、補助線を引いて角度を一つ一つ確認する。力Bとy軸正方向がなす角が \(120^\circ\) なので、力Bとy軸負方向がなす角は \(180^\circ – 120^\circ = 60^\circ\)。よって、x軸負方向となす角は \(90^\circ – 60^\circ = 30^\circ\) である、というように論理的に角度を導出する癖をつける。
- \(\sin\) と \(\cos\) の混同:
- 誤解: x成分を \(\sin\)、y成分を \(\cos\) と機械的に覚えていて間違える。
- 対策: 「角度 \(\theta\) を挟む辺が \(\cos\theta\)」というルールを適用する。この問題では、力Bとx軸負方向のなす角を \(30^\circ\) としたので、x成分が \(\cos 30^\circ\) を使う方になります。
- 力の向き(符号)のミス:
- 誤解: 力Bの成分を分解する際に、両方とも正の値として式を立ててしまう。
- 対策: 座標軸の正の向きを最初に決め、それと逆向きの成分には必ずマイナス符号をつけることを徹底する。力Bは左下を向いているので、x成分もy成分も負になります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のつり合いの式 (x方向の力の和 = 0, y方向の力の和 = 0):
- 選定理由: 問題文に「力がつり合った」と明記されています。これは、接続点の加速度がゼロであることを意味し、ニュートンの運動法則 \(ma=F_{\text{合力}}\) から、接続点にはたらく合力がゼロであると結論付けられます。このベクトル方程式を、計算可能な2つのスカラー方程式に変換したものが、成分ごとのつり合いの式です。
- 適用根拠: 3つの力ベクトルを直接足し合わせるのは困難です。しかし、ベクトルは互いに直交する成分に分解できるという性質を持っています。x方向の運動はx方向の力のみで決まり、y方向の運動はy方向の力のみで決まる(運動の独立性)ため、各方向で独立して力のつり合いを考えることができます。
- ラミの定理(別解):
- 選定理由: 「3つの力」「1点」「つり合い」というキーワードが揃ったときに適用できる特殊な公式です。力を分解する手間を省き、よりエレガントに解きたい場合に選択します。
- 適用根拠: この定理は、力のつり合いのベクトル方程式 \(\vec{F_A} + \vec{F_B} + \vec{F_C} = \vec{0}\) を、ベクトル三角形の正弦定理を用いて表現し直したものです。数学的には力の分解と同じことを行っていますが、見通しが良くなる場合があります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 連立方程式の解法戦略: この問題では、y方向のつり合いの式①には未知数が \(F_B\) のみ、x方向の式②には \(F_B\) と \(F_C\) の2つが含まれています。したがって、まず式①から \(F_B\) を確定させ、その結果を式②に代入して \(F_C\) を求める、という手順が最も効率的です。常に未知数が少ない式から手をつけることを意識しましょう。
- 有効数字の扱い: 問題文の \(3.0 \text{ N}\) は有効数字2桁です。計算途中で \(F_C = 3.0\sqrt{3}\) となっても、最後に \(\sqrt{3} \approx 1.73\) を代入して \(5.19\) と計算し、これを有効数字2桁に四捨五入して \(5.2\) と答える必要があります。
- 概算による検算: \(F_B = 6.0 \text{ N}\), \(F_C = 3.0\sqrt{3} \approx 5.2 \text{ N}\) と求まりました。力Bは力A(\(3.0 \text{ N}\))のちょうど2倍、力Cは力Aの \(\sqrt{3}\) 倍になっています。これは、3つの力がなす角度が \(90^\circ, 120^\circ, 150^\circ\) という特別な関係(\(1:2:\sqrt{3}\) の直角三角形が隠れている)から来ています。このような関係性に気づくと、計算結果に自信を持つことができます。
43 力のつり合いと作用・反作用
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「重ねた物体の力のつり合いと作用・反作用」です。複数の物体が接触して静止している系において、各物体にはたらく力を正確に特定し、「力のつり合い」と「作用・反作用の法則」を正しく区別して適用する能力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力の図示(フリーボディダイアグラム): 各物体にはたらく力を「重力」と「接触力(垂直抗力など)」に分けて、漏れなく描き出すことが全ての基本です。
- 力の主語・目的語の明確化: 「AがBに及ぼす力」という形で、力を及ぼす物体(主語)と力を受ける物体(目的語)を明確にすることが、2つの法則を区別する鍵となります。
- 力のつり合い: 1つの物体に着目し、その物体にはたらく力の合力がゼロになる関係です。目的語が同じ力の関係です。
- 作用・反作用の法則: 2つの物体間で互いに及ぼし合う力のペアの関係です。主語と目的語を入れ替えた関係になります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1),(2)では、物体A、物体B、水平面にはたらく力をすべて特定し、「何が何に及ぼす力か」を定義します。
- (3)では、(2)で定義した力を元に、「つり合い(目的語が同じ力の組)」と「作用・反作用(主語と目的語が入れ替わるペア)」をルールに従って分類します。
- (4)では、物体A、物体Bそれぞれについての力のつり合いの式を立て、各力の大きさを \(W_A, W_B\) を用いて計算します。
問(1), (2)
思考の道筋とポイント
複数の物体が絡む問題では、まず登場するすべての力を漏れなく見つけ出し、それぞれの力が「何から何へ」はたらくのかを定義することが最も重要です。力は「重力」と「接触力」に大別して考えると見つけやすくなります。
この設問における重要なポイント
- 力を数え上げる対象は「物体A」「物体B」「水平面」の3つ。
- 重力は「地球」が物体を引く力。
- 接触力は、触れている相手から受ける力。AとB、Bと水平面がそれぞれ接触している。
具体的な解説と立式
各物体にはたらく力を体系的に探し、上から順に \(F_1, F_2, \dots\) と名前をつけ、その正体を明らかにします。
1. 物体Aにはたらく力:
- 地球がAを引く重力(下向き)。これを \(F_1\) とする。
- BがAを支える垂直抗力(上向き)。これを \(F_2\) とする。
2. 物体Bにはたらく力:
- AがBを押す力(下向き)。これは \(F_2\) の反作用。これを \(F_3\) とする。
- 地球がBを引く重力(下向き)。これを \(F_4\) とする。
- 水平面がBを支える垂直抗力(上向き)。これを \(F_5\) とする。
3. 水平面にはたらく力:
- Bが水平面を押す力(下向き)。これは \(F_5\) の反作用。これを \(F_6\) とする。
これを(2)の形式でまとめると以下のようになります。
- \(F_1\): 地球が物体Aに及ぼす力(重力)
- \(F_2\): 物体Bが物体Aに及ぼす力(垂直抗力)
- \(F_3\): 物体Aが物体Bに及ぼす力
- \(F_4\): 地球が物体Bに及ぼす力(重力)
- \(F_5\): 水平面が物体Bに及ぼす力(垂直抗力)
- \(F_6\): 物体Bが水平面に及ぼす力
使用した物理公式
この設問では、力の種類を特定する概念的な理解が問われており、特定の数式は使用しません。
この設問では、計算は不要です。
まず、登場人物(A, B, 水平面)それぞれが誰からどんな力を受けているかをリストアップします。Aは地球から重力を受け、下のBから支えられています。Bは地球から重力を受け、上のAから押され、下の水平面から支えられています。水平面は上のBから押されています。これらの力を図に描き、上から順番に名前をつけたものが(1)の答え、力の正体を言葉で説明したものが(2)の答えです。
物体A, B, 水平面にはたらく力を合計6つ特定し、それぞれの主語と目的語を明確に定義しました。これが(3)と(4)を解くための基礎となります。
問(3)
思考の道筋とポイント
(2)で定義した6つの力の中から、「つり合い」と「作用・反作用」のルールに当てはまる組み合わせを探す問題です。2つの法則の定義を正確に適用することが鍵となります。
この設問における重要なポイント
- つり合い: 1つの物体にはたらく力(目的語が同じ)の組み合わせ。
- 作用・反作用: 2つの物体間で互いに及ぼし合う力(主語と目的語が入れ替わる)のペア。
具体的な解説と立式
(2)の定義リストをもとに、ルールに従って分類します。
力のつり合い:
- 物体Aに着目: 目的語が「A」である力を探すと、\(F_1\)(地球→A)と \(F_2\)(B→A)が見つかります。物体Aは静止しているので、これらがつり合っています。
- つり合いのペア1: \(F_1\) と \(F_2\)
- 物体Bに着目: 目的語が「B」である力を探すと、\(F_3\)(A→B)、\(F_4\)(地球→B)、\(F_5\)(水平面→B)の3つが見つかります。物体Bは静止しているので、これらがつり合っています。
- つり合いの組2: \(F_3\), \(F_4\), \(F_5\)
作用・反作用:
- 主語と目的語が入れ替わるペアを探します。
- 「\(F_2\): BがAに及ぼす力」と「\(F_3\): AがBに及ぼす力」。主語(B,A)と目的語(A,B)が入れ替わっているので、これらは作用・反作用のペアです。
- 作用・反作用のペア1: \(F_2\) と \(F_3\)
- 「\(F_5\): 水平面がBに及ぼす力」と「\(F_6\): Bが水平面に及ぼす力」。主語(水平面,B)と目的語(B,水平面)が入れ替わっているので、これらも作用・反作用のペアです。
- 作用・反作用のペア2: \(F_5\) と \(F_6\)
使用した物理公式
- 力のつり合いの定義
- 作用・反作用の法則
この設問は概念を問うものであり、計算は不要です。
「つり合い」は、1つの物体に注目したときの力のバランスです。Aに注目すると、\(F_1\)と\(F_2\)がバランスを取っています。Bに注目すると、\(F_5\)という上向きの力と、\(F_3, F_4\)という2つの下向きの力がバランスを取っています。
「作用・反作用」は、2つの物体の間の「押し合い」です。AとBは互いに押し合っており、その力のペアが\(F_2\)と\(F_3\)です。Bと水平面も互いに押し合っており、そのペアが\(F_5\)と\(F_6\)です。
つり合いの関係は「\(F_1\)と\(F_2\)」、「\(F_3, F_4, F_5\)の3力」。作用・反作用の関係は「\(F_2\)と\(F_3\)」、「\(F_5\)と\(F_6\)」。それぞれの法則の定義に従って正しく分類できました。
問(4)
思考の道筋とポイント
(3)で導いた力のつり合いの関係式と、作用・反作用の法則(力の大きさが等しい)を用いて、各力の大きさを \(W_A, W_B\) で表す問題です。
この設問における重要なポイント
- 重力の大きさは、物体の重さに等しい。(\(F_1=W_A, F_4=W_B\))
- 物体Aのつり合いの式を立てる。
- 物体Bのつり合いの式を立てる。
- 作用・反作用のペアは大きさが等しいことを利用する。
具体的な解説と立式
鉛直上向きを正として、力の大きさを考えます。
まず、重力の定義から、
$$ F_1 = W_A $$
$$ F_4 = W_B $$
次に、(3)で見つけた力のつり合いの関係を数式にします。
- 物体Aのつり合い: \(F_2\)(上向き)と \(F_1\)(下向き)がつり合うので、
$$ F_2 – F_1 = 0 $$ - 物体Bのつり合い: \(F_5\)(上向き)と \(F_3, F_4\)(下向き)がつり合うので、
$$ F_5 – F_3 – F_4 = 0 $$
さらに、作用・反作用の法則から、力の大きさは等しくなります。
- \(F_2\) と \(F_3\) のペア: \(F_2 = F_3\)
- \(F_5\) と \(F_6\) のペア: \(F_5 = F_6\)
これらの関係式を連立して解きます。
使用した物理公式
- 力のつり合いの式
- 作用・反作用の法則(大きさについて)
1. 物体Aのつり合い \(F_2 – F_1 = 0\) と \(F_1 = W_A\) より、
$$
\begin{aligned}
F_2 = F_1 = W_A
\end{aligned}
$$
2. 作用・反作用の関係より、
$$
\begin{aligned}
F_3 = F_2 = W_A
\end{aligned}
$$
3. 物体Bのつり合い \(F_5 – F_3 – F_4 = 0\) に、\(F_3=W_A\) と \(F_4=W_B\) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
F_5 – W_A – W_B &= 0 \\[2.0ex]F_5 &= W_A + W_B
\end{aligned}
$$
4. 作用・反作用の関係より、
$$
\begin{aligned}
F_6 = F_5 = W_A + W_B
\end{aligned}
$$
- \(F_1\)はAの重さそのものなので \(W_A\)。
- Aは静止しているので、BがAを支える力 \(F_2\) はAの重さ \(F_1\) と同じ大きさ。よって \(F_2 = W_A\)。
- AがBを押す力 \(F_3\) は、BがAを支える力 \(F_2\) の反作用なので、大きさは同じ。よって \(F_3 = W_A\)。
- \(F_4\)はBの重さそのものなので \(W_B\)。
- 水平面がBを支える力 \(F_5\) は、Bの上に乗っているAの重さ(\(F_3\))とB自身の重さ(\(F_4\))の両方を支えなければならない。よって \(F_5 = F_3 + F_4 = W_A + W_B\)。
- Bが水平面を押す力 \(F_6\) は、水平面がBを支える力 \(F_5\) の反作用なので、大きさは同じ。よって \(F_6 = W_A + W_B\)。
各力の大きさは、\(F_1=W_A\), \(F_2=W_A\), \(F_3=W_A\), \(F_4=W_B\), \(F_5=W_A+W_B\), \(F_6=W_A+W_B\) となります。特に、水平面が受ける力は、その上にあるすべての物体の重さの合計に等しくなるという直感とも一致し、妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
(4)で水平面からの垂直抗力 \(F_5\) を求める際に、物体AとBを一つの「かたまり」として考える方法です。内力である \(F_2, F_3\) を考えずに済むため、計算が簡潔になります。
この設問における重要なポイント
- AとBを一体とみなすと、全体の重さは \(W_A + W_B\)。
- この一体の物体にはたらく力は、全体の重力と、水平面からの垂直抗力 \(F_5\) のみ。
具体的な解説と立式
物体AとBを一体の物体とみなします。
この一体の物体にはたらく力は、
- 全体の重力(下向き): 大きさ \(W_A + W_B\)
- 水平面からの垂直抗力(上向き): 大きさ \(F_5\)
この2つの力がつり合っているので、
$$ F_5 – (W_A + W_B) = 0 $$
$$
\begin{aligned}
F_5 = W_A + W_B
\end{aligned}
$$
作用・反作用の法則より、\(F_6 = F_5\) なので、
$$
\begin{aligned}
F_6 = W_A + W_B
\end{aligned}
$$
この結果はメインの解法と一致します。
一体とみなすことで、水平面が支えるべき力は、その上にある物体の総重量に等しいことが直感的に理解でき、計算も簡単になります。複雑な問題で、系全体にかかる力を知りたい場合に特に有効な手法です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 「力のつり合い」と「作用・反作用」の法則の厳密な区別:
- 核心: 複数の物体が接触する系において、この2つの基本法則を混同せずに正しく使い分けることが、この問題の核心です。特に、それぞれの法則が成立する「舞台」と「登場人物」を正確に理解することが求められます。
- 理解のポイント:
- 力の主語・目的語の特定: 全ての力を「AがBに及ぼす力」という形で言語化し、主語(力を及ぼす側)と目的語(力を受ける側)を特定する能力が、2つの法則を区別するための絶対的な鍵となります。
- つり合い: 1つの物体(目的語が同じ)にはたらく複数の力の関係です。例:「地球がAに及ぼす力 \(F_1\)」と「BがAに及ぼす力 \(F_2\)」。
- 作用・反作用: 2つの物体(主語と目的語が入れ替わる)間で互いに及ぼし合う力のペアです。例:「BがAに及ぼす力 \(F_2\)」と「AがBに及ぼす力 \(F_3\)」。
- 着目物体の分離(フリーボディダイアグラム):
- 核心: 複雑に見える系を、構成要素である各物体に分解し、その物体「だけ」にはたらく力をすべて図示する能力。
- 理解のポイント: 物体Aについて考えるときは、物体Bや水平面のことは一旦忘れ、Aにはたらく力(Aの重力、Bからの垂直抗力)だけを描きます。物体Bについて考えるときも同様に、Bにはたらく力だけを描くことで、どの力がどの物体のつり合いに関係するのかが明確になります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- エレベーター内の重ねた物体: エレベーターが加速度運動している場合。力のつり合いではなく、各物体について運動方程式 \(ma = F\) を立てる問題に発展します。力の種類や作用・反作用の関係は全く同じですが、つり合いの式が運動方程式に変わるだけです。
- 摩擦のある水平面で重ねた物体を引く問題: 上の物体と下の物体、下の物体と床の間に摩擦がはたらく場合。垂直抗力を正しく計算できないと、最大摩擦力も計算できないため、本問の理解が前提となります。
- 3つ以上重ねた物体: 物体が3つ、4つと増えても、考え方は全く同じです。一番上の物体から順に力のつり合いを考えていけば、全ての力を計算できます。
- 初見の問題での着眼点:
- 登場する物体を全てリストアップ: この問題では「A」「B」「水平面」「地球」の4つです。
- 接触点をチェック: 物体がどこで触れ合っているか(AとB、Bと水平面)を確認します。接触点には必ず作用・反作用のペア(垂直抗力や摩擦力)が存在します。
- 一番上(または一番端)から攻める: 複数の物体が重なっている場合、一番上の物体(A)にはたらく力は最も単純です。ここからつり合いの式を立てるのが定石です。
- 一体として見る視点: 系全体にかかる外力(例:水平面からの垂直抗力)を求めたい場合は、AとBを一体と見なします。このとき、全体の重さは \(W_A + W_B\) となり、AとBの間の内力(\(F_2, F_3\))は考えなくてよくなります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- つり合いと作用・反作用の混同(最頻出):
- 誤解: 物体Aにはたらく重力 \(F_1\) と、AがBを押す力 \(F_3\) を作用・反作用の関係と勘違いする。
- 対策: 主語・目的語分析を徹底します。「\(F_1\): 地球がAに及ぼす力」の反作用は「Aが地球に及ぼす力」であり、図には描かれていません。「\(F_3\): AがBに及ぼす力」の反作用は「BがAに及ぼす力 \(F_2\)」です。主語と目的語が単純に入れ替わるペア以外は作用・反作用ではない、と断言できるようにします。
- 力の数え漏れ・数え間違い:
- 誤解: 物体Bにはたらく力として、Aの重力 \(W_A\) を直接書き込んでしまう。
- 対策: 「着目物体が直接受ける力」だけを考える原則を守ります。BがAから受ける力は、あくまで「AがBを押す垂直抗力 \(F_3\)」です。この \(F_3\) の大きさが結果的に \(W_A\) と等しくなりますが、力の種類としては別物です。
- 垂直抗力の大きさの誤解:
- 誤解: 物体Bにはたらく垂直抗力 \(F_5\) の大きさを、Bの重さ \(W_B\) と等しいと考えてしまう。
- 対策: 垂直抗力は、常に「その物体が受ける下向きの力の合計」とつり合うと考えます。物体Bは、自身の重力 \(W_B\) に加えて、上のAから押される力 \(F_3\) も受けています。したがって、\(F_5\) はこの2つの力の和 (\(F_3 + W_B = W_A + W_B\)) とつり合います。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のつり合いの式 (力の和 = 0):
- 選定理由: 問題文に「重ねて置かれている」とあり、系全体が静止していることが読み取れます。静止している物体の加速度はゼロなので、ニュートンの運動方程式 \(ma = F_{\text{合力}}\) は \(F_{\text{合力}} = 0\) となります。これが力のつり合いの条件であり、各物体の力の関係を記述するためにこの法則を選択します。
- 適用根拠: この法則は「1つの物体」に対して適用されます。したがって、物体A、物体Bをそれぞれ独立した対象として扱い、それぞれについてこの法則を適用することで、未知の力を既知の力で表すための方程式を立てることができます。
- 作用・反作用の法則 (\(F_{AB} = F_{BA}\)):
- 選定理由: (3)で明確に問われているだけでなく、(4)の計算過程で \(F_2=F_3\) や \(F_5=F_6\) という関係を使うために必要となります。これは、物体間で力がどのように伝達されるかを記述する基本法則です。
- 適用根拠: この法則は「2つの物体」間の関係を記述します。物体Aのつり合いを考えて求めた力 \(F_2\)(BがAを押す力)の情報を、物体Bのつり合いの式で使うために、その反作用である \(F_3\)(AがBを押す力)の大きさが \(F_2\) と等しい、という形で法則を適用します。これにより、異なる物体の間で力の情報を橋渡しすることができます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- この問題は記号計算が主であり、具体的な数値計算ミスは発生しにくいですが、「論理的な間違い」を防ぐテクニックが重要です。
- 力のリストアップと定義: (1),(2)で行ったように、まず全ての力をリストアップし、「\(F_1\): 地球がAに及ぼす力」のように、主語と目的語を明確に書き下す。この一手間が、(3)と(4)での混乱を劇的に減らします。
- 1つずつ解く:
- まず、一番上の物体Aのつり合いだけを考える。→ \(F_2 = F_1 = W_A\) がわかる。
- 次に、作用・反作用を考える。→ \(F_3 = F_2 = W_A\) がわかる。
- 次に、物体Bのつり合いを考える。→ \(F_5 = F_3 + F_4 = W_A + W_B\) がわかる。
- 最後に、もう一つの作用・反作用を考える。→ \(F_6 = F_5 = W_A + W_B\) がわかる。
このように、情報を一つずつ確定させていく連鎖的な思考プロセスを意識すると、複雑な問題でも道筋を見失いません。
- 一体化による検算: 水平面からの垂直抗力 \(F_5\) を求めるとき、メインの解法(Bのつり合い)で計算した後、「AとBを一体とみなす」別解で検算します。一体の物体の重さは \(W_A+W_B\) であり、これを支えるのが \(F_5\) なので、\(F_5 = W_A+W_B\) となるはずです。この結果が一致すれば、計算はほぼ正しいと確信できます。
44 作用・反作用
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは、「作用・反作用の法則」と「運動方程式」を組み合わせて、複数の物体が絡む系の力学を解析することです。静止していない物体にはたらく力の関係を正しく理解する能力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 作用・反作用の法則: 2つの物体が互いに力を及ぼし合うとき、その力のペアは大きさが等しく、向きが逆になります。この法則は、物体が静止していても運動していても常に成り立ちます。
- 運動方程式 (\(ma=F\)): 物体が加速度 \(a\) で運動しているとき、物体にはたらく力の合力 \(F\) は、質量 \(m\) と加速度 \(a\) の積に等しくなります。力がつり合っていない状況で用いる法則です。
- 力の主語・目的語の明確化: 「AがBに及ぼす力」という形で、力を及ぼす物体(主語)と力を受ける物体(目的語)を明確にすることが、作用・反作用の法則を正しく適用するための鍵です。
- 着目物体の分離: A君、B君、台車という3つの物体それぞれについて、はたらく力を個別に考え、運動方程式を立てることが重要です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、図に示された8つの力が、それぞれ「何が」「何に」及ぼす力なのかを全て定義します。
- 「作用・反作用の関係」については、定義に従って主語と目的語が入れ替わる力のペアを探し出します。
- 「力の大小関係」については、A君、台車、B君がそれぞれ右向きに加速していることに着目します。各物体にはたらく水平方向の合力は右向き(正)になるはずなので、それぞれの物体について運動方程式を立て、力の大小関係を示す不等式を導きます。
- 最後に、作用・反作用の法則(力の大きさは等しい)と、運動方程式から得られた不等式を組み合わせて、8つの力すべての大小関係を決定します。
作用・反作用の関係について
思考の道筋とポイント
「作用・反作用の関係」にある力のペアを特定する問題です。作用・反作用の法則の定義である「2つの物体が互いに及ぼし合う力」という点を正確に理解しているかが問われます。「AがBに及ぼす力」と「BがAに及ぼす力」という、主語と目的語を入れ替えた関係のペアを探すのが基本戦略です。
この設問における重要なポイント
- 作用・反作用は、2つの物体間で互いに及ぼし合う力のペアである。
- 力の主語と目的語を明確にし、それらが入れ替わっている組み合わせを見つける。
- この法則は、物体の運動状態(静止か加速か)によらず、常に成り立つ。
具体的な解説と立式
まず、図に示された8つの力を、その定義(主語と目的語)とともに明確にします。
- \(F_1\): A君が地面を押す力
- \(F_2\): 地面がA君を押す力
- \(F_3\): 台車がA君を押す力
- \(F_4\): A君が台車を押す力
- \(F_5\): B君が台車を押す力
- \(F_6\): 台車がB君を押す力
- \(F_7\): 地面がB君を押す力
- \(F_8\): B君が地面を押す力
この定義リストの中から、主語と目的語が入れ替わっているペアを探します。
- ペア1: 「A君が地面を押す力(\(F_1\))」と「地面がA君を押す力(\(F_2\))」
- ペア2: 「A君が台車を押す力(\(F_4\))」と「台車がA君を押す力(\(F_3\))」
- ペア3: 「B君が台車を押す力(\(F_5\))」と「台車がB君を押す力(\(F_6\))」
- ペア4: 「B君が地面を押す力(\(F_8\))」と「地面がB君を押す力(\(F_7\))」
これら4組が作用・反作用の関係にある力の組み合わせです。
使用した物理公式
- 作用・反作用の法則(運動の第3法則)
この設問は概念を問うものであり、計算は不要です。
「作用・反作用」とは、2つの物体の間での「押し合い」や「引き合い」のペアのことです。この図では、4つの「押し合い」があります。
- A君と地面の押し合い(\(F_1\)と\(F_2\))
- A君と台車の押し合い(\(F_4\)と\(F_3\))
- B君と台車の押し合い(\(F_5\)と\(F_6\))
- B君と地面の押し合い(\(F_8\)と\(F_7\))
これらが作用・反作用のペアになります。
作用・反作用の関係にある力の組み合わせは、「\(F_1\)と\(F_2\)」、「\(F_3\)と\(F_4\)」、「\(F_5\)と\(F_6\)」、「\(F_7\)と\(F_8\)」の4組です。それぞれのペアが、2つの物体間で互いに力を及ぼし合っており、主語と目的語が入れ替わる関係になっていることを確認しました。
力の大きさの大小関係について
思考の道筋とポイント
物体が「右向きに動き出す」という情報から、力の大小関係を導き出す問題です。「動き出す」とは「加速する」ことを意味するため、力のつり合いではなく、運動方程式が基本原理となります。A君、台車、B君の3つの物体それぞれについて、運動の様子から力の大小関係を考えます。
この設問における重要なポイント
- 「動き出す」→ 加速運動であり、物体にはたらく合力はゼロではない。
- 運動方程式 \(ma=F_{\text{合力}}\) より、加速度の向きと合力の向きは同じ。
- A君、台車、B君のそれぞれについて、はたらく力を特定し、合力の向きを考える。
- 作用・反作用の法則より、ペアとなる力の大きさは常に等しい。
具体的な解説と立式
A君、台車、B君は一体となって右向きに動き出すので、3つの物体はすべて右向きに同じ加速度 \(a\) (\(a>0\)) で運動します。水平右向きを正として、各物体について運動方程式を立てます。
- A君にはたらく力: 右向きに \(F_2\)、左向きに \(F_3\)。A君の質量を \(m_A\) とすると、運動方程式は \(m_A a = F_2 – F_3\)。\(m_A > 0, a > 0\) なので、\(F_2 – F_3 > 0\)。よって \(F_2 > F_3\)。
- 台車にはたらく力: 右向きに \(F_4\)、左向きに \(F_5\)。台車の質量を \(m_{\text{台車}}\) とすると、運動方程式は \(m_{\text{台車}} a = F_4 – F_5\)。\(m_{\text{台車}} > 0, a > 0\) なので、\(F_4 – F_5 > 0\)。よって \(F_4 > F_5\)。
- B君にはたらく力: 右向きに \(F_6\)、左向きに \(F_7\)。B君の質量を \(m_B\) とすると、運動方程式は \(m_B a = F_6 – F_7\)。\(m_B > 0, a > 0\) なので、\(F_6 – F_7 > 0\)。よって \(F_6 > F_7\)。
また、作用・反作用の法則から、ペアとなる力の大きさは等しくなります。
$$ F_1 = F_2, \quad F_3 = F_4, \quad F_5 = F_6, \quad F_7 = F_8 $$
これらの等式と不等式を組み合わせることで、全体の大小関係を導きます。
使用した物理公式
- 運動方程式 \(ma=F\)
- 作用・反作用の法則
運動方程式から得られた不等式と、作用・反作用の法則から得られた等式を連結していきます。
- \(F_2 > F_3\)
- \(F_4 > F_5\)
- \(F_6 > F_7\)
ここに作用・反作用の等式を適用します。
- \(F_1 = F_2\) なので、\(F_1 > F_3\)。
- \(F_3 = F_4\) なので、上の不等式と合わせて \(F_1 = F_2 > F_3 = F_4\)。
- \(F_4 > F_5\) であり、\(F_5 = F_6\) なので、\(F_4 > F_6\)。
- これを先ほどの関係とつなげると、\(F_1 = F_2 > F_3 = F_4 > F_5 = F_6\)。
- \(F_6 > F_7\) であり、\(F_7 = F_8\) なので、\(F_6 > F_8\)。
- これをさらにつなげると、最終的な大小関係が得られます。
$$ F_1 = F_2 > F_3 = F_4 > F_5 = F_6 > F_7 = F_8 $$
全体が右に動くためには、各パーツ(A君、台車、B君)がそれぞれ右向きに加速しなければなりません。
- A君が加速するには、地面から右に押される力 \(F_2\) が、台車から左に押される力 \(F_3\) より強い必要があります (\(F_2 > F_3\))。
- 台車が加速するには、A君から右に押される力 \(F_4\) が、B君から左に押される力 \(F_5\) より強い必要があります (\(F_4 > F_5\))。
- B君が加速するには、台車から右に押される力 \(F_6\) が、地面から左に押される力 \(F_7\) より強い必要があります (\(F_6 > F_7\))。
これに、「押し合い」の力の大きさは等しいというルール(作用・反作用)を組み合わせると、\(F_1=F_2 > F_3=F_4 > F_5=F_6 > F_7=F_8\) という関係が導かれます。
力の大小関係は \(F_1 = F_2 > F_3 = F_4 > F_5 = F_6 > F_7 = F_8\) となります。
これは、A君が地面を蹴って得た推進力 \(F_2\) が、まずA君自身を加速させ、残った力が \(F_4\) として台車に伝わります。その力 \(F_4\) が台車を加速させ、残った力が \(F_6\) としてB君に伝わります。その力 \(F_6\) がB君を加速させ、地面に及ぼす力 \(F_8\) は最も小さくなる、という力の伝達のイメージと一致しており、物理的に妥当な結果です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 作用・反作用の法則と運動方程式の連携:
- 核心: この問題は、単に作用・反作用のペアを見つけるだけでなく、物体が「運動している」状況で、それらの力の大きさがどうなるかを問うています。核心は、運動状態によらず常に成り立つ「作用・反作用の法則(力の大きさは等しい)」と、運動状態を記述する「運動方程式(合力はゼロではない)」という2つの法則を、正しく連携させて思考する能力です。
- 理解のポイント:
- 作用・反作用は絶対: 物体が静止していても、加速していても、減速していても、作用・反作用のペアの力の大きさは常に等しい(例: \(F_1=F_2\))。これは力学の大原則です。
- 運動方程式は状況を語る: 物体が加速している場合、その物体にはたらく力の合力はゼロではありません(例: \(F_2 – F_3 > 0\))。この不等式が、異なる作用・反作用ペア間の力の大小関係を教えてくれます。
- 着目物体の分離と力の特定:
- 核心: 複数の物体と力が絡み合う複雑な状況を、A君、台車、B君という3つの独立した物体に分解し、それぞれの物体に「直接」はたらく水平方向の力は何かを正確に特定する能力。
- 理解のポイント:
- A君にはたらく力: 地面からの力 \(F_2\) と台車からの力 \(F_3\)。
- 台車にはたらく力: A君からの力 \(F_4\) とB君からの力 \(F_5\)。
- B君にはたらく力: 台車からの力 \(F_6\) と地面からの力 \(F_7\)。
この切り分けができないと、運動方程式を正しく立てることができません。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 電車内の人: 加速する電車内で、人が床から受ける摩擦力と、つり革から受ける力の関係を考える問題。
- 連結された貨物列車: 機関車が複数の貨車を引っ張って加速する問題。機関車に近い連結器ほど、大きな張力がはたらきます。本問の「押す力」が「引く張力」に変わっただけで、構造は全く同じです。
- 綱引き: 2チームが綱を引き合う問題。勝つチームは、相手を引く力よりも、地面を蹴る力(地面からの摩擦力)が強いチームです。
- 初見の問題での着眼点:
- 運動状態の確認: まず「静止」しているのか、「等速」なのか、「加速」しているのかを確認します。加速しているなら、力のつり合いは成り立ちません。
- 力の主語・目的語を定義: 図に示された全ての力について、「何が」「何に」及ぼす力なのかを書き出します。これが作用・反作用のペアを見つけるための鍵です。
- 各物体に分解(フリーボディダイアグラム): 登場する物体(A君、台車、B君)を一つずつ取り出し、その物体だけにはたらく力を描き出します。
- 運動方程式を立てる: 各物体について、運動の向きを正として運動方程式 \(ma = F_{\text{合力}}\) を立てます。
- 等式と不等式を組み合わせる: 作用・反作用の法則から得られる「等式」と、運動方程式から得られる「不等式」をパズルのように組み合わせて、最終的な大小関係を導き出します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 作用・反作用の法則の誤解:
- 誤解: 物体が加速しているのだから、作用・反作用の力の大きさは等しくないはずだ、と考えてしまう。
- 対策: 「作用・反作用の法則は、どんな運動状態でも常に成り立つ」と肝に銘じること。\(F_1=F_2\), \(F_3=F_4\) などは、加速中であっても絶対です。加速の原因は、1つの物体にはたらく複数の力の「合力」がゼロでないことであり、作用・反作用の法則が破れるからではありません。
- 力の向きと運動の向きの混同:
- 誤解: B君は右に動いているのに、地面からの力 \(F_7\) は左向きなのはおかしい、と感じてしまう。
- 対策: 物体の運動方向は、その物体にはたらく「合力」の向きで決まります。個々の力の向きと必ずしも一致しません。B君は、台車から右向きに受ける力 \(F_6\) が、地面から左向きに受ける力 \(F_7\) よりも大きいので、結果として右向きに加速します。
- 内力と外力の混同:
- 誤解: A君が台車を押す力 \(F_4\) が、系全体を動かす原動力だと考えてしまう。
- 対策: A君と台車、B君からなる系全体を動かす「外力」は、地面がA君を押す力 \(F_2\) と、地面がB君を押す力 \(F_7\) の合力です。\(F_3, F_4, F_5, F_6\) は系内部でやりとりされる「内力」であり、系全体を加速させることはできません。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 作用・反作用の法則:
- 選定理由: 問題で明確に問われているだけでなく、力の大小関係を比較する上で、異なる物体間にはたらく力の大きさを関連付けるために必須の法則だからです。例えば、A君の運動方程式から得られる \(F_2\) と \(F_3\) の関係を、台車の運動方程式で使うためには、\(F_3=F_4\) という作用・反作用の関係を使って \(F_4\) の情報に変換する必要があります。
- 適用根拠: この法則は、力が相互作用であるという物理学の根本原理です。2つの物体が接触したり、力を及ぼし合ったりする場面では、必ずこの法則が背景に存在します。
- 運動方程式 (\(ma = F_{\text{合力}}\)):
- 選定理由: 問題文に「右向きに動き出す」とあり、系が静止していない(加速度を持つ)ことが示されています。物体の運動(加速度)と力の関係を記述する法則は、運動方程式しかありません。
- 適用根拠: この法則は「1つの物体」に対して適用されます。A君、台車、B君という3つの物体が、それぞれ右向きに加速するという事実から、それぞれの物体にはたらく力の合力は右向きでなければならない、という結論が導かれます。これが、力の大小関係を示す不等式(例: \(F_2 > F_3\))を立てる根拠となります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- この問題は記号の大小関係を問う問題であり、計算ミスというよりは「論理の組み立てミス」が起こりやすいです。
- 情報の整理:
- 等式グループを作る: 作用・反作用の法則から、大きさの等しい力のグループを先に作ってしまう。
- グループ1: \(F_1 = F_2\)
- グループ2: \(F_3 = F_4\)
- グループ3: \(F_5 = F_6\)
- グループ4: \(F_7 = F_8\)
- 不等式グループを作る: 運動方程式から、異なるグループ間の大小関係を導き出す。
- \(F_2 > F_3\) → グループ1 > グループ2
- \(F_4 > F_5\) → グループ2 > グループ3
- \(F_6 > F_7\) → グループ3 > グループ4
- 連結する: 上記を連結して、グループ1 > グループ2 > グループ3 > グループ4 という最終結論を導きます。
- 等式グループを作る: 作用・反作用の法則から、大きさの等しい力のグループを先に作ってしまう。
- 力の伝達のイメージを持つ: A君が地面を蹴って得た力は、A君自身→台車→B君→地面へと、リレーのバトンのように伝わっていきます。バトンを渡すたびに、走者(物体)を加速させるために力が「消費」されるので、伝わる力はどんどん小さくなっていく、という物理的イメージを持つと、最終的な答えの妥当性を直感的に判断できます。
45 弾性力
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「ばねの弾性力とフックの法則」です。特に、ばねが両端から引かれる場合や、壁に固定されている場合に、ばねの伸びを決める「弾性力」の大きさをどう考えればよいか、という概念的な理解が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- フックの法則: ばねの弾性力の大きさ \(F\) は、ばねの自然長からの伸び \(x\) に比例します (\(F=kx\))。
- ばねの張力: ばねが両端から引かれるとき、ばねの内部には「張力」が生じます。ばねの伸びを決めるのは、この張力の大きさです。
- 力のつり合い: 静止している物体(おもりやばね)にはたらく力の合力はゼロです。
- 作用・反作用の法則: 壁がばねを引く力と、人がばねを引く力は、同じ大きさで向きが逆になります。この考え方は、壁で固定する状況を理解する上で重要です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (ア)では、ばねが両端から \(1.0 \text{ N}\) の力で引かれている状況を考えます。このとき、ばねの伸びを決める弾性力の大きさがいくらになるかを正しく判断し、フックの法則を適用します。
- (イ)では、直列につながれた2本のばねに、それぞれいくらの力がはたらくかを考えます。一番端のおもりから順に力のつり合いを考えることで、各ばねにはたらく力を特定し、フックの法則を適用します。
図(ア)について
思考の道筋とポイント
ばねの両端が、それぞれ \(1.0 \text{ N}\) のおもりによって滑車を介して引かれています。このとき、ばねの伸びを決める弾性力の大きさをいくらと考えるかが、この問題の最大のポイントです。両側から引かれているからといって、単純に力を足し合わせないように注意が必要です。
この設問における重要なポイント
- ばねの伸びは、ばねの「張力」の大きさによって決まる。
- ばねが静止しているとき、ばねの右端を引く力と左端を引く力は、大きさが等しく向きが逆である。
- ばねの張力の大きさは、そのばねを片側から引いている力の大きさに等しい。
具体的な解説と立式
ばねに着目します。このばねは、右側の糸によって右向きに \(1.0 \text{ N}\) の力で引かれています。同様に、左側の糸によって左向きに \(1.0 \text{ N}\) の力で引かれています。
このとき、ばねには \(1.0 \text{ N}\) の張力が生じており、この張力がばねを伸ばす弾性力 \(F\) の大きさとなります。したがって、\(F = 1.0 \text{ N}\) です。
(よくある間違いは、左右の力を足して \(F=2.0 \text{ N}\) と考えてしまうことですが、これは誤りです。ばねの片方を壁に固定して \(1.0 \text{ N}\) で引く場合を想像すると、壁も作用・反作用の法則により \(1.0 \text{ N}\) でばねを引いています。この状況と物理的に同じです。)
ばねの伸びを \(x\) [m]、ばね定数を \(k=20 \text{ N/m}\) として、フックの法則を適用します。
$$ F = kx $$
$$ 1.0 = 20x $$
使用した物理公式
- フックの法則: \(F = kx\)
- 力のつり合い
立式したフックの法則の式を \(x\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
1.0 &= 20x \\[2.0ex]x &= \frac{1.0}{20} \\[2.0ex]&= 0.050 \\[2.0ex]&= 5.0 \times 10^{-2} \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
ばねの伸びは、ばねがどれくらいの力で引っ張られているかで決まります。図(ア)では、ばねは右にも左にも \(1.0 \text{ N}\) の力で引っ張られています。この場合、ばねを伸ばしている力の大きさは \(1.0 \text{ N}\) と考えます。(\(1.0 \text{ N} + 1.0 \text{ N} = 2.0 \text{ N}\) ではありません!)
フックの法則「弾性力 = ばね定数 × 伸び」を使うと、「\(1.0 \text{ N} = 20 \text{ N/m} \times 伸び\))」となるので、伸びは \(1.0 \div 20 = 0.050 \text{ m}\) と計算できます。
ばねの自然長からの伸びは \(5.0 \times 10^{-2} \text{ m}\) です。ばねの両端を同じ力で引いた場合、その力の大きさがそのままばねの弾性力になる、という重要な概念を正しく適用できました。
図(イ)について
思考の道筋とポイント
2本の同じばねが直列につながれ、片端が壁に固定され、もう一方の端が \(1.0 \text{ N}\) のおもりで引かれています。このとき、それぞれのばねにはたらく力はいくらになるかを考えます。
この設問における重要なポイント
- 直列につながれたばね(や糸)には、同じ大きさの力がはたらく。
- 壁による固定は、(ア)の左側のおもりと同じ役割を果たしている。
- したがって、この状況は(ア)と物理的に等価であり、各ばねにはたらく力は \(1.0 \text{ N}\) となる。
具体的な解説と立式
まず、右側のばねに着目します。このばねは、右端の糸によって右向きに \(1.0 \text{ N}\) の力で引かれています。ばねは静止しているので、力のつり合いから、左端(左のばねとの接続点)では、左のばねによって左向きに \(1.0 \text{ N}\) の力で引かれているはずです。したがって、右側のばねにはたらく弾性力の大きさは \(1.0 \text{ N}\) です。
次に、左側のばねに着目します。このばねは、右端で右側のばねから右向きに \(1.0 \text{ N}\) の力で引かれています(作用・反作用)。ばねは静止しているので、力のつり合いから、左端では壁によって左向きに \(1.0 \text{ N}\) の力で引かれているはずです。したがって、左側のばねにはたらく弾性力の大きさも \(1.0 \text{ N}\) です。
結論として、2本のばねには、それぞれ \(1.0 \text{ N}\) の力がはたらきます。
それぞれのばねの伸びを \(x’\) [m] とすると、フックの法則は(ア)と全く同じ式になります。
$$ F = kx’ $$
$$ 1.0 = 20x’ $$
使用した物理公式
- フックの法則: \(F = kx\)
- 力のつり合い
- 作用・反作用の法則
(ア)と全く同じ計算になります。
$$
\begin{aligned}
1.0 &= 20x’ \\[2.0ex]x’ &= \frac{1.0}{20} \\[2.0ex]&= 0.050 \\[2.0ex]&= 5.0 \times 10^{-2} \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
図(イ)では、2本のばねがまっすぐにつながっています。右端を \(1.0 \text{ N}\) の力で引くと、その力は途中のばねにもそのまま伝わります。つまり、右のばねも左のばねも、両方とも \(1.0 \text{ N}\) の力で引っ張られます。左端の壁は、ばねが抜けてしまわないように、ただ \(1.0 \text{ N}\) の力で支えているだけです。
これは、図(ア)で左側のおもりが果たしていた役割を、図(イ)では壁が代わりにやっているのと同じことです。したがって、1本1本のばねにかかる力は図(ア)と同じ \(1.0 \text{ N}\) なので、伸びも同じになります。
それぞれのばねの自然長からの伸びは \(5.0 \times 10^{-2} \text{ m}\) です。図(ア)と図(イ)は、見かけは異なりますが、ばね1本あたりにはたらく力を考えると物理的に同じ状況であることがわかります。この問題は、その本質を見抜けるかを試す良問です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- ばねの弾性力(張力)の正しい理解:
- 核心: ばねの伸びを決めるのは、ばねの内部に生じている「張力」の大きさである、という概念を理解することがこの問題の全てです。多くの人が、ばねの両端から引かれると力が2倍になると誤解しますが、そうではないことを明確に認識する必要があります。
- 理解のポイント:
- 片端を固定した場合との等価性: ばねの片端を壁に固定して \(F\) の力で引く状況を考えます。このとき、ばねは静止しているので、壁も作用・反作用の法則により、ばねを逆向きに \(F\) の力で引いています。つまり、この状況は「ばねの両端を \(F\) の力で引く」ことと物理的に全く同じです。
- ばねの張力: ばねが伸びているとき、ばねのどの断面を考えても、そこには互いに引き合う張力がはたらいています。この張力の大きさが、ばねの弾性力の大きさ \(F\) であり、フックの法則 \(F=kx\) に代入する値となります。図(ア)でも図(イ)でも、この張力の大きさは \(1.0 \text{ N}\) です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- ばねの直列接続: 本問(イ)のように、複数のばねを直列につないだ場合。系全体を引く力は、全てのばねに同じ大きさで伝わります。系全体の伸びは、各ばねの伸びの和になります。
- ばねの並列接続: 2本のばねを並べて1つのおもりを吊るす場合。おもりの重さは、2本のばねに分担されます(同じばねなら半分ずつ)。各ばねの伸びは、分担された力によって決まります。
- ばね振り子: ばねにおもりをつけて振動させる問題。振動の中心(つり合いの位置)でのばねの伸びを計算する際に、本問の考え方が基礎となります。
- 初見の問題での着眼点:
- ばねにはたらく力を特定する: まず、着目しているばねが「何から」「どちら向きに」力を受けているかを考えます。
- ばねの張力を決定する: ばねが静止していることを確認し、そのばねの片端を引いている力の大きさを求めます。それがばねの張力(弾性力)の大きさになります。両端から引かれていても、片側の力だけを見ればOKです。
- フックの法則を適用する: 決定した弾性力 \(F\) と、与えられたばね定数 \(k\) を用いて、フックの法則 \(F=kx\) から伸び \(x\) を計算します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 両端の力を足してしまう(最頻出のミス):
- 誤解: 図(ア)で、ばねの両端から \(1.0 \text{ N}\) で引かれているので、ばねにはたらく力は \(1.0 + 1.0 = 2.0 \text{ N}\) だと考えてしまう。
- 対策: 「ばねばかり」をイメージするのが効果的です。ばねばかりの両端を \(1.0 \text{ N}\) の力で引いたとき、目盛りは \(1.0 \text{ N}\) を指します。決して \(2.0 \text{ N}\) にはなりません。ばねの伸びを決める力は、ばねの片側を引く力の大きさである、と覚えましょう。
- 直列接続での力の誤解:
- 誤解: 図(イ)で、右のばねには \(1.0 \text{ N}\) の力がかかるが、左のばねは壁に固定されているから力がかからない、または力が異なると考えてしまう。
- 対策: 「直列につながれたロープやばねには、どこでも同じ張力がはたらく」という原則を理解すること。右端を \(1.0 \text{ N}\) で引けば、その力は途切れることなく左端の壁まで伝わります。したがって、2本のばねには同じ \(1.0 \text{ N}\) の力がかかります。
- 問題設定の混同:
- 誤解: 図(ア)と図(イ)が全く違う問題に見えてしまい、混乱する。
- 対策: 物理的な本質を見抜く訓練をすること。図(ア)の左側のおもりは、ばねを左向きに \(1.0 \text{ N}\) で引く役割をしています。図(イ)の壁も、ばねが静止している以上、ばねを左向きに \(1.0 \text{ N}\) で引く役割をしています。つまり、ばねにとっての外部環境は、両者で全く同じです。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- フックの法則 (\(F = kx\)):
- 選定理由: 問題が「ばねの伸び」を問うており、問題文には「ばね定数」が与えられています。ばねの「力」「ばね定数」「伸び」という3つの要素を結びつける法則はフックの法則しかありません。
- 適用根拠: この法則を適用するためには、まずばねにはたらく弾性力 \(F\) の大きさを特定する必要があります。この \(F\) を特定するプロセスこそが、この問題の概念的な理解を問う部分です。力のつり合いや作用・反作用の法則を正しく考察し、ばねの張力が \(1.0 \text{ N}\) であることを導き出した上で、その値をフックの法則に代入します。
- 力のつり合いの式:
- 選定理由: 図(ア)も(イ)も、系全体が静止しています。静止している物体にはたらく力の合力はゼロである、という「力のつり合い」の条件は、ばねにはたらく力を特定するための最も基本的な思考の道具となります。
- 適用根拠: 例えば図(イ)で、右のばねが静止しているのは、右から糸に引かれる力と、左からもう一方のばねに引かれる力がつり合っているからです。この考察から、2本のばねにはたらく力が等しいことが論理的に導かれます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位の換算: この問題では単位は揃っていますが、もしばね定数が [N/cm] で与えられていたり、答えを [cm] で求められたりした場合は、単位換算が必要です。計算前に単位を揃えるか、計算後に換算するか、方針を決めて慎重に行うことが大切です。
- 指数の計算: \(x = 0.050\) を \(5.0 \times 10^{-2}\) のように指数形式で表す計算は、物理では頻出です。小数点の移動と指数の関係(小数点を右に動かすと指数は減る、左に動かすと指数は増える)を確実にマスターしておくこと。
- 物理的状況の等価性を見抜く: 計算そのものよりも、図(ア)と図(イ)が本質的に同じ状況であることを見抜くことが、この問題をスムーズに解く鍵です。一見違うように見える設定でも、物理的な原理に立ち返って「何が同じで何が違うのか」を考える癖をつけると、応用力が格段に向上します。
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