発展例題
発展例題16 斜面上の物体と慣性力
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問の別解: 慣性系(静止系)で考える解法
- 模範解答が台と共に回転する観測者の立場(非慣性系)で遠心力を用いて力の「つりあい」を考えるのに対し、別解では静止した観測者の立場(慣性系)で物体の円運動の「運動方程式」を立てて解きます。
- 設問の別解: 慣性系(静止系)で考える解法
- 上記の別解が有益である理由
- 慣性系と非慣性系という、物理現象を記述する二つの異なる視点の関係性を深く理解できます。
- 遠心力(見かけの力)を導入する非慣性系の便利さと、向心力(実在する力の合力)で考える慣性系の基本原則の両方を学べます。
- 「力のつりあい」と「運動方程式」が、異なる立場で同じ現象を記述していることを体感でき、物理的思考の柔軟性が向上します。
- 結果への影響
- どちらの立場で見ても、物理法則は同じ結論を導き、最終的な答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「回転座標系における慣性力(遠心力)を考慮した力のつりあい」です。一見すると複雑な運動ですが、適切な視点(座標系)を選ぶことで、問題をシンプルに捉え直すことができます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 非慣性系と慣性力: 回転する座標系(非慣性系)では、観測者から見て物体に「遠心力」という見かけの力が働いているように見えること。
- 力の分解: 重力や遠心力を、斜面に平行な方向と垂直な方向に正しく分解できること。
- 力のつりあい: 物体が斜面上で静止して見える(すべらない)条件は、斜面に平行な方向の力がつりあっていること。
- 円運動の基礎: 角速度 \(\omega\) で半径 \(r\) の円運動をする物体の遠心力(または向心力)の大きさが \(mr\omega^2\) で与えられること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 台とともに回転する観測者の立場(非慣性系)に立ちます。
- 物体に働く力(重力、垂直抗力、遠心力)をすべて図示します。
- 斜面に平行な方向について力のつりあいの式を立てます。
- 「すべり落ちないための最小の角速度」という条件は、重力の斜面下向き成分と遠心力の斜面上向き成分がちょうどつりあう状態に対応することを理解し、そのときの角速度 \(\omega\) を求めます。
思考の道筋とポイント
この問題は、回転する台の上にある物体の運動を扱っています。台と一緒に回転している観測者の視点(非慣性系)で考えると、物体は静止しているように見えます。このとき、物体には重力、垂直抗力に加えて、回転の中心から遠ざかる向きに「遠心力」という見かけの力が働いていると考えます。
物体が「すべり落ちない」ギリギリの状態は、斜面下向きに滑らせようとする力と、斜面上向きに引き上げようとする力がちょうど等しくなる瞬間です。この力のつりあいの式を立てることで、角速度を求めます。
この設問における重要なポイント
- 観測者は台とともに回転する非慣性系にいると設定する。
- 物体には、重力 \(mg\)、垂直抗力 \(N\)、遠心力 \(F_{\text{遠心}} = mr\omega^2\) の\(3\)つの力が働くと考える。
- 遠心力は、回転軸から物体を遠ざける向き(水平方向)に働く。
- 力を斜面に平行な方向と垂直な方向に分解し、特に平行方向の力のつりあいを考える。
具体的な解説と立式
台とともに回転する観測者から見ると、物体には以下の力が働いています。
- 重力: 鉛直下向きに \(mg\)
- 垂直抗力: 斜面から垂直に受ける力 \(N\)
- 遠心力: 回転軸から遠ざかる水平な向きに \(mr\omega^2\)
これらの力を、斜面に平行な方向と垂直な方向に分解します。特に、物体がすべるかどうかは斜面平行方向の力のつりあいで決まります。
- 斜面平行方向の力:
- 重力の成分(下向き): \(mg\sin\theta\)
- 遠心力の成分(上向き): 遠心力は水平方向なので、斜面との角度関係から \(mr\omega^2\cos\theta\) となります。(問題の図を参照)
物体がすべり落ちないためには、遠心力の斜面上向き成分が、重力の斜面下向き成分以上である必要があります。その最小の角速度とは、この二つの力がちょうどつりあうときです。
力のつりあいの式は、
(斜面下向きの力) = (斜面上向きの力)
より、
$$
mg\sin\theta = mr\omega^2\cos\theta
$$
使用した物理公式
- 遠心力: \(F = mr\omega^2\)
- 力のつりあい
立式した \(mg\sin\theta = mr\omega^2\cos\theta\) を \(\omega\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
g\sin\theta &= r\omega^2\cos\theta \\[2.0ex]
\omega^2 &= \frac{g\sin\theta}{r\cos\theta} \\[2.0ex]
\omega^2 &= \frac{g}{r} \tan\theta
\end{aligned}
$$
\(\omega > 0\) なので、
$$
\omega = \sqrt{\frac{g\tan\theta}{r}}
$$
メリーゴーラウンドに乗っている人を想像してください。速く回るほど、外側に放り出されそうな強い力を感じますよね。これが「遠心力」です。
この問題の物体も同じで、回転台が回ることで、外側(斜面を駆け上がる方向)に引っ張られる遠心力を受けます。一方、重力は物体を斜面の下に滑り落とそうとします。
「すべり落ちない最小の速さ」とは、この「遠心力の上向きの成分」と「重力の下向きの成分」が綱引きでちょうど引き分ける瞬間の回転の速さ(角速度)のことです。このつりあいの式を解けば答えが出ます。
求める最小の角速度は \(\omega = \sqrt{\frac{g\tan\theta}{r}}\) となりました。
この結果から、斜面の傾き \(\theta\) が大きいほど、また回転半径 \(r\) が小さいほど、すべり落ちないためにはより大きな角速度 \(\omega\) が必要になることがわかります。これは直感とも一致しており、妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
この問題を、回転台の外にいる静止した観測者の視点(慣性系)から見てみましょう。この観測者から見ると、物体は遠心力という見かけの力は受けていません。その代わり、台と一緒に水平面内で「等速円運動」をしています。
円運動をするためには、中心に向かう力、すなわち「向心力」が必要です。この向心力は、物体に実際に働いている力(この場合は重力と垂直抗力)の合力によって生み出されます。
運動方程式 \(ma=F\) を立て、円運動の加速度(向心加速度)と力の関係から角速度を求めます。
この設問における重要なポイント
- 観測者は静止系にいると設定する。
- 物体は水平面内で半径 \(r\) の等速円運動をしていると捉える。
- 物体に働く力は、実在する力である重力 \(mg\) と垂直抗力 \(N\) のみ。
- これらの力の合力が、円運動の向心力として働く。
- 運動方程式を立てる際、加速度と力を運動の軸(この場合は斜面に平行・垂直)に分解すると見通しが良くなる。
具体的な解説と立式
静止系から見ると、物体は角速度 \(\omega\) で半径 \(r\) の等速円運動をしています。この運動の加速度(向心加速度)は、円運動の中心(回転軸)を向く水平方向で、大きさは \(a = r\omega^2\) です。
物体に働く力は、鉛直下向きの重力 \(mg\) と、斜面に垂直な向きの垂直抗力 \(N\) です。
運動方程式 \(ma=F\) を、斜面に平行な方向について立てます。そのためには、加速度と力の両方を斜面平行方向に分解する必要があります。
- 加速度の斜面平行成分:
- 加速度 \(\vec{a}\) は水平方向です。斜面が水平面となす角は \(\theta\) なので、加速度の斜面平行(上向き)成分は \(a_{\parallel} = a \cos\theta = (r\omega^2)\cos\theta\) となります。
- 力の斜面平行成分:
- 物体に働く力のうち、斜面に平行な成分を持つのは重力のみです。その大きさは、斜面下向きに \(mg\sin\theta\) です。
物体がすべり落ちずに円運動を続けている状態では、斜面平行方向について以下の運動方程式が成り立ちます。
\(m \times (\text{斜面平行方向の加速度}) = (\text{斜面平行方向の力の合力})\)
斜面上向きを正とすると、加速度の成分は正、力の成分は負となります。
$$
m(r\omega^2\cos\theta) = -(-mg\sin\theta)
$$
これを整理すると、
$$
m(r\omega^2\cos\theta) = mg\sin\theta
$$
となります。これは、力の大きさが加速度を生み出していると解釈し、
(運動方向の力の大きさ)= \(m \times\)(運動方向の加速度の大きさ)
として、
$$
mg\sin\theta = m(r\omega^2\cos\theta)
$$
と立式するのと同じです。
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma = F\)
- 円運動の加速度: \(a = r\omega^2\)
立式した \(mg\sin\theta = m(r\omega^2\cos\theta)\) を \(\omega\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
g\sin\theta &= r\omega^2\cos\theta \\[2.0ex]
\omega^2 &= \frac{g\sin\theta}{r\cos\theta} \\[2.0ex]
\omega^2 &= \frac{g}{r} \tan\theta
\end{aligned}
$$
\(\omega > 0\) なので、
$$
\omega = \sqrt{\frac{g\tan\theta}{r}}
$$
今度は、回転台の外からこの物体を眺めてみましょう。物体はグルグルと円を描いて運動していますね。物理のルールでは、物体がカーブする(円運動する)ためには、必ず中心に向かって引っ張る力(向心力)が必要です。
この問題で物体を引っ張っているのは、「重力」と「斜面が物体を押す力(垂直抗力)」の\(2\)つだけです。この\(2\)つの力を合わせた結果、ちょうど円運動に必要な力が生まれている、というわけです。
この関係を運動の法則(運動方程式)に当てはめて計算すると、非慣性系で考えたときと全く同じ答えが出てきます。
主たる解法(非慣性系)と完全に同じ結果 \(\omega = \sqrt{\frac{g\tan\theta}{r}}\) が得られました。
これは、遠心力という「見かけの力」を導入する非慣性系での「力のつりあい」と、慣性系での「運動方程式」が、物理的に等価な現象を記述していることを示しています。どちらの視点でも解けるようになっておくと、物理の理解がより深まります。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 非慣性系における力のつりあい
- 核心: この問題の最もシンプルで本質的な解法は、回転する物体と同じ動きをする観測者の立場(非慣性系)に立つことです。この立場では、物体は静止して見えるため、力のつりあいの問題として扱うことができます。ただし、その代償として、実在しない見かけの力である「慣性力(この場合は遠心力)」を導入する必要があります。
- 理解のポイント:
- 視点の切り替え: 静止系で見て「円運動している」物体を、回転系に移ることで「静止している」と見なす思考の転換が重要です。
- 遠心力の導入: 回転系では、必ず回転の中心から遠ざかる向きに、大きさ \(mr\omega^2\) (または \(m\frac{v^2}{r}\))の遠心力が働いていると考えます。この力を他の実在する力(重力、垂直抗力など)と同等に扱い、力のつりあいの式を立てます。
- 慣性系における円運動の運動方程式
- 核心: (別解で示したように)物理の基本に立ち返り、静止した観測者の立場(慣性系)から現象を記述することも可能です。この立場では、物体は円運動をしており、その運動を引き起こす原因(向心力)が必ず存在します。
- 理解のポイント:
- 向心力の正体: 向心力は「何か新しい力」ではなく、物体に実際に働いている実在する力(この問題では重力と垂直抗力の合力)の、円運動の中心を向く成分のことです。
- 運動方程式の適用: 円運動の運動方程式 \(ma=F\) を立てます。ここで、加速度 \(a\) は向心加速度 \(r\omega^2\) であり、力 \(F\) は向心力です。この方程式を解くことで、非慣性系で考えた場合と全く同じ結果が得られます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 円錐振り子: 糸におもりをつけて水平面内で回転させる問題。これも、非慣性系で考えれば張力・重力・遠心力のつりあい、慣性系で考えれば張力と重力の合力が向心力となる円運動の問題です。
- 回転する円盤上の物体(摩擦あり): 摩擦のある回転円盤上の物体が、すべり出さずに一緒に回転できる条件を求める問題。この場合、向心力の役割を静止摩擦力が担います。非慣性系では、遠心力と静止摩擦力がつりあっていると考えます。
- カーブを曲がる自動車: 自動車がカーブを曲がる(円運動する)とき、向心力となるのはタイヤと路面の間の摩擦力です。この摩擦力が向心力として不十分だと、車はカーブの外側に滑り出します。
- 電車内の物体: 加速・減速する電車内(非慣性系)では、進行方向と逆向きに慣性力が働きます。吊り革が傾いたり、人がよろけたりするのはこのためです。
- 初見の問題での着眼点:
- 座標系(視点)を決める: 問題文に「回転する〜の上で」「加速する〜の中で」といった記述があれば、非慣性系で考えるのが有効な場合が多いです。遠心力や慣性力を導入することで、複雑な運動を単純な「力のつりあい」の問題に置き換えられないか検討します。
- 働く力をすべて図示する: どの座標系を選んだとしても、まずは物体に働く力をすべて図示することが第一歩です。
- 慣性系の場合: 重力、張力、垂直抗力、摩擦力など、実在する力のみを描きます。
- 非慣性系の場合: 上記の実在する力に加えて、慣性力(遠心力など)を描き加えます。
- 力を分解する軸を設定する: 斜面上の問題では「斜面に平行・垂直」、円運動では「円の中心方向・接線方向」など、運動を解析しやすいように座標軸を設定し、各力をその成分に分解します。
- 立式する:
- 非慣性系で物体が静止して見える場合 → 「力のつりあい」の式を立てます。
- 慣性系で物体が運動している場合 → 「運動方程式 \(ma=F\)」を立てます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 遠心力と向心力を混同・併用してしまう:
- 誤解: 慣性系で運動方程式を立てる際に、向心力に加えて遠心力も書き込んでしまう。あるいは、非慣性系で力のつりあいを考える際に、遠心力と向心力の両方を考えてしまう。
- 対策: 「視点を一つに決める」ことを徹底しましょう。
- 静止系(慣性系)で見るなら、登場するのは向心力(実在する力の合力)のみ。遠心力は存在しません。
- 回転系(非慣性系)で見るなら、登場するのは遠心力(見かけの力)のみ。向心力という考え方は使いません。(力の合力がゼロになるため)
- この二つは、同じ現象を異なる視点から説明しているだけであり、絶対に一つの式の中に同時に存在することはありません。
- 遠心力の向きを間違える:
- 誤解: 遠心力を斜面に沿った向きや、重力と逆の向きなど、適当な方向に描いてしまう。
- 対策: 遠心力の向きは、常に「回転の中心から、物体をまっすぐ遠ざける向き」であり、「回転面に平行(この問題では水平)」です。これは定義なので、機械的に覚える必要があります。
- 力の分解方向を間違える:
- 誤解: 水平方向に働く遠心力を斜面方向に分解する際、角度 \(\theta\) の取り方を間違えて \(\cos\theta\) と \(\sin\theta\) を逆にしてしまう。
- 対策: 図を丁寧に描き、補助線を引いて角度の関係を正確に把握しましょう。遠心力のベクトルと斜面がなす角、鉛直線と斜面がなす角などを図形的に確認する癖をつけることが重要です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 非慣性系でのアプローチ選択(力のつりあい):
- 選定理由: 問題は「物体がすべり落ちない」という、物体が台の上で位置関係を変えない条件を問うています。このような「静止」や「つりあい」に関わる問題では、運動方程式よりも力のつりあいの式を立てる方が直感的でシンプルです。
- 適用根拠: 回転する台の上という特殊な状況を「静止」と見なすために、非慣性系という視点を採用します。非慣性系では、ニュートンの運動法則を成り立たせるために、慣性力(遠心力)という補正項(見かけの力)を導入する必要があります。この補正さえ行えば、あとは静力学の問題と同様に、力のベクトル和がゼロになるという「力のつりあい」の法則を適用できます。
- 慣性系でのアプローチ選択(運動方程式):
- 選定理由: こちらは物理の最も基本的な法則である運動方程式 \(ma=F\) に基づく、より原理的なアプローチです。どんな運動であれ、その原因は力であるという視点に立ち返ります。
- 適用根拠: 静止した観測者から見れば、物体は明らかに「等速円運動」という加速度運動をしています。加速度運動をしている以上、その原因となる力が働いているはずです。運動(加速度 \(a=r\omega^2\))と力(重力と垂直抗力の合力)の関係を結びつける法則が運動方程式です。したがって、この法則を適用するのは必然的な選択となります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式のまま計算を進める:
- \(mg\sin\theta = mr\omega^2\cos\theta\) のように、まずは文字式のまま立式し、整理しましょう。両辺で \(m\) が消去できるなど、計算が楽になることが多いです。最後に求める \(\omega^2 = \dots\) の形にしてから、必要であれば数値を代入します。
- 三角関数の関係式を使いこなす:
- 計算過程で \(\frac{\sin\theta}{\cos\theta}\) という形が出てきたら、すぐに \(\tan\theta\) に置き換える習慣をつけましょう。これにより、式がシンプルになり見通しが良くなります。
- 図を大きく丁寧に描く:
- この問題の成否は、力の分解が正確にできるかにかかっています。特に、水平方向の遠心力を斜面方向へ分解する際の角度関係は、雑な図では間違いやすいです。フリーハンドでも良いので、分度器を使ったかのように角度を意識して大きく図を描き、どこが \(\theta\) になるのかをしっかり確認しましょう。
- 極端な場合を考えて検算する:
- 得られた答え \(\omega = \sqrt{\frac{g\tan\theta}{r}}\) が物理的に妥当か、極端な状況を考えてみましょう。
- もし斜面が水平なら(\(\theta \to 0\))、\(\tan\theta \to 0\) なので \(\omega \to 0\) となります。これは、水平ならどんなにゆっくり回しても物体はすべり落ちない、という直感に合っています。
- もし斜面が垂直なら(\(\theta \to 90^\circ\))、\(\tan\theta \to \infty\) なので \(\omega \to \infty\) となります。これは、壁に物体を押し付けて回すような状況で、すべり落ちないようにするには無限の速さが必要になる、という感覚に一致します。
- このような思考実験(極限チェック)は、答えの式の形が正しいかどうかを確かめる上で非常に有効です。
- 得られた答え \(\omega = \sqrt{\frac{g\tan\theta}{r}}\) が物理的に妥当か、極端な状況を考えてみましょう。
発展例題17 鉛直面内での円運動
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(2)の別解: 最高点通過の速度条件から直接求める解法
- 模範解答が設問(1)で導出した垂直抗力の一般式を利用して代数的に解くのに対し、別解ではまず最高点Cを通過するための物理的な条件(速さの最小値)を先に求め、その条件を満たすために必要な出発点の高さをエネルギー保存則を用いて逆算します。
- 設問(2)の別解: 最高点通過の速度条件から直接求める解法
- 上記の別解が有益である理由
- 鉛直面内の円運動における「最高点を通過するための条件(\(v \ge \sqrt{gr}\))」という、非常に重要で応用範囲の広い物理概念を明確に意識し、導出する過程を学べます。
- 設問(1)が解けていなくても、設問(2)を独立して解く力を養うことができます。
- 一つの問題を、異なる論理の組み立て方(一般式からの演繹 vs 物理的条件からの逆算)で解く経験を通じて、思考の柔軟性が向上します。
- 結果への影響
- どちらのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「鉛直面内の円運動」です。物体が円運動を続けるための条件を、力学的エネルギー保存則と円運動の運動方程式という二つの強力なツールを組み合わせて解き明かす、力学の総合問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力学的エネルギー保存則: 摩擦や空気抵抗がないため、物体の「運動エネルギー」と「位置エネルギー」の和は常に一定に保たれます。
- 円運動の運動方程式: 物体が円運動をするためには、円の中心に向かう力(向心力)が必要です。運動方程式(\(ma=F\))を円の半径方向に立てることで、速さと力の関係を記述できます。
- 向心力の正体: 向心力は、重力や垂直抗力など、物体に実際に働いている力の合力によって供給されます。
- 円運動を続ける条件: 物体がレールから離れずに円運動を続ける条件は、レールからの垂直抗力が \(0\) 以上であること(\(N \ge 0\))です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、まず出発点Aと任意の点Bとの間で力学的エネルギー保存則を立て、点Bでの速さ \(v\) を高さ \(h\) の式で表します。次に、点Bで円運動の運動方程式を立て、速さ \(v\) と垂直抗力 \(N\) の関係式を作ります。これら二つの式を連立させて \(v\) を消去し、\(N\) を求めます。
- (2)では、(1)で求めた \(N\) の式を利用します。台車が頂点Cを通過できるギリギリの条件は、頂点Cで垂直抗力 \(N\) が \(0\) になる瞬間です。この条件を(1)の式に代入することで、必要な最小の高さ \(h_0\) を計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
点Bでの垂直抗力 \(N\) を求めるには、点Bでの台車の速さ \(v\) が必要です。速さ \(v\) は、出発点Aからの高さ \(h\) によって決まるので、まずはAとBの間で力学的エネルギー保存則を立てて \(v\) と \(h\) の関係を導きます。次に、点Bで台車が円運動していることに着目し、半径方向の運動方程式を立てます。この式には \(v\) と \(N\) が含まれるので、エネルギー保存則の式と連立すれば \(N\) を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 位置エネルギーの基準点を明確に設定する(ここでは最下点を通る水平面を基準とします)。
- 点Bの高さを、円の中心Oからの位置と角度 \(\theta\) を用いて正しく表す。
- 円運動の運動方程式を立てる際、力の向き(中心向きか、中心と逆向きか)を正確に把握する。
具体的な解説と立式
- 力学的エネルギー保存則
- 水平面を位置エネルギーの基準(高さ\(0\))とします。
- 出発点A: 高さ \(h\)、速さ \(0\)。力学的エネルギーは \(E_A = mgh\)。
- 点B: 角度 \(\theta\) は頂点CとBのなす角 `∠COB` です。図より、点Bの高さは \(h_B = r + r\cos\theta = r(1+\cos\theta)\)。速さを \(v\) とすると、力学的エネルギーは \(E_B = \frac{1}{2}mv^2 + mgr(1+\cos\theta)\)。
- 摩擦がないので \(E_A = E_B\) より、
$$ mgh = \frac{1}{2}mv^2 + mgr(1+\cos\theta) \quad \cdots ① $$
- 円運動の運動方程式
- 点Bにおいて、円運動の中心Oへ向かう方向を正とします。
- 台車はレールの内側を運動するため、レールからの垂直抗力 \(N\) は円の中心Oを向きます。
- 重力 \(mg\)(鉛直下向き)の半径方向の成分を考えます。模範解答の図に示されているように、重力ベクトルと半径OBのなす角は \(\theta\) となります。したがって、重力の半径方向(中心向き)の成分は \(mg\cos\theta\) となります。
- したがって、台車にはたらく向心力(中心方向の力の合力)は、垂直抗力 \(N\) と重力の成分 \(mg\cos\theta\) の和になります。
- 半径方向の運動方程式 \(m \frac{v^2}{r} = (\text{向心力})\) は、
$$ m\frac{v^2}{r} = N + mg\cos\theta \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則: \(K+U = \text{一定}\)
- 運動エネルギー: \(K = \frac{1}{2}mv^2\)
- 位置エネルギー: \(U = mgh\)
- 円運動の運動方程式: \(ma = F\) (\(a\)は向心加速度 \(v^2/r\))
式①と式②を連立して \(v^2\) を消去し、\(N\) を求めます。
まず、式①の両辺を \(m\) で割り、\(v^2\) について整理します。
$$
\begin{aligned}
gh &= \frac{1}{2}v^2 + gr(1+\cos\theta) \\[2.0ex]
\frac{1}{2}v^2 &= gh – gr(1+\cos\theta) \\[2.0ex]
v^2 &= 2g(h – r – r\cos\theta)
\end{aligned}
$$
次に、式②を \(N\) について整理します。
$$
N = m\frac{v^2}{r} – mg\cos\theta
$$
この式に、求めた \(v^2\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
N &= \frac{m}{r} \{ 2g(h – r – r\cos\theta) \} – mg\cos\theta \\[2.0ex]
&= \frac{2mg}{r}(h-r) – 2mg\cos\theta – mg\cos\theta \\[2.0ex]
&= \frac{2mg(h-r)}{r} – 3mg\cos\theta \\[2.0ex]
&= \frac{2mgh – 2mgr – 3mgr\cos\theta}{r} \\[2.0ex]
&= \frac{mg}{r}(2h – 2r – 3r\cos\theta)
\end{aligned}
$$
ジェットコースターが円形ループの内側を回るのをイメージしてください。点Bにいるとき、コースターはレールから「内側(中心)に向かって押される力(垂直抗力)」を受けています。この力の大きさを知りたい、というのが問題です。
この力を決めるのは、コースターの「速さ」です。速ければ速いほど、より大きな向心力が必要になるため、垂直抗力も変化します。
そこで、まず「高さ \(h\) からスタートしたら、点Bでの速さはどれくらいになるか?」をエネルギーの計算(位置エネルギーが運動エネルギーに変わる計算)で求めます。次に、その速さで円運動しているときの力のバランス(運動方程式)を考えて、垂直抗力の大きさを計算します。
レールが台車におよぼす力の大きさ \(N\) は \(N = \frac{mg}{r}(2h – 2r – 3r\cos\theta)\) と求まりました。
この式から、出発点の高さ \(h\) が高いほど \(N\) は大きくなることがわかります。これは、速さが増してより大きな向心力が必要になるため、直感と一致します。また、頂点に近づくほど(\(\theta\) が \(0\) に近づき \(\cos\theta\) が \(1\) に近づくほど)、\(N\) は小さくなります。これも、頂点付近で重力が向心力の一部を担う割合が大きくなるため、妥当な結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
台車が点Cを「通過できる」とは、点Cでレールから離れない、ということです。レールから離れる瞬間の垂直抗力は \(0\) になります。したがって、「通過できる」条件は、垂直抗力 \(N \ge 0\) となります。
求めるのは「最小値 \(h_0\)」なので、ギリギリ通過できる条件、すなわち点Cで垂直抗力がちょうど \(0\) になる(\(N_C = 0\))ときを考えます。
(1)で求めた \(N\) の一般式に、点Cの条件(\(\theta=0\))と、\(N=0\)、\(h=h_0\) を代入すれば、\(h_0\) を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 「最高点を通過できる」という物理的な条件を、「最高点での垂直抗力 \(N_C \ge 0\)」という数式的な条件に翻訳すること。
- 「最小の高さ」は、この条件が等号で成立する(\(N_C = 0\))場合に対応すること。
- このとき、台車の速さは \(0\) ではない。重力がちょうど向心力の役割を果たしている。
具体的な解説と立式
(1)で求めた垂直抗力の式
$$ N = \frac{mg}{r}(2h – 2r – 3r\cos\theta) $$
において、頂点Cを考えるので \(\theta=0\) を代入します。点Cでの垂直抗力を \(N_C\)、そのときの高さを \(h\) とすると、
$$ N_C = \frac{mg}{r}(2h – 2r – 3r\cos0) = \frac{mg}{r}(2h – 5r) $$
台車が点Cを通過するための最小の高さ \(h_0\) は、\(N_C=0\) となるときなので、
$$ 0 = \frac{mg}{r}(2h_0 – 5r) $$
使用した物理公式
- (1)で導出した垂直抗力の式
上記の立式から、
$$
\begin{aligned}
2h_0 – 5r &= 0 \\[2.0ex]
2h_0 &= 5r \\[2.0ex]
h_0 &= \frac{5}{2}r
\end{aligned}
$$
ジェットコースターがループの頂点で、乗客が座席から浮き上がるような、フワッとした感覚になることがありますね。あれが、垂直抗力(座席が人を押し上げる力)が \(0\) に近づいた状態です。もしスタート地点の高さが足りないと、頂点に達する前に失速して落ちてしまいます。
「頂点を通過できるギリギリの高さ」とは、ちょうど頂点でこの「フワッとした状態(垂直抗力=0)」になるようなスタート地点の高さのことです。(1)で計算した式を使って、垂直抗力が \(0\) になるのは高さがいくつのときかを逆算します。
出発点の高さの最小値は \(h_0 = \frac{5}{2}r\) と求まりました。この高さは、円形レールの頂点の高さ \(2r\) よりも高い(\(2.5r > 2r\))ので、物理的に妥当な結果です。この高さからスタートすれば、台車は頂点で速さを失うことなく、ギリギリの状態でレールから離れずに通過できることがわかります。
思考の道筋とポイント
設問(2)を、(1)の結果を使わずに直接解く方法です。まず、物理的に「台車が頂点Cを通過できる条件」とは何かを考えます。それは、頂点Cである速さ \(v_C\) を持っていることです。この速さが満たすべき条件を、頂点Cでの運動方程式から導きます。次に、その速さを持つためには、どれだけの高さ \(h_0\) からスタートすればよいかを、A点とC点の間での力学的エネルギー保存則を用いて計算します。
この設問における重要なポイント
- 頂点Cで台車に働く力は、重力 \(mg\) と垂直抗力 \(N_C\) であり、両方とも鉛直下向き(中心向き)である。
- これらの合力が、円運動の向心力となる。
- レールから離れない条件は \(N_C \ge 0\)。
- 最小の高さ \(h_0\) は、\(N_C=0\) となるときに対応し、このとき重力 \(mg\) が単独で向心力の役割を果たす。
具体的な解説と立式
- 頂点Cでの速さの条件
- 頂点Cでの速さを \(v_C\) とします。このとき、台車に働く力は下向きの重力 \(mg\) と、下向きの垂直抗力 \(N_C\) です。
- これらの合力が向心力となるので、運動方程式は、
$$ m\frac{v_C^2}{r} = mg + N_C $$ - 台車がレールから離れない条件は \(N_C \ge 0\) です。上の式から \(N_C = m\frac{v_C^2}{r} – mg\) なので、
$$ m\frac{v_C^2}{r} – mg \ge 0 $$
これを整理して、
$$ v_C^2 \ge gr $$ - これが、頂点Cを通過できるための速さの条件です。最小の高さ \(h_0\) に対応するのは、速さが最小になるとき、すなわち、
$$ v_C^2 = gr \quad (\text{このとき } N_C=0) $$
- 力学的エネルギー保存則
- 出発点A(高さ \(h_0\)、速さ \(0\))と頂点C(高さ \(2r\)、速さ \(v_C\))の間でエネルギー保存則を立てます。
$$ mgh_0 = \frac{1}{2}mv_C^2 + mg(2r) $$
- 出発点A(高さ \(h_0\)、速さ \(0\))と頂点C(高さ \(2r\)、速さ \(v_C\))の間でエネルギー保存則を立てます。
使用した物理公式
- 円運動の運動方程式: \(ma=F\)
- 力学的エネルギー保存則: \(K+U=\text{一定}\)
エネルギー保存則の式に、速さの最小条件 \(v_C^2 = gr\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
mgh_0 &= \frac{1}{2}m(gr) + mg(2r) \\[2.0ex]
gh_0 &= \frac{1}{2}gr + 2gr \\[2.0ex]
gh_0 &= \frac{5}{2}gr \\[2.0ex]
h_0 &= \frac{5}{2}r
\end{aligned}
$$
ジェットコースターのループを回りきるには、頂上で「ある決まった速さ以上」を保っている必要があります。もし速さが足りないと、重力に負けて落ちてしまいます。
この別解では、まず「頂上で落ちないためのギリギリの速さ」を力のバランス(運動方程式)から計算します。その結果、「速さの2乗が \(g \times r\) になれば良い」とわかります。
次に、「そのギリギリの速さを頂上で達成するには、どれくらいの高さからスタートすればいいか?」をエネルギーの計算で逆算する、という手順で答えを求めます。
主たる解法と同じ \(h_0 = \frac{5}{2}r\) が得られました。このアプローチは、鉛直面内の円運動の本質である「最高点を通過するための速度条件」を直接的に扱うため、物理的な理解が深まる非常に有効な解法です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 力学的エネルギー保存則と円運動の運動方程式の連携
- 核心: この問題は、単一の法則だけでは解けません。「高さと速さの関係」を記述する力学的エネルギー保存則と、「速さと力の関係」を記述する円運動の運動方程式という、二つの異なる物理法則を連立させて解くことが核心です。
- 理解のポイント:
- エネルギー保存則の役割: 摩擦がないため、位置エネルギーの減少分がそのまま運動エネルギーの増加分になります。これにより、任意の点での速さを、出発点の高さだけで表すことができます。
- 運動方程式の役割: 物体が円軌道を描くためには、常に中心方向に向心力が必要です。この向心力は、物体に実際に働く力(この場合は重力と垂直抗力)の合力によって供給されます。運動方程式は、この力のバランスと速さの関係を数式で表現します。
- 連携: エネルギー保存則で求めた「速さ」を、運動方程式に代入することで、求めたい「力(垂直抗力)」を計算することができます。この二段構えの思考プロセスが、この種の複合問題を解く鍵となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 糸につるしたおもりの鉛直面内円運動: 基本的な考え方は全く同じです。レールからの「垂直抗力 \(N\)」が、糸の「張力 \(T\)」に置き換わるだけです。糸がたるまずに一回転できる条件は、最高点での張力が \(0\) 以上(\(T \ge 0\))であることです。
- ジェットコースターの丘越え(円の外側を運動): この場合、台車はレールの外側(上側)を走るため、垂直抗力 \(N\) の向きが円の中心とは逆向きになります。運動方程式の符号が変わる点に注意が必要です。
- 途中でレールがなくなる、糸が切れる問題: 最高点や特定の角度でレールがなくなったり、糸が切れたりすると、その後の物体は重力だけを受ける「放物運動」に移行します。その瞬間までの速さと位置を、エネルギー保存則と運動方程式で正確に求めることが重要になります。
- 初見の問題での着眼点:
- エネルギーは保存されるか?: まず問題文を読み、「摩擦を無視する」「なめらかな」といった記述を探します。これがあれば、力学的エネルギー保存則が強力な武器になります。
- 円運動の中心と半径はどこか?: 物体が円運動している部分を特定し、その中心と半径を明確にします。
- 力をすべて図示する: 注目している点(例えば点Bや点C)で、物体に働く力を漏れなくベクトルで図示します。重力、垂直抗力、張力などです。
- 「離れない」「たるまない」を数式化する: 問題文の「レールから離れずに通過する」「糸がたるむことなく」といった条件は、物理的には「垂直抗力 \(N \ge 0\)」「張力 \(T \ge 0\)」と翻訳できることを常に意識します。
- 「最小」「ギリギリ」は等号(=0)に対応: 「通過できるための最小の高さ」「一回転するためのぎりぎりの速さ」といった条件は、上記の不等式が等号で成立する瞬間、すなわち \(N=0\) または \(T=0\) のときに対応します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 最高点での速さを \(0\) と考えてしまう:
- 誤解: 「最小の高さ」や「ギリギリ通過」という言葉から、最高点でちょうど速さが \(0\) になると勘違いしてしまう。
- 対策: もし最高点で速さが \(0\) になると、その瞬間に物体は円運動をやめて真下に自由落下してしまいます。円軌道を保つためには、最高点でも重力に打ち勝って前に進むだけの速さが必要です。この最小の速さは、運動方程式から \(v_C = \sqrt{gr}\) と求められます。エネルギー保存則だけで解こうとすると、この点を見落としがちです。
- 向心力を新たな力として書き加えてしまう:
- 誤解: 円運動の問題を解く際に、重力や垂直抗力に加えて、さらに「向心力」という力を図に書き込んでしまう。
- 対策: 向心力は力の「種類」ではなく、力の「役割」や「合力」の名称です。運動方程式 \(m\frac{v^2}{r} = F\) の右辺 \(F\) には、実際に働いている力(この問題なら \(N\) と \(mg\cos\theta\))を書き入れます。「向心力」という文字を力の図や運動方程式に書き込むことはありません。
- 力の分解における角度のミス:
- 誤解: 重力 \(mg\) を円の半径方向と接線方向に分解する際、角度 \(\theta\) の位置を取り違えて \(\cos\theta\) と \(\sin\theta\) を逆にしてしまう。
- 対策: 角度の定義(この問題では頂点Cからの角度)を正確に把握し、図を丁寧に描いて幾何学的な関係を確認する癖をつけましょう。補助線を引いて、錯角や同位角の関係を明確にすることが有効です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- (1)での公式選択(エネルギー保存則と運動方程式の連立):
- 選定理由: 求めたいのは「垂直抗力 \(N\)」。\(N\) は力の情報なので「運動方程式」に含まれます。しかし、運動方程式を立てると未知数として「速さ \(v\)」も現れます。この未知の速さ \(v\) は「出発点の高さ \(h\)」によって決まります。この「高さと速さ」という異なる種類の物理量を結びつけるのが「エネルギー保存則」です。したがって、\(N\) を \(h\) の関数で表すためには、\(v\) を仲介役として二つの法則を連立させる必要があるのです。
- 適用根拠: 摩擦がないので力学的エネルギーは保存されます。また、物体は円軌道上を運動しているので、円運動の運動方程式が成り立ちます。これらの物理的な事実が、それぞれの公式を適用する根拠となります。
- (2)でのアプローチ選択(\(N=0\) の代入):
- 選定理由: 「通過できる最小の高さ」という物理的な条件を、数式で最も直接的に表現する方法だからです。
- 適用根拠: 「レールから離れない」という条件は \(N \ge 0\) であり、その限界点(ギリギリの状態)は \(N=0\) です。(1)で \(N\) と \(h\) の一般的な関係式がすでに求まっているので、この式に \(N=0\) という特定の条件を代入すれば、それに対応する特別な高さ \(h_0\) が求まる、という論理です。
- (2)別解でのアプローチ選択(速度条件からの逆算):
- 選定理由: (1)の誘導がない場合や、円運動の本質をより深く理解したい場合に有効なアプローチです。まず「最高点を通過する」という現象そのものに必要な物理的条件(最低速度)は何かを考え、そこから逆算して初期条件(出発点の高さ)を求めるという、より原理に立ち返った思考法です。
- 適用根拠: 最高点での運動方程式を立てることで、レールから離れない条件 \(N_C \ge 0\) を、速さの条件 \(v_C^2 \ge gr\) に変換できます。この物理的に意味のある最低速度 \(v_C = \sqrt{gr}\) を実現するために必要なエネルギーはいくらか、そしてそのエネルギーはどれだけの高さに相当するか、という論理でエネルギー保存則を適用します。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式のまま計算を進める:
- まずは \(mgh = \frac{1}{2}mv^2 + \dots\) のように、文字で立式しましょう。両辺の \(m\) を消去するなど、式を簡単にしてから代入や連立を行うことで、計算が楽になり、ミスも減ります。
- 連立方程式は目的意識を持って:
- (1)では「\(v^2\) を消去して \(N\) を求める」という目的を明確に意識します。式①を \(v^2 = \dots\) の形に整理してから式②に代入すると、計算の見通しが良くなります。
- 物理的な妥当性の吟味(検算):
- (2)で求めた \(h_0 = \frac{5}{2}r\) は、最高点の高さ \(2r\) よりも高い(\(2.5r > 2r\))です。もし計算結果が \(h_0 \le 2r\) となったら、そもそも最高点に到達すらできないので、計算ミスを疑うことができます。
- (1)で求めた \(N\) の式で、最下点(\(\theta = 180^\circ\), \(\cos\theta = -1\))を考えると、\(N = \frac{mg}{r}(2h – 2r + 3r) = \frac{mg}{r}(2h+r)\) となります。\(h\) が正なら必ず \(N>0\) となり、最下点でレールから離れることはない、という直感に合うことを確認できます。
発展例題18 円盤状の円錐振り子
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(1)の別解: おもりと共に回転する観測者の立場で考える解法(非慣性系)
- 模範解答が地上に静止した観測者の立場(慣性系)で、おもりの「円運動の運動方程式」を立てるのに対し、別解ではおもりと共に回転する観測者の立場(非慣性系)に立ち、「遠心力」という見かけの力を導入して力の「つりあい」の問題として解きます。
- 設問(1)の別解: おもりと共に回転する観測者の立場で考える解法(非慣性系)
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的視点の深化: 慣性系(運動方程式)と非慣性系(力のつりあい)という、物理現象を記述する二つの異なる視点の関係性を深く理解できます。
- 解法の選択肢拡大: 複雑な運動に見える問題も、適切な座標系を選ぶことで、より直感的な「力のつりあい」の問題に帰着させられることを学べます。
- 概念理解の徹底: 遠心力という、非慣性系で現れる見かけの力がどのように導入され、問題を単純化するのに役立つかを具体的に体験できます。
- 結果への影響
- どちらの立場で見ても、物理法則は同じ結論を導き、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「円錐振り子と垂直抗力が関わる円運動の解析」です。円運動を維持するための向心力が何によって供給されているのかを正しく見抜き、水平方向の運動方程式と鉛直方向の力のつりあいを連立させて解く、典型的な問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 円運動の運動方程式: 水平面内で等速円運動する物体には、円の中心に向かう方向の合力(向心力)が働き、その大きさは物体の質量、半径、角速度(または速さ)で決まること。
- 鉛直方向の力のつりあい: 物体は上下方向には運動しないため、鉛直方向の力はつりあっていること。
- 力の分解: 棒がおもりを引く力を、水平成分と鉛直成分に正しく分解できること。
- 物体が面から離れる条件: おもりが円盤から離れる瞬間とは、円盤がおもりを押す力、すなわち垂直抗力が \(0\) になる瞬間であると理解していること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、まずおもりに働くすべての力(重力、棒が引く力、垂直抗力)を図示します。次に、水平方向については円運動の運動方程式を、鉛直方向については力のつりあいの式を立てます。これら2本の式を解くことで、棒が引く力と垂直抗力を求めます。
- (2)では、(1)で求めた垂直抗力の式を利用します。「円盤からはなれる直前」という条件を「垂直抗力 \(N=0\)」と読み替え、この条件を式に代入して、そのときの角速度 \(\omega\) を計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
地上で静止している観測者から見ると、おもりは水平面内で等速円運動をしています。円運動をしているということは、円の中心に向かう「向心力」が働いているはずです。一方、おもりは上下には動かないので、鉛直方向の力はつりあっています。この水平・鉛直の2つの方向について、それぞれ運動方程式と力のつりあいの式を立て、未知数である「棒が引く力 \(S\)」と「垂直抗力 \(N\)」を求めます。
この設問における重要なポイント
- おもりに働く力は、重力 \(mg\)、棒が引く力 \(S\)、円盤からの垂直抗力 \(N\) の3つである。
- 円運動の向心力は、棒が引く力 \(S\) の水平成分によって供給される。
- 棒と支柱のなす角を \(\theta\) とおき、幾何学的関係(\(\sin\theta\), \(\cos\theta\), 回転半径 \(r\) と \(L, H\) の関係)を正しく用いる。
具体的な解説と立式
おもりに働く力を考えます。棒が引く力の大きさを \(S\)、円盤からの垂直抗力の大きさを \(N\)、棒と支柱のなす角を \(\theta\) とします。
- 水平方向(円運動の運動方程式)
- おもりは、支柱を中心とする半径 \(r\) の円運動をしています。図より、回転半径は \(r = L\sin\theta\) です。
- この円運動の向心力は、棒が引く力 \(S\) の水平成分 \(S\sin\theta\) です。
- したがって、水平方向の運動方程式 \(ma=F\) は、
$$ mr\omega^2 = S\sin\theta $$
\(r = L\sin\theta\) を代入すると、
$$ m(L\sin\theta)\omega^2 = S\sin\theta \quad \cdots ① $$
- 鉛直方向(力のつりあい)
- おもりは鉛直方向には動かないので、力のつりあいが成り立っています。
- 上向きの力は、垂直抗力 \(N\) と、棒が引く力 \(S\) の鉛直成分 \(S\cos\theta\) の和です。
- 下向きの力は、重力 \(mg\) です。
- (上向きの力の和)=(下向きの力)より、
$$ N + S\cos\theta = mg \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 円運動の運動方程式: \(ma = F\) (\(a\)は向心加速度 \(r\omega^2\))
- 力のつりあい
まず、式①から棒が引く力 \(S\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
m(L\sin\theta)\omega^2 &= S\sin\theta
\end{aligned}
$$
両辺を \(\sin\theta\) (\(\theta \neq 0\)) で割ると、
$$ S = mL\omega^2 $$
次に、式②を \(N\) について整理し、求めた \(S\) を代入して垂直抗力 \(N\) を求めます。
$$ N = mg – S\cos\theta $$
ここで、図の幾何学的関係から \(\cos\theta = \frac{H}{L}\) です。これを代入すると、
$$
\begin{aligned}
N &= mg – (mL\omega^2) \left(\frac{H}{L}\right) \\[2.0ex]
&= mg – m\omega^2 H \\[2.0ex]
&= m(g – \omega^2 H)
\end{aligned}
$$
おもりは、地面の上をグルグルと円を描いて回っています。物理のルールでは、物体が円運動するためには、必ず誰かが円の中心に向かって引っ張り続けなければなりません。この問題では、その「引っ張る役」を、斜め上に伸びている棒が担当しています。棒が引く力の「水平成分」が、円運動に必要な向心力になっているのです。これが一つ目の式です。
一方、おもりは空中に浮いたり、地面にめり込んだりせず、高さを保っています。これは、上向きの力(棒が引く力の垂直成分と、床が支える力)と、下向きの力(重力)がちょうどつりあっているからです。これが二つ目の式です。この二つの式を解けば、棒が引く力と床が支える力が計算できます。
棒がおもりを引く力の大きさは \(S=mL\omega^2\)、円盤がおもりに及ぼす力の大きさ(垂直抗力)は \(N=m(g – \omega^2 H)\) と求まりました。
\(S\) は角速度 \(\omega\) が大きいほど大きくなり、\(N\) は \(\omega\) が大きいほど小さくなることがわかります。これは、速く回すほど棒がおもりを強く斜め上に引き上げるため、円盤が支えるべき重さが減っていくという直感的なイメージと一致しており、妥当な結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
「おもりは円盤からはなれる」という現象を、物理的な言葉に翻訳することが鍵です。おもりが円盤に接している間は、円盤はおもりを上向きに押す力(垂直抗力 \(N\))を及ぼしています。回転が速くなり、おもりが浮き上がり始めると、この押す力はどんどん小さくなります。そして、「はなれる直前」には、この力がちょうど \(0\) になります。したがって、(1)で求めた \(N\) の式に \(N=0\) を代入すれば、そのときの角速度 \(\omega\) が求められます。
この設問における重要なポイント
- 「円盤からはなれる」という条件を、「垂直抗力 \(N=0\)」と数式化すること。
具体的な解説と立式
(1)で求めた円盤から受ける力(垂直抗力)の式は、
$$ N = m(g – \omega^2 H) $$
おもりが円盤からはなれる直前では \(N=0\) となるので、このときの角速度を \(\omega\) とすると、
$$ 0 = m(g – \omega^2 H) $$
使用した物理公式
- (1)で導出した垂直抗力の式
上記で立てた式を \(\omega\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
g – \omega^2 H &= 0 \\[2.0ex]
\omega^2 H &= g \\[2.0ex]
\omega^2 &= \frac{g}{H}
\end{aligned}
$$
\(\omega > 0\) なので、
$$ \omega = \sqrt{\frac{g}{H}} $$
おもちゃのプロペラを床の上で速く回すと、フワッと浮き上がりますよね。あれと同じで、このおもりも回転が速くなるにつれて、棒に斜め上に引っ張り上げられる力が強くなり、だんだん軽くなっていきます。そして、ある特定の回転速度になると、円盤が支える力がちょうどゼロになり、おもりが浮き上がる寸前の状態になります。この問題は、その「浮き上がる寸前の回転速度はいくつですか?」と聞いているのです。(1)で計算した「円盤が支える力」の式が \(0\) になる回転速度を計算すれば、それが答えです。
はなれる直前の角速度は \(\omega = \sqrt{\frac{g}{H}}\) と求まりました。この角速度より大きくすると、(1)の式によれば \(N\) が負の値になります。垂直抗力は面が物体を押す力なので負にはなれず、これはおもりが円盤から浮き上がっている状態を表します。したがって、この値がはなれる直前の角速度として妥当であることがわかります。
思考の道筋とポイント
おもりと一緒に角速度 \(\omega\) で回転している観測者の視点(非慣性系)で問題を考えます。この観測者から見ると、おもりは常に目の前で静止しています。したがって、複雑な円運動を考える代わりに、単純な「力のつりあい」の問題として解くことができます。ただし、この視点では、実在する力に加えて、見かけの力である「遠心力」を考慮する必要があります。
この設問における重要なポイント
- おもりに働く力は、重力、棒が引く力、垂直抗力、そして遠心力 \(mr\omega^2\) の4つである。
- 遠心力は、回転の中心から遠ざかる向き(水平外向き)に働く。
- おもりは静止して見えるので、水平方向と鉛直方向のそれぞれで力がつりあっている。
具体的な解説と立式
おもりと共に回転する観測者から見ると、おもりには以下の4つの力が働いて静止しています。
- 重力: \(mg\)(鉛直下向き)
- 棒が引く力: \(S\)(棒に沿って斜め上向き)
- 垂直抗力: \(N\)(鉛直上向き)
- 遠心力: \(F_{\text{遠心}} = mr\omega^2\)(水平外向き)
これらの力の、水平方向と鉛直方向のつりあいを考えます。
- 水平方向の力のつりあい
- 中心に向かう内向きの力は、棒が引く力 \(S\) の水平成分 \(S\sin\theta\) です。
- 中心から遠ざかる外向きの力は、遠心力 \(mr\omega^2\) です。
- (内向きの力)=(外向きの力)より、
$$ S\sin\theta = mr\omega^2 $$
\(r = L\sin\theta\) を代入すると、
$$ S\sin\theta = m(L\sin\theta)\omega^2 $$
- 鉛直方向の力のつりあい
- 上向きの力は、垂直抗力 \(N\) と棒が引く力 \(S\) の鉛直成分 \(S\cos\theta\) の和です。
- 下向きの力は、重力 \(mg\) です。
- (上向きの力の和)=(下向きの力)より、
$$ N + S\cos\theta = mg $$
使用した物理公式
- 力のつりあい
- 遠心力: \(F = mr\omega^2\)
これらのつりあいの式は、主たる解法(慣性系)で立てた運動方程式と力のつりあいの式と全く同じ形をしています。したがって、ここからの計算過程は主たる解法と同一であり、同じ結果が得られます。
- 棒が引く力の大きさ: \(S = mL\omega^2\)
- 円盤から受ける力の大きさ: \(N = m(g – \omega^2 H)\)
あなた自身がおもりの上に乗って、一緒にグルグル回っていると想像してください。あなたは外側に放り出されそうな力(遠心力)を感じるはずです。でも、実際にはあなたは飛ばされずに同じ場所にとどまっています。それは、棒が内側へ引っ張ってくれる力と、遠心力がちょうどつりあっているからです。また、あなたが上下に動かないのは、重力と、棒や床が支えてくれる上向きの力がつりあっているからです。このように、動いている物体の視点に立つと、運動の問題を力の「つりあい」としてシンプルに考えることができます。
慣性系で運動方程式を立てて解く方法と、非慣性系で遠心力を導入して力のつりあいを考える方法で、完全に同じ結果が得られました。これは、二つの視点が物理的に等価であることを示しています。問題に応じて、より考えやすい方の視点を選ぶことで、ミスを減らし、効率的に解くことができます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動の分離と法則の適用(水平方向:運動方程式、鉛直方向:力のつりあい)
- 核心: この問題の根幹は、おもりの運動を「水平面内の円運動」と「鉛直方向の静止」という二つの独立した運動に分解して捉える能力です。そして、それぞれの運動に対して適切な物理法則を適用します。
- 理解のポイント:
- 水平方向(円運動): 物体は円運動という加速度運動をしています。したがって、運動の原因と結果を結びつける運動方程式 \(ma=F\) を立てます。このとき、向心力 \(F\) の正体が、棒が引く力 \(S\) の水平成分であることを正確に見抜くことが重要です。
- 鉛直方向(静止): 物体は上下には動いていません(加速度が \(0\))。したがって、この方向には力のつりあいの法則が成り立ちます。上向きの力の和(垂直抗力 \(N\) と \(S\) の鉛直成分)と下向きの力(重力 \(mg\))が等しいという式を立てます。
- 連立: 水平・鉛直で立てた2本の式に、共通の未知数 \(S\) が含まれています。これらを連立方程式として解くことで、すべての未知数を求めることができます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 円錐振り子: この問題から円盤(床)がなくなり、垂直抗力 \(N\) が \(0\) になった状態です。水平方向の運動方程式と鉛直方向の力のつりあいを立てるという、全く同じ思考プロセスで解くことができます。
- 回転する円錐面の内側を運動する物体: 棒の張力 \(S\) が、円錐面からの「垂直抗力」に置き換わります。この垂直抗力を水平成分と鉛直成分に分解して、同様に運動方程式と力のつりあいを立てます。
- カーブを曲がるバイクや自転車: バイクが車体を傾けてカーブを曲がる際も、重力と地面からの抗力(垂直抗力と摩擦力の合力)のつりあいを考えます。抗力の水平成分が向心力となり、鉛直成分が重力とつりあうという点で、本質的に同じ構造の問題です。
- 初見の問題での着眼点:
- 運動面を特定する: まず、物体がどの平面で運動しているかを確認します(この問題では水平面)。円運動の半径や中心は、この運動面上で考えます。
- 力をすべて図示する: 重力、張力、垂直抗力、摩擦力など、物体に働く力を漏れなく、正しい向きにベクトルで描きます。これが全ての出発点です。
- 座標軸を設定する: 運動を分解するのに最も都合の良い軸を設定します。円運動では、通常「円の中心方向(半径方向)」と「回転軸方向(この問題では鉛直方向)」の2軸で考えます。
- 各軸で法則を使い分ける:
- 加速度がある軸(半径方向) → 運動方程式を立てる。
- 加速度がゼロの軸(鉛直方向) → 力のつりあいの式を立てる。
- 幾何学的関係を最初に整理する: 式を立てる前に、図から読み取れる半径 \(r\)、棒の長さ \(L\)、支柱の高さ \(H\) の関係(例: \(r=L\sin\theta\), \(H=L\cos\theta\))を書き出しておくと、計算がスムーズに進みます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 向心力を新たな力として書き加えてしまう:
- 誤解: 重力、張力、垂直抗力に加えて、さらに「向心力」という第4の力を図に描いてしまう。
- 対策: 向心力は力の「種類」ではなく、力の「合力」の名称です。運動方程式 \(ma = F\) の右辺 \(F\) には、実際に働いている力の中から中心を向いている成分の和(この問題では \(S\sin\theta\))を代入します。「向心力」という文字を力の図や運動方程式に書き込むことはありません。
- 鉛直方向で運動方程式を立てて混乱する:
- 誤解: 鉛直方向にも \(ma = F\) を適用しようとして、「加速度 \(a\) はどうなるんだ?」と混乱してしまう。
- 対策: 物体がその方向に動いているか(加速しているか)を常に確認しましょう。この問題では上下には動かないので、鉛直方向の加速度は \(0\) です。つまり、\(m \times 0 = F_{\text{鉛直}}\) となり、これは力のつりあいの式 \(F_{\text{鉛直}}=0\) と同じ意味になります。
- 力の分解ミス:
- 誤解: 棒が引く力 \(S\) を水平・鉛直に分解する際に、角度 \(\theta\) の位置を勘違いして \(\sin\theta\) と \(\cos\theta\) を逆にしてしまう。
- 対策: 角度 \(\theta\) が「どの線とどの線のなす角か」を正確に定義し、図に描き込みましょう。「角 \(\theta\) を挟む辺が \(\cos\theta\)、対する辺が \(\sin\theta\)」という三角関数の定義に忠実に戻って確認する癖をつけることが重要です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- (1)での公式選択(運動方程式と力のつりあいの連立):
- 選定理由: 求めたい物理量は「力(\(S\) と \(N\))」です。そして、おもりの運動は「水平方向の円運動」と「鉛直方向の静止」という二つの側面を持っています。これらの運動状態と力の関係を記述する法則は、それぞれ運動方程式と力のつりあいの法則以外にありません。
- 適用根拠:
- 水平方向: 物体は明らかに加速度運動(円運動)をしています。運動(加速度)と力の関係を記述する基本法則は運動方程式です。
- 鉛直方向: 物体は静止しています(加速度 \(0\))。加速度が \(0\) の運動状態と力の関係を記述するのは、力のつりあいの法則です。
- 未知数が \(S\) と \(N\) の2つであるため、独立した方程式が2本必要になります。水平方向と鉛直方向でそれぞれ立式することで、解くべき連立方程式が得られます。
- (2)でのアプローチ選択(\(N=0\) の代入):
- 選定理由: 「円盤からはなれる」という物理的な事象を、数式で最も直接的かつシンプルに表現する方法だからです。
- 適用根拠: 垂直抗力 \(N\) は「面が物体を押す力」と定義されます。したがって、面から「はなれる」ということは、もはや面から押されていない、すなわち \(N=0\) になるということです。これは物理的な定義そのものです。(1)で \(N\) と角速度 \(\omega\) の関係式がすでに導出されているため、この関係式に \(N=0\) という条件を代入すれば、その瞬間の \(\omega\) が一意に定まる、という論理に基づいています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 最初に幾何学的関係を整理する:
- 計算を始める前に、問題の図の隅に \(r = L\sin\theta\), \(H = L\cos\theta\), よって \(\sin\theta = \sqrt{L^2-H^2}/L\) など、必要な幾何学的関係をすべて書き出しておきましょう。計算の途中で図形とにらめっこする必要がなくなり、計算に集中できます。
- 次元解析で検算する:
- (2)で求めた答え \(\omega = \sqrt{\frac{g}{H}}\) の単位(次元)が合っているか確認しましょう。重力加速度 \(g\) の単位は \(\text{m/s}^2\)、高さ \(H\) の単位は \(\text{m}\) です。したがって、\(\frac{g}{H}\) の単位は \(\frac{\text{m/s}^2}{\text{m}} = 1/\text{s}^2\) となります。その平方根を取ると \(1/\text{s}\) となり、これは角速度の単位(\(\text{rad/s}\))と一致します。これにより、少なくとも式の形に大きな間違いはないと推測できます。
- 極端な場合を考えてみる:
- (1)で求めた \(N = m(g – \omega^2 H)\) について考えてみましょう。もし回転していなければ(\(\omega=0\))、\(N=mg\) となります。これは、静止しているおもりの重さを円盤がすべて支えている状態を表し、直感と一致します。
- (2)で求めた \(\omega = \sqrt{\frac{g}{H}}\) について、もし支柱が非常に高ければ(\(H\) が大きい)、はなれるための角速度 \(\omega\) は小さくて済むことがわかります。これも、棒が垂直に近くなるほど、少し回しただけですぐに浮き上がりそうだという物理的な直感に合っています。
発展例題19 円錐容器内の運動
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問の別解: 慣性系(静止系)で考える解法
- 模範解答が小球と共に回転する観測者の立場(非慣性系)で遠心力を用いて力の「つりあい」を考えるのに対し、別解では地上に静止した観測者の立場(慣性系)で小球の「円運動の運動方程式」を立てて解きます。
- 設問の別解: 慣性系(静止系)で考える解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的視点の深化: 慣性系(運動方程式)と非慣性系(力のつりあい)という、物理現象を記述する二つの異なる視点の関係性を深く理解できます。
- 解法の選択肢拡大: 複雑な運動に見える問題も、どちらの視点で見るかによって、力の分解や立式の仕方が変わることを学べます。問題に応じてより解きやすいアプローチを選択する力が養われます。
- 概念理解の徹底: 向心力(実在する力の合力)と遠心力(見かけの力)が、異なる立場で同じ現象を記述していることを具体的に体験できます。
- 結果への影響
- どちらの立場で見ても、物理法則は同じ結論を導き、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「円錐面上の円運動と力のつりあい」です。複数の力が働く状況で、どの力が向心力の役割を担っているのか(または、どの力と遠心力がつりあっているのか)を正しく分析し、適切な軸に力を分解して立式する能力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 非慣性系と遠心力: 回転する座標系(非慣性系)では、観測者から見て物体に「遠心力」という見かけの力が働いているように見え、力のつりあいの問題として扱えること。
- 力の分解: 重力や遠心力などを、問題設定に応じた適切な方向(この問題では円錐の側面に沿った方向と垂直な方向)に分解できること。
- 力のつりあい: 複数の物体が静止している場合、それぞれの物体に働く力はつりあっていること(おもりと糸の張力の関係)。
- 円運動の運動方程式: (別解で用いる考え方として)静止した座標系(慣性系)では、物体に働く力の合力が向心力となり、円運動を引き起こしていると考えること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、静止しているおもり \(M\) に働く力のつりあいから、糸の張力 \(T\) の大きさを求めます。
- 次に、小球 \(m\) と共に回転する観測者の立場(非慣性系)に立ちます。
- 小球に働くすべての力(重力、張力、垂直抗力、遠心力)を図示し、円錐の側面に沿った方向の力のつりあいの式を立てます。
- その式を解くことで、小球の速さ \(v_0\) を求めます。
思考の道筋とポイント
この問題は、小球とおもりが糸で繋がっているのが特徴です。まず、静止しているおもりに着目すれば、糸の張力 \(T\) がおもりの重さ \(Mg\) と等しいことがすぐにわかります。
次に、主役である小球の運動を考えます。模範解答のように、小球と一緒に回転する視点(非慣性系)で考えると、小球は静止して見えます。このとき、小球には重力、張力、垂直抗力に加えて、外向きの「遠心力」が働いていると考え、これらの力が完全につりあっているとして式を立てます。
力を分解する際、円錐の側面に沿った方向でつりあいの式を立てれば、未知数である垂直抗力 \(N\) が式に現れないため、計算が非常に簡潔になります。
この設問における重要なポイント
- おもりの力のつりあいから、糸の張力 \(T\) を \(Mg\) と確定させる。
- 小球と共に回転する非慣性系で考え、水平外向きに遠心力 \(m\frac{v_0^2}{r}\) を導入する。
- 回転半径 \(r\) は \(L\sin\theta\) である。
- 力を「円錐の側面に沿った方向」と「側面に垂直な方向」に分解する。
具体的な解説と立式
まず、質量 \(M\) のおもりに働く力のつりあいを考えます。
おもりは静止しているので、糸の張力 \(T\) と重力 \(Mg\) がつりあっています。
$$ T = Mg $$
次に、小球 \(m\) と共に回転する観測者の立場で、小球に働く力を考えます。この観測者から見ると、小球は静止しており、以下の力が働いてつりあっています。
- 重力: \(mg\)(鉛直下向き)
- 糸の張力: \(T = Mg\)(円錐の側面に沿って、穴の方向へ下向き)
- 垂直抗力: \(N\)(円錐の側面に垂直な向き)
- 遠心力: \(F_{\text{遠心}} = m\frac{v_0^2}{r}\)(水平外向き)。回転半径 \(r=L\sin\theta\) なので、\(F_{\text{遠心}} = m\frac{v_0^2}{L\sin\theta}\)。
これらの力を、円錐の側面に沿った方向で考えます。
- 斜面を上向きに動かそうとする力:
- 遠心力の成分: 遠心力は水平方向なので、その斜面に沿った成分は \(F_{\text{遠心}}\sin\theta\) となります。
$$ F_{\text{遠心}}\sin\theta = \left(m\frac{v_0^2}{L\sin\theta}\right)\sin\theta = m\frac{v_0^2}{L} $$
- 遠心力の成分: 遠心力は水平方向なので、その斜面に沿った成分は \(F_{\text{遠心}}\sin\theta\) となります。
- 斜面を下向きに動かそうとする力:
- 重力の成分: 重力は鉛直方向なので、その斜面に沿った成分は \(mg\cos\theta\) となります。
- 糸の張力: \(T=Mg\) は、もともと斜面に沿った方向を向いています。
円錐の側面に沿った方向の力のつりあいの式は、
(斜面上向きの力) = (斜面下向きの力の和)
より、
$$ m\frac{v_0^2}{L} = mg\cos\theta + Mg $$
使用した物理公式
- 力のつりあい
- 遠心力: \(F = mv^2/r\)
上記で立てた力のつりあいの式を、\(v_0\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
m\frac{v_0^2}{L} &= (m\cos\theta + M)g \\[2.0ex]
v_0^2 &= \frac{Lg}{m}(M + m\cos\theta)
\end{aligned}
$$
\(v_0 > 0\) なので、
$$ v_0 = \sqrt{\frac{Lg}{m}(M + m\cos\theta)} $$
あなた自身が小球に乗って、一緒にグルグル回っていると想像してください。あなたは外側に放り出されそうになり、斜面を駆け上がりたいと感じるはずです。これが「遠心力」による効果です。
一方で、あなたには地球の重力がかかっており、斜面を滑り落ちようとします。さらに、背中にはおもり \(M\) がぶら下がっていて、これもあなたを斜面下に引っ張ります。
小球が同じ場所を回り続けているのは、この「斜面を駆け上がろうとする力」と、「斜面を滑り落ちようとする2つの力(重力+おもり)」が、ちょうど綱引きで引き分けている状態だからです。この力のつりあいの式を解けば、そのときの速さがわかります。
小球の速さは \(v_0 = \sqrt{\frac{Lg}{m}(M + m\cos\theta)}\) と求まりました。
この式から、おもりの質量 \(M\) が大きいほど、また円錐の傾きが急であるほど(\(\theta\) が小さいほど \(\cos\theta\) は大きくなる)、同じ位置を保つためにはより大きな速さ \(v_0\) が必要になることがわかります。これは、斜面下向きに引っ張る力が大きいほど、それに対抗するための遠心力(つまり速さ)が必要になるという直感と一致しており、妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
地上に静止した観測者(慣性系)の視点で問題を考えます。この観測者から見ると、小球は水平面内で等速円運動をしています。円運動をするためには、必ず円の中心に向かう力、すなわち「向心力」が必要です。この向心力は、小球に実際に働いているすべての力(重力、張力、垂直抗力)の合力によって生み出されます。
この視点では、力を「水平方向」と「鉛直方向」に分解し、水平方向については円運動の運動方程式を、鉛直方向については力のつりあいの式を立てます。
この設問における重要なポイント
- 小球に働く力は、実在する力である重力 \(mg\)、張力 \(T=Mg\)、垂直抗力 \(N\) の3つ。
- これらの力の合力が、円運動の向心力として働く。
- 力を「水平方向」と「鉛直方向」に分解する。
具体的な解説と立式
静止系から見ると、小球には以下の3つの力が働いています。
- 重力: \(mg\)(鉛直下向き)
- 糸の張力: \(T = Mg\)(円錐の側面に沿って、穴の方向へ下向き)
- 垂直抗力: \(N\)(円錐の側面に垂直な向き)
これらの力を、水平方向と鉛直方向に分解します。
- 鉛直方向の力のつりあい
- 上向きの力: 垂直抗力 \(N\) の鉛直成分。\(N\) は水平面となす角が \(\theta\) なので、鉛直成分は \(N\sin\theta\)。
- 下向きの力: 重力 \(mg\) と、張力 \(T\) の鉛直成分 \(T\cos\theta = Mg\cos\theta\)。
- (上向きの力)=(下向きの力の和)より、
$$ N\sin\theta = mg + Mg\cos\theta \quad \cdots ① $$
- 水平方向の円運動の運動方程式
- 円運動の向心力は、円の中心(z軸)に向かう水平方向の力の合力です。
- 中心に向かう力: 垂直抗力 \(N\) の水平成分 \(N\cos\theta\) と、張力 \(T\) の水平成分 \(T\sin\theta = Mg\sin\theta\)。
- 運動方程式 \(m\frac{v_0^2}{r} = (\text{向心力})\) は、回転半径 \(r=L\sin\theta\) を用いて、
$$ m\frac{v_0^2}{L\sin\theta} = N\cos\theta + Mg\sin\theta \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 円運動の運動方程式: \(ma = F\)
- 力のつりあい
未知数が \(N\) と \(v_0\) の連立方程式①, ②を解きます。
まず、式①から \(N\) を求めます。
$$ N = \frac{mg + Mg\cos\theta}{\sin\theta} $$
次に、この \(N\) を式②に代入します。
$$
\begin{aligned}
m\frac{v_0^2}{L\sin\theta} &= \left( \frac{mg + Mg\cos\theta}{\sin\theta} \right)\cos\theta + Mg\sin\theta
\end{aligned}
$$
両辺に \(\sin\theta\) を掛けて分母を払います。
$$
\begin{aligned}
m\frac{v_0^2}{L} &= (mg + Mg\cos\theta)\cos\theta + Mg\sin^2\theta \\[2.0ex]
&= mg\cos\theta + Mg\cos^2\theta + Mg\sin^2\theta \\[2.0ex]
&= mg\cos\theta + Mg(\cos^2\theta + \sin^2\theta) \\[2.0ex]
&= mg\cos\theta + Mg
\end{aligned}
$$
これを \(v_0\) について解くと、
$$
\begin{aligned}
v_0^2 &= \frac{L}{m}(mg\cos\theta + Mg) \\[2.0ex]
v_0^2 &= \frac{Lg}{m}(M + m\cos\theta)
\end{aligned}
$$
\(v_0 > 0\) なので、
$$ v_0 = \sqrt{\frac{Lg}{m}(M + m\cos\theta)} $$
地上から小球の運動を眺めてみましょう。小球はクルクルと水平に円を描いています。物理の法則によれば、物体がカーブを描くためには、必ずカーブの中心に向かって引っ張る力(向心力)が必要です。
この問題で、小球を中心に向かって引っ張っているのは誰でしょうか? それは、「容器が小球を押す力(垂直抗力)」の水平方向の成分と、「おもりが糸を介して引く力(張力)」の水平方向の成分、この二つの力が協力して向心力の役目を果たしているのです。この関係を運動の法則の式にします。また、小球は上下には動かないので、鉛直方向の力はつりあっています。この二つの式を組み合わせることで、速さを計算できます。
主たる解法(非慣性系)と完全に同じ結果が得られました。
慣性系で解く場合、未知数である垂直抗力 \(N\) を一度計算する必要があるため、計算量は少し増えます。一方、非慣性系で考え、力の分解軸を斜面に沿った方向にとると、垂直抗力 \(N\) を計算せずに直接答えを導けるため、より効率的です。どちらの解法も理解しておくことで、問題に応じて最適なアプローチを選択できるようになります。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 適切な座標系(視点)の選択と力の分解
- 核心: この問題の成否は、複雑に働く複数の力を、いかに見通し良く整理できるかにかかっています。そのための最も強力な手段が「適切な座標系(視点)を選ぶ」ことと「その座標系に合わせて力を分解する」ことです。
- 理解のポイント:
- 非慣性系(模範解答): 小球と共に回転する視点を選ぶと、運動が「静止」と見なせるため、力のつりあいの問題に単純化できます。このとき、力の分解軸を「斜面に平行・垂直」に取ることで、未知数である垂直抗力 \(N\) を計算から排除し、一気に答えを導くことができます。これが最も効率的な解法です。
- 慣性系(別解): 静止した視点を選ぶと、物理の基本法則である運動方程式と力のつりあいに基づいて、より原理的に解くことができます。この場合、力の分解軸は「水平・鉛直」に取るのが標準的です。計算量は増えますが、向心力の正体を一つ一つ突き詰めていくプロセスは、物理の理解を深める上で非常に有益です。
- 結論: どちらの視点を選ぶか、そしてどの方向に力を分解するかという「戦略」が、この問題の核心となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 回転する円錐面の内側をすべる物体(摩擦あり): この問題に摩擦力が加わったパターンです。力のつりあいを考える際に、摩擦力(すべり上がるのを妨げる向きか、すべり落ちるのを妨げる向きか)を斜面方向の力に追加します。
- バイクのバンク走行(すり鉢状のコース): バイクがすり鉢状のコースを走る問題も、本質的には同じ構造です。重力と垂直抗力の合力が向心力となります。
- 人工衛星の円運動: 複数の天体から引力を受ける人工衛星の運動など、複数の力が向心力として働く状況に応用できます。
- 初見の問題での着眼点:
- 連結された物体はないか?: まず、糸などで連結された物体を探します。静止している物体があれば(この問題のおもり \(M\))、そこから張力などの内力を先に決定できないか検討します。
- どの視点で見るか決める: 回転運動の問題では、まず「慣性系(静止系)」で見るか、「非慣性系(回転系)」で見るかを決めます。「つりあって静止している」と見なせる非慣性系の方が、計算が楽になることが多いです。
- 力を分解する「軸」を賢く選ぶ:
- 基本: 慣性系なら「水平・鉛直」、非慣性系なら「半径方向・回転軸方向」が基本です。
- 応用: 模範解答のように、斜面上の問題では「斜面に平行・垂直」に分解すると、垂直抗力 \(N\) を消去できる場合があります。求めたい物理量と、消去したい未知数を考えて、最も都合の良い軸を選びましょう。
- 幾何学的関係の確認: 回転半径 \(r\) や、力の分解に必要な角度を、問題で与えられた文字(\(L\), \(\theta\) など)で正確に表現することが不可欠です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 力の分解方向のミス:
- 誤解: 水平方向の遠心力や鉛直方向の重力を、斜面方向に分解する際に、角度 \(\theta\) の取り方を間違えて \(\sin\) と \(\cos\) を逆にしてしまう。
- 対策: 図を大きく丁寧に描き、補助線を引いて直角三角形を見つけましょう。特に、水平線や鉛直線と、斜面や垂直抗力の線がなす角度の関係は、錯角や同位角を落ち着いて確認することが重要です。例えば、「斜面と水平面のなす角が \(\theta\) なら、斜面に垂直な線と鉛直線のなす角も \(\theta\) になる」といった関係を使いこなせると便利です。
- 張力をおもりの重さ \(Mg\) と考えない:
- 誤解: 小球の運動解析に集中するあまり、おもりが静止しているという条件を見落とし、張力 \(T\) を未知数のままにして式が解けなくなる。
- 対策: 問題文は必ず最後まで読み、すべての物体がどのような状態にあるかを確認しましょう。「おもりは静止している」という一文が、張力を決定する上で決定的な情報となります。
- 慣性系と非慣性系の混同:
- 誤解: 運動方程式を立てているのに遠心力を書き加えたり、力のつりあいを考えているのに向心力を考慮したりする。
- 対策: 最初に「どの視点で見るか」を宣言し、そのルールを一貫して守りましょう。
- 慣性系(静止した人): 見えるのは「運動」。立てる式は「運動方程式」。登場する力は「実在する力」のみ。
- 非慣性系(一緒に動く人): 見えるのは「静止」。立てる式は「力のつりあい」。登場する力は「実在する力+見かけの力(遠心力など)」。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 模範解答のアプローチ選択(非慣性系での力のつりあい):
- 選定理由: 小球の運動は「距離 \(L\) の位置を保ち」とあるため、回転する観測者にとっては「静止」していると見なせます。運動を静的な力のつりあいの問題に置き換えることで、思考がシンプルになり、計算ミスも減らせるため、このアプローチが選ばれています。
- 適用根拠: 回転座標系という非慣性系では、ニュートンの運動法則をそのまま適用できません。法則を成り立たせるための補正項として「遠心力」を導入することで、見かけ上、力のつりあいの法則が成立します。この物理的な手続きが、公式適用の根拠となります。さらに、力を斜面方向に分解することで、不要な未知数(垂直抗力)を計算から排除できるという戦略的な理由もあります。
- 別解のアプローチ選択(慣性系での運動方程式):
- 選定理由: 物理の基本法則に最も忠実なアプローチです。どのような運動も、その原因となる力との関係(運動方程式)から説明できる、という物理学の根本原理に基づいています。
- 適用根拠: 静止した観測者から見れば、小球は明らかに「等速円運動」という加速度運動をしています。加速度運動には、その原因となる力(合力=向心力)が必ず存在します。この運動(加速度)と力の関係を結びつけるのが運動方程式 \(ma=F\) です。また、小球は鉛直方向には動いていない(加速度 \(0\))ため、この方向には力のつりあいの法則が適用できます。これらの物理的事実が、それぞれの公式を適用する根拠となります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 最初に張力を確定させる:
- 計算を始める前に、まず問題全体を見渡し、簡単に求まる物理量がないか探しましょう。この問題では、おもりのつりあいから \(T=Mg\) がすぐにわかります。これを最初に確定させておけば、小球の解析で未知数が一つ減り、見通しが格段に良くなります。
- 文字式のまま計算を進める:
- 特に別解のように計算が少し複雑になる場合は、最後まで文字式のまま計算を進めることが重要です。途中で \(\cos^2\theta + \sin^2\theta = 1\) のような関係式を使って式を簡略化できる場面が出てきます。
- 力の分解を図に丁寧に書き込む:
- 力の分解は、頭の中だけでやらずに、必ず図に描き込みましょう。元の力ベクトルを対角線とする長方形を描き、その辺として成分ベクトルを描くと、間違いが起こりにくくなります。角度 \(\theta\) の位置も、複数の場所に書き込んでおくと、\(\sin\) と \(\cos\) の判断がしやすくなります。
- 単位(次元)の確認:
- 最終的に得られた答え \(v_0 = \sqrt{\frac{Lg}{m}(M + m\cos\theta)}\) の単位が速さの単位になっているか確認しましょう。\(Lg(M+m)\) の単位は \(\text{m} \cdot (\text{m/s}^2) \cdot \text{kg} = \text{kg} \cdot \text{m}^2/\text{s}^2\)。これを \(m\)(単位 \(\text{kg}\))で割ると、\(\text{m}^2/\text{s}^2\)。その平方根を取ると \(\text{m/s}\) となり、正しく速さの単位になっています。
[mathjax] SNSでのシェアはご自由にどうぞ。(上のボタンをクリック) ブログで引用する際には、こちらのリンクを添えてください。 【引用】https://makoto-physics-school.com […]
発展問題
218 物体のついた円錐振り子
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(2)の別解: 質点Pと共に回転する観測者の立場で考える解法(非慣性系)
- 模範解答が地上に静止した観測者の立場(慣性系)で、質点Pの鉛直方向の「力のつりあい」を考えるのに対し、別解ではPと共に回転する観測者の立場(非慣性系)に立ち、「遠心力」という見かけの力を導入して、水平・鉛直両方向の「力のつりあい」の問題として解きます。
- 設問(2)の別解: 質点Pと共に回転する観測者の立場で考える解法(非慣性系)
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的視点の深化: 慣性系(運動方程式+力のつりあい)と非慣性系(力のつりあいのみ)という、物理現象を記述する二つの異なる視点の関係性を深く理解できます。
- 解法の選択肢拡大: 円運動を静的な力のつりあいの問題として捉え直す訓練になり、複雑な問題に対してより直感的なアプローチを選択できる力が養われます。
- 概念理解の徹底: 遠心力という見かけの力が、慣性系における向心力とどのように対応しているかを具体的に体験できます。
- 結果への影響
- 立式の解釈は異なりますが、最終的に得られる方程式の形は同じであり、答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「糸で連結された2物体の円錐振り子運動」です。一見複雑に見えますが、静止している物体(質点Q)と円運動している物体(質点P)をそれぞれ分けて考え、力のつりあいと運動方程式を適用することで解き明かすことができます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力のつりあい: 静止している物体(質点Q)に働く力はつりあっていること。また、円運動する物体(質点P)も鉛直方向には動かないため、鉛直方向の力はつりあっていること。
- 円運動の運動方程式: 水平面内で等速円運動する質点Pには、円の中心に向かう方向の合力(向心力)が働き、その運動を記述する法則(\(ma=F\))を正しく立てられること。
- 張力の性質: 1本の軽い糸が及ぼす張力の大きさは、糸の両端で等しいこと。
- 運動の解析: 複数の設問にまたがる問題では、前の設問で得られた結果(関係式)を次の設問で利用することが多いこと。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)と(2)では、まず静止している質点Qの力のつりあいから、糸の張力 \(T\) の大きさを求めます。次に、質点Pに働く力を図示し、水平方向については円運動の運動方程式を、鉛直方向については力のつりあいの式を立てます。これにより、向心力の大きさや質量の関係式が導かれます。
- (3)では、(1), (2)で立てた運動方程式に、得られた関係式を代入して速さ \(v\) を求めます。
- (4)では、(2), (3)で導かれた関係式を分析し、速さ \(v\) が変化したときに、角度 \(\theta\) と半径 \(r\) がどのように変化するかを考察します。