基本問題
210 円錐振り子
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(2)の別解: 回転座標系(非慣性系)で考える解法
- 模範解答が静止した観測者から見た運動方程式(慣性系)で解くのに対し、別解ではおもりと共に回転する観測者から見た力のつりあい(非慣性系)で解きます。このとき、「遠心力」という見かけの力を導入します。
- 設問(2)の別解: 回転座標系(非慣性系)で考える解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 慣性系における「向心力」と、非慣性系における「遠心力」との関係性を理解することで、円運動をより深く多角的に捉える力が養われます。
- 解法の選択肢拡大: 問題によっては、非慣性系で考えた方が力のつりあいとして直感的に立式しやすい場合があります。異なる視点からのアプローチを学ぶことで、思考の柔軟性が高まります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「ばねによる円錐振り子の運動解析」です。円運動と力のつりあいが融合した典型的な問題であり、力を正しく分解し、運動の状況に応じて適切な法則を適用する能力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力のつりあい: 物体は水平面内で運動していますが、鉛直方向には動いていません。このため、鉛直方向の力はつりあっていると考えられます。
- 等速円運動の運動方程式: 水平面内でおもりは等速円運動をしています。円運動を維持するためには、常に円の中心方向を向く力(向心力)が必要です。この向心力と物体の運動の関係を表すのが運動方程式 \(ma=F\) です。
- フックの法則: ばねの弾性力の大きさは、ばねの自然の長さからの伸びに比例します (\(F=kx\))。
- 慣性の法則: 物体に力が働かない場合、静止している物体は静止し続け、運動している物体は等速直線運動を続けます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、まずおもりに働く力(重力と弾性力)を図示します。次に、鉛直方向には運動していないことから、弾性力の鉛直成分と重力がつりあうという式を立て、ばねの長さ \(L’\) を求めます。
- (2)では、水平方向の運動に着目します。弾性力の水平成分が円運動の向心力となっていることから、等速円運動の運動方程式を立てます。(1)の結果も利用して、角速度と周期を計算します。
- (3)では、円運動している物体の速度の向きと、力が働かなくなった後の運動について、慣性の法則を基に考えます。
問(1)
思考の道筋とポイント
おもりは水平面内で円運動をしていますが、高さは一定で、上下方向(鉛直方向)には動いていません。このことから、おもりに働く力の鉛直成分はつりあっていると判断できます。ばねの弾性力を \(F\) とし、その鉛直成分と重力 \(mg\) がつりあう、という式を立てることが出発点です。
この設問における重要なポイント
- おもりに働く力は「重力」と「ばねの弾性力」の2つのみ。
- 鉛直方向の運動はないため、力のつりあいが成立する。
- ばねの伸びは \(x = L’ – L\) であり、弾性力の大きさはフックの法則から \(F = k(L’ – L)\) となる。
- 図の幾何学的な関係から、三角比を用いて力の成分を求める。
具体的な解説と立式
おもりに働く力は、鉛直下向きの重力 \(mg\) と、ばねが引く弾性力 \(F\) です。ばねが鉛直線となす角を \(\theta\) とします。
弾性力 \(F\) は、フックの法則より、
$$
\begin{aligned}
F &= k(L’ – L)
\end{aligned}
$$
と表せます。
おもりは鉛直方向には動かないので、この方向の力はつりあっています。弾性力 \(F\) の鉛直成分は \(F\cos\theta\) です。
(上向きの力の和)=(下向きの力の和)より、
$$
\begin{aligned}
F\cos\theta &= mg \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
また、図の直角三角形に着目すると、辺の長さの関係から、
$$
\begin{aligned}
\cos\theta &= \frac{L}{L’} \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
となります。
使用した物理公式
- 力のつりあい
- フックの法則: \(F=kx\)
\(F = k(L’ – L)\) と式②を式①に代入します。
$$
\begin{aligned}
k(L’ – L) \cdot \frac{L}{L’} &= mg
\end{aligned}
$$
この方程式を \(L’\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
kL(L’ – L) &= mgL’ \\[2.0ex]
kLL’ – kL^2 &= mgL’ \\[2.0ex]
kLL’ – mgL’ &= kL^2 \\[2.0ex]
(kL – mg)L’ &= kL^2 \\[2.0ex]
L’ &= \frac{kL^2}{kL – mg}
\end{aligned}
$$
おもりはグルグルと水平に回っていますが、落ちてきたり、上に上がったりはしていません。これは、おもりを真下に引っ張る「重力」と、斜め上に引っ張る「ばねの力」のうちの上向き成分が、ちょうど綱引きで引き分けている状態だからです。この「力のつりあい」の関係を数式にして、そこからばねの長さ \(L’\) を計算します。
ばねの長さは \(L’ = \displaystyle\frac{kL^2}{kL – mg}\) と求まりました。
この式が意味を持つためには、分母である \(kL – mg\) が正である必要があります。つまり \(kL > mg\) です。これは、もしばねの長さが \(L’\) ではなく \(L\) だったとしても、その時点での弾性力の上向き成分が重力より大きくなければ、おもりを支えきれず円運動が成立しない、という物理的な条件に対応しており、妥当な結果と言えます。
問(2)
思考の道筋とポイント
おもりは水平面内で等速円運動をしています。物体が円運動をするためには、常に円の中心に向かって引っ張る力(向心力)が必要です。この問題では、ばねの弾性力の水平成分 \(F\sin\theta\) がその向心力の役割を担っています。したがって、等速円運動の運動方程式 \(ma = F_{\text{向心力}}\) を立てることで、角速度 \(\omega\) を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 向心力は、ばねの弾性力の水平成分 \(F\sin\theta\) である。
- 円運動の半径 \(r\) は、図の幾何学的な関係から \(r = L\tan\theta\) と表せる。
- 等速円運動の加速度は \(a = r\omega^2\) で与えられる。
具体的な解説と立式
おもりの質量を \(m\)、円運動の半径を \(r\)、角速度を \(\omega\) とします。
水平方向についての運動方程式は、
$$
\begin{aligned}
ma &= F_{\text{向心力}}
\end{aligned}
$$
ここで、加速度 \(a = r\omega^2\)、向心力は弾性力の水平成分 \(F\sin\theta\) なので、
$$
\begin{aligned}
mr\omega^2 &= F\sin\theta \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
となります。
ここで、(1)で立てた鉛直方向の力のつりあいの式 \(F\cos\theta = mg\) を利用すると、\(F = \displaystyle\frac{mg}{\cos\theta}\) となります。これを式③に代入すると、
$$
\begin{aligned}
mr\omega^2 &= \left( \frac{mg}{\cos\theta} \right) \sin\theta \\[2.0ex]
mr\omega^2 &= mg\tan\theta
\end{aligned}
$$
さらに、図の幾何学的な関係から、円運動の半径 \(r\) は \(r = L\tan\theta\) と表せます。これを上式に代入すると、
$$
\begin{aligned}
m(L\tan\theta)\omega^2 &= mg\tan\theta
\end{aligned}
$$
となります。
使用した物理公式
- 等速円運動の運動方程式: \(ma = F\) (ただし \(a=r\omega^2\))
まず、角速度 \(\omega\) を求めます。
上で立てた運動方程式 \(m(L\tan\theta)\omega^2 = mg\tan\theta\) を解きます。
おもりは円運動をしているので \(\theta \neq 0\)、つまり \(\tan\theta \neq 0\) です。したがって、両辺を \(m\tan\theta\) で割ることができます。
$$
\begin{aligned}
L\omega^2 &= g \\[2.0ex]
\omega^2 &= \frac{g}{L}
\end{aligned}
$$
\(\omega > 0\) なので、
$$
\begin{aligned}
\omega &= \sqrt{\frac{g}{L}}
\end{aligned}
$$
次に、周期 \(T\) を求めます。周期 \(T\) と角速度 \(\omega\) の間には \(T = \displaystyle\frac{2\pi}{\omega}\) の関係があるので、
$$
\begin{aligned}
T &= 2\pi \sqrt{\frac{L}{g}}
\end{aligned}
$$
おもりがカーブを曲がり続ける(円運動する)ためには、常に円の中心に向かって引っ張る力が必要です。その役目を果たしているのが、ばねの力の「水平方向の成分」です。この力の大きさと、おもりの質量や回転の速さ(角速度)との間には決まった関係式(運動方程式)があります。この式を解くことで、回転の速さが計算できます。周期というのは、おもりが \(1\) 周するのにかかる時間のことです。
角速度は \(\omega = \sqrt{\displaystyle\frac{g}{L}}\)、周期は \(T = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{L}{g}}\) と求まりました。
興味深いことに、この結果はばね定数 \(k\) やおもりの質量 \(m\) には依存しません。これは、例えば質量 \(m\) が大きくなると、つりあうために必要な弾性力 \(F\) も大きくなり、結果として向心力 \(F\sin\theta\) も大きくなりますが、運動方程式の左辺の \(m\) も大きくなるため、うまく相殺されるからです。この周期の式は、長さ \(L\) の単振り子の周期の式と同じ形をしています。
思考の道筋とポイント
おもりと一緒に回転する観測者の視点(回転座標系)で問題を考えます。この観測者にとって、おもりは静止して見えます。ただし、この観測者は加速度運動をしているため、通常の力(重力、弾性力)に加えて、「見かけの力」である「遠心力」を考慮する必要があります。この系では、おもりに働くすべての力(重力、弾性力、遠心力)がつりあっている、と考えて立式します。
この設問における重要なポイント
- おもりと共に回転する非慣性系で考える。
- おもりには、重力、弾性力に加えて、円の中心から遠ざかる向きに遠心力が働く。
- 遠心力の大きさは \(F_{\text{遠心力}} = mr\omega^2\) である。
- この非慣性系では、おもりは静止しているので、3つの力のベクトル和がゼロになる(力のつりあい)。
具体的な解説と立式
おもりと共に回転する観測者から見ると、おもりは静止しています。この観測者から見たおもりに働く力は以下の3つです。
- 重力 \(mg\)(鉛直下向き)
- ばねの弾性力 \(F\)(ばねの方向に沿って中心向き)
- 遠心力 \(mr\omega^2\)(水平で円の外側向き)
これらの3つの力がつりあっているので、水平方向と鉛直方向のそれぞれの成分で力のつりあいの式を立てます。
ばねが鉛直線となす角を \(\theta\) とすると、
鉛直方向のつりあい:
(上向きの力の和)=(下向きの力の和)
$$
\begin{aligned}
F\cos\theta &= mg
\end{aligned}
$$
水平方向のつりあい:
(内向きの力の和)=(外向きの力の和)
$$
\begin{aligned}
F\sin\theta &= mr\omega^2
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 力のつりあい
- 遠心力: \(F = mr\omega^2\)
上で立てた2つのつりあいの式から角速度 \(\omega\) を求めます。
鉛直方向の式から \(F = \displaystyle\frac{mg}{\cos\theta}\) として、これを水平方向の式に代入すると、
$$
\begin{aligned}
\left( \frac{mg}{\cos\theta} \right) \sin\theta &= mr\omega^2 \\[2.0ex]
mg\tan\theta &= mr\omega^2
\end{aligned}
$$
円運動の半径 \(r\) は \(r = L\tan\theta\) なので、これを代入します。
$$
\begin{aligned}
mg\tan\theta &= m(L\tan\theta)\omega^2
\end{aligned}
$$
両辺を \(m\tan\theta\) で割ると、
$$
\begin{aligned}
g &= L\omega^2 \\[2.0ex]
\omega^2 &= \frac{g}{L}
\end{aligned}
$$
\(\omega > 0\) なので、
$$
\begin{aligned}
\omega &= \sqrt{\frac{g}{L}}
\end{aligned}
$$
周期 \(T\) の計算は主たる解法と同様で、\(T = \displaystyle\frac{2\pi}{\omega}\) より、
$$
\begin{aligned}
T &= 2\pi \sqrt{\frac{L}{g}}
\end{aligned}
$$
自分がメリーゴーランドに乗っていると想像してみてください。乗っている間、自分は止まっているように感じますが、体の外側に向かって引っ張られるような不思議な力(遠心力)を感じます。このおもりも同じで、外側に引っ張る「遠心力」と、内側に引っ張る「ばねの力の水平成分」がちょうど釣り合っているから、同じ場所で安定して回り続けていられるのです。この「力のつりあい」の考え方で解く方法です。
主たる解法(慣性系での運動方程式)と完全に同じ結果が得られました。これは、静止した系から見て「円運動を引き起こす向心力」と、回転する系から見て「他の力とつりあう遠心力」が、同じ現象の異なる側面に過ぎないことを示しています。どちらの視点でも解けるようになっておくと、物理の理解が深まります。
問(3)
思考の道筋とポイント
等速円運動をしている物体の速度は、常に円軌道の接線方向を向いています。もし、運動の途中で物体を円運動させていた力(向心力)が突然なくなったら、物体はどうなるでしょうか。ニュートンの慣性の法則によれば、力が働かなくなった物体は、その瞬間の速度で等速直線運動を続けます。この原理に基づいて、おもりが飛び出す方向を考えます。
この設問における重要なポイント
- 等速円運動している物体の速度の向きは、常に円軌道の接線方向である。
- 物体に働く合力がゼロになると、物体は慣性の法則に従い、等速直線運動をする。
- 飛び出す向きは、力がなくなった瞬間の速度の向きに等しい。
具体的な解説と立式
図に示された位置で、おもりは円軌道に沿って運動しています。その瞬間の速度の向きは、円軌道の接線方向、すなわち矢印①の向きです。
この瞬間におもりがばねから外れると、おもりを円運動させていた向心力(ばねの弾性力の水平成分)が \(0\) になります。
その後、おもりに働く力は重力のみとなり、水平方向には力が働かなくなります。
慣性の法則により、水平方向の運動については、おもりはばねが外れた瞬間の速度を保ったまま、まっすぐ進み続けます。
したがって、おもりは速度の向きである①の方向に飛び始めます。
使用した物理公式
- 慣性の法則
この設問では、原理的な理解を問うものであり、計算は不要です。
陸上のハンマー投げを想像すると分かりやすいです。選手はワイヤーの付いたハンマーをグルグル回し、最適なタイミングで手を離します。ハンマーは、手を離された瞬間に進んでいた方向(円の接線方向)にまっすぐ飛んでいきます。この問題も全く同じで、ばねというワイヤーが外れた瞬間に、おもりが進んでいた方向である①の向きに飛んでいくのです。
答えは①となります。これは円運動と慣性の法則に関する基本的な性質であり、物理的に妥当な結論です。②は向心力と逆向き(遠心力の向き)であり、力がなくなった後に物体が進む方向ではありません。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 2つの基本法則の組み合わせ
- 核心: この問題は、一見すると複雑な運動(円錐振り子)に見えますが、その運動を「鉛直方向」と「水平方向」に分解して考えると、実は「力のつりあい」と「等速円運動」という、高校物理で学ぶ2つの非常に基本的な法則の組み合わせに過ぎないことを見抜くのが核心です。
- 理解のポイント:
- 鉛直方向 → 静止 → 力のつりあい: おもりは上下には動いていないため、鉛直方向の加速度はゼロです。したがって、この方向については、ばねの弾性力の上向き成分と重力が等しいという「力のつりあい」の式が成り立ちます。
- 水平方向 → 円運動 → 運動方程式: おもりは水平面内で円を描いて運動しています。この円運動を続けるためには、常に円の中心方向を向く力(向心力)が必要です。この向心力の役割を、ばねの弾性力の水平成分が担っています。この関係を「等速円運動の運動方程式」として立式します。
- 向心力の正体の理解
- 核心: 円運動の問題を解く上で極めて重要なのは、「向心力」という名前の特別な力がどこからか湧いてくるわけではない、と理解することです。
- 理解のポイント:
- 力の分解と役割分担: この問題では、斜め上向きに働く「ばねの弾性力」という一つの力を、鉛直成分と水平成分に分解しました。その結果、鉛直成分は「重力とつりあう」役割を、水平成分は「おもりを円運動させる(向心力となる)」役割を、それぞれ分担していることがわかります。向心力とは、このように物体に実際に働いている力の合力(またはその成分)が担う「役割」の名前なのです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 糸による円錐振り子: ばねが「糸」に変わっただけの、最も基本的な類似問題です。ばねの伸びを考える必要がなくなり、弾性力の代わりに「張力 \(T\)」を用いて同様に解くことができます。
- 水平面上の円運動: 水平面上で、ばねや糸につながれた物体が回転する問題です。この場合、重力と垂直抗力は鉛直方向でつりあっているため、水平方向の運動方程式(張力や弾性力が向心力となる)だけを考えればよく、よりシンプルになります。
- 自動車や電車がカーブを曲がる運動: 自動車がカーブを曲がる際の向心力は、タイヤと路面の間の「静止摩擦力」です。電車がカーブを曲がりやすいように線路が傾けられている(カント)のは、垂直抗力の水平成分を向心力の一部として利用するためです。
- 回転する円盤上の物体: 円盤と一緒に回転する物体には、円盤との間の「静止摩擦力」が向心力として働きます。円盤の回転が速くなりすぎると、必要な向心力が最大静止摩擦力を超えてしまい、物体は外側に滑り出します。
- 初見の問題での着眼点:
- まずは力をすべて図示する: 問題文を読んだら、物体に働く力をベクトル矢印で漏れなく書き込みます(重力、張力、弾性力、垂直抗力、摩擦力など)。これが全ての出発点です。
- 運動の面と、それと垂直な方向を見つける: 物体はどの平面(水平面、鉛直面など)で運動しているかを確認します。そして、その運動面に垂直な方向では、多くの場合、力がつりあっています。
- 運動と垂直な方向で「力のつりあい」を立てる: まず、加速度がゼロの方向(この問題では鉛直方向)で力のつりあいの式を立てます。これにより、張力や弾性力の大きさなど、未知数に関する重要な手がかりが得られることが非常に多いです。
- 運動の中心方向で「運動方程式」を立てる: 円運動の中心はどこか、半径 \(r\) はいくらかを特定します。次に、どの力が向心力の役割を担っているかを見つけ出し、等速円運動の運動方程式 \(ma=F\)(\(a=r\omega^2\) や \(a=v^2/r\))を立式します。
- 慣性系か非慣性系か、視点を決める: 基本は静止した観測者(慣性系)から見て運動方程式を立てますが、別解のように回転する物体と同じ視点(非慣性系)で考えると、遠心力という見かけの力を導入することで「力のつりあい」の問題として解くこともできます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 向心力と遠心力の混同:
- 誤解: 静止した観測者から見た運動方程式を立てているのに、円の外側に向かう「遠心力」も書き加えてしまう。
- 対策: 観測者の立場をはっきりさせましょう。「静止している観測者(慣性系)」から見るときに考えるのは、円の中心に向かう「向心力」だけです。一方、「物体と一緒に回転している観測者(非慣性系)」の立場で考えるときだけ、見かけの力である「遠心力」が登場し、他の力とつりあいます。この2つの視点を混ぜてはいけません。
- 力の分解における三角比のミス:
- 誤解: 鉛直成分と水平成分を求めるときに、\(\cos\theta\) と \(\sin\theta\) を逆にしてしまう。
- 対策: 角度 \(\theta\) がどの角かを正確に図に書き込み、「\(\theta\) を挟む辺が \(\cos\theta\)」「\(\theta\) の向かい側の辺が \(\sin\theta\)」と機械的に覚えるのが有効です。また、\(\theta\) が非常に小さい(ほぼ鉛直)場合を想像し、水平成分はほぼ \(0\) に、鉛直成分は力そのものに近くなるはずだ、という物理的な吟味をするとミスを発見しやすくなります。
- 円運動の半径 \(r\) の取り違え:
- 誤解: ばねの長さ \(L’\) や、天井からの鉛直距離 \(L\) を、そのまま円運動の半径 \(r\) として式に入れてしまう。
- 対策: 円運動の半径は、常に「回転の中心軸からの距離」です。この問題では、天井の真下にある回転中心からおもりまでの水平距離が半径 \(r\) にあたります。図をよく見て、\(r = L\tan\theta\) や \(r = L’\sin\theta\) といった幾何学的な関係から正しく求める癖をつけましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- (1)での公式選択(力のつりあい):
- 選定理由: 設問はばねの長さ \(L’\) を問うており、これは弾性力に関係します。そして、問題の状況から「おもりは鉛直方向には動いていない」という重要な情報が読み取れます。加速度が \(0\) の方向における力の関係を記述する法則は「力のつりあい」です。
- 適用根拠: 運動を成分に分解し、加速度が \(0\) である鉛直方向の運動に着目することで、この法則が適用できると判断します。これにより、未知数である弾性力(と、それに含まれる \(L’\))と既知の重力 \(mg\) を結びつける式が得られます。
- (2)での公式選択(等速円運動の運動方程式):
- 選定理由: 求めたいのは「角速度 \(\omega\)」と「周期 \(T\)」であり、これらは円運動の様子を特徴づける物理量です。運動の様子(加速度)とその原因(力)を結びつける基本法則は「運動方程式 \(ma=F\)」です。
- 適用根拠: おもりは「等速円運動」をしています。この運動を引き起こしている原因(向心力)は、(1)で考えた弾性力の水平成分です。したがって、運動方程式の \(a\) に円運動の加速度 \(r\omega^2\) を、\(F\) に向心力である弾性力の水平成分を代入することで、求めたい \(\omega\) を含む方程式を立てることができます。
- (3)での公式選択(慣性の法則):
- 選定理由: 問われているのは「ばねから外れた後」の運動、つまり力が働かなくなった後の運動です。力が働かない、あるいは合力がゼロになった物体の運動を記述する最も基本的な法則は「慣性の法則」です。
- 適用根拠: ばねが外れた瞬間、おもりを円運動させていた向心力が \(0\) になります(水平方向の力がなくなる)。慣性の法則によれば、物体はその瞬間に持っていた速度で、そのまま等速直線運動を続けます。円運動中の物体の速度は常に「円軌道の接線方向」を向いているため、この2つの知識を組み合わせることで、飛び出す方向が論理的に決定できます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式のまま計算を進める:
- (1)の計算のように、いきなり数値を代入するのではなく、まずは \(F\cos\theta = mg\) のように文字式のまま関係を整理しましょう。その後に \(F=k(L’-L)\) や \(\cos\theta = L/L’\) を代入していくことで、式の物理的な意味を見失いにくく、計算の見通しが格段に良くなります。
- 連立方程式のうまい処理法:
- (2)では、鉛直方向のつりあいの式 \(F\cos\theta = mg\) と、水平方向の運動方程式 \(mr\omega^2 = F\sin\theta\) を連立させて解きます。模範解答のように、一方の式を \(F\) について解いて代入するのも良いですが、2つの式の辺々を割り算する(\(\frac{F\sin\theta}{F\cos\theta} = \frac{mr\omega^2}{mg}\))と、\(F\) を消去して一気に \(\tan\theta = \frac{r\omega^2}{g}\) という関係式を導くことができ、計算が速く、間違いにくくなります。
- 単位による検算:
- 計算結果の単位が正しいかを確認する癖をつけましょう。例えば、(2)で求めた角速度 \(\omega = \sqrt{g/L}\) の単位を考えると、\(\sqrt{(\text{m/s}^2) / \text{m}} = \sqrt{1/\text{s}^2} = 1/\text{s}\) となります。これは角速度の単位(\(\text{rad/s}\))と次元が一致しており、計算が正しそうだという裏付けになります。
- 物理的にありえない値でないか吟味する:
- (1)で得られた \(L’ = \displaystyle\frac{kL^2}{kL – mg}\) という結果を見て、分母が \(kL – mg > 0\) でなければならないことに気づくことが重要です。もし \(kL \le mg\) であれば、ばねの長さが \(L\) の時点ですでに重力に負けてしまい、おもりを支えきれず、水平な円運動は成立しません。このように、得られた答えが物理的な条件を満たしているかを確認する習慣は、ミスを発見する上で非常に有効です。
- 極端な場合を考えてみる:
- もし重力 \(g\) がゼロだったらどうなるか、と考えてみましょう。(1)の式で \(g=0\) とすると \(L’=L\) となり、ばねは伸びません。重力がなければ支える必要がないので当然です。(2)の式で \(g=0\) とすると \(\omega=0\) となり、回転しません。これも妥当です。このような思考実験は、式の正しさを直感的に検証するのに役立ちます。
211 円錐面内での等速円運動
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(1), (2)の別解: 回転座標系(非慣性系)で考える解法
- 模範解答が静止した観測者から見た運動方程式(慣性系)で解くのに対し、別解では小球と共に回転する観測者から見た力のつりあい(非慣性系)で解きます。このとき、「遠心力」という見かけの力を導入します。
- 設問(1), (2)の別解: 回転座標系(非慣性系)で考える解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 慣性系における「向心力」と、非慣性系における「遠心力」との関係性を理解することで、円運動をより深く多角的に捉える力が養われます。
- 解法の選択肢拡大: 問題によっては、非慣性系で考えた方が力のつりあいとして直感的に立式しやすい場合があります。異なる視点からのアプローチを学ぶことで、思考の柔軟性が高まります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「円錐面内での等速円運動」です。前問の円錐振り子と物理的な状況は非常によく似ており、力を正しく分解し、運動の法則を適用する能力が試されます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力の分解: 物体に働く力を、運動を解析しやすい水平方向と鉛直方向に分解できること。特に、垂直抗力の向きと角度の関係を正確に把握することが重要です。
- 力のつりあい: 小球は一定の高さを保っている、つまり鉛直方向には運動していないため、この方向の力はつりあっています。
- 等速円運動の運動方程式: 小球は水平面内で等速円運動をしています。この運動を維持するための向心力と、速さや半径との関係を \(ma=F\) の形で記述できること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、まず小球に働く力(重力と垂直抗力)を図示し、それらを鉛直成分と水平成分に分解します。鉛直方向の力がつりあっていることから、垂直抗力の大きさを求めます。
- (2)では、(1)で分解した力の水平成分が、円運動の向心力となっていることを利用して、その大きさを計算します。
- (3)では、(2)で求めた向心力の大きさと、等速円運動の運動方程式 \(m\frac{v_0^2}{r}=F\) を結びつけて、速さ \(v_0\) を求めます。
- (4)では、周期の公式 \(T = \frac{2\pi r}{v_0}\) に、これまでに求めた半径 \(r\) と速さ \(v_0\) を代入して周期 \(T\) を計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
小球は水平面内を運動しており、上下方向(鉛直方向)には動いていません。このことから、小球に働く力の鉛直成分はつりあっていると考えられます。小球に働く力は重力と垂直抗力の2つです。垂直抗力を正しく分解し、その鉛直成分と重力がつりあうという式を立てることが、この問題の出発点です。
この設問における重要なポイント
- 小球に働く力は、鉛直下向きの「重力 \(mg\)」と、面から垂直に受ける「垂直抗力 \(N\)」の2つのみ。
- 鉛直方向の運動はないため、力のつりあいが成立する。
- 角度の関係を正確に把握する。z軸(鉛直線)と側面がなす角が \(\theta\) のとき、垂直抗力 \(N\) と水平面がなす角も \(\theta\) となる。
具体的な解説と立式
小球に働く力は、鉛直下向きの重力 \(mg\) と、容器の面から面に垂直な向きに受ける垂直抗力 \(N\) です。
ここで、力の分解のために角度の関係を考えます。
問題文より、z軸(鉛直線)と側面がなす角は \(\theta\) です。垂直抗力 \(N\) は側面に垂直です。幾何学的な関係から、垂直抗力 \(N\) が水平面となす角も \(\theta\) となります。
したがって、垂直抗力 \(N\) を水平成分と鉛直成分に分解すると、
- 水平成分: \(N\cos\theta\) (円の中心向き)
- 鉛直成分: \(N\sin\theta\) (鉛直上向き)
となります。
小球は鉛直方向には動かないので、この方向の力はつりあっています。
(上向きの力の和)=(下向きの力の和)より、
$$
\begin{aligned}
N\sin\theta &= mg
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 力のつりあい
上記で立てた力のつりあいの式を \(N\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
N &= \frac{mg}{\sin\theta}
\end{aligned}
$$
小球が円錐の斜面を滑り落ちないのは、斜面が小球を押し返す力(垂直抗力)で支えているからです。この「押し返す力」の「上向き成分」が、ちょうど地球が小球を引っ張る「重力」と等しくなってバランスが取れているのです。このバランスの式から、垂直抗力の大きさを計算します。
垂直抗力の大きさは \(N = \displaystyle\frac{mg}{\sin\theta}\) と求まりました。
\(\theta\) が \(90^\circ\) に近づく(面がほぼ水平になる)と、\(\sin\theta\) は \(1\) に近づき、\(N\) は \(mg\) に近づきます。これは水平な床に物体を置いた状況と同じで、妥当な結果です。逆に \(\theta\) が \(0^\circ\) に近づく(円錐が非常に鋭くなる)と、\(\sin\theta\) は \(0\) に近づき、\(N\) は無限大に発散します。これは、非常に急な斜面で重力を支えるには、極めて大きな垂直抗力が必要になることを意味しており、物理的に理にかなっています。
問(2)
思考の道筋とポイント
物体が等速円運動をするためには、常に円の中心に向かう力(向心力)が必要です。この向心力は、どこからか現れる特別な力ではなく、物体に実際に働いている力を合成した結果、円の中心方向を向く成分のことです。この問題では、垂直抗力の水平成分がその役割を担っています。
この設問における重要なポイント
- 向心力は、小球に働くすべての力の合力の、水平成分である。
- 重力は鉛直下向きなので水平成分を持たない。
- したがって、向心力は垂直抗力の水平成分 \(N\cos\theta\) に等しい。
具体的な解説と立式
等速円運動の向心力は、小球に働く力の水平成分の合力です。
小球に働く力は重力と垂直抗力ですが、重力は鉛直方向なので水平成分はありません。
したがって、向心力の大きさ \(F\) は、垂直抗力 \(N\) の水平成分に等しくなります。
(1)の力の分解から、水平成分は \(N\cos\theta\) なので、
$$
\begin{aligned}
F &= N\cos\theta
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 向心力の定義
上記で立てた式に、(1)で求めた \(N = \displaystyle\frac{mg}{\sin\theta}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
F &= \left( \frac{mg}{\sin\theta} \right) \cos\theta \\[2.0ex]
&= \frac{mg}{\tan\theta}
\end{aligned}
$$
小球がまっすぐ進まずに、円を描いてカーブし続けることができるのは、常に円の中心に向かって力が働いているからです。その力の正体は、斜面が小球を内側に押し込む力、つまり「垂直抗力の水平成分」です。この力の大きさを計算します。
向心力の大きさは \(F = \displaystyle\frac{mg}{\tan\theta}\) と求まりました。
\(\theta\) が大きくなる(円錐が平たくなる)と、\(\tan\theta\) は大きくなり、向心力 \(F\) は小さくなります。これは、同じ高さで円運動を続けるためには、傾きが緩やかな方が小さな向心力で済むという直感に合っています。
思考の道筋とポイント
小球と一緒に回転する観測者の視点(回転座標系)で問題を考えます。この観測者にとって、小球は静止して見えます。この系では、通常の力(重力、垂直抗力)に加えて、見かけの力である「遠心力」を考慮する必要があります。おもりに働くすべての力(重力、垂直抗力、遠心力)がつりあっている、と考えて立式します。
この設問における重要なポイント
- 小球と共に回転する非慣性系で考える。
- 小球には、重力、垂直抗力に加えて、円の中心から遠ざかる向きに遠心力が働く。
- この非慣性系では、小球は静止しているので、水平方向と鉛直方向のそれぞれの力はつりあっている。
具体的な解説と立式
小球と共に回転する観測者から見ると、小球は静止しています。この観測者から見た小球に働く力は以下の3つです。
- 重力 \(mg\)(鉛直下向き)
- 垂直抗力 \(N\)(面に垂直な向き)
- 遠心力 \(F_{\text{遠心力}}\)(水平で円の外側向き)
これらの3つの力がつりあっているので、水平方向と鉛直方向のそれぞれの成分で力のつりあいの式を立てます。
メインの解法と同様に、垂直抗力 \(N\) の鉛直成分は \(N\sin\theta\)、水平成分は \(N\cos\theta\) です。
鉛直方向のつりあい:
(上向きの力の和)=(下向きの力の和)
$$
\begin{aligned}
N\sin\theta &= mg
\end{aligned}
$$
水平方向のつりあい:
(内向きの力の和)=(外向きの力の和)
$$
\begin{aligned}
N\cos\theta &= F_{\text{遠心力}}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 力のつりあい
- 遠心力
- (1) 垂直抗力の大きさ
鉛直方向のつりあいの式から、直ちに \(N\) が求まります。
$$
\begin{aligned}
N &= \frac{mg}{\sin\theta}
\end{aligned}
$$ - (2) 向心力の大きさ
慣性系における「向心力」の大きさは、非慣性系における「遠心力」の大きさに等しくなります。
したがって、水平方向のつりあいの式から、向心力の大きさ \(F\) は、
$$
\begin{aligned}
F &= F_{\text{遠心力}} \\[2.0ex]
&= N\cos\theta
\end{aligned}
$$
これに上で求めた \(N\) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
F &= \left( \frac{mg}{\sin\theta} \right) \cos\theta \\[2.0ex]
&= \frac{mg}{\tan\theta}
\end{aligned}
$$
自分が小球と一緒に円錐の斜面をグルグル回っていると想像してみてください。自分は止まっているように感じますが、体の外側に向かって押し出されるような不思議な力(遠心力)を感じます。この小球も同じで、外側に押し出す「遠心力」と、斜面が内側に押し返す「垂直抗力の水平成分」がちょうど釣り合っているのです。また、上向きに支える「垂直抗力の鉛直成分」と下向きに引く「重力」も釣り合っています。この「力のつりあい」の考え方で解く方法です。
主たる解法(慣性系での運動方程式)と完全に同じ結果が得られました。非慣性系で考えると、運動方程式ではなく力のつりあいとして問題を捉えることができ、直感的に分かりやすい場合もあります。慣性系での「向心力」と非慣性系での「遠心力」は、同じ現象を異なる視点から見たものであり、その大きさは等しくなります。
問(3)
思考の道筋とポイント
(2)で求めた向心力の大きさと、等速円運動の運動方程式 \(m\frac{v_0^2}{r} = F\) を結びつけることで、速さ \(v_0\) を求めることができます。そのためには、まず円運動の半径 \(r\) を、高さ \(z_A\) と角度 \(\theta\) を用いて幾何学的に求める必要があります。
この設問における重要なポイント
- 等速円運動の運動方程式は \(m\frac{v_0^2}{r} = F\)。
- 円運動の半径 \(r\) は、図の直角三角形から \(r = z_A\tan\theta\) と求められる。
具体的な解説と立式
等速円運動の運動方程式は、質量 \(m\)、速さ \(v_0\)、半径 \(r\)、向心力 \(F\) を用いて、
$$
\begin{aligned}
m\frac{v_0^2}{r} &= F
\end{aligned}
$$
と表せます。
次に、円運動の半径 \(r\) を求めます。図において、頂点、円運動の中心、小球の位置を結ぶと直角三角形ができます。この三角形の高さが \(z_A\)、頂点の角が \(\theta\) なので、底辺にあたる半径 \(r\) は、
$$
\begin{aligned}
r &= z_A\tan\theta
\end{aligned}
$$
となります。
運動方程式に、この \(r\) と(2)で求めた \(F = \displaystyle\frac{mg}{\tan\theta}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
m\frac{v_0^2}{z_A\tan\theta} &= \frac{mg}{\tan\theta}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 等速円運動の運動方程式: \(ma = F\) (ただし \(a=v^2/r\))
上記で立てた方程式を \(v_0\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
m\frac{v_0^2}{z_A\tan\theta} &= \frac{mg}{\tan\theta}
\end{aligned}
$$
両辺に \(\tan\theta\) があるので、これを消去します(\(\theta \neq 0\) なので \(\tan\theta \neq 0\))。また、両辺の \(m\) も消去できます。
$$
\begin{aligned}
\frac{v_0^2}{z_A} &= g \\[2.0ex]
v_0^2 &= gz_A
\end{aligned}
$$
\(v_0 > 0\) なので、
$$
\begin{aligned}
v_0 &= \sqrt{gz_A}
\end{aligned}
$$
(2)で、小球をカーブさせるために必要な力の大きさが分かりました。一方、物理の法則によれば、その力の大きさは、小球の質量、速さ、円の半径によって決まります。この関係式(運動方程式)を使って、力の大きさから逆算して小球の速さを求めるのです。
速さは \(v_0 = \sqrt{gz_A}\) と求まりました。興味深いことに、この速さは円錐の傾き \(\theta\) や小球の質量 \(m\) には依存しません。つまり、どんな傾きの円錐でも、どんな質量の小球でも、高さ \(z_A\) で安定して円運動をするための速さは同じである、ということを示しています。
問(4)
思考の道筋とポイント
周期 \(T\) とは、小球が円軌道を1周するのにかかる時間のことです。これは、「距離÷速さ」で計算できます。ここでいう距離は円周の長さ \(2\pi r\)、速さは(3)で求めた \(v_0\) です。
この設問における重要なポイント
- 周期の定義式は \(T = \displaystyle\frac{2\pi r}{v_0}\)。
- 半径 \(r = z_A\tan\theta\) と速さ \(v_0 = \sqrt{gz_A}\) を代入する。
具体的な解説と立式
周期 \(T\) は、円周の長さを速さで割ることで求められます。
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{2\pi r}{v_0}
\end{aligned}
$$
この式に、半径 \(r = z_A\tan\theta\) と、(3)で求めた速さ \(v_0 = \sqrt{gz_A}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{2\pi (z_A\tan\theta)}{\sqrt{gz_A}}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 周期の定義: \(T = \frac{2\pi r}{v}\)
上記で立てた式を整理します。
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{2\pi z_A\tan\theta}{\sqrt{g}\sqrt{z_A}} \\[2.0ex]
&= \frac{2\pi \sqrt{z_A} \tan\theta}{\sqrt{g}} \\[2.0ex]
&= 2\pi \sqrt{\frac{z_A}{g}}\tan\theta
\end{aligned}
$$
周期とは「1周するのにかかる時間」のことです。これは、小学校で習う「時間 = 距離 ÷ 速さ」の計算と全く同じです。円の周りの長さ(距離)を、(3)で求めた小球の速さで割ってあげれば、1周にかかる時間が計算できます。
周期は \(T = 2\pi \sqrt{\displaystyle\frac{z_A}{g}}\tan\theta\) と求まりました。
速さ \(v_0\) は \(\theta\) に依存しませんでしたが、周期 \(T\) は \(\theta\) に依存します。\(\theta\) が大きい(円錐が平たい)ほど半径 \(r\) が大きくなるため、同じ速さでも1周するのに時間がかかり、周期が長くなるという結果は直感に合っています。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動の分解と法則の適用
- 核心: この問題の根幹は、斜め方向の運動を「鉛直方向」と「水平方向」という互いに独立した2つの方向に分解し、それぞれの方向で成立する物理法則を的確に適用する能力です。これは、放物運動や斜面上の運動など、力学の多くの問題で共通する最も重要な考え方の一つです。
- 理解のポイント:
- 鉛直方向 → 静止 → 力のつりあい: 小球は一定の高さ \(z=z_A\) を保っているため、鉛直方向の速度も加速度もゼロです。したがって、この方向については、垂直抗力の上向き成分と重力が等しいという「力のつりあい」の式が成り立ちます。
- 水平方向 → 円運動 → 運動方程式: 小球は水平面内で円を描いて運動しています。この円運動を続けるためには、常に円の中心方向を向く力(向心力)が必要です。この向心力の役割を、垂直抗力の水平成分が担っています。この関係を「等速円運動の運動方程式」として立式します。
- 垂直抗力の正しい理解
- 核心: 垂直抗力は、重力とつりあうために鉛直上向きに働く力、という単純なものではありません。「面が物体を押す力」であり、その向きは常に「面に垂直」です。この原理を理解し、問題の幾何学的な状況に合わせて正しく力の分解ができることが、この問題を解く上での直接的な鍵となります。
- 理解のポイント:
- 向きの決定: 垂直抗力の矢印を描くときは、まず物体が接している「面」を確認し、その面に対して90度の角度で、面から物体を押す向きに描きます。
- 角度の特定: 力を分解するためには、基準となる軸(水平・鉛直)と力のベクトルがなす角が必要です。図を丁寧に描き、錯角や同位角などの幾何学的な関係を利用して、角度 \(\theta\) を力の分解図の中に正しく配置することが不可欠です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 円錐振り子: 糸の張力が、この問題の垂直抗力と全く同じ役割を果たします。鉛直成分が重力とつりあい、水平成分が向心力となります。物理的な構造はほぼ同一です。
- バイクや自転車がカーブを曲がる運動(バンク): ライダーが車体を内側に傾けるのは、地面からの垂直抗力の水平成分を向心力として利用するためです。傾きが大きいほど、大きな向心力を得ることができ、高速でカーブを曲がることが可能になります。
- 飛行機の旋回: 飛行機が旋回する際、機体を傾けて(バンクさせて)旋回します。これは、翼に働く揚力(本来は鉛直上向き)を傾けることで、揚力の水平成分を生み出し、これを旋回の向心力として利用するためです。
- 初見の問題での着眼点:
- まずは力をすべて図示する: 物体に働く力をベクトル矢印で漏れなく書き込みます。この問題では重力 \(mg\) と垂直抗力 \(N\) です。特に、垂直抗力は「面に垂直」という原則を絶対に忘れないでください。
- 運動を分解する軸を設定する: 運動が水平面内で起きているので、解析の軸として「水平方向」と「鉛直方向」を選ぶのが最も合理的です。
- 角度の関係を正確に把握する: 力を成分分解するために、力のベクトルと分解軸とのなす角を求めます。問題で与えられた角度 \(\theta\) と、力の分解に必要な角度との関係を、図形の性質を使って慎重に導き出します。
- 各軸で法則を立てる:
- 加速度がゼロの軸(鉛直方向): 「力のつりあい」の式を立てます。
- 加速度がある軸(水平方向): 「運動方程式 \(ma=F\)」を立てます。円運動の場合、\(a\) には \(v^2/r\) や \(r\omega^2\) を、\(F\) には向心力を代入します。
- 幾何学的条件を数式化する: 円運動の半径 \(r\) など、運動方程式に必要なパラメータを、問題で与えられた変数(この問題では \(z_A\) と \(\theta\))を使って表す式(\(r=z_A\tan\theta\))を立てます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 垂直抗力の向きの誤解:
- 誤解: 垂直抗力を、重力とつりあうために常に鉛直上向きに働く力だと勘違いしてしまう。
- 対策: 「垂直抗力」という名前の「垂直」は、「鉛直」という意味ではありません。「接している面に垂直」という意味です。この原理を常に意識し、斜面上の物体では垂直抗力は必ず斜めを向くことを徹底しましょう。
- 力の分解における角度のミス:
- 誤解: z軸と側面がなす角 \(\theta\) を、そのまま垂直抗力と鉛直線のなす角だと勘違いするなど、角度設定を間違える。
- 対策: 急いで解こうとせず、大きな図を自分で描いて角度の関係をじっくり確認する癖をつけましょう。水平線と鉛直線を描き、側面の線を描き、さらに側面に垂直な線(垂直抗力の向き)を描きます。錯角や、直角三角形の角度の関係(2つの鋭角の和は90度)などを利用すれば、確実に正しい角度を特定できます。
- 向心力と垂直抗力の混同:
- 誤解: 垂直抗力 \(N\) そのものが向心力である、あるいは向心力は \(N\sin\theta\) である、などと間違えてしまう。
- 対策: 向心力は、定義上、常に「円運動の中心」を向く「水平な」力です。一方、垂直抗力 \(N\) は斜めを向いています。したがって、\(N\) そのものが向心力になることはありえません。必ず、水平・鉛直に分解したうちの「水平成分」が向心力になる、と覚えましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- (1)での公式選択(力のつりあい):
- 選定理由: 求めたいのは垂直抗力 \(N\) です。問題文の「一定の高さを保ったまま」という記述から、「鉛直方向の加速度はゼロ」という物理的な状況が読み取れます。加速度がゼロの方向における力の関係を記述する法則は「力のつりあい」です。
- 適用根拠: 運動を鉛直と水平に分解し、加速度がゼロである鉛直方向の運動に着目することで、この法則が適用できると判断します。これにより、未知数 \(N\) を含む鉛直成分 \(N\sin\theta\) と、既知の力である重力 \(mg\) を結びつける式が得られます。
- (2)での公式選択(向心力の定義):
- 選定理由: 求めたいのは「向心力」そのものです。向心力とは、円運動を引き起こすための力の「中心方向の合力」と定義されています。
- 適用根拠: 小球に働くすべての力(重力と垂直抗力)を水平・鉛直に分解し、水平方向の合力を計算します。重力に水平成分はないため、垂直抗力の水平成分 \(N\cos\theta\) がそのまま向心力となります。
- (3)での公式選択(等速円運動の運動方程式):
- 選定理由: 求めたいのは速さ \(v_0\) です。運動の様子(速さ、半径)とその原因(力)を結びつける基本法則は「運動方程式 \(ma=F\)」です。
- 適用根拠: 小球は等速円運動をしているので、運動方程式の加速度 \(a\) に円運動の加速度 \(v_0^2/r\) を、力の \(F\) に(2)で求めた向心力を代入すれば、求めたい \(v_0\) を含む方程式を立てることができます。
- (4)での公式選択(周期の定義式):
- 選定理由: 求めたいのは周期 \(T\) です。周期は「円軌道を1周するのにかかる時間」と定義されており、これは運動学の基本的な関係式「時間 = 距離 ÷ 速さ」から導かれます。
- 適用根拠: 円運動の軌道は円であり、その円周長(距離)は \(2\pi r\) です。速さは(3)で \(v_0\) として求まっています。したがって、定義式 \(T = 2\pi r / v_0\) に既知の値を代入するだけで、論理的に周期を導出できます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 幾何学的な関係を先に整理する:
- 計算を始める前に、まず図をよく見て、円運動の半径 \(r\) と高さ \(z_A\) の関係(\(r = z_A\tan\theta\))や、力の分解に必要な角度の関係を明確に書き出しておきましょう。物理的な立式と、幾何学的な計算を頭の中で混ぜないことが、ミスを防ぐコツです。
- 約分を確実に行う:
- (3)の計算で、運動方程式 \(m\frac{v_0^2}{z_A\tan\theta} = \frac{mg}{\tan\theta}\) の両辺に \(m\) や \(\tan\theta\) が現れます。これらを見逃さずに的確に消去することで、計算が劇的に簡単になり、間違いも減ります。
- 平方根の中の整理:
- (4)で周期を計算する際、\(T = \frac{2\pi z_A\tan\theta}{\sqrt{gz_A}}\) のような形になります。ここで焦らず、\(z_A = (\sqrt{z_A})^2\) であることを利用して、\(\frac{z_A}{\sqrt{z_A}} = \sqrt{z_A}\) と丁寧に約分を行いましょう。
- 文字式の次元(単位)を確認する:
- 例えば(3)で求めた \(v_0 = \sqrt{gz_A}\) の次元を考えます。\(g\) は加速度 (\(\text{m/s}^2\))、\(z_A\) は長さ (\(\text{m}\)) なので、\(\sqrt{(\text{m/s}^2) \cdot \text{m}} = \sqrt{\text{m}^2/\text{s}^2} = \text{m/s}\) となり、確かに速さの次元と一致します。このような次元解析は、計算ミスを発見する強力なツールになります。
- 極端な場合を考えてみる:
- もし円錐の傾き \(\theta\) が \(90^\circ\)(ほぼ水平な皿)に近づいたらどうなるか考えてみましょう。(1)で \(N \to mg\)、(2)で向心力 \(F \to 0\)。向心力がゼロなので、(3)の運動方程式から \(v_0 \to 0\) となります。これは、水平な皿の上では、ほんの少しでも速さがあると外に飛び出してしまうことに対応しており、物理的に妥当です。このような思考実験は、答えの確からしさを検証するのに役立ちます。
212 円錐面上での等速円運動
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(1), (2)の別解: 回転座標系(非慣性系)で考える解法
- 模範解答が静止した観測者(慣性系)から見た運動方程式で解くのに対し、別解では小球と共に回転する観測者(非慣性系)から見た力のつりあいで解きます。このとき、「遠心力」という見かけの力を導入します。
- 設問(1), (2)の別解: 回転座標系(非慣性系)で考える解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 慣性系における「向心力」と、非慣性系における「遠心力」との関係性を理解することで、円運動をより深く多角的に捉える力が養われます。
- 解法の選択肢拡大: 複数の力が絡む円運動では、非慣性系で考えた方が力のつりあいとして直感的に立式しやすい場合があります。異なる視点からのアプローチを学ぶことで、思考の柔軟性が高まります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、導かれる方程式は実質的に同じであり、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「糸と垂直抗力の両方を受けながらの円錐面上の等速円運動」です。複数の力が働く状況下での円運動を解析する応用問題であり、力を正確に分解し、運動法則を的確に適用する総合力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力の図示と分解: 小球に働く3つの力(重力、張力、垂直抗力)をすべて見つけ出し、運動を解析しやすい水平方向と鉛直方向に正しく分解できること。
- 鉛直方向の力のつりあい: 小球は一定の高さを保って運動しているため、鉛直方向の加速度はゼロであり、この方向の力はつりあっています。
- 水平方向の等速円運動の運動方程式: 小球は水平面内で円運動をしています。この運動を維持するための向心力(力の水平成分の合力)と、速さや半径との関係を運動方程式 \(ma=F\) の形で記述できること。
- 「面からはなれる」条件の物理的解釈: 小球が円錐面からはなれる瞬間とは、面が小球を押す力、すなわち垂直抗力 \(N\) が \(0\) になる瞬間であると解釈できること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1), (2)では、まず小球に働くすべての力を図示し、水平成分と鉛直成分に分解します。鉛直方向については力のつりあいの式を、水平(半径)方向については等速円運動の運動方程式を立てます。
- (3)では、(1)と(2)で立てた2本の連立方程式から、張力 \(T\) を消去して垂直抗力 \(N\) を求めます。
- (4)では、(3)で求めた \(N\) の式に、「面からはなれる」条件である \(N=0\) を適用し、そのときの速さ \(v_0\) を計算します。
- (5)では、(4)で得られた \(v_0\) の式を分析し、糸の長さ \(L\) と \(v_0\) の関係性を考察します。
問(1)
思考の道筋とポイント
小球は一定の高さを保って水平面内を運動しているため、上下方向(鉛直方向)には動いていません。したがって、小球に働く力の鉛直成分はすべてつりあっていると考えられます。働く力(重力、張力、垂直抗力)をすべて図示し、それぞれの鉛直成分の総和がゼロになる、という式を立てます。
この設問における重要なポイント
- 小球に働く力は「重力 \(mg\)」「糸の張力 \(T\)」「垂直抗力 \(N\)」の3つ。
- 糸が鉛直線となす角は \(\theta\)。張力 \(T\) の鉛直成分は \(T\cos\theta\)(上向き)。
- 垂直抗力 \(N\) は面に垂直。幾何学的関係から、\(N\) の鉛直成分は \(N\sin\theta\)(上向き)。
- 重力 \(mg\) は鉛直下向き。
具体的な解説と立式
小球に働く3つの力、重力 \(mg\)、張力 \(T\)、垂直抗力 \(N\) を鉛直方向と水平方向に分解します。
- 張力 \(T\): 鉛直成分 \(T\cos\theta\)(上向き)、水平成分 \(T\sin\theta\)(中心向き)
- 垂直抗力 \(N\): 鉛直成分 \(N\sin\theta\)(上向き)、水平成分 \(N\cos\theta\)(中心と逆向き)
- 重力 \(mg\): 鉛直成分 \(mg\)(下向き)、水平成分 \(0\)
小球は鉛直方向には動かないので、この方向の力はつりあっています。
(上向きの力の和)=(下向きの力の和)より、
$$
\begin{aligned}
T\cos\theta + N\sin\theta &= mg
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 力のつりあい
この設問では、式を立てることのみが求められているため、これ以上の計算はありません。
小球が落ちたり浮き上がったりせずに同じ高さを保っていられるのは、上向きに支える2つの力(糸が斜め上に引く力の上向き成分と、斜面が斜め上に押し上げる力の上向き成分)の合計が、地球が真下に引く力(重力)とちょうど釣り合っているからです。この力のバランス関係を式で表します。
力の分解とつりあいの関係を正しく立式できました。この式は、3つの未知数 \(T, N, v\) のうち、\(T\) と \(N\) の関係を示しています。
問(2)
思考の道筋とポイント
小球は水平面内で等速円運動をしています。物体が円運動をするためには、常に円の中心に向かう力(向心力)が必要です。この向心力は、小球に働くすべての力の水平成分を合成したものです。この向心力と運動の状態(質量、速さ、半径)を、運動方程式で結びつけます。
この設問における重要なポイント
- 等速円運動の半径 \(r\) は、図の幾何学的な関係から \(r = L\sin\theta\)。
- 向心力 \(F\) は、水平方向の力の合力である。
- 張力の水平成分 \(T\sin\theta\) は円の中心向き(正)。
- 垂直抗力の水平成分 \(N\cos\theta\) は円の中心と逆向き(負)。
- したがって、向心力は \(F = T\sin\theta – N\cos\theta\)。
具体的な解説と立式
小球の等速円運動について、運動方程式 \(m\frac{v^2}{r} = F\) を立てます。
円運動の半径 \(r\) は、糸の長さが \(L\) で、糸が鉛直線となす角が \(\theta\) なので、
$$
\begin{aligned}
r &= L\sin\theta
\end{aligned}
$$
向心力 \(F\) は、(1)で分解した力の水平成分の合力です。円の中心方向を正とすると、
$$
\begin{aligned}
F &= T\sin\theta – N\cos\theta
\end{aligned}
$$
これらを運動方程式に代入します。
$$
\begin{aligned}
m\frac{v^2}{L\sin\theta} &= T\sin\theta – N\cos\theta
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 等速円運動の運動方程式: \(ma = F\) (ただし \(a=v^2/r\))
この設問では、式を立てることのみが求められているため、これ以上の計算はありません。
小球がまっすぐ進まずにカーブし続ける(円運動する)ためには、常に円の中心に向かって力が働いている必要があります。この力の正体は、糸が内側に引っ張る水平の力から、斜面が外側に押し返す水平の力を引いた「差し引きの力」です。この力の大きさが、小球の運動の激しさ(質量、速さ、円の半径で決まる)と等しい、というのが運動方程式の意味です。
円運動の半径と向心力を正しく求め、運動方程式を立式できました。この式は、未知数 \(T, N, v\) のすべてを含む関係式です。
思考の道筋とポイント
小球と一緒に回転する観測者の視点(回転座標系)で問題を考えます。この観測者にとって、小球は静止して見えます。この系では、通常の力(重力、張力、垂直抗力)に加えて、見かけの力である「遠心力」を考慮する必要があります。この観測者の視点では、小球に働くすべての力がつりあっていると考えて立式します。
この設問における重要なポイント
- 小球と共に回転する非慣性系で考える。
- 小球には、重力、張力、垂直抗力に加えて、円の中心から遠ざかる向きに遠心力が働く。
- 遠心力の大きさは \(F_{\text{遠心力}} = m\frac{v^2}{r} = m\frac{v^2}{L\sin\theta}\)。
- この非慣性系では、小球は静止しているので、鉛直方向と水平方向のそれぞれの力はつりあっている。
具体的な解説と立式
小球と共に回転する観測者から見ると、小球は静止しています。この観測者から見た小球に働く力は、(1)で分解した3つの力に加えて、水平外向きの遠心力 \(m\frac{v^2}{L\sin\theta}\) です。
- 鉛直方向の力のつりあい
(上向きの力の和)=(下向きの力の和)
$$
\begin{aligned}
T\cos\theta + N\sin\theta &= mg
\end{aligned}
$$
これは(1)の答えと一致します。 - 水平方向の力のつりあい
(中心向きの力の和)=(中心と逆向きの力の和)
$$
\begin{aligned}
T\sin\theta &= N\cos\theta + m\frac{v^2}{L\sin\theta}
\end{aligned}
$$
この式を移項すると、
$$
\begin{aligned}
m\frac{v^2}{L\sin\theta} &= T\sin\theta – N\cos\theta
\end{aligned}
$$
となり、これは(2)の答え(慣性系での運動方程式)と完全に一致します。
使用した物理公式
- 力のつりあい
- 遠心力: \(F = mv^2/r\)
立式がゴールであり、計算は不要です。
自分が小球と一緒に円錐の斜面をグルグル回っていると想像してみてください。自分は静止しているように感じます。このとき、上向きの力と下向きの力が釣り合っています((1)の式)。また、水平方向では、糸が内側に引く力と、外側に働く2つの力(斜面が押し返す力と、遠心力)が釣り合っているのです。この水平方向の釣り合いの式を整理すると、(2)の運動方程式と同じ形になります。
慣性系で「運動方程式」を立てる考え方と、非慣性系で「遠心力を含めた力のつりあい」を考える考え方は、異なる視点から同じ物理現象を記述したものであり、数学的には等価な式を導き出します。どちらの視点でも解けるようになっておくと理解が深まります。
問(3)
思考の道筋とポイント
(1)で立てたつりあいの式と、(2)で立てた運動方程式は、\(T\) と \(N\) を未知数とする連立方程式と見なせます。この2つの式から \(T\) を消去することで、\(N\) を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- (1)の式を \(T\) について解く: \(T = \frac{mg – N\sin\theta}{\cos\theta}\)。
- 求めた \(T\) の式を、(2)の運動方程式に代入する。
- 代入した式を、\(N\) について整理する。
具体的な解説と立式
まず、(1)の式 \(T\cos\theta + N\sin\theta = mg\) を \(T\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{mg – N\sin\theta}{\cos\theta}
\end{aligned}
$$
次に、この式を(2)の運動方程式 \(m\frac{v^2}{L\sin\theta} = T\sin\theta – N\cos\theta\) に代入します。
$$
\begin{aligned}
m\frac{v^2}{L\sin\theta} &= \left( \frac{mg – N\sin\theta}{\cos\theta} \right)\sin\theta – N\cos\theta
\end{aligned}
$$
この式を \(N\) について解いていきます。
使用した物理公式
- (1), (2)で導出した連立方程式
$$
\begin{aligned}
m\frac{v^2}{L\sin\theta} &= \frac{mg\sin\theta}{\cos\theta} – \frac{N\sin^2\theta}{\cos\theta} – N\cos\theta \\[2.0ex]
m\frac{v^2}{L\sin\theta} &= mg\tan\theta – N \left( \frac{\sin^2\theta}{\cos\theta} + \cos\theta \right) \\[2.0ex]
m\frac{v^2}{L\sin\theta} &= mg\tan\theta – N \left( \frac{\sin^2\theta + \cos^2\theta}{\cos\theta} \right) \\[2.0ex]
m\frac{v^2}{L\sin\theta} &= mg\tan\theta – \frac{N}{\cos\theta}
\end{aligned}
$$
\(N\) を含む項を左辺に、それ以外を右辺に移項します。
$$
\begin{aligned}
\frac{N}{\cos\theta} &= mg\tan\theta – m\frac{v^2}{L\sin\theta} \\[2.0ex]
N &= \cos\theta \left( mg\tan\theta – m\frac{v^2}{L\sin\theta} \right) \\[2.0ex]
N &= m \left( g\cos\theta\frac{\sin\theta}{\cos\theta} – \frac{v^2\cos\theta}{L\sin\theta} \right) \\[2.0ex]
N &= m \left( g\sin\theta – \frac{v^2}{L\tan\theta} \right)
\end{aligned}
$$
(1)と(2)で、物理法則に基づいて2つのルール(方程式)を見つけました。これらは、国語で言えば2つの条件文のようなものです。この2つの条件文から、分からない言葉の一つである「張力 \(T\)」を消去して、もう一つの分からない言葉「垂直抗力 \(N\)」の意味を解き明かす、という作業を行います。これは数学の連立方程式を解くのと同じ手順です。
垂直抗力 \(N\) が、与えられた物理量 \(m, L, v, \theta, g\) を用いて表されました。この式を見ると、速さ \(v\) が大きくなるほど、\(N\) は小さくなることがわかります。これは、速く回るほど遠心力が大きくなり、小球が外側に浮き上がろうとするため、面が押す力(垂直抗力)は小さくなるという直感と一致します。
問(4)
思考の道筋とポイント
「小球が面からはなれる」という物理的な現象を、数式で表現することが鍵です。面が小球を押す力が垂直抗力 \(N\) なので、「面からはなれる」とは、この押す力が \(0\) になる瞬間を指します。したがって、(3)で求めた \(N\) の式に \(N=0\) を代入することで、そのときの速さ \(v_0\) を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 「面からはなれる」 \(\iff\) 「垂直抗力 \(N=0\)」。
- (3)の式で \(N=0\), \(v=v_0\) として方程式を立てる。
具体的な解説と立式
(3)で求めた垂直抗力 \(N\) の式
$$
\begin{aligned}
N &= m\left(g\sin\theta – \frac{v^2}{L\tan\theta}\right)
\end{aligned}
$$
において、\(v\) がある値 \(v_0\) になったときに \(N=0\) になるとします。
$$
\begin{aligned}
0 &= m\left(g\sin\theta – \frac{v_0^2}{L\tan\theta}\right)
\end{aligned}
$$
この方程式を \(v_0\) について解きます。
使用した物理公式
- 面からはなれる条件: \(N=0\)
\(m \neq 0\) なので、カッコの中が \(0\) になります。
$$
\begin{aligned}
g\sin\theta – \frac{v_0^2}{L\tan\theta} &= 0 \\[2.0ex]
g\sin\theta &= \frac{v_0^2}{L\tan\theta} \\[2.0ex]
v_0^2 &= gL\sin\theta\tan\theta
\end{aligned}
$$
\(v_0 > 0\) なので、
$$
\begin{aligned}
v_0 &= \sqrt{gL\sin\theta\tan\theta}
\end{aligned}
$$
小球のスピードをどんどん上げていくと、小球は外側に膨らもうとする力が強くなり、だんだん浮き上がってきます。そして、ついに円錐の斜面から離れる瞬間が訪れます。この「離れる瞬間」とは、物理的には「斜面が小球を押す力(垂直抗力)がちょうどゼロになったとき」を意味します。(3)で求めた式にこの条件(\(N=0\))を当てはめて、そのときの速さ \(v_0\) を計算します。
面からはなれる速さ \(v_0\) が求まりました。この速さを超えると、垂直抗力 \(N\) の式の上では \(N\) が負になりますが、実際には垂直抗力は負の値(面に引きつけられる力)をとることはできないため、小球は面から離れて、糸だけで支えられる円錐振り子の運動に移行します。
問(5)
思考の道筋とポイント
(4)で導出した \(v_0\) と \(L\) の関係式を分析します。式の中で、\(v_0\) が \(L\) のどのような関数になっているかを読み取ることで、\(L\) を長くしたときに \(v_0\) がどう変化するかを判断します。
この設問における重要なポイント
- (4)の結果式 \(v_0 = \sqrt{gL\sin\theta\tan\theta}\) を用いる。
- \(g, \sin\theta, \tan\theta\) は一定の値(定数)と見なせる。
- したがって、\(v_0\) は \(\sqrt{L}\) に比例する関係にある。
具体的な解説と立式
(4)で求めた式は、
$$
\begin{aligned}
v_0 &= \sqrt{gL\sin\theta\tan\theta}
\end{aligned}
$$
です。ここで、\(g, \theta\) は一定なので、\(\sqrt{g\sin\theta\tan\theta}\) は定数です。
この定数を \(k\) とおくと、
$$
\begin{aligned}
v_0 &= k\sqrt{L}
\end{aligned}
$$
と書くことができます。これは、\(v_0\) が \(L\) の正の平方根に比例することを意味します。
したがって、\(L\) が大きくなれば、\(\sqrt{L}\) も大きくなり、結果として \(v_0\) も大きくなります。
使用した物理公式
- (4)で導出した関係式
この設問では、計算よりも関係性の考察が主となります。
(4)で求めた答えの式をじっと見てみましょう。\(v_0 = \sqrt{gL\sin\theta\tan\theta}\) という式の中で、変えられるのは \(L\) だけです。\(L\) がルート記号の中に入っているので、\(L\) を大きくすれば、ルート全体の値も大きくなります。つまり、糸の長さ \(L\) を長くすると、小球が浮き上がるために必要な速さ \(v_0\) も大きくなる、ということです。
結論は「大きくなる」です。物理的に考えると、糸が長くなると同じ角度 \(\theta\) で運動するときの円運動の半径 \(r=L\sin\theta\) も大きくなります。より大きな円を描きながら、同じように浮き上がらせる(同じ遠心効果を得る)ためには、より速いスピードが必要になる、と直感的に解釈することもでき、妥当な結論です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 複数の力が働く運動の分解解析
- 核心: この問題の核心は、前問(211番)から一歩進んで、3つの力(重力、張力、垂直抗力)が同時に働く、より複雑な円運動を扱っている点です。しかし、どんなに力が複雑になっても、解決への道筋は全く同じです。すなわち、運動を「鉛直方向」と「水平方向」に分解し、それぞれの方向で適切な物理法則(力のつりあいと運動方程式)を適用することです。この一貫した解析手法を身につけることが最重要ポイントです。
- 理解のポイント:
- 鉛直方向 → 静止 → 力のつりあい: 小球は上下には動いていない(加速度ゼロ)ので、上向きの力の合計(張力の鉛直成分+垂直抗力の鉛直成分)と、下向きの力(重力)がつりあいます。
- 水平方向 → 円運動 → 運動方程式: 小球は水平面内で円運動をしている(向心加速度あり)ので、円の中心方向を正として運動方程式を立てます。向心力は、中心向きの力(張力の水平成分)から、中心と逆向きの力(垂直抗力の水平成分)を引いた「正味の力」となります。
- 物理的条件の数式化
- 核心: 設問(4)の「小球が面からはなれる」という言葉で表現された物理的な事象を、「垂直抗力 \(N=0\)」という数式上の条件に正しく翻訳する能力が問われます。物理の問題では、このような「言葉と数式の変換」が非常に重要になります。
- 理解のポイント:
- 「面が物体を押す力」が垂直抗力です。したがって、「面からはなれる」ということは、もはや面と物体が接触しておらず、面が物体を押す力がなくなった状態を意味します。これが \(N=0\) となる理由です。
- 同様に、「糸がたるむ」という条件であれば「張力 \(T=0\)」、「摩擦面を滑り出す」であれば「静止摩擦力が最大静止摩擦力に達する(\(f=\mu N\))」といったように、様々な物理的状況を数式で表現する訓練が重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 円錐面「外側」での円運動: この問題とは逆に、円錐の外側の斜面を小球が回る問題です。この場合、垂直抗力の向きが円錐の内側を向くため、水平成分も円の中心を向くことになります。運動方程式における向心力は、張力の水平成分と垂直抗力の水平成分の「和」になります。
- 回転するお椀の中での円運動: 半球状の容器の内側で物体が円運動する問題です。基本的な考え方は全く同じですが、垂直抗力の向きが場所によって変わるため、角度の設定がより重要になります。
- 速さによって運動が変わる問題: この問題のように、ある速さ \(v_0\) を境に運動の様子が変わる(面から離れる)問題は頻出です。例えば、回転する円盤上の物体が、ある角速度を超えると滑り出す問題(向心力として働く静止摩擦力が最大静止摩擦力を超える条件を考える)などがあります。
- 初見の問題での着眼点:
- 力の全図示と分解軸の設定: まず、物体に働く力をすべて描き出します。次に、運動の性質(水平面内の円運動)から、解析の軸を「水平」と「鉛直」に設定するのが最も有効であると判断します。
- すべての力を軸に沿って分解: 描き出したすべての力(この問題では張力と垂直抗力)を、設定した水平・鉛直の軸に沿って成分分解します。角度の関係を間違えないよう、慎重に行います。
- 軸ごとに方程式を立てる: 鉛直方向(加速度ゼロ)については「力のつりあい」の式を、水平方向(向心加速度あり)については「円運動の運動方程式」を立てます。これで、未知数を含む2本の方程式が得られます。
- 連立方程式として解く: 得られた2本の方程式を、数学の連立方程式として解き、問われている物理量(この問題では \(N\))を求めます。
- 特定の物理的条件を適用する: 「面からはなれる」などの特別な条件が問われたら、それが数式で何を意味するのか(\(N=0\))を考え、(4)で求めた一般式にその条件を代入して解を求めます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 向心力の符号ミス:
- 誤解: 運動方程式 \(m\frac{v^2}{r} = F\) を立てる際に、向心力 \(F\) の項で力の向きを間違える。特に、この問題のように中心向きと逆向きの力が両方ある場合に起こりやすいです。
- 対策: 必ず最初に「円の中心向きを正」と明確に定義する癖をつけましょう。そして、各力の水平成分が「正の向き(中心向き)」か「負の向き(中心と逆向き)」かを一つ一つ確認し、機械的に足し合わせます。この問題では、\(F = (+T\sin\theta) + (-N\cos\theta) = T\sin\theta – N\cos\theta\) となります。
- 連立方程式の計算ミス:
- 誤解: (3)で \(N\) を求める際に、(1)の式を(2)の式に代入して整理する過程で、三角関数の計算や移項を間違える。
- 対策: 計算過程が複雑になりそうなときは、焦らずに一行一行、丁寧に変形を行いましょう。特に、模範解答にあるように \(\sin^2\theta + \cos^2\theta = 1\) を使って式を簡単にするステップは、円運動の問題で頻出するテクニックなので、スムーズに適用できるように練習しておきましょう。
- \(v_0\) の意味の取り違え:
- 誤解: (4)で求めた \(v_0\) を、常にその速さで運動しているかのように考えてしまう。
- 対策: \(v_0\) はあくまで「面からはなれる、その瞬間の速さ」という特別な値であることを理解しましょう。\(v < v_0\) の間は面に接したまま運動し、\(v > v_0\) になると面から離れて運動します。\(v_0\) は、運動の形態が変わる「境界値」としての意味を持ちます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- (1), (2)での公式選択(力のつりあいと運動方程式):
- 選定理由: 問題の状況は「鉛直方向は静止、水平方向は円運動」です。この2つの異なる運動状態を記述するために、それぞれに対応する物理法則を選択する必要があります。
- 適用根拠:
- 鉛直方向: 加速度がゼロなので、力の関係は「つりあい」で記述されます。
- 水平方向: 一定の加速度(向心加速度)を持つ運動なので、力の関係は「運動方程式 \(ma=F\)」で記述されます。
このように、運動の状態を正しく認識することが、適切な公式を選択する上での論理的な根拠となります。
- (3)でのアプローチ選択(連立方程式の解法):
- 選定理由: (1)と(2)で、未知数 \(T\) と \(N\) を含む2本の独立した方程式が得られました。数学的に、未知数が2つで式が2本あれば、それらを連立させることで各未知数を解くことができます。
- 適用根拠: 求めたいのは \(N\) なので、連立方程式からもう一方の未知数である \(T\) を消去するという方針を立てます。具体的には、(1)の式を \(T=\dots\) の形に変形し、それを(2)の式に代入することで、\(N\) だけの方程式を導き出します。
- (4)でのアプローチ選択(条件の代入):
- 選定理由: 「面からはなれる」という特定の瞬間の速さを求める問題です。この「特定の瞬間」がどのような物理的条件に対応するのかをまず考えます。
- 適用根拠: 「はなれる」という現象は「垂直抗力 \(N\) が \(0\) になる」という数式上の条件に翻訳できます。この条件を、(3)で求めた \(N\) と \(v\) の一般的な関係式に代入することで、条件を満たす特定の \(v\)(すなわち \(v_0\))を求めることができます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 複雑な計算は、まず見通しを立てる:
- (3)の計算は一見複雑です。いきなり計算を始めるのではなく、「(1)式を \(T=\dots\) に変形する → (2)式に代入する → \(N\) が含まれる項とそうでない項に分ける → \(N=\dots\) の形に整理する」という手順を頭の中で描いてから取り掛かると、計算の途中で迷子になりにくくなります。
- 分数の整理を丁寧に行う:
- (3)の計算途中では、\(\cos\theta\) が分母に来る項が多く現れます。通分する際には、分母と分子に同じものを掛ける操作を慎重に行い、計算ミスを防ぎましょう。特に、\(N\cos\theta\) を \(\frac{N\cos^2\theta}{\cos\theta}\) と見て通分するような変形は、確実に行えるようにしましょう。
- 次元解析で検算する:
- (4)で求めた \(v_0 = \sqrt{gL\sin\theta\tan\theta}\) の単位(次元)を確認します。\(g\) は \([\text{m/s}^2]\)、\(L\) は \([\text{m}]\)、\(\sin\theta\) と \(\tan\theta\) は無次元です。したがって、ルートの中は \([\text{m}^2/\text{s}^2]\) となり、その平方根は \([\text{m/s}]\) となって、確かに速さの単位と一致します。もし計算結果の次元が合わなければ、どこかで計算ミスを犯している可能性が非常に高いです。
- 物理的にありえない値でないか吟味する:
- (3)で求めた \(N\) の式を見てみましょう。もし \(g\sin\theta – \frac{v^2}{L\tan\theta}\) の部分が負になったら、\(N\) も負になってしまいます。しかし、垂直抗力は面が「押す」力なので、負(引く力)になることはありえません。このことから、この式が成り立つのは \(N \ge 0\) の範囲、つまり \(v \le v_0\) のときだけである、という物理的な制約を読み取ることができます。
[mathjax] SNSでのシェアはご自由にどうぞ。(上のボタンをクリック) ブログで引用する際には、こちらのリンクを添えてください。 【引用】https://makoto-physics-school.com […]
213 鉛直面内の円運動
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(1)の別解: 円運動の運動方程式から考える解法
- 模範解答が、はなした直後の速さが \(0\) であることから「力のつりあい」で解くのに対し、別解ではこの瞬間も円運動の一場面と捉え、「円運動の運動方程式」に \(v=0\) を代入して解きます。
- 設問(1)の別解: 円運動の運動方程式から考える解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 「力のつりあい」が、実は運動方程式において加速度が \(0\) の特別な場合に相当することを具体的に理解できます。これにより、一見異なる法則が、より普遍的な法則(運動方程式)の枠組みの中で統一的に捉えられるようになります。
- 思考の柔軟性向上: どのような状況でも、まずは基本法則である運動方程式から出発するという一貫した思考法を学ぶことができます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題は、鉛直面内での円運動を扱う典型的な問題です。鉛直面内の円運動は、場所によって速さが変わる「非等速円運動」である点が特徴です。速さを求めるには「力学的エネルギー保存則」を、張力などの力を求めるには各点での「円運動の運動方程式」を用いるのが定石です。この2つの法則を使い分けることが最大のポイントとなります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力学的エネルギー保存則: 運動の前後で速さや高さを問う場合に非常に有効な法則です。張力は常に運動方向と垂直なため、仕事をせず、力学的エネルギーは保存されます。
- 円運動の運動方程式: ある特定の点における張力や速さの関係を調べるときに用います。向心力は、その点でおもりに働く力の合力(この問題では張力と重力の合力)によって供給されます。
- 力の分解: 運動方程式を立てる際に、重力などの力を円の半径方向と接線方向に分解する考え方が必要になります。
- 非等速円運動の理解: 水平面内の等速円運動とは異なり、鉛直面内の円運動では、位置エネルギーが運動エネルギーに、またその逆に変換されるため、場所によって速さも張力も変化します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、おもりをはなした直後は速さが \(0\) であることに着目します。この瞬間、円運動の半径方向の加速度は \(0\) なので、この方向の力はつりあっていると考え、張力を求めます。
- (2)では、点Aから点Bまでの運動で力学的エネルギーが保存されることを利用して、最下点Bでの速さを計算します。
- (3)では、最下点Bにおいて、おもりが速さ \(v\) で円運動していると考え、円運動の運動方程式を立てます。(2)で求めた速さを用いて、張力を計算します。