「セミナー物理基礎+物理2025」徹底解説!【第 Ⅰ 章 4】基本問題87~96

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基本問題

87 減速する運動

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問の別解: 運動量と力積の関係を用いる解法
      • 模範解答が運動方程式(\(F=ma\))を用いるために、まず加速度を計算するのに対し、別解では力積の式(\(F\Delta t = \Delta p\))を用います。これにより、加速度を計算せず、運動量の変化から直接力を求めます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 力が時間的に作用すると物体の運動量(運動の勢い)が変化するという「力積」の概念を深く理解できます。
    • 思考の柔軟性向上: 加速度を介さずに力を求める別のアプローチを学ぶことで、問題解決の視野が広がります。
    • 解法の効率化: 加速度を求めるステップを省略できるため、計算が簡潔になる場合があります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「運動方程式と等加速度直線運動の公式の連携」です。物体の運動の様子(速度の変化や時間)から加速度を求め、それを力学の基本法則である運動方程式に適用することで、運動の原因となった力を明らかにするプロセスを学びます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 運動方程式 \(ma=F\): 物体に働く力 \(F\) が、その物体の質量 \(m\) と生じる加速度 \(a\) の積に等しいという、力と運動を結びつける最も基本的な法則。
  2. 等加速度直線運動の公式: 速度が一定の割合で変化する運動を記述する公式。特に、速度と時間の関係式 \(v = v_0 + at\) を用いて、運動の様子から加速度を計算できること。
  3. 運動の情報と力学法則の結合: 運動学(物体の動きそのものを記述)で得られる情報(加速度)を、力学(力の働きを記述)の法則に組み込むことで、問題を解決する思考プロセス。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、車の運動の情報(初速度、後の速度、かかった時間)から、等加速度直線運動の公式を用いて加速度を計算します。
  2. 次に、求めた加速度と与えられた車の質量を、運動方程式に代入して、車を停止させた力(ブレーキ力などの合力)を求めます。

思考の道筋とポイント
この問題で求めたいのは「力」です。力と運動の関係を表す法則は運動方程式 \(ma=F\) です。この式を使うには、質量 \(m\) と加速度 \(a\) が必要です。
質量 \(m=1000\,\text{kg}\) は与えられていますが、加速度 \(a\) は直接与えられていません。
しかし、問題文には「速度 \(20\,\text{m/s}\) で走行」「\(10\,\text{s}\) 後に停止」という運動の具体的な情報があります。この情報と「等加速度直線運動であった」という条件を使えば、加速度を計算することができます。
したがって、まず運動学の公式で加速度 \(a\) を求め、次にその \(a\) を使って力学の法則である運動方程式から力 \(F\) を求める、という2段階のプロセスで解くことができます。
この設問における重要なポイント

  • 車の進んでいた向きを正の向きと設定する。
  • 「停止した」ので、後の速度は \(v=0\,\text{m/s}\) である。
  • 等加速度直線運動の公式 \(v = v_0 + at\) を用いて加速度 \(a\) を求める。減速運動なので、\(a\) は負の値になるはずである。
  • 求めた加速度 \(a\) と質量 \(m\) を運動方程式 \(ma=F\) に代入して力 \(F\) を求める。

具体的な解説と立式
車の進んでいた向きを正とします。

初速度は \(v_0 = 20\,\text{m/s}\)、\(t=10\,\text{s}\) 後の速度は \(v=0\,\text{m/s}\) です。

加速度を \(a\) として、等加速度直線運動の公式 \(v = v_0 + at\) を立てます。
$$ 0 = 20 + a \times 10 $$
この式から加速度 \(a\) を求めます。

次に、求めた加速度 \(a\) と、車の質量 \(m=1000\,\text{kg}\) を用いて、運動方程式 \(ma=F\) を立てます。
$$ F = 1000 \times a $$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の公式: \(v = v_0 + at\)
  • 運動方程式: \(ma = F\)
計算過程

まず、加速度 \(a\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
0 &= 20 + 10a \\[2.0ex]
10a &= -20 \\[2.0ex]
a &= -2.0\,\text{m/s}^2
\end{aligned}
$$
加速度が負になったのは、進行方向(正の向き)とは逆向きの加速度、つまり減速していることを意味します。

次に、この加速度を運動方程式に代入して力 \(F\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
F &= ma \\[2.0ex]
&= 1000 \times (-2.0) \\[2.0ex]
&= -2000 \\[2.0ex]
&= -2.0 \times 10^3\,\text{N}
\end{aligned}
$$
力が負になったのは、進行方向(正の向き)とは逆向きに力が働いたことを意味します。

したがって、力の大きさは \(2.0 \times 10^3\,\text{N}\) で、向きは進む向きと逆向きです。

この設問の平易な説明

車を止めるには、ブレーキなどの力が必要です。まず、車がどれくらいの勢いで減速したか(加速度)を計算します。「\(10\)秒間でスピードが\(20\,\text{m/s}\)から\(0\)になった」という情報から、減速の勢いがわかります。次に、物理の基本ルール「物体の質量 × 加速(減速)の勢い = 働いた力」に、車の質量と計算した減速の勢いを当てはめて、ブレーキ力の大きさを求めます。

結論と吟味

車を停止させた力は、進む向きと逆向きに \(2.0 \times 10^3\,\text{N}\) となりました。減速するためには運動と逆向きの力が必要であり、計算結果の符号もそれを正しく示しています。物理的に妥当な結果です。

解答 進む向きと逆向きに \(2.0 \times 10^3\,\text{N}\)
別解: 運動量と力積の関係を用いる解法

思考の道筋とポイント
「力積は運動量の変化に等しい」という関係式 \(F\Delta t = mv – mv_0\) を利用します。この式は、物体の運動状態の変化(運動量の変化)と、その原因となった力と時間の積(力積)を直接結びつけるものです。この方法を使えば、加速度を計算するステップを省略して、直接力を求めることができます。
この設問における重要なポイント

  • 運動量 \(p = mv\) と力積 \(I = F\Delta t\) の関係式を用いる。
  • 車の進んでいた向きを正として、初めの運動量と後の運動量を計算する。
  • 運動量の「変化」は「後の運動量 – 初めの運動量」で計算する。

具体的な解説と立式
車の進んでいた向きを正とします。

初めの運動量 \(p_0\):
$$
\begin{aligned}
p_0 &= mv_0 \\[2.0ex]
&= 1000 \times 20 \\[2.0ex]
&= 20000\,\text{kg}\cdot\text{m/s}
\end{aligned}
$$

後の運動量 \(p\):
$$
\begin{aligned}
p &= mv \\[2.0ex]
&= 1000 \times 0 \\[2.0ex]
&= 0\,\text{kg}\cdot\text{m/s}
\end{aligned}
$$

運動量の変化 \(\Delta p\):
$$
\begin{aligned}
\Delta p &= p – p_0 \\[2.0ex]
&= 0 – 20000 \\[2.0ex]
&= -20000\,\text{kg}\cdot\text{m/s}
\end{aligned}
$$
力が働いた時間は \(\Delta t = 10\,\text{s}\) です。

力積と運動量の関係式 \(F\Delta t = \Delta p\) に、これらの値を代入します。
$$ F \times 10 = -20000 $$

使用した物理公式

  • 運動量と力積の関係: \(F\Delta t = mv – mv_0\)
計算過程

上記の方程式を \(F\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
F &= \frac{-20000}{10} \\[2.0ex]
&= -2000 \\[2.0ex]
&= -2.0 \times 10^3\,\text{N}
\end{aligned}
$$
力が負になったのは、進行方向(正の向き)とは逆向きに力が働いたことを意味します。

この設問の平易な説明

物体の「運動の勢い」を物理では「運動量」と呼びます。この運動の勢いを変化させるには、「力」をある「時間」だけ加え続ける必要があります。この「力 × 時間」を「力積」と呼びます。この問題では、車の運動の勢いが「\(1000 \times 20\)」から「\(0\)」に変化しました。この変化を起こすのに必要な「力」を、「力積 = 運動の勢いの変化」という関係式から逆算します。

結論と吟味

主たる解法と完全に同じ結果が得られました。加速度という中間的な量を計算せずに、運動の始状態と終状態から直接力を求めることができる、物理的に重要な考え方です。

解答 進む向きと逆向きに \(2.0 \times 10^3\,\text{N}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 運動方程式 \(ma=F\)
    • 核心: 力と運動(加速度)の関係を示す、力学の最も基本的な法則です。この問題では、車の運動状態(加速度)とその原因(力)を結びつけるために使用します。
    • 理解のポイント:
      • 力を求めるためには、物体の質量と加速度の情報が必要です。
  • 等加速度直線運動の公式 \(v = v_0 + at\)
    • 核心: この問題では加速度が直接与えられていません。そこで、運動の様子(初速度、後の速度、時間)を記述する運動学の公式を用いて、まず加速度を計算する必要があります。
    • 理解のポイント:
      • この問題は、運動学(物体の動きを記述)と力学(力の働きを記述)という2つの分野を、加速度を仲立ちとして連携させる典型例です。
  • (別解)運動量と力積の関係 \(F\Delta t = \Delta p\)
    • 核心: 運動方程式を時間で積分した形の法則で、力の時間的な効果(力積)が、運動の勢いの変化(運動量変化)に等しいことを示します。
    • 理解のポイント:
      • この法則を使うと、加速度という中間的な量を計算することなく、運動の前後状態から直接力を求めることができます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 静止状態から加速する問題: 初速度 \(v_0=0\) として、一定時間後に特定の速度に達した場合の力を求める問題。考え方は全く同じです。
    • 投げ上げ運動: 地上からボールを投げ上げたとき、最高点に達するまでの運動は、重力という一定の力が働き続ける等加速度直線運動です。
    • 衝突問題: ボールをバットで打つ、壁に衝突するなど、非常に短い時間に大きな力が働く場合。このような現象の解析には、加速度を考えるよりも力積の考え方が特に有効になります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 何を求めたいかを確認する → 「力」
    2. 力を求めるための基本法則は何かを思い出す → 運動方程式 \(ma=F\)
    3. 運動方程式に必要な情報は揃っているかを確認する → 「質量 \(m\)」はあるが、「加速度 \(a\)」がない。
    4. 足りない情報(加速度)をどうやって求めるかを考える → 問題文の運動の記述(「\(20\,\text{m/s}\)」「\(10\,\text{s}\) 後に停止」「等加速度直線運動」)から、運動学の公式で計算できることに気づく。
    5. この「運動学 \(\rightarrow\) 力学」という2段階の思考プロセスを意識することが重要です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 符号の取り扱いミス:
    • 誤解: 減速しているのに、加速度を正の値として計算してしまう。例えば、\(a = (20-0)/10 = 2.0\) のように計算してしまう。
    • 対策: 最初に「進行方向を正」と明確に定義することが重要です。その上で、公式 \(a = (v-v_0)/t\) に「後の速度 \(v=0\)」「初めの速度 \(v_0=20\)」を正しく代入すれば、加速度 \(a\) は自動的に負の値として計算されます。計算結果の符号が持つ物理的な意味(向き)を常に考える癖をつけましょう。
  • 力の向きの答え方:
    • 誤解: 計算結果 \(F = -2.0 \times 10^3\,\text{N}\) をそのまま答えにしてしまう。
    • 対策: 力の「大きさ」は通常、正の値で表します。計算で出てきた負の符号は「向き」を表していると解釈し、「進む向きと逆向きに \(2.0 \times 10^3\,\text{N}\)」のように、大きさと向きを言葉で明確に分けて答えるのが丁寧です。
  • 公式の暗記ミス:
    • 誤解: 減速だからといって、自己流で公式の符号を変えて \(v = v_0 – at\) のように覚えてしまい、かえって混乱する。
    • 対策: 基本の公式は \(v = v_0 + at\) の形で一つだけ覚え、加速度 \(a\) 自体が正の値(加速)にも負の値(減速)にもなりうると理解するのが最も安全で応用の効く方法です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 等加速度直線運動の公式の選択:
    • 選定理由: 問題文に「初速度 \(v_0\)」「後の速度 \(v\)」「時間 \(t\)」が与えられており、未知数である「加速度 \(a\)」を求めたい状況です。これら4つの物理量を直接結びつける公式が \(v = v_0 + at\) だからです。
    • 適用根拠: 問題に「この間の運動は等加速度直線運動であった」と明記されており、公式の適用条件を完全に満たしています。
  • 運動方程式の選択:
    • 選定理由: 運動の原因である「力」を求めたいからです。物体の運動状態(加速度)とその原因(力)を結びつける法則は、運動方程式以外にありません。
    • 適用根拠: ニュートンの第二法則は、力が働く物体の運動を記述する普遍的な法則であり、この問題の状況に完全に合致します。
  • 運動量と力積の関係(別解)の選択:
    • 選定理由: 問題が運動の「始状態(初速度)」と「終状態(後の速度)」、そしてその間の「時間」を与え、「力」を問うています。この形式は、加速度を介さずに運動量の変化と力積を直接結びつけるのに非常に適しています。
    • 適用根拠: この関係式は運動方程式を時間で積分したものであり、数学的・物理的に等価であるため、安心して適用できます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 単位を必ず書く習慣:
    • \(v_0 = 20\,\text{m/s}\), \(t = 10\,\text{s}\), \(m = 1000\,\text{kg}\) のように、物理量に単位を付けて書くことで、ケアレスミスを防ぎ、自分が何をしているか明確になります。
  • 有効数字を意識する:
    • 問題文の数値が \(20\,\text{m/s}\) (2桁), \(10\,\text{s}\) (2桁), \(1000\,\text{kg}\) (2桁と解釈するのが一般的) なので、最終的な答えも有効数字2桁で \(2.0 \times 10^3\,\text{N}\) と表現するのが適切です。
  • 概算による検算:
    • 時速に換算してみる:\(20\,\text{m/s} = 20 \times 3.6 = 72\,\text{km/h}\)。時速72kmの乗用車(約1トン)が10秒で止まるのは、まあまあ急なブレーキですが、物理的に非現実的な設定ではありません。
    • 力の大きさをイメージする:\(2000\,\text{N}\) は、約 \(200\,\text{kg}\) の物体にかかる重力に相当します (\(2000 \div 9.8 \approx 204\))。1トンの車を止める力として、桁違いにおかしい値ではないことがわかります。
  • 立式と計算を分離する:
    1. まず \(a = \displaystyle\frac{v-v_0}{t}\) と \(F=ma\) という文字式を書き出す。
    2. 次に、\(a = \displaystyle\frac{0-20}{10} = -2.0\,\text{m/s}^2\) のように、各部分を計算する。
    3. 最後に、\(F = 1000 \times (-2.0) = -2000\,\text{N}\) のように、最終的な計算を行う。
  • このように思考のステップを分けることで、どこで間違えたかを見つけやすくなります。

88 合力と加速度

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問(2)の別解: 座標軸の正の向きを右向きに固定する解法
      • 主たる解法(模範解答)が、運動すると予測される向き(左向き)を正として計算するのに対し、別解では設問(1)と同様に右向きを正として計算します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 座標軸の取り方は任意であり、どちらの向きを正に選んでも物理的に同じ結論が導かれることを理解できます。
    • 思考の柔軟性向上: 計算結果として出てくる符号(プラス・マイナス)が、設定した座標軸に対してどのような物理的な向きを意味するのかを解釈する良い訓練になります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答え(加速度の大きさと向き)は完全に一致します。

この問題のテーマは「力の合成と運動方程式」です。一つの物体に複数の力が働くときに、それらの力を一つの力(合力)としてまとめ、運動方程式を適用する方法を学びます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 運動方程式 \(ma=F\): 物体の運動は、個々の力ではなく、物体に働くすべての力を合わせた「合力」によって決まることを理解していること。
  2. 力の合成(合力): 同じ直線上にある複数の力を足し合わせる計算ができること。同じ向きの力は単純な足し算、逆向きの力は引き算(符号を考慮した足し算)になる。
  3. 座標軸の設定: 運動方程式を立てる際に、どちらの向きを正とするかを明確に決め、力の向きをその座標軸に従って正負の符号で表現すること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、同じ向きに働く2つの力の合力を計算し、運動方程式に代入して加速度を求めます。
  2. (2)では、逆向きに働く2つの力の合力を計算し、運動方程式に代入して加速度を求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
物体には右向きに2つの力が働いています。運動方程式 \(ma=F\) の右辺 \(F\) は、物体に働く力の「合計」、すなわち「合力」です。この問題では、2つの力が同じ向きに働いているため、合力は単純に2つの力の大きさを足し合わせることで求まります。この合力を使って運動方程式を立てれば、加速度を計算できます。
この設問における重要なポイント

  • 運動の向きである右向きを正の向きと設定する。
  • 同じ向きに働く力の合力は、力の大きさの和で計算する。
  • 運動方程式 \(ma = (\text{力の和})\) を立てる。

具体的な解説と立式
物体の質量は \(m=3.0\,\text{kg}\) です。

右向きを正とし、加速度を \(a\) とします。

物体に働く水平方向の力は、右向きに \(5.0\,\text{N}\) と \(2.5\,\text{N}\) です。

これらの力の合力 \(F\) は、
$$
\begin{aligned}
F &= 5.0 + 2.5 \\[2.0ex]
&= 7.5\,\text{N}
\end{aligned}
$$
となります。

運動方程式 \(ma=F\) を立てると、
$$ 3.0 \times a = 7.5 $$

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(ma = F\)
計算過程

上記で立式した方程式を \(a\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
a &= \frac{7.5}{3.0} \\[2.0ex]
&= 2.5\,\text{m/s}^2
\end{aligned}
$$
計算結果は正の値なので、加速度の向きは正と定めた右向きです。

この設問の平易な説明

箱を2人の人が同じ向き(右向き)に押している状況です。箱を動かす全体の力は、2人の力を合わせたものになります。物理の基本ルール「物体の質量 × 加速の勢い = 働いている力の合計」に、質量と力の合計を当てはめれば、加速の勢いが計算できます。

結論と吟味

加速度は右向きに \(2.5\,\text{m/s}^2\) と求まりました。力を加えた向きに加速するという、物理的に妥当な結果です。

解答 (1) 右向きに \(2.5\,\text{m/s}^2\)

問(2)

思考の道筋とポイント
今度は、物体に左向きと右向きの逆向きの力が働いています。これは綱引きのような状況で、力の差が物体の運動を決定します。左向きの力が \(6.0\,\text{N}\)、右向きの力が \(4.5\,\text{N}\) なので、力の大きい左向きに物体は動くと予測できます。
そこで、運動の向きである左向きを正として運動方程式を立てると、計算が分かりやすくなります。この場合、合力は「正の向きの力(左向きの力)」から「負の向きの力(右向きの力)」を引いたものになります。
この設問における重要なポイント

  • 運動すると予測される向き(左向き)を正の向きと設定する。
  • 逆向きに働く力の合力は、力の大きさの差で計算する。
  • 運動方程式 \(ma = (\text{力の差})\) を立てる。

具体的な解説と立式
物体の質量は \(m=3.0\,\text{kg}\) です。

力の大きい左向きを正とし、加速度を \(a\) とします。

物体に働く水平方向の力は、正の向き(左向き)に \(6.0\,\text{N}\)、負の向き(右向き)に \(4.5\,\text{N}\) です。

これらの力の合力 \(F\) は、
$$
\begin{aligned}
F &= 6.0 – 4.5 \\[2.0ex]
&= 1.5\,\text{N}
\end{aligned}
$$
となります。

運動方程式 \(ma=F\) を立てると、
$$ 3.0 \times a = 1.5 $$

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(ma = F\)
計算過程

上記で立式した方程式を \(a\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
a &= \frac{1.5}{3.0} \\[2.0ex]
&= 0.50\,\text{m/s}^2
\end{aligned}
$$
計算結果は正の値なので、加速度の向きは正と定めた左向きです。

この設問の平易な説明

左向きに引っ張る人と、右向きに引っ張る人で綱引きをしている状況です。左向きの力が強いので、箱は左に動きます。箱を動かす正味の力は、2つの力の差になります。この力の差を使って、基本ルール「物体の質量 × 加速の勢い = 働いている力の差」で計算します。

結論と吟味

加速度は左向きに \(0.50\,\text{m/s}^2\) と求まりました。力の大きい方の向きに加速するという、物理的に妥当な結果です。

解答 (2) 左向きに \(0.50\,\text{m/s}^2\)
別解: (2) 座標軸の正の向きを右向きに固定する解法

思考の道筋とポイント
運動の向きを予測せず、機械的に右向きを正として計算する方法です。この場合、右向きの力は正の値、左向きの力は負の値として扱います。これらの値を足し合わせることで合力を求め、運動方程式を立てます。計算結果として得られる加速度の符号が、運動の向きを示してくれます。
この設問における重要なポイント

  • 座標軸の向きを(1)と同じ右向きに固定する。
  • 右向きの力は正 (\(+4.5\,\text{N}\))、左向きの力は負 (\(-6.0\,\text{N}\)) として扱う。
  • 合力は、これらの符号付きの値を足し合わせることで求める。
  • 計算結果の加速度の符号から、実際の向きを判断する。

具体的な解説と立式
物体の質量は \(m=3.0\,\text{kg}\) です。

(1)と同様に、右向きを正とし、加速度を \(a\) とします。

物体に働く水平方向の力は、正の向き(右向き)に \(4.5\,\text{N}\)、負の向き(左向き)に \(6.0\,\text{N}\) です。

これらの力の合力 \(F\) は、
$$
\begin{aligned}
F &= (+4.5) + (-6.0) \\[2.0ex]
&= -1.5\,\text{N}
\end{aligned}
$$
となります。

運動方程式 \(ma=F\) を立てると、
$$ 3.0 \times a = -1.5 $$

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(ma = F\)
計算過程

上記で立式した方程式を \(a\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
a &= \frac{-1.5}{3.0} \\[2.0ex]
&= -0.50\,\text{m/s}^2
\end{aligned}
$$
加速度が負の値になりました。これは、加速度の向きが正と定めた右向きとは逆、すなわち「左向き」であることを意味します。

したがって、加速度の大きさは \(0.50\,\text{m/s}^2\) で、向きは左向きです。

この設問の平易な説明

どちらに動くか考えずに、とりあえず「右向きをプラス、左向きをマイナス」というルールを決めて力の合計を計算します。すると、力の合計はマイナスの値になりました。これは、結局マイナス方向(左向き)に力が働いていることを意味します。このマイナスの力を使って基本ルールで計算すると、加速の勢いもマイナスになります。これは「マイナス方向(左向き)に加速する」という意味です。

結論と吟味

主たる解法と同じく、加速度は左向きに \(0.50\,\text{m/s}^2\) という結果が得られました。座標軸の取り方によらず、物理的な結論は同じになることが確認できます。計算結果の符号の意味を正しく理解することが重要です。

解答 (2) 左向きに \(0.50\,\text{m/s}^2\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 運動方程式 \(ma=F\)
    • 核心: この問題は、運動方程式の右辺 \(F\) が「合力」であることを理解しているかを問うています。物体の加速度は、個々の力ではなく、物体に働くすべての力をベクトル的に足し合わせた合力によって決まります。
    • 理解のポイント:
      • 複数の力が働く場合、まず合力を計算することが第一歩です。
      • 合力が分かれば、運動方程式は \(m, a, F\) の関係を示す単純な式になります。
  • 力の合成(合力)
    • 核心: 同じ直線上にある複数の力を一つの力にまとめる操作です。
    • 理解のポイント:
      • 同じ向きの力: 大きさを単純に足し算します。
      • 逆向きの力: 大きさを引き算します。あるいは、一方の向きを正として、逆向きの力に負の符号をつけて足し算します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 斜め向きの力が加わる場合: 力を水平成分と鉛直成分に分解し、水平方向の力の合力を求めて運動方程式を立てます。
    • 摩擦力が働く場合: 加えられた力の合力から、さらに運動と逆向きの摩擦力を引いたものが、正味の合力となります。
    • 力のつりあい: もし逆向きに働く力の大きさが等しい場合(例:左向きに \(6.0\,\text{N}\)、右向きに \(6.0\,\text{N}\))、合力はゼロになります。この場合、運動方程式は \(ma=0\) となり、加速度 \(a=0\) となります。つまり、物体は静止し続けるか、等速直線運動をします。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 物体に働くすべての水平方向の力をリストアップする。
    2. 座標軸(正の向き)を自分で設定する。運動しそうな向きを正に取ると計算が楽になることが多いですが、どちらでも構いません。
    3. 設定した座標軸に従って、各力に正負の符号を割り当てる。
    4. 符号を考慮してすべての力を足し合わせ、合力 \(F\) を計算する。
    5. 運動方程式 \(ma=F\) に代入して \(a\) を求める。
    6. 計算結果の \(a\) の符号を見て、最終的な加速度の向きを判断する。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 合力の計算ミス:
    • 誤解: (2)で、逆向きの力であるにもかかわらず、\(6.0+4.5=10.5\) のように足してしまう。
    • 対策: 力を図示し、矢印の向きをしっかり確認する癖をつけましょう。「綱引き」のイメージを持つと、逆向きの力は引き算になることが直感的に理解できます。
  • 座標軸と符号の混乱:
    • 誤解: (2)で左向きを正と決めたのに、右向きの力 \(4.5\,\text{N}\) を正の値として計算してしまう (\(3.0a = 6.0+4.5\))。
    • 対策: 式を立てる前に、図の近くに「左向きを正とする」のように、自分で決めたルールを明記しましょう。そして、式を立てる際には、そのルールと力の矢印の向きを一つ一つ確認しながら、符号を決めていくとミスを防げます。
  • 力の大きさと向きを混同して答える:
    • 誤解: (2)の別解で計算した結果 \(a = -0.50\,\text{m/s}^2\) をそのまま答えとしてしまう。
    • 対策: 加速度の「大きさ」は通常、正の値で答えます。負の符号は「向き」を表す情報だと解釈し、「左向きに \(0.50\,\text{m/s}^2\)」のように、大きさと向きを言葉で明確に分けて答えるのが適切です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 運動方程式の選択:
    • 選定理由: 問題が「加速度」を求めており、その原因となる「力」と「質量」が与えられています。これら3つの物理量を結びつける法則は、運動方程式 \(ma=F\) 以外にありません。
    • 適用根拠: ニュートンの第二法則は、力が働く物体の運動を記述する普遍的な法則であり、この問題の状況に完全に合致します。特に、右辺の \(F\) が「合力」であることを正しく理解して適用することが、この問題の核心です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 合力の計算を式で明確にする:
    • (1) 合力 \(F = 5.0 + 2.5 = 7.5\,\text{N}\)
    • (2) 合力 \(F = 6.0 – 4.5 = 1.5\,\text{N}\) (左向きを正とした場合)
    • (2)別解 合力 \(F = 4.5 – 6.0 = -1.5\,\text{N}\) (右向きを正とした場合)
    • このように、運動方程式に代入する前に、合力を求める計算を独立して行うと、思考が整理されミスが減ります。
  • 単位を確認する:
    • \(a = \displaystyle\frac{F}{m}\) なので、単位は \(\text{N/kg}\) となります。ここで、力の単位 \(\text{N}\) の定義が \(\text{kg} \cdot \text{m/s}^2\) であることを思い出せば、\(\text{N/kg} = (\text{kg} \cdot \text{m/s}^2) / \text{kg} = \text{m/s}^2\) となり、加速度の単位と一致することが確認できます。
  • 答えの妥当性を吟味する:
    • (1)では、合計 \(7.5\,\text{N}\) の力が \(3.0\,\text{kg}\) の物体に働く。
    • (2)では、正味 \(1.5\,\text{N}\) の力が同じ \(3.0\,\text{kg}\) の物体に働く。
    • (2)の力は(1)の \(\displaystyle\frac{1.5}{7.5} = \frac{1}{5}\) なので、加速度も(1)の \(\displaystyle\frac{1}{5}\) になるはずです。
    • \(2.5\,\text{m/s}^2 \times \frac{1}{5} = 0.50\,\text{m/s}^2\)。計算結果と一致しており、答えが妥当であることがわかります。

89 物体の上げ下ろし

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問(2)の別解: 鉛直下向きを正として運動方程式を立てる解法
      • 主たる解法(模範解答)が鉛直上向きを正として計算するのに対し、別解では鉛直下向きを正として計算します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 座標軸の取り方は任意であり、どちらの向きを正に選んでも物理的に同じ結論が導かれることを理解できます。
    • 思考の柔軟性向上: 計算結果として出てくる符号(プラス・マイナス)が、設定した座標軸に対してどのような物理的な向きを意味するのかを解釈する良い訓練になります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは完全に一致します。

この問題のテーマは「鉛直方向の運動方程式と運動学の連携」です。物体の運動は2段階に分かれており、それぞれの段階で運動方程式を立てて力を求めます。特に(2)では、まず運動の様子から加速度を計算し、それを運動方程式に適用するという、運動学と力学を結びつける思考が重要になります。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 運動方程式 \(ma=F\): 物体に働く合力(この場合は重力と張力の差)が、その物体の質量と加速度の積に等しいこと。
  2. 力の図示: 物体に働く力(鉛直下向きの重力と鉛直上向きの張力)を正しく図示できること。
  3. 等加速度直線運動の公式: 特に、速度と時間の関係式 \(v = v_0 + at\) を用いて、運動の様子から加速度を計算できること。
  4. 運動の2段階分析: 「加速して上昇」する段階と、「減速して静止」する段階を区別し、それぞれの段階で物理法則を適用すること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、与えられた加速度を用いて、加速上昇中の運動方程式を立て、未知の張力を求めます。
  2. (2)では、まず、加速終了時点(減速開始時点)での物体の速度を、等加速度直線運動の公式を用いて計算します。
  3. 次に、その速度から\(3.0\,\text{s}\)で静止するまでの加速度(減速中の加速度)を計算します。
  4. 最後に、この減速中の加速度を用いて運動方程式を立て、その間の張力を求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
物体が鉛直上向きに加速している状況です。物体に働く力は、鉛直下向きの重力と、糸が引く鉛直上向きの張力の2つです。これらの力の合力によって、上向きの加速度が生じています。運動の向きである鉛直上向きを正として運動方程式 \(ma=F\) を立て、未知の張力を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 鉛直上向きを正の向きと設定する。
  • 物体に働く合力は、上向きの張力から下向きの重力を引いたものになる (\(F = T – mg\))。
  • 運動方程式 \(ma = T – mg\) に、与えられた値を代入して張力 \(T\) を計算する。

具体的な解説と立式
物体の質量は \(m=5.0\,\text{kg}\)、加速度は鉛直上向きに \(a_1=1.2\,\text{m/s}^2\)、重力加速度の大きさは \(g=9.8\,\text{m/s}^2\) です。

求める張力の大きさを \(T_1\) とします。

鉛直上向きを正として運動方程式を立てると、
$$ ma_1 = T_1 – mg $$

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(ma = F\)
計算過程

上記で立式した方程式を \(T_1\) について解き、各値を代入します。
$$
\begin{aligned}
T_1 &= ma_1 + mg \\[2.0ex]
&= m(a_1 + g) \\[2.0ex]
&= 5.0 \times (1.2 + 9.8) \\[2.0ex]
&= 5.0 \times 11.0 \\[2.0ex]
&= 55\,\text{N}
\end{aligned}
$$
(模範解答のように直接代入して計算しても同じ結果になります)
$$
\begin{aligned}
5.0 \times 1.2 &= T_1 – 5.0 \times 9.8 \\[2.0ex]
6.0 &= T_1 – 49 \\[2.0ex]
T_1 &= 6.0 + 49 \\[2.0ex]
&= 55\,\text{N}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

物体を上に持ち上げながら、さらにスピードを上げていく(加速させる)には、ただ物体を支える力(重力と同じ大きさの力)だけでは足りません。重力に打ち勝ち、さらに加速させるための追加の力が必要です。したがって、糸が引く力(張力)は、「重力」と「加速させるための力」を足し合わせた大きさになります。

結論と吟味

張力の大きさは \(55\,\text{N}\) と求まりました。物体の重力は \(mg = 5.0 \times 9.8 = 49\,\text{N}\) です。張力が重力よりも大きいので、物体が上向きに加速するという状況と一致しており、物理的に妥当な結果です。

解答 (1) \(55\,\text{N}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
静止するまでの \(3.0\,\text{s}\) 間は、上向きに運動しながら減速しています。この間の張力を求めるには、(1)と同様に運動方程式を立てる必要がありますが、そのためにはまず減速中の加速度を求めなければなりません。加速度を求めるには、減速し始める直前の速度が必要です。したがって、以下の3ステップで問題を解きます。

  1. \(7.0\,\text{s}\) 間加速した後の速度(これが減速し始めの初速度になる)を求める。
  2. その速度から \(3.0\,\text{s}\) で静止するときの加速度(負の値になる)を求める。
  3. 求めた加速度を使って、減速中の運動方程式を立て、張力を求める。

この設問における重要なポイント

  • 運動が「加速」と「減速」の2段階に分かれていることを理解する。
  • 加速段階の最後の速度が、減速段階の最初の速度になる。
  • 減速運動なので、上向きを正とすると加速度は負の値になる。

具体的な解説と立式
Step 1: 減速開始時の速度 \(v\) を求める

初速度 \(v_0=0\)、加速度 \(a_1=1.2\,\text{m/s}^2\) で \(t_1=7.0\,\text{s}\) 間運動した後の速度 \(v\) を、等加速度直線運動の公式 \(v = v_0 + at\) を用いて求めます。
$$ v = 0 + a_1 t_1 $$

Step 2: 減速中の加速度 \(a_2\) を求める

この速度 \(v\) が減速中の初速度になります。\(t_2=3.0\,\text{s}\) 後に静止(速度 \(0\))したので、減速中の加速度を \(a_2\) として、再び同じ公式を適用します。
$$ 0 = v + a_2 t_2 $$

Step 3: 減速中の張力 \(T_2\) を求める

求めた加速度 \(a_2\) を用いて、(1)と同様に鉛直上向きを正として運動方程式を立てます。
$$ ma_2 = T_2 – mg $$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の公式: \(v = v_0 + at\)
  • 運動方程式: \(ma = F\)
計算過程

Step 1:
$$
\begin{aligned}
v &= 1.2 \times 7.0 \\[2.0ex]
&= 8.4\,\text{m/s}
\end{aligned}
$$
Step 2:
$$
\begin{aligned}
0 &= 8.4 + a_2 \times 3.0 \\[2.0ex]
3.0 a_2 &= -8.4 \\[2.0ex]
a_2 &= \frac{-8.4}{3.0} \\[2.0ex]
&= -2.8\,\text{m/s}^2
\end{aligned}
$$
Step 3:
$$
\begin{aligned}
5.0 \times (-2.8) &= T_2 – 5.0 \times 9.8 \\[2.0ex]
-14 &= T_2 – 49 \\[2.0ex]
T_2 &= 49 – 14 \\[2.0ex]
&= 35\,\text{N}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

上に動いているエレベーターが止まる直前、フワッと体が軽くなる感じがしますね。あれは、上向きの力が弱まっている(減速している)からです。この問題も同じで、物体を減速させて止めるには、糸が引く力(張力)を重力よりも弱くする必要があります。まず、どれくらいの勢いで減速したのかを計算し、その減速を引き起こした張力の大きさを、運動のルールから逆算します。

結論と吟味

減速中の張力は \(35\,\text{N}\) と求まりました。これは重力 \(49\,\text{N}\) よりも小さい値です。張力が重力に負けているため、物体は上向きに動きながらも、その速さが落ちていく(減速する)という状況と一致しており、物理的に妥当な結果です。

解答 (2) \(35\,\text{N}\)
別解: (2) 鉛直下向きを正として運動方程式を立てる解法

思考の道筋とポイント
主たる解法では鉛直上向きを正としましたが、座標軸の取り方は自由です。ここでは、減速中の加速度の向きである鉛直下向きを正として計算してみます。この場合、上向きの速度は負の値、下向きの加速度は正の値として扱われます。
この設問における重要なポイント

  • 鉛直下向きを正の向きと設定する。
  • 減速開始時の速度(上向き)は負の値 (\(-8.4\,\text{m/s}\)) となる。
  • 減速中の加速度(下向き)は正の値として計算される。
  • 運動方程式は \(ma = mg – T\) の形になる。

具体的な解説と立式
Step 1: 減速開始時の速度 \(v\) を求める

主たる解法と同じで、大きさは \(8.4\,\text{m/s}\) です。鉛直下向きを正とすると、この速度は \(v_0′ = -8.4\,\text{m/s}\) と表せます。

Step 2: 減速中の加速度 \(a_2’\) を求める(下向き正)

初速度 \(v_0′ = -8.4\,\text{m/s}\)、\(t_2=3.0\,\text{s}\) 後の速度 \(v’=0\) なので、等加速度直線運動の公式 \(v’ = v_0′ + a_2′ t_2\) を用います。
$$ 0 = -8.4 + a_2′ \times 3.0 $$

Step 3: 減速中の張力 \(T_2\) を求める(下向き正)

鉛直下向きを正として運動方程式を立てると、合力は \(mg – T_2\) となります。
$$ ma_2′ = mg – T_2 $$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の公式: \(v = v_0 + at\)
  • 運動方程式: \(ma = F\)
計算過程

Step 2:
$$
\begin{aligned}
0 &= -8.4 + a_2′ \times 3.0 \\[2.0ex]
3.0 a_2′ &= 8.4 \\[2.0ex]
a_2′ &= \frac{8.4}{3.0} \\[2.0ex]
&= 2.8\,\text{m/s}^2
\end{aligned}
$$
加速度が正の値になったのは、正と定めた下向きの加速度であることを意味します。

Step 3:
$$
\begin{aligned}
5.0 \times 2.8 &= 5.0 \times 9.8 – T_2 \\[2.0ex]
14 &= 49 – T_2 \\[2.0ex]
T_2 &= 49 – 14 \\[2.0ex]
&= 35\,\text{N}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

メインの解き方とは逆に、下向きを「プラス」として計算してみる方法です。このルールだと、上に動いている物体の速度は「マイナス」になります。減速するということは、下向きに加速しているのと同じことなので、計算すると加速度は「プラス」の値になります。このプラスの加速度を使って運動のルール「物体の質量 × 加速の勢い = 下向きの力(重力) – 上向きの力(張力)」を解くと、同じ答えが出てきます。どちらをプラスにするかは、計算しやすい方を選べばよいのです。

結論と吟味

主たる解法と完全に同じ \(35\,\text{N}\) という結果が得られました。計算の途中で出てくる速度や加速度の符号は座標軸の取り方によって変わりますが、最終的に求められる物理量(張力の大きさ)は変わらないことが確認できます。

解答 (2) \(35\,\text{N}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 運動方程式 \(ma=F\)
    • 核心: 鉛直方向の運動も、水平方向の運動と全く同じように運動方程式で記述できます。物体に働く力の合力(この場合は、上向きの張力と下向きの重力の差)が、物体の運動状態(加速度)を決定します。
    • 理解のポイント:
      • 上向きに加速する場合: 合力は上向きなので、\(T > mg\) となります。
      • 上向きに減速する場合: 合力は下向きなので、\(T < mg\) となります。
      • 静止または等速で上昇する場合: 合力はゼロなので、\(T = mg\) となります。
  • 等加速度直線運動の公式 \(v = v_0 + at\)
    • 核心: この問題のように、運動の様子(速度の変化)は与えられているが、その原因(力)を求めたい場合、まず運動学の公式を使って「加速度」を計算する必要があります。加速度は、運動学(動きの記述)と力学(力の法則)を結びつける重要な架け橋です。
    • 理解のポイント: 設問(2)のように、運動の具体的な情報(初速度、後の速度、時間)が揃っていれば、加速度を計算できることに気づくことが重要です。
  • 運動の多段階分析
    • 核心: この問題の運動は「加速上昇」と「減速上昇」という2つの異なるフェーズ(段階)から構成されています。このような問題では、各フェーズを個別に区切って分析し、それぞれのフェーズで物理法則を適用する必要があります。
    • 理解のポイント: あるフェーズの「最終状態(速度)」が、次のフェーズの「初期状態(初速度)」になる、という運動の連続性を正しく捉えることが鍵となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • エレベーター問題: エレベーター内の人が乗る体重計の目盛りを問う問題。体重計が示す値は、床が人を支える「垂直抗力」の大きさであり、この問題の「張力」と全く同じように計算できます。加速上昇中は体重が増えて見え、減速上昇中は体重が減って見えます。
    • 気球からの物体の放出: 一定の速度で上昇している気球から物体を静かに放すと、物体は気球と同じ上向きの初速度を持ったまま、重力によって減速する「鉛直投げ上げ運動」を開始します。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 運動のフェーズを区切る: 問題文を読み、「〜間もち上げたあと、」「〜で静止させた」のように、運動の状態が変化する箇所を見つけて、運動を複数の段階に分割します。
    2. 各フェーズの「つなぎ目」の物理量(特に速度)を求める: (2)のように、後のフェーズの解析に必要な情報を、前のフェーズの運動から計算する必要がないかを確認します。
    3. 座標軸(正の向き)を明確に設定する: 特に鉛直方向の運動では、上向きを正とするか、下向きを正とするかを最初に決めることが重要です。一度決めたら、問題全体を通して(あるいは各フェーズで)その設定を一貫して使うことで、符号のミスを防ぎます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 張力と重力の大きさを混同する:
    • 誤解: 物体を糸で支えているときは、いつでも「張力 = 重力」だと思い込んでしまう。
    • 対策: 「張力 = 重力」が成り立つのは、物体が「静止」しているか「等速直線運動」をしている(加速度がゼロの)場合に限られます。この問題のように加速・減速している場合は、必ず力の差(合力)が存在するため、張力と重力は等しくなりません。
  • (2)の減速運動の初速度をゼロとしてしまう:
    • 誤解: 「静止させた」という最後の状態に気を取られ、減速運動の「初め」の速度がゼロであると勘違いしてしまう。
    • 対策: 運動の時系列をしっかり追いましょう。「\(7.0\,\text{s}\)間加速した」後の速度が、減速運動のスタート地点での速度になります。運動の段階の「つなぎ目」を意識することが重要です。
  • 減速運動の加速度の符号ミス:
    • 誤解: 減速しているのに、加速度の値を正として計算してしまう。
    • 対策: 最初に設定した正の向き(例えば上向き)に対して、速度が減少していく運動の場合、加速度は必ず負の値になります。等加速度直線運動の公式 \(v = v_0 + at\) に、初速度と後の速度を正しく代入すれば、加速度の符号は自動的に正しく計算されます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • (1)での運動方程式の選択:
    • 選定理由: 「加速度」と「質量」が与えられており、運動の原因である「力(張力)」を求めたいからです。力、質量、加速度の3者を直接結びつける法則は、運動方程式 \(ma=F\) しかありません。
  • (2)での思考プロセスと公式選択:
    • Step 1 (速度計算): 減速運動の解析に必要な「初速度」を知るために、その前の加速運動の結果を計算する必要があります。初速度、加速度、時間がわかっていて後の速度を求めるので、\(v = v_0 + at\) を選択します。
    • Step 2 (加速度計算): 減速運動の「初速度」「後の速度」「時間」がわかったので、未知数である「加速度」を求めるために、再び \(v = v_0 + at\) を選択します。
    • Step 3 (力計算): 減速中の「加速度」が判明したので、(1)と同様に、その原因である「力(張力)」を求めるために運動方程式 \(ma=F\) を選択します。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 重力の大きさを最初に計算しておく: 問題を読み始めたら、まず重力の大きさ \(mg = 5.0 \times 9.8 = 49\,\text{N}\) を計算し、問題用紙の余白に大きくメモしておきましょう。設問ごとに毎回計算すると、手間がかかりミスの原因にもなります。
  • 運動の段階ごとに図を描き、情報を整理する:
    • (1)加速上昇中: 図を描き、\(a_1 = +1.2\), \(T_1=?\) と書き込む。
    • (2)減速上昇中: 別の図を描き、\(a_2 = ?\), \(T_2=?\) と書き込む。
    • このように、状況を視覚的に分けることで、頭の中が整理され、使うべき値や求めるべき量を間違えにくくなります。
  • 答えの妥当性を物理的に吟味する:
    • (1) 加速上昇中 \(\rightarrow\) 張力は重力より大きいはず。計算結果 \(T_1 = 55\,\text{N}\) は、重力 \(49\,\text{N}\) より大きいので妥当。
    • (2) 減速上昇中 \(\rightarrow\) 張力は重力より小さいはず。計算結果 \(T_2 = 35\,\text{N}\) は、重力 \(49\,\text{N}\) より小さいので妥当。
    • この簡単なチェックだけで、多くの計算ミスを発見できます。
  • 文字式で解いてから代入する習慣:
    • \(T_1 = m(g+a_1)\), \(T_2 = m(g+a_2)\) のように、まず文字式で関係を導き、最後にまとめて数値を代入する方が、計算の見通しが良くなり、物理的な意味も考えやすくなります。
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90 \(v\)-\(t\)グラフ

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問の別解: 運動量と力積の関係を用いる解法
      • 主たる解法が、運動方程式(\(F=ma\))を適用するために、まず\(v\)-\(t\)グラフから「加速度」を求めるのに対し、別解では「運動量と力積の関係」(\(F\Delta t = \Delta p\))を用います。これにより、加速度を計算せず、各区間での運動量の変化から直接力を求めます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 運動方程式を時間で積分したものが力積と運動量の関係式であり、両者が本質的に等価であることを数式を通して理解できます。
    • 思考の柔軟性向上: 「加速度」という瞬間の変化率に着目する視点と、「運動量」という状態量の変化に着目する視点の両方を学ぶことで、問題解決の視野が広がります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答え(\(F\)-\(t\)グラフ)は完全に一致します。

この問題のテーマは「\(v\)-\(t\)グラフの解釈と運動方程式の応用」です。物体の運動の様子を表す\(v\)-\(t\)グラフから、運動の原因となった力の時間変化をグラフにする、という一連の思考プロセスを学びます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. \(v\)-\(t\)グラフと加速度の関係: \(v\)-\(t\)グラフの「傾き」が、その区間における物体の加速度(\(a = \Delta v / \Delta t\))を表すこと。
  2. 運動方程式 \(ma=F\): 物体に働く合力 \(F\) は、その物体の質量 \(m\) と生じる加速度 \(a\) の積に等しいこと。
  3. グラフの区間分割: 運動の様子が変わる点(\(v\)-\(t\)グラフの傾きが変わる点)で区間を区切り、それぞれの区間で物理法則を適用すること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. \(v\)-\(t\)グラフを、傾きが一定である3つの区間(\(0 \sim 2\,\text{s}\), \(2 \sim 5\,\text{s}\), \(5 \sim 6\,\text{s}\))に分割する。
  2. 各区間について、グラフの傾きを計算して加速度を求める。
  3. 各区間の加速度と物体の質量を運動方程式に代入して、物体に作用した力を計算する。
  4. 計算結果を元に、縦軸を力 \(F\)、横軸を時間 \(t\) とするグラフ(\(F\)-\(t\)グラフ)を作成する。

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