「セミナー物理基礎+物理2025」徹底解説!【第 Ⅰ 章 2】基本問題34~42

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基本問題

34. 鉛直投げ上げ

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている運動の公式を用いる解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 力学的エネルギー保存則を用いる解法
      • 主たる解法が運動の公式 \(v^2 – v_0^2 = 2ay\) を用いるのに対し、別解では運動の始点と終点におけるエネルギー保存の関係から速さを導出します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理法則の多角的理解: 運動を「時間とともにどう変化するか」という視点(運動の公式)と、「状態の変化でエネルギーがどう移り変わるか」という視点(保存則)という、物理学における二大アプローチを体験できます。
    • 物理法則の等価性の確認: 運動の公式とエネルギー保存則が、異なる表現でありながら本質的に同じ物理現象を記述しており、同じ結論を導くことを確認できます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「鉛直投げ上げ運動における、時間を含まない関係式の応用」です。運動の途中経過である時間を問わず、ある地点での速さを、その地点の高さと初速度から直接求めることが狙いです。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 鉛直投げ上げ運動のモデル化: 初速度 \(v_0\) を持ち、重力加速度 \(g\) によって減速・加速する等加速度直線運動であることを理解していること。
  2. 時間を含まない等加速度直線運動の公式: 速度 \(v\)、初速度 \(v_0\)、加速度 \(a\)、変位 \(y\) の関係を表す公式 \(v^2 – v_0^2 = 2ay\) を正しく選択し、適用できること。
  3. 力学的エネルギー保存則: 重力のみが仕事をする場合、物体の「運動エネルギー」と「位置エネルギー」の和が一定に保たれるという法則。
  4. 文字式による計算: 具体的な数値ではなく、\(v_0\), \(h\), \(g\) といった文字のまま計算を進め、物理的な関係を一般的に表現する能力。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 運動の公式を用いる方法では、時間 \(t\) を含まない公式 \(v^2 – v_0^2 = 2ay\) に、問題の条件を代入して速さ \(v\) を求めます。
  2. 力学的エネルギー保存則を用いる方法では、運動の始点(地面)と終点(高さ \(h\))で力学的エネルギーが等しいという式を立て、速さ \(v\) を求めます。

思考の道筋とポイント
問題で与えられているのは、初速度 \(v_0\) と、通過点の高さ \(h\) です。求めたいのは、その高さを通過するときの速さ \(v\) です。この問題には、高さ \(h\) の点に到達するまでの「時間」に関する情報が一切ありません。このような場合に、時間 \(t\) を含まない等加速度直線運動の公式 \(v^2 – v_0^2 = 2ay\) を利用するのが最も効率的なアプローチです。
この設問における重要なポイント

  • 時間 \(t\) の情報がないため、\(t\) を含まない公式を選択する。
  • 座標軸を明確に設定し、各物理量(初速度、加速度、変位)の符号を正しく扱う。
  • 鉛直上向きを正とすると、初速度は \(+v_0\)、加速度は \(-g\)、変位は \(+h\) となる。

具体的な解説と立式
地面を原点(\(y=0\))とし、鉛直上向きを正の向きとします。
この設定では、初速度は \(v_0\)、加速度は常に下向きなので \(a=-g\)、高さ \(h\) の点の座標(変位)は \(y=h\) となります。
求める速さを \(v\) として、時間を含まない等加速度直線運動の公式 \(v^2 – v_0^2 = 2ay\) にこれらの値を代入します。
$$ v^2 – v_0^2 = 2(-g)h $$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の時間を含まない式: \(v^2 – v_0^2 = 2ay\)
計算過程

上記で立式した式を \(v^2\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
v^2 – v_0^2 &= -2gh \\[2.0ex]
v^2 &= v_0^2 – 2gh
\end{aligned}
$$
速さ \(v\) は正の値なので、両辺の正の平方根をとります。
$$
\begin{aligned}
v &= \sqrt{v_0^2 – 2gh}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

「何秒後か」がわからない問題では、「高さと速さ」の関係だけを使って計算できる便利な公式があります。この公式は「(後の速さの\(2\)乗)引く(初めの速さの\(2\)乗)は、\(2 \times\) 加速度 \(\times\) 移動距離」という形をしています。この公式に、問題で与えられた初めの速さ \(v_0\)、高さ \(h\)、そして重力加速度(上向きをプラスとしたのでマイナス \(g\))を当てはめて、後の速さ \(v\) を計算します。

結論と吟味

高さ \(h\) の点を通過するときの速さは \(v = \sqrt{v_0^2 – 2gh}\) と求まりました。この式は物理的に妥当な結果を示しています。

  • \(h\) が大きくなるほど(高い点ほど)、速さ \(v\) は小さくなります。
  • もし \(v_0^2 – 2gh < 0\)、つまり \(h > \frac{v_0^2}{2g}\) となると、ルートの中が負になり、実数解が存在しなくなります。これは、小球がその高さまで到達できないことを意味しており、最高点の高さが \(h_{\text{max}} = \frac{v_0^2}{2g}\) であることと一致します。
  • この速さ \(v\) は、小球が上昇中に高さ \(h\) を通過するときと、下降中に再び高さ \(h\) を通過するときの両方で同じ大きさになります。
解答 \(\sqrt{v_0^2 – 2gh}\)
別解: 力学的エネルギー保存則を用いる解法

思考の道筋とポイント
運動の公式の代わりに、物理学のもう一つの柱である「エネルギー保存則」を用いて解くアプローチです。運動の始点(地面)と終点(高さ \(h\) の点)で、力学的エネルギー(運動エネルギーと位置エネルギーの和)が等しいという式を立てます。
この設問における重要なポイント

  • 空気抵抗を無視すれば、重力のみが仕事をするので、力学的エネルギーは保存される。
  • 位置エネルギーの基準点を明確に設定する(ここでは地面を基準とする)。
  • 始点(地面)では運動エネルギーのみ、終点(高さ \(h\))では運動エネルギーと位置エネルギーの両方を持つ。

具体的な解説と立式
小球の質量を \(m\) とします。地面を位置エネルギーの基準(高さ \(0\))とします。

始点(地面)での力学的エネルギー \(E_{\text{始}}\)

速さは \(v_0\)、高さは \(0\) なので、
$$ E_{\text{始}} = \frac{1}{2}mv_0^2 + mg \cdot 0 $$
終点(高さ \(h\) の点)での力学的エネルギー \(E_{\text{終}}\)

速さを \(v\)、高さを \(h\) とすると、
$$ E_{\text{終}} = \frac{1}{2}mv^2 + mgh $$
力学的エネルギー保存則より \(E_{\text{始}} = E_{\text{終}}\) なので、
$$ \frac{1}{2}mv_0^2 = \frac{1}{2}mv^2 + mgh $$

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則: \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2 + mgh = (\text{一定})\)
計算過程

上記で立式した式の両辺を \(m\) で割り、\(2\) を掛けます。
$$
\begin{aligned}
v_0^2 &= v^2 + 2gh
\end{aligned}
$$
この式を \(v^2\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
v^2 &= v_0^2 – 2gh
\end{aligned}
$$
速さ \(v\) は正の値なので、両辺の正の平方根をとります。
$$
\begin{aligned}
v &= \sqrt{v_0^2 – 2gh}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

エネルギーの考え方を使うと、この問題は「地面で持っていた『速さのエネルギー』が、高さ \(h\) の地点では、一部が『高さのエネルギー』に変わり、残りが『その地点での速さのエネルギー』になった」と解釈できます。つまり、「地面でのエネルギーの総量 \(=\) 高さ \(h\) でのエネルギーの総量」という等式を立てることで、速さ \(v\) を計算できます。

結論と吟味

主たる解法と全く同じ結果 \(v = \sqrt{v_0^2 – 2gh}\) が得られました。計算の途中式 \(v_0^2 = v^2 + 2gh\) は、主たる解法で用いた運動の公式 \(v^2 – v_0^2 = -2gh\) を移項したものと全く同じ形です。これは、時間を含まない運動の公式が、力学的エネルギー保存則を別の形で表現したものであることを示しており、物理法則の間の深いつながりを理解する上で非常に有益です。

解答 \(\sqrt{v_0^2 – 2gh}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 時間を含まない等加速度直線運動の法則
    • 核心: この問題の根幹は、運動の途中経過である「時間」が与えられておらず、また問われてもいない状況で、物体の状態(位置と速度)の変化を記述する最適な法則を選択することにあります。そのための最も強力なツールが、時間\(t\)を含まない公式 \(v^2 – v_0^2 = 2ay\) です。
    • 理解のポイント:
      • 公式の役割: この公式は、運動の「始点」と「終点」の\(2\)つの状態を、時間を介さずに直接結びつける「ワープ」のような役割を果たします。
      • 符号の重要性: 鉛直投げ上げ運動では、運動の向き(初速度の向き)と加速度の向きが逆です。したがって、座標軸を上向きに正と設定した場合、加速度を \(a=-g\) として正しく符号を扱うことが、この公式を適用する上での最大の鍵となります。
  • 力学的エネルギー保存則
    • 核心: 運動の公式とは全く異なる視点、すなわち「エネルギー」というスカラー量に着目しても、同じ物理現象を記述できることを理解するのが重要です。
    • 理解のポイント:
      • エネルギーの変換: 鉛直投げ上げは、「運動エネルギー」が「位置エネルギー」に変換されていくプロセスと見なすことができます。始点(地面)での運動エネルギーが、終点(高さ\(h\))での運動エネルギーと位置エネルギーの和に等しくなります。
      • 公式との等価性: 力学的エネルギー保存則の式 \(\frac{1}{2}mv_0^2 = \frac{1}{2}mv^2 + mgh\) を整理すると、運動の公式 \(v^2 – v_0^2 = -2gh\) と全く同じ形になります。この\(2\)つの法則が本質的に等価であることを理解することで、物理への洞察が深まります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 最高点の高さを求める問題: 最高点では速さが \(v=0\) になる、という条件を \(v^2 – v_0^2 = -2gh\) に代入すれば、\(0^2 – v_0^2 = -2gh_{\text{max}}\) となり、最高点の高さ \(h_{\text{max}} = \frac{v_0^2}{2g}\) を簡単に導出できます。
    • 地面に落下する物体の速さ: 高さ \(h\) の位置から初速度 \(v_0\) で投げ下ろされた物体が、地面に達するときの速さ \(v\) を求める問題。下向きを正とすれば、\(v^2 – v_0^2 = 2gh\) という式から直接計算できます。
    • 摩擦のない斜面を滑る物体の速さ: 高さの差が \(h\) である斜面を滑り降りた後の速さを求める問題。摩擦がなければ力学的エネルギーが保存されるため、運動の経路(斜面の角度や曲がり具合)に関係なく、この問題のエネルギー保存則の考え方がそのまま適用できます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 「時間」の有無を最優先で確認する: 問題文を読み、時間 \(t\) が与えられているか、あるいは問われているかを確認します。もし時間が一切関係ない問題であれば、思考を即座に「\(v^2 – v_0^2 = 2ay\) か、エネルギー保存則を使う問題だ」と切り替えます。
    2. 適用する「\(2\)つの状態」を明確にする: 公式や法則を適用する「始点」と「終点」を決めます。この問題では「始点:地面」「終点:高さ\(h\)の点」です。
    3. 座標軸と基準点を設定する: 運動の公式を使う場合は、原点と正の向き(例:地面が原点、上向きが正)を定めます。エネルギー保存則を使う場合は、位置エネルギーの基準点(例:地面を高さ\(0\))を定めます。
    4. 各状態の物理量をリストアップする: 設定した座標軸や基準点に従い、始点と終点それぞれの物理量(速度、位置、エネルギーの内訳)を書き出してから立式すると、符号ミスや項の抜け漏れを防げます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 加速度の符号ミス:
    • 誤解: 物体が上向きに運動しているから、加速度も正だろうと考えてしまう。
    • 対策: 加速度の向きは「力の向き」で決まります。物体に働く重力は、上昇中も下降中も常に鉛直下向きです。したがって、鉛直上向きを正と定めた以上、加速度は常に \(a=-g\) であり、負の値をとります。これは等加速度直線運動の大前提です。
  • 公式の右辺の符号を機械的に暗記するミス:
    • 誤解: \(v^2 – v_0^2 = 2gh\) のように、右辺の符号を常に正だと勘違いして覚えてしまう。
    • 対策: 公式の基本形はあくまで \(v^2 – v_0^2 = 2ay\) です。この形を正確に覚え、問題ごとに自分で設定した座標軸に従って \(a\) と \(y\) の符号を判断する、という手順を踏むことが最も安全で応用の効く方法です。
  • エネルギー保存則の立式ミス:
    • 誤解: \(\frac{1}{2}mv_0^2 + mgh = \frac{1}{2}mv^2\) のように、始点と終点の位置エネルギーと運動エネルギーを混同してしまう。
    • 対策: 立式する前に、「始点(地面):速さ\(v_0\), 高さ\(0\) \(\rightarrow\) KE=\(\frac{1}{2}mv_0^2\), PE=\(0\)」「終点(高さh):速さ\(v\), 高さh \(\rightarrow\) KE=\(\frac{1}{2}mv^2\), PE=\(mgh\)」のように、各点でのエネルギーの内訳をメモしてから「始点の合計=終点の合計」という式を立てるようにしましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • \(v^2 – v_0^2 = 2ay\) の選択:
    • 選定理由: この問題の構造(時間情報がなく、位置と速度の関係が問われている)に完璧に合致しているからです。この公式は、まさにこのような状況を効率的に解くために存在します。他の公式(\(v=v_0+at\) や \(y=v_0t+\frac{1}{2}at^2\))を使おうとすると、未知数である時間 \(t\) が入ってきてしまい、連立方程式を解く必要が出てきて複雑になります。
    • 適用根拠: この公式は、他の\(2\)つの運動の公式から数学的に時間 \(t\) を消去して導出されたものです。したがって、等加速度直線運動という物理モデルが適用できる限り、その適用は完全に正当化されます。
  • 力学的エネルギー保存則の選択:
    • 選定理由: 運動の公式と同様に、時間を含まない関係式であるため、この問題に有効です。また、運動方程式アプローチ(ベクトル量や符号を考慮)とは異なり、エネルギーというスカラー量のみで立式できるため、計算がシンプルになることがあります。物理の二大原理である運動法則と保存則の両方からアプローチできることを示す教育的な意味合いも大きいです。
    • 適用根拠: この運動で物体に仕事をする力は「保存力」である重力のみです(空気抵抗は無視)。保存力のみが仕事をする系では、力学的エネルギーの総和は常に一定に保たれる、という物理学の大原則に基づいています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 文字式のまま計算を進める: この問題は元々文字式ですが、たとえ数値が与えられていても、まずは求めたい物理量(今回は\(v\))について式を解き、最後に数値を代入する癖をつけましょう。これにより、物理的な関係性が明確になり、計算ミスも減ります。
  • ルートの中身の物理的吟味: 計算結果 \(v = \sqrt{v_0^2 – 2gh}\) が出たら、そのルートの中身 \(v_0^2 – 2gh\) に注目します。速さ \(v\) が実数であるためには、ルートの中身は \(0\) 以上でなければなりません。つまり、\(v_0^2 – 2gh \ge 0\) という条件が隠されています。これを変形すると \(h \le \frac{v_0^2}{2g}\) となり、「物体が到達できる高さは、最高点の高さ以下でなければならない」という当然の物理的制約が数式に現れていることがわかります。このように、得られた数式が物理的に妥当な制約を含んでいるかを確認する習慣は、深い理解につながります。
  • 単位(次元)による検算: 式 \(v^2 = v_0^2 – 2gh\) の各項の単位が一致しているかを確認しましょう。
    • \(v^2\) と \(v_0^2\) の単位は \((\text{m/s})^2 = \text{m}^2/\text{s}^2\)。
    • \(2gh\) の単位は、加速度[\(\text{m/s}^2\)] \(\times\) 距離[\(\text{m}\)] なので、\(\text{m}^2/\text{s}^2\)。

    全ての項の単位が一致しているため、この式は少なくとも単位の観点からは正しいと言えます。この簡単なチェックで、あり得ない形の式を立ててしまうミスを防げます。

35. 鉛直投げ上げ

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている運動の公式を用いる解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 設問(1)の別解: 速さを先に求め、時間との関係式から時刻を導出する解法
      • 主たる解法が変位の公式から二次方程式を解くのに対し、別解ではまず時間を含まない公式で速さを求め、次に速度の公式から時刻を導出します。
    • 設問(3)の別解: 力学的エネルギー保存則を用いる解法
      • 主たる解法が(2)で求めた時間を利用するのに対し、別解では運動の始点と最高点におけるエネルギー保存の関係から直接高さを導出します。
    • 設問(4)の別解: 運動の対称性を利用する解法
      • 主たる解法が変位の公式から全飛行時間を計算するのに対し、別解ではより根源的な「運動の対称性」から直接答えを導きます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 運動の対称性やエネルギー保存則といった、運動の公式とは異なる切り口からアプローチすることで、物理現象に対する多角的な理解が深まります。
    • 思考の柔軟性向上: 一つの問題に対して、異なる物理法則や解法ルートを経験することで、問題解決能力の幅が広がります。
    • 解法の効率化: (4)の別解のように、問題の本質を捉えることで、より少ない計算ステップで簡潔に解に至る強力な手法を学ぶことができます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「鉛直投げ上げ運動の総合的な解析」です。投げ上げから最高点を経て再び地面に戻るまでの一連の運動について、各段階での時間、位置、速度を正確に計算する能力が問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 鉛直投げ上げ運動のモデル化: 初速度 \(v_0\) を持ち、重力加速度 \(g\) によって減速・加速する等加速度直線運動であることを理解していること。
  2. 座標軸の設定と符号の扱い: 鉛直上向きを正と定め、初速度、変位、加速度の符号を正しく扱うことが極めて重要です。
  3. 最高点の物理的条件: 物体が最高点に達した瞬間、その速度は一瞬 \(0\) になる (\(v=0\)) という条件を数式に適用できること。
  4. 運動の対称性: 打ち上げ地点と着地点が同じ高さの場合、上昇にかかる時間と下降にかかる時間は等しく、また同じ高さを通過するときの速さは上昇時と下降時で等しいという性質。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、変位の公式に与えられた高さを代入し、時間に関する二次方程式を解きます。解が\(2\)つ得られる物理的な意味を理解することがポイントです。
  2. (2)では、「最高点では速度が\(0\)になる」という条件を速度の公式に適用して時間を求めます。
  3. (3)では、(2)で求めた時間を使って、変位の公式から最高点の高さを計算します。
  4. (4)では、「地面に戻る」という条件(変位が\(0\))を変位の公式に適用して全飛行時間を求め、その時間を使って最終的な速度を計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
地上 \(14.7\,\text{m}\) の点を通過する時刻を求めます。与えられているのは、初速度 \(v_0=19.6\,\text{m/s}\) と、通過点の高さ(変位)\(y=14.7\,\text{m}\) です。これらの量と時間 \(t\) を結びつける、等加速度直線運動の変位の公式 \(y = v_0t + \frac{1}{2}at^2\) を用います。小球は上昇中と下降中の\(2\)回この点を通過するため、\(t\) に関する二次方程式の解が\(2\)つ出てくることが予想されます。
この設問における重要なポイント

  • 座標軸は、地面を原点(\(y=0\))とし、鉛直上向きを正の向きとする。
  • 上記の設定では、初速度は \(v_0 = +19.6\,\text{m/s}\)、重力加速度は常に下向きなので \(a = -g = -9.8\,\text{m/s}^2\) となる。
  • 変位の公式を適用すると、\(t\) の二次方程式になる。

具体的な解説と立式
地面を原点、鉛直上向きを正とします。
初速度 \(v_0 = 19.6\,\text{m/s}\)、加速度 \(a=-g=-9.8\,\text{m/s}^2\)、変位 \(y=14.7\,\text{m}\) です。
求める時間を \(t\)[\(\text{s}\)] として、変位の公式 \(y = v_0t + \frac{1}{2}at^2\) にこれらの値を代入します。
$$ 14.7 = 19.6t + \frac{1}{2}(-9.8)t^2 $$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の変位の式: \(y = v_0t + \frac{1}{2}at^2\)
計算過程

上記で立式した方程式を整理します。
$$
\begin{aligned}
14.7 &= 19.6t – 4.9t^2
\end{aligned}
$$
全ての項を左辺に移項し、\(4.9\) で割ると、
$$
\begin{aligned}
4.9t^2 – 19.6t + 14.7 &= 0 \\[2.0ex]
t^2 – 4t + 3 &= 0
\end{aligned}
$$
これを因数分解します。
$$ (t-1)(t-3) = 0 $$
この方程式の解は \(t=1.0\) または \(t=3.0\) です。
どちらも正の値であり、物理的に意味を持ちます。\(t=1.0\,\text{s}\) が上昇中に通過する時刻、\(t=3.0\,\text{s}\) が下降中に通過する時刻に対応します。

この設問の平易な説明

ボールを投げ上げると、ある高さを「行き(上昇中)」と「帰り(下降中)」の\(2\)回通過します。そのため、時間を計算すると答えが\(2\)つ出てきます。物理の公式に数値を当てはめて二次方程式を解くと、その\(2\)つの時刻が両方とも計算できます。

結論と吟味

地上 \(14.7\,\text{m}\) の点を通過するのは、\(1.0\,\text{s}\) 後と \(3.0\,\text{s}\) 後と求まりました。\(2\)つの解が得られることは、往復運動の性質を正しく反映しており、妥当な結果です。

解答 (1) \(1.0\,\text{s}\) 後, \(3.0\,\text{s}\) 後
別解: 速さを先に求める解法

思考の道筋とポイント
二次方程式を解く代わりに、まず高さ \(14.7\,\text{m}\) での速さを求め、その速さになる時刻を計算するアプローチです。時間を含まない公式 \(v^2 – v_0^2 = 2ay\) を使って速さを求め、次に速度の公式 \(v = v_0 + at\) から時間を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 同じ高さを通過するときの速さは、上昇時と下降時で同じ大きさになる。
  • 速度は向きを持つため、上昇時は正、下降時は負の値をとる。

具体的な解説と立式
1. 高さ \(h=14.7\,\text{m}\) での速さ \(|v|\) を求める

時間を含まない公式 \(v^2 – v_0^2 = 2ay\) に、\(y=h=14.7\,\text{m}\), \(a=-g\) を代入します。
$$ v^2 – v_0^2 = -2gh $$
2. 時刻 \(t\) を求める

速度の公式 \(v = v_0 – gt\) を用います。ここで、上昇時は \(v>0\)、下降時は \(v<0\) となることに注意します。

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の時間を含まない式: \(v^2 – v_0^2 = 2ay\)
  • 等加速度直線運動の速度の式: \(v = v_0 + at\)
計算過程

1. 速さの計算
$$
\begin{aligned}
v^2 &= v_0^2 – 2gh \\[2.0ex]
&= (19.6)^2 – 2 \times 9.8 \times 14.7 \\[2.0ex]
&= (2 \times 9.8)^2 – 2 \times 9.8 \times (1.5 \times 9.8) \\[2.0ex]
&= 4 \times (9.8)^2 – 3 \times (9.8)^2 \\[2.0ex]
&= (9.8)^2
\end{aligned}
$$
よって、\(v = \pm 9.8\,\text{m/s}\) となります。

2. 時刻の計算

– 上昇時 (\(v = +9.8\,\text{m/s}\))
$$
\begin{aligned}
9.8 &= 19.6 – 9.8t \\[2.0ex]
9.8t &= 9.8 \\[2.0ex]
t &= 1.0\,\text{s}
\end{aligned}
$$
– 下降時 (\(v = -9.8\,\text{m/s}\))
$$
\begin{aligned}
-9.8 &= 19.6 – 9.8t \\[2.0ex]
9.8t &= 29.4 \\[2.0ex]
t &= 3.0\,\text{s}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

まず「高さ\(14.7\,\text{m}\)のときの速さはいくらか」を計算します。すると、上向きと下向きの\(2\)つの答え(\(+9.8\,\text{m/s}\)と\(-9.8\,\text{m/s}\))が出てきます。次に、「初速\(19.6\,\text{m/s}\)のボールが、そのスピードになるのはそれぞれ何秒後か」を計算すると、\(1.0\)秒後と\(3.0\)秒後という\(2\)つの時刻が求まります。

結論と吟味

主たる解法と全く同じ結果が得られました。二次方程式の解法が苦手な場合や、物理的な過程(速さの変化)をより意識したい場合に有効なアプローチです。

解答 (1) \(1.0\,\text{s}\) 後, \(3.0\,\text{s}\) 後

問(2)

思考の道筋とポイント
小球が最高点に達するまでの時間を求めます。「最高点」とは、鉛直方向の速度が一瞬だけ \(0\) になる点です。この \(v=0\) という条件を、鉛直方向の速度の式に適用して時間を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 最高点での物理的条件は \(v=0\) である。
  • 鉛直投げ上げ運動の速度の式 \(v = v_0 – gt\) を用いる。

具体的な解説と立式
鉛直上向きを正とします。初速度 \(v_0 = 19.6\,\text{m/s}\)、加速度 \(a=-g=-9.8\,\text{m/s}^2\) です。
最高点では速度が \(0\) になるので、\(v=0\) です。
求める時間を \(t_1\)[\(\text{s}\)] として、速度の式 \(v = v_0 – gt\) にこれらの条件を代入します。
$$ 0 = 19.6 – 9.8t_1 $$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の速度の式: \(v = v_0 + at\)
計算過程

上記で立式した式を \(t_1\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
9.8t_1 &= 19.6 \\[2.0ex]
t_1 &= \frac{19.6}{9.8} \\[2.0ex]
&= 2.0\,\text{s}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

ボールが一番高い点に達したとき、そのスピードは一瞬ゼロになります。初速\(19.6\,\text{m/s}\)のボールが、重力によってだんだん遅くなり、スピードがゼロになるまでの時間を計算すればよい、というわけです。

結論と吟味

最高点までの時間は \(2.0\,\text{s}\) と求まりました。初速度が \(19.6 = 2 \times 9.8\) なので、\(9.8\,\text{m/s}^2\) の加速度でちょうど \(2.0\,\text{s}\) かけて減速し速度が \(0\) になるというのは、計算するまでもなく暗算できるレベルであり、妥当な結果です。

解答 (2) \(2.0\,\text{s}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
最高点の高さを求めます。(2)で最高点に達するまでの時間 \(t_1=2.0\,\text{s}\) が求まったので、この時間を使って、変位の公式 \(y = v_0t – \frac{1}{2}gt^2\) から最高点の高さ \(y\) を計算します。
この設問における重要なポイント

  • (2)で求めた時間 \(t_1=2.0\,\text{s}\) を利用する。
  • 変位の公式 \(y = v_0t – \frac{1}{2}gt^2\) を適用する。

具体的な解説と立式
鉛直上向きを正とします。初速度 \(v_0 = 19.6\,\text{m/s}\)、加速度 \(a=-g=-9.8\,\text{m/s}^2\)、時間 \(t_1=2.0\,\text{s}\) です。
求める高さを \(y\)[\(\text{m}\)] として、変位の公式にこれらの値を代入します。
$$ y = 19.6 \times 2.0 – \frac{1}{2} \times 9.8 \times (2.0)^2 $$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の変位の式: \(y = v_0t + \frac{1}{2}at^2\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
y &= 39.2 – 4.9 \times 4.0 \\[2.0ex]
&= 39.2 – 19.6 \\[2.0ex]
&= 19.6\,\text{m}
\end{aligned}
$$
有効数字\(2\)桁で答えるため、\(20\,\text{m}\) となります。

この設問の平易な説明

(2)で、ボールが一番高い点に着くのが \(2.0\) 秒後だとわかりました。では、その \(2.0\) 秒間でボールはどれくらいの高さまで上がったのか、を計算する問題です。

結論と吟味

最高点の高さは \(20\,\text{m}\) と求まりました。妥当な値です。

解答 (3) \(20\,\text{m}\)
別解: 力学的エネルギー保存則を用いる解法

思考の道筋とポイント
運動の始点(地面)と終点(最高点)の間で、力学的エネルギーが保存されることを利用して、最高点の高さ \(h_{\text{max}}\) を直接求めます。
この設問における重要なポイント

  • 始点(地面)では運動エネルギーのみを持つ。
  • 終点(最高点)では速度が \(0\) なので、位置エネルギーのみを持つ。

具体的な解説と立式
地面を位置エネルギーの基準(高さ \(0\))とします。

始点(地面)での力学的エネルギー \(E_{\text{始}}\)
$$ E_{\text{始}} = \frac{1}{2}mv_0^2 $$
終点(最高点)での力学的エネルギー \(E_{\text{終}}\)
$$ E_{\text{終}} = mgh_{\text{max}} $$
力学的エネルギー保存則より \(E_{\text{始}} = E_{\text{終}}\) なので、
$$ \frac{1}{2}mv_0^2 = mgh_{\text{max}} $$

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則: \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2 + mgh = (\text{一定})\)
計算過程

上記で立式した式の両辺を \(m\) で割り、\(h_{\text{max}}\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
h_{\text{max}} &= \frac{v_0^2}{2g} \\[2.0ex]
&= \frac{(19.6)^2}{2 \times 9.8} \\[2.0ex]
&= \frac{(19.6)^2}{19.6} \\[2.0ex]
&= 19.6\,\text{m}
\end{aligned}
$$
有効数字\(2\)桁に丸めて \(20\,\text{m}\) となります。

この設問の平易な説明

地面で持っていた「速さのエネルギー」が、最高点ではすべて「高さのエネルギー」に変わった、と考えます。「地面での速さのエネルギー \(=\) 最高点での高さのエネルギー」という等式を立てることで、時間を計算しなくても高さを求めることができます。

結論と吟味

主たる解法と全く同じ結果が得られました。時間を経由しないため、(2)を解いていなくても(3)を解くことができ、計算もシンプルです。

解答 (3) \(20\,\text{m}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
小球が再び地面に落ちてくるまでの時間(全飛行時間)と、そのときの速度を求めます。
「地面に落ちてくる」という条件は、変位 \(y\) が再び \(0\) になることを意味します。この条件を変位の公式に適用して、全飛行時間 \(t_2\) を求めます。
その後、求めた \(t_2\) を速度の公式に代入して、最終的な速度を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 「再び地面に落ちてくる」という条件は、変位 \(y=0\) と数式化できる。
  • 速度は向きを持つベクトル量なので、符号に注意する。

具体的な解説と立式
全飛行時間の計算

変位の公式 \(y = v_0t – \frac{1}{2}gt^2\) において、地面に戻ってきたとき \(y=0\) となります。求める時間を \(t_2\)[\(\text{s}\)] とすると、
$$ 0 = 19.6t_2 – \frac{1}{2}(9.8)t_2^2 $$
最終速度の計算

求めた時間 \(t_2\) を速度の公式 \(v = v_0 – gt\) に代入します。
$$ v = 19.6 – 9.8t_2 $$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の変位の式: \(y = v_0t + \frac{1}{2}at^2\)
  • 等加速度直線運動の速度の式: \(v = v_0 + at\)
計算過程

全飛行時間の計算
$$
\begin{aligned}
0 &= 19.6t_2 – 4.9t_2^2 \\[2.0ex]
0 &= 4.9t_2(4.0 – t_2)
\end{aligned}
$$
この方程式の解は \(t_2=0\) または \(t_2=4.0\) です。
\(t_2=0\) は投げ上げた瞬間の時刻なので、求める全飛行時間は \(t_2=4.0\,\text{s}\) です。

最終速度の計算
$$
\begin{aligned}
v &= 19.6 – 9.8 \times 4.0 \\[2.0ex]
&= 19.6 – 39.2 \\[2.0ex]
&= -19.6\,\text{m/s}
\end{aligned}
$$
負の符号は、速度の向きが鉛直下向きであることを示しています。速さは \(19.6\,\text{m/s}\) で、有効数字\(2\)桁にすると \(20\,\text{m/s}\) です。

この設問の平易な説明

ボールが地面に戻ってくる、ということは、高さが再びゼロになるということです。高さの式を「\(=0\)」とおいて時間を計算すると、スタートの「\(0\)秒」と、戻ってきたときの「\(4.0\)秒」という\(2\)つの答えが出てきます。
次に、\(4.0\)秒後の速度を計算すると、マイナス(下向き)で、最初の速さと同じ大きさの答えが出てきます。

結論と吟味

全飛行時間は \(4.0\,\text{s}\)、そのときの速度は鉛直下向きに \(20\,\text{m/s}\) と求まりました。

解答 (4) 時間: \(4.0\,\text{s}\), 速度: 鉛直下向きに \(20\,\text{m/s}\)
別解: 運動の対称性を利用する解法

思考の道筋とポイント
投げ上げ運動は、最高点を軸として対称的な運動をします。この性質を利用すると、計算を大幅に簡略化できます。
この設問における重要なポイント

  • 上昇にかかる時間と、下降にかかる時間は等しい。
  • 同じ高さを通過するときの速さは、上昇時と下降時で等しい。

具体的な解説と立式
全飛行時間の計算

(2)で求めた最高点までの時間 \(t_1=2.0\,\text{s}\) は、全飛行時間 \(t_2\) のちょうど半分です。
$$ t_2 = 2t_1 $$
最終速度の計算

地面から打ち上げ、地面に戻ってきたとき、高さは同じです。したがって、そのときの速さは初速度の大きさと等しく、向きは逆になります。
$$ v = -v_0 $$

使用した物理公式

  • 鉛直投げ上げ運動の対称性
計算過程

全飛行時間の計算
$$
\begin{aligned}
t_2 &= 2 \times 2.0 \\[2.0ex]
&= 4.0\,\text{s}
\end{aligned}
$$
最終速度の計算
$$
\begin{aligned}
v &= -19.6\,\text{m/s}
\end{aligned}
$$
これは、鉛直下向きに \(19.6\,\text{m/s}\) の速度であることを意味します。有効数字\(2\)桁で \(20\,\text{m/s}\) です。

この設問の平易な説明

ボールが上がって下りてくる運動は、ちょうど真ん中(最高点)で折り返す、きれいな左右対称の形をしています。
(2)で最高点まで \(2.0\) 秒かかるとわかったので、地面に戻ってくるまでの合計時間は、その倍の \(4.0\) 秒です。
また、戻ってきたときの速さは、スタートしたときの速さと同じ大きさで、向きだけが反対になります。

結論と吟味

主たる解法と全く同じ結果が、非常に少ない計算で得られました。運動の対称性は、特に打ち上げ地点と着地点が同じ高さの場合に非常に強力なツールとなります。

解答 (4) 時間: \(4.0\,\text{s}\), 速度: 鉛直下向きに \(20\,\text{m/s}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 鉛直投げ上げ運動のモデル化と\(3\)公式の戦略的適用
    • 核心: この問題の根幹は、鉛直投げ上げ運動を「初速度\(v_0\)、加速度\(-g\)の等加速度直線運動」として正確にモデル化し、設問ごとに問われている物理量に応じて、\(3\)つの運動公式(\(v=v_0+at\), \(y=v_0t+\frac{1}{2}at^2\), \(v^2-v_0^2=2ay\))を戦略的に使い分けることにあります。
    • 理解のポイント:
      • 座標軸と符号: 鉛直上向きを正と定めることで、初速度は\(+v_0\)、加速度は\(-g\)となります。この符号の正しい設定が、全ての計算の前提となります。
      • 物理的条件の数式化:
        • 「高さ\(h\)を通過」 \(\rightarrow\) \(y=h\)。
        • 「最高点に到達」 \(\rightarrow\) \(v=0\)。
        • 「地面に戻る」 \(\rightarrow\) \(y=0\)。

        このように、日本語の表現を数式条件に翻訳する能力が不可欠です。

  • 運動の対称性
    • 核心: 打ち上げ地点と着地点が同じ高さである場合、鉛直投げ上げ運動は最高点を軸として時間的にも空間的にも対称な軌道を描きます。この物理的性質を理解し利用することで、計算を大幅に簡略化できます。
    • 理解のポイント:
      • 時間の対称性: 上昇にかかる時間と、最高点から元の高さまで下降する時間は等しい。したがって、全飛行時間は最高点到達時間の\(2\)倍になります。
      • 速度の対称性: 同じ高さを通過するときの「速さ」は、上昇時も下降時も同じです。「速度」は向きが逆になるため、符号が反転します(例:初速度\(v_0\)、最終速度\(-v_0\))。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 斜方投射: 鉛直方向の運動は、この問題の鉛直投げ上げと全く同じです。最高点の高さやそこまでの時間、同じ高さに戻るまでの時間などを求める問題は、この問題の考え方をそのまま応用できます。
    • 崖の上からの鉛直投げ上げ: 打ち上げ地点と着地点の高さが異なるため、運動の対称性は使えません。しかし、「地面に達する \(\rightarrow\) \(y\)座標が崖の高さ分だけ負になる」という条件を、変位の式 \(y=v_0t-\frac{1}{2}gt^2\) に代入し、\(t\)に関する二次方程式を解くことで全飛行時間を求めることができます。
    • 衝突問題: 投げ上げた物体と、ある高さから自由落下してくる別の物体が衝突する時刻や位置を求める問題。それぞれの物体の位置を時間の関数(\(y_A(t)\), \(y_B(t)\))として表し、\(y_A(t) = y_B(t)\) となる時刻 \(t\) を解くことで求められます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 座標軸と正の向きを宣言する: 計算を始める前に、必ず「地面を原点、鉛直上向きを正とする」のように、自分のルールを明確にします。
    2. 物理的キーワードを数式に変換する: 問題文中の「通り過ぎる」「最高点」「再び地面に」といった言葉を見つけ、それぞれ \(y=h\), \(v=0\), \(y=0\) といった数式条件に置き換えます。
    3. 解法のルートを複数検討する:
      • 時間を求めたい \(\rightarrow\) \(y=v_0t-\frac{1}{2}gt^2\)(二次方程式)か、\(v=v_0-gt\)(一次式)か?
      • 高さを求めたい \(\rightarrow\) 時間を使うか、\(v^2-v_0^2=-2gy\) やエネルギー保存則を使うか?
      • 対称性は使えるか?

      これらの選択肢の中から、最も計算が楽で確実なルートを選択します。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 二次方程式の解の物理的解釈ミス:
    • 誤解: (1)で \(t=1.0, 3.0\) という\(2\)つの解が出たときに、どちらか一方だけが答えだと思ってしまう、あるいは意味が分からず混乱する。
    • 対策: 投げ上げた物体が同じ高さを\(2\)回通過する(上昇時と下降時)という物理的なイメージと、二次方程式の解が\(2\)つ存在するという数学的な事実を結びつけましょう。通常、小さい方の解が上昇時、大きい方の解が下降時の時刻に対応します。
  • 最高点での加速度の誤解:
    • 誤解: 最高点では速度が \(v=0\) になるので、一瞬力が働かず、加速度も \(a=0\) になると思ってしまう。
    • 対策: 加速度は「力の向きと大きさ」で決まります。物体に働く重力は、運動のどの段階であっても常に鉛直下向きに作用し続けています。したがって、加速度も最高点で \(a=-g\) のままです。速度が\(0\)でも加速度は\(0\)でない、という点を明確に理解しましょう。
  • 速度と速さの混同:
    • 誤解: (4)で速度を問われているのに、大きさだけを答えてしまう。あるいは、計算結果のマイナス符号を消してしまう。
    • 対策: 「速度」は向きを含むベクトル量、「速さ」はその大きさであるスカラー量です。問題でどちらが問われているかを正確に把握しましょう。「速度を求めよ」と問われたら、大きさと向き(または符号付きの値)の両方を答える必要があります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • (1)での \(y=v_0t-\frac{1}{2}gt^2\) の選択:
    • 選定理由: 求めたいのは「時間 \(t\)」であり、与えられているのは「変位 \(y\)」と「初速度 \(v_0\)」です。これら\(3\)つの物理量を直接結びつける唯一の公式がこれだからです。二次方程式になることは避けられませんが、それが最も直接的なアプローチです。
    • 適用根拠: この公式は、等加速度直線運動における変位と時間の関係を記述する最も基本的な式であり、上昇・下降を含む全行程にわたって適用できる普遍性を持っています。
  • (2)での \(v=v_0-gt\) の選択:
    • 選定理由: 「最高点」という物理的なキーワードから物理条件「\(v=0\)」を導き、未知の「時間 \(t\)」を求めるのが目的です。既知の量 \(v_0, g\) と、条件 \(v=0\)、未知数 \(t\) を含む最もシンプルな一次式がこれだからです。
    • 適用根拠: 鉛直投げ上げ運動の速度の時間変化を記述する基本式であり、速度に関する条件から時間を求める際には最も基本的な出発点となります。
  • (4)での対称性の利用(別解):
    • 選定理由: 「地面から打ち上げ、再び地面に戻る」という設定は、運動の対称性が利用できる典型的なパターンです。この物理的性質を見抜けば、(2)で求めた最高点までの時間を\(2\)倍するだけで全飛行時間が求まり、計算を劇的に簡略化できます。
    • 適用根拠: 重力加速度が一定であるため、上昇と下降の運動は時間的に反転した関係になります。この数学的な対称性が、物理的な時間の対称性(上昇時間=下降時間)を保証します。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 数値の単純化: この問題の数値(\(v_0=19.6\), \(g=9.8\))は、\(19.6 = 2 \times 9.8\) という関係が隠されています。この関係に気づくと、多くの計算が暗算レベルで可能になります。
    • (1) \(t^2 – 4t + 3 = 0\): \(14.7 = 1.5 \times 9.8\), \(19.6 = 2 \times 9.8\) を変位の式に代入すると \(1.5 \times 9.8 = (2 \times 9.8)t – \frac{1}{2}(9.8)t^2\)。全体を \(9.8\) で割ると \(1.5 = 2t – 0.5t^2\)、\(2\)倍して \(3 = 4t – t^2\)。
    • (2) \(t_1 = v_0/g = 19.6/9.8 = 2.0\)。
    • (3) \(h_{\text{max}} = v_0^2/(2g) = (19.6)^2/(2 \times 9.8) = (19.6)^2/19.6 = 19.6\)。

    問題で与えられた数値に簡単な整数比や倍数関係が隠れていないかを探す癖をつけると、計算が大幅に楽になります。

  • 概算による検算: \(g \approx 10\) として大まかな値を見積もりましょう。\(v_0 \approx 20\)。
    • (2) 最高点までの時間: \(t \approx v_0/g \approx 20/10 = 2\,\text{s}\)。計算結果の \(2.0\,\text{s}\) と一致。
    • (3) 最高点の高さ: \(h \approx v_0t – 5t^2 \approx 20 \times 2 – 5 \times 2^2 = 40 – 20 = 20\,\text{m}\)。計算結果の \(19.6\,\text{m}\) とほぼ一致。
    • (4) 全飛行時間: \(2 \times 2 = 4\,\text{s}\)。計算結果の \(4.0\,\text{s}\) と一致。
  • 物理的な意味の再確認: (1)で \(t=1.0, 3.0\) と出た後、(2)で最高点までの時間が \(t=2.0\) と計算されたら、「ああ、\(1.0\)秒は最高点より手前(上昇中)、\(3.0\)秒は最高点を過ぎた後(下降中)だな」と、各設問の答えが互いに矛盾していないかを確認する習慣が重要です。

36. 鉛直投げ上げ

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている運動の公式を順に適用する解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 設問(2)の別解: 力学的エネルギー保存則を用いる解法
      • 主たる解法が(1)で求めた時間を利用するのに対し、別解では運動の始点と終点におけるエネルギー保存の関係から、時間を経由せずに速さを直接導出します。
    • 設問(1)の別解: 速さを先に求めてから時間を逆算する解法
      • 上記の別解で速さを先に求めた後、その速さに達するまでの時間を速度の公式から逆算するアプローチです。
    • 設問(3)の別解1: 力学的エネルギー保存則を用いる解法
      • 主たる解法が運動の公式を用いるのに対し、別解では同様にエネルギー保存則を用いて最高点までの高さを導出します。
    • 設問(3)の別解2: 最高点までの時間を利用する解法
      • 主たる解法が時間を含まない公式を用いるのに対し、別解ではまず最高点までの時間を計算し、その時間を使って変位の公式から高さを求めます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理法則の多角的理解: 運動を「時間とともにどう変化するか」という視点(運動の公式)と、「状態の変化でエネルギーがどう移り変わるか」という視点(保存則)の両方から捉える経験ができます。
    • 思考の柔軟性向上: 問題の問いの順番に縛られず、与えられた条件から最も効率的に計算できるものを見つけ出す戦略的な思考力が養われます。
    • 解法の選択肢拡大: 時間が問われていない問題では、エネルギー保存則や時間を含まない運動の公式が強力な武器になることを実感できます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「鉛直投げ上げ運動の解析(非対称な場合)」です。打ち上げ地点と着地点の高さが異なる、より一般的な鉛直投げ上げ運動を扱います。座標軸を正しく設定し、特に変位の符号を正確に扱うことが鍵となります。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 鉛直投げ上げ運動のモデル化: 初速度 \(v_0\) を持ち、重力加速度 \(g\) によって減速・加速する等加速度直線運動であることを理解していること。
  2. 座標軸の設定と符号の扱い: 投げ上げた位置を原点とした場合、それより下にある海面の座標が負になることを理解し、変位の符号を正しく扱えること。
  3. 等加速度直線運動の\(3\)公式: 速度、変位、時間の関係を表す\(3\)つの公式を、状況に応じて正しく選択し、適用できること。
  4. 力学的エネルギー保存則: 重力のみが仕事をする場合、物体の「運動エネルギー」と「位置エネルギー」の和が一定に保たれるという法則。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、変位の公式に与えられた条件(特に変位が負になること)を代入し、時間に関する二次方程式を解いて時間を求めます。
  2. (2)では、(1)で求めた時間を使って、速度の公式から海面に達する直前の速さを計算します。
  3. (3)では、時間を含まない公式で投げ上げ位置から最高点までの高さを求め、それに初期の高さ \(29.4\,\text{m}\) を足し合わせます。

問(1)

思考の道筋とポイント
小球を投げ上げてから海に落ちるまでの時間を求めます。この問題の最大のポイントは、座標設定と変位の符号です。投げ上げた位置を原点(\(y=0\))、鉛直上向きを正とすると、海面は原点より下方にあるため、その変位は負の値 \(y=-29.4\,\text{m}\) となります。この条件を変位の公式 \(y = v_0t + \frac{1}{2}at^2\) に代入し、\(t\) の二次方程式を解きます。
この設問における重要なポイント

  • 座標設定と変位の符号(\(y=-29.4\,\text{m}\))が最重要。
  • 鉛直上向きを正とすると、初速度は \(v_0 = +24.5\,\text{m/s}\)、加速度は \(a = -g = -9.8\,\text{m/s}^2\)。
  • 二次方程式の解のうち、物理的に意味のある正の解を選ぶ。

具体的な解説と立式
投げ上げた位置を原点、鉛直上向きを正の向きとします。
この設定では、初速度 \(v_0 = 24.5\,\text{m/s}\)、加速度 \(a=-g=-9.8\,\text{m/s}^2\)、海面の座標(変位)\(y=-29.4\,\text{m}\) となります。
求める時間を \(t\)[\(\text{s}\)] として、変位の公式 \(y = v_0t + \frac{1}{2}at^2\) にこれらの値を代入します。
$$ -29.4 = 24.5t + \frac{1}{2}(-9.8)t^2 $$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の変位の式: \(y = v_0t + \frac{1}{2}at^2\)
計算過程

上記で立式した方程式を整理します。
$$
\begin{aligned}
-29.4 &= 24.5t – 4.9t^2
\end{aligned}
$$
全ての項を左辺に移項し、\(4.9\) で割ると、
$$
\begin{aligned}
4.9t^2 – 24.5t – 29.4 &= 0 \\[2.0ex]
t^2 – 5t – 6 &= 0
\end{aligned}
$$
これを因数分解します。
$$ (t-6)(t+1) = 0 $$
この方程式の解は \(t=6.0\) または \(t=-1.0\) です。
時間 \(t\) は正の値でなければならないので、\(t=6.0\,\text{s}\) を採用します。

この設問の平易な説明

スタート地点を基準の高さ\(0\)とすると、海面は「マイナス\(29.4\,\text{m}\)」の高さになります。この条件で、ボールが海面に到達するまでの時間を計算します。物理の公式に数値を当てはめると、時間を求めるための中学数学で習う「二次方程式」が出てくるので、それを解けば答えがわかります。

結論と吟味

海に落ちるまでの時間は \(6.0\,\text{s}\) と求まりました。妥当な時間です。この問題のように、打ち上げ地点と着地点の高さが異なる場合は、変位の符号を正しく設定することが極めて重要になります。

解答 (1) \(6.0\,\text{s}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
小球が海面に達する直前の速さを求めます。(1)で海面に達するまでの時間 \(t=6.0\,\text{s}\) が求まったので、この時刻における速さ \(v\) を計算します。初速度 \(v_0\)、時間 \(t\)、加速度 \(g\) から速さ \(v\) を求めるには、速度の公式 \(v = v_0 + at\) を用います。
この設問における重要なポイント

  • (1)で求めた時間 \(t=6.0\,\text{s}\) を利用する。
  • 速度は向きを持つベクトル量。計算結果の符号が向きを表す。
  • 速さは速度の大きさ(絶対値)である。

具体的な解説と立式
鉛直上向きを正としています。初速度 \(v_0 = 24.5\,\text{m/s}\)、加速度 \(a=-g=-9.8\,\text{m/s}^2\)、時間 \(t=6.0\,\text{s}\) です。
求める速度を \(v\)[\(\text{m/s}\)] として、速度の公式 \(v = v_0 + at\) にこれらの値を代入します。
$$ v = v_0 – gt $$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の速度の式: \(v = v_0 + at\)
計算過程

上記で立式した式に、各数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
v &= 24.5 – 9.8 \times 6.0 \\[2.0ex]
&= 24.5 – 58.8 \\[2.0ex]
&= -34.3\,\text{m/s}
\end{aligned}
$$
速度が負の値なのは、小球が鉛直下向きに運動していることを示しています。求められているのは「速さ」なので、この速度の大きさ(絶対値)をとります。
速さは \(|-34.3| = 34.3\,\text{m/s}\) です。
有効数字\(2\)桁で答えるため、\(34.3\) を四捨五入して \(34\,\text{m/s}\) となります。

この設問の平易な説明

(1)で海に落ちるのが \(6.0\) 秒後だとわかりました。この瞬間のボールの速度を計算する問題です。計算すると答えがマイナスで出てきますが、これはボールが下向きに動いていることを意味しています。「速さ」は向きを考えない大きさのことなので、マイナスを取った値が答えになります。

結論と吟味

海面に達する直前の速さは \(34\,\text{m/s}\) と求まりました。初速度 \(24.5\,\text{m/s}\) よりも速くなっており、妥当な値です。

解答 (2) \(34\,\text{m/s}\)
別解: 力学的エネルギー保存則を用いる解法

思考の道筋とポイント
運動の始点(投げ上げ位置)と終点(海面)の間で、力学的エネルギーが保存されることを利用して、海面に達する直前の速さ \(v\) を直接求めます。この方法では、(1)で時間を求める必要がありません。
この設問における重要なポイント

  • エネルギー保存則は、運動の任意の\(2\)点間で成立する。
  • 位置エネルギーの基準点を設定する(投げ上げた位置を基準にすると計算が楽)。
  • 海面は基準点より下方にあるため、その位置エネルギーは負の値になる。

具体的な解説と立式
小球の質量を \(m\) とします。投げ上げた位置を位置エネルギーの基準(高さ \(0\))とします。

始点(投げ上げ位置)での力学的エネルギー \(E_{\text{始}}\)
$$ E_{\text{始}} = \frac{1}{2}mv_0^2 $$
終点(海面)での力学的エネルギー \(E_{\text{終}}\)

速さを \(v\)、高さを \(-29.4\,\text{m}\) とすると、
$$ E_{\text{終}} = \frac{1}{2}mv^2 + mg(-29.4) $$
力学的エネルギー保存則より \(E_{\text{始}} = E_{\text{終}}\) なので、
$$ \frac{1}{2}mv_0^2 = \frac{1}{2}mv^2 – mg(29.4) $$

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則: \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2 + mgh = (\text{一定})\)
計算過程

上記で立式した式の両辺を \(m\) で割り、\(v^2\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}v^2 &= \frac{1}{2}v_0^2 + g(29.4) \\[2.0ex]
v^2 &= v_0^2 + 2g(29.4)
\end{aligned}
$$
この式に、\(v_0=24.5\,\text{m/s}\), \(g=9.8\,\text{m/s}^2\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
v^2 &= (24.5)^2 + 2 \times 9.8 \times 29.4
\end{aligned}
$$
ここで \(24.5 = 2.5 \times 9.8\), \(29.4 = 3 \times 9.8\) を利用すると、
$$
\begin{aligned}
v^2 &= (2.5 \times 9.8)^2 + 2 \times 9.8 \times (3 \times 9.8) \\[2.0ex]
&= (9.8)^2 \times (2.5^2 + 6) \\[2.0ex]
&= (9.8)^2 \times (6.25 + 6) \\[2.0ex]
&= (9.8)^2 \times 12.25 \\[2.0ex]
&= (9.8)^2 \times (3.5)^2 \\[2.0ex]
v &= \sqrt{(9.8 \times 3.5)^2} \\[2.0ex]
&= 34.3\,\text{m/s}
\end{aligned}
$$
有効数字\(2\)桁に丸めて \(34\,\text{m/s}\) となります。

この設問の平易な説明

エネルギーの考え方を使うと、「スタート時の速さのエネルギー」が、「ゴール時の速さのエネルギー」と「位置が下がった分のエネルギー」の和に等しい、という式を立てることができます。この式を使えば、時間を計算しなくても、最後の速さを一気に求めることが可能です。

結論と吟味

主たる解法と全く同じ \(34\,\text{m/s}\) という結果が得られました。この解法は、時間を問われていない場合に非常に効率的であり、運動の公式 \(v^2-v_0^2=2ay\) に \(y=-29.4\) を代入したのと同じ計算になります。

解答 (2) \(34\,\text{m/s}\)
別解: 設問(1)の別解(速さを先に求めてから)

思考の道筋とポイント
まず(2)を上記の別解で解き、海面直前の速度 \(v=-34.3\,\text{m/s}\) を求めます。次に、この速度に達するまでの時間を、速度の公式 \(v=v_0-gt\) を \(t\) について解くことで逆算します。
この設問における重要なポイント

  • 問いの順番にこだわらず、解きやすい方から解くという戦略。
  • 速度の公式を逆算して時間を求める。

具体的な解説と立式
速度の公式 \(v=v_0-gt\) を \(t\) について解くと、
$$ t = \frac{v_0 – v}{g} $$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の速度の式: \(v = v_0 + at\)
計算過程

上記で立式した式に、\(v=-34.3\,\text{m/s}\), \(v_0=24.5\,\text{m/s}\), \(g=9.8\,\text{m/s}^2\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
t &= \frac{24.5 – (-34.3)}{9.8} \\[2.0ex]
&= \frac{58.8}{9.8} \\[2.0ex]
&= 6.0\,\text{s}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

(2)の答えを先に別の方法で求めてしまいます。海面での速度が下向きに \(34.3\,\text{m/s}\) だとわかったので、「初速 \(24.5\,\text{m/s}\) のボールが、最終的に下向き \(34.3\,\text{m/s}\) の速度になるまで何秒かかるか?」を逆算することで、時間を求める方法です。

結論と吟味

主たる解法と全く同じ \(6.0\,\text{s}\) という結果が得られました。これにより、問題の問いの順番通りに解かなくても、物理法則を正しく適用すれば同じ答えにたどり着けることが確認できます。

解答 (1) \(6.0\,\text{s}\) 後

問(3)

思考の道筋とポイント
「海面から」最高点までの高さを求めます。これは、まず「投げ上げた位置から最高点までの高さ」を求め、それに初期の高さである「海面から投げ上げ位置までの高さ \(29.4\,\text{m}\)」を足し合わせることで計算できます。
投げ上げた位置から最高点までの高さを求めるには、最高点では速度が \(0\) になることを利用し、時間を含まない公式 \(v^2-v_0^2=2ay\) を使うのが効率的です。
この設問における重要なポイント

  • 最高点の条件は \(v=0\)。
  • 求めるのは「海面から」の高さであるため、最後に初期の高さを足し忘れないように注意する。

具体的な解説と立式
鉛直上向きを正とします。投げ上げた位置から最高点までの高さを \(h’\)[\(\text{m}\)] とします。
この区間では、初速度 \(v_0=24.5\,\text{m/s}\)、最終速度 \(v=0\)、加速度 \(a=-g\)、変位 \(y=h’\) です。
時間を含まない公式 \(v^2 – v_0^2 = 2ay\) にこれらの値を代入します。
$$ 0^2 – v_0^2 = 2(-g)h’ $$
海面からの最高点までの高さ \(H\) は、
$$ H = h’ + 29.4 $$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の時間を含まない式: \(v^2 – v_0^2 = 2ay\)
計算過程

まず \(h’\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
-v_0^2 &= -2gh’ \\[2.0ex]
h’ &= \frac{v_0^2}{2g} \\[2.0ex]
&= \frac{(24.5)^2}{2 \times 9.8} \\[2.0ex]
&= \frac{600.25}{19.6} \\[2.0ex]
&= 30.625\,\text{m}
\end{aligned}
$$
次に、海面からの高さ \(H\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
H &= 30.625 + 29.4 \\[2.0ex]
&= 60.025\,\text{m}
\end{aligned}
$$
有効数字を考慮すると、\(9.8\) が\(2\)桁なので、答えは \(60\,\text{m}\) とするのが適切です。(模範解答の \(60.0\,\text{m}\) は\(3\)桁)

この設問の平易な説明

まず、スタート地点からてっぺん(最高点)まで、どれくらいの高さまで上がるかを計算します。それが \(30.6\,\text{m}\) でした。
問題で聞かれているのは「海面から」の高さなので、もともといた高さ \(29.4\,\text{m}\) を、今計算した \(30.6\,\text{m}\) に足し合わせます。

結論と吟味

海面からの最高点の高さは \(60\,\text{m}\) と求まりました。妥当な値です。

解答 (3) \(60\,\text{m}\)
別解1: 力学的エネルギー保存則を用いる解法

思考の道筋とポイント
運動の始点(投げ上げ位置)と終点(最高点)の間で、力学的エネルギーが保存されることを利用して、最高点の高さを求めます。
この設問における重要なポイント

  • 始点(投げ上げ位置)では運動エネルギーと位置エネルギーを持つ。
  • 終点(最高点)では速度が \(0\) なので、位置エネルギーのみを持つ。

具体的な解説と立式
海面を位置エネルギーの基準(高さ \(0\))とします。

始点(投げ上げ位置)での力学的エネルギー \(E_{\text{始}}\)

速さは \(v_0\)、高さは \(29.4\,\text{m}\) なので、
$$ E_{\text{始}} = \frac{1}{2}mv_0^2 + mg(29.4) $$
終点(最高点)での力学的エネルギー \(E_{\text{終}}\)

速さは \(0\)、高さを \(H\) とすると、
$$ E_{\text{終}} = mgH $$
力学的エネルギー保存則より \(E_{\text{始}} = E_{\text{終}}\) なので、
$$ \frac{1}{2}mv_0^2 + mg(29.4) = mgH $$

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則: \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2 + mgh = (\text{一定})\)
計算過程

上記で立式した式の両辺を \(mg\) で割り、\(H\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
H &= \frac{v_0^2}{2g} + 29.4
\end{aligned}
$$
この式の \(\frac{v_0^2}{2g}\) は、主たる解法で求めた \(h’\) と同じです。これ以降の計算は主たる解法と同じになり、\(H \approx 60\,\text{m}\) が得られます。

この設問の平易な説明

エネルギーの考え方を使うと、「スタート時のエネルギー(速さの分+高さの分)」が、「最高点でのエネルギー(高さの分だけ)」と等しい、という式を立てることができます。この式を解くことで、海面からの最高点の高さを直接計算できます。

結論と吟味

主たる解法と全く同じ結果が得られました。エネルギー保存則を用いると、投げ上げ位置からの相対的な高さと初期の高さを足し合わせる、という\(2\)段階の思考が、\(1\)つの式で自然に表現されることがわかります。

解答 (3) \(60\,\text{m}\)
別解2: 最高点までの時間を利用する解法

思考の道筋とポイント
まず、投げ上げた位置から最高点に達するまでの時間を計算し、その時間を使って変位の公式から高さを計算するアプローチです。
この設問における重要なポイント

  • 最高点までの時間は \(t=v_0/g\) で計算できる。
  • 求めた時間を使って、投げ上げた位置からの上昇距離を計算する。

具体的な解説と立式
最高点までの時間 \(t_{\text{top}}\) を求める
$$ 0 = v_0 – gt_{\text{top}} $$
投げ上げた位置からの高さ \(h’\) を求める
$$ h’ = v_0 t_{\text{top}} – \frac{1}{2}g t_{\text{top}}^2 $$
海面からの高さ \(H\) を求める
$$ H = h’ + 29.4 $$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の速度の式: \(v = v_0 + at\)
  • 等加速度直線運動の変位の式: \(y = v_0t + \frac{1}{2}at^2\)
計算過程

最高点までの時間 \(t_{\text{top}}\) の計算
$$
\begin{aligned}
t_{\text{top}} &= \frac{v_0}{g} \\[2.0ex]
&= \frac{24.5}{9.8} \\[2.0ex]
&= 2.5\,\text{s}
\end{aligned}
$$
投げ上げた位置からの高さ \(h’\) の計算
$$
\begin{aligned}
h’ &= 24.5 \times 2.5 – \frac{1}{2} \times 9.8 \times (2.5)^2 \\[2.0ex]
&= 61.25 – 4.9 \times 6.25 \\[2.0ex]
&= 61.25 – 30.625 \\[2.0ex]
&= 30.625\,\text{m}
\end{aligned}
$$
海面からの高さ \(H\) の計算
$$
\begin{aligned}
H &= 30.625 + 29.4 \\[2.0ex]
&= 60.025\,\text{m}
\end{aligned}
$$
有効数字を考慮して \(60\,\text{m}\) となります。

この設問の平易な説明

まず、ボールがてっぺんに着くまでの時間を計算します(\(2.5\)秒)。次に、その時間でボールがスタート地点からどれだけ高く上がったかを計算します(\(30.6\,\text{m}\))。最後に、もともといた高さ(\(29.4\,\text{m}\))を足し合わせます。

結論と吟味

主たる解法と全く同じ結果が得られました。時間を含まない公式を使う主たる解法に比べ、計算ステップは増えますが、運動の時間的な経過を追いながら解く、より基本的なアプローチです。

解答 (3) \(60\,\text{m}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 座標系における等加速度直線運動の法則
    • 核心: この問題の根幹は、打ち上げ地点と着地点の高さが異なる非対称な運動を、座標系を導入することで数学的に正確に扱う能力にあります。特に、自分で設定した原点(基準点)に対して、物体の位置(変位)を「符号付き」の量として正しく認識できるかが決定的に重要です。
    • 理解のポイント:
      • 原点の設定: 投げ上げた位置を原点(\(y=0\))と設定するのが一般的です。
      • 変位の符号: 原点を基準として、それより上方は正(\(+\))、下方は負(\(-\))の変位となります。この問題では、海面は投げ上げた位置より下方にあるため、その変位は \(y=-29.4\,\text{m}\) となります。この「マイナス」を正しく式に代入できるかが、(1)を解く上での最大の鍵です。
      • 加速度の符号: 運動の向きに関わらず、重力は常に下向きに働きます。上向きを正と定めた場合、加速度は常に \(a=-g\) となります。
  • 物理法則の選択
    • 核心: 設問ごとに与えられた条件と求めたい量に応じて、\(3\)つの運動公式やエネルギー保存則の中から、最も効率的で適切な法則を選択する戦略的な思考が求められます。
    • 理解のポイント:
      • 時間を求めたい場合: 変位の式 \(y=v_0t+\frac{1}{2}at^2\) を使うのが基本。二次方程式になることが多い。
      • 時間を介さずに速さを求めたい場合: \(v^2-v_0^2=2ay\) または力学的エネルギー保存則が最も強力なツール。
      • 時間が分かっていて速さを求めたい場合: 最もシンプルな \(v=v_0+at\) を使う。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 斜方投射(非対称な場合): 崖の上から斜め上方に物体を投げ出す問題。鉛直方向の運動は、この問題と全く同じモデルで解析できます。「地面に達する \(\rightarrow\) \(y\)座標が崖の高さ分だけ負になる」という条件で二次方程式を解き、全飛行時間を求めます。
    • 動く物体からの投射: 上昇中の気球から物体を投げ上げる問題。地面に対する物体の初速度は「(気球の速度)+(気球から見た物体の初速度)」となり、この合成された初速度を \(v_0\) として計算します。着地点の変位も、気球がその間に移動した距離を考慮する必要がある場合があります。
    • バウンドするボールの運動: 地面に衝突する直前の速度を計算し、はねかえり係数を使って衝突直後の速度を求め、そこから再び鉛直投げ上げ運動として解析を続ける、といった複合的な問題。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 図を描き、座標軸を設定する: まず、問題の状況を図示し、原点と正の向きを明確に書き込みます。始点と終点の座標(変位)に符号を付けてメモすることが特に重要です。
    2. 問いの順番にこだわらない: (1)で時間を求めるのが面倒そうだと感じたら、先に(2)や(3)が解けないか検討します。例えば、(2)の速さはエネルギー保存則を使えば時間なしで求まりますし、(3)の最高点の高さも同様です。解けるところから解く、という柔軟な姿勢が有効です。
    3. 数値に隠された関係性を見抜く: 問題で与えられた数値(\(24.5\), \(29.4\), \(9.8\))は、すべて\(4.9\)や\(9.8\)の倍数になっています(\(24.5=2.5\times9.8\), \(29.4=3\times9.8\))。この関係に気づくと、二次方程式の係数を簡単にしたり、平方根の計算を楽にしたりできます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 変位の符号ミス:
    • 誤解: (1)で、海面の座標を \(y=+29.4\,\text{m}\) として式を立ててしまう。
    • 対策: 自分で設定した座標系を絶対的な基準として考える癖をつけましょう。「原点=投げた位置、上向きが正」と決めたなら、原点より下にある海面は必ず負の座標になります。図に符号を書き込んで視覚的に確認するのが効果的です。
  • 運動の対称性の誤用:
    • 誤解: 打ち上げ地点と着地点の高さが違うにもかかわらず、「全飛行時間は最高点までの時間の\(2\)倍」「最終速度は初速度と逆向きで同じ大きさ」といった対称性の性質を誤って適用してしまう。
    • 対策: 運動の対称性が使えるのは、「打ち上げ地点と着地点が同じ高さの場合に限定される」という条件を厳密に覚えましょう。この問題のように高さが異なる場合は、対称性は成り立たないので、基本に立ち返って運動の公式やエネルギー保存則を適用する必要があります。
  • 最高点の高さの計算ミス:
    • 誤解: (3)で、投げ上げた位置からの上昇距離(\(30.6\,\text{m}\))を計算しただけで、それを答えとしてしまう。
    • 対策: 問題文を最後まで注意深く読み、「何からの高さ」を問われているのかを正確に把握しましょう。この問題では「海面から」と指定されているため、基準となる高さ(投げ上げ位置の海面からの高さ)を最後に足し合わせる必要があります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • (1)での \(y=v_0t+\frac{1}{2}at^2\) の選択:
    • 選定理由: 求めたいのは「時間 \(t\)」であり、与えられているのは「変位 \(y\)」と「初速度 \(v_0\)」です。これら\(3\)つの物理量を直接結びつける唯一の公式がこれだからです。非対称な運動の飛行時間を求める際の、最も基本的かつ一般的なアプローチです。
    • 適用根拠: この公式は、等加速度直線運動における変位と時間の関係を記述する最も基本的な式であり、運動の向きが変わる複雑な状況でも、始点と終点の位置関係を正しく記述できます。
  • (2)の別解でのエネルギー保存則の選択:
    • 選定理由: 求めたいのは「速さ \(v\)」であり、与えられているのは「高さの差 \(h\)」と「初速度 \(v_0\)」です。時間情報が不要なこの状況では、エネルギー保存則(または等価な \(v^2-v_0^2=2ay\))が最も効率的です。(1)の二次方程式を解くという面倒な計算を回避して、先に(2)を解くという戦略を可能にします。
    • 適用根拠: 運動中に働く力が保存力である重力のみであるため、物理学の大原則である力学的エネルギー保存則が適用できます。
  • (3)での \(v^2-v_0^2=2ay\) の選択:
    • 選定理由: 求めたいのは「最高点の高さ」です。最高点では「\(v=0\)」という明確な条件があります。この条件と「初速度 \(v_0\)」から「高さ \(y\)」を求めたいので、時間を含まないこの公式が最適です。
    • 適用根拠: 運動の始点(投げ上げ位置)から最高点までという区間に限定して、等加速度直線運動の法則を適用しています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 方程式の係数を簡単にする: (1)で \( -29.4 = 24.5t – 4.9t^2 \) という式が出てきたとき、すぐに全ての項が \(4.9\) で割り切れることを見抜くのがポイントです(\(24.5=5\times4.9\), \(29.4=6\times4.9\))。係数を \(t^2 – 5t – 6 = 0\) のように簡単な整数にすることで、因数分解が容易になり、計算ミスを劇的に減らすことができます。
  • 平方根の計算での工夫: (2)の別解で \(v^2 = (24.5)^2 + 2 \times 9.8 \times 29.4\) を計算する際、\(24.5 = 2.5 \times 9.8\), \(29.4 = 3 \times 9.8\) という関係を利用して、\((9.8)^2\) を共通因数としてくくり出すと、計算が非常に楽になります。
  • 概算による検算: \(g \approx 10\), \(v_0 \approx 25\), \(h \approx 30\) として大まかな値を見積もりましょう。
    • (3) 最高点までの上昇距離: \(h’ \approx v_0^2/(2g) \approx 25^2/20 = 625/20 \approx 31\,\text{m}\)。計算結果の \(30.6\,\text{m}\) と近いです。
    • (1) 時間: 最高点まで \(t \approx v_0/g \approx 25/10 = 2.5\,\text{s}\)。最高点(高さ約 \(31+29=60\,\text{m}\))から海面まで自由落下すると考えると、\(60 \approx 5t’^2 \rightarrow t’ \approx \sqrt{12} \approx 3.5\,\text{s}\)。全時間は \(2.5+3.5=6\,\text{s}\)。計算結果の \(6.0\,\text{s}\) と一致します。
    • (2) 速さ: \(v \approx gt’ \approx 10 \times 3.5 = 35\,\text{m/s}\)。計算結果の \(34.3\,\text{m/s}\) と近いです。
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37. 鉛直投げ上げの \(v\) – \(t\) グラフ

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている\(v-t\)グラフの読み取りと運動の公式を組み合わせる解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 設問(2)の別解: グラフの傾きから初速度を求める解法
      • 主たる解法が速度の公式に値を代入するのに対し、別解では\(v-t\)グラフの傾きが加速度を表すという物理的意味から直接初速度を導出します。
    • 設問(3)の別解: 時間を含まない運動の公式を用いる解法
      • 主たる解法がグラフの面積を計算するのに対し、別解では時間を含まない公式 \(v^2-v_0^2=2ay\) を用いて最高点の高さを計算します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: グラフの「傾き」や「面積」といった幾何学的性質が、運動の公式とどのように対応しているのかを数式レベルで確認でき、\(v-t\)グラフへの理解が深まります。
    • 思考の柔軟性向上: 一つの問いに対して、グラフから直接解く方法と、運動の公式から解く方法の両方を経験することで、問題解決能力の幅が広がります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「鉛直投げ上げ運動と\(v-t\)グラフの関係」です。鉛直投げ上げという具体的な物理現象と、それを表現する\(v-t\)グラフの性質(傾きが加速度、面積が移動距離)とを正しく結びつけられるかが問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. \(v-t\)グラフの物理的意味: グラフの傾きが加速度を、グラフと時間軸で囲まれた面積が変位(移動距離)を表すことを理解していること。
  2. 鉛直投げ上げ運動のモデル化: 鉛直上向きを正としたとき、初速度が \(+v_0\)、加速度が常に \(-g\) の等加速度直線運動であることを理解していること。
  3. 最高点の物理的条件: 最高点では、速度が一時的に \(0\) になる (\(v=0\)) ことを理解していること。これは\(v-t\)グラフが横軸と交わる点に対応する。
  4. \(y-t\)グラフの形状: 等加速度直線運動の変位は時間の二次関数で表されるため、\(y-t\)グラフは放物線を描くことを理解していること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、グラフから「最高点(\(v=0\))」に対応する時刻を直接読み取ります。
  2. (2)では、(1)で読み取った時刻と最高点の条件 \(v=0\) を、速度の公式に代入して初速度 \(v_0\) を計算します。
  3. (3)では、\(v-t\)グラフの面積が移動距離を表すことを利用し、斜線部の三角形の面積を計算して最高点の高さを求めます。
  4. (4)では、変位の公式 \(y=v_0t – \frac{1}{2}gt^2\) に求めた値を代入し、得られた二次関数のグラフ(上に凸の放物線)を描きます。

問(1)

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