基本問題
340 \(y-x\)グラフと\(y-t\)グラフ
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(2)の別解1: 波の式を立てて数学的に解く解法
- 模範解答が微小時間後の波形を描いて視覚的に解くのに対し、別解では図1と図2から波の一般式を導出し、条件に合う位置\(x\)を代数的に求めます。
- 設問(2)の別解2: 特定の位相(山や谷)の動きを追跡する解法
- 模範解答が\(t=0\)の瞬間の速度に着目するのに対し、別解では図2のグラフから特徴的な点(例えば「谷」)がいつその場所を通過したかを読み取り、その点が\(t=0\)までにどこへ移動したかを波の速さから計算して位置を特定します。
- 設問(2)の別解1: 波の式を立てて数学的に解く解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 波の運動を「ある瞬間の空間的な形(\(y-x\)グラフ)」と「ある場所の時間的な変化(\(y-t\)グラフ)」として捉えるだけでなく、それらを結びつける「波の式」や「位相の伝播」という概念の理解が深まります。
- 思考の柔軟性向上: グラフのどの情報に着目するか(\(t=0\)の接線の傾き、特定の位相の時間など)によって、様々な解法が考えられることを学び、問題解決能力が高まります。
- 解法の選択肢拡大: 視覚的な解法に加えて、数式を用いた厳密な解析や、波の移動を時間軸で遡って考える方法など、多様なアプローチを身につけることで、より複雑な問題にも対応できるようになります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「正弦波の\(y-x\)グラフと\(y-t\)グラフの解釈」です。波の基本的な性質を理解する上で最も重要なグラフの読み取り問題であり、波長、周期、振幅、速さ、媒質の振動方向といった基本量を正確に把握する能力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- \(y-x\)グラフの理解: ある瞬間の波の形(スナップ写真)を表しており、ここから波長\(\lambda\)や振幅\(A\)を読み取れること。
- \(y-t\)グラフの理解: ある一点の媒質の単振動の様子を表しており、ここから周期\(T\)や振幅\(A\)を読み取れること。
- 波の基本式の理解: 波の速さ\(v\)、波長\(\lambda\)、周期\(T\)(または振動数\(f\))の関係式 \(v = \lambda / T = f\lambda\) を正しく使えること。
- 媒質の振動方向の判断: 波の進行方向と\(y-x\)グラフの形から、各媒質が次にどちらの向きに動くかを判断できること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、図1の\(y-x\)グラフから波長\(\lambda\)を、図2の\(y-t\)グラフから周期\(T\)をそれぞれ読み取ります。そして、波の基本式 \(v = \lambda / T\) に代入して速さ\(v\)を計算します。
- (2)では、まず図2の\(y-t\)グラフから、この振動をしている媒質の「\(t=0\)における状態(変位と速度の向き)」を特定します。次に、図1の\(y-x\)グラフ上で、その状態と一致する媒質の位置\(x\)を探し出します。
問(1)
思考の道筋とポイント
波の速さを求めるには、波長\(\lambda\)と周期\(T\)が必要です。\(y-x\)グラフは波の空間的な広がりを、\(y-t\)グラフは時間的な繰り返しを表しています。それぞれのグラフから対応する物理量を正確に読み取ることができれば、公式に代入するだけで答えが求まります。
この設問における重要なポイント
- 図1(\(y-x\)グラフ)から波長\(\lambda\)を読み取る。波長は、波1つ分の長さ。
- 図2(\(y-t\)グラフ)から周期\(T\)を読み取る。周期は、媒質が1回振動するのにかかる時間。
- 波の速さ\(v\)、波長\(\lambda\)、周期\(T\)の関係式 \(v = \lambda / T\) を用いる。
具体的な解説と立式
- 図1からの波長の読み取り:
図1は、\(t=0\)における波形を示しています。グラフを見ると、同じ形が繰り返される空間的な長さ(波長)は \(2.0\,\text{m}\) であることがわかります。
$$ \lambda = 2.0\,\text{m} $$ - 図2からの周期の読み取り:
図2は、ある位置の媒質の時間変化を示しています。グラフを見ると、媒質が1回振動して元の状態に戻るまでの時間(周期)は \(0.10\,\text{s}\) であることがわかります。
$$ T = 0.10\,\text{s} $$ - 速さの計算:
波の基本式 \(v = \lambda / T\) に、読み取った値を代入します。
使用した物理公式
- 波の基本式: $$v = \frac{\lambda}{T}$$
$$
\begin{aligned}
v &= \frac{2.0}{0.10} \\[2.0ex]
&= 20\,\text{m/s}
\end{aligned}
$$
波の速さを知りたいときは、「波の1ステップの長さ(波長)」と「1ステップにかかる時間(周期)」を調べればOKです。図1という波の「地図」から1ステップの長さが\(2.0\,\text{m}\)だとわかり、図2というある地点の「タイムスケジュール」から1ステップに\(0.10\,\text{s}\)かかることがわかります。あとは「速さ=距離÷時間」の計算をするだけです。
波の速さは \(20\,\text{m/s}\) と求まりました。これは物理的に妥当な値です。
問(2)
思考の道筋とポイント
図2のグラフがどの場所の振動を表しているかを特定する問題です。鍵となるのは、\(t=0\) の瞬間の状態です。図2から「\(t=0\)の変位」と「\(t=0\)の直後の変位の向き(つまり速度の向き)」を読み取ります。次に、図1の波形が\(t=0\)のものであることと、波が\(x\)軸正の向きに進むことを利用して、図1上の各点でこの条件を満たす場所を探します。
この設問における重要なポイント
- 図2から、\(t=0\)での媒質の変位\(y\)と速度の向きを特定する。
- 波の進行方向が分かっている場合、\(y-x\)グラフを少しだけ未来に進めることで、各媒質の速度の向きがわかる。
- 図1の \(0 \le x \le 2.0\,\text{m}\) の範囲で、図2の\(t=0\)の状態と一致する点を見つける。
具体的な解説と立式
- 図2の分析:
図2の\(y-t\)グラフを見ると、- 時刻 \(t=0\) で、変位は \(y=0\)。
- 時刻 \(t=0\) の直後、変位\(y\)は正の値になっています。これは、\(t=0\)の瞬間の媒質の速度が\(y\)軸の正の向きであることを意味します。
- 図1の分析:
図1は\(t=0\)の波形です。問題文より、この波は\(x\)軸の正の向きに進みます。
この波形が微小時間 \(\Delta t\) だけ経過した後の様子を想像します。波形全体が少しだけ右にずれます(模範解答の図の破線)。
この「ずれた波形」を見ることで、\(t=0\)の瞬間に各媒質がどちらに動こうとしていたかがわかります。- \(x=0\): \(y=0\)。微小時間後、変位は負になるので、速度は負の向き。
- \(x=0.5\,\text{m}\): \(y=0.20\,\text{m}\)(山)。速度は\(0\)。
- \(x=1.0\,\text{m}\): \(y=0\)。微小時間後、変位は正になるので、速度は正の向き。
- \(x=1.5\,\text{m}\): \(y=-0.20\,\text{m}\)(谷)。速度は\(0\)。
- \(x=2.0\,\text{m}\): \(y=0\)。微小時間後、変位は負になるので、速度は負の向き。
- 条件との照合:
図2から読み取った条件「\(t=0\)で\(y=0\)かつ速度が正の向き」と、図1の分析結果を照らし合わせます。
この条件に一致するのは、\(x=1.0\,\text{m}\) の位置です。
使用した物理公式
- (特になし。グラフの読解が中心)
(計算は不要)
図2は、ある場所の「実況中継」です。この中継を見ると、「時刻\(0\)秒の瞬間、変位が\(0\)で、これから上に動こうとしている」ということがわかります。一方、図1は時刻\(0\)秒の波全体の「集合写真」です。この写真の中で、「変位が\(0\)で、これから上に動く場所」はどこかを探すゲームです。波が右に進むことを考えると、写真の波をほんの少し右にずらして見れば、各点が次にどこへ動くかがわかります。そうすると、条件にピッタリ合うのは\(x=1.0\,\text{m}\)の場所だと見つけられます。
図2の振動をしている位置は \(x=1.0\,\text{m}\) であると特定できました。\(0 \le x \le 2.0\,\text{m}\) の範囲にも収まっており、妥当な結論です。
思考の道筋とポイント
図1と図2のグラフから、波の振幅\(A\)、波長\(\lambda\)、周期\(T\)を読み取り、波の一般式 \(y(x, t)\) を立てます。図2のグラフも数式で表現し、両者が一致するような位置\(x\)を求める、という数学的なアプローチです。
この設問における重要なポイント
- \(y-x\)グラフから、\(t=0\)での波の形を数式 \(y(x,0)\) で表す。
- \(y-t\)グラフから、ある位置\(x\)での振動を数式 \(y(t)\) で表す。
- \(x\)軸正の向きに進む波の一般式 \(y(x,t) = A\sin(2\pi(\frac{t}{T} – \frac{x}{\lambda}) + \delta)\) を利用する。
具体的な解説と立式
(1)より、振幅 \(A=0.20\,\text{m}\)、波長 \(\lambda=2.0\,\text{m}\)、周期 \(T=0.10\,\text{s}\) です。
波は\(x\)軸の正の向きに進むので、波の式は一般に
$$ y(x,t) = A \sin\left( 2\pi \left( \frac{t}{T} – \frac{x}{\lambda} \right) + \delta \right) $$
と書けます(\(\delta\)は初期位相)。
まず、図1(\(t=0\)の\(y-x\)グラフ)から初期位相\(\delta\)を決定します。
\(t=0\)を代入すると、
$$ y(x,0) = A \sin\left( – \frac{2\pi x}{\lambda} + \delta \right) $$
図1では \(x=0\) で \(y=0\) であり、\(x\)が少し増加すると\(y\)も増加(傾きが正)します。
数式で \(x=0\) とすると \(y(0,0) = A \sin(\delta) = 0\)、よって \(\delta=0\) または \(\pi\)。
次に傾きを調べます。\(y(x,0)\)を\(x\)で微分すると、
$$ \frac{dy}{dx} = A \cos\left( – \frac{2\pi x}{\lambda} + \delta \right) \cdot \left( – \frac{2\pi}{\lambda} \right) $$
\(x=0\)での傾きは \( – \frac{2\pi A}{\lambda} \cos(\delta) \) となります。図1よりこの傾きは正なので、\(\cos(\delta)\)は負でなければなりません。
\(\delta=0\) のとき \(\cos(0)=1\)(不適)、\(\delta=\pi\) のとき \(\cos(\pi)=-1\)(適)。
よって、初期位相は \(\delta=\pi\) です。
したがって、この波の式は、
$$
\begin{aligned}
y(x,t) &= 0.20 \sin\left( 2\pi \left( \frac{t}{0.10} – \frac{x}{2.0} \right) + \pi \right) \\[2.0ex]
&= 0.20 \sin\left( 20\pi t – \pi x + \pi \right)
\end{aligned}
$$
\(\sin(\theta+\pi) = -\sin(\theta)\) の関係を使うと、
$$ y(x,t) = -0.20 \sin(20\pi t – \pi x) $$
一方、図2の\(y-t\)グラフは、\(t=0\)で\(y=0\)、その後\(y\)は増加するので、単純な \(\sin\) 型の振動です。
$$
\begin{aligned}
y(t) &= A \sin\left( \frac{2\pi t}{T} \right) \\[2.0ex]
&= 0.20 \sin\left( \frac{2\pi t}{0.10} \right) \\[2.0ex]
&= 0.20 \sin(20\pi t)
\end{aligned}
$$
この式が、先ほど求めた波の式の特定の\(x\)における振動と一致すればよいので、
$$ -0.20 \sin(20\pi t – \pi x) = 0.20 \sin(20\pi t) $$
$$ \sin(20\pi t – \pi x) = -\sin(20\pi t) $$
ここで、\(-\sin(\theta) = \sin(\theta+\pi)\) の関係を用いると、
$$ \sin(20\pi t – \pi x) = \sin(20\pi t + \pi) $$
両辺の位相が等しい(または\(2\pi\)の整数倍違い)ので、
$$ 20\pi t – \pi x = 20\pi t + \pi + 2n\pi \quad (n \text{は整数}) $$
使用した物理公式
- 正弦波の一般式: \(y(x,t) = A \sin\left( 2\pi \left( \frac{t}{T} – \frac{x}{\lambda} \right) + \delta \right)\)
上記で立てた位相の関係式を解きます。
$$
\begin{aligned}
20\pi t – \pi x &= 20\pi t + \pi + 2n\pi \\[2.0ex]
– \pi x &= \pi + 2n\pi
\end{aligned}
$$
両辺を\(\pi\)で割ると、
$$
\begin{aligned}
-x &= 1 + 2n \\[2.0ex]
x &= -1 – 2n
\end{aligned}
$$
ここで、\(n\)は整数です。\(0 \le x \le 2.0\) の範囲で探します。
- \(n=0\) のとき、\(x = -1.0\,\text{m}\)(範囲外)
- \(n=-1\) のとき、
$$
\begin{aligned}
x &= -1 – 2(-1) \\[2.0ex]
&= 1.0\,\text{m}
\end{aligned}
$$
(範囲内) - \(n=-2\) のとき、
$$
\begin{aligned}
x &= -1 – 2(-2) \\[2.0ex]
&= 3.0\,\text{m}
\end{aligned}
$$
(範囲外)
したがって、条件を満たす位置は \(x=1.0\,\text{m}\) です。
波の動きをまるごと一本の数式で表現してしまう方法です。まず、波の「設計図」となる数式を作ります。次に、図2の「実況中継」も数式で表します。そして、「設計図の数式に、場所\(x\)として何を入れると、実況中継の数式とピッタリ同じになりますか?」という方程式を解くことで、場所を特定します。
主たる解法と完全に同じ結果が得られました。この方法は、視覚的な判断が難しい複雑な波の問題に対しても有効な、汎用性の高い解法です。
思考の道筋とポイント
図1のグラフ上の特徴的な点(例えば「谷」)が、時間とともにどう移動するかを追跡します。図1の谷が、図2で谷が観測される時刻までにどこへ移動するかを計算し、その場所が求める位置であると特定します。
この設問における重要なポイント
- 図1から、\(t=0\)での特徴的な位相(山や谷)の位置を読み取る。
- 図2から、その特徴的な位相が観測される時刻を読み取る。
- 波の速さ\(v\)と時間\(\Delta t\)から、位相が移動する距離 \(\Delta x = v \Delta t\) を計算する。
- 波の周期性を考慮して、指定された範囲内の位置を答える。
具体的な解説と立式
- 図1の分析:
図1(\(t=0\)の波形)を見ると、\(x=1.5\,\text{m}\) の位置に「谷」(変位が負で最大)があります。 - 図2の分析:
図2の\(y-t\)グラフを見ると、媒質の変位が「谷」になるのは、時刻 \(t=0.075\,\text{s}\) です。 - 「谷」の移動を追跡:
\(t=0\) のときに \(x=1.5\,\text{m}\) にあった谷は、波とともに速さ \(v=20\,\text{m/s}\) で \(x\)軸正の向きに移動します。
時刻 \(t=0.075\,\text{s}\) になったとき、この谷がどこまで進んでいるかを計算します。
移動する時間 \(\Delta t = 0.075\,\text{s}\)。
移動する距離 \(\Delta x\) は、
$$
\begin{aligned}
\Delta x &= v \Delta t \\[2.0ex]
&= 20 \times 0.075 \\[2.0ex]
&= 1.5\,\text{m}
\end{aligned}
$$
したがって、\(t=0.075\,\text{s}\) のとき、谷は元の位置から \(1.5\,\text{m}\) 進んだ
$$
\begin{aligned}
x &= 1.5 + 1.5 \\[2.0ex]
&= 3.0\,\text{m}
\end{aligned}
$$
の位置に到達します。
これは、\(x=3.0\,\text{m}\) の媒質が \(t=0.075\,\text{s}\) に谷になることを意味しており、図2の振動をしている場所が \(x=3.0\,\text{m}\) であることを示します。 - 周期性を考慮:
問題では \(0 \le x \le 2.0\,\text{m}\) の範囲で答える必要があります。
正弦波は波長\(\lambda\)ごとに同じ振動を繰り返します。この波の波長は \(\lambda=2.0\,\text{m}\) です。
したがって、\(x=3.0\,\text{m}\) の点と同じ振動をするのは、そこから波長だけ手前や先の点です。
$$
\begin{aligned}
x &= 3.0 – \lambda \\[2.0ex]
&= 3.0 – 2.0 \\[2.0ex]
&= 1.0\,\text{m}
\end{aligned}
$$
この位置は指定された範囲内にあります。
使用した物理公式
- 等速直線運動の式: \(\text{距離} = \text{速さ} \times \text{時間}\) (\(\Delta x = v \Delta t\))
- 波の空間的周期性
(上記で計算済み)
波の上をサーフィンする「谷くん」を想像してみましょう。図1の「集合写真」を見ると、時刻\(0\)秒のとき、谷くんは \(x=1.5\,\text{m}\) の場所にいます。図2の「実況中継」を見ると、谷くんがカメラの前を通過するのは \(0.075\) 秒後です。波の速さは \(20\,\text{m/s}\) なので、谷くんは \(0.075\) 秒間で \(1.5\,\text{m}\) 進みます。つまり、カメラがあるのは、スタート地点から \(1.5\,\text{m}\) 先の \(x = 1.5 + 1.5 = 3.0\,\text{m}\) の場所です。ただし、波は \(2.0\,\text{m}\) ごとに同じ景色が繰り返されるので、\(x=3.0\,\text{m}\) の場所と \(x=1.0\,\text{m}\) の場所の動きは全く同じです。問題の範囲に合うのは \(x=1.0\,\text{m}\) です。
主たる解法と完全に同じ結果が得られました。この方法は、波の進行を具体的な点の移動として捉えるため、物理的なイメージが掴みやすい解法です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- \(y-x\)グラフと\(y-t\)グラフの相関理解
- 核心: 波の現象を記述する2つの基本的なグラフ、すなわち「ある瞬間の空間的な波形(\(y-x\)グラフ)」と「ある地点の時間的な振動(\(y-t\)グラフ)」を正しく解釈し、両者を結びつける能力がこの問題の根幹です。これらは波という現象の異なる側面を切り取ったものにすぎず、本質は同じ一つの運動であると理解することが重要です。
- 理解のポイント:
- \(y-x\)グラフは波の「スナップ写真」です。ここからは、波の空間的な繰り返しパターンである波長\(\lambda\)と、振動の大きさである振幅\(A\)が読み取れます。
- \(y-t\)グラフは特定地点の「定点観測ビデオ」です。ここからは、振動の時間的な繰り返しパターンである周期\(T\)と、振幅\(A\)が読み取れます。
- 波の基本公式の適用
- 核心: 読み取った物理量(波長\(\lambda\)と周期\(T\))を用いて、波の最も基本的な性質である「速さ\(v\)」を計算することです。
- 理解のポイント:
- 速さ\(v\)、波長\(\lambda\)、周期\(T\)の関係式 \(v = \lambda / T\) は、「波が1波長\(\lambda\)の距離を進むのに、ちょうど1周期\(T\)の時間がかかる」という波の定義そのものを数式化したものです。この関係を理解していれば、公式を暗記するまでもなく自然に導き出せます。
- 媒質の振動方向の特定
- 核心: 波の進行方向が与えられたときに、\(y-x\)グラフ上の各点が次にどちらの向きに動くかを判断することです。
- 理解のポイント:
- 横波では、媒質は波の進行方向には移動せず、その場で上下(あるいは前後)に振動するだけです。
- 最も直感的な判断方法は、「波形を進行方向に少しだけずらして描いてみる」ことです。元の位置にいた媒質が、ずらした後の波形のどの高さにいるかを見ることで、その媒質の動きの向き(速度の向き)が分かります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 波の進行方向が逆(負の向き)の問題: この場合、媒質の振動方向を判断する際に、波形を「左」にずらして考えます。波の式を立てる場合は、\(y(x,t) = f(t+x/v)\) の形になります。
- \(y-t\)グラフが異なる初期位相を持つ問題: 図2のグラフが \(\cos\) 型や \(-\sin\) 型、\(-\cos\) 型で与えられることがあります。この場合も、\(t=0\)での変位と速度の向きを正確に読み取ることが鍵となります。
- \(y-x\)グラフが \(t=0\) 以外の時刻で与えられる問題: 例えば「\(t=1.0\,\text{s}\)の波形」が与えられた場合、\(t=0\)の波形を推測するか、位相のズレを考慮して波の式を立てる必要があります。
- 縦波(疎密波)の問題: \(y-x\)グラフを媒質の変位と読み替えることで、媒質が最も密な点(\(y\)の傾きが最小)や最も疎な点(\(y\)の傾きが最大)を特定する問題に応用できます。
- 初見の問題での着眼点:
- まずはグラフの軸を確認する: 横軸が位置\(x\)なのか時間\(t\)なのかを最初に確認します。これがすべての出発点です。
- グラフから読み取れる物理量をすべて抜き出す:
- \(y-x\)グラフ → 波長\(\lambda\)、振幅\(A\)
- \(y-t\)グラフ → 周期\(T\)、振幅\(A\)
これらを問題用紙の余白にメモしておくと、思考が整理されます。
- 媒質の速度の向きを問われたら、波形をずらす: 問題文で波の進行方向が指定されていることを確認し、その方向に波形を微小時間分だけ平行移動させた図を書き込みます。矢印で各点の動きを示せば、間違いが起こりにくくなります。
- 2つのグラフを結びつける条件を探す: (2)のような問題では、2つのグラフをつなぐ「共通の事実」を探します。この問題では「\(t=0\)の瞬間」が共通点でした。\(t=0\)における一方のグラフの情報(変位と速度)が、もう一方のグラフのどこに対応するかを探す、という視点で考えます。
- 視覚的な解法が難しい場合は、数式に頼る: グラフの形が複雑であったり、必要な点が目盛り上にない場合は、波の一般式を立てて代数的に解くアプローチを検討します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- \(y-x\)グラフと\(y-t\)グラフの混同:
- 誤解: \(y-x\)グラフの山から山までの距離を「周期」、\(y-t\)グラフの山から山までの時間を「波長」と勘違いしてしまう。
- 対策: グラフの横軸の意味を常に意識しましょう。「\(x\)はspace(空間)、\(t\)はtime(時間)」と覚え、空間の繰り返しが「波長」、時間の繰り返しが「周期」であると、言葉の定義とセットで記憶します。
- 媒質の移動方向の誤解:
- 誤解: 波が右に進むので、媒質も(振動しながら)右に移動していくと考えてしまう。
- 対策: 横波の媒質は「その場」で振動するだけ、という大原則を思い出しましょう。海の波で浮き輪が上下するだけで流されていかないのと同じです。波は「形(位相)」が伝わる現象であり、「物質」が移動する現象ではないことを理解することが重要です。
- 速度の向きの判断ミス:
- 誤解: \(y-x\)グラフで、\(x\)軸より上にある点は上向きに、下にある点は下向きに動くと考えてしまう。
- 対策: 媒質の速度の向きは、変位\(y\)の正負ではなく、波の進行方向によって決まります。必ず「波形を少しずらす」という操作を行って判断する癖をつけましょう。例えば、\(x\)軸正の向きに進む波では、山の少し手前(左側)の点は上向き、山の少し先(右側)の点は下向きに動きます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- (1)での公式選択(\(v = \lambda / T\)):
- 選定理由: 求めたい物理量は「速さ\(v\)」です。問題で与えられているのは、波の空間的な情報(\(y-x\)グラフ)と時間的な情報(\(y-t\)グラフ)です。これらの情報から直接読み取れる物理量である「波長\(\lambda\)」と「周期\(T\)」を用いて、速さを定義する最も基本的で直接的な関係式が \(v = \lambda / T\) であるため、これを選択するのが必然です。
- 適用根拠: この公式は、波が「1周期\(T\)という時間をかけて1波長\(\lambda\)という距離を進む」という、波の運動の定義そのものです。この定義はあらゆる波に共通して成り立つため、正弦波であるこの問題に問題なく適用できます。
- (2)でのアプローチ選択(微小時間後の波形を考える):
- 選定理由: 求めたいのは「図2の振動をしている媒質の場所\(x\)」です。図2からわかるのは「\(t=0\)での変位と速度の向き」という情報です。この「速度の向き」という動的な情報を、静的な\(y-x\)グラフ上で判断するための最も直感的で簡単な方法が、「波形を少しだけ未来に進めてみる」という思考実験だからです。
- 適用根拠: 波が進行するということは、波形(位相)がその形を保ったまま、一定の速さで移動していくことを意味します。したがって、微小時間後の波形は、元の波形を進行方向にわずかに平行移動させたものとして描くことができます。この物理的な事実が、この解法の正しさを保証しています。
- (2)別解でのアプローチ選択(波の式を立てる):
- 選定理由: グラフから読み取った情報を、\(y(x,t)\)という一つの数式に集約することで、視覚的な判断や思考実験に頼らず、数学的な手続きだけで厳密に答えを導き出したい場合に選択します。特に、グラフの読み取りが難しい場合や、より一般的な状況を解析する際に強力な武器となります。
- 適用根拠: 正弦波の運動は、数学的には正弦関数(sinまたはcos)で完全に記述できます。図1と図2で与えられた情報は、この関数のパラメータ(振幅\(A\)、波長\(\lambda\)、周期\(T\))と初期条件(初期位相\(\delta\))を決定するためのものです。関数形が確定すれば、それはその波のすべての情報を内包しているため、問題の条件を満たす\(x\)を方程式を解くことで求めることができます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- グラフの目盛りを二度見する:
- 読み取るべき値の目盛りを指でしっかり押さえ、その数値と単位を正確に読み取ります。特に、\(0.1\), \(0.01\)などの小数点の位置や、\(m\)と\(cm\)、\(s\)と\(ms\)といった単位の接頭辞は見落としやすいポイントです。
- 単位を意識した立式と計算:
- (1)の計算で、\(v = 2.0\,\text{m} / 0.10\,\text{s}\) のように、数値だけでなく単位も一緒に書く癖をつけると、最終的な答えの単位が正しく \(\text{m/s}\) になるかを確認でき、単純な代入ミスを防げます。
- 物理的なイメージと照らし合わせる:
- (2)で \(x=1.0\,\text{m}\) という答えが出たら、図1のその場所をもう一度見てみましょう。\(x=1.0\,\text{m}\)は、波が右に進むとこれから山に向かって上がっていく場所です。これは図2の\(t=0\)の状況(\(y=0\)から正の方向へ動く)と確かに一致します。このような簡単な吟味で、答えの妥当性を確認できます。
- 別解による検算:
- (2)は複数のアプローチが可能です。もし試験時間に残りがれば、主たる解法(波形をずらす)で得た答えを、別解(波の式や位相の追跡)で検算してみるのが理想的です。異なる方法で同じ結論に至れば、その答えはほぼ間違いありません。
- 波の式の初期位相決定は慎重に:
- 別解1のように波の式を立てる場合、初期位相\(\delta\)の決定が最も間違いやすい部分です。\(y(0,0)=0\) という条件だけでは \(\delta=0\) か \(\pi\) か決まりません。\(t=0\)での速度の向き(\(y-t\)グラフの傾き)や、\(x=0\)での波形の傾き(\(y-x\)グラフの傾き)といった、もう一つの条件を使って初めて一意に定まることを忘れないようにしましょう。
341 縦波の横波表示
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「縦波の変位の可視化(横波表示)」です。縦波は媒質の密度の変化が伝わる波であり、そのままだと波形として直感的に捉えにくいです。そこで、各媒質のつりあいの位置からの「変位」を、見慣れた横波のような形のグラフに変換する手法を学びます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 縦波の変位の理解: 媒質の振動方向が波の進行方向と平行であること。変位には向き(正負)と大きさがあること。
- 横波表示のルール: 縦波の変位(\(x\)方向のベクトル量)を、グラフの\(y\)軸の値(スカラー量)に変換して見やすくする手法のルールを理解すること。
- 変位の正負の対応: 問題文の指示通り、\(x\)軸正の向きの変位を\(y\)軸正の値に、\(x\)軸負の向きの変位を\(y\)軸負の値に対応させること。
- 密部と疎部の物理的意味: 媒質の密度が周囲より大きい「密部」と、小さい「疎部」がどのように形成されるかを、媒質の変位から理解すること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
図(b)に示された各媒質のつりあいの位置からの変位(矢印)を、問題文で与えられたルールに従って、グラフの縦軸の値に一つずつ変換(プロット)していきます。最後に、プロットした点を滑らかな曲線で結ぶことで、横波表示のグラフを完成させます。
思考の道筋とポイント
縦波は媒質の疎密の波であり、その状態を視覚的に理解するのは難しい場合があります。そこで、各媒質が「つりあいの位置からどちらの向きに、どれだけずれているか」という「変位」の情報に着目します。この変位の情報を、あたかも横波の変位であるかのようにグラフに表示する手法が「横波表示」です。この問題は、その変換ルールを正しく適用できるかを問うています。「右へのずれ(正の変位)はグラフの上方向(\(y\)が正)へ」「左へのずれ(負の変位)はグラフの下方向(\(y\)が負)へ」という変換ルールを、図に示された各点に適用していきます。
この設問における重要なポイント
- 各媒質の「つりあいの位置」(図(a)の黒点)が、グラフの横軸(\(x\)軸)の位置に対応する。
- 各媒質の「変位の向きと大きさ」(図(b)の矢印)が、グラフの縦軸(\(y\)軸)の値に対応する。
- 変位が\(0\)の点は、グラフが\(x\)軸と交わる点。
- 変位が正で最大の点は、グラフの山の頂点。
- 変位が負で最大の点は、グラフの谷の底。
具体的な解説と立式(作図の手順)
- 図(a)に示されている、等間隔に並んだ媒質のつりあいの位置が、これから描くグラフの\(x\)軸の各点の位置に対応します。
- 図(b)の下に描かれている、各媒質の変位を示す矢印に注目します。この矢印の始点が各媒質のつりあいの位置、矢印の向きと長さが変位の向きと大きさを表しています。
- 問題文の指示「\(x\)軸の正の向きの変位を\(y\)軸の正の向きへ, \(x\)軸の負の向きの変位を\(y\)軸の負の向きに移し」に従い、各媒質の変位をグラフ上にプロットしていきます。左から順に見ていきましょう。
-
- 1番目(左端)の媒質: 右向き(正)の矢印で、変位が最大。よって、グラフの山の頂点となる、正で最大の\(y\)の値を持つ点をプロットします。
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- 2番目の媒質: 右向き(正)の短い矢印。よって、少しだけ正の\(y\)の値を持つ点をプロットします。
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- 3番目の媒質: 矢印がなく、変位は\(0\)。よって、グラフ上の対応する\(x\)の位置に、\(y=0\)の点をプロットします。
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- 4番目の媒質: 左向き(負)の短い矢印。よって、少しだけ負の\(y\)の値を持つ点をプロットします。
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- 5番目の媒質: 左向き(負)の長い矢印で、変位が負で最大。よって、グラフの谷の底となる、負で最大の\(y\)の値を持つ点をプロットします。
-
- 6番目の媒質: 左向き(負)の短い矢印。少しだけ負の\(y\)の値を持つ点をプロットします。
-
- 7番目の媒質: 変位が\(0\)。よって、\(y=0\)の点をプロットします。
- このように、残りのすべての点についても同様にプロットを続けます。
-
- 最後に、プロットしたすべての点を滑らかな正弦曲線で結び、グラフを完成させます。
使用した物理公式
- (作図問題のため、特定の物理公式は使用しません)
(作図問題のため、計算過程はありません)
ばねの伸び縮みで伝わる波(縦波)は、見ただけでは波の形がよく分かりません。そこで、波の様子を分かりやすく「翻訳」する方法が、この問題でやっていることです。それぞれの点が「元の場所から、右にどれだけズレたか、左にどれだけズレたか」を調べます。そして、「右へのズレ」をグラフの「上方向の高さ」に、「左へのズレ」をグラフの「下方向の深さ」に置き換えて、点々を打っていきます。すべての点についてこの作業を行うと、見慣れた波の形(横波のようなグラフ)が現れます。これは、縦波の情報を、見やすい横波のグラフというフォーマットに変換する作業なのです。
作図により、縦波の変位を横波表示のグラフに変換することができました。完成したグラフは、模範解答の図に示されているピンク色の曲線のようになります。
このグラフから、重要なことがわかります。
- 媒質の変位が最大となる場所(グラフの山や谷)は、媒質が最も大きく動いている点です。
- 一方、媒質の密度が最も高くなる「密」の部分は、グラフが\(x\)軸を負の傾きで横切る点(3番目や7番目の媒質の位置)に対応します。なぜなら、この点の右側の媒質は左に(負に)変位し、左側の媒質は右に(正に)変位しているため、この点に媒質が集まってくるからです。
- 逆に、密度が最も低くなる「疎」の部分は、グラフが\(x\)軸を正の傾きで横切る点に対応します。この点からは、左右の媒質が両方とも離れていくように変位しているためです。
このように、変位が最大の点と密度が最大の点は一致しない、ということを理解することが、縦波の横波表示をマスターする上で非常に重要です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 縦波の変位と媒質の密度の関係
- 核心: この問題の根幹は、縦波における媒質の「変位」と「密度」という2つの異なる物理量の関係を理解することです。横波表示は、目に見えない「変位」をグラフ化する手段であり、そのグラフから目に見える「密度」の変化を読み解く能力が問われます。
- 理解のポイント:
- 変位: 各媒質が、つりあいの位置からどれだけズレているかを表すベクトル量です。横波表示では、この\(x\)方向の変位を\(y\)軸の値に変換します。
- 密度: ある領域にどれだけ媒質が詰まっているかを表すスカラー量です。媒質が集まってくる場所が「密」、媒質が散っていく場所が「疎」となります。
- 重要な関係: 媒質の密度が最大(密)または最小(疎)になる場所は、変位が\(0\)の場所です。逆に、変位が最大になる場所(横波表示の山や谷)では、媒質の密度はつりあいの状態と同じになります。この関係性を正確に理解することが核心です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 横波表示グラフから縦波の変位や疎密を答える問題: 今回とは逆の変換です。グラフの\(y\)の値が正なら右向きの変位、負なら左向きの変位の矢印を描きます。また、グラフの傾きが負で最大になる点(\(x\)軸を負の傾きで横切る点)が最も密な点、傾きが正で最大になる点が最も疎な点であることを見抜きます。
- 音波の問題: 音波は空気の疎密が伝わる縦波の代表例です。音圧が最大・最小になる点と、空気分子の変位の関係を問う問題は、この問題と全く同じ考え方で解くことができます。
- 波の進行を伴う問題: 「この瞬間の後、最も密になる点はどちらに動くか」といった問題。横波表示グラフに波の進行方向(例えば右向き)を仮定し、波形を少しずらして考えます。最も密な点(\(y=0\)で傾きが負)の媒質の変位は\(0\)ですが、次の瞬間には負の変位(左向きの動き)をすることがわかります。
- 初見の問題での着眼点:
- まずは「変位」の定義を再確認する: 問題で示されている矢印やグラフが、媒質の「位置」なのか「変位」なのかを明確に区別します。変位は必ず「つりあいの位置から」のズレです。
- 変換ルールを問題文から正確に読み取る: 「\(x\)軸正の変位を\(y\)軸正へ」というルールは絶対です。問題によっては逆の定義がされる可能性もゼロではないので、必ず確認します。
- 密・疎を判断するときは「変位」ではなく「変位の変化率(グラフの傾き)」に着目する:
- 媒質が集まる(密)→ 左からは右向きの変位、右からは左向きの変位。これは、変位が正から負に変化する場所、つまり横波表示グラフの傾きが負である場所を意味します。特に、変位が\(0\)で傾きが負の点が最も密になります。
- 媒質が離れる(疎)→ 左へは左向きの変位、右へは右向きの変位。これは、変位が負から正に変化する場所、つまり横波表示グラフの傾きが正である場所を意味します。特に、変位が\(0\)で傾きが正の点が最も疎になります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 変位が最大の点が、最も密または疎であるという誤解:
- 誤解: 横波表示グラフの山の頂点(正の変位最大)が最も密で、谷の底(負の変位最大)が最も疎だと考えてしまう。
- 対策: 変位が最大の点(山の頂点)を考えてみましょう。その点のすぐ左の媒質も、すぐ右の媒質も、ほぼ同じ大きさで右向きに変位しています。つまり、媒質は全体として「平行移動」しているだけで、間隔はほとんど変わっていません。したがって、密度はつりあいの状態とほぼ同じです。「密・疎」は媒質の「集まり具合」であり、変位の大きさそのものではないことを理解しましょう。
- 変位\(0\)の点が常に同じ状態であるという誤解:
- 誤解: 変位が\(0\)の点は、媒質が動いておらず、密度も平常であると考えてしまう。
- 対策: 変位が\(0\)の点には、「密」な点と「疎」な点の2種類があります。横波表示グラフで\(x\)軸と交わる点でも、グラフが右下がりの点(傾きが負)は「密」、右上がりの点(傾きが正)は「疎」です。変位が\(0\)という情報だけでは不十分で、その周りの媒質がどのように動いているか(グラフの傾き)まで見る必要があります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- この問題でのアプローチ選択(ルールに基づく作図):
- 選定理由: この問題は物理法則を応用して未知の量を計算するものではなく、縦波の「変位」という物理量を、横波表示という別の形式に「翻訳(変換)」する手順そのものを問うています。したがって、選択すべきは物理公式ではなく、問題文で与えられた「翻訳のルール」です。
- 適用根拠: 縦波の横波表示は、物理現象を人間が直感的に理解しやすくするために考案された表現方法です。その表現には、「\(x\)軸正の変位を\(y\)軸正の値に対応させる」という約束事(定義)があります。この問題は、その約束事を正しく理解し、図に適用できるかを確認するものです。したがって、このルールに従って一つ一つの点の変位をグラフにプロットしていくことが、唯一の正しい解法となります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- (この問題は作図が中心であり、計算ミスは発生しにくいですが、作図における注意点を挙げます)
- 1点ずつ丁寧に対応させる:
- 焦って全体を一度に描こうとせず、図(a)の1番目の点、2番目の点…と順番に、図(b)の変位の矢印を確認し、グラフ用紙にプロットしていく、という地道な作業を確実に行いましょう。指で場所を押さえながら作業すると、位置の対応ミスを防げます。
- 変位の大きさを相対的に捉える:
- 矢印の長さを正確に測る必要はありませんが、「変位\(0\)」「変位が最大」「その中間」の3段階くらいを意識してプロットすると、綺麗な正弦曲線が描きやすくなります。
- 密部・疎部の位置を書き込んで検算する:
- グラフを描き終えた後、模範解答のように「密」「疎」の位置を書き込んでみましょう。例えば、3番目の媒質の位置は、左の媒質(2番目)が右に、右の媒質(4番目)が左に変位しているので、確かに「密」になっています。このように物理的な意味と照らし合わせることで、作図の正しさを確認できます。
342 縦波の表し方
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(1)の別解: グラフの「傾き」で密・疎を判断する解法
- 模範解答が元の縦波の変位の矢印を描いて視覚的に判断するのに対し、別解では横波表示グラフの数学的な性質である「傾き」に着目して、より直接的に密な部分を特定します。
- 設問(3)の別解: 媒質の速度とグラフの傾きの関係式を用いる解法
- 模範解答が微小時間後の波形を描いて速度の向きを判断するのに対し、別解では媒質の振動速度と横波表示グラフの傾きの間に成り立つ物理的な関係式を用いて、代数的に条件を満たす点を求めます。
- 設問(1)の別解: グラフの「傾き」で密・疎を判断する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 図を用いた直感的な解法に加え、グラフの「値(変位)」と「傾き(密度や速度に関係)」という異なる情報がそれぞれ何を意味するのかを理解することで、縦波の性質をより深く、多角的に捉える力が養われます。
- 思考の効率化: グラフの傾きと密・疎の関係などを一度理解してしまえば、毎回変位の矢印を描き直すよりも素早く、機械的に答えを導き出せるようになります。
- 解法の選択肢拡大: 視覚的なアプローチと数理的なアプローチの両方を身につけることで、問題の形式に応じて最適な解法を選択できるようになり、応用力が高まります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「縦波の横波表示グラフの読解」です。縦波の変位を可視化したグラフを見て、媒質の変位、密度、振動速度といった物理的な状態を正しく読み取る能力を養うことが目的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 横波表示の定義の理解: グラフの縦軸(\(y\))の値が、媒質の本来の振動方向(\(x\)軸方向)の変位を表していることを理解していること。\(y>0\)は\(x\)軸正の向きへの変位、\(y<0\)は\(x\)軸負の向きへの変位に対応します。
- 密部・疎部の判断: 媒質の変位から、どの場所で媒質が密集し(密)、どの場所で過疎になっているか(疎)を判断できること。
- 媒質の振動速度: 媒質の振動は単振動とみなせます。変位が\(0\)の位置で速さが最大になり、変位が最大の位置(振動の端)で速さが\(0\)になることを理解していること。
- 波の進行と媒質の運動: 波が進行する向きが分かっているとき、微小時間後の波形を描くことで、各媒質が次にどちらの向きに動くか(速度の向き)を判断できること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、横波表示グラフから各点の変位の様子を読み取り、媒質が集まってくる「密」な場所を特定します。
- (2)では、横波表示の定義に従い、グラフの\(y\)座標が正で最大になる点を探します。
- (3)と(4)では、まず単振動の性質から速さが最大になる点(変位\(0\))と速さが\(0\)になる点(変位最大)を特定します。次に、波が進行する向きに微小時間だけ波形をずらし、各点の速度の向きを判断して、問題の条件に合う点を選び出します。
問(1)
思考の道筋とポイント
「最も密な部分」とは、媒質が最も密集している場所のことです。横波表示グラフは媒質の「変位」を表しているので、この変位の様子から、媒質がどの点に集まってくるのかを考えます。ある点に着目したとき、その点のすぐ左側の媒質が右向きに、すぐ右側の媒質が左向きに変位していれば、その点に媒質が集まってくることになります。
この設問における重要なポイント
- 横波表示グラフの\(y\)が正の領域では、媒質は\(x\)軸正の向き(右向き)に変位している。
- 横波表示グラフの\(y\)が負の領域では、媒質は\(x\)軸負の向き(左向き)に変位している。
- 「密」な点では、左右から媒質がその点に向かってくる。
具体的な解説と立式
グラフ上の各点について、その周辺の媒質の動きを考えます。
- 点O: Oのすぐ左側(原点に近い側)では\(y>0\)なので、媒質は右向きに変位しています。Oのすぐ右側(Aに近い側)では\(y<0\)なので、媒質は左向きに変位しています。したがって、媒質はOに向かって集まってくるため、Oは密な部分です。
- 点B: Bのすぐ左側(Aに近い側)では\(y<0\)なので、媒質は左向きに変位しています。Bのすぐ右側(Cに近い側)では\(y>0\)なので、媒質は右向きに変位しています。したがって、媒質はBから離れていくため、Bは疎な部分です。
- 点D: Dのすぐ左側(Cに近い側)では\(y>0\)なので、媒質は右向きに変位しています。Dのすぐ右側(Eに近い側)では\(y<0\)なので、媒質は左向きに変位しています。したがって、媒質はDに向かって集まってくるため、Dは密な部分です。
よって、最も密な部分はO, Dとなります。
使用した物理公式
- (特になし。グラフの読解が中心)
(計算は不要)
「密」になる場所を探すのは、いわば「満員電車」の中心を探すようなものです。横波表示グラフは、各乗客(媒質)が「元の位置から右にずれたか、左にずれたか」を示しています。ある場所が混雑するのは、その場所の左側にいる人が右にずれ、右側にいる人が左にずれて、みんながそこに集まってくるときです。グラフでこの条件に合う場所を探すと、OとDが見つかります。
最も密な部分はO, Dであると判断できました。これは、変位が\(0\)で、かつグラフの傾きが負になっている点に対応します。
思考の道筋とポイント
縦波の密度変化と、横波表示グラフの傾きには直接的な関係があります。媒質が集まる「密」な場所は、変位\(y\)が\(x\)の増加とともに減少する場所に対応します。この関係性を知っていると、より迅速かつ数学的に密・疎を判断できます。
この設問における重要なポイント
- 媒質が集まってくる「密」な部分では、変位\(y\)が\(x\)の増加とともに減少する。つまり、グラフの傾き \(\displaystyle\frac{dy}{dx}\) が負になる。
- 媒質が離れていく「疎」な部分では、変位\(y\)が\(x\)の増加とともに増加する。つまり、グラフの傾き \(\displaystyle\frac{dy}{dx}\) が正になる。
- 最も密・疎になるのは、変位が\(0\)の点(傾きの絶対値が最大になる点)である。
具体的な解説と立式
「最も密な部分」とは、グラフの傾きが負であり、その絶対値が最も大きくなる点です。グラフの各点の傾きを定性的に調べます。
- 点O, D: グラフが\(x\)軸と交わり、傾きが負になっています。傾きの急さも最大です。したがって、OとDは最も密な部分です。
- 点B: グラフが\(x\)軸と交わり、傾きが正になっています。ここは最も疎な部分です。
- 点A, C, E: グラフの谷や山では、接線の傾きが\(0\)になります。これらの点では密度はつりあいの状態と同じです。
したがって、最も密な部分はO, Dです。
使用した物理公式
- 縦波の密度と変位グラフの傾きの関係:
$$ \text{密な部分} \Leftrightarrow \frac{dy}{dx} < 0 $$ $$ \text{疎な部分} \Leftrightarrow \frac{dy}{dx} > 0 $$
(定性的な判断のため、計算は不要)
グラフを坂道だと考えてみましょう。「密」な場所は、媒質が集まってくる場所です。これは、グラフが「下り坂」になっている場所に対応します。なぜなら、下り坂では、坂の上のほう(左側)の点はプラスの高さ(右へのズレ)、坂の下のほう(右側)の点はマイナスの高さ(左へのズレ)に向かう途中なので、媒質が坂の途中に集まってくるイメージです。特に、最も急な下り坂であるOとDが、最も密な場所になります。
主たる解法と完全に同じ結果が得られました。グラフの傾きが媒質の集まり具合(密度の変化)に対応するという物理的意味を理解すると、毎回変位の矢印を描き直す必要がなく、非常に効率的に問題を解くことができます。
問(2)
思考の道筋とポイント
この問題は、横波表示グラフの定義を正しく理解しているかを確認するものです。問題文とグラフの定義から、「変位が\(x\)軸の正の向きに最大」という条件が、グラフ上で何を意味するのかを直接的に読み取ります。
この設問における重要なポイント
- 横波表示では、\(y\)軸の正の向きが、\(x\)軸の正の向きの変位に対応する。
- 「変位が\(x\)軸の正の向きに最大」とは、グラフの\(y\)座標が正の最大値をとる点のこと。
具体的な解説と立式
グラフ上で、\(y\)座標が正の最大値をとっている点を探します。
それは、波の山の頂点である点Cです。
使用した物理公式
- (特になし。グラフの定義の読解)
(計算は不要)
このグラフは、右方向へのズレを「高さ」で表すというルールで作られています。「右方向へのズレが一番大きい場所はどこですか?」と聞かれているので、単純にグラフの高さが一番高い場所(山のてっぺん)を探せばよく、それは点Cです。
変位が\(x\)軸の正の向きに最大の部分はCであると判断できました。
問(3)
思考の道筋とポイント
「振動の速さ」と「速度の向き」の2つの条件を満たす点を探します。まず、媒質の振動は単振動なので、速さが最大になる場所を特定します。次に、波が\(x\)軸正の向きに進むことを利用して、微小時間後の波形を描き、速度の向きが「波の進行する向き(\(x\)軸正の向き)」と一致する点を選び出します。
この設問における重要なポイント
- 媒質の振動の速さは、変位が\(0\)の点(振動の中心)で最大になる。
- 速度の向きは、波形を進行方向に少しずらすことで判断できる。
- 「波の進行する向き」とは\(x\)軸正の向きであり、横波表示では\(y\)軸正の向きの速度に対応する。
具体的な解説と立式
- 速さが最大の点を探す:
媒質の速さが最大になるのは、変位が\(0\)の点です。グラフ上で\(y=0\)となる点は、O, B, Dです。 - 速度の向きを調べる:
問題文より、波は\(x\)軸の正の向き(右向き)に進みます。そこで、現在の波形(実線)が微小時間後にどうなるか(破線)を、少し右にずらして描きます(模範解答の図2参照)。- 点O: 微小時間後、変位は正の値になる(破線が実線より上にある)。つまり、速度は\(y\)軸正の向き。これは「波の進行する向き(\(x\)軸正の向き)」の速度に対応するため、条件に合います。
- 点B: 微小時間後、変位は負の値になる(破線が実線より下にある)。つまり、速度は\(y\)軸負の向き。これは条件に合いません。
- 点D: 微小時間後、変位は正の値になる(破線が実線より上にある)。つまり、速度は\(y\)軸正の向き。これも条件に合います。
以上より、2つの条件をともに満たすのはO, Dです。
使用した物理公式
- (特になし。単振動の性質とグラフの読解)
(計算は不要)
まず、「一番スピードが出ている」場所を探します。これはブランコが一番下に来たときと同じで、振動の中心(高さ\(0\)の場所)であるO, B, Dが候補です。次に、その中でも「波が進むのと同じ向き(右向き)に動いている」場所を探します。波全体をパラパラ漫画のように少しだけ右に動かしてみると、OとDは上に(=右向きの動きに相当)、Bは下に(=左向きの動きに相当)動こうとしていることがわかります。よって、条件に合うのはOとDです。
振動の速さが波の進行する向きに最大の部分はO, Dであると判断できました。
思考の道筋とポイント
\(x\)軸正の向きに進む縦波において、媒質の速度\(v_y\)(横波表示での上下の速度)とグラフの傾き \(\displaystyle\frac{dy}{dx}\) の間には、\(v_y = -v \frac{dy}{dx}\)(\(v\)は波の速さで正の定数)という関係が成り立ちます。この数学的な関係を利用して、条件を満たす点を厳密に求めます。
この設問における重要なポイント
- 媒質の速度\(v_y\)は、グラフの傾き\(\displaystyle\frac{dy}{dx}\)に比例し、符号が逆になる。
- 「振動の速さが波の進行する向きに最大」とは、\(v_y\)が正で最大になることを意味する。
- \(v_y\)が正で最大になるためには、関係式から、傾き\(\displaystyle\frac{dy}{dx}\)が負で最大(最も急な下り坂)になる必要がある。
具体的な解説と立式
問題の条件は「振動の速さが波の進行する向き(\(x\)軸正の向き)に最大」です。
横波表示では、これは「速度\(v_y\)が正で最大」であることと同じです。
関係式 \(v_y = -v \frac{dy}{dx}\) より、\(v_y\)が正で最大となるのは、\(\frac{dy}{dx}\)が負で最大となるときです。
グラフ上で、傾きが負で最も急になっている点を探します。
- 点O, D: グラフが\(x\)軸と交わり、傾きが負で最も急になっています。
- 点B: 傾きが正で最も急であり、ここは\(v_y\)が負で最大(波の進行と逆向きに速さが最大)の点です。
- 点A, C, E: 傾きが\(0\)であり、ここは\(v_y=0\)(速さが\(0\))の点です。
したがって、条件を満たすのはO, Dです。
使用した物理公式
- 媒質の速度と変位グラフの傾きの関係: \(v_y = -v \displaystyle\frac{dy}{dx}\) (\(v\): 波の速さ)
(定性的な判断のため、計算は不要)
波のグラフには面白い性質があり、「グラフの傾き」から「媒質の速度」がわかります。ルールは「傾きと速度は、プラス・マイナスが逆になる」です。つまり、「急な下り坂(傾きが負で最大)」になっている場所ほど、「上向きの速度(正の速度)が最大」になります。問題では「進行方向(右向き=上向きの速度)に速さが最大」の場所を聞かれているので、グラフの中で最も急な下り坂になっているOとDを探せばよいのです。
主たる解法と完全に同じ結果が得られました。この関係式は、波の速度を考える上で非常に強力なツールであり、波形をずらして考える視覚的な方法の数学的な裏付けにもなっています。
問(4)
思考の道筋とポイント
媒質の振動は単振動です。単振動において、物体の速さが\(0\)になる瞬間はいつかを考えれば、すぐに答えがわかります。
この設問における重要なポイント
- 単振動では、速さは振動の折り返し点(変位が最大の点)で\(0\)になる。
- 横波表示グラフの「山」と「谷」が、変位が最大になる点に対応する。
具体的な解説と立式
媒質の振動の速さが\(0\)になるのは、変位が最大になるときです。
グラフ上で変位\(y\)が最大値または最小値をとる点を探します。
- 点A, E: 変位が負の向きに最大(谷の底)。
- 点C: 変位が正の向きに最大(山の頂点)。
したがって、速さが\(0\)になる部分はA, C, Eです。
使用した物理公式
- (特になし。単振動の性質の理解)
(計算は不要)
ブランコに乗っているとき、一番高いところまで上がると、一瞬だけ動きが止まってから反対方向に動き出します。媒質の振動もこれと同じです。振動の端っこ、つまりズレが最大になる場所で速さが\(0\)になります。グラフで言うと、一番高い山の頂点(C)と、一番深い谷の底(A, E)がその場所にあたります。
振動の速さが\(0\)の部分はA, C, Eであると判断できました。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 横波表示グラフの多角的解釈
- 核心: この問題の根幹は、一枚の「横波表示グラフ」から、縦波に関する複数の異なる物理量(変位、密度、速度)を正確に読み解く能力です。グラフの「縦軸の値(高さ)」が変位を、「傾き」が密度変化や速度を、そして「波形の時間変化」が速度の向きを示す、というように、グラフの様々な側面が異なる物理情報に対応していることを理解することが核心です。
- 理解のポイント:
- グラフの値 \(y\) → 変位: グラフの縦軸の値は、定義そのもの。\(y>0\)なら右向きの変位、\(y<0\)なら左向きの変位。
- グラフの傾き \(\frac{dy}{dx}\) → 密度変化: 傾きが負の場所は媒質が集まる「密」、正の場所は媒質が離れる「疎」。
- 単振動の性質 → 速さの大きさ: 変位が\(0\)の点(\(x\)軸との交点)で速さは最大、変位が最大の点(山と谷)で速さは\(0\)。
- 波形の移動 → 速度の向き: 波を進行方向に少しずらすことで、各点が次に上下どちらに動くか(=媒質が左右どちらに動くか)がわかる。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 縦波の変位の図から横波表示グラフを描かせる問題: 前問(341)のように、今回とは逆の変換を問う問題。
- 音波(空気の圧力)との関連問題: 音波は縦波であり、媒質の「密」な部分が「圧力の高い」部分に対応します。横波表示グラフから「最も圧力の高い点はどこか?」と問われたら、(1)の「最も密な部分」と同じ答えになります。
- 波の進行方向が逆(負の向き)の場合: (3)で速度の向きを判断する際に、波形を「左」にずらして考える必要があります。その結果、速度が正の向きになるのは点Bになります。
- ある瞬間の後、特定の状態になる点を問う問題: 「この瞬間の後、初めて最も密になる点はどこか?」のような問題。各点の振動の位相を考え、次にその状態になるまでの時間を比較する必要があります。
- 初見の問題での着眼点:
- まず、グラフの縦軸が「変位」であることを再確認する: これが全ての解釈の出発点です。
- 問われている物理量に応じて、グラフのどこに着目するかを切り替える:
- 「変位」を問われたら → グラフの高さ(\(y\)の値)をそのまま見る。
- 「密・疎」を問われたら → グラフの傾きを見る(負で密、正で疎)。あるいは、\(x\)軸との交点の周りの変位を考える。
- 「速さの大きさ」を問われたら → 単振動の知識を使い、高さ(変位)から判断する(\(y=0\)で最大、\(y\)が最大で\(0\))。
- 「速度の向き」を問われたら → 波形を進行方向にずらして、上下どちらに動くかを見る。
- 情報をグラフに書き込む: 設問を解きながら、各点(O〜E)の状態(密、疎、速度の向きなど)をグラフの近くにメモしていくと、思考が整理され、後の設問を解く際に役立ちます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 変位が最大の点が、最も密または疎であるという誤解:
- 誤解: 横波表示グラフの山の頂点(C)が最も媒質が詰まっている(密)、谷の底(A, E)が最もスカスカ(疎)だと直感的に考えてしまう。
- 対策: 変位が最大の点では、その周辺の媒質もほぼ同じように大きくずれているため、媒質間の「間隔」はつりあいの状態とほとんど変わりません。したがって密度は平常です。「密・疎」は媒質の「集まり具合」であり、「ズレの大きさ」ではないことを明確に区別しましょう。
- 変位\(0\)の点が常に同じ状態であるという誤解:
- 誤解: 変位が\(0\)の点(O, B, D)は、媒質が元の位置にいるので、すべて同じ状態(速さが最大で密度は平常)だと考えてしまう。
- 対策: 変位が\(0\)でも、その周りの媒質が「集まってくる」のか「離れていく」のかで状況が全く異なります。グラフの傾きが負の点(O, D)は「密」、傾きが正の点(B)は「疎」です。変位が\(0\)という情報だけでは不十分で、その空間的な変化(傾き)まで見る必要があります。
- 媒質の振動速度と波の進行速度の混同:
- 誤解: 波は一定の速さで右に進むので、媒質も常に右向きに動いていると考えてしまう。
- 対策: 媒質は「その場」で左右に振動(単振動)しているだけであり、波と一緒に進んでいくわけではありません。波の進行速度\(v\)は波形が伝わる速さ(定数)であり、媒質の振動速度\(v_y\)は単振動の速さ(常に変化する変数)です。両者は全くの別物です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- (1) 密度の判断でのアプローチ選択(変位の図を想像する):
- 選定理由: 「密」という言葉の物理的な定義(媒質が集まっている状態)に最も忠実な思考法だからです。横波表示グラフを、頭の中で元の縦波の変位の矢印に「逆翻訳」し、定義と照らし合わせることで、物理現象に即した確実な答えが得られます。
- 適用根拠: 横波表示は縦波の変位を可視化したものです。その表示のルール(\(y>0\)なら右向き変位など)は定義なので、そのルールに従って元の姿を復元することは論理的に正しい手順です。
- (3) 速度の向きの判断でのアプローチ選択(波形をずらす):
- 選定理由: 波が進行するということは、「波形がその形を保ったまま平行移動していく」という現象です。この物理現象を、紙の上で最も直感的に、かつ簡単にシミュレーションする方法が「波形を少しずらして描いてみる」ことだからです。
- 適用根拠: この方法は、波の運動方程式の解が \(y=f(x-vt)\) という形で書けること(波形が形を保って速さ\(v\)で進むこと)を、図形的に利用しています。微小時間後の波形は元の波形を進行方向にわずかに平行移動させたものになる、という物理的な事実が、この解法の正しさを保証しています。
- (4) 速さが0の点の判断でのアプローチ選択(単振動の性質):
- 選定理由: 波を伝える各媒質は、その場で単振動を行っています。速さが\(0\)になる点を問われているので、単振動の運動で速さが\(0\)になるのはどのような点かを考えるのが最も直接的です。
- 適用根拠: 単振動では、運動エネルギーと位置エネルギーの和が保存されます。速さが\(0\)になるのは運動エネルギーが\(0\)になるときであり、それはエネルギーがすべて位置エネルギーに変換された点、すなわち振動の中心から最も離れた「折り返し点(変位が最大の点)」です。この物理法則を適用しています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- (この問題は計算がありませんが、判断ミスを防ぐためのテクニックを挙げます)
- 情報をグラフに積極的に書き込む:
- 問題用紙のグラフの余白に、各点(O〜E)の状態をメモしましょう。例えば、(1)を解きながらOとDに「密」、Bに「疎」と書き込み、(4)を解きながらA, C, Eに「速さ0」と書き込むことで、思考が整理され、後の設問との関連も見えやすくなります。
- (3)を解く際には、実際に薄い線で少し右にずらした波形を描き込み、各点の上下の動きを矢印で示すと、視覚的に判断できて間違いが減ります。
- 表を作成して思考を整理する:
- もし頭が混乱したら、次のような簡単な表を作って整理するのも有効です。
点 変位\(y\) 傾き\(\frac{dy}{dx}\) 密/疎 速さ 速度の向き O 0 負 密 最大 正 A 負で最大 0 平常 0 – B 0 正 疎 最大 負 C 正で最大 0 平常 0 – D 0 負 密 最大 正
- もし頭が混乱したら、次のような簡単な表を作って整理するのも有効です。
- 物理的なイメージと最終チェック:
- 自分の出した答えが、物理的におかしくないか最後に確認しましょう。
- 例:「最も密な点(O, D)」と「速度が進行方向に最大の点(O, D)」が一致した。→ 密な点では媒質がぶつかり合って押し出す力が強そうなので、進行方向に速さが最大なのは妥当かもしれない、といった吟味ができます。
- 例:「変位が最大の点(A, C, E)」と「速さが0の点(A, C, E)」が一致した。→ 振動の折り返し点で速さが0になるのは単振動の基本なので、これは正しい、と確認できます。
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343 正弦波の式
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(3)の別解: 正弦波の一般式を用いる解法
- 模範解答が「波の伝わる時間(時刻の遅れ)」に着目して式を導出しているのに対し、別解では正弦波の進行波を表す一般公式 \(y = A \sin 2\pi \left( \frac{t}{T} – \frac{x}{\lambda} \right)\) を用いて、直接パラメータを代入して解きます。
- 設問(3)の別解: 正弦波の一般式を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 公式の定着: 波動の分野において非常に重要な「進行波の式」の構造を理解し、使いこなす練習になります。
- 視点の転換: 「時間の遅れ」という物理的な現象論からのアプローチと、「数式モデル」への代入という数学的なアプローチの両方を知ることで、波動現象への理解が深まります。
- 検算としての利用: 導出した式が正しいかどうかを、別の角度から確認する手段として有効です。
- 結果への影響
- どちらの方法を用いても、最終的に得られる式は完全に一致します。
この問題のテーマは「正弦波のグラフの読み取りと数式化」です。波のグラフには2種類(\(y-x\) グラフと \(y-t\) グラフ)ありますが、それぞれの意味を正しく理解し、波の式を自在に扱えるようになることが目標です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- \(y-t\) グラフの読み取り: ある位置(今回は \(x=0\))における媒質の変位の時間変化を表しており、ここから「周期 \(T\)」と「振幅 \(A\)」を読み取ることができます。
- 波の基本公式: 波の速さ \(v\)、振動数 \(f\)、波長 \(\lambda\)、周期 \(T\) の間には、\(v = f\lambda = \frac{\lambda}{T}\) の関係が成り立ちます。
- 単振動の式: 原点での媒質の運動は単振動であり、\(y = A \sin \frac{2\pi}{T}t\) (または \(y = A \sin \omega t\))で表されます。
- 波の伝播と時刻の遅れ: 波が速さ \(v\) で正の向きに進むとき、位置 \(x\) での振動は、原点 \(x=0\) での振動よりも時間 \(\frac{x}{v}\) だけ遅れて起こります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、与えられた \(y-t\) グラフから周期 \(T\) を読み取り、問題文で与えられた速さ \(v\) と合わせて波の基本公式を使い、波長 \(\lambda\) を計算します。
- (2)では、グラフから振幅 \(A\) を読み取り、(1)で求めた周期 \(T\) を使って、原点 \(x=0\) における単振動の式を作ります。
- (3)では、波が原点から位置 \(x\) まで伝わるのにかかる時間を考え、(2)で作った式の時刻 \(t\) を「遅れた時刻」に置き換えることで、任意の位置 \(x\) における波の式を導きます。