- 1 §0. はじめに ─ この記事の使い方
- 2 §1. [1] ケプラーの3法則と万有引力の発見者(\(T\)・\(a\) 使用)
- 3 §2. [2] 質点・剛体・偶力・うでの長さ ─ 「回す力」を言葉で持つ(\(F\)・\(d\) 使用)
- 4 §3. [3] 地球のまわりを回る月 ─ 「向心力=万有引力」の1本の式からすべてが出る(\(G\), \(M\), \(m\), \(r\) 使用)
- 5 §4. [4] 人工衛星の円軌道から楕円軌道へ ─ 面積速度・エネルギー保存・第3法則の三段構え(\(v_0\), \(T_0\), \(V\), \(v\), \(T\) 使用)
- 6 §5. [5] 棒を糸でつるすつり合い ─ 支点は「未知の力」の上にとる(\(M=Fl\) 使用)
- 7 §6. [6] L字に折り曲げた針金の重心 ─ 部品に分けて「重さつきの平均」(\(x_{\text{G}}\)・\(y_{\text{G}}\) 使用)
- 8 §7. [7] 穴をあけた円盤の重心 ─ 「残り+切り取った円=もとの円」で考える(\(\text{OG}\) 使用)
- 9 §8. [8] ベビーカーの転倒 ─ 「浮く側の垂直抗力が0」と「水平のうで」で決まる(\(N_{\text{A}}\)・\(N_{\text{B}}\)・\(\ell\cos\theta\) 使用)
- 10 §12. テスト全体の振り返り ─ 5大「思考のクセ」処方箋
- 11 §13. このテストの得点分布・出題傾向分析
- 12 §14. 次のステップ ─ 自分の思考のクセをもっと深く知る
§0. はじめに ─ この記事の使い方
2026年10月6日(火)に実施された5年 2学期中間考査・物理の解説記事です。全8大問すべてに「思考のクセ診断つき」のフル解説をつけました。今回のテーマは、ケプラーの法則・万有引力と天体の運動、そして剛体のつり合い(力のモーメント・重心)。「点」として扱ってきた物体に、初めて「大きさ」と「回転」が入ってきた単元です。
この記事は、テストの答え合わせをするためだけのものではありません。君がどんな思考のクセで間違えたのかを診断し、次のテストで同じ罠にハマらないようにするための処方箋です。
今回のテストは全体平均 \(52.6\) 点、最高 \(93\) 点、最低 \(18\) 点。用語や法則を問う [1] は \(88.7\)% 取れているのに、その法則を文字式で使う [3] は \(38.5\)%、[4] は \(32.3\)%、ベビーカーの [8] は \(31.7\)% にとどまりました。法則の名前と形は知っている。でも、それを「どの場面で・どの式から出発して」使うかを決める段階で崩れている──今回の失点の正体はここにあります。本記事は、その崩れが君のどんな思考のクセから来ているかを丁寧に診断します。
§0.1 読み方 ─ 2層構造になっています
各問題の解説は、次の2層構造になっています。
Layer 2(💡 もっと深く理解したい人へ): 折りたたみ式の「思考のクセ診断+正しい思考プロセス+一般化」。こちらが本体です。クリックして開いてください。
「Layer 1で答えが分かったから読み飛ばす」のではなく、正解した問題こそ Layer 2 を読むことを強く勧めます。正解=理解、ではないからです。たまたま当たった、公式を覚えていた、というケースは、この先のテストで必ず崩れます。
§0.2 手元の問題冊子を必ず開いておいてください
著作権上、この記事には問題文そのものは載せていません。手元の問題冊子を見ながら、この記事を読み進めてください。
① 10/6実施の問題冊子(試験後に持ち帰った冊子)
② 自分が試験で書いた解答(覚えている範囲で再現したメモでも可)
③ 計算用の紙とペン(文字式の変形は、読むだけでなく自分の手で一度書いてみてください)
§0.3 自分の「思考のクセ」を診断するために
各問題の Layer 2 には「誤答パターン①②③+診断」というブロックが入っています。自分の答えがこの記事の答えと違っていた場合、まずどの誤答パターンに当てはまるかを探してください。
そして、見つけた「思考のクセ」を、次の問題に進むときに声に出して言ってみてください。例えばこんな調子です。
「私は『うでの長さ』を棒の長さで測ってしまう。これからは、支点から力の作用線へ垂線を下ろす」
「私は『倒れる直前』を式にできない。これからは『浮く側の垂直抗力が0』と書くところから始める」
このように「自分のクセ+これからどうするか」をセットで言葉にすると、次のテストで同じ罠にハマる確率がぐっと下がります。物理は暗記の科目ではなく、思考のクセを書き換える科目です。
§0.4 各問題の重さ ─ 全体の地図
このテストは全8大問あり、それぞれ思考の負荷が違います。下の表で全体の地図をつかんでおくと、どこに時間をかけて復習すべきかが分かります。得点率が低い問題ほど「差がつく=伸びしろが大きい」問題です。
| 大問 | テーマ | 全体得点率 | 重さ |
| [1] | ケプラーの法則(語句・数値・人名) | 88.7% | 🟢軽 |
| [2] | 質点・剛体・偶力・うでの長さ | 68.1% | 🟢軽 |
| [3] | 月の等速円運動とエネルギー(文字式) | 38.5% | 🟠やや重 |
| [4] | 人工衛星の円軌道→楕円軌道(文字式) | 32.3% | 🔴重 |
| [5] | 棒を糸でつるすつり合い | 58.3% | 🟡中 |
| [6] | L字に曲げた針金の重心 | 35.5% | 🟡中 |
| [7] | 穴をあけた円盤の重心 | 54.8% | 🟡中 |
| [8] | ベビーカーの転倒(文字式・記述) | 31.7% | 🔴重 |
全体の振り返り(§12)と、テスト全体の得点分布(§13)は記事の最後にまとめています。
§1. [1] ケプラーの3法則と万有引力の発見者(\(T\)・\(a\) 使用)
大問[1]は、惑星の動き方を表すケプラーの3法則の穴埋め(語句・指数)と、万有引力の法則を見つけた科学者の名前を問う。全体の得点率は88.7%と高い。ただし(4)の人名だけは62.9%まで下がる。そしてもう1つ大事なのは、ここで「言葉として答えられた」法則を、続く[3][4]の計算で道具として使えたかどうかだ([3]は38.5%、[4]は32.3%)。※ 問題文は手元プリント参照。
§1.1 解答(Layer 1 ─ 端的解答+サクッと解説)
※ 問題文は手元プリント参照。答えと1-2行の要点だけ先に示します。詳しい思考プロセスは §1.2 のアコーディオン内。
(1) 答え: ②楕円。惑星の軌道は太陽を「焦点の1つ」とする楕円。円は2つの焦点が重なった特別な楕円にすぎない。
(2) 答え: ③面積速度。太陽と惑星を結ぶ線分が単位時間に描く面積のこと。だから太陽に近いところでは速く、遠いところでは遅く動く。
(3) 答え: \(n=2\)、\(m=3\)。「周期の2乗は半長軸の3乗に比例」=\(T^2=ka^3\)。万有引力と円運動の運動方程式からも導ける。
(4) 答え: ニュートン。ケプラーは惑星が「どう動くか」の規則を見つけ、ニュートンはその「原因」となる万有引力を見つけた。
§1.2 💡 もっと深く理解したい人へ ─ 「覚えた法則」を「使える道具」に変える
ここから先は「なぜそうなるか」を完全に開く。正解できた人こそ開いてほしい。[1]で満点を取れた人が[3][4]で手が止まったなら、原因はたいていここにある。法則を「文」として覚えていても、「なぜ成り立つか」を持っていないと、計算の場面で取り出せないのだ。
▶ クリックして完全解説を開く ─ 思考のクセ診断つき
(1) 第1法則 ─ 惑星の軌道の形(答え=②楕円)
得点率は100.0%。全員が選べた。だからこそ「選べた」のその先、つまり楕円のどこに太陽がいるかまで描けるかを確かめてほしい。
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: 「教科書でも[3]でも、天体は円運動として計算している。だから軌道は円だ」と考えて①円を選ぶ。
診断: 計算のための近似を、現実そのものと取り違えるクセ。地球の軌道はほとんどつぶれていない楕円なので、円として計算しても大きくずれない。だから計算では円を使う。しかし法則としての正しい形は楕円で、円はその特別な場合だ。
誤答パターン②: 「投げた物体の軌跡は放物線だった。天体も引力で曲がるのだから放物線(または双曲線)だろう」と③④を選ぶ。
診断: 「曲がっている線」をひとまとめにするクセ。放物線と双曲線は、一度近づいたら二度と戻ってこない「開いた曲線」だ。毎年同じ位置に戻ってくる惑星には、ぐるっと一周して閉じる曲線が必要になる。閉じているかどうか、という1点で③④は消える。
誤答パターン③(正解した人に潜む罠): 楕円は選べたが、図を描かせると太陽を楕円の「真ん中」に置いてしまう。
診断: 図を左右対称に描きたがるクセ。法則は「焦点の1つ」と言っている。太陽は中心からずれた位置にいる。この絵がないと、「太陽に近い点と遠い点がある」という第2法則の出発点も、[4]で地球が楕円の端寄りにいる状況も描けない。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする: 2本のピンを板に刺し、輪にした糸をかけて鉛筆をぴんと張りながら一周させる。これが楕円の描き方で、2本のピンの位置が「焦点」だ。楕円上のどの点も「2つの焦点からの距離の和が一定」になっている。太陽はこのピンの片方にいる。
Step 2 どの原理を選ぶか(+なぜ): 第1法則は、ケプラーがティコ・ブラーエの長年の観測データ(特に火星の位置)を分析して見つけた「観測事実」だ。その後ニュートンが、距離の2乗に反比例する引力のもとでは、閉じた軌道は楕円(円を含む)になることを示した。つまり楕円は「たまたま」ではなく、万有引力の性質から出てくる形だ。
Step 3 法則の意味を読む: 太陽が焦点にいるので、惑星と太陽の距離は軌道上で変わる。いちばん近い点(近日点)といちばん遠い点(遠日点)は、楕円のいちばん長い直径(長軸)の両端にある。長軸の半分が「半長軸 \(a\)」で、これは近日点の距離と遠日点の距離の平均にあたる。
$$\begin{aligned}
a &= \displaystyle\frac{r_{\text{近}}+r_{\text{遠}}}{2}
\end{aligned}$$
Step 4 確かめる: 2本のピンを近づけていくと、楕円はだんだん丸くなり、ピンが重なった瞬間に円になる。このとき \(r_{\text{近}}\) と \(r_{\text{遠}}\) は等しくなり、半長軸 \(a\) は円の半径そのものになる。円は楕円の仲間の一員であり、円で成り立つ話は「楕円の法則の特別な場合」として必ず成り立つ。
Step 5 妥当性チェック: もし軌道が開いた曲線なら、惑星は一度しか見えないことになり、毎年同じ季節がめぐってくる事実と合わない。閉じた曲線で、しかも太陽が真ん中にない。この2条件を満たすのが「太陽を焦点とする楕円」であり、①③④は消える。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 円軌道は楕円軌道の特別な場合。円で解ける問題では円運動の運動方程式が使えるが、[4]のように軌道が楕円になったら、円の式(速さが一定の円運動の式)は使えない。そこで頼るのが第2法則(面積速度一定)とエネルギー保存だ。「いま円か楕円か」を最初に確かめるクセをつける。
波及②: 第3法則に出てくる \(a\) は、近い点と遠い点の距離の平均である半長軸。「太陽(中心天体)は焦点=端寄りにいる」という絵を持っていれば、遠い側の距離をそのまま \(a\) にしてしまう誤りは起きない。[4](4)はまさにここを試している。
(2) 第2法則 ─ 単位時間に描く面積の名前(答え=③面積速度)
得点率は96.8%。名前は言えた。次は「なぜ一定なのか」を説明できるかが勝負だ。
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: 「『単位○○あたり』の量だから密度だ」と①面積密度を選ぶ。
診断: 言葉の響きだけで選ぶクセ。密度は「単位体積あたりの質量」のように「量÷大きさ」だ。ここは「面積÷時間」、つまり時間あたりにどれだけ進むかを表す量なので、「速度」の仲間の名前がつく。何で割っているかを見れば迷わない。
誤答パターン②: 「惑星は太陽のまわりを回っている。回転の話だからモーメントだろう」と②面積モーメントを選ぶ。
診断: 半分正しい直感を、そのまま名前に持ち込むクセ。実は面積速度は、回転の勢い(力学では角運動量と呼ぶ)と深く結びついている。直感の方向は正しい。だが問われているのは決まった名前であり、正式な名前は「面積速度」だ。
誤答パターン③: 法則の文にある「単位時間に描く面積」の「単位」という語に引っ張られ、④単位面積を選ぶ。
診断: 文の中の目立つ単語にだけ反応するクセ。「単位時間に」は「1秒あたりに」という意味で、面積の種類を言っているのではない。文を「何を」「何あたり」に分けて読めば、④は選べなくなる。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする: 太陽と惑星を線分で結び、ごく短い時間 \(\Delta t\) の間にその線分が通り過ぎる細い三角形を描く。太陽に近いところでは「太くて短い」三角形、遠いところでは「細くて長い」三角形になる。第2法則は、この2つの三角形の面積が等しいと言っている。
Step 2 どの原理を選ぶか(+なぜ): 第2法則の正体は「太陽のまわりの回転の勢いが変わらない」ことだ。万有引力はいつも太陽の方を向いている。つまり力の作用線が必ず太陽を通るので、太陽のまわりの力のモーメント(物体を回そうとする働き)は0になる。回そうとする働きが0なら、回転の勢いは増えも減りもしない。これは[2]で学ぶ「うでの長さ」「力のモーメント」とまったく同じ考え方だ。
Step 3 式の意味を読む: 三角形の面積は「底辺×高さ÷2」。近日点や遠日点では、速度の向きが線分にちょうど垂直なので、底辺を \(r\)、高さを \(v\Delta t\) と見られる。
$$\begin{aligned}
\Delta S &= \displaystyle\frac{1}{2} r \, v\Delta t \\
\displaystyle\frac{\Delta S}{\Delta t} &= \displaystyle\frac{1}{2} r v
\end{aligned}$$
この \(\displaystyle\frac{1}{2}rv\) が面積速度だ。線分に垂直でない場所では、速度のうち線分に垂直な成分だけが三角形の高さになる。
Step 4 確かめる: 近日点と遠日点で面積速度が等しいとおく。
$$\begin{aligned}
\displaystyle\frac{1}{2} r_{\text{近}} v_{\text{近}} &= \displaystyle\frac{1}{2} r_{\text{遠}} v_{\text{遠}}
\end{aligned}$$
\(r_{\text{近}} \lt r_{\text{遠}}\) なので \(v_{\text{近}} \gt v_{\text{遠}}\)。太陽に近いほど速く、遠いほど遅い。これは[4](2)で使う式そのものだ。
Step 5 妥当性チェック: 単位は \(\text{m}^2/\text{s}\)=「面積÷時間」で、「速度」と名前がつく理由に合う。円軌道なら \(r\) が一定なので \(v\) も一定となり、等速円運動と矛盾しない。極端な例として、太陽のすぐそばをかすめる彗星は、近日点で猛スピードになり、遠くではゆっくり進む。観測される彗星の動きとも一致する。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 面積速度一定は「力がいつも1点を向いている(その点のまわりのモーメントが0)」ことのサイン。惑星に限らず、糸で中心につながれて回る物体など、力が1点を向く運動ならどこでも同じことが成り立つ。法則を「惑星の話」に閉じ込めず、「力のモーメント0」の結果として持っておく。
波及②: 面積速度の計算に使うのは「速度のうち線分に垂直な成分」。近日点・遠日点ではそれが速度そのものになる。[4]で点A・点Bが選ばれているのは、速度が線分に垂直になる点だからだ。どの点でも \(\displaystyle\frac{1}{2}rv\) としてよいわけではない。
波及③: 面積速度に質量の2倍を掛けた量が、回転の勢い(角運動量)になる。大学で学ぶ「角運動量保存」の入口が、高校ではこの第2法則の形で出てきている。
(3) 第3法則 ─ \(T^n=ka^m\) の指数(答え=\(n=2\)、\(m=3\))
得点率は \(n\)・\(m\) ともに91.9%。ここは「覚えている」から「自分で導ける」へ進める絶好の場所だ。導けるなら、2と3を入れ替える心配は二度となくなる。
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: 「2と3が出てくるのは覚えている」が、\(n=3\)、\(m=2\) と逆に書く。
診断: 数字だけ覚えて、その理由を持たないクセ。どちらが2でどちらが3かを決める根拠を持っていないので、試験の緊張で簡単にひっくり返る。下の導出を一度自分の手で通せば、周期のほうが2乗になる理由がはっきりする。
誤答パターン②: 「軌道が大きいほど一周に時間がかかる。だから周期は半長軸に比例」と考え、\(n=1\)、\(m=1\) にする。
診断: 「増えると増える」をすべて比例とみなすクセ。増え方には1乗も2乗も \(\displaystyle\frac{3}{2}\) 乗もある。外側の惑星は「遠回りする」うえに「ゆっくり進む」ので、周期は距離の比よりも大きく伸びる。
誤答パターン③: 同じ単元の万有引力の「距離の2乗に反比例」と混ざり、\(m=2\) や \(m=-2\) と書く。
診断: 天体の単元に出てくる「2乗」を全部同じ箱に入れるクセ。逆2乗は「力と距離」の関係、第3法則は「周期と半長軸」の関係。何と何の関係かを毎回ことばで言ってから指数を書く。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする: いちばん簡単な場合として、太陽(質量 \(M\))のまわりを惑星(質量 \(m\))が半径 \(r\) の円軌道で回る絵を描く。(1)で見たとおり、円は楕円の特別な場合で、半長軸 \(a\) は半径 \(r\) になる。
Step 2 どの原理を選ぶか(+なぜ): 円運動の運動方程式(中心向きの加速度×質量=中心向きの力)と、万有引力の法則を組み合わせる。第3法則はもともと観測から見つかった法則だが、ニュートンの力学から導ける。導けるということは、指数は「覚えるもの」ではなく「出てくるもの」だということだ。
Step 3 式の意味を読む: 中心向きに必要な力(向心力)を、万有引力がちょうどまかなっている。さらに、一周の道のり \(2\pi r\) を周期 \(T\) で進むので、速さは \(v=\displaystyle\frac{2\pi r}{T}\) と書ける。
📖 計算過程を1つずつ丁寧に見る(計算が苦手な人向け・クリックで開閉)
運動方程式(中心向き)を書き、両辺を \(m\) で割り、\(r\) を掛ける。
$$\begin{aligned}
m\displaystyle\frac{v^2}{r} &= G\displaystyle\frac{Mm}{r^2} \\
v^2 &= \displaystyle\frac{GM}{r}
\end{aligned}$$
ここに \(v=\displaystyle\frac{2\pi r}{T}\) を入れて、\(T^2\) について解く。
$$\begin{aligned}
\left(\displaystyle\frac{2\pi r}{T}\right)^2 &= \displaystyle\frac{GM}{r} \\
\displaystyle\frac{4\pi^2 r^2}{T^2} &= \displaystyle\frac{GM}{r} \\
T^2 &= \displaystyle\frac{4\pi^2}{GM}r^3
\end{aligned}$$
Step 4 代入して確かめる: 結果は \(T^2=ka^3\) の形で、比例定数は \(k=\displaystyle\frac{4\pi^2}{GM}\) になった。周期 \(T\) は2乗、半径(半長軸)は3乗。よって \(n=2\)、\(m=3\)。しかも \(k\) の中身は中心天体の質量 \(M\) だけで決まり、回っている側の質量 \(m\) は消えている。だから同じ太陽を回る惑星どうしなら、\(\displaystyle\frac{T^2}{a^3}\) はみな同じ値になる。楕円軌道でも、\(r\) を半長軸 \(a\) に置きかえて同じ関係が成り立つ(楕円の場合の証明は大学の範囲)。
Step 5 妥当性チェック: 単位を確かめる。\(v^2=\displaystyle\frac{GM}{r}\) から \(GM\) の単位は \(\text{m}^3/\text{s}^2\) なので、\(\displaystyle\frac{r^3}{GM}\) の単位は \(\text{s}^2\) となり、\(T^2\) と一致する。直感でも確かめる。周期は「道のり÷速さ」。道のりは \(r\) に比例して長くなり、速さは \(v^2=\displaystyle\frac{GM}{r}\) から外側ほど遅くなる。遠回りで1、遅くなる分で \(\displaystyle\frac{1}{2}\)、合わせて周期は \(r\) の \(\displaystyle\frac{3}{2}\) 乗で伸びる。両辺を2乗すれば \(T^2\) と \(r^3\) の比例になる。誤答パターン②の「比例」では、遅くなる分が抜けていたわけだ。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 第3法則の比例定数 \(k\) は「中心天体の質量」だけで決まる。だから同じ中心天体のまわりを回る軌道どうしなら、円軌道と楕円軌道でも \(\displaystyle\frac{T^2}{a^3}\) でつなげる。[4](4)はこの考え方で、円軌道の周期から楕円軌道の周期を出す問題だ。逆に、中心天体が違う(太陽のまわりと地球のまわり)なら \(k\) も違うので、そのままはつなげない。
波及②: 「観測で見つかった法則」は、「運動方程式+力の法則」から導けるかを一度は確かめる。導けた法則は入れ替えようがなく、忘れても再生できる。[3](2)の周期はこの導出の途中そのもの(\(T^2\) の式の平方根をとる)なので、ここを自分の手で通した人は[3]の計算も迷わない。
(4) 万有引力の法則を発見した科学者(答え=ニュートン)
得点率は62.9%。[1]の中でここだけが大きく下がった。この試験には名称を正しく書くよう求める注意書きがあり、人物を取り違えた人に加えて、名前は分かっていたのに正しく書けなかった人もいたと考えられる。
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: 大問全体が「ケプラーの法則」なので、そのまま「ケプラー」と書く。
診断: その単元でいちばん目立つ名前を書くクセ。ケプラーが見つけたのは惑星が「どう動くか」の規則(3法則)。その規則の「原因」として万有引力を考え出したのがニュートン。役割が違う2人を、単元名でひとまとめにしている。
誤答パターン②: 「ガリレイ」「コペルニクス」「キャベンディッシュ」など、天文や重力の歴史に出てくる別の人物を書く。
診断: 人物を「何をした人か」ではなく「天文っぽい人」で覚えるクセ。コペルニクスは地動説を唱えた人、ガリレイは望遠鏡で天体を観察し落下運動を調べた人、キャベンディッシュは実験室で物体どうしの引力を測り、万有引力定数 \(G\) の値を求めた人。どれも重要だが、万有引力の「法則」を立てた人ではない。
誤答パターン③: 頭の中では「ニュートン」と分かっているのに、カタカナを書き誤る(のばす音や「ン」「ソ」の形を誤るなど)。
診断: 「分かった」と「書けた」を同じものだと思うクセ。名称を問う問題では、正しく書けて初めて答えになる。書き終えた後に字を見直す5秒を取らないと、知っている問題で落とす。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする: 年表を「観測 → 規則 → 原因 → 定数の測定」の4段で描く。ティコ・ブラーエが惑星の位置を長年観測し、ケプラーがそのデータから3法則(規則)を見つけ、ニュートンが万有引力(原因)で3法則を説明し、のちにキャベンディッシュが \(G\) を測った。
Step 2 どの原理を選ぶか(+なぜ): 「法則を発見した」は「原因を説明する式を立てた」という意味。ニュートンは運動の法則(運動方程式)と万有引力の法則をセットで示し、地上でりんごが落ちることと、月が地球のまわりを回ることを同じ1つの力で説明した。「万有」とは「すべての物体どうしの間にある」という意味だ。
Step 3 式の意味を読む: 万有引力の法則は次の式で表される。
$$\begin{aligned}
F &= G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}
\end{aligned}$$
質量をもつ物体どうしは、質量の積に比例し、距離の2乗に反比例する力で引き合う。(1)の楕円軌道、(2)の面積速度一定(力がいつも相手を向く)、(3)の \(T^2=ka^3\)。ケプラーの3法則はすべてこの1本の式から出てくる。
Step 4 確かめる: (3)の導出で、まさにこの式を使って第3法則を出した。ケプラーの規則がニュートンの式から再現できたこと、それ自体が「万有引力の法則を見つけたのはニュートン」という答えの中身だ。
Step 5 妥当性チェック(書いた字の確認): 力の単位 \(\text{N}\) は彼の名にちなんで「ニュートン」と読む。君は力の単位を書くたびに、この名前を書いている。答えを書いたら、力の単位の読みと同じつづりになっているかを照らし合わせれば、書き誤りはその場で見つかる。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 物理の人名は「何をした人か」の1行とセットで持つ。ケプラー=惑星の動き方の規則、ニュートン=万有引力と運動の法則で原因を説明、キャベンディッシュ= \(G\) を測定。役割で区別していれば、単元名につられることはない。
波及②: 「どう動くか(規則)」と「なぜそう動くか(原因の力)」を分けて考えるのは、物理全体の基本の型だ。[3]で月の周期やエネルギーを万有引力と運動方程式から出していく計算は、ニュートンがやったことを自分の手で追いかける作業にほかならない。
波及③: 名称を書く問題は、最後に「字の形」を確かめる5秒を取る。[2](4)の「偶力」も同じ型で、分かっているのに書けずに落とすのがいちばんもったいない。
§2. [2] 質点・剛体・偶力・うでの長さ ─ 「回す力」を言葉で持つ(\(F\)・\(d\) 使用)
大問[2]は、物体をどう見るか(質点か剛体か)と、物体を回す力の基本用語(偶力・うでの長さ)を問う。全体の得点率は68.1%。目を引くのは、図を見て「その場で回るのはどれか」を選ぶ(3)は91.9%なのに、その2力の名前を書く(4)は38.7%、うでの長さを選ぶ(5)は53.2%に落ちることだ。見れば分かるのに、言葉として持っていない。ここが今回の弱点だ。※ 問題文は手元プリント参照。
§2.1 解答(Layer 1 ─ 端的解答+サクッと解説)
※ 問題文は手元プリント参照。答えと1-2行の要点だけ先に示します。詳しい思考プロセスは §2.2 のアコーディオン内。
(1) 答え: 質点。大きさを無視し、質量だけをもつ点として扱う物体。大きさがないので回転は考えない。
(2) 答え: 剛体。大きさ(形)をもつが、力を受けても変形しない物体。大きさがあるので回転を考えられる。
(3) 答え: B。大きさが等しく、逆向きで、作用線がずれた2力。力の和が0なので物体は移動せず、回転だけが起こる。
(4) 答え: 偶力。(3)のBのような2力の組。「偶」は偶数の「偶」で、「2つで1組」という意味。
(5) 答え: B。うでの長さは、回転軸から力の作用線までの距離(軸から作用線に下ろした垂線の長さ)。作用点までの距離ではない。
§2.2 💡 もっと深く理解したい人へ ─ 「点」で見るか「線」で見るか
ここから先は「なぜそうなるか」を完全に開く。正解できた人こそ開いてほしい。[2]の5問はばらばらの用語問題に見えて、実は1本の筋でつながっている。「大きさを考える(剛体)→ 力がどこに働くかが効いてくる → 作用線という『線』で力を見る → うでの長さ・偶力が意味をもつ」という筋だ。この筋を持てば、[5][8]のつり合いの式が自分で立てられるようになる。
▶ クリックして完全解説を開く ─ 思考のクセ診断つき
(1) 質量だけを考え、大きさを考えない物体(答え=質点)
得点率は71.0%。(2)の剛体(85.5%)より低い。対になる2つの用語のうち、こちらで取り違えが起きやすかったと考えられる。
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: 「質点」と「剛体」を入れ替えて書く。
診断: 対になった用語を、区別する軸なしで丸ごと覚えるクセ。2つを分ける軸はただ1つ、「大きさを考えるかどうか」だ。大きさを考えない=点=「質点」。大きさを考える=形がある=「剛体」。軸を1本持てば入れ替えは起きない。
誤答パターン②: 「質量を1点に集めて考える」という説明から「重心」と書く。
診断: 「1点にまとめる見方」と「その点の位置」を混ぜるクセ。重心は物体の中の「場所」の名前。質点は物体を「点として扱う」という見方(考え方の型)の名前だ。問われているのは物体の扱い方なので、場所の名前は答えにならない。
誤答パターン③: 「質量点」「点」「小さい物体」など、意味は近いが正式でない言葉で書く。
診断: 意味は分かっているのに、決まった名前を持たないクセ。用語問題では、意味の説明ではなく名前そのものが答えになる。「質(質量)だけをもつ点」と字の意味で覚えると、正式名がそのまま出てくる。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする: 遠くへ投げたボールの軌跡を描く。どこへ落ちるかを知りたいだけなら、ボールが回っているかどうかも、形が丸いか四角いかも関係ない。ボールを「1つの点」として描けば十分だ。
Step 2 どの原理を選ぶか(+なぜ): 運動方程式 \(ma=F\) が教えてくれるのは、物体全体の位置(正確には重心)がどう動くかだ。回転を問題にしないなら、大きさの情報は答えに一切影響しない。だから大きさを捨てて、質量だけを残す。これが質点という見方だ。
Step 3 意味を読む: 「大きさを無視する」は「回転を無視する」と同じ意味になる。点には「軸からの距離」がないので、物体を回す働き(力のモーメント)を考えようがない。質点の世界には、うでの長さも偶力も存在しない。
Step 4 確かめる: [1][3][4]で太陽や地球、月や衛星を扱ったとき、天体はすべて点として描いた。巨大な天体でも、公転の位置だけを問うなら質点で扱える。一方、同じ地球でも「自転」を問うなら、大きさを持つ物体として扱わなければならない。
Step 5 妥当性チェック: 質点で扱ってよいかの判定基準は「回転や形が答えに影響するか」。影響しないなら質点、影響するなら剛体(またはもっと細かい見方)。物体が大きいか小さいかで決まるのではない、という点を確認しておく。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 「質点か剛体か」は物体で決まるのではなく、問いで決まる。同じ地球が、公転の問題では質点、自転の問題では大きさのある物体になる。問題を読んだら、まず「回転を問われているか」を確かめる。
波及②: 質点の力学で必要なのは「力の向きと大きさ」だけ。剛体になると「力がどこに働くか(作用線)」が加わる。[5][8]で、力のつり合いの式に加えてモーメントのつり合いの式が必要になるのは、この差があるからだ。
(2) 質量と大きさを考え、変形しない物体(答え=剛体)
得点率は85.5%。名前は多くの人が書けた。ここでは「なぜ変形しないと決めるのか」まで掘る。この理由が(5)の答えにそのまま効いてくる。
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: (1)と入れ替えて「質点」と書く。
診断: (1)と同じ、区別の軸を持たないクセ。「大きさを考える」と書いてあれば、点ではありえない。軸1本で判定できる。
誤答パターン②: 「かたくて変形しない物」というイメージから「固体」と書く。
診断: 物質の状態と、物体の扱い方を混ぜるクセ。固体は「気体・液体・固体」という物質の状態の名前。現実の固体は力を受ければわずかに変形する。剛体は「変形をまったく考えない」と決めた理想の見方の名前だ。
誤答パターン③: 「大きさを考える物体」という前半だけを読み、「変形しない」を落として、変形を扱う「弾性体」と書く。
診断: 条件の後半を読み落とすクセ。ばねやゴムのように変形を考える物体は、剛体とは別の扱いになる。「質量」「大きさ」「変形しない」の3つの条件を1つずつ指でなぞって確かめる。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする: 机に置いた定規の端を指で押す場面を描く。本当は定規はごくわずかにたわんでいるが、目には見えないほど小さい。そのたわみを「0」と決めてしまうのが剛体という見方だ。
Step 2 どの原理を選ぶか(+なぜ): 変形まで考えると、どこがどれだけ伸び縮みするかを1つずつ計算しなければならず、つり合いの問題がとても解きにくくなる。変形が小さいならそれを無視し、「力がどこに働くか」だけに集中する。そうすると、剛体のつり合いは「①力の和が0」「②力のモーメントの和が0」という2つの条件だけで決まる。
Step 3 意味を読む: 変形しないことから、とても大事な性質が出てくる。剛体では、力をその作用線(力の矢印を前後にまっすぐ延ばした線)に沿ってずらしても、物体に与える効果は変わらない。棒の端を押しても、同じ作用線上の別の点を押しても、変形しないなら棒全体の動きは同じになるからだ。
Step 4 確かめる: 3つの見方を並べると関係がはっきりする。質点(大きさなし・回転なし)、剛体(大きさあり・回転あり・変形なし)、弾性体(大きさあり・変形あり)。右へ行くほど現実に近く、そのぶん計算が重くなる。問題を解くのに必要な最小限の見方を選ぶ、という考え方だ。
Step 5 妥当性チェック: 変形が答えに効く場面(ばねの伸び、ゴムの縮み)では剛体の見方は使えない。逆に、棒をつるす・ベビーカーが傾く、といった[5][8]の場面では変形は答えに効かないので、剛体で扱うのが正しい。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 「作用線に沿ってなら力をずらしてよい」は、剛体だからこそ使える性質。これがそのまま(5)の「うでの長さは作用点ではなく作用線までの距離」の理由になる。用語の定義が、次の問題の答えの根拠になっている。
波及②: 剛体のつり合いの2条件(力の和0・モーメントの和0)は、[5]の棒、[8]のベビーカーで使う道具そのもの。質点なら1つ目だけで済むところに2つ目が加わるのは、剛体が「回れる」からだ。
(3) その場で回転するのはどの2力か(答え=B)
得点率は91.9%。図を見て判断する力は、ほとんどの人が持っている。次はその判断を「条件」と「量」で説明できるようにする段階だ。
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: 「向きが反対の2力なら、物体はねじれて回るはず」とAを選ぶ。
診断: 向きだけを見て、作用線を見ないクセ。Aの2力は同じ直線上で外向きに引っ張り合っているだけ。物体は引き伸ばされるが、回りも動きもしない。作用線が同じなら、どの点のまわりで考えても2力のモーメントは打ち消し合う。
誤答パターン②: 「作用線がずれていれば回る」と考えてCを選ぶ。
診断: 「回る」と「その場で回る」を区別しないクセ。Cも確かに回転する。しかし2力の大きさが違うので、差の分だけ力が残り、物体は大きいほうの力の向きへ動きながら回る。問われているのは「その場で(移動せずに)回る」もの。
誤答パターン③(正解した人に潜む罠): Bを選べたが、理由を聞かれると「上と下で逆向きだから」としか言えない。
診断: 図の見た目で判断し、条件に分けないクセ。「その場で回る」ための条件は3つそろって初めて成り立つ。①大きさが等しい(Cを消す)②向きが逆(そもそもの前提)③作用線がずれている(Aを消す)。条件ごとに言えれば、どんな図が出ても判定できる。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする: A・B・Cの3つの図の横に、「力の和」と「力のモーメントの和」の2つの欄をつくる。1つの物体の動きを、この2つの欄で分けて考える準備だ。
Step 2 どの原理を選ぶか(+なぜ): 剛体の動きは「重心の移動」と「重心のまわりの回転」の2つに分けられる。移動を決めるのは力の和、回転を決めるのは力のモーメントの和。「その場で回る」とは「移動0・回転あり」なので、「力の和0・モーメントの和が0でない」組を探せばよい。
Step 3 式の意味を読む: 大きさ \(F\) の2力が逆向きで、作用線の間の距離が \(d\) のとき、2力のモーメントの和は \(Fd\) になる。しかもこの値は、どの点のまわりで計算しても変わらない。下で確かめよう。
📖 計算過程を1つずつ丁寧に見る(計算が苦手な人向け・クリックで開閉)
Bのように、上の作用線で右向き、下の作用線で左向きに、大きさ \(F\) の力が働いているとする。2本の作用線の間の距離を \(d\) とし、時計回りを正とする。
点Oが2本の作用線の間にあるとき: Oから上の作用線までの距離を \(x\) とすると、下の作用線までは \(d-x\)。上の右向きの力も、下の左向きの力も、Oのまわりで時計回りに回そうとする。
$$\begin{aligned}
M_{\text{和}} &= Fx+F\left(d-x\right) \\
&= Fd
\end{aligned}$$
点Oが2本の作用線の外(上側)にあるとき: Oから上の作用線までの距離を \(y\) とすると、下の作用線までは \(y+d\)。今度は上の力が反時計回り、下の力が時計回りに回そうとする。
$$\begin{aligned}
M_{\text{和}} &= F\left(y+d\right)-Fy \\
&= Fd
\end{aligned}$$
どちらの場合も \(x\) や \(y\) が消えて、\(Fd\)(時計回り)だけが残る。Oをどこにとっても同じ値になる。
Step 4 判定する: A=力の和0、作用線が同じなので \(d=0\) となりモーメントも0。何も起きない(引っ張られるだけ)。B=力の和0、モーメント \(Fd\) が残る。その場で回転する。C=力の和が0でない(長いほうの力の向きに残る)、モーメントも0でない。回転しながら移動する。よって答えはB。
Step 5 妥当性チェック: 車のハンドルを両手で回すとき、右手を上へ、左手を下へ、同じくらいの力で動かす。ハンドルは横にずれず、その場で回る。片手だけで押すと、ハンドルは回るが、軸を横へ押す力も生まれてしまう。体の感覚とも判定が一致する。極端な場合として \(d\) を0に近づけると、Bは作用線がそろってAと同じになり、回転は消える。式 \(Fd\) とも合っている。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 剛体の動きは「力の和(移動)」と「モーメントの和(回転)」の2つの欄で別々に判定する。片方が0でも、もう片方が0とは限らない。剛体のつり合いに条件が2つ必要なのは、この2つの欄が独立しているからだ。
波及②: 「逆向き・同じ大きさの2力」というだけでは、何も起きない(A)ことも、回るだけ(B)こともある。違いを決めるのは作用線の位置。力を「矢印の向き」だけでなく「どの線の上にあるか」まで含めて見るクセが、[5][8]のつり合いで効いてくる。
(4) その場で回転を起こす2力の組の名前(答え=偶力)
得点率は38.7%。(3)の図を91.9%が正しく選べたのに、その名前を書けたのは4割を切った。分かっているのに書けなかった人が多かった問題だ。
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: 「ぐうりょく」という音は出てくるが、「遇」「隅」「寓」など、同じ音の別の字で書く。
診断: 音だけで漢字を選ぶクセ。「偶」は偶数の「偶」、つまり「2つで1組」という意味の字だ。偶力は「2つで1組の力」。意味から字を選べば、別の字が入りこむ余地はない。
誤答パターン②: 「同じ大きさで逆向きの2力」と聞いて「作用・反作用」と書く。
診断: 「同じ大きさ・逆向きのペア」を全部作用反作用にまとめるクセ。作用反作用の2力は「別々の物体」に働き、しかも同じ作用線上にある。だから1つの物体を回すことはない。偶力の2力は「同じ1つの物体」に働き、作用線がずれている。見た目が似ていても、働く相手と作用線の2点がまるで違う。
誤答パターン③: 「回転力」「対力」「トルク」など、意味から言葉をつくって書く。
診断: 正式な名前の代わりに、意味から言葉を組み立てるクセ。「回転させる力」は説明としては近いが、名前ではない。トルクは「物体を回す働きの大きさ(力のモーメント)」の別名で、偶力そのものではなく、偶力がもたらす量の名前だ。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする: 1つの物体に、同じ長さで逆向きの平行な矢印を2本、作用線をずらして描く。これが偶力の絵で、(3)のBそのものだ。
Step 2 どの原理を選ぶか(+なぜ): 名前は「性質を表す字」から引き出す。性質は「2つで1組」=偶、それが「力」。性質から字が決まるので、字を覚えるのではなく、性質を覚えれば名前は再生できる。
Step 3 意味を読む: 偶力の特徴は、力の和が0なのに、モーメント \(Fd\) が残ること。しかも(3)で確かめたとおり、\(Fd\) はどの点のまわりで計算しても同じだ。つまり偶力は「物体を移動させる働き」をまったく持たず、「回す働き」だけを持つ、純粋な回転のもとだ。
Step 4 確かめる: 作用反作用と並べて、違いを表で確かめる。
| くらべる点 | 偶力 | 作用・反作用 |
|---|---|---|
| 大きさと向き | 同じ大きさ・逆向き | 同じ大きさ・逆向き |
| 働く相手 | 同じ1つの物体 | 別々の2つの物体 |
| 作用線 | ずれている(間の距離 \(d\)) | 同じ直線上 |
| 起こること | その場で回転(モーメント \(Fd\)) | それぞれの物体が別々に力を受ける |
Step 5 妥当性チェック(書いた字の確認): 書き終えたら「偶数の偶か?」と1回だけ照合する。意味の面でも、「2つで1組の力」と言いかえて(3)のBの説明として通じるかを確かめる。通じれば字も意味も正しい。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 偶力のモーメント \(Fd\) は軸の位置によらない。だから偶力だけが働いている物体を止めるには、逆回りの偶力が必要で、力を1本加えただけでは打ち消せない(1本だと力の和が残ってしまう)。剛体のつり合いで「力の和0」と「モーメントの和0」が両方要る理由が、ここにも表れている。
波及②: 用語は「意味を表す字」とセットで持つ。[1](4)の人名と同じで、分かっているのに書けずに落とすのがいちばんもったいない。偶力・剛体・質点、どれも字が意味を語っている。
(5) 「うでの長さ」とは何の距離か(答え=B)
得点率は53.2%。約半数が、作用点までの距離(A)などと取り違えた可能性が高い。ここは[5][8]の計算の出来を直接左右する、[2]でいちばん重要な問題だ。
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: 「力が働いている点までの距離が、てこのうでだ」とA(回転軸から作用点までの距離)を選ぶ。
診断: 力を「点」で見て、「線」で見ないクセ。力が棒に垂直に働く図ばかり見てきたので、作用点までの距離とうでの長さが一致する場面しか経験していない。斜めの力では、作用点が軸から遠くても、回す働きは小さくなる。
誤答パターン②: 「うで」という言葉から、棒そのものを思い浮かべてC(棒の長さ)を選ぶ。
診断: 言葉のイメージを、物の部品に当てはめるクセ。うでの長さは棒の部品の名前ではなく、力と軸の位置関係で決まる距離だ。同じ棒でも、どこをどの向きに押すかで変わる。
誤答パターン③: 「長さ」という語に反応して、図でいちばん目立つ長さであるD(力の矢印の長さ)を選ぶ。
診断: 図の中の「長さ」を区別せずに拾うクセ。力の矢印の長さが表すのは力の大きさで、距離ではない。モーメントは「力の大きさ×うでの長さ」なので、Dを選ぶと力の大きさを2回掛けることになってしまう。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする: 回転軸Oのある棒を描き、Oから距離 \(r\) の点Pに、棒と角 \(\theta\) をなす向きの力 \(F\) を描く。次に、力の矢印を前後にまっすぐ延ばして作用線を点線で描き、Oからその点線へ垂線を下ろす。この垂線の長さ \(d\) がうでの長さだ。
Step 2 どの原理を選ぶか(+なぜ): 力のモーメント(物体を回す働き)は「力の大きさ×うでの長さ」。うでの長さが「作用線まで」の距離になる理由は、(2)で見た剛体の性質にある。剛体では、力を作用線に沿ってずらしても効果は変わらない。つまり作用点は作用線上のどこへでも動かせてしまい、「作用点までの距離」は1つに決まらない。どこへ動かしても変わらないのは、軸から作用線までのいちばん短い距離、つまり垂線の長さだけだ。
Step 3 式の意味を読む: 図の直角三角形から \(d=r\sin\theta\)。モーメントは次のように2通りに読める。
$$\begin{aligned}
M &= Fd \\
&= F\,r\sin\theta \\
&= r \times F\sin\theta
\end{aligned}$$
2行目は「力そのもの \(F\) × うでの長さ \(r\sin\theta\)」、3行目は「作用点までの距離 \(r\) × 力のうち棒に垂直な成分 \(F\sin\theta\)」。どちらも同じ値だ。Aを選んだ人は3行目の \(r\) だけを覚えていて、「力のほうを垂直成分にする」という半分を落としていた、とも言える。
Step 4 確かめる: 2つの極端な場合を入れてみる。\(\theta=90^\circ\)(棒に垂直に押す)なら \(d=r\) となり、うでの長さと作用点までの距離が一致する。教科書の図の多くがこの場合なので、AとBの区別がつきにくい。一方 \(\theta=0^\circ\)(棒に沿って軸の方へ押す)なら \(d=0\) で、モーメントは0。ドアノブを蝶番(ちょうつがい)に向かって押してもドアは開かない。このとき作用点までの距離 \(r\) は変わっていないのに回らない。Aの定義ではこの現象を説明できない。
Step 5 妥当性チェック: 単位は「力×距離」で \(\text{N}\cdot\text{m}\)。うでの長さは距離なので \(\text{m}\) であり、力の大きさ(Dの矢印が表す量)とは単位からして別物だと確認できる。直感でも確かめる。固いねじをスパナで回すとき、柄に垂直に力をかけるといちばん回しやすく、斜めに引くと回しにくい。作用線が軸に近づき、うでの長さが短くなるからだ。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: モーメントを計算するときは、「作用線を描いて軸から垂線を下ろす」か「力を棒に垂直な成分と平行な成分に分ける」かのどちらかを必ず実行する。[5](1)の斜めの棒(糸が鉛直なので、うでの長さは軸からの水平方向の距離になる)や、[8]の傾いた持ち手(荷物のうでの長さが \(\ell\cos\theta\) になる)では、この一手を省くと角度の三角比を付けるか付けないかで迷うことになる。
波及②: ふつうの力のうでの長さは、軸をどこにとるかで変わる。だから剛体のつり合いでは、未知の力が通る点を軸に選ぶと、その力のうでの長さが0になって式から消え、計算が楽になる。一方、偶力のモーメント \(Fd\) だけは軸によらない。「軸で変わるもの」と「軸で変わらないもの」を区別しておく。
波及③: [1](2)の面積速度一定も、この問題と同じ考え方でつながる。万有引力の作用線はいつも太陽を通るので、太陽のまわりのうでの長さは0、モーメントも0。だから回転の勢いが変わらず、面積速度が一定になる。天体の運動と剛体のつり合いは、「うでの長さ=作用線までの距離」という同じ1本の考え方の上にある。
§3. [3] 地球のまわりを回る月 ─ 「向心力=万有引力」の1本の式からすべてが出る(\(G\), \(M\), \(m\), \(r\) 使用)
地球(質量 \(M\))を止まっているものとみなし、そのまわりを月(質量 \(m\))が半径 \(r\) の円をえがいて一定の速さで回る。万有引力の大きさから始めて、周期・運動エネルギー・力学的エネルギーを文字式で求め、最後に「力学的エネルギーが減ったら、半径と速さはどうなるか」を考える大問。※ 問題文は手元プリント参照。
全体得点率38.5%。(1)万有引力の大きさは88.7%取れているのに、(2)周期27.4%・(3)運動エネルギー27.4%・(4)力学的エネルギー28.0%と、そこから先が一斉に崩れた。崩れ方がそろっているのは、原因が1つだから。(1)で書いた万有引力を「向心力」として円運動の運動方程式に入れ、速さ \(v\) を出す──この1本の式が出発点になっていない。\(v\) さえ出れば、(2)〜(6)は全部そこから芋づる式に出てくる。そして(6)の21.0%は、「エネルギーが減ったのに速くなる」という直感に逆らう結論。ここを丁寧にほどこう。
§3.1 解答(Layer 1 ─ 端的解答+サクッと解説)
※ 問題文は手元プリント参照。答えと1-2行の要点だけ先に示します。詳しい思考プロセスは §3.2 のアコーディオン内。
(1) 答え: \(G\displaystyle\frac{mM}{r^2}\)。万有引力は「2つの質量の積に比例し、中心どうしの距離の2乗に反比例」。距離は地球の中心から月の中心まで。
(2) 答え: \(2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{r^3}{GM}}\)。向心力=万有引力 \(m\displaystyle\frac{v^2}{r}=G\displaystyle\frac{mM}{r^2}\) から \(v=\sqrt{\displaystyle\frac{GM}{r}}\)。1周の長さ \(2\pi r\) をこの速さで割る。
(3) 答え: \(G\displaystyle\frac{mM}{2r}\)。\(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) に、(2)の途中で出した \(v^2=\displaystyle\frac{GM}{r}\) を入れるだけ。
(4) 答え: \(-G\displaystyle\frac{mM}{2r}\)。無限遠を基準にした万有引力の位置エネルギー \(-G\displaystyle\frac{mM}{r}\) を(3)に足す。マイナスは「地球に捕まっている」しるし。
(5) 答え: イ(小さくなる)。\(E=-G\displaystyle\frac{mM}{2r}\) が減る=さらに大きな負の数になる。そのためには分母の \(r\) が小さくなるしかない。
(6) 答え: ア(速くなる)。\(v=\sqrt{\displaystyle\frac{GM}{r}}\) は \(r\) が小さいほど大きい。円軌道では運動エネルギー \(K=-E\) なので、\(E\) が減ると \(K\) は増える。
§3.2 💡 もっと深く理解したい人へ ─ 「\(v\) を先に出す」と「エネルギーを1種類と思わない」
ここから先は「なぜそうなるか」を完全に開く。正解できた人こそ開いてほしい。この大問は、人工衛星や惑星の問題すべての土台になる型そのものだ。
▶ クリックして完全解説を開く ─ 思考のクセ診断つき
この大問の背骨(先に読む): 月にはたらく力は地球からの万有引力ただ1本。月が円運動を続けている以上、この万有引力が向心力の役をしている。だから最初に書く式はこれ1本。
$$\begin{aligned}
m\displaystyle\frac{v^2}{r} &= G\displaystyle\frac{mM}{r^2}
\end{aligned}$$
ここから \(v^2=\displaystyle\frac{GM}{r}\) が出る。(2)周期・(3)運動エネルギー・(4)力学的エネルギー・(6)速さは、全部この \(v^2=\displaystyle\frac{GM}{r}\) を部品として使う。(2)〜(4)が同じように崩れたのは、この部品を作らずに先へ進もうとしたからだ。
(1) 月が受ける万有引力の大きさ
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: \(G\displaystyle\frac{mM}{r}\) と、距離の2乗を落とす。
診断: 万有引力(力)と、万有引力の位置エネルギー \(-G\displaystyle\frac{mM}{r}\) が頭の中で混ざる「似た式を形だけで覚えるクセ」。力は距離の2乗に反比例、位置エネルギーは1乗に反比例。(4)で同じ混同が裏返しで出てくるので、ここで区別を固めておく。
誤答パターン②: 「重力だから」と \(mg\) と書く(\(g=9.8\,\text{m}/\text{s}^2\) を使う)。
診断: 「重力といえば \(mg\)」と反射する「いつもの式に飛びつくクセ」。\(g=9.8\,\text{m}/\text{s}^2\) は地表(地球の中心から地球の半径だけ離れた場所)での値。月の位置は地球の中心からはるかに遠いので、引く力はずっと弱い。\(mg\) は「地表での万有引力」を短く書いた略記号にすぎない。
誤答パターン③: \(G\displaystyle\frac{m+M}{r^2}\) と、質量を足してしまう。
診断: 「質量の積」を理由なしに暗記している「式の理由を持たないクセ」。月が受ける力は、月の質量 \(m\) が2倍なら2倍(地表で重い物ほど重力が大きいのと同じ)。地球の質量 \(M\) が2倍でも2倍(作用反作用で、地球と月の立場は対等)。両方に比例するからかけ算になる。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする。 地球の中心と月の中心を結ぶ直線を引く。月は、この直線に沿って地球の中心の向きに引かれている。
Step 2 どの原理・式を選ぶか。 万有引力の法則。大きさは「\(G\) × 質量の積 ÷ 中心間距離の2乗」。地球も月も球なので、中心に全質量が集まった点とみなしてよい。だから距離は中心どうしの \(r\)。
Step 3 式の意味を読む。
$$\begin{aligned}
F &= G\displaystyle\frac{mM}{r^2}
\end{aligned}$$
分子は「どれだけ重い者どうしか」、分母は「どれだけ離れているか」。距離が2倍になると力は \(\displaystyle\frac{1}{4}\) に弱まる。
Step 4 代入して確かめる。 文字式のまま答える問題なので、数値代入は不要。
Step 5 妥当性チェック。 ①単位:\(G\) の単位は \(\text{N}\cdot\text{m}^2/\text{kg}^2\)。これに \(\text{kg}^2\) をかけて \(\text{m}^2\) で割ると \(\text{N}\)。力の単位。合う。②極端ケース:\(r\) を限りなく大きくすると \(F\) は \(0\) に近づく。遠く離れれば引き合わない。直感と一致。③作用反作用:地球も月から同じ大きさ \(G\displaystyle\frac{mM}{r^2}\) で引かれている。式が \(m\) と \(M\) について対称なのはそのため。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: いつもの \(mg\) は、万有引力 \(G\displaystyle\frac{mM}{R^2}\)(\(R\) は地球の半径)を地表でまとめて書いたもの。つまり \(g=G\displaystyle\frac{M}{R^2}\)。地表から大きく離れる場面(人工衛星・月)では、\(mg\) を捨てて万有引力の式そのものに戻る。
波及②: 「力は2乗に反比例・位置エネルギーは1乗に反比例」は、\(\text{エネルギー}=\text{力}\times\text{距離}\) の関係から見分けられる。力の式に \(r\) を1つかけた形が位置エネルギー。迷ったら単位で区別する。
(2) 周期 ─ 27.4%の壁は「\(v\) を出す1本の式」
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: \(T=\displaystyle\frac{2\pi r}{v}\) と書いたところで止まる(\(v\) を問題の文字で表せない)。
診断: 「周期の定義式」だけを思い出して満足する「定義式で終わるクセ」。問題が使ってよい文字は \(G\)・\(M\)・\(m\)・\(r\) だけ。\(v\) は自分で導入した文字なので、答えに残せない。\(v\) を消すには、月の運動を決めている式=運動方程式に戻るしかない。
誤答パターン②: 月に「万有引力」と「向心力」の2本の力を描き、さらに遠心力まで持ち出して、項が多すぎたり符号が合わなかったりする式を立てる。
診断: 向心力を「もう1本の別の力」と数える「向心力を実在の力と思うクセ」。向心力は力の名前ではなく、役割の名前。月に実際にはたらく力は万有引力だけで、その万有引力が「中心へ向かう力」という役を引き受けている。だから式は「\(m\displaystyle\frac{v^2}{r}\)(質量×向心加速度)= 万有引力」の1本だけ。遠心力は月と一緒に回る立場で見るときにだけ使う道具で、地球から見た運動方程式と混ぜると二重に数えてしまう。
誤答パターン③: ケプラーの第3法則「周期の2乗は半径の3乗に比例」を書き、比例定数が決められずに止まる。
診断: 法則を「比例する」で止めて、比例定数がどこから来るかを考えない「法則を結論だけ覚えるクセ」。比例定数は運動方程式から決まる(Step 5 で実際に出てくる)。第3法則は暗記の出発点ではなく、運動方程式から出てくる結果。
誤答パターン④: 最後の整理で \(2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{GM}{r^3}}\) とルートの中を上下逆にする、または \(2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{r^2}{GM}}\) と \(r\) の次数を間違える。
診断: ルートの外の \(r\) を中へ入れるときに「2乗して入れる」を忘れる「式の整理の詰めが甘いクセ」。Step 5 の単位チェックをすれば一発で気づける。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする。 月は半径 \(r\) の円の上を速さ \(v\) で回る。加速度は常に円の中心(地球)向きで大きさ \(\displaystyle\frac{v^2}{r}\)。その加速度をつくっている力は、地球向きの万有引力。
Step 2 どの原理・式を選ぶか。 中心向きの運動方程式「質量×向心加速度=中心向きの力」。中心向きの力は(1)の万有引力そのもの。なぜこの式か:周期は「1周の長さ÷速さ」で決まるので、まず速さ \(v\) を知る必要がある。\(v\) を決めているのは、力と運動を結ぶ運動方程式しかない。
Step 3 式の意味を読む。
$$\begin{aligned}
m\displaystyle\frac{v^2}{r} &= G\displaystyle\frac{mM}{r^2}
\end{aligned}$$
左辺は「この速さで半径 \(r\) の円を回り続けるのに必要な中心向きの力」、右辺は「地球が実際に引いてくれる力」。両者がちょうど等しい速さのときだけ、月は同じ円を回り続けられる。速すぎれば外へふくらみ、遅すぎれば内へ落ちていく。
Step 4 代入して確かめる。 まず \(v\) を出し、それを周期の定義式に入れる。
📖 計算過程を1つずつ丁寧に見る(計算が苦手な人向け・クリックで開閉)
① 運動方程式から \(v\) を出す。両辺を \(m\) で割り、次に両辺に \(r\) をかける。
$$\begin{aligned}
m\displaystyle\frac{v^2}{r} &= G\displaystyle\frac{mM}{r^2} \\
\displaystyle\frac{v^2}{r} &= \displaystyle\frac{GM}{r^2} \\
v^2 &= \displaystyle\frac{GM}{r} \\
v &= \sqrt{\displaystyle\frac{GM}{r}}
\end{aligned}$$
月の質量 \(m\) が両辺から消えた。ここで出た \(v^2=\displaystyle\frac{GM}{r}\) は(3)(6)でも使う部品なので、ここで印をつけておく。
② 周期は「1周の長さ \(2\pi r\) ÷ 速さ \(v\)」。
$$\begin{aligned}
T &= \displaystyle\frac{2\pi r}{v} \\
T &= \displaystyle\frac{2\pi r}{\sqrt{\displaystyle\frac{GM}{r}}} \\
T &= 2\pi r\sqrt{\displaystyle\frac{r}{GM}} \\
T &= 2\pi\sqrt{r^2\cdot\displaystyle\frac{r}{GM}} \\
T &= 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{r^3}{GM}}
\end{aligned}$$
分母のルートで割る=ルートの中の分数を上下ひっくり返してかける。最後に、ルートの外の \(r\) を中へ入れるときは \(r^2\) にして入れる。
$$\begin{aligned}
T &= 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{r^3}{GM}}
\end{aligned}$$
別ルート:角速度 \(\omega\) で書いた運動方程式 \(mr\omega^2=G\displaystyle\frac{mM}{r^2}\) から \(\omega^2=\displaystyle\frac{GM}{r^3}\) を出し、\(T=\displaystyle\frac{2\pi}{\omega}\) としても同じ答えになる。どちらでもよいが、出発点が運動方程式であることは変わらない。
Step 5 妥当性チェック。 ①単位:\(GM\) の単位は \(\text{N}\cdot\text{m}^2/\text{kg}^2\) に \(\text{kg}\) をかけて \(\text{m}^3/\text{s}^2\)。\(\displaystyle\frac{r^3}{GM}\) は \(\text{m}^3\) を \(\text{m}^3/\text{s}^2\) で割って \(\text{s}^2\)、ルートで \(\text{s}\)。時間の単位。合う(ルートの中を上下逆にすると \(1/\text{s}\) になってしまい、誤答パターン④はここで見抜ける)。②向き:\(r\) が大きいほど \(T\) は長い。太陽から遠い惑星ほど1年が長いのと一致。③\(m\) が消えた:同じ半径なら、重い衛星も軽い衛星も同じ周期で回る。宇宙ステーションの中で人が浮いて見えるのは、人とステーションが同じ周期で一緒に回っているから。④両辺を2乗すると \(T^2=\displaystyle\frac{4\pi^2}{GM}r^3\)。これがケプラーの第3法則そのもので、比例定数 \(\displaystyle\frac{4\pi^2}{GM}\) は中心の天体の質量 \(M\) だけで決まる。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 天体の円運動の問題は、何を聞かれても最初に「\(m\displaystyle\frac{v^2}{r}=G\displaystyle\frac{mM}{r^2}\)」を書く。周期でも速さでもエネルギーでも、この1本から \(v\) を出すところが入口。この1行目が書けるかどうかが、(2)〜(4)の27〜28%と(1)の88.7%を分けた。
波及②: 「向心力」は役割の名前。糸の張力・摩擦力・万有引力・電気の力など、その場面で中心を向いている実在の力が向心力の役をする。円運動を見たら「向心力の担い手はだれか」を最初に特定する。
波及③: ケプラーの第3法則は「暗記する法則」から「運動方程式から出てくる結果」に格上げされた。同じ中心天体のまわりを回るものどうしなら、\(\displaystyle\frac{T^2}{r^3}\) が共通になる。§4 の楕円軌道の周期も、この共通の比を使って結ぶ。
(3) 運動エネルギー
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) のまま答える、または \(v\) をどう消すか分からず止まる。
診断: (2)の途中で作った \(v^2=\displaystyle\frac{GM}{r}\) を拾い直さない「前問の部品を拾い忘れるクセ」。そもそも(2)で \(v\) を出していなければ、(3)は解きようがない。(2)と(3)の得点率がどちらも27.4%でそろっているのは、ここがつながっている証拠。
誤答パターン②: \(G\displaystyle\frac{mM}{r}\) と、\(\displaystyle\frac{1}{2}\) を落とす。
診断: 「エネルギーは力×距離だから、万有引力×\(r\)」と単位だけを合わせて式を作る「単位合わせで式をでっち上げるクセ」。単位はたしかに合うが、係数は合わない。運動エネルギーはあくまで \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) が定義。定義から出発すれば \(\displaystyle\frac{1}{2}\) は自然に残る。
誤答パターン③: 「エネルギーの問題だから力学的エネルギー保存」と決めつけ、保存の式から \(v\) を出そうとして詰まる。
診断: 問題文の単語(「エネルギー」)で道具を選ぶ「単語で道具を選ぶクセ」。等速円運動では速さも高さもずっと同じなので、保存則で比べる「前と後」の2つの状態がそもそもない。速さを決めるのは運動方程式。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする。 月は速さ \(v\) で円を回っている。運動エネルギーは「速さだけ」で決まる量。
Step 2 どの原理・式を選ぶか。 運動エネルギーの定義 \(K=\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) と、(2)で運動方程式から出した \(v^2=\displaystyle\frac{GM}{r}\)。なぜ \(v\) でなく \(v^2\) を使うか:定義式に入っているのが \(v^2\) なので、ルートを外した形をそのまま入れる方が速くて安全。
Step 3 式の意味を読む。 「速さを、地球の引く強さ \(GM\) と半径 \(r\) で言い換える」操作。
Step 4 代入して確かめる。
📖 計算過程を1つずつ丁寧に見る(計算が苦手な人向け・クリックで開閉)
$$\begin{aligned}
K &= \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 \\
K &= \displaystyle\frac{1}{2}m\cdot\displaystyle\frac{GM}{r} \\
K &= G\displaystyle\frac{mM}{2r}
\end{aligned}$$
\(v^2\) のところに \(\displaystyle\frac{GM}{r}\) をそのまま置き、\(\displaystyle\frac{1}{2}\) と \(m\) をまとめただけ。ルートは一度も出てこない。
$$\begin{aligned}
K &= G\displaystyle\frac{mM}{2r}
\end{aligned}$$
Step 5 妥当性チェック。 ①単位:\(\text{kg}\) に \(v^2\) の単位 \(\text{m}^2/\text{s}^2\) をかけて \(\text{kg}\cdot\text{m}^2/\text{s}^2\)=\(\text{J}\)。エネルギーの単位。合う。②正の値:運動エネルギーは必ず正。合う。③向き:\(r\) が小さいほど \(K\) は大きい=内側の円ほど速く回る。水星が地球より速く公転するのと一致。この性質が(6)の答えそのものになる。④形の観察:\(K=\displaystyle\frac{1}{2}\times G\displaystyle\frac{mM}{r^2}\times r\)、つまり「万有引力×半径」のちょうど半分。誤答パターン②はこの「半分」を落としたもの。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 円運動の問題では、速さを決めるのは運動方程式、エネルギーはその結果を定義式に入れて出す、という役割分担になる。「エネルギーを聞かれたら保存則」という短絡を外す。
波及②: 前の小問で出した \(v^2\) のような「部品」は、後ろの小問で何度も使われる。連鎖型の大問では、途中の結果に印をつけておく習慣が得点を左右する。
(4) 力学的エネルギー(位置エネルギーの基準は無限遠)
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: 位置エネルギーを \(+G\displaystyle\frac{mM}{r}\) と正にして、\(E=\displaystyle\frac{3GmM}{2r}\) とする。
診断: 「位置エネルギーは高い所ほど大きい」は覚えていても、基準がどこかを確かめない「基準点を確認しないクセ」。基準の無限遠は、地球から見ていちばん高い場所。そこを \(0\) にしたのだから、地球に近い場所は全部それより低い=負になる。
誤答パターン②: 位置エネルギーを \(-G\displaystyle\frac{mM}{r^2}\) と、力の式の形で書く。
診断: (1)の誤答パターン①の裏返しで、「似た式を形だけで覚えるクセ」。単位で見分ける:\(G\displaystyle\frac{mM}{r^2}\) は \(\text{N}\)(力)、\(G\displaystyle\frac{mM}{r}\) は \(\text{N}\cdot\text{m}\)=\(\text{J}\)(エネルギー)。
誤答パターン③: 位置エネルギーを \(mgr\) と書く。
診断: \(mgh\) は「地表の近くで \(g\) が一定とみなせる範囲」だけで使える近似式。月までの距離では引く力が場所によって大きく変わるので使えない。「近似式の使える範囲を忘れるクセ」。
誤答パターン④: 計算で負の値が出たことに不安になり、マイナスを消して \(G\displaystyle\frac{mM}{2r}\) と答える。
診断: 「エネルギーは正の量のはず」という思い込みで、正しい結果を書き換えてしまう「負の数を怖がるクセ」。力学的エネルギーが負であることには、はっきりした意味がある(Step 5)。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする。 地球を中心にした深い「くぼみ(井戸)」を思い浮かべる。井戸のふち=無限遠の高さを \(0\) とする。月はその井戸の内側の壁を、一定の深さで回り続けている。
Step 2 どの原理・式を選ぶか。 力学的エネルギー=運動エネルギー+位置エネルギー。運動エネルギーは(3)の \(K\)。位置エネルギーは、無限遠基準の万有引力の位置エネルギー \(U=-G\displaystyle\frac{mM}{r}\)。
Step 3 式の意味を読む。
$$\begin{aligned}
E &= K+U
\end{aligned}$$
\(K\) は正(井戸の中を走る勢い)、\(U\) は負(井戸の深さ)。足し算の結果が正か負かで、月が井戸から出られるかどうかが決まる。
Step 4 代入して確かめる。
📖 計算過程を1つずつ丁寧に見る(計算が苦手な人向け・クリックで開閉)
$$\begin{aligned}
E &= K+U \\
E &= G\displaystyle\frac{mM}{2r}+\left(-G\displaystyle\frac{mM}{r}\right) \\
E &= G\displaystyle\frac{mM}{2r}-G\displaystyle\frac{2mM}{2r} \\
E &= -G\displaystyle\frac{mM}{2r}
\end{aligned}$$
分母を \(2r\) にそろえると、\(1-2=-1\) で、運動エネルギーと同じ大きさのマイナスが残る。
$$\begin{aligned}
E &= -G\displaystyle\frac{mM}{2r}
\end{aligned}$$
Step 5 妥当性チェック。 ①単位:\(\text{J}\)。合う。②負の意味:\(E\) が負=井戸のふちまで登りきるだけの勢いがない=地球に捕まっている(束縛されている)。月が地球から離れていかないのと一致。地球の引力を振り切って無限遠へ行くには、少なくとも \(G\displaystyle\frac{mM}{2r}\) だけのエネルギーを外から加えて \(E\) を \(0\) 以上にする必要がある。③極端ケース:\(r\) を限りなく大きくすると \(E\) は \(0\) に近づく。井戸のふちに近いほど浅い。合う。④3つの量の比:(3)と並べると、\(K=G\displaystyle\frac{mM}{2r}\)、\(U=-G\displaystyle\frac{mM}{r}\)、\(E=-G\displaystyle\frac{mM}{2r}\)。比は \(K:U:E=1:(-2):(-1)\)。この比が(5)(6)の鍵になる。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 位置エネルギーの符号は、基準点をどこに置いたかで決まる。無限遠を基準にした万有引力の位置エネルギーは、どこでも負。「基準はどこ?」を毎回口に出してから符号を決める。
波及②: 力学的エネルギーが負=束縛、\(0\) 以上=無限遠まで逃げられる。この「符号で運命が決まる」見方は、人工衛星が地球を脱出する条件など、天体の問題全体で使える判定のものさしになる。
波及③: 円軌道では \(K\)・\(U\)・\(E\) が \(1:(-2):(-1)\) で固く結ばれている。1つ分かれば残り2つは即座に出る。
(5) 力学的エネルギーが減ったとき、半径は?
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: ア(大きくなる)。「\(E\) が減る= \(G\displaystyle\frac{mM}{2r}\) が小さくなる= \(r\) が大きくなる」と考える。
診断: 負の数の「減る」を、大きさ(絶対値)が小さくなることと取り違える「負の数を絶対値で読むクセ」。\(-10\) から \(-12\) になるのが「減った」。\(E\) が減ると、その大きさ \(G\displaystyle\frac{mM}{2r}\) はむしろ大きくなる。
誤答パターン②: ウ(変わらない)。「等速円運動は続く」と書いてあるので、同じ円のままだと思う。
診断: 「円運動が続く」と「同じ円を回る」を区別しない「条件の言葉を読み流すクセ」。(4)で分かったとおり、円軌道の \(E\) は \(r\) だけで決まる。\(E\) が変わったのに \(r\) が同じ、ということはありえない。
誤答パターン③: イを選ぶが、理由が「エネルギーが減って遅くなり、支えきれずに落ちるから」。
診断: 答えは合っていても、筋書きで当てる「直感の物語で答えを当てるクセ」。この物語は「遅くなる」を前提にしているので、そのまま(6)で「遅くなる」を選ばせる。(5)38.7%から(6)21.0%へ下がった一因はここ。理由ごと正しくないと、次の小問で崩れる。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする。 力学的エネルギーが少し減った後も、月は(別の)円を等速で回っている。前の円の半径を \(r\)、後の円の半径を \(r_{\text{後}}\) とする。
Step 2 どの原理・式を選ぶか。 円軌道なら、前でも後でも(4)の結果 \(E=-G\displaystyle\frac{mM}{2r}\) が成り立つ。なぜなら(4)の導出は「円を等速で回っている」ことしか使っていないから。つまり \(E\) と \(r\) は1対1で結ばれている。
Step 3 式の意味を読む。 \(E\) は負の数で、\(r\) が小さいほど大きな負の数(井戸の深い所)になる。「\(E\) が減る=井戸の深い所へ移る」。
Step 4 代入して確かめる。 「減った」を不等号で書き、順に変形する。
📖 計算過程を1つずつ丁寧に見る(計算が苦手な人向け・クリックで開閉)
$$\begin{aligned}
E_{\text{後}} &\lt E \\
-G\displaystyle\frac{mM}{2r_{\text{後}}} &\lt -G\displaystyle\frac{mM}{2r} \\
G\displaystyle\frac{mM}{2r_{\text{後}}} &\gt G\displaystyle\frac{mM}{2r} \\
\displaystyle\frac{1}{r_{\text{後}}} &\gt \displaystyle\frac{1}{r} \\
r_{\text{後}} &\lt r
\end{aligned}$$
2行目から3行目は、両辺に \(-1\) をかけたので不等号の向きが逆になる。3行目から4行目は、正の数 \(G\displaystyle\frac{mM}{2}\) で両辺を割っただけ(向きは変わらない)。4行目から5行目は、逆数を比べると大小が入れかわる(どちらも正の数なので)。
したがって \(r_{\text{後}}\lt r\)、半径は小さくなる。答えはイ。
Step 5 妥当性チェック。 ①井戸の絵:エネルギーを失う=井戸の深い所へ沈む=地球に近づく。絵と一致。②逆向きの極端ケース:\(E\) を増やして \(0\) に近づけると \(r\) は限りなく大きくなり、\(E=0\) で無限遠まで逃げていく。(4)の「負=束縛」の話とつながる。③「遅くなって落ちる」という物語は使っていない。式だけで結論が出たことを確認する。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 負の量の「増える/減る」は、数直線の右/左で判断する。大きさ(絶対値)の増減とは逆向きになる。エネルギーに限らず、負の値をとる量を比べるときはいつもこの確認をする。
波及②: 「円運動が続く」という条件は、「前の状態でも後の状態でも、同じ関係式(ここでは \(E=-G\displaystyle\frac{mM}{2r}\))が使える」という使える式の宣言として読む。条件文は、どの式を2回使ってよいかを教えてくれている。
(6) そのとき速さは? ─ 21.0%の逆説「エネルギーが減ったのに速くなる」
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: イ(遅くなる)。「エネルギーを失う=ブレーキがかかる=遅くなる」と考える。
診断: 「エネルギー」と聞くと運動エネルギーだけを思い浮かべる「エネルギーを1種類だと思うクセ」。減ったのは力学的エネルギー=運動エネルギー+位置エネルギー。位置エネルギーが大きく下がれば、力学的エネルギーが減っていても運動エネルギーは増えられる。
誤答パターン②: ウ(変わらない)。「等速円運動だから速さは一定」と考える。
診断: 「等速」は1つの円の上では速さが一定という意味で、円が変わる前と後の比較ではない。「1つの状態の性質と、2つの状態の比較を混ぜるクセ」。
誤答パターン③: (5)で半径が小さくなると分かったので、\(v=\displaystyle\frac{2\pi r}{T}\) で「\(r\) が小さい→ \(v\) も小さい」とする。
診断: 式の中の1つの文字だけを動かして、ほかを固定したままにする「1文字だけ動かすクセ」。半径が変われば周期 \(T\) も変わる((2)より \(T\) は \(r\) の \(\displaystyle\frac{3}{2}\) 乗に比例)。\(T\) の方が \(r\) より大きく縮むので、\(v\) はむしろ大きくなる。変化を調べるときは、残りの文字が定数だけになった式(ここでは \(v=\sqrt{\displaystyle\frac{GM}{r}}\))を使う。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする。 (5)で月は内側の円(半径 \(r_{\text{後}}\lt r\))へ移った。内側の円でも等速円運動は続いている。
Step 2 どの原理・式を選ぶか。 道は2本ある。道A=運動方程式:新しい円でも \(m\displaystyle\frac{v^2}{r}=G\displaystyle\frac{mM}{r^2}\) が成り立つので \(v=\sqrt{\displaystyle\frac{GM}{r}}\)。変わるのは \(r\) だけで、\(G\)・\(M\) は定数。道B=エネルギーの比:(4)で見た \(K:U:E=1:(-2):(-1)\)、つまり \(K=-E\)、\(U=2E\)。2本の独立な道で同じ結論が出れば、直感の方を修正してよい。
Step 3 式の意味を読む。 道A:\(v\) は \(\sqrt{r}\) に反比例=内側ほど速い。道B:\(K=-E\) なので、\(E\) が減れば(より負になれば)\(K\) は増える。
Step 4 代入して確かめる。 道Bで、エネルギーの出入りを帳簿のように追う。失った力学的エネルギーの大きさを \(W\)(\(W \gt 0\))とする。
📖 計算過程を1つずつ丁寧に見る(計算が苦手な人向け・クリックで開閉)
① まず円軌道での3つの量の関係を確認する。
$$\begin{aligned}
K &= G\displaystyle\frac{mM}{2r} \\
E &= -G\displaystyle\frac{mM}{2r} \\
K &= -E
\end{aligned}$$
$$\begin{aligned}
U &= -G\displaystyle\frac{mM}{r} \\
U &= 2\times\left(-G\displaystyle\frac{mM}{2r}\right) \\
U &= 2E
\end{aligned}$$
② 力学的エネルギーが \(W\) だけ減った後の運動エネルギー。
$$\begin{aligned}
E_{\text{後}} &= E-W \\
K_{\text{後}} &= -E_{\text{後}} \\
K_{\text{後}} &= -(E-W) \\
K_{\text{後}} &= -E+W \\
K_{\text{後}} &= K+W
\end{aligned}$$
③ 同じく位置エネルギー。
$$\begin{aligned}
U_{\text{後}} &= 2E_{\text{後}} \\
U_{\text{後}} &= 2(E-W) \\
U_{\text{後}} &= 2E-2W \\
U_{\text{後}} &= U-2W
\end{aligned}$$
帳簿にまとめると:位置エネルギーが \(2W\) 下がり、そのうち \(W\) が運動エネルギーに回って速くなり、残りの \(W\) が外へ失われた(たとえば抵抗による熱)。力学的エネルギーは差し引き \(W\) だけ減っている。つじつまは完全に合う。
運動エネルギーが \(W\) 増えたので、速さは速くなる。道A(\(r\) が小さいほど \(v=\sqrt{\displaystyle\frac{GM}{r}}\) は大きい)とも一致。答えはア。
Step 5 妥当性チェック。 ①直感への翻訳:月は井戸の内側へ落ちた。物を落とせば速くなるのと同じで、落ちた分の位置エネルギーが運動エネルギーに変わる。抵抗などが奪うのは、その落ちた分の一部(半分)だけ。だから「エネルギーを失いながら速くなる」は矛盾しない。②現実との照合:低い軌道の人工衛星は、ごく薄い大気から抵抗を受けると、高度を下げながら速くなっていく。抵抗が「ブレーキ」なのに速くなる、という同じ逆説が実際に起こる。③2本の道の一致:運動方程式(道A)とエネルギーの比(道B)が同じ結論。独立な2つの確認が一致したので、直感の「遅くなる」の方を修正する。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 円軌道では \(K=-E\)、\(U=2E=-2K\)。だから「力学的エネルギーの増減」と「運動エネルギー(速さ)の増減」はいつも逆向き。外側の円へ移す(\(E\) を増やす)と遅くなり、内側の円へ移す(\(E\) を減らす)と速くなる。§4 で、加速して外へふくらんだ衛星が遠い点 B では遅くなっているのも、同じ根っこの話。
波及②: 「エネルギーが減った」と言われたら、どのエネルギーか(運動・位置・力学的)を必ず特定する。名前の違う3つを1つの「エネルギー」として扱うと、今回のような逆説で必ずつまずく。
波及③: 結論が直感に反したときは、独立な2本の道(運動方程式とエネルギー)で確かめる。2本が一致すれば、直すべきは式ではなく直感の方。これは物理全体で使える、思考のクセを修正する手順そのもの。
大問[3] 全体のまとめ: 流れは一直線。①向心力=万有引力の1本の式で \(v^2=\displaystyle\frac{GM}{r}\) を作る → ②定義に入れて周期・運動エネルギー → ③位置エネルギーを足して力学的エネルギー → ④3つの比 \(K:U:E=1:(-2):(-1)\) で変化を読む。(2)〜(4)が27〜28%だったのは①が書けていなかったから、(6)が21.0%だったのは「エネルギーは1種類」という思い込みのせい。最初の1行と、エネルギーを名前で区別すること。この2つを身につければ、人工衛星の問題はこわくない。
§4. [4] 人工衛星の円軌道から楕円軌道へ ─ 面積速度・エネルギー保存・第3法則の三段構え(\(v_0\), \(T_0\), \(V\), \(v\), \(T\) 使用)
地球(質量 \(M\))のまわりを半径 \(r\) で等速円運動している衛星が、ある点Aでぐっと加速して楕円軌道に乗り移る。Aが地球にいちばん近い点、反対側のBがいちばん遠い点で、地球の中心からBまでの距離が \(R\)。この楕円の速さと周期を、全部文字式で追いかける大問だ。※ 問題文は手元プリント参照。
この大問の全体得点率は32.3%。とくに(3)は6.5%、(4)は8.1%と、ほぼ全滅に近い。原因は計算力ではない。「楕円の上で、どの道具がどこで使えるか」の地図が頭に無いことだ。面積速度・エネルギー保存・ケプラーの第3法則という3つの道具を、それぞれ「なぜここで使えるのか」から組み立て直そう。
§4.1 解答(Layer 1 ─ 端的解答+サクッと解説)
※ 問題文は手元プリント参照。答えと1-2行の要点だけ先に示します。詳しい思考プロセスは §4.2 のアコーディオン内。
(1) 答え: \(v_0=\sqrt{\displaystyle\frac{GM}{r}}\)、\(T_0=2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{r^3}{GM}}\)。中心向きの運動方程式 \(m\displaystyle\frac{v_0^2}{r}=G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\) から速さ、周期は「1周の長さ \(2\pi r\) ÷ 速さ」。
(2) 答え: \(V=\displaystyle\frac{r}{R}v\)。近地点Aと遠地点Bでは速度が「地球との線分」に垂直なので、面積速度がそのまま \(\displaystyle\frac{1}{2}rv\) と \(\displaystyle\frac{1}{2}RV\) で書け、これが等しい。
(3) 答え: \(v=\sqrt{\displaystyle\frac{2GMR}{r(r+R)}}\)。AとBで力学的エネルギー保存(万有引力の位置エネルギーは \(-G\displaystyle\frac{Mm}{r}\))を立て、(2)の \(V\) を代入して \(v\) について解く。
(4) 答え: \(T=\left(\displaystyle\frac{r+R}{2r}\right)^{3/2}T_0\)。楕円の半長軸は \(\displaystyle\frac{r+R}{2}\)。同じ地球のまわりの軌道どうしなので、円軌道(半長軸 \(r\)・周期 \(T_0\))と第3法則で比べられる。
§4.2 💡 もっと深く理解したい人へ ─ 「楕円の上の道具の使いどころ」を地図にする
ここから先は「なぜそうなるか」を完全に開く。正解できた人こそ開いてほしい。(1)→(2)→(3)→(4)は、1つ前の結果を部品として次へ流し込む一本道になっている。
▶ クリックして完全解説を開く ─ 思考のクセ診断つき
(1)-① 円軌道の速さ \(v_0\)(得点率42.7%)
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: 運動方程式を \(m\displaystyle\frac{v_0^2}{r}=G\displaystyle\frac{Mm}{r}\) と書き、万有引力の分母の2乗を落として \(v_0=\sqrt{GM}\) とする。
診断: 「万有引力は距離の2乗に反比例」を形だけで覚えている「公式の形をなんとなく写すクセ」。答えに \(r\) が残らない=「どの高さを回っても同じ速さ」という変な結論になる時点で、おかしいと気づけるはず。
誤答パターン②: 「重力は \(mg\)」として \(m\displaystyle\frac{v_0^2}{r}=mg\) から \(v_0=\sqrt{gr}\) と書く。
診断: 地上の道具をそのまま宇宙へ持ち出す「地表の常識を宇宙に持ち込むクセ」。\(g\) は地表での値で、地球から離れれば小さくなる。問題が \(G\)、\(M\)、\(r\) という文字をくれているのは「万有引力の式で書け」という合図だ。
誤答パターン③: \(v_0=\displaystyle\frac{2\pi r}{T_0}\) と書いて終わる。
診断: まだ分かっていない量(\(T_0\))で答えを書いてしまう「未知数で未知数を表すクセ」。式としては正しいが、答えになっていない。速さを「決める」のは運動方程式で、周期の式は速さが分かった後に使う道具だ。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする。 地球の中心を中心に、半径 \(r\) の円をぐるぐる回る衛星。衛星にはたらく力は地球からの万有引力だけで、それは常に地球の中心を向く。つまり、この万有引力が「円運動をさせるための中心向きの力(向心力)」の役を一人で担っている。
Step 2 どの原理・式を選ぶか(+なぜ)。 等速円運動では、中心向きの加速度が \(\displaystyle\frac{v^2}{r}\)。だから中心向きの運動方程式「\(m \times\)(中心向きの加速度)=(中心向きの力)」を立てる。力は万有引力 \(G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\)。
Step 3 式の意味を読む。 左辺は「この速さで半径 \(r\) を回るのに必要な中心向きの力」、右辺は「地球が実際に引っぱってくれる力」。この2つがぴったり等しい速さのときだけ、衛星は円を描き続ける。
$$\begin{aligned}
m\displaystyle\frac{v_0^2}{r} &= G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}
\end{aligned}$$
Step 4 代入して確かめる。 両辺を \(m\) で割り、\(r\) を掛けて、ルートをとる。
📖 計算過程を1つずつ丁寧に見る(計算が苦手な人向け・クリックで開閉)
$$\begin{aligned}
m\displaystyle\frac{v_0^2}{r} &= G\displaystyle\frac{Mm}{r^2} \\
\displaystyle\frac{v_0^2}{r} &= \displaystyle\frac{GM}{r^2} \\
v_0^2 &= \displaystyle\frac{GM}{r^2}\times r \\
v_0^2 &= \displaystyle\frac{GM}{r} \\
v_0 &= \sqrt{\displaystyle\frac{GM}{r}}
\end{aligned}$$
衛星の質量 \(m\) は両辺から消える。つまり、重い衛星も軽い衛星も、同じ半径なら同じ速さで回る。
Step 5 妥当性チェック。 ①単位:\(G\) の単位は \(\text{N}\cdot\text{m}^2/\text{kg}^2\)。これに \(M\)(\(\text{kg}\))を掛け \(r\)(\(\text{m}\))で割ると \(\text{N}\cdot\text{m}/\text{kg}\)。\(\text{N}\) は \(\text{kg}\cdot\text{m}/\text{s}^2\) なので、全体は \(\text{m}^2/\text{s}^2\)=速さの2乗。ルートをとれば速さ。合っている。②傾き:\(r\) が大きい(地球から遠い)ほど \(v_0\) は小さい。遠くの惑星ほどゆっくり回る、という天体の常識と一致。③\(m\) が残らない:落下運動で重さによらず同じように落ちるのと同じ理由。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 円運動の速さは、いつでも「\(m\displaystyle\frac{v^2}{r}\)=中心向きの力」の一本で決まる。中心向きの力が万有引力でも、糸の張力でも、静電気力でも、型はまったく同じ。「誰が中心向きの力を担当しているか」を先に名指しすれば式は立つ。
波及②: 地球のまわりの問題で \(g\) を使ってよいのは「地表付近」と明示されたときだけ。文字 \(G\)、\(M\) が与えられたら、それは万有引力の式で書けというサインとして読む。
(1)-② 円軌道の周期 \(T_0\)(得点率34.7%)
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: \(T_0=\displaystyle\frac{2\pi r}{v_0}\) に \(v_0\) を入れるところで、分数の割り算を逆にして \(T_0=2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{GM}{r^3}}\) のように上下が逆さまの式を書く。
診断: 「ルートの中の分数で割る=ひっくり返して掛ける」を雑に処理する「分数の割り算で上下を取り違えるクセ」。\(G\) や \(M\) が大きい(強く引っぱる)ほど速く回る=周期は短くなるはず。\(GM\) が分子にある式は、その直感と逆を言っている。
誤答パターン②: \(r\) を1個取りこぼして \(T_0=2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{r^2}{GM}}\) とする。
診断: ルートの外の \(r\) を中へ入れるとき2乗するのを忘れる「ルートの出し入れで指数を数え忘れるクセ」。単位を確かめれば一発で見つかる(Step 5)。
誤答パターン③: 周期の定義を取り違えて \(T_0=\displaystyle\frac{v_0}{2\pi r}\) や \(T_0=\displaystyle\frac{2\pi}{v_0}\) と書く。
診断: 「周期=1周にかかる時間」という言葉の意味から式を作らず、形の記憶に頼る「定義を言葉で言えないまま式を書くクセ」。時間=距離÷速さ、1周の距離は \(2\pi r\)。言葉から作れば間違えようがない。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする。 円周 \(2\pi r\) の道を、一定の速さ \(v_0\) で1周する。その時間が周期 \(T_0\)。
Step 2 どの原理・式を選ぶか(+なぜ)。 等速なので「時間=距離÷速さ」がそのまま使える。速さは①で求めた \(v_0\) を部品として使う。
Step 3 式の意味を読む。 \(T_0=\displaystyle\frac{2\pi r}{v_0}\)。半径が大きいと、①道が長くなり、②しかも速さが遅くなる。二重に周期が長くなるので、\(r\) の効き方は1乗より強くなるはずだ。
$$\begin{aligned}
T_0 &= \displaystyle\frac{2\pi r}{v_0}
\end{aligned}$$
Step 4 代入して確かめる。 \(v_0=\sqrt{\displaystyle\frac{GM}{r}}\) を入れ、外の \(r\) をルートの中へしまう。
📖 計算過程を1つずつ丁寧に見る(計算が苦手な人向け・クリックで開閉)
$$\begin{aligned}
T_0 &= \displaystyle\frac{2\pi r}{\sqrt{\displaystyle\frac{GM}{r}}} \\
T_0 &= 2\pi r\times\sqrt{\displaystyle\frac{r}{GM}} \\
T_0 &= 2\pi\sqrt{r^2}\times\sqrt{\displaystyle\frac{r}{GM}} \\
T_0 &= 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{r^2\times r}{GM}} \\
T_0 &= 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{r^3}{GM}}
\end{aligned}$$
2行目:\(\sqrt{\displaystyle\frac{GM}{r}}\) で割ることは、ひっくり返した \(\sqrt{\displaystyle\frac{r}{GM}}\) を掛けることと同じ。3行目:ルートの外の \(r\) は、中に入れると \(r^2\) になる(\(r\) は正なので \(r=\sqrt{r^2}\))。
Step 5 妥当性チェック。 ①単位:①で見たとおり \(\displaystyle\frac{GM}{r}\) は \(\text{m}^2/\text{s}^2\)。だから \(\displaystyle\frac{r^3}{GM}\) は \(\text{m}^3\) を \(\text{m}^3/\text{s}^2\) で割ったもの=\(\text{s}^2\)。ルートをとって \(\text{s}\)、時間になる。誤答パターン②の \(\displaystyle\frac{r^2}{GM}\) だと \(\text{s}^2/\text{m}\) になって時間にならない。②式を2乗すると \(T_0^2=\displaystyle\frac{4\pi^2}{GM}r^3\)。つまり「周期の2乗は半径の3乗に比例」=ケプラーの第3法則そのもの。(4)でこの形が主役になる。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 円運動の周期は「1周の長さ÷速さ」。暗記するのではなく、言葉の定義から毎回その場で作る。§3 の(2)(月の周期)もまったく同じ構造で、中心の天体と半径の文字が違うだけ。
波及②: \(T_0^2=\displaystyle\frac{4\pi^2}{GM}r^3\) の比例定数 \(\displaystyle\frac{4\pi^2}{GM}\) には、回っている衛星の情報が一切入っていない。入っているのは中心の天体の質量 \(M\) だけ。「同じ地球のまわりなら、どの軌道も同じ定数を共有する」──これが(4)を解く鍵になる。
(2) 楕円軌道の遠地点Bでの速さ \(V\)(得点率69.4%)
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: 面積速度一定を \(rv=RV\) までは書けたのに、解くときに \(V=\displaystyle\frac{R}{r}v\) と上下を逆にする。
診断: 結果の「向き」を物理で確かめない「答えの大小を感覚で点検しないクセ」。Bは地球から遠い点。遠いほど遅いはずなので、\(V\) は \(v\) より小さくなければならない。\(R \gt r\) だから \(\displaystyle\frac{R}{r}\) を掛けると速くなってしまい、矛盾する。
誤答パターン②: 「Bでも円運動の式が使える」として \(V=\sqrt{\displaystyle\frac{GM}{R}}\) と書く。
診断: 楕円軌道の点を、その距離の円軌道の点と同一視する「どの軌道に乗っているかを区別しないクセ」。\(\sqrt{\displaystyle\frac{GM}{R}}\) は「半径 \(R\) の円を回るための速さ」。楕円の遠地点では衛星はそれより遅く、だからこそ地球の方へ落ちていく(円を保てない)。
誤答パターン③: 面積速度を「\(rv\)」「\(\displaystyle\frac{1}{2}rv\)」と丸暗記で書き、なぜその形になるのか説明できない。今回はたまたま合っても、斜めに進む点で同じ式を使って崩れる。
診断: 「\(\displaystyle\frac{1}{2}rv\)」がどんな三角形の面積なのかを描かない「図形の意味を飛ばして公式だけ持つクセ」。この式がそのまま使えるのは速度が半径に垂直なとき限定だ(Step 1〜3)。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする。 地球の中心から衛星へ線分を引く。ごく短い時間 \(\Delta t\) の間に衛星は \(v\Delta t\) だけ進み、線分は細い三角形をはらう。近地点Aでは、衛星の速度は線分に垂直だ。なぜなら、Aは地球にいちばん近い点で、その瞬間の衛星は地球に「近づいてもいないし遠ざかってもいない」。地球へ向かう成分が0=速度は線分に垂直。遠地点Bも同じ理由(いちばん遠い点)で垂直になる。
Step 2 どの原理・式を選ぶか(+なぜ)。 衛星にはたらく力は万有引力だけで、それは常に地球の中心を向く。この条件のもとで成り立つのがケプラーの第2法則=面積速度一定。AとBの速さを結ぶにはこれを使う。エネルギー保存も成り立つが、それは(3)で使う。
Step 3 式の意味を読む。 Aでは、細い三角形の「底辺」が \(r\)、「高さ」が \(v\Delta t\)(速度が底辺に垂直だから、進んだ距離がそのまま高さになる)。面積は \(\displaystyle\frac{1}{2}r\cdot v\Delta t\)。これを \(\Delta t\) で割ったものが面積速度 \(\displaystyle\frac{1}{2}rv\)。Bでも同じく \(\displaystyle\frac{1}{2}RV\)。この2つが等しい。
$$\begin{aligned}
\displaystyle\frac{1}{2}rv &= \displaystyle\frac{1}{2}RV
\end{aligned}$$
Step 4 代入して確かめる。 両辺に2を掛けて \(R\) で割る。
📖 計算過程を1つずつ丁寧に見る(計算が苦手な人向け・クリックで開閉)
$$\begin{aligned}
\displaystyle\frac{1}{2}rv &= \displaystyle\frac{1}{2}RV \\
rv &= RV \\
V &= \displaystyle\frac{rv}{R} \\
V &= \displaystyle\frac{r}{R}v
\end{aligned}$$
Step 5 妥当性チェック。 ①大小:\(R \gt r\) なので \(\displaystyle\frac{r}{R} \lt 1\)、つまり \(V \lt v\)。遠い点ほど遅い。直感どおり。②極端ケース:\(R=r\)(楕円がつぶれて円に戻る)なら \(V=v\)。円軌道では速さ一定なので正しい。③単位:\(\displaystyle\frac{r}{R}\) は長さ÷長さで単位なし。\(V\) と \(v\) は同じ単位。合っている。
ここが分かれ道: 楕円上のふつうの点では、速度は線分に対して斜めになる。そのとき三角形の高さは \(v\Delta t\) ではなく、その「線分に垂直な成分」だけ。だから面積速度は \(\displaystyle\frac{1}{2}rv\sin\theta\)(\(\theta\) は線分と速度のなす角)になる。近地点・遠地点では \(\theta=90^\circ\) で \(\sin\theta=1\)──だから「\(\displaystyle\frac{1}{2}rv\)」とすっきり書ける。問題がわざわざAとBを選んでいるのはこのためだ。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 面積速度は「細い三角形の面積÷時間」。式を丸暗記せず、底辺(線分の長さ)と高さ(線分に垂直な速度の成分×時間)を毎回絵で確認する。垂直なら \(\displaystyle\frac{1}{2}rv\)、斜めなら \(\sin\theta\) が付く。
波及②: 面積速度一定から「近いほど速く、遠いほど遅い」が必ず出る。地球の公転で冬(近日点付近)の方が速く動くことも、ほうき星が太陽の近くだけ猛スピードで通り過ぎることも、同じ一本の法則の現れだ。
波及③: 面積速度一定が成り立つ条件は「力が常に1点(ここでは地球の中心)を向いていること」。逆に、横向きの力(ロケットの噴射など)がはたらく瞬間には成り立たない。点Aで加速する瞬間をまたいで円軌道と楕円軌道の面積速度を等しくしてはいけない理由もここにある。
(3) 楕円軌道の近地点Aでの速さ \(v\)(得点率6.5%)
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: 「Aは円軌道の上の点でもあるから、\(v=v_0=\sqrt{\displaystyle\frac{GM}{r}}\)」と答える。
診断: 同じ場所なら同じ速さ、と場所で速さを決める「場所と軌道を混同するクセ」。衛星はAで加速して楕円に乗り移った。加速したのだから \(v\) は \(v_0\) より大きい。円のままでいられる速さを超えたからこそ、外側へふくらむ楕円に変わったのだ。
誤答パターン②: 位置エネルギーを \(mgh\) で書こうとする、または万有引力の位置エネルギーの符号を落として \(+G\displaystyle\frac{Mm}{r}\) と書く。
診断: 位置エネルギーの式を地表の感覚のまま使う「地表の常識を宇宙に持ち込むクセ」の再発。地球から何千kmも離れると \(g\) は一定ではない。万有引力の位置エネルギーは、無限遠を基準(0)にして \(-G\displaystyle\frac{Mm}{r}\)。地球に近いほどより負(低い)、遠いほど0に近づく(高い)。符号を落とすと「近いほど高い」という逆の世界になる。
誤答パターン③: エネルギー保存の式は正しく立てたのに、\(\displaystyle\frac{1}{r}-\displaystyle\frac{1}{R}\) や \(1-\displaystyle\frac{r^2}{R^2}\) を整理できず、分数が何段にも重なったまま途中で止まる(または約分を間違える)。
診断: 文字式を「通分」「因数分解」で形を整えてから約分する、という手順を持たない「文字式を力ずくで展開するクセ」。この問題は \(R^2-r^2=(R-r)(R+r)\) と分解した瞬間に \((R-r)\) が約分で消えるように作られている。消える形を先に予想して整えるのがコツ。
誤答パターン④: (2)の結果を使わず、エネルギー保存の式1本だけで \(v\) を出そうとして、\(V\) が残って手が止まる。
診断: 未知数の数と式の数を数えない「式を何本そろえるべきか確かめないクセ」。未知数は \(v\) と \(V\) の2つ。だから式も2本必要で、1本目が(2)の面積速度、2本目がエネルギー保存。小問の並び自体がその設計図になっている。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする。 加速した直後の衛星はAから外へふくらみながら遠ざかり、Bに着く。遠ざかる間、地球に引き戻されて少しずつ遅くなる(運動エネルギーが位置エネルギーに変わる)。Aで速さ \(v\)・距離 \(r\)、Bで速さ \(V\)・距離 \(R\)。
Step 2 どの原理・式を選ぶか(+なぜ)。 加速が終わった後、衛星にはたらく力は万有引力だけ。万有引力は保存力なので、力学的エネルギー(運動エネルギー+万有引力の位置エネルギー)が保存する。位置エネルギーは \(g\) が一定でない場面なので \(mgh\) ではなく \(-G\displaystyle\frac{Mm}{r}\) を使う。そして未知数2つに対して、(2)の面積速度の式と合わせて2本で解く。
Step 3 式の意味を読む。 左辺はAでのエネルギー、右辺はBでのエネルギー。AからBへ行くと、運動エネルギーは減り(遅くなる)、位置エネルギーは増える(\(-G\displaystyle\frac{Mm}{R}\) は \(-G\displaystyle\frac{Mm}{r}\) より0に近い)。その増減がぴったり打ち消し合う。
$$\begin{aligned}
\displaystyle\frac{1}{2}mv^2-G\displaystyle\frac{Mm}{r} &= \displaystyle\frac{1}{2}mV^2-G\displaystyle\frac{Mm}{R}
\end{aligned}$$
Step 4 代入して確かめる。 (2)の \(V=\displaystyle\frac{r}{R}v\) を代入して \(v\) について解く。ポイントは2か所:①\(\displaystyle\frac{1}{r}-\displaystyle\frac{1}{R}\) の通分、②\(R^2-r^2=(R-r)(R+r)\) の因数分解。どちらにも \((R-r)\) が現れ、最後に約分で消える。
📖 計算過程を1つずつ丁寧に見る(計算が苦手な人向け・クリックで開閉)
(a) まず \(m\) で割って、\(v\) を含む項を左へ、\(GM\) を含む項を右へ集める。
$$\begin{aligned}
\displaystyle\frac{1}{2}mv^2-G\displaystyle\frac{Mm}{r} &= \displaystyle\frac{1}{2}mV^2-G\displaystyle\frac{Mm}{R} \\
\displaystyle\frac{1}{2}v^2-\displaystyle\frac{GM}{r} &= \displaystyle\frac{1}{2}V^2-\displaystyle\frac{GM}{R} \\
\displaystyle\frac{1}{2}v^2-\displaystyle\frac{1}{2}V^2 &= \displaystyle\frac{GM}{r}-\displaystyle\frac{GM}{R} \\
\displaystyle\frac{1}{2}v^2-\displaystyle\frac{1}{2}V^2 &= GM\left(\displaystyle\frac{1}{r}-\displaystyle\frac{1}{R}\right)
\end{aligned}$$
(b) 左辺に \(V=\displaystyle\frac{r}{R}v\) を代入し、\(\displaystyle\frac{1}{2}v^2\) でくくる。
$$\begin{aligned}
\displaystyle\frac{1}{2}V^2 &= \displaystyle\frac{1}{2}\left(\displaystyle\frac{r}{R}v\right)^2 \\
\displaystyle\frac{1}{2}V^2 &= \displaystyle\frac{1}{2}\cdot\displaystyle\frac{r^2}{R^2}v^2 \\
\displaystyle\frac{1}{2}v^2-\displaystyle\frac{1}{2}V^2 &= \displaystyle\frac{1}{2}v^2-\displaystyle\frac{1}{2}\cdot\displaystyle\frac{r^2}{R^2}v^2 \\
\displaystyle\frac{1}{2}v^2-\displaystyle\frac{1}{2}V^2 &= \displaystyle\frac{1}{2}v^2\left(1-\displaystyle\frac{r^2}{R^2}\right)
\end{aligned}$$
(c) 左辺のカッコを通分し、分子を因数分解する。 1 を \(\displaystyle\frac{R^2}{R^2}\) と書きかえてから引く。分子は「2乗-2乗」なので \(R^2-r^2=(R-r)(R+r)\)。
$$\begin{aligned}
1-\displaystyle\frac{r^2}{R^2} &= \displaystyle\frac{R^2}{R^2}-\displaystyle\frac{r^2}{R^2} \\
1-\displaystyle\frac{r^2}{R^2} &= \displaystyle\frac{R^2-r^2}{R^2} \\
1-\displaystyle\frac{r^2}{R^2} &= \displaystyle\frac{(R-r)(R+r)}{R^2}
\end{aligned}$$
(d) 右辺のカッコを通分する。 分母を \(rR\) にそろえる。\(\displaystyle\frac{1}{r}\) は分子分母に \(R\) を、\(\displaystyle\frac{1}{R}\) は分子分母に \(r\) を掛ける。
$$\begin{aligned}
\displaystyle\frac{1}{r}-\displaystyle\frac{1}{R} &= \displaystyle\frac{R}{rR}-\displaystyle\frac{r}{rR} \\
\displaystyle\frac{1}{r}-\displaystyle\frac{1}{R} &= \displaystyle\frac{R-r}{rR}
\end{aligned}$$
(e) (c)(d)を元の式に戻す。 両辺に \((R-r)\) が現れる。
$$\begin{aligned}
\displaystyle\frac{1}{2}v^2\cdot\displaystyle\frac{(R-r)(R+r)}{R^2} &= GM\cdot\displaystyle\frac{R-r}{rR}
\end{aligned}$$
(f) 両辺を \((R-r)\) で割る。 BはAより遠い(\(R \gt r\))ので \(R-r\) は0ではなく、割ってよい。
$$\begin{aligned}
\displaystyle\frac{1}{2}v^2\cdot\displaystyle\frac{R+r}{R^2} &= \displaystyle\frac{GM}{rR}
\end{aligned}$$
(g) \(v^2\) だけを左に残す。 両辺に \(2\) と \(\displaystyle\frac{R^2}{R+r}\) を掛ける。
$$\begin{aligned}
v^2 &= \displaystyle\frac{GM}{rR}\times 2\times\displaystyle\frac{R^2}{R+r} \\
v^2 &= \displaystyle\frac{2GMR^2}{rR(R+r)} \\
v^2 &= \displaystyle\frac{2GMR}{r(r+R)} \\
v &= \sqrt{\displaystyle\frac{2GMR}{r(r+R)}}
\end{aligned}$$
2行目→3行目:分子の \(R^2\) と分母の \(R\) を約分して、分子に \(R\) が1個残る。\(R+r\) と \(r+R\) は同じもの(足し算の順番を入れかえただけ)。
Step 5 妥当性チェック(必ず全部やる)。
①極端ケース1(楕円が円に戻る):\(R=r\) とおくと \(v^2=\displaystyle\frac{2GMr}{r\cdot 2r}\)、つまり \(v^2=\displaystyle\frac{GM}{r}\)。これは(1)の \(v_0^2\) と一致。加速しなければ円のまま、という当たり前のことを式が言っている。
②大小(加速したか):\(v^2\) を \(v_0^2\) で割ると \(\displaystyle\frac{2R}{r+R}\)。\(R \gt r\) なら分子 \(2R\) は分母 \(r+R\) より大きいので、この比は1より大きい。つまり \(v \gt v_0\)。「Aで加速した」という問題の設定と矛盾しない。
③極端ケース2(Bがとても遠い):\(R\) を限りなく大きくすると \(\displaystyle\frac{2R}{r+R}\) は2に近づき、\(v\) は \(\sqrt{\displaystyle\frac{2GM}{r}}\) に近づく。これは「二度と戻ってこない=地球の引力をふり切る」ぎりぎりの速さ(第2宇宙速度と呼ばれる)。楕円がどこまでも細長くのびた先に、脱出がある。式が物理の景色とつながっている。
④単位:\(\displaystyle\frac{GMR}{r(r+R)}\) は \(\displaystyle\frac{GM}{r}\) に「長さ÷長さ」を掛けた形なので、\(\text{m}^2/\text{s}^2\)。ルートで速さ。合っている。
⑤対称性:(2)の \(V=\displaystyle\frac{r}{R}v\) に代入すると \(V=\sqrt{\displaystyle\frac{2GMr}{R(r+R)}}\)。\(v\) の式の \(r\) と \(R\) を入れかえた形になっている。AとBは「近い点と遠い点」というだけで立場は対等なので、この対称性は自然だ。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 楕円軌道の「近い点と遠い点の速さ」は、必ず面積速度一定+力学的エネルギー保存の2本セットで解く。未知数2つに式2本。この組み合わせは、惑星・彗星・人工衛星のどの問題でも同じ形で出てくる。
波及②: 地球から遠く離れる運動では、位置エネルギーは \(mgh\) ではなく \(-G\displaystyle\frac{Mm}{r}\)。「無限遠を0とし、近いほど負に深くなる井戸」の絵で持っておくと、符号を落とさない。
波及③: 求めた \(v\) を使って楕円軌道の力学的エネルギーを計算すると \(-G\displaystyle\frac{Mm}{r+R}\)、つまり半長軸 \(a=\displaystyle\frac{r+R}{2}\) を使えば \(-G\displaystyle\frac{Mm}{2a}\) になる。§3 の(4)で見た円軌道のエネルギー \(-G\displaystyle\frac{mM}{2r}\) の \(r\) を \(a\) に置きかえた形だ。「楕円の性質は半長軸が握っている」という見方は、そのまま(4)へつながる。
波及④: 文字式の計算では、引き算の形(\(\displaystyle\frac{1}{r}-\displaystyle\frac{1}{R}\)、\(R^2-r^2\))を見たら「通分」「因数分解」で共通因数を探す。物理の問題で出てくる文字式は、きれいに約分できるように作られていることが多い。消えるべきものが消えないときは、途中の計算を疑う合図。
(4) 楕円軌道の周期 \(T\)(得点率8.1%)
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: 第3法則の \(a\) に \(R\)(地球の中心から遠地点までの距離)を入れて \(T=\left(\displaystyle\frac{R}{r}\right)^{3/2}T_0\) とする。
診断: 「半長軸」という言葉を「いちばん遠い距離」と取り違える「言葉の定義を図で確かめないクセ」。半長軸は楕円の長い方の直径(長軸)の半分。地球は楕円の中心ではなく焦点にいるので、地球からBまでの距離 \(R\) は半長軸ではない。
誤答パターン②: 長軸の長さを \(R-r\) と考えて、半長軸を \(\displaystyle\frac{R-r}{2}\) にする。
診断: AとBが地球の反対側にあることを絵に描かない「位置関係を頭の中だけで処理するクセ」。Aは地球の片側に \(r\)、Bは反対側に \(R\)。地球の中心はAとBの間にあるので、AからBまでの長さは引き算ではなく足し算 \(r+R\)。
誤答パターン③: 「第3法則は太陽のまわりの惑星どうしを比べる法則で、円と楕円は比べられない」と考えて手が止まる。あるいは \(T=\displaystyle\frac{\text{楕円の周の長さ}}{\text{速さ}}\) で求めようとして行き詰まる。
診断: 法則が「何と何を比べてよいか」の条件を持っていない「法則の適用範囲をあいまいにするクセ」。第3法則の比例定数は中心の天体(ここでは地球)だけで決まる((1)-②の波及②)。だから同じ地球のまわりなら、円軌道も楕円軌道も同じ定数でつながる。円は「半長軸=半径の楕円」の特別な場合にすぎない。また楕円では速さが一定でないので、「周の長さ÷速さ」は使えない。
誤答パターン④: \(T=2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{a^3}{GM}}\) まで出して、\(G\)、\(M\) を含んだまま答える。または \(T^2 \propto a^3\) を逆に使って指数を \(\displaystyle\frac{2}{3}\) にする。
診断: 「\(T_0\)、\(r\)、\(R\) で表せ」という指定を読み流す「答えの文字指定を設計図として読まないクセ」。\(T_0\) で表せと言われたら、それは「円軌道との比で解け」というメッセージ。比にすれば \(G\)、\(M\)、\(\pi\) は全部消える。また \(T\) の2乗が \(a\) の3乗に比例するので、\(T\) は \(a\) の \(\displaystyle\frac{3}{2}\) 乗に比例(逆ではない)。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする。 楕円を描き、長い方の直径(長軸)をABとする。地球は長軸の上、Aに近い側の焦点にいる。Aは地球から \(r\)、Bは地球の反対側に \(R\)。だから長軸の全長は \(r+R\)、半長軸は
$$\begin{aligned}
a &= \displaystyle\frac{r+R}{2}
\end{aligned}$$
あわせて、もとの円軌道も描く。円は「長軸も短軸も直径 \(2r\)」の楕円なので、半長軸は \(r\)、周期は \(T_0\)。
Step 2 どの原理・式を選ぶか(+なぜ)。 周期を問われ、しかも楕円の速さは場所によって変わる。こういうときの道具がケプラーの第3法則「\(T^2\) は \(a^3\) に比例」。比例定数は(1)-②で見たとおり \(\displaystyle\frac{4\pi^2}{GM}\) で、中心の天体(地球)だけで決まる。円軌道と楕円軌道は同じ地球のまわりを回っているので、同じ比例定数を共有する。だから2つの軌道を等号で結べる。
Step 3 式の意味を読む。 「周期の2乗÷半長軸の3乗」は、同じ中心天体のまわりならどの軌道でも同じ値。円軌道(半長軸 \(r\)、周期 \(T_0\))と楕円軌道(半長軸 \(a\)、周期 \(T\))で書くと、
$$\begin{aligned}
\displaystyle\frac{T^2}{a^3} &= \displaystyle\frac{T_0^2}{r^3}
\end{aligned}$$
\(G\)、\(M\) を使わずに、比だけで \(T\) を出せる。これが「\(T_0\)、\(r\)、\(R\) で表せ」の意味だ。
Step 4 代入して確かめる。 \(T^2\) について解き、ルートをとってから \(a=\displaystyle\frac{r+R}{2}\) を入れる。
📖 計算過程を1つずつ丁寧に見る(計算が苦手な人向け・クリックで開閉)
(a) \(T\) を \(a\) と \(r\) の比で表す。
$$\begin{aligned}
\displaystyle\frac{T^2}{a^3} &= \displaystyle\frac{T_0^2}{r^3} \\
T^2 &= \displaystyle\frac{a^3}{r^3}T_0^2 \\
T^2 &= \left(\displaystyle\frac{a}{r}\right)^3T_0^2 \\
T &= \sqrt{\left(\displaystyle\frac{a}{r}\right)^3}\,T_0 \\
T &= \left(\displaystyle\frac{a}{r}\right)^{3/2}T_0
\end{aligned}$$
「3乗のルート」は「\(\displaystyle\frac{3}{2}\) 乗」と同じ意味(3乗して、さらに \(\displaystyle\frac{1}{2}\) 乗=ルート)。\(T_0\) は正なので \(\sqrt{T_0^2}=T_0\)。
(b) 比 \(\displaystyle\frac{a}{r}\) を計算する。
$$\begin{aligned}
\displaystyle\frac{a}{r} &= \displaystyle\frac{r+R}{2}\times\displaystyle\frac{1}{r} \\
\displaystyle\frac{a}{r} &= \displaystyle\frac{r+R}{2r}
\end{aligned}$$
(c) (a)に(b)を入れる。
$$\begin{aligned}
T &= \left(\displaystyle\frac{r+R}{2r}\right)^{3/2}T_0
\end{aligned}$$
ルートで書けば \(T=\displaystyle\frac{r+R}{2r}\sqrt{\displaystyle\frac{r+R}{2r}}\,T_0\) とも表せる(\(\displaystyle\frac{3}{2}\) 乗=1乗×\(\displaystyle\frac{1}{2}\) 乗)。
Step 5 妥当性チェック。 ①極端ケース:\(R=r\)(楕円が円に戻る)なら \(\displaystyle\frac{r+R}{2r}=1\) で \(T=T_0\)。正しい。②大小:\(R \gt r\) なら \(\displaystyle\frac{r+R}{2r} \gt 1\) なので \(T \gt T_0\)。加速して外へふくらんだ大きな軌道は、1周に時間がかかる。直感どおり。③単位:\(\displaystyle\frac{r+R}{2r}\) は長さ÷長さで単位なし。\(T\) は \(T_0\) と同じ時間の単位。合っている。④別ルートでの検算:(1)-②の \(T_0=2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{r^3}{GM}}\) の \(r\) を \(a\) に置きかえた \(2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{a^3}{GM}}\) を \(T_0\) で割っても、同じ \(\left(\displaystyle\frac{a}{r}\right)^{3/2}\) が出る。
ここが分かれ道: 「半長軸=近い点までの距離と遠い点までの距離の平均」。地球はAとBの間にいるので、長軸は \(r+R\)、その半分が \(\displaystyle\frac{r+R}{2}\)。この1行を絵で言えるかどうかが、8.1%の壁を越えるかどうかの分かれ目だ。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: ケプラーの第3法則の比例定数は中心の天体だけで決まる。だから「同じ中心天体のまわり」でさえあれば、円軌道どうし・楕円軌道どうし・円と楕円、どんな組み合わせでも比で結べる。逆に、太陽のまわりの惑星と地球のまわりの衛星は比例定数が違うので、そのままは比べられない。
波及②: 楕円の半長軸は、いつでも「近い点の距離+遠い点の距離」の半分。中心天体は楕円の中心ではなく焦点にいる、という第1法則の絵とセットで持つ。
波及③: 「\(T_0\) で表せ」「\(v_0\) で表せ」のように、別の軌道の量で答えさせる設問は「比で解け」のサイン。比をとれば \(G\)、\(M\)、\(\pi\) などの共通部分が消え、計算が一気に軽くなる。答えの文字指定は、解き方の設計図として読む。
§5. [5] 棒を糸でつるすつり合い ─ 支点は「未知の力」の上にとる(\(M=Fl\) 使用)
重さ \(60 \, \text{N}\)・長さ \(0.80 \, \text{m}\) の一様な棒を、糸でつるしてつり合わせる3つの場面。(1) 棒を斜めにして両端を鉛直な糸で、(2) 水平にして左端と途中の2本の糸で、(3) 水平にして1本の糸と右端のおもりで支える。全体の得点率は58.3%。中でも (1) は \(T_1\)・\(T_2\) とも49.5%と半分を割り、「書いてある角度を使いたくなる」罠に多くの人がかかった。※ 問題文は手元プリント参照。
§5.1 解答(Layer 1 ─ 端的解答+サクッと解説)
※ 問題文は手元プリント参照。答えと1-2行の要点だけ先に示します。詳しい思考プロセスは §5.2 のアコーディオン内。
(1) 答え: \(T_1=30 \, \text{N}\)、\(T_2=30 \, \text{N}\)。力が全部鉛直なので、うでの長さは「水平距離」。棒が傾いても左右の水平距離は同じ割合で縮むだけで、重心(中央)から両端までの水平距離は1:1のまま。\(60^\circ\) は答えに効かない。
(2) 答え: \(T_1=20 \, \text{N}\)、\(T_2=40 \, \text{N}\)。左端(\(T_1\) の位置)を支点にすると \(T_1\) が消え、\(T_2\times 0.60=60\times 0.40\) から \(T_2=40\)。残りは力のつり合い \(T_1=60-40\)。
(3) 答え: \(T_1=80 \, \text{N}\)、\(x=0.50 \, \text{m}\)。上向きは糸1本だけなので \(T_1=60+20\)。糸の位置を支点にすると \(60\times(x-0.40)=20\times(0.80-x)\) となり \(x=0.50\)。
§5.2 💡 もっと深く理解したい人へ ─ 「うでの長さ」と「支点の選び方」を体で覚える
ここから先は「なぜそうなるか」を完全に開く。正解できた人こそ開いてほしい。
▶ クリックして完全解説を開く ─ 思考のクセ診断つき
(1) 斜めの棒を鉛直な糸2本でつるす ─ \(60^\circ\) は答えに効くのか
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: 「\(60^\circ\) が書いてあるから \(\cos\) を使うはず」と考え、張力の鉛直成分を \(T\cos 60^\circ\) と置いて \(2T\cos 60^\circ=60\) から \(T_1=T_2=60 \, \text{N}\) とする。
診断: 角度を見た瞬間に三角比を当てはめる「書いてある数字は全部使うはずだと思うクセ」と、「その角度が誰と誰のなす角かを確かめないクセ」の合わせ技。\(60^\circ\) は糸と棒のなす角で、糸そのものは鉛直。鉛直な糸の張力は、はじめから全部が鉛直上向きだ。分解するものは何もない。
誤答パターン②: 左端まわりのモーメントを、\(T_2\) 側は棒に沿った長さ \(0.80\)、重力側だけ \(0.40\cos 60^\circ\) として \(T_2\times 0.80=60\times 0.40\times\cos 60^\circ\)、よって \(T_2=15 \, \text{N}\)、\(T_1=45 \, \text{N}\) とする。
診断: 「うでの長さ=支点から作用点までの距離」と思い込む「作用点までの距離で済ませるクセ」。正しくは支点から作用線までの距離([2](5) で問われたのと同じ定義)。しかも片側だけ \(\cos\) を掛けるので、ものさしが左右でちぐはぐになっている。
誤答パターン③: 「下にある左端の糸のほうが重さを多く受け持ちそう」と見た目で判断し、\(T_1 \gt T_2\) になる数を当てにいく。
診断: 傾きの見た目で力の配分を決める「絵の印象で力を配るクセ」。力の配分を決めるのは高さではなく、重心から各糸の作用線までの水平距離だけ。高い・低いはモーメントに入ってこない。
注意: \(60\times\cos 60^\circ=30\) のように、間違った理屈からたまたま正しい数が出る式もある。理由が違うのに数字が合う状態はいちばん危ない。棒の角度や糸の位置が少し変わった瞬間に崩れるからだ。「なぜ \(30\) なのか」を言えるかどうかで自分を点検しよう。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする: 棒にはたらく力は3本。左端に \(T_1\)(鉛直上向き)、右端に \(T_2\)(鉛直上向き)、中央の重心に重力 \(60 \, \text{N}\)(鉛直下向き)。糸が棒と \(60^\circ\) をなすので、棒は水平から \(30^\circ\) 傾いている。この傾きを \(\theta\) と置いておく。3本の力はすべて鉛直という点が最重要。
Step 2 どの原理・式を選ぶか(+なぜ): 未知の力は \(T_1\) と \(T_2\) の2つ。式は「力のつり合い」と「モーメントのつり合い」の2本。モーメントの支点は未知の力が作用している点にとる。左端を支点にすれば \(T_1\) のうでの長さが \(0\) になり、式から消える。残る未知数は \(T_2\) だけになり、1本の式で決まる。
Step 3 式の意味を読む: うでの長さは「支点から力の作用線までの距離」。力が鉛直なら作用線も鉛直なので、うでの長さは支点からの水平距離になる。左端から重心までの水平距離は \(0.40\cos\theta\)、左端から右端までは \(0.80\cos\theta\)。どちらにも同じ \(\cos\theta\) がつく。つまり「傾けると、すべてのうでが同じ割合で縮む」だけ。重心から見た左右の水平距離は \(0.40\cos\theta\) ずつで、比は1:1のまま。
Step 4 代入して確かめる:
📖 計算過程を1つずつ丁寧に見る(計算が苦手な人向け・クリックで開閉)
左端まわりのモーメントのつり合い(反時計回り=\(T_2\) の向き、時計回り=重力の向き):
$$\begin{aligned}
T_2\times 0.80\cos\theta &= 60\times 0.40\cos\theta \\
T_2\times 0.80 &= 60\times 0.40 \\
T_2\times 0.80 &= 24 \\
T_2 &= \displaystyle\frac{24}{0.80} \\
T_2 &= 30
\end{aligned}$$
両辺の \(\cos\theta\) が割り算で消える。\(\theta=30^\circ\) を入れる必要すらない。続いて鉛直方向の力のつり合い:
$$\begin{aligned}
T_1+T_2 &= 60 \\
T_1 &= 60-30 \\
T_1 &= 30
\end{aligned}$$
よって \(T_1=30 \, \text{N}\)、\(T_2=30 \, \text{N}\)。
Step 5 妥当性チェック: 単位は両辺とも \(\text{N}\cdot\text{m}\) で一致し、\(T_1+T_2=60\) も満たす。極端なケースで確かめよう。棒を水平に戻す(\(\theta=0^\circ\))と、中央に重心がある棒を両端で支えるので、左右対称で \(30\) ずつなのは明らか。そこから棒を傾けても、すべてのうでが同じ割合で縮むだけなので配分は変わらない。重心の真上を通る鉛直線は、傾けても両端の糸のちょうど真ん中を通る。この直感とも一致する。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: はたらく力がすべて平行(ここでは鉛直)なら、物体を傾けてもうでの長さはすべて同じ倍率で縮むだけ。力の配分は傾ける前と同じになる。傾いたはしごや板でも、「力が全部平行かどうか」を最初に確かめると計算量が大きく減る。
波及②: うでの長さは「支点から作用線までの距離」。作用点までの距離ではない。力の向きを延ばした直線(作用線)を必ず描き、支点からその直線へ垂線を下ろす習慣をつけると、斜めの棒・斜めの力の問題で迷わなくなる。
波及③: 問題文の数値がすべて答えに使われるとは限らない。「この数は何を決める量か」を先に言葉にしてから式に入れる。使わない数値に気づけることも、理解できているしるしだ。
(2) 水平な棒を左端と途中の2本で支える ─ どちらの糸がどれだけ受け持つか
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: 「2本の糸で支えるなら半分ずつ」と考え、(1) と同じ \(T_1=T_2=30 \, \text{N}\) と答える。
診断: 直前の設問の結論をそのまま持ち込む「前の答えを引きずるクセ」。(1) で \(30\) ずつになったのは、糸が重心から等しい水平距離にあったから。今回は \(T_2\) の糸が棒の右端ではなく途中にあり、重心からの距離が左右で違う。
誤答パターン②: 重力の作用点を棒の右端だと思い、左端まわりで \(T_2\times 0.60=60\times 0.80\) として \(T_2=80 \, \text{N}\) とする(すると \(T_1\) が負になって手が止まる)。
診断: 棒の重さを「棒の端」にかかると思う「重さを端に置くクセ」。一様な棒の重力は中央(左端から \(0.40 \, \text{m}\))の1点にまとめてはたらく。\(T_1\) が負=糸が棒を下へ押す、という現実にありえない答えが出たら、それは途中で取り違えた合図だ。
誤答パターン③: なんとなく重心を支点に選び、\(T_1\times 0.40=T_2\times 0.20\) と力のつり合いを連立する途中で、距離の対応を逆にして \(T_1=40\)、\(T_2=20\) とする。
診断: 支点を「消したいもの」から選ばない「支点を何となく選ぶクセ」。重心を支点にすると未知の \(T_1\)・\(T_2\) が両方残り、連立が必要になってミスの入口が増える。未知の力の作用点(左端)を支点にすれば、1本の式で \(T_2\) が決まる。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする: 水平な棒に、左端で \(T_1\)(上向き)、左端から \(0.60 \, \text{m}\) の点で \(T_2\)(上向き)、左端から \(0.40 \, \text{m}\) の重心で \(60 \, \text{N}\)(下向き)。重心は2本の糸の間にあり、\(T_2\) の糸のほうが重心に近い(重心から \(T_1\) まで \(0.40\)、\(T_2\) まで \(0.20\))。
Step 2 どの原理・式を選ぶか(+なぜ): (1) と同じ方針で、未知の力 \(T_1\) が作用する左端を支点にとる。\(T_1\) がうで \(0\) で消え、\(T_2\) だけの式になる。その後、鉛直方向の力のつり合いで \(T_1\) を出す。
Step 3 式の意味を読む: 左端まわりで「\(T_2\) が棒を反時計回りに回そうとする働き」と「重力が時計回りに回そうとする働き」が打ち消し合う。棒は水平なので、うでの長さは棒に沿った距離そのものでよい(力が棒に垂直だから)。
Step 4 代入して確かめる:
📖 計算過程を1つずつ丁寧に見る(計算が苦手な人向け・クリックで開閉)
左端まわりのモーメントのつり合い:
$$\begin{aligned}
T_2\times 0.60 &= 60\times 0.40 \\
T_2\times 0.60 &= 24 \\
T_2 &= \displaystyle\frac{24}{0.60} \\
T_2 &= 40
\end{aligned}$$
鉛直方向の力のつり合い:
$$\begin{aligned}
T_1+T_2 &= 60 \\
T_1 &= 60-40 \\
T_1 &= 20
\end{aligned}$$
検算として、今度は \(T_2\) の位置を支点にする(\(T_2\) が消える):
$$\begin{aligned}
T_1\times 0.60 &= 60\times 0.20 \\
T_1 &= \displaystyle\frac{12}{0.60} \\
T_1 &= 20
\end{aligned}$$
よって \(T_1=20 \, \text{N}\)、\(T_2=40 \, \text{N}\)。
Step 5 妥当性チェック: 単位は \(\text{N}\)、合計 \(20+40=60\) で重さと一致。重心に近い \(T_2\) のほうが大きく、比は \(T_1:T_2=1:2\)。これは重心から各糸までの距離の比 \(0.40:0.20=2:1\) のちょうど逆。「近い支えほど多く受け持つ」という直感と合う。極端に見ると、\(T_2\) の糸を重心の真上(\(0.40\))まで動かせば \(T_2=60\)、\(T_1=0\) となり、糸1本で支えられる。この連続的な変化の途中に今回の答えがある。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 2点で支える物体では、各支えが受け持つ力は「重心からの距離の逆比」になる。机を2人で運ぶとき、重いほうに近い人がつらいのと同じ理屈で、式を立てる前に大小の見当がつけられる。
波及②: 支点は「未知の力の作用点」に置く。そうすれば未知数1つの式から順に決まり、連立方程式を解かずに済む。2つ目の未知数は、別の未知の力の点を支点にした式でも、力のつり合いでも出せるので、片方を検算に回せる。
波及③: 張力が負になるなど「現実にありえない答え」は、重心の位置や距離の取り違えを知らせる警報。答えの符号と大きさの意味を読む習慣が、自分で誤りに気づく力になる。
(3) 糸1本とおもりで水平を保つ ─ 糸の位置は「全体の重心」の真上
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: \(T_1=60 \, \text{N}\)(棒の重さだけ)や、\(T_1=60-20=40 \, \text{N}\) とする。
診断: 右端のおもりの重さを数え落とす、または向きを逆にして引いてしまう「下向きの力を数え落とすクセ」。上向きの力は糸1本だけ、下向きは棒の重力とおもりの重力の2本。1本で2本分を支えるので \(T_1\) は両方の和になる。
誤答パターン②: 左端まわりで \(60\times 0.40+20\times 0.80=40\) まで出したのに、\(60\) で割って \(x=0.67 \, \text{m}\) としたり、割るのを忘れて \(x=40\) としたりする。
診断: 「\(T_1x\)」の \(T_1\) が何だったかを見失う「割る相手を取り違えるクセ」。\(40\) は「棒とおもりが左端まわりに回そうとする働き」の合計で、これを打ち消すのは糸の張力 \(T_1=80\) のほう。割るべきは \(80\) だ。
誤答パターン③: 「棒は中央でつるせばつり合う」と覚えていて、\(x=0.40 \, \text{m}\) と答える。
診断: 棒だけのときの結論を、おもりがついた後にも当てはめる「重心は動かないと思い込むクセ」。糸1本でつるすなら、糸は「棒+おもり」全体の重心の真上に来る。おもりがついた右側へ重心はずれる。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする: 水平な棒に、左端から \(x\) の点で \(T_1\)(上向き)、左端から \(0.40\) の重心で \(60 \, \text{N}\)(下向き)、右端(左端から \(0.80\))で \(20 \, \text{N}\)(下向き)。未知は \(T_1\) と \(x\) の2つ。
Step 2 どの原理・式を選ぶか(+なぜ): まず力のつり合いで \(T_1\) を決める(未知数が \(T_1\) だけの式なので)。次にモーメントのつり合いで \(x\) を決める。ここでも支点は未知の力 \(T_1\) が作用する糸の位置にとる。すると \(T_1\) が消え、\(x\) だけの式になる。
Step 3 式の意味を読む: 糸の位置を支点にすると、左側の棒の重心は支点から \(x-0.40\)、右側のおもりは支点から \(0.80-x\) の距離。「棒の重力が反時計回りに回そうとする働き」と「おもりが時計回りに回そうとする働き」が等しい、という1本の式になる。てこのつり合いそのものだ。
Step 4 代入して確かめる:
📖 計算過程を1つずつ丁寧に見る(計算が苦手な人向け・クリックで開閉)
鉛直方向の力のつり合い:
$$\begin{aligned}
T_1 &= 60+20 \\
T_1 &= 80
\end{aligned}$$
糸の位置まわりのモーメントのつり合い:
$$\begin{aligned}
60\times(x-0.40) &= 20\times(0.80-x) \\
60x-24 &= 16-20x \\
60x+20x &= 16+24 \\
80x &= 40 \\
x &= \displaystyle\frac{40}{80} \\
x &= 0.50
\end{aligned}$$
検算として左端まわりでも立ててみる(こちらは \(T_1\) が残るので、先に出した \(T_1=80\) を使う):
$$\begin{aligned}
T_1\times x &= 60\times 0.40+20\times 0.80 \\
80x &= 24+16 \\
80x &= 40 \\
x &= 0.50
\end{aligned}$$
よって \(T_1=80 \, \text{N}\)、\(x=0.50 \, \text{m}\)。
Step 5 妥当性チェック: 単位は \(\text{N}\) と \(\text{m}\)。\(x\) は棒の重心 \(0.40\) とおもり \(0.80\) の間にあり、重い棒のほうに寄っている。重さの比は \(60:20=3:1\)、支点からの距離は \(0.10:0.30=1:3\) で、ちょうど逆比。極端なケースも見よう。おもりを \(0\) にすれば式は \(60\times(x-0.40)=0\) で \(x=0.40\)(棒の中央)に戻る。おもりをどんどん重くすれば \(x\) は右端 \(0.80\) に近づく。どちらも直感どおりだ。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 物体を1点でつるして静止させると、その点の真下に「全体の重心」が来る。だから (3) の \(x\) は「棒+おもり」の重心の位置そのもの。この見方は次の [6]・[7] の重心を求める問題と同じ骨格になる。
波及②: 2つの重さの重心は、2点を結ぶ線分を「重さの逆比」に内分する点。重い側に近づく。シーソーで重い人が支点の近くに座るのと同じで、計算の前に答えの見当がつく。
波及③: 支点は「未知の力の作用点」に置く。(1)(2)(3) すべてこの1つの方針で、未知数1つずつの式に分けられた。支点の選び方は自由だからこそ、「何を式から消したいか」で選ぶのが最短ルートになる。
§6. [6] L字に折り曲げた針金の重心 ─ 部品に分けて「重さつきの平均」(\(x_{\text{G}}\)・\(y_{\text{G}}\) 使用)
一様な針金を1点Oで直角に折り曲げ、長さ \(1.2 \, \text{m}\) の部分を \(y\) 軸上に、長さ \(2.4 \, \text{m}\) の部分を \(x\) 軸上に置いたときの重心の座標を求める問題。全体の得点率は35.5%。「重心が針金の上にない」ことへの違和感と、各辺の重さをどこに置くかの取り違えが目立った。※ 問題文は手元プリント参照。
§6.1 解答(Layer 1 ─ 端的解答+サクッと解説)
※ 問題文は手元プリント参照。答えと1-2行の要点だけ先に示します。詳しい思考プロセスは §6.2 のアコーディオン内。
答え: \((0.80 \, \text{m},\ 0.20 \, \text{m})\)。2本のまっすぐな部分に分け、それぞれの重心(中点)に重さを集める。重さは長さに比例するので \(y\) 軸上の部分:\(x\) 軸上の部分 \(=1:2\)。中点 \((0,\ 0.60)\) と \((1.2,\ 0)\) の重さつき平均をとると \(x_{\text{G}}=0.80\)、\(y_{\text{G}}=0.20\)。
§6.2 💡 もっと深く理解したい人へ ─ 「重心は物体の上にある」という思い込みを外す
ここから先は「なぜそうなるか」を完全に開く。正解できた人こそ開いてほしい。
▶ クリックして完全解説を開く ─ 思考のクセ診断つき
L字の針金の重心 ─ 2本の棒の「重さつき平均」
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: 各部分の重さを先端A・Bに集めてしまい、\(x_{\text{G}}=\displaystyle\frac{2\times 2.4}{3}=1.6\)、\(y_{\text{G}}=\displaystyle\frac{1\times 1.2}{3}=0.40\) とする。
診断: まっすぐな一様の棒の重さを「端」にかかると思う「重さを端に集めるクセ」。[5] の棒と同じで、一様な棒の重力は中点にまとめてはたらく。\(y\) 軸上の部分なら \((0,\ 0.60)\)、\(x\) 軸上の部分なら \((1.2,\ 0)\) が代表点だ。
誤答パターン②: 中点はとれたが、2本を同じ重さとして単純に平均し、\((0.60,\ 0.30)\) とする。
診断: 部品の重さの違いを忘れる「ただの平均で済ませるクセ」。一様な針金は長さに比例して重い。\(2.4 \, \text{m}\) の部分は \(1.2 \, \text{m}\) の部分の2倍の重さがあるので、重心は \(x\) 軸上の部分のほうへ強く引き寄せられる。
誤答パターン③: O・A・Bの3点を結んだ三角形の重心だと考え、\(\left(\displaystyle\frac{2.4}{3},\ \displaystyle\frac{1.2}{3}\right)=(0.80,\ 0.40)\) とする。
診断: 形が似ているだけで、知っている図形の公式に飛びつく「見た目の形で公式を選ぶクセ」。三角形の重心の公式は「三角形の板」や「3頂点に同じ重さ」のときのもの。今あるのは2辺だけの針金で、斜辺ABはない。\(x\) 座標がたまたま合うので、気づきにくい罠だ。
誤答パターン④: 計算で \((0.80,\ 0.20)\) が出たのに、「重心は針金の上にあるはず」と考えて、針金上の点(折れ目Oや \((0.80,\ 0)\) など)に書き直してしまう。
診断: 重心=物体の一部分だと思い込む「重心を物体の上に探すクセ」。重心は「全体の重さがそこに集まっているとみなせる点」で、物体の外の空間にあってもかまわない。ドーナツの重心が穴の中心にあるのと同じだ。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする: L字の針金を、\(y\) 軸上の部分(長さ \(1.2\))と \(x\) 軸上の部分(長さ \(2.4\))の2本のまっすぐな棒に分ける。それぞれの重心は中点で、\(y\) 軸上の部分は \((0,\ 0.60)\)、\(x\) 軸上の部分は \((1.2,\ 0)\)。重さは長さに比例するので、比を \(1:2\) とおく(実際の重さを知らなくても、比だけで重心は決まる)。
Step 2 どの原理・式を選ぶか(+なぜ): 重心の座標は「部品ごとの重心座標を、部品の重さで重みづけした平均」。これは「全体の重さを重心1点に集めても、原点Oまわりのモーメントは部品ごとの合計と同じになる」という条件そのもの。[5] で支点を「消したいものの上」に選んだのと同じ発想で、原点Oを基準にとると、\(y\) 軸上の部分は \(x\) 座標が \(0\)、\(x\) 軸上の部分は \(y\) 座標が \(0\) なので、それぞれ片方の式から項が消えて計算が軽くなる。
Step 3 式の意味を読む: \(x_{\text{G}}=\displaystyle\frac{w_1x_1+w_2x_2}{w_1+w_2}\) は「重さの割合で座標を混ぜる」式。重い部品ほど重心を自分のほうへ引き寄せる。\(x\) と \(y\) は別々に計算してよい。
Step 4 代入して確かめる:
📖 計算過程を1つずつ丁寧に見る(計算が苦手な人向け・クリックで開閉)
重さの比は \(y\) 軸上の部分 \(1\)、\(x\) 軸上の部分 \(2\)。まず \(x\) 座標:
$$\begin{aligned}
x_{\text{G}} &= \displaystyle\frac{1\times 0+2\times 1.2}{1+2} \\
x_{\text{G}} &= \displaystyle\frac{2.4}{3} \\
x_{\text{G}} &= 0.80
\end{aligned}$$
次に \(y\) 座標:
$$\begin{aligned}
y_{\text{G}} &= \displaystyle\frac{1\times 0.60+2\times 0}{1+2} \\
y_{\text{G}} &= \displaystyle\frac{0.60}{3} \\
y_{\text{G}} &= 0.20
\end{aligned}$$
よって重心は \((0.80 \, \text{m},\ 0.20 \, \text{m})\)。
Step 5 妥当性チェック: 単位は \(\text{m}\)。2つの中点 \((0,\ 0.60)\) と \((1.2,\ 0)\) を結ぶ線分を考えると、重心はこの線分を「重さの逆比」\(2:1\) に内分する点、つまり \(y\) 軸上の部分の中点から \(\displaystyle\frac{2}{3}\) 進んだ点になるはず。\(x\) は \(0\) から \(1.2\) の \(\displaystyle\frac{2}{3}\) で \(0.80\)、\(y\) は \(0.60\) から \(0\) へ \(\displaystyle\frac{2}{3}\) 進んで \(0.20\)。計算結果と一致する。重い \(x\) 軸側の中点に近いことも直感どおり。そしてこの点は針金の上にない。2本の部品の重心を結ぶ線分の上にあればよいので、L字の内側の空間に来るのが自然だ。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 複雑な形の重心は「重心がすぐわかる部品に分ける → 各部品の重さをその重心1点に集める → 重さつき平均をとる」の3段で求まる。コの字・T字・板を組み合わせた形も、まったく同じ手順で処理できる。
波及②: 重心は物体の外にあってもよい。ブーメランやリング、曲げた体の重心はいずれも物体の外の空間にある。計算結果が物体の外に出ても、それを理由に書き直さない。
波及③: 2つの部品の重心は、部品の重心どうしを結ぶ線分を「重さの逆比」に内分する点。[5](3) の「棒+おもり」と同じ関係で、計算の前に見当をつけたり、計算後に検算したりする道具になる。
§7. [7] 穴をあけた円盤の重心 ─ 「残り+切り取った円=もとの円」で考える(\(\text{OG}\) 使用)
半径 \(r\) の一様な円盤(中心O)から、縁に内接する半径 \(\displaystyle\frac{r}{4}\) の小さな円盤を切り取ったとき、残りの部分の重心GがOからどれだけ離れるかを求める問題。全体の得点率は54.8%。「質量は面積に比例する」と「引き算で考える」の2つがそろわないと解けない。※ 問題文は手元プリント参照。
§7.1 解答(Layer 1 ─ 端的解答+サクッと解説)
※ 問題文は手元プリント参照。答えと1-2行の要点だけ先に示します。詳しい思考プロセスは §7.2 のアコーディオン内。
答え: \(\text{OG}=\displaystyle\frac{r}{20}\)(Oから、切り取った円の中心Cと反対側)。面積は半径の2乗に比例するので、大円:小円:残り \(=16:1:15\)。「残り+小円=大円(重心O)」とみて、Oまわりで \(15\times\text{OG}=1\times\displaystyle\frac{3}{4}r\) を解く。
§7.2 💡 もっと深く理解したい人へ ─ 穴は「マイナスの重さ」として足し算に入れる
ここから先は「なぜそうなるか」を完全に開く。正解できた人こそ開いてほしい。
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穴あき円盤の重心 ─ 面積比 \(16:1:15\) と引き算の見方
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: 半径の比 \(4:1\) をそのまま質量の比にして、大円 \(4\)・小円 \(1\)・残り \(3\) とし、\(3\times\text{OG}=1\times\displaystyle\frac{3}{4}r\) から \(\text{OG}=\displaystyle\frac{r}{4}\) とする。
診断: 板の重さを長さの比で数えてしまう「面積を長さの比で数えるクセ」。一様な板の質量は面積に比例し、円の面積は半径の2乗に比例する。半径が \(\displaystyle\frac{1}{4}\) なら面積は \(\displaystyle\frac{1}{16}\)。[6] の針金(長さに比例)と、この円盤(面積に比例)を区別できるかが分かれ目だ。
誤答パターン②: 面積比 \(16:1\) は出せたが、残りの質量も \(16\) のままにして \(16\times\text{OG}=1\times\displaystyle\frac{3}{4}r\)、よって \(\text{OG}=\displaystyle\frac{3r}{64}\) とする。
診断: 切り取った後の量を数え直さない「引いた後を数え直さないクセ」。重心を求めたいのは「残り」で、その質量は \(16-1=15\)。いま式に入れているのが「どの部分の」質量なのかを、毎回言葉で確認したい。
誤答パターン③: 重心は穴をあけた側(C側)へずれる、または穴をあけても重心はOのまま、と考える。
診断: 何を取り除いたかを向きに反映できない「穴の側に重心が寄ると思うクセ」。C側の重さを取り除いたのだから、残りはC側が軽くなり、重心はCと反対側へ動く。シーソーの片側から人が降りれば、重さの中心は残った側へ移るのと同じだ。
誤答パターン④: OとCの距離を、小円の半径 \(\displaystyle\frac{r}{4}\) や大円の半径 \(r\) と取り違え、\(15\times\text{OG}=1\times\displaystyle\frac{r}{4}\) から \(\displaystyle\frac{r}{60}\) などとする。
診断: 図の中の長さを、何から何までの距離か確かめずに拾う「距離の両端を確かめないクセ」。小円は縁Bに内接するので、Cは縁から \(\displaystyle\frac{r}{4}\) 内側。\(\text{OC}=r-\displaystyle\frac{r}{4}=\displaystyle\frac{3}{4}r\) と、両端の点を言ってから長さを決める。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする: 3つの物体を並べて描く。①もとの大円(重心O)、②切り取った小円(重心C、\(\text{OC}=\displaystyle\frac{3}{4}r\))、③残りの穴あき円盤(重心G、未知)。ポイントは「③+②=①」、つまり残りに切り取った円をはめ戻せば、もとの大円に戻るという関係。
Step 2 どの原理・式を選ぶか(+なぜ): まず質量の比を決める。一様な板なので質量は面積に比例する。大円の面積は \(\pi r^2\)、小円は \(\pi\left(\displaystyle\frac{r}{4}\right)^2=\displaystyle\frac{\pi r^2}{16}\)。比にすると大円 \(16\)、小円 \(1\)、残り \(16-1=15\)。次に「③+②=①」の重心の関係を、Oまわりのモーメントで書く。支点をOに選ぶのは、[5] と同じく消したいものの上に置くため。大円①の重心はOなので、Oまわりでは①の項が \(0\) になり、③と②だけの式になる。
Step 3 式の意味を読む: ③と②を合わせた物体(=大円)の重心はOにある。だからOを支点にすると、③(質量 \(15\)、Oから距離 \(\text{OG}\))と②(質量 \(1\)、Oから距離 \(\displaystyle\frac{3}{4}r\))がOをはさんで反対側にあり、てこのようにつり合う。式は \(15\times\text{OG}=1\times\displaystyle\frac{3}{4}r\)。座標で書けば、穴を「質量 \(-1\) の円」とみて足し算に入れるのと同じ(これが「負の質量」の見方)。
Step 4 代入して確かめる:
📖 計算過程を1つずつ丁寧に見る(計算が苦手な人向け・クリックで開閉)
面積の比(質量の比):
$$\begin{aligned}
\text{小円の面積} &= \pi\left(\displaystyle\frac{r}{4}\right)^2 \\
\text{小円の面積} &= \displaystyle\frac{\pi r^2}{16} \\
\text{大円:小円} &= 16:1 \\
\text{残り} &= 16-1 \\
\text{残り} &= 15
\end{aligned}$$
Oまわりのモーメントのつり合い(残り+小円=大円、大円の項はOまわりで \(0\)):
$$\begin{aligned}
15\times\text{OG} &= 1\times\displaystyle\frac{3}{4}r \\
\text{OG} &= \displaystyle\frac{3r}{4\times 15} \\
\text{OG} &= \displaystyle\frac{3r}{60} \\
\text{OG} &= \displaystyle\frac{r}{20}
\end{aligned}$$
同じことを座標で(Oを原点、Cを \(x=\displaystyle\frac{3}{4}r\) の側にとる)。穴を質量 \(-1\) として、大円 \(16\) に足し合わせる:
$$\begin{aligned}
x_{\text{G}} &= \displaystyle\frac{16\times 0+\left(-1\right)\times\displaystyle\frac{3}{4}r}{16+\left(-1\right)} \\
x_{\text{G}} &= \displaystyle\frac{-\displaystyle\frac{3}{4}r}{15} \\
x_{\text{G}} &= -\displaystyle\frac{r}{20}
\end{aligned}$$
マイナスは「Cと反対側」という意味。
よって \(\text{OG}=\displaystyle\frac{r}{20}\)(Cと反対側)。
Step 5 妥当性チェック: 単位は長さ(\(r\) と同じ)。向きはCと反対側で、「C側の重さが減ったので反対側へ寄る」という直感と合う。大きさも見よう。取り除いたのは全体の \(\displaystyle\frac{1}{16}\) と少しだけなので、重心のずれは半径の \(\displaystyle\frac{1}{20}\) という小さな値で自然。別の見方でも確かめられる。残り(\(15\))と小円(\(1\))の重心Oは、GとCを結ぶ線分を重さの逆比 \(1:15\) に内分する点([6] で使った関係)。だから \(\text{OG}:\text{OC}=1:15\) で、\(\text{OG}=\displaystyle\frac{3}{4}r\times\displaystyle\frac{1}{15}=\displaystyle\frac{r}{20}\)。極端なケースでは、穴の半径を \(0\) に近づければ取り除く質量も \(0\) に近づき、\(\text{OG}\) も \(0\)(重心はOのまま)に戻る。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 穴あき・切り欠きのある物体は、「もとの形=残り+切り取った部分」と足し算に直すか、穴を「マイナスの質量」として重さつき平均に入れる。残りの形を直接部品に分けるより、はるかに少ない手間で重心が出る。
波及②: 最初に「質量は何に比例するか」を決める。一様な針金なら長さ、一様な板なら面積(長さの2乗)、一様な立体なら体積(長さの3乗)。[6] と [7] の違いはここだけで、比を取り違えると以後の計算がすべて崩れる。
波及③: 重心の計算は、重心の位置を支点にしたモーメントのつり合いと同じもの。「既に重心がわかっている物体の重心」を支点に選ぶと、その物体の項が消えて式が短くなる。[5] の「未知の力の上に支点を置く」と同じく、支点は何を消したいかで選ぶ。
§8. [8] ベビーカーの転倒 ─ 「浮く側の垂直抗力が0」と「水平のうで」で決まる(\(N_{\text{A}}\)・\(N_{\text{B}}\)・\(\ell\cos\theta\) 使用)
ベビーカーの持ち手(後輪の側から斜め上に伸びる棒)の先に荷物をつるすと、ある重さで後ろへひっくり返る。前輪A・後輪Bが床から受ける垂直抗力と、後輪Bまわりの力のモーメントから「倒れる条件」を文字式で追い、最後に倒れにくくする工夫を記述する。大問の得点率は全体31.7%。とくに (3) 16.1%・(4) 11.3% と、モーメントの式そのものを立てる設問で大きく崩れた。※ 問題文は手元プリント参照。
§8.1 解答(Layer 1 ─ 端的解答+サクッと解説)
※ 問題文は手元プリント参照。答えと1-2行の要点だけ先に示します。詳しい思考プロセスは §8.2 のアコーディオン内。
(1) 答え: \((m+M)g\)。荷物の重さは棒を通して車体に伝わり、床に触れているのは前輪と後輪だけ。鉛直方向のつり合いで「全部の重さ=\(N_{\text{A}}+N_{\text{B}}\)」。
(2) 答え: \(N_{\text{A}}=0\)、\(N_{\text{B}}=(2m+M)g\)。後ろへ倒れるとき浮くのは前輪A。倒れる直前は前輪の垂直抗力が0で、残る後輪Bが全部の重さを受ける。
(3) 答え: \(Mg\times\displaystyle\frac{L}{2}=2mg\times\ell\cos\theta\)。支点は後輪B。車体の重力のうでは \(\displaystyle\frac{L}{2}\)、荷物の重力のうでは棒の長さ \(\ell\) ではなく水平距離 \(\ell\cos\theta\)。
(4) 答え: \(\displaystyle\frac{LM}{\ell\cos\theta}\)。子ども(質量 \(M\))も車体中央に乗るので、車体側は質量 \(2M\)・うで \(\displaystyle\frac{L}{2}\)。(3) の式で \(M\) を \(2M\) に置き換えたのと同じ。
(5) 答え例: 「\(\theta\) の値を \(90^\circ\) に近づける」「ベビーカーを重くする」など。荷物が後ろへ倒そうとするモーメント \(mg\times\ell\cos\theta\) を小さくするか、車体が前へ戻そうとするモーメント \(Mg\times\displaystyle\frac{L}{2}\) を大きくする工夫なら、式に根拠がある。
この大問の核心4つ:
① 倒れる直前=浮く側(前輪A)の垂直抗力が0。
② 支点は倒れるときに床に残る車輪=後輪B。
③ 荷物のうでの長さは棒の長さ \(\ell\) ではなく、後輪Bから荷物の真下までの水平距離 \(\ell\cos\theta\)。
④ 子どもの質量 \(M\) は車体中央にかかる=うでの長さは \(\displaystyle\frac{L}{2}\)。
§8.2 💡 もっと深く理解したい人へ ─ 「どこが支点で、どこが浮くか」を先に決める
ここから先は「なぜそうなるか」を完全に開く。正解できた人こそ開いてほしい。
▶ クリックして完全解説を開く ─ 思考のクセ診断つき
(1) 前輪と後輪の垂直抗力の和 ─ 荷物の重さはどこへ行くか
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: \(N_{\text{A}}+N_{\text{B}}=Mg\) と、荷物の重さを数えない。荷物は車輪より外にぶら下がっていて床に触れていないから、床が支える必要はないと考える。
診断: 「床に直接触れていない重さは床に届かない」と思い込む「力の通り道を追わないクセ」。荷物の重さは、糸 → 持ち手の棒 → 車体 → 車輪 → 床、と順に伝わる。床に触れているのが車輪だけなら、全部の重さを受け止めるのは車輪しかない。
誤答パターン②: 棒が斜めなので、荷物の分を \(mg\cos\theta\) や \(mg\sin\theta\) にして和に足す。
診断: 角度や位置が効くのは「どちらの車輪にどれだけかかるか(配分)」なのに、それを「和」に持ち込む「鉛直のつり合いと回転のつり合いを混ぜるクセ」。荷物の重力はまっすぐ下向きの \(mg\) のまま。棒の向きで重さが減ったりはしない。
誤答パターン③: 答えを \(m+M\) と書いて \(g\) を掛け忘れる。
診断: 「質量と重さ(力)を区別しないクセ」。垂直抗力は力なので単位は \(\text{N}\)。\(m+M\) の単位は \(\text{kg}\) で、力と比べられない。答えを書いたら単位を一度だけ確かめる習慣で防げる。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする: 上向きの力は、床が前輪を押す \(N_{\text{A}}\) と、後輪を押す \(N_{\text{B}}\) の2本だけ。下向きの力は、車体中央にかかるベビーカーの重力 \(Mg\) と、棒の先につるした荷物の重力 \(mg\) の2本(棒の質量は無視)。
Step 2 どの原理・式を選ぶか(+なぜ): ベビーカーと荷物をひとまとめの物体と見て、鉛直方向の力のつり合いを立てる。止まっている=上下に動き出さない=上向きの合計と下向きの合計が等しい。ひとまとめにすれば、棒が荷物を支える力のような「中でやりとりする力」は打ち消し合って考えなくてよい。
Step 3 式の意味を読む: 和 \(N_{\text{A}}+N_{\text{B}}\) は、力がどこにかかっているかに関係しない。荷物を車輪の間に置いても、外にぶら下げても、和は同じ。位置が決めるのは配分(前輪と後輪の分け方)のほうで、それは (2)(3) でモーメントを使って扱う。
Step 4 代入して確かめる:
$$\begin{aligned}
N_{\text{A}}+N_{\text{B}} &= Mg+mg \\
&= (m+M)g
\end{aligned}$$
Step 5 妥当性チェック: 単位は \(\text{kg}\times\text{m}/\text{s}^2=\text{N}\) で力としてOK。極端な場合として荷物なし(\(m=0\))なら \(Mg\) で、ベビーカーだけを置いたときの値に戻る。逆に荷物を床に直接置けば、床が荷物を直接支えるぶん車輪の和は \(Mg\) に戻る ─ どちらも直感と合う。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 体重計に乗ってかばんを持つとき、手で下げても肩にかけても表示は同じ。床(体重計)が受ける力の和は「その上に乗っているものの重さ全部」で、持ち方には関係しない。
波及②: 剛体の問題では「鉛直のつり合い=和を決める式」「モーメントのつり合い=配分を決める式」と役割を分けて考えると、どちらの式に角度や位置を入れるべきか迷わない。
(2) 倒れる直前の \(N_{\text{A}}\)・\(N_{\text{B}}\) ─ 浮く側の垂直抗力は0
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: 「転倒するときは片方の垂直抗力が0」までは覚えていて、\(N_{\text{B}}=0\)、\(N_{\text{A}}=(2m+M)g\) と逆の車輪を0にする。
診断: どちら向きに倒れるかを絵で確かめない「回る向きを想像しないクセ」。荷物は後輪Bより外側にぶら下がっているので、車体は後輪Bを軸にして後ろへ回り、前輪Aが持ち上がる。浮くのは荷物から遠い側だ。
誤答パターン②: 「倒れる直前はまだ両輪とも床に着いている」と考え、\(N_{\text{A}}=N_{\text{B}}=\displaystyle\frac{(2m+M)g}{2}\) と半分ずつにする。
診断: 「直前」ということばを式に翻訳しない「限界の瞬間を読み飛ばすクセ」(加えて、根拠なく半分ずつにする「対称だと決めつけるクセ」)。前輪は床に触れてはいるが、もう床を押していない ─ それが「倒れる直前」の意味。
誤答パターン③: \(N_{\text{A}}=0\) はできたのに、\(N_{\text{B}}=Mg\) や \(N_{\text{B}}=(m+M)g\) と書く。荷物の分を入れ忘れるか、荷物が \(2m\) に変わったことを反映しない。
診断: (1) の答えをそのまま引きずる「前の小問の条件を持ち越すクセ」。(2) では荷物は \(2m\)。床に触れているのが後輪Bだけになったので、全部の重さ \((2m+M)g\) を後輪1つで受ける。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする: 荷物を重くしていくと、後輪Bを軸にして車体の前側が持ち上がる向きに回ろうとする。転倒の瞬間に床から離れるのは前輪A、床に残るのは後輪B。
Step 2 どの原理・式を選ぶか(+なぜ): まず「倒れる直前」をことばから式に翻訳する ─ 前輪Aの垂直抗力 \(N_{\text{A}}=0\)。床は物体を押すことはできても引っぱることはできないので、垂直抗力は0より小さくなれない。0になった瞬間が限界。そのうえで (1) と同じ鉛直方向のつり合いから \(N_{\text{B}}\) を出す。
Step 3 式の意味を読む: 荷物が倒れる前(一般の質量 \(m\))の \(N_{\text{A}}\) を後輪Bまわりのモーメントで書いてみると、荷物を重くするほど \(N_{\text{A}}\) が一直線に減っていくのが見える。下の計算過程を開いてほしい。\(N_{\text{A}}\) が減って0に届いた瞬間が「倒れる直前」で、それ以上荷物を重くすると式の上では \(N_{\text{A}}\) が負(床が前輪を引っぱる)になるが、床にはそれができない ─ だから回り始める。
📖 計算過程を1つずつ丁寧に見る(計算が苦手な人向け・クリックで開閉)
荷物の質量を \(m\) として、後輪Bまわりで考える。前輪Aの垂直抗力 \(N_{\text{A}}\)(うで \(L\))と荷物の重力 \(mg\)(うで \(\ell\cos\theta\))は同じ向きに回そうとし、車体の重力 \(Mg\)(うで \(\displaystyle\frac{L}{2}\))は逆向きに回そうとする。後輪Bの \(N_{\text{B}}\) は支点を通るのでうでが0。
$$\begin{aligned}
N_{\text{A}}\times L+mg\times\ell\cos\theta &= Mg\times\displaystyle\frac{L}{2} \\
N_{\text{A}} &= \displaystyle\frac{Mg}{2}-\displaystyle\frac{mg\,\ell\cos\theta}{L}
\end{aligned}$$
荷物なし(\(m=0\))なら \(N_{\text{A}}=\displaystyle\frac{Mg}{2}\)(前後半分ずつ)。\(m\) を大きくすると第2項が大きくなり、\(N_{\text{A}}\) は減っていく。
Step 4 代入して確かめる: 倒れる直前は \(N_{\text{A}}=0\)。荷物は \(2m\) なので、鉛直方向のつり合いは次のとおり。
$$\begin{aligned}
N_{\text{A}}+N_{\text{B}} &= (2m+M)g \\
0+N_{\text{B}} &= (2m+M)g \\
N_{\text{B}} &= (2m+M)g
\end{aligned}$$
Step 5 妥当性チェック: 単位は \(\text{N}\) でOK。床に触れているのが後輪だけなら、後輪が全部の重さを受けるのは当然。さらに、上の計算過程の式で \(m\) を \(2m\)、\(N_{\text{A}}\) を0にすると \(Mg\times\displaystyle\frac{L}{2}=2mg\times\ell\cos\theta\) が出てくる ─ これがそのまま (3) の答えになり、(2) と (3) が同じ現象の2つの見方だとわかる。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 「倒れる直前」「浮く直前」「面から離れる直前」は、すべてその面の垂直抗力が0と翻訳する。円運動で物体が面から離れる条件も、乗り物の座席から体が浮く条件も、同じ1行で書ける。
波及②: 「すべり出す直前」は静止摩擦力が最大摩擦力に達した瞬間。限界を表すことばは「ある力が、とりうる値の端(0や最大値)に届いた」と読み替えると、式が1本増えて解ける。
波及③: 垂直抗力を「荷物の重さで変わる量」として式で追うと、転倒は突然起こるのではなく、前輪の押す力が少しずつ減って0に届いた結果だと見える。
(3) 後輪Bまわりのモーメントのつり合い ─ うでの長さは「水平距離」
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: \(Mg\times\displaystyle\frac{L}{2}=2mg\times\ell\) と、棒の長さ \(\ell\) をそのまま荷物のうでにする。得点率16.1%の最大の原因。
診断: 「力がかかっている点までの距離」をうでだと思う「棒の長さ=うでの長さと思うクセ」。うでの長さは支点から力の作用線までの距離(§2 の (5) と同じ話)。荷物の重力はまっすぐ下向きなので、その作用線は荷物を通る鉛直線。後輪Bからこの鉛直線までの距離は、棒の水平方向の長さ \(\ell\cos\theta\) になる。
誤答パターン②: うでを \(\ell\sin\theta\) にする。
診断: 角度を見たら図を見ずに三角比を選ぶ「とりあえず sin を付けるクセ」。\(\theta\) は水平からの角なので、水平方向の長さは \(\theta\) をはさむ辺=\(\ell\cos\theta\)。極端な場合で確かめられる: 棒を真上に立てる(\(\theta=90^\circ\))と荷物は後輪の真上に来てうでは0のはず。\(\cos 90^\circ=0\) は合うが、\(\sin 90^\circ=1\) では合わない。
誤答パターン③: 支点を車体中央や前輪Aにとって \(N_{\text{A}}\) や \(N_{\text{B}}\) が式に残ったまま止まる。あるいは後輪Bまわりなのに車体の重力のうでを \(L\) にしてしまう。
診断: 支点の選び方と、各力のうでを1本ずつ測り直す手順を飛ばす「支点をなんとなく選ぶクセ」。後輪Bを支点にすると、\(N_{\text{B}}\) は支点を通るのでうで0、\(N_{\text{A}}\) は倒れる直前なので0 ─ 未知の力が2つとも式から消える。また車体の重心は車体中央で、後輪Bからは \(\displaystyle\frac{L}{2}\) であって \(L\) ではない。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする: 後輪Bに支点の印をつけ、4つの力を描く。① 後輪の \(N_{\text{B}}\)(支点を通る)、② 前輪の \(N_{\text{A}}\)(倒れる直前なので0)、③ 車体の重力 \(Mg\)(車体中央・後輪Bから前側へ水平に \(\displaystyle\frac{L}{2}\))、④ 荷物の重力 \(2mg\)(後輪Bから外側へ水平に \(\ell\cos\theta\))。③ と ④ は支点をはさんで反対側にある。
Step 2 どの原理・式を選ぶか(+なぜ): 回り始める直前=まだ回っていない=力のモーメントのつり合い。支点を後輪Bにとる理由は、(2) で見たとおり未知の \(N_{\text{B}}\) のうでが0、\(N_{\text{A}}\) も0で、式が2つの重力だけになるから。設問もBまわりを指定している。
Step 3 式の意味を読む: 左辺 \(Mg\times\displaystyle\frac{L}{2}\) は「車体の重さが前輪を床に押しつけて、元に戻そうとするモーメント」、右辺 \(2mg\times\ell\cos\theta\) は「荷物が後ろへ倒そうとするモーメント」。倒れる直前はこの2つがちょうど等しい。うでの長さは、どちらも後輪Bから鉛直な作用線までの水平距離で測っている。
Step 4 代入して確かめる:
📖 計算過程を1つずつ丁寧に見る(計算が苦手な人向け・クリックで開閉)
荷物のうでの長さ(長さ \(\ell\) の棒が水平から \(\theta\) 傾いているときの水平方向の長さ):
$$\begin{aligned}
\text{荷物のうで} &= \ell\cos\theta
\end{aligned}$$
後輪Bまわりで、向きごとにモーメントを書き出す(\(N_{\text{A}}=0\)、\(N_{\text{B}}\) のうでは0):
$$\begin{aligned}
\text{戻そうとするモーメント} &= Mg\times\displaystyle\frac{L}{2} \\
\text{倒そうとするモーメント} &= 2mg\times\ell\cos\theta
\end{aligned}$$
倒れる直前は2つが等しいので:
$$\begin{aligned}
Mg\times\displaystyle\frac{L}{2} &= 2mg\times\ell\cos\theta
\end{aligned}$$
(2) の計算過程の式 \(N_{\text{A}}\times L+mg\times\ell\cos\theta=Mg\times\displaystyle\frac{L}{2}\) に、\(N_{\text{A}}=0\)、荷物 \(2m\) を入れても同じ式になる。
Step 5 妥当性チェック: 両辺とも(力)×(長さ)で単位は \(\text{N}\cdot\text{m}\) がそろっている。極端な場合: \(\theta=90^\circ\) なら右辺は0で、荷物がいくら重くても倒れない ─ 荷物が後輪の真上にあれば、その重さは後輪がまっすぐ受けるだけなので納得できる。\(\theta\) を0に近づける(棒を寝かせる)と右辺は最大になり、いちばん倒れやすい。また両辺に \(g\) があるので約分でき、倒れるかどうかは質量と長さの比だけで決まる。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: うでの長さは「支点から作用線までの距離」。重力の作用線はいつも鉛直なので、重力のうでは必ず水平距離になる。斜めに立てかけたはしご、斜めに伸びるクレーンの腕、斜めの棒の先のおもり ─ どれも「斜めの長さ × cos」で水平距離に直してから使う。
波及②: 支点は「未知の力」や「0になる力」が通る点に置く。式から未知数が消え、1本の式で決着する。支点を選ぶことは、どの力を式から追い出すかを選ぶことだ。
波及③: この式は「ベビーカーと荷物を合わせた全体の重心が、ちょうど後輪Bの真上に来た」状態とも読める。全体の重心が支えている車輪の範囲から外へ出た瞬間に倒れる ─ 転倒の条件をモーメントでも重心でも説明できるようになると強い。
(4) 子どもが乗ったときに転倒する荷物の質量 ─ \(M\) を \(2M\) と見る
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: 子どもを式に入れず、(3) の式のまま荷物について解いて \(\displaystyle\frac{LM}{2\ell\cos\theta}\) と答える。
診断: 状況が変わったのに前の式を使い回す「条件の変化を見落とすクセ」。子どもが乗れば車体側の重さが増える。設問が変わったら、まず「何が増えた・減った・動いたか」を1行で書き出す。
誤答パターン②: 子どもの重さを荷物の側(右辺)に足す、あるいは子どものうでを \(L\) や \(\ell\cos\theta\) にする。
診断: 力ごとに「どこにかかり、支点からどれだけ離れ、どちら向きに回すか」を測り直さない「うでを1本ずつ測らないクセ」。子どもの重心は車体中央 ─ 後輪Bから前側へ \(\displaystyle\frac{L}{2}\)。だから子どもの重さは倒す側ではなく戻す側に働く。
誤答パターン③: 式は \(2Mg\times\displaystyle\frac{L}{2}=m’g\,\ell\cos\theta\) と正しく立てたのに、約分で \(\displaystyle\frac{1}{2}\) の処理を誤って \(\displaystyle\frac{2LM}{\ell\cos\theta}\) や \(\displaystyle\frac{LM}{2\ell\cos\theta}\) にする。
診断: 文字式の整理を頭の中だけで済ませる「約分を暗算で飛ばすクセ」。\(2\times\displaystyle\frac{1}{2}=1\) を1行に書き出してから進めれば防げる。得点率11.3%は、立式と整理の両方で崩れた結果だ。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする: 車体中央に下向きの力が2本並ぶ ─ ベビーカーの重力 \(Mg\) と子どもの重力 \(Mg\)。どちらも後輪Bから前側へ水平に \(\displaystyle\frac{L}{2}\) なので、まとめて「\(2Mg\) が \(\displaystyle\frac{L}{2}\) の位置」と見てよい。反対側には転倒する荷物の重力 \(m’g\) が、水平距離 \(\ell\cos\theta\) の位置にある。
Step 2 どの原理・式を選ぶか(+なぜ): (3) と同じく、転倒直前は \(N_{\text{A}}=0\) で、後輪Bまわりのモーメントのつり合い。現象の型が (3) と同じなので、同じ式の形がそのまま使える。
Step 3 式の意味を読む: (3) の式は「車体側の質量 × \(\displaystyle\frac{L}{2}\) = 荷物の質量 × \(\ell\cos\theta\)」という形。子どもが乗ると、変わるのは車体側の質量が \(M\) から \(2M\) になることだけ。式を一から作り直すより、「(3) の式のどの文字が置き換わるか」を見るほうが速く、間違いも少ない。
Step 4 代入して確かめる:
📖 計算過程を1つずつ丁寧に見る(計算が苦手な人向け・クリックで開閉)
後輪Bまわりのモーメントのつり合い(転倒直前・\(N_{\text{A}}=0\)):
$$\begin{aligned}
2Mg\times\displaystyle\frac{L}{2} &= m’g\,\ell\cos\theta \\
MgL &= m’g\,\ell\cos\theta
\end{aligned}$$
両辺を \(g\,\ell\cos\theta\) で割る:
$$\begin{aligned}
m’ &= \displaystyle\frac{LM}{\ell\cos\theta}
\end{aligned}$$
別の見方: (3) の式を荷物について解くと、転倒する荷物は \(2m=\displaystyle\frac{LM}{2\ell\cos\theta}\)。ここで \(M\) を \(2M\) に置き換えると:
$$\begin{aligned}
m’ &= \displaystyle\frac{L\times 2M}{2\ell\cos\theta} \\
&= \displaystyle\frac{LM}{\ell\cos\theta}
\end{aligned}$$
Step 5 妥当性チェック: \(\displaystyle\frac{L}{\ell}\) は長さ÷長さ、\(\cos\theta\) も単位なしなので、答えの単位は \(M\) と同じ \(\text{kg}\)。質量の答えとしてOK。また (3) で転倒した荷物 \(2m=\displaystyle\frac{LM}{2\ell\cos\theta}\) と比べると、\(m’\) はちょうど2倍。車体側の重さが2倍になれば、倒すのに必要な荷物も2倍 ─ モーメントのつり合いが比例の関係だから当然の結果で、直感とも合う。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 条件が一部だけ変わった小問は、「前の式のどの文字が置き換わるか」を探すのが最短ルート。同じ位置にかかる力は1つにまとめてよい(ここでは \(Mg+Mg=2Mg\))。
波及②: 裏返して読むと怖い。子どもが乗っているあいだは倒れなかった荷物でも、子どもを降ろした瞬間に車体側の重さが半分になり、倒れずに耐えられる荷物の限界も半分に下がる。持ち手に重い荷物をかけたまま子どもを抱き上げると、ベビーカーが後ろへひっくり返るのはこのためだ。
(5) 荷物をつるしても転倒しにくい工夫 ─ 式のどの量を動かすか
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: 「気をつけて使う」「重い荷物をかけない」と書く。
診断: 物理の式から離れて心がけを書く「式から離れて感想を書くクセ」。問われているのは「荷物をつるしても倒れにくくする工夫」。荷物を減らすのは前提を外してしまう。(3) の式のどの量を、どちら向きに変えるかを書けば、根拠のある答えになる。
誤答パターン②: 「重心を低くする」と書く。
診断: どこかで聞いた「安定の条件」を、いまの状況の式で確かめずに持ち込む「聞いたことのある答えを貼るクセ」。この問題の力は全部鉛直で、(3) の式には高さが一度も出てこない。平らな床で静かに止まっているかぎり、重心を低くしても転倒の条件は変わらない(高さが効くのは、坂道や急な発進のように横向きの力が加わるとき)。
誤答パターン③: 「\(\theta\) を小さくする(持ち手を寝かせる)」「持ち手を長くする」と、効果が逆の工夫を書く。
診断: 量を変えたとき式がどちらへ動くかを確かめない「変える向きを確かめないクセ」。\(\theta\) を小さくすると \(\cos\theta\) は大きくなり、荷物のうで \(\ell\cos\theta\) が長くなって、かえって倒れやすい。\(\ell\) を長くしても同じ。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする: 後輪Bを支点に、2つのモーメントの綱引きを思い浮かべる。倒そうとする側は荷物の \(mg\times\ell\cos\theta\)、戻そうとする側は車体の \(Mg\times\displaystyle\frac{L}{2}\)。
Step 2 どの原理・式を選ぶか(+なぜ): (3) の等式は「ちょうど倒れる境目」だった。倒れない条件は、戻そうとするモーメントが倒そうとするモーメント以上であること。
$$\begin{aligned}
Mg\times\displaystyle\frac{L}{2} &\geq mg\times\ell\cos\theta
\end{aligned}$$
「転倒しにくい工夫」とは、この不等式を成り立たせやすくすること ─ 左辺を大きくするか、右辺を小さくするかのどちらかだ。
Step 3 式の意味を読む: 不等式の文字1つずつに、ベビーカーの形のどこが対応しているかを当てはめる。
| 工夫 | 式で動く量 | 効き方 |
| 持ち手の角 \(\theta\) を \(90^\circ\) に近づける(持ち手を立てる) | \(\cos\theta\) が小さくなる | 荷物のうで \(\ell\cos\theta\) が短くなり、倒すモーメントが減る |
| ベビーカー(車体)を重くする | \(M\) が大きくなる | 戻すモーメントが増える |
| 後輪を荷物側(後ろ)へ張り出させる | 支点Bが荷物側へ動く | 荷物のうでが短く、車体の重力のうでが長くなる(両辺に効く) |
| 持ち手を短くする | \(\ell\) が小さくなる | 荷物のうでが短くなり、倒すモーメントが減る |
| 前輪と後輪の間隔を広げる(車体を前へ長くする) | \(\displaystyle\frac{L}{2}\) が大きくなる | 車体の重力のうでが長くなり、戻すモーメントが増える |
Step 4 代入して確かめる: 新しい数値は使わず、すでに出した結果で効き目を確かめる。(4) の答え \(\displaystyle\frac{LM}{\ell\cos\theta}\) を「倒れるのに必要な荷物の質量」と読むと、\(\theta\) を \(90^\circ\) に近づければ分母の \(\cos\theta\) が0に近づき、必要な荷物はどこまでも大きくなる(=倒れない)。\(M\) を大きくすれば分子が増える ─ 実際 (4) では、車体側の質量が2倍になったことで、倒すのに必要な荷物が (3) の2倍になった。記述では「工夫 + 式のどの量がどう変わるか + だから倒れにくい」の3点をそろえて書くと、理由まで伝わる。
Step 5 妥当性チェック(日常の安全に戻す): 実際のベビーカーで「荷物は持ち手にかけず、座席の下のかごへ」と言われることがあるのは、この式で説明できる。下のかごは前輪と後輪のあいだにあるので、そこに入れた荷物の重さは、後輪Bより前側=戻す側のモーメントに加わる。同じ荷物でも、持ち手にかければ倒す力、かごに入れれば支える力になる ─ 置き場所1つで役割が逆転するのは、重さそのものではなくうでの長さと向きがモーメントを決めているからだ。そして (4) で見たとおり、いちばん危ないのは子どもを降ろす瞬間。持ち手に荷物をかけていたら、先に荷物を外してから子どもを抱き上げる、が物理から導かれる手順になる。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 「倒れにくくする工夫」を問う記述は、「戻すモーメント \(\geq\) 倒すモーメント」の不等式を書き、どの文字をどちら向きに動かすかを言えば、根拠のある答えになる。思いつきを並べるより、式の文字を1つずつ点検したほうが漏れも逆向きの答えも出ない。
波及②: 何が効くかは「その状況の式に入っているか」で決まる。今回は高さが式に入らないので、重心の高さは効かない。坂道・急ブレーキ・横風のように横向きの力が加わると、その力のうでとして高さが式に入ってきて、初めて「重心を低く」が効く。
波及③: 「全体の重心が、支えている範囲(ここでは前輪と後輪のあいだ)に入っていれば倒れない」。重い荷物を片手で持つとき体を反対側へ傾けるのも、全体の重心を足の上に戻すため ─ 同じ物理が自分の体でも働いている。
§12. テスト全体の振り返り ─ 5大「思考のクセ」処方箋
ここまで8大問を1問ずつ診断してきました。最後に、今回のテスト全体を通して見えた5つの「思考のクセ」をまとめます。君の失点は、たいていこの5つのどれか(または複数)に当てはまります。自分に当てはまるクセを見つけて、次のテストまでに1つずつ書き換えていきましょう。
§12.1 クセ①: 公式に飛びつくクセ
典型的な現れ: [3](2)〜(4)(周期・運動エネルギー・力学的エネルギー・いずれも \(27\)〜\(28\)%)、[5](1)(糸が両方鉛直なのに \(60^\circ\) を使ってしまう・\(49.5\)%)。
診断: 天体の問題は、ほぼすべてが「向心力=万有引力」という1本の式から出発する。そこから速さ、周期、運動エネルギーが順番に出てくる。出発点の式を決めずに、ゴールの公式を探しにいくから迷子になる。
§12.2 クセ②: 見たままの長さ・位置で考えるクセ
典型的な現れ: [2](5)(うでの長さの定義・\(53.2\)%)、[8](3)(荷物のうでの長さは \(\ell\) ではなく \(\ell\cos\theta\)・\(16.1\)%)、[6](L字の針金の重心は針金の上にない・\(35.5\)%)。
診断: 回転を決めるのは「力がどれだけ回転軸から横にずれているか」で、それは軸から力の作用線までの垂直な距離。重心も「重さのつり合う点」であって、物体の上にあるとは限らない。見たままの長さではなく、定義から測る手順が抜けている。
§12.3 クセ③: 文字で答える問題に手が止まるクセ
典型的な現れ: [4](3)(エネルギー保存から \(v\) を出す・\(6.5\)%)、[4](4)(楕円軌道の周期・\(8.1\)%)、[8](4)(子どもが乗ったときの転倒条件・\(11.3\)%)。
診断: 文字式の問題は、数字の問題と考え方がまったく同じ。違うのは「最後に数字を入れない」ことだけ。ところが「文字=難しい」という思い込みで、使うべき道具(エネルギー保存、第3法則、モーメントのつり合い)を選ぶ前に手が止まる。
§12.4 クセ④: 「エネルギーが減れば遅くなる」と直感で決めるクセ
典型的な現れ: [3](5)(半径は小さくなる・\(38.7\)%)、[3](6)(速さは速くなる・\(21.0\)%)。
診断: 地上の感覚では「エネルギーを失う=遅くなる」は正しい。でも万有引力の円運動では、運動エネルギーは \(K=G\displaystyle\frac{mM}{2r}\)、力学的エネルギーは \(E=-G\displaystyle\frac{mM}{2r}\) で、\(K=-E\)。\(E\) が減る(より負になる)と \(K\) は増える。直感と式が食い違ったとき、式を信じる手順が抜けている。
§12.5 クセ⑤: 「境目の瞬間」を式にできないクセ
典型的な現れ: [8](2)(倒れる直前の垂直抗力・\(N_A\) は \(32.3\)%、\(N_B\) は \(22.6\)%)、[8](3)(そのときのモーメントのつり合い・\(16.1\)%)。
診断: 「倒れる直前」は、まだつり合っている最後の瞬間。そのとき、浮き上がる側の車輪は地面を押していない=垂直抗力が0。この「言葉→式」の翻訳ルールを持っていないので、つり合いの式を立てる入口に立てない。
§12.6 自分のクセを1つに絞ろう
5つ全部を一度に直そうとすると、たいてい何も変わりません。今回いちばん痛かったクセを1つだけ選んでください。天体の [3][4] で崩れた人はクセ①かクセ③かクセ④、つり合い・重心の [5]〜[8] で崩れた人はクセ②かクセ⑤です。
§13. このテストの得点分布・出題傾向分析
ここでは、今回のテスト全体(受験者 \(62\) 名)のデータを分析します。個人の点数は一切扱わず、全体の傾向だけを見ます。自分がどの位置にいたかを把握し、次にどこを重点的に復習すべきかの参考にしてください。
§13.1 全体統計
平均点: \(52.6\) 点(得点率 \(52.6\)%)
最高点: \(93\) 点 最低点: \(18\) 点
§13.2 得点分布
得点率の分布です(▌1つが \(1\) 名)。いちばん人数が多いのは \(51\)〜\(60\)%(\(14\) 名)。ただし \(31\)〜\(40\)% にも \(12\) 名の山があり、山が2つあるのが今回の特徴です。\(71\)% 以上は \(62\) 名中 \(11\) 名でした。
91〜100% ▌▌ \(2\) 名
81〜90% ▌▌▌▌▌ \(5\) 名
71〜80% ▌▌▌▌ \(4\) 名
61〜70% ▌▌▌▌▌▌▌▌▌ \(9\) 名
51〜60% ▌▌▌▌▌▌▌▌▌▌▌▌▌▌ \(14\) 名
41〜50% ▌▌▌▌▌▌▌▌ \(8\) 名
31〜40% ▌▌▌▌▌▌▌▌▌▌▌▌ \(12\) 名
21〜30% ▌▌▌▌▌▌ \(6\) 名
11〜20% ▌▌ \(2\) 名
0〜10% (\(0\) 名)
§13.3 大問別の得点率
| 大問 | テーマ | 配点 | 全体得点率 |
| [1] | ケプラーの法則 | 15点 | 88.7% |
| [2] | 質点・剛体・偶力・うでの長さ | 15点 | 68.1% |
| [3] | 月の等速円運動とエネルギー | 18点 | 38.5% |
| [4] | 円軌道→楕円軌道 | 10点 | 32.3% |
| [5] | 棒を糸でつるすつり合い | 18点 | 58.3% |
| [6] | L字の針金の重心 | 3点 | 35.5% |
| [7] | 穴をあけた円盤の重心 | 3点 | 54.8% |
| [8] | ベビーカーの転倒 | 18点 | 31.7% |
§13.4 つまずきが集中した設問ワースト5
得点率の低い順に並べたものです。ここが「差がつく=伸ばせば大きい」設問です。右の列で、対応する「思考のクセ」(§12)を示しました。
| 設問 | 得点率 | つまずきの正体(§12) |
| [4](3)(楕円軌道の点Aでの速さ) | 6.5% | クセ③ |
| [4](4)(楕円軌道の周期) | 8.1% | クセ①+③ |
| [8](4)(子どもが乗ったときの転倒条件) | 11.3% | クセ②+③ |
| [8](3)(後輪まわりのモーメントのつり合い) | 16.1% | クセ②+⑤ |
| [3](6)(エネルギーが減ったときの速さ) | 21.0% | クセ④ |
§13.5 取れていた設問ベスト5
逆に、しっかり取れていた設問です。法則の名前や形を問う問題は、ほとんどの人が得点できていました。
| 設問 | 得点率 |
| [1](1)(第1法則=楕円) | 100.0% |
| [1](2)(面積速度) | 96.8% |
| [1](3)(第3法則の \(n\)) | 91.9% |
| [1](3)(第3法則の \(m\)) | 91.9% |
| [2](3)(その場で回転する力の組) | 91.9% |
§13.6 興味深い対比 ─ データが語る3つの事実
[1](3) で \(T^2\) が \(a^3\) に比例することは \(91.9\)% が答えられた。ところが同じ第3法則を使って楕円軌道の周期を出す [4](4) は \(8.1\)%。法則の形を覚えることと、「同じ地球のまわりを回るものどうしを比べる道具」として使うことの間に、大きな溝がある。
[3](1)(万有引力の大きさ)は \(88.7\)%、ところが (2)(周期)は \(27.4\)%。(1) で書いた力を「向心力」として運動方程式に入れる、たった1行の橋が架かっていない(クセ①)。
[2](3)(その場で回転する力の組を図から選ぶ)は \(91.9\)% なのに、その名前を書く [2](4) は \(38.7\)%。現象は見えているのに、用語を漢字で正しく書く段階で落としている。今回は「漢字で正しく書くこと」と注意書きのあるテスト。ここは暗記の問題ではなく、書いて確かめる習慣の問題。
§13.7 次のテストへの重点復習項目
🥈 銀: 転倒の条件([8])。「倒れる直前=浮く側の垂直抗力0」「支点は残る側」「うでの長さは水平距離」。\(18\) 点の大問で、得点率 \(31.7\)%。
🥉 銅: 重心とうでの長さの定義([2](5)・[6])。定義から測る手順を1つ足すだけで取れる。
§13.8 このデータから言える、たった1つのこと
§14. 次のステップ ─ 自分の思考のクセをもっと深く知る
この記事で自分のクセの「あたり」がついた人へ。次にやることは2つです。
§14.1 「数字は合ってたのに×」で悔しかった人へ
文字式の変形や用語の書き方で、考え方は合っていたのに点にならなかった経験がある人は、その「取りこぼしの正体」を体系的にまとめた記事があります。
https://makoto-physics-school.com/article-butsuri-keishiki-miss-mechanism/
§14.2 自分の物理力を診断してみる
「自分のクセが見えた気がするけど、本当にそれだけなのか確信が持てない」という人は、もう一段詳しい診断ツールを用意しています。いくつかの質問に答えるだけで、自分の思考のクセがどのタイプに当てはまるかが分かります。
https://makoto-physics-school.com/physics-diagnosis/
診断結果に対して、対応する処方箋(記事・動画)も示されます。
診断の背景をもっと知りたい人は、思考のクセのタイプを解説した記事もあわせてどうぞ。
https://makoto-physics-school.com/study-method-physics-thinking-habit-diagnosis/
§14.3 授業動画で復習する
万有引力・天体の運動・剛体のつり合いの基本を動画で見直したい人は、YouTubeチャンネルに範囲別の授業動画があります。
§14.4 最後に
テストは、自分を測るためのものではなく、自分のクセを見つけるためのものです。得点分布に山が2つあったように、今回は「法則を使いこなせた人」と「法則の手前で止まった人」に分かれました。でも、その差は才能の差ではなく、出発点の式を決める手順を持っているかどうかの差です。
天体の運動も剛体のつり合いも、入試まで何度も出てくる単元です。ここで「出発点の1本の式を決める」「定義から長さを測る」「境目の瞬間を0の式に翻訳する」という手順を身につけておけば、そのまま3年生の物理と入試で使えます。
うまくいかなかったら、もう一度この記事に戻ってきてください。クセは何度でも書き換えられます。物理は、書き換えられる科目です。
