- 1 §0. はじめに ─ この記事の使い方
- 2 §1. 第1問 問1 ─ 4つの場面で「どの力の仕事か」と符号を見抜く(\(W=Fx\cos\theta\) 使用)
- 3 §2. 第1問 問2 ─ 仕事率は「1秒あたりの仕事」(\(P\) 使用)
- 4 §3. 第1問 問3 ─ 運動エネルギー・位置エネルギーの値を出す(\(K\)・\(U\) 使用)
- 5 §4. 第1問 問4 ─ 仕事とエネルギーの正誤6題(\(W\)・\(K\)・\(U\) 使用)
- 6 §5. 第2問 問1 ─ \(F\)-\(x\) グラフの面積=仕事、そして「仕事=運動エネルギーの変化」(\(F\), \(x\), \(m\), \(v\) 使用)
- 7 §6. 第2問 問2 ─ 棒の振り子と糸+釘の振り子 ─ 「最下点から何 m 上か」だけで解く(\(h\), \(v\), \(\theta\) 使用)
- 8 §7. 第2問 問3 ─ 鉛直ばね振り子(伸びは自然長から・重力も入れる・つり合いの位置が振動の中心)
- 9 §8. 第2問 問4 ─ あらい面を通ってから斜面を上る(区間を切ってから原理を選ぶ)
- 10 §9. 第3問 問1 ─ 水平ばね振り子を文字式で(\(k\)・\(m\)・\(d\) 使用・エネルギーのグラフを選ぶ)
- 11 §10. 第3問 問2 ─ あらい斜面のエネルギーグラフを描く(実線+点線=力学的エネルギーの線)
- 12 §12. テスト全体の振り返り ─ 5大「思考のクセ」処方箋
- 13 §13. このテストの得点分布・出題傾向分析
- 14 §14. 次のステップ ─ 自分の思考のクセをもっと深く知る
§0. はじめに ─ この記事の使い方
令和8年10月8日(木)に実施された4年 2学期中間考査・物理基礎の解説記事です。全問に「思考のクセ診断つき」のフル解説をつけました。今回のテーマは、仕事・仕事率・運動エネルギー・位置エネルギー・力学的エネルギー保存。「エネルギー」という、物理基礎でいちばん応用範囲の広い道具が初めて本格的に登場した単元です。
この記事は、テストの答え合わせをするためだけのものではありません。君がどんな思考のクセで間違えたのかを診断し、次のテストで同じ罠にハマらないようにするための処方箋です。
今回のテストは全体平均 \(47.3\) 点、最高 \(86\) 点、最低 \(12\) 点。大問ごとに見ると、第1問(基本の計算と正誤)は \(62.3\)% 取れているのに、第2問(グラフ・振り子・ばね・摩擦)は \(16.7\)%、第3問(文字式とグラフ)は \(23.1\)% と、崖のように落ちています。1回の代入で終わる問題はできる。でも「どの位置とどの位置を比べるか」「どのエネルギーを数えるか」を自分で決める問題になった瞬間に崩れる──今回の失点の正体はここにあります。本記事は、その崩れが君のどんな思考のクセから来ているかを丁寧に診断します。
§0.1 読み方 ─ 2層構造になっています
各問題の解説は、次の2層構造になっています。
Layer 2(💡 もっと深く理解したい人へ): 折りたたみ式の「思考のクセ診断+正しい思考プロセス+一般化」。こちらが本体です。クリックして開いてください。
「Layer 1で答えが分かったから読み飛ばす」のではなく、正解した問題こそ Layer 2 を読むことを強く勧めます。正解=理解、ではないからです。たまたま当たった、公式を覚えていた、というケースは、この先のテストで必ず崩れます。
§0.2 手元の問題冊子を必ず開いておいてください
著作権上、この記事には問題文そのものは載せていません。手元の問題冊子を見ながら、この記事を読み進めてください。
① 10/8実施の問題冊子(試験後に持ち帰った冊子)
② 自分が試験で書いた解答(覚えている範囲で再現したメモでも可)
③ 計算用の紙とペン(Layer 2 の式は、読むだけでなく自分の手で一度書いてみてください)
§0.3 自分の「思考のクセ」を診断するために
各問題の Layer 2 には「誤答パターン①②③+診断」というブロックが入っています。自分の答えがこの記事の答えと違っていた場合、まずどの誤答パターンに当てはまるかを探してください。
そして、見つけた「思考のクセ」を、次の問題に進むときに声に出して言ってみてください。例えばこんな調子です。
「私は高さを『見たままの数字』で入れてしまう。これからは、基準の位置を最初に決めて、そこから測る」
「私はエネルギー保存の式で、ばねか重力のどちらかを入れ忘れる。これからは、式を書く前にエネルギーの種類を全部書き出す」
このように「自分のクセ+これからどうするか」をセットで言葉にすると、次のテストで同じ罠にハマる確率がぐっと下がります。物理は暗記の科目ではなく、思考のクセを書き換える科目です。
§0.4 各問題の重さ ─ 全体の地図
このテストは第1問〜第3問、中問で数えると全10問あり、それぞれ思考の負荷が違います。下の表で全体の地図をつかんでおくと、どこに時間をかけて復習すべきかが分かります。得点率が低い問題ほど「差がつく=伸びしろが大きい」問題です。
| 記事の§ | 問題 | テーマ | 重さ |
| §1 | 第1問 問1 | 4つの場面の仕事(正・負・0) | 🟢軽 |
| §2 | 第1問 問2 | 仕事率(\(P=Fv\) と高さへの変換) | 🟡中 |
| §3 | 第1問 問3 | 運動エネルギー・位置エネルギーの値 | 🟢軽 |
| §4 | 第1問 問4 | エネルギーの正誤(○×) | 🟡中 |
| §5 | 第2問 問1 | \(F\)-\(x\) グラフの面積=仕事 | 🔴重 |
| §6 | 第2問 問2 | 棒の振り子・糸と釘の振り子 | 🟠やや重 |
| §7 | 第2問 問3 | 鉛直につるしたばねの振動 | 🔴重 |
| §8 | 第2問 問4 | あらい面を通ってから斜面を上る | 🟠やや重 |
| §9 | 第3問 問1 | 水平ばね(文字式・グラフ選択) | 🟠やや重 |
| §10 | 第3問 問2 | あらい斜面のエネルギーグラフを描く | 🟠やや重 |
全体の振り返り(§12)と、テスト全体の得点分布(§13)は記事の最後にまとめています。
§1. 第1問 問1 ─ 4つの場面で「どの力の仕事か」と符号を見抜く(\(W=Fx\cos\theta\) 使用)
第1問 問1は、ゆっくり持ち上げる・斜めに引く・摩擦を受けて止まる・床の上を引く、という4つの場面で「指定された1つの力がした仕事」を求める小問集。②〜④は8割前後とれているのに、①だけ得点率43.4%と半分を割った。落とした原因は計算力ではない。「どの力がした仕事か」を読み飛ばすクセと、「仕事はいつも正の数」という思い込みだ。※ 問題文は手元プリント参照。
§1.1 解答(Layer 1 ─ 端的解答+サクッと解説)
※ 問題文は手元プリント参照。答えと1-2行の要点だけ先に示します。詳しい思考プロセスは §1.2 のアコーディオン内。
① 答え: \(-98\,\text{J}\)。聞かれているのは持ち上げた人ではなく重力の仕事。重力は下向き・移動は上向きで逆向きなので負になる。\(W=-mgh=-2.0\times9.8\times5.0\)。
② 答え: \(25\,\text{J}\)。仕事をするのは力の「移動方向の成分」だけ。\(W=Fx\cos60^\circ=20\times2.5\times0.5\)。
③ 答え: \(-7.0\,\text{J}\)。動摩擦力はいつも進む向きと逆向き。\(W=-3.5\times2.0\)。
④ 答え: \(0\,\text{J}\)。垂直抗力は移動方向と直角(\(\cos90^\circ=0\))なので仕事をしない。質量 \(2.6\,\text{kg}\) と距離 \(10\,\text{m}\) は使わない。
§1.2 💡 もっと深く理解したい人へ ─ 「主語」と「向き」を先に決めれば仕事は迷わない
ここから先は「なぜそうなるか」を完全に開く。正解できた人こそ開いてほしい。特に①は、答えを出せた人でも「人の仕事と重力の仕事を足すと何になるか」を説明できるか試してほしい。
▶ クリックして完全解説を開く ─ 思考のクセ診断つき
① ゆっくり持ち上げたときの重力の仕事(答え=\(-98\,\text{J}\)・得点率43.4%)
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: 「持ち上げた」という場面の印象に引っぱられ、\(mgh=2.0\times9.8\times5.0=98\) を出して \(+98\,\text{J}\) と答える。
診断: 仕事の「主語」を読み飛ばすクセ。\(+98\,\text{J}\) は持ち上げた人(手)がした仕事。問われているのは重力がした仕事。同じ場面でも、どの力に注目するかで答えの符号が変わる。この問題で一番多く落とされた原因がここ。
誤答パターン②: 重力の仕事だとは分かっているが、「仕事=力×距離」で大きさだけ出して \(98\,\text{J}\)(符号なし)と書く。
診断: 「仕事はいつも正の数」と思い込むクセ。仕事は「力の向き」と「動いた向き」の関係で正にも負にもなる。同じ向きなら正、逆向きなら負。符号は「おまけ」ではなく答えの一部。
誤答パターン③: 「ゆっくり=速さが変わらない=仕事は0」と考えて \(0\,\text{J}\) と答える。
診断: 「全部の力の仕事の合計」と「1つの力の仕事」を混同するクセ。ゆっくり(速さがほぼ変わらない)なので、人の仕事 \(+98\,\text{J}\) と重力の仕事 \(-98\,\text{J}\) を足すと0になる。0になるのは合計であって、重力1つだけの仕事は0ではない。
誤答パターン④: 重力の大きさを \(2.0\,\text{N}\) だと思い、\(-2.0\times5.0=-10\,\text{J}\) とする。
診断: 質量と重さ(重力の大きさ)を区別しないクセ。\(2.0\,\text{kg}\) は質量。重力の大きさは \(mg=2.0\times9.8=19.6\,\text{N}\)。「kg が出てきたら、力として使う前に \(g\) をかける」を手の習慣にする。
注意: 仕事の問題は、計算を始める前に「何(どの力)がした仕事か」に線を引くこと。同じ場面に人の力・重力・垂直抗力・摩擦力など複数の力が出てくるとき、それぞれの仕事は別々の値になる。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする: 物体を1つ描き、移動を「上向きの矢印 \(5.0\,\text{m}\)」で描く。物体にはたらく力は2本。手が上向きに支える力と、重力 \(mg\)(下向き)。注目するのは重力の矢印だけ。重力の矢印(下)と移動の矢印(上)は正反対、つまり180°の向きの違いがある。
Step 2 どの原理・式を選ぶか(+なぜ): 一定の力がした仕事の定義 \(W=Fx\cos\theta\) を使う。\(\theta\) は「力の向き」と「移動の向き」のなす角。重力は一定の大きさ \(mg\) で下を向き続けるので、この定義をそのまま当てはめられる。
Step 3 式の意味を読む: \(\cos\theta\) は「力のうち、移動方向にそろっている割合」。\(\theta=180^\circ\) なら \(\cos180^\circ=-1\)、つまり力が移動をまるごと邪魔している。負の仕事とは「その力が物体からエネルギーを奪った」という意味だ。重力は上がっていく物体にブレーキをかけ続けている。
Step 4 代入して確かめる:
$$\begin{aligned}
W_{\text{重力}} &= mg \times h \times \cos180^\circ \\
&= 2.0 \times 9.8 \times 5.0 \times (-1) \\
&= -98
\end{aligned}$$
単位は \(\text{N}\times\text{m}=\text{J}\)。答えは \(-98\,\text{J}\)。
Step 5 妥当性チェック: 人がした仕事は \(+98\,\text{J}\)(手の力 \(19.6\,\text{N}\) が上向き、移動も上向き)。重力の仕事 \(-98\,\text{J}\) と足すとちょうど0。これは「ゆっくり=速さが変わらない=運動エネルギーは増えも減りもしない」と一致する。また、物体は \(5.0\,\text{m}\) 高い所へ移ったので重力による位置エネルギーは \(98\,\text{J}\) 増えている。重力の仕事 \(-98\,\text{J}\) は、ちょうどその増えた分の符号を反対にしたもの。どこから見ても数字がかみ合う。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 仕事の問題は「主語(どの力の仕事か)」を最初に確定する。同じ移動でも、人の仕事・重力の仕事・合計の仕事はすべて別物。主語を決めずに計算を始めると、正しい計算で違う答えを書くことになる。
波及②: 重力の仕事は「上がれば負、下がれば正」。大きさはいつも \(mg\times\)(高さの変化)で、どんな道を通ったかによらない。この性質が、次に学ぶ「重力による位置エネルギー」の土台になる。
波及③: 「ゆっくり」「一定の速さ」と書かれていたら、それは「力がつり合っている=全部の力の仕事を足すと0」という情報。1つの力の仕事が分かれば、つり合っている相手の力の仕事は符号を反対にするだけで出る。
② 斜め上向きの力が水平移動でする仕事(答え=\(25\,\text{J}\)・得点率79.8%)
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: 角度を無視して \(20\times2.5=50\,\text{J}\) とする。
診断: 「仕事=力×距離」で止まり、向きのずれを見ないクセ。力が移動の向きと斜めにずれているとき、移動に役立っているのは力の一部分だけ。力の全部が仕事をするのは、力と移動が同じ向きのときだけ。
誤答パターン②: 「斜めだから \(\sin\)」と考え、\(20\times2.5\times\sin60^\circ\) で約 \(43\,\text{J}\) にする(または \(\cos60^\circ\) の値を \(\displaystyle\frac{\sqrt{3}}{2}\) と覚え違えて同じ値になる)。
診断: \(\sin\) と \(\cos\) を図を描かずに語感で選ぶクセ。どちらを使うかは「60°がどの2本の線の間の角か」で決まる。今回は水平(移動方向)から測った角なので、移動方向の成分は \(\cos\)。\(\cos60^\circ=\displaystyle\frac{1}{2}\) も、正三角形を半分にした直角三角形を描けば暗記に頼らず確かめられる。
誤答パターン③: 力が斜め上向きなので「物体も斜めに動いた」と考え、移動距離を斜めの長さに直してから計算しようとする。
診断: 力の向きと移動の向きを同じものだと思い込むクセ。物体は床の上を水平に動いている(問題文にそう書いてある)。力の向きと移動の向きは別々に読み取り、その2本の間の角を \(\theta\) にする。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする: 床の上の物体に、水平から60°上向きの力の矢印 \(20\,\text{N}\) を描く。移動は水平右向きの矢印 \(2.5\,\text{m}\)。2本の矢印のなす角が60°。
Step 2 どの原理・式を選ぶか(+なぜ): 一定の力の仕事 \(W=Fx\cos\theta\)。力の大きさも向きも変わらず加え続けているので、定義どおりに使える。
Step 3 式の意味を読む: 力を「水平成分 \(F\cos60^\circ=10\,\text{N}\)」と「鉛直成分 \(F\sin60^\circ\)」に分けて考える。鉛直成分は物体を少し持ち上げようとするだけで、移動(水平)と直角なので仕事をしない。仕事をするのは水平成分の \(10\,\text{N}\) だけ。\(Fx\cos\theta\) は「移動方向の成分×距離」をひとまとめに書いた式だ。
Step 4 代入して確かめる:
$$\begin{aligned}
W &= Fx\cos60^\circ \\
&= 20 \times 2.5 \times 0.5 \\
&= 25
\end{aligned}$$
単位は \(\text{J}\)。答えは \(25\,\text{J}\)。
Step 5 妥当性チェック: 極端な場合で確かめる。もし力が真横(0°)なら \(\cos0^\circ=1\) で全部が仕事になり \(50\,\text{J}\)。真上(90°)なら移動と直角で \(0\,\text{J}\)。60°はその間で、しかも真上寄り。\(50\,\text{J}\) の半分の \(25\,\text{J}\) は、この感覚と合う。符号は、水平成分が移動と同じ向きなので正で正しい。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 仕事をするのは「力の移動方向の成分」だけ。斜めの力は、まず移動方向とそれに直角な方向に分ける。直角な方向の成分は、どれだけ大きくても仕事をしない。
波及②: \(\sin\) か \(\cos\) かは暗記で決めず、「角がどの2本の線の間か」を図で確かめて決める。斜面の上の物体で重力を分けるときも、角の位置が変われば \(\sin\) と \(\cos\) が入れかわる。
波及③: 0°・90°という両端を思い浮かべて答えをはさむ検算は、角度が出てくる問題すべてで使える。答えが両端の外に出たら、どこかで \(\sin\) と \(\cos\) を取り違えている合図。
③ 動摩擦力の仕事(答え=\(-7.0\,\text{J}\)・得点率84.1%)
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: \(3.5\times2.0=7.0\) で、符号をつけずに \(7.0\,\text{J}\) と答える。
診断: 力の向きを図に描かずに掛け算だけするクセ。動摩擦力は進む向きと逆向き、つまり \(\theta=180^\circ\)。①の重力と同じ理由で負になる。
誤答パターン②: 「最後に止まったのだから、仕事は0」と考える。
診断: 「最後の状態」と「途中の出来事」を混同するクセ。止まったのは、進んでいる間ずっと摩擦がブレーキをかけ続けた結果。仕事は「途中で力が何をしたか」の合計なので、止まったことはむしろ仕事が負だった証拠になる。
誤答パターン③: 「摩擦力=\(\mu N\)」の形に当てはめようとして、動摩擦係数や質量を探し、見つからずに手が止まる。
診断: 覚えた公式の形に飛びつくクセ。今回は動摩擦力の大きさ \(3.5\,\text{N}\) が直接与えられている。\(\mu N\) は「摩擦力の大きさが分からないときに出す道具」であって、分かっているならそれを使えばよい。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする: 物体が右へ \(2.0\,\text{m}\) 進んで止まる。動摩擦力 \(3.5\,\text{N}\) は左向き(進む向きと逆)の矢印。
Step 2 どの原理・式を選ぶか(+なぜ): \(W=Fx\cos\theta\)。動いている間の動摩擦力は大きさ一定で、向きは常に進行方向と逆。だから \(\theta=180^\circ\) で定義をそのまま使える。
Step 3 式の意味を読む: 負の仕事は「物体からエネルギーを奪った」という意味。摩擦は物体の運動エネルギーを少しずつ奪い(熱に変え)、奪い切ったところで物体は止まる。
Step 4 代入して確かめる:
$$\begin{aligned}
W &= 3.5 \times 2.0 \times \cos180^\circ \\
&= 3.5 \times 2.0 \times (-1) \\
&= -7.0
\end{aligned}$$
与えられた数値がどちらも2桁なので、答えも2桁の \(-7.0\,\text{J}\)。\(-7\,\text{J}\) と書くと1桁に見えるので「\(.0\)」まで書く。
Step 5 妥当性チェック: 摩擦はいつも運動を妨げるので負は正しい。さらに、水平方向にほかの力がはたらいていなければ、物体ははじめ \(7.0\,\text{J}\) の運動エネルギーを持っていて、摩擦にそれを全部奪われて止まった、と読める。「止まった」と「負の仕事」がつながった。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 動摩擦力の仕事は、進む向きがどちらでも必ず負。「摩擦の仕事=\(-\)(摩擦力の大きさ)×(すべった距離)」。符号を先に書いてから大きさを計算すると落とさない。
波及②: 「止まった」「遅くなった」は、どこかの力が負の仕事をしたサイン。逆に、運動エネルギーがどれだけ減ったかが分かれば、そこから摩擦の仕事を逆算することもできる(仕事とエネルギーの関係)。
波及③: 公式は「何が分からないときに使う道具か」とセットで覚える。欲しい量が問題文に直接書いてあるなら、遠回りの公式はいらない。
④ 垂直抗力の仕事(答え=\(0\,\text{J}\)・得点率82.1%)
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: 垂直抗力は \(mg=2.6\times9.8\) で約 \(25\,\text{N}\)、これに \(10\,\text{m}\) をかけて約 \(2.5\times10^2\,\text{J}\) とする。
診断: 「力がある=仕事をしている」と思うクセ。仕事が生まれるのは、力の向きに(少しでも)動いたときだけ。垂直抗力は上向き、移動は水平。上向きには1 mmも動いていない。
誤答パターン②: 「床が押し返す力だからマイナス」と考え、約 \(-2.5\times10^2\,\text{J}\) とする。
診断: 雰囲気で符号をつけるクセ。仕事の符号は「押し返すかどうか」ではなく「力と移動の間の角」で決まる。90°なら正でも負でもなく0。
誤答パターン③: 「引いた」という言葉につられて、引く力の仕事を求めようとし、引く力の大きさが書いていないので手が止まる。
診断: ①と同じ、仕事の主語を読み飛ばすクセ。問われているのは垂直抗力の仕事。引く力が分からなくても、この問題は解ける。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする: 水平な床の上の物体。移動は右向き \(10\,\text{m}\)。垂直抗力は床から物体へ真上向き。2本の矢印は直角。
Step 2 どの原理・式を選ぶか(+なぜ): \(W=Fx\cos\theta\) で \(\theta=90^\circ\)。式を選んだ時点で、垂直抗力の大きさを計算する必要がないと分かる。
Step 3 式の意味を読む: \(\cos90^\circ=0\) は「力のうち移動方向にそろっている部分がゼロ」という意味。垂直抗力は物体を床から落ちないように支えているだけで、横への動きを速くも遅くもしない。だからエネルギーを出し入れしない。
Step 4 代入して確かめる:
$$\begin{aligned}
W &= N \times 10 \times \cos90^\circ \\
&= N \times 10 \times 0 \\
&= 0
\end{aligned}$$
\(N\) がいくつであっても0をかければ0。だから \(2.6\,\text{kg}\) を使う必要はない。
Step 5 妥当性チェック: もし垂直抗力が仕事をするなら、床の上を引くだけで物体が床にエネルギーを出し入れしてしまい、床の上をすべる物体の速さが勝手に変わることになる。実際にはそうならない。\(0\,\text{J}\) は直感とも合う。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 移動と直角にはたらく力は仕事をしない。水平面上の垂直抗力・重力、なめらかな斜面の垂直抗力、振り子の糸が引く力などがこの仲間。これが、のちに学ぶ「力学的エネルギー保存」で「この力は仕事をしないから無視してよい」と判断する根拠になる。
波及②: 問題文の数値がすべて答えに使われるとは限らない。式を立てて「その数値が式のどこに入るか」を確かめ、入らないなら使わないと割り切る。
波及③: 4つの小問を並べると、仕事の符号は \(\theta\) で3通りに分かれる。同じ向き(0°に近い)なら正、直角なら0、逆向きなら負。仕事を求めるときは、計算の前にまずこの3つのどれかを決める。
§2. 第1問 問2 ─ 仕事率は「1秒あたりの仕事」(\(P\) 使用)
第1問 問2は、モーターや力の仕事率を4つの場面で求める小問集(答えは有効数字2桁)。仕事と時間がそのまま与えられる①②はとれているが、③は得点率27.0%、④は25.3%と大きく崩れた。③④で問われたのは公式の暗記ではなく、「一定の速さ」という言葉から力の大きさを読み取る力と、仕事率→仕事→高さと順に言いかえていく力だ。※ 問題文は手元プリント参照。
§2.1 解答(Layer 1 ─ 端的解答+サクッと解説)
※ 問題文は手元プリント参照。答えと1-2行の要点だけ先に示します。詳しい思考プロセスは §2.2 のアコーディオン内。
① 答え: \(50\,\text{W}\)。仕事率は「1秒あたり」なので、1.0分を \(60\,\text{s}\) に直してから割る。\(P=\displaystyle\frac{3.0\times10^3}{60}\)。
② 答え: \(6.4\,\text{W}\)。仕事 \(8.0\times4.0=32\,\text{J}\) を \(5.0\,\text{s}\) で割る。\(P=\displaystyle\frac{32}{5.0}\)。
③ 答え: \(20\,\text{W}\)。一定の速さで動かす力の仕事率は \(P=Fv=10\times2.0\)。質量 \(6.0\,\text{kg}\) は使わない。
④ 答え: \(3.0\,\text{m}\)。一定の速さ=持ち上げる力は重力と同じ \(mg\)。仕事 \(Pt=21\times7=147\,\text{J}\) を力 \(mg=49\,\text{N}\) で割って高さを出す。
§2.2 💡 もっと深く理解したい人へ ─ 「1秒ごと」に区切って見れば、仕事率は怖くない
ここから先は「なぜそうなるか」を完全に開く。正解できた人こそ開いてほしい。特に③は、\(P=Fv\) を使えた人でも「なぜ等速なのに力が必要なのか」「なぜ質量が要らないのか」を言葉で説明できるか試してほしい。
▶ クリックして完全解説を開く ─ 思考のクセ診断つき
① 1分間にする仕事から仕事率を出す(答え=\(50\,\text{W}\)・得点率65.7%)
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: 時間を「1.0」のまま割って \(3.0\times10^3\,\text{W}\) とする。
診断: 単位をそろえずに数字だけで割るクセ。\(\text{W}\) は「1秒あたりの \(\text{J}\)」(\(\text{J}/\text{s}\))。時間が「分」で与えられたら、割る前に秒へ直す。この問題の罠はほぼこの1点。
誤答パターン②: \(3.0\times10^3\times60\) とかけて \(1.8\times10^5\,\text{W}\) とする。
診断: 仕事率の意味を言葉で持たず、かけるか割るかを勘で決めるクセ。仕事率は「どれだけの仕事を、どれだけの時間でしたか」の割合=仕事÷時間。時間が長いほど仕事率は小さくなるはずなので、時間をかけて大きくなる計算はおかしいと気づける。
誤答パターン③: 1分を100秒として \(30\,\text{W}\) とする。
診断: 時間を10進法のつもりで扱うクセ。長さや質量の単位は10倍・100倍・1000倍と10進法で換算するが、時間は60進法。1分=60秒、1時間=3600秒。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする: モーターが1分間(60秒)かけて合計 \(3000\,\text{J}\) の仕事をする。これを「60個の1秒の箱に、仕事を同じ量ずつ配る」と思い描く。
Step 2 どの原理・式を選ぶか(+なぜ): 仕事率の定義 \(P=\displaystyle\frac{W}{t}\)。仕事と時間が直接与えられているので、これが最短。ただし \(t\) は秒で入れる。
Step 3 式の意味を読む: \(P\) は「1秒の箱1個に入る仕事の量」。仕事率が大きいとは、同じ仕事を短い時間で済ませられる=力強い、ということ。
Step 4 代入して確かめる:
$$\begin{aligned}
t &= 1.0 \times 60 \\
&= 60 \\
P &= \displaystyle\frac{W}{t} \\
&= \displaystyle\frac{3.0\times10^3}{60} \\
&= 50
\end{aligned}$$
単位は \(\text{J}/\text{s}=\text{W}\)。答えは \(50\,\text{W}\)。
Step 5 妥当性チェック: 逆にたどって、\(50\,\text{W}\) で60秒はたらけば \(50\times60=3000\,\text{J}\)。元の仕事に戻る。また、1分間という「長めの時間」をかけているので、1秒あたりは \(3000\) よりずっと小さくなるはず。\(50\) はその感覚と合う。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 式に数値を入れる前に、単位を \(\text{m}\)・\(\text{kg}\)・\(\text{s}\) にそろえる。とくに時間の「分・時間」、長さの「\(\text{cm}\)・\(\text{km}\)」は入れる前に直すのが第一手。
波及②: かけるか割るかに迷ったら、「時間が長くなったら答えは増えるか減るか」を考える。仕事率は時間が長いほど小さい、だから時間で割る。この確かめ方は、速さ(距離÷時間)など「1秒あたり」の量すべてに使える。
② 力・距離・時間から仕事率を出す(答え=\(6.4\,\text{W}\)・得点率80.4%)
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: \(8.0\times4.0=32\) を出したところで満足して \(32\) と答える。
診断: 途中の量を出した時点で、何を聞かれていたかを見直さないクセ。\(32\,\text{J}\) は仕事。聞かれているのは仕事率。最後に「答えの単位は何か(\(\text{W}\))」を確かめれば防げる。
誤答パターン②: \(8.0\times4.0\times5.0=160\) と、時間までかけてしまう。
診断: 与えられた数値を全部かけ合わせれば答えになると思うクセ。数値をどう組み合わせるかは、式の意味(仕事÷時間)が決める。数値の数ではなく、量の関係を先に言葉にする。
誤答パターン③: \(\displaystyle\frac{5.0}{32}\) と上下を逆にして約 \(0.16\) とする。
診断: 割り算の向きを単位で確かめないクセ。\(\text{s}/\text{J}\) は「1 \(\text{J}\) あたり何秒か」で、仕事率ではない。仕事率の単位は \(\text{J}/\text{s}\)、つまり \(\text{J}\) が上、\(\text{s}\) が下。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする: 物体を \(8.0\,\text{N}\) の力で、その力の向きに \(4.0\,\text{m}\) 動かす。それに \(5.0\,\text{s}\) かかる。
Step 2 どの原理・式を選ぶか(+なぜ): まず仕事 \(W=Fx\)(力と移動が同じ向きなので \(\cos0^\circ=1\))。次に仕事率 \(P=\displaystyle\frac{W}{t}\)。仕事率は仕事が分からないと出せないので、この順番になる。
Step 3 式の意味を読む: 2つをまとめると \(P=\displaystyle\frac{Fx}{t}\)。「全部で何 \(\text{J}\) の仕事か」を出してから「1秒あたりに直す」という2段の作業。
Step 4 代入して確かめる:
$$\begin{aligned}
W &= 8.0 \times 4.0 \\
&= 32 \\
P &= \displaystyle\frac{32}{5.0} \\
&= 6.4
\end{aligned}$$
単位は \(\text{W}\)。有効数字2桁で \(6.4\,\text{W}\)。
Step 5 妥当性チェック: 別の道でも確かめる。物体は \(5.0\,\text{s}\) で \(4.0\,\text{m}\) 進むので、平均の速さは \(\displaystyle\frac{4.0}{5.0}=0.80\,\text{m}/\text{s}\)。力×速さ \(8.0\times0.80=6.4\) で一致する。この「力×速さ」が③の主役になる。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 答えを書く直前に「求めたのは何の量か・単位は何か」を問題文と照らし合わせる。2段以上の計算では、途中の量(ここでは仕事)を答えにしてしまう事故が一番多い。
波及②: 割り算の向きは単位で決まる。\(\text{W}=\text{J}/\text{s}\)、\(\text{m}/\text{s}\)、\(\text{N}=\text{kg}\cdot\text{m}/\text{s}^2\) のように、単位の形がそのまま「何を何で割るか」を教えてくれる。
波及③: 1つの答えを2つの道(仕事÷時間/力×速さ)で出して一致させるのは、もっとも強い検算。道が2本あると気づけること自体が、式の意味を理解している証拠になる。
③ 等速で動かす力の仕事率(答え=\(20\,\text{W}\)・得点率27.0%)
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: 質量 \(6.0\,\text{kg}\) を使わなければと考え、\(6.0\times9.8\) を力にしたり、\(6.0\) でかけたり割ったりして答えを作る。
診断: 書いてある数値は全部使うはずだと思うクセ。今回、仕事率に必要なのは「どの力が」「どれだけの速さで」動かしているかだけ。質量は、問われている量(この力の仕事率)の式のどこにも入らない。式を先に立て、入る場所のない数値は使わないと割り切る。
誤答パターン②: 「等速度運動=力がはたらいていない」と考え、仕事率を \(0\,\text{W}\) とする。
診断: 「合力が0」と「その力が0」を混同するクセ。等速度運動で0になるのは物体にはたらく力の合計。\(10\,\text{N}\) で引いているのに速さが増えないのは、逆向きに \(10\,\text{N}\) の別の力(摩擦や抵抗)がはたらいてつり合っているから。引く力そのものは \(10\,\text{N}\) あり、物体を動かしているので仕事をしている。
誤答パターン③: \(P=\displaystyle\frac{W}{t}\) しか知らず、「距離も時間も書いていないから出せない」と手が止まる。
診断: 公式を1本しか持たず、形を変えられないクセ。\(\displaystyle\frac{W}{t}\) の中の \(W\) を \(Fx\) に置きかえると、\(\displaystyle\frac{x}{t}\) が「速さ」になって顔を出す。公式は覚えるものではなく、組み替えて作るもの。
誤答パターン④: 「力と速さから仕事率」と分かっていても、\(\displaystyle\frac{10}{2.0}=5.0\,\text{W}\) と割ってしまう。
診断: 形のうろ覚えを単位で確かめないクセ。\(\text{N}\times\text{m}/\text{s}=\text{J}/\text{s}=\text{W}\) なので力と速さはかける。割ると \(\text{N}\cdot\text{s}/\text{m}\) になり、仕事率の単位にならない。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする: 物体を \(10\,\text{N}\) の力で引き、物体は \(2.0\,\text{m}/\text{s}\) の一定の速さで進む。逆向きに \(10\,\text{N}\) の抵抗の力(摩擦など)を描き足すと、「なぜ速くならないのか」が絵で分かる。注目するのは引く力 \(10\,\text{N}\) の矢印だけ。
Step 2 どの原理・式を選ぶか(+なぜ): 時間も距離も与えられず、力と速さが与えられている。だから仕事率を「力×速さ」の形 \(P=Fv\) で使う。この形は暗記ではなく、定義から次のように作れる。
$$\begin{aligned}
P &= \displaystyle\frac{W}{t} \\
&= \displaystyle\frac{Fx}{t} \\
&= F \times \displaystyle\frac{x}{t} \\
&= Fv
\end{aligned}$$
Step 3 式の意味を読む: 「1秒ごと」に区切って見る。物体は1秒で \(2.0\,\text{m}\) 進む。その \(2.0\,\text{m}\) の間、引く力 \(10\,\text{N}\) は移動と同じ向きにはたらいているので、1秒ごとに \(10\times2.0=20\,\text{J}\) の仕事をする。1秒あたりの仕事が仕事率なので、それが答え。どこにも質量は出てこない。
Step 4 代入して確かめる:
$$\begin{aligned}
P &= Fv \\
&= 10 \times 2.0 \\
&= 20
\end{aligned}$$
単位は \(\text{N}\times\text{m}/\text{s}=\text{J}/\text{s}=\text{W}\)。有効数字2桁で \(20\,\text{W}\)。
Step 5 妥当性チェック: 等速なので運動エネルギーは増えていない。では引く力が1秒ごとに入れている \(20\,\text{J}\) はどこへ行ったのか。逆向きの抵抗の力が同じ1秒で \(-20\,\text{J}\) の仕事をして、熱などとして持ち去っている。合計0で「速さが変わらない」と一致する。また、質量が \(6.0\,\text{kg}\) でも \(60\,\text{kg}\) でも、「\(10\,\text{N}\) の力で \(2.0\,\text{m}/\text{s}\)」という条件が同じなら、引く力が1秒あたりにする仕事は変わらない。質量が答えに入らないのは自然だ。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 「一定の速さ(等速)」と書かれていたら、それは「力がつり合っている=合力0」という情報。0なのは合力であって、個々の力は0ではない。引く力・持ち上げる力の大きさを決める手がかりとして使う(④はまさにこれ)。
波及②: 仕事率には \(P=\displaystyle\frac{W}{t}\) と \(P=Fv\) の2つの顔がある。時間と仕事が分かれば前者、力と速さが分かれば後者。どちらも同じ定義から出てくるので、迷ったら \(W=Fx\) を入れて組み替えればよい。車や電車のエンジンの力強さを考えるときにも、この「力×速さ」がそのまま使える。
波及③: 問題文の数値には、答えに必要なものと、状況を説明するためだけのものがある。「この量の式に入るか」で仕分ける習慣が、入試で増える「余分な数値入りの問題」への一番の備えになる。
④ 仕事率と時間から持ち上げた高さを出す(答え=\(3.0\,\text{m}\)・得点率25.3%)
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: 仕事 \(21\times7=147\,\text{J}\) を出したあと、持ち上げる力を \(5\,\text{N}\) として \(\displaystyle\frac{147}{5}\) で約 \(29\,\text{m}\) とする。
診断: 質量と重さ(力)を区別しないクセ。\(5\,\text{kg}\) は質量。物体を持ち上げるのに必要な力は、重力と同じ大きさの \(mg=5\times9.8=49\,\text{N}\)。§1①の誤答パターン④と同じ根っこ。
誤答パターン②: 「持ち上げるには重力より大きい力が必要だ」と考え、力の大きさが決められずに手が止まる。
診断: 「上がっている=上向きの力が勝っている」と思うクセ。力が勝つと速さが増える(加速する)。一定の速さで上がっているなら、上向きの力と重力はちょうどつり合っている。問題文の「一定の速さで」は、持ち上げる力の大きさを教えるために書かれている。
誤答パターン③: \(\displaystyle\frac{21}{49}\) で約 \(0.43\) を出して高さとする(時間をかけ忘れる)、または \(21\times7=147\) で止めて \(147\,\text{m}\) とする。
診断: 変換の段を1つ飛ばすクセ。この問題は「仕事率 → 仕事 → 高さ」の2段の言いかえ。\(\displaystyle\frac{21}{49}\) は1秒あたりに上がる高さ(速さ)で、高さそのものではない。\(147\) は仕事(\(\text{J}\))で、長さではない。各段で単位を書けば、どこで止まったか分かる。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする: モーターが糸で物体(\(5\,\text{kg}\))を真上へ一定の速さで引き上げる。物体には上向きの持ち上げる力 \(F\) と、下向きの重力 \(mg\)。上がった高さを \(h\) とする。かかった時間は \(7\,\text{s}\)。
Step 2 どの原理・式を選ぶか(+なぜ): 3つの道具を順番につなぐ。(a) 一定の速さ=力のつり合いで \(F=mg\)。(b) 仕事率の定義を逆に使い、仕事 \(W=Pt\)。(c) 力と移動が同じ向き(上向き)なので \(W=Fh\)、これを \(h\) について解く。仕事率から高さへは直接行けないので、「仕事」という共通の量を橋にする。
Step 3 式の意味を読む: モーターは7秒間、1秒ごとに \(21\,\text{J}\) ずつ仕事をする。その仕事はすべて「\(49\,\text{N}\) の力で物体を持ち上げる」ことに使われる。\(49\,\text{N}\) で \(1\,\text{m}\) 持ち上げるには \(49\,\text{J}\) 必要なので、全部の仕事が \(49\,\text{J}\) の何個分かを数えれば、何 \(\text{m}\) 上がったかが分かる。
Step 4 代入して確かめる:
📖 計算過程を1つずつ丁寧に見る(計算が苦手な人向け・クリックで開閉)
$$\begin{aligned}
W &= Pt \\
&= 21 \times 7 \\
&= 147 \\
F &= mg \\
&= 5 \times 9.8 \\
&= 49 \\
h &= \displaystyle\frac{W}{F} \\
&= \displaystyle\frac{147}{49} \\
&= 3.0
\end{aligned}$$
1行目の単位は \(\text{W}\times\text{s}=\text{J}\)、2段目は \(\text{N}\)、3段目は \(\text{J}/\text{N}=\text{m}\)。各段の単位が「仕事 → 力 → 長さ」と変わっていくのを確かめながら進む。有効数字2桁で \(3.0\,\text{m}\)。
Step 5 妥当性チェック: ③で作った \(P=Fv\) を使って、別の道で確かめる。上がる速さは \(v=\displaystyle\frac{P}{F}=\displaystyle\frac{21}{49}=\displaystyle\frac{3}{7}\,\text{m}/\text{s}\)。これで7秒進むと \(\displaystyle\frac{3}{7}\times7=3\,\text{m}\)。一致する。量としても、\(21\,\text{W}\) は小さめのモーターなので、\(5\,\text{kg}\)(米袋1つ分ほど)を7秒で \(3\,\text{m}\)(建物の1階分ほど)持ち上げるのは無理のない大きさ。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 「仕事率 ⇔ 仕事 ⇔ 力×距離」は、仕事を真ん中の橋にして行き来する。仕事率から距離・高さ・時間のどれを聞かれても、まず「仕事はいくつか」に置きかえれば道がつながる。
波及②: 「一定の速さで持ち上げる」=「持ち上げる力は \(mg\)」。この読みかえは、エレベーター、クレーン、滑車で物体を引き上げる場面など、鉛直方向に等速で動くすべての場面で使う。等速と書かれていない(加速している)ときは、力は \(mg\) とは違う値になる。
波及③: 2段以上の計算では、各段の答えに単位を書く。単位が「\(\text{J}\) → \(\text{N}\) → \(\text{m}\)」と求める量に近づいていけば道は正しく、途中で止めてしまう事故も単位を見れば防げる。
§3. 第1問 問3 ─ 運動エネルギー・位置エネルギーの値を出す(\(K\)・\(U\) 使用)
第1問の問3は、動いているボール・走る自動車・机の上の物体・縮めたばねの4つの場面で、エネルギーの値を1つずつ求める問題だ。式に入れるだけに見えるのに、全体の得点率は①76.5%、②66.8%、③41.6%、④73.8%。とくに③は半分を割った。落とし穴は計算ではなく「基準をどこに置くか」にある。※ 問題文は手元プリント参照。
§3.1 解答(Layer 1 ─ 端的解答+サクッと解説)
※ 問題文は手元プリント参照。答えと1-2行の要点だけ先に示す。詳しい思考プロセスは §3.2 のアコーディオン内。
① 答え: \(45 \, \text{J}\)。\(K=\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) にそのまま入れる。速さは2乗(\(30^2=900\))するのを忘れない。
② 答え: \(20 \, \text{m}/\text{s}\)。同じ式を \(v\) について逆に解く。\(v^2=\displaystyle\frac{2K}{m}=400\) なので \(v=20\)。
③ 答え: \(0 \, \text{J}\)。基準は「テーブルの高さ」と指定されている。物体はその基準面の上にある=基準からの高さは 0。
④ 答え: \(0.25 \, \text{J}\)。\(U=\displaystyle\frac{1}{2}kx^2\)。\(0.10^2=0.010\) を正確に出す。
§3.2 💡 もっと深く理解したい人へ ─ 「その式はどこから来たか」と「基準はどこか」
ここから先は「なぜそうなるか」を完全に開く。正解できた人こそ開いてほしい。4問とも式は1行で書けるが、式の形(\(\displaystyle\frac{1}{2}\) と2乗)の意味と、位置エネルギーの「基準」の意味をわかっているかどうかで、後半の大問の出来がまるで変わる。
▶ クリックして完全解説を開く ─ 思考のクセ診断つき
① 飛んでいるボールの運動エネルギー(答え=\(45 \, \text{J}\))
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: 速さを2乗し忘れて \(\displaystyle\frac{1}{2} \times 0.10 \times 30\) と計算し、\(1.5 \, \text{J}\) と書く。
診断: 式を「文字の並び」として覚えるクセ。\(v^2\) の右上の「2」を飾りのように読み落とす。「速さが2倍になるとエネルギーは4倍」という手ざわりを持っていれば、2乗を忘れることはない。
誤答パターン②: \(\displaystyle\frac{1}{2}\) を落として \(0.10 \times 30^2\) とし、\(90 \, \text{J}\) と書く。
診断: 係数の出どころを知らないまま丸暗記するクセ。\(\displaystyle\frac{1}{2}\) がなぜ付くのかを一度でも自分で導いていれば、「なんとなく \(mv^2\)」にはならない(下の Step 2 で導く)。
誤答パターン③: 質量×速さで \(0.10 \times 30\) を出して \(3.0\) と答える。
診断: 運動量と運動エネルギーを同じ箱に入れるクセ。「動きの勢い」を表す量は2つある。\(mv\) は向きつきの勢い(運動量)、\(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) は「止めるまでにどれだけ仕事ができるか」の量。問われているのは後者だ。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする: ボールが速さ \(v\) で飛んでいる絵を描く。運動エネルギーを決める材料は「質量」と「速さ」の2つだけ。高さも、飛んでいる向きも関係ない。
Step 2 どの原理・式を選ぶか(+なぜ): 運動エネルギーの定義 \(K=\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) を使う。この式の正体は「静止している物体をその速さまで加速するのに必要な仕事」だ。一定の力 \(F\) で距離 \(x\) だけ押して、静止から速さ \(v\) にしたとすると、仕事 \(Fx\) は次のように変形できる。
$$\begin{aligned}
Fx &= ma \times x \\
&= m \times \displaystyle\frac{v^2}{2} \\
&= \displaystyle\frac{1}{2}mv^2
\end{aligned}$$
2行目は、等加速度運動の式 \(v^2=2ax\) から \(ax=\displaystyle\frac{v^2}{2}\) を使った。\(\displaystyle\frac{1}{2}\) は「速さが0から一様に増えていく間に進む距離」から自然に出てくる数で、付け忘れてよいおまけではない。
Step 3 式の意味を読む: \(K\) は質量に比例し、速さの2乗に比例する。速さ2倍で4倍、3倍で9倍。また \(v^2\) なので、右向きでも左向きでも同じ値になる(向きを持たない量)。
Step 4 代入して確かめる:
$$\begin{aligned}
K &= \displaystyle\frac{1}{2} \times 0.10 \times 30^2 \\
&= 0.050 \times 900 \\
&= 45 \, \text{J}
\end{aligned}$$
Step 5 妥当性チェック: 単位は \(\text{kg} \times (\text{m}/\text{s})^2 = \text{kg}\cdot\text{m}^2/\text{s}^2\) で、これは \(\text{N}\cdot\text{m}\)=\(\text{J}\) と一致する。直感でも確かめておく。このエネルギーを全部高さに変えると \(h=\displaystyle\frac{v^2}{2g}\) で約 \(46 \, \text{m}\)。速さ \(30 \, \text{m}/\text{s}\)(時速約 \(108 \, \text{km}\))で真上に投げたボールなら、ビル十数階分くらいまで上がる、というのは感覚とも合う。符号は正。有効数字2桁で \(45 \, \text{J}\)。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 運動エネルギーは速さの2乗で効く。自動車の速さが2倍になると、ブレーキで止まるまでの距離(=ブレーキが仕事をする距離)もおよそ4倍になる。交通安全の話がそのまま物理の式で説明できる。
波及②: \(K\) は \(v^2\) を含むので向きを持たず、負にもならない。この性質は §4 の正誤(2)でそのまま問われる。
波及③: 「\(mv\)(運動量)」と「\(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)(運動エネルギー)」は、どちらも“勢い”に見えて意味が違う。名前と式をセットで、どんな問いに答える量なのかまで言えるようにしておく。
② 運動エネルギーから速さを逆算する(答え=\(20 \, \text{m}/\text{s}\))
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: \(\displaystyle\frac{1}{2}\) を反対側へ移すときに「2で割る」としてしまい、\(v^2=\displaystyle\frac{K}{2m}=100\) から \(10 \, \text{m}/\text{s}\) と書く。
診断: 式変形を「移項すると何となく…」で済ませるクセ。\(\displaystyle\frac{1}{2}\) を消したいなら両辺に2を掛ける。1手ずつ「両辺に何をしたか」を書けば防げる。
誤答パターン②: \(v^2=400\) まで出して安心し、そのまま \(400 \, \text{m}/\text{s}\) と答える。
診断: ゴールの文字を見失うクセ。いま出たのが \(v\) なのか \(v^2\) なのかを確認しない。\(400 \, \text{m}/\text{s}\) は音の速さより速く、自動車としてありえない、という常識チェックでも止められる。
誤答パターン③: \(\displaystyle\frac{2.0 \times 10^5}{1.0 \times 10^3}\) の指数を引き算できず、\(10^8\) や \(10^{-2}\) のような桁で答えが崩れる。
診断: 10の累乗を「数字のおまけ」として扱うクセ。割り算では指数は引き算(\(10^5 \div 10^3=10^2\))。桁の処理は物理の計算の一部であって、あとで適当に合わせるものではない。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする: 自動車が速さ \(v\)(未知)で走っている絵。今度は \(K\) と \(m\) がわかっていて \(v\) を求める。①と同じ式を逆向きに使う問題だと見抜く。
Step 2 どの原理・式を選ぶか(+なぜ): 新しい公式は要らない。\(K=\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) を \(v\) について解けばよい。式は「前から」だけでなく「後ろから」も使える道具だ。
$$\begin{aligned}
K &= \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 \\
2K &= mv^2 \\
v^2 &= \displaystyle\frac{2K}{m} \\
v &= \sqrt{\displaystyle\frac{2K}{m}}
\end{aligned}$$
Step 3 式の意味を読む: \(v\) は \(K\) の平方根に比例する。エネルギーを4倍にしても速さは2倍にしかならない。①の「速さ2倍でエネルギー4倍」をひっくり返した関係だ。また質量が大きいほど、同じエネルギーでも速さは小さくなる。
Step 4 代入して確かめる: 指数の計算が入るので、1手ずつ開いておく。
📖 計算過程を1つずつ丁寧に見る(計算が苦手な人向け・クリックで開閉)
まず分子の \(2K\) を作る。
$$\begin{aligned}
2K &= 2 \times 2.0 \times 10^5 \\
&= 4.0 \times 10^5
\end{aligned}$$
次に \(m\) で割る。数字の部分と10の累乗の部分を分けて計算する(割り算なので指数は引き算)。
$$\begin{aligned}
v^2 &= \displaystyle\frac{4.0 \times 10^5}{1.0 \times 10^3} \\
&= 4.0 \times 10^2 \\
&= 400
\end{aligned}$$
最後に平方根をとる。\(20 \times 20 = 400\) なので、
$$\begin{aligned}
v &= \sqrt{400} \\
&= 20 \, \text{m}/\text{s}
\end{aligned}$$
Step 5 妥当性チェック: 単位は \(\text{J}/\text{kg}=\text{m}^2/\text{s}^2\) で、平方根をとると \(\text{m}/\text{s}\)=速さの単位になる。大きさは \(20 \, \text{m}/\text{s}\)=時速 \(72 \, \text{km}\) で、一般道を走る自動車として自然。逆に \(400\) や \(10\) が出たら「何かを落とした」と気づける。①の式に戻して \(\displaystyle\frac{1}{2} \times 1.0 \times 10^3 \times 20^2\) を計算すると \(2.0 \times 10^5 \, \text{J}\) に戻る(検算完了)。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 未知数が式のどこにあっても、使う式は同じ。「速さを求める公式」を別に覚えるのではなく、定義式を変形する力を育てる。エネルギー保存の問題で速さを求める場面(最下点の速さなど)はすべてこの変形の延長だ。
波及②: 答えを出したら単位を組み立てて確かめる。\(\text{J}/\text{kg}\) の平方根が \(\text{m}/\text{s}\) になると確認できれば、式の形が正しい証拠になる。
波及③: 答えが常識の範囲かを最後に見る。速さを時速に直してみる、というひと手間で、2乗・平方根・桁の取り違えのほとんどを捕まえられる。
③ テーブル上の物体の重力による位置エネルギー(答え=\(0 \, \text{J}\))
この小問の全体の得点率は41.6%で、問3の中でいちばん低い。計算は \(mgh\) の1回だけなのに、半分以上が落とした。原因は計算力ではなく、問題が指定した「基準」を、頭の中の「床」に置き換えてしまうことにある。
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: 「テーブルの高さが \(1.0 \, \text{m}\) だから \(h=1.0\)」と考え、\(mgh=5.0 \times 9.8 \times 1.0\) で \(49 \, \text{J}\) と書く。
診断: 「高さ=床からの高さ」と決めつけるクセ。問題は「テーブルの高さを基準に」と指定しているのに、読んだ瞬間に自分の頭の中の基準(床)へ置き直してしまう。数字が目に入ると、条件文より先に手が動く。
誤答パターン②: 「高い所に置いてあるのにエネルギーが0なんておかしい」と感じ、0と書けずに \(49 \, \text{J}\) へ戻す。
診断: 位置エネルギーを「物体が持っている絶対的な量」と思い込むクセ。重力による位置エネルギーは「基準の位置と比べてどれだけ高いか」で決まる、比べた結果の量だ。基準と同じ高さなら、比べた差は0になる。
誤答パターン③: 「テーブル面が基準で、床は \(1.0 \, \text{m}\) 下」という情報だけが頭に残り、\(-49 \, \text{J}\) と符号つきで書く。
診断: 「物体がどこにあるか」と「床がどこにあるか」を取り違えるクセ。基準より下にあるのは床であって、物体ではない。物体はテーブルの上=基準面の上にいる。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする: 床、高さ \(1.0 \, \text{m}\) のテーブル、その上の物体を描く。次に、問題が指定した基準の線(高さ0の線)をテーブル面に赤で引く。床に線を引くのではない。この1本の線を引く作業が、この問題のすべてだ。
Step 2 どの原理・式を選ぶか(+なぜ): \(U=mgh\) を使う。ただし \(h\) は「床からの高さ」ではなく「基準面からの高さ(上を正)」。重力による位置エネルギーは「物体が今の位置から基準の位置まで移る間に、重力がする仕事」として決められている。だから基準を決めないと値が決まらず、基準を決めたら \(h\) はそこから測る。
Step 3 式の意味を読む: 基準面より上なら \(h \gt 0\) で正、基準面上なら \(h=0\) で0、基準面より下なら \(h \lt 0\) で負。物体がテーブル面にあり、基準もテーブル面なので、物体が基準まで移る距離は0、重力がする仕事も0だ。
Step 4 代入して確かめる:
$$\begin{aligned}
U &= mgh \\
&= 5.0 \times 9.8 \times 0 \\
&= 0 \, \text{J}
\end{aligned}$$
Step 5 妥当性チェック: 基準を変えても、物理として意味のある「差」は変わらないことを確かめる。この物体がテーブルから床へ落ちる場合を考えると、テーブル面基準なら \(0 \, \text{J}\) から \(-49 \, \text{J}\) へ、床基準なら \(49 \, \text{J}\) から \(0 \, \text{J}\) へ変わる。どちらで数えても減った量は \(49 \, \text{J}\) で同じ。つまり \(U\) の値そのものは基準しだいで変わってよく、それで物理が矛盾することはない。「0 J はおかしい」という違和感は、この確認で消える。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 重力による位置エネルギーの値は、必ず「基準の宣言」とセットで意味を持つ。問題が基準を指定したら絶対に従う。指定がなければ自分で決めて、答案に「〇〇を基準とする」と書く。
波及②: 力学的エネルギー保存の式では、基準をどこに置いても求まる速さは同じになる(効くのは差だけだから)。だから実際の問題では「計算が一番楽な所」(最下点など)を基準に選べばよい。
波及③: 基準より下なら値は負になる。これは §4 の正誤(3)そのものだ。また第2問の鉛直ばねのように重力とばねの両方が出る場面では、「重力は基準を自分で選ぶ」「ばねは自然長から測る」の区別が勝負を分ける。
④ 縮めたばねの弾性力による位置エネルギー(答え=\(0.25 \, \text{J}\))
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: 「弾性力は \(kx\)、それで \(x\) だけ動かしたから仕事は \(kx \times x\)」と考え、\(50 \times 0.10 \times 0.10=0.50 \, \text{J}\) と書く。
診断: 変化する力を一定の力として扱うクセ。ばねの力は自然長では0で、縮めるほど大きくなる。最初から最後まで \(kx\) の力がかかっていたわけではないので、「力×距離」をそのまま使うと2倍に数えすぎる。
誤答パターン②: 2乗を忘れて \(\displaystyle\frac{1}{2} \times 50 \times 0.10\) とし、\(2.5 \, \text{J}\) と書く。または \(0.10^2\) を \(0.0010\) と数え間違えて \(0.025 \, \text{J}\) と書く。
診断: 小数の2乗を感覚で処理するクセ。\(0.10^2=0.10 \times 0.10=0.010\)。「小数点以下のケタ数は2倍になる」と1回声に出して確かめれば防げる。
誤答パターン③: 「縮めた」のだから \(x\) は負、だからエネルギーも負と考えて \(-0.25 \, \text{J}\) と書く。
診断: 「縮み=負」を2乗の後まで引きずるクセ。たとえ \(x\) を負で表しても、\(x^2\) は正になる。弾性力による位置エネルギーは伸ばしても縮めても正。この性質は §4 の正誤(4)で問われる。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする: 横軸に縮み \(x\)、縦軸にばねの力 \(F\) をとったグラフを描く。\(F=kx\) なので原点から右上がりの直線になる。自然長(\(x=0\))では力は0、縮み \(x\) のとき力は \(kx\)。
Step 2 どの原理・式を選ぶか(+なぜ): 弾性力による位置エネルギーは「自然長から \(x\) だけ変形させるのに必要な仕事」で、それは \(F\)-\(x\) グラフの下の面積=三角形の面積になる。底辺 \(x\)、高さ \(kx\) の三角形なので、
$$\begin{aligned}
U &= \displaystyle\frac{1}{2} \times x \times kx \\
&= \displaystyle\frac{1}{2}kx^2
\end{aligned}$$
\(\displaystyle\frac{1}{2}\) は「力が0から \(kx\) まで一様に増えるので、平均の力は \(\displaystyle\frac{kx}{2}\)」という意味でもある。誤答パターン①の「\(kx \times x\)」は、この三角形を長方形と見てしまった計算だ。
Step 3 式の意味を読む: \(U\) は変形の2乗に比例する。2倍変形させると4倍のエネルギー。2乗なので、伸ばしても縮めても値は正。基準(\(U=0\) の位置)は自然長で、人が勝手に動かせるものではない。
Step 4 代入して確かめる: 小数の2乗が入るので、1手ずつ開いておく。
📖 計算過程を1つずつ丁寧に見る(計算が苦手な人向け・クリックで開閉)
まず \(x^2\) を出す。\(0.10 \times 0.10\) を素直に計算する(小数点以下のケタ数は2ケタの2倍で4ケタ=0.0100)。
$$\begin{aligned}
x^2 &= 0.10 \times 0.10 \\
&= 0.010
\end{aligned}$$
次に \(\displaystyle\frac{1}{2}k\) を掛ける。
$$\begin{aligned}
U &= \displaystyle\frac{1}{2} \times 50 \times 0.010 \\
&= 25 \times 0.010 \\
&= 0.25 \, \text{J}
\end{aligned}$$
Step 5 妥当性チェック: 単位は \(\text{N}/\text{m} \times \text{m}^2=\text{N}\cdot\text{m}=\text{J}\) で正しい。符号は正(縮めたばねは、手をはなせば物体を押し出して仕事ができる=エネルギーを持っている)。大きさも、手で \(10 \, \text{cm}\) ほど縮める程度のばねなら \(1 \, \text{J}\) に満たない小さな値で自然。有効数字2桁で \(0.25 \, \text{J}\)。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 「\(F\)-\(x\) グラフの下の面積=仕事」は、力が変化するときの仕事の求め方そのもの。第2問の \(F\)-\(x\) グラフ(台形の面積)は、まさにこの考え方で解く。
波及②: 弾性力による位置エネルギーは、伸びでも縮みでも正。基準は自然長に固定。重力による位置エネルギー(基準を自分で選べて、負にもなる)と性質がはっきり違う。
波及③: \(\displaystyle\frac{1}{2}kx^2\) と \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) は形がそっくりだ。どちらも「0から一様に増える量を積み上げた三角形の面積」から \(\displaystyle\frac{1}{2}\) と2乗が出てくる。式の形を「なぜこの形か」で覚えれば、2つを取り違えることもない。
§4. 第1問 問4 ─ 仕事とエネルギーの正誤6題(\(W\)・\(K\)・\(U\) 使用)
第1問の問4は、動滑車と仕事・各エネルギーが負になるか・力学的エネルギーが保存する条件・経路との関係について、6つの文の正誤を判定する問題だ。計算はほぼ要らないのに、全体の得点率は(2)が31.4%と大きく落ち、(5)も52.2%にとどまった。「なんとなく知っている」と「理由まで言える」の差がそのまま点数に出る。※ 問題文は手元プリント参照。
§4.1 解答(Layer 1 ─ 端的解答+サクッと解説)
※ 問題文は手元プリント参照。答えと1-2行の要点だけ先に示す。詳しい思考プロセスは §4.2 のアコーディオン内。
(1) 答え: ○。動滑車で力は半分になるが、ひもを引く距離が2倍になるので、仕事は変わらない(仕事の原理)。
(2) 答え: ○。\(K=\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) で、\(m \gt 0\)、\(v^2 \geq 0\)。どんな運動でも運動エネルギーは0以上。
(3) 答え: ○。物体が基準面より下にあれば \(h \lt 0\) なので、\(mgh\) は負になる。
(4) 答え: ×。\(\displaystyle\frac{1}{2}kx^2 \geq 0\)。基準は自然長に決まっていて、伸ばしても縮めても正。
(5) 答え: ×。保存力以外の力がはたらいていても、その力が仕事をしなければ保存する(例: 振り子の糸の張力、なめらかな面の垂直抗力)。
(6) 答え: ○。力学的エネルギーが保存されるなら、どの道を通っても同じ高さ(同じ位置)に来たときの速さは同じ。
§4.2 💡 もっと深く理解したい人へ ─ 「名前」ではなく「式と条件」で○×をつける
ここから先は「なぜそうなるか」を完全に開く。正解できた人こそ開いてほしい。正誤問題で崩れる原因はほぼ1つで、「エネルギー」「保存」といった言葉の印象で判定してしまうことだ。6題とも、式か条件に戻れば理由つきで答えが決まる。
▶ クリックして完全解説を開く ─ 思考のクセ診断つき
(1) 動滑車で力は半分、では仕事は?(答え=○)
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: 「力が半分で済むのだから、仕事も半分で済む。道具を使うと得をする」と考えて×にする。
診断: 力と仕事を同じものと思うクセ。仕事は「力×動いた距離」の2つの掛け算。力だけを見て、距離がどう変わったかを見ていない。
誤答パターン②: 「滑車の重さや摩擦の分だけ、仕事は少し増えるはず」と考えて×にする。
診断: 問題の条件文を読み飛ばして、現実の事情を持ち込むクセ。文には「摩擦・質量を無視できる」と書いてある。正誤問題では、文が置いた条件の中だけで判定する。
誤答パターン③: 「滑車は力の向きを変えるだけで、力の大きさは変わらない」と考え、前半の「力が半分」から×にする。
診断: 定滑車と動滑車を名前だけで覚えるクセ。天井に固定されて回るだけの定滑車は向きを変えるだけ。物体と一緒に動く動滑車は、物体を2本のひもで支えるので力が半分になる。どちらの滑車かを絵で確かめていない。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする: 天井にひもの一端を結び、ひもを動滑車にかけて、もう一端を手で上に引く絵を描く。動滑車の下に重さ \(mg\) の物体がつり下がっている。物体側を見ると、上向きのひもが2本ある。
Step 2 どの原理・式を選ぶか(+なぜ): 力はつり合いの式、仕事は「力×力の向きに動いた距離」で考える。ゆっくり持ち上げるので物体にはたらく力はつり合っている。2本のひもの張力 \(T\) はどちらも同じ大きさ(1本のひもだから)なので、
$$\begin{aligned}
2T &= mg \\
T &= \displaystyle\frac{mg}{2}
\end{aligned}$$
Step 3 式の意味を読む: 手が引く力は \(\displaystyle\frac{mg}{2}\) で、確かに半分。ところが、物体を \(h\) 持ち上げるには、物体を支える2本のひもがどちらも \(h\) ずつ短くならなければならない。その分のひもはすべて手の側から出ていくので、手はひもを \(2h\) 引くことになる。
Step 4 代入して確かめる: 手がした仕事 \(W_{\text{手}}\) を計算する。
$$\begin{aligned}
W_{\text{手}} &= T \times 2h \\
&= \displaystyle\frac{mg}{2} \times 2h \\
&= mgh
\end{aligned}$$
これは物体を手で直接 \(h\) 持ち上げたときの仕事 \(mgh\) と同じ。力は半分、距離は2倍、掛け算した仕事は変わらない。だから文は○。
Step 5 妥当性チェック: もし仕事まで半分になるとしたら、動滑車を何段も組み合わせれば、仕事をどんどん減らして同じ高さまで物体を上げられることになる。少ない仕事で大きな位置エネルギーが手に入る=エネルギーがどこからか湧いてくることになり、エネルギーの大原則と矛盾する。仕事が変わらないという結論は、この直感とも一致する。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: てこ・斜面・滑車などの道具は、力を小さくできても仕事を減らすことはできない(仕事の原理)。なめらかな斜面に沿って押し上げるときも、力は小さくなるが距離が長くなり、仕事は真上に持ち上げるのと同じになる。
波及②: 仕事を考えるときは「力」と「距離」を必ずセットで見る。片方だけ見て増えた・減ったと判断しない。§1 で「誰の力が、どの向きに、どれだけ動いた間にした仕事か」を確かめたのと同じ姿勢だ。
(2) 運動エネルギーは負になることはない(答え=○)
この文の全体の得点率は31.4%で、問4の6題の中で最も低い。○をつけるだけの問題なのに、ここが最も崩れた。原因は、(3)の「重力による位置エネルギーは負になることがある」という知識を、「エネルギー」という名前ごと全部に広げてしまったことにあると考えられる。
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: 「エネルギーは基準の取り方しだいで負にもなる、と習った」と考えて×にする。
診断: 「エネルギー」という名前でひとまとめにして性質を書き写すクセ。基準しだいで負になるのは重力による位置エネルギーの性質。運動エネルギーの式には、人が決める基準がそもそも出てこない。
誤答パターン②: 「左向き(負の向き)に動いていれば速度は負、だから運動エネルギーも負」と考えて×にする。
診断: 速度の符号(向き)をエネルギーに持ち込むクセ。式に入るのは \(v^2\)。\(v\) が負でも2乗すれば正になり、向きの情報は消える。運動エネルギーは向きを持たない量だ。
誤答パターン③: 「摩擦は負の仕事をする。負の仕事をされ続ければ、運動エネルギーもいつか負になる」と考えて×にする。
診断: 「変化量」と「量そのもの」を混ぜるクセ。負の仕事は運動エネルギーを減らす(変化量が負)という意味で、運動エネルギーそのものが負になるという意味ではない。仕事の符号の話が、エネルギーの符号の話にすり替わっている。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする: どちら向きでもよいので、速さ \(v\) で動く物体を描く。運動エネルギーを決める材料に印をつけると、「質量 \(m\)」と「速さ \(v\)」の2つだけ。基準面のように「人が決めるもの」はどこにも出てこない。
Step 2 どの原理・式を選ぶか(+なぜ): 運動エネルギーの定義 \(K=\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) に戻る。「負になるか」という問いは、式を作っている部品の符号を1つずつ調べれば答えが出るからだ。
Step 3 式の意味を読む: 部品ごとに符号を見る。\(\displaystyle\frac{1}{2}\) は正。質量 \(m\) は正(質量が負の物体はない)。\(v^2\) は、\(v\) が正でも負でも0以上。正×正×(0以上)なので、
$$\begin{aligned}
K &= \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 \\
&\geq 0
\end{aligned}$$
0になるのは止まっているときだけ。
Step 4 判定する: どんな向き・どんな速さでも \(K \geq 0\)。「負になることはない」という文は○。
Step 5 妥当性チェック: 誤答パターン③の状況を最後まで追ってみる。あらい床をすべる物体は、摩擦の負の仕事で運動エネルギーが減っていき、止まった瞬間に \(K=0\) になる。止まると動摩擦力ははたらかなくなるので、それ以上仕事はされない。つまり、負の仕事で減らせるのは「今持っている運動エネルギーの分まで」で、0より下へは行けない。直感とも式とも矛盾しない。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 「負になりうるか」は、式の中に人が決める基準(0の位置)があるかと、2乗になっているかで判定できる。重力による位置エネルギー \(mgh\) は基準を選べて2乗でもない=負もある。弾性力による位置エネルギー \(\displaystyle\frac{1}{2}kx^2\) は基準が自然長に固定で2乗=負にならない。運動エネルギー \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) は2乗=負にならない。(2)(3)(4)はこの1枚の表で全部解ける。
波及②: 仕事の符号(+か−か)は「エネルギーを増やす向きか減らす向きか」という変化の向きの情報。エネルギーそのものの符号とは別物だ。「仕事は負になる」と「エネルギーが負になる」を混ぜない。
波及③: 正誤問題で「エネルギー」とひとまとめに書かれていたら、まず「どのエネルギーの話か」を特定してから、その式に戻って判定する。
(3) 重力による位置エネルギーは負になることがある(答え=○)
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: 「エネルギーは“持っている量”だから、マイナスはありえない」と考えて×にする。
診断: エネルギーを体積や重さのような「ものの量」と思うクセ。重力による位置エネルギーは、基準の位置と比べた「差」で決まる量。基準より低ければ、差は負になる。
誤答パターン②: 「高さは床(地面)から測るもので、床より下には行けないから負にならない」と考えて×にする。
診断: 基準=床に固定してしまうクセ。§3 ③で得点率を下げたのと同じ根っこ。基準はテーブル面でも、崖の上でも、自由に置ける。基準を床より上に置けば、床にある物体は基準より下になる。
誤答パターン③: 「(2)で“運動エネルギーは負にならない”に○をつけたから、(3)の“位置エネルギーは負になる”は逆で×だろう」と、となりの文との対で決める。
診断: となりの問題の答えに引きずられるクセ。正誤問題は1文ずつ独立に判定する。(2)と(3)は扱っているエネルギーが違うので、片方が○ならもう片方は×、という関係はない(実際どちらも○)。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする: 基準面の線を1本引き、その線より下に物体を描く。たとえば §3 ③と同じく、テーブル面を基準にしたときの、床の上の物体。
Step 2 どの原理・式を選ぶか(+なぜ): \(U=mgh\)。ここで \(h\) は「基準面からの高さ(上向きを正)」。重力による位置エネルギーは、物体が基準の位置へ移るまでに重力がする仕事として決められているので、基準を自由に選べる量だ。
Step 3 式の意味を読む: 物体が基準より下にあれば \(h \lt 0\)。\(m \gt 0\)、\(g \gt 0\) なので \(U \lt 0\)。意味としては、「物体を基準の位置まで上げるには、外から仕事をしてやらなければならない」=基準の位置と比べてエネルギーが足りない状態、ということになる。
Step 4 判定する: 基準面より下にある物体の位置エネルギーは負。「負になることがある」は○。
Step 5 妥当性チェック: 基準をどこに置いても、2つの位置の位置エネルギーの差は変わらない(§3 ③の Step 5 で確かめた)。値が負になっても、物理的な結果(速さや仕事)はまったく変わらないので、負の値が出ても困ることは何もない。極端ケースとして、基準を物体よりずっと上に置けば、どの物体の位置エネルギーも負になる。それでもエネルギー保存の計算結果は同じだ。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 重力による位置エネルギーの値は、負でも0でも正でもよい。意味を持つのは「2点の差」だけ。計算の途中で負の値が出ても、あわてて符号を消さない。
波及②: 基準を問題が指定したら必ず従う。指定がなければ、計算が一番楽になる位置(最も低い点など)に自分で置き、答案に書いておく。この「基準を宣言してから計算する」習慣が、第2問の振り子や斜面の問題で式を立てる土台になる。
(4) 弾性力による位置エネルギーは負になることがある(答え=×)
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: 「(3)で重力による位置エネルギーは負になると判断した。同じ“位置エネルギー”なのだから、弾性力の方も負になる」と考えて○にする。
診断: 名前が同じなら性質も同じと考えるクセ。「位置エネルギー」という名前は共通でも、式の形も、基準の決まり方も違う。性質は名前ではなく式から読む。
誤答パターン②: 「伸びを正とすれば、縮みは負。縮めたときは負のエネルギーになる」と考えて○にする。
診断: 変形の向きの符号を2乗の後まで持ち込むクセ。§3 ④の誤答パターン③と同じ。\(x\) が負でも \(x^2\) は正になる。
誤答パターン③: 「重力のときと同じように、基準を自然長以外の場所にずらせば負にできるはず」と考えて○にする。
診断: 重力の「基準は自由に選べる」というルールを、ばねにもそのまま当てはめるクセ。弾性力による位置エネルギーは「自然長からの伸び(縮み)\(x\)」で書かれる量で、基準は自然長と決まっている。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする: 自然長のばね、\(x\) だけ伸ばしたばね、\(x\) だけ縮めたばねの3つを並べて描く。伸ばしたばねも縮めたばねも、手をはなせばつないだ物体を動かす(仕事ができる)。自然長のばねは何もしない。
Step 2 どの原理・式を選ぶか(+なぜ): 弾性力による位置エネルギー \(U=\displaystyle\frac{1}{2}kx^2\)(\(x\) は自然長からの伸びまたは縮み)。これは \(F\)-\(x\) グラフの三角形の面積、つまり「自然長から \(x\) まで変形させるのに必要な仕事」だった(§3 ④)。
Step 3 式の意味を読む: ばね定数 \(k\) は正、\(x^2\) は0以上。したがって
$$\begin{aligned}
U &= \displaystyle\frac{1}{2}kx^2 \\
&\geq 0
\end{aligned}$$
自然長(\(x=0\))で最小の0、そこから伸ばしても縮めても増える。グラフにすると、自然長を底とする下に凸の放物線で、0より下に出る部分はない。
Step 4 判定する: どんな変形でも \(U \geq 0\)。「負になることがある」は×。
Step 5 妥当性チェック: 「負の弾性エネルギー」があるとしたら、それは「自然長のばねよりもさらにエネルギーが少ない=元に戻ろうとする力が自然長のときより弱い状態」ということになる。だが自然長でばねの力はすでに0で、それより弱い状態は存在しない。直感からも、0未満はありえないと確かめられる。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 同じ「位置エネルギー」でも、重力は「基準を自分で選べる・負もある」、弾性力は「基準は自然長で固定・負はない」。この違いを1行で言えるようにしておくと、(3)(4)のような対の正誤問題で迷わない。
波及②: 鉛直につるしたばねのように重力と弾性力が同時に出てくる問題では、「重力の高さは自分で決めた基準から」「ばねの伸びは必ず自然長から」と、測る起点を別々に宣言する。第2問のばね振り子で「伸びは自然長から測る」が大きな壁になったのは、まさにこの区別だ。
(5) 保存力以外の力がはたらくと、力学的エネルギーは保存されない?(答え=×)
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: 「保存力以外の力がある=力学的エネルギーは保存しない、と習った」と考えて○にする。
診断: 「力がはたらいている」と「力が仕事をしている」を区別しないクセ。力学的エネルギーを変えるのは、保存力以外の力がした仕事だ。はたらいていても、仕事が0なら何も変わらない。
誤答パターン②: 「垂直抗力は保存力ではない。だから斜面をすべる物体の力学的エネルギーは必ず減る」と考えて○にする。
診断: 解いてきた例題と、文の内容を突き合わせないクセ。なめらかな斜面をすべり降りる物体で、エネルギー保存を使って速さを出した経験があるはず。そのとき垂直抗力はずっとはたらいていた。経験と文が矛盾していることに気づけば×にできる。
誤答パターン③: 「〜ことはない」という強い言い切りを、もっともらしく感じてそのまま○にする。
診断: 言い切りの文に反例を探さないクセ。「必ず」「〜ことはない」という文は、反例が1つでもあれば×になる。正誤問題では、言い切りを見たら「当てはまらない場面はないか」を1つ探しにいく。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする: 振り子の絵を描く。おもりにはたらく力は、下向きの重力と、糸に沿って支点へ向かう張力の2つ。次に、おもりが進む向き(円の接線の向き)の矢印を描き足す。張力の矢印と進む向きの矢印は、いつも直角になっている。
Step 2 どの原理・式を選ぶか(+なぜ): 「力学的エネルギーの変化は、保存力以外の力がした仕事に等しい」という関係を使う。保存するかどうかは、この右辺が0かどうかで決まるからだ。
$$\begin{aligned}
E_{\text{後}} – E_{\text{前}} &= W_{\text{保存力以外}}
\end{aligned}$$
Step 3 式の意味を読む: 左辺を0にするのに必要なのは「保存力以外の力が存在しないこと」ではなく、「保存力以外の力がした仕事が0であること」。力が移動の向きと直角なら、その力の仕事は0になる(§1 ④で垂直抗力の仕事が \(0 \, \text{J}\) だったのと同じ理屈)。
$$\begin{aligned}
W &= Fx\cos 90^\circ \\
&= 0
\end{aligned}$$
Step 4 判定する: 振り子の糸の張力も、なめらかな面の垂直抗力も、保存力ではないが、移動の向きと常に直角なので仕事は0。だからこれらがはたらいていても力学的エネルギーは保存する。「保存されることはない」という文には反例があるので×。
Step 5 妥当性チェック: もしこの文が正しかったら、振り子の最下点の速さも、なめらかな斜面をすべり降りた後の速さも、エネルギー保存では求められなくなる。教科書の基本の使い方がすべて崩れるので、文が誤りだと確認できる。逆に、摩擦力や空気の抵抗は進む向きと逆向きにはたらいて負の仕事をするので、これらがあるときは力学的エネルギーが本当に減る。「保存しない」のは、こちらの場面だ。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: エネルギー保存を使う前のチェックは、「保存力以外の力はあるか」ではなく「保存力以外の力は仕事をしているか」。物体にはたらく力を全部書き出し、保存力以外のものについて、進む向きと直角かどうかを1つずつ確かめる。
波及②: 「必ず」「〜ことはない」で言い切る正誤文は、反例を1つ見つければ×が確定する。振り子・なめらかな斜面のような、教科書の典型的な場面を反例の候補として頭に置いておくと速い。
波及③: 保存力以外の力が仕事をする場面では、「力学的エネルギーの変化=その力の仕事」として式を立てる。第2問の「あらい部分を通ってから斜面を上る」問題は、まさにこの形で解く。
(6) 力学的エネルギーが保存されるなら、経路によらない(答え=○)
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: 「急な坂をすべった方が勢いがつくから、下に着いたときも速いはず」と考えて×にする。
診断: 「速く着く」と「着いたときに速い」を混ぜるクセ。急な坂は加速が大きいので早く下に着くが、着いたときの速さはゆるい坂と同じ。時間の話と速さの話が入れ替わっている。
誤答パターン②: 「長い道のりを通れば、その分エネルギーを使うから遅くなる」と考えて×にする。
診断: 文の前提を外して、日常の感覚で判定するクセ。道のりが長いほど遅くなるのは、摩擦や空気の抵抗があるときの話。文は「力学的エネルギーが保存される場合」と前提を置いている。前提の中で考えれば、道のりの長さは関係ない。
誤答パターン③: 「途中で一度山を登ってから下る道だと、登る間に速さを失った分だけ、最後も遅くなる」と考えて×にする。
診断: 途中の出来事を最後まで引きずるクセ。登る間に減った運動エネルギーは位置エネルギーとして蓄えられ、下る間にそっくり戻ってくる。途中で増えたり減ったりしても、終点では帳尻が合う。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする: 同じ高さの出発点から、ゆるい坂・急な坂・くねくねした坂の3本の道で、同じ高さの終点まで物体がすべり降りる絵を描く。面はすべてなめらかとする。
Step 2 どの原理・式を選ぶか(+なぜ): 力学的エネルギー保存則。前提が「保存される場合」なので、始点と終点で運動エネルギーと位置エネルギーの和が等しい。
$$\begin{aligned}
\displaystyle\frac{1}{2}mv_{\text{始}}^2 + mgh_{\text{始}} &= \displaystyle\frac{1}{2}mv_{\text{終}}^2 + mgh_{\text{終}}
\end{aligned}$$
Step 3 式の意味を読む: この式に出てくるのは、始点と終点の「高さ」と「速さ」だけ。経路を表す文字は1つもない。だから始点の状態と終点の高さが決まれば、終点の速さは式だけで決まり、途中の道の形は答えに入りこむ余地がない。その理由は、重力のした仕事が経路によらず「高さの差」だけで決まるからだ。
Step 4 判定する: 力学的エネルギーが保存されるなら、どの経路を通っても、同じ位置に来たときの速さは同じ。文は○。
Step 5 妥当性チェック: 極端ケースで確かめる。真下へ自由落下する経路と、なめらかな斜面をすべる経路で、同じ高さだけ下った場合、どちらも速さは \(v=\sqrt{2gh}\)(静止から出発したとき)で同じになる。違うのはかかる時間だけ。ただし、途中に出発点より高い山がある経路では、物体はそこを越えられない(終点にそもそも到達しない)。「到達できる限り、速さは同じ」と理解しておけば矛盾はない。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 「仕事が経路によらず、始点と終点だけで決まる力」こそが保存力(重力・弾性力)で、だから位置エネルギーという「位置だけで決まる量」を作れる。摩擦力は道のりが長いほど仕事が大きくなるので保存力ではない。(5)の「保存力以外の力」とつながっている。
波及②: エネルギー保存の問題では、途中の複雑な形は気にせず、「始点」と「知りたい点」の2点だけを比べればよい。振り子・斜面・ジェットコースター型の問題はすべてこの見方で式が1本になる。
§5. 第2問 問1 ─ \(F\)-\(x\) グラフの面積=仕事、そして「仕事=運動エネルギーの変化」(\(F\), \(x\), \(m\), \(v\) 使用)
なめらかな水平の床で、止まっていた小物体に、進むほど大きくなる水平な力を加えていく。力 \(F\) と進んだ距離 \(x\) の関係は右上がりの直線のグラフで与えられ、そこから仕事・速さ・「ある速さになる位置」を求める。※ 問題文は手元プリント参照。
第2問全体の得点率は16.7%。この問1は (1) 18.1%、(2) 18.6%、そして (3) は 0.4%。ほぼ全滅だ。崩れる原因は2つ。①力が途中で変わるのに \(W=Fx\) に1つの数字を入れてしまう(正しくは「グラフの下の面積」)、②その面積を、数字ではなく文字 \(x\) のまま式に書く、という一段上の操作ができない。この2点を軸に開いていこう。
§5.1 解答(Layer 1 ─ 端的解答+サクッと解説)
※ 問題文は手元プリント参照。答えと1-2行の要点だけ先に示します。詳しい思考プロセスは §5.2 のアコーディオン内。
(1) 答え: \(12 \, \text{J}\)。力が一定でないので仕事は「\(F\)-\(x\) グラフの下の面積」。台形 \(\displaystyle\frac{1}{2}\times(3.0+5.0)\times3.0\)。
(2) 答え: \(2.0 \, \text{m}/\text{s}\)。静止から出発するので、された仕事 \(12 \, \text{J}\) がそのまま運動エネルギーになる。\(\displaystyle\frac{1}{2}\times6.0\times v^2=12\) より \(v^2=4.0\)。
(3) 答え: \(\displaystyle\frac{9(\sqrt{5}-1)}{2} \, \text{m}\)(約 \(5.6 \, \text{m}\))。必要な運動エネルギーは \(27 \, \text{J}\)。\(0\) から \(x\) までの台形の面積を \(x\) の式 \(3.0x+\displaystyle\frac{1}{3}x^2\) で書き、\(27\) とおいた2次方程式 \(x^2+9x-81=0\) を解いて正の解を取る。
§5.2 💡 もっと深く理解したい人へ ─ 「面積=仕事」を文字のまま使えるか
ここから先は「なぜそうなるか」を完全に開く。正解できた人こそ開いてほしい。(3) は得点率0.4%。ここを越えた人は、グラフを「絵」ではなく「式」として読めている。
▶ クリックして完全解説を開く ─ 思考のクセ診断つき
この大問の背骨(先に読む): 使う道具は2本だけ。①力が変わるときの仕事=\(F\)-\(x\) グラフの下の面積。②物体がされた仕事=運動エネルギーの変化(床はなめらか、重力と垂直抗力は上下向きで移動方向と直角なので仕事0。仕事をするのは \(F\) だけ)。(1) で①、(2) で②、(3) で①と②を文字 \(x\) のままつなぐ。
(1) \(x=0\) から \(x=3.0 \, \text{m}\) までに力がした仕事
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: \(W=Fx\) に終わりの力 \(5.0 \, \text{N}\) を入れて \(5.0\times3.0=15 \, \text{J}\) とする。
診断: 力が変わっていても \(W=Fx\) に1つの値を入れてしまう「式の前提を確かめないクセ」。\(W=Fx\) は力がずっと一定のときだけの式。ここでは \(3.0 \, \text{N}\) から \(5.0 \, \text{N}\) へ増え続けているので、どの1つの値を入れても合わない。
誤答パターン②: 始めの力 \(3.0 \, \text{N}\) を使って \(3.0\times3.0=9.0 \, \text{J}\) とする。
診断: ①と同じ根っこに、「最初に目に入った数字を使うクセ」が重なったもの。始めの力で計算すると、途中で力が強くなった分の仕事がまるごと抜け落ちる。
誤答パターン③: 面積だとは気づいたが、三角形 \(\displaystyle\frac{1}{2}\times5.0\times3.0=7.5 \, \text{J}\) と取る。
診断: 「グラフは原点から始まるもの」と思い込む「切片を見ないクセ」。\(x=0\) での力は \(0\) ではなく \(3.0 \, \text{N}\)。グラフの下は台形(下に高さ \(3.0\) の長方形、その上に三角形)になる。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする。 横軸は「進んだ距離 \(x\)」、縦軸は「その場所で加えている力 \(F\)」。グラフは \(x=0\) で \(3.0 \, \text{N}\)、\(x=3.0 \, \text{m}\) で \(5.0 \, \text{N}\) を通る右上がりの直線。進めば進むほど強く押している。
Step 2 どの原理・式を選ぶか(+なぜ)。 力が一定なら、仕事は「力×距離」=グラフでは長方形の面積。力が変わるときは、距離をごく短く区切ると、その短い区間では力をほぼ一定とみなせる。その細い長方形の面積(=短い区間の仕事)を全部足し合わせると、グラフの下の面積になる。だから「力が変わるときの仕事=\(F\)-\(x\) グラフの下の面積」。
Step 3 式の意味を読む。 グラフの下は、上底 \(3.0\)、下底 \(5.0\)、高さ(横幅)\(3.0\) の台形。
$$\begin{aligned}
W &= \displaystyle\frac{1}{2}\times(3.0+5.0)\times3.0
\end{aligned}$$
Step 4 代入して確かめる。
📖 計算過程を1つずつ丁寧に見る(計算が苦手な人向け・クリックで開閉)
台形の公式((上底+下底)×高さ÷2)で計算する。
$$\begin{aligned}
W &= \displaystyle\frac{1}{2}\times(3.0+5.0)\times3.0 \\
&= \displaystyle\frac{1}{2}\times8.0\times3.0 \\
&= 12
\end{aligned}$$
「長方形+三角形」に分けても同じ。下の長方形は縦 \(3.0\)・横 \(3.0\)、上の三角形は底辺 \(3.0\)・高さ \(5.0-3.0=2.0\)。
$$\begin{aligned}
W &= 3.0\times3.0+\displaystyle\frac{1}{2}\times3.0\times2.0 \\
&= 9.0+3.0 \\
&= 12
\end{aligned}$$
$$\begin{aligned}
W &= 12 \, \text{J}
\end{aligned}$$
Step 5 妥当性チェック。 ①単位:縦軸 \(\text{N}\) × 横軸 \(\text{m}\) = \(\text{N}\cdot\text{m}\) = \(\text{J}\)。面積の単位がちゃんと仕事の単位になる。②はさみうち:ずっと \(3.0 \, \text{N}\) なら \(9.0 \, \text{J}\)、ずっと \(5.0 \, \text{N}\) なら \(15 \, \text{J}\)。実際はその間を増えていくので、答えはその間にあるはず。\(12 \, \text{J}\) は確かに間にある。③グラフが直線なので、平均の力 \(4.0 \, \text{N}\)(\(3.0\) と \(5.0\) のまん中)×\(3.0 \, \text{m}\) とも一致する(直線のときだけ使える近道。曲線では使えない)。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 「力×距離」は力が一定のときの特別な場合。本体は「\(F\)-\(x\) グラフの下の面積」。ばねの弾性力による位置エネルギー \(\displaystyle\frac{1}{2}kx^2\) も、実は \(F=kx\) のグラフ(原点を通る直線)の下の三角形の面積として出てくる。
波及②: 「縦軸×横軸」に意味があるグラフは、面積にも意味がある。\(v\)-\(t\) グラフの面積が移動距離になるのと同じ構造。グラフを見たら、まず「縦×横は何か」を言葉にするクセをつけよう。
(2) \(x=3.0 \, \text{m}\) での速さ
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: 運動方程式で加速度を出し、等加速度運動の式 \(v^2=2ax\) を使う。例えば \(5.0 \, \text{N}\) から \(a=\displaystyle\frac{5.0}{6.0}\) として \(v^2=5.0\)、\(v\) を約 \(2.2 \, \text{m}/\text{s}\) とする。
診断: 「加速度はいつも一定と決めつけるクセ」。力が増え続けているので加速度も増え続ける。等加速度の式は使えない。
誤答パターン②: \(\displaystyle\frac{1}{2}\) を落として \(6.0\times v^2=12\)、\(v^2=2.0\)、\(v\) を約 \(1.4 \, \text{m}/\text{s}\) とする。
診断: 運動エネルギーを「質量×速さの2乗」とぼんやり覚えている「式の形を雑に覚えるクセ」。運動エネルギーは \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)。\(\displaystyle\frac{1}{2}\) まで含めて1つの式。
誤答パターン③: (1) で仕事は出せたのに、「速さを出す式」が思いつかず手が止まる。
診断: 小問を1つずつ別の問題と見て、毎回ちがう公式を探しにいく「小問を切り離すクセ」。(1) の仕事は (2) への橋。「された仕事=運動エネルギーの変化」で、仕事と速さは一本でつながっている。
誤答パターン④: (1) を \(15 \, \text{J}\) などと間違えたまま代入し、\(v^2=5.0\) とする。
診断: 「前の答えを疑わずに流し込むクセ」。(2) の得点率18.6%が (1) の18.1%とほぼ同じなのは、(1) でつまずくと (2) も連鎖して落ちる構造だから。後で示すはさみうちのチェックをすれば、(1) の誤りに自分で気づける。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする。 止まっていた物体が、\(3.0 \, \text{m}\) 進む間に押され続けて速くなる。床はなめらか(摩擦なし)。重力と垂直抗力は上下向きで、横に進む向きと直角なので仕事をしない。仕事をするのは \(F\) だけ。
Step 2 どの原理・式を選ぶか(+なぜ)。 「物体がされた仕事=運動エネルギーの変化」。力が変わるので途中の加速度を追うのは大変。でもエネルギーなら、途中の様子を見ずに始めと終わりだけで済む。途中のことは (1) の面積がまとめて持っている。
Step 3 式の意味を読む。 始めは静止なので運動エネルギー \(0\)。そこに \(12 \, \text{J}\) の仕事が入り、全部が運動エネルギーになる。
$$\begin{aligned}
\displaystyle\frac{1}{2}mv^2 – 0 &= W
\end{aligned}$$
Step 4 代入して確かめる。 \(m=6.0 \, \text{kg}\)、\(W=12 \, \text{J}\)。
📖 計算過程を1つずつ丁寧に見る(計算が苦手な人向け・クリックで開閉)
$$\begin{aligned}
\displaystyle\frac{1}{2}\times6.0\times v^2 &= 12 \\
3.0\times v^2 &= 12 \\
v^2 &= 4.0 \\
v &= 2.0
\end{aligned}$$
\(\displaystyle\frac{1}{2}\times6.0=3.0\) を先にまとめると見通しがよい。速さは正なので \(v=2.0\)。
$$\begin{aligned}
v &= 2.0 \, \text{m}/\text{s}
\end{aligned}$$
Step 5 妥当性チェック。 ①単位:\(\text{J}=\text{kg}\cdot\text{m}^2/\text{s}^2\) を \(\text{kg}\) で割ると \(\text{m}^2/\text{s}^2\)、ルートで \(\text{m}/\text{s}\)。合う。②はさみうち:ずっと \(3.0 \, \text{N}\) なら仕事 \(9.0 \, \text{J}\) で \(v^2=3.0\)(約 \(1.7 \, \text{m}/\text{s}\))、ずっと \(5.0 \, \text{N}\) なら \(15 \, \text{J}\) で \(v^2=5.0\)(約 \(2.2 \, \text{m}/\text{s}\))。\(2.0 \, \text{m}/\text{s}\) はその間。③重い物体ほど同じ仕事で遅くなるはず。式の分母側に \(m\) があり、直感と合う。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 力が途中で変わる・向きが変わる・道が曲がる。途中が複雑なときほど、エネルギーで「始めと終わり」だけを見る。運動方程式は加速度が一定のときに強く、エネルギーは途中が複雑なときに強い。道具を場面で選ぼう。
波及②: 摩擦などで負の仕事をされる場合も、「全部の力がした仕事の合計=運動エネルギーの変化」は同じ。プラスの仕事もマイナスの仕事も合計してから運動エネルギーとつなぐ(この考え方は§8の「あらい面」でそのまま使う)。
(3) 速さが \(3.0 \, \text{m}/\text{s}\) になる位置
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: 「\(3.0 \, \text{m}\) で \(2.0 \, \text{m}/\text{s}\) だから、\(3.0 \, \text{m}/\text{s}\) になるのは \(4.5 \, \text{m}\)」と、速さを距離に比例させる。
診断: 「なんでも比例で片づけるクセ」。速さは距離に比例しない。比べるならエネルギー(速さの2乗)で比べる。
誤答パターン②: 運動エネルギーは距離に比例すると考え、\(12 \, \text{J}\) で \(3.0 \, \text{m}\) だから \(27 \, \text{J}\) では \(3.0\times\displaystyle\frac{27}{12}=6.75 \, \text{m}\) とする。
診断: 「力が一定のときの感覚を引きずるクセ」。エネルギーが距離に比例するのは、力が一定のときだけ。ここでは先へ進むほど力が強く、1 m あたりにもらえる仕事が増えていく。だから本当の答えは \(6.75 \, \text{m}\) より手前になる。
誤答パターン③: 位置 \(x\) での力 \(3.0+\displaystyle\frac{2}{3}x\) に距離 \(x\) をかけて、\(\left(3.0+\displaystyle\frac{2}{3}x\right)x=27\) とする(解くと \(x=4.5 \, \text{m}\))。
診断: (1) では避けられた「\(W=Fx\) に1つの値を入れる罠」に、文字になった途端に戻ってしまう「数字なら気をつけるのに、文字だと油断するクセ」。終わりの力 \(\times\) 距離は、グラフでは長方形。本当は台形の面積。
誤答パターン④: グラフに描かれた範囲の先の力をどう表せばいいか分からず、ここで止まる。
診断: グラフを「絵」として眺め、「式」に直さない「グラフを数字の表としか見ないクセ」。直線なら、切片(\(x=0\) での値)と傾き(1 m 進むごとにいくら増えるか)の2つで、どの位置の力でも式で言える。得点率0.4%の最大の壁がここ。
誤答パターン⑤: 2次方程式までは立てたが、\(\sqrt{405}\) を整理できずに止まる、または負の解もそのまま答えに書く。
診断: 「式を解いたら終わりで、物理の意味でふるいにかけないクセ」。ここでの \(x\) は「進んだ距離」なので正の値だけが意味をもつ。数学の答えが2つ出ても、物理の答えは1つ。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする。 目標は速さ \(3.0 \, \text{m}/\text{s}\)。そのとき必要な運動エネルギーは \(\displaystyle\frac{1}{2}\times6.0\times3.0^2=27 \, \text{J}\)。(1) から \(3.0 \, \text{m}\) 地点ではまだ \(12 \, \text{J}\) しかないので、目標の位置は \(3.0 \, \text{m}\) より先。そこでの力を知るために、グラフを式にする。グラフは \(x=0\) で \(3.0 \, \text{N}\)、\(3.0 \, \text{m}\) 進むごとに \(2.0 \, \text{N}\) 増える。つまり 1 m あたり \(\displaystyle\frac{2.0}{3.0}=\displaystyle\frac{2}{3} \, \text{N}\) ずつ増える。
$$\begin{aligned}
F &= 3.0+\displaystyle\frac{2}{3}x
\end{aligned}$$
Step 2 どの原理・式を選ぶか(+なぜ)。 (1)(2) と同じ2本の道具を、終わりの位置を文字 \(x\) のまま使う。①\(0\) から \(x\) までの仕事=グラフの下の台形の面積(上底 \(3.0\)、下底 \(3.0+\displaystyle\frac{2}{3}x\)、横幅 \(x\))。②その仕事=運動エネルギーの変化=\(27 \, \text{J}\)。「どこで〜になるか」を聞かれたら、場所を文字にして逆算する。
Step 3 式の意味を読む。 台形の面積を \(x\) の式にすると、次のように整理できる。
$$\begin{aligned}
W &= \displaystyle\frac{1}{2}\left(3.0+3.0+\displaystyle\frac{2}{3}x\right)x \\
&= 3.0x+\displaystyle\frac{1}{3}x^2
\end{aligned}$$
\(3.0x\) は下の長方形(縦 \(3.0\)・横 \(x\))、\(\displaystyle\frac{1}{3}x^2\) は上の三角形(底辺 \(x\)・高さ \(\displaystyle\frac{2}{3}x\) の半分)。「長方形+三角形」がそのまま式の2つの項になっている。これを \(27\) とおく。
$$\begin{aligned}
3.0x+\displaystyle\frac{1}{3}x^2 &= 27
\end{aligned}$$
Step 4 代入して確かめる。 両辺を3倍して分数を消し、2次方程式を解の公式で解く。
📖 計算過程を1つずつ丁寧に見る(計算が苦手な人向け・クリックで開閉)
まず目標の運動エネルギー。
$$\begin{aligned}
\displaystyle\frac{1}{2}mv^2 &= \displaystyle\frac{1}{2}\times6.0\times3.0^2 \\
&= 3.0\times9.0 \\
&= 27
\end{aligned}$$
次に \(0\) から \(x\) までの面積(台形)を整理する。
$$\begin{aligned}
W &= \displaystyle\frac{1}{2}\left(3.0+3.0+\displaystyle\frac{2}{3}x\right)x \\
&= \displaystyle\frac{1}{2}\left(6.0+\displaystyle\frac{2}{3}x\right)x \\
&= \left(3.0+\displaystyle\frac{1}{3}x\right)x \\
&= 3.0x+\displaystyle\frac{1}{3}x^2
\end{aligned}$$
これを \(27\) とおき、両辺を3倍して分数を消す。右辺を左辺へ移して「\(=0\)」の形にする。
$$\begin{aligned}
3.0x+\displaystyle\frac{1}{3}x^2 &= 27 \\
9x+x^2 &= 81 \\
x^2+9x-81 &= 0
\end{aligned}$$
\(ax^2+bx+c=0\) の解の公式に、\(a=1\)、\(b=9\)、\(c=-81\) を入れる。
$$\begin{aligned}
x &= \displaystyle\frac{-b\pm\sqrt{b^2-4ac}}{2a}
\end{aligned}$$
ルートの中身(判別式)を先に計算する。\(c\) が負なので、\(-4ac\) はプラスになることに注意。
$$\begin{aligned}
b^2-4ac &= 9^2-4\times1\times(-81) \\
&= 81+324 \\
&= 405
\end{aligned}$$
\(405=81\times5\)、\(81=9^2\) なので、ルートの外に \(9\) が出る。
$$\begin{aligned}
\sqrt{405} &= \sqrt{81\times5} \\
&= 9\sqrt{5}
\end{aligned}$$
解の公式に戻す。
$$\begin{aligned}
x &= \displaystyle\frac{-9\pm9\sqrt{5}}{2}
\end{aligned}$$
「\(-\)」の方は \(x\) が負(後ろ向きに進んだ位置)になり、進んだ距離として意味がないので捨てる。「\(+\)」の方を取り、分子を \(9\) でくくる。
$$\begin{aligned}
x &= \displaystyle\frac{-9+9\sqrt{5}}{2} \\
&= \displaystyle\frac{9(\sqrt{5}-1)}{2}
\end{aligned}$$
おおよその値も見ておく。\(\sqrt{5}\) は約 \(2.236\) なので \(\sqrt{5}-1\) は約 \(1.236\)、\(9\times1.236\div2\) は約 \(5.56\)。
$$\begin{aligned}
x &= \displaystyle\frac{9(\sqrt{5}-1)}{2} \, \text{m}
\end{aligned}$$
(約 \(5.6 \, \text{m}\))
Step 5 妥当性チェック。 ①位置の範囲:\(3.0 \, \text{m}\) より先(\(12 \, \text{J}\) では足りないから)、かつ誤答②の \(6.75 \, \text{m}\) より手前(力が増えるから)。約 \(5.6 \, \text{m}\) はちゃんとその間。②代入して検算:\(x\) が約 \(5.56\) のとき力は約 \(3.0+3.71=6.7 \, \text{N}\)。台形の面積は約 \(\displaystyle\frac{1}{2}\times(3.0+6.7)\times5.56\)、約 \(27 \, \text{J}\)。合う。③別ルートで一致:\(3.0 \, \text{m}\) 地点(すでに \(12 \, \text{J}\)、力 \(5.0 \, \text{N}\))から、残り \(15 \, \text{J}\) を稼ぐのに必要な距離を \(s\) とおくと、面積は \(5.0s+\displaystyle\frac{1}{3}s^2\)。これを \(15\) とおくと次の通り。
$$\begin{aligned}
5.0s+\displaystyle\frac{1}{3}s^2 &= 15 \\
s^2+15s-45 &= 0 \\
s &= \displaystyle\frac{-15+\sqrt{405}}{2} \\
s &= \displaystyle\frac{-15+9\sqrt{5}}{2} \\
3.0+s &= \displaystyle\frac{9\sqrt{5}-9}{2}
\end{aligned}$$
出発点からの距離 \(3.0+s\) は \(\displaystyle\frac{9(\sqrt{5}-1)}{2}\) とまったく同じ。どこから区切っても同じ答え=正しさの裏付け。④単位:面積の式の両辺はどちらも \(\text{J}\)、\(x\) は \(\text{m}\)。合う。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 「面積=仕事」は、数字の入ったグラフだけでなく、終わりの位置を文字にしたままでも使える。直線のグラフは「切片+傾き×\(x\)」の式に直せば、どこまででも延ばせる。「どこで〜になるか」を聞かれたら、場所を文字にして面積を式で書き、逆算する。
波及②: 2次方程式の解は2つ出ても、物理の答えは条件(距離は正、時間は正など)でふるいにかけて選ぶ。数学の答えと物理の答えは別もの。
波及③: 速さ・距離・エネルギーのどれとどれが比例するかは、力の様子で決まる。「比例しそうだから」で計算せず、何が保存・何が積み上がるのかから式を立てる。
§6. 第2問 問2 ─ 棒の振り子と糸+釘の振り子 ─ 「最下点から何 m 上か」だけで解く(\(h\), \(v\), \(\theta\) 使用)
長さ \(0.40 \, \text{m}\) の棒の先におもりをつけた振り子を、鉛直から傾けて静かにはなす。後半は棒を糸に替え、支点の真下に釘を打って、最下点を過ぎると糸が釘にかかり、釘を中心に小さく振れる振り子を考える。※ 問題文は手元プリント参照。
得点率は (1) 29.6%、(2) 10.2%、(3) 15.9%、(4) 55.8%。崩れる原因は2つ。①「最下点から何 m 上か」という高さを、言葉で一つずつ作らずに \(\sin\) や \(\cos\) を当てずっぽうで選ぶ、②速さと高さの関係(速さは高さの \(\sqrt{\ }\) で効く)を比例で済ませる。振り子の問題は、エネルギー保存さえ使えれば、あとは高さの地図を正しく描けるかどうかで決まる。
§6.1 解答(Layer 1 ─ 端的解答+サクッと解説)
※ 問題文は手元プリント参照。答えと1-2行の要点だけ先に示します。詳しい思考プロセスは §6.2 のアコーディオン内。
(1) 答え: \(2.0 \, \text{m}/\text{s}\)。はなした位置は最下点より \(0.40-0.40\cos60^\circ=0.20 \, \text{m}\) 上。\(v=\sqrt{2\times9.8\times0.20}=\sqrt{3.92}\)。
(2) 答え: エ(\(180^\circ\))。速さ2倍には落差4倍の \(0.80 \, \text{m}\) が要る。\(0.40(1-\cos\theta)=0.80\) より \(\cos\theta=-1\)。棒は押すこともできるので、真上からでも振り子になる。
(3) 答え: \(1.4 \, \text{m}/\text{s}\)。釘のまわりの半径は \(0.20 \, \text{m}\)。その位置は最下点より \(0.20-0.20\cos60^\circ=0.10 \, \text{m}\) 上。はなした高さ \(0.20 \, \text{m}\) との落差 \(0.10 \, \text{m}\) から \(v=\sqrt{1.96}\)。
(4) 答え: ウ(\(90^\circ\))。エネルギー保存で、はなした高さ(最下点から \(0.20 \, \text{m}\) 上)まで上がる。それは釘と同じ高さ=糸は水平。
§6.2 💡 もっと深く理解したい人へ ─ 振り子は「角度」ではなく「高さ」で考える
ここから先は「なぜそうなるか」を完全に開く。正解できた人こそ開いてほしい。特に (2) と (4) は、「振り子は同じ角度まで戻る」という暗記がそのまま罠になる問題だ。
▶ クリックして完全解説を開く ─ 思考のクセ診断つき
この大問の背骨(先に読む): 棒や糸がおもりに及ぼす力は、棒(糸)の向き=円の中心の方を向いている。おもりは円に沿って動くので、その力はいつも運動の向きと直角=仕事0。だから力学的エネルギー保存が使える。すると全4問は、「その場所は最下点から何 m 上か」を言葉で一つずつ作る作業に変わる。下の「高さの地図」を先に作っておくと、図がなくても全部追える。
高さの地図(基準=おもりの最下点)
| 場所 | 最下点から何 m 上か | 言葉での作り方 |
| 支点 O | \(0.40 \, \text{m}\) | おもりは O から棒の長さ \(0.40 \, \text{m}\) だけ真下にぶら下がる。 |
| \(60^\circ\) ではなした位置 | \(0.20 \, \text{m}\) | 傾けると、おもりは O の下 \(0.40\cos60^\circ=0.20 \, \text{m}\) まで上がってくる。最下点(O の下 \(0.40\))との差が \(0.40-0.20=0.20\)。 |
| \(180^\circ\)(真上)の位置 | \(0.80 \, \text{m}\) | O の真上 \(0.40 \, \text{m}\)。最下点から見ると O までの \(0.40\) にさらに \(0.40\) を足す。 |
| 釘 | \(0.20 \, \text{m}\) | 釘は O の真下 \(0.20 \, \text{m}\)。最下点は O の真下 \(0.40 \, \text{m}\)。差が \(0.20\)。 |
| (3) の位置(釘側で \(60^\circ\)) | \(0.10 \, \text{m}\) | 釘から糸 \(0.20 \, \text{m}\) が \(60^\circ\) 傾くと、おもりは釘の下 \(0.20\cos60^\circ=0.10 \, \text{m}\)。釘の高さ \(0.20\) から \(0.10\) を引く。 |
「はなした位置」と「釘」がどちらも最下点から \(0.20 \, \text{m}\) 上、つまり同じ高さにあることが、(4) の答えに直結する。
(1) 最下点での速さ
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: 落差を \(0.40\sin60^\circ\)(約 \(0.35 \, \text{m}\))と取り、速さを約 \(2.6 \, \text{m}/\text{s}\) とする。
診断: どの長さが「高さ(たて)」かを確かめず、角度があるから三角比を当てはめる「\(\sin\) と \(\cos\) を形で選ばないクセ」。鉛直から \(60^\circ\) 傾いた棒のたての長さは \(0.40\cos60^\circ\)。\(0.40\sin60^\circ\) は横のずれ(O からの水平距離)。
誤答パターン②: 落差を棒の長さ \(0.40 \, \text{m}\) そのものと取り、速さを約 \(2.8 \, \text{m}/\text{s}\) とする。
診断: 「長さ」と「高さ」を同じものとして扱う「長さを高さに読みかえるクセ」。棒の長さ \(0.40 \, \text{m}\) が全部高さになるのは、真横(\(90^\circ\))まで傾けたときだけ。
誤答パターン③: 棒がおもりを引っぱっているのだから、その仕事も入れないとエネルギー保存は使えない、と考えて手が止まる。
診断: 「力がはたらけば必ず仕事をすると思うクセ」。仕事をするのは、動く向きに成分をもつ力だけ。棒の力は円の中心向き、おもりの動きは円の接線向き。いつも直角なので仕事は0。だからエネルギー保存がそのまま使える。
誤答パターン④: \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2=mgh\) から \(v^2=2gh\) まで来て、ルートを取り忘れて \(3.92\) と書く。
診断: 「最後の1行で気を抜くクセ」。出した値が \(v\) なのか \(v^2\) なのかを、答える前に必ず声に出して確かめる。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする。 支点 O から棒が真下に垂れた位置が最下点(O の \(0.40 \, \text{m}\) 下)。棒を鉛直から \(60^\circ\) 傾けると、おもりは O の下 \(0.40\cos60^\circ=0.20 \, \text{m}\) の高さまで持ち上がる。最下点との差、つまり最下点から \(0.20 \, \text{m}\) 上が、はなした位置。
Step 2 どの原理・式を選ぶか(+なぜ)。 棒の力は運動の向きと直角で仕事0、はたらく力のうち仕事をするのは重力だけ。力学的エネルギー保存。最下点を高さの基準にする。
Step 3 式の意味を読む。 はなした位置(速さ0、高さ \(h\))の位置エネルギーが、最下点(高さ0)で全部運動エネルギーになる。両辺の \(m\) は消える。
$$\begin{aligned}
mgh &= \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 \\
v &= \sqrt{2gh}
\end{aligned}$$
Step 4 代入して確かめる。
📖 計算過程を1つずつ丁寧に見る(計算が苦手な人向け・クリックで開閉)
まず落差。「O から最下点まで」から「O からはなした位置まで」を引く。
$$\begin{aligned}
h &= 0.40-0.40\cos60^\circ \\
&= 0.40\times(1-0.50) \\
&= 0.20
\end{aligned}$$
次に速さ。
$$\begin{aligned}
v^2 &= 2\times9.8\times0.20 \\
&= 3.92 \\
v &= \sqrt{3.92}
\end{aligned}$$
\(2.0^2=4.0\)、\(1.98^2\) は約 \(3.92\) なので、\(v\) は約 \(1.98\)。有効数字2桁で \(2.0\)。
$$\begin{aligned}
v &= 2.0 \, \text{m}/\text{s}
\end{aligned}$$
Step 5 妥当性チェック。 ①単位:\(\sqrt{\text{m}/\text{s}^2\times\text{m}}\) は \(\text{m}/\text{s}\)。合う。②極端なケース:傾き \(0^\circ\) なら落差0で速さ0(動かない)。傾き \(90^\circ\)(真横)なら落差 \(0.40 \, \text{m}\)、速さは約 \(2.8 \, \text{m}/\text{s}\)。\(60^\circ\) の \(2.0\) はその間。③おもりの質量が答えに出てこない。重い玉も軽い玉も同じ高さから落ちれば同じ速さ、という自由落下の感覚と一致。
注意: \(\cos60^\circ=0.50\) なので、この問題では「O の下 \(0.40\cos60^\circ\)」も「落差 \(0.40-0.40\cos60^\circ\)」も、たまたま同じ \(0.20 \, \text{m}\) になる。落差を \(0.40\cos60^\circ\) と思って正解した人は、考え方は間違っている。角度が \(60^\circ\) 以外になると答えがずれる。「O から測った長さ」と「最下点から測った高さ」を区別しよう。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 糸・棒・なめらかな面がおもりに及ぼす力は、運動の向きと直角なので仕事をしない。「力ははたらいているが、仕事はしていない」力を見抜けると、エネルギー保存が使える場面が一気に広がる。
波及②: 振り子の落差は「\(L(1-\cos\theta)\)」という形を覚えるのではなく、「支点から最下点まで」引く「支点からその位置まで」という引き算を、毎回言葉で作る。こうすれば角度が \(90^\circ\) を超えても、支点が途中で変わっても、同じやり方で高さが出せる。
(2) 最下点の速さを2倍にする角度
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: 速さを2倍にしたいから角度を2倍にして、\(120^\circ\)(イ)を選ぶ。
診断: 「原因を2倍にすれば結果も2倍になると思うクセ」。速さを決めるのは角度ではなく落差。しかも落差と角度は比例しない(\(\cos\) が入る)。
誤答パターン②: 落差を2倍の \(0.40 \, \text{m}\) にすればよいと考え、\(\cos\theta=0\) で \(90^\circ\)(ア)を選ぶ。
診断: 「\(\sqrt{\ }\) を見落とすクセ」。\(v=\sqrt{2gh}\) なので、速さは落差の \(\sqrt{\ }\) でしか効かない。落差2倍では速さは \(\sqrt{2}\) 倍(約1.41倍)にしかならない。速さ2倍には落差 \(2^2=4\) 倍が必要。
誤答パターン③: 落差4倍の \(0.80 \, \text{m}\) は出せたが、「棒の長さは \(0.40 \, \text{m}\) しかないから、\(0.80 \, \text{m}\) も高く上げるのは無理」と考えて行き詰まる。
診断: 高さの基準を、いつのまにか最下点から支点 O に移してしまう「基準がずれるクセ」。最下点から見ると、O はすでに \(0.40 \, \text{m}\) 上。O の真上 \(0.40 \, \text{m}\) まで持ち上げれば、最下点からは \(0.40+0.40=0.80 \, \text{m}\)。円のいちばん上は最下点から直径ぶん上にある。
誤答パターン④: \(180^\circ\) は真上なので「つり下げた振り子にならない」「落ちてしまう」と考え、エを外して \(150^\circ\)(ウ)を選ぶ。
診断: 「棒と糸を同じものと見るクセ」。糸は引くことしかできないので、真上では支えられずにたるむ。でも棒は押すこともできるので、おもりを真上で支えられる。そこから静かにはなせば、おもりは円からはずれずに円に沿って落ちてくる。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする。 (1) では最下点から \(0.20 \, \text{m}\) 上からはなして \(2.0 \, \text{m}/\text{s}\)。これを \(4.0 \, \text{m}/\text{s}\) にしたい。
Step 2 どの原理・式を選ぶか(+なぜ)。 (1) と同じエネルギー保存。\(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2=mgh\) から、\(v^2\) と \(h\) が比例する。速さを2倍にするには、\(v^2\) を4倍、つまり落差を4倍にする。
$$\begin{aligned}
h_{\text{新}} &= 4\times0.20 \\
&= 0.80
\end{aligned}$$
Step 3 式の意味を読む。 鉛直から \(\theta\) 傾けたときの落差を、(1) と同じ引き算で作る。「O から最下点まで \(0.40\)」から「O から見たおもりの下がり具合 \(0.40\cos\theta\)」を引く。\(\theta\) が \(90^\circ\) を超えると \(\cos\theta\) は負になり、「O より上にある」ことを自動で表してくれる。
$$\begin{aligned}
0.40(1-\cos\theta) &= 0.80
\end{aligned}$$
Step 4 代入して確かめる。
📖 計算過程を1つずつ丁寧に見る(計算が苦手な人向け・クリックで開閉)
両辺を \(0.40\) で割る。
$$\begin{aligned}
0.40(1-\cos\theta) &= 0.80 \\
1-\cos\theta &= 2 \\
\cos\theta &= -1
\end{aligned}$$
\(\cos\theta=-1\) となる角は \(\theta=180^\circ\)。言葉で言えば「O の真上」。最下点から \(0.40+0.40=0.80 \, \text{m}\) 上で、たしかに落差4倍。
念のため、そこから落としたときの最下点の速さを計算する。
$$\begin{aligned}
v^2 &= 2\times9.8\times0.80 \\
&= 15.68 \\
v &= \sqrt{15.68}
\end{aligned}$$
\(3.96^2\) は約 \(15.68\) なので、\(v\) は約 \(3.96\)、有効数字2桁で \(4.0\)。(1) の \(2.0\) のちょうど2倍。
$$\begin{aligned}
\theta &= 180^\circ
\end{aligned}$$
答えはエ。
Step 5 妥当性チェック。 ①ほかの選択肢を落差で比べる。\(90^\circ\) なら落差 \(0.40 \, \text{m}\)((1) の2倍)で速さは \(\sqrt{2}\) 倍。\(120^\circ\) なら \(\cos120^\circ=-0.50\) で落差 \(0.60 \, \text{m}\)(3倍)、速さは \(\sqrt{3}\) 倍。\(150^\circ\) なら \(\cos150^\circ\) は約 \(-0.865\) で落差は約 \(0.75 \, \text{m}\)(約3.7倍)、速さは約1.9倍で、まだ2倍に届かない。ちょうど2倍になるのは \(180^\circ\) だけ。②\(180^\circ\) は円のいちばん上で、これより高い位置はない。「速さ2倍がこの振り子の限界ぎりぎり」という意味でも筋が通る。③棒だから成り立つ:真上は、棒がおもりを下から支えてつり合える位置。そこから静かにはなす(ほんのわずか傾いて落ち始める)と、速さほぼ0から円に沿って下りてくる。糸ではこうはいかない。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 「速さを○倍」と聞かれたら、まず「エネルギー(落差)を○の2乗倍」に翻訳する。運動エネルギーは速さの2乗で効く。ブレーキで止まるまでの距離が速さの2乗で増えるのも同じ理由。
波及②: 糸は引くだけ、棒は押すことも引くこともできる。この違いが「円の上半分でも円からはずれずに動けるか」を分ける。高2の円運動で、糸の振り子がどこでたるむかを調べるときの出発点になる。
(3) 糸が釘にかかった後、釘側で糸が鉛直と \(60^\circ\) のときの速さ
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: 釘にかかった後も半径 \(0.40 \, \text{m}\) のまま高さを計算し、\(0.40(1-\cos60^\circ)=0.20 \, \text{m}\) 上、つまり「はなした高さと同じだから速さ0」とする。
診断: 回転の中心が O から釘に移ったことを追わない「中心が変わっても前の円のまま考えるクセ」。釘にかかった後は、釘を中心とする半径 \(0.20 \, \text{m}\) の円。同じ \(60^\circ\) でも、上がる高さは半分の \(0.10 \, \text{m}\)。
誤答パターン②: 糸が釘にひっかかった瞬間に「ぶつかって」エネルギーが減る(速さが変わる)と考え、エネルギー保存を使わない。
診断: 「何かに当たるとエネルギーが減ると思うクセ」。釘が触れているのは糸で、おもりではない。釘にかかった瞬間も、糸がおもりを引く向きは円の中心(今度は釘)の方で、おもりの運動の向きと直角。仕事0なので速さは変わらない。変わるのは「どこを中心に回るか」だけ。
誤答パターン③: 最下点の速さ \(2.0 \, \text{m}/\text{s}\) から、\(0.10 \, \text{m}\) 上がる分の速さ \(\sqrt{2\times9.8\times0.10}=1.4 \, \text{m}/\text{s}\) を引いて \(0.6 \, \text{m}/\text{s}\) とする。
診断: 「速さをそのまま足し引きするクセ」。足し引きできるのはエネルギー(速さの2乗)。速さどうしを引き算しても意味がない。\(v^2\) で引き算してからルートを取る。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする。 釘は O の真下 \(0.20 \, \text{m}\)、つまり最下点から \(0.20 \, \text{m}\) 上。おもりが最下点を過ぎると、糸の上の部分は釘で止まり、おもりは釘を中心に半径 \(0.40-0.20=0.20 \, \text{m}\) の円を描く。糸が鉛直と \(60^\circ\) をなすとき、おもりは釘の下 \(0.20\cos60^\circ=0.10 \, \text{m}\)。釘の高さ \(0.20\) から \(0.10\) を引いて、最下点から \(0.10 \, \text{m}\) 上。
Step 2 どの原理・式を選ぶか(+なぜ)。 糸の力は(釘にかかる前も後も)運動の向きと直角で仕事0。釘は動かないので釘も仕事をしない。力学的エネルギー保存がそのまま使える。始めは「はなした位置」(最下点から \(0.20 \, \text{m}\) 上・速さ0)、終わりは「この位置」(最下点から \(0.10 \, \text{m}\) 上)。
Step 3 式の意味を読む。 高さが \(0.20-0.10=0.10 \, \text{m}\) 下がった分の位置エネルギーが、運動エネルギーになっている。
$$\begin{aligned}
\displaystyle\frac{1}{2}mv^2 &= mg(0.20-0.10)
\end{aligned}$$
Step 4 代入して確かめる。
📖 計算過程を1つずつ丁寧に見る(計算が苦手な人向け・クリックで開閉)
まずこの位置の高さ(最下点基準)。
$$\begin{aligned}
h_{\text{この位置}} &= 0.20-0.20\cos60^\circ \\
&= 0.20\times(1-0.50) \\
&= 0.10
\end{aligned}$$
はなした位置(\(0.20\))からの落差は \(0.20-0.10=0.10\)。両辺の \(m\) を消して2倍する。
$$\begin{aligned}
\displaystyle\frac{1}{2}v^2 &= 9.8\times0.10 \\
v^2 &= 2\times9.8\times0.10 \\
v^2 &= 1.96 \\
v &= 1.4
\end{aligned}$$
\(1.4^2=1.96\) なので、ちょうど \(1.4\)。
最下点を出発点にして考えても同じ。最下点で \(v^2=3.92\)((1) より)。そこから \(0.10 \, \text{m}\) 上がる分を \(v^2\) で引く。
$$\begin{aligned}
v^2 &= 3.92-2\times9.8\times0.10 \\
&= 3.92-1.96 \\
&= 1.96
\end{aligned}$$
$$\begin{aligned}
v &= 1.4 \, \text{m}/\text{s}
\end{aligned}$$
Step 5 妥当性チェック。 ①最下点の \(2.0 \, \text{m}/\text{s}\) より遅い。上った後なので当然。②落差は (1) の半分(\(0.20\) が \(0.10\) に)なので、\(v^2\) も半分、速さは \(\displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}}\) 倍。\(2.0\div1.41\) は約 \(1.4\)。合う。③単位:(1) と同じく \(\text{m}/\text{s}\)。④質量は出てこない。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 途中で回転の中心が変わっても、エネルギー保存が見るのは高さだけ。中心が変わったら、「どこを中心に、半径いくつで回っているか」から最下点からの高さを作り直す。基準(最下点)は最後まで動かさない。
波及②: エネルギーは足し引きできるが、速さは足し引きできない。速さを比べたり差を取ったりするときは、必ず \(v^2\)(運動エネルギー)に戻してから計算する。
(4) おもりが最も高く上がったときの、糸と鉛直のなす角
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: 「振り子は反対側も同じ角度まで上がる」と覚えていて \(60^\circ\) を探し、選択肢にないので近い \(45^\circ\)(イ)を選ぶ。
診断: 「同じ角度まで戻る」を丸暗記している「左右対称を無条件に信じるクセ」。同じ角度まで戻るのは、同じ中心・同じ半径で振れるときだけ。本当に保存されているのは角度ではなく高さ(エネルギー)。
誤答パターン②: 半径が半分になったから角度も半分、と考えて \(30^\circ\)(ア)を選ぶ。
診断: 「なんでも比例で片づけるクセ」。半径が半分になると、同じ高さまで上がるのにより大きく振れる必要がある。半径と角度は逆の向きに動く。
誤答パターン③: 小さい円の方が「回りやすい」から、勢いで \(150^\circ\)(エ)まで上がると考える。
診断: エネルギーの上限を見ずに「勢い」で考える「感覚で上限を決めるクセ」。釘側で \(150^\circ\) の位置は、釘の上 \(0.20\cos30^\circ\)、つまり最下点から約 \(0.37 \, \text{m}\) 上。はなした高さ \(0.20 \, \text{m}\) より高く、そこまで上がるエネルギーはもともと持っていない。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする。 釘にかかった後、おもりは釘を中心に半径 \(0.20 \, \text{m}\) で振れ上がる。いちばん高い所で一瞬止まり、引き返す。
Step 2 どの原理・式を選ぶか(+なぜ)。 力学的エネルギー保存。いちばん高い所では速さ0なので、運動エネルギーは0、全部が位置エネルギーに戻っている。はじめ(はなした位置)も速さ0だったので、はなした高さと同じ高さ=最下点から \(0.20 \, \text{m}\) 上まで上がる。
Step 3 式の意味を読む。 高さの地図を見ると、最下点から \(0.20 \, \text{m}\) 上にあるのは釘そのものの高さ。おもりは釘から \(0.20 \, \text{m}\) の円の上にいて、しかも釘と同じ高さにいる。そんな場所は、釘の真横しかない。つまり糸は水平で、鉛直とのなす角は \(90^\circ\)。
糸がそこまでたるまずに張っていられる理由も確かめておこう。おもりが釘より下にいる間は、重力がおもりを釘から遠ざける向き(下向き)に引いている。だから糸はいつもピンと引っぱられていて、たるまない。おもりは円からはずれずに釘の高さまで上り、ちょうど水平になったところで速さが0になって引き返す。
Step 4 代入して確かめる。 糸と鉛直のなす角を \(\phi\) とし、(3) と同じ作り方で最下点からの高さを書いて \(0.20\) とおく。
📖 計算過程を1つずつ丁寧に見る(計算が苦手な人向け・クリックで開閉)
釘の高さ \(0.20\) から、釘の下へのさがり \(0.20\cos\phi\) を引いたものが、最下点からの高さ。それが、はなした高さ \(0.20\) と等しい。
$$\begin{aligned}
0.20-0.20\cos\phi &= 0.20 \\
0.20\cos\phi &= 0 \\
\cos\phi &= 0
\end{aligned}$$
\(\cos\phi=0\) となる角は \(\phi=90^\circ\)。
$$\begin{aligned}
\phi &= 90^\circ
\end{aligned}$$
答えはウ。
Step 5 妥当性チェック。 ①ほかの選択肢と高さで比べる。釘側で \(30^\circ\) なら最下点から約 \(0.03 \, \text{m}\) 上、\(45^\circ\) なら約 \(0.06 \, \text{m}\) 上。どちらも \(0.20 \, \text{m}\) よりずっと低く、まだ速さが残っているので止まらない。\(150^\circ\) は上で見た通りエネルギーが足りない。ちょうど \(0.20 \, \text{m}\) になるのは \(90^\circ\) だけ。②(3) で釘側 \(60^\circ\)(\(0.10 \, \text{m}\) 上)でまだ \(1.4 \, \text{m}/\text{s}\) 残っていた。そこからさらに上がれるのは当然で、\(60^\circ\) より大きい角になるのは筋が通る。③この問題は得点率55.8%で第2問の中では高い。「はなした高さまで戻る」は多くの人がつかめている。あとはそれを「釘と同じ高さ=糸が水平」と言葉で翻訳できるかどうか。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 振り子で保存されるのは角度ではなく高さ。「同じ角度まで戻る」は、中心も半径も変わらないときに高さの保存から出てくる結果にすぎない。途中で中心が変われば角度は変わるが、上がる高さははなした高さのまま。
波及②: 「はなした高さ」と「釘の高さ」の上下関係で、その後の運命が変わる。今回はちょうど同じ高さだったので、糸がたるむことなく水平で止まった。釘がもっと低い位置にあると、おもりは釘より上まで回り込もうとし、今度は「糸がたるまずに回れるか」という円運動の問題になる(高2で学ぶ)。高さの地図を描けば、どちらの場面かがすぐ見分けられる。
§7. 第2問 問3 ─ 鉛直ばね振り子(伸びは自然長から・重力も入れる・つり合いの位置が振動の中心)
ばね定数 \(70 \, \text{N}/\text{m}\) の軽いばねに \(5.0 \, \text{kg}\) の物体をつるし、静止した位置からさらに引き下げて静かにはなす。つり合いでの伸び・自然長を通るときの速さ・最高点での縮みを求める。得点率は (1) 9.1%、(2) 1.3%、(3) 3.5% と、3問そろって1割に届かなかった。※ 問題文は手元プリント参照。
§7.1 解答(Layer 1 ─ 端的解答+サクッと解説)
※ 問題文は手元プリント参照。答えと1-2行の要点だけ先に示します。詳しい思考プロセスは §7.2 のアコーディオン内。
(1) 答え: \(0.70 \, \text{m}\)。静止=力のつり合い。ばねの力 \(kx_0\) と重力 \(mg\) が等しいので \(x_0=\displaystyle\frac{5.0\times 9.8}{70}=0.70\)。
(2) 答え: \(7.4 \, \text{m}/\text{s}\)。最下点のばねの伸びは自然長から \(0.70+2.1=2.8 \, \text{m}\)。自然長の位置を重力の位置エネルギーの基準にし、「重力の位置エネルギー+弾性力の位置エネルギー+運動エネルギー」を最下点と自然長で等しいとおく。
(3) 答え: \(1.4 \, \text{m}\)。振動はつり合いの位置を中心に上下対称。中心から下へ \(2.1 \, \text{m}\) 引いたので上へも \(2.1 \, \text{m}\) 上がる=自然長より \(2.1-0.70=1.4 \, \text{m}\) 上。エネルギー保存で確かめても同じ値になる。
§7.2 💡 もっと深く理解したい人へ ─ 「どこから測るか」を3つの位置で取り違えない
ここから先は「なぜそうなるか」を完全に開く。正解できた人こそ開いてほしい。
▶ クリックして完全解説を開く ─ 思考のクセ診断つき
先に地図を持とう: この問題が難しいのは、「基準になりそうな位置」が3つもあるから。どの量をどの位置から測るのかを、解く前に下の表で固定しておく。上向きを正、自然長の位置を高さ0とする。
| 位置 | 自然長からの位置 | この位置の役割 |
| 最高点 | \(1.4 \, \text{m}\) 上(縮み \(1.4 \, \text{m}\)) | 振動の上の端。速さ0 |
| 自然長 | \(0\) | ばねの伸び・縮みは必ずここから測る。弾性力の位置エネルギーは0 |
| つり合いの位置 | \(0.70 \, \text{m}\) 下(伸び \(0.70 \, \text{m}\)) | 力がつり合う位置=振動の中心 |
| 最下点 | \(2.8 \, \text{m}\) 下(伸び \(2.8 \, \text{m}\)) | つり合いの位置から \(2.1 \, \text{m}\) 引き下げた所。振動の下の端。速さ0 |
(1) つり合いでのばねの伸び \(x_0\) ─ 「静止」は力の式で読む
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: \(kx_0=m\) として \(x_0=\displaystyle\frac{5.0}{70}\approx 0.071 \, \text{m}\) と答える。
診断: ばねを引っぱっているのは「質量 \(5.0 \, \text{kg}\)」ではなく「重さ \(mg=49 \, \text{N}\)」なのに、\(g\) を掛け忘れる「質量と重さを混同するクセ」。ばねの式 \(kx\) は力(\(\text{N}\))の式なので、相手も力でなければ単位がそろわない。
誤答パターン②: エネルギーで解こうとして \(mgx_0=\displaystyle\frac{1}{2}kx_0^2\) とおき、\(x_0=\displaystyle\frac{2mg}{k}=1.4 \, \text{m}\) と答える。
診断: 「ゆっくりおろして静止」という言葉を読まずにエネルギー保存へ飛びつく「つり合いとエネルギー保存を取り違えるクセ」。ゆっくりおろすとき、物体は手で支えられていて、手が上向きの力で負の仕事をしている。だから力学的エネルギーは保存しない。その式で出る値は「自然長で急に手をはなしたとき、一番下まで落ちる伸び」で、静止する位置ではない。
誤答パターン③: \(x_0=\displaystyle\frac{k}{mg}=\displaystyle\frac{70}{49}\approx 1.4 \, \text{m}\) と、割る向きを逆にする。
診断: 式を変形するとき「何を何で割るか」を意味で決めない「割り算の向きを逆にするクセ」。重いほど伸びる(\(mg\) は分子)、かたいばねほど伸びない(\(k\) は分母)、と体感で確かめれば逆にならない。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする: 天井からばねがぶら下がり、先に物体。物体は止まっている。物体にはたらく力は「下向きの重力 \(mg\)」と「上向きのばねの力 \(kx_0\)」の2つだけ。
Step 2 どの原理・式を選ぶか(+なぜ): 「静止」=加速度0=力のつり合い。エネルギーではなく力の式を使う。理由は誤答②のとおり、ゆっくりおろす途中で手が仕事をしているので、エネルギー保存は使えないから。
Step 3 式の意味を読む: \(kx_0=mg\) は「ばねが重さを支えきれるところまで伸びたら止まる」という意味。ばねは伸びるほど強く引き返すので、ちょうど重さと同じ力になる伸びが1つだけ決まる。
Step 4 代入して確かめる:
$$\begin{aligned}
k x_0 &= mg \\
x_0 &= \displaystyle\frac{mg}{k} \\
x_0 &= \displaystyle\frac{5.0\times 9.8}{70} \\
x_0 &= \displaystyle\frac{49}{70} \\
x_0 &= 0.70
\end{aligned}$$
したがって \(x_0=0.70 \, \text{m}\)。
Step 5 妥当性チェック: 単位は \(\text{N}\div(\text{N}/\text{m})=\text{m}\) で長さになっている。極端ケース: ばねが非常にかたい(\(k\) が大きい)ならほとんど伸びない=\(x_0\) は小さくなる。物体が重いほどよく伸びる=\(x_0\) は大きくなる。式の形と体感が一致している。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 「静止」「ゆっくり」「つり合う」は力の式のサイン、「はなす」「速さ」「最高点」はエネルギーの式のサイン。問題文の動詞で道具を選ぶ。
波及②: 手で支えながら動かすと、手が仕事をする。力学的エネルギー保存が使えるのは「重力・ばねの力以外の力が仕事をしないとき」だけ。式を立てる前に「誰か仕事をしていないか」を確認する。
波及③: このつり合いの位置 \(x_0\) は、(2)(3)で振動の中心として再登場する。最初の小問は、あとの小問の地図を作る役目を持っていることが多い。
(2) 自然長を通るときの速さ \(v\) ─ 3種類のエネルギーを全部帳簿に載せる
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: 「引き下げた \(2.1 \, \text{m}\)」をそのままばねの伸びとし、\(\displaystyle\frac{1}{2}\times 70\times 2.1^2=\displaystyle\frac{1}{2}\times 5.0\times v^2+5.0\times 9.8\times 2.1\) として \(v\approx 4.5 \, \text{m}/\text{s}\) と答える。
診断: (1) のつり合いの位置を自然長だと思い込む「伸びの起点をずらすクセ」。\(2.1 \, \text{m}\) はつり合いの位置から引き下げた距離。弾性力の位置エネルギー \(\displaystyle\frac{1}{2}kx^2\) の \(x\) は、いつでも自然長からの伸びなので、最下点では \(0.70+2.1=2.8 \, \text{m}\)。上がる高さも自然長までなら \(2.8 \, \text{m}\)。
誤答パターン②: 伸びは \(2.8 \, \text{m}\) と正しく置けたが、\(\displaystyle\frac{1}{2}\times 70\times 2.8^2=\displaystyle\frac{1}{2}\times 5.0\times v^2\) と、ばねと運動のエネルギーだけで式を作り \(v\approx 10 \, \text{m}/\text{s}\) とする。
診断: 水平ばね振り子の形をそのまま持ち込む「重力の位置エネルギーを入れ忘れるクセ」。鉛直に動くときは、物体が \(2.8 \, \text{m}\) 上がる間に重力の位置エネルギーも増える。ばねが放したエネルギーの一部は「持ち上げる」ことに使われ、残りだけが速さになる。
誤答パターン③: 重力の位置エネルギーを入れたが、\(274.4+137.2=2.5\,v^2\) のように「足す側」に置いて \(v\approx 13 \, \text{m}/\text{s}\) とする。
診断: 上がると位置エネルギーが「増える」のか「減る」のかを絵で確かめない「高さの増減の向きを取り違えるクセ」。最下点から上へ動くので、重力の位置エネルギーは増える=運動エネルギーに回せる分が減る。基準を1つ決めて高さに符号をつければ、向きの迷いは消える。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする: 最下点(自然長の \(2.8 \, \text{m}\) 下)で静かにはなす=速さ0。ばねに引かれて上向きに動き出し、自然長の位置を上向きに通過する。この2つの瞬間を「始め」と「終わり」にする。
Step 2 どの原理・式を選ぶか(+なぜ): はなしたあと物体にはたらくのは重力とばねの力だけで、どちらも位置エネルギーを持つ力。手はもう触れていないので、力学的エネルギー保存が使える。力学的エネルギーは「運動エネルギー+重力の位置エネルギー+弾性力の位置エネルギー」の3つの和。
Step 3 式の意味を読む: 自然長の位置を重力の位置エネルギーの基準(高さ0)にすると、自然長では重力の位置エネルギーも弾性力の位置エネルギーも0になり、帳簿が一番すっきりする。最下点は基準より \(2.8 \, \text{m}\) 下なので高さは \(-2.8 \, \text{m}\)、重力の位置エネルギーは負になる。帳簿は次のとおり。
| 位置 | 運動エネルギー | 重力の位置エネルギー | 弾性力の位置エネルギー |
| 最下点(高さ \(-2.8 \, \text{m}\)・伸び \(2.8 \, \text{m}\)) | \(0\) | \(5.0\times 9.8\times(-2.8)\) | \(\displaystyle\frac{1}{2}\times 70\times 2.8^2\) |
| 自然長(高さ \(0\)・伸び \(0\)) | \(\displaystyle\frac{1}{2}\times 5.0\times v^2\) | \(0\) | \(0\) |
「最下点の3つの和」=「自然長の3つの和」が、解くべき式そのもの。
Step 4 代入して確かめる:
📖 計算過程を1つずつ丁寧に見る(計算が苦手な人向け・クリックで開閉)
最下点のばねの伸び(自然長から):
$$\begin{aligned}
x_{\text{下}} &= 0.70 + 2.1 \\
x_{\text{下}} &= 2.8
\end{aligned}$$
最下点の各エネルギー(自然長が高さ0):
$$\begin{aligned}
U_{\text{重力}} &= 5.0\times 9.8\times(-2.8) \\
U_{\text{重力}} &= -137.2 \\
U_{\text{ばね}} &= \displaystyle\frac{1}{2}\times 70\times 2.8^2 \\
U_{\text{ばね}} &= 35\times 7.84 \\
U_{\text{ばね}} &= 274.4
\end{aligned}$$
最下点の力学的エネルギー(運動エネルギーは0):
$$\begin{aligned}
E &= 0 + (-137.2) + 274.4 \\
E &= 137.2
\end{aligned}$$
自然長では重力・ばねの位置エネルギーがどちらも0なので、\(E\) がまるごと運動エネルギーになる:
$$\begin{aligned}
\displaystyle\frac{1}{2}\times 5.0\times v^2 + 0 + 0 &= 137.2 \\
2.5\, v^2 &= 137.2 \\
v^2 &= 54.88 \\
v &\approx 7.41
\end{aligned}$$
有効数字2桁で \(v=7.4\)。
したがって \(v=7.4 \, \text{m}/\text{s}\)(向きは上向き)。
Step 5 妥当性チェック: ① 基準を変えても同じ式になるか: 最下点を高さ0にすると、自然長は高さ \(+2.8 \, \text{m}\) で、式は \(\displaystyle\frac{1}{2}\times 70\times 2.8^2=\displaystyle\frac{1}{2}\times 5.0\times v^2+5.0\times 9.8\times 2.8\)。移項すれば上と全く同じ \(2.5\,v^2=137.2\) になる。基準はどこに置いても答えは変わらない(一度決めたら途中で動かさないことだけが約束)。② 大きさの感覚: ばねが放した \(274.4 \, \text{J}\) のうち、ちょうど半分の \(137.2 \, \text{J}\) が持ち上げに使われ、残り半分が運動エネルギー。重力を入れ忘れた誤答②より小さくなるのは当然。③ 単位: \(\text{J}\div\text{kg}\) の平方根で \(\text{m}/\text{s}\)。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 弾性力の位置エネルギー \(\displaystyle\frac{1}{2}kx^2\) の \(x\) は、問題文がどこから距離を言っていても、必ず自然長からの伸び・縮みに直してから代入する。問題文の数字をそのまま \(x\) に入れない。
波及②: 物体が上下に動くなら重力の位置エネルギーを必ず帳簿に載せる。ばね・重力・運動の3種類を表にして、始めと終わりの列を埋めれば、入れ忘れも符号ミスも表の空欄として目に見える。
波及③: 重力の基準は自由だが、ばねの基準(自然長)と重ねると、0になる項が一番多くなり計算が軽くなる。「基準は計算が楽になる場所に置く」は、斜面・振り子など他の場面でもそのまま使える。
(3) 最高点でのばねの縮み ─ 振動の中心は自然長ではなくつり合いの位置
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: 「下に \(2.8 \, \text{m}\) 伸びたのだから、反対側も \(2.8 \, \text{m}\) 縮む」として \(2.8 \, \text{m}\) と答える。
診断: 水平ばね振り子の記憶から、自然長を振動の中心だと思い込むクセ。鉛直のばねでは重力がずっと下向きにはたらくので、振動の中心は「力がつり合う位置」=自然長より \(0.70 \, \text{m}\) 下にずれる。
誤答パターン②: 「\(2.1 \, \text{m}\) 引き下げたから、上にも \(2.1 \, \text{m}\)」までは合っているのに、その \(2.1 \, \text{m}\) をそのまま縮みとして答える。
診断: 振れ幅(中心からの距離)と縮み(自然長からの距離)を区別しない「物差しの0の位置を確かめないクセ」。上へ \(2.1 \, \text{m}\) はつり合いの位置からの距離。自然長はつり合いの位置の \(0.70 \, \text{m}\) 上なので、縮みは \(2.1-0.70\)。
誤答パターン③: 「最高点では止まる=力がつり合う」と考えて、\(kx=mg\) から縮み \(0.70 \, \text{m}\) とする。
診断: 「速さが0」と「力が0(つり合い)」を同じものと思う「止まる=つり合いと思い込むクセ」。最高点は一瞬止まるだけで、そこでは重力もばねの力も下向き=下向きの力が最大。だからすぐに下へ戻り始める。つり合っているのは振動の真ん中(速さ最大の位置)。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする: 最下点ではなされた物体は、上向きに加速しながらつり合いの位置を通り(ここで速さ最大)、自然長を通り、ばねを縮めながら減速して最高点で一瞬止まる。最下点と最高点が振動の両端。
Step 2 どの原理・式を選ぶか(+なぜ): 2つの見方がある。見方A(対称性): 鉛直ばね振り子は、つり合いの位置を中心に上下対称に振動する(物理で「単振動」として詳しく習う性質)。見方B(エネルギー保存): 最下点と最高点はどちらも速さ0なので、(2) と同じ帳簿で「最高点の3つの和=\(137.2 \, \text{J}\)」とおく。物理基礎の道具だけで確実に解けるのは見方B。両方で同じ答えになることを確かめる。
Step 3 式の意味を読む: 見方Aでは、中心(自然長の \(0.70 \, \text{m}\) 下)から下の端まで \(2.1 \, \text{m}\) なので、上の端は中心から上へ \(2.1 \, \text{m}\)=自然長から上へ \(2.1-0.70=1.4 \, \text{m}\)。見方Bでは、最高点の縮みを \(y\)(自然長より \(y\) 上)とおくと、重力の位置エネルギー \(mgy\)(正)+弾性力の位置エネルギー \(\displaystyle\frac{1}{2}ky^2\)+運動エネルギー0 = \(137.2\)。
Step 4 代入して確かめる:
📖 計算過程を1つずつ丁寧に見る(計算が苦手な人向け・クリックで開閉)
見方A(対称性):
$$\begin{aligned}
y &= 2.1 – 0.70 \\
y &= 1.4
\end{aligned}$$
見方B(エネルギー保存・自然長が高さ0)。最高点は高さ \(+y\)、縮み \(y\)、速さ0:
$$\begin{aligned}
5.0\times 9.8\times y + \displaystyle\frac{1}{2}\times 70\times y^2 &= 137.2 \\
35y^2 + 49y – 137.2 &= 0
\end{aligned}$$
全体を7で割ると係数が小さくなる:
$$\begin{aligned}
5y^2 + 7y – 19.6 &= 0
\end{aligned}$$
解の公式を使う:
$$\begin{aligned}
y &= \displaystyle\frac{-7 \pm \sqrt{7^2 + 4\times 5\times 19.6}}{2\times 5} \\
y &= \displaystyle\frac{-7 \pm \sqrt{49 + 392}}{10} \\
y &= \displaystyle\frac{-7 \pm 21}{10}
\end{aligned}$$
したがって \(y=1.4\) または \(y=-2.8\)。
2つの解のうち \(y=-2.8\) は「自然長より \(2.8 \, \text{m}\) 下」=出発した最下点そのもの。もう1つの \(y=1.4\) が最高点。したがって最高点でのばねの縮みは \(1.4 \, \text{m}\)。
Step 5 妥当性チェック: ① 最高点の帳簿を埋め直す: 重力の位置エネルギー \(5.0\times 9.8\times 1.4=68.6 \, \text{J}\)、弾性力の位置エネルギー \(\displaystyle\frac{1}{2}\times 70\times 1.4^2=68.6 \, \text{J}\)、合計 \(137.2 \, \text{J}\) で最下点と一致する。② 対称性の確認: 2つの解 \(1.4\) と \(-2.8\) のちょうど真ん中は \(\displaystyle\frac{1.4+(-2.8)}{2}=-0.70\)=自然長の \(0.70 \, \text{m}\) 下=(1) のつり合いの位置。エネルギーの式そのものが「振動の中心はつり合いの位置」と教えてくれている。③ 誤答①の \(2.8 \, \text{m}\) で帳簿を埋めると、重力の位置エネルギーだけで \(137.2 \, \text{J}\) になり、ばねの分が上乗せされて保存が破れる。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: ばね振り子の振動の中心は「力がつり合う位置」、両端は「速さ0の位置」。水平なら中心は自然長、鉛直なら重力の分だけ下にずれる。中心と両端を先に決めれば、振動の全体像が一枚の絵になる。
波及②: 「速さ0」と「力0」は別物。振動の端では速さ0だが力は最大、中心では力0だが速さ最大。この入れ替わりは振り子・ばね・音の振動など、揺れるもの全部に共通する。
波及③: エネルギー保存の式が2次方程式になったら、2つの解はどちらも「速さ0になる位置」を表している。片方が出発点と一致すれば、残りが求める答え。解が2つ出ても慌てず、それぞれの物理的な意味を確かめる習慣が、計算ミスの発見にも役立つ。
§8. 第2問 問4 ─ あらい面を通ってから斜面を上る(区間を切ってから原理を選ぶ)
速さ \(14 \, \text{m}/\text{s}\) で進む \(2.0 \, \text{kg}\) の物体が、水平面のあらい部分を通り抜け、そのあとなめらかな斜面を上って高さ \(2.5 \, \text{m}\) で止まる。斜面に入る瞬間の速さ・動摩擦力のした仕事・あらい部分の長さを求める。得点率は (1) 32.1%、(2) 15.0%、(3) 7.5% と、後の小問ほど急に下がった。※ 問題文は手元プリント参照。
§8.1 解答(Layer 1 ─ 端的解答+サクッと解説)
※ 問題文は手元プリント参照。答えと1-2行の要点だけ先に示します。詳しい思考プロセスは §8.2 のアコーディオン内。
(1) 答え: \(7.0 \, \text{m}/\text{s}\)。なめらかな斜面では力学的エネルギー保存。\(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2=mgh\) より \(v=\sqrt{2\times 9.8\times 2.5}=\sqrt{49}\)。最後の区間から逆にたどるのがコツ。
(2) 答え: \(-147 \, \text{J}\)(有効数字2桁で \(-1.5\times 10^{2} \, \text{J}\))。動摩擦力のした仕事=あらい部分での運動エネルギーの変化=\(\displaystyle\frac{1}{2}\times 2.0\times(7.0^2-14^2)=49-196\)。
(3) 答え: \(30 \, \text{m}\)。動摩擦力の大きさ \(\mu mg=0.25\times 2.0\times 9.8=4.9 \, \text{N}\)。仕事 \(-4.9\times L=-147\) より \(L=30\)。
§8.2 💡 もっと深く理解したい人へ ─ 「摩擦がある区間」と「ない区間」で道具を持ちかえる
ここから先は「なぜそうなるか」を完全に開く。正解できた人こそ開いてほしい。
▶ クリックして完全解説を開く ─ 思考のクセ診断つき
先に道のりを区間に切ろう: この問題は、1本の道のりの中に性格の違う2つの区間がある。どちらの区間でどの原理が使えるかを、解く前に決めておく。
| 区間 | 仕事をする力 | 使う原理 | 分かっていること |
| 区間①: 水平のあらい部分 | 動摩擦力(負の仕事) | 仕事=運動エネルギーの変化 | 入口の速さ \(14 \, \text{m}/\text{s}\)、出口の速さは未知 |
| 区間②: なめらかな斜面 | 重力だけ(垂直抗力は仕事0) | 力学的エネルギー保存 | 最高点の高さ \(2.5 \, \text{m}\)、そこで速さ0 |
情報が「両端とも」そろっているのは区間②だけ。だから終わりの区間②から逆にたどるのが正しい順番になる。
(1) 斜面に入る瞬間の速さ ─ 終わりから逆にたどる
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: 斜面に入る速さを、最初の速さのまま \(14 \, \text{m}/\text{s}\) と答える。
診断: 「あらい部分を通過した」という一文を読み流す「区間の境目を見落とすクセ」。あらい部分では動摩擦力が進行と逆向きにはたらき、物体は減速する。斜面の入口の速さは最初の速さとは別物。
誤答パターン②: 最初の \(14 \, \text{m}/\text{s}\) の地点と最高点を力学的エネルギー保存で結ぼうとして、\(\displaystyle\frac{1}{2}\times 14^2\) と \(9.8\times 2.5\) が合わず手が止まる。
診断: 道のり全体を1本の保存則で結ぼうとする「区間を切らずに保存則を当てるクセ」。摩擦が仕事をする区間をまたぐと力学的エネルギーは保存しない。式が合わないのは計算ミスではなく、「ここでエネルギーが減っている」という物理からのお知らせ。
誤答パターン③: \(v^2=2gh=49\) まで出したのに \(49 \, \text{m}/\text{s}\) と答える、あるいは \(\displaystyle\frac{1}{2}\) を落として \(v=\sqrt{gh}\approx 4.9 \, \text{m}/\text{s}\) とする。
診断: 式の最後の1手を雑に終える「2乗のまま答えるクセ/係数を落とすクセ」。\(v^2\) と \(v\) は別の量。答える前に「いま左辺は \(v\) か \(v^2\) か」を指で押さえる。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする: 左から右へ: あらい水平面 → 斜面の入口(速さ \(v\))→ 斜面を上って高さ \(2.5 \, \text{m}\) で一瞬止まる。求める \(v\) は区間①と区間②のつなぎ目の速さ。
Step 2 どの原理・式を選ぶか(+なぜ): 区間②(なめらかな斜面)では、仕事をするのは重力だけ。垂直抗力は斜面に垂直で、動く向きと直角なので仕事0。だから力学的エネルギー保存が使える。入口(高さ0)と最高点(速さ0)を結ぶ。
Step 3 式の意味を読む: \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2=mgh\) は「入口で持っていた運動エネルギーが、最高点ではすべて重力の位置エネルギーに置きかわった」という意味。両辺の \(m\) が消えるので、速さは質量によらない。
Step 4 代入して確かめる:
$$\begin{aligned}
\displaystyle\frac{1}{2}mv^2 + 0 &= 0 + mgh \\
v^2 &= 2gh \\
v^2 &= 2\times 9.8\times 2.5 \\
v^2 &= 49 \\
v &= 7.0
\end{aligned}$$
したがって \(v=7.0 \, \text{m}/\text{s}\)。
Step 5 妥当性チェック: \(7.0\) は最初の \(14\) より小さい=あらい部分で減速した、という物理と一致する(もし \(14\) より大きく出たら、摩擦で加速したことになりおかしい)。単位は \(\sqrt{\text{m}/\text{s}^2\times\text{m}}=\text{m}/\text{s}\)。\(9.8\times 2.5\times 2=49\) がちょうど平方数になるのは、数値がこの手順で解かれることを想定して選ばれているサインでもある。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 道のりに「あらい」「なめらか」が混ざっていたら、まず区間に切って、区間ごとに「保存則が使えるか/仕事で数えるか」を決める。全体を1本の式で結ぼうとしない。
波及②: 求めたい量が途中にあるときは、情報が両端そろっている区間から攻める。前からでも後ろからでもよく、「分かっていることが多い側」から逆にたどるのが近道。
波及③: 斜面の角度が書かれていなくても、なめらかなら高さだけで速さが決まる。力学的エネルギー保存は「途中の形を問わず、始めと終わりの高さだけ見ればよい」道具。
(2) 動摩擦力のした仕事 ─ 「速さの変化」を「エネルギーの変化」に直す
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: 大きさは合っているのに \(+147 \, \text{J}\)(\(+1.5\times 10^{2} \, \text{J}\))と正で答える。
診断: 仕事の符号を「大きさ」として扱う「摩擦の仕事を正で書くクセ」。動摩擦力は進む向きと逆向きなので、した仕事は負。運動エネルギーが減った(\(196\) から \(49\) へ)ことと、仕事が負であることは同じ事実の2つの言い方。
誤答パターン②: 速さの差を先に取って \(\displaystyle\frac{1}{2}\times 2.0\times(14-7.0)^2=49\) とし、\(-49 \, \text{J}\) と答える。
診断: 「変化を求める」と聞いて速さの差から入る「速さの差を2乗するクセ」。運動エネルギーは速さの2乗に比例するので、「2乗してから差」と「差を取ってから2乗」は全く違う値になる。差を取るのはエネルギーにしてから。
誤答パターン③: 「摩擦で運動エネルギーがなくなる」と考え、最初の運動エネルギー \(196 \, \text{J}\) をそのまま使って \(-196 \, \text{J}\) と答える。
診断: 「摩擦=止まる」という場面を思い浮かべてしまう「物語を勝手に決めつけるクセ」。この物体はあらい部分を抜けたあとも \(7.0 \, \text{m}/\text{s}\) で走り、斜面を上っている。摩擦が奪ったのは差の分だけ。
誤答パターン④: 「仕事=力×距離」なのに、力(動摩擦係数)も距離(あらい部分の長さ)も分からないので、解けないと判断して空欄にする。
診断: 仕事を求める道が1本しかないと思う「定義の式からしか入れないクセ」。仕事は「力×距離」でも「運動エネルギーの変化」でも求まる。力や距離が分からないときは、速さの情報から仕事を逆算できる。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする: 区間①(あらい部分)の入口で速さ \(14 \, \text{m}/\text{s}\)、出口で (1) の \(7.0 \, \text{m}/\text{s}\)。この区間で仕事をするのは動摩擦力だけ(重力と垂直抗力は動く向きと直角で仕事0)。
Step 2 どの原理・式を選ぶか(+なぜ): 「物体がされた仕事=運動エネルギーの変化」。区間①で仕事をするのは動摩擦力だけなので、運動エネルギーの変化がそのまま動摩擦力の仕事になる。力も距離も分からなくても、入口と出口の速さだけで決まる。
Step 3 式の意味を読む: \(W=\displaystyle\frac{1}{2}mv_{\text{後}}^2-\displaystyle\frac{1}{2}mv_{\text{前}}^2\) は「後−前」の順。後のほうが小さければ \(W\) は負=エネルギーを奪われた、と自動的に符号が出る。
Step 4 代入して確かめる:
📖 計算過程を1つずつ丁寧に見る(計算が苦手な人向け・クリックで開閉)
入口と出口の運動エネルギー:
$$\begin{aligned}
K_{\text{前}} &= \displaystyle\frac{1}{2}\times 2.0\times 14^2 \\
K_{\text{前}} &= 196 \\
K_{\text{後}} &= \displaystyle\frac{1}{2}\times 2.0\times 7.0^2 \\
K_{\text{後}} &= 49
\end{aligned}$$
動摩擦力のした仕事(後−前):
$$\begin{aligned}
W &= K_{\text{後}} – K_{\text{前}} \\
W &= 49 – 196 \\
W &= -147
\end{aligned}$$
したがって動摩擦力のした仕事は \(-147 \, \text{J}\)(有効数字2桁で \(-1.5\times 10^{2} \, \text{J}\))。
Step 5 妥当性チェック: ① 符号: 負=摩擦がエネルギーを奪った、で物理と一致。② 別ルートで検算: スタート地点(運動エネルギー \(196 \, \text{J}\)・高さ0)と最高点(運動エネルギー0・重力の位置エネルギー \(2.0\times 9.8\times 2.5=49 \, \text{J}\))の力学的エネルギーを比べると、減った分は \(49-196=-147 \, \text{J}\)。斜面はなめらかで何も奪わないので、減った分は全部あらい部分で奪われたもの。2つのルートが一致する。③ 大きさ: 最初の \(196 \, \text{J}\) の4分の3が摩擦で熱に変わった計算。速さが半分になると運動エネルギーは4分の1になるので、残り4分の1の \(49 \, \text{J}\) と整合する。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 仕事には2つの入口がある。「力×距離」と「運動エネルギーの変化」。片方の材料がそろわないときは、もう片方から入る。この問題では、(2) を運動エネルギーで出し、(3) でそれを「力×距離」に戻して距離を求める=2つの入口を行き来する設計になっている。
波及②: 変化は必ず「後−前」の順で取る。そうすれば増えたら正、減ったら負と、符号が物理の意味どおりに出る。符号を後から付ける癖をやめる。
波及③: 速さが \(\displaystyle\frac{1}{2}\) 倍になると運動エネルギーは \(\displaystyle\frac{1}{4}\) 倍。エネルギーは速さの2乗で効くので、「速さが少し落ちた」は「エネルギーは大きく落ちた」ことが多い。
(3) あらい部分の長さ \(L\) ─ 仕事を「力×距離」に戻す
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: 動摩擦力を \(\mu m=0.25\times 2.0=0.50\) として \(L=\displaystyle\frac{147}{0.50}=294 \, \text{m}\) と答える。
診断: 動摩擦力が「動摩擦係数×垂直抗力」であることを忘れ、質量を直接掛ける「垂直抗力を飛ばすクセ」。水平面では垂直抗力=重さ \(mg\) なので、動摩擦力は \(\mu mg\)。\(\mu m\) は単位が \(\text{kg}\) で、力になっていない。
誤答パターン②: (2) の答えを丸めた \(-1.5\times 10^{2} \, \text{J}\)=\(-150 \, \text{J}\) を使って \(L=\displaystyle\frac{150}{4.9}\approx 31 \, \text{m}\) とする。
診断: 答えとして丸めた値を、次の計算の材料にも使ってしまう「途中で丸めるクセ」。有効数字をそろえて丸めるのは最後の答えを書くときだけ。次の計算には丸める前の \(147\) を使う。
誤答パターン③: 最初の運動エネルギー \(196 \, \text{J}\) を摩擦の仕事として使い、\(L=\displaystyle\frac{196}{4.9}=40 \, \text{m}\) とする。
診断: (2) の結果をつながずに、別の量を持ってくる「前の小問の答えを使わないクセ」。\(40 \, \text{m}\) は「あらい部分で完全に止まるまでの距離」。この物体は止まらずに抜けているので、摩擦が実際にした仕事 \(-147 \, \text{J}\) を使う。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする: あらい水平面を長さ \(L\) だけ進む間、ずっと同じ大きさの動摩擦力が進行と逆向きにはたらく。垂直抗力は重さと同じ \(mg\)。
Step 2 どの原理・式を選ぶか(+なぜ): 動摩擦力の大きさは \(\mu N=\mu mg\)(一定)。一定の力のした仕事は「力×距離×\(\cos\)(力と移動の角度)」で、逆向き(\(180^\circ\))なので \(-\mu mg\,L\)。これが (2) の \(-147 \, \text{J}\) に等しい。
Step 3 式の意味を読む: \(-\mu mg\,L=-147\) は「\(1 \, \text{m}\) 進むごとに \(\mu mg\) ずつエネルギーを奪われ、合計 \(147 \, \text{J}\) 奪われた」という意味。長さ \(L\) は「奪われた総量 ÷ \(1 \, \text{m}\) あたりの奪われ方」。
Step 4 代入して確かめる:
📖 計算過程を1つずつ丁寧に見る(計算が苦手な人向け・クリックで開閉)
動摩擦力の大きさ:
$$\begin{aligned}
f &= \mu mg \\
f &= 0.25\times 2.0\times 9.8 \\
f &= 4.9
\end{aligned}$$
動摩擦力の仕事が (2) の値に等しい:
$$\begin{aligned}
-f L &= -147 \\
4.9\, L &= 147 \\
L &= \displaystyle\frac{147}{4.9} \\
L &= 30
\end{aligned}$$
したがってあらい部分の長さは \(30 \, \text{m}\)。
Step 5 妥当性チェック: ① 逆算: \(4.9 \, \text{N}\times 30 \, \text{m}=147 \, \text{J}\) で (2) と一致。② 上限との比較: 最初の \(196 \, \text{J}\) を全部奪うには \(\displaystyle\frac{196}{4.9}=40 \, \text{m}\) 必要。実際は \(30 \, \text{m}\) で抜けたので、\(40 \, \text{m}\) より短い=止まらずに抜けた、という状況と合う。③ 単位: \(\text{J}\div\text{N}=\text{m}\)。④ 質量は \(\mu mg\) の中にしか出てこないので、もし動摩擦係数が大きければ \(L\) は短くなる、という体感とも一致する。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 動摩擦力は「動摩擦係数×垂直抗力」。水平面なら垂直抗力は \(mg\) だが、斜面や斜めに引く場合は変わる。いきなり \(\mu mg\) と書かず、まず垂直抗力を確かめる手順を固定する。
波及②: 有効数字の丸めは最後の答えにだけ。小問が連鎖する問題では、前の小問の「丸める前の値」を次へ渡す。丸めた値を使うと、最後の答えの最後の桁がずれる。
波及③: 摩擦のある面での距離は「奪われたエネルギー ÷ 摩擦力」。止まるまでの距離(ブレーキの効き)も、途中で抜ける場合の距離も、同じ1つの考え方で求められる。
§9. 第3問 問1 ─ 水平ばね振り子を文字式で(\(k\)・\(m\)・\(d\) 使用・エネルギーのグラフを選ぶ)
なめらかな水平面で、一端を固定したばね(ばね定数 \(k\))の先に質量 \(m\) の物体をつけ、ばねを \(d\) だけ縮めて手をはなす。自然長での速さ・伸びの最大値を文字で答え、伸びとエネルギーの関係を表すグラフを選ぶ。得点率は (1) 41.4%、(2) 14.2%、(3) 19.0%。※ 問題文は手元プリント参照。
§9.1 解答(Layer 1 ─ 端的解答+サクッと解説)
※ 問題文は手元プリント参照。答えと1-2行の要点だけ先に示します。詳しい思考プロセスは §9.2 のアコーディオン内。
(1) 答え: \(d\sqrt{\displaystyle\frac{k}{m}}\)。縮めた位置の弾性力の位置エネルギー \(\displaystyle\frac{1}{2}kd^2\) が、自然長ではすべて運動エネルギー \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) になる。
(2) 答え: \(d\)。伸びが最大の位置では速さ0。エネルギーは全部ばねに戻るので \(\displaystyle\frac{1}{2}kx^2=\displaystyle\frac{1}{2}kd^2\)、縮めたのと同じ長さだけ伸びる。
(3) 答え: ア。弾性力の位置エネルギー(点線)は \(\displaystyle\frac{1}{2}kx^2\) で原点から増える下に凸の放物線。運動エネルギー(実線)は「一定の全体 \(\displaystyle\frac{1}{2}kd^2\) − 点線」なので、伸び0で最大・\(d\) で0の上に凸の曲線。2本の和はどの伸びでも一定。
§9.2 💡 もっと深く理解したい人へ ─ 文字のままエネルギーの「やりとり」を追う
ここから先は「なぜそうなるか」を完全に開く。正解できた人こそ開いてほしい。
▶ クリックして完全解説を開く ─ 思考のクセ診断つき
(1) 自然長での速さ \(v\) ─ 文字でもやることは数値と同じ
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: \(kd^2=\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) のように片側だけ \(\displaystyle\frac{1}{2}\) を付け忘れ、\(v=d\sqrt{\displaystyle\frac{2k}{m}}\) と答える。
診断: 2つのエネルギーの式を「なんとなくの形」で書く「係数を片側だけ落とすクセ」。弾性力の位置エネルギーも運動エネルギーも、どちらも \(\displaystyle\frac{1}{2}\) が付く。両側に付くからこそ最後に消える。
誤答パターン②: 最初の力 \(kd\) から加速度 \(\displaystyle\frac{kd}{m}\) を出し、等加速度の式 \(v^2=2ad\) に入れて \(v=d\sqrt{\displaystyle\frac{2k}{m}}\) とする。
診断: ばねの力が一定だと思い込む「何でも等加速度の公式で解こうとするクセ」。ばねの力は縮みに比例して、自然長に近づくほど弱くなる。力が変わるので加速度も変わり、等加速度の式は使えない。だからこそエネルギーで解く。
誤答パターン③: \(v=\displaystyle\frac{kd}{m}\) のように、使いそうな文字を並べて形を作る。
診断: 原理から式を立てずに答えの見た目を組み立てる「文字を並べて答えを作るクセ」。単位を確かめると \(\displaystyle\frac{kd}{m}\) は加速度の単位 \(\text{m}/\text{s}^2\) で、速さになっていない。文字式の答えは単位で必ず検算できる。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする: 縮めて手をはなした瞬間(縮み \(d\)・速さ0)と、自然長を通る瞬間(縮み0・速さ \(v\))の2枚を描く。床はなめらかで水平なので、高さは変わらない。
Step 2 どの原理・式を選ぶか(+なぜ): 仕事をするのはばねの力だけ(重力・垂直抗力は動く向きと直角)。だから力学的エネルギー保存。水平なので重力の位置エネルギーは変化せず、帳簿に載せるのは「弾性力の位置エネルギー」と「運動エネルギー」の2つだけ。
Step 3 式の意味を読む: \(\displaystyle\frac{1}{2}kd^2=\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) は「ばねにためたエネルギーが、自然長でまるごと物体の運動エネルギーに移った」という意味。自然長では弾性力の位置エネルギーが0なので、受け渡しが完了している。
Step 4 代入して確かめる:
📖 計算過程を1つずつ丁寧に見る(計算が苦手な人向け・クリックで開閉)
はなした瞬間と自然長でエネルギーの和を等しいとおく:
$$\begin{aligned}
\displaystyle\frac{1}{2}kd^2 + 0 &= 0 + \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 \\
kd^2 &= mv^2 \\
v^2 &= \displaystyle\frac{kd^2}{m} \\
v &= \sqrt{\displaystyle\frac{kd^2}{m}} \\
v &= d\sqrt{\displaystyle\frac{k}{m}}
\end{aligned}$$
最後は \(d^2\) を根号の外へ出した(\(d\) は長さで正なので \(\sqrt{d^2}=d\))。
したがって \(v=d\sqrt{\displaystyle\frac{k}{m}}\)。
Step 5 妥当性チェック: ① 単位: \(k\) の単位 \(\text{N}/\text{m}\) は \(\text{kg}/\text{s}^2\) と同じなので、\(\displaystyle\frac{k}{m}\) は \(1/\text{s}^2\)、その平方根は \(1/\text{s}\)、それに \(d\)(\(\text{m}\))を掛けて \(\text{m}/\text{s}\)。速さの単位になっている。② 体感: 強く縮める(\(d\) が大きい)ほど速い、かたいばね(\(k\) が大きい)ほど速い、重い物体(\(m\) が大きい)ほど遅い。すべて式の形と一致する。③ 極端ケース: \(d=0\)(縮めない)なら \(v=0\)。動かないので正しい。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: ばねの力のように位置によって大きさが変わる力では、等加速度の公式は使えない。そういうときこそエネルギー保存が主役になる。「力が一定かどうか」で道具を選ぶ。
波及②: 文字式の答えは単位と極端ケースで必ず検算できる。数値が無い分、検算の道具は単位と「0にしたらどうなるか」「大きくしたらどうなるか」。
波及③: 数値の問題も、まず文字で解いてから最後に代入すると、どの量が効いているかが見える。(1) の式は、§7 の鉛直ばねのように重力が加わる場面でも、帳簿に1行足すだけで同じ考え方が使える。
(2) ばねの伸びの最大値 ─ 「縮み」から「伸び」への言葉の切り替え
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: 「縮めて手をはなしたのだから、ばねは伸びない」と考えて手が止まる、または0と答える。
診断: 物体が自然長で止まると思い込む「動きの続きを想像しないクセ」。自然長では速さが最大 \(d\sqrt{\displaystyle\frac{k}{m}}\) なので、物体は勢いで自然長を通り過ぎ、ばねを引き伸ばしていく。
誤答パターン②: 「縮んだ位置から反対側の端までの移動距離」を伸びと取り違えて \(2d\) と答える。
診断: 移動距離と伸びを区別しない「物差しの0を自然長に置かないクセ」。伸び・縮みはいつでも自然長から測る。縮み \(d\) の位置から伸び \(d\) の位置までは確かに \(2d\) 動くが、伸びは \(d\)。
誤答パターン③: 「縮みを正とすれば伸びは負」と考えて \(-d\) と答える、または符号の扱いに迷って何を書けばよいか分からなくなる。
診断: 「伸び」「縮み」という言葉がすでに向きを含んでいることを見落とす「言葉と符号を二重に使うクセ」。「伸びの最大値」と聞かれたら、伸びている長さ(正の量)を答えればよい。弾性力の位置エネルギー \(\displaystyle\frac{1}{2}kx^2\) は、伸びでも縮みでも同じ式で、\(x\) の符号によらない。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする: 縮み \(d\)(速さ0)→ 自然長(速さ最大)→ 伸びていく(減速)→ 伸びが最大の位置で一瞬止まる。この最後の位置の伸びを \(x\) とする。
Step 2 どの原理・式を選ぶか(+なぜ): (1) と同じく力学的エネルギー保存。はなした瞬間と、伸びが最大の瞬間を結ぶ。どちらも速さ0なので、エネルギーは全部ばねにある。
Step 3 式の意味を読む: \(\displaystyle\frac{1}{2}kd^2=\displaystyle\frac{1}{2}kx^2\) は「縮めてためたエネルギーが、運動エネルギーを経由して、今度は伸びとしてばねに戻ってきた」という意味。摩擦がないので1円も目減りしない。
Step 4 代入して確かめる:
$$\begin{aligned}
\displaystyle\frac{1}{2}kd^2 + 0 &= \displaystyle\frac{1}{2}kx^2 + 0 \\
x^2 &= d^2 \\
x &= d
\end{aligned}$$
\(x\) は伸びの長さ(正)なので \(x=d\)。したがって伸びの最大値は \(d\)。
Step 5 妥当性チェック: ① 単位は長さで、縮めた量と同じ。② 対称性: 水平ばね振り子は自然長(力がつり合う位置)を中心に左右対称に振動するので、左の端が縮み \(d\) なら右の端は伸び \(d\)。§7 の鉛直ばねでは中心がつり合いの位置にずれたが、水平では重力がばねの向きに関係しないので、中心は自然長のまま。③ もし床があらければ、エネルギーが目減りして \(d\) より小さくなるはず。なめらかだから等しい。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 「最大」「最高点」「一番遠く」は速さ0のサイン。そこではエネルギーが全部位置エネルギーの形になっているので、エネルギー保存の式が一番短くなる。
波及②: 伸び・縮みは自然長を0にした物差しで測る。移動距離とは別物。この区別は §7 の鉛直ばね(つり合いの位置からの距離と自然長からの伸び)でも同じく効いてくる。
波及③: 摩擦がなければ、振動は同じ振れ幅でずっと続く。「左右の端が等しい」は、エネルギーが保存していることの目に見える証拠。
(3) 伸びとエネルギーのグラフ ─ 2本の和が一定になる形を選ぶ
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: 「運動エネルギーも \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) で2乗の式だから、下に凸の放物線」と考えてイ(実線が下に凸)を選ぶ。
診断: 何を横軸にしたグラフかを確かめない「式の見た目だけで形を決めるクセ」。\(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) は速さの2乗だが、このグラフの横軸は伸び。運動エネルギーを伸び \(x\) の式で書き直すと \(\displaystyle\frac{1}{2}kd^2-\displaystyle\frac{1}{2}kx^2\) となり、\(x^2\) の前にマイナスが付くので上に凸。
誤答パターン②: 「ばねの力は伸びに比例する」から「ばねのエネルギーも伸びに比例する」と考えて、両方直線のエを選ぶ。
診断: 力とエネルギーを同じものとして扱う「力とエネルギーを混同するクセ」。比例するのは力 \(kx\)。エネルギーは力がした仕事の積み重ね(\(F\)-\(x\) グラフの三角形の面積)なので \(\displaystyle\frac{1}{2}kx^2\)=2乗で増える。
誤答パターン③: 「伸び始めはぐんと増え、だんだん増え方が鈍る」というイメージでウ(点線が上に凸)を選ぶ。
診断: 増え方の変化を言葉の印象で決める「グラフの曲がり方を数式で確かめないクセ」。\(\displaystyle\frac{1}{2}kx^2\) は、伸びが半分の位置では最大値の4分の1しかない。最初はゆっくり、後半ほど急に増える=下に凸。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする: 横軸は伸び \(x\)(0 から \(d\))。\(x=0\) は自然長(速さ最大)、\(x=d\) は伸びが最大の位置(速さ0)。この2点でそれぞれのエネルギーがいくらかを先に決める。
Step 2 どの原理・式を選ぶか(+なぜ): 力学的エネルギー保存より、どの伸びでも「運動エネルギー+弾性力の位置エネルギー=\(\displaystyle\frac{1}{2}kd^2\)(一定)」。だから2本のグラフは、片方が決まればもう片方は「一定の値から引いた残り」として決まる。
Step 3 式の意味を読む: 点線 \(U=\displaystyle\frac{1}{2}kx^2\) は原点を通る下に凸の放物線。実線 \(K=\displaystyle\frac{1}{2}kd^2-\displaystyle\frac{1}{2}kx^2\) は、点線を上下にひっくり返して \(\displaystyle\frac{1}{2}kd^2\) だけ持ち上げた形=上に凸の放物線。2本を縦に足すと、どの \(x\) でも高さ \(\displaystyle\frac{1}{2}kd^2\) の水平な線になる。
Step 4 代入して確かめる: 3つの伸びで表を作ると、形がはっきりする。
| 伸び \(x\) | 弾性力の位置エネルギー(点線) | 運動エネルギー(実線) | 和 |
| \(0\)(自然長) | \(0\) | \(\displaystyle\frac{1}{2}kd^2\)(最大) | \(\displaystyle\frac{1}{2}kd^2\) |
| \(\displaystyle\frac{d}{2}\) | \(\displaystyle\frac{1}{8}kd^2\)(最大の4分の1) | \(\displaystyle\frac{3}{8}kd^2\)(最大の4分の3) | \(\displaystyle\frac{1}{2}kd^2\) |
| \(d\)(伸び最大) | \(\displaystyle\frac{1}{2}kd^2\)(最大) | \(0\) | \(\displaystyle\frac{1}{2}kd^2\) |
真ん中の行が決め手。半分伸びた所で、点線はまだ最大の4分の1しかない(直線なら半分のはず)=点線は下にふくらむ。実線はまだ4分の3も残っている(直線なら半分のはず)=実線は上にふくらむ。この組み合わせはアだけ。したがって答えはア。
Step 5 妥当性チェック: ① 両端: 自然長で実線が最大・点線が0、伸び最大で実線が0・点線が最大。(1)(2) の答えと一致する。② 和: どの行も \(\displaystyle\frac{1}{2}kd^2\)。2本のグラフが「交換しているだけ」で総量は変わらない。③ 2本が交わる位置: \(\displaystyle\frac{1}{2}kx^2=\displaystyle\frac{1}{4}kd^2\) となる伸びで、\(x=\displaystyle\frac{d}{\sqrt{2}}\approx 0.71d\)。真ん中 \(0.5d\) より右で交わる点も、アの形と合う。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: エネルギーのグラフは、まず横軸が何かを確かめ、各エネルギーをその横軸の文字で書き直してから形を判断する。同じ運動エネルギーでも、横軸が速さなら下に凸、伸びなら上に凸になる。
波及②: 力学的エネルギーが保存するとき、2本のグラフは「足すと水平線」になる。片方の形が分かれば、もう片方は上下を反転させるだけで描ける。§10 のように保存しない場合でも、「各点で足すと力学的エネルギーの線」という関係はそのまま使える。
波及③: 形を見分ける一番確実な方法は、真ん中の1点で値を計算して、直線の場合と比べること。曲線の判断を「なんとなくの印象」から「1回の計算」に置きかえられる。
§10. 第3問 問2 ─ あらい斜面のエネルギーグラフを描く(実線+点線=力学的エネルギーの線)
あらい斜面上の点Aで質量 \(m\) の物体に速さを与えると、物体は斜面をすべり上がり、点Bで止まる。横軸を高さ、縦軸をエネルギーとしたグラフに、力学的エネルギーの線(Aから右下がりの直線)がすでに描かれている。そこへ運動エネルギー(実線)と重力による位置エネルギー(点線)を書き込む。重力による位置エネルギーの基準は点Aの高さ。得点率は 17.7%。※ 問題文は手元プリント参照。
§10.1 解答(Layer 1 ─ 端的解答+サクッと解説)
※ 問題文は手元プリント参照。答えと1-2行の要点だけ先に示します。詳しい思考プロセスは §10.2 のアコーディオン内。
答え(点線=重力による位置エネルギー): 点Aの高さで0から始まる右上がりの直線。点Bの高さで、力学的エネルギーの直線の終点と同じ値に達する。基準がAなのでAで0、高さに比例して増えるので直線。
答え(実線=運動エネルギー): 点Aの高さで力学的エネルギーの線の始点と同じ値から始まる右下がりの直線。点Bの高さで0になる。Aでは位置エネルギーが0なので力学的エネルギー=運動エネルギー、Bでは止まるので運動エネルギー0。
確認: どの高さでも「実線の値+点線の値=力学的エネルギーの線の値」。Aでは実線が力学的エネルギーの線と重なり、Bでは点線が力学的エネルギーの線と重なる。
§10.2 💡 もっと深く理解したい人へ ─ 両端の2点を打ってから直線で結ぶ
ここから先は「なぜそうなるか」を完全に開く。正解できた人こそ開いてほしい。
▶ クリックして完全解説を開く ─ 思考のクセ診断つき
あらい斜面のエネルギーグラフ ─ 実線と点線を言葉で再現する
一見の罠 ─ ほとんどの人がこう考える
誤答パターン①: 点線(位置エネルギー)を、Aの高さで0ではなく、少し上の値から始めてしまう(床=高さ0を基準にしたつもりで描く)。
診断: 問題が指定した基準を読まず、いつもの床に基準を戻してしまう「基準を床に戻すクセ」。基準は点Aの高さと指定されている。だから点Aで位置エネルギーはちょうど0。第1問 問3 で「テーブルの高さが基準なら、テーブル上の物体の位置エネルギーは0」と同じ読み方。
誤答パターン②: 実線(運動エネルギー)を「\(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) は2乗の式だから」と曲線(放物線)で描く。
診断: 横軸が何かを確かめずに式の見た目で形を決める「2乗の式=曲線と思い込むクセ」。このグラフの横軸は速さではなく高さ。運動エネルギーを高さで表すと「力学的エネルギー(高さの1次式)−位置エネルギー(高さの1次式)」=高さの1次式なので、直線になる。
誤答パターン③: 点線を、点Bで「Aでの力学的エネルギーの値」まで上げてしまう(実線と点線をX字に対称に交差させる、摩擦のない場合の絵)。
診断: 教科書でよく見る「保存するときのグラフ」をそのまま描く「摩擦の損失を忘れて保存のつもりで描くクセ」。あらい斜面では力学的エネルギーが減っていく。Bで止まったとき、残っているのはBでの力学的エネルギーだけで、それが全部位置エネルギーになっている。だから点線の終点は、力学的エネルギーの線の終点と一致する。
誤答パターン④: 実線を力学的エネルギーの線と平行に(同じ傾きで)描き、Bで0にならない。
診断: 「Bで止まる」という終点の条件を使わない「端の値を確かめずに線を引くクセ」。実線は「力学的エネルギー−位置エネルギー」なので、力学的エネルギーの線より急に下がる(位置エネルギーが増える分だけ余計に減る)。そしてBで必ず0になる。
正しい思考プロセス
Step 1 現象を絵にする: 横軸は水平面からの高さで、左端が点Aの高さ、右端が点Bの高さ。縦軸はエネルギー。すでにある力学的エネルギーの線を、点Aでの値 \(E_{\text{A}}\) から点Bでの値 \(E_{\text{B}}\) へ下がる右下がりの直線として読む。\(E_{\text{B}}\) は \(E_{\text{A}}\) より小さい(摩擦で減った)。
Step 2 どの原理・式を選ぶか(+なぜ): どの高さでも、定義から「力学的エネルギー=運動エネルギー+重力による位置エネルギー」。摩擦があっても、この足し算の関係は崩れない(崩れるのは「力学的エネルギーが一定」という部分だけ)。だから、点線(位置エネルギー)が決まれば、実線(運動エネルギー)は「力学的エネルギーの線−点線」で自動的に決まる。
Step 3 式の意味を読む: 3本の線がなぜ全部直線になるのかを確かめる。
・点線(位置エネルギー): 点Aの高さを \(h_{\text{A}}\) とすると、高さ \(h\) での位置エネルギーは \(U=mg(h-h_{\text{A}})\)。高さの1次式=直線で、傾きは \(mg\)(右上がり)。\(h=h_{\text{A}}\) で \(U=0\)。
・力学的エネルギーの線: 摩擦が奪うエネルギーは「動摩擦力×斜面を進んだ距離」。動摩擦力の大きさは斜面の上で一定で、斜面を進んだ距離は上がった高さに比例する(同じ角度の斜面なら、2倍上がるには2倍の距離を進む)。だから力学的エネルギーは高さに比例して減る=右下がりの直線。
・実線(運動エネルギー): \(K=E-U\)。直線から直線を引いたものは直線。傾きは「力学的エネルギーの線の傾き − \(mg\)」なので、力学的エネルギーの線よりもさらに急な右下がり。
Step 4 代入して確かめる: 直線は2点で決まる。両端(点Aと点B)の値を表で埋め、真ん中の1点で確かめる。
| 高さ | 力学的エネルギー(図の線) | 位置エネルギー(点線) | 運動エネルギー(実線) | 決め手 |
| 点A | \(E_{\text{A}}\) | \(0\) | \(E_{\text{A}}\) | 基準がAの高さ。実線は力学的エネルギーの線の始点と重なる |
| AとBの真ん中 | \(\displaystyle\frac{E_{\text{A}}+E_{\text{B}}}{2}\) | \(\displaystyle\frac{E_{\text{B}}}{2}\) | \(\displaystyle\frac{E_{\text{A}}}{2}\) | どれも両端の値のちょうど半分=3本とも直線であることの確認 |
| 点B | \(E_{\text{B}}\) | \(E_{\text{B}}\) | \(0\) | Bで止まる。点線は力学的エネルギーの線の終点と重なる |
この表を見ながら、次の順で描けば迷わない。
描く手順1: 点Aの高さで、縦軸の0の位置に点を打つ(点線の始点)。
描く手順2: 点Bの高さで、力学的エネルギーの線の終点(\(E_{\text{B}}\))に点を打つ(点線の終点)。この2点を点線の直線で結ぶ。
描く手順3: 点Aの高さで、力学的エネルギーの線の始点(\(E_{\text{A}}\))に点を打つ(実線の始点)。
描く手順4: 点Bの高さで、縦軸の0の位置に点を打つ(実線の終点)。この2点を実線の直線で結ぶ。
描く手順5: 真ん中の高さで、実線と点線の値を目で足して、力学的エネルギーの線の高さになっているか確かめる。
Step 5 妥当性チェック: ① 両端の重なり: Aでは実線が力学的エネルギーの線と同じ点から出発し、Bでは点線が力学的エネルギーの線と同じ点に到着する。片方の端で「重なる相手」が入れ替わっていれば正しい。② 傾きの比べ方: 実線(運動エネルギー)は力学的エネルギーの線より急に下がる。理由は、運動エネルギーは「摩擦に奪われる分」と「位置エネルギーに変わる分」の両方で減るから。③ 摩擦がない場合との比較: もし斜面がなめらかなら、力学的エネルギーの線は水平になり、点線はBで \(E_{\text{A}}\) まで届く。あらい斜面では点線の終点がそれより低い \(E_{\text{B}}\) で止まり、その差 \(E_{\text{A}}-E_{\text{B}}\) が摩擦で熱に変わった分。④ 符号: 運動エネルギーはA〜Bのどこでも0以上で、負の領域に入らない。
この問題が教えてくれること ─ 一般化
波及①: 力学的エネルギーが保存しない場面でも、「各点で、運動エネルギー+位置エネルギー=その点の力学的エネルギー」という足し算は必ず成り立つ。グラフを描くときは、与えられた線を「2本の和」として読み、片方を決めてから残りを引き算で出す。
波及②: 直線のグラフは両端の2点で決まる。両端で「何が0になるか」(基準の位置では位置エネルギー0、止まる位置では運動エネルギー0)を先に押さえれば、線は自然に引ける。§9 の水平ばねのグラフも、両端の値から形を決めた点で同じ考え方。
波及③: グラフの形(直線か曲線か)は、横軸の文字で書き直したときの式の次数で決まる。横軸が高さなら位置エネルギーは直線、横軸がばねの伸びなら弾性エネルギーは放物線。式の見た目ではなく「横軸の何乗か」で判断する。
§12. テスト全体の振り返り ─ 5大「思考のクセ」処方箋
ここまで全10問を1問ずつ診断してきました。最後に、今回のテスト全体を通して見えた5つの「思考のクセ」をまとめます。君の失点は、たいていこの5つのどれか(または複数)に当てはまります。自分に当てはまるクセを見つけて、次のテストまでに1つずつ書き換えていきましょう。
§12.1 クセ①: 「誰がした仕事か」を決めないクセ
典型的な現れ: 第1問 問1①(持ち上げたときの重力の仕事・得点率 \(43.4\)%)。同じ「負の仕事」でも、摩擦の③は \(84.1\)% 取れているのに、重力の①だけが沈んだ。第2問 問4(2)(動摩擦力のした仕事・得点率 \(15.0\)%)。
診断: 摩擦は「止める力」なので負だと感覚で分かる。ところが重力は、持ち上げる人の仕事(+)と重力の仕事(−)が同時に存在するので、「誰の仕事か」を決めないと符号が決まらない。仕事は力ごとに計算するものだ、という出発点が抜けている。
§12.2 クセ②: 公式に飛びつくクセ
典型的な現れ: 第1問 問2③(\(P=Fv\)・得点率 \(27.0\)%。使わない質量 \(6.0\,\text{kg}\) に引っぱられる)、問2④(\(25.3\)%)、第1問 問3③(テーブルの高さを基準にしているのに \(mgh\) を計算してしまう・\(41.6\)%)。
診断: 公式は「場面」とセットで覚えないと、場面が少し変わっただけで使えなくなる。「等速度で動いている=力がつり合っている」「仕事率=1秒あたりの仕事」という意味から式を組み立てる手順が抜けている。
§12.3 クセ③: 基準を決めずに式を立てるクセ
典型的な現れ: 第2問 問3(鉛直ばね・得点率 \(9.1\)%、\(1.3\)%、\(3.5\)%)。ばねの位置エネルギーは「自然の長さ」から測った伸びで決まるのに、「つり合いの位置から引いた \(2.1\,\text{m}\)」をそのまま入れてしまう。第2問 問2(振り子の落差)、第3問 問2(点Aを基準にした位置エネルギー)。
診断: 位置エネルギーは「基準からどれだけ離れているか」で決まる量。基準を決めないまま数字を入れると、正しい式の形をしていても中身がずれる。さらに鉛直ばねでは、重力の位置エネルギーとばねの位置エネルギーの両方を数える必要があるのに、どちらかを入れ忘れる。
§12.4 クセ④: グラフの面積と傾きがつながらないクセ
典型的な現れ: 第2問 問1(\(F\)-\(x\) グラフの面積=仕事・得点率 \(18.1\)%、(3)は \(0.4\)%)、第3問 問1(3)(エネルギーのグラフ選択・\(19.0\)%)、第3問 問2(グラフを描く・\(17.7\)%)。
診断: \(v\)-\(t\) グラフの面積が移動距離だったように、\(F\)-\(x\) グラフの面積は仕事になる。エネルギーのグラフでは「各位置での運動エネルギー+位置エネルギー=力学的エネルギー」が縦に足し算で成り立つ。グラフは式を絵にしたものなのに、式とつながっていない。
§12.5 クセ⑤: 文字で答える問題に手が止まるクセ
典型的な現れ: 第3問 問1(水平ばね・(1)は \(41.4\)% だが (2)「伸びの最大値は \(d\)」は \(14.2\)%)、第2問 問1(3)(進んだ距離を \(x\) とおいて面積を式にする・\(0.4\)%)。
診断: 文字式の問題は、数字の問題と考え方がまったく同じ。違うのは「最後に数字を入れない」ことだけ。ところが「文字=難しい」という思い込みで、エネルギー保存という同じ道具を使うことをやめてしまう。
§12.6 自分のクセを1つに絞ろう
5つ全部を一度に直そうとすると、たいてい何も変わりません。今回いちばん痛かったクセを1つだけ選んでください。第1問で点を落とした人はクセ①かクセ②、第2問のばね・振り子で崩れた人はクセ③、グラフや文字式の問題で手が止まった人はクセ④かクセ⑤です。
§13. このテストの得点分布・出題傾向分析
ここでは、今回のテスト全体(受験者 \(226\) 名)のデータを分析します。個人の点数は一切扱わず、全体の傾向だけを見ます。自分がどの位置にいたかを把握し、次にどこを重点的に復習すべきかの参考にしてください。
§13.1 全体統計
平均点: \(47.3\) 点(得点率 \(47.3\)%)
最高点: \(86\) 点 最低点: \(12\) 点
§13.2 得点分布
得点率の分布です(▌1つがおよそ \(3\) 名)。いちばん人数が多いのは \(41\)〜\(50\)%(\(66\) 名)。平均 \(47.3\)% のまわりに大きな山があり、\(71\)% 以上は \(226\) 名中 \(13\) 名でした。
91〜100% (\(0\) 名)
81〜90% ▌ \(3\) 名
71〜80% ▌▌▌ \(10\) 名
61〜70% ▌▌▌▌▌▌▌▌▌▌▌ \(34\) 名
51〜60% ▌▌▌▌▌▌▌▌▌▌▌▌▌▌ \(41\) 名
41〜50% ▌▌▌▌▌▌▌▌▌▌▌▌▌▌▌▌▌▌▌▌▌▌ \(66\) 名
31〜40% ▌▌▌▌▌▌▌▌▌▌▌▌▌ \(38\) 名
21〜30% ▌▌▌▌▌▌▌▌ \(23\) 名
11〜20% ▌▌▌▌ \(11\) 名
0〜10% (\(0\) 名)
§13.3 大問別の得点率
| 大問 | テーマ | 配点 | 全体得点率 |
| 第1問 | 仕事・仕事率・エネルギーの値・正誤 | 66点 | 62.3% |
| 第2問 | グラフ・振り子・ばね・摩擦 | 26点 | 16.7% |
| 第3問 | 水平ばね(文字式)・エネルギーグラフ | 8点 | 23.1% |
§13.4 つまずきが集中した設問ワースト5
得点率の低い順に並べたものです。ここが「差がつく=伸ばせば大きい」設問です。右の列で、対応する「思考のクセ」(§12)を示しました。
| 設問 | 得点率 | つまずきの正体(§12) |
| 第2問 問1(3)(速さが \(3.0\,\text{m}/\text{s}\) になる位置) | 0.4% | クセ④+⑤ |
| 第2問 問3(2)(鉛直ばね・自然長での速さ) | 1.3% | クセ③ |
| 第2問 問3(3)(最高点でのばねの縮み) | 3.5% | クセ③ |
| 第2問 問4(3)(あらい部分の長さ) | 7.5% | クセ①+② |
| 第2問 問3(1)(つり合いでのばねの伸び) | 9.1% | クセ②+③ |
§13.5 取れていた設問ベスト5
逆に、しっかり取れていた設問です。「1つの場面で、1回の計算」で答えが出る問題は、多くの人が得点できていました。
| 設問 | 得点率 |
| 第1問 問4(3)(重力の位置エネルギーは負になりうる) | 86.3% |
| 第1問 問1③(動摩擦力の仕事) | 84.1% |
| 第1問 問1④(垂直抗力の仕事) | 82.1% |
| 第1問 問2②(仕事率) | 80.4% |
| 第1問 問1②(斜めの力の仕事) | 79.8% |
§13.6 興味深い対比 ─ データが語る3つの事実
第1問 問1③(摩擦の仕事)は \(84.1\)% なのに、問1①(持ち上げたときの重力の仕事)は \(43.4\)%。どちらも答えは負。違いは「その力が運動を止める向きだと感覚で分かるかどうか」だけ。感覚で分からない場面で、「誰の仕事か」を決める手順が無いことが露わになった(クセ①)。
第1問 問4(3)「重力の位置エネルギーは負になりうる(○)」は \(86.3\)% なのに、問4(2)「運動エネルギーは負にならない(○)」は \(31.4\)%。「位置エネルギーは負になりうる」を覚えた結果、エネルギーなら何でも負になりうると広げてしまった可能性が高い。\(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) の式を一度見れば決着がつく問題。
第2問はほとんどの設問が \(10\)〜\(30\)% 台なのに、問2(4)(釘にかかった振り子の最高点)は \(55.8\)%。計算ではなく「はなした高さまで戻る」という保存の考え方で答える問題だった。考え方は持っているのに、それを式に落として数値を出す段階で崩れている、ということが分かる。
§13.7 次のテストへの重点復習項目
🥈 銀: グラフと量のつながり(第2問 問1・第3問)。「面積=仕事」「各点で運動+位置=力学的エネルギー」。
🥉 銅: 仕事の主語と符号、仕事率 \(P=Fv\)(第1問 問1①・問2③④)。ここは「1行書き足す」だけで取れる。
§13.8 このデータから言える、たった1つのこと
§14. 次のステップ ─ 自分の思考のクセをもっと深く知る
この記事で自分のクセの「あたり」がついた人へ。次にやることは2つです。
§14.1 「数字は合ってたのに×」で悔しかった人へ
符号や単位、基準の取り違えで、計算は合っていたのに点にならなかった経験がある人は、その「取りこぼしの正体」を体系的にまとめた記事があります。
https://makoto-physics-school.com/article-butsuri-keishiki-miss-mechanism/
§14.2 自分の物理力を診断してみる
「自分のクセが見えた気がするけど、本当にそれだけなのか確信が持てない」という人は、もう一段詳しい診断ツールを用意しています。いくつかの質問に答えるだけで、自分の思考のクセがどのタイプに当てはまるかが分かります。
https://makoto-physics-school.com/physics-diagnosis/
診断結果に対して、対応する処方箋(記事・動画)も示されます。
診断の背景をもっと知りたい人は、思考のクセのタイプを解説した記事もあわせてどうぞ。
https://makoto-physics-school.com/study-method-physics-thinking-habit-diagnosis/
§14.3 授業動画で復習する
仕事・エネルギー・力学的エネルギー保存の基本を動画で見直したい人は、YouTubeチャンネルに範囲別の授業動画があります。
§14.4 最後に
テストは、自分を測るためのものではなく、自分のクセを見つけるためのものです。\(47.3\) 点という平均点が示すように、今回は多くの人がつまずきました。でも、つまずいたままで終わるか、つまずきの正体を知って次に活かすかで、期末考査はまったく違う景色になります。
エネルギーは、この先の物理のほとんどすべての単元で使う道具です。ここで「基準を決めて、種類を全部数えて、2つの位置を比べる」という手順を身につけておけば、2年生・3年生の物理でもそのまま使えます。
うまくいかなかったら、もう一度この記事に戻ってきてください。クセは何度でも書き換えられます。物理は、書き換えられる科目です。
