波動範囲 21~25
21 気柱の共鳴
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法(振動数\(f\)を媒介変数として計算する解法)を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 波長の比から直接求める解法
- 主たる解法が、まず弦の振動数\(f\)を求め、次にその\(f\)を使って音波の波長と管の長さを計算するのに対し、別解では波の基本式 \(v=f\lambda\) を変形し、共鳴条件(\(f\)が等しい)から直接、弦の波長と音波の波長の比を求め、そこから管の長さを導出します。
- 波長の比から直接求める解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 共鳴時に振動数\(f\)が等しいということは、波長\(\lambda\)が波の速さ\(v\)に比例する(\(\lambda = v/f \propto v\))という、より本質的な関係に気づくことができます。
- 思考の柔軟性向上: 媒介変数(この場合は\(f\))を具体的に求めずに、物理量の比の関係だけで問題を解くという経験は、より複雑な問題に応用できる思考の訓練になります。
- 解法の効率化: 計算のステップが少なくなり、見通しが良くなる場合があります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「弦の振動と気柱の共鳴」です。物理的性質が異なる2つの系(弦と気柱)が、「共鳴」という現象を介してどのように関係付けられるかを理解することが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 弦を伝わる波の速さの公式: 弦の張力 \(S\) と線密度 \(\rho\) から、波の速さ \(v_{\text{弦}} = \sqrt{\displaystyle\frac{S}{\rho}}\) を計算できること。
- 弦の定常波(基本振動)の条件: 両端が固定された弦の長さ \(l\) が、基本振動の波長 \(\lambda_{\text{弦}}\) の半分に等しい(\(l = \displaystyle\frac{1}{2}\lambda_{\text{弦}}\))ことを理解していること。
- 閉管の気柱の定常波(基本振動)の条件: 一端が閉じ、一端が開いた閉管の長さ \(L\) が、基本振動の波長 \(\lambda_{\text{音}}\) の4分の1に等しい(\(L = \displaystyle\frac{1}{4}\lambda_{\text{音}}\))ことを理解していること。
- 共鳴の条件: 2つの振動する系が共鳴するとき、それらの振動数 \(f\) が等しくなることを理解していること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、問題で与えられた弦の物理的特性(\(l, S, \rho\))から、弦が基本振動するときの振動数 \(f\) を求めます。
- 次に、この振動数 \(f\) と共鳴する閉管の気柱を考えます。
- 閉管の長さ \(L\) が最小となるのは、閉管が基本振動で共鳴する場合です。この条件と音速 \(V\) を用いて、\(L\) を \(f\) で表し、最後に1.で求めた \(f\) の式を代入して最終的な答えを導出します。
思考の道筋とポイント
この問題は、「弦の振動」と「気柱の振動」という2つの独立した現象を、「共鳴」というキーワードで結びつける典型的な問題です。共鳴とは、弦が発する音の振動数と、気柱が固有に持つ振動数が一致し、音が大きく響く現象を指します。
解法のプロセスは、以下の2段階に分けられます。
- 音源(弦)の分析: まず、音源である弦がどのような振動数で振動しているのかを求めます。
- 共鳴体(閉管)の分析: 次に、その振動数と共鳴する閉管の条件を考えます。
問題文の「長さ \(L\) が最小のもの」という条件は、閉管が最も単純な振動モード、すなわち「基本振動」で共鳴することを意味しています。このヒントを元に、それぞれの系の基本振動の条件を正しく立式することが鍵となります。
この設問における重要なポイント
- 弦の基本振動では、弦の長さ \(l\) は波長 \(\lambda_{\text{弦}}\) の半分に等しい。すなわち、\(l = \displaystyle\frac{\lambda_{\text{弦}}}{2}\)。
- 弦を伝わる波の速さ \(v_{\text{弦}}\) は、張力 \(S\) と線密度 \(\rho\) を用いて \(v_{\text{弦}} = \sqrt{\displaystyle\frac{S}{\rho}}\) で与えられる。
- 閉管の基本振動では、管の長さ \(L\) は音波の波長 \(\lambda_{\text{音}}\) の4分の1に等しい。すなわち、\(L = \displaystyle\frac{\lambda_{\text{音}}}{4}\)。
- 弦を伝わる波の速さ \(v_{\text{弦}}\) と、空気中を伝わる音波の速さ \(V\) は異なる物理量であり、混同してはならない。
- 共鳴の条件は、弦の振動数と気柱の振動数が等しいことである。
具体的な解説と立式
この問題を解くために、2つのステップで考えます。
ステップ1:弦の基本振動数を求める
まず、音源である弦の基本振動数 \(f\) を求めます。
弦を伝わる横波の速さを \(v_{\text{弦}}\) とすると、その速さは張力 \(S\) と線密度 \(\rho\) を用いて次のように表されます。
$$ v_{\text{弦}} = \sqrt{\frac{S}{\rho}} \quad \cdots ① $$
弦が基本振動をするとき、弦の両端が節となる定常波ができます。このとき、弦の長さ \(l\) は波長 \(\lambda_{\text{弦}}\) の半分に等しくなります。
$$ l = \frac{1}{2}\lambda_{\text{弦}} $$
したがって、基本振動の波長は \(\lambda_{\text{弦}} = 2l\) です。
波の基本式 \(v = f\lambda\) に、これらの関係を適用すると、弦の基本振動数 \(f\) は次のように立式できます。
$$ v_{\text{弦}} = f \lambda_{\text{弦}} \quad \cdots ② $$
ステップ2:閉管の基本振動と共鳴条件を考える
次に、この弦の振動と共鳴する閉管について考えます。
共鳴が起きるためには、閉管の気柱の固有振動数が、弦の振動数 \(f\) と一致する必要があります。
空気中を伝わる音波の速さは \(V\) です。このときの音波の波長を \(\lambda_{\text{音}}\) とすると、波の基本式より以下の関係が成り立ちます。
$$ V = f \lambda_{\text{音}} \quad \cdots ③ $$
問題では、共鳴する閉管のうち長さ \(L\) が最小のものを求められています。これは、閉管が基本振動で共鳴する場合に相当します。閉管の基本振動では、開口端が腹、閉端が節となる定常波ができ、管の長さ \(L\) は波長 \(\lambda_{\text{音}}\) の \(1/4\) に等しくなります。
$$ L = \frac{1}{4}\lambda_{\text{音}} \quad \cdots ④ $$
これらの式を連立させることで、\(L\) を求めることができます。
使用した物理公式
- 弦を伝わる波の速さ: \(v = \sqrt{\displaystyle\frac{S}{\rho}}\)
- 波の基本式: \(v = f\lambda\)
- 弦の基本振動の条件: \(l = \displaystyle\frac{1}{2}\lambda\)
- 閉管の基本振動の条件: \(L = \displaystyle\frac{1}{4}\lambda\)
まず、ステップ1で立てた式から、弦の基本振動数 \(f\) を \(l, S, \rho\) を用いて表します。
②式に①式と \(\lambda_{\text{弦}} = 2l\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
f &= \frac{v_{\text{弦}}}{\lambda_{\text{弦}}} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2l} \sqrt{\frac{S}{\rho}} \quad \cdots ⑤
\end{aligned}
$$
次に、ステップ2で立てた式から、閉管の長さ \(L\) を求めます。
④式より、音波の波長は \(\lambda_{\text{音}} = 4L\) と表せます。これを③式に代入すると、
$$
\begin{aligned}
V &= f \cdot (4L)
\end{aligned}
$$
この式を \(L\) について解くと、
$$
\begin{aligned}
L &= \frac{V}{4f}
\end{aligned}
$$
最後に、この式に⑤で求めた \(f\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
L &= \frac{V}{4} \cdot \frac{1}{f} \\[2.0ex]
&= \frac{V}{4} \cdot \left( 2l \sqrt{\frac{\rho}{S}} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{Vl}{2} \sqrt{\frac{\rho}{S}}
\end{aligned}
$$
この問題は、ギターの弦の音と、笛の音が「共鳴」する状況を考えています。共鳴とは、音の高さ(振動数)がピッタリ合うことです。
手順は2ステップです。
ステップ1:まず、ギターの弦(長さ \(l\))が一番低い音(基本振動)で鳴っているときの、その振動数を計算します。弦の振動数は、弦の張り具合(張力 \(S\))と重さ(線密度 \(\rho\))で決まります。
ステップ2:次に、この弦の音と共鳴する一番短い笛(閉管、長さ \(L\))を探します。一番短い笛が鳴らすことができる一番低い音(基本振動)が、弦の音と一致すればよいわけです。閉管の基本振動の条件から、笛の長さ \(L\) を計算します。
この2つのステップで得られた式を組み合わせることで、求める長さ \(L\) が計算できます。
求める閉管の長さ \(L\) は \(\displaystyle\frac{Vl}{2}\sqrt{\displaystyle\frac{\rho}{S}}\) と表せます。
この結果を吟味してみましょう。
- 音速 \(V\) や弦の長さ \(l\) が大きいほど、共鳴する管の長さ \(L\) は長くなります。これは、振動数が低くなり(音が低くなり)、音の波長が長くなるため、物理的に妥当です。
- 張力 \(S\) が大きい(弦を強く張る)ほど、\(L\) は短くなります。これは、弦の振動数が高くなり(音が高くなり)、音の波長が短くなるため、妥当です。
- 線密度 \(\rho\) が大きい(弦が重い)ほど、\(L\) は長くなります。これは、弦の振動数が低くなり(音が低くなり)、音の波長が長くなるため、妥当です。
以上より、得られた結果は物理的な直感と一致しており、妥当なものと考えられます。
思考の道筋とポイント
主たる解法では、弦の振動数 \(f\) を一度計算し、それを媒介として閉管の長さを求めました。この別解では、共鳴の条件である「振動数 \(f\) が等しい」という点に着目し、波の基本式 \(v=f\lambda\) を \(f = v/\lambda\) と変形して連立させることで、振動数 \(f\) を計算せずに、弦の波長 \(\lambda_{\text{弦}}\) と音波の波長 \(\lambda_{\text{音}}\) の関係を直接導き出します。これにより、計算の見通しが良くなることがあります。
この設問における重要なポイント
- 共鳴条件は \(f_{\text{弦}} = f_{\text{音}}\) である。
- 波の基本式より \(f = v/\lambda\) なので、共鳴条件は \(\displaystyle\frac{v_{\text{弦}}}{\lambda_{\text{弦}}} = \frac{V}{\lambda_{\text{音}}}\) と書き換えられる。
- この式から、2つの波の波長の比は、それぞれの波の速さの比に等しいことがわかる (\(\displaystyle\frac{\lambda_{\text{音}}}{\lambda_{\text{弦}}} = \frac{V}{v_{\text{弦}}}\))。
具体的な解説と立式
弦の振動と気柱の振動が共鳴しているため、両者の振動数 \(f\) は等しくなります。
弦を伝わる波について、速さを \(v_{\text{弦}}\)、波長を \(\lambda_{\text{弦}}\) とすると、
$$ f = \frac{v_{\text{弦}}}{\lambda_{\text{弦}}} \quad \cdots ⑥ $$
一方、気柱を伝わる音波について、速さを \(V\)、波長を \(\lambda_{\text{音}}\) とすると、
$$ f = \frac{V}{\lambda_{\text{音}}} \quad \cdots ⑦ $$
⑥と⑦の右辺は等しいので、
$$ \frac{v_{\text{弦}}}{\lambda_{\text{弦}}} = \frac{V}{\lambda_{\text{音}}} $$
この式を \(\lambda_{\text{音}}\) について解くと、
$$ \lambda_{\text{音}} = \frac{V}{v_{\text{弦}}} \lambda_{\text{弦}} \quad \cdots ⑧ $$
となります。
次に、問題の条件から \(\lambda_{\text{弦}}\) と \(\lambda_{\text{音}}\) を、それぞれ \(l\) と \(L\) で表します。
弦は基本振動なので、弦の長さ \(l\) は波長の半分です。
$$ l = \frac{1}{2}\lambda_{\text{弦}} $$
これより、\(\lambda_{\text{弦}} = 2l\) となります。
閉管も長さが最小、すなわち基本振動なので、管の長さ \(L\) は波長の4分の1です。
$$ L = \frac{1}{4}\lambda_{\text{音}} $$
これより、\(\lambda_{\text{音}} = 4L\) となります。
また、弦を伝わる波の速さ \(v_{\text{弦}}\) は、
$$ v_{\text{弦}} = \sqrt{\frac{S}{\rho}} $$
です。これらの関係式を⑧に代入して \(L\) を求めます。
使用した物理公式
- 共鳴条件: \(f_{\text{弦}} = f_{\text{音}}\)
- 波の基本式: \(f = v/\lambda\)
- 弦の基本振動の条件: \(l = \displaystyle\frac{1}{2}\lambda_{\text{弦}}\)
- 閉管の基本振動の条件: \(L = \displaystyle\frac{1}{4}\lambda_{\text{音}}\)
- 弦を伝わる波の速さ: \(v_{\text{弦}} = \sqrt{\displaystyle\frac{S}{\rho}}\)
⑧式 \(\lambda_{\text{音}} = \displaystyle\frac{V}{v_{\text{弦}}} \lambda_{\text{弦}}\) に、\(\lambda_{\text{音}} = 4L\)、\(\lambda_{\text{弦}} = 2l\)、\(v_{\text{弦}} = \sqrt{\displaystyle\frac{S}{\rho}}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
4L &= \frac{V}{\sqrt{\displaystyle\frac{S}{\rho}}} \cdot (2l) \\[2.0ex]
4L &= 2lV \sqrt{\frac{\rho}{S}}
\end{aligned}
$$
両辺を4で割って \(L\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
L &= \frac{2lV}{4} \sqrt{\frac{\rho}{S}} \\[2.0ex]
&= \frac{Vl}{2} \sqrt{\frac{\rho}{S}}
\end{aligned}
$$
別の考え方をしてみましょう。弦の音と笛の音が共鳴するということは、「音の高さ(振動数)」が同じだということです。
物理の法則 \((\text{速さ}) = (\text{振動数}) \times (\text{波長})\) を思い出すと、「振動数」が同じなら、「波長」は「速さ」に比例することがわかります。
つまり、「音波の波長」と「弦の波の波長」の比は、「音速 \(V\)」と「弦を伝わる波の速さ \(v_{\text{弦}}\)」の比と同じになります。
あとは、それぞれの波長を、弦の長さ \(l\) と笛の長さ \(L\) を使って表し、この比例式に代入すれば、振動数 \(f\) をいちいち計算しなくても、直接 \(L\) を求めることができます。
主たる解法と全く同じ \(\displaystyle\frac{Vl}{2}\sqrt{\displaystyle\frac{\rho}{S}}\) という結果が得られました。この別解は、振動数 \(f\) という中間的な量を計算から排除し、系の幾何学的な長さ(\(l, L\))と物理的な速さ(\(V, v_{\text{弦}}\))の関係に直接焦点を当てた解法です。物理的な見通しを立てる上で、このような比を用いた考え方は非常に有効です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 異なる波動の「共鳴」:
- 核心: この問題の根幹は、物理的性質が全く異なる2つの波動(弦を伝わる横波と、気柱を伝わる縦波(音波))が、「共鳴」という現象によって結びつけられる点を理解することにあります。
- 理解のポイント:
- 共鳴の条件: 共鳴とは、一方の振動が他方を強制的に振動させ、その振動数が系の固有振動数と一致したときに振幅が著しく増大する現象です。この問題では、弦の振動数が、閉管の固有振動数のいずれかと一致することが条件となります。
- 振動数の支配要因: 弦の振動数は、弦の物理的特性(長さ \(l\)、張力 \(S\)、線密度 \(\rho\))によって決まります。一方、気柱の固有振動数は、気柱の形状(長さ \(L\)、開管か閉管か)と、媒質(空気)中の音速 \(V\) によって決まります。
- 橋渡し役の「振動数 \(f\)」: 2つの独立した系を結びつける共通の物理量が「振動数 \(f\)」です。まず一方の系(弦)から \(f\) を求め、それをもう一方の系(気柱)に適用するという思考プロセスが重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 開管との共鳴: 問題が「閉管」ではなく「開管」の場合、気柱の基本振動の条件が \(\displaystyle\frac{\lambda_{\text{音}}}{2} = L\) に変わるだけで、解法の流れは全く同じです。
- 高次振動との共鳴: 「次に共鳴するのは長さがいくつのときか?」と問われた場合、気柱の3倍振動、5倍振動…を考えればよいです。閉管の \(m\) 次の固有振動(\(m\) は正の奇数)の条件は \(L = m \displaystyle\frac{\lambda_{\text{音}}}{4}\) となります。
- うなり: 2つの音源(例えば、わずかに張力が異なる2本の弦)の振動数が近いとき、「うなり」が生じます。それぞれの振動数 \(f_1, f_2\) を求め、うなりの振動数 \(|f_1 – f_2|\) を計算する問題に応用できます。
- 初見の問題での着眼点:
- 登場する波の種類の特定: 問題にどんな波が登場するかをまず確認します。(弦の波か?気柱の音波か?水面波か?)
- 波の速さの公式を選択: 特定した波の種類に応じて、正しい速さの公式を選択します。弦なら \(v = \sqrt{S/\rho}\)、音波なら問題で与えられる音速 \(V\) を使います。これらを混同しないことが極めて重要です。
- 境界条件の確認: 定常波を考える上で、境界条件(弦なら両端が節、閉管なら開口端が腹で閉端が節)を正確に把握します。これにより、波長と系の長さの関係式が決まります。
- 「最小」「基本」のキーワードに注目: 「長さが最小」「基本振動」といった言葉は、最も単純な定常波(腹が最も少ないパターン)を考えればよい、というヒントです。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 弦の速さと音速の混同:
- 誤解: 弦の振動によって生じた音の速さも \(\sqrt{S/\rho}\) だと考えてしまう。
- 対策: 2つの異なる波を明確に区別します。「弦を伝わる横波の速さ \(v_{\text{弦}}\)」と、「弦の振動によって発生し、空気中を伝わる縦波(音波)の速さ \(V\)」は全くの別物であると認識します。前者は弦の特性で決まり、後者は空気の特性で決まります。
- 波長 \(\lambda\) の混同:
- 誤解: 弦の基本振動の波長 \(\lambda_{\text{弦}}\) と、共鳴する音波の波長 \(\lambda_{\text{音}}\) が同じだと考えてしまう。
- 対策: 共鳴で一致するのは「振動数 \(f\)」だけであり、波長は一致しないことを肝に銘じます。波の基本式 \(v=f\lambda\) からわかるように、速さ \(v\) が異なれば、同じ振動数 \(f\) でも波長 \(\lambda\) は異なります。必ず \(\lambda_{\text{弦}}\) と \(\lambda_{\text{音}}\) のように区別して立式します。
- 閉管と開管の条件の混同:
- 誤解: 閉管の基本振動の条件を、開管の条件である \(L = \lambda/2\) と間違えてしまう。
- 対策: 定常波の図を自分で描く癖をつけます。閉管は「入口が腹、奥が節」なので、最も単純な形は「1/4波長分」であると視覚的に理解します。同様に、開管は「両端が腹」なので、最も単純な形は「半波長分」であると覚えます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 弦の速さの公式 \(v = \sqrt{S/\rho}\):
- 選定理由: 弦の振動数を求めるためには、まず弦を伝わる波の速さを知る必要があります。この速さは、弦の物理的性質である「張力(復元力の源)」と「線密度(慣性の源)」によって決まるため、これらの量を含むこの公式が選ばれます。
- 適用根拠: この公式は、弦の微小部分の運動方程式を解くことによって導出される、弦の材質や状態に固有の物理法則です。
- 定常波の条件(\(l = \lambda/2\), \(L = \lambda/4\)):
- 選定理由: 「基本振動」という、特定の安定した振動状態を扱うため、その状態を規定する幾何学的な条件式が必要となります。
- 適用根拠: これらの条件は、波が系の両端で反射し、入射波と反射波が干渉して定常波を作る際の「境界条件」によって決まります。弦の両端は固定されているため「節」となり、閉管の閉端は空気が動けないため「節」、開口端は最も自由に動けるため「腹」となります。この物理的な拘束が、特定の波長を持つ波しか存在できない理由です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 記号の明確な区別: 弦に関する量と気柱に関する量を、下付き文字を使って明確に区別しましょう。(例: \(v_{\text{弦}}\), \(\lambda_{\text{弦}}\), \(\lambda_{\text{音}}\))。これにより、計算途中で異なる物理量を混同するミスを防げます。
- 段階的な計算:
- まず、弦の振動数 \(f\) を、与えられた文字(\(l, S, \rho\))で完全に表します。
- 次に、求める長さ \(L\) を、振動数 \(f\) と音速 \(V\) を用いて表します。
- 最後に、2番目の式に1番目の式を代入します。
このように、問題をブロックに分けて一つずつ処理することで、思考が整理され、計算ミスが減ります。
- ルートの扱い: 計算の最終段階まで、ルートは外さずに \(\sqrt{\frac{S}{\rho}}\) のような塊として扱いましょう。分数のルート \(\sqrt{\frac{A}{B}}\) を含む式の逆数をとる際は、\(\sqrt{\frac{B}{A}}\) となることを落ち着いて確認します。例えば、\(f = \frac{1}{2l}\sqrt{\frac{S}{\rho}}\) から \(\frac{1}{f}\) を計算するときは、\(\frac{1}{f} = 2l \sqrt{\frac{\rho}{S}}\) となります。
22 気柱の共鳴
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法(隣り合う共鳴長の差が半波長であることを利用する解法)を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 設問(振動数)の別解: 開管の共鳴条件式を連立させる解法
- 模範解答が隣り合う共鳴長の差が半波長であるという性質から直接波長を求めるのに対し、別解では共鳴条件の一般式 \(l=m\displaystyle\frac{\lambda}{2}\) を2つの長さについて立て、連立方程式として解くことで、より原理的に波長を導出します。
- 設問(振動数)の別解: 開管の共鳴条件式を連立させる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 「隣り合う共鳴」が、定常波の腹の数(振動モードの次数 \(m\))が1つ増えることに対応するという、定常波の構造への理解が深まります。
- 思考の一般化: この方法は、たとえ共鳴が隣り合っていない場合(例:「次に観測された共鳴」ではなく「2回後に観測された共鳴」)でも、次数を \(m, m+2\) とおくことで対応できる、より一般的な解法です。
- ミスの防止: 「はじめはいつも基本振動」という思い込み(模範解答の”Miss”で指摘されている点)を防ぎ、未知の振動モード \(m\) を文字で置くという堅実なアプローチを学べます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「開管の気柱の共鳴と定常波」です。音源の振動数が一定のとき、管の長さを変えることでどのように共鳴点が変化するのか、その関係を定量的に理解することが求められます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 開管の共鳴条件: 管の両端が腹となる定常波ができる条件、すなわち管の長さ \(l\) が半波長 \(\lambda/2\) の整数倍になること (\(l = m \displaystyle\frac{\lambda}{2}\)) を理解していること。
- 音源の特性: 音さのように、振動源の振動数 \(f\) は一定であること。また、媒質が同じであれば音速 \(V\) も一定であるため、結果として音波の波長 \(\lambda = V/f\) も一定となることを理解していること。
- 隣り合う共鳴モードの関係: 管の長さを連続的に変えたとき、隣り合って観測される共鳴は、定常波の腹の数が1つだけ異なるモードに対応することを理解していること。
- 波の基本式: 音速 \(V\)、振動数 \(f\)、波長 \(\lambda\) の関係式 \(V=f\lambda\) を正しく使えること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 共鳴が観測された2つの管の長さ \(l=15 \, \text{cm}\) と \(l=20 \, \text{cm}\) が、隣り合う共鳴点であることに着目し、その長さの差から音波の波長 \(\lambda\) を求めます。
- 波の基本式 \(V=f\lambda\) と、与えられた音速 \(V\) を用いて、音さの振動数 \(f\) を計算します。
- \(l=15 \, \text{cm}\) のとき、管の長さが波長の何倍になっているかを計算し、それに基づいて開管内にできる定常波(両端が腹)の様子を描きます。
音さの振動数と定常波の作図
思考の道筋とポイント
この問題の最大のポイントは、「はじめの共鳴(\(l=15 \, \text{cm}\))が基本振動であるとは限らない」という点です。問題文には「はじめ」としか書かれておらず、それが最も単純な基本振動であるという保証はどこにもありません。この思い込みを捨てることが、正解への第一歩です。
音さの振動数 \(f\) は一定で、音速 \(V\) も一定です。したがって、波の基本式 \(V=f\lambda\) より、音波の波長 \(\lambda\) も一定の値をとります。
開管の長さ \(l\) を長くしていくと、管の長さが \(l = \displaystyle\frac{\lambda}{2}, 2\frac{\lambda}{2}, 3\frac{\lambda}{2}, \dots\) と、半波長の整数倍になるたびに共鳴が起こります。
つまり、一度共鳴が起こってから次に共鳴が起こるまでには、管の長さをちょうど半波長分 (\(\lambda/2\)) だけ長くすればよいことになります。この性質を利用して波長を求めるのが最も効率的です。
この設問における重要なポイント
- 開管の共鳴条件: 管の長さ \(l\) が半波長 \(\lambda/2\) の整数倍になるときに共鳴する。すなわち、\(l = m \displaystyle\frac{\lambda}{2}\) (\(m=1, 2, 3, \dots\))。
- 隣り合う共鳴: 振動モードの次数 \(m\) が1つだけ違う状態(例: \(m\) 倍振動と \((m+1)\) 倍振動)。
- 長さの差: 隣り合う共鳴が起こる管の長さの差は、\(\Delta l = (m+1)\displaystyle\frac{\lambda}{2} – m\displaystyle\frac{\lambda}{2} = \displaystyle\frac{\lambda}{2}\) となり、常に半波長に等しい。
- 単位の換算: 振動数の計算時には、長さの単位をセンチメートル(cm)からメートル(m)に直す必要がある。
具体的な解説と立式
振動数 \(f\) の導出
音さの振動数 \(f\) と空気中の音速 \(V\) は一定であるため、音波の波長 \(\lambda = V/f\) も一定です。
開管では、管の長さ \(l\) が半波長 \(\lambda/2\) の整数倍のときに共鳴が起こります。
管の長さを長くしていく過程で観測される「隣り合う」2つの共鳴は、管内にできる定常波の腹の数が1つだけ異なる状態に対応します。
したがって、隣り合う共鳴点での管の長さの差は、ちょうど半波長 \(\lambda/2\) に等しくなります。
問題文より、\(l_1 = 15 \, \text{cm}\) と \(l_2 = 20 \, \text{cm}\) は隣り合う共鳴点なので、次の関係が成り立ちます。
$$ \frac{\lambda}{2} = l_2 – l_1 $$
この式から波長 \(\lambda\) を求め、次に波の基本式 \(V=f\lambda\) を用いて振動数 \(f\) を求めます。
$$ f = \frac{V}{\lambda} $$
定常波の作図
\(l=15 \, \text{cm}\) のときの定常波の様子を考えます。
上で求めた半波長 \(\lambda/2\) の値と、管の長さ \(l=15 \, \text{cm}\) を比較し、このときの共鳴が何倍振動にあたるのかを特定します。
開管の定常波は、必ず両端が腹になることに注意して作図します。
使用した物理公式
- 開管における隣り合う共鳴長の差: \(\Delta l = \displaystyle\frac{\lambda}{2}\)
- 波の基本式: \(V = f\lambda\)
- 開管の定常波の条件: 両端が腹
波長 \(\lambda\) の計算
隣り合う共鳴長の差から、半波長を求めます。
$$
\begin{aligned}
\frac{\lambda}{2} &= 20 – 15 \\[2.0ex]
&= 5.0 \, (\text{cm})
\end{aligned}
$$
したがって、波長 \(\lambda\) は、
$$
\begin{aligned}
\lambda &= 2 \times 5.0 \\[2.0ex]
&= 10 \, (\text{cm}) \\[2.0ex]
&= 0.10 \, (\text{m})
\end{aligned}
$$
となります。
振動数 \(f\) の計算
波の基本式に、求めた波長 \(\lambda = 0.10 \, \text{m}\) と、問題で与えられた音速 \(V = 340 \, \text{m/s}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
f &= \frac{V}{\lambda} \\[2.0ex]
&= \frac{340}{0.10} \\[2.0ex]
&= 3400 \, (\text{Hz})
\end{aligned}
$$
定常波の作図
\(l=15 \, \text{cm}\) のときの定常波を考えます。
半波長は \(\lambda/2 = 5.0 \, \text{cm}\) です。管の長さ \(l=15 \, \text{cm}\) が、この半波長の何倍になっているかを計算します。
$$ \frac{l}{\lambda/2} = \frac{15}{5.0} = 3 $$
これは、管の長さが半波長の3倍に等しいこと (\(l = 3 \times \displaystyle\frac{\lambda}{2}\)) を意味します。
開管の定常波は両端が腹になります。この場合、管内に腹が3つある定常波(3倍振動)が形成されます。
(ここに、両端が腹で、中間に節が2つ、腹が1つある定常波の図が入ります)
笛(開管)を少しずつ長くしていくと、特定の長さで音が「ウォン」と大きく響きます。これが共鳴です。
この響くポイントは、笛の長さに波がちょうど「半個」分きれいに収まるごとに現れます。
問題では、\(15 \, \text{cm}\) で響き、次に \(20 \, \text{cm}\) で響いたとあります。この長さの差である \(5 \, \text{cm}\) が、ちょうど波「半個」分の長さ(半波長)にあたるわけです。
波半個で \(5 \, \text{cm}\) なら、波1個分(1波長)はその倍の \(10 \, \text{cm}\) です。
波長がわかれば、音の速さ(秒速 \(340 \, \text{m}\))を波長で割ることで、音の振動数(1秒間に何回振動するか)を計算できます。
また、\(15 \, \text{cm}\) のときは、波半個分(\(5 \, \text{cm}\))がちょうど3つ入っている状態なので、その様子の絵を描けばよいことになります。
音さの振動数は \(3400 \, \text{Hz}\) と求められました。これは一般的な音さの振動数として妥当な範囲です。
また、\(l=15 \, \text{cm}\) のときの共鳴は3倍振動、\(l=20 \, \text{cm}\) のときの共鳴は4倍振動であったことがわかります。このことから、問題文の「はじめ」の共鳴が基本振動(1倍振動)ではなかったことが確認でき、最初の考察の正しさが裏付けられました。
思考の道筋とポイント
「隣り合う共鳴長の差は半波長」という便利な性質を知らなくても、より基本的な共鳴条件の一般式から解く方法です。
開管の共鳴条件は、管内にできる定常波の腹の数を \(m\)(自然数)として、\(l = m \displaystyle\frac{\lambda}{2}\) と表せます。
\(l=15 \, \text{cm}\) のときの腹の数を未知数 \(m\) とし、\(l=20 \, \text{cm}\) のときの腹の数は「次の」共鳴なので \(m+1\) となります。この2つの条件についてそれぞれ式を立て、連立方程式として解くことで、未知数である \(m\) と \(\lambda\) を両方求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 開管の共鳴条件の一般式: \(l = m \displaystyle\frac{\lambda}{2}\) (\(m=1, 2, 3, \dots\))
- 「次の共鳴」は、次数 \(m\) が \(m+1\) になることを意味する。
- 未知数が \(m\) と \(\lambda\) の2つなので、式が2本あれば解くことができる。
具体的な解説と立式
開管の共鳴条件は、自然数 \(m\) を用いて次のように表されます。
$$ l = m \frac{\lambda}{2} $$
\(l=15 \, \text{cm}\) のときの共鳴について、管内にできる腹の数を \(m\) 個とすると、
$$ 15 = m \frac{\lambda}{2} \quad \cdots ① $$
管を長くして次に共鳴が起こったとき、腹の数は1つ増えて \(m+1\) 個になります。このときの長さは \(l=20 \, \text{cm}\) なので、
$$ 20 = (m+1) \frac{\lambda}{2} \quad \cdots ② $$
この2つの式を連立させて、波長 \(\lambda\) を求めます。
使用した物理公式
- 開管の共鳴条件(一般式): \(l = m \displaystyle\frac{\lambda}{2}\)
- 波の基本式: \(V = f\lambda\)
②式から①式を辺々引くことで、\(m\) を消去します。
$$
\begin{aligned}
20 – 15 &= (m+1)\frac{\lambda}{2} – m\frac{\lambda}{2} \\[2.0ex]
5.0 &= \left( (m+1) – m \right) \frac{\lambda}{2} \\[2.0ex]
5.0 &= \frac{\lambda}{2}
\end{aligned}
$$
したがって、波長 \(\lambda\) は、
$$
\begin{aligned}
\lambda &= 10 \, (\text{cm}) \\[2.0ex]
&= 0.10 \, (\text{m})
\end{aligned}
$$
となり、主たる解法と同じ結果が得られます。
この後の振動数 \(f\) の計算、および定常波の作図は主たる解法と全く同じです。
(参考)この方法では、\(m\) の値も具体的に求めることができます。求めた \(\lambda/2 = 5.0\) を①式に代入すると、
$$ 15 = m \times 5.0 $$
よって、\(m=3\) となります。
これにより、\(l=15 \, \text{cm}\) の共鳴は3倍振動、\(l=20 \, \text{cm}\) の共鳴は4倍振動であったことが明確にわかります。
開管が共鳴するのは、管の長さに波が「半個」「1個」「1.5個」…と、つまり「半個の整数倍」だけきれいに収まるときです。
\(15 \, \text{cm}\) のときに波が「半個の \(m\) 倍」収まったとすると、次の \(20 \, \text{cm}\) のときには波が「半個の \((m+1)\) 倍」収まったはずです。
この2つの条件を数式にして連立方程式を解けば、波長や、最初の共鳴が何番目のものだったか(\(m\)の値)を、パズルのように解き明かすことができます。
主たる解法と全く同じ結果が得られました。この方法は、なぜ隣り合う共鳴長の差が半波長になるのかを数式で示しており、物理的な背景の理解を助けます。また、最初の共鳴が3倍振動であることも明確に計算できるため、より情報量が多く、応用範囲の広い解法と言えます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 定常波の構造と共鳴条件:
- 核心: この問題の根幹は、音源(音さ)の振動数が一定のとき、管の長さと波長との間に特定の幾何学的関係が成立したときにのみ「共鳴」という現象が起こる、という定常波の原理を理解することにあります。
- 理解のポイント:
- 波長の不変性: 音源の振動数 \(f\) と媒質中の音速 \(V\) が一定であるため、波長 \(\lambda = V/f\) も一定です。共鳴は、この「決まった長さの波」を、管という「器」にうまく収める作業と考えることができます。
- 境界条件の役割: 開管の場合、「両端が腹」という境界条件が課せられます。この条件を満たすためには、管の長さ \(l\) が半波長 \(\lambda/2\) の整数倍 (\(l = m \lambda/2\)) にならなければなりません。
- 隣り合う共鳴の意味: 管の長さを連続的に変えていくと、この条件を満たす点が飛び飛びに現れます。「隣り合う共鳴」とは、この整数 \(m\) が1つだけ変化すること(例: 3倍振動から4倍振動へ)を意味し、そのときの長さの変化分がちょうど半波長 \(\lambda/2\) に対応します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 閉管の場合: 問題が開管ではなく閉管の場合、共鳴条件が \(l = m \displaystyle\frac{\lambda}{4}\)(\(m\)は正の奇数)に変わります。このとき、隣り合う共ミング長の差は \(\Delta l = (m+2)\displaystyle\frac{\lambda}{4} – m\displaystyle\frac{\lambda}{4} = \displaystyle\frac{\lambda}{2}\) となり、実は開管と同じく半波長差となります。この性質は非常に応用が利きます。
- 未知の音速を求める問題: 振動数が既知の音さを用い、共鳴する管の長さを測定することで、逆にその場の音速 \(V\) を求める問題に応用できます。
- 開口端補正を考慮する問題: より精密な問題では、腹の位置が管口から少し外側にずれる「開口端補正 \(\Delta l\)」を考慮する必要があります。この場合、共鳴条件は \(l+\Delta l = m \lambda/2\)(開管)のようになりますが、隣り合う共鳴長の差を考えると \(\Delta l\) が消去されるため、波長 \(\lambda\) は開口端補正を無視したときと同じように求めることができます。
- 初見の問題での着眼点:
- 固定されている物理量は何か?: この問題では音さの振動数 \(f\) が固定です。逆に、管の長さを固定して音源の振動数を変える問題もあります。何が定数で何が変数かを見極めることが第一歩です。
- 「はじめ」「次」の言葉に注意: 「はじめの共鳴」が必ずしも基本振動ではない、という本問の教訓は非常に重要です。「\(m\)番目の共鳴」「その次の共鳴」と一般化して考える癖をつけましょう。
- 差分に着目する: 2つの状態が与えられた問題では、それらの差を取ることで未知数が消去され、問題が簡単になることがよくあります。本問の「長さの差が半波長」という考え方はその典型例です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 「はじめの共鳴=基本振動」という思い込み:
- 誤解: 問題文に「はじめに共鳴した」とあると、無条件にそれが基本振動(\(m=1\))だと考えてしまう。
- 対策: 問題文に「基本振動」と明記されていない限り、それは何倍振動かわからない、と考えるのが安全です。別解で示したように、未知の次数 \(m\) を用いて立式する習慣をつけることで、この種の思い込みによるミスを根本的に防ぐことができます。
- 単位換算の忘れ:
- 誤解: 波長を cm のまま、音速を m/s のまま \(V=f\lambda\) の式に代入してしまう。
- 対策: 計算を実行する直前に、全ての物理量の単位がSI基本単位系(メートル、秒、ヘルツなど)に揃っているかを確認する「単位チェック」を儀式化しましょう。特に長さの cm → m への換算は頻出です。
- 開管と閉管の条件の混同:
- 誤解: 開管なのに、閉管の条件式 \(l=m\lambda/4\) を使ってしまう。
- 対策: 「開管=両端が自由」「閉管=片方が固定」というイメージを持ち、定常波の図を頭に浮かべる、あるいは実際に描いてみることが最も確実です。開管は腹-腹なので半波長の整数倍、閉管は腹-節なので1/4波長の奇数倍、と視覚的に理解しましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 隣り合う共鳴長の差 \(\Delta l = \lambda/2\) の利用:
- 選定理由: この問題では「隣り合う」2つの共鳴状態が与えられており、未知数は振動数 \(f\)(または波長 \(\lambda\))と、最初の共鳴の次数 \(m\) の2つです。この性質を利用すると、次数 \(m\) を知らなくても直接波長 \(\lambda\) を求めることができるため、最も効率的な解法となります。
- 適用根拠: この関係は、開管の共鳴条件 \(l_m = m \lambda/2\) と \(l_{m+1} = (m+1)\lambda/2\) の差を取ることで数学的に導かれます。物理的には、管の長さを半波長分だけ伸ばすと、定常波の「腹一つ分」がぴったり追加され、再び境界条件を満たす安定した振動モード(次の次数の共鳴)が形成される、ということを意味しています。
- 共鳴条件の一般式 \(l = m \lambda/2\) の利用(別解):
- 選定理由: こちらはより原理的なアプローチです。「隣り合う共鳴長の差が半波長」という便利な性質を忘れてしまった場合や、その性質がなぜ成り立つのかを根本から理解したい場合に有効です。また、隣り合わない共鳴(例:\(m\) と \(m+2\))にも対応できる一般性があります。
- 適用根拠: この式は、開管の「両端が腹」という境界条件を満たす波だけが定常波として存在できる、という物理的な要請そのものを数式で表現したものです。したがって、全ての共鳴現象の出発点となる最も基本的な関係式です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位を明記しながら計算する: 計算過程で \(5.0 \, \text{cm}\) や \(0.10 \, \text{m}\) のように単位を書き添える癖をつけると、最終的な単位換算のミスを防ぎやすくなります。
- 整数比の活用: \(l=15 \, \text{cm}\) と \(l=20 \, \text{cm}\) の共鳴は、\(15:20 = 3:4\) という簡単な整数比になっています。開管の共鳴長は次数 \(m\) に比例する (\(l \propto m\)) ので、この比から、2つの共鳴が3倍振動と4倍振動であると直接見抜くことも可能です。\(l_{m}:l_{m+1} = m:(m+1)\) なので、\(m:(m+1) = 3:4\) より \(m=3\) とわかります。このような整数比への着目は、検算や時間短縮に役立ちます。
- 作図による検証: 計算で求めた振動モード(例:3倍振動)が、実際に管の長さと矛盾しないか、簡単な図を描いて確認する習慣をつけましょう。「両端が腹」「腹が3つ」という条件で図を描いてみると、管の長さが半波長の3倍になっていることが視覚的に確認でき、計算結果への自信につながります。
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23 うなり
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法(候補を2つ立て、文章による論理的な吟味で絞り込む解法)を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 条件を数式(不等式)として立式し、連立させて解く方法
- 主たる解法が、候補を立てた後に文章で論理的に吟味するのに対し、別解では「うなりが減った」という条件も数式(不等式)で表現し、連立方程式(不等式)として解くことで、より形式的・数学的に答えを導出します。
- 条件を数式(不等式)として立式し、連立させて解く方法
- 上記の別解が有益である理由
- 思考の明確化: 問題文の条件をすべて数式に落とし込むことで、思考のプロセスが明確になり、論理の飛躍や曖昧さをなくすことができます。
- 思考の一般化: 条件がより複雑になった問題(例:「うなりが半分になった」など)に対しても、同様に数式を立てて解くという汎用的なアプローチを学ぶことができます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「うなりの基本原理の応用」です。うなりの振動数が2つの音の振動数の差で与えられることを利用し、与えられた複数の条件から未知の音源の振動数を特定する、論理パズルのような問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- うなりの振動数の定義: 振動数がわずかに異なる2つの音を同時に鳴らしたとき、聞こえる音の強弱の周期的な変化が「うなり」であり、その振動数(1秒あたりのうなりの回数)は \(f_{\text{うなり}} = |f_1 – f_2|\) で与えられること。
- 振動数と周期の関係: 振動数 \(f\) と周期 \(T\) は互いに逆数の関係にあること (\(T = 1/f\))。
- 論理的な候補の絞り込み: うなりの公式には絶対値が含まれるため、未知の振動数には通常2つの候補が考えられます。与えられた追加の条件を用いて、どちらの候補が正しいかを論理的に判断するプロセスが重要です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 最初の条件「400 Hzの音と鳴らしたら5秒間に15回のうなり」から、うなりの振動数を計算し、未知の音さSの振動数の候補を2つ求めます。
- 2番目の条件「405 Hzの音と鳴らしたらうなりの回数が減った」を使い、1.で求めた2つの候補のうち、どちらがこの条件を満たすかを吟味して、音さSの真の振動数を特定します。
- 特定した音さSの振動数と405 Hzの音とのうなりについて、問題で問われている振動数と周期を計算します。