「物理のエッセンス(力学・波動)」徹底解説(力学41〜45問):物理の”土台”を固める!完全マスター講座

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力学範囲 41~45

41 運動方程式

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「斜め方向に力を受ける物体の運動」です。物体に加わる力を水平・鉛直方向に分解し、それぞれの方向で力のつり合いや運動方程式を考える、力学の基本問題です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 力の分解: 斜め方向に加わる力を、運動を記述しやすい水平方向と鉛直方向の成分に分解する技術が不可欠です。
  2. 垂直抗力の決定: 垂直抗力は、常に \(mg\) とは限りません。鉛直方向の力のつり合いを考えることで、その場面に応じた正しい大きさを求める必要があります。この問題では、力\(F_0\)の上向き成分が物体を軽くする効果を持つため、垂直抗力は\(mg\)より小さくなります。
  3. 動摩擦力: 動摩擦力の大きさは \( \mu N \) で決まります。垂直抗力\(N\)が変化するため、動摩擦力の大きさも変化することに注意が必要です。
  4. 運動方程式: 水平方向の合力を正しく求め、運動方程式 \(ma=F\) を立てて加速度を計算します。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 物体に働くすべての力を図示します(重力、垂直抗力、加える力\(F_0\)、動摩擦力)。
  2. 加える力\(F_0\)を水平成分と鉛直成分に分解します。
  3. 物体は鉛直方向には運動しないため、「鉛直方向の力のつり合い」の式を立て、垂直抗力\(N\)の大きさを求めます。
  4. 水平方向について運動方程式を立てます。合力は、力\(F_0\)の水平成分から動摩擦力を引いたものになります。
  5. 立てた運動方程式を、加速度\(a\)について解きます。

斜め方向に力を加え続けたときの加速度

思考の道筋とポイント
この問題の最大のポイントは、力が斜め上向きに加わっている点です。この力\(F_0\)は、物体を水平方向に動かすと同時に、鉛直上向きに持ち上げる効果も持っています。
この「持ち上げる効果」により、床が物体を支える力、すなわち垂直抗力\(N\)が、ただ置かれているだけのとき(\(N=mg\))よりも小さくなります。
動摩擦力の大きさは\(\mu N\)で決まるため、垂直抗力\(N\)が小さくなると、動摩擦力も小さくなります。
したがって、まずは鉛直方向の力のつり合いを考えて、この問題における正しい垂直抗力\(N\)の大きさを求めることが第一歩となります。
垂直抗力\(N\)が分かれば、動摩擦力の大きさが計算できます。
最後に、水平方向の運動方程式を立てます。水平方向の合力は、「力\(F_0\)の水平成分(右向き)」と「動摩擦力(左向き)」の差になります。この合力を使って運動方程式を立てれば、加速度\(a\)を求めることができます。
この設問における重要なポイント

  • 斜めの力\(F_0\)を水平成分 \(F_0\cos30^\circ\) と鉛直成分 \(F_0\sin30^\circ\) に分解する。
  • 鉛直方向の力のつり合いから、垂直抗力\(N\)を求める(\(N \neq mg\))。
  • 水平方向の合力(\(F_0\)の水平成分 – 動摩擦力)を正しく計算する。

具体的な解説と立式
1. 力の分解と鉛直方向のつり合い
物体に働く力は、重力\(mg\)、垂直抗力\(N\)、動摩擦力\(\mu N\)、そして力\(F_0\)です。
まず、力\(F_0\)を水平成分と鉛直成分に分解します。

  • 水平成分: \(F_0\cos30^\circ\) (右向き)
  • 鉛直成分: \(F_0\sin30^\circ\) (上向き)

物体は鉛直方向には運動しないので、力のつり合いが成り立ちます。
上向きの力は、垂直抗力\(N\)と力\(F_0\)の鉛直成分\(F_0\sin30^\circ\)の和です。
下向きの力は、重力\(mg\)です。
(上向きの力の和)=(下向きの力の和)より、
$$
\begin{aligned}
N + F_0\sin30^\circ &= mg
\end{aligned}
$$
この式を\(N\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
N &= mg – F_0\sin30^\circ
\end{aligned}
$$

2. 水平方向の運動方程式
水平右向きを正とし、加速度を\(a\)とします。
水平方向に働く力は、右向きの\(F_0\cos30^\circ\)と、左向きの動摩擦力\(\mu N\)です。
合力\(F_{\text{合力}}\)は、
$$
\begin{aligned}
F_{\text{合力}} &= F_0\cos30^\circ – \mu N
\end{aligned}
$$
したがって、運動方程式 \(ma = F_{\text{合力}}\) は以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
ma &= F_0\cos30^\circ – \mu N
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 力のつり合い: \((鉛直方向の力の和)=0\)
  • 動摩擦力: \(F’ = \mu N\)
  • 運動方程式: \(ma = F\)
計算過程

運動方程式に、鉛直方向のつり合いから求めた \(N = mg – F_0\sin30^\circ\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
ma &= F_0\cos30^\circ – \mu (mg – F_0\sin30^\circ)
\end{aligned}
$$
三角関数の値を代入し、式を整理します。
$$
\begin{aligned}
ma &= F_0 \cdot \frac{\sqrt{3}}{2} – \mu \left(mg – F_0 \cdot \frac{1}{2}\right) \\[2.0ex]
ma &= \frac{\sqrt{3}}{2}F_0 – \mu mg + \frac{\mu}{2}F_0 \\[2.0ex]
ma &= \left(\frac{\sqrt{3}}{2} + \frac{\mu}{2}\right)F_0 – \mu mg \\[2.0ex]
ma &= \frac{\sqrt{3}+\mu}{2}F_0 – \mu mg
\end{aligned}
$$
最後に、両辺を質量\(m\)で割って加速度\(a\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
a &= \frac{\sqrt{3}+\mu}{2m}F_0 – \frac{\mu mg}{m} \\[2.0ex]
&= \frac{\sqrt{3}+\mu}{2m}F_0 – \mu g
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

スーツケースを斜め上に引きながら歩くときを想像してみてください。引く力は、スーツケースを前に進めるだけでなく、少し持ち上げる効果もありますよね。
この「持ち上げる効果」のせいで、地面がスーツケースを支える力(垂直抗力)は、ただ置いているときよりも軽くなります。摩擦力は垂直抗力に比例するので、結果として摩擦も小さくなります。
この問題は、この効果をきちんと計算に入れることがポイントです。
まず、「上下方向の力の釣り合い」から、軽くなったぶんの垂直抗力を計算します。
次に、「前後方向の運動」について、前に進める力(引く力の水平成分)から、小さくなった摩擦力を引いたものが、物体を加速させる正味の力になります。この正味の力を使って運動方程式を解けば、加速度が計算できます。

結論と吟味

加速度は \(a = \displaystyle\frac{\sqrt{3}+\mu}{2m}F_0 – \mu g\) となります。
この結果を吟味してみましょう。

  • もし力が水平に加えられた場合(角度が0°)、\(\cos0^\circ=1, \sin0^\circ=0\) なので、\(N=mg\)、\(ma = F_0 – \mu mg\) となり、\(a = \frac{F_0}{m} – \mu g\) となります。これは、前問(40)に水平な力\(F_0\)を加えた状況と同じです。
  • 力\(F_0\)が大きくなるほど、加速度\(a\)も大きくなります。
  • 動摩擦係数\(\mu\)が大きいほど、加速度\(a\)は小さくなります。

これらは物理的に妥当な結果です。また、物体が浮き上がらないためには \(N \ge 0\)、つまり \(mg – F_0/2 \ge 0\) という条件が隠されています。

解答 \(\displaystyle\frac{\sqrt{3}+\mu}{2m}F_0 – \mu g\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 力の分解と独立性(ベクトルの成分):
    • 核心: この問題の根幹は、斜め向きの力 \(\vec{F_0}\) を、互いに直交する水平成分と鉛直成分に分解して考えることにあります。そして、「水平方向の運動(加速度運動)」と「鉛直方向の運動(つり合い)」は、それぞれ独立した問題として扱うことができる、という物理学の基本原則を理解することが重要です。
    • 理解のポイント:
      • 力の分解: 1つの斜め向きの力 \(\vec{F_0}\) を、水平方向への効果 (\(F_0\cos30^\circ\)) と鉛直方向への効果 (\(F_0\sin30^\circ\)) という、2つの独立した効果の重ね合わせとして捉えます。
      • 運動の独立性: 鉛直方向の力の成分は、鉛直方向の力のつり合い(垂直抗力の決定)にのみ影響し、水平方向の運動には直接関与しません。同様に、水平方向の力の成分は、水平方向の運動(加速度の決定)にのみ影響します。この分離思考が、問題を解く上での鍵となります。
  • 垂直抗力の動的な性質:
    • 核心: 垂直抗力 \(N\) は、常に重力 \(mg\) と等しいわけではなく、その場における鉛直方向の力のつり合いによって動的に決まる「応答力」である、という本質を理解することが求められます。
    • 理解のポイント:
      • 水平な床にただ物体を置いた状態では、鉛直方向の力は重力のみなので、\(N=mg\) となります。
      • この問題のように、外部から鉛直方向の力が加わる(\(F_0\sin30^\circ\))と、床が支えるべき力は変化します。上向きの力が加われば、床の負担は減り \(N < mg\) となり、下向きの力が加われば、床の負担は増え \(N > mg\) となります。
      • この \(N\) の値が動摩擦力 \(\mu N\) を決定するため、鉛直方向の力のつり合いを正しく計算することが、水平方向の運動を正しく記述するための大前提となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 斜め下向きに押す場合: 荷物を斜め下向きに押しながら動かす問題。この場合、押す力の鉛直成分が垂直抗力を \(N = mg + F_0\sin\theta\) のように増加させるため、動摩擦力も大きくなります。
    • 飛行機や凧: 飛行機の揚力や凧が糸から受ける張力など、重力に対して斜め向きの力が働く物体の運動を考える問題。
    • 斜面上で斜め方向に引く場合: 粗い斜面上の物体を、斜面に平行ではなく、斜め上方に引くような複雑な状況。この場合も、力を「斜面に平行な方向」「斜面に垂直な方向」「それらに垂直な方向」の3成分に分解して、各方向の運動方程式やつり合いを考えます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 斜めの力を見つける: まず、問題に斜め向きの力が存在するかを確認します。存在すれば、必ず分解が必要になります。
    2. 座標軸を設定する: 運動の方向(水平方向)と、それに垂直な方向(鉛直方向)にx軸、y軸を設定します。
    3. 全ての力を成分分解する: 図に描いた全ての力を、設定したx軸、y軸の成分に分解します。
    4. y軸方向のつり合いを先に解く: 多くの場合、y軸方向(運動と垂直な方向)はつり合いの状態にあります。このつり合いの式を先に解いて、垂直抗力 \(N\) を求めるのが定石です。
    5. x軸方向の運動方程式を解く: 求めた \(N\) を使って動摩擦力を計算し、x軸方向(運動方向)の運動方程式を立てて、加速度を求めます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 垂直抗力を \(N=mg\) と思い込む:
    • 誤解: どんな状況でも垂直抗力は \(mg\) である、と機械的に覚えてしまっている。
    • 対策: 「垂直抗力は、床が物体を支えるために押し返す力であり、その大きさはその時々で変わる」と理解することが重要です。必ず、鉛直方向の力のつり合いの式を立てて、その都度 \(N\) を求める癖をつけましょう。
  • 力の分解ミス:
    • 誤解: 水平成分と鉛直成分に分解する際に、\(\cos\) と \(\sin\) を取り違える。
    • 対策: 図を大きく描き、力のベクトルを対角線とする長方形を描くことで、どちらの辺が \(\cos\) でどちらが \(\sin\) かを視覚的に確認しましょう。角度 \(\theta\) を「挟む」辺が \(\cos\theta\)、角度の「向かい側」の辺が \(\sin\theta\) と覚えるのが有効です。
  • 動摩擦力の計算ミス:
    • 誤解: 運動方程式を立てる際に、動摩擦力を \(\mu mg\) と、無意識のうちに計算してしまう。
    • 対策: 動摩擦力の公式は \(\mu N\) である、と正確に覚えることが重要です。そして、その \(N\) は鉛直方向のつり合いから求めた、その問題に固有の値(この場合は \(mg – F_0/2\))であることを常に意識しましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 力の分解という手続き:
    • 選定理由: 運動方程式 \(ma=F\) はベクトル方程式であり、本来はx, y, zの各成分について独立して成り立ちます。斜めの力をそのまま扱うのはベクトル計算が複雑になるため、我々が扱いやすいスカラー量(数値)の方程式にするために、各成分に分解するという数学的な手続きを選択します。
    • 適用根拠: 物理学において、直交する方向の運動は互いに影響を及ぼさない「運動の独立性」という原理があります。力を直交する成分に分解することは、この原理に基づいて運動を分析するための最も基本的かつ論理的な方法です。
  • 鉛直方向の「つり合い」と水平方向の「運動方程式」:
    • 選定理由: 物体の運動状態を観察し、それぞれの方向で適切な物理法則を選択します。
    • 適用根拠:
      • 鉛直方向: 物体は床から浮き上がったり、床にめり込んだりしないので、この方向の加速度はゼロです。したがって、運動方程式 \(ma_y = F_y\) に \(a_y=0\) を代入した特殊な形、すなわち力のつり合いの式 \(F_y=0\) を適用します。
      • 水平方向: 物体は「すべらせた」とあるので、この方向には加速度が存在します(\(a_x \neq 0\))。したがって、一般形の運動方程式 \(ma_x = F_x\) を適用する必要があります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 力の図示を徹底する: 物体に働く全ての力(分解前の力と分解後の成分も)を、フリーハンドでよいので図に描き込みましょう。視覚的に力を把握することで、立式のミスを大幅に減らせます。
  • 文字式の整理を丁寧に行う: 模範解答のように、運動方程式に \(N\) の式を代入した後は、\(F_0\) の項とそれ以外の項をきちんと整理してから、最後に \(a\) について解くと、計算ミスが減ります。
  • 答えの吟味: 得られた答え \(a = \frac{\sqrt{3}+\mu}{2m}F_0 – \mu g\) が、物理的に妥当な振る舞いをするか確認します。例えば、もし \(\mu=0\)(摩擦がない)なら、\(a = \frac{\sqrt{3}}{2m}F_0\) となり、加速度は力の水平成分にのみ比例します。これは正しいです。もし \(F_0=0\) なら、\(a = -\mu g\) となり、これは前問(40)の結果と一致します。このようなチェックは、答えの確信度を高めます。

42 等速度運動

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「空気抵抗を受ける物体の運動と終端速度」です。速度に比例する抵抗力が働く場合の運動を、力のつり合いと運動方程式を用いて分析する問題です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 速度に比例する抵抗力: 空気中などを運動する物体が受ける抵抗力の一種で、その大きさは速さ\(v\)に比例し \(kv\) と表されます(\(k\)は比例定数)。向きは常に運動方向と逆向きです。
  2. 終端速度: 落下運動において、速度が増加するにつれて抵抗力も大きくなり、やがて抵抗力と重力がつり合うと、合力がゼロになります。その結果、加速度がゼロとなり、物体は一定の速度で落下し続けます。このときの速度を「終端速度」と呼びます。
  3. 力のつり合い: 物体が一定の速度(加速度ゼロ)で運動しているとき、物体に働く合力はゼロです。
  4. 運動方程式: 物体が加速しているとき(速度が終端速度に達する前)、その加速度は運動方程式 \(ma=F\) に従って決まります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 設問の前半(終端速度\(u\)を求める)では、「一定の速度になった」という記述から、雨滴に働く力がつり合っている(合力がゼロ)と考え、力のつり合いの式を立てて\(u\)を求めます。
  2. 設問の後半(速度が\(\frac{1}{3}u\)のときの加速度を求める)では、物体はまだ加速している途中なので、運動方程式を立てます。合力は、重力からその瞬間の抵抗力を引いたものになります。

終端速度 \(u\)

思考の道筋とポイント
「一定の速度(終端速度 \(u\))になってしまう」という記述が、この問題を解く鍵です。物理学において、速度が一定ということは、加速度がゼロであることを意味します。
運動方程式 \(ma=F\) によれば、加速度がゼロになるのは、物体に働く合力\(F\)がゼロになるときです。
雨滴に働く力は、鉛直下向きの「重力」と、鉛直上向きの「空気抵抗」の2つです。
したがって、終端速度に達したとき、これら2つの力がつり合っている、と考えられます。この力のつり合いの式を立てることで、終端速度\(u\)を求めることができます。
この設問における重要なポイント

  • 「一定の速度」「終端速度」 \(\rightarrow\) 加速度 \(a=0\)。
  • 加速度 \(a=0\) \(\rightarrow\) 合力 \(F=0\) (力のつり合い)。
  • 空気抵抗の大きさは、そのときの速さ\(u\)に比例して \(ku\) となる。

具体的な解説と立式
終端速度\(u\)で落下している雨滴に働く力は以下の2つです。

  • 重力: 鉛直下向きに大きさ\(mg\)。
  • 空気抵抗: 速度が\(u\)なので、鉛直上向きに大きさ\(ku\)。

雨滴は一定の速度で運動しているので、加速度は0であり、働く力はつり合っています。
(上向きの力の和)=(下向きの力の和)より、
$$
\begin{aligned}
ku &= mg
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 力のつり合い: \((上向きの力の和) = (下向きの力の和)\)
  • 速度に比例する抵抗力: \(F_{\text{抵抗}} = kv\)
計算過程

上記で立式した力のつり合いの式を、\(u\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
u &= \frac{mg}{k}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

雨粒が空から落ちてくるとき、最初は重力でどんどん加速しますが、スピードが上がるにつれて空気抵抗も強くなります。そして、あるスピードに達すると、下向きの重力と上向きの空気抵抗がちょうど同じ強さになり、綱引きが引き分けの状態になります。
力が釣り合うと、それ以上加速も減速もしなくなり、一定のスピードで落ちてきます。この最終的なスピードが「終端速度」です。
この問題は、その「力が釣り合っている状態」を数式にすることで、終端速度を計算するものです。

結論と吟味

終端速度は \(u = \displaystyle\frac{mg}{k}\) となります。
この式は、雨滴の質量\(m\)が大きいほど(重いほど)、また空気抵抗の比例定数\(k\)が小さいほど(空気抵抗が効きにくいほど)、終端速度は大きくなることを示しています。これは、鉄球と羽毛の落下を比べたときの直感的なイメージと一致しており、物理的に妥当な結果です。

解答 \(\displaystyle u = \frac{mg}{k}\)

速度が \(\frac{1}{3}u\) のときの加速度

思考の道筋とポイント
速度が\(\frac{1}{3}u\)のときは、まだ終端速度に達しておらず、雨滴は加速している途中です。したがって、この瞬間の運動を記述するには、力のつり合いではなく、運動方程式 \(ma=F\) を用いる必要があります。
鉛直下向きを正として座標軸を設定し、加速度を\(a\)と置きます。
この瞬間に働く力は、下向きの重力\(mg\)と、上向きの空気抵抗です。空気抵抗の大きさは、そのときの速さ \(\frac{1}{3}u\) に比例するので、\(k \cdot (\frac{1}{3}u)\) となります。
これらの力から合力を求め、運動方程式を立てて加速度\(a\)を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 終端速度に達する前は、加速している(\(a \neq 0\))。
  • 運動方程式 \(ma=F\) を適用する。
  • 空気抵抗の大きさは、その瞬間の速さに比例する。

具体的な解説と立式
雨滴の速度が \(v = \frac{1}{3}u\) の瞬間を考えます。
鉛直下向きを正とし、加速度を\(a\)とします。
このとき雨滴に働く力は、

  • 重力: 正の向き(下向き)に\(mg\)。
  • 空気抵抗: 負の向き(上向き)に大きさ \(kv = k \cdot \frac{u}{3}\)。

したがって、合力\(F_{\text{合力}}\)は、
$$
\begin{aligned}
F_{\text{合力}} &= mg – k \frac{u}{3}
\end{aligned}
$$
運動方程式 \(ma = F_{\text{合力}}\) は、
$$
\begin{aligned}
ma &= mg – k \frac{u}{3}
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(ma = F\)
  • 速度に比例する抵抗力: \(F_{\text{抵抗}} = kv\)
計算過程

上記で立式した運動方程式に、先に求めた \(u = \displaystyle\frac{mg}{k}\) の関係(すなわち \(mg = ku\))を代入して式を簡単にします。
$$
\begin{aligned}
ma &= mg – k \frac{u}{3}
\end{aligned}
$$
ここで、\(k \cdot \frac{u}{3} = \frac{ku}{3}\) であり、\(ku=mg\) なので、\(k \cdot \frac{u}{3} = \frac{mg}{3}\) となります。これを代入すると、
$$
\begin{aligned}
ma &= mg – \frac{1}{3}mg \\[2.0ex]
ma &= \frac{2}{3}mg
\end{aligned}
$$
両辺を\(m\)で割ると、
$$
\begin{aligned}
a &= \frac{2}{3}g
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

終端速度に達する前の、まだスピードが遅いとき(終端速度の3分の1の速さのとき)は、空気抵抗もまだ弱いです。
この瞬間、下向きの重力はフルパワーで働いていますが、上向きの空気抵抗はまだ終端速度のときの3分の1の強さしかありません。
したがって、力の綱引きはまだ重力側が勝っている状態で、その差のぶんだけ雨粒は下向きに加速します。この「力の差」を使って運動方程式を解けば、その瞬間の加速度が計算できます。

結論と吟味

速度が\(\frac{1}{3}u\)のときの加速度は \(a = \displaystyle\frac{2}{3}g\) となります。
この結果を吟味してみましょう。

  • 加速度は正の値なので、下向きに加速していることを示しており、状況と一致します。
  • この加速度は、重力加速度\(g\)よりも小さいです。これは、空気抵抗が重力の一部を打ち消しているためで、妥当です。
  • もし落下し始めの瞬間(\(v=0\))を考えると、抵抗力は0なので、運動方程式は \(ma = mg\) となり \(a=g\) となります。速度が増すにつれて抵抗力が大きくなり、加速度は\(g\)から徐々に減少し、最終的に終端速度で0になります。\(a = \frac{2}{3}g\) という値は、この減少の過程の途中段階として妥妥当な値です。
解答 \(\displaystyle\frac{2}{3}g\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 力の状態に応じた法則の使い分け:
    • 核心: この問題の根幹は、物体の運動状態(加速度がゼロか、ゼロでないか)に応じて、適用すべき物理法則を正しく選択することにあります。
    • 理解のポイント:
      • つり合いの状態(\(a=0\)): 問題文の「一定の速度」「終端速度」というキーワードは、物体に働く合力がゼロであることを示唆しています。この状態では、運動方程式 \(ma=F\) の特別な場合である「力のつり合いの式 (\(F=0\))」を適用します。これが終端速度\(u\)を求める際の考え方です。
      • 加速している状態(\(a \neq 0\)): 終端速度に達する前の途中段階では、合力はゼロではなく、物体は加速しています。この状態を記述するには、一般の「運動方程式 (\(ma=F\))」を適用する必要があります。これが速度が\(\frac{1}{3}u\)のときの加速度を求める際の考え方です。

      この問題は、同じ物体でも、その時々の運動状態によって力の関係性が変わり、用いるべき法則も変わるという点を理解することが極めて重要です。

  • 速度に依存する力(抵抗力)のモデル化:
    • 核心: この問題は、力が常に一定ではなく、物体の運動状態(今回は速さ)によって大きさが変化する、より現実的な状況を扱っています。抵抗力が \(kv\) と表されることを理解し、運動方程式に組み込むことが求められます。
    • 理解のポイント:
      • 抵抗力は、速さ\(v\)の関数です (\(F_{\text{抵抗}}(v) = kv\))。
      • 運動方程式は \(ma = mg – F_{\text{抵抗}}(v) = mg – kv\) となり、加速度\(a\)もまた、その瞬間の速さ\(v\)によって変化することが分かります。
      • このように、加速度が一定ではないため、\(v^2-v_0^2=2ax\) のような等加速度運動の公式は、この問題の運動全体を通しては適用できないことに注意が必要です。(ただし、ある一瞬の加速度を求めることはできます)
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • パラシュートの運動: パラシュートが開くと、空気抵抗の係数\(k\)が急激に大きくなり、終端速度が大幅に低下します。開く前と後で、それぞれ終端速度を計算する問題などに応用できます。
    • 水中を沈む物体の運動: 水中では、重力、浮力、そして水の抵抗力(粘性抵抗)の3つの力が働きます。これらの力がつり合うときの終端速度を求める問題。
    • 電気回路のアナロジー(RL回路): コイルを含む直流回路で、電流の時間変化を表す微分方程式は、この問題の運動方程式と数学的に全く同じ形をしています。電流が抵抗によって最終的に一定値(終端速度に対応)に落ち着く様子は、物理的に非常に似た現象です。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 「終端速度」「一定の速さになった」という言葉に反応する: このキーワードを見つけたら、即座に「加速度\(a=0\)、つまり力のつり合い」と結びつけます。
    2. 抵抗力の性質を確認する: 抵抗力が何に比例するのか(速さ\(v\)、速さの2乗\(v^2\)など)を問題文から正確に読み取ります。
    3. 運動の段階を区別する: 問題が「終端速度のとき」を問うているのか、それとも「加速している途中」を問うているのかを明確に区別します。前者なら力のつり合い、後者なら運動方程式を適用します。
    4. 座標軸を設定する: 落下運動なので、鉛直下向きを正とすると、重力が正の力となり、計算が少し楽になることが多いです。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • つり合いの式と運動方程式の混同:
    • 誤解: 加速している途中なのに、力のつり合いの式 \(mg=kv\) を立ててしまう。あるいは、終端速度に達しているのに、運動方程式 \(ma=mg-ku\) を立ててしまう。
    • 対策: 「速度が一定か、変化しているか」を常に意識し、それに応じて「つり合い」か「運動方程式」かを明確に使い分ける訓練をしましょう。加速度がゼロかどうかが判断の分かれ目です。
  • 抵抗力の向きの間違い:
    • 誤解: 抵抗力の向きを下向き(重力と同じ向き)にしてしまう。
    • 対策: 抵抗力は、その名の通り、常に物体の「運動を妨げる向き」に働きます。物体が下向きに運動しているなら、抵抗力は必ず上向きです。
  • 文字の代入ミス:
    • 誤解: 速度が\(\frac{1}{3}u\)のときの加速度を求める際に、\(u = \frac{mg}{k}\) の関係をうまく使えず、計算が複雑になる。
    • 対策: 設問が複数ある場合、前の設問の結果を後の設問で利用することがよくあります。\(ma = mg – k\frac{u}{3}\) の式を立てた後、\(ku\) という塊を \(mg\) に置き換える、という視点を持つと、計算が劇的に簡単になります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 終端速度における「力のつり合い」の選定:
    • 選定理由: 「速度が一定」という条件は、加速度がゼロであることを物理的に意味します。
    • 適用根拠: 運動方程式 \(ma=F\) は、物理学の基本法則です。この法則に、観測された事実である \(a=0\) を代入すると、必然的に \(F=0\) という結論が導かれます。これが、この状況で力のつり合いの式を選択する論理的な根拠です。
  • 加速中における「運動方程式」の選定:
    • 選定理由: 速度が終端速度より小さい場合、重力の方が抵抗力より大きいため、合力はゼロにならず、物体は加速し続けます。この「加速度」という量を計算することが問題の要求です。
    • 適用根拠: 力と加速度の関係を記述する唯一の法則が運動方程式 \(ma=F\) です。したがって、加速度がゼロでない運動状態を分析するには、この一般形の運動方程式を用いることが論理的に必須となります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 力の図示: 簡単な問題でも、必ず物体に働く力を矢印で図示する習慣をつけましょう。重力と抵抗力の向きを視覚的に確認することで、符号のミスを防げます。
  • 文字式の整理: 設問の後半で \(ma = mg – k\frac{u}{3}\) という式が出てきますが、ここで焦って \(u\) に \(\frac{mg}{k}\) を代入する前に、\(mg=ku\) という関係が使えないか、と考えるのが賢明です。\(k\frac{u}{3} = \frac{ku}{3} = \frac{mg}{3}\) と気づけば、計算が非常に楽になります。常に、前の結果をうまく利用できないか、という視点を持ちましょう。
  • 極端な場合を考える(吟味):
    • 加速度 \(a = \frac{2}{3}g\) という結果について、もし速度が0(落下直後)なら、抵抗力は0なので \(ma=mg \rightarrow a=g\) となるはずです。
    • もし速度が\(u\)(終端速度)なら、\(ma=mg-ku=mg-mg=0 \rightarrow a=0\) となるはずです。

    速度が\(0\)から\(u\)に増加するにつれて、加速度は\(g\)から\(0\)まで単調に減少すると考えられます。今回求めた \(a=\frac{2}{3}g\) は、この間の妥当な値であり、答えが正しいことを示唆しています。

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43 等速度運動

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「連結された物体の力のつり合い」です。滑車を介して糸で結ばれた2つの物体が、一定の速度で運動している状況を扱います。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 等速運動と力のつり合い: 問題文の「等速\(v\)で動いている」という記述が最も重要です。速度が一定ということは、加速度がゼロであることを意味します。したがって、各物体に働く合力はゼロであり、力のつり合いの式を立てることができます。
  2. 力を個別に考える: 連結された物体であっても、それぞれの物体に働く力を個別に考え、物体ごとに力のつり合いの式を立てます。
  3. 力の分解: 斜面上にある物体Pに働く重力を、斜面に平行な成分と垂直な成分に分解する必要があります。
  4. 糸の張力: 1本の軽い糸で結ばれている場合、糸のどの部分でも張力の大きさは等しくなります。この張力が、2つの物体の運動を関連付ける役割を果たします。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 物体Pと物体Q、それぞれに働く力を図示します。
  2. 物体Pについて、斜面に平行な方向の力のつり合いの式を立てます。
  3. 物体Qについて、鉛直方向の力のつり合いの式を立てます。
  4. これら2つの式に共通して含まれる張力\(T\)を消去することで、質量\(M\)と\(m\)の関係を導き出します。

おもりQの質量 \(M\)

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