「物理のエッセンス(力学・波動)」徹底解説(力学36〜40問):物理の”土台”を固める!完全マスター講座

当ページでは、数式をより見やすく表示するための処理に、少しお時間がかかることがございます。お手数ですが、ページを開いたまま少々お待ちください。

力学範囲 36~40

36 重心

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 設問(2)の別解1: 直線の方程式を用いる解法
      • 模範解答が図形の相似という幾何学的なアプローチで解くのに対し、別解では座標幾何学を用いて、直線の方程式から交点を求める代数的なアプローチを取ります。
    • 設問(2)の別解2: モーメントのつり合いを用いる解法
      • 幾何学的な条件(重心が吊り下げ点の真下に来る)だけでなく、その根拠となる力学的な条件(モーメントのつり合い)からもアプローチできることを示します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 思考の柔軟性向上: 同じ幾何学的条件を、図形の相似と直線の方程式という異なる数学的ツールで表現する経験は、問題解決能力の幅を広げます。
    • 物理的本質の深化: なぜ重心が吊り下げ点の真下に来るのか、その理由がモーメントのつり合いにあることを数式を通して理解できます。
    • 解法選択肢の拡大: 図形的なひらめきに頼らずとも、座標計算で機械的に解ける方法を知っておくことは、試験本番での大きな助けとなります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「複合剛体の重心と、それを用いたつり合いの考察」です。前半はL字型の物体の重心を求める計算問題、後半はその結果を利用して、物体を吊り下げたときの安定なつり合いの位置を求める応用問題です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 重心の計算: 複雑な形状の物体を、重心が明らかな単純な部分(この問題では2本の棒)に分割し、各部分の質量をその重心に集中した質点と見なして、全体の重心を公式を用いて計算します。
  2. 質量と長さの比例関係: 一様な針金の場合、その質量は長さに比例します。
  3. 吊り下げられた物体のつり合い: 糸で物体を吊り下げて静止したとき、物体系全体の重心は、必ず吊り下げ点の真下にきます。これは、重力によるモーメントが0になる安定なつり合いの位置です。
  4. 幾何学的な関係の利用: つり合いの状態を図示し、三角形の相似などを利用して未知の長さを求める能力が問われます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 設問の前半(重心の座標)では、L字型の針金をOA部分とOB部分の2つに分割します。それぞれの質量(長さに比例)と重心の座標を求め、重心の公式を使って全体の重心座標\((x_G, y_G)\)を計算します。
  2. 設問の後半(OCの長さ)では、「A端で吊り下げると、重心GがAの真下に来る」というつり合いの条件を図示します。このときできる図形の幾何学的な関係(特に三角形の相似)を利用して、OCの長さを求めます。

問(1) 重心の座標 (\(x_G\), \(y_G\))

思考の道筋とポイント
L字型の針金を、x軸上のOA部分とy軸上のOB部分の2つに分割して考えます。
まず、各部分の質量を求めます。針金は一様なので、質量は長さに比例します。全体の長さは16cmなので、OA部分(12cm)とOB部分(4cm)の質量は、全体の質量を長さの比 \(12:4 = 3:1\) で分けたものになります。
次に、各部分の重心の座標を求めます。一様な棒なので、重心はその中点です。
最後に、これらを2つの質点と見なし、重心の公式 \(x_G = \frac{m_1x_1 + m_2x_2}{m_1+m_2}\) と \(y_G = \frac{m_1y_1 + m_2y_2}{m_1+m_2}\) を使って、全体の重心座標を計算します。
この設問における重要なポイント

  • L字型を2つの直線部分に分割する。
  • 各部分の質量は、その長さに比例する。
  • 各部分の重心は、その中点である。
  • 重心の公式をx成分、y成分それぞれに適用する。

具体的な解説と立式
針金全体の質量を\(M\)とします。

  1. 各部分の質量と重心座標
    • OA部分:
      • 長さは12cm。全体の長さは16cmなので、質量は \(m_1 = M \times \frac{12}{16} = \frac{3}{4}M\)。
      • 重心\(G_1\)はOAの中点なので、座標は \((12/2, 0) = (6, 0)\)。
    • OB部分:
      • 長さは4cm。質量は \(m_2 = M \times \frac{4}{16} = \frac{1}{4}M\)。
      • 重心\(G_2\)はOBの中点なので、座標は \((0, 4/2) = (0, 2)\)。
  2. 全体の重心座標の計算
    • x座標 \(x_G\):
      $$
      \begin{aligned}
      x_G &= \frac{m_1 x_1 + m_2 x_2}{m_1 + m_2}
      \end{aligned}
      $$
    • y座標 \(y_G\):
      $$
      \begin{aligned}
      y_G &= \frac{m_1 y_1 + m_2 y_2}{m_1 + m_2}
      \end{aligned}
      $$

使用した物理公式

  • 重心の公式: \(x_G = \displaystyle\frac{m_1x_1 + m_2x_2 + \dots}{m_1+m_2+\dots}\), \(y_G = \displaystyle\frac{m_1y_1 + m_2y_2 + \dots}{m_1+m_2+\dots}\)
計算過程
  • x座標 \(x_G\):
    $$
    \begin{aligned}
    x_G &= \frac{(\frac{3}{4}M) \cdot 6 + (\frac{1}{4}M) \cdot 0}{\frac{3}{4}M + \frac{1}{4}M} \\[2.0ex]
    &= \frac{\frac{18}{4}M}{M} \\[2.0ex]
    &= \frac{18}{4} \\[2.0ex]
    &= 4.5 \, \text{cm}
    \end{aligned}
    $$
  • y座標 \(y_G\):
    $$
    \begin{aligned}
    y_G &= \frac{(\frac{3}{4}M) \cdot 0 + (\frac{1}{4}M) \cdot 2}{\frac{3}{4}M + \frac{1}{4}M} \\[2.0ex]
    &= \frac{\frac{2}{4}M}{M} \\[2.0ex]
    &= \frac{2}{4} \\[2.0ex]
    &= 0.5 \, \text{cm}
    \end{aligned}
    $$
この設問の平易な説明

L字型の針金を、横の部分(OA)と縦の部分(OB)の2つの部品に分けて考えます。それぞれの部品の「重さの中心」は、ちょうど真ん中にあります。
次に、それぞれの部品の重さを考えます。今回は横の部分が12cm、縦の部分が4cmなので、重さの比は\(12:4=3:1\)になります。
この「2つの部品の重さ」と「それぞれの中心点の位置」を使って、全体の重心の公式に当てはめれば、L字型全体の「重さの中心」のx座標とy座標を計算することができます。

結論と吟味

重心の座標は \((x_G, y_G) = (4.5, 0.5)\) となります。
OA部分の方がOB部分より3倍重いので、重心のx座標はOAの中点(6)よりも原点側に、y座標はOBの中点(2)よりも原点側に、それぞれ大きく偏ります。計算結果は\(x_G=4.5\)、\(y_G=0.5\)となり、この直感と一致しています。

解答 (1) \((x_G, y_G) = (4.5 \, \text{cm}, 0.5 \, \text{cm})\)

問(2) OCの長さ

思考の道筋とポイント
物体をA端で糸につけてつり下げると、物体は回転し、最終的に安定な位置で静止します。このとき、物理法則として「全体の重心Gは、吊り下げ点Aの真下に来る」という重要な性質があります。
つまり、A点とG点を結ぶ直線AGが、鉛直線になります。
この状態を図に描き、幾何学的な関係、特に三角形の相似を利用してOCの長さを求めます。
この設問における重要なポイント

  • 糸で吊り下げてつり合うとき、重心は吊り下げ点の真下に来る。
  • つまり、線分AGは鉛直方向を向く。
  • 回転後の図形における三角形の相似関係を見つける。

具体的な解説と立式
A端で吊り下げて静止したとき、針金は元の状態から回転し、線分AGが鉛直になります。このとき、元のx軸(線分OA)とy軸(線分OB)も一緒に回転しますが、OAとOBのなす角は90°のままです。
この回転後の状態を図示します。A点が吊り下げ点、ACが鉛直線です。
点Oから鉛直線ACに下ろした垂線の足がCとなります。求めたいのはOCの長さです。
また、重心Gも鉛直線AC上にあります。

ここで、Gから線分OAに垂線を下ろし、その足をDとします。
元の座標系を考えると、各点の長さは以下のようになります。

  • \(OA = 12\)
  • \(AD = OA – OD = 12 – x_G = 12 – 4.5 = 7.5\)
  • \(GD = y_G = 0.5\)

回転後の図において、三角形ACOと三角形ADGを考えます。

  • \(\angle ACO = 90^\circ\) (CはOから鉛直線ACへの垂線の足)
  • \(\angle ADG = 90^\circ\) (DはGからOAへの垂線の足)
  • \(\angle OAC = \angle DAG\) (共通の角)

よって、2つの角が等しいので、三角形ACOと三角形ADGは相似です。
$$
\begin{aligned}
\triangle ACO \sim \triangle ADG
\end{aligned}
$$
相似な三角形の対応する辺の比は等しいので、
$$
\begin{aligned}
\text{OC} : \text{GD} &= \text{OA} : \text{AD}
\end{aligned}
$$
この比例式に、分かっている値を代入します。
$$
\begin{aligned}
\text{OC} : 0.5 &= 12 : 7.5
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • つり合いの条件: 重心は吊り下げ点の真下に来る。
  • 幾何学の定理: 三角形の相似条件と辺の比
計算過程

上記で立式した比例式をOCについて解きます。
$$
\begin{aligned}
7.5 \times \text{OC} &= 0.5 \times 12 \\[2.0ex]
7.5 \times \text{OC} &= 6 \\[2.0ex]
\text{OC} &= \frac{6}{7.5} \\[2.0ex]
&= \frac{60}{75} \\[2.0ex]
&= \frac{4}{5} \\[2.0ex]
&= 0.8 \, \text{cm}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

針金のAの端っこを持ってぶら下げると、針金は少し回転して、ある角度でピタッと止まります。このとき、物理の法則で「針金全体の重さの中心(重心G)は、持っている点Aの真下に来る」ということが決まっています。
この様子を図に描くと、大きな直角三角形ACOと、その中に小さな直角三角形ADGができる形になります。この2つの三角形は形が同じ(相似)なので、対応する辺の長さの比も同じになります。この性質を利用して、「OCの長さ 対 GDの長さ」=「OAの長さ 対 ADの長さ」という比例式を立て、(1)で求めた重心の位置を使って計算すると、OCの長さを求めることができます。

結論と吟味

OCの長さは0.8cmとなります。重心Gのy座標が0.5cmなので、C点はG点よりも少し上に来ます。これは図形的にも妥当な位置関係です。

解答 (2) 0.8 cm
別解1: 直線の方程式を用いる解法

思考の道筋とポイント
「重心Gが吊り下げ点Aの真下に来る」という物理条件を、座標幾何学を用いて解くアプローチです。
元の座標系において、A点とG点を結ぶ直線の方程式を求めます。針金を吊り下げて静止したとき、この直線AGが鉛直になります。このとき、元のy軸(線分OB)がこの鉛直線と交わる点がCとなります。
したがって、直線AGの方程式と、y軸を表す直線(\(x=0\))との交点のy座標を求めることで、OCの長さを計算します。
この設問における重要なポイント

  • つり合いの状態を、元の座標系における幾何学的関係に置き換えて考える。
  • A, G, Cの3点が同一直線上にある、という条件を利用する。
  • 2点を通る直線の方程式を求め、軸との交点を計算する。

具体的な解説と立式
元の座標系において、A点の座標は\((12, 0)\)、重心Gの座標は\((4.5, 0.5)\)です。
吊り下げて静止したとき、A, G, Cは同一直線(鉛直線)上に並びます。点Cは元のy軸上の点なので、その座標は\((0, y_C)\)と表せます。
3点 A\((12,0)\), G\((4.5, 0.5)\), C\((0, y_C)\) が同一直線上にある条件は、「直線AGの傾き」と「直線ACの傾き」が等しいことです。
$$
\begin{aligned}
(\text{AGの傾き}) &= \frac{0.5 – 0}{4.5 – 12} = \frac{0.5}{-7.5} = -\frac{1}{15}
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
(\text{ACの傾き}) &= \frac{y_C – 0}{0 – 12} = \frac{y_C}{-12}
\end{aligned}
$$
これらが等しいので、
$$
\begin{aligned}
-\frac{1}{15} &= \frac{y_C}{-12}
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • つり合いの条件: 重心は吊り下げ点の真下に来る。
  • 幾何学的条件: 3点が同一直線上にある場合、それらの2点間を結ぶ直線の傾きは等しい。
計算過程

上記で立式した方程式を\(y_C\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
y_C &= \left(-\frac{1}{15}\right) \times (-12) \\[2.0ex]
&= \frac{12}{15} \\[2.0ex]
&= \frac{4}{5} \\[2.0ex]
&= 0.8 \, \text{cm}
\end{aligned}
$$
OCの長さは、C点のy座標の値なので、0.8cmです。

この設問の平易な説明

この別解も、「重心Gが吊り下げ点Aの真下に来る」という同じ物理法則を使います。この「A、G、そしてy軸上の点Cが一直線に並ぶ」という条件を、中学校で習う「直線の傾きが同じ」という数学の知識を使って解く方法です。AとGを結んだ直線の傾きと、AとCを結んだ直線の傾きが同じになるはずだ、という式を立てることで、C点の位置、つまりOCの長さを計算できます。

結論と吟味

主たる解法と同じく、OCの長さは0.8cmという結果が得られました。異なる数学的なツール(相似 or 傾き)を使っても、同じ物理的・幾何学的条件を表現しているため、当然同じ答えにたどり着きます。

解答 (2) 0.8 cm
別解2: モーメントのつり合いを用いる解法

思考の道筋とポイント
A端で吊り下げて静止している状態は、A点を回転中心とした力のモーメントがつり合っている状態でもあります。この系に働く外力は、A点での糸の張力と、重心Gに働く重力\(Mg\)の2つだけです。
A点を回転中心に考えると、張力のモーメントは0になります。したがって、つり合うためには重力によるモーメントも0にならなければなりません。重力によるモーメントが0になるのは、重力の作用線が回転中心Aを通るとき、すなわち、重心GがAの真下に来るときです。
この別解は、なぜ重心が真下に来るのかを力学的に確認し、その後の幾何学的計算は主たる解法や別解1と同じになる、という流れです。
この設問における重要なポイント

  • 吊り下げ点でつり合う \(\iff\) 吊り下げ点を中心とした重力のモーメントが0。
  • 重力のモーメントが0 \(\iff\) 重心が吊り下げ点の真下にある。

具体的な解説と立式
針金がA点を中心に回転し、静止した状態を考えます。このとき、A点を回転中心とすると、糸の張力は回転中心に働くためモーメントは0です。
つり合いが成り立つためには、残りの力である重力\(Mg\)(重心Gに働く)のモーメントも0になる必要があります。
重力のモーメントが0になる条件は、重力の作用線(鉛直線)が回転中心Aを通ることです。つまり、重心GはAの真下に位置します。
この物理的条件が確定すれば、あとの計算は主たる解法や別解1と全く同じになります。すなわち、「A, G, Cが同一直線上にある」という幾何学的な問題に帰着します。

使用した物理公式

  • 力のモーメントのつり合い: \((反時計回りのモーメントの和) = (時計回りのモーメントの和)\)
計算過程

主たる解法や別解1の計算過程と同じであるため、ここでは省略します。最終的に得られる結果は同じです。
$$
\begin{aligned}
\text{OC} &= 0.8 \, \text{cm}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

なぜ、ぶら下げると重心が真下に来るのでしょうか?それは、もし重心が真下から少しでもずれていると、重力が物体を回転させる力(モーメント)を生み出してしまうからです。物体は、この回転させる力がゼロになる、一番安定な場所を探して回転し、最終的に重心が真下に来たところでピタッと止まります。
この「回転させる力がゼロ」というモーメントの釣り合いの考え方から出発しても、結局は「重心が真下に来る」という条件に行き着き、同じ計算で答えを求めることができます。

結論と吟味

「重心が吊り下げ点の真下に来る」という幾何学的な条件が、「吊り下げ点を中心とした重力のモーメントがつり合う」という力学的な条件と等価であることが確認できました。物理法則の異なる表現を理解することは、応用力を高める上で非常に重要です。

解答 (2) 0.8 cm

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 重心の合成(重ね合わせの原理):
    • 核心: 設問(1)の根幹は、複雑な形状の物体(L字型)であっても、それを単純な形状の「部分」(2本の棒)に分割し、各部分の重心にその部分の全質量が集中した「質点」と見なすことで、全体の重心を求めることができる、という考え方にあります。
    • 理解のポイント:
      • 分割: L字型の物体を、重心が明らかな2つの長方形(棒OAと棒OB)に分割します。
      • 代表点への集中: 棒OAの質量は、その重心である点\(G_1\)に集中していると見なします。同様に、棒OBの質量は、その重心である点\(G_2\)に集中していると見なします。
      • 合成: 最終的に、元のL字型の物体の重心の問題を、点\(G_1\)と点\(G_2\)にある2つの質点系の重心を求めるという、より単純な問題に置き換えて解きます。この「分割→集中→合成」という思考プロセスが、あらゆる重心問題の基本となります。
  • 吊り下げられた剛体のつり合い条件:
    • 核心: 設問(2)の根幹は、「物体を一点で吊り下げて静止したとき、物体系全体の重心は、必ず吊り下げ点の真下に来る」という極めて重要な物理法則を理解し、適用することにあります。
    • 理解のポイント:
      • 力学的理由: なぜ重心が真下に来るのかというと、もし重心が真下からずれていると、重力が吊り下げ点を中心としたモーメント(回転させる力)を生み出してしまうからです。物体は、このモーメントがゼロになる最も安定な位置まで回転し、結果として重心が吊り下げ点の真下に並びます。
      • 幾何学的応用: この物理法則を幾何学的な問題に翻訳することができます。「Aで吊り下げて静止する」という条件は、「回転後の図形において、A点と重心Gを結ぶ線が鉛直になる」という幾何学的条件と等価です。この言い換えが、問題を解く上での突破口となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 複雑な形状の板を吊るす問題: L字型やコの字型の板を、その角や辺の途中で吊り下げたときに、どの辺が水平または鉛直になるかを問う問題。まず全体の重心を求め、その重心と吊り下げ点を結ぶ線が鉛直になるように図を描くことで、角度などを求めることができます。
    • やじろべえの安定性: やじろべえが安定しているのは、全体の重心が支点よりも低い位置にあるためです。少し傾いても、重力が復元モーメントを生み出し、元の位置に戻そうとします。これも重心とつり合いの応用です。
    • 壁に立てかけた物体の安定: 壁に画鋲などで固定された額縁などが、どの角度で安定するかを考える問題も、固定点を吊り下げ点、額縁全体の重心との位置関係で考えることができます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 重心の位置を特定する: 剛体のつり合いの問題、特に回転が関わる問題では、まず最初に全体の重心がどこにあるかを計算することが定石です。
    2. 「吊るす」「支える」という言葉に注目: これらの言葉は、つり合いの位置を考える上での基準点(回転中心)を示唆しています。
    3. つり合いの条件を幾何学的に図示する: 「重心が支点の真下に来る」という条件を、問題の図形に正確に描き込みます。回転後の図を描くことで、隠れていた三角形の相似などの幾何学的な関係性が見えてくることがよくあります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 質量と長さの比例関係の適用ミス:
    • 誤解: 針金や棒ではなく、幅のある板でL字型が作られている場合に、質量が長さに比例すると勘違いしてしまう。
    • 対策: 質量が何に比例するかは、物体の次元をよく見ることが重要です。線(針金)なら「長さ」、面(板)なら「面積」、立体なら「体積」に質量は比例します。常に「一様な物体」という言葉に注意し、何が一様なのか(線密度か、面密度か、体積密度か)を考えましょう。
  • 回転後の図形と元の座標の混同:
    • 誤解: 設問(2)で、物体が回転した後の幾何学的関係を考える際に、元の座標系の値をそのまま使ってしまい、混乱する。
    • 対策: 「元の図形における各点の座標や相対的な距離」と、「回転してつり合った後の図形における角度や向き」を明確に区別して考えることが重要です。主たる解法のように、回転後の図形の中で相似関係を見つける際には、元の図形から辺の長さ(\(AD=7.5, GD=0.5\)など)を正しく引用してくる必要があります。
  • 相似な図形の見つけ間違い:
    • 誤解: 回転後の複雑な図の中から、相似な三角形を正しく見つけられなかったり、対応する辺を間違えたりする。
    • 対策: 図をできるだけ大きく、正確に描くことが第一歩です。直角や共通な角に印をつけ、「2つの角が等しい」などの相似条件を一つ一つ確認しながら、対応する頂点をアルファベットの順に並べて書き出す(\(\triangle ACO \sim \triangle ADG\)のように)と、辺の対応関係の間違いを防げます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 設問(1)で重心の公式を用いる理由:
    • 選定理由: 問題が物体の「重心の座標」を直接問うているため、重心を定義に従って計算する公式 \(x_G = \frac{m_1x_1 + m_2x_2 + \dots}{m_1+m_2+\dots}\) を用いるのが最も直接的で論理的な手順です。
    • 適用根拠: この公式は、物体を質点の集まりと見なしたときの、質量の重み付き平均位置を計算するものです。複雑な形状を単純な部分の集合として捉え、それらを体系的に合成するという、物理学における基本的なモデル化と思考法に基づいています。
  • 設問(2)で幾何学(相似)を用いる理由:
    • 選定理由: 「重心が吊り下げ点の真下に来る」という物理法則を適用した結果、問題は「回転した図形における未知の長さを求める」という純粋な幾何学の問題に帰着します。
    • 適用根拠: 物理法則によって図形の配置(A, G, Cが同一直線上にあることなど)が決定された後は、その図形が持つ数学的な性質(相似や三平方の定理など)を利用して解を求めるのが最も効率的です。物理法則の適用と、数学的な計算のフェーズを明確に分離して考えることで、見通しの良い解法が選択できます。模範解答のアプローチは、この思考法に完全に基づいています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 単位の確認: この問題ではcmで統一されていますが、mとcmが混在する問題では、計算を始める前に単位を統一する習慣をつけましょう。
  • 比例式の計算: \(\text{OC} : 0.5 = 12 : 7.5\) のような比例式を解く際は、「内項の積=外項の積」というルールを落ち着いて適用します。\(7.5 \times \text{OC} = 0.5 \times 12\)。小数が含まれる計算は、分数に直す(\(7.5 = 15/2\))か、10倍するなどして整数に直す(\(75 \times \text{OC} = 60\))と、ミスを減らせます。
  • 別解による検算: 主たる解法(相似)と別解(直線の方程式)は、異なる数学的ツールを使っていますが、同じ物理現象を扱っています。もし両方のアプローチで計算して同じ答えになれば、計算が正しい確率が非常に高まります。時間に余裕があれば、このように異なる視点から検算する癖をつけると強力です。

37 重心

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 設問の別解: 模範解答に記載されている別解と同様の「負の質量」を用いる解法
      • 主たる解法が、残った部分と切り抜いた部分を合成して元の図形に戻す、という考え方であるのに対し、別解では、元の図形に「負の質量」を持つ切り抜き部分を重ね合わせる、というより抽象的で強力な考え方を用います。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 思考の汎用性向上: 「負の質量」という概念は、一見すると奇妙ですが、重心の公式を機械的に適用できるため、どんな複雑な切り抜き問題にも対応できる非常に汎用性の高いテクニックです。
    • 物理的本質の深化: なぜ「負の質量」で計算がうまくいくのかを考えることで、重心の公式が持つ数学的な構造(線形性)への理解が深まります。
    • 解法の効率化: この手法に慣れると、主たる解法のように「全体の重心がどこに来るか」を考える必要がなく、座標と公式だけで機械的に計算を進められるため、思考のステップを減らし、計算ミスを防ぐことができます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「一部をくり抜いた物体の重心」です。重心計算の応用問題として非常に典型的であり、物理的な洞察に基づいた立式能力が問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 重心の合成と分解: 全体の重心は、それを構成する部分の重心を質量で重み付けして合成することで求められます。逆に、全体とその一部が分かっていれば、残りの部分を求めることもできます。
  2. 質量と面積の比例関係: 一様な板の場合、その質量は面積に比例します。
  3. 対称性: 図形が直線に対して対称な場合、その重心はその対称線上に存在します。この問題では、直線AOが対称軸となるため、全体の重心はこの直線上にあります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 対称性から、求める重心が直線AO上にあることを確認します。
  2. 「くり抜かれた部分」と「残りの部分」を合わせると、「元の大きな円板」に戻る、という関係を利用します。
  3. それぞれの部分の質量を面積に比例する量として表します。
  4. 「くり抜かれた部分の重心」と「残りの部分の重心」を、それぞれの質量で重み付けして合成すると、「元の大きな円板の重心」になる、という関係式を立てます。
  5. この関係式を、未知数である「残りの部分の重心の位置」について解きます。

くり抜いた円板の重心

思考の道筋とポイント
この問題は、直接重心を求めるのが難しい図形を扱います。そこで、逆転の発想を用います。
「残りの部分(求めたい物体)」と「くり抜いた円板」という2つの部分を考えます。この2つを合体させると、「元の大きな円板」になります。
それぞれの重心の位置と質量の関係は以下のようになります。

  • 元の大きな円板: 重心は中心O。質量は面積\(\pi R^2\)に比例。
  • くり抜いた円板: 重心は中心A。質量は面積\(\pi r^2\)に比例。
  • 残りの部分: 重心は未知の点G。質量は面積\(\pi R^2 – \pi r^2\)に比例。

ここで、「(残りの部分の重心G)と(くり抜いた部分の重心A)を合成すると、(元の円板の重心O)になる」という関係を利用します。これは、2質点系の重心の公式を応用した考え方です。
この設問における重要なポイント

  • 「残りの部分」+「くり抜いた部分」=「元の全体」という関係を利用する。
  • 各部分の質量は、その面積に比例する。
  • 2つの部分の重心を合成すると、全体の重心になるという関係式を立てる。

具体的な解説と立式
対称性より、求める重心Gは直線AO上にあります。そこで、Oを原点とし、Aの方向を負とするx軸を取ります。

  • O点の座標: \(x_O = 0\)
  • A点の座標: \(x_A = -r\)
  • 求める重心Gの座標を \(x_G\) とします。

次に、各部分の質量を、単位面積あたりの質量を\(\sigma\)として表します。

  • 元の大きな円板の質量: \(M_0 = \sigma \pi R^2\)
  • くり抜いた円板の質量: \(m_0 = \sigma \pi r^2\)
  • 残りの部分の質量: \(m = M_0 – m_0 = \sigma(\pi R^2 – \pi r^2)\)

「残りの部分(質量\(m\)、重心\(x_G\))」と「くり抜いた部分(質量\(m_0\)、重心\(x_A = -r\))」の2つの部分からなる系の重心は、元の大きな円板の重心O(\(x_O=0\))に一致するはずです。
重心の公式より、
$$
\begin{aligned}
x_O &= \frac{m \cdot x_G + m_0 \cdot x_A}{m + m_0}
\end{aligned}
$$
この式に、既知の値を代入します。
$$
\begin{aligned}
0 &= \frac{m \cdot x_G + m_0 \cdot (-r)}{M_0}
\end{aligned}
$$
この方程式を、未知数である\(x_G\)について解きます。

使用した物理公式

  • 重心の公式: \(x_G = \displaystyle\frac{m_1x_1 + m_2x_2 + \dots}{m_1+m_2+\dots}\)
  • 質量と面積の関係: \((\text{質量}) = (\text{面密度}) \times (\text{面積})\)
計算過程

上記で立式した方程式を解きます。
$$
\begin{aligned}
0 &= m \cdot x_G – m_0 r
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
m x_G &= m_0 r
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
x_G &= \frac{m_0}{m} r
\end{aligned}
$$
ここに、質量の式を代入します。
$$
\begin{aligned}
x_G &= \frac{\sigma \pi r^2}{\sigma(\pi R^2 – \pi r^2)} r \\[2.0ex]
&= \frac{\pi r^2}{\pi(R^2 – r^2)} r \\[2.0ex]
&= \frac{r^3}{R^2 – r^2}
\end{aligned}
$$
\(x_G\)は正の値なので、重心の位置は原点Oから右向き(Aと反対側)に \(\displaystyle\frac{r^3}{R^2 – r^2}\) の点となります。

この設問の平易な説明

ドーナツのように穴の開いた物体の重心を求める問題です。直接計算するのは難しいので、パズルのように考えます。
「穴の開いた部分」と「切り抜いた円盤」を合体させると、「元の大きな円盤」に戻りますよね。
それぞれの「重さの中心」も同じ関係になるはずです。つまり、「(穴の開いた部分の重心)と(切り抜いた円盤の重心)の、さらに重心」をとると、「元の大きな円盤の重心(つまり中心O)」にピッタリ一致するはずです。
この関係を数式にして、逆算することで、「穴の開いた部分」の重心の位置を求めることができます。

結論と吟味

重心の位置は、直線AO上で、OからAと反対側に \(\displaystyle\frac{r^3}{R^2 – r^2}\) だけ離れた点となります。
左側の一部をくり抜いたので、重心が右側にずれる、という結果は直感的に妥当です。
もし\(r\)が0に近づくと、\(x_G\)も0に近づき、元の円板の重心Oに一致します。
もし\(r\)が\(R\)に近づくと、分母が0に近づくため\(x_G\)は非常に大きくなります。これは、ほとんど質量のない細い輪っかのような物体の重心が、その輪の外側に大きくずれることを意味し、これも物理的に妥当な振る舞いです。

解答 直線AO上で、OからAと反対側に \(\displaystyle\frac{r^3}{R^2 – r^2}\) の点
別解: 「負の質量」を用いる解法

思考の道筋とポイント
この別解では、「くり抜く」という操作を、「負の質量を持つ物体を重ねる」と解釈する、非常に強力なテクニックを用います。
つまり、「求めたい物体」は、「元の大きな円板(正の質量\(M_0\))」と「くり抜く位置にある、負の質量\(-m_0\)を持つ円板」を合成したものだと考えます。
この考え方の利点は、重心の公式をそのまま機械的に適用できることです。
この設問における重要なポイント

  • 「くり抜く」 \(\iff\) 「負の質量の物体を重ねる」。
  • 元の物体と、負の質量の物体の2体系として、重心の公式を適用する。

具体的な解説と立式
Oを原点とし、Aの方向を負とするx軸を取ります。
この系を、以下の2つの質点の集まりと考えます。

  1. 元の大きな円板: 質量\(M_0 = \sigma \pi R^2\)、重心の位置は原点Oなので \(x_1 = 0\)。
  2. 負の質量の円板: 質量\(-m_0 = -\sigma \pi r^2\)、重心の位置は点Aなので \(x_2 = -r\)。

この2質点系の重心\(x_G\)を、重心の公式を用いて計算します。
$$
\begin{aligned}
x_G &= \frac{M_0 x_1 + (-m_0) x_2}{M_0 + (-m_0)}
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 重心の公式(負の質量を含む): \(x_G = \displaystyle\frac{m_1x_1 + m_2x_2 + \dots}{m_1+m_2+\dots}\)
計算過程

上記の公式に値を代入します。
$$
\begin{aligned}
x_G &= \frac{(\sigma \pi R^2) \cdot 0 + (-\sigma \pi r^2) \cdot (-r)}{\sigma \pi R^2 – \sigma \pi r^2} \\[2.0ex]
&= \frac{\sigma \pi r^3}{\sigma \pi (R^2 – r^2)} \\[2.0ex]
&= \frac{r^3}{R^2 – r^2}
\end{aligned}
$$
\(x_G\)は正の値なので、重心の位置は原点Oから右向き(Aと反対側)に \(\displaystyle\frac{r^3}{R^2 – r^2}\) の点となります。

この設問の平易な説明

くり抜かれた図形の重心を計算する、魔法のようなテクニックです。「穴をあける」という操作を、「マイナスの重さを持つ円盤を、元の大きな円盤の上に置く」と考えます。
例えば、体重50kgの人が板に乗っているとき、その隣に「体重マイナス10kgの人」が乗ったら、合計の体重は40kgになりますよね。これと同じ考え方です。
この「元の円盤(プラスの重さ)」と「くり抜く円盤(マイナスの重さ)」の2つについて、いつもの重心の公式を使うと、一発でくり抜かれた後の物体の重心が計算できてしまいます。

結論と吟味

主たる解法と全く同じ結果が得られました。「負の質量」という概念は物理的には実在しませんが、重心の公式の数学的な性質を利用した非常にエレガントで強力な計算手法です。この方法をマスターすると、様々な重心計算問題にスムーズに対応できるようになります。

解答 直線AO上で、OからAと反対側に \(\displaystyle\frac{r^3}{R^2 – r^2}\) の点

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 重心の合成と分解(重ね合わせの原理):
    • 核心: この問題の根幹は、複雑な形状の物体(くり抜かれた円板)の重心を、より単純な形状の物体の重心の組み合わせで表現できる、という考え方にあります。これは、重心計算における「重ね合わせの原理」あるいは「足し算・引き算」の考え方です。
    • 理解のポイント:
      • 主たる解法(引き算の発想): 「(残りの部分)=(元の全体)-(くり抜いた部分)」という関係を利用します。これを重心の計算式に翻訳すると、「(元の全体の重心)は、(残りの部分の重心)と(くり抜いた部分の重心)を合成したもの」となります。未知のものを求めるために、既知のもの同士の関係式から逆算するアプローチです。
      • 別解(足し算の発想): 「(残りの部分)=(元の全体)+(負の質量のくり抜いた部分)」と考えます。これは、既知のものを足し合わせて未知のものを直接求めるアプローチです。数学的には、主たる解法の式を変形したものと等価ですが、計算上は見通しが良く、より機械的に処理できます。
  • 質量と面積の比例関係:
    • 核心: 「一様な板」という条件から、物体の質量がその面積に比例すると判断し、具体的な質量を面積を用いて表現することが、問題を解く上での具体的な第一歩となります。
    • 理解のポイント:
      • 単位面積あたりの質量(面密度)を\(\sigma\)と置くことで、幾何学的な量である「面積」を、力学的な量である「質量」に変換できます。
      • 最終的に\(\sigma\)は計算過程で約分されて消えるため、実際の値を求める必要はありません。質量を面積そのものとして扱っても(\(\sigma=1\)としても)同じ結果が得られます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 複数の部分をくり抜いた物体の重心: 例えば、正方形の板から2つの異なる円をくり抜いた場合など。「負の質量」の考え方を使えば、元の正方形(正の質量)と2つの円(それぞれ負の質量)の、合計3つの質点系の重心として、公式で一度に計算できます。
    • 半円や扇形の重心: これは高校範囲では積分が必要ですが、考え方の応用として重要です。例えば、半円の重心は、2つの半円を合成すると円盤になり、その重心が中心に来る、という関係から類推することができます。
    • L字型やT字型の重心(引き算での解法): これらの問題も、「大きな長方形」から「小さな長方形」をくり抜いた形と見なすことができます。この場合も、「負の質量」のテクニックが有効です。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 対称性を見つける: まず、図形に対称性がないかを探します。対称軸があれば、重心はその軸上に存在するため、考える次元を減らすことができます(この問題では1次元の問題に帰着しました)。
    2. 「全体」と「部分」を定義する: くり抜き問題では、常に「元の全体の図形」「くり抜いた部分の図形」「残った部分の図形」の3つを明確に意識します。
    3. 解法を選択する(逆算か、負の質量か):
      • 主たる解法のように、物理的なイメージを重視して「合成したら元に戻る」という関係から逆算するか。
      • 別解のように、計算の機械的な処理を重視して「負の質量を足す」と考えるか。どちらのアプローチが自分にとって分かりやすいか、あるいは計算しやすいかを判断します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 座標の原点と向きの混同:
    • 誤解: Oを原点としたのに、Aの座標を\(r\)としてしまうなど、座標軸の正負の向きを間違える。
    • 対策: 計算を始める前に、必ず図に座標軸(原点と正の向き)を明記する癖をつけましょう。特に「負の質量」の別解では、各部分の重心の座標を正確に代入することが極めて重要です。
  • 質量の計算ミス:
    • 誤解: 残った部分の質量を計算する際に、単純に\(M_0 – m_0\)とするところを、面積の計算 \( \pi(R-r)^2 \) などと勘違いしてしまう。
    • 対策: 質量は面積に比例するので、残った部分の質量は「全体の面積」から「くり抜いた部分の面積」を引いたものに比例します。\((\pi R^2 – \pi r^2)\)。図形の足し算・引き算と、面積(質量)の足し算・引き算を対応させて考えましょう。
  • 重心の公式の適用ミス:
    • 誤解: 主たる解法で、\(m x_G + m_0 x_A = 0\) のように、分母の全質量を考慮せずに式を立ててしまう。
    • 対策: 重心の公式は \(x_G = \frac{m_1x_1 + m_2x_2 + \dots}{m_1+m_2+\dots}\) という形を常に意識し、分母には必ず系の全質量が来ることを忘れないようにします。主たる解法では、合成後の系の全質量が\(M_0 (=m+m_0)\)になるため、\(x_O = \frac{m x_G + m_0 x_A}{m+m_0}\) となります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 重心の公式の選定:
    • 選定理由: 問題が「重心の位置」を直接問うており、かつ物体が複数の部分から構成されているため、各部分の重心を合成して全体の重心を求める公式が最も適しています。
    • 適用根拠: この公式は、モーメントのつり合いの考え方を一般化したものです。「各部分の(質量×位置)の和を、全質量で割る」という操作は、系全体の質量の代表点(バランスが取れる点)を求める数学的な手続きであり、物理的な重心の定義と一致します。
  • 「負の質量」というモデル化:
    • 選定理由: くり抜き問題を、より単純な「質点の合成」問題として統一的に扱うための、非常に強力な計算テクニックだからです。
    • 適用根拠: 重心の公式 \(x_G = \frac{m_1x_1 + m_2x_2}{m_1+m_2}\) は、質量\(m_i\)が正の値でなくても、数学的には成立します。主たる解法の式 \(M_0 x_O = m x_G + m_0 x_A\) において、\(m=M_0-m_0\) を代入して \(x_G\) について解くと \(x_G = \frac{M_0 x_O – m_0 x_A}{M_0 – m_0}\) となります。これは、別解の公式 \(x_G = \frac{M_0 x_O + (-m_0) x_A}{M_0 + (-m_0)}\) と全く同じ形をしています。つまり、「負の質量」の考え方は、重心の合成・分解の関係式を、常に同じ形で使えるように抽象化した、数学的に等価な表現方法なのです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 文字式を有効活用する: まずは質量を\(m, m_0, M_0\)などの文字で置いて計算を進め、最後の段階で具体的な面積の式を代入するのが有効です。これにより、計算の見通しが良くなり、途中のミスを発見しやすくなります。
  • 対称性を最大限に利用する: 計算を始める前に、「重心は絶対にこの線上にあるはずだ」という対称軸を見つけることで、計算を1次元に限定でき、手間とミスを大幅に削減できます。
  • 極端な場合を考える(検算): 計算結果が出たら、\(r \to 0\)(くり抜きが無限に小さい)や \(r \to R\)(ギリギリまでくり抜く)といった極端な場合を考え、答えの式が物理的に妥当な振る舞いをするかを確認します。例えば、\(x_G = \frac{r^3}{R^2-r^2}\) で \(r \to 0\) とすると \(x_G \to 0\) となり、元の円板の重心Oに一致するので、式が正しいことを示唆しています。
関連記事

[mathjax] SNSでのシェアはご自由にどうぞ。(上のボタンをクリック) ブログで引用する際には、こちらのリンクを添えてください。 【引用】https://makoto-physics-school.com […]

38 重心

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「重心と力のモーメント」です。前問(37)で求めた重心の位置を利用して、物体を特定の姿勢で支えるために必要な力の最小値を、モーメントのつり合いから求める問題です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 重心と重力の作用点: 物体に働く重力は、大きさ\(mg\)で鉛直下向きに、物体の重心Gに作用すると考えてよい。
  2. 力のモーメント: モーメントは「力の大きさ × 腕の長さ」で計算されます。「腕の長さ」とは、回転軸から力の作用線に下ろした垂線の距離です。
  3. モーメントのつり合い: 物体が回転せずに静止するためには、任意の点のまわりで、時計回りのモーメントの和と反時計回りのモーメントの和が等しくなければなりません。
  4. 力を最小にする条件: 同じ大きさのモーメントを生み出す場合、力\(F\)を最小にするには、腕の長さを最大にする必要があります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 円板に働く力を図示します。回転軸Oからの力、重心Gに働く重力、そして支えるための力\(F\)の3つです。
  2. 回転軸Oのまわりのモーメントのつり合いを考えます。
  3. 重力による時計回りのモーメントを計算します。
  4. 支える力\(F\)による反時計回りのモーメントを考えます。このとき、力\(F\)を最小にするための条件(腕の長さを最大にする)を特定します。
  5. モーメントのつり合いの式を立て、最小の力\(F\)を求めます。

円板を支える力の最小値

この先は、会員限定コンテンツです

記事の続きを読んで、物理の「なぜ?」を解消しませんか?
会員登録をすると、全ての限定記事が読み放題になります。

PVアクセスランキング にほんブログ村