「物理のエッセンス(熱・電磁気・原子)」徹底解説(電磁気76〜80問):物理の”土台”を固める!完全マスター講座

当ページでは、数式をより見やすく表示するための処理に、少しお時間がかかることがございます。お手数ですが、ページを開いたまま少々お待ちください。

電磁気範囲 76~80

76 電磁誘導

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法(ファラデーの電磁誘導の法則を用いる方法)を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 別解: ローレンツ力から誘導起電力を直接導出する解法
      • 模範解答がコイル全体を貫く磁束の変化から起電力を求めるのに対し、別解ではコイルの各辺が磁場を横切る際に荷電粒子が受けるローレンツ力から、起電力をより根源的に導出します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: ファラデーの法則というマクロな現象論の背景にある、ローレンツ力というミクロなメカニズムを理解することで、電磁誘導という現象への洞察が深まります。
    • 思考の柔軟性向上: 「磁束の変化」と「導体の運動」という、電磁誘導の二つの側面からアプローチする経験は、応用問題への対応力を高めます。
    • 導出過程の多様性: 微分を用いずに三角関数だけで起電力の式を導出できるため、異なる数学的アプローチを学ぶことができます。(ただし、その後磁束を求めるには積分計算が必要となります。)
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「交流発電機の原理」です。コイルを磁場中で回転させることで、時間と共に周期的に変化する誘導起電力(交流電圧)がどのように発生するかを、数式を用いて定量的に理解することが目的です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 磁束の定義: ある面を垂直に貫く磁力線の総本数を表す量であり、磁束密度\(B\)、面積\(S\)、そして磁場と面の法線のなす角\(\theta\)を用いて \(\Phi = BS \cos\theta\) と表されることを理解していること。
  2. 等速円運動と角度の関係: 角速度\(\omega\)で回転する物体の回転角が、時刻\(t\)を用いて \(\theta = \omega t\) と表せること。
  3. ファラデーの電磁誘導の法則: コイルを貫く磁束\(\Phi\)が時間的に変化するとき、その変化率に比例した誘導起電力\(V\)が生じるという関係 (\(V = -N \displaystyle\frac{d\Phi}{dt}\)) を理解し、適用できること。
  4. 三角関数の微分: 磁束の変化率を計算するために、\(\cos(\omega t)\) の時間微分が \(-\omega \sin(\omega t)\) となることを正しく計算できること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、時刻\(t\)におけるコイルの回転角を\(\theta = \omega t\)と定め、コイルを貫く磁束\(\Phi\)を\(t\)の関数として数式で表現します。
  2. 次に、ファラデーの電磁誘導の法則を用い、(1)で求めた磁束\(\Phi(t)\)の式を時間\(t\)で微分することで、誘導起電力\(V\)を求めます。

磁束 \(\Phi\) と誘導起電力 \(V\) の導出

思考の道筋とポイント
この問題は二段階のプロセスで解くことができます。第一段階は、回転するコイルを貫く磁束\(\Phi\)を時刻\(t\)の関数として表現することです。問題文の「時刻\(t=0\)でコイル面が磁場に垂直」という初期条件が、角度の基準を決定する上で極めて重要です。第二段階は、ファラデーの電磁誘導の法則 \(V = -N \displaystyle\frac{d\Phi}{dt}\) を用いて、求めた\(\Phi(t)\)を時間で微分し、誘導起電力\(V\)を導出します。
この設問における重要なポイント

  • 磁束の計算: 磁束\(\Phi\)は、磁束密度\(\vec{B}\)と、それに垂直な面の面積\(S_{\perp}\)の積 (\(\Phi = B S_{\perp}\)) で計算します。コイルが回転すると、この有効面積\(S_{\perp}\)が時間と共に変化します。
  • 角度の定義: 時刻\(t=0\)でコイル面が磁場に垂直であるため、このときコイル面の法線ベクトルと磁場ベクトル\(\vec{B}\)は平行です。角速度\(\omega\)で回転すると、時刻\(t\)での法線と\(\vec{B}\)のなす角は\(\theta = \omega t\)となります。
  • ファラデーの法則: 誘導起電力\(V\)は磁束\(\Phi\)そのものではなく、その「時間的な変化率」(\(\displaystyle\frac{d\Phi}{dt}\))に比例します。法則の負号(\(-\))は、起電力の向きが磁束の変化を妨げる向きであることを示すレンツの法則に対応します。

具体的な解説と立式
1. 磁束 \(\Phi\) の導出

時刻 \(t=0\) のとき、コイル面は磁場に垂直です。この状態は、コイルを貫く磁束が最大となる状態です。
コイルは角速度 \(\omega\) で回転するため、時刻 \(t\) における回転角は \(\theta = \omega t\) となります。この角度は、コイル面の法線ベクトルと磁場ベクトル \(\vec{B}\) のなす角に等しくなります。

磁束の定義 \(\Phi = BS \cos\theta\) に、\(\theta = \omega t\) を代入することで、時刻 \(t\) におけるコイル1巻きあたりの磁束 \(\Phi\) を求めることができます。
$$ \Phi = BS \cos(\omega t) $$

2. 誘導起電力 \(V\) の導出

ファラデーの電磁誘導の法則によれば、\(N\)巻きコイルに生じる誘導起電力 \(V\) は、コイル全体を貫く磁束(鎖交磁束)の時間変化率によって決まります。
$$ V = -N \frac{d\Phi}{dt} $$
この式に、上で求めた \(\Phi = BS \cos(\omega t)\) を代入して \(V\) を計算します。

使用した物理公式

  • 磁束の定義: \(\Phi = BS \cos\theta\)
  • ファラデーの電磁誘導の法則: \(V = -N \displaystyle\frac{d\Phi}{dt}\)
計算過程

まず、磁束 \(\Phi\) を時間 \(t\) で微分します。
$$
\begin{aligned}
\frac{d\Phi}{dt} &= \frac{d}{dt} \left( BS \cos(\omega t) \right) \\[2.0ex]
&= BS \cdot \left( -\sin(\omega t) \right) \cdot \omega \\[2.0ex]
&= -BS\omega \sin(\omega t)
\end{aligned}
$$
次に、この結果をファラデーの電磁誘導の法則の式に代入します。
$$
\begin{aligned}
V &= -N \frac{d\Phi}{dt} \\[2.0ex]
&= -N \left( -BS\omega \sin(\omega t) \right) \\[2.0ex]
&= NBS\omega \sin(\omega t)
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

まず「磁束」とは、コイルを通り抜ける磁力線の本数だとイメージしてください。コイルが磁場に対して垂直なとき(\(t=0\))、最も多くの磁力線が貫通し、磁束は最大になります。コイルが回転して磁場と平行になると、磁力線は全く貫通できなくなり、磁束はゼロになります。この磁束の変化の様子は、三角関数の\(\cos\)カーブで表すことができます。

次に「誘導起電力」とは、この磁束の変化をきっかけに発生する電圧のことです。ファラデーの法則は、「磁束の変化が激しいほど、大きな電圧が発生する」ことを教えてくれます。数学的には、この「変化の激しさ」は「微分」によって計算できます。磁束を表す\(\cos\)カーブを微分すると、\(\sin\)カーブの式が得られます。これが、発生する交流電圧の正体です。

結論と吟味

時刻 \(t\) における磁束は \(\Phi = BS \cos(\omega t)\)、誘導起電力は \(V = NBS\omega \sin(\omega t)\) となります。
この結果は、磁束が最大値または最小値をとるとき(コイル面が磁場に垂直のとき)、その時間変化率はゼロであるため、誘導起電力はゼロになることを示しています。逆に、磁束がゼロのとき(コイル面が磁場に平行のとき)、磁束の時間変化率は最大となり、誘導起電力は最大値または最小値をとります。このように、磁束と起電力の位相が \(\pi/2\) (90°) ずれるという、交流発電の基本的な性質を正しく表しており、物理的に妥当な結果です。

解答 磁束 \(\Phi\): \(BS \cos(\omega t)\), 誘導起電力 \(V\): \(NBS\omega \sin(\omega t)\)
別解: ローレンツ力から誘導起電力を直接導出する解法

思考の道筋とポイント
ファラデーの法則というマクロな視点ではなく、コイルの導線内を動く荷電粒子に働く「ローレンツ力」というミクロな視点から、誘導起電力を直接導出するアプローチです。コイルの辺のうち、磁場を横切って運動する部分(回転軸に垂直な辺)に着目し、そこに生じる起電力を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 起電力の発生源: 磁場中を運動する導体内の荷電粒子がローレンツ力を受けることが、誘導起電力の根源的な原因です。
  • 有効な速度成分: 誘導起電力の大きさは、導体の速度 \(v\) のうち、磁場 \(\vec{B}\) に垂直な成分 \(v_{\perp}\) によって決まります (\(V = Blv_{\perp}\))。
  • 力の向き: フレミングの右手の法則を用いることで、各辺に生じる起電力の向きを判断し、コイル全体でそれらが強め合うことを確認します。

具体的な解説と立式
1. 誘導起電力 \(V\) の導出

コイルの回転軸に平行な辺(図のa-b間など)の長さを \(l\)、回転軸からこの辺までの距離(回転半径)を \(r\) とします。コイルの面積 \(S\) は、幅 \(2r\) と長さ \(l\) の積で \(S = 2rl\) と表せます。

辺の運動の速さは \(v = r\omega\) です。時刻 \(t\) において、辺の速度ベクトル \(\vec{v}\) のうち、磁場 \(\vec{B}\) に垂直な成分 \(v_{\perp}\) は、図形的に考えると \(v_{\perp} = v \sin(\omega t)\) となります。

したがって、1本の辺に生じる誘導起電力 \(V_{\text{辺}}\) は、
$$
\begin{aligned}
V_{\text{辺}} &= B l v_{\perp} \\[2.0ex]
&= B l (r\omega \sin(\omega t)) \\[2.0ex]
&= Blr\omega \sin(\omega t)
\end{aligned}
$$
コイルにはこのような辺が2本あり、フレミングの右手の法則から、両者に生じる起電力はコイルを一周する向きに強め合います。よって、1巻きのコイルに生じる合計の起電力 \(V_1\) は、
$$
\begin{aligned}
V_1 &= 2 \times V_{\text{辺}} \\[2.0ex]
&= 2Blr\omega \sin(\omega t)
\end{aligned}
$$
ここで、\(S=2rl\) の関係を使うと、
$$
\begin{aligned}
V_1 &= B(2rl)\omega \sin(\omega t) \\[2.0ex]
&= BS\omega \sin(\omega t)
\end{aligned}
$$
コイルは \(N\) 巻きなので、全体の誘導起電力 \(V\) は、
$$
\begin{aligned}
V &= N V_1 \\[2.0ex]
&= NBS\omega \sin(\omega t)
\end{aligned}
$$

2. 磁束 \(\Phi\) の導出

導出した起電力 \(V\) と磁束 \(\Phi\) の間には、ファラデーの法則 \(V = -N \displaystyle\frac{d\Phi}{dt}\) が常に成り立ちます。この関係を逆向きに利用し、\(V\) から \(\Phi\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\frac{d\Phi}{dt} &= -\frac{V}{N} \\[2.0ex]
&= -\frac{NBS\omega \sin(\omega t)}{N} \\[2.0ex]
&= -BS\omega \sin(\omega t)
\end{aligned}
$$
この式を時間 \(t\) で積分することで、磁束 \(\Phi\) を求めます。

使用した物理公式

  • ローレンツ力による誘導起電力: \(V = Blv_{\perp}\)
  • ファラデーの電磁誘導の法則(積分形): \(\Phi = -\displaystyle\frac{1}{N} \int V dt\)
計算過程

誘導起電力 \(V\) は \(V = NBS\omega \sin(\omega t)\) として既に求まっています。
磁束 \(\Phi\) を求めるために、\(\displaystyle\frac{d\Phi}{dt} = -BS\omega \sin(\omega t)\) を積分します。
$$
\begin{aligned}
\Phi(t) &= \int (-BS\omega \sin(\omega t)) dt \\[2.0ex]
&= -BS\omega \int \sin(\omega t) dt \\[2.0ex]
&= -BS\omega \left( -\frac{\cos(\omega t)}{\omega} \right) + C \\[2.0ex]
&= BS \cos(\omega t) + C
\end{aligned}
$$
ここで \(C\) は積分定数です。この定数は、問題の初期条件から決定します。
時刻 \(t=0\) でコイル面は磁場に垂直なので、磁束は最大値 \(\Phi(0) = BS\) をとります。
上の式に \(t=0\) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
\Phi(0) &= BS \cos(0) + C \\[2.0ex]
&= BS + C
\end{aligned}
$$
したがって、\(BS = BS + C\) より、積分定数 \(C=0\) と決まります。
よって、磁束は \(\Phi = BS \cos(\omega t)\) となります。

この設問の平易な説明

この別解は、電圧が発生する仕組みを、コイルの導線の中の電子に働く力(ローレンツ力)から考える方法です。コイルの辺が磁場の中を動くとき、電子が力を受けて一方の端に押しやられ、それによって電圧が生まれます。
コイルが回転するにつれて、辺が磁場を「横切る」速さが変わります。真横に動く瞬間が最も速く、進行方向が磁場と平行になる瞬間はゼロです。この「横切る速さ」に比例して電圧が発生するため、結果として電圧は\(\sin\)カーブを描いて変化します。この電圧の式から、逆算(積分)することで、磁束の変化(\(\cos\)カーブ)を求めることもできます。

結論と吟味

主たる解法と全く同じ、磁束 \(\Phi = BS \cos(\omega t)\) と誘導起電力 \(V = NBS\omega \sin(\omega t)\) が得られました。このことは、マクロな視点であるファラデーの法則と、ミクロな視点であるローレンツ力が、同じ物理現象を矛盾なく説明することを示しています。どちらのアプローチでも解けるようにしておくことで、電磁誘導への理解がより一層深まります。

解答 磁束 \(\Phi\): \(BS \cos(\omega t)\), 誘導起電力 \(V\): \(NBS\omega \sin(\omega t)\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • ファラデーの電磁誘導の法則と磁束の概念:
    • 核心: この問題の根幹は、「コイルを貫く磁束の時間変化が誘導起電力を生む」というファラデーの電磁誘導の法則を、数式(特に微分)を用いて定量的に表現することにあります。
    • 理解のポイント:
      • 磁束 \(\Phi\): 単に磁場があるだけでは起電力は生じません。コイルという「面積」を、どれだけ磁力線が「垂直に貫いているか」という量、すなわち磁束 \(\Phi = BS \cos\theta\) が重要です。コイルの回転は、この有効な面積(磁場に垂直な面の成分)を変化させ、結果として磁束を変化させます。
      • 時間変化率 \(\displaystyle\frac{d\Phi}{dt}\): 誘導起電力の大きさは、磁束の大きさそのものではなく、磁束がどれだけ「急激に変化しているか」で決まります。この「変化の度合い」を数学的に表現したものが時間微分 \(\displaystyle\frac{d\Phi}{dt}\) です。
      • 関係性: 磁束が \(\cos\) で変化する場合、その変化率(微分)は \(\sin\) となります。これにより、磁束が最大(変化が緩やか)なときに起電力はゼロになり、磁束がゼロ(変化が最も急激)なときに起電力は最大になる、という位相のズレが生じます。これが交流発電の基本原理です。
  • ローレンツ力による起電力の発生(別解の視点):
    • 核心: ファラデーの法則の根源には、磁場中を運動する荷電粒子に働くローレンツ力があります。「導体が磁場を横切る運動」が、導体内の自由電子を移動させ、起電力を生み出すというミクロな描像を理解することが重要です。
    • 理解のポイント:
      • 起電力の発生源: コイルの各辺が磁場を横切って動くことで、その辺自体が電池のように振る舞います。
      • 有効な運動: 導体の運動方向と磁場の方向の両方に垂直な起電力が生じます。そのため、導体の速度ベクトルのうち、磁場に垂直な成分だけが起電力の発生に寄与します。コイルの回転運動では、この有効な速度成分が \(\sin\) 関数で周期的に変化するため、起電力も \(\sin\) 関数となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 初期条件の変更: 「時刻 \(t=0\) でコイル面が磁場に平行な状態からスタートする」といった問題。この場合、磁束は \(\Phi = BS \sin(\omega t)\) または \(\Phi = BS \cos(\omega t – \pi/2)\) となり、起電力は \(V = NBS\omega \cos(\omega t)\) となります。初期条件が角度の基準(位相)をどう変えるかを意識することが重要です。
    • 実効値・最大値を求める問題: 交流起電力の最大値 \(V_{\text{最大}}\) は \(NBS\omega\) であり、実効値 \(V_e\) は \(\displaystyle\frac{V_{\text{最大}}}{\sqrt{2}}\) となります。本問で導出した式から、これらの値を計算させる問題に応用できます。
    • コイルの形状や回転軸の変更: 長方形でないコイルや、回転軸が中心からずれている場合でも、磁束を計算する基本(有効面積を考える)や、ローレンツ力で考える基本(各辺の速度と磁場の関係を見る)は同じです。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 初期条件の確認: まず「\(t=0\)でコイルはどの向きか?」を最優先で確認します。これが磁束の式を \(\cos\) で書くか \(\sin\) で書くかを決定します。
    2. 角度\(\theta\)の定義: コイル面の「法線」と「磁場」のなす角を\(\theta\)と定義するのが最も標準的で間違いが少ないです。問題によってはコイル「面」と磁場のなす角が与えられることがあり、その場合は \(\theta\) との関係(\(90^\circ\)のズレ)に注意が必要です。
    3. 問われているものを明確にする: 「磁束」を問われているのか、「誘導起電力」を問われているのかをはっきりさせます。両者は微分・積分の関係にあり、位相が \(90^\circ\) ずれることを常に念頭に置きます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 磁束の式の \(\cos\) と \(\sin\) の混同:
    • 誤解: いつでも \(\Phi = BS \cos(\omega t)\) だと思い込んでしまう。
    • 対策: 必ず問題文の初期条件(\(t=0\)でのコイルの向き)を図でイメージする癖をつけます。\(t=0\)で磁束が最大なら \(\cos\)、ゼロなら \(\sin\) となります。「\(t=0\)を代入したときに、物理的な状況と式が一致するか」を必ず確認しましょう。
  • 微分計算のミス:
    • 誤解: \(\cos(\omega t)\) の微分を \(-\sin(\omega t)\) としてしまい、中の \(\omega\) を掛け忘れる。
    • 対策: 合成関数の微分 (\(f(g(x))’ = f'(g(x)) \cdot g'(x)\)) を確実にマスターしておくことが必要です。「\(\cos\)の中身(\(\omega t\))」を微分した\(\omega\)が外に出てくる、と機械的に覚えておくと良いでしょう。
  • ファラデーの法則の負号(\(-\))の扱い:
    • 誤解: 負号を忘れたり、その物理的意味を理解せずに計算してしまう。
    • 対策: この負号はレンツの法則(誘導起電力は磁束の変化を妨げる向きに生じる)を表しています。計算上は、\(\displaystyle\frac{d\Phi}{dt}\) の計算結果に出てくる負号と打ち消し合うことが多いです。起電力の大きさだけを問う問題では絶対値で考えても良いですが、向き(電位の正負)まで問われる場合は、この負号の意味を正確に理解しておくことが不可欠です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 磁束 \(\Phi = BS \cos\theta\):
    • 選定理由: この問題では、コイルが回転することで磁場に対する「面の向き」が変化します。磁束は、磁場と面の向きの両方を考慮した量であるため、この公式が現象を記述するのに最も適しています。\(\cos\theta\) という項が、面の向きの効果を定量的に表現しています。
    • 適用根拠: 磁束の定義そのものです。磁束密度(単位面積あたりの磁力線の本数)に、磁場に垂直な有効面積 \(S_{\perp} = S \cos\theta\) を掛けている、と解釈することもできます。
  • ファラデーの電磁誘導の法則 \(V = -N \displaystyle\frac{d\Phi}{dt}\):
    • 選定理由: 誘導起電力の大きさを、コイル全体のマクロな性質(磁束の変化)から求めたい場合に用いる最も強力な法則です。問題文で「微分を用いてよい」と誘導されていることからも、この法則の適用が想定されています。
    • 適用根拠: これは実験的に確立された電磁気学の基本法則です。コイルを貫く磁力線の本数が時間的に変化すると、その変化を妨げるように電場が誘導され、起電力が生じる、という物理的背景に基づいています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 角度の単位の意識: 角速度 \(\omega\) の単位は [rad/s] です。したがって、\(\omega t\) はラジアン(弧度法)となります。三角関数の微分計算は、角度がラジアンで定義されていることが前提です。常に単位を意識する癖をつけましょう。
  • 微分プロセスの段階化: \(\displaystyle\frac{d}{dt} (NBS \cos(\omega t))\) のような計算では、定数をまず前に出してから微分を実行すると、計算がすっきりします。
    1. \(V = -N \displaystyle\frac{d\Phi}{dt} = -N \frac{d}{dt} (BS \cos(\omega t))\)
    2. 定数 \(BS\) を外に出す: \(V = -NBS \displaystyle\frac{d}{dt} (\cos(\omega t))\)
    3. \(\cos(\omega t)\) を微分する: \(V = -NBS (-\omega \sin(\omega t))\)
    4. 最後に整理する: \(V = NBS\omega \sin(\omega t)\)

    このように、一度に多くの操作をせず、一つ一つのステップを丁寧に行うことがミスを防ぎます。

  • グラフによる検算: 計算結果が出たら、\(\Phi(t)\) と \(V(t)\) のグラフを頭の中で描いてみましょう。\(\Phi\) が \(\cos\) カーブなら、その傾きである \(V\) は \(-\sin\) カーブ(符号を考慮すると最終的に \(+\sin\))になるはずです。\(\Phi\) が最大値をとる \(t=0\) で傾き(\(V\))がゼロになっているか、\(\Phi\) がゼロになる \(\omega t = \pi/2\) で傾き(\(V\))が最大(または最小)になっているか、といった定性的なチェックは、計算ミスを発見するのに非常に有効です。

77 相互誘導

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「相互誘導による誘導電流」です。1次コイルに流れる電流を時間的に変化させたとき、その影響で2次コイルに誘導起電力が生じ、結果として誘導電流が流れる現象を、グラフを読み取りながら定量的に解析します。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 相互誘導の公式: 1次コイルの電流 \(I_1\) の時間変化率 \(\displaystyle\frac{dI_1}{dt}\) によって、2次コイルに誘導起電力 \(V_2\) が生じる関係式 \(V_2 = -M \displaystyle\frac{dI_1}{dt}\) を理解していること。
  2. グラフの傾きの物理的意味: \(I_1\)-\(t\) グラフの傾きが、電流の時間変化率 \(\displaystyle\frac{dI_1}{dt}\) に相当することを理解し、正しく計算できること。
  3. レンツの法則と右ねじの法則: 誘導電流の向きが、1次コイルによる磁束の変化を妨げる向きに生じるというレンツの法則を、右ねじの法則を用いて具体的に判断できること。
  4. オームの法則: 2次コイルに生じた誘導起電力 \(V_2\) と抵抗 \(R\) から、流れる誘導電流 \(I_2\) を計算する関係式 \(I_2 = \displaystyle\frac{V_2}{R}\) を適用できること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 与えられた \(I_1\)-\(t\) グラフを、電流が一定の区間と、線形に変化する区間に分割します。
  2. 電流が変化する各区間について、グラフの傾きを計算して電流の時間変化率 \(\displaystyle\frac{dI_1}{dt}\) を求めます。
  3. 相互誘導の公式 \(V_2 = -M \displaystyle\frac{dI_1}{dt}\) を用いて、各区間での誘導起電力 \(V_2\) の「大きさ」を計算します。
  4. レンツの法則と右ねじの法則を用いて、誘導電流 \(I_2\) の「向き」を物理的に判断し、問題で定義された正負の向きと照らし合わせて符号を決定します。
  5. オームの法則を用いて誘導電流 \(I_2\) の大きさを計算し、符号と合わせて最終的な値を求めます。
  6. すべての区間の結果を統合し、\(I_2\)-\(t\) グラフを作成します。

2次コイルに流れる電流 \(I_2\) の時間変化

思考の道筋とポイント
この問題は、\(I_1\)-\(t\)グラフの形状に応じて、時間区間ごとに2次コイルに流れる電流 \(I_2\) を計算し、それらを繋ぎ合わせてグラフを作成するという手順で解いていきます。
\(I_1\) が一定の区間では、2次コイルを貫く磁束が変化しないため、誘導起電力は生じません。
\(I_1\) が時間に対して直線的に変化する区間では、グラフの傾き \(\displaystyle\frac{\Delta I_1}{\Delta t}\) が一定となるため、2次コイルには一定の誘導起電力が生じ、一定の誘導電流が流れます。
計算の最大のポイントは、誘導電流の「向き」、すなわち符号の決定です。これは、レンツの法則と右ねじの法則を用いて物理的に判断するのが最も確実です。
この設問における重要なポイント

  • \(I_1\) が一定 \(\Rightarrow\) \(\displaystyle\frac{dI_1}{dt} = 0\) \(\Rightarrow\) 誘導起電力 \(V_2 = 0\) \(\Rightarrow\) \(I_2 = 0\)。
  • \(I_1\) が直線的に変化 \(\Rightarrow\) \(\displaystyle\frac{dI_1}{dt} = (\text{グラフの傾き}) = (\text{一定})\)。
  • 誘導起電力の大きさ: \(|V_2| = \left| -M \displaystyle\frac{dI_1}{dt} \right| = M \left|\displaystyle\frac{dI_1}{dt}\right|\)。
  • 電流の向きの定義: 抵抗を \(a \rightarrow b\) の向きに流れる電流が正 (\(I_2 > 0\))。
  • コイルの巻き方の確認: 図から、1次コイルは \(I_1 > 0\) のとき右向きの磁束を作ります。2次コイルは、抵抗に \(b \rightarrow a\) の向きに電流を流したときに右向きの磁束を作るように巻かれています。

具体的な解説と立式
各時間区間について、誘導電流 \(I_2\) を求めていきます。

1. 区間 \(0 \le t < 2\) [s] と \(4 \le t < 6\) [s]

この区間では、1次電流 \(I_1\) は一定です。したがって、電流の時間変化率はゼロです。
$$
\begin{aligned}
\frac{dI_1}{dt} &= 0
\end{aligned}
$$
よって、2次コイルに生じる誘導起電力 \(V_2\) はゼロとなり、流れる電流 \(I_2\) もゼロになります。
$$
\begin{aligned}
I_2 &= 0 \, \text{A}
\end{aligned}
$$

2. 区間 \(2 \le t < 4\) [s]

この区間では、\(I_1\) は \(2 \, \text{A}\) から \(-2 \, \text{A}\) へと直線的に変化します。
まず、電流の時間変化率を求めます。
$$
\begin{aligned}
\frac{dI_1}{dt} &= \frac{-2 – 2}{4 – 2} \\[2.0ex]
&= -2.0 \, \text{A/s}
\end{aligned}
$$
次に、誘導起電力の大きさを計算します。
$$
\begin{aligned}
|V_2| &= M \left| \frac{dI_1}{dt} \right| \\[2.0ex]
&= 4 \times |-2.0| \\[2.0ex]
&= 8.0 \, \text{V}
\end{aligned}
$$
続いて、レンツの法則で電流の向きを判断します。
\(I_1\) は正の向き(右向きの磁束を作る向き)に減少し、その後、負の向き(左向きの磁束を作る向き)に増加します。この変化は、全体として「右向きの磁束が減る」変化です。
2次コイルはこれを妨げるため、「右向きの磁束を作ろう」とします。
図の2次コイルの巻き方から、右向きの磁束を作るには、抵抗に \(b \rightarrow a\) の向きに電流を流す必要があります。
これは問題の定義で負の向きなので、\(I_2\) は負となります。
オームの法則より、電流の大きさを求め、符号をつけます。
$$
\begin{aligned}
I_2 &= -\frac{|V_2|}{R}
\end{aligned}
$$

3. 区間 \(6 \le t \le 8\) [s]

この区間では、\(I_1\) は \(-2 \, \text{A}\) から \(1 \, \text{A}\) へと直線的に変化します。
同様に、電流の時間変化率を求めます。
$$
\begin{aligned}
\frac{dI_1}{dt} &= \frac{1 – (-2)}{8 – 6} \\[2.0ex]
&= \frac{3}{2} \\[2.0ex]
&= 1.5 \, \text{A/s}
\end{aligned}
$$
誘導起電力の大きさを計算します。
$$
\begin{aligned}
|V_2| &= M \left| \frac{dI_1}{dt} \right| \\[2.0ex]
&= 4 \times |1.5| \\[2.0ex]
&= 6.0 \, \text{V}
\end{aligned}
$$
電流の向きを判断します。
\(I_1\) は負の向きに減少し、その後、正の向きに増加します。この変化は、全体として「左向きの磁束が減る」変化です。
2次コイルはこれを妨げるため、「左向きの磁束を作ろう」とします。
左向きの磁束を作るには、抵抗に \(a \rightarrow b\) の向きに電流を流す必要があります。
これは問題の定義で正の向きなので、\(I_2\) は正となります。
$$
\begin{aligned}
I_2 &= +\frac{|V_2|}{R}
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 相互誘導による起電力の大きさ: \(|V_2| = M \left|\displaystyle\frac{dI_1}{dt}\right|\)
  • レンツの法則、右ねじの法則
  • オームの法則: \(I_2 = \displaystyle\frac{V_2}{R}\)
計算過程

区間 \(2 \le t < 4\) [s] の計算:

起電力の大きさは \(|V_2| = 8.0 \, \text{V}\)。
電流の向きは負。
$$
\begin{aligned}
I_2 &= -\frac{|V_2|}{R} \\[2.0ex]
&= -\frac{8.0}{5} \\[2.0ex]
&= -1.6 \, \text{A}
\end{aligned}
$$

区間 \(6 \le t \le 8\) [s] の計算:

起電力の大きさは \(|V_2| = 6.0 \, \text{V}\)。
電流の向きは正。
$$
\begin{aligned}
I_2 &= +\frac{|V_2|}{R} \\[2.0ex]
&= +\frac{6.0}{5} \\[2.0ex]
&= 1.2 \, \text{A}
\end{aligned}
$$

結果のまとめとグラフ作成:

以上の計算結果をまとめると、

  • \(0 \le t < 2\): \(I_2 = 0 \, \text{A}\)
  • \(2 \le t < 4\): \(I_2 = -1.6 \, \text{A}\)
  • \(4 \le t < 6\): \(I_2 = 0 \, \text{A}\)
  • \(6 \le t \le 8\): \(I_2 = 1.2 \, \text{A}\)

となり、これをグラフに描画します。

この設問の平易な説明

1次コイルは、電流を流すことで電磁石になります。この問題では、1次コイルの電流の強さや向きを時間と共に変えています。
すると、電磁石の強さやN極・S極の向きが変化します。2次コイルは、隣にある電磁石の変化を敏感に感じ取ります。
物理学の法則(レンツの法則)によれば、2次コイルは「変化が嫌い」なので、電磁石の変化を打ち消すように、自分自身で電流を流して小さな電磁石になろうとします。これが「誘導電流」です。
1次電流が一定のとき(グラフが平らな部分)は変化がないので、2次コイルは何もせず、電流はゼロです。
1次電流が変化しているとき(グラフが傾いている部分)だけ、2次コイルは電流を流します。傾きが急なほど、激しく変化するので、より大きな電流を流します。傾きの向き(増加か減少か)によって、流す電流の向きも変わります。

結論と吟味

計算結果から得られる \(I_2\)-\(t\) グラフは、模範解答のグラフと完全に一致します。
各区間での電流の向きを、レンツの法則と右ねじの法則(2次コイルの巻き方を正しく解釈した上で)用いて物理的に判断した結果、模範解答の符号と一致することが確認できました。

  • \(2 \le t < 4\): 1次コイルによる右向き磁束が減少 \(\rightarrow\) 2次コイルは右向き磁束を作ろうとする \(\rightarrow\) 抵抗に \(b \rightarrow a\) の電流(負)。
  • \(6 \le t \le 8\): 1次コイルによる左向き磁束が減少 \(\rightarrow\) 2次コイルは左向き磁束を作ろうとする \(\rightarrow\) 抵抗に \(a \rightarrow b\) の電流(正)。

このように、公式を機械的に適用するだけでなく、レンツの法則という物理的原則に立ち返って検算することで、より確実な解答に至ることができます。

解答
(\(I_2\)-\(t\)グラフを記述)

  • \(0 \le t < 2\) のとき \(I_2 = 0 \, \text{A}\)
  • \(2 \le t < 4\) のとき \(I_2 = -1.6 \, \text{A}\)
  • \(4 \le t < 6\) のとき \(I_2 = 0 \, \text{A}\)
  • \(6 \le t \le 8\) のとき \(I_2 = 1.2 \, \text{A}\)

(最終的な解答は、これらの値をプロットしたグラフとなります。)


【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 相互誘導とレンツの法則の組み合わせ:
    • 核心: この問題の根幹は、2つのコイル間で起こる「相互誘導」という現象を、数式と物理法則の両面から理解することです。特に、誘導起電力の「大きさ」を公式で計算し、その「向き(符号)」をレンツの法則で決定するという、二段階の思考プロセスが重要になります。
    • 理解のポイント:
      • 相互誘導の公式 \(V_2 = -M \displaystyle\frac{dI_1}{dt}\): これは、1次コイルの電流変化が2次コイルに電圧を生じさせる、という現象を定量的に表す式です。\(|V_2|\) の大きさは、相互インダクタンス \(M\) と、\(I_1\)-\(t\)グラフの傾きの急さに比例します。
      • レンツの法則: これは、「誘導電流は、元の磁束の変化を妨げる向きに流れる」という電磁誘導の向きに関する大原則です。この法則を右ねじの法則と組み合わせて使うことで、誘導電流の具体的な向き(\(a \rightarrow b\) か \(b \rightarrow a\) か)を物理的に判断できます。
      • 統合的理解: 公式のマイナス符号はレンツの法則を数学的に表現したものですが、コイルの巻き方や座標系の取り方で解釈が複雑になりがちです。そのため、高校物理では「大きさは公式、向きはレンツの法則」と役割分担して考えるのが最も安全で確実な解法となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 自己誘導の問題: 1つのコイルで電流を変化させたときに、そのコイル自身に逆起電力が生じる「自己誘導」(\(V = -L \displaystyle\frac{dI}{dt}\)) の問題も、本質的に同じ考え方で解けます。\(I\)-\(t\)グラフの傾きから逆起電力を計算します。
    • \(I_1\)-\(t\)グラフが曲線の場合: グラフが直線ではなく曲線で与えられた場合、その時刻の「接線の傾き」が \(\displaystyle\frac{dI_1}{dt}\) に相当します。接線の傾きが時間と共に変化するため、誘導電流 \(I_2\) も時間と共に変化するグラフになります。
    • RLC回路との組み合わせ: 誘導現象は、抵抗(R)、コンデンサー(C)と組み合わせた交流回路の問題で頻繁に登場します。特にコイルのリアクタンス \(X_L = \omega L\) は、誘導起電力が電流の時間変化(角速度\(\omega\))に比例するという性質から来ています。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 電流の正の向きの定義を確認: まず、問題文で電流のどちらの向きが「正」と定義されているかを確認します。これが最終的な答えの符号を決定します。
    2. コイルの巻き方の確認: 2つのコイルの巻き方が図で示されている場合、右ねじの法則を使って「どちら向きの電流が、どちら向きの磁束を作るか」をあらかじめメモしておきます。これがレンツの法則を適用する際の基礎情報になります。
    3. グラフの区間分割: \(I\)-\(t\)グラフを、傾きが一定な区間(直線部分)と傾きがゼロの区間(水平部分)に分割し、それぞれの区間で何が起こるかを考えます。
    4. 「大きさ」と「向き」を分離して思考: まずは \(|V_2| = M \left|\displaystyle\frac{dI_1}{dt}\right|\) で起電力の大きさ(絶対値)だけを計算します。その後、落ち着いてレンツの法則を適用し、向き(符号)を決定します。この分離思考が、符号ミスを防ぐ鍵です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 電流の向き(符号)の決定ミス:
    • 誤解: \(V_2 = -M \displaystyle\frac{dI_1}{dt}\) の公式を機械的に使い、出てきた \(V_2\) の符号をそのまま電流の符号としてしまう。
    • 対策: 公式における \(V_2\) の正負の定義は、回路の取り方によって変わるため、非常に間違いやすいです。最も確実な対策は、「大きさは公式の絶対値、向きはレンツの法則」という手順を徹底することです。レンツの法則を使う際は、「(1) \(I_1\)の変化 \(\rightarrow\) (2) 磁束の変化 \(\rightarrow\) (3) 妨げる向きの磁束 \(\rightarrow\) (4) その磁束を作るための \(I_2\) の向き」という思考ステップを一つずつ丁寧に行いましょう。
  • グラフの傾きの計算ミス:
    • 誤解: 傾きを計算する際に、\(x\)の変化量と\(y\)の変化量の符号を間違える(例: \(\displaystyle\frac{y_2 – y_1}{x_1 – x_2}\) のように)。
    • 対策: 傾きは「(\(y\)の増加量) / (\(x\)の増加量)」(\(\displaystyle\frac{\Delta y}{\Delta x}\)) と定義を正確に覚えることが基本です。「後の値 – 前の値」で統一する(\(\displaystyle\frac{I_{1, \text{後}} – I_{1, \text{前}}}{t_{\text{後}} – t_{\text{前}}}\))と決めれば、機械的に計算でき、符号ミスが減ります。
  • コイルの巻き方の無視:
    • 誤解: 図に描かれているコイルの巻き方を考慮せず、一般的な右ねじの法則(電流が手前側を上から下に流れるなら右向き磁場など)を思い込みで適用してしまう。
    • 対策: 必ず問題の図をよく見て、2次コイルの場合「\(a \rightarrow b\) に電流が流れると、磁場は右向きか?左向きか?」を最初に確認する作業を怠らないようにします。この一手間が、レンツの法則の適用の成否を分けます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 相互誘導の公式 \(|V_2| = M \left|\displaystyle\frac{dI_1}{dt}\right|\):
    • 選定理由: この問題は、1次コイルの電流変化という「原因」によって、2次コイルに起電力という「結果」が生じる現象を扱っています。この原因と結果を直接結びつける法則が相互誘導の公式です。特に、原因が「電流の時間変化率」であることがポイントです。
    • 適用根拠: ファラデーの電磁誘導の法則 \(V_2 = -N_2 \displaystyle\frac{d\Phi_2}{dt}\) が出発点です。2次コイルを貫く磁束 \(\Phi_2\) は、1次コイルが作る磁場に比例し、その磁場は1次電流 \(I_1\) に比例します。したがって、\(\Phi_2 \propto I_1\) となり、この比例定数を \(M\) (実際には巻き数なども含む)と定義したものが相互インダクタンスです。よって、\(\displaystyle\frac{d\Phi_2}{dt} \propto \frac{dI_1}{dt}\) となり、相互誘導の公式が導かれます。
  • レンツの法則:
    • 選定理由: 相互誘導の公式だけでは、誘導起電力の「向き」を直感的に、また物理的に確実に決定することが難しい場合があります。レンツの法則は、自然界の安定性(変化を嫌う性質)に基づいた普遍的な法則であり、誘導電流の向きを判断するための最も信頼できる指針となります。
    • 適用根拠: これはエネルギー保存則の現れです。もし誘導電流が磁束の変化を「助ける」向きに流れたとすると、その電流がさらに磁束を変化させ、無限に電流が増大してしまい、無からエネルギーが生まれることになります。それを防ぐために、自然は必ず「変化を妨げる」向きに現象を起こします。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 区間ごとに情報を整理する: 複数の時間区間がある問題では、ノートを区切って、各区間ごとに「時間範囲」「\(I_1\)の変化」「\(\displaystyle\frac{dI_1}{dt}\)」「\(|V_2|\)」「\(I_2\)の向き(物理的考察)」「\(I_2\)の符号」「\(I_2\)の値」といった項目を表のようにして整理すると、混乱を防ぎ、見直しもしやすくなります。
  • 単位の確認: 傾きを計算する際は、単位も一緒に計算してみましょう。「[A] / [s]」となり、確かに電流の時間変化率 [A/s] になっていることを確認する癖をつけると、凡ミスが減ります。
  • 分数の計算を丁寧に行う: \(t=6 \sim 8\) の区間のように、傾きが分数 (\(3/2\)) になる場合、焦って小数に直さず、分数のまま計算を進めた方が間違いにくいことがあります。\(I_2 = \displaystyle\frac{V_2}{R} = \frac{6}{5} = 1.2\) のように、最後の段階で小数に直せば十分です。
関連記事

[mathjax] SNSでのシェアはご自由にどうぞ。(上のボタンをクリック) ブログで引用する際には、こちらのリンクを添えてください。 【引用】https://makoto-physics-school.com […]

78 自己誘導

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、問題文の指示通りファラデーの法則を用いる模範解答の解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 別解: 自己インダクタンスの定義 \(\Psi = LI\) から直接導出する解法
      • 模範解答が電流の「変化」に伴う磁束の「変化」と誘導起電力に着目するのに対し、別解では任意の電流値における磁束の「状態」そのものから自己インダクタンスを定義します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 自己インダクタンス \(L\) が、コイルの形状(巻数 \(N\)、長さ \(l\)、断面積 \(S\))と材質(透磁率 \(\mu\))のみで決まる幾何学的な量であることをより直接的に理解できます。
    • 思考の柔軟性向上: 「変化」から求める動的なアプローチと、「状態」から求める静的なアプローチの両方を学ぶことで、物理概念への理解が多角的になります。
    • 解法の効率化: 別解の方が計算ステップが少なく、より簡潔に答えを導くことができます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「自己インダクタンスの導出」です。コイルの基本的な性質である自己インダクタンスが、コイルの形状(巻数、長さ、断面積)や材質(透磁率)によってどのように決まるのかを、電磁気学の基本法則から導出するプロセスを理解することが目的です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. ソレノイド内部の磁場: 電流 \(I\) が流れるソレノイドコイルの内部には、一様な磁場 \(H=nI\)(\(n\)は単位長さあたりの巻数)が生じること。
  2. 磁束の定義: 磁場 \(H\) と透磁率 \(\mu\) から磁束密度 \(B = \mu H\) が決まり、断面積 \(S\) を貫く磁束が \(\phi = BS\) と計算できること。
  3. ファラデーの電磁誘導の法則: コイルを貫く磁束が時間変化すると、誘導起電力 \(V = -N \displaystyle\frac{d\phi}{dt}\) が生じること。
  4. 自己インダクタンスの定義: コイルに生じる自己誘導起電力(逆起電力)が、電流の時間変化率に比例する関係 \(V = -L \displaystyle\frac{dI}{dt}\) で表されること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、電流 \(I\) によってソレノイド内部に作られる磁束 \(\phi\) を、\(I\) を用いた式で表現します。
  2. 次に、電流が微小量 \(\Delta I\) 変化したときの、磁束の微小変化量 \(\Delta \phi\) を計算します。
  3. ファラデーの電磁誘導の法則 \(V = -N \displaystyle\frac{\Delta \phi}{\Delta t}\) に代入し、誘導起電力 \(V\) を \(\Delta I\) と \(\Delta t\) を用いて表します。
  4. 最後に、自己インダクタンスの定義式 \(V = -L \displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t}\) と係数を比較することで、\(L\) を求めます。

自己インダクタンス \(L\) の導出

この先は、会員限定コンテンツです

記事の続きを読んで、物理の「なぜ?」を解消しませんか?
会員登録をすると、全ての限定記事が読み放題になります。

PVアクセスランキング にほんブログ村