「物理のエッセンス(熱・電磁気・原子)」徹底解説(電磁気36〜40問):物理の”土台”を固める!完全マスター講座

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電磁気範囲 36~40

36 コンデンサーの充電と放電

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「RC回路における過渡現象」です。スイッチを入れた直後と、十分時間が経過した後のコンデンサーの振る舞いを正しくモデル化し、回路を解析する能力が問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. スイッチ直後のコンデンサー: 電荷が蓄えられていないコンデンサーは、電圧が0のため「導線」とみなせます。一方、すでに充電されているコンデンサーは、その電圧を保ったままの「電池」とみなせます。
  2. 十分時間経過後のコンデンサー: 充電または放電が完了したコンデンサーには電流が流れ込まなくなるため、「断線」とみなせます。
  3. キルヒホッフの法則: 回路の任意のループにおける電圧の関係(第2法則)を用いて、電流や電圧を求めます。
  4. 通過電気量と電荷変化の関係: ある導線を通過した総電気量は、その導線の先に接続されている部分の電荷の変化量に等しい、という考え方。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (スイッチa投入直後) 未充電のコンデンサーを「導線」とみなし、単純な抵抗回路として電流\(I_0\)を求めます。
  2. (スイッチb切り替え直後) まず、aで十分時間が経った状態を考え、コンデンサーの電圧を求めます。次に、この電圧を持つコンデンサーを「電池」とみなし、bに切り替えた直後の回路で電流\(I_1\)を求めます。
  3. (通過電気量) スイッチbを切り替える直前のコンデンサーの電荷と、bで十分時間が経った後の最終的な電荷をそれぞれ計算し、その差から抵抗\(3R\)を通過した電気量を求めます。

スイッチをaに入れた直後の電流\(I_0\)

思考の道筋とポイント
「スイッチを入れた直後」がキーワードです。このとき、コンデンサー\(C\)にはまだ電荷が蓄えられていないため、極板間の電位差は0です。電位差が0の回路素子は「導線(ショート)」とみなすことができます。したがって、回路はコンデンサーがないものとして、電源\(V\)と抵抗\(R\)、\(2R\)からなる単純な直列回路として考えることができます。
この設問における重要なポイント

  • スイッチを入れた直後、未充電のコンデンサーは「導線」と等価である。
  • 回路全体にオームの法則(またはキルヒホッフの第2法則)を適用する。

具体的な解説と立式
スイッチをaに入れた直後、コンデンサー\(C\)は導線とみなせます。したがって、回路は電源\(V\)、抵抗\(R\)、抵抗\(2R\)が直列に接続されたものと等価になります。
回路全体の合成抵抗\(R_{\text{合成}}\)は、
$$
\begin{aligned}
R_{\text{合成}} &= R + 2R \\[2.0ex]
&= 3R
\end{aligned}
$$
この回路に流れる電流\(I_0\)は、オームの法則より、
$$ I_0 = \frac{V}{R_{\text{合成}}} $$

使用した物理公式

  • オームの法則: \(I = V/R\)
  • 抵抗の直列接続: \(R_{\text{合成}} = R_1 + R_2\)
計算過程

立式した式に合成抵抗を代入します。
$$
\begin{aligned}
I_0 &= \frac{V}{R+2R} \\[2.0ex]
&= \frac{V}{3R}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

スイッチを入れた瞬間、空っぽのコンデンサーは電気を全く妨げず、ただの導線のように振る舞います。そのため、コンデンサーを無視して回路図を見ると、電圧\(V\)の電池に、抵抗\(R\)と\(2R\)がまっすぐつながっただけの簡単な回路になります。あとはオームの法則を使って、電圧\(V\)を合計の抵抗\(3R\)で割れば、電流\(I_0\)が求まります。

結論と吟味

スイッチをaに入れた直後の電流\(I_0\)は \(\displaystyle\frac{V}{3R}\) となります。これは物理的に妥当な結果です。

解答 (電流\(I_0\)) \(\displaystyle\frac{V}{3R}\)

スイッチをbに切り替えた直後の電流\(I_1\)

思考の道筋とポイント
この問題は2段階で考えます。

  1. bに切り替える直前の状態: スイッチaで「十分に時間がたった」とき、コンデンサー\(C\)への充電は完了しています。充電が完了したコンデンサーには電流が流れないため、「断線」とみなせます。このときのコンデンサーの電圧と極性を正確に把握します。
  2. bに切り替えた直後の状態: スイッチをbに切り替えた瞬間、コンデンサーは直前の電圧を保ったまま、あたかも「電池」のように振る舞います。したがって、回路は電源\(2V\)と、コンデンサーという名の「電池」が直列に接続された抵抗回路とみなせます。

この設問における重要なポイント

  • 十分時間が経過したコンデンサーは「断線」と等価である。
  • スイッチを切り替えた直後、コンデンサーは電圧を保った「電池」と等価である。
  • 複数の電源(電池)が直列接続された回路では、起電力の向きに注意して合成起電力を求める。

具体的な解説と立式
1. bに切り替える直前のコンデンサーの電圧と極性を求める

スイッチがaのまま十分時間が経過すると、コンデンサー\(C\)への充電が完了し、回路に電流は流れなくなります(\(I=0\))。
電流が0なので、抵抗\(R\)と\(2R\)による電圧降下はともに0です。
したがって、コンデンサーの極板AとBの間の電位差は、電源の電圧\(V\)に等しくなります。このとき、極板Aは電源の正極に、極板Bは負極につながる経路にあるため、極板Aの電位が高くなります。
よって、コンデンサーは「電圧\(V\)、上が正極」の状態で充電されています。

2. bに切り替えた直後の電流を求める

スイッチをbに切り替えた直後、コンデンサー\(C\)は「起電力が\(V\)で、上が正極の電池」とみなせます。
このとき形成される回路は、このコンデンサー「電池」、電源\(2V\)、抵抗\(2R\)、抵抗\(3R\)からなる直列回路です。
回路を時計回りにたどると、コンデンサー「電池」も電源\(2V\)も、ともに時計回りの電流を流そうとする向きに接続されています(正極から電流が流れ出す向きが一致)。
したがって、回路全体の合成起電力\(V_{\text{合成}}\)は、
$$
\begin{aligned}
V_{\text{合成}} &= V + 2V \\[2.0ex]
&= 3V
\end{aligned}
$$
回路全体の合成抵抗\(R_{\text{合成}}\)は、
$$
\begin{aligned}
R_{\text{合成}} &= 2R + 3R \\[2.0ex]
&= 5R
\end{aligned}
$$
この回路に流れる電流\(I_1\)は、オームの法則より、
$$ I_1 = \frac{V_{\text{合成}}}{R_{\text{合成}}} $$

使用した物理公式

  • オームの法則: \(I = V/R\)
  • 抵抗の直列接続: \(R_{\text{合成}} = R_1 + R_2\)
計算過程

立式した式に合成起電力と合成抵抗を代入します。
$$
\begin{aligned}
I_1 &= \frac{V+2V}{2R+3R} \\[2.0ex]
&= \frac{3V}{5R}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

まず、スイッチをbに切り替える直前の状態を考えます。スイッチaで長時間充電すると、コンデンサーは満タンになり、電圧は電源と同じ\(V\)になります。
次に、スイッチをbに切り替えた瞬間を考えます。この満タンになったコンデンサーは、まるで「電圧\(V\)の充電池」のように振る舞います。回路にはもともと電圧\(2V\)の電池があるので、合計で\(V+2V=3V\)の電圧がかかることになります。抵抗は\(2R\)と\(3R\)が直列につながっているので、合計\(5R\)です。あとはオームの法則で、合計の電圧\(3V\)を合計の抵抗\(5R\)で割れば、電流\(I_1\)が求まります。

結論と吟味

スイッチをbに切り替えた直後の電流\(I_1\)は \(\displaystyle\frac{3V}{5R}\) となります。これは物理的に妥当な結果です。

解答 (電流\(I_1\)) \(\displaystyle\frac{3V}{5R}\)

抵抗\(3R\)を通る総電気量

思考の道筋とポイント
「最終までに\(3R\)の抵抗を通る電気量」とは、スイッチをbに切り替えてから、再び電流が0になるまでの間に、抵抗\(3R\)を通過した総電気量を意味します。
ある導線を通過した総電気量を求めるには、その導線の先に接続されている「袋小路」になっている部分の電荷が、操作の前後でどれだけ変化したかを調べるのが最も簡単で確実な方法です。
この問題では、抵抗\(3R\)の先には、コンデンサーの下側極板Bが接続されています。この「下側極板Bと抵抗\(2R\)」の部分は、電源\(2V\)側から見ると袋小路になっています。したがって、下側極板Bの電荷の変化量を調べれば、それが抵抗\(3R\)を通過した電気量に等しくなります。
この設問における重要なポイント

  • 「通過した総電気量」は「部分の電荷の変化量」に等しい。
  • スイッチbを切り替える「直前」と、十分時間が経過した「後」の2つの状態のコンデンサーの電荷を、極性(符号)に注意して比較する。

具体的な解説と立式
1. スイッチbを切り替える直前の下側極板Bの電荷 \(Q_{B, \text{前}}\) を求める

これは問(2)の考察と同じで、スイッチaで十分時間が経過した状態です。コンデンサーの電圧は\(V\)で、極板Aが正、極板Bが負に帯電しています。コンデンサーの電気容量を\(C\)とすると、
$$ Q_{B, \text{前}} = -CV $$

2. スイッチbで十分時間が経過した後(最終状態)の下側極板Bの電荷 \(Q_{B, \text{後}}\) を求める

スイッチbで十分時間が経過すると、再び回路に電流は流れなくなります(\(I=0\))。
電流が0なので、抵抗\(2R\)と\(3R\)による電圧降下はともに0です。
したがって、コンデンサーの極板AとBの間の電位差は、電源の電圧\(2V\)に等しくなります。
このとき、極板Aは電源\(2V\)の負極に、極板Bは正極につながる経路にあるため、極板Bの電位が高くなります。
よって、コンデンサーは「電圧\(2V\)、下が正極」の状態で充電されています。このときの下側極板Bの電荷は、
$$
\begin{aligned}
Q_{B, \text{後}} &= +C(2V) \\[2.0ex]
&= +2CV
\end{aligned}
$$

3. 抵抗\(3R\)を通過した電気量を計算する

抵抗\(3R\)を通過した電気量\(\Delta Q\)は、下側極板Bの電荷の変化量に等しくなります。なぜなら、極板Bの電荷が変化するためには、抵抗\(3R\)を通る経路で電荷が出入りする以外にないからです。
$$
\begin{aligned}
\Delta Q &= (\text{後の電荷}) – (\text{前の電荷}) \\[2.0ex]
&= Q_{B, \text{後}} – Q_{B, \text{前}}
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • コンデンサーの基本式: \(Q=CV\)
  • 通過電気量と電荷変化の関係
計算過程

立式した式に、計算した電荷を代入します。
$$
\begin{aligned}
\Delta Q &= (+2CV) – (-CV) \\[2.0ex]
&= 2CV + CV \\[2.0ex]
&= 3CV
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

抵抗を通った電気の総量を求める問題は、「その抵抗の先にある行き止まりの部分の、電気の量の変化」を調べると解けます。
今回の行き止まりは「コンデンサーの下側の板(極板B)」です。

  1. bに切り替える前: 極板Bには、\(-CV\)の電気が蓄えられていました。(借金が\(CV\)ある状態)
  2. bで十分時間がたった後: 回路が落ち着くと、コンデンサーの極性は逆転し、電圧は新しい電池の電圧である\(2V\)になります。そのため、極板Bの電気は\(+2CV\)に変わります。(貯金が\(2CV\)ある状態)

結局、極板Bの電気は\(-CV\)(借金)から\(+2CV\)(貯金)へと変化しました。この変化量は、「後の量」から「前の量」を引いて、\((+2CV) – (-CV) = 3CV\) となります。この増えた分の電気は、抵抗\(3R\)を通ってやってきたものなので、抵抗\(3R\)を通過した電気量は\(3CV\)となります。

結論と吟味

最終までに\(3R\)の抵抗を通る電気量は\(3CV\)となります。これは、コンデンサーの極性が完全に逆転し、さらに電圧も変化するというダイナミックな電荷の移動を反映した結果であり、模範解答の解説とも一致します。

解答 (通過電気量) \(3CV\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • コンデンサーの過渡現象における2つの極限状態のモデル化:
    • 核心: この問題の根幹は、コンデンサーを含むRC回路のスイッチ操作において、「操作直後」と「十分時間経過後」という2つの極限状態を、それぞれ単純な回路素子(導線、電池、断線)に置き換えて考える能力にあります。
    • 理解のポイント:
      • スイッチ直後:
        • 未充電コンデンサー → 導線: 電荷が0なので電圧も0。電圧0の素子は導線(ショート)とみなせます。(\(I_0\)の計算で使用)
        • 充電済みコンデンサー → 電池: スイッチを切り替えても、コンデンサーの電圧は瞬間的には変化できません。そのため、直前の電圧を保ったままの「電池」として振る舞います。(\(I_1\)の計算で使用)
      • 十分時間経過後:
        • コンデンサー → 断線: 充電または放電が完了すると、コンデンサーへの電流の流出入が止まります。電流が0になるので、その部分は回路が切れている「断線(オープン)」とみなせます。これにより、コンデンサーにかかる電圧が、接続されている電源電圧などから簡単に求まります。
  • 通過電気量と電荷変化量の等価性:
    • 核心: ある導線を通過した総電気量を直接計算するのは困難ですが、「その導線の先に接続されている孤立部分の電荷の変化量」を調べることで、間接的に求めることができます。
    • 理解のポイント:
      • 袋小路(孤立部分)を探す: 注目している導線(この問題では抵抗\(3R\))の先に、他の電流の逃げ道がない部分を探します。この問題では、抵抗\(3R\)の先には極板Bがあり、そこから先は抵抗\(2R\)を通って極板Aに至る袋小路になっています。
      • 変化量を計算: その袋小路部分の電荷が、操作の「前」と「後」でどれだけ変化したかを計算します。この変化分は、注目している導線を通って供給(または排出)される以外にありえないため、両者は等しくなります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • コイルを含むRLC回路: コイルもコンデンサーと同様に過渡現象を示します。スイッチ直後には「断線」、十分時間経過後には「導線」として振る舞うという、コンデンサーと正反対の性質を理解していれば、同じ考え方で応用できます。
    • 複数のコンデンサーとスイッチ: 複数のコンデンサーが複雑に接続された回路で、スイッチを次々に切り替えていく問題。各段階での「直後」と「十分後」の状態を正確にモデル化し、電荷の引き継ぎを丁寧に行うことで解くことができます。
    • 非線形素子(ダイオードなど)を含む回路: ダイオードによって電流の向きが制限される回路でも、十分時間が経過した後の定常状態や、スイッチ直後の状態を考える問題に応用できます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 時間軸のキーワードを拾う: 問題文から「直後」「十分時間が経過した」「切り替える」といった時間的な変化を示す言葉を見つけ、思考のフェーズを分けます。
    2. コンデンサーの役割を翻訳する:
      • 「直後」→ 未充電なら「導線」、充電済みなら「電池」に脳内変換。
      • 「十分後」→ 「断線」に脳内変換。
    3. 等価回路を描く: 翻訳した結果を基に、各状態に対応する単純な等価回路図を描き直します。これにより、問題の見通しが格段に良くなります。
    4. 「通過電気量」を問われたら: すぐに「電荷の変化量」の問題だと発想を転換します。どの部分の電荷変化を調べればよいか、袋小路構造を探します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 充電済みコンデンサーを「導線」と間違える:
    • 誤解: スイッチ直後はコンデンサーを導線とみなす、と単純に暗記してしまい、すでに充電されているコンデンサーにも適用してしまう。
    • 対策: 「なぜ導線とみなせるのか?」という理由(電圧が0だから)をセットで理解することが重要です。充電済みコンデンサーは電圧を持っているので、導線とはみなせません。むしろ、電圧を維持しようとする「電池」として考えるのが正しいモデルです。
  • コンデンサーの極性の逆転を見落とす:
    • 誤解: 設問(3)で、スイッチbに切り替えた後も、コンデンサーの極性はaのときと同じ(上が正)ままだと思い込んでしまう。
    • 対策: 十分時間が経過した後の状態を考える際は、必ず「電流=0」の条件から、回路の各点の電位を再計算する癖をつけましょう。bの回路では、最終的にコンデンサーは電源\(2V\)によって充電されるため、その電源の極性(この場合は下が正)に従うことになります。
  • 通過電気量の計算で、変化の向きを間違える:
    • 誤解: 電荷の変化量を計算する際に、単純に絶対値の差を取ってしまい、符号を考慮しない。
    • 対策: 変化量は必ず「(後の量)-(前の量)」で計算するという定義を徹底します。電荷には正負の符号があるため、\((+2CV) – (-CV)\) のように、符号を含めて計算することが不可欠です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 過渡現象の極限モデル(直後/十分後):
    • 選定理由: コンデンサーの充電・放電は指数関数的な変化であり、その途中経過を微分方程式で解くのは高校物理の範囲を超えます。しかし、変化の始まり(\(t=0\))と終わり(\(t=\infty\))の2つの時点では、コンデンサーの振る舞いを非常に単純なモデルで近似できるため、高校物理ではこの2つの極限状態に焦点を当てた問題が頻出します。
    • 適用根拠: コンデンサーの電圧\(V_C\)と電荷\(Q\)の関係は \(Q=CV_C\)、電流\(I\)と電荷の時間変化の関係は \(I = dQ/dt\) です。スイッチ直後は電荷が0なので\(V_C=0\)(導線)。十分後は電荷の時間変化が0なので\(I=0\)(断線)。これらのモデルは物理法則に厳密に基づいています。
  • 通過電気量 = 電荷変化量:
    • 選定理由: 電流を時間で積分して通過電気量を求めるのは、電流が時間変化する過渡現象では困難です。一方、回路が落ち着いた「前」と「後」の状態における電荷は、静的な回路解析で簡単に求めることができます。この2つの状態量(電荷)の差から、その間の動的な量(通過電気量)を知ることができる、非常に強力で便利な考え方だからです。
    • 適用根拠: これは電荷保存則の別の表現です。ある閉じた領域を考えたとき、その領域の内部の電荷量の変化は、境界を通過して出入りした電荷量に等しい、という法則に基づいています。この問題では、「極板B」を閉じた領域と見なし、そこに繋がる「抵抗\(3R\)」を境界と見なしています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 状態ごとに図を描き分ける: この問題は最低でも3つの状態(a直後、a十分後、b直後、b十分後)を考えます。それぞれの状態に対応する等価回路図を丁寧に描くことが、思考の整理とミスの防止に直結します。
  • 極性を明確に図示する: コンデンサーや電池の極性(`+`, `-`)は、計算の符号を決定する上で極めて重要です。各状態の図を描く際に、電圧だけでなく極性も必ず書き込みましょう。特に、コンデンサーの極性が途中で逆転する可能性がある問題では、細心の注意が必要です。
  • 言葉と数式を対応させる: 「aで十分時間が経過した後の極板Bの電荷」を \(Q_{B, \text{前}}\)、「bで十分時間が経過した後の極板Bの電荷」を \(Q_{B, \text{後}}\) のように、自分が今何を計算しているのかを言葉で明確に定義しながら式を立てることで、混乱を防ぎます。
  • 単位を省略して計算し、最後につける: 電圧を\(V\)、抵抗を\(R\)、容量を\(C\)のまま文字式で計算を進め、最後に物理量を代入するか、あるいは単位を意識しつつも数値だけで計算し、最後に正しい単位(A, C)をつけることで、計算過程をシンプルに保ちます。

37 エネルギー保存則

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 別解: 移動電荷のポテンシャルエネルギー変化から考える解法
      • 模範解答がコンデンサーの静電エネルギーの公式 \(U=\displaystyle\frac{1}{2}CV^2\) を用いてエネルギーの増加分 \(\Delta U\) を計算するのに対し、別解では、充電過程で移動した電荷 \(\Delta Q\) が経験する「平均の電位差」に着目して \(\Delta U\) を導出します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 電池が供給したエネルギーが、なぜ全てコンデンサーに蓄えられずに一部が熱になるのか、そのエネルギー分配の仕組みを、電荷のポテンシャルエネルギーというより根源的な視点から理解することができます。
    • 思考の柔軟性向上: \(\Delta U\) という量を、公式による計算だけでなく、物理的な過程から直接導出する経験は、エネルギー保存則の応用力を高めます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「コンデンサーの再充電におけるエネルギー保存則」です。すでに充電されているコンデンサーに、さらに電池をつないで充電する際に、エネルギーがどのように移動し、変化するのかを正確に追跡する能力が問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. コンデンサーの電気量と静電エネルギーの公式: コンデンサーの基本である \(Q=CV\) と \(U=\displaystyle\frac{1}{2}CV^2\) を正しく使えること。
  2. 電池がする仕事の公式: 電池が電気量 \(q\) を電圧 \(V\) で運ぶときにする仕事が \(W=qV\) で与えられることを理解していること。
  3. 回路におけるエネルギー保存則(エネルギー収支): 回路全体でエネルギーの流れを捉え、「供給されたエネルギー」が「蓄えられたエネルギー」と「消費されたエネルギー」の和に等しいという関係式を立てられること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、スイッチを入れる前(初期状態)と、充電が完了した後(最終状態)のコンデンサーの静電エネルギーをそれぞれ計算します。
  2. (2)では、充電の過程で、電池が回路にした仕事を計算します。このとき、電池を「通過した電気量」を正しく求めることが重要です。
  3. (3)では、「(電池がした仕事)=(コンデンサーの静電エネルギーの増加分)+(抵抗で発生した熱量)」というエネルギー保存則(エネルギー収支の式)を立て、未知数である熱量 \(H\) を求めます。

思考の道筋とポイント
この問題は、単に最終状態のエネルギーを求めるのではなく、初期状態から最終状態への「変化の過程」でエネルギーがどのように移り変わったかを問う、エネルギー収支の問題です。回路におけるエネルギー保存則を正しく理解し、立式できるかが鍵となります。「電池が供給したエネルギー」が、「コンデンサーのエネルギー増加」と「抵抗での熱発生」という2つの形で分配されるという関係を捉えることが重要です。
特に注意すべきは「電池がした仕事」を計算する際に用いる電気量です。これはコンデンサーの最終的な電気量ではなく、充電の過程で電池を通過した電気量(=コンデンサーの電気量の増加分)である点を正確に理解する必要があります。
この設問における重要なポイント

  • 初期状態: コンデンサーは電圧 \(V\) で充電済み。
    • 初期電気量: \(Q_{\text{初}} = CV\)
    • 初期エネルギー: \(U_{\text{初}} = \displaystyle\frac{1}{2}CV^2\)
  • 最終状態: 十分時間が経過すると、コンデンサーは電圧 \(3V\) の電池で完全に充電される。
    • 最終電気量: \(Q_{\text{終}} = C(3V)\)
    • 最終エネルギー: \(U_{\text{終}} = \displaystyle\frac{1}{2}C(3V)^2\)
  • 電池を通過した電気量: \(\Delta Q = Q_{\text{終}} – Q_{\text{初}}\)
  • エネルギー収支の式: \(W_{\text{電池}} = \Delta U + H\)。ここで \(\Delta U = U_{\text{終}} – U_{\text{初}}\)。

具体的な解説と立式
まず、スイッチを入れる前(初期状態)と、充電が完了した後(最終状態)のコンデンサーの物理量を整理します。

初期状態(スイッチを入れる前)
コンデンサーは電圧 \(V\) で充電されているので、
初期の電気量 \(Q_{\text{初}}\) は、
$$ Q_{\text{初}} = CV $$
初期の静電エネルギー \(U_{\text{初}}\) は、
$$ U_{\text{初}} = \frac{1}{2}CV^2 $$

最終状態(充電完了後)
スイッチを入れると、コンデンサーは電圧 \(3V\) の電池によって充電されます。十分な時間が経過すると、コンデンサーの両端の電圧は電池の電圧と等しくなり、\(3V\) となります。
このときの最終的な電気量 \(Q_{\text{終}}\) は、
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{終}} &= C(3V) \\[2.0ex]
&= 3CV
\end{aligned}
$$
最終的な静電エネルギー \(U_{\text{終}}\) は、
$$
\begin{aligned}
U_{\text{終}} &= \frac{1}{2}C(3V)^2 \\[2.0ex]
&= \frac{9}{2}CV^2
\end{aligned}
$$

次に、この充電過程におけるエネルギー収支を考えます。
回路全体のエネルギー保存則は、
(電池がした仕事)=(コンデンサーの静電エネルギーの増加分)+(抵抗で発生した熱量)
と表せます。これを式で書くと、
$$ W_{\text{電池}} = \Delta U + H $$
となります。ここで、\(H\) が求めたい抵抗で発生する熱量です。

各項を計算していきます。
1. 電池がした仕事 \(W_{\text{電池}}\)
電池がした仕事は、(電池を通過した電気量)\(\times\)(電池の電圧)で計算できます。
この過程でコンデンサーの電気量は \(Q_{\text{初}}\) から \(Q_{\text{終}}\) に増加しました。したがって、電池を通過した電気量 \(\Delta Q\) は、
$$
\begin{aligned}
\Delta Q &= Q_{\text{終}} – Q_{\text{初}} \\[2.0ex]
&= 3CV – CV \\[2.0ex]
&= 2CV
\end{aligned}
$$
よって、電圧 \(3V\) の電池がした仕事 \(W_{\text{電池}}\) は、
$$
\begin{aligned}
W_{\text{電池}} &= \Delta Q \times (3V) \\[2.0ex]
&= (2CV) \times (3V) \\[2.0ex]
&= 6CV^2
\end{aligned}
$$

2. コンデンサーの静電エネルギーの増加分 \(\Delta U\)
静電エネルギーの増加分は、(最終エネルギー)ー(初期エネルギー)です。
$$
\begin{aligned}
\Delta U &= U_{\text{終}} – U_{\text{初}} \\[2.0ex]
&= \frac{9}{2}CV^2 – \frac{1}{2}CV^2 \\[2.0ex]
&= \frac{8}{2}CV^2 \\[2.0ex]
&= 4CV^2
\end{aligned}
$$

以上の結果をエネルギー保存則の式 \(W_{\text{電池}} = \Delta U + H\) に代入して、\(H\) についての方程式を立てます。
$$ 6CV^2 = 4CV^2 + H $$

使用した物理公式

  • コンデンサーの電気量: \(Q=CV\)
  • コンデンサーの静電エネルギー: \(U = \displaystyle\frac{1}{2}CV^2\)
  • 電池のする仕事: \(W = qV\)
  • 回路のエネルギー保存則: \(W_{\text{電池}} = \Delta U + H\)
計算過程

上記で立式したエネルギー保存則の式を \(H\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
6CV^2 &= 4CV^2 + H \\[2.0ex]
H &= 6CV^2 – 4CV^2 \\[2.0ex]
&= 2CV^2
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

この問題を、エネルギーの「お金のやり取り」に例えてみましょう。
「コンデンサー」は、エネルギーを貯めておく貯金箱です。
1. 最初の状態: 貯金箱には、すでに \(\displaystyle\frac{1}{2}CV^2\) 円のお金(静電エネルギー)が入っています。
2. 追加の入金: ここに「電圧 \(3V\) の電池」という、お金を供給してくれる人が現れます。この人は、貯金箱の残高が最終的に \(\displaystyle\frac{9}{2}CV^2\) 円になるまでお金を供給します。
3. 供給した総額: 電池が供給したエネルギーの総額(電池がした仕事)は \(6CV^2\) 円でした。
4. 手数料の発生: ところが、お金を供給する途中で、「抵抗」という手数料がかかり、一部が熱として失われてしまいました。
5. お金の行方: 供給された \(6CV^2\) 円は、どこへ行ったのでしょうか?

  • 貯金箱の残高の増加分(\(\Delta U = 4CV^2\) 円)
  • 手数料として熱になった分(\(H\) 円)

この2つに分けられました。
したがって、「供給した総額 \(6CV^2\) 円 = 貯金の増加額 \(4CV^2\) 円 + 手数料 \(H\) 円」という式が成り立ちます。この式を解くことで、手数料 \(H\) が \(2CV^2\) 円だったとわかるわけです。

結論と吟味

抵抗で発生する熱量 \(H\) は \(2CV^2\) となります。
この結果は正の値であり、抵抗で熱が発生するという物理現象と一致しており、妥当な結果です。
ここで注目すべきは、電池が供給したエネルギー \(W_{\text{電池}} = 6CV^2\) のうち、コンデンサーに蓄えられたエネルギーの増加分は \(\Delta U = 4CV^2\) だけであり、残りの \(2CV^2\) が抵抗で熱として失われたという点です。供給したエネルギーがすべてコンデンサーに蓄えられるわけではない、という事実は、コンデンサー回路におけるエネルギーを考える上で非常に重要なポイントです。

解答 \(2CV^2\)
別解: 移動電荷のポテンシャルエネルギー変化から考える解法

思考の道筋とポイント
エネルギー保存則 \(W_{\text{電池}} = \Delta U + H\) を用いる点は主たる解法と同じですが、各項、特にコンデンサーのエネルギー増加分 \(\Delta U\) の物理的な意味を、移動する電荷の視点から深く掘り下げて考えます。
電池が供給したエネルギー \(W_{\text{電池}}\) は、電荷 \(\Delta Q\) を電位差 \(3V\) だけ持ち上げる仕事です。一方、コンデンサーに蓄えられるエネルギー \(\Delta U\) は、その電荷 \(\Delta Q\) がコンデンサーの電位差を通過する際に蓄えられるポテンシャルエネルギーです。このとき、コンデンサーの電圧は \(V\) から \(3V\) へと変化していくため、電荷 \(\Delta Q\) が経験する「平均の電位差」を考えることで \(\Delta U\) を直接導出します。
この設問における重要なポイント

  • エネルギー保存則: \(W_{\text{電池}} = \Delta U + H\)
  • 電池の仕事: 電池は、通過した電荷 \(\Delta Q\) を一定の電位差 \(3V\) だけ持ち上げる。\(W_{\text{電池}} = \Delta Q \cdot (3V)\)。
  • コンデンサーのエネルギー増加: コンデンサーに蓄えられるエネルギーは、電荷 \(\Delta Q\) がコンデンサーの電位差を移動することで得られるポテンシャルエネルギーである。電圧が \(V_{\text{初}}\) から \(V_{\text{終}}\) へ変化する場合、その増加分は \(\Delta U = \Delta Q \cdot V_{\text{平均}} = \Delta Q \cdot \displaystyle\frac{V_{\text{初}}+V_{\text{終}}}{2}\) と考えられる。

具体的な解説と立式
主たる解法と同様に、初期状態と最終状態を考え、移動した電気量 \(\Delta Q\) を求めます。
初期電気量 \(Q_{\text{初}} = CV\)、最終電気量 \(Q_{\text{終}} = 3CV\) より、
$$
\begin{aligned}
\Delta Q &= Q_{\text{終}} – Q_{\text{初}} \\[2.0ex]
&= 3CV – CV \\[2.0ex]
&= 2CV
\end{aligned}
$$
エネルギー保存則 \(W_{\text{電池}} = \Delta U + H\) の各項を、この \(\Delta Q\) を用いて表現します。

1. 電池がした仕事 \(W_{\text{電池}}\)
電池は、電荷 \(\Delta Q = 2CV\) を、電位の低い側から高い側へ、一定の電位差 \(3V\) だけ持ち上げる仕事をします。したがって、
$$
\begin{aligned}
W_{\text{電池}} &= \Delta Q \times (3V) \\[2.0ex]
&= (2CV) \times (3V) \\[2.0ex]
&= 6CV^2
\end{aligned}
$$

2. コンデンサーの静電エネルギーの増加分 \(\Delta U\)
コンデンサーに電荷 \(\Delta Q\) が蓄えられる過程で、コンデンサーの電圧は \(V\) から \(3V\) へと連続的に増加します。電荷 \(\Delta Q\) 全体で見ると、平均して \(\displaystyle\frac{V+3V}{2} = 2V\) の電位差に逆らって蓄えられたと考えることができます。
したがって、静電エネルギーの増加分 \(\Delta U\) は、
$$
\begin{aligned}
\Delta U &= \Delta Q \times V_{\text{平均}} \\[2.0ex]
&= \Delta Q \times \frac{V + 3V}{2} \\[2.0ex]
&= (2CV) \times (2V) \\[2.0ex]
&= 4CV^2
\end{aligned}
$$
この結果は、主たる解法で \(U=\displaystyle\frac{1}{2}CV^2\) の公式を用いて計算した \(\Delta U = U_{\text{終}} – U_{\text{初}} = 4CV^2\) と完全に一致します。

エネルギー保存則の式にこれらの値を代入します。
$$ 6CV^2 = 4CV^2 + H $$

使用した物理公式

  • 移動した電気量: \(\Delta Q = C(V_{\text{終}} – V_{\text{初}})\)
  • 電池のする仕事: \(W_{\text{電池}} = \Delta Q \cdot V_{\text{電池}}\)
  • コンデンサーのエネルギー増加(電荷の視点): \(\Delta U = \Delta Q \cdot \displaystyle\frac{V_{\text{初}}+V_{\text{終}}}{2}\)
  • 回路のエネルギー保存則: \(W_{\text{電池}} = \Delta U + H\)
計算過程

立式したエネルギー保存則の式を \(H\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
H &= W_{\text{電池}} – \Delta U \\[2.0ex]
&= 6CV^2 – 4CV^2 \\[2.0ex]
&= 2CV^2
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

坂道を使って荷物を運ぶ様子に例えてみましょう。

  • 荷物: 移動する電気 \(\Delta Q\)
  • リフト(電池): 荷物を高さ \(3V\) の場所まで一定の力で持ち上げる装置。リフトがした仕事は \(W_{\text{電池}} = (\text{荷物}) \times (\text{高さ} 3V)\)。
  • 坂道(コンデンサー): 荷物を積み上げる場所。この坂は、最初は高さ \(V\) から始まって、荷物を積むにつれてだんだん高くなり、最終的に高さ \(3V\) になります。
  • 摩擦(抵抗): 荷物を運ぶ途中で発生する熱。

リフトは荷物を高さ \(3V\) まで持ち上げるので、\(6CV^2\) のエネルギーを供給します。
一方、荷物が実際に得た位置エネルギー(コンデンサーのエネルギー)は、高さ \(V\) から \(3V\) の坂に積み上げられたので、平均の高さ \(2V\) 分だけです。つまり、\(\Delta U = (\text{荷物}) \times (\text{平均の高さ} 2V) = 4CV^2\) となります。
リフトが供給した \(6CV^2\) のうち、荷物の位置エネルギーになったのは \(4CV^2\) だけ。では、差額の \(2CV^2\) はどこへ行ったのか? それが、運ぶ途中で発生した摩擦熱 \(H\) になった、というわけです。

結論と吟味

主たる解法と全く同じく、抵抗で発生する熱量 \(H\) は \(2CV^2\) であるという結論が得られました。この別解は、エネルギーのやり取りを電荷の移動という物理現象と結びつけて考えることで、なぜ電池が供給したエネルギーとコンデンサーに蓄えられたエネルギーに差が生まれ、それが熱になるのかをより直感的に理解させてくれます。

解答 \(2CV^2\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 回路全体のエネルギー保存則(エネルギー収支):
    • 核心: この問題の根幹は、単にコンデンサーのエネルギーを計算することではなく、回路全体でエネルギーが「どこから供給され、どこに蓄えられ、どこで消費されたか」という流れを正確に追跡する「エネルギー収支」の考え方にあります。
    • 理解のポイント:
      • エネルギーの供給源: 電池です。電池が回路に供給するエネルギーは「電池がした仕事 \(W_{\text{電池}}\)」として計算されます。
      • エネルギーの行き先: 供給されたエネルギーは、2つの形で分配されます。
        1. コンデンサーに蓄えられる「静電エネルギーの増加分 \(\Delta U\)」。
        2. 抵抗器で熱として消費される「ジュール熱 \(H\)」。
      • 核心の関係式: これら供給と消費の関係は、\(W_{\text{電池}} = \Delta U + H\) というエネルギー収支の式で表されます。この式を立て、各項を正しく計算できるかが、この問題を解くための全てです。
  • 「仕事」と「エネルギー」で使う電気量の違い:
    • 核心: 「電池がした仕事」を計算するときの電気量と、「コンデンサーのエネルギー」を計算するときの電気量は、意味が異なることを明確に区別することが重要です。
    • 理解のポイント:
      • 電池がした仕事 \(W_{\text{電池}}\): これは充電の「過程」で、電池を通過した電気量 \(\Delta Q\) を使って計算します (\(W_{\text{電池}} = \Delta Q \cdot V_{\text{電池}}\))。
      • コンデンサーの静電エネルギー \(U\): これは、ある「状態」においてコンデンサーに蓄えられている総電気量 \(Q\) を使って計算します (\(U = \displaystyle\frac{1}{2}QV\))。
      • この問題では、\(Q_{\text{初}}\), \(Q_{\text{終}}\), そしてその差である \(\Delta Q\) を混同しないことが、正しい立式への鍵となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • コンデンサーの接続変更: 充電済みのコンデンサーを、電池を介さずに別のコンデンサーに接続する問題。この場合、外部からのエネルギー供給がないため、エネルギー収支ではなく「電気量保存則」が主役になります。抵抗があれば、静電エネルギーの合計は必ず減少し、その減少分がジュール熱になります。
    • 極板間隔の変化や誘電体の挿入: 充電済みのコンデンサーに対し、極板間隔を変えたり誘電体を挿入したりする問題。この場合は、「外力がする仕事 \(W_{\text{外力}}\)」もエネルギー収支に加わります。電源に繋いだまま操作する場合は \(W_{\text{電池}} + W_{\text{外力}} = \Delta U + H\)、電源から切り離して操作する場合は \(W_{\text{外力}} = \Delta U\) のように、状況に応じたエネルギー収支式を立てる必要があります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. エネルギー供給源の有無を確認する: 回路に「電池」は含まれているか? スイッチ操作の前後で電池が回路に接続されているか?
      • 電池あり → エネルギーが供給される。 \(W_{\text{電池}} = \Delta U + H\) の形を基本に思考を開始します。
      • 電池なし(孤立系) → エネルギーは外部から供給されない。 電気量保存則が成り立つ可能性が高いです。エネルギーは(抵抗があれば)熱として失われ、保存しません。
    2. 「前」と「後」の状態を明確にする: 「スイッチを入れる前(初期状態)」と「十分時間が経った後(最終状態)」という2つの時点を考えます。それぞれの状態で、各コンデンサーの電気量 \(Q\)、電圧 \(V\)、静電エネルギー \(U\) を文字式で書き出すことから始めます。
    3. 「変化量 \(\Delta\)」を計算する: 問題で問われているのは、熱量 \(H\) のような「変化の過程」で生じる量です。したがって、状態量を書き出した後は、その差である「変化量」、すなわち移動した電気量 \(\Delta Q = Q_{\text{終}} – Q_{\text{初}}\) と、静電エネルギーの増加分 \(\Delta U = U_{\text{終}} – U_{\text{初}}\) を計算することが次の目標になります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 電池の仕事の計算ミス:
    • 誤解: 電池がした仕事を、コンデンサーの最終的な電気量 \(Q_{\text{終}}\) を使って、\(W_{\text{電池}} = Q_{\text{終}} \cdot V_{\text{電池}}\) と計算してしまう。
    • 対策: 仕事は「過程」で定義される量であることを常に意識します。「どれだけの電気量を」「どれだけの電位差だけ」運んだかが仕事の本質です。したがって、使うべき電気量は、充電の過程で電池を通過した電気量 \(\Delta Q\) です。まず \(\Delta Q = Q_{\text{終}} – Q_{\text{初}}\) を計算する、という手順を徹底しましょう。
  • エネルギー保存則の誤用:
    • 誤解: 回路に抵抗があるにもかかわらず、「初期のエネルギーの和」=「最終のエネルギーの和」という、力学的なエネルギー保存則と同じ感覚で式を立ててしまう。
    • 対策: 電流が流れる回路に抵抗が存在する場合、電荷が移動する際に必ずジュール熱が発生し、エネルギーの一部が熱として系外へ逃げていく、と肝に銘じます。したがって、エネルギーは保存しません。考えるべきは「エネルギー保存則」ではなく「エネルギー収支の式」(\(W_{\text{供給}} = \Delta U_{\text{蓄積}} + H_{\text{消費}}\)) です。
  • \(\Delta U\) を \(U_{\text{終}}\) と混同する:
    • 誤解: エネルギー収支の式の \(\Delta U\) の部分に、計算が楽な最終エネルギー \(U_{\text{終}}\) をそのまま代入してしまう。
    • 対策: \(\Delta\) は「変化量(あと-まえ)」を意味する記号であることを常に意識し、\(\Delta U = U_{\text{終}} – U_{\text{初}}\) を丁寧に計算します。特に、本問のように初期エネルギー \(U_{\text{初}}\) がゼロでない場合には、この引き算を忘れると全く違う答えになってしまいます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • エネルギー収支の式 \(W_{\text{電池}} = \Delta U + H\):
    • 選定理由: この問題のゴールは、抵抗で発生する「熱量 \(H\)」を求めることです。熱量 \(H\) は、エネルギーが消費された結果として生じる量です。したがって、回路全体のエネルギーがどこから来てどこへ行ったのか、その流れ(収支)を記述する法則が必要不可欠です。この式は、そのエネルギー収支を最も直接的に表現するものです。
    • 適用根拠: この式は、熱力学第一法則の考え方を電気回路に適用したものと解釈できます。電池が外部から回路系にする仕事 \(W_{\text{電池}}\) が、系の内部エネルギーの変化(コンデンサーの静電エネルギーの増加分 \(\Delta U\))と、系から熱として放出されるエネルギー(ジュール熱 \(H\))の和に等しい、という普遍的なエネルギー保存の原理に基づいています。
  • 電池の仕事 \(W = \Delta Q \cdot V\):
    • 選定理由: エネルギー供給源である電池が、具体的にどれだけのエネルギーを回路に与えたのかを定量化するために、この公式を選択します。
    • 適用根拠: これは電位(電圧)の定義そのものに基づいています。電位 \(V\) とは「単位電荷あたりの位置エネルギー」を意味します。したがって、電気量 \(\Delta Q\) を電位差 \(V\) のある場所へ運ぶと、その位置エネルギーは \(\Delta Q \cdot V\) だけ増加します。このエネルギー増加分を供給するのが電池の役割であり、これが「電池のした仕事」となります。
  • コンデンサーのエネルギー増加 \(\Delta U = \Delta Q \cdot \displaystyle\frac{V_{\text{初}}+V_{\text{終}}}{2}\) (別解):
    • 選定理由: \(U=\displaystyle\frac{1}{2}CV^2\) という公式を暗記して使うだけでなく、なぜその形になるのかを物理的な過程から直感的に理解するために、この別解のアプローチを選びました。
    • 適用根拠: コンデンサーへの充電は、電圧が \(V_{\text{初}}\) から \(V_{\text{終}}\) へと(ほぼ)線形に増加していく過程です。これは、等加速度直線運動で物体の速度が \(v_{\text{初}}\) から \(v_{\text{終}}\) に変化するときの平均速度が \(\displaystyle\frac{v_{\text{初}}+v_{\text{終}}}{2}\) となるのと全く同じ考え方です。移動した全電荷 \(\Delta Q\) が経験した電位差は、平均の電位差 \(\displaystyle\frac{V_{\text{初}}+V_{\text{終}}}{2}\) とみなすことができます。したがって、エネルギーの増加分は(運んだ電荷)\(\times\)(平均の電位差)で計算できるのです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 初期状態と最終状態の図式化: 問題を読んだら、まず「Before」と「After」の簡単な回路図を描き、それぞれのコンデンサーに \(Q_{\text{初}}, V_{\text{初}}, U_{\text{初}}\) と \(Q_{\text{終}}, V_{\text{終}}, U_{\text{終}}\) の値を書き込むことを習慣にしましょう。この一手間で、計算すべき量が視覚的に整理され、混乱を防げます。
  • 変化量 \(\Delta\) の計算を独立させる: \(\Delta Q = Q_{\text{終}} – Q_{\text{初}}\) と \(\Delta U = U_{\text{終}} – U_{\text{初}}\) を、それぞれ独立した計算ステップとして、答案の別の場所に丁寧に行いましょう。特に、\(U_{\text{終}} = \displaystyle\frac{1}{2}C(3V)^2 = \displaystyle\frac{9}{2}CV^2\) のような2乗の計算は、括弧を忘れないよう特に慎重に行います。
  • エネルギー収支の表を作成する: 少し複雑な問題だと感じたら、以下のような簡単な表を作って数値を埋めていくと、全体像が一目瞭然となり、ミスが劇的に減ります。
    エネルギー項目 関係式 計算値
    電池の仕事 \(W_{\text{電池}}\) \(\Delta Q \cdot V_{\text{電池}}\) \(6CV^2\)
    エネルギー増加 \(\Delta U\) \(U_{\text{終}} – U_{\text{初}}\) \(4CV^2\)
    発生熱量 \(H\) \(W_{\text{電池}} – \Delta U\) \(2CV^2\)
  • 単位と次元の確認: 最終的に求めた答え \(H=2CV^2\) が、ちゃんとエネルギーの次元(単位)を持っているかを確認する癖をつけましょう。\(\displaystyle\frac{1}{2}CV^2\) がエネルギーの公式なので、\(CV^2\) は確かにエネルギーの次元を持っています。このような簡単な検算が、致命的な間違いを防ぐ最後の砦になります。
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38 エネルギー保存則

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 別解: 静電エネルギーの公式 \(U=\displaystyle\frac{Q^2}{2C}\) を用いる解法
      • 模範解答が、まず最終的な共通電圧 \(V’\) を求めてから \(U=\displaystyle\frac{1}{2}CV^2\) の形で最終エネルギーを計算するのに対し、別解では、保存される総電気量 \(Q\) と最終的な合成容量 \(C\) を用いて、最終エネルギーを \(U=\displaystyle\frac{Q^2}{2C}\) の形で直接計算します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 思考の効率化: 電気量が保存される系では、電圧のように変化する量ではなく、不変量である総電気量 \(Q\) に着目することで、途中の計算(この問題では \(V’\) の算出)を省略し、より直接的に最終エネルギーを求めることができます。
    • 解法の選択肢拡大: 物理法則は一つの事象を複数の数式で表現できます。状況に応じて最も計算が簡潔になる公式を選択する能力は、応用力を高め、計算ミスを減らす上で非常に有効です。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「コンデンサーの接続変更とエネルギー保存則」です。電池を含まない回路でコンデンサーを再接続する際に、電気量とエネルギーがどのように変化するかを問う典型的な問題です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 電気量保存則: 電池など外部の電源から切り離された回路部分(孤立系)では、各極板の電気量の総和は一定に保たれます。
  2. エネルギー保存則(エネルギー収支): 回路にエネルギーの供給源(電池など)がない場合、回路全体の静電エネルギーの減少分が、抵抗で発生するジュール熱に等しくなります。
  3. コンデンサーの並列接続: スイッチを入れた後の最終状態では、2つのコンデンサーの電圧は等しくなります。これは並列接続とみなせ、合成容量は \(C = C_1 + C_2\) となります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. スイッチを入れる前(初期状態)と、十分時間が経った後(最終状態)について、電気量と静電エネルギーを整理します。
  2. 回路が外部から孤立していることに着目し、「電気量保存則」を立てて、最終状態の共通電圧 \(V’\) を求めます。
  3. 「初期の総静電エネルギー」と「最終の総静電エネルギー」をそれぞれ計算し、その差(エネルギーの減少分)が発生したジュール熱 \(H\) に等しいとして、方程式を立てて解きます。

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