原子範囲 06~10
06 コンプトン効果
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「コンプトン効果におけるエネルギー保存則と運動量保存則の適用」です。光子と電子の衝突というミクロな現象を、2つの基本的な保存則を用いて記述し、未知の物理量を導出する問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- エネルギー保存則: 衝突の前後で、系全体のエネルギーの総和は一定に保たれます。
- 運動量保存則: 衝突の前後で、系全体の運動量のベクトル和は一定に保たれます。運動量はベクトル量であるため、向き(符号)の扱いに注意が必要です。
- 光子のエネルギーと運動量: 振動数\(\nu\)の光子は、エネルギー\(E=h\nu\)と運動量\(p=h\nu/c\)を持ちます。
- 電子のエネルギーと運動量: 質量\(m\)、速さ\(v\)の電子は、運動エネルギー\(K=\frac{1}{2}mv^2\)と運動量\(p=mv\)を持ちます。(ここでは非相対論的な扱いをします)
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 衝突前後の「エネルギー保存則」を立式します。
- 衝突前後の「運動量保存則」を立式します。このとき、光子が反対方向へ戻ることを考慮し、運動量の符号を正しく設定します。
- これら2つの式を連立させ、問題では問われていない未知数(散乱後の光子の振動数\(\nu’\))を消去します。
- 残った式を、求めたい電子の速さ\(v\)についての二次方程式とみて、解の公式を用いて解きます。
電子の速さ\(v\)の導出
思考の道筋とポイント
光子と電子の衝突現象なので、力学の衝突問題と同様に「エネルギー保存則」と「運動量保存則」を適用するのが基本方針です。
求めたいのは電子の速さ\(v\)ですが、衝突後の光子の振動数\(\nu’\)も未知数です。このように未知数が2つ(\(v, \nu’\))あるため、独立した式が2本必要となり、それがエネルギー保存則と運動量保存則の2本に対応します。
運動量はベクトル量であるため、1次元の衝突として座標軸(例えば右向きを正)を設定し、各粒子の運動量の向きを符号で正しく表現することが極めて重要です。
2つの保存則の式を立てた後、これらを連立させて、まずは不要な未知数である\(\nu’\)を消去します。すると、求めたい\(v\)のみを含む方程式が得られます。この方程式は\(v\)についての二次方程式になるため、数学の解の公式を用いて解を求めます。
この設問における重要なポイント
- 衝突前後の各粒子のエネルギーと運動量を、与えられた文字を使って正しく表現すること。
- 運動量保存則では、方向を定め(例:右向きを正)、散乱光子の運動量を負の値で表すこと。
- 2つの保存則から、不要な変数(\(\nu’\))を消去する方針を立てること。
具体的な解説と立式
衝突前の光子の進行方向(右向き)を正とします。
まず、運動量保存則を立てます。
衝突前の運動量の和は、静止している電子の運動量が\(0\)なので、光子の運動量のみです。
$$
\begin{aligned}
p_{\text{前}} &= \frac{h\nu}{c}
\end{aligned}
$$
衝突後の運動量の和は、反対方向(左向き)に進む光子の運動量と、右向きに進む電子の運動量の和です。
$$
\begin{aligned}
p_{\text{後}} &= -\frac{h\nu’}{c} + mv
\end{aligned}
$$
運動量保存則より \(p_{\text{前}} = p_{\text{後}}\) なので、
$$
\begin{aligned}
\frac{h\nu}{c} &= -\frac{h\nu’}{c} + mv \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
となります。
次に、エネルギー保存則を立てます。
衝突前のエネルギーの和は、静止している電子の運動エネルギーが\(0\)なので、光子のエネルギーのみです。
$$
\begin{aligned}
E_{\text{前}} &= h\nu
\end{aligned}
$$
衝突後のエネルギーの和は、散乱された光子のエネルギーと、動き出した電子の運動エネルギーの和です。
$$
\begin{aligned}
E_{\text{後}} &= h\nu’ + \frac{1}{2}mv^2
\end{aligned}
$$
エネルギー保存則より \(E_{\text{前}} = E_{\text{後}}\) なので、
$$
\begin{aligned}
h\nu &= h\nu’ + \frac{1}{2}mv^2 \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
となります。
使用した物理公式
- エネルギー保存則
- 運動量保存則
- 光子のエネルギー: \(E=h\nu\)
- 光子の運動量: \(p=h\nu/c\)
- 電子の運動エネルギー: \(K=\frac{1}{2}mv^2\)
- 電子の運動量: \(p=mv\)
式①と②から、未知数\(\nu’\)を消去して\(v\)を求めます。
まず、式①の両辺に光速\(c\)を掛けて、\(h\nu’\)について整理しやすくします。
$$
\begin{aligned}
h\nu &= -h\nu’ + mvc
\end{aligned}
$$
これを \(h\nu’\) について解くと、
$$
\begin{aligned}
h\nu’ &= mvc – h\nu \quad \cdots ①’
\end{aligned}
$$
次に、式②を \(h\nu’\) について解くと、
$$
\begin{aligned}
h\nu’ &= h\nu – \frac{1}{2}mv^2 \quad \cdots ②’
\end{aligned}
$$
式①’と式②’の左辺はどちらも\(h\nu’\)なので、右辺同士を等しいとおくことで\(\nu’\)を消去します。
$$
\begin{aligned}
mvc – h\nu &= h\nu – \frac{1}{2}mv^2
\end{aligned}
$$
この式を、\(v\)について整理します。全ての項を左辺に移すと、
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv^2 + mcv – 2h\nu &= 0
\end{aligned}
$$
両辺を2倍して分母を払うと、\(v\)に関する二次方程式が得られます。
$$
\begin{aligned}
mv^2 + 2mcv – 4h\nu &= 0
\end{aligned}
$$
この二次方程式を、解の公式 \(x = \frac{-b \pm \sqrt{b^2-4ac}}{2a}\) を用いて\(v\)について解きます。ここで \(a=m, b=2mc, c=-4h\nu\) です。
$$
\begin{aligned}
v &= \frac{-(2mc) \pm \sqrt{(2mc)^2 – 4(m)(-4h\nu)}}{2m} \\[2.0ex]
&= \frac{-2mc \pm \sqrt{4m^2c^2 + 16mh\nu}}{2m} \\[2.0ex]
&= \frac{-2mc \pm \sqrt{4(m^2c^2 + 4mh\nu)}}{2m} \\[2.0ex]
&= \frac{-2mc \pm 2\sqrt{m^2c^2 + 4mh\nu}}{2m} \\[2.0ex]
&= \frac{-mc \pm \sqrt{m^2c^2 + 4mh\nu}}{m}
\end{aligned}
$$
電子の速さ\(v\)は正の値でなければならないので、\(v>0\)より、正の解(プラス記号の方)を選びます。
$$
\begin{aligned}
v &= \frac{-mc + \sqrt{m^2c^2 + 4mh\nu}}{m} \\[2.0ex]
&= \sqrt{\frac{m^2c^2 + 4mh\nu}{m^2}} – \frac{mc}{m} \\[2.0ex]
&= \sqrt{c^2 + \frac{4h\nu}{m}} – c
\end{aligned}
$$
光の粒(光子)が電子にビリヤードのように衝突する場面を考えます。
ビリヤードの玉の衝突と同じで、「エネルギー」の合計と「運動量(勢い)」の合計は、衝突の前後で変わらない、という2つのルールが成り立ちます。
この2つのルールを使って、2本の式を立てます。このとき、運動量は向きが重要なので、戻ってくる光子の運動量はマイナスの符号をつけます。
求めたいのは電子の速さ\(v\)ですが、式の中には散乱後の光子の振動数\(\nu’\)という、今は知りたくない情報も入っています。
そこで、2本の式をうまく組み合わせて、まず\(\nu’\)を消去します。
すると、\(v\)だけの式が残ります。この式は\(v^2\)の項を含む二次方程式なので、数学で習った解の公式を使って解けば、答えが求まります。
電子の速さ\(v\)は \(\sqrt{c^2 + \frac{4h\nu}{m}} – c\) と表せます。この結果は、入射光子のエネルギー\(h\nu\)が大きいほど、電子が得る速さ\(v\)も大きくなることを示しており、物理的に妥当な結果です。この計算は、電子の速さ\(v\)が光速\(c\)に比べて十分小さいという仮定(非相対論的エネルギーの式 \(K=\frac{1}{2}mv^2\) を使用)のもとで行われています。厳密には相対性理論を考慮する必要がありますが、高校物理の範囲ではこの近似で十分です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 2つの保存則の連立適用:
- 核心: この問題の根幹は、ミクロな世界の粒子の衝突現象が、マクロな世界の物体の衝突と同様に、「エネルギー保存則」と「運動量保存則」という2つの普遍的な法則によって完全に記述されることを理解し、適用することにあります。
- 理解のポイント:
- エネルギー保存則: スカラー量であるエネルギーの衝突前後の総和が等しいという関係式。粒子の種類(光子か電子か)に応じて、正しいエネルギーの表現(\(h\nu\) か \(\frac{1}{2}mv^2\) か)を用いる必要があります。
- 運動量保存則: ベクトル量である運動量の衝突前後の総和が等しいという関係式。1次元の衝突として扱うため、座標軸を設定し、向きを正負の符号で厳密に区別することが極めて重要です。特に、はね返る光子の運動量を負で表す点が最大のポイントです。
- これら2つの独立した法則を連立させることで、2つの未知数(この問題では\(v\)と\(\nu’\))を決定することができます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 2次元のコンプトン効果: 光子が斜め方向に散乱し、電子も斜め方向に飛び出す、より一般的なコンプトン効果の問題。
- エネルギー保存則は1本の式のままですが、運動量保存則はx成分とy成分のそれぞれについて立てる必要があり、合計3本の連立方程式となります。計算は複雑になりますが、根本的な考え方は同じです。
- 原子核反応: 原子核が粒子を吸収したり放出したりする反応でも、エネルギー保存則(反応エネルギー\(Q\)を含む)と運動量保存則が成り立ちます。放出される粒子のエネルギーや速さを求める問題に応用できます。
- 光子の吸収・放出による原子の運動: 静止している原子が光子を放出して逆向きに動き出す(反跳する)現象。
- この場合も、エネルギー保存則(原子の内部エネルギーの変化を含む)と運動量保存則(放出された光子の運動量と原子の運動量の和がゼロ)を連立させることで、原子の速さなどを求めることができます。
- 2次元のコンプトン効果: 光子が斜め方向に散乱し、電子も斜め方向に飛び出す、より一般的なコンプトン効果の問題。
- 初見の問題での着眼点:
- 現象の特定: まず、何と何が衝突(あるいは分裂・合体)する現象なのかを把握します。
- 保存則の選択: 衝突現象であれば、まずエネルギー保存則と運動量保存則が使えることを疑います。
- 座標軸の設定: 運動量保存則を扱うために、必ず座標軸を設定し、各物体の速度・運動量の符号を決定します。
- 未知数の特定: 求めたい量は何か、それ以外に未知となっている量は何かをリストアップします。(この問題では、求めたいのは\(v\)、未知数は\(\nu’\))
- 消去する文字の決定: 立てた連立方程式から、求めたい量以外の未知数(この問題では\(\nu’\))を消去する方針で計算を進めます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 運動量の符号のミス:
- 誤解: 運動量保存則を立てる際に、全ての項を正として \( \frac{h\nu}{c} = \frac{h\nu’}{c} + mv \) のように立式してしまう。
- 対策: 「運動量はベクトルである」ということを常に肝に銘じましょう。問題を解き始める前に、必ず「右向きを正とする」のように座標軸を宣言し、図に矢印と符号を書き込む癖をつけるのが最も効果的です。はね返る光子の運動量は、必ず負の符号をつけなければなりません。
- エネルギーと運動量の混同:
- 誤解: エネルギー保存則の式に、運動量と同じように符号をつけてしまう(例: \(h\nu = -h\nu’ + …\))。
- 対策: エネルギーは向きを持たない「スカラー量」であることを思い出してください。エネルギー保存則では、衝突前後のエネルギーの総和を単純に足し合わせるだけでよく、符号を気にする必要はありません。
- 二次方程式の解の選択ミス:
- 誤解: 解の公式で得られた2つの解(プラスマイナスの解)のうち、どちらが物理的に正しい解なのかを吟味せずに答えてしまう。
- 対策: 計算で得られた数学的な解が、必ずしも物理的に意味のある解とは限りません。この問題では、電子の「速さ」\(v\)を求めているので、\(v\)は必ず正の値 (\(v>0\)) をとるはずです。この物理的な条件に基づいて、適切な解を選択する必要があります。ルートの中身と外の項の大小関係を比較し、プラスの解を選べば全体として正になることを確認するプロセスが重要です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- エネルギー保存則と運動量保存則の同時適用:
- 選定理由: 衝突現象を記述する最も基本的かつ強力な法則が、この2つの保存則だからです。特に、衝突の過程でどのような力が働くかが分からなくても、衝突の前後という「状態」だけを比較して関係式を立てられる点で非常に優れています。
- 適用根拠: 光子と電子の系に外力が働かない(孤立系とみなせる)ため、運動量保存則が成り立ちます。また、衝突によって熱が発生したり、粒子が消滅・生成したりしない限り(弾性衝突とみなせる場合)、エネルギー保存則も成り立ちます。コンプトン効果は、この2つの法則が同時に成り立つ典型的な例です。
- 連立方程式による未知数の消去:
- 選定理由: 物理法則を立式した結果、未知数が2つ(\(v, \nu’\))で式が2本得られました。この状況で、求めたい未知数(\(v\))だけを残すための数学的な手続きが、連立方程式による未知数の消去です。
- 適用根拠: 2つの保存則は、同じ一つの衝突現象に対して同時に成り立っている法則です。したがって、両方の式に含まれる\(\nu’\)は同じ物理量を表しており、一方の式で表した\(\nu’\)をもう一方の式に代入する(あるいは、両方の式から\(\nu’\)の項を消去する)という操作が数学的に正当化されます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- \(\nu’\)の消去方法の工夫:
- 模範解答では、\(h\nu’\)の形を作って代入することで消去しています。これは非常にスマートな方法です。
- 式①を\(\nu’ = \frac{c}{h}(mv – \frac{h\nu}{c})\)のように変形して式②に代入することも可能ですが、計算が煩雑になりがちです。できるだけシンプルな形(この場合は\(h\nu’\))を保ったまま消去できないか、と考える癖をつけると計算が楽になります。
- 二次方程式の整理:
- \(v\)に関する項を整理する際、\(\frac{1}{2}mv^2 + mcv – 2h\nu = 0\) のように、まずは全ての項を片側に集めて「= 0」の形を作るのが基本です。
- 分数係数(\(\frac{1}{2}m\))は、解の公式を使う前に両辺を2倍するなどして整数係数に直しておくと、代入時の計算ミスを減らすことができます。
- ルートの計算:
- 解の公式でルートの中身を計算する際、\((2mc)^2 = 4m^2c^2\) のように、係数と文字をそれぞれ2乗することを忘れないように注意します。
- ルートの中の \(4m^2c^2 + 16mh\nu\) から、共通因数である\(4\)を括り出してルートの外に出す (\(\sqrt{4(…)} = 2\sqrt{(…)}\)) という操作は、その後の約分を可能にするための重要なステップです。常にルートの中を簡単にできないか意識しましょう。
07 コンプトン効果
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 設問(1)と(2)の別解: エネルギーと運動量の流れ(フラックス)として捉える解法
- 模範解答が「光子1個」の運動量変化を計算し、それに「1秒間の光子の数」を掛けて力を求めるのに対し、別解では「1秒間に入射するエネルギーの総量\(L\)」に対応する「運動量の流れ」を直接計算し、その運動量の流れが板によってどう変化するかを考え、力を導出します。
- 設問(1)と(2)の別解: エネルギーと運動量の流れ(フラックス)として捉える解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 力が「単位時間あたりの運動量の変化」であるという定義を、より直接的に体感できます。
- 思考のショートカット: 光子の数を計算するステップを省略し、エネルギーの流量から直接力の大きさを計算できるため、思考のステップが少なくなり、見通しが良くなります。
- 視点の多様性: ミクロな粒子1個の衝突を積み上げて考える視点と、マクロなエネルギーや運動量の流れとして捉える視点の両方を学ぶことができます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは完全に一致します。
この問題のテーマは「光圧と力積・運動量の関係」です。光子が運動量を持つことから生じる「光圧」について、力積と運動量変化の関係を用いて定量的に計算する問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力と力積の関係: 力\(F\)は、単位時間あたりの運動量の変化量に等しいこと (\(F = \Delta p / \Delta t\))。特に\(\Delta t=1\)秒間を考えれば、力\(F\)の大きさは1秒間の運動量変化の大きさに等しくなります。
- 光子のエネルギーと運動量: 振動数\(\nu\)の光子は、エネルギー\(E=h\nu\)と運動量\(p=h\nu/c\)を持ちます。この2つの式から、\(p=E/c\)という重要な関係が導かれます。
- エネルギーの流量: 「毎秒\(L\)[J]」という情報は、単位時間あたりに板に入射するエネルギーの総量を表しており、これと光子1個のエネルギーから、単位時間あたりに衝突する光子の数を計算できます。
- 運動量変化の計算: 光子が「吸収」される場合(運動量がゼロになる)と、「反射」される場合(運動量の向きが反転する)の運動量変化を、ベクトル量として正しく計算できることが重要です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)と(2)で共通の準備として、まず1秒間に板に当たる光子の数\(N\)を、エネルギーの情報から求めます。
- (1)では、光子1個が「吸収」されるときの運動量変化を計算し、それに光子の数\(N\)を掛けることで、1秒間の全運動量変化、すなわち板が受ける力\(F_1\)を求めます。
- (2)では、光子1個が「反射」されるときの運動量変化を計算し、同様に\(N\)を掛けて力\(F_2\)を求めます。
設問(1) 板が光を完全に吸収する場合
思考の道筋とポイント
力が「単位時間あたりの運動量の変化」であることを利用します。ここでは単位時間として\(\Delta t = 1\)秒間を考えると、1秒間に板が受ける力の大きさは、1秒間に板が受け取る運動量の大きさに等しくなります。
1秒間に板が受け取る運動量の総量は、「1秒間に衝突する光子の数\(N\)」\(\times\)「光子1個が衝突によって板に与える運動量\(\Delta p_1\)」で計算できます。
したがって、まず\(N\)をエネルギーの情報から求め、次に\(\Delta p_1\)を運動量の定義から求める、という2段階で考えます。
この設問における重要なポイント
- 力 \(F\) = (1秒間に衝突する光子の数 \(N\)) \(\times\) (光子1個が板に与える運動量 \(\Delta p\))
- 吸収される場合、光子の最終的な運動量は\(0\)になる。
- 板が受け取る運動量は、光子が失う運動量に等しい(作用・反作用の法則)。
具体的な解説と立式
1秒間に板に当たるエネルギーの総量は\(L\)[J]です。
一方、振動数\(\nu\)の光子1個が持つエネルギーは\(E_1 = h\nu\)[J]です。
したがって、1秒間に板に当たる光子の数\(N\)は、
$$
\begin{aligned}
N &= \frac{(\text{1秒間の総エネルギー})}{(\text{光子1個のエネルギー})} \\[2.0ex]
&= \frac{L}{h\nu}
\end{aligned}
$$
となります。
次に、光子1個が板に与える運動量を考えます。
入射する光子1個の運動量の大きさは、問題文より \(p = h\nu/c\) です。
光子が板に完全に吸収されると、その運動量は\(0\)になります。
したがって、光子1個の運動量の変化の大きさは、
$$
\begin{aligned}
\Delta p_1 &= |0 – p| \\[2.0ex]
&= p \\[2.0ex]
&= \frac{h\nu}{c}
\end{aligned}
$$
です。作用・反作用の法則により、これは光子1個が板に与える運動量(力積)の大きさに等しくなります。
板が受ける力\(F_1\)は、1秒間に受け取る力積の合計に等しいので、
$$
\begin{aligned}
F_1 &= N \times \Delta p_1
\end{aligned}
$$
となります。
使用した物理公式
- 力積と運動量の関係: \(F\Delta t = \Delta p\)
- 光子のエネルギー: \(E=h\nu\)
- 光子の運動量: \(p=h\nu/c\)
立式した\(F_1 = N \times \Delta p_1\)に、\(N\)と\(\Delta p_1\)の式を代入します。
$$
\begin{aligned}
F_1 &= \left(\frac{L}{h\nu}\right) \times \left(\frac{h\nu}{c}\right) \\[2.0ex]
&= \frac{L}{c}
\end{aligned}
$$
壁に粘土のボールを投げつけ、ボールが壁にくっついてしまう状況を想像してください。壁が受ける力は、「1秒間にぶつかるボールの数」と「ボール1個が壁に与える勢い」の掛け算で決まります。
この問題では、まず「1秒間に何個の光子が当たるか」をエネルギーの情報から計算します。次に、「光子1個が吸収されるときに、どれだけの勢い(運動量)を板に与えるか」を計算します。
最後に、この2つの量を掛け合わせることで、板が受ける力の大きさが求まります。
板が光を完全に吸収する場合、受ける力は \(F_1 = L/c\) となります。これは、単位時間あたりに入射するエネルギー\(L\)を光速\(c\)で割ったものに等しく、非常にシンプルな関係になっています。
設問(2) 板が光を完全に反射する場合
思考の道筋とポイント
基本的な考え方は(1)と全く同じです。違うのは「光子1個が板に与える運動量\(\Delta p_2\)」の部分だけです。
「完全に反射する」とは、光子が同じ大きさの運動量で、向きだけが正反対になってはね返ることを意味します。運動量はベクトル(向きを持つ量)なので、向きが反転すると運動量も変化します。この変化量を正しく計算することがポイントです。
この設問における重要なポイント
- 反射する場合、光子の運動量は \(p \rightarrow -p\) と変化する。
- 光子1個の運動量変化の大きさは \(|(-p) – p| = 2p\) となる。
- したがって、吸収される場合の2倍の力積を板に与える。
具体的な解説と立式
1秒間に当たる光子の数\(N\)は(1)と同じで、\(N = L/(h\nu)\)です。
次に、光子1個が板に与える運動量を考えます。
入射方向を正とすると、入射する光子1個の運動量は \(p = h\nu/c\) です。
完全に反射すると、光子は逆向きに同じ大きさの運動量を持つので、反射後の運動量は \(-p = -h\nu/c\) となります。
したがって、光子1個の運動量の変化は、
$$
\begin{aligned}
\Delta p_{\text{光子}} &= (\text{後の運動量}) – (\text{前の運動量}) \\[2.0ex]
&= (-p) – p \\[2.0ex]
&= -2p \\[2.0ex]
&= -\frac{2h\nu}{c}
\end{aligned}
$$
となります。
作用・反作用の法則により、板が光子1個から受け取る運動量\(\Delta p_2\)は、この反作用なので、大きさは \(2p = 2h\nu/c\) となります。
板が受ける力\(F_2\)は、1秒間に受け取る力積の合計に等しいので、
$$
\begin{aligned}
F_2 &= N \times \Delta p_2
\end{aligned}
$$
となります。
使用した物理公式
- (1)と同じ
立式した\(F_2 = N \times \Delta p_2\)に、\(N\)と\(\Delta p_2\)の式を代入します。
$$
\begin{aligned}
F_2 &= \left(\frac{L}{h\nu}\right) \times \left(\frac{2h\nu}{c}\right) \\[2.0ex]
&= \frac{2L}{c}
\end{aligned}
$$
今度は、壁にスーパーボールを投げつけ、ボールが同じ速さで真逆に跳ね返ってくる状況を想像してください。
壁は、飛んでくるボールを止めるだけでなく、さらに逆向きに同じ勢いで押し返す必要があります。そのため、ボールが壁にくっつく場合(吸収)よりも大きな衝撃を受けます。
計算すると、運動量の変化がちょうど2倍になるため、壁が受ける力も2倍になります。
板が光を完全に反射する場合、受ける力は \(F_2 = 2L/c\) となります。これは、完全に吸収する場合の力のちょうど2倍です。硬い壁に当たってはね返るボールの方が、粘土のように壁にくっつくボールよりも大きな衝撃を壁に与える、という日常的な感覚とも一致しており、物理的に妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
力が「単位時間あたりの運動量の変化」であるという定義に立ち返り、光子1個ずつではなく、光子の流れ全体を一つの「運動量の流れ」として捉えるアプローチです。
まず、関係式 \(p=E/c\) を用いて、「毎秒\(L\)[J]のエネルギーの流れ」が「毎秒どれくらいの運動量の流れ」に相当するかを計算します。そして、その運動量の流れが板との相互作用(吸収または反射)によって、単位時間あたりにどれだけ変化するかを考え、力を直接求めます。
この設問における重要なポイント
- 入射する運動量の流量(単位時間あたりの運動量)は \(P_{\text{流入}} = L/c\)。
- 力 \(F = \Delta P / \Delta t\)。\(\Delta t=1\)秒とすれば、力\(F\)は1秒間の運動量変化の総量に等しい。
具体的な解説と立式
光子のエネルギー\(E\)と運動量\(p\)の間には \(p=E/c\) の関係があります。これは、光子の流れ全体にも適用できます。
毎秒\(L\)[J]のエネルギーが板に入射するということは、毎秒\(L/c\)の大きさの運動量が板に向かって流入していることを意味します。これを運動量の流量と呼び、\(P_{\text{流入}} = L/c\) と書きます。
(1) 板が光を完全に吸収する場合
板は、流入してくる運動量を毎秒\(L/c\)の割合で受け止め、運動量を\(0\)にします。
したがって、1秒間に板が受け取る運動量の大きさは、
$$
\begin{aligned}
\Delta P_1 &= P_{\text{流入}} – 0 \\[2.0ex]
&= \frac{L}{c}
\end{aligned}
$$
力は単位時間あたりの運動量変化なので、
$$
\begin{aligned}
F_1 &= \frac{\Delta P_1}{1 \, \text{s}} \\[2.0ex]
&= \frac{L}{c}
\end{aligned}
$$
となります。
(2) 板が光を完全に反射する場合
板は、流入してくる運動量\(P_{\text{流入}}\)を受け止めるだけでなく、逆向きに同じ大きさの運動量\(P_{\text{流出}} = L/c\)を光子に与えて押し返します。
光子全体の運動量は、入射方向を正とすると、毎秒\(+L/c\)の状態から\(-L/c\)の状態へ変化します。
したがって、1秒間での光子全体の運動量変化は、
$$
\begin{aligned}
\Delta P_{\text{光子}} &= P_{\text{流出,ベクトル}} – P_{\text{流入,ベクトル}} \\[2.0ex]
&= \left(-\frac{L}{c}\right) – \left(+\frac{L}{c}\right) \\[2.0ex]
&= -\frac{2L}{c}
\end{aligned}
$$
作用・反作用の法則により、板が受け取る運動量の大きさは \(|\Delta P_{\text{光子}}| = 2L/c\) です。
よって、板が受ける力は、
$$
\begin{aligned}
F_2 &= \frac{2L/c}{1 \, \text{s}} \\[2.0ex]
&= \frac{2L}{c}
\end{aligned}
$$
となります。
ホースから出る水の流れを板で受け止める状況を想像してください。
「毎秒\(L\)[J]の光の流れ」は、「毎秒\(L/c\)の勢いを持つ水の流れ」と考えることができます。
(1) 吸収する場合: 板で水の流れをすべて受け止める場合、板は水の勢いである\(L/c\)の力を受けます。
(2) 反射する場合: 板で水の流れを完全に真逆に跳ね返す場合、板は水の流れを受け止める力(\(L/c\))と、さらに逆向きに押し返す力(\(L/c\))の両方を受けるため、合計で\(2L/c\)の力を受けます。
主たる解法と全く同じ結果が得られました。この別解は、光子の数を数えるというミクロなステップを経由せず、エネルギーと運動量の流れというマクロな量だけで計算できるため、より直接的で物理的本質を捉えやすい考え方です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 力積と運動量変化の関係の応用:
- 核心: この問題の根幹は、力学の基本法則である「力積は運動量の変化に等しい (\(F\Delta t = \Delta p\))」を、光子というミクロな粒子に適用することにあります。特に、力\(F\)を「単位時間あたりの運動量変化」として捉える視点が重要です。
- 理解のポイント:
- 力\(F\)の定義: \(F = \frac{\Delta p_{\text{合計}}}{\Delta t}\)
- 1秒間での考察: \(\Delta t = 1\)秒間を考えると、力の大きさ\(F\)は、1秒間に生じる全運動量変化の大きさに等しくなります。
- 全運動量変化: 1秒間の全運動量変化は、「1秒間に衝突する粒子の数\(N\)」と「粒子1個あたりの運動量変化\(\Delta p\)」の積で計算できます。(\(\Delta p_{\text{合計}} = N \times \Delta p\))
- このように、力学の基本法則を、光子の粒子的な性質と結びつけて段階的に計算していくプロセスが、この問題の核心です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 気体分子運動論: 容器の壁が気体分子から受ける圧力を求める問題。
- これも本質的に同じ考え方です。分子1個が壁に衝突する際の運動量変化を計算し、それに単位時間あたりに壁に衝突する分子の数を掛けることで、壁が受ける力を求め、最終的に圧力(力/面積)を導出します。
- 斜め入射の光圧: 光が板に斜めに角度\(\theta\)で入射する場合。
- 運動量を板に垂直な成分と平行な成分に分解して考える必要があります。
- 板が受ける力に関係するのは、板に垂直な方向の運動量変化のみです。入射する光子1個の運動量を\(p\)とすると、垂直成分は\(p\cos\theta\)となります。
- 完全吸収なら力は\((L/c)\cos\theta\)、完全反射なら力は\(2(L/c)\cos\theta\)のようになります。
- ロケットの推進力: ロケットが燃料を噴射して加速する問題。
- これも「単位時間あたりに噴射する燃料の質量」\(\times\)「噴射ガスの(ロケットから見た)速さ」が、ロケットが得る推進力(単位時間あたりの運動量変化)に等しい、という全く同じ構造で解くことができます。
- 気体分子運動論: 容器の壁が気体分子から受ける圧力を求める問題。
- 初見の問題での着眼点:
- 「力」を問われたら運動量変化を疑う: 問題文で「力がいくらか」と問われたら、まず「力積と運動量の関係」が使えないかを考えます。
- 単位時間あたりを考える: 「毎秒…」や「…の割合で」といった記述があれば、\(\Delta t=1\)秒間を考えて、力の大きさと1秒間の運動量変化を等しいとおく方針が有効です。
- 1個あたりと総数を分離して考える: まず粒子「1個」の衝突による運動量変化を正確に計算し、次に「単位時間あたりに何個」衝突するのかを計算する、というように問題を2つのステップに分解すると、思考が整理されます。
- 相互作用の種類を特定する: 衝突が「吸収」なのか「反射」なのか、あるいは「弾性衝突」「非弾性衝突」なのかを問題文から正確に読み取り、運動量変化の計算方法を正しく選択します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 反射における運動量変化の計算ミス:
- 誤解: 反射は向きが変わるだけなので、運動量の変化はゼロ、あるいは\(p\)だと考えてしまう。
- 対策: 運動量がベクトル量であることを徹底的に意識します。数直線上で、\(+p\)の位置から\(-p\)の位置へ移動したときの「変化量」は、「(後)-(前)」で計算するので、\((-p) – (+p) = -2p\) となります。大きさは\(2p\)です。ボールが壁ではね返るイメージを持つと、「止める」運動量変化と「押し返す」運動量変化の合計で2倍になる、と直感的に理解できます。
- エネルギーと運動量の関係式の誤用:
- 誤解: 光子の運動量を\(p=E/c\)ではなく、\(p=h\nu/c\)のまま計算を進め、\(h\)や\(\nu\)が最終的な答えに残ってしまう。
- 対策: 問題文で与えられている文字(この問題では\(L\)と\(c\))だけで答えを表現する必要があります。計算の途中で\(h\)や\(\nu\)が出てきても、それらは最終的に消去すべき文字だと意識することが重要です。\(N=L/h\nu\)と\(p=h\nu/c\)を掛けることで、うまく\(h\nu\)がキャンセルされる仕組みになっています。
- 力と力積の混同:
- 誤解: 光子1個の運動量変化(力積)を、そのまま力だと勘違いしてしまう。
- 対策: 力は「単位時間あたり」の概念であることを常に意識しましょう。光子1個の衝突は一瞬の出来事であり、それ自体は「力積」を与えますが、「力」ではありません。連続的に多数の光子が衝突することで、平均的な「力」が生じます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(F = N \times \Delta p\) (単位時間あたり):
- 選定理由: この問題は、多数の粒子が連続的に衝突することで生じる平均的な力を求める状況です。このような「多粒子による力の生成」という状況を記述するのに最も適したモデルが、この「(1個あたりの効果) \(\times\) (個数)」という考え方です。
- 適用根拠: 力の定義 \(F = \frac{d p_{\text{合計}}}{dt}\) を、時間\(\Delta t\)の間の平均的な力 \(\bar{F} = \frac{\Delta p_{\text{合計}}}{\Delta t}\) として考えます。\(\Delta t=1\)秒間に\(N\)個の粒子が衝突し、それぞれが平均\(\Delta p\)の運動量変化をする場合、全運動量変化は \(\Delta p_{\text{合計}} = N \Delta p\) となります。したがって、\(\bar{F} = \frac{N \Delta p}{1} = N \Delta p\) となり、このモデルが導かれます。
- \(p = E/c\) (別解で利用):
- 選定理由: この関係式は、光子の粒子的な側面である「運動量\(p\)」と「エネルギー\(E\)」を直接結びつける、非常に強力でシンプルな公式です。これにより、光子の数や\(h\nu\)といったミクロな量を経由せずに、マクロなエネルギーの流量\(L\)から直接、運動量の流量を計算することが可能になります。
- 適用根拠: この式は、前問で示したように、プランクの関係式とド・ブロイの関係式、そして波の基本式から導かれる、光子の基本的な性質を表す式です。光子1個だけでなく、光子の集団(光線)にも適用でき、エネルギーの流れ(エネルギーフラックス)と運動量の流れ(運動量フラックス)の関係を示しています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字のキャンセルを意識する:
- この問題では、\(F = N \times \Delta p = \frac{L}{h\nu} \times \frac{h\nu}{c}\) のように、途中で導入した文字(\(h\nu\))が最終的にきれいに消去されるように作られています。
- 計算過程で、このようにうまく文字がキャンセルされるかを確認することで、自分の立式が正しい方向に向かっているかを確認できます。もしキャンセルされずに不要な文字が残ってしまった場合は、どこかの段階で立式を間違えている可能性が高いです。
- 比の計算を有効活用する:
- (1)の答えが\(F_1 = L/c\)と求まった後、(2)を計算する際に、(1)との違いは運動量変化が2倍になる点だけであることに気づけば、改めて\(N\)から計算しなくても、\(F_2 = 2 \times F_1 = 2L/c\)と瞬時に答えを出すことができます。
- このように、問題の設問間の関係性を見抜き、比を利用することで、計算を大幅に簡略化し、ミスを減らすことができます。
- 物理的な直感で検算する:
- 計算結果が出たら、それが直感に合っているかを確認する癖をつけましょう。
- 「反射する方が吸収するより力が大きい」→ \(2L/c > L/c\) なのでOK。
- 「エネルギーの流量\(L\)が大きいほど力も大きくなるはず」→ \(F\)は\(L\)に比例しているのでOK。
- 「光速\(c\)は非常に大きいので、光圧は通常とても小さいはず」→ \(F\)は\(c\)に反比例しているので、小さな力になることが示唆されておりOK。
- このような簡単なチェックが、大きな間違いを防ぐのに役立ちます。
- 計算結果が出たら、それが直感に合っているかを確認する癖をつけましょう。
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08 ブラッグ反射
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 別解: 加速電圧\(V\)と反射次数\(n\)の関係式から直接求める解法
- 模範解答が、\(n=1\)と\(n=2\)の場合のブラッグの条件式をそれぞれ立てて連立させるのに対し、別解ではまず加速電圧\(V\)と反射次数\(n\)の一般的な関係式を導出し、その比例関係から直接答えを導きます。
- 別解: 加速電圧\(V\)と反射次数\(n\)の関係式から直接求める解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 加速電圧\(V\)が、反射の次数\(n\)の2乗に比例するという、より普遍的な関係性を明確に理解できます。
- 思考のショートカット: この比例関係を一度理解すれば、「初めて(\(n=1\))」と「次に(\(n=2\))」の電圧比は\(1^2:2^2\)であると、瞬時に結論を導くことが可能になります。
- 応用力の向上: 例えば「3回目に強い反射が起こる電圧は?」と問われた場合でも、\(n=3\)を代入して\(3^2=9\)倍と即座に答えることができます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは完全に一致します。
この問題のテーマは「電子の波動性とブラッグ反射」です。電圧で加速された電子が波として振る舞うこと(物質波)を理解し、その波長と結晶格子による反射(回折)条件であるブラッグの条件式を組み合わせて考察する問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 電子の運動エネルギー: 電圧\(V\)で加速された電子の運動エネルギーは\(K=eV\)で与えられます。
- ド・ブロイ波長: 運動量\(p\)を持つ電子は、\(\lambda=h/p\)の波長を持つ波として振る舞います。
- ブラッグの反射条件: 結晶格子面の間隔を\(d\)、入射角(または反射角)を\(\theta\)とすると、強い反射が起こる条件は\(2d\sin\theta = n\lambda\) (\(n=1, 2, 3, \dots\))で与えられます。
- 「初めて」の意味の解釈: 加速電圧\(V\)を\(0\)から増やしていくとき、「初めて」条件を満たすのがどの\(n\)に対応するのかを物理的に考察することが重要です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、加速電圧\(V\)で加速された電子のド・ブロイ波長\(\lambda\)を、\(V\)の関数として表します。
- 次に、ブラッグの条件式と組み合わせ、「初めて」強い反射が起こったときの条件が\(n=1\)に対応することを突き止め、そのときの電圧\(V_1\)に関する式を立てます。
- 同様に、「次に」強い反射が起こる条件が\(n=2\)に対応することを考え、そのときの電圧\(V_2\)に関する式を立てます。
- 立てた2つの式を連立させ、\(V_2\)と\(V_1\)の比を求めます。