原子範囲 01~05
01 光電効果
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 運動エネルギーの最大値を求める際の別解: エネルギーを電子ボルト(eV)単位で計算する解法
- 模範解答がジュール(J)単位で計算するのに対し、別解では入射光のエネルギーをeVに変換し、光電方程式をeV単位で計算します。
- 阻止電圧を求める際の別解: eV単位の運動エネルギーから直接導出する解法
- 模範解答がジュール(J)で求めた運動エネルギーを関係式に代入するのに対し、別解では別解で求めたeV単位の運動エネルギーの数値が、そのまま阻止電圧(V)の数値になるという関係を用いて直接導出します。
- 運動エネルギーの最大値を求める際の別解: エネルギーを電子ボルト(eV)単位で計算する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的意味の明確化: 運動エネルギーをeVで表したときの数値が、そのまま阻止電圧(V)の数値になるという関係性が直感的に理解できます。
- 思考のショートカット: 特に阻止電圧を求める際に、計算を大幅に簡略化できる強力な手法を学ぶことができます。
- 単位換算への習熟: JとeVという原子物理分野で頻出する2つのエネルギー単位の扱いに慣れることで、問題解決能力が向上します。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「光電効果の基本法則の応用」です。光の粒子性に着目し、光子1個と電子1個の間のエネルギーのやり取りを記述するアインシュタインの光電方程式を正しく使えるかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 光子のエネルギー: 光は振動数 \(\nu\)(または波長 \(\lambda\))に応じたエネルギー \(E=h\nu = h\displaystyle\frac{c}{\lambda}\) を持つ粒子の流れであること。
- 仕事関数と限界波長: 電子を金属から引き出すのに必要な最小エネルギーが仕事関数 \(W\) であり、このエネルギーに相当する光の波長が限界波長 \(\lambda_0\) であること (\(W = h\displaystyle\frac{c}{\lambda_0}\))。
- アインシュタインの光電方程式: 光子のエネルギーが、仕事関数と飛び出す電子の運動エネルギーの最大値 \(K_{\text{最大}}\) に分配されるというエネルギー保存則 (\(K_{\text{最大}} = h\nu – W\)) を理解していること。
- 運動エネルギーと阻止電圧の関係: 飛び出す電子を止めるために必要な阻止電圧 \(V_0\) と運動エネルギーの最大値の関係 (\(eV_0 = K_{\text{最大}}\)) を理解していること。
- エネルギーの単位換算: ジュール(J)と電子ボルト(eV)の関係 (\(1 \, \text{eV} = e \, \text{J} \approx 1.6 \times 10^{-19} \, \text{J}\)) を正しく扱えること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、仕事関数 \(W\) をeVからJに単位換算します。
- 限界波長 \(\lambda_0\) は、仕事関数の定義式 \(W = h\displaystyle\frac{c}{\lambda_0}\) を使って求めます。
- 入射光のエネルギーを計算し、光電方程式を用いて光電子の運動エネルギーの最大値 \(K_{\text{最大}}\) を求めます。
- 最後に、\(K_{\text{最大}}\) と阻止電圧 \(V_0\) の関係式から \(V_0\) を求めます。
限界波長の計算
思考の道筋とポイント
光電効果が起こるかどうかの境目となる波長が「限界波長 \(\lambda_0\)」です。これは、光子1個のエネルギー \(h\nu_0\) が、電子を金属から引き出すのに必要な最小エネルギーである「仕事関数 \(W\)」にちょうど等しくなるときの波長を指します。したがって、関係式 \(W = h\nu_0 = h\displaystyle\frac{c}{\lambda_0}\) を \(\lambda_0\) について解くことで求められます。計算の前に、仕事関数 \(W\) の単位を、物理計算の基本単位であるジュール(J)に変換することが重要です。
この設問における重要なポイント
- 仕事関数 \(W\) は、電子を1個取り出すのに必要な最小エネルギー。
- 限界波長 \(\lambda_0\) は、光電効果が起こる最も長い波長(最もエネルギーが小さい光)。
- 計算は、全ての物理量をSI基本単位(J, m, s)に統一して行う。
具体的な解説と立式
仕事関数 \(W\) は \(2.0 \, \text{eV}\) と与えられています。これをジュール(J)に変換します。
\(1 \, \text{eV}\) は、電子1個が \(1 \, \text{V}\) の電位差で加速されるときに得るエネルギーであり、その値は \(e \times (1 \, \text{V})\) に等しくなります。
$$
\begin{aligned}
W &= 2.0 \, [\text{eV}] \\[2.0ex]
&= 2.0 \times e \, [\text{J}]
\end{aligned}
$$
与えられた電気素量 \(e = 1.6 \times 10^{-19} \, \text{C}\) を用いると、
$$
\begin{aligned}
W &= 2.0 \times 1.6 \times 10^{-19} \, [\text{J}]
\end{aligned}
$$
となります。
次に、限界波長 \(\lambda_0\) は、光子のエネルギー \(h\displaystyle\frac{c}{\lambda_0}\) が仕事関数 \(W\) に等しくなるという条件から求められます。
$$
\begin{aligned}
h\frac{c}{\lambda_0} &= W
\end{aligned}
$$
この式を \(\lambda_0\) について解くと、
$$
\begin{aligned}
\lambda_0 &= \frac{hc}{W}
\end{aligned}
$$
となります。
使用した物理公式
- 仕事関数と限界波長の関係: \(W = h\displaystyle\frac{c}{\lambda_0}\)
- エネルギーの単位換算: \(1 \, \text{eV} = e \, \text{J}\)
まず、仕事関数 \(W\) をジュール単位で計算します。
$$
\begin{aligned}
W &= 2.0 \times 1.6 \times 10^{-19} \\[2.0ex]
&= 3.2 \times 10^{-19} \, [\text{J}]
\end{aligned}
$$
次に、この \(W\) の値を用いて限界波長 \(\lambda_0\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
\lambda_0 &= \frac{hc}{W} \\[2.0ex]
&= \frac{(6.6 \times 10^{-34}) \times (3.0 \times 10^8)}{3.2 \times 10^{-19}} \\[2.0ex]
&= \frac{19.8 \times 10^{-26}}{3.2 \times 10^{-19}} \\[2.0ex]
&= 6.1875 \times 10^{-7}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めると、\(\lambda_0 \approx 6.2 \times 10^{-7} \, \text{m}\) となります。
金属から電子をたたき出すには、光の粒(光子)がエネルギーを渡す必要があります。その「通行料」にあたる最低限のエネルギーが「仕事関数 \(W\)」です。光子のエネルギーは波長が短いほど大きいので、光電効果がギリギリ起こる最もエネルギーの小さい光(つまり、最も波長の長い光)が「限界波長 \(\lambda_0\)」の光です。
したがって、「限界波長の光子のエネルギー」=「仕事関数」という等式を立て、そこから波長を逆算します。計算するときは、単位をeVからJに揃えるのを忘れないようにしましょう。
限界波長は \(\lambda_0 \approx 6.2 \times 10^{-7} \, \text{m}\) (\(620 \, \text{nm}\)) と計算できました。これは可視光の赤色光あたりの波長であり、物理的に妥当な値です。
光電子の運動エネルギーの最大値の計算
思考の道筋とポイント
アインシュタインの光電方程式 \(K_{\text{最大}} = h\nu – W\) を用います。この式は、「光子が与えた全エネルギー \(h\nu\) のうち、電子を取り出すための仕事 \(W\) で使われた残りが、飛び出す電子の運動エネルギー \(K_{\text{最大}}\) になる」という、光子と電子の間のエネルギー保存則を表しています。
手順としては、まず入射光の波長 \(\lambda = 3.0 \times 10^{-7} \, \text{m}\) から、光子1個のエネルギー \(h\nu = h\displaystyle\frac{c}{\lambda}\) を計算し、そのエネルギーから先ほど求めた仕事関数 \(W\) を引きます。
この設問における重要なポイント
- 光電方程式は、光子と電子の間のエネルギー保存則を表している。
- \(K_{\text{最大}}\) は、金属表面の最も浅いところから、エネルギーロスなく飛び出した電子の運動エネルギー。
- 全てのエネルギーの単位をジュール(J)に統一して計算する。
具体的な解説と立式
入射光の光子1個のエネルギーを \(E\) とすると、波長 \(\lambda\) を用いて以下のように表されます。
$$
\begin{aligned}
E &= h\nu \\[2.0ex]
&= h\frac{c}{\lambda}
\end{aligned}
$$
アインシュタインの光電方程式より、光電子の運動エネルギーの最大値 \(K_{\text{最大}}\) は、入射光子のエネルギー \(E\) から仕事関数 \(W\) を差し引いたものになります。
$$
\begin{aligned}
K_{\text{最大}} &= E – W \\[2.0ex]
&= h\frac{c}{\lambda} – W
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 光子のエネルギー: \(E = h\displaystyle\frac{c}{\lambda}\)
- アインシュタインの光電方程式: \(K_{\text{最大}} = h\nu – W\)
まず、入射光のエネルギー \(E\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
E &= h\frac{c}{\lambda} \\[2.0ex]
&= \frac{(6.6 \times 10^{-34}) \times (3.0 \times 10^8)}{3.0 \times 10^{-7}} \\[2.0ex]
&= 6.6 \times 10^{-19} \, [\text{J}]
\end{aligned}
$$
次に、この \(E\) と先ほど求めた \(W = 3.2 \times 10^{-19} \, \text{J}\) を用いて、\(K_{\text{最大}}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
K_{\text{最大}} &= E – W \\[2.0ex]
&= (6.6 \times 10^{-19}) – (3.2 \times 10^{-19}) \\[2.0ex]
&= 3.4 \times 10^{-19} \, [\text{J}]
\end{aligned}
$$
光の粒が持っているエネルギーを \(100\) とします。金属から電子を連れ出すのに通行料として \(40\) が必要だったとします(これが仕事関数です)。すると、残りの \(100 – 40 = 60\) が、飛び出した電子の運動エネルギー(スピード)になります。この問題では、まず入射光のエネルギーを計算し、そこから先ほど計算した仕事関数を引くだけで答えが求まります。
光電子の運動エネルギーの最大値は \(3.4 \times 10^{-19} \, \text{J}\) となりました。この値が正であることから、光電効果が起こっていることが確認できます。これは、入射光の波長 \(3.0 \times 10^{-7} \, \text{m}\) が限界波長 \(6.2 \times 10^{-7} \, \text{m}\) より短いこととも整合性がとれています。
思考の道筋とポイント
物理現象は同じですが、計算の途中で使うエネルギーの単位としてジュール(J)の代わりに電子ボルト(eV)を用いるアプローチです。まず入射光のエネルギーをJで計算し、それをeVに変換します。次に、光電方程式 \(K_{\text{最大}} = h\nu – W\) をeV単位で計算することで、\(K_{\text{最大}}\) をeV単位で求めます。最後に、問題の要求に合わせてJ単位に変換します。
この設問における重要なポイント
- \(1 \, \text{eV} = 1.6 \times 10^{-19} \, \text{J}\) の関係を使いこなす。
- 計算の途中で単位を混同しないように注意する。
具体的な解説と立式
主たる解法で計算したように、入射光のエネルギーは \(E = 6.6 \times 10^{-19} \, \text{J}\) です。
このエネルギー \(E\) をeV単位に変換するには、電気素量 \(e\) で割ります。
$$
\begin{aligned}
E \, [\text{eV}] &= \frac{E \, [\text{J}]}{e}
\end{aligned}
$$
仕事関数は問題文より \(W = 2.0 \, \text{eV}\) です。
光電方程式をeV単位で立てると、
$$
\begin{aligned}
K_{\text{最大}} \, [\text{eV}] &= E \, [\text{eV}] – W \, [\text{eV}]
\end{aligned}
$$
となります。この式から \(K_{\text{最大}}\) をeV単位で求め、最後にJ単位に変換します。
$$
\begin{aligned}
K_{\text{最大}} \, [\text{J}] &= (K_{\text{最大}} \, [\text{eV}]) \times e
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- アインシュタインの光電方程式: \(K_{\text{最大}} = h\nu – W\)
- エネルギーの単位換算: \(1 \, \text{eV} = e \, \text{J}\)
まず、入射光のエネルギーをeVに変換します。
$$
\begin{aligned}
E \, [\text{eV}] &= \frac{6.6 \times 10^{-19}}{1.6 \times 10^{-19}} \\[2.0ex]
&= 4.125 \, [\text{eV}]
\end{aligned}
$$
次に、運動エネルギーの最大値をeVで計算します。
$$
\begin{aligned}
K_{\text{最大}} \, [\text{eV}] &= 4.125 – 2.0 \\[2.0ex]
&= 2.125 \, [\text{eV}]
\end{aligned}
$$
最後に、この結果をジュール(J)に変換します。
$$
\begin{aligned}
K_{\text{最大}} \, [\text{J}] &= 2.125 \times (1.6 \times 10^{-19}) \\[2.0ex]
&= 3.4 \times 10^{-19} \, [\text{J}]
\end{aligned}
$$
この問題では、エネルギーの単位として「ジュール(J)」の他に「電子ボルト(eV)」が使えます。eVは原子や電子の世界でよく使われる便利な単位です。この別解では、まず全てのエネルギーをeVに揃えて計算します。入射光のエネルギー(eV)から仕事関数(eV)を引くと、飛び出す電子の運動エネルギー(eV)が直接求まります。最後に、問題で問われているJでのエネルギーに変換すればOKです。
主たる解法と全く同じ結果 \(K_{\text{最大}} = 3.4 \times 10^{-19} \, \text{J}\) が得られました。eV単位で計算を進めることで、特に次の阻止電圧を求める際に見通しが良くなるという利点があります。
阻止電圧の計算
思考の道筋とポイント
「阻止電圧(または遮断電圧) \(V_0\)」とは、飛び出してきた光電子を、電場の力で押し返して完全にストップさせるために必要な逆電圧のことです。最も元気な電子(運動エネルギーが最大の電子)を止めることができれば、他の電子はすべて止まります。電子が電場に逆らってする仕事が、電子の運動エネルギーに等しくなるときに電子は止まるため、この関係は \(eV_0 = K_{\text{最大}}\) と表されます。先ほど求めた \(K_{\text{最大}}\) の値をこの式に代入して \(V_0\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 阻止電圧 \(V_0\) は、運動エネルギーが最大の光電子を止めるための電圧。
- エネルギー保存則から \(eV_0 = K_{\text{最大}}\) の関係が導かれる。
具体的な解説と立式
運動エネルギー \(K_{\text{最大}}\) を持つ電子が、電位差 \(V_0\) の電場によって止められる状況を考えます。このとき、運動エネルギーの減少分が、静電気力による位置エネルギーの増加分 \(eV_0\) に等しくなります。
$$
\begin{aligned}
K_{\text{最大}} &= eV_0
\end{aligned}
$$
この式を \(V_0\) について解くと、
$$
\begin{aligned}
V_0 &= \frac{K_{\text{最大}}}{e}
\end{aligned}
$$
となります。
使用した物理公式
- 運動エネルギーと阻止電圧の関係: \(K_{\text{最大}} = eV_0\)
\(K_{\text{最大}} = 3.4 \times 10^{-19} \, \text{J}\) と、電気素量 \(e = 1.6 \times 10^{-19} \, \text{C}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
V_0 &= \frac{3.4 \times 10^{-19}}{1.6 \times 10^{-19}} \\[2.0ex]
&= \frac{3.4}{1.6} \\[2.0ex]
&= 2.125
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めると、\(V_0 \approx 2.1 \, \text{V}\) となります。
飛び出してくる電子は、いわば坂道を駆け上がってくるボールのようなものです。「阻止電圧」とは、この最も勢いのあるボールが頂上にたどり着くギリギリの高さの坂道を用意することに相当します。ボールの運動エネルギーが、坂を上ることで位置エネルギーに全て変換されたときに止まります。電子の場合も同じで、「運動エネルギーの最大値」が「静電気力による位置エネルギー \(eV_0\)」に等しくなるときの電圧 \(V_0\) を求めればよいのです。
阻止電圧は \(2.1 \, \text{V}\) と計算できました。これは実験的に測定可能な、物理的に妥当な値です。
思考の道筋とポイント
運動エネルギーの最大値を求める際の別解で得られた、電子ボルト(eV)単位の運動エネルギーの最大値を利用します。\(K_{\text{最大}}\) をeV単位で表したとき、阻止電圧 \(V_0\) のボルト(V)単位での数値は、\(K_{\text{最大}}\) の数値と等しくなるという非常に便利な関係があります。これを用いると、計算を大幅に簡略化できます。
この設問における重要なポイント
- 関係式 \(eV_0 = K_{\text{最大}}\) の物理的意味を理解する。
- \(K_{\text{最大}}\) が \(X \, \text{eV}\) であれば、阻止電圧は \(V_0 = X \, \text{V}\) となる。
具体的な解説と立式
別解より、光電子の運動エネルギーの最大値は \(K_{\text{最大}} = 2.125 \, \text{eV}\) です。
阻止電圧 \(V_0\) との関係式は \(eV_0 = K_{\text{最大}}\) ですから、
$$
\begin{aligned}
eV_0 &= 2.125 \, \text{eV}
\end{aligned}
$$
となります。ここで、\(1 \, \text{eV}\) の定義が \(e \times (1 \, \text{V})\) であったことを思い出すと、
$$
\begin{aligned}
eV_0 &= 2.125 \times e \times (1 \, \text{V})
\end{aligned}
$$
と書けます。両辺の \(e\) を消去することで、\(V_0\) が直接求まります。
$$
\begin{aligned}
V_0 &= 2.125 \, \text{V}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 運動エネルギーと阻止電圧の関係: \(K_{\text{最大}} = eV_0\)
- 電子ボルトの定義: \(1 \, \text{eV} = e \times (1 \, \text{V})\)
別解で求めた \(K_{\text{最大}} = 2.125 \, \text{eV}\) から、
$$
\begin{aligned}
V_0 &= 2.125 \, [\text{V}]
\end{aligned}
$$
と直ちに求めることができます。
有効数字2桁に丸めると、\(V_0 \approx 2.1 \, \text{V}\) となります。
エネルギーの単位「電子ボルト(eV)」は、その名の通り「電子(e)をボルト(V)で加速したエネルギー」という意味を持っています。そのため、電子の運動エネルギーが \(2.125 \, \text{eV}\) であった場合、それを止めるために必要な電圧は、定義から考えてそのまま \(2.125 \, \text{V}\) になる、という便利な関係があります。この方法を使えば、ジュールを使った複雑な割り算をする必要がありません。
主たる解法と全く同じ結果 \(V_0 \approx 2.1 \, \text{V}\) が、より少ない計算で得られました。この方法は、eVという単位の本質的な意味を理解していることを示し、思考のショートカットとして非常に有効です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 光の粒子性とエネルギー保存則:
- 核心: この問題の根幹は、光が波の性質だけでなく、\(E=h\nu\) というエネルギーを持つ「光子」という粒子の性質も持つという「光の二重性」を理解し、光子と電子の間で成り立つエネルギー保存則を適用することにあります。
- 理解のポイント:
- 光電効果は、光子1個が電子1個にエネルギーを渡す、1対1のシンプルな現象として捉えることができます。
- 光子のエネルギー \(h\nu\): 光子が持っている全エネルギーです。
- 仕事関数 \(W\): 電子を金属という束縛から解放するために最低限必要なエネルギーで、いわば「通行料」です。これは金属の種類によって決まる定数です。
- 運動エネルギーの最大値 \(K_{\text{最大}}\): 「通行料」を支払った後に電子に残ったエネルギーで、これが電子の速さとなって現れます。
- これら3つの関係は、「(光子の全エネルギー)\(=\)(通行料)\(+\)(残った運動エネルギー)」という、アインシュタインの光電方程式 \(h\nu = W + K_{\text{最大}}\) で完璧に記述されます。
- 阻止電圧の物理的本質:
- 核心: 阻止電圧 \(V_0\) とは、飛び出してきた最も元気な電子(運動エネルギーが \(K_{\text{最大}}\) の電子)を、静電気力による位置エネルギー \(eV_0\) を使って完全に静止させるための電圧です。
- 理解のポイント:
- 関係式: \(eV_0 = K_{\text{最大}}\)
- これは、電子が持つ運動エネルギーが、電場に逆らって仕事をすることで、すべて静電気力による位置エネルギーに変換されるという、エネルギー保存則の一つの現れです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 光電効果のグラフ問題: 横軸に光の振動数 \(\nu\)、縦軸に光電子の運動エネルギーの最大値 \(K_{\text{最大}}\) をとったグラフを扱う問題は頻出です。
- 光電方程式 \(K_{\text{最大}} = h\nu – W\) は、\(\nu\) に関する一次関数 (\(y=ax-b\) の形) と見なせます。
- グラフの「傾き」がプランク定数 \(h\)、「横軸との交点」が限界振動数 \(\nu_0\)、「縦軸との交点の絶対値」が仕事関数 \(W\) に対応することを理解しておくと、グラフからこれらの物理量を読み取る問題に強くなります。
- X線の発生(逆光電効果): 高電圧で加速した電子を金属ターゲットに衝突させてX線を発生させる現象です。
- これは光電効果の全く逆のプロセスで、電子の運動エネルギー \(eV\) がX線光子のエネルギー \(h\nu_{\text{最大}}\) に変換されます。
- 発生するX線の最短波長(最大エネルギー)は、\(eV = h\nu_{\text{最大}} = h\displaystyle\frac{c}{\lambda_{\text{最小}}}\) という関係式で記述されます。
- 光電効果のグラフ問題: 横軸に光の振動数 \(\nu\)、縦軸に光電子の運動エネルギーの最大値 \(K_{\text{最大}}\) をとったグラフを扱う問題は頻出です。
- 初見の問題での着眼点:
- エネルギーの単位を確認する: 問題文でエネルギーがジュール(J)で与えられているか、電子ボルト(eV)で与えられているかを最初に確認します。計算の過程でどちらの単位系を使うか戦略を立てることが重要です。特に阻止電圧を求める場合は、eVで計算すると非常に簡単になることが多いです。
- 与えられている光の情報を整理する: 波長 \(\lambda\) が与えられているか、振動数 \(\nu\) が与えられているかを確認します。これにより、光子のエネルギーを計算する際に \(E=h\nu\) と \(E=h\displaystyle\frac{c}{\lambda}\) のどちらを使うかが決まります。
- 何を問われているかを明確にする: 限界波長 \(\lambda_0\) なのか、運動エネルギー \(K_{\text{最大}}\) なのか、阻止電圧 \(V_0\) なのかをはっきりさせます。それぞれに対応する公式 (\(W=h\frac{c}{\lambda_0}\), \(K_{\text{最大}}=h\nu-W\), \(eV_0=K_{\text{最大}}\)) を正確に選択することが解法の第一歩です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 単位換算のミス:
- 誤解: 仕事関数が \(2.0 \, \text{eV}\) だからといって、\(W=2.0\) としてジュールの計算式に代入してしまう。
- 対策: 物理計算の基本はSI単位系(ジュール、メートル、秒)であると肝に銘じましょう。eVで与えられた値は、計算を始める前に必ず「\(\times (1.6 \times 10^{-19})\)」をしてジュールに変換する、という一手間を習慣にしてください。逆に、JからeVに変換するときは「\(\div (1.6 \times 10^{-19})\)」です。これを混同しないように注意が必要です。
- 限界波長と入射光の波長の混同:
- 誤解: 光電方程式 \(K_{\text{最大}} = h\nu – W\) に、限界振動数 \(\nu_0\) や限界波長 \(\lambda_0\) の値を代入してしまう。
- 対策: 式の各項が何を意味するかを正しく理解することが重要です。「\(h\nu\)」はあくまで「今、外から当てている光(入射光)」の光子エネルギーです。限界波長 \(\lambda_0\) は、仕事関数 \(W\) の大きさを決めるためのものであり、運動エネルギーを計算する式に直接代入するものではありません。
- 光の強さと光電子のエネルギーの誤解:
- 誤解: 当てる光を強くすれば(明るくすれば)、飛び出す光電子1個のエネルギーも大きくなる、と考えてしまう。
- 対策: 「光の強さ(明るさ)」は「光子の個数」に比例し、「光の色(振動数・波長)」が「光子1個あたりのエネルギー」に対応する、と明確に区別して覚えましょう。光を強くしても光子1個のエネルギーは変わらないので、飛び出す電子1個の運動エネルギーの最大値は変化しません。増えるのは、単位時間あたりに飛び出す電子の「数」だけです。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 仕事関数と限界波長の関係式 \(W = h\displaystyle\frac{c}{\lambda_0}\):
- 選定理由: 問題で「限界波長」が問われた場合、それは「光電効果が起こるか起こらないかのギリギリの境界」の条件を数式化することを要求しています。この物理的状況を最も直接的に表現したものがこの公式です。
- 適用根拠: この境界線上では、光子が持つエネルギー \(h\nu_0 = h\displaystyle\frac{c}{\lambda_0}\) が、電子を金属表面から引き出すのに必要な最小エネルギー(仕事関数 \(W\))にちょうど全て使われます。その結果、電子に与えられる運動エネルギーはゼロになります。このエネルギー収支(\(h\nu_0 = W + 0\))が、この公式の物理的な根拠です。
- アインシュタインの光電方程式 \(K_{\text{最大}} = h\displaystyle\frac{c}{\lambda} – W\):
- 選定理由: 「飛び出す電子の運動エネルギー」を計算するためには、光子と電子の間でどのようなエネルギーのやり取りがあったかを記述する法則が必要です。その法則こそが、この光電方程式です。
- 適用根拠: この式は、光子1個と電子1個の間で成り立つミクロな世界のエネルギー保存則です。「(光子が与えた全エネルギー \(h\frac{c}{\lambda}\))\(=\)(電子を引き出すための仕事 \(W\))\(+\)(残った電子の運動エネルギー \(K_{\text{最大}}\))」という、エネルギーの分配関係を明確に示しています。
- 阻止電圧の関係式 \(eV_0 = K_{\text{最大}}\):
- 選定理由: 「阻止電圧」という言葉は、電子の運動を「電気の力で妨害して止める」電圧を意味します。したがって、電子の「運動エネルギー」と、電場がする仕事(静電気力による「位置エネルギー」の変化)を結びつける必要があります。
- 適用根拠: これは、電子が電場の中で運動する際のエネルギー保存則(または仕事とエネルギーの関係)です。電子が元々持っていた運動エネルギー \(K_{\text{最大}}\) が、電位差 \(V_0\) を乗り越える際に静電気力がする仕事 \(eV_0\) によって全て奪われ、運動エネルギーがゼロになるときに電子は停止します。このエネルギー変換の関係が \(K_{\text{最大}} = eV_0\) という式の本質です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 指数計算の儀式化: 光電効果の問題では、\(10^{-34}\), \(10^8\), \(10^{-19}\) のような非常に大きな、あるいは小さな数を頻繁に扱います。
- 計算を始める前に、数値部分と指数部分を分けて書くことを習慣(儀式)にしましょう。
- 例: \(\displaystyle\frac{(6.6 \times 10^{-34}) \times (3.0 \times 10^8)}{3.2 \times 10^{-19}} = \left( \frac{6.6 \times 3.0}{3.2} \right) \times \left( \frac{10^{-34} \times 10^8}{10^{-19}} \right)\)
- 指数の計算は、掛け算は指数の「足し算」(\(-34+8=-26\))、割り算は指数の「引き算」(\(-26 – (-19) = -7\))という基本ルールを、焦らず落ち着いて適用することが重要です。
- 計算を始める前に、数値部分と指数部分を分けて書くことを習慣(儀式)にしましょう。
- 単位を計算の検算に使う:
- 計算の最終段階で、求めた物理量の単位が物理的に正しいかを確認する癖をつけましょう。例えば、波長を求めているのに単位がJ/sになっていたら、どこかで立式か計算を間違えている明確な証拠です。
- 特にeVとJの換算では、\(V_0 = \displaystyle\frac{K_{\text{最大}}[\text{J}]}{e[\text{C}]}\) の計算結果の単位が、定義通り \([\text{J/C}] = [\text{V}]\) となることを意識すると、式の形を間違えにくくなります。
- eV単位系を戦略的に活用する:
- 特に阻止電圧を求める問題では、積極的にeV単位で計算する戦略を立てると、計算が劇的に楽になります。
- 手順:
- 入射光のエネルギーをまずJで計算する。
- その値を \(1.6 \times 10^{-19}\) で割って、eV単位に変換する。
- そのeV値から、仕事関数のeV値を引いて、運動エネルギーの最大値をeV単位で求める。
- この運動エネルギーの「数値」が、そのまま阻止電圧(V)の答えになります。
- この手順は、複雑な指数計算を回避できるため、計算ミスを減らすための非常に強力なテクニックです。
02 光電効果
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「光電効果における光の強さ・振動数と光電流の関係」です。光電管を流れる電流と電圧の関係を示すグラフが、光の条件を変えたときにどのように変化するかを、光電効果の基本法則に基づいて定性的に理解することが目的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 光の強さと光子の数の関係: 光の強さ(明るさ)は、単位時間あたりに入射する「光子の数」に比例します。
- 光の振動数と光子エネルギーの関係: 光の振動数 \(\nu\) は、光子1個が持つ「エネルギー \(E=h\nu\)」に比例します。
- 飽和電流と光電子の数の関係: 飽和電流(グラフが水平になる部分の電流値)は、単位時間あたりに陰極から飛び出す「光電子の数」に比例します。
- 阻止電圧と運動エネルギーの関係: 阻止電圧 \(V_0\)(電流がゼロになる負の電圧)は、飛び出す光電子の「運動エネルギーの最大値 \(K_{\text{最大}}\)」だけで決まります (\(eV_0 = K_{\text{最大}}\))。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、「光の明るさを2倍にする」という操作が、ミクロな世界での「光子の数」と「光子1個のエネルギー」にどのような変化をもたらすかを考えます。そして、それが「飽和電流」と「阻止電圧」にどう影響するかを分析し、適切なグラフを選択します。
- (2)では、「光の振動数を増す」という操作が同様に「光子の数」と「光子1個のエネルギー」にどう影響するかを考え、グラフの変化を予測します。
問(1) 光の明るさを2倍にする
思考の道筋とポイント
まず、「光の明るさ」というマクロな物理量が、ミクロな「光子」のどの性質に対応するのかを理解することが出発点です。光の明るさ(強度)は、単位時間あたりに陰極に到達する「光子の数」に比例します。
光電効果では、光子1個が電子1個をたたき出すという1対1の関係が基本です。したがって、光子の数が増えれば、単位時間あたりに飛び出す電子の数も増えます。電流とは電荷の流れなので、電子の数が増えれば電流も大きくなります。特に、全ての電子が陽極に到達したときの「飽和電流」が大きくなるはずです。
一方で、光の振動数は変えていないので、光子1個あたりのエネルギー \(h\nu\) は変わりません。光電方程式 \(K_{\text{最大}} = h\nu – W\) に基づけば、電子の運動エネルギーの最大値 \(K_{\text{最大}}\) も不変です。阻止電圧 \(V_0\) はこの \(K_{\text{最大}}\) だけで決まるため、\(V_0\) も変わりません。
以上の考察から、「阻止電圧は同じ」で「飽和電流が大きく」なるグラフを選びます。
この設問における重要なポイント
- 光の明るさ ∝ 単位時間あたりの光子の数
- 飽和電流 ∝ 単位時間あたりに飛び出す光電子の数
- 光の明るさを変えても、光子1個のエネルギーは変わらないため、光電子の運動エネルギーの最大値も変わらない。
具体的な解説と立式
光の明るさ(強度)は、単位時間あたりに陰極に到達する光子の数に比例します。明るさを2倍にすると、陰極に到達する光子の数は2倍になります。
光電効果は光子1個が電子1個をたたき出す現象なので、単位時間あたりに陰極から飛び出す光電子の数も2倍になります。飽和電流 \(I_{\text{飽和}}\) は、飛び出した全ての光電子が陽極に到達したときの電流であり、単位時間あたりに飛び出す光電子の数に比例します。したがって、飽和電流は元の2倍になります。
一方、光の振動数 \(\nu\) は変化していないため、光子1個のエネルギー \(h\nu\) は不変です。仕事関数 \(W\) も金属の種類で決まるため不変です。アインシュタインの光電方程式より、光電子の運動エネルギーの最大値 \(K_{\text{最大}}\) は、
$$
\begin{aligned}
K_{\text{最大}} &= h\nu – W
\end{aligned}
$$
で与えられます。この式の右辺の \(h\nu\) と \(W\) が不変なので、\(K_{\text{最大}}\) も不変です。
阻止電圧 \(V_0\) は、\(K_{\text{最大}}\) を持つ電子を止めるための電圧であり、
$$
\begin{aligned}
eV_0 &= K_{\text{最大}}
\end{aligned}
$$
という関係があります。\(K_{\text{最大}}\) が不変なので、阻止電圧 \(V_0\) も不変です。
以上のことから、元のグラフ(太線)と比較して、阻止電圧 \(V_0\) は同じで、飽和電流が大きくなったグラフが求めるものとなります。グラフ②は、阻止電圧が太線と同じ位置にあり、飽和電流の値が太線よりも大きくなっているため、条件に合致します。
使用した物理公式
- アインシュタインの光電方程式: \(K_{\text{最大}} = h\nu – W\)
- 運動エネルギーと阻止電圧の関係: \(eV_0 = K_{\text{最大}}\)
この問題は定性的な理解を問うものであり、具体的な計算はありません。
「光の明るさを2倍にする」というのは、陰極にぶつかる「光の粒(光子)の数を2倍にする」ということです。
光の粒1個が電子1個をたたき出すので、飛び出す電子の数も2倍になります。その結果、流れる電流の最大値(飽和電流)も2倍になります。
一方で、光の色(振動数)は変えていないので、光の粒1個が持つエネルギーは変わりません。したがって、電子が飛び出すときの勢い(運動エネルギーの最大値)も変わりません。
電子を止めるのに必要な電圧(阻止電圧)は、この勢いで決まるので、阻止電圧も変わりません。
まとめると、「阻止電圧は同じで、電流が2倍になる」グラフを選べばよいわけです。
元のグラフ(太線)と比較して、阻止電圧(\(I=0\) となる負の電圧)の値は同じで、飽和電流(グラフの右側で平らになる部分の \(I\) の値)が大きくなっているグラフを探します。グラフ②がこの条件を満たしています。
問(2) 光の振動数を増す
思考の道筋とポイント
「光の振動数を増す」という操作が、光子の「数」と「エネルギー」にどう影響するかを考えます。振動数 \(\nu\) は、光子1個あたりのエネルギー \(E=h\nu\) を決定します。したがって、振動数を増すということは、よりエネルギーの大きい光子を陰極に当てることを意味します。
光電方程式 \(K_{\text{最大}} = h\nu – W\) において、\(h\nu\) が大きくなるため、電子の運動エネルギーの最大値 \(K_{\text{最大}}\) は増加します。その結果、電子を止めるために必要な阻止電圧 \(V_0\) (\(eV_0 = K_{\text{最大}}\)) も大きくなります。阻止電圧はグラフ上では負の値で表されるため、「\(V_0\) が大きくなる」とは、その絶対値が大きくなること、つまりグラフがより左にずれることを意味します。
一方で、問題文には「光の明るさを変える」とは書かれていないため、明るさは一定と考えます。これは、単位時間あたりに到達する光子の数は変わらないことを意味します。したがって、飛び出す電子の数も変わらず、飽和電流は不変です。
以上の考察から、「飽和電流は同じ」で「阻止電圧の絶対値が大きく」なるグラフを選びます。
この設問における重要なポイント
- 光の振動数 ∝ 光子1個のエネルギー
- 阻止電圧 ∝ 光電子の運動エネルギーの最大値
- 光の明るさが一定なら、光の振動数を変えても光子の数は変わらない。
具体的な解説と立式
光の振動数 \(\nu\) を増やすと、プランク定数 \(h\) は定数なので、光子1個のエネルギー \(E=h\nu\) は増加します。仕事関数 \(W\) は金属で決まる定数なので不変です。
アインシュタインの光電方程式より、光電子の運動エネルギーの最大値 \(K_{\text{最大}}\) は、
$$
\begin{aligned}
K_{\text{最大}} &= h\nu – W
\end{aligned}
$$
で与えられます。この式の右辺で \(h\nu\) が増加し \(W\) が不変なので、\(K_{\text{最大}}\) は増加します。
阻止電圧 \(V_0\) は、
$$
\begin{aligned}
V_0 &= \frac{K_{\text{最大}}}{e}
\end{aligned}
$$
という関係があるため、\(K_{\text{最大}}\) が増加するのに伴い、\(V_0\) も増加します。阻止電圧はグラフ上では負の値で表されるため、その絶対値が大きくなることを意味し、グラフは左方向にシフトします。
一方、光の明るさは変えていないので、単位時間あたりに陰極に到達する光子の数は変わりません。したがって、単位時間あたりに飛び出す光電子の数も変わらず、飽和電流 \(I_{\text{飽和}}\) は不変です。
以上のことから、元のグラフ(太線)と比較して、飽和電流は同じで、阻止電圧の絶対値が大きくなったグラフが求めるものとなります。グラフ①は、飽和電流が太線と同じで、阻止電圧の絶対値が太線よりも大きくなっている(より負の側にずれている)ため、条件に合致します。
使用した物理公式
- 光子のエネルギー: \(E=h\nu\)
- アインシュタインの光電方程式: \(K_{\text{最大}} = h\nu – W\)
- 運動エネルギーと阻止電圧の関係: \(eV_0 = K_{\text{最大}}\)
この問題は定性的な理解を問うものであり、具体的な計算はありません。
「光の振動数を増す」というのは、「よりエネルギーの高い光の粒(光子)をぶつける」ということです。
光の明るさは変えていないので、ぶつかる粒の「数」は変わりません。したがって、飛び出す電子の数も変わらず、電流の最大値(飽和電流)は同じままです。
しかし、ぶつかる粒1個のエネルギーが大きいので、電子はより大きなエネルギーをもらって飛び出します。つまり、電子の勢い(運動エネルギーの最大値)が大きくなります。
勢いの大きい電子を止めるには、より大きな逆電圧(阻止電圧)が必要になります。
まとめると、「飽和電流は同じで、阻止電圧の絶対値が大きくなる」グラフを選べばよいわけです。
元のグラフ(太線)と比較して、飽和電流の値は同じで、阻止電圧(\(I=0\) となる負の電圧)の絶対値が大きくなっている(グラフが左にずれている)グラフを探します。グラフ①がこの条件を満たしています。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 光の二重性の理解と光電効果の法則の分離適用:
- 核心: この問題の根幹は、光の「明るさ」と「色(振動数)」という2つの性質が、ミクロな世界ではそれぞれ「光子の数」と「光子1個のエネルギー」という全く別の物理量に対応することを明確に区別して理解することにあります。
- 理解のポイント:
- 光の明るさ(強度) → 光子の数 → 光電子の数 → 飽和電流の大きさ
- この連鎖関係を理解することが(1)の鍵です。明るさは、光子1個のエネルギーには一切影響を与えません。
- 光の色(振動数) → 光子1個のエネルギー → 光電子1個の運動エネルギー → 阻止電圧の大きさ
- この連鎖関係を理解することが(2)の鍵です。振動数は、光子の数(明るさが一定の場合)には影響を与えません。
- このように、光の2つの性質が、光電流グラフの「縦軸(飽和電流)」と「横軸(阻止電圧)」にそれぞれ独立して影響を与える、と整理して覚えることが重要です。
- 光の明るさ(強度) → 光子の数 → 光電子の数 → 飽和電流の大きさ
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 仕事関数が異なる金属に変えた場合:
- 金属の種類を変えると、仕事関数 \(W\) が変化します。例えば、仕事関数が大きい金属に変えた場合を考えます。
- 光電方程式 \(K_{\text{最大}} = h\nu – W\) より、\(W\) が大きくなるので、光電子の運動エネルギーの最大値 \(K_{\text{最大}}\) は減少します。
- その結果、阻止電圧 \(V_0\) の絶対値は小さくなります(グラフは右にずれます)。
- 光の条件(明るさ、振動数)は同じなので、飽和電流は変わりません。
- したがって、グラフは「飽和電流は同じ」で「阻止電圧の絶対値が小さく」なる形(グラフ③のような形)に変化します。
- 限界振動数との関係を問う問題:
- 限界振動数 \(\nu_0\) は \(h\nu_0 = W\) で決まります。入射光の振動数 \(\nu\) が \(\nu_0\) より小さい場合、光電効果は起こらず、光電流は全く流れません。
- 問題で「光の振動数を下げていったらどうなるか」と問われた場合、\(K_{\text{最大}}\) が減少し、阻止電圧の絶対値が小さくなっていき、最終的に \(\nu = \nu_0\) で阻止電圧がゼロになり、それ以下では電流が流れなくなる、という変化を理解しておく必要があります。
- 仕事関数が異なる金属に変えた場合:
- 初見の問題での着眼点:
- 操作の特定: まず、問題文で「何を変えたのか」を正確に把握します。「明るさ」「振動数」「金属の種類」のどれか、あるいはその組み合わせです。
- 不変量の確認: 次に、「何が変わらないのか」を確認します。例えば「明るさを変える」操作では「振動数」は不変、「振動数を変える」操作では(特に断りがなければ)「明るさ」は不変です。
- 飽和電流への影響を判断: 変えた操作が「単位時間あたりの光子の数」に影響するかを考えます。影響する(=明るさを変えた)なら飽和電流は変化し、影響しないなら飽和電流は不変です。
- 阻止電圧への影響を判断: 変えた操作が「光電子の運動エネルギーの最大値」に影響するかを考えます。影響する(=振動数または仕事関数を変えた)なら阻止電圧は変化し、影響しないなら阻止電圧は不変です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 明るさとエネルギーの混同:
- 誤解: 明るい光(強い光)はエネルギーが大きいので、飛び出す電子の運動エネルギーも大きくなるはずだ、と直感的に考えてしまう。
- 対策: 日常感覚と物理法則のギャップを認識することが重要です。光電効果における「エネルギー」は、光子「1個あたり」のエネルギーを指し、それは振動数(色)だけで決まります。「明るさ」は、その光子が「何個あるか」という量的な側面を表します。たくさんの光子が来ても、1個1個のエネルギーが同じなら、電子がもらえるエネルギーの最大値は変わりません。
- 阻止電圧の符号と大きさの混同:
- 誤解: 阻止電圧 \(V_0\) が「大きく」なると聞いて、グラフの横軸の値が大きくなる(右にずれる)と勘違いしてしまう。
- 対策: 阻止電圧は、光電子の流れを「妨げる」ための「逆電圧」であり、グラフ上では負の値でプロットされます。したがって、阻止電圧 \(V_0\) の値が大きくなる(例: \(1.0 \, \text{V} \rightarrow 2.0 \, \text{V}\))ということは、グラフ上では \(V\) の値がより負の側へ移動する(例: \(-1.0 \, \text{V} \rightarrow -2.0 \, \text{V}\))ことを意味します。つまり、グラフは「左にずれる」と正しく理解する必要があります。
- グラフの立ち上がりの傾きの意味:
- 誤解: グラフの立ち上がりの傾きが急なほど、何か物理的に重要な意味があると考えてしまう。
- 対策: この \(I-V\) 特性曲線の立ち上がりの傾きは、光電子の速度分布や電極の形状など、高校物理の範囲を超える複雑な要因で決まります。高校物理の段階では、この傾き自体に深い物理的意味を求める必要はありません。重要なのは「飽和電流の値」と「阻止電圧の値」の2点です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 光の明るさ ∝ 光子の数:
- 選定理由: (1)で「明るさ」の変化を議論するためには、このマクロな量とミクロな量の対応関係を定義する必要があります。これは光の粒子性モデルの基本的な考え方です。
- 適用根拠: 光をエネルギーの塊である光子の流れと考えるモデルでは、光のエネルギー流の密度(強度、明るさ)は、単位面積・単位時間あたりを通過する光子の数と、光子1個あたりのエネルギーの積で表されます。したがって、振動数が一定ならば、明るさは光子の数に比例します。
- 光の振動数 ∝ 光子1個のエネルギー (\(E=h\nu\)):
- 選定理由: (2)で「振動数」の変化を議論するためには、この対応関係が不可欠です。これはプランクによって提唱された量子仮説の根幹をなす式です。
- 適用根拠: 光電効果という現象そのものが、この関係式が正しいことの強力な証拠です。光の波長(振動数)によって光電子のエネルギーが決まるという実験事実は、光が \(h\nu\) というエネルギーを持つ粒子として振る舞うと考えなければ説明できません。
- 飽和電流 ∝ 光電子の数:
- 選定理由: 光子の数の変化が、測定される「電流」にどう反映されるかを結びつけるためにこの関係を用います。
- 適用根拠: 電流の定義は、単位時間あたりに断面を通過する電荷の量です。光電子1個の電荷は電気素量 \(e\) で一定なので、電流の大きさは、単位時間あたりに陽極に到達する光電子の数に直接比例します。飽和電流は、全ての光電子が陽極に到達した状態なので、単位時間あたりに陰極から発生した光電子の数に比例します。
- 阻止電圧 ∝ 運動エネルギーの最大値 (\(eV_0 = K_{\text{最大}}\)):
- 選定理由: 光電子のエネルギーの変化が、測定される「電圧」にどう反映されるかを結びつけるためにこの関係を用います。
- 適用根拠: これは前問でも用いた通り、エネルギー保存則です。最も運動エネルギーの大きい電子が、電位差 \(V_0\) の電場を乗り越える際に、その運動エネルギーの全てを静電気力による位置エネルギー \(eV_0\) に変換される、という物理的状況を数式化したものです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 定性的な問題での思考の整理法: このような計算のない問題では、思考のプロセスを明確にすることがミスを防ぎます。
- 原因と結果の連鎖を書き出す:
- (1)の場合: 「明るさ↑」→「光子の数↑」→「光電子の数↑」→「飽和電流↑」。一方、「振動数→」→「光子エネルギー→」→「運動エネルギー→」→「阻止電圧→」。
- (2)の場合: 「振動数↑」→「光子エネルギー↑」→「運動エネルギー↑」→「阻止電圧↑」。一方、「明るさ→」→「光子の数→」→「光電子の数→」→「飽和電流→」。
- このように矢印(→)を使って因果関係を書き出すことで、頭の中が整理され、結論を間違えにくくなります。
- 原因と結果の連鎖を書き出す:
- グラフの各部分の物理的意味を覚える:
- 横軸の切片(\(I=0\) の点): この点の電圧が「阻止電圧 \(V_0\)」の \( -1 \) 倍 (\(-V_0\)) を表す。電子の運動エネルギーの最大値に対応。
- 縦軸の飽和値(グラフが平らになる部分): この電流値が「飽和電流 \(I_{\text{飽和}}\)」を表す。電子の数に対応。
- この2点を常に意識することで、グラフの変化を直感的に捉えることができます。
- 選択肢の吟味: 答えを選んだ後、他の選択肢がなぜ違うのかを簡潔に説明する癖をつけると、理解が深まります。
- (1)の答えは②だが、なぜ①や③は違うのか? → ①は阻止電圧も飽和電流も変化している。③は飽和電流は同じで阻止電圧が変化している。
- このように他の選択肢を否定するプロセスを経ることで、自分の答えが正しいという確信が持てます。
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03 光電効果
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 仕事関数\(W\)とプランク定数\(h\)の導出の別解: 限界振動数を用いる解法
- 模範解答がグラフを一次関数とみて傾きと切片から求めるのに対し、別解ではグラフから物理的に重要な「限界振動数」を直接読み取り、定義式からWやhを求めます。
- 仕事関数\(W\)とプランク定数\(h\)の導出の別解: 限界振動数を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: グラフの横軸切片が「限界振動数」という物理的な意味を持つことを直接的に理解できます。
- 解法の多様性: 一つのグラフから複数のアプローチで同じ結論に至ることを体験し、思考の柔軟性を養うことができます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「光電効果のグラフ分析」です。阻止電圧と振動数の関係を表すグラフから、仕事関数やプランク定数といったミクロな物理量を読み取る方法を問うています。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- アインシュタインの光電方程式: 阻止電圧 \(V_0\) と光の振動数 \(\nu\) の関係は、\(eV_0 = h\nu – W\) というエネルギー保存則に基づいています。
- 一次関数とグラフの関係: 上記の物理法則を \(V_0\) について整理すると、\(V_0 = \frac{h}{e}\nu – \frac{W}{e}\) となり、数学における一次関数 \(y=ax+b\) の形に対応します。グラフの「傾き」と「切片」が持つ物理的な意味を理解することが重要です。
- 限界振動数 \(\nu_0\): 阻止電圧 \(V_0\) が \(0\) となる、すなわち光電効果が起こるギリギリの振動数です。グラフ上では横軸との交点にあたります。
- 仕事関数と限界振動数の関係: 仕事関数 \(W\) は、限界振動数 \(\nu_0\) の光子のエネルギーに等しく、\(W=h\nu_0\) という関係があります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、光電方程式をグラフの縦軸である \(V_0\) について解き、一次関数の形に変形します。
- グラフから「傾き」と「\(V_0\)軸切片」を読み取り、それぞれがどの物理量に対応するかを考えて、仕事関数 \(W\) とプランク定数 \(h\) を求めます。
- 仕事関数が \(W/2\) に変わった場合に、グラフの傾きと切片がどう変化するかを分析し、新しいグラフを作図します。