「重要問題集」徹底解説(86〜90問):未来の得点力へ!完全マスター講座

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問題86 (京都府大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、音源、観測者、反射板(壁)が運動する様々な状況における「ドップラー効果」を扱っています。直接音と反射音の振動数や波長、うなり、さらには斜め方向のドップラー効果まで、多角的に問われています。
この問題の核心は、ドップラー効果の公式を正しく適用すること、そして特に「反射」という現象を「壁による受信」と「壁からの送信」という2段階のプロセスとして捉えることです。

与えられた条件
  • 音の速さ: \(V\)
  • 音源の基本振動数: \(f_0\)
  • 共通条件: 無風状態、各運動体の速さは音速\(V\)より小さい。
  • 状況1 (問1~4):
    • 観測者(台車A): 静止
    • 音源(台車B): 速さ\(u_0\)で観測者に近づく
    • 壁(台車C): 静止
  • 状況2 (問5):
    • 観測者(台車A): 静止
    • 音源(台車B): 静止
    • 壁(台車C): 速さ\(u_1\)で音源から遠ざかる
  • 状況3 (問6):
    • 観測者(台車A): 静止
    • 音源(台車B): 速さ\(u_2\)で壁と平行に移動
    • 壁: 静止
問われていること
  • (1) 状況1における直接音の波長\(\lambda_1\)。
  • (2) 状況1における直接音の振動数\(f_1\)。
  • (3) 状況1における反射音の振動数\(f_2\)。
  • (4) 状況1におけるうなりの回数\(f_3\)。
  • (5) 状況2における反射音の振動数\(f_4\)。
  • (6) 状況3における音源の速さ\(u_2\)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「反射板がある場合のドップラー効果」です。音源や観測者、さらには反射板(壁)が運動することにより、観測される音の振動数がどのように変化するかを考察します。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. ドップラー効果の公式: 音源と観測者の相対的な運動によって、音の振動数が変化する現象です。公式を正しく適用することが基本となります。
  2. 反射の扱い: 壁による音の反射は、「(1) 壁が観測者として音を受け取る」「(2) 壁がその振動数で音を発する新たな音源となる」という2段階のプロセスとして考えます。
  3. 波の基本式 (\(v=f\lambda\)): 音速、振動数、波長の関係を結びつける基本的な式です。
  4. 斜め方向のドップラー効果: 音源の速度を、観測者と音源を結ぶ直線方向(視線方向)の成分に分解して考えることが重要です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、各設問の物理的状況(誰がどのように運動しているか)を正確に図から読み取ります。
  2. 直接音と反射音について、それぞれドップラー効果の公式を適用し、振動数や波長を求めます。
  3. 反射音を考える際は、壁が聞く音(ステップ1)と壁が発する音(ステップ2)の2段階に分けて、順に公式を適用します。
  4. うなりの問題では、2つの音の振動数の差を計算します。
  5. 与えられた複数の関係式から、未知数を消去して目的の物理量を導出します。

問(1)

思考の道筋とポイント
音源が観測者に近づきながら音を出す場合、波が進行方向へ圧縮されるため、波長は短くなります。波長の定義(1秒間に進む距離を1秒間に出す波の数で割る)に基づいて立式します。

この設問における重要なポイント

  • 音の波長は、音源の運動によって決まり、観測者の運動には依存しません。
  • 音源が近づく場合、1秒間に \(f_0\) 個の波が占める空間の長さが \(V-u_0\) になることを理解します。

具体的な解説と立式
音の速さは \(V\)、音源の速さは \(u_0\) です。
1秒間に、音は \(V\) [m] 進みますが、その間に音源も同じ方向に \(u_0\) [m] 進みます。
その結果、1秒間(\(t=1\) s)に音源から発せられた \(f_0\) 個の波は、長さ \(V – u_0\) の区間に詰まっています。
したがって、観測者が観測する波長 \(\lambda_1\) は、この区間の長さを波の数で割ることで求められます。
$$ \lambda_1 = \frac{V – u_0}{f_0} $$

使用した物理公式

  • 波長の定義
計算過程

立式そのものが結論となります。

計算方法の平易な説明

音源が音を追いかけるように動くため、音の波と波の間隔(波長)がぎゅっと縮まります。1秒間で音と音源が進む距離の差が、1秒間に出されたすべての波(\(f_0\)個)が詰まっている長さになります。この長さを波の数で割ると、1つあたりの波の長さ、つまり波長がわかります。

結論と吟味

観測者が音源から直接観測する音の波長は \(\lambda_1 = \displaystyle\frac{V-u_0}{f_0}\) です。音源が近づくため、元の波長 \(\lambda_0 = V/f_0\) よりも短くなっており、物理的に妥当な結果です。

解答 (1) \(\displaystyle\frac{V-u_0}{f_0}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
波の基本式 \(v=f\lambda\) を用いて、振動数 \(f_1\) を求めます。観測者が聞く音の速さは、観測者自身が静止しているため、音速 \(V\) のままです。

この設問における重要なポイント

  • 波の基本式 \(V = f_1 \lambda_1\) を適用する。
  • 問(1)で求めた波長 \(\lambda_1\) を用いる。

具体的な解説と立式
波の基本式 \(v=f\lambda\) において、観測者が聞く音の速さは \(V\)、振動数は \(f_1\)、波長は問(1)で求めた \(\lambda_1\) です。
$$ V = f_1 \lambda_1 \quad \cdots ① $$

使用した物理公式

  • 波の基本式: \(v = f\lambda\)
計算過程

式①を \(f_1\) について解き、\(\lambda_1 = \displaystyle\frac{V-u_0}{f_0}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
f_1 &= \frac{V}{\lambda_1} \\[2.0ex]&= \frac{V}{\displaystyle\frac{V-u_0}{f_0}} \\[2.0ex]&= \frac{V f_0}{V-u_0}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

音の速さは変わらないまま、波長が短くなったので、1秒間に観測者の耳を通り過ぎる波の数(振動数)は多くなります。この関係を波の基本式から計算します。

結論と吟味

観測者が聞く直接音の振動数は \(f_1 = \displaystyle\frac{V}{V-u_0}f_0\) です。分母が \(V\) より小さいため、\(f_1 > f_0\) となり、音源が近づくことで音が高く聞こえるというドップラー効果の現象と一致します。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{V}{V-u_0}f_0\)

問(3)

思考の道筋とポイント
壁で反射した音の振動数 \(f_2\) を求めます。これは「音源B \(\rightarrow\) 壁C」と「壁C \(\rightarrow\) 観測者A」の2段階のドップラー効果として考えます。問題文の状況設定から、音源Bは観測者Aと壁Cの間にあり、Aに近づき、Cからは遠ざかっていると解釈します。

この設問における重要なポイント

  • 反射板は、まず「観測者」として音を受け取り、次にその振動数で音を発する「音源」となる。
  • ステップ1 (B \(\rightarrow\) C): 音源Bは壁Cから速さ \(u_0\) で遠ざかる。
  • ステップ2 (C \(\rightarrow\) A): 壁Cは静止した音源として、観測者Aに音を伝える。

具体的な解説と立式
Step 1: 壁Cが受け取る音の振動数 \(f_c\) を求める
音源Bは、静止している壁C(観測者)から速さ \(u_0\) で遠ざかります。ドップラー効果の公式より、壁Cが観測する振動数 \(f_c\) は、
$$ f_c = \frac{V}{V+u_0}f_0 \quad \cdots ① $$
Step 2: 観測者Aが聞く反射音の振動数 \(f_2\) を求める
壁Cは、受け取った振動数 \(f_c\) の音を発する、静止した新たな音源とみなせます。観測者Aも静止しているので、壁Cと観測者Aの間には相対運動がなく、ドップラー効果は生じません。したがって、観測者Aが聞く反射音の振動数 \(f_2\) は \(f_c\) に等しくなります。
$$ f_2 = f_c \quad \cdots ② $$

使用した物理公式

  • ドップラー効果の公式: \(f’ = \displaystyle\frac{V-v_{\text{観測者}}}{V-v_{\text{音源}}}f\)
計算過程

式①、②より、\(f_2\) は以下のように求められます。
$$ f_2 = \frac{V}{V+u_0}f_0 $$

計算方法の平易な説明

まず、音源が壁から遠ざかるので、壁に届く音は元の音より低くなります。壁は鏡のように、その低くなった音をそのままの高さで反射します。静止している観測者には、その低い音がそのまま聞こえます。

結論と吟味

壁からの反射音の振動数は \(f_2 = \displaystyle\frac{V}{V+u_0}f_0\) です。分母が \(V\) より大きいため、\(f_2 < f_0\) となり、物理的に妥当な結果です。

解答 (3) \(\displaystyle\frac{V}{V+u_0}f_0\)

問(4)

思考の道筋とポイント
うなりの回数 \(f_3\) は、観測者が同時に聞く2つの音(直接音 \(f_1\) と反射音 \(f_2\))の振動数の差の絶対値で与えられます。

この設問における重要なポイント

  • うなりの公式: \(N = |f_a – f_b|\)。
  • 問(2)で求めた \(f_1\) と問(3)で求めた \(f_2\) を用いる。

具体的な解説と立式
単位時間あたりのうなりの回数 \(f_3\) は、振動数 \(f_1\) と \(f_2\) の差の絶対値です。
$$ f_3 = |f_1 – f_2| $$
ここで、\(f_1 = \displaystyle\frac{V}{V-u_0}f_0\) と \(f_2 = \displaystyle\frac{V}{V+u_0}f_0\) を比較すると、分母が小さい \(f_1\) の方が大きい(\(f_1 > f_2\))ことがわかります。したがって、
$$ f_3 = f_1 – f_2 $$

使用した物理公式

  • うなりの振動数: \(f_{\text{うなり}} = |f_1 – f_2|\)
計算過程

\(f_1\) と \(f_2\) の式を代入して計算します。
$$
\begin{aligned}
f_3 &= \frac{V}{V-u_0}f_0 – \frac{V}{V+u_0}f_0 \\[2.0ex]&= \left( \frac{V}{V-u_0} – \frac{V}{V+u_0} \right) f_0 \\[2.0ex]&= V \left( \frac{(V+u_0) – (V-u_0)}{(V-u_0)(V+u_0)} \right) f_0 \\[2.0ex]&= V \left( \frac{2u_0}{V^2 – u_0^2} \right) f_0 \\[2.0ex]&= \frac{2Vu_0}{V^2 – u_0^2} f_0
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

観測者には、音源が近づいてくることによる高い音(\(f_1\))と、音源が壁から遠ざかることによる低い音(\(f_2\))が同時に届きます。この2つの音の振動数の差を計算することで、1秒間に「ワーン」と聞こえるうなりの回数が求められます。

結論と吟味

うなりの回数は \(f_3 = \displaystyle\frac{2Vu_0}{V^2-u_0^2}f_0\) [回/s] です。直接音と反射音の振動数に差があるため、うなりが生じるのは妥当です。

解答 (4) \(\displaystyle\frac{2Vu_0}{V^2-u_0^2}f_0\)

問(5)

思考の道筋とポイント
この場合も「音源B \(\rightarrow\) 壁C」「壁C \(\rightarrow\) 観測者A」の2段階で考えます。今回は音源が静止し、壁が運動します。

この設問における重要なポイント

  • ステップ1 (B \(\rightarrow\) C): 静止音源に対し、壁(観測者)が速さ \(u_1\) で遠ざかる。
  • ステップ2 (C \(\rightarrow\) A): 壁(音源)が速さ \(u_1\) で静止観測者から遠ざかりながら、ステップ1で受け取った振動数の音を発する。

具体的な解説と立式
Step 1: 壁Cが受け取る音の振動数 \(f_c’\) を求める
音源Bは静止しており、壁C(観測者)が速さ \(u_1\) で遠ざかります。このとき壁が観測する振動数 \(f_c’\) は、
$$ f_c’ = \frac{V-u_1}{V-0}f_0 = \frac{V-u_1}{V}f_0 \quad \cdots ① $$
Step 2: 観測者Aが聞く反射音の振動数 \(f_4\) を求める
次に、壁Cは振動数 \(f_c’\) を発する音源とみなせます。この音源(壁C)は、静止している観測者Aから速さ \(u_1\) で遠ざかります。したがって、観測者Aが聞く振動数 \(f_4\) は、
$$ f_4 = \frac{V}{V+u_1}f_c’ \quad \cdots ② $$

使用した物理公式

  • ドップラー効果の公式: \(f’ = \displaystyle\frac{V-v_{\text{観測者}}}{V-v_{\text{音源}}}f\)
計算過程

式②に式①を代入して、\(f_c’\) を消去します。
$$
\begin{aligned}
f_4 &= \frac{V}{V+u_1} \left( \frac{V-u_1}{V}f_0 \right) \\[2.0ex]&= \frac{V-u_1}{V+u_1}f_0
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

壁が音源から遠ざかりながら音を聞くため、まず音が低くなります(第1段階のドップラー効果)。次に、その低くなった音を、壁が観測者から遠ざかりながら発するため、音はさらに低くなります(第2段階のドップラー効果)。この二重の効果を計算します。

結論と吟味

観測者が聞く反射音の振動数は \(f_4 = \displaystyle\frac{V-u_1}{V+u_1}f_0\) です。\(V-u_1 < V+u_1\) なので \(f_4 < f_0\) となり、音が低く聞こえるという直感と一致します。

解答 (5) \(\displaystyle\frac{V-u_1}{V+u_1}f_0\)

問(6)

思考の道筋とポイント
観測者が聞く直接音の振動数 \(f_5\) と反射音の振動数 \(f_6\) の関係式をそれぞれ立て、2式から音源の元の振動数 \(f_0\) を消去して、音源の速さ \(u_2\) を求めます。斜め方向のドップラー効果では、音源の速度の視線成分(音の進行方向成分)のみを考えます。

この設問における重要なポイント

  • 直接音: 音源は観測者にまっすぐ速さ \(u_2\) で近づく。
  • 反射音: 音源の速度 \(u_2\) を、音の進行方向(音源から観測者への向き)の成分に分解する。問題の定義より、この成分は \(u_2 \cos\theta\) となる。
  • 2つの関係式から \(f_0\) を消去し、\(u_2\) について解く。

具体的な解説と立式
直接音の振動数 \(f_5\):
音源Bは、静止している観測者Aに速さ \(u_2\) でまっすぐ近づきます。このときの振動数 \(f_5\) は、
$$ f_5 = \frac{V}{V-u_2}f_0 \quad \cdots ① $$
反射音の振動数 \(f_6\):
壁で反射し、観測者Aに角度 \(\theta\) の方向から届く音を考えます。この音に対して、音源Bの速度 \(u_2\) のうち、音の進行方向(視線方向)の成分は \(u_2 \cos\theta\) となります。したがって、この反射音の振動数 \(f_6\) は、
$$ f_6 = \frac{V}{V-u_2 \cos\theta}f_0 \quad \cdots ② $$
(注:これは、音源から直接、進行方向と角度\(\theta\)をなす向きにいる観測者が聞く振動数を求めるモデルに基づいています。)

使用した物理公式

  • 斜め方向のドップラー効果の公式
計算過程

式①と式②から \(f_0\) を消去して \(u_2\) を求めます。
まず、式①から \(f_0\) を求めます。
$$ f_0 = \frac{V-u_2}{V}f_5 $$
これを式②に代入します。
$$
\begin{aligned}
f_6 &= \frac{V}{V-u_2 \cos\theta} \left( \frac{V-u_2}{V}f_5 \right) \\[2.0ex]&= \frac{V-u_2}{V-u_2 \cos\theta}f_5
\end{aligned}
$$
この式を \(u_2\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
f_6 (V – u_2 \cos\theta) &= f_5 (V – u_2) \\[2.0ex]Vf_6 – u_2 f_6 \cos\theta &= Vf_5 – u_2 f_5 \\[2.0ex]u_2 f_5 – u_2 f_6 \cos\theta &= Vf_5 – Vf_6 \\[2.0ex]u_2 (f_5 – f_6 \cos\theta) &= V(f_5 – f_6) \\[2.0ex]u_2 &= \frac{V(f_5 – f_6)}{f_5 – f_6 \cos\theta}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

観測者には、正面から来る高い音(\(f_5\))と、斜めから来る少しだけ高い音(\(f_6\))が聞こえます。この2つの振動数を表す式には、どちらも未知の速さ \(u_2\) と元の振動数 \(f_0\) が含まれています。2つの式を連立方程式とみなし、\(f_0\) を消去することで、\(u_2\) を測定可能な量(\(V, f_5, f_6, \theta\))だけで表すことができます。

結論と吟味

台車Bの速さは \(u_2 = \displaystyle\frac{V(f_5 – f_6)}{f_5 – f_6 \cos\theta}\) です。観測される振動数から、直接測定が難しい音源の速さを求めることができる、というドップラー効果の応用例(スピードガンなど)の原理を示す関係式となっています。

解答 (6) \(\displaystyle\frac{V(f_5 – f_6)}{f_5 – f_6 \cos\theta}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • ドップラー効果の公式:
    • 核心: 音源と観測者の相対的な運動によって、観測される音の振動数が変化する現象です。公式 \(f’ = \displaystyle\frac{V-v_{\text{観測者}}}{V-v_{\text{音源}}}f_0\) を正しく使いこなすことが全ての基本です。
    • 理解のポイント: 速度の符号の取り方が重要です。音源から観測者に向かう向きを正と定め、音源の速度 \(v_{\text{音源}}\) と観測者の速度 \(v_{\text{観測者}}\) をこの向きに合わせて代入します。近づく場合は正、遠ざかる場合は負(あるいは公式の符号を調整)と覚えるのが一般的です。
  • 反射板の2段階モデル:
    • 核心: 壁や反射板による音の反射は、単一の現象ではなく、2つの連続したドップラー効果としてモデル化します。
      1. ステップ1(受信): 反射板を「観測者」とみなし、元の音源から発せられた音をどのくらいの振動数で受け取るかを計算します。
      2. ステップ2(送信): 反射板を「新たな音源」とみなし、ステップ1で受け取った振動数の音を、本来の観測者に向けて発すると考えます。
    • 理解のポイント: この2段階の考え方を適用することで、一見複雑に見える反射の問題を、基本的なドップラー効果の公式の組み合わせで解くことができます。
  • 斜め方向のドップラー効果:
    • 核心: 音源や観測者が、音の進行方向に対して斜めに運動する場合、ドップラー効果に寄与するのは、音源と観測者を結ぶ直線方向(視線方向)の速度成分のみです。
    • 理解のポイント: (6)のように、音源の速度ベクトル \(\vec{u_2}\) を、視線方向とその垂直方向に分解し、視線方向の成分 \(u_2 \cos\theta\) のみをドップラー効果の公式に用います。垂直方向の速度成分は、振動数の変化には影響しません。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 動く観測者と動く音源: この問題の基本パターン。誰が動き、誰が止まっているかを正確に把握することが第一歩です。
    • 風が吹いている場合: 音速 \(V\) が変化します。風上に向かう音の速さは \(V-W\)、風下に向かう音の速さは \(V+W\)(\(W\)は風速)となります。ドップラー効果の公式の \(V\) を、この見かけの音速に置き換えて計算する必要があります。
    • 救急車やすれ違う電車: 日常的な現象を題材にした問題。救急車が近づくときと遠ざかるときの音の変化や、すれ違う瞬間に音がどう変わるかなどを問われます。
    • スピードガン: (6)のように、反射波の振動数変化を利用して物体の速さを測定する装置の原理を問う問題。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 登場人物の整理: まず、音源、観測者、反射板(もしあれば)は誰で、それぞれがどの向きに、どのくらいの速さで動いているのかを図に書き込み、状況を完全に把握します。
    2. 音の経路の特定: 観測者が聞く音は、音源からの「直接音」なのか、何かに反射した「反射音」なのかを区別します。複数の音が聞こえる場合は、それぞれ別々に計算します。
    3. 反射音は2段階で: 反射音を計算する必要がある場合、必ず「受信」と「送信」の2ステップに分けて考えます。各ステップで誰が音源で誰が観測者なのかを明確にします。
    4. 速度の向きと符号: ドップラー効果の公式を適用する際、音源から観測者への向きを正として、各速度の符号を慎重に決定します。
    5. 求めるものは何か: 最終的に求めたい量が振動数なのか、波長なのか、うなりの回数なのか、あるいは音源の速さなのかを意識し、適切な公式や計算手順を選択します。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 反射を1回のドップラー効果で計算してしまう:
    • 誤解: (5)のような問題で、音源と観測者の相対速度を考えて一度に計算しようとする。
    • 対策: 反射は必ず「壁が聞く」「壁が話す」の2段階で考える、という原則を徹底しましょう。壁は音を中継するだけであり、音源と観測者の直接のやりとりとは物理的に異なります。
  • 速度の符号ミス:
    • 誤解: 近づく場合と遠ざかる場合の公式の符号を混同する。
    • 対策: 「近づくと音は高くなる(振動数が増える)」「遠ざかると音は低くなる(振動数が減る)」という物理現象の基本に立ち返りましょう。計算結果がこの直感に合っているか常に確認する習慣をつけることが有効です。分母が小さくなれば振動数は増え、分母が大きくなれば振動数は減ります。
  • 斜め方向の速度をそのまま使ってしまう:
    • 誤解: (6)で、音源の速さ \(u_2\) をそのままドップラー効果の公式に入れてしまう。
    • 対策: ドップラー効果は「波面の進行方向への追いかけっこ」で生じる現象であるとイメージしましょう。そのため、重要なのは視線方向の速度成分だけです。必ず速度を分解するステップを踏むことを忘れないでください。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 波面の圧縮・伸長イメージ: 音源が近づく場合は、音源の前方で波面がぎゅっと圧縮される様子を、遠ざかる場合は後方で波面が引き伸ばされる様子を図に描くと、波長が変化する理由が直感的に理解できます。
    • 役割の書き込み: 図1や図2の台車や壁の上に、「音源(\(f_0\))」「観測者」「反射板(受信)」「反射板(送信)」のように、各ステップでの役割を書き込むと、誰が主体なのかが明確になり、公式の適用ミスを防げます。
    • 速度ベクトルの図示: (6)では、音源の速度ベクトル \(\vec{u_2}\) と、音の進行方向(視線方向)を明確に図示し、速度を成分分解した図を描くことが必須です。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 基準の明確化: 速度の正の向きを矢印で図に明記しておくと、符号の判断が容易になります。
    • 音の経路を矢印で示す: 直接音は「音源 \(\rightarrow\) 観測者」、反射音は「音源 \(\rightarrow\) 壁 \(\rightarrow\) 観測者」のように、音の伝わる経路を矢印で描くと、思考が整理されます。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • ドップラー効果の公式:
    • 選定理由: 問題が「観測される振動数」の変化を問うており、その原因が音源や観測者の運動であるため。これはドップラー効果そのものの定義です。
    • 適用根拠: 音波の伝播という物理現象に基づいています。音源や観測者の運動により、単位時間あたりに観測者の耳を通過する波の数が変化するという原理を数式化したものです。
  • 波の基本式 \(v=f\lambda\):
    • 選定理由: (1)で波長、(2)で振動数を問うているように、波長と振動数という異なる物理量を結びつける必要があるため。
    • 適用根拠: 波の速さは、1つの波の長さ(\(\lambda\))に、1秒間に進む波の数(\(f\))を掛け合わせたものである、という波の最も基本的な定義に基づいています。
  • うなりの公式 \(N = |f_1 – f_2|\):
    • 選定理由: (4)で「うなりの回数」を問われているため。
    • 適用根拠: わずかに振動数の異なる2つの波が重なり合うと、波の振幅が周期的に強弱を繰り返す「うなり」という現象が生じます。その周期(1秒あたりの回数)は、2つの波の振動数の差に等しいという物理法則に基づいています。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 波長 \(\lambda_1\):
    • 戦略: 1秒間に音源が出す波(\(f_0\)個)が詰まる区間の長さを求める。
    • フロー: 区間の長さ \(V-u_0\) \(\rightarrow\) \(\lambda_1 = \displaystyle\frac{V-u_0}{f_0}\)。
  2. (2) 振動数 \(f_1\):
    • 戦略: 波の基本式 \(V=f_1\lambda_1\) を使う。
    • フロー: \(f_1 = V/\lambda_1\) \(\rightarrow\) (1)の結果を代入し \(f_1\) を求める。
  3. (3) 反射音の振動数 \(f_2\):
    • 戦略: 反射を2段階で考える。「音源B \(\rightarrow\) 壁C」と「壁C \(\rightarrow\) 観測者A」。
    • フロー: ①壁が聞く音 \(f_c\) を計算(音源が遠ざかる) \(\rightarrow\) ②壁が発する音を観測者が聞く(音源も観測者も静止) \(\rightarrow\) \(f_2 = f_c\)。
  4. (4) うなりの回数 \(f_3\):
    • 戦略: 直接音と反射音の振動数の差を取る。
    • フロー: \(f_3 = |f_1 – f_2|\) \(\rightarrow\) (2)と(3)の結果を代入して計算。
  5. (5) 壁が動く場合の反射音 \(f_4\):
    • 戦略: 反射を2段階で考える。「音源B \(\rightarrow\) 壁C」と「壁C \(\rightarrow\) 観測者A」。
    • フロー: ①壁が聞く音 \(f_c’\) を計算(観測者である壁が遠ざかる) \(\rightarrow\) ②壁が発する音を観測者が聞く(音源である壁が遠ざかる) \(\rightarrow\) 2つの式を組み合わせて \(f_4\) を求める。
  6. (6) 音源の速さ \(u_2\):
    • 戦略: ①直接音 \(f_5\) の式を立てる。②反射音 \(f_6\) の式を立てる(斜め方向のドップラー効果)。③2式から \(f_0\) を消去する。
    • フロー: \(f_5 = \dots f_0\) の式、\(f_6 = \dots f_0\) の式を立てる \(\rightarrow\) 連立方程式として解き、\(u_2\) を求める。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 分数の計算を丁寧に: ドップラー効果の計算は、分数の四則演算が中心です。特に(4)のような通分や、(5)のような分数のかけ算では、計算過程を省略せず、一つ一つ着実に進めましょう。
  • 文字の区別: \(u_0, u_1, u_2\) や \(f_0, f_1, \dots, f_6\) など、多くの記号が登場します。どの記号がどの状況に対応するのかを、計算の都度確認しましょう。
  • 式の整理: (6)のように、複数の式を連立して解く場合、まず一方の式を \(f_0 = \dots\) の形に整理してから代入するなど、見通しの良い手順を踏むことが重要です。
  • 最終チェック: 計算結果が出たら、それが物理的に妥当か(近づくなら \(f>f_0\)、遠ざかるなら \(f<f_0\) になっているか)を最後に確認する癖をつけましょう。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (2) \(f_1 = \frac{V}{V-u_0}f_0\): 分母が \(V\) より小さいので \(f_1 > f_0\)。音源が近づくので音が高くなる。妥当。
    • (3) \(f_2 = \frac{V}{V+u_0}f_0\): 分母が \(V\) より大きいので \(f_2 < f_0\)。音源が壁から遠ざかるので音が低くなる。妥当。
    • (5) \(f_4 = \frac{V-u_1}{V+u_1}f_0\): 分子が分母より小さいので \(f_4 < f_0\)。壁が遠ざかることで二重にドップラー効果がかかり、音が低くなる。妥当。
    • (6) \(u_2 = \dots\): もし \(\theta=0\) なら、\(f_6\) は \(f_5\) と同じ意味になるはず。式に \(\cos\theta=1\) を代入すると分母が \(f_5-f_6\) となり、分子と一致して \(u_2=V\) となってしまう。これはモデルの適用限界を示唆するが、\(f_5 \ne f_6\) である限り、式は意味を持ちます。
  • 極端な場合や既知の状況との比較:
    • もし音源の速さ \(u_0\) がゼロなら、(2)の式は \(f_1 = f_0\)、(3)の式は \(f_2 = f_0\) となり、ドップラー効果が起きないという既知の状況と一致します。
    • (4)で \(u_0=0\) なら \(f_3=0\) となり、うなりが聞こえないことも確認できます。
    • このように、変数をゼロにするなどの極端な条件を代入して、自明な結果と一致するかを確認することは、計算ミスを発見する強力な手段です。

問題87 (関西大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、音源が観測者に対してまっすぐではなく、斜めに運動する場合の「斜め方向のドップラー効果」を扱っています。ドップラー効果の公式を暗記して適用するのではなく、波の個数の保存や音の伝播時間といった基本原理から、観測される振動数を導出するプロセスが問われています。
この問題の核心は、物理現象を時間の関係として捉え、幾何学的な考察と組み合わせることで、複雑に見える現象を解き明かす点にあります。

与えられた条件
  • 音源S: 振動数\(f_0\)、速さ\(v\)で直線上を運動
  • 観測者O: 静止
  • 音速: \(V\) (ただし \(V>v\))
  • 環境: 無風、反射なし
  • 時刻と位置:
    • \(t=0\): 音源Sが点Pを通過 (\(\angle OPQ = \theta\))。この音は時刻\(t_1\)にOに届く。
    • \(t=\Delta t_0\): 音源Sが点P’を通過。この音は時刻\(t_1+\Delta t_1\)にOに届く。
問われていること
  • (ア)~(オ): 観測される振動数\(f_1\)を導出するための空欄補充。
  • (a), (カ), (キ), (b): 特定の状況における振動数とその大小関係。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「斜め方向のドップラー効果」です。音源が観測者に対してまっすぐではなく、斜めに運動する場合に、観測される振動数がどのように変化するかを、波の伝播時間という基本的な考え方から導出する問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 波の個数の保存: 音源が発した波の数と、観測者が受け取る波の数は等しい。この当たり前の事実が、振動数を求める上での出発点となります。
  2. 音の伝播時間: 音が距離 \(L\) を進むのにかかる時間は \(L/V\) であるという、速さ・時間・距離の基本的な関係。
  3. 幾何学的な近似: 観測点から音源までの距離が非常に遠い場合や、音源の移動距離が非常に短い場合、2つの異なる点から観測点へ引いた直線はほぼ平行とみなせる、という近似を用います。
  4. 斜め方向のドップラー効果: 音源の速度のうち、観測者と音源を結ぶ直線方向(視線方向)の成分のみが振動数の変化に寄与するという考え方。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、音源が発した波の数と観測者が受け取った波の数を等しいとおき、観測される振動数 \(f_1\) を、音を出す時間 \(\Delta t_0\) と聞く時間 \(\Delta t_1\) で表します(問ア)。
  2. 次に、音源の2つの位置(P, P’)から観測者Oまでの距離を、音の伝播時間を用いて表します(問イ、ウ)。
  3. 2つの位置間の距離の差(光路差)を、幾何学的な近似を用いて音源の運動で表します(問エ)。
  4. これらの関係式を組み合わせることで、\(\Delta t_0\) と \(\Delta t_1\) の関係を導き、最終的に振動数 \(f_1\) の式を求めます(問オ)。
  5. 最後に、音源の位置によって角度 \(\theta\) が変化することから、観測される振動数がどのように変わるかを考察します。

問(ア)

思考の道筋とポイント
音源が発した波の総数と、観測者が受け取った波の総数は等しくなければなりません。この「波の数保存則」を数式で表現します。

この設問における重要なポイント

  • 音源が時間 \(\Delta t_0\) の間に発する波の数は \(f_0 \Delta t_0\) 個。
  • 観測者が時間 \(\Delta t_1\) の間に聞く波の数は \(f_1 \Delta t_1\) 個。
  • これら2つの波の数は等しい。

具体的な解説と立式
振動数 \(f_0\) の音源が、時間 \(\Delta t_0\) の間に発する波の総数は、(1秒あたりの波の数) \(\times\) (時間) で計算できます。
$$ \text{音源が発した波の数} = f_0 \Delta t_0 $$
同様に、振動数 \(f_1\) の音を観測者が時間 \(\Delta t_1\) の間に受け取る波の総数は、
$$ \text{観測者が受け取った波の数} = f_1 \Delta t_1 $$
音源が発した波はすべて観測者に届くので、これらの数は等しくなります。
$$ f_0 \Delta t_0 = f_1 \Delta t_1 $$
この式を \(f_1\) について解くと、
$$ f_1 = \frac{\Delta t_0}{\Delta t_1} f_0 $$

使用した物理公式

  • 波の個数の保存
計算過程

立式そのものが結論となります。

計算方法の平易な説明

音源が「1, 2, 3, …, 100」と100個の波を出したなら、観測者も必ず100個の波を受け取ります。音源が波を出すのにかかった時間と、観測者がそれを受け取るのにかかった時間はドップラー効果で変わりますが、波の個数自体は変わりません。この関係から、観測される振動数を式で表します。

結論と吟味

観測される振動数は \(f_1 = \displaystyle\frac{\Delta t_0}{\Delta t_1} f_0\) と表されます。これはドップラー効果の一般的な表現であり、音を聞く時間 \(\Delta t_1\) が音を出した時間 \(\Delta t_0\) より短ければ音は高く(\(f_1 > f_0\))、長ければ低く(\(f_1 < f_0\))聞こえることを示しています。

解答 (ア) \(\displaystyle\frac{\Delta t_0}{\Delta t_1} f_0\)

問(イ), (ウ)

思考の道筋とポイント
音の伝播距離を「音速 \(\times\) 伝播時間」で表します。それぞれの音がいつ発せられ、いつ届いたかを正確に把握することが重要です。

この設問における重要なポイント

  • 距離 = 速さ \(\times\) 時間 の関係を適用する。
  • 点Pの音: 時刻 \(t=0\) に発射、時刻 \(t=t_1\) に到着。
  • 点P’の音: 時刻 \(t=\Delta t_0\) に発射、時刻 \(t=t_1+\Delta t_1\) に到着。

具体的な解説と立式
問(イ) 距離 \(l\):
点Pで時刻 \(t=0\) に出された音が、距離 \(l\) を速さ \(V\) で進み、時刻 \(t=t_1\) に観測者Oに届きます。したがって、伝播にかかった時間は \(t_1 – 0 = t_1\) です。
$$ l = Vt_1 $$
問(ウ) 距離 \(l’\):
点P’で時刻 \(t=\Delta t_0\) に出された音が、距離 \(l’\) を速さ \(V\) で進み、時刻 \(t=t_1+\Delta t_1\) に観測者Oに届きます。したがって、伝播にかかった時間は \((t_1+\Delta t_1) – \Delta t_0\) です。
$$ l’ = V(t_1 + \Delta t_1 – \Delta t_0) $$

使用した物理公式

  • 距離 = 速さ \(\times\) 時間
計算過程

立式そのものが結論となります。

計算方法の平易な説明

音の進んだ距離は、単純に「音の速さ」と「音が飛んでいた時間」の掛け算で求まります。それぞれの音について、いつ出発していつ到着したかを確認し、飛んでいた時間を計算します。

結論と吟味

距離 \(l\) と \(l’\) がそれぞれ \(l=Vt_1\), \(l’=V(t_1+\Delta t_1-\Delta t_0)\) と表されました。これらの式から、2つの音の経路の長さの差 \(l-l’\) は、
$$
\begin{aligned}
l-l’ &= Vt_1 – V(t_1+\Delta t_1-\Delta t_0) \\[2.0ex]&= V(\Delta t_0 – \Delta t_1)
\end{aligned}
$$
となり、経路差が音を聞く時間と出す時間の差に関係していることがわかります。

解答 (イ) \(Vt_1\)
解答 (ウ) \(V(t_1+\Delta t_1-\Delta t_0)\)

問(エ)

思考の道筋とポイント
時間 \(\Delta t_0\) が非常に短い場合、音源の移動距離 PP’ は、観測者までの距離 \(l\) や \(l’\) に比べて非常に小さくなります。このとき、線分 PO と P’O はほぼ平行とみなせます。この幾何学的な近似を用いて、経路差 \(l-l’\) を音源の運動で表します。

この設問における重要なポイント

  • 近似: \(\Delta t_0\) が微小なため、PO // P’O とみなせる。
  • 経路差 \(l-l’\) は、音源の移動距離 PP’ の、視線方向(PO方向)への射影に等しい。

具体的な解説と立式
音源Sは速さ \(v\) で時間 \(\Delta t_0\) の間にPからP’まで移動するので、その距離は \(PP’ = v \Delta t_0\) です。
PO と P’O がほぼ平行であるとみなすと、2つの経路の差 \(l-l’\) は、図のようにP’からPOに垂線を下ろしたときの、Pとその垂線の足との間の距離に相当します。
この距離は、直角三角形の辺の関係から \(PP’ \cos\theta\) となります。したがって、
$$
\begin{aligned}
l-l’ &= PP’ \cos\theta \\[2.0ex]&= v \Delta t_0 \cos\theta
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 幾何学的な近似(平行光線近似)
  • 三角関数
計算過程

立式そのものが結論となります。

計算方法の平易な説明

音源が少しだけ動いたとき、観測者までの距離がどれだけ変化したかを考えます。音源が観測者から見て斜め方向に動いているので、距離の変化は移動距離そのものではなく、観測者に向かう方向の成分だけになります。この成分は、移動距離に \(\cos\theta\) を掛けることで求められます。

結論と吟味

経路差が \(l-l’ = v \Delta t_0 \cos\theta\) と表されました。これは、音源の速度の視線方向成分 \(v \cos\theta\) が、観測者との距離を変化させる要因であることを示しており、ドップラー効果の本質につながる重要な関係式です。

解答 (エ) \(v \Delta t_0 \cos\theta\)

問(オ)

思考の道筋とポイント
これまでに導出した3つの関係式を組み合わせ、最終的に振動数 \(f_1\) を求めます。具体的には、2つの方法で表した経路差 \(l-l’\) を等しいとおき、\(\Delta t_0 / \Delta t_1\) の比を求めて、問(ア)の式に代入します。

この設問における重要なポイント

  • 問(イ)(ウ)から導かれる \(l-l’ = V(\Delta t_0 – \Delta t_1)\)
  • 問(エ)で導いた \(l-l’ = v \Delta t_0 \cos\theta\)
  • これらを等しいとおき、問(ア)の \(f_1 = \frac{\Delta t_0}{\Delta t_1} f_0\) につなげる。

具体的な解説と立式
問(イ)、(ウ)の結果から、
$$
\begin{aligned}
l-l’ &= Vt_1 – V(t_1+\Delta t_1-\Delta t_0) \\[2.0ex]&= V(\Delta t_0 – \Delta t_1) \quad \cdots ②’
\end{aligned}
$$
問(エ)の結果から、
$$ l-l’ = v \Delta t_0 \cos\theta \quad \cdots ③ $$
②’と③はどちらも同じ経路差を表しているので、
$$ V(\Delta t_0 – \Delta t_1) = v \Delta t_0 \cos\theta $$
この式を、問(ア)で使う比 \(\Delta t_0 / \Delta t_1\) を求めるために変形します。
$$
\begin{aligned}
V \Delta t_0 – V \Delta t_1 &= v \Delta t_0 \cos\theta \\[2.0ex]V \Delta t_1 &= V \Delta t_0 – v \Delta t_0 \cos\theta \\[2.0ex]&= (V – v \cos\theta) \Delta t_0
\end{aligned}
$$
よって、
$$ \frac{\Delta t_0}{\Delta t_1} = \frac{V}{V – v \cos\theta} $$
この結果を、問(ア)の式 \(f_1 = \displaystyle\frac{\Delta t_0}{\Delta t_1} f_0\) に代入すると、
$$ f_1 = \frac{V}{V – v \cos\theta} f_0 $$

使用した物理公式

  • これまでに導出した関係式の連立
計算過程

上記の立式過程がそのまま計算過程となります。

計算方法の平易な説明

音の伝わる時間の差から求めた「距離の差」と、音源の動きから幾何学的に求めた「距離の差」は、もちろん同じはずです。この2つをイコールで結ぶことで、音を出した時間と聞いた時間の比率がわかります。この比率を使えば、問(ア)で立てた式から、観測される振動数を具体的に計算できます。

結論と吟味

観測される振動数は \(f_1 = \displaystyle\frac{V}{V – v \cos\theta} f_0\) となります。これは斜め方向のドップラー効果の公式として知られています。音源の速度 \(v\) のうち、視線方向成分 \(v \cos\theta\) のみが振動数変化に寄与していることが明確に示されています。

解答 (オ) \(\displaystyle\frac{V}{V-v\cos\theta}f_0\)

問(a), (カ), (キ), (b)

思考の道筋とポイント
問(オ)で導出した一般式 \(f_1 = \displaystyle\frac{V}{V – v \cos\theta} f_0\) を使って、音源が特定の位置にあるときの振動数を考えます。角度 \(\theta\) がどのように変化するかが鍵となります。

この設問における重要なポイント

  • 音源がQに向かうとき: \(\theta\) は \(90^\circ\) から \(0^\circ\) へと減少する。\(v \cos\theta > 0\)。
  • 音源がQを通過する瞬間: 観測者が聞く音は、Qより手前の点P”から発せられた音。このとき \(\cos\theta’ = v/V\)。
  • 音源がQを通過した瞬間に発した音: この音を聞くとき、音源の速度は視線方向と垂直。 \(\theta=90^\circ\)。
  • 音源がQから遠ざかるとき: \(\theta\) は \(90^\circ\) から \(180^\circ\) へと増加する。\(v \cos\theta < 0\)。

具体的な解説と立式
問(a):
音源Sが点Qに向かって進んでいるとき、\(0 < \theta < 90^\circ\) なので \(\cos\theta > 0\) です。
このとき、分母は \(V – v \cos\theta < V\) となります。 したがって、\(f_1 = \displaystyle\frac{V}{V – v \cos\theta} f_0 > f_0\) となります。
よって、振動数は \(f_0\) より大きいので高い音に聞こえます。

問(カ):
観測者Oが「音源がQを通過した」と認識する瞬間に聞いている音は、それより以前に、ある点P”から発せられた音です。
音源がP”からQまで進むのにかかった時間を \(t_2\) とすると、\(P”Q = vt_2\)。
このP”から出た音が観測者Oに届くのにかかった時間も \(t_2\) なので、\(P”O = Vt_2\)。
直角三角形OP”Qにおいて、その時の角度を \(\theta’\) とすると、
$$
\begin{aligned}
\cos\theta’ &= \frac{P”Q}{P”O} \\[2.0ex]&= \frac{vt_2}{Vt_2} \\[2.0ex]&= \frac{v}{V}
\end{aligned}
$$
この \(\cos\theta’ = v/V\) を一般式に代入すると、その瞬間に聞こえる振動数 \(f_2\) は、
$$
\begin{aligned}
f_2 &= \frac{V}{V – v \cos\theta’} f_0 \\[2.0ex]&= \frac{V}{V – v(v/V)} f_0 \\[2.0ex]&= \frac{V}{V – v^2/V} f_0 \\[2.0ex]&= \frac{V^2}{V^2 – v^2} f_0
\end{aligned}
$$

問(キ):
音源Sが点Qを通過した瞬間に発した音を、観測者Oが聞くときの振動数を考えます。
このとき、音源の速度の向き(直線PQの向き)と、視線方向(QOの向き)は垂直です。つまり、\(\theta = 90^\circ\)。
この \(\cos 90^\circ = 0\) を一般式に代入すると、その音の振動数 \(f_3\) は、
$$
\begin{aligned}
f_3 &= \frac{V}{V – v \cos 90^\circ} f_0 \\[2.0ex]&= \frac{V}{V – 0} f_0 \\[2.0ex]&= f_0
\end{aligned}
$$
よって、振動数は \(f_0\) の音として聞こえます。

問(b):
音源Sが点Qから遠ざかっているとき、\(90^\circ < \theta < 180^\circ\) なので \(\cos\theta < 0\) です。 このとき、分母は \(V – v \cos\theta > V\) となります。
したがって、\(f_1 = \displaystyle\frac{V}{V – v \cos\theta} f_0 < f_0\) となります。
よって、振動数は \(f_0\) より小さいので低い音に聞こえます。

結論と吟味
  • (a) 大きいので高い音に
  • (カ) \(\displaystyle\frac{V^2}{V^2-v^2}f_0\)
  • (キ) \(f_0\)
  • (b) 小さいので低い音に

救急車が通り過ぎる時、最も近く(Q点)に来た瞬間に音が急に低くなるように感じますが、物理的には、Q点を通過した瞬間に発した音は元の高さ(\(f_0\))で聞こえ、それ以降に音が低くなっていくことがわかります。これは日常の感覚と少し異なりますが、音の伝播時間を考慮した正しい結果です。

解答 (a) 大きいので高い音に
解答 (カ) \(\displaystyle\frac{V^2}{V^2-v^2}f_0\)
解答 (キ) \(f_0\)
解答 (b) 小さいので低い音に

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 波の個数の保存:
    • 核心: どんなに複雑な運動をしても、音源が発した波の数と観測者が受け取る波の数は必ず等しくなります。この自明とも思える法則 `(音源が出した数) = (観測者が受け取った数)` すなわち \(f_0 \Delta t_0 = f_1 \Delta t_1\) が、ドップラー効果を基本原理から導出する際の出発点となります。
    • 理解のポイント: この法則は、振動数 \(f\) と時間 \(\Delta t\) の関係を直接結びつけます。観測される振動数 \(f_1\) を求めることは、音を出す時間 \(\Delta t_0\) と聞く時間 \(\Delta t_1\) の比を求めることに帰着します。
  • 音の伝播時間と経路長の関係:
    • 核心: 音が距離 \(l\) を進むのにかかる時間は \(t = l/V\) です。この関係を用いて、音源の異なる2点から観測者までの経路長 \(l, l’\) を、音の発射時刻と到着時刻で表現することができます。
    • 理解のポイント: この問題では、経路長の差 \(l-l’\) を2つの異なる方法で表現し、それらを等しいとおくことで、時間比 \(\Delta t_0 / \Delta t_1\) を求めます。これは、問題を解く上での中心的な計算戦略です。
  • 斜め方向のドップラー効果(視線速度の原理):
    • 核心: 音源の速度ベクトルのうち、振動数の変化に寄与するのは、音源と観測者を結ぶ直線方向(視線方向)の成分だけです。この成分を「視線速度」と呼びます。
    • 理解のポイント: 最終的に導かれる公式 \(f_1 = \displaystyle\frac{V}{V – v \cos\theta} f_0\) は、この原理を数式で表したものです。分母の \(v \cos\theta\) がまさに視線速度であり、音源が観測者に近づく成分(\(v \cos\theta > 0\))があれば音は高くなり、遠ざかる成分(\(v \cos\theta < 0\))があれば低くなることを示しています。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 円運動する音源: 音源が観測者の周りを円運動する問題。この場合、角度 \(\theta\) が時間と共に周期的に変化するため、観測される振動数も周期的に変化します。
    • 光のドップラー効果: 基本的な考え方は同じですが、光速が非常に大きいため、近似式や相対論的な効果を考慮する場合があります。恒星のスペクトルが赤方偏移(遠ざかっている)や青方偏移(近づいている)する現象の解析に応用されます。
    • 通過する救急車の音の変化: この問題の(a)(カ)(キ)(b)は、まさに救急車が目の前を通り過ぎるときの音の変化を詳細に分析したものです。どの瞬間にどの音が聞こえるかを問う問題は頻出です。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 時間の対応関係を整理: 「いつ、どこで発した音」が「いつ、どこで観測されるか」という対応関係を、時刻と位置のペアで整理することが第一歩です。
    2. 経路差を2通りで表現: 多くの誘導問題では、この問題のように「音の伝播時間から見た経路差」と「音源の運動から見た幾何学的な経路差」を求めさせ、それらを等しいとおくことで解法が進みます。この流れを意識しましょう。
    3. 視線速度を意識する: 最終的にドップラー効果の公式を使う場面では、常に「音源と観測者を結ぶ直線」を考え、その方向の速度成分 \(v \cos\theta\) がいくつか、を計算することが鍵となります。
    4. 「発した時刻」と「聞こえる時刻」のズレ: (カ)や(キ)のように、音源がある位置を通過した「瞬間」と、その瞬間に発した音が観測者に「聞こえる」瞬間は異なります。この時間のズレを考慮することが、正確な分析には不可欠です。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 幾何学的な近似の誤解:
    • 誤解: なぜ PO と P’O が平行とみなせるのかが分からず、近似を使えない。
    • 対策: これは、天文学で遠方の恒星からの光を平行光線とみなすのと同じ近似です。観測者までの距離 \(l\) が、音源の移動距離 \(v \Delta t_0\) に比べて圧倒的に大きいという状況をイメージしましょう。この近似により、複雑な幾何学が単純な三角比の問題に帰着します。
  • 最接近点での音の変化の誤解:
    • 誤解: 音源が観測者に最も近づいた点Qで、最も高い音が聞こえる、または急に音が低くなる、と考えてしまう。
    • 対策: 「聞こえる音」は「過去に発せられた音」であることを常に意識しましょう。点Qを通過する瞬間に聞こえる音は、それより手前の点P”で発せられた音です。物理的な現象と、人間がそれを観測するタイミングには時間差があることを理解することが重要です。
  • 角度 \(\theta\) の定義の混同:
    • 誤解: 角度 \(\theta\) が常に一定だと考えてしまう。または、どの角度を \(\theta\) とすべきか混乱する。
    • 対策: \(\theta\) は、音源の位置ベクトルと速度ベクトルがなす角ではなく、「音源から観測者へ向かう方向」と「音源の速度の向き」がなす角です。音源が移動するにつれて、この角度は刻一刻と変化することを理解しましょう。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 同心円の波面: 静止した音源からは同心円状に波が広がります。音源が動くと、この円の中心が進行方向にずれていくため、進行方向では波面が密になり、後方では疎になる様子を図示すると、ドップラー効果が視覚的に理解できます。
    • 時間のタイムライン: 音源側と観測者側で、それぞれ時間の流れを示すタイムラインを描き、「\(t=0\)にPで発射」「\(t=\Delta t_0\)にP’で発射」といったイベントと、「\(t=t_1\)にPの音が到着」「\(t=t_1+\Delta t_1\)にP’の音が到着」といったイベントを書き込むと、時間の対応関係が明確になります。
    • 経路差の拡大図: (エ)の近似を理解するために、P, P’, Oを含む三角形を大きく描き、P’からPOへ垂線を下ろす図を丁寧に描くことが有効です。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 角度\(\theta\)の明記: 図の中に、どの角度が\(\theta\)なのかを明確に書き込みましょう。特に、音源の位置が変わると\(\theta\)も変わることを意識することが大切です。
    • ベクトルの分解: 視線速度を考える際には、速度ベクトル\(\vec{v}\)を図示し、それを視線方向とそれに垂直な方向に分解する図を描くと、\(v \cos\theta\)の意味が分かりやすくなります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(f_0 \Delta t_0 = f_1 \Delta t_1\) (波の数保存):
    • 選定理由: この問題は、ドップラー効果の公式を暗記して使うのではなく、その公式を基本原理から導出するプロセスを問うています。その最も根源的な原理が「波の数は保存される」という考え方だからです。
    • 適用根拠: 波が途中で生成されたり消滅したりしない限り、この法則は常に成り立ちます。
  • \(l = Vt\) (距離・速さ・時間):
    • 選定理由: 音が空間を伝播する様子を記述するための最も基本的な法則だからです。音の経路長と伝播時間を結びつけるために使用します。
    • 適用根拠: 音速\(V\)が一定であるという問題の条件下で、この関係は常に成り立ちます。
  • \(l-l’ \approx v \Delta t_0 \cos\theta\) (幾何学的近似):
    • 選定理由: 「音の伝播」という物理的な側面から導いた経路差と、「音源の運動」という幾何学的な側面から導いた経路差を結びつけるためです。この式が、物理現象と幾何学をつなぐ架け橋となります。
    • 適用根拠: \(\Delta t_0\)が微小時間であり、音源の移動距離が観測者までの距離に比べて無視できるほど小さい、という近似に基づいています。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (ア) 振動数の定義:
    • 戦略: 波の数保存則から、観測される振動数\(f_1\)を時間比で表す。
    • フロー: \(f_0 \Delta t_0 = f_1 \Delta t_1 \rightarrow f_1 = \frac{\Delta t_0}{\Delta t_1} f_0\)。
  2. (イ, ウ) 経路長の物理的表現:
    • 戦略: 音の伝播時間を使って、経路長\(l, l’\)を数式で表す。
    • フロー: \(l = V \times (\text{伝播時間1})\), \(l’ = V \times (\text{伝播時間2})\)。
  3. (エ) 経路長の幾何学的表現:
    • 戦略: 微小時間における音源の移動を考え、幾何学的近似で経路差\(l-l’\)を表す。
    • フロー: \(l-l’ \approx (\text{移動距離}) \times \cos\theta = v \Delta t_0 \cos\theta\)。
  4. (オ) 振動数の導出:
    • 戦略: 2つの方法で表した経路差を等しいとおき、時間比\(\Delta t_0 / \Delta t_1\)を求め、(ア)の式に代入する。
    • フロー: \(V(\Delta t_0 – \Delta t_1) = v \Delta t_0 \cos\theta \rightarrow \frac{\Delta t_0}{\Delta t_1}\)を計算 \(\rightarrow f_1\)を求める。
  5. (a, カ, キ, b) 具体的な状況への適用:
    • 戦略: (オ)で求めた一般式に、各状況における\(\theta\)の値を代入して振動数を計算する。
    • フロー: 各状況で\(\cos\theta\)の値を特定 \(\rightarrow\) 一般式に代入 \(\rightarrow\) \(f_0\)との大小関係を比較。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 文字の定義を明確に: \(t_1, \Delta t_0, \Delta t_1\)など、似たような時間の記号が出てきます。それぞれが「どの時刻」または「どの時間間隔」を指すのか、常に定義に立ち返って確認しましょう。
  • 近似の適用条件を確認: (エ)のような近似計算は、\(\Delta t_0\)が微小であるという条件の下で成り立ちます。なぜその近似が使えるのかを理解しておくことが、誤用を防ぐ上で重要です。
  • 符号の確認: (b)のように音源が遠ざかる場合、\(\cos\theta\)が負になるため、\(V – v \cos\theta\)の計算で符号ミスが起きやすくなります。\(V + v|\cos\theta|\)の形になることを意識しましょう。
  • 結果の吟味: (オ)で求めた式が、近づくとき(\(\cos\theta > 0\))に\(f_1 > f_0\)、遠ざかるとき(\(\cos\theta < 0\))に\(f_1 < f_0\)となるかを確認する習慣は、式の妥当性を検証する上で非常に有効です。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (オ)の一般式: この式は、音源がまっすぐ近づく場合(\(\theta=0\))には\(f_1 = \frac{V}{V-v}f_0\)、まっすぐ遠ざかる場合(\(\theta=180^\circ\))には\(f_1 = \frac{V}{V+v}f_0\)となり、よく知られたドップラー効果の公式と一致します。このことから、式の形が妥当であることがわかります。
    • (キ) \(f_3 = f_0\): 音源が観測者に対して横切るように動く瞬間(\(\theta=90^\circ\))、視線速度はゼロなので、ドップラー効果は生じません。したがって、元の振動数\(f_0\)が観測されるという結果は物理的に正しいです。
    • (カ) \(f_2 > f_0\): Q点を通過する瞬間に聞こえる音は、それより手前(観測者に近づいている途中)で発せられた音なので、元の音より高く聞こえるはずです。計算結果も\(f_2 = \frac{V^2}{V^2-v^2}f_0 > f_0\)となっており、妥当です。
  • 極端な場合や既知の状況との比較:
    • もし音源の速さ\(v\)がゼロなら、(オ)の式は\(f_1 = \frac{V}{V}f_0 = f_0\)となり、ドップラー効果が起きないという自明な結果と一致します。
    • このように、導出した一般式に簡単な条件を代入して、既知の結果と一致するかを確認することは、式の正しさを検証する強力な手段です。

問題88 (帯広畜産大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、コウモリが超音波を使って物体の位置や動きを探る「エコーロケーション」を題材にしています。波の基本的な性質から始まり、波の干渉、そして複雑な状況下でのドップラー効果とうなりまで、波の分野の重要事項が網羅された総合問題です。
この問題の核心は、一見複雑な生物の能力を、「干渉」や「ドップラー効果」といった基本的な物理法則の組み合わせとして分解し、一つ一つ丁寧に解析していく点にあります。

与えられた条件
  • 音速: \(V\)
  • コウモリが発する超音波の振動数: \(f\)
  • 状況1 (問2,3): コウモリは静止、崖までの距離は\(D\)。
  • 状況2 (問4,5): コウモリは静止、崖の前に厚さ\(d\)の昆虫が静止。
  • 状況3 (問6-10): コウモリは速さ\(v\)、昆虫は速さ\(w\)で互いに向かって飛行。
  • その他: 無風、音波の減衰や透過は無視。
問われていること
  • (1) 「超音波」と「回折」の説明。
  • (2) 超音波の周期\(T\)と波長\(\lambda\)。
  • (3) 崖までの距離\(D\)。
  • (4) 反射波が弱まった理由の説明。
  • (5) 昆虫の厚さ\(d\)。
  • (6) 時間\(\Delta t\)内に発した波の回数。
  • (7) 時間\(\Delta t\)内に発した波の列の長さ\(L\)。
  • (8) 飛行中に発した波の波長。
  • (9) 昆虫が受ける超音波の振動数\(f’\)。
  • (10) コウモリが感じるうなりの回数。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「エコーロケーションのしくみ」です。コウモリが超音波を使って物体の位置や動きを探るという、物理現象の応用例を扱っています。波の基本的な性質から始まり、波の干渉、そして複雑な状況下でのドップラー効果とうなりまで、波の分野の重要事項が網羅されています。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 波の基本性質: 周期(\(T\))、振動数(\(f\))、波長(\(\lambda\))、速さ(\(V\))の関係式(\(T=1/f\), \(V=f\lambda\))を正しく理解していることが基本となります。
  2. 波の干渉: 2つの波が重なり合って強め合ったり弱め合ったりする現象です。特にこの問題では、昆虫の体を「薄膜」と見立て、その前後で反射した波の干渉を考えます。
  3. ドップラー効果: 音源と観測者の相対的な運動によって、観測される音の振動数が変化する現象です。音源と観測者の両方が動く場合の公式の適用がポイントです。
  4. うなり: 振動数がわずかに異なる2つの音を同時に聞くと、音が周期的に大きく聞こえたり小さく聞こえたりする現象です。うなりの回数は2つの音の振動数の差で決まります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 前半(1)~(5)は、波の基本公式や、音の反射、干渉といった現象の基本的な理解を問う問題です。特に(5)では、弱め合いの干渉条件を正しく立式することが求められます。
  2. 後半(6)~(10)は、コウモリと昆虫が互いに運動する状況下でのドップラー効果を扱います。
  3. 昆虫による反射音を考える際は、「(1) 昆虫が観測者として音を受け取る」「(2) 昆虫がその振動数で音を発する新たな音源となる」という2段階のプロセスで考えます。
  4. 最後に、コウモリが自身の発する音と昆虫からの反射音を同時に聞くことで生じる「うなり」の回数を計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
下線部①「超音波」と②「回折」という物理用語の意味を説明します。それぞれの物理的な特徴を的確に表現することが求められます。

この設問における重要なポイント

  • 超音波は、人間の可聴域との比較で定義される。
  • 回折は、波に共通の性質であり、波長と障害物の大きさの関係でその度合いが決まる。

具体的な解説と立式
超音波:
人間の耳で聞くことができる音の振動数(可聴域)は、およそ \(20\,\text{Hz}\) から \(20000\,\text{Hz}\) の範囲です。超音波とは、この可聴域の上限を超える、振動数が非常に高い音波のことを指します。

回折:
波が障害物の後ろに回り込んで伝わっていく現象のことです。波は直進するだけでなく、障害物の縁などを通過する際にその背後に回り込む性質を持っています。回折のしやすさは波長に依存し、波長が長いほど顕著に起こります。超音波は波長が短いため、回折しにくく、直進性が高い(指向性が高い)という特徴があります。

計算方法の平易な説明
  • 超音波: 人間には聞こえない、とても高い音のことです。犬笛の音などがこれにあたります。
  • 回折: 音が壁の向こう側にも聞こえたり、光が物体の影の縁でわずかに曲がったりする現象です。波が障害物を回り込む性質のことです。
結論と吟味

物理用語の定義を問う問題です。超音波は「振動数が高いこと」、回折は「波が回り込む現象」であり「波長が短いと起こりにくい」という点を押さえて説明することが重要です。

解答 (1) ① 人間の耳に聞こえる上限の振動数を超える高い音波。 ② 波が障害物の背後に回り込んで伝わる現象。

問(2)

思考の道筋とポイント
周期 \(T\) と振動数 \(f\)、および波長 \(\lambda\) と振動数 \(f\)・音速 \(V\) の関係を、基本的な公式を用いて表します。

この設問における重要なポイント

  • 周期 \(T\) は振動数 \(f\) の逆数である。
  • 波の基本式 \(V=f\lambda\) を用いる。

具体的な解説と立式
周期 \(T\):
振動数 \(f\) は1秒あたりの振動の回数を表し、周期 \(T\) は1回の振動にかかる時間を表します。両者は逆数の関係にあります。
$$ T = \frac{1}{f} $$
波長 \(\lambda\):
波の速さ \(V\)、振動数 \(f\)、波長 \(\lambda\) の間には、波の基本式 \(V=f\lambda\) が成り立ちます。これを \(\lambda\) について解くと、
$$ \lambda = \frac{V}{f} $$

使用した物理公式

  • 周期と振動数の関係: \(T=1/f\)
  • 波の基本式: \(V=f\lambda\)
計算過程

立式そのものが結論となります。

計算方法の平易な説明
  • 周期: 1秒間に \(f\) 回振動するなら、1回の振動にかかる時間は \(1/f\) 秒です。
  • 波長: 音が1秒間に \(V\) メートル進み、その間に \(f\) 個の波があるので、波1つ分の長さは \(V\) を \(f\) で割ることで求まります。
結論と吟味

波の最も基本的な関係式を正しく記述できるかの確認です。

解答 (2) 周期: \(\displaystyle\frac{1}{f}\), 波長: \(\displaystyle\frac{V}{f}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
音がコウモリと崖の間を往復するのにかかった時間から、片道の距離 \(D\) を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 音が進んだ総距離は、往復分の \(2D\) である。
  • 距離 = 速さ \(\times\) 時間 の関係を用いる。

具体的な解説と立式
超音波は、速さ \(V\) でコウモリから崖まで進み、反射して再びコウモリまで戻ってきます。この往復にかかった時間が \(t\) です。
音波が進んだ総距離は \(D+D=2D\) です。したがって、
$$ 2D = V \times t $$

使用した物理公式

  • 距離 = 速さ \(\times\) 時間
計算過程

上の式を \(D\) について解きます。
$$ D = \frac{Vt}{2} $$

計算方法の平易な説明

音が「行って帰ってくる」のに \(t\) 秒かかったので、片道にかかる時間は \(t/2\) 秒です。したがって、コウモリから崖までの距離は、速さ \(V\) で \(t/2\) 秒間進んだ距離になります。

結論と吟味

やまびこの問題と同じ考え方です。結果は物理的に妥当です。

解答 (3) \(\displaystyle\frac{Vt}{2}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
反射波が弱まった原因が、波の干渉であることを説明します。どの波とどの波が干渉したのかを明確にすることが重要です。

この設問における重要なポイント

  • 2つの異なる経路を通った波が干渉する。
  • 経路1: 昆虫の表面で反射した波。
  • 経路2: 昆虫を透過し、崖の表面で反射した波。

具体的な解説と立式
コウモリから発せられた超音波は、崖の前にいる昆虫に到達します。このとき、波の一部は昆虫の表面で反射し、残りは昆虫の体を透過して、その後ろにある崖の表面で反射します。
コウモリには、この「昆虫の表面で反射した波」と「崖の表面で反射した波」という、2つの経路を通った波が戻ってきます。これら2つの波が重なり合う(干渉する)とき、位相が逆であれば互いに打ち消し合い、反射波が弱まることになります。

計算方法の平易な説明

シャボン玉の膜が色づいて見えるのと同じ「薄膜干渉」という現象です。昆虫の体を薄い膜と考えると、膜の「手前の面で反射した光(音)」と「奥の面で反射した光(音)」が干渉します。この2つの波がちょうど打ち消し合う条件になったため、反射波が弱まったと考えられます。

結論と吟味

波の干渉という現象を、問題の状況に即して具体的に説明することが求められます。

解答 (4) 昆虫の表面で反射した波と、崖の表面で反射した波が干渉し、弱め合ったため。

問(5)

思考の道筋とポイント
波の干渉で弱め合いが起こる条件を立式し、そこから昆虫の厚さ \(d\) を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 2つの反射波の経路差は、昆虫の厚さを往復する距離 \(2d\) である。
  • 弱め合いの条件は、経路差が半波長(\(\lambda/2\))の奇数倍になること。
  • 「振動数を下げていくと \(f_0\) で最も弱まった」という条件から、波長が最も長くなる最初の弱め合い条件(奇数=1)を適用する。

具体的な解説と立式
昆虫の表面で反射する波と、崖の表面で反射する波の経路差は、昆虫の体内を往復する距離 \(2d\) になります。
問題文の条件から、反射による位相の変化は両者で同じと考えると、2つの波が弱め合う条件は、経路差が半波長の奇数倍になるときです。
$$ 2d = (2m+1) \frac{\lambda}{2} \quad (m=0, 1, 2, \dots) $$
振動数 \(f\) を下げていくと、波長 \(\lambda = V/f\) は長くなります。振動数が \(f_0\) のときに反射波が「最も弱まった」とあり、それより振動数を低くしても弱まることはなかった、とあるので、これは最も長い波長で起こる最初の弱め合い条件を意味します。
したがって、上の式で \(m=0\) の場合を考えればよいことになります。
$$ 2d = \frac{1}{2}\lambda_0 $$
ここで、\(\lambda_0\) は振動数 \(f_0\) のときの波長なので、\(\lambda_0 = \displaystyle\frac{V}{f_0}\) です。
$$ 2d = \frac{1}{2} \frac{V}{f_0} $$

使用した物理公式

  • 波の干渉条件(弱め合い): 経路差 = \((m+1/2)\lambda\)
計算過程

上の式を \(d\) について解きます。
$$ d = \frac{V}{4f_0} $$

計算方法の平易な説明

2つの反射波が進む道のりの差(\(2d\))が、ちょうど波長の半分(\(\lambda_0/2\))になると、波の山と谷がぴったり重なって打ち消し合います。これが、音が最も弱まる条件です。この関係式を解くことで、昆虫の厚さ \(d\) がわかります。

結論と吟味

薄膜干渉の典型的な問題です。条件の読み取りが重要ですが、立式と計算は基本的です。

解答 (5) \(\displaystyle\frac{V}{4f_0}\)

問(6)

思考の道筋とポイント
振動数 \(f\) の定義(1秒あたりの振動回数)から、時間 \(\Delta t\) 内に発せられる波の総数を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 振動数 \(f\) [Hz] は、1秒間に \(f\) 個の波を出すことを意味する。

具体的な解説と立式
コウモリは1秒間に \(f\) 回の振動、すなわち \(f\) 個の波を発します。
したがって、時間 \(\Delta t\) [s] の間に発する波の総数は、
$$ \text{波の回数} = f \times \Delta t = f\Delta t $$

計算過程

立式そのものが結論となります。

計算方法の平易な説明

1秒間に \(f\) 個のボールを投げる機械が \(\Delta t\) 秒間動いたら、投げるボールの総数は \(f \times \Delta t\) 個になります。これと全く同じ考え方です。

結論と吟味

振動数の定義に関する基本的な問題です。

解答 (6) \(f\Delta t\)

問(7)

思考の道筋とポイント
コウモリが動きながら超音波を発するため、空間に存在する波の列(波連)の長さがどうなるかを考えます。

この設問における重要なポイント

  • 波列の先頭は、音速 \(V\) で進む。
  • 波列の末尾は、動きながら発射されるため、コウモリの位置に依存する。
  • 波列の長さ \(L\) は、先頭の位置と末尾の位置の差で求められる。

具体的な解説と立式
時間 \(\Delta t\) の間に、最初に発射された波(波列の先頭)は、距離 \(V\Delta t\) だけ進みます。
一方、コウモリ自身も同じ方向に速さ \(v\) で進んでいるので、\(\Delta t\) 後には距離 \(v\Delta t\) の位置にいます。最後に発射された波(波列の末尾)は、この位置から発射されます。
したがって、時間 \(\Delta t\) の間に発射されたすべての波が含まれる空間的な長さ \(L\) は、先頭の位置と末尾の位置の差で与えられます。
$$ L = V\Delta t – v\Delta t = (V-v)\Delta t $$

計算過程

立式そのものが結論となります。

計算方法の平易な説明

コウモリが音を出し終えるまでの \(\Delta t\) 秒間に、最初の音は \(V\Delta t\) 進みます。しかし、最後の音は、コウモリが \(v\Delta t\) 進んだ場所から発射されます。そのため、音の列全体の長さは、音が普通に進む長さから、コウモリが進んだ分だけ短くなります。

結論と吟味

これはドップラー効果によって波長が圧縮される様子を、波列全体の長さという観点から見たものです。

解答 (7) \((V-v)\Delta t\)

問(8)

思考の道筋とポイント
波長とは、波1つあたりの長さです。波列全体の長さ \(L\) を、その中に含まれる波の総数で割ることで求められます。

この設問における重要なポイント

  • 問(6)で求めた波の総数と、問(7)で求めた波列の長さ \(L\) を用いる。

具体的な解説と立式
問(7)で求めた長さ \(L\) の空間に、問(6)で求めた \(f\Delta t\) 個の波が含まれています。
したがって、空気中での超音波の波長 \(\lambda’\) は、
$$ \lambda’ = \frac{\text{波列の全長}}{\text{波の総数}} = \frac{L}{f\Delta t} $$

使用した物理公式

  • 波長の定義
計算過程

\(L = (V-v)\Delta t\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\lambda’ &= \frac{(V-v)\Delta t}{f\Delta t} \\[2.0ex]&= \frac{V-v}{f}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

長さ \(L\) の列に \(N\) 個の波が並んでいるとき、波1つ分の長さ(波長)は \(L/N\) です。今回は \(L=(V-v)\Delta t\)、\(N=f\Delta t\) なので、これを代入して計算します。

結論と吟味

この結果は、ドップラー効果の公式から導かれる波長 \(\lambda’ = (V-v)T = (V-v)/f\) と一致しており、妥当です。

解答 (8) \(\displaystyle\frac{V-v}{f}\)

問(9)

思考の道筋とポイント
ドップラー効果の公式を適用します。音源であるコウモリと、観測者である昆虫が、互いに向かって運動している状況です。

この設問における重要なポイント

  • 音源: コウモリ(速さ \(v\))
  • 観測者: 昆虫(速さ \(w\))
  • 互いに近づく運動であるため、観測される振動数は高くなる。

具体的な解説と立式
ドップラー効果の公式 \(f_{\text{観測者}} = \displaystyle\frac{V-v_{\text{観測者}}}{V-v_{\text{音源}}}f_{\text{音源}}\) を用います。
音の進行方向(コウモリから昆虫へ向かう向き)を正とします。

  • 音源(コウモリ)の速度: \(v_{\text{音源}} = +v\)
  • 観測者(昆虫)の速度: \(v_{\text{観測者}} = -w\) (音の進行方向と逆向きに動いているため)

昆虫が受ける超音波の振動数を \(f’\) とすると、
$$ f’ = \frac{V-(-w)}{V-v}f $$

使用した物理公式

  • ドップラー効果の公式
計算過程

$$ f’ = \frac{V+w}{V-v}f $$

計算方法の平易な説明

コウモリが近づいてくる効果(分母が \(V-v\))と、昆虫が音に向かっていく効果(分子が \(V+w\))の両方によって、昆虫が聞く音は元の音よりも高くなります。

結論と吟味

音源と観測者が共に動く場合のドップラー効果の典型的な問題です。速度の符号を正しく設定することが重要です。

解答 (9) \(\displaystyle\frac{V+w}{V-v}f\)

問(10)

思考の道筋とポイント
昆虫で反射した音をコウモリが聞く、という2段階目のドップラー効果を考え、うなりの回数を計算します。

この設問における重要なポイント

  • ステップ2: 昆虫が新たな音源、コウモリが観測者となる。
  • 昆虫は、振動数 \(f’\)(問9の結果)の音を発しながら、速さ \(w\) でコウモリに向かってくる。
  • コウモリは、速さ \(v\) で昆虫に向かいながら、この反射音を聞く。
  • うなりは、コウモリが聞く反射音 \(f”\) と、自身が発している原音 \(f\) との差で生じる。

具体的な解説と立式
ステップ2: 反射音をコウモリが聞く
昆虫を振動数 \(f’\) の音源、コウモリを観測者として、再びドップラー効果の公式を適用します。
音の進行方向(昆虫からコウモリへ向かう向き)を正とします。

  • 音源(昆虫)の速度: \(v_{\text{音源}} = +w\)
  • 観測者(コウモリ)の速度: \(v_{\text{観測者}} = -v\)

コウモリが聞く反射音の振動数を \(f”\) とすると、
$$ f” = \frac{V-(-v)}{V-w}f’ $$
うなりの回数の計算
コウモリが感じるうなりの回数 \(N\) は、自身が発している音の振動数 \(f\) と、聞いている反射音の振動数 \(f”\) の差の絶対値です。
$$ N = |f” – f| $$

使用した物理公式

  • ドップラー効果の公式
  • うなりの公式: \(N = |f_1 – f_2|\)
計算過程

まず \(f”\) を、元の振動数 \(f\) を用いて表します。問(9)の結果 \(f’ = \displaystyle\frac{V+w}{V-v}f\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
f” &= \frac{V+v}{V-w}f’ \\[2.0ex]&= \frac{V+v}{V-w} \left( \frac{V+w}{V-v}f \right) \\[2.0ex]&= \frac{(V+v)(V+w)}{(V-w)(V-v)}f
\end{aligned}
$$
次に、うなりの回数 \(N\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
N &= |f” – f| \\[2.0ex]&= \left| \frac{(V+v)(V+w)}{(V-w)(V-v)}f – f \right| \\[2.0ex]&= \left| \frac{(V+v)(V+w) – (V-w)(V-v)}{(V-w)(V-v)} \right| f \\[2.0ex]&= \left| \frac{(V^2+Vw+Vv+vw) – (V^2-Vv-Vw+vw)}{(V-w)(V-v)} \right| f \\[2.0ex]&= \left| \frac{2Vv + 2Vw}{(V-w)(V-v)} \right| f
\end{aligned}
$$
\(V>v\), \(V>w\) なので分母は正であり、分子も正なので絶対値はそのまま外せます。
$$ N = \frac{2V(v+w)}{(V-w)(V-v)}f $$

計算方法の平易な説明

まず、昆虫が聞く音は高くなります(第1ドップラー効果)。次に、昆虫はその高くなった音を、コウモリに向かって発射します。このときも互いに近づいているので、コウモリが聞く音はさらに高くなります(第2ドップラー効果)。コウモリは、この「ものすごく高くなった反射音」と「自分が出している普通の高さの音」を同時に聞くため、その振動数の差が「うなり」として感じられます。

結論と吟味

計算は複雑ですが、ドップラー効果の2段階適用とうなりの計算という、基本原理の組み合わせです。計算過程での符号ミスや展開ミスに注意が必要です。

解答 (10) \(\displaystyle\frac{2V(v+w)}{(V-w)(V-v)}f\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 波の基本法則(\(V=f\lambda\), \(T=1/f\)):
    • 核心: 波を語る上での最も基本的な関係式です。音速(\(V\))、振動数(\(f\))、波長(\(\lambda\))、周期(\(T\))という4つの物理量を自在に行き来できることが、波の問題を解く上での大前提となります。
    • 理解のポイント: (2)のように直接問われるだけでなく、(5)の干渉条件で波長\(\lambda\)を振動数\(f\)で表す場面や、(8)で波長を求める場面など、問題の随所で活用されます。
  • 波の干渉(薄膜干渉):
    • 核心: 複数の波が重なり合うことで、特定の場所で強め合ったり弱め合ったりする現象です。この問題では、昆虫の体を「薄膜」と見立て、その表面と裏面(崖)で反射した2つの波の干渉を考えます。
    • 理解のポイント: 弱め合いの条件は「経路差が半波長の奇数倍」(\(\text{経路差} = (m+1/2)\lambda\))となることです。(5)では、振動数を下げていって最初に弱め合う条件なので、最も長い波長で条件を満たす \(m=0\) の場合、すなわち「経路差 = 半波長」を適用します。
  • ドップラー効果(反射体の扱い):
    • 核心: 音源と観測者の相対運動による振動数変化です。この問題のキモは、動く反射体(昆虫)を「(1)まず観測者として音を聞き、(2)次にその聞いた音を発する新たな音源となる」という2段階のプロセスで扱う点です。
    • 理解のポイント: (9)がステップ1(コウモリ→昆虫)、(10)の前半がステップ2(昆虫→コウモリ)に相当します。それぞれのステップで、誰が音源で誰が観測者なのか、速度の向きはどうなっているかを正確に設定し、ドップラー効果の公式を適用することが重要です。
  • うなり:
    • 核心: 振動数がわずかに異なる2つの音を同時に聞くと、音の強弱が周期的に繰り返される現象です。単位時間あたりのうなりの回数は、2つの音の振動数の差の絶対値 \(N = |f_1 – f_2|\) で与えられます。
    • 理解のポイント: (10)では、コウモリが「自身が発した原音(\(f\))」と「昆虫から返ってきた反射音(\(f”\))」を同時に聞くことでうなりを感じます。したがって、\(N = |f” – f|\) を計算することになります。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 薄膜干渉: シャボン玉の色づき、水面に浮いた油膜、レンズの反射防止膜(コーティング)など、厚さの無視できない膜の両面で反射した光(波)が干渉する問題は、(4)(5)と全く同じ考え方で解けます。
    • 動く反射体とのドップラー効果: スピードガン(走行中の車に電波を当てて速さを測る装置)の原理や、血流測定(超音波を血液中の赤血球に当てて血流速を測る)など、動く物体で反射した波の振動数変化を扱う問題は、(9)(10)の2段階ドップラー効果の考え方がそのまま応用できます。
    • 波連の長さと波長: (7)(8)のように、動きながら有限時間だけ波を出す状況設定は、パルス波の解析などで見られます。波全体の長さと、その中に含まれる波の数の関係から波長を求めるアプローチは、ドップラー効果をより本質的に理解する上で重要です。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 現象の分解: 問題文が複雑な場合、現象を単純な物理法則の組み合わせに分解します。「干渉」「ドップラー効果」「うなり」など、どの現象がどの部分に対応するのかをまず見極めます。
    2. 波の経路を図示: 干渉や反射が関わる問題では、波がどの経路をたどるのかを線で描いてみることが有効です。経路差がどこで生じるのかが視覚的に明らかになります。
    3. ドップラー効果の役割分担: ドップラー効果の問題では、常に「今の音源は誰か?」「今の観測者は誰か?」を自問自答します。反射が絡む場合は、役割が途中で入れ替わることを意識します。
    4. 条件の読み替え: 「反射波が最も弱まった」「振動数を下げると弱まることはなかった」といった日本語の条件を、「経路差が半波長に等しい(\(m=0\)の弱め合い条件)」といった数式的な条件に正確に翻訳する能力が問われます。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 干渉条件の混同:
    • 誤解: 強め合いと弱め合いの条件(経路差が波長の整数倍か、半波長の奇数倍か)を混同する。また、反射による位相変化(固定端反射か自由端反射か)を見落とす。
    • 対策: 「山と山が重なれば強め合い、山と谷が重なれば弱め合い」という基本イメージを常に持つこと。経路差が\(\lambda\)なら位相は同じ、\(\lambda/2\)なら位相は逆、と覚えましょう。この問題では反射の位相変化は無視できる設定ですが、一般的には注意が必要です。
  • ドップラー効果の速度の符号ミス:
    • 誤解: (9)や(10)で、音源や観測者の速度の符号を間違える。特に互いに近づく運動で混乱しやすい。
    • 対策: 常に「音の進行方向」を正の向きとして定め、それに対して各物体の速度ベクトルが正か負かを判断する、という手順を機械的に守ることが最も確実です。
  • うなりの計算対象の誤り:
    • 誤解: (10)で、昆虫が聞く音(\(f’\))とコウモリが聞く反射音(\(f”\))の差でうなりを計算してしまう。
    • 対策: うなりは「一人の観測者が同時に聞く2つの音」によって生じます。この問題では、観測者であるコウモリが聞く「原音(\(f\))」と「反射音(\(f”\))」の2つが対象です。誰が何と何を聞いているのかを正確に把握しましょう。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 干渉の経路図: (4)(5)では、図2に昆虫の表面で反射する波の経路と、崖で反射する波の経路を2本の異なる線で描き加え、その経路差が\(2d\)であることを明記すると理解が深まります。
    • ドップラー効果の役割交代図: (9)と(10)の状況を、それぞれ別の図として描くことが有効です。
      • 図1((9)用): 「音源:コウモリ(\(v\)) \(\rightarrow\) 観測者:昆虫(\(w\))」と役割を書き込む。
      • 図2((10)用): 「音源:昆虫(\(w\)) \(\rightarrow\) 観測者:コウモリ(\(v\))」と役割を書き込む。

      これにより、各ステップで適用すべき公式のパラメータが明確になります。

    • 波連の図: (7)では、図bのように、時間\(\Delta t\)後の波の先頭(\(V\Delta t\))と、コウモリの位置(\(v\Delta t\))を描き、その差が波連の長さ\(L\)になることを視覚的に捉えることが重要です。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 干渉条件式:
    • 選定理由: (4)で「反射波が弱まった」という記述があるため。これは波の干渉現象を示唆しています。
    • 適用根拠: 複数の波の重ね合わせの原理に基づきます。経路差によって生じる位相差が、波の足し算の結果を強め合い、または弱め合いに導きます。
  • ドップラー効果の公式:
    • 選定理由: (9)(10)で、音源(コウモリ)と観測者(昆虫)が互いに運動しており、観測される振動数が変化する状況だからです。
    • 適用根拠: 音源や観測者の運動により、単位時間あたりに観測者が受け取る波の数が変化するという物理原理に基づいています。
  • うなりの公式:
    • 選定理由: (10)で「うなりを感じた」と明記されているため。
    • 適用根拠: 振動数が近い2つの波を重ね合わせると、合成波の振幅が周期的に変化するという数学的な性質(三角関数の和積公式など)に基づいています。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1-5) 波の基本と干渉:
    • 戦略: 波の基本公式と、薄膜干渉の弱め合い条件を適用する。
    • フロー: (2) \(T=1/f, \lambda=V/f\) → (3) \(2D=Vt\) → (4) 2つの反射波の干渉と説明 → (5) 弱め合い条件 \(2d = \lambda_0/2\) から \(d\) を求める。
  2. (6-8) 動きながら発する波:
    • 戦略: 波の定義と、音源の運動を考慮して、波長を求める。
    • フロー: (6) 波の数 \(N=f\Delta t\) → (7) 波連の長さ \(L=(V-v)\Delta t\) → (8) 波長 \(\lambda’ = L/N\)。
  3. (9) ドップラー効果(ステップ1):
    • 戦略: コウモリを音源、昆虫を観測者としてドップラー効果の公式を適用。
    • フロー: \(f’ = \frac{V-(-w)}{V-v}f\)。
  4. (10) ドップラー効果(ステップ2)とうなり:
    • 戦略: ①昆虫を音源、コウモリを観測者としてドップラー効果の公式を適用し、反射音の振動数\(f”\)を求める。②原音\(f\)との差からうなりの回数を計算する。
    • フロー: \(f” = \frac{V-(-v)}{V-w}f’\) に(9)の結果を代入 → \(N = |f”-f|\) を計算。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 分数の整理: (10)の計算は、分数が入れ子になり複雑です。焦らずに、まず\(f”\)を\(f\)で表す式をきれいに整理してから、うなりの計算に進むなど、段階的に計算を進めましょう。
  • 展開と因数分解: (10)の最後の計算では、分子の展開を丁寧に行い、同類項をまとめる必要があります。\( (a+b)(c+d) = ac+ad+bc+bd \) のような基本的な展開公式をミスなく適用することが重要です。最終的に \(2V(v+w)\) のようにきれいにまとまることを信じて計算を進めましょう。
  • 文字の区別: \(v\)(コウモリの速さ)と\(w\)(昆虫の速さ)を混同しないように注意しましょう。計算の各段階で、どの文字が何を表しているかを確認する癖をつけると良いです。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (9) \(f’ = \frac{V+w}{V-v}f\): 分子は\(V\)より大きく、分母は\(V\)より小さいので、\(f’ > f\)となります。互いに近づいているので音が高くなるという結果は妥当です。
    • (10) \(f” = \frac{(V+v)(V+w)}{(V-w)(V-v)}f\): (9)と同様の理由で、\(f”>f’>f\)となります。ドップラー効果が2回かかり、さらに音が高くなるという結果は妥当です。
    • うなりの回数 \(N\): もしコウモリと昆虫が静止していれば(\(v=0, w=0\))、\(N=0\)となり、うなりは生じません。これは自明な結果と一致しており、式の形がもっともらしいことを示唆しています。

問題89 (法政大改)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は「光の屈折と全反射」、特にその応用である「光ファイバーの原理」です。空気中から光ファイバーに入射した光が、内部で全反射を繰り返しながら、いかにして情報を遠くまで伝えるかを物理法則に基づいて解き明かしていきます。
この問題の核心は、屈折の法則と全反射という2つの基本法則を、光ファイバーという具体的な状況に正しく適用し、幾何学的な考察と組み合わせて解析する点にあります。

与えられた条件
  • 光ファイバー: 2重円柱構造
  • 中心部(媒質1): 屈折率 \(n_1\)
  • 周辺部(媒質2): 屈折率 \(n_2\)
  • 外部: 空気 (屈折率 1)
  • 光線: 左端面から入射角\(\theta\)で入射し、媒質1と2の境界で全反射を繰り返す。
  • その他: 光ファイバーの全長\(L\)、真空中の光速\(c\)、光損失は無視。
問われていること
  • (1) \(\cos\alpha\) を \(n_1, \theta\) で表す式。
  • (2) 全反射を繰り返すための \(\sin\theta\) の条件。
  • (3) すべての入射角\(\theta\)で全反射するための \(n_1, n_2\) の条件。
  • (4) 光がファイバーを通過する時間 \(t\)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「光の屈折と全反射」、特にその応用である「光ファイバーの原理」です。空気中から光ファイバーに入射した光が、内部で全反射を繰り返しながら、いかにして情報を遠くまで伝えるかを物理法則に基づいて解き明かしていきます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 屈折の法則(スネルの法則): 光が異なる媒質の境界面を通過する際に進行方向を変える現象です。法則の式 \(n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2\) を、各境界面で正しく適用することが基本となります。
  2. 全反射: 屈折率が大きい媒質から小さい媒質へ光が進むとき、入射角がある一定の角度(臨界角)を超えると、光が屈折せずにすべて反射される現象です。光ファイバーが光を閉じ込めるための中心的な原理です。
  3. 光路の幾何学: 光が進む経路を幾何学的に捉え、三角関数を用いて角度や長さを正確に計算する能力が求められます。特に、入射角や屈折角の関係を図から正しく読み取ることが重要です。
  4. 媒質中の光速: 真空中での光速を \(c\)、媒質の屈折率を \(n\) とすると、その媒質中での光の速さは \(v = c/n\) となります。移動時間を計算する際に必要となります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、光が入射する左端面(空気と媒質1の境界)で屈折の法則を立て、外部の入射角 \(\theta\) と内部の進行角 \(\alpha\) の関係を導きます(問1)。
  2. 次に、媒質1と媒質2の境界で全反射が起こるための条件を、臨界角の考え方を用いて立式し、入射角 \(\theta\) が満たすべき条件を求めます(問2)。
  3. すべての入射角で全反射が起こるための、光ファイバーの素材(屈折率 \(n_1, n_2\))が満たすべき条件を考察します(問3)。
  4. 最後に、光がファイバー内を実際に進む経路長と、媒質中での光の速さから、端から端まで到達するのに要する時間を計算します(問4)。

問(1)

思考の道筋とポイント
光が空気中から光ファイバーの媒質1に入射する、左側の端面での屈折現象に着目します。屈折の法則(スネルの法則)を適用して、入射角 \(\theta\) と、媒質1内での光の進行方向が中心軸となす角 \(\alpha\) の関係を導きます。

この設問における重要なポイント

  • 屈折の法則: \(n_{\text{空気}} \sin\theta = n_1 \sin(\text{屈折角})\)。
  • 図から、屈折角が \(90^\circ – \alpha\) であることを正確に読み取る。
  • 空気の屈折率は1とする。

具体的な解説と立式
左側の端面において、空気(屈折率 \(n_{\text{空気}}=1\))から媒質1(屈折率 \(n_1\))へ光が入射します。

  • 入射角: \(\theta\)
  • 屈折角: 図より、屈折した光線と法線(端面に垂直な線、すなわち中心軸)とのなす角は \(90^\circ – \alpha\) となる。

屈折の法則より、
$$ 1 \cdot \sin\theta = n_1 \sin(90^\circ – \alpha) \quad \cdots ① $$
ここで、三角関数の公式 \(\sin(90^\circ – \alpha) = \cos\alpha\) を用いると、式①は
$$ \sin\theta = n_1 \cos\alpha $$
となります。

使用した物理公式

  • 屈折の法則(スネルの法則): \(n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2\)
  • 三角関数の関係式: \(\sin(90^\circ – x) = \cos x\)
計算過程

上の式を \(\cos\alpha\) について解きます。
$$ \cos\alpha = \frac{\sin\theta}{n_1} $$

計算方法の平易な説明

光が空気から光ファイバーに入るとき、少し折れ曲がります。この折れ曲がり方のルール(屈折の法則)を数式で表します。図をよく見て、入射するときの角度と、折れ曲がった後の角度を正しく式に入れることがポイントです。

結論と吟味

\(\cos\alpha = \displaystyle\frac{\sin\theta}{n_1}\) となります。入射角 \(\theta\) が大きくなると \(\cos\alpha\) も大きくなり、\(\alpha\) は小さくなります。これは、光がよりファイバーの中心軸に近い角度で入射することを意味し、直感的にも妥当です。

解答 (1) \(\displaystyle\frac{\sin\theta}{n_1}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
光が媒質1と媒質2の境界(AB)で全反射を繰り返すための条件を考えます。全反射が起こるためには、境界への入射角 \(\alpha\) が、臨界角 \(\alpha_0\) よりも大きくなければなりません。

この設問における重要なポイント

  • 全反射の条件: 入射角 > 臨界角 (\(\alpha > \alpha_0\))。
  • 臨界角 \(\alpha_0\) は、屈折角が \(90^\circ\) になるときの入射角であり、屈折の法則から求められる。
  • 問(1)で求めた \(\cos\alpha\) と \(\sin\theta\) の関係を利用する。

具体的な解説と立式
媒質1(屈折率 \(n_1\))から媒質2(屈折率 \(n_2\))へ光が進むとき、全反射が起こるためには \(n_1 > n_2\) である必要があります。
この境界での臨界角を \(\alpha_0\) とすると、屈折の法則から
$$ n_1 \sin\alpha_0 = n_2 \sin90^\circ $$
$$ n_1 \sin\alpha_0 = n_2 $$
よって、臨界角のサインは \(\sin\alpha_0 = \displaystyle\frac{n_2}{n_1}\) となります。

光線が全反射するためには、入射角 \(\alpha\) がこの臨界角 \(\alpha_0\) より大きい必要があります。
$$ \alpha > \alpha_0 $$
角度 \(\alpha\) と \(\alpha_0\) はともに鋭角なので、この条件はサインをとっても大小関係が変わりません。
$$ \sin\alpha > \sin\alpha_0 $$
したがって、全反射の条件は
$$ \sin\alpha > \frac{n_2}{n_1} \quad \cdots ② $$
ここで、\(\sin^2\alpha + \cos^2\alpha = 1\) の関係と、問(1)で求めた \(\cos\alpha = \displaystyle\frac{\sin\theta}{n_1}\) を用いて、\(\sin\alpha\) を \(\theta\) で表します。
$$
\begin{aligned}
\sin\alpha &= \sqrt{1-\cos^2\alpha} \\[2.0ex]&= \sqrt{1 – \left(\frac{\sin\theta}{n_1}\right)^2} \\[2.0ex]&= \frac{\sqrt{n_1^2 – \sin^2\theta}}{n_1}
\end{aligned}
$$
これを条件式②に代入します。
$$ \frac{\sqrt{n_1^2 – \sin^2\theta}}{n_1} > \frac{n_2}{n_1} $$

使用した物理公式

  • 全反射の条件: 入射角 > 臨界角
  • 屈折の法則(臨界角の導出)
  • 三角関数の関係式: \(\sin^2x + \cos^2x = 1\)
計算過程

上の不等式の両辺に \(n_1\) を掛け(\(n_1>0\))、両辺を2乗します。
$$
\begin{aligned}
\sqrt{n_1^2 – \sin^2\theta} &> n_2 \\[2.0ex]n_1^2 – \sin^2\theta &> n_2^2 \\[2.0ex]\sin^2\theta &< n_1^2 – n_2^2
\end{aligned}
$$
\(\theta\) は入射角なので \(0^\circ < \theta < 90^\circ\) であり、\(\sin\theta > 0\) です。したがって、
$$ 0 < \sin\theta < \sqrt{n_1^2 – n_2^2} $$

計算方法の平易な説明

光がファイバー内部で漏れ出さずに進むためには、「全反射」という現象が起きる必要があります。全反射が起きるギリギリの角度(臨界角)をまず計算し、実際の光の角度がそれよりも常に大きくなる(浅い角度で当たる)ための条件を、最初の入射角 \(\theta\) の条件に変換していきます。

結論と吟味

全反射を繰り返すための条件は \(0 < \sin\theta < \sqrt{n_1^2 – n_2^2}\) となります。これは、入射角 \(\theta\) が大きすぎると、内部での入射角 \(\alpha\) が小さくなりすぎて全反射できなくなることを示しています。

解答 (2) \(0 < \sin\theta < \sqrt{n_1^2 – n_2^2}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
問(2)で求めた条件が、光ファイバーに入射しうるすべての入射角 \(\theta\)(\(0^\circ < \theta < 90^\circ\))に対して成り立つための条件を考えます。

この設問における重要なポイント

  • 入射角の範囲: \(0^\circ < \theta < 90^\circ\) は、\(\sin\theta\) の範囲でいうと \(0 < \sin\theta < 1\) に対応する。
  • この \(\sin\theta\) の範囲全体が、問(2)で求めた条件の範囲にすっぽり収まるための条件を求める。

具体的な解説と立式
問(2)より、全反射が起こる条件は
$$ 0 < \sin\theta < \sqrt{n_1^2 – n_2^2} $$
一方、問題文の条件は「\(0^\circ < \theta < 90^\circ\) のすべての入射角 \(\theta\) に対して」全反射が起こることです。この \(\theta\) の範囲は、\(\sin\theta\) の値でいうと
$$ 0 < \sin\theta < 1 $$
の範囲に対応します。
この \(\sin\theta\) の取りうる値の範囲 `(0, 1)` が、全反射条件を満たす範囲 `(0, \sqrt{n_1^2 – n_2^2})` に完全に含まれていればよいわけです。
そのためには、条件範囲の上限について、
$$ 1 \le \sqrt{n_1^2 – n_2^2} $$
が成り立っている必要があります。

使用した物理公式

  • 不等式の包含関係
計算過程

上の不等式の両辺は正なので、2乗しても大小関係は変わりません。
$$ 1^2 \le n_1^2 – n_2^2 $$
$$ 1 \le n_1^2 – n_2^2 $$

計算方法の平易な説明

「どんな角度で光を入れても、必ず全反射してほしい」という要望を叶えるための、光ファイバーの材質(屈折率 \(n_1, n_2\))の条件を求めます。問(2)で求めた「全反射できる入射角の範囲」が、考えられるすべての入射角をカバーできるほど広ければ良い、という考え方です。

結論と吟味

求める条件は \(n_1^2 – n_2^2 \ge 1\) です。これは、中心部(コア)の屈折率 \(n_1\) と周辺部(クラッド)の屈折率 \(n_2\) の差が大きいほど、より広い角度からの光を閉じ込めることができる(開口数が大きい)ことを示しており、光ファイバーの性能に関わる重要な指標です。

解答 (3) \(n_1^2 – n_2^2 \ge 1\)

問(4)

思考の道筋とポイント
光がファイバーの左端から右端まで、全長 \(L\) を進むのに要する時間を求めます。光はまっすぐ進むのではなく、ジグザグの経路をたどるため、実際の経路長を考えるか、軸方向の速度成分を考える必要があります。

この設問における重要なポイント

  • 光は媒質1の中を速さ \(v_1 = c/n_1\) で進む。
  • 光が実際に進む経路の長さ \(L_{\text{経路}}\) は、ファイバーの全長 \(L\) より長い。
  • 時間 = 距離 / 速さ

具体的な解説と立式
2つの考え方があります。

考え方1:実際の経路長から計算
光がファイバー内を進む実際の経路長を \(L_{\text{経路}}\) とします。図の直角三角形を考えると、ファイバーの全長 \(L\) との関係は
$$ \sin\alpha = \frac{L}{L_{\text{経路}}} $$
よって、\(L_{\text{経路}} = \displaystyle\frac{L}{\sin\alpha}\) となります。
媒質1の中での光の速さは \(v_1 = \displaystyle\frac{c}{n_1}\) です。
したがって、到達に要する時間 \(t\) は、
$$
\begin{aligned}
t &= \frac{L_{\text{経路}}}{v_1} \\[2.0ex]&= \frac{L/\sin\alpha}{c/n_1} \\[2.0ex]&= \frac{n_1 L}{c \sin\alpha}
\end{aligned}
$$

考え方2:軸方向の速度成分から計算
光の速さ \(v_1\) の、ファイバーの軸方向(長さ \(L\) の方向)の成分を \(v_{1, \text{平行}}\) とします。
$$ v_{1, \text{平行}} = v_1 \sin\alpha $$
全長 \(L\) をこの速度成分で進むと考えると、時間は
$$
\begin{aligned}
t &= \frac{L}{v_{1, \text{平行}}} \\[2.0ex]&= \frac{L}{v_1 \sin\alpha} \\[2.0ex]&= \frac{L}{(c/n_1)\sin\alpha} \\[2.0ex]&= \frac{n_1 L}{c \sin\alpha}
\end{aligned}
$$
どちらの考え方でも同じ結果になります。

\(\sin\alpha\) を \(\theta\) で表す
問(2)の導出過程で求めたように、\(\sin\alpha = \displaystyle\frac{\sqrt{n_1^2 – \sin^2\theta}}{n_1}\) です。これを代入します。

使用した物理公式

  • 媒質中の光速: \(v=c/n\)
  • 三角比
計算過程

$$
\begin{aligned}
t &= \frac{n_1 L}{c \sin\alpha} \\[2.0ex]&= \frac{n_1 L}{c \cdot \displaystyle\frac{\sqrt{n_1^2 – \sin^2\theta}}{n_1}} \\[2.0ex]&= \frac{n_1^2 L}{c \sqrt{n_1^2 – \sin^2\theta}}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

光はまっすぐ進むより遠回り(ジグザグ)して進むので、時間がかかります。その遠回り具合は角度 \(\alpha\) で決まります。光が進む本当の道のり(斜めの長さ)を計算し、それをファイバー内での光の速さで割ることで、ゴールまでの時間を求めます。

結論と吟味

時間は \(t = \displaystyle\frac{n_1^2 L}{c \sqrt{n_1^2 – \sin^2\theta}}\) となります。入射角 \(\theta\) が大きいほど、\(\sin\theta\) が大きくなり、分母のルートの中が小さくなるため、時間は長くなります。これは、\(\theta\) が大きいと光がよりジグザグに進み、多くの距離を移動する必要があるためで、物理的に妥当な結果です。(注:一部の教材や問題集の解答では、計算過程の誤りにより \(n_1\) が1つ少ない \(t = \frac{n_1 L}{c \sqrt{n_1^2 – \sin^2\theta}}\) となっている場合がありますが、本解説の導出が物理的に正確です。)

解答 (4) \(\displaystyle\frac{n_1^2 L}{c\sqrt{n_1^2-\sin^2\theta}}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 屈折の法則(スネルの法則):
    • 核心: 光が異なる屈折率を持つ媒質の境界面を通過する際に、その進行方向が変わるという現象を記述する法則です。式 \(n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2\) は、この問題全体を貫く最も基本的なツールです。
    • 理解のポイント: この法則を適用する際は、①どの境界面(空気/媒質1 or 媒質1/媒質2)について考えているか、②それぞれの媒質の屈折率は何か、③入射角と屈折角は図のどの角度に対応するか、を常に明確にすることが重要です。
  • 全反射と臨界角:
    • 核心: 屈折率が大きい媒質から小さい媒質へ光が進む際、入射角がある特定の角度(臨界角)を超えると、光は屈折せずに100%反射されます。これが光ファイバーが光を内部に閉じ込めることができる原理です。
    • 理解のポイント: 全反射が起こるための条件は「入射角 > 臨界角」です。臨界角 \(\alpha_0\) は、屈折角が \(90^\circ\) になるという極限状態を屈折の法則に適用することで(\(n_1 \sin\alpha_0 = n_2 \sin90^\circ\))、\(\sin\alpha_0 = n_2/n_1\) として求められます。
  • 媒質中の光速:
    • 核心: 光の速さは真空中では一定(\(c\))ですが、媒質中では遅くなります。その速さ \(v\) は、媒質の屈折率 \(n\) を用いて \(v = c/n\) と表されます。
    • 理解のポイント: (4)で光がファイバー内を進む時間を計算する際に、真空中の光速 \(c\) ではなく、媒質1の中での光速 \(v_1 = c/n_1\) を使わなければならない点を理解することが重要です。屈折率が大きいほど光は遅くなります。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 水中からの光: プールや水槽の底から水面を見上げたときに、水面が鏡のように見える現象(全反射)や、水中の物体が実際より浅く見える現象(屈折)を扱う問題。
    • プリズムによる光の分散: 白色光をプリズムに入射させると、虹のように色が分かれる現象。これは、光の色(波長)によってガラスの屈折率がわずかに異なるために起こります。
    • レンズの公式の導出: レンズが光を集めたり広げたりする原理も、レンズの両面での屈折の法則を幾何学的に適用することで説明できます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 光の経路を追う: まず、光がどの媒質からどの媒質へ、どの境界面で何(屈折 or 全反射)が起こるのか、その経路を一本の線として丁寧に追いかけます。
    2. 境界面ごとに法則を適用: 光の経路が折れ曲がる全ての境界面で、屈折の法則を適用することを考えます。その際、入射角と屈折角を法線(境界面に垂直な線)からの角度として正しく設定します。
    3. 角度の幾何学的関係を見抜く: 図の中に描かれた角度(この問題では \(\theta\) と \(\alpha\))の関係を、錯角や同位角、直角三角形の性質など、幾何学の知識を駆使して見つけ出すことが重要です。特に、屈折の法則で使う角度と、問題で与えられた角度が異なる場合は注意が必要です。
    4. 条件の数式化: 「全反射する」「すべての入射角で」といった日本語の条件を、不等式や変数の範囲といった数学的な表現に正確に翻訳する能力が求められます。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 入射角・屈折角の定義ミス:
    • 誤解: 境界面そのものとなす角を、入射角や屈折角としてしまう。
    • 対策: 入射角・屈折角は、常に「境界面に立てた法線」と光線がなす角である、という定義を徹底しましょう。図に法線を書き込む習慣をつけることが有効です。
  • 全反射の条件の誤解:
    • 誤解: 屈折率が小さい媒質から大きい媒質へ進むときにも全反射が起こると考えてしまう。または、条件を「入射角 < 臨界角」と取り違える。
    • 対策: 全反射は「大 \(\rightarrow\) 小」のときしか起こらない、と覚えましょう。また、臨界角は「これ以上角度が大きくなると屈折できなくなる」限界の角度なので、全反射の条件は「入射角 > 臨界角」となります。
  • 時間の計算における速度の選択ミス:
    • 誤解: (4)で時間を計算する際に、真空中の光速 \(c\) を使ってしまう。
    • 対策: 光がどの媒質の中を進んでいるのかを常に意識しましょう。媒質1の中を進んでいるのであれば、媒質1の中での光速 \(v_1 = c/n_1\) を使う必要があります。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 法線の書き込み: 図の左端面と境界面ABの両方に、点線で法線を書き込むと、入射角と屈折角がどこなのかが一目瞭然になります。
    • 角度の関係を図示: 左端面での屈折角が \(90^\circ – \alpha\) であることや、境界面ABでの入射角が \(\alpha\) であることを、直角や錯角の記号を使って図に明記すると、幾何学的な関係が見やすくなります。
    • 光の速度成分の分解: (4)を速度成分で解く場合、媒質1を進む光の速度ベクトル \(\vec{v_1}\) を描き、それをファイバーの軸に平行な成分と垂直な成分に分解する図を描くと、\(v_{1, \text{平行}} = v_1 \sin\alpha\) であることが視覚的に理解できます。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 誇張して描く: 角度や屈折の様子を少し大げさに描くと、幾何学的な関係が分かりやすくなることがあります。
    • 変数を明記: 図の中に \(n_1, n_2, \theta, \alpha\) などの変数を対応する場所に書き込むことで、立式の際の混乱を防ぎます。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 屈折の法則:
    • 選定理由: 光が異なる媒質の境界面を通過する現象を扱っているため。これは、この現象を記述する唯一の基本法則です。
    • 適用根拠: 光の波動性(ホイヘンスの原理)から導かれる物理法則です。媒質によって波の進む速さが異なるために、波面が折れ曲がることを数式化したものです。
  • 全反射の条件 (\(\alpha > \alpha_0\)):
    • 選定理由: (2)で「全反射をくり返して」という条件が与えられているため。
    • 適用根拠: 屈折の法則において、屈折角が \(90^\circ\) を超えることは物理的にありえない(光が第2の媒質に進めない)という数学的な制約から導かれます。
  • \(v = c/n\) (媒質中の光速):
    • 選定理由: (4)で光の伝播時間を計算する必要があり、そのためには媒質中での光の速さを知る必要があるため。
    • 適用根拠: 光が電磁波であり、媒質(誘電体)との相互作用によって見かけ上の速度が遅くなるという電磁気学の理論に基づいています。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 左端面での屈折:
    • 戦略: 空気/媒質1の境界面で屈折の法則を立てる。
    • フロー: \(1 \cdot \sin\theta = n_1 \sin(90^\circ – \alpha)\) \(\rightarrow\) \(\sin\theta = n_1 \cos\alpha\) \(\rightarrow\) \(\cos\alpha\) を求める。
  2. (2) 全反射条件:
    • 戦略: ①媒質1/媒質2の境界面で臨界角の条件式を立てる。②全反射の条件 (\(\sin\alpha > \sin\alpha_0\)) を立式。③(1)の結果を使い、\(\sin\alpha\) を \(\theta\) で表して代入し、\(\sin\theta\) の条件を求める。
    • フロー: \(\sin\alpha_0 = n_2/n_1\) \(\rightarrow\) \(\sin\alpha > n_2/n_1\) \(\rightarrow\) \(\sin\alpha = \sqrt{1-\cos^2\alpha}\) を使って \(\theta\) の不等式を導く。
  3. (3) すべての入射角での全反射:
    • 戦略: (2)で求めた \(\sin\theta\) の条件範囲が、物理的に可能な \(\sin\theta\) の範囲 (\(0 < \sin\theta < 1\)) をすべて含むための条件を求める。
    • フロー: \(\sqrt{n_1^2 – n_2^2} \ge 1\) という不等式を立てる。
  4. (4) 到達時間:
    • 戦略: ①媒質1中の光速 \(v_1\) を求める。②光が進む実際の経路長 \(L_{\text{経路}}\) を求める。③時間 \(t = L_{\text{経路}} / v_1\) を計算する。
    • フロー: \(v_1 = c/n_1\) \(\rightarrow\) \(L_{\text{経路}} = L/\sin\alpha\) \(\rightarrow\) \(\sin\alpha\) を \(\theta\) で表して代入し、\(t\) を求める。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 三角関数の変換: この問題では \(\sin(90^\circ-\alpha) = \cos\alpha\) や \(\sin^2\alpha + \cos^2\alpha = 1\) といった三角関数の公式を多用します。これらの変換をスムーズかつ正確に行うことが重要です。
  • 不等式の取り扱い: (2)や(3)で不等式を解く際、両辺を2乗することがあります。このとき、両辺が0以上であることを確認してから2乗する、という基本ルールを忘れないようにしましょう。
  • 文字式の整理: (4)の計算のように、分数が入れ子になる場合は、分母と分子を別々に整理してから組み合わせるなど、見通しを良くする工夫をしましょう。特に \(n_1\) や \(c\) などの文字が多く、混乱しやすいため注意が必要です。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (2) \(0 < \sin\theta < \sqrt{n_1^2 – n_2^2}\): もし \(n_1\) と \(n_2\) の差が小さいと、右辺は小さくなり、全反射できる \(\theta\) の範囲が狭まります。逆に差が大きいと範囲は広がり、より多くの光を閉じ込められます。これは直感に合っています。
    • (3) \(n_1^2 – n_2^2 \ge 1\) : この条件は、コアとクラッドの屈折率の差がある程度大きくないといけないことを示しています。これも物理的に妥当です。
    • (4)の \(t\): もし光がまっすぐ入射すれば(\(\theta=0\))、\(\alpha=90^\circ\) となり、光は軸上を進みます。このとき \(t = n_1 L / c\) となり、媒質1の中をまっすぐ進んだときの時間と一致します。式に \(\sin\theta=0\) を代入すると \(t = \frac{n_1^2 L}{c \sqrt{n_1^2}} = \frac{n_1 L}{c}\) となり、この極端な場合と一致することが確認できます。

問題90 (筑波大(前期))

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、「プリズムによる光の屈折と分散」をテーマにしています。光がプリズムに入射し、内部を通過して射出するまでの経路を、屈折の法則と幾何学的な関係を用いて解析します。さらに、光の波長によって屈折率が異なる「分散」という現象や、プリズムから光が射出できなくなる「全反射」の条件についても考察する、光学分野の総合的な問題です。
この問題の核心は、プリズムの入射面と射出面という2つの境界面で起こる現象を、物理法則(屈折の法則)と図形の性質(幾何学)を用いて関連付け、解き明かしていく点にあります。

与えられた条件
  • プリズム: 頂角\(\alpha\)の三角形ABCを断面に持つ。屈折率\(n_1\)。
  • 外部: 空気。屈折率\(n_0\)。(ただし \(n_0 < n_1\))
  • 光線: 単色光が辺ABに入射角\(i\)、屈折角\(r\)で入射し、辺ACに入射角\(i’\)、屈折角\(r’\)で射出する。
  • (4) 波長\(\lambda_1, \lambda_2\)の2つの光を考える。\(n_1(\lambda_2) > n_1(\lambda_1)\)。
  • (6) 空気は真空とみなし、\(n_0=1\)。
問われていること
  • (1) 屈折率の比 \(n_1/n_0\) を \(i, r\) で表す式。
  • (2) 入射角\(i’\) を \(r, \alpha\) で表す式。
  • (3) \(i=r’=i_1\) のときの屈折率の比 \(n_1/n_0\) を \(i_1, \alpha\) で表す式。
  • (4) 2つの波長の光の道筋の概略図。
  • (5) 辺ACで全反射が起こるための \(i’, n_0, n_1\) の条件式。
  • (6) 全反射が起こらなくなる限界の入射角 \(i_3\) に対する \(\sin i_3\) を \(\alpha, n_1\) で表す式。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「プリズムによる光の屈折と分散」です。光がプリズムに入射し、内部を通過して射出するまでの経路を、屈折の法則と幾何学的な関係を用いて解析します。さらに、光の波長によって屈折率が異なる「分散」という現象や、プリズムから光が射出できなくなる「全反射」の条件についても考察します。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 屈折の法則(スネルの法則): 光が異なる媒質の境界面を通過する際に進行方向を変える現象です。法則の式 \(n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2\) を、プリズムの入射面と射出面の両方で正しく適用することが基本となります。
  2. プリズム内の幾何学的な角度の関係: プリズムの頂角と、内部での光線の角度の間には、三角形の性質から導かれる単純な関係があります。これを物理法則と組み合わせることが問題を解く鍵です。
  3. 光の分散: 媒質の屈折率が光の波長(色)によってわずかに異なる性質のことです。これにより、プリズムを通過した白色光は虹色に分かれます。
  4. 全反射と臨界角: 屈折率が大きい媒質から小さい媒質へ光が進むとき、入射角がある角度(臨界角)を超えると、光が屈折せずにすべて反射される現象です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、プリズムの入射面(辺AB)と射出面(辺AC)で、それぞれ屈折の法則を立式します。
  2. 次に、プリズムの頂角\(\alpha\)と、内部の光線の角度\(r, i’\)の関係を、図形の性質を利用して導き出します。
  3. これらの物理法則と幾何学的な関係式を連立させることで、問われている物理量間の関係を導出します。
  4. 光の分散の問題では、屈折率の違いが光の経路にどのような影響を与えるかを段階的に追跡します。
  5. 全反射の問題では、射出面での入射角が臨界角と等しくなるギリギリの条件を考え、そこから入射角を逆算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
光が空気(屈折率\(n_0\))からプリズム(屈折率\(n_1\))へ入射する、辺AB上の点Dでの屈折現象に着目します。屈折の法則を適用して、屈折率の比 \(n_1/n_0\) を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 屈折の法則: \(n_0 \sin i = n_1 \sin r\)。
  • 入射角が\(i\)、屈折角が\(r\)であることを図から確認する。

具体的な解説と立式
点Dにおいて、空気(媒質0)からプリズム(媒質1)へ光が入射します。

  • 入射側の媒質の屈折率: \(n_0\)
  • 屈折側の媒質の屈折率: \(n_1\)
  • 入射角: \(i\)
  • 屈折角: \(r\)

屈折の法則(スネルの法則)より、
$$ n_0 \sin i = n_1 \sin r $$

使用した物理公式

  • 屈折の法則(スネルの法則): \(n_a \sin\theta_a = n_b \sin\theta_b\)
計算過程

上の式を、屈折率の比 \(n_1/n_0\) について解きます。
$$ \frac{n_1}{n_0} = \frac{\sin i}{\sin r} $$

計算方法の平易な説明

光が空気からプリズムに入るとき、その曲がり方にはルールがあります。それが「屈折の法則」です。この法則を式にして、問題で問われている屈折率の比の形に変形します。

結論と吟味

プリズムと空気の屈折率の比は \(\displaystyle\frac{n_1}{n_0} = \frac{\sin i}{\sin r}\) と表されます。これは屈折の法則を直接変形したものであり、基本的な関係式です。

解答 (1) \(\displaystyle\frac{\sin i}{\sin r}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
プリズム内部の光線の経路に着目し、頂角\(\alpha\)と、辺ABでの屈折角\(r\)、辺ACでの入射角\(i’\)の間の幾何学的な関係を導きます。

この設問における重要なポイント

  • 図中の三角形ADEの内角の和が\(\pi\)ラジアン(180°)であることを利用する。
  • 点D、点Eにおける法線とプリズムの辺は垂直である。

具体的な解説と立式
図の三角形ADEに着目します。この三角形の内角の和は\(\pi\)です。

  • 頂点Aの角: \(\angle DAE = \alpha\)
  • 頂点Dの角: 点Dにおける法線と辺ABは垂直なので、\(\angle ADE = \pi/2 – r\)。
  • 頂点Eの角: 点Eにおける法線と辺ACは垂直なので、\(\angle AED = \pi/2 – i’\)。

三角形の内角の和の公式より、
$$ \alpha + \left(\frac{\pi}{2} – r\right) + \left(\frac{\pi}{2} – i’\right) = \pi $$

使用した物理公式

  • 三角形の内角の和
計算過程

上式を整理して \(i’\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\alpha + \pi – r – i’ &= \pi \\[2.0ex]\alpha – r – i’ &= 0 \\[2.0ex]i’ &= \alpha – r
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

プリズムの形(頂角\(\alpha\))と、最初の面での光の折れ曲がり方(角度\(r\))がわかれば、次の面に光が当たる角度(\(i’\))は自動的に決まります。この関係を、図の中の三角形の角度の合計が180度になるという性質を使って導き出します。

結論と吟味

入射角 \(i’\) は \(i’ = \alpha – r\) と表されます。この関係式はプリズムの問題で頻繁に用いられる重要なものです。

解答 (2) \(\alpha – r\)

問(3)

思考の道筋とポイント
「入射角が\(i_1\)のとき、射出角も\(i_1\)になる(\(r’=i_1\))」という特別な条件(最小偏角の条件)を使います。点Dと点E、両方の面での屈折の法則と、問(2)の幾何学的な関係式を連立させて解きます。

この設問における重要なポイント

  • 点Dでの屈折: \(n_0 \sin i_1 = n_1 \sin r\)
  • 点Eでの屈折: \(n_1 \sin i’ = n_0 \sin r’ = n_0 \sin i_1\)
  • 角度の関係: \(i’ = \alpha – r\)
  • 光路が対称的になるため、\(r=i’\)となる。

具体的な解説と立式
与えられた条件 \(i=i_1, r’=i_1\) を使って、各面での屈折の法則を立てます。
点Dについて:
$$ n_0 \sin i_1 = n_1 \sin r \quad \cdots ①’ $$
点Eについて:
$$ n_1 \sin i’ = n_0 \sin r’ = n_0 \sin i_1 \quad \cdots ②’ $$
①’と②’の右辺と左辺をそれぞれ見比べると、
$$ n_1 \sin r = n_1 \sin i’ $$
よって、\(\sin r = \sin i’\) となります。\(r\)と\(i’\)はともに鋭角なので、\(r=i’\)です。
この結果を、問(2)で導いた関係式 \(i’ = \alpha – r\) に代入すると、
$$ r = \alpha – r $$
$$ 2r = \alpha $$
$$ r = \frac{\alpha}{2} $$
このときの入射角が \(i_1\) なので、この \(r\) の値を最初の点Dでの屈折の法則の式①’に代入します。
$$ n_0 \sin i_1 = n_1 \sin\left(\frac{\alpha}{2}\right) $$

使用した物理公式

  • 屈折の法則(スネルの法則)
  • 問(2)で導いた角度の関係式
計算過程

上の式を、屈折率の比 \(n_1/n_0\) について解きます。
$$ \frac{n_1}{n_0} = \frac{\sin i_1}{\sin(\alpha/2)} $$

計算方法の平易な説明

光がプリズムを通り抜けるとき、入射するときの角度と出ていくときの角度がちょうど同じになる特別な場合があります。このとき、光の通り道はプリズムに対してきれいな左右対称になります。この「対称性」を手がかりにして、プリズムの材質(屈折率)と形(頂角)、そして光の角度の関係式を導きます。

結論と吟味

屈折率の比は \(\displaystyle\frac{n_1}{n_0} = \frac{\sin i_1}{\sin(\alpha/2)}\) となります。これはプリズムの屈折率を測定する際の「最小偏角法」で用いられる公式そのものであり、物理的に正しい結果です。

解答 (3) \(\displaystyle\frac{\sin i_1}{\sin(\alpha/2)}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
光の波長によってプリズムの屈折率が異なる「分散」という現象を考えます。屈折率が大きい(\(n_1(\lambda_2) > n_1(\lambda_1)\))と、光の経路がどう変わるかを、点Dと点Eでの屈折を順に追って分析します。

この設問における重要なポイント

  • 屈折率が大きいほど、光はより大きく(法線側に)曲げられる。
  • 点Dでの屈折角\(r\)の変化が、点Eでの入射角\(i’\)の変化、そして射出角\(r’\)の変化にどう影響するかを段階的に考える。

具体的な解説と立式
入射角\(i\)は共通です。

  1. 点Dでの屈折: \(\sin r = \displaystyle\frac{n_0}{n_1}\sin i\)。屈折率\(n_1\)が大きい波長\(\lambda_2\)の光は、\(\sin r\)が小さくなるため、屈折角\(r\)も小さくなります。
  2. 点Eへの入射角: \(i’ = \alpha – r\)。\(r\)が小さくなる\(\lambda_2\)の光は、点Eへの入射角\(i’\)は大きくなります。
  3. 点Eでの屈折: \(\sin r’ = \displaystyle\frac{n_1}{n_0}\sin i’\)。\(\lambda_2\)の光は、\(n_1\)が大きく、かつ\(i’\)も大きい(つまり\(\sin i’\)も大きい)ため、この両方の効果で\(\sin r’\)は\(\lambda_1\)の光よりかなり大きくなります。したがって射出角\(r’\)も大きくなります。

結論として、波長\(\lambda_2\)の光は、波長\(\lambda_1\)の光よりもプリズム内で大きく曲げられ、より大きな角度で射出されます。これを図示します。

計算方法の平易な説明

プリズムは、光の色によって曲げ方を変える性質があります。虹ができるのと同じ原理です。問題の条件では、波長\(\lambda_2\)の光のほうが、プリズムの材質にとって「より曲げやすい」性質を持っていることを意味します。そのため、\(\lambda_2\)の光はプリズムに入るときも出るときも、\(\lambda_1\)の光より大きく進路を変えます。この違いを光の道筋として図に描きます。

結論と吟味

波長が短い光(青色など)ほど屈折率が大きく、より大きく曲げられるのが一般的です。この問題の結果は、光の分散の基本的な性質と一致しています。

解答 (4) (図はヒントの図bを参照) 波長\(\lambda_2\)の光の方が\(\lambda_1\)の光より大きく屈折する経路を描く。

問(5)

思考の道筋とポイント
辺AC上の点Eで、プリズムから空気へ光が射出する際に「全反射」が起こるための条件を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 全反射は、屈折率が大きい媒質(プリズム)から小さい媒質(空気)へ光が進むときに起こる。
  • 全反射の条件は「入射角 > 臨界角」である。

具体的な解説と立式
点Eにおいて、プリズム(屈折率\(n_1\))から空気(屈折率\(n_0\))へ光が進みます。
まず、全反射が起こるギリギリの角度である臨界角 \(i_{\text{臨界}}’\) を求めます。臨界角とは、屈折角が\(90^\circ\)になるときの入射角です。屈折の法則より、
$$ n_1 \sin i_{\text{臨界}}’ = n_0 \sin 90^\circ $$
$$ n_1 \sin i_{\text{臨界}}’ = n_0 $$
$$ \sin i_{\text{臨界}}’ = \frac{n_0}{n_1} $$
全反射が起こるためには、点Eへの入射角 \(i’\) がこの臨界角 \(i_{\text{臨界}}’\) よりも大きくなければなりません。
$$ i’ > i_{\text{臨界}}’ $$
\(i’\) と \(i_{\text{臨界}}’\) はともに鋭角なので、サインをとっても大小関係は変わりません。
$$ \sin i’ > \sin i_{\text{臨界}}’ $$
したがって、求める条件は、
$$ \sin i’ > \frac{n_0}{n_1} $$

使用した物理公式

  • 全反射の条件
  • 屈折の法則(臨界角の導出)
計算過程

立式そのものが結論となります。

計算方法の平易な説明

プリズムから光が出ていくとき、あまりにも浅い角度(境界面に対して)で光が当たると、外に出られずに全部はね返されてしまいます。これが「全反射」です。この全反射が起こるための、光が当たる角度の条件を式で表します。

結論と吟味

全反射の条件 \(\sin i’ > n_0/n_1\) が得られました。これは全反射の定義から直接導かれる基本的な関係式です。

解答 (5) \(\sin i’ > \displaystyle\frac{n_0}{n_1}\)

問(6)

思考の道筋とポイント
入射角\(i\)を0から徐々に大きくしていくと、\(i=i_3\)で全反射が起こらなくなった、という状況を考えます。これは、\(i=i_3\)のときに、点Eでの入射角\(i’\)がちょうど臨界角に等しくなったことを意味します。

この設問における重要なポイント

  • \(i=i_3\) のとき、点Eでの入射角 \(i’\) は臨界角に等しい。
  • 空気の屈折率 \(n_0=1\) とする。
  • 点Dでの屈折、点Eでの臨界角の条件、そして幾何学的な角度の関係、という3つの式を連立させて解く。

具体的な解説と立式
条件を整理します。

  1. 点Eでの臨界角条件: \(i=i_3\) のときの点Eでの入射角を \(i_3’\) とすると、これが臨界角に等しい。問(5)の結果で \(n_0=1\) とすると、
    $$ \sin i_3′ = \frac{1}{n_1} \quad \cdots ③’ $$
    また、三角関数の公式から、
    $$ \cos i_3′ = \sqrt{1-\sin^2 i_3′} = \sqrt{1 – \left(\frac{1}{n_1}\right)^2} = \frac{\sqrt{n_1^2-1}}{n_1} \quad \cdots ④’ $$
  2. 点Dでの屈折の法則: \(i=i_3\) のときの点Dでの屈折角を \(r_3\) とすると、
    $$ 1 \cdot \sin i_3 = n_1 \sin r_3 \quad \cdots ⑤’ $$
  3. 角度の関係:
    $$ i_3′ = \alpha – r_3 \quad \rightarrow \quad r_3 = \alpha – i_3′ $$

式⑤’に \(r_3 = \alpha – i_3’\) を代入し、加法定理を用いて展開します。
$$
\begin{aligned}
\sin i_3 &= n_1 \sin(\alpha – i_3′) \\[2.0ex]&= n_1 (\sin\alpha \cos i_3′ – \cos\alpha \sin i_3′)
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 屈折の法則、全反射の条件、三角関数の加法定理
計算過程

上の式に、③’と④’で求めた \(\sin i_3’\) と \(\cos i_3’\) の値を代入します。
$$
\begin{aligned}
\sin i_3 &= n_1 \left( \sin\alpha \cdot \frac{\sqrt{n_1^2-1}}{n_1} – \cos\alpha \cdot \frac{1}{n_1} \right) \\[2.0ex]&= n_1 \cdot \frac{\sqrt{n_1^2-1}}{n_1} \sin\alpha – n_1 \cdot \frac{1}{n_1} \cos\alpha \\[2.0ex]&= \sqrt{n_1^2-1}\sin\alpha – \cos\alpha
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

プリズムへの光の入射角を少しずつ変えていくと、ある角度で、プリズムから出ていく光が「全反射するかしないかのギリギリの境目」を迎えます。この「ギリギリの瞬間」の条件は、光がプリズムから出ていくときの角度が「臨界角」になることです。この条件と、プリズムに入るときのルール、そしてプリズムの形の関係をすべて組み合わせて、そのときの入射角 \(i_3\) を計算します。

結論と吟味

\(\sin i_3 = \sqrt{n_1^2-1}\sin\alpha – \cos\alpha\) という関係式が得られました。一見複雑ですが、3つの基本法則を論理的に組み合わせた結果です。

解答 (6) \(\sqrt{n_1^2-1}\sin\alpha – \cos\alpha\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 屈折の法則(スネルの法則):
    • 核心: 光が異なる媒質の境界面を通過する際に進行方向を変える現象を記述する、\(n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2\) という関係式です。この法則を、プリズムの入射面と射出面の両方で正しく適用できるかが、この問題の全ての基礎となります。
    • 理解のポイント: どの境界面で、どの媒質からどの媒質へ光が進んでいるのかを常に意識し、入射角と屈折角を法線からの角度として正確に設定することが極めて重要です。
  • プリズム内の幾何学的関係 (\(i’ = \alpha – r\)):
    • 核心: 物理法則ではありませんが、この問題においては同等に重要な関係式です。プリズムの頂角(\(\alpha\))と、内部での光線の角度(\(r, i’\))を結びつけ、入射面での現象と射出面での現象を関連付ける「橋渡し」の役割を果たします。
    • 理解のポイント: この関係は、プリズムの頂点と光線の経路が作る四角形や三角形の性質から導かれます。一度自分で導出しておくと、忘れにくく、応用も効くようになります。
  • 全反射と臨界角:
    • 核心: 屈折率が大きい媒質から小さい媒質へ光が進む際、入射角が臨界角を超えると光が射出できなくなる現象です。(5)や(6)のように、光がプリズムから出られるかどうかの条件を問う問題で中心的な役割を果たします。
    • 理解のポイント: 臨界角は「屈折角が90°になる」という極限状態から導出されます (\(\sin i_c = n_{\text{小}}/n_{\text{大}}\))。全反射の条件は「入射角 > 臨界角」であり、(6)のような「全反射が起こらなくなる」ギリギリの瞬間は「入射角 = 臨界角」として扱います。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 最小偏角の問題: (3)は、光がプリズムを通過する際の曲がる角度(偏角)が最小になる条件を扱っています。この「光路が対称的になる」という特徴は、プリズムの屈折率を精密に測定する方法として応用され、頻出のテーマです。
    • 光の分散: (4)のように、波長によって屈折率が異なるために光が色に分かれる現象は、虹やレンズの色収差など、様々な文脈で問われます。屈折率が大きいほど大きく曲がる、という原則を覚えておきましょう。
    • 光ファイバー: 前問(89番)のように、全反射を利用して光を閉じ込める光ファイバーの原理は、プリズムの問題と根底で共通しています。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 光路の図示と角度の定義: まず、問題文に従って光の経路を丁寧に図示します。そして、各境界面に法線を引き、入射角・屈折角を明確に定義します。
    2. 法則の適用(2段階): プリズムの問題は、必ず「入射面」と「射出面」の2つの境界面があります。それぞれの面で屈折の法則を立てるのが定石です。
    3. 幾何学的な関係式の発見: 2つの面での現象をつなぐために、プリズムの頂角や内部の光線がなす角度の関係を、図形の性質から見つけ出します。(\(i’ = \alpha – r\))
    4. 条件の数式化: 「最小偏角」「全反射」「分散」といった物理的な条件を、等式や不等式といった数学的な言葉に正確に翻訳することが、立式の鍵となります。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 角度の関係式の導出ミス:
    • 誤解: \(i’ = \alpha – r\) の関係をうろ覚えで使ってしまい、符号を間違える(例: \(i’ = r – \alpha\))。
    • 対策: この関係式は暗記するだけでなく、三角形の内角の和からすぐに導出できるように練習しておきましょう。そうすれば、もし忘れてもその場で再現でき、ミスを防げます。
  • 屈折率の大小関係の混同:
    • 誤解: 屈折の法則を立てる際に、\(n_0\) と \(n_1\) を逆にしてしまう。
    • 対策: 「屈折率 \(\times\) その媒質での角度のサイン = 一定」という形で法則を覚えるのが有効です。\(n_0 \sin i = n_1 \sin r\) のように、添字を対応させて書く癖をつけましょう。
  • 全反射の条件の適用ミス:
    • 誤解: (6)で「全反射が起こらなくなった」という条件を、どう数式化してよいか分からなくなる。
    • 対策: 「Aが起こらなくなった瞬間」は、「Aが起こるか起こらないかのギリギリの境界」を意味します。つまり、この場合は「入射角 = 臨界角」という等式で条件を立てることができます。この「境界条件」の考え方は、様々な物理現象で応用できます。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 法線を基準に: プリズムの図を描くとき、何よりもまず入射面と射出面に「法線」を点線で描くことが最優先です。すべての角度は、この法線を基準に測るという意識を徹底します。
    • 四角形と三角形: プリズムの頂点A、点D、点E、そして2本の法線の交点を結ぶと四角形ができます。この四角形の性質(対角の和が180°)から \(r+i’=\alpha\) の関係を導くこともできます。自分にとって分かりやすい図形の性質を見つけることが重要です。
    • 分散の図示: (4)では、\(\lambda_1\)の光路を実線で、\(\lambda_2\)の光路を点線で、少しだけ角度をずらして描くことで、分散の様子を視覚的に表現できます。曲がり方の違いを意識して描きましょう。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 屈折の法則:
    • 選定理由: 光が媒質の境界面を通過する現象を扱っているため。これは、この現象を記述する唯一無二の基本法則です。
    • 適用根拠: 光の波動性(ホイヘンスの原理)に基づき、媒質中での光速の違いが波面の進行方向を変えることを数式化したものです。
  • 三角形の内角の和:
    • 選定理由: プリズムという幾何学的な形状によって、光線の角度間に束縛条件が生まれるため。物理法則だけでは解けず、幾何学的な関係式が必要となります。
    • 適用根拠: ユークリッド幾何学の基本的な公理であり、平面上の三角形では常に成り立ちます。
  • 三角関数の加法定理:
    • 選定理由: (6)で、\(\sin(\alpha – i_3′)\) のように、角度の差のサインを計算する必要が出てきたため。
    • 適用根拠: 三角関数の性質を記述する数学的な公式です。物理法則ではありませんが、物理的な関係式を計算・変形する上で必須のツールとなります。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 入射面の屈折:
    • 戦略: 点Dで屈折の法則を立てる。
    • フロー: \(n_0 \sin i = n_1 \sin r \rightarrow \frac{n_1}{n_0} = \frac{\sin i}{\sin r}\)。
  2. (2) 幾何学的関係:
    • 戦略: 三角形ADEの内角の和から、角度の関係を導く。
    • フロー: \(\alpha + (\pi/2 – r) + (\pi/2 – i’) = \pi \rightarrow i’ = \alpha – r\)。
  3. (3) 最小偏角:
    • 戦略: \(i=r’=i_1\) という対称性を利用し、点Dと点Eでの屈折の法則を連立させる。
    • フロー: \(r=i’=\alpha/2\) を導き、点Dの屈折則に代入して \(\frac{n_1}{n_0}\) を求める。
  4. (4) 光の分散:
    • 戦略: \(n_1\) が大きいと \(r\) は小さく、\(i’\) は大きくなり、結果として \(r’\) も大きくなる、という因果関係を順に追う。
    • フロー: 点Dでの屈折 → \(i’\)の変化 → 点Eでの屈折 → 経路を図示。
  5. (5) 全反射条件:
    • 戦略: 点Eで全反射が起こる条件(入射角 > 臨界角)を立式する。
    • フロー: 臨界角の条件 \(n_1 \sin i_c’ = n_0\) から \(\sin i_c’\) を求め、\(\sin i’ > \sin i_c’\) とする。
  6. (6) 全反射の限界条件:
    • 戦略: \(i=i_3\) のとき「入射角 = 臨界角」となる条件を、点Dの屈折則と幾何学的関係式と連立させて解く。
    • フロー: ①\(i_3’\)が臨界角である条件から \(\sin i_3’\) と \(\cos i_3’\) を求める。②\(r_3 = \alpha – i_3’\) の関係を使う。③点Dでの屈折則 \(\sin i_3 = n_1 \sin r_3\) に代入し、加法定理で展開して整理する。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 角度の単位: 問題文で角度が \(\pi\) rad で与えられている場合、計算全体をラジアンで統一するのが基本ですが、この問題のように度数法(90°など)と混在している場合は、どちらかに統一するか、臨機応変に使い分ける必要があります。三角関数の公式はどちらでも使えます。
  • 加法定理の符号: \(\sin(\alpha-\beta) = \sin\alpha\cos\beta – \cos\alpha\sin\beta\) のように、加法定理の符号は間違いやすいポイントです。正確に覚えておきましょう。
  • 文字の整理: \(n_0, n_1, i, r, i’, r’, \alpha\) など多くの文字が登場します。計算過程でどの文字が定数で、どの文字が変数なのかを意識すると、式変形の方針が立てやすくなります。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (3)の式: もしプリズムがなければ(\(\alpha=0\))、光は直進するので \(i_1=0\)。式に \(\alpha=0\) を代入すると \(\sin(\alpha/2)=0\) となり、\(\sin i_1=0\) すなわち \(i_1=0\) となり、つじつまが合います。
    • (6)の式: もし \(\alpha=0\) なら、\(\sin i_3 = \sqrt{n_1^2-1}\cdot 0 – 1 \cdot 1 = -1\) となり、物理的に意味のない結果になります。これは、\(\alpha=0\) の場合はプリズムではなくただの平行な板であり、入射角によらず全反射は起こりえない、という状況を反映しています。
  • 対称性の利用: (3)のように、物理現象に対称性が見られる場合、計算結果も対称的な形になることが多いです。\(r=i’\) という結果は、光路の対称性から直感的にも予想できます。このような直感と計算結果が一致するかを確認するのも良い検証方法です。
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