問題81 (埼玉大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、水面波を題材に、波の基本的な性質である「屈折」「反射」、そしてそれらが引き起こす「干渉(定在波)」という3つの重要現象を総合的に扱っています。前半(1)~(4)では屈折現象に焦点を当て、後半(5)~(7)では反射と干渉によって生じる定在波の性質を問うています。
この問題の核心は、波の基本公式、屈折の法則、そして定在波の幾何学的な条件という複数の物理法則を、段階的に正しく適用していくことです。
- 水槽: 領域A(水深\(2h\)、速さ\(v\)、波長\(\lambda\))と領域B(水深\(h\)、速さ\(v’\)、波長\(\lambda’\))
- 入射条件: 領域Aから領域Bへ、波面と境界面のなす角\(45^\circ\)で入射。
- 反射条件: 領域Bの壁面で自由端反射。
- 干渉条件: 領域Bで定在波が観測され、境界面上に節があり、それ以外に6本の節線が存在する(合計7本の節)。
- 物理法則: 波の速さは水深の平方根に比例する。
- (1) 領域Aでの波の周期\(T\)。
- (2) 領域Bでの波の速さ\(v’\)を\(v\)で表す。
- (3) 領域Aに対する領域Bの屈折率\(n\)と、領域Bでの屈折角\(\theta’\)。
- (4) 領域Bでの波の周期\(T’\)と波長\(\lambda’\)。
- (5) 壁面を平行に進む波の波長\(\lambda_s\)と速さ\(v_s\)。
- (6) 境界面と壁面の距離\(L\)を\(\lambda\)で表す。
- (7) 領域Aで生じる定在波の隣り合う節線間の距離\(d\)を\(\lambda\)で表す。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
【注記】本問については、模範解答のアプローチが最も標準的かつ効率的であるため、別解の提示は省略します。
この問題のテーマは「波の屈折、反射、干渉」の総合的な応用です。特に、異なる媒質での波の振る舞いの変化と、干渉による定在波の幾何学的性質を理解することが重要です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 波の基本式: 速さ\(v\)、振動数\(f\)、波長\(\lambda\)の関係式 \(v=f\lambda\) は、あらゆる波の問題の出発点です。周期\(T=1/f\)との関係も重要です。
- 屈折の法則: 異なる媒質へ波が進む際のルールです。屈折率\(n\)、速さ\(v\)、入射角・屈折角\(\theta\)の関係 \(n_{12} = \displaystyle\frac{v_1}{v_2} = \frac{\sin\theta_1}{\sin\theta_2}\) を正しく適用します。このとき、振動数(周期)は変化しないことがポイントです。
- 波の干渉と定在波: 入射波と反射波が重なり合ってできる定在波について、節や腹の位置がどのような幾何学的条件で決まるかを理解する必要があります。作図による考察が有効です。
- 反射の境界条件: 「自由端反射」では反射点が腹(振動の最大点)になるという条件が、定在波の腹と節の配置を決める上で決定的な役割を果たします。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、(1)から(4)にかけては、波の基本式と屈折の法則を順に適用し、領域Aと領域Bにおける波のパラメータ(周期、速さ、波長、角度)を一つずつ確定させていきます。
- 次に、(5)では、屈折波が壁面を伝わる「見かけの波」について、作図からその波長と速さを求めます。
- 最後の(6)と(7)では、屈折波と反射波の干渉によって生じる定在波について、作図から節線間隔を求め、与えられた境界条件(壁面が腹、節の本数)を用いて距離を計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
波の速さ\(v\)、振動数\(f\)、波長\(\lambda\)の間の基本的な関係式 \(v=f\lambda\) を用います。周期\(T\)は振動数\(f\)の逆数、\(T=1/f\)であることから、周期\(T\)を速さ\(v\)と波長\(\lambda\)で表します。
この設問における重要なポイント
- 波の基本公式 \(v=f\lambda\) を正しく理解していること。
- 周期\(T\)と振動数\(f\)の関係 \(T=1/f\) を理解していること。
具体的な解説と立式
波の速さ\(v\)、振動数\(f\)、波長\(\lambda\)の間には、波の基本式
$$v = f\lambda$$
が成り立ちます。また、周期\(T\)と振動数\(f\)の間には、
$$T = \frac{1}{f}$$
という関係があります。上の式を \(f\) について解くと \(f = \displaystyle\frac{v}{\lambda}\) となり、これを下の式に代入します。
使用した物理公式
- 波の基本式: \(v=f\lambda\)
- 周期と振動数の関係: \(T=1/f\)
\(f = \displaystyle\frac{v}{\lambda}\) を \(T = \displaystyle\frac{1}{f}\) に代入すると、
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{1}{v/\lambda} \\[2.0ex]
&= \frac{\lambda}{v}
\end{aligned}
$$
これが求める周期\(T\)です。
周期とは、波が1波長分進むのにかかる時間のことです。したがって、距離である波長\(\lambda\)を、速さ\(v\)で割ることで、時間である周期\(T\)が求まります。
領域Aでの波の周期は \(T = \displaystyle\frac{\lambda}{v}\) です。これは波の基本的な性質を表す普遍的な式であり、物理的に妥当です。
問(2)
思考の道筋とポイント
問題文にある「波の速さは、水深の平方根に比例する」という物理的条件を数式で表現します。比例定数を導入して領域Aと領域Bについてそれぞれ式を立て、その2式の比をとることで、領域Bの速さ\(v’\)を領域Aの速さ\(v\)で表します。
この設問における重要なポイント
- 問題文で与えられた物理的条件を、比例定数を用いて正しく数式化すること。
- 比を計算することで、未知の比例定数を消去するテクニックを理解していること。
具体的な解説と立式
波の速さが水深の平方根に比例する、という条件から、比例定数を\(k\)とすると、速さ\(u\)と水深\(d_{\text{水深}}\)の関係は \(u = k\sqrt{d_{\text{水深}}}\) と表せます。
- 領域A: 速さ\(v\)、水深\(2h\)。よって、\(v = k\sqrt{2h}\)。
- 領域B: 速さ\(v’\)、水深\(h\)。よって、\(v’ = k\sqrt{h}\)。
この2つの式の比をとることで、\(v’\)と\(v\)の関係を求めます。
$$\frac{v’}{v} = \frac{k\sqrt{h}}{k\sqrt{2h}}$$
使用した物理公式
- 問題文で与えられた条件: \(v \propto \sqrt{\text{水深}}\)
立式した比の式を計算します。
$$
\begin{aligned}
\frac{v’}{v} &= \frac{k\sqrt{h}}{k\sqrt{2h}} \\[2.0ex]
&= \frac{\sqrt{h}}{\sqrt{2}\sqrt{h}} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{\sqrt{2}}
\end{aligned}
$$
この式を\(v’\)について解くと、
$$v’ = \frac{1}{\sqrt{2}}v$$
水深が\(2h\)から\(h\)へと半分になると、速さは\(\sqrt{2h}\)に比例する値から\(\sqrt{h}\)に比例する値へと変化します。つまり、速さは\(\displaystyle\frac{\sqrt{h}}{\sqrt{2h}} = \frac{1}{\sqrt{2}}\)倍になります。この関係を使って、領域Bでの速さ\(v’\)を領域Aでの速さ\(v\)で表します。
領域Bでの波の速さは \(v’ = \displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}}v\) です。水深が浅くなるので速さが遅くなるという結果は、物理現象として妥当です。
問(3)
思考の道筋とポイント
屈折の法則を適用します。領域Aに対する領域Bの屈折率\(n\)は、速さの比 \(v/v’\) と、入射角と屈折角のsinの比 \(\sin 45^\circ / \sin \theta’\) で定義されます。まず、問(2)で求めた速さの関係から屈折率\(n\)を計算し、次にその値を使って屈折角\(\theta’\)を求めます。
この設問における重要なポイント
- 屈折の法則の定義式 \(n = \displaystyle\frac{v_1}{v_2} = \frac{\sin\theta_1}{\sin\theta_2}\) を正しく理解していること。
- 問題の「波面と境界面のなす角」が、屈折の法則で用いる入射角・屈折角と等しいことを理解していること。
具体的な解説と立式
領域A(媒質1)から領域B(媒質2)へ波が進むときの、領域Aに対する領域Bの屈折率\(n\)は、屈折の法則により次のように表されます。
$$n = \frac{v}{v’} \quad \cdots ①$$
$$n = \frac{\sin 45^\circ}{\sin \theta’} \quad \cdots ②$$
まず、式①に問(2)の結果を用いて屈折率\(n\)を求めます。次に、その結果を式②に用いて屈折角\(\theta’\)を求めます。
使用した物理公式
- 屈折の法則: \(n_{12} = \displaystyle\frac{v_1}{v_2} = \frac{\sin\theta_1}{\sin\theta_2}\)
まず、式①から屈折率\(n\)を求めます。問(2)の結果 \(v’ = \displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}}v\) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
n &= \frac{v}{\frac{1}{\sqrt{2}}v} \\[2.0ex]
&= \sqrt{2}
\end{aligned}
$$
次に、この結果 \(n=\sqrt{2}\) を式②に代入し、\(\theta’\)を求めます。
$$\sqrt{2} = \frac{\sin 45^\circ}{\sin \theta’}$$
この式を \(\sin\theta’\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\sin \theta’ &= \frac{\sin 45^\circ}{\sqrt{2}} \\[2.0ex]
&= \frac{1/\sqrt{2}}{\sqrt{2}} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}
\end{aligned}
$$
\(0^\circ \le \theta’ \le 90^\circ\) の範囲でこの式を満たす\(\theta’\)は、
$$\theta’ = 30^\circ$$
波が速い媒質から遅い媒質に入ると、波は境界面に近づくように曲がります(屈折)。この曲がり具合は「屈折の法則」というルールに従います。まず速さの比から「屈折率」という値を求め、その屈折率を使って、曲がった後の角度(屈折角)を計算します。
屈折率は \(n=\sqrt{2}\)、屈折角は \(\theta’=30^\circ\) です。波の速さが遅くなる媒質に入るため、屈折角(\(30^\circ\))が入射角(\(45^\circ\))より小さくなるという結果は、物理的に正しい現象です。
問(4)
思考の道筋とポイント
屈折現象における不変量と変化量を正しく理解することが鍵です。波が屈折するとき、波源の振動は変わらないため、振動数\(f\)(したがって周期\(T\))は変化しません。一方、速さ\(v\)は変化するため、波の基本式 \(v=f\lambda\) に従い、波長\(\lambda\)も変化します。まず周期\(T’\)を求め、次に波の基本式 \(\lambda’ = v’T’\) を使って波長\(\lambda’\)を計算します。
この設問における重要なポイント
- 屈折の際、振動数と周期は不変であるという重要な性質を理解していること。
- 波長は速さに比例して変化すること (\(\lambda’/\lambda = v’/v\)) を理解していること。
具体的な解説と立式
波が異なる媒質に進入(屈折)しても、波を送り出している波源の振動数は変わらないため、波の振動数\(f\)と周期\(T=1/f\)は一定に保たれます。
したがって、領域Bでの周期\(T’\)は、領域Aでの周期\(T\)に等しくなります。
$$T’ = T$$
問(1)の結果 \(T = \displaystyle\frac{\lambda}{v}\) を用いると、
$$T’ = \frac{\lambda}{v}$$
次に、領域Bでの波長\(\lambda’\)を、波の基本式 \(\lambda’ = v’T’\) を用いて求めます。
使用した物理公式
- 屈折における周期の不変性: \(T’ = T\)
- 波の基本式: \(\lambda’ = v’T’\)
\(\lambda’ = v’T’\) の式に、問(2)で求めた \(v’ = \displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}}v\) と、上で求めた \(T’ = \displaystyle\frac{\lambda}{v}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\lambda’ &= v’ T’ \\[2.0ex]
&= \left( \frac{1}{\sqrt{2}}v \right) \cdot \left( \frac{\lambda}{v} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{1}{\sqrt{2}}\lambda
\end{aligned}
$$
媒質が変わっても、波の「リズム」(周期や振動数)は変わりません。しかし、進む速さが変わるため、1周期の間に進む距離である「波長」は変化します。問(2)で速さが\(\displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}}\)倍になったことがわかっているので、波長も同じく\(\displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}}\)倍になります。
周期は \(T’ = \displaystyle\frac{\lambda}{v}\)、波長は \(\lambda’ = \displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}}\lambda\) です。速さが遅くなった分だけ波長が短くなるという結果は物理的に妥当です。
問(5)
思考の道筋とポイント
壁面で観測される波は、屈折波の波面が壁面に到達することで生じる「見かけの波」です。模範解答の図bを参考に、幾何学的な関係からこの見かけの波の波長\(\lambda_s\)を求めます。次に、速さ\(v_s\)は、この波長\(\lambda_s\)を1周期\(T’\)の間に進む速さとして計算します。
この設問における重要なポイント
- 壁面上の波が、屈折波の波面が壁を滑っていくことによって生じる現象であることを理解すること。
- 作図から、壁面上の波長\(\lambda_s\)、屈折波の波長\(\lambda’\)、屈折角\(\theta’\)の間の三角比の関係を導き出すこと。
具体的な解説と立式
模範解答の図bのように、屈折波の波面(山の線)が壁面に到達する点を考えます。ある山の波面が壁面上の点(谷1)に到達したとします。1周期\(T’\)後、この波面は進行方向に垂直に距離\(\lambda’\)だけ進み、次の山の波面が壁面上の点(谷2)に到達します。この2点間の距離が、壁面を伝わる波の波長\(\lambda_s\)です。
図bの直角三角形に着目すると、斜辺が\(\lambda_s\)、高さが\(\lambda’\)、その間の角が\(\theta’ = 30^\circ\)なので、以下の関係が成り立ちます。
$$\lambda’ = \lambda_s \sin 30^\circ$$
壁面上の波の速さ\(v_s\)は、距離\(\lambda_s\)を時間\(T’\)で進む速さなので、次式で与えられます。
$$v_s = \frac{\lambda_s}{T’}$$
使用した物理公式
- 三角比
- 速さの定義: 速さ = 距離 / 時間
まず\(\lambda_s\)を計算します。上の関係式を\(\lambda_s\)について解くと、
$$\lambda_s = \frac{\lambda’}{\sin 30^\circ}$$
問(4)で求めた \(\lambda’ = \displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}}\lambda\) と、\(\sin 30^\circ = \displaystyle\frac{1}{2}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\lambda_s &= \frac{\frac{1}{\sqrt{2}}\lambda}{1/2} \\[2.0ex]
&= \sqrt{2}\lambda
\end{aligned}
$$
次に\(v_s\)を計算します。\(v_s = \displaystyle\frac{\lambda_s}{T’}\) の式に、上で求めた \(\lambda_s = \sqrt{2}\lambda\) と、問(4)で求めた \(T’ = \displaystyle\frac{\lambda}{v}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
v_s &= \frac{\sqrt{2}\lambda}{\lambda/v} \\[2.0ex]
&= \sqrt{2}v
\end{aligned}
$$
斜めに進む波が壁にぶつかると、壁に沿って波が伝わっているように見えます。この「見かけの波」の波長と速さを求めます。作図をして三角形の辺の長さの関係(三角比)を使うと、見かけの波長が計算できます。速さは、その波長を周期で割れば求まります。
壁面上の波の波長は \(\lambda_s = \sqrt{2}\lambda\)、速さは \(v_s = \sqrt{2}v\) です。入射波の波長\(\lambda\)、速さ\(v\)と比較すると、それぞれ\(\sqrt{2}\)倍になっています。これは、波が斜めに壁に当たることで、壁に沿った成分が引き伸ばされるためであり、妥当な結果です。
問(6)
思考の道筋とポイント
領域Bで観測される定在波の節の位置について考えます。まず、節と節の間隔(節線間距離)\(\Delta x\)を、作図によって波長\(\lambda’\)と屈折角\(\theta’\)を用いて表します。次に、問題文の条件「壁面での反射は自由端反射」「境界面の節が壁面から数えて7番目」を用いて、境界面と壁面の距離\(L\)を\(\Delta x\)で表し、最終的に\(\lambda\)で表します。
この設問における重要なポイント
- 定在波の節線間隔の作図による導出方法を理解していること。
- 自由端反射では反射点が「腹」になることを理解していること。
- 腹と隣接する節の間の距離が、節線間隔の半分になることを理解していること。
具体的な解説と立式
Step 1: 節線間距離 \(\Delta x\) を求める
模範解答の図dのように、入射波(屈折波)と反射波の波面を考えます。2つの波が弱め合ってできる節線の間隔を\(\Delta x\)とすると、図の菱形の部分に着目することで、幾何学的に以下の関係が導かれます。
$$2\Delta x \cos \theta’ = \lambda’$$
ここで \(\theta’ = 30^\circ\) です。
Step 2: 距離 \(L\) を \(\Delta x\) で表す
壁面での反射は自由端反射なので、壁面は定在波の「腹」(振動が最大になる場所)となります。定在波では、腹とそれに最も近い節の間の距離は、節と節の間の距離\(\Delta x\)の半分、つまり \(\displaystyle\frac{\Delta x}{2}\) です。
問題文より、境界面上の節は、壁面から数えて7番目の節です。壁面(腹)から1番目の節までの距離が \(\displaystyle\frac{\Delta x}{2}\)、その後は\(\Delta x\)間隔で節が並ぶので、1番目の節から7番目の節までの距離は \(6\Delta x\) となります。
したがって、壁面から境界面(7番目の節)までの総距離\(L\)は、
$$
\begin{aligned}
L &= \frac{\Delta x}{2} + 6\Delta x \\[2.0ex]
&= \frac{13}{2}\Delta x
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 定在波の節線間隔の条件式(作図より)
- 自由端反射の条件(壁面が腹)
まず、Step 1の式から \(\Delta x\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\Delta x &= \frac{\lambda’}{2\cos 30^\circ} \\[2.0ex]
&= \frac{\lambda’}{2 \cdot (\sqrt{3}/2)} \\[2.0ex]
&= \frac{\lambda’}{\sqrt{3}} \\[2.0ex]
\text{ここで \(\lambda’ = \displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}}\lambda\) を代入して、} & \\[2.0ex]
\Delta x &= \frac{1}{\sqrt{3}} \left( \frac{1}{\sqrt{2}}\lambda \right) \\[2.0ex]
&= \frac{\lambda}{\sqrt{6}}
\end{aligned}
$$
次に、この\(\Delta x\)をStep 2で立てた\(L\)の式に代入します。
$$
\begin{aligned}
L &= \frac{13}{2}\Delta x \\[2.0ex]
&= \frac{13}{2} \cdot \frac{\lambda}{\sqrt{6}} \\[2.0ex]
&= \frac{13\lambda}{2\sqrt{6}}
\end{aligned}
$$
まず、干渉によってできる定在波の「節のしま模様」の間隔(\(\Delta x\))を、作図と三角比を使って計算します。次に、壁は「腹」(最も大きく振動する場所)で、境界面が7番目の「節」(全く振動しない場所)であるという条件を使います。腹から1番目の節までの距離は間隔の半分で、その後は等間隔で節が並ぶので、全ての距離を足し合わせることで、壁から境界面までの距離\(L\)が計算できます。
境界面と壁面の距離は \(L = \displaystyle\frac{13\lambda}{2\sqrt{6}}\) です。問題で与えられたすべての条件を組み合わせて導出した結果であり、妥当です。
問(7)
思考の道筋とポイント
領域Aでも、領域Bと同様に定在波が形成されると考えます。領域Bとの違いは、波長が\(\lambda\)であり、波面と境界面のなす角が\(45^\circ\)である点です。問(6)で用いたのと同じ作図と幾何学的関係を用いて、領域Aでの節線間距離\(d\)を求めます。
この設問における重要なポイント
- 問(6)の考え方を、異なるパラメータ(波長、角度)を持つ領域Aに適用できること。
- 節線間隔を求める幾何学的な関係式を正しく立てられること。
具体的な解説と立式
領域Aにおいても、入射波と反射波が干渉して定在波が形成されます。
領域Aでは、波長は\(\lambda\)、波面と境界面(または壁面と平行な線)のなす角は\(45^\circ\)です。
問(6)の図dと同様の作図を領域Aについて行うと、隣り合う節線間の距離を\(d\)として、以下の関係式が成り立ちます。
$$2d \cos 45^\circ = \lambda$$
使用した物理公式
- 定在波の節線間隔の条件式(作図より)
上の式を\(d\)について解きます。
$$d = \frac{\lambda}{2\cos 45^\circ}$$
\(\cos 45^\circ = \displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}}\) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
d &= \frac{\lambda}{2 \cdot (1/\sqrt{2})} \\[2.0ex]
&= \frac{\lambda}{\sqrt{2}}
\end{aligned}
$$
領域Aでも、領域Bと同じように干渉による定在波ができます。ただし、波長と角度が異なります。領域Bのときと同じように、作図から節と節の間隔\(d\)を計算する式を立て、値を代入して計算します。
領域Aにおける節線間距離は \(d = \displaystyle\frac{\lambda}{\sqrt{2}}\) です。領域Bの節線間隔 \(\Delta x = \displaystyle\frac{\lambda}{\sqrt{6}}\) と比較すると、\(d > \Delta x\) となります。これは、領域Aの方が波長が長く(\(\lambda > \lambda’\))、また干渉の角度に関連する\(\cos\)の値が小さいため(\(\cos 45^\circ < \cos 30^\circ\))、間隔が広くなるという物理的に妥当な結果です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 波の基本法則と屈折の法則:
- 核心: 波の運動を記述する最も基本的な関係式 \(v=f\lambda\) と、異なる媒質へ進む際のルールである屈折の法則 \(n_{12} = \displaystyle\frac{v_1}{v_2} = \frac{\sin\theta_1}{\sin\theta_2}\) が、この問題の前半部分を貫く根幹です。
- 理解のポイント: 特に重要なのは、屈折が起きても波源の振動数は変わらないため、振動数\(f\)と周期\(T\)は不変であるという点です。速さ\(v\)が変化すると、それに伴って波長\(\lambda\)が \(v\) に比例して変化します (\(\lambda = vT\))。この「変わるもの」と「変わらないもの」の区別が、(1)~(4)を解く上での絶対的な基礎となります。
- 波の干渉と定在波の幾何学的条件:
- 核心: 入射波と反射波が重なり合うことで、特定の場所に常に振動しない「節」と、常に最大振幅で振動する「腹」が並ぶ定在波が形成されます。この問題の後半は、この定在波の幾何学的配置を解き明かすことにあります。
- 理解のポイント: 節線(節が連なった線)の間隔は、元の波の波長と干渉する角度によって決まります。問題の図dのように、入射波と反射波の波面を作図し、菱形の幾何学的関係から \(2\Delta x \cos\theta’ = \lambda’\) のような条件式を導出する能力が求められます。これは暗記するのではなく、その場で図を描いて導出できるようにしておくことが重要です。
- 反射の境界条件(自由端反射):
- 核心: 波が反射する際の境界の性質が、定在波の腹と節の配置を決定します。「自由端反射」の場合、反射点は媒質が自由に振動できるため、定在波の「腹」になります。
- 理解のポイント: (6)では、壁面が「腹」になるという条件が、節の位置を特定するための出発点となります。腹と最初の節までの距離は節線間隔の半分 (\(\Delta x/2\)) であることを理解し、そこから節の数を数えて全体の距離を計算する、という論理の流れが鍵となります。もしこれが「固定端反射」であれば、反射点は「節」となり、計算の仕方が変わってきます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 光の干渉(薄膜、ヤングの実験、回折格子): 光も波であり、屈折・反射・干渉を起こします。本問の定在波の考え方は、薄膜による光の干渉で、膜の表と裏で反射した光が干渉する問題と構造が似ています。節線間隔を求める幾何学的な考え方は、ヤングの実験や回折格子で干渉縞の間隔を求める際にも応用できます。
- 音波の干渉(気柱の共鳴、うなり): 音波も同様に定在波を形成します。気柱の共鳴は、管の中で反射した音波が干渉して定在波ができる現象であり、開口端が「腹」(自由端相当)、閉口端が「節」(固定端相当)となる境界条件が重要です。
- ドップラー効果と組み合わせた問題: 波源や観測者が移動する場合、観測される振動数が変化します。屈折や反射とドップラー効果が組み合わさった複雑な問題も考えられます。
- 初見の問題での着眼点:
- 現象の分解: 問題文が複雑な場合、どのような物理現象が順番に起きているかを分解します。この問題では、「①領域Aを進む \(\rightarrow\) ②境界面で屈折 \(\rightarrow\) ③領域Bを進む \(\rightarrow\) ④壁面で反射 \(\rightarrow\) ⑤屈折波と反射波が干渉」という流れを把握します。
- 各領域・各現象でのパラメータ整理: 領域AとBで、速さ、波長、角度がそれぞれどうなっているかを一覧表のように整理すると混乱を防げます。また、屈折の前後で何が変わり、何が変わらないかを明確に意識します。
- 作図の活用: 特に干渉の問題では、波面や進行方向を模式的に作図することが極めて有効です。作図によって、角度や波長、節線間隔などの幾何学的な関係性が視覚的に明らかになります。
- 境界条件の確認: 「自由端反射」か「固定端反射」か、「境界面に節がある」など、問題文に書かれている境界条件は、方程式を立てる上で決定的な制約となります。これらの条件を見落とさないように注意深く読み取ります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 入射角・屈折角の誤認:
- 誤解: 屈折の法則で使う角度は、常に境界面の法線と波の進行方向のなす角です。問題によっては本問のように「波面と境界面のなす角」が与えられます。今回はこれがたまたま入射角と等しくなりますが、常にそうとは限りません。
- 対策: 必ず図を描き、定義通りの入射角・屈折角がどこになるかを確認する習慣をつけましょう。波の進行方向は波面と垂直であるという基本を忘れないことが重要です。
- 屈折時の不変量の混同:
- 誤解: 屈折すると速さが変わるため、周期や振動数も変わってしまうと勘違いする。
- 対策: 「波のリズム(振動数・周期)は波源で決まる」と覚えましょう。媒質が変わっても、1秒間に送り込まれる波の数は変わらないため、振動数\(f\)は不変です。これが物理的な本質です。
- 自由端反射と固定端反射の混同:
- 誤解: (6)で壁面を「節」だと勘違いして、距離\(L\)を \(7\Delta x\) などと計算してしまう。
- 対策: 「自由端 \(\rightarrow\) 腹」「固定端 \(\rightarrow\) 節」という対応関係を明確に暗記しましょう。なぜそうなるか(自由端は動きやすいから振幅最大、固定端は動けないから振幅ゼロ)という理由付けと共に理解すると忘れにくくなります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(v=f\lambda\) (波の基本式):
- 選定理由: 波の3つの基本パラメータ(速さ、振動数、波長)の関係を問うているため。特に(1)や(4)で、未知のパラメータを既知のパラメータから導出する際に必須です。
- 適用根拠: 波という現象の定義そのものです。
- 屈折の法則:
- 選定理由: 波が異なる媒質(領域AとB)の境界面を通過する現象を扱っているため。速さ、角度、屈折率の関係を明らかにする唯一の法則です。
- 適用根拠: 媒質が変わっても波面の接続が保たれる(ホイヘンスの原理)という物理的要請に基づきます。
- 定在波の幾何学的条件(作図):
- 選定理由: (6)と(7)で「節線間隔」という、干渉によって生じる空間的なパターンを問われているため。単純な公式ではなく、作図による幾何学的考察が必要です。
- 適用根拠: 入射波と反射波の位相が常に逆になる点が「節」である、という干渉の原理に基づきます。作図は、この位相条件を満たす点の集合(節線)を見つけるための手段です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- パラメータの混同:
- 特に注意すべき点: この問題は \(v, v’\), \(\lambda, \lambda’\), \(T, T’\), \(\theta, \theta’\) など似た記号が多く登場します。計算の各段階で、今使っているのが領域AのパラメータなのかBのパラメータなのかを常に意識しましょう。
- 日頃の練習: 途中式で用いる文字がどの領域のものか、都度確認する癖をつける。
- 三角比の値の正確性:
- 特に注意すべき点: \(\sin 30^\circ, \cos 30^\circ, \sin 45^\circ, \cos 45^\circ\) などの基本的な三角比の値を正確に使うことが必須です。
- 日頃の練習: うろ覚えの場合は、単位円や直角三角形を描いて確認する癖をつけましょう。
- 代入のタイミング:
- 特に注意すべき点: (6)のように複数のステップを踏む計算では、一気に代入しようとせず、一つずつ式を整理しながら進めると、間違いが減り見通しが良くなります。また、計算の途中では必ずしも有理化する必要はありません。最終的な答えを出す段階で十分です。
- 日頃の練習: 複雑な計算では、まず中間的な量(この問題では\(\Delta x\))を求め、それを最終的な式に代入するという段階的な解法を意識する。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (2) \(v’ < v\): 水深が浅くなると速さが遅くなる、という直感や経験則と一致します。
- (3) \(\theta’ < 45^\circ\): 速さが遅い媒質に入るとき、波は法線に近づくように屈折します。入射角より屈折角が小さくなるという結果は物理的に正しいです。
- (4) \(\lambda’ < \lambda\): 周期が一定で速さが遅くなるので、1周期に進む距離(波長)が短くなるのは当然です。
- (5) \(v_s > v\): 壁面を滑る見かけの速さ\(v_s\)は、実際の波の速さ\(v’\)を \(\sin\theta’\) で割ったもの (\(v_s = v’/\sin\theta’\)) です。\(\sin\theta’ < 1\) なので、\(v_s > v’\) となります。今回のケースでは、元の速さ\(v\)よりも速くなっており、これも幾何学的に妥当な結果です。
- 極端な場合や既知の状況との比較:
- もし波が境界面に垂直に入射した場合 (\(45^\circ \rightarrow 0^\circ\))、屈折は起こらず直進し(\(\theta’ = 0^\circ\))、干渉による節線は境界面と平行に、間隔\(\lambda’/2\)で生じるはずです。本問の \(2\Delta x \cos\theta’ = \lambda’\) の式で \(\theta’ \rightarrow 0\) とすると、\(\Delta x = \lambda’/2\) となり、既知の事実と一致します。このような思考実験は、式の妥当性を確認するのに役立ちます。
問題82 (東京大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、水面波を題材に、反射、屈折、干渉、そしてドップラー効果という波の性質を総合的に問うています。前半〔A〕では静止した波源について、後半〔B〕では運動する波源について考察します。
この問題の核心は、それぞれの物理現象に対応する法則を正確に理解し、幾何学的な考察や座標を用いて、波の振る舞いを数式で表現することです。
- 媒質: 領域A(\(y>0\))と領域B(\(y<0\))の2つ。
- 波の速さ: 領域Aで\(V\)、領域Bで\(V/2\)。
- 反射: 境界(\(x\)軸)で位相変化なし(自由端反射)。
- 波源:
- 〔A〕: 点P\((0, d)\)に静止。
- 〔B〕: 〔A〕と同じ振動数の波源が運動する。
- その他:
- 〔A〕(1): 領域Aでの波長は\(d/2\)。
- 〔A〕(2): 波の速さ\(v\)は\(v=g^a h^b\)で表される。
- 〔B〕(1): 波源は\(y\)軸上を速さ\(u\)で、観測点は\(y\)軸上を速さ\(w\)で運動。
- 〔B〕(2): 波源は直線\(y=d\)上を速さ\(u\)で運動。
- 〔A〕(1) 領域Aでの振動数\(f\)と、領域Bでの波長\(\lambda_B\)。
- 〔A〕(2) 定数\(a, b\)の値と、領域AとBの水深の比。
- 〔A〕(3) 反射経路長\(PQ+QR\)。
- 〔A〕(4) 直線\(y=d\)上で弱めあう条件と、その点の個数。
- 〔A〕(5) 領域Bの特定の波面の交点S, Tの座標と、点Tでの屈折角の\(\sin\)の値。
- 〔B〕(1) 波源で観測される反射波の振動数と、領域Bの点で観測される波の振動数。
- 〔B〕(2) 波が反射して波源に戻るまでの時間。
- 〔B〕(3) 波源に戻った波が逆位相になる条件と、それを満たす速さ\(u\)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 〔A〕問(4) 個数の別解: 節線の作図を利用する解法
- 主たる解法が、直接波と反射波の経路差を計算し、弱め合いの条件を満たす点の数を代数的な不等式で解くのに対し、別解では波源と仮想波源がつくる定在波の節線が、観測点の存在する直線と何回交わるか、という幾何学的な考え方で解きます。
- 〔A〕問(4) 個数の別解: 節線の作図を利用する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理イメージの深化: 2つの波源による干渉が、空間にどのような定在波のパターン(腹線・節線)を作るかを視覚的に理解することができます。
- 解法の多角化: 経路差の計算や不等式の評価が複雑な問題においても、幾何学的な考察から答えに見当をつけたり、検算したりする能力が養われます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「波の諸性質の統合的理解」です。反射・屈折・干渉・ドップラー効果という4大テーマが1つの問題に凝縮されています。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 波の基本式: \(v=f\lambda\)は全ての波の問題の基本です。
- 反射の法則と仮想波源: 反射波は、境界面に対して波源と線対称の位置にある「仮想波源」から出たように振る舞います。これにより、反射波の経路長計算が単純な直線距離の計算に置き換わります。
- 波の干渉: 2つの波が重なる点での強め合い・弱め合いは、波源からの経路差によって決まります。経路差が半波長の奇数倍なら弱め合い、整数倍なら強め合いです。
- 屈折の法則: 媒質が変わる境界で波の進行方向が変わる現象です。振動数は不変ですが、速さと波長は変化します。
- ドップラー効果: 波源や観測者が運動することで、観測される振動数が変化します。それぞれの速度の向き(近づくか遠ざかるか)を正しく式に反映させることが重要です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 〔A〕では、まず波の基本式から始め、仮想波源の考え方を用いて反射と干渉の問題を解きます。幾何学的な関係を座標で表現する能力が問われます。
- 〔A〕(5)では、屈折の法則と波の位相(同位相の点は波源から波長の整数倍の距離にある)の概念を組み合わせて解きます。
- 〔B〕では、ドップラー効果の公式を様々な状況に適用します。音源と観測者の相対的な速度を正しく設定することが鍵です。
- 最後の〔B〕(2),(3)は、運動する波源からの波が反射して戻ってくるという時空の幾何学的な問題です。三平方の定理と、位相の関係(時間差が周期の整数倍か半整数倍か)を結びつけて解きます。
〔A〕(1)
思考の道筋とポイント
領域Aにおいて、波の速さ\(V\)、波長\(\lambda_A\)、振動数\(f\)の関係を、波の基本公式\(v=f\lambda\)に当てはめて考えます。問題文で与えられた速さ\(V\)と波長\(\lambda_A = d/2\)を用いて、振動数\(f\)を求めます。次に、領域Bでは速さが\(V/2\)に変わりますが、波源は同じなので振動数\(f\)は変わりません。この不変量である振動数\(f\)と領域Bでの速さを用いて、領域Bでの波長\(\lambda_B\)を計算します。
この設問における重要なポイント
- 波の基本公式\(v=f\lambda\)を正しく適用できること。
- 屈折(媒質が変わること)が起きても、波源が同じなら振動数\(f\)は変化しないことを理解していること。
具体的な解説と立式
領域Aにおける波の速さは\(V_A=V\)、波長は\(\lambda_A = d/2\)です。求める振動数を\(f\)とすると、波の基本公式より、
$$V_A = f \lambda_A$$
領域Bにおける波の速さは\(V_B = V/2\)、波長を\(\lambda_B\)とします。波源は同じなので、振動数は領域Aと同じ\(f\)です。したがって、領域Bにおいても波の基本公式が成り立ちます。
$$V_B = f \lambda_B$$
使用した物理公式
- 波の基本式: \(v=f\lambda\)
- 屈折における振動数の不変性
まず、領域Aの式から振動数\(f\)を求めます。
$$V = f \cdot \frac{d}{2}$$
これを\(f\)について解くと、
$$f = \frac{2V}{d}$$
次に、この\(f\)を用いて領域Bの波長\(\lambda_B\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
\lambda_B &= \frac{V_B}{f} \\[2.0ex]
&= \frac{V/2}{2V/d} \\[2.0ex]
&= \frac{V}{2} \cdot \frac{d}{2V} \\[2.0ex]
&= \frac{d}{4}
\end{aligned}
$$
まず、領域Aでの「速さ」と「波長」が分かっているので、波の基本ルールを使って「振動数」を計算します。波が領域Bに入ると、水深が変わるため「速さ」は変わりますが、波を送り出す「振動数」は変わりません。この変わらない振動数と、領域Bでの新しい速さを使って、領域Bでの「波長」を計算します。
領域Aでの振動数は \(f = \displaystyle\frac{2V}{d}\)、領域Bでの波長は \(\lambda_B = \displaystyle\frac{d}{4}\) です。領域Bでは速さが半分になるため、振動数が一定なら波長も半分(\(d/2 \rightarrow d/4\))になるはずで、物理的に妥当な結果です。
〔A〕(2)
思考の道筋とポイント
与えられた関係式 \(v=g^a h^b\) の両辺で単位が等しくなるはずだ、という「次元解析」の手法を用います。速さ\(v\)、重力加速度\(g\)、水深\(h\)の単位(それぞれ \([\text{m/s}]\), \([\text{m/s}^2]\), \([\text{m}]\))を代入し、両辺のメートル\([\text{m}]\)と秒\([\text{s}]\)の指数(べき乗)が等しくなるように連立方程式を立てて、\(a\)と\(b\)を求めます。
後半は、求めた\(v\)と\(h\)の関係式を領域Aと領域Bにそれぞれ適用し、速さの比から水深の比を計算します。
この設問における重要なポイント
- 次元解析(単位の比較)によって物理法則の係数を決定する手法を理解していること。
- 指数の計算を正確に行えること。
具体的な解説と立式
関係式 \(v=g^a h^b\) の両辺の単位を比較します。
- 左辺(速さ \(v\))の単位: \([\text{m} \cdot \text{s}^{-1}]\)
- 右辺(\(g^a h^b\))の単位: \(([\text{m} \cdot \text{s}^{-2}])^a \cdot ([\text{m}])^b = [\text{m}^a \cdot \text{s}^{-2a}] \cdot [\text{m}^b] = [\text{m}^{a+b} \cdot \text{s}^{-2a}]\)
両辺の単位は等しいはずなので、それぞれの指数を比較します。
- 秒\([\text{s}]\)の指数: \(-1 = -2a\)
- メートル\([\text{m}]\)の指数: \(1 = a+b\)
この連立方程式を解いて\(a, b\)を求めます。
次に、領域AとBの水深をそれぞれ\(h_A, h_B\)とします。求めた関係式より、
- 領域Aの速さ: \(V = \sqrt{gh_A}\)
- 領域Bの速さ: \(V/2 = \sqrt{gh_B}\)
この2式の比をとることで、水深の比 \(\displaystyle\frac{h_A}{h_B}\) を求めます。
使用した物理公式
- 次元解析
- 問題文で与えられた関係式: \(v=g^a h^b\)
まず、連立方程式を解きます。
\(-1 = -2a\) より、\(a = \displaystyle\frac{1}{2}\)。
これを \(1 = a+b\) に代入すると、\(1 = \displaystyle\frac{1}{2} + b\)、よって \(b = \displaystyle\frac{1}{2}\)。
したがって、関係式は \(v=\sqrt{gh}\) となります。
次に、水深の比を求めます。
$$
\begin{aligned}
\frac{V}{V/2} &= \frac{\sqrt{gh_A}}{\sqrt{gh_B}} \\[2.0ex]
2 &= \sqrt{\frac{h_A}{h_B}}
\end{aligned}
$$
両辺を2乗すると、
$$\frac{h_A}{h_B} = 4$$
物理の式では、イコールの左側と右側で単位が必ず一致します。このルールを使って、速さの単位 \([\text{m/s}]\) が、重力加速度 \([\text{m/s}^2]\) と水深 \([\text{m}]\) の組み合わせでどう表現されるかを考え、\(a, b\) の値を特定します。
後半は、見つかった「速さは水深の平方根に比例する」という関係を使い、速さが2倍違う領域AとBでは、水深は何倍違うかを計算します。
\(a=1/2, b=1/2\) であり、領域Aの水深は領域Bの4倍です。速さが2倍になるためには、関係式 \(v \propto \sqrt{h}\) より水深が\(2^2=4\)倍必要だという結果は、物理的に整合性がとれており妥当です。
〔A〕(3)
思考の道筋とポイント
反射波の経路を考える問題では、「仮想波源」の考え方が非常に有効です。反射波は、境界面(\(x\)軸)に関して波源Pと対称な点P’から発せられたように見えます。これにより、折れ線P-Q-Rの長さは、直線P’-Rの長さに等しくなります。点P’の座標を求め、2点P’とRの間の距離を三平方の定理で計算します。
この設問における重要なポイント
- 反射波が仮想波源から来たように見えるという「仮想波源法」を理解し、適用できること。
- 座標平面上での2点間の距離の公式(三平方の定理)を正しく使えること。
具体的な解説と立式
波源Pの座標は\((0, d)\)です。境界面は\(x\)軸なので、Pの\(x\)軸に関する対称点である仮想波源P’の座標は\((0, -d)\)となります。
反射波はP’から直進して点R\((x, y)\)に到達するように見えるため、反射経路長\(PQ+QR\)は、仮想波源P’から点Rまでの直線距離P’Rと等しくなります。
$$PQ+QR = P’R$$
2点 P’\((0, -d)\) と R\((x, y)\) の間の距離は、三平方の定理より、
$$P’R = \sqrt{(x-0)^2 + (y-(-d))^2}$$
使用した物理公式
- 仮想波源の原理
- 三平方の定理(2点間の距離の公式)
立式したものを整理します。
$$
\begin{aligned}
PQ+QR &= \sqrt{(x-0)^2 + (y-(-d))^2} \\[2.0ex]
&= \sqrt{x^2 + (y+d)^2}
\end{aligned}
$$
鏡に映った自分の姿は、鏡の向こう側の同じ距離の場所にいるように見えます。これと同じで、反射した波は、境界面という鏡の向こう側にある「仮想の波源」からまっすぐ飛んできたように見えます。この考え方を使うと、面倒な折れ線の長さの計算が、単純な2点間の直線距離の計算に変わります。
距離は \(\sqrt{x^2 + (y+d)^2}\) となります。これは仮想波源P’と点Rの距離そのものであり、正しく計算できています。
〔A〕(4)
思考の道筋とポイント
2つの波が弱めあう条件は、経路差が半波長\(\lambda/2\)の奇数倍になることです。直線\(y=d\)上の点\((x, d)\)において、波源Pから直接届く波(直接波)と、境界で反射して届く波(反射波)の経路差を求め、弱め合いの条件式を立てます。
経路差は、(反射波の経路長) – (直接波の経路長) で計算します。反射波の経路長は(3)の結果を利用します。
個数を数えるには、条件式を満たす整数\(n\)がいくつ存在するかを考えます。
この設問における重要なポイント
- 波の干渉における弱め合いの条件(経路差 = \((n+1/2)\lambda\))を理解していること。
- 直接波と反射波の経路長を正しく計算し、その差をとれること。
具体的な解説と立式
直線\(y=d\)上の点\((x, d)\)を考えます。
- 直接波の経路長: P\((0, d)\)から\((x, d)\)までの距離なので、\(|x|\)。
- 反射波の経路長: (3)の公式で \(y=d\) とすると、\(\sqrt{x^2 + (d+d)^2} = \sqrt{x^2 + (2d)^2}\)。
したがって、経路差\(\Delta l\)は、
$$\Delta l = \sqrt{x^2 + (2d)^2} – |x|$$
弱め合いの条件は、経路差が波長\(\lambda_A\)の半整数倍であることです。波長は\(\lambda_A = d/2\)なので、
$$\sqrt{x^2 + (2d)^2} – |x| = \left(n + \frac{1}{2}\right) \frac{d}{2} \quad (n=0, 1, 2, \dots)$$
使用した物理公式
- 波の干渉条件(弱め合い): 経路差 = \((n+1/2)\lambda\)
弱めあう点の個数を数えます。
条件式を満たす\(x\)が存在するためには、経路差\(\Delta l\)が取りうる値の範囲を調べる必要があります。
- \(x \rightarrow \pm\infty\) のとき、\(\Delta l \rightarrow 0\)。
- \(x = 0\) のとき、\(\Delta l = \sqrt{(2d)^2} – 0 = 2d\)。
よって、経路差\(\Delta l\)の範囲は \(0 < \Delta l \le 2d\) です。
この範囲に、弱め合いの条件 \(\Delta l = (n+1/2)d/2\) が入るような整数\(n\)を探します。
$$0 < \left(n + \frac{1}{2}\right) \frac{d}{2} \le 2d$$
両辺を\(d/2\)で割ると、
$$0 < n + \frac{1}{2} \le 4$$
辺々から\(1/2\)を引くと、
$$-0.5 < n \le 3.5$$
この範囲にある整数\(n\)は \(n=0, 1, 2, 3\) の4つです。
\(n\)が1つ決まると、それに対応する\(x\)の値は、\(\sqrt{x^2 + (2d)^2} – |x| = C\) という形の方程式から、\(|x|\)について解くと一つの正の値が求まるため、\(x\)は正負で2つ存在します。
したがって、\(n=0, 1, 2, 3\) のそれぞれに対して2つずつ点が存在するので、合計で \(4 \times 2 = 8\) 個の点が存在します。
直接届く波と反射して届く波では、進む距離が異なります。この「経路の差」によって、波が強め合ったり弱め合ったりします。弱め合う条件は「経路差が、波長の半分、1.5倍、2.5倍、…」となることです。この条件を満たす点が、直線上(\(y=d\))に何個存在するかを、経路差が取りうる値の範囲(\(x=0\)のとき最大、\(x\)が無限に大きいときゼロ)から絞り込んで数え上げます。
弱めあう条件は \(\sqrt{x^2 + (2d)^2} – |x| = (n + 1/2)d/2\) で、点は合計8個存在します。経路差が取りうる値の範囲を正しく評価し、条件を満たす整数解の個数を数えることで、論理的に答えを導くことができました。
思考の道筋とポイント
波源Pと仮想波源P’の2つの波源からの波が干渉し、空間に定在波の腹と節ができると考えます。PとP’を結ぶ線分上(\(y\)軸上)の腹と節の配置を考え、そこから双曲線状の節線が伸びていく様子をイメージします。直線\(y=d\)が、これらの節線と何回交わるかを数えます。
この設問における重要なポイント
- 2つの同位相波源による干渉のイメージを理解していること。
- 定在波の腹と節が波長の半分ごとに交互に現れることを知っていること。
具体的な解説と立式
波源P\((0, d)\)と仮想波源P’\((0, -d)\)を考えます。反射は位相変化がない(自由端反射と見なせる)ため、この2つの波源は同位相です。
PとP’を結ぶ線分PP’上(\(y\)軸上)で、2つの波は強め合ったり弱め合ったりします。
- 中点O\((0, 0)\)は経路差が0なので「腹」。
- PとP’自身は波源なので、そのすぐ近くは強め合います。
腹と腹の間隔は\(\lambda_A/2 = (d/2)/2 = d/4\)です。
線分OPの長さは\(d\)であり、これは波長\(\lambda_A\)の2倍です (\(d = 2\lambda_A\))。
線分OP間(\(0 < y < d\))で、腹の位置は \(y=d/4, d/2, 3d/4\)の3点です。
節は腹と腹の中間にできるので、節の位置は \(y=d/8, 3d/8, 5d/8, 7d/8\)の4点です。
これらの節から双曲線状の節線が左右に伸びていきます。直線\(y=d\)は、波源Pを通る水平線であり、P’から遠ざかる方向に伸びるこれらの4本の節線すべてと左右1回ずつ、合計8回交わります。
使用した物理公式
- 定在波の腹・節の間隔: \(\lambda/2\)
(上記解説に含む)
2つのスピーカーの間に立つと、音が大きくなったり小さくなったりする場所があります。これと同じで、波源Pと仮想波源P’の間には、波が打ち消しあう「節」の場所ができます。PとP’の間にできる節は4つあり、そこから静かな場所が線のように左右に伸びていきます(節線)。この4本の線が、目的の直線(\(y=d\))とそれぞれ左右で1回ずつ交わるので、合計8個の弱めあう点が見つかります。
主たる解法と完全に同じ結果「8個」が得られました。代数的な計算と幾何学的なイメージの両方で同じ結論に至ることで、答えの妥当性がより確かなものになります。
〔A〕(5)
思考の道筋とポイント
「波源と同じ位相」とは、波源Pからの距離が波長\(\lambda_A\)の整数倍である点の集まり(同心円)か、波源Pから整数周期分の時間で到達できる点の集まりを意味します。
問題文の「領域Bにおいて波源と同じ位相をもつ波面のうち、原点Oから見て最も内側のもの」を解釈します。原点OはPから\(d=2\lambda_A\)の距離にあり、Pから2周期で波が到達します。この波が領域Bに進むため、問題の波面は、Pから3周期分の時間が経過した波面と考えられます。
この解釈に基づき、点SとTの座標、そして屈折角\(\theta\)を求めます。
この設問における重要なポイント
- 同位相の点が波源から波長の整数倍の距離にある、または整数周期の時間で到達できる点であることを理解していること。
- 領域をまたぐ波の位相を追跡するには、距離ではなく時間で考えるのが有効であること。
- 幾何学的な関係(三平方の定理)と物理法則(屈折の法則)を組み合わせられること。
具体的な解説と立式
1. 点Tの座標: 点Tは、Pから3周期(\(3T\))の時間で波が到達する、\(x\)軸上の点です。領域Aのみを進むので、距離は \(PT = V \times 3T\)。周期\(T=1/f = d/(2V)\)なので、\(PT = V \cdot 3 \cdot d/(2V) = 3d/2\)。点Tの座標を\((x_T, 0)\)とすると、\(\triangle POT\)で三平方の定理より \(PT^2 = OT^2 + PO^2\)。
$$\left( \frac{3d}{2} \right)^2 = x_T^2 + d^2$$
2. 点Sの座標: 点Sは、Pから3周期の時間で波が到達する、\(y\)軸上の点です。波はPからOまで領域Aを進み、OからSまで領域Bを進みます。
$$t_{PS} = t_{PO} + t_{OS} = \frac{PO}{V} + \frac{OS}{V/2} = \frac{d}{V} + \frac{|y_S|}{V/2}$$
この時間が3周期 \(3T = 3d/(2V)\) に等しいので、
$$\frac{d}{V} + \frac{2|y_S|}{V} = \frac{3d}{2V}$$
3. \(\sin\theta\)の計算: 屈折の法則を点Tに適用します。入射角を\(\phi\)、屈折角を\(\theta\)とすると、
$$\frac{\sin\phi}{\sin\theta} = \frac{V_A}{V_B} = \frac{V}{V/2} = 2$$
図より、入射光線はPT、法線はy軸なので、\(\phi\)はPTとy軸のなす角です。よって \(\sin\phi = \displaystyle\frac{OT}{PT}\)。
使用した物理公式
- 同位相の条件: 時間 = \(mT\)
- 三平方の定理
- 屈折の法則
まず、点Tの\(x\)座標 \(x_T = OT\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
x_T^2 &= \left(\frac{3d}{2}\right)^2 – d^2 \\[2.0ex]
&= \frac{9d^2}{4} – \frac{4d^2}{4} \\[2.0ex]
&= \frac{5d^2}{4}
\end{aligned}
$$
よって、
$$x_T = \frac{\sqrt{5}d}{2}$$
Tの座標は \((\displaystyle\frac{\sqrt{5}d}{2}, 0)\)。
次に、点Sの\(y\)座標を求めます。
$$
\begin{aligned}
\frac{d}{V} + \frac{2|y_S|}{V} &= \frac{3d}{2V} \\[2.0ex]
d + 2|y_S| &= \frac{3d}{2} \\[2.0ex]
2|y_S| &= \frac{d}{2} \\[2.0ex]
|y_S| &= \frac{d}{4}
\end{aligned}
$$
Sは\(y<0\)の領域にあるので、座標は\((0, -d/4)\)。
最後に、\(\sin\phi\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
\sin\phi &= \frac{OT}{PT} \\[2.0ex]
&= \frac{\sqrt{5}d/2}{3d/2} \\[2.0ex]
&= \frac{\sqrt{5}}{3}
\end{aligned}
$$
屈折の法則から\(\sin\theta\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
\sin\theta &= \frac{\sin\phi}{2} \\[2.0ex]
&= \frac{\sqrt{5}/3}{2} \\[2.0ex]
&= \frac{\sqrt{5}}{6}
\end{aligned}
$$
波の「同じ顔」(同位相)の場所を探します。波は一定のリズム(周期)で送り出されるので、3周期後の波の顔がどこにあるかを考えます。点Tまでは領域Aだけを進むので単純な距離計算、点Sまでは領域AとBの両方を進むので「かかった時間」で計算します。これによりSとTの座標がわかります。
次に、点Tで波が領域AからBへ入る瞬間に注目し、「屈折の法則」を使って、波の曲がり方(屈折角)を計算します。
Sの座標は\((0, -d/4)\)、Tの座標は\((\displaystyle\frac{\sqrt{5}d}{2}, 0)\)、\(\sin\theta = \displaystyle\frac{\sqrt{5}}{6}\)です。各ステップは基本的な物理法則と数学の組み合わせであり、論理的に妥当な結果です。
〔B〕(1)
思考の道筋とポイント
動く波源や観測者に関する問題なので、ドップラー効果の公式を適用します。速度の向きは「音源から観測者へ」を正とします。
まず、波源P(速さ\(u\)で上昇)から出て反射し、波源Pの位置で観測される反射波の振動数\(f_A\)を求めます。これは、観測者(P)と仮想波源(P’)が互いに運動している状況として捉えます。
次に、波源Pから出た波が、領域Bを速さ\(w\)で下降する観測点で観測される振動数\(f_B\)を求めます。これは、境界面を介した2段階のプロセスとして考えます。
この設問における重要なポイント
- ドップラー効果の公式 \(f’ = \displaystyle\frac{v-v_o}{v-v_s}f\) を正しく使えること。
- 音源と観測者の速度の符号(近づくか遠ざかるか)を正しく設定できること。
- 反射波や屈折波のドップラー効果を、仮想波源や境界面を介したプロセスとして分解して考えられること。
具体的な解説と立式
元の振動数を\(f = 2V/d\)とします。
反射波の振動数\(f_A\)
- 観測者: 波源P(y軸正の向きに速さ\(u\))
- 音源: 仮想波源P’(y軸負の向きに速さ\(u\))
- 音源P’から観測者Pへの向きはy軸正の向きです。この向きを正とします。
- 観測者の速度 \(v_o = +u\)
- 音源の速度 \(v_s = -u\)
- 媒質Aの音速は\(V\)。
ドップラー効果の公式より、
$$f_A = \frac{V – v_o}{V – v_s} f$$
領域Bでの振動数\(f_B\)
- 境界面Oが聞く振動数\(f_O\):
- 観測者: O(静止)
- 音源: P(y軸正の向きに速さ\(u\))
- 音源Pから観測者Oへの向きはy軸負の向きです。この向きを正とします。
- 観測者の速度 \(v_o = 0\)
- 音源の速度 \(v_s = -u\)
$$f_O = \frac{V – v_o}{V – v_s} f$$
- 観測点が聞く振動数\(f_B\):
- 音源: O(静止、振動数\(f_O\))
- 観測者: (y軸負の向きに速さ\(w\))
- 音源Oから観測者への向きはy軸負の向きです。この向きを正とします。
- 観測者の速度 \(v_o = +w\)
- 音源の速度 \(v_s = 0\)
- 媒質Bの音速は\(V/2\)。
$$f_B = \frac{V/2 – v_o}{V/2 – v_s} f_O$$
使用した物理公式
- ドップラー効果: \(f’ = \displaystyle\frac{v-v_o}{v-v_s}f\)
\(f_A\)の式に値を代入します。
$$
\begin{aligned}
f_A &= \frac{V – u}{V – (-u)} f \\[2.0ex]
&= \frac{V-u}{V+u}f \\[2.0ex]
&= \frac{V-u}{V+u}\frac{2V}{d}
\end{aligned}
$$
次に\(f_B\)を計算します。まず\(f_O\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
f_O &= \frac{V – 0}{V – (-u)} f \\[2.0ex]
&= \frac{V}{V+u}f
\end{aligned}
$$
次に\(f_B\)の式に値を代入します。
$$
\begin{aligned}
f_B &= \frac{V/2 – w}{V/2 – 0} f_O \\[2.0ex]
&= \frac{(V-2w)/2}{V/2} f_O \\[2.0ex]
&= \frac{V-2w}{V} f_O \\[2.0ex]
&= \frac{V-2w}{V} \left( \frac{V}{V+u}f \right) \\[2.0ex]
&= \frac{V-2w}{V+u} f \\[2.0ex]
&= \frac{V-2w}{V+u} \frac{2V}{d}
\end{aligned}
$$
救急車が近づくとサイレンが高く聞こえ、遠ざかると低く聞こえるのがドップラー効果です。この問題では、その公式を使います。反射波の場合は、観測者自身と、鏡に映った自分(仮想波源)が動いていると考えて計算します。領域Bの場合は、まず波源から境界面までで1回、次に境界面から観測点まででもう1回、と2段階でドップラー効果を考えます。速さの向きに注意することが重要です。
それぞれの振動数は、ドップラー効果の公式を正しく適用することで導出できました。特に速度の符号設定が重要ですが、物理的な状況(近づくか遠ざかるか)と結果が一致していることを確認できます。例えば\(f_A\)では波源と観測者が互いに遠ざかるため、振動数は元の\(f\)より小さくなっており、妥当です。
〔B〕(2)
思考の道筋とポイント
波源が速さ\(u\)で右向きに運動しながら波を出し、その波が\(x\)軸で反射して、運動している波源自身に戻ってくるまでの時間を求めます。
波が出た時刻を0、戻ってきた時刻を\(t’\)とします。この間に波源は\(ut’\)だけ進みます。
波が進んだ経路は、(A)(3)の仮想波源の考え方を使います。出発点P\(_1\)\((0, d)\)の仮想波源P\(_1\)’\((0, -d)\)から、到着点P\(_2\)\((ut’, d)\)まで、波が速さ\(V\)で\(t’\)秒間に進んだと考えられます。
この関係を三平方の定理で立式し、\(t’\)について解きます。
この設問における重要なポイント
- 運動する波源と反射波の問題を、時空の幾何学として捉えられること。
- 仮想波源の考え方を応用できること。
- (波の移動距離)=(速さ)×(時間)という基本的な関係を正しく立式できること。
具体的な解説と立式
時刻0に波源がP\(_1\)\((0, d)\)から波を出す。
時刻\(t’\)に、波源はP\(_2\)\((ut’, d)\)に移動しており、そこで反射波を受け取る。
この間、波は\(Vt’\)の距離を進んでいる。
この波の経路は、P\(_1\)の仮想波源P\(_1\)’\((0, -d)\)から、P\(_2\)\((ut’, d)\)までの直線距離に等しい。
三平方の定理より、この距離は \(\sqrt{(ut’-0)^2 + (d – (-d))^2} = \sqrt{(ut’)^2 + (2d)^2}\)。
したがって、以下の等式が成り立ちます。
$$Vt’ = \sqrt{(ut’)^2 + (2d)^2}$$
使用した物理公式
- 三平方の定理
- 距離 = 速さ × 時間
上の式を\(t’\)について解きます。まず両辺を2乗します。
$$
\begin{aligned}
V^2 t’^2 &= (ut’)^2 + (2d)^2 \\[2.0ex]
V^2 t’^2 &= u^2 t’^2 + 4d^2
\end{aligned}
$$
\(t’^2\)の項を左辺にまとめます。
$$
\begin{aligned}
(V^2 – u^2)t’^2 &= 4d^2 \\[2.0ex]
t’^2 &= \frac{4d^2}{V^2 – u^2}
\end{aligned}
$$
\(t’ > 0\) なので、平方根をとると、
$$t’ = \frac{2d}{\sqrt{V^2 – u^2}}$$
波が「出発」してから「戻ってくる」までの時間を考えます。この時間内に、波は壁で反射しながら進み、波源自身も横に移動しています。波が進んだ本当の距離は、仮想波源(出発点の鏡像)から、戻ってきた時の波源の位置までの直線距離になります。この距離と、「波の速さ×時間」が等しくなることを利用して、時間を計算します。
時間は \(\displaystyle\frac{2d}{\sqrt{V^2 – u^2}}\) となります。もし波源が静止していれば(\(u=0\))、時間は \(t’=2d/V\) となり、往復距離\(2d\)を速さ\(V\)で進む時間と一致します。また、\(u\)が大きくなるほど分母が小さくなり、時間が長くなることも、波源が逃げるために波が追いつくのにより時間がかかるという直感と一致しており、物理的に妥当です。
〔B〕(3)
思考の道筋とポイント
波が「逆位相」になる条件は、波源を出てから戻るまでの時間\(t’\)が、周期\(T\)の半整数倍(\(m+1/2\)倍)であることです。
(B)(2)で求めた時間\(t’\)と、波の周期\(T = 1/f = d/(2V)\) をこの条件式に代入し、速さ\(u\)に関する方程式を立てます。
さらに、その方程式を満たす整数\(m\)が、与えられた\(u\)の範囲 (\(0 < u < V/2\)) に存在するための条件を考え、\(m\)の値を特定します。最後に、特定した\(m\)を方程式に代入して\(u\)を求めます。
この設問における重要なポイント
- 逆位相になる条件が「時間差 = \((m+1/2)T\)」であることを理解していること。
- 不等式を用いて、物理的に可能な整数解の範囲を絞り込むテクニック。
具体的な解説と立式
逆位相になる条件は、
$$t’ = \left(m + \frac{1}{2}\right)T \quad (m=0, 1, 2, \dots)$$
ここに、(B)(2)で求めた \(t’ = \displaystyle\frac{2d}{\sqrt{V^2 – u^2}}\) と、周期 \(T = \displaystyle\frac{1}{f} = \frac{d}{2V}\) を代入します。
$$\frac{2d}{\sqrt{V^2 – u^2}} = \left(m + \frac{1}{2}\right) \frac{d}{2V}$$
この式を整理して、\(u\)と\(m\)の関係式を導きます。
$$\frac{4V}{\sqrt{V^2 – u^2}} = m + \frac{1}{2} \quad \cdots ①$$
次に、\(u\)の範囲 \(0 < u < V/2\) から、左辺が取りうる値の範囲を求め、整数\(m\)を特定します。
- \(u \rightarrow 0\) のとき: 左辺 \(\rightarrow \displaystyle\frac{4V}{\sqrt{V^2}} = 4\)
- \(u \rightarrow V/2\) のとき: 左辺 \(\rightarrow \displaystyle\frac{4V}{\sqrt{V^2 – (V/2)^2}} = \frac{4V}{\sqrt{3V^2/4}} = \frac{4V}{(\sqrt{3}/2)V} = \frac{8}{\sqrt{3}} \approx 4.618\)
よって、左辺の値の範囲は \(4 < \displaystyle\frac{4V}{\sqrt{V^2 – u^2}} < \frac{8}{\sqrt{3}}\) となります。
使用した物理公式
- 波の位相と周期の関係
左辺の範囲の条件から、整数\(m\)を求めます。
$$4 < m + \frac{1}{2} < 4.618$$
辺々から\(1/2\)を引くと、
$$3.5 < m < 4.118$$ この範囲を満たす整数\(m\)は \(m=4\) のみです。
この \(m=4\) を式①に代入して\(u\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
\frac{4V}{\sqrt{V^2 – u^2}} &= 4 + \frac{1}{2} \\[2.0ex]
&= \frac{9}{2}
\end{aligned}
$$
両辺を逆数にして2乗します。
$$
\begin{aligned}
\frac{\sqrt{V^2 – u^2}}{4V} &= \frac{2}{9} \\[2.0ex]
\frac{V^2 – u^2}{16V^2} &= \frac{4}{81}
\end{aligned}
$$
\(u^2\)について解きます。
$$V^2 – u^2 = \frac{64}{81}V^2$$
$$
\begin{aligned}
u^2 &= V^2 – \frac{64}{81}V^2 \\[2.0ex]
&= \left(1 – \frac{64}{81}\right)V^2 \\[2.0ex]
&= \frac{17}{81}V^2
\end{aligned}
$$
\(u>0\)なので、
$$u = \frac{\sqrt{17}}{9}V$$
波が戻ってきたときに打ち消し合う(逆位相になる)のは、往復時間が周期の0.5倍、1.5倍、2.5倍…になるときです。この条件を数式にし、(B)(2)で求めた時間と周期を代入します。すると、速さ\(u\)と整数\(m\)の関係式ができます。問題文で\(u\)の速さには範囲が指定されているので、その範囲内でこの関係式が成り立つような整数\(m\)を探すと、\(m=4\)しかありえないことがわかります。最後に\(m=4\)を代入して、条件を満たす\(u\)の値を計算します。
条件を満たす\(u\)は \(\displaystyle\frac{\sqrt{17}}{9}V\) です。\(\sqrt{16} < \sqrt{17} < \sqrt{20.25}\) すなわち \(4 < \sqrt{17} < 4.5\) なので、\(u\)は \(4/9 V \approx 0.44V\) と \(4.5/9 V = 0.5V\) の間にあり、条件 \(0 < u < V/2\) を満たしています。計算プロセスは論理的で、結果も妥当です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 波の基本性質の網羅的理解:
- 核心: この問題は、波の基本公式(\(v=f\lambda\))、反射(仮想波源)、屈折(\(n_{12}=v_1/v_2\))、干渉(経路差)、ドップラー効果という、波の分野の主要な法則をほぼ全て含んでいます。個々の法則を理解しているだけでなく、それらを一つの複雑な状況の中で連携させて適用する能力が問われます。
- 理解のポイント: 特に、ある現象の結果が次の現象の入力になるという連鎖を意識することが重要です。例えば、〔A〕(1)で求めた振動数\(f\)は、領域Bの波長を求めるのに使われ、〔A〕(3)で求めた経路長は〔A〕(4)の干渉条件に使われます。
- 仮想波源の原理:
- 核心: 平面による反射は、境界面に対して線対称な位置にある「仮想波源」からの波として扱うことができます。これにより、反射という複雑な現象を、2つの波源からの干渉という単純なモデルに置き換えることができます。
- 理解のポイント: 〔A〕(3)の経路長計算や、〔A〕(4)の干渉問題、〔B〕(2)の運動する波源の反射問題など、この問題の多くの部分で仮想波源の考え方が解法の鍵となっています。このテクニックを自在に使えることが、高得点への必須条件です。
- ドップラー効果の正確な適用:
- 核心: ドップラー効果の公式 \(f’ = \displaystyle\frac{v-v_o}{v-v_s}f\) は、音源と観測者の速度の向き(\(v_s, v_o\))を正しく設定することが全てです。「音源から観測者へ向かう向きを正」と一貫して定義し、各物体の速度ベクトルがその向きと同じか逆かを判断して符号を決定する必要があります。
- 理解のポイント: 〔B〕(1)のように、反射や屈折が絡む場合、現象をステップに分解して考えることが有効です。例えば、反射波は「波源→壁」と「壁→観測者」の2段階、屈折波は「波源→境界面」と「境界面→観測者」の2段階でドップラー効果を適用します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 光の干渉(マイケルソン干渉計): 仮想波源の考え方は、鏡で光を反射させて干渉させるマイケルソン干渉計などの問題と全く同じ構造です。
- 運動する音源と反射板: 壁に向かって進む救急車の音を、壁の後ろで聞く場合や、運転手自身が聞く反射音など、ドップラー効果と反射を組み合わせた問題は頻出です。
- 媒質が動く中の波の伝播: 川を伝わる音や、風が吹く中での音など、媒質自体が速度を持つ問題。波の速さを、媒質に対する速さと地面に対する速さに分解して考える必要があります。
- 初見の問題での着眼点:
- 座標系の設定: この問題のように幾何学的な配置が重要な場合、最初に原点と軸を明確に設定し、各点の座標を定義することが有効です。
- 現象の分解とモデル化: 問題文を読み、どのような物理現象が起きているかをリストアップします。「反射があるから仮想波源が使えるな」「波源が動いているからドップラー効果だな」というように、現象と対応する物理モデルを結びつけます。
- 不変量と変化量の特定: 屈折では振動数が不変で速さと波長が変化する、ドップラー効果では波の速さは不変で振動数と波長が変化するなど、各現象で「何が変わり、何が変わらないのか」を常に意識することが、立式のミスを防ぎます。
- 時間と空間の幾何学: 〔B〕(2)のように、物体が運動しながら波の送受信を行う問題では、時間\(t\)と空間座標\(x, y\)を組み合わせた「時空図」のようなイメージを持つと、立式がしやすくなります。波が進んだ距離(\(Vt’\))と、その間に波源が進んだ距離(\(ut’\))の関係を、三平方の定理で結びつけるのが定石です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- ドップラー効果の符号ミス:
- 誤解: 速度の正の向きを曖昧なまま、近づくときは分母がマイナス、遠ざかるときはプラス、などと感覚的に覚えてしまうと、複雑な設定に対応できません。
- 対策: 必ず「音源→観測者」の向きを正と定義し、\(v_s\)と\(v_o\)の符号を機械的に決定するルールを徹底しましょう。図を描いて、正の向きの矢印と、各物体の速度ベクトルを書き込むのが最も確実です。
- 反射と屈折の混同:
- 誤解: 領域Bに進む波を考えるべきところで、反射波の性質を使ってしまうなど、複数の現象が絡む場面で混乱する。
- 対策: 問題の各部分で、「今、どの波について考えているのか?(直接波、反射波、屈折波?)」を常に自問自答しましょう。図に波の経路を色分けして描くなどの工夫も有効です。
- 位相の考え方の誤解:
- 誤解: 〔A〕(5)で、領域をまたいだ点の位相を単純な距離の和で考えてしまう。
- 対策: 位相は「波がいくつ進んだか」を表す量です。異なる媒質を進む場合、単純な距離ではなく、「それぞれの媒質での波長で距離を割ったものの和」すなわち「光路長」の概念で考える必要があります。あるいは、模範解答のように「時間」を基準に考える(同じ時間で進む距離は速さに比例する)のが確実です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 仮想波源:
- 選定理由: 「平面での反射」というキーワードがあるため。反射波の経路長や干渉を、より単純な2波源の干渉問題に変換するための最有力ツールです。
- 適用根拠: 反射の法則(入射角=反射角)を幾何学的に満たす点が、まさに対称点(仮想波源)だからです。
- 干渉の条件式(経路差):
- 選定理由: 「弱めあう」「強めあう」という言葉があり、2つの波(直接波と反射波)が特定の点で重なっているため。
- 適用根拠: 2つの波の山と山(谷と谷)が重なれば強め合い、山と谷が重なれば弱めあうという、波の重ね合わせの原理に基づきます。
- ドップラー効果の公式:
- 選定理由: 「波源が動く」「観測者が動く」という設定で、「振動数」が問われているため。
- 適用根拠: 波源が動くと波長が圧縮・伸長され、観測者が動くと単位時間あたりに受け取る波の数が変化するという、2つの物理的効果をまとめたものです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位と次元の確認:
- 特に注意すべき点: 〔A〕(2)のように、次元解析は物理法則の形をチェックする強力な手段です。計算結果が出た後、単位が合っているかを確認する癖をつけると、単純なミスを発見できます。
- 日頃の練習: 物理量を文字で計算する習慣をつけ、最後の代入まで単位を意識する。
- 変数の整理:
- 特に注意すべき点: この問題のように多くの物理量が登場する場合、各設問で使う変数とその値を最初に書き出しておくと、代入ミスを防げます。特に、領域AとBで速さや波長が異なる点に注意が必要です。
- 日頃の練習: 問題の余白に、使用する物理量の一覧をメモする。
- 近似計算の活用:
- 特に注意すべき点: 〔B〕(3)で\(m\)の範囲を絞り込む際、\(\sqrt{3} \approx 1.732\) のような近似値を使って大まかな値を把握する能力は、検算や範囲の特定に役立ちます。
- 日頃の練習: 主要な平方根の値(\(\sqrt{2}, \sqrt{3}, \sqrt{5}\)など)を覚えておき、不等式の評価に利用する。
- 式の対称性の利用:
- 特に注意すべき点: 〔A〕(4)で、\(x>0\)の場合の点の個数を求め、\(y\)軸対称性から全体の個数を2倍して求めるなど、問題の対称性を利用すると計算が簡略化できます。
- 日頃の練習: 問題を解く前に、図形や式の対称性がないかを探す癖をつける。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- 〔B〕(1) ドップラー効果: \(f_A = \frac{V-u}{V+u}f\) という式で、\(u>0\)なら分子は減り分母は増えるので、\(f_A < f\) となります。これは観測者(P)と仮想音源(P’)が互いに遠ざかるため、振動数が低くなるという直感と一致します。式の形だけを追うのではなく、その物理的な意味を常に考えることが、深い理解とミス防止につながります。
- 極端な場合や既知の状況との比較:
- 〔B〕(2) 時間\(t’\): 求めた時間 \(t’ = \displaystyle\frac{2d}{\sqrt{V^2 – u^2}}\) について、もし波源が静止していれば\(u=0\)となり、\(t’=2d/V\) となります。これは単純な往復距離\(2d\)を速さ\(V\)で進む時間と一致します。もし\(u \rightarrow V\)なら\(t’ \rightarrow \infty\)となり、波が波源に追いつけなくなる状況と一致します。このように、既知の簡単な状況や極限状態で式を検証する習慣は非常に重要です。
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問題83 (東京工大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、音波の性質、特に「縦波」としての特徴と、反射によって生じる「定在波」について深く掘り下げげる問題です。前半(1),(2)では進行波における媒質の変位と圧力の関係を、後半(3),(4)では定在波の腹と節の性質を問うています。
この問題の核心は、目に見えない音波の振る舞い(媒質の変位や速度)を、観測可能な量である「圧力」の変化から正しく推測し、物理法則と結びつけることです。
- 波源: 原点Oのスピーカーが振動数\(f\)の音波をx軸正の向きに発生。
- 進行波(図1, 2):
- 図1: ある時刻の圧力\(p\)の空間分布。\(x_0\)から\(x_8\)までが1波長分。
- 図2: 点Pでの圧力\(p\)の時間変化。\(t_0\)から\(t_8\)までが1周期分。
- 定在波(図3):
- 反射板を置くと、圧力が常に\(p_0\)の点が等間隔に並んだ。
- その他: 音速を\(c\)、大気圧を\(p_0\)とする。
- (1) \(x_1\)~\(x_8\)の中で、媒質の変位が正で最大の位置と、速度が正で最大の位置。
- (2) \(t_1\)~\(t_8\)の中で、媒質の変位が正で最大の時刻。
- (3) 定在波における、圧力が常に\(p_0\)である隣接する点の間隔\(d\)。
- (4) 気温が上昇したとき、間隔\(d\)が増加する理由。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
【注記】本問については、模範解答のアプローチが最も標準的かつ効率的であるため、別解の提示は省略します。
この問題のテーマは「縦波(音波)の変位と圧力の関係」および「定在波の性質」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 縦波における変位と密度の関係: 音波は媒質の密度の変化が伝わる波です。媒質が最も密な場所(密部)と最も疎な場所(疎部)が交互にできます。媒質の変位が0の点が、密または疎の中心になります。
- 圧力と密度の関係: 媒質が密な場所は圧力が高く、疎な場所は圧力が低くなります。したがって、圧力変化が最大の点(\(p\)が最大または最小)は、媒質の変位が0の点に対応します。
- 変位と速度の関係: 媒質の各点は単振動をしています。変位が最大(振動の端)のとき速度は0になり、変位が0(振動の中心)のとき速度は最大になります。
- 定在波の腹と節: 入射波と反射波が干渉してできる定在波では、全く振動しない点(節)と、最大振幅で振動する点(腹)ができます。音波の定在波では、「変位の腹」と「圧力変化の腹」の位置が異なることに注意が必要です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、まず圧力のグラフから媒質の「密」と「疎」の位置を特定します。次に、密と疎の関係から媒質の「変位」のグラフを描き、変位が最大になる位置と、変位が0で速度が最大になる位置を読み取ります。
- (2)では、(1)と同様の考え方を時間変化に適用します。圧力の時間変化のグラフから、変位の時間変化を推測し、変位が最大になる時刻を特定します。
- (3)では、「圧力が常に\(p_0\)」という条件が、定在波の何を意味するのかを考えます。これは圧力変化が常に0、すなわち圧力変化の「節」を意味します。圧力変化の節は、変位の「腹」に対応します。腹と腹の間隔が半波長であることを利用して、間隔\(d\)を計算します。
- (4)では、気温の変化が音速にどう影響するか、そして音速の変化が(3)で求めた間隔\(d\)にどう影響するかを、物理法則に基づいて説明します。