問題56 (横浜市大 改)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、摩擦のある水平面上でのばね振り子の運動を扱います。摩擦がない場合の単振動とは異なり、動摩擦力という「非保存力」が働くため、力学的エネルギーが保存されません。また、動摩擦力は速度の向きによって力の向きが変わるため、運動の向きによって振動の中心がずれるという、非常に特徴的な運動(減衰振動)をします。
- 物体: 質量\(m\)
- ばね: ばね定数\(k\)、自然長の位置が原点O(x=0)。
- 床: あらい水平面。
- 座標: 水平右向きにx軸。
- 重力加速度: \(g\)。
- 実験事実:
- \(x=d\)より左側ではなすと静止したまま \(\rightarrow\) 静止摩擦力の条件。
- \(x=x_0 (>d)\) からはなすと左向きに動き出し、\(x=x_1 (<-d)\) で初めて速さが0になった \(\rightarrow\) 動摩擦力が働く運動。
- (1) 静止摩擦係数\(\mu\)。
- (2) 動摩擦係数\(\mu’\)。
- (3) 左向きに運動しているときの運動方程式。
- (4) \(x_0 \rightarrow x_1\) にかかる時間\(t_1\)。
- (5) \(x_0 \rightarrow x_1\) の間で速さが最大となるときの位置と速さ。
- (6) 右向きに運動しているときに速さが最大となるときの位置。
- (7) 2回目の折り返し点\(x_2\)。
- (8) \(x_0=7d/2, x_1=-5d/2\) のときの3回目の折り返し点\(x_3\)。
- (9) (8)の条件でのx-tグラフ。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「摩擦のある面上での振動(減衰振動)」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 摩擦力: 静止摩擦力と動摩擦力の違い、特に動摩擦力の向きが速度に依存することを理解することが重要です。
- 振動中心のずれ: 動摩擦力が働くため、ばねの復元力と動摩擦力がつり合う点が、見かけ上の「振動の中心」となります。動摩擦力は向きが変わるため、左向きの運動と右向きの運動で振動の中心が異なります。
- エネルギーと仕事の関係: 動摩擦力は非保存力なので、力学的エネルギーは保存されません。代わりに、「(力学的エネルギーの変化)=(非保存力がした仕事)」という、より一般的なエネルギーの原理を用います。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)は、静止摩擦力が最大になる限界の状況を考え、力のつり合いから求めます。
- (2)は、\(x_0\)から\(x_1\)までの運動で、エネルギーと仕事の関係式を立てて求めます。
- (3)以降は、動摩擦力を含んだ運動方程式を立て、それがどのような単振動を表しているかを解析します。振動の中心と角振動数を特定することが鍵となります。
問(1)
思考の道筋とポイント
物体が\(x=d\)で静止し続ける限界の状況を考えます。このとき、ばねが物体を引く力(復元力)と、床が物体を支える静止摩擦力がつり合っています。\(x=d\)より右側では動き出すことから、\(x=d\)での復元力が最大静止摩擦力に等しいと考えられます。
この設問における重要なポイント
- 静止摩擦力と最大静止摩擦力の違いを理解する。
- \(x=d\)が、静止できる限界の点であると解釈する。
- 力のつり合いの式を立てる。
具体的な解説と立式
物体が位置\(x=d\)にあるとき、
- ばねが物体を引く力: 大きさ\(kd\)、向きは左向き(負の向き)。
- 静止摩擦力: ばねの力とつり合うため、大きさ\(f\)、向きは右向き(正の向き)。
力のつり合いより、\(f = kd\)。
問題文より、\(x=d\)が静止できる限界なので、このときの静止摩擦力\(f\)が最大静止摩擦力\(\mu N\)に等しくなります。
$$kd = \mu N$$
また、鉛直方向の力のつり合いより、垂直抗力\(N\)は重力\(mg\)と等しいので、\(N=mg\)。
したがって、
$$kd = \mu mg$$
使用した物理公式
- フックの法則: \(F=kx\)
- 最大静止摩擦力: \(f_{max} = \mu N\)
- 力のつり合い
上記の式を静止摩擦係数\(\mu\)について解きます。
$$\mu = \frac{kd}{mg}$$
物体がギリギリ動かないでいられるのは、ばねが引っ張る力と、床が滑るのを邪魔する力(最大静止摩擦力)がちょうど同じ大きさになるときです。この力のつり合いの式を立てることで、静止摩擦係数が求まります。
静止摩擦係数\(\mu\)は \(\frac{kd}{mg}\) です。これは、ばねの力と最大静止摩擦力がつり合う点\(d\)が、ばね定数\(k\)、質量\(m\)、重力加速度\(g\)によって決まることを示しています。
問(2)
思考の道筋とポイント
物体が\(x_0\)から\(x_1\)まで運動する間、動摩擦力が仕事をして力学的エネルギーが減少します。この間の「力学的エネルギーの変化量」が「動摩擦力がした仕事」に等しい、というエネルギーと仕事の関係式を立てます。
この設問における重要なポイント
- 力学的エネルギーが保存されないことを認識する。
- 「エネルギーと仕事の関係(力学的エネルギーの変化=非保存力の仕事)」を適用する。
- 動摩擦力の仕事は、常に負の値になることに注意する。
具体的な解説と立式
エネルギーと仕事の関係式は、
$$(\text{後の力学的エネルギー}) – (\text{前の力学的エネルギー}) = (\text{動摩擦力がした仕事})$$
- 前の状態 (\(x=x_0\)): 静かにはなすので速さは0。力学的エネルギーは \(E_0 = \frac{1}{2}k x_0^2\)。
- 後の状態 (\(x=x_1\)): 速さが0になったので、力学的エネルギーは \(E_1 = \frac{1}{2}k x_1^2\)。
- 動摩擦力がした仕事 \(W\):
- 動摩擦力の大きさ: \(\mu’ N = \mu’ mg\)。
- 向き: 常に運動方向と逆向き(この区間では右向き)。
- 移動距離: \(x_0 – x_1\)。
- 仕事: \(W = -(\text{力の大きさ}) \times (\text{距離}) = -\mu’ mg (x_0 – x_1)\)。
これらの関係を式にまとめると、
$$\left(\frac{1}{2}k x_1^2\right) – \left(\frac{1}{2}k x_0^2\right) = -\mu’ mg (x_0 – x_1)$$
使用した物理公式
- 力学的エネルギーと仕事の関係: \(\Delta E = W_{非保存力}\)
- ばねの弾性エネルギー: \(U = \frac{1}{2}kx^2\)
- 仕事の定義: \(W = Fx\)
上記の方程式を動摩擦係数\(\mu’\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}k(x_1^2 – x_0^2) &= -\mu’ mg (x_0 – x_1) \\[1.5ex]\frac{1}{2}k(x_1 – x_0)(x_1 + x_0) &= \mu’ mg (x_1 – x_0)
\end{aligned}
$$
両辺を \((x_1 – x_0)\) で割ると(\(x_0 \neq x_1\)なので0ではない)、
$$\frac{1}{2}k(x_1 + x_0) = \mu’ mg$$
$$\mu’ = \frac{k(x_0 + x_1)}{2mg}$$
摩擦があるので、物体のエネルギーはだんだん減っていきます。エネルギーの減少量は、摩擦がした仕事の分だけです。スタート地点(\(x_0\))と折り返し地点(\(x_1\))でのエネルギー(ばねのエネルギーのみ)を比較し、その差が摩擦の仕事に等しいという式を立てることで、動摩擦係数が求まります。
動摩擦係数\(\mu’\)は \(\frac{k(x_0 + x_1)}{2mg}\) です。この式は、振動の折り返し点(\(x_0, x_1\))が分かれば、動摩擦係数が求まることを示しています。
問(3)
思考の道筋とポイント
物体が左向きに運動しているとき(速度が負のとき)の運動方程式を立てます。物体に働く力は、ばねの復元力と動摩擦力です。
この設問における重要なポイント
- 運動の向きによって動摩擦力の向きが変わることを理解する。
- 左向き運動の場合、動摩擦力は右向き(正の向き)に働く。
具体的な解説と立式
物体が位置\(x\)にあり、左向きに運動しているとき、
- ばねの力: \(-kx\)
- 動摩擦力: 大きさは\(\mu’N = \mu’mg\)、向きは右向き(正)。よって \(+\mu’mg\)。
運動方程式 \(ma=F\) は、
$$ma = -kx + \mu’mg$$
ここで、(2)で求めた \(\mu’ = \frac{k(x_0 + x_1)}{2mg}\) を代入します。
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma=F\)
- 動摩擦力: \(f’ = \mu’N\)
$$
\begin{aligned}
ma &= -kx + \mu’mg \\[1.5ex]&= -kx + \left(\frac{k(x_0 + x_1)}{2mg}\right) mg \\[1.5ex]&= -kx + \frac{k(x_0+x_1)}{2}
\end{aligned}
$$
この式を、単振動の運動方程式 \(ma = -k(x-x_c)\) の形に変形します。
$$ma = -k\left(x – \frac{x_0+x_1}{2}\right)$$
ニュートンの運動方程式「\(ma=F\)」を立てます。力\(F\)は、物体に働いている力の合計です。この場合は「ばねが引く力」と「摩擦力」の2つです。左向きに動いているので、摩擦力は右向きに働くことに注意して式を立てます。
運動方程式は \(ma = -k\left(x – \frac{x_0+x_1}{2}\right)\) です。
これは、振動の中心が原点Oから \(x_c = \frac{x_0+x_1}{2}\) の位置にずれた、ばね定数\(k\)の単振動であることを示しています。動摩擦力によって振動の中心がずれるという、この問題の核心部分です。
問(4)
思考の道筋とポイント
物体が\(x_0\)から\(x_1\)まで移動するのにかかった時間\(t_1\)を求めます。(3)で、この運動が単振動であることがわかりました。\(x_0\)と\(x_1\)は、この単振動の両端(折り返し点)です。したがって、移動にかかる時間は、この単振動の周期の半分に相当します。
この設問における重要なポイント
- (3)で導いた運動が、中心 \(x_c = \frac{x_0+x_1}{2}\) の単振動であることを理解する。
- \(x_0\)と\(x_1\)がその単振動の端点であることに気づく。
- 端から端までの移動時間は、周期の半分である。
具体的な解説と立式
(3)より、左向きの運動は、振動中心 \(x_c = \frac{x_0+x_1}{2}\) の単振動です。
この単振動の角振動数\(\omega\)は、運動方程式 \(ma = -k(x-x_c)\) から、\(a = -\frac{k}{m}(x-x_c)\) となり、\(a=-\omega^2(x-x_c)\) と比較して、
$$\omega = \sqrt{\frac{k}{m}}$$
周期\(T\)は、
$$T = \frac{2\pi}{\omega} = 2\pi\sqrt{\frac{m}{k}}$$
物体は、この単振動の端点である\(x_0\)から、もう一方の端点である\(x_1\)まで移動します。
(振動中心が\(x_c = (x_0+x_1)/2\)であり、振幅が\((x_0-x_1)/2\)であることから、\(x_0\)と\(x_1\)が端点であることが確認できます。)
端から端までの移動にかかる時間\(t_1\)は、周期\(T\)の半分です。
$$t_1 = \frac{T}{2}$$
使用した物理公式
- 単振動の周期: \(T = 2\pi/\omega = 2\pi\sqrt{m/k}\)
$$
\begin{aligned}
t_1 &= \frac{1}{2} T \\[1.5ex]&= \frac{1}{2} \cdot 2\pi\sqrt{\frac{m}{k}} \\[1.5ex]&= \pi\sqrt{\frac{m}{k}}
\end{aligned}
$$
摩擦があっても、振動の「ペース」自体は変わりません。振動の中心がずれるだけです。\(x_0\)から\(x_1\)への移動は、この「中心がずれた単振動」のちょうど半分(端から端まで)なので、かかる時間は周期の半分になります。
時間は \(\pi\sqrt{\frac{m}{k}}\) です。興味深いことに、この時間は摩擦がない場合の単振動の半周期と同じです。動摩擦力は振動の中心をずらすだけで、周期(振動のペース)には影響を与えないことがわかります。
問(5)
思考の道筋とポイント
\(x_0\)から\(x_1\)に移動する間で、物体の速さが最大になるときの位置と速さを求めます。単振動において、速さが最大になるのは振動の中心を通過するときです。
この設問における重要なポイント
- 単振動で速さが最大になるのは、振動の中心である。
- 振動の中心での速さは、振幅と角振動数から \(v_{max} = A\omega\) で計算できる。
具体的な解説と立式
最大速度になる位置:
左向きの運動における単振動の中心は、(3)で求めた通り、
$$x = \frac{x_0+x_1}{2}$$
です。
最大速度の大きさ \(v_M\):
この単振動の振幅\(A\)は、
$$
\begin{aligned}
A &= (\text{端点}) – (\text{中心}) \\
&= x_0 – \frac{x_0+x_1}{2} \\
&= \frac{x_0-x_1}{2}
\end{aligned}
$$
角振動数\(\omega\)は \(\sqrt{k/m}\) です。
単振動の最大速度は \(v_{max} = A\omega\) で与えられるので、
$$v_M = \left(\frac{x_0-x_1}{2}\right) \sqrt{\frac{k}{m}}$$
ブランコで一番速くなるのが一番低い点であるように、単振動で一番速くなるのは振動の中心です。左向きに動いているときの振動の中心は \((x_0+x_1)/2\) です。そのときの速さは、単振動の公式「最大速度 = 振幅 \(\times\) 角振動数」で計算できます。
速さが最大になる位置は \(x = \frac{x_0+x_1}{2}\)、そのときの速さは \(v_M = \frac{x_0-x_1}{2} \sqrt{\frac{k}{m}}\) です。振動の中心が原点からずれているため、速さが最大になるのも原点ではない点に注意が必要です。
問(6)
思考の道筋とポイント
物体が右向きに運動しているときに速さが最大になる位置を求めます。右向きの運動では、動摩擦力の向きが左向き(負の向き)に変わるため、力のつり合いの位置、すなわち振動の中心が変化します。
この設問における重要なポイント
- 運動の向きが変わると、動摩擦力の向きも変わり、振動の中心も変わる。
具体的な解説と立式
物体が右向きに運動しているとき(速度が正のとき)の運動方程式を立てます。
- ばねの力: \(-kx\)
- 動摩擦力: 大きさは\(\mu’mg\)、向きは左向き(負)。よって \(-\mu’mg\)。
運動方程式は、
$$ma = -kx – \mu’mg$$
\(\mu’ = \frac{k(x_0 + x_1)}{2mg}\) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
ma &= -kx – \frac{k(x_0+x_1)}{2} \\
&= -k\left(x + \frac{x_0+x_1}{2}\right)
\end{aligned}
$$
これは、振動の中心が \(x_c’ = -\frac{x_0+x_1}{2}\) である単振動を表します。
速さが最大になるのは、この新しい振動の中心なので、
$$x = -\frac{x_0+x_1}{2}$$
今度は右向きに動くので、摩擦力は左向きに働きます。そのため、ばねの力と摩擦力がつり合う「振動の中心」の位置が、左向きに動くときとは逆側にずれます。速さが最大になるのは、この新しい振動の中心です。
右向きに運動しているときに速さが最大になる位置は \(x = -\frac{x_0+x_1}{2}\) です。左向きの運動のときと、振動中心の符号が逆になっていることがわかります。
問(7)
思考の道筋とポイント
物体が\(x_1\)で折り返した後、右向きに運動し、再び速さが0になる位置\(x_2\)を求めます。この右向きの運動は、(6)で求めたように、中心が \(x_c’ = -\frac{x_0+x_1}{2}\) の単振動です。\(x_1\)と\(x_2\)は、この新しい単振動の端点になります。
この設問における重要なポイント
- 単振動の振動中心は、端点の中点である。
具体的な解説と立式
右向きの運動における振動の中心は \(x_c’ = -\frac{x_0+x_1}{2}\) です。
この振動の端点は\(x_1\)と\(x_2\)です。
振動の中心は端点の中点なので、
$$\frac{x_1+x_2}{2} = -\frac{x_0+x_1}{2}$$
上記の方程式を\(x_2\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
x_1+x_2 &= -(x_0+x_1) \\
x_1+x_2 &= -x_0-x_1 \\
x_2 &= -x_0 – 2x_1
\end{aligned}
$$
単振動では、振動の中心は常に、振動の両端(折り返し点)のちょうど真ん中にあります。右向きに動くときの振動の中心は(6)でわかりました。片方の端は\(x_1\)です。この関係を使えば、もう片方の端である\(x_2\)を計算できます。
2回目の折り返し点\(x_2\)は \(-x_0 – 2x_1\) です。\(x_0 > 0, x_1 < 0\) なので、\(x_2\)は正の値になります。また、振幅が \((x_2-x_1)/2\) となり、前の振動の振幅 \((x_0-x_1)/2\) よりも小さくなっており、エネルギーが失われ振幅が減少していく減衰振動の様子と一致します。
問(8)
思考の道筋とポイント
与えられた具体的な数値 \(x_0=7d/2, x_1=-5d/2\) を用いて、3回目の折り返し点\(x_3\)を求めます。\(x_2\)から\(x_3\)への運動は、再び左向きの運動になるため、振動の中心は(3)で考えた \(x_c = \frac{x_0+x_1}{2}\) に戻ります。
この設問における重要なポイント
- 運動の向きに応じて、振動の中心が交互に切り替わることを理解する。
- \(x_2\)と\(x_3\)が、中心\(x_c\)の単振動の端点であることを利用する。
具体的な解説と立式
まず、\(x_2\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
x_2 &= -x_0 – 2x_1 \\
&= -\left(\frac{7}{2}d\right) – 2\left(-\frac{5}{2}d\right) \\
&= -\frac{7}{2}d + 5d \\
&= \frac{3}{2}d
\end{aligned}
$$
次に、\(x_2\)から\(x_3\)への左向きの運動を考えます。このときの振動の中心は、
$$x_c = \frac{x_0+x_1}{2} = \frac{(7/2)d + (-5/2)d}{2} = \frac{d}{2}$$
この振動の端点は\(x_2\)と\(x_3\)なので、その中点が振動中心\(x_c\)になります。
$$\frac{x_2+x_3}{2} = x_c = \frac{d}{2}$$
上記の方程式を\(x_3\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
x_2+x_3 &= d \\[1.5ex]x_3 &= d – x_2 \\
&= d – \frac{3}{2}d \\
&= -\frac{1}{2}d
\end{aligned}
$$
問題文より、この位置で物体は静止し続けたとあります。この位置でばねが及ぼす力は \(k|x_3| = kd/2\)。一方、最大静止摩擦力は \(\mu mg = kd\)。
\(kd/2 < kd\) なので、ばねの力が最大静止摩擦力を超えられず、静止し続けるという条件と一致します。
(7)と同じように、「振動の中心は端点の真ん中」という関係を使います。今度は左向きに動くので、振動の中心は \(d/2\) になります。片方の端が\(x_2\)なので、もう片方の端である\(x_3\)が計算できます。
3回目の折り返し点の位置は \(x_3 = -d/2\) です。
問(9)
思考の道筋とポイント
これまでの結果をまとめて、x-tグラフを描きます。ポイントは、運動の向きによって振動の中心が \(d/2\) と \(-d/2\) の間で切り替わることです。
この設問における重要なポイント
- 振動の中心が交互に変わる減衰振動のグラフを描く。
- 各区間の所要時間が半周期 \(\pi\sqrt{m/k}\) であることを反映させる。
- 振幅が徐々に減少していく様子を表現する。
具体的な解説と立式
- 区間1 (\(0 \rightarrow t_1\)): \(x_0=7d/2\) から \(x_1=-5d/2\) への左向き運動。
- 振動中心: \(x_c = d/2\)。
- 時間: 半周期 \(T/2 = \pi\sqrt{m/k}\)。
- 区間2 (\(t_1 \rightarrow t_2\)): \(x_1=-5d/2\) から \(x_2=3d/2\) への右向き運動。
- 振動中心: \(x_c’ = -d/2\)。
- 時間: 半周期 \(T/2\)。
- 区間3 (\(t_2 \rightarrow t_3\)): \(x_2=3d/2\) から \(x_3=-d/2\) への左向き運動。
- 振動中心: \(x_c = d/2\)。
- 時間: 半周期 \(T/2\)。
- \(t_3\)以降: \(x_3=-d/2\)で静止。
グラフは、これらの点を通り、それぞれの中心を持つサインカーブ(またはコサインカーブ)の一部をつなぎ合わせた形になります。振幅は \(x_0 \rightarrow x_1\) 区間が最も大きく、徐々に小さくなっていきます。
これまでの計算結果を、時間と位置のグラフにプロットしていきます。スタート地点、1回目の折り返し点、2回目の折り返し点、そして最後の静止地点を順番に線で結びます。ただし、ただの直線ではなく、振動の中心が左右にずれながら振幅が小さくなっていく、少し歪んだサインカーブのような形になります。
グラフは、振動の中心が \(d/2\) と \(-d/2\) の間で交互に切り替わりながら、振幅が \( (7d/2 – d/2) \rightarrow (3d/2 – (-d/2)) \rightarrow (3d/2 – d/2) \) のように減少していく様子を描写します。最終的に \(x=-d/2\) で静止します。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 摩擦力が働く系での運動方程式:
- 核心: この問題の運動は、ばねの復元力(\(-kx\))と動摩擦力(\(\pm \mu’mg\))の合力によって記述されます。動摩擦力は常に速度と逆向きに働くため、運動の向きによって符号が変わります。
- 理解のポイント: 運動方程式は \(ma = -kx \pm \mu’mg\) となります。この式を \(ma = -k(x – x_c)\) の形に変形することで、この運動が「振動中心がずれた単振動」であることがわかります。振動中心 \(x_c\) は、ばねの力と動摩擦力がつりあう点であり、運動の向きによって \(x_c = \pm \mu’mg/k\) と変化します。
- エネルギーと仕事の関係(力学的エネルギー保存則の破れ):
- 核心: 動摩擦力は非保存力なので、その仕事の分だけ系の力学的エネルギーは減少していきます。したがって、力学的エネルギー保存則は成り立ちません。
- 理解のポイント: 「(後の力学的エネルギー) – (前の力学的エネルギー) = (動摩擦力がした仕事)」という、より一般的なエネルギーの原理を適用する必要があります。(2)では、この関係式を用いて動摩擦係数を求めています。動摩擦力の仕事は常に負であり、エネルギーを奪い続けるため、振動の振幅は徐々に小さく(減衰)していきます。
- 静止摩擦力と動き出す条件:
- 核心: 物体が動き出すかどうかは、ばねの復元力と最大静止摩擦力の大小関係で決まります。
- 理解のポイント: 物体が静止しているとき、ばねの復元力(\(kx\))が最大静止摩擦力(\(\mu N = \mu mg\))以下であれば、物体は静止し続けます。\(|kx| \le \mu mg\) が静止し続ける条件です。(1)ではこの限界の状況を、(8)の最後の確認ではこの条件そのものを用いています。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 斜面上のばね振り子: 斜面上でばね振り子を振動させる問題。重力の斜面成分が常にかかるため、振動の中心がばねの自然長の位置からずれます。さらに斜面があらい場合は、この問題と同様に動摩擦力も加わり、往路と復路で振動の中心が異なる減衰振動となります。
- 空気抵抗を受ける振動: 空気抵抗(速度に比例する抵抗力など)を受けながら振動する物体の運動。これも減衰振動の一種ですが、抵抗力の形が速度に依存するため、数学的な扱いはより複雑になります。しかし、エネルギーが失われ振幅が減少していくという物理的描像は共通しています。
- 初見の問題での着眼点:
- 摩擦の有無の確認: まず、問題設定に「なめらか」か「あらい」かの記述があるかを確認します。「あらい」とあれば、力学的エネルギーが保存されないこと、そして動摩擦力の向きが運動方向によって変わることを念頭に置く必要があります。
- 力のつり合いの位置の特定: 振動の中心は、ばねの力だけでなく、動摩擦力も含めたすべての力がつり合う位置です。運動の向きごとに、この「見かけの振動中心」がどこになるかを最初に特定することが、問題を解く上での重要なステップです。
- 運動の区間分け: 物体の運動方向が変わる点(折り返し点)で、動摩擦力の向きが切り替わります。したがって、運動を「左向き」「右向き」の区間に分けて、それぞれについて運動方程式を立てて考える必要があります。
- エネルギーか運動方程式か:
- 動摩擦係数や、ある区間の始点と終点の関係だけを知りたい場合 \(\rightarrow\) エネルギーと仕事の関係式が有効なことが多いです。
- 運動の途中経過(時間、加速度など)を知りたい場合 \(\rightarrow\) 運動方程式を立てて、単振動の性質を解析する必要があります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 振動中心の扱いの誤り:
- 誤解: 摩擦があっても、振動の中心は常に原点O(ばねの自然長)だと考えてしまう。
- 対策: 摩擦がある場合の振動の中心は、ばねの力と動摩擦力がつりあう点です。\(kx_c = \mu’mg\)。この中心が運動方向によって左右にずれることを正確に理解しましょう。\(x_c\)を原点とする新しい座標系 \((X=x-x_c)\) を導入すると、運動方程式が \(m\ddot{X} = -kX\) という標準的な単振動の形になり、見通しが良くなります。
- 動摩擦力の向き:
- 誤解: 動摩擦力の向きを常に一定の向き(例えば常に左向き)だと考えてしまう。
- 対策: 動摩擦力は「常に速度と逆向き」です。物体が右に動けば左向きに、左に動けば右向きに働きます。この切り替えを運動方程式に正しく反映させることが不可欠です。
- 時間の計算:
- 誤解: 摩擦があっても周期は変わらないことを知らず、複雑な計算をしようとする。
- 対策: 運動方程式 \(ma = -k(x-x_c)\) からわかるように、角振動数\(\omega = \sqrt{k/m}\) は、摩擦がない場合と同じです。したがって、周期も \(T=2\pi\sqrt{m/k}\) のままです。摩擦は振動の中心をずらすだけで、振動の「ペース」自体は変えない、という点をしっかり理解しておきましょう。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 振動中心の移動: x軸を描き、左向き運動の中心 \(x_c = (x_0+x_1)/2\) と、右向き運動の中心 \(x_c’ = -(x_0+x_1)/2\) をプロットします。物体が、まず\(x_c\)を中心として\(x_0\)から\(x_1\)まで半周期運動し、次に\(x_c’\)を中心として\(x_1\)から\(x_2\)まで半周期運動する、というように、ピンポン球が左右にずれる台を行き来するようなイメージを持つと理解が深まります。
- x-tグラフ: (9)のグラフは、この運動の全体像を最もよく表しています。振動の中心が上下にシフトしながら、振幅が徐々に小さくなっていくサインカーブ(の断片)として描かれます。各半周期の時間が一定であることも、このグラフから読み取れます。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 力のベクトル図: 物体が右向きに動いているときと左向きに動いているとき、それぞれの場合について、ばねの力と動摩擦力のベクトルを正確に図示することが、運動方程式の立式ミスを防ぐ基本です。
- 振動の端と中心の関係: 図dのように、任意の振動区間において、その両端(折り返し点)の中点が、その区間の振動中心になる、という関係を図示すると、(7)や(8)のような問題が解きやすくなります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のつり合い \(kx = \mu mg\):
- 選定理由: (1)で、物体が「静止し続ける限界」を問われているため。これは力のつり合いが成立する限界点です。
- 適用根拠: 物体が動き出す直前、ばねの復元力と最大静止摩擦力がちょうどつり合っているという物理的状況。
- エネルギーと仕事の関係 \(\Delta E = W_{非保存力}\):
- 選定理由: (2)で、摩擦という非保存力が働く区間の前後での状態変化を解析するため。運動の途中経過を問わず、始点と終点のエネルギー状態だけで未知数(\(\mu’\))を求めたい。
- 適用根拠: エネルギー保存則が成り立たない系における、より一般的なエネルギーの原理。
- 運動方程式 \(ma = -k(x-x_c)\):
- 選定理由: (3)以降で、運動の具体的な様子(時間、加速度、最大速度など)を解析する必要があるため。
- 適用根拠: ニュートンの第二法則。動摩擦力を含んだ復元力を整理することで、この形に変形でき、単振動としての性質(振動中心、角振動数)を読み取ることができる。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 静止摩擦係数: 物体が静止できる限界点(\(x=d\))での力のつり合い(ばねの力 = 最大静止摩擦力)を立式し、\(\mu\)を求める。
- (2) 動摩擦係数: \(x_0 \rightarrow x_1\) の区間で、エネルギーと仕事の関係(力学的エネルギーの変化 = 動摩擦力の仕事)を立式し、\(\mu’\)を求める。
- (3) 運動方程式: 左向き運動中の物体に働く力(ばねの力、動摩擦力)を考え、\(ma=F\)を立てる。これを \(ma=-k(x-x_c)\) の形に整理し、振動中心\(x_c\)を特定する。
- (4) 時間: (3)の運動が、中心\(x_c\)の単振動であり、\(x_0, x_1\)がその端点であることから、移動時間は半周期分であると判断し、\(t_1=T/2 = \pi\sqrt{m/k}\) を計算する。
- (5) 最大速度(左向き運動): 速さが最大になるのは振動中心\(x_c\)である。最大速度は \(v_{max}=A\omega\) で計算。振幅\(A\)は \((x_0-x_1)/2\)、角振動数\(\omega\)は \(\sqrt{k/m}\)である。
- (6) 最大速度(右向き運動): 右向き運動の運動方程式を立て、新しい振動中心\(x_c’\)を特定する。
- (7), (8) 折り返し点: 「振動の中心は端点の中点」という関係を繰り返し適用して、\(x_2, x_3\)を計算する。
- (9) グラフ: 各区間の振動中心と端点、所要時間(半周期)を元に、振幅が減衰していく振動のグラフを描く。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 符号の徹底確認: この問題では、位置\(x\)、速度\(v\)、力\(F\)の符号が非常に重要です。特に、動摩擦力は速度と逆の符号を持つため、運動の向きが変わるたびに式の符号が変わる点に最大限の注意を払いましょう。
- 振動中心の明確化: 計算用紙に、左向き運動の中心\(x_c\)と右向き運動の中心\(x_c’\)の値を大きく書き出しておくと、混乱を防げます。
- 文字式のまま計算: (7)や(8)のように、前の結果を代入して計算する場合、具体的な数値を代入するのではなく、\(x_0, x_1\)などの文字式のまま計算を進めた方が、関係性が見やすく、計算ミスも減ります。
- 単位の確認: 最終的に求めた係数\(\mu, \mu’\)が無次元量になっているかなど、基本的な単位(次元)のチェックは有効です。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 減衰の確認: 折り返し点の絶対値が \(|x_0| > |x_1| > |x_2| > |x_3|\) のように、徐々に小さくなっているかを確認します。なっていなければ、計算ミスの可能性が高いです。
- 最終的な静止位置: (8)で物体が\(x_3=-d/2\)で静止しました。この位置でのばねの力は \(|F_{ばね}| = k|x_3| = kd/2\)。一方、最大静止摩擦力は \(F_{max} = \mu mg = kd\)。\(|F_{ばね}| \le F_{max}\) が満たされているため、物体がここで静止し続けるという結論は物理的に妥当です。もし、この条件が満たされていなければ、計算が間違っていることになります。
- 対称性の破れ: 摩擦がない場合、振動は原点Oに対して対称になります(\(x_1=-x_0\))。摩擦があることで、この対称性が崩れ、\(|x_1| < |x_0|\) となります。計算結果がこの関係を満たしているかを確認するのも良い検算になります。
問題57 (広島大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、「衝突」と「単振動」という2つの重要な物理現象を組み合わせた複合問題です。
まず、物体AとBの弾性衝突によって、それぞれの物体の速度がどのように変化するかを解析します。その後、ばねにつながれた物体Aは単振動を始め、物体Bは等速直線運動を続けます。この2つの異なる運動をする物体が、再び出会う(再衝突する)までの過程を追跡します。
- 物体A: 質量\(m\)、ばね定数\(k\)のばねに接続、初めは\(x=0\)で静止。
- 物体B: 質量\(M\)、速度\(v_0\)で物体Aに衝突。
- 条件:
- 床はなめらか。
- 衝突は弾性衝突 (\(e=1\))。
- 衝突後、両物体は右方向に進む (\(v_A>0, v_B>0\))。
- \(M>m\)。
- 時刻の基準: 初めの衝突の瞬間を\(t=0\)。再衝突の時刻を\(t_1\)。
- (1a) 運動量保存則の式。
- (1b) 衝突直後の速度\(v_A, v_B\)。
- (2) ばねが最も縮んだときの物体Aの位置\(L\)。
- (3) 任意の時刻\(t\)における物体A, Bの位置\(x_A, x_B\)。
- (4) 再衝突が \(x=L/2\) で起こるときの、再衝突時刻\(t_1\)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「衝突と単振動」です。2つの異なる物理現象を正しくモデル化し、それらを時間軸に沿ってつなぎ合わせていく能力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 衝突の法則: 衝突の瞬間には、運動量保存則と反発係数の式(はねかえりの式)が成り立ちます。これらを連立させることで、衝突後の各物体の速度を求めることができます。
- 単振動: 衝突後、物体Aはばねの復元力によって単振動を始めます。その運動は \(x = A\sin(\omega t + \phi)\) の形で記述されます。
- 等速直線運動: 物体Bは衝突後、外力を受けないため、一定の速度で運動を続けます。その運動は \(x = vt\) の形で記述されます。
- 再衝突の条件: 2つの物体が再び出会うのは、ある時刻\(t_1\)において、それらの位置が等しくなるときです (\(x_A(t_1) = x_B(t_1)\))。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、衝突の基本法則である運動量保存則と反発係数の式を連立させ、衝突後の速度\(v_A, v_B\)を求めます。
- (2)では、衝突後の物体Aの運動に着目し、力学的エネルギー保存則を用いて、ばねが最も縮んだときの変位(振幅)を求めます。
- (3)では、物体Aの単振動の式と、物体Bの等速直線運動の式を、それぞれ時刻\(t\)の関数として具体的に記述します。
- (4)では、(3)で立てた2つの物体の位置の式が等しい(\(x_A=x_B\))とおき、さらにその位置が\(L/2\)であるという条件を使って、時刻\(t_1\)を求めます。
問(1a)
思考の道筋とポイント
衝突の前後で、2物体を一つの「系」として考えたとき、水平方向には外力が働かないため、系の運動量の和は保存されます。この運動量保存則を式で表します。
この設問における重要なポイント
- 運動量保存則が成り立つ条件(外力が働かない)を理解している。
- 衝突前と衝突後で、系の全運動量をそれぞれ計算し、等しいとおく。
具体的な解説と立式
- 衝突前:
- 物体Aの運動量: \(m \cdot 0 = 0\)
- 物体Bの運動量: \(Mv_0\)
- 系の全運動量: \(Mv_0 + 0 = Mv_0\)
- 衝突後:
- 物体Aの運動量: \(mv_A\)
- 物体Bの運動量: \(Mv_B\)
- 系の全運動量: \(mv_A + Mv_B\)
運動量保存則より、(衝突前の全運動量) = (衝突後の全運動量) なので、
$$Mv_0 = mv_A + Mv_B$$
使用した物理公式
- 運動量保存則: \(\sum m_i \vec{v}_i = \text{const.}\)
問(1b)
思考の道筋とポイント
衝突後の速度\(v_A, v_B\)という2つの未知数を求めるには、式がもう一つ必要です。問題文に「弾性衝突」とあるので、反発係数(はねかえり係数)\(e=1\) の式を立て、(1a)で立てた運動量保存則の式と連立させて解きます。
この設問における重要なポイント
- 弾性衝突の条件が、反発係数\(e=1\)であることを理解している。
- 反発係数の公式 \(e = -\frac{(\text{衝突後の相対速度})}{(\text{衝突前の相対速度})}\) を正しく適用する。
具体的な解説と立式
反発係数の式は、
$$e = -\frac{v_A – v_B}{0 – v_0} = \frac{v_A – v_B}{v_0}$$
弾性衝突なので \(e=1\)。
$$1 = \frac{v_A – v_B}{v_0}$$
よって、
$$v_0 = v_A – v_B \quad \cdots ②$$
(1a)で立てた運動量保存則の式は、
$$Mv_0 = mv_A + Mv_B \quad \cdots ①$$
この①式と②式を連立して \(v_A, v_B\) を求めます。
使用した物理公式
- 運動量保存則
- 反発係数の式
式②より \(v_B = v_A – v_0\)。これを式①に代入します。
$$
\begin{aligned}
Mv_0 &= mv_A + M(v_A – v_0) \\[1.5ex]Mv_0 &= mv_A + Mv_A – Mv_0 \\[1.5ex]2Mv_0 &= (m+M)v_A
\end{aligned}
$$
よって、
$$v_A = \frac{2M}{M+m}v_0$$
次に、この結果を \(v_B = v_A – v_0\) に代入して\(v_B\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
v_B &= \frac{2M}{M+m}v_0 – v_0 \\[2.0ex]&= \left(\frac{2M}{M+m} – 1\right)v_0 \\[2.0ex]&= \left(\frac{2M – (M+m)}{M+m}\right)v_0 \\[2.0ex]&= \frac{M-m}{M+m}v_0
\end{aligned}
$$
衝突の問題は、「運動量保存の式」と「はねかえりの式」の2つを立てて連立方程式を解くのが定石です。それぞれの公式に、衝突前後の速度を当てはめて計算します。
衝突直後の速度は、\(v_A = \frac{2M}{M+m}v_0\), \(v_B = \frac{M-m}{M+m}v_0\) です。
問題文の条件 \(M>m\) より、\(v_A > 0, v_B > 0\) となり、両物体が右方向に進むという条件と一致します。
問(2)
思考の道筋とポイント
衝突後、物体Aは単振動を始めます。「ばねが最も縮んだとき」とは、単振動の折り返し点(端点)であり、そこでは物体Aの速さは一瞬0になります。衝突直後からこの端点までの間で、物体Aとばねの系において力学的エネルギーが保存されることを利用します。
この設問における重要なポイント
- 「ばねが最も縮んだ」 \(\iff\) 「振動の端点」 \(\iff\) 「速さが0」。
- 衝突後の物体Aの運動では、力学的エネルギー保存則が成り立つ。
- 衝突直後の運動エネルギーが、すべてばねの弾性エネルギーに変換されると考える。
具体的な解説と立式
衝突直後(\(t=0\))と、ばねが最も縮んだとき(\(x=L\))の間で、物体Aとばねの系の力学的エネルギー保存則を立てます。
- 衝突直後 (\(x=0\)):
- 速さは\(v_A\)。運動エネルギーは \(\frac{1}{2}mv_A^2\)。
- ばねは自然長なので、弾性エネルギーは0。
- ばねが最も縮んだとき (\(x=L\)):
- 速さは0。運動エネルギーは0。
- ばねの縮みは\(L\)。弾性エネルギーは \(\frac{1}{2}kL^2\)。
力学的エネルギー保存則より、
$$\frac{1}{2}mv_A^2 + 0 = 0 + \frac{1}{2}kL^2$$
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則: \(K+U=\text{一定}\)
- ばねの弾性エネルギー: \(U = \frac{1}{2}kx^2\)
上記の方程式を\(L\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
mv_A^2 &= kL^2 \\[1.5ex]L^2 &= \frac{m}{k}v_A^2
\end{aligned}
$$
\(L>0\)なので、
$$L = \sqrt{\frac{m}{k}}v_A$$
衝突直後、物体Aは速さ\(v_A\)で動き出し、運動エネルギーを持ちます。このエネルギーが、ばねを縮める仕事に使われ、ばねが最も縮んだ点では、すべて「ばねの弾性エネルギー」に変換されます。このエネルギーの移り変わりの式を立てることで、最大の縮み\(L\)が計算できます。
ばねが最も縮んだときの物体の位置(単振動の振幅)は \(L = v_A\sqrt{\frac{m}{k}}\) です。衝突直後の速さ\(v_A\)が大きいほど、また、質量\(m\)が大きくばね定数\(k\)が小さい(慣性が大きく、ばねが柔らかい)ほど、ばねは大きく縮むという、物理的に妥当な結果です。
問(3)
思考の道筋とポイント
衝突後の物体Aと物体B、それぞれの運動を時刻\(t\)の関数として記述します。
- 物体A: ばねにつながれているため、単振動をします。
- 物体B: 外力を受けないため、等速直線運動をします。
この設問における重要なポイント
- 物体Aの運動が単振動であることを認識し、その基本式を立てる。
- 物体Bの運動が等速直線運動であることを認識し、その式を立てる。
- それぞれの運動の初期条件(\(t=0\)での位置と速度)を正しく適用する。
具体的な解説と立式
物体Aの位置 \(x_A\)
物体Aは、振動中心\(x=0\)、振幅\(L\)、角振動数\(\omega = \sqrt{k/m}\)の単振動をします。
\(t=0\)で\(x=0\)から正の向きに動き出すので、その運動はサイン関数で表せます。
$$x_A = L\sin(\omega t)$$
ここに、(2)で求めた \(L = v_A\sqrt{\frac{m}{k}}\) と、\(\omega = \sqrt{k/m}\) の関係を代入します。
$$
\begin{aligned}
x_A &= \left(v_A\sqrt{\frac{m}{k}}\right) \sin\left(\sqrt{\frac{k}{m}}t\right)
\end{aligned}
$$
物体Bの位置 \(x_B\)
物体Bは、\(t=0\)で\(x=0\)の位置から、一定の速度\(v_B\)で等速直線運動をします。
したがって、その位置は、
$$x_B = v_B t$$
衝突後、物体Aはばねに繋がれているので往復運動(単振動)をします。その動きはサインカーブで表せます。一方、物体Bは何も邪魔されないので、衝突直後の速さでまっすぐ進み続けます。その動きは「距離=速さ×時間」で表せます。
物体Aの位置は \(x_A = v_A\sqrt{\frac{m}{k}}\sin\left(\sqrt{\frac{k}{m}}t\right)\)、物体Bの位置は \(x_B = v_B t\) です。
それぞれ単振動と等速直線運動の基本的な式で表されており、妥当です。
問(4)
思考の道筋とポイント
再衝突が起こる時刻\(t_1\)を求めます。再衝突は、物体Aと物体Bの位置が再び等しくなるときに起こります。
$$x_A(t_1) = x_B(t_1)$$
さらに、その位置が \(x=L/2\) であるという条件が与えられています。
この設問における重要なポイント
- 再衝突の条件 \(x_A(t_1) = x_B(t_1)\) を用いる。
- 与えられた再衝突位置の条件を、どちらかの物体の位置の式に適用して時刻\(t_1\)を求める。
具体的な解説と立式
再衝突が時刻\(t_1\)に \(x=L/2\) で起こるので、
$$x_A(t_1) = \frac{L}{2}$$
(3)で求めた物体Aの位置の式 \(x_A = L\sin(\omega t)\) に、\(t=t_1\) と \(x_A=L/2\) を代入します。
$$\frac{L}{2} = L\sin(\omega t_1)$$
使用した物理公式
- 単振動の変位の式
上記の方程式を\(t_1\)について解きます。
$$\sin(\omega t_1) = \frac{1}{2}$$
この式を満たす\(\omega t_1\)は、
$$\omega t_1 = \frac{\pi}{6}, \frac{5\pi}{6}, \frac{13\pi}{6}, \dots$$
問題文に「ばねが最も縮んだ後に再衝突を起こした」とあります。
- ばねが最も縮むのは、\(x=L\)に達したときで、これは単振動の周期\(T\)の\(1/4\)の時間後です。このとき \(\omega t = \pi/2\)。
- 再衝突は、この時刻より後でなければなりません。
したがって、\(\omega t_1 > \pi/2\) を満たす最小の解を選ぶ必要があります。
\(\pi/6 \approx 0.17\pi\), \(\pi/2 = 0.5\pi\), \(5\pi/6 \approx 0.83\pi\) なので、条件を満たす最初の解は、
$$\omega t_1 = \frac{5\pi}{6}$$
角振動数 \(\omega = \sqrt{k/m}\) を用いて\(t_1\)を求めると、
$$t_1 = \frac{5\pi}{6\omega} = \frac{5\pi}{6}\sqrt{\frac{m}{k}}$$
物体AとBが再び出会うのは、2つの物体の位置を表す式が等しくなるときです。今回は、その出会う場所が\(x=L/2\)だと教えてくれています。そこで、物体Aの位置が\(L/2\)になる時刻を計算します。ただし、衝突後、Aは何度も\(x=L/2\)を通過する可能性があるので、「ばねが一番縮んだ後で、最初に出会う」という条件に合う時刻を選びます。
再衝突が起こる時刻\(t_1\)は \(\frac{5\pi}{6}\sqrt{\frac{m}{k}}\) です。
この時刻は、半周期(\(\pi\sqrt{m/k}\))よりは短く、1/4周期(\(\frac{\pi}{2}\sqrt{m/k}\))よりは長い時間であり、図bのグラフの様子とも整合性が取れています。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動量保存則と反発係数の式(衝突現象):
- 核心: 2物体間の衝突という、ごく短時間に内力が劇的に働く現象を解析するための基本法則です。
- 理解のポイント:
- 運動量保存則: 衝突の前後で、系に外力が働かなければ(または無視できれば)、系の全運動量は保存されます。\(Mv_0 = mv_A + Mv_B\)。
- 反発係数の式: 衝突によって失われるエネルギーの度合いを示すもので、\(e = -\frac{(\text{衝突後の相対速度})}{(\text{衝突前の相対速度})}\) で定義されます。「弾性衝突」は、力学的エネルギーが保存される最も理想的な衝突であり、\(e=1\) となります。
この2つの式を連立させることで、衝突後の速度を決定できます。
- 単振動の記述:
- 核心: 衝突後、物体Aはばねの復元力 \(F=-kx\) を受けて単振動を始めます。この運動は三角関数 \(x(t) = A\sin(\omega t + \phi)\) で記述されます。
- 理解のポイント: 単振動の運動を記述するには、振幅\(A\)、角振動数\(\omega\)、初期位相\(\phi\)の3つのパラメータを決定する必要があります。
- 角振動数 \(\omega\): 運動方程式 \(ma=-kx\) から \(\omega=\sqrt{k/m}\) と決まります。
- 振幅 \(A\): 振動の端から中心までの距離。エネルギー保存則(\( \frac{1}{2}kA^2 = \frac{1}{2}mv_{max}^2 \))から求めることができます。この問題では \(L\) が振幅に相当します。
- 初期位相 \(\phi\): \(t=0\) のときの物体の位置と速度の向きで決まります。
- 力学的エネルギー保存則(単振動):
- 核心: 衝突後の物体Aとばねの系では、摩擦がなければ力学的エネルギー(運動エネルギー+弾性エネルギー)が保存されます。
- 理解のポイント: \(\frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}kx^2 = \text{一定}\) という関係が常に成り立ちます。特に、振動の中心では運動エネルギーが最大(位置エネルギーが0)、振動の端では位置エネルギーが最大(運動エネルギーが0)となり、それらの最大値は等しくなります。\(K_{max} = U_{max}\)。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 動く台との衝突: なめらかな床の上の台に物体が衝突する問題。この場合、衝突の前後で「物体+台」の系の運動量が保存されます。
- 振り子と物体の衝突: 振り子のおもりが最下点で別の物体に衝突する問題。衝突の瞬間は運動量保存則、その前後の振り子の運動は力学的エネルギー保存則で解析します。
- 非弾性衝突: 反発係数が \(0 \le e < 1\) の衝突。運動量保存則は成り立ちますが、力学的エネルギーは保存されません。反発係数の式を用いて衝突後の速度を求めます。特に完全非弾性衝突(\(e=0\))では、衝突後に2物体は一体となって運動します。
- 初見の問題での着眼点:
- 現象の分割: 問題全体を「衝突の瞬間」と「衝突後の運動」の2つのフェーズに分割して考えます。
- 衝突フェーズの解析:
- まず運動量保存則を立てる。
- 次に衝突の種類(弾性、非弾性、完全非弾性)を確認し、反発係数の式を立てる。
- これらを連立して、衝突直後の速度を求める。
- 衝突後フェーズの解析:
- 各物体がどのような運動(等速直線運動、単振動、放物運動など)をするかを特定する。
- 単振動の場合は、中心、振幅、角振動数を決定する。
- それぞれの運動を、時刻\(t\)の関数として数式で表現する。
- 再衝突・追いつき条件: 2つの物体の「位置」が等しくなる時刻を求める、という条件式 (\(x_A(t) = x_B(t)\)) を立てて解きます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 運動量保存則の適用範囲:
- 誤解: 衝突後、ばねが縮み始める過程でも運動量保存則が成り立つと考えてしまう。
- 対策: 運動量保存則が成り立つのは、あくまで「外力が働かない系」です。衝突後、物体Aにはばねから力(復元力)が働きます。この力は、壁を介して系全体(A+B)に働く「外力」と見なせるため、衝突後の運動全体では運動量は保存されません。運動量保存則は、外力の影響が無視できるごく短い「衝突の瞬間」にのみ適用します。
- 単振動の振幅と初期位置の混同:
- 誤解: 物体を \(x=-a\) からはなした場合、振幅が \(a\) であることをすぐに判断できない。
- 対策: 振幅は「振動の中心から端までの距離」です。この問題では振動の中心が\(x=0\)なので、端である\(x=\pm a\)までの距離は\(a\)となります。
- 再衝突時刻の解の選択:
- 誤解: (4)で \(\sin(\omega t_1) = 1/2\) を満たす解のうち、最小の \(\omega t_1 = \pi/6\) を選んでしまう。
- 対策: 問題文の物理的な条件をよく確認することが重要です。「ばねが最も縮んだ後に」という記述は、時刻が \(t > T/4\)(ばねが最も縮む時刻)でなければならないことを意味します。数学的に得られた複数の解の中から、物理的な条件に合うものを正しく選択する能力が問われます。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- x-tグラフ: 物体A(単振動)と物体B(等速直線運動)のx-tグラフを同じ座標平面に描くことは、この問題の全体像を把握する上で非常に有効です。物体Aはサインカーブ、物体Bは原点を通る直線を描きます。この2つのグラフの交点が「衝突」の瞬間を表します。最初の交点は\(t=0\)の原点、次の交点が「再衝突」の時刻\(t_1\)となります。
- 対応円: (4)で再衝突の時刻を考える際に、単振動の対応円を描くと、\(\sin(\omega t_1)=1/2\) となる角度が \(\pi/6\) と \(5\pi/6\) であることが視覚的にわかりやすくなります。さらに、\(t>T/4\) という条件から、角度が \(\pi/2\) を超えている必要があることも一目瞭然です。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 衝突の前後を分けて描く: 衝突前、衝突直後、その後の運動、というように、時間の経過に沿って複数の図を描くと、状況の変化が整理しやすくなります。
- 速度ベクトル: 各物体の速度を矢印で図示すると、運動量保存則や反発係数の式を立てる際の符号ミスを防げます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 運動量保存則:
- 選定理由: 「衝突」というキーワードが出てきたら、まず第一に考えるべき保存則だから。2物体の速度の関係式が1本得られます。
- 適用根拠: 衝突というごく短い時間では、ばねの力などの外力の影響は無視できる(力積が小さい)とみなせ、2物体を一つの系として水平方向の運動量が保存されるため。
- 反発係数の式:
- 選定理由: 衝突後の速度という未知数が2つあるのに対し、運動量保存則だけでは式が1本足りない。衝突の種類(弾性衝突)に関する情報から、もう1本式を立てる必要があるため。
- 適用根拠: 「弾性衝突」という問題文の指定。これは \(e=1\) を意味します。
- 力学的エネルギー保存則:
- 選定理由: (2)で、衝突後の物体Aの運動において、速さが0になる点(運動エネルギーが0)と、ばねの縮み(弾性エネルギー)を関連付けたいから。
- 適用根拠: 衝突後の物体Aとばねの系には、非保存力(摩擦など)が働かず、力学的エネルギーが保存されるため。
- 単振動の運動方程式 \(x_A = A\sin(\omega t)\):
- 選定理由: (3)で、衝突後の物体Aの運動を時間の関数として記述する必要があるため。
- 適用根拠: 物体Aに働く力が復元力 \(F=-kx\) であり、その運動が単振動になること、および\(t=0\)の初期条件から。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 衝突後の速度:
- 戦略: 運動量保存則と反発係数の式を連立する。
- フロー: \(Mv_0 = mv_A + Mv_B\) と \(v_0 = v_A – v_B\) の2式を立て、\(v_A, v_B\)について解く。
- (2) 最大の縮みL(振幅):
- 戦略: 衝突後の物体Aの力学的エネルギー保存則を適用する。
- フロー: 衝突直後の運動エネルギー \(\frac{1}{2}mv_A^2\) が、ばねが最も縮んだときの弾性エネルギー \(\frac{1}{2}kL^2\) に等しいとおき、\(L\)を求める。
- (3) 各物体の位置:
- 戦略: 物体Aは単振動、物体Bは等速直線運動として、それぞれの運動を数式で表現する。
- フロー:
- 物体A: 振幅\(L\)、角振動数\(\omega=\sqrt{k/m}\)、初期条件(\(t=0\)で\(x=0, v>0\))から \(x_A = L\sin(\omega t)\) を導く。
- 物体B: 初期位置\(x=0\)、速度\(v_B\)の等速直線運動なので \(x_B = v_B t\)。
- (4) 再衝突時刻:
- 戦略: 再衝突の条件(位置が等しい)を数式で表し、解く。
- フロー: \(x_A(t_1) = x_B(t_1)\) かつ \(x_A(t_1) = L/2\) という条件を用いる。後者の条件を \(x_A\) の式に代入し、\(\sin(\omega t_1) = 1/2\) を得る \(\rightarrow\) 物理的な条件(\(t_1 > T/4\))に合う解を選択し、\(t_1\)を求める。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 連立方程式の計算: (1)の衝突計算は、連立方程式を解く基本です。代入法や加減法をスムーズに使えるように練習しておきましょう。
- 文字の置き換え: (3)や(4)では、\(\omega\) や \(L\) を、より基本的な文字(\(m, k, v_A\)など)で表現し直す場面があります。どの文字が何を表しているかを常に意識し、正確に置き換えましょう。
- 三角関数の解: (4)で \(\sin(\theta) = 1/2\) のような方程式を解く際、解が複数存在することに注意が必要です。単位円などを描いて、すべての可能性をリストアップし、その中から問題の物理的条件に合うものを選ぶ、という手順を徹底しましょう。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (1b) 速度: \(M>m\) という条件から、\(v_B = \frac{M-m}{M+m}v_0\) は正の値となり、衝突後も物体Bが右に進むという問題設定と一致します。また、\(v_A = \frac{2M}{M+m}v_0\) は、\(M>m\) のとき \(v_0 < v_A < 2v_0\) となり、軽い物体Aが速く弾き飛ばされる様子を表していて妥当です。
- (2) 振幅L: \(L\)が衝突後の速さ\(v_A\)に比例するという結果は、強くぶつかるほど大きく振動するという直感と合致します。
- (4) 再衝突時刻: 求めた時刻\(t_1\)が、物体Aが一度折り返す時刻(\(T/2\))より後になっていないか、ばねが最も縮む時刻(\(T/4\))より前になっていないか、といった時間的な前後関係をグラフ上で確認することで、解の妥当性を吟味できます。
- 別解との比較:
- 衝突後の速度の公式を知っている場合、(1b)の結果が公式と一致するかを確認できます。これは良い検算になります。
問題58 (千葉大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、接着された2物体が一体となって行う「たてばね振動」と、ある条件下で2物体が「分離する」現象を扱っています。前半(1)~(6)は一体での単振動を、後半(7)~(8)は分離する条件とその後の運動を問うています。
この問題の核心は、単振動の運動方程式とエネルギー保存則を正しく適用すること、そして「物体が分離する」という物理的な条件を、物体間にはたらく力の条件として数式に翻訳することです。
- 物体A, B: ともに質量\(m\)
- ばね: ばね定数\(k\)、軽い
- 棒OP: 鉛直でなめらか
- 座標軸: つりあいの位置を\(x=0\)、鉛直上向きを正とする。
- 力の定義: 物体Aが物体Bから受ける力を\(T\)とし、\(x\)軸の正の向きを\(T\)の正の向きとする。(\(T>0\)で引き合い、\(T<0\)で押し合い)
- 運動の状況:
- (1)~(6): 接着力は十分大きく、物体AとBは分離しない。つりあいの位置から\(b\)だけ押し下げて静かにはなす。
- (7)~(8): 物体AとB間の引きあう力が\(mg\)以上になると分離する。つりあいの位置から\(b\)だけ押し下げて静かにはなす。
- その他: 重力加速度の大きさを\(g\)とする。
- (1) つりあい時のばねの縮み\(d_1\)。
- (2) 一体で振動するときの周期\(T\)。
- (3) 一体で振動するときの速さの最大値。
- (4) 物体Bにはたらく力の合力。
- (5) 物体AがBから受ける力\(T\)。
- (6) \(T\)と\(x\)の関係のグラフ。
- (7) 物体BがAから分離するための最小の押し下げ距離\(b_1\)。
- (8) 物体BがAから離れた瞬間の速さ。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「単振動」と「運動方程式」、そして「エネルギー保存則」の応用です。特に、2物体が一体となって振動する場合と、途中で分離する場合の扱いの違いがポイントです。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力のつりあい: 静止状態では、物体にはたらく力の合力はゼロです。これを用いて、振動の中心におけるばねの縮みを求めます。
- 運動方程式と単振動: 2物体を一体とみなし、運動方程式を立てます。その式が復元力の形 \(F=-Kx\) となれば、物体は単振動を行うことがわかります。加速度の式 \(a=-\omega^2 x\) と比較することで、角振動数\(\omega\)や周期\(T\)を求めることができます。
- エネルギー保存則: 単振動では、(運動エネルギー) + (復元力による位置エネルギー) = 一定 という関係が成り立ちます。また、より一般的に、重力と弾性力は保存力なので、力学的エネルギー保存則も適用できます。これらは、特定の点での速さを求める際に強力なツールとなります。
- 分離の条件: 「物体が分離する」という条件は、2物体間にはたらく力(この問題では\(T\))が特定の条件を満たすこととして数式化します。今回は「引きあう力が\(mg\)以上」という条件を\(T \ge mg\)と表現します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、力のつりあいから、振動の基準となる状態を把握します(問1)。
- 次に、一体での運動方程式を立て、単振動の特性(周期、角振動数)を明らかにします(問2)。
- 速さを求めるにはエネルギー保存則を、物体間の力を求めるには各物体についての運動方程式を利用します(問3, 4, 5)。
- 最後の(7), (8)では、問題文で与えられた「分離条件」を数式に直し、その条件が満たされるときの運動状態をエネルギー保存則などを用いて解析します。
問(1)
思考の道筋とポイント
物体AとBが一体で静止している、つまり「力のつりあい」の状態を考えます。このとき、2物体をひとまとまりの物体として扱うと、計算が簡単になります。
この設問における重要なポイント
- 物体AとBを、質量\(2m\)の一体の物体とみなす。
- この一体の物体にはたらく力は「重力」と「ばねの弾性力」の2つ。
- 上向きの力と下向きの力が等しい、というつりあいの式を立てる。
具体的な解説と立式
物体AとBを一体(質量\(2m\))と考えると、この物体にはたらく力は以下の通りです。
- 重力: 下向きに\(2mg\)。
- ばねの弾性力: ばねは自然の長さから\(d_1\)だけ縮んでいるので、上向きに\(kd_1\)。
力のつりあいの条件より、上向きの力の大きさと下向きの力の大きさが等しいので、
$$kd_1 = 2mg \quad \cdots ①$$
使用した物理公式
- 力のつりあい: \(\sum F = 0\)
- フックの法則: \(F = kx\)
式①を\(d_1\)について解きます。
$$d_1 = \frac{2mg}{k}$$
物体AとBを合わせた全体の重さ(\(2mg\))を、ばねが縮むことで生み出される上向きの力(\(kd_1\))がちょうど支えている状態です。この2つの力が等しいという式を立てることで、ばねの縮み\(d_1\)がわかります。
つりあい時のばねの縮みは \(d_1 = \displaystyle\frac{2mg}{k}\) です。物体の質量が大きいほど、また、ばねが柔らかい(\(k\)が小さい)ほど、縮みが大きくなるという物理的に妥当な結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
2物体が一体で単振動するときの運動方程式を立てます。その式を単振動の加速度の基本形式 \(a = -\omega^2 x\) と比較することで角振動数\(\omega\)を求め、周期の公式 \(T = 2\pi/\omega\) に代入します。
この設問における重要なポイント
- 振動の中心は、力のつりあいの位置(\(x=0\))。
- 任意の座標\(x\)の位置で、一体の物体(質量\(2m\))にはたらく力を考え、運動方程式を立てる。
- ばねの縮みは、つりあいの位置からの変位\(x\)ではなく、自然の長さからの距離で考える。
具体的な解説と立式
2物体を一体(質量\(2m\))とみなし、位置\(x\)にあるときの運動方程式を立てます。このとき、物体にはたらく力は以下の通りです。
- 重力: 下向きに\(2mg\)。
- ばねの弾性力: つりあい位置で\(d_1\)縮んでいるので、位置\(x\)での自然の長さからの縮みは \(d_1 – x\)。したがって、弾性力は上向き(正の向き)に\(k(d_1 – x)\)。
運動方程式 \(ma=F\) より、加速度を\(a\)として、
$$2ma = k(d_1 – x) – 2mg$$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma = F\)
- 単振動の周期: \(T = \displaystyle\frac{2\pi}{\omega}\)
- 単振動の加速度: \(a = -\omega^2 x\)
上で立てた運動方程式に、問(1)の結果 \(kd_1 = 2mg\) を代入して整理します。
$$
\begin{aligned}
2ma &= k(d_1 – x) – 2mg \\
&= kd_1 – kx – 2mg \\
&= 2mg – kx – 2mg \\
&= -kx
\end{aligned}
$$
この式を加速度\(a\)について解くと、
$$a = -\frac{k}{2m}x$$
これは、単振動の加速度の式 \(a = -\omega^2 x\) と同じ形をしています。両式の係数を比較すると、角振動数\(\omega\)の2乗がわかります。
$$\omega^2 = \frac{k}{2m} \quad \text{よって} \quad \omega = \sqrt{\frac{k}{2m}}$$
したがって、周期\(T\)は、
$$T = \frac{2\pi}{\omega} = 2\pi \sqrt{\frac{2m}{k}}$$
物体が振動している最中の、ある位置\(x\)での運動の様子を運動方程式で記述します。この式を整理すると、加速度が「マイナスの定数 × 位置」という形になり、物体が単振動することがわかります。この関係から、振動の周期を計算することができます。
周期は \(T = 2\pi \sqrt{\displaystyle\frac{2m}{k}}\) です。これは、質量\(2m\)、ばね定数\(k\)の物体がばねにつながれて振動するときの周期の公式と一致しており、物理的に正しい結果です。
問(3)
思考の道筋とポイント
単振動において、物体の速さが最大になるのは振動の中心(\(x=0\))を通過するときです。最大速度を求めるには、公式 \(v_{\text{max}} = A\omega\) を使う方法と、エネルギー保存則を用いる方法があります。ここでは3つの解法を示します。
この設問における重要なポイント
- 速さが最大になるのは振動の中心(\(x=0\))。
- 振幅\(A\)は、振動の端から中心までの距離であり、今回は\(b\)。
- エネルギー保存則を用いる場合は、運動エネルギーが最大となる振動の中心と、位置エネルギーが最大となる振動の端(速さ0)を比較する。
具体的な解説と立式
【解法1】 公式 \(v_{\text{max}} = A\omega\) を利用
単振動の最大速度は、振幅\(A\)と角振動数\(\omega\)の積で与えられます。
- 振幅: つりあいの位置から\(b\)だけ押し下げて静かにはなしたので、振幅は \(A=b\)。
- 角振動数: 問(2)より \(\omega = \sqrt{\displaystyle\frac{k}{2m}}\)。
最大速度を\(v_{\text{max}}\)とすると、
$$v_{\text{max}} = A\omega = b\omega$$
使用した物理公式
- 単振動の最大速度: \(v_{\text{max}} = A\omega\)
\(\omega\)の値を代入します。
$$v_{\text{max}} = b\sqrt{\frac{k}{2m}}$$
別解1: 単振動のエネルギー保存則を利用
具体的な解説と立式
ばね振り子の復元力は\(F=-kx\)なので、一体となった物体(質量\(2m\))の単振動のエネルギー保存則は \(\displaystyle\frac{1}{2}(2m)v^2 + \displaystyle\frac{1}{2}kx^2 = \text{一定}\) と表せます。
振動の端(\(x=-b\), \(v=0\))と振動の中心(\(x=0\), \(v=v_{\text{max}}\))でエネルギーが等しいことから、
$$\frac{1}{2}(2m)(0)^2 + \frac{1}{2}k(-b)^2 = \frac{1}{2}(2m)v_{\text{max}}^2 + \frac{1}{2}k(0)^2$$
使用した物理公式
- 単振動のエネルギー保存則: \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2 + \displaystyle\frac{1}{2}Kx^2 = \text{一定}\) (\(K\)は復元力の比例定数)
上の式を\(v_{\text{max}}\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}kb^2 &= \frac{1}{2}(2m)v_{\text{max}}^2 \\
kb^2 &= 2mv_{\text{max}}^2 \\
v_{\text{max}}^2 &= \frac{kb^2}{2m}
\end{aligned}
$$
\(v_{\text{max}} > 0\) なので、
$$v_{\text{max}} = \sqrt{\frac{kb^2}{2m}} = b\sqrt{\frac{k}{2m}}$$
別解2: 力学的エネルギー保存則を利用
具体的な解説と立式
重力と弾性力は保存力なので、力学的エネルギー(運動エネルギー + 重力位置エネルギー + 弾性エネルギー)も保存されます。
位置エネルギーの基準を\(x=0\)(つりあいの位置)とします。
- スタート位置(\(x=-b\), \(v=0\)):
- 運動エネルギー: \(0\)
- 重力位置エネルギー: \(2mg(-b) = -2mgb\)
- 弾性エネルギー: ばねの縮みは\(d_1-(-b)=d_1+b\)。エネルギーは \(\displaystyle\frac{1}{2}k(d_1+b)^2\)。
- 中心位置(\(x=0\), \(v=v_{\text{max}}\)):
- 運動エネルギー: \(\displaystyle\frac{1}{2}(2m)v_{\text{max}}^2 = mv_{\text{max}}^2\)
- 重力位置エネルギー: \(0\)
- 弾性エネルギー: ばねの縮みは\(d_1\)。エネルギーは \(\displaystyle\frac{1}{2}kd_1^2\)。
エネルギー保存則より、
$$-2mgb + \frac{1}{2}k(d_1+b)^2 = mv_{\text{max}}^2 + \frac{1}{2}kd_1^2$$
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則: \(K + U_g + U_e = \text{一定}\)
左辺を展開し、\(kd_1 = 2mg\) の関係を使って整理します。
$$
\begin{aligned}
-2mgb + \frac{1}{2}k(d_1^2 + 2d_1b + b^2) &= mv_{\text{max}}^2 + \frac{1}{2}kd_1^2 \\[1.5ex]-2mgb + \frac{1}{2}kd_1^2 + kd_1b + \frac{1}{2}kb^2 &= mv_{\text{max}}^2 + \frac{1}{2}kd_1^2 \\[1.5ex]-2mgb + \frac{1}{2}kd_1^2 + (2mg)b + \frac{1}{2}kb^2 &= mv_{\text{max}}^2 + \frac{1}{2}kd_1^2 \\[1.5ex]\frac{1}{2}kb^2 &= mv_{\text{max}}^2
\end{aligned}
$$
これは別解1の途中式と同じであり、これを解くと \(v_{\text{max}} = b\sqrt{\displaystyle\frac{k}{2m}}\) が得られます。
振動の一番下で物体が持つエネルギー(ばねと重力の位置エネルギー)と、振動の中心で物体が持つエネルギー(運動エネルギーとばね、重力の位置エネルギー)は等しくなります。このエネルギーの等式を解くことで、最も速いときの速さがわかります。
速さの最大値は \(v_{\text{max}} = b\sqrt{\displaystyle\frac{k}{2m}}\) です。振幅\(b\)が大きいほど最大速度も大きくなるという、物理的に妥当な結果です。また、3つの異なるアプローチで全て同じ答えが導かれました。
問(4)
思考の道筋とポイント
物体Bのみに着目し、物体Bにはたらく力をすべてリストアップします。問題文の定義と作用・反作用の法則を正しく適用し、上向きを正として力のベクトル和を求めます。
この設問における重要なポイント
- 考察の対象を「物体B」に絞る。
- 物体Bにはたらく力は「重力」と「物体Aから受ける力」の2つ。
- 物体BがAから受ける力は、問題で定義された「AがBから受ける力\(T\)」の反作用である。
具体的な解説と立式
物体Bにはたらく力は以下の2つです。
- 重力: 大きさ\(mg\)、向きは下向き。\(x\)軸の成分で表すと \(-mg\)。
- 物体Aから受ける力: 問題文では「物体Aが物体Bから受ける力」の\(x\)成分を\(T\)と定義しています。作用・反作用の法則により、「物体Bが物体Aから受ける力」の\(x\)成分は \(-T\) となります。
したがって、物体Bにはたらく力の合力\(F_B\)は、これらの和で表されます。
$$F_B = -T – mg$$
使用した物理公式
- 力の合成
- 作用・反作用の法則
この設問は力の成分を定義に従って表現するものであり、これ以上の計算はありません。
物体Bが受けている力は、地球が引く力(重力)と、物体Aが押したり引いたりする力の2つです。問題文では「AがBから受ける力」を\(T\)と定義したので、作用・反作用の法則から「BがAから受ける力」はその逆向きの力、すなわち\(-T\)となります。これと重力(\(-mg\))を足し合わせることで、合力を式で表します。
物体Bにはたらく力は \(F_B = -T – mg\) と表されます。これは、力の定義と作用・反作用の法則に忠実に従った結果です。
問(5)
思考の道筋とポイント
物体Bの運動方程式を立てます。2物体は一体で運動しているため、物体Bの加速度\(a\)は問(2)で求めたものと共通です。この関係式に問(4)で求めた力の合力を適用し、力\(T\)を求めます。
この設問における重要なポイント
- 物体Bの運動方程式は \(ma = F_B\)。
- 加速度\(a\)は、一体の運動として求めた \(a = -\displaystyle\frac{k}{2m}x\) を用いる。
- 問(4)で求めた力の合力 \(F_B = -T – mg\) を用いる。
具体的な解説と立式
物体B(質量\(m\))の運動方程式を立てます。加速度を\(a\)、物体Bにはたらく力の合力を\(F_B\)とすると、
$$ma = F_B$$
ここに、問(4)で求めた \(F_B = -T – mg\) を代入すると、
$$ma = -T – mg$$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma = F\)
この式に、問(2)で求めた一体の運動の加速度 \(a = -\displaystyle\frac{k}{2m}x\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
m\left(-\frac{k}{2m}x\right) &= -T – mg \\[1.5ex]-\frac{1}{2}kx &= -T – mg
\end{aligned}
$$
この式を\(T\)について解くと、
$$T = \frac{1}{2}kx – mg \quad \cdots ④$$
(4)で求めたBに働く力の式を、運動方程式 \(ma=F\) に当てはめます。加速度\(a\)は(2)で分かっているので、それを代入すれば、未知数である力\(T\)を物体の位置\(x\)の式で表すことができます。
物体AがBから受ける力は \(T = \displaystyle\frac{1}{2}kx – mg\) です。
- つりあい位置(\(x=0\))では \(T=-mg\) となり、AはBを\(mg\)の力で押しています(押し合い)。
- ばねが自然長になる位置(\(x=d_1\))では \(T = \displaystyle\frac{1}{2}kd_1 – mg = \displaystyle\frac{1}{2}(2mg) – mg = 0\) となり、力は働きません。
- それより上(\(x>d_1\))では \(T>0\) となり、引きあう力が働きます。
これらの結果は物理的に妥当です。
問(6)
思考の道筋とポイント
問(5)で求めた \(T = \displaystyle\frac{1}{2}kx – mg\) は、\(T\)が\(x\)の一次関数であることを示しています。したがって、グラフは直線になります。指定された範囲 \(-3d_1 \le x \le 3d_1\) の両端の点の座標を計算し、それらを結ぶことでグラフを描きます。
この設問における重要なポイント
- \(T\)と\(x\)の関係が一次関数であるため、グラフは直線になる。
- グラフを描くには、直線の通る2点の座標を求めれば十分。
- \(d_1 = \displaystyle\frac{2mg}{k}\) の関係式を利用して、\(T\)の値を\(mg\)を単位として計算すると分かりやすい。
具体的な解説と立式
グラフにする関数は \(T = \displaystyle\frac{1}{2}kx – mg\) です。
ここで、問(1)の関係式 \(kd_1 = 2mg\) を用いて、グラフ上の点の座標を計算します。
使用した物理公式
- 一次関数のグラフ
指定された範囲の端点における\(T\)の値を計算します。
- \(x = -3d_1\) のとき:
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{1}{2}k(-3d_1) – mg \\
&= -\frac{3}{2}kd_1 – mg \\
&= -\frac{3}{2}(2mg) – mg \\
&= -3mg – mg = -4mg
\end{aligned}
$$ - \(x = 3d_1\) のとき:
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{1}{2}k(3d_1) – mg \\
&= \frac{3}{2}kd_1 – mg \\
&= \frac{3}{2}(2mg) – mg \\
&= 3mg – mg = 2mg
\end{aligned}
$$
したがって、グラフは2点 \((-3d_1, -4mg)\) と \((3d_1, 2mg)\) を通る直線となります。
また、\(T=0\)となるx切片は \(x = \displaystyle\frac{2mg}{k} = d_1\)、\(x=0\)でのT切片は \(T=-mg\) となります。
(5)で求めた式は、力\(T\)と位置\(x\)の関係を表す直線の式です。グラフを描くために、横軸を\(x\)、縦軸を\(T\)とします。そして、振動範囲の両端など、いくつかの代表的な位置での\(T\)の値を計算し、それらの点を直線で結びます。
グラフは点 \((d_1, 0)\) を通り、傾きが \(\displaystyle\frac{k}{2}\) の直線となります。\(x<d_1\) では \(T<0\)(押し合い)、\(x>d_1\) では \(T>0\)(引き合い)となり、物理的な状況と一致しています。
問(7)
思考の道筋とポイント
物体AとBが分離する条件は、問題文から「引きあう力の大きさが\(mg\)以上になる」ことです。これを数式で \(T \ge mg\) と表します。この不等式を解いて分離が起こりうる位置\(x\)の範囲を求め、物体がその位置に到達できるための最小の振幅(押し下げ距離)\(b_1\)を決定します。
この設問における重要なポイント
- 「分離する条件」を数式に正しく翻訳する: \(T \ge mg\)。
- 問(5)で求めた\(T\)の式を代入し、条件を満たす\(x\)の範囲を求める。
- 物体が位置\(x\)に到達するためには、振幅が\(x\)以上である必要がある(\(b \ge x\))。
具体的な解説と立式
物体が分離する条件は \(T \ge mg\) です。
この不等式に、問(5)で求めた \(T = \displaystyle\frac{1}{2}kx – mg\) を代入します。
$$\frac{1}{2}kx – mg \ge mg$$
使用した物理公式
- 単振動の運動範囲
この不等式を\(x\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}kx &\ge 2mg \\[1.5ex]x &\ge \frac{4mg}{k}
\end{aligned}
$$
これは、物体が \(x = \displaystyle\frac{4mg}{k}\) 以上の領域に達したときに分離が起こる可能性があることを意味します。
物体がこの位置に到達するためには、単振動の最上点(振幅の位置)がこの位置以上でなければなりません。つりあいの位置から\(b\)だけ押し下げて運動を始める場合、振幅は\(b\)なので、最上点は\(x=b\)です。
したがって、条件は \(b \ge \displaystyle\frac{4mg}{k}\) となります。
求める最小の押し下げ距離\(b_1\)は、この等号が成立するときです。
$$b_1 = \frac{4mg}{k}$$
まず、接着剤がはがれる条件(引き合う力が\(mg\)以上)が、どの位置\(x\)で起こるのかを計算します。次に、物体がその位置まで実際に到達するためには、振動の幅(振幅)がどれだけ必要かを考えます。そのぎりぎりの振幅が、求める最小の押し下げ距離です。
求める最小の押し下げ距離は \(b_1 = \displaystyle\frac{4mg}{k}\) です。問(1)で求めた \(d_1 = \displaystyle\frac{2mg}{k}\) を使うと \(b_1 = 2d_1\) となります。振幅が\(2d_1\)のとき、最上点は\(x=2d_1\)となり、この位置でちょうど分離条件 \(T=mg\) を満たすため、物理的に妥当な結果です。
問(8)
思考の道筋とポイント
物体BがAから離れる瞬間の速さを求めます。分離が起こるのは、引きあう力が\(mg\)になった瞬間、すなわち \(x = \displaystyle\frac{4mg}{k}\) の位置です。この位置での速さを、エネルギー保存則を用いて計算します。スタート地点(\(x=-b\), \(v=0\))と分離する地点のエネルギーを比較します。
この設問における重要なポイント
- 分離する瞬間の位置は \(x = \displaystyle\frac{4mg}{k}\)。
- スタート位置(\(x=-b\), \(v=0\))と分離する位置の間でエネルギー保存則を立てる。
- 計算が簡単な「単振動のエネルギー保存則」を用いるのが効率的。
具体的な解説と立式
【解法1】 単振動のエネルギー保存則を利用
一体で運動している間の単振動のエネルギー \(\displaystyle\frac{1}{2}(2m)v^2 + \displaystyle\frac{1}{2}kx^2\) は保存されます。
このエネルギーの合計値は、スタート位置(\(x=-b\), \(v=0\))でのエネルギーに等しく、その値は \(\displaystyle\frac{1}{2}k(-b)^2 = \displaystyle\frac{1}{2}kb^2\) です。
したがって、任意の点(\(x, v\))で以下の式が成り立ちます。
$$\frac{1}{2}(2m)v^2 + \frac{1}{2}kx^2 = \frac{1}{2}kb^2$$
この式に、分離する位置 \(x = \displaystyle\frac{4mg}{k}\) を代入し、そのときの速さ\(v\)を求めます。
$$mv^2 + \frac{1}{2}k\left(\frac{4mg}{k}\right)^2 = \frac{1}{2}kb^2$$
使用した物理公式
- 単振動のエネルギー保存則: \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2 + \displaystyle\frac{1}{2}Kx^2 = \text{一定}\)
上の式を\(v\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
mv^2 + \frac{1}{2}k\left(\frac{16m^2g^2}{k^2}\right) &= \frac{1}{2}kb^2 \\[1.5ex]mv^2 + \frac{8m^2g^2}{k} &= \frac{1}{2}kb^2 \\[1.5ex]v^2 &= \frac{kb^2}{2m} – \frac{8mg^2}{k}
\end{aligned}
$$
\(v \ge 0\) なので、
$$v = \sqrt{\frac{k}{2m}b^2 – \frac{8mg^2}{k}}$$
別解: 力学的エネルギー保存則を利用
具体的な解説と立式
力学的エネルギー保存則を用いても同じ結果が得られますが、計算はより複雑になります。
基準を\(x=0\)とし、スタート位置(\(x=-b\), \(v=0\))と分離位置(\(x=\frac{4mg}{k}\), 速さ\(v\))でエネルギー保存則を立てます。
$$
\begin{aligned}
& \text{スタート位置のエネルギー} \\
& E_{\text{start}} = \frac{1}{2}(2m)(0)^2 + 2mg(-b) + \frac{1}{2}k(d_1 – (-b))^2 \\
& \text{分離位置のエネルギー} \\
& E_{\text{sep}} = \frac{1}{2}(2m)v^2 + 2mg\left(\frac{4mg}{k}\right) + \frac{1}{2}k\left(d_1 – \frac{4mg}{k}\right)^2
\end{aligned}
$$
\(E_{\text{start}} = E_{\text{sep}}\) を \(d_1 = \displaystyle\frac{2mg}{k}\) を用いて解くと、解法1と同じ結果が得られます。
スタートした瞬間(一番下)のエネルギーと、物体が離れる瞬間のエネルギーは等しくなります。この「エネルギー保存の法則」を使って式を立てます。スタート時のエネルギーは押し下げた距離\(b\)だけで決まります。離れる瞬間のエネルギーは、そのときの物体の位置と速さで決まります。この等式を速さ\(v\)について解くことで、答えが求まります。
分離する瞬間の速さは \(v = \sqrt{\displaystyle\frac{k}{2m}b^2 – \displaystyle\frac{8mg^2}{k}}\) です。
分離が起こるぎりぎりの条件である \(b = b_1 = \displaystyle\frac{4mg}{k}\) を代入してみると、
$$v^2 = \frac{k}{2m}\left(\frac{4mg}{k}\right)^2 – \frac{8mg^2}{k} = \frac{k}{2m}\frac{16m^2g^2}{k^2} – \frac{8mg^2}{k} = \frac{8mg^2}{k} – \frac{8mg^2}{k} = 0$$
となり、\(v=0\)が得られます。これは、最小の押し下げ距離で運動させた場合、ちょうど最高点で分離条件を満たし、その瞬間の速さは0であることを意味しており、物理的に妥当です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動方程式と単振動の条件:
- 核心: 物体にはたらく力の合力\(F\)が、つりあいの位置からの変位\(x\)に比例し、向きが逆(\(F=-Kx\))のとき、物体は単振動します。この問題では、まず2物体を一体とみなし、運動方程式を立ててこの形になることを確認します。これにより、角振動数\(\omega = \sqrt{K/M}\)(\(M\)は振動する物体の質量)や周期\(T\)が求まります。
- 理解のポイント: 重力と弾性力がはたらく「たてばね振り子」では、力のつりあいの位置を原点に取ると、重力とつりあい時の弾性力が相殺され、復元力が変位\(x\)に比例する項(\(-kx\))のみになることが重要です。
- エネルギー保存則(単振動と力学的):
- 核心: 単振動では「運動エネルギーと復元力による位置エネルギーの和」が保存されます。また、重力と弾性力は保存力なので、より一般的な「力学的エネルギー(運動エネルギー+重力位置エネルギー+弾性エネルギー)の和」も保存されます。
- 理解のポイント: どちらのエネルギー保存則を使うかで、計算の複雑さが変わります。
- 単振動のエネルギー保存則: \(\displaystyle\frac{1}{2}Mv^2 + \displaystyle\frac{1}{2}Kx^2 = \text{一定}\)。つりあいの位置を基準にするため、重力位置エネルギーを考慮する必要がなく、計算が非常に簡潔になります。速さを求める(3)や(8)で最も効率的です。
- 力学的エネルギー保存則: 自然長の位置を基準にすることが多く、計算は複雑になりがちですが、物理現象をより根本的に捉えることができます。
- 分離・接触の条件(内力の条件):
- 核心: 2つの物体が「離れる」「接触を保つ」といった条件は、2物体間にはたらく内部の力(内力、この問題では\(T\))に関する条件として数式化されます。
- 理解のポイント: (7)の「物体AとBが離れる」という日本語の条件は、「AとBが引きあう力\(T\)が、接着剤の限界である\(mg\)以上になる」と読み替え、\(T \ge mg\)という不等式で表現します。この「物理条件の数式化」が、この種の問題を解く上での最大の鍵となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 床の上の物体との単振動: ばねでつながれた板の上に乗った物体が、板と一緒に単振動する問題。物体が板から「離れる」条件は、物体にはたらく垂直抗力\(N\)が0になるとき (\(N=0\)) として扱います。
- エレベーター内の振り子: 加速するエレベーター内で単振動する振り子。見かけの重力が変化するため、つりあいの位置や周期が変わります。
- 2体問題: 2つの物体がばねで結ばれて振動する問題。重心の運動と相対運動に分けて考えると見通しが良くなります。
- 初見の問題での着眼点:
- 振動の中心はどこか?: まず、系全体にはたらく力の「つりあいの位置」を特定します。ここが単振動の中心(\(x=0\))となります。
- 一体か、別々か?: 問題のフェーズに応じて、複数の物体を「一体の質量」として扱えるか、それとも「個別の物体」としてそれぞれの運動方程式を立てる必要があるかを見極めます。物体間の力を問われたら、個別に考える必要があります。
- 「離れる」「滑る」などの条件は何か?: 問題文中の「離れる」「浮き上がる」「滑り出す」といったキーワードに注目し、それを力の条件(垂直抗力\(N=0\)、静止摩擦力\(f \le \mu N\)など)に翻訳します。
- どのエネルギー保存則が最も効率的か?: 速さを求めたい場合、単振動のエネルギー保存則が使えるか(復元力が\(-Kx\)の形か)をまず検討します。使えれば計算が楽になります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- ばねの「伸び・縮み」の基準点の混同:
- 誤解: 運動方程式やエネルギーの式を立てる際に、ばねの変位を「振動の中心から」とすべきところを「自然長から」にしてしまったり、その逆をしてしまう。
- 対策: 常に「ばねの弾性力・弾性エネルギーは、自然長からの変位で決まる」という基本を意識します。運動方程式を立てる際は、図を描いて、位置\(x\)のときの自然長からの縮みが \(d_1-x\) となることを明確に把握しましょう。
- 作用・反作用の力の向きの誤解:
- 誤解: (4)で、物体BがAから受ける力を、問題で定義された\(T\)と同じ向きだと考えてしまう。
- 対策: 「AがBから受ける力」と「BがAから受ける力」は、大きさが等しく向きが逆のペア(作用・反作用)です。問題文でどちらの力が\(T\)と定義されているかを正確に読み取り、もう一方の物体にはたらく力は\(-T\)として扱うことを徹底しましょう。
- 「離れる」条件の誤解:
- 誤解: 物体が離れる条件を、速さが0になるときや、最上点に達したときなど、運動学的な条件と勘違いしてしまう。
- 対策: 「離れる」のは、あくまで力の問題です。物体を接触させ続けている力(垂直抗力や接着力)が限界に達するか、0になった瞬間に離れます。必ず力の条件(\(T \ge mg\), \(N=0\)など)に立ち返って考える習慣をつけましょう。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 力のつりあい図: 振動の中心(\(x=0\))での力のつりあいの図を最初に描くことで、\(d_1\)と\(mg\)の関係を視覚的に理解できます。
- 任意の位置での力のベクトル図: 振動中の任意の位置\(x\)で、物体A、物体B、そして一体とみなした物体、それぞれにはたらく力をすべてベクトルで図示します。特に、物体間の内力\(T\)の向き(押し合いか引き合いか)を意識すると、運動方程式の立式ミスが減ります。
- エネルギーの棒グラフ: スタート地点、中心、分離地点などで、運動エネルギー、重力位置エネルギー、弾性エネルギーの配分がどのように変化するかを棒グラフでイメージすると、エネルギー保存則の理解が深まります。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 座標軸と力の向き: 鉛直上向きを正とする座標軸を明確に描き、重力(常に負)、弾性力(\(d_1-x > 0\)なら正)、内力\(T\)などの符号が図と式で一致するように注意します。
- 基準点の明記: 位置エネルギーを考える際は、重力位置エネルギーの基準点(例:\(x=0\))と、弾性エネルギーの基準点(自然長の位置)をそれぞれ図に書き込み、混同しないようにします。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のつりあい (\(kd_1 = 2mg\)):
- 選定理由: 振動の中心となる「静止状態」を記述するため。ばねの自然長からの縮み\(d_1\)を他の物理量と関連付ける最初のステップです。
- 適用根拠: 物体が静止している (\(a=0\)) という物理的状況。
- 運動方程式 (\(2ma = -kx\)):
- 選定理由: 運動のダイナミクス(時間変化)を記述し、単振動であることの証明と、その特性(角振動数\(\omega\)、周期\(T\))を導出するため。
- 適用根拠: 物体が加速度運動しているという物理的状況。
- 単振動のエネルギー保存則:
- 選定理由: 特定の位置での「速さ」を、最も簡単に計算するため。
- 適用根拠: 復元力が\(-Kx\)の形で表せる単振動であるという条件。この条件が満たされる限り、重力ポテンシャルを考慮する手間を省けます。
- \(T \ge mg\) (分離条件):
- 選定理由: 「物体が離れる」という現象を、解析可能な数式に変換するため。
- 適用根拠: 問題文で与えられた「引きあう力の大きさが接着剤の接着力以上になる」という物理的制約。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) つりあい位置の縮み:
- 戦略: 一体(質量\(2m\))での力のつりあい。
- フロー: \(kd_1 = 2mg\) \(\rightarrow\) \(d_1\)を求める。
- (2) 周期:
- 戦略: 一体での運動方程式を立て、\(a=-\omega^2 x\)の形にする。
- フロー: \(2ma = k(d_1-x) – 2mg\) \(\rightarrow\) \(a = -\frac{k}{2m}x\) \(\rightarrow\) \(\omega = \sqrt{\frac{k}{2m}}\) \(\rightarrow\) \(T = 2\pi/\omega\) を求める。
- (3) 最大速度:
- 戦略: 単振動のエネルギー保存則(スタート位置 \(x=-b\) と中心 \(x=0\) を比較)。
- フロー: \(\frac{1}{2}k(-b)^2 = \frac{1}{2}(2m)v_{\text{max}}^2\) \(\rightarrow\) \(v_{\text{max}}\)を求める。
- (4) 物体Bの合力:
- 戦略: Bにはたらく力をリストアップし、ベクトル和をとる。
- フロー: 重力(\(-mg\)) + Aからの力(\(-T\)) \(\rightarrow\) \(F_B = -T – mg\)。
- (5) 内力T:
- 戦略: 物体Bの運動方程式 \(ma = F_B\) を立てる。
- フロー: \(ma = -T – mg\) に \(a = -\frac{k}{2m}x\) を代入 \(\rightarrow\) \(T\)を\(x\)の関数として求める。
- (6) グラフ:
- 戦略: (5)で求めた一次関数の式に、範囲の端点 \(x=\pm 3d_1\) を代入し、2点を直線で結ぶ。
- フロー: \(T(-3d_1)\)と\(T(3d_1)\)を計算し、プロットする。
- (7) 分離条件:
- 戦略: ①分離条件 \(T \ge mg\) を解き、分離が起こる位置 \(x\) の範囲を求める → ②物体がその位置に到達するための振幅の条件 (\(b \ge x\)) を考える。
- フロー: \(\frac{1}{2}kx – mg \ge mg\) \(\rightarrow\) \(x \ge \frac{4mg}{k}\) \(\rightarrow\) 最小の\(b\)は \(b_1 = \frac{4mg}{k}\)。
- (8) 分離時の速さ:
- 戦略: 単振動のエネルギー保存則(スタート位置 \(x=-b\) と分離位置 \(x=4mg/k\) を比較)。
- フロー: \(\frac{1}{2}k(-b)^2 = \frac{1}{2}(2m)v^2 + \frac{1}{2}k(\frac{4mg}{k})^2\) \(\rightarrow\) \(v\)を求める。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字の置き換えを活用する: (1)で求めた \(d_1 = 2mg/k\) は、後の計算で頻繁に登場します。\(mg\)や\(k\)のままで計算するよりも、\(kd_1 = 2mg\) の関係を使って式を整理すると、項が相殺されて計算が非常に楽になります((3)の力学的エネルギー保存則の計算例を参照)。
- 符号のダブルチェック: 運動方程式を立てる際、座標軸の正の向きと、各力のベクトルの向きを照らし合わせ、符号(+, -)が正しいか必ず確認しましょう。特に重力は常に下向き(負)です。
- エネルギー保存則の選択: 速さを求める問題では、まず計算が簡単な「単振動のエネルギー保存則」が使えないか検討しましょう。これにより、重力位置エネルギーや複雑な弾性エネルギーの項を扱わずに済み、計算ミスを大幅に減らせます。
- 結果の検算: (8)で求めた速さ\(v\)の式に、(7)で求めた分離のぎりぎりの条件 \(b=b_1\) を代入してみましょう。このとき \(v=0\) となるはずです。このような物理的に意味のある極端なケースで検算する習慣は、間違いを発見するのに非常に有効です。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (5) \(T = \frac{1}{2}kx – mg\): この式から、振動の上方(\(x\)が大きい)ほど引きあう力\(T\)が大きくなることがわかります。これは、上に行くほど物体全体の加速度が下向きに大きくなり、上の物体Bを下に引っ張る力がより必要になるためで、直感と一致します。
- (7) \(b_1 = 4mg/k = 2d_1\): 分離するには、つりあいの位置から\(d_1\)だけ上にある自然長の位置をさらに超え、\(x=2d_1\)まで上昇する必要があるという結果です。ばねが伸びる領域で分離が起こるというのは物理的に妥当です。
- (8) \(v\)の式: \(v^2 = \frac{k}{2m}b^2 – \frac{8mg^2}{k}\) という形から、分離するためには右辺が正、つまり \(b^2 > \frac{16m^2g^2}{k^2}\) すなわち \(b > \frac{4mg}{k}\) が必要であることがわかります。これは(7)の結果と整合しています。
- 極端な場合や既知の状況との比較:
- (5)の式で\(x=d_1\)(自然長の位置)を代入すると \(T = \frac{1}{2}k(2mg/k) – mg = 0\) となります。このとき、ばねの力は0、2物体の加速度は\(-g\)(自由落下)となり、物体間には力が働かないはずなので、結果は妥当です。
- (6)のグラフで、\(x=0\)(つりあい位置)では\(T=-mg\)です。このとき加速度は0なので、物体Bにはたらく力はつりあっているはずです。Bにはたらく力は \(-T-mg = -(-mg)-mg = 0\) となり、確かにつりあっています。
問題59 (武蔵工大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、静止した電車内での「単振り子」の運動と、等加速度運動する電車内での「見かけの重力下での単振り子」の運動、そしてその後の「放物運動」を扱っています。空欄補充形式で、単振り子の基本的な性質から慣性力、運動の合成まで幅広い知識が問われます。
この問題の核心は、運動の状況に応じて「どの座標系で見るか」を適切に選択し、それぞれの座標系で運動法則を正しく適用することです。
- 単振り子: 糸の長さ \(l\)、小球の質量 \(m\)
- 状況1(ア、イ): 電車は停車中。鉛直面内で振動。
- 状況2(ウ〜カ): 電車が水平方向に一定の加速度 \(a\) で運動。
- ウ、エ: 糸が鉛直線と角 \(\theta_0\) をなして静止。
- オ、カ: 新しいつりあいの位置 O’ を中心に微小振動。
- 状況3(キ、ク): 振動の右端で糸を切る。そのときの床からの高さは \(h\)。
- その他: 重力加速度の大きさ \(g\)、空気抵抗は無視。
- ア: 停車中の復元力 \(F\) を \(m, g, \theta\) で表す。
- イ: 停車中の復元力 \(F\) を \(m, g, l, x\) で表す(微小振動)。
- ウ: 加速中のつりあい角 \(\theta_0\) の \(\tan\theta_0\) を \(g, a\) で表す。
- エ: 加速中のつりあい時の張力 \(S\) を \(m, g, a\) で表す。
- オ: 加速中の復元力 \(F’\) を \(m, g, a, l, x’\) で表す(微小振動)。
- カ: 加速中の単振動の周期 \(T\) を \(g, a, l\) で表す。
- キ: 糸を切ってから床に落ちるまでの時間。
- ク: 糸を切った位置の真下の点Rから落下点までの水平距離。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「単振り子」と「慣性力」です。静止系と加速系での見方の違いを理解することが重要です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 単振り子の復元力: 復元力は、おもりを円運動の軌道に沿ってつりあいの位置に戻そうとする力です。これは重力の、糸と垂直な方向の成分です。
- 近似式: 振幅が小さい(\(\theta\)が小さい)場合、\(\sin\theta \approx \tan\theta \approx \theta\) や、円弧の長さ \(x = l\theta\) という近似が使えます。これにより、運動方程式が単振動の形になります。
- 慣性力: 加速度 \(a\) で運動する観測者から物体を見ると、実際の力に加えて、加速度と逆向きに大きさ \(ma\) の「慣性力」がはたらいているように見えます。
- 見かけの重力: 加速系内では、重力と慣性力のベクトル和を「見かけの重力」とみなすことができます。これにより、加速系内の運動を、重力加速度が変化した静止系での運動と同じように扱うことができます。
- 運動の独立性: 糸が切れた後の運動は、水平方向と鉛直方向で独立した運動として考えることができます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、静止系での単振り子の運動を解析し、復元力と周期の基本を理解します(ア、イ)。
- 次に、電車が加速する状況を考えます。ここでは、電車内の観測者の立場(非慣性系)に立ち、慣性力を導入して力のつりあいを考えます(ウ、エ)。
- 加速系内での単振動は、「見かけの重力」を用いた単振り子としてモデル化し、復元力と周期を求めます(オ、カ)。
- 最後に、糸が切れた後の運動を、地上から見た観測者の立場(慣性系)で考えます。水平方向は等加速度直線運動、鉛直方向は自由落下として扱います(キ、ク)。
問ア
思考の道筋とポイント
静止している電車内での単振り子を考えます。復元力とは、小球をつりあいの位置Oに戻そうとする力のことです。これは、小球にはたらく重力を、糸に沿った方向と糸に垂直な方向に分解したときの、糸に垂直な方向の成分です。
この設問における重要なポイント
- 小球にはたらく力は「重力 \(mg\)」と「張力 \(S\)」の2つ。
- 復元力は、円弧の接線方向(糸と垂直な方向)の力の成分。
- 張力は常に糸の方向を向くため、復元力には寄与しない。
具体的な解説と立式
小球にはたらく重力 \(mg\) を、糸の方向と、糸と垂直な方向(円弧の接線方向)に分解します。
- 糸の方向の成分: \(mg\cos\theta\)
- 糸と垂直な方向の成分: \(mg\sin\theta\)
このうち、つりあいの位置Oの向きにはたらく糸と垂直な方向の成分が復元力 \(F\) となります。
したがって、その大きさは、
$$F = mg\sin\theta$$
使用した物理公式
- 力の分解
この設問は力の成分を求めるものであり、これ以上の計算はありません。
振り子を揺らすと、元の位置(真下)に戻ろうとします。この「戻ろうとする力」が復元力です。この力は、おもりにかかる重力の一部が、振り子の進む向きに働いているものです。三角関数を使って、重力を分解することでその大きさを求めます。
復元力の大きさは \(F = mg\sin\theta\) です。角度\(\theta\)が0のとき(つりあいの位置)は \(\sin\theta=0\) で復元力も0となり、角度が大きくなるほど復元力も大きくなるという、物理的に妥当な結果です。
問イ
思考の道筋とポイント
振幅が小さい場合(\(\theta\)が非常に小さい場合)の復元力を求めます。このとき、近似式 \(\sin\theta \approx \displaystyle\frac{x}{l}\) が成り立ちます。これを利用して、問アで求めた \(F\) を \(x\) を用いて表します。
この設問における重要なポイント
- 振幅が小さい場合、\(\theta\)が微小角とみなせる。
- 微小角のとき、円弧と弦の長さはほぼ等しく、\(\sin\theta \approx \displaystyle\frac{x}{l}\) という幾何学的な関係が成り立つ。
具体的な解説と立式
問アで求めた復元力の式は \(F = mg\sin\theta\) です。
図1から、糸の長さが \(l\)、つりあいの位置からの水平変位が \(x\) なので、\(\theta\)が小さいとき、\(\sin\theta \approx \displaystyle\frac{x}{l}\) と近似できます。
この近似式を復元力の式に代入します。
$$F = mg\sin\theta \approx mg\frac{x}{l}$$
使用した物理公式
- 微小角近似: \(\sin\theta \approx \displaystyle\frac{x}{l}\)
代入して整理します。
$$F = \frac{mg}{l}x$$
振り子の振れ幅がとても小さいときは、三角関数 \(\sin\theta\) は、単純な比率 \(x/l\) で置き換えることができます。この置き換えを(ア)で求めた式に行うことで、復元力を変位\(x\)で表すことができます。
復元力は \(F = \displaystyle\frac{mg}{l}x\) となります。これは、復元力が変位\(x\)に比例する形 \(F=Kx\)(\(K=\frac{mg}{l}\))になっており、小球が単振動することを示しています。これは単振り子の基本的な性質であり、妥当な結果です。
問ウ
思考の道筋とポイント
電車が加速度 \(a\) で運動しているため、電車内の観測者から見ると、小球には慣性力がはたらいているように見えます。小球が角 \(\theta_0\) で静止しているのは、この慣性力と重力、そして糸の張力の3つの力がつりあっている状態です。
この設問における重要なポイント
- 加速する電車内(非慣性系)で考える。
- 小球には、重力 \(mg\)(鉛直下向き)、張力 \(S\)(糸の方向)、慣性力 \(ma\)(加速度と逆向き、つまり水平左向き)の3力がはたらく。
- この3力がつりあっている条件から式を立てる。
具体的な解説と立式
電車内の観測者から見ると、小球にはたらく力は以下の通りです。
- 重力: \(mg\)(鉛直下向き)
- 慣性力: \(ma\)(水平左向き)
- 張力: \(S\)(角 \(\theta_0\) の方向)
これらの力がつりあっているので、水平方向と鉛直方向の力の成分の和がそれぞれ0になります。
- 水平方向のつりあい: \(S\sin\theta_0 = ma \quad \cdots ①\)
- 鉛直方向のつりあい: \(S\cos\theta_0 = mg \quad \cdots ②\)
使用した物理公式
- 慣性力: \(F = -ma\)
- 力のつりあい: \(\sum F_x = 0, \sum F_y = 0\)
式①を式②で割ることで、張力\(S\)を消去し、\(\tan\theta_0\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
\frac{S\sin\theta_0}{S\cos\theta_0} &= \frac{ma}{mg} \\[2.0ex]\tan\theta_0 &= \frac{a}{g}
\end{aligned}
$$
電車が加速すると、中の人は後ろに押されるような力を感じます。これが慣性力です。振り子のおもりも同様にこの力を受けます。この慣性力と、もともと働いている重力の2つを合わせた結果、振り子は斜め後ろに引かれるような状態になり、その方向で静止します。力のつりあいの式を立てて、その角度を計算します。
\(\tan\theta_0 = \displaystyle\frac{a}{g}\) となります。加速度\(a\)が大きいほど、また重力加速度\(g\)が小さいほど、傾く角度が大きくなるという直感に合う結果です。
問エ
思考の道筋とポイント
問ウで立てた力のつりあいの式①と②を使って、張力\(S\)を求めます。三平方の定理を利用するのが最も簡単です。
この設問における重要なポイント
- 問ウで立てた力のつりあいの式を利用する。
- 力のベクトル図を考えると、張力\(S\)は、重力\(mg\)と慣性力\(ma\)の合力の大きさに等しいことがわかる。
具体的な解説と立式
力のつりあいから、張力 \(\vec{S}\) は、重力 \(\vec{F_g}\) と慣性力 \(\vec{F_i}\) の合力とつりあっています。つまり、\(\vec{S} = -(\vec{F_g} + \vec{F_i})\) を意味し、張力\(S\)の大きさは、重力と慣性力の合力の大きさに等しくなります。
重力\(mg\)と慣性力\(ma\)は互いに直交しているので、三平方の定理を用いて合力の大きさ(すなわち張力\(S\)の大きさ)を計算できます。
$$S^2 = (mg)^2 + (ma)^2$$
使用した物理公式
- 三平方の定理(力の合成)
上の式を\(S\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
S^2 &= m^2g^2 + m^2a^2 = m^2(g^2+a^2)
\end{aligned}
$$
\(S>0\)なので、
$$S = \sqrt{m^2(g^2+a^2)} = m\sqrt{g^2+a^2}$$
振り子を斜めに支えている糸の力(張力)は、下向きに引く「重力」と、後ろ向きに引く「慣性力」の両方を支えなければなりません。この2つの力は直角なので、ピタゴラスの定理(三平方の定理)を使って、合わさった力の大きさ、すなわち張力の大きさを計算できます。
張力の大きさは \(S = m\sqrt{g^2+a^2}\) です。\(a=0\)(電車が停止)のときは \(S=mg\) となり、静止した振り子の張力と一致します。加速度\(a\)が大きくなるほど張力も大きくなる、物理的に妥当な結果です。
問オ
思考の道筋とポイント
加速する電車内での単振動を考えます。ここでも電車内の観測者の立場で考え、「見かけの重力」という概念を使うと見通しが良くなります。見かけの重力とは、重力と慣性力の合力のことです。この見かけの重力がつりあう方向が、新しいつりあいの位置O’になります。
この単振動の復元力\(F’\)は、この「見かけの重力」を分解して求めます。
この設問における重要なポイント
- 見かけの重力 \(m\vec{g’}\) は、重力 \(m\vec{g}\) と慣性力 \(-m\vec{a}\) のベクトル和。
- 見かけの重力加速度の大きさは \(g’ = \sqrt{g^2+a^2}\)。
- 加速系での単振り子は、重力加速度の大きさが\(g’\)になった静止系での単振り子と等価に扱える。
- 問イの結果 \(F = \displaystyle\frac{mg}{l}x\) において、\(g \rightarrow g’\), \(x \rightarrow x’\) と置き換える。
具体的な解説と立式
電車内では、重力\(mg\)と慣性力\(ma\)の合力が「見かけの重力」として働きます。その大きさは \(m\sqrt{g^2+a^2}\) です。
したがって、見かけの重力加速度の大きさは \(g’ = \sqrt{g^2+a^2}\) となります。
この状況は、重力加速度の大きさが\(g\)から\(g’\)に変わった世界で単振り子を考えるのと同じです。
問イでは、静止系での復元力は \(F = \displaystyle\frac{mg}{l}x\) と求められました。
この式の \(g\) を見かけの重力加速度 \(g’\) に、変位 \(x\) を新しいつりあいの位置O’からの変位 \(x’\) に置き換えることで、加速系での復元力 \(F’\) が求められます。
$$F’ = \frac{mg’}{l}x’$$
ここに \(g’ = \sqrt{g^2+a^2}\) を代入します。
$$F’ = \frac{m\sqrt{g^2+a^2}}{l}x’$$
使用した物理公式
- 見かけの重力
- 単振り子の復元力の類推
代入するだけであり、これ以上の計算はありません。
加速する電車の中では、重力が「斜め下向き」に強くなったように感じられます。この「見かけの重力」のもとで振り子が揺れると考えれば、問題は簡単になります。(イ)で求めた静止しているときの復元力の式に出てくる重力加速度\(g\)を、この新しい「見かけの重力加速度」に置き換えるだけで、答えが求まります。
復元力は \(F’ = \displaystyle\frac{m\sqrt{g^2+a^2}}{l}x’\) です。これも \(F’ = K’x’\) の形をしており、単振動することがわかります。\(a=0\) とすると \(F’ = \displaystyle\frac{mg}{l}x’\) となり、問イの結果と一致します。
問カ
思考の道筋とポイント
単振り子の周期の公式は \(T = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{l}{g}}\) です。問オと同様に、この公式の重力加速度\(g\)を、見かけの重力加速度\(g’ = \sqrt{g^2+a^2}\)に置き換えることで、加速系での周期を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 単振り子の周期の公式を正しく覚えていること。
- 重力加速度\(g\)を、見かけの重力加速度\(g’\)に置き換えるという考え方を適用する。
具体的な解説と立式
静止系での単振り子の周期の公式は、
$$T = 2\pi\sqrt{\frac{l}{g}}$$
この式の\(g\)を、見かけの重力加速度 \(g’ = \sqrt{g^2+a^2}\) に置き換えます。
$$T = 2\pi\sqrt{\frac{l}{g’}} = 2\pi\sqrt{\frac{l}{\sqrt{g^2+a^2}}}$$
使用した物理公式
- 単振り子の周期: \(T = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{l}{g}}\)
- 見かけの重力加速度
代入するだけであり、これ以上の計算はありません。
振り子の周期(1往復にかかる時間)は、重力が強いほど短くなります。加速する電車の中では「見かけの重力」が強くなるので、周期は静止しているときよりも短くなります。静止しているときの周期の公式の\(g\)を「見かけの重力加速度」に置き換えることで、その周期を計算できます。
周期は \(T = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{l}{\sqrt{g^2+a^2}}}\) です。\(a=0\) とすると、静止系での周期の公式と一致します。加速度\(a\)が大きくなるほど分母が大きくなり、周期\(T\)は短くなるという物理的に妥当な結果です。
問キ
思考の道筋とポイント
糸が切れた後の小球の運動を、地上にいる観測者(慣性系)から見ます。糸が切れた瞬間、小球は電車と同じ速度で水平方向に運動し始め、同時に鉛直方向には自由落下を始めます。床に落ちるまでの時間は、鉛直方向の運動だけで決まります。
この設問における重要なポイント
- 糸が切れた後の運動は、地上から見た慣性系で考える。
- 糸が切れた瞬間の小球の初速度は、鉛直方向には0(振動の右端で静止していたため)。
- 水平方向の運動と鉛直方向の運動は独立している。
- 落下時間は、高さ\(h\)を自由落下する時間で決まる。
具体的な解説と立式
鉛直方向の運動に着目します。
- 初速度: \(v_{0y} = 0\)
- 変位: \(-h\) (下向きを正とすれば \(h\))
- 加速度: \(-g\) (下向きを正とすれば \(g\))
ここでは下向きを正として、等加速度直線運動の公式 \(y = v_{0y}t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\) を用います。
$$h = 0 \cdot t + \frac{1}{2}gt^2$$
使用した物理公式
- 等加速度直線運動: \(x = v_0t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\)
- 運動の独立性
上の式を時間\(t\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
h &= \frac{1}{2}gt^2 \\[2.0ex]t^2 &= \frac{2h}{g}
\end{aligned}
$$
\(t>0\)なので、
$$t = \sqrt{\frac{2h}{g}}$$
糸が切れると、おもりは重力に引かれて下に落ちていきます。高さ\(h\)から物が自由落下するときにかかる時間は、物理の基本公式で計算できます。このとき、おもりが横方向に動いていることは、落ちる時間には影響しません。
落下時間は \(t = \sqrt{\displaystyle\frac{2h}{g}}\) です。これは自由落下の公式そのものであり、妥当な結果です。
問ク
思考の道筋とポイント
糸が切れた瞬間の床の点Rから、小球がどれだけ離れた位置に落ちるかを求めます。これは、落下時間(問キで求めた時間)の間に、小球が水平方向にどれだけ進むかという問題です。
ここで注意すべきは、小球の水平方向の運動は「地上から見た」運動であることです。糸が切れた瞬間、小球は電車と同じ加速度\(a\)で水平方向に運動を始めます。
この設問における重要なポイント
- 地上から見た慣性系で考える。
- 糸が切れた瞬間の小球の水平初速度は0(振動の右端で静止していたため、電車との相対速度が0)。
- 糸が切れた後、小球は水平方向には電車と同じ加速度\(a\)で運動する。
- 水平方向の運動は、初速度0、加速度\(a\)の等加速度直線運動。
具体的な解説と立式
水平方向の運動に着目します。
- 初速度: \(v_{0x} = 0\) (糸が切れた瞬間、小球は電車に対して静止していた)
- 加速度: \(a\)
- 時間: \(t = \sqrt{\displaystyle\frac{2h}{g}}\) (問キの結果)
求める水平移動距離を\(L\)とすると、等加速度直線運動の公式 \(x = v_{0x}t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\) より、
$$L = 0 \cdot t + \frac{1}{2}at^2 = \frac{1}{2}at^2$$
使用した物理公式
- 等加速度直線運動: \(x = v_0t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\)
この式に、問キで求めた \(t^2 = \displaystyle\frac{2h}{g}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
L &= \frac{1}{2}a\left(\frac{2h}{g}\right) \\[2.0ex]&= \frac{ah}{g}
\end{aligned}
$$
おもりは、下に落ちていく間に、横方向にも動きます。糸が切れた瞬間、おもりは電車の中で止まっていたので、横方向の初速は0です。しかし、糸が切れた後も、おもりは電車と同じように水平方向に加速し続けます。したがって、落ちる時間とその間の加速度を使って、横方向にどれだけ進んだかを計算します。
水平移動距離は \(L = \displaystyle\frac{ah}{g}\) です。加速度\(a\)が大きいほど、また落下時間が長い(\(h\)が大きい)ほど、遠くまで飛ぶという直感に合う結果です。
また、模範解答の別解にあるように、電車内の観測者から見ると、小球は見かけの重力加速度\(g’\)の方向に、初速度0で等加速度運動するように見えます。この見方でも \(L = h\tan\theta_0 = h\displaystyle\frac{a}{g}\) となり、同じ結果が得られます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 単振り子の運動(静止系):
- 核心: 振幅が小さいとき、復元力は変位に比例し(\(F \approx \frac{mg}{l}x\))、小球は単振動を行います。その周期は \(T = 2\pi\sqrt{\frac{l}{g}}\) で与えられます。これは重力加速度\(g\)と糸の長さ\(l\)のみに依存し、振幅や質量にはよりません。
- 理解のポイント: この法則は、単振り子に関する最も基本的な知識であり、(ア), (イ)の土台となります。復元力が重力の接線成分であること、そして微小角近似 (\(\sin\theta \approx x/l\)) が単振動の運動方程式を導く鍵であることを理解することが重要です。
- 慣性力と力のつりあい(非慣性系):
- 核心: 加速度\(a\)で運動する座標系(非慣性系)で物体を観測すると、実際の力に加えて、加速度と逆向きに大きさ\(ma\)の「慣性力」がはたらいているように見えます。
- 理解のポイント: (ウ), (エ)では、加速する電車内で静止している小球を考えます。このとき、電車内の観測者の視点に立つと、「重力」「張力」「慣性力」の3力がつりあっていると考えることができます。これにより、静力学的な問題として扱うことができ、計算が容易になります。
- 見かけの重力と等価原理:
- 核心: 加速系内では、重力と慣性力のベクトル和を「見かけの重力」とみなすことができます。この見かけの重力のもとでは、静止系と同じ物理法則が成り立ちます。
- 理解のポイント: (オ), (カ)の加速中の単振動は、この「見かけの重力」を用いた考え方が極めて有効です。見かけの重力加速度 \(g’ = \sqrt{g^2+a^2}\) を求めることで、静止系での単振り子の公式(復元力や周期)の\(g\)を\(g’\)に置き換えるだけで、複雑な問題をシンプルに解くことができます。
- 放物運動と運動の独立性(慣性系):
- 核心: 糸が切れた後の運動は、地上から見た慣性系で考えます。運動は水平方向と鉛直方向に分解でき、それぞれ独立に扱うことができます。
- 理解のポイント: (キ), (ク)では、鉛直方向は「自由落下」、水平方向は「初速度0の等加速度運動」として扱います。落下時間は鉛直方向の運動のみで決まり、その間に水平方向にどれだけ移動したかを計算します。どの座標系で見るかによって、現象の記述方法が変わることを理解するのが重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- エレベーター内の物理現象: 上下方向に加速するエレベーター内でのばね振り子や物体の秤量など。鉛直方向の慣性力を考慮し、見かけの重力が \(m(g \pm a)\) となることを利用します。
- 回転する円盤上の物体: 回転座標系では、慣性力として「遠心力」や「コリオリの力」が現れます。
- 斜面を滑り落ちる台車上の振り子: 重力と慣性力の両方が斜め方向を向くため、ベクトルの合成が少し複雑になりますが、「見かけの重力」の考え方は同様に有効です。
- 初見の問題での着眼点:
- 座標系の選択: まず、問題をどの視点(座標系)で見るかを決定します。
- 地上に静止した観測者(慣性系): 運動方程式が \(ma=F\) とシンプル。放物運動など、運動そのものを記述するのに適している。
- 加速する物体に乗った観測者(非慣性系): 慣性力 (\(-ma\)) を導入する必要があるが、系内で静止している物体を「力のつりあい」として扱えるメリットがある。
- 「見かけの重力」の利用: 加速系内での振動や運動を問われたら、まず「見かけの重力」を計算できないか考えます。見かけの重力加速度\(g’\)が求まれば、多くの公式 (\(T=2\pi\sqrt{l/g}\)など) を単純に置き換えて適用できます。
- 運動の分解: 2次元の運動は、互いに直交する2つの1次元運動に分解して考えるのが基本です。特に放物運動では、水平方向と鉛直方向の運動を独立に扱うことで、時間と変位の関係を簡単に求めることができます。
- 座標系の選択: まず、問題をどの視点(座標系)で見るかを決定します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 慣性系の選択ミス:
- 誤解: 加速中の振り子の運動を、慣性力を導入せずに地上からの視点で解こうとして複雑化する。あるいは、糸が切れた後の放物運動を、電車内の視点で考えてしまい混乱する。
- 対策: 問題の状況に応じて、最も計算が簡単になる座標系を選ぶ意識を持ちましょう。「系内で静止・つりあい」なら非慣性系、「運動の軌跡を追う」なら慣性系が有利な場合が多いです。
- 見かけの重力加速度の扱いの誤り:
- 誤解: 見かけの重力加速度の「大きさ」(\(g’=\sqrt{g^2+a^2}\))と「ベクトル」(\(\vec{g’} = \vec{g} – \vec{a}\))を混同する。周期の計算には大きさが必要ですが、力の方向を考えるにはベクトルが必要です。
- 対策: 図を描いて、重力ベクトルと慣性力ベクトルを合成し、「見かけの重力」の向きと大きさを視覚的に把握する習慣をつけましょう。
- 糸が切れた後の水平運動の誤解:
- 誤解: (ク)で、糸が切れた後の小球は水平方向には力がはたらかないので等速直線運動をすると考えてしまう。
- 対策: 糸が切れても、小球はまだ電車の中にあり、電車が加速している限り、小球も同じ加速度で運動します(床との摩擦や空気抵抗がなければ)。地上から見れば、小球は水平方向に加速し続けると正しく理解する必要があります。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 力のベクトル図(非慣性系): (ウ)や(エ)では、電車内の観測者から見た力のつりあいの図が不可欠です。重力(下)、慣性力(左)、張力(右上)の3つのベクトルが閉じた三角形を作るイメージを持つと、力の関係が明確になります。
- 見かけの重力の図示: (オ)や(カ)では、重力と慣性力を合成した「見かけの重力」ベクトルを描き、その方向を新しい「鉛直方向」とみなして振り子の図を描き直すと、問題が静止系と同じ構造に見えてきます。
- 運動の分解図(慣性系): (キ)や(ク)では、糸が切れた瞬間の速度と加速度を、水平(x)成分と鉛直(y)成分に分けて矢印で図示します。\(v_{0x}, v_{0y}, a_x, a_y\) をそれぞれ明記することで、運動の独立性が視覚的に理解でき、立式ミスを防げます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のつりあい (\(\sum \vec{F} = 0\)):
- 選定理由: (ウ), (エ)で小球が「静止」しているため。非慣性系で慣性力を導入することで、動的な問題を静的な問題に変換して解くことができます。
- 適用根拠: 観測する座標系において、対象の物体が静止または等速直線運動しているという物理的状況。
- 単振り子の周期の公式の類推適用:
- 選定理由: (カ)で加速中の周期を求めるため。一から運動方程式を立てて解くよりも、既知の公式を応用する方が圧倒的に速く、ミスも少ないからです。
- 適用根拠: 加速系での運動が、重力加速度の値だけが異なる静止系での運動と「等価」であるという物理的な洞察(等価原理)。
- 等加速度直線運動の公式:
- 選定理由: (キ), (ク)で糸が切れた後の運動を記述するため。この運動は、水平・鉛直方向ともに加速度が一定だからです。
- 適用根拠: 物体にはたらく力が一定(鉛直方向は重力のみ、水平方向は0)であるため、加速度も一定となる物理的状況。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (ア) 復元力(\(\theta\)表現):
- 戦略: 重力を分解し、円弧の接線成分を求める。
- フロー: \(F = mg\sin\theta\)。
- (イ) 復元力(\(x\)表現):
- 戦略: 微小角近似 \(\sin\theta \approx x/l\) を(ア)に代入。
- フロー: \(F = mg(x/l) = \frac{mg}{l}x\)。
- (ウ) つりあい角:
- 戦略: 非慣性系で、重力・慣性力・張力のつりあいを考える。
- フロー: 水平: \(S\sin\theta_0 = ma\), 鉛直: \(S\cos\theta_0 = mg\)。2式を割り算し \(\tan\theta_0 = a/g\)。
- (エ) 張力:
- 戦略: (ウ)のつりあい式から三平方の定理で\(S\)を求める。
- フロー: \(S^2 = (ma)^2 + (mg)^2 \rightarrow S = m\sqrt{g^2+a^2}\)。
- (オ) 加速中の復元力:
- 戦略: (イ)の公式の\(g\)を、見かけの重力加速度 \(g’=\sqrt{g^2+a^2}\) に置き換える。
- フロー: \(F’ = \frac{mg’}{l}x’ = \frac{m\sqrt{g^2+a^2}}{l}x’\)。
- (カ) 加速中の周期:
- 戦略: 単振り子の周期公式の\(g\)を\(g’\)に置き換える。
- フロー: \(T = 2\pi\sqrt{l/g’} = 2\pi\sqrt{l/\sqrt{g^2+a^2}}\)。
- (キ) 落下時間:
- 戦略: 慣性系で、鉛直方向の自由落下を考える。
- フロー: \(h = \frac{1}{2}gt^2 \rightarrow t = \sqrt{2h/g}\)。
- (ク) 水平移動距離:
- 戦略: 慣性系で、水平方向の等加速度運動を考える。
- フロー: \(L = \frac{1}{2}at^2\)。(キ)の\(t^2\)を代入し \(L = a(2h/g)/2 = ah/g\)。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 近似式の適用範囲の確認: \(\sin\theta \approx x/l\) のような近似は、「振幅が小さい」という条件があるときのみ使えます。問題文をよく読み、いつ近似が使えるのかを正確に判断しましょう。
- ベクトルの図示: 力のつりあいや合成を考えるときは、必ずベクトル図を描きましょう。特に(ウ)では、力の三角形を描くことで、\(\tan\theta_0\)の関係が視覚的に一目瞭然になります。
- 単位の確認: 最終的な答えの単位が物理的に正しいかを確認する癖をつけましょう。例えば(カ)の周期の答えの次元は \(\sqrt{L/(L/T^2)} = \sqrt{T^2} = T\) となり、時間の次元に一致します。
- 一貫した座標系: 一連の計算(特に放物運動)では、途中で座標系を変えずに、一貫した視点(慣性系なら慣性系)で解き進めることが混乱を防ぐコツです。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (ウ) \(\tan\theta_0 = a/g\): 加速度\(a\)が0なら\(\theta_0=0\)。無限に大きければ\(\theta_0\)は90度に近づく。直感と合致します。
- (カ) 周期: 加速度\(a\)が大きくなると、分母の\(g’=\sqrt{g^2+a^2}\)が大きくなり、周期\(T\)は短くなります。これは、見かけの重力が強くなり、振り子がより速く振動することを意味し、物理的に妥当です。
- (ク) 水平距離 \(L=ah/g\): 加速度\(a\)が0なら\(L=0\)。重力\(g\)が非常に大きければ落下時間が短くなるので\(L\)は小さくなる。これも直感と合致します。
- 極端な場合や既知の状況との比較:
- (エ), (オ), (カ)で得られた式に\(a=0\)を代入してみましょう。
- (エ) \(S = m\sqrt{g^2+0^2} = mg\) (静止時の張力)
- (オ) \(F’ = \frac{m\sqrt{g^2+0^2}}{l}x’ = \frac{mg}{l}x’\) ((イ)と同じ形)
- (カ) \(T = 2\pi\sqrt{l/\sqrt{g^2+0^2}} = 2\pi\sqrt{l/g}\) (静止時の周期)
- すべて静止系での結果と一致することから、式の形が正しいと強く確信できます。
- (エ), (オ), (カ)で得られた式に\(a=0\)を代入してみましょう。
問題60 (福岡大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、水に浮かぶ物体の「浮力」を復元力とする「単振動」と、水面から飛び出した後の「鉛直投げ上げ」運動を扱っています。前半(ア〜キ)は、水面から飛び出さない範囲での単振動を、後半(ク〜サ)は、水面から完全に飛び出す条件とその後の運動を問うています。
この問題の核心は、浮力の変化を正しく理解し、それによって生じる復元力から単振動の性質を導き出すこと、そして運動のフェーズ(単振動中、水中での運動、空中での運動)に応じて適切な物理法則(運動方程式、エネルギー保存則、仕事とエネルギーの関係)を使い分けることです。
- 浮き: 密度 \(\rho\)、底面積 \(S\)、高さ \(L\) の柱状
- 水: 密度 \(\rho_0\)
- 静止状態: 水面下の長さが \(d\) で静止。
- 運動1(エ〜キ): つりあい位置から \(x_0\) (\(0 < x_0 < d\)) だけ押し沈めて静かにはなす。単振動する。
- 運動2(ク〜サ): 浮きの上面が水面と同じになるまで押し沈めて静かにはなす。水から完全に飛び出す。
- その他: 重力加速度の大きさ \(g\)、空気や水の抵抗は無視。
- ア: 浮きにはたらく重力の大きさ。
- イ: 静止時の浮力の大きさ。
- ウ: 水面下の長さ \(d\)。
- エ: \(x_0\) だけ押し沈めたときの手の力。
- オ: 単振動の周期。
- カ: つりあい位置での速さ。
- キ: 浮きが最も高くなるときの底面の位置(水面からの深さ)。
- ク: 浮きが水から完全に飛び出すための密度の条件。
- ケ: 浮きの底面が水面から出る瞬間の速さ。
- コ: 浮きの底面が達する最高の高さ(水面から)。
- サ: 浮きが水面から出て再び着水するまでの時間。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「浮力による単振動」と「仕事とエネルギー」です。浮力が物体の沈んだ深さに比例して変化する点がポイントです。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- アルキメデスの原理(浮力): 浮力の大きさは、物体が押しのけた流体の重さに等しい。\(F_{浮力} = \rho_{流体} V_{水中} g\)。
- 力のつりあい: 物体が静止しているとき、重力と浮力はつりあっています。
- 運動方程式と単振動: つりあいの位置からの変位 \(x\) での運動方程式を立て、復元力の形 \(F = -Kx\) になることを確認し、単振動の周期や角振動数を求めます。
- エネルギー保存則: 単振動ではエネルギー保存則が成り立ち、速さを求めるのに有効です。
- 仕事とエネルギーの関係: 浮力のように大きさが変化する力が仕事をする場合、その仕事量は \(F-x\) グラフの面積で求められます。これを用いて、運動エネルギーの変化を計算できます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、静止状態での力のつりあいから、浮きと水の密度の関係を導きます(ア、イ、ウ)。
- 次に、つりあい位置からずらしたときの復元力を考え、単振動の性質(周期、速さ、振幅)を解析します(エ、オ、カ、キ)。
- 後半では、浮きが水面から飛び出す条件を、単振動の振幅と物体の寸法の関係から導きます(ク)。
- 最後に、浮きが水面から飛び出すまでの運動を、仕事とエネルギーの関係(または単振動のエネルギー保存則)を用いて解析し、その後の空中での運動(鉛直投げ上げ)と組み合わせます(ケ、コ、サ)。
問ア
思考の道筋とポイント
物体の質量を、密度と体積を用いて表します。これが重力の大きさを求めるための第一歩です。
この設問における重要なポイント
- 質量 = 密度 × 体積
- 浮きの体積は、底面積 \(S\) × 高さ \(L\)。
具体的な解説と立式
浮きの密度は \(\rho\)、体積は \(SL\) なので、その質量 \(m\) は、
$$m = \rho SL$$
したがって、浮きにはたらく重力の大きさ \(mg\) は、
$$mg = \rho SLg$$
使用した物理公式
- 質量と密度の関係: \(m = \rho V\)
上記の通り、式を立てるだけで計算は完了です。
物体の重さは「質量 × 重力加速度」です。質量は「密度 × 体積」で計算できるので、与えられた記号を使って式で表します。
重力の大きさは \(\rho SLg\) です。これは定義通りの素直な結果です。
問イ
思考の道筋とポイント
浮力の大きさをアルキメデスの原理に従って計算します。浮力は、物体が押しのけた流体(この場合は水)の重さに等しいです。
この設問における重要なポイント
- 浮力の公式: \(F_{浮力} = \rho_{流体} V_{水中} g\)
- 静止時、浮きは水面下に長さ \(d\) だけ沈んでいる。
- 水中の体積 \(V_{水中}\) は、底面積 \(S\) × 水面下の長さ \(d\)。
具体的な解説と立式
静止しているとき、浮きは水面下に \(d\) だけ沈んでいます。
- 水の密度: \(\rho_0\)
- 浮きの水中の体積: \(V_{水中} = Sd\)
アルキメデスの原理より、浮力の大きさ \(F_{浮力}\) は、
$$F_{浮力} = \rho_0 V_{水中} g = \rho_0 Sdg$$
使用した物理公式
- アルキメデスの原理: \(F_{浮力} = \rho_{流体} V_{水中} g\)
上記の通り、式を立てるだけで計算は完了です。
浮力は、物体が沈んでいる部分の体積分の水の重さと同じです。ここでは、水面下の体積が \(Sd\) なので、この体積を持つ水の重さを計算します。
浮力の大きさは \(\rho_0 Sdg\) です。沈んでいる深さ \(d\) が大きいほど浮力も大きくなるという、物理的に妥当な結果です。
問ウ
思考の道筋とポイント
浮きが静止している状態では、重力と浮力がつりあっています。この力のつりあいの式を立て、水面下の長さ \(d\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 静止状態 \(\rightarrow\) 力のつりあい
- 重力(下向き) = 浮力(上向き)
具体的な解説と立式
力のつりあいの式は、
$$(\text{重力の大きさ}) = (\text{浮力の大きさ})$$
問ア、イの結果を代入すると、
$$\rho SLg = \rho_0 Sdg$$
使用した物理公式
- 力のつりあい: \(\sum F = 0\)
この式を \(d\) について解きます。両辺の \(Sg\) を消去すると、
$$\rho L = \rho_0 d$$
$$d = \frac{\rho}{\rho_0}L$$
物体が水に浮いて止まっているのは、地球が物体を引く力(重力)と、水が物体を押し上げる力(浮力)がちょうど同じ大きさだからです。(ア)と(イ)で求めた2つの力が等しいという式を立て、それを \(d\) について解きます。
水面下の長さは \(d = \displaystyle\frac{\rho}{\rho_0}L\) です。浮きの密度\(\rho\)が水の密度\(\rho_0\)に比べて大きいほど、深く沈むという直感に合う結果です。
問エ
思考の道筋とポイント
つりあいの位置から手で \(x_0\) だけ押し沈めて静止させた状態を考えます。このときも力のつりあいが成り立っています。手で押す力、重力、そして増えた浮力の3つの力がつりあうと考えます。
この設問における重要なポイント
- 手で押して静止 \(\rightarrow\) 力のつりあい
- 下向きの力(重力+手の力)と上向きの力(浮力)がつりあう。
- 沈んでいる深さは \(d+x_0\) になる。
具体的な解説と立式
この状態では、浮きは水面下に \(d+x_0\) だけ沈んでいます。
- 下向きの力: 重力 \(mg\) + 手の力 \(F_{手}\)
- 上向きの力: 新しい浮力 \(F’_{浮力}\)
新しい浮力 \(F’_{浮力}\) は、水中の体積が \(S(d+x_0)\) なので、
$$F’_{浮力} = \rho_0 S(d+x_0)g$$
力のつりあいの式 \(mg + F_{手} = F’_{浮力}\) より、
$$F_{手} = F’_{浮力} – mg$$
使用した物理公式
- 力のつりあい
- アルキメデスの原理
\(F’_{浮力}\) と \(mg\) の式を代入し、つりあいの関係式 \(mg = \rho SLg = \rho_0 Sdg\) を用いて整理します。
$$
\begin{aligned}
F_{手} &= \rho_0 S(d+x_0)g – \rho SLg \\[2.0ex]&= \rho_0 Sdg + \rho_0 Sx_0g – \rho_0 Sdg \\[2.0ex]&= \rho_0 Sx_0g
\end{aligned}
$$
物体をさらに水中に押し込むと、その分だけ浮力が増えます。物体を静止させておくためには、この増えた浮力と同じ大きさの力で手で押し返してあげる必要があります。増えた浮力は、追加で沈んだ体積 \(Sx_0\) 分の水の重さです。
手の力は \(F_{手} = \rho_0 Sx_0g\) です。押し込む距離 \(x_0\) に比例して、必要な力も大きくなるという妥当な結果です。
問オ
思考の道筋とポイント
浮きが単振動するときの周期を求めます。そのためには、まず運動方程式を立て、復元力の形 \(F=-Kx\) を導き、角振動数 \(\omega = \sqrt{K/m}\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- つりあいの位置を原点(\(x=0\))とし、鉛直下向きを正とする。
- 変位\(x\)の位置での運動方程式 \(ma=F_{合力}\) を立てる。
- 合力は、重力と浮力の差。
具体的な解説と立式
つりあいの位置から \(x\) だけ下方にずれた位置を考えます。このとき、水面下の長さは \(d+x\) です。
浮きにはたらく力は、
- 重力: \(mg = \rho SLg\) (下向き、正)
- 浮力: \(F_{浮力}(x) = \rho_0 S(d+x)g\) (上向き、負)
運動方程式 \(ma=F\) は、
$$ma = mg – F_{浮力}(x)$$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma=F\)
- 単振動の周期: \(T = \displaystyle\frac{2\pi}{\omega}\)
運動方程式に各力の式を代入し、つりあいの関係式 \(\rho SLg = \rho_0 Sdg\) を使って整理します。
$$
\begin{aligned}
ma &= \rho SLg – \rho_0 S(d+x)g \\[2.0ex]&= \rho_0 Sdg – (\rho_0 Sdg + \rho_0 Sxg) \\[2.0ex]&= -\rho_0 Sgx
\end{aligned}
$$
質量 \(m=\rho SL\) を代入すると、
$$\rho SLa = -\rho_0 Sgx$$
加速度 \(a\) について解くと、
$$a = -\frac{\rho_0 g}{\rho L}x$$
これは単振動の加速度の式 \(a = -\omega^2 x\) と同じ形です。係数を比較すると、
$$\omega^2 = \frac{\rho_0 g}{\rho L} \quad \text{よって} \quad \omega = \sqrt{\frac{\rho_0 g}{\rho L}}$$
周期 \(T\) は、
$$T = \frac{2\pi}{\omega} = 2\pi\sqrt{\frac{\rho L}{\rho_0 g}}$$
振動している最中の運動の様子を運動方程式で記述します。つり合いの位置からずらすと、浮力の変化分だけが物体を元の位置に戻そうとする力(復元力)として働きます。この式を整理すると、加速度が位置に比例する単振動の形になるので、そこから周期を計算できます。
周期は \(T = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{\rho L}{\rho_0 g}}\) です。浮きの密度\(\rho\)が大きい(重い)ほど、また高さ\(L\)が大きいほど周期が長くなるという、ばね振り子の \(T=2\pi\sqrt{m/k}\) と似た傾向を示しており、妥当な結果です。
問カ
思考の道筋とポイント
単振動において、速さが最大になるのは振動の中心(つりあいの位置)を通過するときです。最大速度を求めるには、公式 \(v_{max} = A\omega\) を使う方法と、エネルギー保存則を用いる方法があります。
この設問における重要なポイント
- 速さが最大になるのは振動の中心(つりあいの位置)。
- 振幅 \(A\) は、振動の端から中心までの距離であり、今回は \(x_0\)。
- 角振動数 \(\omega\) は問オで求めたものを使う。
具体的な解説と立式
単振動の最大速度は、振幅 \(A\) と角振動数 \(\omega\) の積で与えられます。
- 振幅: つりあいの位置から \(x_0\) だけ押し下げて静かにはなしたので、振幅は \(A=x_0\)。
- 角振動数: 問オより \(\omega = \sqrt{\displaystyle\frac{\rho_0 g}{\rho L}}\)。
つりあいの位置での速さ \(v_{つりあい}\) は最大速度 \(v_{max}\) に等しいので、
$$v_{つりあい} = v_{max} = A\omega$$
使用した物理公式
- 単振動の最大速度: \(v_{max} = A\omega\)
\(A=x_0\) と \(\omega\) の値を代入します。
$$v_{つりあい} = x_0\sqrt{\frac{\rho_0 g}{\rho L}}$$
別解: 単振動のエネルギー保存則を利用
具体的な解説と立式
この単振動の復元力は \(F = -(\rho_0 Sg)x\) なので、ばね定数に相当する \(K\) は \(\rho_0 Sg\) です。
単振動のエネルギー保存則 \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2 + \displaystyle\frac{1}{2}Kx^2 = \text{一定}\) を用います。
スタート地点(\(x=x_0, v=0\))とつりあい位置(\(x=0, v=v_{つりあい}\))でエネルギーが等しいことから、
$$\frac{1}{2}m(0)^2 + \frac{1}{2}K(x_0)^2 = \frac{1}{2}mv_{つりあい}^2 + \frac{1}{2}K(0)^2$$
使用した物理公式
- 単振動のエネルギー保存則: \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2 + \displaystyle\frac{1}{2}Kx^2 = \text{一定}\)
上の式に \(m=\rho SL\), \(K=\rho_0 Sg\) を代入し、\(v_{つりあい}\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}(\rho_0 Sg)x_0^2 &= \frac{1}{2}(\rho SL)v_{つりあい}^2 \\[2.0ex](\rho_0 Sg)x_0^2 &= (\rho SL)v_{つりあい}^2 \\[2.0ex]v_{つりあい}^2 &= \frac{\rho_0 Sg x_0^2}{\rho SL} \\[2.0ex]v_{つりあい}^2 &= \frac{\rho_0 g}{\rho L}x_0^2
\end{aligned}
$$
\(v_{つりあい} > 0\) なので、
$$v_{つりあい} = x_0\sqrt{\frac{\rho_0 g}{\rho L}}$$
となり、同じ結果が得られます。
単振動では、振動の中心で最も速くなります。その速さは「振幅 × 角振動数」という簡単な公式で計算できます。(オ)で求めた角振動数と、振幅が\(x_0\)であることを使って計算します。
速さは \(x_0\sqrt{\displaystyle\frac{\rho_0 g}{\rho L}}\) です。振幅 \(x_0\) が大きいほど速くなるという、物理的に妥当な結果です。
問キ
思考の道筋とポイント
浮きが最も高くなるのは、単振動の上端に達したときです。単振動はつりあいの位置を中心として、振幅 \(A=x_0\) で行われます。
この設問における重要なポイント
- 単振動の中心は、つりあいの位置(水面下 \(d\) の深さ)。
- 振幅は \(A=x_0\)。
- 最も高くなる位置は、中心から上方に \(A\) だけ移動した点。
具体的な解説と立式
- 振動の中心: 浮きの底面が水面から \(d\) の深さにある位置。
- 振幅: \(A = x_0\)。
浮きが最も高くなるのは、振動の上端です。このとき、浮きの底面は、中心の位置から \(x_0\) だけ上方にあります。
したがって、そのときの底面の水面からの深さは、
$$(\text{深さ}) = d – x_0$$
ここで、問ウの結果 \(d = \displaystyle\frac{\rho}{\rho_0}L\) を代入します。
$$(\text{深さ}) = \frac{\rho}{\rho_0}L – x_0$$
使用した物理公式
- 単振動の運動範囲
代入するだけであり、これ以上の計算はありません。
振り子が一番下から一番上まで動くように、この浮きも振動の中心を挟んで上下に同じ幅で動きます。振動の中心は、もともと浮きが静止していた水面下\(d\)の深さです。そこから振幅\(x_0\)だけ上に上がったところが最高点なので、その深さは \(d – x_0\) となります。
最も高くなるときの底面の位置は、水面から \(\displaystyle\frac{\rho}{\rho_0}L – x_0\) の深さです。振幅\(x_0\)が\(d\)より小さいという条件から、この値は正となり、浮きは水中に留まっていることが確認できます。
問ク
思考の道筋とポイント
浮きが水から完全に飛び出すための条件を考えます。これは、単振動の上端が、浮きの底面が水面に来る位置よりもさらに上にあることを意味します。
この設問における重要なポイント
- 浮きの底面が水面に来る位置は、つりあいの位置から \(d\) だけ上方。
- 単振動の上端は、つりあいの位置から振幅 \(A\) だけ上方。
- 飛び出す条件は、振幅 \(A\) が \(d\) より大きいこと (\(A > d\))。
具体的な解説と立式
問題の状況では、浮きの上面が水面と同じになるまで押し沈めます。
- つりあいの位置: 底面が水面下 \(d\) の深さ。
- スタートの位置: 上面が水面なので、底面は水面下 \(L\) の深さ。
つりあいの位置からスタート位置までの距離が振幅 \(A\) となります。
$$A = L – d$$
浮きが水から完全に飛び出す(底面が水面より上に出る)ためには、振動の上端がつりあいの位置から \(d\) よりも大きく上にいく必要があります。つまり、振幅が \(d\) より大きいことが条件です。
$$A > d$$
$$L – d > d$$
使用した物理公式
- 単振動の運動範囲
この不等式を整理し、問ウの結果 \(d = \displaystyle\frac{\rho}{\rho_0}L\) を代入します。
$$L > 2d$$
$$L > 2 \left(\frac{\rho}{\rho_0}L\right)$$
両辺の \(L\) を消去し、\(\rho\) について解きます。
$$1 > \frac{2\rho}{\rho_0}$$
$$\rho_0 > 2\rho$$
$$\rho < \frac{\rho_0}{2}$$
物体が水面からジャンプするためには、振動の勢いが、物体が水に沈んでいる深さよりも大きくなければなりません。この問題では、物体のてっぺんまで沈めてから手を離します。このときの振動の幅(振幅)が、もともと沈んでいた深さ\(d\)より大きければ、物体は水面から飛び出します。この条件を、物体の密度についての条件に書き換えます。
飛び出すための条件は \(\rho < \displaystyle\frac{\rho_0}{2}\) です。つまり、浮きの密度が水の密度の半分より小さい(十分に軽い)必要があるということで、物理的に妥当な結果です。
問ケ
思考の道筋とポイント
浮きの底面が水面から出る瞬間、つまり浮きが水から完全に離れる瞬間の速さを求めます。この運動は、スタート地点(底面が水面下\(L\))から、分離地点(底面が水面)までの運動です。仕事とエネルギーの関係か、単振動のエネルギー保存則を使います。
この設問における重要なポイント
- スタート位置: つりあい位置からの変位 \(x = L-d\)、速さ \(v=0\)。
- 求める位置: 底面が水面の位置、つまりつりあい位置からの変位 \(x = -d\)。
- 浮力が仕事をする区間であり、その大きさが変化するため、仕事とエネルギーの関係を用いるのが明快。
具体的な解説と立式
浮きが水から出るまでの運動について、仕事とエネルギーの関係を考えます。
- 初めの状態: 底面が水面下\(L\)。速さ \(v_0=0\)。
- 終わりの状態: 底面が水面。速さ \(v\)。
この間に物体がされた仕事は、浮力がした仕事 \(W_{浮力}\) と重力がした仕事 \(W_{重力}\) の和です。
- 重力がした仕事: 物体は上向きに \(L\) だけ移動するので、\(W_{重力} = -mgL = -\rho SL^2g\)。
- 浮力がした仕事: 浮力は深さによって変化します。\(F-x\)グラフ(浮力-位置グラフ)の面積として求めます。浮きが水から出るまでの移動距離は\(L\)です。この間に働く浮力の大きさは、底面が水面下\(L\)のときの \(\rho_0 SLg\) から、水面に出る瞬間の 0 まで線形に減少します。したがって、仕事量は三角形の面積として計算できます。
$$W_{浮力} = \frac{1}{2} \times (\text{初めの浮力}) \times (\text{移動距離}) = \frac{1}{2}(\rho_0 SLg) \times L = \frac{1}{2}\rho_0 SL^2g$$
仕事と運動エネルギーの関係式 \(\Delta K = W_{合力}\) より、
$$\frac{1}{2}mv^2 – \frac{1}{2}m(0)^2 = W_{浮力} + W_{重力}$$
使用した物理公式
- 仕事と運動エネルギーの関係: \(\Delta K = W\)
- 浮力、重力
この式に \(m=\rho SL\) を代入し、\(v\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}(\rho SL)v^2 &= \frac{1}{2}\rho_0 SL^2g – \rho SL^2g \\[2.0ex]\frac{1}{2}\rho v^2 &= \left(\frac{1}{2}\rho_0 – \rho\right)Lg \\[2.0ex]\rho v^2 &= (\rho_0 – 2\rho)Lg \\[2.0ex]v^2 &= \frac{\rho_0 – 2\rho}{\rho}gL
\end{aligned}
$$
\(v>0\) なので、
$$v = \sqrt{\left(\frac{\rho_0}{\rho} – 2\right)gL}$$
別解: 単振動のエネルギー保存則を利用
具体的な解説と立式
この運動は、水中に浮きがある限り、つりあいの位置を中心とする単振動とみなせます。
- ばね定数相当: \(K = \rho_0 Sg\)
- スタート位置: 変位 \(x_1 = L-d\)、速さ \(v_1=0\)
- 求める位置: 変位 \(x_2 = -d\)、速さ \(v\)
単振動のエネルギー保存則 \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2 + \displaystyle\frac{1}{2}Kx^2 = \text{一定}\) より、
$$\frac{1}{2}m(0)^2 + \frac{1}{2}K(L-d)^2 = \frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}K(-d)^2$$
この式に \(m=\rho SL\), \(K=\rho_0 Sg\) を代入し、\(v^2\) について整理します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}(\rho_0 Sg)(L-d)^2 &= \frac{1}{2}(\rho SL)v^2 + \frac{1}{2}(\rho_0 Sg)d^2 \\[2.0ex](\rho_0 Sg)(L-d)^2 &= (\rho SL)v^2 + (\rho_0 Sg)d^2 \\[2.0ex](\rho SL)v^2 &= (\rho_0 Sg)\{(L-d)^2 – d^2\} \\[2.0ex](\rho L)v^2 &= \rho_0 g(L^2 – 2Ld) \\[2.0ex]v^2 &= \frac{\rho_0 g(L-2d)}{\rho}
\end{aligned}
$$
ここで \(d = \displaystyle\frac{\rho}{\rho_0}L\) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
v^2 &= \frac{\rho_0 g}{\rho}\left(L – 2\frac{\rho}{\rho_0}L\right) \\[2.0ex]&= \frac{\rho_0 g L}{\rho}\left(1 – \frac{2\rho}{\rho_0}\right) \\[2.0ex]&= gL\left(\frac{\rho_0}{\rho} – 2\right)
\end{aligned}
$$
となり、同じ結果が得られます。
速さは \(v = \sqrt{\left(\displaystyle\frac{\rho_0}{\rho} – 2\right)gL}\) です。飛び出す条件 \(\rho < \rho_0/2\) より、根号の中は正になります。浮きの密度\(\rho\)が小さいほど、速さは大きくなるという妥当な結果です。
問コ
思考の道筋とポイント
浮きが水面から飛び出した後の運動は、重力のみを受ける鉛直投げ上げ運動です。初速度は問ケで求めた速さ \(v\) です。
この設問における重要なポイント
- 水面から出た後は、加速度 \(-g\) の等加速度直線運動。
- 初速度 \(v\) は問ケの結果。
- 最高点では速さが 0 になる。
具体的な解説と立式
鉛直投げ上げの公式 \(v_f^2 – v_i^2 = 2ax\) を用います。
- 初速度: \(v_i = v\)
- 最終速度: \(v_f = 0\) (最高点)
- 加速度: \(a = -g\)
- 変位: \(x = h\) (求める高さ)
$$0^2 – v^2 = 2(-g)h$$
使用した物理公式
- 鉛直投げ上げ: \(v_f^2 – v_i^2 = 2ax\)
この式を \(h\) について解き、問ケで求めた \(v^2\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
h &= \frac{v^2}{2g} \\[2.0ex]&= \frac{1}{2g} \left\{gL\left(\frac{\rho_0}{\rho} – 2\right)\right\} \\[2.0ex]&= \frac{L}{2}\left(\frac{\rho_0}{\rho} – 2\right) \\[2.0ex]&= \left(\frac{\rho_0}{2\rho} – 1\right)L
\end{aligned}
$$
別解: 仕事とエネルギーの関係を利用
具体的な解説と立式
スタート地点(底面が水面下\(L\))から最高点までの一連の運動を考えます。
- 初めの状態: 速さ 0
- 終わりの状態: 最高点で速さ 0
この間、運動エネルギーの変化は 0 です。したがって、された仕事の合計も 0 になります。
仕事をする力は「浮力」と「重力」です。
- 浮力がした仕事: 問ケと同様に \(W_{浮力} = \displaystyle\frac{1}{2}\rho_0 SL^2g\)。
- 重力がした仕事: 物体は水中で \(L\)、空中で \(h\) だけ上昇するので、合計 \(L+h\) 上昇します。
\(W_{重力} = -mg(L+h) = -\rho SLg(L+h)\)。
仕事とエネルギーの関係より、
$$W_{浮力} + W_{重力} = \Delta K = 0$$
$$\frac{1}{2}\rho_0 SL^2g – \rho SLg(L+h) = 0$$
この式を \(h\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}\rho_0 SL^2g &= \rho SLg(L+h) \\[2.0ex]\frac{1}{2}\rho_0 L &= \rho(L+h) \\[2.0ex]\frac{\rho_0}{2\rho}L &= L+h \\[2.0ex]h &= \frac{\rho_0}{2\rho}L – L \\[2.0ex]h &= \left(\frac{\rho_0}{2\rho} – 1\right)L
\end{aligned}
$$
となり、同じ結果が得られます。
水面から飛び出した物体は、ボールを真上に投げたときと同じ運動をします。初めの速さが速いほど、高く上がります。(ケ)で求めた初速度を使って、どれくらいの高さまで上がるかを計算します。
最高点の高さは \(h = \left(\displaystyle\frac{\rho_0}{2\rho} – 1\right)L\) です。飛び出す条件 \(\rho < \rho_0/2\) より、この高さは正の値を取ります。
問サ
思考の道筋とポイント
水面から出て、最高点に達し、再び水面に戻ってくるまでの時間を求めます。これは鉛直投げ上げ運動の滞空時間です。運動の対称性から、上がる時間と下がる時間は同じです。
この設問における重要なポイント
- 運動の対称性を利用する。滞空時間 = 上昇時間 × 2。
- 上昇時間は、初速度 \(v\) の物体が重力で減速されて速度 0 になるまでの時間。
具体的な解説と立式
鉛直投げ上げの公式 \(v_f = v_i + at\) を用いて、最高点までの時間 \(t_{up}\) を求めます。
- 初速度: \(v_i = v\)
- 最終速度: \(v_f = 0\)
- 加速度: \(a = -g\)
$$0 = v – gt_{up}$$
$$t_{up} = \frac{v}{g}$$
求める時間 \(t_{total}\) はこの2倍です。
$$t_{total} = 2t_{up} = \frac{2v}{g}$$
使用した物理公式
- 鉛直投げ上げ: \(v_f = v_i + at\)
- 運動の対称性
この式に問ケで求めた \(v\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
t_{total} &= \frac{2}{g}\sqrt{\left(\frac{\rho_0}{\rho} – 2\right)gL} \\[2.0ex]&= 2\sqrt{\left(\frac{\rho_0}{\rho} – 2\right)\frac{gL}{g^2}} \\[2.0ex]&= 2\sqrt{\left(\frac{\rho_0}{\rho} – 2\right)\frac{L}{g}}
\end{aligned}
$$
ボールを真上に投げて、キャッチするまでの時間を考えます。ボールが最高点に達するまでの時間と、そこから落ちてくる時間は同じです。最高点までの時間は、初速度を重力加速度で割ることで計算できます。求める時間はその2倍です。
滞空時間は \(2\sqrt{\left(\displaystyle\frac{\rho_0}{\rho} – 2\right)\displaystyle\frac{L}{g}}\) です。初速度が大きいほど滞空時間も長くなるという、物理的に妥当な結果です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- アルキメデスの原理と力のつりあい:
- 核心: 物体が流体中で受ける浮力の大きさは、その物体が押しのけた流体の重さに等しい(\(F_{浮力} = \rho_{流体} V_{水中} g\))。物体が静止して浮いている状態では、この浮力と物体の重力がつりあっています。
- 理解のポイント: この問題の全ての計算の出発点です。(ア)~(ウ)で、このつりあいの関係から、物体の密度\(\rho\)、水の密度\(\rho_0\)、物体の高さ\(L\)、水面下の深さ\(d\)の間の基本的な関係式 \(d = (\rho/\rho_0)L\) を導き出します。この関係式は後の設問で繰り返し利用されます。
- 浮力による単振動:
- 核心: つりあいの位置から物体をずらすと、浮力の変化分が復元力として働き、物体は単振動を始めます。運動方程式を立てると、復元力が変位\(x\)に比例する形(\(F = -(\rho_0 Sg)x\))になることがわかります。
- 理解のポイント: この運動は、ばね定数が \(K = \rho_0 Sg\) のばね振り子と数学的に等価です。この対応関係を理解すれば、周期の公式 \(T=2\pi\sqrt{m/K}\) やエネルギー保存則 \(\frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}Kx^2 = \text{一定}\) をそのまま適用でき、計算が大幅に簡略化されます。
- 仕事とエネルギーの関係:
- 核心: 浮きが水中を運動する間、浮力と重力が仕事をします。これらの力がした仕事の合計は、物体の運動エネルギーの変化に等しい(\(\Delta K = W_{合力}\))。
- 理解のポイント: (ケ)や(コ)のように、運動の始点と終点で働く力の状況が変わる場合(例:水中から空中へ)や、単振動の範囲を超える運動を解析する場合に特に有効です。浮力のように大きさが変化する力の仕事は、\(F-x\)グラフの面積から求められることを知っておくと、見通しが良くなります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- U字管内の液柱振動: U字管に入れた液体を一方に押し下げて離すと、液面の高さの差による圧力差が復元力となって単振動します。
- ピストンと気体の断熱変化: シリンダー内の気体をピストンで圧縮して離すと、圧力の変化が復元力となってピストンが単振動します。
- 水面に浮かべた球体の振動: 沈んだ深さと体積の関係が柱状物体と異なるため、復元力の計算が少し複雑になりますが、基本的な考え方は同じです。
- 初見の問題での着眼点:
- 復元力の源泉は何か?: まず、物体をつりあいの位置に戻そうとする力が何に由来するのかを特定します。この問題では「浮力の変化分」です。
- 復元力は変位に比例するか?: 特定した復元力が、つりあいの位置からの変位\(x\)に比例する形(\(F=-Kx\))で表せるかを確認します。比例するならば、その運動は単振動です。
- 運動のフェーズを見極める: 物体の運動が、単一の法則で記述できるか、それとも複数のフェーズに分かれているかを見極めます。この問題では、「水中での単振動」と「空中での放物運動(鉛直投げ上げ)」という2つのフェーズがあります。
- エネルギーか、運動方程式か?:
- 「周期」や「加速度」を求めたい \(\rightarrow\) 運動方程式
- 「速さ」や「高さ」を求めたい \(\rightarrow\) エネルギー保存則 or 仕事とエネルギーの関係
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 浮力の計算ミス:
- 誤解: 浮力の計算で、流体の密度(\(\rho_0\))と物体の密度(\(\rho\))を取り違える。あるいは、水中の体積(\(V_{水中}\))を物体の全体の体積(\(V\))と混同する。
- 対策: 「浮力は、押しのけた『流体』の重さ」と常に意識し、公式 \(F_{浮力} = \rho_{流体} V_{水中} g\) の各文字が何を表すかを正確に確認する習慣をつけましょう。
- 単振動のエネルギー保存則の誤用:
- 誤解: (ケ)のように、単振動の範囲を超える運動(水面から飛び出すまで)に対して、安易に単振動のエネルギー保存則を適用しようとして混乱する。
- 対策: 単振動のエネルギー保存則 \(\frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}Kx^2 = \text{一定}\) が成り立つのは、復元力が常に \(F=-Kx\) で与えられる範囲のみです。物体が水から出ると浮力がなくなり、この法則は破綻します。運動のフェーズが変わる場合は、より普遍的な「仕事とエネルギーの関係」に立ち返るのが安全です。
- 「飛び出す」条件の誤解:
- 誤解: (ク)で「飛び出す」条件を、速さが最大になるときなど、運動の途中の状態で考えてしまう。
- 対策: 「飛び出す」とは、単振動の上端の位置が、物理的な境界(この場合は水面)を超えることを意味します。必ず「振幅」と「物体の寸法や初期位置」の関係に注目して、幾何学的に条件を立てましょう。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 力のつりあい図: (ウ)の静止状態や(エ)の手で押さえた状態など、静的な状況では必ず力のベクトル図を描き、力のつりあいを視覚化します。
- \(F-x\)グラフ: 復元力や浮力が位置によってどう変化するかをグラフに描くと、単振動であることや、力がする仕事を面積として計算できることが直感的に理解できます。(ケ)の別解のように、浮力がした仕事を台形の面積として求める考え方は非常に強力です。
- 位置と座標軸の図示: 鉛直方向に座標軸を取り、つりあいの位置(\(x=0\))、スタート位置、最高点、水面の位置などを明確に図に書き込むことで、変位や振幅、移動距離の関係性が整理され、立式ミスを防げます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 運動方程式 (\(ma = -\rho_0 Sgx\)):
- 選定理由: (オ)で「周期」を求めるため。周期は運動の時間的な特性であり、運動の時間変化を記述する運動方程式からしか導出できません。
- 適用根拠: 物体が加速度運動しているという物理的状況。
- 単振動のエネルギー保存則 (\(\frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}Kx^2 = \text{一定}\)):
- 選定理由: (カ)や(ケ)の別解で「速さ」を求めるため。運動方程式を積分するよりも、はるかに簡単に速さを計算できます。
- 適用根拠: 運動が単振動である(復元力が\(F=-Kx\))と確認された後、その運動の範囲内で適用できます。
- 仕事と運動エネルギーの関係 (\(\Delta K = W\)):
- 選定理由: (ケ)や(コ)の別解のように、単振動の法則が使えない区間を含む運動や、複数の力が仕事をする複雑な状況で「速さ」や「高さ」を求めるため。最も普遍的で強力なエネルギーの法則です。
- 適用根拠: ニュートンの運動方程式を積分したものであり、あらゆる状況で成り立ちます。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (ア)〜(ウ) 静止状態の解析:
- 戦略: 重力と浮力を定義し、力のつりあいから \(d\) を求める。
- フロー: \(mg = \rho SLg\), \(F_{浮力} = \rho_0 Sdg\) \(\rightarrow\) \(\rho SLg = \rho_0 Sdg\) \(\rightarrow\) \(d = (\rho/\rho_0)L\)。
- (エ)〜(キ) 単振動の解析:
- 戦略: ①運動方程式から復元力定数\(K\)と角振動数\(\omega\)を特定し、周期\(T\)を求める(オ)。②\(v_{max}=A\omega\)で速さを求める(カ)。③振幅の関係から最高点を求める(キ)。
- フロー: \(ma = -(\rho_0 Sg)x\) \(\rightarrow\) \(K=\rho_0 Sg\), \(\omega=\sqrt{K/m}\) \(\rightarrow\) \(T=2\pi/\omega\)。\(A=x_0\) なので \(v=x_0\omega\)。最高点の深さは \(d-x_0\)。
- (ク) 飛び出す条件:
- 戦略: 振幅 \(A=L-d\) が、つりあい位置から水面までの距離 \(d\) より大きいという条件を立てる。
- フロー: \(L-d > d\) \(\rightarrow\) \(L > 2d\)。\(d\)を代入し、\(\rho\)の条件を求める。
- (ケ)〜(サ) 飛び出し後の運動:
- 戦略: ①水から出るまでの運動をエネルギー計算(仕事とエネルギー or 単振動エネルギー保存)で解き、飛び出す瞬間の速さ\(v\)を求める(ケ)。②空中での鉛直投げ上げ運動として、最高点\(h\)と滞空時間\(t\)を求める(コ, サ)。
- フロー: \(\Delta K = W_{浮力} + W_{重力}\) から \(v\) を求める \(\rightarrow\) \(h=v^2/2g\), \(t=2v/g\) で \(h, t\) を求める。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字の整理: この問題は多くの物理量記号(\(\rho, \rho_0, S, L, d, g\))が登場します。特に、(ウ)で求めた \(d = (\rho/\rho_0)L\) の関係は頻繁に使うので、計算の途中で \(d\) をこの式で置き換えたり、逆に \(\rho L\) を \(\rho_0 d\) で置き換えたりすることで、式が簡単になる場合があります。
- 復元力定数\(K\)の特定: 運動方程式を \(ma = -Kx\) の形に整理したとき、\(K\) が何に相当するか(この問題では \(\rho_0 Sg\))を明確に意識すると、ばね振り子とのアナロジーが使いやすくなり、見通しが良くなります。
- エネルギー計算の選択: (ケ)のように、単振動の範囲内での2点間の速さを求める場合は、単振動のエネルギー保存則(別解)が計算が楽です。一方、(コ)のように単振動の範囲を超える場合は、仕事とエネルギーの関係(別解)が有効です。状況に応じて最適なツールを選びましょう。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 単位(次元)の確認: 例えば(オ)の周期 \(T = 2\pi\sqrt{\rho L / (\rho_0 g)}\) の根号の中の次元は \([ (M/L^3) L ] / [ (M/L^3) (L/T^2) ] = [M/L^2] / [M/(L^2 T^2)] = T^2\) となり、平方根を取ると時間の次元\(T\)に一致します。
- 物理的条件の確認: (ケ)で求めた速さ \(v\) の根号の中が正であるためには、\(\rho_0/\rho – 2 > 0\)、つまり \(\rho < \rho_0/2\) が必要です。これは(ク)で求めた「飛び出すための条件」と一致しており、自己無撞着な結果であることがわかります。
- 極端な場合を考える: もし \(\rho = \rho_0/2\) のぎりぎりの状態だったらどうなるか? (ケ)の式から \(v=0\)、(コ)の式から \(h=0\) となります。これは、浮きがちょうど水面まで顔を出した瞬間に速度が0になり、それ以上は上がれないことを意味しており、物理的に妥当な極限ケースです。
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