問題41 (京都府大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、曲面を持つ台の上を運動する小球と、その反動で動く台の運動を扱う、力学の総合問題です。運動の各段階で、どの物理法則が適用できるかを見極めることが重要です。
- 台: 質量\(M\)、静止状態から運動開始。床はなめらか。
- 台の形状: A(高さ\(h_1\))→B(高さ\(h_2\))は鉛直、B→C(高さ0)はなめらかな曲面、C→Dは水平(距離\(a\))。
- 小球: 質量\(m\)、点Aで静かにはなす。
- 摩擦: 小球と台、台と床の間には摩擦はない。
- 衝突: 点Dの壁と小球の間の反発係数は\(e\)。
- 重力加速度の大きさ: \(g\)。
- 小球を点Aで静かにはなす。
- 小球はB→Cの曲面を滑り降りる。このとき台も動き出す。
- 小球はC→Dの水平面を進み、壁Dに衝突する。
- 壁Dではね返り、C→Bの曲面を上がり、ある最高点に達する。
- (1) 小球が最初に点Bを通過するときの小球の速さ\(v_{\text{B}}\)。
- (2) 小球が最初に点Cを通過するときの小球の速さ\(v_{\text{C}}\)と台の速さ\(V_{\text{C}}\)。
- (3) 小球がCからDに到達するまでの時間\(t\)。
- (4) 壁Dと衝突した直後の小球の速さ\(v’_{\text{D}}\)と台の速さ\(V’_{\text{D}}\)。
- (5) 壁衝突後に小球が到達する最高点の、点Cからの高さ\(h_3\)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(3) 時間\(t\)の別解: 床から見た運動で考える解法
- 主たる解法が台から見た小球の相対速度で時間を計算するのに対し、別解では床から見た小球と台それぞれの移動距離の和が\(a\)になるという条件から時間を導出します。
- 問(5) 高さ\(h_3\)の別解: エネルギー保存則のみで解く思考法
- 主たる解法が運動量保存則を用いて最高点での速度が0になることを示してからエネルギー保存則を適用するのに対し、別解ではDでの衝突直後と最高点での2つの状態について、運動量保存則とエネルギー保存則を連立させて解きます。これにより、最高点での速度を事前に知らなくても解けることを示します。
- 問(3) 時間\(t\)の別解: 床から見た運動で考える解法
- 上記の別解が有益である理由
- 解法の選択肢の拡大: 相対速度の考え方が苦手な場合でも、床から見た絶対的な運動を追跡することで問題を解くことができるという、異なる視点を提供します。
- 物理法則の適用の深化: 問(5)の別解のように、一見複雑に見えるアプローチでも、保存則という基本法則を丁寧に適用すれば必ず同じ結論に至ることを体験でき、物理法則への信頼と理解が深まります。
- 思考の柔軟性: 「最高点 = 相対速度0」という知識に頼らずとも、連立方程式を解くことで力学的に解を導出できることを学ぶことで、未知の問題に対する思考の柔軟性が養われます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「運動量保存則とエネルギー保存則の応用」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力学的エネルギー保存則: 「小球+台」の系全体で見ると、仕事をするのは保存力である重力のみなので、系の力学的エネルギーは保存されます。ただし、小球単体では垂直抗力が仕事をするため、エネルギーは保存されません。
- 運動量保存則: 「小球+台」の系には水平方向の外力が働かないため、水平方向の運動量は常に保存されます。
- 衝突の法則(反発係数): 小球と壁の衝突において、壁に垂直な方向の相対速度が変化する様子を記述します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 運動を「A→B」「B→C」「C→D」「Dでの衝突」「D→最高点」のフェーズに分け、各フェーズで適用できる法則を考えます。
- 特に台が動き出す「B→C」の区間では、系のエネルギー保存則と運動量保存則を連立させて解きます。
- 衝突現象では、系の運動量保存則と反発係数の式を連立させます。
- 最終的な高さを求めるには、再び系のエネルギー保存則を利用します。
問(1)
思考の道筋とポイント
小球が最初に点Bを通過するときの小球の速さ\(v_{\text{B}}\)を求めます。
小球がAからBへ移動する間、小球は鉛直に落下します。このとき、小球が台に及ぼす力は鉛直方向のみです。台は水平方向にしか動けないため、この力では台は動きません。したがって、台は静止したままであり、小球は単純な自由落下と同じ運動をします。
この過程では、小球には保存力である重力しか仕事をしていないため、小球単体の力学的エネルギーが保存されます。
この設問における重要なポイント
- A→Bの区間では、台は動かないことを理解する。
- 小球単体の力学的エネルギー保存則を適用する。
- 位置エネルギーの基準点を明確に設定する(ここでは点Cを基準とするのが便利)。
具体的な解説と立式
位置エネルギーの基準点を点Cの高さとします。
- 点Aでの力学的エネルギー: 小球は静止しているので運動エネルギーは0。高さは\(h_1\)。
$$ E_{\text{A}} = \frac{1}{2}m \cdot 0^2 + mgh_1 $$ - 点Bでの力学的エネルギー: 小球の速さを\(v_{\text{B}}\)、高さは\(h_2\)。
$$ E_{\text{B}} = \frac{1}{2}m{v_{\text{B}}}^2 + mgh_2 $$
力学的エネルギー保存則 \(E_{\text{A}} = E_{\text{B}}\) より、
$$ mgh_1 = \frac{1}{2}m{v_{\text{B}}}^2 + mgh_2 \quad \cdots ① $$
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則: \(K_1 + U_1 = K_2 + U_2\)
- 運動エネルギー: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
- 位置エネルギー: \(U = mgh\)
式①を\(v_{\text{B}}\)について解きます。
まず、両辺を\(m\)で割ります。
$$ gh_1 = \frac{1}{2}{v_{\text{B}}}^2 + gh_2 $$
\(\displaystyle\frac{1}{2}{v_{\text{B}}}^2\)について整理します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}{v_{\text{B}}}^2 &= gh_1 – gh_2 \\[2.0ex]
&= g(h_1 – h_2)
\end{aligned}
$$
両辺を2倍します。
$$ {v_{\text{B}}}^2 = 2g(h_1 – h_2) $$
\(v_{\text{B}} > 0\) なので、平方根をとります。
$$ v_{\text{B}} = \sqrt{2g(h_1 – h_2)} $$
A点からB点までは、台が動かないので、小球はただの自由落下と同じです。小球が持っていた位置エネルギーの減少分が、運動エネルギーの増加分に変わります。このエネルギーの保存関係から速さ\(v_{\text{B}}\)を計算します。
小球の速さ\(v_{\text{B}}\)は \(v_{\text{B}} = \sqrt{2g(h_1 – h_2)}\) です。
これは、高さ \((h_1 – h_2)\) を自由落下した物体の速さの公式と一致しており、物理的に妥当な結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
小球が最初に点Cを通過するときの小球の速さ\(v_{\text{C}}\)と台の速さ\(V_{\text{C}}\)を求めます。
小球がB→Cの曲面を滑り降りる間、小球は台を斜め方向に押します。この力の水平成分によって、台は後方(左向き)に動き始めます。
この過程では、以下の2つの保存則が成り立ちます。
- 系の力学的エネルギー保存則: 小球と台を一つの「系」として見ると、仕事をするのは保存力である重力のみです(垂直抗力は内力)。したがって、系全体の力学的エネルギーは保存されます。
- 系の水平方向の運動量保存則: 系には水平方向の外力が働かないため、水平方向の運動量は保存されます。
この2つの保存則を連立させることで、2つの未知数\(v_{\text{C}}, V_{\text{C}}\)を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- B→Cの区間では台が動くため、小球単体の力学的エネルギーは保存されない。
- 「小球+台」の系全体で、力学的エネルギーと水平方向の運動量が保存される。
- 運動の向きに注意して、運動量保存則を立式する(右向きを正とするなど)。
具体的な解説と立式
右向きを正とします。
1. 力学的エネルギー保存則
系のエネルギーは、点Aで小球をはなした瞬間から点Cに達するまで保存されます。
- 点Aでの系のエネルギー(初期状態):
$$E_{\text{A系}} = mgh_1$$ - 点Cでの系のエネルギー(最終状態): 小球の速さは\(v_{\text{C}}\)(右向き)、台の速さは\(V_{\text{C}}\)(左向き、よって速度は\(-V_{\text{C}}\))。点Cを基準とした高さは0。
$$E_{\text{C系}} = \frac{1}{2}m{v_{\text{C}}}^2 + \frac{1}{2}M{V_{\text{C}}}^2$$
エネルギー保存則 \(E_{\text{A系}} = E_{\text{C系}}\) より、
$$mgh_1 = \frac{1}{2}m{v_{\text{C}}}^2 + \frac{1}{2}M{V_{\text{C}}}^2 \quad \cdots ②$$
2. 水平方向の運動量保存則
初期状態(点A)では、小球も台も水平方向の速度は0です。
- 初期状態の水平運動量: \(P_x = 0\)
- 点Cでの水平運動量:
$$P’_x = m v_{\text{C}} + M(-V_{\text{C}})$$
運動量保存則 \(P_x = P’_x\) より、
$$0 = mv_{\text{C}} – MV_{\text{C}} \quad \cdots ③$$
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則(系)
- 運動量保存則(水平成分)
式③から、\(V_{\text{C}}\)を\(v_{\text{C}}\)で表します。
$$MV_{\text{C}} = mv_{\text{C}}$$
$$V_{\text{C}} = \frac{m}{M}v_{\text{C}} \quad \cdots ④$$
これを式②に代入して、\(V_{\text{C}}\)を消去します。
$$
\begin{aligned}
mgh_1 &= \frac{1}{2}m{v_{\text{C}}}^2 + \frac{1}{2}M \left(\frac{m}{M}v_{\text{C}}\right)^2 \\[2.0ex]
mgh_1 &= \frac{1}{2}m{v_{\text{C}}}^2 + \frac{1}{2}M \frac{m^2}{M^2}{v_{\text{C}}}^2 \\[2.0ex]
mgh_1 &= \frac{1}{2}m{v_{\text{C}}}^2 + \frac{1}{2}\frac{m^2}{M}{v_{\text{C}}}^2
\end{aligned}
$$
両辺を\(m\)で割り、\(\displaystyle\frac{1}{2}{v_{\text{C}}}^2\)でくくります。
$$
\begin{aligned}
gh_1 &= \frac{1}{2}{v_{\text{C}}}^2 \left(1 + \frac{m}{M}\right) \\[2.0ex]
gh_1 &= \frac{1}{2}{v_{\text{C}}}^2 \left(\frac{M+m}{M}\right)
\end{aligned}
$$
\({v_{\text{C}}}^2\)について解きます。
$${v_{\text{C}}}^2 = \frac{2Mgh_1}{M+m}$$
$$v_{\text{C}} = \sqrt{\frac{2Mgh_1}{M+m}}$$
次に、この結果を式④に代入して\(V_{\text{C}}\)を求めます。
$$V_{\text{C}} = \frac{m}{M}v_{\text{C}} = \frac{m}{M}\sqrt{\frac{2Mgh_1}{M+m}}$$
小球が曲面を滑ると、台が後ろに押されます。このとき、「全体のエネルギーは変わらない」というルールと、「全体の横方向の勢い(運動量)も変わらない(最初は0だったから後も0)」という2つのルールが成り立ちます。この2つのルールを連立方程式として解くことで、小球と台のそれぞれの速さが求まります。
小球の速さは \(v_{\text{C}} = \sqrt{\displaystyle\frac{2Mgh_1}{M+m}}\)、台の速さは \(V_{\text{C}} = \displaystyle\frac{m}{M}\sqrt{\displaystyle\frac{2Mgh_1}{M+m}}\) です。
もし台の質量\(M\)が非常に大きい(\(M \gg m\))とすると、\(v_{\text{C}} \approx \sqrt{2gh_1}\), \(V_{\text{C}} \approx 0\) となり、台が動かない場合の自由落下の結果と一致します。物理的に妥当な結果です。
問(3)
思考の道筋とポイント
小球が点Cを通過してから点Dに到達するまでの時間\(t\)を求めます。
C→Dの区間では、小球と台にはたらく力は鉛直方向のみで、水平方向には力がはたらきません。したがって、小球と台はそれぞれ、点Cを通過したときの速さ \(v_{\text{C}}, V_{\text{C}}\) のまま等速直線運動をします。
小球は右向きに、台は左向きに動くため、両者の相対的な速さで距離\(a\)を進むと考えることができます。
この設問における重要なポイント
- C→Dの区間では、小球も台も等速直線運動をする。
- 小球と台の相対速度を考える。
具体的な解説と立式
小球は速さ\(v_{\text{C}}\)で右向きに、台は速さ\(V_{\text{C}}\)で左向きに動きます。
台から見ると、小球は速さ \((v_{\text{C}} + V_{\text{C}})\) で近づいてくるように見えます。
この相対速度で距離\(a\)を進むのにかかる時間が\(t\)なので、
$$t = \frac{a}{v_{\text{C}} + V_{\text{C}}} \quad \cdots ⑤$$
使用した物理公式
- 等速直線運動: \(t = \frac{距離}{速さ}\)
- 相対速度
まず、分母の \(v_{\text{C}} + V_{\text{C}}\) を計算します。(2)の結果より \(V_{\text{C}} = \frac{m}{M}v_{\text{C}}\) なので、
$$
\begin{aligned}
v_{\text{C}} + V_{\text{C}} &= v_{\text{C}} + \frac{m}{M}v_{\text{C}} \\[2.0ex]
&= \left(1 + \frac{m}{M}\right)v_{\text{C}} \\[2.0ex]
&= \left(\frac{M+m}{M}\right)v_{\text{C}}
\end{aligned}
$$
ここに \(v_{\text{C}} = \sqrt{\displaystyle\frac{2Mgh_1}{M+m}}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
v_{\text{C}} + V_{\text{C}} &= \left(\frac{M+m}{M}\right) \sqrt{\frac{2Mgh_1}{M+m}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{\left(\frac{M+m}{M}\right)^2 \frac{2Mgh_1}{M+m}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{\frac{(M+m)2gh_1}{M}}
\end{aligned}
$$
これを式⑤に代入します。
$$t = \frac{a}{\sqrt{\frac{2(M+m)gh_1}{M}}} = a\sqrt{\frac{M}{2(M+m)gh_1}}$$
小球は右へ、台は左へ動くので、両者はどんどん離れていきます。小球が壁Dにたどり着くのは、小球が進んだ距離と台が動いた距離の合計が\(a\)になるときです。別の見方をすれば、台の上に乗っている人から見ると、小球は「小球の速さ+台の速さ」という合計の速さで遠ざかっていくように見えます。この「相対的な速さ」で距離\(a\)を進む時間を計算します。
時間は \(t = a\sqrt{\displaystyle\frac{M}{2(M+m)gh_1}}\) です。
距離\(a\)が長いほど時間がかかる、速さ(\(v_{\text{C}}, V_{\text{C}}\)の元となる\(h_1\))が速いほど時間は短くなる、という直感と一致する結果です。
思考の道筋とポイント
床から見たそれぞれの物体の移動距離を考えます。時間\(t\)の間に、小球は右に \(x_{\text{小球}} = v_{\text{C}} t\)、台は左に \(x_{\text{台}} = V_{\text{C}} t\) だけ移動します。小球が台の端Dに到達するのは、この2つの移動距離の和がCD間の距離\(a\)に等しくなるときです。
この設問における重要なポイント
- 床から見た絶対的な移動距離で立式する。
- \(x_{\text{小球}} + x_{\text{台}} = a\) の関係を導く。
具体的な解説と立式
時間\(t\)の間に、
- 小球の移動距離: \(x_{\text{小球}} = v_{\text{C}} t\)
- 台の移動距離: \(x_{\text{台}} = V_{\text{C}} t\)
小球が点Dに到達する条件は、
$$x_{\text{小球}} + x_{\text{台}} = a$$
$$v_{\text{C}} t + V_{\text{C}} t = a$$
$$(v_{\text{C}} + V_{\text{C}})t = a$$
これを\(t\)について解くと、
$$t = \frac{a}{v_{\text{C}} + V_{\text{C}}}$$
これは主たる解法の式⑤と全く同じであり、以降の計算も同様になります。
使用した物理公式
- 等速直線運動: \(x=vt\)
主たる解法と同じ計算過程を経て、同じ結果が得られます。
小球が右に進んだ距離と、台が左に動いた距離を足し合わせると、ちょうどCD間の長さ\(a\)になるはずです。それぞれの移動距離は「速さ×時間」で計算できるので、この関係から時間を求めることができます。
相対速度を使わなくても、それぞれの物体の移動距離の和で考えることで、同じ結果にたどり着きます。どちらの考え方が自分にとって自然かで使い分けると良いでしょう。
問(4)
思考の道筋とポイント
小球が壁Dと衝突した直後の小球の速さ\(v’_{\text{D}}\)と台の速さ\(V’_{\text{D}}\)を求めます。
衝突は小球と壁(台の一部)の間で起こります。この瞬間的な衝突の間、小球と台を一つの系として考えると、水平方向の外力は働かないため、水平方向の運動量は保存されます。
さらに、小球と壁の間の反発係数の式を立てます。このとき、速度は床に対する絶対速度を用いる必要があります。
この2つの式を連立させることで、衝突直後の2つの未知の速さ\(v’_{\text{D}}, V’_{\text{D}}\)を求めます。
この設問における重要なポイント
- 衝突の前後で、系の水平方向の運動量は保存される。
- 反発係数の式は、衝突する面(壁D)に対する相対速度で定義される。
- 衝突直前の速度は、C→Dの等速直線運動の速度と同じである。
具体的な解説と立式
右向きを正とします。衝突直後の小球の速度を\(v’\)、台の速度を\(V’\)とします(向きも込めた変数)。
- 衝突直前の速度:
- 小球: \(v_{\text{C}}\)
- 台(壁): \(-V_{\text{C}}\)
- 衝突直後の速度:
- 小球: \(v’\)
- 台: \(V’\)
1. 水平方向の運動量保存則
$$m v_{\text{C}} + M(-V_{\text{C}}) = m v’ + M V’$$
(2)より左辺は0なので、
$$0 = mv’ + MV’ \quad \cdots ⑥$$
2. 反発係数の式
$$e = – \frac{v’ – V’}{v_{\text{C}} – (-V_{\text{C}})} = – \frac{v’ – V’}{v_{\text{C}} + V_{\text{C}}} \quad \cdots ⑦$$
使用した物理公式
- 運動量保存則
- 反発係数の式
式⑥と⑦を連立して\(v’, V’\)を解きます。
式⑥より、\(V’ = -\displaystyle\frac{m}{M}v’\)。これを式⑦に代入します。
$$
\begin{aligned}
e(v_{\text{C}} + V_{\text{C}}) &= -(v’ – V’) \\[2.0ex]
&= -v’ + V’ \\[2.0ex]
&= -v’ – \frac{m}{M}v’ \\[2.0ex]
&= -v’\left(1 + \frac{m}{M}\right) \\[2.0ex]
&= -v’\left(\frac{M+m}{M}\right)
\end{aligned}
$$
\(v’\)について解くと、
$$v’ = -e \frac{M}{M+m}(v_{\text{C}} + V_{\text{C}})$$
求めたい速さ\(v’_{\text{D}}\)は\(|v’|\)です。\(v_{\text{C}}, V_{\text{C}}\)は速さ(正の値)なので、
$$v’_{\text{D}} = e \frac{M}{M+m}(v_{\text{C}} + V_{\text{C}})$$
(3)の計算過程より \(v_{\text{C}} + V_{\text{C}} = \sqrt{\displaystyle\frac{2(M+m)gh_1}{M}}\) なので、
$$
\begin{aligned}
v’_{\text{D}} &= e \frac{M}{M+m} \sqrt{\frac{2(M+m)gh_1}{M}} \\[2.0ex]
&= e \sqrt{\left(\frac{M}{M+m}\right)^2 \frac{2(M+m)gh_1}{M}} \\[2.0ex]
&= e \sqrt{\frac{2Mgh_1}{M+m}}
\end{aligned}
$$
次に台の速さ\(V’_{\text{D}}\)を求めます。\(V’_{\text{D}} = |V’| = |-\frac{m}{M}v’| = \frac{m}{M}v’_{\text{D}}\) なので、
$$V’_{\text{D}} = \frac{m}{M} e \sqrt{\frac{2Mgh_1}{M+m}}$$
小球が台の壁にぶつかる瞬間を考えます。このときも、横方向の全体の勢い(運動量)は保存されます。もう一つのルールは、はね返りの法則(反発係数の式)です。この2つのルールを連立方程式として解くことで、衝突直後の小球と台のそれぞれの速さがわかります。
衝突後の速さは、小球が \(v’_{\text{D}} = e \sqrt{\displaystyle\frac{2Mgh_1}{M+m}}\)、台が \(V’_{\text{D}} = \displaystyle\frac{em}{M} \sqrt{\displaystyle\frac{2Mgh_1}{M+m}}\) です。
衝突前の速さ \(v_{\text{C}}, V_{\text{C}}\) と比較すると、それぞれ\(e\)倍になっています。これは、運動量ゼロの系での衝突の特徴です。
問(5)
思考の道筋とポイント
壁Dとの衝突後、小球が再び曲面を上がり、到達する最高点の高さ\(h_3\)(点C基準)を求めます。
小球が最高点に達したとき、小球は台に対して一瞬静止します。つまり、小球と台の相対速度が0になり、両者は同じ速度で運動します。
この一連の過程(Dでの衝突直後から最高点まで)において、小球と台の系全体では、水平方向の運動量が保存され、また力学的エネルギーも保存されます。
この設問における重要なポイント
- 最高点では、小球と台の相対速度が0(=両者の速度が等しい)。
- D衝突後から最高点までの過程で、系の力学的エネルギーと水平方向の運動量が保存される。
具体的な解説と立式
まず、最高点での小球と台の共通の速度を\(v_{\text{final}}\)とします。
水平方向の運動量保存則を、Dでの衝突直後と最高点で比較します。
- D衝突直後の水平運動量: \(m(-v’_{\text{D}}) + M(-V’_{\text{D}})\)。(4)の式⑥より、これは0でした。
- 最高点での水平運動量: \(m v_{\text{final}} + M v_{\text{final}} = (m+M)v_{\text{final}}\)
よって、\(0 = (m+M)v_{\text{final}}\) となり、\(v_{\text{final}}=0\) です。
つまり、小球が最高点に達した瞬間、小球も台も一瞬静止することがわかります。
次に、系の力学的エネルギー保存則を、Dでの衝突直後と最高点で比較します。
- D衝突直後のエネルギー: 小球も台もC点と同じ高さ(高さ0)にいる。
$$E_{\text{D’}} = \frac{1}{2}m({v’_{\text{D}}})^2 + \frac{1}{2}M({V’_{\text{D}}})^2$$ - 最高点でのエネルギー: 小球も台も静止。小球の高さは\(h_3\)。
$$E_{\text{final}} = mgh_3$$
エネルギー保存則 \(E_{\text{D’}} = E_{\text{final}}\) より、
$$\frac{1}{2}m({v’_{\text{D}}})^2 + \frac{1}{2}M({V’_{\text{D}}})^2 = mgh_3 \quad \cdots ⑧$$
使用した物理公式
- 運動量保存則
- 力学的エネルギー保存則
式⑧の左辺に、(4)で求めた \(v’_{\text{D}}\) と \(V’_{\text{D}} = \displaystyle\frac{m}{M}v’_{\text{D}}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}m({v’_{\text{D}}})^2 + \frac{1}{2}M\left(\frac{m}{M}v’_{\text{D}}\right)^2 &= \frac{1}{2}m({v’_{\text{D}}})^2 + \frac{1}{2}\frac{m^2}{M}({v’_{\text{D}}})^2 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}m({v’_{\text{D}}})^2 \left(1 + \frac{m}{M}\right) \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}m({v’_{\text{D}}})^2 \left(\frac{M+m}{M}\right)
\end{aligned}
$$
これが \(mgh_3\) に等しいので、
$$mgh_3 = \frac{1}{2}m({v’_{\text{D}}})^2 \frac{M+m}{M}$$
\(h_3\)について解くと、
$$h_3 = \frac{1}{2g} ({v’_{\text{D}}})^2 \frac{M+m}{M}$$
ここに、\(v’_{\text{D}} = e \sqrt{\displaystyle\frac{2Mgh_1}{M+m}}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
h_3 &= \frac{1}{2g} \left(e^2 \frac{2Mgh_1}{M+m}\right) \frac{M+m}{M} \\[2.0ex]
&= \frac{e^2 \cdot 2Mgh_1}{2g(M+m)} \cdot \frac{M+m}{M} \\[2.0ex]
&= e^2 h_1
\end{aligned}
$$
はね返った後、小球は台を駆け上がります。このとき、小球と台が持っていた運動エネルギーが、だんだんと小球の位置エネルギーに変わっていきます。一番高いところに着いたとき、運動エネルギーがすべて位置エネルギーに変わったと考えられます。エネルギー保存の式を立てて、高さを計算します。
最高点の高さは \(h_3 = e^2 h_1\) です。
非常にシンプルな結果となりました。これは、Dでの衝突で速度が\(e\)倍になり、運動エネルギーが\(e^2\)倍になったことが、最終的に位置エネルギーに変換された高さを\(e^2\)倍にした、と解釈できます。途中の台との相互作用は複雑ですが、最終的にはエネルギー保存則によって美しい関係に落ち着きます。
思考の道筋とポイント
最高点での速度が0であることを知らなくても、運動量保存則とエネルギー保存則の連立で解くことができます。D衝突直後と最高点での2つの状態で、2つの保存則を立てます。
この設問における重要なポイント
- 未知数を最高点での共通速度\(v_{\text{final}}\)と高さ\(h_3\)の2つと設定する。
- 運動量保存則とエネルギー保存則を連立させて解く。
具体的な解説と立式
最高点での共通速度を\(v_{\text{final}}\)とします。
- 運動量保存則: D衝突直後の運動量は0だったので、
$$0 = (m+M)v_{\text{final}} \quad \cdots ⑨$$ - エネルギー保存則: D衝突直後と最高点を比較して、
$$\frac{1}{2}m({v’_{\text{D}}})^2 + \frac{1}{2}M({V’_{\text{D}}})^2 = \frac{1}{2}(m+M){v_{\text{final}}}^2 + mgh_3 \quad \cdots ⑩$$
使用した物理公式
- 運動量保存則
- 力学的エネルギー保存則
式⑨より、\(v_{\text{final}}=0\) が直ちに求まります。
この結果を式⑩に代入すると、
$$\frac{1}{2}m({v’_{\text{D}}})^2 + \frac{1}{2}M({V’_{\text{D}}})^2 = mgh_3$$
これは主たる解法の式⑧と全く同じであり、以降の計算も同様になります。
一番高いところでの小球と台の速さが分からなくても、「横方向の勢いの合計は変わらない」ルールと「全体のエネルギーは変わらない」ルールの2つを使えば、未知数である「速さ」と「高さ」を両方とも計算できます。この問題では、計算するとたまたま速さがゼロになることがわかります。
このアプローチでは、まず運動量保存則から最高点での速度を決定し、次にエネルギー保存則で高さを求める、という手順が明確になります。主たる解法と思考の流れは同じですが、2つの保存則を常にセットで考えるという基本に忠実な解法です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 系の力学的エネルギー保存則:
- 核心: 複数の物体が相互に力を及ぼし合って運動する場合でも、系全体に働く外力が保存力(この問題では重力)のみであるか、仕事をしない場合、系全体の力学的エネルギー(各物体の運動エネルギーと位置エネルギーの総和)は保存されるという法則です。
- 理解のポイント: (2)や(5)でこの法則が決定的な役割を果たします。小球が曲面B→Cを滑る際、小球と台は垂直抗力を及ぼし合います。この力は小球に対しても台に対しても仕事をするため、小球単体、台単体の力学的エネルギーは保存されません。しかし、「小球+台」を一つの系と見なすと、垂直抗力は内力となり、その仕事は系内部でのエネルギーのやり取りに過ぎず、系全体の力学的エネルギーは(重力以外の外力が仕事をしないため)保存されます。この「どこまでを系と見るか」という視点の切り替えが極めて重要です。
- 系の水平方向の運動量保存則:
- 核心: 系に水平方向の外力が働かない場合、系の水平方向の運動量の総和は常に一定に保たれるという法則です。
- 理解のポイント: この問題では、床がなめらかなので、水平方向の外力は一切働きません。したがって、運動の全フェーズ(A→C、C→D、Dでの衝突、D→最高点)を通じて、常に「小球と台の水平方向の運動量の和はゼロ」に保たれます。この法則が、(2)で力学的エネルギー保存則と連立する強力な武器となり、また(4)の衝突解析や(5)の最高点での状態を決定する上でも基礎となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 台からの物体の射出: 台上でばねを縮めて物体を射出する問題。射出の前後で、系の力学的エネルギー(弾性エネルギーを含む)と運動量が保存されます。
- 動く斜面を滑る物体: 静止していた物体が、動くことができるなめらかな斜面を滑り降りる問題。本問題の(2)と全く同じ構造で、エネルギー保存則と運動量保存則を連立させて解きます。
- トロッコと人の乗り移り: 人がトロッコに飛び乗ったり、トロッコの上を歩いたりする問題。人とトロッコの系で水平方向の運動量保存則が成り立ちます。
- 初見の問題での着眼点:
- 保存則が使えるかどうかの判定:
- 力学的エネルギー: 系に非保存力(摩擦、空気抵抗など)が仕事をしていないか? → なければエネルギー保存則が使える。
- 運動量: 系に外力が働いていないか?(あるいは、ある方向だけ外力が働いていないか?) → 水平方向になければ、水平方向の運動量保存則が使える。
- 「系」の範囲を明確にする: 問題を解く上で、どの物体を一つの「系」として扱うかを最初に決めます。保存則を適用する際は、必ず「系全体」のエネルギーや運動量を考える必要があります。
- 相対速度に着目する:
- (3)のように、2物体が互いに逆向きに動く場合の到達時間を問われたら、相対速度を考えると立式が簡潔になります。
- (5)のように、「最高点に達する」という条件は、多くの場合「相対速度がゼロになる」と言い換えられます。これは、片方の物体から見ると、もう一方が一瞬静止するように見える状態です。
- 保存則が使えるかどうかの判定:
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- エネルギー保存則の適用範囲の誤り:
- 誤解: (2)のB→Cの区間で、小球単体の力学的エネルギーが保存されるとしてしまう。
- 対策: 小球には台からの垂直抗力が働きます。小球が曲面を動くとき、この力の向きと小球の変位の向きは直交しないため、垂直抗力は仕事をします(負の仕事)。力が仕事をする場合、その物体の力学的エネルギーは保存されません。必ず「仕事をする力の有無」を確認する癖をつけましょう。
- 運動量保存則の向きの考慮ミス:
- 誤解: (2)や(4)で、台の速度を正として立式してしまう。
- 対策: 運動量はベクトル量です。最初に座標軸の正の向き(例: 右向きを正)を決め、それと逆向きの速度は負の値として式に代入することを徹底します。\(0 = mv_{\text{C}} + M V_{\text{C}}\) のように符号を間違えると、全く違う結果になります。
- 反発係数の式の速度の取り方:
- 誤解: (4)で反発係数の式を立てる際に、床に対する絶対速度ではなく、台に対する相対速度を使ってしまう。あるいは、衝突する相手(壁)の速度を0としてしまう。
- 対策: 反発係数の定義式 \(e = – \displaystyle\frac{v’_{\text{A}} – v’_{\text{B}}}{v_{\text{A}} – v_{\text{B}}}\) は、衝突する2物体(この場合は小球と壁=台)の、床から見た絶対速度で立てるのが基本です。衝突の瞬間、壁も台と同じ速度で動いていることを忘れてはいけません。
- 最高点の条件の誤解:
- 誤解: (5)で、小球が最高点に達したとき、小球の速度だけが0になると思い込む。
- 対策: この問題では、最高点は「小球が台に対して静止する点」です。台も動いているので、床から見れば両者は同じ速度になります。(5)では運動量保存則からその共通の速度が0になることが導かれましたが、一般的には0になるとは限りません。「相対速度が0」という条件を正しく理解することが重要です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力学的エネルギー保存則:
- 選定理由: (1)では小球単体に、(2)や(5)では「小球+台」の系に適用。摩擦や空気抵抗がなく、非保存力である垂直抗力が(系全体で見れば)仕事をしないため、エネルギーの観点から速度や高さを求めるのに最も強力なツールとなります。
- 適用根拠: 系に働く力が保存力(重力)のみ、または仕事をしない(床からの垂直抗力)という物理的条件。
- 運動量保存則:
- 選定理由: (2), (4), (5)で、複数の物体が絡む運動において、速度間の関係式を立てるため。
- 適用根拠: 系に水平方向の外力が働かないという物理的条件。これにより、力学的エネルギー保存則だけでは解けない連立方程式の、もう一本の式が得られます。
- 反発係数の式:
- 選定理由: (4)で、壁との非弾性衝突現象を記述するため。
- 適用根拠: 問題文で反発係数\(e\)が与えられており、衝突による速度変化を定量化する必要があるからです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式の整理:
- 特に注意すべき点: (2)や(4)の連立方程式を解く際、\(\frac{1}{2}m\) や \(M\) などの文字が多く、計算が煩雑になりがちです。共通因数でくくる、比の形 (\(V_{\text{C}} = \frac{m}{M}v_{\text{C}}\)) をうまく使うなど、式を簡潔に保つ工夫が求められます。
- 日頃の練習: 複雑な計算では、まず最終的に立てるべき式を文字のまま書き出し、その式に必要な部品を別の場所で計算してから代入する、という手順を踏む習慣をつけましょう。
- 平方根の計算:
- 特に注意すべき点: (3)や(4)で、平方根を含む式の代入や整理が出てきます。\(\sqrt{A} \cdot \sqrt{B} = \sqrt{AB}\) や \(A = \sqrt{A^2}\) といった変形を落ち着いて行いましょう。
- 日頃の練習: 根号の中に分数が含まれる場合など、計算ミスが起こりやすいパターンに慣れておくことが大切です。特に、根号の外にある係数を中に入れる際の2乗の計算は慎重に行いましょう。
- 最終結果の美しさを信じる:
- 特に注意すべき点: (5)の \(h_3 = e^2 h_1\) のように、複雑な計算の末に非常にシンプルな結果が得られることは、入試物理ではよくあります。
- 日頃の練習: 計算途中で式が複雑になっても、最終的に多くの項が約分されて綺麗になるはずだ、と信じて計算を進めることも時には重要です。もし綺麗な形にならなければ、計算ミスを疑うきっかけになります。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (2) \(v_{\text{C}}, V_{\text{C}}\): もし\(M \rightarrow \infty\)(台が非常に重い)とすると、\(v_{\text{C}} \rightarrow \sqrt{2gh_1}\), \(V_{\text{C}} \rightarrow 0\) となります。これは、台が動かない場合の自由落下の速さと一致し、妥当です。
- (4) \(v’_{\text{D}}, V’_{\text{D}}\): \(e=1\)(弾性衝突)なら、\(v’_{\text{D}} = v_{\text{C}}\), \(V’_{\text{D}} = V_{\text{C}}\) となり、速度の大きさが変わらず向きだけ反転することに対応します。\(0<e<1\)なので、衝突後に速さが減少するのは妥当です。
- (5) \(h_3 = e^2 h_1\): \(e<1\)なので、\(h_3 < h_1\) となり、衝突によってエネルギーを失った分、到達する高さが低くなるという直感と一致します。
- 保存則の再確認:
- 計算したすべての速度について、水平方向の運動量 \(mv_x + MV_x\) が常に0になっているかを確認する。
- 非弾性衝突であるD点以外では、系の力学的エネルギーが保存されているかを確認する。
これらの確認作業を通じて、解答の信頼性を高めることができます。
問題42 (大阪公大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、一定速度で上昇する板と、その上で繰り返し衝突する小球の運動を扱います。地面に固定された静止系から見た運動を記述し、動く物体との衝突を反発係数の式で正しく処理できるかが問われます。運動量保存則が使えない点も重要なポイントです。
- 板: なめらかな表面をもち、速さ\(V\)で鉛直上向きに等速上昇。
- 小球: 質量\(m\)。時刻\(t=0\)に板の表面(位置\(z=0\))から、地面に対し速さ\(v_0\)で鉛直上向きに投射。
- 初期条件: \(v_0 > 2V\)。
- 座標系: 鉛直上向きをz軸の正とし、\(t=0\)の板の位置を原点Oとする。
- 観測者: 地面にいる。
- 重力加速度: 大きさ\(g\)。空気抵抗は無視。
- [前半: 反発係数 \(e=1\)]
- (1) 1度目の最高点の座標 \(z_1\)。
- (2) 1度目の衝突点(板の表面)の座標 \(h_1\)。
- (3) 1度目の衝突直後の小球の速度 \(v_1\)。
- (4) 2度目の最高点の座標 \(z_2\)。
- (5) 2度目の衝突点の座標 \(h_2\)。
- (6) n度目の最高点の座標 \(z_n\)。
- [後半: 反発係数 \(e\) (\(0<e<1\))]
- 条件: \(v_0=5V\)で、1度目と2度目の最高点の高さが同じ。
- (7) 1度目の衝突直後の小球の速度 \(v_1’\)。
- (8) 反発係数 \(e\)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(3)および問(7) 衝突直後の小球の速度の別解: 運動座標系(板基準の座標系)を利用する解法
- 主たる解法が地面に固定された静止系で計算するのに対し、別解では上昇する板に乗った観測者から見た相対運動として衝突を解析します。
- 問(3)および問(7) 衝突直後の小球の速度の別解: 運動座標系(板基準の座標系)を利用する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理モデルの深化: 「ガリレイの相対性原理」や「運動座標系」といった、より高度な物理概念の具体的な適用例を学ぶことができます。
- 計算の簡略化: 衝突現象を相対運動で捉えることで、衝突前後の速度の関係がよりシンプルになり、計算の見通しが良くなる場合があります。
- 異なる視点の学習: 同じ現象を静止系と運動系の両方から見ることで、物理法則の普遍性への理解が深まり、思考の柔軟性が養われます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「動く物体との繰り返し衝突と相対運動」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 鉛直投げ上げ運動(等加速度直線運動)の公式: 地面から見た小球の運動を記述するために用います。
- 衝突条件: 物体が衝突するとは「同じ時刻に同じ位置に存在する」ことであり、これを数式で表現します。
- 反発係数の法則: 運動量が保存されない本問の衝突では、衝突前後の速度の関係を記述する唯一の法則です。衝突面に対する「相対速度」を用いて立式することが極めて重要です。
- 運動の規則性の発見: 繰り返し運動では、1サイクルごとの運動に潜む規則性を見抜くことが、問題を一般化する鍵となります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、地面に固定された座標系から見て、小球(等加速度運動)と板(等速直線運動)の運動をそれぞれ時刻\(t\)の関数で表します。
- 「位置が等しくなる」という衝突条件を用いて、衝突時刻を求めます。
- 衝突現象は、衝突直前の速度を正確に計算した上で、反発係数の式を用いて解析します。
- 衝突後の運動は、新たな初期条件を持つ鉛直投げ上げ運動として扱います。この繰り返しから規則性を見出し、一般化します。
- 後半では、与えられた「最高点の高さが同じ」という条件を数式に直し、未知数である反発係数\(e\)を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
1度目の最高点の座標\(z_1\)を求めます。小球は時刻\(t=0\)に原点Oから初速度\(v_0\)で鉛直上向きに投げ上げられます。これは単純な鉛直投げ上げ運動です。最高点では、小球の速度は一瞬\(0\)になります。この条件を使って、最高点の座標を求めます。
この設問における重要なポイント
- 小球の運動は、地面から見ると鉛直投げ上げ運動である。
- 最高点では、小球の速度が\(0\)になる。
- 時間を含まない等加速度直線運動の公式 \(v^2 – v_0^2 = 2az\) を使うと計算が早い。
具体的な解説と立式
小球の運動は、初速度\(v_0\)、加速度\(-g\)の等加速度直線運動です。
最高点での速度は\(0\)になります。時間を含まない公式 \(v^2 – v_0^2 = 2az\) を用います。
- 後の速度 \(v\): \(0\)
- 初めの速度 \(v_0\): \(v_0\)
- 加速度 \(a\): \(-g\)
- 変位 \(z\): \(z_1\)
これらの値を公式に代入します。
$$ 0^2 – v_0^2 = 2(-g)z_1 \quad \cdots ① $$
使用した物理公式
- 等加速度直線運動の公式: \(v^2 – v_0^2 = 2az\)
式①を\(z_1\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
-v_0^2 &= -2gz_1 \\[2.0ex]
z_1 &= \frac{v_0^2}{2g}
\end{aligned}
$$
ボールを真上に投げたとき、一番高く到達する地点の高さを求める問題です。これは、物理の教科書で最初に習う、鉛直投げ上げの最高点の高さを求める公式そのものです。
1度目の最高点の座標は \(z_1 = \displaystyle\frac{v_0^2}{2g}\) です。この結果は、初速度\(v_0\)が大きいほど高く、重力加速度\(g\)が大きいほど低くなることを示しており、私たちの日常的な感覚と一致する妥当なものです。
問(2)
思考の道筋とポイント
小球が板に衝突したときの、板の表面の座標\(h_1\)を求めます。
「衝突する」とは、ある時刻\(t\)において「小球の位置と板の位置が等しくなる」ということです。
まず、小球と板の位置を、時刻\(t\)の関数としてそれぞれ表します。次に、それらを等しいとおいて方程式を立て、衝突時刻\(t\)を求めます。最後に、その時刻\(t\)における板の位置を計算すれば、それが\(h_1\)になります。
この設問における重要なポイント
- 衝突条件を「位置が等しい」と数式で表現する。
- 小球と板の運動を、それぞれ時刻\(t\)の関数で記述する。
具体的な解説と立式
時刻\(t\)における小球の位置を\(z_{球}(t)\)、板の位置を\(Z_{板}(t)\)とします。
- 小球の位置: \(z_{球}(t) = v_0 t – \displaystyle\frac{1}{2}gt^2 \quad \cdots ②\)
- 板の位置: \(Z_{板}(t) = Vt \quad \cdots ③\)
衝突時刻を\(t_1\)とすると、その時刻に \(z_{球}(t_1) = Z_{板}(t_1)\) となります。
$$ v_0 t_1 – \frac{1}{2}gt_1^2 = Vt_1 \quad \cdots ④ $$
この方程式を解いて衝突時刻\(t_1\)を求め、そのときの板の座標 \(h_1 = V t_1\) を計算します。
使用した物理公式
- 等加速度直線運動の変位の式: \(z = v_0t + \frac{1}{2}at^2\)
- 等速直線運動の変位の式: \(Z = Vt\)
式④を\(t_1\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
v_0 t_1 – Vt_1 – \frac{1}{2}gt_1^2 &= 0 \\[2.0ex]
(v_0 – V)t_1 – \frac{1}{2}gt_1^2 &= 0
\end{aligned}
$$
\(t_1\)でくくります。
$$ t_1 \left( (v_0 – V) – \frac{1}{2}gt_1 \right) = 0 $$
\(t_1=0\)は投げ上げた瞬間なので、衝突時刻は \(t_1 > 0\) の解です。
$$
\begin{aligned}
(v_0 – V) – \frac{1}{2}gt_1 &= 0 \\[2.0ex]
\frac{1}{2}gt_1 &= v_0 – V \\[2.0ex]
t_1 &= \frac{2(v_0 – V)}{g}
\end{aligned}
$$
この衝突時刻\(t_1\)における板の座標が\(h_1\)なので、
$$
\begin{aligned}
h_1 &= V t_1 \\[2.0ex]
&= V \cdot \frac{2(v_0 – V)}{g} \\[2.0ex]
&= \frac{2V(v_0 – V)}{g}
\end{aligned}
$$
小球と板が「出会う」時刻を求めます。小球は重力で減速しながら上昇・落下し、板は一定の速さで上昇します。両者の高さが同じになる時刻を計算し、その時刻に板がどこまで上昇しているかを計算すれば、それが衝突点の高さ\(h_1\)です。
衝突点の座標は \(h_1 = \displaystyle\frac{2V(v_0 – V)}{g}\) です。
問題の条件より \(v_0 > 2V > V\) なので、\(v_0 – V > 0\) となり、\(h_1\)は正の値となります。これは、小球が原点より上で板と衝突することを意味しており、物理的に妥当です。
問(3)
思考の道筋とポイント
反発係数\(e=1\)の衝突直後の、小球の地面に対する速度\(v_1\)を求めます。
衝突現象なので、反発係数の式を用います。この式は、衝突面(板)に対する相対速度で定義されるため、注意が必要です。
まず、衝突直前の小球と板の速度を求め、それらを使って反発係数の式を立て、衝突直後の小球の速度を計算します。
この設問における重要なポイント
- 運動量保存則は使えない(板は外部の力で等速運動しているため、系に外力が働いている)。
- 反発係数の式は、衝突面に対する相対速度で立てる。
- 地面に対する速度(絶対速度)と、板に対する相対速度を明確に区別する。
具体的な解説と立式
まず、衝突直前(時刻\(t_1\))の小球の速度\(v_{1, 前}\)を求めます。
鉛直投げ上げの速度の式 \(v = v_0 + at\) を用います。
$$ v_{1, 前} = v_0 – gt_1 $$
衝突直前の板の速度は、常に\(V\)です。
反発係数の式
$$ e = – \displaystyle\frac{(\text{衝突後の相対速度})}{(\text{衝突前の相対速度})} $$
を用います。
$$ e = – \frac{v_1 – V}{v_{1, 前} – V} $$
ここで、\(e=1\)、衝突直後の小球の速度が\(v_1\)、板の速度は変わらず\(V\)です。
$$ 1 = – \frac{v_1 – V}{v_{1, 前} – V} \quad \cdots ⑤ $$
使用した物理公式
- 等加速度直線運動の速度の式: \(v = v_0 + at\)
- 反発係数の式: \(e = – \displaystyle\frac{v’_A – v’_B}{v_A – v_B}\)
まず、\(v_{1, 前}\)を計算します。(2)で求めた \(t_1 = \displaystyle\frac{2(v_0 – V)}{g}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
v_{1, 前} &= v_0 – g \left(\frac{2(v_0 – V)}{g}\right) \\[2.0ex]
&= v_0 – 2(v_0 – V) \\[2.0ex]
&= v_0 – 2v_0 + 2V \\[2.0ex]
&= -v_0 + 2V \\[2.0ex]
&= -(v_0 – 2V)
\end{aligned}
$$
次に、この結果を式⑤に代入して\(v_1\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
1 &= – \frac{v_1 – V}{-(v_0 – 2V) – V} \\[2.0ex]
1 &= – \frac{v_1 – V}{-v_0 + 2V – V} \\[2.0ex]
1 &= – \frac{v_1 – V}{-(v_0 – V)} \\[2.0ex]
1 &= \frac{v_1 – V}{v_0 – V}
\end{aligned}
$$
両辺に \((v_0 – V)\) を掛けます。
$$ v_0 – V = v_1 – V $$
両辺の\(-V\)を消去して、
$$ v_1 = v_0 $$
動く板との衝突を考えます。はね返りの法則を使うには、板から見た小球の「相対的な速さ」で考える必要があります。衝突前に板に近づいてくる相対的な速さと、衝突後に板から遠ざかっていく相対的な速さの比が反発係数です。今回は反発係数が1(完全弾性衝突)なので、これらの相対的な速さは同じになります。この関係から、衝突後の小球の、地面から見た速さを計算します。
衝突直後の小球の速度は \(v_1 = v_0\) です。
これは、反発係数が1のとき、上昇する板との衝突によって、小球の速度が最初の投げ上げ速度と全く同じになるという、非常に興味深い結果です。
思考の道筋とポイント
上昇する板に乗った観測者から見た小球の運動を考えます。この観測者から見ると、板は常に静止しており、小球は初速度 \((v_0 – V)\) で打ち上げられ、重力のもとで運動し、静止している板に衝突するように見えます。この相対的な運動を解析することで、計算を簡略化できます。
この設問における重要なポイント
- 板に対する小球の相対速度を考えることで、衝突相手を静止させて扱うことができる。
- 衝突前後の相対速度の関係式 \(v’_{相対} = -e v_{相対}\) を利用する。
- 最後に、求めた相対速度を地面に対する速度(静止系の速度)に変換することを忘れない。
具体的な解説と立式
板に対する小球の初速度(相対速度)は、
$$ v_{0, 相対} = v_0 – V $$
板に乗った観測者から見ると、小球は初速度 \(v_{0, 相対}\) で打ち上げられ、同じ場所(板の上)に戻ってきます。鉛直投げ上げの対称性から、衝突直前の相対速度 \(v_{1前, 相対}\) は、
$$ v_{1前, 相対} = -v_{0, 相対} = -(v_0 – V) $$
反発係数の式より、衝突直後の相対速度 \(v_{1, 相対}\) は、
$$ v_{1, 相対} = -e \cdot v_{1前, 相対} $$
\(e=1\) なので、
$$ v_{1, 相対} = -1 \cdot (-(v_0 – V)) = v_0 – V $$
これはあくまで板に対する速度なので、地面に対する速度 \(v_1\) に変換します。速度の合成則より、
$$ (\text{地面への速度}) = (\text{板への相対速度}) + (\text{板の速度}) $$
$$ v_1 = v_{1, 相対} + V $$
使用した物理公式
- 速度の合成則: \(\vec{v}_{A} = \vec{v}_{AB} + \vec{v}_{B}\)
- 反発係数の式(相対速度): \(v’_{相対} = -e v_{相対}\)
上記の式に値を代入します。
$$
\begin{aligned}
v_1 &= (v_0 – V) + V \\[2.0ex]
&= v_0
\end{aligned}
$$
もし自分が上昇する板の上に乗っていたら、小球は自分から遠ざかった後、同じ速さで自分に向かって落ちてきて、衝突後はまた同じ速さで遠ざかっていくように見えます。この「自分から見た速さ」の関係を考え、最後に「地面から見た速さ」に翻訳し直す、という考え方です。
主たる解法と完全に一致します。相対運動の考え方を用いることで、衝突現象をよりシンプルに捉えることができ、計算の見通しが良くなります。
問(4)
思考の道筋とポイント
2度目の最高点の座標\(z_2\)を求めます。
(3)の結果から、1度目の衝突後の小球は、衝突点\(h_1\)から初速度\(v_0\)で再び鉛直投げ上げ運動をすることがわかります。
したがって、2度目の最高点は、衝突点\(h_1\)の座標に、そこから初速度\(v_0\)で投げ上げたときの最高到達点までの距離を加えたものになります。
この設問における重要なポイント
- 1度目の衝突後の運動が、衝突点を新たな原点とする鉛直投げ上げと見なせる。
- (3)の結果 \(v_1=v_0\) を利用する。
- 座標と距離を混同しない。「2度目の最高点の座標」は「原点Oからの位置」である。
具体的な解説と立式
1度目の衝突点(座標\(h_1\))から、初速度\(v_0\)で投げ上げたときの最高到達点までの距離を\(\Delta z\)とします。
この上昇距離は、(1)で求めた最高点の高さと同じ計算になり、
$$ \Delta z = \frac{v_0^2}{2g} $$
2度目の最高点の座標\(z_2\)は、この\(\Delta z\)を衝突点の座標\(h_1\)に加えたものです。
$$ z_2 = h_1 + \Delta z = h_1 + \frac{v_0^2}{2g} \quad \cdots ⑥ $$
使用した物理公式
- 鉛直投げ上げの最高点の高さ
式⑥に、(2)で求めた \(h_1 = \displaystyle\frac{2V(v_0 – V)}{g}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
z_2 &= \frac{2V(v_0 – V)}{g} + \frac{v_0^2}{2g} \\[2.0ex]
&= \frac{4V(v_0 – V)}{2g} + \frac{v_0^2}{2g} \\[2.0ex]
&= \frac{4Vv_0 – 4V^2 + v_0^2}{2g}
\end{aligned}
$$
1回目の衝突ではね返った小球は、衝突した地点から、再び最初の速さで打ち上げられます。したがって、2回目のジャンプで到達する最高の高さは、「1回目の衝突地点の高さ」に、「そこからジャンプして届く高さ」を足し合わせたものになります。
2度目の最高点の座標は \(z_2 = \displaystyle\frac{v_0^2 + 4V(v_0 – V)}{2g}\) です。
1度目の最高点\(z_1 = \frac{v_0^2}{2g}\)よりも、衝突点\(h_1\)の分だけ高くなっています。板が上昇しているため、衝突を繰り返すたびに最高点が高くなっていく様子が数式からも確認できます。
問(5)
思考の道筋とポイント
2度目の衝突が起こる板の座標\(h_2\)を求めます。
1度目の衝突後、小球は座標\(h_1\)から初速\(v_0\)で投げ上げられます。一方、板は座標\(h_1\)から速さ\(V\)で上昇を続けます。この状況は、(2)で考えた状況(原点から初速\(v_0\)で投げ上げ、板は原点から速さ\(V\)で上昇)と全く同じ構造です。
したがって、1度目の衝突点から2度目の衝突点までの間に板が上昇する距離は、原点から1度目の衝突点まで上昇した距離\(h_1\)と等しくなります。
この設問における重要なポイント
- 繰り返し運動の中に潜む規則性を見つける。
- 衝突から次の衝突までの1サイクルが、同じ形で繰り返されることに気づく。
具体的な解説と立式
衝突から次の衝突までの間に板が上昇する距離は、常に\(h_1\)に等しくなります。
したがって、2度目の衝突点の座標\(h_2\)は、1度目の衝突点の座標\(h_1\)に、さらに\(h_1\)だけ上昇した位置になります。
$$ h_2 = h_1 + h_1 = 2h_1 $$
使用した物理公式
- (2)で求めた衝突点の座標\(h_1\)の結果を利用する。
(2)で求めた \(h_1 = \displaystyle\frac{2V(v_0-V)}{g}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
h_2 &= 2 \cdot h_1 \\[2.0ex]
&= 2 \cdot \frac{2V(v_0-V)}{g} \\[2.0ex]
&= \frac{4V(v_0-V)}{g}
\end{aligned}
$$
小球は板と衝突するたびに、毎回同じ速さ\(v_0\)ではね返されます。板もずっと同じ速さ\(V\)で上昇しています。つまり、「衝突してから次の衝突まで」の運動は、毎回同じことの繰り返しになります。そのため、1回の衝突の間に板が進む距離は、いつも同じ\(h_1\)になります。2回目の衝突点は、1回目の衝突点からさらに\(h_1\)だけ高い場所になります。
衝突点の座標が\(h_1, 2h_1, 3h_1, \dots\)と等差数列的に増えていくことがわかります。これは、衝突後の小球の初速が毎回\(v_0\)に戻るという、\(e=1\)の特殊な条件から生じる美しい規則性です。
問(6)
思考の道筋とポイント
n度目の最高点の座標\(z_n\)を求めます。
(4)と同様に、\((n-1)\)度目の衝突点\(h_{n-1}\)の座標に、そこから初速\(v_0\)で投げ上げたときの最高到達点までの距離を加えることで、一般式を導きます。
この設問における重要なポイント
- (5)で発見した衝突点の座標の規則性 \(h_n = n \cdot h_1\) を利用する。
具体的な解説と立式
n度目の最高点の座標\(z_n\)は、\((n-1)\)度目の衝突点\(h_{n-1}\)から、初速\(v_0\)で投げ上げたときの最高到達点までの距離 \(\displaystyle\frac{v_0^2}{2g}\) を加えたものです。
$$ z_n = h_{n-1} + \frac{v_0^2}{2g} $$
(5)の考察から、\((n-1)\)度目の衝突点の座標は \(h_{n-1} = (n-1)h_1\) と表せます。これを代入すると、
$$ z_n = (n-1)h_1 + \frac{v_0^2}{2g} $$
使用した物理公式
- (1)で求めた最高到達距離の結果
- (5)で考察した衝突点の座標の一般項
\(h_1 = \displaystyle\frac{2V(v_0-V)}{g}\) を代入します。
$$ z_n = (n-1)\frac{2V(v_0-V)}{g} + \frac{v_0^2}{2g} $$
n回目のジャンプで到達する最高の高さは、「(n-1)回目の衝突が起きた高さ」に、「そこからジャンプして届く高さ」を足し合わせたものになります。(n-1)回目の衝突点の高さは、1回あたり\(h_1\)ずつ高くなるので、\((n-1) \times h_1\) と計算できます。
この式は、最高点の座標が衝突回数\(n\)の1次関数で増加していくことを示しています。\(n=1\)を代入すると \(z_1 = (1-1)h_1 + \frac{v_0^2}{2g} = \frac{v_0^2}{2g}\)、\(n=2\)を代入すると \(z_2 = (2-1)h_1 + \frac{v_0^2}{2g} = h_1 + \frac{v_0^2}{2g}\) となり、それぞれ(1), (4)の結果と一致し、式の正しさが確認できます。
問(7)
思考の道筋とポイント
ここからは反発係数が\(e\)の場合を考えます。条件として \(v_0=5V\) が与えられています。
1度目の衝突直後の小球の速度\(v’_1\)を求めます。これは(3)と全く同じ手順で計算します。ただし、反発係数は\(e\)を用い、初速は\(v_0=5V\)とします。
この設問における重要なポイント
- (3)の計算を、反発係数\(e\)と条件\(v_0=5V\)を使ってやり直す。
具体的な解説と立式
まず、衝突直前の小球の速度\(v’_{1, 前}\)を求めます。
衝突時刻\(t’_1\)は、(2)の結果に \(v_0=5V\) を代入して、
$$ t’_1 = \frac{2(v_0 – V)}{g} = \frac{2(5V – V)}{g} = \frac{8V}{g} $$
衝突直前の速度は、
$$ v’_{1, 前} = v_0 – gt’_1 $$
反発係数の式を立てます。
$$ e = – \frac{v’_1 – V}{v’_{1, 前} – V} $$
使用した物理公式
- 反発係数の式: \(e = – \displaystyle\frac{v’_A – v’_B}{v_A – v_B}\)
\(v’_{1, 前}\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
v’_{1, 前} &= 5V – g\left(\frac{8V}{g}\right) \\[2.0ex]
&= 5V – 8V = -3V
\end{aligned}
$$
反発係数の式に代入して\(v’_1\)を解きます。
$$
\begin{aligned}
e &= – \frac{v’_1 – V}{-3V – V} \\[2.0ex]
e &= – \frac{v’_1 – V}{-4V} \\[2.0ex]
e &= \frac{v’_1 – V}{4V}
\end{aligned}
$$
両辺に\(4V\)を掛けて、
$$ 4eV = v’_1 – V $$
移項して、
$$ v’_1 = V + 4eV = (1+4e)V $$
今度は、はね返りが完全ではない場合(\(e<1\))を考えます。計算の手順は問(3)と全く同じです。まず、衝突する瞬間の小球の速度を計算します。次に、はね返りの法則の式に、反発係数\(e\)と計算した速度を代入して、はね返った直後の小球の速度を求めます。
衝突直後の速度は \(v’_1 = (1+4e)V\) です。この式に\(e=1\)を代入すると \(v’_1=5V=v_0\) となり、(3)の結果と整合性が取れています。また、\(e=0\)(完全非弾性衝突)を代入すると \(v’_1=V\) となり、小球が板にくっついて一体となって上昇する様子を表しており、物理的に妥当です。
思考の道筋とポイント
(3)の別解と同様に、板に乗った観測者から見た運動を考えます。この視点では、衝突相手の板が静止しているため、反発係数の式の扱いがより簡単になります。
この設問における重要なポイント
- 板に対する相対速度で衝突を記述する。
- 衝突前後の相対速度の関係式 \(v’_{相対} = -e v_{相対}\) を利用する。
- 最後に静止系の速度に変換する。
具体的な解説と立式
衝突直前の小球の地面に対する速度は \(v’_{1, 前} = -3V\)、板の速度は\(V\)です。
よって、衝突直前の相対速度は、
$$ v’_{1前, 相対} = v’_{1, 前} – V = -3V – V = -4V $$
衝突直後の相対速度は、反発係数の定義より、
$$ v’_{1, 相対} = -e \cdot v’_{1前, 相対} = -e(-4V) = 4eV $$
これを地面に対する速度\(v’_1\)に変換します。
$$ v’_1 = v’_{1, 相対} + V $$
使用した物理公式
- 速度の合成則: \(\vec{v}_{A} = \vec{v}_{AB} + \vec{v}_{B}\)
- 反発係数の式(相対速度): \(v’_{相対} = -e v_{相対}\)
上記の式に値を代入します。
$$
\begin{aligned}
v’_1 &= 4eV + V \\[2.0ex]
&= (1+4e)V
\end{aligned}
$$
上昇する板に乗っている自分から見ると、小球は \(4V\) の速さでぶつかってきて、はね返った後は \(e \times 4V\) の速さで遠ざかっていくように見えます。この「自分から見た速さ」に、自分の速さ(板の速さ\(V\))を足し合わせることで、「地面から見た速さ」を計算できます。
主たる解法と完全に一致します。この解法は、衝突現象の本質が相対運動にあることを明確に示しており、物理的な理解を深める上で有益です。
問(8)
思考の道筋とポイント
反発係数\(e\)を求めます。「1度目の最高点と2度目の最高点の高さが同じ」という条件を使います。
それぞれの最高点の座標を計算し、等しいとおいて\(e\)に関する方程式を立てます。
この設問における重要なポイント
- 与えられた条件「\(z’_1 = z’_2\)」を数式に落とし込む。
- 各最高点の座標を、衝突点とそこからの上昇距離の和として計算する。
具体的な解説と立式
- 1度目の最高点 \(z’_1\):
初速\(v_0=5V\)での投げ上げなので、
$$ z’_1 = \frac{v_0^2}{2g} = \frac{(5V)^2}{2g} = \frac{25V^2}{2g} $$ - 2度目の最高点 \(z’_2\):
1度目の衝突点\(h’_1\)から、初速\(v’_1\)で投げ上げたときの最高点です。
$$ z’_2 = h’_1 + \frac{(v’_1)^2}{2g} $$
条件 \(z’_1 = z’_2\) より、
$$ \frac{25V^2}{2g} = h’_1 + \frac{(v’_1)^2}{2g} $$
使用した物理公式
- 鉛直投げ上げの最高点の高さ
まず、衝突点\(h’_1\)を計算します。
(7)で求めた衝突時刻 \(t’_1 = \displaystyle\frac{8V}{g}\) を用います。
$$ h’_1 = V t’_1 = V \cdot \displaystyle\frac{8V}{g} = \frac{8V^2}{g} $$
次に、\(z’_1 = z’_2\) の方程式に、\(h’_1\)と(7)で求めた\(v’_1 = (1+4e)V\)を代入します。
$$ \frac{25V^2}{2g} = \frac{8V^2}{g} + \frac{((1+4e)V)^2}{2g} $$
両辺に\(2g\)を掛け、\(V^2\) (\(V \neq 0\)) で割ります。
$$
\begin{aligned}
25 &= 2 \cdot 8 + (1+4e)^2 \\[2.0ex]
25 &= 16 + (1+4e)^2 \\[2.0ex]
(1+4e)^2 &= 25 – 16 \\[2.0ex]
(1+4e)^2 &= 9
\end{aligned}
$$
平方根をとります。
$$ 1+4e = \pm 3 $$
問題の条件より \(0 < e < 1\) なので、\(4e > 0\)、したがって \(1+4e > 1\) となります。よって、正の解のみをとります。
$$
\begin{aligned}
1+4e &= 3 \\[2.0ex]
4e &= 2 \\[2.0ex]
e &= \frac{1}{2}
\end{aligned}
$$
「1回目のジャンプの最高点」と「2回目のジャンプの最高点」の高さが同じになる、という条件を使います。それぞれの高さを数式で表します。1回目の最高点は最初の速さだけで決まります。2回目の最高点は、「衝突した地点の高さ」と「はね返った速さで決まるジャンプの高さ」の合計です。これらが等しいという方程式を立てて、未知数である反発係数\(e\)を求めます。
反発係数は \(e = \displaystyle\frac{1}{2}\) です。これは条件 \(0 < e < 1\) を満たしており、物理的に妥当な値です。この結果は、衝突によって失われるエネルギーと、板が上昇することで小球に与えられる位置エネルギーが、うまく釣り合って最高点を同じに保つような、絶妙なはね返り具合であることを示しています。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動の相対性(座標系の設定)
- 核心: 物理現象は、どの慣性系(静止しているか、等速直線運動している座標系)から見るかによって、その記述の仕方が変わります。しかし、物理法則そのものはどの慣性系でも同じ形で成り立ちます。
- 理解のポイント:
- 地面に固定した座標系(静止系): 問題の指示通り、地面から見た運動として記述するのが基本です。小球は重力による等加速度運動、板は等速直線運動として扱います。
- 動く板に固定した座標系(運動系): 衝突を分析する際には、板から見た小球の「相対速度」を考えることが不可欠です。反発係数の式は、この相対速度を用いて定義されます。
静止系での記述を基本としつつ、衝突の場面では相対速度の考え方に切り替える、という柔軟な思考が求められます。
- 反発係数の法則
- 核心: 2物体の衝突において、衝突面に垂直な方向の相対速度が、衝突後にどのように変化するかを記述する法則です。\(e = – \displaystyle\frac{v’_{相対}}{v_{相対}}\)。
- 理解のポイント: この問題では、板が外部の力によって無理やり等速運動させられているため、小球と板の系で運動量は保存されません。したがって、衝突現象を記述する唯一の法則が、この反発係数の式となります。(3)や(7)で中心的な役割を果たします。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 自由落下するエレベーター内での物体の運動: エレベーターと一緒に落下する観測者から見ると、物体は無重力状態のように見えます(見かけの重力が0)。このように、加速する座標系(非慣性系)では「慣性力」を導入すると、運動の記述が簡単になる場合があります。
- 電車内でボールを投げる: 電車が等速で動いている場合、電車内の人から見れば、ボールは地上で投げるのと同じ放物運動をします(ガリレイの相対性原理)。
- 周期的な運動との衝突: 単振動するピストンと気体分子の衝突など。衝突のタイミングによって、衝突相手の速度が異なるため、衝突後の運動も変わってきます。
- 初見の問題での着眼点:
- 基準系(座標系)の明確化: まず、自分はどの立場(地面か、動く物体の上か)から現象を見ているのかを明確にします。問題で指示があればそれに従い、なければ最も単純に記述できる系を選びます。
- 衝突条件の数式化: 「小球が板に衝突する」という現象を、「ある時刻\(t\)において、小球の位置と板の位置が等しくなる」 (\(z_{球}(t) = Z_{板}(t)\)) と数式に翻訳することが、(2)のような問題を解く第一歩です。
- 運動の規則性・周期性の発見: (5), (6)のように、繰り返し運動では、1回目と2回目の運動の間に何か規則性がないかを探します。この問題では、\(e=1\)の場合、「衝突 \(\rightarrow\) 最高点 \(\rightarrow\) 次の衝突」という1サイクルの運動が、毎回同じ形で繰り返される(ただし、基準となる高さが上昇していく)ことを見抜くのが鍵です。
- 与えられた条件の意味を考える: (7), (8)の「1度目と2度目の最高点の高さが同じ」という条件は、何を意味するでしょうか。1回目の衝突で失われたエネルギーと、板が上昇することで供給されるエネルギーのバランスが取れている、と解釈できます。この条件を、具体的な数式(\(z’_1 = z’_2\))に落とし込んで解くのが定石です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 運動量保存則の誤用:
- 誤解: 小球と板の衝突だから、運動量保存則が使えると思い込む。
- 対策: 運動量保存則が成り立つのは「系に外力が働かない」場合のみです。この問題では、板は「常に一定の速さVで上昇している」とされており、これは外部から何らかの力(モーターなど)が働いて、重力に逆らい、かつ衝突の衝撃にも耐えて速度を維持していることを意味します。したがって、小球と板の系には外力が働いているため、運動量は保存されません。
- 相対速度の扱い:
- 誤解: 反発係数の式を、地面に対する絶対速度のまま \(e = -v’_1/v_{1, 前}\) のように立ててしまう。
- 対策: 反発係数は、あくまで「衝突面に対する相対速度」の比です。必ず、衝突相手の速度を引いた相対速度 \(v_{相対} = v_{球} – v_{板}\) を用いて立式する習慣をつけましょう。
- 座標と距離の混同:
- 誤解: (4)で、2度目の最高点の座標\(z_2\)を、衝突点\(h_1\)からの上昇距離 \(\Delta z\) そのものだと考えてしまう。
- 対策: 座標は「原点からの位置」、距離は「2点間の隔たり」です。\(z_2\)は、衝突点\(h_1\)を基準とした上昇距離\(\Delta z\)に、\(h_1\)自身の座標を加えたもの (\(z_2 = h_1 + \Delta z\)) です。基準点がどこかを常に意識することが重要です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 等加速度直線運動の公式:
- 選定理由: 地面から見た小球の運動は、空中にある限り常に重力による等加速度運動だからです。
- 適用根拠: (1)では最高点(\(v=0\))を、(2)では衝突(位置の一致)を、(3)では衝突直前の速度を求めるために、状況に応じて3つの公式 (\(v=v_0+at\), \(z=v_0t+\frac{1}{2}at^2\), \(v^2-v_0^2=2az\)) を使い分けます。
- 等速直線運動の公式:
- 選定理由: 板の運動は、常に一定速度\(V\)であると問題文で規定されているため。
- 適用根拠: (2)で衝突位置を求める際に、板の位置を \(Z=Vt\) と記述するために用います。
- 反発係数の式:
- 選定理由: (3), (7)で、運動量が保存されない衝突における、衝突前後の速度の関係を記述するため。
- 適用根拠: 衝突現象を扱う上で、運動量保存則が使えない場合に、衝突前後の速度を結びつける唯一の法則だからです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 符号の確認:
- 特に注意すべき点: 鉛直上向きを正としているので、重力加速度は\(-g\)、衝突直前の小球の速度は負の値になることが多いです。反発係数の式など、符号が結果に大きく影響する計算では特に注意が必要です。
- 日頃の練習: 式を立てる際に、必ず座標軸の向きを明記し、各ベクトル量が正負どちらになるかを常に意識する習慣をつけましょう。
- 文字式の整理:
- 特に注意すべき点: \(v_0, V, g, e\)など多くの文字が登場します。特に(8)のように、複数の設問の結果を代入して最終的な答えを出す問題では、式が複雑になりがちです。
- 日頃の練習: 途中式を省略せず、丁寧に書くこと。特に、(8)の方程式を整理する際に、両辺を共通因数(この場合は \(\frac{V^2}{2g}\))で割るなど、式全体を俯瞰して計算を簡略化する工夫を意識すると、ミスが減り、時間も短縮できます。
- 代入のタイミング:
- 特に注意すべき点: (3)や(7)のように、ある量を求めるために別の計算結果(衝突時刻など)が必要になる場合、計算の順序を間違えないようにします。
- 日頃の練習: 問題を解き始める前に、どの量をどの順番で求めるか、簡単な計画を立てる癖をつけると、思考が整理され、計算ミスを防げます。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (3) \(v_1=v_0\): \(e=1\)のとき、上昇する板に衝突すると、まるで最初の状態に戻ったかのように同じ初速で打ち出される、という結果は物理的に興味深く、対称性の高さを感じさせます。
- (8) \(e=1/2\): \(0<e<1\)の範囲にあり、物理的に意味のある値です。
- 極端な場合や既知の状況との比較:
- もし板が静止していたら (\(V=0\))どうなるか考えてみましょう。
- (2)の\(h_1\)は\(0\)になります。
- (3)の衝突直前の速度は\(-v_0\)、衝突直後の速度は\(v_1=v_0\)となり、これは床との完全弾性衝突と同じです。
- (7)の衝突直後の速度は\(v’_1 = (1+4e)\cdot 0 = 0\)とはならず、\(v_0=5V\)の条件が使えなくなるので注意が必要ですが、一般式 \(v’_1 = V+e(V-v’_{1,前})\) に\(V=0, v’_{1,前}=-v_0\)を代入すると\(v’_1=ev_0\)となり、これも床とのはね返りの式と一致します。
- このように、既知の簡単な状況に置き換えてみることで、式の妥当性を検証できます。
- もし板が静止していたら (\(V=0\))どうなるか考えてみましょう。
- 条件の意味を物理的に解釈する:
- 「1度目と2度目の最高点の高さが同じ」とは、どういうことか。1回目の衝突で失われた力学的エネルギー(\(e<1\)のため)と、2回目の最高点に達するまでに板が小球にした仕事(板が上昇しているため、衝突点が高くなることによる位置エネルギーの増加)が、ちょうど釣り合っている状態と解釈できます。このエネルギー的な収支の観点からも、問題を考察することができます。
[mathjax] SNSでのシェアはご自由にどうぞ。(上のボタンをクリック) ブログで引用する際には、こちらのリンクを添えてください。【引用】https://makoto-physics-school.com[…]
問題43 (浜松医大 改)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、円盤と円環という2つの物体が、内部で繰り返し衝突する現象を扱います。1次元衝突における運動量保存則と反発係数の式を繰り返し適用し、最終的に極限の考え方を用いて多数回衝突後の状態を考察する、物理と数学の融合問題です。
- 円環: 質量\(M\)、内径\(2a\)、静止状態。
- 円盤: 質量\(m\)、初速度\(v_0\)で円環の中心Oから右向きに運動開始。
- 衝突: 円環の内壁P、Qで繰り返し衝突。反発係数は\(e\) (\(0<e<1\))。
- 座標系: 右向きを正とする。
- その他: 床はなめらか。空気抵抗や円盤の大きさは無視。
- (1) 1回目の衝突直後の円盤の速度\(v_1\)と円環の速度\(V_1\)。
- (2) 円盤がOを出発し、Qに最初に衝突するまでの全時間。
- (3) n回目の衝突直後の円盤と円環の相対速度 \(v_n – V_n\)。
- (4) 多数回衝突後の円環の最終的な速度 \(\lim_{n \to \infty} V_n\)。
- (5) 運動開始前から最終状態までの運動エネルギーの総和の差 \(\Delta K = K_0 – K_F\)。
- (6) \(\Delta K\)が何を意味するかの説明。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(1) 衝突直後の速度の別解: 重心系(運動量中心系)を利用する解法
- 主たる解法が地面に固定された静止系で連立方程式を解くのに対し、別解では円盤と円環の重心から見た運動を考えます。重心系では衝突現象が速度の反転としてシンプルに記述でき、物理現象のより深い理解につながります。
- 問(3) 相対速度の一般項の別解: 衝突ごとの変化を直接追跡する解法(模範解答記載の別解)
- 主たる解法が、n回目と(n-1)回目の関係から漸化式を立てて数学的に一般項を導出するのに対し、別解では、衝突のたびに相対速度が\(-e\)倍されるという物理法則を1回目から順番に適用していくことで、より直感的に一般項を導き出します。
- 問(4) 最終速度の別解: 速度の一般項の極限を計算する解法
- 主たる解法が運動の最初と最後だけを比較して最終速度を求めるのに対し、別解ではまずn回目の衝突後の円環の速度\(V_n\)の一般項を求め、その数式的な極限を計算することで最終速度を導出します。
- 問(1) 衝突直後の速度の別解: 重心系(運動量中心系)を利用する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理モデルの深化: 「重心運動」や「物理法則の逐次適用」といった、物理の核心的な概念への理解が深まります。特に重心系の考え方は、大学レベルの力学にもつながる重要な視点です。
- 数学的アプローチの学習: 問(4)の別解は、物理法則から導いた漸化式を解き、その極限を求めるという、物理と数学の連携を具体的に体験できる良い例です。
- 異なる視点の学習: 同じ問題に対して、代数的に解く方法、物理的な性質(重心運動)を利用する方法、漸化式を直接解く方法など、複数のアプローチを学ぶことで、思考の柔軟性が養われます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「2物体の繰り返し衝突」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動量保存則: 円盤と円環を一つの「系」として見ると、水平方向には外力が働かないため、系の全運動量は衝突の回数によらず常に保存されます。
- 反発係数の式: 各衝突の前後で、2物体の相対速度がどのように変化するかを記述します。これにより、衝突ごとに速度がどのように変化していくかの漸化式的な関係を導くことができます。
- 等比数列と極限: 多数回の衝突を扱うため、数列の一般項や極限の計算といった数学的な手法を用います。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、1回目の衝突について、運動量保存則と反発係数の式を連立させて、衝突直後の各物体の速度を求めます。
- 次に、衝突と次の衝突の間の運動を「相対運動」として捉え、時間を計算します。
- 繰り返し衝突における相対速度の変化の規則性を見出し、漸化式を立てて一般項を求めます。
- 最後に、無限回衝突後の極限状態を考え、運動量保存則やエネルギーの定義から最終的な速度やエネルギー損失を導出します。