「重要問題集」徹底解説(146〜150問):未来の得点力へ!完全マスター講座

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問題146 (京都工繊大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、複数のコンデンサーとコイル、スイッチを含む複雑な回路における「過渡現象」と「電気振動」を扱う問題です。前半ではRC回路の充電過程、後半ではLC回路の電気振動と、それらが組み合わさった現象を解析します。

与えられた条件
  • 回路素子:電池(起電力\(V_0\))、抵抗(\(R\))、コンデンサー(\(C_1, C_2, C_3\)、すべて容量\(C\))、コイル(自己インダクタンス\(L\))。
  • 初期状態:すべてのスイッチは開いており、どのコンデンサーにも電荷は蓄えられていない。
  • 前半の操作:\(S_2\)を開いたまま\(S_1\)を閉じる。
  • 後半の操作:前半の操作で十分時間が経過した後、\(S_1\)を開き、次に\(S_2\)を閉じる。
問われていること
  • (1) \(S_1\)を閉じた直後の抵抗を流れる電流。
  • (2) \(S_1\)を閉じた直後の、\(C_1\)の電圧変化率 \(\Delta V_1 / \Delta t\) と、抵抗の電圧変化率 \(\Delta V_R / \Delta t\)。
  • (3) \(S_1\)を閉じて十分時間が経過した後の、\(C_2\)の電気量。
  • (4) \(S_2\)を閉じた直後の、コイルの電圧と電流。
  • (5) \(S_2\)を閉じた直後の、コイルの電流変化率 \(\Delta I_L / \Delta t\)。
  • (6) 電気振動で\(C_3\)に流れ込む電流が最大になるときの、その電流の最大値と\(C_3\)の電気量。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「過渡現象と電気振動の複合解析」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 過渡現象の基本: スイッチ操作の「直後」と「十分時間後」におけるコンデンサーとコイルの振る舞いを正確に理解する。
  2. キルヒホッフの法則: 回路が複雑なため、電圧則(第2法則)と電流則(第1法則)を的確に適用する能力が不可欠。特に、法則を時間変化(微分)した形も用いる。
  3. 電気振動とエネルギー保存: 抵抗を含まないLC回路部分では、静電エネルギーと磁気エネルギーの和が保存される。
  4. 電荷保存則: 回路の一部が孤立している場合、その部分の総電荷は保存される。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)~(3)では、RC回路の充電過程を解析します。特に(2)では、キルヒホッフの法則を時間微分した関係式を立てるという高度なテクニックが求められます。
  2. (4)~(6)では、(3)の状態を初期条件として、LC回路の電気振動を解析します。ここでも「直後」の考え方や、エネルギー保存則、電荷保存則を駆使します。

問(1)

思考の道筋とポイント
スイッチ\(S_1\)を閉じた「直後」を考えます。この瞬間、どのコンデンサーにも電荷は蓄えられていません。したがって、コンデンサー\(C_1\)と\(C_2\)の両端の電圧はともに0です。電圧が0のコンデンサーは、電気的には単なる導線(ショート状態)と見なせます。
この設問における重要なポイント

  • スイッチ操作直後のコンデンサーは、電荷が0なので電圧も0。電気的には「導線」として扱える。
  • キルヒホッフの法則IIを適用する。

具体的な解説と立式
\(S_1\)を閉じた直後、\(C_1\)と\(C_2\)の電気量はともに0なので、それぞれの電圧\(V_1, V_2\)も0です。
$$ V_1 = 0, \quad V_2 = 0 $$
このとき、回路は電池\(V_0\)、抵抗\(R\)、そして導線とみなせる\(C_1, C_2\)から構成されます。キルヒホッフの法則IIを閉回路に適用すると、
$$ V_0 – RI – V_1 – V_2 = 0 $$
ここに \(V_1=0, V_2=0\) を代入します。
$$ V_0 – RI – 0 – 0 = 0 $$

使用した物理公式

  • コンデンサーの基本式: \(Q=CV\)
  • キルヒホッフの法則II
計算過程

上記の関係式を電流\(I\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
RI &= V_0 \\[2.0ex]I &= \frac{V_0}{R}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

スイッチを入れた瞬間、空っぽのコンデンサーたちは電気を欲しがって、まるで抵抗がないかのように振る舞います。そのため、この瞬間だけはコンデンサーをただの電線と考えて回路を計算できます。回路には電池\(V_0\)と抵抗\(R\)しかないので、オームの法則から電流は \(V_0/R\) となります。

結論と吟味

\(S_1\)を閉じた直後の電流は \(\frac{V_0}{R}\) です。RC回路の充電開始時の特性を問う基本的な問題です。

解答 (1) \(\displaystyle\frac{V_0}{R}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
この設問は難易度が高いです。キルヒホッフの法則IIの式を時間で微分するという考え方を用います。
1. \(\Delta V_1 / \Delta t\) の計算: \(S_1\)を閉じた直後の電流 \(I = V_0/R\) が、コンデンサー\(C_1\)を充電する電流となります。電流と電気量の関係 \(I = \Delta Q / \Delta t\)、およびコンデンサーの基本式 \(Q=CV\) を用いて、電圧の変化率を求めます。
2. \(\Delta V_R / \Delta t\) の計算: キルヒホッフの法則IIの式 \(V_0 – V_R – V_1 – V_2 = 0\) を考えます。\(V_0\)は一定なので、この式の時間変化を考えると、各電圧の変化率の間に成り立つ関係式が得られます。
この設問における重要なポイント

  • 電流は電荷の時間変化率: \(I = \frac{\Delta Q}{\Delta t}\)
  • コンデンサーの電圧変化率: \(\frac{\Delta V}{\Delta t} = \frac{1}{C}\frac{\Delta Q}{\Delta t} = \frac{I}{C}\)
  • キルヒホッフの法則の時間微分: \(\frac{\Delta V_R}{\Delta t} + \frac{\Delta V_1}{\Delta t} + \frac{\Delta V_2}{\Delta t} = 0\)

具体的な解説と立式
\(\Delta V_1 / \Delta t\) の計算:
\(S_1\)を閉じた直後、抵抗を流れる電流 \(I = V_0/R\) がそのままコンデンサー\(C_1\)と\(C_2\)に流れ込みます。\(C_1\)に流れ込む電流を\(I\)とすると、微小時間\(\Delta t\)の間に\(C_1\)に蓄えられる電気量\(\Delta Q_1\)は \(\Delta Q_1 = I \Delta t\)。
また、\(\Delta Q_1 = C \Delta V_1\) の関係があるので、
$$ C \Delta V_1 = I \Delta t $$
この式を \(\Delta V_1 / \Delta t\) について解き、\(I=V_0/R\)を代入します。
$$ \frac{\Delta V_1}{\Delta t} = \frac{I}{C} = \frac{V_0}{RC} $$

\(\Delta V_R / \Delta t\) の計算:
キルヒホッフの法則IIより、\(V_0 – V_R – V_1 – V_2 = 0\)。
この式の時間変化を考えると、\(V_0\)は定数なので変化率は0です。
$$ 0 – \frac{\Delta V_R}{\Delta t} – \frac{\Delta V_1}{\Delta t} – \frac{\Delta V_2}{\Delta t} = 0 $$
直列に接続されたコンデンサー\(C_1, C_2\)には同じ電流が流れるため、同じ時間で蓄えられる電気量も等しくなります。\(C_1, C_2\)の容量は等しいので、電圧の変化率も等しくなります。
$$ \frac{\Delta V_1}{\Delta t} = \frac{\Delta V_2}{\Delta t} $$
したがって、
$$ \frac{\Delta V_R}{\Delta t} = – \left( \frac{\Delta V_1}{\Delta t} + \frac{\Delta V_2}{\Delta t} \right) = -2 \frac{\Delta V_1}{\Delta t} $$
先に求めた \(\frac{\Delta V_1}{\Delta t} = \frac{V_0}{RC}\) を代入します。
$$ \frac{\Delta V_R}{\Delta t} = – \frac{2V_0}{RC} $$

使用した物理公式

  • \(I = \Delta Q / \Delta t\), \(Q=CV\)
  • キルヒホッフの法則II
計算過程

立式の通りです。

計算方法の平易な説明

電圧の変化の速さ(変化率)を考えます。コンデンサーの電圧が上がる速さは、流れ込む電流の大きさに比例します。閉じた直後は最大の電流\(V_0/R\)が流れ込むので、電圧の上昇スピードも最大になります。
一方、抵抗にかかる電圧は、回路全体の電圧のバランスをとる役割があります。コンデンサーの電圧が上昇していく分、抵抗の電圧は減少していかなければなりません(合計値が\(V_0\)で一定のため)。コンデンサーが2つあるので、抵抗の電圧は2倍の速さで減少していきます。

結論と吟味

\(\frac{\Delta V_1}{\Delta t} = \frac{V_0}{RC}\), \(\frac{\Delta V_R}{\Delta t} = – \frac{2V_0}{RC}\) です。スイッチを入れた直後から電流が減少し始める(抵抗の電圧が下がり始める)という過渡現象の性質を数式で表した、妥当な結果です。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{\Delta V_1}{\Delta t} = \frac{V_0}{RC}\), \(\displaystyle\frac{\Delta V_R}{\Delta t} = – \frac{2V_0}{RC}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
スイッチ\(S_1\)を閉じて「十分に時間が経過した」後を考えます。この状態では、コンデンサーの充電が完了し、回路に電流は流れなくなります。したがって、抵抗\(R\)での電圧降下は0になります。電池の起電力\(V_0\)が、直列に接続された2つのコンデンサー\(C_1, C_2\)に分配されます。
この設問における重要なポイント

  • 十分時間が経過した後は、電流が0。
  • 直列コンデンサーの電圧分配:電圧は電気容量の逆比に分配される。この問題では容量が同じなので、電圧は等しく分配される。

具体的な解説と立式
十分時間が経過すると、電流は0になります。キルヒホッフの法則IIより、
$$ V_0 – R \times 0 – V_1 – V_2 = 0 $$
$$ V_0 = V_1 + V_2 $$
ここで、\(V_1, V_2\)はそれぞれ\(C_1, C_2\)の電圧です。
直列接続されたコンデンサーに蓄えられる電気量は等しくなります。\(Q_1 = Q_2\)。
\(Q=CV\)より、\(C V_1 = C V_2\)。したがって、\(V_1 = V_2\)となります。
よって、
$$ V_0 = V_1 + V_1 = 2V_1 $$
$$ V_1 = V_2 = \frac{V_0}{2} $$
コンデンサー\(C_2\)に蓄えられた電気量\(Q_2\)は、
$$ Q_2 = C V_2 $$

使用した物理公式

  • コンデンサーの直列接続の性質
  • コンデンサーの基本式: \(Q=CV\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
Q_2 = C \times \frac{V_0}{2} = \frac{1}{2}CV_0
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

十分に時間が経つと、回路に電流は流れなくなります。電池の電圧\(V_0\)が、2つの同じコンデンサー\(C_1, C_2\)で分け合われる形になります。同じ性能のコンデンサーなので、電圧はきれいに半分ずつ、\(V_0/2\)ずつ分け合います。\(C_2\)の電気量は、この電圧に容量\(C\)を掛ければ求まります。

結論と吟味

\(C_2\)に蓄えられた電気量は \(\frac{1}{2}CV_0\) です。直列コンデンサーの電圧分配の基本問題であり、妥当な結果です。

解答 (3) \(\displaystyle\frac{1}{2}CV_0\)

問(4)

思考の道筋とポイント
\(S_1\)を開いた後、\(S_2\)を閉じた「直後」を考えます。この操作の直前、(3)の状態から\(C_2\)には電圧\(V_0/2\)がかかっています。一方、コイルには電流が流れていなかったので、電流は0です。コイルは電流の変化を妨げる性質があるため、スイッチを閉じた直後も電流は0のままです。
この設問における重要なポイント

  • スイッチ操作直後のコイルは、電流の変化を妨げるため、直前の電流値を維持しようとする(この場合は0)。
  • キルヒホッフの法則IIを適用して、コイルにかかる電圧を求める。

具体的な解説と立式
\(S_2\)を閉じる直前の状態は(3)の結果から、

  • \(C_2\)の電圧: \(V_2 = V_0/2\) (上側が正極)
  • \(C_3\)の電荷: 0 なので電圧 \(V_3=0\)
  • コイルの電流: \(I_L=0\)

\(S_2\)を閉じた直後:
コイルは電流を0に保とうとするため、コイルに流れる電流は 0 です。
この瞬間の回路は、電圧\(V_0/2\)の\(C_2\)、電圧0の\(C_3\)、そしてコイル\(L\)からなります。コイルの左端の電位を基準(0)として、右端の電位を\(V_L\)とします。キルヒホッフの法則IIをこの閉回路に適用します。時計回りにループをたどると、
$$ V_2 + V_L – V_3 = 0 $$
\(t=0\)直後の値を代入すると、
$$ \frac{V_0}{2} + V_L – 0 = 0 $$

使用した物理公式

  • コイルの性質(電流の連続性)
  • キルヒホッフの法則II
計算過程

$$
\begin{aligned}
V_L = -\frac{V_0}{2}
\end{aligned}
$$
問題では電圧の「大きさ」を問われることが多いため、その場合は絶対値をとります。コイルにかかる電圧の大きさは \(\frac{V_0}{2}\) です。

計算方法の平易な説明

スイッチを切り替えた瞬間を考えます。コイルは天邪鬼な性質があり、急に電流を流そうとしても「いやだ」と抵抗します。そのため、スイッチを入れた瞬間は電流が流れません(電流0)。このとき、回路には電圧\(V_0/2\)を持つコンデンサー\(C_2\)とコイルがつながっているので、キルヒホッフの法則から、コイルには\(C_2\)の電圧がそのままかかることになります。

結論と吟味

コイルにかかる電圧の大きさは \(\frac{V_0}{2}\)、流れる電流は 0 です。LC回路の電気振動開始時の状態を正しく捉えた結果です。

解答 (4) 電圧: \(\displaystyle\frac{V_0}{2}\)、電流: 0

問(5)

思考の道筋とポイント
コイルに生じる自己誘導起電力の公式 \(V_L = -L \frac{\Delta I_L}{\Delta t}\) を用います。(4)で求めた、\(S_2\)を閉じた直後のコイルにかかる電圧 \(V_L\) の値を利用して、電流の変化率 \(\Delta I_L / \Delta t\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 自己誘導起電力の公式: \(V_L = -L \frac{\Delta I_L}{\Delta t}\)
  • (4)で求めた電圧の値を代入する。

具体的な解説と立式
(4)で求めたように、\(S_2\)を閉じた直後のコイルにかかる電圧は \(V_L = -V_0/2\) です。
自己誘導起電力の公式は、
$$ V_L = -L \frac{\Delta I_L}{\Delta t} $$
この式を \(\Delta I_L / \Delta t\) について解きます。
$$ \frac{\Delta I_L}{\Delta t} = -\frac{V_L}{L} $$

使用した物理公式

  • 自己誘導起電力の公式
計算過程

$$
\begin{aligned}
\frac{\Delta I_L}{\Delta t} = -\frac{(-V_0/2)}{L} = \frac{V_0}{2L}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

コイルにかかる電圧は、コイルを流れる電流の「変化の速さ」に比例します。その関係式が \(V_L = -L (\Delta I_L / \Delta t)\) です。(4)で電圧は分かっているので、この式を逆算すれば、電流がどれくらいの勢いで変化し始めるのかが計算できます。

結論と吟味

電流の変化率は \(\frac{V_0}{2L}\) です。正の値は、電流が0から正の向き(図の矢印の向き)に増加し始めることを意味しており、\(C_2\)からの放電の様子と一致し、物理的に妥当です。

解答 (5) \(\displaystyle\frac{V_0}{2L}\)

問(6)

思考の道筋とポイント
\(C_3\)に流れ込む電流が最大になるとき、電気振動のエネルギーはすべてコイルの磁気エネルギーになっています。このとき、コンデンサー\(C_2, C_3\)の静電エネルギーの和は最小ですが、0とは限りません。この問題では、電荷保存則とエネルギー保存則の2つを連立させて解く必要があります。
この設問における重要なポイント

  • 電荷保存則: スイッチ\(S_2\)を閉じた後、\(C_2, C_3\)からなる部分は外部から孤立しているため、2つのコンデンサーの電荷の和は一定に保たれる。
  • エネルギー保存則: LC回路なので、静電エネルギーと磁気エネルギーの和は一定。
  • 電流最大時の条件: 電流が最大になるとき、その時間変化率は0 (\(\Delta I_L / \Delta t = 0\))。したがって、コイルの電圧は0になる。

具体的な解説と立式
初期状態 (\(t=0\)):

  • \(C_2\)の電荷: \(Q_{2, \text{初}} = \frac{1}{2}CV_0\)
  • \(C_3\)の電荷: \(Q_{3, \text{初}} = 0\)
  • 孤立系の総電荷: \(Q_{\text{総}} = Q_{2, \text{初}} + Q_{3, \text{初}} = \frac{1}{2}CV_0\)
  • コイルの電流: \(I_L=0\)
  • 総エネルギー: \(U = \frac{Q_{2, \text{初}}^2}{2C} + 0 + 0 = \frac{(CV_0/2)^2}{2C} = \frac{1}{8}CV_0^2\)

電流最大時:
電流が最大値 \(I_{\text{最大}}\) をとるとき、コイルの電圧は0です。キルヒホッフの法則IIより、\(C_2\)と\(C_3\)の電圧は等しくなります。\(V_2 = V_3 = V’\) とおきます。
このときの各コンデンサーの電荷は、

  • \(C_2\)の電荷: \(Q_2′ = CV’\)
  • \(C_3\)の電荷: \(Q_3′ = CV’\)

電荷保存則の適用:
$$ Q_2′ + Q_3′ = Q_{\text{総}} $$
$$ CV’ + CV’ = \frac{1}{2}CV_0 $$
$$ 2CV’ = \frac{1}{2}CV_0 $$
$$ V’ = \frac{V_0}{4} $$
よって、電流最大時の\(C_3\)の電気量は、
$$ Q_3′ = CV’ = \frac{1}{4}CV_0 $$

エネルギー保存則の適用:
$$ U_{\text{初}} = U_{\text{電流最大時}} $$
$$ \frac{1}{8}CV_0^2 = \frac{1}{2}C(V_2′)^2 + \frac{1}{2}C(V_3′)^2 + \frac{1}{2}LI_{\text{最大}}^2 $$
$$ \frac{1}{8}CV_0^2 = \frac{1}{2}C\left(\frac{V_0}{4}\right)^2 + \frac{1}{2}C\left(\frac{V_0}{4}\right)^2 + \frac{1}{2}LI_{\text{最大}}^2 $$

使用した物理公式

  • 電荷保存則
  • エネルギー保存則
計算過程

エネルギー保存の式を \(I_{\text{最大}}\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{8}CV_0^2 &= 2 \times \frac{1}{2}C\frac{V_0^2}{16} + \frac{1}{2}LI_{\text{最大}}^2 \\[2.0ex]\frac{1}{8}CV_0^2 &= \frac{1}{16}CV_0^2 + \frac{1}{2}LI_{\text{最大}}^2 \\[2.0ex]\frac{1}{2}LI_{\text{最大}}^2 &= \left(\frac{1}{8} – \frac{1}{16}\right)CV_0^2 = \frac{1}{16}CV_0^2 \\[2.0ex]LI_{\text{最大}}^2 &= \frac{1}{8}CV_0^2 \\[2.0ex]I_{\text{最大}}^2 &= \frac{C}{8L}V_0^2 \\[2.0ex]I_{\text{最大}} &= V_0 \sqrt{\frac{C}{8L}}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

この問題は少し複雑です。まず「電荷保存」を考えます。スイッチを切り替えた後、2つのコンデンサーは閉じた世界にいるので、電荷の合計量は変わりません。次に「エネルギー保存」を考えます。最初のエネルギーはすべてコンデンサー\(C_2\)が持っています。電流が最大になるとき、そのエネルギーの一部がコイルに移り、残りが2つのコンデンサーに分けられます。このとき、コイルの電圧は0なので、2つのコンデンサーの電圧は等しくなります。この2つの保存則を連立方程式のように解くことで、電流の最大値と、そのときの\(C_3\)の電気量が求まります。

結論と吟味

電流の最大値は \(V_0 \sqrt{\frac{C}{8L}}\)、そのときのコンデンサー\(C_3\)の電気量は \(\frac{1}{4}CV_0\) です。2つの保存則を正しく適用して得られた結果であり、妥当です。

解答 (6) 電流の最大値: \(V_0 \sqrt{\displaystyle\frac{C}{8L}}\)、\(C_3\)の電気量: \(\displaystyle\frac{1}{4}CV_0\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 過渡現象の基本:
    • 核心: スイッチを操作した「直後」と「十分な時間が経過した後」で、コンデンサーやコイルの振る舞いが劇的に変わる点です。
      • コンデンサー: 直後は電荷ゼロで「導線」扱い、十分時間後は充電完了で「断線」扱い。
      • コイル: 直後は電流ゼロを維持しようとして「断線」扱い、十分時間後は定常電流で「導線」扱い。
    • 理解のポイント: (1)や(4)は、この基本原則を適用できるかが問われています。
  • キルヒホッフの法則(電圧則):
    • 核心: 任意の閉回路において、電位の変化の代数和はゼロであるという法則です。複雑な回路を解析する際の最も基本的なツールです。
    • 理解のポイント: (2)のように、この法則の式を時間で微分することで、電圧や電流の「変化率」に関する関係式を導くという応用的な使い方もあります。
  • 保存則の適用:
    • 核心: 回路の特定の部分が外部から電気的に孤立している場合、その部分の総電荷は保存されます(電荷保存則)。また、抵抗がない閉回路では、静電エネルギーと磁気エネルギーの和は保存されます(エネルギー保存則)。
    • 理解のポイント: (6)のような複雑な状態変化を伴う問題では、運動方程式を解く代わりに、これらの保存則を連立させることで解が得られる場合があります。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • RLC直列回路の過渡現象: 抵抗、コイル、コンデンサーがすべて直列になった回路でのスイッチ操作。振動しながら減衰する「減衰振動」という現象が起こります。
    • コンデンサーの並列接続: 充電されたコンデンサーを、別のコンデンサーに接続する問題。電荷保存則と、最終的に両者の電圧が等しくなるという条件から、電荷の再配分を計算します。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 回路の状態変化を追う: スイッチ操作の「前」「直後」「途中」「十分時間後」といった時間経過に沿って、回路の状態がどう変化するかを段階的に考えます。
    2. 等価回路を描く: 「直後」や「十分時間後」の極端な状態では、コンデンサーやコイルを導線や断線に置き換えた「等価回路」を描くと、問題が単純化され、見通しが良くなります。
    3. 保存則が使えないか検討する: 回路が複雑で運動方程式やキルヒホッフの法則だけでは解きにくい場合、電荷保存則やエネルギー保存則が成り立っている部分がないかを探します。特に、孤立部分や抵抗のない閉回路は要チェックです。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 「直後」のコイルとコンデンサーの扱い:
    • 誤解: コイルとコンデンサーの「直後」の振る舞いを混同する。
    • 対策: コンデンサーは「電圧が連続(急に変われない)」、コイルは「電流が連続(急に変われない)」と覚えましょう。したがって、直前の状態が分かっていれば、直後の電圧(C)や電流(L)が分かります。初期状態で電荷や電流が0なら、Cの電圧は0、Lの電流は0のままです。
  • キルヒホッフの法則の符号:
    • 誤解: ループを一周する際の、電位の上昇と下降の符号を間違える。
    • 対策: ①ループを回る向き(時計回りなど)を決め、②各素子を通過するときの電位の変化を一つずつ丁寧に考えます。電池は負極→正極で上昇、抵抗は電流の向きと同じなら下降、コンデンサーは正極→負極で下降、とルールを徹底します。コイルの起電力の向きはレンツの法則で判断します。
  • 電荷保存則の適用範囲:
    • 誤解: 回路全体で電荷が保存されると勘違いする。
    • 対策: 電荷保存則が成り立つのは、外部との間で電荷のやり取りがない「孤立した部分」だけです。(6)では、\(S_2\)を閉じた後の\(C_2\)と\(C_3\)の接続部分がこれにあたります。電池やアースに繋がっている部分は孤立系ではありません。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 時系列での回路図: 「\(t=0\)直前」「\(t=0\)直後」「\(t=\infty\)」「\(S_2\)閉じた直後」「電流最大時」など、各時点での回路図と、そこに分かっている電圧、電流、電荷の値を書き込んだ図を並べて描くと、現象の推移が非常によく分かります。
    • エネルギーの棒グラフ: 電気振動の各瞬間(\(t=0, T/4, T/2, …\))において、静電エネルギー(\(U_C\))と磁気エネルギー(\(U_L\))の大きさを棒グラフで表現すると、エネルギーが両者間を移り変わっていく様子が視覚的に理解できます。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 電荷の符号: コンデンサーのどちらの極板が正でどちらが負かを、図に「+」「-」で明記する習慣をつけましょう。これにより、キルヒホッフの法則を適用する際の電位の向きや、放電電流の向きの判断ミスを防げます。
    • 電流の向き: 回路図に電流の正の向きを矢印で定義しておくことが重要です。計算結果が負になった場合、それは定義した向きとは逆向きに電流が流れていることを意味します。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • キルヒホッフの法則の時間微分 (問2):
    • 選定理由: 電圧や電流の「値」ではなく「変化率」の関係を求めるため。
    • 適用根拠: キルヒホッフの法則はどの瞬間でも成り立っています。したがって、その等式を時間で微分しても、関係は維持されます。\(V_0\)のような定数項は微分すると0になるため、変化する量だけの関係式を抽出できます。
  • 電荷保存則 (問6):
    • 選定理由: 電流最大時の状態を特定するため。エネルギー保存則だけでは未知数が2つ(\(I_{\text{最大}}\)と\(V’\))残ってしまうため、もう一つ別の法則が必要になります。
    • 適用根拠: \(C_2\)と\(C_3\)で構成される部分は、\(S_2\)を閉じた後は外部から切り離された孤立系となるため、この部分の総電荷は変化しません。
  • エネルギー保存則 (問6):
    • 選定理由: 電流最大時の\(I_{\text{最大}}\)を計算するため。
    • 適用根拠: \(C_2, C_3, L\)からなる閉回路には抵抗が含まれていないため、電気的エネルギーの総和は保存されます。初期状態のエネルギーと電流最大時のエネルギーを等しいとおくことで、関係式を立てることができます。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1)-(3) RC回路の充電:
    • 戦略: 「直後」と「十分時間後」の等価回路を考え、キルヒホッフの法則を適用する。
    • フロー: ①(1)直後→Cは導線。\(I=V_0/R\)。②(2)直後→\(I=V_0/R\)がCを充電するので\(\Delta V_1/\Delta t = I/C\)。キルヒホッフ則の微分から\(\Delta V_R/\Delta t\)を求める。③(3)十分時間後→回路電流は0。\(V_0\)が2つのCに等しく分配されるので\(V_2=V_0/2\)。\(Q_2=CV_2\)を計算。
  2. (4)-(6) LC回路の振動:
    • 戦略: 「直後」の状態を把握し、保存則を駆使して電流最大時の状態を解析する。
    • フロー: ①(4)直後→Lの電流は0を維持。キルヒホッフ則から\(V_L\)を求める。②(5)\(V_L=-L(\Delta I_L/\Delta t)\)から\(\Delta I_L/\Delta t\)を計算。③(6)初期状態と電流最大時の2つの状態で、電荷保存則とエネルギー保存則の2本を立式。④連立方程式を解き、\(I_{\text{最大}}\)と\(Q_3\)を求める。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

    • 初期条件の整理: (4)以降を解く前に、(3)で確定した「\(S_2\)を閉じる直前」の状態(各コンデンサーの電荷・電圧、コイルの電流)を明確に書き出しておくことが、ミスを防ぐ上で非常に重要です。
    • 保存則の立式: (6)では、エネルギー保存と電荷保存の2つの式を立てます。それぞれの式で、どの瞬間のどの物理量を足し合わせているのかを明確に意識しましょう。特に電荷保存では、極板の正負を考慮して和をとる必要があります。

連立方程式の処理: (6)のように未知数が複数ある場合は、どの式からどの変数を求め、次にどう代入していくか、計算の見通しを立ててから取り掛かるとスムーズです。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (2) 変化率の符号: \(\Delta V_R/\Delta t\)が負になったのは、スイッチオン直後から電流が減少し始める(抵抗での電圧降下が減り始める)ことを意味します。これはRC回路の充電電流が指数関数的に減少するグラフの形と一致しており、妥当です。
    • (6) 電流最大時の電荷: 電流が最大のときでも、コンデンサー\(C_3\)に電荷が残っている(\(Q_3 \neq 0\))という結果になりました。これは、振動の中心が電荷0の状態からずれていることを示唆します。初期状態で電荷が\(C_2\)に偏っていたため、振動中も電荷の総和を保つために、このような振る舞いになるのは物理的に理にかなっています。

問題147 (神戸大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、質量分析装置の原理を扱っています。イオンを電場で加速し、磁場で円運動させることで、その軌道半径や必要な磁場の大きさからイオンの質量を特定する仕組みを理解することが目的です。エネルギー保存則と円運動の運動方程式という、力学の基本法則を電磁気学の状況に応用する問題です。

与えられた条件
  • 陽イオン:電荷 \(q(>0)\)、質量 \(M\)
  • 加速:イオン源Sで発生後、電位差 \(V\) で加速される。
  • 運動:磁束密度 \(B\) の一様な磁場中で円軌道を描き、検出器Dで検出される。
  • 装置の形状:イオンの入射点Sと検出点Dが固定されており、円軌道の直径がSとDの間の距離に等しい。つまり、円軌道の半径 \(r\) は装置によって決まる一定値である。
  • その他:重力は無視。
問われていること
  • (1) 磁場の向き。
  • (2) 磁場入射直前のイオンの速さ \(v\)。
  • (3) 円軌道の半径 \(r\)。
  • (4) 検出されるイオンの質量が \(M’\) になったときの、磁束密度 \(B’\) との間の関係式から、比 \(M’/M\) を求める。
  • (5) 磁束密度を変化させられる装置での、測定可能な質量数の範囲と、特定の磁束密度における質量数の差。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「質量分析装置の原理」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 仕事と運動エネルギーの関係: イオンが電位差 \(V\) で加速される際に、電場からされる仕事がイオンの運動エネルギーに変換される。
  2. ローレンツ力と円運動: 磁場中で運動する荷電粒子が受けるローレンツ力を向心力として、等速円運動を行う。
  3. フレミングの左手の法則: 電流(陽イオンの運動)が磁場から受ける力の向きを決定する。
  4. 物理量の関係整理: 複数の物理法則から導かれる式を連立させ、未知の物理量を消去して目的の関係式を導出する。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、イオンが円軌道を描くために必要な向心力の向きを考え、フレミングの左手の法則を適用して磁場の向きを決定します。
  2. (2)では、イオンが加速される過程でのエネルギー保存則(仕事と運動エネルギーの関係)から速さを求めます。
  3. (3)では、磁場中での円運動の運動方程式を立て、半径を求めます。
  4. (4)では、(2)と(3)の結果を組み合わせ、半径 \(r\) が一定であるという条件を用いて、質量と磁束密度の関係を導きます。
  5. (5)では、(4)で導いた関係式を使い、与えられた数値から質量数の範囲などを計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
陽イオンはSから出て下向きに磁場領域に入射し、円軌道を描いてDに向かいます。この円運動の中心は、軌道の左側にあります。円運動をするためには、常に円の中心方向、すなわち図の左向きに力が働く必要があります。この力の正体はローレンツ力です。陽イオンの運動方向(電流の向きとみなせる)と、力の向き(左向き)から、フレミングの左手の法則を用いて磁場の向きを決定します。
この設問における重要なポイント

  • 円運動には中心向きの力(向心力)が必要。
  • 陽イオンが受ける向心力はローレンツ力。
  • フレミングの左手の法則の適用。

具体的な解説と立式

  1. 陽イオンはSから下向きに運動して磁場に入射します。これは下向きの電流とみなせます。
  2. 円軌道を描くためには、常に軌道の中心(図の左側)に向かって力が働く必要があります。
  3. フレミングの左手の法則において、電流の向きを中指(下向き)、力の向きを親指(左向き)に合わせると、磁場の向きを示す人差し指は、紙面の裏から表に向かう向きになります。

使用した物理公式

  • フレミングの左手の法則
計算過程

向きの判断なので、計算はありません。

計算方法の平易な説明

イオンがカーブするためには、カーブの内側に向かって力を受け続ける必要があります。この力はローレンツ力です。フレミングの左手の法則は「電・磁・力」の向きの関係を示します。イオンの進行方向が「電」、力の向きがカーブの内側なので、残りの「磁」の向きが決まります。

結論と吟味

磁場の向きは、紙面に垂直で裏から表に向かう向きです。

解答 (1) 紙面に垂直で裏から表に向かう向き

問(2)

思考の道筋とポイント
イオンは、イオン源Sを出た直後は静止していると考え、電位差 \(V\) によって加速されます。この過程で、静電気力がする仕事がすべてイオンの運動エネルギーに変わると考えます。仕事と運動エネルギーの関係式(またはエネルギー保存則)を立てて、速さ \(v\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 静電気力がする仕事: \(W = qV\)
  • 運動エネルギー: \(K = \frac{1}{2}mv^2\)
  • 仕事と運動エネルギーの関係: \(W = \Delta K\)

具体的な解説と立式
電荷 \(q\) のイオンが電位差 \(V\) で加速されるとき、静電気力からされる仕事 \(W\) は、
$$ W = qV $$
この仕事によって、イオンの運動エネルギーは0から \(\frac{1}{2}Mv^2\) に増加します。仕事と運動エネルギーの変化の関係より、
$$ \frac{1}{2}Mv^2 – 0 = qV $$

使用した物理公式

  • 仕事と運動エネルギーの関係
計算過程

上記の関係式を \(v\) について解きます。\(v>0\) なので、
$$
\begin{aligned}
v^2 &= \frac{2qV}{M} \\[2.0ex]v &= \sqrt{\frac{2qV}{M}}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

イオンは電場によって坂道を転がり落ちるように加速されます。このとき、位置エネルギー(\(qV\))が運動エネルギー(\(\frac{1}{2}Mv^2\))に変換されると考えることができます。このエネルギー保存の式を立てて、速さ \(v\) を求めます。

結論と吟味

速さ \(v\) は \(\sqrt{\frac{2qV}{M}}\) です。加速電圧 \(V\) が大きいほど、また質量 \(M\) が小さいほど速くなるという、物理的に妥当な結果です。

解答 (2) \(\sqrt{\displaystyle\frac{2qV}{M}}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
磁場中に入射したイオンは、ローレンツ力を向心力として等速円運動をします。円運動の運動方程式を立て、軌道半径 \(r\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • ローレンツ力の大きさ: \(F = qvB\)
  • 向心力の大きさ: \(F_c = M\frac{v^2}{r}\)
  • 円運動の運動方程式: \(M\frac{v^2}{r} = qvB\)

具体的な解説と立式
イオンが受けるローレンツ力の大きさ \(F_L\) は、
$$ F_L = qvB $$
この力が向心力として働き、半径 \(r\) の円運動をさせるので、運動方程式は以下のようになります。
$$ M\frac{v^2}{r} = qvB $$

使用した物理公式

  • ローレンツ力: \(F=qvB\)
  • 円運動の運動方程式
計算過程

上記の関係式を \(r\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
M\frac{v}{r} &= qB \\[2.0ex]r &= \frac{Mv}{qB}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

イオンが磁場の中で安定して円を描き続けるためには、常に円の中心に向かって引っ張る力(向心力)が必要です。この役割をローレンツ力が担っています。「向心力として必要な力 = ローレンツ力」という等式を立て、これを半径 \(r\) について解きます。

結論と吟味

円軌道の半径は \(r = \frac{Mv}{qB}\) です。質量 \(M\) や速さ \(v\) が大きいほど曲がりにくく(半径が大きく)、磁場 \(B\) や電荷 \(q\) が大きいほど曲がりやすい(半径が小さく)という、直感と一致する結果です。

解答 (3) \(\displaystyle\frac{Mv}{qB}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
この質量分析装置では、イオンの入射点Sと検出点Dが固定されているため、円運動の半径 \(r\) は常に一定です。質量 \(M\)、磁束密度 \(B\) の場合と、質量 \(M’\)、磁束密度 \(B’\) の場合で、それぞれ半径 \(r\) を表す式を立てます。このとき、(2)で求めた速さ \(v\) の式を代入し、\(v\) を含まない形で \(r\) を表現します。半径が等しいという条件から、2つの式を等しいとおき、\(M’/M\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 装置の構造から、軌道半径 \(r\) は一定である。
  • (2)と(3)で求めた関係式を連立させ、\(v\) を消去する。

具体的な解説と立式
(3)で求めた半径の式 \(r = \frac{Mv}{qB}\) に、(2)で求めた速さの式 \(v = \sqrt{\frac{2qV}{M}}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
r &= \frac{M}{qB} \sqrt{\frac{2qV}{M}} \\[2.0ex]&= \frac{1}{B} \sqrt{\frac{M^2}{q^2} \frac{2qV}{M}} \\[2.0ex]&= \frac{1}{B} \sqrt{\frac{2MV}{q}} \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
この式は、質量 \(M\)、磁束密度 \(B\) のイオンが描く円軌道の半径を表します。
同様に、質量 \(M’\)、磁束密度 \(B’\) のイオンが同じ半径 \(r\) の軌道を描くためには、次の関係が成り立ちます。
$$ r = \frac{1}{B’} \sqrt{\frac{2M’V}{q}} \quad \cdots ② $$
半径 \(r\) は一定なので、①式と②式は等しくなります。
$$ \frac{1}{B} \sqrt{\frac{2MV}{q}} = \frac{1}{B’} \sqrt{\frac{2M’V}{q}} $$

使用した物理公式

  • (2), (3)で導出した関係式
計算過程

上記の関係式の両辺を2乗し、共通項を消去して \(M’/M\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{B^2} \frac{2MV}{q} &= \frac{1}{(B’)^2} \frac{2M’V}{q} \\[2.0ex]\frac{M}{B^2} &= \frac{M’}{(B’)^2} \\[2.0ex]\frac{M’}{M} &= \frac{(B’)^2}{B^2} = \left(\frac{B’}{B}\right)^2
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

この装置は、特定の半径のカーブを曲がりきれたイオンだけを検出する仕組みです。イオンの曲がりやすさは、その質量と、磁場の強さで決まります。重いイオンは曲がりにくいですが、磁場を強くすれば同じカーブを曲がれるようになります。この関係を数式で整理すると、質量が磁場の強さの2乗に比例するというシンプルな関係が出てきます。

結論と吟味

求める比は \(\frac{M’}{M} = \left(\frac{B’}{B}\right)^2\) です。この式から、検出されるイオンの質量は、磁束密度の2乗に比例することがわかります。これがこの質量分析装置の測定原理です。

解答 (4) \(\left(\displaystyle\frac{B’}{B}\right)^2\)

問(5)

思考の道筋とポイント
(4)で導いた関係式 \(\frac{M’}{M} = (\frac{B’}{B})^2\) を利用します。質量 \(M\) と質量数 \(A\) は比例すると考えられるので、\(\frac{M’}{M} = \frac{A’}{A}\) と置き換えることができます。
1. 下限と上限の計算: 基準となる状態(\(B=1.00 \times 10^{-1}\) T のときに質量数 \(A=50\))と、磁束密度の下限値・上限値を用いて、測定可能な質量数の下限と上限を計算します。
2. 質量数の差の計算: 2つの異なる磁束密度の値 \(B’\) と \(B”\) に対応する質量数 \(A’\) と \(A”\) をそれぞれ計算し、その差を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 質量と質量数は比例する: \(M \propto A\)。
  • (4)の関係式を質量数で書き換える: \(\frac{A’}{A} = (\frac{B’}{B})^2\)。

具体的な解説と立式
(4)の結果より、\(M \propto B^2\) です。質量数 \(A\) は質量 \(M\) に比例するので、\(A \propto B^2\) となります。
基準の状態を \(A_0=50\), \(B_0=1.00 \times 10^{-1}\) T とします。
ある磁束密度 \(B\) のときに検出される質量数 \(A\) は、
$$ \frac{A}{A_0} = \left(\frac{B}{B_0}\right)^2 \quad \text{より} \quad A = A_0 \left(\frac{B}{B_0}\right)^2 $$

下限と上限:
磁束密度の範囲は \(1.00 \times 10^{-1} \text{ T} \le B \le 2.00 \times 10^{-1} \text{ T}\) です。

  • 下限(\(B = 1.00 \times 10^{-1}\) T のとき):
    $$
    \begin{aligned}
    A_{\text{下限}} &= 50 \left(\frac{1.00 \times 10^{-1}}{1.00 \times 10^{-1}}\right)^2 \\[2.0ex]&= 50
    \end{aligned}
    $$
  • 上限(\(B = 2.00 \times 10^{-1}\) T のとき):
    $$
    \begin{aligned}
    A_{\text{上限}} &= 50 \left(\frac{2.00 \times 10^{-1}}{1.00 \times 10^{-1}}\right)^2 \\[2.0ex]&= 50 \times 2^2 \\[2.0ex]&= 200
    \end{aligned}
    $$

質量数の差:

  • \(B’ = 2.00 \times 10^{-1}\) T のときの質量数 \(A’\) は、上限と同じで \(A’=200\)。
  • \(B” = 1.99 \times 10^{-1}\) T のときの質量数 \(A”\) は、
    $$
    \begin{aligned}
    A” &= 50 \left(\frac{1.99 \times 10^{-1}}{1.00 \times 10^{-1}}\right)^2 \\[2.0ex]&= 50 \times (1.99)^2
    \end{aligned}
    $$

求める差は \(A’ – A”\) です。

使用した物理公式

  • (4)で導出した関係式
計算過程

質量数の差の計算:
$$
\begin{aligned}
A’ – A” &= 200 – 50 \times (1.99)^2 \\[2.0ex]&= 50 \times 4 – 50 \times (1.99)^2 \\[2.0ex]&= 50 \times (2^2 – 1.99^2) \\[2.0ex]&= 50 \times (2 – 1.99)(2 + 1.99) \\[2.0ex]&= 50 \times (0.01) \times (3.99) \\[2.0ex]&= 0.5 \times 3.99 \\[2.0ex]&= 1.995
\end{aligned}
$$
問題の有効数字を考慮すると、答えは約2となります。

計算方法の平易な説明

(4)で質量は磁場の強さの2乗に比例することがわかったので、あとは具体的な数値を代入して計算するだけです。基準となる磁場と質量数が分かっているので、比例計算で他の場合の質量数を求めることができます。質量数の差を計算するときは、\(a^2-b^2=(a-b)(a+b)\) の因数分解公式を使うと計算が楽になります。

結論と吟味

測定可能な質量数の下限は50、上限は200です。
磁束密度 \(2.00 \times 10^{-1}\) T と \(1.99 \times 10^{-1}\) T で検出される陽イオンの質量数の差は、約2です。計算はすべて(4)の結論に基づいており、論理的に一貫しています。

解答 (5) 下限: 50, 上限: 200, 差: 2

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 仕事と運動エネルギーの関係(エネルギー保存則):
    • 核心: イオンが電位差 \(V\) の電場で加速される過程で、静電気力がする仕事 \(qV\) がすべて運動エネルギー \(\frac{1}{2}Mv^2\) に変換される、というエネルギー保存の関係です。これが、イオンの速さを決定する第一の原理となります。
    • 理解のポイント: (2)の立式 \(\frac{1}{2}Mv^2 = qV\) は、この法則を直接表現したものです。電磁気学の問題でありながら、根底にあるのは力学のエネルギー保存則です。
  • ローレンツ力と円運動の運動方程式:
    • 核心: 磁場中に入ったイオンが、磁場から受けるローレンツ力 \(qvB\) を向心力として等速円運動をする、という現象です。運動方程式 \(M\frac{v^2}{r} = qvB\) が、イオンの軌道を決定する第二の原理となります。
    • 理解のポイント: (3)はこの運動方程式を立てる問題です。ローレンツ力は常に速度と垂直なため仕事をせず、イオンの速さを変えない(=等速円運動)という点も重要です。
  • 装置の構造による束縛条件:
    • 核心: この質量分析装置は、イオンの入射点Sと検出点Dが固定されているため、イオンが描く半円の半径 \(r\) が、装置の構造によって決まる一定値である、という点です。
    • 理解のポイント: (4)では、この「\(r\)が一定」という条件が、異なる質量のイオンを分析するための鍵となります。この条件があるからこそ、質量 \(M\) と磁束密度 \(B\) の関係式を導くことができます。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 速度選択器(ベインチューブ): 電場と磁場を垂直にかけ、ローレンツ力と静電気力がつりあう(\(qvB = qE\))特定の速さ \(v=E/B\) の粒子だけを直進させる装置。質量分析装置の前段として用いられることが多いです。
    • サイクロトロン: 磁場中で粒子を円運動させながら、電場で繰り返し加速させる装置。円運動の周期が速さや半径によらない(\(T = 2\pi M / qB\))ことを利用します。
    • ホール効果: 導体中の荷電粒子がローレンツ力を受けることで電位差が生じる現象。これもローレンツ力と電場(ホール電場)のつり合いを考えます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 運動のフェーズを分割する: イオンの運動を「加速フェーズ(電場中)」と「円運動フェーズ(磁場中)」の2段階に分けて考えます。それぞれのフェーズで働く力と適用すべき物理法則が異なります。
    2. 保存則をまず考える: 力学の問題と同様に、まずエネルギー保存則や運動量保存則が使えないかを検討します。この問題では、加速フェーズでエネルギー保存則が有効です。
    3. 力のつり合い・運動方程式を考える: 次に、粒子に働く力をすべて図示し、運動方程式(または力のつり合いの式)を立てます。円運動フェーズでは、ローレンツ力が向心力となる運動方程式が中心となります。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 速さの式の代入ミス:
    • 誤解: (4)で \(r\) の式を導出する際に、\(v\) の式を代入し忘れたり、計算を間違えたりする。
    • 対策: 複数の公式を組み合わせる問題では、まず各段階で必要な式(この問題では\(v\)と\(r\)の式)を個別に正確に導出します。その後、どの変数を消去してどの変数で表すのか、問題の要求を再確認してから代入・計算を行うと、混乱を防げます。
  • 半径 \(r\) が一定であることの見落とし:
    • 誤解: (4)で、質量 \(M\) が \(M’\) に変わると、半径 \(r\) も変わってしまうと考えてしまう。
    • 対策: 問題文や図をよく読み、「検出器Dで検出される」という言葉の意味を考えます。検出器の位置が固定されている以上、そこを通過するためには、イオンは必ず同じ形の軌道(=同じ半径)を通らなければならない、という装置の構造的な制約を読み取ることが重要です。
  • 質量と質量数の混同:
    • 誤解: 質量 \(M\) と質量数 \(A\) を同一視してしまい、単位などを考慮せずに計算する。
    • 対策: 質量 \(M\) の単位は[kg]、質量数 \(A\) は陽子と中性子の個数を表す無次元の数です。ただし、物理的には \(M \propto A\) という比例関係が成り立つため、(4)で導いた質量の「比」の関係式 \(\frac{M’}{M}\) は、そのまま質量数の「比」\(\frac{A’}{A}\) に置き換えることができます。この「比の関係だから置き換えられる」という点を理解しておきましょう。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 力のベクトル図: 磁場中で円運動するイオンに、常に中心を向くローレンツ力のベクトルを書き込むと、なぜ円運動をするのかが視覚的に理解できます。(1)のフレミングの左手の法則の適用も、図に指の向きを書き込むと分かりやすいです。
    • エネルギーの変換図: 加速フェーズにおいて、「位置エネルギー \(qV\) → 運動エネルギー \(\frac{1}{2}Mv^2\)」というエネルギー変換のフロー図を描くと、(2)の立式が自然にできます。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 磁場の向きの表記: (1)で問われたように、紙面に垂直な向きは ⦿(手前向き)と ⊗(奥向き)の記号を使って明確に図示する習慣をつけましょう。
    • 変数の明記: 異なる状態を比較する際((4)や(5))、図や式の近くに、状態1(\(M, B, v\))と状態2(\(M’, B’, v’\))のように、どの変数がどの状態に対応するのかをメモしておくと、混乱を防げます。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(\frac{1}{2}Mv^2 = qV\) (エネルギー保存):
    • 選定理由: (2)で、電場による加速後の速さを求めるため。これは、電場がした仕事と運動エネルギーの変化を結びつける最も直接的な方法です。
    • 適用根拠: 保存力である静電気力のみが仕事をするため、力学的エネルギー(位置エネルギー+運動エネルギー)が保存されるという法則に基づきます。
  • \(M\frac{v^2}{r} = qvB\) (円運動の運動方程式):
    • 選定理由: (3)で、磁場中での円運動の軌道半径を求めるため。
    • 適用根拠: ニュートンの第二法則 \(ma=F\) を、円運動(\(a=v^2/r\))とローレンツ力(\(F=qvB\))の状況に適用したものです。
  • \(\frac{M’}{M} = (\frac{B’}{B})^2\) (測定原理の式):
    • 選定理由: (4)で、装置の測定原理を数式で表現するため。また、(5)の具体的な計算の基礎となります。
    • 適用根拠: 上記の2つの基本法則と、「半径\(r\)が一定」という装置の構造的制約条件を組み合わせて導出された関係式です。これは公式として覚えるのではなく、その場で導出するものです。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 磁場の向き:
    • 戦略: 力の向きからフレミングの左手の法則を適用。
    • フロー: ①円運動の中心方向(左向き)が力の向き。②イオンの運動方向(下向き)が電流の向き。③法則から磁場の向き(裏→表)を決定。
  2. (2) イオンの速さ:
    • 戦略: エネルギー保存則を適用。
    • フロー: ①仕事と運動エネルギーの関係 \(\frac{1}{2}Mv^2 = qV\) を立式。②\(v\)について解く。
  3. (3) 軌道半径:
    • 戦略: 円運動の運動方程式を適用。
    • フロー: ①運動方程式 \(M\frac{v^2}{r} = qvB\) を立式。②\(r\)について解く。
  4. (4) 質量の比:
    • 戦略: (2)と(3)の結果を組み合わせ、\(r\)が一定の条件を用いる。
    • フロー: ①(3)の式に(2)の式を代入し、\(v\)を消去して\(r\)を\(M, B, V, q\)で表す。②質量\(M’\), 磁束密度\(B’\)の場合も同様の式を立てる。③2つの式を等しいとおき、\(M’/M\)を求める。
  5. (5) 具体的な計算:
    • 戦略: (4)で導いた比例関係 \(A \propto B^2\) を用いて計算する。
    • フロー: ①基準値から比例定数を確定させ、上限・下限を計算。②2つの磁場値に対する質量数をそれぞれ計算し、差を求める。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 平方根の扱い: (4)の導出過程で、\(\sqrt{M}\) や \(\sqrt{q}\) といった平方根が出てきます。両辺を2乗して根号を外してから整理すると、計算ミスが減ります。
  • 比例計算: (5)では、\(A = k B^2\) のような比例関係を用いて計算します。基準となる値(\(A_0=50, B_0=1.00 \times 10^{-1}\))を使って比例定数 \(k = A_0/B_0^2\) を求めてから計算すると、間違いが少ないです。
  • 因数分解の活用: (5)の差の計算で、\(A’ – A” \propto (B’)^2 – (B”)^2\) という形が出てきます。ここで \( (B’)^2 – (B”)^2 = (B’ – B”)(B’ + B”) \) という因数分解公式を利用すると、2乗の計算を避けることができ、計算が大幅に簡略化されます。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (4) \(M \propto B^2\): この関係は、「イオンが重い(曲がりにくい)ほど、同じカーブを曲がらせるためには、より強い磁場(より強い力)が必要になる」ことを示しています。しかも、その関係が単純な比例ではなく2乗である、という定量的な結果が得られています。これは物理的に理にかなっています。
    • (5) 測定範囲: 磁場を強くするほど、より重いイオンを検出できるようになる(上限が上がる)という結果は、(4)の比例関係と一致しており、妥当です。
  • 次元解析:
    • 導出した式の次元(単位)が、求めている物理量の次元と一致しているかを確認するのも良い検算方法です。例えば、(3)で求めた半径 \(r = Mv/qB\) の次元が長さの次元[L]になっているかを確認してみましょう。
    • \([r] = \frac{[M][L/T]}{[C][T/C \cdot L^2/M]} = \frac{[M][L/T]}{[M/T]} = [L]\) ([B]の単位テスラTは \(N/(A \cdot m)\) などから次元解析)となり、一致が確認できます。

問題148 (京都産業大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、J.J.トムソンが行った電子の比電荷(\(e/m\))の測定実験を題材にしています。前半では、電場のみによって電子が放物線運動をする様子を解析し、後半では、電場と磁場を同時にかけることで電子を直進させ、その条件から電子の速さを求めるという、2段階の構成になっています。力学における放物運動の知識と、電磁気学における基本的な力の法則を組み合わせる問題です。

与えられた条件
  • 粒子(電子):質量 \(m\)、電気量 \(-e\) (\(e>0\))
  • 初期運動:速さ \(v\) でx軸方向に進行。
  • 電場領域:長さ \(l\) の平行な電極間に、間隔 \(d\)、電圧 \(V\) でy軸負の向きに一様な電場 \(E\) を生成。
  • 観測:電極の中心から距離 \(L\) の位置に蛍光面を設置し、粒子の到達点Pを観測する。
  • 追加条件(後半):電場と磁場を同時にかけ、粒子を直進させる。磁場の磁束密度は \(B\)。
問われていること
  • ア:y軸方向の加速度 \(a\)。
  • イ:電極間でのy方向の変位 \(y_1\)。
  • ウ:電極を通過した直後のy方向の速度成分 \(v_y\)。
  • エ:電極通過後、蛍光面に達するまでのy方向の変位 \(y_2\)。
  • オ:比電荷 \(e/m\) を測定量で表す式。
  • カ:磁場から受けるローレンツ力の大きさ。
  • キ:電場と磁場をかけたときに粒子が直進する条件から求まる速さ \(v\)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「荷電粒子の電場・磁場中での運動と比電荷の測定」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 運動の分解: 粒子の運動を、力が働くy軸方向(等加速度運動)と、力が働かないx軸方向(等速直線運動)に分けて考える。
  2. 運動方程式: 粒子が受ける力(静電気力、ローレンツ力)を特定し、運動方程式 \(ma=F\) を立てる。
  3. 等加速度直線運動の公式: \(v = v_0 + at\), \(x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\) などの公式を正しく適用する。
  4. 力のつり合い: 複数の力が働く状況で、粒子が直進する(=合力が0)という条件から、力のつり合いの式を立てる。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、電場のみの状況で、粒子の運動をx方向とy方向に分解して解析します。y方向の加速度を求め(ア)、電極間を通過する時間を使ってy方向の変位(イ)と速度(ウ)を計算します。
  2. 次に、電極を抜けた後の等速直線運動を考え、蛍光面に到達するまでの時間からy方向の変位(エ)を計算します。
  3. 全体の変位 \(y = y_1 + y_2\) の式を整理し、比電荷 \(e/m\) について解きます(オ)。
  4. 最後に、電場と磁場をかけた場合に粒子が直進する条件(静電気力とローレンツ力のつり合い)から、速さ \(v\) を求め(カ、キ)、これを(オ)の式に代入することで、比電荷が測定可能な量だけで表せることを示します。

問ア

思考の道筋とポイント
粒子は電極間で、y軸負の向きの一様な電場 \(E\) から力を受けます。電場の大きさを電圧 \(V\) と間隔 \(d\) で表し、粒子が受ける静電気力の大きさを計算します。そして、y軸方向の運動方程式 \(ma_y = F_y\) を立てて、加速度 \(a\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 一様な電場の公式: \(E = V/d\)。
  • 静電気力の公式: \(F = qE\)。粒子の電荷は \(-e\) なので、力の向きは電場と逆向き(y軸正の向き)になる。
  • 運動方程式: \(ma=F\)。

具体的な解説と立式
電極間の電場の大きさ \(E\) は、
$$ E = \frac{V}{d} $$
電気量 \(-e\) の粒子がこの電場から受ける静電気力 \(F_y\) は、y軸正の向きに大きさ
$$ F_y = eE = e\frac{V}{d} $$
y軸方向の運動方程式は \(ma = F_y\) なので、
$$ ma = e\frac{V}{d} $$

使用した物理公式

  • 一様な電場の式: \(E=V/d\)
  • 静電気力: \(F=qE\)
  • 運動方程式: \(ma=F\)
計算過程

上記の関係式を加速度 \(a\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
a = \frac{eE}{m} = \frac{eV}{md}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

粒子は電極の間で、電場から力を受けてy方向に加速されます。まず、電圧Vと間隔dから電場の強さEを求めます。次に、その電場が電荷eの粒子に及ぼす力の大きさを計算します。最後に、ニュートンの運動方程式 \(F=ma\) を使って、その力によって生じる加速度aを求めます。

結論と吟味

加速度 \(a\) は \(\frac{eV}{md}\) です。電場の強さ \(E=V/d\) と比電荷 \(e/m\) に比例するという、物理的に妥当な結果です。

解答 (ア) \(\displaystyle\frac{eV}{md}\)

問イ

思考の道筋とポイント
粒子は、x軸方向には速さ \(v\) の等速直線運動を、y軸方向には初速度0、加速度 \(a\) の等加速度直線運動をします。まず、長さ \(l\) の電極間を通過するのにかかる時間 \(t_1\) をx方向の運動から求めます。次に、その時間 \(t_1\) の間にy方向にどれだけ移動したか(変位 \(y_1\))を、等加速度運動の公式を用いて計算します。
この設問における重要なポイント

  • 運動の分解:x方向は等速、y方向は等加速度。
  • 電極間の通過時間: \(t_1 = l/v\)。
  • 等加速度運動の変位の公式: \(y = v_{0y}t + \frac{1}{2}at^2\)。

具体的な解説と立式
x軸方向は速さ \(v\) の等速直線運動なので、長さ \(l\) の電極間を通過する時間 \(t_1\) は、
$$ t_1 = \frac{l}{v} $$
y軸方向は初速度0、加速度 \(a\) の等加速度運動なので、時間 \(t_1\) の間の変位 \(y_1\) は、
$$ y_1 = 0 \cdot t_1 + \frac{1}{2}at_1^2 = \frac{1}{2}at_1^2 $$
この式に、上で求めた \(t_1\) を代入します。
$$ y_1 = \frac{1}{2}a\left(\frac{l}{v}\right)^2 $$

使用した物理公式

  • 等速直線運動: \(x=vt\)
  • 等加速度直線運動: \(y = \frac{1}{2}at^2\)
計算過程

立式がそのまま答えとなります。

計算方法の平易な説明

粒子が電極の間を通り抜けるのにかかる時間は、単純に「距離÷速さ」で \(l/v\) と計算できます。その時間だけ、y方向に一定の加速度で引っ張られ続けます。等加速度運動で進む距離の公式 \(\frac{1}{2}at^2\) に、この時間と(ア)で求めた加速度を代入すれば、y方向にずれた距離 \(y_1\) が求まります。

結論と吟味

変位 \(y_1\) は \(\frac{1}{2}a(\frac{l}{v})^2\) です。これは放物運動の公式そのものであり、妥当な結果です。

解答 (イ) \(\displaystyle\frac{1}{2}a\left(\frac{l}{v}\right)^2\)

問ウ

思考の道筋とポイント
電極間を通過した直後の、粒子のy軸方向の速度成分 \(v_y\) を求めます。y軸方向は初速度0、加速度 \(a\) の等加速度運動であり、それに要した時間は \(t_1 = l/v\) です。等加速度運動の速度の公式 \(v_y = v_{0y} + at\) を用います。
この設問における重要なポイント

  • y方向は等加速度運動。
  • 等加速度運動の速度の公式: \(v = v_0 + at\)。

具体的な解説と立式
y軸方向の初速度は0なので、時間 \(t_1\) 後の速度 \(v_y\) は、
$$ v_y = 0 + at_1 = at_1 $$
この式に、\(a = \frac{eV}{md}\) と \(t_1 = \frac{l}{v}\) を代入します。
$$ v_y = \left(\frac{eV}{md}\right) \left(\frac{l}{v}\right) $$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動: \(v = at\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
v_y = \frac{eVl}{mdv}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

y方向には、時間 \(t_1\) の間ずっと加速度 \(a\) で加速され続けます。したがって、電極を抜ける瞬間のy方向の速さは、単純に「加速度 × 時間」で計算できます。

結論と吟味

y方向の速度成分 \(v_y\) は \(\frac{eVl}{mdv}\) です。

解答 (ウ) \(\displaystyle\frac{eVl}{mdv}\)

問エ

思考の道筋とポイント
電極間を通過した後の粒子は、力が働かないため等速直線運動をします。このときの速度は、x成分が \(v_x=v\)、y成分が(ウ)で求めた \(v_y\) です。電極の中心から蛍光面までの距離が \(L\) で、電極の長さが \(l\) なので、電極を抜けてから蛍光面に達するまでのx方向の距離は \(L – l/2\) です。この距離をx方向の速さ \(v\) で進む時間 \(t_2\) を求め、その間にy方向に進む距離 \(y_2\) を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 電極通過後は等速直線運動。
  • x方向とy方向の速度成分はそれぞれ一定。
  • 移動時間 \(t_2\) はx方向の運動から求める。

具体的な解説と立式
電極を通過後、蛍光面に達するまでの時間を \(t_2\) とします。この間のx方向の移動距離は \(L – l/2\) なので、
$$ t_2 = \frac{L – l/2}{v_x} = \frac{L – l/2}{v} $$
この時間 \(t_2\) の間、粒子はy方向にも速さ \(v_y\) で等速直線運動をします。したがって、y方向の変位 \(y_2\) は、
$$ y_2 = v_y t_2 = v_y \frac{L – l/2}{v} $$

使用した物理公式

  • 等速直線運動: \(x=vt\)
計算過程

立式がそのまま答えとなります。

計算方法の平易な説明

電極を抜けた後、粒子はまっすぐ進みます。蛍光スクリーンに到達するまでにかかる時間は、x方向の「残りの距離」をx方向の「速さ」で割れば求まります。その時間の間、粒子はy方向にも一定の速さ \(v_y\) で進み続けるので、「y方向の速さ × 時間」でy方向にずれる距離 \(y_2\) が計算できます。

結論と吟味

変位 \(y_2\) は \(v_y \frac{L – l/2}{v}\) です。

解答 (エ) \(v_y \displaystyle\frac{L – l/2}{v}\)

問オ

思考の道筋とポイント
蛍光面でのy座標の全変位 \(y\) は、\(y_1\) と \(y_2\) の和で与えられます。この \(y = y_1 + y_2\) の式に、(イ)(ウ)(エ)で求めた関係式を代入し、比電荷 \(e/m\) について整理します。
この設問における重要なポイント

  • 全変位は \(y = y_1 + y_2\)。
  • 代数計算を正確に行い、\(e/m\) について解く。

具体的な解説と立式
$$ y = y_1 + y_2 $$
この式に、\(y_1 = \frac{1}{2}a(\frac{l}{v})^2 = \frac{1}{2}\frac{eV}{md}(\frac{l}{v})^2\) と \(y_2 = v_y \frac{L – l/2}{v} = \frac{eVl}{mdv} \frac{L – l/2}{v}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
y &= \frac{1}{2}\frac{eV}{md}\frac{l^2}{v^2} + \frac{eVl}{mdv^2}\left(L – \frac{l}{2}\right) \\[2.0ex]&= \frac{eV}{mdv^2} \left( \frac{l^2}{2} + lL – \frac{l^2}{2} \right) \\[2.0ex]&= \frac{eVlL}{mdv^2}
\end{aligned}
$$
この式を比電荷 \(e/m\) について解きます。

使用した物理公式

  • これまでの設問で導出した関係式
計算過程

$$
\begin{aligned}
y &= \frac{eVlL}{mdv^2} \\[2.0ex]\frac{e}{m} &= \frac{ydv^2}{VlL}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

全体のy方向のずれは、電極の中で曲がった分(\(y_1\))と、電極を抜けた後にまっすぐ進んでずれた分(\(y_2\))の合計です。これまでの結果をすべてこの足し算の式に代入して、ごちゃごちゃした式をきれいに整理すると、最終的に \(e/m\) を求める式が得られます。

結論と吟味

比電荷は \(\frac{e}{m} = \frac{ydv^2}{VlL}\) と表せます。この時点ではまだ測定不可能な速さ \(v\) が含まれています。

解答 (オ) \(\displaystyle\frac{ydv^2}{VlL}\)

問カ

思考の道筋とポイント
電場に加えて、x軸に垂直な向きに磁場をかけます。磁場中を運動する荷電粒子はローレンツ力を受けます。その力の大きさを求める問題です。
この設問における重要なポイント

  • ローレンツ力の公式: \(F=qvB\)。
  • 粒子の速度と磁場は垂直である。

具体的な解説と立式
電気量 \(e\)、速さ \(v\) の粒子が、磁束密度 \(B\) の磁場に垂直に入射するときに受けるローレンツ力の大きさ \(F_L\) は、
$$ F_L = evB $$

使用した物理公式

  • ローレンツ力: \(F=qvB\)
計算過程

立式がそのまま答えとなります。

結論と吟味

ローレンツ力の大きさは \(evB\) です。

解答 (カ) \(evB\)

問キ

思考の道筋とポイント
電場と磁場を同時にかけたとき、粒子が「直進する」という条件を考えます。直進するということは、粒子に働く合力が0であることを意味します。この場合、y軸方向に働く静電気力とローレンツ力がつり合っている状態です。
この設問における重要なポイント

  • 直進条件は、合力が0であること。
  • 静電気力とローレンツ力がつり合う。

具体的な解説と立式
粒子に働く力は、

  • 静電気力: y軸正の向きに \(F_E = eE = e\frac{V}{d}\)
  • ローレンツ力: 磁場の向きを適切に選ぶ(紙面奥向き)と、y軸負の向きに \(F_L = evB\)

となります。
これらの力がつり合う条件は、
$$ F_E = F_L $$
$$ e\frac{V}{d} = evB $$

使用した物理公式

  • 力のつり合い
計算過程

上記の関係式を速さ \(v\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
v = \frac{V}{Bd}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

粒子をまっすぐ進ませるためには、電場による上向きの力と、磁場による下向きの力(磁場の向きを調整する)をちょうど同じ大きさにすればよい、ということです。この力のつり合いの式を立てることで、粒子の速さ \(v\) を、測定可能な量である \(V, B, d\) だけで表すことができます。

結論と吟味

速さ \(v\) は \(\frac{V}{Bd}\) となります。この装置は速度選択器としても機能することがわかります。この \(v\) の式を(オ)で求めた比電荷の式に代入することで、比電荷 \(e/m\) を実験的に測定できる量だけで表すことが可能になります。

解答 (キ) \(\displaystyle\frac{V}{Bd}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 運動の分解(放物運動の解析):
    • 核心: 荷電粒子が電場中を運動する際、その運動を「力が働かない方向(x軸方向の等速直線運動)」と「一定の力が働く方向(y軸方向の等加速度直線運動)」に分けて考えることが、解析の基本です。
    • 理解のポイント: (ア)~(エ)は、まさに高校力学で学ぶ「斜方投射」と全く同じ数学的構造をしています。重力加速度 \(g\) が、電場による加速度 \(a = eE/m\) に置き換わっただけです。この構造を見抜くことが、問題全体の見通しを良くします。
  • 静電気力とローレンツ力:
    • 核心: 荷電粒子が電場や磁場から受ける力の基本法則です。
      • 静電気力: \(F_E = qE\)。電場の向きに(負電荷なら逆向きに)力を受ける。
      • ローレンツ力: \(F_L = qvB\)。速度と磁場の両方に垂直な向きに力を受ける。
    • 理解のポイント: (ア)では静電気力のみを、(カ)ではローレンツ力のみを考え、(キ)ではその両者のつり合いを考えます。それぞれの力の性質(向き、大きさが何に依存するか)を正確に理解しているかが問われます。
  • 力のつり合い(速度選択の原理):
    • 核心: (キ)で、粒子が直進するという条件は、粒子に働く合力がゼロであることを意味します。この問題では、静電気力とローレンツ力が大きさが等しく逆向きになることで、力がつり合います。
    • 理解のポイント: この力のつり合い条件 \(eE = evB\) から、粒子の速さ \(v = E/B\) が求まります。これは、特定の速さの粒子だけを選別する「速度選択器」の原理そのものであり、多くの荷電粒子実験で利用される重要な考え方です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 質量分析装置: この問題の装置に、(キ)で求めた速さ \(v\) を持つ粒子を磁場のみの領域に入射させ、その円運動の半径から質量を分析する問題。本問と密接に関連します。
    • サイクロトロン: 磁場による円運動と、電場による加速を組み合わせた装置。ローレンツ力と仕事・エネルギーの関係が問われます。
    • ホール効果: 導体内の荷電粒子がローレンツ力を受けることで、導体側面に電位差(ホール電圧)が生じる現象。これも静電気力とローレンツ力のつり合いが鍵となります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 場の種類と領域を把握する: まず、どの領域にどのような場(電場、磁場)が存在するのかを図で確認します。場が存在しない領域では、粒子は等速直線運動をします。
    2. 運動を時系列で分割する: 粒子の運動を「電場に入る前」「電場の中」「電場と磁場の中」「場を抜けた後」のように、フェーズごとに分割して考えます。各フェーズで適用すべき法則が異なります。
    3. 最終目的から逆算する: この問題の最終目的は、比電荷 \(e/m\) を「測定可能な量」で表すことです。(オ)の段階では未知の速さ \(v\) が含まれていますが、(キ)でその \(v\) を測定可能な量で表せることを示し、ゴールに到達します。このように、問題全体のストーリーを意識すると、各設問の役割が理解しやすくなります。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 運動の分解の失敗:
    • 誤解: x方向にも力が働くと考えたり、y方向の運動を等速だと勘違いしたりする。
    • 対策: 最初に座標軸を設定し、力のベクトルを図示します。力がy軸方向にしか働かないことを確認し、「x方向:等速」「y方向:等加速度」という運動の基本方針を明確に立ててから計算を始めましょう。
  • 時間の扱いの間違い:
    • 誤解: (エ)で、電極を抜けてから蛍光面に達するまでの時間を、y方向の運動から求めようとしてしまう。
    • 対策: 時間はx, y共通の媒介変数です。計算しやすい方の運動から求めるのが定石です。この問題では、x方向の速さが常に \(v\) で一定なので、x方向の移動距離から時間を計算するのが最も簡単です。
  • 力の向きの判断ミス:
    • 誤解: 粒子の電荷が負(\(-e\))であることを見落とし、静電気力の向きを電場と同じ向きにしてしまう。また、フレミングの左手の法則の適用を誤る。
    • 対策: 静電気力は \(F=qE\) であり、\(q\) の符号によって力の向きが決まることを常に意識します。ローレンツ力は、フレミングの左手の法則の「電流」の向きに注意が必要です。正電荷の運動方向が電流の向き、負電荷の運動方向とは逆向きが電流の向きです。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 軌跡の図示: 問題図に、粒子の軌跡をフリーハンドで描き込んでみると、運動のイメージが掴みやすくなります。電場中では放物線、電場を抜けた後はその点での接線方向に直進する、という軌跡になります。
    • 速度ベクトルの図示: 電極を抜けた瞬間の速度ベクトルを図示し、それをx成分 \(v_x\) とy成分 \(v_y\) に分解する図を描くと、(エ)の等速直線運動の計算が理解しやすくなります。このときの軌跡の傾きが \(\tan\alpha = v_y/v_x\) となることも分かります。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 力の矢印: 粒子に働く力を、作用点(粒子自身)から矢印で描くことを徹底します。静電気力とローレンツ力の両方が働く場合は、両方の矢印を描き、その合力を考えます。
    • 座標と変数の対応: 図の中に、\(l\), \(L\), \(d\), \(y_1\), \(y_2\) といった長さに関する変数がどの部分に対応するのかを明記すると、立式の際に混乱しにくくなります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 運動方程式 \(ma = eE\):
    • 選定理由: (ア)で、粒子に働く力と、それによって生じる加速度の関係を記述するため。
    • 適用根拠: ニュートンの第二法則 \(F=ma\) という力学の最も基本的な法則を、静電気力 \(F=eE\) の状況に適用したものです。
  • 等加速度運動の公式 \(y_1 = \frac{1}{2}at_1^2\), \(v_y = at_1\):
    • 選定理由: (イ)(ウ)で、一定の加速度で運動する粒子の変位と速度を計算するため。
    • 適用根拠: これらは、一定の加速度 \(a\) を時間で積分することによって導かれる運動学の基本公式です。
  • 力のつり合い \(eE = evB\):
    • 選定理由: (キ)で、粒子が直進する(=力がつりあっている)という条件を数式で表現するため。
    • 適用根拠: 粒子が等速直線運動をする、すなわち加速度が0であるという実験事実から、ニュートンの運動法則 \(ma=F\) において、合力 \(F\) が0でなければならない、という論理に基づきます。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (ア)~(オ) 電場のみ:
    • 戦略: 放物運動をx, yに分解して解析し、最終的に比電荷の式を導く。
    • フロー: ①(ア)運動方程式から加速度 \(a\) を求める。②x方向の運動から通過時間 \(t_1\) を求める。③(イ)y方向の変位の式に \(a, t_1\) を代入し \(y_1\) を求める。④(ウ)y方向の速度の式に \(a, t_1\) を代入し \(v_y\) を求める。⑤(エ)電極通過後の運動を考え、時間 \(t_2\) を求め、\(y_2 = v_y t_2\) を計算。⑥(オ)\(y=y_1+y_2\) の式を \(e/m\) について整理する。
  2. (カ)~(キ) 電場+磁場:
    • 戦略: 粒子が直進する条件(力のつり合い)から速さ \(v\) を求める。
    • フロー: ①(カ)ローレンツ力の式 \(F_L=evB\) を立てる。②(キ)静電気力 \(F_E=eE\) とのつり合いの式を立て、\(v\) について解く。
  3. 最終的な結論へ:
    • 戦略: (キ)で求めた \(v\) の式を、(オ)で求めた \(e/m\) の式に代入する。
    • フロー: これにより、比電荷 \(e/m\) が、電圧\(V\)、磁束密度\(B\)、装置の寸法\(d, l, L\)、蛍光面での変位\(y\)といった、すべて測定可能な量だけで表されることが示される。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 文字の整理: この問題は多くの文字(\(m, e, v, V, d, l, L, y, a, t\)など)が登場します。計算の各段階で、どの文字が既知でどの文字が未知か、どの文字を消去すべきかを意識すると、計算の見通しが立ちやすくなります。
  • 代入のタイミング: (オ)の計算のように、複数の式を代入して一つの式にまとめる場合、一気に代入すると式が複雑になりがちです。\(y_1\) と \(y_2\) をそれぞれ \(e/m\) を含む形で整理してから足し合わせるなど、段階的に計算を進めるとミスを減らせます。
  • 最終的な式の検算: (オ)で得られた式 \(\frac{e}{m} = \frac{ydv^2}{VlL}\) の次元を確認してみましょう。右辺の次元が、電荷/質量(\([C]/[M]\))の次元と一致するかを確かめることで、大きな間違いを発見できます。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (オ) 比電荷の式: \(y\) が大きいほど \(e/m\) が大きい、という結果になっています。これは、比電荷が大きい(=軽いか、電荷が大きい)粒子ほど、同じ電場から大きな加速度を受けて大きく曲がる、という直感と一致しており、妥当です。また、\(v\) が大きいほど \(y\) は小さくなるはずですが、式では \(y \propto 1/v^2\) となっており、これも妥当です(速いと電場を通過する時間が短くなるため)。
    • (キ) 速さの式: \(v=V/(Bd)\) は、\(v=E/B\) とも書けます。これは、電場が強いほど速い粒子でないとつりあわず、磁場が強いほど遅い粒子でもつりあう、ということを意味しており、物理的に理にかなっています。
  • 歴史的意義の理解:
    • この実験は、J.J.トムソンが電子の存在を証明し、その比電荷を測定したという物理学史上非常に重要な実験です。なぜこの手順で \(e/m\) が測定できるのか、その論理的な流れを理解することは、単に問題を解く以上の価値があります。未知の速さ \(v\) を、別の実験(力のつり合い)で測定可能な量に置き換える、という巧妙な実験計画の妙を味わうことができます。

問題149 (同志社大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、ミリカンの油滴実験を題材に、電気素量\(e\)を測定する原理を考察するものです。光電効果によるイオン化、電場中での力のつり合い、空気抵抗がある中での運動(終端速度)など、複数の物理現象を組み合わせて解析します。最終的には、測定された複数の電荷の値から、その基本単位である電気素量を推定するという、実験的な思考プロセスを追体験します。

与えられた条件
  • 物理定数:重力加速度\(g\)、プランク定数\(h\)、光の速さ\(c\)。
  • 原子:電離エネルギー\(U\)。
  • 微粒子:質量\(m\)、電気量\(q(>0)\)。
  • 空気抵抗:速さ\(v\)に比例し、大きさ\(kv\)。比例定数\(k\)。
  • 電場:強さ\(E\)または\(E_1\)。
問われていること
  • ア:原子がイオン化する光の波長\(\lambda\)の条件。
  • イ:電場から受ける力の大きさ。
  • ウ:微粒子を静止させるための電場の強さ\(E\)。
  • エ:電場\(E_1\)中で上昇するときの加速度\(a\)。
  • オ:電場\(E_1\)中で上昇するときの終端速度\(v_1\)。
  • カ:電場がないときの終端速度\(v_2\)と\(v_1\)から、電気量\(q\)を求める式。
  • キ:測定された4つの電気量の値から、電気素量\(e\)を有効数字2桁で求める。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「ミリカンの実験と電気素量の測定」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 光電効果の条件: 光子1個のエネルギー\(h\nu\)が、電子を原子から引き離すのに必要な仕事(電離エネルギー\(U\))以上であること。
  2. 力のつり合い: 微粒子が静止または等速直線運動(終端速度)をするとき、微粒子に働く力の合力は0である。
  3. 運動方程式: 微粒子が加速運動をするとき、運動方程式\(ma=F\)を立てる。働く力は、重力、静電気力、空気抵抗の3つ。
  4. 電気量の量子性: どんな物体の持つ電気量も、電気素量\(e\)の整数倍になっているという性質。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (ア)では、光電効果のエネルギー条件を波長で表現します。
  2. (イ)(ウ)では、静電気力と重力がつり合う条件を考えます。
  3. (エ)(オ)では、電場中で上昇運動する微粒子の運動方程式と、終端速度での力のつり合いを考えます。
  4. (カ)では、電場がない場合の力のつり合いの式と、(オ)の式を連立させ、未知数である\(m\)と\(k\)を消去して\(q\)を求めます。
  5. (キ)では、測定された電荷の値の差を計算し、それらが電気素量\(e\)の整数倍であるという仮定から、\(e\)の値を推定します。

問ア

思考の道筋とポイント
原子から電子を1個引き離してイオン化するためには、外部から電離エネルギー\(U\)以上のエネルギーを与える必要があります。この問題では、波長\(\lambda\)の光子を照射しており、光子1個が持つエネルギーがこの条件を満たす必要があります。
この設問における重要なポイント

  • 光子1個のエネルギーの公式: \(E_p = h\nu\)。
  • 波長と振動数の関係: \(c = \lambda \nu\)。
  • イオン化の条件: \((\text{光子のエネルギー}) \ge (\text{電離エネルギー})\)。

具体的な解説と立式
波長\(\lambda\)の光子1個が持つエネルギー\(E_p\)は、プランク定数\(h\)、光の速さ\(c\)を用いて次のように表されます。
$$ E_p = h\frac{c}{\lambda} $$
この光子のエネルギーが、原子の電離エネルギー\(U\)以上であることがイオン化の条件です。
$$ E_p \ge U $$

使用した物理公式

  • 光子のエネルギー: \(E_p = hc/\lambda\)
計算過程

立式した条件式に、光子のエネルギーの式を代入し、\(\lambda\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
h\frac{c}{\lambda} &\ge U \\[2.0ex]hc &\ge U\lambda \\[2.0ex]\lambda &\le \frac{hc}{U}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

原子から電子を無理やり引きはがすには、一定のエネルギー(電離エネルギーU)が必要です。光を当てる場合、そのエネルギーは光の粒である「光子」が供給します。光子のエネルギーは波長が短いほど大きいので、「イオン化に必要なエネルギーU」を供給できる光子の波長には上限があります。その上限値を求める問題です。

結論と吟味

イオン化が起こる条件は \(\lambda \le \frac{hc}{U}\) です。したがって、空欄アは \(\frac{hc}{U}\) となります。

解答 (ア) \(\displaystyle\frac{hc}{U}\)

問イ

思考の道筋とポイント
電場中の荷電粒子が受ける力(静電気力)の大きさを求める問題です。公式をそのまま適用します。
この設問における重要なポイント

  • 静電気力の公式: \(F=qE\)。

具体的な解説と立式
強さ\(E\)の電場中に、電気量\(q\)の荷電粒子を置くと、粒子は大きさ\(F\)の静電気力を受けます。その大きさは、次のように表されます。
$$ F = qE $$

使用した物理公式

  • 静電気力: \(F=qE\)
計算過程

立式がそのまま答えとなります。

結論と吟味

力の大きさは \(qE\) です。

解答 (イ) \(qE\)

問ウ

思考の道筋とポイント
微粒子を電場で「静止」させるためには、微粒子に働くすべての力の合力が0になるようにします。微粒子に働く力は、鉛直下向きの「重力」と、電場による「静電気力」です。これらがつり合う条件を考えます。
この設問における重要なポイント

  • 力のつり合い: 合力が0。
  • 働く力は、重力(\(mg\))と静電気力(\(qE\))。
  • 静電気力が重力と逆向き(鉛直上向き)になるように、電場の向きを設定する。

具体的な解説と立式
微粒子に働く力は、重力(鉛直下向き、大きさ \(mg\))と静電気力(大きさ \(qE\))です。静止させるためには、静電気力が鉛直上向きに働き、重力とつり合う必要があります。力のつり合いの式は、
$$ qE = mg $$

使用した物理公式

  • 力のつり合いの式
計算過程

上記の関係式を電場の強さ\(E\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
E = \frac{mg}{q}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

空中に浮かせたい物体(微粒子)には、常に下向きの重力がかかっています。これを打ち消すためには、同じ大きさの上向きの力が必要です。この問題では、その役割を電場による静電気力が担います。「静電気力 = 重力」という力のつり合いの式を立て、それを電場の強さEについて解けばOKです。

結論と吟味

必要な電場の強さは \(E = \frac{mg}{q}\) です。

解答 (ウ) \(\displaystyle\frac{mg}{q}\)

問エ

思考の道筋とポイント
鉛直上向きの電場\(E_1\)中で、微粒子が速さ\(v\)で上昇している状況を考えます。微粒子に働く力は、鉛直上向きの静電気力、鉛直下向きの重力、そして運動と逆向き(鉛直下向き)の空気抵抗の3つです。これらの合力を考え、運動方程式\(ma=F_{\text{合力}}\)を立てます。
この設問における重要なポイント

  • 運動方程式: \(ma = F_{\text{合力}}\)
  • 働く力は、静電気力(\(qE_1\))、重力(\(mg\))、空気抵抗(\(kv\))の3つ。
  • 座標軸の正の向き(鉛直上向き)に合わせて、各力の符号を正しく設定する。

具体的な解説と立式
鉛直上向きを正とします。微粒子に働く各力は、静電気力(\(+qE_1\))、重力(\(-mg\))、空気抵抗(\(-kv\))です。したがって、運動方程式は次のように立てられます。
$$ ma = qE_1 – mg – kv $$

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(ma=F\)
計算過程

この式を加速度\(a\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
a &= \frac{qE_1 – mg – kv}{m} \\[2.0ex]&= \frac{qE_1}{m} – g – \frac{kv}{m}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

微粒子が上昇しているとき、上向きに引っ張る力(静電気力)と、下向きに引っ張る2つの力(重力と空気抵抗)が働いています。ニュートンの運動方程式 \(ma=F\) は、「質量×加速度 = 合力」という意味なので、合力として「上向きの力 – 下向きの力」を代入し、加速度aを求めます。

結論と吟味

加速度は \(a = \frac{qE_1 – mg – kv}{m}\) です。

解答 (エ) \(\displaystyle\frac{qE_1 – mg – kv}{m}\)

問オ

思考の道筋とポイント
「終端速度」とは、力がつり合って加速度が0になったときの速度のことです。(エ)で立てた運動方程式において、\(a=0\) となる条件を考え、そのときの速度\(v_1\)を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 終端速度では、加速度 \(a=0\)。
  • 力がつり合っている状態。

具体的な解説と立式
終端速度\(v_1\)に達したときは加速度\(a=0\)となるため、(エ)で立てた運動方程式は力のつり合いの式になります。
$$ 0 = qE_1 – mg – kv_1 $$

使用した物理公式

  • 力のつり合いの式(運動方程式でa=0とおいたもの)
計算過程

上記の関係式を\(v_1\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
kv_1 &= qE_1 – mg \\[2.0ex]v_1 &= \frac{qE_1 – mg}{k}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

微粒子は最初加速しますが、速くなるにつれて空気抵抗も大きくなります。やがて、上向きの静電気力と、下向きの力(重力+空気抵抗)がちょうどつり合うと、それ以上加速しなくなり、一定の速度(終端速度)で上昇し続けます。この力のつり合いの式を立てて、速度\(v_1\)を求めます。

結論と吟味

終端速度\(v_1\)は \(\frac{qE_1 – mg}{k}\) です。

解答 (オ) \(\displaystyle\frac{qE_1 – mg}{k}\)

問カ

思考の道筋とポイント
この設問がミリカンの実験の核心部分です。電場がない状態で自由落下させたときの終端速度\(v_2\)と、(オ)で求めた電場中での終端速度\(v_1\)の2つの測定値から、直接測定が困難な質量\(m\)と抵抗の係数\(k\)を消去して、電気量\(q\)を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 2つの異なる条件(電場あり/なし)での力のつり合いの式を連立させる。
  • 未知数\(m, k\)を消去する。

具体的な解説と立式
まず、電場がない状態(\(E=0\))で落下するときの終端速度\(v_2\)を考えます。このとき、働く力は鉛直下向きの重力\(mg\)と、鉛直上向きの空気抵抗\(kv_2\)です。これらがつり合うので、
$$ mg = kv_2 \quad \cdots ① $$
次に、(オ)で求めた電場中での終端速度\(v_1\)のときの力のつり合いの式を再掲します。
$$ qE_1 = mg + kv_1 \quad \cdots ② $$
これら2つの式を連立させ、\(q\)を求めます。

使用した物理公式

  • 力のつり合いの式
計算過程

式①を式②に代入して\(mg\)を消去します。
$$
\begin{aligned}
qE_1 &= (kv_2) + kv_1 \\[2.0ex]qE_1 &= k(v_1 + v_2)
\end{aligned}
$$
この式を\(q\)について解きます。
$$ q = \frac{k(v_1+v_2)}{E_1} $$

計算方法の平易な説明

実験で測定できるのは、速度\(v_1\)と\(v_2\)、そして電場\(E_1\)です。しかし、微粒子の質量\(m\)や空気抵抗の係数\(k\)は直接分かりません。そこで、「電場なしで落下させたとき」と「電場ありで上昇させたとき」の2パターンの実験を行い、それぞれの力のつり合いの式を立てます。この2つの式をうまく組み合わせる(連立方程式を解く)ことで、未知数である\(m\)と\(k\)を消去し、測定したい電気量\(q\)を、測定可能な量だけで表すことができます。

結論と吟味

電気量\(q\)は \(\frac{k(v_1+v_2)}{E_1}\) と表せます。

解答 (カ) \(\displaystyle\frac{k(v_1+v_2)}{E_1}\)

問キ

思考の道筋とポイント
測定された4つの電気量の値が、すべて電気素量\(e\)の整数倍になっているという「電気量の量子性」を利用します。もし各値が\(n_1e, n_2e, n_3e, n_4e\)となっていれば、測定値同士の差もまた\(e\)の整数倍になるはずです。この差を計算することで、\(e\)の値を推定します。
この設問における重要なポイント

  • 電気量の量子性: \(q=ne\) (\(n\)は整数)
  • 測定値の差をとることで、共通の単位(公約数)を見つけ出す。

具体的な解説と立式
測定された電気量を小さい順に並べ、隣り合う値の差を計算します。
\(q_1 = 3.1 \times 10^{-19}\) C
\(q_2 = 4.7 \times 10^{-19}\) C
\(q_3 = 8.0 \times 10^{-19}\) C
\(q_4 = 11.1 \times 10^{-19}\) C
$$ q_2 – q_1 = 1.6 \times 10^{-19} \, \text{C} $$
$$ q_3 – q_2 = 3.3 \times 10^{-19} \, \text{C} $$
$$ q_4 – q_3 = 3.1 \times 10^{-19} \, \text{C} $$
これらの差が電気素量\(e\)の整数倍になっていると仮定し、\(e \approx 1.6 \times 10^{-19}\) C と推測します。
この仮定に基づき、各電荷が\(e\)の何倍かを求めます。
\(q_1/e \approx 1.94 \rightarrow 2e\)
\(q_2/e \approx 2.94 \rightarrow 3e\)
\(q_3/e \approx 5.0 \rightarrow 5e\)
\(q_4/e \approx 6.94 \rightarrow 7e\)
これらのデータを用いて、より精度の高い\(e\)を求めます。
$$ e = \frac{q_1+q_2+q_3+q_4}{2+3+5+7} $$

使用した物理公式

  • 電気量の量子性
計算過程

$$
\begin{aligned}
e &= \frac{(3.1+4.7+8.0+11.1) \times 10^{-19}}{17} \\[2.0ex]&= \frac{26.9 \times 10^{-19}}{17} \\[2.0ex]&\approx 1.582 \times 10^{-19} \, \text{C}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で求めると、\(1.6 \times 10^{-19}\) C となります。

計算方法の平易な説明

測定された電荷の量はバラバラに見えますが、これらはすべて「電気の最小単位(電気素量e)」をいくつか集めたものである、という仮説を立てます。もしそうなら、測定値の差もまた、この最小単位の整数倍になるはずです。そこで、測定値の差を計算してみると、約\(1.6 \times 10^{-19}\)の倍数になっていることが分かります。これが電気素量eの推定値です。より正確な値を求めるために、すべての測定値をこの推定値で割り、最も近い整数を見つけ、全体の平均をとることで、より信頼性の高い値を算出します。

結論と吟味

電気素量は \(1.6 \times 10^{-19}\) C と求められます。これは現在知られている電気素量の値と一致しており、実験の原理と計算の妥当性を示しています。

解答 (キ) \(1.6 \times 10^{-19}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 力のつり合いと運動方程式:
    • 核心: この問題の解析は、すべて微粒子に働く力を特定し、その状況に応じて「力のつり合いの式」または「運動方程式」を立てることから始まります。働く力は、重力、静電気力、空気抵抗の3つです。
    • 理解のポイント: (ウ)の静止状態、(オ)の上昇時の終端速度、(カ)の自由落下時の終端速度は、すべて「力がつり合っている(合力が0)」状態です。一方、(エ)の上昇途中の加速運動は「運動方程式 \(ma=F_{\text{合力}}\)」で記述されます。状況に応じてこの2つを使い分けることが重要です。
  • 電気量の量子性:
    • 核心: (キ)で用いられる、物理学の根幹に関わる重要な概念です。どのような帯電体の持つ電気量も、電気素量 \(e\) という最小単位の整数倍(\(q=ne\))になっている、という性質です。
    • 理解のポイント: この性質があるからこそ、一見バラバラに見える測定値 \(q_1, q_2, …\) から、それらの最大公約数のような形で基本単位 \(e\) を推定することができます。測定値の「差」をとるという手法は、この性質を利用した巧妙なデータ解析方法です。
  • 複数条件からの未知数消去:
    • 核心: (カ)で、直接測定できない物理量(質量\(m\)、空気抵抗の係数\(k\))を消去するために、異なる条件下での実験結果(\(v_1\)と\(v_2\))を利用する点です。
    • 理解のポイント: これは科学実験における非常に重要な思考法です。未知のパラメータを含む理論式があっても、複数の測定を行うことで、それらの未知数を消去し、本当に知りたい物理量を測定可能な量だけで表すことができます。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • J.J.トムソンの実験: 電子の比電荷\(e/m\)を測定する実験。電場による放物運動と、電場・磁場による力のつり合いを利用する点で、本質的な思考プロセスが似ています。
    • ホール効果: 導体内のキャリア(電子やホール)の電荷の符号や密度を調べる実験。これもローレンツ力と電場による力のつり合いを利用します。
    • 粘性抵抗を受ける物体の運動: 油や水の中を落下する物体の運動。本問の空気抵抗と同様に、速度に比例する抵抗力を受けるため、やがて終端速度に達します。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 物体に働く力をすべてリストアップする: まず、対象となる物体(この場合は微粒子)に働く力を、重力、電磁気力、接触力(張力、抵抗力など)の観点から漏れなく洗い出します。
    2. 運動の状態を把握する: 物体が「静止」「等速直線運動」「等加速度運動」「加速運動(加速度が変化)」のどれに当てはまるかを問題文から正確に読み取ります。これにより、立てるべき式が「力のつり合い」なのか「運動方程式」なのかが決まります。
    3. 未知数と既知数(測定量)を整理する: 式を立てた後、どの物理量が未知で、どの物理量が既知(あるいは測定可能)なのかを整理します。未知数を消去して、求めたい量を既知数だけで表すことが最終目標となります。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 力の向きの判断ミス:
    • 誤解: 静電気力や空気抵抗の向きを間違える。
    • 対策: 静電気力は \(F=qE\) であり、電荷\(q\)の符号によって電場\(E\)と同じ向きか逆向きかが決まります。この問題では\(q>0\)なので同方向です。抵抗力は常に「速度と逆向き」に働きます。上昇中なら下向き、落下中なら上向きになります。必ず図を描いて力の向きを確認しましょう。
  • 終端速度の意味の誤解:
    • 誤解: 終端速度でも加速している、あるいは力が働いていないと勘違いする。
    • 対策: 終端速度は「速度が一定になった状態」であり、「加速度が0」です。加速度が0ということは、「合力が0」を意味します。力が働いていないのではなく、働く力がすべてつり合っている状態です。
  • 電気素量の推定方法:
    • 誤解: (キ)で、測定値の一つをそのまま\(e\)としたり、単純に平均をとったりしてしまう。
    • 対策: 各測定値は\(e\)の「整数倍」である、という仮定が重要です。したがって、各測定値を整数で割った値の平均をとるか、あるいは測定値の「差」が\(e\)の整数倍になることを利用します。後者の「差をとる」方法が、整数倍の比率を推測しやすく、有効な手段です。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • フリーボディダイアグラム(力の図示): (ウ)~(カ)の各状況において、微粒子を点として描き、そこに働くすべての力(重力、静電気力、抵抗力)を、作用点から矢印で描くことは必須です。力のつり合いや運動方程式は、この図を見ながら立てることでミスを防げます。
    • v-tグラフの概形: 微粒子が終端速度に達するまでの運動を、縦軸に速度\(v\)、横軸に時間\(t\)をとったグラフでイメージするのも有効です。初速度0から始まり、傾き(=加速度)が徐々に小さくなっていき、やがて傾きが0(速度が一定)になる曲線を描きます。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 座標軸の設定: 鉛直上向きを正とするなど、最初に座標軸を明確に定義し、図に書き込みましょう。これにより、力のベクトルを成分表示する際の符号ミスを防げます。
    • 状況ごとの図: (ウ)静止時、(オ)上昇時、(カ)落下時など、状況ごとに力の図を描き分けることが重要です。特に抵抗力の向きは状況によって変わるため、注意が必要です。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(\lambda \le hc/U\) (問ア):
    • 選定理由: 光によるイオン化の条件を問われているため。
    • 適用根拠: アインシュタインの光電効果の式 \(h\nu = W + K_{\text{最大}}\) において、電子が原子から飛び出すギリギリの状態(仕事関数が電離エネルギー\(U\)に対応、運動エネルギーは0でよい)を考えたものです。光子のエネルギー \(h\nu\) が電離エネルギー \(U\) を超える必要がある、というエネルギー保存則に基づきます。
  • \(ma = F_{\text{合力}}\) (問エ):
    • 選定理由: 加速運動中の物体の運動を記述するため。
    • 適用根拠: ニュートンの第二法則であり、力と加速度の関係を示す最も基本的な法則です。
  • \(F_{\text{合力}} = 0\) (問ウ, オ, カ):
    • 選定理由: 静止または等速直線運動(終端速度)という、加速度が0の状態を記述するため。
    • 適用根拠: 運動方程式 \(ma=F\) において \(a=0\) とした特別な場合であり、力のつり合いを表します。
  • \(q=ne\) (問キ):
    • 選定理由: 複数の測定値から基本単位を推定するため。
    • 適用根拠: これは物理法則というよりは、「電荷は離散的な値しかとらない」という自然界の根本的な性質(実験事実)です。この性質を仮定として用いて、測定データを解釈します。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (ア)~(ウ) 静的な力の考察:
    • 戦略: 光電効果の条件式、および力のつり合いの式を立てる。
    • フロー: ①(ア)光子のエネルギー \(\ge\) 電離エネルギー。②(イ)静電気力の公式。③(ウ)静電気力と重力のつり合い。
  2. (エ)~(カ) 動的な力の考察と未知数の消去:
    • 戦略: 3つの異なる運動状態(加速上昇、等速上昇、等速落下)における運動方程式または力のつり合いの式を立て、連立させて未知数を消去する。
    • フロー: ①(エ)加速上昇中の運動方程式を立てる。②(オ)等速上昇時(\(a=0\))の力のつり合いから\(v_1\)の式を導く。③等速落下時の力のつり合いから\(v_2\)の式を導く。④(カ)②と③の式を連立させ、\(m, k\)を消去して\(q\)を求める。
  3. (キ) 電気素量の推定:
    • 戦略: 電気量の量子性を利用し、測定値の差から公約数を探す。
    • フロー: ①測定値を小さい順に並べる。②隣り合う値の差を計算する。③差が、ある基本単位の整数倍になっていることを見抜き、その基本単位を\(e\)の推定値とする。④より精度を上げるため、各測定値が\(e\)の何倍かを推測し、全体の平均から\(e\)を算出する。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 連立方程式の処理: (カ)では、3つの未知数(\(q, m, k\))に対して2つの式(\(v_1, v_2\)のつり合い式)しかありません。問題の要求は「\(q\)を\(v_1, v_2, E_1\)で表す」ことなので、\(m, k\)を消去する方向で式変形を進める、という明確な目標を持つことが重要です。
  • 単位の確認: プランク定数\(h\) [J・s], 電気素量\(e\) [C], 電圧\(V\) [V]など、様々な単位が登場します。特にエネルギーの単位[J]と電子ボルト[eV]の換算が必要な問題もあるため、単位系を意識する習慣が大切です。
  • 統計的な処理: (キ)のようなデータ処理では、一つの差だけから結論を出すのではなく、複数の差や比率を検討し、最も整合性の高い仮説(例えば、\(q_1:q_2:q_3:q_4 \approx 2:3:5:7\))を見つけ出すという、統計的な視点が求められます。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (カ) 電気量の式: \(q = \frac{k(v_1+v_2)}{E_1}\)。この式は、同じ電場\(E_1\)でも、終端速度\(v_1, v_2\)が大きいほど(=空気抵抗の影響が大きい、つまり粒子が大きいか、空気の粘性が高い)、帯電量\(q\)も大きいことを示唆します。これは物理的に理にかなっています。
    • (キ) 電気素量の値: 求められた値が、物理の教科書に載っている電気素量の値 \(1.602 \times 10^{-19}\) C に近いかどうかを確認することで、計算の妥当性を検証できます。
  • 実験の限界を考える:
    • この問題は理想化されていますが、実際の実験では、ブラウン運動(空気分子の衝突による不規則な動き)や、空気抵抗が厳密には\(kv\)で表せないこと、電場の一様性など、様々な誤差要因が考えられます。なぜミリカンの実験が高く評価されたのか、その困難さに思いを馳せるのも、物理への理解を深める一助となります。

問題150 (香川大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、光電効果の実験を題材に、光の粒子性(光子)に関する基本的な概念を問うものです。光子のエネルギー、仕事関数、光電子の最大運動エネルギーの関係式(アインシュタインの光電効果の式)を立て、実験データからプランク定数や仕事関数を算出するプロセスを追体験します。

与えられた条件
  • 装置:図1の光電管。
  • 実験1:波長\(\lambda_1\)の光を照射。I-V特性は図2の実線。阻止電圧は\(V_1\)。
  • 実験2:波長\(\lambda_2\)の光を照射。I-V特性は図2の破線。阻止電圧は\(V_2\)。
  • 物理定数:プランク定数\(h\)、光の速さ\(c\)、電気素量\(e\)。
  • (7)以降の具体的な数値:\(\lambda_1=5.0\times10^{-7}\)m, \(\lambda_2=4.0\times10^{-7}\)m, \(V_1=0.10\)V, \(V_2=0.70\)V, \(c=3.0\times10^8\)m/s, \(e=1.6\times10^{-19}\)C。
  • (8)の条件:波長\(\lambda_2\)の光の照射エネルギーは\(2.4\times10^{-3}\) J/s。
問われていること
  • (1) この現象の名前。
  • (2) 波長\(\lambda_1\)の光子1個のエネルギー\(E_1\)。
  • (3) 波長\(\lambda_1\)の光による光電子の最大運動エネルギー\(E_{1\text{最大}}\)。
  • (4) 波長\(\lambda_1\)の光に対する仕事関数\(W\)。
  • (5) 波長\(\lambda_2\)の光に対する仕事関数\(W\)。
  • (6) (4)(5)の結果からプランク定数\(h\)を求める式。
  • (7) \(h\)と仕事関数\(W\)の具体的な数値。
  • (8) 毎秒照射される光子の数。
  • (9) 光量を増加させたときのI-V特性グラフの変化。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「光電効果と光の粒子性」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 光量子仮説: 光は、振動数\(\nu\)に比例するエネルギー\(E=h\nu\)を持つ粒子(光子)の流れである。
  2. アインシュタインの光電効果の式: 光子のエネルギーは、電子を金属から取り出すための仕事(仕事関数\(W\))と、飛び出した電子の運動エネルギーに分配される。\(h\nu = W + K_{\text{最大}}\)。
  3. 仕事とエネルギーの関係: 電子が電位差のある空間を移動するとき、静電気力から仕事をされ、運動エネルギーが変化する。
  4. 光の強度と光子数: 光の強度(明るさ)は、単位時間あたりに照射される光子の数に比例する。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)~(3)では、光電効果に関する基本的な定義や法則を数式で表現します。
  2. (4)(5)では、アインシュタインの光電効果の式を、実験1と実験2のそれぞれに適用します。
  3. (6)では、(4)と(5)で立てた2つの式を連立させ、未知数である仕事関数\(W\)を消去してプランク定数\(h\)を求めます。
  4. (7)以降は、与えられた具体的な数値を代入して計算を実行し、光電効果の性質について考察します。

問(1)

思考の道筋とポイント
金属に特定の振動数以上の光を当てると、電子が表面から飛び出す現象の名前を答える問題です。これは物理学における基本的な用語です。
この設問における重要なポイント

  • 現象の定義を正確に覚えているか。

具体的な解説と立式
金属に光を照射した際に、金属の表面から電子が放出される現象を「光電効果」と呼びます。

結論と吟味

現象名は光電効果です。

解答 (1) 光電効果

問(2)

思考の道筋とポイント
光量子仮説によれば、光はエネルギーを持つ粒子の集まりです。光子1個のエネルギーは、プランク定数\(h\)と振動数\(\nu\)を用いて \(E=h\nu\) と表されます。また、光の速さ\(c\)、波長\(\lambda\)、振動数\(\nu\)の間には \(c=\lambda\nu\) の関係があります。これらの式を組み合わせて、エネルギーを波長\(\lambda_1\)で表します。
この設問における重要なポイント

  • 光子のエネルギーの公式: \(E=h\nu\)。
  • 波長と振動数の関係: \(c=\lambda\nu\)。

具体的な解説と立式
波長\(\lambda_1\)の光の振動数を\(\nu_1\)とすると、\(c=\lambda_1\nu_1\) より \(\nu_1 = c/\lambda_1\)。
光子1個のエネルギー\(E_1\)は、
$$ E_1 = h\nu_1 = h\frac{c}{\lambda_1} $$

使用した物理公式

  • 光子のエネルギー: \(E=h\nu\)
  • 波の関係式: \(c=\lambda\nu\)
計算過程

立式がそのまま答えとなります。

結論と吟味

エネルギー\(E_1\)は \(\frac{hc}{\lambda_1}\) です。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{hc}{\lambda_1}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
「阻止電圧」とは、光電効果で飛び出した電子が、コレクター電極Pに到達するのをちょうど妨げるためにかける逆電圧のことです。最もエネルギーの大きい光電子(最大運動エネルギー\(E_{1\text{最大}}\)を持つ)が、この阻止電圧による電場に逆らって仕事をされ、ちょうどエネルギーが0になると考えます。仕事とエネルギーの関係を用います。
この設問における重要なポイント

  • 阻止電圧\(V_1\)の意味:最大運動エネルギーを持つ電子を止めるための電圧。
  • 仕事とエネルギーの関係:\(\Delta K = W\)。
  • 静電気力がする仕事:\(W=qV\)。

具体的な解説と立式
極板Kから最大運動エネルギー\(E_{1\text{最大}}\)で飛び出した電子(電荷\(-e\))が、電極Pに到達する直前で速さが0になるときを考えます。このとき、電極Pの電位は、Kを基準として \(-V_1\) となっています。
電子がKからPへ移動する間に静電気力がする仕事は、運動エネルギーの変化に等しいので、
$$ 0 – E_{1\text{最大}} = (-e) \times (V_P – V_K) = (-e) \times (-V_1 – 0) $$
これは、電子が電位差\(-V_1\)に逆らって運動することで、\(eV_1\)だけのエネルギーを失うことを意味します。したがって、失う前のエネルギーは\(eV_1\)であったと考えられます。
$$ E_{1\text{最大}} = eV_1 $$

使用した物理公式

  • 仕事と運動エネルギーの関係
計算過程

立式がそのまま答えとなります。

計算方法の平易な説明

一番元気な電子(最大エネルギーを持つ電子)が、ゴール(電極P)にたどり着くのをギリギリで阻止するのが「阻止電圧」です。電子はマイナスの電荷を持っているので、ゴールをマイナスの電位にしておくと反発力を受けて減速します。この反発力に逆らって進むことで、電子は運動エネルギーを失います。失うエネルギーの大きさは \(e \times (\text{電圧})\) で計算できます。したがって、電子がもともと持っていた最大エネルギーは \(eV_1\) となります。

結論と吟味

光電子の最大エネルギーは \(E_{1\text{最大}} = eV_1\) です。

解答 (3) \(eV_1\)

問(4)

思考の道筋とポイント
アインシュタインの光電効果の式は、光のエネルギーが、電子を金属から取り出す仕事(仕事関数\(W\))と、飛び出した電子の運動エネルギーに分配されるというエネルギー保存則を表したものです。この式に、(2)と(3)で求めた光子のエネルギーと電子の最大運動エネルギーを代入します。
この設問における重要なポイント

  • アインシュタインの光電効果の式: \((\text{光子のエネルギー}) = (\text{仕事関数}) + (\text{電子の最大運動エネルギー})\)。

具体的な解説と立式
アインシュタインの光電効果の式は、
$$ E_1 = W + E_{1\text{最大}} $$
この式を仕事関数\(W\)について解きます。
$$ W = E_1 – E_{1\text{最大}} $$

使用した物理公式

  • アインシュタインの光電効果の式: \(h\nu = W + K_{\text{最大}}\)
計算過程

(2)と(3)の結果を代入します。
$$
\begin{aligned}
W = \frac{hc}{\lambda_1} – eV_1
\end{aligned}
$$

結論と吟味

仕事関数\(W\)は \(\frac{hc}{\lambda_1} – eV_1\) です。

解答 (4) \(\displaystyle\frac{hc}{\lambda_1} – eV_1\)

問(5)

思考の道筋とポイント
仕事関数\(W\)は、光を当てる金属の種類によって決まる固有の値であり、照射する光の波長にはよりません。したがって、波長\(\lambda_2\)、阻止電圧\(V_2\)の光を照射した場合でも、(4)と同様にアインシュタインの光電効果の式を立てることができます。
この設問における重要なポイント

  • 仕事関数は金属に固有の値で、光の波長によらない。

具体的な解説と立式
波長\(\lambda_2\)の光子エネルギーは \(E_2 = \frac{hc}{\lambda_2}\)、このときの光電子の最大運動エネルギーは \(E_{2\text{最大}} = eV_2\) です。
アインシュタインの光電効果の式を適用すると、
$$ E_2 = W + E_{2\text{最大}} $$
したがって、仕事関数\(W\)は、
$$ W = E_2 – E_{2\text{最大}} $$

使用した物理公式

  • アインシュタインの光電効果の式
計算過程

$$
\begin{aligned}
W = \frac{hc}{\lambda_2} – eV_2
\end{aligned}
$$

結論と吟味

仕事関数\(W\)は \(\frac{hc}{\lambda_2} – eV_2\) です。

解答 (5) \(\displaystyle\frac{hc}{\lambda_2} – eV_2\)

問(6)

思考の道筋とポイント
(4)と(5)で求めた仕事関数\(W\)の表式は、同じ金属に対するものなので、等しいはずです。この2つの式を等しいとおき、プランク定数\(h\)について解きます。
この設問における重要なポイント

  • (4)と(5)の式を連立させ、\(W\)を消去する。

具体的な解説と立式
(4)と(5)の結果より、仕事関数\(W\)について次式が成り立ちます。
$$ \frac{hc}{\lambda_1} – eV_1 = \frac{hc}{\lambda_2} – eV_2 $$
この式をプランク定数\(h\)について整理します。
$$ eV_2 – eV_1 = \frac{hc}{\lambda_2} – \frac{hc}{\lambda_1} $$
$$ e(V_2 – V_1) = hc\left(\frac{1}{\lambda_2} – \frac{1}{\lambda_1}\right) $$

使用した物理公式

  • (4), (5)の結果
計算過程

上記の関係式を\(h\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
h &= \frac{e(V_2 – V_1)}{c\left(\frac{1}{\lambda_2} – \frac{1}{\lambda_1}\right)} \\[2.0ex]&= \frac{e(V_2 – V_1)}{c\left(\frac{\lambda_1 – \lambda_2}{\lambda_1 \lambda_2}\right)} \\[2.0ex]&= \frac{e(V_2 – V_1)\lambda_1 \lambda_2}{c(\lambda_1 – \lambda_2)}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

波長の違う2種類の光で実験を行うことで、仕事関数という未知の値を消去し、物理学の基本定数であるプランク定数hを求めることができます。2つの実験結果から得られた2つの方程式を連立させて、hを求めるだけです。

結論と吟味

プランク定数\(h\)は \(\frac{e(V_2 – V_1)\lambda_1 \lambda_2}{c(\lambda_1 – \lambda_2)}\) と表せます。

解答 (6) \(\displaystyle\frac{e(V_2 – V_1)\lambda_1 \lambda_2}{c(\lambda_1 – \lambda_2)}\)

問(7)

思考の道筋とポイント
(6)で導出した\(h\)の式と、(4)で導出した\(W\)の式に、与えられた具体的な数値を代入して計算します。仕事関数\(W\)は、まずジュール[J]で計算し、その後で電子ボルト[eV]に換算します。
この設問における重要なポイント

  • 単位の換算: 1 eV = \(1.6 \times 10^{-19}\) J。
  • 有効数字に注意して計算する。

具体的な解説と立式
プランク定数\(h\)の計算:
$$ h = \frac{e(V_2 – V_1)\lambda_1 \lambda_2}{c(\lambda_1 – \lambda_2)} $$
仕事関数\(W\)の計算:
$$ W = \frac{hc}{\lambda_1} – eV_1 $$

使用した物理公式

  • (6), (4)の結果
計算過程

\(h\)の計算:
$$
\begin{aligned}
h &= \frac{(1.6 \times 10^{-19})(0.70 – 0.10)(5.0 \times 10^{-7})(4.0 \times 10^{-7})}{(3.0 \times 10^8)(5.0 \times 10^{-7} – 4.0 \times 10^{-7})} \\[2.0ex]&= \frac{1.6 \times 0.60 \times 20 \times 10^{-33}}{3.0 \times 10^8 \times 1.0 \times 10^{-7}} \\[2.0ex]&= \frac{19.2 \times 10^{-33}}{3.0 \times 10^1} \\[2.0ex]&= 6.4 \times 10^{-34} \, \text{J}\cdot\text{s}
\end{aligned}
$$
\(W\)の計算:
まずジュールで計算します。
$$
\begin{aligned}
W &= \frac{(6.4 \times 10^{-34})(3.0 \times 10^8)}{5.0 \times 10^{-7}} – (1.6 \times 10^{-19})(0.10) \\[2.0ex]&= \frac{19.2 \times 10^{-26}}{5.0 \times 10^{-7}} – 0.16 \times 10^{-19} \\[2.0ex]&= 3.84 \times 10^{-19} – 0.16 \times 10^{-19} \\[2.0ex]&= 3.68 \times 10^{-19} \, \text{J}
\end{aligned}
$$
次に電子ボルト[eV]に換算します。
$$
\begin{aligned}
W \, [\text{eV}] &= \frac{3.68 \times 10^{-19} \, \text{J}}{1.6 \times 10^{-19} \, \text{J/eV}} \\[2.0ex]&= 2.3 \, \text{eV}
\end{aligned}
$$

結論と吟味

\(h = 6.4 \times 10^{-34}\) J・s, \(W = 2.3\) eV。

解答 (7) \(h = 6.4 \times 10^{-34}\) J・s, \(W = 2.3\) eV

問(8)

思考の道筋とポイント
毎秒照射される光のエネルギー(ワット数)が与えられています。これを、光子1個あたりのエネルギーで割ることで、毎秒何個の光子が当たっているかを計算できます。
この設問における重要なポイント

  • \((\text{総エネルギー}) = (\text{光子1個のエネルギー}) \times (\text{光子の数})\)

具体的な解説と立式
波長\(\lambda_2\)の光子1個のエネルギー\(E_2\)は、
$$ E_2 = \frac{hc}{\lambda_2} $$
毎秒の照射エネルギーを\(P_{in}\)、毎秒当たる光子の数を\(n\)とすると、
$$ P_{in} = n E_2 $$

使用した物理公式

  • 光子のエネルギー
計算過程

$$
\begin{aligned}
E_2 &= \frac{(6.4 \times 10^{-34})(3.0 \times 10^8)}{4.0 \times 10^{-7}} \\[2.0ex]&= 4.8 \times 10^{-19} \, \text{J}
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
n &= \frac{P_{in}}{E_2} \\[2.0ex]&= \frac{2.4 \times 10^{-3}}{4.8 \times 10^{-19}} \\[2.0ex]&= 0.5 \times 10^{16} \\[2.0ex]&= 5.0 \times 10^{15} \, \text{個/s}
\end{aligned}
$$

結論と吟味

毎秒 \(5.0 \times 10^{15}\) 個の光子が当たっています。

解答 (8) \(5.0 \times 10^{15}\) 個

問(9)

思考の道筋とポイント
「照射光の光量を増加」させるとは、光の「明るさ」を増すことです。光の粒子説では、これは単位時間あたりに照射される「光子の数」が増えることを意味します。

  • 飽和電流の変化: 当たる光子の数が増えれば、飛び出す光電子の数も増えるため、光電流の最大値(飽和電流)は増加します。
  • 阻止電圧の変化: 光子の1個あたりのエネルギーは、波長\(\lambda_1\)が変わらない限り変化しません。したがって、飛び出す光電子の最大運動エネルギーも変わらず、それを阻止するための電圧\(V_1\)も変化しません。

この設問における重要なポイント

  • 光の強さ(光量) ∝ 光子の数 ∝ 飽和電流。
  • 光子のエネルギー ∝ 振動数(波長で決まる) ∝ 光電子の最大運動エネルギー ∝ 阻止電圧。

具体的な解説と立式

  • 光量を増やすと、光子の数が増え、光電子の数も増えるため、飽和電流\(I_1\)は大きくなります。
  • 波長\(\lambda_1\)は変えないので、光子1個のエネルギーは変わらず、光電子の最大運動エネルギーも変わりません。したがって、阻止電圧\(-V_1\)は変化しません。

この2点を反映したグラフを描きます。

結論と吟味

グラフは、阻止電圧\(-V_1\)の位置は変わらず、飽和電流の値だけが元の\(I_1\)より大きくなるような形に変化します。

解答 (9) 阻止電圧は変わらず、飽和電流が大きくなるグラフ。

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • アインシュタインの光電効果の式:
    • 核心: この問題全体を貫く最も重要な法則です。光子1個が持つエネルギー \(h\nu\) が、電子を金属表面から引き出すための最小仕事(仕事関数 \(W\))と、飛び出した電子の運動エネルギーの最大値 \(K_{\text{最大}}\) に分配される、というエネルギー保存則を表します。
      $$ h\nu = W + K_{\text{最大}} $$
    • 理解のポイント: (4)と(5)はこの式を異なる波長の光に適用する問題です。この式を理解することが、光電効果の問題を解く上での絶対的な出発点となります。
  • 阻止電圧と運動エネルギーの関係:
    • 核心: 光電効果で飛び出した最も元気な電子(運動エネルギー \(K_{\text{最大}}\))を、ちょうど止めるために必要な逆電圧が阻止電圧 \(V_0\) です。このとき、電子が電場に逆らってする仕事 \(eV_0\) が、電子の運動エネルギーに等しくなります。
      $$ K_{\text{最大}} = eV_0 $$
    • 理解のポイント: (3)はこの関係を問う問題です。これにより、測定可能な「電圧」という量を、ミクロな世界の「エネルギー」という量に変換することができます。
  • 光の二重性(粒子性の側面):
    • 核心: 光電効果は、光を波として考えると説明できない現象(光の強度が弱くても瞬時に電子が飛び出すなど)であり、「光はエネルギー \(h\nu\) を持つ粒子の集まりである」という光量子仮説(光の粒子性)を導入することで初めて説明できます。
    • 理解のポイント: (9)で問われる「光量を増やす」という操作は、粒子説では「光子の数を増やす」ことに対応し、その結果「飛び出す電子の数が増える(=飽和電流が増える)」と解釈されます。光子1個のエネルギーは変わらないため、阻止電圧は変化しません。この関係性の理解が重要です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 限界振動数・限界波長: 電子がギリギリ飛び出す条件(\(K_{\text{最大}}=0\))のときの振動数(限界振動数 \(\nu_0\))や波長(限界波長 \(\lambda_0\))を求める問題。\(h\nu_0 = W\) や \(hc/\lambda_0 = W\) の関係を使います。
    • グラフの読み取り問題: 横軸に振動数\(\nu\)、縦軸に最大運動エネルギー\(K_{\text{最大}}\)をとったグラフが与えられる問題。\(K_{\text{最大}} = h\nu – W\) という一次関数の形から、グラフの「傾き」がプランク定数\(h\)、「y切片」が仕事関数\(W\)の負の値に対応することを利用します。
    • X線の発生(逆光電効果): 高速の電子を金属にぶつけてX線(光子)を発生させる現象。電子の運動エネルギーが光子のエネルギーに変換されるという、光電効果と逆のプロセスを考えます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. エネルギーの流れを追う: 「光子のエネルギー → (仕事関数)+(電子の運動エネルギー) → (電場による仕事)→ 最終的なエネルギー」という一連のエネルギー変換のプロセスを意識します。
    2. 何が一定で、何が変化するか: 複数の実験を比較する問題((4)と(5)など)では、何が共通の物理量(この場合は仕事関数\(W\))で、何が変化した変数(波長\(\lambda\)と阻止電圧\(V\))なのかを明確に整理することが、立式の第一歩です。
    3. 単位に注意する: エネルギーの単位としてジュール[J]と電子ボルト[eV]が混在することが多いです。\(1 \text{ eV} = e \times (1 \text{ V}) \approx 1.6 \times 10^{-19} \text{ J}\) の関係を使い、計算の際はどちらかの単位に統一する必要があります。(7)がその典型例です。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 仕事関数と阻止電圧の混同:
    • 誤解: 仕事関数\(W\)と、阻止電圧\(V_0\)によって失われるエネルギー\(eV_0\)を混同してしまう。
    • 対策: 仕事関数\(W\)は「金属から電子を“剥がす”ためのエネルギー」、\(eV_0\)は「飛び出した電子を“止める”ためのエネルギー」と、役割を明確に区別しましょう。これらは全く別の物理量です。
  • 光の強さとエネルギーの混同:
    • 誤解: 光を強くする(明るくする)と、飛び出す電子のエネルギーも大きくなると考えてしまう。
    • 対策: 光の「強さ(強度)」は光子の「数」に対応し、光の「色(振動数・波長)」が光子1個の「エネルギー」に対応します。明るい赤色の光(エネルギー小、数が多い)と、暗い紫色の光(エネルギー大、数が少ない)をイメージすると区別しやすいです。電子1個の最大エネルギーを決めるのは光の色(振動数)であり、光の強さ(光子の数)ではありません。
  • 単位換算のミス:
    • 誤解: (7)で、仕事関数をジュールで計算した値をそのまま電子ボルトの答えとしてしまう。
    • 対策: [eV]という単位は、それ自体がエネルギーの単位です。ジュール[J]から電子ボルト[eV]に換算するには、電気素量\(e\)の数値(\(1.6 \times 10^{-19}\))で割る必要があります。常に単位を意識して計算を進める習慣をつけましょう。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • エネルギー準位図: エネルギーの大きさを縦軸にとった図を描くと、現象が非常に分かりやすくなります。
      1. 一番上に光子のエネルギー\(E=h\nu\)のレベルを描く。
      2. そこから仕事関数\(W\)だけ下がったレベルが、金属から飛び出した直後の電子の最大運動エネルギー\(K_{\text{最大}}\)になる。
      3. さらに阻止電圧\(V_0\)をかけると、\(eV_0\)だけエネルギーが失われ、最終的なエネルギーが0になる。

      この図を描くことで、\(h\nu = W + K_{\text{最大}}\) や \(K_{\text{最大}} = eV_0\) といった関係が一目瞭然となります。

  • 図を描く際に注意すべき点:
    • I-V特性曲線の解釈: 図2のグラフの物理的な意味を正確に理解することが重要です。
      • 横軸(V): コレクターPの電位。負の値は電子を減速させる逆電圧。
      • 縦軸(I): 光電流。単位時間あたりにPに到達した電子の数に比例。
      • \(V=-V_1\): 阻止電圧。電流が0になる点。
      • \(I=I_1\): 飽和電流。飛び出した電子がすべてPに到達したときの電流。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(E=hc/\lambda\) (問2):
    • 選定理由: 光子のエネルギーを、与えられた変数(波長\(\lambda\))で表現するため。
    • 適用根拠: 光量子仮説 \(E=h\nu\) と、波の基本式 \(c=\lambda\nu\) を組み合わせたものです。
  • \(K_{\text{最大}} = eV_1\) (問3):
    • 選定理由: 測定されたマクロな量(阻止電圧\(V_1\))から、ミクロな粒子のエネルギーを求めるため。
    • 適用根拠: 電荷\(-e\)の粒子が電位差\(-V_1\)の区間を移動するときに、静電気力がする仕事が運動エネルギーの変化に等しい、という仕事とエネルギーの関係に基づきます。
  • \(W = hc/\lambda_1 – eV_1\) (問4):
    • 選定理由: 仕事関数を、光子のエネルギーと電子の最大運動エネルギーから求めるため。
    • 適用根拠: アインシュタインの光電効果の式 \(h\nu = W + K_{\text{最大}}\) を、\(W\)について解き、(2)と(3)の結果を代入したものです。
  • \(h = \frac{e(V_2 – V_1)\lambda_1 \lambda_2}{c(\lambda_1 – \lambda_2)}\) (問6):
    • 選定理由: 2つの異なる実験データから、未知の仕事関数\(W\)を消去し、普遍定数であるプランク定数\(h\)を求めるため。
    • 適用根拠: 仕事関数\(W\)は金属に固有の値であり、実験条件(波長)によらない、という物理的事実を利用して、(4)と(5)で立てた2つの式を連立させた結果です。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1)~(3) 基本法則の確認:
    • 戦略: 光電効果に関する基本用語と公式を正しく記述する。
    • フロー: ①(1)現象名を答える。②(2)光子のエネルギーを\(h, c, \lambda_1\)で表す。③(3)最大運動エネルギーを\(e, V_1\)で表す。
  2. (4)~(6) 光電効果の式の応用:
    • 戦略: 2つの実験データにアインシュタインの式を適用し、連立させて\(h\)を求める。
    • フロー: ①(4)実験1について \(h\nu_1 = W + eV_1\) を立て、\(W\)について解く。②(5)実験2について \(h\nu_2 = W + eV_2\) を立て、\(W\)について解く。③(6)①と②の式を等しいとおき、\(h\)について解く。
  3. (7)~(9) 具体的な計算と解釈:
    • 戦略: 与えられた数値を代入し、光の粒子性の解釈を問う。
    • フロー: ①(7)(6)と(4)の式に数値を代入し、\(h\)と\(W\)を計算。単位換算に注意。②(8)照射エネルギーを光子1個のエネルギーで割り、光子数を計算。③(9)光量(光子の数)と飽和電流、波長(光子のエネルギー)と阻止電圧の関係を考え、グラフの変化を描く。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 指数の計算: (7)や(8)では、\(10\)のべき乗の計算が頻出します。\(10^a \times 10^b = 10^{a+b}\), \(10^a / 10^b = 10^{a-b}\) といった指数法則を正確に使いこなしましょう。
  • 分数の計算: (6)の\(h\)の式は複雑な分数の形をしています。分母と分子をそれぞれ計算してから最後に割り算を行うなど、計算手順を工夫するとミスが減ります。
  • 有効数字: (7)以降は具体的な数値計算です。問題文で特に指定がない場合でも、与えられた数値の有効数字(この場合は2桁または3桁)に合わせて、最終的な答えの桁数を適切に処理する習慣をつけましょう。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (6) \(h\)の式: \(V_2 > V_1\) であり、\(\lambda_1 > \lambda_2\)(波長が短いほどエネルギーが高く、阻止電圧も高くなる)なので、式の分母・分子ともに正の値となり、\(h\)が正の定数として求まることが確認できます。
    • (7) \(h, W\)の値: 計算して得られたプランク定数\(h\)や仕事関数\(W\)が、物理の教科書に載っている標準的な値(\(h \approx 6.63 \times 10^{-34}\) J・s, 金属の仕事関数は数eV程度)と大きくかけ離れていないかを確認するのも良い検算になります。
  • グラフの物理的意味:
    • (9)で、光量を増やしても阻止電圧が変わらないという結果は、「光子のエネルギーは光の強度によらない」という光量子仮説の根幹を示す重要な結論です。なぜグラフがそのように変化するのか、物理的な意味を自分の言葉で説明できるようにしておきましょう。
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