「良問の風」攻略ガイド(96〜100問):重要問題の解き方と物理の核心をマスター!

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問題96 (京都府立大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、水面に広がった油膜に光が垂直に入射したときの「薄膜干渉」に関するものです。油膜の表面で反射する光と、油膜の裏面(水との境界)で反射する光が干渉し合うことで、特定の条件下で光が強め合ったり弱め合ったりします。この現象は、シャボン玉が虹色に見えたり、水面に浮いた油が色づいて見えたりする原因と同じです。

問題では、まず油膜中での光の速さと波長を求め、次に特定の波長の光が強め合うための油膜の厚さを計算します。最後に、2つの異なる波長の光に対して、一方が強め合い、もう一方が弱め合うような油膜の最小の厚さを求める問題へと発展します。

与えられた条件
  • 油膜が水面に広がっている。
  • 入射光: 空気中での波長 \(\lambda = 6.0 \times 10^{-7}\) m、油膜へ垂直に入射。
  • 屈折率:
    • 空気: \(n_{\text{空気}} = 1.0\)
    • 水: \(n_{\text{水}} = 1.3\)
    • 油膜: \(n_{\text{油}} = 1.5\)
  • 空気中の光速: \(c = 3.0 \times 10^8\) m/s
  • (4) でのもう一つの光の波長: \(\lambda_1 = 4.5 \times 10^{-7}\) m
問われていること
  1. (1) 油膜中での光の速さ \(v_{\text{油}}\) と波長 \(\lambda’_{\text{油}}\)。
  2. (2) 油膜の表面と裏面で反射した光が干渉によって強め合う、膜の最小の厚さ \(d_{\text{最小}}\)。
  3. (3) (2)の状態から厚くしていった場合、次に強め合う膜の厚さ \(d_{\text{次}}\)。
  4. (4) 波長 \(\lambda = 6.0 \times 10^{-7}\) m の光では強め合い、波長 \(\lambda_1 = 4.5 \times 10^{-7}\) m の光では弱め合う、膜の最小の厚さ \(d’_{\text{最小}}\)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題を解くためには、以下の物理法則や概念をしっかりと理解しておく必要があります。

  • 媒質中での光速と波長の変化: 光が屈折率 \(n\) の媒質に入ると、その速さ \(v\) は \(v=c/n\) に、波長 \(\lambda’\) は \(\lambda’=\lambda/n\) に変化します(\(c\) は真空中の光速、\(\lambda\) は真空中の波長。空気の屈折率はほぼ1なので、空気中での値もこれらで近似できます)。
  • 光路差: 薄膜の厚さを \(d\) とすると、膜の裏面で反射する光は表面で反射する光よりも膜中を往復する分だけ長い距離を進みます。垂直入射の場合、この幾何学的な距離の差は \(2d\) です。干渉を考える際には、この距離に屈折率 \(n\) を掛けた「光路長」\(2nd\)(または、膜中での波長 \(\lambda’\) を用いて距離 \(2d\) で考える)が重要になります。
  • 反射における位相の変化: 光が屈折率の異なる物質の境界面で反射するとき、位相が変化することがあります。
    • 屈折率が小さい媒質から大きい媒質へ進む光が境界面で反射する場合(例:空気 \(\rightarrow\) 油膜)、位相は \(\pi\) (180°) ずれます。
    • 屈折率が大きい媒質から小さい媒質へ進む光が境界面で反射する場合(例:油膜 \(\rightarrow\) 水、ただし \(n_{\text{油}} > n_{\text{水}}\) の場合)、位相は変化しません。
  • 干渉条件(強め合い・弱め合い): 2つの反射光の光路差と、反射による位相変化の有無を総合的に考慮して、光が強め合う条件(同位相で重なる)または弱め合う条件(逆位相で重なる)を数式で表します。

これらの物理法則を適用して、各設問に答えていきましょう。

問1

思考の道筋とポイント

油膜中での光の速さ \(v_{\text{油}}\) は、空気中の光速 \(c\) と油膜の屈折率 \(n_{\text{油}}\) を用いて \(v = c/n\) の関係から求められます。同様に、油膜中での波長 \(\lambda’_{\text{油}}\) は、空気中での波長 \(\lambda\) と油膜の屈折率 \(n_{\text{油}}\) を用いて \(\lambda’ = \lambda/n\) の関係から求められます。

この設問における重要なポイント

  • 屈折率 \(n\) の媒質中では、光速は \(1/n\) 倍になること。
  • 屈折率 \(n\) の媒質中では、波長は \(1/n\) 倍になること。
  • 与えられた値を正確に代入すること。

具体的な解説と立式

光が屈折率 \(n\) の媒質中を進むとき、その速さ \(v\) は、真空中の光速 \(c\)(空気の屈折率は1.0なので、空気中の光速も \(c\) とみなせます)を用いて次のように表されます。

$$v = \frac{c}{n} \quad \cdots ①$$

油膜の屈折率は \(n_{\text{油}} = 1.5\)、空気中の光速は \(c = 3.0 \times 10^8\) m/s と与えられています。したがって、油膜中での光の速さ \(v_{\text{油}}\) は、

$$v_{\text{油}} = \frac{c}{n_{\text{油}}} \quad \cdots ②$$

また、媒質中での光の波長 \(\lambda’\) は、空気中(または真空中)での波長 \(\lambda\) と屈折率 \(n\) を用いて次のように表されます。

$$\lambda’ = \frac{\lambda}{n} \quad \cdots ③$$

空気中での波長は \(\lambda = 6.0 \times 10^{-7}\) m、油膜の屈折率は \(n_{\text{油}} = 1.5\) と与えられています。したがって、油膜中での波長 \(\lambda’_{\text{油}}\) は、

$$\lambda’_{\text{油}} = \frac{\lambda}{n_{\text{油}}} \quad \cdots ④$$

使用した物理公式

  • 媒質中の光速: \(v = c/n\)
  • 媒質中の波長: \(\lambda’ = \lambda/n\)
計算過程

式②に与えられた値を代入して、油膜中での光の速さ \(v_{\text{油}}\) を求めます。

$$v_{\text{油}} = \frac{3.0 \times 10^8 \text{ [m/s]}}{1.5} = \frac{30 \times 10^7 \text{ [m/s]}}{15} = 2.0 \times 10^8 \text{ [m/s]}$$

次に、式④に与えられた値を代入して、油膜中での波長 \(\lambda’_{\text{油}}\) を求めます。

$$\lambda’_{\text{油}} = \frac{6.0 \times 10^{-7} \text{ [m]}}{1.5} = \frac{60 \times 10^{-8} \text{ [m]}}{15} = 4.0 \times 10^{-7} \text{ [m]}$$

計算方法の平易な説明
  1. 光は、空気中よりも油膜のような物質の中では進む速さが遅くなります。どれくらい遅くなるかは「屈折率」という数値で表され、この油膜の屈折率は1.5です。油膜の中での光の速さを求めるには、空気中の光の速さ (\(3.0 \times 10^8\) m/s) を屈折率 (1.5) で割ります。
  2. 光の波の長さ(波長)も、油膜の中では空気中よりも短くなります。これも同様に、空気中での波長 (\(6.0 \times 10^{-7}\) m) を屈折率 (1.5) で割ることで計算できます。
結論と吟味

油膜中での光の速さは \(v_{\text{油}} = 2.0 \times 10^8\) m/s、油膜中での波長は \(\lambda’_{\text{油}} = 4.0 \times 10^{-7}\) m です。

屈折率が1より大きい媒質中では、光速は真空中(空気中)よりも遅くなり、波長も短くなるという一般的な物理法則と一致しています。計算結果も妥当です。

解答 (1) 速さ: \(2.0 \times 10^8\) m/s, 波長: \(4.0 \times 10^{-7}\) m

問2

思考の道筋とポイント

油膜の表面で反射する光と裏面で反射する光の干渉を考えます。まず、それぞれの反射面で位相が変化するかどうかを確認します。次に、油膜の厚さを \(d\) として、裏面で反射する光が余分に進む距離(光路差)を計算します。これらの情報をもとに、2つの反射光が強め合う条件式を立て、厚さ \(d\) が最小となる場合を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 反射における位相変化のルール:
    • 屈折率が小 \(\rightarrow\) 大の境界面: 位相が \(\pi\) ずれる。
    • 屈折率が大 \(\rightarrow\) 小の境界面: 位相は変化しない。
  • 本問での具体的な位相変化:
    • 油膜表面 (空気 \(n_{\text{空気}}=1.0\) \(\rightarrow\) 油膜 \(n_{\text{油}}=1.5\)): 位相が \(\pi\) ずれる。
    • 油膜裏面 (油膜 \(n_{\text{油}}=1.5\) \(\rightarrow\) 水 \(n_{\text{水}}=1.3\)): 位相は変化しない (\(n_{\text{油}} > n_{\text{水}}\)のため)。
  • 光路差: 油膜の厚さを \(d\)、屈折率を \(n_{\text{油}}\) とすると、垂直入射の場合の光路差は \(2n_{\text{油}}d\)。
  • 強め合いの条件: 片方の反射でのみ位相が \(\pi\) ずれる場合、光路差が空気中波長 \(\lambda\) の半整数倍、つまり \(2n_{\text{油}}d = (m + \frac{1}{2})\lambda\) (ただし \(m=0, 1, 2, \ldots\)) のときに強め合う。
  • 最小の厚さを求めるには、整数 \(m\) の最小値 (\(m=0\)) を使う。

具体的な解説と立式

油膜の厚さを \(d\) とします。光は油膜の表面と裏面(水との境界面)で反射し、これら2つの反射光が干渉します。

1. 反射における位相変化の確認:

  • 油膜表面での反射: 光は空気(屈折率 \(n_{\text{空気}} = 1.0\))から油膜(屈折率 \(n_{\text{油}} = 1.5\))へ入射します。\(n_{\text{空気}} < n_{\text{油}}\) なので、屈折率が小さい媒質から大きい媒質への入射における反射であり、位相は \(\pi\) (180°) ずれます。
  • 油膜裏面での反射: 光は油膜(屈折率 \(n_{\text{油}} = 1.5\))から水(屈折率 \(n_{\text{水}} = 1.3\))へ入射します。\(n_{\text{油}} > n_{\text{水}}\) なので、屈折率が大きい媒質から小さい媒質への入射における反射であり、位相は変化しません。

2. 光路差の計算:

油膜の裏面で反射する光は、表面で反射する光に比べて、油膜の中を厚さ \(d\) の距離を往復する分だけ余分に進みます。光が垂直に入射しているため、この余分な幾何学的距離は \(2d\) です。干渉を考える上では、この距離に油膜の屈折率 \(n_{\text{油}}\) を掛けた光路長(光学距離)で評価します。したがって、2つの反射光の光路差は \(2n_{\text{油}}d\) となります。

3. 強め合いの干渉条件:

油膜表面での反射光は位相が \(\pi\) ずれ、裏面での反射光は位相が変化しません。つまり、反射の段階で2つの光の間には、もともと半波長分に相当する位相差が生じています(逆位相に近い関係)。

これらの2つの光が干渉して強め合う(同位相で重なる)ためには、光路差 \(2n_{\text{油}}d\) が、空気中での波長 \(\lambda\) の「半整数倍」である必要があります。これにより、反射による半波長分のずれと合わせて、全体として波長の整数倍のずれ(つまり同位相)となるからです。

したがって、強め合いの条件は次のように表されます。

$$2n_{\text{油}}d = \left(m + \frac{1}{2}\right)\lambda \quad (m = 0, 1, 2, \ldots) \quad \cdots ⑤$$

ここで、\(m\) は0以上の整数です。

膜の厚さ \(d\) が最小になるのは、\(m\) が最小値である \(m=0\) をとるときです。このときの厚さを \(d_0\) とすると、

$$2n_{\text{油}}d_0 = \left(0 + \frac{1}{2}\right)\lambda = \frac{1}{2}\lambda$$

これを \(d_0\) について解くと、

$$d_0 = \frac{\lambda}{4n_{\text{油}}} \quad \cdots ⑥$$

使用した物理公式

  • 光路差: \(2nd\) (垂直入射の薄膜)
  • 反射における位相変化の規則
  • 薄膜干渉の強め合いの条件(片側反射で位相が\(\pi\)ずれる場合): \(2nd = (m + \frac{1}{2})\lambda\)
計算過程

式⑥に、空気中での波長 \(\lambda = 6.0 \times 10^{-7}\) m と油膜の屈折率 \(n_{\text{油}} = 1.5\) を代入して、膜の最小の厚さ \(d_0\) を求めます。

$$d_0 = \frac{6.0 \times 10^{-7} \text{ [m]}}{4 \times 1.5}$$
$$d_0 = \frac{6.0 \times 10^{-7} \text{ [m]}}{6.0}$$
$$d_0 = 1.0 \times 10^{-7} \text{ [m]}$$

計算方法の平易な説明
  1. 光が油膜に入るとき、一部は油膜の表面で反射し、残りは油膜の中を進んで裏面(水との境目)で反射します。この2つの反射した光が合わさるときに干渉が起こります。
  2. 油膜の表面で反射する光は、反射の瞬間に波のタイミングが半波長分ズレます(位相が\(\pi\)変化)。一方、油膜の裏面で反射する光は、タイミングはズレません(位相変化なし)。
  3. 裏面で反射した光は、油膜の中を往復する分だけ余計に距離を進みます。この距離の差(光路差)が、波長の半分、1.5倍、2.5倍…という「半整数倍」になると、表面反射での半波長分のズレと合わさって、結果的に2つの光がピッタリ同じタイミング(同位相)で強め合います。
  4. 一番薄い膜で強め合うのは、この光路差が波長のちょうど0.5倍になるときです。この条件から厚さ \(d\) を計算します。式で書くと \(2 \times (\text{油膜の屈折率}) \times d = (0 + 0.5) \times (\text{空気中の波長})\) となります。
結論と吟味

油膜の表面と裏面で反射した光が干渉によって強め合う膜の最小の厚さは \(1.0 \times 10^{-7}\) m です。

この厚さのとき、光路差 \(2n_{\text{油}}d_0\) は \(\lambda/2\) となります。表面反射で位相が \(\pi\)(半波長分)ずれているため、光路差も半波長分であることで、合計で1波長分のずれとなり、結果として2つの波は同位相で重なり強め合います。この理解は物理的に正しいです。

解答 (2) \(1.0 \times 10^{-7}\) m

問3

思考の道筋とポイント

問2で用いた強め合いの条件式 \(2n_{\text{油}}d = (m + \frac{1}{2})\lambda\) を再び使います。最小の厚さは \(m=0\) の場合に対応していました。油膜の厚さをこの状態から徐々に厚くしていった場合、「次に」強め合うのは、整数 \(m\) が次に大きい値、つまり \(m=1\) のときに対応します。この条件から膜の厚さ \(d_1\) を計算します。

この設問における重要なポイント

  • 強め合いの条件式 \(2n_{\text{油}}d = (m + \frac{1}{2})\lambda\) を引き続き使用すること。
  • 「最小」の次は \(m=0\) の次の整数である \(m=1\) に対応することを理解すること。
  • 計算を正確に行うこと。

具体的な解説と立式

強め合いの条件式は、問2で導出した式⑤と同じです。

$$2n_{\text{油}}d = \left(m + \frac{1}{2}\right)\lambda \quad (m = 0, 1, 2, \ldots)$$

問2では、膜の厚さが最小となる \(m=0\) の場合を考えました。このときの厚さを \(d_0\) とすると \(d_0 = \displaystyle\frac{\lambda}{4n_{\text{油}}}\) でした。

油膜の厚さを \(d_0\) の状態から徐々に厚くしていくと、次に強め合いの条件を満たすのは、整数 \(m\) が次に大きい値である \(m=1\) のときです。このときの膜の厚さを \(d_1\) とすると、

$$2n_{\text{油}}d_1 = \left(1 + \frac{1}{2}\right)\lambda = \frac{3}{2}\lambda$$

これを \(d_1\) について解くと、

$$d_1 = \frac{3\lambda}{4n_{\text{油}}} \quad \cdots ⑦$$

使用した物理公式

  • 薄膜干渉の強め合いの条件(片側反射で位相が\(\pi\)ずれる場合): \(2nd = (m + \frac{1}{2})\lambda\)
計算過程

式⑦に、空気中での波長 \(\lambda = 6.0 \times 10^{-7}\) m と油膜の屈折率 \(n_{\text{油}} = 1.5\) を代入して、次に強め合う膜の厚さ \(d_1\) を求めます。

$$d_1 = \frac{3 \times (6.0 \times 10^{-7} \text{ [m]})}{4 \times 1.5}$$
$$d_1 = \frac{18.0 \times 10^{-7} \text{ [m]}}{6.0}$$
$$d_1 = 3.0 \times 10^{-7} \text{ [m]}$$

これは、問2で求めた最小の厚さ \(d_0 = 1.0 \times 10^{-7}\) m のちょうど3倍 (\(d_1 = 3d_0\)) になっています。

計算方法の平易な説明
  1. 問2で、膜が一番薄くて光が強め合うのは、条件式の \(m\) という番号が 0 のときでした。
  2. 膜をだんだん厚くしていくと、次にまた光が強め合うのは、この \(m\) という番号が次に大きい 1 になったときです。
  3. 問2で使った強め合いの条件式 \(2 \times (\text{油膜の屈折率}) \times d = (m + 0.5) \times (\text{空気中の波長})\) に、今度は \(m=1\) を代入して、そのときの厚さ \(d\) を計算します。
結論と吟味

油膜の厚さを前問の状態から厚くしていった場合、次に強め合う膜の厚さは \(3.0 \times 10^{-7}\) m です。

一般に、このような(片方の反射でのみ位相が\(\pi\)ずれる)薄膜干渉で強め合いが起こる膜の厚さ \(d\) は、\(d = \displaystyle\frac{(2m+1)\lambda}{4n_{\text{油}}}\) (\(m=0, 1, 2, \ldots\)) と表され、\(\displaystyle\frac{\lambda}{4n_{\text{油}}}\) の奇数倍 (1倍, 3倍, 5倍, …) となります。\(m=0\) のときが最小の厚さ \(d_0 = \displaystyle\frac{\lambda}{4n_{\text{油}}}\)、\(m=1\) のときが次に厚い \(d_1 = \displaystyle\frac{3\lambda}{4n_{\text{油}}}\) となり、計算結果と一致しています。

解答 (3) \(3.0 \times 10^{-7}\) m

問4

思考の道筋とポイント

この設問では、2つの異なる波長に対して、一方が強め合い、もう一方が弱め合うという条件を同時に満たす油膜の最小の厚さを求めます。
まず、波長 \(\lambda_A = 6.0 \times 10^{-7}\) m の光が強め合う条件式を立てます。次に、波長 \(\lambda_B = 4.5 \times 10^{-7}\) m の光が弱め合う条件式を立てます。このとき、反射における位相変化の扱いは問2、問3と同様です。
これらの2つの条件式を同時に満たす厚さ \(d\) の値を、それぞれの条件式に出てくる整数 \(m_A\) (強め合いの条件) と \(m_B\) (弱め合いの条件) の組み合わせを変えながら探し、その中で最小の正の \(d\) を見つけます。

この設問における重要なポイント

  • 波長 \(\lambda_A = 6.0 \times 10^{-7}\) m の光の強め合いの条件: \(2n_{\text{油}}d = (m_A + \frac{1}{2})\lambda_A\), \(m_A = 0, 1, 2, \ldots\)
  • 波長 \(\lambda_B = 4.5 \times 10^{-7}\) m の光の弱め合いの条件: 反射の位相関係は同じなので、光路差 \(2n_{\text{油}}d\) が \(\lambda_B\) の整数倍のときに弱め合う。つまり \(2n_{\text{油}}d = m_B\lambda_B\), \(m_B = 1, 2, 3, \ldots\) ( \(m_B=0\) は \(d=0\) を意味するので、物理的な厚さとしては \(m_B \ge 1\) を考える)。
  • これら2つの \(d\) に関する式を連立させ、条件を満たす整数 \(m_A, m_B\) の組と、対応する \(d\) を見つける。
  • 見つかった \(d\) の中で最小のものを選択する。

具体的な解説と立式

油膜の厚さを \(d\)、油膜の屈折率を \(n_{\text{油}} = 1.5\) とします。

条件1: 波長 \(\lambda_A = 6.0 \times 10^{-7}\) m の光が強め合う

これは問2、問3で用いた強め合いの条件と同じです。

$$2n_{\text{油}}d = \left(m_A + \frac{1}{2}\right)\lambda_A \quad (m_A = 0, 1, 2, \ldots) \quad \cdots ⑧$$

この式から、膜の厚さ \(d\) は次のように表せます。

$$d = \frac{(m_A + \frac{1}{2})\lambda_A}{2n_{\text{油}}} = \frac{(2m_A+1)\lambda_A}{4n_{\text{油}}} \quad \cdots ⑨$$

条件2: 波長 \(\lambda_B = 4.5 \times 10^{-7}\) m の光が弱め合う

反射における位相の関係(油膜表面で\(\pi\)ずれ、裏面でずれなし)は変わりません。
この2つの反射光が弱め合う(逆位相で重なる)ためには、光路差 \(2n_{\text{油}}d\) が、空気中での波長 \(\lambda_B\) の整数倍である必要があります。なぜなら、反射の段階で既に半波長分ずれているため、光路差が波長の整数倍であれば、全体として逆位相の関係が保たれるからです。

したがって、弱め合いの条件は次のように表されます。

$$2n_{\text{油}}d = m_B\lambda_B \quad (m_B = 1, 2, 3, \ldots) \quad \cdots ⑩$$

ここで \(m_B\) は正の整数です(\(m_B=0\) は \(d=0\) を意味し、物理的な膜の厚さとしては不適切なので除外します。模範解答ではこの整数を \(l\) としています)。

この式から、膜の厚さ \(d\) は次のように表せます。

$$d = \frac{m_B\lambda_B}{2n_{\text{油}}} \quad \cdots ⑪$$

私たちは、式⑨と式⑪を同時に満たす最小の \(d > 0\) を見つける必要があります。式⑨と式⑪の右辺を等しいとおくと、

$$\frac{(2m_A+1)\lambda_A}{4n_{\text{油}}} = \frac{m_B\lambda_B}{2n_{\text{油}}}$$

両辺の \(2n_{\text{油}}\) で約分すると、

$$\frac{(2m_A+1)\lambda_A}{2} = m_B\lambda_B \quad \cdots ⑫$$

この式を満たす、\(m_A \ge 0\) かつ \(m_B \ge 1\) である整数の組 \((m_A, m_B)\) を探し、それに対応する \(d\) が最小となるものを求めます。

使用した物理公式

  • 薄膜干渉の強め合いの条件(片側反射で位相が\(\pi\)ずれる場合): \(2nd = (m + \frac{1}{2})\lambda\)
  • 薄膜干渉の弱め合いの条件(片側反射で位相が\(\pi\)ずれる場合): \(2nd = m\lambda\)
計算過程

式⑫に、\(\lambda_A = 6.0 \times 10^{-7}\) m、\(\lambda_B = 4.5 \times 10^{-7}\) m を代入します。

$$\frac{(2m_A+1) \times (6.0 \times 10^{-7})}{2} = m_B \times (4.5 \times 10^{-7})$$

両辺の \(10^{-7}\) を消去します。

$$\frac{(2m_A+1) \times 6.0}{2} = m_B \times 4.5$$
$$(2m_A+1) \times 3.0 = m_B \times 4.5$$

両辺を 1.5 で割ると、

$$(2m_A+1) \times 2 = m_B \times 3$$

整理すると、

$$2(2m_A+1) = 3m_B \quad \cdots ⑬$$

ここで、\(m_A = 0, 1, 2, \ldots\) であり、\(m_B = 1, 2, 3, \ldots\) です。
この関係式を満たす整数の組 \((m_A, m_B)\) を小さい方から探します。左辺は常に偶数なので、\(3m_B\) も偶数でなければなりません。そのためには、\(m_B\) が偶数である必要があります。

  • \(m_B = 2\) のとき (最小の偶数): \(3m_B = 3 \times 2 = 6\)。
    式⑬より \(2(2m_A+1) = 6\)。この式から \(2m_A+1 = 3\) となり、さらに変形して \(2m_A = 2\)、よって \(m_A = 1\) を得ます。
    この組 \((m_A, m_B) = (1, 2)\) は条件 (\(m_A \ge 0, m_B \ge 1\)) を満たします。

このときの膜の厚さ \(d\) を計算します。式⑨に \(m_A=1\) を代入すると、

$$d = \frac{(2 \times 1 + 1) \lambda_A}{4n_{\text{油}}} = \frac{3 \times (6.0 \times 10^{-7} \text{ [m]})}{4 \times 1.5} = \frac{18.0 \times 10^{-7}}{6.0} \text{ [m]} = 3.0 \times 10^{-7} \text{ [m]}$$

または、式⑪に \(m_B=2\) を代入しても同じ結果が得られます。

$$d = \frac{2 \times \lambda_B}{2n_{\text{油}}} = \frac{2 \times (4.5 \times 10^{-7} \text{ [m]})}{2 \times 1.5} = \frac{9.0 \times 10^{-7}}{3.0} \text{ [m]} = 3.0 \times 10^{-7} \text{ [m]}$$

これが求める最小の厚さです。なぜなら、\(m_B\) の最小の偶数値である \(m_B=2\) から出発し、それに対応する \(m_A=1\) が存在したため、これより小さい \(d\) を与える \(m_B\) (つまり \(m_B < 2\)) や \(m_A\) (つまり \(m_A < 1\)) の組み合わせでは両方の条件を同時に満たせないからです(例えば \(m_A=0\) のときは \(2(1)=2\) となり \(3m_B=2\) から \(m_B=2/3\) で不適)。

計算方法の平易な説明
  1. 波長 \(6.0 \times 10^{-7}\) m の光が強め合う厚さ \(d\) の候補を考えます。これは問3までで見てきたように、\(d = (2m_A+1) \times 1.0 \times 10^{-7}\) [m] (\(m_A=0, 1, 2, \ldots\)) です。具体的には、\(1.0 \times 10^{-7}\) m, \(3.0 \times 10^{-7}\) m, \(5.0 \times 10^{-7}\) m, … となります。
  2. 次に、波長 \(4.5 \times 10^{-7}\) m の光が弱め合う厚さ \(d\) の候補を考えます。この条件は \(2 \times 1.5 \times d = m_B \times (4.5 \times 10^{-7})\) [m] (\(m_B=1, 2, 3, \ldots\)) です。これを \(d\) について解くと \(d = m_B \times 1.5 \times 10^{-7}\) [m] となります。具体的には、\(1.5 \times 10^{-7}\) m, \(3.0 \times 10^{-7}\) m, \(4.5 \times 10^{-7}\) m, … となります。
  3. 上記2つのリストを見比べて、両方に共通する一番小さい厚さ \(d\) を探します。
    • リスト1 (強め合い): \(1.0, \underline{3.0}, 5.0, \ldots\) (すべて \( \times 10^{-7}\) m 単位)
    • リスト2 (弱め合い): \(1.5, \underline{3.0}, 4.5, \ldots\) (すべて \( \times 10^{-7}\) m 単位)

    両方のリストに共通する最小の値は \(3.0 \times 10^{-7}\) m であることがわかります。

結論と吟味

波長 \(6.0 \times 10^{-7}\) m の光では強め合い、波長 \(4.5 \times 10^{-7}\) m の光では弱め合う膜の最小の厚さは \(3.0 \times 10^{-7}\) m です。

この厚さ \(d = 3.0 \times 10^{-7}\) m のとき、
波長 \(\lambda_A = 6.0 \times 10^{-7}\) m に対しては、\(2n_{\text{油}}d = 2 \times 1.5 \times (3.0 \times 10^{-7}) = 9.0 \times 10^{-7}\) m。
\((m_A + \frac{1}{2})\lambda_A = (m_A + \frac{1}{2})(6.0 \times 10^{-7})\)。
よって、\(9.0 = (m_A + 0.5) \times 6.0\) より \(m_A + 0.5 = 9.0/6.0 = 1.5\)、すなわち \(m_A = 1\)。これは \(m_A=0, 1, 2, \ldots\) の条件を満たします。
波長 \(\lambda_B = 4.5 \times 10^{-7}\) m に対しては、\(2n_{\text{油}}d = 9.0 \times 10^{-7}\) m。
\(m_B\lambda_B = m_B (4.5 \times 10^{-7})\)。
よって、\(9.0 \times 10^{-7} = m_B (4.5 \times 10^{-7})\) より \(m_B = 9.0/4.5 = 2\)。これは \(m_B=1, 2, 3, \ldots\) の条件を満たします。
したがって、計算は正しく、物理的にも妥当です。

解答 (4) \(3.0 \times 10^{-7}\) m

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 薄膜干渉の原理: 薄膜の表面と裏面からの反射光が干渉する現象です。この干渉の結果は、2つの光の経路差(光路差)と、反射時に生じる位相の変化によって決まります。
  • 光路長(光学距離): 光が媒質中を進む際に考慮する「実効的な距離」で、幾何学的な距離にその媒質の屈折率を掛けたものです (\(n \times d\))。干渉条件は、この光路長を用いて評価されます。
  • 反射における位相変化の規則:
    • 光が屈折率の小さい媒質から大きい媒質へ進んで境界面で反射するとき、位相は \(\pi\) (180°) ずれます(固定端反射に似ています)。
    • 光が屈折率の大きい媒質から小さい媒質へ進んで境界面で反射するとき、位相は変化しません(自由端反射に似ています)。
    • この問題では、空気(\(n=1.0\)) \(\rightarrow\) 油膜(\(n=1.5\)) の表面反射で位相が\(\pi\)ずれ、油膜(\(n=1.5\)) \(\rightarrow\) 水(\(n=1.3\)) の裏面反射では位相変化がない(\(n_{\text{油}} > n_{\text{水}}\) のため)ことが、干渉条件を決定する上で非常に重要でした。
  • 干渉条件式(垂直入射、片方の反射でのみ位相が\(\pi\)ずれる場合):
    • 強め合い(明線): 光路差 \(2nd\) が、真空中(または空気中)の波長 \(\lambda\) の半整数倍になるとき。
      $$2nd = \left(m + \frac{1}{2}\right)\lambda \quad (m=0, 1, 2, \ldots)$$
    • 弱め合い(暗線): 光路差 \(2nd\) が、真空中(または空気中)の波長 \(\lambda\) の整数倍になるとき。
      $$2nd = m\lambda \quad (m=1, 2, 3, \ldots \text{ または } m=0, 1, 2, \ldots \text{で解釈による})$$
      (\(n\) は膜の屈折率、\(d\) は膜の厚さ)
  • 媒質中での光速と波長の関係: \(v = c/n\), \(\lambda’ = \lambda/n\)。これらの関係を理解していると、干渉条件を膜中の波長 \(\lambda’\) と幾何学的な経路差 \(2d\) で考えることも可能です。その場合、反射による位相変化を別途考慮して条件式を立てます。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 類似問題への応用:
    • シャボン玉の膜、ニュートンリング、くさび形空気層: これらはすべて薄膜干渉の代表例であり、基本的な考え方は共通です。ただし、光路差の具体的な形や位相変化の条件が異なる場合があるので注意が必要です。
    • 反射防止膜(ノンリフレクションコーティング): カメラのレンズなどに使われ、特定の波長の光を弱め合わせることで反射を抑える技術です。
    • 高反射膜(誘電体多層膜ミラー): 特定の波長の光を選択的に強め合わせて高い反射率を得るもので、レーザーの発振器などに使われます。
    • 斜め入射の場合: 光が薄膜に斜めに入射する場合、光路差の計算が \(2nd\cos\theta’\)(ここで \(\theta’\) は膜中での光の屈折角)と少し複雑になりますが、干渉の原理や位相変化の考え方は同じです。
  • 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
    1. 媒質の屈折率の大小関係の確認: 薄膜の表面と裏面(またはその下の媒質との境界面)での反射において、それぞれ位相が\(\pi\)ずれるか、ずれないかを最初に確認します。これが干渉条件の形(条件式に \(m\lambda\) が来るか \((m+1/2)\lambda\) が来るか)を決定する最重要ポイントです。
      • 例えば、「空気 \(\rightarrow\) 膜 \(\rightarrow\) 基盤」という構造で、屈折率が \(n_{\text{空気}} < n_{\text{膜}} < n_{\text{基盤}}\) の場合(両方の反射で\(\pi\)ずれる)と、\(n_{\text{空気}} < n_{\text{膜}} > n_{\text{基盤}}\) の場合(本問のパターン:片方の反射でのみ\(\pi\)ずれる)では、強め合い・弱め合いの条件式が逆になります。
    2. 光路差の正確な計算: 垂直入射の場合は \(2nd\) ですが、問題設定に応じて正しく計算する必要があります。
    3. 問われている条件の明確化: 強め合い(明線)を問うているのか、弱め合い(暗線)を問うているのかをはっきりさせます。
    4. 「最小の厚さ」か「何番目の厚さ」かの確認: これにより、干渉条件式中の整数 \(m\) (または \(l\)) の値が特定されます。通常、「最小の厚さ」は \(m=0\) または \(m=1\) のうち、物理的に意味のある(\(d>0\)となる)最小の \(m\) に対応します。
    5. 複数の波長が関わる場合の対処: それぞれの波長に対して独立に干渉条件の式を立て、それらを連立させて解く、あるいは条件を満たす厚さをリストアップして共通項を探す、といった手法を用います。
  • 問題解決のヒントや、特に注意すべき点は何か:
    • 位相変化の有無の判断を絶対に間違えないこと。これがすべての基本です。
    • 干渉条件式の整数 \(m\) (または \(l\)) が0から始まるのか、1から始まるのかは、条件式の立て方や問題の物理的な状況(例えば \(d>0\) を求めるなど)によって変わることがあるので、注意深く吟味する必要があります。「最小の厚さ」を問われた場合は、通常 \(m=0\) から始まる式で \(d\) が正となる最小の \(m\) を選びます。
    • 計算の途中で、空気中(または真空中)の波長 \(\lambda\) と膜中での波長 \(\lambda’\) を混同しないように注意しましょう。光路差 \(2nd\) で考える場合は、常に空気中(真空中)の波長 \(\lambda\) を用いて条件式を立てるのが一般的です。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 反射における位相変化のルールの誤適用や混同:
    • 「屈折率が大きい方から小さい方へ進む光が反射すると位相が\(\pi\)ずれる」などと、ルールを逆に覚えてしまうミス。
    • 両方の反射面で位相が\(\pi\)ずれる場合や、どちらの反射面でも位相がずれない場合の干渉条件式と、本問のような片方の反射面でのみ位相が\(\pi\)ずれる場合の条件式とを混同してしまう。
      • 整理:
        • 両方の反射で位相が\(\pi\)ずれる場合、またはどちらの反射でも位相がずれない場合、強め合いの条件は \(2nd=m\lambda\)弱め合いの条件は \(2nd=(m+\frac{1}{2})\lambda\) となります。
        • 片方の反射でのみ位相が\(\pi\)ずれる場合(本問のケース)、強め合いの条件は \(2nd=(m+\frac{1}{2})\lambda\)弱め合いの条件は \(2nd=m\lambda\) となります。
    • 対策: 位相変化のルール(小→大で\(\pi\)ずれ、大→小でずれなし)を図と共に確実に記憶し、問題ごとに媒質の屈折率の関係を丁寧に確認する。
  • 光路差の計算ミス:
    • 膜の屈折率 \(n\) を掛けるのを忘れて、幾何学的な距離 \(2d\) だけで光路差を考えてしまう(ただし、膜中の波長\(\lambda’\)を用いて経路差 \(2d\) で考える場合は正しいアプローチです)。
    • 対策: 光路長は「光学的な距離」であり、屈折率を考慮に入れる必要があることを常に意識する。
  • 条件式における整数 \(m\) の開始値の誤り:
    • 強め合いや弱め合いの条件式で、整数 \(m\) が0から始まるのか、1から始まるのかを曖昧にしてしまう。特に「最小の厚さ」を求める際に、不適切な \(m\) の値を選んでしまう。
    • 対策: 通常、厚さ \(d>0\) での最初の(最も薄い)条件を探すので、\(m=0, 1, 2, \ldots\) と順に代入してみて、物理的に意味のある最小の \(d\) を与える \(m\) を選ぶようにする。弱め合いの \(2nd=m\lambda\) の形で \(m=0\) は \(d=0\) を意味するため、\(d>0\) の条件では \(m=1\) からとすることが多い。
  • (4)のような複数条件が絡む問題での混乱:
    • それぞれの波長に対する干渉条件式を正しく立てられても、それらを連立させて解く際の数学的な処理でミスをしたり、適切な整数の組 \((m_A, m_B)\) を見つけるのに手間取ったりする。
    • 条件を満たす整数の組が複数見つかった場合に、その中で「最小の厚さ」を与える組を見落としてしまう。
    • 対策: 条件式を丁寧に書き出し、それぞれの条件を満たす厚さ \(d\) の値を具体的にいくつかリストアップして比較検討する方法も有効です。連立方程式を解く場合は、整数解を求める手順を落ち着いて行う。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題における物理現象のイメージ化:
    • 光線の追跡と反射の様子: 入射した光が油膜の表面で一部反射し、残りが油膜内部を透過する。透過した光は油膜の裏面(水との境界面)でさらに一部が反射し、この反射光が再び油膜の表面から空気中へと出てくる。この2つの反射光(表面反射光と裏面反射光)が同じ場所で重なり合って干渉する、という一連の流れを頭の中で追えるようにします。
    • 位相のずれの視覚化: 光が反射する点で位相が\(\pi\)ずれる場合、波の形がその点で上下反転する(山が谷に、谷が山になる)ようなイメージを書き込むと、位相変化の影響を視覚的に理解しやすくなります(問題の解答に示されている図の右側にも、位相変化に関する模式図があります)。
    • 油膜中での波長の短縮: 光が油膜中に入ると、その波長は空気中に比べて \(1/n_{\text{油}}\) 倍に短くなる(波が密になる)イメージを持ちます。光路長 \(2n_{\text{油}}d\) というのは、この短くなった波長 \(\lambda’_{\text{油}}\) で考えると、ちょうど \(2d/\lambda’_{\text{油}}\) 個の波が経路 \(2d\) の中に入っている、と解釈できます。これが干渉条件の本質です。
  • 図を描く際の注意点:
    • 空気、油膜、水といった各媒質と、それらの屈折率 (\(n_{\text{空気}}, n_{\text{油}}, n_{\text{水}}\)) を図中に明確に記入します。
    • 光線が反射する各点(油膜表面と油膜裏面)で、位相変化が起こるのか (\(\pi\)ずれる)、起こらないのか (変化なし) をメモしておくと、条件式を立てる際に間違いにくくなります。
    • 2つの反射光の光路差が生じる部分(油膜中を往復する距離 \(2d\))を図中でハイライトするなどして明確に示します。
    • 垂直入射であることを意識し、光線は膜面に対して直角に入り、直角に出ていくように描きます(ただし、図解のためにわずかに斜めから描くことは許容されます)。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(v=c/n\) および \(\lambda’=\lambda/n\) (媒質中での光速と波長):
    • 選定理由: 光が異なる媒質中を進む際の基本的な性質を記述するために必要です。特に、油膜中での波長を知ることは、干渉現象を理解する上で役立ちます。
    • 適用の根拠: これらは屈折率 \(n\) の定義そのものから導かれる関係式です。光の振動数 \(f\) は媒質によらず一定であるという前提 (\(f = v/\lambda’ = c/\lambda\)) に基づいています。
  • 強め合い/弱め合いの干渉条件式 (例: \(2nd = (m+1/2)\lambda\) など):
    • 選定理由: 2つの反射光が干渉した結果、光が強められるのか弱められるのかを定量的に判断するために不可欠な公式です。
    • 適用の根拠: これらの条件式は、2つの光波の重ね合わせの原理に基づいています。具体的には、2つの波の光路差と、反射時に生じる可能性のある位相変化を総合的に考慮し、最終的に波が同位相で重なる(強め合い)か、逆位相で重なる(弱め合い)かで条件が決定されます。本問のように、油膜の表面反射(屈折率小→大なので固定端型、位相\(\pi\)ずれ)と裏面反射(屈折率大→小なので自由端型、位相変化なし、ただし油膜>水の場合)で位相変化の扱いが異なるため、それぞれの反射の性質を正しく評価し、それに応じた条件式を選択することが論理的な根拠となります。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 油膜中での光の基本量の計算: まず、問題の舞台となる油膜中での光の速さと波長を、与えられた屈折率と空気中の値から計算します。これは後の干渉条件の考察の基礎となります。
  2. (2) 単一波長・単一条件での最小厚さの導出(強め合い):
    • 反射のタイプの確認: 油膜の表面反射と裏面反射で、それぞれ位相変化が起こるかどうかを、屈折率の大小関係から判断します。(本問では表面で\(\pi\)ずれ、裏面でずれなし)。
    • 光路差の計算: 垂直入射なので、光路差は \(2n_{\text{油}}d\) となります。
    • 干渉条件式の立式: 上記の位相変化と光路差から、強め合いの条件式を立てます。(本問では \(2n_{\text{油}}d = (m + \frac{1}{2})\lambda\))。
    • 最小条件の適用: 条件式中の整数 \(m\) に \(m=0\) を代入して、最小の厚さ \(d_0\) を求めます。
  3. (3) 単一波長・単一条件での次の厚さの導出(強め合い):
    • (2)で立てた強め合いの条件式において、整数 \(m\) に \(m=1\) を代入して、次に強め合う厚さ \(d_1\) を求めます。
  4. (4) 複数波長・複数条件での最小厚さの導出:
    • 各条件の立式:
      • 波長 \(\lambda_A\) での強め合いの条件式を立て、厚さ \(d\) を整数 \(m_A\) を用いて表します。
      • 波長 \(\lambda_B\) での弱め合いの条件式を立て、厚さ \(d\) を整数 \(m_B\) を用いて表します。
    • 連立と整数解の探索: 2つの \(d\) の表現を等しいとおき、\(m_A\) と \(m_B\) の関係式を導き出します。この関係式を満たす適切な範囲の整数 \(m_A\) と \(m_B\) の組を、小さい値から順に探します。
    • 最小厚さの特定: 見つかった整数の組のうち、厚さ \(d\) が最小となるものを解として選択します。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 単位換算の徹底と確認: nm (ナノメートル) \(\leftrightarrow\) m (メートル) の変換 (\(1 \text{ nm} = 10^{-9} \text{ m}\)) は特に間違いやすいので、計算の最初か最後に必ず確認しましょう。
  • 屈折率の値の正確な使用: 問題文で与えられた空気、油膜、水の屈折率の値を、計算式の正しい場所に正確に代入することが重要です。どの媒質の屈折率を使うべきかを常に意識しましょう。
  • 干渉条件式中の整数 \(m\) の扱いの明確化: \(m\) が \(0\) から始まるのか、\(1\) から始まるのかは、条件式の立て方や求めるもの(例えば「最小の正の厚さ」など)によって変わります。混乱しないように、それぞれの意味を理解しておきましょう。
  • (4)のような複数条件の問題での体系的なアプローチ:
    • それぞれの条件を満たす厚さ \(d\) の値を、整数 \(m\) を変えながらいくつか具体的に書き出してみる(リストアップする)と、共通する値が見つけやすくなり、ミスを防げます。
    • 例:
      • \(\lambda_A\) で強め合う \(d\) の候補: \(d_{A0}, d_{A1}, d_{A2}, \ldots\)
      • \(\lambda_B\) で弱め合う \(d\) の候補: \(d_{B1}, d_{B2}, d_{B3}, \ldots\) (弱め合いで \(m=0\) が \(d=0\) になる場合は \(m=1\) からリストアップ)

      これらのリストを比較し、共通する最小の値を見つけるという手順は確実性が高いです。

  • 指数の計算ミスへの注意: \(10^{-7}\) や \(10^{-9}\) といった指数が頻繁に出てくるため、掛け算や割り算の際の指数法則の適用を慎重に行いましょう。

日頃の練習:

  • 様々な屈折率の組み合わせ(例えば、膜の屈折率が空気と基盤の中間である場合、膜が最も屈折率が高い場合、膜が最も屈折率が低い場合など)での薄膜干渉の問題を解き、各位相変化のパターンとそれに対応する干渉条件の判断に慣れておくことが大切です。
  • 干渉条件式を単に暗記するだけでなく、「なぜその形の式になるのか」を光路差と位相変化の関係から毎回論理的に導き出すように心がけると、理解が深まり応用力もつきます。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 物理的な妥当性の確認:
    • 計算によって得られた膜の厚さ \(d\) は、必ず正の値になっているか?(負の厚さは物理的にあり得ません)。
    • (3)で求めた「次に強め合う厚さ \(d_1\)」は、(2)で求めた「最小の厚さ \(d_0\)」よりも大きくなっているか?(\(d_1 > d_0\))。
    • (4)で得られた厚さ \(d\) が、本当にそれぞれの波長に対して指定された干渉(一方では強め合い、もう一方では弱め合い)を引き起こすのかを、整数 \(m_A\) や \(m_B\) の値を逆算して確認してみる。整数値がきちんと出てくれば、その厚さは妥当である可能性が高いです。
  • 単位(次元)の一致確認:
    • 最終的に求めた厚さ \(d\) の単位が、正しく長さの単位(この問題ではメートル [m])になっているかを確認します。計算途中の式変形でも、両辺の単位(次元)が常に一致しているかを意識すると、ミスを発見しやすくなります。
  • 特殊なケースや極端な条件下での振る舞いの考察(定性的なチェック):
    • もし油膜の屈折率 \(n_{\text{油}}\) が水の屈折率 \(n_{\text{水}}\) と同じだったら、油膜裏面での反射はどうなるか?(屈折率が同じなので反射は起こらず、干渉現象自体が成り立たなくなります)。
    • もし空気 \(n_{\text{空気}}\)、油膜 \(n_{\text{油}}\)、水 \(n_{\text{水}}\) の屈折率が \(n_{\text{空気}} < n_{\text{油}} < n_{\text{水}}\) のような関係だったら、油膜裏面での反射(油膜 \(\rightarrow\) 水)でも位相が\(\pi\)ずれることになります。この場合、油膜表面と裏面の両方で位相が\(\pi\)ずれるため、干渉条件の形(強め合いと弱め合いの式)が本問とは逆になることを理解しているか、といった点も思考実験として有効です。

問題97 (岡山大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、媒質Gの上に置かれた薄膜に、空気中から単色光が斜めに入射するときの光の干渉について考察するものです。薄膜の表面で反射する光と、薄膜を透過して下面(媒質Gとの境界面)で反射し再び表面から出てくる光の2つが干渉し合い、特定の条件下で強め合ったり弱め合ったりします。

問題では、まず2つの光の経路差に関連する量を求め、次に薄膜中での光の波長、そして特定の条件下(媒質Gの屈折率の違いによる反射時の位相変化の違いを考慮)で反射光が強め合う(明るくなる)ための薄膜の厚さについて問われています。斜め入射であるため、光路差の計算に注意が必要です。

与えられた条件
  • 媒質G上に厚さ \(d\) の薄膜がある。
  • 空気中から単色光が薄膜に斜めに入射する。
  • 空気中での光の波長: \(\lambda\)
  • 薄膜中での光線の屈折角(法線とのなす角): \(\phi\)
  • 屈折率:
    • 空気: \(n_{\text{空気}} = 1\)
    • 薄膜: \(n\)
    • 媒質G: \(n_G\)
  • A\(_1\)A\(_2\) は入射波の波面、B\(_1\)B\(_2\) は屈折波の波面であり、同じ波面上では同位相。
  • (3)以降で与えられる具体的な値:
    • \(\lambda = 6.0 \times 10^{-7}\) [m]
    • \(\phi = 60^\circ\)
    • 薄膜の屈折率 \(n=1.5\)
    • 設問(3)および(4)では、媒質Gの屈折率 \(n_G=1.6\)
    • 設問(5)では、媒質Gの屈折率 \(n_G=1.4\)
問われていること
  1. (1) 2つの光の経路の間に生じる「位相差をもたらす経路の差」(幾何学的な長さ)。これは、図と後の設問の文脈から \(2d\cos\phi\) に対応すると解釈されます。
  2. (2) 薄膜中での光の波長 \(\lambda’\)。
  3. (3) 条件 \(n < n_G\) の場合に、干渉して反射光が明るくなる(強め合う)条件式。
  4. (4) 設問(3)の条件のもとで、与えられた具体的な数値における、反射光が明るくなる薄膜の最小の厚さ。
  5. (5) 媒質Gの屈折率 \(n_G\) の値を変更し \(n_G=1.4\) とした場合(つまり \(n > n_G\) となる場合)の、反射光が明るくなる薄膜の最小の厚さ。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題を解くためには、以下の物理法則や概念をしっかりと理解しておく必要があります。

  • 光路差(斜め入射の場合): 薄膜の厚さを \(d\)、薄膜の屈折率を \(n\)、薄膜中での光線の屈折角を \(\phi\) とすると、薄膜の表面反射光と下面反射光の間の光路差は \(2nd\cos\phi\) と表されます。
  • 反射における位相の変化: 光が屈折率の異なる物質の境界面で反射するとき、位相が変化することがあります。
    • 屈折率が小さい媒質から大きい媒質へ進む光が境界面で反射する場合、位相は \(\pi\) (180°) ずれます。
    • 屈折率が大きい媒質から小さい媒質へ進む光が境界面で反射する場合、位相は変化しません。
  • 干渉条件(強め合い・弱め合い): 2つの反射光の光路差と、反射による位相変化の有無を総合的に考慮して、光が強め合う条件または弱め合う条件を数式で表します。
  • 媒質中での波長の変化: 光の波長 \(\lambda’\) は、屈折率 \(n\) の媒質中では空気中(または真空中)の波長 \(\lambda\) を用いて \(\lambda’ = \lambda/n\) となります。

これらの原理に基づいて、各設問を詳細に見ていきましょう。

(1)

思考の道筋とポイント

問題文では「A\(_1 \rightarrow \text{C} \rightarrow \text{B}_2 \rightarrow \text{D}\) の経路をとる光と A\(_2 \rightarrow \text{B}_2 \rightarrow \text{D}\) の経路をとる光との間に位相差をもたらす経路の差は、\(\text{B}_1\text{C} + \text{CB}_2\) になる。この長さは」とあります。これは、薄膜の表面で反射する光と、薄膜の下面で反射してから表面に出てくる光との間の実質的な「ずれ」に関連する幾何学的な長さを指しています。薄膜干渉における光路差の公式 \(2nd\cos\phi\) の一部である \(2d\cos\phi\) が、この「経路の差」に対応すると解釈するのが一般的です。模範解答の導出過程もこの形を導いています。

この設問における重要なポイント

  • 薄膜に斜めに入射する光の干渉を考える際、光路差の計算には薄膜の厚さ \(d\) と薄膜中での屈折角 \(\phi\) が関わること。
  • ここで問われている「経路の差」が、光路差の公式 \(2nd\cos\phi\) の中の幾何学的な部分 \(2d\cos\phi\) であると理解すること(問題文の表現と後の設問との整合性から判断)。

具体的な解説と立式

薄膜の表面で反射する光と、薄膜の下面で反射してから再び表面に出てくる光との間には、進む経路の長さに違いが生じます。この経路長の差に薄膜の屈折率を考慮したものが光路差となります。斜め入射の場合、この光路差は \(2nd\cos\phi\) と表されます。ここで、\(d\) は薄膜の厚さ、\(n\) は薄膜の屈折率、\(\phi\) は薄膜中での光線の屈折角(法線とのなす角)です。

問題文で問われている「位相差をもたらす経路の差」で、空欄(1)に当てはまるのは、この光路差の計算で現れる幾何学的な長さの成分 \(2d\cos\phi\) です。これは、光が薄膜内を往復する際に生じる、空気中の経路との「ずれ」を補正するためのものです。

したがって、求める長さは次のように表されます。

$$\text{【(1)】} = 2d\cos\phi \quad \cdots ①$$

(注: この \(2d\cos\phi\) は、光が実際に進む全経路長そのものではなく、2つの干渉する光の間の実質的な経路の差に関連する幾何学的因子です。後の設問で、これに屈折率を乗じるか、膜中波長で割るなどして光学的評価を行います。模範解答の(3)では、この \(2d\cos\phi\) を「経路差(距離差)」として扱い、\(m\lambda’\) と比較しています。)

使用した物理公式

  • 薄膜干渉における経路差の幾何学的成分(斜め入射)
計算過程

この設問は \(d, \phi\) を用いて表すものなので、これ以上の具体的な数値計算はありません。

結論と吟味

位相差をもたらす経路の差(の主要な幾何学的成分)は \(2d\cos\phi\) と表されます。この量は、後の干渉条件を考える上での「距離差」として扱われることになります。

解答 (1) \(2d\cos\phi\)

(2)

思考の道筋とポイント

薄膜中での光の波長 \(\lambda’\) は、空気中での波長 \(\lambda\) と薄膜の屈折率 \(n\) を用いて、基本的な公式 \(\lambda’ = \lambda/n\) から求めることができます。

この設問における重要なポイント

  • 屈折率 \(n\) の媒質中では、波長は空気中(真空中)の \(1/n\) 倍になるという基本法則を理解していること。

具体的な解説と立式

光が屈折率 \(n\) の媒質中に入射すると、その波長は変化します。空気中(または真空中)での光の波長を \(\lambda\)、薄膜の屈折率を \(n\) とすると、薄膜中での光の波長 \(\lambda’\) は次のように表されます。

$$\lambda’ = \frac{\lambda}{n} \quad \cdots ②$$

使用した物理公式

  • 媒質中の波長: \(\lambda’ = \lambda/n\)
計算過程

この設問は \(\lambda, n\) を用いて表すものなので、これ以上の具体的な数値計算はありません。

結論と吟味

薄膜中での光の波長 \(\lambda’\) は \(\displaystyle\frac{\lambda}{n}\) です。屈折率 \(n>1\) の媒質中では波長が短くなるという一般的な性質と一致しており、物理的に妥当です。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{\lambda}{n}\)

(3)

思考の道筋とポイント

条件 \(n < n_G\) のもとで、反射光が明るくなる(強め合う)条件を考えます。まず、薄膜の表面(空気との境界)と下面(媒質Gとの境界)での反射における位相変化の有無を確認します。次に、(1)で考えた経路の差(距離差) \(2d\cos\phi\) と、(2)で求めた膜中波長 \(\lambda’\) を用いて、強め合いの条件式を立てます。両方の反射で位相が同じように変化する場合(または両方変化しない場合)、経路差が膜中波長の整数倍のときに強め合います。

この設問における重要なポイント

  • 反射における位相変化の判定:
    • 表面反射 (空気 \(n_{\text{空気}}=1\) \(\rightarrow\) 薄膜 \(n\)): 通常 \(n>1\) なので、位相 \(\pi\) ずれる。
    • 下面反射 (薄膜 \(n\) \(\rightarrow\) 媒質G \(n_G\)): 条件 \(n < n_G\) なので、位相 \(\pi\) ずれる。
  • 両反射で位相が \(\pi\) ずれるため、位相変化による実質的な差はない(同条件)。
  • 強め合いの条件: この場合、経路差(距離差)が膜中波長 \(\lambda’\) の整数倍。つまり、\(2d\cos\phi = m\lambda’\)。
  • \(m\) は正の整数と指定されている。

具体的な解説と立式

条件として \(n < n_G\) が与えられています。空気の屈折率は \(1\) です。薄膜の屈折率は \(n\) です。

1. 反射における位相変化の確認:

  • 薄膜表面での反射 (空気 \(\rightarrow\) 薄膜):
    空気の屈折率 \(1\) は通常、薄膜の屈折率 \(n\) より小さい(\(1 < n\))と考えられます。したがって、これは屈折率が小さい媒質から大きい媒質への反射となり、位相は \(\pi\) ずれます。
  • 薄膜下面での反射 (薄膜 \(\rightarrow\) 媒質G):
    薄膜の屈折率 \(n\) と媒質Gの屈折率 \(n_G\) を比較します。問題の条件より \(n < n_G\) なので、これも屈折率が小さい媒質から大きい媒質への反射となり、位相は \(\pi\) ずれます。

2. 強め合いの干渉条件:

薄膜の表面反射と下面反射の両方で位相が \(\pi\) ずつずれます。これは、2つの反射光の間で位相変化に起因する「差」が実質的にないこと(両方とも同じだけずれるため、位相関係は変わらない)を意味します。このような場合、2つの光が干渉して強め合う(反射光が明るくなる)条件は、経路差((1)で求めた \(2d\cos\phi\))が、薄膜中での波長 \(\lambda’\)((2)で求めた \(\lambda/n\))の整数倍になるときです。

したがって、正の整数 \(m\) を用いて、強め合いの条件は次のように書けます。

$$2d\cos\phi = m\lambda’$$

(2)の結果 \(\lambda’ = \displaystyle\frac{\lambda}{n}\) を代入すると、

$$2d\cos\phi = m\frac{\lambda}{n} \quad (m = 1, 2, 3, \ldots) \quad \cdots ③$$

(問題文で「正の整数 \(m\) を用いて」と指定されているため、\(m=1, 2, 3, \ldots\) とします。)

この式は、光路差 \(2nd\cos\phi\) が空気中での波長 \(\lambda\) の整数倍 \(m\lambda\) に等しい、という条件 \(2nd\cos\phi = m\lambda\) と同値です。

使用した物理公式

  • 光路差の幾何学的成分: \(2d\cos\phi\)
  • 媒質中の波長: \(\lambda’ = \lambda/n\)
  • 反射における位相変化の規則
  • 薄膜干渉の強め合いの条件(両面で位相が\(\pi\)ずれるか、両面でずれない場合): 経路差 = \(m\lambda’\)
計算過程

この設問は条件式を記述するものなので、これ以上の具体的な数値計算はありません。

結論と吟味

\(n < n_G\) の場合、薄膜の表面反射(空気\(\rightarrow\)薄膜)と下面反射(薄膜\(\rightarrow\)G)の両方で位相が \(\pi\) ずれます。このため、反射による位相のずれの差は実質的に0と見なせます。したがって、経路差 \(2d\cos\phi\) が薄膜中での波長 \(\lambda’ = \lambda/n\) の整数倍 \(m\lambda’\) になるときに反射光は強め合います。すなわち、\(2d\cos\phi = m\displaystyle\frac{\lambda}{n}\) (\(m=1, 2, 3, \ldots\))です。これは光路差 \(2nd\cos\phi\) が空気中波長 \(\lambda\) の整数倍 \(m\lambda\) となる条件と同じです。

解答 (3) \(2d\cos\phi = m\displaystyle\frac{\lambda}{n}\)

(4)

思考の道筋とポイント

設問(3)で導いた強め合いの条件式 \(2d\cos\phi = m\displaystyle\frac{\lambda}{n}\) を用います。反射光が明るくなる「薄膜の最小の厚さ」を求めるので、正の整数 \(m\) の中で最小の値、つまり \(m=1\) の場合を考えます。与えられた具体的な数値(\(\lambda = 6.0 \times 10^{-7}\) m, \(\phi = 60^\circ\), \(n=1.5\), \(n_G=1.6\))を代入して、厚さ \(d\) を計算します。まず、条件 \(n < n_G\) (つまり \(1.5 < 1.6\)) が満たされていることを確認します。

この設問における重要なポイント

  • (3)で導いた強め合いの条件式を正しく使用すること。
  • 「最小の厚さ」を求めるためには、正の整数 \(m\) の最小値 \(m=1\) を選択すること。
  • 三角関数 \(\cos 60^\circ = 1/2\) の値を正確に使うこと。
  • 数値を代入して計算を正確に行うこと。

具体的な解説と立式

設問(3)で得られた、\(n < n_G\) の場合に反射光が明るくなる条件式は、

$$2d\cos\phi = m\frac{\lambda}{n} \quad (m = 1, 2, 3, \ldots)$$

です。薄膜の最小の厚さ \(d_{\text{最小}}\) は、正の整数 \(m\) が最小値 \(m=1\) をとるときに得られます。

$$2d_{\text{最小}}\cos\phi = 1 \cdot \frac{\lambda}{n}$$

これを \(d_{\text{最小}}\) について解くと、

$$d_{\text{最小}} = \frac{\lambda}{2n\cos\phi} \quad \cdots ④$$

ここに、与えられた値 \(\lambda = 6.0 \times 10^{-7}\) [m], \(\phi = 60^\circ\), \(n=1.5\) を代入します。
また、\(n_G=1.6\) であり、\(n=1.5 < n_G=1.6\) なので、設問(3)の条件設定は妥当です。

使用した物理公式

  • 設問(3)で導出した強め合いの条件式
計算過程

式④に具体的な値を代入します。\(\cos 60^\circ = 0.5\) です。

$$d_{\text{最小}} = \frac{6.0 \times 10^{-7} \text{ [m]}}{2 \times 1.5 \times \cos 60^\circ}$$
$$d_{\text{最小}} = \frac{6.0 \times 10^{-7}}{2 \times 1.5 \times 0.5}$$
$$d_{\text{最小}} = \frac{6.0 \times 10^{-7}}{1.5}$$
$$d_{\text{最小}} = 4.0 \times 10^{-7} \text{ [m]}$$

計算方法の平易な説明
  1. (3)で求めた「光が強め合う条件の式」 \(2d\cos\phi = m\displaystyle\frac{\lambda}{n}\) を使います。
  2. 膜の厚さ \(d\) が一番小さいのは、正の整数 \(m\) が一番小さい値、つまり \(m=1\) のときです。
  3. この式に \(m=1\) を代入し、さらに問題で与えられた光の波長 \(\lambda\)、薄膜の屈折率 \(n\)、光が膜に入る角度 \(\phi\) の値を代入して、厚さ \(d\) を計算します。\(\cos 60^\circ\) は \(1/2\) または \(0.5\) です。
結論と吟味

\(\lambda = 6.0 \times 10^{-7}\) [m], \(\phi = 60^\circ\), \(n=1.5\), \(n_G=1.6\) のとき、反射光が明るくなる薄膜の最小の厚さは \(4.0 \times 10^{-7}\) m です。

このとき、\(n=1.5 < n_G=1.6\) という条件が満たされているため、(3)で用いた干渉条件は正しく適用されています。計算結果も妥当です。

解答 (4) \(4.0 \times 10^{-7}\)

(5)

思考の道筋とポイント

今度は媒質Gの屈折率が \(n_G=1.4\) に変わります。薄膜の屈折率は \(n=1.5\) のままです。この変更により、薄膜下面での反射における位相変化の条件が変わる可能性があるため、まずそれを確認します。その上で、新たな強め合いの条件式を立て、最小の厚さを求めます。

この設問における重要なポイント

  • 反射における位相変化の再判定:
    • 表面反射 (空気 \(n_{\text{空気}}=1\) \(\rightarrow\) 薄膜 \(n=1.5\)): 位相 \(\pi\) ずれる((3)と同じ)。
    • 下面反射 (薄膜 \(n=1.5\) \(\rightarrow\) 媒質G \(n_G=1.4\)): 今度は \(n > n_G\) ( \(1.5 > 1.4\) ) なので、屈折率大 \(\rightarrow\) 小の反射。位相は変化しない。
  • 片方の反射(表面のみ)で位相が \(\pi\) ずれるため、強め合いの条件が変わる。
  • 強め合いの条件: この場合、経路差が膜中波長 \(\lambda’\) の半整数倍。つまり、\(2d\cos\phi = (m’ + \frac{1}{2})\lambda’\)。ここで \(m’=0, 1, 2, \ldots\)。
  • 最小の厚さを求めるには、整数 \(m’\) の最小値 \(m’=0\) を使う。

具体的な解説と立式

媒質Gの屈折率が \(n_G=1.4\) に変更されました。薄膜の屈折率は \(n=1.5\) のままです。

1. 反射における位相変化の確認(再評価):

  • 薄膜表面での反射 (空気 \(\rightarrow\) 薄膜):
    空気 (\(n_{\text{空気}}=1\)) から薄膜 (\(n=1.5\)) への反射です。\(1 < 1.5\) なので、位相は \(\pi\) ずれます。これは(3)の場合と同じです。
  • 薄膜下面での反射 (薄膜 \(\rightarrow\) 媒質G):
    薄膜 (\(n=1.5\)) から媒質G (\(n_G=1.4\)) への反射です。今度は \(n > n_G\) (つまり \(1.5 > 1.4\)) なので、屈折率が大きい媒質から小さい媒質への反射となり、位相は変化しません。

2. 強め合いの干渉条件:

この場合、薄膜表面での反射では位相が \(\pi\) ずれ、薄膜下面での反射では位相が変化しません。つまり、「片方の反射でのみ位相が \(\pi\) ずれる」状況です。
このような場合、2つの反射光が干渉して強め合う(反射光が明るくなる)条件は、経路差 \(2d\cos\phi\) が、薄膜中での波長 \(\lambda’ = \lambda/n\) の「半整数倍」になるときです。

したがって、強め合いの条件は次のように書けます(\(m’\) を0以上の整数とする)。

$$2d\cos\phi = \left(m’ + \frac{1}{2}\right)\lambda’$$

\(\lambda’ = \displaystyle\frac{\lambda}{n}\) を代入すると、

$$2d\cos\phi = \left(m’ + \frac{1}{2}\right)\frac{\lambda}{n} \quad (m’ = 0, 1, 2, \ldots) \quad \cdots ⑤$$

(模範解答では、この条件を \(2nd\cos\phi = (m-\frac{1}{2})\lambda\) とし、\(m=1, 2, \ldots\) で最小値を \(m=1\) としています。\(m’ = m-1\) と置き換えれば、\(m’=0\) は \(m=1\) に対応し、\((0+\frac{1}{2})\lambda = \frac{1}{2}\lambda\) と \((1-\frac{1}{2})\lambda = \frac{1}{2}\lambda\) は同じ最小条件を与えます。)

薄膜の最小の厚さ \(d_{\text{最小}}\) は、\(m’\) が最小値 \(m’=0\) をとるときに得られます。

$$2d_{\text{最小}}\cos\phi = \left(0 + \frac{1}{2}\right)\frac{\lambda}{n} = \frac{1}{2}\frac{\lambda}{n}$$

これを \(d_{\text{最小}}\) について解くと、

$$d_{\text{最小}} = \frac{\lambda}{4n\cos\phi} \quad \cdots ⑥$$

使用した物理公式

  • 光路差の幾何学的成分: \(2d\cos\phi\)
  • 媒質中の波長: \(\lambda’ = \lambda/n\)
  • 反射における位相変化の規則
  • 薄膜干渉の強め合いの条件(片面で位相が\(\pi\)ずれる場合): 経路差 = \((m’ + \frac{1}{2})\lambda’\)
計算過程

式⑥に、与えられた値 \(\lambda = 6.0 \times 10^{-7}\) [m], \(\phi = 60^\circ\) (\(\cos 60^\circ = 0.5\)), \(n=1.5\) を代入します。

$$d_{\text{最小}} = \frac{6.0 \times 10^{-7} \text{ [m]}}{4 \times 1.5 \times \cos 60^\circ}$$
$$d_{\text{最小}} = \frac{6.0 \times 10^{-7}}{4 \times 1.5 \times 0.5}$$
$$d_{\text{最小}} = \frac{6.0 \times 10^{-7}}{3.0}$$
$$d_{\text{最小}} = 2.0 \times 10^{-7} \text{ [m]}$$

計算方法の平易な説明
  1. 下の媒質Gの屈折率が \(n_G=1.4\) に変わりました。油膜の屈折率は \(n=1.5\) のままです。
  2. まず、反射での位相の変化を確認します。
    • 油膜表面(空気→油膜): 空気(1.0)から油膜(1.5)なので、位相は\(\pi\)ずれます((4)と同じ)。
    • 油膜下面(油膜→G): 油膜(1.5)からG(1.4)なので、今度は屈折率が大きい方から小さい方への反射です。この場合、位相は変化しません。
  3. 結果として、油膜表面の反射でのみ位相が\(\pi\)ずれることになります。
  4. このように片方の反射だけで位相がずれる場合、光が強め合う条件は、経路差 \(2d\cos\phi\) が膜の中の波長 \(\lambda’=\lambda/n\) の \(0.5\)倍, \(1.5\)倍, \(2.5\)倍, … になるときです。式で書くと \(2d\cos\phi = (m’ + 0.5)\displaystyle\frac{\lambda}{n}\) (\(m’\) は 0, 1, 2, …)。
  5. 膜の厚さ \(d\) が一番小さいのは、\(m’\) が一番小さい \(m’=0\) のときです。
  6. この条件式に \(m’=0\) を代入し、与えられた \(\lambda, n, \phi\) の値を代入して \(d\) を計算します。
結論と吟味

媒質Gの屈折率が \(n_G=1.4\) となった場合、反射光が明るくなる薄膜の最小の厚さは \(2.0 \times 10^{-7}\) m です。

設問(4)と比較すると、下面での反射条件が「位相\(\pi\)ずれ」から「位相変化なし」に変わったことで、強め合いの条件式が変わり、結果として最小の厚さの値も異なっています。これは物理的に妥当な変化です。

解答 (5) \(2.0 \times 10^{-7}\)

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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 薄膜干渉(斜め入射)の原理: 光が薄膜に斜めに入射した際に、薄膜の表面で反射する光と、薄膜の内部を透過し下面で反射してから再び表面に出てくる光との間で生じる干渉現象です。
  • 光路差の計算 \(2nd\cos\phi\): 斜め入射の場合、2つの干渉する光の間の光路差は \(2nd\cos\phi\) で与えられます。ここで、\(n\) は薄膜の屈折率、\(d\) は薄膜の厚さ、\(\phi\) は薄膜中での光線の屈折角(法線とのなす角)です。この \(\cos\phi\) の因子が垂直入射の場合との大きな違いです。
  • 反射における位相変化の正確な判定:
    • 光が屈折率の小さい媒質から大きい媒質へと進み、その境界面で反射するとき、位相は \(\pi\) (180°) ずれます。
    • 光が屈折率の大きい媒質から小さい媒質へと進み、その境界面で反射するとき、位相は変化しません。
    • この問題では、空気(\(n_{\text{空気}}=1\)) \(\rightarrow\) 薄膜(\(n\)) の反射と、薄膜(\(n\)) \(\rightarrow\) 媒質G(\(n_G\)) の反射のそれぞれについて、\(n\) と \(n_G\) の値(大小関係)によって位相変化の有無を正しく判断することが極めて重要です。
  • 干渉条件式の的確な使い分け:
    • 両方の反射面で同種の位相変化が起こる場合(つまり、両方とも\(\pi\)ずれるか、両方とも位相変化がない場合)、実質的な位相変化の「差」はないと見なせます。このとき、強め合い(明るくなる)条件は光路差が波長の整数倍、すなわち \(2nd\cos\phi = m\lambda\) (または経路差 \(2d\cos\phi = m\lambda’\))となります。
    • 片方の反射面でのみ位相が\(\pi\)ずれる場合、実質的な位相変化の「差」が\(\pi\)となります。このとき、強め合い(明るくなる)条件は光路差が波長の半整数倍、すなわち \(2nd\cos\phi = (m+\frac{1}{2})\lambda\) (または経路差 \(2d\cos\phi = (m+\frac{1}{2})\lambda’\))となります。
    • (ここで \(m\) は通常、最小の厚さを与えるように \(m=1,2,\dots\) や \(m=0,1,2,\dots\) を適切に選びます。 \(\lambda\) は空気中での波長、\(\lambda’\) は膜中での波長です。)
  • 媒質中での波長変化: \(\lambda’ = \lambda/n\)。干渉条件を膜中波長で記述することもできますが、光路差 \(2nd\cos\phi\) と空気中波長 \(\lambda\) で統一して考える方が、計算ミスを減らす上で有効な場合があります。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 類似問題への応用:
    • 垂直入射の薄膜干渉: これは \(\cos\phi=1\) となる特殊なケースとして理解できます。基本的な考え方は同じです。
    • ニュートンリング: 平面ガラスの上に凸レンズを置き、その間の空気層(薄膜と見なせる)で生じる干渉縞です。空気層の厚さ \(d\) が場所によって連続的に変わるため、同心円状の干渉縞が見られます。
    • くさび形の空気層: 2枚のガラス板の間にわずかな角度をつけて空気層を作り、そこで生じる干渉縞です。等間隔の縞模様が見られます。
    • 多層膜コーティング: レンズの反射防止膜や特定の波長を強く反射するミラーなど、複数の薄膜を重ね合わせたものの光学特性も、基本的には各層での反射と透過、そしてそれらの干渉を考えることで解析されます(より複雑になります)。
  • 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
    1. 入射角と屈折角の関係: 問題文で与えられている角度が、空気中での入射角なのか、薄膜中での屈折角なのかを正確に把握します。もし入射角が与えられている場合は、スネルの法則 (\(n_1\sin\theta_1 = n_2\sin\theta_2\)) を用いて薄膜中の屈折角を求める必要があるかもしれません(本問では屈折角\(\phi\)が直接与えられていました)。
    2. 各境界面での屈折率の比較(最重要!): これにより、それぞれの反射点での位相変化(\(\pi\)ずれるか、ずれないか)が決まります。図を丁寧に描き、各媒質の屈折率を書き込み、それらの大小関係を明確にすることが第一歩です。
    3. 光路差の式の正確な適用: 斜め入射の場合は \(2nd\cos\phi\)、垂直入射の場合は \(2nd\) となります。どの角度を\(\phi\)として使うのかも重要です(必ず薄膜中での光線と法線のなす角)。
    4. 問われている条件(強め合いか弱め合いか、最小の厚さか等)の確認: これに応じて、正しい干渉条件式を選択し、式中の整数 \(m\) に適切な値を代入します。
    5. 整数 \(m\) の値の範囲と開始点: 条件式で使う整数 \(m\) が \(0\) から始まるのか、\(1\) から始まるのかは、物理的な意味(例えば厚さ \(d>0\) を求めるなど)を考えて慎重に決定する必要があります。
  • 問題解決のヒントや、特に注意すべき点は何か:
    • 位相変化の判定は、「光が入射してくる側の媒質の屈折率」と「光が反射する境界面の向こう側の媒質の屈折率」を比較して行います。
    • \(\cos\phi\) の値を計算する際、角度 \(\phi\) の値(例: \(60^\circ\))に対する三角関数の値 (\(\cos 60^\circ = 1/2\)) を正確に使うことが求められます。計算ミスにも注意しましょう。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 光路差の式の誤用: 垂直入射のつもりで \(2nd\) を使ってしまう、あるいは斜め入射なのに \(\cos\phi\) の項を忘れる、または誤った角度を使用してしまう。
    • 対策: 問題が垂直入射か斜め入射かを必ず確認し、正しい光路差の式を選ぶ。斜め入射の場合、\(\phi\) は必ず「薄膜中での屈折角」であることを意識する。
  • 角度 \(\phi\) の混同(入射角 vs 屈折角): 光路差の公式で用いる角度 \(\phi\) は、空気中での入射角ではなく、薄膜内での光線と法線とのなす角(屈折角)です。これを混同すると結果が大きく変わります。
    • 対策: 図を描く際に、入射角と屈折角を明確に区別し、どちらの角度が問題で与えられているか、または計算で使うべきかを常に確認する。
  • 反射における位相変化の条件の記憶違いや適用ミス: どの境界面でどちら向きに(小→大か、大→小か)屈折率が変化し、その結果として位相が\(\pi\)ずれるのかずれないのか、という判定は非常に重要です。これを間違えると、干渉条件式そのものが逆になってしまいます。
    • 対策: 位相変化のルールを正確に覚え、問題ごとに各境界面の屈折率の大小関係を丁寧に確認する。
  • 干渉条件式の混同: 反射時の位相変化のパターン(両面で同じように変化するか、片面のみ変化するか)によって、光路差が波長の整数倍で強め合うのか、半整数倍で強め合うのか(弱め合いはその逆)という条件が入れ替わることを忘れてしまう。
    • 対策: 位相変化の組み合わせの全パターンと、それに対応する強め合い・弱め合いの条件式をセットで整理して理解しておく。
  • (1)のような問題文の表現の解釈ミス: 「位相差をもたらす経路の差」といった少し曖昧な表現が、具体的にどの物理量を指しているのかを、問題全体の文脈や模範解答の流れから正しく読み取る必要がある場合があります。
    • 対策: 一つの設問だけでなく、問題全体の構成や、その設問の結果が後の設問でどのように使われるかを意識する。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題における物理現象のイメージ化:
    • 斜めに入射する光線の経路: 光が薄膜に斜めに入り、薄膜の内部で屈折し(スネルの法則に従う)、さらに下面で反射して再び屈折しながら空気中に出ていく様子を、幾何光学的に正確にイメージすることが大切です。特に、波面を考えると、光路差が生じる理由がより直感的に理解しやすくなります。
    • \(d\cos\phi\) の幾何学的な意味合い: 厚さ \(d\) の薄膜に、光が屈折角 \(\phi\) で入射するとき、光路差の計算に関わる「実効的な厚さの成分」が \(d\cos\phi\) に関連してくることを、補助線などを引いた図から幾何学的に理解できると理想的です。
    • 反射点での位相変化の図示: 反射する点で波の形が反転する(位相が\(\pi\)ずれる)のか、そのまま反射する(位相変化なし)のかを、波の模式図などを頭の中で描きながらイメージすると、条件判断の助けになります。
  • 図を描く際の注意点:
    • 入射角、屈折角(薄膜中の角度\(\phi\))を、それぞれ法線を基準として正確に区別して描く。
    • 薄膜の厚さ \(d\)、各媒質の屈折率を明記する。
    • 光路差が生じる部分(薄膜内を往復する経路)を、他の光線との比較において明確に識別できるように強調して描く。
    • 反射点での位相変化の有無(「\(\pi\)ずれる」「変化なし」など)を、図の該当箇所にメモとして書き込むと、条件式を立てる際に参照しやすく、ミスを減らせます。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 光路差 \(2nd\cos\phi\):
    • 選定理由: 薄膜干渉において、光が薄膜に斜めに入射する場合の、表面反射光と下面反射光の間の光路差を表す基本的な公式だからです。
    • 適用の根拠: この公式は、幾何光学的な光線追跡と波面を考えることによって導出されます。薄膜内での光の進む距離と、それに対応する空気中での距離との差を考慮した結果です。
  • 反射における位相変化の規則 (小\(\rightarrow\)大で\(\pi\)ずれ、大\(\rightarrow\)小で変化なし):
    • 選定理由: 干渉の結果(強め合いか弱め合いか)を正しく予測するためには、反射による位相変化を考慮に入れることが不可欠だからです。
    • 適用の根拠: これは、光が電磁波であるという性質に基づき、異なる媒質の境界面で電磁波が満たすべき境界条件から導かれる物理法則です。
  • 干渉の条件式 (光路差が \(m\lambda\) か \((m+1/2)\lambda\) か):
    • 選定理由: 2つの光波が干渉して光の強度がどうなるか(明るくなるか暗くなるか)を判断するための最終的な数式だからです。
    • 適用の根拠: これは波の重ね合わせの原理に基づいています。2つの波の光路差によって生じる位相差と、反射によって生じる位相差の合計が、\(2\pi\) の整数倍(すなわち波長の整数倍に相当)であれば波は同位相で重なり強め合い、\(\pi\) の奇数倍(すなわち波長の半整数倍に相当)であれば波は逆位相で重なり弱め合います。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 状況設定の正確な把握: まず、問題文で与えられている各媒質の屈折率、入射光の波長、薄膜の厚さ \(d\)、そして特に重要な薄膜中での光線の屈折角 \(\phi\) を確認します。
  2. 各位相変化の判定(最優先): 薄膜の上面(空気との境界)と下面(媒質Gとの境界)での反射において、それぞれ位相が\(\pi\)ずれるかどうかを、屈折率の大小関係から正確に判定します。これが干渉条件の形を決定します。
  3. 光路差の計算式の準備: 斜め入射なので、光路差は \(2nd\cos\phi\) となることを念頭に置きます((1)で問われた \(2d\cos\phi\) はこの一部です)。
  4. 干渉条件式の選択と立式: 手順2で判定した位相変化の組み合わせに応じて、強め合い(または弱め合い)の条件式を選択し、具体的に立式します。
    • 例えば、両方の反射面で同じように位相が変化する場合(両方\(\pi\)ずれる、または両方変化なし)は、強め合いの条件は \(2nd\cos\phi = m\lambda\) (または経路差 \(2d\cos\phi = m\lambda’\))となります。
    • 片方の反射面でのみ位相が\(\pi\)ずれる場合は、強め合いの条件は \(2nd\cos\phi = (m+\frac{1}{2})\lambda\) (または経路差 \(2d\cos\phi = (m+\frac{1}{2})\lambda’\))となります。
  5. 題意に合わせた整数 \(m\) の選択: 「最小の厚さ」を求められている場合は、条件式中の整数 \(m\) に、物理的に意味のある(通常 \(d>0\) となる)最小の整数値(\(m=0\) または \(m=1\) など、条件式の形による)を代入します。
  6. 数値計算の実行: 全ての値を代入し、目的の物理量(多くは薄膜の厚さ \(d\))を計算します。単位換算や三角関数の値の扱いに注意します。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 角度の単位と三角関数の値: \(\cos\phi\) の計算において、角度 \(\phi\) が度数法で与えられていることを確認し、三角関数の値(例: \(\cos 60^\circ = 1/2\))を正確に用いることが重要です。
  • 分数の計算と式変形: 特に厚さ \(d\) について解く際に、分数の計算や式の移項を慎重に行い、計算ミスを防ぎましょう。
  • (5)のように条件が変更される場合への対応: 問題の途中で媒質の屈折率などが変更された場合、位相変化の条件が影響を受ける可能性があるので、必ず再判定を行うことを忘れないようにしましょう。以前の設問の条件をそのまま引きずらないように注意が必要です。
  • 単位の一貫性: 計算に使用するすべての物理量の単位が一貫しているか(例: 長さがすべてメートルになっているか)を確認し、必要であれば計算前に単位換算を行います。

日頃の練習:

  • 様々な屈折率の組み合わせや入射角の条件での薄膜干渉問題を数多く解くことで、状況に応じた適切な判断力と計算スキルを養うことが大切です。
  • 公式をただ暗記するだけでなく、なぜその公式がそのような形になるのか(光路差と位相変化という基本原理から)を毎回意識して説明できるようにすると、理解が格段に深まります。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 物理的な妥当性の確認:
    • 計算結果として得られた薄膜の厚さ \(d\) が、必ず正の値になっているかを確認します(負の厚さは物理的にあり得ません)。
    • 設問(4)と(5)のように、条件(この場合は媒質Gの屈折率)が変わったことで、最小の厚さがどのように変化したかを考察します。例えば、干渉条件が「より緩く」なれば(少ない光路差で条件を満たせるようになれば)、厚さは薄くても条件を満たせる可能性があります。本問では、(4)は両面で位相がずれ、(5)は片面のみずれる条件で強め合いなので、(5)の方がより小さい光路差(具体的には \(\lambda/2\) に相当する光路差の項)で最初の強め合いが起こるため、厚さが薄くなる結果と整合します。
  • 単位の確認: 最終的な計算結果の単位が、求められている物理量の単位(この場合は厚さなのでメートル[m])として正しいかを確認します。
  • 極端な条件下での振る舞いの考察(思考実験):
    • もし屈折角 \(\phi\) が \(90^\circ\) に近づいたら(つまり、光が薄膜表面にほぼ平行に入射するような極端な状況を考えたら)、\(\cos\phi\) は \(0\) に近づきます。このとき光路差 \(2nd\cos\phi\) も \(0\) に近づき、干渉は実際には起こりにくくなるか、または条件の解釈が変わる可能性があります(ただし、このような極端なケースは通常の問題設定ではあまり問われません)。
    • もし屈折角 \(\phi\) が \(0^\circ\) になったら(つまり、光が薄膜に垂直に入射する場合)、\(\cos\phi\) は \(1\) となります。このとき光路差は \(2nd\) となり、垂直入射の場合の薄膜干渉の公式と一致するかどうかを確認することで、公式の整合性をチェックできます。

問題98 (弘前大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、2枚の平板ガラスの間にくさび形の空気層(または水層)を作り、そこに単色光を当てたときに観察される光の干渉現象に関するものです。特に、反射光と透過光における干渉縞の条件や、媒質が変わった場合の影響について問われています。

与えられた条件
  • 平板ガラスA, Bの一端Oからアルミ箔までの距離: \(L = 0.10 \text{ m}\)
  • 入射光の波長(真空中): \(\lambda = 5.9 \times 10^{-7} \text{ m}\)
  • 空気の屈折率: \(1\)
  • (2)での隣り合う明線の間隔: \(\Delta x = 2.0 \text{ mm} = 2.0 \times 10^{-3} \text{ m}\)
  • (4)での水の屈折率: \(n\)
  • 現象: 真上から光を当て、上から見ると干渉縞が見えた(反射光の干渉)。
問われていること
  1. O点の縞は明線か、暗線か、それともそのいずれでもないか。
  2. 隣り合う明線の間隔 \(\Delta x\) が \(2.0 \text{ mm}\) のときのアルミ箔の厚さ \(D \text{ [m]}\)。
  3. 光の方向と反対側(ガラス板B側)から干渉縞を観察する場合、上から見る場合と比べて干渉縞はどう変わるか。
  4. 2枚のガラス板の間を屈折率 \(n\) の水で満たしたとき、明線の間隔は空気中と比べて何倍になるか。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題を解く上で中心となるのは、薄膜における光の干渉条件です。光がくさび形の空気層(または水層)の上面と下面で反射(または透過)する際に生じる光路差と位相変化によって、干渉の結果(明線または暗線)が決まります。

導入:干渉の基本原理

  • 光路差: 光が進む経路の長さの差。くさび形空気層の場合、ある位置での空気層の厚さを \(d\) とすると、垂直に入射した光が往復するときの幾何学的な光路差は \(2d\) となります。
  • 位相変化: 光が屈折率の異なる媒質の境界で反射するとき、位相が変わることがあります。
    • 屈折率が小さい媒質から大きい媒質へ進む光が境界面で反射する場合:位相が \(\pi\) (半波長分) ずれます (固定端反射)。
    • 屈折率が大きい媒質から小さい媒質へ進む光が境界面で反射する場合:位相はずれません (自由端反射)。
  • 干渉条件 (反射光):
    • 強め合い (明線): (光路差) \( + \displaystyle\frac{\lambda}{2} \) (もし反射で実質\(\pi\)の位相差が生じる場合) \( = m\lambda \) (\(m = 0, 1, 2, \dots\))
    • 弱め合い (暗線): (光路差) \( + \displaystyle\frac{\lambda}{2} \) (もし反射で実質\(\pi\)の位相差が生じる場合) \( = (m+\displaystyle\frac{1}{2})\lambda \) (\(m = 0, 1, 2, \dots\))
    • あるいは、実質的な位相差がない場合は、光路差 \( = m\lambda \) (明線)、光路差 \( = (m+\displaystyle\frac{1}{2})\lambda \) (暗線) となります。

この問題では、ガラス板Aの下面(ガラス \(\rightarrow\) 空気)での反射と、ガラス板Bの上面(空気 \(\rightarrow\) ガラス)での反射光の干渉を考えます。

  • ガラスA下面での反射:屈折率大 \(\rightarrow\) 小 なので位相変化なし。
  • ガラスB上面での反射:屈折率小 \(\rightarrow\) 大 なので位相が \(\pi\) 変化。

したがって、2つの反射光の間には、反射だけで \(\pi\) の位相差が生じます。これは、光路差に換算すると \(\lambda/2\) に相当します。

よって、実質的な光路差が、

  • \(m\lambda\) (波長の整数倍) のとき、逆位相となり弱め合う (暗線)。
  • \((m+1/2)\lambda\) (波長の半整数倍) のとき、同位相となり強め合う (明線)。

これを踏まえて、各設問を見ていきましょう。

問1

思考の道筋とポイント
O点は、ガラス板AとBが接している点です。したがって、O点における空気層の厚さ \(d\) はゼロです。この条件を上記の干渉条件に当てはめて、明暗を判断します。

この設問における重要なポイント

  • O点では空気層の厚さ \(d=0\) であること。
  • 反射における位相変化を正しく理解し、適用すること。ガラスA下面(ガラス→空気)では位相変化なし、ガラスB上面(空気→ガラス)では位相が\(\pi\)変化するため、これら2つの反射光の間には元々\(\pi\)の位相差がある。

具体的な解説と立式
O点では、空気層の厚さ \(d=0\) です。
この点で反射する2つの光(ガラスAの下面で反射する光とガラスBの上面で反射する光)の幾何学的な光路差は \(2d = 2 \times 0 = 0\) です。

しかし、前述の通り、

  • ガラスAの下面(屈折率大のガラスから屈折率小の空気へ)での反射では、位相は変化しません。
  • ガラスBの上面(屈折率小の空気から屈折率大のガラスへ)での反射では、位相は \(\pi\) 変化します。

したがって、O点では、2つの反射光の間には反射の仕方によって生じる \(\pi\) の位相差(光路差でいえば \(\lambda/2\) に相当)があります。
幾何学的な光路差が0であっても、この \(\pi\) の位相差のために、2つの光は逆位相で重なり合うことになります。
逆位相で重なり合うと、光は弱め合います。

よって、干渉条件は以下のようになります(ここで \(m\) は整数 \(0, 1, 2, \dots\))。

  • 強め合い(明線)の条件: $$2d = (m + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda \quad \cdots ①$$
  • 弱め合い(暗線)の条件: $$2d = m\lambda \quad \cdots ②$$

O点では \(d=0\) なので、式②に \(d=0\) を代入すると、\(0 = m\lambda\)。
これを満たす \(m\) は \(m=0\) です。したがって、O点は暗線となります。

使用した物理公式

  • 反射光の干渉条件(一方の反射で位相が\(\pi\)変化する場合)
    • 明線: \(2d = (m + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda\)
    • 暗線: \(2d = m\lambda\)
計算過程

上記「具体的な解説と立式」で示した通り、O点では \(d=0\) です。
弱め合い(暗線)の条件式 \(2d = m\lambda\) に \(d=0\) を代入すると、
$$2 \times 0 = m\lambda$$
$$0 = m\lambda$$
これを満たす整数 \(m\) は \(m=0\) です。
したがって、O点は \(m=0\) の暗線に相当します。

計算方法の平易な説明

O点は二つのガラス板がくっついている場所なので、空気のすき間の厚みはゼロです。光がここで反射するとき、片方の反射(空気からガラスへの反射)では光の波の山と谷がひっくり返るような変化(位相が\(\pi\)ずれる)をしますが、もう片方の反射(ガラスから空気への反射)ではそのような変化はありません。その結果、厚みがゼロでも、二つの反射光はちょうど打ち消し合う関係になり、暗く見えます。

結論と吟味

O点の縞は暗線になります。これは、くさび形空気層やニュートンリングの干渉で典型的に見られる現象です。

解答 (1) 暗線

問2

思考の道筋とポイント
隣り合う明線の間隔 \(\Delta x\) が与えられているので、この情報と明線の干渉条件、そしてくさび形の幾何学的関係(O点からの距離 \(x\) と空気層の厚さ \(d\) の関係)を用いて、アルミ箔の厚さ \(D\) を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 明線の干渉条件: \(2d = (m + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda\)。
  • 隣り合う明線では、干渉の次数 \(m\) が1つ異なる。つまり、光路差 \(2d\) が \(\lambda\) だけ異なる。よって、隣り合う明線に対応する空気層の厚さの差 \(\Delta d_{\text{明}}\) は、\(2\Delta d_{\text{明}} = \lambda\) を満たす。
  • くさび形の幾何学的関係: O点からの距離 \(x\) における空気層の厚さ \(d\) は、\(L\) と \(D\) を用いて比例関係で表せる。具体的には、三角形の相似から \(\displaystyle\frac{d}{x} = \displaystyle\frac{D}{L}\)。したがって、微小な変化量で考えると \(\displaystyle\frac{\Delta d}{\Delta x} = \displaystyle\frac{D}{L}\) が成り立つ。

具体的な解説と立式
ある位置での空気層の厚さを \(d\) とすると、反射光が強め合う明線の条件は、
$$2d = (m + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda \quad \cdots ③$$
ここで \(m\) は整数 (\(m=0, 1, 2, \dots\)) です。

隣り合う明線を考えます。一方の明線が \(m\) 次に対応し、その位置での空気層の厚さを \(d_m\) とすると、
$$2d_m = (m + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda$$もう一方の隣の明線は \((m+1)\) 次に対応し、その位置での空気層の厚さを \(d_{m+1}\) とすると、$$2d_{m+1} = ((m+1) + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda$$これらの差をとると、$$2(d_{m+1} – d_m) = \lambda$$ここで、\(d_{m+1} – d_m\) は隣り合う明線に対応する空気層の厚さの差であり、これを \(\Delta d_{\text{明}}\) と書くと、$$2\Delta d_{\text{明}} = \lambda \quad \cdots ④$$
したがって、\(\Delta d_{\text{明}} = \displaystyle\frac{\lambda}{2}\) です。

次に、くさび形の幾何学的関係を考えます。
O点からの距離が \(L\) の位置に厚さ \(D\) のアルミ箔が挟まっているので、O点からの距離が \(x\) の位置での空気層の厚さ \(d\) は、比例関係から、
$$\displaystyle\frac{d}{x} = \displaystyle\frac{D}{L}$$
と表せます。
隣り合う明線の間隔が \(\Delta x\) であり、それに対応する空気層の厚さの差が \(\Delta d_{\text{明}}\) なので、同様の比例関係が成り立ちます(図c参照)。
$$\displaystyle\frac{\Delta d_{\text{明}}}{\Delta x} = \displaystyle\frac{D}{L} \quad \cdots ⑤$$
したがって、\(\Delta d_{\text{明}} = \Delta x \displaystyle\frac{D}{L}\) となります。

式④と式⑤から \(\Delta d_{\text{明}}\) を消去すると、
$$2 \left( \Delta x \displaystyle\frac{D}{L} \right) = \lambda$$この式を \(D\) について解くことで、アルミ箔の厚さ \(D\) を求めることができます。$$D = \displaystyle\frac{\lambda L}{2\Delta x} \quad \cdots ⑥$$

使用した物理公式

  • 明線の干渉条件: \(2d = (m + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda\)
  • 隣り合う明線の光路差の関係: \(2\Delta d_{\text{明}} = \lambda\)
  • くさび形の幾何学的関係: \(\displaystyle\frac{\Delta d_{\text{明}}}{\Delta x} = \displaystyle\frac{D}{L}\)
計算過程

式⑥に与えられた値を代入します。
\(\lambda = 5.9 \times 10^{-7} \text{ m}\)
\(L = 0.10 \text{ m}\)
\(\Delta x = 2.0 \text{ mm} = 2.0 \times 10^{-3} \text{ m}\)

$$D = \displaystyle\frac{(5.9 \times 10^{-7} \text{ m}) \times (0.10 \text{ m})}{2 \times (2.0 \times 10^{-3} \text{ m})}$$
$$D = \displaystyle\frac{5.9 \times 10^{-8} \text{ m}^2}{4.0 \times 10^{-3} \text{ m}}$$
$$D = \displaystyle\frac{5.9}{4.0} \times 10^{-8 – (-3)} \text{ m}$$
$$D = 1.475 \times 10^{-5} \text{ m}$$
有効数字は、与えられた値が2桁(\(\lambda\) は \(5.9\)、\(L\) は \(0.10\)、\(\Delta x\) は \(2.0\))なので、結果も2桁で表すのが適切です。
$$D \approx 1.5 \times 10^{-5} \text{ m}$$

計算方法の平易な説明
  1. まず、明るい縞(明線)ができる条件を思い出します。空気のすき間の厚さによって決まります。
  2. 隣り合う明るい縞では、すき間の厚さが少しだけ違います。この「少しの違い」は、光の波長を使って計算できます。具体的には、すき間の厚さの差を2倍したものが、ちょうど光の1波長分になります。
  3. 次に、ガラスのすき間はくさび形をしています。端からの距離とすき間の厚さは比例します。この関係を使って、明るい縞の間隔と、それに対応するすき間の厚さの差を結びつけます。
  4. これらの関係式を組み合わせると、アルミ箔の厚さを求める式ができます。最後に、与えられた数値を代入して計算します。
結論と吟味

はさんだアルミ箔の厚さ \(D\) は約 \(1.5 \times 10^{-5} \text{ m}\) (または \(15 \text{ μm}\)) です。これは非常に薄い厚さであり、干渉縞が観察される典型的なスケールです。単位もメートルで正しく得られています。

解答 (2) \(\displaystyle D = \frac{\lambda L}{2\Delta x} = 1.5 \times 10^{-5} \text{ m}\) (有効数字2桁)

問3

思考の道筋とポイント
光の方向と反対側(ガラス板B側)、つまり透過光で干渉縞を観察する場合、反射光で観察した場合と比べて干渉条件がどのように変わるかを考えます。重要なのは、エネルギー保存則の観点、または透過光の干渉に関わる反射の位相変化の扱いです。

この設問における重要なポイント

  • 反射光と透過光では、エネルギー保存則により、一方が強め合えば他方は弱め合うという相補的な関係がある。
  • これにより、反射光で明線だった場所は透過光では暗線に、反射光で暗線だった場所は透過光では明線になる。つまり、干渉縞の明暗が反転する。

具体的な解説と立式
光が薄膜(この場合はくさび形空気層)に入射すると、一部は反射し、一部は透過します。
エネルギー保存則を考えると、入射光のエネルギーは反射光のエネルギーと透過光のエネルギーに分配されます(吸収がないと仮定)。
したがって、反射光が干渉によって強め合い、明るく見える条件では、その分だけ透過光に回るエネルギーが減少し、透過光は暗く見えるはずです。
逆に、反射光が弱め合って暗く見える条件では、透過光は明るく見えることになります。

このことから、反射光で観察される干渉縞のパターンと、透過光で観察される干渉縞のパターンは、明暗がちょうど反転したものになります。

上から見る場合(反射光)の干渉条件は、

  • 明線: \(2d = (m + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda\)
  • 暗線: \(2d = m\lambda\)

であったので、下から見る場合(透過光)の干渉条件はこれらが逆転し、

  • 明線: $$2d = m\lambda \quad \cdots ⑦$$
  • 暗線: $$2d = (m + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda \quad \cdots ⑧$$

となります。

したがって、干渉縞は明暗が入れ替わって見えます。例えば、問1でO点は反射光では暗線でしたが、透過光では \(d=0\) を式⑦に代入すると \(m=0\) で明線となります。

使用した物理公式

  • エネルギー保存則(定性的な理解)
  • 透過光の干渉条件(反射光と逆転)
    • 明線: \(2d = m\lambda\)
    • 暗線: \(2d = (m + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda\)
計算過程

この設問は定性的な説明を求めるものなので、具体的な計算はありません。上記の考察に基づき結論を述べます。

計算方法の平易な説明

光がガラスのすき間を通るとき、一部は反射され、残りは通り抜けます。もし反射した光が強め合って明るく見えるなら、通り抜ける光はその分エネルギーが減って暗くなります。逆に、反射した光が弱め合って暗く見えるなら、通り抜ける光は明るくなります。つまり、上から見て明るかった縞は下から見ると暗い縞に、上から見て暗かった縞は下から見ると明るい縞に見える、ということです。

結論と吟味

上から見る場合(反射光)と比べて、下から見る場合(透過光)の干渉縞は明暗が反転します。O点は反射光で暗線だったので、透過光では明線になります。

解答 (3) 明線と暗線が入れ替わって見える。

問4

思考の道筋とポイント
2枚のガラス板の間を屈折率 \(n\) の水で満たした場合、光にとって何が変わるかを考えます。主に変わるのは、媒質中での光の波長と、光路長(光学的距離)です。反射における位相変化の有無も確認が必要です。

この設問における重要なポイント

  • 媒質中の波長: 屈折率 \(n\) の媒質中では、光の波長は真空中の \(\lambda\) から \(\lambda’ = \lambda/n\) に変化する。
  • 光路長: 幾何学的な距離 \(d\) に対し、屈折率 \(n\) の媒質中での光路長は \(nd\) となる。
  • 反射の位相変化:
    • ガラスA下面(ガラス \(\rightarrow\) 水)での反射: ガラスの屈折率を \(n_{\text{ガラス}}\)、水の屈折率を \(n\) とする。通常 \(n_{\text{ガラス}} > n\) なので、屈折率大 \(\rightarrow\) 小。位相変化なし。
    • 水層下面(水 \(\rightarrow\) ガラスB)での反射: 通常 \(n < n_{\text{ガラス}}\) なので、屈折率小 \(\rightarrow\) 大。位相が \(\pi\) 変化。

    よって、反射による実質的な位相差は \(\pi\) であり、空気中の場合と同じ。

  • 明線の間隔 \(\Delta x\) は、隣り合う明線の条件を満たす厚みの差 \(\Delta d_{\text{明}}\) に比例し、その \(\Delta d_{\text{明}}\) は波長と屈折率に依存する。

具体的な解説と立式
ガラスの間を屈折率 \(n\) の水で満たした場合を考えます。
反射光の干渉における明線の条件を導きます。
水層の厚さを \(d\) とすると、2つの反射光(ガラスA下面での反射光と、水層下面での反射光)の幾何学的な光路差は \(2d\) です。
しかし、光が屈折率 \(n\) の水中を進むため、光学的な光路差は \(2nd\) と考えるべきです。

あるいは、水中での波長が \(\lambda’ = \lambda/n\) となることを用います。
反射の位相変化は空気中の場合と同様に、実質 \(\pi\) のずれが生じます。
したがって、明線の条件は、空気中の条件式 \(2d = (m + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda\) の \(d\) を \(nd\) に置き換える(光路長で考える)か、\(\lambda\) を \(\lambda/n\) に置き換える(媒質中波長で考える)ことで得られます。
ここでは、媒質中の波長 \(\lambda’ = \lambda/n\) を用いて、幾何学的な厚み \(d\) で条件式を立てます。
明線の条件:
$$2d = (m + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda’ = (m + \displaystyle\frac{1}{2})\frac{\lambda}{n} \quad \cdots ⑨$$

隣り合う明線について考えます。一方を \(m\) 次、もう一方を \((m+1)\) 次とすると、それぞれの厚みを \(d_m\), \(d_{m+1}\) として、
$$2d_m = (m + \displaystyle\frac{1}{2})\frac{\lambda}{n}$$
$$2d_{m+1} = ((m+1) + \displaystyle\frac{1}{2})\frac{\lambda}{n}$$これらの差をとると、隣り合う明線に対応する水層の厚さの差 \(\Delta d_{\text{水中}}\) は、$$2\Delta d_{\text{水中}} = \frac{\lambda}{n} \quad \cdots ⑩$$
したがって、\(\Delta d_{\text{水中}} = \displaystyle\frac{\lambda}{2n}\) です。

空気中の場合、隣り合う明線に対応する空気層の厚さの差 \(\Delta d_{\text{空気中}}\) は、式④より \(2\Delta d_{\text{空気中}} = \lambda\)、つまり \(\Delta d_{\text{空気中}} = \displaystyle\frac{\lambda}{2}\) でした。

くさび形の幾何学的関係 \(\displaystyle\frac{\Delta d}{\Delta x} = \displaystyle\frac{D}{L}\) は変わらないので、\(\Delta x = \displaystyle\frac{L}{D}\Delta d\) と書けます。
つまり、明線の間隔 \(\Delta x\) は、対応する層の厚みの差 \(\Delta d\) に比例します。

空気中での明線間隔を \(\Delta x_{\text{空気中}}\)、水中での明線間隔を \(\Delta x_{\text{水中}}\) とすると、
$$\Delta x_{\text{空気中}} \propto \Delta d_{\text{空気中}} = \displaystyle\frac{\lambda}{2}$$
$$\Delta x_{\text{水中}} \propto \Delta d_{\text{水中}} = \displaystyle\frac{\lambda}{2n}$$したがって、$$\frac{\Delta x_{\text{水中}}}{\Delta x_{\text{空気中}}} = \frac{\Delta d_{\text{水中}}}{\Delta d_{\text{空気中}}} = \frac{\lambda/(2n)}{\lambda/2} = \frac{1}{n}$$
よって、水中での明線の間隔は、空気中の場合の \(1/n\) 倍になります。

【別解】問2の式⑥ \(D = \displaystyle\frac{\lambda L}{2\Delta x}\) を \(\Delta x\) について解くと、\(\Delta x = \displaystyle\frac{\lambda L}{2D}\)。
これは空気中の明線間隔です。
水で満たした場合、波長が \(\lambda’ = \lambda/n\) に実効的に変わると考えられるので、水中での明線間隔 \(\Delta x_{\text{水中}}\) は、
$$\Delta x_{\text{水中}} = \displaystyle\frac{\lambda’ L}{2D} = \displaystyle\frac{(\lambda/n)L}{2D} = \frac{1}{n} \left(\displaystyle\frac{\lambda L}{2D}\right) = \frac{1}{n} \Delta x_{\text{空気中}}$$
よって、\(1/n\) 倍となります。

使用した物理公式

  • 媒質中の波長: \(\lambda’ = \lambda/n\)
  • 明線の干渉条件(水層の場合): \(2d = (m + \displaystyle\frac{1}{2})\displaystyle\frac{\lambda}{n}\)
  • 隣り合う明線の水層の厚みの差: \(2\Delta d_{\text{水中}} = \displaystyle\frac{\lambda}{n}\)
  • 明線間隔と厚み差の比例関係: \(\Delta x \propto \Delta d\)
計算過程

上記の考察により、明線の間隔は \(1/n\) 倍になることが導かれました。具体的な数値計算は不要です。

計算方法の平易な説明

ガラスのすき間を水で満たすと、光は空気中よりも進みにくくなります(屈折率が大きいため)。これは、実質的に光の波長が短くなることと同じ効果があります。明るい縞ができる条件は、すき間の厚さと光の波長に関係しています。波長が \(1/n\) 倍になると、隣り合う明るい縞ができるための「すき間の厚みの差」も \(1/n\) 倍になります。そして、明るい縞の間隔も、この「すき間の厚みの差」に比例するので、結局 \(1/n\) 倍になります。

結論と吟味

2枚のガラス板の間を屈折率 \(n\) の水で満たすと、明線の間隔は空気中と比べて \(1/n\) 倍になります。\(n>1\) なので、明線の間隔は狭まります。これは、媒質中で波長が短くなる効果として理解できます。

解答 (4) \(\displaystyle\frac{1}{n}\) 倍

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 薄膜干渉の条件: 光路差と反射による位相変化を総合的に考慮して、明線・暗線の条件を導き出すこと。
    • 光路差: くさび形空気層の厚さ \(d\) の場所での往復で \(2d\)。
    • 位相変化: ガラスA下面(ガラス→空気)では位相変化なし、ガラスB上面(空気→ガラス)では位相\(\pi\)変化。このため、反射光では実質的に\(\lambda/2\)の光路差が加わったのと等価になる。
  • くさび形の幾何学: O点からの距離 \(x\)、空気層の厚さ \(d\)、全体の長さ \(L\)、アルミ箔の厚さ \(D\) の間の比例関係 (\(d/x = D/L\), \(\Delta d / \Delta x = D/L\)) を利用すること。
  • 媒質中の波長変化: 屈折率 \(n\) の媒質中では、波長が \(\lambda/n\) になること、または光路長が \(n\) 倍になることを理解し、干渉条件に反映させること。
  • 反射光と透過光の相補性: エネルギー保存則から、反射光で明線となる条件では透過光では暗線となり、その逆も成り立つ(明暗が反転する)こと。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 類似問題への応用:
    • ニュートンリング: レンズと平板ガラスの間の空気層による干渉。空気層の厚さが同心円状に変化する。
    • 平行な薄膜(シャボン玉など): 膜の厚さが一定なら、見る角度によって干渉条件が変わる(光路長が変わるため)。膜の厚さが場所によって変われば、虹色の干渉縞が見える。
    • くさび形の媒質が空気でなく、他の透明物質(例: 薄い油膜)の場合も同様に考えられる。
  • 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
    1. 何が変化し、何が一定か: 問題の各段階で、弦の長さ、張力(おもりの質量)、音さ(振動数)、線密度などのうち、どれが変化し、どれが一定に保たれているかを明確に把握する。
    2. 定常波のモード(腹の数): これが波長と弦の長さの関係を決定する。
    3. 波の速さの決定要因: 張力と線密度。張力が変われば速さが変わる。
    4. 振動数の源泉: 音さの振動数が弦の振動を決める(強制振動と共振)。
    5. うなりの条件: 「うなりが聞こえた」という記述があれば、二つの振動数の差を考える。
  • 問題解決のヒントや、特に注意すべき点は何か:
    • 複数の条件が絡み合うので、情報を整理し、どの公式をどの段階で使うか計画を立てる。
    • (2)のように、同じ物理量(ここでは振動数 \(f\))について異なる条件から二通りに表し、それらを等しいとおいて解く手法は頻出。
    • (3)のように、複数の可能性がある場合(\(f_B=f+n\) か \(f_B=f-n\) か)、他の物理的条件(弦長が長くなったため \(\lambda\) が大きくなり、結果として \(f\) が小さくなる)から絞り込む。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 反射の位相変化の混同: 屈折率大→小と小→大での位相変化のルールを逆に覚えてしまう。
    • 対策: 「固定端反射(小→大)で\(\pi\)ずれる」としっかり記憶する。ロープの反射をイメージするのも良い。
  • 光路差の計算ミス: 単純に \(d\) なのか \(2d\) なのか。媒質の屈折率を考慮し忘れる。
    • 対策: 光が往復することを意識する。媒質中では波長が短くなる、または距離が長く感じると考える。
  • 明線と暗線の条件の混同: 位相変化の有無によって、\(m\lambda\) が明線になったり暗線になったりする。
    • 対策: まずは基本的な干渉条件(同位相で強め合い、逆位相で弱め合い)を理解し、その上で反射による位相変化を考慮して最終的な条件式を導く練習をする。
  • 幾何学的関係の立式ミス: \(\Delta x\) と \(\Delta d\) の関係を \(D\) と \(L\) を使って正しく表せない。
    • 対策: 簡単な相似三角形の図を描いて確認する。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題における物理現象のイメージ化:
    • シャボン玉や水たまりに浮いた薄い油膜が虹色に見えるのは、まさにこの薄膜干渉。光の波長や膜の厚さによって強め合う色が異なるため。
    • くさび形のすき間では、場所によって厚さが連続的に変わるため、明暗の縞模様が平行に並んで見える。
    • O点から離れるにつれて空気層が厚くなるので、干渉の次数 \(m\) が増えていく様子をイメージする。
  • 図示の有効性:
    • 問題文の図aは、光線がどこで反射し、空気層の厚さ \(d\) がどこを指すのかを理解するのに不可欠。
    • 図c(模範解答中)のような、\(\Delta x\) と \(\Delta d\) の関係を示す拡大図を描くことで、幾何学的関係の立式が容易になる。
    • 自分で光の経路や位相変化を書き込んだ図を作成すると、考察が深まる。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 反射の光路を明確に描く。
    • 位相変化が起こる場所に印をつける(例: \(\pi\))。
    • 距離や厚さを示す記号(\(L, D, x, d, \Delta x, \Delta d\))を正確に対応させる。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 干渉条件 \(2d = m\lambda\) または \(2d=(m+1/2)\lambda\): 光波の重ね合わせの原理に基づく。反射の位相変化の有無で、どちらが明線でどちらが暗線になるかが決まる。
    • 適用根拠: 二つの光波が干渉し、その経路差(と初期位相差)によって強め合い・弱め合いが生じる普遍的な現象。
  • 幾何学的関係 \(\Delta d/\Delta x = D/L\): くさび形の線形な厚みの変化を表す。
    • 適用根拠: 図形の相似。マクロな寸法(\(L, D\))とミクロな変化量(\(\Delta x, \Delta d\))の関係を結びつける。
  • 媒質中波長 \(\lambda’ = \lambda/n\): 光の速さが媒質中で \(1/n\) になることから、振動数不変の法則により波長も \(1/n\) になる。
    • 適用根拠: 光の波動性と媒質の光学的性質。

これらの公式は、それぞれ特定の物理的状況や法則を数学的に表現したものです。問題文を読み解き、どの物理現象が主役で、どのような条件が与えられているかを把握することで、適切な公式を選択・適用できます。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) O点の判定:
    • \(d=0\) を確認。
    • 反射の位相差(実質\(\pi\))を考慮。
    • 干渉条件に \(d=0\) を代入し、\(m=0\) の暗線と判断。
  2. (2) アルミ箔の厚さ \(D\) の計算:
    • 明線の一般条件 \(2d = (m+1/2)\lambda\) を立てる。
    • 隣り合う明線では光路差 \(2\Delta d_{\text{明}}\) が \(\lambda\) であることから \(\Delta d_{\text{明}} = \lambda/2\) を導く。
    • 幾何学的関係 \(\Delta d_{\text{明}}/\Delta x = D/L\) を利用。
    • 上記2式から \(D\) を \(\lambda, L, \Delta x\) で表す式を導出し、数値を代入。
  3. (3) 透過光の縞:
    • エネルギー保存則、または透過光の干渉条件を考える。
    • 反射光と明暗が反転すると結論づける。
  4. (4) 水で満たした場合の明線間隔:
    • 水中での波長が \(\lambda/n\) になることを把握。
    • 反射の位相変化は空気中と同様であることを確認。
    • 空気中の \(\Delta x_{\text{空気中}}\) と \(\lambda\) の関係式 \(\Delta x_{\text{空気中}} = \lambda L/(2D)\) を利用。
    • \(\lambda\) を \(\lambda/n\) に置き換えて \(\Delta x_{\text{水中}}\) を求め、\(\Delta x_{\text{空気中}}\) と比較する。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 単位の確認:
    • (2)の計算では、\(\lambda, L, D\) は [m]、\(\Delta x\) も [m] に換算して計算する。最終的な \(D\) の単位が [m] になることを確認。
  • 指数の計算: \(10^A \times 10^B = 10^{A+B}\), \(10^A / 10^B = 10^{A-B}\)。特に \(10^{-8} / 10^{-3} = 10^{-8 – (-3)} = 10^{-5}\) のような計算は慎重に。
  • 分数の計算: 式変形の際、分母分子を間違えないように丁寧に扱う。
  • 有効数字: 問題文で与えられた数値の有効数字を確認し、最終的な答えも適切な有効数字で示す。(2)では、5.9 (2桁), 0.10 (2桁), 2.0 (2桁) なので、結果は1.475を四捨五入して1.5 (2桁) とするのが適切。

日頃の練習:

  • 複雑な計算は、途中式を省略せずに丁寧に書く癖をつける。
  • 計算後、オーダー(\(10\) の何乗か)が大まかに合っているか確認する。例えば、アルミ箔の厚さが数メートルになったら明らかに間違い。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 物理的な妥当性:
    • (1) O点が暗線になるのは、くさび形空気層の典型的な結果と一致するか? \(\rightarrow\) 一致する。
    • (2) アルミ箔の厚さ \(D\) が非常に小さい値(マイクロメートルオーダー)になるか? \(\rightarrow\) 干渉が起こるためには薄い必要があり、\(1.5 \times 10^{-5} \text{ m}\) は妥当な値。
    • (3) 透過光で明暗が反転するのは、エネルギー保存則と矛盾しないか? \(\rightarrow\) 矛盾しない。
    • (4) 水で満たすと屈折率 \(n>1\) なので、明線間隔は狭まる (\(1/n\) 倍) という結果は直感的にも理解できるか? \(\rightarrow\) 媒質中で波長が短くなるため、縞の間隔も狭まると考えられ、妥当。
  • 極端な場合の考察:
    • もし \(\lambda \rightarrow 0\) なら、(2)で \(D \rightarrow 0\) (ただし \(\Delta x\) が有限なら)。(4)で \(1/n\) 倍という比率は \(\lambda\) に依らない。
    • もし \(L \rightarrow \infty\) なら、\(\Delta x\) も非常に大きくなるか、\(D\) が非常に大きくなければ縞は見えにくい。
  • 次元解析(単位の一致確認):
    • (2)の \(D = \displaystyle\frac{\lambda L}{2\Delta x}\) の単位: \(\displaystyle\frac{[\text{m}] \cdot [\text{m}]}{[\text{m}]} = [\text{m}]\)。厚さの単位として正しい。

これらの吟味を行うことで、解答の確からしさを高めることができます。

問題99 (富山医薬大+慶應大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、平凸レンズと平面ガラスを用いたニュートンリングの現象に関するものです。空気層の厚さと干渉条件の関係、中心部の明暗、異なる波長の光や媒質中での見え方の変化、そして観察方法を変えた場合の干渉縞の変化について問われています。

与えられた条件
  • 装置: 平面ガラス板の上に曲率半径 \(R\) の平凸レンズを置く。
  • 観察方法: 上から波長 \(\lambda\) の単色光をあてて上から見る(反射光の干渉)。
  • (1) \(d \ll R\) の近似。
  • (3) 波長 \(\lambda = 540 \text{ nm} = 540 \times 10^{-9} \text{ m}\)。3番目の明輪の半径 \(r = 3.0 \text{ mm} = 3.0 \times 10^{-3} \text{ m}\)。
  • (4) 平凸レンズと平面ガラスの間を液体で満たす。
  • (5) すきまは空気。ガラス板の下から単色光をあててレンズの上から見る(透過光の干渉)。
問われていること
  1. 輪の半径 \(r\) の位置での空気層の厚さ \(d\) を \(R, r\) を用いて表す。
  2. 平凸レンズの中心部は明るく見えるか、暗く見えるか。青色の光と赤色の光では、輪の半径はどちらが大きいか。
  3. 平凸レンズの曲率半径 \(R \text{ [m]}\) の値。
  4. (4)における液体の屈折率 \(n\)。
  5. (5)の場合、ニュートンリングはどのように見えるか。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題の核心はニュートンリングにおける光の干渉条件です。レンズとガラス板の間の空気層(または液体層)の厚さが場所によって変わるため、同心円状の干渉縞が生じます。

導入:ニュートンリングの干渉の基本

ニュートンリングは、平凸レンズの球面と平面ガラスの間にできる、厚さが連続的に変わる薄層(通常は空気層)による光の干渉現象です。

  • 光路差: 中心からの距離 \(r\) の点での薄層の厚さを \(d\) とすると、垂直に入射した光が薄層の上面と下面で反射して干渉する場合、主な光路差は \(2d\) です。
  • 反射における位相変化:
    • レンズ下面(ガラス \(\rightarrow\) 空気)での反射:屈折率大 \(\rightarrow\) 小なので位相変化なし。
    • 平面ガラス上面(空気 \(\rightarrow\) ガラス)での反射:屈折率小 \(\rightarrow\) 大なので位相が \(\pi\) 変化。

    この結果、2つの反射光の間には、反射だけで \(\pi\) の位相差が生じます。これは光路差 \(\lambda/2\) に相当します。

  • 干渉条件(反射光・上から観察):
    実質的な光路差が \(2d\) に加えて \(\lambda/2\) のずれを考慮に入れると、

    • 強め合い(明輪): \(2d + \lambda/2 = (m+1)\lambda \Rightarrow 2d = (m + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda \quad (m=0, 1, 2, \dots)\)
    • 弱め合い(暗輪): \(2d + \lambda/2 = (m+1/2)\lambda \Rightarrow 2d = m\lambda \quad (m=0, 1, 2, \dots)\)

    ここで \(m=0\) が中心(または中心に最も近い)の干渉に対応します。

問1

思考の道筋とポイント
レンズの曲率半径 \(R\)、輪の半径 \(r\)、空気層の厚さ \(d\) の間の幾何学的関係を求めます。問題の図に示されている直角三角形に三平方の定理を適用します。

この設問における重要なポイント

  • 図から適切に直角三角形を見つけ、三平方の定理を適用すること。
  • \(d\) は \(R\) に比べて十分に小さい (\(d \ll R\)) という近似条件を用いることで、\(d^2\) の項を無視できること。

具体的な解説と立式

問題の図において、平凸レンズの曲面の中心をO’とすると、O’からレンズ球面上の点までの距離が曲率半径 \(R\) です。
レンズとガラス板の接点Cから距離 \(r\) の位置での空気層の厚さが \(d\) です。
レンズの曲面の中心O’、接点C、距離 \(r\) のレンズ下面の点を通る垂線と平面ガラスの交点を結ぶと、直角三角形ができます。
この直角三角形の辺の長さは、斜辺が \(R\)、一辺が \(r\)、もう一辺が \(R-d\) となります。
三平方の定理より、次の関係式が成り立ちます。

$$R^2 = (R-d)^2 + r^2 \quad \cdots ①$$

この式が、空気層の厚さ \(d\) を \(R, r\) で表すための基本となる方程式です。

使用した物理公式

  • 三平方の定理: \(a^2 + b^2 = c^2\)
計算過程

式①を展開します。

$$R^2 = R^2 – 2Rd + d^2 + r^2$$

\(R^2\) を両辺から消去すると、

$$0 = -2Rd + d^2 + r^2$$

ここで、問題文に「\(d\) は \(R\) に比べて十分に小さい」という条件があるので、\(d^2\) の項は \(2Rd\) や \(r^2\) に比べて非常に小さいため無視できます(\(d^2 \approx 0\) と近似します)。

$$0 \approx -2Rd + r^2$$

この近似式を \(d\) について解きます。まず \(2Rd\) を移項して、

$$2Rd \approx r^2$$

両辺を \(2R\) で割ると(\(R \neq 0\))、空気層の厚さ \(d\) が得られます。

$$d \approx \displaystyle\frac{r^2}{2R} \quad \cdots ②$$

計算方法の平易な説明

レンズの丸みを大きな円の一部と考えます。その円の半径が \(R\) です。レンズがガラス板に触れている点から少し離れた場所では、レンズとガラス板の間にわずかなすき間 \(d\) ができます。このすき間の厚さ \(d\) と、中心からの距離 \(r\)、レンズの丸みの半径 \(R\) の間には、数学的な関係(三平方の定理を使ったもの)があります。すき間 \(d\) は非常に小さいので、計算を簡単にするための近似を使うと、\(d\) は \(r^2\) に比例し、\(R\) に反比例するという結果が得られます。

結論と吟味

空気層の厚さ \(d\) は \(R, r\) を用いて \(d = \displaystyle\frac{r^2}{2R}\) と表されます。\(r\) が大きくなるほど(中心から離れるほど)\(d\) は大きくなり、\(R\) が大きいほど(レンズの曲がりが緩やかなほど)\(d\) は小さくなるという、直感とも一致する関係です。

解答 (1) \(\displaystyle d = \frac{r^2}{2R}\)

問2

思考の道筋とポイント
平凸レンズの中心部(接点C)では空気層の厚さ \(d=0\) です。このときの干渉条件を考えます。また、明輪(または暗輪)の半径 \(r\) が波長 \(\lambda\) にどのように依存するかを調べ、青色と赤色の光で比較します。

この設問における重要なポイント

  • 中心部では \(d=0\)。
  • 反射光の干渉条件(暗輪: \(2d = m\lambda\)、明輪: \(2d = (m+1/2)\lambda\))を適用。
  • 可視光の波長は、赤色光の方が青色光よりも長い (\(\lambda_{\text{赤}} > \lambda_{\text{青}}\))。
  • 輪の半径 \(r\) と波長 \(\lambda\) の関係式から、波長の違いが半径にどう影響するかを判断する。

具体的な解説と立式
中心部の明暗:

平凸レンズの中心部(接点C)では、空気層の厚さ \(d=0\) です。
上から見た反射光の干渉条件のうち、暗輪(光が弱め合う)の条件は、

$$2d = m\lambda \quad (m=0, 1, 2, \dots) \quad \cdots ③$$

この式が中心部の明暗を判定するのに使えます。

青色光と赤色光での輪の半径の比較:

明輪(光が強め合う)の条件は、

$$2d = (m + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda \quad (m=0, 1, 2, \dots) \quad \cdots ④$$

問1で得られた空気層の厚さ \(d = \displaystyle\frac{r^2}{2R}\) (式②)をこの明輪の条件式に代入することで、明輪の半径 \(r\) と波長 \(\lambda\) の関係を導きます。

$$2 \left(\displaystyle\frac{r^2}{2R}\right) = (m + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda$$

この式を \(r\) について整理すると、\(m\) 番目の明輪の半径 \(r_m\) を求める式が得られます。

$$\displaystyle\frac{r_m^2}{R} = (m + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda$$
$$r_m^2 = R (m + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda$$
$$r_m = \sqrt{R (m + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda} \quad \cdots ⑤$$

この式⑤を用いて、波長 \(\lambda\) が輪の半径 \(r_m\) にどう影響するかを考察します。

使用した物理公式

  • 反射光の干渉条件
    • 暗輪: \(2d = m\lambda\)
    • 明輪: \(2d = (m + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda\)
  • 空気層の厚さ: \(d = \displaystyle\frac{r^2}{2R}\) (式②)
  • 波長の大小関係: \(\lambda_{\text{赤}} > \lambda_{\text{青}}\)
計算過程

中心部の明暗:

中心部では \(d=0\) です。この値を暗輪の条件式③に代入します。

$$2 \times 0 = m\lambda$$
$$0 = m\lambda$$

これを満たす整数 \(m\) は \(m=0\) のみです。
したがって、中心部は \(m=0\) に対応する暗輪(暗点)となります。

青色光と赤色光での輪の半径の比較:

式⑤ \(r_m = \sqrt{R (m + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda}\) より、同じ次数 \(m\) の明輪、および同じ曲率半径 \(R\) のレンズを用いる場合、明輪の半径 \(r_m\) は波長 \(\lambda\) の平方根に比例します (\(r_m \propto \sqrt{\lambda}\))。

可視光線において、赤色光の波長を \(\lambda_{\text{赤}}\)、青色光の波長を \(\lambda_{\text{青}}\) とすると、\(\lambda_{\text{赤}} > \lambda_{\text{青}}\) の関係があります。

したがって、\(\sqrt{\lambda_{\text{赤}}} > \sqrt{\lambda_{\text{青}}}\) となり、同じ次数の明輪であれば、赤色光で観察される輪の半径 \(r_{m, \text{赤}}\) は、青色光で観察される輪の半径 \(r_{m, \text{青}}\) よりも大きくなります。

$$r_{m, \text{赤}} > r_{m, \text{青}}$$

計算方法の平易な説明

中心部: レンズがガラス板に触れている中心では、すき間の厚みはゼロです。問1で説明したように、光の反射の仕方の違いから、ここでは光が打ち消し合って暗く見えます。
輪の半径と光の色: 明るい輪ができる条件は、すき間の厚みと光の波長で決まります。計算してみると、輪の半径は光の波長の平方根に比例します。赤い光は青い光よりも波長が長いので、赤い光で作られる輪の方が青い光で作られる輪よりも大きくなります。

結論と吟味

平凸レンズの中心部は暗く見えます。また、輪の半径は赤色の光の方が青色の光よりも大きくなります。これはニュートンリングの実験で観察される事実と一致します。

解答 (2) 中心部は暗く見える。輪の半径は赤色の光の方が大きい。

問3

思考の道筋とポイント
与えられた波長 \(\lambda\) と、中心から3番目の明輪の半径 \(r\) の値を用いて、平凸レンズの曲率半径 \(R\) を求めます。「中心から3番目の明輪」が干渉の次数 \(m\) のどの値に対応するかに注意が必要です。

この設問における重要なポイント

  • 明輪の条件式: \(2d = (m + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda\)、または \(d = \displaystyle\frac{r^2}{2R}\) を用いて \(\displaystyle\frac{r^2}{R} = (m + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda\)。
  • 「中心から3番目の明輪」の次数 \(m\): 明輪は \(m=0, 1, 2, \dots\) で番号が振られるので、1番目の明輪が \(m=0\)、2番目が \(m=1\)、3番目が \(m=2\) に対応する。
  • 単位の換算: nm (ナノメートル) と mm (ミリメートル) を m (メートル) に正しく換算して計算する。

具体的な解説と立式

明輪の条件は、問2で用いた式⑤の元となる式から、

$$\displaystyle\frac{r^2}{R} = (m + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda \quad (m=0, 1, 2, \dots) \quad \cdots ⑥$$

です。ここで、\(m=0\) が中心から1番目の明輪、\(m=1\) が2番目の明輪、\(m=2\) が3番目の明輪に対応します。
問題文より「中心から3番目の明輪」について考えるので、\(m=2\) を使用します。
このときの半径を \(r_2\) とすると、式⑥は次のようになります。

$$\displaystyle\frac{r_2^2}{R} = (2 + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda$$

この式を \(R\) について解くと、

$$R = \displaystyle\frac{r_2^2}{(2 + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda} = \displaystyle\frac{r_2^2}{\displaystyle\frac{5}{2}\lambda} = \displaystyle\frac{2r_2^2}{5\lambda} \quad \cdots ⑦$$

これが曲率半径 \(R\) を求めるための式です。

使用した物理公式

  • 明輪の半径の条件: \(\displaystyle\frac{r^2}{R} = (m + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda\) (式⑥)
計算過程

与えられた値を式⑦に代入します。
\(\lambda = 540 \text{ nm} = 540 \times 10^{-9} \text{ m}\)
\(r_2 = 3.0 \text{ mm} = 3.0 \times 10^{-3} \text{ m}\) (3番目の明輪の半径)

式⑦にこれらの値を代入すると、

$$R = \displaystyle\frac{2 \times (3.0 \times 10^{-3})^2}{5 \times (540 \times 10^{-9})}$$

分子を計算します。

$$2 \times (3.0 \times 10^{-3})^2 = 2 \times (9.0 \times 10^{-6}) = 18.0 \times 10^{-6}$$

分母を計算します。

$$5 \times (540 \times 10^{-9}) = 2700 \times 10^{-9} = 2.7 \times 10^3 \times 10^{-9} = 2.7 \times 10^{-6}$$

したがって、\(R\) は、

$$R = \displaystyle\frac{18.0 \times 10^{-6}}{2.7 \times 10^{-6}}$$

\(10^{-6}\) の項は約分できるので、

$$R = \displaystyle\frac{18.0}{2.7}$$

分母分子を10倍して整数にすると、

$$R = \displaystyle\frac{180}{27}$$

これを約分します(両辺を9で割る)。

$$R = \displaystyle\frac{20}{3}$$

小数で表すと、

$$R \approx 6.666\dots \text{ m}$$

与えられた数値の有効数字(\(r_2\) は2桁、\(\lambda\) は3桁)を考慮し、結果を有効数字2桁で示すと、

$$R \approx 6.7 \text{ m}$$

計算方法の平易な説明
  1. 明るい輪ができる条件式を使います。この式には、輪の半径 \(r\)、レンズの丸みの半径 \(R\)、光の波長 \(\lambda\)、そして何番目の輪かを示す数 \(m\) が入っています。
  2. 問題では「3番目の明るい輪」と言っているので、\(m=2\) を使います(1番目が \(m=0\) に対応するため)。
  3. 与えられた輪の半径 \(r\) と光の波長 \(\lambda\) の値を式に代入し、未知数であるレンズの丸みの半径 \(R\) について解きます。
  4. 単位(mmやnm)をメートル(m)に直してから計算することを忘れないようにしましょう。
結論と吟味

平凸レンズの曲率半径 \(R\) は約 \(6.7 \text{ m}\) です。ニュートンリングの実験に用いられるレンズは、通常、曲率半径が大きい(曲がりが緩やか)ものが使われるため、この値は妥当と考えられます。

解答 (3) \(R \approx 6.7 \text{ m}\)

問4

思考の道筋とポイント
レンズとガラスの間を屈折率 \(n\) の液体で満たした場合、光路差または実効的な波長が変化します。空気中で3番目の明輪が見えた位置に、液体中では4番目の明輪が見えたという条件から、液体の屈折率 \(n\) を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 液体で満たした場合の明輪の条件: 光路差が \(2nd\) となるか、波長が \(\lambda’ = \lambda/n\) となるとして条件式を立てる。反射の位相変化は、液体が空気より屈折率が大きいと仮定すれば、レンズ下面(ガラス→液体)と液体層下面(液体→ガラス)で起こりうるが、通常は空気中の場合と同様に、レンズ下面(ガラス→液体、\(n_{\text{ガラス}} > n_{\text{液体}}\) なら変化なし)、液体層下面(液体→ガラス、\(n_{\text{液体}} < n_{\text{ガラス}}\) なら\(\pi\)変化)となり、実質\(\pi\)の位相差は変わらないことが多い。ここでは、単純に光路差の変化または波長の変化で考える。模範解答は光路差を \(2nd\) として扱っている。
  • 同じ位置 \(r\) で比較するので、空気層(液体層)の厚さ \(d = r^2/(2R)\) は共通。
  • 空気中の3番目の明輪は \(m=2\)。液体中の4番目の明輪は \(m’=3\)。

具体的な解説と立式

レンズとガラスの間を屈折率 \(n\) の液体で満たした場合、厚さ \(d\) の液体層における光学的距離を考慮すると、光路差は \(2nd\) となります。
反射における位相変化の条件は空気中の場合と同様であると仮定すると、明輪の条件は次のように表せます。

$$2nd = (m’ + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda \quad (m’=0, 1, 2, \dots) \quad \cdots ⑧$$

ここで、\(d = \displaystyle\frac{r^2}{2R}\) (式②)を代入すると、

$$2n \left(\displaystyle\frac{r^2}{2R}\right) = (m’ + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda$$

整理すると、

$$n \displaystyle\frac{r^2}{R} = (m’ + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda \quad \cdots ⑨$$

空気中(屈折率を1とみなせる)の場合、問3で考えたように、3番目の明輪(これは \(m=2\) に対応)が半径 \(r\) の位置に見えたので、式⑥から次の関係が成り立っています。

$$\displaystyle\frac{r^2}{R} = (2 + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda = \displaystyle\frac{5}{2}\lambda \quad \cdots ⑩$$

次に、液体で満たした場合、同じ半径 \(r\) の位置に4番目の明輪が見えたとされています。4番目の明輪は \(m’=3\) に対応します。このときの条件は式⑨から、

$$n \displaystyle\frac{r^2}{R} = (3 + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda = \displaystyle\frac{7}{2}\lambda \quad \cdots ⑪$$

式⑩と式⑪は、同じ \(r\) と \(R\) についての関係式なので、これらを使って \(n\) を求めることができます。

使用した物理公式

  • 明輪の条件(空気中): \(\displaystyle\frac{r^2}{R} = (m + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda\) (式⑥の再掲)
  • 明輪の条件(液体中、屈折率 \(n\)): \(n \displaystyle\frac{r^2}{R} = (m’ + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda\) (式⑨)
計算過程

式⑩で得られた \(\displaystyle\frac{r^2}{R} = \displaystyle\frac{5}{2}\lambda\) の関係を、式⑪に代入します。

$$n \left(\displaystyle\frac{5}{2}\lambda\right) = \displaystyle\frac{7}{2}\lambda$$

この式から液体の屈折率 \(n\) を求めます。
両辺に \(\lambda\) が含まれており、\(\lambda \neq 0\) なので、\(\lambda\) で割ることができます。

$$n \cdot \displaystyle\frac{5}{2} = \displaystyle\frac{7}{2}$$

さらに、両辺に \(2\) を掛けて分母を払うと、

$$5n = 7$$

\(n\) について解くと、

$$n = \displaystyle\frac{7}{5}$$
$$n = 1.4$$

計算方法の平易な説明
  1. まず、すき間が空気のときの明るい輪の条件式と、すき間が液体のときの明るい輪の条件式をそれぞれ立てます。液体の場合、光の進み方が変わる(光路長が \(n\) 倍になる、または波長が \(1/n\) 倍になる)ことを考慮します。
  2. 問題では「同じ場所」で輪の次数が変わったと言っているので、輪の半径 \(r\) とレンズの丸みの半径 \(R\) は共通です。
  3. 空気のときの「3番目の明るい輪」(\(m=2\)) の条件と、液体のときの「4番目の明るい輪」(\(m=3\)) の条件を、\(r\) と \(R\) を使って等しいとおける部分で結びつけます。
  4. そうしてできた方程式を解くと、液体の屈折率 \(n\) が求まります。
結論と吟味

液体の屈折率 \(n\) は \(1.4\) です。多くの液体(例:一部の油やグリセリンなど)がこの程度の屈折率を持つため、物理的に妥当な値です。

解答 (4) \(n = 1.4\)

問5

思考の道筋とポイント
今度は、ガラス板の下から光を当て、レンズの上からニュートンリングを観察します。これは透過光による干渉を考えることになります。反射光の場合と比較して、干渉条件がどのように変わるかを考察します。

この設問における重要なポイント

  • 観察するのは透過光である。
  • 透過光の干渉では、一般に反射光の干渉と明暗の条件が反転する。
  • この反転は、干渉に関与する光線が経る反射の回数や位相変化の違いに起因する。またはエネルギー保存則からの類推。

具体的な解説と立式

ガラス板の下から単色光を当て、レンズの上から透過してきた光を観察する場合を考えます。
干渉し合う主な光は次の2つです。

  1. 光T1: 下から入射し、平面ガラスを透過、空気層を透過、レンズを透過してそのまま上へ抜ける光。この光は途中で反射を経験しません。
  2. 光T2: 下から入射し、平面ガラスを透過後、空気層に入り、レンズの下面(空気\(\rightarrow\)レンズの界面、屈折率小\(\rightarrow\)大なので位相\(\pi\)変化)で反射し、次に平面ガラスの上面(空気\(\rightarrow\)ガラスの界面、屈折率小\(\rightarrow\)大なので位相\(\pi\)変化)で反射し、再び空気層を透過し、レンズを透過して上へ抜ける光。

光T2は、空気層の厚さ \(d\) の部分を往復するような経路をたどり、その間に2回の反射(レンズ下面とガラス上面)を経験します。
この2回の反射は、どちらも屈折率の小さい空気から屈折率の大きい媒質(レンズまたはガラス)へ入射する際の反射なので、それぞれで位相が \(\pi\) 変化します。したがって、光T2は合計で \(2\pi\) の位相変化を受けますが、これは実質的に位相変化がないのと同じです(\(2\pi\) は波長の1周期分に相当するため)。
光T1は反射を経験しないので位相変化はありません。
したがって、光T1と光T2の間の位相差は、空気層を往復することによる光路差 \(2d\) のみによって決まります。

この場合の干渉条件は、

  • 強め合い(明輪): 光路差 \(2d\) が波長の整数倍のとき。
    $$2d = m\lambda \quad (m=0, 1, 2, \dots) \quad \cdots ⑫$$
  • 弱め合い(暗輪): 光路差 \(2d\) が波長の半整数倍のとき。
    $$2d = (m + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda \quad (m=0, 1, 2, \dots) \quad \cdots ⑬$$

これらの条件は、上から見て反射光を観察した場合の干渉条件(明輪: \(2d = (m+1/2)\lambda\)、暗輪: \(2d = m\lambda\))とちょうど逆になっています。

【別のアプローチ:エネルギー保存則】

エネルギー保存則から考えても、反射光が強め合う(弱め合う)条件では、透過光は弱め合う(強め合う)ことになるため、明暗が反転すると結論できます。入射光のエネルギーは反射光と透過光に分配されるため(吸収を無視すれば)、反射光が明るい場所では透過光は暗く、反射光が暗い場所では透過光は明るくなります。

使用した物理公式

  • 透過光の干渉条件(上記モデルの場合)
    • 明輪: \(2d = m\lambda\)
    • 暗輪: \(2d = (m + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda\)
  • エネルギー保存則からの類推
計算過程

この設問は主に定性的な変化を問うており、具体的な計算値を求めるものではありません。
中心部(\(d=0\))の明暗を透過光の条件で確認します。
明輪の条件 \(2d = m\lambda\) (式⑫)に \(d=0\) を代入すると、

$$2 \times 0 = m\lambda$$
$$0 = m\lambda$$

これを満たす整数 \(m\) は \(m=0\) です。したがって、透過光で観察した場合、中心部は \(m=0\) の明輪(明点)となります。

これは、反射光で中心が暗点だったことと対照的であり、明暗が反転していることを裏付けます。

計算方法の平易な説明

光をガラス板の下から当ててレンズの上から見るということは、レンズとガラス板のすき間を「通り抜けてきた」光を見ることになります。通常上から光を当てて見るのは「反射してきた」光です。
一般に、反射する光が強め合って明るく見えるとき、通り抜ける光はその分エネルギーが減って暗く見え、その逆も成り立ちます。つまり、上から見て明るかった輪は、下から光を当てて上から見ると暗い輪になり、暗かった輪は明るい輪になります。中心は、上から見ると暗かったですが、この場合は明るく見えるようになります。

結論と吟味

ガラス板の下から単色光をあててレンズの上から見ると、ニュートンリングの明暗が反転して見えます。つまり、上から反射光で観察した場合に暗輪だったところが明輪に、明輪だったところが暗輪になります。特に中心部は明点となります。

解答 (5) 上から見た場合と明暗の輪が入れ替わり、中心は明るく見える。

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • ニュートンリングの幾何学的関係: 空気層の厚さ \(d\) と輪の半径 \(r\)、レンズの曲率半径 \(R\) の関係式 \(d = \displaystyle\frac{r^2}{2R}\) を正しく導出・利用すること。
  • 反射光の干渉条件: レンズ下面での反射(位相変化なし)とガラス板上面での反射(位相\(\pi\)変化)を考慮し、明輪条件 \(2d = (m+1/2)\lambda\)、暗輪条件 \(2d = m\lambda\) を理解すること。
  • 透過光の干渉条件: 反射光とは明暗が反転し、明輪条件 \(2d = m\lambda\)、暗輪条件 \(2d = (m+1/2)\lambda\) となることを理解すること。
  • 次数 \(m\) の扱い: 干渉の次数 \(m\) (\(0, 1, 2, \dots\)) と「何番目の輪か」という表現の対応関係を正確に把握すること(例: 1番目の明輪は \(m=0\))。
  • 媒質の効果: 薄層が屈折率 \(n\) の媒質で満たされると、光路差が \(2nd\) になる(または波長が \(\lambda/n\) になる)と考えること。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 類似問題への応用:
    • くさび形空気層の干渉: 厚さの変化が線形的である点が異なるが、干渉の原理は共通。
    • 薄膜干渉全般: シャボン玉の色、CDの虹色など、厚さや見る角度によって干渉条件が変わる現象。
  • 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
    1. 薄層の形状と厚さの式: まず、干渉が起きる薄層の厚さ \(d\) が、位置の関数(ニュートンリングなら中心からの距離 \(r\) の関数)としてどう表されるかを確認・導出する。
    2. 反射面の特定と位相変化: 干渉しあう光がどの界面で反射しているかと、それぞれの反射で位相が\(\pi\)ずれるかどうかを確認する。
    3. 光路差の計算: 薄層の厚さ \(d\) と屈折率 \(n\) から光路差を \(2nd\) (または \(2d\)) と計算する。
    4. 干渉条件の立式: 上記の光路差と位相変化から、明線・暗線の条件を正しく立てる。
    5. 「何番目」と次数 \(m\) の対応: 問題文の「\(k\) 番目の明輪/暗輪」という表現が、数式の次数 \(m\) の何に対応するかを慎重に判断する。
  • 問題解決のヒントや、特に注意すべき点は何か:
    • 近似条件 (\(d \ll R\)) がある場合は、適切に利用して式を簡略化する。
    • 複数の条件(例:異なる波長、異なる媒質、異なる次数)で同じ位置や同じ輪を比較する場合、共通する物理量(例:\(r, R\))を見つけて連立方程式を立てる。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • \(d\) と \(r\) の関係式の導出ミス: 三平方の定理の適用や近似の際に計算を誤る。
    • 対策: 図を丁寧に描き、どの部分が \(R, R-d, r\) に対応するかを明確にする。近似は \(d^2\) が無視できる根拠を理解する。
  • 明線・暗線の条件の混同と次数 \(m\) の誤り: 反射光か透過光か、また位相変化の扱いによって条件式が変わる。\(m=0\) を1番目とするか0番目とするかで混乱。
    • 対策: 基本的な干渉の原理(経路差が波長の整数倍で同位相強め合い、半整数倍で逆位相強め合い)に立ち返り、反射の位相変化を「初期位相差」として加味する。次数 \(m\) は \(0, 1, 2, \dots\) で始まることを原則とし、問題文の「何番目」との対応を丁寧に確認する。
  • 単位換算ミス: nm, mm, m が混在する場合の換算を忘れたり間違えたりする。
    • 対策: 計算前に全ての単位を基本単位(メートル)に統一する習慣をつける。\(1 \text{ nm} = 10^{-9} \text{ m}\), \(1 \text{ mm} = 10^{-3} \text{ m}\)。
  • 液体中の屈折率の扱い: 光路差を \(2nd\) とするか、波長を \(\lambda/n\) とするか、どちらか一方を一貫して使う。両方に \(n\) をかけてしまうなどの二重補正をしない。
    • 対策: 「光学的距離」という概念を理解するか、媒質中では波長が短くなるとシンプルに考える。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題における物理現象のイメージ化:
    • レンズとガラス板の間にできる非常に薄い空気の層の厚みが、中心から離れるにつれて二次関数的に(ゆるやかに)増えていく様子。
    • その厚みの変化に応じて、光の干渉条件が場所ごとに変わり、同心円状の明暗のリングができるイメージ。
    • 波長の異なる光を使うと、リングの太さや間隔が変わる。白色光なら虹色のリングが見える。
  • 図示の有効性:
    • 問1の \(d\) を求める際には、問題図中の直角三角形が不可欠。自分で拡大図を描いてみると理解が深まる。
    • 光路や反射の様子を模式的に描くことで、位相変化の有無を判断しやすくなる。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • レンズの曲率は非常に緩やか(\(R\) が大きい)であることを意識しつつも、\(d\) が生じる様子は分かりやすく描く。
    • 光線は垂直入射として扱う。
    • 反射点を明確にし、位相変化の有無をメモする。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(d = r^2/(2R)\): これはニュートンリング特有の幾何学的関係式。レンズの球面形状と \(d \ll R\) の近似から導かれる。
    • 適用根拠: 問題設定がニュートンリングであり、空気層の厚みを求める必要がある場合。
  • 干渉条件 (\(2d = m\lambda\) 系): 薄膜干渉の基本原理。
    • 適用根拠: 二つのコヒーレントな光波が重なり合うあらゆる状況。ニュートンリングでは、レンズ下面反射光とガラス上面反射光の干渉。
  • 光路長 \(nd\): 屈折率 \(n\) の媒質中では、同じ幾何学的距離でも位相が多く進む(または波が密になる)ことを表す。
    • 適用根拠: 干渉が空気以外の媒質中で起こる場合。

これらの公式が成り立つ背景(物理法則や数学的導出)を理解しておくことで、初見の問題でもどの公式が使えそうか判断しやすくなります。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) \(d\) の導出: 幾何学(三平方の定理+近似) \(\rightarrow\) \(d(R,r)\) の式。
  2. (2) 中心部の明暗と波長依存性:
    • \(d=0\) を干渉条件(反射光)に代入 \(\rightarrow\) 中心は暗。
    • 明輪の \(r\) と \(\lambda\) の関係式を導出 \(\rightarrow\) \(r \propto \sqrt{\lambda}\) \(\rightarrow\) 赤色光で \(r\) 大。
  3. (3) \(R\) の計算: 明輪の条件式に \(m=2\)(3番目)、\(r\)、\(\lambda\) を代入 \(\rightarrow\) \(R\) を算出。
  4. (4) 液体屈折率 \(n\) の計算:
    • 空気中 (\(m=2\)) と液体中 (\(m’=3\)) で同じ \(r, R\) の明輪条件を立式。
    • 両式から \(n\) を算出。
  5. (5) 透過光の観察:
    • 透過光の干渉に関わる光路と反射を分析 \(\rightarrow\) 反射光と明暗が反転。
    • 中心は明。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 指数の扱い: \( (10^{-3})^2 = 10^{-6} \)、\( 10^{-6} / 10^{-9} = 10^3 \) など、基本的な指数法則を確実に。
  • 分母と分子の整理: 特に \(R = \displaystyle\frac{2r^2}{5\lambda}\) のような式では、代入後の分数の整理を慎重に。
  • 近似の適用タイミング: \(d^2 \approx 0\) のような近似は、式を展開した後、意味を考えてから適用する。
  • 有効数字の意識: 計算の最終段階で、与えられた数値の有効数字に合わせて結果を丸める。

日頃の練習:

  • 計算過程を丁寧にノートに書く。暗算に頼りすぎない。
  • 同じ種類の計算問題を複数解いて、計算パターンに慣れる。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 物理的な妥当性:
    • (1) \(d\) は \(r=0\) で \(0\) になるか? \(r\) が増えれば \(d\) も増えるか? \(\rightarrow\) はい。
    • (2) 中心が暗いのは実験事実と合うか? 波長が長い方が輪が大きいのは他の干渉現象(回折格子など)と傾向が同じか? \(\rightarrow\) はい。
    • (3) \(R\) の値は現実的なレンズの曲率として大きすぎたり小さすぎたりしないか?(例: 数mmなら小さすぎ、数kmなら大きすぎ) \(\rightarrow\) 数メートルは妥当な範囲。
    • (4) 液体の屈折率 \(n\) が \(1\) より大きいか?(通常、空気より高屈折率) 極端に大きすぎないか? \(\rightarrow\) \(n=1.4\) は水的・油的な物質として妥当。
    • (5) 明暗反転はエネルギー保存の観点から自然か? \(\rightarrow\) はい。
  • 式の次元(単位)確認:
    • (1) \(d = r^2/(2R)\) \(\rightarrow\) \([\text{m}] = [\text{m}^2]/[\text{m}]\) で正しい。
  • 特殊なケースでの挙動:
    • もし \(R \rightarrow \infty\)(平面ガラス)なら \(d \rightarrow 0\)。干渉縞は実質見えなくなる(無限遠に広がる)。

問題100 (福井工大+法政大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、点電荷にはたらくクーロン力と、重力、糸の張力がつり合っている状況を扱います。前半では力のつりあいから未知の量を求め、後半では二つの荷電金属球を接触させた後の電荷の再配分と、その後の力のつりあいを考えます。

与えられた条件
  • 小球A: 質量 \(m \text{ [kg]}\)、電荷 \(-q \text{ [C]}\) (\(q>0\))。絶縁性の糸でつるされている。
  • 小球B: 電荷 \(+2q \text{ [C]}\)。
  • 初期状態: AとBの距離が \(d \text{ [m]}\) のとき、糸は鉛直方向と \(30^\circ\) の角をなしてつり合っている。
  • 重力加速度: \(g \text{ [m/s}^2\text{]}\)。
  • クーロンの法則の比例定数: \(k \text{ [N}\cdot\text{m}^2\text{/C}^2\text{]}\)。
  • (3)の条件: AとBは同じ金属球。接触後、再び距離 \(d\) に保つ。糸と鉛直方向のなす角は \(\theta\)。
問われていること
  1. (1) 初期状態における糸の張力 \(T \text{ [N]}\)。
  2. (2) \(q\) を他の量(\(m, g, d, k\))で表す。
  3. (3) A, B接触後、距離 \(d\) に保ったときの \(\tan\theta\) の数値。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題を解く上で基本となるのは、力のつりあいクーロンの法則、そして導体接触による電荷の移動(電荷保存則と等電位の原理に基づく電荷の分配)です。

導入:力のつりあいとクーロンの法則

  • 力のつりあい: 物体が静止している(つり合っている)とき、その物体にはたらく力のベクトル和はゼロになります。問題を解く際には、力を適切な方向(例: 水平方向と鉛直方向)に分解し、それぞれの方向での力のつりあいの式を立てます。
  • クーロンの法則: 二つの点電荷 \(q_1, q_2\) が距離 \(r\) だけ離れているとき、それらの間にはたらく静電気力の大きさ \(F\) は \(F = k \displaystyle\frac{|q_1 q_2|}{r^2}\) で与えられます。力の向きは、同符号の電荷間では斥力、異符号の電荷間では引力となります。
  • 金属球の接触と電荷の再配分: 同じ大きさ・形状の導体球を接触させると、総電荷はそれぞれの球に等しく分配されます。

問1

思考の道筋とポイント
小球Aには、重力 \(mg\)、糸の張力 \(T\)、小球Bからの静電気力 \(F\) の3つの力がはたらいてつり合っています。糸の張力 \(T\) を求めるために、これらの力を水平方向と鉛直方向に分解し、特に関与する力が少ない鉛直方向の力のつりあいを考えます。

この設問における重要なポイント

  • 小球Aにはたらく力をすべて図示する(重力、張力、静電気力)。
  • 張力 \(T\) を鉛直成分 \(T\cos30^\circ\) と水平成分 \(T\sin30^\circ\) に分解する。
  • 鉛直方向の力のつりあいの式を立てる。静電気力は水平方向にはたらくため、鉛直方向のつりあいには直接関与しない。

具体的な解説と立式

小球Aにはたらく力は以下の通りです。

  • 重力: 大きさ \(mg\)、鉛直下向き。
  • 糸の張力: 大きさ \(T\)、糸の方向に沿って斜め上向き(鉛直方向と \(30^\circ\) の角をなす)。
  • 静電気力(クーロン力): 小球Bからの引力。大きさ \(F\)、水平右向き(BがAに近づいているため、図ではBがAの左側にあると仮定するとAはBに引かれるので右向き)。

これらの力がつり合っているので、鉛直方向の力のつりあいを考えます。
糸の張力 \(T\) の鉛直成分は \(T\cos30^\circ\) です。
重力 \(mg\) は鉛直下向きです。
静電気力 \(F\) は水平方向にはたらくので、鉛直成分は0です。

したがって、鉛直方向の力のつりあいの式は、

$$T\cos30^\circ = mg \quad \cdots ①$$

この式を解くことで、糸の張力 \(T\) を求めることができます。

使用した物理公式

  • 力のつりあい(鉛直方向): \(\sum F_y = 0\)
  • 三角関数(力の分解): \(T_y = T\cos\theta\)
計算過程

式①から \(T\) を求めます。

$$T = \displaystyle\frac{mg}{\cos30^\circ}$$

\(\cos30^\circ = \displaystyle\frac{\sqrt{3}}{2}\) であることを用いて代入します。

$$T = \displaystyle\frac{mg}{\displaystyle\frac{\sqrt{3}}{2}}$$

分数の割り算は、割る数の逆数を掛けることと同じなので、

$$T = mg \times \displaystyle\frac{2}{\sqrt{3}}$$

これを整理すると、

$$T = \displaystyle\frac{2mg}{\sqrt{3}}$$

計算方法の平易な説明

小球Aは静止しているので、Aにはたらく力はつり合っています。Aにはたらく力は、地球が引く力(重力)、糸が引く力(張力)、そして小球Bが引く力(静電気力)の3つです。これらの力のうち、上下方向(鉛直方向)に注目すると、張力の上向き成分と重力がつり合っているはずです。糸の角度が \(30^\circ\) とわかっているので、三角関数を使って張力の上向き成分を計算し、それが重力 \(mg\) と等しいという式を立てます。この式を解けば、張力の大きさがわかります。

結論と吟味

糸の張力 \(T\) は \(\displaystyle\frac{2mg}{\sqrt{3}} \text{ [N]}\) です。
\(\cos30^\circ < 1\) なので、\(T > mg\) となり、重力だけでなく静電気力の水平成分を支えるために張力が重力より大きくなっていることと整合します。

解答 (1) \(\displaystyle\frac{2mg}{\sqrt{3}} \text{ [N]}\)

問2

思考の道筋とポイント
電荷 \(q\) を求めるために、今度は水平方向の力のつりあいを考えます。これにより静電気力 \(F\) が他の量で表され、さらにクーロンの法則 \(F = k \displaystyle\frac{|q_1 q_2|}{d^2}\) を用いることで、\(q\) を含む方程式を立てることができます。

この設問における重要なポイント

  • 水平方向の力のつりあいの式を立てる。張力の水平成分 \(T\sin30^\circ\) と静電気力 \(F\) がつり合う。
  • クーロンの法則を用いて静電気力 \(F\) を \(q, d, k\) で表す。小球Aの電荷は \(-q\)、小球Bの電荷は \(+2q\) なので、力の大きさは \(F = k \displaystyle\frac{q \cdot 2q}{d^2}\)。
  • 上記2つの \(F\) に関する式を等しいとおき、\(q\) について解く。

具体的な解説と立式

小球Aにはたらく水平方向の力は、糸の張力 \(T\) の水平成分 \(T\sin30^\circ\) と、小球Bからの静電気力 \(F\) です。これらがつり合っているので、次の式が成り立ちます。

$$F = T\sin30^\circ \quad \cdots ②$$

一方、クーロンの法則より、小球A(電荷 \(-q\))と小球B(電荷 \(+2q\))の間に働く静電気力の大きさ \(F\) は、距離が \(d\) なので、次のように表されます。

$$F = k \displaystyle\frac{|(-q)(+2q)|}{d^2} = k \displaystyle\frac{2q^2}{d^2} \quad \cdots ③$$

式②と式③はどちらも静電気力 \(F\) を表しているので、これらの右辺を等しいとおくことで、\(q\) を含む方程式を立てます。

$$k \displaystyle\frac{2q^2}{d^2} = T\sin30^\circ \quad \cdots ④$$

この式④に、問1で求めた張力 \(T\) の値を代入し、\(q\) について解くことが目標です。

使用した物理公式

  • 力のつりあい(水平方向): \(\sum F_x = 0\)
  • 三角関数(力の分解): \(T_x = T\sin\theta\)
  • クーロンの法則: \(F = k \displaystyle\frac{|q_1 q_2|}{r^2}\)
計算過程

まず、式④に問1で求めた \(T = \displaystyle\frac{2mg}{\sqrt{3}}\) を代入します。また、\(\sin30^\circ = \displaystyle\frac{1}{2}\) であることを用います。

$$k \displaystyle\frac{2q^2}{d^2} = \left(\displaystyle\frac{2mg}{\sqrt{3}}\right) \times \displaystyle\frac{1}{2}$$

右辺の \(2\) が約分されるので、

$$k \displaystyle\frac{2q^2}{d^2} = \displaystyle\frac{mg}{\sqrt{3}}$$

次に、この式を \(q^2\) について解きます。両辺に \(d^2\) を掛け、両辺を \(2k\) で割ると、

$$q^2 = \displaystyle\frac{mgd^2}{2k\sqrt{3}}$$

問題文より \(q>0\) なので、両辺の正の平方根をとります。

$$q = \sqrt{\displaystyle\frac{mgd^2}{2k\sqrt{3}}}$$

\(d^2\) は平方根の外に出すことができるので(\(d>0\))、

$$q = d \sqrt{\displaystyle\frac{mg}{2k\sqrt{3}}}$$

計算方法の平易な説明
  1. 小球Aにはたらく力のうち、今度は左右方向(水平方向)に注目します。張力の左向き(または右向き)成分と、静電気力がつり合っています。これにより、静電気力の大きさを張力を使って表すことができます。
  2. 一方、静電気力の大きさは、クーロンの法則という公式を使っても表せます。この公式には、求めたい電荷 \(q\) が含まれています。
  3. 上記2つの方法で表した静電気力の大きさが等しいという方程式を立てます。このとき、問1で求めた張力の値を代入します。
  4. この方程式を \(q\) について解けば、\(q\) が他の物理量(質量 \(m\)、重力加速度 \(g\)、距離 \(d\)、クーロン定数 \(k\))で表されます。
結論と吟味

電荷 \(q\) は \(d \sqrt{\displaystyle\frac{mg}{2k\sqrt{3}}}\) と表されます。
単位の確認: \(\displaystyle\frac{mg}{k}\) の次元は \(\displaystyle\frac{[\text{N}]}{[\text{N}\cdot\text{m}^2\text{/C}^2]} = \displaystyle\frac{[\text{C}^2]}{[\text{m}^2]}\) です。したがって、\(\sqrt{\displaystyle\frac{mg}{k}}\) の次元は \([\text{C/m}]\) となります。これに \(d \text{ [m]}\) を掛けるので、\(q\) の次元は正しく \([\text{C}]\) となります。

解答 (2) \(q = d \sqrt{\displaystyle\frac{mg}{2k\sqrt{3}}}\)

問3

思考の道筋とポイント
AとBを接触させると電荷が再配分されます。同じ金属球なので、総電荷が等しく分配されると考えます。その後、再び距離 \(d\) に離したときの力のつりあいを考え、糸の鉛直方向とのなす角 \(\theta\) に関する \(\tan\theta\) を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 金属球の接触による電荷の再配分: 総電荷を計算し、それを2等分したものが接触後の各球の電荷となる(同じ金属球であるため)。
  • 接触後の電荷の符号と力の向き: 接触後の両球の電荷が同符号になるため、クーロン力は斥力となる。
  • 新たな力のつりあい: 接触後の電荷と新しい角度 \(\theta\) を用いて、再度、水平方向と鉛直方向の力のつりあいの式を立てる。
  • \(\tan\theta\) の計算: 水平方向と鉛直方向のつりあいの式から、張力 \(T’\) を消去して \(\tan\theta\) を求める。
  • (2)で求めた \(q\) の関係式(または \(q^2\) や \(kq^2\) の関係式)を利用して数値を代入する。

具体的な解説と立式

AとBは同じ金属球であり、接触させると電荷が移動し、最終的に同じ電位になります。同じ形状・大きさの導体球の場合、総電荷を等しく分け合います。

接触前のAの電荷は \(-q\)、Bの電荷は \(+2q\) です。
したがって、総電荷 \(Q_{\text{総}}\) は、

$$Q_{\text{総}} = (-q) + (+2q) = +q$$

接触後、この総電荷 \(+q\) がAとBに等しく分配されるので、それぞれの電荷 \(q’_A, q’_B\) は、

$$q’_A = q’_B = \displaystyle\frac{Q_{\text{総}}}{2} = \displaystyle\frac{+q}{2}$$

両球とも \(+q/2\) の正電荷を持つため、互いに斥力(反発力)がはたらきます。
この斥力の大きさを \(F’\) とすると、クーロンの法則より、

$$F’ = k \displaystyle\frac{(q/2)(q/2)}{d^2} = k \displaystyle\frac{q^2/4}{d^2} = k \displaystyle\frac{q^2}{4d^2} \quad \cdots ⑤$$

小球Aには、重力 \(mg\)、新しい糸の張力 \(T’\)、そしてこの斥力 \(F’\) がはたらき、糸が鉛直方向と角 \(\theta\) をなしてつり合います。
斥力 \(F’\) は水平左向きにはたらきます(BがAの左側にあると仮定し、同符号なので反発)。
力のつりあいを考えます。
水平方向のつりあい:

$$T’\sin\theta = F’ \quad \cdots ⑥$$

鉛直方向のつりあい:

$$T’\cos\theta = mg \quad \cdots ⑦$$

\(\tan\theta\) を求めるには、式⑥を式⑦で割ります(\(T’\cos\theta \neq 0\) と仮定)。

$$\displaystyle\frac{T’\sin\theta}{T’\cos\theta} = \displaystyle\frac{F’}{mg}$$
$$\tan\theta = \displaystyle\frac{F’}{mg} \quad \cdots ⑧$$

この式⑧に、式⑤で表される \(F’\) の値を代入すると、\(\tan\theta\) を \(q, m, g, d, k\) で表す式が得られます。

$$\tan\theta = \displaystyle\frac{k \displaystyle\frac{q^2}{4d^2}}{mg} = \displaystyle\frac{kq^2}{4mgd^2} \quad \cdots ⑨$$

この式⑨が、\(\tan\theta\) を求めるための基本となる式です。

使用した物理公式

  • 電荷保存則と電荷の分配(同形金属球接触)
  • クーロンの法則: \(F = k \displaystyle\frac{|q_1 q_2|}{r^2}\)
  • 力のつりあい(水平・鉛直)
計算過程

式⑨に、問2の結果を利用して値を代入します。
問2で \(q^2 = \displaystyle\frac{mgd^2}{2k\sqrt{3}}\) と求めました。
この \(q^2\) の式を直接代入するよりも、式⑨の分子にある \(kq^2\) の形に着目し、\(kq^2\) の値を先に計算しておくと便利です。

\(q^2 = \displaystyle\frac{mgd^2}{2k\sqrt{3}}\) の両辺に \(k\) を掛けると、

$$kq^2 = k \left(\displaystyle\frac{mgd^2}{2k\sqrt{3}}\right) = \displaystyle\frac{mgd^2}{2\sqrt{3}}$$

この \(kq^2\) の値を、式⑨ \(\tan\theta = \displaystyle\frac{kq^2}{4mgd^2}\) に代入します。

$$\tan\theta = \displaystyle\frac{\left(\displaystyle\frac{mgd^2}{2\sqrt{3}}\right)}{4mgd^2}$$

ここで、\(mgd^2\) は分母と分子に共通して含まれるため、約分できます (\(mgd^2 \neq 0\) と仮定)。

$$\tan\theta = \displaystyle\frac{\displaystyle\frac{1}{2\sqrt{3}}}{4}$$

これを整理すると、

$$\tan\theta = \displaystyle\frac{1}{4 \times 2\sqrt{3}} = \displaystyle\frac{1}{8\sqrt{3}}$$

計算方法の平易な説明
  1. まず、AとBの金属球をくっつけると、電荷が移動して均等に分け合います。もともとAは \(-q\)、Bは \(+2q\) の電荷を持っていたので、合計の電荷は \(+q\) です。同じ金属球なので、接触後はAもBも \(+q/2\) の電荷を持つことになります。
  2. どちらもプラスの電荷なので、今度は反発し合います。この反発力の大きさをクーロンの法則で計算します。
  3. 小球Aには、重力、新しい糸の張力、そしてこの反発力がはたらいて、新しい角度 \(\theta\) でつり合います。
  4. 上下方向(鉛直方向)と左右方向(水平方向)の力のつりあいの式をそれぞれ立てます。
  5. この2つの式から、\(\tan\theta\) (タンジェント シータ)を求めます。これは、水平方向の力と鉛直方向の力の比になります。
  6. 最後に、問2で求めた \(q\) の関係(\(q^2\) の式を使うと便利)を代入して、\(\tan\theta\) の具体的な数値を計算します。
結論と吟味

\(\tan\theta = \displaystyle\frac{1}{8\sqrt{3}}\) です。
初期状態ではクーロン力は引力で \(F = \displaystyle\frac{mg}{\sqrt{3}}\)、\(\tan30^\circ = \displaystyle\frac{F}{mg} = \frac{1}{\sqrt{3}}\) でした。
接触後のクーロン力は斥力で \(F’ = \displaystyle\frac{kq^2}{4d^2}\)。\(\tan\theta = \displaystyle\frac{F’}{mg}\)。
\(kq^2 = \displaystyle\frac{mgd^2}{2\sqrt{3}}\) なので、\(F’ = \displaystyle\frac{1}{4d^2} \cdot \frac{mgd^2}{2\sqrt{3}} = \frac{mg}{8\sqrt{3}}\)。
よって \(\tan\theta = \displaystyle\frac{mg/(8\sqrt{3})}{mg} = \frac{1}{8\sqrt{3}}\)。
計算結果は一致しており、妥当です。

解答 (3) \(\displaystyle\frac{1}{8\sqrt{3}}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 力のつりあい: 静止している物体にはたらく力のベクトル和はゼロである。水平成分と鉛直成分に分解して考えることが基本。特に、小球にはたらく重力、糸の張力、静電気力の3力のつりあいを正確に扱えること。
  • クーロンの法則: 2つの点電荷間にはたらく静電気力の大きさ \(F = k \frac{|q_1 q_2|}{r^2}\) を正しく適用すること。力の向き(引力か斥力か)も重要。
  • 導体の接触と電荷の再配分: 同形の導体を接触させると、総電荷が等しく分配されるという原理を理解していること。これは電荷保存則と、接触した導体は等電位になるという性質から導かれる。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 類似問題への応用:
    • 複数の荷電粒子が固定されている、あるいは自由に動ける場合の力のつりあいや運動の問題。
    • 電場中での荷電粒子のつりあい(一様な電場から受ける力 \(F=qE\) をクーロン力と同様に扱う)。
    • コンデンサーの極板間のように、複数の導体が関わる静電誘導や電荷分布の問題。
  • 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
    1. 物体にはたらく力の特定: まず、注目する物体(この場合は小球A)にはたらいている力をすべてリストアップし、図示する(重力、張力、クーロン力など)。
    2. 力の分解とつりあいの式の立式: 力を適切な座標軸(多くは水平・鉛直)に分解し、各軸方向で「力の総和 = 0」の式を立てる。
    3. クーロン力の計算: 電荷の大きさと符号、距離、比例定数 \(k\) を用いて、クーロン力の大きさと向きを正確に計算する。
    4. 電荷の保存と移動: 導体同士の接触があれば、電荷保存則を考え、電荷がどのように再配分されるかを考察する。同形の導体なら等分される。
    5. 未知数と既知数の整理: 何が問われていて、何が与えられていて、どの式を組み合わせれば解けるのか、道筋を立てる。
  • 問題解決のヒントや、特に注意すべき点は何か:
    • 力のつりあい問題では、図を丁寧に描くことが非常に重要。力の矢印の向きや分解の仕方を間違えないようにする。
    • (3)のように条件が変わる場合、変化する物理量(電荷、力の大きさや向き、角度など)と変化しない物理量(質量、重力加速度、\(k\)、距離\(d\)など)を明確に区別する。
    • 連立方程式を解く際には、代入法や、式同士の割り算(今回 \(\tan\theta\) を求める際に使用)など、計算が楽になる方法を選ぶ。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 力の分解ミス: \(\cos\theta\) と \(\sin\theta\) を取り違える。
    • 対策: 角 \(\theta\) がどちらの軸となす角かを図でしっかり確認し、三角形の辺の比(三角比の定義)に立ち返る。
  • クーロン力の符号と向きの混同: \(q_1, q_2\) の符号を含めて力 \(F\) を計算しようとして混乱する。
    • 対策: まずは力の大きさを \(k \frac{|q_1 q_2|}{r^2}\) で求め、向きは電荷の符号(同符号なら斥力、異符号なら引力)で別途判断し、図に書き込む。
  • 電荷の再配分の誤り: 接触後の電荷を、単に平均値としてしまうのではなく、総電荷を保存した上で分配されることを理解する。
    • 対策: 「同じ金属球」という条件が重要。総電荷を計算し、それを球の数で割る(同じ球の場合)。
  • (2)の結果の代入ミス: \(q\) の式を代入する際に、\(q^2\) や \(kq^2\) の形で代入する方が計算が簡単な場合があることに気づかない、または計算を誤る。
    • 対策: 求める式と既知の式の形をよく見て、どの形で代入するのが最も効率的か考える。複雑な平方根の代入は避ける工夫をする。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題における物理現象のイメージ化:
    • (1)(2): 負に帯電したAが正に帯電したBに引かれ、糸が斜めになる様子。力の大きさがバランスしている状態。
    • (3): AとBをくっつけると、Bの正電荷の一部がAの負電荷を中和し、残りの正電荷が両者に分け与えられる。結果、AもBも正に帯電するため、今度は反発し合う。反発力が最初の引力より弱い(または強い)ため、糸の傾きが変わる様子。
  • 図示の有効性:
    • 各小球にはたらく力をベクトルで図示することは、力のつりあいの式を立てる上での絶対的な基本。
    • 張力を水平・鉛直成分に分解した図も理解を助ける。
    • (3)では、接触前後の電荷の状態と、斥力になった後の力のつりあいの図を描き直すことが重要。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 力の矢印の始点を作用点(小球の中心)に合わせる。
    • 力の種類(重力、張力、クーロン力)と向きを明確にする。
    • 角度(\(30^\circ\), \(\theta\))を正確に記入し、分解する際の基準とする。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 力のつりあい (\(\sum \vec{F} = \vec{0}\)): 物体が静止している、または等速直線運動している場合の基本法則(ニュートンの運動の第1法則)。この問題では静止しているので適用できる。
  • クーロンの法則 (\(F = k|q_1q_2|/r^2\)): 点電荷間の静電気力を記述する実験則。
    • 適用根拠: 問題に点電荷(または点電荷とみなせる小球)が登場し、その間の電気的な力を考える必要がある場合。
  • 電荷保存則と導体接触時の電荷分配: 孤立系では電気量の総和は変わらない。同形の導体球を接触させると、電荷は均等に分配される(これは接触により両球が等電位になり、静電容量が等しい場合に電荷も等しくなることから説明されるが、高校範囲では結果として覚えることが多い)。
    • 適用根拠: 導体同士の接触があり、その前後の電荷状態を問われる場合。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 張力 \(T\) の導出:
    • 小球Aにはたらく力を図示(重力、張力、引力 \(F\))。
    • 鉛直方向の力のつりあい: \(T\cos30^\circ = mg\)。
    • \(T\) について解く。
  2. (2) 電荷 \(q\) の導出:
    • 水平方向の力のつりあい: \(T\sin30^\circ = F\)。(1)の \(T\) を代入して \(F\) を \(mg\) で表す。
    • クーロンの法則: \(F = k(2q^2)/d^2\)。
    • 2つの \(F\) の式を等しいとおき、\(q^2\) について整理し、\(q\) を求める。
  3. (3) \(\tan\theta\) の導出:
    • 接触後の電荷計算: \(Q_{\text{総}} = -q+2q = +q\)。各球に \(+q/2\)。
    • 新しいクーロン力(斥力) \(F’ = k(q/2)^2/d^2 = kq^2/(4d^2)\)。
    • 新しい力のつりあい(角 \(\theta\)、張力 \(T’\)):
      • 水平: \(T’\sin\theta = F’\)
      • 鉛直: \(T’\cos\theta = mg\)
    • 上記2式から \(\tan\theta = F’/mg = kq^2/(4mgd^2)\)。
    • (2)で得た \(q^2\) (または \(kq^2\)) の関係式を代入して \(\tan\theta\) の数値を求める。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 三角関数の値: \(\sin30^\circ = 1/2\), \(\cos30^\circ = \sqrt{3}/2\) を正確に使う。
  • 分数の計算: 特に \(T = mg/(\sqrt{3}/2)\) のような繁分数の処理を間違えない。
  • 文字式の整理: \(q^2\) について解く際など、移項や両辺の割り算を丁寧に行う。
  • 平方根の扱い: \(q = \sqrt{…}\) とするとき、ルートの中身が正であることを確認(この問題では \(m,g,d,k\) が正なので問題なし)。
  • 代入の工夫: (3)で \(q\) そのものではなく \(q^2\) や \(kq^2\) の形で代入すると、平方根の計算を避けられ、計算が簡略化できる。

日頃の練習:

  • 力のつりあいの問題を数多く解き、作図と立式のパターンに慣れる。
  • 計算過程を省略せず、一行一行確認しながら進める。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 物理的な妥当性:
    • (1) \(T\) は \(mg\) より大きくなるはず(斜めに引いているため)。\(\cos30^\circ < 1\) なので \(T = mg/\cos30^\circ > mg\)。妥当。
    • (2) \(q\) の式に含まれる各量が、物理的に意味のある依存関係になっているか(例:\(mg\) が大きいほど、\(d\) が大きいほど、\(k\) が小さいほど \(q\) は大きくなりそうか?)。
    • (3) 接触後、電荷の絶対量は減少し(\(-q, +2q \rightarrow +q/2, +q/2\))、斥力になった。斥力の大きさが最初の引力より小さい場合、角度 \(\theta\) は \(30^\circ\) より小さくなるはず。\(\tan\theta = (1/8\sqrt{3})\) は \(\tan30^\circ = (1/\sqrt{3})\) より小さいので、\(\theta < 30^\circ\) であり、整合性がある。
  • 単位(次元)の確認:
    • (2)で確認済み。各物理量の単位を代入して、最終的に求めたい量の単位になるかを確認する。
  • 極端な場合:
    • もし \(k \rightarrow 0\) ならクーロン力がはたらかないので、\(q\) は意味をなさなくなる(または \(q \rightarrow \infty\) になってしまうが、これはつりあいが \(30^\circ\) で保てないことを示唆)。
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