「良問の風」攻略ガイド(96〜100問):重要問題の解き方と物理の核心をマスター!

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問題96 (京都府立大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、水面に広がった油膜に光が垂直に入射したときの「薄膜干渉」に関するものです。油膜の表面で反射する光と、油膜の裏面(水との境界)で反射する光が干渉し合うことで、特定の条件下で光が強め合ったり弱め合ったりします。この現象は、シャボン玉が虹色に見えたり、水面に浮いた油が色づいて見えたりする原因と同じです。

与えられた条件
  • 油膜が水面に広がっている。
  • 入射光: 空気中での波長 \(\lambda = 6.0 \times 10^{-7} \, \text{m}\)、油膜へ垂直に入射。
  • 屈折率:
    • 空気: \(n_{\text{空気}} = 1.0\)
    • 水: \(n_{\text{水}} = 1.3\)
    • 油膜: \(n_{\text{油}} = 1.5\)
  • 空気中の光速: \(c = 3.0 \times 10^8 \, \text{m/s}\)
  • (4) でのもう一つの光の波長: \(\lambda_1 = 4.5 \times 10^{-7} \, \text{m}\)
問われていること
  1. (1) 油膜中での光の速さ \(v_{\text{油}}\) と波長 \(\lambda’_{\text{油}}\)。
  2. (2) 油膜の表面と裏面で反射した光が干渉によって強め合う、膜の最小の厚さ \(d_{\text{最小}}\)。
  3. (3) (2)の状態から厚くしていった場合、次に強め合う膜の厚さ \(d_{\text{次}}\)。
  4. (4) 波長 \(\lambda = 6.0 \times 10^{-7} \, \text{m}\) の光では強め合い、波長 \(\lambda_1 = 4.5 \times 10^{-7} \, \text{m}\) の光では弱め合う、膜の最小の厚さ \(d’_{\text{最小}}\)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている「光路長」を用いて解く標準的な解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 問(2)の別解: 膜中での波長と幾何学的経路差で考える解法
      • 主たる解法が、異なる媒質の影響を「光路長」という一つの尺度にまとめて考えるのに対し、別解では、光が実際に進む膜の中での「実際の波長(\(\lambda’\))」と「実際の距離(\(2d\))」に立ち返って干渉条件を考えます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理モデルの深化: 「光路長(\(nd\))」という概念が、なぜ「幾何学的な距離(\(d\))」に「屈折率(\(n\))」を掛けるのか、その物理的背景(媒質中での波長の短縮を補正するため)をより本質的に理解することができます。
    • 異なる視点の学習: 同じ現象を、抽象化された「光路長モデル」と、より具体的な「実波長・実距離モデル」の両方から見ることで、思考の柔軟性が養われ、応用問題への対応力が高まります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「薄膜干渉」です。油膜の表面と裏面で反射した光が干渉する現象を、光路差と反射における位相変化から解き明かしていきます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 媒質中での光速と波長の変化: 光が屈折率 \(n\) の媒質に入ると、速さは \(1/n\) 倍に、波長も \(1/n\) 倍になります。
  2. 光路差: 薄膜を往復する光が余分に進む「光学的な距離」です。垂直入射の場合、膜の厚さを \(d\)、屈折率を \(n\) として \(2nd\) と計算されます。
  3. 反射における位相の変化: 光が屈折率の異なる境界面で反射する際、屈折率が「小→大」の境界では位相が \(\pi\) (半波長分)ずれ、「大→小」の境界では位相は変化しません。
  4. 干渉条件: 光路差と位相変化を合わせて、2つの光が強め合う(同位相)か、弱め合う(逆位相)かの条件を式で表します。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 問(1)では、屈折率の定義から油膜中での光の速さと波長を計算します。
  2. 問(2)では、まず反射における位相変化の有無を確認します。次に、光路差を考慮して強め合いの条件式を立て、最小の厚さを求めます。
  3. 問(3)では、問(2)の条件式で次に条件を満たす厚さを求めます。
  4. 問(4)では、2つの異なる波長に対して、一方は強め合い、もう一方は弱め合うという2つの条件式を立て、両方を同時に満たす最小の厚さを見つけ出します。

問(1)

思考の道筋とポイント
油膜中での光の速さ \(v_{\text{油}}\) と波長 \(\lambda’_{\text{油}}\) を求めます。これらは、空気中の光速 \(c\) と波長 \(\lambda\)、そして油膜の屈折率 \(n_{\text{油}}\) を用いて、基本的な関係式 \(v = c/n\) と \(\lambda’ = \lambda/n\) から直接計算できます。
この設問における重要なポイント

  • 屈折率 \(n\) の媒質中では、光速は \(1/n\) 倍になる。
  • 屈折率 \(n\) の媒質中では、波長も \(1/n\) 倍になる。
  • 与えられた値を正確に代入する。

具体的な解説と立式
光が屈折率 \(n\) の媒質中を進むとき、その速さ \(v\) は、空気中の光速 \(c\) を用いて次のように表されます。
$$
\begin{aligned}
v &= \frac{c}{n}
\end{aligned}
$$
油膜の屈折率は \(n_{\text{油}} = 1.5\) なので、油膜中での光の速さ \(v_{\text{油}}\) は、
$$
\begin{aligned}
v_{\text{油}} &= \frac{c}{n_{\text{油}}} \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
となります。

同様に、媒質中での光の波長 \(\lambda’\) は、空気中での波長 \(\lambda\) を用いて次のように表されます。
$$
\begin{aligned}
\lambda’ &= \frac{\lambda}{n}
\end{aligned}
$$
したがって、油膜中での波長 \(\lambda’_{\text{油}}\) は、
$$
\begin{aligned}
\lambda’_{\text{油}} &= \frac{\lambda}{n_{\text{油}}} \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
となります。

使用した物理公式

  • 媒質中の光速: \(v = c/n\)
  • 媒質中の波長: \(\lambda’ = \lambda/n\)
計算過程

式①に \(c = 3.0 \times 10^8 \, \text{m/s}\)、\(n_{\text{油}} = 1.5\) を代入して、\(v_{\text{油}}\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
v_{\text{油}} &= \frac{3.0 \times 10^8}{1.5} \\[2.0ex]
&= 2.0 \times 10^8 \, \text{m/s}
\end{aligned}
$$
次に、式②に \(\lambda = 6.0 \times 10^{-7} \, \text{m}\)、\(n_{\text{油}} = 1.5\) を代入して、\(\lambda’_{\text{油}}\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\lambda’_{\text{油}} &= \frac{6.0 \times 10^{-7}}{1.5} \\[2.0ex]
&= 4.0 \times 10^{-7} \, \text{m}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

光は、空気のような何もない空間よりも、油や水のような物質の中では進むのが遅くなります。その遅くなる度合いを示すのが「屈折率」です。油膜の屈折率は \(1.5\) なので、光の速さは空気中の \(1/1.5\) 倍になります。光の波の長さ(波長)も同じように、空気中の \(1/1.5\) 倍に短くなります。

結論と吟味

油膜中での光の速さは \(2.0 \times 10^8 \, \text{m/s}\)、波長は \(4.0 \times 10^{-7} \, \text{m}\) となります。屈折率が \(1\) より大きい媒質中では光速と波長が減少するという物理法則と一致しており、妥当な結果です。

解答 (1) 速さ: \(2.0 \times 10^8 \, \text{m/s}\), 波長: \(4.0 \times 10^{-7} \, \text{m}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
油膜の表面で反射する光と裏面で反射する光の干渉を考えます。まず、それぞれの反射面で位相が変化するかどうかを屈折率の大小関係から判断します。次に、2つの反射光の光路差を計算し、それらの情報から強め合いの条件式を立てます。最後に、膜の厚さが最小となる条件を適用して厚さ \(d\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 反射における位相変化の確認:
    • 油膜表面(空気 \(n=1.0\) → 油膜 \(n=1.5\)): 屈折率が小→大なので、位相が \(\pi\) ずれる。
    • 油膜裏面(油膜 \(n=1.5\) → 水 \(n=1.3\)): 屈折率が大→小なので、位相は変化しない。
  • 光路差: 垂直入射の場合、光路差は \(2n_{\text{油}}d\)。
  • 強め合いの条件: 片方の反射でのみ位相が \(\pi\) ずれるため、光路差が波長の半整数倍 \((m + 1/2)\lambda\) のときに強め合います。
  • 最小の厚さ: 整数 \(m\) が最小値である \(m=0\) の場合を考えます。

具体的な解説と立式
油膜の厚さを \(d\) とします。2つの反射光(表面反射光と裏面反射光)の干渉を考えます。

1. 位相変化の確認:

  • 表面反射(空気→油膜): \(n_{\text{空気}} < n_{\text{油}}\) なので、位相が \(\pi\) ずれます。
  • 裏面反射(油膜→水): \(n_{\text{油}} > n_{\text{水}}\) なので、位相は変化しません。

2. 光路差の計算:
裏面で反射する光は、油膜の中を往復する分だけ余分に進みます。この光路差は \(2n_{\text{油}}d\) です。

3. 強め合いの条件:
表面反射で位相が \(\pi\)(半波長分)ずれているため、2つの光が強め合う(同位相になる)には、光路差 \(2n_{\text{油}}d\) が波長 \(\lambda\) の半整数倍である必要があります。
$$
\begin{aligned}
2n_{\text{油}}d &= \left(m + \frac{1}{2}\right)\lambda \quad (m = 0, 1, 2, \ldots) \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
膜の厚さ \(d\) が最小になるのは、\(m\) が最小値である \(m=0\) をとるときです。このときの厚さを \(d_0\) とすると、条件式は次のようになります。
$$
\begin{aligned}
2n_{\text{油}}d_0 &= \left(0 + \frac{1}{2}\right)\lambda \quad \cdots ④
\end{aligned}
$$
この方程式を解くことで、最小の厚さ \(d_0\) が求まります。

使用した物理公式

  • 光路差: \(2nd\)
  • 反射における位相変化の規則
  • 薄膜干渉の強め合いの条件(片側反射で位相が\(\pi\)ずれる場合): \(2nd = (m + \frac{1}{2})\lambda\)
計算過程

式④を \(d_0\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
2n_{\text{油}}d_0 &= \frac{1}{2}\lambda \\[2.0ex]
d_0 &= \frac{\lambda}{4n_{\text{油}}}
\end{aligned}
$$
この式に、\(\lambda = 6.0 \times 10^{-7} \, \text{m}\)、\(n_{\text{油}} = 1.5\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
d_0 &= \frac{6.0 \times 10^{-7}}{4 \times 1.5} \\[2.0ex]
&= \frac{6.0 \times 10^{-7}}{6.0} \\[2.0ex]
&= 1.0 \times 10^{-7} \, \text{m}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

油膜の表面で反射する光は、反射の瞬間に波のタイミングが「半波長分」ずれます。一方、裏面で反射する光はタイミングがずれません。このままだと2つの光は打ち消し合おうとします。しかし、裏面の光は油膜の中を往復する分、遠回りします。この遠回りの距離(光路差)がちょうど「半波長分」になると、表面反射でのズレと合わさって、最終的に2つの光のタイミングがぴったり一致し、強め合います。この条件を満たす一番薄い膜の厚さを計算します。

結論と吟味

強め合う膜の最小の厚さは \(1.0 \times 10^{-7} \, \text{m}\) です。この厚さのとき、光路差は \(\lambda/2\) となり、表面反射による位相のずれ \(\pi\)(半波長分)と合わさって、2つの波は同位相で重なり強め合います。物理的に妥当な結果です。

別解: 膜中での波長と幾何学的経路差で考える解法

思考の道筋とポイント
「光路長」という概念を使わずに、より物理的な描像に立ち返って考えます。干渉は、油膜の中を進む光の「実際の波長(\(\lambda’_{\text{油}}\))」と「実際の経路差(\(2d\))」の関係で決まります。反射による位相変化を、波長に換算して考慮します。
この設問における重要なポイント

  • 幾何学的経路差: 裏面反射光が余分に進む実際の距離は \(2d\)。
  • 膜中での波長: 問(1)で求めた \(\lambda’_{\text{油}} = 4.0 \times 10^{-7} \, \text{m}\)。
  • 反射による位相差: 表面反射でのみ位相が \(\pi\) ずれる。これは、膜中での波長の半波長分、つまり \(\lambda’_{\text{油}}/2\) の経路差に相当します。
  • 強め合いの条件: 2つの波が同位相になるには、「幾何学的経路差」と「反射による実効的な経路差」の合計が、膜中波長の整数倍になる必要があります。

具体的な解説と立式
1. 位相変化の経路差への換算:
表面反射光は、反射の瞬間に位相が \(\pi\) ずれます。これは、あたかも裏面反射光に比べて経路が半波長分 (\(\lambda’_{\text{油}}/2\)) だけずれたことと同じ効果を持ちます。

2. 強め合いの条件:
裏面反射光は、幾何学的に \(2d\) だけ長い距離を進みます。これに表面反射での実効的なずれ \(\lambda’_{\text{油}}/2\) を考慮すると、2つの波が強め合う(同位相になる)ためには、経路差 \(2d\) が、反射による半波長分のずれを打ち消して、さらに膜中波長の整数倍のずれになる必要があります。
つまり、経路差 \(2d\) が、膜中波長 \(\lambda’_{\text{油}}\) の半整数倍 \((m+1/2)\lambda’_{\text{油}}\) であれば、反射による半波長分のずれと合わさって、全体として整数波長分のずれとなり、強め合います。
$$
\begin{aligned}
2d &= \left(m + \frac{1}{2}\right)\lambda’_{\text{油}} \quad (m = 0, 1, 2, \ldots) \quad \cdots ⑤
\end{aligned}
$$
最小の厚さ \(d_0\) は \(m=0\) のときなので、
$$
\begin{aligned}
2d_0 &= \frac{1}{2}\lambda’_{\text{油}} \quad \cdots ⑥
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 幾何学的経路差: \(2d\)
  • 薄膜干渉の強め合いの条件(膜中の波長で記述): \(2d = (m + \frac{1}{2})\lambda’\)
計算過程

式⑥を \(d_0\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
d_0 &= \frac{\lambda’_{\text{油}}}{4}
\end{aligned}
$$
この式に、問(1)で求めた \(\lambda’_{\text{油}} = 4.0 \times 10^{-7} \, \text{m}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
d_0 &= \frac{4.0 \times 10^{-7}}{4} \\[2.0ex]
&= 1.0 \times 10^{-7} \, \text{m}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

油膜の中では光の波長が短くなります。この短くなった波長を基準に考えます。表面で反射した光は、タイミングが半波長分ずれます。裏面で反射した光は、油膜の中を往復する分だけ遠回りします。この遠回りの距離が、短くなった波長の「半波長分」や「1.5波長分」…になると、表面でのズレと合わさって、2つの光は強め合います。一番薄い膜で強め合うのは、遠回り距離がちょうど「半波長分」になるときです。

結論と吟味

主たる解法と完全に同じ結果 \(1.0 \times 10^{-7} \, \text{m}\) が得られました。この解法は、「光路長」という概念の物理的な意味を理解する上で非常に有益です。主たる解法の式 \(2nd = (m+1/2)\lambda\) に \(\lambda’ = \lambda/n\) を代入すると \(2d = (m+1/2)\lambda’\) となり、両者が等価であることが数式上でも確認できます。

解答 (2) \(1.0 \times 10^{-7} \, \text{m}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
問(2)で導出した強め合いの条件式 \(2n_{\text{油}}d = (m + \frac{1}{2})\lambda\) を再び用います。最小の厚さは \(m=0\) の場合でした。膜を厚くしていったときに「次に」強め合うのは、整数 \(m\) が次に大きい値、つまり \(m=1\) の場合に対応します。
この設問における重要なポイント

  • 強め合いの条件式 \(2n_{\text{油}}d = (m + \frac{1}{2})\lambda\) を引き続き使用する。
  • 「最小」の次は \(m=0\) の次の整数である \(m=1\) に対応することを理解する。

具体的な解説と立式
強め合いの条件式は、問(2)の式③と同じです。
$$
\begin{aligned}
2n_{\text{油}}d &= \left(m + \frac{1}{2}\right)\lambda \quad (m = 0, 1, 2, \ldots)
\end{aligned}
$$
最小の厚さは \(m=0\) の場合でした。次に強め合うのは \(m=1\) のときです。このときの厚さを \(d_1\) とすると、
$$
\begin{aligned}
2n_{\text{油}}d_1 &= \left(1 + \frac{1}{2}\right)\lambda \quad \cdots ⑦
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 薄膜干渉の強め合いの条件(片側反射で位相が\(\pi\)ずれる場合): \(2nd = (m + \frac{1}{2})\lambda\)
計算過程

式⑦を \(d_1\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
2n_{\text{油}}d_1 &= \frac{3}{2}\lambda \\[2.0ex]
d_1 &= \frac{3\lambda}{4n_{\text{油}}}
\end{aligned}
$$
この式に \(\lambda = 6.0 \times 10^{-7} \, \text{m}\)、\(n_{\text{油}} = 1.5\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
d_1 &= \frac{3 \times (6.0 \times 10^{-7})}{4 \times 1.5} \\[2.0ex]
&= \frac{18.0 \times 10^{-7}}{6.0} \\[2.0ex]
&= 3.0 \times 10^{-7} \, \text{m}
\end{aligned}
$$
これは、問(2)で求めた最小の厚さ \(d_0 = 1.0 \times 10^{-7} \, \text{m}\) の3倍になっています。

この設問の平易な説明

光が強め合う条件は、膜の厚さが特定の「魔法の厚さ」になるときに満たされます。問(2)で求めたのは、その中で一番薄いものでした。膜を厚くしていくと、次にまた強め合う「魔法の厚さ」が現れます。これは、条件式の番号 \(m\) を0から1に増やして計算することで求められます。

結論と吟味

次に強め合う膜の厚さは \(3.0 \times 10^{-7} \, \text{m}\) です。このタイプの干渉では、強め合う厚さは最小厚さの奇数倍(1倍, 3倍, 5倍, …)になります。今回の結果は最小厚さの3倍であり、物理的に正しい関係です。

解答 (3) \(3.0 \times 10^{-7} \, \text{m}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
2つの異なる波長の光について、一方が強め合い、もう一方が弱め合うという2つの条件を同時に満たす最小の膜厚 \(d\) を求めます。まず、それぞれの波長に対する「強め合いの条件式」と「弱め合いの条件式」を立てます。次に、それらの条件を同時に満たす厚さ \(d\) を、整数 \(m\) の値を小さい方から試すことで見つけ出します。
この設問における重要なポイント

  • 波長 \(\lambda_A = 6.0 \times 10^{-7} \, \text{m}\) の光の強め合いの条件: \(2n_{\text{油}}d = (m_A + \frac{1}{2})\lambda_A\), \(m_A = 0, 1, 2, \ldots\)
  • 波長 \(\lambda_B = 4.5 \times 10^{-7} \, \text{m}\) の光の弱め合いの条件: 反射の位相関係は同じなので、光路差 \(2n_{\text{油}}d\) が \(\lambda_B\) の整数倍のときに弱め合う。つまり \(2n_{\text{油}}d = m_B\lambda_B\), \(m_B = 1, 2, 3, \ldots\)
  • これら2つの条件を同時に満たす最小の \(d > 0\) を探す。

具体的な解説と立式
油膜の厚さを \(d\) とします。

条件1: 波長 \(\lambda_A = 6.0 \times 10^{-7} \, \text{m}\) の光が強め合う
問(2), (3)と同様に、強め合いの条件は
$$
\begin{aligned}
2n_{\text{油}}d &= \left(m_A + \frac{1}{2}\right)\lambda_A \quad (m_A = 0, 1, 2, \ldots) \quad \cdots ⑧
\end{aligned}
$$
条件2: 波長 \(\lambda_B = 4.5 \times 10^{-7} \, \text{m}\) の光が弱め合う
反射における位相の関係は同じ(表面で\(\pi\)ずれ、裏面でずれなし)です。この2つの光が弱め合う(逆位相になる)には、光路差 \(2n_{\text{油}}d\) が波長 \(\lambda_B\) の整数倍である必要があります。
$$
\begin{aligned}
2n_{\text{油}}d &= m_B\lambda_B \quad (m_B = 1, 2, 3, \ldots) \quad \cdots ⑨
\end{aligned}
$$
ここで \(m_B=0\) は \(d=0\) を意味するため、物理的な厚さを考えるので \(m_B \ge 1\) とします。

両方の条件を同時に満たす必要があるので、式⑧と⑨の左辺が等しいことから、
$$
\begin{aligned}
\left(m_A + \frac{1}{2}\right)\lambda_A &= m_B\lambda_B \quad \cdots ⑩
\end{aligned}
$$
この方程式を満たす整数の組 \((m_A, m_B)\) を探し、最小の厚さ \(d\) を求めます。

使用した物理公式

  • 薄膜干渉の強め合いの条件(片側反射で位相が\(\pi\)ずれる場合): \(2nd = (m + \frac{1}{2})\lambda\)
  • 薄膜干渉の弱め合いの条件(片側反射で位相が\(\pi\)ずれる場合): \(2nd = m\lambda\)
計算過程

式⑩に、\(\lambda_A = 6.0 \times 10^{-7} \, \text{m}\)、\(\lambda_B = 4.5 \times 10^{-7} \, \text{m}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\left(m_A + \frac{1}{2}\right) \times (6.0 \times 10^{-7}) &= m_B \times (4.5 \times 10^{-7})
\end{aligned}
$$
両辺を \(1.5 \times 10^{-7}\) で割ると、
$$
\begin{aligned}
\left(m_A + \frac{1}{2}\right) \times 4 &= m_B \times 3 \\[2.0ex]
\frac{2m_A+1}{2} \times 4 &= 3m_B \\[2.0ex]
(2m_A+1) \times 2 &= 3m_B
\end{aligned}
$$
この関係式を満たす、\(m_A \ge 0\) かつ \(m_B \ge 1\) である整数の組 \((m_A, m_B)\) を小さい方から探します。左辺は常に偶数なので、\(3m_B\) も偶数、つまり \(m_B\) は偶数である必要があります。

  • \(m_B = 2\) のとき (最小の正の偶数):
    $$
    \begin{aligned}
    (2m_A+1) \times 2 &= 3 \times 2 \\[2.0ex]
    2m_A+1 &= 3 \\[2.0ex]
    2m_A &= 2 \\[2.0ex]
    m_A &= 1
    \end{aligned}
    $$
    この組 \((m_A, m_B) = (1, 2)\) は条件を満たす最小の組です。このときの膜の厚さ \(d\) を式⑨を用いて計算します。
    $$
    \begin{aligned}
    d &= \frac{m_B\lambda_B}{2n_{\text{油}}} \\[2.0ex]
    &= \frac{2 \times (4.5 \times 10^{-7})}{2 \times 1.5} \\[2.0ex]
    &= \frac{9.0 \times 10^{-7}}{3.0} \\[2.0ex]
    &= 3.0 \times 10^{-7} \, \text{m}
    \end{aligned}
    $$

    この設問の平易な説明

    この問題は、2つの要求を同時に満たす膜の厚さを探すパズルのようなものです。

    1. まず、波長の長い光(\(6.0 \times 10^{-7} \, \text{m}\))が強め合う厚さの候補をリストアップします。これは \(1.0, 3.0, 5.0, \ldots\) (\(\times 10^{-7} \, \text{m}\)) となります。
    2. 次に、波長の短い光(\(4.5 \times 10^{-7} \, \text{m}\))が弱め合う厚さの候補をリストアップします。計算すると \(1.5, 3.0, 4.5, \ldots\) (\(\times 10^{-7} \, \text{m}\)) となります。
    3. この2つのリストを見比べて、両方に共通する一番小さい数字を探します。すると、\(3.0 \times 10^{-7} \, \text{m}\) が答えだとわかります。
    結論と吟味

    波長 \(6.0 \times 10^{-7} \, \text{m}\) の光で強め合い、波長 \(4.5 \times 10^{-7} \, \text{m}\) の光で弱め合う最小の厚さは \(3.0 \times 10^{-7} \, \text{m}\) です。
    この厚さは、\(\lambda_A\)に対しては \(m_A=1\) の強め合い条件を、\(\lambda_B\)に対しては \(m_B=2\) の弱め合い条件をそれぞれ満たしており、計算は妥当です。

    解答 (4) \(3.0 \times 10^{-7} \, \text{m}\)

    【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

    最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

    • 薄膜干渉の原理:
      • 核心: この問題の核心は、薄膜の「表面で反射した光」と「裏面で反射した光」という2つの波が干渉する現象を理解することです。干渉の結果(強め合うか、弱め合うか)は、2つの波の「光路差」と「反射時の位相変化」の2つの要因によって決まります。
      • 理解のポイント:
        1. 光路差の計算: 裏面で反射する光は、膜の厚さ \(d\) を往復する分だけ余計な距離を進みます。この光学的な距離の差(光路差)は、垂直入射の場合 \(2nd\) となります。
        2. 位相変化の判断: 反射が起こる境界面で、光が進む媒質の屈折率が「小→大」か「大→小」かを確認します。本問では、表面(空気→油膜)が「小→大」で位相が \(\pi\) ずれ、裏面(油膜→水)が「大→小」で位相変化がない、という点が最も重要です。
        3. 干渉条件式の導出: 上記2点を組み合わせて、2つの波が最終的に同位相(強め合い)になるか、逆位相(弱め合い)になるかの条件を数式で表現します。片方の反射でのみ位相が \(\pi\) ずれる本問では、光路差が半波長ずれると強め合い、波長の整数倍ずれると弱め合う、という関係になります。

    応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

    • 応用できる類似問題のパターン:
      • ニュートンリング: 平面ガラスの上に凸レンズを置いたときにできる、くさび形の空気層による干渉。光路差の計算が場所によって変わります。
      • くさび形空気層: 2枚のガラスを重ねて片側を少し持ち上げたときにできる空気層による干渉。
      • 反射防止膜(レンズコーティング): 特定の波長の光(可視光の中心など)を弱め合わせることで、レンズ表面の反射を抑える技術。
    • 初見の問題での着眼点:
      1. 媒質の屈折率の大小関係: 問題を読んだら、まず空気・膜・基盤(この問題では水)の3つの媒質の屈折率の大小関係を必ず確認します。これにより、表面と裏面での位相変化のパターン(ずれ-ずれ、ずれ-なし、なし-ずれ、なし-なし)が決まり、干渉条件式が確定します。
      2. 光路差の形状: 光が垂直に入射しているか(光路差 \(2nd\))、斜めに入射しているか(光路差 \(2nd\cos\theta’\))、あるいはニュートンリングのように厚さが場所によって変わるか、といった幾何学的な条件を把握します。
      3. 問われている条件: 「強め合い(明線)」か「弱め合い(暗線)」か、「最小の厚さ」か「\(m\)番目の厚さ」か、といった問題の要求を正確に読み取ります。

    要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

    • 位相変化のルールの混同:
      • 誤解: 屈折率の大小関係と位相変化の関係を逆に覚えてしまう。「小→大で\(\pi\)ずれ」が正しいルールです。
      • 対策: 「固定端反射(位相が反転)」と「自由端反射(位相はそのまま)」のイメージと結びつけて覚える。「小→大」は動きにくい壁にぶつかるイメージで固定端反射、「大→小」は動きやすい壁にぶつかるイメージで自由端反射、と覚えると忘れにくくなります。
    • 強め合いと弱め合いの条件式の混同:
      • 誤解: 位相変化のパターンによって強め合いと弱め合いの式が入れ替わることを忘れ、常に同じ式を適用してしまう。
      • 対策: 式を丸暗記するのではなく、「反射による位相差」と「光路差による位相差」を足し合わせた結果がどうなるか、という原理から考える癖をつける。
        • 本問の場合: 反射で半波長ずれている → 光路差も半波長ずれると合計で1波長ずれ(同位相)→ 強め合い。
    • 光路差の計算で屈折率 \(n\) を忘れる:
      • 誤解: 幾何学的な距離 \(2d\) をそのまま光路差としてしまう。
      • 対策: 干渉は波の位相で決まるため、媒質中で波長が短くなる効果を考慮した「光学的な距離(=光路長)」で考えなければならない、と常に意識する。

    なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

    • \(2nd = (m + 1/2)\lambda\) (本問での強め合いの条件):
      • 選定理由: 2つの反射光が強め合う条件を記述するために必要です。
      • 適用根拠: この式の選択は、以下の論理に基づいています。
        1. 表面反射(小→大)で位相が \(\pi\)(半波長分)ずれる。
        2. 裏面反射(大→小)では位相は変化しない。
        3. この時点で、2つの波には半波長分の位相差がある(逆位相に近い)。
        4. これらが強め合う(同位相になる)ためには、光路差 \(2nd\) がさらに半波長分(または1.5波長、2.5波長…)の位相差を生む必要がある。
        5. したがって、光路差 \(2nd\) が半整数波長 \((m+1/2)\lambda\) に等しい、という条件式が導かれます。
    • \(2nd = m\lambda\) (本問での弱め合いの条件):
      • 選定理由: 2つの反射光が弱め合う条件を記述するために必要です。
      • 適用根拠: 上記と同様の論理に基づきます。
        1. 反射の時点で、2つの波には半波長分の位相差がある。
        2. これらが弱め合う(逆位相を保つ)ためには、光路差 \(2nd\) による位相差が0または波長の整数倍でなければならない。
        3. したがって、光路差 \(2nd\) が整数波長 \(m\lambda\) に等しい、という条件式が導かれます。

    計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

    • 指数の計算:
      • 特に注意すべき点: この問題では \(10^{-7}\) のような指数が頻繁に登場します。掛け算・割り算の際の指数法則を正確に適用することが重要です。
      • 日頃の練習: 科学的記数法(例: \(6.0 \times 10^{-7}\))での計算に慣れておく。計算の最初に \(10^{-7}\) を共通因子として括り出し、最後に元に戻すなどの工夫も有効です。
    • 小数の割り算:
      • 特に注意すべき点: \(6.0 / 1.5\) や \(4.5 / 1.5\) のような計算は、焦るとミスしやすいポイントです。
      • 日頃の練習: 分数に直して計算する(例: \(1.5 = 3/2\))、または両辺を10倍して整数にするなど、自分が最もミスしにくい方法を確立しておく。
    • 複数条件の整理:
      • 特に注意すべき点: 問(4)のように複数の条件が絡む場合、どの式がどの条件に対応するのかが混乱しがちです。
      • 日頃の練習: 条件ごとに式を立て、それぞれを満たす値をいくつかリストアップする方法は、視覚的にわかりやすく、ミスを発見しやすいです。代数的に解く場合も、\(m_A\), \(m_B\) のように変数を明確に区別し、それぞれの取りうる範囲(例: \(m_A \ge 0\), \(m_B \ge 1\))を明記する習慣をつける。

    解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

    • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
      • (2) 最小の厚さ \(d_0\): \(d_0 = \lambda / (4n_{\text{油}})\)。
        • 吟味の視点: 厚さは必ず正の値になる。また、波長 \(\lambda\) に比例し、屈折率 \(n_{\text{油}}\) に反比例する。屈折率が大きいほど膜中での波長が短くなるので、より薄い膜で条件を満たす、という直感と一致します。
      • (3) 次の厚さ \(d_1\): \(d_1 = 3d_0\)。
        • 吟味の視点: \(d_1 > d_0\) となっており、物理的に妥当です。強め合いの条件が周期的に現れることを示唆しています。
      • (4) 複数条件を満たす厚さ: \(d = 3.0 \times 10^{-7} \, \text{m}\)。
        • 吟味の視点: この値を元の条件式に代入して検算する。
          • \(\lambda_A\) の強め合い: \(2n_{\text{油}}d = 2 \times 1.5 \times (3.0 \times 10^{-7}) = 9.0 \times 10^{-7}\)。これは \(\lambda_A = 6.0 \times 10^{-7}\) の1.5倍 (\(=(1+1/2)\lambda_A\))。よって強め合いの条件を満たす。
          • \(\lambda_B\) の弱め合い: \(2n_{\text{油}}d = 9.0 \times 10^{-7}\)。これは \(\lambda_B = 4.5 \times 10^{-7}\) のちょうど2倍 (\(=2\lambda_B\))。よって弱め合いの条件を満たす。

          両方の条件を満たしていることが確認できます。

    問題97 (岡山大)

    【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

    この問題は、媒質Gの上に置かれた薄膜に、空気中から単色光が斜めに入射するときの光の干渉について考察するものです。薄膜の表面で反射する光と、薄膜を透過して下面(媒質Gとの境界面)で反射し再び表面から出てくる光の2つが干渉し合い、特定の条件下で強め合ったり弱め合ったりします。

    問題では、まず2つの光の経路差に関連する量を求め、次に薄膜中での光の波長、そして特定の条件下(媒質Gの屈折率の違いによる反射時の位相変化の違いを考慮)で反射光が強め合う(明るくなる)ための薄膜の厚さについて問われています。斜め入射であるため、光路差の計算に注意が必要です。

    与えられた条件
    • 媒質G上に厚さ \(d\) の薄膜がある。
    • 空気中から単色光が薄膜に斜めに入射する。
    • 空気中での光の波長: \(\lambda\)
    • 薄膜中での光線の屈折角(法線とのなす角): \(\phi\)
    • 屈折率:
      • 空気: \(n_{\text{空気}} = 1\)
      • 薄膜: \(n\)
      • 媒質G: \(n_G\)
    • A\(_1\)A\(_2\) は入射波の波面、B\(_1\)B\(_2\) は屈折波の波面であり、同じ波面上では同位相。
    • (3)以降で与えられる具体的な値:
      • \(\lambda = 6.0 \times 10^{-7} \, \text{m}\)
      • \(\phi = 60^\circ\)
      • 薄膜の屈折率 \(n=1.5\)
      • 設問(3)および(4)では、媒質Gの屈折率 \(n_G=1.6\)
      • 設問(5)では、媒質Gの屈折率 \(n_G=1.4\)
    問われていること
    1. (1) 2つの光の経路の間に生じる「位相差をもたらす経路の差」(幾何学的な長さ)。これは、図と後の設問の文脈から \(2d\cos\phi\) に対応すると解釈されます。
    2. (2) 薄膜中での光の波長 \(\lambda’\)。
    3. (3) 条件 \(n < n_G\) の場合に、干渉して反射光が明るくなる(強め合う)条件式。
    4. (4) 設問(3)の条件のもとで、与えられた具体的な数値における、反射光が明るくなる薄膜の最小の厚さ。
    5. (5) 媒質Gの屈折率 \(n_G\) の値を変更し \(n_G=1.4\) とした場合(つまり \(n > n_G\) となる場合)の、反射光が明るくなる薄膜の最小の厚さ。

    【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

    【相違点に関する注記】

    本解説は、模範解答で採用されている「幾何学的な経路差」と「膜中での波長」を用いる解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

    1. 提示する別解
      • 設問(3)および(5)の別解: 「光路差」と「空気中での波長」を用いる解法
        • 主たる解法が、問題の流れに沿って幾何学的な経路差(\(2d\cos\phi\))と膜中波長(\(\lambda’\))の関係から条件式を導くのに対し、別解では、斜め入射の薄膜干渉における光路差の公式(\(2nd\cos\phi\))を直接用い、空気中波長(\(\lambda\))との関係から条件式を導きます。
    2. 上記の別解が有益である理由
      • 公式適用の習熟: 薄膜干渉で頻出する光路差の公式(\(2nd\cos\phi\))を直接適用する練習となり、公式の理解と定着が深まります。
      • 思考の効率化: 光路差の公式を覚えていれば、膜中波長を介さずに直接空気中波長との関係で立式できるため、より迅速に解答にたどり着ける場合があります。
    3. 結果への影響
      • いずれのアプローチを用いても、立式の表現が異なるだけで、最終的に得られる条件式や計算結果は完全に一致します。

    この問題のテーマは「薄膜干渉(斜め入射)」です。薄膜の表面と下面で反射した光が干渉する現象を、光路差と反射における位相変化から解き明かしていきます。垂直入射の場合との違いは、光路差の計算に屈折角 \(\phi\) が関わってくる点です。

    問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

    1. 光路差(斜め入射の場合): 薄膜の厚さを \(d\)、屈折率を \(n\)、膜中での屈折角を \(\phi\) とすると、光路差は \(2nd\cos\phi\) で与えられます。
    2. 反射における位相の変化: 屈折率が「小→大」の境界での反射では位相が \(\pi\) ずれ、「大→小」の境界では位相は変化しません。この問題では、下の媒質Gの屈折率によって、下面での反射条件が変わる点がポイントです。
    3. 干渉条件: 光路差と、反射による位相変化の有無を総合的に判断し、強め合い(明るくなる)の条件式を立てます。
    4. 媒質中での波長の変化: 屈折率 \(n\) の媒質中では、波長は \(\lambda’ = \lambda/n\) となります。

    基本的なアプローチは以下の通りです。

    1. まず、問題文の誘導に従い、干渉に関わる幾何学的な経路の差と、膜中での波長を求めます。
    2. 次に、媒質Gの屈折率 \(n_G\) と薄膜の屈折率 \(n\) の大小関係から、薄膜の表面と下面での反射における位相変化のパターンを正確に判定します。
    3. 判定した位相変化のパターンに応じて、適切な強め合いの条件式を選択し、立式します。
    4. 最後に、与えられた具体的な数値を代入して、最小の厚さを計算します。

    (1)

    思考の道筋とポイント
    問題文で問われている「位相差をもたらす経路の差」は、薄膜の下面で反射する光が、表面で反射する光に比べて余分に進む経路に関連する幾何学的な長さです。これは、斜め入射における薄膜干渉の光路差の公式 \(2nd\cos\phi\) の導出過程で現れる幾何学的な因子 \(2d\cos\phi\) に対応します。
    この設問における重要なポイント

    • 斜め入射の薄膜干渉では、光路差の計算に厚さ \(d\) だけでなく屈折角 \(\phi\) が関わることを理解する。
    • 問われている「経路の差」が、光路差の幾何学的な部分である \(2d\cos\phi\) を指していると解釈する。

    具体的な解説と立式
    薄膜の表面で反射する光と、下面で反射する光の干渉を考えます。斜めに入射した場合、下面で反射する光が余分に進む経路の長さは、単純な往復距離 \(2d\) ではなく、屈折角 \(\phi\) に依存します。
    この幾何学的な経路の差は、図形的な考察により \(2d\cos\phi\) と導出されます。これが、2つの光の位相差を生む原因となる主要な「距離の差」です。
    したがって、求める長さは次のように表されます。
    $$
    \begin{aligned}
    \text{経路の差} &= 2d\cos\phi
    \end{aligned}
    $$

    使用した物理公式

    • 薄膜干渉における経路差の幾何学的成分(斜め入射)
    計算過程

    この設問は \(d, \phi\) を用いて表すものなので、これ以上の具体的な数値計算はありません。

    この設問の平易な説明

    光が斜めに膜に入ると、膜の中を往復する距離は、ただ厚さを2倍したものではなくなります。角度がついている分、実質的な距離の「ずれ」は少し短くなります。その「ずれ」の大きさを、厚さ \(d\) と角度 \(\phi\) を使って表すのがこの問題です。その大きさは \(2d\cos\phi\) となります。

    結論と吟味

    位相差をもたらす経路の差は \(2d\cos\phi\) となります。この量は、後の設問で干渉条件を考える際の「距離差」として用いられます。

    解答 (1) \(2d\cos\phi\)

    (2)

    思考の道筋とポイント
    薄膜中での光の波長 \(\lambda’\) は、空気中での波長 \(\lambda\) と薄膜の屈折率 \(n\) を用いて、基本的な公式 \(\lambda’ = \lambda/n\) から求めることができます。
    この設問における重要なポイント

    • 屈折率 \(n\) の媒質中では、波長は空気中(真空中)の \(1/n\) 倍になるという基本法則を理解していること。

    具体的な解説と立式
    光が屈折率 \(n\) の媒質中に入射すると、その波長は変化します。空気中での光の波長を \(\lambda\)、薄膜の屈折率を \(n\) とすると、薄膜中での光の波長 \(\lambda’\) は次のように表されます。
    $$
    \begin{aligned}
    \lambda’ &= \frac{\lambda}{n}
    \end{aligned}
    $$

    使用した物理公式

    • 媒質中の波長: \(\lambda’ = \lambda/n\)
    計算過程

    この設問は \(\lambda, n\) を用いて表すものなので、これ以上の具体的な数値計算はありません。

    この設問の平易な説明

    光の波は、空気中よりも物質の中(この場合は薄膜の中)では「縮んで」進みます。どれくらい縮むかは屈折率 \(n\) で決まり、波の長さ(波長)は \(1/n\) 倍になります。

    結論と吟味

    薄膜中での光の波長 \(\lambda’\) は \(\displaystyle\frac{\lambda}{n}\) です。屈折率 \(n>1\) の媒質中では波長が短くなるという一般的な性質と一致しており、物理的に妥当です。

    解答 (2) \(\displaystyle\frac{\lambda}{n}\)

    (3)

    思考の道筋とポイント
    条件 \(n < n_G\) のもとで、反射光が明るくなる(強め合う)条件を考えます。まず、薄膜の表面と下面での反射における位相変化の有無を確認します。両方の反射で位相が同じように変化する場合(または両方変化しない場合)、(1)で考えた経路差 \(2d\cos\phi\) が、(2)で求めた膜中波長 \(\lambda’\) の整数倍のときに強め合います。
    この設問における重要なポイント

    • 反射における位相変化の判定:
      • 表面反射 (空気 \(n_{\text{空気}}=1\) → 薄膜 \(n\)): 通常 \(n>1\) なので、位相が \(\pi\) ずれる。
      • 下面反射 (薄膜 \(n\) → 媒質G \(n_G\)): 条件 \(n < n_G\) なので、位相が \(\pi\) ずれる。
    • 両方の反射で位相が \(\pi\) ずれるため、位相変化による実質的な「差」はない。
    • 強め合いの条件: この場合、経路差が膜中波長の整数倍になるとき。つまり、\(2d\cos\phi = m\lambda’\)。

    具体的な解説と立式
    条件として \(n < n_G\) が与えられています。

    1. 反射における位相変化の確認:

    • 薄膜表面(空気→薄膜): 空気(屈折率 \(1\))から薄膜(屈折率 \(n\))への反射です。通常 \(n>1\) なので、これは屈折率が「小→大」の反射となり、位相は \(\pi\) ずれます。
    • 薄膜下面(薄膜→媒質G): 薄膜(屈折率 \(n\))から媒質G(屈折率 \(n_G\))への反射です。条件より \(n < n_G\) なので、これも屈折率が「小→大」の反射となり、位相は \(\pi\) ずれます。

    2. 強め合いの干渉条件:
    表面反射と下面反射の両方で位相が \(\pi\) ずつずれます。これは、2つの反射光の間で位相変化に起因する「差」が実質的にないことを意味します。したがって、2つの光が強め合う(明るくなる)条件は、(1)で求めた経路差 \(2d\cos\phi\) が、(2)で求めた薄膜中での波長 \(\lambda’\) の整数倍になるときです。
    問題文で「正の整数 \(m\) を用いて」と指定されているため、
    $$
    \begin{aligned}
    2d\cos\phi &= m\lambda’ \quad (m = 1, 2, 3, \ldots)
    \end{aligned}
    $$
    (2)の結果 \(\lambda’ = \displaystyle\frac{\lambda}{n}\) を代入すると、求める条件式が得られます。
    $$
    \begin{aligned}
    2d\cos\phi &= m\frac{\lambda}{n}
    \end{aligned}
    $$

    使用した物理公式

    • 経路差の幾何学的成分: \(2d\cos\phi\)
    • 媒質中の波長: \(\lambda’ = \lambda/n\)
    • 反射における位相変化の規則
    • 薄膜干渉の強め合いの条件(両面で位相が\(\pi\)ずれる場合): 経路差 = \(m\lambda’\)
    計算過程

    この設問は条件式を記述するものなので、これ以上の具体的な数値計算はありません。

    この設問の平易な説明

    この場合、油膜の表面で反射するときも、下面で反射するときも、両方とも波が「ひっくり返り」ます(位相が\(\pi\)ずれる)。両方とも同じようにひっくり返るので、結局、波のタイミングのずれは、下面で反射した光が遠回りした分だけで決まります。この遠回りした距離(経路差)が、膜の中での波長のちょうど1倍、2倍、3倍…になると、2つの波はぴったり重なり合って強め合います。

    結論と吟味

    \(n < n_G\) の場合、両方の反射で位相が \(\pi\) ずれるため、強め合いの条件は経路差 \(2d\cos\phi\) が膜中波長 \(\lambda’\) の整数倍になるときです。式で表すと \(2d\cos\phi = m\displaystyle\frac{\lambda}{n}\) となります。

    別解: 「光路差」と「空気中での波長」を用いる解法

    思考の道筋とポイント
    斜め入射の薄膜干渉における光路差の公式 \(2nd\cos\phi\) を直接用います。両方の反射で位相が \(\pi\) ずれるため、位相変化による実質的な差はありません。したがって、光路差が空気中での波長 \(\lambda\) の整数倍になるときに強め合います。
    この設問における重要なポイント

    • 光路差の公式 \(2nd\cos\phi\) を適用する。
    • 両方の反射で位相が \(\pi\) ずれるため、実質的な位相差は0とみなせる。
    • 強め合いの条件は、光路差が空気中波長の整数倍になるとき。

    具体的な解説と立式
    1. 光路差: 斜め入射の場合の光路差は \(2nd\cos\phi\) です。
    2. 位相変化: 表面(空気→薄膜)、下面(薄膜→G)ともに屈折率が「小→大」の反射なので、両方で位相が \(\pi\) ずれます。実質的な位相差は0です。
    3. 強め合いの条件: 位相差が0なので、光路差が空気中波長 \(\lambda\) の整数倍のときに強め合います。
    $$
    \begin{aligned}
    2nd\cos\phi &= m\lambda \quad (m = 1, 2, 3, \ldots)
    \end{aligned}
    $$

    使用した物理公式

    • 光路差(斜め入射): \(2nd\cos\phi\)
    • 反射における位相変化の規則
    • 薄膜干渉の強め合いの条件(両面で位相が\(\pi\)ずれる場合): 光路差 = \(m\lambda\)
    計算過程

    この設問は条件式を記述するものなので、これ以上の具体的な数値計算はありません。

    この設問の平易な説明

    この解き方では、「光路差」という便利な道具を最初から使います。光路差は、膜の中での波長の縮み具合も考慮した「実質的な距離のずれ」です。この場合、両方の反射で波が同じようにひっくり返るので、あとは光路差が空気中での波長のちょうど1倍、2倍、3倍…になれば、2つの波は強め合います。

    結論と吟味

    この条件式 \(2nd\cos\phi = m\lambda\) の両辺を \(n\) で割ると、\(2d\cos\phi = m\displaystyle\frac{\lambda}{n}\) となり、主たる解法で得られた条件式と完全に一致します。どちらのアプローチも物理的に正しく、等価です。

    解答 (3) \(2d\cos\phi = m\displaystyle\frac{\lambda}{n}\)

    (4)

    思考の道筋とポイント
    設問(3)で導いた強め合いの条件式 \(2d\cos\phi = m\displaystyle\frac{\lambda}{n}\) を用います。反射光が明るくなる「薄膜の最小の厚さ」を求めるので、正の整数 \(m\) の中で最小の値、つまり \(m=1\) の場合を考えます。与えられた具体的な数値を代入して、厚さ \(d\) を計算します。
    この設問における重要なポイント

    • (3)で導いた強め合いの条件式を正しく使用すること。
    • 「最小の厚さ」を求めるためには、正の整数 \(m\) の最小値 \(m=1\) を選択すること。
    • 三角関数 \(\cos 60^\circ = 1/2\) の値を正確に使うこと。

    具体的な解説と立式
    設問(3)で得られた、\(n < n_G\) の場合に反射光が明るくなる条件式は、
    $$
    \begin{aligned}
    2d\cos\phi &= m\frac{\lambda}{n} \quad (m = 1, 2, 3, \ldots)
    \end{aligned}
    $$
    です。薄膜の最小の厚さ \(d_{\text{最小}}\) は、正の整数 \(m\) が最小値 \(m=1\) をとるときに得られます。
    $$
    \begin{aligned}
    2d_{\text{最小}}\cos\phi &= 1 \cdot \frac{\lambda}{n}
    \end{aligned}
    $$
    これを \(d_{\text{最小}}\) について解くと、
    $$
    \begin{aligned}
    d_{\text{最小}} &= \frac{\lambda}{2n\cos\phi} \quad \cdots ④
    \end{aligned}
    $$
    与えられた値は \(\lambda = 6.0 \times 10^{-7} \, \text{m}\), \(\phi = 60^\circ\), \(n=1.5\), \(n_G=1.6\) です。\(n < n_G\) ( \(1.5 < 1.6\) ) の条件は満たされています。

    使用した物理公式

    • 設問(3)で導出した強め合いの条件式
    計算過程

    式④に具体的な値を代入します。\(\cos 60^\circ = 0.5\) です。
    $$
    \begin{aligned}
    d_{\text{最小}} &= \frac{6.0 \times 10^{-7}}{2 \times 1.5 \times \cos 60^\circ} \\[2.0ex]
    &= \frac{6.0 \times 10^{-7}}{2 \times 1.5 \times 0.5} \\[2.0ex]
    &= \frac{6.0 \times 10^{-7}}{1.5} \\[2.0ex]
    &= 4.0 \times 10^{-7} \, \text{m}
    \end{aligned}
    $$

    この設問の平易な説明

    (3)で求めた「光が強め合う条件の式」を使います。膜の厚さ \(d\) が一番小さいのは、正の整数 \(m\) が一番小さい値、つまり \(m=1\) のときです。この式に \(m=1\) を代入し、さらに問題で与えられた光の波長 \(\lambda\)、薄膜の屈折率 \(n\)、光が膜に入る角度 \(\phi\) の値を代入して、厚さ \(d\) を計算します。

    結論と吟味

    反射光が明るくなる薄膜の最小の厚さは \(4.0 \times 10^{-7} \, \text{m}\) です。\(n < n_G\) という条件が満たされているため、(3)の条件式を正しく適用できています。

    解答 (4) \(4.0 \times 10^{-7}\)

    (5)

    思考の道筋とポイント
    媒質Gの屈折率が \(n_G=1.4\) に変わります。薄膜の屈折率は \(n=1.5\) のままなので、\(n > n_G\) となります。この変更により、薄膜下面での反射における位相変化の条件が変わるため、まずそれを確認します。その上で、新たな強め合いの条件式を立て、最小の厚さを求めます。
    この設問における重要なポイント

    • 反射における位相変化の再判定:
      • 表面反射 (空気→薄膜): 位相が \(\pi\) ずれる((3)と同じ)。
      • 下面反射 (薄膜→媒質G): 今度は \(n > n_G\) ( \(1.5 > 1.4\) ) なので、屈折率「大→小」の反射。位相は変化しない。
    • 片方の反射(表面のみ)で位相が \(\pi\) ずれるため、強め合いの条件が変わる。
    • 強め合いの条件: この場合、経路差が膜中波長の半整数倍になるとき。つまり、\(2d\cos\phi = (m’ + \frac{1}{2})\lambda’\)。
    • 最小の厚さを求めるには、整数 \(m’\) の最小値 \(m’=0\) を使う。

    具体的な解説と立式
    媒質Gの屈折率が \(n_G=1.4\) に変更されました。

    1. 反射における位相変化の確認(再評価):

    • 薄膜表面(空気→薄膜): 位相は \(\pi\) ずれます((3)と同じ)。
    • 薄膜下面(薄膜→媒質G): 薄膜 (\(n=1.5\)) から媒質G (\(n_G=1.4\)) への反射です。\(n > n_G\) なので、屈折率が「大→小」の反射となり、位相は変化しません。

    2. 強め合いの干渉条件:
    この場合、「片方の反射でのみ位相が \(\pi\) ずれる」状況です。2つの反射光が強め合う条件は、経路差 \(2d\cos\phi\) が、薄膜中での波長 \(\lambda’ = \lambda/n\) の「半整数倍」になるときです。
    0以上の整数 \(m’\) を用いて、
    $$
    \begin{aligned}
    2d\cos\phi &= \left(m’ + \frac{1}{2}\right)\lambda’ \quad (m’ = 0, 1, 2, \ldots)
    \end{aligned}
    $$
    \(\lambda’ = \displaystyle\frac{\lambda}{n}\) を代入すると、
    $$
    \begin{aligned}
    2d\cos\phi &= \left(m’ + \frac{1}{2}\right)\frac{\lambda}{n} \quad \cdots ⑤
    \end{aligned}
    $$
    薄膜の最小の厚さ \(d_{\text{最小}}\) は、\(m’\) が最小値 \(m’=0\) をとるときに得られます。
    $$
    \begin{aligned}
    2d_{\text{最小}}\cos\phi &= \left(0 + \frac{1}{2}\right)\frac{\lambda}{n}
    \end{aligned}
    $$
    これを \(d_{\text{最小}}\) について解くと、
    $$
    \begin{aligned}
    d_{\text{最小}} &= \frac{\lambda}{4n\cos\phi} \quad \cdots ⑥
    \end{aligned}
    $$

    使用した物理公式

    • 経路差の幾何学的成分: \(2d\cos\phi\)
    • 媒質中の波長: \(\lambda’ = \lambda/n\)
    • 反射における位相変化の規則
    • 薄膜干渉の強め合いの条件(片面で位相が\(\pi\)ずれる場合): 経路差 = \((m’ + \frac{1}{2})\lambda’\)
    計算過程

    式⑥に、与えられた値 \(\lambda = 6.0 \times 10^{-7} \, \text{m}\), \(\phi = 60^\circ\) (\(\cos 60^\circ = 0.5\)), \(n=1.5\) を代入します。
    $$
    \begin{aligned}
    d_{\text{最小}} &= \frac{6.0 \times 10^{-7}}{4 \times 1.5 \times \cos 60^\circ} \\[2.0ex]
    &= \frac{6.0 \times 10^{-7}}{4 \times 1.5 \times 0.5} \\[2.0ex]
    &= \frac{6.0 \times 10^{-7}}{3.0} \\[2.0ex]
    &= 2.0 \times 10^{-7} \, \text{m}
    \end{aligned}
    $$

    この設問の平易な説明

    下の媒質が変わったことで、下面での反射のルールが変わりました。今度は、表面で反射するときだけ波がひっくり返り、下面ではひっくり返りません。もともと半波長分ずれた状態からスタートするので、遠回りした距離がさらに半波長分ずれると、合計で1波長分ずれてタイミングが合い、強め合います。この条件を満たす一番薄い膜の厚さを計算します。

    結論と吟味

    媒質Gの屈折率が \(n_G=1.4\) の場合、反射光が明るくなる薄膜の最小の厚さは \(2.0 \times 10^{-7} \, \text{m}\) です。設問(4)と比べて下面の反射条件が変わり、強め合いの条件式も変わったため、最小厚さの値も変化しました。これは物理的に妥当な結果です。

    別解: 「光路差」と「空気中での波長」を用いる解法

    思考の道筋とポイント
    光路差の公式 \(2nd\cos\phi\) を直接用います。表面反射でのみ位相が \(\pi\) ずれるため、光路差が空気中での波長 \(\lambda\) の半整数倍になるときに強め合います。
    この設問における重要なポイント

    • 光路差の公式 \(2nd\cos\phi\) を適用する。
    • 表面反射でのみ位相が \(\pi\) ずれるため、実質的な位相差は \(\pi\) となる。
    • 強め合いの条件は、光路差が空気中波長の半整数倍になるとき。

    具体的な解説と立式
    1. 光路差: \(2nd\cos\phi\)。
    2. 位相変化: 表面でのみ位相が \(\pi\) ずれる。実質的な位相差は \(\pi\) です。
    3. 強め合いの条件: 位相差が \(\pi\) あるので、光路差が半整数波長 \((m’ + \frac{1}{2})\lambda\) のときに強め合います。
    $$
    \begin{aligned}
    2nd\cos\phi &= \left(m’ + \frac{1}{2}\right)\lambda \quad (m’ = 0, 1, 2, \ldots)
    \end{aligned}
    $$
    最小の厚さは \(m’=0\) のときなので、
    $$
    \begin{aligned}
    2nd_{\text{最小}}\cos\phi &= \frac{1}{2}\lambda
    \end{aligned}
    $$
    これを解くと \(d_{\text{最小}} = \displaystyle\frac{\lambda}{4n\cos\phi}\) となり、主たる解法と同じ式が得られます。

    使用した物理公式

    • 光路差(斜め入射): \(2nd\cos\phi\)
    • 反射における位相変化の規則
    • 薄膜干渉の強め合いの条件(片面で位相が\(\pi\)ずれる場合): 光路差 = \((m’ + \frac{1}{2})\lambda\)
    計算過程

    主たる解法で得られた式⑥と全く同じ式 \(d_{\text{最小}} = \displaystyle\frac{\lambda}{4n\cos\phi}\) が導かれるため、計算結果も同じ \(2.0 \times 10^{-7} \, \text{m}\) となります。

    この設問の平易な説明

    この解き方でも、「光路差」という道具を使います。表面反射だけで波がひっくり返るので、もともと半波長分ずれています。このずれを打ち消してタイミングを合わせるためには、光路差がさらに半波長分ずれる必要があります。この条件から厚さを計算します。

    結論と吟味

    主たる解法と完全に同じ結果が得られました。光路差の公式を覚えていれば、この別解のアプローチの方がより直接的に立式できるため、効率的であると言えます。

    解答 (5) \(2.0 \times 10^{-7}\)

    【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

    最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

    • 薄膜干渉(斜め入射)の原理:
      • 核心: 光が薄膜に斜めに入射した際に、薄膜の表面で反射する光と、薄膜の内部を透過し下面で反射してから再び表面に出てくる光との間で生じる干渉現象です。
      • 理解のポイント:
        1. 光路差の計算 \(2nd\cos\phi\): 斜め入射の場合、2つの干渉する光の間の光路差は \(2nd\cos\phi\) で与えられます。ここで、\(n\) は薄膜の屈折率、\(d\) は薄膜の厚さ、\(\phi\) は薄膜中での光線の屈折角(法線とのなす角)です。この \(\cos\phi\) の因子が垂直入射の場合との大きな違いです。
        2. 反射における位相変化の正確な判定: 光が屈折率の小さい媒質から大きい媒質へと進み、その境界面で反射するとき、位相は \(\pi\) (180°) ずれます。逆に、大きい媒質から小さい媒質へ進んで反射するとき、位相は変化しません。この問題では、空気(\(n_{\text{空気}}=1\)) → 薄膜(\(n\)) の反射と、薄膜(\(n\)) → 媒質G(\(n_G\)) の反射のそれぞれについて、\(n\) と \(n_G\) の値(大小関係)によって位相変化の有無を正しく判断することが極めて重要です。
        3. 干渉条件式の的確な使い分け: 両方の反射面で同種の位相変化が起こる場合(両方とも\(\pi\)ずれるか、両方とも位相変化がない場合)、強め合い(明るくなる)条件は光路差が波長の整数倍となります。一方、片方の反射面でのみ位相が\(\pi\)ずれる場合、強め合いの条件は光路差が波長の半整数倍となります。

    応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

    • 応用できる類似問題のパターン:
      • 垂直入射の薄膜干渉: これは \(\cos\phi=1\) となる特殊なケースとして理解できます。基本的な考え方は同じです。
      • ニュートンリング: 平面ガラスの上に凸レンズを置き、その間の空気層(薄膜と見なせる)で生じる干渉縞です。空気層の厚さ \(d\) が場所によって連続的に変わるため、同心円状の干渉縞が見られます。
      • くさび形の空気層: 2枚のガラス板の間にわずかな角度をつけて空気層を作り、そこで生じる干渉縞です。等間隔の縞模様が見られます。
    • 初見の問題での着眼点:
      1. 入射角と屈折角の関係: 問題文で与えられている角度が、空気中での入射角なのか、薄膜中での屈折角なのかを正確に把握します。もし入射角が与えられている場合は、スネルの法則 (\(n_1\sin\theta_1 = n_2\sin\theta_2\)) を用いて薄膜中の屈折角を求める必要があるかもしれません。
      2. 各境界面での屈折率の比較(最重要!): これにより、それぞれの反射点での位相変化(\(\pi\)ずれるか、ずれないか)が決まります。図を丁寧に描き、各媒質の屈折率を書き込み、それらの大小関係を明確にすることが第一歩です。
      3. 光路差の式の正確な適用: 斜め入射の場合は \(2nd\cos\phi\)、垂直入射の場合は \(2nd\) となります。どの角度を\(\phi\)として使うのかも重要です(必ず薄膜中での光線と法線のなす角)。
      4. 問われている条件(強め合いか弱め合いか、最小の厚さか等)の確認: これに応じて、正しい干渉条件式を選択し、式中の整数 \(m\) に適切な値を代入します。

    要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

    • 光路差の式の誤用:
      • 誤解: 垂直入射のつもりで \(2nd\) を使ってしまう、あるいは斜め入射なのに \(\cos\phi\) の項を忘れる、または誤った角度を使用してしまう。
      • 対策: 問題が垂直入射か斜め入射かを必ず確認し、正しい光路差の式を選ぶ。斜め入射の場合、\(\phi\) は必ず「薄膜中での屈折角」であることを意識する。
    • 角度 \(\phi\) の混同(入射角 vs 屈折角):
      • 誤解: 光路差の公式で用いる角度 \(\phi\) は、空気中での入射角ではなく、薄膜内での光線と法線とのなす角(屈折角)です。これを混同すると結果が大きく変わります。
      • 対策: 図を描く際に、入射角と屈折角を明確に区別し、どちらの角度が問題で与えられているか、または計算で使うべきかを常に確認する。
    • 反射における位相変化の条件の記憶違いや適用ミス:
      • 誤解: どの境界面でどちら向きに(小→大か、大→小か)屈折率が変化し、その結果として位相が\(\pi\)ずれるのかずれないのか、という判定を間違える。
      • 対策: 位相変化のルールを正確に覚え、問題ごとに各境界面の屈折率の大小関係を丁寧に確認する。
    • 干渉条件式の混同:
      • 誤解: 反射時の位相変化のパターン(両面で同じように変化するか、片面のみ変化するか)によって、強め合い・弱め合いの条件が入れ替わることを忘れてしまう。
      • 対策: 位相変化の組み合わせの全パターンと、それに対応する強め合い・弱め合いの条件式をセットで整理して理解しておく。

    なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

    • 光路差 \(2nd\cos\phi\):
      • 選定理由: 薄膜干渉において、光が薄膜に斜めに入射する場合の、表面反射光と下面反射光の間の光路差を表す基本的な公式だからです。
      • 適用の根拠: この公式は、幾何光学的な光線追跡と波面を考えることによって導出されます。薄膜内での光の進む距離と、それに対応する空気中での距離との差を考慮した結果です。
    • 反射における位相変化の規則 (小\(\rightarrow\)大で\(\pi\)ずれ、大\(\rightarrow\)小で変化なし):
      • 選定理由: 干渉の結果(強め合いか弱め合いか)を正しく予測するためには、反射による位相変化を考慮に入れることが不可欠だからです。
      • 適用の根拠: これは、光が電磁波であるという性質に基づき、異なる媒質の境界面で電磁波が満たすべき境界条件から導かれる物理法則です。
    • 干渉の条件式 (光路差が \(m\lambda\) か \((m+1/2)\lambda\) か):
      • 選定理由: 2つの光波が干渉して光の強度がどうなるか(明るくなるか暗くなるか)を判断するための最終的な数式だからです。
      • 適用の根拠: これは波の重ね合わせの原理に基づいています。2つの波の光路差によって生じる位相差と、反射によって生じる位相差の合計が、\(2\pi\) の整数倍(すなわち波長の整数倍に相当)であれば波は同位相で重なり強め合い、\(\pi\) の奇数倍(すなわち波長の半整数倍に相当)であれば波は逆位相で重なり弱め合います。

    計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

    • 角度の単位と三角関数の値:
      • 特に注意すべき点: \(\cos\phi\) の計算において、角度 \(\phi\) が度数法で与えられていることを確認し、三角関数の値(例: \(\cos 60^\circ = 1/2\))を正確に用いることが重要です。
      • 日頃の練習: 主要な角度(30°, 45°, 60°など)の三角関数の値は即座に使えるようにしておく。
    • 分数の計算と式変形:
      • 特に注意すべき点: 特に厚さ \(d\) について解く際に、分数の計算や式の移項を慎重に行い、計算ミスを防ぎましょう。
      • 日頃の練習: 途中式を省略せず、丁寧に書く習慣をつける。
    • (5)のように条件が変更される場合への対応:
      • 特に注意すべき点: 問題の途中で媒質の屈折率などが変更された場合、位相変化の条件が影響を受ける可能性があるので、必ず再判定を行うことを忘れないようにしましょう。以前の設問の条件をそのまま引きずらないように注意が必要です。
      • 日頃の練習: 条件が変わる問題では、何が変化し、それによってどの物理法則の適用が変わるのかを意識的に確認する癖をつける。

    解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

    • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
      • 計算結果として得られた薄膜の厚さ \(d\) が、必ず正の値になっているかを確認します(負の厚さは物理的にあり得ません)。
      • 設問(4)と(5)のように、条件(この場合は媒質Gの屈折率)が変わったことで、最小の厚さがどのように変化したかを考察します。本問では、(4)は両面で位相がずれ、(5)は片面のみずれる条件で強め合いなので、(5)の方がより小さい光路差(具体的には \(\lambda/2\) に相当する光路差の項)で最初の強め合いが起こるため、厚さが薄くなる結果と整合します。
    • 単位の確認:
      • 最終的な計算結果の単位が、求められている物理量の単位(この場合は厚さなのでメートル[m])として正しいかを確認します。
    • 極端な条件下での振る舞いの考察(思考実験):
      • もし屈折角 \(\phi\) が \(0^\circ\) になったら(つまり、光が薄膜に垂直に入射する場合)、\(\cos\phi\) は \(1\) となります。このとき光路差は \(2nd\) となり、垂直入射の場合の薄膜干渉の公式と一致するかどうかを確認することで、公式の整合性をチェックできます。
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    問題98 (弘前大)

    【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

    この問題は、2枚の平板ガラスの間にくさび形の空気層(または水層)を作り、そこに単色光を当てたときに観察される光の干渉現象に関するものです。特に、反射光と透過光における干渉縞の条件や、媒質が変わった場合の影響について問われています。

    与えられた条件
    • 平板ガラスA, Bの一端Oからアルミ箔までの距離: \(L = 0.10 \, \text{m}\)
    • 入射光の波長(空気中): \(\lambda = 5.9 \times 10^{-7} \, \text{m}\)
    • 空気の屈折率: \(1\)
    • (2)での隣り合う明線の間隔: \(\Delta x = 2.0 \, \text{mm} = 2.0 \times 10^{-3} \, \text{m}\)
    • (4)での水の屈折率: \(n\)
    • 現象: 真上から光を当て、上から見ると干渉縞が見えた(反射光の干渉)。
    問われていること
    1. (1) O点の縞は明線になるか、暗線になるか、それともそのいずれでもないかを答えよ。
    2. (2) 隣り合う明線の間隔 \(\Delta x\) が \(2.0 \, \text{mm}\) のとき、はさんだアルミ箔の厚さ \(D \, \text{[m]}\) を求めよ。
    3. (3) 光の方向と反対側(ガラス板B側)から干渉縞を観察する。上から見る場合と比べて、干渉縞はどう変わるか、簡潔に述べよ。
    4. (4) 2枚のガラス板の間を屈折率 \(n\) の水で満たす。空気中と比べて明線の間隔は何倍になるか。

    【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

    【相違点に関する注記】

    本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

    1. 提示する別解
      • 問(2)の別解: 2つの明線の条件式から直接立式する解法
        • 主たる解法が、隣り合う明線の「厚みの差」と「間隔」の関係から立式するのに対し、別解では、\(m\)番目と\((m+1)\)番目の明線の位置\(x_m\), \(x_{m+1}\)をそれぞれ条件式から求め、その差\(\Delta x = x_{m+1} – x_m\)を計算することで、より直接的に明線間隔の式を導出します。
    2. 上記の別解が有益である理由
      • 数学的厳密性の確認: 主たる解法で用いる\(\Delta d / \Delta x = D / L\)という関係が、厳密な代数計算からも導出されることを確認でき、物理モデルの数学的な裏付けへの理解が深まります。
      • 解法の選択肢の拡大: 問題によっては、各縞の位置座標を直接問われる場合もあります。そのような問題にも対応できる、より基本的なアプローチを学ぶことができます。
    3. 結果への影響
      • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

    この問題のテーマは「くさび形空気層による光の干渉」です。2枚の平板ガラスの間に作られた、厚さが連続的に変化する空気層(薄膜)に光を当てることで生じる干渉縞について考察します。

    問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

    1. 薄膜干渉の条件: 光路差と反射による位相変化を総合的に考慮して、明線・暗線の条件を導き出します。
    2. 反射における位相変化: 屈折率が「小→大」の境界での反射では位相が\(\pi\)ずれ、「大→小」では変化しません。この問題では、ガラスA下面(大→小)とガラスB上面(小→大)で反射の条件が異なることが重要です。
    3. くさび形の幾何学: O点からの距離\(x\)と空気層の厚さ\(d\)の間に成り立つ比例関係(\(d/x = D/L\))を利用します。
    4. 媒質中の波長変化: 屈折率\(n\)の媒質中では、波長が\(\lambda/n\)になることを理解し、干渉条件に反映させます。

    基本的なアプローチは以下の通りです。

    1. まず、反射における位相変化のルールを適用し、この実験設定での明線・暗線の条件式を確定させます。
    2. 問(1)では、O点(\(d=0\))がどの条件を満たすかを判定します。
    3. 問(2)では、明線の条件式とくさび形の幾何学的関係を組み合わせて、アルミ箔の厚さ\(D\)を求めます。
    4. 問(3)では、エネルギー保存則の観点から、透過光で観察される干渉縞が反射光とどう違うかを考察します。
    5. 問(4)では、空気層を水で満たした場合に波長がどう変化し、それが明線間隔にどう影響するかを分析します。

    (1)

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