問題28 (東工大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、基本的な電流計(検流計)を元に、より広範囲を測定できる電流計や電圧計を自作する方法と、それらを用いて未知の抵抗値を測定する際の系統誤差について考察する、電気計測の基本を深く問う問題です。
- 元の計器: 内部抵抗が \(10\,\Omega\) で、最大目盛り(フルスケール)が \(10\,\text{mA}\) の電流計が2個。
- 目標:
- 一方を、最大目盛り \(100\,\text{mA}\) の電流計Aとして使用する。
- もう一方を、最大目盛り \(10\,\text{V}\) の電圧計Vとして使用する。
- 実験: 作成した電流計Aと電圧計Vを用いて、未知の抵抗\(R\)の値を測定する。接続方法は図1と図2の2通り。
- 電流計Aと電圧計Vを作るために、元の電流計にそれぞれ何Ωの抵抗を、どのように接続すればよいか。
- 作成した電流計Aの内部抵抗 \(r_A\) と電圧計Vの内部抵抗 \(r_V\) はいくらか。
- 図1、図2の○にA, Vの記号を入れ、それぞれの接続方法で測定される抵抗値 \(R_1, R_2\) と真の抵抗値 \(R\) の大小関係を不等式で表す。
- 図1の接続で、Aの読みが \(67\,\text{mA}\)、Vの読みが \(5.8\,\text{V}\) であった。このときの測定値 \(R_1\) と、真の抵抗値 \(R\) を求めよ。
- (4)と同じ抵抗を図2の接続で測定した場合、測定値 \(R_2\) はいくらになるか。
- 【コラム】Q. 電流計の内部抵抗が無視できる場合、また電圧計の内部抵抗が十分大きい場合、それぞれ図1と図2のどちらの接続が望ましいか。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題は、測定機器の原理と、それらが測定対象に与える影響(系統誤差)についての理解を問います。電流計は「分流器」、電圧計は「倍率器」という抵抗を接続して測定範囲を拡大します。また、抵抗測定の2つの接続方法は、それぞれ電流計と電圧計の内部抵抗が原因で誤差を生じさせます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念
- 分流器(シャント): 電流計の測定範囲を拡大するため、元の電流計に並列に接続する抵抗。余分な電流をバイパスさせる。並列接続なので電圧は等しい。
- 倍率器(マルチプライヤ): 電圧計の測定範囲を拡大するため、元の電流計に直列に接続する抵抗。余分な電圧を分担させる。直列接続なので電流は等しい。
- オームの法則: \(V=RI\)。
- キルヒホッフの法則:
- 第1法則(電流則): 分岐点での電流の和。
- 第2法則(電圧則): 閉回路での電位の関係。
- 合成抵抗: 並列接続 \(\frac{1}{R} = \frac{1}{R_1} + \frac{1}{R_2}\)、直列接続 \(R = R_1 + R_2\)。
- 測定の原理:
- 電流計は測定したい部分に直列に接続する。
- 電圧計は測定したい部分に並列に接続する。
全体的な戦略
- (1)では、分流器と倍率器の原理に基づいて、必要な抵抗値を計算します。
- (2)では、(1)で作成した電流計・電圧計を一つの機器と見なし、その全体の抵抗値(内部抵抗)を合成抵抗の計算で求めます。
- (3)では、測定機器の正しい接続方法を思い出し、各接続方法でなぜ誤差が生じるのかを、電流の分岐や電圧降下に着目して定性的に考察します。
- (4)(5)では、(2)で求めた内部抵抗の値を用いて、キルヒホッフの法則とオームの法則から具体的な数値を計算し、測定値と真の値の関係を定量的に評価します。
問 (1)
思考の道筋とポイント
電流計Aの作成:
最大\(100\,\text{mA}\)の電流を測定したいが、元の電流計(検流計)は\(10\,\text{mA}\)までしか流せません。したがって、残りの \(100 – 10 = 90\,\text{mA}\) を別の経路に流す必要があります。そのために、元の電流計に抵抗(分流器)を並列に接続します。並列接続なので、元の電流計と分流器にかかる電圧は等しくなります。
電圧計Vの作成:
最大\(10\,\text{V}\)の電圧を測定したいが、元の電流計がフルスケール(\(10\,\text{mA}\))のときに示す電圧は \(V=RI = 10\,\Omega \times 10 \times 10^{-3}\,\text{A} = 0.1\,\text{V}\) です。これでは\(10\,\text{V}\)を測定できません。そこで、元の電流計に抵抗(倍率器)を直列に接続し、大きな電圧をこの倍率器に分担させます。全体で\(10\,\text{V}\)の電圧がかかったときに、回路にフルスケール電流の\(10\,\text{mA}\)が流れるように抵抗値を決めます。
この設問における重要なポイント
- 電流計の測定範囲拡大 \(\rightarrow\) 分流器を並列接続。
- 電圧計の測定範囲拡大 \(\rightarrow\) 倍率器を直列接続。
- 並列接続では電圧が等しい。
- 直列接続では電流が等しい。
具体的な解説と立式
元の電流計を \(A_0\) とします。\(A_0\) の内部抵抗は \(r_0 = 10\,\Omega\)、最大目盛り電流は \(I_0 = 10\,\text{mA}\) です。
電流計A (最大 \(100\,\text{mA}\)) の作成
測定したい最大電流を \(I_{max} = 100\,\text{mA}\) とします。このとき、\(A_0\) には \(I_0 = 10\,\text{mA}\) が流れ、残りの電流 \(I_s = I_{max} – I_0\) が分流器(シャント抵抗)\(r_1\) に流れます。
\(A_0\) と \(r_1\) は並列接続なので、両端の電圧は等しくなります。
$$r_0 I_0 = r_1 I_s \quad \cdots ①$$
電圧計V (最大 \(10\,\text{V}\)) の作成
測定したい最大電圧を \(V_{max} = 10\,\text{V}\) とします。この電圧をかけたときに、回路に最大目盛り電流 \(I_0 = 10\,\text{mA}\) が流れるように、倍率器 \(r_2\) を \(A_0\) に直列に接続します。
回路全体の抵抗は \(r_0 + r_2\)。オームの法則より、
$$V_{max} = (r_0 + r_2) I_0 \quad \cdots ②$$
使用した物理公式
- オームの法則 \(V=RI\)
- 並列接続・直列接続の性質
分流器 \(r_1\) の計算
式①に値を代入します。分流器を流れる電流は \(I_s = 100\,\text{mA} – 10\,\text{mA} = 90\,\text{mA}\)。
$$10\,\Omega \times 10\,\text{mA} = r_1 \times 90\,\text{mA}$$
両辺の単位 [mA] は打ち消し合います。
$$100 = 90 r_1$$
$$r_1 = \frac{100}{90} = \frac{10}{9} \approx 1.11… \,\Omega$$
有効数字2桁で答えるので、\(r_1 = 1.1\,\Omega\)。
これを元の電流計に並列に接続します。
倍率器 \(r_2\) の計算
式②に値を代入します。単位をV, A, Ωに揃えます。
\(I_0 = 10\,\text{mA} = 1.0 \times 10^{-2}\,\text{A}\)。
$$10\,\text{V} = (10\,\Omega + r_2) \times (1.0 \times 10^{-2}\,\text{A})$$
両辺を \(1.0 \times 10^{-2}\) で割ると、
$$\frac{10}{1.0 \times 10^{-2}} = 10 + r_2$$
$$1000 = 10 + r_2$$
$$r_2 = 990\,\Omega = 9.9 \times 10^2\,\Omega$$
これを元の電流計に直列に接続します。
電流計A: 全体で100mA流れてきたとき、中の電流計には10mAしか流せないので、残りの90mAをバイパスさせるための抵抗を並列につなぎます。並列なので電圧が同じになるという条件から、\(10\Omega \times 10\text{mA} = r_1 \times 90\text{mA}\) という式を立てて、バイパス用の抵抗\(r_1\)を求めます。
電圧計V: 全体で10Vの電圧を測りたいとき、中の電流計には10mAしか流せません。オームの法則 \(V=RI\) から、回路全体の抵抗が \(10\text{V} / 10\text{mA} = 1000\Omega\) になるようにすれば良いとわかります。元の電流計の抵抗が10Ωなので、追加で \(1000-10=990\Omega\) の抵抗を直列につなぎます。
電流計Aにするには、\(1.1\,\Omega\) の抵抗(分流器)を並列に接続します。
電圧計Vにするには、\(990\,\Omega\) の抵抗(倍率器)を直列に接続します。
電流計は内部抵抗を小さく、電圧計は内部抵抗を大きくするのが理想であり、分流器(小さな抵抗)を並列に、倍率器(大きな抵抗)を直列に接続するのは、その理想に合致した方法です。
問 (2)
思考の道筋とポイント
(1)で作成した電流計Aと電圧計Vの、全体の内部抵抗 \(r_A, r_V\) を求めます。
電流計Aの内部抵抗 \(r_A\):
これは、元の電流計(内部抵抗 \(r_0=10\,\Omega\))と分流器(\(r_1=10/9\,\Omega\))を並列に接続したときの合成抵抗です。
電圧計Vの内部抵抗 \(r_V\):
これは、元の電流計(内部抵抗 \(r_0=10\,\Omega\))と倍率器(\(r_2=990\,\Omega\))を直列に接続したときの合成抵抗です。
この設問における重要なポイント
- 並列接続の合成抵抗の公式: \(\frac{1}{R} = \frac{1}{R_1} + \frac{1}{R_2}\)。
- 直列接続の合成抵抗の公式: \(R = R_1 + R_2\)。
具体的な解説と立式
電流計Aの内部抵抗 \(r_A\)
内部抵抗 \(r_0=10\,\Omega\) の電流計と、抵抗 \(r_1 = 10/9\,\Omega\) の並列合成抵抗なので、
$$\frac{1}{r_A} = \frac{1}{r_0} + \frac{1}{r_1} \quad \cdots ③$$
電圧計Vの内部抵抗 \(r_V\)
内部抵抗 \(r_0=10\,\Omega\) の電流計と、抵抗 \(r_2 = 990\,\Omega\) の直列合成抵抗なので、
$$r_V = r_0 + r_2 \quad \cdots ④$$
使用した物理公式
- 合成抵抗(並列、直列)
\(r_A\) の計算
式③に値を代入します。
$$\frac{1}{r_A} = \frac{1}{10} + \frac{1}{10/9} = \frac{1}{10} + \frac{9}{10} = \frac{10}{10} = 1\,\Omega^{-1}$$
$$r_A = 1.0\,\Omega$$
\(r_V\) の計算
式④に値を代入します。
$$r_V = 10\,\Omega + 990\,\Omega = 1000\,\Omega = 1.0 \times 10^3\,\Omega$$
電流計A: 10Ωの抵抗と1.1Ω(正確には10/9Ω)の抵抗を並列につないだときの全体の抵抗を計算します。和分の積の公式 \(\frac{10 \times (10/9)}{10 + (10/9)}\) などを使っても良いです。
電圧計V: 10Ωの抵抗と990Ωの抵抗を直列につないだときの全体の抵抗を計算します。単純に足し合わせるだけです。
電流計Aの内部抵抗は \(r_A = 1.0\,\Omega\)、電圧計Vの内部抵抗は \(r_V = 1.0 \times 10^3\,\Omega\)。
電流計の内部抵抗はできるだけ小さく(理想は0)、電圧計の内部抵抗はできるだけ大きく(理想は無限大)するのが望ましいです。今回の計算結果も、電流計の抵抗は小さく、電圧計の抵抗は大きくなっており、この原則と一致しています。
問 (3)
思考の道筋とポイント
まず、図1と図2の○に、電流計Aと電圧計Vのどちらが入るかを考えます。電流計は回路に直列に、電圧計は並列に接続するのが基本です。
次に、それぞれの接続方法で測定した抵抗値 \(R_1, R_2\) と、真の抵抗値 \(R\) の大小関係を比較します。これは、測定器の内部抵抗が測定に与える影響(系統誤差)を考える問題です。
図1の解析: 電圧計Vが抵抗Rに並列に、電流計Aがその合成抵抗に直列に接続されています。
- 電圧計の読み \(V\) は、Rにかかる電圧を正しく測定しています。
- 電流計の読み \(I\) は、Rを流れる電流 \(I_R\) と電圧計を流れる電流 \(I_V\) の和 (\(I = I_R + I_V\)) を測定しています。
- したがって、測定値 \(R_1 = V/I\) は、真の値 \(R = V/I_R\) より分母が大きくなるため、小さくなります。
図2の解析: 電流計Aが抵抗Rに直列に、電圧計Vがその合成抵抗に並列に接続されています。
- 電流計の読み \(I\) は、Rを流れる電流を正しく測定しています。
- 電圧計の読み \(V\) は、Rにかかる電圧 \(V_R\) と電流計にかかる電圧 \(V_A\) の和 (\(V = V_R + V_A\)) を測定しています。
- したがって、測定値 \(R_2 = V/I\) は、真の値 \(R = V_R/I\) より分子が大きくなるため、大きくなります。
この設問における重要なポイント
- 電流計は直列に、電圧計は並列に接続する。
- 測定器自身の内部抵抗が、測定対象の回路の電流や電圧の分布に影響を与える。
- 図1では電流の測定値に、図2では電圧の測定値に誤差が含まれる。
具体的な解説と立式
計器の記号:
電流計は測定対象と直列に接続し、電圧計は並列に接続します。
- 図1: 回路に直列に入っているのがA、Rと並列なのがV。
- 図2: Rと直列に入っているのがA、RとAの直列全体と並列なのがV。
大小関係:
- 図1の場合:
測定値 \(R_1 = \displaystyle\frac{V}{I}\)。真の値 \(R = \displaystyle\frac{V}{I_R}\)。
キルヒホッフの電流則より \(I = I_R + I_V\)。\(I_V > 0\) なので \(I > I_R\)。
よって、
$$R_1 < R$$ - 図2の場合:
測定値 \(R_2 = \displaystyle\frac{V}{I}\)。真の値 \(R = \displaystyle\frac{V_R}{I}\)。
キルヒホッフの電圧則より \(V = V_R + V_A\)。\(V_A > 0\) なので \(V > V_R\)。
よって、
$$R_2 > R$$
以上をまとめると、\(R_1 < R < R_2\) となります。
使用した物理公式
- キルヒホッフの法則(電流則、電圧則)
- オームの法則 \(R=V/I\)
この設問は定性的な比較なので、具体的な計算過程はありません。上記の論理的な導出が全てです。
図1: 電圧は正しく測れますが、電流計は「Rに流れる電流」と「電圧計自身に流れ込む電流」の両方を測ってしまいます。そのため、実際の電流より大きな値を指示してしまい、\(R=V/I\) で計算すると、分母が大きすぎるので真の値より小さな抵抗値が出てしまいます。
図2: 電流は正しく測れますが、電圧計は「Rにかかる電圧」と「電流計にかかる電圧」の両方を測ってしまいます。そのため、実際の電圧より大きな値を指示してしまい、\(R=V/I\) で計算すると、分子が大きすぎるので真の値より大きな抵抗値が出てしまいます。
よって、\(R_1\) < (真の値R) < \(R_2\) となります。
図1、図2ともに、直列に接続されるのが電流計A、並列に接続されるのが電圧計Vです。
大小関係は \(R_1 < R < R_2\) となります。
問 (4)
思考の道筋とポイント
図1の接続で、Aの読み \(I = 67\,\text{mA}\)、Vの読み \(V = 5.8\,\text{V}\) が与えられています。
まず、測定値 \(R_1\) は、これらの読みの比で単純に計算できます。
次に、真の抵抗値 \(R\) を求めます。そのためには、真にRを流れる電流 \(I_R\) を求める必要があります。
(3)の解析の通り、電流計が測定した電流 \(I\) は、抵抗Rを流れる \(I_R\) と電圧計Vを流れる \(I_V\) の和です。
電圧計を流れる電流 \(I_V\) は、電圧計の読み \(V\) と電圧計の内部抵抗 \(r_V\)(問(2)で計算済み)から、オームの法則で計算できます。
\(I = I_R + I_V\) の関係から \(I_R\) を求め、真の抵抗値 \(R = V/I_R\) を計算します。
この設問における重要なポイント
- 測定値 \(R_1 = V_{\text{読み}}/I_{\text{読み}}\)。
- キルヒホッフの電流則: \(I = I_R + I_V\)。
- 電圧計を流れる電流: \(I_V = V/r_V\)。
- 真の抵抗値: \(R = V/I_R\)。
具体的な解説と立式
与えられた測定値は、
電流計の読み: \(I = 67\,\text{mA} = 67 \times 10^{-3}\,\text{A}\)
電圧計の読み: \(V = 5.8\,\text{V}\)
測定値 \(R_1\) は、
$$R_1 = \frac{V}{I} \quad \cdots ⑤$$
真の抵抗値 \(R\) を求めるために、抵抗Rを流れる真の電流 \(I_R\) を求めます。
電圧計の内部抵抗は(2)より \(r_V = 1.0 \times 10^3\,\Omega\)。電圧計を流れる電流 \(I_V\) は、
$$I_V = \frac{V}{r_V} \quad \cdots ⑥$$
キルヒホッフの電流則より、
$$I_R = I – I_V \quad \cdots ⑦$$
真の抵抗値 \(R\) は、
$$R = \frac{V}{I_R} \quad \cdots ⑧$$
使用した物理公式
- オームの法則 \(R=V/I\)
- キルヒホッフの電流則
まず、測定値 \(R_1\) を式⑤から計算します。
$$R_1 = \frac{5.8\,\text{V}}{67 \times 10^{-3}\,\text{A}} \approx 86.56… \,\Omega$$
有効数字2桁に丸めて \(R_1 = 87\,\Omega\)。
次に真の抵抗値 \(R\) を求めます。式⑥から \(I_V\) を計算します。
$$I_V = \frac{5.8\,\text{V}}{1.0 \times 10^3\,\Omega} = 5.8 \times 10^{-3}\,\text{A}$$
式⑦から \(I_R\) を計算します。
$$I_R = (67 \times 10^{-3}\,\text{A}) – (5.8 \times 10^{-3}\,\text{A}) = 61.2 \times 10^{-3}\,\text{A}$$
最後に式⑧から \(R\) を計算します。
$$R = \frac{5.8\,\text{V}}{61.2 \times 10^{-3}\,\text{A}} \approx 94.77… \,\Omega$$
有効数字2桁に丸めて \(R = 95\,\Omega\)。
- 見かけの抵抗値を計算する: まずは単純に、電圧計の読みを電流計の読みで割って、見かけの抵抗値\(R_1\)を計算します。
- 電圧計に流れる電流を計算する: 電圧計にも内部抵抗(\(r_V\))があるので、わずかに電流が流れます。電圧計にかかっている電圧(\(V\))と内部抵抗(\(r_V\))から、オームの法則でこの「漏れ電流」\(I_V\)を計算します。
- 本当に抵抗Rに流れる電流を計算する: 電流計が測った全体の電流(\(I\))から、電圧計に漏れた電流(\(I_V\))を差し引けば、本当に抵抗Rだけを流れている電流\(I_R\)がわかります。
- 真の抵抗値を計算する: 抵抗Rにかかる電圧(\(V\))を、本当にRを流れている電流(\(I_R\))で割れば、真の抵抗値\(R\)が求まります。
測定値 \(R_1\) は \(87\,\Omega\)、真の抵抗値 \(R\) は \(95\,\Omega\) です。
(3)で考察した通り、\(R_1 < R\) となっており、測定値が真の値より小さくなることが確認できました。
問 (5)
思考の道筋とポイント
(4)と同じ抵抗(真の値 \(R=95\,\Omega\))を図2のように接続して測定した場合の測定値 \(R_2\) を求めます。
測定値 \(R_2\) は、電圧計の読み \(V\) を電流計の読み \(I\) で割ったものです (\(R_2 = V/I\))。
図2の接続では、電流計の読み \(I\) は抵抗Rを流れる真の電流を表しています。
一方、電圧計の読み \(V\) は、抵抗Rと電流計A(内部抵抗 \(r_A\))の両方にかかる電圧の合計です。
したがって、\(V = I(R+r_A)\)。
この関係から \(R_2\) を計算します。
この設問における重要なポイント
- 図2の接続では、\(R_2 = V/I\)。
- 電流計は真の電流\(I\)を測定。
- 電圧計は \(R\) と \(r_A\) の合計の電圧 \(V=I(R+r_A)\) を測定。
具体的な解説と立式
図2の接続において、測定される抵抗値 \(R_2\) は、電圧計の読み \(V\) と電流計の読み \(I\) を用いて、
$$R_2 = \frac{V}{I}$$
ここで、電圧計は抵抗Rと電流計A(内部抵抗\(r_A\))の直列接続部分にかかる電圧を測定するので、
$$V = I(R+r_A)$$
これを \(R_2\) の式に代入すると、
$$R_2 = \frac{I(R+r_A)}{I} = R+r_A \quad \cdots ⑨$$
使用した物理公式
- オームの法則 \(V=RI\)
式⑨に、(4)で求めた真の抵抗値 \(R = 95\,\Omega\) と、(2)で求めた電流計の内部抵抗 \(r_A = 1.0\,\Omega\) を代入します。
$$R_2 = 95\,\Omega + 1.0\,\Omega = 96\,\Omega$$
図2のつなぎ方では、電流計は抵抗Rを流れる電流を正しく測れます。しかし、電圧計は「抵抗Rの電圧」と「電流計自身の電圧」を合計したものを測ってしまいます。したがって、測定値 \(R_2 = V/I\) は、真の抵抗値 \(R\) に電流計の内部抵抗 \(r_A\) を足したもの (\(R+r_A\)) になります。
測定値 \(R_2\) は \(96\,\Omega\) となります。
真の値 \(R=95\,\Omega\) と比較すると、(3)で考察した通り \(R_2 > R\) となっており、測定値が真の値より大きくなることが確認できました。
【コラム】Q. 電流計の内部抵抗は無視できるが、電圧計の内部抵抗が十分に大きくはない場合、図1,2のいずれの接続を選ぶべきか。また、電流計の内部抵抗がかなりあり、電圧計の内部抵抗が十分大きい場合はどうか。
思考の道筋とポイント
どちらの接続方法がより真の値に近い測定値を与えるか、という問題です。これは、測定器の内部抵抗によって生じる誤差がどちらの接続でより小さくなるかを考えることです。
- 図1の誤差要因: 電圧計に電流 \(I_V\) が流れること。\(I_V = V/r_V\)。
- 図2の誤差要因: 電流計に電圧 \(V_A\) がかかること。\(V_A = I r_A\)。
具体的な解説と立式
この設問は定性的な考察を求めるものです。
ケース1: 電流計の内部抵抗が無視できる場合 (\(r_A \approx 0\))
図2の測定値は \(R_2 = R+r_A\)。もし \(r_A\) が無視できるほど小さければ、\(R_2 \approx R\) となり、誤差は非常に小さくなります。
一方、図1の測定値 \(R_1\) は、\(R\) と \(r_V\) の並列合成抵抗の値に近くなります。\(r_V\) がそれほど大きくない場合、誤差は大きくなります。
よって、この場合は図2の接続を選ぶべきです。
ケース2: 電圧計の内部抵抗が十分大きい場合 (\(r_V \rightarrow \infty\))
図1の測定値 \(R_1 = \displaystyle\frac{V}{I_R+I_V}\)。もし \(r_V\) が無限大に近ければ、電圧計に流れる電流 \(I_V = V/r_V \rightarrow 0\) となり、電流計の読み \(I\) は真の電流 \(I_R\) にほぼ等しくなります。よって \(R_1 \approx V/I_R = R\) となり、誤差は非常に小さくなります。
一方、図2の測定値は \(R_2 = R+r_A\)。\(r_A\)が無視できない場合、誤差は残ります。
よって、この場合は図1の接続を選ぶべきです。
誤差がより小さくなる接続方法を選びます。
ケース1: 電流計の抵抗がほぼ0の場合。図2の測定値は \(R_2 = R+r_A\) なので、\(r_A\)が0なら \(R_2=R\) となり誤差がありません。したがって図2が良いです。
ケース2: 電圧計の抵抗が非常に大きい場合。図1では、電圧計に流れ込む「漏れ電流」が誤差の原因ですが、電圧計の抵抗が大きければこの漏れ電流はほぼ0になります。すると誤差もほぼ0になります。したがって図1が良いです。
電流計の内部抵抗が無視できる場合は図2を、電圧計の内部抵抗が十分に大きい場合は図1を選ぶべきです。
これは、測定したい抵抗Rの値に比べて、\(r_A\)が十分小さいか、\(r_V\)が十分大きいかという相対的な問題になります。一般的に、Rが\(r_A\)に比べて大きい場合は図1、Rが\(r_V\)に比べて小さい場合は図2が有利とされます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 測定器の原理と構成:
- 核心:電流計の測定範囲拡大には分流器(シャント抵抗)を並列に、電圧計の測定範囲拡大には倍率器を直列に接続する。
- 理解のポイント:それぞれの接続方法において、なぜそのように接続するのかを電圧・電流の分配の観点から理解する。
- 測定器の内部抵抗:
- 核心:実際の測定器は理想的ではなく、内部抵抗を持つ。電流計は小さな内部抵抗を、電圧計は大きな内部抵抗を持つ。
- 理解のポイント:この内部抵抗が、測定対象の回路に接続されることで、元の回路の状態を乱し、測定誤差の原因となる。
- 抵抗測定(電流計-電圧計法)の系統誤差:
- 核心:図1の接続方法(電圧計を抵抗に近づける)では電流計が余分な電流を測定し、図2の接続方法(電流計を抵抗に近づける)では電圧計が余分な電圧を測定する。
- 理解のポイント:\(R_1 < R < R_2\) という大小関係がなぜ成り立つのかを、キルヒホッフの法則を用いて説明できるようにする。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
- 電流計・電圧計の目盛りや測定範囲に関する問題。
- ホイートストンブリッジや電位差計など、他の電気計測に関する問題。
- 測定誤差の補正計算や、最適な測定方法の選択を問う問題。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
- 測定器の仕様を整理する: 元の計器の内部抵抗と最大目盛り電流を正確に把握する。
- 測定範囲拡大の原理を適用する: 分流器なら「並列で電圧一定」、倍率器なら「直列で電流一定」の条件で方程式を立てる。
- 測定誤差を考える: 測定器を回路に接続した図を描き、測定器の内部抵抗を一つの抵抗と見なして回路解析を行う。
- 真の値と測定値の定義を明確にする: 真の値(例:\(R=V_R/I_R\))と測定値(例:\(R_1=V/I\))が、どの電圧・電流の比であるかを正確に区別する。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 分流器と倍率器の接続方法の混同:
- 現象:電流計に直列、電圧計に並列に抵抗を接続してしまう。
- 対策:「電流は分ける(並列)」「電圧は分担する(直列)」と、目的と接続方法をセットで覚える。
- 内部抵抗の計算ミス:
- 現象:並列接続の合成抵抗の計算で、逆数の和を計算した後に、もう一度逆数を取るのを忘れる。
- 対策:並列合成抵抗の公式は \(\frac{1}{R} = …\) であることを意識し、最後に \(R=…\) の形に直すことを徹底する。
- 測定誤差の大小関係の暗記ミス:
- 現象:\(R_1 < R < R_2\) の関係を逆に覚えてしまう。
- 対策:丸暗記ではなく、「図1では電流を過大に測定するから抵抗は過小評価される」「図2では電圧を過大に測定するから抵抗は過大評価される」と、理由付けと共に理解する。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題では、物理現象をどのようにイメージし、図にどのように表現することが有効だったか:
- 電流計や電圧計を、単なる記号ではなく、内部抵抗を持つ「箱」として回路図に描き込む(模範解答の図1,2が参考になる)。
- 電流の流れを矢印で描き、分岐点(ノード)で電流が分かれる様子(\(I = I_R + I_V\))を視覚的に表現する。
- 電圧降下を、抵抗を通過する際の「電位の坂」としてイメージし、各点の電位を書き込んでいく。
- 図を描く際に注意すべき点は何か:
- 測定器の内部抵抗を、その測定器記号の隣に抵抗記号として明示的に描くと分かりやすい。
- 電流の分岐やループを明確に区別して描く。
- 電圧計がどの2点間の電位差を測っているのかを、接続線で正確に示す。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 並列部分の電圧一定 (\(r_0 I_0 = r_1 I_s\)):
- 選定理由:分流器の設計において、元の電流計と分流器が並列接続されているため。
- 適用根拠:並列に接続された複数の素子の両端の電位差は共通であるという回路の基本原則。
- 直列部分の電圧の和 (\(V_{max} = (r_0 + r_2) I_0\)):
- 選定理由:倍率器の設計において、元の電流計と倍率器が直列接続されているため。
- 適用根拠:直列に接続された複数の素子にかかる電圧の総和が、全体の電圧に等しいというキルヒホッフの電圧則。
- キルヒホッフの電流則 (\(I = I_R + I_V\)):
- 選定理由:図1の回路で、電流計が測定する電流と、実際に抵抗を流れる電流の関係を明らかにするため。
- 適用根拠:回路の任意の分岐点において、電荷は保存され、電流の流入量と流出量が等しいという基本法則。
- キルヒホッフの電圧則 (\(V = V_R + V_A\)):
- 選定理由:図2の回路で、電圧計が測定する電圧と、抵抗Rにかかる真の電圧の関係を明らかにするため。
- 適用根拠:任意の閉回路において、電位の周回積分が0であるという基本法則。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 測定器の設計: 分流器・倍率器の原理に基づき、並列・直列接続の電圧・電流の関係式から必要な抵抗値を計算する。
- 内部抵抗の計算: 設計した測定器を一つのブラックボックスと見なし、その全体の抵抗を合成抵抗の公式で計算する。
- 測定回路の誤差分析: 2つの接続方法それぞれについて、測定器の内部抵抗が回路にどう影響するかを分析する。電流計は電流を、電圧計は電圧を測定することを元に、測定値が真の値からどうずれるかを定性的に導出する。
- 具体的な数値計算: 実際の測定値が与えられたら、キルヒホッフの法則などを用いて連立方程式を立て、未知の量(真の抵抗値など)を計算する。
- 異なる接続での測定値の予測: 真の抵抗値が分かれば、もう一方の接続方法でどのような測定値が得られるかを、その接続方法の誤差の式(例: \(R_2 = R+r_A\))から予測計算する。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位の換算: 特に電流のmA(ミリアンペア)とA(アンペア)の換算(\(10^{-3}\)倍)を忘れないようにする。計算はSI単位系に統一するのが安全。
- 有効数字: 問題文で指定されている有効数字(この問題では2桁)に合わせて、最終的な答えを適切に丸める。途中の計算では1桁多く保持しておくと良い。
- 逆数の計算: 並列抵抗の合成や、オームの法則の変形などで逆数の計算が出てくる。計算ミスをしないよう慎重に行う。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 大小関係の確認: (3)で導出した \(R_1 < R < R_2\) という関係が、(4)(5)の具体的な数値計算の結果と一致しているか確認する。
- 理想的な場合を考える: もし電流計の内部抵抗が0だったら、あるいは電圧計の内部抵抗が無限大だったら、測定誤差はどうなるかを考える。Qの問題はまさにこの視点。
- 誤差の大きさ: どちらの接続方法がより真の値に近いか(誤差が少ないか)を考える。これは、測定したい抵抗Rと、測定器の内部抵抗\(r_A, r_V\)の大小関係に依存する。この問題では、\(R=95\Omega\)に対し、\(r_A=1\Omega\) (\(\sim1\%\)の誤差要因)、\(r_V=1000\Omega\) (\(R/r_V \sim 10\%\)の誤差要因) なので、\(r_A\)の影響の方が小さい。したがって、\(r_A\)が誤差となる図2の接続の方がより精密な測定ができると予想できる(実際に\(R_2=96\Omega\)は\(R_1=87\Omega\)より真値\(95\Omega\)に近い)。
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