基本例題
基本例題105 発電方式
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「主要な発電方式におけるエネルギー変換プロセスの理解」です。私たちの生活に不可欠な電気が、どのようなエネルギー源から、どのような順序で変換されて作られているのか、その基本的な原理を正しく理解しているかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- エネルギー変換とエネルギー保存則: エネルギーは形を変える(変換する)だけで、その総量は常に保存されるという基本法則。
- 火力発電の原理: 化石燃料が持つ化学エネルギーを燃焼により熱エネルギーに変え、その熱で発生させた蒸気でタービンを回し、最終的に電気エネルギーを得る仕組み。
- 水力発電の原理: ダムに貯めた水が持つ位置エネルギーを、水を落下させることで運動エネルギーに変え、その力で水車(タービン)を回して電気エネルギーを得る仕組み。
- 原子力発電の原理: ウランなどの核分裂反応によって得られる核エネルギーを熱エネルギーに変え、その後のプロセスは火力発電と同様に、蒸気でタービンを回して電気エネルギーを得る仕組み。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)から(3)で示された各エネルギー変換の連鎖を一つずつ丁寧に読み解きます。
- それぞれの変換プロセスの最初のエネルギー源(化学、位置、核)に着目し、それがどの発電方式の原理に対応するかを選択肢の中から特定します。
- 最初のエネルギー源から最後の電気エネルギーに至るまで、すべての変換ステップが矛盾なく説明できるかを確認します。
問(1)
思考の道筋とポイント
「化学エネルギー → 熱エネルギー → 運動エネルギー → 電気エネルギー」という変換プロセスを考えます。最初のエネルギー源が「化学エネルギー」である点が最大のヒントです。化学エネルギーとは、物質が化学結合の形で内部に蓄えているエネルギーのことで、燃焼などの化学反応によって取り出すことができます。
この設問における重要なポイント
- 出発点の「化学エネルギー」は、石油、石炭、天然ガスといった化石燃料の燃焼を意味します。
- 「化学エネルギー → 熱エネルギー」は、燃料を燃やして熱を得る過程です。
- 「熱エネルギー → 運動エネルギー」は、その熱で水を沸騰させて高温高圧の水蒸気を作り、その力でタービン(羽根車)を勢いよく回転させる過程です。
- 「運動エネルギー → 電気エネルギー」は、回転するタービンに直結した発電機が、電磁誘導の原理によって電気を発生させる過程です。
具体的な解説と立式
与えられたエネルギー変換の順序を、具体的な発電方式に当てはめて考えます。
- 化学エネルギー:石油や石炭などの化石燃料が持つエネルギー。
- 熱エネルギー:化石燃料を燃焼させることで、化学エネルギーを熱エネルギーに変換します。
- 運動エネルギー:発生した熱エネルギーで水を沸騰させ、高温高圧の水蒸気を作ります。この水蒸気をタービンに吹き付けて高速で回転させ、熱エネルギーをタービンの回転という運動エネルギーに変換します。
- 電気エネルギー:回転するタービンに繋がれた発電機を動かし、運動エネルギーを最終目的である電気エネルギーに変換します。
この一連の流れは、火力発電の基本的な仕組みと完全に一致します。したがって、この変換プロセスに対応する発電方式は火力発電です。
使用した物理公式
- この問題では、特定の物理公式は使用しません。
この問題では、計算過程はありません。
このエネルギー変換は、料理に例えると分かりやすいかもしれません。まず、ガスコンロの燃料(化学エネルギー)に火をつけて燃やし、熱(熱エネルギー)を作ります。その熱でヤカンのお湯を沸かすと、注ぎ口から勢いよく蒸気が出てきます。この蒸気の力で風車を回すのが(運動エネルギー)への変換です。そして、その風車の回転力を利用して発電機を動かし、電気(電気エネルギー)を作る、という流れです。これはまさに火力発電所のミニチュア版です。
「化学エネルギー」から始まる発電方式は、選択肢の中では火力発電のみです。その後の熱、運動、電気への変換プロセスも火力発電の原理と完全に一致するため、対応する発電方式は②の火力発電で間違いありません。
問(2)
思考の道筋とポイント
「位置エネルギー → 運動エネルギー → 電気エネルギー」という変換プロセスを考えます。最初のエネルギー源が「位置エネルギー」である点が最大のヒントです。位置エネルギーは、物体が高い場所にあることによって蓄えられるエネルギーです。
この設問における重要なポイント
- 出発点の「位置エネルギー」は、ダムの高い場所に貯められた水が持つエネルギーを意味します。
- 「位置エネルギー → 運動エネルギー」は、ダムの水門を開けて水を低い場所へ勢いよく流下させる過程です。このとき、高さによって蓄えられていた位置エネルギーが、水の流れという運動エネルギーに変換されます。
- 「運動エネルギー → 電気エネルギー」は、水の流れの力で水車(タービン)を回転させ、それに繋がれた発電機で電気を発生させる過程です。
具体的な解説と立式
与えられたエネルギー変換の順序を、具体的な発電方式に当てはめて考えます。
- 位置エネルギー:ダムによってせき止められ、高い場所に蓄えられた水が持つエネルギー。
- 運動エネルギー:ダムの水を放流し、高低差を利用して落下させることで、水が持つ位置エネルギーを水の流れの運動エネルギーに変換します。この水の力で水車(タービン)を回転させます。
- 電気エネルギー:回転する水車に繋がれた発電機を動かし、運動エネルギーを電気エネルギーに変換します。
この一連の流れは、水力発電の基本的な仕組みと完全に一致します。したがって、この変換プロセスに対応する発電方式は水力発電です。
使用した物理公式
- この問題では、特定の物理公式は使用しません。
この問題では、計算過程はありません。
これは、滝をイメージすると分かりやすいです。滝の上にある水は、高い場所にあるというだけでエネルギー(位置エネルギー)を持っています。その水が下に落ちてくると、ものすごい勢いの流れ(運動エネルギー)に変わります。この流れの途中に水車を置いておけば、勢いよく回ります。その水車の回転力を利用して発電機を動かし、電気(電気エネルギー)を作るのが水力発電です。
「位置エネルギー」を主要なエネルギー源とする発電方式は、選択肢の中では水力発電です。その後の運動エネルギー、電気エネルギーへの変換プロセスも水力発電の原理と一致するため、対応する発電方式は⑤の水力発電で間違いありません。
問(3)
思考の道筋とポイント
「核エネルギー → 熱エネルギー → 運動エネルギー → 電気エネルギー」という変換プロセスを考えます。最初のエネルギー源が「核エネルギー」である点が最大のヒントです。核エネルギーは、原子核の構造が変化する際(核分裂や核融合)に放出される巨大なエネルギーです。
この設問における重要なポイント
- 出発点の「核エネルギー」は、ウランなどの原子核が核分裂する際に放出されるエネルギーを意味します。
- 「核エネルギー → 熱エネルギー」は、核分裂反応によって発生する莫大な熱エネルギーを取り出す過程です。
- 「熱エネルギー → 運動エネルギー → 電気エネルギー」の過程は、(1)で見た火力発電と全く同じです。すなわち、発生した熱で水を沸騰させて蒸気を作り、その蒸気でタービンを回して発電機を動かします。
具体的な解説と立式
与えられたエネルギー変換の順序を、具体的な発電方式に当てはめて考えます。
- 核エネルギー:ウランなどの重い原子の原子核が、中性子を吸収するなどして分裂する際に放出されるエネルギー。
- 熱エネルギー:核分裂の際に発生する莫大なエネルギーを、熱エネルギーとして取り出します。
- 運動エネルギー:この熱エネルギーを利用して水を沸騰させ、高温高圧の水蒸気を作ります。この水蒸気でタービンを高速回転させ、熱エネルギーを運動エネルギーに変換します。
- 電気エネルギー:回転するタービンに繋がれた発電機を動かし、運動エネルギーを電気エネルギーに変換します。
この一連の流れは、原子力発電の基本的な仕組みと完全に一致します。火力発電との違いは、熱を発生させる方法が「化石燃料の燃焼」か「原子核の核分裂」かという点だけです。
使用した物理公式
- この問題では、特定の物理公式は使用しません。
この問題では、計算過程はありません。
原子力発電は、火力発電の「親戚」のようなものです。どちらも「お湯を沸かして、その蒸気で風車(タービン)を回して発電する」という点は同じです。違いは「お湯の沸かし方」だけです。火力発電がガスコンロでヤカンを温めるのに対し、原子力発電は「核分裂」という、とてつもなく強力なカイロのようなものでお湯を沸かしている、とイメージすると良いでしょう。最初のエネルギー源が「核エネルギー」なので、これは原子力発電に対応します。
「核エネルギー」をエネルギー源とするのは原子力発電です。その後の熱エネルギーへの変換、そして火力発電と同様の運動エネルギー、電気エネルギーへの変換プロセスも原子力発電の原理と一致するため、対応する発電方式は④の原子力発電で間違いありません。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- エネルギー変換と保存則:
- 核心: この問題の根底にあるのは、「エネルギーは無くなったり、何もないところから生まれたりせず、ただ様々な形に姿を変えるだけ」という物理学の大原則「エネルギー保存則」です。
- 理解のポイント:
- 発電とは、自然界に存在する様々な形態のエネルギー(化学、位置、核、光など)を、人間が利用しやすい「電気エネルギー」という共通の形に変換する技術体系です。
- 問題で示された矢印(→)は、まさにこの「エネルギー変換」のプロセスそのものを表しています。
- タービンと発電機の普遍性:
- 核心: 多くの発電方式では、「何らかの力でタービン(羽根車)を回し、その回転運動を発電機で電気に変える」という共通の仕組みが採用されています。
- 理解のポイント:
- 火力発電や原子力発電では「蒸気の力」で、水力発電では「水の流れの力」で、風力発電では「風の力」でタービンを回します。
- 熱源や動力源が何であれ、「熱エネルギー → 運動エネルギー → 電気エネルギー」や「運動エネルギー → 電気エネルギー」という変換プロセスが、多くの発電方式の共通のゴールルートとなっていることを理解することが重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 他の発電方式の理解: 今回登場しなかった発電方式(風力、太陽光、地熱、バイオマスなど)のエネルギー変換プロセスを問う問題。
- 風力発電: 風の運動エネルギー → 風車の運動エネルギー → 電気エネルギー
- 太陽光発電: 光エネルギー → 電気エネルギー (※タービンを回さない直接変換)
- 地熱発電: 地熱エネルギー → 熱エネルギー → 運動エネルギー → 電気エネルギー (※仕組みは火力や原子力と似ている)
- エネルギー変換効率: 投入したエネルギーに対して、どれだけの割合が電気エネルギーに変換されたかを問う問題。発電プロセスでは必ず熱などの形でエネルギーロスが生じるため、変換効率は\(100\%\)にはなりません。
- 再生可能エネルギー: 太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスなど、資源が枯渇せず繰り返し利用できる「再生可能エネルギー」と、石油やウランなど資源に限りがあるエネルギーを分類させたり、それぞれの長所・短所を問うたりする問題。
- 他の発電方式の理解: 今回登場しなかった発電方式(風力、太陽光、地熱、バイオマスなど)のエネルギー変換プロセスを問う問題。
- 初見の問題での着眼点:
- 出発点のエネルギー源は何か?: これが発電方式を特定する最大の鍵です。「化学エネルギー」なら化石燃料(火力)、「位置エネルギー」ならダムの水(水力)、「核エネルギー」ならウラン(原子力)、「光エネルギー」なら太陽光、というように、最初のエネルギー源に注目します。
- タービンを回しているか?: エネルギー変換のプロセスに「運動エネルギー」の段階が含まれているかを確認します。含まれていれば、その発電方式はタービン(発電機)を回転させていると判断できます。
- 例外を知っておく: 太陽光発電のように、光電効果という物理現象を利用して光エネルギーを直接電気エネルギーに変換する、タービンを介さない方式もあることを覚えておくと、選択肢を絞り込む際に役立ちます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 火力発電と原子力発電の仕組みの混同:
- 誤解: 原子力発電は、火力発電とは全く異なる特別な原理で電気を作っていると思い込んでしまう。
- 対策: 熱を生み出す方法が「化石燃料の燃焼(化学反応)」か「ウランの核分裂(核反応)」かという点だけが異なり、その後の「発生した熱で水を沸騰させ、その蒸気でタービンを回して発電する」という仕組みは全く同じである、と整理して覚えましょう。
- 太陽光発電と太陽熱発電の混同:
- 誤解: 太陽エネルギーを利用する発電を、すべて同じ「太陽光発電」だと考えてしまう。
- 対策: 「太陽光発電」は、太陽電池(半導体)に光が当たることで直接電気が発生する仕組みです(光エネルギー → 電気エネルギー)。一方、「太陽熱発電」は、鏡で集めた太陽の熱で液体を熱し、その蒸気でタービンを回す方式(光エネルギー → 熱エネルギー → 運動エネルギー → 電気エネルギー)です。この二つは全く異なる原理であることを区別しましょう。
- 風力発電のエネルギー源の勘違い:
- 誤解: 風が吹くのは気温差などが原因であるため、風力発電のエネルギー源を「熱エネルギー」から始まると勘違いしてしまう。
- 対策: 発電に直接利用しているのは、空気の「流れ」そのものです。したがって、風力発電は「空気の運動エネルギー」から変換が始まると正しく理解することが重要です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 知識の論理的連鎖:
- 選定理由: この問題は公式を適用するのではなく、知識と知識を論理的に結びつける思考力が問われます。与えられたエネルギー変換の連鎖に対して、それが具体的にどの物理現象や技術に対応するのかを一つずつ当てはめていくアプローチが有効です。
- 適用根拠: 例えば、「化学エネルギー → 熱エネルギー」という変換を見た瞬間に、「これは燃焼という化学反応だ」と判断します。そして、「燃焼を利用する発電方式は火力発電だ」と結論づけます。このように、エネルギーの種類と、それを生み出す(あるいは消費する)物理現象を結びつけることが、論理的な思考の根拠となります。
- 発電方式からの逆引き思考:
- 選定理由: 選択肢の発電方式から、その原理を逆にたどっていく方法も有効です。例えば、「水力発電とは何か?」→「ダムの高いところから水を落とす」→「つまり、位置エネルギーを利用している」→「水が流れて水車を回すから、運動エネルギーに変換している」→「最終的に電気になる」というように、一つの発電方式についてエネルギー変換の物語を自分で組み立てることで、問題の要求と一致するかどうかを判断できます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 知識整理のテクニック: この問題には計算はありませんが、知識の混同を防ぐための整理術が重要です。
- 比較表の作成: 主要な発電方式(火力、水力、原子力、太陽光、風力、地熱など)について、「エネルギー源」「タービンの有無」「再生可能か」「長所・短所」などをまとめた自分だけの比較表を作りましょう。情報を一覧にすることで、各方式の違いが明確になり、記憶に定着しやすくなります。
- 変換プロセスの図式化: 各発電方式のエネルギー変換プロセスを、矢印(→)を使った簡単なフローチャートで描く練習をしましょう。「石炭(化学E)→[燃焼]→熱E→[蒸気]→タービン(運動E)→[発電機]→電気E」のように、変換の手段をカッコ書きで補足すると、より深く理解できます。
- 仲間分けで覚える: 発電方式を共通点でグループ分けするのも有効です。「蒸気でタービンを回す仲間(火力、原子力、地熱)」、「自然の運動エネルギーを直接使う仲間(水力、風力)」、「タービンを使わない仲間(太陽光)」のように分類することで、複雑な知識を体系的に整理できます。
基本例題106 水力発電
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 設問(2)の別解: 1秒あたりの落下質量から直接仕事率を求める解法
- 模範解答が(1)で求めた「1トンあたりのエネルギー」を利用するのに対し、別解では「1秒あたりの落下質量」を用いて、より直接的に1秒あたりのエネルギー、すなわち仕事率を計算します。
- 設問(3)の別解: SI基本単位(ジュール、ワット)で計算する解法
- 模範解答が電力の単位として実用的な[kWh]を用いるのに対し、別解では物理計算の基本である[J]と[W]にすべて換算してから計算します。
- 設問(2)の別解: 1秒あたりの落下質量から直接仕事率を求める解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的意味の明確化: (2)の別解は、仕事率が「単位時間あたりのエネルギー」であるという定義をより直接的に体現しており、物理的な意味が捉えやすくなります。
- 単位換算能力の向上: (3)の別解は、実用単位[kWh]と基本単位[J]の間の変換を実践する良い練習となり、単位に対する感覚を養います。
- 計算の選択肢: 問題に応じて、[kWh]のまま計算する方が楽な場合と、[J]に直す方が楽な場合があり、両方のアプローチを知ることで解法の選択肢が広がります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「水力発電におけるエネルギーと仕事率の計算」です。ダムに蓄えられた水の位置エネルギーが、どのようにして電力に変換され、私たちの生活を支えているのかを、具体的な計算を通して理解する問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 重力による位置エネルギーの公式: 物体が持つ位置エネルギー \(U\) が、その質量 \(m\)、重力加速度 \(g\)、基準面からの高さ \(h\) で決まること (\(U=mgh\))。
- 仕事率(電力)の定義: 単位時間あたりに行う仕事(変換されるエネルギー)が仕事率 \(P\) であること (\(P = \displaystyle\frac{W}{t}\))。単位はワット[W]で、\(1 \, \text{W} = 1 \, \text{J/s}\) です。
- エネルギー変換効率: 供給されたエネルギーのうち、目的のエネルギーに変換される割合。今回は、水の位置エネルギーのうち、電気エネルギーとして利用できる割合が \(20\%\) であることを意味します。
- 電力量の単位: エネルギーの量を表す単位。物理の基本単位はジュール[J]ですが、電力分野ではワット時[Wh]やキロワット時[kWh]が広く使われます。これらの単位を自在に換算できることが重要です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、与えられた数値を位置エネルギーの公式 \(U=mgh\) に代入して、エネルギーを計算します。単位の扱いに注意が必要です。
- (2)では、まず1秒あたりに落下する水が供給するエネルギー(仕事率)を計算し、それにエネルギー変換効率(\(20\%\))を掛けて、実際に得られる電力[W]を求めます。最後に単位を[kW]に変換します。
- (3)では、「発電所が1日に生み出す総電力量」と「\(n\)世帯が1日に消費する総電力量」が等しくなる、という等式を立てて、世帯数 \(n\) を求めます。電力量の単位を[kWh]に揃えて計算するのが効率的です。
問(1)
思考の道筋とポイント
質量 \(m\)、高さ \(h\)、重力加速度 \(g\) がすべて与えられているので、重力による位置エネルギーの公式 \(U=mgh\) を用いて計算します。質量の単位をトン[t]からキログラム[kg]へ正しく変換することが最初のステップです。
この設問における重要なポイント
- 位置エネルギーの公式は \(U=mgh\)。
- 質量の単位はSI基本単位である[kg]に統一する。\(1\) トン \(= 1000 \, \text{kg} = 1.0 \times 10^3 \, \text{kg}\)。
- エネルギーの単位はジュール[J]で求められる。
具体的な解説と立式
重力による位置エネルギーを \(U\) [J]、質量を \(m\) [kg]、重力加速度を \(g\) [m/s\(^2\)]、高さを \(h\) [m] とすると、公式は以下のようになります。
$$ U = mgh $$
問題文で与えられている値は、\(m = 1.0 \, \text{トン} = 1.0 \times 10^3 \, \text{kg}\)、\(g = 9.8 \, \text{m/s}^2\)、\(h = 50 \, \text{m}\) です。これらの値を公式に代入します。
使用した物理公式
- 重力による位置エネルギー: \(U=mgh\)
$$
\begin{aligned}
U &= mgh \\[2.0ex]
&= (1.0 \times 10^3) \times 9.8 \times 50 \\[2.0ex]
&= 1.0 \times 10^3 \times 490 \\[2.0ex]
&= 490 \times 10^3 \\[2.0ex]
&= 4.9 \times 10^5 \, [\text{J}]
\end{aligned}
$$
高いところにある物体は、下に落ちる力を持っている、つまりエネルギーを蓄えています。このエネルギーの大きさは「物体の重さ × 重力の強さ × 高さ」で計算できます。今回は、\(1.0\) トン (\(1000 \, \text{kg}\)) の水が \(50 \, \text{m}\) の高さにあるので、これらの数値を公式に当てはめて計算するだけです。
質量 \(1.0\) トンの水が \(50 \, \text{m}\) の高さに持つ位置エネルギーは \(4.9 \times 10^5 \, \text{J}\) となります。計算も単純で、物理的に妥当な結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
仕事率(電力)とは、「1秒あたりのエネルギー」のことです。問題では「毎秒 \(1.2\) トン」の水が落下するとあるので、まず「1秒あたりに水が失う位置エネルギー」を計算します。これが、発電に利用できるエネルギーの元手となる仕事率です。ただし、そのすべてが電力になるわけではなく、\(20\%\) しか利用できないため、最後に効率を掛け合わせる必要があります。
この設問における重要なポイント
- 仕事率[W]は、単位時間[s]あたりのエネルギー[J]である (\(1 \, \text{W} = 1 \, \text{J/s}\))。
- (1)で求めた \(U\) は「\(1.0\) トンあたりの位置エネルギー」である。
- 毎秒 \(1.2\) トンの水が落下する場合、1秒あたりに供給される位置エネルギーは、(1)で求めた \(U\) の \(1.2\) 倍になる。
- エネルギー変換効率が \(20\%\) なので、実際に得られる電力は、水が供給する仕事率の \(0.20\) 倍になる。
- 最終的に単位をワット[W]からキロワット[kW]に変換する (\(1 \, \text{kW} = 1000 \, \text{W}\))。
具体的な解説と立式
(1)で求めたエネルギー \(U = 4.9 \times 10^5 \, \text{J}\) は、質量 \(1.0\) トンの水が持つ位置エネルギーです。
問題では、毎秒 \(1.2\) トンの水が落下するので、1秒あたりに水から供給されるエネルギー(仕事率) \(P_{\text{水}}\) は、\(U\) の \(1.2\) 倍となります。
$$ P_{\text{水}} = 1.2 \times U \, [\text{J/s}] = 1.2 \times U \, [\text{W}] $$
このうち、\(20\%\) が電力 \(P\) として利用できるので、
$$ P = P_{\text{水}} \times 0.20 = (1.2 \times U) \times 0.20 $$
使用した物理公式
- 仕事率の定義: \(P = \displaystyle\frac{W}{t}\)
- (1)で求めた位置エネルギー \(U\)
$$
\begin{aligned}
P &= 1.2 \times U \times 0.20 \\[2.0ex]
&= 1.2 \times (4.9 \times 10^5) \times 0.20 \\[2.0ex]
&= 0.24 \times (4.9 \times 10^5) \\[2.0ex]
&= 1.176 \times 10^5 \, [\text{W}]
\end{aligned}
$$
これをキロワット[kW]単位に変換します。
$$ P = 1.176 \times 10^5 \, [\text{W}] = 117.6 \, [\text{kW}] $$
有効数字2桁で答えるため、四捨五入します。
$$ P \approx 1.2 \times 10^2 \, [\text{kW}] $$
(1)で「水 \(1.0\) トン分のエネルギー」を計算しました。この問題では「1秒間に \(1.2\) トン」の水が落ちてくるので、1秒間に使えるエネルギーの元手は、(1)の答えの \(1.2\) 倍になります。これが水が持っているパワー[W]です。ただし、発電所も完璧ではなく、このパワーの \(20\%\) しか電気に変えることができません。なので、計算した水のパワーに \(0.2\) を掛けてあげると、実際に得られる電力[W]が求まります。最後に単位を[kW]に直せば完了です。
得られる電力は約 \(1.2 \times 10^2 \, \text{kW}\) となります。これは \(120 \, \text{kW}\) であり、一般的な家庭の消費電力(数kW)と比べると大きな値で、発電所の出力として妥当なオーダーです。
思考の道筋とポイント
仕事率が「1秒あたりのエネルギー」であることをより直接的に計算するアプローチです。まず、1秒あたりに落下する水の質量 \(m’\) を求め、その水が1秒あたりに失う位置エネルギー \(m’gh\) を計算します。これが水から供給される仕事率[W]そのものになります。あとは、これに変換効率を掛けるだけです。
この設問における重要なポイント
- 1秒あたりの落下質量は \(m’ = 1.2 \, \text{トン/s} = 1.2 \times 10^3 \, \text{kg/s}\)。
- 1秒あたりのエネルギー変化(仕事率)は \(P_{\text{水}} = \displaystyle\frac{\Delta U}{\Delta t} = \displaystyle\frac{m’gh \cdot \Delta t}{\Delta t} = m’gh\)。
具体的な解説と立式
1秒あたりに落下する水の質量を \(m’ = 1.2 \times 10^3 \, \text{kg/s}\) とします。
この水が1秒あたりに失う位置エネルギー、すなわち水が供給する仕事率 \(P_{\text{水}}\) は、
$$ P_{\text{水}} = m’gh $$
得られる電力 \(P\) は、この \(20\%\) なので、
$$ P = P_{\text{水}} \times 0.20 = m’gh \times 0.20 $$
$$
\begin{aligned}
P &= (1.2 \times 10^3) \times 9.8 \times 50 \times 0.20 \\[2.0ex]
&= (1.2 \times 10^3 \times 490) \times 0.20 \\[2.0ex]
&= (5.88 \times 10^5) \times 0.20 \\[2.0ex]
&= 1.176 \times 10^5 \, [\text{W}]
\end{aligned}
$$
これをキロワット[kW]に変換し、有効数字2桁に丸めると、
$$ P = 117.6 \, [\text{kW}] \approx 1.2 \times 10^2 \, [\text{kW}] $$
まず「1秒間に落ちてくる水の塊(\(1.2\) トン)」に注目します。この水の塊が \(50 \, \text{m}\) 落ちることで失うエネルギーを計算します。これが「1秒間に生み出されるエネルギー」なので、単位は[J/s]、つまりパワー[W]そのものになります。あとは、このパワーのうち \(20\%\) が電気になるので、\(0.2\) を掛ければ答えが求まります。
主たる解法と全く同じ結果が得られました。こちらは(1)の結果を使わずに直接計算するため、見通しが良いと感じる人もいるでしょう。
問(3)
思考の道筋とポイント
この発電所が供給できる世帯数を求める問題です。これは、「発電所が1日に発電する総電力量」と、「\(n\)世帯が1日に消費する総電力量の合計」が等しくなる、という関係式を立てることで解くことができます。電力量の単位が[kWh](キロワット時)で与えられているため、計算全体を[kW]と[h](時間)で統一するのが最も簡単です。
この設問における重要なポイント
- 電力量 = 電力 × 時間。
- 単位を[kWh]に統一する。発電所の電力は(2)で求めた[kW]を、時間は[h]を使う。
- 発電所の1日の総発電電力量 = \(P \, [\text{kW}] \times 24 \, [\text{h}]\)。
- \(n\)世帯の1日の総使用電力量 = \(10 \, [\text{kWh/世帯}] \times n \, [\text{世帯}]\)。
- 計算には、(2)で丸める前のより正確な値を使うと精度が上がる。
具体的な解説と立式
求める世帯数を \(n\) とします。
発電所が1日(\(24\)時間)に発電する電力量 \(W_{\text{発電}}\) は、(2)で求めた電力 \(P\) [kW] を用いて、
$$ W_{\text{発電}} = P \times 24 \, [\text{kWh}] $$
一方、\(n\) 世帯が1日に使用する電力量の合計 \(W_{\text{使用}}\) は、
$$ W_{\text{使用}} = 10 \times n \, [\text{kWh}] $$
これらが等しくなると考え、等式を立てます。
$$ P \times 24 = 10 \times n $$
使用した物理公式
- 電力量 = 電力 × 時間
上記で立てた式を \(n\) について解きます。
$$ n = \frac{P \times 24}{10} $$
ここで \(P\) の値として、(2)の計算過程で得られた \(P = 117.6 \, \text{kW}\) を使うとより正確な計算ができます。模範解答では、これを有効数字3桁に丸めた \(118 \, \text{kW}\) (\(1.18 \times 10^2 \, \text{kW}\)) を用いているため、それに倣います。
$$
\begin{aligned}
n &= \frac{118 \times 24}{10} \\[2.0ex]
&= \frac{2832}{10} \\[2.0ex]
&= 283.2
\end{aligned}
$$
世帯数は整数であり、問題文が「およそ何世帯か」と聞いているので、有効数字2桁で答えるのが適切です。したがって、\(280\) 世帯となります。
発電所が「1日に作る電気の量」と、たくさんの家庭が「1日に使う電気の量」の合計が、ちょうど釣り合うのは何世帯のときかを考えます。「電気の量」は「電気の強さ(電力) × 時間」で計算できます。
発電所の1日の発電量は「発電所の電力[kW] × 24時間」。
全家庭の1日の消費量は「1世帯あたりの消費量(\(10 \, \text{kWh}\)) × 世帯数」。
この2つがイコールになるように式を立てて、世帯数を計算します。
この発電所は、およそ \(280\) 世帯分の電力をまかなうことができると分かりました。水力発電が地域社会のエネルギーを支える規模感を感じ取れる、実践的な問題です。
思考の道筋とポイント
[kWh]という実用単位に慣れていない場合や、物理計算の原則に忠実に解きたい場合に有効なアプローチです。すべての量を国際単位系(SI)の基本単位、すなわちエネルギーはジュール[J]、電力はワット[W]、時間は秒[s]に換算してから計算します。
この設問における重要なポイント
- 単位換算: \(1 \, \text{日} = 24 \, \text{時間} = 24 \times 3600 \, \text{s}\)。
- 単位換算: \(1 \, \text{kWh} = 1 \times 10^3 \, \text{W} \times 3600 \, \text{s} = 3.6 \times 10^6 \, \text{J}\)。
具体的な解説と立式
発電所が1日に発電する総エネルギー \(W_{\text{発電}}\) [J] は、
$$ W_{\text{発電}} = P \, [\text{W}] \times (24 \times 3600) \, [\text{s}] $$
1世帯が1日に使用するエネルギー \(W_{\text{1世帯}}\) [J] は、
$$ W_{\text{1世帯}} = 10 \, \text{kWh} = 10 \times (3.6 \times 10^6) \, \text{J} = 3.6 \times 10^7 \, \text{J} $$
\(n\) 世帯が使用する総エネルギー \(W_{\text{使用}}\) は \(n \times W_{\text{1世帯}}\) です。
\(W_{\text{発電}} = W_{\text{使用}}\) より、
$$ P \times (24 \times 3600) = n \times (3.6 \times 10^7) $$
上記を \(n\) について解きます。\(P = 1.176 \times 10^5 \, \text{W}\) を用います。
$$
\begin{aligned}
n &= \frac{P \times 24 \times 3600}{3.6 \times 10^7} \\[2.0ex]
&= \frac{(1.176 \times 10^5) \times 24 \times 3.6 \times 10^3}{3.6 \times 10^7} \\[2.0ex]
&= \frac{1.176 \times 24 \times 10^8}{10^7} \\[2.0ex]
&= 1.176 \times 24 \times 10 \\[2.0ex]
&= 282.24
\end{aligned}
$$
したがって、およそ \(280\) 世帯となります。
単位がごちゃごちゃして分かりにくいときは、全部の単位を物理の基本単位であるジュール[J]と秒[s]に直して計算すると間違いがありません。まず、発電所が1日(= \(24 \times 3600\) 秒)に作る総エネルギー[J]を計算します。次に、1世帯が1日に使う総エネルギー(\(10 \, \text{kWh}\))もジュール[J]に直します。最後に、発電所の総エネルギーを1世帯分のエネルギーで割り算すれば、何世帯分になるかが分かります。
主たる解法とほぼ同じ結果(\(283.2\) と \(282.24\))が得られました。このわずかな差は、主たる解法で計算に用いた電力 \(P\) が丸められた値であることに起因します。どちらのアプローチも物理的に正しく、有効です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- エネルギーと仕事率の関係:
- 核心: この問題は、「エネルギー」と「仕事率(電力)」という2つの重要な物理量の違いと関係性を正しく理解しているかを問うています。
- 理解のポイント:
- エネルギー \(U\) [J]: ある物体が「どれだけの仕事をする能力を蓄えているか」という量を表します。(1)で求めたのは、\(1\)トンの水が持つエネルギーの総量です。
- 仕事率 \(P\) [W]: 「1秒あたりにどれだけのエネルギーが変換されるか」という速さ(勢い)を表します。(2)で求めたのは、水が落下することで1秒あたりに供給されるエネルギーの速さ、すなわち電力です。
- 関係式: \(P = \displaystyle\frac{U}{t}\) (仕事率 = エネルギー ÷ 時間)。この関係を常に意識することが重要です。
- エネルギー変換効率:
- 核心: 現実の世界では、エネルギーを変換する際に必ず一部が意図しない形(主に熱)で失われます。この「ロス」の概念を計算に組み込むのがエネルギー変換効率です。
- 理解のポイント:
- 水が持つ位置エネルギーのすべてが電気エネルギーになるわけではありません。水車や発電機の摩擦、送電ロスなどにより、エネルギーは失われます。
- 「効率 \(20\%\)」とは、「元々のエネルギーのうち、実際に使えるのは \(0.20\) 倍だけ」という意味です。計算の最終段階でこの効率を掛け合わせることを忘れないようにしましょう。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 他の発電方式での計算: 火力発電で「1時間に消費する燃料の質量から発電量を求める」、太陽光発電で「太陽電池パネルの面積と日照時間から1日の発電量を求める」など、異なる発電方式でも「エネルギー源の量 → 仕事率(電力) → 電力量」という計算の流れは共通しています。
- 揚水発電: 電力需要の少ない夜間に、余った電力で下池の水を上池に汲み上げておき、電力需要の多い昼間にその水を落下させて発電する方式。汲み上げるのに必要な電力と、発電できる電力の比(総合効率)を計算する問題などに応用されます。
- 身の回りのエネルギー計算: 電気ポットでお湯を沸かすのにかかる時間、エアコンの電気代、スマートフォンのバッテリー容量(Wh)など、日常的な現象をエネルギーと仕事率の観点から計算する問題にも同じ考え方が使えます。
- 初見の問題での着眼点:
- 単位の確認: 問題で与えられている単位と、求められている単位を最初に確認します。特に、[t]と[kg]、[W]と[kW]、[J]と[kWh]の変換が必要かどうかを見極めます。
- 「量」か「速さ」か: 問題で問われているのが「エネルギー[J]」や「電力量[kWh]」といった総量なのか、それとも「仕事率[W]」や「電力[kW]」といった1秒あたりの量(速さ)なのかを明確に区別します。
- 時間軸の整理: 「1秒あたり」「1時間あたり」「1日あたり」など、問題で扱われている時間スケールを整理します。特に、電力量を計算する際は、電力と時間の単位を揃える(例: [kW]と[h])ことが重要です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- エネルギーと仕事率の混同:
- 誤解: (1)で求めたエネルギー \(U\) [J] を、そのまま電力[W]として扱ってしまう。
- 対策: 「ジュール[J]はエネルギーの総量」「ワット[W]は1秒あたりのエネルギー」と、単位の意味を正確に覚えましょう。\(1 \, \text{W} = 1 \, \text{J/s}\) という関係式を常に意識することで、混同を防げます。
- 単位換算のミス:
- 誤解: \(1 \, \text{kW} = 1000 \, \text{W}\) は正しくできても、\(1 \, \text{kWh}\) から [J] への換算で混乱する。
- 対策: \(1 \, \text{kWh}\) は「\(1 \, \text{kW}\) の電力を \(1\) 時間使い続けたときの電力量」と意味を理解します。式に直すと、\(1 \, \text{kWh} = 1 \times 10^3 \, [\text{W}] \times 3600 \, [\text{s}] = 3.6 \times 10^6 \, [\text{J}]\) となります。この導出過程を一度自分でやってみると忘れにくくなります。
- 効率を掛けるタイミングの間違い:
- 誤解: 最初に位置エネルギーを計算する段階で効率を掛けてしまう。
- 対策: 効率は「エネルギーを変換する際」にかかるものです。水が持つ位置エネルギーそのものが減るわけではありません。水からタービンへ、タービンから発電機へとエネルギーが変換される最終段階で、電力として取り出せる量が決まるので、仕事率(電力)を求める最後に掛けるのが正しい、と流れで理解しましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 位置エネルギーの公式 \(U=mgh\):
- 選定理由: (1)では、高い場所にある水が蓄えているエネルギーを求める必要がありました。重力に逆らって物体をある高さまで持ち上げるのに必要な仕事が、その高さで物体が持つ位置エネルギーとして蓄えられます。この関係を最も直接的に表すのが \(U=mgh\) の公式です。
- 適用根拠: 地球の重力という保存力が働く場で、物体のエネルギーをその位置(高さ)と関連付けるための基本的な法則だからです。
- 電力量 = 電力 × 時間:
- 選定理由: (3)では、一定の電力で長時間発電したときの総エネルギー量を計算する必要がありました。仕事率(電力)の定義 \(P = \displaystyle\frac{W}{t}\) を変形すると、仕事(エネルギー) \(W = P \times t\) となります。これが「電力量 = 電力 × 時間」の根拠です。
– 適用根拠: この関係は、仕事率が一定であるという条件下で成り立ちます。発電所の出力が一定であると仮定することで、この単純な掛け算で総エネルギー量を求めることが物理的に正当化されます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位を式に書き込む: 計算過程で、数値だけでなく単位も一緒に書き込む癖をつけましょう。例えば、\(P = (1.2 \times 10^3 \, \text{kg/s}) \times (9.8 \, \text{m/s}^2) \times (50 \, \text{m})\) のように書くと、結果の単位が \([\text{kg} \cdot \text{m}^2/\text{s}^3] = [\text{J/s}] = [\text{W}]\) となり、仕事率を計算していることが単位からも確認できます。
- 指数計算の徹底: \(1.0 \times 10^3\) や \(4.9 \times 10^5\) のような指数表記(科学記数法)を積極的に使いましょう。大きな数や小さな数を扱う際に、0の数を間違えるケアレスミスを劇的に減らすことができます。計算は、指数部分とそれ以外の部分(仮数部)に分けて行うとスムーズです。
- 途中計算の値をメモする: (3)のように、前の設問の結果を使って計算する場合、丸める前のより正確な値をメモしておき、それを使って計算すると最終的な答えの精度が上がります。例えば、(2)の答えは \(1.2 \times 10^2 \, \text{kW}\) ですが、計算には \(117.6 \, \text{W}\) や \(1.18 \times 10^2 \, \text{kW}\) を使う方が望ましいです。
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基本問題
523 エネルギーの変換
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「身の回りの現象におけるエネルギー変換の理解」です。エネルギーは形を変えるだけでその総量は変わらない(エネルギー保存則)という原則に基づき、様々な現象がどのエネルギーからどのエネルギーへの変換に対応するのかを、具体的な事例を通して読み解く力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- エネルギー保存則とエネルギー変換: エネルギーは消滅したり、無から生じたりせず、常に他の形態のエネルギーに変換されているという基本的な法則。
- 各種エネルギーの定義: 化学、熱、核、力学的、電気、光といった主要なエネルギーが、それぞれどのような現象や状態に対応するのかを具体的に理解していること。
- エネルギー変換の方向性: 図に示された矢印は、エネルギーが「何から」「何へ」変換されたかを示しています。矢印の根元が変換前のエネルギー、先端が変換後の現象やエネルギーに対応します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 図中の①から⑥の各空欄について、それに関連する現象(矢印の出入り)をすべて確認します。
- それらの現象に共通するエネルギーの形態、あるいはエネルギーの源や結果として最もふさわしいものを考え、特定します。
- 例えば、ある空欄から「発電」に矢印が向かっていれば、その空欄は発電の元となるエネルギー(位置エネルギーなど)であり、逆に「家電製品」へ矢印が向かっていれば、それは家電を動かすエネルギー(電気エネルギー)であると推測できます。