「リードα 物理基礎・物理 改訂版」徹底解説!【第26章】基礎CHECK

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基礎CHECK

1 コイルに生じる誘導起電力

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「レンツの法則と右ねじの法則を用いた誘導起電力の向きの決定」です。磁石の運動によってコイルを貫く磁束がどう変化し、その変化を妨げるためにどのような誘導電流が流れるかを段階的に考えます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 磁束: コイルを貫く磁力線のこと。向きと大きさ(磁力線の本数)で考えます。
  2. レンツの法則: 誘導電流は、コイルを貫く磁束の変化を妨げる向きに流れる、という法則です。
  3. 右ねじの法則: 電流の向きと、それによって生じる磁場の向きの関係を示す法則です。
  4. 起電力と電位: コイルに生じる誘導起電力は、コイルを電池とみなしたときの電圧に相当します。電流が流れ出す方の端子が高電位(正極)となります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 図1、図2の各状況で、磁石の運動によってコイルを貫く磁束がどのように変化するか(向きと増減)を把握します。
  2. レンツの法則を適用し、磁束の変化を妨げるためにコイル自身が作るべき磁場の向きを決定します。
  3. 右ねじの法則を用いて、その磁場を発生させる誘導電流の向きを特定します。
  4. 誘導電流の向きから、コイルを電池とみなしたとき、A端子とB端子のどちらが電位が高い(正極になる)かを判断します。

 

思考の道筋とポイント
電磁誘導の問題では、「①原因:磁束の変化」→「②妨害:レンツの法則」→「③結果:誘導電流の向き」という因果関係を順を追って考えることが最も重要です。レンツの法則の「変化を妨げる」という性質を正確に理解することが鍵となります。コイルは自分内部の磁場の状態を維持しようとする「現状維持」の性質を持つとイメージすると分かりやすいです。

この設問における重要なポイント

  • 磁束の向き: 磁石が作る磁場は、N極から出てS極に入る向きです。コイルをどちら向きの磁力線が貫いているかを確認します。
  • レンツの法則の適用:
    • 磁束が「増加」する場合 → 元の磁束と「逆向き」の磁場をコイルが作って打ち消そうとします。
    • 磁束が「減少」する場合 → 元の磁束と「同じ向き」の磁場をコイルが作って補おうとします。
  • 右ねじの法則: 右手の親指を「コイルが作る磁場の向き(N極の向き)」に合わせると、残りの4本の指の向きが「誘導電流の流れる向き」を示します。
  • 電位の判断: コイルを電池とみなします。誘導電流が流れ出す端子が正極(高電位)、流れ込む端子が負極(低電位)となります。

具体的な解説と立式
この問題は計算式を立てるのではなく、各状況について物理法則を段階的に適用して結論を導きます。

図1の場合 (S極をコイルに近づける)

  1. 磁束の変化: 棒磁石の磁力線はN極から出てS極に入ります。S極がコイルに近づくため、S極に向かう磁力線、すなわち「左向きの磁力線」がコイルを貫きます。S極が近づくことで、この「左向きの磁束が増加」します。
  2. レンツの法則の適用: コイルは「左向きの磁束の増加」という変化を嫌い、これを打ち消すために「右向き」の磁場を自ら作ろうとします。
  3. 右ねじの法則の適用: コイルが右向きの磁場を作る(コイルの右端がN極、左端がS極になる)ためには、右手の親指を右に向けます。すると、残りの4本の指はコイルの手前側を上から下に巻く向きになります。これは、もしAとBの間に抵抗などをつないで回路を作った場合、電流がB端子から出て抵抗を通り、A端子に戻ってくる流れに対応します。
  4. 電位の判断: コイルは、電流をB端子から流し出す電池のように振る舞います。したがって、B端子の電位がA端子よりも高くなります。

図2の場合 (N極をコイルから遠ざける)

  1. 磁束の変化: 棒磁石のN極からは磁力線が湧き出しています。このN極がコイルの右側にあるため、コイルを「右向きの磁力線」が貫いています。N極が遠ざかることで、この「右向きの磁束が減少」します。
  2. レンツの法則の適用: コイルは「右向きの磁束の減少」という変化を嫌い、これを補うために「右向き」の磁場を自ら作ろうとします。
  3. 右ねじの法則の適用: 図1の場合と同様に、コイルが右向きの磁場を作るためには、電流がB端子から出てA端子に向かうように流れる必要があります。
  4. 電位の判断: コイルは、電流をB端子から流し出す電池のように振る舞います。したがって、この場合もB端子の電位がA端子よりも高くなります。

使用した物理公式

  • レンツの法則:誘導電流は、コイルを貫く磁束の変化を妨げる向きに流れる。
  • 右ねじの法則:電流の向きと、それによって生じる磁場の向きの関係。
計算過程

この問題には計算過程はありません。上記の「具体的な解説と立式」で述べた物理法則の定性的な適用が解答プロセスとなります。

  • 図1: 左向きの磁束が増加 → 妨げるために右向きの磁場を生成 → Bから電流が流出 → Bが高電位
  • 図2: 右向きの磁束が減少 → 補うために右向きの磁場を生成 → Bから電流が流出 → Bが高電位

したがって、どちらの場合もBの電位が高くなります。

この設問の平易な説明

コイルは、自分の中の「磁場の現状」を維持しようとする、とても保守的な性格だと考えてみましょう。

  • 図1 (S極が接近): 今まで穏やかだったのに、左向きの磁場がどんどん増えてきます。コイルは「現状を変えるな!」と怒って、増えてきた左向きの磁場を打ち消すために、「右向き」の磁場を作ります。コイルの右側(B側)がN極になるように頑張るので、電磁石のN極であるBから電流が流れ出し、Bの電位が高くなります。
  • 図2 (N極が遠ざかる): 今まであった右向きの磁場がどんどん減っていきます。コイルは「現状を維持しろ!」と焦って、減っていく右向きの磁場を自分で補うために、やはり「右向き」の磁場を作ります。この場合もコイルの右側(B側)がN極になるように頑張るので、Bから電流が流れ出し、Bの電位が高くなります。
解答 図1: B, 図2: B

2 磁場と垂直に動く導線に生じる誘導起電力

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「磁場中を運動する導体棒に生じる誘導起電力」です。導体棒内の自由電子が磁場から受けるローレンツ力によって、導体棒の両端に電位差が生じる現象を理解します。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. ローレンツ力: 磁場中を運動する荷電粒子が受ける力。
  2. フレミングの左手の法則: ローレンツ力の向きを決定するための法則。
  3. 誘導起電力の公式 \(V = vBl\): 導体棒の速度\(v\)、磁束密度\(B\)、長さ\(l\)が互いに直交する場合の起電力の大きさを求める公式。
  4. 電位: 電荷の偏りによって生じる電気的な高さ。正の電荷が集まる方が高電位、負の電荷(電子)が集まる方が低電位となります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 導体棒内の自由電子(または仮想的な正電荷)に働くローレンツ力の向きを、フレミングの左手の法則を用いて決定します。
  2. ローレンツ力によって電荷が導体棒のどちらの端に偏るかを考え、PとQのどちらが高電位になるかを判断します。
  3. 誘導起電力の大きさの公式 \(V = vBl\) に与えられた数値を代入し、電位差を計算します。

 

思考の道筋とポイント
導体棒が磁場を横切って運動すると、導体棒の内部にある無数の自由電子も磁場の中を一緒に運動することになります。磁場中を運動する荷電粒子は「ローレンツ力」という力を受けます。この力によって、導体棒内の一方の端に電子が偏って集まり、もう一方の端は逆に電子が不足して正に帯電します。この電荷の偏りによって生じる電位差が「誘導起電力」の正体です。つまり、動いている導体棒は、それ自体が一時的に電池のようになるのです。

この設問における重要なポイント

  • ローレンツ力とフレミングの左手の法則:
    • フレミングの左手の法則は、電流(正の電荷の流れ)が磁場から受ける力の向きを示します。
    • 左手の中指を「電流の向き」、人差し指を「磁場の向き」に合わせると、親指が「力の向き」を示します。
    • 導体棒内の自由電子は負の電荷を持つため、電子が受ける力の向きは、フレミングの左手の法則で求めた力の向きと「逆」になります。あるいは、最初から電流の向きを「電子の運動と逆向き」として法則を適用しても同じ結果が得られます。混乱を避けるため、「正の電荷が動くと考えて力の向きを求める」のがおすすめです。
  • 電位の決定:
    • ローレンツ力によって正の電荷が集められた側が「高電位」(電池の正極)になります。
    • 負の電荷である電子が集められた側が「低電位」(電池の負極)になります。
  • 誘導起電力の公式 \(V=vBl\):
    • この公式は、導体棒の速度 \(v\)、磁束密度 \(B\)、導体棒の長さ \(l\) が互いに直交している場合にのみ使えます。本問ではこの条件を満たしています。

具体的な解説と立式
この問題では、まず起電力の向き(どちらの電位が高いか)を決定し、次いでその大きさ(電位差)を計算します。

1. 電位の向きの決定
導体棒PQが右向きに速さ \(v\) で運動するとき、棒の中の正の電荷も右向きに運動すると考えます。これにフレミングの左手の法則を適用します。

  • 電流の向き(中指): 正の電荷の運動方向なので「右向き」。
  • 磁場の向き(人差し指): 紙面の表から裏に向かう向きなので「奥向き」。
  • 左手の中指を右に、人差し指を奥に向けると、親指は「上向き(Qの方向)」を向きます。

これは、導体棒内の正の電荷がQの方向に力を受けて集まることを意味します。その結果、Q端子は正に、P端子は負に帯電します。
したがって、導体棒PQはQ端子を正極、P端子を負極とする電池とみなすことができ、Qの電位がPよりも高くなります。

2. 誘導起電力の大きさの計算
導体棒に生じる誘導起電力の大きさ \(V\) は、公式 \(V=vBl\) を用いて計算します。
$$ V = vBl $$
ここで、\(v = 1.0 \, \text{m/s}\), \(B = 0.50 \, \text{T}\), \(l = 0.10 \, \text{m}\) です。

使用した物理公式

  • 誘導起電力: \(V = vBl\) (ただし \(v, B, l\) は互いに直交)
  • フレミングの左手の法則
計算過程

「具体的な解説と立式」で立てた式に、問題文で与えられた値を代入します。
$$
\begin{aligned}
V &= vBl \\[2.0ex]&= 1.0 \times 0.50 \times 0.10 \\[2.0ex]&= 0.050 \\[2.0ex]&= 5.0 \times 10^{-2} \, (\text{V})
\end{aligned}
$$
したがって、Qの電位がPよりも \(5.0 \times 10^{-2} \, \text{V}\) 高くなります。

この設問の平易な説明

金属の導体棒の中には、自由に動き回れる「電子」という電気の粒がたくさんいます。

  1. この導体棒が磁石の世界(磁場)を右に横切ると、中の電子たちも一緒に右に動きます。
  2. 磁石の世界を電気が動くと、「フレミングの左手の法則」で決まる向きに力が働きます。
  3. この法則を使うと、導体棒の中のプラスの電気はQ側に、マイナスの電気(電子)はP側に押しやられることがわかります。
  4. その結果、導体棒はQ側がプラス極、P側がマイナス極の「電池」のようになります。
  5. だから、Qの方が電位が高くなります。その電位差(電圧)を公式 \(V=vBl\) で計算すると、\(5.0 \times 10^{-2} \, \text{V}\) となります。
解答 \(5.0 \times 10^{-2} \, \text{V}\), Q

3 自己誘導起電力

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「自己誘導による起電力の計算」です。コイルに流れる電流が変化するときに、その変化を妨げる向きにコイル自身が起電力を生じる「自己誘導」という現象について、公式を用いて定量的に計算します。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 自己インダクタンス (\(L\)): 電流の変化に対してどれだけ大きな自己誘導起電力を生じるかを示す、コイル固有の性質を表す量。単位はヘンリー(\(\text{H}\))。
  2. 自己誘導起電力の公式: コイルに生じる起電力 \(V\) は、自己インダクタンス \(L\) と電流の時間変化率 \(\displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t}\) を用いて \(V = -L \displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t}\) と表される。
  3. レンツの法則: 公式中の負の符号(-)は、起電力が電流の変化を「妨げる」向きに生じること(レンツの法則)を表している。
  4. 電流の時間変化率: \(\displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t}\) は、単位時間あたりに電流がどれだけ変化したかを表す。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 問題文から、自己インダクタンス \(L\)、電流の変化量 \(\Delta I\)、その変化にかかった時間 \(\Delta t\) を正確に読み取ります。
  2. 自己誘導起電力の公式 \(V = -L \displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t}\) を用いて、起電力の大きさを計算します。
  3. 大きさの計算なので、各量の絶対値を使って計算することもできます。

 

思考の道筋とポイント
コイルに電流を流すと、その電流によってコイルの内部に磁場(磁束)が作られます。この状態で電流の大きさを変えようとすると、コイルを貫く磁束が変化します。ファラデーの電磁誘導の法則によれば、コイルを貫く磁束が変化すると、コイルには誘導起電力(電圧)が生じます。このように、自分自身を流れる電流の変化が原因で自分自身に起電力が生じる現象を「自己誘導」と呼びます。
コイルは「電流の変化を嫌う」とイメージすると分かりやすいです。電流が増加しようとすれば、その増加を妨げる向き(元の電流と逆向き)に起電力を生じ、電流が減少しようとすれば、その減少を妨げる向き(元の電流と同じ向き)に起電力を生じます。

この設問における重要なポイント

  • 自己誘導起電力の公式: \(V = -L \displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t}\) を正しく理解して使うことが全てです。
  • 電流の変化量 \(\Delta I\): 「変化後の電流」から「変化前の電流」を引いた値です。本問では電流が「減少」しているので、\(\Delta I\) は負の値になります。例えば、元の電流を \(I_0\) とすると、変化後の電流は \(I_0 – 0.20 \, \text{A}\) なので、\(\Delta I = (I_0 – 0.20) – I_0 = -0.20 \, \text{A}\) となります。
  • 起電力の大きさ: 問題で問われているのは起電力の「大きさ」なので、計算結果の絶対値 \(|V|\) を求めます。最初から各量の大きさ(絶対値)を使って \(|V| = L \left| \displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t} \right|\) として計算すると簡単です。
  • 単位の確認: 自己インダクタンスの単位はヘンリー(\(\text{H}\))、電流はアンペア(\(\text{A}\))、時間は秒(\(\text{s}\))、起電力はボルト(\(\text{V}\))です。これらの単位は \(1 \, \text{V} = 1 \, \text{H} \cdot \text{A/s}\) という関係で整合性が取れています。

具体的な解説と立式
コイルに生じる自己誘導起電力 \(V\) は、自己インダクタンスを \(L\)、単位時間あたりの電流の変化を \(\displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t}\) とすると、次の式で与えられます。
$$ V = -L \frac{\Delta I}{\Delta t} $$
この問題では、起電力の「大きさ」 \(|V|\) を求めるため、この式の絶対値をとります。
$$ |V| = \left| -L \frac{\Delta I}{\Delta t} \right| = L \left| \frac{\Delta I}{\Delta t} \right| $$
問題文で与えられている値は以下の通りです。

  • 自己インダクタンス: \(L = 1.2 \, \text{H}\)
  • 変化にかかった時間: \(\Delta t = 0.10 \, \text{s}\)
  • 電流の減少量: \(0.20 \, \text{A}\)。これは電流変化の大きさなので、\(|\Delta I| = 0.20 \, \text{A}\) となります。

したがって、単位時間あたりの電流変化の大きさは、
$$ \left| \frac{\Delta I}{\Delta t} \right| = \frac{|\Delta I|}{\Delta t} = \frac{0.20 \, \text{A}}{0.10 \, \text{s}} $$
となります。これらの値を大きさの式に代入して \(|V|\) を求めます。

使用した物理公式

  • 自己誘導起電力: \(V = -L \displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t}\)
計算過程

「具体的な解説と立式」で立てた式に、与えられた数値を代入して計算します。
$$
\begin{aligned}
|V| &= L \left| \frac{\Delta I}{\Delta t} \right| \\[2.0ex]&= L \frac{|\Delta I|}{\Delta t} \\[2.0ex]&= 1.2 \times \frac{0.20}{0.10} \\[2.0ex]&= 1.2 \times 2.0 \\[2.0ex]&= 2.4 \, (\text{V})
\end{aligned}
$$
よって、コイルに生じる誘導起電力の大きさは \(2.4 \, \text{V}\) となります。

この設問の平易な説明

コイルは「あまのじゃく」な性質を持っていて、自分を流れる電流が変化しようとすると「変わるな!」と抵抗(電圧を発生)します。

  • 今回は、コイルを流れる電流が \(0.10\) 秒間で \(0.20 \, \text{A}\) だけ「減ろう」としています。
  • するとコイルは「減るな!」と抵抗し、減っていく電流を補う向きに電圧(起電力)を発生させます。
  • この発生する電圧の大きさは、コイルの「あまのじゃく度」(自己インダクタンス \(L\))と、電流変化の「急激さ」(1秒あたりの変化量)のかけ算で決まります。
  • コイルの「あまのじゃく度」は \(1.2 \, \text{H}\) です。
  • 電流変化の「急激さ」は、\(0.10\) 秒で \(0.20 \, \text{A}\) 変化するので、1秒あたりに換算すると \(2.0 \, \text{A/s}\) のペースです。
  • したがって、発生する電圧の大きさは、\(1.2 \times 2.0 = 2.4 \, \text{V}\) と計算できます。
解答 2.4 V

4 コイルに蓄えられるエネルギー

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「コイルが磁気エネルギーとして蓄えるエネルギーの計算」です。コイルに電流が流れているとき、その内部の磁場に蓄えられるエネルギーの量を公式を用いて計算します。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 自己インダクタンス (\(L\)): 電流の変化に対してどれだけ大きな自己誘導起電力を生じるかを示す、コイル固有の性質。
  2. コイルに蓄えられるエネルギーの公式: コイルに電流 \(I\) が流れているときに蓄えられる磁気エネルギー \(U\) は、\(U = \displaystyle\frac{1}{2}LI^2\) で与えられる。
  3. エネルギーと仕事: コイルに電流を流すために外部の電源がした仕事が、磁気エネルギーとしてコイルに蓄えられる。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 問題文から自己インダクタンス \(L\) と電流 \(I\) の値を正確に読み取ります。
  2. コイルに蓄えられるエネルギーの公式 \(U = \displaystyle\frac{1}{2}LI^2\) に、読み取った値を代入してエネルギー \(U\) を計算します。

 

思考の道筋とポイント
コイルに電流を流す過程を考えてみましょう。電流をゼロの状態から少しずつ増やしていくとき、コイルは自己誘導によって電流の増加を妨げる向きの起電力(逆起電力)を生じます。この逆起電力に逆らって電流を流し続けるためには、外部の電源が仕事をしなければなりません。このとき電源がした仕事が、コイルの内部に磁場のエネルギー(磁気エネルギー)として蓄積されます。このエネルギーの量は、コイルの性質(自己インダクタンス \(L\))と、最終的に流れている電流の大きさ \(I\) によって決まります。

この設問における重要なポイント

  • 公式の正確な適用: コイルに蓄えられるエネルギーの公式 \(U = \displaystyle\frac{1}{2}LI^2\) を正しく覚えて、適用することが最も重要です。
  • 各物理量の意味: \(U\) はエネルギーで単位はジュール(\(\text{J}\))、\(L\) は自己インダクタンスで単位はヘンリー(\(\text{H}\))、\(I\) は電流で単位はアンペア(\(\text{A}\))です。
  • 電流の2乗に比例: エネルギーは電流 \(I\) の2乗に比例する点に注意が必要です。例えば、電流が2倍になれば、蓄えられるエネルギーは \(2^2=4\) 倍になります。
  • 形式の類似性: この公式は、物体の運動エネルギー \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) や、コンデンサーに蓄えられる静電エネルギー \(U = \displaystyle\frac{1}{2}CV^2\) と非常によく似た形をしています。対比させて覚えると記憶に残りやすいです。

具体的な解説と立式
コイルに電流 \(I\) が流れているとき、そのコイルに蓄えられる磁気エネルギー \(U\) は、自己インダクタンスを \(L\) として次の式で表されます。
$$ U = \frac{1}{2}LI^2 $$
問題文から、各物理量の値は以下の通りです。

  • 自己インダクタンス: \(L = 0.30 \, \text{H}\)
  • 電流: \(I = 2.0 \, \text{A}\)

これらの値を上記の公式に代入して、エネルギー \(U\) を計算します。

使用した物理公式

  • コイルに蓄えられるエネルギー: \(U = \displaystyle\frac{1}{2}LI^2\)
計算過程

「具体的な解説と立式」で示した公式に、与えられた数値を代入して計算します。
$$
\begin{aligned}
U &= \frac{1}{2}LI^2 \\[2.0ex]&= \frac{1}{2} \times 0.30 \times (2.0)^2 \\[2.0ex]&= \frac{1}{2} \times 0.30 \times 4.0 \\[2.0ex]&= 0.30 \times 2.0 \\[2.0ex]&= 0.60 \, (\text{J})
\end{aligned}
$$
したがって、コイルが蓄えているエネルギーは \(0.60 \, \text{J}\) となります。

この設問の平易な説明

コイルは、電流を流すとそのエネルギーを「磁気」という形で内部に貯金する性質があります。この貯金額(エネルギー)は、簡単な公式で計算できます。
その公式は \(U = \displaystyle\frac{1}{2}LI^2\) です。
これは、物体の運動エネルギーの公式 \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) とそっくりです。

  • 運動エネルギーでは、物体の「動きにくさ」(質量 \(m\))と「速さ」(\(v\))が重要です。
  • コイルのエネルギーでは、コイルの「電流を変化させにくくする性質」(自己インダクタンス \(L\))と「電流の大きさ」(\(I\))が重要になります。

この問題では、\(L=0.30\)、\(I=2.0\) なので、公式に当てはめるだけで、
貯金されているエネルギー \(U = \displaystyle\frac{1}{2} \times 0.30 \times (2.0)^2 = 0.60 \, \text{J}\) と計算できます。

解答 0.60 J

5 相互誘導

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「相互誘導とレンツの法則」です。一方のコイル(1次コイル)の電流を変化させたときに、もう一方のコイル(2次コイル)に誘導起電力が生じる現象について、その向きを段階的に考察します。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 相互誘導: 1次コイルの電流変化によって生じる磁束の変化が、2次コイルを貫き、2次コイルに誘導起電力を生じさせる現象。
  2. 右ねじの法則: 電流の向きと、それによって生じる磁場の向きの関係を特定する法則。
  3. レンツの法則: 誘導電流は、コイルを貫く磁束の変化を「妨げる」向きに流れるという法則。
  4. 起電力と電位: コイルを電池とみなしたとき、誘導電流が流れ出す方の端子が高電位(正極)となります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、コイル1に流れる電流の向きと、それによって鉄心内に生じる磁束の向きを「右ねじの法則」で特定します。
  2. スイッチの操作(閉じる・開く)によって、コイル2を貫く磁束がどのように変化するか(増加するか、減少するか)を考えます。
  3. 「レンツの法則」を適用し、磁束の変化を妨げるためにコイル2自身が作るべき磁場の向きを決定します。
  4. 再び「右ねじの法則」を用いて、その磁場を発生させる誘導電流がコイル2のどちら向きに流れるかを特定します。
  5. 誘導電流の向きから、端子PとQのどちらの電位が高くなるかを判断します。

 

思考の道筋とポイント
相互誘導の問題は、原因と結果の連鎖を一つずつ丁寧に追うことが重要です。「①1次コイルの電流変化」→「②2次コイルを貫く磁束の変化」→「③レンツの法則による妨害」→「④2次コイルの誘導電流の発生」という流れを、スイッチを「閉じたとき」と「開いたとき」のそれぞれについて考えます。コイルは、自分を貫く磁束の状態が変化することを嫌う「あまのじゃく」な性質を持つ、と考えるとレンツの法則が理解しやすくなります。

この設問における重要なポイント

  • 1次コイルが作る磁束の向き: まず、スイッチが閉じている定常状態で、コイル1の電流がどちら向きに流れ、鉄心内にどちら向きの磁束を作るかを確定させます。これが全ての基準となります。
  • レンツの法則の適用:
    • 磁束が「増加」する場合(スイッチを閉じた瞬間)→ 元の磁束と「逆向き」の磁場をコイル2が作って打ち消そうとします。
    • 磁束が「減少」する場合(スイッチを開いた瞬間)→ 元の磁束と「同じ向き」の磁場をコイル2が作って補おうとします。
  • 右ねじの法則の2回の使用: 1回目は「コイル1の電流から磁束の向きを求める」ために、2回目は「コイル2が作るべき磁束の向きから誘導電流の向きを求める」ために使います。
  • 電位の判断: コイル2を電池とみなします。もしPとQの間に抵抗などをつないだと仮定したとき、電流が流れ出す端子が高電位(正極)となります。

具体的な解説と立式
この問題は計算式を立てるのではなく、物理法則を段階的に適用して結論を導きます。

(ア) スイッチSを閉じたとき

  1. コイル1が作る磁束の向き: スイッチSを閉じると、電源の正極から電流が流れ出します。コイル1には、手前側を上から下に、奥側を下から上に流れる電流が流れます。右ねじの法則(右手の4本指を電流の向きに合わせると親指が磁場の向きを示す)を適用すると、鉄心の中には「右向き」の磁束が生じます。
  2. 磁束の変化: スイッチを閉じた瞬間は、電流が0から増加していくため、鉄心を貫く「右向きの磁束が増加」します。
  3. レンツの法則の適用: コイル2は、この「右向きの磁束の増加」という変化を妨げるため、自ら「左向き」の磁場(磁束)を作ろうとします。
  4. コイル2の誘導電流の向き: コイル2が左向きの磁場を作るためには、右ねじの法則により、コイルの手前側を下から上に流れる電流が必要です。もしPとQの間に抵抗などをつないだとすると、電流はPから出て抵抗を通り、Qに戻ってくる流れになります。
  5. 電位の判断: コイル2は、電流をP端子から流し出す電池のように振る舞います。したがって、P端子の電位がQ端子よりも高くなります。

(イ) スイッチSを開いたとき

  1. コイル1が作っていた磁束の向き: スイッチを開く直前まで、(ア)の1で考えたように、鉄心の中には「右向き」の磁束が安定して存在しています。
  2. 磁束の変化: スイッチを開いた瞬間は、コイル1の電流が急激に0になるため、鉄心を貫く「右向きの磁束が減少」します。
  3. レンツの法則の適用: コイル2は、この「右向きの磁束の減少」という変化を妨げるため、磁束を維持しようと自ら「右向き」の磁場(磁束)を作って補おうとします。
  4. コイル2の誘導電流の向き: コイル2が右向きの磁場を作るためには、右ねじの法則により、コイルの手前側を上から下に流れる電流が必要です。もしPとQの間に抵抗などをつないだとすると、電流はQから出て抵抗を通り、Pに戻ってくる流れになります。
  5. 電位の判断: コイル2は、電流をQ端子から流し出す電池のように振る舞います。したがって、Q端子の電位がP端子よりも高くなります。

使用した物理公式

  • レンツの法則
  • 右ねじの法則
計算過程

この問題には計算過程はありません。上記の「具体的な解説と立式」で述べた物理法則の定性的な適用が解答プロセスとなります。

  • (ア) Sを閉じる → 右向き磁束が増加 → 妨げるために左向き磁束を生成 → 電流はPから流出 → Pが高電位
  • (イ) Sを開く → 右向き磁束が減少 → 補うために右向き磁束を生成 → 電流はQから流出 → Qが高電位
この設問の平易な説明

隣り合ったコイルは、お互いの磁場の変化に「あまのじゃく」な反応をします。

  • (ア) スイッチを閉じたとき: コイル1が「右向きの磁場を作るぞ!」と急に活動を始めます。すると隣のコイル2は「勝手に変えるな!」と反発し、それを打ち消すために「左向きの磁場」を作ります。その結果、電流がPから流れ出すので、Pの電位が高くなります。
  • (イ) スイッチを開いたとき: コイル1が作っていた「右向きの磁場」が急になくなってしまいます。すると隣のコイル2は「消えるな、現状を維持しろ!」と慌てて、失われた磁場を補うために自ら「右向きの磁場」を作ります。その結果、電流がQから流れ出すので、Qの電位が高くなります。
解答 (ア) P, (イ) Q
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