「リードα 物理基礎・物理 改訂版」徹底解説!【第25章】応用問題

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440 平行電流が及ぼしあう力

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、複数の直線電流が互いに及ぼしあう力と、それらがつくる磁場を扱う問題です。特に、複数のベクトル量を正しく合成する能力が問われます。

与えられた条件
  • 一辺の長さが \(a\) の正方形ABCDの頂点に4本の長い直線導線が固定
  • 電流の大きさと向き:
    • 点A(左上): 大きさ \(I\)、向きは紙面の表から裏へ
    • 点B(右上), C(右下), D(左下): 大きさ \(I\)、向きは紙面の裏から表へ
  • 点Mは正方形の中心
  • 空気の透磁率: \(\mu_0\)
問われていること
  • (1) 点Mにおける磁場の強さと向き
  • (2) 点Aを通る導線が受ける単位長さ当たりの力の大きさと向き

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 問(2)の別解: 合成磁場とフレミングの法則を用いる解法
      • 模範解答が各電流から受ける力を個別に計算してベクトル合成するのに対し、別解ではまず点Aの位置に他の電流がつくる合成磁場を求め、その磁場から電流が受ける力をフレミングの左手の法則で一括して計算します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理法則の連携理解: 「電流が磁場をつくる(アンペールの法則)」と「磁場中の電流が力を受ける(ローレンツ力)」という、電磁気学の2つの核心的な法則がどのように連携して物理現象を引き起こすかを段階的に追って理解できます。
    • ベクトル場の概念深化: 複数の源がつくる「場(ここでは磁場)」をまず合成し、その「場」が物体にどう作用するかを考えるという、物理学における場(フィールド)の考え方を実践的に学ぶことができます。
    • 計算アプローチの多様性: 力の直接合成だけでなく、場を介した力の計算という別のアプローチを知ることで、問題解決の選択肢が広がります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「電流がつくる磁場と電流間にはたらく力」です。複数の電流源からの影響をベクトルとして正しく合成することが最大のポイントです。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 直線電流がつくる磁場(アンペールの法則): 長い直線電流から距離 \(r\) の点につくられる磁場の強さ \(H\) は \(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\) で表され、向きは右ねじの法則に従います。
  2. 平行電流間にはたらく力: 2本の平行な直線電流間には、単位長さあたり \(f = \displaystyle\frac{\mu_0 I_1 I_2}{2\pi r}\) の力がはたらきます。電流の向きが同じなら引力、逆なら斥力となります。
  3. ベクトルの合成: 磁場や力はベクトル量なので、複数の源からの影響を考える際は、大きさと向きを考慮してベクトルとして合成(足し算)する必要があります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、(1)では4つの電流が点Mにつくる磁場をそれぞれ求め、ベクトルとして合成します。
  2. 次に、(2)では点Aの電流が他の3つの電流(B, C, D)から受ける力をそれぞれ計算し、ベクトルとして合成します。

問(1)

思考の道筋とポイント
点Mにおける磁場は、4つの直線電流がそれぞれつくる磁場のベクトル和で求められます。正方形の対称性を利用すると計算が簡単になります。各電流から点Mまでの距離はすべて等しいため、各電流がつくる磁場の「強さ」は同じになります。したがって、向きを右ねじの法則で正確に把握し、ベクトルとして正しく合成することが鍵となります。

この設問における重要なポイント

  • 対称性の利用: 正方形の中心である点Mでは、対角線上にある電流ペアがつくる磁場をセットで考えると見通しが良くなります。
  • 右ねじの法則: 各電流がつくる磁場の向きを決定するための基本法則です。電流の向き(表→裏 or 裏→表)に合わせて、磁場の回転方向を正確にイメージします。
  • ベクトル和: 最終的な磁場は、4つの磁場ベクトルの和です。互いに打ち消しあう成分と、強めあう成分を正しく見極めます。

具体的な解説と立式
点A(左上), B(右上), C(右下), D(左下)を流れる電流が、正方形の中心点Mにつくる磁場をそれぞれ \(\vec{H}_A, \vec{H}_B, \vec{H}_C, \vec{H}_D\) とします。

各頂点から中心Mまでの距離 \(r\) は、一辺が \(a\) の正方形の対角線の長さ \(\sqrt{2}a\) の半分なので、
$$ r = \frac{\sqrt{2}}{2}a $$
したがって、各電流が点Mにつくる磁場の強さ \(H_0\) はすべて等しくなります。
$$ H_0 = \frac{I}{2\pi r} = \frac{I}{2\pi \cdot \frac{\sqrt{2}}{2}a} = \frac{I}{\sqrt{2}\pi a} \quad \cdots ① $$
次に、それぞれの磁場の向きを右ねじの法則で正しく考えます。

  • 点Aの電流(表→裏, \(\otimes\))がつくる磁場 \(\vec{H}_A\) は、点MにおいてB→Dの向きです。
  • 点Bの電流(裏→表, \(\odot\))がつくる磁場 \(\vec{H}_B\) は、点MにおいてA→Cの向きです。
  • 点Cの電流(裏→表, \(\odot\))がつくる磁場 \(\vec{H}_C\) は、点MにおいてB→Dの向きです。
  • 点Dの電流(裏→表, \(\odot\))がつくる磁場 \(\vec{H}_D\) は、点MにおいてC→Aの向きです。

\(\vec{H}_B\) (A→C向き) と \(\vec{H}_D\) (C→A向き) は大きさが等しく向きが正反対なので、互いに打ち消し合います。
$$ \vec{H}_B + \vec{H}_D = \vec{0} $$
一方、\(\vec{H}_A\) (B→D向き) と \(\vec{H}_C\) (B→D向き) は大きさが等しく、向きも同じです。したがって、この2つの磁場は強めあいます。

点Mにおける合成磁場 \(\vec{H}\) は、この2つの磁場の和となります。
$$ \vec{H} = \vec{H}_A + \vec{H}_C $$

使用した物理公式

  • 直線電流がつくる磁場: \(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\)
計算過程

合成磁場の強さ \(H\) は、\(H_A\) と \(H_C\) の大きさの和(どちらも \(H_0\))です。
$$
\begin{aligned}
H &= H_A + H_C \\[2.0ex]
&= 2H_0 \\[2.0ex]
&= 2 \times \frac{I}{\sqrt{2}\pi a} \\[2.0ex]
&= \frac{\sqrt{2}I}{\pi a}
\end{aligned}
$$
向きは、\(\vec{H}_A\) と \(\vec{H}_C\) の向きであるB→Dの向きとなります。

この設問の平易な説明

4つの電線が、中心M点にそれぞれ磁場をつくります。このうち、右上(B)と左下(D)の電線が作る磁場は、ちょうど綱引きのように反対向きに作用して消えてしまいます。一方、左上(A)と右下(C)の電線が作る磁場は、偶然にも同じ方向(BからDへ向かう方向)を向くため、足し合わされて強くなります。この足し合わせた磁場の強さと向きを求めるのがこの問題です。

結論と吟味

点Mにおける磁場の強さは \(\displaystyle\frac{\sqrt{2}I}{\pi a}\) で、向きはB→Dの向きです。
正しい位置関係と右ねじの法則の適用により、模範解答と一致する結果が得られました。対称性から打ち消しあうペアと強めあうペアを正しく見抜くことが重要です。

解答 (1) \(\displaystyle\frac{\sqrt{2}I}{\pi a}\)、B→Dの向き

問(2)

思考の道筋とポイント
点Aにある導線が受ける力は、他の3つの導線(B, C, D)を流れる電流から受ける力のベクトル和として求められます。まず、AとB、AとC、AとDの各ペアの間にはたらく力の大きさと向きを、平行電流間の力の公式を使って一つずつ求めます。その後、それら3つの力ベクトルを合成して、最終的な力の大きさと向きを決定します。

この設問における重要なポイント

  • 力の向き(引力か斥力か): 電流の向きが同じなら引力、逆向きなら斥力です。この問題では、Aの電流(表→裏)と、B, C, Dの電流(裏→表)はすべて逆向きなので、AはB, C, Dのすべてから斥力を受けます。
  • 力のベクトル合成: Bから受ける力とDから受ける力は互いに垂直です。これらの合成力は、Cから受ける力と同じ向きになるため、最終的な計算は見通しよく行えます。

具体的な解説と立式
点A(左上)の導線が、点B(右上), C(右下), D(左下)の導線を流れる電流から受ける単位長さ当たりの力を、それぞれ \(\vec{f}_B, \vec{f}_C, \vec{f}_D\) とします。

Aの電流とB, C, Dの電流はすべて逆向きなので、これらの力はすべて斥力です。

  • AとBの間にはたらく力 \(\vec{f}_B\):
    距離は \(a\)。斥力なので、向きはBからAを遠ざける向き(B→Aの向き)。
    $$ f_B = \frac{\mu_0 I \cdot I}{2\pi a} = \frac{\mu_0 I^2}{2\pi a} \quad \cdots ① $$
  • AとDの間にはたらく力 \(\vec{f}_D\):
    距離は \(a\)。斥力なので、向きはDからAを遠ざける向き(D→Aの向き)。
    $$ f_D = \frac{\mu_0 I \cdot I}{2\pi a} = \frac{\mu_0 I^2}{2\pi a} \quad \cdots ② $$
  • AとCの間にはたらく力 \(\vec{f}_C\):
    距離は対角線の長さ \(\sqrt{2}a\)。斥力なので、向きはCからAを遠ざける向き(C→Aの向き)。
    $$ f_C = \frac{\mu_0 I \cdot I}{2\pi (\sqrt{2}a)} = \frac{\mu_0 I^2}{2\sqrt{2}\pi a} \quad \cdots ③ $$

求める合成力 \(\vec{f}\) は、これら3つの力のベクトル和です。
$$ \vec{f} = \vec{f}_B + \vec{f}_C + \vec{f}_D $$

使用した物理公式

  • 平行電流間にはたらく力(単位長さあたり): \(f = \displaystyle\frac{\mu_0 I_1 I_2}{2\pi r}\)
計算過程

まず、\(\vec{f}_B\) (B→A向き) と \(\vec{f}_D\) (D→A向き) を合成します。この2つの力は大きさが等しく(\(f_B = f_D\))、互いに直交しています。その合成力を \(\vec{f}_{BD}\) とすると、その向きは対角線C→Aの向きとなり、\(\vec{f}_C\) と同じ向きになります。

\(\vec{f}_{BD}\) の大きさ \(f_{BD}\) は、三平方の定理より、
$$
\begin{aligned}
f_{BD} &= \sqrt{f_B^2 + f_D^2} \\[2.0ex]
&= \sqrt{f_B^2 + f_B^2} \\[2.0ex]
&= \sqrt{2}f_B \\[2.0ex]
&= \sqrt{2} \times \frac{\mu_0 I^2}{2\pi a} \\[2.0ex]
&= \frac{\sqrt{2}\mu_0 I^2}{2\pi a}
\end{aligned}
$$
求める合成力 \(\vec{f}\) は、\(\vec{f}_{BD}\) と \(\vec{f}_C\) の和で、どちらもC→Aの向きなので、大きさの和を計算すればよいです。
$$
\begin{aligned}
f &= f_{BD} + f_C \\[2.0ex]
&= \frac{\sqrt{2}\mu_0 I^2}{2\pi a} + \frac{\mu_0 I^2}{2\sqrt{2}\pi a} \\[2.0ex]
&= \frac{2\mu_0 I^2}{2\sqrt{2}\pi a} + \frac{\mu_0 I^2}{2\sqrt{2}\pi a} \\[2.0ex]
&= \frac{3\mu_0 I^2}{2\sqrt{2}\pi a} \\[2.0ex]
&= \frac{3\sqrt{2}\mu_0 I^2}{4\pi a}
\end{aligned}
$$
力の向きは、C→Aの向きです。

この設問の平易な説明

Aの電線は、B, C, Dの3つの電線から「あっちいけ!」と押される力(斥力)を受けます。Bから真横に押される力と、Dから真上に押される力は、合わせると斜め左上(C→A方向)の力になります。そして、Cからもともと斜め左上(C→A方向)に押される力がはたらいています。最終的に、Aが受ける力は、これら2つの「斜め左上方向の力」を足し合わせたものになります。

結論と吟味

点Aを通る導線が受ける単位長さ当たりの力の大きさは \(\displaystyle\frac{3\sqrt{2}\mu_0 I^2}{4\pi a}\) で、向きはC→Aの向きです。
この設問に関しては、力の向き(斥力)とベクトル合成の手順が明確であり、模範解答と一致する妥当な結果が得られます。

別解: 合成磁場とフレミングの法則を用いる解法

思考の道筋とポイント
主たる解法とは異なり、まず「場」を考えてから「力」を求めるアプローチです。最初に、B, C, Dの電流が点Aの位置につくる合成磁場 \(\vec{H}’\) を計算します。次に、その磁場 \(\vec{H}’\) の中で、点Aを流れる電流 \(I\) が受ける力をフレミングの左手の法則(力の公式 \(f = \mu_0 I H’\))を使って求めます。

この設問における重要なポイント

  • 磁場のベクトル合成: B, C, DがAの位置につくる磁場の向きを、それぞれ右ねじの法則で正確に決定し、ベクトルとして合成します。力の向きと磁場の向きを混同しないよう注意が必要です。
  • フレミングの左手の法則: 合成磁場の向きと、Aを流れる電流の向きから、力の向きを決定します。電流(表→裏)と磁場(紙面内)は常に垂直なので、力の大きさは単純な積で計算できます。

具体的な解説と立式
点B(右上), C(右下), D(左下)の電流が点A(左上)の位置につくる磁場を、それぞれ \(\vec{H}’_B, \vec{H}’_C, \vec{H}’_D\) とします。

  • BがAにつくる磁場 \(\vec{H}’_B\):
    距離は \(a\)。Bの電流は裏→表(\(\odot\))。右ねじの法則より、A点での磁場の向きはA→Dの向き(下向き)。
    $$ H’_B = \frac{I}{2\pi a} $$
  • DがAにつくる磁場 \(\vec{H}’_D\):
    距離は \(a\)。Dの電流は裏→表(\(\odot\))。右ねじの法則より、A点での磁場の向きはB→Aの向き(左向き)。
    $$ H’_D = \frac{I}{2\pi a} $$
  • CがAにつくる磁場 \(\vec{H}’_C\):
    距離は \(\sqrt{2}a\)。Cの電流は裏→表(\(\odot\))。右ねじの法則より、A点での磁場の向きは、ACに垂直で、B→Dの向き(左下向き)。
    $$ H’_C = \frac{I}{2\pi (\sqrt{2}a)} = \frac{I}{2\sqrt{2}\pi a} $$

点Aにおける合成磁場 \(\vec{H}’\) は、これらのベクトル和 \(\vec{H}’ = \vec{H}’_B + \vec{H}’_C + \vec{H}’_D\) です。

この合成磁場 \(\vec{H}’\) から、点Aの電流 \(I\) が受ける単位長さあたりの力 \(\vec{f}\) を求めます。力の大きさ \(f\) は、磁束密度 \(B’ = \mu_0 H’\) を用いて、次式で与えられます。
$$ f = I B’ = \mu_0 I H’ \quad \cdots ④ $$
力の向きは、フレミングの左手の法則に従います。

使用した物理公式

  • 直線電流がつくる磁場: \(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\)
  • 電流が磁場から受ける力(単位長さあたり): \(f = \mu_0 I H\)
計算過程

まず、合成磁場 \(\vec{H}’\) を求めます。

\(\vec{H}’_B\) (下向き)と\(\vec{H}’_D\) (左向き)は大きさが等しく直交しています。これらの合成磁場 \(\vec{H}’_{BD}\) の向きは左下方向(B→Dの向き)で、大きさは
$$
\begin{aligned}
H’_{BD} &= \sqrt{(H’_B)^2 + (H’_D)^2} \\[2.0ex]
&= \sqrt{2} H’_B \\[2.0ex]
&= \frac{\sqrt{2}I}{2\pi a}
\end{aligned}
$$
この \(\vec{H}’_{BD}\) (左下向き) と \(\vec{H}’_C\) (左下向き) は、どちらも同じ向きなので、単純に大きさを足し合わせることができます。
$$
\begin{aligned}
H’ &= H’_{BD} + H’_C \\[2.0ex]
&= \frac{\sqrt{2}I}{2\pi a} + \frac{I}{2\sqrt{2}\pi a} \\[2.0ex]
&= \frac{2I}{2\sqrt{2}\pi a} + \frac{I}{2\sqrt{2}\pi a} \\[2.0ex]
&= \frac{3I}{2\sqrt{2}\pi a} \\[2.0ex]
&= \frac{3\sqrt{2}I}{4\pi a}
\end{aligned}
$$
合成磁場 \(\vec{H}’\) の向きは、B→Dの向き(左下向き)です。

次に、④式を用いて力の大きさを計算します。
$$
\begin{aligned}
f &= \mu_0 I H’ \\[2.0ex]
&= \mu_0 I \left( \frac{3\sqrt{2}I}{4\pi a} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{3\sqrt{2}\mu_0 I^2}{4\pi a}
\end{aligned}
$$
力の向きは、フレミングの左手の法則を適用します。

  • 電流の向き: 紙面の表から裏へ (\(\otimes\))
  • 磁場の向き: B→Dの向き(左下方向)

これにより、力の向きはC→Aの向き(左上方向)となります。

この設問の平易な説明

まず、Aの電線を取り除いたと仮定して、B, C, Dの3つの電線がAのあった場所にどんな磁場を作っているかを計算します。3つの磁場を合成すると、全体として「BからDへ向かう向き」(左下方向)の磁場ができあがります。次に、この磁場の中にAの電線(電流は奥向き)を置くとどうなるかを考えます。「フレミングの左手の法則」を使うと、この電線は「CからAへ向かう向き」(左上方向)に力を受けることがわかります。

結論と吟味

力の大きさは \(\displaystyle\frac{3\sqrt{2}\mu_0 I^2}{4\pi a}\)、向きはC→Aの向きとなり、主たる解法の結果と完全に一致しました。このアプローチは、まず「場」を計算し、次にその「場」から「力」を求めるという、物理学の基本的な考え方をより明確に示しています。2つの異なる方法で同じ答えが導かれることは、結果の正しさを裏付ける強力な証拠となります。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{3\sqrt{2}\mu_0 I^2}{4\pi a}\)、C→Aの向き

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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 電流がつくる磁場(アンペールの法則と右ねじの法則):
    • 核心: 電流はその周りに磁場をつくります。長い直線電流の場合、磁場の強さは \(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\) で与えられ、電流からの距離に反比例します。磁場の向きは「右ねじの法則」で決まります。この問題では、複数の電流がつくる磁場を「ベクトルとして」合成する能力が問われます。
    • 理解のポイント: (1)では4つの磁場ベクトルを、(2)の別解では3つの磁場ベクトルを合成します。対称性を見抜いて、打ち消しあうペアと強めあうペアを正確に判断することが、計算を簡潔にする鍵です。
  • 電流が磁場から受ける力(平行電流間の力とフレミングの左手の法則):
    • 核心: 磁場の中に置かれた電流は力を受けます。この力は、2本の平行電流間では「同じ向きなら引力、逆向きなら斥力」として現れ、力の大きさは単位長さあたり \(f = \displaystyle\frac{\mu_0 I_1 I_2}{2\pi r}\) で計算できます。(2)の主たる解法はこの考え方に基づきます。
    • 理解のポイント: (2)の別解では、より一般的に「フレミングの左手の法則」を用います。まずB,C,DがAの位置につくる合成磁場 \(\vec{H}’\) を求め、その磁場から電流 \(I\) が受ける力 \(\vec{f}\) を \(f = \mu_0 I H’\) として計算します。これは「場が力を媒介する」という物理の根幹的な考え方を体現しています。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 三角形の頂点に電流を置く問題: 正三角形や直角二等辺三角形の頂点に電流を置き、中心や他の頂点での磁場・力を問う問題。基本的な考え方は同じですが、角度が \(90^\circ\) 以外になるため、ベクトルの成分分解が必要になる場合があります。
    • 円形電流の中心軸上の磁場: 円形コイルが複数ある場合や、ソレノイドコイルの内部磁場を考える問題。積分を用いて磁場を求める必要がありますが、「個々の部分が作る磁場を足し合わせる」というベクトル合成の思想は共通しています。
    • クーロンの法則との対比: 複数の点電荷が作る電場や、ある点電荷が受ける静電気力を求める問題は、本問と全く同じ思考プロセスをたどります。\(H = \frac{I}{2\pi r}\) が \(E = k\frac{q}{r^2}\) に、\(f = \frac{\mu_0 I_1 I_2}{2\pi r}\) が \(F = k\frac{q_1 q_2}{r^2}\) に対応します。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 座標系を設定する: 特に複雑な配置の場合、図形の頂点の一つを原点とし、x軸、y軸を設定すると、ベクトルの向きを成分で表現でき、計算ミスを防げます。
    2. 対称性を見つける: 図形に対称性があれば、必ず物理量にも対称性(または反対称性)が現れます。本問の(1)のように、打ち消しあうベクトルがないか最初に探すことで、計算量を大幅に削減できます。
    3. 2つのアプローチを念頭に置く: 力を求めるとき、「個々の力(\(f \propto I_1 I_2 / r\))を直接足し合わせる」方法と、「まず場(\(H \propto I/r\))を合成し、その場から力を求める(\(f \propto I’H\))」方法の2通りがあることを常に意識しておくと、解法の選択肢が広がります。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 右ねじの法則とフレミングの左手の法則の混同:
    • 誤解: 磁場の向きを求めたいのにフレミングの法則を使ったり、力の向きを求めたいのに右ねじの法則を使ったりする。
    • 対策: 「右ねじ → 電流が『原因』で磁場が『結果』」、「左手 → 電流と磁場が『原因』で力が『結果』」と、因果関係で覚えましょう。右ねじは磁場(H)のHump(こぶ)を作るイメージ、左手は力(F)のForceのイメージと結びつけるのも有効です。
  • 力の向き(引力・斥力)の勘違い:
    • 誤解: 電流が逆向きなのに引力としてしまう、など。
    • 対策: 「同じ向きは仲良しで引力、逆向きは反発して斥力」と人間関係に例えて覚えるのが簡単です。これは静電気力(同種電荷は斥力、異種電荷は引力)とは逆のパターンなので、混同しないように注意が必要です。
  • ベクトル合成のミス:
    • 誤解: ベクトルなのに、向きを考えずに大きさを単純に足し引きしてしまう。
    • 対策: 磁場や力は必ず矢印で図示する習慣をつけましょう。直交するベクトルは三平方の定理、斜めのベクトルは成分分解して足し算する、という基本を徹底します。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 磁力線のイメージ: 各電流の周りに、右ねじの法則に従う同心円状の磁力線が渦巻いている様子をイメージします。点Mや点Aは、それらの磁力線が重なり合った場所であり、その点での磁力線の接線方向が磁場の向きになります。
    • 力の矢印を正確に描く: (2)では、BがAに及ぼす斥力 \(\vec{f}_B\) の矢印は、Aを基点としてBから遠ざかる向きに、DがAに及ぼす斥力 \(\vec{f}_D\) はDから遠ざかる向きに描きます。すべての力のベクトルを、作用点であるAから生えるように描くことで、ベクトル合成のイメージが明確になります。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 作用点を明確にする: 磁場を考える点(点M)や、力を受ける点(点A)を明確にマークします。
    • ベクトルを色分け・記号分けする: 例えば、Bからの影響は青、Cからは緑、Dからは赤、のように色分けしたり、ベクトルの種類(磁場か力か)を \(H\) や \(f\) の記号で明記したりすると、混乱を防げます。
    • 対称性を意識して描く: 正方形の対角線を引いておくと、ベクトルの向きが「対角線に平行」や「対角線に垂直」であることが視覚的に分かりやすくなります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 直線電流の磁場の式 \(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\):
    • 選定理由: この問題は「長い直線電流」がつくる磁場を扱うため、アンペールの法則をこの場合に適用した基本公式であるこの式を選びます。
    • 適用根拠: 電流 \(I\) が原因で、距離 \(r\) の点に磁場 \(H\) という「場」が発生するという、電磁気学の根幹をなす法則です。(1)と(2)の別解で、場の計算に用います。
  • 平行電流間の力の式 \(f = \displaystyle\frac{\mu_0 I_1 I_2}{2\pi r}\):
    • 選定理由: (2)の主たる解法のように、2本の平行な電流が直接及ぼしあう力を計算する場合に、最も直接的で便利な公式だからです。
    • 適用根拠: この公式は、電流 \(I_2\) がつくる磁場 \(H_2 = \frac{I_2}{2\pi r}\) の中に電流 \(I_1\) が置かれ、力 \(f = \mu_0 I_1 H_2\) を受ける、という2段階のプロセスを1つの式にまとめたものです。したがって、(2)の別解のアプローチと本質的に同じ現象を記述しています。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 中心点の磁場:
    • 戦略: 4つの電流がつくる磁場ベクトルをそれぞれ求め、ベクトルとして合成する。
    • フロー: ①各電流からMまでの距離 \(r\) を計算 → ②磁場の強さの基本値 \(H_0\) を計算 (\(H_0 = I/(2\pi r)\)) → ③右ねじの法則で4つの磁場 \(\vec{H}_A, \vec{H}_B, \vec{H}_C, \vec{H}_D\) の向きを決定 → ④ベクトル図を描き、打ち消しあうペア (\(\vec{H}_B, \vec{H}_D\)) と強めあうペア (\(\vec{H}_A, \vec{H}_C\)) を見つける → ⑤強めあうベクトルの和を計算 (\(H = 2H_0\))。
  2. (2) 頂点の導線が受ける力(主たる解法):
    • 戦略: AがB, C, Dから受ける3つの力ベクトルをそれぞれ求め、ベクトルとして合成する。
    • フロー: ①AとB, AとD, AとCの間の距離を特定 → ②3つの力の大きさ \(f_B, f_D, f_C\) を平行電流間の力の公式で計算 → ③電流の向きから、力がすべて斥力であることを確認し、力の向きを決定 → ④直交する \(\vec{f}_B\) と \(\vec{f}_D\) を先に合成して \(\vec{f}_{BD}\) を求める → ⑤\(\vec{f}_{BD}\) と \(\vec{f}_C\) が同一直線上にあることを確認し、大きさを足し合わせる。
  3. (2) 頂点の導線が受ける力(別解):
    • 戦略: まずB, C, DがAの位置につくる合成磁場を求め、その磁場からAが受ける力を計算する。
    • フロー: ①B, C, DがAの位置につくる3つの磁場 \(\vec{H}’_B, \vec{H}’_C, \vec{H}’_D\) の大きさと向きを計算 → ②3つの磁場ベクトルを合成して、全体の合成磁場 \(\vec{H}’\) を求める → ③フレミングの左手の法則の公式 \(f = \mu_0 I H’\) に値を代入して力の大きさを計算 → ④フレミングの左手の法則で力の向きを決定する。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 分数の整理を丁寧に行う: (2)の計算で \(\displaystyle\frac{\sqrt{2}\mu_0 I^2}{2\pi a} + \displaystyle\frac{\mu_0 I^2}{2\sqrt{2}\pi a}\) のような項が出てきます。焦って計算せず、分母を \(2\sqrt{2}\pi a\) に通分することから始めましょう。 \(\displaystyle\frac{2\mu_0 I^2}{2\sqrt{2}\pi a} + \displaystyle\frac{\mu_0 I^2}{2\sqrt{2}\pi a} = \displaystyle\frac{3\mu_0 I^2}{2\sqrt{2}\pi a}\) となります。
  • 有理化は最後でも良い: 途中で \(\displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}}\) が出てきても、すぐに有理化せず、計算の最後までそのままにしておく方が見通しが良くなる場合があります。最終的な答えを出す段階で有理化すれば十分です。
  • 文字式で進める: 最初から数値を代入するのではなく、できるだけ計算の最後まで \(I\) や \(a\) などの文字式のまま進めましょう。これにより、途中の計算が簡潔になり、物理的な意味も見失いにくくなります。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (1) 中心の磁場: AとCの電流は、Mに対して同じ向き(B→D)の磁場を作ります。一方、BとDの電流は互いに逆向きの磁場を作り打ち消しあいます。結果として、AとCによる磁場だけが残り、B→Dの向きになるのは妥当です。
    • (2) Aが受ける力: AはB, C, Dのすべてから斥力を受けます。Bからは左向き、Dからは上向き、Cからは左上向きの力を受けます。これらを合成すれば、最終的な力の向きが左上方向(C→Aの向き)になるのは直感的にも明らかであり、妥当です。
  • 別解との比較:
    • (2)では、「力を直接合成する」方法と、「場を介して力を計算する」方法という、2つの全く異なるアプローチを取りました。両者で計算過程は大きく異なりますが、最終的に大きさと向きが完全に一致しました。これは、両方の解法の正しさと、自身の計算の正確さを裏付ける強力な証拠となります。

441 直線電流がコイルに及ぼす力

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、直線電流が作る磁場から、近くに置かれた正方形コイルが受ける力を計算する問題です。直線電流からの距離によって磁場の強さが変わるため、コイルの各辺が受ける力も異なります。これらの力をベクトルとして正しく合成する能力が問われます。

与えられた条件
  • 直線状導線の電流: \(I \text{ [A]}\) (y軸に平行、\(+y\)方向)
  • 正方形コイルの電流: \(i \text{ [A]}\) (反時計回り)
  • 正方形コイルの一辺の長さ: \(a \text{ [m]}\)
  • 直線状導線と辺ABとの距離: \(d \text{ [m]}\)
  • 空気の透磁率: \(\mu_0 \text{ [N/A}^2\text{]}\)
問われていること
  • (1) コイルの各辺 AB, BC, CD, DA に働く力の向き
  • (2) 辺ABに働く力の大きさ \(F_1 \text{ [N]}\)
  • (3) コイル全体に働く力の大きさ \(F \text{ [N]}\) とその向き

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 問(1), (2), (3)の別解: 平行な直線電流間に働く力の公式を用いる解法
      • 模範解答が「直線電流が作る磁場を求め、その磁場から各辺の電流が受ける力をフレミングの法則で求める」という2段階のプロセスで考えるのに対し、別解では「2本の平行な直線電流間に直接働く力」の公式を用いて、より直接的に力を計算します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 法則の関連性の理解: 「直線電流が作る磁場」と「電流が磁場から受ける力」という2つのステップを統合した「電流間に働く力」の公式を用いることで、これらの物理法則がどのように結びついているかを直感的に理解できます。
    • 視点の転換: 「場」を介して力が伝わるという考え方(近接作用)だけでなく、電流と電流が直接力を及ぼし合うという、より現象論的な視点も学ぶことができ、物理現象を多角的に捉える訓練になります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「直線電流が作る不均一な磁場中で、コイルが受ける力の計算」です。コイルの各辺が受ける力を個別に求め、それらをベクトル的に足し合わせることが基本方針です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 右ねじの法則: 電流の向きから、その周りにできる磁場(磁力線)の向きを決定します。
  2. 直線電流が作る磁場の公式: 直線電流 \(I\) から距離 \(r\) の点に作られる磁束密度の大きさは \(B = \displaystyle\frac{\mu_0 I}{2\pi r}\) で与えられます。
  3. フレミングの左手の法則: 磁場中で電流が受ける力の向きを決定します(「電・磁・力」)。
  4. 電流が磁場から受ける力の公式: 磁束密度 \(B\) の中で、電流 \(i\) が流れる長さ \(l\) の導線が受ける力の大きさは \(F = iBl\) で与えられます(電流と磁場が垂直な場合)。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、直線電流 \(I\) がコイルの各辺の位置に作る磁場の向きと大きさを求めます。
  2. 次に、フレミングの左手の法則を用いて、各辺が受ける力の向きを決定します(問1)。
  3. 力の公式 \(F=iBl\) を用いて、辺ABに働く力 \(F_1\) の大きさを計算します(問2)。
  4. 同様に他の辺に働く力も計算し、すべての力のベクトル和(合力)を求めることで、コイル全体に働く力 \(F\) を計算します(問3)。

問(1)

思考の道筋とポイント
各辺に働く力の向きを調べるには、2つのステップが必要です。
ステップ1: 直線電流 \(I\) がコイルのある平面上に作る磁場の向きを「右ねじの法則」で求めます。
ステップ2: その磁場の中で、コイルの各辺を流れる電流 \(i\) が「フレミングの左手の法則」によってどちら向きの力を受けるかを判断します。

この設問における重要なポイント

  • 磁場の向き: y軸を流れる電流 \(I\) が、\(x>0\) の領域(コイルがある領域)に作る磁場は、右ねじの法則により、紙面の表から裏へ向かう向き(\(-z\)方向)となります。この磁場の向きは、コイルのどの場所でも同じです。
  • 力の向き: 磁場の向きを\(-z\)方向に固定し、各辺の電流の向き(辺AB: \(-y\)方向, 辺BC: \(+x\)方向, 辺CD: \(+y\)方向, 辺DA: \(-x\)方向)に対してフレミングの左手の法則を適用します。

具体的な解説と立式
まず、直線電流 \(I\) がコイルの位置に作る磁場の向きを、右ねじの法則を用いて決定します。電流 \(I\) は \(+y\) 方向に流れているので、コイルが存在する \(x>0\) の領域では、磁場は紙面の表から裏へ向かう向きになります。

この磁場(向き:紙面裏向き)の中で、各辺の電流が受ける力の向きをフレミングの左手の法則で求めます。

  • 辺AB: 電流 \(i\) は \(-y\) 方向(下向き)。磁場は紙面裏向き。よって、力は \(x\) 軸の正の向き。
  • 辺BC: 電流 \(i\) は \(+x\) 方向(右向き)。磁場は紙面裏向き。よって、力は \(y\) 軸の正の向き。
  • 辺CD: 電流 \(i\) は \(+y\) 方向(上向き)。磁場は紙面裏向き。よって、力は \(x\) 軸の負の向き。
  • 辺DA: 電流 \(i\) は \(-x\) 方向(左向き)。磁場は紙面裏向き。よって、力は \(y\) 軸の負の向き。

使用した物理公式

  • 右ねじの法則
  • フレミングの左手の法則
計算過程

この設問は向きを求めるだけなので、計算はありません。

この設問の平易な説明

まず、まっすぐな電線(直線電流)が、その周りに磁石の力(磁場)を作ります。右手の親指を電流の向きに合わせると、他の4本の指が巻く向きが磁場の向きです。この問題では、コイルがある場所では、磁場は紙の裏側へ向かう向きになります。
次に、その磁場の中でコイルの各辺がどちらに力を受けるかを「フレミングの左手の法則」で調べます。左手の中指を電流、人差し指を磁場(紙の裏側)に向けると、親指が力の向きを示します。これを4つの辺すべてについて行うと、それぞれの力の向きが分かります。

結論と吟味

各辺に働く力の向きは以下のようになります。

  • 辺AB: \(x\) 軸の正の向き
  • 辺BC: \(y\) 軸の正の向き
  • 辺CD: \(x\) 軸の負の向き
  • 辺DA: \(y\) 軸の負の向き

これは模範解答と一致しており、物理法則に則った妥当な結果です。

解答 (1)
AB: \(x\)軸の正の向き, BC: \(y\)軸の正の向き
CD: \(x\)軸の負の向き, DA: \(y\)軸の負の向き

問(2)

思考の道筋とポイント
辺ABが受ける力の大きさを計算します。そのためには、まず辺ABの位置における磁束密度の大きさ \(B_1\) を求める必要があります。直線電流からの距離が \(d\) であることを使い、磁場の公式 \(B = \displaystyle\frac{\mu_0 I}{2\pi r}\) を適用します。その後、力の公式 \(F=iBl\) を使って \(F_1\) を計算します。

この設問における重要なポイント

  • 磁束密度の計算: 辺ABは、直線電流から距離 \(d\) の位置にあります。したがって、磁束密度の公式の \(r\) に \(d\) を代入します。
  • 力の計算: 辺ABの長さは \(a\) です。力の公式の \(l\) に \(a\) を代入します。電流 \(i\) と磁場 \(B_1\) は垂直なので、\(F_1 = iB_1 a\) となります。

具体的な解説と立式
直線電流 \(I\) から距離 \(d\) の位置にある辺ABが作る磁束密度の大きさ \(B_1\) は、
$$ B_1 = \frac{\mu_0 I}{2\pi d} \quad \cdots ① $$
辺ABを流れる電流 \(i\) が、この磁場 \(B_1\) から受ける力の大きさ \(F_1\) は、辺の長さが \(a\) であることから、
$$ F_1 = i B_1 a \quad \cdots ② $$

使用した物理公式

  • 直線電流が作る磁場の公式: \(B = \displaystyle\frac{\mu_0 I}{2\pi r}\)
  • 電流が磁場から受ける力の公式: \(F = iBl\)
計算過程

②式に①式を代入して \(F_1\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
F_1 &= i \left( \frac{\mu_0 I}{2\pi d} \right) a \\[2.0ex]
&= \frac{\mu_0 i I a}{2\pi d} \text{ [N]}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

辺ABがどれくらいの強さの力を受けるかを計算します。力は「磁場の強さ」と「コイルを流れる電流の強さ」と「辺の長さ」で決まります。まず、辺ABがある場所の磁場の強さを計算します。これは直線電流に近いほど強くなります。その計算した磁場の強さを使って、力の大きさを求めます。

結論と吟味

辺ABに働く力の大きさは \(F_1 = \displaystyle\frac{\mu_0 i I a}{2\pi d} \text{ [N]}\) です。
この結果は、直線電流 \(I\) とコイルの電流 \(i\) が大きいほど、また辺の長さ \(a\) が長いほど力が強くなり、距離 \(d\) が離れるほど弱くなることを示しており、物理的に妥当です。

解答 (2) \( \displaystyle\frac{\mu_0 i I a}{2\pi d} \text{ [N]} \)

問(3)

思考の道筋とポイント
コイル全体に働く力は、4つの辺が受ける力のベクトル和(合力)です。
(1)で求めた力の向きから、辺BCに働く力 \(F_2\) と辺DAに働く力 \(F_4\) は、大きさが等しく逆向き(\(y\)軸の正負)であるため、互いに打ち消しあいます。
一方、辺ABに働く力 \(F_1\)(\(x\)軸正向き)と辺CDに働く力 \(F_3\)(\(x\)軸負向き)は、大きさが異なります。なぜなら、直線電流からの距離が違うため、磁場の強さが異なるからです。
したがって、コイル全体に働く力 \(F\) は、\(F_1\) と \(F_3\) の差として求められます。

この設問における重要なポイント

  • 辺CDに働く力の計算: 辺CDは直線電流から距離 \(d+a\) の位置にあります。この距離を使って、辺CDの位置での磁束密度 \(B_3\) と力 \(F_3\) を計算します。
  • 力の合成: \(F_1\) と \(F_3\) は一直線上で逆向きなので、合力の大きさは単純な引き算 \(|F_1 – F_3|\) で求まります。\(F_1\) の方が直線電流に近いため \(F_1 > F_3\) であり、合力の向きは \(F_1\) の向き(\(x\)軸正の向き)になります。
  • 対称性による打ち消し: 辺BCと辺DAに働く力は、対称性から打ち消しあうことを見抜くことが計算を簡略化する鍵です。

具体的な解説と立式
(1)より、辺BCに働く力 \(F_2\) と辺DAに働く力 \(F_4\) は、y軸上で逆向きです。また、これらの辺上の各点と直線電流との距離の分布は対称的なので、力の大きさは等しくなります。したがって、\(F_2\) と \(F_4\) は互いに打ち消しあいます。
$$ \vec{F_2} + \vec{F_4} = \vec{0} $$
次に、辺CDに働く力を考えます。辺CDは直線電流から距離 \(d+a\) の位置にあるので、その場所の磁束密度の大きさ \(B_3\) は、
$$ B_3 = \frac{\mu_0 I}{2\pi (d+a)} \quad \cdots ③ $$
よって、辺CDが受ける力の大きさ \(F_3\) は、
$$ F_3 = i B_3 a \quad \cdots ④ $$
この力の向きは(1)で求めたように \(x\) 軸の負の向きです。

コイル全体に働く力 \(F\) は、\(F_1\) と \(F_3\) の合力です。\(d > 0, a > 0\) より \(d < d+a\) なので、\(F_1 > F_3\) となります。したがって、合力の大きさ \(F\) は、
$$ F = F_1 – F_3 \quad \cdots ⑤ $$
向きは \(F_1\) と同じく \(x\) 軸の正の向きです。

使用した物理公式

  • 直線電流が作る磁場の公式: \(B = \displaystyle\frac{\mu_0 I}{2\pi r}\)
  • 電流が磁場から受ける力の公式: \(F = iBl\)
計算過程

④式に③式を代入して \(F_3\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
F_3 &= i \left( \frac{\mu_0 I}{2\pi (d+a)} \right) a \\[2.0ex]
&= \frac{\mu_0 i I a}{2\pi (d+a)}
\end{aligned}
$$
次に、⑤式に(2)で求めた \(F_1\) と上記の \(F_3\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
F &= \frac{\mu_0 i I a}{2\pi d} – \frac{\mu_0 i I a}{2\pi (d+a)} \\[2.0ex]
&= \frac{\mu_0 i I a}{2\pi} \left( \frac{1}{d} – \frac{1}{d+a} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{\mu_0 i I a}{2\pi} \left( \frac{(d+a) – d}{d(d+a)} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{\mu_0 i I a}{2\pi} \frac{a}{d(d+a)} \\[2.0ex]
&= \frac{\mu_0 i I a^2}{2\pi d(d+a)} \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
向きは \(x\) 軸の正の向きです。

この設問の平易な説明

コイル全体が受ける力は、4つの辺が受ける力の合計です。上下の辺(BCとDA)が受ける力は、ちょうど綱引きのように反対向きで同じ強さなので、打ち消しあってゼロになります。
一方、左右の辺(ABとCD)が受ける力は、向きが反対ですが、強さが違います。直線電流に近い辺ABが受ける「押し出す力」の方が、遠い辺CDが受ける「引き寄せる力」よりも強いです。そのため、差し引きすると「押し出す力」が残り、コイル全体としては直線電流から離れる向き(x軸正の向き)に力を受けます。

結論と吟味

コイル全体に働く力の大きさは \(F = \displaystyle\frac{\mu_0 i I a^2}{2\pi d(d+a)} \text{ [N]}\) で、向きは \(x\) 軸の正の向きです。
直線電流に近い辺ABが受ける斥力 \(F_1\) が、遠い辺CDが受ける引力 \(F_3\) よりも大きいため、全体として斥力(離れる向きの力)が働くという結果は物理的に妥当です。

解答 (3) 大きさ: \( \displaystyle\frac{\mu_0 i I a^2}{2\pi d(d+a)} \text{ [N]} \), 向き: \(x\)軸の正の向き
別解: 平行な直線電流間に働く力の公式を用いる解法

思考の道筋とポイント
「直線電流が作る磁場」と「電流が磁場から受ける力」の2ステップをまとめた「平行な直線電流間に働く力の公式」を直接利用します。この公式は、2本の電流が平行な場合にのみ直接適用できます。この問題では、辺ABと辺CDが直線電流Iと平行(反平行含む)なので、この公式が有効です。

この設問における重要なポイント

  • 力の公式: 距離 \(r\) だけ離れた平行な直線電流 \(I_1, I_2\) の長さ \(l\) の部分に働く力の大きさは \(F = \displaystyle\frac{\mu_0 I_1 I_2}{2\pi r} l\) です。
  • 力の向き: 電流が同じ向きなら引力、逆向きなら斥力となります。
  • 垂直な辺の扱い: 辺BCと辺DAは直線電流と垂直なので、この公式は適用できません。これらの辺に働く力は、対称性から打ち消しあうことを別途考慮します。

具体的な解説と立式
(1) 力の向き

  • 辺AB: 直線電流 \(I\) (上向き)と辺ABの電流 \(i\) (下向き)は逆向きなので、斥力(離れる向き)が働きます。よって、\(x\) 軸の正の向き。
  • 辺CD: 直線電流 \(I\) (上向き)と辺CDの電流 \(i\) (上向き)は同じ向きなので、引力(引き合う向き)が働きます。よって、\(x\) 軸の負の向き。
  • 辺BCと辺DA: これらの辺に働く力は、対称性から\(y\)軸方向で互いに逆向き、同じ大きさとなり打ち消しあいます。

(2) 辺ABに働く力の大きさ \(F_1\)

辺ABは直線電流 \(I\) と距離 \(d\) を隔てて逆向きに平行です。辺の長さは \(a\) なので、平行電流間に働く力の公式より、
$$ F_1 = \frac{\mu_0 I i}{2\pi d} a \quad \cdots ①’ $$
(3) コイル全体に働く力の大きさ \(F\)

辺CDは直線電流 \(I\) と距離 \(d+a\) を隔てて同じ向きに平行です。辺の長さは \(a\) なので、力の大きさ \(F_3\) は、
$$ F_3 = \frac{\mu_0 I i}{2\pi (d+a)} a \quad \cdots ②’ $$
コイル全体に働く力 \(F\) は、斥力 \(F_1\) と引力 \(F_3\) の合力です。\(F_1 > F_3\) なので、
$$ F = F_1 – F_3 \quad \cdots ③’ $$
向きは斥力の向き、すなわち \(x\) 軸の正の向きです。

使用した物理公式

  • 平行な直線電流間に働く力の公式: \(F = \displaystyle\frac{\mu_0 I_1 I_2}{2\pi r} l\)
計算過程

③’式に①’式と②’式を代入します。この計算は主たる解法の計算過程と全く同じになります。
$$
\begin{aligned}
F &= \frac{\mu_0 i I a}{2\pi d} – \frac{\mu_0 i I a}{2\pi (d+a)} \\[2.0ex]
&= \frac{\mu_0 i I a}{2\pi} \left( \frac{1}{d} – \frac{1}{d+a} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{\mu_0 i I a}{2\pi} \left( \frac{(d+a) – d}{d(d+a)} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{\mu_0 i I a^2}{2\pi d(d+a)} \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
向きは \(x\) 軸の正の向きです。

この設問の平易な説明

電線同士は、電流の向きによって引き合ったり、反発しあったりする性質があります。同じ向きに電流が流れていれば引き合い(引力)、逆向きなら反発します(斥力)。

  • 直線電流と辺ABは逆向きなので、反発して離れようとします。
  • 直線電流と辺CDは同じ向きなので、引き合います。

近い辺ABの反発力の方が、遠い辺CDの引力よりも強いので、全体としては反発して離れていく、という考え方で解く方法です。

結論と吟味

この別解でも、力の大きさは \(F = \displaystyle\frac{\mu_0 i I a^2}{2\pi d(d+a)} \text{ [N]}\)、向きは \(x\) 軸の正の向きとなり、主たる解法と完全に一致しました。物理現象を異なる法則から説明できることを確認でき、理解が深まります。


【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 直線電流が作る磁場と、電流が磁場から受ける力の組み合わせ:
    • 核心: この問題は、2つの基本法則の組み合わせで解かれています。まず「直線電流 \(I\) が、その周りに距離 \(r\) に反比例する磁場 \(B = \displaystyle\frac{\mu_0 I}{2\pi r}\) を作る」こと。次に「その磁場の中にある別の電流 \(i\) が、\(F=iBl\) で表される力を受ける」こと。この2段階の思考プロセスが問題解決の根幹です。
    • 理解のポイント: 特に重要なのは、直線電流からの距離 \(r\) が変わると磁場の強さ \(B\) も変わる(不均一な磁場である)という点です。これにより、コイルの辺ABが受ける力と辺CDが受ける力の大きさに差が生まれ、結果としてコイル全体に力が働く原因となります。
  • 力のベクトル合成:
    • 核心: コイルの各辺が受ける力はベクトル量であり、向きを持っています。コイル全体に働く力は、これらのベクトルをすべて足し合わせた「合力」として求められます。
    • 理解のポイント: この問題では、辺BCと辺DAに働く力が対称性から打ち消しあうことを見抜くことが重要です。これにより、計算が大幅に簡略化され、x軸方向の力の差のみを考えればよくなります。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 平行な2本の直線電流間に働く力: この問題の辺ABとCDの部分は、まさにこの基本問題の応用です。
    • 円形コイルの中心軸上の磁場: 直線電流の代わりに円形コイルが磁場を作る問題でも、その磁場中に置かれた別の導線が受ける力を計算する、という同様の構造になります。
    • ソレノイドコイルが作る磁場と力の問題: ソレノイドが作る一様な磁場中に置かれた導線やコイルが受ける力を計算する問題も、同じ法則の組み合わせで解くことができます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 磁場源は何か?: まず、磁場を作っているのは何か(この問題では直線電流 \(I\))を特定します。
    2. 磁場の形は?: その磁場源が作る磁場の向き(右ねじの法則)と、強さの分布(距離に反比例など)を把握します。磁場が一様か不均一かを見極めるのが特に重要です。
    3. 力を受けるのは何か?: 次に、その磁場から力を受けるのは何か(この問題ではコイルの各辺を流れる電流 \(i\))を特定します。
    4. 力の向きと大きさを個別に計算: 各部分が受ける力の向き(フレミングの左手の法則)と大きさ(\(F=iBl\))を、磁場の向きと強さを考慮して個別に計算します。
    5. ベクトルとして合成: 最後に、計算したすべての力をベクトルとして足し合わせ、全体の合力を求めます。対称性による打ち消しがないか常に確認しましょう。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 磁場の強さを一定と間違う:
    • 誤解: コイルのどの場所でも磁場の強さが同じだと考え、辺ABと辺CDに働く力が同じ大きさだと誤解してしまう。
    • 対策: 「磁場は磁場源からの距離で変わる」という原則を常に意識すること。特に直線電流や点電荷が作る場は、距離に依存して不均一になります。
  • フレミングの左手の法則の向きの間違い:
    • 誤解: 電流・磁場・力の指の割り当てを間違えたり、座標軸の向きを勘違いしたりする。
    • 対策: 「電(中指)・磁(人差し指)・力(親指)」の語呂合わせを確実に覚えること。図にx, y, z軸を書き込み、磁場の向き(紙面裏向き:\(-z\))と電流の向き(例:辺ABは\(-y\))を明確にしてから、法則を適用する習慣をつけましょう。
  • 引力と斥力の混同(別解の場合):
    • 誤解: 平行電流が同じ向きのときに引力、逆向きのときに斥力という関係を逆に覚えてしまう。
    • 対策: 「同じ向きは仲良しで引き合う、逆向きは反発する」とイメージで覚えるのが有効です。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 磁力線の密度のイメージ: 直線電流の周りにできる磁力線を同心円状に描いてみましょう。電流に近いほど磁力線は「密」になり、遠いほど「疎」になります。磁力線の密度が磁場の強さを表すので、辺ABの位置では密、辺CDの位置では疎になっていることが視覚的に理解できます。力が「密」なところで強く、「疎」なところで弱いことが、合力が生じる原因だと直感できます。
    • 力の矢印を書き込む: 問題の図に、(1)で求めた4つの力のベクトル(\(F_1, F_2, F_3, F_4\))を矢印で書き込みましょう。このとき、\(F_1\) の矢印を \(F_3\) よりも長く描くことで、\(F_1 > F_3\) であることを視覚化します。また、\(F_2\) と \(F_4\) の矢印は同じ長さで逆向きに描くことで、打ち消しあう関係が一目瞭然になります。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 座標軸の明記: x, y, z軸(z軸は紙面に垂直)を明確に描くことで、向きの判断ミスを防ぎます。
    • 大小関係の誇張: 実際の力の差はわずかでも、図では明らかに長さが違うように誇張して描くと、思考の助けになります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 直線電流が作る磁場の公式 \(B = \displaystyle\frac{\mu_0 I}{2\pi r}\):
    • 選定理由: この問題の磁場源は「無限に長い直線電流」だからです。この特定の状況における磁場の大きさを与える基本公式としてこれを選びます。アンペールの法則から導出される、電磁気学の根幹をなす式の一つです。
    • 適用根拠: 辺ABや辺CDは直線電流から一定の距離にあるとみなせるため、各辺の位置での磁場の強さを計算するためにこの公式を適用できます。
  • 電流が磁場から受ける力の公式 \(F = iBl\):
    • 選定理由: 「磁場の中に置かれた電流が受ける力」を計算するための最も基本的な公式(ローレンツ力の一形態)だからです。
    • 適用根拠: コイルの各辺は、直線電流が作った磁場の中に置かれています。また、各辺の電流の向きは磁場の向き(紙面裏向き)と常に垂直であるため、\(\sin\theta\)の項が\(1\)となり、この簡単な形で適用できます。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 力の向きの決定:
    • 戦略: 右ねじの法則とフレミングの左手の法則を順に適用する。
    • フロー: ①直線電流 \(I\) による磁場の向きを決定(右ねじ) → ②各辺の電流 \(i\) の向きを確認 → ③各辺について、磁場と電流の向きから力の向きを決定(フレミング左手)。
  2. (2) 辺ABの力の大きさ \(F_1\) の計算:
    • 戦略: 辺ABの位置での磁場の強さを求め、力の公式に代入する。
    • フロー: ①辺ABの位置での磁束密度 \(B_1\) を計算 (\(B_1 = \mu_0 I / (2\pi d)\)) → ②力の公式 \(F_1 = iB_1a\) に代入して計算。
  3. (3) 合力の計算:
    • 戦略: 4辺の力のベクトル和を求める。対称性を利用して計算を簡略化する。
    • フロー: ①辺BCとDAの力が打ち消しあうことを確認 → ②辺CDの位置での磁束密度 \(B_3\) を計算 (\(B_3 = \mu_0 I / (2\pi(d+a))\)) → ③辺CDの力の大きさ \(F_3\) を計算 (\(F_3 = iB_3a\)) → ④合力 \(F = F_1 – F_3\) を計算し、式を整理する。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 共通因数でくくる: \(F = F_1 – F_3\) の計算で、いきなり数値を代入するのではなく、\(\displaystyle\frac{\mu_0 i I a}{2\pi}\) という共通因数でくくってから計算を進めましょう。これにより、分数の通分 (\(\displaystyle\frac{1}{d} – \displaystyle\frac{1}{d+a}\)) が見やすくなり、計算が非常に楽になります。
  • 文字式のまま計算を進める: この問題のように、最終的な答えが文字式で求められる場合、途中で数値を代入する必要はありません。最後まで文字式のまま丁寧に計算し、最後に整理された形にすることが重要です。
  • 単位の確認: 透磁率 \(\mu_0\) の単位は \(\text{[N/A}^2\text{]}\)、電流は \(\text{[A]}\)、長さは \(\text{[m]}\) です。これらの単位を力の公式に代入すると、最終的に力の単位 \(\text{[N]}\) が得られることを確認する(次元解析)と、式の妥当性を検証できます。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • 力の向き: 直線電流に近い辺ABが受ける斥力の方が、遠い辺CDが受ける引力よりも強いはずです。したがって、全体として斥力(\(x\)軸正の向き)が働くという結果は直感と一致し、妥当です。
    • 極端な場合を考える(極限チェック):
      • もしコイルが無限に遠くへ行ったら (\(d \rightarrow \infty\))、力はゼロになるはずです。計算結果の式で \(d \rightarrow \infty\) とすると、分母が無限大になるので \(F \rightarrow 0\) となり、妥当です。
      • もしコイルの幅がゼロになったら (\(a \rightarrow 0\))、辺ABと辺CDが同じ位置になり、力が打ち消しあうので力はゼロになるはずです。計算結果の式で \(a \rightarrow 0\) とすると、分子が \(a^2\) なので \(F \rightarrow 0\) となり、これも妥当です。
  • 別解との比較:
    • この問題では、「磁場とフレミングの法則」で解く方法と、「平行電流間の力」で解く別解がありました。全く異なる公式から出発したにもかかわらず、最終的に同じ答えにたどり着いたことは、両方の解法の正しさと、自身の計算の正確さを裏付ける強力な証拠となります。

442 加速器

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、荷電粒子を磁場と電場を組み合わせて加速する装置「サイクロトロン」の原理を扱います。ディーと呼ばれる半円形の電極内でローレンツ力による円運動を行い、電極間の隙間(間隙)で電場によって加速される、という一連のプロセスを物理法則に基づいて分析する力が求められます。

与えられた条件
  • 装置: サイクロトロン
  • 磁場: 磁束密度 \(B\) の一様な磁場が、ディー内部に紙面の表から裏の向きにかけられている。
  • 荷電粒子: 質量 \(m\)、電荷 \(q\)
  • 粒子の運動:
    • ディー内部: 磁場からローレンツ力を受けて円運動する。
    • ディーの間隙: 高周波電圧によって加速される。
  • 初期条件: 初速 \(v_0\) でディーおよび磁場に垂直に入射する。
  • 問(5)の追加条件:
    • ディー間の電位差: \(V\) (一定)
問われていること
  • (1) 荷電粒子の電荷の正負
  • (2) 粒子が磁場から受ける力の大きさ \(F\)
  • (3) 初めの円軌道の半径 \(r_0\)
  • (4) 初めにディー内を半周する時間
  • (5) 間隙通過で得るエネルギー、加速後の速さ \(v\)、新しい円運動の半径 \(r\)

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 問(3)の別解: 回転座標系(非慣性系)における力のつり合いを用いる解法
      • 模範解答が静止系(実験室系)から見て「ローレンツ力=向心力」として運動方程式を立てるのに対し、別解では粒子と共に回転する座標系から見て「ローレンツ力と遠心力がつり合っている」という力のつり合いの式を立てます。
    • 問(4)の別解: 角速度を用いる解法
      • 模範解答が「円周の長さ÷速さ」で周期を求め、それを半分にして半周の時間を計算するのに対し、別解では等速円運動の角速度 \(\omega\) を先に求め、「中心角÷角速度」というアプローチで直接半周の時間を計算します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 多様な視点の獲得(問3別解): 静止系での運動方程式と、回転座標系での力のつり合いが、数学的に等価な物理現象の異なる表現であることを理解できます。これにより、慣性力の概念への理解が深まります。
    • 物理概念の多角的理解(問4別解): 円運動を「速さ \(v\) と半径 \(r\)」で記述するだけでなく、「角速度 \(\omega\)」という回転の速さを表す量で捉える視点を養うことができます。
    • サイクロトロンの本質への接近(問4別解): サイクロトロンにおいて、周期が速さや半径によらず一定であるという重要な性質は、角速度 \(\omega = \frac{qB}{m}\) が一定であることに起因します。この別解は、その物理的本質により直接的に触れることができます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「磁場中の荷電粒子の運動(ローレンツ力と円運動)」と「電場による仕事とエネルギー」の融合です。それぞれの領域でどの物理法則が適用されるかを明確に区別することが重要です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. ローレンツ力: 磁場中で運動する荷電粒子が受ける力。力の大きさは \(F=qvB\)、向きはフレミングの左手の法則で決まります。
  2. 円運動の運動方程式: 円運動する物体には、中心向きの向心力が必要です。運動方程式は \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = (\text{向心力})\) となります。
  3. 仕事とエネルギーの関係: 荷電粒子が電位差 \(V\) のある領域を通過すると、電場から \(W=qV\) の仕事をされ、その分だけ運動エネルギーが増加します。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、フレミングの左手の法則を用いて、観測される軌道から荷電粒子の電荷の正負を判断します(問1)。
  2. 次に、ローレンツ力の公式を用いて、粒子が受ける力の大きさを計算します(問2)。
  3. ローレンツ力が向心力となる円運動の運動方程式を立て、半径を求めます(問3)。
  4. 円運動の周期の公式から、半周にかかる時間を計算します(問4)。
  5. 最後に、エネルギー保存則(または仕事とエネルギーの関係)を用いて、加速後の速さを求め、その速さを使って新しい半径を計算します(問5)。

問(1)

思考の道筋とポイント
荷電粒子が描く軌道と、磁場から受ける力の関係に着目します。粒子は円運動をしているため、常に軌道の中心に向かって力が働いているはずです。この中心向きの力(向心力)がローレンツ力です。
図から、粒子の運動方向(速度の向き)と力の向きを読み取り、フレミングの左手の法則を適用して電荷の正負を判断します。

この設問における重要なポイント

  • フレミングの左手の法則と電流の向き: フレミングの左手の法則の中指が示すのは「電流の向き」です。正電荷の運動方向は電流の向きと一致しますが、負電荷の運動方向は電流の向きと逆になります。
  • 力の向きの特定: 図の軌道は、常に円の中心(左側)に向かって曲がっています。したがって、粒子が受けるローレンツ力は常に中心を向いています。

具体的な解説と立式
図において、粒子が上向きに運動している瞬間を考えます。このとき、速度の向きは上向きです。軌道が左に曲がっていることから、粒子は左向きの力(ローレンツ力)を受けていることがわかります。

ここで、フレミングの左手の法則を適用します。

  • 力の向き(親指): 左向き
  • 磁場の向き(人差し指): 紙面の表から裏へ向かう向き

このとき、電流の向き(中指)は上向きになります。

粒子の運動方向(上向き)と電流の向き(上向き)が一致したので、この荷電粒子の電荷は正であると判断できます。

使用した物理公式

  • フレミングの左手の法則
計算過程

この設問は向きを判断するだけなので、計算はありません。

この設問の平易な説明

荷電粒子が磁場の中で曲がる向きから、プラスの電気を持っているかマイナスの電気を持っているかを当てる問題です。フレミングの左手の法則を使います。人差し指を磁場の向き(紙の裏側)、親指を粒子が曲がる力の向き(円の中心)に合わせます。このとき、中指が向いた方向が「電流の向き」です。もし粒子の動く向きと中指の向きが同じなら、その粒子はプラスの電気を持っています。もし逆ならマイナスです。今回は同じ向きだったので、答えは「正」です。

結論と吟味

荷電粒子の電荷は正です。これはフレミングの左手の法則から一意に決まり、妥当な結論です。

解答 (1)

問(2)

思考の道筋とポイント
磁場中で運動する荷電粒子が受ける力、すなわちローレンツ力の大きさを求める問題です。ローレンツ力の公式 \(f=qvB\sin\theta\) を使います。問題文より、粒子は磁場に垂直に入射するので、速度と磁場のなす角 \(\theta\) は \(90^\circ\) です。

この設問における重要なポイント

  • ローレンツ力の公式: 大きさは \(f=qvB\sin\theta\) で与えられます。
  • 垂直条件: 速度 \(v\) と磁束密度 \(B\) が垂直なので、\(\sin\theta = \sin 90^\circ = 1\) となり、公式は \(F=qvB\) と簡略化されます。

具体的な解説と立式
荷電粒子が受けるローレンツ力の大きさ \(F\) は、電荷 \(q\)、速さ \(v_0\)、磁束密度 \(B\) を用いて次のように表されます。
$$ F = q v_0 B \sin\theta $$
粒子は磁場に垂直に入射するため、\(\theta = 90^\circ\) であり、\(\sin 90^\circ = 1\) です。したがって、
$$ F = q v_0 B $$

使用した物理公式

  • ローレンツ力: \(F = qvB\sin\theta\)
計算過程

公式に値を当てはめるだけなので、これ以上の計算はありません。

この設問の平易な説明

磁石の力(磁場)の中で電気を帯びた粒が動くと、力を受けます。この力の大きさは「粒の電気の量 \(q\)」「粒の速さ \(v_0\)」「磁場の強さ \(B\)」の3つを掛け合わせたものになります。今回は、これらを掛け合わせるだけで答えが求まります。

結論と吟味

力の大きさは \(F = qv_0 B\) です。これはローレンツ力の定義そのものであり、物理的に正しいです。

解答 (2) \( qv_0 B \)

問(3)

思考の道筋とポイント
粒子はディーの内部でローレンツ力を向心力として等速円運動をします。この物理現象を運動方程式で表現することで、半径 \(r_0\) を求めることができます。

この設問における重要なポイント

  • 向心力: 円運動を維持するためには、常に円の中心に向かう力(向心力)が必要です。この問題では、ローレンツ力がその役割を担っています。
  • 運動方程式: 円運動の運動方程式 \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = (\text{向心力})\) を立てます。

具体的な解説と立式
粒子は、(2)で求めたローレンツ力 \(F = qv_0 B\) を向心力として、速さ \(v_0\)、半径 \(r_0\) の等速円運動をします。

円運動の運動方程式は、
$$ m \frac{v_0^2}{r_0} = (\text{向心力}) $$
向心力はローレンツ力なので、
$$ m \frac{v_0^2}{r_0} = q v_0 B \quad \cdots ① $$

使用した物理公式

  • 円運動の運動方程式: \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = F\)
  • ローレンツ力: \(F = qvB\)
計算過程

①式を \(r_0\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
m \frac{v_0^2}{r_0} &= q v_0 B \\[2.0ex]
m \frac{v_0}{r_0} &= q B \\[2.0ex]
r_0 &= \frac{m v_0}{q B}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

粒子がクルクル回る円の大きさ(半径)を求める問題です。粒子が円運動できるのは、ローレンツ力という力が常に円の中心に向かって引っ張っているからです。この「引っ張る力」と、粒子がまっすぐ進もうとする勢い(慣性)が釣り合っている状態を数式にします。その数式を解くと、円の半径が計算できます。

結論と吟味

円軌道の半径は \(r_0 = \displaystyle\frac{mv_0}{qB}\) です。
この式は、粒子の質量 \(m\) や速さ \(v_0\) が大きいほど(勢いが強いほど)半径が大きくなり、電荷 \(q\) や磁場 \(B\) が大きいほど(引っ張る力が強いほど)半径が小さくなることを示しており、物理的に直感と一致します。

別解: 回転座標系(非慣性系)における力のつり合いを用いる解法

思考の道筋とポイント
粒子と共に円運動する観測者の視点(回転座標系)で考えます。この観測者から見ると、粒子は静止しているように見えます。非慣性系であるため、慣性力の一種である「遠心力」を考慮する必要があります。この座標系では、粒子に働く中心向きのローレンツ力と、中心から遠ざかる向きの遠心力がつり合っていると考えます。

この設問における重要なポイント

  • 回転座標系: 粒子と共に回転する視点で考える。このとき粒子は静止している。
  • 遠心力: 回転座標系で観測される見かけの力。大きさは \(m\displaystyle\frac{v^2}{r}\)(または \(mr\omega^2\))、向きは回転の中心から遠ざかる向き。
  • 力のつり合い: この座標系では、粒子に働くすべての力の合力はゼロになります。

具体的な解説と立式
粒子と共に速さ \(v_0\)、半径 \(r_0\) で円運動する観測者の立場に立つと、粒子には以下の2つの力が働いています。

  1. 中心向きのローレンツ力: \(F_{\text{ローレンツ}} = qv_0 B\)
  2. 中心から遠ざかる向きの遠心力: \(F_{\text{遠心力}} = m\displaystyle\frac{v_0^2}{r_0}\)

この観測者から見て粒子は静止しているので、これらの力はつり合っています。
$$ F_{\text{ローレンツ}} = F_{\text{遠心力}} $$
$$ qv_0 B = m\frac{v_0^2}{r_0} \quad \cdots ② $$

使用した物理公式

  • 力のつり合い: \(\sum F = 0\)
  • ローレンツ力: \(F = qvB\)
  • 遠心力: \(F = m\displaystyle\frac{v^2}{r}\)
計算過程

②式は、主たる解法の運動方程式①と全く同じ形です。これを \(r_0\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
q v_0 B &= m \frac{v_0^2}{r_0} \\[2.0ex]
q B &= m \frac{v_0}{r_0} \\[2.0ex]
r_0 &= \frac{m v_0}{q B}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

自分が粒子に乗って一緒にクルクル回っていると想像してみましょう。自分から見ると、粒子は止まっています。このとき、体には2つの力がかかっています。一つは磁場によって円の中心に引っ張られる「ローレンツ力」。もう一つは、カーブを曲がるときに外側に放り出されそうになる「遠心力」です。粒子が円軌道からずれないのは、この内向きの力と外向きの力がちょうど同じ強さでつり合っているからです。この「つり合い」を数式にして解くと、円の半径が計算できます。

結論と吟味

この別解でも、円軌道の半径は \(r_0 = \displaystyle\frac{mv_0}{qB}\) となり、主たる解法と完全に一致しました。「静止系での運動方程式」と「回転座標系での力のつり合い」は、同じ物理現象を異なる視点から記述したものであり、等価であることが確認できます。

解答 (3) \( \displaystyle\frac{mv_0}{qB} \)

問(4)

思考の道筋とポイント
ディーの内部では、粒子は等速円運動をします。半周するのにかかる時間は、円運動の周期 \(T\) の半分です。周期 \(T\) は、円周の長さ \(2\pi r_0\) を速さ \(v_0\) で割ることで求められます。

この設問における重要なポイント

  • 周期の計算: \(T = \displaystyle\frac{\text{円周}}{\text{速さ}} = \displaystyle\frac{2\pi r_0}{v_0}\)
  • 半周の時間: 求めたい時間は周期の半分、すなわち \(\displaystyle\frac{T}{2}\) です。
  • 周期の性質: (3)で求めた \(r_0\) を代入すると、周期が速さ \(v_0\) や半径 \(r_0\) に依存しない、一定の値になることがわかります。これはサイクロトロンの重要な原理です。

具体的な解説と立式
粒子が1周するのにかかる時間(周期)を \(T_0\) とすると、
$$ T_0 = \frac{2\pi r_0}{v_0} \quad \cdots ① $$
求めたいのは半周にかかる時間なので、これを \(t_{1/2}\) とすると、
$$ t_{1/2} = \frac{T_0}{2} = \frac{\pi r_0}{v_0} \quad \cdots ② $$

使用した物理公式

  • 等速円運動の周期: \(T = \displaystyle\frac{2\pi r}{v}\)
計算過程

②式に(3)で求めた \(r_0 = \displaystyle\frac{mv_0}{qB}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
t_{1/2} &= \frac{\pi}{v_0} \left( \frac{m v_0}{q B} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{\pi m}{q B}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

粒子が半円を描いてディーを通り抜ける時間を計算します。時間は「距離÷速さ」で計算できます。半円の距離は「円周の半分」です。円周は(3)で求めた半径を使って計算できます。これを粒子の速さで割ると、半周する時間が求まります。面白いことに、計算すると、この時間は粒子の速さや円の大きさに関係なく、一定の値になります。

結論と吟味

半周にかかる時間は \(\displaystyle\frac{\pi m}{qB}\) です。
この時間は、粒子の速さ \(v_0\) や半径 \(r_0\) に依存しません。これは、速い粒子ほど大きな円を描くため、半周する距離も長くなり、結果としてかかる時間が同じになるためです。この性質があるからこそ、一定周期の高周波電圧で効率よく加速できるのです。

別解: 角速度を用いる解法

思考の道筋とポイント
等速円運動を角速度 \(\omega\) を用いて記述する方法です。まず運動方程式から角速度 \(\omega\) を求めます。半周は中心角で \(\pi\) [rad] に相当するので、時間は「中心角 ÷ 角速度」で計算できます。

この設問における重要なポイント

  • 角速度と速さの関係: \(v = r\omega\)
  • 運動方程式(角速度版): \(m r \omega^2 = F\) または \(m \frac{v^2}{r} = F\) に \(v=r\omega\) を代入して導出します。
  • 時間と角速度の関係: 時間 \(t\) で回転する角度 \(\theta\) は \(\theta = \omega t\) で表されます。

具体的な解説と立式
円運動の運動方程式 \(m \displaystyle\frac{v_0^2}{r_0} = qv_0 B\) に、\(v_0 = r_0 \omega\) の関係を代入します。
$$ m \frac{(r_0 \omega)^2}{r_0} = q (r_0 \omega) B $$
これを \(\omega\) について解くと、
$$ m r_0 \omega^2 = q r_0 \omega B $$
$$ m \omega = q B $$
$$ \omega = \frac{qB}{m} \quad \cdots ③ $$
半周は角度にすると \(\pi\) [rad] です。かかる時間を \(t_{1/2}\) とすると、\(\pi = \omega t_{1/2}\) の関係が成り立ちます。
$$ t_{1/2} = \frac{\pi}{\omega} \quad \cdots ④ $$

使用した物理公式

  • 角速度と速さの関係: \(v=r\omega\)
  • 角度と角速度の関係: \(\theta = \omega t\)
計算過程

④式に③式で求めた \(\omega\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
t_{1/2} &= \frac{\pi}{\frac{qB}{m}} \\[2.0ex]
&= \frac{\pi m}{q B}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

円運動の速さを、1秒あたりに何回転するか(の仲間である角速度)で考える方法です。まず、粒子がどれくらいのペースで回転しているか(角速度)を計算します。半周は円の半分、つまり180度(\(\pi\)ラジアン)です。半周にかかる時間は、この角度を回転のペース(角速度)で割ることで計算できます。

結論と吟味

この別解でも、半周にかかる時間は \(\displaystyle\frac{\pi m}{qB}\) となり、主たる解法と完全に一致しました。角速度という物理量を用いることで、周期が速さや半径によらないというサイクロトロンの本質を、より直接的に理解することができます。

解答 (4) \( \displaystyle\frac{\pi m}{qB} \)

問(5)

思考の道筋とポイント
この設問は3つのパートに分かれています。

  1. 得るエネルギー: 粒子は電位差 \(V\) の間隙を通過することで、電場から仕事をされます。この仕事の分だけ運動エネルギーが増加します。
  2. 加速後の速さ: エネルギー保存則(または仕事とエネルギーの関係式)を立て、加速後の速さ \(v\) を求めます。
  3. 新しい半径: 加速後の速さ \(v\) を使って、(3)と同様に円運動の運動方程式から新しい半径 \(r\) を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 仕事とエネルギー: 電荷 \(q\) の粒子が電位差 \(V\) を通過するときに得るエネルギーは \(\Delta E = qV\) です。
  • エネルギー保存則: (加速前の運動エネルギー)+(電場からされた仕事)=(加速後の運動エネルギー)という関係式を立てます。
  • 半径の計算: (3)で導出した半径の公式 \(r = \displaystyle\frac{mv}{qB}\) に、新しく求めた速さ \(v\) を代入します。

具体的な解説と立式
1. 得るエネルギー \(\Delta E\)

電荷 \(q\) の粒子が電位差 \(V\) の間隙を通過するとき、電場からされる仕事は \(qV\) です。これがそのまま粒子の得るエネルギーになります。
$$ \Delta E = qV \quad \cdots ① $$
2. 加速後の速さ \(v\)

仕事と運動エネルギーの関係より、
$$ (\text{後の運動エネルギー}) – (\text{前の運動エネルギー}) = (\text{された仕事}) $$
$$ \frac{1}{2}mv^2 – \frac{1}{2}mv_0^2 = qV \quad \cdots ② $$
3. 新しい半径 \(r\)

加速後の速さ \(v\) での円運動の運動方程式は、
$$ m\frac{v^2}{r} = qvB \quad \cdots ③ $$
これを \(r\) について解くと、
$$ r = \frac{mv}{qB} \quad \cdots ④ $$

使用した物理公式

  • 電場がする仕事: \(W=qV\)
  • 運動エネルギー: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
  • 仕事とエネルギーの関係: \(K_f – K_i = W\)
  • 円運動の運動方程式: \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = F\)
計算過程

まず、②式を \(v\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv^2 &= \frac{1}{2}mv_0^2 + qV \\[2.0ex]
v^2 &= v_0^2 + \frac{2qV}{m} \\[2.0ex]
v &= \sqrt{v_0^2 + \frac{2qV}{m}}
\end{aligned}
$$
次に、この \(v\) を④式に代入して \(r\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
r &= \frac{m}{qB} v \\[2.0ex]
&= \frac{m}{qB} \sqrt{v_0^2 + \frac{2qV}{m}}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

粒子がディーの隙間を通り抜けるときに、電気の力で一気に加速されます。

  1. 得るエネルギー: このとき粒子が得るエネルギーは、電気の量 \(q\) と電圧 \(V\) を掛け合わせた \(qV\) です。
  2. 加速後の速さ: 元々持っていた運動エネルギーに、この \(qV\) が加算されます。この新しいエネルギーから、加速後の速さを計算します。
  3. 新しい半径: 速くなった粒子は、次にもっと大きな円を描いて回ります。この新しい速さを使って、(3)と同じように計算すると、新しい円の半径が求まります。
結論と吟味
  • 得るエネルギー: \(qV\)
  • 加速後の速さ: \(v = \sqrt{v_0^2 + \displaystyle\frac{2qV}{m}}\)
  • 新しい半径: \(r = \displaystyle\frac{m}{qB}\sqrt{v_0^2 + \displaystyle\frac{2qV}{m}}\)

速さ \(v\) は元の速さ \(v_0\) より大きくなり、半径 \(r\) も元の半径 \(r_0\) より大きくなっています。これは加速されてエネルギーが増えた結果として当然であり、物理的に妥当な結果です。

解答 (5)
得るエネルギー: \(qV\)
速さ \(v\): \( \sqrt{v_0^2 + \displaystyle\frac{2qV}{m}} \)
半径 \(r\): \( \displaystyle\frac{m}{qB}\sqrt{v_0^2 + \displaystyle\frac{2qV}{m}} \)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • ローレンツ力と円運動の運動方程式:
    • 核心: 磁場中で運動する荷電粒子は、進行方向と磁場に垂直な向きにローレンツ力 \(F=qvB\) を受けます。この力が常に向心力として働くことで、粒子は等速円運動を行います。この関係を運動方程式 \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = qvB\) として立式できることが、この問題群を解く上での最大の鍵です。
    • 理解のポイント: ローレンツ力は速度に比例し、向心加速度は速度の2乗に比例します。この関係から、半径 \(r\) や周期 \(T\) がどのように決まるかを導出する一連の流れをマスターすることが重要です。
  • 仕事とエネルギーの関係(エネルギー保存則):
    • 核心: 荷電粒子がディーの間隙を通過する際、電位差 \(V\) の電場から \(W=qV\) の仕事をされます。この仕事は、そのまま粒子の運動エネルギーの増加分 \(\Delta K\) となります。つまり、\(\displaystyle\frac{1}{2}mv_{\text{後}}^2 – \displaystyle\frac{1}{2}mv_{\text{前}}^2 = qV\) が成り立ちます。
    • 理解のポイント: サイクロトロンは、磁場(円運動させる)と電場(加速する)という2つの場の役割分担によって成り立っています。磁場は荷電粒子に対して仕事をしない(ローレンツ力は常に速度と垂直なため)のに対し、電場は加速(仕事をする)の役割を担っている、という明確な役割分担を理解することが核心です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 質量分析器: 磁場中で荷電粒子を円運動させ、その半径の違いから質量や電荷を特定する装置。円運動の半径の式 \(r = \displaystyle\frac{mv}{qB}\) が直接的に応用されます。
    • 速度選択器: 直交する電場と磁場を使い、特定の速さの粒子だけを直進させる装置。ローレンツ力 \(qvB\) と静電気力 \(qE\) のつり合い \(v=E/B\) を利用します。
    • ホール効果: 導体内の荷電キャリア(電子など)が磁場からローレンツ力を受け、導体の側面に偏ることで電位差(ホール電圧)が生じる現象。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 場の種類を特定する: 粒子が存在する空間に、磁場だけがあるのか、電場だけがあるのか、あるいは両方があるのかをまず確認します。
    2. 場ごとの役割を考える:
      • 磁場のみの領域 → ローレンツ力による等速円運動(または、らせん運動)を考え、運動方程式を立てる。
      • 電場のみの領域 → 静電気力による加速・減速を考え、仕事とエネルギーの関係(または、等加速度運動の式)を立てる。
      • 電場と磁場が両方ある領域 → ローレンツ力と静電気力の合力を考え、運動方程式やつり合いの式を立てる。
    3. 初期条件と変化を確認する: 粒子の初速はいくつか?どのタイミングで加速されるか?など、時系列に沿って粒子の状態(速さ、エネルギー、半径)がどう変化するかを追跡します。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • ローレンツ力と静電気力の混同:
    • 誤解: 磁場中でも電場中でも同じように加速されると考えてしまう。
    • 対策: 「磁場は荷電粒子を曲げるだけで、速さを変えない(仕事をしない)」「電場は荷電粒子を加速・減速させる(仕事をする)」という役割分担を明確に区別して覚えましょう。
  • 周期の依存性の誤解:
    • 誤解: 速い粒子ほど周期は短くなる(速く1周する)と考えてしまう。
    • 対策: 問(4)の計算結果 \(T = \displaystyle\frac{2\pi m}{qB}\) をしっかり確認すること。「速い粒子は、その分だけ大きな円を描くので、結局1周にかかる時間は同じになる」という物理的イメージを持つことが重要です。これがサイクロトロンの動作原理の根幹です。
  • フレミングの左手の法則の誤用:
    • 誤解: 負電荷の粒子の場合に、電流の向きを運動の向きと同じにしてしまう。
    • 対策: 法則の中指はあくまで「電流の向き」であり、「正電荷の運動方向」と定義されていることを再確認しましょう。負電荷(電子など)の場合は、運動の向きと逆向きに中指を合わせる必要があります。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • らせん階段を上るイメージ: サイクロトロンの軌道は、平面的には渦巻きですが、加速によってエネルギーという「高さ」が増していくと考えると、らせん階段を駆け上っていくイメージと結びつきます。ディー内では同じ階(エネルギー)をぐるっと回り、間隙で一気に次の階へ上がる、というイメージです。
    • 力のベクトル図: 任意の点(例えば軌道の頂点や底)で、粒子の速度ベクトル \(\vec{v}\) と、それに対して常に中心を向き、直角をなすローレンツ力ベクトル \(\vec{F}\) を描く練習をしましょう。これにより、なぜ磁場が仕事をしないのか(力と変位が常に垂直)を視覚的に理解できます。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 半径の増加を明確に描く: 間隙を通過するたびに、円軌道の半径が明らかに大きくなるように描くと、加速の様子がよくわかります。
    • 力の向き: どの点においても、力のベクトル(ローレンツ力)の矢印の根元が粒子にあり、矢印の先端が円軌道の中心を指すように正確に描くことが重要です。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 円運動の運動方程式 \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = F\):
    • 選定理由: 問題文に「円運動」や「円軌道」というキーワードがあるため、円運動を記述するための基本法則であるこの式を選択します。
    • 適用根拠: 粒子がローレンツ力という常に中心を向く力を受けて運動しているため、この法則が適用できます。右辺の \(F\) に、向心力として働く具体的な力(今回はローレンツ力)を代入します。
  • 仕事とエネルギーの関係 \(\Delta K = qV\):
    • 選定理由: 問題文に「加速」「電位差V」というキーワードがあるため、電場による仕事とエネルギー変化を結びつけるこの公式を選択します。
    • 適用根拠: 粒子がディーの間隙で電場から静電気力を受けて仕事をされ、その結果として速さ(運動エネルギー)が変化するという状況に、この法則が直接適用できます。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1)-(3) 初期の円運動の解析:
    • 戦略: 磁場中での円運動なので、運動方程式を立てる。
    • フロー: ①力の向きをフレミングの法則で判断(問1)→ ②力の大きさをローレンツ力の公式で表現(問2)→ ③運動方程式 \(m\frac{v_0^2}{r_0} = qv_0B\) を立式 → ④式を \(r_0\) について解く(問3)。
  2. (4) 半周時間の計算:
    • 戦略: 等速円運動の性質から、周期を求めて半分にする。
    • フロー: ①周期の定義式 \(T_0 = \frac{2\pi r_0}{v_0}\) を立てる → ②(3)で求めた \(r_0\) を代入し、\(T_0\) を \(m, q, B\) で表す → ③半周の時間 \(t_{1/2} = T_0/2\) を計算する。
  3. (5) 加速プロセスの解析:
    • 戦略: 間隙では電場で加速、ディー内では磁場で円運動、という2段階で考える。
    • フロー: ①間隙で得るエネルギーを \(\Delta E = qV\) で計算 → ②エネルギー保存則 \(\frac{1}{2}mv^2 = \frac{1}{2}mv_0^2 + qV\) を立て、加速後の速さ \(v\) を求める → ③新しい速さ \(v\) を使って、円運動の半径の公式 \(r = \frac{mv}{qB}\) に代入し、新しい半径 \(r\) を求める。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 文字の消去を丁寧に行う: 問(3)の \(m\displaystyle\frac{v_0^2}{r_0} = qv_0B\) の式変形では、両辺の \(v_0\) を一つずつ消去します。焦って \(v_0^2\) ごと消してしまうようなミスに注意しましょう。
  • 平方根の扱い: 問(5)で速さ \(v\) を求めるとき、\(v^2 = v_0^2 + \displaystyle\frac{2qV}{m}\) となります。ここで2乗を外し忘れないこと。また、ルートの中身が和の形になっているので、\(\sqrt{v_0^2} + \sqrt{\frac{2qV}{m}}\) のように安易に分離しないように注意が必要です。
  • 一貫した記号の使用: 加速前の速さを \(v_0\)、半径を \(r_0\)、加速後の速さを \(v\)、半径を \(r\) のように、状態に応じて記号を明確に使い分けることで、混乱を防ぎます。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • 半径 \(r_0\): \(r_0 = \displaystyle\frac{mv_0}{qB}\)。粒子の運動量 \(mv_0\) が大きいほど曲がりにくく(半径大)、磁場からの力(\(qB\) に比例)が強いほど曲がりやすい(半径小)。直感と一致しており妥当です。
    • 時間 \(t_{1/2}\): \(t_{1/2} = \displaystyle\frac{\pi m}{qB}\)。速さ \(v_0\) や半径 \(r_0\) に依存しない。これはサイクロトロンの原理そのものであり、非常に重要な結果です。妥当性を超えて、この問題の核心と言えます。
    • 加速後の速さと半径: 問(5)で求めた \(v\) は \(v_0\) より大きく、\(r\) は \(r_0\) より大きくなっています。加速されたのだから当然の結果であり、妥当です。
  • 別解との比較:
    • 問(3)では、静止系での運動方程式と、回転座標系での力のつり合いという、全く異なる2つの視点からアプローチしました。両者で全く同じ結果が得られたことは、それぞれの解法の正しさと、慣性力の概念の有効性を裏付けています。
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443 磁場内での荷電粒子の運動

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、磁場が存在する領域と存在しない領域にまたがって運動する荷電粒子の軌跡を分析する問題です。磁場中ではローレンツ力による円運動、磁場のない領域では等速直線運動をすることを理解し、幾何学的な考察を加えて軌道のパラメータを決定する能力が問われます。

与えられた条件
  • 荷電粒子: 質量 \(m\)、電荷 \(+q\)
  • 磁場: \(x>0\) の領域にのみ、磁束密度 \(B\) の一様な磁場(紙面裏から表向き)が存在する。
  • 初期条件: 点P\((-L, d)\) から、速さ \(v\) で打ち出す。
  • 幾何学的条件: \(L>0\), \(d>0\)
問われていること
  • (1) 角度 \(\theta=0\) で打ち出した場合
    • 磁場領域の滞在時間
    • 再びy軸を横切る際のy座標
  • (2) 角度 \(\theta=\displaystyle\frac{\pi}{3}\) で打ち出し、粒子が点Pに戻ってきた場合
    • 磁束密度 \(B\) の大きさ
  • (3) (2)の条件のとき
    • 粒子が点Pを出てから再び点Pに戻るまでの全時間

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 問(1), (2)の別解: 回転座標系(非慣性系)における力のつり合いを用いる解法
      • 模範解答が静止系(実験室系)から見て「ローレンツ力=向心力」として運動方程式を立てるのに対し、別解では粒子と共に回転する座標系から見て「ローレンツ力と遠心力がつり合っている」という力のつり合いの式を立てて半径を求めます。
    • 問(3)の別解: 各区間の移動距離を速さで割る方法
      • 模範解答が磁場領域での運動時間を周期との比例計算で求めるのに対し、別解では円弧の長さを直接計算し、それを速さ \(v\) で割ることで時間を求めます。これはより直感的で、基本的な「時間=距離÷速さ」の考え方に忠実なアプローチです。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 多様な視点の獲得(問1, 2別解): 静止系での運動方程式と、回転座標系での力のつり合いが、数学的に等価な物理現象の異なる表現であることを理解できます。これにより、慣性力の概念への理解が深まります。
    • 基礎概念の再確認(問3別解): 「時間=距離÷速さ」という物理学の最も基本的な関係式を、円運動という少し複雑な状況に適用する良い練習になります。
    • 計算アプローチの多様化(問3別解): 周期との比例関係という少し抽象的なアプローチだけでなく、具体的な道のりを計算するという、より具体的なアプローチを学ぶことで、問題解決の選択肢が広がります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「一様な磁場中での荷電粒子の運動と幾何学」です。粒子は磁場中では円運動、磁場外では等速直線運動という、2つの異なる運動を組み合わせた軌道を描きます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. ローレンツ力と円運動: 磁場中では、ローレンツ力 \(F=qvB\) が向心力となり、粒子は等速円運動をします。運動方程式は \(m\displaystyle\frac{v^2}{r}=qvB\) です。
  2. 円運動の半径と周期: 上記の運動方程式から、半径 \(r=\displaystyle\frac{mv}{qB}\) と周期 \(T=\displaystyle\frac{2\pi m}{qB}\) が導かれます。
  3. 等速直線運動: 磁場のない領域では、粒子は力を受けないため、打ち出されたときの速さと向きを保ったまま直進します。
  4. 軌道の幾何学: 粒子の軌道は円弧と直線を組み合わせた形になります。三角形の辺の比や角度の関係(三角関数)を正しく利用して、軌道のパラメータを求める必要があります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、磁場中での円運動の基本式(半径、周期)を運動方程式から導出します。
  2. 各設問の条件(入射角 \(\theta\))に応じて、粒子が描く軌道の概形を図示し、幾何学的な関係を読み取ります。
  3. 問(1)では、半円を描く運動として、滞在時間と座標を計算します。
  4. 問(2), (3)では、入射角が \(\displaystyle\frac{\pi}{3}\) の場合の複雑な軌道を、図と三角関数を用いて解析し、半径や移動時間を計算します。

問(1)

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