390 電気力線と平行板コンデンサー
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、電気力線の性質と電場の重ね合わせの原理を用いて、平行板コンデンサーの基本的な特性(電場、電位差、電気容量)を導出する問題です。一つ一つの物理法則を丁寧に適用していくことが求められます。
- 正の電気量 \(q\) の電荷から出る電気力線の本数: \(4\pi kq\) 本
- 電場の強さ: 単位面積を垂直に貫く電気力線の本数に等しい
- 金属板A: 面積 \(S\), 電荷 \(+Q\) (\(Q>0\))
- 金属板B: 面積 \(S\), 電荷 \(-Q\)
- 極板間距離: \(d\)
- 仮定: 金属板は十分に広く、電荷は一様に分布する
- (ア) 金属板Aの片面から出る電気力線の本数
- (イ) 金属板Aが単独でつくる一様な電場の強さ \(E_A\)
- (ウ) コンデンサーの極板間の電場の強さ \(E\)
- (エ) コンデンサーの極板の外の電場の強さ \(E\)
- (オ) 極板間の電位差 \(V\)
- (カ) コンデンサーの電気容量 \(C\)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 設問(ウ)の別解: ガウスの法則を直接適用する解法
- 模範解答が「単独の極板が作る電場の重ね合わせ」で考えるのに対し、別解ではコンデンサーを一つの系とみなし、その内部に仮想的な閉曲面(ガウス面)を設定して、極板間の電場を直接導出します。
- 設問(ウ)の別解: ガウスの法則を直接適用する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: コンデンサーを形成すると、電荷が向かい合う内側の面に集中するという、より現実的な電荷分布の理解につながります。
- ガウスの法則の応用: 電気力線の本数という概念の元になっている、より根源的な法則であるガウスの法則の具体的な適用例を学ぶことができます。
- 異なる視点の学習: 「重ね合わせ」という分析的なアプローチに対し、「系全体」で考える統合的なアプローチを体験でき、問題解決の視野が広がります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、思考のプロセスが異なるだけで、最終的に得られる電場の強さや電気容量の式は模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「電気力線と重ね合わせの原理によるコンデンサーの分析」です。与えられた法則を段階的に適用することが鍵となります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 電気力線の本数: 電荷 \(q\) からは \(4\pi kq\) 本の電気力線が湧き出す。
- 電場と電気力線の関係: 電場の強さ \(E\) は、単位面積を垂直に貫く電気力線の本数に等しい。
- 電場の重ね合わせの原理: 複数の電荷がつくる電場は、それぞれの電荷が単独でつくる電場のベクトル和で与えられる。
- コンデンサーの基本公式: \(Q=CV\) と、一様な電場における電位差の式 \(V=Ed\)。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、金属板Aが単独で存在する場合を考え、片面から出る電気力線の本数と、それがつくる電場の強さを求めます(ア、イ)。
- 次に、金属板AとBを対面させたコンデンサーを考えます。極板間と極板外の各点で、Aがつくる電場とBがつくる電場を重ね合わせ、合成電場を求めます(ウ、エ)。
- 求めた電場から電位差を計算し(オ)、最終的にコンデンサーの電気容量を導出します(カ)。
(ア) 片面から出る電気力線の本数
思考の道筋とポイント
金属板Aに与えられた総電荷 \(Q\) から出る電気力線の総本数をまず計算します。問題の仮定より、金属板は十分に広く電荷は一様に分布しているため、電気力線は板の表裏両面に左右対称に出ると考え、総本数を2で割ることで片面の本数を求めます。
この設問における重要なポイント
- 総電気力線数: 電荷 \(Q\) から出る電気力線の総本数は、公式より \(4\pi kQ\) 本です。
- 対称性: 十分に広い平面導体では、周囲に他の電荷がなければ、電気力線は表裏の両面に均等に(半分ずつ)出ます。
具体的な解説と立式
金属板Aが持つ電荷は \(Q\) です。この電荷から出る電気力線の総本数 \(N_{\text{総}}\) は、与えられた法則から次式で表せます。
$$ N_{\text{総}} = 4\pi kQ \quad \cdots ① $$
金属板は十分に広く、電荷は一様に分布しているため、電気力線は板の両面に等しく、対称的に出ていきます。したがって、片面から出る電気力線の本数 \(N_{\text{片面}}\) は、総本数の半分になります。
$$ N_{\text{片面}} = \frac{N_{\text{総}}}{2} \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 電気力線の本数: \(N = 4\pi kq\)
②式に①式を代入して \(N_{\text{片面}}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
N_{\text{片面}} &= \frac{4\pi kQ}{2} \\[2.0ex]
&= 2\pi kQ
\end{aligned}
$$
よって、片面から出る電気力線の本数は \(2\pi kQ\) 本となります。
金属板に溜まった電気 \(Q\) からは、全部で \(4\pi kQ\) 本の電気の矢印(電気力線)が出てきます。板はとても広くて平らなので、矢印は表側と裏側にちょうど半分ずつ、きれいに出ていくと考えられます。だから、片側から出る矢印の本数は、全体の半分になります。
金属板Aの片面から出る電気力線の本数は \(2\pi kQ\) 本です。これは、電荷から出る電気力線が空間に均等に広がろうとする性質を反映した妥当な結果です。
(イ) Aが作る電場の強さ \(E_A\)
思考の道筋とポイント
電場の強さは、定義により「単位面積を垂直に貫く電気力線の本数」です。(ア)で求めた片面から出る電気力線の本数を、その電気力線が貫く面の面積、すなわち金属板の面積 \(S\) で割ることで求められます。
この設問における重要なポイント
- 電場の定義: \(E = \displaystyle\frac{(\text{電気力線の本数})}{(\text{面積})}\)
- 一様な電場: 十分に広い平面からは、距離によらずどこでも強さと向きが同じ「一様な電場」が生じます。
具体的な解説と立式
電場の強さの定義に従い、金属板Aが片側につくる電場の強さ \(E_A\) は、(ア)で求めた片面から出る電気力線の本数 \(N_{\text{片面}}\) を、板の面積 \(S\) で割ることで与えられます。
$$ E_A = \frac{N_{\text{片面}}}{S} \quad \cdots ③ $$
使用した物理公式
- 電場の強さの定義
③式に(ア)の結果 \(N_{\text{片面}} = 2\pi kQ\) を代入します。
$$
E_A = \frac{2\pi kQ}{S}
$$
電場の強さとは、いわば「電気の矢印の混み具合」のことです。1平方メートルあたりに何本の矢印が突き刺さっているかを表します。(ア)で計算した片面から出る矢印の総本数を、板の面積 \(S\) で割り算することで、この混み具合を計算できます。
金属板Aが単独でつくる電場の強さは \(E_A = \displaystyle\frac{2\pi kQ}{S}\) です。この電場は、板からの距離によらない一様な電場となります。
(ウ) コンデンサー内部の電場の強さ \(E\)
思考の道筋とポイント
コンデンサーの極板間のように、複数の電荷が存在する場所の電場は、「重ね合わせの原理」によって求めることができます。極板間の任意の点において、金属板Aが作る電場と金属板Bが作る電場をベクトル的に足し合わせます。
この設問における重要なポイント
- 重ね合わせの原理: 合成電場は、それぞれの電荷が単独でつくる電場のベクトル和で求められます。
- 電場の向き: 電場は正電荷から湧き出し、負電荷に吸い込まれる向きをもちます。極板間では、Aが作る電場とBが作る電場は同じ向きになります。
- Bが作る電場: 金属板Bは電荷 \(-Q\) を持ちますが、電場の「強さ(大きさ)」を考える際は電荷の絶対値 \(|-Q|=Q\) を用います。したがって、Bが片側につくる電場の強さ \(E_B\) の大きさも \(E_A\) と同じ \(\displaystyle\frac{2\pi kQ}{S}\) です。
具体的な解説と立式
極板間の任意の点での電場を考えます。
1. 金属板A(電荷 \(+Q\))は、その点に右向き(A→Bの向き)の電場 \(E_A\) をつくります。
2. 金属板B(電荷 \(-Q\))は、その点に右向き(Bに吸い込まれる向き)の電場 \(E_B\) をつくります。
両者の電場の強さ(大きさ)は等しく、
$$ E_A = E_B = \frac{2\pi kQ}{S} $$
極板間では、この2つの電場は同じ向きを向いているため、合成電場 \(E\) の強さは単純な和となります。
$$ E = E_A + E_B \quad \cdots ④ $$
使用した物理公式
- 電場の重ね合わせの原理
④式に \(E_A\) と \(E_B\) の値を代入します。
$$
\begin{aligned}
E &= \frac{2\pi kQ}{S} + \frac{2\pi kQ}{S} \\[2.0ex]
&= \frac{4\pi kQ}{S}
\end{aligned}
$$
コンデンサーの内側では、プラスの板Aから出る電気の矢印(右向き)と、マイナスの板Bに吸い込まれる電気の矢印(これも右向き)が、どちらも同じ方向を向いて進みます。そのため、2つの電場は互いに強め合い、合成された電場の強さはAまたはBが単独でつくる電場の2倍になります。
コンデンサーの極板間の電場の強さは \(E = \displaystyle\frac{4\pi kQ}{S}\) です。単独の極板の場合の2倍の強さになっており、重ね合わせの原理から妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
コンデンサーを一つの系とみなし、ガウスの法則を適用して内部の電場を直接求めます。コンデンサーでは、正負の電荷が互いに引き合うため、電荷は向かい合う内側の面にのみ存在すると考えます。この性質を利用し、極板Aの内面を内部に含むような仮想的な箱(ガウス面)を設定し、法則を適用します。
この設問における重要なポイント
- コンデンサーの電荷分布: 互いに引き合うため、電荷 \(+Q\) と \(-Q\) はそれぞれ向かい合う内側の面にすべて分布します。
- ガウスの法則: 任意の閉曲面を貫いて外へ出ていく電気力線の総本数は、その閉曲面の内部にある電気量の \(4\pi k\) 倍に等しい。
- 導体内部の電場: 導体の内部では電場は0です。
具体的な解説と立式
極板Aの内面をまたぐように、断面積 \(A_0\) の箱型のガウス面を考えます(箱の左面はAの導体内部、右面は極板間の空間に位置させます)。
コンデンサーでは電荷 \(Q\) はすべて面積 \(S\) の内面に分布するので、電荷密度は \(\sigma = Q/S\) です。ガウス面内部に含まれる電気量 \(Q_{\text{内部}}\) は、
$$ Q_{\text{内部}} = \sigma A_0 = \frac{Q}{S} A_0 \quad \cdots ⑤ $$
ガウスの法則より、この面から出ていく電気力線の総本数 \(N_{\text{通過}}\) は、
$$ N_{\text{通過}} = 4\pi k Q_{\text{内部}} \quad \cdots ⑥ $$
一方、実際に電気力線が通過するのは、電場が存在する箱の右面(面積 \(A_0\))のみです。箱の左面は導体内部(電場0)、側面は電場に平行なので電気力線は貫きません。したがって、
$$ N_{\text{通過}} = E \times A_0 \quad \cdots ⑦ $$
⑥式と⑦式から、電場 \(E\) を求める関係式が得られます。
$$ E A_0 = 4\pi k \left( \frac{Q}{S} A_0 \right) $$
使用した物理公式
- ガウスの法則
- 導体内部の電場は0
上の式の両辺から \(A_0\) を消去します。
$$
E = \frac{4\pi kQ}{S}
$$
この別解では、コンデンサーの内側の電場を調べるために、特別な「調査用の箱」を考えます。この箱を、片方の金属板に少しだけめり込ませるように置きます。「ガウスの法則」という物理ルールによれば、「箱の中にある電気の量」と「箱から飛び出す電気の矢印の本数」は比例関係にあります。箱から矢印が飛び出すのは極板間の空間に面した側だけなので、そこから電場の強さ(矢印の混み具合)を直接計算することができます。
ガウスの法則を直接用いても、電場の強さは \(E = \displaystyle\frac{4\pi kQ}{S}\) となり、重ね合わせで考えた結果と完全に一致します。これにより、両方の考え方の正しさが確認できます。
(エ) コンデンサー外部の電場の強さ \(E\)
思考の道筋とポイント
極板の外側の空間(例えばAの左側)でも、重ね合わせの原理を適用します。Aが作る電場とBが作る電場の向きを考えると、互いに逆向きになるため、強さは打ち消し合います。
この設問における重要なポイント
- 重ね合わせの原理: ここでも合成電場はベクトル和で考えます。
- 電場の向き: Aの左側の空間では、Aが作る電場は左向き、Bが作る電場は右向きとなります。
具体的な解説と立式
金属板Aの左側の空間にある任意の点での電場を考えます。
1. 金属板A(電荷 \(+Q\))は、その点に左向きの電場 \(E_A\) をつくります。
2. 金属板B(電荷 \(-Q\))は、その点に右向きの電場 \(E_B\) をつくります。
\(E_A\) と \(E_B\) の大きさは等しく \(\displaystyle\frac{2\pi kQ}{S}\) です。
この空間では、2つの電場は互いに逆向きを向いているため、合成電場 \(E\) の強さは、大きさの差となります。
$$ E = E_A – E_B $$
使用した物理公式
- 電場の重ね合わせの原理
大きさが等しいので、
$$
\begin{aligned}
E &= \frac{2\pi kQ}{S} – \frac{2\pi kQ}{S} \\[2.0ex]
&= 0
\end{aligned}
$$
コンデンサーの外側では、プラスの板Aから出る電気の矢印(外向き)と、マイナスの板Bが作る電気の矢印(Bに向かう向き)が、ちょうど反対方向を向きます。それぞれの矢印の勢い(電場の強さ)は同じなので、きれいに打ち消し合って、結果として電場はゼロになります。
コンデンサーの極板の外では電場は0になります。これは、コンデンサーが電気エネルギーを極板間に効率よく閉じ込める装置であるという性質を反映しており、物理的に妥当な結果です。
(オ) 極板間の電位差 \(V\)
思考の道筋とポイント
(ウ)で求めたように、極板間の電場は強さ \(E\) で一様です。一様な電場中での電位差は、電場の強さと距離の積で与えられるという基本公式 \(V=Ed\) を用います。
この設問における重要なポイント
- 一様な電場と電位差: 電場の強さ \(E\) が一定の空間で、電場の向きに距離 \(d\) だけ離れた2点間の電位差(電圧)は \(V=Ed\) で計算できます。
具体的な解説と立式
極板間の電場の強さは \(E\)、極板間の距離は \(d\) です。一様な電場と電位差の関係式は次の通りです。
$$ V = Ed $$
この問題では、この関係式そのものが問われています。
使用した物理公式
- 一様な電場における電位差: \(V=Ed\)
この設問は公式を当てはめるだけなので、具体的な数値計算はありません。
電位差(電圧)は、電気的な「坂道の高さ」のようなものです。これは「坂道の傾き(電場の強さ \(E\))」と「坂道の水平距離(極板間距離 \(d\))」を掛け合わせたものとして計算できます。
極板間の電位差は \(V=Ed\) で与えられます。これは電場と電位の最も基本的な関係式の一つです。
(カ) 電気容量 \(C\)
思考の道筋とポイント
コンデンサーの電気容量 \(C\) は、その定義式 \(Q=CV\) によって与えられます。この式と、これまでに導出した関係式((ウ)の \(E\) と (オ)の \(V\))を組み合わせることで、\(C\) を \(S\), \(d\), \(k\) などの基本量で表します。
この設問における重要なポイント
- 電気容量の定義: \(C = \displaystyle\frac{Q}{V}\)。コンデンサーに \(Q\) の電荷を蓄えたときの電位差が \(V\) であるとき、その比が電気容量 \(C\) です。
- 結果の統合: (ウ)で求めた \(E = \displaystyle\frac{4\pi kQ}{S}\) と、(オ)の関係式 \(V=Ed\) を統合して \(Q\) と \(V\) の関係を導きます。
具体的な解説と立式
まず、(オ)の式 \(V=Ed\) に、(ウ)で求めた \(E\) の式を代入して、\(V\) を \(Q\) で表します。
$$ V = \left( \frac{4\pi kQ}{S} \right) d \quad \cdots ⑧ $$
この式を、電気容量の定義式 \(Q=CV\) の形になるように、\(Q\) について解きます。
使用した物理公式
- コンデンサーの定義式: \(Q=CV\)
- 一様な電場における電位差: \(V=Ed\)
⑧式を \(Q\) について整理します。
$$
\begin{aligned}
V &= \frac{4\pi kd}{S} Q \\[2.0ex]
Q &= \frac{S}{4\pi kd} V
\end{aligned}
$$
この式を、コンデンサーの基本式 \(Q=CV\) と比較します。係数部分が電気容量 \(C\) に対応します。
$$ C = \frac{S}{4\pi kd} $$
これは、\(\displaystyle C = \frac{1}{4\pi k} \cdot \frac{S}{d}\) と書くこともできます。
電気容量 \(C\) は、そのコンデンサーが「どれだけ電気を溜めやすいか」を示す性能値です。具体的には「1ボルトの電圧をかけたときに、どれだけの電気量 \(Q\) が溜まるか」で決まります。これまでの計算で、電圧 \(V\) と電気量 \(Q\) の関係式がわかったので、その式を \(Q = (\text{定数}) \times V\) の形に直したときの、定数の部分が電気容量 \(C\) になります。
平行板コンデンサーの電気容量は \(C = \displaystyle\frac{1}{4\pi k} \cdot \frac{S}{d}\) となります。この式から、電気容量は極板の面積 \(S\) に比例し、極板間の距離 \(d\) に反比例することがわかります。これは、面積が広いほど、また距離が近いほど多くの電荷を蓄えられるという直感とも一致し、妥当な結果です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 電気力線の性質と電場の定義:
- 核心: この問題は、ガウスの法則の簡易版ともいえる「電荷 \(q\) から \(4\pi kq\) 本の電気力線が出る」という法則と、「電場の強さは単位面積あたりの電気力線の本数である」という定義から出発します。この2つのルールを組み合わせることで、電荷分布から電場の強さを求めることができます。
- 理解のポイント: 電気力線は単なる矢印ではなく、その「本数」と「密度」がそれぞれ電荷の大きさと電場の強さという物理量に直結している、という概念を理解することが全ての土台となります。
- 電場の重ね合わせの原理:
- 核心: 複数の電荷が存在する空間の電場は、それぞれの電荷が単独でつくる電場を、その場でベクトル的に足し合わせることで求められます。
- 理解のポイント: コンデンサーの極板間では、正極板がつくる電場と負極板がつくる電場が同じ向きで強め合い、極板の外では逆向きで打ち消し合う、という現象を正しく理解することが、(ウ)と(エ)を解く鍵です。この原理は、電場だけでなく、電位や力など、多くの物理量に適用できる普遍的な考え方です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 同軸円筒コンデンサー: 内側の円筒と外側の円筒で構成されるコンデンサー。中心からの距離 \(r\) の点での電場の強さをガウスの法則で求め、電場を積分して電位差を計算し、電気容量を導出します。
- 球コンデンサー: 中心の球と外側の球殻で構成されるコンデンサー。これも同様に、ガウスの法則と電位の計算を組み合わせます。
- 誘電体を挿入したコンデンサー: 極板間に誘電体を入れると、誘電分極によって電場が弱められます。この弱まる効果を考慮して、電場、電位差、電気容量の変化を計算する問題。
- 初見の問題での着眼点:
- 系の対称性を見抜く: 問題の電荷分布が平面対称、円筒対称、球対称のいずれかであるかを確認します。対称性が高いほど、ガウスの法則が有効に機能し、計算が簡単になります。
- 電場の向きを最初に考える: 重ね合わせを適用する前に、各電荷がつくる電場の向きを、考える点ごとに図示します。これにより、ベクトル和が単純な足し算になるのか、引き算になるのかを間違えずに判断できます。
- 基本定義に立ち返る: 電気容量 \(C\) を求めたい場合、最終目標は \(Q=CV\) の形に持ち込むことです。そのために、まず \(E\) を求め、次に \(V=Ed\) (または積分)で \(V\) を求め、最後に \(Q\) と \(V\) の関係式を整理する、という一連の流れを意識します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 電気力線数の計算ミス:
- 誤解: 金属板Aから出る電気力線を \(4\pi kQ\) 本としてしまい、(ア)で2で割るのを忘れる。
- 対策: 「単独の十分に広い導体板」の場合、電気力線は表と裏の両面に均等に出る、という原則をしっかり覚えておきましょう。図を描いて、両側に出ていく様子をイメージすることが有効です。
- 重ね合わせでの向きの間違い:
- 誤解: 極板間で、Aの電場とBの電場を引いてしまう、または極板外で足してしまう。
- 対策: 必ず、考えている点に「+1Cの試験電荷」を置いたと仮定し、それがAから受ける力(斥力)の向きと、Bから受ける力(引力)の向きを個別に考えます。この「力の向き」が電場の向きです。この一手間を惜しまないことがミスを防ぎます。
- 公式の混同:
- 誤解: 点電荷の電場の公式 \(E = k\displaystyle\frac{Q}{r^2}\) を、平面電荷の電場計算に使ってしまう。
- 対策: 電場の公式は、電荷の分布形状(点、線、面、球など)によって全く異なります。問題がどの形状を扱っているのかを最初に確認し、適切な公式や法則(この問題では電気力線の本数と密度の定義)を選択する習慣をつけましょう。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 電気力線による電場の可視化: 問題の図のように、電気力線を描くことは非常に有効です。正電荷から湧き出し、負電荷に吸い込まれる様子を描きます。線の密度が電場の強さを、線の向きが電場の向きを表すことを意識します。
- 重ね合わせの図解: 極板間と極板外のそれぞれで、Aが作る電場(例:青い矢印)とBが作る電場(例:赤い矢印)を、同じ点から描き出してみます。極板間では青と赤の矢印が同じ向きに、極板外では逆向きになることが視覚的に一目瞭然となります。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 線の密度を意識する: 極板間では、Aの電場とBの電場が重なり、電気力線の密度が2倍になるイメージを描きます。一方、極板外では線が打ち消し合ってなくなる様子を描きます。
- 対称性を表現する: 単独の金属板Aを描くときは、板の左右両側に同じ本数(同じ密度)の電気力線が伸びていくように描くことで、(ア)の「2で割る」操作の根拠を視覚的に補強できます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 電気力線の本数 \(N=4\pi kq\):
- 選定理由: これはガウスの法則を、より直感的な「電気力線」という概念で表現したものです。問題文でこの法則が与えられているため、全ての計算の出発点としてこれを選びます。
- 適用根拠: この法則は、電荷の周りの空間にどのように電場が形成されるかを包括的に記述する、電磁気学の基本法則の一つ(ガウスの法則)に基づいています。
- 電場の重ね合わせの原理:
- 選定理由: コンデンサーのように複数の電荷(正極板と負極板)が作る電場を求める際の、最も基本的で強力なアプローチだからです。複雑な問題を、単純な問題(単一の極板が作る電場)の組み合わせに分解して考えることができます。
- 適用根拠: 電場(クーロン力)が線形性を持つ、つまり複数の力のベクトル和が合力となるという、力の重ね合わせの原理に基づいています。
- コンデンサーの定義式 \(Q=CV\):
- 選定理由: 電気容量 \(C\) という物理量そのものを定義する式です。\(C\) を求める問題では、最終的にこの式との比較に持ち込むのが定石です。
- 適用根拠: 実験的に、多くの導体系において、蓄えられる電荷 \(Q\) とそのときの電位差 \(V\) が比例関係にあることが知られており、その比例定数を \(C\) と定義しています。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 単一極板の分析 (ア, イ):
- 戦略: まずは単純な系である、金属板A単体について考える。
- フロー: ①総電荷 \(Q\) から出る総電気力線数 \(N_{\text{総}} = 4\pi kQ\) を計算 → ②対称性から片面の電気力線数 \(N_{\text{片面}} = N_{\text{総}}/2\) を計算(ア) → ③電場の定義 \(E_A = N_{\text{片面}}/S\) に代入して電場の強さを計算(イ)。
- コンデンサーの分析 (ウ, エ, オ):
- 戦略: 重ね合わせの原理を用いて、AとBが作る電場を合成する。
- フロー: ①極板間の点で、\(E_A\) と \(E_B\) の向きが同じことを確認し、\(E = E_A + E_B\) で合成電場を計算(ウ) → ②極板外の点で、\(E_A\) と \(E_B\) の向きが逆であることを確認し、\(E = E_A – E_B = 0\) を計算(エ) → ③一様な電場と電位差の関係式 \(V=Ed\) を適用(オ)。
- 電気容量の導出 (カ):
- 戦略: これまでの結果を統合し、\(Q=CV\) の形に整理する。
- フロー: ①\(V=Ed\) の式に、(ウ)で求めた \(E = \displaystyle\frac{4\pi kQ}{S}\) を代入し、\(V\) と \(Q\) の関係式を導出 → ②その式を \(Q = (\dots)V\) の形に変形 → ③\(Q=CV\) と比較して、係数部分を \(C\) と特定する。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式のまま計算を進める: この問題のように、最終的な答えが文字式で表される場合、途中で数値を代入する必要はありません。\(E_A\), \(E_B\) などの記号をうまく使い、最後の最後まで文字式のまま計算を進めましょう。これにより、計算が簡潔になり、ミスが減ります。
- 分数の扱いを丁寧に: \(C = \displaystyle\frac{Q}{V}\) に \(V = \displaystyle\frac{4\pi kd}{S} Q\) を代入する際など、分数の割り算(逆数を掛ける)が出てきます。焦らずに、\(C = Q \div \left( \displaystyle\frac{4\pi kd}{S} Q \right) = Q \times \displaystyle\frac{S}{4\pi kd Q}\) のように、一段階挟んで計算すると確実です。
- 単位や物理的意味の確認: 最終的に得られた電気容量 \(C = \displaystyle\frac{1}{4\pi k} \cdot \frac{S}{d}\) の次元を確認してみましょう。\(k\) の単位は \(\text{N}\cdot\text{m}^2/\text{C}^2\)、\(S\) は \(\text{m}^2\)、\(d\) は \(\text{m}\) です。これを整理すると、最終的にファラド(\(\text{F}\))の次元になるはずです(\(\epsilon_0 = 1/(4\pi k)\) を使うと分かりやすい)。こうした次元解析は、計算間違いのチェックに有効です。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- 電場: コンデンサー内部に電場が集中し(\(E \neq 0\))、外部ではゼロになる(\(E=0\))という結果は、コンデンサーがエネルギーを内部空間に閉じ込めるという重要な性質を示しており、物理的に妥当です。
- 電気容量: \(C = \displaystyle\frac{1}{4\pi k} \cdot \frac{S}{d}\) という結果は、「容量は面積 \(S\) が広いほど大きく、距離 \(d\) が狭いほど大きくなる」ことを示しています。これは、極板が広ければたくさんの電荷を置け、極板間が近ければ逆の電荷からの引力が強まってより多くの電荷を引きつけられる(蓄えられる)という直感的なイメージと一致します。
- 別解との比較:
- (ウ)の電場を求める際に、「重ね合わせの原理」で考えた結果と、「ガウスの法則」で考えた結果が完全に一致しました。これは、電気力線の本数と密度の概念が、より根源的なガウスの法則と矛盾なく整合していることを示しています。異なるアプローチで同じ結論に至ることは、その物理法則の正しさと自身の理解の確かさを裏付ける強力な証拠となります。
391 合成容量
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、複数のコンデンサーを組み合わせた複雑な回路(ブリッジ回路)における、各コンデンサーの電気量と回路全体の合成容量を求める問題です。回路の対称性を見抜き、キルヒホッフの法則(特に、電気量保存則と電圧則)を正しく適用する能力が問われます。
- コンデンサーの電気容量:
- \(C_1 = C_4 = 1.0 \text{ μF}\)
- \(C_2 = C_3 = 2.0 \text{ μF}\)
- \(C_5 = 3.0 \text{ μF}\)
- A-B間の電位差: \(V = 30 \text{ V}\)
- (1) 各コンデンサーが蓄える電気量 \(Q_1, Q_2, Q_3, Q_4, Q_5\)
- (2) A-B間の合成容量 \(C\)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法(キルヒホッフの法則を電気量で立式)を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 設問(1)の別解: 未知電位を設定し、電気量保存則を電位で立式する解法
- 模範解答が未知数を各コンデンサーの電気量 \(Q_A, Q_B, Q_C\) とおいて連立方程式を立てるのに対し、別解では回路の分岐点P, Rの電位 \(V_P, V_R\) を未知数として設定し、電気量保存則をこれらの電位を用いて立式します。
- 設問(1)の別解: 未知電位を設定し、電気量保存則を電位で立式する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 解法の一般性: 未知電位を設定する方法は、どんなに複雑なコンデンサー回路にも適用できる非常に汎用性の高いアプローチです。電気量で考えるよりも機械的に立式できる場合が多く、強力な武器になります。
- 物理的理解の深化: 各点の電位を意識することで、回路内の電位の「高さ」の分布をより直感的に理解できます。コンデンサーの各極板の電荷が \(Q=C\Delta V\)(\(\Delta V\)は極板間の電位差)で決まるという本質的な関係の理解が深まります。
- 異なる視点の学習: 「電気量の流れ」で追う模範解答に対し、「電位の分布」で解く別解を学ぶことで、一つの問題を多角的に捉える力が養われます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、立式する方程式の形は異なりますが、それを解いて得られる各コンデンサーの電気量や合成容量は、模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「コンデンサーのブリッジ回路」です。回路の対称性に注目しつつ、電気量保存則と電圧則(キルヒホッフの法則)を適用することが攻略の鍵です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 回路の対称性: この回路は \(C_1=C_4\), \(C_2=C_3\) という対称性を持っています。これにより、蓄えられる電気量にも対称性 (\(Q_1=Q_4\), \(Q_2=Q_3\)) が現れます。
- 電気量保存則(キルヒホッフの第1法則): 回路中で孤立した部分(導線で繋がっているが電源には直接繋がっていない部分)の総電気量は、充電の前後で変化しません。最初は0なので、充電後も0のままです。
- 電圧則(キルヒホッフの第2法則): 回路内の任意の閉じたループを一周すると、電位差の和は0になります。コンデンサーの場合、「電源の電圧 = 各コンデンサーの電圧降下の和」という形で適用します。
- コンデンサーの基本式: 各コンデンサーについて、蓄えられる電気量 \(Q\)、電気容量 \(C\)、電位差 \(V\) の間には \(Q=CV\) の関係が成り立ちます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 回路の対称性を利用して、未知数となる電気量の種類を減らします。(\(Q_1=Q_4=Q_A\), \(Q_2=Q_3=Q_B\), \(Q_5=Q_C\))
- 孤立部分である点Pと点Rについて、電気量保存則の式を立てます。
- A→P→BやA→R→Bなどの経路について、電圧則の式を立てます。
- 立てた連立方程式を解いて各電気量を求め(問1)、回路全体の総電気量から合成容量を計算します(問2)。
問(1)
思考の道筋とポイント
この回路は、単純な直列・並列接続ではないため、キルヒホッフの法則を用いて解く必要があります。まず、回路の対称性から \(Q_1=Q_4\), \(Q_2=Q_3\) となることを見抜きます。これにより、未知数を \(Q_A(=Q_1, Q_4)\), \(Q_B(=Q_2, Q_3)\), \(Q_C(=Q_5)\) の3つに絞り込みます。次に、「点Pにつながる孤立部分の電気量保存」「A→P→Bの経路での電圧則」「A→R→Bの経路での電圧則」の3つの関係式を立て、連立方程式を解きます。
この設問における重要なポイント
- 未知数の設定: 回路の対称性を利用して、\(Q_1=Q_4=Q_A\), \(Q_2=Q_3=Q_B\), \(Q_5=Q_C\) とおく。
- 電気量保存則: 点Pに接続された3枚の極板(\(C_1\)の右側、\(C_2\)の左側、\(C_5\)の上側)の電荷の合計は0になる。
- 電圧則: AからBへのどの経路をたどっても、電位差の合計は電源電圧の30Vに等しい。
具体的な解説と立式
回路の対称性から、\(Q_1=Q_4\), \(Q_2=Q_3\) が成り立ちます。そこで、\(Q_1=Q_4=Q_A\), \(Q_2=Q_3=Q_B\), \(Q_5=Q_C\) とおきます。
1. 電気量保存則(点Pについて):
点Pに接続されている3枚の極板(\(C_1\)の右極板、\(C_2\)の左極板、\(C_5\)の上極板)は、回路の孤立部分を形成します。充電前の電気量は0なので、充電後も合計は0です。図の電荷の符号に注意すると、
$$ -Q_A + Q_B – Q_C = 0 \quad \cdots ① $$
2. 電圧則(A→P→Bの経路について):
AからP、PからBへ進む経路の電位差の合計は30Vです。コンデンサーの電位差は \(V=Q/C\) で与えられるので、
$$ \frac{Q_A}{C_1} + \frac{Q_B}{C_2} = 30 \quad \cdots ② $$
3. 電圧則(R→B間の電位差の関係から):
RからBへの電位差は、経路R→Bで考えると \(\displaystyle\frac{Q_A}{C_4}\) です。一方、経路R→P→Bで考えると、\(\displaystyle\frac{Q_C}{C_5} + \frac{Q_B}{C_2}\) となります(模範解答の電荷の置き方に基づく)。これらが等しいので、
$$ \frac{Q_A}{C_4} = \frac{Q_B}{C_2} + \frac{Q_C}{C_5} \quad \cdots ③ $$
使用した物理公式
- 電気量保存則
- キルヒホッフの第2法則(電圧則)
- コンデンサーの基本式: \(Q=CV\)
②式に \(C_1=1.0, C_2=2.0\) を代入し、両辺を2.0倍して整理します。
$$
\begin{aligned}
\frac{Q_A}{1.0} + \frac{Q_B}{2.0} &= 30 \\[2.0ex]
2.0 Q_A + 1.0 Q_B &= 60 \quad \cdots ②’
\end{aligned}
$$
③式に \(C_4=1.0, C_2=2.0, C_5=3.0\) を代入し、両辺を6.0倍して整理します。
$$
\begin{aligned}
\frac{Q_A}{1.0} &= \frac{Q_B}{2.0} + \frac{Q_C}{3.0} \\[2.0ex]
6.0 Q_A &= 3.0 Q_B + 2.0 Q_C \quad \cdots ③’
\end{aligned}
$$
①式より \(Q_C = Q_B – Q_A\)。これを③’式に代入します。
$$
\begin{aligned}
6.0 Q_A &= 3.0 Q_B + 2.0 (Q_B – Q_A) \\[2.0ex]
6.0 Q_A &= 3.0 Q_B + 2.0 Q_B – 2.0 Q_A \\[2.0ex]
8.0 Q_A &= 5.0 Q_B
\end{aligned}
$$
したがって、\(Q_B\) は \(Q_A\) を用いて次のように表せます。
$$
\begin{aligned}
Q_B &= \frac{8.0}{5.0} Q_A \\[2.0ex]
&= 1.6 Q_A
\end{aligned}
$$
この関係を②’式に代入します。
$$
\begin{aligned}
2.0 Q_A + 1.0 (1.6 Q_A) &= 60 \\[2.0ex]
3.6 Q_A &= 60
\end{aligned}
$$
よって \(Q_A\) は、
$$
\begin{aligned}
Q_A &= \frac{60}{3.6} \\[2.0ex]
&= \frac{600}{36} \\[2.0ex]
&= \frac{50}{3}
\end{aligned}
$$
したがって \(Q_A = \displaystyle\frac{50}{3} \text{ μC}\)。
次に \(Q_B\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
Q_B &= 1.6 Q_A \\[2.0ex]
&= 1.6 \times \frac{50}{3} \\[2.0ex]
&= \frac{16}{10} \times \frac{50}{3} \\[2.0ex]
&= \frac{80}{3}
\end{aligned}
$$
したがって \(Q_B = \displaystyle\frac{80}{3} \text{ μC}\)。
最後に \(Q_C\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
Q_C &= Q_B – Q_A \\[2.0ex]
&= \frac{80}{3} – \frac{50}{3} \\[2.0ex]
&= 10
\end{aligned}
$$
したがって \(Q_C = 10 \text{ μC}\)。
結果をまとめ、問題の指示に従い有効数字2桁程度で丸めます。
\(Q_1 = Q_4 = Q_A = \displaystyle\frac{50}{3} \approx 17 \text{ μC}\)
\(Q_2 = Q_3 = Q_B = \displaystyle\frac{80}{3} \approx 27 \text{ μC}\)
\(Q_5 = Q_C = 10 \text{ μC}\)
この複雑な回路は、電気の「法則」を使って解くパズルのようなものです。まず、回路が左右で似た形をしているので、対応するコンデンサーには同じ量の電気が溜まると考え、未知数の数を減らします。次に、2つのルールを使います。一つは「電気の逃げ道がない場所では、入ってくる電気と出ていく電気の量は同じ(電気量保存則)」、もう一つは「回路をぐるっと一周旅行したときの電圧の変化はゼロ(電圧則)」です。これらのルールから数式を3つ立て、連立方程式を解くことで、各コンデンサーに溜まる電気の量を計算します。
各コンデンサーの電気量は \(Q_1=Q_4 \approx 17 \text{ μC}\), \(Q_2=Q_3 \approx 27 \text{ μC}\), \(Q_5 = 10 \text{ μC}\) となります。これらの値は模範解答と一致しており、立式と計算が正しかったことが確認できます。
思考の道筋とポイント
点Bの電位を基準(0V)とし、点Aの電位を30Vとします。未知数として、点Pの電位 \(V_P\) と点Rの電位 \(V_R\) を設定します。孤立部分である点Pと点Rについて、それぞれに流れ込む電荷の総和が0になるという電気量保存則を、電位 \(V_P, V_R\) を用いて立式します。これにより、未知数2つの連立方程式が得られるので、これを解いて \(V_P, V_R\) を求め、各コンデンサーの電気量を計算します。
この設問における重要なポイント
- 未知数の設定: 未知数を回路の分岐点の電位 \(V_P, V_R\) とする。
- 電気量保存則の電位による表現: 点Pに接続された各極板の電荷を \(Q=C\Delta V\) の形で表現し、その和が0であることを利用する。
- 電位差の計算: コンデンサー \(C_1\) の電位差は \(30 – V_P\)、\(C_2\) の電位差は \(V_P – 0\)、\(C_5\) の電位差は \(V_P – V_R\) のように、各点の電位から計算する。
具体的な解説と立式
点Bの電位を0V、点Aの電位を30Vとする。点P, Rの電位をそれぞれ \(V_P, V_R\) とおく。
1. 電気量保存則(点Pについて):
点Pに接続された3枚の極板の電荷の合計は0である。
$$ C_1(V_P – 30) + C_2(V_P – 0) + C_5(V_P – V_R) = 0 \quad \cdots ④ $$
2. 電気量保存則(点Rについて):
同様に、点Rに接続された3枚の極板の電荷の合計は0である。
$$ C_3(V_R – 30) + C_4(V_R – 0) + C_5(V_R – V_P) = 0 \quad \cdots ⑤ $$
使用した物理公式
- 電気量保存則
- コンデンサーの基本式: \(Q=C\Delta V\)
④式に \(C_1=1.0, C_2=2.0, C_5=3.0\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
1.0(V_P – 30) + 2.0 V_P + 3.0(V_P – V_R) &= 0 \\[2.0ex]
V_P – 30 + 2.0 V_P + 3.0 V_P – 3.0 V_R &= 0 \\[2.0ex]
6.0 V_P – 3.0 V_R &= 30
\end{aligned}
$$
両辺を3.0で割ると、
$$ 2.0 V_P – 1.0 V_R = 10 \quad \cdots ④’ $$
⑤式に \(C_3=2.0, C_4=1.0, C_5=3.0\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
2.0(V_R – 30) + 1.0 V_R + 3.0(V_R – V_P) &= 0 \\[2.0ex]
2.0 V_R – 60 + 1.0 V_R + 3.0 V_R – 3.0 V_P &= 0 \\[2.0ex]
-3.0 V_P + 6.0 V_R &= 60
\end{aligned}
$$
両辺を3.0で割ると、
$$ -1.0 V_P + 2.0 V_R = 20 \quad \cdots ⑤’ $$
④’と⑤’を連立して解きます。⑤’より \(V_P = 2.0 V_R – 20\)。これを④’に代入します。
$$
\begin{aligned}
2.0(2.0 V_R – 20) – 1.0 V_R &= 10 \\[2.0ex]
4.0 V_R – 40 – 1.0 V_R &= 10 \\[2.0ex]
3.0 V_R &= 50
\end{aligned}
$$
よって、
$$ V_R = \frac{50}{3} \text{ V} $$
次に \(V_P\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
V_P &= 2.0 V_R – 20 \\[2.0ex]
&= 2.0 \left(\frac{50}{3}\right) – 20 \\[2.0ex]
&= \frac{100}{3} – \frac{60}{3} \\[2.0ex]
&= \frac{40}{3} \text{ V}
\end{aligned}
$$
各電位が求まったので、電気量を計算します。
\(Q_1 = C_1(30 – V_P) = 1.0 \times (30 – \frac{40}{3}) = \frac{50}{3} \approx 17 \text{ μC}\)
\(Q_2 = C_2 V_P = 2.0 \times \frac{40}{3} = \frac{80}{3} \approx 27 \text{ μC}\)
\(Q_3 = C_3(30 – V_R) = 2.0 \times (30 – \frac{50}{3}) = \frac{80}{3} \approx 27 \text{ μC}\)
\(Q_4 = C_4 V_R = 1.0 \times \frac{50}{3} = \frac{50}{3} \approx 17 \text{ μC}\)
\(Q_5 = C_5(V_R – V_P) = 3.0 \times (\frac{50}{3} – \frac{40}{3}) = 10 \text{ μC}\)
この別解では、回路の中の2つの交差点PとRの「電気的な高さ(電位)」を未知数として考えます。電気のルールによれば、どの交差点でも「流れ込んでくる電気の量と流れ出ていく電気の量は同じ」はずです。このルールを、交差点PとRのそれぞれについて数式で表します。すると、未知数が2つ(Pの高さとRの高さ)、式が2本の連立方程式ができます。これを解いてPとRの高さを確定させれば、各コンデンサーの両端の「高さの差(電位差)」がわかるので、そこから溜まっている電気の量を計算できます。
未知電位を設定する方法でも、\(Q_1=Q_4 \approx 17 \text{ μC}\), \(Q_2=Q_3 \approx 27 \text{ μC}\), \(Q_5 = 10 \text{ μC}\) となり、主たる解法と完全に一致した結果が得られました。これにより、両方の解法の正しさが確認できます。
問(2)
思考の道筋とポイント
回路全体の合成容量 \(C\) は、定義式 \(Q=CV\) から求められます。ここで \(Q\) は回路全体で蓄えられる総電気量、\(V\) はA-B間の電位差(30V)です。総電気量 \(Q\) は、電源から流れ込んでA点に入り、上側と下側の経路に分かれていく電気量の合計です。つまり、\(C_1\) と \(C_3\) に蓄えられる電気量の和に等しくなります。
この設問における重要なポイント
- 合成容量の定義: \(C = \displaystyle\frac{Q_{\text{総}}}{V_{\text{総}}}\)
- 総電気量の計算: 電源の正極に繋がるA点から回路に流れ込む総電気量 \(Q\) は、A点から分岐するコンデンサー(\(C_1\)と\(C_3\))の電荷の和に等しい。\(Q = Q_1 + Q_3\)。
具体的な解説と立式
合成容量 \(C\) は、回路全体を一個のコンデンサーとみなしたときの容量です。その定義は、
$$ C = \frac{Q_{\text{総}}}{V} $$
ここで \(V=30 \text{ V}\) です。
総電気量 \(Q_{\text{総}}\) は、電源から供給されてA点に入り、そこから \(C_1\) と \(C_3\) に分かれて流れていく電荷の合計です。したがって、
$$ Q_{\text{総}} = Q_1 + Q_3 $$
(1)で求めた \(Q_1\) と \(Q_3\) の値を用います。
使用した物理公式
- 合成容量の定義: \(C = Q/V\)
(1)で求めた \(Q_1 = \displaystyle\frac{50}{3} \text{ μC}\) と \(Q_3 = \displaystyle\frac{80}{3} \text{ μC}\) を用いて、総電気量 \(Q_{\text{総}}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{総}} &= Q_1 + Q_3 \\[2.0ex]
&= \frac{50}{3} + \frac{80}{3} \\[2.0ex]
&= \frac{130}{3} \text{ μC}
\end{aligned}
$$
これを合成容量の定義式に代入します。
$$
\begin{aligned}
C &= \frac{Q_{\text{総}}}{V} \\[2.0ex]
&= \frac{130/3}{30} \\[2.0ex]
&= \frac{130}{90} \\[2.0ex]
&= \frac{13}{9} \\[2.0ex]
&\approx 1.444…
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えると、\(C \approx 1.4 \text{ μF}\) となります。
この複雑な回路全体を、たった一個の巨大なコンデンサーだと見なしたときの性能(合成容量)を計算します。合成容量は、「回路全体に溜まった電気の総量」を「かけた電圧(30V)」で割ることで求められます。全体の電気量は、電源からプラス側(A点)に流れ込んだ電気の量なので、A点から枝分かれしている \(C_1\) と \(C_3\) に溜まった電気を足し合わせればOKです。
A-B間の合成容量は \(C \approx 1.4 \text{ μF}\) です。これは、(1)で求めた各電気量の値から導かれる妥当な結果です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- キルヒホッフの法則(コンデンサー回路版):
- 核心: この問題のように複雑に接続された回路は、直列・並列の合成公式だけでは解けません。核心となるのは、より普遍的な「キルヒホッフの法則」です。
- 電気量保存則(第1法則): 回路の分岐点(孤立部分)に流れ込む電荷と流れ出す電荷の代数和は0である。
- 電圧則(第2法則): 回路内の任意の閉ループを一周すると、電位差の代数和は0である。
- 理解のポイント: 抵抗回路で電流について成り立つ法則が、コンデンサー回路では電気量について同様に成り立つと理解することが重要です。特に、電源から切り離された「孤立部分」を見つけ出し、その部分の総電荷が0に保たれる、という視点が立式の鍵となります。
- 核心: この問題のように複雑に接続された回路は、直列・並列の合成公式だけでは解けません。核心となるのは、より普遍的な「キルヒホッフの法則」です。
- 回路の対称性の利用:
- 核心: 一見複雑な回路でも、対称性があれば問題は大幅に簡単になります。この問題では、回路が中心線に対して上下対称(ただし \(C_1 \neq C_2\))ではなく、A-Bを結ぶ線に対して点対称に近い形 (\(C_1=C_4, C_2=C_3\)) をしています。この対称性から、対応するコンデンサーに蓄えられる電気量も対称的 (\(Q_1=Q_4, Q_2=Q_3\)) になることを見抜くことが、計算量を減らすための決定的な一歩です。
- 理解のポイント: 対称性は物理の問題を解く上での強力なツールです。常に回路図の幾何学的な対称性を探し、それが物理量(電気量、電位、電流など)の対称性にどう反映されるかを考える習慣をつけましょう。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 抵抗のブリッジ回路: コンデンサーを抵抗に置き換えただけの全く同じ構造の回路。コンデンサーの電気量 \(Q\) を抵抗の電流 \(I\) に、電気容量 \(C\) をコンダクタンス \(1/R\) に読み替えれば、全く同じ考え方で解くことができます。
- 非対称なブリッジ回路: \(C_1, C_2, C_3, C_4\) の値が全て異なる場合。この場合、電気量の対称性が使えないため、未知数が \(Q_1, Q_2, Q_3, Q_4, Q_5\) の5つになります。しかし、キルヒホッフの法則を地道に適用すれば、原理的には解くことが可能です。
- ホイートストンブリッジ: ブリッジ回路の中央のコンデンサー(または検流計)に電荷が蓄えられない(電流が流れない)特別な条件(\(C_1 C_3 = C_2 C_4\))を満たす場合。この条件を見抜ければ、中央の素子を無視して回路を単純な直列・並列の組み合わせとして解くことができます。
- 初見の問題での着眼点:
- 直列・並列か?: まず、回路が単純な直列・並列接続の組み合わせで解けないかを確認します。解けない場合(ブリッジ回路など)は、キルヒホッフの法則の適用を覚悟します。
- 対称性はあるか?: 回路図を眺め、幾何学的な対称性がないか探します。対称性があれば、未知数を減らすチャンスです。
- 孤立部分を探す: 電気量保存則を適用するために、電源から直接つながっていない、導線で結ばれた部分(孤立部分)を回路図上でマーキングします。その部分の総電荷が0になる、という式を立てます。
- 閉ループを選ぶ: 電圧則を適用するために、回路内に閉じたループをいくつか選びます。電源を含むループや、コンデンサーだけで構成されるループなど、独立した関係式が得られるようにループを選びます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 電荷の符号の間違い:
- 誤解: 電気量保存則の式を立てる際に、各極板の電荷のプラス・マイナスを間違える。
- 対策: 必ず、最初に各コンデンサーのどちらの極板が正でどちらが負になるかを、回路図に「+」「-」で書き込みましょう。電源の正極に近い側が正、負極に近い側が負になるのが基本です。孤立部分では、この符号に従って電荷の和を計算します。
- 電圧則の符号の間違い:
- 誤解: 閉ループを一周する際に、電位が上がるのか下がるのかを混同する。
- 対策: ループをたどる向きを決め、「電荷が蓄えられたコンデンサーを、正極から負極へ横切ると電位は下がる(\(-\Delta V = -Q/C\))」、「負極から正極へ横切ると電位は上がる(\(+\Delta V = +Q/C\))」というルールを機械的に適用します。
- 対称性の誤用:
- 誤解: この問題で \(C_1=C_2, C_3=C_4\) のような対称性だと勘違いし、P点とR点が等電位になると早合点してしまう。
- 対策: 対称性は厳密に確認する必要があります。この回路は \(C_1=C_4, C_2=C_3\) という「ひねりのある」対称性です。この場合、PとRは等電位にはならず、\(C_5\) にも電荷が蓄えられます。ホイートストンブリッジの平衡条件と混同しないように注意が必要です。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 電荷の書き込み: 模範解答の図のように、各コンデンサーの極板に \(+Q_A, -Q_A\) のように電荷を具体的に書き込むことが、立式のミスを防ぐ最も有効な手段です。
- 電位のイメージ化: 別解で用いたように、回路を立体的な地形図のようにイメージします。A点が標高30m、B点が標高0mの地点で、P点とR点はその途中にある丘のような場所です。各コンデンサーは「ダム」に相当し、その両端の「水位差(電位差)」によって「貯水量(電気量)」が決まる、と考えると物理現象を捉えやすくなります。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 孤立部分のマーキング: 電気量保存則を適用する孤立部分を、色ペンなどで囲んで明確にします。これにより、どの極板の電荷を足し合わせればよいかが一目瞭然になります。
- ループの矢印: 電圧則を適用する閉ループを、矢印で回路図に書き込みます。これにより、ループをたどる向きと、各素子での電位の上昇・下降の判断がしやすくなります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 電気量保存則:
- 選定理由: 回路内に孤立した導体部分が存在する場合、その部分の電荷は外部から供給も排出もされないため、総量は一定に保たれます。これは電荷保存則という物理の基本法則の直接的な現れであり、複雑な回路において未知数の関係式を得るための強力な手段です。
- 適用根拠: 導体内部では電荷が自由に移動できるため、孤立した導体部分全体で一つの物体と見なせます。外部との電荷のやり取りがない限り、その物体の総電荷は不変です。
- キルヒホッフの電圧則:
- 選定理由: 回路内の電位差の関係を記述するための最も基本的な法則です。特に、複数の経路がある複雑な回路では、各経路の電位差の関係を式にするために必須となります。
- 適用根拠: 電位は場所だけで決まる量(保存力である静電気力のポテンシャルエネルギー)であるため、どのような経路をたどって元の場所に戻ってきても、トータルの電位の変化はゼロになる、というエネルギー保存則の現れです。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 【解法1: 電気量ベース】:
- 戦略: 未知数を電気量 \(Q_A, Q_B, Q_C\) とおき、法則を適用する。
- フロー: ①対称性から未知数を3つに絞る → ②点Pの電気量保存則で式を1本立てる → ③A-P-B経路の電圧則で式を1本立てる → ④A-P-R-Aなどの閉ループで電圧則を使い、式を1本立てる → ⑤3本の連立方程式を解いて \(Q_A, Q_B, Q_C\) を求める。
- 【解法2: 電位ベース(別解)】:
- 戦略: 未知数を電位 \(V_P, V_R\) とおき、法則を適用する。
- フロー: ①未知数を \(V_P, V_R\) の2つに設定 → ②点Pの電気量保存則を、各極板の電荷を \(C\Delta V\) の形で表して立式 → ③点Rについても同様に立式 → ④2本の連立方程式を解いて \(V_P, V_R\) を求める → ⑤各コンデンサーの電位差から \(Q=C\Delta V\) で電気量を計算する。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位の扱いの統一: 電気容量がマイクロファラド(\(\mu\text{F}\))で与えられているので、計算中は電気量をマイクロクーロン(\(\mu\text{C}\))、電圧をボルト(\(\text{V}\))として扱えば、\(10^{-6}\) の計算を省略できます。例えば、\(Q[\mu\text{C}] = C[\mu\text{F}] \times V[\text{V}]\) のように、単位を意識して計算を進めると楽になります。
- 連立方程式を丁寧に解く: この問題の計算の大部分は、連立方程式を解くプロセスです。代入法や加減法を用いる際に、係数の掛け算や移項での符号ミスが起こりやすいです。一行一行、焦らずに計算を進めましょう。特に、分数が絡む計算では、両辺に最小公倍数を掛けて整数係数に直してから処理すると、ミスが減ります。
- 分数での計算: \(50/3\) のような割り切れない値が出てきた場合、すぐに \(16.66…\) のような小数に直さず、最後まで分数のまま計算を進めることが重要です。これにより、丸め誤差(計算の途中で四捨五入することによる誤差)を防ぎ、正確な最終結果を得ることができます。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- 電位の大小関係: 別解で求めた電位は \(V_P = 40/3 \approx 13.3 \text{ V}\), \(V_R = 50/3 \approx 16.7 \text{ V}\) でした。\(V_R > V_P\) なので、\(C_5\) にはR側が正、P側が負になるように電荷が蓄えられます。これは \(Q_5\) が正の値になったことと整合しています。
- 電気量の大小関係: \(C_1=1.0, C_2=2.0\) で、A-P-B経路では \(C_1\) と \(C_2\) が(\(C_5\)がなければ)直列に近い関係です。容量が小さい \(C_1\) の方が電圧降下が大きくなるはずです。実際に \(V_{AP} = 30 – V_P = 50/3 \approx 16.7 \text{ V}\), \(V_{PB} = V_P = 40/3 \approx 13.3 \text{ V}\) となり、\(V_{AP} > V_{PB}\) です。これは妥当な結果です。
- 別解との比較:
- 電気量を未知数とする方法と、電位を未知数とする方法、全く異なるアプローチで計算したにもかかわらず、最終的に得られた全ての電気量が完全に一致しました。これは、両方の解法の正しさと、自身の計算の正確さを強力に裏付けるものです。どちらの解法もマスターしておくことで、問題に応じてより効率的な方を選択できるようになります。
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392 コンデンサーの接続
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、スイッチの切り替えによってコンデンサーの接続状態が変化し、それに伴って電荷が再配分される様子を追う問題です。特に、回路から電気的に孤立した部分における「電気量保存則」を正しく適用できるかが問われます。
- コンデンサーの電気容量: \(C_1 = 1.0 \text{ µF} = 1.0 \times 10^{-6} \text{ F}\)
- コンデンサーの電気容量: \(C_2 = 2.0 \text{ µF} = 2.0 \times 10^{-6} \text{ F}\)
- コンデンサーの電気容量: \(C_3 = 3.0 \text{ µF} = 3.0 \times 10^{-6} \text{ F}\)
- 電池の起電力: \(E = 30 \text{ V}\)
- (1) \(S_1\)を閉じたときの\(C_1\)の電気量 \(Q_1\)
- (2) \(S_1\)を開き\(S_2\)を閉じたときの\(C_2\)の電気量 \(Q_2\)
- (3) \(S_2\)を開き\(S_1\)を閉じたときの\(C_1\)の電気量 \(Q_1’\)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(1), (2)の別解: 合成容量を用いる解法
- 模範解答が各コンデンサーの電圧と電気量の関係式を連立して解くのに対し、別解では直列・並列部分を一つの合成コンデンサーと見なし、回路全体から電気量や電圧を求めます。
- 問(3)の別解: キルヒホッフの第2法則(電位法)を用いる解法
- 模範解答が各コンデンサーにかかる電圧(\(V_1’\), \(V_2’\))を未知数として連立方程式を解くのに対し、別解では回路の接続点の電位を未知数として設定し、孤立部分の電気量保存則から直接電位を求めます。
- 問(1), (2)の別解: 合成容量を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 計算の効率化: 合成容量の考え方を用いることで、特に単純な直列・並列接続において、連立方程式を解く手間を省き、より迅速に計算できます。
- 体系的なアプローチの習得: 電位法は、より複雑な回路(ブリッジ回路など)にも応用できる汎用性の高い解法です。この問題を通じてその基礎を学ぶことができます。
- 物理モデルの多様性: 同じ現象を「個々の素子の集合」として見るか、「合成された一つの素子」として見るかという、物理モデルの視点の切り替えを体験できます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「スイッチの切り替えによるコンデンサーの電荷再配分」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- コンデンサーの基本式: コンデンサーに蓄えられる電気量\(Q\)、極板間の電圧\(V\)、電気容量\(C\)の間には、\(Q=CV\)の関係が成り立ちます。
- 直列・並列接続: 「直列接続」では各コンデンサーの電気量は等しく、電圧の和が全体の電圧になります。「並列接続」では各コンデンサーの電圧は等しく、電気量の和が全体の電気量になります。
- 電気量保存則: スイッチの切り替えによって、回路の他の部分から電気的に切り離された「孤立部分」ができた場合、その部分の電気量の総和は操作の前後で保存されます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、(1)では\(C_1\)と\(C_2\)が直列接続された状態を考え、それぞれの電圧と電気量の関係から\(Q_1\)を求めます。
- 次に、(2)では\(S_1\)を開いて\(C_2\)と\(C_3\)を並列接続します。このとき、\(C_2\)と\(C_3\)からなる孤立部分の電気量保存則を用いて\(Q_2\)を求めます。
- 最後に、(3)では\(S_2\)を開いて再び\(C_1\)と\(C_2\)を直列接続します。\(C_1\)の下側極板と\(C_2\)の上側極板からなる孤立部分の電気量保存則を用いて\(Q_1’\)を求めます。