無料でしっかり基礎固め!高校物理 問題演習「穴の開いた円板の重心」【高校物理対応】

問題の確認

dynamics#22

各設問の思考プロセス

この問題は、大きな円板から小さな円板をくり抜いた後の、残りの部分の質量と重心を求める問題です。このような「穴の開いた物体」の重心を考える問題は、物理や工学の様々な場面で登場する典型的なパターンです。

この問題を解く上で鍵となる物理法則は以下の通りです。

  1. 質量と面積の比例関係: 円板は「一様な厚さ」なので、その質量は面積に比例します。したがって、質量の比は面積の比に等しくなります。
  2. 重心の「マイナス法(除去法)」: 穴の開いた物体の重心を求めるには、「(くり抜く前の全体の物体)=(残りの部分)+(くり抜いた部分)」という関係を利用するのが非常に有効です。この関係を、各部分の「質量 × 重心位置」のモーメントのような量で立式し、未知数である残りの部分の重心を求めます。

この問題を解くための手順は以下の通りです。

  • (1) 質量の計算:
    まず、円板の質量が面積に比例することから、「全体の円板」と「くり抜いた円板a」の面積比を計算し、それを使って円板aの質量を求めます。次に、「全体の質量」から「aの質量」を引くことで、残りの部分bの質量を計算します。
  • (2) 重心の位置の計算:
    「マイナス法」を用います。「`全体の(質量×重心)` = `aの(質量×重心)` + `bの(質量×重心)`」という、力のモーメントのつり合いに似た式を立てます。この式に、(1)で求めた質量と、図から読み取れる各部分の重心の座標を代入し、未知数であるbの重心の位置について解きます。

各設問の具体的な解説と解答

(1) a,bの質量はそれぞれいくらか。

問われている内容の明確化
くり抜いた円板aの質量 \(m_a\) と、残った部分bの質量 \(m_b\) を求めます。

具体的な解説と立式
円板は一様な厚さなので、質量は面積に比例します。まず、くり抜く前の全体の円板と、くり抜いた円板aの面積を求めます。

  • 全体の円板の面積 \(A_{\text{全体}}\): 半径が \(r\) なので、\(A_{\text{全体}} = \pi r^2\)。
  • 円板aの面積 \(A_a\): 半径が \(\displaystyle\frac{r}{2}\) なので、\(A_a = \pi \left(\frac{r}{2}\right)^2 = \frac{\pi r^2}{4}\)。

全体の質量が \(m\) であることから、円板aの質量 \(m_a\) は、面積の比を用いて次のように立式できます。
$$\frac{m_a}{m} = \frac{A_a}{A_{\text{全体}}}$$
これを変形すると、
$$m_a = m \times \frac{A_a}{A_{\text{全体}}} \quad \cdots ①$$
残りの部分bの質量 \(m_b\) は、全体の質量 \(m\) から \(m_a\) を引けば求まります。
$$m_b = m – m_a \quad \cdots ②$$

使用した物理法則: 質量と面積の比例関係

一様な板では、\(\displaystyle \frac{(\text{部分の質量})}{(\text{全体の質量})}\)
\(= \displaystyle \frac{(\text{部分の面積})}{(\text{全体の面積})}\)

計算過程
まず、面積の比を計算します。
$$ \frac{A_a}{A_{\text{全体}}} = \frac{\frac{\pi r^2}{4}}{\pi r^2} = \frac{1}{4} $$
この比を式①に代入して、\(m_a\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
m_a &= m \times \frac{1}{4} \\[2.0ex]&= \frac{1}{4}m
\end{aligned}
$$
次に、式②を用いて \(m_b\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
m_b &= m – m_a \\[2.0ex]&= m – \frac{1}{4}m \\[2.0ex]&= \frac{3}{4}m
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

  • 円板は均一なので、質量は面積に比例します。
  • くり抜く円板aの半径は、全体の半分です。円の面積は「\(\pi \times \text{半径}^2\)」なので、半径が半分になると面積は \((\frac{1}{2})^2 = \frac{1}{4}\) 倍になります。
  • したがって、aの質量も全体の質量の \(\frac{1}{4}\) 倍、つまり \(\frac{1}{4}m\) です。
  • 残りのbの質量は、全体 \(m\) からaの質量 \(\frac{1}{4}m\) を引いて、\(\frac{3}{4}m\) となります。

この設問における重要なポイント

  • 一様な物体では質量が面積に比例することを利用する。
  • 円の面積の公式を正しく使うこと。半径が半分なら面積は4分の1になる。
解答 (1):
aの質量: \(\displaystyle\frac{1}{4}m\)
bの質量: \(\displaystyle\frac{3}{4}m\)

(2) bの重心の位置を求めよ。

問われている内容の明確化
くり抜いて残った部分bの重心の位置 \(x_b\) を、原点Oからの距離で求めます。

具体的な解説と立式
重心を求めるには、「マイナス法」という考え方を使います。これは、全体の重心が各部分の重心の「つり合い」の位置にある、という原理に基づいています。
全体の重心の位置は、各部分の「質量 × 重心の位置」の和を、全体の質量で割ることで求められます。これを式で表すと、
$$(\text{全体の質量}) \times (\text{全体の重心位置}) = (\text{aの質量}) \times (\text{aの重心位置}) + (\text{bの質量}) \times (\text{bの重心位置})$$
となります。それぞれの物理量を整理します。

  • 全体: 質量 \(m\), 重心の位置 \(x_{\text{全体}}\) は \(O_1\) なので \(x=r\)。
  • 部分a: 質量 \(m_a = \frac{1}{4}m\), 重心の位置 \(x_a\) は \(O_2\) なので \(x=r/2\)。
  • 部分b: 質量 \(m_b = \frac{3}{4}m\), 重心の位置 \(x_b\) は未知数。

これらの値を上のつり合いの式に代入します。
$$m \cdot r = \left(\frac{1}{4}m\right) \cdot \left(\frac{r}{2}\right) + \left(\frac{3}{4}m\right) \cdot x_b \quad \cdots ③$$
この方程式を、求めたい \(x_b\) について解きます。

使用した物理公式: 重心の公式(マイナス法)
$$m_{\text{全体}} x_{\text{全体}} = m_a x_a + m_b x_b$$

計算過程
式③を \(x_b\) について解いていきます。
$$
\begin{aligned}
m r &= \frac{mr}{8} + \frac{3m}{4} x_b
\end{aligned}
$$
まず、\(\frac{3m}{4} x_b\) を左辺に残し、\(\frac{mr}{8}\) を左辺に移項します。
$$
\begin{aligned}
\frac{3m}{4} x_b &= mr – \frac{mr}{8} \\[2.0ex]&= \frac{8mr – mr}{8} \\[2.0ex]&= \frac{7mr}{8}
\end{aligned}
$$
両辺に共通する \(m\) を消去します(\(m \neq 0\))。
$$
\begin{aligned}
\frac{3}{4} x_b &= \frac{7r}{8}
\end{aligned}
$$
最後に、両辺に \(\displaystyle\frac{4}{3}\) を掛けて \(x_b\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
x_b &= \frac{7r}{8} \times \frac{4}{3} \\[2.0ex]&= \frac{7r \times 4}{8 \times 3} \\[2.0ex]&= \frac{7r}{2 \times 3} \\[2.0ex]&= \frac{7}{6}r
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

  • 「てこの原理」のようなものを考えます。支点をO点とします。
  • 「全体の円板の(質量×重心位置)」は、分解した「aの部分の(質量×重心位置)」と「bの部分の(質量×重心位置)」の合計と等しくなります。
  • 全体の円板: 質量\(m\), 重心\(r\) → \(m \times r\)
  • aの部分: 質量\(\frac{1}{4}m\), 重心\(\frac{r}{2}\) → \(\frac{1}{4}m \times \frac{r}{2}\)
  • bの部分: 質量\(\frac{3}{4}m\), 重心\(x_b\) → \(\frac{3}{4}m \times x_b\)
  • これらから \(m r = (\frac{1}{4}m \times \frac{r}{2}) + (\frac{3}{4}m \times x_b)\) という式を立て、これを解くと \(x_b\) が求まります。

この設問における重要なポイント

  • 穴の開いた物体の重心は「(全体の重心)=(残りの部分の重心)+(くり抜いた部分の重心)」という、モーメントのつり合いのような考え方(マイナス法)で解くこと。
  • 各部分の質量と重心の座標を正確に設定すること。
解答 (2):
\(\displaystyle\frac{7}{6}r\)

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問題全体を通して理解しておくべき重要な物理概念や法則

  • 重心: 物体の質量の中心であり、その物体にはたらく重力の合力の作用点。剛体を扱う上で非常に重要な概念。
  • 合成重心の計算: 複数の物体からなる系の重心は、各物体の重心位置を、その質量で重みをつけて平均(加重平均)することで求められます。
  • マイナス法(除去法): 穴の開いた物体の重心を求める際に非常に有効なテクニック。くり抜かれた部分を「負の質量」を持つ物体と考え、「(全体の物体)+(負の質量の物体)=(穴の開いた物体)」として重心計算を行うこともできます。今回の解説で用いた方法は、このマイナス法と等価です。

類似の問題を解く上でのヒントや注意点

  • 座標系の設定: 重心を計算する際は、まず基準となる原点と座標軸を自分で設定することが第一歩です。この問題では与えられていますが、与えられていない場合は計算が簡単になるように設定しましょう(例えば、物体の端や対称軸上など)。
  • 各部分への分解: 複雑な形状の物体でも、単純な形(長方形、三角形、円など)の集まりとして分解し、それぞれの重心と質量を考えることで、全体の重心を求めることができます。
  • 結果の吟味: 計算結果が出たら、それが物理的に妥当かどうかを検討する癖をつけましょう。例えば、この問題では、左側の部分をくり抜いたので、残りの部分の重心は元の重心(\(x=r\))より右側にずれるはずです。計算結果 \(x_b = \frac{7}{6}r \approx 1.17r\) は、この予測と一致しており、妥当であると判断できます。

よくある誤解や間違いやすいポイント

  • 質量の計算ミス: 面積比と質量比の関係を間違えたり、円の面積の公式(特に半径の2乗)を間違えたりする。
  • 重心座標のミス: 各部分の重心の座標を、設定した原点から正しく測れていないケース。図をよく見て、\(O_1\) の座標が \(r\)、\(O_2\) の座標が \(r/2\) であることを確認することが重要です。
  • 重心の公式の分母の間違い: マイナス法を使う際に、分母を全体の質量 \(m\) のままにしてしまうミスがあります。`b` の重心を求めるのですから、`b` の質量 \(m_b\) で割る必要があります(解説で用いた方法では、この割り算は最後のステップに現れます)。
  • 代数計算のミス: 式を立てた後の、移項や分数の計算での単純なミス。

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