問題の確認
electromagnetic#11各設問の思考プロセス
この問題は、一様な電場における電位、仕事、エネルギーという、電磁気学の根幹をなす複数の概念を統合的に理解しているかを問うています。それぞれの概念の定義と、それらの間の関係性を一つずつ丁寧に解きほぐしていくことが解答への道筋となります。
この問題を解く上で中心となる物理法則は以下の通りです。
- 電場と電位の関係: 電場は電位の高い方から低い方へ向かいます。また、一様な電場では、電位は距離に比例して直線的に変化します。
- 仕事とポテンシャルエネルギー: 外力が保存力に逆らってする仕事は、ポテンシャルエネルギーの増加量に等しいです (\(W_{\text{外力}} = \Delta U\))。逆に、保存力(電場)がする仕事はポテンシャルエネルギーの減少量に等しくなります (\(W_{\text{電場}} = -\Delta U\))。
- エネルギー保存則: 保存力のみが仕事をする系では、運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの和は常に一定に保たれます (\(K + U = \text{一定}\))。
各設問に対する思考プロセスは以下のようになります。
- (1) 中点の電位と電場の向き:
「一様な電場」というキーワードから、「電位は距離に比例する」ことを連想します。これにより、中点の電位は両端の電位の平均値として求められると見当をつけます。電場の向きは、「電位の高い方(B)から低い方(A)へ」という基本原則を適用します。 - (2) 外力の仕事とエネルギーの種類:
「外力がする仕事」は「ポテンシャルエネルギーの変化 (\(\Delta U\))」に等しい、という公式 \(W_{\text{外力}} = \Delta U = q\Delta V\) を思い出します。始点(B)と終点(A)の電位、そして電子の電荷 \(-e\) を正確に代入して計算します。また、保存力に逆らう仕事がポテンシャルエネルギーとして蓄えられるという概念を適用します。 - (3) 運動エネルギーと速さ:
電子は「電場の力」だけで動くので、エネルギー保存則が使えると考えます。A点とB点での運動エネルギーとポテンシャルエネルギーをそれぞれ設定し、\(K_A + U_A = K_B + U_B\) という式を立てます。この式からB点での運動エネルギー \(K_B\) を求め、最後に運動エネルギーの定義式 \(K = \frac{1}{2}mv^2\) を使って速さを計算します。
各設問の具体的な解説と解答
(1) A,Bの中点Cの電位と電場の向き
問われている内容の明確化
AとBの中間地点であるC点の電位 \(V_C\) と、その点での電場の向きを求めます。
具体的な解説と立式
中点Cの電位 \(V_C\)
電場が一様であるため、電位はAからBへの距離に対して直線的に(一定の割合で)変化します。点Aの電位が \(V_A\)、点Bの電位が \(V_B\) なので、AとBのちょうど中間に位置する点Cの電位 \(V_C\) は、AとBの電位の平均値となります。
$$V_C = \frac{V_A + V_B}{2} \quad \cdots ①$$
電場の向き
電場は、電位の高い点から低い点に向かって生じます。問題の条件より、点Bの電位 \(V\) は点Aの電位 0 よりも高い (\(V > 0\)) です。したがって、電場の向きはBからAの向きとなります。電場は一様なので、AB間のどの点(C点を含む)でも電場の向きは同じです。
一様な電場中では、電位は距離に比例して変化する。
計算過程
中点Cの電位 \(V_C\)
式①に与えられた値 \(V_A = 0\)、\(V_B = V\) を代入します。
$$V_C = \frac{0 + V}{2} = \frac{V}{2}$$
問題は「Aに対していくらか」と聞いていますが、Aの電位が0なので、C点の電位そのものである \(\displaystyle\frac{V}{2}\) が答えとなります。
電場の向き
立式のセクションで述べた通り、電位の高低差(\(V_B > V_A\))から、電場の向きはBからAとなります。
計算方法の平易な説明
- 電位: A地点が標高0m、B地点が標高V[m]のまっすぐな坂道(一様な電場)を想像してください。ちょうど中間地点Cの標高は、0mとV[m]のど真ん中、つまり平均の \(\displaystyle\frac{V}{2}\)[m]になります。
- 電場の向き: 電場は、電位という「坂」を自然に転がり落ちる向きです。Bの方がAより電位が高い(標高が高い)ので、坂はBからAに向かって下っています。したがって、電場の向きは「BからAの向き」です。
この設問における重要なポイント
- 一様な電場では、電位が距離に比例して変化することを理解しているか。
- 電場は電位の高い方から低い方へ向かうという基本原則を理解しているか。
電位: \(\displaystyle\frac{V}{2}\)
電場の向き: BからAの向き
(2) 外力がする仕事とたくわえられるエネルギー
問われている内容の明確化
電子をBからAへ、電場の力に逆らって運ぶときの「外力」がする仕事 \(W\) と、その仕事によって電子がたくわえるエネルギーの種類を答えます。
具体的な解説と立式
外力がする仕事 \(W\)
外力が(運動エネルギーを変化させずに)する仕事 \(W_{\text{外力}}\) は、その物体が持つポテンシャルエネルギーの変化量 \(\Delta U\) に等しくなります。
$$W_{\text{外力}} = \Delta U$$ポテンシャルエネルギーの変化量 \(\Delta U\) は、電荷 \(q\) と移動前後の電位を用いて、$$\Delta U = U_{\text{後}} – U_{\text{初}} = qV_{\text{後}} – qV_{\text{初}}$$
と表せます。
この問題では、電荷は電子なので \(q = -e\)、初めの位置はB(始点)なので \(V_{\text{初}} = V_B = V\)、後の位置はA(終点)なので \(V_{\text{後}} = V_A = 0\) です。
したがって、仕事 \(W\) は、
$$W = (-e)V_A – (-e)V_B = (-e)(V_A – V_B) \quad \cdots ②$$
となります。
たくわえられるエネルギー
保存力である静電気力に逆らって外力がした仕事は、その分だけ物体のポテンシャルエネルギー(位置エネルギー)として蓄積されます。
$$W_{\text{外力}} = \Delta U = q\Delta V = q(V_{\text{後}} – V_{\text{初}})$$
計算過程
式②に、\(V_A = 0\) と \(V_B = V\) を代入して仕事 \(W\) を計算します。
$$W = (-e)(0 – V) = (-e)(-V) = eV$$
たくわえられるエネルギーは、解説の通り「(静電)ポテンシャルエネルギー」です。
計算方法の平易な説明
- 仕事: 電子はマイナスの電気を持っているので、プラスの電位のB点からゼロの電位のA点へは、自然には行きたがりません(電気的に反発します)。それに逆らって無理やり運ぶので、外から力を加えて仕事をしなければなりません。その仕事量は「電荷の大きさ \(e\) × 運ぶ場所の電位差 \(V\)」で計算でき、\(eV\) となります。
- エネルギー: 無理やり坂を上るように物体を運ぶと、その物体は「位置エネルギー」をたくわえます。電気の世界でも同じで、外力がした仕事は電子の「(静電)ポテンシャルエネルギー」としてたくわえられます。
この設問における重要なポイント
- 外力がする仕事はポテンシャルエネルギーの増加分に等しいこと (\(W_{\text{外力}} = \Delta U\))。
- 電子の電荷が \(-e\) であることを計算に正しく反映させること。
- 「BからAへ」という移動の向きから、始点と終点の電位を間違えないこと。
仕事: \(eV\)
エネルギーの種類: (静電)ポテンシャルエネルギー
(3) Bに達したときの運動エネルギーと速さ
問われている内容の明確化
Aに静止していた電子が、電場の力だけでBまで移動したときの、B点での運動エネルギー \(K\) と速さ \(v\) を求めます。
具体的な解説と立式
運動エネルギー \(K\)
静電気力(保存力)のみが仕事をする場合、系の全エネルギー(運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの和)は保存されます。
$$K_A + U_A = K_B + U_B$$
ここで、\(K_A, K_B\) はそれぞれA, Bでの運動エネルギー、\(U_A, U_B\) はポテンシャルエネルギーです。
問題の条件より、
- Aで静止していたので、初めの運動エネルギーは \(K_A = 0\)。
- Aの電位は \(V_A = 0\) なので、初めのポテンシャルエネルギーは \(U_A = (-e)V_A = 0\)。
- Bでの運動エネルギーは求める \(K\) なので \(K_B = K\)。
- Bの電位は \(V_B = V\) なので、後のポテンシャルエネルギーは \(U_B = (-e)V_B = -eV\)。
これらをエネルギー保存則の式に代入すると、
$$0 + 0 = K + (-eV) \quad \cdots ③$$
となります。
速さ \(v\)
運動エネルギー \(K\) と速さ \(v\) の関係は、
$$K = \frac{1}{2}mv^2 \quad \cdots ④$$
です。式③で \(K\) を求めた後、この関係式から速さ \(v\) を求めます。
使用した物理公式:
- エネルギー保存則: \(K_{\text{初}} + U_{\text{初}} = K_{\text{後}} + U_{\text{後}}\)
- 運動エネルギーの定義: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
計算過程
運動エネルギー \(K\)
式③ \(0 = K – eV\) を \(K\) について解きます。
$$K = eV$$
速さ \(v\)
上で求めた \(K=eV\) を、式④ \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) に代入します。
$$eV = \frac{1}{2}mv^2$$この式を \(v\) について解きます。まず両辺に2を掛け、質量 \(m\) で割ります。
$$v^2 = \frac{2eV}{m}$$最後に、正の平方根をとります(速さは負にならないため)。
$$v = \sqrt{\frac{2eV}{m}}$$
計算方法の平易な説明
- 運動エネルギー: A点では電子はエネルギーを全く持っていません(運動エネルギー0、電気的な位置エネルギーも0)。電子はマイナスの電気を持っているので、プラスの電位のB点に自然に引き寄せられます。これは、電気的な坂道を下るようなものです。このとき、位置エネルギーが \(eV\) だけ減少します。エネルギー保存の法則により、失われた位置エネルギーはすべて運動エネルギーに変わります。したがって、B点での運動エネルギーは \(eV\) となります。
- 速さ: 運動エネルギーは「\(\frac{1}{2} \times \text{質量} \times \text{速さ}^2\)」で計算できます。運動エネルギーが \(eV\) であることがわかったので、この式から逆算して速さ \(v\) を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- エネルギー保存則を正しく立式・適用できること。
- 運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの初期値と最終値を、問題条件から正確に読み取ること。
- 運動エネルギーの定義式を使って、エネルギーから速さを計算できること。
運動エネルギー: \(eV\)
速さ: \(\sqrt{\displaystyle\frac{2eV}{m}}\)
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問題全体を通して理解しておくべき重要な物理概念や法則
- 電位: 電気的な位置の高さを表すスカラー量。電場はこの「電位の坂」を下る向きに存在する。単位はボルト[V]。
- 仕事とエネルギー: 物理学における普遍的な関係性。外力がした仕事はポテンシャルエネルギーとして蓄えられ、保存力(ここでは静電気力)がする仕事は運動エネルギーを変化させる。
- エネルギー保存則: 外部から仕事がされない、あるいは非保存力が仕事をしない限り、系の全エネルギー(運動エネルギー+ポテンシャルエネルギー)は不変である。これは力学だけでなく、電磁気学においても非常に強力な解析ツールとなる。
類似の問題を解く上でのヒントや注意点
- 仕事の主体を明確にする: 「電場がした仕事」を問われているのか、「外力がした仕事」を問われているのかを明確に区別する。両者は大きさが等しく符号が逆になる。
- エネルギーの増減をイメージする: 荷電粒子が電場によって加速されるのか、減速されるのかを考える。加速なら運動エネルギーは増え、ポテンシャルエネルギーは減る。このイメージを持つと、符号の間違いが減る。
- 始点と終点の確認: エネルギーや仕事を計算する際は、どの点からどの点へ移動したのかを正確に把握し、対応する電位を間違えずに代入する。
よくある誤解や間違いやすいポイント
- 電子の電荷の符号: 電子の電荷は負 (\(-e\)) であるため、ポテンシャルエネルギー (\(U=qV\)) は \(U=-eV\) となる。このマイナス符号を見落とすと、エネルギーの増減関係が逆になってしまう。
- (2)と(3)の状況の混同: (2)では「外力」がBからAへ運び、(3)では「電場の力」がAからBへ運ぶ。状況が全く逆であるため、仕事やエネルギー変化の符号も逆になる点に注意が必要。
- (3)の運動エネルギーと(2)の仕事の関係: (3)で電子が得る運動エネルギー \(eV\) は、(2)で外力がした仕事 \(eV\) と同じ大きさである。これは、(2)のプロセスで蓄えたポテンシャルエネルギーを、(3)のプロセスで運動エネルギーに変換した、と解釈できるため。この関係性を理解すると、より深く問題を捉えられる。
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