「センサー物理 3rd Edition」徹底解説!【Chapter 7】Step3

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90 万有引力と遠心力

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、地球の自転によって生じる「遠心力」と、地球が物体を引く「万有引力」の関係を考察する問題です。我々が日常的に感じている「重力」が、実はこの2つの力の合力であることを深く理解することが求められます。
この問題の核心は、①万有引力と遠心力の基本的な関係式を立てる能力、②北極点での重力を基準として未知数を消去するテクニック、③異なる緯度での力のベクトル的な関係を正しく分析する能力、の3点です。

与えられた条件
  • 北極点での重力加速度: \(g\) [m/s²]
  • 地球の半径: \(R\) [m]
  • 地球の質量: \(M\) [kg]
  • 物体の質量: \(m\) [kg]
  • 万有引力定数: \(G\) [N·m²/kg²]
問われていること
  • (1) 赤道上で遠心力と万有引力が等しくなるときの、地球の自転周期\(T\)。
  • (2) (1)の周期\(T\)の具体的な数値。(\(g=9.8\), \(R=6.4\times 10^6\), \(\pi=3.14\))
  • (3) (1)のとき、北緯60度の地表で、合力(重力)が地表の垂線から傾く角度。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「万有引力と遠心力」です。地表にある物体が感じる「重力」が、実は地球の中心に向かう「万有引力」と、地球の自転によって生じる「遠心力」の合力であることを理解しているかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 万有引力の法則: 質量を持つ物体間に働く引力で、その大きさは \(F = G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\) で与えられます。
  2. 遠心力: 地球の自転(回転運動)に伴い、地表の物体には回転軸から遠ざかる向きに遠心力が働きます。その大きさは \(F = mr\omega^2\) で、\(r\)は回転半径です。
  3. 重力と重力加速度: 「重力」は万有引力と遠心力の合力です。北極点では自転の影響(遠心力)がないため、重力は万有引力に等しくなります。この関係から、\(GM\)を\(g\)と\(R\)で表すことができます。
  4. 緯度と回転半径: 緯度\(\phi\)の地点での回転半径は、地球の半径\(R\)を用いて \(r = R\cos\phi\) と表されます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1) 赤道上での力のつり合いの式(遠心力=万有引力)を立てます。次に、北極点での力の関係式(重力=万有引力)を用いて、未知の\(GM\)を既知の\(g, R\)で置き換え、周期\(T\)を求めます。
  2. (2) (1)で求めた式に、与えられた数値を代入して周期\(T\)を計算します。
  3. (3) 北緯60度での万有引力と遠心力の大きさを計算し、それらのベクトル的な関係から、合力が地表の垂線(万有引力の向き)からどれだけ傾くかを三角比などを用いて求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
赤道上にある物体に働く遠心力と万有引力が等しくなる、という条件を数式で表現します。この式には未知の物理量(地球の質量\(M\)、万有引力定数\(G\))が含まれますが、問題文で与えられている「北極点での重力加速度\(g\)」の情報を使ってこれらを消去することができます。
この設問における重要なポイント

  • 赤道上での力の等式: (遠心力)=(万有引力)。赤道上では回転半径は地球の半径\(R\)に等しい。
  • 北極点での力の関係: 北極では自転の影響がないため、物体に働く重力\(mg\)は万有引力と等しくなります。
  • 未知数の消去: 北極点での関係式 \(mg = G\displaystyle\frac{Mm}{R^2}\) から \(GM = gR^2\) という関係を導き、これを赤道上での力の等式に代入します。

具体的な解説と立式
Step 1: 赤道上での力の関係式を立てる

赤道上にある質量\(m\)の物体について考えます。

  • 万有引力: 地球の中心向きに \(F_{\text{引}} = G\displaystyle\frac{Mm}{R^2}\)
  • 遠心力: 地球の中心から遠ざかる向きに \(F_{\text{遠心}} = mR\omega^2 = mR\left(\displaystyle\frac{2\pi}{T}\right)^2\)

問題の条件より、これらの大きさが等しいので、
$$ mR\left(\frac{2\pi}{T}\right)^2 = G\frac{Mm}{R^2} \quad \cdots ① $$

Step 2: 未知数\(GM\)を消去する

北極点にある質量\(m\)の物体には、重力\(mg\)が働きます。北極は自転軸上にあるため遠心力は0であり、この重力は万有引力そのものと等しくなります。
$$ mg = G\frac{Mm}{R^2} $$
この式から、
$$ GM = gR^2 \quad \cdots ② $$

使用した物理公式

  • 万有引力の法則: \(F = G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\)
  • 遠心力: \(F = mr\omega^2\)
  • 周期と角速度: \(\omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\)
計算過程

①式を周期\(T\)について整理します。
$$ T^2 = \frac{4\pi^2 mR^3}{GMm} = \frac{4\pi^2 R^3}{GM} $$
この式に②の関係 \(GM = gR^2\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
T^2 &= \frac{4\pi^2 R^3}{gR^2} \\[2.0ex]&= \frac{4\pi^2 R}{g} \\[2.0ex]T &= 2\pi\sqrt{\frac{R}{g}}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

まず、赤道上で「遠心力」と「万有引力」が釣り合うという条件を数式にします。この式には地球の質量Mなどが含まれていて直接計算できません。そこで、もう一つの情報「北極での重力」を使います。北極では自転の影響がないので、「重力」は純粋な「万有引力」です。この関係を使うと、地球の質量Mなどを、問題で与えられている重力加速度gで置き換えることができます。これにより、周期Tを計算できる形になります。

結論と吟味

自転周期は \(T = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{R}{g}}\) となります。これは、長さ\(R\)の振り子が重力加速度\(g\)のもとで振動する単振り子の周期と同じ形をしており、興味深い結果です。

解答 (1) \(2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{R}{g}}\) [s]

問(2)

思考の道筋とポイント
(1)で導出した周期\(T\)の式に、与えられた物理量を代入して具体的な数値を計算します。単位系(メートル、秒)を正しく扱うことと、平方根や円周率の計算を丁寧に行うことが重要です。
この設問における重要なポイント

  • 数値の代入: \(g=9.8 \text{ m/s}^2\), \(R=6.4\times 10^6 \text{ m}\), \(\pi=3.14\) を代入する。
  • 計算の工夫: 平方根の中の数値を、平方数を見つけるなどして計算しやすく変形する。

具体的な解説と立式
(1)で求めた式に数値を代入します。
$$ T = 2\pi\sqrt{\frac{R}{g}} $$

使用した物理公式

  • (1)で導出した周期の式
計算過程

$$
\begin{aligned}
T &= 2 \times 3.14 \times \sqrt{\frac{6.4 \times 10^6}{9.8}} \\[2.0ex]&= 6.28 \times \sqrt{\frac{64 \times 10^5}{9.8}} \\[2.0ex]&= 6.28 \times \sqrt{\frac{640}{98} \times 10^4} \\[2.0ex]&= 6.28 \times \frac{\sqrt{640}}{\sqrt{98}} \times 10^2 \\[2.0ex]&= 6.28 \times \frac{8\sqrt{10}}{7\sqrt{2}} \times 10^2 \\[2.0ex]&= 6.28 \times \frac{8\sqrt{5}}{7} \times 10^2 \\[2.0ex]&\approx 6.28 \times \frac{8 \times 2.236}{7} \times 10^2 \\[2.0ex]&\approx 5098 \text{ [s]} \\[2.0ex]&\approx 5.1 \times 10^3 \text{ [s]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

(1)で求めた周期を計算する公式に、問題文で与えられた地球の半径R、重力加速度g、円周率πの値を代入して、電卓を使わずに筆算で答えを求めます。

結論と吟味

周期は約 \(5.1 \times 10^3\) 秒(約85分)となります。これは現在の地球の自転周期(約24時間)よりもはるかに短い値です。赤道上の物体が浮き上がる(無重力になる)ためには、地球が現在より非常に高速で自転する必要があることを示しています。

解答 (2) \(5.1 \times 10^3\) [s]

問(3)

思考の道筋とポイント
(1)で考えた高速自転の状態のとき、北緯60度の地表での力の様子を分析します。この地点では、万有引力は地球の中心を向きますが、遠心力は自転軸に対して垂直に外向きに働きます。この2つのベクトルの合力(見かけの重力)が、地表の垂線(万有引力の向き)からどれだけ傾くかを問われています。
この設問における重要なポイント

  • 北緯60度での回転半径: 緯度が\(\phi=60^\circ\)なので、回転半径は \(r = R\cos 60^\circ = \displaystyle\frac{R}{2}\)。
  • 北緯60度での遠心力: 遠心力は回転半径に比例するため、赤道上の遠心力の半分になる。
  • 力のベクトル図: 「万有引力」と「遠心力」をベクトルとして図示し、その合力を考える。傾きの角度は、これらの力の大きさの比から求めることができる。

具体的な解説と立式
(1)の条件のとき、赤道上では万有引力と遠心力の大きさが等しく、これを \(F_0\) とおきます。
$$ F_0 = G\frac{Mm}{R^2} = mR\omega^2 $$
北緯60度の地点で働く力を考えます。

  • 万有引力: 大きさは地表のどこでもほぼ同じで \(F_0\)。向きは地球の中心向き。
  • 遠心力: 回転半径が \(r = R\cos 60^\circ = \displaystyle\frac{R}{2}\) となるため、遠心力の大きさ \(F’\) は、
    $$ F’ = mr\omega^2 = m\left(\frac{R}{2}\right)\omega^2 = \frac{1}{2}(mR\omega^2) = \frac{1}{2}F_0 $$
    向きは自転軸に垂直外向きです。

地表の垂線(万有引力の向き)と、遠心力\(F’\)のベクトルのなす角は \(60^\circ\) です。
この遠心力\(F’\)を、万有引力に平行な成分と垂直な成分に分解します。

  • 万有引力と逆向きの成分: \(F’\cos 60^\circ\)
  • 地表の垂線に垂直な成分: \(F’\sin 60^\circ\)

合力(重力)が垂線から傾く角度\(\alpha\)は、この垂直成分によって生じます。
合力の垂線方向成分と、垂線に垂直な方向成分の比から\(\tan\alpha\)が求まります。
$$ \tan\alpha = \frac{F’\sin 60^\circ}{F_0 – F’\cos 60^\circ} $$

使用した物理公式

  • 力のベクトル合成
計算過程

\(F’ = \displaystyle\frac{1}{2}F_0\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\tan\alpha &= \frac{\frac{1}{2}F_0 \sin 60^\circ}{F_0 – \frac{1}{2}F_0 \cos 60^\circ} \\[2.0ex]&= \frac{\frac{1}{2} \cdot \frac{\sqrt{3}}{2}}{1 – \frac{1}{2} \cdot \frac{1}{2}} \\[2.0ex]&= \frac{\frac{\sqrt{3}}{4}}{1 – \frac{1}{4}} \\[2.0ex]&= \frac{\frac{\sqrt{3}}{4}}{\frac{3}{4}} \\[2.0ex]&= \frac{\sqrt{3}}{3} = \frac{1}{\sqrt{3}}
\end{aligned}
$$
\(\tan\alpha = \displaystyle\frac{1}{\sqrt{3}}\) なので、傾く角度は \(\alpha = 30^\circ\) となります。

計算方法の平易な説明

北緯60度では、地球の中心に向かう「万有引力」と、斜め外側に向かう「遠心力」が働きます。この2つの力を合成したものが、その場所での「本当の重力」になります。この「本当の重力」が、もともとの万有引力の方向(地面に垂直な方向)からどれだけ傾いているかを、ベクトルの足し算(力の合成)で計算します。

結論と吟味

合力(重力)は地表の垂線に対して \(30^\circ\) 傾きます。これは、遠心力の影響で、見かけの重力が少しだけ赤道側にずれることを意味しています。この現象は「重力の偏角」として知られており、物理的に妥当な結果です。

解答 (3) \(30^\circ\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 万有引力の法則と遠心力の関係:
    • 核心: 地球の自転を考慮した場合、地表の物体が受ける「重力」は、地球の中心に向かう「万有引力」と、自転軸から遠ざかる向きの「遠心力」の合力として定義されます。この問題は、この3つの力の関係性を正しく理解しているかを問うています。
    • 理解のポイント:
      • 万有引力: 常に地球の中心を向く。大きさは \(G\frac{Mm}{R^2}\)。
      • 遠心力: 常に自転軸から垂直に遠ざかる向きを向く。大きさは \(m(R\cos\phi)\omega^2\)。(\(\phi\)は緯度)
      • 重力: 上記2つのベクトルの和。そのため、重力は厳密には地球の中心を向いていません(赤道と両極を除く)。
  • 基準点(北極点)との関係づけ:
    • 核心: 問題には地球の質量\(M\)や万有引力定数\(G\)が与えられていません。しかし、北極点では遠心力が0になるため、「重力=万有引力」という関係が成り立ちます。これを利用して、測定可能な量である重力加速度\(g\)と地球の半径\(R\)を用いて、未知の積\(GM\)を \(GM=gR^2\) と表すことができます。
    • 理解のポイント: このテクニックは、万有引力に関する問題を解く上での非常に重要な定石です。未知の定数を、既知の物理量で置き換えることで、具体的な計算が可能になります。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 人工衛星の運動: 人工衛星の円運動では、万有引力が向心力として働きます。その速さや周期を求める問題は、この問題の(1)と類似した考え方で解けます。
    • 地表での重力加速度の緯度依存性: 遠心力は赤道で最大、高緯度になるほど小さくなるため、見かけの重力加速度も緯度によってわずかに変化します。その差を計算する問題などに応用できます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 力のベクトル図を描く: まず、地表の物体に働く「万有引力」と「遠心力」を、向きと相対的な大きさを意識してベクトルで描きます。特に、緯度がある地点では、この2つの力が一直線上にないことが重要です。
    2. 回転半径を正しく求める: 遠心力の計算で最も重要なのは回転半径\(r\)です。緯度\(\phi\)の地点では、\(r=R\cos\phi\) となることを忘れないようにします。赤道なら\(\phi=0\)、北極なら\(\phi=90^\circ\)です。
    3. \(GM=gR^2\) の関係式を疑う: 問題に\(M\)や\(G\)がなく、代わりに\(g\)が与えられている場合、ほぼ確実に \(GM=gR^2\) の関係式を使うことになります。この関係式を導出、または利用する準備をしておきましょう。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 重力と万有引力の混同:
    • 誤解: 日常的に使う「重力」と、物理学的な「万有引力」を同じものだと考えてしまう。
    • 対策: 自転を考慮する場合、この2つは明確に区別する必要があります。「重力=万有引力+遠心力(ベクトル和)」という定義をしっかり理解しましょう。自転を無視できる場合や、北極・南極でのみ「重力≒万有引力」となります。
  • 遠心力の向きの間違い:
    • 誤解: 遠心力が常に地球の中心から遠ざかる向き(動径方向)に働くと勘違いする。
    • 対策: 遠心力は、あくまで「自転軸」から垂直に遠ざかる向きに働きます。北緯60度の地点では、斜め外側を向くことになります。必ず図を描いて向きを確認しましょう。
  • (3)での力の分解のミス:
    • 誤解: (3)で、万有引力と遠心力のなす角を\(90^\circ\)として単純な三平方の定理で考えてしまう。
    • 対策: 北緯60度では、地球の中心を向く万有引力と、自転軸に垂直な遠心力のなす角は\(60^\circ\)です。この2つのベクトルを正しく図示し、ベクトルの合成(または分解)を行う必要があります。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 地球の断面図: 地球を北極と南極を通る面で切った断面図を描くのが最も有効です。この図に、中心、自転軸、赤道面、緯度\(\phi\)の点を描き込みます。
    • 力のベクトルを書き込む: 緯度\(\phi\)の点から、中心に向かって万有引力のベクトルを描き、自転軸に垂直外向きに遠心力のベクトルを描きます。この2つのベクトルで平行四辺形を作り、その対角線が「重力」のベクトルになります。地表の垂線(万有引力の向き)と、この重力ベクトルのなす角が「重力の偏角」です。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 回転半径\(r\)の明記: 断面図に、緯度\(\phi\)の点から自転軸に下ろした垂線を引き、これが回転半径\(r=R\cos\phi\)であることを明記します。
    • 角度の関係を正確に: 緯度\(\phi\)の定義(赤道面と動径のなす角)と、万有引力と遠心力のなす角(\(90^\circ-\phi\)や\(\phi\)など、図の取り方による)の関係を正確に把握することが、(3)を解く上での鍵となります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 万有引力の法則 (\(F=G\frac{Mm}{R^2}\)):
    • 選定理由: 地球と物体との間に働く根源的な引力を記述するため。
    • 適用根拠: ニュートンによって発見された、質量を持つ全ての物体の間に働く普遍的な法則です。
  • 遠心力の式 (\(F=mr\omega^2\)):
    • 選定理由: 地球の自転という回転運動に伴って、地表の物体に働く見かけの力を記述するため。
    • 適用根拠: 回転座標系(非慣性系)で運動を記述する際に導入される慣性力の一種です。
  • \(GM=gR^2\):
    • 選定理由: 直接測定が困難な\(G\)や\(M\)を、測定が容易な\(g\)と\(R\)で置き換えるため。これにより、具体的な計算が可能になります。
    • 適用根拠: 北極点において「重力=万有引力」が成り立つという物理的な事実に基づいた関係式です。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 周期\(T\)の導出:
    • 戦略: 赤道での力の等式と、北極での関係式を連立させる。
    • フロー: ①赤道で「遠心力=万有引力」の式を立てる。②北極で「重力=万有引力」の式を立て、\(GM=gR^2\)を導く。③ ①の式に②を代入し、\(T\)について解く。
  2. (2) 数値計算:
    • 戦略: (1)の式に与えられた数値を代入する。
    • フロー: ①\(T=2\pi\sqrt{R/g}\)に\(R, g, \pi\)の値を代入。②平方根の計算などを工夫し、有効数字に注意して答えを求める。
  3. (3) 重力の傾き:
    • 戦略: 北緯60度での万有引力と遠心力をベクトルとして考え、その合力の向きを調べる。
    • フロー: ①北緯60度での回転半径\(r\)と遠心力\(F’\)の大きさを求める。②万有引力\(F_0\)と遠心力\(F’\)をベクトル図示する。③力のベクトルを分解し、地表の垂線方向とそれに垂直な方向の成分を求める。④2つの成分の比から\(\tan\alpha\)を計算し、角度\(\alpha\)を求める。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 文字式のまま計算を進める: (1)や(3)では、最後まで文字式のまま計算し、最終的な形にしてから数値を代入する((2))または結論を出す((3))方が、計算ミスが少なく、物理的な意味も見失いにくいです。
  • 比で考える: (3)では、万有引力と遠心力の「大きさの比」を先に求めると、計算が簡略化されます。(1)の条件から赤道上では \(F_0 : F_{\text{遠心}}=1:1\)。北緯60度では遠心力は赤道の半分になるので、\(F_0 : F’ = 1 : 1/2 = 2:1\) となり、この比を使って作図すると角度の関係が分かりやすくなります。
  • 概算の習慣: (2)の計算では、\(\sqrt{6.4/9.8} \approx \sqrt{0.65} \approx 0.8\) のように大まかな値を予測しておくと、計算結果が大きくずれていないかを確認できます。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (2)の周期(約85分)は、現在の自転周期(24時間)よりずっと短いです。これは「遠心力が万有引力に匹敵する」という極端な状況設定を反映しており、妥当な結果です。
    • (3)の傾き\(30^\circ\)は、物理的に意味のある角度です。遠心力は物体を赤道方向に引っ張る効果があるため、重力が赤道側に傾くのは直感に合っています。もし北極側に傾くような結果が出たら、計算ミスを疑うべきです。

91 地球を貫通するトンネル

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、地球の中心を通るトンネル内の物体の運動を考察する、思考実験的な問題です。地球内部での万有引力の性質を正しく理解し、その結果として物体がどのような運動をするかを見抜く力が問われます。
この問題の核心は、地球内部では万有引力が中心からの距離に比例する「復元力」として働くことを導き、その結果、トンネル内の物体の運動が「単振動」になることを突き止める点にあります。

与えられた条件
  • 地球は密度\(\rho\) [kg/m³] が一様な球状と仮定。
  • 地球の中心Oを通る細い直線のトンネルABがある。
  • 地球の半径: \(R\) [m]
  • 地球表面での重力加速度: \(g\) [m/s²]
  • 物体の質量: \(m\) [kg]
問われていること
  • (1) 地球の中心Oを中心とする半径\(x\) (\(x \le R\)) の球状部分の質量\(M_x\)。
  • (2) (1)の質量\(M_x\)が中心Oに集まった質点と考えたとき、この質点と中心Oから\(x\)だけ離れた質量\(m\)の物体に働く万有引力の大きさ\(F\)。
  • (3) トンネル内の物体に働く力が(2)の万有引力のみであるとき、点Aから静かにはなした物体が点Bまで達するのに要する時間\(t\)。
  • (4) (3)の時間の具体的な数値。(\(g=9.8 \text{ m/s}^2\), \(R=6.4\times 10^6 \text{ m}\), \(\pi=3.14\))

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「地球内部の万有引力と単振動」です。地球の内部では、万有引力が中心からの距離に比例する「復元力」として働くことを導き、その結果として物体が単振動することを見抜くことが核心となります。

  1. 球殻定理: ある点での万有引力を考えるとき、その点より外側にある球殻からの引力は打ち消し合って0になり、内側にある球状部分の質量が中心に集まったかのように引力を及ぼす、という重要な定理が背景にあります。
  2. 万有引力の法則: 質量を持つ物体間に働く引力の法則です。
  3. 単振動: 物体に、変位に比例し中心を向く復元力(\(F=-Kx\))が働くとき、物体は単振動を行います。その周期は \(T=2\pi\sqrt{m/K}\) で与えられます。
  4. 地表での重力と万有引力の関係: 地表での重力\(mg\)が、地球全体の質量\(M\)による万有引力と等しい(自転は無視)という関係 \(mg = G\frac{Mm}{R^2}\) を利用して、未知の定数を消去します。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1) 密度と体積の関係から、半径\(x\)の球の質量を計算します。
  2. (2) (1)で求めた質量を万有引力の法則に適用し、力を求めます。この際、地表での重力の関係式を用いて、答えを\(g, R, m, x\)で表します。
  3. (3) (2)で求めた力が復元力の形をしていることを確認し、物体が単振動することを利用して周期を計算します。点Aから点Bまでの移動は、単振動の半周期分に相当します。
  4. (4) (3)で求めた式に、与えられた数値を代入して時間を計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
中心Oを中心とする半径\(x\)の球状部分の質量を求めます。地球の密度\(\rho\)が一様であると仮定されているため、「質量 = 密度 × 体積」の関係を使って簡単に計算できます。
この設問における重要なポイント

  • 質量の定義: 質量は密度と体積の積で与えられる。
  • 球の体積の公式: 半径\(r\)の球の体積は \(\displaystyle\frac{4}{3}\pi r^3\) である。

具体的な解説と立式
求める質量を\(M_x\)とします。密度は\(\rho\)、半径\(x\)の球の体積は \(V_x = \displaystyle\frac{4}{3}\pi x^3\) です。
したがって、質量は、
$$
\begin{aligned}
M_x &= \rho \times V_x \\[2.0ex]&= \rho \cdot \frac{4}{3}\pi x^3
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 質量 = 密度 × 体積
  • 球の体積の公式
計算過程

立式そのものが結論となります。
$$ M_x = \frac{4}{3}\pi\rho x^3 $$

計算方法の平易な説明

球の質量を求めるには、まずその球の体積を計算し、それに密度(1立方メートルあたりの質量)を掛ければよいです。半径がxの球の体積の公式を使って計算します。

結論と吟味

半径\(x\)の球状部分の質量は \(\displaystyle\frac{4}{3}\pi\rho x^3\) [kg] です。

解答 (1) \(\displaystyle\frac{4}{3}\pi\rho x^3\) [kg]

問(2)

思考の道筋とポイント
中心Oから距離\(x\)の点にある物体に働く万有引力を求めます。球殻定理により、この引力は(1)で求めた半径\(x\)の球状部分の質量\(M_x\)が、すべて中心Oに集まったとして計算できます。ただし、最終的な答えは\(g, R\)などを用いて表す必要があるため、未知の定数である万有引力定数\(G\)と密度\(\rho\)を消去する操作が必要です。
この設問における重要なポイント

  • 球殻定理の適用: 距離\(x\)の点での万有引力は、半径\(x\)の内部の質量\(M_x\)のみから受ける。
  • 万有引力の法則: \(F = G\displaystyle\frac{M_x m}{x^2}\)。
  • 未知数の消去: 地球全体の質量\(M\)と、地表での重力\(mg\)に関する2つの関係式を立て、これらを用いて\(G\)と\(\rho\)を消去する。

具体的な解説と立式
Step 1: 万有引力\(F\)を\(G, \rho, x\)で表す

(1)の結果を用いて、万有引力の法則を適用します。
$$
\begin{aligned}
F &= G\frac{M_x m}{x^2} \\[2.0ex]&= G\frac{(\frac{4}{3}\pi\rho x^3)m}{x^2} \\[2.0ex]&= \frac{4}{3}\pi G\rho m x \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$

Step 2: 未知数 \(G, \rho\) を消去するための関係式を立てる

地球全体の質量\(M\)は、(1)と同様に、
$$ M = \frac{4}{3}\pi\rho R^3 \quad \cdots ② $$
地球表面では、重力\(mg\)が地球全体の質量\(M\)による万有引力とみなせるので、
$$ mg = G\frac{Mm}{R^2} \quad \cdots ③ $$

使用した物理公式

  • 万有引力の法則: \(F = G\displaystyle\frac{M’m}{r^2}\)
計算過程

③式から \(GM = gR^2\) となります。この\(M\)に②式を代入すると、
$$ G\left(\frac{4}{3}\pi\rho R^3\right) = gR^2 $$
この式から、未知の定数の組み合わせ \(\displaystyle\frac{4}{3}\pi G\rho\) を消去できます。
$$ \frac{4}{3}\pi G\rho = \frac{g}{R} $$
これを①式に代入すると、
$$ F = \left(\frac{g}{R}\right) m x = \frac{mg}{R}x $$

計算方法の平易な説明

まず、地球内部での万有引力を、未知の定数(Gとρ)を含んだ形で表します。次に、地球全体に注目して「地球全体の質量」と「地表での重力」に関する2つの式を立てます。この3つの式を連立方程式のように解くことで、未知の定数を消去し、問題で与えられた文字だけのシンプルな形に整理します。

結論と吟味

万有引力の大きさは \(F = \displaystyle\frac{mg}{R}x\) です。この結果は、力が中心からの変位\(x\)に比例することを示しています。また、力の向きは常に中心Oを向くため、これはばねの弾性力と同じ「復元力」の性質を持っていることがわかります。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{mg}{R}x\) [N]

問(3)

思考の道筋とポイント
点Aから点Bまで達する時間を求めます。(2)の結果から、トンネル内の物体に働く力は \(F = (\text{定数}) \times x\) という、中心からの距離に比例する復元力であることがわかりました。このような力を受ける物体は「単振動」を行います。A→Bの運動は、この単振動のちょうど半周期分に相当します。
この設問における重要なポイント

  • 単振動の発見: 力が \(F = Kx\) の形(復元力)であることから、運動が単振動であることを見抜く。
  • 復元力の比例定数: \(F = \displaystyle\frac{mg}{R}x\) と \(F=Kx\) を比較して、比例定数 \(K = \displaystyle\frac{mg}{R}\) を特定する。
  • 単振動の周期: 公式 \(T = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{m}{K}}\) を用いて周期を計算する。
  • 移動時間: 点Aから点Bまでは、単振動の端から端までの運動なので、周期の半分 (\(\displaystyle\frac{T}{2}\)) である。

具体的な解説と立式
(2)より、物体に働く力は \(F = \displaystyle\frac{mg}{R}x\) です。これは中心Oからの変位\(x\)に比例する復元力なので、物体は中心Oを中心とする単振動を行います。
復元力の比例定数を\(K\)とすると、
$$ K = \frac{mg}{R} $$
この単振動の周期\(T\)は、
$$ T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{K}} $$
点Aから点Bまでの移動は、単振動の端から端への片道の運動であり、これは半周期に相当します。求める時間\(t\)は、
$$ t = \frac{T}{2} $$

使用した物理公式

  • 単振動の周期: \(T = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{m}{K}}\)
計算過程

周期\(T\)の式に\(K\)を代入します。
$$ T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{\frac{mg}{R}}} = 2\pi\sqrt{\frac{R}{g}} $$
求める時間\(t\)は、その半分なので、
$$ t = \frac{T}{2} = \pi\sqrt{\frac{R}{g}} $$

計算方法の平易な説明

(2)で求めた力は、ばねが物体を引っ張る力のように、中心からの距離に比例する力です。このような力を受ける物体は「単振動」という往復運動をします。点Aから点Bまでの移動は、この往復運動のちょうど片道分です。したがって、まず1往復にかかる時間(周期)を公式から計算し、その半分を求めることで答えが得られます。

結論と吟味

時間は \(t = \pi\sqrt{\displaystyle\frac{R}{g}}\) となります。この式には物体の質量\(m\)が含まれておらず、物体の種類によらず一定の時間でBに達することがわかります。これはガリレオの「落体の法則」が、地球内部の重力についても形を変えて成り立っていることを示唆する興味深い結果です。

解答 (3) \(\pi\sqrt{\displaystyle\frac{R}{g}}\) [s]

問(4)

思考の道筋とポイント
(3)で導出した時間の式に、与えられた物理量を代入して具体的な数値を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 数値の代入: \(g=9.8 \text{ m/s}^2\), \(R=6.4\times 10^6 \text{ m}\), \(\pi=3.14\) を代入する。
  • 計算の工夫: 指数計算や平方根の計算を丁寧に行う。

具体的な解説と立式
(3)で求めた式に数値を代入します。
$$ t = \pi\sqrt{\frac{R}{g}} $$

使用した物理公式

  • (3)で導出した時間の式
計算過程

$$
\begin{aligned}
t &= 3.14 \times \sqrt{\frac{6.4 \times 10^6}{9.8}} \\[2.0ex]&= 3.14 \times \sqrt{\frac{640 \times 10^4}{98}} \\[2.0ex]&= 3.14 \times \frac{\sqrt{640}}{\sqrt{98}} \times 10^2 \\[2.0ex]&= 3.14 \times \frac{8\sqrt{10}}{7\sqrt{2}} \times 10^2 \\[2.0ex]&= 3.14 \times \frac{8\sqrt{5}}{7} \times 10^2 \\[2.0ex]&\approx 3.14 \times \frac{8 \times 2.236}{7} \times 10^2 \\[2.0ex]&\approx 2520 \text{ [s]} \\[2.0ex]&\approx 2.5 \times 10^3 \text{ [s]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

(3)で導いた公式に、問題文で与えられた地球の半径R、重力加速度g、円周率πの値を代入して、答えを計算します。

結論と吟味

時間は約2500秒、すなわち約42分となります。これは、もし地球の中心を通るトンネルがあれば、地上のどんな場所からでも反対側まで約42分で到達できることを意味します。非常に興味深い物理的な結果です。

解答 (4) \(2.5 \times 10^3\) [s]

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 球殻定理と地球内部の万有引力:
    • 核心: 地球内部の点(中心から距離\(x\))で物体が受ける万有引力は、その点より内側にある球体(半径\(x\))の質量が中心に集まったかのように働き、外側にある球殻からの引力は合計でゼロになる、という「球殻定理」がこの問題の物理的な背景です。
    • 理解のポイント: この定理により、(2)では半径\(x\)の球の質量\(M_x\)だけを考えればよいことになります。その結果、地球内部での万有引力は中心からの距離\(x\)に比例する \(F \propto x\) という、ばねの弾性力のような性質を持つことが導かれます。
  • 復元力と単振動:
    • 核心: (2)で導かれた力 \(F = \frac{mg}{R}x\) は、変位\(x\)に比例し、常に中心Oを向く「復元力」です。このような力を受ける物体は必ず「単振動」を行います。この運動の性質を見抜くことが、(3)を解くための最大の鍵です。
    • 理解のポイント: 物体の運動が単振動であるとわかれば、その周期は復元力の比例定数\(K\)を用いて \(T=2\pi\sqrt{m/K}\) という公式一発で計算できます。A→Bの移動時間は、単振動の半周期に相当します。
  • 地表の重力を用いた未知数の消去:
    • 核心: (2)の計算過程で、未知の定数である万有引力定数\(G\)と地球の密度\(\rho\)が登場しますが、これらは地表での重力の式 \(mg = G\frac{M_{\text{全}}m}{R^2}\) と地球全体の質量の式 \(M_{\text{全}}=\rho \frac{4}{3}\pi R^3\) を組み合わせることで消去できます。
    • 理解のポイント: 万有引力の問題において、\(G\)や天体の質量\(M\)が与えられていない場合に、地表での重力加速度\(g\)を使って \(GM=gR^2\) のように置き換えるのは、非常に頻出する重要なテクニックです。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • ばね振り子: ばねにつるされたおもりの運動。復元力が\(F=kx\)で与えられ、単振動の最も基本的なモデルです。
    • 液柱の振動(U字管): U字管に入れた液体を少しずらすと、液面の高さの差による圧力差が復元力となり、液体は単振動します。
    • 浮力の復元力による単振動: 水に浮いている物体を少し押し込むと、増えた浮力が上向きの復元力となり、物体は単振動します。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 物体に働く力を分析する: まず、物体に働く力がどのような性質を持つかを調べます。
    2. 復元力か否かを判断する: その力が、あるつり合いの位置からの変位\(x\)に比例し(\(F \propto x\))、常につり合いの位置を向く(\(F = -Kx\))という「復元力」の性質を持っているかを見抜きます。
    3. 単振動モデルへの帰着: 復元力であることがわかれば、その運動は単振動であると断定できます。あとは比例定数\(K\)を特定し、周期の公式 \(T=2\pi\sqrt{m/K}\) に当てはめるだけで、運動の様子(周期など)を解析できます。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 地球内部での万有引力の誤解:
    • 誤解: 地球の内部でも、万有引力は地球全体の質量\(M\)によって決まり、距離の2乗に反比例する(\(F \propto 1/x^2\))と考えてしまう。
    • 対策: 球殻定理を正しく理解することが重要です。地球内部では、自分より外側の質量からの引力はキャンセルされるため、引力は内側の質量のみに依存します。その結果、\(F \propto x\) となり、地表に近づくほど引力は強くなります。
  • 単振動であることの見落とし:
    • 誤解: (3)で、力が変化する運動であるため、等加速度直線運動の公式などを使って時間を計算しようとしてしまう。
    • 対策: (2)で求めた力の形 \(F = (\text{定数}) \times x\) を見た瞬間に、「これは復元力だ、つまり単振動だ」と気づくことが何よりも重要です。運動の種類を正しく特定することが、適切な公式選択の第一歩です。
  • 移動時間と周期の関係:
    • 誤解: (3)で求める時間が、周期\(T\)そのものだと勘違いする。
    • 対策: 単振動の周期\(T\)は「1往復」にかかる時間です。問題で問われているのは、端点Aから逆の端点Bまでの「片道」の時間なので、周期の半分 (\(T/2\)) となります。運動のどの部分を問われているかを正確に把握しましょう。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 地球をタマネギのようにイメージする: 地球を、中心が同じで大きさの違う球殻(タマネギの皮)が何層にも重なったものとしてイメージします。ある深さにいるとき、自分より外側の皮からの引力はすべて打ち消し合い、内側の芯の部分だけから引力を受けている、と考えると球殻定理が直感的に理解できます。
    • 単振動と円運動の対応(射影): このトンネル内の単振動は、実は「地球を一周する円運動(第一宇宙速度より遅い)」を、トンネルというスクリーンに投影した影の動きと見ることもできます。この視点に立つと、周期が \(T=2\pi\sqrt{R/g}\) となることが、より深いレベルで理解できます(大学レベルの知識ですがイメージとして有効です)。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 力のベクトル: 中心から距離\(x\)の点にいる物体に、中心Oを向く復元力\(F\)が働いていることを、矢印で明確に図示します。\(x\)が大きくなるほど、矢印も長くなるように描くと、力の性質が視覚的に理解しやすくなります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 万有引力の法則 (\(F=G\frac{Mm}{r^2}\)):
    • 選定理由: (2)で、天体(またはその一部)と物体の間に働く引力を計算するための基本法則として使用します。
    • 適用根拠: 質量を持つ物体の間に働く、自然界の基本的な相互作用を記述する法則です。
  • 単振動の周期の公式 (\(T=2\pi\sqrt{m/K}\)):
    • 選定理由: (3)で、運動が単振動であることを見抜いた後、その周期を計算するため。
    • 適用根拠: 運動方程式 \(ma = -Kx\) という2階の微分方程式を解くことで導かれる、単振動の周期と比例定数\(K\)を結びつける普遍的な関係式です。
  • \(mg = G\frac{M_{\text{全}}m}{R^2}\):
    • 選定理由: (2)の計算過程で、直接の値が不明な\(G\)や\(\rho\)(または\(M\))を、既知の\(g\)と\(R\)で置き換えるために使用します。
    • 適用根拠: 地球の自転を無視した場合、地表での重力は地球全体の質量による万有引力と等しい、という物理的な事実に基づきます。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 半径\(x\)の球の質量:
    • 戦略: 密度と体積を掛ける。
    • フロー: \(M_x = \rho \times (\frac{4}{3}\pi x^3)\)。
  2. (2) 地球内部の万有引力:
    • 戦略: 球殻定理を使い、未知数を消去する。
    • フロー: ①\(F = G\frac{M_x m}{x^2}\) に(1)の結果を代入。②地表での重力の式から \(GM=gR^2\) の関係を導く。③この関係を使って、①の式の\(G\)と\(\rho\)を消去し、\(F=\frac{mg}{R}x\) を得る。
  3. (3) A→Bの時間:
    • 戦略: 運動が単振動であることを見抜き、半周期を計算する。
    • フロー: ①(2)の結果から、復元力の比例定数 \(K=\frac{mg}{R}\) を特定。②周期の公式 \(T=2\pi\sqrt{m/K}\) を計算。③求める時間は半周期なので \(t=T/2\)。
  4. (4) 数値計算:
    • 戦略: (3)の式に数値を代入する。
    • フロー: \(t=\pi\sqrt{R/g}\) に与えられた値を代入し、計算する。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 文字の整理: この問題は多くの物理量(\(m, M, M_x, \rho, G, g, R, x, F, K, T, t\))が登場します。どの文字が何を意味し、どの式で関連付けられているかを、一つ一つ丁寧に確認しながら進めることが重要です。
  • 次元解析: 例えば、(3)で求めた周期の式 \(T=2\pi\sqrt{R/g}\) の根号の中は、(m)/(m/s²) = s² となり、平方根をとると秒(s)の次元になります。これは時間の次元と一致しており、式がもっともらしいことを示唆します。
  • 近似計算の精度: (4)のような数値計算では、\(\pi \approx 3.14\), \(\sqrt{10} \approx 3.16\), \(\sqrt{2} \approx 1.41\) などの近似値をどの程度の精度で使うかによって結果が微妙に変わります。問題の有効数字(この場合は2桁)を意識して、計算途中で少し多めの桁数を保つと、丸め誤差を減らせます。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (2)の力 \(F=\frac{mg}{R}x\) は、\(x=R\)(地表)で \(F=mg\) となり、地表での重力と一致します。また、\(x=0\)(中心)で \(F=0\) となり、地球の中心では無重力になるという直感とも一致します。
    • (3)の周期 \(T=2\pi\sqrt{R/g}\) は、問題166の(1)で扱った「遠心力=万有引力」となる周期と同じ形です。これは偶然ではなく、地球を周回する人工衛星の周期と、地球を貫通するトンネル内の単振動の周期が(条件によっては)一致するという、深い物理的関連性を示唆しています。
    • (4)の時間(約42分)は、大陸間弾道ミサイルが地球の半周を飛ぶ時間とほぼ同じオーダーであり、非常に高速な移動手段であることがわかります。

92 万有引力による運動

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、万有引力下での物体の運動を、打ち上げ、等速円運動、楕円運動、そして脱出といった様々な側面から総合的に考察する問題です。力学的エネルギー保存則とケプラーの法則という、天体力学の二大原理を駆使して解き進める必要があります。
この問題の核心は、運動の各局面(円運動、楕円運動など)に応じて適切な物理法則(運動方程式、エネルギー保存則、ケプラーの法則)を選択し、それらを連立させて解く能力、そして「衝突しない」「脱出する」といった物理的条件を数式に翻訳する能力です。

与えられた条件
  • 小物体の質量: \(m\) [kg]
  • 地球の半径: \(R\) [m]
  • 地球の質量: \(M\) [kg]
  • 地表での重力加速度: \(g\) [m/s²]
  • 万有引力定数: \(G\)
  • 運動①: 地上から速さ\(v_0\)で打ち上げ、距離\(2R\)の点Aで速さ0になる。
  • 運動②: 点Aで速さ\(v\)を与え、半径\(2R\)の等速円運動をさせる。
  • 運動③: 点Aで速さ\(v’\)を与え、点B(距離\(6R\))を遠日点とする楕円運動をさせる。
  • 運動④: 点Aで速さ\(v”\)を与え、地球に衝突せず無限遠にも飛び去らない楕円運動をさせる。
問われていること
  • (1) 初速\(v_0\)と円運動の速さ\(v\)を、\(g, R\)で表す。
  • (2) 楕円運動の速さ\(v’\)を、\(g, R\)で表す。
  • (3) (2)の楕円運動の周期を、\(g, R\)で表す。
  • (4) (2)の状況で、衝突も脱出もしないための速さ\(v”\)の範囲。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「万有引力による運動とエネルギー保存、ケプラーの法則」です。打ち上げ、円運動、楕円運動という複数の運動形態を、力学的エネルギー保存則とケプラーの法則(第2、第3法則)を駆使して横断的に解析する総合問題です。

  1. 万有引力による位置エネルギー: 無限遠を基準として \(U = -G\displaystyle\frac{Mm}{r}\) で与えられます。
  2. 力学的エネルギー保存則: 万有引力は保存力なので、運動の前後で力学的エネルギー(運動エネルギー+位置エネルギー)の和は一定に保たれます。
  3. 円運動の運動方程式: 等速円運動では、万有引力が向心力として働きます。
  4. ケプラーの第2法則(面積速度一定の法則): 惑星(この場合は小物体)と中心天体(地球)を結ぶ線分が単位時間に掃く面積は一定です。これは角運動量保存則に相当し、近日点と遠日点での速さの関係を導くのに使われます。
  5. ケプラーの第3法則: 惑星の公転周期の2乗は、軌道長半径の3乗に比例します。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1) 打ち上げ運動にエネルギー保存則を適用して\(v_0\)を求めます。円運動に運動方程式を適用して\(v\)を求めます。
  2. (2) 楕円運動の近日点Aと遠日点Bについて、エネルギー保存則とケプラーの第2法則を連立させて\(v’\)を求めます。
  3. (3) (1)の円運動の周期を求め、それと(2)の楕円運動の軌道長半径を比較して、ケプラーの第3法則から周期を求めます。
  4. (4) 「無限遠に飛び去る条件(脱出速度)」と「地球に衝突しない条件」をそれぞれ求め、その間の速度範囲を答えます。

問(1)

思考の道筋とポイント
\(v_0\)と\(v\)をそれぞれ別の運動として考えます。

  • \(v_0\)の計算: 地上(距離\(R\))から点A(距離\(2R\))までの打ち上げ運動に、力学的エネルギー保存則を適用します。
  • \(v\)の計算: 点Aでの半径\(2R\)の等速円運動に、運動方程式(万有引力=向心力)を適用します。

どちらの計算でも、未知の\(GM\)を地表での重力の関係式 \(GM=gR^2\) を使って消去する必要があります。
この設問における重要なポイント

  • エネルギー保存則: (地上のエネルギー)=(点Aのエネルギー)
  • 円運動の運動方程式: \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = F_{\text{万有引力}}\)
  • 未知数の消去: \(GM=gR^2\) の関係式を利用する。

具体的な解説と立式
Step 1: \(v_0\)を求める

地上(距離\(R\))と点A(距離\(2R\))で力学的エネルギー保存則を立てます。無限遠を位置エネルギーの基準とします。
$$ \frac{1}{2}mv_0^2 + \left(-G\frac{Mm}{R}\right) = \frac{1}{2}m(0)^2 + \left(-G\frac{Mm}{2R}\right) \quad \cdots ① $$
また、地表では \(mg = G\displaystyle\frac{Mm}{R^2}\) なので、
$$ GM = gR^2 \quad \cdots ② $$

Step 2: \(v\)を求める

半径\(2R\)の等速円運動では、万有引力が向心力となります。
$$ m\frac{v^2}{2R} = G\frac{Mm}{(2R)^2} \quad \cdots ③ $$

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則
  • 円運動の運動方程式
  • 万有引力の法則
計算過程

\(v_0\)の計算:

①式を整理します。
$$ \frac{1}{2}v_0^2 = G\frac{Mm}{R} – G\frac{Mm}{2R} = G\frac{Mm}{2R} $$
$$ v_0^2 = \frac{GM}{R} $$
これに②式 \(GM=gR^2\) を代入します。
$$ v_0^2 = \frac{gR^2}{R} = gR $$
$$ v_0 = \sqrt{gR} $$

\(v\)の計算:

③式を整理します。
$$ v^2 = G\frac{M}{2R} $$
これに②式 \(GM=gR^2\) を代入します。
$$ v^2 = \frac{gR^2}{2R} = \frac{gR}{2} $$
$$ v = \sqrt{\frac{gR}{2}} $$

計算方法の平易な説明

\(v_0\)は、地上から打ち上げて高さ2Rでちょうど止まる速さなので、エネルギー保存則で計算します。\(v\)は、高さ2Rでちょうど円運動できる速さなので、万有引力と遠心力がつり合う(または運動方程式を立てる)ことで計算します。どちらも、地球の質量Mを消去する操作が必要です。

結論と吟味

\(v_0 = \sqrt{gR}\), \(v = \sqrt{\displaystyle\frac{gR}{2}}\) となります。

解答 (1) \(v_0 = \sqrt{gR}\) [m/s], \(v = \sqrt{\displaystyle\frac{gR}{2}}\) [m/s]

問(2)

思考の道筋とポイント
近日点A(距離\(2R\))と遠日点B(距離\(6R\))を持つ楕円運動について、点Aでの速さ\(v’\)を求めます。未知数が点Aでの速さ\(v’\)と点Bでの速さ\(V\)の2つなので、式が2本必要です。

  1. 力学的エネルギー保存則(A点とB点)
  2. ケプラーの第2法則(面積速度一定の法則)

この設問における重要なポイント

  • エネルギー保存則: (A点のエネルギー)=(B点のエネルギー)
  • 面積速度一定: \(r_A v_A = r_B v_B\) の関係が、近日点・遠日点では成り立ちます。(\(r_A, r_B\)は中心からの距離)

具体的な解説と立式
点Bでの速さを\(V\)とします。

  • ケプラーの第2法則より:
    $$ (2R) \cdot v’ = (6R) \cdot V \quad \cdots ④ $$
  • 力学的エネルギー保存則より:
    $$ \frac{1}{2}m(v’)^2 + \left(-G\frac{Mm}{2R}\right) = \frac{1}{2}mV^2 + \left(-G\frac{Mm}{6R}\right) \quad \cdots ⑤ $$

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則
  • ケプラーの第2法則(面積速度一定)
計算過程

④式から \(V = \displaystyle\frac{1}{3}v’\) となります。これを⑤式に代入します。
$$ \frac{1}{2}(v’)^2 – \frac{GM}{2R} = \frac{1}{2}\left(\frac{1}{3}v’\right)^2 – \frac{GM}{6R} $$
式を整理して、
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}(v’)^2 – \frac{1}{18}(v’)^2 &= \frac{GM}{2R} – \frac{GM}{6R} \\[2.0ex]\frac{8}{18}(v’)^2 &= \frac{2GM}{6R} \\[2.0ex]\frac{4}{9}(v’)^2 &= \frac{GM}{3R} \\[2.0ex](v’)^2 &= \frac{3GM}{4R}
\end{aligned}
$$
これに \(GM=gR^2\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
(v’)^2 &= \frac{3gR^2}{4R} = \frac{3gR}{4} \\[2.0ex]v’ &= \frac{\sqrt{3gR}}{2}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

楕円運動では、地球に近い点(近日点)では速く、遠い点(遠日点)では遅く動きます。この速さの関係(ケプラーの第2法則)と、どの点でもエネルギーの合計は一定であるという関係(エネルギー保存則)の2つの式を連立させて、速さを求めます。

結論と吟味

速さ \(v’ = \displaystyle\frac{\sqrt{3gR}}{2}\) が得られました。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{\sqrt{3gR}}{2}\) [m/s]

問(3)

思考の道筋とポイント
(2)の楕円運動の周期を求めます。直接計算するのは困難なので、基準となる運動(この場合は(1)の円運動)と比較して、ケプラーの第3法則を適用するのが定石です。
この設問における重要なポイント

  • ケプラーの第3法則: \(\displaystyle\frac{T^2}{a^3} = (\text{一定})\)。ここで\(a\)は軌道長半径(楕円の長軸の半分の長さ)。
  • 軌道長半径の計算: (2)の楕円軌道の長軸の長さは \(2R+6R=8R\)。したがって軌道長半径は \(a’ = 4R\)。(1)の円運動の軌道半径は \(a = 2R\)。

具体的な解説と立式
(1)の円運動の周期を\(T\)、軌道半径を\(a=2R\)とします。
(2)の楕円運動の周期を\(T’\)、軌道長半径を\(a’ = \displaystyle\frac{2R+6R}{2} = 4R\)とします。
ケプラーの第3法則より、
$$ \frac{T^2}{a^3} = \frac{(T’)^2}{(a’)^3} $$
$$ \frac{T^2}{(2R)^3} = \frac{(T’)^2}{(4R)^3} $$
まず、基準となる円運動の周期\(T\)を計算します。
$$ T = \frac{2\pi(2R)}{v} = \frac{4\pi R}{\sqrt{gR/2}} = 4\pi R \sqrt{\frac{2}{gR}} = 4\pi\sqrt{\frac{2R}{g}} $$

使用した物理公式

  • ケプラーの第3法則
計算過程

ケプラーの第3法則の式を\(T’\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
(T’)^2 &= T^2 \frac{(4R)^3}{(2R)^3} \\[2.0ex]&= T^2 \frac{64R^3}{8R^3} = 8T^2
\end{aligned}
$$
$$ T’ = \sqrt{8}T = 2\sqrt{2}T $$
これに上で計算した\(T\)を代入します。
$$
\begin{aligned}
T’ &= 2\sqrt{2} \left(4\pi\sqrt{\frac{2R}{g}}\right) \\[2.0ex]&= 8\pi\sqrt{\frac{4R}{g}} \\[2.0ex]&= 16\pi\sqrt{\frac{R}{g}}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

惑星の運動に関するケプラーの第3法則「周期の2乗は、軌道の大きさ(軌道長半径)の3乗に比例する」を使います。まず、(1)の単純な円運動の周期を計算します。次に、(2)の楕円運動の「大きさ」が、(1)の円運動の何倍かを計算します。この比例関係を使って、楕円運動の周期を求めます。

結論と吟味

周期は \(16\pi\sqrt{\displaystyle\frac{R}{g}}\) となります。

解答 (3) \(16\pi\sqrt{\displaystyle\frac{R}{g}}\) [s]

問(4)

思考の道筋とポイント
小物体が地球に衝突せず、かつ無限遠に飛び去らないための、点Aでの初速\(v”\)の範囲を求めます。これは、2つの限界速度を求めることを意味します。

  1. 無限遠に飛び去るための最小速度(第二宇宙速度または脱出速度)\(v_1\)。これより速いと飛び去ってしまう。
  2. 地球に衝突しないための最小速度\(v_2\)。これより遅いと地球にぶつかってしまう。

求める範囲は \(v_2 \le v” < v_1\) となります。
この設問における重要なポイント

  • 脱出速度\(v_1\): 無限遠でちょうど速さが0になる条件。力学的エネルギー保存則で(点Aのエネルギー)=(無限遠のエネルギー=0)として計算する。
  • 衝突しない最低速度\(v_2\): 地球の表面(距離\(R\))をギリギリかすめる楕円軌道を描くときの速度。この場合、点Aが遠日点、地表の点が近日点となる。エネルギー保存則とケプラーの第2法則を連立させて解く。

具体的な解説と立式
Step 1: 脱出速度\(v_1\)を求める

点A(距離\(2R\))から無限遠(距離\(\infty\))までのエネルギー保存則を考えます。無限遠でのエネルギーは0です。
$$ \frac{1}{2}mv_1^2 + \left(-G\frac{Mm}{2R}\right) = 0 $$

Step 2: 衝突しない最低速度\(v_2\)を求める

点A(遠日点、距離\(2R\))と地表の点C(近日点、距離\(R\))を通る楕円軌道を考えます。点Cでの速さを\(V_C\)とします。

  • ケプラーの第2法則:
    $$ (2R) \cdot v_2 = R \cdot V_C \quad \cdots ⑥ $$
  • 力学的エネルギー保存則:
    $$ \frac{1}{2}mv_2^2 + \left(-G\frac{Mm}{2R}\right) = \frac{1}{2}mV_C^2 + \left(-G\frac{Mm}{R}\right) \quad \cdots ⑦ $$

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則
  • ケプラーの第2法則
計算過程

\(v_1\)の計算:
$$ \frac{1}{2}v_1^2 = G\frac{M}{2R} \quad \rightarrow \quad v_1^2 = \frac{GM}{R} $$
\(GM=gR^2\) を代入して、
$$ v_1^2 = gR \quad \rightarrow \quad v_1 = \sqrt{gR} $$
\(v_2\)の計算:

⑥より \(V_C = 2v_2\)。これを⑦に代入します。
$$ \frac{1}{2}mv_2^2 – G\frac{Mm}{2R} = \frac{1}{2}m(2v_2)^2 – G\frac{Mm}{R} $$
$$ \frac{GM}{2R} = \frac{3}{2}mv_2^2 $$
$$ v_2^2 = \frac{GM}{3mR} = \frac{GM}{3R} $$
\(GM=gR^2\) を代入して、
$$ v_2^2 = \frac{gR^2}{3R} = \frac{gR}{3} \quad \rightarrow \quad v_2 = \sqrt{\frac{gR}{3}} $$

求める範囲は \(v_2 \le v” < v_1\) なので、
$$ \sqrt{\frac{gR}{3}} \le v” < \sqrt{gR} $$

計算方法の平易な説明

この問題は「速すぎず、遅すぎず」の範囲を求める問題です。「速すぎる」限界は、地球の引力を振り切って無限の彼方に飛び去ってしまう速度(脱出速度)です。「遅すぎる」限界は、地球に墜落してしまう速度です。この2つの限界速度をそれぞれ計算し、その間の範囲が答えとなります。

結論と吟味

求める速度の範囲は \(\sqrt{\displaystyle\frac{gR}{3}} \le v” < \sqrt{gR}\) です。等速円運動の速さ \(v=\sqrt{gR/2}\) はこの範囲内にあり、物理的に矛盾しません。

解答 (4) \(\sqrt{\displaystyle\frac{gR}{3}} \le v” < \sqrt{gR}\)

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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 万有引力下での力学的エネルギー保存則:
    • 核心: 万有引力は保存力であるため、物体がどの様な軌道(直線、円、楕円、放物線)を運動していても、その力学的エネルギー(運動エネルギーと万有引力による位置エネルギーの和)は常に一定に保たれます。これが、異なる2点間の速さと距離を関係づける最も基本的な法則です。
    • 理解のポイント: 万有引力による位置エネルギーは \(U = -G\frac{Mm}{r}\) と、負の値をとることに注意が必要です。無限遠を基準(0)として、そこから引き寄せられることでエネルギーが減少すると解釈します。
  • ケプラーの法則:
    • 核心: 万有引力のような中心力を受けて運動する物体は、ケプラーの法則に従います。この問題では、特に以下の2つが重要です。
      1. 第2法則(面積速度一定の法則): 楕円運動において、近日点と遠日点での速さと距離の関係(\(r_1 v_1 = r_2 v_2\))を導きます。これは角運動量保存則の現れです。
      2. 第3法則(調和の法則): 周期の2乗は軌道長半径の3乗に比例します(\(\frac{T^2}{a^3}=\text{一定}\))。これにより、基準となる運動(円運動)と比較することで、複雑な楕円運動の周期を簡単に求めることができます。
  • 円運動の運動方程式:
    • 核心: 物体が等速円運動をするためには、万有引力が向心力として働く必要があります。この力のつり合い(\(m\frac{v^2}{r} = G\frac{Mm}{r^2}\))から、円運動の速さや周期を直接求めることができます。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 人工衛星の軌道変更: ある円軌道から別の円軌道へ移る(ホーマン遷移軌道)際に必要なエネルギーや速度の変化を計算する問題。エネルギー保存則と運動方程式を組み合わせて解きます。
    • 彗星の運動: 太陽を一つの焦点とする非常に細長い楕円軌道や、二度と戻ってこない放物線・双曲線軌道を描く彗星の運動解析。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 運動の形態を分類する: 問題文で述べられている運動が、「直線運動」「円運動」「楕円運動」「放物線運動(脱出)」のどれに当たるかをまず分類します。
    2. エネルギー保存則を第一候補に: 異なる2点間の速さや距離を問われた場合、まずはエネルギー保存則が使えないか検討します。これは軌道の形によらず成り立つため、最も汎用性が高いです。
    3. 楕円運動ならケプラーの法則: 運動が楕円軌道を描くことがわかれば、ケプラーの法則が強力なツールになります。特に、近日点・遠日点での速度関係には第2法則、周期を問われたら第3法則を連想します。
    4. \(GM=gR^2\) の置き換え: 問題に\(g\)と\(R\)が与えられている場合、万有引力の式に出てくる\(GM\)を\(gR^2\)で置き換えることで、見通しの良い式に変形できることが多いです。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 位置エネルギーの符号ミス:
    • 誤解: 万有引力による位置エネルギーの負号(\(-\))を忘れてしまう。
    • 対策: 位置エネルギーは、無限遠(基準=0)から物体を引き寄せるのに万有引力が「正の仕事」をするため、その分だけエネルギーは減少する、と意味を理解しておくと符号ミスを防げます。
  • ケプラーの第2法則の適用範囲:
    • 誤解: 面積速度一定の法則を、近日点・遠日点以外の任意の2点で \(r_1 v_1 = r_2 v_2\) の形で適用してしまう。
    • 対策: この単純な形が成り立つのは、速度ベクトルと動径ベクトルが垂直になる近日点と遠日点のみです。一般の点では \(\frac{1}{2} r v \sin\phi = (\text{一定})\) (\(\phi\)は動径と速度のなす角)となります。
  • ケプラーの第3法則の「軌道長半径」:
    • 誤解: 第3法則の\(a\)に、円の半径や楕円の長軸の長さをそのまま代入してしまう。
    • 対策: \(a\)は「軌道長半径」、つまり楕円の長い方の半径(長軸の半分)です。円運動の場合は半径そのものですが、楕円の場合は \(a = \frac{(\text{近日点距離})+(\text{遠日点距離})}{2}\) で計算する必要があります。
  • 脱出速度の条件:
    • 誤解: 脱出速度を、運動エネルギーが位置エネルギーの絶対値と等しくなる速度、とだけ覚えてしまう。
    • 対策: 本質は「力学的エネルギーの合計が0になる速度」です。\(E = \frac{1}{2}mv^2 – G\frac{Mm}{r} = 0\) というエネルギー保存の式から導出できるようにしておきましょう。エネルギーが正になれば無限遠に飛び去り、負であれば地球の引力圏に束縛されます。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • エネルギー準位図: 横軸に中心からの距離\(r\)、縦軸にエネルギー\(E\)をとった図をイメージします。万有引力による位置エネルギー\(U(r)\)は \(r\)が大きくなるにつれて0に近づく曲線を描きます。物体の全力学的エネルギー\(E\)は水平な直線で表されます。\(E\)と\(U(r)\)の差が、その地点での運動エネルギー\(K\)になります。この図を描くと、衝突する条件(\(r=R\)に到達可能か)や、脱出する条件(\(E \ge 0\))が視覚的に一目瞭然となります。
    • 軌道の概形図: 円運動、楕円運動、衝突する軌道、脱出する軌道などを、点Aでの初速の大きさ順に重ねて描いてみると、速度の変化が軌道の形にどう影響するかが直感的に理解できます。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 中心天体と軌道の関係: 楕円軌道を描く際、中心天体(地球)は楕円の中心ではなく、2つある焦点のうちの1つに位置することを正確に描きましょう。
    • 近日点と遠日点: 楕円軌道上で、中心天体に最も近い点(近日点)と最も遠い点(遠日点)を明記し、それぞれの距離を書き込むと、ケプラーの法則を適用しやすくなります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 力学的エネルギー保存則:
    • 選定理由: 軌道の形に関わらず、異なる2点間の速さと位置の関係を知りたい場合に最も強力。
    • 適用根拠: 万有引力が保存力であるため。
  • 円運動の運動方程式:
    • 選定理由: (1)の等速円運動のように、軌道が「円」に限定されている場合の速さと力の関係を求めるため。
    • 適用根拠: ニュートンの第二法則を中心力である万有引力に適用したもの。
  • ケプラーの第2法則:
    • 選定理由: (2)や(4)のように、楕円軌道上の2点(特に近日点と遠日点)での速さを関係づけたい場合。
    • 適用根拠: 中心力である万有引力下での角運動量保存則から導かれます。
  • ケプラーの第3法則:
    • 選定理由: (3)のように、軌道の形や大きさが異なる2つの運動の「周期」を比較したい場合。
    • 適用根拠: 万有引力の法則と運動方程式から導かれる、周期と軌道サイズの関係を示す法則。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) \(v_0\)と\(v\):
    • \(v_0\): 地上→A点のエネルギー保存。
    • \(v\): A点での円運動の運動方程式。
  2. (2) \(v’\):
    • 戦略: A点とB点について、エネルギー保存則とケプラー第2法則を連立。
    • フロー: ①\(2R \cdot v’ = 6R \cdot V\) ②\(\frac{1}{2}m(v’)^2 – G\frac{Mm}{2R} = \frac{1}{2}mV^2 – G\frac{Mm}{6R}\) ③①②を解いて\(v’\)を求める。
  3. (3) 周期\(T’\):
    • 戦略: (1)の円運動を基準として、ケプラー第3法則を適用。
    • フロー: ①円運動の周期\(T\)と半径\(a=2R\)を計算。②楕円運動の軌道長半径\(a’ = (2R+6R)/2 = 4R\)を計算。③\(\frac{T^2}{a^3} = \frac{(T’)^2}{(a’)^3}\) から\(T’\)を求める。
  4. (4) \(v”\)の範囲:
    • 戦略: 上限(脱出速度\(v_1\))と下限(衝突しない最低速度\(v_2\))を別々に求める。
    • フロー(上限): ①A点と無限遠でエネルギー保存を立て、\(E=0\)として\(v_1\)を求める。
    • フロー(下限): ①A点(遠日点)と地表(近日点)を結ぶ楕円を考え、エネルギー保存とケプラー第2法則を連立して\(v_2\)を求める。
    • 結論: \(v_2 \le v” < v_1\)。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • \(GM=gR^2\)の活用: 計算の早い段階で\(GM\)を\(gR^2\)に置き換えると、式がシンプルになり、見通しが良くなります。
  • 分数の計算: エネルギー保存則では分数が多用されます。通分や移項の際の符号ミスに細心の注意を払いましょう。
  • 連立方程式の処理: (2)や(4)では、2つの法則から2つの未知数を求める連立方程式を解く必要があります。一方の式から未知数を消去して代入する、という手順を落ち着いて実行しましょう。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 速度の大きさの比較:
    • 計算結果を比較すると、\(v_2 < v < v’ < v_1\) となっています。
    • \(v_2=\sqrt{gR/3} \approx 0.577\sqrt{gR}\) (地表に衝突するギリギリ)
    • \(v=\sqrt{gR/2} \approx 0.707\sqrt{gR}\) (円運動)
    • \(v’=\sqrt{3gR/4} \approx 0.866\sqrt{gR}\) (遠日点6Rの楕円)
    • \(v_1=\sqrt{gR} = 1.0\sqrt{gR}\) (脱出速度)
    • 点Aでの速度を上げていくと、軌道が「地表に衝突する楕円」→「円」→「より大きな楕円」→「放物線(脱出)」と変化していく様子が、速度の大小関係から見て取れ、物理的に非常に妥当な結果となっています。
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