「センサー総合物理 3rd Edition」徹底解説!【Chapter 27】Step3

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目次

376 磁界の合成

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、複数の平行な直線電流が互いに及ぼしあう力を、ベクトルの合成によって求める問題です。力の重ね合わせの原理と、平行電流間に働く力の法則を正しく適用できるかが問われます。
この問題の核心は、各電流が注目する導線(この場合はP)に及ぼす力を一つずつ正確に計算し、それらをベクトルとして正しく足し合わせることにあります。

与えられた条件
  • 導線P, Q, R, Sは1辺\(a\)の正方形の頂点に配置
  • 導線Pを流れる電流: \(I_{\text{P}} = I\)、向きは紙面の裏から表
  • 導線Qを流れる電流: \(I_{\text{Q}} = 2I\)、向きは紙面の裏から表
  • 導線Sを流れる電流: \(I_{\text{S}} = 2I\)、向きは紙面の裏から表
  • 導線Rを流れる電流: \(I_{\text{R}} = I\)、向きは紙面の表から裏
  • 真空の透磁率: \(\mu_0\)
問われていること
  • (1) 導線Q, R, Sによって、導線Pの長さ\(1 \text{ m}\)あたりに働く合力の大きさと向き。
  • (2) 導線Pに働く力をゼロにするために、導線Rに流すべき電流の強さ\(I’\)とその向き。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「複数の直線電流間にはたらく力の合成」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 平行電流間にはたらく力: 2本の平行な直線電流間には、電流の向きが同じ場合は引力、逆の場合は斥力が働きます。その力の大きさは \(F = \mu_0 \displaystyle\frac{I_1 I_2}{2\pi r} l\) で与えられます。
  2. 力の重ね合わせの原理: ある導線が複数の導線から受ける力は、それぞれの導線から個別に受ける力のベクトル和に等しくなります。
  3. ベクトルの合成: 複数の力を合成する際には、向きを考慮したベクトル計算が必要です。図を描いて、力の向きと大きさを正確に把握することが重要です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、導線Pが導線Q, S, Rからそれぞれ受ける力の大きさと向きを、平行電流間の力の法則を用いて求めます。
  2. 次に、それら3つの力をベクトルとして合成し、合力の大きさと向きを求めます(問1)。
  3. 問(2)では、導線QとSからPが受ける力の合力を、新しい電流\(I’\)を流した導線Rからの力で打ち消す、という力のつり合いの条件を立式して解きます。

問(1)

思考の道筋とポイント
導線Pが、他の3つの導線Q, R, Sから受ける力をそれぞれ求め、ベクトル的に合成します。力の向きは「同じ向きの電流なら引力、逆向きの電流なら斥力」という法則で判断するのが最も簡単で間違いが少ないです。
この設問における重要なポイント

  • 力の向きの判断:
    • PとQ: 電流は同じ向き(裏→表)なので、引力が働く(P→Qの向き)。
    • PとS: 電流は同じ向き(裏→表)なので、引力が働く(P→Sの向き)。
    • PとR: 電流は逆向き(P:裏→表, R:表→裏)なので、斥力が働く(R→Pの向き)。
  • 力の大きさの計算: 導線間の距離に注意して、公式 \(F = \mu_0 \displaystyle\frac{I_1 I_2}{2\pi r} l\) を適用します。PとRの間の距離は \(\sqrt{2}a\) です。
  • ベクトルの合成: まず、互いに直交するQからの力とSからの力を合成します。次に、その合力と、対角線方向のRからの力を合成します。

具体的な解説と立式
導線Pの長さ \(l=1 \text{ m}\) が、導線Q, S, Rから受ける力の大きさをそれぞれ \(F_{\text{Q}}\), \(F_{\text{S}}\), \(F_{\text{R}}\) とします。

1. 導線QがPに及ぼす力 \(F_{\text{Q}}\)
PとQの電流は同方向なので引力が働きます(向きはP→Q)。距離は \(a\) なので、力の大きさは次式で与えられます。
$$ F_{\text{Q}} = \mu_0 \frac{I_{\text{P}} I_{\text{Q}}}{2\pi a} \times 1 \quad \cdots ① $$

2. 導線SがPに及ぼす力 \(F_{\text{S}}\)
PとSの電流も同方向なので引力が働きます(向きはP→S)。距離は \(a\) なので、力の大きさは次式で与えられます。
$$ F_{\text{S}} = \mu_0 \frac{I_{\text{P}} I_{\text{S}}}{2\pi a} \times 1 \quad \cdots ② $$

3. 導線RがPに及ぼす力 \(F_{\text{R}}\)
PとRの電流は逆方向なので斥力が働きます(向きはR→P)。距離は \(\sqrt{2}a\) なので、力の大きさは次式で与えられます。
$$ F_{\text{R}} = \mu_0 \frac{I_{\text{P}} I_{\text{R}}}{2\pi (\sqrt{2}a)} \times 1 \quad \cdots ③ $$

これらの力をベクトル合成します。まず、互いに直交する \(F_{\text{Q}}\) と \(F_{\text{S}}\) の合力を \(F’\) とします。\(F_{\text{Q}}\) と \(F_{\text{S}}\) は大きさが等しく、互いに直交しているため、その合力 \(F’\) の大きさは三平方の定理より、
$$ F’ = \sqrt{F_{\text{Q}}^2 + F_{\text{S}}^2} \quad \cdots ④ $$
となります。この力 \(F’\) の向きはP→Rの向きです。

最終的な合力 \(F\) は、\(F’\) と \(F_{\text{R}}\) のベクトル和です。\(F’\) と \(F_{\text{R}}\) は一直線上で逆向きなので、合力の大きさは2つの力の大きさの差で表されます。
$$ F = F’ – F_{\text{R}} \quad \cdots ⑤ $$

使用した物理公式

  • 平行な直線電流間にはたらく力: \(F = \mu_0 \displaystyle\frac{I_1 I_2}{2\pi r} l\)
  • 力の重ね合わせの原理(ベクトル和)
計算過程

まず、①, ②, ③式に与えられた電流の値を代入して、各力の大きさを計算します。
$$ F_{\text{Q}} = \mu_0 \frac{I \cdot (2I)}{2\pi a} = \frac{\mu_0 I^2}{\pi a} $$
$$ F_{\text{S}} = \mu_0 \frac{I \cdot (2I)}{2\pi a} = \frac{\mu_0 I^2}{\pi a} $$
$$ F_{\text{R}} = \mu_0 \frac{I \cdot I}{2\sqrt{2}\pi a} = \frac{\mu_0 I^2}{2\sqrt{2}\pi a} $$
次に、④式を用いて \(F_{\text{Q}}\) と \(F_{\text{S}}\) の合力 \(F’\) の大きさを求めます。
$$
\begin{aligned}
F’ &= \sqrt{\left(\frac{\mu_0 I^2}{\pi a}\right)^2 + \left(\frac{\mu_0 I^2}{\pi a}\right)^2} \\[2.0ex]&= \sqrt{2 \left(\frac{\mu_0 I^2}{\pi a}\right)^2} \\[2.0ex]&= \frac{\sqrt{2}\mu_0 I^2}{\pi a}
\end{aligned}
$$
最後に、⑤式を用いて最終的な合力 \(F\) の大きさを計算します。
$$
\begin{aligned}
F &= \frac{\sqrt{2}\mu_0 I^2}{\pi a} – \frac{\mu_0 I^2}{2\sqrt{2}\pi a} \\[2.0ex]&= \frac{2\sqrt{2} \cdot \sqrt{2} \mu_0 I^2}{2\sqrt{2}\pi a} – \frac{\mu_0 I^2}{2\sqrt{2}\pi a} \\[2.0ex]&= \frac{4\mu_0 I^2 – \mu_0 I^2}{2\sqrt{2}\pi a} \\[2.0ex]&= \frac{3\mu_0 I^2}{2\sqrt{2}\pi a} \\[2.0ex]&= \frac{3\sqrt{2}\mu_0 I^2}{4\pi a} \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
\(F’ > F_{\text{R}}\) なので、合力の向きは \(F’\) の向き、すなわちP→Rの向きとなります。

計算方法の平易な説明

導線Pに働く力は、Q、S、Rの3つの導線からの力の合計です。まず、隣り合うQとSからPが受ける「引力」を合成します。この2つの力は同じ大きさで直角なので、合力は対角線方向(PからRへ向かう向き)になります。次に、この合力と、対角線上にあるRから受ける「斥力」(RからPへ向かう向き)を比べます。2つの力は一直線上で逆向きなので、大きい方から小さい方を引き算したものが最終的な力の大きさになり、向きは大きい方の力の向きになります。

結論と吟味

導線Pが受ける合力の大きさは \(\displaystyle\frac{3\sqrt{2}\mu_0 I^2}{4\pi a} \text{ [N]}\)、向きはP→Rの向きです。
計算結果は正の値であり、力の向きも明確に定まりました。各ステップでの力の向きと大きさの計算、そしてベクトル合成が正しく行われていることを確認します。

解答 (1) 大きさ: \(\displaystyle\frac{3\sqrt{2}\mu_0 I^2}{4\pi a} \text{ [N]}\), 向き: P→Rの向き

問(2)

思考の道筋とポイント
導線Pに働く合力をゼロにする、という条件は「力のつり合い」を意味します。導線QとSがPに及ぼす力の合力 \(\vec{F’}\) を、電流を \(I’\) に変えた導線Rが及ぼす力 \(\vec{F}_{\text{R’}}\) でちょうど打ち消す、と考えます。つまり、\(\vec{F’} + \vec{F}_{\text{R’}} = \vec{0}\) というベクトル式を立てます。
この設問における重要なポイント

  • 力のつり合いの条件: \(\vec{F}_{\text{R’}} = -\vec{F’}\) となります。これは、\(\vec{F}_{\text{R’}}\) と \(\vec{F’}\) の大きさが等しく、向きが正反対であることを意味します。
  • 力の向きから電流の向きを決定:
    • \(\vec{F’}\) の向きはP→Rでした。
    • したがって、\(\vec{F}_{\text{R’}}\) の向きはR→Pでなければなりません。
    • RからPへ向かう力は「斥力」です。PとR’の間に斥力が働くためには、両者の電流の向きが逆である必要があります。Pの電流は裏→表なので、R’の電流は表→裏となります。これは元のRの電流の向きと同じです。
  • 力の大きさの等式: 大きさが等しいという条件 \(F_{\text{R’}} = F’\) から、未知数 \(I’\) を求めます。

具体的な解説と立式
(1)の計算過程で求めた、導線QとSがPに及ぼす力の合力 \(F’\) の大きさは、
$$ F’ = \frac{\sqrt{2}\mu_0 I^2}{\pi a} \quad \cdots ⑥ $$
です。この力の向きはP→Rです。

この力 \(F’\) と、電流を \(I’\) に変えた導線R’がPに及ぼす力 \(F_{\text{R’}}\) がつり合うためには、\(F_{\text{R’}}\) の大きさが \(F’\) と等しく、向きが逆(R→P)でなければなりません。
R’とPの間に斥力(R→P向きの力)が働くためには、R’に流れる電流の向きはPと逆向き、すなわち「表から裏へ向かう向き」である必要があります。

力の大きさが等しいという条件 \(F_{\text{R’}} = F’\) を立式します。R’とPの距離は \(\sqrt{2}a\) なので、力の大きさ \(F_{\text{R’}}\) は、
$$ F_{\text{R’}} = \mu_0 \frac{I \cdot I’}{2\pi (\sqrt{2}a)} \quad \cdots ⑦ $$
したがって、力のつり合いの式は⑥、⑦より、
$$ \mu_0 \frac{I I’}{2\sqrt{2}\pi a} = \frac{\sqrt{2}\mu_0 I^2}{\pi a} \quad \cdots ⑧ $$
となります。

使用した物理公式

  • 平行な直線電流間にはたらく力: \(F = \mu_0 \displaystyle\frac{I_1 I_2}{2\pi r} l\)
  • 力のつり合い
計算過程

⑧式を \(I’\) について解きます。
$$ \mu_0 \frac{I I’}{2\sqrt{2}\pi a} = \frac{\sqrt{2}\mu_0 I^2}{\pi a} $$
両辺に共通する \(\mu_0, I, \pi, a\) を消去すると、
$$ \frac{I’}{2\sqrt{2}} = \sqrt{2} $$
この式を \(I’\) について解くと、
$$
\begin{aligned}
I’ &= 2\sqrt{2} \times \sqrt{2} \\[2.0ex]&= 4I \text{ [A]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

導線Pをその場に静止させるには、QとSがPを対角線方向(P→R)に引っ張る合力と、RがPを逆向き(R→P)に押す力が、ちょうど同じ大きさになればよいわけです。この「力のつり合い」が成り立つように、Rに流す電流の強さを調整します。

結論と吟味

Pに働く力をゼロにするためには、Rに流す電流の強さを \(4I\) にし、向きは元のまま「紙面に垂直に表から裏へ向かう向き」にすればよいことがわかります。
QとSの2つの電流による力を、1つの電流R’で打ち消す必要があり、かつR’はPから遠い位置にあるため、元の電流 \(I\) よりも大きな \(4I\) という電流が必要になるのは物理的に妥当な結果です。

解答 (2) 強さ: \(4I \text{ [A]}\), 向き: 紙面に垂直に表から裏へ向かう向き

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 平行電流間にはたらく力:
    • 核心: 2本の無限に長い平行な直線電流 \(I_1\), \(I_2\) が距離 \(r\) だけ離れているとき、その長さ \(l\) の部分にはたらく力の大きさは \(F = \mu_0 \displaystyle\frac{I_1 I_2}{2\pi r} l\) で与えられます。この問題では、この公式を各導線ペアに適用することが全ての計算の出発点です。
    • 理解のポイント: 力の向きは「電流が同じ向きなら引力、逆向きなら斥力」という単純なルールで決まります。右ねじの法則とフレミングの左手の法則を組み合わせて導出することもできますが、このルールを覚えておくと迅速かつ正確に力の向きを判断できます。
  • 力の重ね合わせの原理(ベクトル和):
    • 核心: ある1つの導線(この問題ではP)が複数の導線(Q, S, R)から力を受ける場合、Pにはたらく合力は、それぞれの導線から個別に受ける力のベクトル和で求められます。つまり、\(\vec{F}_{\text{合力}} = \vec{F}_{\text{Q}} + \vec{F}_{\text{S}} + \vec{F}_{\text{R}}\) です。
    • 理解のポイント: 力はベクトル量であるため、大きさと向きの両方を考慮して足し合わせる必要があります。単に力の大きさを足し算するだけでは正しい答えは得られません。図を描いて、各力のベクトルを矢印で表現し、それらを合成する作図的なイメージを持つことが極めて重要です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 正三角形の頂点に置かれた導線: 正方形が正三角形に変わっただけで、基本的な考え方は同じです。各導線間の距離と、力のベクトルがなす角度(この場合は\(60^\circ\)や\(120^\circ\))を正確に把握してベクトル合成を行います。
    • 力のつり合いの問題: (2)のように「力をゼロにする」という問題は、力のつり合いの典型例です。未知の電流や位置を求める問題では、既知の力と未知の力をベクトル的に足し合わせてゼロになる、という方程式を立てます。
    • 磁場がゼロになる点を求める問題: 「力がゼロ」ではなく「磁場がゼロ」になる点を問う問題もあります。その場合は、各電流が作る磁場(ベクトル量)を合成してゼロになる点を求めます。力の計算は不要ですが、ベクトルの重ね合わせという考え方は共通です。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 力の向きを最初に決定する: 計算を始める前に、まず図を描き、注目する導線にはたらく全ての力の向きを「引力か斥力か」で判断し、矢印で書き込みます。これが全体の戦略を立てる上での土台となります。
    2. 対称性を見つける: この問題では、Pに対するQとSの位置関係や電流の大きさが対称的です。そのため、\(F_{\text{Q}}\)と\(F_{\text{S}}\)の大きさは等しくなります。このような対称性を見つけると、計算が簡略化できたり、合力の向きを予測できたりします。
    3. 座標軸を設定して成分計算する: 力が斜めを向いていて複雑な場合、水平・鉛直方向にx-y軸を設定し、各力を成分分解して足し合わせる方法も有効です。この問題では、Pを原点とし、P→Q方向をy軸、P→S方向をx軸とすると計算しやすくなります。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 導線間の距離の間違い:
    • 誤解: 対角線上にある導線PとRの間の距離を \(a\) と誤認してしまう。
    • 対策: 必ず図を描き、三平方の定理などを用いて距離を正確に求めましょう。この問題では、PとRの距離は \(\sqrt{a^2+a^2} = \sqrt{2}a\) です。
  • ベクトルの合成ミス:
    • 誤解: 力の大きさを単純に足したり引いたりしてしまう。例えば、\(F_{\text{Q}}\)と\(F_{\text{S}}\)の合力を \(F_{\text{Q}}+F_{\text{S}}\) と計算してしまう。
    • 対策: 力はベクトルであることを常に意識しましょう。互いに直交する力の合成は三平方の定理、斜めを向く力の合成は成分分解や余弦定理を用います。図を描いて力の関係を視覚的に把握することが最も効果的な対策です。
  • 力の向きの判断ミス:
    • 誤解: フレミングの左手の法則を適用しようとして、磁場の向きを間違え、結果的に力の向きを誤る。
    • 対策: 平行電流間の力については、「同じ向きは引力、逆向きは斥力」というルールを適用するのが最も速く、間違いが少ないです。このルールは、磁場と力の法則から導かれる結果なので、安心して使えます。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 力のベクトル図を段階的に描く:
      1. まず、P点からQ, S, Rの各導線が及ぼす力 \(\vec{F}_{\text{Q}}\), \(\vec{F}_{\text{S}}\), \(\vec{F}_{\text{R}}\) を矢印で描きます。このとき、力の大きさをおおよその長さで表現すると良いでしょう。
      2. 次に、対称性の高い \(\vec{F}_{\text{Q}}\) と \(\vec{F}_{\text{S}}\) を合成します。ベクトル合成の平行四辺形を描くと、合力 \(\vec{F’}\) がちょうどP→Rの向きを向くことが視覚的に理解できます。
      3. 最後に、一直線上になった \(\vec{F’}\) と \(\vec{F}_{\text{R}}\) を合成します。逆向きの矢印の長さを比べることで、最終的な合力の向きと大きさが直感的に把握できます。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 電流の向きを明確に: 図の上で、紙面の裏から表へ向かう電流を「⊙」(矢の先端が見えるイメージ)、表から裏へ向かう電流を「⊗」(矢の羽根が見えるイメージ)で表記すると、一目で向きの関係がわかります。
    • 力の作用点を明確に: すべての力は、注目している導線Pにはたらくので、P点を始点として力のベクトルを描きます。
    • 合成ベクトルは別の色や点線で: 元の力と合成後の力を区別するために、合成ベクトルを点線で描いたり、色を変えたりすると、図が整理されて思考が混乱しにくくなります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 平行電流間の力の公式 (\(F = \mu_0 \displaystyle\frac{I_1 I_2}{2\pi r} l\)):
    • 選定理由: 問題設定が「平行な直線電流」であり、それらの間に「はたらく力」を問われているため。これは、この現象を記述するために作られた、まさにそのものの公式です。
    • 適用根拠: この公式は、一方の電流が作る磁場 (\(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\)) の中で、もう一方の電流が受けるローレンツ力 (\(F = IBl = I(\mu_0 H)l\)) として導出される、電磁気学の基本法則に基づいています。
  • 力の重ね合わせの原理:
    • 選定理由: 力を及ぼす源が複数(Q, S, R)存在するため。複数の要因が同時に作用する場合、それぞれの影響を独立に計算して後から足し合わせる、という物理学の基本的な考え方を適用します。
    • 適用根拠: 電磁気学において、電場や磁場は重ね合わせの原理が成り立ちます。その結果として、それらの場から受ける力も重ね合わせが可能です。
  • 三平方の定理:
    • 選定理由: 互いに直交する2つのベクトル(\(F_{\text{Q}}\)と\(F_{\text{S}}\))の合成ベクトルの大きさを求めるため。
    • 適用根拠: ベクトル空間における距離(ノルム)の計算方法であり、幾何学的な関係を数式で表現する数学的なツールです。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 合力の計算:
    • 戦略: 各導線からの力を個別に計算し、ベクトル合成する。
    • フロー: ①PがQ, S, Rから受ける力の向きを判断し、図示 → ②各力の大きさを公式 \(F = \mu_0 \displaystyle\frac{I_1 I_2}{2\pi r} l\) で立式 → ③直交する\(F_{\text{Q}}\)と\(F_{\text{S}}\)を三平方の定理で合成し、合力\(F’\)を計算 → ④一直線上にある\(F’\)と\(F_{\text{R}}\)の差をとり、最終的な合力\(F\)を計算。
  2. (2) 力のつり合い:
    • 戦略: QとSによる合力\(F’\)を、R’による力で打ち消す条件を考える。
    • フロー: ①QとSによる合力\(F’\)の大きさと向きを再確認 → ②R’による力\(F_{\text{R’}}\)が\(F’\)と「同じ大きさ」で「逆向き」になる条件を考える → ③「逆向き」の条件からR’の電流の向きを決定 → ④「同じ大きさ」の条件から力の等式を立式 (\(F_{\text{R’}} = F’\)) → ⑤式を未知の電流\(I’\)について解く。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 共通部分をまとめる: 各力の大きさの式には、\(\displaystyle\frac{\mu_0 I^2}{\pi a}\) という共通の項が現れます。これを \(F_0 = \displaystyle\frac{\mu_0 I^2}{\pi a}\) のように一つの文字で置き換えて計算を進めると、式全体の見通しが良くなり、計算ミスを減らせます。
    • \(F_{\text{Q}} = F_0\), \(F_{\text{S}} = F_0\), \(F_{\text{R}} = \displaystyle\frac{1}{2\sqrt{2}}F_0\)
    • \(F’ = \sqrt{F_0^2 + F_0^2} = \sqrt{2}F_0\)
    • \(F = F’ – F_{\text{R}} = (\sqrt{2} – \displaystyle\frac{1}{2\sqrt{2}})F_0 = (\displaystyle\frac{4-1}{2\sqrt{2}})F_0 = \displaystyle\frac{3}{2\sqrt{2}}F_0\)
    • 最後に \(F_0\) を元に戻せば、同じ結果が得られます。
  • 有理化は最後に行う: 計算の途中では、分母に\(\sqrt{2}\)が残っていても無理に有理化せず、そのまま計算を進めた方が式が複雑にならずに済む場合があります。最終的な答えを出す段階で一度だけ有理化するのが効率的です。
  • 単位と定数のチェック: \(\mu_0\), \(I\), \(a\) などの文字が多く含まれるため、式の次元(単位)が力([N])になっているかを意識すると、式の立て間違いに気づきやすくなります。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (1) 合力の向き: Pに最も近いQとSは引力(Pを引き寄せる)、遠いRは斥力(Pを遠ざける)を及ぼします。QとSの電流はRの2倍であり、距離も近いため、QとSによる引力の方がRによる斥力よりも強そうです。したがって、合力の向きがQとSの引力の合成方向(P→Rの向き)になるのは妥当です。
    • (2) 電流の大きさ: (1)でQとSから受ける合力\(F’\)は、\(F’ = \sqrt{2} \displaystyle\frac{\mu_0 I^2}{\pi a}\)でした。一方、R’が及ぼす力は \(F_{\text{R’}} = \displaystyle\frac{\mu_0 I I’}{2\sqrt{2}\pi a}\) です。これらが等しくなるためには、\(I’\)は\(I\)よりもかなり大きい値になるはずです。計算結果の\(I’=4I\)は、この直感と一致しており、妥当と考えられます。
  • 極端な場合を考える(思考実験):
    • もし、Rの電流がゼロだったら、合力は\(F’\)となり、向きはP→Rです。もし、QとSの電流がゼロだったら、合力は\(F_{\text{R}}\)となり、向きはR→Pです。今回の答えは、これらの力の合成として正しく表現されています。
    • (2)で、もしRの位置がもっとPに近かったら、Pを押し返す力が強くなるので、つり合わせるのに必要な電流\(I’\)は小さくて済むはずです。式 \(I’ = \displaystyle\frac{2\sqrt{2} \pi a}{\mu_0 I} F’\) から、距離\(a\)が小さくなると\(I’\)も小さくなることがわかり、物理的直感と一致します。

377 棒磁石の周りの磁界

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、棒磁石が作る磁界と、直線電流が作る磁界の重ね合わせを扱う問題です。磁界がベクトル量であることを理解し、正しく合成する能力が問われます。

与えられた条件
  • 棒磁石はy軸に沿って、原点Oを中心に置かれている(N極が+y側、S極が-y側)。
  • 地磁気は無視する。
  • 点A, B, Pはx軸上にあり、\(OB=OA\), \(OP=2OA\)。
  • 電流\(I\)は点Pを通り、xy平面に垂直に流れる(表から裏へ)。
  • 電流を流したとき、点Aの磁界が0になった。
  • \(I=100 \text{ A}\), \(BO=5.0 \times 10^{-2} \text{ m}\)
問われていること
  • (1) 小磁針をO中心、半径OAの円周に沿って1周させたときの回転数。
  • (2) 点Bの磁界の強さは、電流がない場合の何倍か。
  • (3) 点Bの磁界の強さの具体的な値。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「棒磁石と直線電流が作る磁界の合成」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 磁界の重ね合わせの原理: ある点での磁界は、複数の磁界源(この問題では棒磁石と電流)がそれぞれ単独で作る磁界のベクトル和で与えられます。
  2. 直線電流が作る磁界: 無限に長い直線電流\(I\)から距離\(r\)だけ離れた点の磁界の強さは \(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\) で与えられます。向きは右ねじの法則に従います。
  3. 棒磁石が作る磁界の性質: 棒磁石の周りには、N極から出てS極に入るような磁力線が形成されます。図の対称性から、x軸上の点における磁界の向きを判断することが重要です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)は、棒磁石の周りの磁力線の様子をイメージし、小磁針がそれに沿って向きを変える様子を追跡して回転数を求めます。
  2. (2)は、点Aで磁界が0になるという条件から、棒磁石の磁界と電流の磁界の強さの関係を導き出します。その関係を利用して、点Bでの合成磁界の強さを、電流がない場合(棒磁石の磁界のみ)の強さと比較します。
  3. (3)は、(2)で導出した関係式と与えられた数値を使い、具体的な磁界の強さを計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
小磁針は、その置かれた点の磁界の向きを指します。小磁針を棒磁石の周りでゆっくりと1周させるとき、小磁針のN極が指す方向、つまり磁界ベクトルの向きがどのように変化するかを追跡することで、小磁針自身の回転数を考えます。
この設問における重要なポイント

  • 磁力線のイメージ: y軸上に置かれた棒磁石の磁力線は、+y側のN極から出て-y側のS極に入り、磁石の内部を通ってループを形成しています。
  • 小磁針の動き: 小磁針を棒磁石の周りで1周させることは、この磁力線のループの外側をなぞることに相当します。
  • 回転の数え方: 小磁針が1周する間に、その向き(方位)が360度変化するごとに1回転と数えます。

具体的な解説と立式
小磁針を棒磁石の周りで1周させる状況を考えます。
例えば、x軸の正の方向(点A)からスタートすると、小磁針はN極に反発され、S極に引かれるため、そのN極はほぼx軸の正の方向を向きます。
次に、円の上半分を通ってx軸の負の方向(点B)へ移動させると、小磁針のN極はほぼx軸の負の方向を向きます。この半周の間に、小磁針の向きは連続的に変化し、全体として1回転します。
同様に、円の下半分を通ってスタート地点であるx軸の正の方向に戻る間にもう1回転します。
したがって、小磁針は合計で2回転することになります。

使用した物理公式

  • 磁力線と磁界の向きの関係
計算過程

この設問は定性的な理解を問うものであり、計算過程はありません。

計算方法の平易な説明

棒磁石の周りを小磁針でぐるっと一周探検するようなイメージです。N極の近くではN極に反発され、S極の近くではS極に反発されて、小磁針は向きを変え続けます。このとき、棒磁石の右側と左側でそれぞれ磁石の極からの影響の受け方が反転するため、円を一周する間に小磁針自身はくるくると2回まわることになります。

結論と吟味

小磁針は2回転します。これは磁気双極子(棒磁石)の周りの磁界の基本的な性質として知られています。

解答 (1) 2回転

問(2)

思考の道筋とポイント
「点Aの磁界が0になった」という条件が最大のヒントです。これは、棒磁石が作る磁界と、電流が作る磁界が、点Aで「同じ強さ」で「逆向き」になり、打ち消し合ったことを意味します。この関係を手がかりに、点Bでの状況を分析します。
この設問における重要なポイント

  • 磁界の向きの判断:
    • 棒磁石の磁界: y軸上に置かれた棒磁石(N極が+y側)がx軸上の点A, Bに作る磁界は、対称性から-y方向を向きます。
    • 電流の磁界: x軸上の点Pを流れる電流(表→裏)が、同じx軸上の点A, Bに作る磁界は、右ねじの法則から+y方向を向きます。
  • 磁界の重ね合わせ: 点Aと点Bの磁界は、それぞれ「棒磁石による磁界」と「電流による磁界」のベクトル和で考えます。
  • 距離と磁界の強さの関係: 直線電流が作る磁界の強さは、電流からの距離に反比例します。点Aと点Bの、電流(点P)からの距離の比を正確に求めることが重要です。

具体的な解説と立式
電流がないとき、点Aに棒磁石が作る磁界の強さを \(H_m\) とします。その向きは-y方向です。棒磁石の配置と点A, Bの位置の対称性から、点Bに棒磁石が作る磁界の強さも \(H_m\) で、向きは同じく-y方向です。

次に、電流\(I\)が点Aと点Bに作る磁界を考えます。電流は点Pを通り、向きは紙面の表から裏です。右ねじの法則から、電流が作る磁界の向きは点A, Bともに+y方向となります。
点Aに電流が作る磁界の強さを \(H_{IA}\)、点Bに作る磁界の強さを \(H_{IB}\) とします。

点Aで磁界が0になるという条件から、力のつり合いの式を立てます。
$$ H_m = H_{IA} \quad \cdots ① $$
次に、電流からの距離を求めます。点A, B, Pはx軸上にあり、Oを原点とすると、A, B, Pの座標はそれぞれ \(OA\), \(-OA\), \(2OA\) と書けます。
電流(点P)から点Aまでの距離 \(r_A\) は、\(r_A = |2OA – OA| = OA\)。
電流(点P)から点Bまでの距離 \(r_B\) は、\(r_B = |2OA – (-OA)| = 3OA\)。
よって、\(r_B = 3r_A\) です。

直線電流の磁界の強さは距離に反比例するため、
$$ H_{IB} = \frac{1}{3} H_{IA} \quad \cdots ② $$
点Bでの合成磁界 \(H_B\) は、+y方向を正とすると、棒磁石の磁界と電流の磁界の和で表せます。
$$ H_B = H_{IB} – H_m \quad \cdots ③ $$
求めるのは、合成磁界の強さ \(|H_B|\) が、電流のない場合の磁界の強さ \(H_m\) の何倍か、ということです。

使用した物理公式

  • 磁界の重ね合わせの原理
  • 直線電流が作る磁界: \(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\)
計算過程

式②に式①の関係を代入します。
$$ H_{IB} = \frac{1}{3} H_m $$
これを式③に代入して、点Bでの合成磁界を求めます。
$$
\begin{aligned}
H_B &= \frac{1}{3} H_m – H_m \\[2.0ex]&= -\frac{2}{3} H_m
\end{aligned}
$$
磁界の「強さ」は大きさ(絶対値)なので、
$$ |H_B| = \frac{2}{3} H_m $$
電流がない場合の磁界の強さは \(H_m\) でしたので、点Bの磁界の強さは電流がない場合の \(\displaystyle\frac{2}{3}\) 倍になります。

計算方法の平易な説明

点Aでは、棒磁石の磁力と電流の磁力が「逆向きで同じ強さ」だから打ち消し合ってゼロになりました。このときの電流による磁力の強さを基準に考えます。
点Bは、棒磁石からの影響(磁力の強さ)は点Aと同じです。しかし、電流からは点Aよりも3倍遠い位置にあります。そのため、電流による磁力は点Aのときの1/3に弱まってしまいます。
その結果、点Bでは棒磁石の磁力が勝ち、差し引きすると、棒磁石だけのときの磁力の \(1 – 1/3 = 2/3\) の強さの磁界が残ることになります。

結論と吟味

点Bの磁界の強さは、電流がない場合の \(\displaystyle\frac{2}{3}\) 倍です。
点Bは電流から遠ざかったため、電流による打ち消しの効果が弱まり、磁界が0にならずに残るという結果は物理的に妥当です。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{2}{3}\) 倍

問(3)

思考の道筋とポイント
(2)で導出した関係 \(|H_B| = \displaystyle\frac{2}{3} H_m\) を使って、具体的な値を計算します。そのためには、まず基準となる磁界の強さ \(H_m\) を求める必要があります。\(H_m\) は、点Aで電流が作る磁界の強さ \(H_{IA}\) に等しいので、直線電流の公式を使って計算できます。
この設問における重要なポイント

  • 基準磁界の計算: \(H_m = H_{IA} = \displaystyle\frac{I}{2\pi r_A}\) の関係を使って \(H_m\) を計算する。
  • 距離の特定: \(r_A = OA\) であり、問題文から \(OA = OB = 5.0 \times 10^{-2} \text{ m}\) であることを読み取る。
  • 最終計算: 求めた \(H_m\) の値を \(\displaystyle\frac{2}{3}\) 倍する。

具体的な解説と立式
(2)の議論から、点Bにおける磁界の強さ \(|H_B|\) は、棒磁石が作る磁界の強さ \(H_m\) を用いて次のように表せます。
$$ |H_B| = \frac{2}{3} H_m \quad \cdots ④ $$
また、\(H_m\) は点Aで電流が作る磁界の強さ \(H_{IA}\) に等しく、その強さは直線電流の公式で与えられます。
$$ H_m = H_{IA} = \frac{I}{2\pi r_A} \quad \cdots ⑤ $$
ここで、与えられた値は \(I = 100 \text{ A}\)、\(r_A = OA = OB = 5.0 \times 10^{-2} \text{ m}\) です。

使用した物理公式

  • 直線電流が作る磁界: \(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\)
計算過程

まず、式⑤に数値を代入して、\(H_m\) の値を計算します。
$$
\begin{aligned}
H_m &= \frac{100}{2\pi \times (5.0 \times 10^{-2})} \\[2.0ex]&= \frac{100}{\pi \times 10.0 \times 10^{-2}} \\[2.0ex]&= \frac{100}{0.1\pi} \\[2.0ex]&= \frac{1000}{\pi}
\end{aligned}
$$
次に、この結果を式④に代入して、\(|H_B|\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
|H_B| &= \frac{2}{3} \times \frac{1000}{\pi} \\[2.0ex]&= \frac{2000}{3\pi}
\end{aligned}
$$
円周率 \(\pi = 3.14\) を用いて数値を計算します。
$$
\begin{aligned}
|H_B| &\approx \frac{2000}{3 \times 3.14} \\[2.0ex]&= \frac{2000}{9.42} \\[2.0ex]&\approx 212.3 \text{ [A/m]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えるため、\(2.1 \times 10^2 \text{ A/m}\) となります。

計算方法の平易な説明

まず、点Aで磁界をゼロにするために、電流がどれくらいの強さの磁界を作っていたかを計算します。これが、棒磁石がもともと持っていた磁界の強さと同じになります。次に、(2)でわかったように、点Bでの最終的な磁界の強さは、この棒磁石の磁界の強さの「3分の2」なので、計算した値を2/3倍して答えを求めます。

結論と吟味

点Bの磁界の強さは \(2.1 \times 10^2 \text{ A/m}\) です。
計算は(2)までの論理に基づいており、矛盾なく進められています。有効数字の処理にも注意が必要です。

解答 (3) \(2.1 \times 10^2 \text{ A/m}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 磁界の重ね合わせの原理:
    • 核心: ある点における磁界は、複数の磁界源(この問題では棒磁石と直線電流)がそれぞれ独立に作る磁界のベクトル和で与えられます。すなわち、\(\vec{H}_{\text{合成}} = \vec{H}_{\text{棒磁石}} + \vec{H}_{\text{電流}}\) です。
    • 理解のポイント: (2)の「点Aの磁界が0になった」という条件は、\(\vec{H}_{\text{棒磁石}} + \vec{H}_{\text{電流}} = \vec{0}\) を意味します。これは、2つの磁界ベクトルが「同じ大きさ」で「逆向き」であることを示しており、この問題の全ての定量的解析の出発点となります。
  • 直線電流が作る磁界:
    • 核心: 無限に長い直線電流\(I\)から距離\(r\)だけ離れた点に作られる磁界の強さは \(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\) で与えられます。
    • 理解のポイント: 磁界の強さは電流の大きさに比例し、電流からの距離に反比例します。この距離との関係が、点Aと点Bでの電流による磁界の強さの違いを生み出す鍵となります。また、磁界の向きは「右ねじの法則」で決まることを正確に適用する必要があります。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 電界の重ね合わせ: 点電荷と一様な電界、あるいは複数の点電荷が作る電界の重ね合わせの問題は、本質的に同じ構造をしています。「磁界」を「電界」、「磁界の強さH」を「電界の強さE」、「電流」を「点電荷」と読み替えれば、ベクトル和を考えて合成電界や力のつり合いを解くというアプローチは全く同じです。
    • 複数の磁界源: 2本の平行電流が作る磁界や、円形コイルと直線電流が作る磁界など、磁界源が複数ある問題はすべて重ね合わせの原理で解きます。
    • 対称性の利用: この問題では、棒磁石の配置と点A, Bの位置に対称性があったため、「棒磁石がAとBに作る磁界の強さは等しい」と判断できました。図形の対称性を見抜くことは、問題を簡略化する上で非常に有効なテクニックです。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 磁界源を特定する: まず、その空間に磁界を作っているものが何か(棒磁石、電流、地磁気など)をすべてリストアップします。
    2. 各磁界の向きを図示する: 注目する点(AやB)において、それぞれの磁界源が作る磁界の向きをベクトル(矢印)で図に描き込みます。右ねじの法則や磁力線の性質を正しく使いましょう。
    3. 「磁界が0」の条件を数式化する: 「磁界が0」という条件があれば、それはベクトル和がゼロ、すなわち各ベクトルが互いに打ち消し合っていることを意味します。これを力のつり合いと同じように数式に変換します。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 距離の取り違え:
    • 誤解: 電流が作る磁界の計算で、原点Oからの距離を使ってしまう。
    • 対策: 磁界の強さを計算する際の距離\(r\)は、必ず「磁界源」からの距離です。この問題では、電流が点Pを貫いているので、点Pからの距離(\(r_A = PA\), \(r_B = PB\))を正しく計算する必要があります。
  • ベクトルの向きの判断ミス:
    • 誤解: 右ねじの法則を適用する際に、電流の向きや点の位置関係を混同し、磁界の向きを逆にしてしまう。
    • 対策: 図を丁寧に描き、右ねじを持つ手をイメージします。親指を電流の向き(表→裏)に合わせ、他の4本の指が注目する点(AやB)でどちらを向くかを確認する、という手順を落ち着いて実行しましょう。
  • 棒磁石の磁界の強さの仮定:
    • 誤解: 棒磁石が作る磁界の強さが、距離にどう依存するかを勝手に仮定してしまう(例:距離の2乗に反比例するなど)。
    • 対策: この問題では、棒磁石の磁界の強さの具体的な式は与えられていません。したがって、その強さは未知数(\(H_m\))として扱うのが正解です。「点Aで磁界が0」という条件から、この未知数\(H_m\)を電流の磁界で表現できる、という流れを理解することが重要です。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 2つの磁界を色分けして描く: 点Aと点Bに、棒磁石が作る磁界(例:青色の下向き矢印)と、電流が作る磁界(例:赤色の下向き矢印)をそれぞれ描き込みます。
    • 点A: 青と赤の矢印が逆向きで同じ長さになるように描きます。「合成すると0」という状態が視覚的に理解できます。
    • 点B: 青の矢印は点Aと同じ長さで描きます。一方、赤の矢印は点Aのときより短く(1/3の長さに)描きます。これにより、合成後のベクトルが下向きに残り、その大きさが元の青い矢印の2/3になることが一目瞭然となります。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 座標軸と位置関係: x軸、y軸を明確にし、O, A, B, Pの各点の位置関係(特に距離)を正確に図に記入します。
    • 電流の向きの表記: 紙面に垂直な電流は、「⊙」(裏→表)と「⊗」(表→裏)の記号を使って明確に区別します。
    • ベクトルの始点: すべての磁界ベクトルは、その磁界が存在する点(AやB)を始点として描きます。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 磁界の重ね合わせの原理:
    • 選定理由: 磁界の源が「棒磁石」と「電流」の2つ存在するため。複数の物理現象が同時に起こっている場合、それぞれの影響を個別に考えてから足し合わせる(ベクトル和をとる)のが物理学の基本アプローチです。
    • 適用根拠: マクスウェル方程式の線形性により、電磁場は重ね合わせの原理に従います。
  • 直線電流の磁界の公式 (\(H = \frac{I}{2\pi r}\)):
    • 選定理由: 磁界源の一つが「長い直線電流」であり、その「磁界の強さ」を定量的に計算する必要があるため。
    • 適用根拠: アンペールの法則(\(\oint \vec{H} \cdot d\vec{l} = I\))を、無限に長い直線電流の周りの円形の経路上で適用することで導出される、電磁気学の基本公式です。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (2) 磁界の強さの比率の計算:
    • 戦略: 点Aでの磁界のつり合いから棒磁石の磁界の強さを求め、それを使って点Bの磁界を計算する。
    • フロー: ①点A, Bにおける棒磁石の磁界(\(\vec{H}_m\))と電流の磁界(\(\vec{H}_{IA}\), \(\vec{H}_{IB}\))の向きを決定 → ②点Aでの磁界が0の条件から立式 (\(H_m = H_{IA}\)) → ③電流からの距離の比 (\(r_B = 3r_A\)) を求め、電流の磁界の強さの比を計算 (\(H_{IB} = \frac{1}{3}H_{IA}\)) → ④点Bでの合成磁界を立式 (\(H_B = H_{IB} – H_m\)) → ⑤上記の関係式を代入し、\(H_B\)を\(H_m\)で表す。
  2. (3) 具体的な値の計算:
    • 戦略: (2)で使った関係式に、与えられた数値を代入して計算する。
    • フロー: ①\(H_m\)を電流の公式で計算する (\(H_m = H_{IA} = \frac{I}{2\pi r_A}\)) → ②与えられた\(I\)と\(r_A\)の値を代入して\(H_m\)を数値で求める → ③(2)の結果 \(|H_B| = \frac{2}{3}H_m\) に\(H_m\)の値を代入して最終的な答えを計算する。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 文字式のまま計算を進める: (3)の計算では、すぐに\(\pi=3.14\)を代入するのではなく、まず文字式のまま計算を進めるのが得策です。
    • \(H_m = \displaystyle\frac{1000}{\pi}\)
    • \(|H_B| = \displaystyle\frac{2}{3} H_m = \displaystyle\frac{2}{3} \times \frac{1000}{\pi} = \frac{2000}{3\pi}\)
    • このように、最後の最後まで文字式(この場合は\(\pi\))で計算し、最終段階で一度だけ数値を代入することで、途中の計算ミスや丸め誤差のリスクを減らすことができます。
  • 単位の確認: 計算結果の単位が、求められている物理量(この場合は磁界の強さ [A/m])と一致しているかを確認する習慣をつけましょう。
  • 指数の計算: \(10^{-2}\)のような指数を含む計算は、慎重に行いましょう。分母と分子で打ち消し合う部分を先に見つけると計算が楽になります。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (2) 磁界の強さの比: 点Bは点Aに比べて電流から遠いため、電流による打ち消し効果が弱まるはずです。したがって、合成磁界の強さが0より大きく、かつ元の棒磁石の磁界よりは小さくなる(\(0 < |H_B| < H_m\))という結果は妥当です。\(|H_B| = \frac{2}{3}H_m\) はこの条件を満たしています。
    • (2) 磁界の向き: 点Bでは、電流による磁界が弱まったため、棒磁石による磁界(-y方向)が優位になります。したがって、合成磁界の向きが-y方向になるという計算結果(\(H_B = -\frac{2}{3}H_m\))も物理的に妥当です。
  • 別解との比較:
    • この問題は、各ステップが論理的に一意に定まるため、別解は考えにくいです。しかし、もし計算ミスをした場合、例えば距離の比を間違えたりすると、答えが大きく変わってしまいます。計算結果に違和感を感じたら、各ステップの前提(特に距離の計算や磁界の向き)が正しかったかを再確認する習慣が重要です。

378 サイクロトロン

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、荷電粒子を磁場中で円運動させながら、電場で繰り返し加速する装置「サイクロトロン」の原理に関する問題です。ローレンツ力による等速円運動と、電場による仕事(エネルギーの増加)という2つの重要な概念を組み合わせて解く能力が問われます。

与えられた条件
  • 荷電粒子: 陽イオン
  • 質量: \(m\) [kg]
  • 電気量: \(q\) [C]
  • 初速度: 0 とみなす
  • 磁界: 磁束密度 \(B\) [T]、金属箱面に垂直
  • 電界: D形金属箱の隙間にのみ存在
  • 交流電圧: \(V\) [V]
問われていること
  • (1) 陽イオンの円運動の周期。
  • (2) 交流電圧の周波数の最小値。
  • (3) 陽イオンがN回転したときの速さと円運動の半径。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「サイクロトロンの原理」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. ローレンツ力と円運動: 磁場中で運動する荷電粒子は、進行方向と磁場に垂直な向きにローレンツ力 \(f=qvB\) を受けます。この力が向心力となり、粒子は等速円運動を行います。
  2. 円運動の周期: サイクロトロンの重要な特徴として、円運動の周期が粒子の速さや半径によらず一定になる、という性質があります。
  3. 電場による加速: D形電極の隙間に電場(電位差\(V\))をかけることで、粒子は通過するたびにエネルギーを得て加速されます。
  4. エネルギーと仕事の関係: 粒子が電位差\(V\)の区間を通過するとき、\(W=qV\)の仕事(エネルギー)を得ます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、ローレンツ力が向心力となる円運動の運動方程式を立て、周期を求めます。
  2. (2)では、粒子が半周する時間と、交流電圧の周期がうまく同期する条件を考えます。
  3. (3)では、粒子がN回転する間に加速される回数を数え、エネルギーと仕事の関係から最終的な速さを求めます。その速さを使って、円運動の半径を計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
陽イオンが磁場から受けるローレンツ力を向心力として、等速円運動をすることを考えます。円運動の運動方程式を立てることで、周期を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 力の特定: D形金属箱の内部では電界は0なので、陽イオンにはたらく力は磁場によるローレンツ力のみです。
  • 運動方程式: 「質量 × 加速度 = 力」の円運動バージョンである「\(m \displaystyle\frac{v^2}{r} = F\)」を立てます。
  • 周期の公式: 周期\(T\)は、円周の長さ \(2\pi r\) を速さ \(v\) で割ることで求められます (\(T = \displaystyle\frac{2\pi r}{v}\))。

具体的な解説と立式
陽イオンの速さを \(v\)、円運動の半径を \(r\) とします。
陽イオンが磁場から受けるローレンツ力の大きさ \(f\) は、
$$ f = qvB \quad \cdots ① $$
このローレンツ力が向心力となって、陽イオンは等速円運動をします。円運動の運動方程式は、
$$ m\frac{v^2}{r} = qvB \quad \cdots ② $$
この式を整理することで、速さ\(v\)と半径\(r\)の関係がわかります。
円運動の周期 \(T\) は、
$$ T = \frac{2\pi r}{v} \quad \cdots ③ $$
で与えられます。

使用した物理公式

  • ローレンツ力: \(f = qvB\)
  • 円運動の運動方程式: \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = F\)
計算過程

まず、運動方程式②から \(r\) と \(v\) の関係を求めます。
$$ \frac{mv}{r} = qB $$
これを変形して、
$$ \frac{r}{v} = \frac{m}{qB} $$
この関係を周期の式③に代入します。
$$
\begin{aligned}
T &= 2\pi \cdot \frac{r}{v} \\[2.0ex]&= 2\pi \cdot \frac{m}{qB} \\[2.0ex]&= \frac{2\pi m}{qB} \text{ [s]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

陽イオンは、磁石の力(ローレンツ力)によってぐいっと曲げられ、円を描いて運動します。このとき、物理の法則(運動方程式)を使って、円運動の半径と速さの関係を調べます。周期とは、この円を1周するのにかかる時間のことです。計算してみると、この時間はイオンの速さや円の大きさに関係なく、イオンの質量・電気量と磁場の強さだけで決まる、という面白い性質がわかります。

結論と吟味

陽イオンの円運動の周期は \(T = \displaystyle\frac{2\pi m}{qB}\) です。
この結果は、陽イオンの速さ \(v\) や半径 \(r\) に依存しない定数となります。これが、サイクロトロンがうまく機能するための最も重要な原理です。速さが変わっても周期が変わらないため、一定周期の交流電圧で繰り返し加速し続けることができるのです。

解答 (1) \(\displaystyle\frac{2\pi m}{qB}\) [s]

問(2)

思考の道筋とポイント
陽イオンは、D形電極の隙間を通過するたびに加速されます。うまく加速し続けるためには、陽イオンが半周して隙間に戻ってくるたびに、電界の向きがちょうど加速する方向に入れ替わっている必要があります。この「同期」の条件を考えます。
この設問における重要なポイント

  • 加速のタイミング: 加速は半周ごとに行われます。陽イオンが半周するのにかかる時間は、周期\(T\)の半分、つまり \(\displaystyle\frac{T}{2}\) です。
  • 同期条件: 陽イオンが時間 \(\displaystyle\frac{T}{2}\) をかけて半周する間に、交流電圧の向きが逆転していればよい。つまり、交流電圧の周期 \(T’\) の半分が、陽イオンの半周の時間 \(\displaystyle\frac{T}{2}\) と一致するか、その奇数倍であればよい。
  • 周波数の最小値: 周波数を最小にするには、周期を最大にすればよい。同期条件を満たす最大の周期は、\(T’ = T\) のときです。

具体的な解説と立式
陽イオンが半周するのにかかる時間 \(t_{\text{半周}}\) は、(1)で求めた周期 \(T\) の半分です。
$$ t_{\text{半周}} = \frac{T}{2} = \frac{\pi m}{qB} $$
この時間ごとに、陽イオンはD形電極の隙間にやってきます。そのたびに加速されるためには、交流電圧の極性がちょうど逆転している必要があります。
交流電圧の周期を \(T’\) とすると、電圧の極性が逆転するのにかかる時間は \(\displaystyle\frac{T’}{2}\) です。
したがって、同期するための条件は、
$$ \frac{T}{2} = (2n-1) \cdot \frac{T’}{2} \quad (n=1, 2, 3, \dots) $$
となります。(注:電圧が逆転するのは半周期の奇数倍のとき)
これを \(T’\) について解くと、
$$ T’ = \frac{T}{2n-1} $$
交流電圧の周波数 \(f\) は周期 \(T’\) の逆数なので、
$$ f = \frac{1}{T’} = \frac{2n-1}{T} $$
周波数の最小値は \(n=1\) のときなので、
$$ f_{\text{min}} = \frac{1}{T} $$

使用した物理公式

  • 周期と周波数の関係: \(f = \displaystyle\frac{1}{T}\)
計算過程

(1)で求めた周期 \(T = \displaystyle\frac{2\pi m}{qB}\) を、\(f_{\text{min}} = \displaystyle\frac{1}{T}\) に代入します。
$$
\begin{aligned}
f_{\text{min}} &= \frac{1}{\displaystyle\frac{2\pi m}{qB}} \\[2.0ex]&= \frac{qB}{2\pi m} \text{ [Hz]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

陽イオンが半周して戻ってくるタイミングと、電圧の向きが変わるタイミングがぴったり合わないと、うまく加速できません。ブランコを押すタイミングと同じです。一番効率よく加速するには、陽イオンが1周する時間と、交流電圧の波が1回振動する時間が同じであればよいわけです。周波数は周期の逆数なので、周期から計算できます。

結論と吟味

交流電圧の周波数の最小値は \(f_{\text{min}} = \displaystyle\frac{qB}{2\pi m}\) です。
これは、陽イオンの円運動の固有周波数(サイクロトロン周波数)と一致します。物理的に最も基本的な共振条件であり、妥当な結果です。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{qB}{2\pi m}\) [Hz]

問(3)

思考の道筋とポイント
陽イオンがN回転する間に何回加速されるかを考え、エネルギーと仕事の関係から最終的な運動エネルギーを求めます。その運動エネルギーから速さを計算し、さらに運動方程式から円運動の半径を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 加速回数: 陽イオンは1回転する間にD形電極の隙間を2回通過します。したがって、N回転する間に \(2N\) 回加速されます。
  • エネルギーの増加: 1回の加速で得るエネルギーは \(qV\) です。
  • エネルギー保存則(仕事とエネルギーの関係): 初速度0の状態から、\(2N\)回の加速によって得たエネルギーの合計が、最終的な運動エネルギーに等しくなります。
  • 半径の計算: 求めた速さを、(1)で使った運動方程式の関係式 \(r = \displaystyle\frac{mv}{qB}\) に代入して半径を求めます。

具体的な解説と立式
陽イオンはN回転する間に \(2N\) 回加速されます。
1回の加速で得るエネルギーは \(qV\) なので、\(2N\) 回の加速で得る総エネルギー \(W_{\text{総}}\) は、
$$ W_{\text{総}} = 2N \cdot qV $$
このエネルギーがすべて陽イオンの運動エネルギーに変わります。N回転後の速さを \(v’\)、運動エネルギーを \(K\) とすると、
$$ K = \frac{1}{2}m(v’)^2 $$
エネルギーと仕事の関係から、
$$ \frac{1}{2}m(v’)^2 = 2NqV \quad \cdots ④ $$
この式から速さ \(v’\) を求めることができます。

次に、N回転後の円運動の半径を \(r’\) とします。(1)の運動方程式②から導かれる関係式 \(r = \displaystyle\frac{mv}{qB}\) を用いて、
$$ r’ = \frac{mv’}{qB} \quad \cdots ⑤ $$
この式に、④から求めた \(v’\) を代入することで半径 \(r’\) を求めます。

使用した物理公式

  • 仕事とエネルギーの関係: \(K = W\)
  • 円運動の運動方程式から導かれる関係: \(r = \displaystyle\frac{mv}{qB}\)
計算過程

まず、④式を速さ \(v’\) について解きます。
$$ (v’)^2 = \frac{4NqV}{m} $$
$$ v’ = \sqrt{\frac{4NqV}{m}} = 2\sqrt{\frac{NqV}{m}} \text{ [m/s]} $$
次に、この \(v’\) を⑤式に代入して半径 \(r’\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
r’ &= \frac{m}{qB} \cdot v’ \\[2.0ex]&= \frac{m}{qB} \cdot 2\sqrt{\frac{NqV}{m}} \\[2.0ex]&= \frac{2m}{qB} \frac{\sqrt{NqV}}{\sqrt{m}} \\[2.0ex]&= \frac{2\sqrt{m}}{qB} \sqrt{NqV} \\[2.0ex]&= \frac{2}{B} \sqrt{\frac{m^2}{q^2} \frac{NqV}{m}} \\[2.0ex]&= \frac{2}{B} \sqrt{\frac{mNV}{q}} \text{ [m]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

陽イオンは、スタートしてからN周する間に、合計で2N回、電圧Vの坂道を下って加速されます。2N回加速された後の総エネルギーは、運動エネルギーに変わります。この関係から最終的な速さが計算できます。また、速くなった粒子ほど大きな円を描いて運動するので、計算した速さを使って、そのときの円の半径を求めることができます。

結論と吟味

N回転後の速さは \(v’ = 2\sqrt{\displaystyle\frac{NqV}{m}}\)、半径は \(r’ = \displaystyle\frac{2}{B}\sqrt{\frac{mNV}{q}}\) です。
回転数Nや電圧Vが大きいほど、速く、大きな半径になるという結果は直感と一致しており、物理的に妥当です。

解答 (3) 速さ: \(2\sqrt{\displaystyle\frac{NqV}{m}}\) [m/s], 半径: \(\displaystyle\frac{2}{B}\sqrt{\frac{mNV}{q}}\) [m]

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • ローレンツ力と円運動の運動方程式:
    • 核心: 磁場中で運動する荷電粒子にはたらくローレンツ力 \(f=qvB\) が向心力となり、粒子を円運動させます。この関係を運動方程式 \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = qvB\) として記述することが、この問題の全ての解析の出発点です。
    • 理解のポイント: この一つの式から、周期が速さや半径によらないこと(問1)、速さと半径の関係(問3)など、サイクロトロンの根幹をなす性質がすべて導出されます。
  • 仕事とエネルギーの関係(エネルギー保存則):
    • 核心: 荷電粒子が電位差\(V\)の電場を通過するたびに、\(W=qV\)のエネルギーを得て加速されます。N回転する間に蓄積された全エネルギーが、粒子の最終的な運動エネルギー \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) に等しくなります。
    • 理解のポイント: (3)では、粒子がN回転する間に隙間を \(2N\) 回通過し、その都度エネルギー \(qV\) をもらうと考えます。したがって、総エネルギーは \(2NqV\) となります。この力学的なエネルギーの考え方と、電磁気的な円運動の法則を結びつけることが、この問題を解く鍵です。
  • サイクロトロンの共振条件:
    • 核心: 粒子を効率よく加速し続けるためには、粒子の円運動の周期 \(T\) と、D形電極にかける交流電圧の周期 \(T’\) を同期させる必要があります。最も効率が良いのは、\(T=T’\) となる場合です。
    • 理解のポイント: (1)で求めた周期 \(T = \displaystyle\frac{2\pi m}{qB}\) が粒子の速さによらない定数であることが、この同期を可能にしています。もし周期が速さによって変わってしまうと、加速するにつれてタイミングがずれてしまい、連続的な加速は不可能になります。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 質量分析器: 磁場中で荷電粒子を円運動させ、その半径の違いから質量を特定する装置です。ローレンツ力と円運動の運動方程式を使う点は共通しています。
    • 速度選択器: 直交する電場と磁場を使い、特定の速さの粒子だけを直進させる装置です。ローレンツ力と電場からの力がつり合う条件 (\(qvB=qE\)) を使います。サイクロトロンの前段に置かれることもあります。
    • ホール効果: 導体内の荷電キャリア(電子など)が磁場からローレンツ力を受け、導体の側面に偏ることで電位差(ホール電圧)が生じる現象です。力のつり合いを考える点で類似しています。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 荷電粒子の運動を2つの領域に分ける: 「磁場のみの領域(D形電極内)」と「電場のみの領域(隙間)」に分けて考えます。
    2. 磁場領域での運動を分析する: ローレンツ力による等速円運動として扱い、運動方程式を立てます。ここから周期や半径と速さの関係式を導出します。
    3. 電場領域での運動を分析する: 加速によるエネルギーの変化として扱い、仕事とエネルギーの関係を考えます。
    4. 2つの領域を結びつける: 磁場領域を半周する時間と、電場(交流電圧)の周期の関係(同期条件)を結びつけて考えます。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 周期と速さ・半径の関係の誤解:
    • 誤解: 速い粒子ほど周期は短くなる、あるいは半径が大きいほど周期は長くなると直感的に考えてしまう。
    • 対策: 必ず運動方程式から \(T = \displaystyle\frac{2\pi m}{qB}\) を導出する練習をしましょう。この式に \(v\) や \(r\) が含まれないことを確認し、「サイクロトロンの周期は速さ・半径によらない」という重要な結論をしっかり理解することが不可欠です。
  • 加速回数の数え間違い:
    • 誤解: N回転したので、加速回数もN回だと考えてしまう。
    • 対策: サイクロトロンの図をよく見て、粒子が1周する間に隙間を「2回」通過することをイメージしましょう。したがって、N回転なら \(2N\) 回加速される、と正しく数えることが重要です。
  • エネルギー計算の混同:
    • 誤解: 運動エネルギーの式 \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) と、電場から得るエネルギー \(qV\) を混同したり、どう結びつければよいかわからなくなったりする。
    • 対策: 「電場がした仕事の総和が、運動エネルギーの増加量に等しい」というエネルギー保存の原則に立ち返りましょう。\((\text{総仕事}) = (\text{後の運動エネルギー}) – (\text{前の運動エネルギー})\) という関係を意識すると、\(\sum qV = \displaystyle\frac{1}{2}mv_{\text{後}}^2 – \frac{1}{2}mv_{\text{前}}^2\) のように立式できます。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 渦巻き状の軌道: 陽イオンの軌道が、中心から外側に向かって渦を巻くように広がっていく様子を図でイメージします。隙間を通過するたびに円の半径が大きくなる様子を描くと、加速と円運動の関係が直感的に理解できます。
    • エネルギーの階段: 陽イオンのエネルギーを縦軸、時間を横軸にとったグラフをイメージします。隙間を通過するたびに、エネルギーが \(qV\) ずつ階段状にポン、ポンと増えていく様子を考えると、\(2N\) 回の加速で総エネルギーが \(2NqV\) になることが明快になります。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 力の向き: D形電極内の任意の点に陽イオンを描き、その速度ベクトル \(\vec{v}\) と磁場 \(\vec{B}\) の向きを確認し、フレミングの左手の法則を使ってローレンツ力 \(\vec{F}\) が常に円の中心を向くことを図示します。
    • 電場の向き: 隙間部分に、ある瞬間の電場の向きを矢印で描き込みます。半周期後にはこの矢印が逆転することも描き加えると、同期のイメージが掴みやすくなります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 円運動の運動方程式 (\(m\frac{v^2}{r} = F\)):
    • 選定理由: 粒子が磁場中で円運動しているという現象を記述するため。これは、円運動という運動形態(加速度運動)と、その原因となる力(向心力)を結びつける基本法則です。
    • 適用根拠: ニュートンの第二法則 \(m\vec{a}=\vec{F}\) を、加速度が \(a=v^2/r\) で向きが中心方向である等速円運動に適用したものです。
  • 仕事とエネルギーの公式 (\(K=W\)):
    • 選定理由: 粒子が電場で加速され、速さ(運動エネルギー)が変化するという現象を記述するため。力学的エネルギーが保存しない場面では、仕事とエネルギーの関係を考えるのが定石です。
    • 適用根拠: 物体にはたらく合力がした仕事は、その物体の運動エネルギーの変化量に等しい、という運動エネルギーの原理に基づいています。
  • 周期と周波数の公式 (\(f=1/T\)):
    • 選定理由: (2)で、交流電圧の「周期」と「周波数」という2つの量を結びつける必要があるため。
    • 適用根拠: 周波数の定義そのものです。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 周期の計算:
    • 戦略: ローレンツ力を向心力とする運動方程式から、周期を導出する。
    • フロー: ①ローレンツ力 \(f=qvB\) を確認 → ②運動方程式 \(m\frac{v^2}{r} = qvB\) を立式 → ③式を \(\frac{r}{v}\) について整理 → ④周期の定義式 \(T = \frac{2\pi r}{v}\) に代入して \(T\) を求める。
  2. (2) 周波数の計算:
    • 戦略: 陽イオンの半周期と交流電圧の半周期の同期条件を考える。
    • フロー: ①陽イオンの半周期が \(\frac{T}{2}\) であることを確認 → ②周波数が最小(周期が最大)となる同期条件は \(T’ = T\) であることを理解 → ③周波数の定義 \(f = \frac{1}{T’}\) から、\(f_{\text{min}} = \frac{1}{T}\) を導く → ④(1)の \(T\) を代入して計算。
  3. (3) 速さと半径の計算:
    • 戦略: 加速回数から総エネルギーを求め、速さと半径を順に計算する。
    • フロー: ①加速回数が \(2N\) 回であることを確認 → ②仕事とエネルギーの関係から \(\frac{1}{2}m(v’)^2 = 2NqV\) を立式 → ③式を \(v’\) について解く → ④運動方程式の関係式 \(r’ = \frac{mv’}{qB}\) に \(v’\) を代入して \(r’\) を計算。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 文字式のまま計算を進める: (3)の半径の計算では、まず \(v’\) の式をそのまま \(r’\) の式に代入し、文字式のまま整理するのが有効です。
    • \(r’ = \displaystyle\frac{m}{qB} \left( 2\sqrt{\frac{NqV}{m}} \right)\)
    • このように代入してから、根号(ルート)の中と外で文字を整理していくと、計算ミスが減り、物理量間の関係も明確になります。
  • 根号の計算: \(\sqrt{m}\) や \(\sqrt{q}\) など、根号を含む計算を慎重に行いましょう。\(m = (\sqrt{m})^2\) のように変形して、根号の中に入れたり出したりする計算に慣れておくことが重要です。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (1) 周期: \(T = \frac{2\pi m}{qB}\)。質量 \(m\) が大きいほど慣性が大きく曲がりにくいため周期は長くなる。電気量 \(q\) や磁場 \(B\) が大きいほどローレンツ力が強く、速く曲がるため周期は短くなる。この関係は物理的に妥当です。
    • (3) 速さと半径: \(v’ \propto \sqrt{N}, \sqrt{V}\)、\(r’ \propto \sqrt{N}, \sqrt{V}\)。加速回数 \(N\) や加速電圧 \(V\) が大きいほど、より多くのエネルギーを得るため、最終的な速さと半径が大きくなるのは当然であり、妥当な結果です。また、\(r’ \propto \frac{1}{B}\) であり、磁場 \(B\) が強いほど粒子は強く曲げられ、同じエネルギーでもより小さな半径を保つことができる、というのも直感と一致します。

379 磁界に斜めに飛び込む荷電粒子

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、一様な磁場に対して斜めに入射した荷電粒子の運動を扱う、典型的な問題です。粒子が描く「らせん運動」を、磁場に垂直な面内での「等速円運動」と、磁場に平行な方向への「等速直線運動」という2つの基本的な運動の重ね合わせとして捉えることができるかが問われます。

与えられた条件
  • 磁界: z軸の正の向き、磁束密度 \(B\) で一様
  • 粒子: 質量 \(m\)、正電荷 \(q\)
  • 入射条件: 原点Oから、xz平面内で、x軸の正の方向と角 \(\theta\) をなす向きに、速さ \(\vec{v}\) で入射
  • 初速度の成分: x成分は \(v \cos\theta\)、y成分は0
問われていること
  • (1) 粒子が受けるローレンツ力の大きさ \(f\)。
  • (2) xy平面内の円運動の半径 \(r\) と周期 \(T\)。
  • (3) z軸方向の運動の種類。
  • (4) らせん運動のピッチ(1周期でz軸方向に進む距離)\(L\)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「一様磁場中での荷電粒子のらせん運動」です。
この複雑に見える運動を解き明かす鍵は、速度ベクトルを「磁場に垂直な成分」と「磁場に平行な成分」に分解して、それぞれの運動を別々に考えることです。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 速度の分解: 速度ベクトル \(\vec{v}\) を、磁場に垂直な成分 \(\vec{v}_{\text{垂直}}\) と、磁場に平行な成分 \(\vec{v}_{\text{平行}}\) に分解します。
  2. ローレンツ力: 荷電粒子にはたらくローレンツ力は、磁場に垂直な速度成分 \(\vec{v}_{\text{垂直}}\) のみに依存し、その大きさは \(f = qv_{\text{垂直}}B\) となります。
  3. 運動の分離:
    • 磁場に垂直な方向(xy平面内): ローレンツ力を向心力とする「等速円運動」をします。
    • 磁場に平行な方向(z軸方向): 力がはたらかないため、「等速直線運動」をします。
  4. 合成運動: これら2つの運動が同時に起こる結果、粒子は全体として「らせん運動」をします。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、速度 \(\vec{v}\) を磁場(z軸)に垂直な成分 \(v_{\text{垂直}}\) と平行な成分 \(v_{\text{平行}}\) に分解します。
  2. ローレンツ力の大きさは \(v_{\text{垂直}}\) を使って計算します(問1)。
  3. xy平面内の円運動に注目し、\(v_{\text{垂直}}\) を使って運動方程式を立て、半径 \(r\) と周期 \(T\) を求めます(問2)。
  4. z軸方向の運動は、力がはたらかないことから結論づけます(問3)。
  5. らせんのピッチ \(L\) は、z軸方向の速さ \(v_{\text{平行}}\) と円運動の周期 \(T\) の積で求めます(問4)。

問(1)

思考の道筋とポイント
ローレンツ力は、荷電粒子の速度ベクトルのうち、磁場ベクトルに垂直な成分によってのみ生じます。したがって、まず初速度 \(\vec{v}\) を磁場(z軸)に垂直な成分と平行な成分に分解することが第一歩です。
この設問における重要なポイント

  • 速度の分解: 磁場はz軸方向なので、磁場に垂直な速度成分はxy平面内の速度成分です。問題の図から、その大きさ \(v_{\text{垂直}}\) は \(v \cos\theta\) となります。
  • ローレンツ力の公式: ローレンツ力の大きさ \(f\) は、磁場に垂直な速度成分 \(v_{\text{垂直}}\) を用いて \(f = q v_{\text{垂直}} B\) と表されます。

具体的な解説と立式
速度ベクトル \(\vec{v}\) を、磁場 \(\vec{B}\)(z軸方向)に垂直な成分 \(\vec{v}_{\text{垂直}}\) と平行な成分 \(\vec{v}_{\text{平行}}\) に分解します。
図より、xz平面内で速度ベクトル \(\vec{v}\) はx軸と角 \(\theta\) をなすため、

  • 磁場に垂直な成分(xy平面成分)の大きさ: \(v_{\text{垂直}} = v \cos\theta\)
  • 磁場に平行な成分(z軸成分)の大きさ: \(v_{\text{平行}} = v \sin\theta\)

となります。
ローレンツ力 \(f\) は、磁場に垂直な速度成分 \(v_{\text{垂直}}\) によって生じるため、その大きさは次式で与えられます。
$$ f = q v_{\text{垂直}} B \quad \cdots ① $$

使用した物理公式

  • ローレンツ力: \(f = qvB\sin\alpha\) (\(\alpha\)は\(\vec{v}\)と\(\vec{B}\)のなす角)
計算過程

①式に \(v_{\text{垂直}} = v \cos\theta\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
f &= q (v \cos\theta) B \\[2.0ex]&= qvB \cos\theta \text{ [N]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

磁石が荷電粒子に及ぼす力(ローレンツ力)は、粒子が磁場の向きを横切る速さの成分に比例します。この問題では、磁場はz軸方向なので、z軸を横切る速さの成分(xy平面内の速さ)は \(v \cos\theta\) です。この値を使ってローレンツ力の公式に当てはめることで、力の大きさを計算します。

結論と吟味

粒子が受けるローレンツ力の大きさは \(f = qvB \cos\theta\) です。
この力は常に速度ベクトルと磁場ベクトルの両方に垂直な方向、すなわちxy平面内で円運動の中心を向く方向にはたらきます。

解答 (1) \(qvB \cos\theta\)

問(2)

思考の道筋とポイント
粒子は、xy平面内ではローレンツ力を向心力として等速円運動をします。この円運動の運動方程式を立てることで、半径 \(r\) と周期 \(T\) を求めることができます。
この設問における重要なポイント

  • 円運動の運動方程式: xy平面内の円運動の速さは \(v_{\text{垂直}}\) です。この速さで半径 \(r\) の円運動をするための向心力は、(1)で求めたローレンツ力 \(f\) に等しくなります。
  • 周期の計算: 周期 \(T\) は、円周 \(2\pi r\) を円運動の速さ \(v_{\text{垂直}}\) で割ることで求められます。

具体的な解説と立式
xy平面内の円運動について考えます。円運動の速さは \(v_{\text{垂直}} = v \cos\theta\) です。
この運動の向心力はローレンツ力 \(f = qv_{\text{垂直}}B\) なので、運動方程式は次のように立てられます。
$$ m \frac{v_{\text{垂直}}^2}{r} = q v_{\text{垂直}} B \quad \cdots ② $$
この式から半径 \(r\) を求めることができます。
周期 \(T\) は、円周を速さで割ることで求められます。
$$ T = \frac{2\pi r}{v_{\text{垂直}}} \quad \cdots ③ $$

使用した物理公式

  • 円運動の運動方程式: \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = F\)
  • 周期の公式: \(T = \displaystyle\frac{2\pi r}{v}\)
計算過程

まず、②式を半径 \(r\) について解きます。
$$ m \frac{v_{\text{垂直}}}{r} = qB $$
$$ r = \frac{m v_{\text{垂直}}}{qB} $$
ここに \(v_{\text{垂直}} = v \cos\theta\) を代入して、
$$ r = \frac{mv \cos\theta}{qB} \text{ [m]} $$
次に、③式にこの \(r\) を代入して周期 \(T\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{2\pi}{v_{\text{垂直}}} \cdot r \\[2.0ex]&= \frac{2\pi}{v_{\text{垂直}}} \cdot \frac{m v_{\text{垂直}}}{qB} \\[2.0ex]&= \frac{2\pi m}{qB} \text{ [s]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

xy平面内での円運動だけを取り出して考えます。この円運動の速さは \(v \cos\theta\) です。この速さで運動する粒子を円運動させるのに必要な力(向心力)と、磁場が及ぼす力(ローレンツ力)が等しい、という関係式を立てて半径を計算します。周期は、計算した半径の円周を、円運動の速さで割ることで求められます。

結論と吟味

円運動の半径は \(r = \displaystyle\frac{mv \cos\theta}{qB}\)、周期は \(T = \displaystyle\frac{2\pi m}{qB}\) です。
特に、周期 \(T\) が入射角 \(\theta\) や速さ \(v\) に依存しないことは、サイクロトロンなどの応用でも見られる重要な性質です。

解答 (2) 半径: \(\displaystyle\frac{mv \cos\theta}{qB}\), 周期: \(\displaystyle\frac{2\pi m}{qB}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
z軸方向の運動に注目します。z軸方向の速度成分が、時間とともにどのように変化するかを考えるには、z軸方向にはたらく力があるかどうかを調べればよいです。
この設問における重要なポイント

  • ローレンツ力の向き: ローレンツ力は常に磁場(z軸)に垂直な方向にはたらきます。したがって、z軸方向の成分を持ちません。
  • z軸方向の力: 粒子にはたらく力はローレンツ力のみ(重力は無視)なので、z軸方向には力がはたらきません。
  • 運動の法則: 力がはたらかない方向には、加速度は生じません。したがって、初速度を保ったまま運動を続けます。

具体的な解説と立式
ローレンツ力 \(\vec{f}\) は、速度 \(\vec{v}\) と磁場 \(\vec{B}\) の両方に垂直です。磁場 \(\vec{B}\) がz軸方向を向いているため、ローレンツ力 \(\vec{f}\) はz軸方向の成分を持たず、常にxy平面内にはたらきます。
粒子にはたらく力はローレンツ力のみなので、z軸方向には力がはたらきません。
ニュートンの運動の法則より、力がはたらかない物体の加速度は0です。したがって、z軸方向の速度は変化せず、一定に保たれます。
初速度のz軸成分は \(v_{\text{平行}} = v \sin\theta\) であったため、粒子はz軸方向にこの速さで等速直線運動をします。

使用した物理公式

  • 運動の法則(慣性の法則)
計算過程

この設問は定性的な理解を問うものであり、計算過程はありません。

計算方法の平易な説明

粒子が進むz軸方向には、磁場からの力はかかりません。進行方向(z軸方向)に対して、押す力も引く力も働かないので、粒子は最初に与えられたz軸方向の速さ \(v \sin\theta\) のまま、まっすぐ進み続けます。このような運動を「等速直線運動」と呼びます。

結論と吟味

z軸方向では、速さ \(v \sin\theta\) の等速直線運動をします。

解答 (3) 等速直線運動

問(4)

思考の道筋とポイント
らせん運動のピッチ \(L\) とは、粒子がxy平面内でちょうど1周する間に、z軸方向に進む距離のことです。これは、(2)で求めた周期 \(T\) と、(3)で考えたz軸方向の速さを使って計算できます。
この設問における重要なポイント

  • ピッチの定義: \(L = (\text{z軸方向の速さ}) \times (\text{1周にかかる時間})\)
  • z軸方向の速さ: \(v_{\text{平行}} = v \sin\theta\)
  • 1周にかかる時間: 円運動の周期 \(T = \displaystyle\frac{2\pi m}{qB}\)

具体的な解説と立式
らせんのピッチ \(L\) は、z軸方向の等速直線運動の速さ \(v_{\text{平行}}\) と、xy平面内の円運動の周期 \(T\) の積で与えられます。
$$ L = v_{\text{平行}} \cdot T \quad \cdots ④ $$

使用した物理公式

  • 等速直線運動の変位: \(x = vt\)
計算過程

④式に、\(v_{\text{平行}} = v \sin\theta\) と \(T = \displaystyle\frac{2\pi m}{qB}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
L &= (v \sin\theta) \cdot \left(\frac{2\pi m}{qB}\right) \\[2.0ex]&= \frac{2\pi mv \sin\theta}{qB} \text{ [m]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

粒子は、xy平面でくるっと1周しながら、同時にz軸方向にも進んでいます。この「1周する間にz軸方向にどれだけ進んだか」が、らせんの「ひと巻きの長さ(ピッチ)」になります。これは単純に「z軸方向の速さ × 1周にかかる時間」で計算できます。

結論と吟味

らせんのピッチは \(L = \displaystyle\frac{2\pi mv \sin\theta}{qB}\) です。
入射角 \(\theta\) が大きいほどz軸方向の初速が大きくなるため、ピッチが長くなるという結果は物理的に妥当です。また、\(\theta=0\) のときは \(L=0\) となり、z軸方向には進まずxy平面内での円運動に、\(\theta=90^\circ\) のときは \(r=0\) となり、z軸方向に直進する運動に対応しており、極端な場合も正しく表現できています。

解答 (4) \(\displaystyle\frac{2\pi mv \sin\theta}{qB}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 速度の分解と運動の分離:
    • 核心: 磁場に斜めに入射する荷電粒子の運動は、速度ベクトル \(\vec{v}\) を「磁場に垂直な成分 \(\vec{v}_{\text{垂直}}\)」と「磁場に平行な成分 \(\vec{v}_{\text{平行}}\)」に分解することで、2つの独立した運動の重ね合わせとして理解できます。
    • 理解のポイント:
      • 垂直成分 \(\vec{v}_{\text{垂直}}\) → ローレンツ力を向心力とする「等速円運動」の原因。
      • 平行成分 \(\vec{v}_{\text{平行}}\) → 力を受けないため「等速直線運動」の原因。

      この「運動を分解して考える」という視点が、らせん運動を解析するための最も重要なアプローチです。

  • ローレンツ力と円運動の運動方程式:
    • 核心: 磁場に垂直な速度成分 \(v_{\text{垂直}}\) がローレンツ力 \(f = qv_{\text{垂直}}B\) を生み出し、これが向心力となって円運動を引き起こします。この関係を運動方程式 \(m\displaystyle\frac{v_{\text{垂直}}^2}{r} = qv_{\text{垂直}}B\) として立てることが、半径や周期を求めるための鍵となります。
    • 理解のポイント: ローレンツ力は速度に比例し、向心加速度は速度の2乗に比例するため、結果的に周期が速度によらないという重要な性質が導かれます。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 斜方投射: 重力という一様な力がはたらく中での放物運動も、運動の分解思考の典型例です。「水平方向の等速直線運動」と「鉛直方向の等加速度直線運動」の重ね合わせとして捉える考え方は、本問と全く同じアプローチです。
    • サイクロトロン: らせん運動の周期が速度によらないという性質を利用した加速器です。本問の周期の計算は、サイクロトロンの基本原理そのものです。
    • 地球の磁場とオーロラ: 太陽からの荷電粒子(太陽風)が地球の磁力線に捉えられ、らせん運動をしながら極地上空に降下し、大気と衝突して発光するのがオーロラの原理です。本問は、この現象の基礎モデルと言えます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 座標軸と磁場の向きを確認する: まず、磁場がどの軸の方向を向いているかを確認します。これが運動を分解する際の基準となります。
    2. 速度ベクトルを分解する: 入射した粒子の速度ベクトルを、磁場に「平行な成分」と「垂直な成分」に分解し、それぞれの大きさを三角比で求めます。これが解析の第一歩です。
    3. 運動を2つに分けて考える: 「垂直方向の円運動」と「平行方向の直進運動」に完全に分けて、それぞれに必要な物理法則(運動方程式、等速直線運動の式)を適用します。最後に、必要に応じて両者を組み合わせます(ピッチの計算など)。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • ローレンツ力の計算で使う速度の混同:
    • 誤解: ローレンツ力の計算 \(f=qvB\) に、入射速度 \(v\) そのものを代入してしまう。
    • 対策: ローレンツ力を生むのは、あくまで磁場を「横切る」速度成分であることを徹底しましょう。\(f = qv_{\text{垂直}}B\) と、必ず垂直成分を使うことを意識づけることが重要です。
  • 円運動の計算で使う速度の混同:
    • 誤解: 円運動の運動方程式や周期の計算に、入射速度 \(v\) や平行成分 \(v_{\text{平行}}\) を使ってしまう。
    • 対策: 円運動はxy平面内で起こる運動なので、その運動に関わる速さはxy平面内の速度成分、すなわち \(v_{\text{垂直}}\) のみです。運動を分離して考えていることを常に意識し、各運動には対応する速度成分のみを使うようにしましょう。
  • 角度 \(\theta\) の取り方による \(\sin\) と \(\cos\) の混同:
    • 誤解: 問題によって角度\(\theta\)の定義が異なる(磁場とのなす角か、磁場に垂直な面とのなす角か)ため、垂直成分と平行成分を逆に覚えてしまう。
    • 対策: 公式として覚えるのではなく、その都度図を描き、直角三角形の辺と角度の関係から三角比を使って「垂直成分はどちらか」「平行成分はどちらか」を判断する習慣をつけましょう。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 影の運動をイメージする:
      • xy平面への射影: 粒子に真上(z軸正方向)から光を当てたときの「影」の動きを想像します。この影は、xy平面内で単純な「等速円運動」をします。この円運動の半径と周期が、問(2)の答えです。
      • xz平面への射影: 粒子に真横(y軸正方向)から光を当てたときの「影」の動きを想像します。この影は、z軸方向に進みながらx軸方向に振動する、サインカーブのような波形の運動をします。
    • バネのイメージ: らせん運動の軌跡は、引き伸ばしたバネ(つるまきバネ)の形そのものです。ピッチ \(L\) は、このバネの「ひと巻きの長さ」に相当します。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 3次元の座標軸: x, y, z軸を、互いに直角に見えるように描きます(y軸を手前向きに描くなど)。
    • 速度の分解を図示: 入射点Oで、速度ベクトル \(\vec{v}\) を、\(v_{\text{垂直}}\)(x軸方向)と \(v_{\text{平行}}\)(z軸方向)の2つのベクトルに分解する様子を、点線の長方形で囲むなどして明確に描きます。
    • 力のベクトル: 軌道上のいくつかの点で、速度ベクトル \(\vec{v}\) とローレンツ力ベクトル \(\vec{f}\) を描き加えます。\(\vec{f}\) が常に円の中心(z軸)を向き、軌道に垂直であることを確認します。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 速度の分解:
    • 選定理由: 複雑な3次元の運動を、単純な2つの1次元・2次元運動に分割して解析するための、物理学における極めて強力な問題解決戦略だからです。力が特定の方向にしかはたらかない場合、その方向に垂直な運動と平行な運動は独立に扱うことができます。
    • 適用根拠: ベクトルの線形性に基づきます。
  • 円運動の運動方程式 (\(m\frac{v^2}{r} = F\)):
    • 選定理由: (2)で、xy平面内の「円運動」という運動形態と、その原因である「ローレンツ力」の関係を数式で表現するため。
    • 適用根拠: ニュートンの第二法則 \(m\vec{a}=\vec{F}\) を、等速円運動という特殊な状況に適用したものです。
  • 等速直線運動の公式 (\(x=vt\)):
    • 選定理由: (3)と(4)で、z軸方向の運動を記述するため。z軸方向には力がはたらかず、速度が一定であることから、最も単純な運動モデルである等速直線運動の公式を適用します。
    • 適用根拠: 運動の第一法則(慣性の法則)に基づきます。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 準備段階:速度の分解
    • 戦略: すべての解析の基礎として、まず速度を磁場に垂直な成分と平行な成分に分ける。
    • フロー: ①図から角度の関係を読み取り、\(v_{\text{垂直}} = v \cos\theta\), \(v_{\text{平行}} = v \sin\theta\) を導出。
  2. (1)〜(4)の計算
    • 戦略: 分解した各運動成分について、適切な物理法則を適用していく。
    • フロー:
      • (1) ローレンツ力: \(f = q v_{\text{垂直}} B\) に代入。
      • (2) 円運動: 運動方程式 \(m \frac{v_{\text{垂直}}^2}{r} = q v_{\text{垂直}} B\) を立てて \(r\) を解く。周期 \(T = \frac{2\pi r}{v_{\text{垂直}}}\) に代入して \(T\) を解く。
      • (3) 直進運動: z軸方向の力がないことから「等速直線運動」と結論。
      • (4) ピッチ: \(L = v_{\text{平行}} \cdot T\) に、求めた値を代入。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 一貫した記号を使う: 速度を分解したら、最後まで \(v_{\text{垂直}}\) と \(v_{\text{平行}}\) という記号を使って計算を進めましょう。途中で \(v\) に戻したりすると、どの速度成分を使っているのか混乱しやすくなります。最後に \(v_{\text{垂直}} = v \cos\theta\) などを代入するのが安全です。
  • 周期の式の導出: 周期 \(T\) の計算では、\(T = \frac{2\pi r}{v_{\text{垂直}}}\) に \(r = \frac{m v_{\text{垂直}}}{qB}\) を代入すると、\(v_{\text{垂直}}\) がきれいに消去されます。この計算過程を一度経験しておくと、「周期は速さによらない」という結論が記憶に定着しやすくなります。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (2) 周期: \(T = \frac{2\pi m}{qB}\)。周期が \(v\) や \(\theta\) に依存しないことを確認します。これは、速い粒子ほど大きな円を描くため、円周が長くなる効果と速さが大きい効果が相殺し、結果的に1周にかかる時間が同じになる、という物理的描像と一致します。
    • (4) ピッチ: \(L = \frac{2\pi mv \sin\theta}{qB}\)。
      • \(\theta=0\) の場合(磁場に垂直に入射): \(\sin 0 = 0\) なので \(L=0\)。z軸方向には進まず、xy平面内での円運動になる。これは正しいです。
      • \(\theta=90^\circ\) の場合(磁場に平行に入射): \(\cos 90^\circ = 0\) なので \(v_{\text{垂直}}=0\)。ローレンツ力は0、半径も0となり、円運動はしません。\(v_{\text{平行}} = v\) となり、z軸方向に等速直線運動をする。これも正しいです。

      このように、極端な場合を考えてみることで、式の妥当性を検証できます。

380 ホール効果

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、電流が流れている導体を磁場に置いたときに、電流と磁場の両方に垂直な方向に電位差が生じる「ホール効果」に関する問題です。ローレンツ力、力のつり合い、電流の微視的表現など、電磁気学の重要な概念を統合して理解する力が試されます。

与えられた条件
  • 金属棒の寸法: x方向に \(a\), z方向に \(b\), y方向に \(L\)
  • 電極: M(-x側), N(+x側)
  • 電流: \(I\) [A]、y軸の正の向き
  • 磁界: 磁束密度 \(B\) [T]、z軸の正の向き
  • 電荷の担い手: 自由電子
  • 電子の電荷: \(-e\) [C]
  • 電子の平均の速さ: \(v\) [m/s]
  • 電子の数密度: \(n\) [個/m³]
問われていること
  • (1) 自由電子にはたらくローレンツ力の大きさと向き。
  • (2) ホール効果によって生じる電界の強さと向き。
  • (3) 自由電子の速さ \(v\) を、与えられた文字で表す。
  • (4) 電極MN間の電位差と、どちらの電位が高いか。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「ホール効果」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. ローレンツ力: 磁場中を運動する荷電粒子にはたらく力。向きはフレミングの左手の法則で、大きさは \(f=qvB\) で決まります。
  2. 力のつり合い: 定常状態では、電子にはたらくローレンツ力と、電子の偏りによって生じた電界からの静電気力がつり合います。
  3. 電流の微視的表現: 電流 \(I\) は、電荷の担い手の数密度 \(n\)、電気量 \(e\)、速さ \(v\)、断面積 \(S\) を用いて \(I=enSv\) と表されます。
  4. 一様な電界と電位差: 一様な電界 \(E\) の中で、距離 \(d\) だけ離れた2点間の電位差は \(V=Ed\) で与えられます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、電流の担い手である自由電子にはたらくローレンツ力の向きと大きさを求めます(問1)。
  2. 次に、ローレンツ力によって電子が偏ることで生じる電界(ホール電界)を、力のつり合いから求めます(問2)。
  3. 電流の公式から電子の速さを計算し(問3)、それを用いて最終的に電位差(ホール電圧)を導出します(問4)。

問(1)

思考の道筋とポイント
電流の向きと、その担い手である自由電子の運動の向きは逆であることに注意し、フレミングの左手の法則を適用してローレンツ力の向きを決定します。
この設問における重要なポイント

  • 電子の運動方向: 電流が+y方向なので、負電荷である自由電子は逆向きの-y方向に運動しています。
  • フレミングの左手の法則の適用: 左手の中指を電子の運動方向(-y方向)に、人差し指を磁場(+z方向)に合わせます。親指は-x方向を向きます。これは「正電荷」が受ける力の向きなので、負電荷である電子が受ける力は逆の +x方向 となります。
  • 力の大きさ: ローレンツ力の公式 \(f=|q|vB\) に、電子の電気量の大きさ \(e\) を代入します。

具体的な解説と立式
電流の向きは+y方向なので、自由電子(電荷 \(-e\))は-y方向に速さ \(v\) で運動しています。
磁場は+z方向にかかっています。
フレミングの左手の法則を適用すると、電子にはたらくローレンツ力の向きは x軸の正の向き となります。
その力の大きさ \(f\) は、
$$ f = evB \quad \cdots ① $$
です。

使用した物理公式

  • ローレンツ力: \(f = |q|vB\)
計算過程

この設問は、物理法則を適用して結論を導くものであり、数値計算はありません。

計算方法の平易な説明

金属棒の中を動いている電子に、磁石の力が働きます。この力の向きは「フレミングの左手の法則」で調べることができます。電子はマイナスの電気を持っているので、法則から導かれる向きとは逆向きに力を受けます。計算すると、電子はx軸のプラス方向(図のN電極側)に力を受けることがわかります。

結論と吟味

自由電子にはたらくローレンツ力の大きさは \(evB\)、向きはx軸の正の向きです。

解答 (1) 大きさ: \(evB\), 向き: x軸の正の向き

問(2)

思考の道筋とポイント
(1)で求めたローレンツ力によって、自由電子が金属棒の片側に偏って分布します。この電荷の偏りが、ローレンツ力と逆向きの電界(ホール電界)を生み出します。やがて、電子にはたらくローレンツ力と電界からの力がつり合い、電子はy方向に直進できるようになります。この力のつり合いの状態を考えます。
この設問における重要なポイント

  • 電荷の偏り: ローレンツ力(+x方向)により、自由電子は金属棒の+x側の面(Nが接続された面)に集まります。その結果、N側が負に、反対のM側が正に帯電します。
  • 電界の発生: この電荷の偏りにより、金属棒の内部には正に帯電したM側から負に帯電したN側へ向かう電界、すなわち x軸の正の向き の電界 \(E_H\) が発生します。
  • 力のつり合い: 定常状態では、電子はx方向に移動しなくなります。これは、ローレンツ力(+x方向)と、電界 \(E_H\) から受ける静電気力(-x方向、大きさ \(eE_H\))がつり合っているためです。

具体的な解説と立式
定常状態において、一個の自由電子にはたらく力はつり合っています。

  • ローレンツ力: 大きさ \(evB\)、向きは+x方向
  • 電界からの静電気力: 大きさ \(eE_H\)、向きは-x方向

力のつり合いの式は、
$$ evB – eE_H = 0 \quad \cdots ② $$
となります。

使用した物理公式

  • 力のつり合い
  • 電界中の荷電粒子が受ける力: \(F=qE\)
計算過程

②式を電界の強さ \(E_H\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
eE_H &= evB \\[2.0ex]E_H &= vB \text{ [V/m]}
\end{aligned}
$$
この電界の向きは、上記で考察した通り、x軸の正の向きです。

計算方法の平易な説明

磁場の力でN電極側に押しやられた電子ですが、N側に電子が溜まりすぎると、今度は電子同士が反発する力(電界による力)が生まれます。最終的に、磁場が電子を押す力と、電界が電子を押し返す力がちょうど同じ強さになり、電子はx方向には動かなくなります。このときの電界の強さを計算します。

結論と吟味

発生した電界の強さは \(vB\)、向きはx軸の正の向きです。この電界をホール電界と呼びます。

解答 (2) 強さ: \(vB\), 向き: x軸の正の向き

問(3)

思考の道筋とポイント
電流の正体を、ミクロな視点(自由電子の集団的な運動)で記述した公式 \(I=enSv\) を用いて、電子の平均の速さ \(v\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 電流の公式: \(I = enSv\)
  • 断面積Sの特定: 電流はy軸方向に流れています。この電流が通過する断面は、それに垂直なxz平面です。図から、この面の寸法はx方向が \(a\)、z方向が \(b\) なので、断面積は \(S=ab\) となります。

具体的な解説と立式
電流の公式は、
$$ I = enSv \quad \cdots ③ $$
です。ここで、\(S\) は電流の流れる向きに垂直な断面積です。
電流はy軸方向に流れているため、断面積はxz平面の面積となります。図より、その大きさは \(a \times b\) です。
$$ S = ab $$
これを③式に代入します。
$$ I = en(ab)v $$

使用した物理公式

  • 電流の微視的表現: \(I=enSv\)
計算過程

上記で立てた式を、速さ \(v\) について解きます。
$$ v = \frac{I}{enab} \text{ [m/s]} $$

計算方法の平易な説明

電流の大きさ \(I\) は、「1秒あたりに断面を通過する電気量」として定義されます。これは、電子の数、速さ、そして通り道の断面積によって決まります。この関係を表す公式を使って、電流の大きさ \(I\) から、それを運んでいる電子1個1個の平均の速さ \(v\) を逆算します。

結論と吟味

自由電子の移動の平均の速さは \(v = \displaystyle\frac{I}{enab}\) です。
電流が大きいほど、また断面積が小さいほど、電子は速く動く必要があるという直感と一致する、妥当な結果です。

解答 (3) \(\displaystyle\frac{I}{enab}\) [m/s]

問(4)

思考の道筋とポイント
(2)で求めた一様なホール電界 \(E_H\) の中で、距離 \(a\) だけ離れた電極MとNの間に生じる電位差(ホール電圧)を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 電位差の公式: 一様な電界 \(E\) の中での電位差は \(V=Ed\) で計算できます。
  • 距離dの特定: 電位差を測定するMとNは、x方向に \(a\) だけ離れています。
  • 電位の高さの判断: (2)で考察したように、電子はN側に集まりN側が負に、M側が正に帯電します。したがって、電位が高いのは M側 です。

具体的な解説と立式
電極MN間の電位差を \(V_H\) とします。これは、強さ \(E_H\) の一様な電界が距離 \(a\) にわたって存在することによるものです。
$$ V_H = E_H \cdot a \quad \cdots ④ $$
(2)で求めた \(E_H = vB\) と、(3)で求めた \(v = \displaystyle\frac{I}{enab}\) を使って、この \(V_H\) を計算します。

使用した物理公式

  • 一様な電界中の電位差: \(V=Ed\)
計算過程

まず、\(E_H = vB\) に(3)の結果を代入します。
$$ E_H = \left( \frac{I}{enab} \right) B = \frac{BI}{enab} $$
これを④式に代入して、電位差 \(V_H\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
V_H &= E_H \cdot a \\[2.0ex]&= \left( \frac{BI}{enab} \right) a \\[2.0ex]&= \frac{BI}{enb} \text{ [V]}
\end{aligned}
$$
電位の高さについては、(2)の考察より、M側が正、N側が負に帯電するため、電位が高いのはM側です。

計算方法の平易な説明

(2)で求めた電界は、金属棒の中にできた「電気的な坂」のようなものです。この坂の高低差(電位差)を計算します。高低差は「坂の傾き(電界の強さ)× 距離」で計算できます。MとNの間の距離は \(a\) なので、この式に値を代入して電位差を求めます。

結論と吟味

電極MN間の電位差は \(\displaystyle\frac{BI}{enb}\) [V] で、電位が高いのはM側です。
この電位差(ホール電圧)は、磁場 \(B\) や電流 \(I\) に比例し、電荷キャリアの密度 \(n\) や厚さ \(b\) に反比例します。この性質を利用して、磁場の強さを測定する磁気センサや、半導体のキャリア密度を調べる実験などに応用されています。

解答 (4) 電位差: \(\displaystyle\frac{BI}{enb}\) [V], 電位が高いほう: M

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • ローレンツ力と静電気力のつり合い:
    • 核心: ホール効果の本質は、定常状態において、磁場から受ける「ローレンツ力」と、電荷の偏りによって生じた電界から受ける「静電気力」が、電荷の担い手(この問題では自由電子)に対してつり合っている、という点にあります。
    • 理解のポイント: \(evB = eE_H\) という力のつり合いの式が、この現象を記述する最も重要な関係式です。この式を立てることができれば、ホール電界やホール電圧の計算が可能になります。
  • 電流の微視的表現:
    • 核心: マクロな量である電流 \(I\) と、ミクロな量である電子の速さ \(v\) を結びつける関係式が \(I=enSv\) です。
    • 理解のポイント: この公式は、ホール効果の問題に限らず、導体内の現象を扱う多くの問題で必要となります。各文字(\(e, n, S, v\))が何を意味するのか、特に断面積 \(S\) を図から正しく読み取ることが重要です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 電荷の担い手が正孔の場合: 半導体の中には、正の電荷を持つかのように振る舞う「正孔(ホール)」が電流の担い手となるものがあります(p型半導体)。この場合、ローレンツ力の向きはフレミングの法則通りになり、生じる電位差の向きが逆になります。ホール効果は、物質の電荷の担い手が正か負かを判別するのに使われます。
    • 速度選択器: 直交する電場と磁場を荷電粒子が通過する装置です。特定の速さの粒子だけが、ローレンツ力と静電気力がつり合って直進できる、という原理はホール効果と全く同じです。
    • 液体金属の流量計: 導電性の液体(溶融金属など)を管に流し、垂直に磁場をかけると、ホール効果によって管の側面に電位差が生じます。この電位差が液体の流速に比例することを利用して、流量を測定できます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 電流の担い手を特定する: まず、電流を運んでいるのが電子(負電荷)なのか、正孔(正電荷)なのかを確認します。これにより、ローレンツ力の向きの解釈が変わります。
    2. 3つのベクトルの向きを正確に把握する: 「電流(または粒子の速度)\(\vec{v}\)」「磁場 \(\vec{B}\)」「生じる電界 \(\vec{E}\)(または電位差の方向)」の3つのベクトルが、互いに直交する関係にあることを意識します。図を描いて、それぞれの向きを正確に把握することが不可欠です。
    3. 力のつり合いの式を立てる: 「ローレンツ力 = 静電気力」という、ホール効果の基本式を立てることを目指します。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 電子の運動方向と電流の向きの混同:
    • 誤解: 電流の向きをそのままフレミングの左手の法則に適用し、電子が受ける力の向きを間違える。
    • 対策: 「電流の向き」と「負電荷である電子の運動の向き」は逆であることを常に意識しましょう。フレミングの法則を適用する際は、電子の実際の運動方向(電流と逆向き)を基準にするか、あるいは電流の向きで法則を適用した後に「電子は負電荷だから力の向きは逆」と補正するかのどちらかに統一しましょう。
  • 断面積Sの誤認:
    • 誤解: 電流の公式 \(I=enSv\) の断面積 \(S\) を、図に描かれている適当な面(例えば上面 \(a \times L\) など)で計算してしまう。
    • 対策: 断面積 \(S\) は、必ず「電流の流れる向きに垂直な面」の面積です。電流がy軸方向に流れるなら、それに垂直なxz平面の面積を計算します。図のどの辺がどの寸法に対応するかを正確に読み取ることが重要です。
  • 電位の高さの判断ミス:
    • 誤解: ローレンツ力で電子が移動する方向を、そのまま「電位が高い」方向だと勘違いしてしまう。
    • 対策: 「電子(負電荷)が集まった側は、負に帯電するので電位が低くなる」という基本を思い出しましょう。力の向き → 電子の偏り → 電荷分布 → 電位の高低、という論理的なステップを一つずつ踏んで判断することがミスを防ぎます。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 電子の流れを川に例える: 金属棒の中を流れる電子の集団を「電子の川」とイメージします。この川がy軸方向に流れているところに、上から下へ(z軸方向)磁場という「横風」が吹いていると考えます。
    • 川の流れの偏り: 横風(ローレンツ力)によって、川の水(電子)は風下(+x方向、N側)に押しやられます。その結果、N側の岸には水がたまり(負に帯電)、反対のM側の岸は水が引きます(正に帯電)。
    • 水位差の発生: この偏りによって、N側とM側の岸の間に「水位差」(電位差)が生まれます。この水位差が、横風の力とつり合うまで大きくなった状態が定常状態です。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 電荷の分布を書き込む: ローレンツ力の向きを判断したら、電子が偏る側の面に「-」の記号を、反対側に「+」の記号を複数書き込みます。これにより、電界の向き(+から-へ)と電位の高低が一目瞭然になります。
    • 力のベクトルを電子に描く: 導体内の代表的な電子を一つ描き、その電子に働く「ローレンツ力」と「静電気力」を、向きが逆で同じ長さの矢印として描き加えると、力のつり合いの関係が視覚的に理解できます。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • ローレンツ力の公式 (\(f=|q|vB\)):
    • 選定理由: (1)で、磁場中を運動する荷電粒子(電子)にはたらく力を問われているため。これは、この現象を記述する基本法則です。
    • 適用根拠: 電磁気学における基本的な力の法則です。
  • 力のつり合いの式 (\(\sum F = 0\)):
    • 選定理由: (2)で、定常状態(電子がy方向に直進している状態)を考えるため。定常状態では、x方向の速度成分が0、つまり加速度が0なので、x方向の合力は0になります。
    • 適用根拠: ニュートンの運動の法則(第一法則または第二法則で \(a=0\) とした場合)に基づきます。
  • 電流の微視的表現 (\(I=enSv\)):
    • 選定理由: (3)で、マクロな物理量である電流 \(I\) と、ミクロな物理量である電子の速さ \(v\) を関係づける必要があるため。
    • 適用根拠: 電流の定義(単位時間あたりの電荷の通過量)を、個々の電子の運動の集まりとして表現したものです。
  • 一様な電界と電位差の公式 (\(V=Ed\)):
    • 選定理由: (4)で、ホール効果によって生じた一様な電界 \(E_H\) から、電極間の電位差 \(V_H\) を計算するため。
    • 適用根拠: 電位の定義(単位電荷あたりの位置エネルギー)と、一様な電界中での仕事の関係から導かれます。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) ローレンツ力の計算:
    • 戦略: 電子の運動方向を特定し、フレミングの左手の法則を適用する。
    • フロー: ①電流と逆向きに電子が運動することを確認 → ②フレミングの法則で力の向きを決定(負電荷なので逆向きに補正)→ ③力の大きさを公式 \(f=evB\) で計算。
  2. (2) ホール電界の計算:
    • 戦略: ローレンツ力と静電気力のつり合いを考える。
    • フロー: ①ローレンツ力で電子が偏る方向を特定 → ②電荷の偏りから電界の向きを決定 → ③力のつり合いの式 \(evB = eE_H\) を立式 → ④式を \(E_H\) について解く。
  3. (3) 電子の速さの計算:
    • 戦略: 電流の微視的表現の公式を適用する。
    • フロー: ①電流に垂直な断面積 \(S\) を図から正しく読み取る (\(S=ab\)) → ②電流の公式 \(I=enSv\) を \(v\) について解く。
  4. (4) ホール電圧の計算:
    • 戦略: (2)と(3)の結果を組み合わせて、電位差の公式を適用する。
    • フロー: ①電位差の公式 \(V_H = E_H d\) に、\(d=a\) を適用 → ②\(E_H=vB\) と \(v=\frac{I}{enab}\) を代入して \(V_H\) を計算 → ③電荷の偏りから電位の高い電極を判断。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 段階的な代入: (4)の計算では、一気に式を代入するのではなく、(2)で求めた \(E_H=vB\) と(3)で求めた \(v\) を段階的に使うと、思考が整理されやすくなります。まず \(V_H = E_H a = (vB)a\) とし、次に \(v\) を代入する、という手順を踏むとミスが減ります。
  • 単位の次元解析: 最終的に求めた電位差の式の単位が、本当に電圧の単位になっているかを確認する(次元解析)と、式の立て間違いに気づきやすくなります。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • ホール電圧: \(V_H = \frac{BI}{enb}\)。ホール電圧は、磁場 \(B\) や電流 \(I\) が強いほど大きくなる。これは、ローレンツ力が強くなるため、それにつり合う電界も強くなる必要があることから妥当です。また、キャリア密度 \(n\) が小さい物質や、厚さ \(b\) が薄い素子ほど、ホール電圧が大きくなることもわかります。このため、ホール素子にはキャリア密度の小さい半導体が使われることが多いです。これらの関係は物理的に妥当であり、実際の応用に繋がっています。

381 電界・磁界中の荷電粒子の運動

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、電場と磁場が共存する空間に、特定の条件で入射した荷電粒子の運動を解析する問題です。らせん運動の考え方を応用し、電場による等加速度直線運動と磁場による等速円運動の重ね合わせとして捉えることが鍵となります。

与えられた条件
  • 空間: 長さ \(L\)、半径 \(R\) の中空円筒内
  • 電界: PからQの向き(軸方向)、強さ \(E\) で一様
  • 磁界: PからQの向き(軸方向)、磁束密度 \(B\) で一様
  • 粒子: 質量 \(m\)、正電荷 \(q\)
  • 入射条件: 円筒の中心軸上の点Pから、軸に直角に、速さ \(v\) で入射
問われていること
  • (1) \(L \to \infty\) のとき、粒子が側壁に衝突しないための \(B\) の条件。
  • (2) 粒子がPからQに到達するまでの時間 \(t\)。
  • (3) 粒子が点Qを通過するための \(B\) の条件。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「平行な電場・磁場中での荷電粒子の運動」です。
この運動は、らせん運動と同様に、運動を「軸に垂直な面内」と「軸に平行な方向」に分解して考えることで理解できます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 運動の分離: 粒子の運動を、円筒の軸に垂直な面内(半径方向)の運動と、軸に平行な方向(P→Q方向)の運動に分けて考えます。
  2. 軸に垂直な面内の運動: この面内では、粒子は磁場からローレンツ力のみを受けます。電場は軸方向なので、この面内の運動には影響しません。したがって、粒子は「等速円運動」をします。
  3. 軸に平行な方向の運動: この方向では、粒子は電場から静電気力のみを受けます。磁場は運動方向と平行なので、ローレンツ力ははたらきません。したがって、粒子は「等加速度直線運動」をします。
  4. 合成運動: これら2つの運動が同時に起こる結果、粒子は全体として、円運動しながら加速していく「らせん状の軌道」を描きます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、軸に垂直な面内の等速円運動に注目し、その軌道半径が円筒の半径の半分 \(R/2\) を超えないという条件を立式します。
  2. (2)では、軸に平行な方向の等加速度直線運動に注目し、距離 \(L\) を進む時間を計算します。
  3. (3)では、粒子が距離 \(L\) を進む時間 \(t\) の間に、円運動をちょうど整数回繰り返す、という条件を立式します。

問(1)

思考の道筋とポイント
粒子は中心軸上の点Pから入射されるため、その後の円運動の軌道が側壁に衝突しないためには、円運動の半径が円筒の半径 \(R\) の半分よりも小さくなければなりません。軸に垂直な面内の運動に注目し、運動方程式から円運動の半径を求め、条件式を立てます。
この設問における重要なポイント

  • 運動の分離: 軸に垂直な面内の運動だけを考えます。この運動には電場は関与しません。
  • 力の特定: 軸に垂直な面内では、粒子はローレンツ力 \(f=qvB\) のみを向心力として等速円運動をします。
  • 衝突しない条件: 粒子は中心軸から飛び出すため、円運動の半径を \(r\) とすると、\(r \le \displaystyle\frac{R}{2}\) であれば側壁に衝突しません。

具体的な解説と立式
軸に垂直な面内での粒子の運動を考えます。
入射速度は \(v\) であり、これは円運動の速さとなります。
この粒子にはたらくローレンツ力の大きさ \(f\) は、
$$ f = qvB $$
この力が向心力となり、半径 \(r\) の等速円運動をします。運動方程式は、
$$ m\frac{v^2}{r} = qvB \quad \cdots ① $$
粒子が側壁に衝突しないための条件は、この円運動の半径 \(r\) が円筒の半径の半分 \(R/2\) 以下であることです。
$$ r \le \frac{R}{2} \quad \cdots ② $$

使用した物理公式

  • ローレンツ力: \(f = qvB\)
  • 円運動の運動方程式: \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = F\)
計算過程

まず、①式を半径 \(r\) について解きます。
$$ r = \frac{mv}{qB} $$
この結果を、衝突しない条件②に代入します。
$$ \frac{mv}{qB} \le \frac{R}{2} $$
この不等式を磁束密度 \(B\) について解きます。
$$ 2mv \le qBR $$
$$ B \ge \frac{2mv}{qR} $$

計算方法の平易な説明

粒子は磁場の力で円を描きます。粒子は中心から飛び出すので、この円の半径が筒の半径の半分を超えてしまうと、壁にぶつかってしまいます。磁場が強いほど、粒子はきつく曲げられて円の半径は小さくなります。壁にぶつからないためには、磁場をどれくらい強くすればよいか、という条件を計算します。

結論と吟味

粒子が側壁に衝突しないための条件は \(B \ge \displaystyle\frac{2mv}{qR}\) です。
磁場 \(B\) が強いほど、また粒子の運動量 \(mv\) が小さいほど、円運動の半径は小さくなるため、この条件は物理的に妥当です。

解答 (1) \(B \ge \displaystyle\frac{2mv}{qR}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
粒子がPからQまで進む運動は、軸に平行な方向の運動です。この方向には、電場による力のみがはたらき、粒子は等加速度直線運動をします。
この設問における重要なポイント

  • 運動の分離: 軸に平行な方向の運動だけを考えます。この運動には磁場は関与しません。
  • 力の特定: 軸方向には、電場 \(E\) から静電気力 \(F=qE\) を受けます。
  • 運動の種類: 初速度0の状態から一定の力で加速されるため、等加速度直線運動となります。
  • 等加速度直線運動の公式: 変位の公式 \(x = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\) を用いて時間を求めます。

具体的な解説と立式
軸に平行な方向(P→Q)の運動について考えます。
この方向の初速度は0です。
粒子は電場から大きさ \(F = qE\) の力を受けます。
このときの加速度を \(a\) とすると、運動方程式は、
$$ ma = qE \quad \cdots ③ $$
となります。
距離 \(L\) を進むのにかかる時間を \(t\) とすると、等加速度直線運動の公式より、
$$ L = \frac{1}{2}at^2 \quad \cdots ④ $$
となります。

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(ma=F\)
  • 等加速度直線運動の変位: \(x = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\)
計算過程

まず、③式から加速度 \(a\) を求めます。
$$ a = \frac{qE}{m} $$
これを④式に代入して、時間 \(t\) について解きます。
$$ L = \frac{1}{2} \left( \frac{qE}{m} \right) t^2 $$
$$ t^2 = \frac{2mL}{qE} $$
$$ t = \sqrt{\frac{2mL}{qE}} \text{ [s]} $$

計算方法の平易な説明

粒子がPからQまで進む動きは、電車の加速のようなものです。粒子は電場という力によって、P地点で静止した状態からだんだん速くなっていきます。この「等加速度直線運動」で、距離Lを進むのにかかる時間を、物理の公式を使って計算します。

結論と吟味

PからQに達するまでの時間は \(t = \sqrt{\displaystyle\frac{2mL}{qE}}\) です。
距離 \(L\) が長いほど、また加速度(\(qE/m\))が小さいほど、時間がかかるという結果は直感と一致しており、妥当です。

解答 (2) \(\sqrt{\displaystyle\frac{2mL}{qE}}\) [s]

問(3)

思考の道筋とポイント
粒子が点Pから出て、ちょうど点Qを通過するということは、粒子が軸方向に距離 \(L\) を進む間に、軸に垂直な面内でちょうど整数回だけ回転した、ということを意味します。
この設問における重要なポイント

  • 同期条件: 軸方向に進む時間 \(t\) が、円運動の周期 \(T\) の整数倍になっていればよい。
  • 時間 t: (2)で求めた \(t = \sqrt{\displaystyle\frac{2mL}{qE}}\) を用います。
  • 周期 T: 軸垂直な面内の円運動の周期は、速さ \(v\) によらず \(T = \displaystyle\frac{2\pi m}{qB}\) で与えられます。

具体的な解説と立式
粒子が点Qを通過するための条件は、PからQに達するまでの時間 \(t\) が、円運動の周期 \(T\) のちょうど整数倍になることです。
$$ t = nT \quad (n=1, 2, 3, \dots) \quad \cdots ⑤ $$
ここで、\(t\) は(2)で求めた時間、\(T\) は円運動の周期です。
軸垂直な面内の円運動の周期 \(T\) は、速さ \(v\) によらず、
$$ T = \frac{2\pi m}{qB} \quad \cdots ⑥ $$
で与えられます。

使用した物理公式

  • 円運動の周期: \(T = \displaystyle\frac{2\pi m}{qB}\)
計算過程

⑤式に、\(t = \sqrt{\displaystyle\frac{2mL}{qE}}\) と ⑥式を代入します。
$$ \sqrt{\frac{2mL}{qE}} = n \cdot \frac{2\pi m}{qB} $$
この式を磁束密度 \(B\) について解きます。
両辺を2乗すると、
$$ \frac{2mL}{qE} = n^2 \cdot \frac{4\pi^2 m^2}{q^2 B^2} $$
\(B^2\) について整理します。
$$ B^2 = n^2 \cdot \frac{4\pi^2 m^2}{q^2} \cdot \frac{qE}{2mL} = n^2 \cdot \frac{2\pi^2 mE}{qL} $$
したがって、\(B\) は、
$$ B = n\pi \sqrt{\frac{2mE}{qL}} \text{ [T]} $$

計算方法の平易な説明

粒子がちょうどQの穴を通り抜けるためには、PからQまで進む間に、円運動をぴったり1周、2周、…と、ちょうど整数回だけ終えている必要があります。この「タイミングが合う」という条件を数式にします。「PからQまでの所要時間 = 周期の整数倍」という式を立て、これを磁場の強さBについて解きます。

結論と吟味

粒子が点Qを通過するための条件は \(B = n\pi \sqrt{\displaystyle\frac{2mE}{qL}}\) (\(n\)は正の整数)です。
この条件を満たす特定の磁場の強さのときのみ、粒子はQを通過できます。これは、磁場の強さによって円運動の周期が決まるため、特定の周期のときだけ同期が成立することを示しています。

解答 (3) \(B = n\pi \sqrt{\displaystyle\frac{2mE}{qL}}\) (nは正の整数)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 運動の分離(重ね合わせの原理):
    • 核心: 電場と磁場が平行にはたらく空間での荷電粒子の運動は、2つの独立した運動の重ね合わせとして捉えることができます。
      • 軸に垂直な面内: 電場の影響を受けず、磁場によるローレンツ力を向心力とする「等速円運動」。
      • 軸に平行な方向: 磁場の影響を受けず、電場による静電気力を受けての「等加速度直線運動」。
    • 理解のポイント: このように複雑な運動を、よく知っている単純な運動に分解して考えるアプローチが、この問題を解く上で最も重要です。
  • 円運動の運動方程式と周期:
    • 核心: 軸垂直な面内での円運動は、運動方程式 \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = qvB\) に支配されます。この式から、半径 \(r = \displaystyle\frac{mv}{qB}\) や、速度によらない周期 \(T = \displaystyle\frac{2\pi m}{qB}\) が導かれます。
    • 理解のポイント: (1)の衝突条件や(3)の同期条件は、すべてこの円運動の性質に基づいています。
  • 等加速度直線運動の公式:
    • 核心: 軸方向の運動は、運動方程式 \(ma=qE\) と等加速度運動の公式 \(L = \displaystyle\frac{1}{2}at^2\) で記述されます。
    • 理解のポイント: (2)の到達時間や(3)の同期条件の計算には、この軸方向の運動の解析が不可欠です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • らせん運動: 電場がない場合(\(E=0\))は、軸方向が等速直線運動になるだけで、本質的な考え方は同じです。
    • 速度選択器: 電場と磁場が直交する場合、ローレンツ力と静電気力がつり合う特定の速度の粒子だけが直進できます。力のベクトル図を描き、力のつり合いを考える点で共通しています。
    • 質量分析器: 荷電粒子を加速させた後、磁場中で円運動させてその半径から質量を特定する装置です。本問の(1)や(2)の考え方が直接応用されます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 電場と磁場の向きの関係を把握する: まず、電場と磁場が平行なのか、直交しているのか、あるいは斜めを向いているのかを確認します。これが運動をどう分解するかの指針になります。
    2. 運動を分解する: 粒子の運動を、力が単純になる方向(この問題では軸方向とそれに垂直な面内)に分解します。
    3. 各方向の運動を特定する: 分解した各方向について、どのような力が働き、結果としてどのような運動(等速、等加速度、円運動など)になるかを特定します。
    4. 条件を数式化する: 「衝突しない」「特定の点を通過する」といった問題文の条件を、物理量(半径、時間、周期など)を用いた数式や不等式に変換します。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • (1)の衝突条件における半径の誤解:
    • 誤解: 粒子が側壁に衝突しない条件を、円運動の半径 \(r\) が円筒の半径 \(R\) 以下、つまり \(r \le R\) と考えてしまう。
    • 対策: 必ず粒子の出発点を確認しましょう。この問題では、粒子は「中心軸上」の点Pから入射します。したがって、円運動の軌道が壁に達するのは、中心軸からの距離が \(R\) になるとき、すなわち円運動の半径 \(r\) が \(R/2\) に達したときです。よって、正しい条件は \(r \le R/2\) となります。
  • 運動の分離の混同:
    • 誤解: 軸垂直な円運動を考える際に電場の影響を入れたり、軸方向の運動を考える際に磁場の影響(ローレンツ力)を入れたりしてしまう。
    • 対策: 「なぜ運動を分離できるのか」という理由を理解することが重要です。電場は軸方向にしか力を及ぼさず、ローレンツ力は軸に垂直な方向にしか力を及ぼさないため、それぞれの運動は互いに干渉しません。この原理を意識することで、混同を防げます。
  • (3)の同期条件の立式ミス:
    • 誤解: 時間と周期の関係をどう数式にすればよいか分からなくなる。
    • 対策: 「PからQまで進む時間 \(t\) の間に、円運動をちょうど \(n\) 回繰り返す」という日本語を、そのまま数式に翻訳します。「\(t\) が、周期 \(T\) の \(n\) 倍に等しい」→「\(t = nT\)」と素直に立式しましょう。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 伸びていくバネのイメージ: 粒子の軌道は、PからQに進むにつれて巻きがどんどん伸びていく「不等ピッチのらせん」をイメージすると良いでしょう。軸方向には加速されるため、後ろのほうの巻き(ピッチ)は短く、前のほうの巻きは長くなります。
    • 2つの運動の同時再生: アニメーションのように、頭の中で「円運動する点」と「加速しながら直進する点」を同時に再生し、それらを合成した点が描く軌跡を想像します。
    • (1)の衝突条件の図示: 円筒の断面図(円)を描き、その中心から出発した粒子が描く円軌道を図示します。円の半径 \(r\) と円筒の半径 \(R\) の関係が \(r \le R/2\) でなければならないことが、図から一目瞭然になります。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 3次元的な軌道: らせん状の軌道を描く際は、奥行きが感じられるように、手前側の線を太く、奥側の線を細く(または点線に)するなどの工夫をすると分かりやすくなります。
    • 力のベクトル: 軸垂直な面内での円運動について、代表的な点での速度ベクトルとローレンツ力(向心力)のベクトルを描き加えます。また、軸方向の運動について、静電気力のベクトルを描き加えると、力の働き方が明確になります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 運動の分離(重ね合わせの原理):
    • 選定理由: 複雑な3次元運動を、単純な2次元(円運動)と1次元(等加速度運動)の運動に分割して解析するため。これは物理学における基本的な問題解決戦略です。
    • 適用根拠: 力のベクトルが、軸方向と軸垂直方向に分離でき、それぞれの運動が互いに影響を及ぼさないため。
  • 円運動の運動方程式 (\(m\frac{v^2}{r} = F\)):
    • 選定理由: (1)と(3)で、軸垂直な面内での「円運動」を定量的に扱うため。運動形態(円運動)と原因(ローレンツ力)を結びつける根幹の式です。
    • 適用根拠: ニュートンの第二法則の円運動への適用形です。
  • 等加速度直線運動の公式 (\(L = \frac{1}{2}at^2\)):
    • 選定理由: (2)と(3)で、軸方向の「等加速度運動」を定量的に扱うため。初速0で一定の力(静電気力)を受ける運動に最適な公式です。
    • 適用根拠: 運動方程式 \(ma=F\) を積分して得られる、運動学の基本公式です。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 衝突しない条件:
    • 戦略: 軸垂直な円運動の半径が、許容される最大半径 (\(R/2\)) 以下であるという条件を立てる。
    • フロー: ①運動方程式から半径 \(r\) を \(B\) の式で表す → ②\(r \le R/2\) という不等式を立てる → ③不等式を \(B\) について解く。
  2. (2) 到達時間の計算:
    • 戦略: 軸方向の等加速度直線運動として扱う。
    • フロー: ①運動方程式から加速度 \(a\) を求める → ②等加速度運動の公式 \(L = \frac{1}{2}at^2\) に代入 → ③式を \(t\) について解く。
  3. (3) Qを通過する条件:
    • 戦略: 到達時間 \(t\) が、円運動の周期 \(T\) の整数倍になるという同期条件を立てる。
    • フロー: ①円運動の周期 \(T\) を求める → ②\(t = nT\) という等式を立てる → ③(2)で求めた \(t\) と、①で求めた \(T\) を代入 → ④式を \(B\) について解く。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 文字式のまま計算を進める: (3)の計算では、\(t\) や \(T\) の具体的な式を最後の最後まで代入せず、\(t=nT\) の式を \(B\) について解いてから代入する方が、見通しが良くなる場合があります。
    • \(t=n \frac{2\pi m}{qB}\) より \(B = n \frac{2\pi m}{qt}\)。ここに \(t = \sqrt{\frac{2mL}{qE}}\) を代入する、といった手順です。
  • 両辺の2乗の計算: 根号(ルート)を消すために両辺を2乗する計算では、係数や文字の指数を間違えないように注意しましょう。特に \( (2\pi)^2 = 4\pi^2 \) のような計算は慎重に行います。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (1) 衝突条件: \(B \ge \frac{2mv}{qR}\)。磁場 \(B\) を強くすれば、粒子はより強く曲げられ、半径が小さくなるので衝突しにくくなる。これは妥当です。
    • (3) 同期条件: \(B = n\pi \sqrt{\frac{2mE}{qL}}\)。この式は、特定の \(B\) の値でしかQを通過できない「量子化」されたような条件を示しています。電場 \(E\) が強いほど、軸方向の加速が速く、到達時間 \(t\) が短くなります。その短い時間で整数回回転するには、周期 \(T\) を短くする必要があり、そのためには磁場 \(B\) を強くする必要がある(\(T \propto 1/B\))。式が \(B \propto \sqrt{E}\) となっていることは、この定性的な考察と一致します。
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