「センサー総合物理 3rd Edition」徹底解説!【Chapter 27】Step3

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376 磁界の合成

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、複数の平行な直線電流が互いに及ぼしあう力を、ベクトルの合成によって求める問題です。力の重ね合わせの原理と、平行電流間に働く力の法則を正しく適用できるかが問われます。
この問題の核心は、各電流が注目する導線(この場合はP)に及ぼす力を一つずつ正確に計算し、それらをベクトルとして正しく足し合わせることにあります。

与えられた条件
  • 導線P, Q, R, Sは1辺\(a\)の正方形の頂点に配置
  • 導線Pを流れる電流: \(I_{\text{P}} = I\)、向きは紙面の裏から表
  • 導線Qを流れる電流: \(I_{\text{Q}} = 2I\)、向きは紙面の裏から表
  • 導線Sを流れる電流: \(I_{\text{S}} = 2I\)、向きは紙面の裏から表
  • 導線Rを流れる電流: \(I_{\text{R}} = I\)、向きは紙面の表から裏
  • 真空の透磁率: \(\mu_0\)
問われていること
  • (1) 導線Q, R, Sによって、導線Pの長さ\(1 \text{ m}\)あたりに働く合力の大きさと向き。
  • (2) 導線Pに働く力をゼロにするために、導線Rに流すべき電流の強さ\(I’\)とその向き。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「複数の直線電流間にはたらく力の合成」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 平行電流間にはたらく力: 2本の平行な直線電流間には、電流の向きが同じ場合は引力、逆の場合は斥力が働きます。その力の大きさは \(F = \mu_0 \displaystyle\frac{I_1 I_2}{2\pi r} l\) で与えられます。
  2. 力の重ね合わせの原理: ある導線が複数の導線から受ける力は、それぞれの導線から個別に受ける力のベクトル和に等しくなります。
  3. ベクトルの合成: 複数の力を合成する際には、向きを考慮したベクトル計算が必要です。図を描いて、力の向きと大きさを正確に把握することが重要です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、導線Pが導線Q, S, Rからそれぞれ受ける力の大きさと向きを、平行電流間の力の法則を用いて求めます。
  2. 次に、それら3つの力をベクトルとして合成し、合力の大きさと向きを求めます(問1)。
  3. 問(2)では、導線QとSからPが受ける力の合力を、新しい電流\(I’\)を流した導線Rからの力で打ち消す、という力のつり合いの条件を立式して解きます。

問(1)

思考の道筋とポイント
導線Pが、他の3つの導線Q, R, Sから受ける力をそれぞれ求め、ベクトル的に合成します。力の向きは「同じ向きの電流なら引力、逆向きの電流なら斥力」という法則で判断するのが最も簡単で間違いが少ないです。
この設問における重要なポイント

  • 力の向きの判断:
    • PとQ: 電流は同じ向き(裏→表)なので、引力が働く(P→Qの向き)。
    • PとS: 電流は同じ向き(裏→表)なので、引力が働く(P→Sの向き)。
    • PとR: 電流は逆向き(P:裏→表, R:表→裏)なので、斥力が働く(R→Pの向き)。
  • 力の大きさの計算: 導線間の距離に注意して、公式 \(F = \mu_0 \displaystyle\frac{I_1 I_2}{2\pi r} l\) を適用します。PとRの間の距離は \(\sqrt{2}a\) です。
  • ベクトルの合成: まず、互いに直交するQからの力とSからの力を合成します。次に、その合力と、対角線方向のRからの力を合成します。

具体的な解説と立式
導線Pの長さ \(l=1 \text{ m}\) が、導線Q, S, Rから受ける力の大きさをそれぞれ \(F_{\text{Q}}\), \(F_{\text{S}}\), \(F_{\text{R}}\) とします。

1. 導線QがPに及ぼす力 \(F_{\text{Q}}\)
PとQの電流は同方向なので引力が働きます(向きはP→Q)。距離は \(a\) なので、力の大きさは次式で与えられます。
$$ F_{\text{Q}} = \mu_0 \frac{I_{\text{P}} I_{\text{Q}}}{2\pi a} \times 1 \quad \cdots ① $$

2. 導線SがPに及ぼす力 \(F_{\text{S}}\)
PとSの電流も同方向なので引力が働きます(向きはP→S)。距離は \(a\) なので、力の大きさは次式で与えられます。
$$ F_{\text{S}} = \mu_0 \frac{I_{\text{P}} I_{\text{S}}}{2\pi a} \times 1 \quad \cdots ② $$

3. 導線RがPに及ぼす力 \(F_{\text{R}}\)
PとRの電流は逆方向なので斥力が働きます(向きはR→P)。距離は \(\sqrt{2}a\) なので、力の大きさは次式で与えられます。
$$ F_{\text{R}} = \mu_0 \frac{I_{\text{P}} I_{\text{R}}}{2\pi (\sqrt{2}a)} \times 1 \quad \cdots ③ $$

これらの力をベクトル合成します。まず、互いに直交する \(F_{\text{Q}}\) と \(F_{\text{S}}\) の合力を \(F’\) とします。\(F_{\text{Q}}\) と \(F_{\text{S}}\) は大きさが等しく、互いに直交しているため、その合力 \(F’\) の大きさは三平方の定理より、
$$ F’ = \sqrt{F_{\text{Q}}^2 + F_{\text{S}}^2} \quad \cdots ④ $$
となります。この力 \(F’\) の向きはP→Rの向きです。

最終的な合力 \(F\) は、\(F’\) と \(F_{\text{R}}\) のベクトル和です。\(F’\) と \(F_{\text{R}}\) は一直線上で逆向きなので、合力の大きさは2つの力の大きさの差で表されます。
$$ F = F’ – F_{\text{R}} \quad \cdots ⑤ $$

使用した物理公式

  • 平行な直線電流間にはたらく力: \(F = \mu_0 \displaystyle\frac{I_1 I_2}{2\pi r} l\)
  • 力の重ね合わせの原理(ベクトル和)
計算過程

まず、①, ②, ③式に与えられた電流の値を代入して、各力の大きさを計算します。
$$ F_{\text{Q}} = \mu_0 \frac{I \cdot (2I)}{2\pi a} = \frac{\mu_0 I^2}{\pi a} $$
$$ F_{\text{S}} = \mu_0 \frac{I \cdot (2I)}{2\pi a} = \frac{\mu_0 I^2}{\pi a} $$
$$ F_{\text{R}} = \mu_0 \frac{I \cdot I}{2\sqrt{2}\pi a} = \frac{\mu_0 I^2}{2\sqrt{2}\pi a} $$
次に、④式を用いて \(F_{\text{Q}}\) と \(F_{\text{S}}\) の合力 \(F’\) の大きさを求めます。
$$
\begin{aligned}
F’ &= \sqrt{\left(\frac{\mu_0 I^2}{\pi a}\right)^2 + \left(\frac{\mu_0 I^2}{\pi a}\right)^2} \\[2.0ex]
&= \sqrt{2 \left(\frac{\mu_0 I^2}{\pi a}\right)^2} \\[2.0ex]
&= \frac{\sqrt{2}\mu_0 I^2}{\pi a}
\end{aligned}
$$
最後に、⑤式を用いて最終的な合力 \(F\) の大きさを計算します。
$$
\begin{aligned}
F &= \frac{\sqrt{2}\mu_0 I^2}{\pi a} – \frac{\mu_0 I^2}{2\sqrt{2}\pi a} \\[2.0ex]
&= \frac{2\sqrt{2} \cdot \sqrt{2} \mu_0 I^2}{2\sqrt{2}\pi a} – \frac{\mu_0 I^2}{2\sqrt{2}\pi a} \\[2.0ex]
&= \frac{4\mu_0 I^2 – \mu_0 I^2}{2\sqrt{2}\pi a} \\[2.0ex]
&= \frac{3\mu_0 I^2}{2\sqrt{2}\pi a} \\[2.0ex]
&= \frac{3\sqrt{2}\mu_0 I^2}{4\pi a} \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
\(F’ > F_{\text{R}}\) なので、合力の向きは \(F’\) の向き、すなわちP→Rの向きとなります。

計算方法の平易な説明

導線Pに働く力は、Q、S、Rの3つの導線からの力の合計です。まず、隣り合うQとSからPが受ける「引力」を合成します。この2つの力は同じ大きさで直角なので、合力は対角線方向(PからRへ向かう向き)になります。次に、この合力と、対角線上にあるRから受ける「斥力」(RからPへ向かう向き)を比べます。2つの力は一直線上で逆向きなので、大きい方から小さい方を引き算したものが最終的な力の大きさになり、向きは大きい方の力の向きになります。

結論と吟味

導線Pが受ける合力の大きさは \(\displaystyle\frac{3\sqrt{2}\mu_0 I^2}{4\pi a} \text{ [N]}\)、向きはP→Rの向きです。
計算結果は正の値であり、力の向きも明確に定まりました。各ステップでの力の向きと大きさの計算、そしてベクトル合成が正しく行われていることを確認します。

解答 (1) 大きさ: \(\displaystyle\frac{3\sqrt{2}\mu_0 I^2}{4\pi a} \text{ [N]}\), 向き: P→Rの向き

問(2)

思考の道筋とポイント
導線Pに働く合力をゼロにする、という条件は「力のつり合い」を意味します。導線QとSがPに及ぼす力の合力 \(\vec{F’}\) を、電流を \(I’\) に変えた導線Rが及ぼす力 \(\vec{F}_{\text{R’}}\) でちょうど打ち消す、と考えます。つまり、\(\vec{F’} + \vec{F}_{\text{R’}} = \vec{0}\) というベクトル式を立てます。
この設問における重要なポイント

  • 力のつり合いの条件: \(\vec{F}_{\text{R’}} = -\vec{F’}\) となります。これは、\(\vec{F}_{\text{R’}}\) と \(\vec{F’}\) の大きさが等しく、向きが正反対であることを意味します。
  • 力の向きから電流の向きを決定:
    • \(\vec{F’}\) の向きはP→Rでした。
    • したがって、\(\vec{F}_{\text{R’}}\) の向きはR→Pでなければなりません。
    • RからPへ向かう力は「斥力」です。PとR’の間に斥力が働くためには、両者の電流の向きが逆である必要があります。Pの電流は裏→表なので、R’の電流は表→裏となります。これは元のRの電流の向きと同じです。
  • 力の大きさの等式: 大きさが等しいという条件 \(F_{\text{R’}} = F’\) から、未知数 \(I’\) を求めます。

具体的な解説と立式
(1)の計算過程で求めた、導線QとSがPに及ぼす力の合力 \(F’\) の大きさは、
$$ F’ = \frac{\sqrt{2}\mu_0 I^2}{\pi a} \quad \cdots ⑥ $$
です。この力の向きはP→Rです。

この力 \(F’\) と、電流を \(I’\) に変えた導線R’がPに及ぼす力 \(F_{\text{R’}}\) がつり合うためには、\(F_{\text{R’}}\) の大きさが \(F’\) と等しく、向きが逆(R→P)でなければなりません。
R’とPの間に斥力(R→P向きの力)が働くためには、R’に流れる電流の向きはPと逆向き、すなわち「表から裏へ向かう向き」である必要があります。

力の大きさが等しいという条件 \(F_{\text{R’}} = F’\) を立式します。R’とPの距離は \(\sqrt{2}a\) なので、力の大きさ \(F_{\text{R’}}\) は、
$$ F_{\text{R’}} = \mu_0 \frac{I \cdot I’}{2\pi (\sqrt{2}a)} \quad \cdots ⑦ $$
したがって、力のつり合いの式は⑥、⑦より、
$$ \mu_0 \frac{I I’}{2\sqrt{2}\pi a} = \frac{\sqrt{2}\mu_0 I^2}{\pi a} \quad \cdots ⑧ $$
となります。

使用した物理公式

  • 平行な直線電流間にはたらく力: \(F = \mu_0 \displaystyle\frac{I_1 I_2}{2\pi r} l\)
  • 力のつり合い
計算過程

⑧式を \(I’\) について解きます。
$$ \mu_0 \frac{I I’}{2\sqrt{2}\pi a} = \frac{\sqrt{2}\mu_0 I^2}{\pi a} $$
両辺に共通する \(\mu_0, I, \pi, a\) を消去すると、
$$ \frac{I’}{2\sqrt{2}} = \sqrt{2} $$
この式を \(I’\) について解くと、
$$
\begin{aligned}
I’ &= 2\sqrt{2} \times \sqrt{2} \\[2.0ex]
&= 4I \text{ [A]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

導線Pをその場に静止させるには、QとSがPを対角線方向(P→R)に引っ張る合力と、RがPを逆向き(R→P)に押す力が、ちょうど同じ大きさになればよいわけです。この「力のつり合い」が成り立つように、Rに流す電流の強さを調整します。

結論と吟味

Pに働く力をゼロにするためには、Rに流す電流の強さを \(4I\) にし、向きは元のまま「紙面に垂直に表から裏へ向かう向き」にすればよいことがわかります。
QとSの2つの電流による力を、1つの電流R’で打ち消す必要があり、かつR’はPから遠い位置にあるため、元の電流 \(I\) よりも大きな \(4I\) という電流が必要になるのは物理的に妥当な結果です。

解答 (2) 強さ: \(4I \text{ [A]}\), 向き: 紙面に垂直に表から裏へ向かう向き

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 平行電流間にはたらく力:
    • 核心: 2本の無限に長い平行な直線電流 \(I_1\), \(I_2\) が距離 \(r\) だけ離れているとき、その長さ \(l\) の部分にはたらく力の大きさは \(F = \mu_0 \displaystyle\frac{I_1 I_2}{2\pi r} l\) で与えられます。この問題では、この公式を各導線ペアに適用することが全ての計算の出発点です。
    • 理解のポイント: 力の向きは「電流が同じ向きなら引力、逆向きなら斥力」という単純なルールで決まります。右ねじの法則とフレミングの左手の法則を組み合わせて導出することもできますが、このルールを覚えておくと迅速かつ正確に力の向きを判断できます。
  • 力の重ね合わせの原理(ベクトル和):
    • 核心: ある1つの導線(この問題ではP)が複数の導線(Q, S, R)から力を受ける場合、Pにはたらく合力は、それぞれの導線から個別に受ける力のベクトル和で求められます。つまり、\(\vec{F}_{\text{合力}} = \vec{F}_{\text{Q}} + \vec{F}_{\text{S}} + \vec{F}_{\text{R}}\) です。
    • 理解のポイント: 力はベクトル量であるため、大きさと向きの両方を考慮して足し合わせる必要があります。単に力の大きさを足し算するだけでは正しい答えは得られません。図を描いて、各力のベクトルを矢印で表現し、それらを合成する作図的なイメージを持つことが極めて重要です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 正三角形の頂点に置かれた導線: 正方形が正三角形に変わっただけで、基本的な考え方は同じです。各導線間の距離と、力のベクトルがなす角度(この場合は\(60^\circ\)や\(120^\circ\))を正確に把握してベクトル合成を行います。
    • 力のつり合いの問題: (2)のように「力をゼロにする」という問題は、力のつり合いの典型例です。未知の電流や位置を求める問題では、既知の力と未知の力をベクトル的に足し合わせてゼロになる、という方程式を立てます。
    • 磁場がゼロになる点を求める問題: 「力がゼロ」ではなく「磁場がゼロ」になる点を問う問題もあります。その場合は、各電流が作る磁場(ベクトル量)を合成してゼロになる点を求めます。力の計算は不要ですが、ベクトルの重ね合わせという考え方は共通です。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 力の向きを最初に決定する: 計算を始める前に、まず図を描き、注目する導線にはたらく全ての力の向きを「引力か斥力か」で判断し、矢印で書き込みます。これが全体の戦略を立てる上での土台となります。
    2. 対称性を見つける: この問題では、Pに対するQとSの位置関係や電流の大きさが対称的です。そのため、\(F_{\text{Q}}\)と\(F_{\text{S}}\)の大きさは等しくなります。このような対称性を見つけると、計算が簡略化できたり、合力の向きを予測できたりします。
    3. 座標軸を設定して成分計算する: 力が斜めを向いていて複雑な場合、水平・鉛直方向にx-y軸を設定し、各力を成分分解して足し合わせる方法も有効です。この問題では、Pを原点とし、P→Q方向をy軸、P→S方向をx軸とすると計算しやすくなります。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 導線間の距離の間違い:
    • 誤解: 対角線上にある導線PとRの間の距離を \(a\) と誤認してしまう。
    • 対策: 必ず図を描き、三平方の定理などを用いて距離を正確に求めましょう。この問題では、PとRの距離は \(\sqrt{a^2+a^2} = \sqrt{2}a\) です。
  • ベクトルの合成ミス:
    • 誤解: 力の大きさを単純に足したり引いたりしてしまう。例えば、\(F_{\text{Q}}\)と\(F_{\text{S}}\)の合力を \(F_{\text{Q}}+F_{\text{S}}\) と計算してしまう。
    • 対策: 力はベクトルであることを常に意識しましょう。互いに直交する力の合成は三平方の定理、斜めを向く力の合成は成分分解や余弦定理を用います。図を描いて力の関係を視覚的に把握することが最も効果的な対策です。
  • 力の向きの判断ミス:
    • 誤解: フレミングの左手の法則を適用しようとして、磁場の向きを間違え、結果的に力の向きを誤る。
    • 対策: 平行電流間の力については、「同じ向きは引力、逆向きは斥力」というルールを適用するのが最も速く、間違いが少ないです。このルールは、磁場と力の法則から導かれる結果なので、安心して使えます。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 力のベクトル図を段階的に描く:
      1. まず、P点からQ, S, Rの各導線が及ぼす力 \(\vec{F}_{\text{Q}}\), \(\vec{F}_{\text{S}}\), \(\vec{F}_{\text{R}}\) を矢印で描きます。このとき、力の大きさをおおよその長さで表現すると良いでしょう。
      2. 次に、対称性の高い \(\vec{F}_{\text{Q}}\) と \(\vec{F}_{\text{S}}\) を合成します。ベクトル合成の平行四辺形を描くと、合力 \(\vec{F’}\) がちょうどP→Rの向きを向くことが視覚的に理解できます。
      3. 最後に、一直線上になった \(\vec{F’}\) と \(\vec{F}_{\text{R}}\) を合成します。逆向きの矢印の長さを比べることで、最終的な合力の向きと大きさが直感的に把握できます。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 電流の向きを明確に: 図の上で、紙面の裏から表へ向かう電流を「⊙」(矢の先端が見えるイメージ)、表から裏へ向かう電流を「⊗」(矢の羽根が見えるイメージ)で表記すると、一目で向きの関係がわかります。
    • 力の作用点を明確に: すべての力は、注目している導線Pにはたらくので、P点を始点として力のベクトルを描きます。
    • 合成ベクトルは別の色や点線で: 元の力と合成後の力を区別するために、合成ベクトルを点線で描いたり、色を変えたりすると、図が整理されて思考が混乱しにくくなります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 平行電流間の力の公式 (\(F = \mu_0 \displaystyle\frac{I_1 I_2}{2\pi r} l\)):
    • 選定理由: 問題設定が「平行な直線電流」であり、それらの間に「はたらく力」を問われているため。これは、この現象を記述するために作られた、まさにそのものの公式です。
    • 適用根拠: この公式は、一方の電流が作る磁場 (\(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\)) の中で、もう一方の電流が受けるローレンツ力 (\(F = IBl = I(\mu_0 H)l\)) として導出される、電磁気学の基本法則に基づいています。
  • 力の重ね合わせの原理:
    • 選定理由: 力を及ぼす源が複数(Q, S, R)存在するため。複数の要因が同時に作用する場合、それぞれの影響を独立に計算して後から足し合わせる、という物理学の基本的な考え方を適用します。
    • 適用根拠: 電磁気学において、電場や磁場は重ね合わせの原理が成り立ちます。その結果として、それらの場から受ける力も重ね合わせが可能です。
  • 三平方の定理:
    • 選定理由: 互いに直交する2つのベクトル(\(F_{\text{Q}}\)と\(F_{\text{S}}\))の合成ベクトルの大きさを求めるため。
    • 適用根拠: ベクトル空間における距離(ノルム)の計算方法であり、幾何学的な関係を数式で表現する数学的なツールです。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 合力の計算:
    • 戦略: 各導線からの力を個別に計算し、ベクトル合成する。
    • フロー: ①PがQ, S, Rから受ける力の向きを判断し、図示 → ②各力の大きさを公式 \(F = \mu_0 \displaystyle\frac{I_1 I_2}{2\pi r} l\) で立式 → ③直交する\(F_{\text{Q}}\)と\(F_{\text{S}}\)を三平方の定理で合成し、合力\(F’\)を計算 → ④一直線上にある\(F’\)と\(F_{\text{R}}\)の差をとり、最終的な合力\(F\)を計算。
  2. (2) 力のつり合い:
    • 戦略: QとSによる合力\(F’\)を、R’による力で打ち消す条件を考える。
    • フロー: ①QとSによる合力\(F’\)の大きさと向きを再確認 → ②R’による力\(F_{\text{R’}}\)が\(F’\)と「同じ大きさ」で「逆向き」になる条件を考える → ③「逆向き」の条件からR’の電流の向きを決定 → ④「同じ大きさ」の条件から力の等式を立式 (\(F_{\text{R’}} = F’\)) → ⑤式を未知の電流\(I’\)について解く。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 共通部分をまとめる: 各力の大きさの式には、\(\displaystyle\frac{\mu_0 I^2}{\pi a}\) という共通の項が現れます。これを \(F_0 = \displaystyle\frac{\mu_0 I^2}{\pi a}\) のように一つの文字で置き換えて計算を進めると、式全体の見通しが良くなり、計算ミスを減らせます。
    • \(F_{\text{Q}} = F_0\), \(F_{\text{S}} = F_0\), \(F_{\text{R}} = \displaystyle\frac{1}{2\sqrt{2}}F_0\)
    • \(F’ = \sqrt{F_0^2 + F_0^2} = \sqrt{2}F_0\)
    • \(F = F’ – F_{\text{R}} = (\sqrt{2} – \displaystyle\frac{1}{2\sqrt{2}})F_0 = (\displaystyle\frac{4-1}{2\sqrt{2}})F_0 = \displaystyle\frac{3}{2\sqrt{2}}F_0\)
    • 最後に \(F_0\) を元に戻せば、同じ結果が得られます。
  • 有理化は最後に行う: 計算の途中では、分母に\(\sqrt{2}\)が残っていても無理に有理化せず、そのまま計算を進めた方が式が複雑にならずに済む場合があります。最終的な答えを出す段階で一度だけ有理化するのが効率的です。
  • 単位と定数のチェック: \(\mu_0\), \(I\), \(a\) などの文字が多く含まれるため、式の次元(単位)が力([N])になっているかを意識すると、式の立て間違いに気づきやすくなります。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (1) 合力の向き: Pに最も近いQとSは引力(Pを引き寄せる)、遠いRは斥力(Pを遠ざける)を及ぼします。QとSの電流はRの2倍であり、距離も近いため、QとSによる引力の方がRによる斥力よりも強そうです。したがって、合力の向きがQとSの引力の合成方向(P→Rの向き)になるのは妥当です。
    • (2) 電流の大きさ: (1)でQとSから受ける合力\(F’\)は、\(F’ = \sqrt{2} \displaystyle\frac{\mu_0 I^2}{\pi a}\)でした。一方、R’が及ぼす力は \(F_{\text{R’}} = \displaystyle\frac{\mu_0 I I’}{2\sqrt{2}\pi a}\) です。これらが等しくなるためには、\(I’\)は\(I\)よりもかなり大きい値になるはずです。計算結果の\(I’=4I\)は、この直感と一致しており、妥当と考えられます。
  • 極端な場合を考える(思考実験):
    • もし、Rの電流がゼロだったら、合力は\(F’\)となり、向きはP→Rです。もし、QとSの電流がゼロだったら、合力は\(F_{\text{R}}\)となり、向きはR→Pです。今回の答えは、これらの力の合成として正しく表現されています。
    • (2)で、もしRの位置がもっとPに近かったら、Pを押し返す力が強くなるので、つり合わせるのに必要な電流\(I’\)は小さくて済むはずです。式 \(I’ = \displaystyle\frac{2\sqrt{2} \pi a}{\mu_0 I} F’\) から、距離\(a\)が小さくなると\(I’\)も小さくなることがわかり、物理的直感と一致します。

377 棒磁石の周りの磁界

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、棒磁石が作る磁界と、直線電流が作る磁界の重ね合わせを扱う問題です。磁界がベクトル量であることを理解し、正しく合成する能力が問われます。

与えられた条件
  • 棒磁石はy軸に沿って、原点Oを中心に置かれている(N極が+y側、S極が-y側)。
  • 地磁気は無視する。
  • 点A, B, Pはx軸上にあり、\(OB=OA\), \(OP=2OA\)。
  • 電流\(I\)は点Pを通り、xy平面に垂直に流れる(表から裏へ)。
  • 電流を流したとき、点Aの磁界が0になった。
  • \(I=100 \text{ A}\), \(BO=5.0 \times 10^{-2} \text{ m}\)
問われていること
  • (1) 小磁針をO中心、半径OAの円周に沿って1周させたときの回転数。
  • (2) 点Bの磁界の強さは、電流がない場合の何倍か。
  • (3) 点Bの磁界の強さの具体的な値。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「棒磁石と直線電流が作る磁界の合成」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 磁界の重ね合わせの原理: ある点での磁界は、複数の磁界源(この問題では棒磁石と電流)がそれぞれ単独で作る磁界のベクトル和で与えられます。
  2. 直線電流が作る磁界: 無限に長い直線電流\(I\)から距離\(r\)だけ離れた点の磁界の強さは \(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\) で与えられます。向きは右ねじの法則に従います。
  3. 棒磁石が作る磁界の性質: 棒磁石の周りには、N極から出てS極に入るような磁力線が形成されます。図の対称性から、x軸上の点における磁界の向きを判断することが重要です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)は、棒磁石の周りの磁力線の様子をイメージし、小磁針がそれに沿って向きを変える様子を追跡して回転数を求めます。
  2. (2)は、点Aで磁界が0になるという条件から、棒磁石の磁界と電流の磁界の強さの関係を導き出します。その関係を利用して、点Bでの合成磁界の強さを、電流がない場合(棒磁石の磁界のみ)の強さと比較します。
  3. (3)は、(2)で導出した関係式と与えられた数値を使い、具体的な磁界の強さを計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
小磁針は、その置かれた点の磁界の向きを指します。小磁針を棒磁石の周りでゆっくりと1周させるとき、小磁針のN極が指す方向、つまり磁界ベクトルの向きがどのように変化するかを追跡することで、小磁針自身の回転数を考えます。
この設問における重要なポイント

  • 磁力線のイメージ: y軸上に置かれた棒磁石の磁力線は、+y側のN極から出て-y側のS極に入り、磁石の内部を通ってループを形成しています。
  • 小磁針の動き: 小磁針を棒磁石の周りで1周させることは、この磁力線のループの外側をなぞることに相当します。
  • 回転の数え方: 小磁針が1周する間に、その向き(方位)が360度変化するごとに1回転と数えます。

具体的な解説と立式
小磁針を棒磁石の周りで1周させる状況を考えます。
例えば、x軸の正の方向(点A)からスタートすると、小磁針はN極に反発され、S極に引かれるため、そのN極はほぼx軸の正の方向を向きます。
次に、円の上半分を通ってx軸の負の方向(点B)へ移動させると、小磁針のN極はほぼx軸の負の方向を向きます。この半周の間に、小磁針の向きは連続的に変化し、全体として1回転します。
同様に、円の下半分を通ってスタート地点であるx軸の正の方向に戻る間にもう1回転します。
したがって、小磁針は合計で2回転することになります。

使用した物理公式

  • 磁力線と磁界の向きの関係
計算過程

この設問は定性的な理解を問うものであり、計算過程はありません。

計算方法の平易な説明

棒磁石の周りを小磁針でぐるっと一周探検するようなイメージです。N極の近くではN極に反発され、S極の近くではS極に反発されて、小磁針は向きを変え続けます。このとき、棒磁石の右側と左側でそれぞれ磁石の極からの影響の受け方が反転するため、円を一周する間に小磁針自身はくるくると2回まわることになります。

結論と吟味

小磁針は2回転します。これは磁気双極子(棒磁石)の周りの磁界の基本的な性質として知られています。

解答 (1) 2回転

問(2)

思考の道筋とポイント
「点Aの磁界が0になった」という条件が最大のヒントです。これは、棒磁石が作る磁界と、電流が作る磁界が、点Aで「同じ強さ」で「逆向き」になり、打ち消し合ったことを意味します。この関係を手がかりに、点Bでの状況を分析します。
この設問における重要なポイント

  • 磁界の向きの判断:
    • 棒磁石の磁界: y軸上に置かれた棒磁石(N極が+y側)がx軸上の点A, Bに作る磁界は、対称性から-y方向を向きます。
    • 電流の磁界: x軸上の点Pを流れる電流(表→裏)が、同じx軸上の点A, Bに作る磁界は、右ねじの法則から+y方向を向きます。
  • 磁界の重ね合わせ: 点Aと点Bの磁界は、それぞれ「棒磁石による磁界」と「電流による磁界」のベクトル和で考えます。
  • 距離と磁界の強さの関係: 直線電流が作る磁界の強さは、電流からの距離に反比例します。点Aと点Bの、電流(点P)からの距離の比を正確に求めることが重要です。

具体的な解説と立式
電流がないとき、点Aに棒磁石が作る磁界の強さを \(H_m\) とします。その向きは-y方向です。棒磁石の配置と点A, Bの位置の対称性から、点Bに棒磁石が作る磁界の強さも \(H_m\) で、向きは同じく-y方向です。

次に、電流\(I\)が点Aと点Bに作る磁界を考えます。電流は点Pを通り、向きは紙面の表から裏です。右ねじの法則から、電流が作る磁界の向きは点A, Bともに+y方向となります。
点Aに電流が作る磁界の強さを \(H_{IA}\)、点Bに作る磁界の強さを \(H_{IB}\) とします。

点Aで磁界が0になるという条件から、力のつり合いの式を立てます。
$$ H_m = H_{IA} \quad \cdots ① $$
次に、電流からの距離を求めます。点A, B, Pはx軸上にあり、Oを原点とすると、A, B, Pの座標はそれぞれ \(OA\), \(-OA\), \(2OA\) と書けます。
電流(点P)から点Aまでの距離 \(r_A\) は、\(r_A = |2OA – OA| = OA\)。
電流(点P)から点Bまでの距離 \(r_B\) は、\(r_B = |2OA – (-OA)| = 3OA\)。
よって、\(r_B = 3r_A\) です。

直線電流の磁界の強さは距離に反比例するため、
$$ H_{IB} = \frac{1}{3} H_{IA} \quad \cdots ② $$
点Bでの合成磁界 \(H_B\) は、+y方向を正とすると、棒磁石の磁界と電流の磁界の和で表せます。
$$ H_B = H_{IB} – H_m \quad \cdots ③ $$
求めるのは、合成磁界の強さ \(|H_B|\) が、電流のない場合の磁界の強さ \(H_m\) の何倍か、ということです。

使用した物理公式

  • 磁界の重ね合わせの原理
  • 直線電流が作る磁界: \(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\)
計算過程

式②に式①の関係を代入します。
$$ H_{IB} = \frac{1}{3} H_m $$
これを式③に代入して、点Bでの合成磁界を求めます。
$$
\begin{aligned}
H_B &= \frac{1}{3} H_m – H_m \\[2.0ex]
&= -\frac{2}{3} H_m
\end{aligned}
$$
磁界の「強さ」は大きさ(絶対値)なので、
$$ |H_B| = \frac{2}{3} H_m $$
電流がない場合の磁界の強さは \(H_m\) でしたので、点Bの磁界の強さは電流がない場合の \(\displaystyle\frac{2}{3}\) 倍になります。

計算方法の平易な説明

点Aでは、棒磁石の磁力と電流の磁力が「逆向きで同じ強さ」だから打ち消し合ってゼロになりました。このときの電流による磁力の強さを基準に考えます。
点Bは、棒磁石からの影響(磁力の強さ)は点Aと同じです。しかし、電流からは点Aよりも3倍遠い位置にあります。そのため、電流による磁力は点Aのときの1/3に弱まってしまいます。
その結果、点Bでは棒磁石の磁力が勝ち、差し引きすると、棒磁石だけのときの磁力の \(1 – 1/3 = 2/3\) の強さの磁界が残ることになります。

結論と吟味

点Bの磁界の強さは、電流がない場合の \(\displaystyle\frac{2}{3}\) 倍です。
点Bは電流から遠ざかったため、電流による打ち消しの効果が弱まり、磁界が0にならずに残るという結果は物理的に妥当です。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{2}{3}\) 倍

問(3)

思考の道筋とポイント
(2)で導出した関係 \(|H_B| = \displaystyle\frac{2}{3} H_m\) を使って、具体的な値を計算します。そのためには、まず基準となる磁界の強さ \(H_m\) を求める必要があります。\(H_m\) は、点Aで電流が作る磁界の強さ \(H_{IA}\) に等しいので、直線電流の公式を使って計算できます。
この設問における重要なポイント

  • 基準磁界の計算: \(H_m = H_{IA} = \displaystyle\frac{I}{2\pi r_A}\) の関係を使って \(H_m\) を計算する。
  • 距離の特定: \(r_A = OA\) であり、問題文から \(OA = OB = 5.0 \times 10^{-2} \text{ m}\) であることを読み取る。
  • 最終計算: 求めた \(H_m\) の値を \(\displaystyle\frac{2}{3}\) 倍する。

具体的な解説と立式
(2)の議論から、点Bにおける磁界の強さ \(|H_B|\) は、棒磁石が作る磁界の強さ \(H_m\) を用いて次のように表せます。
$$ |H_B| = \frac{2}{3} H_m \quad \cdots ④ $$
また、\(H_m\) は点Aで電流が作る磁界の強さ \(H_{IA}\) に等しく、その強さは直線電流の公式で与えられます。
$$ H_m = H_{IA} = \frac{I}{2\pi r_A} \quad \cdots ⑤ $$
ここで、与えられた値は \(I = 100 \text{ A}\)、\(r_A = OA = OB = 5.0 \times 10^{-2} \text{ m}\) です。

使用した物理公式

  • 直線電流が作る磁界: \(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\)
計算過程

まず、式⑤に数値を代入して、\(H_m\) の値を計算します。
$$
\begin{aligned}
H_m &= \frac{100}{2\pi \times (5.0 \times 10^{-2})} \\[2.0ex]
&= \frac{100}{\pi \times 10.0 \times 10^{-2}} \\[2.0ex]
&= \frac{100}{0.1\pi} \\[2.0ex]
&= \frac{1000}{\pi}
\end{aligned}
$$
次に、この結果を式④に代入して、\(|H_B|\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
|H_B| &= \frac{2}{3} \times \frac{1000}{\pi} \\[2.0ex]
&= \frac{2000}{3\pi}
\end{aligned}
$$
円周率 \(\pi = 3.14\) を用いて数値を計算します。
$$
\begin{aligned}
|H_B| &\approx \frac{2000}{3 \times 3.14} \\[2.0ex]
&= \frac{2000}{9.42} \\[2.0ex]
&\approx 212.3 \text{ [A/m]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えるため、\(2.1 \times 10^2 \text{ A/m}\) となります。

計算方法の平易な説明

まず、点Aで磁界をゼロにするために、電流がどれくらいの強さの磁界を作っていたかを計算します。これが、棒磁石がもともと持っていた磁界の強さと同じになります。次に、(2)でわかったように、点Bでの最終的な磁界の強さは、この棒磁石の磁界の強さの「3分の2」なので、計算した値を2/3倍して答えを求めます。

結論と吟味

点Bの磁界の強さは \(2.1 \times 10^2 \text{ A/m}\) です。
計算は(2)までの論理に基づいており、矛盾なく進められています。有効数字の処理にも注意が必要です。

解答 (3) \(2.1 \times 10^2 \text{ A/m}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 磁界の重ね合わせの原理:
    • 核心: ある点における磁界は、複数の磁界源(この問題では棒磁石と直線電流)がそれぞれ独立に作る磁界のベクトル和で与えられます。すなわち、\(\vec{H}_{\text{合成}} = \vec{H}_{\text{棒磁石}} + \vec{H}_{\text{電流}}\) です。
    • 理解のポイント: (2)の「点Aの磁界が0になった」という条件は、\(\vec{H}_{\text{棒磁石}} + \vec{H}_{\text{電流}} = \vec{0}\) を意味します。これは、2つの磁界ベクトルが「同じ大きさ」で「逆向き」であることを示しており、この問題の全ての定量的解析の出発点となります。
  • 直線電流が作る磁界:
    • 核心: 無限に長い直線電流\(I\)から距離\(r\)だけ離れた点に作られる磁界の強さは \(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\) で与えられます。
    • 理解のポイント: 磁界の強さは電流の大きさに比例し、電流からの距離に反比例します。この距離との関係が、点Aと点Bでの電流による磁界の強さの違いを生み出す鍵となります。また、磁界の向きは「右ねじの法則」で決まることを正確に適用する必要があります。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 電界の重ね合わせ: 点電荷と一様な電界、あるいは複数の点電荷が作る電界の重ね合わせの問題は、本質的に同じ構造をしています。「磁界」を「電界」、「磁界の強さH」を「電界の強さE」、「電流」を「点電荷」と読み替えれば、ベクトル和を考えて合成電界や力のつり合いを解くというアプローチは全く同じです。
    • 複数の磁界源: 2本の平行電流が作る磁界や、円形コイルと直線電流が作る磁界など、磁界源が複数ある問題はすべて重ね合わせの原理で解きます。
    • 対称性の利用: この問題では、棒磁石の配置と点A, Bの位置に対称性があったため、「棒磁石がAとBに作る磁界の強さは等しい」と判断できました。図形の対称性を見抜くことは、問題を簡略化する上で非常に有効なテクニックです。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 磁界源を特定する: まず、その空間に磁界を作っているものが何か(棒磁石、電流、地磁気など)をすべてリストアップします。
    2. 各磁界の向きを図示する: 注目する点(AやB)において、それぞれの磁界源が作る磁界の向きをベクトル(矢印)で図に描き込みます。右ねじの法則や磁力線の性質を正しく使いましょう。
    3. 「磁界が0」の条件を数式化する: 「磁界が0」という条件があれば、それはベクトル和がゼロ、すなわち各ベクトルが互いに打ち消し合っていることを意味します。これを力のつり合いと同じように数式に変換します。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 距離の取り違え:
    • 誤解: 電流が作る磁界の計算で、原点Oからの距離を使ってしまう。
    • 対策: 磁界の強さを計算する際の距離\(r\)は、必ず「磁界源」からの距離です。この問題では、電流が点Pを貫いているので、点Pからの距離(\(r_A = PA\), \(r_B = PB\))を正しく計算する必要があります。
  • ベクトルの向きの判断ミス:
    • 誤解: 右ねじの法則を適用する際に、電流の向きや点の位置関係を混同し、磁界の向きを逆にしてしまう。
    • 対策: 図を丁寧に描き、右ねじを持つ手をイメージします。親指を電流の向き(表→裏)に合わせ、他の4本の指が注目する点(AやB)でどちらを向くかを確認する、という手順を落ち着いて実行しましょう。
  • 棒磁石の磁界の強さの仮定:
    • 誤解: 棒磁石が作る磁界の強さが、距離にどう依存するかを勝手に仮定してしまう(例:距離の2乗に反比例するなど)。
    • 対策: この問題では、棒磁石の磁界の強さの具体的な式は与えられていません。したがって、その強さは未知数(\(H_m\))として扱うのが正解です。「点Aで磁界が0」という条件から、この未知数\(H_m\)を電流の磁界で表現できる、という流れを理解することが重要です。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 2つの磁界を色分けして描く: 点Aと点Bに、棒磁石が作る磁界(例:青色の下向き矢印)と、電流が作る磁界(例:赤色の下向き矢印)をそれぞれ描き込みます。
    • 点A: 青と赤の矢印が逆向きで同じ長さになるように描きます。「合成すると0」という状態が視覚的に理解できます。
    • 点B: 青の矢印は点Aと同じ長さで描きます。一方、赤の矢印は点Aのときより短く(1/3の長さに)描きます。これにより、合成後のベクトルが下向きに残り、その大きさが元の青い矢印の2/3になることが一目瞭然となります。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 座標軸と位置関係: x軸、y軸を明確にし、O, A, B, Pの各点の位置関係(特に距離)を正確に図に記入します。
    • 電流の向きの表記: 紙面に垂直な電流は、「⊙」(裏→表)と「⊗」(表→裏)の記号を使って明確に区別します。
    • ベクトルの始点: すべての磁界ベクトルは、その磁界が存在する点(AやB)を始点として描きます。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 磁界の重ね合わせの原理:
    • 選定理由: 磁界の源が「棒磁石」と「電流」の2つ存在するため。複数の物理現象が同時に起こっている場合、それぞれの影響を個別に考えてから足し合わせる(ベクトル和をとる)のが物理学の基本アプローチです。
    • 適用根拠: マクスウェル方程式の線形性により、電磁場は重ね合わせの原理に従います。
  • 直線電流の磁界の公式 (\(H = \frac{I}{2\pi r}\)):
    • 選定理由: 磁界源の一つが「長い直線電流」であり、その「磁界の強さ」を定量的に計算する必要があるため。
    • 適用根拠: アンペールの法則(\(\oint \vec{H} \cdot d\vec{l} = I\))を、無限に長い直線電流の周りの円形の経路上で適用することで導出される、電磁気学の基本公式です。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (2) 磁界の強さの比率の計算:
    • 戦略: 点Aでの磁界のつり合いから棒磁石の磁界の強さを求め、それを使って点Bの磁界を計算する。
    • フロー: ①点A, Bにおける棒磁石の磁界(\(\vec{H}_m\))と電流の磁界(\(\vec{H}_{IA}\), \(\vec{H}_{IB}\))の向きを決定 → ②点Aでの磁界が0の条件から立式 (\(H_m = H_{IA}\)) → ③電流からの距離の比 (\(r_B = 3r_A\)) を求め、電流の磁界の強さの比を計算 (\(H_{IB} = \frac{1}{3}H_{IA}\)) → ④点Bでの合成磁界を立式 (\(H_B = H_{IB} – H_m\)) → ⑤上記の関係式を代入し、\(H_B\)を\(H_m\)で表す。
  2. (3) 具体的な値の計算:
    • 戦略: (2)で使った関係式に、与えられた数値を代入して計算する。
    • フロー: ①\(H_m\)を電流の公式で計算する (\(H_m = H_{IA} = \frac{I}{2\pi r_A}\)) → ②与えられた\(I\)と\(r_A\)の値を代入して\(H_m\)を数値で求める → ③(2)の結果 \(|H_B| = \frac{2}{3}H_m\) に\(H_m\)の値を代入して最終的な答えを計算する。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 文字式のまま計算を進める: (3)の計算では、すぐに\(\pi=3.14\)を代入するのではなく、まず文字式のまま計算を進めるのが得策です。
    • \(H_m = \displaystyle\frac{1000}{\pi}\)
    • \(|H_B| = \displaystyle\frac{2}{3} H_m = \displaystyle\frac{2}{3} \times \frac{1000}{\pi} = \frac{2000}{3\pi}\)
    • このように、最後の最後まで文字式(この場合は\(\pi\))で計算し、最終段階で一度だけ数値を代入することで、途中の計算ミスや丸め誤差のリスクを減らすことができます。
  • 単位の確認: 計算結果の単位が、求められている物理量(この場合は磁界の強さ [A/m])と一致しているかを確認する習慣をつけましょう。
  • 指数の計算: \(10^{-2}\)のような指数を含む計算は、慎重に行いましょう。分母と分子で打ち消し合う部分を先に見つけると計算が楽になります。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (2) 磁界の強さの比: 点Bは点Aに比べて電流から遠いため、電流による打ち消し効果が弱まるはずです。したがって、合成磁界の強さが0より大きく、かつ元の棒磁石の磁界よりは小さくなる(\(0 < |H_B| < H_m\))という結果は妥当です。\(|H_B| = \frac{2}{3}H_m\) はこの条件を満たしています。
    • (2) 磁界の向き: 点Bでは、電流による磁界が弱まったため、棒磁石による磁界(-y方向)が優位になります。したがって、合成磁界の向きが-y方向になるという計算結果(\(H_B = -\frac{2}{3}H_m\))も物理的に妥当です。
  • 別解との比較:
    • この問題は、各ステップが論理的に一意に定まるため、別解は考えにくいです。しかし、もし計算ミスをした場合、例えば距離の比を間違えたりすると、答えが大きく変わってしまいます。計算結果に違和感を感じたら、各ステップの前提(特に距離の計算や磁界の向き)が正しかったかを再確認する習慣が重要です。
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378 サイクロトロン

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