今回の問題
thermodynamicsall#18【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「気体の状態変化と熱力学サイクル」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 理想気体の状態方程式: \(pV=nRT\)。圧力 \(p\)、体積 \(V\)、絶対温度 \(T\) の関係を記述します。
- p-Vグラフの理解: グラフ上の点が気体の状態(p, V)を表し、曲線が状態変化の過程を表します。
- 断熱変化と等温変化: p-Vグラフ上での断熱曲線と等温曲線の特徴(特に傾きの違い)を理解していることが重要です。
- 熱力学第一法則: \(\Delta U = Q + W\)。内部エネルギーの変化、熱、仕事の関係を示します。
- 気体がする仕事: p-Vグラフで、グラフとV軸で囲まれた面積が仕事量を表します。体積が増加すれば正の仕事、減少すれば負の仕事、変化しなければ仕事は0です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、p-Vグラフ上の等温線と断熱線の特徴を利用して、各状態の温度を比較します。状態方程式 \(T = \frac{pV}{nR}\) から、積 \(pV\) の大小関係が温度の大小関係に対応することを使います。
- (2)では、各過程における体積変化(増加・減少・不変)をp-Vグラフから読み取り、気体がした仕事の正負を判断します。
問(1)
思考の道筋とポイント
状態A, B, Cの温度 \(T_A, T_B, T_C\) の大小関係を比較する問題です。理想気体の状態方程式 \(pV=nRT\) より、温度 \(T\) は積 \(pV\) に比例します (\(T \propto pV\))。したがって、p-Vグラフ上で積 \(pV\) の大小を比較すれば、温度の大小関係がわかります。また、断熱変化と等温変化の曲線の違いも重要な手がかりとなります。
この設問における重要なポイント
- 理想気体の状態方程式より、\(T \propto pV\)。p-Vグラフの原点から遠い点ほど、積 \(pV\) が大きく、温度が高い。
- 過程D→Aは等温変化なので、\(T_D = T_A\) である。
- 断熱変化の曲線は、等温変化の曲線よりも傾きが急である。
- 各過程(断熱、定圧)における内部エネルギーの変化を熱力学第一法則から考えることでも温度変化を判断できる。
具体的な解説と立式
比較1: \(T_A\) と \(T_B\) の比較
過程A→Bは断熱変化であり、体積が増加(膨張)しています。断熱膨張では、気体は外部に仕事をする(\(W_{\text{A}\rightarrow\text{B}} > 0\))一方で、熱の出入りがない(\(Q=0\))ため、熱力学第一法則 \(\Delta U = Q – W\) より、内部エネルギーは減少します (\(\Delta U < 0\))。理想気体の内部エネルギーは絶対温度にのみ比例するため、温度は下がります。
よって、\(T_A > T_B\)。
比較2: \(T_B\) と \(T_C\) の比較
過程B→Cは定圧変化で、グラフから体積が増加していることがわかります。状態方程式 \(pV=nRT\) を変形すると \(V = \frac{nR}{p}T\) となり、定圧下では体積 \(V\) は絶対温度 \(T\) に比例します(シャルルの法則)。
体積が増加している (\(V_C > V_B\)) ので、温度も上昇しています。
よって、\(T_C > T_B\)。
比較3: \(T_A\) と \(T_C\) の比較
過程D→Aは等温変化なので、\(T_A = T_D\) です。
過程C→Dは定積変化で、グラフから圧力が上昇していることがわかります。状態方程式 \(p = \frac{nR}{V}T\) より、定積下では圧力 \(p\) は絶対温度 \(T\) に比例します。
圧力が上昇している (\(p_D > p_C\)) ので、温度も上昇しています。
よって、\(T_D > T_C\)。
\(T_A = T_D\) なので、\(T_A > T_C\) となります。
まとめ
以上の比較から、\(T_A > T_C > T_B\) という大小関係がわかります。
p-Vグラフにおいて、同じ温度の点を結んだ曲線(等温線)は \(pV = \text{一定}\) の反比例グラフになります。そして、積 \(pV\) の値が大きいほど、つまり原点から遠い位置にある等温線ほど、温度は高くなります。
- 点Aと点Dは同じ等温線(過程D→Aが等温変化)の上にあるので \(T_A = T_D\)。
- 点Bは、点Aを通る等温線よりも原点に近い位置にあります。これは、過程A→Bが断熱変化であり、等温線を横切ってより低い温度の領域へ移動したことを意味します。よって \(T_A > T_B\)。
- 点Cは、点Bと同じ圧力ですが体積が大きいため、積 \(pV\) は点Bより大きくなります (\(p_C V_C > p_B V_B\))。したがって、\(T_C > T_B\)。
- 点Cは、点Dと同じ体積ですが圧力が低いため、積 \(pV\) は点Dより小さくなります (\(p_D V_D > p_C V_C\))。したがって、\(T_D > T_C\)。
- \(T_A = T_D\) なので、\(T_A > T_C\)。
これらを総合すると、\(T_A > T_C > T_B\) となります。
使用した物理公式
- 理想気体の状態方程式: \(pV=nRT\)
- 熱力学第一法則: \(\Delta U = Q – W\)
- 断熱変化の性質: \(Q=0\)
- 定圧変化・定積変化の性質
上記の解説の通り、大小関係を比較することで結論が導かれます。
温度の高さは、グラフの点がどれだけ右上(原点から遠いか)にあるかで判断できます。
(1) AとBを比べると、AからBへは断熱膨張で温度が下がるので、Aの方がBより高温です。
(2) BとCを比べると、右に動いている(体積が増えている)ので、温度は上がります。よってCの方がBより高温です。
(3) AとCを比べます。AとDは同じ温度です。CからDへは上に動いている(圧力が上がっている)ので、温度は上がります。よってDの方がCより高温です。ということは、AもCより高温です。
以上をまとめると、A > C > B の順に温度が高いことがわかります。
状態A, B, Cの温度の大小関係は \(T_A > T_C > T_B\) となります。p-Vグラフ上の位置関係や、各状態変化の熱力学的な性質から導かれる結果が一致しており、妥当です。
問(2)
思考の道筋とポイント
3つの過程 B→C, C→D, D→A において、気体がピストンにした仕事の正負、または0を判断する問題です。気体がする仕事は、体積の変化によって決まります。p-Vグラフから各過程での体積の変化を読み取ることが鍵です。
この設問における重要なポイント
- 気体が外部にする仕事 \(W\) は、体積変化 \(\Delta V\) と関係がある。
- 体積が増加 (\(\Delta V > 0\)) するとき、気体は外部に正の仕事をする (\(W > 0\))。これを「膨張」という。
- 体積が減少 (\(\Delta V < 0\)) するとき、気体は外部に負の仕事をする(外部から仕事をされる, \(W < 0\))。これを「圧縮」という。
- 体積が変化しない (\(\Delta V = 0\)) とき、気体は仕事をしない (\(W = 0\))。これを「定積変化」という。
具体的な解説と立式
各過程について、p-Vグラフから体積の変化を読み取ります。
- 過程 B→C:
グラフ上で、状態Bから状態Cへは、体積が \(V_B\) から \(V_C\) へと増加しています(グラフが右に移動)。
体積が増加する膨張過程なので、気体は外部(ピストン)に対して正の仕事をします。
よって、\(W_{\text{B}\rightarrow\text{C}}\) は正です。 - 過程 C→D:
グラフ上で、状態Cから状態Dへは、体積が変化していません(グラフが真上に移動)。これは問題文の「定積変化」という記述とも一致します。
体積が変化しないので、気体は外部に対して仕事をしません。
よって、\(W_{\text{C}\rightarrow\text{D}}\) は0です。 - 過程 D→A:
グラフ上で、状態Dから状態Aへは、体積が \(V_D\) から \(V_A\) へと減少しています(グラフが左に移動)。
体積が減少する圧縮過程なので、気体は外部から仕事をされます。気体が「した」仕事は負になります。
よって、\(W_{\text{D}\rightarrow\text{A}}\) は負です。
使用した物理公式
- 気体がする仕事の定義: \(W = \int p dV\) (定性的には体積変化の有無と向きで判断)
上記の解説の通り、グラフから体積変化を読み取ることで結論が導かれます。
気体がピストンにする仕事は、風船をイメージすると分かりやすいです。
・風船が膨らむとき(体積が増えるとき)→ 周りの空気を押しのけているので「正の仕事」をした。
・風船がしぼむとき(体積が減るとき)→ 周りの空気に押されているので「負の仕事」をした(仕事をされた)。
・風船の大きさが変わらないとき → 仕事は「0」。
この問題のグラフでは、横軸が体積です。
・B→C:右に動いているので体積が増加 → 仕事は正。
・C→D:上下にしか動いていないので体積は不変 → 仕事は0。
・D→A:左に動いているので体積が減少 → 仕事は負。
仕事の正負の判断は、p-Vグラフの体積軸(横軸)方向の移動の向きで機械的に判断できます。右向き(膨張)なら正、左向き(圧縮)なら負、上下のみ(定積)なら0、という判断は熱力学の基本であり、結果は妥当です。
\(W_{\text{B}\rightarrow\text{C}}\): 正
\(W_{\text{C}\rightarrow\text{D}}\): 0
\(W_{\text{D}\rightarrow\text{A}}\): 負
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