今回の問題
wave#19_cropped【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「弦の振動と基本振動数」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 弦を伝わる横波の速さ: 弦の張力を\(S\)、線密度を\(\rho\)とすると、弦を伝わる波の速さ\(v\)は \(v = \sqrt{\displaystyle\frac{S}{\rho}}\) で与えられます。
- 弦の固有振動(基本振動): 長さ\(L\)の弦の両端を固定して振動させると定常波が生じます。最も単純な振動である基本振動では、波長\(\lambda\)は \(\lambda = 2L\) となり、その振動数(基本振動数)\(f_1\)は \(f_1 = \displaystyle\frac{v}{2L}\) となります。
- 基本振動数の公式: 上記の2つの式を組み合わせることで、基本振動数\(f_1\)は弦の物理的性質(長さ\(L\)、張力\(S\)、線密度\(\rho\))と \(f_1 = \displaystyle\frac{1}{2L}\sqrt{\displaystyle\frac{S}{\rho}}\) という関係で結びつきます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)は、物理用語の定義に関する知識問題です。
- (2)から(4)は、基本振動数の公式 \(f_1 = \displaystyle\frac{1}{2L}\sqrt{\displaystyle\frac{S}{\rho}}\) を元に、ギターの各要素(弦の太さ、調律、演奏操作)が、公式中のどの物理量(\(\rho, S, L\))に対応し、結果として基本振動数(音の高さ)にどう影響するかを考察します。
問(1)
思考の道筋とポイント
「単位長さ当たりの質量」という言葉が、どの物理量を指すかを答える問題です。これは弦の振動を学ぶ上での基本的な用語の定義です。
この設問における重要なポイント
- 弦の性質を表す重要な物理量の一つとして、単位長さあたりの質量を定義することを理解しているか。
具体的な解説と立式
弦の振動を考える際、弦の断面積や体積密度を個別に考えるよりも、弦の「重さ」を長さで割った「単位長さあたりの質量」を一つの物理量として扱うと便利です。この物理量は、弦の太さや材質によって決まります。
この物理量は「線密度」または「線質量密度」と呼ばれます。
問(2)
思考の道筋とポイント
「太い弦」と「細い弦」で基本振動数がどう違うかを問われています。これは、弦の「太さ」が基本振動数の公式のどのパラメータに対応するかを理解することが鍵です。太さは線密度\(\rho\)に関係します。
この設問における重要なポイント
- 「太い弦」は「線密度\(\rho\)が大きい」ことに対応し、「細い弦」は「線密度\(\rho\)が小さい」ことに対応することを理解する。
- 基本振動数の公式 \(f_1 = \displaystyle\frac{1}{2L}\sqrt{\displaystyle\frac{S}{\rho}}\) から、振動数\(f_1\)と線密度\(\rho\)の関係を読み取る。
具体的な解説と立式
ギターの6本の弦は、一般に同じ長さ(\(L\))で、おおよそ同じくらいの強さ(張力\(S\))で張られています。この条件で、弦の太さだけが異なると考えます。
太い弦は細い弦に比べて、同じ長さでも質量が大きいため、線密度\(\rho\)が大きくなります。
基本振動数の公式は、
$$ f_1 = \frac{1}{2L}\sqrt{\frac{S}{\rho}} $$
です。この式から、\(L\)と\(S\)が一定のとき、基本振動数\(f_1\)は線密度\(\rho\)の平方根に反比例することがわかります。
つまり、線密度\(\rho\)が大きい(太い)弦ほど、基本振動数\(f_1\)は小さくなります。基本振動数が小さいということは、音の高さが低いことを意味します。
使用した物理公式
- 弦の基本振動数: \(f_1 = \displaystyle\frac{1}{2L}\sqrt{\displaystyle\frac{S}{\rho}}\)
太い弦は細い弦に比べて線密度が大きいため、基本振動数は小さくなります。これは、ギターの6弦(最も太い弦)が最も低い音を出し、1弦(最も細い弦)が高い音を出すという実際の経験とも一致します。
問(3)
思考の道筋とポイント
ギターの「調律(チューニング)」という操作が、物理的に弦のどの性質を変化させているかを問う問題です。ギターのヘッドにあるペグを回す操作を思い浮かべ、それが弦に何をしているかを考えます。
この設問における重要なポイント
- 調律の操作が、弦の張りを調整するものであることを理解する。
- 弦の「張り」が、物理学における「張力\(S\)」に対応することを理解する。
具体的な解説と立式
調律は、各弦の音の高さ(基本振動数\(f_1\))を特定の音程に合わせる作業です。ギターでは、ヘッドにあるペグを回して行います。ペグを巻くと弦が強く引っ張られ、緩めると張りが弱くなります。この「張りの強さ」が張力\(S\)です。
基本振動数の公式
$$ f_1 = \frac{1}{2L}\sqrt{\frac{S}{\rho}} $$
において、同じ弦(\(\rho\)は一定)の長さ(\(L\))を変えずに音の高さを変えるには、張力\(S\)を変化させればよいことがわかります。張力\(S\)を大きくする(強く張る)と、基本振動数\(f_1\)は高くなります。
使用した物理公式
- 弦の基本振動数: \(f_1 = \displaystyle\frac{1}{2L}\sqrt{\displaystyle\frac{S}{\rho}}\)
調律では、弦の張力を変えることで基本振動数を調整します。
問(4)
思考の道筋とポイント
(3)で変えたもの(張力)を変えずに、同じ弦で音程を変える方法を問われています。これは、ギターを演奏する際に、指で弦を押さえる操作が物理的に何を変えているかを考える問題です。
この設問における重要なポイント
- 演奏中に指でフレットを押さえる操作が、弦の「振動する部分の長さ」を変化させていることを理解する。
- 「振動する部分の長さ」が、基本振動数の公式における弦長\(L\)に対応することを理解する。
具体的な解説と立式
「(3)で変えたもの」、すなわち張力\(S\)は一定です。「同じ弦」なので線密度\(\rho\)も一定です。この条件で音程(基本振動数\(f_1\))を変えるには、基本振動数の公式
$$ f_1 = \frac{1}{2L}\sqrt{\frac{S}{\rho}} $$
を見ると、残るパラメータは弦の長さ\(L\)しかありません。
ギターを演奏するとき、指でフレットを押さえると、ナット(またはカポ)から押さえたフレットまでの部分が振動するようになります。つまり、弦の振動する部分の長さ\(L\)が短くなります。
公式から、\(f_1\)は\(L\)に反比例するため、\(L\)を短くすると基本振動数\(f_1\)は大きくなり、高い音が出ます。
使用した物理公式
- 弦の基本振動数: \(f_1 = \displaystyle\frac{1}{2L}\sqrt{\displaystyle\frac{S}{\rho}}\)
張力を変えずに同じ弦で音程を変えるには、弦の(振動する部分の)長さを変えればよいです。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 弦の基本振動数の公式:
- 核心: この問題のすべては、弦の基本振動数を決定する公式 \(f_1 = \displaystyle\frac{1}{2L}\sqrt{\displaystyle\frac{S}{\rho}}\) を理解しているかにかかっています。
- 理解のポイント: この一つの式が、音の高さ(振動数\(f_1\))が「弦の長さ(\(L\))」「弦の張り具合(張力\(S\))」「弦の太さ(線密度\(\rho\))」という3つの物理的な要因によって決まることを示しています。ギターという身近な楽器の仕組みが、この物理法則に完全に基づいていることを実感することが重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 倍音の問題: 「基本振動数の2倍、3倍の振動数(2倍振動、3倍振動)の波形を図示せよ」といった問題。基本振動では腹が1つですが、n倍振動では腹がn個になることを理解しておく必要があります。
- うなりの問題: 「2本の弦を同時に鳴らしたところ、うなりが聞こえた。一方の弦の張力を少し強めるとうなりの周波数が減った。元の2本の弦の振動数はどちらが高かったか」など、振動数の差を問う問題に応用されます。
- 定量的な計算問題: \(L, S, \rho\) の具体的な数値が与えられ、基本振動数\(f_1\)を計算させる問題。
- 初見の問題での着眼点:
- 現象と物理量の対応付け: 問題文中の「太い/細い」「調律/ペグを回す」「フレットを押さえる」といった日常的な言葉が、それぞれ物理量の「線密度\(\rho\)」「張力\(S\)」「弦長\(L\)」のどれを変化させる操作なのかを正確に対応させることが第一歩です。
- 変化しないものは何か: 設問ごとに、どのパラメータが変化し、どのパラメータが一定と見なせるかを整理します。例えば(2)では\(L, S\)が一定、(4)では\(S, \rho\)が一定と考えます。
- 公式との関係: 変化する量と求めたい量(振動数)の関係を、公式 \(f_1 \propto 1/L\), \(f_1 \propto \sqrt{S}\), \(f_1 \propto 1/\sqrt{\rho}\) から判断します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 比例・反比例の関係の混同:
- 誤解: 張力\(S\)や線密度\(\rho\)がルートの中に入っていることを忘れ、\(f_1\)が\(S\)に比例、\(\rho\)に反比例すると単純に考えてしまう。
- 対策: 公式は正確に覚え、「振動数は張力の平方根に比例し、線密度の平方根に反比例する」と、言葉でも関係性を確認する癖をつけましょう。
- 言葉の定義の曖昧さ:
- 誤解: 「弦の密度」と聞かれたときに、体積あたりの密度なのか、長さあたりの線密度なのかを混同してしまう。
- 対策: 弦やロープのような一次元的な物体の振動を扱う際は、「線密度」が用いられるのが基本であると認識しておきましょう。
- 直感とのズレ:
- 誤解: 「太い弦は頑丈だから、張力も強いはずだ」と考えて、\(\rho\)と\(S\)が独立でないように感じてしまう。
- 対策: 物理の問題では、特に断りがない限り、各パラメータは独立に変化させられると考えます。ギターの調律では、太い弦(\(\rho\)大)も細い弦(\(\rho\)小)も、それぞれ適切な張力\(S\)に調整して目的の音程を得ます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 基本振動数の公式 \(f_1 = \displaystyle\frac{1}{2L}\sqrt{\displaystyle\frac{S}{\rho}}\) の成り立ち:
- 選定理由: この公式は、弦の振動という現象を支配するすべての基本的な物理量を凝縮しているため、この種の問いに答えるための根幹となります。
- 適用根拠: この公式は、2つの基本的な物理法則から導かれます。
- 波の速さの決定: まず、弦という「媒質」の性質(張力\(S\)、線密度\(\rho\))によって、波の伝わる速さ\(v = \sqrt{S/\rho}\)が決まります。これは、媒質が硬く(\(S\)大)、慣性が小さい(\(\rho\)小)ほど波が速く伝わるという直感とも合致します。
- 定常波の条件: 次に、両端が固定された長さ\(L\)の弦という「境界条件」によって、存在できる定常波の波長が決まります。最も単純な基本振動では、弦全体で大きな腹を1つ作る形となり、波長は\(\lambda = 2L\)となります。
- 関係式の結合: 最後に、波の基本式 \(v = f\lambda\) に上記2つの関係を代入することで、\(f_1 = v/\lambda = (\sqrt{S/\rho}) / (2L)\) が導かれます。この導出過程を理解することで、公式を忘れにくくなり、応用力も高まります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 定性的な関係の整理: この問題は計算がありませんが、物理量間の関係を正しく把握することが重要です。以下のように、因果関係を矢印で整理する習慣をつけると、思考がクリアになります。
- 弦を太くする \(\rightarrow\) 線密度\(\rho\)が増加 \(\rightarrow\) 振動数\(f_1\)が減少(音が低くなる)
- ペグを巻く \(\rightarrow\) 張力\(S\)が増加 \(\rightarrow\) 振動数\(f_1\)が増加(音が高くなる)
- フレットを押さえる \(\rightarrow\) 弦長\(L\)が減少 \(\rightarrow\) 振動数\(f_1\)が増加(音が高くなる)
- 身近な例との結びつけ: ギターやピアノ、バイオリンなど、身近な弦楽器の構造と音の関係を思い浮かべることで、公式の物理的な意味を体感的に理解し、記憶を定着させることができます。「低い音の弦は太くて長い」「高い音を出すには弦を強く張る」といった経験則が、そのまま物理法則に対応していることを確認しましょう。
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