波動範囲 41~45
41 光の屈折
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法(絶対屈折率を用いた屈折の法則 \(n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2\) を用いる解法)を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 相対屈折率を用いて考える解法
- 主たる解法が、各媒質の絶対屈折率を直接用いるのに対し、別解では、まずガラスに対する水の「相対屈折率」\(n_{\text{ガ水}}\) を計算し、屈折の法則を \(\frac{\sin i}{\sin r} = n_{\text{ガ水}}\) という基本的な形で表現して解きます。
- 相対屈折率を用いて考える解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 「相対屈折率」という概念の定義(\(n_{12} = n_2/n_1\))とその物理的意味(媒質1から見た媒質2の屈折の度合い)を明確に理解することができます。
- 思考の柔軟性向上: 屈折の法則には複数の表現形式(\(\frac{\sin i}{\sin r} = n_{12}\) や \(n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2\))があり、状況に応じて使い分ける、あるいは一方から他方を導出する訓練になります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「全反射と相対屈折率」です。真空や空気以外の、屈折率が異なる2つの媒質間での全反射について考察します。どちらの媒質が屈折率が大きいかを判断し、屈折の法則を正しく適用することが求められます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 全反射が起こる条件: 光が、屈折率の大きい媒質から屈折率の小さい媒質へ入射するときにのみ、全反射は起こりうる。
- 屈折率と光速の関係: 媒質の屈折率 \(n\) が大きいほど、その媒質中での光の速さ \(v\) は遅くなる (\(v=c/n\))。
- 臨界角の定義: 屈折角が \(90^\circ\) になるときの入射角のこと。
- 屈折の法則: 媒質1(屈折率 \(n_1\))から媒質2(屈折率 \(n_2\))へ光が進むとき、入射角 \(\theta_1\) と屈折角 \(\theta_2\) の間に \(n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2\) の関係が成り立つこと。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、与えられた水とガラスの屈折率の値を比較し、どちらが屈折率が大きい(光速が遅い)媒質かを判断します。
- 全反射が起こる方向(屈折率 大 \(\rightarrow\) 屈折率 小)を特定します。
- 次に、臨界角の条件(屈折角が \(90^\circ\))を屈折の法則の式に代入し、臨界角 \(\theta_0\) の正弦(\(\sin\theta_0\))を計算します。
全反射が起こる場合
思考の道筋とポイント
全反射は、光が「屈折率の大きい媒質」から「屈折率の小さい媒質」へ進むときにのみ起こりえます。
問題で与えられた屈折率の値を比較します。
- 水の屈折率 \(n_{\text{水}} = 4/3 \approx 1.33\)
- ガラスの屈折率 \(n_{\text{ガラス}} = 3/2 = 1.5\)
\(n_{\text{ガラス}} > n_{\text{水}}\) なので、ガラスが「屈折率の大きい媒質」、水が「屈折率の小さい媒質」となります。
したがって、全反射が起こるのは、ガラスから水へ光が入射する場合です。
この設問における重要なポイント
- 全反射は「屈折率 大 \(\rightarrow\) 屈折率 小」の入射でのみ起こる。
- \(n_{\text{ガラス}} = 1.5\)、\(n_{\text{水}} \approx 1.33\) より、ガラスの方が屈折率が大きい。
- したがって、「ガラス \(\rightarrow\) 水」の入射で全反射が起こりうる。
具体的な解説と立式
問題文より、水の屈折率は \(n_{\text{水}} = 4/3\)、ガラスの屈折率は \(n_{\text{ガラス}} = 3/2\) です。
値を比較すると、\(3/2 = 1.5\)、\(4/3 \approx 1.33\) なので、\(n_{\text{ガラス}} > n_{\text{水}}\) です。
全反射は、屈折率の大きい媒質から小さい媒質へ入射する場合に起こりうる現象です。
よって、この場合は「ガラスから水へ」光が進む場合に全反射が起こる可能性があります。
光にとっての「進みにくさ」を表すのが屈折率です。ガラス(屈折率1.5)は、水(屈折率1.33)よりも光が進みにくい場所です。
全反射は、光が「進みにくい場所」から「進みやすい場所」へ向かうときにだけ起こります。したがって、全反射が起こるのは「ガラスから水へ」進む場合です。
ガラスから水へ進む場合に全反射が起こりうると結論できました。屈折率の大小関係から正しく判断できています。
臨界角 \(\theta_0\) の正弦
思考の道筋とポイント
臨界角 \(\theta_0\) は、屈折角が \(90^\circ\) になるときの入射角です。
この条件を、ガラスから水へ入射する場合の屈折の法則 \(n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2\) に代入します。
- 入射側:ガラス(屈折率 \(n_{\text{ガラス}}\)、入射角 \(\theta_0\))
- 屈折側:水(屈折率 \(n_{\text{水}}\)、屈折角 \(90^\circ\))
この関係を式に当てはめて、\(\sin\theta_0\) を計算します。
この設問における重要なポイント
- 入射側がガラス、屈折側が水である。
- 入射角が臨界角 \(\theta_0\)、屈折角が \(90^\circ\)。
- 屈折の法則: \(n_{\text{ガラス}} \sin\theta_0 = n_{\text{水}} \sin 90^\circ\)。
具体的な解説と立式
ガラスから水へ入射する場合を考えます。入射角を \(\theta_0\)、屈折角を \(90^\circ\) として、屈折の法則を立てます。
$$ n_{\text{ガラス}} \sin\theta_0 = n_{\text{水}} \sin 90^\circ $$
ここに、与えられた屈折率の値と \(\sin 90^\circ = 1\) を代入して \(\sin\theta_0\) を求めます。
$$ \frac{3}{2} \sin\theta_0 = \frac{4}{3} \times 1 $$
使用した物理公式
- 屈折の法則: \(n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2\)
- 臨界角の条件: 屈折角が \(90^\circ\)
$$
\begin{aligned}
\frac{3}{2} \sin\theta_0 &= \frac{4}{3} \\[2.0ex]
\sin\theta_0 &= \frac{4}{3} \times \frac{2}{3} \\[2.0ex]
&= \frac{8}{9}
\end{aligned}
$$
臨界角とは、ガラスの中の光がギリギリ水中に飛び出せる(水面すれすれに進む)限界の角度のことです。
この状況を屈折の法則の式に当てはめます。「ガラスの屈折率 \(\times \sin\theta_0\) = 水の屈折率 \(\times \sin 90^\circ\)」という式を立て、これを解くことで \(\sin\theta_0\) の値を計算できます。
臨界角の正弦は \(\displaystyle\frac{8}{9}\) となりました。
この値は \(8/9 \approx 0.89\) であり、1より小さいので物理的に妥当な値です。このときの臨界角 \(\theta_0\) は約 \(63^\circ\) であり、ガラスから水との境界面に対してこの角度より大きい入射角で光を入射させると、光は水中に進まずに全て境界面で反射(全反射)されることになります。
思考の道筋とポイント
主たる解法では、絶対屈折率を用いた屈折の法則の一般形 \(n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2\) を使いました。この別解では、まずガラスに対する水の「相対屈折率」\(n_{\text{ガ水}}\) を計算し、より基本的な屈折の法則の形 \(\frac{\sin i}{\sin r} = n_{\text{ガ水}}\) を用いて解きます。
この設問における重要なポイント
- 媒質1に対する媒質2の相対屈折率 \(n_{12}\) は \(n_{12} = n_2/n_1\) で定義される。
- 臨界角の条件(入射角 \(\theta_0\)、屈折角 \(90^\circ\))を、この形の屈折の法則に適用する。
具体的な解説と立式
ガラスから水へ光が入射する場合を考えるので、ガラスに対する水の相対屈折率 \(n_{\text{ガ水}}\) をまず計算します。
$$
\begin{aligned}
n_{\text{ガ水}} &= \frac{n_{\text{水}}}{n_{\text{ガラス}}} \\[2.0ex]
&= \frac{4/3}{3/2} \\[2.0ex]
&= \frac{4}{3} \times \frac{2}{3} \\[2.0ex]
&= \frac{8}{9}
\end{aligned}
$$
屈折の法則は、入射角を \(i\)、屈折角を \(r\) として、
$$ \frac{\sin i}{\sin r} = n_{\text{ガ水}} $$
と表せます。
臨界角の条件は、入射角 \(i=\theta_0\) のときに屈折角 \(r=90^\circ\) となることなので、これを代入します。
$$ \frac{\sin \theta_0}{\sin 90^\circ} = n_{\text{ガ水}} $$
使用した物理公式
- 相対屈折率の定義: \(n_{12} = n_2/n_1\)
- 屈折の法則: \(\sin i / \sin r = n_{12}\)
$$
\begin{aligned}
\frac{\sin \theta_0}{1} &= \frac{8}{9} \\[2.0ex]
\sin \theta_0 &= \frac{8}{9}
\end{aligned}
$$
まず、ガラスの世界から見たときの、水の世界の「見かけの屈折率」(相対屈折率)を計算します。これは \(8/9\) となります。
あとは、真空から媒質へ入る光と同じように、基本的な屈折の法則の式に、入射角 \(\theta_0\)、屈折角 \(90^\circ\)、そして今計算した相対屈折率 \(8/9\) を当てはめて計算します。
主たる解法と完全に同じ結果が得られました。この方法は、相対屈折率という概念を明確に意識する点で教育的価値があります。\(n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2\) という式は、この相対屈折率を用いた式を変形したものに他ならず、両者は本質的に同じことを表しています。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 全反射の条件と屈折率の大小関係:
- 核心: この問題の根幹は、全反射が起こるための普遍的な条件、すなわち「光が屈折率の大きい媒質から小さい媒質へ進むときにしか起こらない」という原理を、具体的な媒質の組み合わせに適用することです。
- 理解のポイント:
- 屈折率と光速の関係: 屈折率 \(n\) は、光の進みにくさを示す指標であり、光速 \(v\) とは \(n=c/v\) の関係にあります。したがって、「屈折率が大きい \(\iff\) 光速が遅い」となります。
- 全反射の方向: 全反射は「遅い媒質 \(\rightarrow\) 速い媒質」で起こるので、これは「屈折率 大 \(\rightarrow\) 屈折率 小」の方向と同じ意味になります。
- 具体的な判断: 水の屈折率 \(n_{\text{水}} \approx 1.33\) とガラスの屈折率 \(n_{\text{ガラス}} = 1.5\) を比較し、\(n_{\text{ガラス}} > n_{\text{水}}\) であることから、全反射は「ガラス \(\rightarrow\) 水」の方向で起こりうると判断します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 多層媒質: 空気・水・ガラスのように3つ以上の媒質が重なっている場合。各境界面で全反射が起こるかどうかを、それぞれの境界面を挟む2つの媒質の屈折率の大小関係から判断します。
- 光ファイバー: コア(屈折率大)とクラッド(屈折率小)の組み合わせで全反射を利用します。コアとクラッドの材質を変えることで、臨界角を調整できます。
- 液体レンズ: 屈折率の異なる2種類の液体を組み合わせることで、レンズのような働きをさせることができます。その界面での全反射も重要な要素となります。
- 初見の問題での着眼点:
- 「全反射」「臨界角」のキーワードに注目: これらの言葉が出てきたら、まず「屈折率 大 \(\rightarrow\) 屈折率 小」という方向の条件をチェックします。
- 屈折率の大小関係を比較する: 与えられた複数の媒質の屈折率を比較し、どちらが大きいか(遅いか)を確定させます。
- 屈折の法則の式を正しく立てる: 臨界角を求める際は、入射側(屈折率大の媒質)と屈折側(屈折率小の媒質)を明確に区別し、\(n_{\text{大}} \sin\theta_0 = n_{\text{小}} \sin 90^\circ\) という式を立てます。
- 相対屈折率の概念: 媒質1から媒質2へ進むときの相対屈折率 \(n_{12}\) は \(n_2/n_1\) で与えられます。全反射は \(n_{12} < 1\) となる方向への入射で起こり、臨界角は \(\sin\theta_0 = n_{12}\) で与えられる、とまとめて理解することもできます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 屈折率の大小関係の判断ミス:
- 誤解: \(4/3\) と \(3/2\) のような分数の大小比較を間違えてしまう。
- 対策: 焦らずに小数に直す(\(4/3 \approx 1.33\), \(3/2 = 1.5\))か、通分する(\(4/3 = 8/6\), \(3/2 = 9/6\))など、確実な方法で大小を比較しましょう。
- 屈折の法則の適用ミス:
- 誤解: 臨界角の計算で、\(n_{\text{水}} \sin\theta_0 = n_{\text{ガラス}} \sin 90^\circ\) のように、入射側と屈折側の屈折率を逆にして式を立ててしまう。
- 対策: 「入射側の屈折率 \(\times\) 入射角のサイン = 屈折側の屈折率 \(\times\) 屈折角のサイン」という法則の形を言葉で覚え、各項にどの物理量が対応するかを一つずつ確認しながら立式します。
- 計算結果が1を超える:
- 誤解: もし誤って「水→ガラス」で臨界角を計算しようとすると、\(n_{\text{水}} \sin\theta_0 = n_{\text{ガラス}} \sin 90^\circ\) より \(\sin\theta_0 = n_{\text{ガラス}}/n_{\text{水}} = (3/2)/(4/3) = 9/8 > 1\) となります。
- 対策: \(\sin\theta\) の値は絶対に1を超えることはありません。計算結果が1を超えた場合、それは「その方向では全反射(したがって臨界角)は存在しない」という物理的な事実を示しています。自分の計算が間違っているのではなく、前提(全反射が起こる方向)が間違っていたのだと気づくことが重要です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 屈折の法則 \(n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2\):
- 選定理由: この問題は、真空を介さない2つの媒質間での屈折を扱っています。このような場合に最も一般的で強力な公式が、この \(n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2\) という形の屈折の法則です。
- 適用根拠: この法則は、ホイヘンスの原理から導出され、媒質の組み合わせによらず普遍的に成り立ちます。臨界角の定義である「屈折角が \(90^\circ\) になる」という条件を、この普遍的な法則に代入することで、特定の状況における入射角(臨界角)を求めることができます。
- 相対屈折率 \(n_{12} = n_2/n_1\):
- 選定理由(別解): 屈折の法則を、より基本的な \(\frac{\sin\theta_1}{\sin\theta_2} = n_{12}\) の形に書き直すことで、見通しを良くすることができます。特に、媒質1を基準としたときの媒質2の振る舞いを考える際に有効です。
- 適用根拠: 相対屈折率は、絶対屈折率の比として定義される量です。したがって、\(n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2\) の両辺を \(n_1\) で割ると、\(\sin\theta_1 = (n_2/n_1) \sin\theta_2 = n_{12} \sin\theta_2\) となり、数学的に等価な変形です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 分数の計算を丁寧に行う: \((4/3) \times (2/3)\) のような分数の掛け算は、分子同士、分母同士を掛けるだけです。焦らず確実に計算しましょう。
- 物理的な意味の吟味: 計算結果 \(\sin\theta_0 = 8/9\) が出たときに、「これは1より小さいから、物理的にありえる値だ」と確認する癖をつけると、比を逆にするなどの致命的なミスを防げます。
- イメージを持つ: 「屈折率が大きいほど、光は窮屈そうに、法線に寄り添って進む」というイメージを持つと良いでしょう。ガラス(大)から水(小)へ進むときは、窮屈な状態から解放されるので、光は法線から離れるように進みます。このイメージがあれば、全反射がどちらの方向で起こるかを直感的に判断できます。
42 光の屈折
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法(幾何学的関係式に近似を適用し、屈折の法則を代入する解法)を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 屈折の法則を先に近似し、幾何学的関係式に代入する解法
- 主たる解法が、まず \(d = D \frac{\tan\theta}{\tan\phi}\) という関係を導き、これに近似と屈折の法則を適用するのに対し、別解では、まず屈折の法則 \(n = \frac{\sin\phi}{\sin\theta}\) を近似して \(n \approx \frac{\tan\phi}{\tan\theta}\) という関係を導き、これを幾何学的な関係式に代入します。
- 屈折の法則を先に近似し、幾何学的関係式に代入する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 思考の柔軟性向上: 同じ公式や近似を、計算プロセスのどの段階で適用するかによって、見通しが変わることを体験できます。
- 物理量の関係性の理解: 「屈折率 \(n\) は、微小角においては \(\tan\) の比にも近似できる」という、物理量の関係性への理解が深まります。
- 結果への影響
- 計算の順序が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「見かけの深さ」です。水中の物体が実際よりも浅い位置にあるように見える現象を、屈折の法則と微小角の近似を用いて定量的に説明する問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 屈折の法則: 屈折率 \(n\) の媒質から空気(屈折率 \(1\))へ光が進むとき、入射角 \(\theta\) と屈折角 \(\phi\) の間に \(n \sin\theta = 1 \sin\phi\) の関係が成り立つこと。
- 見かけの深さの原理: 水中の物体から出た光が水面で屈折し、目に届く。目は、光が直進してきたかのように認識するため、屈折した光線の延長線が交わる位置に物体の像(虚像)が見えること。
- 微小角の近似: 角度が非常に小さいとき、\(\sin\theta \approx \tan\theta\) という近似が成り立つこと。
- 三角比: 直角三角形における辺と角度の関係(特にタンジェント)を正しく使えること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、液体中から空気中へ光が進む際の屈折の法則を、入射角 \(\theta\) と屈折角 \(\phi\) を用いて立式します。
- 次に、図の幾何学的な関係から、実際の深さ \(D\) と見かけの深さ \(d\) を、それぞれ \(\tan\theta\) と \(\tan\phi\) を用いて表し、両者の関係式を導きます。
- 問題文の指示に従い、微小角の近似 \(\sin\theta \approx \tan\theta\) と \(\sin\phi \approx \tan\phi\) を用いて、2.で立てた関係式を簡略化します。
- 1.で立てた屈折の法則の式を代入し、見かけの深さ \(d\) を \(n\) と \(D\) で表します。
思考の道筋とポイント
この問題は、2つの異なるアプローチ、「屈折の法則」と「幾何学的な関係」から立式し、それらを組み合わせることで解くことができます。
1. 物理法則からのアプローチ(屈折の法則)
光は屈折率 \(n\) の液体から空気(屈折率 \(1\))へと進みます。図より、入射角は \(\theta\)、屈折角は \(\phi\) なので、屈折の法則は \(n \sin\theta = 1 \sin\phi\) となります。
2. 幾何学からのアプローチ(図形と三角比)
光源から出て液面で屈折する光線と、その延長線上に見える像の位置関係を図から読み取ります。光源の真上の点をO’、光が屈折する点をB、光源をO、像をO”とすると、2つの直角三角形 \(\triangle \text{OO’B}\) と \(\triangle \text{O”O’B}\) が考えられます。
- 実際の光源について: \(\tan\theta = \text{O’B} / \text{OO’} = \text{O’B} / D\)
- 見かけの光源(像)について: \(\tan\phi = \text{O’B} / \text{O”O’} = \text{O’B} / d\)
この2つの式から、共通の辺 O’B を消去することで、\(D, d, \tan\theta, \tan\phi\) の関係式が得られます。
最後に、微小角の近似 \(\sin\theta \approx \tan\theta\) を用いて、これら2つのアプローチから得られた式を結合します。
この設問における重要なポイント
- 入射側は液体(屈折率 \(n\)、入射角 \(\theta\))、屈折側は空気(屈折率 \(1\)、屈折角 \(\phi\))。
- 見かけの深さ \(d\) は、屈折した光線の延長線によって決まる。
- 微小角の近似 \(\sin\theta \approx \tan\theta\) が計算を単純化する鍵となる。
具体的な解説と立式
1. 屈折の法則の立式
屈折率 \(n\) の液体中から空気中へ光が進むので、入射角 \(\theta\)、屈折角 \(\phi\) として屈折の法則を立てると、
$$ n \sin\theta = 1 \sin\phi \quad \cdots ① $$
2. 幾何学的関係の立式
図において、光源から屈折点までの水平距離を \(x\) とします。
実際の光源を含む直角三角形を考えると、
$$ \tan\theta = \frac{x}{D} \quad \cdots ② $$
一方、見かけの光源(像)を含む直角三角形を考えると、
$$ \tan\phi = \frac{x}{d} \quad \cdots ③ $$
②式より \(x = D \tan\theta\)、③式より \(x = d \tan\phi\) なので、
$$ D \tan\theta = d \tan\phi $$
この式を見かけの深さ \(d\) について解くと、
$$ d = D \frac{\tan\theta}{\tan\phi} \quad \cdots ④ $$
3. 近似の適用と式の結合
問題の条件である微小角の近似 \(\sin\theta \approx \tan\theta\) および \(\sin\phi \approx \tan\phi\) を④式に適用すると、
$$ d \approx D \frac{\sin\theta}{\sin\phi} $$
ここで、①式の屈折の法則から \(\displaystyle\frac{\sin\theta}{\sin\phi} = \frac{1}{n}\) という関係が得られるので、これを代入します。
使用した物理公式
- 屈折の法則: \(n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2\)
- 三角比の定義: \(\tan\theta\)
- 微小角の近似: \(\sin\theta \approx \tan\theta\)
$$
\begin{aligned}
d &\approx D \frac{\sin\theta}{\sin\phi} \\[2.0ex]
&= D \cdot \frac{1}{n} \\[2.0ex]
&= \frac{D}{n}
\end{aligned}
$$
水中のコインが浅く見える現象を計算する問題です。
光が水中から空気中に出るときに曲がる(屈折する)のが原因です。私たちの脳は、光がまっすぐ進んできたと錯覚するので、実際よりも浅い位置にコインがあるように見えてしまいます。
この「実際の深さ \(D\)」と「見かけの深さ \(d\)」の関係は、屈折の法則と、図形(三角形)の性質を組み合わせることで計算できます。
特に、真上から見ているときは角度が非常に小さいので、\(\sin\) と \(\tan\) がほぼ同じ値になるという便利な近似を使うと、最終的に「見かけの深さ \(d\) = 実際の深さ \(D\) ÷ 屈折率 \(n\)」という、とてもシンプルな関係式が導かれます。
見かけの深さ \(d\) は \(\displaystyle\frac{D}{n}\) と求められました。
水の屈折率 \(n\) は約 \(4/3\) で1より大きいので、見かけの深さ \(d\) は実際の深さ \(D\) よりも小さく(浅く)なります。これは、プールや川の底が思ったより浅く見えるという日常的な経験と一致しており、物理的に妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
主たる解法とは計算の順序を変えるアプローチです。まず屈折の法則の式に微小角の近似を適用し、\(\tan\theta\) と \(\tan\phi\) の関係を \(n\) で表します。その後、その関係を幾何学的な関係式に代入して \(d\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 屈折の法則 \(n \sin\theta = \sin\phi\) に微小角近似を適用する。
- 幾何学的な関係 \(d = D \frac{\tan\theta}{\tan\phi}\) に、上で求めた関係を代入する。
具体的な解説と立式
1. 屈折の法則の近似
屈折の法則は、
$$ n \sin\theta = \sin\phi $$
です。ここで、\(\theta, \phi\) が微小角であるため、\(\sin\theta \approx \tan\theta\), \(\sin\phi \approx \tan\phi\) と近似できます。
$$ n \tan\theta \approx \tan\phi $$
この式から、\(\tan\theta\) と \(\tan\phi\) の比を求めると、
$$ \frac{\tan\theta}{\tan\phi} \approx \frac{1}{n} \quad \cdots ⑤ $$
2. 幾何学的関係への代入
主たる解法で導いた幾何学的な関係式
$$ d = D \frac{\tan\theta}{\tan\phi} $$
に、⑤式で求めた関係を代入します。
使用した物理公式
- 屈折の法則: \(n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2\)
- 微小角の近似: \(\sin\theta \approx \tan\theta\)
- 三角比の定義: \(\tan\theta\)
$$
\begin{aligned}
d &= D \frac{\tan\theta}{\tan\phi} \\[2.0ex]
&\approx D \cdot \frac{1}{n} \\[2.0ex]
&= \frac{D}{n}
\end{aligned}
$$
まず、光の曲がり方を決める屈折の法則を、角度がとても小さい場合に使える簡単な形に直します。すると、「\(\tan\phi\) は \(\tan\theta\) のおよそ \(n\) 倍」という関係が出てきます。
一方、図形から「見かけの深さ \(d\) は、実際の深さ \(D\) に \(\tan\theta / \tan\phi\) を掛けたもの」という関係もわかります。
この2つの式を組み合わせることで、主たる解法と同じ答えを導き出すことができます。
主たる解法と完全に同じ結果が得られました。この別解は、先に物理法則(屈折の法則)を近似してから幾何学的な式に適用する、という手順を取ります。計算のどの段階で近似を用いるかという違いはありますが、論理的には等価であり、どちらのアプローチも有効です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 屈折の法則と微小角近似の組み合わせ:
- 核心: この問題の根幹は、2つの異なる数学的・物理的ツールを組み合わせて、一見複雑な現象をシンプルな関係式に帰着させる点にあります。
- 屈折の法則: 光が媒質の境界を通過する際の角度の変化を記述する普遍的な物理法則。
- 微小角の近似: 「ほぼ真上から見る」という特殊な条件下で、三角関数を単純化する数学的な近似手法。
- 理解のポイント:
- 近似の威力: \(\sin\theta \approx \tan\theta\) という近似を用いることで、屈折の法則(\(\sin\) の関係)と、図形の幾何学(\(\tan\) の関係)とを、直接結びつけることが可能になります。この近似がなければ、問題はより複雑な三角関数の計算になってしまいます。
- 物理的意味: 「ほぼ真上から見る」という条件は、光線が境界面の法線に非常に近い角度で入射・屈折することを意味します。このような状況では、光の進路はほとんど直線に近く、深さの比が屈折率の逆比になる、という単純な関係が成り立ちます。
- 虚像の形成: 観測者の目には、屈折した光線が直進してきたかのように見えます。この屈折光線の延長線が集まる点に、光源の「虚像」が形成されます。「見かけの深さ」とは、この虚像の深さのことです。
- 核心: この問題の根幹は、2つの異なる数学的・物理的ツールを組み合わせて、一見複雑な現象をシンプルな関係式に帰着させる点にあります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 空気中から水中の物体を見る: プールサイドから水中のボールを見る場合など。ボールから出た光が水面で屈折し、目に届きます。この場合も、ボールは実際より浅い位置にあるように見えます。
- 凸レンズ・凹レンズの原理: レンズの曲面は、微小な平面の集まりと考えることができます。各微小平面で屈折の法則を適用することで、レンズ全体がどのように光を集めたり(凸レンズ)、発散させたり(凹レンズ)するかを説明できます。
- 水中メガネ: 水中で裸眼だと物がぼやけて見えるのは、水の屈折率が角膜の屈折率に近く、光が十分に屈折しないためです。水中メガネを使うと、目の前に空気の層ができるため、光は「水中→空気→目」と屈折し、正しく網膜上で焦点を結ぶことができます。
- 初見の問題での着眼点:
- 「見かけの深さ」「浮き上がって見える」のキーワード: これらの言葉が出てきたら、屈折による虚像形成の問題であると判断します。
- 光の経路を図示する: 光源から出て、媒質の境界面で屈折し、観測者の目に入る光線を一本描きます。さらに、屈折した光線を逆に延長し、虚像の位置を作図します。
- 2種類の三角形を探す: 実際の光源の位置と境界面で作られる直角三角形と、虚像の位置と境界面で作られる直角三角形の2つを図の中に見つけ出します。
- 近似の条件を確認する: 「ほぼ真上から見る」「微小角なので」といった記述があれば、\(\sin\theta \approx \tan\theta \approx \theta\) の近似が使えるサインです。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 屈折の法則の適用ミス:
- 誤解: 屈折率 \(n\) の媒質から空気(屈折率1)へ光が出る際に、\(\sin\theta = n \sin\phi\) のように、屈折率 \(n\) を掛ける側を間違えてしまう。
- 対策: \(n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2\) という一般形を常に意識し、「媒質1=液体, \(n_1=n\), \(\theta_1=\theta\)」「媒質2=空気, \(n_2=1\), \(\theta_2=\phi\)」のように、各項を丁寧に対応させましょう。
- 近似の適用を忘れる:
- 誤解: \(d = D \frac{\tan\theta}{\tan\phi}\) の式まで導いた後、近似を使わずに屈折の法則 \(\sin\phi = n \sin\theta\) とどう結びつければよいか分からなくなってしまう。
- 対策: 問題文に「微小角なので」というヒントが与えられていることを見落とさないようにします。この種の近似は、物理の問題を解きやすくするための重要な「お約束」であることが多いです。
- 幾何学的な関係の誤り:
- 誤解: \(d = D \frac{\tan\phi}{\tan\theta}\) のように、\(\tan\) の比を逆にしてしまう。
- 対策: \(D \tan\theta = x\) と \(d \tan\phi = x\) という関係を、図を描いて確実に導き出しましょう。そこから \(d/D = \tan\theta/\tan\phi\) となることを確認すれば、比を逆にするミスは防げます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 屈折の法則と幾何学の組み合わせ:
- 選定理由: この問題は、物理法則(屈折の法則)と、観測される現象の幾何学的な配置の両方を考慮しないと解けません。屈折の法則は角度の \(\sin\) の関係を、幾何学は深さと角度の \(\tan\) の関係を与えます。この異なる種類の三角関数を結びつけるために、「微小角の近似」という第三のツールが必要となります。
- 適用根拠:
- 屈折の法則: 媒質の境界における光の振る舞いを記述する、この問題の根幹をなす物理法則です。
- 三角比(幾何学): 虚像が形成される位置を、実際の物体の位置と関連付けるための数学的な道具です。光が直進するという性質に基づき、図形的な関係を数式化します。
- 微小角の近似: 「ほぼ真上から見る」という物理的な条件を、\(\sin\theta \approx \tan\theta\) という数学的な関係式に翻訳する操作です。これにより、物理法則と幾何学の関係式を連結することが可能になります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式のまま計算する: この問題はすべて文字式で計算が進みます。最後まで文字のまま計算し、最終的な答えを \(D\) と \(n\) で表現します。
- 近似の記号を正しく使う: 厳密な等式と近似式を区別するために、近似を適用した段階からは `\approx` を使うのが丁寧です。
- 物理的な意味を吟味する: 最終的な答え \(d = D/n\) が出たら、その意味を考えます。媒質の屈折率 \(n\) は(真空でなければ)常に1より大きいので、\(d < D\) となります。これは「見かけの深さは実際の深さより浅くなる」という我々の経験則と一致します。この簡単な吟味によって、例えば \(d=nD\) のような間違いを犯していないかを確認できます。
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43 レンズ
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「凸レンズによる像の作図」です。レンズの作図における基本的な3本の光線の進み方を正しく理解し、それらを用いて点光源の像の位置を決定する能力が問われます。特に、光軸上の点光源の像をどのように作図するかがポイントとなります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- レンズの作図における3本の特別な光線:
- 光線1:光軸に平行に進んできた光は、屈折後、レンズ後方の焦点を通る。
- 光線2:レンズの中心を通る光は、屈折せずに直進する。
- 光線3:レンズ前方の焦点を通ってレンズに入った光は、屈折後、光軸に平行に進む。
- 像の決定: 物体の一点から出た複数の光線が、レンズを通過した後に再び交わる点に、その点の像ができること。
- 光軸上の物体の像: 光軸上の点から出た光は、レンズ通過後、光軸上のどこかに集まる(または光軸上のある点から広がってくるように見える)こと。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- S\(_1\)の像:
- 点光源S\(_1\)から出る光のうち、作図しやすい上記の3本の光線(のうち2本以上)を描きます。
- レンズを通過した後のこれらの光線が交わる点を求め、そこがS\(_1\)の像S\(_1\)’となります。
- S\(_2\)の像:
- 点光源S\(_2\)は光軸上にあるため、S\(_2\)から出る光はすべて光軸に沿って進むように見え、基本的な作図法が直接使えません。
- そこで、S\(_2\)を先端とする、光軸に垂直な仮想的な物体(棒)を考えます。
- この仮想的な物体の先端の像の位置を、S\(_1\)と同様の作図によって求めます。
- 物体の根元であるS\(_2\)の像S\(_2\)’は、先端の像から光軸に下ろした垂線の足の位置になることを利用して、S\(_2\)’を決定します。