力学範囲 71~75
71 運動量保存則
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「一直線上の衝突における運動量保存則」です。2つの物体が衝突する際に、系全体の運動量の和が保存されるという法則を用いて、衝突後の未知の速度を求める、最も基本的な問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動量保存則: 複数の物体からなる系に外力が働かない(または、外力の合力が0である)場合、系全体の運動量の総和は、衝突の前後で一定に保たれる。
- 運動量の定義: 質量\(m\)、速度\(\vec{v}\)の物体の運動量は \(\vec{p} = m\vec{v}\) で与えられる。
- ベクトルの扱い: 速度と運動量はベクトル量であるため、一直線上の運動では、正の向きを定めて、速度を符号付きのスカラー量として扱うことが重要です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、運動の方向に対して座標軸を設定し、正の向きを決めます(例: 右向きを正)。
- 衝突前の各物体の速度を、符号に注意して表します。
- 衝突後の各物体の速度を、同様に表します(未知数は文字のまま)。
- 「(衝突前の運動量の総和)=(衝突後の運動量の総和)」という運動量保存則の式を立てます。
- この方程式を解いて、未知の速度を求めます。
思考の道筋とポイント
\(2\)つの物体が衝突する問題では、まず「運動量保存則」が使えるかどうかを考えます。この問題では、滑らかな水平面上での現象であり、衝突時に物体同士が及ぼし合う力(内力)は非常に大きいですが、系全体に働く外力(重力と垂直抗力)は鉛直方向でつりあっているため、水平方向の運動量は保存されます。
したがって、運動量保存則を立式することが解法の中心となります。
このとき、最も重要なのが「向き」の扱いです。速度と運動量はベクトル量なので、一直線上の運動であっても、必ず正の向きを定め、逆向きの速度は負の値として計算する必要があります。この符号の扱いでミスをしなければ、あとは単純な一次方程式を解くだけの問題です。
この設問における重要なポイント
- 水平方向の外力がないため、水平方向の運動量が保存される。
- 右向きを正として、各物体の速度を符号付きで表す。
- 衝突前のPの速度: \(+6 \, \text{m/s}\)
- 衝突前のQの速度: \(-3 \, \text{m/s}\)
- 衝突後のPの速度: \(-3 \, \text{m/s}\)
- 衝突後のQの速度: \(v\)(未知数)
- 運動量保存則: \(m_P v_P + m_Q v_Q = m_P v_P’ + m_Q v_Q’\) を立式する。
具体的な解説と立式
水平右向きを正とします。
- 球Pの質量: \(m_P = 2 \, \text{kg}\)
- 球Qの質量: \(m_Q = 10 \, \text{kg}\)
衝突前後の各物体の速度を整理します。
- 衝突前のPの速度: \(v_P = +6 \, \text{m/s}\)
- 衝突前のQの速度: \(v_Q = -3 \, \text{m/s}\)
- 衝突後のPの速度: \(v_P’ = -3 \, \text{m/s}\)
- 衝突後のQの速度: \(v_Q’ = v\)
運動量保存則より、「(衝突前のPの運動量)+(衝突前のQの運動量)=(衝突後のPの運動量)+(衝突後のQの運動量)」が成り立ちます。
$$ m_P v_P + m_Q v_Q = m_P v_P’ + m_Q v_Q’ $$
使用した物理公式
- 運動量保存則: \(p_{\text{前1}} + p_{\text{前2}} = p_{\text{後1}} + p_{\text{後2}}\)
- 運動量の定義: \(p = mv\)
上記で立式した運動量保存則の式に、具体的な数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
2 \times (+6) + 10 \times (-3) &= 2 \times (-3) + 10 \times v
\end{aligned}
$$
この方程式を\(v\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
12 – 30 &= -6 + 10v \\[2.0ex]
-18 &= -6 + 10v \\[2.0ex]
10v &= -18 + 6 \\[2.0ex]
10v &= -12 \\[2.0ex]
v &= -1.2 \, \text{m/s}
\end{aligned}
$$
計算結果の\(v\)が負の値になりました。これは、衝突後のQの速度の向きが、設定した正の向き(右向き)とは逆、すなわち「左向き」であることを意味します。
したがって、衝突後のQの速度は「左向きに \(1.2 \, \text{m/s}\)」となります。
\(2\)つのボールがぶつかる時、たとえ跳ね返り方やボールの硬さが分からなくても、「ぶつかる前の運動の勢いの合計」と「ぶつかった後の運動の勢いの合計」は変わらない、という便利な法則(運動量保存則)があります。
ここで「運動の勢い(運動量)」は、向きも考慮に入れる必要があります。右向きをプラス、左向きをマイナスと決めて、それぞれのボールの運動量(質量 \(\times\) 速度)を計算します。
「(Pの前の運動量)+(Qの前の運動量)=(Pの後の運動量)+(Qの後の運動量)」という式を立て、わからないQの後の速度を文字のまま入れて計算すれば、答えが求まります。計算結果がマイナスになったら、それは「左向き」という意味です。
衝突後のQの速度は、左向きに \(1.2 \, \text{m/s}\) となります。
衝突前の運動量の総和は \(12 – 30 = -18 \, \text{kg} \cdot \text{m/s}\)。
衝突後の運動量の総和は \(2 \times (-3) + 10 \times (-1.2) = -6 – 12 = -18 \, \text{kg} \cdot \text{m/s}\)。
両者が一致しており、運動量保存則が確かに成り立っていることが確認できます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動量保存則:
- 核心: この問題の根幹は、衝突や分裂といった、複数の物体が短時間に内力を及ぼし合う現象において、系全体の「運動量」の総和が保存されるという、極めて重要な物理法則を理解し適用することにあります。
- 理解のポイント:
- 適用条件: 運動量保存則が成り立つのは、「系に外力が働かない、または外力の合力が0である」場合です。この問題では、水平面が滑らかなので水平方向の外力は\(0\)、鉛直方向の外力(重力と垂直抗力)はつりあっているため、全方向で運動量が保存されます(ただし運動は水平方向のみ)。
- 内力と外力: 衝突時にPとQが互いに及ぼし合う力は、PとQを一つの「系」として見れば「内力」です。作用・反作用の法則により、内力は系全体の運動量を変化させません。運動量保存則は、この内力の詳細を問うことなく、衝突前後の状態を直接結びつける強力なツールです。
- エネルギーとの違い: 衝突現象では、多くの場合、力学的エネルギーは保存されません(熱や音に変わるため)。しかし、運動量は(外力がなければ)常に保存されます。この違いを明確に理解することが重要です。
- 運動量のベクトル性:
- 核心: 運動量は、大きさと向きを持つ「ベクトル量」です。したがって、運動量保存則はベクトルの和に関する等式であり、向きを正しく扱うことが計算の正否を分けます。
- 理解のポイント:
- 座標軸の設定: 一直線上の運動であっても、必ずどちらかの向きを「正」とする座標軸を設定します。
- 符号による向きの表現: 正の向きと同じ向きの速度は正の値、逆の向きの速度は負の値として扱います。
- 計算結果の解釈: 計算の結果、未知の速度が負の値として求まった場合、それは「正とは逆の向き」に進んだことを意味します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 分裂: 静止していた物体が、内部の力(爆発など)によって複数の破片に分裂する場合。分裂前の運動量は\(0\)なので、分裂後の各破片の運動量のベクトル和も\(0\)になります。
- 合体: \(2\)つの物体が衝突して、一体となって運動する場合。衝突後の質量が \(m_1+m_2\) となることに注意して、運動量保存則を立てます。
- \(2\)次元衝突: \(2\)つの物体が平面上で斜めに衝突する場合。この場合は、運動量をx成分とy成分に分解し、「x方向の運動量保存則」と「y方向の運動量保存則」の\(2\)つの式を立てて連立させます。
- 反発係数が関わる問題: 衝突後の速度が複数未知である場合など、運動量保存則だけでは解けない問題では、「反発係数(はねかえり係数)の式」をもう一つの式として連立させます。
- 初見の問題での着眼点:
- 「衝突」「分裂」「合体」というキーワードを探す: これらの言葉があれば、運動量保存則が適用できる可能性が非常に高いです。
- 外力の有無を確認する: 系全体に外力が働いていないか、あるいは無視できるほど小さいかを確認します。滑らかな水平面上での運動は、運動量保存則が使える典型的な状況です。
- 座標軸を設定し、向きを定義する: 計算を始める前に、必ず正の向きを定めます。
- 衝突前後の状態を整理する: 各物体の質量、衝突前の速度(符号付き)、衝突後の速度(符号付き、未知数は文字)を表にまとめると、立式しやすくなります。
- 運動量保存則を立式する: 「(前の運動量の総和)=(後の運動量の総和)」の形で、各項を符号に注意しながら書き下します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 速度の符号を間違える:
- 誤解: 左向きの速度を、正の値のまま式に代入してしまう。
- 対策: これは最も多い初歩的なミスです。座標軸を設定したら、機械的に「正の向きならプラス、逆向きならマイナス」と符号を付けることを徹底しましょう。特に、引き算(例: \(-30\))と負の数(例: \(-3\))の区別を明確に意識することが重要です。
- 運動量と運動エネルギーを混同する:
- 誤解: 運動量の代わりに運動エネルギーで保存則の式を立ててしまう、あるいはその逆。
- 対策: それぞれの定義を正確に覚えましょう。
- 運動量: \(p=mv\) (速度に比例)
- 運動エネルギー: \(K=\frac{1}{2}mv^2\) (速度の\(2\)乗に比例)
一般に、衝突では運動量は保存されますが、力学的エネルギーは保存されません(非弾性衝突の場合)。
- 計算結果の符号の解釈ミス:
- 誤解: \(v=-1.2\) と出たときに、速さがマイナスになるのはおかしいと考えたり、答えを \(1.2\) とだけ書いて向きを答え忘れたりする。
- 対策: 計算で出てきた符号は、最初に自分で設定した「正の向き」に対する方向を示しています。マイナスは「逆向き」を意味する、と明確に理解しましょう。最終的な答えは、「左向きに \(1.2 \, \text{m/s}\)」のように、大きさと向きの両方を記述するのが最も丁寧です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 運動量保存則:
- 選定理由: この問題は、\(2\)つの物体が衝突するという、内力が主役となる現象を扱っています。衝突時に働く内力は非常に複雑で、その詳細を追うのは困難です。しかし、運動量保存則は、この複雑な内力の詳細に立ち入ることなく、衝突の「前」と「後」の状態を直接結びつけることができるため、このような問題に対して最も強力かつ適切な法則となります。
- 適用根拠: 運動量保存則は、ニュートンの運動の第三法則(作用・反作用の法則)から導かれます。衝突中にPがQから受ける力積を\(\vec{I}\)、QがPから受ける力積を\(\vec{I}’\)とすると、作用・反作用の法則から \(\vec{I} = -\vec{I}’\) が成り立ちます。力積と運動量の関係から、Pの運動量変化は \(\Delta\vec{p}_P = \vec{I}\)、Qの運動量変化は \(\Delta\vec{p}_Q = \vec{I}’\) です。したがって、系全体の運動量変化は \(\Delta\vec{p}_P + \Delta\vec{p}_Q = \vec{I} + \vec{I}’ = \vec{0}\) となり、全体の運動量は変化しない(保存される)ことが証明されます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 立式前の情報整理: 問題文の数値を、以下のように符号と単位を付けて書き出すと、代入ミスを防げます。
- \(m_P = 2 \, \text{kg}\), \(m_Q = 10 \, \text{kg}\)
- \(v_P = +6 \, \text{m/s}\), \(v_Q = -3 \, \text{m/s}\)
- \(v_P’ = -3 \, \text{m/s}\), \(v_Q’ = v\)
- 計算は一行ずつ丁寧に: \(2 \times 6 + 10 \times (-3) = 12 – 30 = -18\) のように、焦らずに各項の計算を一つずつ実行しましょう。
- 移項の際の符号ミスに注意: \(-18 = -6 + 10v\) から \(10v = -18 + 6\) への移項など、基本的な方程式の変形でミスをしないように、慎重に計算を進めましょう。
- 最終確認: 求まった \(v=-1.2\) を、保存則の右辺に代入して検算してみましょう。
\(2 \times (-3) + 10 \times (-1.2) = -6 – 12 = -18\)。
左辺の \(-18\) と一致するので、計算は正しいと確信できます。
72 運動量保存則
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法(運動量保存則と、エネルギーの差分計算)を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 失われた力学的エネルギーを求める問題の別解: 相対運動のエネルギーで計算する解法
- 模範解答が、衝突前後の力学的エネルギーをそれぞれ計算し、その差を求めるのに対し、別解ではより進んだ概念である「失われるエネルギーは、衝突前の相対運動のエネルギーに等しい」という公式を用いて、より簡潔に計算します。
- 失われた力学的エネルギーを求める問題の別解: 相対運動のエネルギーで計算する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 衝突によって失われるエネルギーの本質が、物体同士の相対運動に関係しているという、より深い物理的洞察を得ることができます。
- 解法の効率化: この公式を知っていると、特に複雑な衝突問題において、計算量を大幅に削減できる強力なツールとなります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「完全非弾性衝突における運動量保存則とエネルギー損失」です。弾丸が木片に突き刺さって一体となるような、最も反発しない衝突(完全非弾性衝突)を扱います。この種の衝突では、運動量は保存されますが、力学的エネルギーは保存されません。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動量保存則: 衝突の前後で、系全体の運動量の総和は一定に保たれる。
- 完全非弾性衝突: 衝突後、物体が一体となって運動する衝突のこと。反発係数が \(e=0\) の場合に相当する。
- 力学的エネルギーの損失: 完全非弾性衝突では、力学的エネルギーの一部が熱や音、物体の変形エネルギーなどに変換され、力学的エネルギーは保存されない。
- エネルギーの計算: 失われた力学的エネルギーは、衝突前の力学的エネルギーの総和から、衝突後の力学的エネルギーの総和を引くことで計算できる。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、弾丸と木片を一つの系とみなし、衝突の前後で運動量保存則を立てて、一体となった後の速さ\(v\)を求めます。
- 次に、衝突前の系全体の力学的エネルギー(弾丸の運動エネルギーのみ)を計算します。
- 衝突後の系全体の力学的エネルギー(一体となった物体の運動エネルギー)を計算します。
- 「(失われたエネルギー)=(前のエネルギー)-(後のエネルギー)」を計算します。
問(木片の速さ \(v\))
思考の道筋とポイント
弾丸が木片に突き刺さる現象は、衝突の一種です。滑らかな水平面上なので、水平方向には外力が働かないため、弾丸と木片を合わせた系の運動量は保存されます。
衝突後、弾丸と木片は「一体」となって運動するため、質量が \((m+M)\) の一つの物体になったと考えることができます。この考え方で運動量保存則を立式します。
この設問における重要なポイント
- 衝突の前後で、弾丸と木片を合わせた系の運動量は保存される。
- 衝突前: 運動量を持つのは弾丸のみ。
- 衝突後: 弾丸と木片が一体となり、質量 \((m+M)\) の物体として速さ\(v\)で運動する。
具体的な解説と立式
弾丸の進行方向を正とします。
- 衝突前の弾丸の運動量: \(mv_0\)
- 衝突前の木片の運動量: \(M \times 0 = 0\)
- 衝突前の運動量の総和: \(mv_0 + 0 = mv_0\)
- 衝突後の「弾丸+木片」の運動量: \((m+M)v\)
運動量保存則より、「(衝突前の運動量の総和)=(衝突後の運動量の総和)」なので、
$$ mv_0 = (m+M)v $$
使用した物理公式
- 運動量保存則: \(p_{\text{前}} = p_{\text{後}}\)
上記で立式した運動量保存則の式を、速さ\(v\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
v &= \frac{m}{m+M}v_0
\end{aligned}
$$
速い弾丸が、止まっている重い木片に突き刺さって、一緒に動き出す場面です。このような合体現象では、「運動の勢い(運動量)」の合計は、ぶつかる前と後で変わりません。
- ぶつかる前: 勢いを持っているのは弾丸だけ。その勢いは \(mv_0\)。
- ぶつかった後: 弾丸と木片が合体して、重さが \((m+M)\) になった物体が、新しい速さ\(v\)で動きます。その勢いは \((m+M)v\)。
この前後の勢いが等しい、という式を立てることで、合体後の速さ\(v\)を計算できます。
木片の速さ\(v\)は \(\displaystyle\frac{m}{m+M}v_0\) となります。衝突後は質量が大きくなるため、速さは衝突前の弾丸の速さ\(v_0\)よりも小さくなっており、物理的に妥当な結果です。
問(系から失われた力学的エネルギー \(E\))
思考の道筋とポイント
衝突によって失われた力学的エネルギーは、衝突前の全エネルギーから衝突後の全エネルギーを引くことで求められます。この問題では、水平面上での運動なので、位置エネルギーは変化しません。したがって、運動エネルギーの変化だけを考えればよいことになります。
この設問における重要なポイント
- 失われたエネルギー \(E = E_{\text{前}} – E_{\text{後}}\)。
- 位置エネルギーは変化しないので、\(E = K_{\text{前}} – K_{\text{後}}\)。
- 衝突前の運動エネルギーは、弾丸が持つ \(\frac{1}{2}mv_0^2\) のみ。
- 衝突後の運動エネルギーは、一体となった物体が持つ \(\frac{1}{2}(m+M)v^2\)。
具体的な解説と立式
失われた力学的エネルギー\(E\)は、
$$ E = (\text{衝突前の全エネルギー}) – (\text{衝突後の全エネルギー}) $$
水平面上なので、位置エネルギーは考えなくてよく、
$$ E = (\text{衝突前の運動エネルギー}) – (\text{衝突後の運動エネルギー}) $$
- 衝突前の運動エネルギー: \(K_{\text{前}} = \displaystyle\frac{1}{2}mv_0^2 + 0 = \frac{1}{2}mv_0^2\)
- 衝突後の運動エネルギー: \(K_{\text{後}} = \displaystyle\frac{1}{2}(m+M)v^2\)
したがって、
$$ E = \frac{1}{2}mv_0^2 – \frac{1}{2}(m+M)v^2 $$
使用した物理公式
- エネルギーの損失: \(E = E_{\text{前}} – E_{\text{後}}\)
- 運動エネルギー: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
上記で立式した式に、前半で求めた \(v = \displaystyle\frac{m}{m+M}v_0\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
E &= \frac{1}{2}mv_0^2 – \frac{1}{2}(m+M)\left(\frac{m}{m+M}v_0\right)^2 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}mv_0^2 – \frac{1}{2}(m+M)\frac{m^2}{(m+M)^2}v_0^2 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}mv_0^2 – \frac{1}{2}\frac{m^2}{m+M}v_0^2 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}mv_0^2 \left( 1 – \frac{m}{m+M} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}mv_0^2 \left( \frac{(m+M)-m}{m+M} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}mv_0^2 \left( \frac{M}{m+M} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{mM}{2(m+M)}v_0^2
\end{aligned}
$$
弾丸が木片に突き刺さるとき、「グシャッ」という音や熱が発生し、木が変形します。これらのために、エネルギーが使われてしまいます。この「失われたエネルギー」の量を計算します。
手順としては、単純に「ぶつかる前のエネルギー」と「ぶつかった後のエネルギー」をそれぞれ計算し、その差額を求めるだけです。
- 前のエネルギー: 弾丸の運動エネルギー
- 後のエネルギー: 合体した物体の運動エネルギー
この引き算をすることで、衝突の際にどれだけのエネルギーが熱や音などに変わってしまったかがわかります。
失われた力学的エネルギー\(E\)は \(\displaystyle\frac{mM}{2(m+M)}v_0^2\) となります。
この量は必ず正の値になるため、力学的エネルギーは必ず失われることがわかります。これは、物体が変形したり熱が発生したりする非弾性衝突の性質と一致しており、妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
2物体が衝突して一体となる場合(完全非弾性衝突)、失われる力学的エネルギーは、衝突前の「相対運動のエネルギー」に等しい、という便利な公式があります。この公式を用いると、衝突後の速さ\(v\)を計算することなく、直接失われたエネルギーを求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 失われるエネルギー \(E = \frac{1}{2}\mu v_{\text{相対}}^2\)。
- ここで、\(\mu = \frac{m_1 m_2}{m_1+m_2}\) は換算質量、\(v_{\text{相対}}\) は衝突前の相対速度。
具体的な解説と立式
衝突で失われるエネルギー\(E\)は、換算質量\(\mu\)と衝突前の相対速度\(v_{\text{相対}}\)を用いて、
$$ E = \frac{1}{2}\mu v_{\text{相対}}^2 $$
と表せます。
- 換算質量: \(\mu = \displaystyle\frac{mM}{m+M}\)
- 衝突前の相対速度: 木片は静止しているので、相対速度の大きさは弾丸の速さそのもの。\(v_{\text{相対}} = v_0 – 0 = v_0\)。
これらの値を公式に代入します。
$$ E = \frac{1}{2} \left( \frac{mM}{m+M} \right) v_0^2 $$
使用した物理公式
- 衝突で失われるエネルギー: \(E = \frac{1}{2}\mu v_{\text{相対}}^2\)
上記の立式だけで計算は完了しています。
$$
\begin{aligned}
E &= \frac{mM}{2(m+M)}v_0^2
\end{aligned}
$$
物理学には、衝突でどれだけエネルギーが失われるかを一発で計算できる裏技のような公式があります。この公式は、2つの物体の「相対的な動き」のエネルギーだけが、熱や音に変わるエネルギーの源になる、という考え方に基づいています。この便利な公式を使うと、衝突後の速さを計算する手間を省いて、直接答えを出すことができます。
主たる解法と完全に同じ結果が得られました。この方法は、衝突後の速さ\(v\)を代入して複雑な計算をする手間が省けるため、非常に効率的です。換算質量という概念は高校範囲を超えるかもしれませんが、この公式は知っていると検算などで役立ちます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 衝突における2つの保存則(運動量とエネルギー)の使い分け:
- 核心: この問題の根幹は、衝突現象において、「運動量保存則」は成り立つが、「力学的エネルギー保存則」は成り立たない(非弾性衝突の場合)という、2つの法則の適用条件の違いを明確に理解することにあります。
- 理解のポイント:
- 運動量保存則(成り立つ): 衝突時に働く内力は作用・反作用の法則に従うため、系に外力が働かなければ、運動量は常に保存されます。これは、弾性衝突でも非弾性衝突でも同様です。
- 力学的エネルギー保存則(成り立たない): 「突き刺さった」という記述は、物体が変形し、熱や音が発生したことを意味します。これは、運動エネルギーの一部が他の形態のエネルギーに変換されたことを示しており、力学的エネルギーは保存されません。このような衝突を「非弾性衝突」、特に一体となる場合を「完全非弾性衝突」と呼びます。
- 解法の流れ: したがって、まず成り立つ方の法則(運動量保存則)を使って衝突後の速さ\(v\)を求め、その結果を使って、成り立たない方の法則(エネルギー)がどれだけ変化したか(失われたか)を計算する、という手順になります。
- 失われたエネルギーの計算:
- 核心: 「失われたエネルギー」は、単純に「衝突前のエネルギーから衝突後のエネルギーを引く」ことで定義されます。
- 理解のポイント:
- 定義式: \(E_{\text{損失}} = E_{\text{前}} – E_{\text{後}}\)。
- エネルギーの内訳: この問題では水平運動なので、位置エネルギーは変化しません。したがって、\(E_{\text{損失}} = K_{\text{前}} – K_{\text{後}}\) となります。
- 必ず正の値: 非弾性衝突ではエネルギーは必ず失われる方向(熱に変わるなど)に変化するため、この計算結果は必ず正の値になります。もし負になった場合は、計算ミスの可能性があります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- バリスティック振り子(弾道振り子): 静止した木片に弾丸を撃ち込み、一体となって振り上がる高さを求める問題。
- 衝突の瞬間: 運動量保存則を適用して、衝突直後の速さを求める。
- 振り上げ運動: 衝突後は、力学的エネルギー保存則を適用して、最高到達点の高さを求める。
このように、異なる物理法則を段階的に適用する複合問題の典型例です。
- 反発係数\(e\)が与えられた非弾性衝突: 衝突後に一体とはならないが、\(e<1\)である非弾性衝突。この場合も、運動量保存則と反発係数の式を連立させて衝突後の速度を求め、その後でエネルギー損失を計算します。
- 重心運動: 衝突の前後で、外力が働かなければ、系全体の「重心」の速度は変化しません。失われたエネルギーは、重心から見た各物体の相対的な運動のエネルギーが失われたもの、と解釈することもできます(別解の考え方)。
- バリスティック振り子(弾道振り子): 静止した木片に弾丸を撃ち込み、一体となって振り上がる高さを求める問題。
- 初見の問題での着眼点:
- 衝突の種類を判断する:
- 「弾性衝突」「完全弾性」\(\rightarrow\) 運動量も力学的エネルギーも保存。
- 「非弾性衝突」「一体となった」「突き刺さった」\(\rightarrow\) 運動量は保存、力学的エネルギーは保存されない。
- 運動量保存則を最優先で立式する: 衝突問題では、まず間違いなく成り立つ運動量保存則から手をつけるのが定石です。
- エネルギーの計算はその後: 運動量保存則で衝突後の速度などを求めてから、エネルギーに関する問いに答えます。
- 何を問われているか明確にする: 「衝突後の速さ」なのか、「失われたエネルギー」なのか、「反発係数」なのか、問われている物理量を正確に把握します。
- 衝突の種類を判断する:
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 運動量保存則とエネルギー保存則を混同する:
- 誤解: 突き刺さるような非弾性衝突で、力学的エネルギー保存則(\(\frac{1}{2}mv_0^2 = \frac{1}{2}(m+M)v^2\))を立ててしまう。
- 対策: 「衝突=エネルギーが失われる可能性がある」と常に意識しましょう。特に「合体」「突き刺さる」は、力学的エネルギーが保存されない典型的なサインです。衝突問題では、まず運動量保存則を使う、という手順を徹底することが、この種のミスを防ぐ最善策です。
- 失われたエネルギーの計算で符号を間違える:
- 誤解: 「後のエネルギー – 前のエネルギー」を計算してしまい、答えが負になって混乱する。
- 対策: 「失われたエネルギー」は、その言葉通り、どれだけ減ったかという「量(正の値)」を問われています。したがって、必ず「大きい方(前)から小さい方(後)を引く」と覚えましょう。\(E_{\text{損失}} = E_{\text{前}} – E_{\text{後}}\)。
- 衝突後の質量を間違える:
- 誤解: 衝突後の運動量や運動エネルギーを計算する際に、質量を\(m\)や\(M\)のままにしてしまう。
- 対策: 「一体となった」のだから、衝突後は質量が\((m+M)\)の新しい一つの物体が生まれた、と明確にイメージを切り替えましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 運動量保存則:
- 選定理由: 衝突現象を扱う上で、最も基本的で、かつ広範囲に適用できる法則だからです。衝突時に働く内力の詳細が不明であっても、衝突前後の状態を結びつけることができます。この問題では、衝突後の速さ\(v\)という未知数を決定するために、この法則の適用が不可欠です。
- 適用根拠: 作用・反作用の法則により、系に働く内力の合計(ベクトル和)は常に0です。運動方程式を系全体で考えると、系全体の運動量の時間変化は外力の総和に等しくなります。滑らかな水平面上では水平方向の外力が0なので、水平方向の運動量は保存されます。
- エネルギーの差分計算:
- 選定理由: 「失われたエネルギー」を求めるには、その定義に立ち返り、衝突前のエネルギーと衝突後のエネルギーを比較する(引き算する)のが最も直接的で論理的な方法です。
- 適用根拠: エネルギー保存則は、熱や音なども含めた全てのエネルギーの総和が不変であるという法則です。力学的エネルギーが失われた場合、その差額が他の形態のエネルギー(この問題では主に熱エネルギーや変形エネルギー)に変換されたと考えられます。\(E_{\text{損失}} = E_{\text{力学,前}} – E_{\text{力学,後}}\) は、このエネルギー変換の量を計算していることに相当します。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 代入は最後に行う: まず、運動量保存則から \(v = \frac{m}{m+M}v_0\) という関係式を文字のまま導出します。次に、エネルギー損失の式 \(E = \frac{1}{2}mv_0^2 – \frac{1}{2}(m+M)v^2\) を立て、そこに先ほど求めた\(v\)の式を代入します。このように、数値ではなく文字式のまま計算を進めることで、計算の見通しが良くなり、ミスが減ります。
- 共通因数でくくる: 模範解答のように、\(\frac{1}{2}mv_0^2\) という共通因数でくくりだすことで、\((1 – \frac{m}{m+M})\) という分数の計算に集中でき、式全体がシンプルになります。
- 単位の確認: 最終的なエネルギーの答えの単位がジュールになっているかを確認しましょう。 \(\frac{mM}{m+M}\) は質量の次元を持ち、\(v_0^2\) は速度の2乗の次元なので、全体として \([\text{質量}] \times [\text{速度}]^2\) の次元となり、確かにエネルギーの次元と一致しています。
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73 運動量保存則
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法(運動量保存則を用いる)を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 別解: 運動方程式と等加速度直線運動の公式を用いる解法
- 模範解答が、運動の始状態と終状態を直接結びつける運動量保存則を用いるのに対し、別解では物体と板の間の摩擦力に着目し、それぞれの運動方程式を立てて加速度を求め、両者の速度が等しくなるまでの時間と最終的な速度を計算します。
- 別解: 運動方程式と等加速度直線運動の公式を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: なぜ最終的に物体と板が一体となるのか、その過程(物体は減速し、板は加速する)を、力と加速度の観点から具体的に追跡することができます。運動量保存則が、この複雑な途中経過をすべて含んだ結果を与えていることへの理解が深まります。
- 思考の網羅性: 運動量保存則が使えない状況(例えば、板が外部から一定の力で引かれている場合など)にも対応できる、より基本的な問題解決能力が養われます。
- 結果への影響
- 計算過程は複雑になりますが、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「摩擦力を内力とする系の運動量保存則」です。2つの物体が摩擦力を及ぼし合いながら運動し、やがて一体となる(相対速度が0になる)現象を扱います。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動量保存則: 複数の物体からなる系に外力が働かない(または、外力の合力が0である)場合、系全体の運動量の総和は一定に保たれる。
- 内力としての摩擦力: 物体と板の間で働く摩擦力は、物体と板を一つの「系」として考えた場合、互いに力を及ぼし合う「内力」である。内力は、系全体の運動量を変化させない。
- 一体となる条件: 「板に対して止まった」とは、物体と板が同じ速度になったことを意味する。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 物体と板を一つの系とみなします。
- 運動の始状態(物体が板に飛び乗る直前)と終状態(物体が板に対して止まった後)を考えます。
- この系の水平方向には外力が働かないため、運動量保存則が成り立ちます。
- 「(始状態の運動量の総和)=(終状態の運動量の総和)」という式を立て、最後の全体の速さ\(v\)を求めます。