「物理のエッセンス(力学・波動)」徹底解説(力学6〜10問):物理の”土台”を固める!完全マスター講座

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力学範囲 6~10

6 水平投射

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法(運動を水平・鉛直に分解し、時間を介して解く)を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 別解: 軌跡の式を用いる解法
      • 模範解答が運動を時間追跡して解くのに対し、別解では時間 \(t\) を消去して得られる軌跡の式(空間座標の関係式)から直接、水平距離を求めます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 運動の時間的な経過を追うのではなく、物体が描く空間的な経路(軌跡)そのものに着目するという、異なる視点を提供します。
    • 思考の柔軟性向上: 時間を媒介変数として扱う考え方や、それを消去して直接的な関係式を導く数学的な手法が、物理現象の解析にどのように役立つかを学ぶことができます。
    • 応用力の養成: 軌跡の式そのものを問う問題や、特定の座標を通過する条件を問うような応用問題への対応力が養われます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「水平投射の基本原理の理解」です。一見複雑に見える放物運動を、「水平方向」と「鉛直方向」の2つの単純な運動に分解して考えることができるか、という点が問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 運動の分解: 水平投射を、互いに影響を及ぼさない「水平方向の運動」と「鉛直方向の運動」の組み合わせとして捉えること。
  2. 水平方向の運動: 水平方向には力が働かない(空気抵抗は無視)ため、初速度 \(v_0\) のまま進み続ける「等速直線運動」であること。
  3. 鉛直方向の運動: 鉛直方向には重力のみが働くため、初速度 \(0\) の「自由落下運動」であること。
  4. 時間の共通性: 物体が地面に落下するまでの時間 \(t\) は、水平方向の運動にとっても鉛直方向の運動にとっても共通であること。この共通の \(t\) が2つの運動を結びつける鍵となります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、鉛直方向の運動(自由落下)に着目し、高さ \(H\) を落下するのにかかる時間 \(t\) を求めます。
  2. 次に、水平方向の運動(等速直線運動)に着目し、上で求めた時間 \(t\) の間に、初速度 \(v_0\) で進む水平距離 \(x\) を計算します。

思考の道筋とポイント
水平投射は、2つの単純な運動の合成として考えるのが基本です。

  1. 鉛直方向: 物体は真下に落ちていくだけです。これは、同じ高さから物体を静かに手放した「自由落下」と全く同じ運動になります。この運動から、地面に到達するまでの時間 \(t\) が決まります。
  2. 水平方向: 物体は横向きに力を受けないため、最初に与えられた水平方向の速さ \(v_0\) のまま、まっすぐ進み続けます。

したがって、まず鉛直方向の運動から落下時間 \(t\) を求め、その時間 \(t\) の間に水平方向にどれだけ進んだかを計算する、という2段階のプロセスで解を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 運動を水平方向と鉛直方向に分解して考える。
  • 水平方向: 等速直線運動 (\(x = v_0t\))
  • 鉛直方向: 自由落下運動 (\(y = \frac{1}{2}gt^2\))
  • 両方の運動は、落下時間 \(t\) を共有して同時に起こる。

具体的な解説と立式
投げ出した点を原点とし、水平右向きにx軸、鉛直下向きにy軸をとります。

  • 鉛直方向の運動:
    初速度 \(0\)、加速度 \(g\) の等加速度直線運動(自由落下)です。
    高さ \(H\) だけ落下して地面に到達するので、変位の公式 \(y = v_{0y}t + \frac{1}{2}at^2\) に、\(y=H\), \(v_{0y}=0\), \(a=g\) を代入して、落下時間 \(t\) を求めます。
    $$
    \begin{aligned}
    H &= 0 \cdot t + \frac{1}{2}gt^2
    \end{aligned}
    $$
  • 水平方向の運動:
    初速度 \(v_0\)、加速度 \(0\) の等速直線運動です。
    時間 \(t\) の間に進む距離 \(x\) を、公式 \(x = v_xt\) を用いて表します。
    $$
    \begin{aligned}
    x &= v_0t
    \end{aligned}
    $$

鉛直方向の運動から求めた \(t\) を、この式に代入することで \(x\) が求まります。

使用した物理公式

  • 等速直線運動: \(x = vt\)
  • 等加速度直線運動(自由落下): \(y = \frac{1}{2}gt^2\)
計算過程

まず、鉛直方向の運動から落下時間 \(t\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
H &= \frac{1}{2}gt^2 \\[2.0ex]
t^2 &= \frac{2H}{g}
\end{aligned}
$$
\(t>0\) より、
$$
\begin{aligned}
t &= \sqrt{\frac{2H}{g}}
\end{aligned}
$$
次に、この \(t\) を用いて水平距離 \(x\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
x &= v_0t \\[2.0ex]
&= v_0\sqrt{\frac{2H}{g}}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

水平に投げた物体の運動は、「横にまっすぐ進む運動」と「真下に落ちる運動」の合体技と考えることができます。
面白いことに、「真下に落ちる運動」は、同じ場所でボールをただポトリと落とした場合と全く同じです。つまり、地面に落ちるまでの時間は、ビルの高さ \(H\) だけで決まります。
まず、この「落ちる時間」を計算します。
次に、その時間の間、物体は横方向に速さ \(v_0\) でずっと進み続けているので、「横に進んだ距離 = 速さ × 落ちる時間」という単純な計算で答えが求まります。

結論と吟味

水平距離 \(x\) は \(v_0\sqrt{\frac{2H}{g}}\) と表せます。
この式は、初速 \(v_0\) が大きいほど、またビルの高さ \(H\) が高い(滞空時間が長い)ほど遠くに飛ぶことを示しており、私たちの日常的な感覚と一致します。また、重力加速度 \(g\) が大きい(重力が強い)星では、すぐに落ちてしまうので飛距離が短くなることも示しており、物理的に妥当な結果です。

解答 \(v_0\sqrt{\frac{2H}{g}}\)
別解: 軌跡の式を用いる解法

思考の道筋とポイント
運動を時間で追跡するのではなく、物体の描く軌道(放物線)そのものの方程式を立てて解くアプローチです。時刻 \(t\) を媒介変数として水平位置 \(x\) と鉛直位置 \(y\) をそれぞれ表し、これらから \(t\) を消去することで \(x\) と \(y\) の直接的な関係式(軌跡の式)を導きます。そして、地面に落下した点(\(y=H\))がこの軌跡上にあることを利用して、水平距離 \(x\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 時刻 \(t\) での位置を \(x(t) = v_0t\), \(y(t) = \frac{1}{2}gt^2\) と表す。
  • これらから \(t\) を消去して、軌跡の式 \(y = f(x)\) を導出する。
  • 地面に落下した点は、軌跡上の点であり、かつ \(y=H\) を満たす点である。

具体的な解説と立式
投げ出した点を原点とし、水平右向きにx軸、鉛直下向きにy軸をとります。

  • 時刻 \(t\) における位置:
    水平方向の位置は、等速直線運動なので、
    $$
    \begin{aligned}
    x &= v_0t \quad \cdots ①
    \end{aligned}
    $$
    鉛直方向の位置は、自由落下運動なので、
    $$
    \begin{aligned}
    y &= \frac{1}{2}gt^2 \quad \cdots ②
    \end{aligned}
    $$
  • 軌跡の式の導出:
    式①を \(t\) について解きます。
    $$
    \begin{aligned}
    t &= \frac{x}{v_0}
    \end{aligned}
    $$
    これを式②に代入して、\(t\) を消去します。
    $$
    \begin{aligned}
    y &= \frac{1}{2}g\left(\frac{x}{v_0}\right)^2
    \end{aligned}
    $$
  • 水平距離の計算:
    地面に落下したとき、鉛直方向の変位は \(y=H\) です。このときの水平距離が求める \(x\) なので、導出した軌跡の式に \(y=H\) を代入します。
    $$
    \begin{aligned}
    H &= \frac{g}{2v_0^2}x^2
    \end{aligned}
    $$
    この方程式を \(x\) について解きます。

使用した物理公式

  • 等速直線運動: \(x = v_0t\)
  • 自由落下運動: \(y = \frac{1}{2}gt^2\)
計算過程

軌跡の式 \(y = \frac{1}{2}g\left(\frac{x}{v_0}\right)^2\) を整理します。
$$
\begin{aligned}
y &= \frac{g}{2v_0^2}x^2
\end{aligned}
$$
この式に \(y=H\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
H &= \frac{g}{2v_0^2}x^2
\end{aligned}
$$
これを \(x^2\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
x^2 &= \frac{2v_0^2 H}{g}
\end{aligned}
$$
\(x>0\) より、両辺の正の平方根をとります。
$$
\begin{aligned}
x &= \sqrt{\frac{2v_0^2 H}{g}} \\[2.0ex]
&= v_0\sqrt{\frac{2H}{g}}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

この解き方では、まず「この物体がどんなカーブを描いて飛んでいくか」を数式で表します。このカーブの式は、数学で習う放物線(二次関数)になります。
次に、「地面」というのは、スタート地点から見て「真下に \(H\) メートル」の高さの場所です。
そこで、「物体の描くカーブが、高さ \(H\) の地点を通過するのは、横方向に何メートル進んだときか?」という問題を解けば、答えが求まります。この方法では、時間を直接計算する必要がありません。

結論と吟味

主たる解法と全く同じ結果が得られました。この方法は、運動の時間的な経過を一つ一つ追うのではなく、空間的な経路そのものに注目するアプローチであり、物理現象を別の視点から見ることができます。軌跡の式を問われる問題など、応用範囲の広い考え方です。

解答 \(v_0\sqrt{\frac{2H}{g}}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 運動の分解(放物運動の基本原理):
    • 核心: この問題の根幹は、2次元の複雑な運動に見える水平投射を、互いに独立した「水平方向の等速直線運動」と「鉛直方向の自由落下運動」という、2つの単純な1次元運動に分解して考えることができる、という物理学の基本原理を理解しているかどうかにあります。
    • 理解のポイント:
      • 水平方向: 横向きには何の力も働かないため、速さは \(v_0\) のままで変わらない。(\(a_x=0\))
      • 鉛直方向: 下向きには重力だけが働くため、初速度0で一定の加速度 \(g\) で落下していく。(\(a_y=g\))
      • 独立性: 水平方向の速さがどれだけ大きくても、地面に落ちるまでの時間には影響しません。逆に、鉛直方向にどれだけ落ちても、水平方向の速さには影響しません。
  • 時間の共通性:
    • 核心: 分解された2つの運動は、独立している一方で、「時間 \(t\)」という共通のパラメータによって結びつけられています。物体が空中にある時間は、水平方向にとっても鉛直方向にとっても同じです。
    • 理解のポイント:
      • 鉛直運動で時間を決定: 地面に落ちるまでの時間は、鉛直方向の運動(高さ \(H\) の自由落下)だけで決まります。
      • 水平運動で距離を計算: 上で決まった時間を使って、その間に水平方向にどれだけ進んだかを計算します。この「時間を介して2つの運動をつなぐ」という考え方が、放物運動を解く上での定石となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 斜方投射: 初速が斜め上向きになっただけで、運動を水平・鉛直に分解するという基本原理は全く同じです。鉛直方向が「自由落下」から「鉛直投げ上げ」に変わるだけです。
    • 動く物体からの投射: 例えば、一定速度で飛ぶ飛行機から物資を投下する問題。物資は飛行機と同じ水平速度を持って飛び出すため、これも水平投射の問題として扱えます。
    • 電場・磁場中の荷電粒子の運動: 一様な電場中で、電場と垂直に荷電粒子を打ち込むと、粒子は放物運動をします。重力が静電気力に置き換わっただけで、解析方法は水平投射と全く同じです。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 運動の分解を宣言する: 問題を解き始める際に、まず「運動を水平方向と鉛直方向に分けて考える」と自分の中で宣言します。
    2. 座標軸を設定する: 投げ出した点を原点とし、水平方向と鉛直方向にそれぞれx軸、y軸を設定します。どちらの向きを正とするかを明確に決めることが重要です(通常は、初速度の向きや落下方向を正とすると計算が楽になります)。
    3. 各方向の運動の種類を特定する: 水平方向は「等速直線運動」、鉛直方向は「自由落下」や「鉛直投げ上げ」など、運動の種類を特定し、使用する公式を確定させます。
    4. 時間 \(t\) を求めることを最優先: まず、どちらかの方向の運動に着目して、滞空時間 \(t\) を求めることを目標にします。多くの場合、鉛直方向の運動から \(t\) が求まります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 水平方向の運動を等加速度運動と勘違いする:
    • 誤解: 鉛直方向の重力加速度 \(g\) につられて、水平方向の運動にも加速度があるかのように考えてしまい、\(x = v_0t + \frac{1}{2}gt^2\) のような誤った式を立ててしまう。
    • 対策: 「力なくして加速度なし」という運動の法則の基本を思い出します。水平方向には力が働かないので、加速度は絶対に \(0\) です。したがって、水平方向は常に「距離=速さ×時間」という最も単純な関係式しか成り立ちません。
  • 初速度 \(v_0\) を鉛直方向の運動に混ぜてしまう:
    • 誤解: 鉛直方向の落下時間を計算する際に、初速度 \(v_0\) を使ってしまい、\(H = v_0t + \frac{1}{2}gt^2\) のような誤った式を立ててしまう。
    • 対策: \(v_0\) はあくまで「水平方向」の初速度であり、鉛直方向の初速度は \(0\) であることを明確に区別します。運動を分解したら、各方向の物理量は完全に別物として扱うことを徹底しましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 鉛直方向の落下時間に \(H = \frac{1}{2}gt^2\) を選択:
    • 選定理由: 鉛直方向の運動は、初速度 \(0\) の自由落下です。高さ \(H\) を落下する時間を知りたいので、変位(高さ)、加速度、時間の関係式である \(y = v_{0y}t + \frac{1}{2}at^2\) が最適です。\(v_{0y}=0\) なので、この式が最もシンプルな形になります。
    • 適用根拠: この公式は、等加速度直線運動の定義から導かれる普遍的な関係式です。鉛直方向の運動をこのモデルに当てはめることで、落下時間を正確に計算できます。
  • 水平方向の距離に \(x = v_0t\) を選択:
    • 選定理由: 水平方向の運動は、力が働かないため等速直線運動です。等速直線運動で距離を求める公式はこれしかありません。
    • 適用根拠: 加速度が \(0\) の場合、等加速度運動の公式 \(x = v_0t + \frac{1}{2}at^2\) は \(x=v_0t\) となります。これは、運動の法則の最も基本的な帰結です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 2段階の計算を明確に意識する: この種の問題は、必ず「(1) 時間を求める」「(2) 距離を求める」という2つのステップに分かれます。計算用紙の上でも、この2つのステップを明確に分けて書くことで、思考が整理され、ミスを防げます。
  • 文字式のまま計算を進める: \(H\) や \(v_0\) に具体的な数値が与えられていても、まずは文字式のまま最後まで計算し、最終的な答えの式を導出する癖をつけましょう。これにより、物理的な関係性(\(x\) は \(v_0\) に比例し、\(\sqrt{H}\) に比例するなど)が明確に理解できます。
  • 単位の確認: 最終的に得られた答えの単位が、求めたい物理量の単位(この場合は距離なのでメートル[m])と一致しているかを確認する習慣は、基本的ながら有効な検算方法です。

7 斜方投射

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法(運動を水平・鉛直に分解し、時間を介して解く)を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 別解: 軌跡の式を用いる解法
      • 模範解答が運動を時間追跡して解くのに対し、別解では時間 \(t\) を消去して得られる軌跡の式(空間座標の関係式)から直接、水平距離を求めます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 運動の時間的な経過を追うのではなく、物体が描く空間的な経路(軌跡)そのものに着目するという、異なる視点を提供します。
    • 思考の柔軟性向上: 時間を媒介変数として扱う考え方や、それを消去して直接的な関係式を導く数学的な手法が、物理現象の解析にどのように役立つかを学ぶことができます。
    • 応用力の養成: 軌跡の式そのものを問う問題や、特定の座標を通過する条件を問うような応用問題への対応力が養われます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「斜方投射の解析」です。前問の水平投射と同様に、運動を「水平方向」と「鉛直方向」に分解して考えることが基本となります。水平投射との違いは、鉛直方向の運動が「自由落下」ではなく、初速度を持つ「鉛直投げ上げ」になる点です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 初速度の分解: 斜め向きの初速度 \(v_0\) を、水平成分 \(v_0 \cos 30^\circ\) と鉛直成分 \(v_0 \sin 30^\circ\) に正しく分解できること。
  2. 運動の分解:
    • 水平方向: 初速度 \(v_0 \cos 30^\circ\) の「等速直線運動」。
    • 鉛直方向: 初速度 \(v_0 \sin 30^\circ\) の「鉛直投げ上げ運動」(加速度 \(-g\))。
  3. 座標軸の設定と変位の符号: 投げ上げた点を原点、鉛直上向きを正とすると、地面の変位は \(-H\) となることを正しく認識すること。
  4. 時間の共通性: 水平方向と鉛直方向の運動は、地面に落下するまでの時間 \(t\) を共有していること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、鉛直方向の運動(鉛直投げ上げ)に着目し、変位が \(-H\) となる時刻 \(t\) を、変位の公式を用いて求めます。これは \(t\) に関する2次方程式になります。
  2. 次に、水平方向の運動(等速直線運動)に着目し、上で求めた時間 \(t\) の間に、水平方向の初速度で進む距離 \(x\) を計算します。

思考の道筋とポイント
この問題は、前問「水平投射」の応用版です。基本的な考え方は全く同じで、運動を「水平方向」と「鉛直方向」に分解します。
違いは、初速度 \(v_0\) が斜め上向きである点です。このため、最初に \(v_0\) を水平成分と鉛直成分に分解する必要があります。

  1. 鉛直方向: 初速度が \(0\) ではなく上向きの成分を持つため、「自由落下」ではなく「鉛直投げ上げ」の運動になります。この運動から、地面に到達するまでの時間 \(t\) を求めます。
  2. 水平方向: 前問と同様、水平方向には力が働かないため、初速度の水平成分のまま「等速直線運動」をします。

前問と同様に、まず鉛直方向の運動から落下時間 \(t\) を求め、その時間を使って水平距離を計算する、という流れで解いていきます。
この設問における重要なポイント

  • 初速度を水平成分 \(v_x = v_0 \cos 30^\circ\) と鉛直成分 \(v_y = v_0 \sin 30^\circ\) に分解する。
  • 運動を水平方向と鉛直方向に分解して考える。
  • 水平方向: 等速直線運動 (\(x = v_x t\))
  • 鉛直方向: 鉛直投げ上げ運動 (\(y = v_y t – \frac{1}{2}gt^2\))
  • 投げ上げた点を原点、鉛直上向きを正とすると、地面の変位は \(-H\)。

具体的な解説と立式
投げ出した点を原点とし、水平右向きにx軸、鉛直上向きにy軸をとります。

  • 初速度の分解:
    $$
    \begin{aligned}
    v_x &= v_0 \cos 30^\circ = \frac{\sqrt{3}}{2}v_0 \\[2.0ex]
    v_y &= v_0 \sin 30^\circ = \frac{1}{2}v_0
    \end{aligned}
    $$
  • 鉛直方向の運動:
    初速度 \(v_y = \frac{1}{2}v_0\)、加速度 \(-g\) の等加速度直線運動です。
    地面に到達するとき、変位は \(y=-H\) となります。変位の公式 \(y = v_{0y}t + \frac{1}{2}at^2\) に代入して、落下時間 \(t\) を求めます。
    $$
    \begin{aligned}
    -H &= \left(v_0 \sin 30^\circ\right)t – \frac{1}{2}gt^2
    \end{aligned}
    $$
  • 水平方向の運動:
    初速度 \(v_x = v_0 \cos 30^\circ\) の等速直線運動です。
    時間 \(t\) の間に進む距離 \(x\) を、公式 \(x = v_x t\) を用いて表します。
    $$
    \begin{aligned}
    x &= \left(v_0 \cos 30^\circ\right)t
    \end{aligned}
    $$

鉛直方向の運動から求めた \(t\) を、この式に代入することで \(x\) が求まります。

使用した物理公式

  • 等速直線運動: \(x = vt\)
  • 等加速度直線運動(鉛直投げ上げ): \(y = v_{0y}t + \frac{1}{2}at^2\)
  • 2次方程式の解の公式
計算過程

まず、鉛直方向の運動から落下時間 \(t\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
-H &= \left(\frac{1}{2}v_0\right)t – \frac{1}{2}gt^2
\end{aligned}
$$
両辺に \(2\) を掛けて整理し、\(t\) についての2次方程式を作ります。
$$
\begin{aligned}
-2H &= v_0t – gt^2 \\[2.0ex]
gt^2 – v_0t – 2H &= 0
\end{aligned}
$$
解の公式を用いて \(t\) を解きます。\(a \to g\), \(b \to -v_0\), \(c \to -2H\) と対応させます。
$$
\begin{aligned}
t &= \frac{-(-v_0) \pm \sqrt{(-v_0)^2 – 4(g)(-2H)}}{2g} \\[2.0ex]
&= \frac{v_0 \pm \sqrt{v_0^2 + 8gH}}{2g}
\end{aligned}
$$
\(t>0\) でなければならないので、分子の \(\pm\) は \(+\) をとります。
$$
\begin{aligned}
t &= \frac{v_0 + \sqrt{v_0^2 + 8gH}}{2g}
\end{aligned}
$$
次に、この \(t\) を用いて水平距離 \(x\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
x &= \left(v_0 \cos 30^\circ\right)t \\[2.0ex]
&= \left(\frac{\sqrt{3}}{2}v_0\right) \times \left(\frac{v_0 + \sqrt{v_0^2 + 8gH}}{2g}\right) \\[2.0ex]
&= \frac{\sqrt{3}v_0}{4g}\left(v_0 + \sqrt{v_0^2 + 8gH}\right)
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

今度は、ビルから斜め上 \(30^\circ\) の角度で物体を投げます。これも「横に進む運動」と「縦に進む運動」の合体技です。

  • 縦の運動: 最初は上向きのスピードを持っているので、一度上に昇ってから下に落ちてきます。これは前問の「鉛直投げ上げ」と同じです。この運動から、地面に落ちるまでの時間が決まります。
  • 横の運動: 横方向には相変わらず力が働かないので、最初に与えられた横向きのスピードのまま、まっすぐ進み続けます。

まず、縦の運動を解析して「落ちる時間」を計算します。これは2次方程式を解く少し複雑な計算になります。
そして、その時間を使って、「横に進んだ距離 = 横向きの速さ × 落ちる時間」を計算すれば、答えが求まります。

結論と吟味

水平距離 \(x\) は \(\frac{\sqrt{3}v_0}{4g}\left(v_0 + \sqrt{v_0^2 + 8gH}\right)\) と表せます。
もし \(H=0\)(地面から投げる場合)とすると、\(t = \frac{v_0 + v_0}{2g} = \frac{v_0}{g}\) となり、\(x = \frac{\sqrt{3}v_0}{2} \times \frac{v_0}{g} = \frac{\sqrt{3}v_0^2}{2g}\) となります。これは地面からの斜方投射の公式 \(x = \frac{v_0^2 \sin(2\theta)}{g}\) に \(\theta=30^\circ\) を代入した結果(\(\sin 60^\circ = \frac{\sqrt{3}}{2}\))と一致し、妥当であることがわかります。

解答 \(\frac{\sqrt{3}v_0}{4g}\left(v_0 + \sqrt{v_0^2 + 8gH}\right)\)
別解: 軌跡の式を用いる解法

思考の道筋とポイント
運動を時間で追跡するのではなく、物体の描く軌道(放物線)そのものの方程式を立てて解くアプローチです。時刻 \(t\) を媒介変数として水平位置 \(x\) と鉛直位置 \(y\) をそれぞれ表し、これらから \(t\) を消去することで \(x\) と \(y\) の直接的な関係式(軌跡の式)を導きます。そして、地面に落下した点(\(y=-H\))がこの軌跡上にあることを利用して、水平距離 \(x\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 時刻 \(t\) での位置を \(x(t) = (v_0 \cos 30^\circ)t\), \(y(t) = (v_0 \sin 30^\circ)t – \frac{1}{2}gt^2\) と表す。
  • これらから \(t\) を消去して、軌跡の式 \(y = f(x)\) を導出する。
  • 地面に落下した点は、軌跡上の点であり、かつ \(y=-H\) を満たす点である。

具体的な解説と立式
投げ出した点を原点とし、水平右向きにx軸、鉛直上向きにy軸をとります。

  • 時刻 \(t\) における位置:
    水平方向の位置は、
    $$
    \begin{aligned}
    x &= (v_0 \cos 30^\circ)t \quad \cdots ①
    \end{aligned}
    $$
    鉛直方向の位置は、
    $$
    \begin{aligned}
    y &= (v_0 \sin 30^\circ)t – \frac{1}{2}gt^2 \quad \cdots ②
    \end{aligned}
    $$
  • 軌跡の式の導出:
    式①を \(t\) について解きます。
    $$
    \begin{aligned}
    t &= \frac{x}{v_0 \cos 30^\circ}
    \end{aligned}
    $$
    これを式②に代入して、\(t\) を消去します。
    $$
    \begin{aligned}
    y &= (v_0 \sin 30^\circ)\left(\frac{x}{v_0 \cos 30^\circ}\right) – \frac{1}{2}g\left(\frac{x}{v_0 \cos 30^\circ}\right)^2
    \end{aligned}
    $$
  • 水平距離の計算:
    地面に落下したとき、鉛直方向の変位は \(y=-H\) です。このときの水平距離が求める \(x\) なので、導出した軌跡の式に \(y=-H\) を代入します。
    $$
    \begin{aligned}
    -H &= (\tan 30^\circ)x – \frac{g}{2v_0^2 \cos^2 30^\circ}x^2
    \end{aligned}
    $$
    この方程式は \(x\) についての2次方程式であり、これを解きます。

使用した物理公式

  • 等速直線運動: \(x = v_x t\)
  • 鉛直投げ上げ運動: \(y = v_y t – \frac{1}{2}gt^2\)
計算過程

軌跡の式を整理します。
$$
\begin{aligned}
y &= \frac{\sin 30^\circ}{\cos 30^\circ}x – \frac{g}{2v_0^2 \cos^2 30^\circ}x^2 \\[2.0ex]
&= (\tan 30^\circ)x – \frac{g}{2v_0^2 \cos^2 30^\circ}x^2
\end{aligned}
$$
この式に \(y=-H\), \(\tan 30^\circ = \frac{1}{\sqrt{3}}\), \(\cos 30^\circ = \frac{\sqrt{3}}{2}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
-H &= \frac{1}{\sqrt{3}}x – \frac{g}{2v_0^2 (\frac{3}{4})}x^2 \\[2.0ex]
-H &= \frac{1}{\sqrt{3}}x – \frac{2g}{3v_0^2}x^2
\end{aligned}
$$
これを \(x\) についての2次方程式として整理します。
$$
\begin{aligned}
\frac{2g}{3v_0^2}x^2 – \frac{1}{\sqrt{3}}x – H &= 0
\end{aligned}
$$
この2次方程式を解の公式で解くと、主たる解法と同じ結果が得られますが、計算が非常に煩雑になります。この問題においては、時間を介して解く方がはるかに効率的であることがわかります。

この設問の平易な説明

この解き方では、まず「この物体がどんなカーブを描いて飛んでいくか」を数式で表します。このカーブの式は、数学で習う放物線(二次関数)になります。
次に、「地面」というのは、スタート地点から見て「真下に \(H\) メートル」の高さの場所です。
そこで、「物体の描くカーブが、高さ \(-H\) の地点を通過するのは、横方向に何メートル進んだときか?」という問題を解けば、答えが求まります。ただし、この方法で出てくる方程式は非常に複雑で、計算が大変になります。

結論と吟味

軌跡の式を立てるアプローチでも原理的には解くことができますが、計算が非常に複雑になるため、この問題の解法としては現実的ではありません。主たる解法のように、時間を媒介として水平・鉛直の運動を結びつける方法が、いかに効率的で優れているかを示す良い比較対象となります。

解答 \(\frac{\sqrt{3}v_0}{4g}\left(v_0 + \sqrt{v_0^2 + 8gH}\right)\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 初速度の分解と運動の合成:
    • 核心: この問題の根幹は、斜め向きの初速度 \(v_0\) を、運動を解析しやすいように「水平成分 \(v_x\)」と「鉛直成分 \(v_y\)」に分解し、それぞれの方向で独立した運動として扱った後、再び時間 \(t\) を通じて合成する、という一連の操作を正確に実行できるかどうかにあります。
    • 理解のポイント:
      • 分解: \(v_x = v_0 \cos \theta\), \(v_y = v_0 \sin \theta\) という三角関数を用いた分解は、放物運動を解くための最初の、そして最も重要なステップです。
      • 独立した運動: 水平方向は「等速直線運動」、鉛直方向は「鉛直投げ上げ運動」として、それぞれ別々に公式を適用します。
      • 合成: 鉛直方向の運動から求めた時間 \(t\) を、水平方向の運動の式に代入することで、2つの運動が結びつけられ、最終的な水平距離が求まります。
  • 座標系の設定と変位の符号:
    • 核心: 前問の鉛直投げ上げと同様に、自分で座標軸(原点と正の向き)を設定し、物理量、特に変位の符号を正しく扱うことが極めて重要です。
    • 理解のポイント:
      • 原点: 投げ出した点を原点(\(x=0, y=0\))とするのが最も一般的です。
      • 正の向き: 水平方向は初速度の向き(右向き)、鉛直方向は上向きを正とします。
      • 地面の変位: この設定では、地面は原点より \(H\) だけ下にあるため、そのy座標(変位)は \(-H\) となります。この負号を正しく式に反映できるかが、正解に至るための決定的なポイントです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 地面から投げて地面に落ちる斜方投射: 最も基本的なパターン。\(H=0\) とすれば、この問題の公式から到達時間や水平到達距離の公式を導出できます。
    • 特定の高さの壁を越える条件: 例えば、「高さ \(h\)、水平距離 \(L\) の位置にある壁を越えるための初速 \(v_0\) の条件」などを問う問題。これは、軌跡の式に \(x=L, y=h\) を代入して不等式を解くことで求められ、軌跡の式の考え方が有効になります。
    • 傾斜面への着地: 水平に投げた物体が、斜面にぶつかるまでの時間や距離を求める問題。物体の軌跡の式と、斜面を表す直線の式の交点を求めることで解くことができます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 初速度の分解: 問題文に「角度 \(\theta\) で投げ出す」とあったら、条件反射で \(v_x = v_0 \cos \theta\), \(v_y = v_0 \sin \theta\) と分解する準備をします。
    2. 座標軸の図示: 問題の図に、必ず自分で原点とx軸、y軸(正の向きを示す矢印付き)を書き込みます。
    3. 終点の座標を特定する: 物体が最終的にどこに到達するのか、その点の座標(特にy座標)を最初に特定します。この問題では \((x, -H)\) です。
    4. 時間 \(t\) を求める戦略を立てる: ほとんどの場合、鉛直方向の運動(y方向)に関する変位の公式 \(y = v_{0y}t + \frac{1}{2}a_yt^2\) を使って時間 \(t\) を求めることになります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 変位の符号ミス:
    • 誤解: 前問と同様、地面のy座標を \(H\) とプラスで代入してしまい、\(H = (v_0 \sin 30^\circ)t – \frac{1}{2}gt^2\) という誤った式を立ててしまう。
    • 対策: 座標軸を設定したら、その座標軸に絶対的に従うことを徹底します。「上向きが正」なら、原点より下にある点はすべて負の座標を持つ、というルールを機械的に適用しましょう。
  • 初速度の分解ミス:
    • 誤解: 水平成分と鉛直成分に分解する際に、\(\cos\) と \(\sin\) を取り違えてしまう(例:\(v_x = v_0 \sin 30^\circ\) としてしまう)。
    • 対策: 角度 \(\theta\) を挟む辺が \(\cos\)、向かい合う辺が \(\sin\) という三角関数の基本定義を、速度ベクトルの三角形に当てはめて常に確認する癖をつけます。
  • 2次方程式の解の公式の計算ミス:
    • 誤解: 解の公式 \(t = \frac{-b \pm \sqrt{b^2-4ac}}{2a}\) の \(b\) や \(c\) の係数の符号を間違えたり、ルートの中の計算を間違えたりする。
    • 対策: 2次方程式を \(at^2+bt+c=0\) の形に整理した後、\(a, b, c\) がそれぞれ何に対応するのかを、符号も含めて書き出してから解の公式に代入すると、ミスが減ります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 鉛直方向の時間計算に \(y = v_{0y}t + \frac{1}{2}a_yt^2\) を選択:
    • 選定理由: 求めたいのは時間 \(t\) であり、運動の始点と終点の鉛直方向の変位 \(y=-H\) が分かっています。また、鉛直方向の初速度 \(v_{0y}\) と加速度 \(a_y=-g\) も既知です。これら \(y, v_{0y}, a_y, t\) の4つの量を含むこの公式が、時間を求める上で最も直接的です。
    • 適用根拠: この公式は、鉛直方向の運動が等加速度直線運動であるという物理モデルに基づいています。加速度が一定である限り、運動の始点と終点の状態が分かっていれば、その間の時間を計算することができます。
  • 水平方向の距離計算に \(x = v_xt\) を選択:
    • 選定理由: 水平方向は力が働かない等速直線運動であり、距離を求める公式はこれしかありません。鉛直方向の運動から求めた時間 \(t\) を使うことで、水平距離が計算できます。
    • 適用根拠: 運動の分解の原理に基づき、水平方向の運動は独立して扱えます。加速度が0であるため、距離は単純に「速さ×時間」で求められます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 三角関数の値を正確に覚える: \(30^\circ, 45^\circ, 60^\circ\) の \(\sin, \cos, \tan\) の値は、物理の問題で頻繁に使われます。瞬時に正確な値(例:\(\cos 30^\circ = \frac{\sqrt{3}}{2}\))が出てくるように、しっかりと記憶しておくことが重要です。
  • 複雑な式の代入は最後に行う: 時間 \(t\) の式は複雑なルートを含みます。これを水平距離の式 \(x = (v_0 \cos 30^\circ)t\) に代入する際、焦って展開しようとせず、模範解答のように、まずはそのままの形で代入し、最後に係数をまとめて整理する方が、計算ミスが少なくなります。
  • 物理的にありえない解を捨てる: 2次方程式を解くと、数学的には2つの解が出てきます。物理的に時間が負になることはありえないので、\(t>0\) という条件で解を吟味し、不適切な解を棄却するプロセスを必ず踏むようにしましょう。
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8 斜方投射

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている2つの解法(水平・鉛直に分解する解法と、斜面に沿った軸に分解する解法)を、それぞれ主たる解法と別解として詳細に解説します。

  1. 提示する解法
    • 主たる解法: 水平・鉛直方向に分解する解法
      • 運動を水平方向(等速直線運動)と鉛直方向(鉛直投げ上げ)に分解して考えます。
    • 別解: 斜面に平行・垂直な方向に分解する解法
      • 運動を斜面に平行な方向と垂直な方向に分解して考えます。この場合、重力加速度も分解する必要があります。
  2. 上記の解法が有益である理由
    • 思考の柔軟性向上: 1つの問題を、異なる座標軸の設定で解く経験は、物理現象を多角的に見る力を養います。どちらの座標系が問題に適しているかを見抜く能力は、応用問題を解く上で非常に重要です。
    • 解法の特性理解: 主たる解法は加速度の分解が不要で直感的ですが、立式が連立方程式になります。一方、別解は加速度の分解という一手間が必要ですが、衝突条件が「垂直方向の変位=0」とシンプルになるため、片方の式だけで時間を求められるという利点があります。これらの長所・短所を理解することは、解法選択の幅を広げます。
    • 応用力の養成: 斜面上の運動では、斜面に沿った座標系を設定することが有効な場合が多く、別解のアプローチはそうした問題への対応力を高めます。

この問題のテーマは「斜面への斜方投射」です。通常の斜方投射と異なり、着地点が水平面ではなく斜面上にあるため、衝突する条件を正しく数式で表現できるかが問われます。座標軸の取り方によって、2通りのアプローチが考えられます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 運動の分解: 2次元の運動を、2つの直交する1次元運動の組み合わせとして捉えること。
  2. 座標系の選択: 水平・鉛直方向を軸とするか、斜面に平行・垂直な方向を軸とするか、問題に応じて適切な座標系を選択すること。
  3. 衝突条件の立式: 物体が斜面に衝突する、という事象を、設定した座標系におけるx座標とy座標の関係式として正しく表現できること。
  4. 加速度の分解(別解): 座標軸を傾けた場合、重力加速度もその座標軸の成分に分解する必要があること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  • 主たる解法(水平・鉛直分解):
    1. 運動を水平方向と鉛直方向に分解し、それぞれの方向で時刻 \(t\) における変位の式を立てます。
    2. 衝突点での水平変位と鉛直変位の関係(斜面の傾き)から、3つ目の式を立てます。
    3. これら3つの式を連立させて、未知数である時間 \(t\) と距離 \(l\) を求めます。
  • 別解(斜面に沿った分解):
    1. 運動と重力加速度を、斜面に平行な方向と垂直な方向に分解します。
    2. 斜面に垂直な方向の運動に着目し、変位が再び \(0\) になるという条件から、衝突までの時間 \(t\) を求めます。
    3. 求めた時間 \(t\) を使って、斜面に平行な方向の運動の式から、距離 \(l\) を計算します。

主たる解法:水平・鉛直方向に分解する解法

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