力学範囲 26~30
26 力のモーメント
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「偶力のモーメント」です。大きさが等しく、向きが逆で、作用線が異なる一対の力(偶力)が物体に働くとき、そのモーメントの合計が回転の中心(軸)の位置によらず一定になる、という重要な性質を理解することが目的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力のモーメントの定義: モーメントの大きさは「力の大きさ × 腕の長さ」で計算されること。腕の長さとは、回転の中心から力の作用線までの垂直距離です。
- モーメントの向き(符号): モーメントには回転の向きがあり、反時計回りを正、時計回りを負として区別して計算すること。
- モーメントの合成: 複数の力が働く場合、全体のモーメントは、各力が作るモーメントの代数和(符号を考慮した足し算)で与えられること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、回転の中心を \(O_1\) として、点Aに働く力と点Bに働く力がそれぞれ作るモーメントを計算し、それらを足し合わせます。
- 次に、回転の中心を \(O_2\) として、同様に2つの力が作るモーメントを計算し、足し合わせます。
- 得られた2つの結果を比較し、モーメントが回転中心の位置によらないことを確認します。
\(O_1\)のまわりのモーメント
思考の道筋とポイント
回転の中心を \(O_1\) として、2つの力 \(F\) が作るモーメントの合計を計算します。図の定義を正確に読み取ることが重要です。
- 点Bに働く力: 大きさ \(F\) の上向きの力です。回転中心 \(O_1\) からの腕の長さは、図より \(l-x\) です。この力は物体を反時計回りに回転させようとするので、モーメントは正となります。
- 点Aに働く力: 大きさ \(F\) の下向きの力です。回転中心 \(O_1\) からの腕の長さは、図より \(x\) です。この力も物体を反時計回りに回転させようとするので、モーメントは正となります。
全体のモーメントは、これら2つのモーメントの和として計算します。
この設問における重要なポイント
- 反時計回りのモーメントを正とする。
- 点Bに働く力の腕の長さは \(l-x\)。
- 点Aに働く力の腕の長さは \(x\)。
- 2つの力は、どちらも反時計回りのモーメントを作る。
具体的な解説と立式
反時計回りを正の向きとします。
- 点Bに働く力によるモーメント \(M_B\):
$$
\begin{aligned}
M_B &= (\text{力の大きさ}) \times (\text{腕の長さ}) \\
&= F \times (l-x)
\end{aligned}
$$ - 点Aに働く力によるモーメント \(M_A\):
$$
\begin{aligned}
M_A &= (\text{力の大きさ}) \times (\text{腕の長さ}) \\
&= F \times x
\end{aligned}
$$ - \(O_1\) のまわりの全モーメント \(M_1\):
$$
\begin{aligned}
M_1 &= M_A + M_B \\
&= Fx + F(l-x)
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 力のモーメント: \(M = Fd\)
$$
\begin{aligned}
M_1 &= Fx + F(l-x) \\[2.0ex]
&= Fx + Fl – Fx \\[2.0ex]
&= Fl
\end{aligned}
$$
車のハンドルを両手で回す状況を考えましょう。\(O_1\) はハンドルの軸上の点です。
- 右手(B点)で上に \(F\) の力、左手(A点)で下に \(F\) の力を加えます。
- 右手の力が作る回転力(モーメント)は \(F \times (l-x)\)。
- 左手の力が作る回転力(モーメント)は \(F \times x\)。
どちらの力もハンドルを同じ向き(反時計回り)に回そうとするので、全体の回転力は2つの力のモーメントの足し算になります。合計すると \(Fl\) となり、これは \(x\) の値に関係なく一定です。
\(O_1\) のまわりのモーメントは \(Fl\) となりました。この結果は、回転中心 \(O_1\) の位置(\(x\) の値)によらない一定の値です。これは偶力のモーメントの重要な性質を示唆しています。
\(O_2\)のまわりのモーメント
思考の道筋とポイント
次に、回転の中心を、2つの力の作用線の外側にある \(O_2\) として、モーメントの合計を計算します。
- 点Bに働く力: 大きさ \(F\) の上向きの力です。回転中心 \(O_2\) からの腕の長さは、図より \(y+l\) です。この力は物体を反時計回りに回転させようとするので、モーメントは正となります。
- 点Aに働く力: 大きさ \(F\) の下向きの力です。回転中心 \(O_2\) からの腕の長さは \(y\) です。この力は物体を時計回りに回転させようとするので、モーメントは負となります。
全体のモーメントは、これら2つのモーメントの代数和(符号を考慮した足し算)として計算します。
この設問における重要なポイント
- 反時計回りのモーメントを正、時計回りを負とする。
- 点Bに働く力の腕の長さは \(y+l\)。
- 点Aに働く力の腕の長さは \(y\)。
- 点Bの力は正のモーメント、点Aの力は負のモーメントを作る。
具体的な解説と立式
反時計回りを正の向きとします。
- 点Bに働く力によるモーメント \(M_B\):
$$
\begin{aligned}
M_B &= + F \times (y+l)
\end{aligned}
$$ - 点Aに働く力によるモーメント \(M_A\):
$$
\begin{aligned}
M_A &= – F \times y
\end{aligned}
$$ - \(O_2\) のまわりの全モーメント \(M_2\):
$$
\begin{aligned}
M_2 &= M_A + M_B \\
&= -Fy + F(y+l)
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 力のモーメント: \(M = Fd\)
$$
\begin{aligned}
M_2 &= -Fy + F(y+l) \\[2.0ex]
&= -Fy + Fy + Fl \\[2.0ex]
&= Fl
\end{aligned}
$$
今度は、ハンドルの外側のどこか(\(O_2\))を軸にしてハンドルを回そうとする状況を考えます。
- 右手(B点)の力は、\(O_2\) を中心に物体を反時計回りに回そうとします。その回転力は \(F \times (y+l)\) です。
- 左手(A点)の力は、\(O_2\) を中心に物体を時計回りに回そうとします。その回転力は \(F \times y\) です。
全体の回転力は、この2つの回転力の引き算になります(向きが逆なので)。計算すると、やはり \(Fl\) となり、\(y\) の値に関係なく一定になります。
\(O_2\) のまわりのモーメントも \(Fl\) となりました。
\(O_1\) のまわりのモーメントと全く同じ結果であり、回転の中心の位置(\(x\) や \(y\) の値)によらないことが確認できました。
このように、大きさが等しく平行で逆向きの一対の力(偶力)が作るモーメントは、回転軸の位置によらず、常に「力の大きさ \(F\) × 2力の作用線間の距離 \(l\)」で与えられます。これは偶力の最も重要な性質です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 偶力のモーメントの性質:
- 核心: この問題の根幹は、「偶力」という特別な力の組が作るモーメントの合計が、回転の中心をどこに選んでも常に一定の値になる、という重要な物理法則を理解することにあります。
- 理解のポイント:
- 偶力の定義: 大きさが等しく、向きが逆で、作用線が平行な一対の力。
- モーメントの大きさ: 偶力のモーメントの大きさは、常に「力の大きさ \(F\) × 2力の作用線間の垂直距離 \(l\)」、すなわち \(Fl\) となります。
- 回転中心への非依存性: 計算結果が \(x\) や \(y\) を含まないことからも分かるように、回転の中心が2つの力の間にあるか、外側にあるかに関わらず、モーメントの合計は変わりません。
- 力のモーメントの合成:
- 核心: 複数の力が働くとき、物体に作用する全体の回転効果(モーメントの合計)は、各力が個別に作るモーメントの代数和(符号を考慮した足し算)で求められる、という重ね合わせの原理を理解しているかが問われます。
- 理解のポイント:
- 符号の決定: 各力が物体をどちら向き(時計回りか、反時計回りか)に回転させようとするかを判断し、正負の符号を正しく割り当てることが不可欠です。
- 代数和: 符号を割り当てた後、すべてのモーメントを単純に足し合わせることで、全体のモーメントが計算できます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- ハンドルやねじ回しの操作: 自動車のハンドルを両手で回す、プラスドライバーでねじを締める、といった日常的な動作は、すべて偶力を利用しています。これらの操作に必要な力の大きさを問う問題に応用できます。
- 磁場中の磁気双極子(棒磁石): 一様な磁場の中に棒磁石を置くと、N極とS極にそれぞれ逆向きで同じ大きさの力が働き、偶力が生じます。これにより、棒磁石は磁場の向きに沿うように回転します。
- 電場中の電気双極子: 一様な電場中に電気双極子(+qと-qのペア)を置いた場合も同様に偶力が働き、回転します。
- 初見の問題での着眼点:
- 偶力でないか疑う: 問題の図で、大きさが同じで向きが逆の平行な力が一対で描かれていたら、「これは偶力の問題だ」と即座に判断します。
- 回転の向きを統一する: 各力が作るモーメントの向き(時計回りか反時計回りか)を、一つ一つ丁寧に確認します。特に、回転中心が力の作用線の外側にある場合は、モーメントの向きが逆になることがあるので注意が必要です。
- 腕の長さを正確に求める: 「腕の長さ」は、回転中心から「力の作用線」に下ろした垂線の長さです。作用点までの距離と混同しないように注意します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- モーメントの向き(符号)の判断ミス:
- 誤解: \(O_2\) のまわりのモーメントを計算する際に、点Aに働く力によるモーメントも反時計回り(正)だと勘違いし、\(F(y+l) + Fy\) のように足し算してしまう。
- 対策: 回転の中心にピンを刺し、力の矢印の向きに実際に物体がどう回転するかをイメージする癖をつけます。\(O_2\) を中心とした場合、点Aの下向きの力は明らかに物体を時計回りに回転させるため、モーメントは負になります。
- 腕の長さの誤認:
- 誤解: 図の定義をよく見ずに、腕の長さを間違えてしまう。例えば、AB間の距離が \(l\) なのに、AO\(_1\) を \(l\) と勘違いするなど。
- 対策: 問題文と図に示された長さの定義を、計算を始める前に注意深く確認します。どの点からどの点までの距離がどの文字に対応するのかを、指差し確認することが有効です。
- 偶力とつり合う力の混同:
- 誤解: 偶力は合力がゼロ(\(F-F=0\))なので、物体は動かないと考えてしまう。
- 対策: 偶力は、合力はゼロですが、モーメントの合計はゼロではありません。したがって、物体を並進運動(直進)させることはありませんが、回転運動させる効果があります。偶力とつり合うのは、同じ大きさで逆向きのモーメントを持つ別の偶力だけです。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- モーメントの定義 \(M = Fd\) の適用:
- 選定理由: この問題は、力の回転効果である「モーメント」を求めることを直接的に要求しています。したがって、その定義式である「力の大きさ × 腕の長さ」を用いるのが最も基本的なアプローチです。
- 適用根拠: 力のモーメントは、てこの原理を一般化したものであり、回転運動を引き起こす能力を表す物理量として定義されています。物体に働く各力について、この定義に基づいてモーメントを計算し、それらを合成するという手順は、物理学の基本に忠実な方法です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 符号を付けて立式する: モーメントを計算する際は、最初に「反時計回りを正とする」と宣言し、各モーメントに必ず \(+\) または \(-\) の符号を付けて式に書き出す習慣をつけましょう。これにより、足し算と引き算の別が明確になり、計算ミスを防げます。
- 分配法則を丁寧に行う: \(F(l-x)\) や \(F(y+l)\) のような項を展開する際に、計算を焦らないことが重要です。\(Fl – Fx\) のように、一つ一つの項を丁寧に書き出すことで、符号ミスや展開ミスを防げます。
- 結論を一般化して覚える: この問題を通じて、「偶力のモーメントは、回転中心の位置によらず \(Fl\) である」という重要な結論が得られます。この法則を知識として覚えておけば、次回同様の問題が出た際には、詳細な計算をせずとも瞬時に答えを導き出すことができます。
27 剛体のつり合い
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法(力のつり合いと、特定の点(左端)のまわりのモーメントのつり合いを連立させる)を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 別解: 合力の作用点を求める解法
- 模範解答が未知の力 \(F\) を加えてからつり合いを考えるのに対し、別解ではまず、すでにかかっている4つの力の「合力」とその「作用点」を求めます。そして、その合力とつり合うような力を加える、というより物理的な意味の明確なアプローチを取ります。
- 別解: 合力の作用点を求める解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 「剛体のつり合い」とは、結局のところ「合力が0になること」と「合力のモーメントが0になること」の2つに集約されます。この別解は、複数の力を1本の合力にまとめるという操作を通じて、その本質をより直接的に理解することができます。
- 思考の柔軟性向上: 「つり合わせるために力を加える」という問題を、「すでにある合力を打ち消す」という問題に読み替える視点を提供します。これは、様々な力学の問題に応用できる強力な考え方です。
- 解法の多角化: モーメントの計算において、回転中心の選び方が任意であることの理由も、この考え方を通じてより深く理解できます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「剛体のつり合いの条件」です。大きさのある物体(剛体)が静止するためには、「力のつり合い」と「力のモーメントのつり合い」という2つの条件を同時に満たす必要があることを、具体的な計算を通して理解する問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 剛体のつり合いの条件:
- 並進運動しない条件(力のつり合い): 物体に働く力のベクトル和がゼロであること。
- 回転運動しない条件(力のモーメントのつり合い): 任意の点のまわりの力のモーメントの和がゼロであること。
- 力のモーメントの計算: モーメントの大きさは「力の大きさ × 腕の長さ」で計算できること。また、回転の向き(時計回りか反時計回りか)を符号で区別して扱うこと。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、棒を静止させるために加える未知の力を \(\vec{F}\) とおきます。
- 「力のつり合い」の条件を用いて、\(\vec{F}\) の大きさと向きを決定します。
- 次に、「力のモーメントのつり合い」の条件を用いて、\(\vec{F}\) を加える位置を決定します。モーメントの計算では、計算が簡単になるように適切な回転中心を選ぶことが重要です。
思考の道筋とポイント
棒を静止させるためには、2つの条件を満たす必要があります。
- 力がつり合うこと: 棒が上下に動かないように、上向きの力の合計と下向きの力の合計が等しくなければなりません。
- モーメントがつり合うこと: 棒が回転しないように、任意の点のまわりで、時計回りに回そうとする力のモーメントの合計と、反時計回りに回そうとする力のモーメントの合計が等しくなければなりません。
まず、加えるべき力の大きさと向きを「力のつり合い」から求めます。
次に、その力をどこに加えればよいかを「モーメントのつり合い」から求めます。モーメントの計算では、回転の中心をどこに選んでもよいのですが、計算を楽にするために、いずれかの力が働いている点(例えば棒の左端)を回転中心に選ぶのが定石です。
この設問における重要なポイント
- 静止 \(\iff\) 「力のつり合い」と「モーメントのつり合い」が同時に成立。
- 力のつり合い: (上向きの力の和) = (下向きの力の和)。
- モーメントのつり合い: (時計回りのモーメントの和) = (反時計回りのモーメントの和)。
- モーメントの回転中心は、計算が楽になる点(力が集中している点や、未知の力が働く点など)を任意に選べる。
具体的な解説と立式
加える力の大きさを \(F\)、向きを仮に下向きとします。
- 1. 力のつり合い:
- 上向きの力: \(15 \, \text{N}\), \(15 \, \text{N}\), \(20 \, \text{N}\)
- 下向きの力: \(30 \, \text{N}\) と、加える力 \(F\)
力のつり合いの式は、
$$
\begin{aligned}
(\text{上向きの力の和}) &= (\text{下向きの力の和}) \\
15 + 15 + 20 &= 30 + F
\end{aligned}
$$
この式から \(F\) の大きさが求まります。\(F\) が正の値で求まれば、仮定した下向きで正しいことになります。 - 2. 力のモーメントのつり合い:
回転の中心として、棒の左端を選びます。加える力 \(F\) の作用点の、左端からの距離を \(x\) とします。
反時計回りを正とします。- 反時計回りのモーメント:
- 左から2番目の \(15 \, \text{N}\) の力: 腕の長さ \(10 \, \text{cm}\)。モーメントは \(+15 \times 10\)。
- 一番右の \(20 \, \text{N}\) の力: 腕の長さ \(10+5+10 = 25 \, \text{cm}\)。モーメントは \(+20 \times 25\)。
- 時計回りのモーメント:
- 下向きの \(30 \, \text{N}\) の力: 腕の長さ \(10+5 = 15 \, \text{cm}\)。モーメントは \(-30 \times 15\)。
- 加える力 \(F\) (下向き): 腕の長さ \(x\)。モーメントは \(-F \times x\)。
モーメントのつり合いの式は、
$$
\begin{aligned}
(\text{反時計回りのモーメントの和}) &= (\text{時計回りのモーメントの和}) \\
15 \times 10 + 20 \times 25 &= 30 \times 15 + F \times x
\end{aligned}
$$
この式に、力のつり合いから求めた \(F\) の値を代入して、\(x\) を求めます。 - 反時計回りのモーメント:
使用した物理公式
- 力のつり合い
- 力のモーメントのつり合い
- 力の大きさ \(F\) の計算:
$$
\begin{aligned}
50 &= 30 + F \\[2.0ex]
F &= 20 \, \text{N}
\end{aligned}
$$
\(F\) が正の値で求まったので、向きは仮定通り「下向き」です。 - 力の位置 \(x\) の計算:
モーメントのつり合いの式に \(F=20\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
15 \times 10 + 20 \times 25 &= 30 \times 15 + 20x \\[2.0ex]
150 + 500 &= 450 + 20x \\[2.0ex]
650 &= 450 + 20x \\[2.0ex]
20x &= 650 – 450 \\[2.0ex]
20x &= 200 \\[2.0ex]
x &= 10 \, \text{cm}
\end{aligned}
$$
したがって、加える力の位置は、左端から \(10 \, \text{cm}\) の所です。
この棒は、いろんな方向から力がかかっていて、このままでは動いたり回ったりしてしまいます。これをピタッと静止させるために、もう一つだけ力を加える、という問題です。
静止させるには、2つの条件をクリアしなければなりません。
- 上下の動きを止める: まず、上向きの力と下向きの力の合計を計算します。
- 上向きの力: \(15+15+20 = 50 \, \text{N}\)
- 下向きの力: \(30 \, \text{N}\)
このままでは上向きに \(20 \, \text{N}\) だけ勝っているので、これを打ち消すために、下向きに \(20 \, \text{N}\) の力を加える必要があります。
- 回転を止める: 次に、棒が回転しないように、力の位置を決めます。どこか一点(例えば左端)を回転の中心として、時計回りに回そうとする力と、反時計回りに回そうとする力の回転効果(モーメント)が同じになるようにします。計算すると、下向き \(20 \, \text{N}\) の力を、左端から \(10 \, \text{cm}\) の位置に加えれば、回転も止まることがわかります。
加える力は、大きさ \(20 \, \text{N}\)、向きは下向き、位置は左端から \(10 \, \text{cm}\) の点であると求まりました。
この力を加えることで、上向きの力の合計が \(50 \, \text{N}\)、下向きの力の合計も \(30+20=50 \, \text{N}\) となり、力のつり合いは満たされます。
また、モーメントのつり合いも満たされるように位置を決定したので、この結果は妥当です。
思考の道筋とポイント
この別解では、まず「すでにかかっている4つの力」を、1本の「合力」にまとめます。剛体に働く複数の力は、大きさと向きが同じで、かつ、モーメントの効果も同じになるような、1本の合力として表現できます。
この合力の大きさと、その作用点(合力が働いていると見なせる代表点)を求めます。
棒を静止させるためには、この合力を打ち消すような、大きさが同じで向きが逆の力を、合力の作用点と全く同じ位置に加えればよい、ということになります。
この設問における重要なポイント
- 複数の力を、1本の合力とその作用点にまとめることができる。
- 合力の大きさは、力のベクトル和で決まる。
- 合力の作用点は、モーメントの効果が等しくなる点として決まる。
- 棒を静止させるには、この合力と「つり合う」力(大きさが同じで向きが逆)を、合力の作用点に加えればよい。
具体的な解説と立式
- 1. 合力の大きさと向きを求める:
すでにかかっている4つの力の合力を \(F_{\text{合力}}\) とします。上向きを正とすると、
$$
\begin{aligned}
F_{\text{合力}} &= (15 + 15 + 20) – 30
\end{aligned}
$$ - 2. 合力の作用点を求める:
4つの力が作るモーメントの合計と、合力 \(F_{\text{合力}}\) が作るモーメントが等しくなる点が、合力の作用点です。
左端を回転の中心として、モーメントを計算します。反時計回りを正とします。
4つの力のモーメントの和 \(M_{\text{合計}}\) は、
$$
\begin{aligned}
M_{\text{合計}} &= (15 \times 10) + (20 \times 25) – (30 \times 15)
\end{aligned}
$$
合力の作用点の、左端からの距離を \(x\) とします。合力 \(F_{\text{合力}}\) がこの点に働くとすると、そのモーメントは \(F_{\text{合力}} \times x\) となります。
この2つのモーメントが等しいので、
$$
\begin{aligned}
F_{\text{合力}} \times x &= M_{\text{合計}}
\end{aligned}
$$ - 3. 加えるべき力を決定する:
棒を静止させるために加える力 \(\vec{F}\) は、この合力 \(\vec{F}_{\text{合力}}\) を打ち消す力です。
したがって、大きさは \(|F_{\text{合力}}|\) と同じで、向きは逆。作用点も同じ位置です。
使用した物理公式
- 力の合成
- 力のモーメントの合成
- 合力の大きさ:
$$
\begin{aligned}
F_{\text{合力}} &= 50 – 30 \\[2.0ex]
&= 20 \, \text{N}
\end{aligned}
$$
正の値なので、合力は「上向き」に \(20 \, \text{N}\) です。 - 合力の作用点:
まず、モーメントの合計を計算します。
$$
\begin{aligned}
M_{\text{合計}} &= 150 + 500 – 450 \\[2.0ex]
&= 200 \, \text{N}\cdot\text{cm}
\end{aligned}
$$
次に、作用点 \(x\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
20 \times x &= 200 \\[2.0ex]
x &= 10 \, \text{cm}
\end{aligned}
$$
つまり、すでにかかっている4つの力は、まとめて「左端から \(10 \, \text{cm}\) の位置に、上向きに \(20 \, \text{N}\) の力が働いている」のと同じ効果を持つことがわかります。 - 加えるべき力:
この合力を打ち消すためには、- 大きさ: \(20 \, \text{N}\)
- 向き: 合力(上向き)と逆の「下向き」
- 位置: 合力の作用点と同じ「左端から \(10 \, \text{cm}\) の所」
に力を加えればよいことになります。
この別解では、まず「結局、この棒には全体としてどっち向きに、どれくらいの力がかかっているのか?」を考えます。
上下の力を差し引きすると、全体として「上向きに \(20 \, \text{N}\)」の力がかかっていることがわかります。
次に、「この \(20 \, \text{N}\) の力は、棒のどの位置にかかっていると見なせるか?」という、力の代表点(作用点)を探します。モーメントの計算をすると、この代表点は「左端から \(10 \, \text{cm}\) の位置」であることがわかります。
つまり、ごちゃごちゃと働いている4つの力は、結局「左端から \(10 \, \text{cm}\) の点を、上向きに \(20 \, \text{N}\) で持ち上げている」のと同じことなのです。
では、この棒を静止させるにはどうすればよいか?簡単です。その代表点を、同じ力で逆向きに、つまり「下向きに \(20 \, \text{N}\) で押さえつければよい」のです。
主たる解法と全く同じ結果が得られました。この方法は、複数の力を1本の合力に集約するという、より物理の本質に迫る考え方です。なぜモーメントのつり合いが必要なのか、なぜ回転中心はどこに選んでもよいのか、といった疑問に対する深い理解を促す、非常に教育的な解法です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 剛体のつり合いの2つの条件:
- 核心: この問題の根幹は、大きさのある物体(剛体)が完全に静止するためには、「力のつり合い」と「力のモーメントのつり合い」という、2つの独立した条件を同時に満たさなければならない、という物理学の基本原理を理解しているかどうかにあります。
- 理解のポイント:
- 力のつり合い (\(\sum \vec{F} = 0\)): 物体が全体として並進運動(上下左右に動くこと)をしないための条件。これにより、加える力の「大きさと向き」が決まります。
- モーメントのつり合い (\(\sum M = 0\)): 物体が回転運動をしないための条件。これにより、加える力の「作用点の位置」が決まります。
- どちらか一方だけでは不十分: 例えば、力のつり合いだけを満たしても、モーメントがつり合っていなければ物体は回転してしまいます。この2つが揃って初めて、物体は完全に静止します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- はしごのつり合い: 壁に立てかけたはしごが滑らないための条件を求める問題。はしごに働く力(重力、壁からの垂直抗力・摩擦力、床からの垂直抗力・摩擦力)のつり合いと、モーメントのつり合いを考えます。
- シーソーのつり合い: 複数の人やおもりが乗ったシーソーが水平につり合うための条件を求める問題。
- 天秤やてこ: 支点を中心としたモーメントのつり合いを利用して、小さな力で大きな物体を持ち上げるなどの問題を解析します。
- 初見の問題での着眼点:
- 「静止させる」「つり合わせる」という言葉に注目: この言葉があれば、それは「力のつり合い」と「モーメントのつり合い」の2つの式を立てる問題であると判断します。
- 働く力をすべて図示する: まず、物体に働く力を漏れなく描き出します。
- モーメントの回転中心を戦略的に選ぶ: モーメントのつり合いの式は、どこを回転中心に選んでも成り立ちます。計算を楽にするために、
- 未知の力が働いている点
- 最も多くの力が働いている点
- 物体の端
などを中心に選ぶのが定石です。これにより、その点に働く力の腕の長さが0になり、モーメントの計算から除外できるため、式がシンプルになります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 力のつり合いだけで満足してしまう:
- 誤解: 加える力の大きさと向きを力のつり合いから求めただけで、問題を解き終わったと勘違いしてしまう。
- 対策: 相手が「大きさのある剛体」である場合、必ず「回転しないか?」という視点を持つ癖をつけます。剛体のつり合い問題では、力のつり合いとモーメントのつり合いは常にセットで考える、と肝に銘じましょう。
- モーメントの腕の長さの計算ミス:
- 誤解: 回転中心から力の作用点までの斜めの距離を、腕の長さとして使ってしまう。
- 対策: 「腕の長さ」は、回転中心から「力の作用線」に下ろした垂線の長さである、という定義を徹底します。図に垂線を描き込み、その長さを正確に計算する習慣をつけましょう。
- モーメントの向き(符号)のミス:
- 誤解: 複数のモーメントを計算する際に、時計回りと反時計回りを混同し、すべて足し算してしまう。
- 対策: 計算を始める前に、「反時計回りを正とする」など、自分で符号のルールを宣言し、それに従って各モーメントに \(+\) または \(-\) の符号を付けて立式することを徹底します。「(反時計回りの和)=(時計回りの和)」という形で立式するのも、符号ミスを防ぐのに有効です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のつり合いとモーメントのつり合いの式の選択:
- 選定理由: これらは、剛体が静止するための必要十分条件だからです。未知数が「力の大きさ」「向き」「作用点」の3つ(この問題では向きは上下のみなので実質2つ)であり、それらを決定するためには、独立した条件式が必要です。力のつり合い(1つのベクトル式、またはx,yの2つのスカラー式)とモーメントのつり合い(1つのスカラー式)が、その役割を果たします。
- 適用根拠: ニュートンの運動方程式 \(m\vec{a} = \sum \vec{F}\) と、回転の運動方程式 \(I\vec{\alpha} = \sum \vec{M}\)(\(I\)は慣性モーメント、\(\vec{\alpha}\)は角加速度)において、静止状態では並進の加速度 \(\vec{a}\) と回転の角加速度 \(\vec{\alpha}\) がともにゼロです。したがって、合力 \(\sum \vec{F}\) と全モーメント \(\sum \vec{M}\) がともにゼロになる、ということが物理的な根拠となります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位をそろえる: この問題では、力の単位が[N]、距離の単位が[cm]で与えられています。モーメントの単位は[N·m]が基本ですが、この問題のように距離がすべて[cm]で与えられている場合は、[N·cm]のまま計算を進めても問題ありません。ただし、異なる単位が混在している場合は、必ずどちらかに統一してから計算を始めましょう。
- 式を立ててから数値を代入する: まずは \(F_1 d_1 + F_2 d_2 = F_3 d_3 + \dots\) のように、文字式でモーメントのつり合いの式を立て、その後に具体的な数値を代入する方が、立式の論理が明確になり、検算もしやすくなります。
- 別解(合力の作用点)で検算する: 主たる解法で解いた後、もし時間に余裕があれば、別解で示した「合力の作用点」を求める方法で検算してみるのも良い練習になります。異なるアプローチで同じ答えが出れば、その確度は非常に高まります。
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28 剛体のつり合い
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法(2つの状況それぞれで、支点のまわりのモーメントのつり合いだけを考えて連立させる、洗練されたアプローチ)を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 別解: 1つの状況で「力のつり合い」と「モーメントのつり合い」を両方用いる解法
- 模範解答が2つの異なる状況のモーメントの式を連立させるのに対し、別解ではまず「右端を持ち上げる」という1つの状況だけで、「力のつり合い」と「モーメントのつり合い」の2種類の式を立てます。これだけでは未知数が3つ(\(W, x\), 左端の垂直抗力)あり解けませんが、同様の立式を「左端を持ち上げる」状況でも行い、得られた4つの式から答えを導きます。
- 別解: 1つの状況で「力のつり合い」と「モーメントのつり合い」を両方用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 剛体のつり合いには「力のつり合い」と「モーメントのつり合い」の2つの条件が不可欠であることを、より明確に意識することができます。主たる解法が、支点をうまく選ぶことで「力のつり合い」の式を暗黙的に省略しているのに対し、別解ではその全てのステップを明示的に記述します。
- 思考の柔軟性向上: どのような問題でも、まず「力のつり合い」と「モーメントのつり合い」の両方を書き下す、という最も基本的で汎用的なアプローチを学ぶことができます。
- 解法の補完: 支点をどこに取れば計算が楽になるか、という発想に至らなかった場合でも、愚直にすべてのつり合いの式を立てることで、確実に答えにたどり着けることを示します。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「重心と力のモーメントのつり合い」です。剛体の重さが、その重心の一点に集中して作用すると見なせることを利用して、未知の重さと重心の位置を求める問題です。2つの異なる状況について、それぞれモーメントのつり合いの式を立て、連立方程式として解くことが求められます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 重心の概念: 剛体の重さは、その物体の「重心」と呼ばれる一点にまとめて作用すると考えてよいこと。
- 力のモーメントのつり合い: 物体が回転し始める直前の状態では、任意の点のまわりの力のモーメントがつり合っていること。
- 回転中心の任意性: 力のモーメントのつり合いを考える際、回転の中心はどこに選んでもよい。計算が最も簡単になる点(未知の力が働く点など)を戦略的に選ぶことが重要です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 丸太の重さを \(W\)、左端から重心までの距離を \(x\) と、未知数を設定します。
- 「右端を持ち上げる」状況について、力のモーメントのつり合いの式を立てます。このとき、回転の中心を左端に選ぶと、左端の垂直抗力を無視できるため計算が簡単になります。
- 「左端を持ち上げる」状況について、同様に力のモーメントのつり合いの式を立てます。このときは、回転の中心を右端に選ぶと計算が簡単になります。
- 得られた2つの連立方程式を解いて、未知数である \(W\) と \(x\) を求めます。