「物理のエッセンス(力学・波動)」徹底解説(力学21〜25問):物理の”土台”を固める!完全マスター講座

当ページでは、数式をより見やすく表示するための処理に、少しお時間がかかることがございます。お手数ですが、ページを開いたまま少々お待ちください。

力学範囲 21~25

21 摩擦力

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「最大静止摩擦力と力のつり合い」です。斜面の角度を徐々に大きくしていくと、物体が滑り出す直前の特定の角度で、静止摩擦力が最大値に達します。この瞬間の力のつり合いを考えることで、静止摩擦係数を求めることができます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 力の図示と分解: 斜面上の物体に働く力(重力、垂直抗力、静止摩擦力)を正しく図示し、重力を斜面に平行な成分と垂直な成分に分解できること。
  2. 静止摩擦力の性質: 静止摩擦力は、物体を滑らせようとする力に対抗して働く力であり、その大きさはつり合いを保つために変化します。
  3. 最大静止摩擦力: 静止摩擦力には上限があり、その最大値(最大摩擦力)は \(F_{\text{max}} = \mu N\) で与えられること(\(\mu\) は静止摩擦係数、\(N\) は垂直抗力)。
  4. 滑り出す直前の条件: 物体が「滑り出した」瞬間は、静止摩擦力が最大値に達し、力のつり合いが破れる寸前の状態であると解釈できること。この瞬間は、力のつり合いがギリギリ成り立っている状態として扱います。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 角度が \(\theta_0\) の斜面上で、物体に働く力を図示します(重力、垂直抗力、最大静止摩擦力)。
  2. 重力を、斜面に平行な成分と垂直な成分に分解します。
  3. 「斜面に垂直な方向」の力のつり合いの式を立て、垂直抗力 \(N\) を求めます。
  4. 「斜面に平行な方向」の力のつり合いの式を立てます。このとき、静止摩擦力は最大値 \(\mu N\) となっています。
  5. 立てた2つの式を連立させて、未知数である \(N\) を消去し、静止摩擦係数 \(\mu\) を求めます。

思考の道筋とポイント
板をゆっくり傾けていくと、斜面の角度が大きくなるにつれて、物体を斜面下向きに滑らせようとする力(重力の斜面平行成分)も大きくなっていきます。物体が静止している間は、この滑らせようとする力と、それを妨げる「静止摩擦力」が常につり合っています。
しかし、静止摩擦力には限界があります。角度が \(\theta_0\) に達した瞬間に物体が滑り出したということは、この角度で、滑らせようとする力が静止摩擦力の限界、すなわち「最大静止摩擦力」にちょうど達したことを意味します。
この「滑り出す直前」の状態は、力がギリギリつり合っている最後の瞬間です。したがって、この状態について力のつり合いの式を立てることで、静止摩擦係数 \(\mu\) を求めることができます。
この設問における重要なポイント

  • 斜面に平行な方向と、垂直な方向に分けて力のつり合いを考える。
  • 重力の斜面平行成分は \(mg\sin\theta_0\)、垂直成分は \(mg\cos\theta_0\)。
  • 角度が \(\theta_0\) のとき、静止摩擦力は最大値 \(F_{\text{max}} = \mu N\) となる。
  • この最大静止摩擦力が、滑り落ちようとする力 \(mg\sin\theta_0\) とつり合っている。

具体的な解説と立式
物体の質量を \(m\)、重力加速度を \(g\)、静止摩擦係数を \(\mu\) とします。
角度 \(\theta_0\) の斜面上で、物体に働く力は以下の3つです。

  • 重力 \(mg\): 鉛直下向き。
  • 垂直抗力 \(N\): 斜面に垂直で上向き。
  • 最大静止摩擦力 \(F_{\text{max}}\): 斜面に平行で上向き。

重力 \(mg\) を、斜面に平行な成分と垂直な成分に分解します。

  • 斜面平行成分: \(mg\sin\theta_0\)(斜面下向き)
  • 斜面垂直成分: \(mg\cos\theta_0\)(斜面に垂直で下向き)

物体は滑り出す直前で静止しているので、力がつり合っています。

  • 斜面に垂直な方向の力のつり合い:
    $$
    \begin{aligned}
    (\text{斜面に垂直上向きの力}) &= (\text{斜面に垂直下向きの力}) \\
    N &= mg\cos\theta_0 \quad \cdots ①
    \end{aligned}
    $$
  • 斜面に平行な方向の力のつり合い:
    このとき、静止摩擦力は最大値 \(F_{\text{max}} = \mu N\) となっています。
    $$
    \begin{aligned}
    (\text{斜面を上る向きの力}) &= (\text{斜面を下る向きの力}) \\
    \mu N &= mg\sin\theta_0 \quad \cdots ②
    \end{aligned}
    $$

②式を①式で割ることで、\(N\) と \(mg\) を消去し、\(\mu\) を求めます。

使用した物理公式

  • 力のつり合い
  • 重力の分解
  • 最大静止摩擦力: \(F_{\text{max}} = \mu N\)
計算過程

式②を式①で割ります。
$$
\begin{aligned}
\frac{\mu N}{N} &= \frac{mg\sin\theta_0}{mg\cos\theta_0}
\end{aligned}
$$
左辺は \(\mu\)、右辺は \(\tan\theta_0\) となります。
$$
\begin{aligned}
\mu &= \frac{\sin\theta_0}{\cos\theta_0} \\[2.0ex]
&= \tan\theta_0
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

板を傾けていくと、物体を滑らせようとする力(重力の一部)がだんだん強くなります。それに対抗して、摩擦力もだんだん強くなって物体を支えます。
しかし、摩擦力にも限界があります。角度が \(\theta_0\) になったとき、ついに摩擦力が限界に達し、物体は滑り出してしまいました。
この「限界ギリギリ」の瞬間には、

  • 「滑らせようとする力 (\(mg\sin\theta_0\))」
  • 「限界の摩擦力 (\(\mu N\))」

が、ちょうど同じ大きさになっています。
また、同時に「斜面を押す力 (\(mg\cos\theta_0\))」と「斜面が押し返す力 (\(N\))」もつり合っています。
この2つのつり合いの式を組み合わせると、静止摩擦係数 \(\mu\) は、滑り出す瞬間の角度 \(\theta_0\) のタンジェント (\(\tan\theta_0\)) に等しい、というきれいな関係式が出てきます。

結論と吟味

静止摩擦係数 \(\mu\) は \(\tan\theta_0\) となりました。
この結果は、物体の質量 \(m\) や重力加速度 \(g\) には依存せず、滑り出す角度 \(\theta_0\) だけで決まることを示しています。これは、実際にこの方法で摩擦係数を測定できるという事実と一致しており、物理的に妥当な結果です。この角度 \(\theta_0\) は、特に「摩擦角」と呼ばれます。

解答 \(\mu = \tan\theta_0\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 最大静止摩擦力の条件:
    • 核心: この問題の根幹は、「物体が滑り出す直前」という物理的な状況を、「静止摩擦力がその最大値 \(F_{\text{max}} = \mu N\) に達し、かつ、力のつり合いがギリギリ成り立っている瞬間」として数式モデルに置き換えられるかどうかにあります。
    • 理解のポイント:
      • 静止摩擦力は変化する: 斜面の角度が \(\theta_0\) より小さい間、静止摩擦力 \(f\) は滑らせようとする力 \(mg\sin\theta\) と常につり合っており、角度 \(\theta\) とともに増加します (\(f = mg\sin\theta\))。
      • 限界点が最大静止摩擦力: 角度が \(\theta_0\) に達した瞬間に、この \(f\) が上限である最大静止摩擦力 \(\mu N\) と等しくなります。これを超えると、物体は滑り出し、摩擦は動摩擦力に変わります。
  • 力の分解とつり合い:
    • 核心: 斜面上の静止物体を扱う問題の定石である、(1)重力を斜面に平行・垂直な成分に分解し、(2)それぞれの方向で力のつり合いの式を立てる、という一連の操作を正確に実行できることが、計算を進める上での必須スキルとなります。
    • 理解のポイント:
      • 垂直方向のつり合い: \(N = mg\cos\theta_0\)。この式は、垂直抗力 \(N\) が常に重力の垂直成分とつり合っていることを示します。
      • 平行方向のつり合い: \(\mu N = mg\sin\theta_0\)。この式は、「滑り出す直前」という特別な条件下でのみ成り立つ力のつり合いです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 水平面上で物体を引く問題: 水平面に置かれた物体を、徐々に力を大きくして引いていき、動き出す瞬間の力の大きさから静止摩擦係数を求める問題。この場合、引く力が \(mg\sin\theta_0\) の役割を果たします。
    • 粗い斜面上の物体の運動: 滑り出した後の運動を考える問題。滑り出した後は、摩擦力は最大静止摩擦力ではなく、動摩擦力 \(F’ = \mu’ N\)(\(\mu’\) は動摩擦係数)に変わります。運動方程式 \(ma = mg\sin\theta – \mu’N\) を立てて加速度を求めることになります。
    • 斜面上で物体を押し上げる問題: 物体を斜面上向きに滑らせるために必要な力の最小値を求める問題。この場合、最大静止摩擦力は、重力の斜面平行成分と同じく、斜面下向きに働きます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 「滑らか」か「粗い」かを確認: 問題文を読み、摩擦の有無を最初に確認します。「滑らか」なら摩擦は0、「粗い」「摩擦がある」なら摩擦力を考慮します。
    2. 「静止している」か「動いている」かを確認:
      • 「静止している」\(\rightarrow\) 力のつり合い。摩擦力は静止摩擦力 \(f\)。
      • 「動いている」\(\rightarrow\) 運動方程式。摩擦力は動摩擦力 \(\mu’N\)。
    3. 「滑り出す直前」「動き出す瞬間」というキーワードを探す: この言葉があれば、それは「静止摩擦力が最大値 \(\mu N\) になっている」という特別な状況を示唆しています。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 常に \(f=\mu N\) を使ってしまう:
    • 誤解: 静止している物体に働く静止摩擦力の大きさを、常に最大値である \(\mu N\) だと勘違いしてしまう。
    • 対策: 静止摩擦力は「つり合いを保つために必要なだけの力」であり、普段は \(\mu N\) よりも小さいことを理解します。等式 \(f = \mu N\) が使えるのは、「滑り出す直前」という特別な瞬間だけである、と強く意識しましょう。
  • 垂直抗力を \(mg\) と勘違いする:
    • 誤解: 垂直抗力 \(N\) の大きさを、常に重力 \(mg\) と等しいと思い込み、\(N=mg\) を代入してしまう。
    • 対策: 垂直抗力は、常に重力の「接触面に垂直な成分」とつり合います。斜面上の場合、それは \(mg\cos\theta\) です。必ず、斜面に垂直な方向の力のつり合いの式を立てて、\(N\) を決定する癖をつけましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 2つのつり合いの式の選択:
    • 選定理由: この問題では、未知数が静止摩擦係数 \(\mu\) と垂直抗力 \(N\) の2つです(\(m, g, \theta_0\) は与えられた量と見なす)。未知数が2つなので、それらを決定するためには独立した方程式が2本必要です。斜面に平行な方向と垂直な方向の力のつり合いは、互いに独立した関係式であるため、この2本を選択するのが最も合理的です。
    • 適用根拠: 物体は静止しており、合力はゼロです。ベクトルである合力がゼロであるということは、任意の直交する2方向の成分もそれぞれゼロでなければなりません。斜面に平行・垂直な方向は、力が分解しやすい(垂直抗力や摩擦力が軸に沿う)ため、この問題で最も計算に適した座標系と言えます。
  • 最後に式を割り算する理由:
    • 選定理由: 求めたいのは \(\mu\) であり、途中で計算した \(N\) や、問題で与えられていない \(m, g\) は最終的な答えに不要です。式②(\(\mu N = mg\sin\theta_0\))を式①(\(N = mg\cos\theta_0\))で割り算すると、これらの不要な文字がすべてきれいに約分され、\(\mu\) と \(\theta_0\) だけの関係式が直接得られるため、最も効率的な計算方法となります。
    • 適用根拠: 式①と式②は、同じ物理現象(滑り出す直前の力のつり合い)を異なる側面(垂直方向と平行方向)から記述した、同時に成り立つ等式です。したがって、これらの方程式を連立させて解くことは数学的に正当です。割り算は、連立方程式の解法の一つ(代入法や加減法と並ぶ)であり、特に比の形に持ち込みたい場合に有効な数学的操作です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 力を正確に分解する: この問題の成否は、重力を \(mg\sin\theta_0\) と \(mg\cos\theta_0\) に正しく分解できるかにかかっています。斜面の図を描き、角度 \(\theta_0\) の位置を確認し、三角比の関係からどちらが \(\sin\) でどちらが \(\cos\) かを慎重に判断しましょう。
  • 文字式のまま計算を進める: 最終的に多くの文字が消去されることを見越して、最後まで文字式のまま計算を進めるのが得策です。これにより、計算がシンプルになるだけでなく、\(\mu = \tan\theta_0\) という物理的に美しい関係性を見出すことができます。
  • 答えの物理的意味を考える: \(\mu = \tan\theta_0\) という結果は、摩擦係数が大きいほど、滑り出すのにより大きな角度が必要になることを意味します(\(\tan\theta_0\) は \(\theta_0\) が大きいほど増加するため)。これは「ザラザラな面ほど、板を急にしないと滑り出さない」という日常的な経験と一致しており、答えの妥当性を裏付けています。

22 摩擦力

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「斜め上向きに引く力と最大静止摩擦力」です。物体を斜め上向きに引く場合、垂直抗力の大きさが、ただ水平に引く場合や静置されている場合と異なる、という点が最大のポイントです。この垂直抗力の変化を正しく考慮して、力のつり合いの式を立てられるかが問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 力の図示と分解: 物体に働くすべての力(重力、垂直抗力、引く力、最大静止摩擦力)を図示し、斜め向きの力(引く力 \(f\))を水平・鉛直成分に分解できること。
  2. 垂直抗力の決定: 垂直抗力は、常に重力 \(mg\) と等しいわけではありません。鉛直方向の力のつり合いから、その時々の状況に応じて決定される量であることを理解していること。
  3. 最大静止摩擦力: 物体が滑り出す直前の状態では、静止摩擦力が最大値 \(F_{\text{max}} = \mu N\) に達していること。
  4. 力のつり合い: 滑り出す直前は、力がギリギリつり合っている状態として、水平方向と鉛直方向のそれぞれでつり合いの式を立てられること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 物体に働く4つの力(重力、垂直抗力、引く力、最大静止摩擦力)を図示します。
  2. 斜め上向きに引く力 \(f\) を、水平成分と鉛直成分に分解します。
  3. 「鉛直方向の力のつり合い」の式を立て、垂直抗力 \(N\) を \(f\) を用いて表します。
  4. 「水平方向の力のつり合い」の式を立てます。このとき、静止摩擦力は最大値 \(\mu N\) となっています。
  5. 水平方向のつり合いの式に、鉛直方向のつり合いから求めた \(N\) を代入し、\(f\) についての方程式を解きます。

思考の道筋とポイント
物体が「滑り出さないための最大の力」を求める問題なので、これは「滑り出す直前」の状態を考えます。この瞬間、物体にはたらく静止摩擦力は、その上限である「最大静止摩擦力 \(\mu N\)」に達しています。
この状態で物体はまだ静止しているので、力のつり合いが成り立っています。

まず、物体に働く力をすべてリストアップします。

  1. 重力 \(mg\): 鉛直下向き。
  2. 床からの垂直抗力 \(N\): 鉛直上向き。
  3. 引く力 \(f\): 右斜め上 \(30^\circ\) の向き。
  4. 最大静止摩擦力 \(\mu N\): 物体は右に動こうとするので、それを妨げる左向き。

ここで最も注意すべき点は、垂直抗力 \(N\) の大きさです。力 \(f\) が斜め上向きに加わっているため、その力の上向き成分が物体を少し持ち上げるように作用します。その結果、床が物体を支える力である垂直抗力 \(N\) は、ただ物体を置いただけのときの \(mg\) よりも小さくなります。
この点を正しく考慮するために、まず「鉛直方向の力のつり合い」から \(N\) を求め、次に「水平方向の力のつり合い」の式にそれを代入して \(f\) を求める、という手順を踏みます。
この設問における重要なポイント

  • 滑り出す直前の状態では、静止摩擦力は最大値 \(\mu N\) となる。
  • 引く力 \(f\) を水平成分 \(f\cos 30^\circ\) と鉛直成分 \(f\sin 30^\circ\) に分解する。
  • 垂直抗力 \(N\) は \(mg\) ではない。鉛直方向の力のつり合いから求める。

具体的な解説と立式
物体に働く力を水平方向と鉛直方向に分解して、それぞれの方向で力のつり合いの式を立てます。

  • 引く力 \(f\) の分解:
    • 水平成分: \(f\cos 30^\circ\)(右向き)
    • 鉛直成分: \(f\sin 30^\circ\)(上向き)
  • 鉛直方向の力のつり合い:
    鉛直方向には、上向きに「垂直抗力 \(N\)」と「\(f\) の鉛直成分」、下向きに「重力 \(mg\)」が働いています。
    $$
    \begin{aligned}
    (\text{上向きの力の和}) &= (\text{下向きの力の和}) \\
    N + f\sin 30^\circ &= mg \quad \cdots ①
    \end{aligned}
    $$
  • 水平方向の力のつり合い:
    水平方向には、右向きに「\(f\) の水平成分」、左向きに「最大静止摩擦力 \(\mu N\)」が働いています。
    $$
    \begin{aligned}
    (\text{右向きの力の和}) &= (\text{左向きの力の和}) \\
    f\cos 30^\circ &= \mu N \quad \cdots ②
    \end{aligned}
    $$

この連立方程式を解いて \(f\) を求めます。まず①式を \(N\) について解き、それを②式に代入します。

使用した物理公式

  • 力のつり合い
  • 力の分解
  • 最大静止摩擦力: \(F_{\text{max}} = \mu N\)
計算過程

まず、式①を \(N\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
N &= mg – f\sin 30^\circ
\end{aligned}
$$
\(\sin 30^\circ = \frac{1}{2}\) なので、
$$
\begin{aligned}
N &= mg – \frac{f}{2}
\end{aligned}
$$
次に、この \(N\) を式②に代入します。
$$
\begin{aligned}
f\cos 30^\circ &= \mu \left(mg – \frac{f}{2}\right)
\end{aligned}
$$
\(\cos 30^\circ = \frac{\sqrt{3}}{2}\) を代入し、この方程式を \(f\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
f \cdot \frac{\sqrt{3}}{2} &= \mu mg – \frac{\mu f}{2}
\end{aligned}
$$
\(f\) を含む項を左辺にまとめます。
$$
\begin{aligned}
\frac{\sqrt{3}}{2}f + \frac{\mu}{2}f &= \mu mg \\[2.0ex]
\left(\frac{\sqrt{3} + \mu}{2}\right)f &= \mu mg \\[2.0ex]
f &= \frac{2\mu mg}{\sqrt{3} + \mu}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

箱を右斜め上に引っ張って、滑り出すギリギリの強さを求める問題です。
このとき、箱には4つの力が働いてつり合っています。

  1. 重力(下向き)
  2. 床からの垂直抗力(上向き)
  3. 引っ張る力(右斜め上向き)
  4. 摩擦力(左向き)

ここで一番の注意点は、垂直抗力です。斜め上に引っ張ると、箱が少し持ち上げられるので、床が箱を支える力(垂直抗力)は、ただ箱を置いただけの時よりも弱くなります。
この「弱くなった垂直抗力」をまず計算します。
次に、摩擦力の限界の強さは「\(\mu \times\) 垂直抗力」で決まるので、この弱くなった垂直抗力を使って、限界の摩擦力を計算します。
最後に、この「限界の摩擦力」と「引っ張る力の横向き成分」がつり合う、という式を立てて解けば、滑り出すギリギリの力 \(f\) が求まります。

結論と吟味

滑り出さないための最大の力 \(f\) は \(\frac{2\mu mg}{\sqrt{3} + \mu}\) となりました。
もし、水平に引いた場合(\(\theta=0^\circ\))、\(f = \mu mg\) となります。今回の結果の分母には \(\sqrt{3}\) があるため、水平に引く場合よりも複雑な形になっています。引く力に上向き成分があることで垂直抗力が減り、その結果として最大静止摩擦力も減るという効果が、この式には反映されています。

解答 \(f = \frac{2\mu mg}{\sqrt{3} + \mu}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 垂直抗力の動的な性質:
    • 核心: この問題の根幹は、垂直抗力 \(N\) が常に重力 \(mg\) と等しいわけではなく、「接触面を押す力の合計」に応じて変化する量である、という本質を理解しているかどうかにあります。
    • 理解のポイント:
      • 垂直抗力は反作用: 垂直抗力は、物体が床を押す力に対する反作用です。
      • 鉛直方向の力の合計: この問題では、床を押す力は「重力 \(mg\)」から「引く力 \(f\) の上向き成分」を引いたものになります。したがって、垂直抗力 \(N\) は \(mg\) よりも小さく、\(N = mg – f\sin 30^\circ\) となります。
      • 最大静止摩擦力への影響: 垂直抗力 \(N\) が小さくなるため、滑りを妨げる最大静止摩擦力 \(F_{\text{max}} = \mu N\) も小さくなります。この連鎖的な影響を正しく追えるかが鍵です。
  • 滑り出す直前の力のつり合い:
    • 核心: 前問と同様に、「滑り出す直前」という状況を、「力がつり合っており、かつ、静止摩擦力が最大値 \(\mu N\) に達している」という物理モデルとして数式化する能力が重要です。
    • 理解のポイント:
      • 2つの条件の同時成立: 「力のつり合い」と「\(f_{\text{静止}} = F_{\text{max}}\)」は、この「直前」の瞬間においてのみ同時に成り立ちます。
      • 2方向のつり合い: 水平方向と鉛直方向、それぞれの力のつり合いを別々に立式することで、未知数(この場合は \(f\) と \(N\))を解くための連立方程式が得られます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 斜め下向きに押す場合: 物体を斜め下向きに押しながら動かそうとする問題。この場合、押す力の下向き成分が加わるため、垂直抗力は \(N = mg + (\text{押す力の下向き成分})\) となり、\(mg\) より大きくなります。その結果、最大静止摩擦力も大きくなり、物体はより滑りにくくなります。
    • 摩擦のある斜面上の物体を引く問題: 粗い斜面上にある物体を、斜面に平行ではなく、さらに斜め上向き(水平となす角 \(\alpha\) など)に引く場合。この場合も、引く力の一部が垂直抗力を減らす効果を持つため、同様の考え方で解析します。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 働く力をすべて図示する: まず、重力、垂直抗力、摩擦力、外力(引く力など)をすべて描き出します。
    2. 斜めの力をすべて分解する: 水平・鉛直の座標軸を設定し、それに対して斜めを向いている力をすべて成分に分解します。
    3. まず鉛直方向のつり合いを調べる: 摩擦力が関わる問題では、摩擦力の大きさが垂直抗力 \(N\) に依存するため、何よりも先に鉛直方向の力のつり合いの式を立て、\(N\) がどう表されるかを確認する、という手順が非常に重要です。\(N=mg\) と早合点しないことが肝心です。
    4. 水平方向の条件式を立てる: 次に、水平方向の力のつり合い(または運動方程式)を立て、先に求めた \(N\) の表現を代入して解を求めます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 垂直抗力を \(N=mg\) と思い込む:
    • 誤解: これがこの問題で最も多い典型的なミスです。水平な床の上にある物体を見ると、無意識に \(N=mg\) という関係式を当てはめてしまう。
    • 対策: 「垂直抗力は、鉛直方向の力のつり合いの結果として決まる従属的な力である」と強く意識します。力が加わったら、必ず鉛直方向の力の図を描き、「上向きの力の和=下向きの力の和」という式を立てる癖をつけましょう。
  • 力の分解のミス:
    • 誤解: 引く力 \(f\) を分解する際に、水平成分を \(f\sin 30^\circ\)、鉛直成分を \(f\cos 30^\circ\) のように、三角比を取り違える。
    • 対策: 角度 \(30^\circ\) を挟む辺が \(\cos\)、向かい合う辺が \(\sin\) という基本に立ち返り、ベクトルの分解図を丁寧に描いて確認します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 鉛直方向のつり合い \(N + f\sin 30^\circ = mg\) の選択:
    • 選定理由: この問題の鍵である垂直抗力 \(N\) の大きさを決定するための唯一の式だからです。\(N\) は未知数であり、他の力(\(mg, f\))との関係式を立てる必要があります。物体は鉛直方向には動かない(加速度0)ため、この方向の力のつり合いが成り立ちます。
    • 適用根拠: ニュートンの第1法則(慣性の法則)に基づき、加速度が0の方向では、力の合力は0になります。この法則を鉛直方向に適用したものが、このつり合いの式です。
  • 水平方向のつり合い \(f\cos 30^\circ = \mu N\) の選択:
    • 選定理由: 「滑り出す直前」という問題の条件を数式化するための式です。この条件は、水平方向の「滑らせようとする力(\(f\cos 30^\circ\))」と、それに抵抗する「限界の力(最大静止摩擦力 \(\mu N\))」が等しくなっている状態を表します。
    • 適用根拠: 静止摩擦力が最大値に達しているという物理的な条件と、その瞬間もまだ静止している(水平方向の力がつり合っている)という条件を組み合わせたものです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 連立方程式として解く意識を持つ: この問題は、未知数が \(N\) と \(f\) の2つ、方程式が鉛直・水平のつり合いの2本という、典型的な連立方程式です。まず①式で \(N\) を \(f\) の式で表し、それを②式に代入して \(f\) を求める、という代入法の流れを意識すると、計算の見通しが良くなります。
  • 求める変数で式を整理する: \(f\cos 30^\circ = \mu (mg – f\sin 30^\circ)\) のような式が得られたら、ゴールは「\(f=\dots\)」の形にすることです。\(f\) が含まれる項をすべて左辺に集め、\(f\) でくくってから、最後に係数で割る、という代数計算の基本を落ち着いて実行しましょう。
  • 極端な場合を考える: もし引く角度が \(0^\circ\) だったら、\(\sin 0^\circ=0, \cos 0^\circ=1\) なので、\(N=mg\), \(f=\mu N = \mu mg\) となり、よく知られた結果と一致します。もし引く角度が \(90^\circ\)(真上)だったら、滑り出すことはないので \(f\) は無限大になるはずですが、式も \(\mu(mg-f)=0 \Rightarrow f=mg\) となり、つり合うだけで滑り出すことはない、という状況に対応します。このように、極端なケースで検算するのも有効です。
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23 合成ばね定数

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「ばねの直列接続と並列接続」です。複数のばねを組み合わせた系全体を、あたかも1本のばねであるかのように見なしたときの、その「見かけのばね定数(合成ばね定数)」を求める問題です。直列接続と並列接続の合成ばね定数の公式を正しく理解し、適用できるかが問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. ばねの並列接続: 複数のばねが同じ変位だけ伸び縮みするように接続されている状態。合成ばね定数は、各ばね定数の「和」になります (\(k_T = k_1 + k_2 + \dots\))。
  2. ばねの直列接続: 複数のばねが直線上につながれ、各ばねに同じ大きさの力が働くように接続されている状態。合成ばね定数は、各ばね定数の「逆数の和の逆数」になります (\(\frac{1}{k_T} = \frac{1}{k_1} + \frac{1}{k_2} + \dots\))。
  3. 段階的な合成: 複雑な組み合わせのばね系も、部分的に並列接続や直列接続を見つけ出し、段階的に合成していくことで、全体の合成ばね定数を求めることができます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  • (a) まず、並列に接続されている2つのばねを合成します。次に、その合成されたばねと、残りの1つのばねが直列に接続されていると見なし、再度合成を行います。
  • (b) 3つのばねがすべて並列に接続されていると見なし、並列接続の公式を適用します。

問(a)

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