「物理のエッセンス(力学・波動)」徹底解説(力学11〜15問):物理の”土台”を固める!完全マスター講座

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力学範囲 11~15

11 反発係数と落下運動

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法(運動を水平・鉛直に分解し、時間を介して解く)を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 別解: エネルギーの観点から解く解法
      • 模範解答が運動学の公式を組み合わせて解くのに対し、別解では前問で学んだ「衝突のたびに力学的エネルギー(=最高点の高さ)が \(e^2\) 倍になる」という法則性を利用して、より少ない計算で答えを導きます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 運動の幾何学的な側面(軌跡)とエネルギー的な側面(高さ)が、どのように関連しているかを理解することができます。水平到達距離が最高点の高さと密接に関係していることがわかります。
    • 解法の効率化と検算: この問題においては、エネルギーの法則性を利用する方が計算ステップが少なく、非常に効率的です。また、運動学的な解法の検算としても有効です。
    • 知識の体系化: 前問で得た「高さは \(e^2\) 倍になる」という知識を、異なる状況(斜方投射)に応用する経験を通じて、物理法則の普遍性への理解が深まります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「反発を伴う斜方投射」です。斜方投射の運動を水平・鉛直に分解して考える力と、衝突の際に反発係数の法則を正しく適用する力を組み合わせることが求められます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 斜方投射の運動分解: 運動を「水平方向の等速直線運動」と「鉛直方向の鉛直投げ上げ運動」に分解して考えること。
  2. 衝突における速度変化:
    • 水平面との衝突では、速度の水平成分は変化しない。
    • 速度の鉛直成分は、反発係数 \(e\) を用いて、衝突直後の速さが直前の速さの \(e\) 倍になる(向きは逆転する)。
  3. 運動の対称性: 地面から投げて地面に戻ってくる放物運動では、打ち上げの角度と着地の角度、打ち上げの速さと着地の速さは、それぞれ等しくなるという対称性。
  4. 滞空時間の計算: 鉛直方向の運動に着目し、変位が \(0\) になるまでの時間を計算することで、滞空時間を求めることができる。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、点Aから点Bまでの運動の対称性を利用して、点Bに衝突する直前の速度の水平成分と鉛直成分を求めます。
  2. 反発係数の法則を適用し、点Bで衝突した直後の速度の水平成分と鉛直成分を求めます。
  3. 点Bから点Cまでの運動を、新たな斜方投射として考えます。鉛直方向の運動から、B-C間の滞空時間 \(t\) を求めます。
  4. 水平方向の運動は等速直線運動なので、B-C間の距離を「水平方向の速さ × 滞空時間」で計算します。

思考の道筋とポイント
この問題は、2つの連続した放物運動として捉えることができます。

  1. A \(\to\) B の運動: これは、地面から打ち上げる最も基本的な斜方投射です。
  2. B \(\to\) C の運動: 点Bで地面と衝突(バウンド)した後、再び始まる新たな斜方投射です。

B-C間の距離を求めるためには、B点でバウンドした直後の初速度と、B-C間の滞空時間が必要です。

  • B点での衝突: 衝突の際、水平方向の速度は変わりませんが、鉛直方向の速度は反発係数 \(e\) の影響を受けます。まず、A \(\to\) Bの運動から、B点に衝突する直前の速度を求め、それを使って衝突直後の速度を決定します。
  • B \(\to\) Cの運動: B点での衝突直後の速度を新たな初速度として、BからCまでの滞空時間を計算します。これは、鉛直方向の運動が「打ち上げ」から「着地」まで戻ってくる時間を求めることに相当します。
  • B-C間の距離: 水平方向の速度は常に一定なので、「(水平速度)×(B-C間の滞空時間)」で距離が求まります。

この設問における重要なポイント

  • 運動をA \(\to\) BとB \(\to\) Cの2つのフェーズに分ける。
  • A \(\to\) Bの運動の対称性: Bに衝突する直前の速度は、大きさ \(v_0\)、水平線との角度 \(\theta\)(下向き)。つまり、速度成分は \((v_0\cos\theta, -v_0\sin\theta)\)。
  • 衝突による速度変化: 水平成分は不変、鉛直成分は \(e\) 倍になって向きが反転する。
    • 衝突直後の速度成分: \((v_0\cos\theta, ev_0\sin\theta)\)。
  • B \(\to\) Cの滞空時間は、初速度 \(ev_0\sin\theta\) の鉛直投げ上げが元の高さに戻るまでの時間である。

具体的な解説と立式
鉛直上向きを正とします。

  • 1. B点での衝突直後の速度を求める:
    A点での初速度の成分は、
    $$
    \begin{aligned}
    v_{Ax} &= v_0\cos\theta \\[2.0ex]
    v_{Ay} &= v_0\sin\theta
    \end{aligned}
    $$
    A \(\to\) Bの運動は対称的な放物運動なので、B点に衝突する直前の速度成分は、
    $$
    \begin{aligned}
    v_{Bx, \text{前}} &= v_0\cos\theta \\[2.0ex]
    v_{By, \text{前}} &= -v_0\sin\theta
    \end{aligned}
    $$
    床との衝突では、水平方向の速度成分は変わらず、鉛直方向の速度成分の大きさが \(e\) 倍になります。したがって、衝突直後の速度成分は、
    $$
    \begin{aligned}
    v_{Bx, \text{後}} &= v_0\cos\theta \\[2.0ex]
    v_{By, \text{後}} &= e|-v_0\sin\theta| = ev_0\sin\theta
    \end{aligned}
    $$
  • 2. B \(\to\) C間の滞空時間 \(t\) を求める:
    B \(\to\) Cの運動は、初速度が \((v_{Bx, \text{後}}, v_{By, \text{後}})\) の斜方投射です。
    滞空時間は、鉛直方向の運動だけで決まります。初速度 \(v_{By, \text{後}}\) で投げ上げ、変位が \(0\) になるまでの時間を求めます。
    変位の公式 \(y = v_{0y}t + \frac{1}{2}at^2\) に、\(y=0\), \(v_{0y} = ev_0\sin\theta\), \(a=-g\) を代入します。
    $$
    \begin{aligned}
    0 &= (ev_0\sin\theta)t – \frac{1}{2}gt^2
    \end{aligned}
    $$
  • 3. B-C間の距離を求める:
    水平方向は、速さ \(v_{Bx, \text{後}} = v_0\cos\theta\) の等速直線運動です。
    $$
    \begin{aligned}
    \text{BC} &= (v_0\cos\theta)t
    \end{aligned}
    $$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動: \(y = v_{0y}t + \frac{1}{2}at^2\)
  • 等速直線運動: \(x = v_xt\)
  • 反発係数の定義
計算過程
  • 滞空時間 \(t\) の計算:
    $$
    \begin{aligned}
    0 &= (ev_0\sin\theta)t – \frac{1}{2}gt^2 \\[2.0ex]
    0 &= t \left(ev_0\sin\theta – \frac{1}{2}gt\right)
    \end{aligned}
    $$
    \(t \neq 0\) なので、カッコの中が \(0\) になります。
    $$
    \begin{aligned}
    \frac{1}{2}gt &= ev_0\sin\theta \\[2.0ex]
    t &= \frac{2ev_0\sin\theta}{g}
    \end{aligned}
    $$
  • B-C間の距離の計算:
    求めた \(t\) を距離の式に代入します。
    $$
    \begin{aligned}
    \text{BC} &= (v_0\cos\theta) \times \left(\frac{2ev_0\sin\theta}{g}\right) \\[2.0ex]
    &= \frac{2e v_0^2 \sin\theta\cos\theta}{g}
    \end{aligned}
    $$
    ここで、三角関数の倍角の公式 \(2\sin\theta\cos\theta = \sin(2\theta)\) を用いると、
    $$
    \begin{aligned}
    \text{BC} &= \frac{e v_0^2 \sin(2\theta)}{g}
    \end{aligned}
    $$
この設問の平易な説明

ボールを斜めに蹴り上げて、地面でバウンドさせるような運動です。
まず、1回目のバウンド(B点)について考えます。ボールが地面にぶつかる時、地面と垂直な方向(縦方向)の速さだけが、\(e\) 倍に小さくなって跳ね返ります。横方向の速さは変わりません。
次に、バウンド後の運動(B \(\to\) C)を考えます。これは、先ほど計算した「バウンド直後の速度」を初速度とする、新しいボール投げ(斜方投射)と見なせます。
この新しいボール投げで、ボールが地面に落ちるまでの時間(滞空時間)を計算します。
最後に、「横方向の速さ × 滞空時間」を計算すれば、バウンドした地点Bから次に着地した地点Cまでの距離が求まります。

結論と吟味

BC間の距離は \(\frac{e v_0^2 \sin(2\theta)}{g}\) となりました。
ここで、A-B間の距離(水平到達距離)は、斜方投射の公式から \(\frac{v_0^2 \sin(2\theta)}{g}\) です。
したがって、BC間の距離は、A-B間の距離の \(e\) 倍になっていることがわかります。これは非常に興味深い結果です。衝突によって鉛直方向の初速度が \(e\) 倍になり、その結果、滞空時間も \(e\) 倍になります。水平方向の速度は変わらないので、水平距離も \(e\) 倍になる、というわけです。

解答 \(\frac{e v_0^2 \sin(2\theta)}{g}\)
別解: エネルギーの観点から解く解法

思考の道筋とポイント
前問で学んだ「衝突のたびに最高点の高さが \(e^2\) 倍になる」という法則性を利用します。また、斜方投射における「水平到達距離」と「最高点の高さ」の関係を利用して、計算を大幅に簡略化します。
この設問における重要なポイント

  • A \(\to\) Bの運動とB \(\to\) Cの運動は、どちらも地面から打ち上げる斜方投射である。
  • 衝突によって、力学的エネルギーが失われ、次の運動の最高点の高さが \(e^2\) 倍になる。
  • 斜方投射では、水平到達距離は、滞空時間と水平速度の積で決まる。滞空時間は、最高点の高さの平方根に比例する。

具体的な解説と立式

  • 1. A \(\to\) B の運動と B \(\to\) C の運動の関係:
    A \(\to\) B の運動における最高点の高さを \(H_1\)、水平到達距離を \(L_1\) (=\(\text{AB}\))とします。
    B \(\to\) C の運動における最高点の高さを \(H_2\)、水平到達距離を \(L_2\) (=\(\text{BC}\))とします。
  • 2. 最高点の高さの関係:
    前問の結果より、B点での衝突によって、跳ね上がった後の運動の最高点の高さ \(H_2\) は、衝突前の運動の最高点の高さ \(H_1\) の \(e^2\) 倍になります。
    $$
    \begin{aligned}
    H_2 &= e^2 H_1
    \end{aligned}
    $$
  • 3. 最高点の高さと滞空時間の関係:
    鉛直投げ上げにおいて、最高点の高さ \(H\) と滞空時間 \(T\) の関係を考えます。
    最高点までの時間 \(t = \sqrt{2H/g}\) なので、滞空時間 \(T=2t=2\sqrt{2H/g}\) となります。
    つまり、滞空時間は最高点の高さの平方根に比例します (\(T \propto \sqrt{H}\))。
    したがって、B \(\to\) C間の滞空時間 \(T_2\) と A \(\to\) B間の滞空時間 \(T_1\) の間には、
    $$
    \begin{aligned}
    \frac{T_2}{T_1} &= \frac{\sqrt{H_2}}{\sqrt{H_1}} = \frac{\sqrt{e^2 H_1}}{\sqrt{H_1}} = e
    \end{aligned}
    $$
    よって、\(T_2 = eT_1\) となります。
  • 4. 水平到達距離の関係:
    水平到達距離は \(L = v_x T\) です。衝突の前後で水平速度 \(v_x\) は変化しません。
    したがって、水平到達距離は滞空時間に比例します (\(L \propto T\))。
    $$
    \begin{aligned}
    \frac{L_2}{L_1} &= \frac{T_2}{T_1} = e
    \end{aligned}
    $$
    よって、\(L_2 = eL_1\) となります。
  • 5. B-C間の距離の計算:
    まず、A-B間の距離 \(L_1\) を斜方投射の公式から求めます。
    $$
    \begin{aligned}
    L_1 &= \frac{v_0^2 \sin(2\theta)}{g}
    \end{aligned}
    $$
    したがって、B-C間の距離 \(L_2\) は、
    $$
    \begin{aligned}
    L_2 &= eL_1 = e \frac{v_0^2 \sin(2\theta)}{g}
    \end{aligned}
    $$

使用した物理公式

  • 衝突による最高点の高さの関係: \(H_{\text{後}} = e^2 H_{\text{前}}\)
  • 斜方投射の水平到達距離の公式: \(L = \frac{v_0^2 \sin(2\theta)}{g}\)
計算過程

上記の立式プロセスがそのまま計算過程となります。

  1. A \(\to\) Bの水平到達距離 \(L_1\) を公式で求める: \(L_1 = \frac{v_0^2 \sin(2\theta)}{g}\)。
  2. B \(\to\) Cの水平到達距離 \(L_2\) は、\(L_1\) の \(e\) 倍であるという関係を用いる。
    $$
    \begin{aligned}
    \text{BC} &= L_2 \\[2.0ex]
    &= e L_1 \\[2.0ex]
    &= e \frac{v_0^2 \sin(2\theta)}{g}
    \end{aligned}
    $$
この設問の平易な説明

前問で、「バウンドすると、跳ね上がる高さは \(e^2\) 倍になる」ことを学びました。
一方、ボール投げでは、高く投げ上げるほど、長い時間空中にいます(滞空時間が長い)。具体的には、滞空時間は高さの平方根に比例します。
高さが \(e^2\) 倍になるということは、滞空時間は \(\sqrt{e^2} = e\) 倍になる、ということです。
ボールが横に進む距離は、滞空時間に比例します(横方向の速さは変わらないので)。
したがって、滞空時間が \(e\) 倍になるなら、横に進む距離も \(e\) 倍になります。
つまり、2回目のバウンドで進む距離BCは、1回目のバウンドで進む距離ABの \(e\) 倍になる、という非常にシンプルな結論が得られます。

結論と吟味

主たる解法と全く同じ結果が得られました。この解法は、運動の法則をステップバイステップで適用するのではなく、より大局的な物理法則(エネルギー損失の規則性)を利用することで、非常に見通しよく、かつ少ない計算で答えを導き出せることを示しています。物理法則間のつながりを理解することの重要性を示す好例です。

解答 \(\frac{e v_0^2 \sin(2\theta)}{g}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 運動の分解と反発係数の組み合わせ:
    • 核心: この問題の根幹は、2次元の運動である斜方投射を、互いに独立した「水平方向」と「鉛直方向」の運動に分解し、その上で、衝突という現象に対して反発係数の法則を正しく適用できるかどうかにあります。
    • 理解のポイント:
      • 衝突で変化するのは鉛直成分のみ: 水平面との衝突では、力は鉛直方向にのみ働くため、速度の水平成分は変化しません。変化するのは鉛直成分だけであり、その大きさが \(e\) 倍になります。
      • 衝突後の運動: 衝突によって変化した速度を「新たな初速度」と見なすことで、衝突後の運動(B→C)を、再び独立した斜方投射の問題として扱うことができます。
  • 物理法則の連鎖と規則性の発見:
    • 核心: この問題は、単に公式を適用するだけでなく、物理法則が連鎖した結果として現れる「規則性」を発見し、利用することの重要性を示唆しています。
    • 理解のポイント:
      • 速度と滞空時間の関係: 鉛直方向の初速度が \(e\) 倍になると、滞空時間も \(e\) 倍になります。(\(T = 2v_{0y}/g \propto v_{0y}\))
      • 滞空時間と水平距離の関係: 水平速度が一定であるため、水平到達距離は滞空時間に比例します。(\(L = v_x T \propto T\))
      • 結論としての規則性: 上記の連鎖から、「水平到達距離は、衝突のたびに \(e\) 倍になる」という非常にシンプルな規則性が導かれます。この本質を見抜くことが、問題をより深く理解することにつながります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 複数回のバウンド: 3度目、4度目の衝突点までの距離を求める問題。水平距離が公比 \(e\) の等比数列をなすことが分かっていれば、\(L_n = e^{n-1}L_1\) として瞬時に計算できます。
    • 壁との斜め衝突: 鉛直な壁にボールを斜めにぶつける場合。今度は壁に垂直な方向(水平方向)の速度成分が \(e\) 倍になり、鉛直方向の速度成分が変化しません。
    • 摩擦のある面での衝突: 衝突時に摩擦力が働く場合、水平方向の速度成分も変化します。これはより発展的な問題ですが、運動を分解して考える基本は同じです。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 運動をフェーズに分ける: 衝突を境に、運動を「衝突前」と「衝突後」のフェーズに明確に分割します。
    2. 衝突前後の速度を整理する: 衝突直前と直後の速度ベクトルを、成分ごとに書き出して整理します。特に、どの成分が変化し、どの成分が変化しないのかを明確にすることが重要です。
    3. 衝突後の運動を「新しい問題」として捉える: 衝突後の運動は、衝突直後の速度を初速度とする、全く新しい投射運動として考えます。これにより、思考がクリアになります。
    4. 規則性や対称性を探す: 運動の対称性(A→B)や、衝突による規則性(AB間とBC間の関係)など、計算を簡略化できるパターンがないかを探す視点を持つと、よりエレガントに解けることがあります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 水平成分の速度もe倍してしまう:
    • 誤解: 反発係数の定義を機械的に適用し、速度ベクトル全体の大きさが \(e\) 倍になる、あるいは水平成分も鉛直成分も両方 \(e\) 倍になると勘違いしてしまう。
    • 対策: 力が働いた方向にしか速度は変化しない、という運動の基本原則に立ち返ります。水平面との衝突では、力は鉛直方向にしか働かないため、水平方向の速度は変化しようがない、と理解することが重要です。
  • A→Bの運動とB→Cの運動を混同する:
    • 誤解: B→C間の滞空時間を計算する際に、A点での初速度の鉛直成分 \(v_0\sin\theta\) を誤って使ってしまう。
    • 対策: 運動をフェーズ分けしたら、各フェーズで使う物理量を明確に区別します。B→C間の運動の「初速度」は、あくまで「B点で衝突した直後の速度」であることを徹底します。
  • 三角関数の倍角公式の適用ミス:
    • 誤解: 最終的な答えを整理する際に、\(2\sin\theta\cos\theta = \sin(2\theta)\) の公式を忘れていたり、誤って適用したりする。
    • 対策: 倍角の公式は物理の放物運動の計算で頻出します。公式を正確に記憶しておくとともに、もし忘れても加法定理から導出できるようにしておくと万全です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 滞空時間の計算に \(y = v_{0y}t + \frac{1}{2}a_yt^2\) を選択:
    • 選定理由: B→C間の滞空時間を求めるには、B点から打ち出された物体が再びy=0の地点に戻ってくるまでの時間を計算する必要があります。鉛直方向の変位、初速度、加速度、時間の関係を結びつけるこの公式が、この状況に最も適しています。
    • 適用根拠: B→C間の鉛直方向の運動は、初速度 \(ev_0\sin\theta\) の鉛直投げ上げ運動であり、加速度が \(-g\) で一定の等加速度直線運動です。したがって、この公式を適用することが正当化されます。
  • 別解での「高さが \(e^2\) 倍」の関係の選択:
    • 選定理由: 前問の結果を利用することで、運動方程式を詳細に解くことなく、衝突前後の運動のスケールの関係性を直接的に知ることができるため、非常に効率的です。
    • 適用根拠: この関係は、力学的エネルギー保存則と反発係数の定義から導かれる普遍的な法則です。衝突というエネルギーが失われる現象を、エネルギーの視点から捉えることで、運動の幾何学的な性質(最高点の高さや水平距離)の変化を予測することができます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 成分ごとに情報を整理する: 計算を始める前に、x成分とy成分に分けて、初速度、終速度、加速度、変位などの情報を表のように整理する習慣をつけると、立式でのミスが大幅に減ります。
  • 対称性を最大限に活用する: A→Bの運動では、わざわざ落下時間を計算しなくても、対称性から「Bにぶつかる直前の鉛直速度は、Aで打ち上げた鉛直速度と大きさが同じで向きが逆」と判断できます。これにより、計算を大幅にショートカットできます。
  • 結論の物理的意味を考える: 「BC間の距離はAB間の \(e\) 倍」という結果が出たら、なぜそうなるのかを物理的に考えてみましょう。「鉛直初速度が \(e\) 倍 \(\rightarrow\) 滞空時間が \(e\) 倍 \(\rightarrow\) 水平距離が \(e\) 倍」という論理的な連鎖を自分で再構築することで、理解が深まり、記憶にも定着します。

12 反発係数と落下運動

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法(鉛直運動を連続した自由落下と見なす、洗練されたアプローチ)を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 別解: 運動を衝突の前後で完全に分割して計算する解法
      • 模範解答が鉛直運動を連続したものと見なすのに対し、別解では衝突点で運動を一度区切り、衝突後の運動を新たな初期値問題として解き直す、より基本的なアプローチを取ります。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 模範解答の「鉛直運動は衝突の影響を受けない」という洞察がなぜ成り立つのか、またそれがいかに計算を簡略化するかを、より手順の多い別解と比較することで実感できます。
    • 思考の柔軟性向上: 複雑な問題を単純な部分問題に分割して解く基本的なアプローチ(別解)と、問題の本質を見抜いて計算をショートカットするエレガントなアプローチ(主たる解法)の両方を学ぶことができます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「壁での反発を伴う水平投射」です。水平投射という2次元運動の中に、壁との衝突という要素が加わっています。運動を水平・鉛直に分解し、それぞれの方向で何が起こるかを独立して考えることが、問題を解く鍵となります。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 運動の分解: 水平投射を「水平方向の等速直線運動」と「鉛直方向の自由落下運動」に分解して考えること。
  2. 運動の独立性: 水平方向の運動と鉛直方向の運動は、互いに影響を及ぼさないこと。
  3. 衝突における速度変化:
    • 壁(鉛直面)との衝突では、壁に垂直な方向(水平方向)の速度成分のみが変化する。
    • 壁に平行な方向(鉛直方向)の速度成分は、衝突によって変化しない。
  4. 反発係数の適用: 衝突によって変化する速度成分(この場合は水平成分)は、衝突直後の速さが直前の速さの \(e\) 倍になる。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、鉛直方向の運動に着目します。壁との衝突は鉛直方向の運動に影響を与えないため、運動全体を通して単なる自由落下と見なせます。このことから、全体の落下時間 \(t\) を求めます。
  2. 次に、水平方向の運動を、壁への衝突を境に「衝突前」と「衝突後」の2つのフェーズに分けて考えます。
  3. 衝突前の運動から、壁に到達するまでの時間 \(t_1\) を求めます。
  4. 衝突後の運動について、反発後の速度と、残りの時間(\(t – t_1\))を使って、壁から落下点までの距離 \(x\) を計算します。

床に達するまでの時間\(t\)の導出

思考の道筋とポイント
まず、物体が投げ出されてから床に達するまでの総時間 \(t\) を求めます。
この問題の最大のポイントは、「鉛直方向の運動は、壁との衝突の影響を全く受けない」という点に気づくことです。壁は鉛直であり、物体に力を及ぼすとしても、その力は水平方向にしか働きません。したがって、鉛直方向には運動の最初から最後まで、重力だけが作用し続けます。
これはつまり、鉛直方向の運動だけを取り出して見れば、壁がなかった場合と同じ、単なる「高さ \(h\) からの自由落下運動」に他なりません。この考え方を用いると、複雑な計算なしに落下時間 \(t\) を求めることができます。
この設問における重要なポイント

  • 運動を水平方向と鉛直方向に分解して考える。
  • 壁との衝突で働く力は水平方向のみである。
  • したがって、鉛直方向の運動は衝突の影響を受けず、最初から最後まで自由落下運動と見なせる。

具体的な解説と立式
鉛直方向の運動について考えます。投げ出した点を原点とし、鉛直下向きを正とします。
この運動は、初速度 \(0\)、加速度 \(g\) の等加速度直線運動(自由落下)です。
高さ \(h\) だけ落下して床に到達するので、変位の公式 \(y = v_{0y}t + \frac{1}{2}at^2\) に、\(y=h\), \(v_{0y}=0\), \(a=g\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
h &= 0 \cdot t + \frac{1}{2}gt^2
\end{aligned}
$$
この方程式を解くことで、床に達するまでの時間 \(t\) が求まります。

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動(自由落下): \(y = \frac{1}{2}gt^2\)
計算過程

立式した \(h = \frac{1}{2}gt^2\) を \(t\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
t^2 &= \frac{2h}{g}
\end{aligned}
$$
時間は正なので (\(t>0\))、
$$
\begin{aligned}
t &= \sqrt{\frac{2h}{g}}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

ボールが床に落ちるまでの時間を考えます。ボールが横に進みながら壁にぶつかっていますが、縦方向の動き(落ちる動き)だけを見ると、壁は全く関係ありません。壁がボールを押し返す力は横向きなので、ボールが落ちるペースには影響しないのです。
したがって、この問題は「高さ \(h\) の場所からボールを静かに落としたとき、床に着くまでに何秒かかりますか?」という、単純な自由落下の問題と全く同じになります。

結論と吟味

床に達するまでの時間 \(t\) は \(\sqrt{\frac{2h}{g}}\) となりました。これは自由落下の公式そのものであり、鉛直方向の運動は衝突に影響されないという洞察が正しかったことを示しています。

解答 (時間t) \(\sqrt{\frac{2h}{g}}\)

落下点の壁からの距離\(x\)の導出

思考の道筋とポイント
次に、落下点の壁からの距離 \(x\) を求めます。
水平方向の運動は、壁との衝突を境に2つのフェーズに分かれます。

  1. 衝突前: 速さ \(v_0\) で壁に向かって距離 \(d\) を進む。
  2. 衝突後: 壁で跳ね返り、速さが \(ev_0\) になって壁から遠ざかる。

まず、衝突前の運動から、壁にぶつかるまでの時間 \(t_1\) を計算します。
次に、物体が空中にいる総時間 \(t\)(先ほど計算済み)から \(t_1\) を引くことで、衝突後に空中を飛んでいる時間 \(t_2 = t – t_1\) を求めます。
最後に、この時間 \(t_2\) の間に、衝突後の速さ \(ev_0\) で進む距離が \(x\) となります。
この設問における重要なポイント

  • 水平方向の運動は、衝突前と後で速さが変わる等速直線運動である。
  • 衝突前の速さは \(v_0\)、衝突後の速さは \(ev_0\)。
  • 壁までの距離は \(d\)。

具体的な解説と立式
水平方向の運動について考えます。投げ出した点を原点とし、壁の方向を正とします。

  • 1. 壁に衝突するまでの時間 \(t_1\) の計算:
    距離 \(d\) を速さ \(v_0\) の等速直線運動で進むので、
    $$
    \begin{aligned}
    d &= v_0 t_1
    \end{aligned}
    $$
  • 2. 衝突後の運動時間 \(t_2\) の計算:
    $$
    \begin{aligned}
    t_2 &= t – t_1
    \end{aligned}
    $$
  • 3. 壁からの距離 \(x\) の計算:
    衝突後の水平速度は、向きが逆になり、速さが \(e\) 倍になるので \(ev_0\) です。
    この速さで時間 \(t_2\) だけ進む距離が \(x\) なので、
    $$
    \begin{aligned}
    x &= (ev_0) \times t_2
    \end{aligned}
    $$
    この式に、\(t\) と \(t_1\) の式を代入して \(x\) を求めます。

使用した物理公式

  • 等速直線運動: \(x = vt\)
  • 反発係数の定義
計算過程
  • 時間 \(t_1\) の計算:
    $$
    \begin{aligned}
    t_1 &= \frac{d}{v_0}
    \end{aligned}
    $$
  • 距離 \(x\) の計算:
    $$
    \begin{aligned}
    x &= (ev_0) \times (t – t_1) \\[2.0ex]
    &= ev_0 \left(\sqrt{\frac{2h}{g}} – \frac{d}{v_0}\right) \\[2.0ex]
    &= e\left(v_0\sqrt{\frac{2h}{g}} – v_0 \cdot \frac{d}{v_0}\right) \\[2.0ex]
    &= e\left(v_0\sqrt{\frac{2h}{g}} – d\right)
    \end{aligned}
    $$
この設問の平易な説明

ボールが横方向にどれだけ進むかを考えます。この動きは2段階に分かれます。
まず、ボールは壁に向かってまっすぐ進みます。壁までの距離が \(d\) で、速さが \(v_0\) なので、壁にぶつかるまでの時間は「\(d \div v_0\)」で計算できます。
ボールが空中にいる全体の時間は、先ほどの計算でわかっています。全体の時間から壁にぶつかるまでの時間を引き算すれば、「壁にぶつかってから床に落ちるまでの、残りの時間」がわかります。
壁にぶつかると、ボールは跳ね返り、横向きの速さが \(e\) 倍の \(ev_0\) になります。
最後に、「新しい速さ \(ev_0\) × 残りの時間」を計算すれば、壁からどれだけ離れた場所に落ちるか(距離 \(x\))が求まります。

結論と吟味

落下点の壁からの距離 \(x\) は \(e(v_0\sqrt{\frac{2h}{g}} – d)\) となりました。
ここで、\(v_0\sqrt{\frac{2h}{g}}\) は、もし壁がなかった場合に物体が飛ぶはずだった全水平距離を表します。式は \(x = e \times (\text{壁がなかった場合の全水平距離} – \text{壁までの距離})\) と解釈できます。これは、壁に衝突した後の「残りの水平移動距離」が、反発係数 \(e\) の影響で縮むことを意味しており、物理的に妥当な結果です。

解答 (落下点の壁からの距離x) \(e\left(v_0\sqrt{\frac{2h}{g}} – d\right)\)
別解: 運動を衝突の前後で完全に分割して計算する解法

思考の道筋とポイント
模範解答のように「鉛直運動は連続している」という洞察を使わず、運動を衝突の前後で完全に分割して、ステップバイステップで解く、より基本的なアプローチです。

  1. 衝突前の運動(A \(\to\) 壁): 水平投射。壁に衝突するまでの時間 \(t_1\) と、その時点での鉛直落下距離 \(y_1\)、鉛直速度 \(v_{y1}\) を求める。
  2. 衝突: 水平速度が変化する。
  3. 衝突後の運動(壁 \(\to\) 床): 衝突点を新たな原点とし、衝突直後の速度を初速度として、残りの距離を落下する運動を考える。この運動にかかる時間 \(t_2\) を計算する。
  4. 合計と最終計算: 全時間 \(t = t_1 + t_2\) と、壁からの距離 \(x = (\text{衝突後の水平速度}) \times t_2\) を計算する。

この設問における重要なポイント

  • 運動を衝突前と衝突後の2つの独立した運動として扱う。
  • 衝突後の運動を考える際には、衝突時点での位置と速度を「初期条件」として正しく設定する。

具体的な解説と立式
鉛直下向きを正とします。

  • 1. 衝突前の運動:
    水平方向: 距離 \(d\) を速さ \(v_0\) で進むので、衝突までの時間 \(t_1\) は、
    $$
    \begin{aligned}
    t_1 &= \frac{d}{v_0}
    \end{aligned}
    $$
    鉛直方向: この \(t_1\) の間に落下した距離 \(y_1\) と、その時点での鉛直速度 \(v_{y1}\) は、
    $$
    \begin{aligned}
    y_1 &= \frac{1}{2}gt_1^2 \\[2.0ex]
    v_{y1} &= gt_1
    \end{aligned}
    $$
  • 2. 衝突:
    衝突直後の速度成分は、
    $$
    \begin{aligned}
    v_x’ &= ev_0 \quad (\text{壁から遠ざかる向き}) \\[2.0ex]
    v_y’ &= v_{y1} \quad (\text{鉛直下向き})
    \end{aligned}
    $$
  • 3. 衝突後の運動:
    衝突後、鉛直方向には残りの距離 \(h – y_1\) を落下します。この時間を \(t_2\) とすると、鉛直方向の変位の式は、
    $$
    \begin{aligned}
    h – y_1 &= v_y’ t_2 + \frac{1}{2}gt_2^2
    \end{aligned}
    $$
  • 4. 最終計算:
    上の2次方程式を \(t_2\) について解き、全時間 \(t = t_1 + t_2\) と、水平距離 \(x = v_x’ t_2\) を求めます。

使用した物理公式

  • 等速直線運動: \(x = vt\)
  • 等加速度直線運動: \(y = v_{0y}t + \frac{1}{2}at^2\), \(v_y = v_{0y} + at\)
計算過程
  • 衝突前の鉛直方向の物理量:
    \(t_1 = d/v_0\) を代入して、
    $$
    \begin{aligned}
    y_1 &= \frac{1}{2}g\left(\frac{d}{v_0}\right)^2 \\[2.0ex]
    &= \frac{gd^2}{2v_0^2}
    \end{aligned}
    $$
    $$
    \begin{aligned}
    v_y’ &= v_{y1} \\[2.0ex]
    &= g\left(\frac{d}{v_0}\right) \\[2.0ex]
    &= \frac{gd}{v_0}
    \end{aligned}
    $$
  • 衝突後の時間 \(t_2\) の計算:
    衝突後の鉛直方向の運動の式に、これらの値を代入します。
    $$
    \begin{aligned}
    h – \frac{gd^2}{2v_0^2} &= \left(\frac{gd}{v_0}\right)t_2 + \frac{1}{2}gt_2^2
    \end{aligned}
    $$
    これは \(t_2\) に関する2次方程式です。整理すると、
    $$
    \begin{aligned}
    \frac{1}{2}gt_2^2 + \left(\frac{gd}{v_0}\right)t_2 – \left(h – \frac{gd^2}{2v_0^2}\right) &= 0
    \end{aligned}
    $$
    解の公式より、\(t_2>0\) の解は、
    $$
    \begin{aligned}
    t_2 &= \frac{-\frac{gd}{v_0} + \sqrt{(\frac{gd}{v_0})^2 – 4(\frac{g}{2})(-\frac{2hv_0^2-gd^2}{2v_0^2})}}{g} \\[2.0ex]
    &= \frac{-\frac{gd}{v_0} + \sqrt{\frac{g^2d^2}{v_0^2} + g(\frac{2hv_0^2-gd^2}{v_0^2})}}{g} \\[2.0ex]
    &= \frac{-\frac{gd}{v_0} + \sqrt{\frac{g^2d^2 + 2ghv_0^2 – g^2d^2}{v_0^2}}}{g} \\[2.0ex]
    &= \frac{-\frac{gd}{v_0} + \frac{\sqrt{2ghv_0^2}}{v_0}}{g} \\[2.0ex]
    &= \frac{-gd + v_0\sqrt{2gh}}{gv_0} \\[2.0ex]
    &= \sqrt{\frac{2h}{g}} – \frac{d}{v_0}
    \end{aligned}
    $$
  • 全時間 \(t\) の計算:
    $$
    \begin{aligned}
    t &= t_1 + t_2 \\[2.0ex]
    &= \frac{d}{v_0} + \left(\sqrt{\frac{2h}{g}} – \frac{d}{v_0}\right) \\[2.0ex]
    &= \sqrt{\frac{2h}{g}}
    \end{aligned}
    $$
  • 水平距離 \(x\) の計算:
    $$
    \begin{aligned}
    x &= v_x’ t_2 \\[2.0ex]
    &= ev_0 \left(\sqrt{\frac{2h}{g}} – \frac{d}{v_0}\right) \\[2.0ex]
    &= e\left(v_0\sqrt{\frac{2h}{g}} – d\right)
    \end{aligned}
    $$
この設問の平易な説明

この解き方は、運動を一つ一つ丁寧に追いかける、最も基本的な方法です。
まず、ボールが壁にぶつかるまでの運動だけを考え、何秒かかったか、その時どれだけ落下したか、その時の縦方向の速さはいくらか、を全部計算します。
次に、壁にぶつかった瞬間を新たなスタート地点と考えます。スタートの速さ(横向きは跳ね返った速さ、縦向きはぶつかる直前の速さ)と、残りの落ちる高さを使って、床に落ちるまでにあと何秒かかるかを計算します。
最後に、これらの時間を足し合わせ、跳ね返った後の時間と速さから横に進んだ距離を計算します。非常に手間がかかりますが、物理の基本ルールだけを順番に使って解く方法です。

結論と吟味

主たる解法と全く同じ結果が得られました。この別解は、計算が非常に煩雑になるため実用的ではありません。しかし、なぜ主たる解法が成り立つのか、つまり「鉛直方向の運動は、水平方向の衝突とは無関係に、ただただ重力に従って落下し続ける」という物理の「運動の独立性」の原理がいかに強力であるかを理解するための良い比較材料となります。

解答 時間 \(t\): \(\sqrt{\frac{2h}{g}}\), 落下点の壁からの距離 \(x\): \(e\left(v_0\sqrt{\frac{2h}{g}} – d\right)\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 運動の独立性:
    • 核心: この問題の根幹は、2次元の運動が互いに直交する2つの1次元運動に分解でき、それぞれの方向の運動は、もう一方の方向の運動や力の影響を受けない、という「運動の独立性」の原理を深く理解しているかどうかにあります。
    • 理解のポイント:
      • 鉛直運動は無干渉: 壁との衝突で働く力は水平方向のみです。したがって、鉛直方向の運動(重力による落下)は、壁があろうがなかろうが、全く影響を受けずに進行し続けます。この本質を見抜くことが、この問題をエレガントに解く最大の鍵です。
      • 水平運動は衝突で変化: 逆に、水平方向の運動は、壁との衝突によって速度が変化します。しかし、その間も鉛直方向の運動とは無関係に、独自のルール(衝突前は等速、衝突後は反発後の等速)に従って進行します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 複数回の壁との衝突: 物体が左右の壁の間をバウンドしながら落下していくような問題。鉛直方向の落下時間は常に同じ \(\sqrt{2h/g}\) であり、その間に水平方向に何回壁と衝突できるか、という問題に応用できます。
    • 動く壁との衝突: 壁が一定速度で動いている場合。この場合は、壁に対する相対速度を考えて反発係数の式を立てる必要がありますが、鉛直方向の運動はやはり影響を受けない、という基本は同じです。
    • 電場中での荷電粒子の運動: 例えば、鉛直下向きの重力と、水平方向の一様な電場がある空間で、荷電粒子が壁に衝突する場合。この場合、水平方向は「等加速度運動」になりますが、「鉛直方向の運動は水平方向の力(静電気力)の影響を受けない」という独立性の原理は同様に成り立ちます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 運動を水平・鉛直に分解する: 放物運動の問題を見たら、まず機械的に運動を水平・鉛直の2方向に分解します。
    2. 各方向の力を分析する: それぞれの方向で、物体にどのような力が働くかを考えます。特に、衝突によってどちらの方向に力が働くのかを明確にすることが重要です。
    3. 影響を受けない運動を探す: 「この方向の運動は、途中のイベント(衝突など)に影響されないな」ということを見抜けないかを探します。それが見つかれば、その方向の運動から全体の時間などを簡単に決定できることが多いです。
    4. 運動を時間で区切る: 影響を受ける方向の運動については、イベント(衝突)の前後で運動を区切り、それぞれのフェーズで何が起こるかを整理します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 鉛直方向の運動も分割してしまう:
    • 誤解: 壁との衝突で運動が一旦リセットされると考え、鉛直方向の運動も衝突の前後で分割して計算しようとしてしまう(別解のアプローチ)。
    • 対策: 「力は運動を変化させる原因である」という基本に立ち返ります。壁が及ぼす力は水平方向のみであり、鉛直方向には力を及ぼしません。したがって、鉛直方向の運動を変化させる原因は何もないため、運動は連続しているはずだ、と論理的に考える癖をつけましょう。
  • 時間の計算ミス:
    • 誤解: 水平方向の運動を考える際に、壁にぶつかるまでの時間 \(t_1\) や、ぶつかった後の時間 \(t-t_1\) を正しく計算できず、混乱してしまう。
    • 対策: 全体の時間 \(t\)、衝突までの時間 \(t_1\)、衝突後の時間 \(t_2\) の関係(\(t = t_1 + t_2\))を明確に意識します。それぞれの時間は、どの運動(鉛直全体、水平衝突前、水平衝突後)に対応しているのかを、一つ一つ確認しながら計算を進めることが重要です。
  • 反発後の速度の向き:
    • 誤解: 反発後の速度を \(ev_0\) と大きさだけで考え、向きが逆になることを忘れてしまう。
    • 対策: 衝突の問題では、図を描いて速度のベクトルを矢印で示すことが有効です。衝突前は壁に向かう向き、衝突後は壁から遠ざかる向き、というように視覚的に確認することで、向きの間違いを防げます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 全体の落下時間に \(h = \frac{1}{2}gt^2\) を選択:
    • 選定理由: 「運動の独立性」により、鉛直方向の運動は壁の影響を受けない単純な自由落下と見なせます。高さ \(h\) を落下する時間を求めるには、この公式が最も直接的でシンプルだからです。
    • 適用根拠: この公式は、初速度0、加速度 \(g\) の等加速度直線運動における変位と時間の関係を表します。鉛直方向の運動は、まさにこの条件に合致しています。問題の状況から本質を抜き出し、最も単純なモデルを適用するという、物理の王道的な思考法です。
  • 水平距離の計算に \(x = v’ \times (t-t_1)\) を選択:
    • 選定理由: 水平方向の運動は、衝突後は速さ \(v’ = ev_0\) の等速直線運動です。この運動が続く時間は、全体の時間 \(t\) から衝突前の時間 \(t_1\) を引いた残り時間です。したがって、「距離=速さ×時間」という最も基本的な関係式を、衝突後の状況に適用しています。
    • 適用根拠: 水平方向には力が働かないため、衝突がない区間では等速直線運動の法則が成り立ちます。運動を衝突の前後で適切に区切り、それぞれの区間でこの法則を適用することは、物理的に完全に正当です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 最初に全体の方針を立てる: この問題のように複数のステップが必要な場合、いきなり計算を始めるのではなく、「①まず鉛直方向から全体の時間tを出す \(\rightarrow\) ②次に水平方向から壁までの時間t1を出す \(\rightarrow\) ③残りの時間(t-t1)と反発後の速さでxを出す」のように、解法のシナリオを最初にメモすると、思考が整理され、途中で混乱しにくくなります。
  • 複雑な項は文字で置き換える: 例えば、\(\sqrt{2h/g}\) は全体の時間 \(t\) を表すので、計算の途中では \(t\) のままにしておき、最後の式 \(x = ev_0(t – d/v_0)\) になってから代入すると、式がすっきりして見通しが良くなります。
  • 答えの吟味: 得られた答え \(x = e(v_0\sqrt{\frac{2h}{g}} – d)\) が物理的に意味を持つか考えます。例えば、もし \(d\) が非常に大きく、\(v_0\sqrt{2h/g} < d\) となった場合、\(x\) が負になってしまいます。これは「床に落ちる前に壁に到達できない」状況に対応しており、式が物理的に妥当な構造を持っていることを示唆しています。
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13 相対速度

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「相対速度を用いた物体の通過問題(通過算)」です。長さのある物体(新幹線)が、大きさのない点と見なせる物体(車)を追い越したり、すれ違ったりする状況を扱います。この種の問題を解く鍵は、一方の物体から見たもう一方の物体の運動、すなわち「相対速度」の考え方を正しく使えるかどうかにあります。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 単位の換算: 問題で与えられている速度の単位 \(\text{km/h}\) を、計算で用いる基本単位である \(\text{m/s}\) に正しく変換できること。
  2. 相対速度の概念: 2つの物体が運動している場合、一方の物体から見た他方の物体の速度を考えることで、問題を単純化できること。これは、観測者自身が静止していると見なす考え方です。
  3. 追い越す場合の相対速度: 同じ向きに進む2つの物体の場合、相対速度の大きさはそれぞれの速さの「差」で与えられます。
  4. すれ違う場合の相対速度: 逆向きに進む2つの物体の場合、相対速度の大きさはそれぞれの速さの「和」で与えられます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、新幹線と車の速度を、単位 \(\text{km/h}\) から \(\text{m/s}\) に変換します。
  2. 車Aを追い越す場合について、車Aから見た新幹線の相対速度を計算し、その相対速度で新幹線の長さ \(480 \, \text{m}\) を進むのにかかる時間を求めます。
  3. 車Bとすれ違う場合について、車Bから見た新幹線の相対速度を計算し、その相対速度で新幹線の長さ \(480 \, \text{m}\) を進むのにかかる時間を求めます。

単位換算

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