電磁気範囲 61~65
61 電流が磁場から受ける力(電磁力)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「電流が磁場から受ける力(電磁力)の向き」を決定することです。物理学の基本的な法則である「フレミングの左手の法則」を、様々な状況で正しく適用できるかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- フレミングの左手の法則: 磁場中で電流が受ける力の向きを見つけるための法則です。左手の中指を「電流(\(I\))」、人差し指を「磁場(\(B\))」の向きに合わせると、親指が「力(\(F\))」の向きを示します。
- 電磁力の公式 \(F=IBL\sin\theta\): 電磁力の大きさは、電流\(I\)、磁場\(B\)、導線の長さ\(L\)、そして電流と磁場のなす角\(\theta\)によって決まります。
- 電流と磁場のなす角の重要性: 電流と磁場が平行または反平行(\(\theta=0^\circ\)または\(\theta=180^\circ\))の場合、\(\sin\theta=0\)となるため、電磁力は働きません(\(F=0\))。力が最大になるのは、両者が直交する(\(\theta=90^\circ\))ときです。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 各設問の図に示された電流\(I\)と磁場\(B\)の向きを確認します。
- フレミングの左手の法則に従い、中指と人差し指をそれぞれの向きに合わせます。
- 親指が指す方向が力の向きとなります。矢印、⊙(紙面の裏から表)、⊗(紙面の表から裏)のいずれかで答えます。
- 電流と磁場が平行な場合は、力が働かないため「0」と答えます。
問(1)
思考の道筋とポイント
フレミングの左手の法則を基本に忠実に適用します。電流\(I\)の向き(⊙)は紙面の裏から表へ、磁場\(B\)の向きは下向きです。これらの向きに左手の指を合わせます。
この設問における重要なポイント
- ⊙が紙面の裏から表へ向かう向きであることを正しく理解していること。
- 左手の各指の役割(中指:電流、人差し指:磁場、親指:力)を正確に覚えていること。
具体的な解説と立式
フレミングの左手の法則を適用します。
- 中指(電流\(I\))を、紙面の裏から自分の顔に向かう方向(⊙)に突き出します。
- 人差し指(磁場\(B\))を、下向きに合わせます。
- このとき、親指(力\(F\))は自然と右向きになります。
使用した物理公式
- フレミングの左手の法則
この問題は向きを求めるものなので、計算過程はありません。
左手をピストルのような形にして、「電・磁・力(でん・じ・りょく)」と覚えるのが便利です。中指が「電(流)」、人差し指が「磁(場)」、親指が「力」です。
この問題では、電流が自分に向かって飛んできて(中指を自分に向ける)、磁場は床の方向を向いています(人差し指を床に向ける)。この形で左手を構えると、親指は自然と右側を指すはずです。
フレミングの左手の法則を正しく適用することで、力の向きは右向きであると結論できます。
問(2)
思考の道筋とポイント
問(1)と同様に、フレミングの左手の法則を適用します。電流\(I\)は左向き、磁場\(B\)の向き(⊗)は紙面の表から裏へ向かう向きです。
この設問における重要なポイント
- ⊗が紙面の表から裏へ向かう向きであることを正しく理解していること。
具体的な解説と立式
フレミングの左手の法則を適用します。
- 中指(電流\(I\))を、左向きに合わせます。
- 人差し指(磁場\(B\))を、紙面の向こう側へ突き刺す方向(⊗)に向けます。
- このとき、親指(力\(F\))は下向きになります。
使用した物理公式
- フレミングの左手の法則
計算過程はありません。
今回も「電・磁・力」で考えます。電流は左方向(中指を左へ)、磁場は紙の向こう側(人差し指を紙に突き刺すように)です。この形で左手を構えると、親指は下を向きます。
フレミングの左手の法則より、力の向きは下向きであると結論できます。
問(3)
思考の道筋とポイント
電流\(I\)と磁場\(B\)の向きの関係性に注目します。どちらも⊗、すなわち紙面の表から裏へ向かう向きです。これは、電流と磁場が互いに平行であることを意味します。
この設問における重要なポイント
- 電流と磁場が平行な場合、電磁力は働かない(\(F=0\))という重要な例外を理解していること。
具体的な解説と立式
電磁力の大きさを表す公式は \(F = IBL\sin\theta\) です。ここで\(\theta\)は、電流の向きと磁場の向きがなす角度です。
この問題では、電流\(I\)と磁場\(B\)はどちらも同じ向き(紙面の表から裏)を向いているため、なす角は\(\theta = 0^\circ\)です。
\(\sin 0^\circ = 0\) なので、力の大きさ\(F\)は、
$$
\begin{aligned}
F &= IBL \sin 0^\circ \\[2.0ex]
&= IBL \times 0 \\[2.0ex]
&= 0
\end{aligned}
$$
したがって、力は働きません。
使用した物理公式
- 電磁力の公式: \(F=IBL\sin\theta\)
$$
\begin{aligned}
F &= IBL\sin 0^\circ \\[2.0ex]
&= 0
\end{aligned}
$$
電流と磁場が力を及ぼし合うのは、両者が交差するような関係にあるときだけです。この問題のように、電流と磁場が全く同じ方向を向いて「並走」している状態では、お互いに力を及ぼすことができません。そのため、働く力はゼロになります。
電流と磁場が平行であるため、電磁力は働かないという結論は、公式からも物理的な解釈からも妥当です。
問(4)
思考の道筋とポイント
電流\(I\)と磁場\(B\)が斜めに交わっている場合です。このような場合でも、フレミングの左手の法則はそのまま適用できます。
この設問における重要なポイント
- 電流と磁場が直角でなくても、力が働くこと。
- 斜めの向きに対しても、空間的に指の向きを正しく合わせられること。
具体的な解説と立式
フレミングの左手の法則を適用します。
- 中指(電流\(I\))を、真上向きに合わせます。
- 人差し指(磁場\(B\))を、右上向きに合わせます。
- このとき、親指(力\(F\))は、紙面に垂直で、表から裏へ向かう向き(⊗)になります。
使用した物理公式
- フレミングの左手の法則
計算過程はありません。
電流が真上、磁場が右斜め上という状況です。これも「電・磁・力」で考えましょう。左手の中指を真上に向け、人差し指を右斜め上に向けます。すると、親指は自然と紙面の向こう側を指す形になります。これが力の向きです。
フレミングの左手の法則より、力の向きは紙面の表から裏へ向かう向きであると結論できます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- フレミングの左手の法則
- 核心: この問題の根幹は、磁場の中に置かれた電流がどちらの向きに力を受けるかを決定するための基本的なルール、「フレミングの左手の法則」を正しく理解し、適用することにあります。
- 理解のポイント:
- 目的: この法則は、磁場(\(B\))と電流(\(I\))という2つの「原因」から、それによって生じる「結果」である力(\(F\))の向きを求めるためのものです。
- 指の役割: 左手の指と物理量には、明確な対応関係があります。
- 中指: 電流 (\(I\)) の向き
- 人差し指: 磁場 (\(B\)) の向き
- 親指: 力 (\(F\)) の向き
覚え方として、中指から順に「電・磁・力(でん・じ・りょく)」と覚えるのが最も一般的で効果的です。
- 適用の例外: この法則が力を生むのは、電流と磁場が交差する成分を持つときだけです。設問(3)のように、電流と磁場が完全に平行(または反平行)な場合、力は発生しません(\(F=0\))。これは、力の大きさを決める公式 \(F=IBL\sin\theta\) において、角度\(\theta\)が\(0^\circ\)または\(180^\circ\)となり、\(\sin\theta=0\)となることに対応します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- ローレンツ力(荷電粒子の運動): 電流の代わりに、電子や陽子のような荷電粒子が磁場中を運動するときに受ける力の向きを問う問題。フレミングの左手の法則を応用できますが、電流の向きの解釈に注意が必要です。
- 正電荷(陽子など): 粒子の運動方向が、そのまま電流の向きになります。
- 負電荷(電子など): 粒子の運動方向と逆の向きを、電流の向きとして法則を適用します。
- モーターの回転原理: 長方形のコイルが磁場中で受ける力を考える問題。コイルの向かい合う辺を流れる電流は逆向きになるため、それぞれの辺にフレミングの左手の法則を適用すると、一方は上向き、もう一方は下向きの力を受けます。この一対の力(偶力)が、コイルを回転させる力のモーメントを生み出します。
- 平行な直線電流間にはたらく力: 2本の平行な導線に電流を流したときに互いに及ぼし合う力を考える問題。これは、「一方の電流が、もう一方の電流の位置につくる磁場」をまず右ねじの法則で求め、その磁場から電流が受ける力をフレミングの左手の法則で求める、という2段階で解くことができます。
- ローレンツ力(荷電粒子の運動): 電流の代わりに、電子や陽子のような荷電粒子が磁場中を運動するときに受ける力の向きを問う問題。フレミングの左手の法則を応用できますが、電流の向きの解釈に注意が必要です。
- 初見の問題での着眼点:
- 原因のベクトルを特定する: まず、図から「電流\(I\)」と「磁場\(B\)」の向きを正確に読み取ります。特に、⊙(紙面の裏から表へ)と⊗(紙面の表から裏へ)の意味を間違えないようにします。
- 平行でないかチェックする: 電流と磁場の向きが平行または反平行(一直線上)でないかを確認します。もし平行なら、その時点で答えは「0」と確定します。
- 左手を動かして法則を適用する: 実際に左手を取り出し、中指を電流の向きに、人差し指を磁場の向きに、順番に合わせていきます。頭の中だけで考えず、物理的に手を動かすことが最も確実です。
- 親指の向きを確認する: 中指と人差し指の位置を固定したとき、親指がどの方向を向くかを確認し、矢印や記号で表現します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 右手と左手の混同:
- 誤解: フレミングの「右手の法則」(電磁誘導で電流の向きを求める法則)と混同し、右手を使ってしまう。
- 対策: 「力は左手(モーター)、電気は右手(発電)」と、目的と手をセットで覚えましょう。「サポートする力は左手で」のような語呂合わせも有効です。
- 指の役割の混同:
- 誤解: 人差し指を電流、中指を磁場など、指と物理量の対応を間違えてしまう。
- 対策: 「電(中指)・磁(人差し指)・力(親指)」の語呂合わせを徹底しましょう。この順番で指を動かす練習をすることが重要です。
- ⊙と⊗の意味の混同:
- 誤解: どちらが手前向きで、どちらが奥向きか忘れてしまう。
- 対策: 弓矢をイメージするのが最も効果的です。矢が自分に向かってくるときは、先端の「点」が見えるので「⊙」。矢が自分から遠ざかっていくときは、後ろの「羽根」の十字が見えるので「⊗」と覚えましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- フレミングの左手の法則:
- 選定理由: この問題は、磁場中の電流が受ける「力の向き」を定性的に問うています。フレミングの左手の法則は、この3つのベクトル(電流、磁場、力)の空間的な向きの関係を直感的に理解するために作られた、まさにうってつけのルールです。
- 適用根拠: この法則は、より根源的な「ローレンツ力」の法則 \(\vec{F} = q(\vec{v} \times \vec{B})\) を、電流というマクロな現象に適用したものです。ベクトルの外積という数学的な演算が持つ「右手系」の性質を、物理的に理解しやすいように左手で表現した経験則であり、数多くの実験事実によってその正しさが裏付けられています。
- 力の大きさの公式 \(F=IBL\sin\theta\):
- 選定理由: 設問(3)のように、力が働くか働かないかを論理的に判断するために必要となります。「向き」を問う問題であっても、「大きさ」の公式を理解していることで、\(\theta=0^\circ\) の場合に\(F=0\)となる例外的な状況を明確に説明できます。
- 適用根拠: この公式もまた、実験的に見出された法則です。力が電流\(I\)、磁束密度\(B\)、導線の長さ\(L\)に比例し、電流と磁場がなす角\(\theta\)の正弦(サイン)に比例するという関係を数式化したものです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
この問題には計算はありませんが、「操作ミス」や「判断ミス」を防ぐためのテクニックが重要です。
- 必ず、実際に手を動かす: 頭の中だけで指の向きをイメージすると、特に3次元的な配置の場合、空間認識を誤りがちです。問題用紙の図に合わせて、自分の左手を動かし、指の向きを物理的に確定させる作業を怠らないようにしましょう。
- 指を一本ずつ、順番に合わせる: 焦って一度に全ての指を正しい向きにしようとすると混乱します。まず「1. 中指を電流の向きに合わせる」、次に「2. その状態を保ったまま、人差し指を磁場の向きに合わせる」というように、段階的に指の形を整えていくと、間違いが格段に減ります。
- 例外(平行)のチェックを最初に行う: 問題を見たら、まず反射的に「電流と磁場は平行か?」と自問する癖をつけましょう。設問(3)のようなケースを瞬時に見抜ければ、時間を節約できるだけでなく、うっかりフレミングの法則を適用しようとして混乱するミスも防げます。
62 電流が磁場から受ける力(電磁力)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法(平行電流間に働く力を利用する解法)を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- コイルが受ける力の向きをフレミングの左手の法則から導出する解法
- 模範解答が「同方向電流は引力、逆方向電流は斥力」という知識を前提としているのに対し、別解ではより根源的な「右ねじの法則」と「フレミングの左手の法則」を各辺に適用して、力の向きを一つずつ導出するプロセスを詳述します。
- コイルが受ける力の向きをフレミングの左手の法則から導出する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 「平行電流間の力」という結果が、より基本的な「電流が磁場をつくる」法則と「電流が磁場から力を受ける」法則の組み合わせで説明できることを理解し、知識の体系化を促進します。
- 思考の汎用性向上: 電流や磁場の配置が複雑で、「引力・斥力」の公式が直接使えないような問題に対しても、基本法則に立ち返って対処する能力が養われます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、力の向きの判断プロセスが異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「直線電流とコイル(ループ電流)の間に働く力」です。一様でない磁場の中で、コイルの各辺が受ける力を個別に計算し、それらをベクトルとして合成する能力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 直線電流がつくる磁場: 直線電流\(I\)から距離\(r\)の点につくられる磁場の強さは\(H=\displaystyle\frac{I}{2\pi r}\)であり、磁束密度は\(B=\mu H\)で与えられます。磁場の向きは「右ねじの法則」に従います。
- 電流が磁場から受ける力(電磁力): 磁束密度\(B\)の磁場中で、長さ\(L\)の導線に電流\(I\)を流すと、\(F=IBL\)の力を受けます(電流と磁場が垂直な場合)。力の向きは「フレミングの左手の法則」に従います。
- 力のベクトル合成: コイル全体が受ける力は、各辺が受ける力のベクトル和となります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、直線電流\(I\)が正方形コイルAの位置につくる磁場の向きと、距離に依存するその大きさを考えます。
- コイルの4辺それぞれが、その磁場から受ける力の向きと大きさを計算します。
- 左右の辺(ad, cb)に働く力は対称性から打ち消し合うことを確認します。
- 上下の辺(ba, dc)に働く力は、距離が異なるため大きさが違うことを利用し、その差を計算してコイル全体が受ける合力を求めます。
導線Aが受ける力\(F\)
思考の道筋とポイント
直線電流\(I\)がつくる磁場は、距離が離れるにつれて弱くなる、つまり一様な磁場ではありません。この一様でない磁場の中に、正方形コイルAが置かれています。
この問題を解く鍵は、コイル全体を一度に考えるのではなく、コイルを構成する4つの辺(ba, ad, dc, cb)に分解し、それぞれの辺が受ける力を個別に計算し、最後にそれらを足し合わせる(ベクトル和をとる)という方針を立てることです。
この設問における重要なポイント
- 辺baと辺dcは直線電流\(I\)と平行・反平行ですが、直線電流からの距離が違うため、磁場の強さが異なり、受ける力の大きさが異なります。
- 辺adと辺cbは直線電流\(I\)と垂直ではありませんが、対称な位置にあるため、受ける力は大きさが同じで向きが逆となり、全体として打ち消し合います。
- したがって、コイル全体に働く力は、辺baが受ける力と辺dcが受ける力の差分として現れます。
具体的な解説と立式
正方形コイルの頂点は、左上がa, 左下がb, 右下がc, 右上がdです。電流は a→d→c→b→a の順に時計回りに流れています。
1. 直線電流\(I\)がつくる磁場
右ねじの法則より、直線電流\(I\)は、コイルAが存在する領域(図の右側)に、紙面の表から裏へ向かう向き(⊗)の磁場をつくります。この磁場の磁束密度\(B\)は、電流\(I\)からの距離\(x\)の関数として、
$$
\begin{aligned}
B(x) &= \mu H(x) \\[2.0ex]
&= \mu \frac{I}{2\pi x}
\end{aligned}
$$
と表せます。
2. 各辺が受ける力の分析
- 辺adと辺cbについて:
辺ad(電流\(i\)は右向き)と辺cb(電流\(i\)は左向き)に働く力を考えます。フレミングの左手の法則より、辺adは上向き、辺cbは下向きの力を受けます。
コイル上の対称な位置(例えば、baの中点とdcの中点を結ぶ線に対して上下対称な2点)では、磁場の強さが同じです。したがって、辺ad全体が受ける上向きの力と、辺cb全体が受ける下向きの力は、大きさが等しく向きが逆となり、互いに打ち消し合います。よって、合力を計算する上では考慮する必要がありません。 - 辺baと辺dcについて:
辺ba(電流\(i\)は上向き)は、直線電流\(I\)(上向き)と平行です。平行な電流間には引力が働くため、辺baは左向きの力\(\vec{F}_1\)を受けます。
辺dc(電流\(i\)は下向き)は、直線電流\(I\)(上向き)と反平行です。反平行な電流間には斥力が働くため、辺dcは右向きの力\(\vec{F}_2\)を受けます。
3. 力の大きさの計算
辺baの位置(距離\(r\))での磁束密度を\(B_1\)、辺dcの位置(距離\(r+l\))での磁束密度を\(B_2\)とします。
$$
\begin{aligned}
B_1 &= \mu \frac{I}{2\pi r}
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
B_2 &= \mu \frac{I}{2\pi (r+l)}
\end{aligned}
$$
辺baが受ける力\(\vec{F}_1\)の大きさは、辺の長さが\(l\)であることから、
$$
\begin{aligned}
F_1 &= i B_1 l
\end{aligned}
$$
辺dcが受ける力\(\vec{F}_2\)の大きさは、
$$
\begin{aligned}
F_2 &= i B_2 l
\end{aligned}
$$
4. 合力の計算
コイル全体が受ける合力\(\vec{F}\)は、左向きの\(\vec{F}_1\)と右向きの\(\vec{F}_2\)のベクトル和です。
\(r < r+l\) であるため、\(\displaystyle\frac{1}{r} > \frac{1}{r+l}\)となり、\(B_1 > B_2\)、したがって\(F_1 > F_2\)です。
よって、合力は左向きとなり、その大きさ\(F\)は、
$$
\begin{aligned}
F &= F_1 – F_2
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 直線電流がつくる磁束密度: \(B = \mu \frac{I}{2\pi r}\)
- 電流が磁場から受ける力: \(F = IBL\)
$$
\begin{aligned}
F &= F_1 – F_2 \\[2.0ex]
&= iB_1l – iB_2l \\[2.0ex]
&= il(B_1 – B_2) \\[2.0ex]
&= il \left( \mu \frac{I}{2\pi r} – \mu \frac{I}{2\pi (r+l)} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{\mu Iil}{2\pi} \left( \frac{1}{r} – \frac{1}{r+l} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{\mu Iil}{2\pi} \left( \frac{(r+l) – r}{r(r+l)} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{\mu Iil}{2\pi} \left( \frac{l}{r(r+l)} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{\mu Iil^2}{2\pi r(r+l)}
\end{aligned}
$$
力の向きは、大きい方の力\(\vec{F}_1\)の向きである左向きです。
左側にあるまっすぐな電線は、その周りに磁場を作ります。この磁場は、電線に近いほど強く、遠いほど弱くなります。
この磁場の中に、正方形の回路が置かれています。この回路の4つの辺は、それぞれ磁場から力を受けます。
– 上下の辺(ad, cb)が受ける力は、それぞれ上向きと下向きで、ちょうど力が釣り合って打ち消し合います。
– 残るのは左右の辺(ba, dc)です。左の辺(ba)は、まっすぐな電線と電流の向きが同じなので、引き合う力(左向き)を受けます。右の辺(dc)は、電流の向きが逆なので、反発する力(右向き)を受けます。
– ここで重要なのは、左の辺の方が電線に近いため、より強い磁場から力を受けるという点です。つまり、引き合う力の方が反発する力よりも強いのです。
– その結果、回路全体としては、引き合う力が勝って、左向きに動くことになります。その力の大きさを計算したのが答えです。
導線Aが受ける力の向きは左向き、大きさは \(\displaystyle\frac{\mu Iil^2}{2\pi r(r+l)}\) となります。直線電流に近い辺が受ける引力が、遠い辺が受ける斥力よりも大きくなるという物理的な描像と一致しており、妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
「同方向電流は引力、逆方向は斥力」という結果の知識に頼らず、より基本的な「右ねじの法則」で磁場の向きを決定し、「フレミングの左手の法則」で力の向きを導出するアプローチです。これにより、物理現象を根本から理解することができます。
この設問における重要なポイント
- 右ねじの法則を用いて、直線電流がつくる磁場の向きを正確に把握すること。
- フレミングの左手の法則を、コイルの4辺それぞれに正しく適用し、力の向きを決定すること。
- 各辺が受ける力の大きさが、その位置での磁場の強さに依存することを理解すること。
具体的な解説と立式
1. 磁場の向きの決定
直線電流\(I\)(上向き)がコイルの位置につくる磁場の向きを、右ねじの法則で決定します。親指を電流の向き(上)に合わせると、コイルのある右側領域では、残りの4本の指が紙面の表から裏へ向かう向き(⊗)を指します。
2. 各辺が受ける力の向きの決定
この磁場(⊗)の中で、コイルの各辺を流れる電流が受ける力をフレミングの左手の法則で求めます。
- 辺ba (電流は上向き): 左手の中指を上向き、人差し指を紙面の裏向き(⊗)にすると、親指は左向きを指します。これを\(\vec{F}_1\)とします。
- 辺dc (電流は下向き): 中指を下向き、人差し指を紙面の裏向き(⊗)にすると、親指は右向きを指します。これを\(\vec{F}_2\)とします。
- 辺ad (電流は右向き): 中指を右向き、人差し指を紙面の裏向き(⊗)にすると、親指は上向きを指します。
- 辺cb (電流は左向き): 中指を左向き、人差し指を紙面の裏向き(⊗)にすると、親指は下向きを指します。
3. 力の合成
- 辺adが受ける上向きの力と、辺cbが受ける下向きの力は、対称性から大きさが等しく向きが逆なので、互いに打ち消し合います。
- 辺baが受ける左向きの力\(\vec{F}_1\)と、辺dcが受ける右向きの力\(\vec{F}_2\)が残ります。
- 辺baは直線電流\(I\)に近く(距離\(r\))、辺dcは遠い(距離\(r+l\))ため、辺baの位置の磁場の方が強いです。
- したがって、力の大きさは\(F_1 > F_2\)となり、合力は左向きになります。大きさは\(F = F_1 – F_2\)です。
使用した物理公式
- 右ねじの法則
- フレミングの左手の法則
- 直線電流がつくる磁束密度: \(B = \mu \frac{I}{2\pi r}\)
- 電流が磁場から受ける力: \(F = IBL\)
力の大きさの計算は、主たる解法と全く同じ手順になります。
$$
\begin{aligned}
F &= F_1 – F_2 \\[2.0ex]
&= iB_1l – iB_2l \\[2.0ex]
&= il(B_1 – B_2) \\[2.0ex]
&= il \left( \mu \frac{I}{2\pi r} – \mu \frac{I}{2\pi (r+l)} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{\mu Iil}{2\pi} \left( \frac{1}{r} – \frac{1}{r+l} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{\mu Iil}{2\pi} \left( \frac{(r+l) – r}{r(r+l)} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{\mu Iil}{2\pi} \left( \frac{l}{r(r+l)} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{\mu Iil^2}{2\pi r(r+l)}
\end{aligned}
$$
「平行な電流は引き合う」といった結果を覚えていなくても、基本ルールさえ知っていればこの問題は解けます。
まず、左の電線が右側に作る磁場は、紙の裏に向かう向きです。これをコンパスのN極が向く方向だと考えます。
次に、正方形の各辺について、電流の向きと磁場の向きを「フレミングの左手の法則」に当てはめていきます。
– 左の辺(ba)は、左向きの力を受けます。
– 右の辺(dc)は、右向きの力を受けます。
– 上の辺(ad)は、上向きの力を受けます。
– 下の辺(cb)は、下向きの力を受けます。
上下の力は打ち消し合い、左の辺の方が右の辺より強い力を受けるので、全体としては左に動く、という結論が得られます。この方法は、どんな形の回路でも応用できる万能な考え方です。
基本法則である右ねじの法則とフレミングの左手の法則から、主たる解法と同じ結論(左向きの合力)が導かれました。このアプローチは、結果の公式を暗記するのではなく、物理現象の根本から理解する上で非常に有益であり、より複雑な問題にも対応できる思考法です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 一様でない磁場中での力の合成
- 核心: この問題の根幹は、直線電流がつくる「距離によって強さが変わる一様な磁場」の中で、コイルの各辺が受ける力の大きさが異なることを理解し、それらを正しくベクトル合成することにあります。
- 理解のポイント:
- 分解思考: コイル全体を一つの物体として捉えるのではなく、物理的な状況が異なる4つの辺(ba, ad, dc, cb)に「分解」して考えることが、解法の出発点です。
- 磁場の不均一性: 直線電流がつくる磁場は、距離に反比例して弱くなります。この「場所による磁場の強さの違い」が、力の不均衡を生み出し、コイル全体として力が残る根本的な原因です。
- 力のベクトル和: 各辺が受ける力をベクトルとして合成します。
- 打ち消し合う力: 辺ad(上向きの力)と辺cb(下向きの力)は、コイルの対称性から、受ける力の大きさが等しく向きが真逆になるため、互いに打ち消し合います。
- 残る力: 辺ba(左向きの引力)と辺dc(右向きの斥力)は、受ける力の向きが逆ですが、磁場の強さが違うため力の大きさが異なります。電流に近い辺baが受ける引力\(F_1\)の方が、遠い辺dcが受ける斥力\(F_2\)よりも大きいため、この「差分」(\(F_1 – F_2\))が合力として残ります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- コイルの形状が長方形の場合: 1辺の長さが\(l_1\), もう一方が\(l_2\)の長方形コイルでも、考え方は全く同じです。力の公式\(F=iBl\)の\(l\)を、それぞれの辺の長さに応じて正しく代入すれば解くことができます。
- コイルが直線電流から離れる・近づく運動: この問題で求めた力\(F\)を、コイルの運動方程式 \(ma = F\) に代入し、コイルの加速度を求める問題に応用できます。
- 電磁誘導との融合問題: この力によってコイルが動く(例えば、直線電流から遠ざかる)場合、コイルを貫く磁束が時間的に変化します。これにより、コイルに誘導起電力が発生し、誘導電流が流れるという、電磁誘導と力学を組み合わせた問題に発展します。
- 初見の問題での着眼点:
- 磁場の分布を把握する: まず、磁場が一様か、不均一かを確認します。不均一な場合は、どのように変化するか(この問題では距離に反比例)を式で表現する準備をします。
- 力を受ける部分を分解する: コイルや導体を、物理的な状況が同じとみなせる部分(この問題では各辺)に分解します。
- 各部分の力をベクトルとして図示する: 各部分について、電流と磁場の向きから、力の向きをフレミングの左手の法則(または平行電流間の力の法則)で決定し、矢印で図に書き込みます。
- 対称性による打ち消しを探す: 図形的な対称性がないか探し、打ち消し合う力を見つけて計算を簡略化できるか検討します。
- 残った力の合力を計算する: 打ち消されずに残った力のベクトル和(この問題では引き算)を計算します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- コイル全体にF=IBLを適用するミス:
- 誤解: コイル全体を一つの導線とみなし、コイルの中心など、どこか代表的な一点の磁場の値を使って力 \(F=iBl\) を計算しようとする。
- 対策: 磁場が一様でない場合、この方法は使えません。「磁場が場所によって違うなら、場所ごとに力を計算して足し合わせる」という原則を徹底してください。コイルを辺ごとに分解する思考が不可欠です。
- 上下の辺の力を最初から無視するミス:
- 誤解: 左右の辺の力だけが重要だと早合点し、上下の辺(ad, cb)には力が働かない、あるいは計算せずに無視してしまう。
- 対策: 力が働くかどうかは、必ずフレミングの左手の法則で確認する癖をつけましょう。上下の辺にも力は確かに働いています。ただし、「対称性によって、それらの力のベクトル和が0になる」という論理的な結論を経てから計算対象から外すことが重要です。このプロセスを省略すると、非対称な問題で間違える原因になります。
- 距離の取り違え:
- 誤解: 辺dcが受ける力の計算で、磁場の公式に使う距離を \(r\) や \(l\) だけで計算してしまう。
- 対策: 磁場の公式 \(B = \mu \displaystyle\frac{I}{2\pi x}\) の \(x\) は、常に「磁場源である直線電流からの垂直距離」であると強く意識してください。辺dcまでの距離は \(r+l\) であることを図から正確に読み取ることが重要です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 分解思考(積分的思考):
- 選定理由: コイルが置かれている磁場が一様ではないため、コイル全体に一度に力の公式を適用することができません。そこで、磁場が(ほぼ)一様とみなせる部分、この問題では「辺」に分割して考えるというアプローチを選択します。これは、物理学における積分的な思考の基本であり、複雑な問題を単純な要素の集まりとして扱う強力な手法です。
- 適用根拠: 電磁力は、導線上の各点が受けるローレンツ力の総和です。導線の各部分が受ける力を個別に計算し、それらをベクトルとして足し合わせることは、重ね合わせの原理の一種であり、物理的に正しい操作です。
- \(F=IBL\) の適用:
- 選定理由: コイルの各辺は直線であり、その辺上では磁場の向きが一定(紙面に垂直)です。さらに、辺baとdcでは電流と磁場が直交しているため、力の公式 \(F=IBL\) を最もシンプルな形で適用できます。
- 適用根拠: この公式は、一様な磁場中で直線電流が受ける力を計算するためのものです。辺ba上では磁場の強さは一定値 \(B_1\)、辺dc上でも一定値 \(B_2\) とみなせるため、各辺に対してこの公式を適用することが正当化されます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 共通因数でくくる戦略:
- \(F = F_1 – F_2 = iB_1l – iB_2l\) の段階で、すぐに値を代入するのではなく、\(il(B_1 – B_2)\) と共通因数 \(il\) でくくります。さらに、\(B_1\) と \(B_2\) を代入した後も、共通因数 \(\displaystyle\frac{\mu I}{2\pi}\) をくくり出すことで、計算する部分が \(\left( \displaystyle\frac{1}{r} – \displaystyle\frac{1}{r+l} \right)\) という分数計算に集中でき、式全体の見通しが良くなりミスを減らせます。
- 分数の通分を丁寧に行う:
- \(\left( \displaystyle\frac{1}{r} – \displaystyle\frac{1}{r+l} \right)\) のような分数の引き算は、通分の基本です。焦らずに \(\displaystyle\frac{(r+l) – r}{r(r+l)}\) と計算し、分子が単純に \(l\) になることを確認します。
- 最終的な答えの次元(単位)を確認する:
- 最終的な答え \(\displaystyle\frac{\mu Iil^2}{2\pi r(r+l)}\) の単位を考えます。透磁率\(\mu\) は \([\text{N/A}^2]\)、電流\(I, i\) は \([\text{A}]\)、長さ\(l, r\) は \([\text{m}]\)です。
- \(\displaystyle\frac{[\text{N/A}^2] \cdot [\text{A}] \cdot [\text{A}] \cdot [\text{m}^2]}{[\text{m}] \cdot [\text{m}]} = [\text{N}]\) となり、力の単位になっていることを確認できます。もし単位が合わなければ、どこかで計算ミスをしている可能性が高いです。
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63 電流が磁場から受ける力(電磁力)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法(平行電流間に働く力の法則を利用する解法)を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- Aが受ける力の別解: フレミングの左手の法則を用いる解法
- 模範解答が「同方向の電流は引力、逆方向は斥力」という結果の法則を直接用いるのに対し、別解では、より根源的な「①電流が磁場をつくる(右ねじの法則)」→「②その磁場から電流が力を受ける(フレミングの左手の法則)」という2段階の基本法則を適用して力を導出します。
- Aが受ける力の別解: フレミングの左手の法則を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 「平行電流間の力」という便利な法則が、より基本的な2つの法則の組み合わせによって説明できることを理解することで、電磁気学の知識が体系的に結びつきます。
- 思考の汎用性向上: 電流の配置が平行でない複雑な問題に直面した際にも、基本法則に立ち返って問題を分析・解決する能力が養われます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、思考のプロセスが異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「複数の平行な直線電流間に働く力のベクトル合成」です。3本の電流が互いに力を及ぼし合う状況で、1本の導線に着目し、他の導線から受ける力をベクトルとして正しく合成できるかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 平行な直線電流間に働く力: 2本の平行な直線電流間には力が働きます。電流の向きが同じ場合は引力、逆の場合は斥力となります。
- 単位長さ当たりの力の公式: 距離\(r\)だけ離れた2本の平行電流\(I_1, I_2\)が及ぼし合う力の大きさは、単位長さあたり \(f = \displaystyle\frac{\mu I_1 I_2}{2\pi r}\) で与えられます。
- 力の重ね合わせの原理: ある導線が受ける力は、他の複数の導線から受ける力をそれぞれ計算し、それらをベクトルとして足し合わせたものになります。
- ベクトルの合成と対称性: 複数の力ベクトルを合成する際には、作図を行い、図形の対称性を利用して計算を簡略化することが有効です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 電流Aが、電流Bと電流Cからそれぞれどのような力を受けるか、向きと大きさを求めます。
- 電流の向きの関係(平行か反平行か)から、力が引力か斥力かを判断します。
- 問題の配置が正三角形であることから、2つの力の大きさが等しいこと、そしてそれらのなす角を特定します。
- 2つの力ベクトルを作図し、対称性を利用してベクトル合成を行い、合力の向きと大きさを計算します。